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COVID-19患者、ウイルス排出期間中央値が20日/Lancet

 新型コロナウイルスへの感染が確認された成人入院患者について調べたところ、高齢、高Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、Dダイマー値1μg/L超が、院内死亡リスク増大と関連することが示された。また、生存者のウイルス排出期間中央値は20.0日であった。中国・北京協和医科大学付属医院のFei Zhou氏らが、患者191例について行った後ろ向きコホート研究を報告した。Lancet誌オンライン版2020年3月9日号掲載の報告。1月末までに退院・死亡した患者を比較 研究グループはCOVID-19患者について、疫学的および臨床的特性は報告されているが、死亡リスク因子やウイルス潜伏期間など詳細な臨床経過は十分に描出されていないことから今回、後ろ向き多施設コホート研究を行った。 対象は、中国湖北省武漢市の金銀潭病院とWuhan Pulmonary Hospitalに入院し、2020年1月31日までに退院または死亡した18歳以上の患者。患者に関する人口統計学的特性、臨床、治療、ウイルスRNA検出のために連続的に採取された検体に関する情報などの検査データを電子医療記録から抽出し、生存者と非生存者の比較を行った。 単変量および多変量解析を行い、入院中の死亡と関連したリスク因子を調べた。年齢1歳増加で死亡リスクは1.1倍に 解析対象患者は191例(金銀潭病院135例、Wuhan Pulmonary Hospital 56例、年齢中央値56.0歳[範囲:18~87]、男性62%)で、そのうち137例が退院し、入院中の死亡は54例だった。 対象患者のうち91例(48%)は併存疾患があり、そのうち高血圧症が最も多く58例(30%)、糖尿病36例(19%)、冠動脈性心疾患15例(8%)だった。 多変量解析の結果、院内死亡リスク増大と関連していたのは、入院時において、高齢(1歳増加当たりのオッズ比[OR]:1.10、95%信頼区間[CI]:1.03~1.17、p=0.0043)、高SOFAスコア(OR:5.65、95%CI:2.61~12.23、p<0.0001)、Dダイマー値が1μg/L超(同:18.42、2.64~128.55、p=0.0033)だった。 生存者におけるウイルス排出期間中央値は20.0日(IQR:17.0~24.0)であったが、非生存者は死亡までCOVID-19の起因ウイルス(SARS-CoV-2)が検出可能だった。なお生存者においてウイルス排出が観察された最長期間は37日だった。 結果を踏まえて著者は、「医師が患者の予後不良を予見可能なリスク因子として、初期段階で高齢、高SOFAスコア、Dダイマー値が1μg/L超であることだ」と述べるとともに、「ウイルス排出が長期にわたることは、今後の感染患者の隔離および最適な抗ウイルス治療戦略の理論的根拠となる」とまとめている。

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新型コロナ感染後、発症前の2次感染が多い可能性

 新型コロナウイルスの連鎖感染の連続症例の発症間隔について、北海道大学の西浦 博氏らが28ペアの連続症例のデータから推計したところ、潜伏期間中央値(約5日)と同等もしくはそれより短かった。この結果は、感染から発症までの間に、多くの2次感染が起こっている可能性を示唆している。International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2020年3月4日号に掲載。 流行初期に湖北省武漢市で報告されたデータを使用した疫学研究(Li Q, et al. N Engl J Med. 2020 Jan 29. [Epub ahead of print])では、連続症例の発症間隔は平均7.5日と推計されている。しかし、このデータには連続症例が6ペアしかなく、サンプリングバイアスがもたらされている可能性がある。 著者らは、公表されている研究論文と症例調査報告から、1次症例(infector)と2次症例(infectee)の発症日を収集。データの信頼性を主観的にランク付けし、すべてのデータ(n=28)およびデータの確実性が高いペアのサブセット(n=18)について分析した。さらに流行がまだ拡大期にあるため、データの右側切り捨てを調整した。 右側切り捨てを考慮し分析した結果、すべてのペアのデータにおいて連続症例の発症間隔の中央値は4.0日(95%信頼区間:3.1~4.9)、データの確実性が高いペアのデータに絞ると4.6日(同:3.5~5.9)と推計された。 著者らは、「COVID-19の発症間隔は、重症急性呼吸器症候群(SARS)よりも短く、SARSの発症間隔を用いた計算はバイアスをもたらす可能性がある」と指摘している。

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現場に即した新型コロナ対策シンポジウムを配信/ファイザー

 ファイザー株式会社(本社:東京都渋谷区)は、新型コロナウイルス感染症に関する情報提供の一環として、3月23日(月)、31日(火)に医療者向けインターネットシンポジウムを開催する。両日とも、現場の第一線で活躍する忽那 賢志氏らが講演を行う予定で、同社の無料会員制サイト『PfizerPRO』から視聴可能である。 詳細は以下のとおり。(1)COVID-19セミナー 現場に届け、緊急新型コロナ対策 演題名:「新型コロナ:今分かっている事、出来る事」  日時:2020年3月23日(月) 18:00~19:30(質疑応答を含む)  セミナーコーディネーター:青木 眞氏(感染症コンサルタント)  演者:忽那 賢志氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター国際感染症対策室 医長 国際診療部 副部長[兼任])  演者:坂本 史衣氏(聖路加国際病院QIセンター感染管理室 マネジャー) (2)若手医師セミナー(若手医師以外も視聴可) 演題名:「新型コロナウイルス:その現状と対策 疫学・臨床・感染管理それぞれの視点から」 日時:2020年3月31日(火) 19:00~20:15(質疑応答を含む) セミナーコーディネーター:青木 眞 先生(感染症コンサルタント) 演者:神谷 元氏(国立感染症研究所 感染症疫学センター)  演者:忽那 賢志氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター国際感染症対策室 医長 国際診療部 副部長[兼任])  演者:坂本 史衣氏(聖路加国際病院QIセンター感染管理室 マネジャー)

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進行性核上性麻痺〔PSP:progressive supranuclear palsy〕

1 疾患概要■ 概念・定義進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、中年期以降に発症し、核上性の垂直性眼球運動障害や偽性球麻痺、構音障害、筋強剛、易転倒性を呈し、パーキンソン病などとの鑑別診断を要する緩徐進行性の神経変性疾患である。1964年に掲載1)された3名の提唱者の名前を取りSteel-Richardson-Olszewski症候群とも呼ばれる。病理学的には、異常リン酸化タウが蓄積したtufted astrocytesが特異的な所見である。■ 疫学わが国での有病率は、人口10万対10~20人とされている2)。■ 病因病因はいまだ不明であるが、病理学的には黒質や淡蒼球、視床下核、中脳被蓋、橋などに程度の強い神経細胞脱落や、これらの脳幹、基底核のほか、大脳皮質にも神経原線維変化を認め、タウ蛋白の異常沈着や遺伝子異常が指摘され、タウオパチーの1つと考えられている。神経生化学的にはドパミン、アセチルコリン、ガンマアミノ酪酸(GABA)、ノルアドリンなどの複数の神経伝達物質の異常を認めている。多くが孤発例である。■ 症状臨床症状としては、易転倒性が特徴的であり、通常は発症1年以内の初期から認められる。病名の由来である垂直方向の眼球運動障害は、とくに下方視の障害が特徴的であるが、病初期には目立たないことや羞明や複視と訴えることもあり、発症3年以内程度で出現するとされている。核上性の麻痺のため、随意的な注視が障害される一方で、頭位変換眼球反射は保たれている。四肢よりも頸部や体幹に強い傾向の筋強剛を示し、進行すると頸部が後屈して頸部後屈性ジストニアを呈する。偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害を中期以降に認める。失見当識や記銘力障害よりは、思考の緩慢化、情動や性格の変化などの前頭葉性の認知障害を呈する3)。■ 分類典型例であるRichardson症候群の他に多様な臨床像があり、以下に示す非典型例として分類されている。1)Richardson症候群(RS):易転倒性や垂直性核上性注視麻痺を呈し、最も頻度の高い病型である。2)PSP-Parkinsonism(PSP-P):パーキンソン病と似て左右差や振戦を認める一方で、初期には眼球運動障害がはっきりせず、パーキンソン病ほどではないがレボドパ治療が有効性を示し、RSより生存期間が長い。3)PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF):わが国から報告された「純粋無動症(pure akinesia)」にあてはまり、無動やすくみ足などを呈し、RSより罹病期間は長い。4)PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS):失行や皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質症状と明瞭な左右差のあるパーキンソニズムといった大脳皮質基底核変性症に類似した症状を呈する。5)PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA):失構音を中心とした非流暢性失語を示す。6)PSP with cerebellar ataxia(PSP-C):わが国から提唱された非典型例で、病初期に小脳失調や構語障害を呈する。■ 予後分類された臨床像による差や個人差が大きい。平均して発症2~3年後より介助歩行や車椅子移動、4~5年で臥床状態となり、平均罹病期間は5~9年という報告が多い。肺炎などの感染症が予後に影響することが指摘されている4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)指定難病としての本疾患の診断基準は、40歳以降で発症することが多く、また、緩徐進行性であることと、主要症候として、(1)垂直性核上性眼球運動障害(初期には垂直性衝動性眼球運動の緩徐化であるが、進行するにつれ上下方向への注視麻痺が顕著になってくる)、(2)発症早期(おおむね1~2年以内)から姿勢の不安定さや易転倒性(すくみ足、立直り反射障害、突進現象)が目立つ、(3)無動あるいは筋強剛があり、四肢末梢よりも体幹部や頸部に目立つ、の3項目の中から2項目以上があること、および以下の5項目の除外項目、すなわち、(1)レボドパが著効(パーキンソン病の除外)、(2)初期から高度の自律神経障害の存在(多系統萎縮症の除外)、(3)顕著な多発ニューロパチー(末梢神経障害による運動障害や眼球運動障害の除外)、(4)肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、神経症状の著しい左右差の存在(大脳皮質基底核変性症の除外)、(5)脳血管障害、脳炎、外傷など明らかな原因による疾患、を満たすこととされている4)。2017年には、Movement Disorder Societyから、多様な臨床像に対応した新たな臨床診断基準が提唱されている5)。頭部MR冠状断で中脳や橋被蓋部の萎縮や、矢状断で上部中脳が萎縮することによる「ハチドリの嘴様」に見える(humming bird sign)画像所見は、本疾患に特徴的とされ、鑑別診断の際に有用である。MIBG心筋シンチでは、心臓縦隔の取り込み比(H/M比)が低下するパーキンソン病やレビー小体型認知症と異なり、本疾患では原則としては低下せず、正常対照と差がない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までのところ、根本的な治療法や症状進行を遅延させる予防法は確立されていない。初期には抗パーキンソン病薬が有効性を示すこともある。三環系抗うつ薬、抗コリン薬、コリン作動薬などの有効性を指摘する報告もあるが、効果が短期間であったり副作用を生じるなど経験の範囲を出ない。より早期からのリハビリテーションによるADLに対する有用性が示唆されている。残存機能の維持や拡大にむけた理学療法、作業療法、言語・摂食嚥下訓練などが行われている。4 今後の展望タウ蛋白をターゲットとした免疫療法などが試みられてきたが、有効性の認められた薬剤は現在ない。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 進行性核上性麻痺(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(研究代表者:中島健二)(サイト内では「PSP進行性核上性麻痺 診断とケアマニュアル」、「進行性核上性麻痺の臨床診断基準(日本語版)」、「進行性核上性麻痺評価尺度(日本語版)」などの閲覧ができる医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PSPのぞみの会(患者とその家族および支援者の会)1)Steele JC, et al. Arch Neurol. 1964;10:333-359.2)Takigawa H, et al. Brain Behav. 2016;6:e00557.3)中島健二,古和久典. 日本医師会雑誌. 2019;148(特別号(1)):S85-S86.4)難病情報センター(ホームページ). 進行性核上性麻痺. https://www.nanbyou.or.jp/entry/4115.(2020年2月閲覧).5)Hoglinger GU, et al. Mov Disord. 2017;32:853-864.公開履歴初回2020年03月16日

