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可愛い孫は、肺炎を持ってくる

孫の世話に疲れる高齢者 大都市の待機児童の問題にみられるように、保育園や幼稚園に入所できず、祖父母に子供を預ける共働き世帯も多い。また、地方では、2世帯同居が珍しくなく、日中、孫の育児を祖父母がみるという家庭も多い。そんななか、預かった孫の世話に追われ、体力的にも精神的にも疲れてしまう「孫疲れ」という現象が、最近顕在化しているという。晩婚化のため祖父母が高齢化し、体力的に衰えてきているところに、孫の育児をすることで、身体が追いついていかないことが原因ともいわれている。家庭内で感染する感染症 そして、孫に疲れた高齢者に家庭内、とくに孫から祖父母へうつる感染症が問題となっている。子供は、よく感染症を外からもらってくる。風邪、インフルエンザをはじめとして、アデノウイルス、ノロウイルス、帯状疱疹など種々の細菌、ウイルスが子供への感染をきっかけに家庭内に持ち込まれ、両親、兄弟、祖父母へと感染を拡大させる。 日頃孫の面倒をみていない祖父母でも、お盆や年末、大型連休などの帰省シーズンに帰ってきた孫との接触で感染することも十分考えられ、連休明けに高齢者の風邪や肺炎患者が外来で増えているなと感じている医療者も多いのではないだろうか1)。ワクチンで予防できる肺炎 なかでも高齢者が、注意しなくてはいけないのが「肺炎」である。肺炎は、厚生労働省の「人口動態統計(2013年)」によれば、がん、心疾患についで死亡原因の第3位であり、近年も徐々に上昇しつつある。また、肺炎による死亡者の96.8%を65歳以上の高齢者が占めることから肺炎にかからない対策が望まれる。 日常生活でできる肺炎予防としては、口腔・上下気道のクリーニング、嚥下障害・誤嚥の予防、栄養の保持、加湿器使用などでの環境整備、ワクチン接種が推奨されている。とくにワクチン接種については、高齢者の市中肺炎の原因菌の約4分の1が肺炎球菌と報告2)されていることから、2014年よりわが国の施策として、高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種となり、実施されている。 定期接種では、65歳以上の高齢者に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の接種が行われ、平成30年度まで経過措置として65歳から5歳刻みで区切った年齢の該当者に接種が行われる。定期接種の注意点と効果を上げるコツ 定期接種の際に気を付けたいことは、経過措置の期間中に接種年齢に該当する高齢者が接種を受けなかった場合、以後は補助が受けられず自己負担となってしまうことである(自治体によっては、独自の補助などもある)。また、過去にこのワクチンの任意接種を受けた人も、定期接種の対象からは外れてしまうので注意が必要となる。 そして、ワクチンの効果は約5年とされ、以後は継続して任意で接種を受けることが望ましいとされている。 このほか高齢者においては肺炎球菌ワクチンだけでなく、同時にインフルエンザワクチンも接種することで、発症リスクを減らすことが期待できるとされる3,4)。低年齢の子供へのインフルエンザワクチンの接種により、高齢者のインフルエンザ感染が減少したという報告5)と同様に肺炎球菌ワクチンでも同じような報告6)があり、今後のワクチン接種の展開が期待されている。 普段からの孫との同居や預かり、連休の帰省時の接触など、年間を通じて何かと幼い子供と接する機会の多い高齢者が、健康寿命を長く保つためにも、高齢者と子供が同時にワクチンを接種するなどの医療政策の推進が、現在求められている。 この秋から冬の流行シーズンを控え、今から万全の対策が望まれる。(ケアネット 稲川 進)参考文献 1)Walter ND, et al. N Engl J Med. 2009;361:2584-2585. 2)日本呼吸器学会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007;15. 3)Maruyama T, et al. BMJ. 2010;340:c1004. 4)Kawakami K, et al. Vaccine. 2010;28:7063-7069. 5)Reichert TA, et al. N Engl J Med. 2001;344:889-896. 6)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41.参考サイト ケアネット・ドットコム 特集 肺炎 厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ 肺炎予防.JP

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糖尿病患者は血圧が低いほうが心筋梗塞になりにくい?しかし降圧治療による結果ではない(解説:桑島 巖 氏)-586

 SPRINT試験は、高リスク高血圧患者の降圧目標に関して、収縮期血圧120mmHg未満が140mmHg未満よりも心血管イベントおよび心血管死が少ないという結果を示し、話題をさらったことは記憶に新しい。しかし、SPRINT試験では糖尿病合併例は除外されていた。ACCORD-BP試験で収縮期血圧120mmHg未満の群と140mmHg未満の群で心血管合併症発症に有意差が見られなかったとの理由からである。 今回、スウェーデン・イエーテボリ大学のEryd氏らのグループは、国民ベースのコホート観察研究において、登録時の収縮期血圧を6群に分けて、血圧値と非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合エンドポイントの発生率をハザード比で比較した。この結果によると、収縮期血圧110~119mmHg未満の群が、そのレベル以上のどの血圧グループよりも複合エンドポイントの発生率が少なく、いわゆるJカーブ曲線は認められなかったという結論であった。 しかし、本研究の結論は、糖尿病合併高血圧でも120mmHgまで下げるべきということではない。糖尿病では血圧が低い例ほど非致死的心筋梗塞や非致死的脳卒中になりにくいといっているのである。登録時の血圧が最も低い群での降圧薬薬剤数が平均0.7剤であるのに対して、最も高い群では1.6剤である。ということは、血圧が最も低い群は、降圧薬がなくとも血圧が低い症例ということである。積極的降圧で収縮期血圧が120mmHg未満になった症例群ではないことには注意が必要である。 本試験のリミテーションは、血圧情報が登録時のみで、追跡期間中の降圧治療情報が示されていないということであり、降圧目標を論じるのに参考にはなりにくい。また、収縮期血圧が120mmHg以下の群で心不全、全死亡が多いということは、肺炎や慢性疾患合併症が含まれているのかもしれず、交絡因子が十分に排除できていない可能性がある。さらに、75歳以上の後期高齢者や糖尿病性合併症を有している人も対象から除外している点からも、日常診療で糖尿病患者での降圧目標を決定するうえで、あまり参考にはなりにくい論文である。

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好酸球性筋膜炎〔eosinophilic fasciitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義1974年にSchulman氏は、強皮症様の皮膚硬化を呈し、組織学的に筋膜炎を主体とした2例をdiffuse fasciitis with eosinophiliaとして報告した。1975年にRodnan氏らは同様の皮膚硬化を呈し、組織学的に好酸球浸潤を伴う筋膜炎がみられた6例を報告し、eosinophilic fasciitisと命名した。その後、同様の症例が数多く報告され、現在は独立した疾患と考えられている。好酸球増多を伴わない例も多くあり、diffuse fasciitis with or without eosinophiliaとも呼ばれる。また、Shulman症候群と呼ばれることもある。主に四肢に対称性に急速な皮膚硬化と関節の運動制限を生じる疾患である。病理組織学的に筋膜の肥厚、リンパ球、好酸球、形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤がみられる。激しい運動、労作や外傷によって生じることが多い。末梢血好酸球増加や組織学的に好酸球浸潤がみられない症例もある。■ 疫学わが国での報告例は100例程度と少ないが、実際の症例はもっと多い。好発年齢は20~60歳の青壮年者で、まれに小児や80歳を越える高齢者にもみられることもある。男女比は1.5:1でやや男性に多い。■ 病因病因は不明であるが、過度な運動や労作が発症の誘因になると考えられており、筋膜の障害、急性炎症によって何らかの自己免疫反応が惹起される可能性が示唆されている。高ガンマグロブリン血症や自己免疫性疾患との合併からも、何らかの自己免疫的機序の関与が想定されている。Eosinophilic cationic protein(ECP)などの好酸球の誘導に関与する因子や血清IL-5の増加などが病態に関与していることが報告されている。L-トリプトファンの過剰摂取、有機溶媒との接触、ボレリア感染によっても類似の症状を呈することが報告されている。■ 症状主に、四肢遠位部の対称性の皮膚のつっぱり感、びまん性皮膚腫脹、硬化がみられる(図1)。進行すると四肢関節の可動域制限を伴う。画像を拡大する発症の1~2週間以内に激しい運動や労作、外傷、打撲の既往があることが多いが、何ら誘因がみられない例も少なくない。急性に発症する症例と、徐々に皮膚硬化を生じる症例がある。初期には発赤や疼痛を伴い、発熱や全身倦怠感を伴うこともある。病変が拡大すると四肢近位部、体幹にも皮膚硬化が及ぶこともある。しかし、手指、手背、足趾、足背や顔面は侵されないことが特徴である(図1)。筋膜が肥厚し皮下脂肪織と癒着すると関節可動活域の低下、関節拘縮を呈する(図2)。画像を拡大するしたがって、手指は関節拘縮を呈するが、皮膚の硬化はみられない。正中神経の圧迫による手根管症候群もみられる。浮腫が硬化を始めると、皮膚表面の毛穴がはっきりとみられるようになり、「オレンジの皮様(orange peel appearance)」と呼ばれている(図3)。画像を拡大するまた、真皮深層の硬化は血管周囲を避けて起こるため、板状硬化の中で血管部のみが柔らかく溝のようにみられる。これを“groove sign”と呼ぶ(図4)。腕や足を挙上させると明らかになる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1,000/mm3以上の著明な末梢好酸球数増加を呈する症例は、約60%でみられる。好酸球性筋膜炎は、初期に診断することが難しいため、検査を行うまでに時間がかかり、初期の好酸球増加を捉えられないことも多い。そのため、末梢好酸球数増加がみられなかった症例の中には、前述のように初期の好酸球増加を捉えられていない症例も含まれている可能性も考えられる。病勢と末梢好酸球数は一致するといわれており、治療効果の判定、病勢の評価に重要である。また、赤沈の亢進やIgGやIgA値の上昇を伴う高ガンマグロブリン血症を伴うこともある。抗核抗体やリウマトイド因子の陽性率は約10%である。アルドラーゼは上昇し、病勢に一致して変動するため、病勢の評価に有用であるとの報告がある1)。MRIは非侵襲的な検査であり、T2強調脂肪吸収画像で、筋膜の肥厚部位が同定でき、病勢の評価、治療効果判定を行うことができる有用な検査である。また、生検部位の選択にも有用である。本疾患は、組織学的に筋膜の炎症、肥厚を検索する必要があるため、生検する際は、表皮から筋膜まで一塊として採取する必要がある。生検時に筋膜をメスで切るが、その際には筋膜の肥厚を感じることができる。病理組織学的に、リンパ球、形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤、筋膜の肥厚がみられる。好酸球の浸潤は病期によってみられないことも多い。また、膠原線維の増加(線維化)は、筋膜から脂肪組織、真皮上層にわたって生じるが、真皮の浅層は侵されない。したがって、筋膜・筋肉表層まで含めたen bloc生検で十分な深さまで採取することが重要である。好酸球性筋膜炎に合併する疾患として、自己免疫性甲状腺炎、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの自己免疫性疾患の報告が散見される。欧米では、固形がんや血液腫瘍との合併例が散見され、悪性腫瘍のparaneoplastic syndromeと提唱している報告もある。ステロイド治療に難渋する症例では悪性腫瘍の検索を積極的に行うべきとの意見もある2)。鑑別診断としては、同じく皮膚硬化を呈する全身性強皮症が挙げられる。好酸球性筋膜炎では、前腕部において手指の筋膜が肥厚し、皮下脂肪織と癒着すると手指の関節可動活域の低下、関節拘縮を呈する(図2)。全身性強皮症においても同じく手指の関節拘縮がみられるため鑑別に注意を要する。強皮症に伴う手指関節拘縮は、皮膚硬化によるものであり原因が異なる。好酸球性筋膜炎では、全身性強皮症でみられるレイノー現象、爪上皮延長、後爪郭部毛細血管拡張、指尖部潰瘍、手指の皮膚硬化といった手指の病変(皮膚硬化、末梢循環障害)がみられないことが鑑別のポイントである。また、全身性強皮症では、間質性肺炎や肺高血圧症などの内蔵病変の合併がみられるが、好酸球性筋膜炎ではみられない。また、限局性強皮症も鑑別すべき疾患の1つに挙げられる。限局性強皮症は境界明瞭な皮膚硬化が斑状ないし線状にみられ、全身どこにでも出現する。限局性強皮症が本症の20~30%に合併するとの報告もある3)。また、全身性強皮症や限局性強皮症の皮膚硬化に比べて、好酸球性筋膜炎の皮膚硬化はより深部に生じることも鑑別のポイントである。以上より、鑑別のポイントとしては、皮膚硬化が左右対称性か、手指、足趾に皮膚硬化がみられるか、皮膚硬化の深さはどうかといった点が挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)副腎皮質ホルモンの内服が第1選択である。通常、プレドニゾロン0.5~0.7mg/kg/日から開始し、症状の推移に合わせて増減する。急速な減量によって症状の再燃がみられることがあり、皮膚硬化、関節拘縮を観察し、アルドラーゼなどを参考にして減量を行うことが望ましい。生命予後は良好であるが、進行した皮膚硬化、関節拘縮は難治性で非可逆的のこともあり、早期に治療を開始することが重要である。Lebeaux氏らはステロイドパルス療法を早期に行うことによって、皮膚硬化がより改善したと報告しており、皮膚硬化が高度な場合は、早期からのステロイドパルス療法を考慮すべきである4)。免疫抑制剤(シクロスポリンやメソトレキセート)の有効性も報告されており、ステロイド治療にて難治な症例には考慮すべきである4、 5)。光線療法(PUVA療法やUVA1療法)によって皮膚硬化が改善した報告があり、治療の選択肢の1つとして考慮する。4 今後の展望好酸球性筋膜炎の原因、病態はいまだ不明であり、今後の症例の蓄積、基礎研究の発展が望まれる。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 好酸球性筋膜炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujimoto M, et al. J Rheumatol.1995;22:563-565.2)Naschitz JE, et al. Cancer.1994;73:231-235.3)Nindl M, et al. 皮膚臨床.1996;38:2013-2017.4)Lebeaux D, et al. Rheumatology.2012;51:557-561.5)Endo Y, et al. Clin Rheumatol.2007;26:1445-1451.公開履歴初回2015年03月26日更新2016年08月16日

