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ダラツムマブ追加で、多発性骨髄腫の無増悪生存が改善/NEJM

 自家造血幹細胞移植の適応がない新規診断の多発性骨髄腫患者の治療において、標準治療であるレナリドミド+デキサメタゾンにダラツムマブを併用すると、標準治療単独に比べ病勢進行または死亡のリスクが有意に低減することが、フランス・リール大学のThierry Facon氏らが行ったMAIA試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌2019年5月30日号に掲載された。ダラツムマブは、CD38を標的とするヒトIgGκモノクローナル抗体であり、直接的な抗腫瘍活性と免疫調節活性を有する。多くの治療歴のある患者への単剤による有効性や、新規診断および再発・難治例への標準治療との併用による有効性が報告されている。多発性骨髄腫で年齢や副作用リスクで移植が適応外の患者が対象 本研究は、北米、欧州、中東、アジア太平洋地域の14ヵ国176施設が参加する非盲検無作為化第III相試験であり、2015年3月~2017年1月に患者登録が行われた(Janssen Research and Developmentの助成による)。 対象は、全身状態(ECOG PS)が0~2の新規に診断された多発性骨髄腫で、年齢(≧65歳)または許容できない副作用が発現する可能性が高い病態の併存により、大量化学療法+自家造血幹細胞移植が適応とならない患者であった。 被験者は、ダラツムマブ+レナリドミド+デキサメタゾン(ダラツムマブ群)またはレナリドミド+デキサメタゾン(対照群)を投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行または許容できない副作用が発現するまで継続することとした。 主要評価項目は、無増悪生存(無作為化から病勢進行または死亡までの期間)であった。ダラツムマブ群は無増悪生存が44%改善、CR以上が約2倍、MRD陰性が約3倍に 737例が登録され、ダラツムマブ群に368例、対照群には369例が割り付けられた。全体の年齢中央値は73歳(範囲:45~90)で、65歳未満は8例(両群4例[1.1%]ずつ)のみで、75歳以上が321例(160例[43.5%]、161例[43.6%])含まれた。診断からの経過期間中央値は0.9ヵ月(範囲:0~14.5)だった。 追跡期間中央値28.0ヵ月の時点で、240例が病勢進行または死亡した(ダラツムマブ群97/368例[26.4%]、対照群143/369例[38.8%])。30ヵ月時の無増悪生存率は、ダラツムマブ群が70.6%(95%信頼区間[CI]:65.0~75.4)、対照群は55.6%(49.5~61.3)であり、無増悪生存期間中央値はそれぞれ未到達、31.9ヵ月(28.9~未到達)であった。病勢進行または死亡のハザード比(HR)は0.56(0.43~0.73)であり、ダラツムマブ群で有意に優れた(p<0.001)。 完全奏効(CR)以上(CR+厳格な完全奏効[sCR])の割合は、ダラツムマブ群が47.6%と、対照群の24.9%に比べ有意に良好であった(p<0.001)。また、微小残存病変(MRD)が閾値(白血球105個当たり腫瘍細胞1個)を下回った患者の割合は、ダラツムマブ群が24.2%であり、対照群の7.3%に比し有意に高かった(p<0.001)。 最も頻度の高いGrade3/4の有害事象は、好中球減少(ダラツムマブ群50.0% vs.対照群35.3%)、貧血(11.8% vs.19.7%)、リンパ球減少(15.1% vs.10.7%)、肺炎(13.7% vs.7.9%)であった。 著者は、「これらの知見は、多発性骨髄腫の患者集団全体におけるダラツムマブベースのレジメンの使用を支持する臨床試験のリストに加えられる可能性がある」としている。「ダラツムマブ」関連記事ダラツムマブ併用で、多発性骨髄腫の厳格な完全奏効が改善/Lancet

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遥か遠くの蜃気楼【Dr. 中島の 新・徒然草】(275)

二百七十五の段 遥か遠くの蜃気楼エレベーターで一緒になった救急の先生。先ほど院内コンビニでも一緒でした。中島「さっきの列、レジ直前まで来て救急なんかに呼び出されたら嫌ですよね」救急「そうなったら私、意地でも買ってから行きます」中島「『処置中だ』とか言って?」救急「たぶん『手が離せない』と言うかな」中島「やるなあ!」こういう会話になったのには理由があります。1時間ほど前のこと。昼食を買うべくコンビニに向かう途中に、他科の先生から電話があったのです。他科「実は入院患者さんのことで」中島「いいですよ」他科「もともとの病気は治ったのですが、肺炎になったので抗生剤を使ってですね」中島「ええ」他科「一旦は良くなったのですが、また熱が出て」中島「おやまあ」他科「今度は肺炎ではなさそうなんです」中島「なるほど」他科「別の抗生剤を始めたのですが、なかなか良くならなくて」中島「ふんふん」他科「あちこちの科に相談したのですが」中島「要するに、先生の手に余るから総診への転科を頼むってことでしょうか?」他科「そ、そうなんですよ! 僕には歯が立ちません」中島「端末のあるところに行って確認するので、IDをお願いします」といったやりとりで、コンビニから引き離されてしまいました。何とかこの症例の決着をつけてから、再びコンビニに向かう途中のこと。今度は研修担当者から電話がありました。担当「研修医の○○先生がトラブルに巻き込まれてしまって」中島「あら」担当「今から事情聴取をするので、同席いただけませんか?」中島「すぐ行きます」何か私をコンビニに行かせないようにする陰謀が働いているのでしょうか?ごく簡単な事情聴取の後、再々度、コンビニに向かいます。見ればレジの前は長蛇の列。ざっと見て、15人は並んでいそう。もしレジを目前にして、また呼び出されたりしたら、どうするんだべ?つらい、あまりにもつらすぎる!ふと見ると、顔見知りの救急の先生が私の少し後ろに並びました。列はどんどん長くなっていきます。少しずつ列が進み、いよいよあと2人。となったときに院内PHSが鳴り響きました。ERの看護師さんです。ER「中島先生、痙攣の人が来るらしいんですけど」中島「はい」(その事と私との間に何の関係が?)ER「〇〇病院からですけど、中島先生にすぐ来るように言われたとか」中島「はあ?」(泣)ER「もう救急車がこっちに向かっているらしいですよ」中島「そんなバナナ!」ER「おかしいな。すぐ来るように言ったのは脳外科の先生かな」中島「そうそう、きっとそやろ」(僕も脳外科やけど)ER「脳外科外来にきいてみます」中島「ごめん、頼むわあ」レジ「次の方?」中島「はいはいはいはい、僕です僕です」(危ないところやった)あわててザルソバを買ってエレベーターに乗りました。そこで冒頭の救急の先生との会話になるわけです。その昔、レジデントが「自分が10分後にどこで何をしているか想像できないのがキツイっす」と言っていましたが、何十年経った今でも状況が変わっていません。落ち着けるのは引退してからでしょうか?最後に1句ザルソバは 遥か遠くの 蜃気楼

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敗血症、新規の臨床病型4つを導出/JAMA

 敗血症は異質性の高い症候群だという。米国・ピッツバーグ大学のChristopher W. Seymour氏らは、患者データを後ろ向きに解析し、宿主反応パターンや臨床アウトカムと相関する敗血症の4つの新たな臨床病型を同定した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2019年5月19日号に掲載された。明確に分類された臨床病型が確立されれば、より精確な治療が可能となり、敗血症の治療法の改善に結び付く可能性があるため、検討が進められていた。敗血症の4つの臨床病型の頻度、臨床アウトカムとの相関、死亡率などを評価 研究グループは、臨床データから敗血症の臨床病型を導出し、その再現性と、宿主反応バイオマーカーや臨床アウトカムとの相関を検討し、無作為化臨床試験(RCT)の結果との潜在的な因果関係を評価する目的で、後ろ向きにデータ解析を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 敗血症の臨床病型は、ペンシルベニア州の12の病院(2010~12年)を受診し、6時間以内にSepsis-3の判定基準を満たした2万189例(1万6,552例のunique patientを含む)のデータから導出した。 再現性と、生物学的パラメータおよび臨床アウトカムとの相関性の解析には、2次データベース(2013~14年、全4万3,086例、3万1,160例のunique patientを含む)、肺炎に起因する敗血症の前向きコホート研究(583例)および3件の敗血症のRCT(4,737例)のデータを用いた。 評価項目は、導出された臨床病型(α、β、γ、δ)の頻度、宿主反応バイオマーカー、28日および365日時点の死亡率、RCTのシミュレーション出力とした。敗血症の臨床病型の実臨床における効用性確立には、新たな研究が必要 解析コホートには、敗血症患者2万189例(平均年齢64[SD 17]歳、男性1万22例[50%]、SOFAスコアの最長24時間平均値3.9[2.4]点)が含まれた。検証コホートは、4万3,086例(67[17]歳、男性2万1,993例[51%]、3.6[2.0]点)であった。 導出された敗血症の4つの臨床病型のうち、α型の頻度が最も高く(6,625例、33%)、この型は入院中の昇圧薬の投与日数が最も短かった。β型(5,512例、27%)は高齢で慢性疾患や腎不全の罹患者が多く、γ型(5,385例、27%)は炎症の測定値が上昇した患者や肺機能不全の患者が多く、δ型(2,667例、13%)は肝不全や敗血症性ショックの頻度が高かった。 検証コホートでも、敗血症の臨床病型の分布はほぼ同様であった。また、臨床病型によるバイオマーカーのパターンには、一貫した違いが認められた。 解析コホートの累積28日死亡率は、α型が5%(unique patient、287/5,691例)、β型が13%(561/4,420例)、γ型が24%(1,031/4,318例)、δ型は40%(897/2,223例)であった。すべてのコホートと試験における28日および365日死亡率は、δ型が他の3つの型に比べ有意に高かった(p<0.001)。 シミュレーションモデルでは、治療に関連するアウトカム(有益、有害、影響なし)は、これら敗血症の臨床病型の分布の変化と強く関連した(たとえば、早期目標指向型治療[EGDT]のRCTで臨床病型の頻度を変化させると、>33%の有益性から>60%の有害性まで、結果の可能性が変動した)。 著者は、「実臨床におけるこれら臨床病型の有用性を確定し、試験デザインやデータの解釈に有益な情報をもたらすには、さらなる研究を要する」としている。

