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カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」【最新!DI情報】第27回

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」今回は、カルシニューリン阻害薬「ボクロスポリン(商品名:ルプキネスカプセル7.9mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は、ループス腎炎に対する治療薬として承認された新規のカルシニューリン阻害薬であり、免疫抑制作用により予後が改善することが期待されています。<効能・効果>ループス腎炎の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤投与により腎機能が悪化する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2以下の患者では投与の必要性を慎重に判断し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では可能な限り投与を避けます。<用法・用量>通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルを併用します。<安全性>重大な副作用には、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染症(1.1%)を含む重篤な感染症(10.1%)があり、致死的な経過をたどることがあります。また、急性腎障害(3.4%)が生じることがあるため、重度の腎機能障害患者への投与は可能な限り避けるようにし、中等度の腎機能障害患者には投与量の減量を行います。その他の副作用は、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(いずれも10%以上)、インフルエンザ、帯状疱疹、高カリウム血症、食欲減退、痙攣発作、振戦、悪心、歯肉増殖、消化不良、脱毛症、多毛症(いずれも10%未満)があります。本剤は、主としてCYP3A4により代謝されるため、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(アゾール系抗真菌薬やリトナビル含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤など)との併用は禁忌です。また、P糖蛋白の基質であるとともに、P糖蛋白、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1およびOATP1B3への阻害作用を有するので、ジゴキシンやシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用には注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ループス腎炎の治療薬であり、体内の免疫反応を抑制します。2.飲み始めは原則としてステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルと併用します。3.この薬は、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。4.この薬を使用中に、感染症の症状(発熱、寒気、体がだるいなど)が生じたときは、ただちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で生じる腎機能障害です。この疾患は、尿蛋白や尿潜血を伴い、ネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎症候群を引き起こすことがあります。治療は、急性期の寛解導入療法と慢性期の寛解維持療法があり、急性期の寛解導入療法には強力な免疫抑制療法を実施し、尿蛋白や尿沈査、腎機能の正常化を目指します。治療薬はグルココルチコイド(GC)に加えてミコフェノール酸モフェチル(MMF)またはシクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)の併用投与が推奨されています。ボクロスポリンは、ループス腎炎の治療薬として開発された新規の経口免疫抑制薬です。最近の研究では、MMFとの併用療法がMMF単独療法に比べて、より有効であることが示されています。ボクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用を発揮します。ボクロスポリンの投与開始時は、原則として、GCおよびMMFを併用します。ループス腎炎患者を対象とした国際共同第III相試験(AURORA1試験)では、主要評価項目である投与開始52週時点の完全腎奏効患者の割合は、本剤群の40.8%に対してプラセボ群は22.5%と有意な差が認められました(p<0.001、ロジスティック回帰モデル)。なお、本剤群およびプラセボ群ともに、MMFとGCが併用されていました。

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日本の新型コロナワクチン接種意向、アジア5地域で最低/モデルナ

 モデルナ・ジャパンは11月13日付のプレスリリースで、同社が日本およびアジア太平洋地域のシンガポール、台湾、香港、韓国(アジア5市場)において実施した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と新型コロナワクチンに対する意識調査の結果を発表した。その結果、日本は、新型コロナワクチンの接種意向、新型コロナとインフルエンザのワクチンの同時接種意向共に、アジア5地域で最低となった。 2024年9月13日~10月9日の期間に、8歳以上の5,032人(シンガポール:1,001人、香港:1,000人、台湾:1,000人、韓国:1,003人、日本1,028人)を対象に調査実施機関のDynataによってインターネット調査が行われた。 主な結果は以下のとおり。・日本は、新型コロナワクチンの接種意向が5地域で最も低く、「接種する」と回答したのは28.5%、「しない」と回答したのは41.3%だった。アジア5地域全体で「接種する」と回答したのは45.3%、 最も接種意向が高かったシンガポールは約60%だった。・日本は、新型コロナとインフルエンザのワクチンを同時に接種する意向についても最も低く、「同時に接種する」と回答した人が13.3%だった。アジア5地域の平均は32.9%、最も高い香港は46.5%だった。・過去12ヵ月で、新型コロナワクチンを接種した人は、日本では13.6%と最も低く、5地域平均は22.2%だった。新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの両方を接種した人も、日本は11.2%でアジア5地域最低。アジア5地域平均は18.5%。両方を接種した人が最も多かったのは、台湾の23.3%だった。・過去12ヵ月で、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンのどちらも接種をしていないと回答した人は、日本では58.4%と最も多かった。アジア5地域平均は40.8%、最も少ないのは台湾で31.6%だった。・60代以上の高齢者においても、日本では44.9%が新型コロナワクチンもインフルエンザワクチンのどちらも接種をしていないと回答した。・接種意向がない理由について、「副反応が心配」「新しい変異株に対応したワクチンは効果がない」が多く選ばれ、「接種費用」を上回った。・新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、肺炎球菌の各ワクチン接種を重要と考えるかについて質問したところ、インフルエンザワクチンを重要と答えた人が最も多く、次に新型コロナワクチンが続いた。この傾向はどのアジア5地域でも同じだった。各ワクチン接種を「どれも重要ではない」と回答した人は、日本が37.3%と最も多く、他地域より18ポイント以上高かった。・新型コロナワクチンを接種する動機について、「ワクチン効果についての情報が得られた時」「安全性について保証が得られる時」「流行についての報道を見聞きした時」の選択肢を挙げた質問では、日本は「新型コロナワクチンを接種する動機となる項目が一つもない」と答えた人が最も多かった。・COVID-19とインフルエンザのリスクに対する認識について、COVID-19はインフルエンザより重症化率や入院率が高いが、COVID-19はインフルエンザと比較して脅威度が低く評価されていた。 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会は10月17日付で「COVID-19の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨します」との声明を発表し1)、接種意向が低く接種が進んでいない現状に警鐘を鳴らしている。今回の調査では、日本人の接種意向がアジア地域の中でも低いことが、改めて浮き彫りとなっている。

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第217回 医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省