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イワケンの「極論で語る感染症内科」講義

第1回 なぜ極論が必要なのか? 第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか 第3回 その非劣性試験は何のためか 第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ! 第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか? 第6回 CRPは何のために測るのか 第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか第8回 ピロリ菌は除菌すべきか第9回 カテ感染 院内感染を許容するな 第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろ 第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今 きょく ろん 【極論】1.極端な議論。また,そのような議論をすること。極言。2.つきつめたところまで論ずること。           大辞林第3版(三省堂)イワケンこと岩田健太郎氏が感染症内科・抗菌薬について極論で語ります。「この疾患にはこの抗菌薬」とガイドラインどおりに安易に選択していませんか?それぞれ異なった背景を持つ患者にルーチンの抗菌薬というのは存在するはずがありません。抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、相対比較をしながら目の前の患者に最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこんでいきます。※本DVDの内容は、丸善出版で人気の「極論で語る」シリーズの講義版です。 書籍「極論で語る感染症内科」は2016年1月丸善出版より刊行されています。  http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621089781.html第1回 なぜ極論が必要なのか? 抗菌薬選択、感染症治療に関してなぜ“極論”が必要なのかをイワケンが語ります。これまでの感染症の診断・治療の問題点を指摘しながら、どういう方向に向かっていかなければならないのか、何をすればよいのかを示していきます。“感染症とはなにか”が理解できる内容です。第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか抗菌薬を処方するとき、何を基準に選択していますか?ほとんどの場合において「スペクトラム」を基準にしていることが多いのではないでしょうか?否。本当にそれでいいのでしょうか。移行性、時間依存性、濃度依存性などの抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、、相対比較をしながら最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこみます。第3回 その非劣性試験は何のためか近年耳にする機会が増えている「非劣性試験」。既存薬よりも新薬の効果のほうが劣っていないことを示す試験で、新薬が主要な治療効果以外に何らかの点で優れているということを前提としてが実施するものである。本来患者の恩恵のために行われるべきこの試験が価値をもたらすことは当然ある。しかしながら、臨床的には意味の小さいいわゆる「me too drug」を増やす道具になりかねないということも、また事実である。この試験のあり方にイワケンが警鐘を鳴らす。第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ!いよいよ疾患の診療戦略に入っていきます。まずは誰もが診たことのある急性咽頭炎。急性咽頭炎の診療において、溶連菌迅速検査の結果が陽性の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)を投与を使用し、陰性の場合は、伝染性単核球症などとして、抗菌薬を使用しないという治療戦略が一般的。しかし、細菌性の急性咽頭炎の原因菌は「溶連菌」だけではなかった!つまり、検査が陰性であっても、抗菌薬が必要な場合もある!ではそれをどのように見つけ、診断し、治療するのか?イワケンが明確にお答えします。第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか?今回は、肺炎と髄膜炎の診療戦略について見ていきます。風邪と肺炎の見極めはどうするか?グラム染色と尿中抗原検査、その有用性は?また、髄膜炎のセクションでは、抗菌薬の選択についてイワケンが一刀両断。細菌性髄膜炎の治療に推奨されているカルバペネム。この薬が第1選択となったその理由を知っていますか?そこに矛盾はないでしょうか?ガイドライン通りに安易に選択していると、痛い目を見るかもしれません。番組最後には耐性菌についても言及していきます。第6回 CRPは何のために測るのか炎症の指標であるCRPと白血球は感染症診療において多用されている。多くの医療者は感染症を診るときに、白血球とCRPしか見ていない。CRPが高いと感染症と判断し、ある数値を超えると一律入院と決めている医療機関もある。しかし、それで本当に感染症の評価ができていると言えるのだろうか。実例を挙げながらCRP測定の意義を問う。第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか細菌性腸炎の主な原因菌は「カンピロバクター」。カンピロバクターはマクロライドに感受性がある。しかし、臨床医として、安易にマクロライドを処方する判断をすべきではない。抗菌薬で下痢の原因菌を殺し、その抗菌薬で下痢を起こす・・・。その治療法は正しいといえるのか?イワケン自身がカンピロバクター腸炎に罹患したときの経験を含めて解説します。第8回 ピロリ菌は除菌すべきか世の中は「ピロリ菌がいれば、とりあえず除菌」といった圧力が強い。ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんなど多様な疾患の原因となる菌であるからだ。一方で、ピロリ菌は病気から身を守ってくれている存在でもあるのだ。そのピロリ菌をやみくもに除菌することの是非を、イワケンの深い思考力で論じる。第9回 カテ感染 院内感染を許容するなカテーテルを抜去して解熱、改善すればカテ感染(CRBSI:catheter-related blood stream infection)と定義する日本のガイドライン。また、カテ感染はカテーテルの感染であると勘違いされている。そんな間違いだらけの日本のカテ感染の診療に、イワケンが切り込む。限りなくゼロにできるカテ感染(CRBSI)。感染が起こることを許容すべきではない。第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろインフルエンザの診療において迅速キットを使って診断、そして、陽性であれば抗インフルエンザ薬。そんなルーチン化した診療にイワケンが待ったをかける。今一度検査と抗インフルエンザ薬の必要性と意義を考えてみるべきではないだろうか。また、イワケンの治療戦略の1つである、「漢方薬」についても解説する。第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今HIV/AIDSの診療は劇的に進化し、薬を飲み続けてさえいれば天寿をまっとうすることも可能となった。そのため、HIV/AIDS診療を専門としない医師であっても、そのほかの病気や、妊娠・出産などのライフイベントで、HIV感染者を診療する機会が増えてきているはず。その患者が受診したとき、あなたはどう対応するのか。そう、医療者として、“患者差別”は許されない!普段通りの診療をすればいいのだ。しかしながら、薬の相互作用や患者心理など、気をつけるべきことを知っておく必要はある。その点を中心に解説する。

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気道感染症に対する抗菌薬処方の減少と感染症合併リスクの関係(解説:小金丸 博 氏)-573