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第23回 アジスロマイシン6日間連続投与はなぜ?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 だいぶ前の話ですが、患者さんから次のような質問を受けたことがあります。「咳が出ているので受診して、アジスロマイシン500mg(力価)を1日1回3日分処方されました。飲みきりましたが、咳が残っているので再度受診したところ、また同じ量を処方されました(受け取りはほかの薬局)。3日間の服用で7日間作用が続くと説明書に書いてあるのに、6日間も飲むことがあるのですか?」。疑義照会の対象だと思いますよね。実際、2回目の処方箋を持って行った薬局もその処方に対して疑義照会をしましたが、医師がその飲み方でよいと指示を出したため、それに従って調剤をしたとのことです。こうなるとそれなりに根拠がないと医師にも患者さんにも意見を言いづらいため、アジスロマイシンの6日間投与について調べてみました。添付文書の用法・用量に関連する使用上の注意の項には、「4日目以降においても臨床症状が不変もしくは悪化の場合には、医師の判断で適切なほかの薬剤に変更すること」とあります。また、薬物動態の項には、半減期が長く分布容積が大きいことから、服用8日目でも十分な組織濃度を保つと書かれています。そもそも、血中から薬剤が消失した後も組織にとどまり効果が持続するので1日製剤や3日製剤があるわけですが、副作用も同様に持続する可能性があるため注意が必要です。アジスロマイシンのインタビューフォームには、米国では5日間投与(初日500mg 1日1回、2~5日目250mg 1日1回)、英国など欧州諸国では3日間投与が適応となっている、とありますが、6日間投与の記載はありません。そうなると、たまたま疑義照会を受けた医師が誤って変更を却下した可能性も否めませんが、イレギュラーな服用方法の論文も調べてみました。1つ目が、上記の患者さんと対象疾患は異なりますが、急性副鼻腔炎に対して、アジスロマイシン500mg/日を1日1回3日間服用(AZM-3)または6日間服用(AZM-6)と、アモキシシリン500mg/クラブラン酸塩カリウム125mgを1日3回10日間服用(AMC)の群に分けた二重盲検ランダム化比較試験です1)。アジスロマイシン6日間服用群を設定しているのは、日数に幅を持たせて最適な服用スケジュールを見いだすという意図のようです。主解析項目は、急性細菌性副鼻腔炎症状の改善でした。急性副鼻腔炎症状を呈している合計936例の患者をランダムに上記3群に振り分け(AZM-3:312例、AZM-6:311例、AMC:313例)比較したところ、治療終了時の治療成功率はAZM-3:88.8%、AZM-6:89.3%、AMC:84.9%で、試験終了時における治療成功率はAZM-3:71.7%、AZM-6:73.4%、AMC:71.3%でした。AMC投与群の副作用発生率は51.5%であり、AZM-3(31.1%、p<0.001)またはAZM-6(37.6%、p<0.001)よりも高いという結果でした。最も多かったのが下痢で、吐き気、腹部膨満感と続き、副作用による中止はAZM-3で7例、AZM-6で11例、AMCで28例でした。6日間投与が検討されていることはわかりましたが、効果と副作用のバランスをみると、あえて6日間も服用する必要性はなさそうです。アジスロマイシンを長期服用して安全性に影響なし?次に、気管支拡張症に対するアジスロマイシンの予防的投与についてです2)。またしても今回の患者さんとは対象疾患が異なる試験ですが、痰、咳、肺炎などが症状として出やすい疾患ですので、こちらのほうが患者像は近そうです。1999年2月~2002年4月に外来を受診し、以下の基準を満たした患者でアジスロマイシンの予防的投与が検討されています。CTスキャンで気管支拡張症と診断されたほかの原因となりうる要因に対する対処がなされている過去12ヵ月以内に4回以上の経口または静脈投与の抗菌薬治療を必要とする感染性の増悪エピソードあり慢性症状のコントロール不良 などマクロライドアレルギー例や肝機能異常例は除外され、平均年齢51.9歳(範囲18~77)の39例が組み込まれました。投与スケジュールは、500mgを1日1回6日間服用し、次に250mgを1日1回6日間服用し、その後は250mgを毎週月曜日/水曜日/金曜日服用するという、これはこれでまたイレギュラーなスケジュールです。治療開始1ヵ月後に血液検査を実施し、肺機能検査は開始後少なくとも4ヵ月後までに行っています。少なくとも4ヵ月の治療を完了した33例において、経口抗菌薬を必要とする感染性増悪エピソードが1ヵ月当たり平均0.71から0.13まで有意に減り(p<0.001)、抗菌薬の静脈内投与の必要量も月平均0.08から0.003へと有意に減少し(p<0.001)、肺機能パラメータも改善傾向がみられています。副作用による中止は、肝機能低下2例、下痢2例、発疹1例、耳鳴り1例で、すべてが治療初月に発生しています。そのほかの副作用は軽度なものばかりで、主に胃腸症状でした。アジスロマイシンを予防的投与として長期間服用しても、安全性には特段の問題はなさそうですが、こちらの論文も6日間投与の有用性に強い根拠を持てるものではなく、結局医師の意図はわかりませんでした。実はその後、いろいろ調べたものの、正当と思える理由が見つからないまま処方医へ再確認したところ、追加の3日分は服用なしとなったというオチがあります。いろいろと論文を読んで調べてもそういうときもあります。調べたことは無駄にはなりませんし、調べてもわからないことがあると知ったことに意味があったのかもしれません。1)Henry DC, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2003;47:2770-2774.2)Davies G, et al. Thorax. 2004;59:540-541.3)ジスロマック錠 添付文書 2018年10月改訂(第24版)・インタビューフォーム 2018年12月改訂(第22版)

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IV期NSCLCに対するEGFR-TKIと放射線療法の併用

 EGFR変異を有するIV期の非小細胞肺がん(NSCLC)における1次治療として、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と胸部放射線療法を組み合わせた有効性と安全性が、前向き研究により検討された。 今回、中国・Xinqiao Hospitalがん研究所のLinPeng Zheng氏らが行った研究結果は、The oncologist誌オンライン版2019年4月30日号に掲載された。末期NSCLCにおける1次治療としてのEGFR-TKIと胸部放射線療法の併用は、原発性肺病変の長期管理を可能にするかもしれない。EGFR-TKIと胸部放射線療法の併用による客観的奏効率は50% 本試験は、当該施設において2015年1月~2018年3月までに401例の患者がスクリーニングされ、そこから抽出された10例の患者(男女各5例)を対象に行われた単群第II相臨床試験。 各患者は、EGFR-TKI療法の開始から2週間以内にEGFR-TKI(エルロチニブ150mg/日またはゲフィチニブ250mg/日)と胸部放射線療法(54~60Gy/27~30F/5.5~6週間)を受け、疾患の進行または治療継続が困難な有害事象のいずれかが現れるまで治療が続けられた。 IV期のNSCLC治療におけるEGFR-TKIと胸部放射線療法の併用を評価した主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は55歳(40〜75歳)、追跡期間の中央値は19.8ヵ月(5.8〜34ヵ月)だった。・1年間の無増悪生存率は57.1%、PFS中央値は13ヵ月、照射病変の進行までの期間中央値は20.5ヵ月だった。・客観的奏効率は50%であり、疾病コントロール率は100%だった。・Grade3以上の有害事象は、放射線肺臓炎(20%)および発疹(10%)だった。そのうち1例が肺炎の治療を拒否した後死亡したが、他の患者たちの肺臓炎は良好に管理され、再発しなかった。