<先週の動き>1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省11月13日に財政制度等審議会は、2025年度予算編成に向けた議論を行い、財務省は医師の偏在対策が不十分であるとして、規制強化などを求める提言を行った。審議会で増田 寛也分科会長代理は、「これまでの取り組みは実効性が乏しかった」と指摘し、「診療報酬の減算などの経済的ディスインセンティブ措置を含め、より強力な対策が必要だ」と強調した。財務省は、医師多数区域での開業規制や診療報酬の地域別単価設定、自由開業・自由標榜の見直しなどを提言、また、地域で過剰な医療サービスを提供する医療機関に対し、診療報酬を減算する仕組みの導入の提案を行った。さらに、診療科別の医師偏在指標が不足している点を批判し、厚生労働省に対し、診療科ごとの医師偏在指標を早急に作成するよう求めた。これらの提言に対し、日本医師会は反発する可能性がある。政府は、年末までに医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定する予定だが、規制強化と医師確保の両立が課題となる。参考1)社会保障(財務省)2)過剰な医療への診療報酬減算を提言、財務省 偏在是正策、外来機能は「転換・集約」(CB news)3)医師偏在対策「手ぬるかった」財政審分科会で 増田氏は「もう一段強く」と主張(同)2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」が基本となることを受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は11月13日、患者の資格確認方法の変更に伴うルール見直しを了承した。このため厚生労働省は、医療機関や薬局がマイナ保険証や資格確認書で患者の資格を確認できるよう、療養担当規則を改正する。マイナンバーカードを持っていない人や、健康保険証としての利用を登録していない人でも、保険者から発行される「資格確認書」を医療機関に提示することで、これまで通り保険診療が受けられる。資格確認書は、カード型、はがき型、A4型の3種類があり、氏名や被保険者番号などが記載される。申請は不要で、対象者には現行の健康保険証の有効期限に応じて、加入している医療保険者から無償で交付される。デジタル庁では、資格確認書の交付や健康保険証の有効期限に関する情報を公開し、マイナンバーカードの未取得者や、マイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録していない人が従来通り保険診療を受けられるよう国民へ周知を図っている。中医協の小塩 隆士会長は、「マイナ保険証への移行に伴う混乱を懸念し、保険診療を受けられない人が出ないよう、必要があれば制度を改めるべきだ」と危惧している。厚労省は、マイナ保険証の利用促進に取り組む一方、国民が安心して保険診療を受けられるよう、制度の周知徹底に努めるとしている。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)12月2日以降の資格確認、療担規則見直しへ 厚労相が諮問 即日答申(CB news)3)2024年12月2日以降のマイナ保険証「以外」(資格確認書等)で保険診療受けるための法令整備を決定-中医協総会(2)(Gem Med)4)12月2日で発行停止の健康保険証、代わりとなる「資格確認書」の交付対象や方法は?-デジ庁が公開(CNET Japan)3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府医療費が高額になった場合に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、政府は自己負担の上限額を引き上げる方向で検討に入った。11月15日、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」で、高額療養費制度の見直しを求める意見が相次いだ。厚生労働省は、医療費の増加や患者の負担能力向上を踏まえ、上限額を引き上げることで医療費の抑制と現役世代の保険料負担軽減を図りたい考え。具体的な引き上げ幅は、年収区分に応じて7~16%を軸に調整されており、所得が低い人への配慮も検討されている。引き上げは2段階で行われ、2025年度に上限額を引き上げた後、2026年度には年収区分を細分化し、高所得者はより高い上限額とする見込みである。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限を設け、超過分を健康保険組合などの保険者が給付する仕組み。近年、高額な新薬の登場や高齢化により、医療費が高額化するケースが増加しており、制度の適用件数と支給総額は増加している。政府は、今回の見直しを通じて、支払い能力に応じた負担を求める「応能負担」を強化したい考え。その一方で、患者の自己負担が増えることから、与野党を問わず反発が出る可能性もあり、今後の議論の行方が注目されている。参考1)全世代型社会保障構築会議[第19回](内閣府)2)高額療養費、見直し求める 政府の有識者会議(日経新聞)3)「高額療養費制度」上限額引き上げる方向で検討 厚労省(NHK)4)高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大5万400円、来年夏めど(朝日新聞)4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省値上げが続く出産費用と支援策の課題について、厚生労働省は11月13日に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開き、出産費用の上昇や支援策の有効性を巡り多角的な議論が展開された。全国の正常分娩による出産費用は2024年度上半期で平均51万8,000円に達し、昨年度からさらに1万1,000円増加した。出産育児一時金は、2023年4月に42万円から50万円に引き上げられたが、実際の負担額を賄いきれないケースが多く、都道府県別では東京や神奈川で高額化が顕著となっている。一時金が不足する割合は、全国平均で45%に上り、個室利用料などを含めるとその割合は80%に達している。また、出産費用の「見える化」を目的としたウェブサイト「出産なび」についても検討会で報告が行われた。2024年5月に開設されたこのサイトは、認知率は36%、利用率は18%と低調で、妊婦の情報収集への活用が進んでいない現状が明らかとなった。その一方で、利用者の満足度は高く、妊婦が望む情報の充実が求められている。出産費用の保険適用(現物給付化)については賛否が分かれている。推進派は、経済的負担軽減や標準化の重要性を訴える一方、地方の産科医療体制への悪影響や財源問題を懸念する声もある。とくに一時金引き上げと同時に医療機関が費用を引き上げた印象が拭えず、さらなる分析が必要との意見が多く挙げられた。少子化対策として「安心して出産できる環境整備」の必要性が叫ばれる中、今後は出産費用の地域差解消や制度の簡素化、支援内容の拡充が急務となる。2025年春を目途に検討会での意見が集約される予定。参考1)第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省)2)「出産なび」を知らない妊産婦が6割超 開設後3ヵ月時点で 厚労省検討会に報告(CB news)3)出産育児一時金の引き上げで軽減されたはずが…妊婦の負担額が再び増加、原因は産院の値上げ(読売新聞)4)出産費用 半数近くで一時金の50万円上回る 厚生労働省(NHK)5)出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず-出産関連検討会(Gem Med)5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省美容医療をめぐるトラブル増加を受け、厚生労働省は規制強化に乗り出す。11月13日に開かれた厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、クリニックなどに安全管理措置の状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける案を含む報告書案が議論された。この背景には、美容医療に関する健康被害や料金トラブルなどの相談が急増している現状がある。国民生活センターへの相談件数は、2023年度には5,507件と、5年間で3倍に増加した。報告書案では、自由診療が多い美容医療は、保険診療に比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であることや、患者の要望や医師の技量によって合併症や後遺症のリスクも高まる可能性があることなどが課題と指摘している。対応策として、医療機関による定期報告の仕組み導入が提案された。報告内容には、安全管理措置の実施状況、医師の専門医資格の有無、トラブル発生時の相談窓口などが含まれ、患者にとって必要な情報は自治体が公表する。厚労省は、年内にも正式な対策をまとめる方針。また、この検討会で臨床研修修了直後に若手の医師が美容医療分野に流入していることが指摘されたが、この問題は医師の偏在是正の観点から、厚労省において別途必要な検討がなされる見込み。参考1)美容医療の適切な実施に関する報告書(案)(厚労省)2)美容医療の安全管理状況を自治体に年1回定期報告へ 健康被害や料金相談増加で厚労省方針(産経新聞)3)美容医療、安全管理状況を年1回報告へ 自治体に 厚労省方針(毎日新聞)4)美容医療「安全管理の報告」取りまとめ案 若手医師の“直美”「別途検討必要」(CB news)6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)は11月14日、生後6ヵ月の女児に抗菌薬を過剰投与する医療ミスがあり、女児が死亡したと発表した。女児は先天性疾患で入院しており、9月に肺炎症状がみられたため、医師が抗菌薬の点滴を指示した。しかし、医師は通常濃度の5倍の抗菌薬を投与するよう誤って指示し、看護師もそれに気付かず投与。さらに、投与時間も本来の2時間ではなく1時間と指示し、2倍の速度で投与していた。女児は点滴開始から約1時間後に心拍数が低下し、その後死亡が確認された。医師は「なぜ初歩的なことを間違ったのかわからない」と話しているという。病院では、医療事故調査委員会を設置し、投与と死亡の因果関係を調査する。また、病理解剖では、新型コロナウイルス感染や敗血症などの疑いもみられたが、抗菌薬の副作用に多い不整脈などは確認されなかったという。病院側は、医療ミスと死亡の因果関係は現時点では明らかではないとしているが、再発防止に向け、正しい希釈方法を看護師らが確認できるようシステムを改修するなどの対策を講じるとしている。参考1)規定量5倍の抗菌薬投与、女児が1時間半後に死亡…医師「なぜ初歩的なこと間違ったかわからない(読売新聞)2)兵庫県立こども病院 生後6か月の乳児 薬の過剰投与後に死亡(NHK)3)乳児に抗菌薬を過剰に投与、直後に死亡 兵庫・こども病院で医療事故(朝日新聞)4)兵庫県立こども病院で医療ミス 生後6カ月の女児に高濃度の抗菌薬を投与、2時間半後に死亡(神戸新聞)