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COVID-19への初期診療の手引きが完成/日本プライマリ・ケア連合学会

 日本プライマリ・ケア連合学会(理事長:草場 鉄周)は、3月11日の同連合学会のホームページ上で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き」を公開(ダウンロード可能)した。 本手引きは、病院などの療資源の制限されたセッティングでの診療を想定し、理想的な感染管理と現実との間の妥協点の例を案として示すことを目的として、同連合会の予防医療・健康増進委員会の感染対策プロジェクトチームの監修で作成された。一番身近で患者を診る医療者が知っておくべきことを網羅 すでに同じような手引きやマニュアルは、ほかの学会などからも提示されているが、本手引きでは、図表を多用し、感冒症状との鑑別や在宅療養、医療者の感染防御、血液透析施設、訪問診療、高齢者施設などでの感染防御にも触れているのが特徴。 主な手引きの内容は以下のとおり。1.はじめに2.新型コロナウイルス感染症は症状が長く続く3.高齢者と基礎疾患患者の致命率が高い4.感冒様症状への対処法をあらかじめ地域住民や患者に伝える5.感冒様症状の患者には一定期間の在宅療養を促す6.在宅療養における家族内感染リスクの説明7.感冒様症状の患者からの電話相談への対応8.感冒様症状の患者が来院した場合のトリアージと動線分離9.診療時の感染予防策10.診療(診察及び検査等)の実際(軽症かつ発症初期の患者への対応、感染症を疑うときなど)11.医療機関職員の体調管理12.血液透析施設における感染対策13.訪問診療における感染対策14.高齢者施設における感染対策15.感染者の人権擁護及び風評被害対策●参考資料及びウェブサイト また、本手引きは「重要な情報更新があり次第、できるだけ迅速な改定を予定する」としている。

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COVID-19疑い例の診療に関する留意点/日本医師会

 3月11日、日本医師会・釜萢 敏氏(同会感染症危機管理対策室長)は、「新型コロナウイルス感染症が疑われる者の診療に関する留意点について」記者会見で説明し、一般の医療機関においても十分な周知を求めた。迅速診断実施による感染リスクを考慮 釜萢氏は、地域の各医療機関の外来に共通する感染予防策として、基本的に誰もが新型コロナウイルスを保有している可能性があることを想定し、すべての患者の診療において、標準予防策であるサージカルマスクの着用と手指衛生の励行を徹底するよう指示した。患者が発熱や上気道症状を有するなどの場合であっても、検体採取やエアロゾルが発生する可能性のある手技を実施しないときは、標準予防策の徹底で差し支えないという。 同氏は、厚生労働省と相談の上、通知に「インフルエンザなどの場合、検査をせず臨床診断による治療薬の処方をご検討ください」という旨を追加したことを報告。「迅速診断実施に関する危険性が、北海道の事例で明らかになっている。検査をしないデメリットがないとは言えないが、現場で防護具が不足していることを踏まえれば、必要な措置である」とした上で、医療現場における患者への丁寧な説明を求めた。 検体採取などを実施する際は、徹底した感染予防策が必須 新型コロナウイルス感染症患者・疑い患者を診察する際は、各地域における感染者の報告状況や帰国者・接触者外来の設置状況などを考慮し、下記に基づいて感染予防策を講じる。・新型コロナウイルス感染症患者に対しては、標準予防策に加えて、飛沫予防策および接触予防策を実施すること・同患者の鼻腔や咽頭から検体を採取する際には、サージカルマスクなど、眼の防護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)、ガウンおよび手袋を装着すること・同患者に対し、エアロゾルが発生する可能性のある手技(気道吸引、下気道検体採取など)を実施する場合は、N95マスク(またはそれに準ずるマスク)、眼の防護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)、ガウンおよび手袋を装着すること・同患者の診察において上記感染予防策をとることが困難である場合は、最寄りの帰国者・接触者外来に紹介すること・基本的にシューズカバーをする必要はないこと・個人防護具を着用中また脱衣時に眼・鼻・口の粘膜を触れないように注意し、着脱の前後で手指消毒を実施すること適切な感染予防策を講じていれば、濃厚接触者には該当しない 医療現場において、新型コロナウイルス感染者と知らずに診察する事例が散見され、問題となっていることについて、釜萢氏は、「原則として、診察した患者が感染者だと後に判明した場合も、上記に基づいた感染予防策を適切に講じていれば、医療従事者は濃厚接触者には該当しない」と強調した。 一方で、疑い患者の診療に携わった医療機関の職員は、濃厚接触者に該当するかどうかに関わらず、毎日検温を実施し、自身の健康管理を強化する必要があると述べた。 患者が発熱や上気道症状を有しているということのみを理由に、当該患者の診療を拒否することはできない(応招義務を定めた医師法・歯科医師法 第19条第1項における診療を拒否する「正当な事由」に該当しないため)。診療が困難である場合は、少なくとも帰国者・接触者外来や疑い患者を診療可能な医療機関への受診を適切に勧奨しなければならない。PCR検査が適切に実施されなかった事例の中間報告 最後に、同会が実施しているPCR検査の不適切事例に関する調査については、13日に一旦締め切り、整理した上でその結果を公表する意向を表明した。「検査に結び付かなかった理由をみると、検査能力が限られている中で、帰国者・接触者相談センターが苦慮していることがうかがえる」と語り、今後検査できる機関の増加で解消されるとの見通しを示した。 その上で釜萢氏は、改めて「PCR検査はどの医療機関でもできるものではない」と強調し、国民への周知に対する協力を求めた。

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感染症の名著オブ名著【Dr.倉原の“俺の本棚”】第28回

【第28回】感染症の名著オブ名著ケアネットでは「Dr.岡の感染症プラチナレクチャー」(CareNeTV)を配信しているので、今さら紹介するのも気が引けるのですが、ええい、この連載を続けて2年。もはやこの本を紹介せずにはいられないのだッ!『感染症プラチナマニュアル2020』岡 秀昭/著. メディカル・サイエンス・インターナショナル. 2020年私が研修医の頃には、いろいろな感染症のマニュアル本があったのですが、ここ最近は感染症プラチナマニュアルが一強となっています。めちゃくちゃ強いです、この本。言うなれば、日本のサンフォードみたいなものですよ(サンフォードも日本語版があるのですが……)。この本のスゴイところは、毎年改訂されていくところです。そのため、ガイドラインが変更になったり、新しい臨床試験が発表されたりすると、随時改訂されていきます。改訂され続けて、ついに約500ページになってしまいました。とはいえ、本の大きさは通常版の場合スマホとそう変わらない大きさです(写真)。写真. スマホとほぼ同じサイズ!1年間に2,000円出すだけで、勝手に※更新されていく感染症マニュアルが手に入るわけですから、買わない手はどこにもないわけで。※「勝手に」と書くと非常に失礼ですね。岡先生が血と汗と涙を流しながら改訂しておられるのです。実はですね、私も2015年から毎年改訂する呼吸器のマニュアル本『ポケット呼吸器診療』を出版しているんです(ここで自著宣伝ッ!)。岡先生が先だったのか、私が先だったのかはわかりませんが、ほぼ同じ時期に出版し始めたと記憶しています。なので、個人的にはこの『感染症プラチナマニュアル』は兄弟みたいなものだと思っているんです。出版社が全然違うので、異母兄弟ですけど。『感染症プラチナマニュアル』は、抗菌薬全般、微生物からのアプローチ、病態・臓器別のアプローチの順番で掲載されています。市中肺炎の治療で困ったら、呼吸器感染症から調べてもよいし、肺炎球菌だとわかっているなら、微生物から調べてもよい。そういうつくりになっています。あ、小ネタですが、『感染症プラチナマニュアル』にはパラパラ漫画がついています。今回は2つの抗菌薬が協力して菌を倒すというストーリーですが、購入してまず最初にやるのがこのパラパラ漫画です(笑)。『感染症プラチナマニュアル2020』岡 秀昭/著出版社名メディカル・サイエンス・インターナショナル定価本体2,000円+税サイズ三五変刊行年2020年