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第20回 腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ~続編~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第20回:腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ~続編~ゴールデンウイークも終わり、時代は「令和」となりましたが、皆さん“五月病”になっていませんか? さて、前々回の心電図クイズが予想以上に好評で、休み中にもかかわらず、2019年最大の閲覧数をいただきました。実は、当初Dr.ヒロはもう2症例を用意しており、“お蔵入り”にするのも忍びなく、今回“おさらいクイズ~続編~”としてお届けすることにしました。では、さっそくチャレンジしてみましょう!症例提示175歳、女性。僧帽弁・三尖弁形成術、慢性AFに対するメイズ手術の既往あり。糖尿病、高血圧症にて内服加療中。数日前にインフルエンザAと診断。その後、食事が取れず、夜間の呼吸苦も出現した。徐々に下腿・顔面の浮腫が増悪、息切れでトイレ歩行も不可能となり救急受診し、感染を契機とした心不全増悪にて緊急入院となった。来院時36.3℃、血圧112/78mmHg、脈拍107/分・不整、酸素飽和度92%。入院時の心電図を示す(図1)。(図1)緊急入院時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)の自動診断は「上室三段脈」となっている。調律に関して正しいものはどれか。1)正常洞調律2)心房期外収縮3)洞頻脈4)心房粗細動5)異所性心房調律解答はこちら4)解説はこちら「三段脈」(trigeminy)はまだ取り上げていませんが、「3心拍で1セット」の様式が周期的にくり返されるもので、典型的には「洞収縮-洞収縮-期外収縮」のように三拍ごとに期外収縮が出現するパターンです。当然ながら、この場合の基本調律はあくまでも「洞調律」です。この心電図も、油断すると肢誘導などは「洞収縮-洞収縮-心房期外収縮」と、「上室三段脈」のように見えます。…でも、これは間違い。自動診断は“悪魔のささやき”です(笑)。いつも“洞調律ありき”で見てしまうと、このようなミスをしてしまいます。胸部誘導では、このパターンは崩れていますし、第一、これは「洞調律」じゃないのです。R-R間隔も不整ですし、なんといっても“イチニエフの法則”が成り立っていません(第2回)。「非洞調律」を疑った時に注目すべきは…、そうV1誘導(第4回)。今回のV1誘導をみると…あるわあるわ、P波の乱れ打ち(図2)。(図2)V1誘導を抜粋画像を拡大する橙色の枠内だけでもコンスタントかつレギュラーな高頻度P波が確認できますし、QRS波に重なる「?」の部分にも、P波があると読みたいところです(ほかと若干QRS波形が異なる)。”2nd best”だった下壁誘導を見ても、II誘導ではわかりにくいですが、III、aVF誘導だと、それなりにノコギリ状の波(鋸歯状波)が見えなくもありません。この方のように開心術歴があるような場合、非典型的な「心房粗動」と呼ぶのが好まれますし、“細動混じり”ととらえて“粗細動”という表現も悪くありません。よって、「心房粗細動」(atrial flutter-fibrillation)を正解とします。【参考レクチャー】第2回『洞調律を知る』第4回『エイエフ(AF)診断できます?』【問題2】心電図(図1)の心拍数について、具体的な数値で述べよ。解答はこちら心拍数:約70/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導[10秒])解説はこちら数値自体は“検脈法”で一目瞭然ですね(第3回)。R-R間隔が不整の場合には、左端から右端まで、肢誘導+胸部誘導の10秒間で検脈法をしたほうが正確です。「細動」と捉えれば「中等度の心室応答(ventricular response)を伴う」となりますし、「粗動」なら「房室伝導比2~4:1」という表現になります。“粗細動”を生かすのなら、『心拍数は約70/分と中等度の心室応答を伴う心房粗細動です』と表現できれば、ボク的には“満点”です。【参考レクチャー】第7回『心房細動の“心拍数”どう議論する?』症例提示284歳、男性。4日前に39.5℃の発熱で受診、肺炎と診断され入院となった。本日夜間の検温時に頻脈、酸素飽和度の低下(82%)があり、胸部圧迫感と呼吸苦も訴えたため、当直医にコールがなされた。胸部CT検査では、浸潤影悪化および心拡大・胸水貯留を認めた。以下に、急変コール時に記録された心電図(図3)および入院時の心電図(図4)を示す。(図3)急変コール時の心電図画像を拡大する(図4)入院時の心電図画像を拡大する【問題3】入院時心電図(図4)の心拍数と電気軸を求めよ。解答はこちら心拍数:84/分(検脈法:肢誘導[5秒]または肢誘導+胸部誘導[10秒])QRS電気軸:-70°(トントン法Neoによる)解説はこちらこれも簡単ですね。心拍数は“検脈法”(第3回)、QRS電気軸は“トントン法”(第9回、第11回)で、求めることができます。心拍数はR-R間隔が整なら左右どちらか5秒間の情報で十分です(もちろん10秒間数えてもOKです)。QRS電気軸は、aVR誘導を“トントン・ポイント”と考えるなら「-60°」(通常の教科書なら、これで正解でしょう)ですが、やや上向き波が優勢(-aVR誘導なら下向き波)に見えませんか? 肢誘導の円座標を思い浮かべれば、QRS波の向きの上下が転換するのは、Iと-aVRの間で、強いて言えば“-aVR寄り”(+20°)と考えるのがミソでしたね(“トントン法Neo”)。結果、求める軸は「-70°」と、見事に自動計測値とも一致します。【参考レクチャー】第3回『心拍数を求めよう』第9回『QRS電気軸で遊ぼう~トントン法の魅力~』第11回『QRS電気軸(完結編)~進化したトントン法は無敵!~』【問題4】入院時心電図(図4)の所見として正しくないものを2つ選べ。1)左軸偏位2)完全右脚ブロック3)第1度房室ブロック4)異常Q波5)右房拡大解答はこちら3)、5)解説はこちら“急変コール時”ではなく、“入院時”の心電図の読みを尋ねています(波形が違いますよね)。1)○:QRS波の向きが、I誘導:上向き、aVF(II)誘導:下向きなのでOKです。強い左軸偏位を伴っており、「左脚前枝ブロック」の合併と診断できます。2)○:QRS幅がワイド(0.12秒[120ms]以上)かつV1誘導(「RR’型」)、V6誘導(スラーを伴う「RS型」)が典型的な波形ですから「完全右脚ブロック」の診断に相違ありません。3)×:V1誘導などPR(Q)間隔が若干長めに見える誘導もありますが、明らかに“延長”と呼ぶレベル(目安:0.24秒[240ms])には届きません。4)○:V1~V3誘導は原則として下向き(陰性)波から始まってはいけません。V2、V3誘導の「q波」は幅が狭く、深さが浅くても異常Q波と考えられたらステキです。ほかにaVL誘導の幅広い「Q波」も指摘したいところです。もちろん「陳旧性心筋梗塞」を疑っても良いですが、ワンランク上の読み方をすれば、他所見との組み合わせで、V1ないしV2誘導で見られる「qR型」は右心系(多くは「右室」)負荷を示す所見と考えるべきかもしれません。鑑別は…そう、心エコーでね!5)×:下壁誘導(II、III、aVF)のP波高はいずれも普通で「右房拡大」ではありません。むしろ、II誘導で幅広の“2コブラクダ”的な2つのP波は「左房拡大」を疑わせますが、V1誘導のP波で後半の波が“深掘れ”でなく、診断基準には該当しません。【問題5】急変時心電図(図3)の解釈・対応について、正しくないものを2つ選べ。1)「S1S2S3パターン」であり、肺疾患や高度右室負荷を疑う2)不整脈などの心疾患の病歴の有無、投薬内容を確認する3)心電図の再検を指示する4)右胸心を疑って胸部X線画像をチェックする5)換気補助を行いつつ、ベラパミル点滴を指示する解答はこちら1)、4)解説はこちら急変コール時の心電図(図3)のみを見て「頻脈性心房細動」とだけ診断して動こうとする人には“真実”が見えていません。最も目立つ所見(R-R間隔の不整)だけ診断して、ほかを見落とす…そんな状態からの“脱却”サポートがDr.ヒロの真骨頂です。緊急時のように焦っている時こそ“基本”に忠実であるべき。常に全体を眺めるクセをつけましょう。調律もそうですが、4日前の“入院時”とQRS波形が全然違いますよね。AFのためP波を欠き、T波も見えない点がやや難しいですが、I誘導のネガティブQRS波にはピンと来て欲しいですね~。しかも“陽性aVR”、これは普通、まず出会わない所見でしたよね…(第5回、第6回)。そして、“おかしいと思ったら過去と比較せよ”。どんなに“しつこい”と言われてもボクは言い続けますよ(笑)。そういう意味では、過去にAFがあったか無かったか、病歴や薬剤、そのほかの治療歴も大事です(選択肢2)。冷静になって、その目で2つの心電図を比べたら、(1)I誘導がサカサマ、(2)II⇔III(入れ換わり)、(3)aVR⇔aVL(4)aVFは(ほぼ)不変、という条件を満たすではないですか!この4つの条件を覚えていますか? こんな時、最も高頻度なのは「電極の左右つけ間違い」です。肢誘導の上肢(右手・左手)のね(第5回)。これに悩んだら、もう一度自分の目で心電図を再検すべきです(選択肢3)。この症例患者は、不慣れなのか慌てたのか、ナースが電極の左右を誤っていました。鑑別すべき「右胸心」については、胸部誘導でQRS波形の“振幅”がV1からV6誘導に向かうにつれて漸減する典型パターンとは異なりますし、入院時心電図(図4)が強烈な否定材料です(選択肢4)。また、選択肢1に関して、「肺塞栓」などの右心系負荷などは否定しがたいところですが、やはりこの心電図を見てしまうと積極的には考えにくいでしょう。右室負荷を疑う「S1S2S3パターン」も正しく記録してこその所見です。普段から何でもむやみに人を疑うべきではありませんが、患者さんのためと思えば、常に厳しい眼力でいることは診断・治療を考える上で大切だと思います。“デキドク”(デキるDr.)なら、速やかに正しい心電図を記録し直して、同時に頻脈性AF、そして低酸素状態への対処を考えるべきです(選択肢5)。その際、もちろん心機能のチェックも必要ですね。【参考レクチャー】第5回『心電図、正しくとれてる?(前編)~鏡の中のマボロシ~』第6回『心電図、正しくとれてる?(後編)~自動診断の「側壁梗塞」にご用心!~』さて、“おさらい”クイズ続編の2症例・計5問、いかがだったでしょうか?おおむね、これまでの“ドキドキ心電図マスター”内で取り上げた内容でしたが、臨床に即した形式で作問したつもりです。高得点だった人は、だいぶ心電図に慣れ親しんできたのではないでしょうか? 今後、このような復習問題をときどき取り上げるつもりです。次回は、通常形式で「期外収縮」を再びピックアップしたいと思います。乞うご期待!【古都のこと~三室戸寺~】宇治市にある西国第十番札所、三室戸寺(山号:明星山)は、1200年以上前(宝亀年間)に光仁天皇の勅願で建立されました。“花の寺”とも称され、春~夏には、ぜひとも訪れたいスポットの一つです。4~5月はツツジやシャクナゲ、そして6月にはアジサイが庭園で満開となり、7~8月は本堂前にハスが花を咲かせます。この時期、京都市内では蹴上浄水場のツヅジが有名ですが、今回、ボクは元号が令和となって数日後にこちらを訪れました。山門を入ってすぐ、有名所に勝るとも劣らぬツツジ園が甘い香りを放っていました。花々に囲まれ茶屋で昼食をとり、思わず昼寝したくなるような最高の晴天のもと、お参りを済ませたのでした。

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プロカルシトニン値による抗菌薬投与短縮と肺炎再発

 肺炎における抗菌薬投与について、プロカルシトニン(PCT)値に基づいた管理により、死亡率を増加させることなく投与期間を短縮したという研究がいくつか報告されている。今回、福岡大学筑紫病院の赤木 隆紀氏らの研究により、PCTガイドによる抗菌薬中止により、肺炎の再発を増加させることなく投与期間を短縮するのに役立つ可能性が示唆された。the American Journal of the Medical Sciences誌オンライン版2019年4月16日号に掲載。 本研究では、2014~17年、入院時PCT値が0.20ng/mLを超えていた市中肺炎または医療関連肺炎の入院患者を前向きに登録した。PCT値は5、8、11日目、その後必要があれば3日ごとに測定した。PCT値が0.20ng/mLを下回った場合に抗菌薬中止を勧奨され、0.10ng/mLを下回った場合は中止するよう強く勧奨された。なお、2010~14年の入院患者をヒストリカルコントロール(対照群)とした。主要評価項目は、抗菌薬投与期間と抗菌薬中止後30日以内の肺炎再発とした。 主な結果は以下のとおり。・PCTガイド群および対照群は、それぞれ116例であった。・肺炎の重症度およびPCT値を含む背景因子は、2つのグループ間で同様であった。・抗菌薬投与期間の中央値は、PCTガイド群で8.0日、対照群で11日であった(p<0.001)。・多変量回帰分析において、PCTガイドによる抗菌薬中止(偏回帰係数[PRC]:-1.9319、p<0.001)、PCT(PRC:0.1501、p=0.0059)およびアルブミン(PRC:-1.4398、p=0.0096)が、抗菌薬投与期間と有意に関連していた。・抗菌薬中止後30日以内の肺炎再発は、2群間で統計的に差がなかった(4.3% vs.6.0%、p=0.5541)。