 プライマリケアでみられる気道感染症(上気道炎、咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎)の多くは自然寛解が期待できる疾患であるが、実際は多くの気道感染症例に対して抗菌薬の投与が行われている。臨床医は、気道感染症に対して抗菌薬を投与しないと細菌合併症が増加する懸念を抱いているが、抗菌薬処方の減少と細菌感染症合併リスクの関係を示すデータは不足していた。 本研究は、英国プライマリケアのデータベースを用いて、気道感染症に対して抗菌薬が処方された割合と、細菌感染症の合併リスクとの関連を調べたものである。英国では2005~14年にかけて、気道感染症の患者に対する抗菌薬の処方割合は低下傾向であった。診療所別に解析した場合、抗菌薬処方の少ない診療所群において肺炎と扁桃周囲膿瘍のわずかな増加を認めたものの、そもそもまれな疾患である乳様突起炎、膿胸、細菌性髄膜炎、脳膿瘍、レミエール症候群の増加は認めなかった。 本研究では、気道感染症に対して抗菌薬の処方を減らしても、細菌感染症を合併するリスクは低いことが示された。肺炎と扁桃周囲膿瘍のリスク増加を認めたが、登録患者7,000人の診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減少した場合に、肺炎発症が年間1人、扁桃周囲膿瘍発症が10年間で1人増加するとの結果であり、リスクはきわめて低いといえる。 本研究では、個々の症例ごとに検討されたわけではないので、気道感染症の患者にどのような背景や理学所見があると細菌感染を合併するリスクが高いのか、といったことは議論されていない。高齢者や免疫不全者の気道感染症では、比較的頻度の高い肺炎の合併には注意が必要と考える。 不必要な抗菌薬の投与は、薬剤耐性菌の増加や抗菌薬の副作用の増加をもたらすため、抗菌薬の投与を見直す動きが広がっている。本来self-limitedな気道感染症に対して抗菌薬を投与するかどうかは、患者ごとに適応を十分吟味する必要がある。

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総合内科専門医試験対策 アップデート問題はココが出る!2016

第1回 循環器第2回 消化器第3回 呼吸器第4回 感染症第5回 代謝(糖尿病) 日本内科学会の認定医・専門医制度が大きく変わろうとしているなか、受験者が急増しているのが総合内科専門医。今後は、現行の総合内科専門医から移行する「新・内科専門医」が従来の内科認定医に代わり、すべての内科系専門医の"基礎資格"になるとみられているからです。総合内科の中でも重要となる、循環器、消化器、呼吸器、感染症、代謝(糖尿病)の「up to date問題」対策に特化した本DVDは2016年、さらにバージョンアップ!直近に起こった重要なトピックについての予想問題を各科目で追加しました。各科の専門医の協力の下、作成した予想問題を“愛され指導医”こと総合内科医の志水太郎氏が次々とコンパクトに解説していきます。試験直前の主要科目の知識確認にうってつけです。第1回 循環器総合内科専門医資格認定試験に出そうな最新医学トピックについて、演習問題形式で解説していきます。初回は循環器です。災害時の循環器疾患の予防・管理についてや閉塞性動脈硬化症のガイドライン改訂に関する知識を、予想問題を通して学んでください。第2回 消化器第2回は消化器。B型肝炎やC型肝炎は新薬の登場で治療方針が大きく変わりました。その転換についての詳細や、続々と新規薬剤が登場する分子標的薬とがんの組み合わせなど、頻出の最新医学トピックを、予想問題を通して学びましょう。第3回 呼吸器第3回は呼吸器。2013年改訂「COPD診断と治療のためのガイドライン第4版」で推奨されるCOPDの第1選択薬や、肺動脈性肺高血圧症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症の違いなど。押さえておくべきの最新医学トピックを、“愛され指導医”がコンパクトに解説します。医療・介護関連肺炎(NHCAP)分類の概念、この機会に覚えておきましょう。第4回 感染症第4回は感染症。2015年に韓国で大流行した中東呼吸器症候群(MERS)は、出題の可能性大!また、国内感染で話題に上ったデング熱や、新しい薬剤が次々と発売されているHIV感染症の最新治療なども、しっかり確認しておきましょう。第5回 代謝(糖尿病)高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c)が2016年5月に発表されました。また、「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」からの出題は必須なので、予想問題を通してしっかり押さえておきましょう。そのほかインクレチン関連薬やSGLT2阻害薬などの特徴と副作用。糖尿病とがんの関連など、最近のクリニカルな話題も要チェックです。

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脱ワクチン後進国を目指して

 「ワクチンの日(7月6日)」を記念し、在日米国商工会議所(ACCJ)は、7月11日に「日本の予防接種率向上に向けた課題と取組み」をテーマに、都内で講演会を開催した。講演会では、ワクチン接種に関するわが国の課題や、世界的なワクチン開発の動向などが広く語られた。なぜ、ワクチンのベネフィットは報道されない!? はじめに、森内 浩幸氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻 感染分子病態学講座 感染病態制御学分野 教授)が、わが国のワクチン接種の現状と、とくにHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンをめぐる諸課題について解説した。 日本では、1990年代頃よりワクチンの副反応への懸念などから接種率が向上せず、ワクチン後進国として位置してきた。しかし、2008年から小児領域でHib(インフルエンザ)ワクチンが任意接種となり、以降、米国とのギャップを埋めるべくHPV1ワクチン、PCV7(肺炎球菌)ワクチンなど接種できる種類が増やされ、定期・任意接種と幅広く接種できるようになった。しかし、ここに来て、HPVワクチンについて副反応、副作用が広く報道され、その接種が定期接種から任意接種となったことを受けて、現在では接種がほとんど行われていない状況だという。 ワクチンのリスクについて米国では、子供に重症アレルギー反応を起こす確率は100万分の1とされている。これは落雷に遭う(1万2,000分の1)、億万長者になる(76万6,000分の1)確率よりも低いとされているが、マスコミは、このまれなケースを取り上げて報道していることが多いと指摘する。また、HPVワクチンに関しては、世界保健機関(WHO)からの勧告や関連学会からの声明、全国の地域での独自調査報告など、さまざまな科学的な検証が行われ、ワクチンの有用性が示されているにもかかわらず、依然としてベネフィットに関する報道は少ないという。 今後も検証が必要だが、HPVワクチンの不定愁訴では、接種と因果関係のないものが散見され、明確に接種を中止すべきエビデンスがない以上、接種しないことで起こる将来の子宮頸がん(毎年約3,000人の患者が死亡)や性感染症でQOLを損なう患者が増えることに憂慮すべきという。 最後に、森内氏は「WHOなどの基準からすれば、わが国は今でもワクチン後進国であり、定期接種に向けてさらに働きかけを行う必要がある。また、疾病予防が評価対象とされていないことも問題ではないか」と課題を提起し、講演を終えた。医療費を抑えるならワクチンは武器になる 続いて、マイケル・マレット氏(サノフィ株式会社サノフィパスツールワクチンビジネスユニット執行役員/ジェネラルマネジャー)が、ワクチンメーカーの視点から開発の現状と今後の展開について講演を行った。 ジェンナーの天然痘ワクチンから始まる開発の歴史を振り返り、ワクチンの効果について、ポリオを根絶しつつあることを一例に挙げて説明した。 次に、ワクチン接種の経済的ベネフィットとして、コスト効果が高いことを挙げた。ワクチン接種により、重症化による医療費増大、疾病による経済損失リスクなどを避けることができるという。また、日本のような超高齢社会では、医療コストが増大する中、予防接種により少しでもその上昇を抑えることが重要であると指摘した。さらに、日本では小児・成人ワクチン接種が増加しているが、まだ未導入のワクチンもあり、早急な導入を望むとも述べた。 世界的なワクチン開発の現状をみると、前臨床試験でジカウイルス感染症が、I/II相試験でノロウイルス、C型肝炎、III相試験でマラリア、エボラ出血熱、承認段階ではデング熱などの開発が進められている。そのうえで、大切なことは、完成したワクチンが確実に患者さんの元に届くことであり、新しいワクチンの供給には約3年が必要となることから、ワクチンがスムーズに安定供給されるために、今後も政府・産業・医療のパートナーシップが不可欠となる、と見解を述べた。 最後に「現在、ワクチンは20疾患で供給され、毎年600万人の命を救っている。これは公衆衛生上の大成果であり、今後も社会貢献のために産業、学術が手を取り合って開発・供給を行っていく」と講演を終えた。

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その症状、夏風邪ではなく肺炎かもしれない

 「夏風邪は長引く」と慣用句的に言われるが、診察室に来た高齢の患者が長引く発熱や咳の症状を訴えた時、急性上気道炎と決めてかかるのは危険かもしれない。6月30日、都内でファイザー株式会社がプレスセミナー「夏風邪かと思っていたら肺炎に!? 高齢者が注意すべき夏の呼吸器疾患の最新対策」を開催した。講演に登壇した杉山 温人氏(国立国際医療研究センター病院 呼吸器内科診療科長)は、「肺炎はワクチンで予防できる呼吸器疾患だが、当事者である高齢患者たちはワクチン接種の必要性を感じておらず、接種を勧めたい医療者の認識との間に大きな乖離がある」と述べた。急性上気道炎(感冒)との鑑別が紛らわしい肺炎 いまや肺炎は、がん、心疾患に続く日本人の死因第3位となっている。また、肺炎はその死亡の96.9%を高齢者が占めている。高齢者の肺炎は、若年者や中高年者の肺炎と異なり、罹患がADLの低下や心身の機能低下へと連鎖し、寝たきりや、認知症の進行といった悪循環に陥りやすいという特徴がある。 杉山氏によると、夏風邪と紛らわしい肺炎の鑑別にはとくに注意が必要だという。問診時に聞き取るポイントとして、発熱期間(風邪が数日~1週間程度であるのに対し、肺炎は1週間以上続く)や痰の色(肺炎の場合は黄~緑色、鉄さび色)などが挙げられる。しかし、高齢者の場合には、無熱性の場合があることも鑑別を難しくしており、意識障害のみで搬送され、肺炎と診断されたケースもあるという。肺炎への危機感が希薄な高齢者 肺炎の主な原因菌は何なのか。65歳以上の市中肺炎で入院したケースをみると、インフルエンザ菌や黄色ブドウ球菌などと比べても、肺炎球菌が圧倒的に多い。大学病院における医療・介護関連肺炎(NHCAP)についても同様に、肺炎球菌が最も多いことが過去の調査から明らかになっている。 2014(平成26)年10月から、65歳以上の高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種化(65歳より5歳刻み)されたが、ファイザーが同年11月に行ったインターネット調査によると、65~70歳の男女600人のうち、肺炎球菌ワクチンを接種したことがある人は、70歳で14%、65歳ではわずか3%にとどまった。さらに、肺炎にかかる可能性を感じているかと尋ねたところ、「感じている」と答えた人は70歳では10%、65歳では5%にとどまり、危機感がきわめて希薄である実情も浮き彫りになった。複雑なワクチン接種フローが課題 国内で承認されている肺炎球菌ワクチンは、13価結合型ワクチン(商品名:プレベナー)と、23価多糖体ワクチン(同:ニューモバックス)の2種類があるが、65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種で公費対象となっているのは23価ワクチンのみである。一方、13価ワクチンは小児(生後2ヵ月~6歳未満)の定期接種で使用されており、優れた免疫応答と長期的な免疫記憶の獲得が特徴である。 杉山氏は「作用機序が異なるプレベナーとニューモバックス、2種類をうまく組み合わせて肺炎球菌に対する抵抗力を維持することが肝要である」と強調。さらに、定期接種はニューモバックスのみでプレベナーは任意接種であるために、ワクチン接種のフローが複雑になっている課題を指摘し、「現場の運用はシンプルであるべき。ニューモバックスだけでなく、プレベナーについても定期接種化を望みたい」と述べた。