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酒さ〔Rosacea〕・鼻瘤〔Rhinophyma〕

1 疾患概要■ 定義酒さは20歳代以降に好発し、顔面中央部の前額・眉間部、鼻部、頬部(中央寄り)、頤部に、紅斑・潮紅や毛細血管拡張による赤ら顔を来す疾患である。■ 疫学白人(コーカソイド)では5~10%程度までとする報告が欧米の地域からなされている。アジア人(モンゴロイド)では数~20%程度までの報告がある。日本人の酒さの罹患率の正確なデータはないが、自覚していない軽症例を含めると0.5~1%程度の罹患率が見込まれる。■ 病因酒さに一元的な病因は存在しない。酒さの病理組織学的病変の主体は、脂腺性毛包周囲の真皮内にあり、脂腺性毛包を取り囲む炎症と毛細血管拡張を来す。コーカソイドを祖先に持つ集団でのゲノムワイド関連解析(GWAS)調査では酒さ発症に遺伝的背景の示唆がある1)。後天的要因として、環境因子からの自然免疫機構・抗菌ペプチドの過活性化2,3)や肥満細胞の関与する皮膚炎症の遷延化4)、末梢神経応答などの関与する知覚過敏や血管拡張反応などが病態形成に関与することが示されている。■ 症状・分類酒さの皮疹は眉間部、鼻部・鼻周囲、頬部、頤部の顔面中央部に主として分布する。まれに頸部や前胸部、上背部の脂腺性毛包の分布部に皮疹が拡大することもある。酒さは主たる症候・個疹性状に基づいて、紅斑血管拡張型酒さ、丘疹膿疱型酒さ、瘤腫型酒さ・鼻瘤、眼型酒さの4病型・サブタイプに分類される。1)紅斑血管拡張型酒さ脂腺性毛包周囲の紅斑と毛細血管の拡張を主症候とし、酒さの中で最も頻度が高い病型である。寒暖差などの気温変化、紫外線を含む日光曝露、運動や香辛料の効いた食餌などの顔面血流が変化する状況で、火照りや顔の熱感などの自覚症状が悪化する。2)丘疹膿疱型酒さ尋常性ざ瘡と類似の丘疹や膿疱が頬部、眉間部、頤部などに出現する。背景に紅斑血管拡張型酒さにみられる紅斑や毛細血管拡張を併存することも多い。尋常性ざ瘡と異なり、丘疹膿疱型酒さには面皰は存在しないが、酒さと尋常性ざ瘡が合併する患者もあり得る。尋常性ざ瘡との鑑別には面皰の有無に加えて、寒暖差による火照り感や熱感などの外界変化による自覚症状の変動を確認するとよい。3)瘤腫型酒さ・鼻瘤皮下の炎症に伴って肉芽腫形成や線維化を来す病型である。とくに、鼻部に病変を来すことが多く、「鼻瘤」という症候名・病名でも知られている。頬部の丘疹膿疱型酒さを合併することがまれではない。紅斑毛細血管拡張型酒さや丘疹膿疱型酒さは女性患者の受診者が多いが、瘤腫型酒さ・鼻瘤では男女比は1対1である5)。4)眼型酒さ眼瞼縁のマイボーム腺周囲炎症・機能不全を主たる病態とし、初期症状は、眼瞼縁睫毛部周囲の紅斑と毛細血管拡張、そして眼瞼結膜の充血や血管拡張である。自覚症状として眼球や眼瞼の刺激感や流涙を訴えることが多い。眼型酒さのほとんどは、他の酒さ病型に併存しており、酒さの眼合併症という捉え方もされる。■ 予後生命予後は良い。紅斑血管拡張型酒さの毛孔周囲炎症と毛細血管拡張の改善には数年を要する。丘疹膿疱型酒さの丘疹・膿疱症状は、3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。瘤腫型酒さ・鼻瘤は鼻形態の変形程度に併せて、抗炎症療法から手術療法までが選択されるが、症候の安定には数年を要する。眼型酒さの炎症症状(結膜炎や結膜充血)は3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)酒さの診断のための特定の検査方法はなく、皮疹性状や分布、臨床経過から総合的に酒さを診断する。酒さ患者にはアトピー素因やアレルギー素因を有する患者が20~40%ほど含まれており、特異的IgE検査(VIEW39など)を行い、増悪因子の回避に努める5)。アレルギー性接触皮膚炎の併存が疑われる場合にはパッチテスト(貼布試験)を考慮する。酒さ病変部では、毛包虫が増えていることがあり、毛包虫の確認には皮膚擦過試料の検鏡検査を行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)酒さの治療では、主たる症候を見極めて治療計画を立てる。一般的には、抗炎症作用を有する治療薬で酒さの脂腺性毛孔周囲の紅斑、丘疹、膿疱の治療を3~6ヵ月程度行う。炎症性皮疹のコントロールの後に、器質的変化による毛細血管拡張や、瘤腫や鼻瘤にみられる線維化と形態変形に対する治療を計画する。酒さ症候は、生活環境や併存症によっても症状の増悪が起こる5,6)。酒さの再燃や増悪の予防には、患者毎の増悪因子や環境要因に沿った生活指導と肌質に合わせたスキンケアが重要である。■ 丘疹膿疱型酒さに対する抗炎症外用薬・内服薬1)メトロニダゾール外用薬欧米では、メトロニダゾール外用薬(商品名:ロゼックスゲル)が酒さの抗炎症薬として1980年代から使用されている7,8)。わが国でも2022年に国際的酒さ標準治療薬の1つであるメトロニダゾール外用薬0.75%が酒さに対して保険適用が拡大された9)。メトロニダゾール外用薬は、その炎症反応抑制効果から丘疹膿疱型酒さにみられる炎症性皮疹の丘疹と膿疱の抑制効果、脂腺性毛包周囲の炎症による紅斑に対して改善効果が期待できる。2)イオウ・カンフルローションイオウ・カンフルローションは、わが国では1970年代から発売されざ瘡と酒さに対して保険適用がある。ただ、イオウ・カンフルローションの保険適用は、わが国での酒さ患者を対象とした臨床試験に基づいた承認経過の記録が見当たらず、現代のガイドライン評価基準に則した本邦での良質なエビデンスはない。イオウ・カンフルローションは、エタノールを含んでおり、皮脂と角層内水分の少ない乾燥肌の患者に用いると、乾燥感や肌荒れ感が強くなる場合がある。イオウ・カンフルローション懸濁液は、淡黄色で塗布により肌色調が黄色調となることがある。肌色調が気になる患者には、上澄み液だけを用いるなどの工夫をする。3)テトラサイクリン系抗菌薬ドキシサイクリンは、丘疹膿疱型酒さの炎症性皮疹(丘疹、膿疱)に有効である。酒さ専用内服薬としてドキシサイクリンの低用量徐放性内服薬が欧米では承認されている。ミノサイクリンは、ドキシサイクリン低用量徐放性内服薬と同等の効果が示されているが、間質性肺炎や皮膚色素沈着などの副作用から、長期服用時に留意が必要である10)。■ 紅斑毛細血管拡張型酒さに対する治療紅斑毛細血管拡張型酒さの主たる症候は、毛細血管の拡張に伴う紅斑や一過性潮紅である。治療には拡張した毛細血管を縮小させる治療を行う。パルス色素レーザー(pulsed dye laser:PDL)[595nm]、Nd:YAGレーザー[1,064nm]、Intense pulsed light (IPL)が、酒さの毛細血管拡張と紅斑を有意に減少させることが報告されている。これらのレーザー・光線治療は酒さに対しては保険適用外である。4 今後の展望2022年にメトロニダゾールが酒さに対して保険適用となり、わが国でも酒さ標準治療薬が入手できるようになった。酒さの診断名登録が増えており、医療関係者と患者ともに酒さ・赤ら顔に対する認知度の増加傾向が感じられる。しかしながら、潮紅や毛細血管拡張を主体とする紅斑毛細血管拡張型酒さに対する保険適用の治療方法は十分ではなく、今後の治験や臨床試験が期待される。5 主たる診療科皮膚科顔面の丘疹・膿疱を主たる皮疹形態とする疾患の多くは皮膚表面の表皮の疾患ではなく、真皮における炎症、肉芽腫性疾患、感染症、腫瘍性疾患である可能性が高い。皮膚炎症性疾患に頻用されるステロイド外用薬は、これらの疾患に効果がないばかりか、悪化させることがしばしば経験される。酒さは、ステロイドで悪化する代表的な皮膚疾患であり、安易なステロイド使用が患者と医療者の双方にとって望ましくない経過につながる。顔面に赤ら顔や丘疹や膿疱をみかける症例は、ステロイドなどの使用の前に鑑別疾患を十分に考慮する必要があるし、判断に迷う場合には外用薬を処方する前に速やかに皮膚科専門医にコンサルタントすることをお勧めする。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報酒さナビ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Rosacea Society(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)American Acne and Rosacea Society(医療従事者向けのまとまった情報、米国の本症の診療サイト)1)Aponte JL, et al. Hum Mol Genet. 2018;27:2762-2772.2)Yamasaki K, et al. Nat Med. 2007;13:975-980.3)Yamasaki K, et al. J Invest Dermatol. 2011;131:688-697.4)Muto Y, et al. J Invest Dermatol. 2014;134:2728-2736.5)Wada-Irimada M, et al. J Dermatol. 2022;49:519-524.6)Yamasaki K, et al. J Dermatol. 2022;49:1221-1227.7)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;109:63-66.8)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;108:327-332.9)Miyachi Y, et al. J Dermatol. 2022;49:330-340.10)van der Linden MMD, et al. Br J Dermatol. 2017;176:1465-1474.公開履歴初回2024年11月14日