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第12回 呼吸困難 意外に多い呼吸困難の原因とは?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)呼吸数に注目し、帰してはいけない患者を見逃さないようにしよう!2)バイタルサインは必ず普段のADLで評価しよう!3)検査は事前確率に応じて、適切な検査を提出・実施しよう!【症例】70歳男性。来院当日、奥さんと買い物中に呼吸困難を自覚した。途中、近くのベンチで休み症状は改善傾向にあったが、心配となり帰宅途中にかかりつけのクリニックを受診した。原因は何が考えられるか? どのようにアプローチするべきだろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/98mmHg脈拍100回/分(整)呼吸24回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(51歳~)、2型糖尿病(54歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、メトホルミン(メトホルミン塩酸塩)「意識障害」の後は、救急外来や一般の外来で出会う頻度の多い主訴のうち、時に重篤な場合がある症候を、順に取り上げていこうと思います。今回は「呼吸困難」です。X線やCT検査をすれば大抵の診断はつきますが、画像で異常が認められない場合やそもそも重症度を見誤り、適切な画像検査を行わず見逃してしまうことがあるため注意が必要です。高齢者の呼吸困難の原因呼吸困難の患者を診たら、(1)心不全などの心疾患、(2)肺炎などの肺疾患、(3)上部消化管出血などの貧血、(4)過換気症候群などの心因性の4つに分類し、考えて対応しています。若年者が急性の呼吸困難を訴えた場合には、気胸や喘息が鑑別の上位にあがりますが、高齢者ではどうでしょうか? 原因は多岐にわたりますが、頻度を考慮し、[1]心不全、[2]肺炎、[3]COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、[4]肺血栓塞栓症の4つをまずは念頭に鑑別を進めるとよいでしょう1)。初療時の鑑別のポイント:やはり“Hi-Phy-Vi”が大切!細かいことは抜きにして、[1]~[4]の鑑別ポイントを改めて理解しておきましょう。●病歴(History):発症様式に注目!一般的に肺炎やCOPDの急性増悪が突然発症することはありません。数日前、最低でも数時間前から咳嗽や発熱などの症状を認めるはずです。それに対して、後負荷がドカッと上がるびまん性肺水腫を主病態とする心不全や、肺血栓塞栓症は急激な発症様式を呈することが多く、救急外来でもしばしば出会います。真のonsetをきちんと聴取し、いつから症状を認めているのかを正確に把握しましょう。心不全の既往、発作性夜間呼吸困難は、心不全らしい所見であり、既往歴やいつ(就寝中、労作時など)症状を認めるかなども忘れずに聴取しましょう。就寝前までおおむね問題なかった患者が、夜間に突然呼吸が苦しくなった場合には、素直に考えれば肺炎よりも心不全らしいですよね。●身体所見(Physical):左右差に注目!呼吸音、心音、頸部所見(頸静脈怒張の有無)、下肢の浮腫や左右差などの身体所見は、ごく当然にとる必要があることは言うまでもありませんが、発症初期では聴取が難しい、III音は聴く努力をしながらもやっぱり難しいし、足の浮腫もいつからなんだか…など実際の現場では悩ましいことが多いのも事実です。最も簡単な方法は、左右差に注目することです。呼吸音に左右差があれば、肺炎らしく(初期では全吸気時間で聴取:holo crackles)、両側に喘鳴を聴取すれば心不全らしいでしょう。当たり前ですが、何となく聴診していると明らかな喘鳴の聴取は容易でも、わずかな場合や肺炎の初期の副雑音をキャッチできないことは珍しくありません。下腿の浮腫は、両側性の場合には心不全を示唆しますが、左右差を認める場合には、肺血栓塞栓症の原因の大半を占める深部静脈血栓症の存在を示唆します(エコーを当てれば瞬時に判断できます)。Thinker's sign(Dahl's sign)は、呼吸困難を軽減させるための姿勢によって生じた所見であり、慢性の呼吸不全の存在を示唆します2)。気管短縮や呼吸音の減弱、心窩部心尖拍動とともに患者の肘や膝上の皮膚所見も確認する癖を持ちましょう。●バイタルサイン(Vital signs):脈圧に注目!「呼吸困難を訴えるもののSpO2の低下がない」これは逆に危険なサインです。頻呼吸で何とか代償しようとしている、もしくは気道狭窄を示唆し、異物や喉頭蓋炎、アナフィラキシーの可能性を考え対応するようにしましょう。SpO2の低下を認め、[1]~[4]を鑑別する場合には、脈圧がヒントになります。肺炎など感染症が関与している場合には、通常脈圧は開大します。それに対して心機能が低下しているなどアウトプットが低下している場合には、脈圧が低下します。両者が混在する場合や、普段の患者背景にもよりますが、脈圧が低下している場合には、虚血に伴う心不全、submassive以上の肺血栓塞栓症など重篤な病態を早期に見抜く手掛かりになります。呼吸困難患者の脈圧が低下している場合には、早期に心電図を確認することをお勧めします(ST変化などの虚血性変化、洞性頻脈・SIQIIITIIIなどの肺血栓塞栓症らしい所見をチェック)。普段のADLと比較!初療時には酸素を必要としていた患者さんの中には、精査中にoffにすることができる場合があります。そのような場合には安心しがちですが、もう一歩踏み込んでバイタルサインを確認しましょう。ストレッチャー上のバイタルサインではなく、普段と同様のADLの状態でのバイタルサインを評価してほしいのです。本症例の原因は肺血栓塞栓症でしたが、安静時には酸素を要さず、呼吸回数は落ち着いてしまいました。しかし、帰宅前に歩行をしてもらうとSpO2が低下し、呼吸困難症状の再燃を認めたのです。肺血栓塞栓症は、過換気症候群や原因不明として見逃されることがあり、私は普段と同様のADLで(1)他に説明がつかない頻呼吸、(2)他に説明がつかない低酸素、(3)他に説明がつかない頻脈の場合には、疑って精査するように努めています3)。さいごに呼吸困難を訴える患者では、胸部X線、CT検査ですぐに確認したくなりますが、それのみではなかなか確定診断は難しく、また、肺炎と心不全は両者合併することも珍しくありません。D-dimerも役には立ちますが、それのみで肺血栓塞栓症や大動脈解離を診断・除外するものではありません。“Hi-Phy-Vi”を徹底し、鑑別疾患を意識して検査結果をオーダー、解釈することを常に意識しておきましょう。1)Ray P, et al. Crit Care. 2006;10:R82.2)Patel SM, et al. Intern Med. 2011;50:2867-2868.3)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.216-230.

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CVD高リスクCOPD、LAMAの長期安全性確認/JAMA

 心血管疾患リスクの高いCOPD患者に対して、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)アクリジニウムの長期投与はプラセボと比較して、3年時点の主要心血管イベント(MACE)リスクについて非劣性であることが示された。中等症~重症COPDの1年時増悪率も有意に減少した。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のRobert A. Wise氏らが、約3,600例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検試験の結果で、JAMA誌2019年5月7日号で発表した。LAMAについては、COPD患者の心血管罹患率および死亡率を増大するとの懸念が示されていた。最長3年間追跡し、MACEリスクを比較 研究グループは2013年10月16日~2016年8月22日にかけて、北米522ヵ所の医療機関を通じて、中等症~重症COPD患者で、心血管疾患既往またはアテローム動脈硬化症のリスク因子が2つ以上ある3,630例を対象に試験を開始した。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはアクリジニウム(1,812例)を、もう一方にはプラセボ(1,818例)を、それぞれドライパウダー吸入器で1日2回投与した。追跡は最長3年間で、MACEが122件以上発生となるまで継続した。最後の被験者の追跡が完了したのは2017年9月だった。 安全性に関する主要アウトカムは、3年の間に発生した初回MACEの発生までの期間で、非劣性マージンはハザード比の片側97.5%信頼区間1.8とした。 有効性に関する主要アウトカムは、治療1年目のCOPD増悪率だった。副次アウトカムは、MACEまたは急性心不全などの重篤な心血管イベントを含めた“拡大定義MACE”の初回発生までの期間や、入院を要する増悪の年発生率などだった。MACE、MACE+重度心血管イベント発生率、対プラセボで非劣性 分析には3,589例が包含された(アクリジニウム群1,791例、プラセボ群1,798例)。平均年齢は67.2歳、男性の割合は58.7%で、2,537例(70.7%)が試験を完遂した。 MACE発生率は、アクリジニウム群3.9%(69例)、プラセボ群4.2%(76例)で、アクリジニウム群のプラセボ群に対する非劣性が示された。(ハザード比[HR]:0.89、片側97.5%信頼区間[CI]:0~1.23)。 拡大定義MACEの発生も、アクリジニウム群9.4%(168例)、プラセボ群8.9%(160例)で、アクリジニウム群の非劣性が示された(HR:1.03、片側97.5%CI:0~1.28)。 一方で、COPD増悪率はアクリジニウム群0.44/年で、プラセボ群0.57/年より有意に低率だった(率比:0.78、両側95%CI:0.68~0.89、p<0.001)。入院を要する増悪率も、それぞれ0.07、0.10で、アクリジニウム群が有意に低率だった(率比:0.65、両側95%CI:0.48~0.89、p=0.006)。 最も頻度の高い有害事象は、肺炎(アクリジニウム群109例[6.1%]vs.プラセボ群105例[5.8%])、尿路感染症(93例[5.2%]vs.89例[5.0%])、そして上気道感染症(86例[4.8%]vs.101例[5.6%])だった。