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気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ

 気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡 Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。 気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ 英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。 診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。 気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。 そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)【訂正のお知らせ】本文内の表記に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2016年7月14日)。 

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混合性結合組織病〔MCTD : mixed connective tissue disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)は、1972年にGC Sharpが提唱した疾患概念である。膠原病の中で2つ以上の疾患の特徴を併せ持ち(混合性)、しかも抗U1-RNP抗体と呼ばれる自己抗体が陽性となるものである。これは治療反応性がよく、予後も良好であったことから独立疾患として提唱された。その後、この疾患の独立性に疑問がもたれ、とくに欧米では全身性エリテマトーデスの亜型、あるいは強皮症の亜型と考えられ、英語文献でもあまりみられなくなった。しかし後述するように、高率に肺高血圧症を合併することや膠原病の単なる重複あるいは混合のみからは把握できないような特異症状の存在が明らかとなってきたことから、その疾患独立性が欧米でも再認識されている。■ 疫学本症は厚生労働省の指定難病に認定されており、その個人調査票を基にした調査では平成22年だけでおよそ9,000名の登録が確認されている。性別では女/男比で15/1と圧倒的に女性に多く、年齢分布では40代にもっとも多く、平均年齢は45歳である。また、推定発症年齢は30代が多く、平均年齢は36歳である。■ 病因本症の病因は他の膠原病と同様、不明である。全身性自己免疫疾患の1つであり、疾患に特徴的な免疫異常は抗U1-RNP抗体である。本抗体を産生するモデル動物も作成されており、関与する免疫細胞や環境因子について研究が進められている。■ 症状1)共通症状レイノー現象が必発である。また手指や手背部の浮腫傾向がみられ、「ソーセージ様手指」「指または手背の腫脹」が持続的にみられる。これらの症状は、多くの例で初発症状となっている。なお手指や手背部の浮腫傾向は強皮症でも初期にみられるが、強皮症ではすぐに硬化期に入り持続しない。2)混合所見全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎の3疾患にみられる臨床症状あるいは検査所見が混在してみられる。しかもそれぞれの膠原病の完全な重複ではなく、むしろ不完全な重複所見がみられることが多い。混合所見の中で頻度の高いものは、多発関節痛、白血球減少、手指に限局した皮膚硬化、筋力低下、筋電図における筋原性異常所見、肺機能障害などである。3)肺高血圧症肺高血圧症は一般人口では100万人中5~10人程度と非常にまれな疾患であり、しかも予後不良の疾患である。このまれな疾患がMCTDでは5~10%と一般人口の1万倍も高率にみられ、さらに本症の主要な死因となっていることから重要な特異症状として位置付けられている。大部分の症例では肺動脈そのものに病変がある肺動脈性の肺高血圧症である。心エコー検査などのスクリーニング検査やその他の画像・生理検査などが重要であるが、確定診断には右心カテーテル検査が必要である。4)その他の特徴的症状肺高血圧症以外にもMCTDに比較的特徴的な症状がある。三叉神経II枝、III枝の障害による顔面のしびれ感を主体とした症状は、MCTDの約10%にみられる。レイノー現象と同じく、神経の血流障害と推測されている。また、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬による無菌性髄膜炎が、本症の約10%にみられる。MCTDあるいは抗U1-RNP抗体陽性患者では、この薬剤性髄膜炎に留意が必要である。5)免疫学的所見抗U1-RNP抗体が陽性である。間接蛍光抗体法による抗核抗体では斑紋型を示す。抗Sm抗体や抗Jo-1抗体、抗トポイソメラーゼ1抗体など他の膠原病の疾患特異的自己抗体が出現しているときには、本症の診断は慎重にすべきである。6)合併症上記以外にシェーグレン症候群(25%)、橋本甲状腺炎(10%)などがある。■ 予後当初は、治療反応性や予後のよい疾患群として提唱されてきた。確かに発病からの5年生存率は96.9%、初診時からの5年生存率は94.2%と高い。しかし、死亡者の死因を検討すると、肺高血圧症、呼吸不全、心不全など心肺系の死因が全体の60%を占めている。とくに肺高血圧症は、一般人口にみられる特発性肺高血圧症よりもさらに予後不良であり、その治療の進歩が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)わが国では1982年に厚生省の特定疾患に指定され調査研究班が結成されて以来、研究が続けられ、1993年には特定疾患治療研究対象疾患に指定された。1988年に「疫学調査のための診断の手引き」が作成され、何度か改訂されてきた。わが国の診断基準は国際的にも評価されていて、最も普遍的なものである。2004年の改訂では、共通所見に肺高血圧症が加えられ、中核所見と名称が変更された。この3所見のうち1所見以上の陽性と抗U1-RNP抗体陽性が必須であり、さらに混合所見の中で3疾患のうち2疾患以上の項目を併せ持てばMCTDと診断する(表1)。たとえば混合所見で多発関節炎とCK高値があれば、前者が全身性エリテマトーデス様所見、後者が多発性筋炎様所見として満たすこととなる。表1 MCTD診断の手引き(2004年度改訂版)■MCTDの概念全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などにみられる症状や所見が混在し、血清中に抗U1-RNP抗体がみられる疾患である。I.中核所見1.レイノー現象2.指ないし手背の腫脹3.肺高血圧症II.免疫学的所見抗U1-RNP抗体陽性III.混合所見A.全身性エリテマトーデス様所見1.多発関節炎2.リンパ節腫脹3.顔面紅斑4.心膜炎または胸膜炎5.白血球減少(4,000/μL以下)または血小板減少(10万/μL以下)B.強皮症様所見1.手指に限局した皮膚硬化2.肺線維症、肺拘束性換気障害(%VC:80%以下)または肺拡散能低下(%DLCO:70%以下)3.食道蠕動低下または拡張C.多発性筋炎様所見1.筋力低下2.筋原性酵素(CK)上昇3.筋電図における筋原性異常所見■診断1.Iの1所見以上が陽性2.IIの所見が陽性3.IIIのA、B、C項のうち、2項目以上につき、それぞれ1所見以上が陽性以上の3項目を満たす場合をMCTDと診断する。■付記抗U1-RNP抗体の検出は二重免疫拡散法あるいは酵素免疫測定法(ELISA)のいずれでもよい。ただし二重免疫拡散法が陽性でELISAの結果と一致しない場合には、二重免疫拡散法を優先する。(近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.)また、肺高血圧症については、予後不良であり早期発見、早期治療が必要なこともあり、その診断にはとくに継続的な注意が必要である。確定診断には、右心カテーテル検査が必要であるが、侵襲的検査であり、専門医の存在が必要なため、スクリーニング検査として心臓超音波検査が重要である。これを基にした「MCTD肺高血圧症診断の手引き」(図1)が作成されており、肺高血圧症を疑う臨床所見や検査所見がある場合には、早急に心臓超音波検査をすべきである。画像を拡大する<脚注>1)MCTD患者では肺高血圧症を示唆する臨床所見、検査所見がなくても、心臓超音波検査を行うことが望ましい。2)右房圧は5mmHgと仮定。3)推定肺動脈収縮期圧以外の肺高血圧症を示唆するパラメーターである肺動脈弁逆流速度の上昇、肺動脈への右室駆出時間の短縮、右心系の径の増大、心室中隔の形状および機能の異常、右室肥厚の増加、主肺動脈の拡張を認める場合には、推定肺動脈収縮期圧が36mmHg以下であっても少なくとも1年以内に再評価することが望ましい。4)右心カテーテル検査が施行できない場合には慎重に経過観察し、治療を行わない場合でも3ヵ月後に心臓超音波検査を行い再評価する。3)肺高血圧症の臨床分類、重症度評価のため、治療開始前に右心カテーテル検査を施行することが望ましい。(吉田 俊治ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成22年度研究報告書:2011.7-13.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 総論本症は自己免疫疾患であり、抗炎症薬と免疫抑制療法が治療の中心となる。非ステロイド性抗炎症薬もしばしば用いられるが、前述のごとく、時に無菌性髄膜炎が誘発されるので、その使用には慎重な配慮が必要である。急性期には、多くの場合で副腎皮質ステロイド薬が治療の中心となる。他の膠原病と同様、臓器障害の種類と程度により必要なステロイド量が決定される(表2)。表2 臓器障害別の重症度分類a)軽症レイノー現象、指ないし手の腫脹、紅斑、手指に限局する皮膚硬化、非破壊性関節炎b)中等症発熱、リンパ節腫脹、筋炎、食道運動機能障害、漿膜炎、腎障害、皮膚血管炎、皮膚潰瘍、手指末端部壊死、肺線維症、末梢神経障害、骨破壊性関節炎c)重症中枢神経症状、無菌性髄膜炎、肺高血圧症、急速進行性間質性肺炎、進行した肺線維症、重度の血小板減少、溶血性貧血、腸管機能不全(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)前表のように、中枢神経障害、急速に進行する肺症状・腎症状、血小板減少症を除いて大量のステロイドを必要とすることは比較的少ない。ただ、ステロイドを長期に使用することが多いため、骨粗鬆症や糖尿病、感染症の誘発などの副作用には留意が必要である。■ 肺高血圧症MCTDの生命予後を規定する肺高血圧症(PH)については、病態からみて肺動脈性のもの以外に間質性肺炎によるもの、慢性肺血栓塞栓症によるもの、心筋炎など心筋疾患によるものなどがあり、これらは治療方法も異なるため、右心カテーテル検査などで厳密に識別する必要がある。もっとも頻度の高い肺動脈性肺高血圧症については、しばしば大量ステロイド薬や免疫抑制薬が奏効するため、これらの薬剤の適応を検討すべきである。また、通常の特発性肺動脈性肺高血圧症に用いられる血管拡張薬も有用性が確認されているため、プロスタサイクリン系薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬を併用して用いる(図2)。画像を拡大する<脚注>*ETR拮抗薬エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン、ボセンタン)**PDE5阻害薬ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)その後、マシテンタン(ETR拮抗薬)、リオシグアート(可溶性グアニルシクラーゼ刺激薬)なども使用できるようになっており、治療の幅が広がっている。これらは肺血管拡張作用に加えて肺動脈内皮細胞の増殖抑制作用も期待されている。ただ、肺血管のリモデリングが進行した場合や強皮症的要素の強い場合、これらの薬剤はしばしば無効であり、心不全のコントロールなども重要になるため、循環器内科などと共同して治療に当たることが必要になる。4 今後の展望遺伝子多型の検討やゲノムワイド関連解析によって、MCTDやMCTD合併肺高血圧症になりやすい危険因子が解明されつつある。これにより、さらに精度が高くこれらの診断を早期に行えることが期待される。また、予後に大きな影響を与える肺高血圧症に関する薬剤が少なからず開発されつつある。これらの出現により一段とMCTD合併肺高血圧症の治療成績が上昇する可能性がある。5 主たる診療科リウマチ膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 混合性結合組織病(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病全般について、その患者と家族向け)1)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.2)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2011.7-13.3)三森 経世編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.7-13.公開履歴初回2014年10月07日更新2016年07月05日