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COVID-19、PCR検査検体採取の実際/日本臨床微生物学会

 2020年3月5日、日本臨床微生物学会は「COVID-19緊急Webセミナー」を行った(司会は舘田 一博氏[東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 教授]・大塚 喜人氏[亀田総合病院 臨床検査部 部長])。 Web配信形式で行われた本セミナーは、臨床検査に関わる医療従事者(医師、臨床検査技師、看護師等)を対象として、PCR検査の検体採取時の注意点、保管・輸送方法、検査結果の解釈等について周知を図る目的で開催された(準備ができ次第、 学会サイトで動画公開予定)。 最初に、細川 直登氏(亀田総合病院感染症科 部長)が「診断に必要な検査と検体採取時の注意点」について発表を行い、COVID-19の下記の基本事項を確認した。・初期症状は、一般の感冒症状と区別がつかない・潜伏期は2~14日と推測(米疾病対策センター[CDC]データによる)・潜伏期にも感染性がある・無症状病原体保有者も存在・発症後1週間程度で、呼吸困難を発症する症例に注意(胸部単純レントゲンで浸潤影が見られない肺炎が多い) そのうえで、細川氏は「COVID-19疑いの確度を上げるには胸部CTが有効。これまでに発表された論文によると両肺の胸膜側にすりガラス影が出ることが特徴的で、問診とCTで疑い患者を絞り込むことが大切だ」と強調した。鼻腔からの上気道検体採取が現実的 PCR検査の検体には上気道検体と下気道検体がある。・上気道検体-鼻咽腔スワブ…咽頭スワブよりも感度が高い。-咽頭スワブ…鼻咽腔スワブができない場合に実施。・下気道検体-喀痰…乾性咳嗽が多く、そもそも出ないことが多い。-気管支肺胞洗浄(BAL)…感染リスクがあり、ほとんど行われていない。 この状況を踏まえ、「現段階では鼻咽腔から採取することが多いと考えられる」(細川氏)。【検体採取時の注意点】 検体採取は感染防止手技のトレーニングを受けたものが行うことが原則となる。・スワブは「ウイルス培養用」を使う(「細菌培養用」は不可)。 ・検体採取前に患者情報(氏名・年齢・性別・検体種別)を記入する。 ・鼻咽腔検体採取の場合…鼻腔に対してまっすぐに挿入。咽頭後壁にあたった状態で5秒間待つ。・ラインを目安に綿棒を試験管のフチで折る(折った後の検体側を手で触れないように注意する)。キャップをして完了。 細川氏は「厚労省通知にある発熱等の要件は『PCR検査をしなければならない基準』ではない。臨床経過が合致し、CTで肺炎を疑う症例にはPCR検査を行い、検査結果と患者の状況が矛盾するときはほかの鑑別を検索し、それが否定されたときPCR再検査を選択する、という流れになるだろう。当院でも、すりガラス影が出た患者のPCR検査結果が陰性で、その後に心不全だったことがわかった、という症例を経験した」と述べた。採取後の保管・搬送時にも注意 続いて、三澤 成毅氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床検査技師長)が「臨床検体の取り扱いと各検査時の対応」を発表した。【検体採取後の注意点】・検体採取後の環境は0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸したペーパータオルで拭き取る。・使用済み器材やPPEはビニール袋に入れ、感染性産廃用ボックスに廃棄する。・採取後の検体は診療エリアに保管せず、臨床検査部門へ提出する(提出できない場合は、汚染物専用保冷庫を準備)【検体搬送時の注意点】・検体は3重包装(一次容器:検体容器、二次容器:密閉できるプラスチック袋[吸収剤を入れる]、三次容器:プラスチック製の堅牢な容器)・容器には、新型コロナウイルス感染症疑い患者の検体であることを明示し、ほかの医療スタッフが認識できるようにする。・新型コロナウイルス感染症疑いの患者検体は、世界保健機構(WHO)による「感染性物質の輸送規制に関するガイダンス」分類の「カテゴリーB」にあたり、その搬送規定に従う(厚生労働省「病原体等の国内輸送について)。・輸送ルートは、ほかの患者とできるだけ接触しない導線を選ぶ。採取前にPPE着脱法の確認を 検体採取前にはPPE(個人防護服)を装着する必要がある。とくに外す際に感染が起きやすいので事前に練習が必要である。【装着時の順番と注意点】1)ガウン・手指衛生をする・長袖、膝までの長さのものを使用・袖はまくりあげない2)マスク・鼻あて部を小鼻にフィットさせる・プリーツを伸ばし、鼻から顎までを覆う。3)ゴーグル・フェイスシールド・眼と顔が完全に覆われるように装着。4)手袋・手首が露出しないようガウンの袖口までを覆う。【外す時の順番と注意点】1)手袋・手首部分の外側をつまみ、手袋を中表にして外す。・手袋を外した指先でもう一方の手袋の内側に差し入れ、手袋を引き上げるように外す。・2枚の手袋をひとかたまりにして破棄する。2)ゴーグル・フェイスシールド・外側は汚染されているので、フレーム部分や両側をつまんで外す。・そのまま破棄する。3)ガウン・ひもを外し、ガウンの外側に触れないように首と肩の内側から手を入れて中表にしながら脱ぐ。・脱いだガウンは小さく丸めて破棄する。4)マスク・外側は汚染されているので決して触れず、ゴムやひもをつまんで外し、そのまま破棄する。・手指衛生を行う。※気管吸引液を採取するようなエアロゾルが発生する手技の場合はN95マスク着用を推奨N95マスクは、フィットテストにより最適な製品を選び、使用時シールチェックで確認する。(三澤氏の資料より抜粋)・セミナー動画では9分30秒前後から細川氏による装着解説動画あり。・日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版」においては脱着時に手袋とガウンを一緒に脱ぐとされているが、いずれの方法でも可●マニュアル・教育ツール・手引き【日本臨床微生物学会】医療者向け動画配信/新型コロナウイルス感染症に対する個人防護具の適切な着脱方法~医療従事者が新型コロナウイルス感染症に感染しないために~・臨床材料の取扱いと検査法に関するバイオセーフティーマニュアル-SARS疑い患者-・新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染(疑いを含む)患者検体の取扱いについて【国立感染症研究所】・2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル【日本環境感染学会】・日本環境感染学会教育ツールVer.3(感染対策の基本項目改訂版)【職業感染制御研究会】・安全器材と個人用防護具【WHO】・Rational use of personal protective equipment for coronavirus disease 2019 (COVID-19): Interim guidance, 27 February 2020・Laboratory biosafety guidance related to coronavirus disease 2019 (‎COVID-19)‎: interim guidance, 12 February 2020

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COVID-19、空気・環境表面・PPEからの感染リスクは?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における医療機関内での感染が懸念されているが、環境汚染の程度と感染リスクの関係は明らかになっていない。シンガポール国立感染症センターのSean Wei Xiang氏らは、患者が隔離されている部屋と控え室、診察にあたった試験担当医師のPPE(個人用保護具)からサンプルを収集、その汚染程度を調査した結果をJAMA誌オンライン版2020年3月4日号のリサーチレターに報告した。 2020年1月24日~2月4日、COVID-19患者3例が隔離されている部屋と浴室において、1例は定期清掃前、2例は定期清掃後にサンプルを採取した。部屋の接触頻度の多い部分は5,000ppmのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムで清拭(1日2回)、床は1,000ppmのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムで清拭した(1日1回)。2週間の隔離期間のうち採取を実施したのは5日間だった。 主な結果は以下のとおり。・1例目(清掃後の採取):病状は中等度、咳と発熱、息切れがあった。発症後4日目と10日目に採取。患者は清掃後も症状を示していたが、全サンプルが陰性だった。・2例目(清掃後の採取):病状は中等度で咳と発熱、喀痰があった。発症後8日目と11日目に採取。8日目は症状があり、11日目は無症状だった。全サンプルが陰性だった。・3例目(清掃前の採取):症状は咳だけで、3例中最も病状が軽かった。発症後5日目に採取。居室15ヵ所(換気扇あり)中13ヵ所(87%)、トイレ5ヵ所(便器、洗面台、ドアハンドル)中3ヵ所(60%)が陽性となり、控え室と廊下は陰性だった。・靴の表面からの採取サンプルは1点のみ陽性で、ほかはすべて陰性だった。・空気からの採取サンプルはすべて陰性だった。 著者らは、「空気のサンプルは陰性だったが、排気口のサンプルは陽性であり、ウイルスを含む飛沫が空気の流れで通風孔に運ばれて溜まった可能性がある」と指摘。さらに清掃後に採取した2例の全サンプルが陰性だったことを受け、「新型コロナウイルス感染者の飛沫や便による汚染環境が感染経路になり得ることを示唆すると同時に、環境衛生と手指衛生を厳守する必要性を裏付けるものだ」としている。 なお、本試験の限界として、ウイルスの生存能力を実証するための培養は実施されなかったこと、方法論に一貫性がなくサンプルサイズが小さかったこと、採取された空気は全体のほんのわずかに過ぎなかったことを挙げている。

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COVID-19、入院時の発熱例は4割程度/NEJM

 発生から当初2ヵ月間に新型コロナウイルスへの感染が確認された1,099例の臨床的特徴を調べたところ、入院時に発熱が認められたのは43.8%にとどまり、また胸部CT検査で異常所見が認められたのは56.4%と、熱症状や肺の異常所見が認められない患者が多かったという。中国・広州医科大学のWei-jie Guan氏らによる調査報告で、NEJM誌オンライン版2020年2月28日号で発表された。なお本報告は3月3日に内容が更新されている。入院患者1,099例のICUへの入室、人工呼吸器の使用、死亡を調査 研究グループは、2020年1月29日までに中国本土30の省・自治区等の病院552ヵ所に入院した、新型コロナウイルスへの感染が検査で確認された1,099例について、その臨床的特徴を調査した。 主要複合エンドポイントは、集中治療室(ICU)への入室、人工呼吸器の使用、死亡だった。咳症状は約68%、下痢は少なく3.8% 対象患者の年齢中央値は47歳、女性は41.9%だった。 主要複合エンドポイントの発生は67例(6.1%)で、うちICU入室が5.0%、侵襲的人工呼吸器使用が2.3%、死亡は1.4%だった。 患者のうち野生動物との接触歴があったのは1.9%のみだった。武漢市非居住者のうち、72.3%に武漢市居住者との接触歴があり、そのうち31.3%に同市への訪問歴があった。 最も多い症状は発熱で、入院時に認められたのは43.8%で、入院中には88.7%に認められた。次いで咳症状が67.8%にみられた。下痢症状は概して少なく3.8%だった。潜伏期間の中央値は4日(四分位範囲:2~7)だった。 入院時の胸部CT所見で、肺すりガラス状陰影が認められたのは56.4%だった。非重症患者877例中157例(17.9%)と重症患者173例中5例(2.9%)では、X線またはCTによる異常が認められなかった。入院時にリンパ球減少症がみられたのは83.2%だった。