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市中肺炎の入院患者、経口抗菌薬単独での有効性

 市中肺炎の入院患者のほとんどで、静注抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが安全であることが無作為化比較試験で示されているが、最初から経口抗菌薬のみ投与した場合のデータは限られている。今回、入院中の市中肺炎患者を対象にβラクタム系薬の投与期間を検討したPneumonia Short Treatment(PST)試験の事後解析として、投与開始後3日間の抗菌薬投与経路を静脈内投与と経口投与に分けて有効性を比較したところ、有意差が認められなかったことをPST研究グループのAurelien Dinh氏らが報告した。Clinical Microbiology and Infection誌2024年8月号に掲載。 PST試験は、ICU以外の病棟に市中肺炎で入院した患者を対象に、投与開始から3日間はアモキシシリン・クラブラン酸または第3世代セファロスポリン(セフトリアキソン、セフォタキシム)を静脈内投与または経口投与し、その後プラセボ群とアモキシシリン・クラブラン酸群に無作為化して5日間経口投与した無作為化プラセボ対照試験である。本試験では、主要評価項目である抗菌薬の投与開始から15日目の治療失敗(「体温37.9℃超」「呼吸器症状の消失・改善なし」「原因を問わず抗菌薬を追加投与」の1つ以上)について、3日間投与が8日間投与に非劣性を示したことがすでに報告されている。 今回の事後解析では、投与経路別の有効性を調べるため、最初の3日間が静脈内投与、すべて経口投与の症例の治療失敗率を比較し、さらにサブグループ(アモキシシリン・クラブラン酸と第3世代セファロスポリン、アモキシシリン・クラブラン酸の静注と経口、多葉性肺炎、65歳以上、CURB-65スコア3~4)でも比較した。 主な結果は以下のとおり。・PST試験から200例が組み入れられ、最初の3日間静脈内投与の症例は93例(46.5%)、すべて経口投与の症例は107例(53.5%)であった。・15日目の治療失敗率は静脈内投与(26.9%)と経口投与(26.2%)で有意差はなかった(調整オッズ比:0.973、95%信頼区間:0.519~1.823、p=0.932)。・15日目の治療失敗率はサブグループ間で有意差はなかった。 著者らは「本研究は探索的事後解析で、少ない症例数とロジスティック回帰に基づいているため結論には限界がある」と述べ、またニューキノロン系薬が本試験から除外されていることから「入院を必要とする市中肺炎に対する投与経路による新たな無作為化比較試験が必要」としている。

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第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

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急速進行性糸球体腎炎〔RPGN:Rapidly progressive glomerulonephritis〕