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慢性リンパ性白血病〔CLL : chronic lymphocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 定義慢性の小型成熟Bリンパ球の単クローン性の腫瘍であり、末梢血、骨髄、リンパ節で増殖する。リンパ節外の病変はなく、末梢血では5,000/mm3以上の腫瘍細胞が観察される。通常腫瘍細胞はCD5とCD23との両者を発現する。■ 疫学欧米の成人の白血病のなかでは最も多く、10万人当たり3.9人の発症率であるが、東アジアでは少なく、日本では、およそ0.48人とする報告がある1)。欧米のアジア系移民でも少ないので、遺伝的素因が考えられている。■ 病因他の白血病、リンパ性腫瘍と同様、ゲノム異常によると考えられている。第13番染色体のmiR 15、16の欠失によるBCL2の活性化を始めとして、NOTCH1、MYD88、TP53、ATM、SF3B1などの遺伝子異常が複数関与している2)。■ 症状多くはまったく無症状であり、血液検査による異常値で発見される。一部、リンパ節腫脹、肝脾腫、体重減少、発熱、全身倦怠感、貧血症状を呈する例や繰り返す感染症から発見される例がある。また頻度は低いが、自己免疫性溶血性貧血、赤芽球癆、自己免疫性血小板減少症、無顆粒球症、低γグロブリン血症を合併することが知られている。■ 分類近縁疾患に、単クローン性B細胞リンパ球増加症(monoclonal B-cell lymphocytosis: MBL)と小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma : SLL)がある。MBLは、健常人に認められるモノクローナルなBリンパ球の増殖である。臨床症状はなく、Bリンパ球は、CLLと同様の細胞表面抗原を呈していることが多いが、5,000/μL以下であるのでCLLの定義は満たさない。CLLへ進行することが知られている。SLLは、末梢血や骨髄への浸潤がないCLLと同一の腫瘍と考えられ病期や治療は低悪性度B細胞リンパ腫として扱われる。■ 予後一般に緩徐な経過をたどることが知られているが、初回診断時からの生存期間は症例により2~20年と大きなばらつきがあり、生存期間中央値は約10年といわれている。そのため治療開始時期の決断が困難であり、病勢を評価し、予後を予測するための臨床病期分類がいくつか報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準末梢血中のリンパ球絶対数が3ヵ月以上にわたって、継続的に5,000/mm3を超えている。末梢血塗抹標本では、細胞質をほとんど持たない成熟小型リンパ球が一様に増加しており、フローサイトメトリーで、Bリンパ球がモノクローナルに増殖している。細胞表面抗原は、Tリンパ球抗原であるCD5およびBリンパ球抗原であるCD19、CD20、CD23が発現している。細胞表面免疫グロブリンやCD20の発現レベルは、正常Bリンパ球に比べて低いことが多い。免疫グロブリン軽鎖はκ型またはλ型のいずれかのみを発現している。■ 鑑別診断リンパ球数が増加する他の疾患との鑑別が問題となる。結核、梅毒、伝染性単核球症、百日咳、トキソプラズマ症などの感染症では、リンパ球増多を呈するが、いずれも反応性であり数週間で正常化する。CLL以外のリンパ増殖性疾患との鑑別も重要であり、hairy cell leukemia、prolymphocytic leukemia、large granular cell lymphocyte leukemia、mantle cell lymphomaを代表とする、リンパ腫の白血化などがある。■ 病期分類現在広く使われている病期分類には2種類ある。Rai分類(表1)は米国で、Binet分類(表2)は欧州で用いられており、リンパ節病変数および貧血、血小板減少の有無により分類する。画像を拡大する画像を拡大する■ その他の予後予測因子RaiおよびBinet分類により予後分類を行うが、low risk群に分類された症例のなかでも急速に進行する例がある。そのため、分子生物学的研究により、新たな予後因子も近年では提唱されている。(1)短いLymphocyte doubling time(LDT)(2)高い血清マーカー(LDH、β2 microglobulin、β2M)(3)免疫グロブリン重鎖変異(IgVH mutation)がない(4)CD38陽性(5)ZAP70(Zeta chain associated protein 70)が発現している(6)細胞遺伝学的検査での11q欠失・17p欠失が予後不良とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療開始時期Rai分類low risk群およびBinet分類A群の症例では、診断早期の治療が推奨されない。Rai分類intermediate・high risk群およびBinet分類B・C群の症例で治療開始が勧められる。ただし、intermediate risk群・B群においては、症状の出現まで経過観察が一般的である。一方で、リヒター症候群と呼ばれるトランスフォームを起こし、急速にリンパ節腫大を生じ、予後不良となることがある。無治療経過観察中に一転して、治療が無効となるので、患者説明の際に留意する。■ 治療薬剤現状ではCLLに対する標準治療は確立されていない。治療の選択肢が広がり、アルキル化剤に加えプリンアナログ、モノクローナル抗体が登場している。1)アルキル化剤クロラムブチルは、わが国では本疾患には未承認である。単剤治療について奏効率は40~60%で、完全寛解(complete response:CR)は4~10%であった3)。わが国では、シクロホスファミド(商品名: エンドキサン)が使用される。差違はほとんどないとされており、伝統的に併用療法中で用いられることが多いが、アントラサイクリンを加えるメリットはない4)。2)プリンアナログフルダラビンは(同: フルダラ)、わが国では静注薬に加え経口薬も承認されており、同等の効果が知られている。北米のintergroup studyでの、未治療CLLに対するフルダラビン単剤治療の第III相比較試験の結果5)では、奏効率60~70%であり、CR率も20~40%と良好なものであった。奏効率は有意差をもってクロラムブチルに優っており、無増悪生存期間(PFS)も有意に延長していた。しかし、クロスオーバーデザインであったためか、生存率の有意差は得られていない。3)モノクローナル抗体CD20に対する抗体のリツキシマブ(同: リツキサン)は、CLLに対しては単剤では奏効率10~15%と結果は乏しい6)。毒性として輸注関連反応が強く出現する可能性がある。オファツムマブ(同: アーゼラ)は、再発・難治性の場合に使用される。リツキシマブに比べてCD20エピトープに高い親和性で結合することと、結合後の解離速度が遅いことが特徴である7)。CD52に対するモノクローナル抗体であるアレムツズマブ(同:マブキャンパス)も再発・難治性の場合に用いられる。クロラムブチルとの第III相比較試験が行われ、奏効率83%、CR率24%でより高かったが、T細胞も抑制するためサイトメガロウイルスを始めとするウイルス感染の管理が重要である8)。4)併用療法フルダラビンとシクロホスファミドとの併用(FC療法)は、奏効率80~90%、CR率30~40%とフルダラビン単剤と比較して有効性が高い。PFSも有意に延長していたが、全生存期間(OS)については、観察期間が短い影響か、有意差は認められていない9)。フルダラビンとリツキシマブの併用(FR療法)も同様にフルダラビン単剤と比較して優れていることが示されている。リツキシマブとフルダラビンの同時投与法と連続的投与法の比較では、前者で奏効率90%(CR率47%)、後者で77%(CR率28%)であり、同時投与法が有意に優れていた10)。さらにフルダラビン、シクロホスファミド、リツキシマブの3剤併用(FCR療法)は、FC療法と比較され、CR率、OSで有意に優れていた11)。5)新規抗がん剤ベンダムスチン(同:トレアキシン)は、アルキル化剤とプリンアナログの両者の作用特徴を有する静注薬である。悪性リンパ腫に対する有効性が報告されているが、CLLに対しても第III相比較試験にてクロラムブチルよりも優れた有効性を示している12)。わが国でも、再発例に対して承認申請され認可待ちである(平成28年5月末現在)。BTKシグナルの抑制薬であるイブルチニブ(同:インブルビカ)が欧米だけではなく、わが国でも再発・難治例に対して承認され、米国ではPI3Kδを抑える idelalisibが認可されている。いずれも経口薬である。イブルチニブ13)は、オファツムマブに対して第III相比較試験で有効性のため中途終了、 idelalisibはリツキシマブ単独に比べて14)リツキシマブとの併用療法でPFSで優っていた。さらに高齢化などのために全身状態の悪い症例でchlorambucilとの併用で、あらたなCD20抗体であるobinutuzumab(GA101)は、リツキシマブよりPFSで有意に優っており15)、米国で承認されている。6)造血幹細胞移植若年者を主体に治癒を目指して同種造血幹細胞移植が行われ、40~50%の長期生存が報告されている。リツキシマブ、フルダラビン、ベンダムスチンを用いた骨髄非破壊的前処置を用いた移植成績は、第II相比較試験の結果ではきわめて良好であった16)。■ 合併症治療CLL患者では、正常リンパ球が低下しており、免疫不全状態にあることが多く、感染症の合併には常に注意を払う必要がある。P. jiroveciによるニューモシスチス肺炎、CMV感染、帯状疱疹を発症する危険性が高く、ST合剤や抗ウイルス薬の予防内服を検討する。4 今後の展望わが国でも米国発の経口薬である新薬が、使用できるように期待したい。5 主たる診療科血液内科、血液腫瘍科、血液・腫瘍科、造血器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)アメリカ国立がん研究所のCLLの総合情報のページ(医療従事者向けの情報)1)Tamura K, et al. Eur J Haematol.2001;67:152-157.2)Puente XS, et al. Nature.2011;475:101-105.3)Dighiero G, et al. N Engl J Med.1998;338:1506-1514.4)CLL Trialists' Collaborative Group. J Natl Cancer Inst.1999;91:861-868.5)Rai KR, et al. N Engl J Med.2000;343:1750-1757.6)O'Brien SM, et al. J Clin Oncol.2001;19:2165-2170.7)Cheson BD. J Clin Oncol.2010;28:3525-3530.8)Lemery SJ, et al. Clin Cancer Res.2010;16:4331-4338.9)Flinn IW, et al. J Clin Oncol.2007;25:793-798.10)Byrd JC, et al. Blood.2005;105:49-53.11)Tam CS, et al. Blood.2008;112:975-980.12)Hillmen P, et al. J Clin Oncol.2007;25:5616-5623.13)Byrd JC, et al. N Engl J Med.2013;369:32-42.14)Furman RR, et al. N Engl J Med.2014;370:997-1007.15)Goede V, et al. N Engl J Med.2014;370:1101-1110.16)Kahr WH, et al. Blood.2013;122:3349-3358.公開履歴初回2014年07月01日更新2016年06月21日