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新型コロナをきっかけに!今すぐやるべき「お金の対策」【医師のためのお金の話】第30回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。2020年3月11日は、東日本大震災発生から丸9年にあたる日です。さまざまな追悼・復興祈念行事も10年目となる来年を機に縮小が予定されるものも多いと聞き、被災者の方の胸中は複雑ではと感じます。さて、東日本大震災のような大規模災害を予測することは困難であり、ある日突然起こります。新型コロナウイルス肺炎で皆さんも今体験されているように、危機は突然やってきます。各種の防災マニュアルを見ると「外部の救援が到着するまでの3日間を生き延びること」がメインテーマとなることが多いようです。確かに、自分や家族の命を守るためには「3日が大事」というのは理解できますが、実際に助かったら4日目以降の生活も考えなければなりません。「まずは命を守る」の後には現実の生活が待っており、大規模災害では発生直後の対策に加えてそれ以降の生活防衛も重要です。新型肺炎では都市封鎖も! 命の次に大切なのは「お金」と「情報」中国発の新型コロナウイルス肺炎では、武漢という東京に匹敵する人口を抱えた大都市が封鎖されました。これなど、まさに想定外の事態です。都市活動が停止すると、どんなことが起こるでしょうか? 武漢では外出すらままならない状態が続き、社印やインターネットバンキングのワンタイムパスワード端末をオフィスに取りに行くことができずに資金繰りに窮する中小企業が多く出たそうです。資金がショートすると倒産してしまう企業経営ほどではないにせよ、個人もお金がなければ生活が困難になります。「都市封鎖なんて中国でしか起こらないでしょ?」と思われるかもしれませんが、実際にイタリアでも地区封鎖が行われました。状況次第では日本でも実行される可能性はゼロではありません。こうしたことを念頭に置いて、命の次に大事な「お金」と「情報」の管理を考えておく必要があります。私が実践する、お金と情報を防衛する「3つの対策」以下、私がとっている3つの対策を紹介しましょう。対策1)複数の決済手段を用意する大規模災害において最も脆弱なのは、電気・ガス・水道、それに鉄道やデータサービスといった社会インフラです。「物理的に存在するもの」は災害に弱い、と言わざるを得ません。では、災害に対して比較的強いものは何でしょうか? いろいろな考え方がありますが、私は「バーチャルなもの」ほど災害に対する耐性が強くなると考えています。銀行口座1つとっても、実店舗の通帳だけよりもインターネットバンキングやデビットカードなどの選択肢もあるほうが有利です。もちろん、災害発生直後は電源が喪失してブラックアウトする可能性も高いので、手元にある程度の現金を準備しておく必要はあるでしょうが、国家機能が維持されている限り、災害発生から数日すれば復旧する可能性が高いでしょう。災害時に多額の現金を持ち歩くことは安全面からも望ましくありません。このように決済手段は1つではなく、複数所有していることが望ましいのです。さらに言えば「PayPal」など国境をまたいだ決済手段も持っておくと、大規模災害やテロ事件に際しても比較的安心できるはずです。対策2)地震保険に加入する1995年に発生した阪神・淡路大震災の時には、地震保険に加入している世帯がわずか9%だったことが問題になりました。2018年時点の世帯加入率は32.2%まで上昇しましたが、まだ過半数に届きません。世帯加入率には賃貸世帯も分母に含まれますが、そのことを差し引いても低いと感じます。私は住居系物件を購入したら地震保険の加入は必須だと考えています。事業系物件であれば地震保険が割高で事実上加入できないこともあるのですが、住居系物件の地震保険は、政府の政策の一環として損益度外視の保険料体系となっています。大規模災害で家財のみならず所有物件まで失ってしまったら再起は相当難しいでしょう。住宅ローンがない方も火災保険と地震保険には加入しましょう。対策3)クラウドで情報を管理するお金の管理以外では、業務を継続できるかどうかも重要なポイントです。とくに私のように個人で仕事をしている方や開業医の先生にとっては死活問題でしょう。紙ベースの情報管理では、大規模災害が発生するとひとたまりもありません。江戸時代の商家では火事になると売り上げや顧客の情報が書かれた「大福帳」を井戸に投げ込んでから逃げた、といわれています。業務を継続するうえで情報ほど価値のあるものはなく、大規模災害に際して死守するべきものの筆頭に挙げられます。私自身は、文献や手術のコツを記載した長年の「備忘録」をはじめ、仕事関係の資料はほぼ100%クラウドに電子データとして保管しています。開業医の方は、ぜひ「クラウド型電子カルテ」を利用しましょう。紙カルテが災害に弱いことはもちろんですが、電子カルテであっても、サーバーにデータを保管する形式だと火災や津波でサーバーを失ったら終わりです。この点クラウド型であれば、大事な診療情報を安全に保管できます。最近では従量課金制のリーズナブルなサービスも提供されています。これで端末やサーバーが破損しても致命的なダメージは避けられます。物理的なバックアップを取っておいても大規模災害の前にはほぼ無力。普段から情報の電子化を進め、災害に強い体制を整えましょう。

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COVID-19の予防ワクチンの開発始動

 3月4日、アンジェス株式会社は、大阪大学と新型コロナウイルス(COVID-19)の予防ワクチン共同開発のプレス発表会を行い、ワクチン開発の経緯、今後の見通しなどを説明した。 セミナーでは、同社代表取締役社長の山田 英氏が今回の大阪大学との開発事業について、過去にDNAプラスミド製品を上市した実績から開発を行うこととなった経緯を説明した。なお、ワクチンの構築・製造は、タカラバイオ株式会社が担当する。安全、安価、汎用性のあるDNAワクチン つぎに森下 竜一氏(大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学 教授)が、「新型コロナウィルス 予防ワクチンの開発について」をテーマに、開発されるワクチンの仕組みや完成までの見通しを解説した。 今回、COVID-19の予防を目指すワクチンはDNAワクチン。DNAワクチンとは、対象とする病原体のタンパク質をコードする環状DNA(プラスミド)を接種することで、病原体たんぱく質を体内で生産し、病原体に対する免疫を付与するワクチンである。その特徴として、危険な病原体を一切使用しないため、安全かつ短期間に製造(大腸菌培養)でき、今回のCOVID-19のような感染症へのワクチンには最適だという。参考までに、プラスミドを製品化した治療薬は、、HGF遺伝子治療薬(ベペルミノゲンペルプラスミド)がある。 今回開発されるワクチンは、COVID-19のウイルス表面に発現するスパイクたんぱく質遺伝子をコードしたDNAワクチンであり、ワクチンを投与することにより体内でDNAからスパイク状たんぱく質が発現する。すると被接種者の免疫が、スパイクたんぱく質抗原として認識し、スパイクたんぱく質に対する液性・細胞性免疫が誘導されることで、ウイルスに感染しにくくなったり、重症化が抑えられる効果が予想される。また、安全性についても、10年以上前から行われている12種類のDNAワクチンの臨床試験では、1,400例以上の健康な人に投与されたが、懸念される事態は報告されていないという。最短6週でワクチン製造へ 森下氏によると開発に必要なCOVID-19の遺伝子情報は、「すでに厚生労働省、国立感染症研究所などから入手している」という。開発のプロセスとして、ウイルスの遺伝子情報でプラスミドを作成し、ラットなどの感染モデルで薬効・薬理試験を行う。医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準(GMP)を経て、ウサギなどで安全性試験を行い、研究新薬規制(IND)クリアした後に、臨床試験へと移る。DNAプラスミド法では、2週間でワクチンを製造、品質保証試験に1ヵ月(4週間)必要となり、最速でプラスミド作成から6~8週でワクチン供給が可能になるという。 最後に森下氏は、「従来の半年近く供給まで時間が必要な鶏卵法、細胞培養法と比べても、大幅な期間短縮でワクチンの供給ができ、安く、簡易な設備で安定製造ができるメリットは大きい」と期待を語った。

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新型コロナウイルス感染症、気になる他診療所の動向は?-会員医師アンケート

 連日、ニュースで大きく取り上げられている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。医師の皆さまは「診療所でどこまで対応するべきなのか」「ほかの施設では検査を希望する患者はいたのか?」など、さまざまな疑問をお持ちではないだろうか。ケアネットでは2020年3月5日(木)、病床を有していない診療所で働く会員医師103名に「新型コロナウイルス感染症、自施設での対応策や困っていること」についてアンケートを行った。 アンケートでは、「COVID-19の検査を希望した患者数」「COVID-19を考慮し、患者と医療者のそれぞれを守るために日常診療で実施している対応や対策」「COVID-19の影響で日常診療において困っていることや、知りたいこと」について聞いた。 主な結果は以下のとおり。・患者から検査を求められた医師は約3割だった。・主な対策は、待合室の整備、手洗い・消毒、電話による事前相談受付の順で多かった。・日常診療において不安なこととして、施設・スタッフ対応、検査対応、マスクなどの衛生用品の供給などが挙がった。 アンケート結果の詳細や自由記述で挙げられた意見などは、以下のページに掲載中。新型コロナウイルス感染症、自施設での対応策や困っていることは?-アンケート結果-