1 疾患概要■ 定義急速進行性糸球体腎炎(Rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、数週~数ヵ月の経過で急性あるいは潜在性に発症し、血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、貧血を伴い、急速に腎機能障害が進行する腎炎症候群である。病理学的には、多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性(管外増殖性)壊死性糸球体腎炎(crescentic[extracapillary]and necrotic glomerulonephritis)が典型像である。■ 疫学わが国のRPGN患者数の新規受療者は約2,700~2,900人と推計され1)、日本腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の登録では、2007~2022年の腎生検登録症例のうちRPGNは年度毎にわずかな差があるものの5.4~9.6%(平均7.4%)で近年増加傾向にある2)。また、日本透析医学会が実施している慢性透析導入患者数の検討によると、わが国でRPGNを原疾患とする透析導入患者数は1994年の145人から2022年には604人に約5倍に増加しており、5番目に多い透析導入原疾患である3)。RPGNは、すべての年代で発症するが、近年増加が著しいのは、高齢者のMPO-ANCA陽性RPGN症例であり、最も症例数の多いANCA関連RPGNの治療開始時の平均年令は1990年代の60歳代、2000年代には65歳代となり、2010年以降70歳代まで上昇している6)。男女比では若干女性に多い。■ 病因本症は腎糸球体の基底膜やメサンギウム基質といった細胞外基質の壊死により始まり、糸球体係蹄壁すなわち、毛細血管壁の破綻により形成される半月体が主病変である。破綻した糸球体係締壁からボウマン腔内に析出したフィブリンは、さらなるマクロファージのボウマン腔内への浸潤とマクロファージの増殖を来す。この管外増殖性変化により半月体形成が生じる。細胞性半月体はボウマン腔に2層以上の細胞層が形成されるものと定義される。細胞性半月体は可逆的変化とされているが、適切な治療を行わないと、非可逆的な線維細胞性半月体から線維性半月体へと変貌を遂げる4)。このような糸球体係蹄壁上の炎症の原因には、糸球体係締壁を構成するIV型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインを標的とする自己抗体である抗糸球体基底膜(GBM)抗体によって発症する抗GBM抗体病、好中球の細胞質に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するもの、糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の沈着により発症する免疫複合体型の3病型が知られている。■ 症状糸球体腎炎症候群の中でも最も強い炎症を伴う疾患で、全身性の炎症に伴う自覚症状が出現する。全身倦怠感(73.6%)、発熱(51.2%)、食思不振(60.2%)、上気道炎症状(33.5%)、関節痛(18.7%)、悪心(29.0%)、体重減少(33.5%)などの非特異的症状が大半であるが5)、潜伏性に発症し、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。また、腎症候として多いものは浮腫(51.2%)、肉眼的血尿(14.1%)、乏尿(16.4%)、ネフローゼ症候群(17.8%)、急性腎炎症候群(18.5%)、尿毒症(15.8%)5)などである。肺病変、とくに間質性肺炎の合併(24.5%)がある場合、下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する。■ 分類半月体形成を認める糸球体の蛍光抗体法所見から、(1)糸球体係蹄壁に免疫グロブリン(多くはIgG)の線状沈着を認める抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)抗体型、(2)糸球体に免疫グロブリンなどの沈着を認めないpauci-immune型、(3)糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の顆粒状の沈着を認める免疫複合体型の3型に分類される。さらに、血清マーカー、症候や病因を加味しての病型分類が可能で、抗GBM抗体病は肺出血を合併する場合にはグッドパスチャー症候群、腎病変に限局する場合には抗GBM腎炎、pauici-immune型は全身の各諸臓器の炎症を併発する全身性血管炎に対し、腎臓のみに症候を持つ腎限局型血管炎(Renal limited vasculitis)とする分類もある。このpauci-immune型の大半は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophi cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性であり、近年ではこれらを総称してANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)と呼ばれる。ANCAには、そのサブクラスにより核周囲型(peri-nuclear)(MPO)-ANCAと細胞質型(Cytoplasmic)(PR3)-ANCAに分類される。■ 予後RPGNは、糸球体腎炎症候群の中で腎予後、生命予後とも最も予後不良である。しかしながら、わが国のRPGNの予後は近年改善傾向にあり、治療開始からの6ヵ月間の生存率については1989~1998年で79.2%、1999~2001年で80.1%、2002~2008年で86.1%、2009~2011年で88.5%、2012~2015年で89.7%、2016~2019年で89.6%と患者の高齢化が進んだものの短期生命予後は改善している。6ヵ月時点での腎生存率は1989~1998年で73.3%、1999~2001年で81.3%、2002~2008年で81.8%、2009~2011年で78.7%、2012~2015年で80.4%、2016~2019年で81.4%であり、腎障害軽度で治療開始した患者の腎予後は改善したものの、治療開始時血清クレアチニン3mg/dL以上の高度腎障害となっていた患者の腎予後については、改善を認めていない6)。また、脳血管障害や間質性肺炎などの腎以外の血管炎症候の中では、肺合併症を伴う症例の生命予後が不良であることがわかっている。感染症による死亡例が多いため、免疫抑制薬などの治療を控えるなどされてきたが、腎予後改善のためにさらなる工夫が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)RPGNは、早期発見による早期治療開始が予後を大きく左右する。したがって、RPGNを疑い、本症の確定診断、治療方針決定のための病型診断の3段階の診断を速やかに行う必要がある。■ 早期診断指針(1)血尿、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、(2)GFRが60mL/分/1.73m2未満、(3)CRP高値や赤沈亢進を認める、の3つの検査所見を同時に認めた場合、RPGNを疑い、腎生検などの腎専門診療の可能な施設へ紹介する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。また、腎機能が正常範囲内であっても、腎炎性尿所見と同時に、3ヵ月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合にはRPGNを疑い、専門医への紹介を勧める。新たに出現した尿異常の場合、RPGNを念頭において、腎機能の変化が無いかを確認するべきである。■ 確定診断のための指針(1)病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認し、数週~数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行していることの確認。(2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。以上の2項目を同時に満たせば、RPGNと診断することができる。なお、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査、CT検査などにより、腎のサイズ、腎皮質の厚さ、皮髄境界、尿路閉塞などのチェックにより、慢性腎不全との鑑別を含めて、総合的に判断する。■ 病型診断可能な限り速やかに腎生検を行い、確定診断と同時に病型診断を行う。併せて血清マーカー検査や他臓器病変の評価により二次性を含めた病型の診断を行う。■ 鑑別診断鑑別を要する疾患としては、さまざまな急性腎障害を来す疾患が挙げられる。とくに高齢者では血尿を含めた無症候性血尿例に、脱水、薬剤性腎障害の併発がある場合などが該当する。また、急性間質性腎炎、悪性高血圧症、強皮症腎クリーゼ、コレステロール結晶塞栓症、溶血性尿毒症症候群などが類似の臨床経過をたどる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)入院安静を基本とする。本症の発症・進展に感染症の関与があること、日和見感染の多さなどから、環境にも十分配慮し、可能な限り感染症の合併を予防することが必要である。RPGNは、さまざまな原疾患から発症する症候群であり、その治療も原疾患により異なる。本稿では、ANCA陽性のpauci-immune型RPGNの治療法を中心に示す。治療の基本は、副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬による免疫抑制療法である。初期治療は、副腎皮質ホルモン製剤で開始し、炎症の沈静化を図る。早期の副腎皮質ホルモン製剤の減量が必要な場合や糖尿病などの併発例で血糖管理困難例には、アバコパンの併用を行う。初期の炎症コントロールを確実にするためにシシクロホスファミド(経口あるいは静注)またはリツキシマブの併用を行う。また、高度腎機能障害を伴う場合には血漿交換療法を併用する。これらの治療で約6ヵ月間、再発、再燃なく加療後に、維持治療に入る。維持治療については経口の免疫抑制薬や6ヵ月毎のリツキシマブの投与を行う。また、日和見感染症は、呼吸不全により発症することが多い。免疫抑制療法中には、ST合剤(1~2g 48時間毎/保険適用外使用)の投与や、そのほかの感染症併発に細心の注意をはらう。4 今後の展望RPGNの生命予後は各病型とも早期発見、早期治療開始が進み格段の改善をみた。しかしながら、進行が急速で治療開始時の腎機能進行例の腎予後はいまだ不良であり、初期治療ならびにその後の維持治療に工夫を要する。新たな薬剤の治験が開始されており、早期発見体制の確立と共に、予後改善の実現が待たれる。抗GBM腎炎については、早期発見がいまだ不能で、過去30年間にわたり腎予後は不良のままで改善はみられていない。現在欧州を中心に抗GBM腎炎に対する新たな薬物治療の治験が進められている7)。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 急速進行性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)旭 浩一ほか. 腎臓領域指定難病 2017年度新規受療患者数:全国アンケート調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎疾患に関する調査研究 平成30年度分担研究報告書.2019.2)杉山 斉ほか. 腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR) 2022年次報告と経過報告.第66回日本腎臓学会学術総会3)日本透析医学会 編集. 我が国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)4)Atkins RC, et al. J Am Soc Nephrol. 1996;7:2271-2278.5)厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 日腎誌. 2011;53:509-555.6)Kaneko S, et al. Clin Exp Nephrol. 2022;26:234-246.7)Soveri I, et al. Kidney Int. 2019;96:1234-1238.公開履歴初回2024年11月7日