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気管支内コイル治療は重症肺気腫患者の運動耐容能を改善させるのか?(解説:山本 寛 氏)-549

 本研究は、肺気腫に対する気管支内コイル治療の効果と安全性を検討するため、2012年12月から2015年11月まで、北米21施設、欧州5施設が参加して315例を対象に行われた。患者は、ガイドラインに準拠した通常ケア(呼吸器リハビリテーション、気管支拡張薬の投与)のみを行う群(n=157)と、これに加えて両側気管支内にコイル治療を行う群(n=158)とに無作為に割り付けている。コイル治療群では、2回の治療を4ヵ月間隔で行い、1肺葉当たり10から14個のコイルを気管支鏡を用いて埋め込んだ。治療前と治療12ヵ月後の6分間歩行距離の変化を主要評価項目とし、6分間歩行距離の改善割合、SGRQ (St. George’s Respiratory Questionnaire)を用いたQOL(Quality of Life)の変化、そして1秒量の変化率がそれぞれ副次評価項目として設定されている。 その結果、6分間歩行距離の12ヵ月間での変化量はコイル治療群で+10.3m、通常ケア群で-7.6mであった。その群間差は14.6m(97.5%CI:0.4m~∞、片側p値:0.02)であり、有意にコイル治療群で優れていた。1秒量の変化率は中央値で7.0%(97.5%CI:3.4%~∞、片側p値0.01)であり、やはりコイル治療群で大きな改善が示された。SGRQスコアの群間差は-8.9ポイント(97.5%CI:-∞~-6.3ポイント、片側p値<0.001)で、コイル治療群において有意な改善が示された。 一方、コイル治療群において主要な合併症が34.8%も発生している。通常ケア群においては19.1%であり、コイル治療群では有意に合併症の頻度が高かった(p=0.002)。コイル治療群では、肺炎が20%(通常ケア群では4.5%)、気胸が9.7%(通常ケア群では0.6%)とそれぞれ有意に高頻度に認められた。 以上の結果から、肺気腫患者に対する気管支内コイル治療が、6分間歩行距離やQOL、肺機能の改善に有効であると結論することは早計である。主たる評価項目である6分間歩行距離の改善はわずかであり、設定されたMCID(minimal clinical important difference)=29mを超えるものではない。しかも、重大な合併症の頻度も高く、長期的な効果についても不明である。 しかし、本研究には残気量が予測値の225%以上という高度のair trappingを示す肺気腫症例が多く(235例)登録されている。探索的評価項目のうち、残気量と残気率に関しては、コイル治療を行うことによってそれぞれ0.31Lの減少、3.5%の減少が得られている。サブグループ解析の結果、air trappingが225%以上と高度で、heterogeneousな気腫症例においては、6分間歩行距離で+29.1m、1秒量で+12.3%、SGRQで-10.1ポイントと、臨床的にも意味のある効果が示されている。今後は、本治療法の長期効果についての追加報告がなされること、またheterogeneousな気腫分布を示す、air trappingが高度な肺気腫を調査対象としたランダム化比較試験が行われることが期待される。

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「研究」からプロの「ビジネス」への転換:ランダム化比較試験の現在(解説:後藤 信哉 氏)-542

 長らく臨床をしていると、日本にいても肺塞栓症などの経験はある。1980年代~90年代には循環器内科以外の内科の病棟管理もしていたが、一般の内科の救急入院症例に対して一般的に抗凝固療法が必要と感じたことはなかった。中心静脈カテールを内頸静脈から入れることが多かったが、内頸静脈アプローチが失敗した場合、下腿静脈アプローチとならざるを得ない場合もあった。後日、米国に友人を持つようになると、彼らにとっては下腿静脈からの留置カテーテルは血栓源として恐れられていることを知って、日米の差異に驚愕した。 本ランダム化比較試験では、肺炎、脳卒中、心不全などの内科疾患の入院例に6~14日の低分子ヘパリンは標準治療と考えられている。14日以内には低分子ヘパリン皮下注射、または抗Xa薬betrixaban、14日以降はbetrixabanなし、ありの比較となっている。14日以降の抗Xa薬の有無を比較する部分に主要な興味を置いた論文である。 日本では、内科疾患の入院時に予防的抗凝固療法を行う発想がない。安静にするだけで血栓ができる症例が、幸いにして少ない。理由の一部は、血栓性の高い活性化プロテインC抵抗性の血液凝固因子第V因子のLeiden型変異が、日本人にないことである。 本試験には、シンガポールなどのアジア地区からの症例登録もある。日本の参加がないのは標準治療と血栓イベントリスクが異なるため仕方ない。国際共同ランダム化比較試験といっても、その結果を適応できる地域に日本は含まれない。以前は、「日本人の血栓イベントリスクが欧米と同じと言えないかもしれない」ので日本が参加しない試験が多かったが、今は「日本人の血栓イベントリスクが欧米と同じでない」ことが事実として認識されている。日本人以外でも、登録症例における血栓イベントが想定より少なかったとみえて、試験の途中にてD-dimer陽性または75歳以上が登録基準に追加された。ランダム化比較試験の意味が、「標準治療を転換する手段」から「新薬の認可承認のためのチャレンジ」に転換している。統計手法も複雑化していて、筆者のような素人には理解できない。 かつては研究者の「研究」であったランダム化比較試験も、現在では薬剤開発のための高度な学術的「ビジネス」に転換しているように筆者にはみえる。誰にも理解できる単純な仮説検証研究が可能であった時代が懐かしい。

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重症肺気腫、両側気管支内コイル治療で運動耐性が向上/JAMA

 重症エアトラッピングが認められる肺気腫患者に対し、気管支拡張薬などによる標準的治療に加え両側気管支内コイル治療を行うと、標準的治療のみに比べ、6分間歩行などのアウトカムの改善に有効であることが判明した。一方で、重篤合併症の発生率は、コイル治療群で高かった。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らが、315例を対象に行った無作為化比較試験の結果、報告した。結果を踏まえて著者は、さらなる検討を行い、健康アウトカムへの長期的影響を調べる必要があるとまとめている。JAMA誌2016年5月24・31日号(オンライン版2016年5月15日号)掲載の報告。12ヵ月後の6分間歩行距離の変化を比較 研究グループは2012年12月~2015年11月にかけて、北米21ヵ所、欧州5ヵ所の医療機関を通じて、重症エアトラッピングが認められる肺気腫患者315例を対象に、無作為化比較試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方の157例には肺リハビリテーションや気管支拡張薬を含むガイドラインに則した標準的治療を、もう一方の158例には標準的治療に加え両側気管支内コイル治療をそれぞれ行い、アウトカムを比較した。気管支内コイル治療では、4ヵ月間隔で2回の連続的処置を行い、一肺葉に気管支鏡で10~14コイルを装着した。 主要評価項目は、ベースラインから12ヵ月後の6分間歩行距離の絶対差だった。副次評価項目は、6分間歩行改善率、呼吸器疾患に関するQOL指標「St George’s Respiratory Questionnaire」(SGRQ)の変化幅、1秒量(FEV1)のベースラインからの改善幅それぞれに関する群間差などだった。 被験者の平均年齢は64歳、女性は52%だった。6分間歩行距離の改善、コイル治療群が標準治療群より14.6m延長 12ヵ月の追跡を終えたのは、被験者のうち90%だった。 その結果、6分間歩行距離のベースラインからの改善は、標準治療群が-7.6mだったのに対し、コイル治療群は10.3mと、群間差は14.6mだった(Hodges-Lehmann推定97.5%信頼区間:0.4~∞、片側検定p=0.02)。 6分間歩行距離の改善が25m以上だったのは、通常治療群が26.9%に対し、コイル治療群では40.0%と、有意に高率だった(オッズ比:1.8、同:1.1~∞)。補正前群間差は11.8%だった(片側検定p=0.01)。 FEV1中央値変化の群間差は7.0%、SGRQ変化の群間差は-8.9ポイントと、いずれもコイル治療群で有意な改善が認められた(いずれもp<0.001)。 一方で、入院を要する肺炎などの重篤な合併症の発生率は、通常治療群19.1%に対しコイル治療群は34.8%と有意に高率だった(p=0.002)。 その他の重篤有害作用としては、肺炎が4.5%、20%、気胸が0.6%、9.7%と、いずれもコイル治療群で高率だった。

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呼吸不全死のリスクが高まる病歴とは?:高畠研究

 日本人の一般集団において、「男性」、「脳卒中」や「胃潰瘍」の病歴を持つことなどが呼吸不全死のリスクであることが、山形大学医学部内科学第一(循環・呼吸・腎臓内科学)講座の小林 真紀氏らにより報告された。Scientific reports誌2016年5月16日号掲載の報告。 一般集団の呼吸不全死のリスク因子は、まだ確立されていない。著者らは過去の研究で、1秒量(FEV1)の低下と全死因死亡および心血管疾患死亡との関連を示したが、FEV1は呼吸器疾患死亡に対する独立したリスク因子ではなく、呼吸器疾患死亡には肺機能以外にも別の要因が関わっていることが考えられた。本研究は、日本人の一般集団を対象に、呼吸不全によって死亡した個人の特性を探索することを目的とした。 対象は、2004~06年の間に山形県東置賜郡高畠町で行われた地域の健康診断に参加した40歳以上の3,253人である。アウトカムは2010年末までの死亡とし、Cox比例ハザードモデルを用いて呼吸不全による死亡者の特性を生存者および呼吸不全以外の疾患による死亡者と比較することにより、ハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を求めた。さらに、同定したリスク因子による呼吸不全死の予測モデルを作成し、C統計量を算出してその予測精度を評価した。臨床検査値は、ROC曲線を用いて最も感度および特異度の高くなるカットオフ値を検討し、モデルに投入した。 主な結果は以下のとおり。・2010年までの死亡者数は127人で、そのうち呼吸不全による死亡は27人であった(肺炎:22人、COPD:1人、肺線維症:3人、気管支喘息:1人)。・男性(HR 8.16 [95%CI:2.81~26.31])、高齢(3.58 [2.00~6.84])、Dダイマー高値(1.27 [1.08~1.38])、フィブリノーゲン高値(HR 1.71 [1.23~2.25])、BMI低値(0.44 [0.27~0.69])、総コレステロール低値(0.57 [0.37~0.87])、脳卒中歴あり(7.74 [1.19~28.78])、胃潰瘍歴あり(3.84 [1.51~9.07])が呼吸器疾患による死亡の独立したリスク因子であった。・年齢、性別、BMIを予測因子として投入したモデルに病歴(脳卒中、胃潰瘍)と臨床検査値(Dダイマー、フィブリノーゲン、総コレステロール)を加えたところ、純再分類改善度(NRI)や統合識別改善度(IDI)の有意な増加がみられた(NRI:HR 0.415 [95%CI:0.181~0.624]、IDI:0.093 [0.052~0.311])。