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新型コロナウイルス感染症、自施設での対応策や困っていることは?-アンケート結果-

2019年12月下旬に中国・武漢市で初めて報告され、日本でも大問題に発展している新型コロナウイルス感染症。この感染症が収束するには多くの時間を要するとされ、多くの先生方は自施設での対応に苦慮されているのではないでしょうか。そこで、今回は病床を有していない診療所で働く会員医師に対して、「検査希望患者数」「自施設で行っている対策」「施設対応で困っていること」についてアンケート調査を行いました。患者から検査を求められた医師は約3割理由は定かではありませんが、検査を求められた医師は3割でした。「2020年3月6日からPCR検査が保険適用された」というニュース報道により、今後、検査希望者からの問い合わせが殺到するかもしれません。画像を拡大する主な対策は、待合室の整備や電話による事前相談受付画像を拡大する<回答コメントを抜粋>長期処方で来院回数が少なく済むようにしています高齢の慢性疾患の患者さんの処方日数を増やしている従業員のマスクと手洗いは必須で、午前午後の診療ごとに周囲をアルコールまたは塩素系漂白剤を薄めて拭いている玄関前と診察室に告知、来院時に体温を全員測る、手指消毒を促す事前電話の奨励、電話相談と診察無しでのfax処方など厚生労働省の指針を電話応対者に伝えて、適切な医療機関を受診するように指示しているインフルエンザや普通感冒も含め、気道感染性疾患は車の中で待機して頂き分けて診察している(待合室で)距離を離してすわってもらう待合室は別、ガウン・マスク・手袋で診察来院患者さん全員にもマスク配布対象の可能性がある患者は保健所へ問い合わせるよう指導している出来るだけ換気の良い部屋で、インフルエンザの簡易キットでチェックし、肺炎を疑う際にはX線でチェックをすることにしている。医療従事者はマスク・メガネを着用し、一人診た後は手洗い、うがいを実行するようにしているPCR検査希望の方は受け入れないようにしています自施設で症例が出た場合、その後の対応などに不安画像を拡大する<回答コメントを抜粋>衛生材料が入らない1人でも(自施設で)感染者が出れば、当面休診しなければいけないこと職員に陽性者が出た時の休院期間いつ頃効果の良い薬が出、いつ頃終息するのか?COVID-19を疑っても、検査も診断も治療も何もできない長期処方への変更希望患者の増加(受診回避のため)本当に検査してほしい人も条件に当てはまらなければ検査してもらえない検査ができない上気道感染患者さんの見分け方と対処方法かかりつけ以外の患者を断る方法不安のみでの軽症者の受診若い子供さんのいる職員の休暇の対応画像を拡大するアンケート概要タイトル緊急アンケート!「新型コロナウイルス感染症を考慮し自院で実施している対応」について教えてください。実施日2020年3月5日調査方法インターネット対象病床を有していない診療所で働くケアネット会員医師103名アンケート調査にご協力いただき、ありがとうございました。

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局所進行NSCLCに対する化学放射線療法とペムブロリズマブの同時併用/JAMA Oncol

 化学放射線療法後のPD-L1阻害薬による地固め療法は、Stage III非小細胞肺がん(NSCLC)の全生存率と無増悪生存率(PFS)を改善する。一方、化学放射線療法開始時のPD-L1阻害薬導入についての評価は明らかではない。そこで、NSCLCの根治的化学放射線療法とPD-1阻害薬ペムブロリズマブの同時併用の安全性と忍容性を決定する目的で前向き多施設非無作為化比較第I相試験が行われた。・対象:局所進行切除不能StageIII NSCLC(ECOG PS0~1)21例・介入: ペンブロリズマブを化学放射線併用療法(カルボプラチン+パクリタキセル毎週投与+放射線60Gy[2Gy/回])と併用。[コホート1]化学放射線療法後2〜6週からペンブロリズマブ 200mg 3週間ごと。[コホート2]化学放射線療法の29日目からペムブロリズマブ 100mg 3週間ごと。[コホート3]化学放射線療法の29日目からペンブロリズマブ 200mg 3週間ごと。[コホート4]化学放射線療法の1日目からペムブロリズマブ 100mg 3週間ごと。[コホート5]化学放射線療法の1日目からペンブロリズマブ 200mg 3週間ごと。・評価項目:[主要評価項目]化学放射線療法との併用によるPD-1阻害薬の安全性と忍容性[副次評価項目]PFS、肺炎発症割合など。 主な結果 は以下のとおり。・対象患者21例の年齢中央値は69.5歳であった。・コホート5の安全性拡大コホートでGrade5の肺炎が1例発現した。・Grade3以上の免疫関連有害事象が4例の患者で発生した(18%)。・ペンブロリズマブを1回以上投与した患者(21例)のPFS中央値は18.7ヵ月。6ヵ月PFS率は81.0%、12ヵ月PFS率は69.7%であった。・ペンブロリズマブを2回以上投与した患者(19例)のPFS中央値は21.0ヵ月であった。 これらの結果から筆者らは、StageIII NSCLCに対するPD-1阻害薬と化学放射線療法の併用療法は忍容性があり、PFSも有望であることから、さらなる研究が必要であると述べている。

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COVID-19重症患者に特徴的なCT所見と症状

 中国・重慶医科大学附属第二医院のKunhua Li氏らの調査により、重症または重体のCOVID-19肺炎では、臨床症状、臨床検査値、CT重症度スコアに有意な差があることがわかった。多くの因子が疾患の重症度に関連しており、重症度の判断と予後の評価に役立つとしている。Investigative Radiology誌オンライン版2020年2月29日号に掲載。 著者らは、COVID-19肺炎患者83例(重症または重体が25例、それ以外が58例)について、胸部CT画像所見と臨床データを比較し、重症度に関連する危険因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・重症または重体例はそれ以外の患者に比べて、高齢で併存疾患がある人が多く、咳嗽・喀痰・胸痛・呼吸困難の発現率が高かった。・重症または重体例はそれ以外の患者に比べて、浸潤影、線状影、crazy-paving pattern(メロン皮状の網目陰影)、気管支壁肥厚の発現率が有意に高かった。また、リンパ節腫大、心膜液貯留、胸水貯留の発現率が高かった。・重症または重体例のCT重症度スコアは、それ以外の患者よりも有意に高かった(p<0.001)。・ROC曲線から、2タイプの識別におけるCT重症度スコアの感度は80.0%、特異度は82.8%であった。・重症または重体のCOVID-19肺炎の危険因子は、50歳以上、併存疾患、呼吸困難、胸痛、咳嗽、喀痰、リンパ球減少、炎症マーカー上昇であった。・重症または重体のCOVID-19肺炎におけるCT所見の特徴は、線状影、crazy-paving pattern、気管支壁肥厚、高いCT重症度スコア、肺外病変であった。

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nerinetide、急性期脳梗塞のEVT後の転帰改善せず/Lancet

 開発中の神経保護薬nerinetideは、急性期脳梗塞患者において、血管内血栓回収療法(EVT)施行後の良好な機能的転帰の達成割合を改善しないが、アルテプラーゼによる血栓溶解療法を併用しなかった集団では、これを改善するとともに、死亡を抑制する可能性があることが、カナダ・カルガリー大学のMichael D. Hill氏らによる「ESCAPE-NA1試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2020年2月20日号に掲載された。nerinetideは、シナプス後肥厚部タンパク質95(PSD-95、disks large homolog 4とも呼ばれる)を阻害するエイコサペプチドで、虚血再灌流の前臨床脳梗塞モデルで有効性が確認されている神経保護薬である。良好な機能的転帰をプラセボと比較する無作為化試験 研究グループは、急性期脳梗塞患者において、迅速EVT施行後の虚血再灌流傷害におけるnerinetideの有効性と安全性を評価する目的で、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(カナダ保健研究所[CIHR]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、大血管閉塞発症後12時間以内の急性期脳梗塞で、無作為割り付け時に後遺障害を伴う脳梗塞がみられ、発症前は地域で自立して活動しており、アルバータ脳卒中プログラム早期CTスコア(ASPECTS)が>4点、多相CT血管造影で中等度~良好な側副路充満が示されている患者であった。 被験者はすべてEVT(ステント型血栓回収機器、吸引機器)を施行され、適応がある場合は通常治療としてアルテプラーゼの静脈内投与よる血栓溶解療法が行われた。次いで、nerinetide 2.6mg/kg(最大270mg)を静脈内に単回投与する群、またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、90日時の良好な機能的アウトカム(修正Rankinスケール[mRS]のスコア0~2点)とした。副次評価項目は、神経学的障害(NIHSS:0~2点)、日常生活動作の機能的自立(修正Barthelインデックス[mBI]95~100点)、きわめて良好な機能的アウトカム(mRSスコア0~1点)、死亡などであった。アルテプラーゼ非投与のEVT施行例で、さらなる研究の可能性 2017年3月~2019年8月の期間に、8ヵ国の48の急性期治療病院(カナダ14施設、米国19施設、ドイツ5施設など)で1,105例が登録され、nerinetide群に549例(年齢中央値71.5歳[IQR:61.1~79.7]、女性48.8%)、プラセボ群には556例(70.3歳[60.4~80.1]、50.5%)が割り付けられた。アルテプラーゼは、nerinetide群が549例中330例(60.1%)、プラセボ群は556例中329例(59.2%)に投与された。 90日時のmRSスコア0~2点は、nerinetide群が549例中337例(61.4%)で、プラセボ群は556例中329例(59.2%)で達成され、両群間に有意な差は認められなかった(補正後リスク比[RR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.96~1.14、p=0.350)。 NIHSS 0~2点の達成(nerinetide群58.3% vs.プラセボ群57.6%、補正後RR:1.01、95%CI:0.92~1.11)、mBI 95~100点の達成(62.1% vs.60.3%、1.03、0.94~1.12)、mRSスコア0~1点の達成(40.4% vs.40.6%、0.98、0.85~1.12)および死亡(12.2% vs.14.4%、0.84、0.63~1.13)にも、有意な差はなかった。 アルテプラーゼ非投与例での90日mRSスコア0~2点の達成は、nerinetide群が219例中130例(59.3%)と、プラセボ群の227例中113例(49.8%)に比べ有意に良好であった(補正後RR:1.18、95%CI:1.01~1.38)。また、死亡もnerinetide群で有意に少なかった(0.66、0.44~0.99)。一方、アルテプラーゼ投与例では、このような差はみられなかった(90日mRSスコア0~2点達成の補正後RR:0.97[95%CI:0.87~1.08]、死亡の補正後RR:1.08[0.70~1.66])。 重篤な有害事象の発生は両群でほぼ同等であった(nerinetide群33.1% vs.プラセボ群35.7%、RR:0.92、95%CI:0.79~1.09)。また、進行性脳梗塞(stroke-in-evolution)、新規または再発脳梗塞、症候性頭蓋内出血、肺炎、うっ血性心不全、低血圧、尿路感染症、深部静脈血栓症/肺塞栓症、血管性浮腫の発生にも差はなかった。 著者は、「この新たな知見が確証されれば、さらなる研究を行うことで、EVTが選択されたがアルテプラーゼは併用しない脳梗塞患者の治療へのnerinetide導入に関する詳細なデータがもたらされる可能性がある」としている。