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第18回 腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第18回:腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ皆さん、かつてない大ゴールデンウイークをどうお過ごしですか? ボクは基本的には家でゆっくりの“インドア派”、時にバイトをしています(笑)。せっかくのお休みですから、あまり込み入った話はやめて、今までの“振り返り”はどうでしょう? Dr.ヒロが選んだ心電図問題にチャレンジしつつ、過去のレクチャーを見直してみましょう。では、スタートです!症例提示149歳、男性。肥大型心筋症でフォロー中。定期外来時の心電図を示す(図1)。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する【問題1】これは「正常洞調律」と言って良いか? また、心拍数はいくらか?解答はこちらNo:(理由)洞不整脈のため心拍数:78/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導 [10秒] )解説はこちらいつ・どんな時も「系統的判読」が大事です。この問題は“レーサー(R3)・チェック”に関するもの(第1回)。つい「R-R間隔はレギュラー(整)で…」と始めてしまいそうですが、否です。肢誘導の最初と最後ではR-R間隔がだいぶ違います。立派に「R-R間隔:不整」なんです。こういう場合の心拍数は“検脈法”の独壇場です。肢誘導に6個、胸部誘導に7個のQRS波があり、ともに5秒、5秒で計10秒間の記録だということを意識すると、13✕6=78/分 と求まります(第3回)。3つ目の“R”は「調律」でした。これは“イチニエフの法則”で洞性P波の満たす「向き」を確認します。QRS波の直前に明瞭なP波がコンスタントにあって、向きはイチニエフ・ブイシゴロで上向き(陽性)、アールで下向き(陰性)ですから、“サイナス”(洞調律)でいいんです(第2回)。しかし、このようにR-R不整を伴う場合を「洞不整脈」(sinus arrhythmia)といい、主に呼吸による影響とされます。“変わり種”の洞調律ですから、「正常」の枕詞はとりましょうね。【参考レクチャー】第1回『心電図の読み“型”伝授します』第2回『洞調律を知る』第3回『心拍数を求めよう』【問題2】QRS電気軸は何度か? 定性的評価も加えよ。解答はこちらQRS電気軸:+70°(トントン法Neoによる)正常軸解説はこちら(QRS)電気軸は、前額断(冠状断)にて電気が心室内を進む方向を反映するものでした。定性的には、I誘導とaVF(またはII)誘導のQRS波の向きに着目します。この例はすべて「上向き」(陽性)ですから、「正常軸」でいいでしょう(第8回)。具体的に数値で「何度」と求める方法について、詳しく解説している教科書は少ないですが、Dr.ヒロ流“トントン法”、あるいはその進化版の“Neo”ならおおむね可能です。注目すべき肢誘導の中に“トントン”なQRS波がないですから、そういう時は肢誘導界の円座標を思い浮かべ、「aVL(-30°)→ I(0°)→-aVR(+30°)→ II(+60°)→ aVF(+90°)→III(+120°)→-aVL(+150°)」の順番にQRS波の向きをチェックしていきます(第11回)。この心電図(図1)では、はじめのaVLとIの間で向きの逆転が起こっており、この場合の“トントン・ポイント(TP)”は両者の中間(-15°)、ないし“aVL寄り”(-20°)でしょう。これに直交し、Iは「上向き」なので、ボク的には「+70°」を正解とします(「+75°」でも可)。【参考レクチャー】第8回『QRS電気軸イロハのイ』第11回『QRS電気軸(完結編)~進化したトントン法は無敵!~』【問題3】心電図(図1)の所見として正しくないものを選べ。1)ST低下2)左室高電位3)完全左脚ブロック4)右房拡大5)陰性T波解答はこちら3)解説はこちら1)◯:II、III、aVF、V4~V6誘導で「ST低下」(水平/下行型)があります。2)◯:V5、V6誘導のR波高は、さほどではないのですが、「SV1(V1誘導のS波の深さ)+RV5(V5誘導のR波の高さ)>35mm」という基準は満たすので、「左室高電位」でOKです。これと側壁誘導(I、aVL、V [4] 5~6)のST-T変化との“合わせ技”で「左室肥大」と診断します。この方は「肥大型心筋症」ですので、相応の心電図ということになります。3)×:「脚ブロック」はQRS“幅”がワイドな時に考えます。この例では、やや“太め”ですが(「左室肥大」のため)、許容範囲内といえます。4)◯:II誘導のP波がツンッと立っています。II、III、aVF誘導のいずれかでP波高が2.5mm超の場合、「右房拡大」と診断します。5)◯:絶対にT波が下を向いてはいけない“イチニエフ・ブイシゴロ”(これも“イチニエフの法則”です)以外に、この例ではIII誘導でも「陰性T波」を認めますね。症例提示270歳、男性。糖尿病、高血圧で治療中。数日前から倦怠感が出現。本日、咳嗽著明、意識レベル低下もあり救急搬送。諸検査から肺炎が疑われ、即日入院となった。体温37.8℃、血圧107/54mmHg、脈拍89/分・整、酸素飽和度91%。入院時の心電図を示す(図2)。(図2)入院時心電図画像を拡大する【問題4】心電図(図2)の調律と心拍数について述べよ。解答はこちら調律:(正常)洞調律心拍数:84/分(検脈法:肢誘導 [5秒] )90/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導 [10秒] )解説はこちらR-R間隔:整で“イチニエフの法則”から「洞調律」でOK、心拍数は“検脈法”で求めますが、R-R整なら肢誘導または胸部誘導どちらか5秒間の情報で計算可能です(第2回)、(第3回)。ややトリッキーかもしれませんが、たとえば、II誘導の2、4拍目でS波が“オン・ザ・ライン”(オレンジ太線上)ですよね? この間が7マス(太枠7個)で、“300の法則”かつ2拍分のR-R間隔であることに注目して「300÷7✕2≒86/分」と算出すると、自動計測値により近づきます(第3回)。【参考レクチャー】第2回『洞調律を知る』第3回『心拍数を求めよう』【問題5】心電図(図2)の電気軸をどう表現するのがよいか?解答はこちら不(確)定軸解説はこちらIとaVF(またはII)誘導のQRS波の向きを見ましょう。アレッ? どれも“トントン”ですね。このような“煮え切らない”状況ではQRS電気軸は決定できず、「不定軸」(indeterminate axis)という診断になります。正式には、標準肢誘導(I、II、III)のいずれでも上下“トントン”な場合が「不定軸」の定義です。なお、時折、IもaVF(またはII)誘導も下向きの状況を「不定軸」と称しているケースに出会いますが、個人的には賛同できません。Dr.ヒロ流は「高度(の)軸偏位」ないし「北西軸」と呼んで欲しいです。【参考レクチャー】第8回『QRS電気軸イロハのイ』【問題6】心電図(図2)のST部分は(A)女性型、(B)男性型、(C)不定型のいずれか?解答はこちら(B)男性型解説はこちらこれは「ST部分」の男女差を扱った時に述べたものです。ポイントはV1~V4誘導の「J点」と「ST角度」でしたね(第15回)。この男性は、V2、V3誘導で明らかなJ点(ST)上昇があり、かつ「ST角度」も急峻(20°以上)なパターンです。病歴的には元気がなくても、心電図は若年男子に特徴的な猛々しい「男性型」のST部分を示しています。こうした例での「STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)」の診断には注意が必要だったことも復習しておきましょう(第14回)。【参考レクチャー】第14回『“若さ”って心電図に表れる?』第15回『アナタの心電図は“男女”どっち?』さて、2症例、計6問の腕試しクイズでしたが、いかがだったでしょうか? 心電図の知識は“臨床に生かせてなんぼ”。そんなボクのモットーが体験できる問題となるよう、今までに“ドキドキ心電図”のレクチャーで扱った内容を中心に症例形式で出題しました。できなかった問題については、該当回をもう一度読み直してみてくださいね。それでは、素敵な連休を! 「令和」元年からも引き続きDr.ヒロの熱血講義をお楽しみ下さい。【古都のこと~平野神社~】京都には多くの桜の名所がありますが、連載の間隔的になかなか紹介できないのは残念です。今回は平野神社(北区)。北野天満宮から徒歩数分の立地で、観桜期には数多くの屋台や桜茶屋で賑わいます。2018年9月の台風21号で拝殿が倒壊、自慢の木々も甚大な被害を受けた影響もあり、例年より悲壮感が漂っていました。が、やはり門前の「魁(さきがけ)桜」、そして桜苑には心奪われました。逆境にも負けぬ健気さにエネルギーをもらい、「開運さくら湯」を飲み干してから職場に向かうのでした。

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PCV10ワクチン導入、ケニアでIPDが激減/Lancet

 ケニアにおいて、キャッチアップキャンペーン(追加的なワクチン接種活動)を伴う10価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV10)接種の導入により、小児/成人におけるPCV10型の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)が有意な血清型置換を伴わず大幅に減少したという。米国・ジョンズホプキンス大学公衆衛生学大学院のLaura L. Hammitt氏らが、ケニア海岸農村部キリフィ県の「健康と人口動態追跡調査システム(Health and Demographic Surveillance System:HDSS)」に登録されている住民を対象とした、ケニア中央医学研究所とイギリス・ウェルカムトラスト財団の共同研究プログラム(KEMRI-Wellcome Trust Research Programme)によるサーベイランス研究の結果で、著者は「幼児のPCV10型定期予防接種プログラムが熱帯アフリカの低所得地域において直接的および間接的に大きな予防効果を上げる可能性が示唆された」と述べている。Lancet誌オンライン版2019年4月15日号掲載の報告。PCV10による予防接種の有効性をサーベイランスで評価 ケニアでは、2011年1月に生後6週、10週および14週に接種するPCV10が導入された(キリフィ県では5歳未満の小児を対象としたキャッチアップを伴っている)。 研究グループは、キリフィ県の小児および成人における鼻咽頭保菌とIPDに対するPCV10の有効性を評価する目的で、1999~2016年にHDSSが運用されたキリフィ県立病院に入院した患者(全年齢)におけるIPDの臨床的および細菌学的調査を解析した。ワクチン導入前(1999年1月1日~2010年12月31日)とワクチン導入後(2012年1月1日~2016年12月31日)で、交絡因子を調整したIPDの罹患率比(IRR)を算出し、1-IRRの計算式でIPDの減少率を報告した。鼻咽頭保菌については、2009~16年に年次調査を行った。 月齢2~11ヵ月の小児で2回以上PCV10の接種を受けた割合は、2011年で80%、2016年で84%、月齢12~59ヵ月の小児で1回以上PCV10接種を受けた割合はそれぞれ66%および87%であった。ワクチンに含まれる血清型のIPDは92%減少、あらゆる血清型のIPDは68%減少 HDSSの観察期間中、321万1,403人年でIPDは667例が確認された。5歳未満の小児の年間IPD発生率は、2011年のワクチン導入後に急激に低下し、低い状態が継続した(PCV10型IPD:ワクチン導入前60.8例/10万人vs.ワクチン導入後3.2例/10万人、補正後IRR:0.08[95%信頼区間[CI]:0.03~0.22]、あらゆる血清型のIPD:81.6例/10万人vs.15.3例/10万人、補正後IRR:0.32[95%CI:0.17~0.60])。 ワクチン未接種の年齢集団においても、ワクチン導入後の時期でPCV10型IPDの発生率が同様に低下した(月齢2ヵ月未満:ワクチン導入後の症例は0、5~14歳:補正後IRR:0.26[95%CI:0.11~059]、15歳以上:補正後IRR:0.19[95%CI:0.07~0.51])。非PCV10型IPDの発生率は、ワクチン導入前後で違いは確認されなかった。 5歳未満の小児において、PCV10型の保菌率はワクチン導入前後で低下し(年齢標準化補正後有病率:0.26、95%CI:0.16~0.35)、非PCV10型の保菌率は増加した(1.71、1.47~1.99)。

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第21回 関節リウマチとMTXにまつわるお役立ちエビデンス集【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 関節リウマチの罹患率は人口の1%とも言われ、とくに女性の患者は男性の2~3倍と多く、いずれの年代でも発症しうる疾患です1)。関節リウマチ治療の第1選択薬は言わずと知れたメトトレキサート(MTX)で、関節破壊の進行を抑制するために重要かつ有名な薬剤です。今回はそのMTXに関連するエビデンスをあらためて紹介します。有効性についてMTXの有効性については、関節リウマチ患者732例においてMTX単独投与の効果をプラセボと比較したコクランのシステマティックレビュー2)など、すでに十分なエビデンスがあります。これは1997年に発表されたレビューの2014年改訂版で、レビューに含まれているのは1980〜90年代の試験です。以前の治療や併用薬としてNSAIDsや他の抗リウマチ薬を使用している場合もありますが、有効性については、ほとんどの主要評価項目で有意な改善を認めています。ACR50(圧痛関節数、膨張関節数、患者による疼痛評価、患者による全般活動性評価、などの評価で必須項目を含む50%以上の改善)を達成したのは100人当たりプラセボ8例、MTX23例で、健康関連QOLのNNT(Number Needed to Treat:必要治療数)=9、X線写真における関節破壊の進行評価のNNT=13と、MTXの有意な効果が示されています。一方で、3~12ヵ月の評価では、プラセボと比較して100人当たり9例に、多くの有害事象による中止が報告されています。葉酸との併用について葉酸またはフォリン酸(ロイコボリン)を摂取することで、MTXによる悪心、腹痛、肝機能異常などが低減し、口内炎も減る傾向にあることが示唆されています3)。こちらもコクランに掲載された、MTXと葉酸またはプラセボ併用を比較した6つの二重盲検ランダム化比較試験、計624例を含むシステマティックレビューです。葉酸またはフォリン酸併用群では、24~52週のフォローアップで、消化器系の副作用(悪心、嘔吐、腹痛)の絶対リスク減少率-9.0%、相対リスク減少率-26.0%、NNT=11と、プラセボ群よりも有意に減少しています。同じ期間の口内炎の発生については、絶対リスク減少率-6.2%、相対リスク減少率-27.8%で、統計的有意差はないものの減少傾向にありました。また、肝毒性(トランスアミナーゼ上昇)の発生率は、8〜52週間のフォローアップ期間において、絶対リスク減少率-16.0%、相対リスク減少率-76.9%、NNT=6と、葉酸を併用する多くのメリットが示されています。なお、葉酸併用によるMTXの効果の有意な減弱はありませんでした。関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン 2016年改訂版においても、MTXを継続している患者では、必要に応じて葉酸を併用することが推奨されています4)。投与間隔については、MTX服用の24~48時間後が一般的です。同ガイドラインによれば、そのベストな投与間隔について明確なエビデンスはないとされていますが、少なくともその時間を空ければMTXの効果に影響はないだろうとのことです。なお、ロイコボリンレスキュー療法の研究では、MTX服用後42~48時間を過ぎてしまうとMTXの毒性が発現しやすくなることが報告されています5)。感染症リスクについてMTXは免疫抑制作用を有する薬剤ですので、肺炎、発熱、口内炎など感染兆候に注意を払うことも大切です。2015年にLancetに掲載されたネットワークメタ解析で、慢性関節リウマチ患者において、MTX使用時と生物学的製剤使用時の重篤感染症(死亡例、入院例、静脈注射の抗菌薬使用例)発現リスクについて検討されています6)。結果としては、生物学的製剤はDMARDsに比べて重篤感染症リスクが約30%高く、とくにMTX使用歴がある患者および標準〜高用量の生物学的製剤使用患者ではリスクが高いという傾向にありました。年間1,000人当たりの重篤感染症発生人数は、DMARDs服用群で20例、標準量の生物学的製剤使用群で26例、高用量の生物学的薬剤使用群で37例、生物学的製剤との併用群で75例です。MTX使用歴がない患者では、感染症リスクの有意な増加はありませんでした。近年では多くの生物学的製剤が発売されているので、MTXとの併用時や易感染性疾患罹患時の感染兆候モニタリングは意識しておくとよいでしょう。1)MSDマニュアル 関節リウマチ2)Lopez-Olivo MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;6:CD000957.3)Shea B, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013;5:CD000951.4)関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版5)Cohen IJ, et al. Pediatr Blood Cancer. 2014;61:7-10.6)Singh JA, et al. Lancet. 2015;386:258-265.