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GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

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インフルワクチンの日本人の心不全に対する影響~PARALLEL-HF試験サブ解析/日本心不全学会

 呼吸器感染症に代表されるインフルエンザ感染は、心筋へウイルスが移行する直接作用、炎症惹起性サイトカイン放出による全身反応などによって心血管障害を及ぼす。また、プラークの不安定化、炎症による心拍数の不安定化への影響なども報告されているが、海外研究であるPARADIGM-HF試験1)が検証したところによると、インフルエンザワクチン接種が心不全患者の死亡リスク低下と関連する可能性を示唆している。 そこで筒井 裕之氏(国際医療福祉大学大学院 副大学院長)らはPARADIGM-HF試験に準じて行われた国内でのPARALLEL-HF試験2)の後付けサブ解析として『国内心不全患者のインフルエンザワクチン接種と心血管イベントの関連性』について検証、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionで報告した。なお、本研究はCirculation reports誌2024年9月10日号に掲載3)された。 本研究は、日本国内の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対するサクビトリルバルサルタンの臨床試験であるPARALLEL-HF試験に登録された患者について、インフルエンザワクチンの接種率ならびに心血管イベントとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者223例のうち97例(43%)がインフルエンザワクチン接種を受けていた。・ワクチン接種群を非接種群と比較した場合の特徴として、高齢、BMI・収縮期血圧・eGFR低値があった。また、NYHA、LVEF、NT-proBNP、薬物治療について有意差はみられなかった。・ワクチン接種群の全死亡(調整ハザード比[HR])は0.83(95%信頼区間[CI]:0.41~1.68)、心肺またはインフルエンザに関連した入院/死亡は調整HRが0.80(95%CI:0.52~1.22)と低い傾向がみられた。・研究限界として、解析対象者が少数、ワクチン接種と予後との関連を解析している、ワクチンの詳細情報(種類、接種回数など)不十分などがあった。 日米欧の各診療ガイドラインでは“肺炎は心不全の増悪因子の1つ”と記されており、「日本国内では感染予防のため(クラスI、エビデンスレベルA)、米国では死亡率低下のためにreasonableである(クラスIIa、エビデンスレベルB)、欧州では心不全死亡低下のために[肺炎球菌ワクチンなども含めて]should be considered(クラスIIa、エビデンスレベルB)と推奨が記されている。接種目的は各国で異なるが欧米諸国の接種率は高い」と説明した。日本における心不全患者のインフルエンザワクチン接種率は国内の全体接種率が55.7%であることを見ても、低い傾向にあることが本研究より明らかになった。これを踏まえ、同氏は「本結果は海外のPARADIGM-HF試験のサブ解析と同様の結果を示した。現在、国内のHFrEF患者のインフルエンザワクチン接種率は不十分であるが、ワクチン接種による臨床的利益が期待できることが示された」と述べ、「ワクチン接種を推奨する医療の役割分担が不明瞭(かかりつけ医/一般内科/循環器専門医、クリニック/病院などの連携の必要性)、副反応による懸念、広報が不十分などの解決が喫緊の課題」と締めくくった。

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10月25日開催『第6回ヘルスケアベンチャー大賞』最終審査会【ご案内】