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忽那氏によるCOVID-19最新総説が公開/中外医学社

 中外医学社は2020年3月9日より、忽那 賢志氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)が執筆した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最新総説を「J-IDEO」の号外としてnoteに無料でweb公開している。 これには疫学、伝播様式、臨床症状をはじめ、検査・診断や治療などがエビデンスを基にわかりやすくまとめられている。たとえば、病原体の項には過去のコロナウイルス感染症との致死率や感染力などをまとめた表が、治療の項では治療薬候補の現状を示した表が盛り込まれている。簡潔にまとめられているため、COVID-19の理解について整理したい方にお薦めである。詳細はこちら。

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中條・西村症候群〔NNS:Nakajo-Nishimura syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義1939年に東北帝国大学医学部皮膚科泌尿器科の中條により報告された血族婚家系に生じた兄妹例に始まり、1950年に和歌山県立医科大学皮膚科泌尿器科の西村らが血族婚の2家系に生じた和歌山の3症例も同一疾患としたことで確立した「凍瘡ヲ合併セル続発性肥大性骨骨膜症」(図1)が、中條・西村症候群(Nakajo-Nishimura syndrome:NNS)の最初の呼称である。図1 中條先生と西村先生の論文画像を拡大する2009年に本疾患が稀少難治性疾患として厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業研究奨励分野の対象疾患に採択された際に、中條‐西村症候群との疾患名が初めて公式に用いられ、2011年のPSMB8遺伝子変異の同定を報告した論文により国際的に認められた。その後も厚生労働科学研究において継続的に本疾患の病態解明や診断基準の策定が行われ、「中條・西村症候群」として2014年に小児慢性特定疾病19番、2015年に指定難病268番に登録された。1985年に大阪大学皮膚科の喜多野らが、自験4症例を含む中條の報告以来8家系12症例について臨床的特徴をまとめ、わが国以外で報告のない新しい症候群“A syndrome with nodular erythema,elongated and thickened fingers,and emaciation”として報告したのが、英文で最初の報告である。さらに、1993年に新潟大学神経内科の田中らが、皮膚科領域からの報告例も合わせてそれまでの報告症例をまとめ、新しい膠原病類似疾患あるいは特殊な脂肪萎縮症を来す遺伝性疾患として、“Hereditary lipo-muscular atrophy with joint contracture,skin eruptions and hyper-γ-globulinemia”として改めて報告した。これらの報告を受け、国際的な遺伝性疾患データベースであるOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)に、1986年にNakajo syndromeとして登録番号256040に登録された。本症は長くわが国固有の疾患と考えられてきたが、2010年に脂肪萎縮症を専門とするアメリカのグループによって、類症がjoint contractures,muscular atrophy,microcytic anemia and panniculitis-induced lipodystrophy(JMP)症候群として、わが国以外から初めて報告された。症例はポルトガルとメキシコの2家系4兄妹例のみであり、いずれも発熱の記載はなく、全身の萎縮と関節拘縮が目立つ(図2)。程なく原因としてPSMB8遺伝子変異が同定された。図2 プロテアソーム関連自己炎症性症候群の臨床像画像を拡大するさらに、2010年にスペインの皮膚科医のTorreloらによって報告されたヒスパニックの姉妹例を含む4症例に始まり、脱毛を伴うイスラエルの症例、バングラデシュの姉妹例、ブラジルの症例など、世界中から報告された類症が、chronic atypical neutrophilic dermatosis with lipodystrophy and elevated temperature(CANDLE)症候群である。未分化なミエロイド系細胞の浸潤を伴う特徴的な皮膚病理所見から命名され、スイート症候群との鑑別を要する。冬季の凍瘡様皮疹の有無は明らかでないが、肉眼的にNNSと酷似する(図2)。それらの症例の多くに、JMP症候群と同じ変異を含む複数のPSMB8遺伝子変異が同定されたが、ヘテロ変異や変異のない症例、さらにPSMB8以外のプロテアソーム関連遺伝子に変異が見出される症例も報告されている。これら関連疾患の報告と共通する原因遺伝子変異の同定を受け、NNS・JMP症候群・CANDLE症候群をまとめてプロテアソーム関連自己炎症性症候群(proteasome-associated autoinflammatory syndrome:PRAAS)と呼ぶことが提唱され、OMIM#256040に再編された。現在では、PSMB8以外のプロテアソーム関連遺伝子変異によるPRAAS2や3と区別し、PRAAS1と登録されている。これらの疾患名の変遷を図3にまとめた。図3 プロテアソーム関連自己炎症性症候群の疾患名の変遷画像を拡大する■ 疫学既報告・既知例は東北・関東(宮城、東京、秋田、新潟)の5家系7症例と関西(和歌山、大阪、奈良)の19家系22症例であるが、現在も通院中で生存がはっきりしている症例は関西のみであり、10症例ほどである。中国からもNNSとして1例報告があるほか、諸外国からJMP症候群、CANDLE症候群、PRAASとして25例ほど報告されている。■ 病因・病態NNSは、PSMB8遺伝子のp.G201V変異のホモ接合によって発症する常染色体劣性遺伝性疾患である。わが国に固有の変異で、すべての患者に同じ変異を認める。JMP症候群においては、ヒスパニックの症例すべてにPSMB8 p.T75M変異がホモ接合で存在する。一方、CANDLE症候群においては、ヒスパニック、ユダヤ人、ベンガル人などの民族によって、PSMB8の異なる変異のホモ接合が報告されている。PRAASとして、PSMB8の複合ヘテロ変異を持つ症例も報告されているが、さらに、PSMB8とPSMA3やPSMB4のダブルヘテロ変異、PSMB9とPSMB4のダブルヘテロ変異、PSMB4単独の複合ヘテロ変異、複合体形成に重要なシャペロンであるPOMP単独のヘテロ変異などさまざまな変異の組み合わせを持った症例もCANDLE/PRAASとして報告されている。PSMB8遺伝子は、細胞内で非リソソーム系蛋白質分解を担うプロテアソームを構成するサブユニットの1つである、誘導型のβ5iサブユニットをコードする。ユビキチン-プロテアソーム系と呼ばれる、ポリユビキチン鎖によってラベルされた蛋白質を選択的に分解するシステムによって、不要・有害な蛋白質が除去されるだけでなく、細胞周期やシグナル伝達など多彩な細胞機能が発揮される。特に、プロテアソーム構成サブユニットのうち酵素活性を持つβ1、β2、β5が、誘導型のより活性の高いβ1i、β2i、β5iに置き換わった免疫プロテアソームは、免疫担当細胞で恒常的に発現し、炎症時にはその他の体細胞においてもIFNαやtumor necrosis factor(TNF)αなどの刺激によって誘導され、効率的に蛋白質を分解し、major histocompatibility complex(MHC)クラスI提示に有用なペプチドの産生に働く。NNSでは、PSMB8 p.G201V変異によって、β5iの成熟が妨げられそのキモトリプシン様活性が著しく低下するだけでなく、隣接するβ4、β6サブユニットとの接合面の変化のために複合体の形成不全が起こり、成熟した免疫プロテアソームの量が減少するとともに、β1iとβ2iがもつトリプシン様、カスパーゼ様活性も大きく低下する。