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COPD診療における最新知見/日本呼吸器学会

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療に対する吸入ステロイド薬(ICS)の上乗せについて、新しい臨床試験の結果が続々と報告されているが、それらをどう捉えればよいのだろうか。2019年4月12日から3日間、都内にて開催された第59回 日本呼吸器学会学術講演会において、シンポジウム3「COPD、ACOガイドラインを超えて」での講演から最新の知見を紹介する。COPD治療におけるICSの位置付けは? COPDの安定期における治療は、原則として長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の気管支拡張薬である。これまで、通常のCOPD治療にICSを追加する有益性は高くないとされていたため、本学会が発刊している『COPD診断と治療のためのガイドライン2018(第5版)』と『喘息とCOPDのオーバーラップ診断と治療の手引き2018』では、喘息とCOPDの合併例(asthma COPD overlap:ACO)に限定して、ICSの早期使用が推奨されている。 しかしその後、LAMA+LABA+ICSのトリプルセラピーがLAMA/LABA配合剤に対して、中等度~重度のCOPD増悪を有意に抑制したことが「IMPACT試験」で報告されたため、COPD治療におけるICSの位置付けに関しては引き続き検討されていくだろう。COPD、ACOの診断に用いられるバイオマーカー シンポジウムでは、玉田 勉氏(東北大学 呼吸器内科学分野 講師)が「末梢血好酸球増加はICS治療ターゲットになるか?」という問いかけをテーマに、COPD患者のバイオマーカーをどのように扱うかについて語った。 COPD治療において、好酸球性気道炎症が存在する症例の中には、LAMA、LABAなどの気管支拡張薬にICSを上乗せすることで、さらなる気管支拡張効果を得られる病態が存在することがわかっている。このようなICS感受性の高いCOPDに関して、判断の目安となるのは増悪回数、末梢血好酸球の増加、喘息の合併などであるという。 また、上述の最新ガイドラインでは、COPDにおける好酸球性気道炎症の存在を、喘息の特徴でもある末梢血好酸球>5%あるいは>300/μL、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)>35ppbなど複数の項目で評価することを推奨している。その結果ACOと判断できれば、早期にICSを投与することが望ましいが、ACOに該当しなければ、高用量のICS投与は肺炎リスクを上昇させる恐れがあるため、重症であっても投与しないとされている。しかし、ACOの病態は経過中に出現することもあるので、繰り返し評価することが重要である。 同氏は「われわれの研究と先行研究を合わせた結果、COPD患者の2割くらいにICS有効例が存在するのではないか」と見解を語った。海外データから読み取れる情報 海外で報告されているGOLD2019レポートでは、増悪リスクおよび症状レベルがともに高い“グループD”において、末梢血好酸球が300/μL以上あるいは100/μL以上で増悪を繰り返す患者ではICS/LABA有効例が多く、逆に末梢血好酸球100/μL未満ではICSの有効性は期待できないとされている。しかし、この根拠となった複数の臨床試験の対象となった症例には、さまざまな割合で喘息合併例が混在しているため、ICSの上乗せ効果を正確に判断することは難しい。 データを読む際、ICSの使用による1秒量(FEV1)の増加が大きいほど、喘息病態を合併したCOPDの症例が多く混ざっていると考えられ、その結果、末梢血好酸球300/μL以上の症例をピックアップすると、ICSが増悪抑制に有効であろうことが見えてくるという。 よって、各論文の筆者による結論だけでなく、喘息合併例をどうやって分けているか、ICSの使用でどれだけ呼吸機能が改善しているかなども考慮して解釈することが必要だ。単独のバイオマーカーでICS使用の判断はできない 発表テーマである「末梢血好酸球増加はICS治療ターゲットになるか?」という問いに対して考えると、気道の好酸球性気道炎症をよく反映するのは喀痰好酸球数だが、末梢血好酸球数とは強く相関しないことが明らかになっている。 「COPD、ACO患者のバイオマーカーは、これまでもさまざまな横断研究が報告されているが、日本人データを含めたバイオマーカーの使い方やカットオフ値の設定が求められる。よって、末梢血好酸球数だけでICSを使うかどうか決めるには時期尚早なのではないか」と現段階での見解を示し、「ICSの有効例に関しては、どこまで追求しても、最終的には過剰投与であったり、潜在的に有効でも投与されなかったりといった事態が起こりうる可能性がある」と指摘した。 COPDやACOの診断に当たっては、ガイドラインの知見を踏まえ、なるべく客観的な指標に基づいてICSの使用を検討するなど、診断の精度を高めることが求められる。また、ICSを開始する場合、肺炎リスクが頭打ちとなる半年より前に、呼吸機能の改善度などから効果判定を行い、ICS投与を継続するか判断することが望ましいとされている。■参考一般社団法人 日本呼吸器学会第59回日本呼吸器学会学術講演会■関連記事新COPDガイドラインの要点と日本人データCOPDの3剤併用療法、2剤併用と比較/NEJM

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NSCLCの1次治療としてのペムブロリズマブ単剤の適応をTPS≧1%に拡大/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は、2019年4月11日、外科的切除または根治的化学放射線療法の候補ではないStageIIIまたは転移のある、PD-L1(TPS)1%以上の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療としてペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)を承認した。この承認は1274例を対象に行われたKEYNOTE-042試験に基づくもの。 ペムブロリズマブ単剤投与の1次治療は従来、PD-L1(TPS)発現50%以上の転移を有するNSCLCに承認されていた。 KEYNOTE-042において患者は、ペムブロリズマブと化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセドまたはパクリタキセル)に無作為に割り付けられ、ECOG PS、組織、地域、PD-L1発現(TPS≧50%対TPS 1~49%)によって層別化された。 主要評価項目はTPS≧50%、TPS≧20%、および全母集団(TPS≧1%)の全生存期間(OS)。この試験では、これらすべての集団においてペムブロリズマブ群で統計的に有意な改善を示した。 TPS≧1%の全母集団のOS中央値はペムブロリズマブ群および化学療法群でそれぞれ16.7および12.1ヵ月であった(HR 0.81、95%CI:0.71~0.93)。TPS≧20%サブグループのOS中央値はペムブロリズマブ群および化学療法群でそれぞれ17.7ヶ月および13.0ヶ月(HR 0.77、95%CI:0.64~0.92)。TPS≧50%サブグループのOS推定中央値は、ペムブロリズマブ群および化学療法群でそれぞれ20ヵ月および12.2ヵ月であった(HR 0.69、95%CI:0.56~0.85)。 KEYNOTE-042でペムブロリズマブ単剤投与群で多くみられる(10%以上)有害事象は、倦怠感、食欲減退、呼吸困難、咳、発疹、便秘、下痢、悪心、甲状腺機能低下症、肺炎、発熱、および体重減少であった。■関連記事PD-L1陽性肺がん1次治療におけるペムブロリズマブ単剤の効果(KEYNOTE-042)/Lancetペムブロリズマブ、非小細胞肺がん(PD-L1高発現)1次治療に承認/FDA

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セファゾリンナトリウム注射用の代替薬

 2019年3月29日、厚生労働省は、事務連絡として「セファゾリンナトリウム注射用「日医工」が安定供給されるまでの対応について」を全国の関係機関に発出し、各医学会でも周知が開始された。 セファゾリンナトリウムは、日医工株式会社が製造・供給に大きなシェアをもつ抗菌薬だが、本年2月に製品供給に支障をきたす可能性がある旨の周知があり、現在も供給再開の目途が立っていない。そして、同製品の代替品と考えられる製品の一時的な供給不足も危惧されることから、安定供給が再開されるまでの間の対応として周知された。 利用にあたっては、「抗菌薬の処方に関する最終的な決定は、治療にあたる医師が行う」「一覧の病態・術式に対し本来の推奨薬とは限らない薬剤も含まれるので、個別の患者マネジメントにおいては病態や術式を十分に検討して決定すること」などの諸注意を踏まえ、院内などで情報共有をしつつ、活用してほしいとしている。周術期予防抗菌薬(カッコ内はターゲットとする細菌)・脳神経外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、セフォタキシムなど・耳鼻咽喉科(黄色ブドウ球菌/口腔内嫌気性菌/レンサ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・心臓血管外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、セフォタキシムなど・胸部外科(口腔内嫌気性菌/レンサ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・乳腺外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、クリンダマイシン・上部消化管外科(大腸菌/肺炎桿菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアム・消化器外科(腸内細菌科細菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・婦人科(腸内細菌科細菌、Bacteroides fragilisグループ) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・泌尿器科(腸内細菌科細菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・整形外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、セフメタゾールなど治療用抗菌薬(カッコ内はターゲットとする細菌)・黄色ブドウ球菌菌血症(黄色ブドウ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォタキシム、セフトリアキソンなど・軟部組織感染症[蜂窩織炎、丹毒など](黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォタキシム、セフトリアキソンなど・急性骨髄炎、化膿性関節炎(黄色ブドウ球菌) 代替薬例:セフォタキシム、セフトリアキソン、クリンダマイシンなど・尿路感染症[急性腎盂腎炎](大腸菌) 代替薬例:セフォチアム、セフメタゾール、フロモキセフなど なお上記リストは、同製品の供給不足に伴う影響を最小限にし、かつ抗菌薬適正使用の観点から、既存の診療ガイドラインなどを踏まえ、国立研究開発法人国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターの協力のもと作成された。■参考厚生労働省「セファゾリンナトリウム注射用「日医工」が安定供給されるまでの対応について」