 2024年10月25日(金)に『第6回ヘルスケアベンチャー大賞』最終審査会が開催される。「アンチエイジングからイノベーションを!」をテーマに、アンチエイジングに資するヘルスケア分野のビジネスプランやアイデアを企業から募集。その中から書類審査を経て、見事に選ばれたファイナリスト5社がヘルスケアベンチャー大賞の獲得を目指し、最終ピッチを行う。そのほか、中村 雅也氏(慶應義塾大学医学部整形外科学教室)による特別講演や、イベント後には、最終審査会を終えたばかりのファイナリストとの交流の場として懇親会などが設けられる。 最終審査会には事前登録をすれば無料で参加可能で、申し込みは10月24日(木)まで。 開催概要は以下のとおり。開催日時:10月25日(金)15:00~17:00(懇親会 17:00~18:00)開催形式:会場開催とWEBのハイブリッド参加方法:無料(事前参加登録制)会場:日本橋ライフサイエンスハブ   (東京都中央区日本橋室町1-5-5 室町ちばぎん三井ビルディング8階)申込締切:10月24日(木)参加登録はこちら【プログラム】1.開会のあいさつ2.本日の進行についての説明3.ファイナリストによるプレゼンテーション <ファイナリスト 5社>※五十音順 株式会社Genics 「全自動歯ブラシによる口腔および全身の健康維持支援事業」 株式会社CCHサウンド 「軟骨伝導による高齢者が生き生きと活躍するための窓口の実現と認知症の予防」 tantore株式会社 「舌筋トレーニング向けシート状グミ「tantore sheet」の開発で無呼吸症候群と誤嚥性肺炎の予防」 株式会社レナートサイエンス 「人工脂肪を活用した乳房再建・豊胸の実現」 株式会社Rhelixa 「日本人の遺伝的背景に適合する第2世代エピジェネティック・クロックを利用した生物学的年齢評価および抗老化ソリューション開発事業[エピクロック(R)事業]」4.特別講演「私たちが目指す近未来の医療・介護・ヘルスケアとは」  中村 雅也氏(慶應義塾大学医学部整形外科学教室)5.審査結果発表と各賞表彰式6.総評【主催】日本抗加齢協会【共催】日本抗加齢医学会【後援】厚生労働省 経済産業省 日本医師会 三井不動産 LINK-J 読売新聞 「第6回ヘルスケアベンチャー大賞」ホームページはこちら【同日開催「AgeTechX DEMO DAY 2024」】 AgeTechXは、生活者発想でシニアビジネスを創造していく「博報堂シニアビジネスフォース」と、シリコンバレーと日本を拠点にしているベンチャーキャピタルであるスクラムベンチャーズの関連会社、スクラムスタジオが立ち上げたグローバル事業共創プログラム。 本プログラムを通じ、「健康・長寿・人生100年時代」をテーマとしたエイジング課題を、テクノロジーで解決するサービス・アプリケーションの社会実装を目指す。 DEMO DAYでは、5ヵ月間の成果披露も含めた事業のプレゼンテーションを実施予定で、「第6回ヘルスケアベンチャー大賞」と併せて登録が可能である。参加登録はこちら開催日時:10月25日(金)12:30~14:20開催形式:会場開催とWEBのハイブリッド参加方法:無料(事前参加登録制)会場:日本橋ライフサイエンスハブ(東京都中央区日本橋室町1-5-5 室町ちばぎん三井ビルディング8階)申込締切:10月24日(木)【お問い合わせ先】 ヘルスケアベンチャー大賞事務局 E-mail:healthcare-v@anti-aging.gr.jp TEL:03-5651-7503 ※審査に関するお問い合わせには応じられません。 AgeTechX運営事務局 E-mail:agetechx@scrum.vc

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ウイルスを寄せ付けない鼻スプレーを開発

 薬剤を含まない鼻スプレーが、理論的には、マスク着用よりもインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの呼吸器系病原体の拡散を防ぐのに効果的である可能性を示唆する研究が報告された。このスプレーに含まれている医学的に不活性な成分が、人に感染する前に鼻の中の病原体を捕らえるのだという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院麻酔科のNitin Joshi氏らによるこの研究結果は、「Advanced Materials」に9月24日掲載された。 論文の責任著者の一人である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJeffrey Karp氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、呼吸器系病原体が非常に短期間で、人類に極めて大きな影響を与えることをわれわれに示した。その脅威は、今も続いている」と話す。 ほとんどの病原体は、鼻から人体に入り込む。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染者が吐き出す病原体を含んだ小さな飛沫を健康な人が吸い込むと、病原体が鼻腔内に付着して細胞に感染するのだ。こうした病原体に対する対抗手段の一つはワクチン接種だが、完璧ではなく、接種した人でも感染して病原体を伝播させ得る。また、マスク着用も有効な手段ではあるが、やはり完璧ではない。 今回、研究グループが開発した鼻スプレーは、Pathogen Capture and Neutralizing Spray(PCANS、病原体補足・中和スプレー)と名付けられたもの。スプレーに使用されている成分は、米食品医薬品局(FDA)の不活性成分データベース(IID)に登録されている、承認済みの点鼻薬用の化合物か、FDAによりGRAS(食品添加物に対してFDAが与える安全基準合格証)確認物質に分類されている化合物(ゲランガム、ペクチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース〔HPMC〕、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩〔CMC〕、カーボポール、キサンタンガム)であるという。Joshi氏は、「われわれは、これらの化合物を使って、3つの方法で病原体をブロックする、有効成分に薬剤を含まない製剤を開発した。PCANSは、呼吸器からの飛沫を捕らえて病原体を固定し、効果的に中和して感染を防ぐゲル状のマトリックスを形成する」と語る。 研究グループは、3Dプリントされた人間の鼻のレプリカを用いた実験を行い、このスプレーの効果をテストした。その結果、このスプレーにより、鼻腔内粘液と比べて2倍の量の飛沫を捕らえることができることが示された。論文の筆頭著者で同大学麻酔科のJohn Joseph氏は、「PCANSは鼻腔内で粘液と混ざることでゲル化し、機械的強度を100倍まで高めて強固なバリアを形成する。インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎桿菌など、われわれがテストした全ての病原体の100%近くをブロックし、中和した」と成果について語っている。 また、マウスを使った実験では、このスプレーを1回投与するだけで、致死量の25倍のインフルエンザウイルスの感染を効果的に阻止できることも示された。ウイルスがマウスの肺に侵入することはなく、炎症などの免疫反応も認められなかったという。 論文の共著者である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のYohannes Tesfaigzi氏は、「マウスモデルを用いた厳密に計画された研究で、PCANSによる予防的治療は非常に優れた有効性を示し、治療を受けたマウスは完全に保護されたが、未治療のマウスではそのような効果は認められなかった」と述べている。 研究グループは、「今後は、人間を対象にした臨床試験でこのスプレーの効果をテストする必要がある」との考えを示している。また、このスプレーによりアレルゲンを効果的にブロックできるのかどうかについても調査中であるという。

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乳児への肺炎球菌ワクチンの減量接種、免疫原性への影響/NEJM