その結果、NNS患者の炎症局所に浸潤するマクロファージをはじめ表皮角化細胞、筋肉細胞など各種細胞内にユビキチン化・酸化蛋白質が蓄積し、このためにIL-6やIFN-inducible protein(IP)-10などのサイトカイン・ケモカインの産生が亢進すると考えられる。MHCクラスI提示の障害による免疫不全も想定されるが、明らかな感染免疫不全は報告されていない。一方、JMP症候群では、PSMB8 p.T75M変異によりβ5iのキモトリプシン様活性が特異的に低下し、発現低下は見られない。したがって、本症発症にはプロテアソーム複合体の形成不全は必ずしも必要ないと考えられる。種々の変異を示すCANDLE症候群においても、酵素活性低下の程度はさまざまだが、ユビキチン蓄積やサイトカイン・ケモカイン産生亢進のパターンはNNSと同様であり、さらに末梢血の網羅的発現解析からI型IFN応答の亢進すなわち「I型IFN異常」が示されている。プロテアソーム機能不全によってI型IFN異常を来すメカニズムは明らかではないが、最近、Janusキナーゼ(JAK)阻害薬の臨床治験において、I型IFN異常の正常化とともに高い臨床効果が示され、I型IFN異常の病態における役割が明らかとなった。NNS患者由来iPS細胞から分化させた単球の解析においても、β5iの活性が有意に低下するIFNγ+TNFα刺激下においてI型IFN異常を認めた。ただ、この系においては、IFNγ-JAK-IP-10シグナルとTNFα-mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ-IL-6シグナルが双方とも亢進しており、酸化ストレスの関与や各シグナルの細胞内での相互作用も示唆されている。これらの結果から想定されるNNSにおける自己炎症病態モデルを図4に示す。図4 中條・西村症候群における自己炎症病態画像を拡大する■ 症状NNSは、典型的には幼小児期、特に冬季に手足や顔面の凍瘡様皮疹にて発症し、その後四肢・体幹の結節性紅斑様皮疹や弛張熱を不定期に繰り返すようになる。ヘリオトロープ様の眼瞼紅斑を認めることもある。組織学的には、真皮から筋層に至るまで巣状にリンパ球・組織球を主体とした稠密だが多彩な炎症細胞の浸潤を認め、内皮の増殖を伴う血管障害を伴う。筋炎を伴うこともあるが、筋力は比較的保たれる。早期より大脳基底核の石灰化を認めるが、精神発達遅滞はない。次第に特徴的な長く節くれだった指と顔面・上肢を主体とする脂肪筋肉萎縮・やせが進行し、手指や肘関節の屈曲拘縮を来す。やせが進行すると咬合不全や開口障害のため摂食不良となり、また、嚥下障害のため誤嚥性肺炎を繰り返すこともある。LDH、CPK、CRP、AAアミロイドのほか、ガンマグロブリン特にIgGが高値となり、IgEが高値となる例もある。さらに進行すると抗核抗体や各種自己抗体が陽性になることがあり、I型IFN異常との関連から興味を持たれている。早期より肝脾腫を認めるが、脂質代謝異常は一定しない。胸郭の萎縮を伴う拘束性呼吸障害や、心筋変性や心電図異常を伴う心機能低下のために早世する症例がある一方、著明な炎症所見を認めず病院を受診しない症例もある。■ 予後NNSの症例は皆同じ変異を持つにもかかわらず、発症時の炎症の程度や萎縮の進行の速さ、程度には個人差が認められる。小児期に亡くなる症例もあるが、成人後急速に脂肪筋肉萎縮が進行する例が多く、手指の屈曲拘縮のほか、咬合不全や重度の鶏眼などによりQOLが低下する。心肺のほか肝臓などの障害がゆるやかに進み、60歳代で亡くなる例が多いが、早期から拘束性呼吸障害や心機能低下を来して30歳代で突然死する重症例もあり、注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)難病指定の基準となるNNSの診断手順と重症度基準を表に示す。臨床症状8項目のうち5項目以上陽性を目安にNNSを疑って遺伝子解析を行い、PSMB8に疾患関連変異があれば確定(Definite)、変異がなくても臨床症状5項目以上陽性で他疾患を除外できれば臨床診断例(Probable)とする。わが国の症例ではPSMB8 p.G201V以外の変異は見つかっていないが、CANDLE症候群やPRAASで報告された変異や新規変異が見出される可能性も考慮されている。進行性の脂肪筋肉萎縮が本疾患で必発の最大の特徴であるが、個人差が大きく、皮疹や発熱などの炎症症状が強い乳幼児期には目立たない。むしろ大脳基底核石灰化が臨床診断の決め手になることがあり、積極的な画像検査が求められる。ただ、凍瘡様皮疹と大脳基底核石灰化は、代表的なI型IFN異常症であるエカルディ・グティエール症候群の特徴でもあり、鑑別には神経精神症状の有無を確認する必要がある。神経症状のない家族性凍瘡様ループスも鑑別対象となり、凍瘡様皮疹は各種I型IFN異常症に共通な所見と考えられる。臨床的に遺伝性自己炎症性疾患が疑われるも臨床診断がつかない場合、既知の原因遺伝子を網羅的に検討し遺伝子診断することも可能であるが、新規変異が見出された場合、その機能的意義まで確認する必要がある。表 中條・西村症候群診断基準と重症度分類画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド全身投与は発熱、皮疹などの炎症の軽減には有効だが、減量によって容易に再燃し、また脂肪筋肉萎縮には無効である。むしろ幼小児期からのステロイド全身投与は、長期内服による成長障害、中心性肥満、緑内障、骨粗鬆症など弊害も多く、慎重な投与が必要である。メトトレキサートや抗IL-6受容体抗体製剤の有効性も報告されているが、ステロイドと同様、効果は限定的で、炎症にはある程度有効だが脂肪筋肉萎縮には無効である。CANDLE症候群に対してJAK1/2阻害薬のバリシチニブのグローバル治験が行われ、幅広い年代の10例の患者に3年間投与された結果、5例が緩解に至ったと報告されている。4 今後の展望2020年よりPSMB8遺伝子解析が保険適用となり、運用が待たれる。また、NNS患者末梢血の遺伝子発現解析にてI型IFN異常が見られることが明らかとなりつつあり、診断への応用が期待されている。治療においても、NNSに対してJAK1/2阻害薬が有効である可能性が高く、適用が期待されているが、病態にはまだ不明な点が多く、さらなる病態解明に基づいた原因療法の開発が切望される。5 主たる診療科小児科・皮膚科その他、症状に応じて脳神経内科、循環器内科、呼吸器内科、リハビリテーション科、歯科口腔外科など。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 中條・西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 中條・西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)自己炎症性疾患サイト 中條-西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)金澤伸雄ほか. 日臨免会誌.2011;34:388-400.2)Kitano Y, et al. Arch Dermatol.1985;121:1053-1056.3)Tanaka M, et al. Intern Med. 1993;32:42-45.4)Arima K, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2011;108:14914-14919.5)Kanazawa N, et al. Mod Rheumatol Case Rep.2018;3:74-78.6)Kanazawa N, et al. Inflamm Regen.2019;39:11.7)Shi X, et al. J Dermatol.2019;46:e160-e161.8)Okamoto K, et al. J Oral Maxillofac Surg Med Pathol.(in press)公開履歴初回2020年03月09日