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第11回 意識障害 その9 原因が1つとは限らない! それで本当におしまいですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)確定診断するまで思考停止しないこと!2)検査は答え合わせ! 異常値だからといって、原因とは限らない!3)急性か慢性か、それが問題だ! 検査結果は必ず以前と比較!【症例】68歳男性。数日前から発熱、倦怠感を認め、食事量が減少していた。自宅にあった解熱鎮痛薬を内服し様子をみていたが、来院当日意識朦朧としているところを奥さんが発見し救急要請。救急隊の観察では、明らかな構音障害や麻痺は認めず、積極的に脳卒中を疑う所見は乏しい。●搬送時のバイタルサイン意識10/JCS、E3V4M6/GCS血圧142/88mmHg脈拍78回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温38.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(50歳〜)、脂質異常症(44歳〜)内服薬アムロジピン、アトルバスタチン今回は意識障害の最終回です。今までいろいろと述べてきましたが、復習しながら鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因は“AIUEOTIPS”に代表されるように多岐にわたります。難しいのは、何か1つ意識障害の原因となりうるものを見いだしたとしても、それのみが原因とは限らないことです。脳出血+痙攣、敗血症+低血糖、アルコール+急性硬膜下血腫、急性期疾患+薬剤の影響、などはしばしば経験します。目の前の患者さんの症状は、自身が考えている原因できちんと説明がつくのか、矛盾点は本当にないのか、最終的に診断をつける際には必ず自問自答しましょう。救急外来での実際のアプローチ今回も10’s rule(表1)をもとに考えていきましょう。画像を拡大する患者さんは数日前から発熱を認め、徐々に状態が悪化しているようです。血圧はやや高めですが、CPSS※(構音障害、顔面麻痺、上肢の麻痺)陰性で、頭痛の訴えもなく脳卒中を積極的に疑う所見は認めませんでした。糖尿病の既往もなく、低血糖の検査前確率は低いですが、感染症(とくに敗血症)に伴う副腎不全や薬剤などの影響で、誰もが低血糖になりうるため、10’s ruleにのっとり低血糖は否定し、頭部CT検査を施行する方針としました。CTでは、予想通り明らかな異常は認めませんでした。qSOFAは意識障害以外該当しないものの、発熱も認め感染症の関与も考え、fever work upを施行する方針としましたが…。※ Cincinnati Prehospital Stroke Scale急性か慢性か、それが問題だ!採血(もしくは血液ガス)の結果でNa値が126mEq/Lを認めました。担当した研修医は、「低ナトリウム血症による意識障害の可能性」を考えました。これはOKでしょうか?採血以外にも、救急外来では心電図やX線、エコー、CTなどの検査を施行することは多々あります。その際、検査に何らかの異常を認めた際には、必ず「その異常はいつからなのか?」という視点を持つ必要があります。以前と異なる変化であれば、今後介入の必要はあるかもしれませんが、少なくとも急性の変化と比較し、緊急性はぐっと下がります。以前の結果と比較(問い合わせをしてでも)することを心掛けましょう。忙しい場合には面倒に感じるかもしれませんが、急がば回れです。不適切な介入や解釈を行わないためにも、その手間を惜しんではいけません。低ナトリウム血症は高齢者でしばしば認めますが、急性の変化でない限り、そして著明な変化でない限り、通常無症候性です。救急外来では120mEq/L台の低ナトリウム血症では、最低限の介入(塩分負荷または飲水制限)は原因に応じて行いますが、それのみで意識障害、痙攣、食思不振などの直接的な原因とは考えないほうがよいでしょう。慢性的な変化、もしくは何らかの急性疾患に伴う変化と考え対応する癖を持ちましょう。大切なのはHi-Phy-Vi!Rule 2にもありますが、やはり大切なのは病歴、身体所見やバイタルサイン(Hi-Phy-Vi:History、Physical、Vital signs)です。この患者さんは、急性の経過で発熱を伴っています。そして、熱のわりには心拍数は上昇していません。このような経過の患者さんに低ナトリウム血症を認めたわけです。何かピンッとくる疾患はあるでしょうか?急性の経過、そしてSIRSやqSOFAは満たさないものの、発熱を認め、呼吸回数も高齢者にしては多いという点からは、感染症の関与が考えられます。菌血症を疑わせる悪寒戦慄は認めませんでしたが、いわゆる細菌感染症として頻度が高いfocusは鑑別の上位に挙がります(参考に第6回 意識障害 その5)。肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症、胆道系感染症などは意識して所見をとらなければ高齢者では容易に見逃してしまうものです。この患者さんは改めて聴診すると、右下葉で“coarse crackles”を聴取しました。同部位のX線所見も淡い浸潤影を認めました。しかし、喀痰のグラム染色では有意な菌は認められませんでした。もうおわかりですね?レジオネラ症(Legionella disease)意識障害などの肺外症状(表2)、グラム染色で優位な菌が認められないとなると、必ず鑑別に入れなければならない疾患が「レジオネラ症」です。レジオネラ肺炎は重症肺炎の際には必ず意識して対応しますが、本症例のように明らかな酸素化低下などの所見が認められない場合や肺外症状をメインに来院した場合には、意識しなければ、初診時に診断することは容易ではありません。しかし、レジオネラ肺炎(Legionella pneumophila)は、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)やクラミドフィラ(Chlamydophila pneumoniae)など、そのほかの非定型肺炎とは異なり、初診時に疑い治療介入しなければ、予後の悪化に直結します。見逃してはいけないわけです。画像を拡大するレジオネラ症を疑う手掛かりとしては、私は表3を意識するようにしています2,3)。そのほか、検査結果では、電解質異常(低ナトリウム血症、低リン血症)、肝機能障害、CPK上昇を意識しておくとよいでしょう。絶対的なものではありませんが、レジオネラ症らしいか否かを判断するスコアもあるので一度確認しておきましょう4)。画像を拡大するさいごに意識障害の原因は多岐にわたります。自信を持って確定診断するまでは、常に「本当にこれが原因でよいのか?」と自問自答し、対応することが大切です。忙しいが故に検査結果などの異常値を見つけると、そこに飛びつきたくなりますが、そもそも何故その数値や画像の異常が出るのか、それは本当に新規異常なのか、症状は説明がつくのか、いちいち考える癖をつけましょう。その場での確定診断は難しくとも、イチロー選手のように「後悔などあろうはずがありません!」と断言できるよう、診断する際にはこれぐらいの覚悟で臨みましょう。1)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.2)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.280-303.3)坂本壮. 救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに. シーニュ;2017.p.65-67.4)Gupta SK,et al. Chest. 2001;120:1064-1071.

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絶食治療患者の消化吸収力と血糖管理/糖尿病学の進歩

 2019年3月1~2日に開催された第53回糖尿病学の進歩において、瓜田 純久氏(東邦大学総合診療・救急医学講座)が「絶食治療を要する疾患で救急搬送された糖尿病患者の臨床経過と栄養管理」について講演し、絶食治療による消化吸収とそれに付随する血糖値変動について講演した(特別企画1:低栄養リスクのある糖尿病患者の栄養サポートと栄養管理)。救急搬送される糖尿病患者の栄養状態とは? 慢性的な栄養不足は、栄養障害によるランゲルハンス島細胞の栄養不良、β細胞量と機能の低下などを引き起こす。そして、救急搬送される患者の多くには、β細胞機能不全を招くほどの急性の負荷が生じている。このような状況下での低栄養を防ぐため、瓜田氏は同施設における2005年7月からの1,531名のカルテを用いて、糖尿病患者の急性疾患時の栄養状態をケトアシドーシス以外の観点から解析した。 まず、救急搬送された患者の糖尿病の有無と絶食期間を調べるために、入院後3日以上の絶食が必要な症例を抽出、HbA1cで区分したところ、HbA1cが6%より高い患者の割合は4割程度であった。また、高齢糖尿病入院患者の栄養状態をMNA-SF1)(簡易栄養状態評価表)で評価したスペインの研究2)によると、入院患者の54%に低栄養または低栄養の恐れがあったという。これらのことから、急性疾患によって搬送される糖尿病患者は、意外と栄養状態が悪いということが明らかになった。栄養障害の原因を探る方法 同施設で入院後3日以上の絶食が必要な症例は、肺炎、急性腸炎、憩室炎、イレウス、消化管出血、虫垂炎、尿路感染症などが全体の45%を占め、同氏が担当する症例には、糖尿病患者の血糖コントロールを悪化させるような急性疾患が多く含まれている。そこで、同氏らは、栄養障害がみられる全患者に対して「食事摂取状況の写真撮影とRapid turnover protein(RTP:レチノール結合タンパク)によるタンパク漏出測定による診断」を実施し、栄養障害の早期発見に努めている。 タンパク質の合成障害や摂取不足がある状態では、半減期(Alb:20日、Tf:7~10、Pre Alb:3~4日、RTP:半日)が短い成分ほど大きく低下するが補いやすい。この性質を活かし、栄養障害がタンパク合成能、摂取不足どちらに起因しているものかをRTPで判断する。たとえば、1900kcalの食事をしっかり食べているにもかかわらずAlb値が下がる糖尿病患者に対し、この検査を実施すると合成障害とわかり、「糖尿病患者のタンパク合成能は落ちていない」と判断することができるという。ただし、下痢、体重減少、貧血、腹部膨満感、浮腫、無力脱力感などがある場合は、まずは、消化管検査や心電図を含む主要な検査を実施して評価を行うことが望ましく、それらに異常がない場合は、開腹などの既往歴や吸収障害を惹起する薬剤(ステロイド、刺激性下剤、酸分泌抑制薬など)の服用を確認してから、低栄養と断定する」と、栄養評価時の注意ポイントを示した。食事を再開した時の消化吸収力と血糖コントロール 絶食治療後の明確な食事再開基準はなく、患者の意思に委ねられている。同氏は、この問題を解決する方法として“呼気中水素総排出量”の算出が有用と考えている。これは炭水化物の消化吸収を表す指標で、絶食期間中は低値を示す。実際に、同氏の解析したデータでも食事再開時は消化吸収の効率が低下していることが明らかとなり、「糖尿病患者の血糖値に“食べた物がすべて反映されている”という考えを間引かなければならない」とし、「たった1日の絶食が消化吸収阻害に影響を及ぼしている」と、絶食におけるリスクを示した。 最後に同氏は「絶食治療により、消化吸収は大きく変化する。絶食治療は必要であるが、血糖、栄養、消化吸収を同時に評価する必要性がある」と締めくくった。■参考1)Nestle Nutrition Institute:MNA-SF2)Sanz Paris A,et al. Nutr Hosp. 2013;28:592-599.