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増悪リスクの高いCOPD、LABA/LAMAの位置付けは?/NEJM

 インダカテロール(長時間作用性β2刺激薬[LABA])/グリコピロニウム(長時間作用性抗コリン薬[LAMA])は、過去1年間に増悪歴のある慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、サルメテロール(LABA)/フルチカゾン(吸入ステロイド[ICS])と比較し、COPD増悪抑制効果が優れることが認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのJadwiga A. Wedzicha氏らが、両薬剤を直接比較する多施設共同無作為化二重盲検第III相試験(FLAME試験)の結果、報告した。大半のガイドラインにおいて、増悪リスクの高いCOPD患者の治療には、第1選択としてLABA/ICSまたはLABA/LAMAが推奨されているが、LABA/LAMAの位置付けは明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2016年5月15日号掲載の報告。増悪リスクの高いCOPD患者約3,400例を対象に非劣性試験 FLAME試験は、2013年7月~2015年9月に、43ヵ国356施設で行われた52週間の無作為化二重盲検ダブルダミー非劣性試験である。対象は、過去1年間に1回以上増悪の経験がある40歳以上のCOPD患者で、インダカテロール110μg/グリコピロニウム50μg 1日1回吸入群(1,680例)、またはサルメテロール50μg/フルチカゾン500μg 1日2回吸入(LABA/ICS)群(1,682例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目はすべて(軽度・中等度・重度)のCOPD増悪回数(回/人年)、副次評価項目はすべてのCOPD増悪初回発現までの期間、中等度または重度COPD増悪の初回発現までの期間ならびに年間発現回数などであった。増悪抑制効果はLABA/LAMAが優れる インダカテロール/グリコピロニウム群は、主要評価項目においてLABA/ICS群に対し、非劣性だけでなく優越性も示された。すべてのCOPD増悪回数はそれぞれ3.59 vs 4.03、増悪回数比は0.89(95%信頼区間[CI]:0.83~0.96、p=0.003)で、インダカテロール/グリコピロニウム群はLABA/ICS群と比較してすべてのCOPD増悪回数を11%減少させた。 また、インダカテロール/グリコピロニウム群はLABA/ICS群と比較し、すべてのCOPD増悪の初回発現までの期間が長く(中央値71日[95%CI:60~82] vs.51日[95%CI:46~57]、ハザード比[HR]:0.84[95%CI:0.78~0.91]、p<0.001)、中等度または重度COPD増悪の回数も少なく(0.98 vs.1.19、増悪回数比:0.83[95%CI:0.75~0.91]、p<0.001)、中等度または重度COPD増悪の初回発現までの期間も延長した(HR:0.81、95%CI:0.66~1.00、p=0.046)。 LABA/ICS群と比較したインダカテロール/グリコピロニウム群のCOPD増悪回数に関する有効性は、ベースラインで測定した好酸球値とは独立していた。 有害事象ならびに死亡の発現頻度は両群で類似していた。肺炎の発現率はインダカテロール/グリコピロニウム群3.2%、LABA/ICS群4.8%であった(p=0.02)。

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1万人の薬剤耐性例にベネフィットを

 2016年5月16日都内にて、「肺がん個別化医療を新たなステージに導く薬剤耐性獲得後の治療選択肢」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。 EGFR変異陽性の非小細胞肺がんの治療においてEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)は有効だが、1年ほどで生じる薬剤耐性が問題となっていた。この問題を解決するために開発されたのが、第3世代EGFR-TKI「タグリッソ錠」(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)である。 演者である大江 裕一郎氏 (国立がん研究センター中央病院 副院長 呼吸器内科 呼吸器内科部長)は本セミナーにて「肺がん診療におけるタグリッソの役割」について講演した。 以下、セミナーの内容を記載する。わずか7ヵ月で承認された、第3世代EGFR-TKI 既存のEGFR-TKIは治療開始1~1年半ほどで薬剤耐性が生じることが多く、機序として「T790M遺伝子変異」が最も多く報告されている。このT790M変異に特化して開発された薬が「タグリッソ」である。 これまでの第1、第2世代のEGFR-TKIは、腫瘍細胞のEGFR変異を阻害する力は強いものの、T790M耐性変異への阻害作用は弱かった。また、正常上皮細胞に多く存在する、野生型EGFRも阻害していた。 第3世代EGFR-TKIのタグリッソは、既存薬とは異なるユニークな構造を持ち、EGFR変異に加え、耐性要因となるEGFR T790Mに阻害活性を持つ。また、野生型EGFRへの阻害活性は従来薬よりも比較的弱いことが特徴だ。 日本でも優先審査品目に指定され、申請から7ヵ月という短い期間で製造販売承認を取得した。すでに、米国のNCCNガイドラインでは非小細胞肺がんの2次治療として推奨されており、日本でも次回のガイドライン改訂でこれに近い形になると予想される。2次治療での奏効率は66.1%、PFSは9.7ヵ月 タグリッソの有効性を検討した試験に、AURA試験およびAURA2試験の統合解析がある。T790M変異陽性の非小細胞肺がん患者411例を対象に、タグリッソ80mgを1日1回経口投与した結果、奏効率は66.1%(95%CI:61.2~70.7%)、PFS中央値は9.7ヵ月であった。 本試験には日本人患者が約20%(81例/411例)含まれており、日本人患者のPFSは9.7ヵ月と有効性に差は認められていない。継続した情報の集積が求められる 一方、同試験でグレード3以上の副作用発現率は日本人患者で多かった(日本人:24例/80例、全症例:48例/411例)。これが人種差によるものなのか、抗がん剤による前治療の影響なのか、についてはまだわかっていない。また、EGFR-TKIに限らず日本人は間質性肺炎を起こしやすく、この点には注意が必要である。また、タグリッソにおいてもすでに耐性の報告(C797S変異)があり、今後も全例調査による継続した情報の集積が求められる。1万人のEGFR T790M陽性例にベネフィットを 日本における肺がん患者数は約7万5,000人。そのうちEGFR変異陽性は2万人で、さらに1万人がEGFR T790M陽性と想定される。タグリッソは、この1万人の患者にベネフィットをもたらす新薬と考えてよいだろう。 セミナーの後半、アストラゼネカ 代表取締役社長のガブリエル・ベルチ氏も登壇し、「ベネフィットを享受できる患者さんを増やすために、製薬企業として適切な情報提供を行っていきたい」とコメントした。 現在も1次治療を検討する「FLAURA試験」、術後補助療法を検討する「ADAURA試験」が進行中で、今後、タグリッソの活用の幅は広がっていくと予想される。

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1日1回のICS/LABA、心血管リスクのあるCOPDでの安全性は/Lancet

 心血管リスクを有する中等度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤のフルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)/ビランテロール(VI)(商品名:レルベア)1日1回吸入は、プラセボと比較し統計学的な有意差はなかったものの死亡や心血管系イベントの発現リスクを低下させ、忍容性は良好であった。英国・南マンチェスター大学病院のJorgen Vestbo氏らが、43ヵ国1,368施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験(Study to Understand Mortality and Morbidity:SUMMIT)の結果、報告した。COPD患者は心血管疾患(CVD)を併発することが多いが、こうした患者に対する治療方針の決定に関して、これまで十分なエビデンスがなかった。Lancet誌2016年4月30日号掲載の報告。心血管リスクを有する中等度COPD患者約1万6,500例で検証 SUMMIT試験の対象は、40~80歳、気管支拡張薬投与後の予測FEV150~70%、1秒率70%未満(FEV1/FVC<0.7)、喫煙歴(10pack/year以上)、修正MRC(mMRC)息切れスケールスコア2以上の、CVDの既往歴またはリスクを有するCOPD患者であった。FF 100㎍+VI 25㎍(FF/VI)群、FF 100㎍(FF)群、VI 25㎍(VI)群、プラセボ群の4群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、すべての治療群でエリプタ吸入器を用い1日1回吸入した。 主要評価項目は、全死因死亡、副次的評価項目は治療期間中のFEV1低下率および心血管複合エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、一過性脳虚血発作)であった。 2011年1月24日~2014年3月12日に1万6,590例が無作為化され、このうち試験薬を1回以上使用した1万6,568例が安全性解析対象集団に、またGCP違反の施設を除いた1万6,485例(FF/VI群4,121例、FF群4,135例、VI群4,118例、プラセボ群4,111例)が有効性解析対象集団となった。追跡期間は最長4年、投与期間は中央値1.8年であった。全死因死亡リスクはFF/VI群で12%低下するも、統計学的有意差はなし 試験期間中の全死亡リスクは、プラセボ群と比較しいずれの治療群も差はなかった。FF/VI群のHRは0.88(95%信頼区間[CI]:0.74~1.04)で相対リスク減少率は12%(p=0.137)、FF群のHRは0.91(同:0.77~1.08、p=0.284)、VI群のHRは0.96(同:0.81~1.14、p=0.655)であった。 FEV1低下率は、プラセボ群と比較しFF/VI群およびFF群で減少した(プラセボ群との差;FI/VI群:8mL/年[95%CI:1~15]、FF群:8mL/年[95%CI:1~14]、VI群:-2mL/年[95%CI:-8~5])。 心血管複合エンドポイントの発現リスクは、プラセボ群とほぼ同等であった(FF/VI群:HR 0.93[95%CI:0.75~1.14]、FF群:HR 0.90[95%CI:0.72~1.11]、VI群:0.99[95%CI:0.80~1.22])。 中等度~重度増悪の発現率は、すべての治療群でプラセボ群より減少した。 有害事象については、肺炎や心血管系有害事象の増加は認められなかった(肺炎の発現率:FF/VI群6%、FF群5%、VI群4%、プラセボ群5%/心血管系有害事象の発現率:FF/VI群18%、FF群17%、VI群17%、プラセボ群17%)。