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皮膚筋炎/多発性筋炎〔dermatomyositis/polymyositis〕

1 疾患概要■ 概念・定義皮膚筋炎/多発性筋炎は四肢近位筋、喉頭筋を中心とした筋肉を炎症の首座とする自己免疫疾患で、定型的皮疹を伴うものを皮膚筋炎と呼ぶ。■ 疫学わが国での患者数は約20,000人。小児と成人の二峰性の発症年齢を呈するが、中年以降の発症が最も多い。男女比は1:3で女性に多い。■ 病因他の自己免疫疾患と同様に遺伝的素因と環境因子の両方が想定されている。ゲノムワイド関連解析などによる遺伝要因としては、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子が疾患感受性遺伝子と同定された。環境因子としては過度の運動、紫外線、ウイルス感染、薬剤などが報告されている。悪性腫瘍合併例では、傍腫瘍症候群的な側面があると推測されている。これらのさまざまな因子の影響により、骨格筋や皮膚組織の構成成分に対する免疫学的寛容の破綻が起こり、自己免疫学的機序により発症するものと考えられている。筋および皮膚病理の検討からはI型インターフェロン(Type I IFN)の病態への関与が示唆されている。■ 症状1)筋症状四肢近位、頸部、体幹などの筋力低下や筋痛が主体である。しゃがみ立ちや立ち上がり困難、髪がとかせない、頭が重いなどを自覚する。嚥下に関わる咽頭筋などに病変が及ぶと、嚥下障害や嗄声を来すことがある。2)皮膚症状(1)顔・頭部ヘリオトロープ疹は上眼瞼にみられる浮腫性の紫紅色~暗紅色の斑である(図1)。紅色調は呈さずに、浮腫のみの場合もある。しばしば本症の皮膚病変の初発症状となる。原則として両側性に見られるが、左右差の見られる場合もある。顔面では、上眼瞼のみならず頬部にもしばしば紅斑を生じる。鼻根部や鼻翼周囲にとくに好発し、脂漏性皮膚炎様と表現される。蝶形に近い分布を呈することもあるが、鼻唇溝を避ける傾向がなく、全身性エリテマトーデスほど整った蝶形にならない。前額、耳、側頸部も好発部位である。耳の突出部に限局した紫紅色斑は抗MDA5抗体陽性例に多い。紅斑が被髪頭部に生じると、脱毛を呈することがある。頭部は著明なかゆみを伴うことが多い。口腔内では、上口蓋に発赤(paratal ovoid patch)や口唇粘膜にアフタ性潰瘍を伴うこともある。図1 ヘリオトロープ疹(2)手ゴットロン丘疹/徴候は、手指関節背面、特に中手指節間/近位指節間関節に好発する丘疹や紅斑である。丘疹性変化の場合にゴットロン丘疹、それ以外の場合にゴットロン徴候と呼ぶ。丘疹になる場合は扁平で敷石状に集積することが多い。爪上皮出血点を伴った爪囲紅斑は高頻度で見られ(図2)、しばしばゴットロン丘疹/徴候に先行して出現するため、診断的価値が高い。浮腫性紅斑から萎縮性の紅斑、軽微なものから爪囲全体に及ぶ激しいものまである。図2 爪囲紅斑と爪上皮出血点掌側の指関節周囲に紫紅色の鉄棒まめ様の皮疹がみられることがある。俗に逆ゴットロン徴候とも呼ばれ、抗MDA5抗体陽性例に特徴的な皮疹である(図3)。図3 逆ゴットロン徴候Mechanic’s hand(機械工の手)は手指の側面、特に拇指尺側や示指橈側を中心に生じる手湿疹に類似した皮疹である。抗ARS抗体に特徴的とされる。レイノー現象を伴う例もある。(3)体幹前胸部にはV徴候、上背部にはショール徴候と呼ばれる皮疹が好発する。皮膚筋炎の体幹の皮膚病変はかゆみが強いことが特徴的で、掻破による線状の紅斑はflagellate erythema(むち打ち様紅斑)やscratch dermatitisと称される。抗SAE抗体陽性例では背部中央だけが抜けたびまん性紅斑を呈することが多く、angel wing徴候の名称も提唱されている。抗MDA抗体陽性例では臀部に紫紅色斑がみられることもある。(4)四肢四肢の関節伸側(肘・膝)にも紅斑を生じ、これらもゴットロン徴候と呼ばれる。上腕伸側にもショール徴候と連続性ないし非連続性に皮疹がみられることが多い。大腿外側に紅斑が生じることがあり、これらはホルスター(ガンマンが腰から下げている拳銃嚢)徴候と呼ばれている。(5)その他表皮下水疱:びらん・潰瘍化することもあるが比較的速やかに痂皮となる。抗TIF1-γ抗体陽性例に多く、しばしば悪性腫瘍合併も認める。脂肪織炎:四肢近位側や体幹に生じることがあり、発赤を伴う皮下硬結として触知する。潰瘍化・石灰化沈着を来す例もある。皮膚潰瘍:手指、関節部位、圧迫部位などに穿掘性に生じることがあるが、抗MDA5抗体陽性例に多く、血管障害によると推測される。皮膚潰瘍合併例は非合併例に比べて間質性肺炎合併率が有意に高いとする報告もあり、抗MDA5抗体との相関を反映している可能性がある。このほか、水疱や脂肪織炎に合併する例もある。肢端壊疽:頻度は低いが抗MDA抗体陽性例の他、抗ARS抗体陽性例でも見られることがある。多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ):四肢・体幹の皮膚症状が慢性の経過ののちに色素沈着・脱失を伴う萎縮性変化を呈する。皮下石灰沈着:皮下の硬結として触知し、皮膚表面から白く透見され、自壊し排出されることもある。小児皮膚筋炎、抗NXP2抗体陽性例に多いとされる。多形皮膚萎縮の中にしばしば生じ、疾患活動性とはあまり相関せず、病勢がおさまった後に出現・増数し、難治化することが多い。3)関節症状非骨破壊性の多発関節炎・関節痛を来すが、症例によっては関節リウマチ同様の骨破壊性関節炎を来す。4)レイノー現象寒冷刺激などで四肢末梢に乏血を来たし、皮膚の蒼白・チアノーゼが出現する現象で、約30%の症例で認める。5)間質性肺炎治療抵抗性で予後不良の急速進行性、亜急性、慢性に進行する症例やほとんど進行しない症例など多彩な経過をたどる。予後不良の急速進行型は抗MDA5抗体陽性例に、慢性型は抗ARS抗体進行例に多く認める。6)心病変予後因子として注意。心筋炎や期外収縮、房室ブロックなどの不整脈による心不全、まれに心膜炎なども来すことがある。7)悪性腫瘍10%に合併し、診断前1~2年で発症することが多い。合併例はしばしばヘリオトロープ疹が強く、掻痒があり、日光露光部の皮疹が強く、筋症状より皮膚症状が強くなる。■ 分類自己抗体の検出がここ数年で明らかとなり、抗体は臨床病型と密接に相関するために症状、合併症、予後予測や治療法の選択にも役立つ。わが国では2014年に抗ARS抗体、2016年に抗Mi-2抗体、抗MDA5抗体、抗TIF1-γ抗体が保険収載され、日常診療で測定できるようになったが、大まかに抗ARS抗体が20%、抗MDA5抗体が20%、抗Mi-2抗体が10%、抗TIF1-γ抗体が20%である。以下、抗体による分類とそれらをグループ化した図を示す(図4)。図4 皮膚筋炎の臨床症状と関連する筋炎自己抗体画像を拡大する1)抗ARS抗体8種類の自己抗体の総称であり、わが国では抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体の5つの抗体を1つのアッセイで測定して検出する。皮膚筋炎特異的自己抗体ではないが、比較的共通の症状を呈するため、抗ARS抗体症候群という病名が用いられることもある。慢性の間質性肺炎がほぼ必発でしばしば再発を繰り返す。2)抗Mi-2抗体筋症状がはっきりしており、血清CK値も他の抗体群と比べて高値のことが多い。間質性肺炎は低頻度であり、悪性腫瘍の合併率は20%程度である。一般にステロイドに対する治療反応性や予後は良好である。3)抗TIF1-γ抗体小児皮膚筋炎では約30%で陽性と最も頻度の高い自己抗体であるとともに成人例では悪性腫瘍合併皮膚筋炎で高頻度に検出(約65%、40歳以上では75%と報告)されるため、はじめの1~2年は繰り返し定期的な検査が必要である。皮膚症状は広範囲で重症で、嚥下障害が多いのが特徴である。4)抗MDA5抗体予後不良の急速進行性間質性肺炎を高頻度に合併し、抗MDA抗体価は重症度と相関する。この他フェリチンやIL-18なども血清学的指標として報告されている。筋炎自体は認められないか軽微なことが多く、“clinically amyopathic dermatomyositis”と称される。5)抗NXP-2抗体小児皮膚筋炎ではTIF1-γ抗体と並んで高率に陽性となる。成人では約30%で悪性腫瘍が発見される。6)抗SAE抗体皮膚筋炎に特異的であると推察され、皮膚症状が先行し広範囲であることや嚥下障害が高頻度であることが報告されている。■ 予後臨床経過ならびに予後は各症例によってさまざまであるが、生命予後を規定する因子として心筋障害、間質性肺炎、悪性腫瘍、日和見感染の併発が挙げられる。特に留意するものは間質性肺炎と悪性腫瘍で、急速進行型の間質性肺炎は予後が著しく悪いため、早期発見・治療が重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省指定難病としての診断基準(表)、2017年のEULAR/ACR(欧州リウマチ学会/米国リウマチ学会)成人と若年の特発性炎症性筋疾患の分類基準と主要サブグループ、BohanとPeterの診断基準を参考とする。表 診断基準(厚生労働省 指定難病の認定基準 2015)1.診断基準項目1)皮膚症状(a)ヘリオトロープ疹:両側または片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑(b)ゴットロン丘疹:手指関節背面の丘疹(c)ゴットロン徴候:手指関節背面および四肢関節背面の紅斑(2)上肢または下肢の近位筋の筋力低下(3)筋肉の自発痛または把握痛(4)血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼまたはアルドラーゼ)の上昇(5)筋炎を示す筋電図変化(6)骨破壊を伴わない関節炎または関節痛(7)全身性炎症所見(発熱、CRP上昇、または赤沈亢進)(8)抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体(抗Jo-1抗体を含む)陽性(9)筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性および細胞浸潤2.診断のカテゴリー皮膚筋炎:(1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし、かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。なお、皮膚症状のみで皮膚病理学的所見が皮膚筋炎に合致するものは、無筋症性皮膚筋炎として皮膚筋炎に含む。多発性筋炎:(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。3.鑑別診断を要する疾患感染による筋炎、薬剤誘発性ミオパチー、内分泌異常に基づくミオパチー、筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患、湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患。■ 検査所見筋原性酵素(CK、ALD、ミオグロビン、AST、ALT、LDH)が上昇し、筋力低下は徒手筋力テスト(MMT)で確認する。MRIでは筋組織の炎症部位に一致してSTIR法で高信号が認められ、筋生検部位の決定にも有用である。筋生検の所見としては筋線維の変性および炎症細胞浸潤が認められる。筋電図では随意収縮時の低振幅電位などの筋原性変化や安静時自発電位などの炎症による所見がみられ、神経疾患による筋病変との鑑別に有用である。抗核抗体の検出率は80%以下と低いが、細胞質の抗原に対する自己抗体を有している症例も少なくないため、見逃さないようにする必要がある。皮膚生検による病理組織学的所見では表皮基底層の液状変性、真皮の血管周囲を中心とした炎症細胞浸潤、真皮のムチン沈着がみられ、診断には必須ではないが除外診断や臨床を裏付けるものとなるため可能な限り、組み合わせることが望ましい。■ 鑑別疾患湿疹、中毒疹、感染症、サルコイドーシス、リンパ腫、甲状腺機能低下症、全身性エリテマトーデスなどが鑑別となる。好発部位、特に顔と手を中心に系統的に観察し、複数の所見を見出すことで診断がより確実になる。3 治療筋肉の安静を保ち、急速進行性間質性肺炎ないし悪性腫瘍併発例ではその治療を優先させる。筋炎に対しては、プレドニゾロン(PSL)1mg/kgを初期投与量とし、通常初期治療を2~4週間継続した後に筋力低下や筋原性酵素の推移をみながら週に5~10mgのペースで減量を行う。治療抵抗例や重症例はステロイドパルス療法の導入を検討する。免疫抑制剤の併用でステロイドの減量を早めることも可能で、タクロリムス、シクロスポリン(保険適用外)、メトトレキサート(保険適用外)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル(保険適用外)、シクロホスファミドなどがある。嚥下障害は治療に難渋することが多く、免疫グロブリン療法(IVIG)の併用で有意な改善が得られたことが報告されている。抗MDA5抗体陽性急速進行性間質性肺炎では、高用量のステロイドにタクロリムス内服を併用し、シクロホスファミドパルスを定期的に繰り返す集学的治療により間質影改善と抗MDA抗体の陰性化を期待できる。4 今後の展望 (治験中・研究中の診断法、治療薬剤など) アバタセプト(商品名:オレンシア)の第IIb相臨床試験において約半数の患者で疾患活動性が低下したことが報告されている。選択的カンナビオイド受容体アゴニストであるlenabasumについては、第II相臨床試験が行われ、皮膚スコア(CDASI)が有意に改善し、現在第III相臨床試験が行われている。5 主たる診療科 (紹介すべき診療科)皮膚科、免疫内科で主に扱う疾患であるが、呼吸器内科、神経内科、小児科などとも連携が重要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 皮膚筋炎/多発性筋炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujimoto M, et al. Curr Opin Rheumatol. 2016;28:636-644.2)Bohan A, et al. N Engl J Med. 1975;292:344-347.3)難治性疾患政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 多発性筋炎皮膚筋炎分科会 編集. 多発性筋炎・皮膚筋炎治療ガイドライン. 診断と治療社;2015.4)Fujimoto M, et al. Arthitis Rheum.2012;64:513-522.5)Lundberg IE, et al. Ann Rheum Dis. 2017;76:1955-1964.6)Fujimoto M, et al. Ann Rheum Dis.2013;72:151-153.公開履歴初回2020年03月09日

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