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誤解されやすいが重要な研究(解説:野間重孝氏)-1019

 多くの忙しい医師たちは論文を熟読するよりabstract部分をチェックして、自分が本当に興味のあるものならば熟読するし、そう思えなかった場合はすぐに次の論文のチェックに移っていくというのが実情なのではないかと思う。そう考えると、バッグマスクによる陽圧換気が誤嚥リスクを増大させるのではないかという問題にあまり関心がない医師がこの論文を読んだ場合、低酸素血症の発生頻度がバッグマスクによる陽圧換気群で低かったという一見当たり前の結論のほうばかりに目が行ってしまい、著者らの研究の真意が伝わらなかった可能性が懸念される。著者らが言いたかったことは結論の後半部分で、バッグマスク陽圧呼吸は誤嚥を増加させなかったというほうなのである。 酸素飽和度のほうにばかり関心が向いてしまった読者には、挿管後2分間に観察された最低酸素飽和度や酸素飽和度80%未満低下というのはsurrogate endpointでtrue endpointは心停止や低酸素脳症などの重篤な合併症なのであり、実際この研究中に心停止事故などは発生していないのだから、この程度の一時的な酸素飽和度の低下の有無に意味があるのか、と考えてしまう可能性がある。そうではなく、著者らはバッグマスク陽圧呼吸の安全性を検証してみせたのである。これは重要な検証である。なぜなら、誤嚥の発生リスクを増大させないならば、バッグマスクによる陽圧換気を行ったほうが安全に決まっているからである。 ちょうどこの論文評を書いている時に、日本医療安全調査機構の『医療事故の再発防止に向けた提言 第7号』が配達された。この提言はNPPV、TPPV療法中の患者に緊急事態が起こった場合の対処法を議論しているため、本研究の趣旨とは少しずれるが、NPPV装着患者の緊急時にはバッグマスクを用いた用手呼吸を行うことが適当であること、さらにその際パルスオキシメータによるモニターを行うべきであるとしている。この提言がバッグマスクによる陽圧換気の安全性を前提としていることは言うまでもないことで、その意味でも本研究の重要さが理解できよう。なお日本麻酔科学会、救急医学会などのマニュアルでも合併症として誤嚥性肺炎の記述はあるものの、バッグマスクによる陽圧換気は当然のように記載されていることは皆さんご存じのとおりである。ただ、一般にわが国のマニュアルでは大抵バッグマスクの使用と救急蘇生における合併症は切り離したかたちで記載されているため、バッグマスク使用そのものの合併症として誤嚥が問題になると認識している医師が少ない可能性は指摘されなければならないだろう。 論文に戻って不満点を言えば、どのような患者を対象としたのかが明示されていない点が挙げられる。対象についてはSupplementary Appendixの中で示されているが、抽象的で定義として不十分ではないかと思われた。こうした研究ではdouble blind化ができないだけに主治医の判断の自由度が大きくなり過ぎる懸念があるからだ。もっとも救急の場面を対象とした7施設共同による臨床研究では、そこまで縛りをきつくすることはできなかったのだろう。もう1点挙げるならば、401例という症例数が統計学的に妥当であるかどうかという点だろう。著者らはもちろんこの問題にdiscussion部分で触れているが、十分な説明になっていないと感じられた。 臨床研究では一見当たり前のように見える事柄が検証されるケースが多々ある。評者は臨床研究では一見当たり前に見えるような事柄を検証することが重要であることを以前から強調してきたが、本論文もそうした範疇に入るものであると考える。それだけに、論文全体の筆致が読者にこの研究の目的について誤解を与えかねないものである点が残念に感じられた。

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第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?Q1 なぜ、高齢者の血糖コントロール目標が発表されたのですか?糖尿病の血糖コントロールに関しては、かつては下げれば下げるほどよいという考え方でした。ところが、ACCORD試験などの高齢者を一部含む大規模な介入試験によって、厳格すぎる血糖コントロールは細小血管症を減らすものの、重症低血糖の頻度を増やし、死亡に関してはリスクを減らさずに、むしろ増やすことが明らかになりました。さらに、重症低血糖は、死亡だけでなく、認知症、転倒・骨折、ADL低下、心血管疾患の発症リスクになることがわかってきました。また、軽症の低血糖でもうつ状態やQOL低下をきたすことも報告されています。すなわち、低血糖は老年症候群の一部を引き起こすのです。また、低血糖は高齢者で起こりやすくなり、とくに重症低血糖は80歳以上の高齢者でさらに増えることがわかっており、低血糖の弊害の影響を大きく受けるのは高齢者ということになります。生物学的には高齢者においても血糖コントロールは糖尿病合併症を減らすと考えられますが、心血管を含めた合併症を予防するためには少なくとも10年間以上の良好な血糖コントロールを要すると思われます。とすると、平均余命が短い高齢者では厳格な血糖コントロールの意義が相対的に小さくなることになります。平均余命の推定は困難なことが少なくありませんが、高齢者の死亡リスクは疾患やそのコントロール状況よりもむしろ機能状態、すなわち認知機能やADLの状態によって決まることがわかっています。認知機能、ADL、併存疾患などで糖尿病を3つの段階に分けると、機能低下の段階が進むほど、死亡リスクが段階的に増えていくので、血糖コントロール目標は柔軟に考えていく必要があるのです。また、高齢者に厳格なコントロールを行うと、重症低血糖のリスクだけでなく、多剤併用や治療の負担も増えることになります。一方、血糖コントロール不良(HbA1c 8.0%以上)は網膜症、腎症、心血管死亡だけなく、認知症、転倒・骨折、サルコペニア、フレイルなどの老年症候群のリスクにもなることにより、高齢者でもある程度はコントロールしたほうがいいことも事実です。こうしたことから、米国糖尿病学会(ADA)、国際糖尿病連合(IDF)は平均余命や機能分類を3段階に分けて設定する高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表しました。本邦でもこうした高齢者糖尿病の種々の問題から、高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が発足し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されました(第4回参照)。Q2 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」のわかりやすい見かたとその意味について教えてください。日常臨床において、上記の図を見ながら高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)を設定するのは複雑で大変であるという意見もあります。そこで、私たちが行っている方法を紹介します。図1の簡単な血糖コントロール目標の設定を参照してください。1)まず、75歳以上の後期高齢者でインスリン、SU薬など低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合を考えます。この場合、カテゴリーIの認知機能正常で、ADLが自立している元気な患者と、カテゴリーIIの軽度認知障害または手段的ADL低下の患者の目標値は全く同じで、HbA1c 8.0%未満、目標下限値はHbA1c 7.0%。この数字だけでも覚えておくといいと思います。目標下限値がHbA1c7.0%というのはIDFの基準と全く同じであり、HbA1c 7.0%をきると重症低血糖、脳卒中、転倒・骨折、フレイル、ADL低下または死亡のリスクが高くなるという疫学データに基づいています。2)つぎに中等度以上の認知症または基本的ADL低下があるカテゴリーIIIの患者の場合は、(1)に+0.5%で、HbA1c 8.5%未満で目標下限値はHbA1c 7.5%です。中等度以上の認知症とは、場所の見当識、季節に合った服が着れないなどの判断力、食事、トイレ、移動などの基本的ADLが障害されている場合で、誰がみても認知症と判断できる状態の患者です。HbA1c 8.5%未満としているのは、8.5%以上だと、肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症のリスクが上昇し、さらに上がると高浸透圧高血糖状態(糖尿病性昏睡)のリスクが高くなるからです(第3回参照)。3)65~75歳未満の前期高齢者で、低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合は、まず元気なカテゴリーIの場合を考えます。この場合は(1)から-0.5%で、HbA1c 7.5%未満、目標下限値はHbA1c 6.5%となります。すなわち、7.0%±0.5%前後です。前期高齢者では、カテゴリーが進むにつれて0.5%ずつ目標値が上昇していき、カテゴリーIIIでは後期高齢者と同じHbA1c 8.5%未満、目標下限値はHbA1c 7.5%です。4)つぎは低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用していない場合で、DPP-4阻害薬、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬などで治療している場合です。この場合、血糖コントロール目標は従来の熊本宣言のときに出された目標値と同様で、カテゴリーIとIIの場合はHbA1c 7.0%未満、カテゴリーIIIの場合はHbA1c 8.0%未満で、目標下限値はなしです。このように、低血糖のリスクの有無で目標値が異なるのはわが国独自のものです。わが国では医療保険などでDPP-4阻害薬などが使用できる環境にあるので、低血糖のリスクが問題にならない場合は、「高齢者でも良好なコントロールによって合併症や老年症候群を防ごう」という意味だと解釈できます。

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プライマリケアでの抗菌薬処方、推奨期間を超過/BMJ

 英国では、プライマリケアで治療されるほとんどの一般感染症に対し、抗菌薬の多くがガイドラインで推奨された期間を超えて処方されていたことが、英国公衆衛生庁(PHE)のKoen B. Pouwels氏らによる横断研究の結果、明らかとなった。プライマリケアにおける抗菌薬の使用削減戦略は、主に治療開始の決定に焦点が当てられており、抗菌薬の過剰な使用に、どの程度治療期間が寄与しているかは不明であった。著者は、「抗菌薬曝露の大幅な削減は、処方期間をガイドラインどおりにすることで達成できる」とまとめている。BMJ誌2019年2月27日号掲載の報告。13適応症に対する抗菌薬の実際の処方期間とガイドラインの推奨期間を比較 研究グループは、英国プライマリケアの大規模データベース(The Health Improvement Network:THIN)を用い、2013~15年にプライマリケアで13の適応症(急性副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性咳嗽/気管支炎、肺炎、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪、急性中耳炎、急性膀胱炎、急性前立腺炎、腎盂腎炎、蜂窩織炎、膿痂疹、猩紅熱、胃腸炎)のうち、いずれか1つに対して抗菌薬が処方された93万1,015件の診察を特定し、解析した。 主要評価項目は、ガイドラインの推奨期間よりも長く抗菌薬が処方された患者の割合と、各適応症に対する推奨期間を超えた合計処方日数であった。呼吸器感染症では80%以上がガイドラインの推奨期間超え 抗菌薬が処方された主な理由は、急性咳嗽/気管支炎(38万6,972件、41.6%)、急性咽頭炎(23万9,231件、25.7%)、急性中耳炎(8万3,054件、8.9%)、急性副鼻腔炎(7万6,683件、8.2%)であった。 上気道感染症と急性咳嗽/気管支炎への抗菌薬処方が、全体の3分の2以上を占めており、これらの治療の80%以上がガイドラインの推奨期間を超えていた。一方で、注目すべき例外としては、急性副鼻腔炎の治療で9.6%(95%CI:9.4~9.9%)のみが推奨期間の7日を超えており、急性咽頭炎については2.1%(95%CI:2.0~2.1%)のみが同10日を超えていた(最新の推奨期間は5日間)。女性の急性膀胱炎に対する抗菌薬の処方では、半分以上が推奨期間よりも長く処方されていた(54.6%、95%CI:54.1~55.0%)。 大半の非呼吸器感染症では、推奨期間を超えて抗菌薬が処方された割合は低値であった。抗菌薬を処方した診察93万1,015件において、ガイドラインの推奨期間を超えて抗菌薬が処方された期間は約130万日間であった。

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