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「食べる」ことは高齢者には大問題

 5月9日、日本老年医学会は、6月に開催される「第58回 日本老年医学会学術集会」を前にプレスセミナーを都内で開催した。セミナーでは、同会の活動状況、学術集会の概要が説明されるとともに、「高齢者の低栄養、咀嚼機能、嚥下障害」の3つのテーマについて、レクチャーが行われた。 はじめに学会理事長の楽木 宏実氏(大阪大学大学院医学系研究科老年病・循環器内科学 教授)が、学会の活動を報告。「フレイル」(高齢者における健常な状態と要介護状態の中間の状態)の概念を社会に普及させる活動のほか、先日の熊本地震へ支援として行った「一般救護者用 災害時高齢者医療マニュアル」の配布活動などについて説明した。 続いて、学術集会会長の森本 茂人氏(金沢医科大学高齢医学科 主任教授)が、6月8日より金沢市で開催される学術集会(テーマ「地域で創る健康長寿と老年医学」)について、諸学会との共催シンポジウムの内容や高齢者診療のディベートセッションの概要を説明した。意外に見落とされている高齢者の栄養問題 講演では、葛谷 雅文氏(名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学 教授)が、「地域高齢者の栄養に関する諸問題」をテーマに、低栄養が高齢者の生命予後に及ぼすリスクについて説明した。 現代人のライフステージでは、加齢などが原因でだいたい約70歳前後で体重は減少に転じていく。この体重減少に低栄養状態が加わるとフレイル、サルコペニア、転倒・骨折、感染症などのリスクが高まっていくという。 高齢者の体重減少・低栄養の要因としては、社会的要因(独居、介護不足など)、疾病ならびに薬剤(臓器不全や摂食・嚥下障害、薬の副作用など)、加齢(食欲低下など)、精神・心理的要因(うつ、認知機能障害など)、その他(一般健康情報のミスリードなど)が考えられている。 低栄養状態になった場合、どのようなリスクが高まるのか。KAIDEC Study(n=1,142)によれば、要介護度が上昇するにつれ、低栄養を示すスコアである簡易栄養状態評価表(MNA®-SF)の数値が上昇すること、摂食・嚥下障害重症度分類(DSS)で問題ありとされる割合も増えることが示唆されている。また、栄養不良の高齢者は、生命予後、入院、施設入所のいずれの項目でもリスクが高く、肥満者よりも健康障害を起こしやすいことが示唆されているという。 現在、平均寿命と健康寿命の差の縮小を目指して、さまざまな施策が、医療・介護の面で行われている。厚生労働省の調査によれば、介護が必要となる原因の半数は老年症候群関連であり、その2番目にフレイルが挙げられている。そのため、フレイル予防が、健康寿命延長につながる。 フレイルは、(1)歩行速度(2)握力(3)体重減少(4)倦怠感(5)活動度などで評価される。フレイルの有症率は、年齢とともに増加する。時にはサルコペニアなどと合併していることもあり、高齢者の筋肉を維持し、減少させないことが重要である。予防・介入方法としては、レジスタント運動や、低栄養を予防する食事(とくにタンパク質、アミノ酸、ビタミンDなどを十分に摂取)が必要とされる。 葛谷氏は、「高齢者医療の現場では、栄養への問題意識は医療者・患者ともにまだ希薄である。高齢者の低栄養対策では、75歳前後ではフレイルの予防、85歳前後では要介護状態での低栄養といった2つの局面を考える必要がある。医療者はこれらに意識を向け、栄養不良を予防することで救える高齢者を見逃してはならない」とレクチャーを結んだ。実は高度な運動能が必要な「咀嚼」 次に、「咀嚼」について菊谷 武氏(日本歯科大学 教授/口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長)が、「咀嚼機能が支える高齢長寿社会」をテーマに口腔リハビリテーションの視点から講演を行った。 厚生労働省の歯科疾患実態調査によれば、2011年時点の80歳で28歯中20歯以上を残している高齢者は全体の25.1%と報告され、年々その数は増加しているという。歯の状態は低栄養発症リスクにも関係し、義歯(入れ歯)咬合維持群はそのリスクが1.7倍、咬合崩壊群では3.2倍になるという。また、窒息の発症をエンドポイントに調べた研究(n=486)によれば、3年間で51例に発症し、その独立した危険因子として、臼歯部(奥歯)の咬合不良、認知機能の低下、食事の自立が示唆されている。 要介護高齢者の歯科受診状況は、定期的に歯科受診をしている人はわずか15%、過去3ヵ月に症状があって受診が10%、受診していないは75%にも上っており、適切な口腔の診療や指導を受けていない実態が示された。 食事の摂取で重要な働きをする咀嚼は、口腔の巧みな運動能と関連しており、咀嚼力は「咬合支持×口の力強さ、巧みな動き×認知機能」で機能する。咀嚼は、歯の本数だけでなく、舌の機能と運動能に関係し、運動能が弱まると、食物を一塊として飲み込めず、窒息のリスクが高くなる。また、菊谷氏らが行った摂食状況、摂食形態実態調査によれば、自己の摂食嚥下機能に合致した食事をしている高齢者は32%であり、残り68%はリスクを抱えたまま食事をしている実態が示された。 最後に「咀嚼を運動機能と捉えた場合、要介護高齢者は、舌圧が低く、機能訓練の必要がある。口腔サルコペニアを防止する取り組みが大切であり、継続した歯科診療や口腔リハビリテーションが必要」とレクチャーを終えた。嚥下障害は地域連携で対応 最後に、嚥下障害が起こすリスクとその対応について、藤谷 順子氏(国立研究開発法人国立国際医療研究センターリハビリテーション科医長)が、「在宅高齢者の嚥下障害とその対応」と題して解説を行った。 食事は、高齢者の楽しみの1つであり、外出などの生活行動とも直結するほか、健康維持、疾病予防にも大切な役割を果たしている。現在、嚥下障害をもつ高齢者は、一般医療機関(病棟)で14.7%、老人保健施設で29.5%、訪問看護ステーションで17.7%にも上り、嚥下障害に起因する誤嚥性肺炎が問題となっている。誤嚥性肺炎は、年間30万人が罹患していると推定され、治療後の経過は自宅退院が43%、医療・介護施設が37%、死亡が20%となっている1)。 問題は、退院時のADLであり、自立して食事できる人が全体の33%、自立歩行できる人が24%と、一度でも罹患すると自宅退院者でも要介護状態になりやすいことが示唆されている2)。また、高齢になればなるほど嚥下の力が落ちていき、飲み込んだつもりで窒息する、誤嚥が多いことも報告された。 咀嚼・嚥下機能低下による誤嚥性肺炎予防のためには、嚥下機能などの早期検査、在宅などでのリハビリテーション訓練の実施が求められ、これらは健康寿命を延ばすためにも重要となる。 とくに在宅高齢者の嚥下障害対応としては、軽度であれば地域で行われている啓発活動や介護事業、機能改善や低栄養の予防を図る対応、専門家の利用が望ましい。また、嚥下障害があれば、基幹病院などを巻き込んだ地域包括ケア(例:新宿ごっくんプロジェクト)などが必要とされる。 最後に藤谷氏は、「嚥下リハビリテーションの基本は、現在の嚥下能力でもおいしく食べる機会を持ち、食べることにハンデがあってもできるだけQOLの高い生活を送れるようにすること。下り坂でも、その時々でできることを、外来などでも指導していってもらいたい」と理念を述べ、レクチャーを終了した。参考文献1)山脇正永.総合リハ.2009;37:105-109.2)Yagi M, et al. Geriatr Gerontol Int.2015 Oct 13.[Epub ahead of print]関連リンク第58回 日本老年医学会学術総会高齢者災害医療支援新宿ごっくんプロジェクト~摂食嚥下機能支援~(嚥下観察シートなど書式あり)

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ICUでのチェックリスト等の介入で院内死亡率は改善するか/JAMA

 集中治療室(ICU)の重症患者に対するケアの質を改善するため、毎日のチェックリスト・目標設定・臨床医の指示による多面的な介入を行っても、院内死亡率は減少しない。ブラジル・HCor病院のAlexandre B. Cavalcanti氏らが、観察研究とクラスター無作為化比較試験から成るCHECKLIST-ICU研究の結果、報告した。ICUでのチェックリスト等の導入による多面的質改善介入の有効性に関する研究は、これまですべて高所得国で実施されたものであり、無作為化試験によるエビデンスはなく、ブラジルのような低~中所得国での有効性は不明であった。JAMA誌2016年4月12日号掲載の報告。ICU 118施設でクラスター無作為化比較試験を実施 CHECKLIST-ICU研究は、ブラジル118施設のICUで実施された。第1期として、2013年8月~14年3月に、職場風土・ケアの手順・臨床転帰に関するベースラインデータを評価する観察研究が行われた後、第2期として2014年4月~11月にクラスター無作為化試験が行われた。各期には、ICU当たり48時間以上入院した連続60例が登録された。 参加したICUは多面的質改善介入群(介入群)と通常ケア群(対照群)に無作為に割り付けられた。介入群では、11のケア(人工呼吸器関連肺炎や尿路感染症予防など)に関してフォローアップについての医師による指示を伴う毎日のチェックリストや目標設定等を含む介入を行った。 主要評価項目は、院内60日死亡率、副次評価項目はケア順守、安全環境、臨床イベントなどであった。院内死亡率は、多面的質改善介入と通常ケアとで有意差なし 第1期で6,877例(平均59.7歳、女性46.8%)、第2期で6,761例(59.6歳、女性45.8%)が登録された。 第2期(介入群3,327例[59施設]、対照群3,434例[59施設])において、60日死亡率は介入群32.9%、対照群34.8%であり、両群に有意差はなかった(オッズ比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.82~1.26、p=0.88)。 事前に定めた副次的評価項目20項目のうち、6項目(低1回換気量、過鎮静回避、中心静脈カテーテルの使用、尿道カテーテルの使用、チームワークの認識、患者安全性の認識)は介入群で有意に改善した(多重比較の補正なし)。一方、残りの14項目(ICU死亡率、中心静脈ライン関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、尿路感染、平均人工呼吸器離脱期間、平均ICU在室期間、平均在院期間、ベッド挙上30度以上、静脈血栓塞栓症予防など)は両群間に有意差はなかった。 今回の研究結果について著者は、介入期間が限られ、対象を48時間以上ICU滞在患者に限定するなど研究には限界があり、今回の結果は安全風土レベルが異なる状況では当てはまらない可能性があると指摘している。

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