 英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のKatherine E. Gallagher氏らは、生後6週以上8週未満児において、10価および13価肺炎球菌結合型ワクチン(それぞれPCV10[GSK製]、PCV13[ファイザー製])の減量接種による免疫原性について検討し、PCV13の40%用量の3回接種(初回免疫2回、追加免疫1回)は全量接種に対し全血清型で非劣性が認められたことを報告した。PCVワクチンは、定期予防接種の中でも高価なワクチンであることから、減量接種レジメンがワクチン接種プログラムの持続可能性を高める1つの選択肢となりうることが期待されていた。NEJM誌オンライン版2024年9月26日号掲載の報告。PCV10およびPCV13の各40%用量と20%用量を全量と比較 研究グループは、ケニアのキリフィおよびモンバサの9施設において、生後6週以上8週未満の健康な新生児を以下の7群へ無作為に均等に割り付け、生後18ヵ月まで追跡調査を行った。A群:PCV13全量接種B群:PCV13の40%用量接種C群:PCV13の20%用量接種D群:PCV10全量接種E群:PCV10の40%用量接種F群:PCV10の20%用量接種G群:既存スケジュールでPCV10全量接種 A~F群では、初回免疫2回(1回目:登録時、2回目:56日後)、追加免疫1回(生後約9ヵ月時)の計3回接種し、G群では初回免疫3回(登録時、28日後、56日後)を接種し、追加免疫はなしとした。A~F群は、児の保護者およびワクチン接種チーム以外の全試験スタッフが割り付けを盲検化されたが、G群のみは盲検化できなかった。 初回免疫完了後、4週間ごとに4回血液検体を採取するとともに、8週間ごとに2回鼻咽頭スワブを採取し(生後約9ヵ月および約18ヵ月時)、免疫原性を評価した。 非劣性の基準は、3回目接種の4週後に各減量群の全量群に対するIgG幾何平均抗体濃度(GMC)の比の95%信頼区間(CI)の下限が0.5超であり、初回免疫完了の4週後(参加者が生後約18週になった時)に血清型特異的IgG抗体濃度0.35μg/mL以上に達した参加者の割合の差の95%CIの下限が-10%超とした。また、ワクチンの用量は、PCV10群では血清型10種中8種以上、PCV13群では血清型13種中10種以上で非劣性基準を満たした場合に、非劣性が示されると事前に規定した。抗体保有率は生後約9ヵ月および約18ヵ月時に評価した。PCV13の40%用量の3回接種は、全量接種に対して非劣性 2019年3月~2021年11月(2020年3月~10月はCOVID-19パンデミックのため中断)に計2,100例の乳児が登録され、2,097例が無作為化された。生後18ヵ月時のper-protocol解析集団は計1,572例(75%)であり、抗体保有率の解析対象は生後9ヵ月時が1,439例(69%)、生後18ヵ月時が1,364例(65%)であった。 per-protocol解析の結果、PCV13の40%用量(B群)は、初回免疫2回接種後に13血清型中12血清型、追加免疫後に13血清型中13血清型について非劣性基準を満たした。PCV13の20%用量(C群)、PCV10の40%用量(E群)および20%用量(F群)については、全量接種に対する非劣性は示されなかった。 生後9ヵ月時および18ヵ月時におけるワクチン血清型の抗体保有率は、PCV13の各群間で同程度であった。

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脳卒中の発熱予防は機能回復に有用か?/JAMA

 急性脳血管障害の患者では、発熱の標準治療と比較して、自動体表温度管理装置(Arctic Sun体温管理システム)を用いた予防的正常体温療法による発熱予防は、発熱負荷を効果的に減少させるが、機能回復には改善を認めないことが、米国・Boston University Chobanian and Avedisian School of MedicineのDavid M. Greer氏らが実施した「INTREPID試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年9月25日号に掲載された。7ヵ国のICUの無作為化試験 INTREPID試験は、7ヵ国の43の集中治療室(ICU)で実施した非盲検無作為化試験であり、2017年3月~2021年4月に参加者を登録した(Becton, Dickinson and Companyの助成を受けた)。 年齢18~85歳、急性期脳卒中でICUに入室し、脳卒中発症前は機能的に自立していた患者(修正Rankin尺度[mRS]スコアが0~2点、81~85歳の患者については0点)を対象とした。 被験者を、発熱予防を受ける群または標準治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。発熱は、体温38.0℃以上と定義した。発熱予防群では、目標体温を37.0℃とし、ICUで14日間またはICU退室まで、自動体表温度管理装置による体温管理療法を行った。標準治療群では、38℃以上の体温の発生時に標準化された段階的な発熱治療を実施した。 主要アウトカムは1日平均発熱負荷とし、37.9℃以上の体温曲線下面積(総発熱負荷)を急性期の総時間数で割り、24時間を乗じた値(℃・時)と定義した。主な副次アウトカムは、mRS(0点[症状なし]から6点[死亡]までの7段階のうち5点[重度障害]と6点を1つに統合した6カテゴリー)のシフト分析による3ヵ月間の機能回復であった。 予定されていた中間解析で、発熱予防群における主な副次アウトカム(機能回復)の無益性が示されたため、患者登録を中止した。3つのサブタイプとも発熱負荷が良好 677例(年齢中央値62歳、女性345例[51%])を登録し、発熱予防群に339例、標準治療群に338例を割り付けた。677例のうち254例が脳梗塞、223例が脳出血、200例がくも膜下出血だった。433例(64%)が12ヵ月間の試験を完了した。 1日平均発熱負荷は、標準治療群が0.73(SD 1.1)℃・時(範囲:0.0~10.3)であったのに対し、発熱予防群は0.37(1.0)℃・時(0.0~8.0)と有意に低かった(群間差:-0.35°C・時、95%信頼区間[CI]:-0.51~-0.20、p<0.001)。 また、脳卒中サブタイプ別の発熱負荷の群間差は、脳梗塞が-0.10°C・時(95%CI:-0.35~0.15)、脳出血が-0.50°C・時(-0.78~-0.22)、くも膜下出血が-0.52°C・時(-0.81~-0.23)といずれも発熱予防群で良好だった(すべてp<0.001[Wilcoxonの順位和検定])。 一方、3ヵ月の時点で、機能回復には両群間に有意な差を認めなかった(mRSスコア中央値:発熱予防群4.0点vs.標準治療群4.0点、機能的アウトカムの良好な転換のオッズ比:1.09、95%CI:0.81~1.46、p=0.54)。主要有害事象の年間発生率は同程度 急性期におけるすべての主要有害事象(死亡、肺炎、敗血症、悪性脳浮腫)の発生率には両群間で顕著な差はなく、試験期間を通じた発生率(発熱予防群:3ヵ月時47.4%、6ヵ月時48.9%、12ヵ月時49.5%、標準治療群:44.9%、47.9%、48.5%)にも差を認めなかった。 感染症の発生率は、発熱予防群(33.8%)と標準治療群(34.5%)で同程度であった。心イベント(14.5% vs.14.0%)、呼吸器障害(24.5% vs.20.5%)についても両群間に顕著な差はなかった。また、悪寒が発熱予防群で85.5%、標準治療群で24.3%にみられ、発熱予防群の26例(7.7%)が悪寒により治療を中止した。 著者は、「本研究は、発熱リスクの高い患者、とくに72時間以上のICUでの治療を要する重症患者を対象としたが、標準治療群の25%は発熱せず、両群は慎重にマッチングされたため発熱予防群のかなりの割合の患者も発熱しにくかった可能性があり、発熱予防はこれらの患者のアウトカムには影響しない可能性がある」と述べ、「発熱予防が、発熱負荷のある患者または発熱の可能性が非常に高い患者においてのみ、アウトカムを改善するかどうかについては、さらなる検討が必要である」としている。

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第213回 医療機関に迫る変化と課題、コロナ後の医療構造再編

経営悪化の先にあるもの2024年も残り3ヵ月となり、今春(令和6年度)の診療報酬改定の影響がみえてきました。多くの入院医療機関では、病床稼働率の低下に苦慮しているところが増えているのではないでしょうか?当院でも、近隣の病院でも同様の悩みがあり、コロナ前には一時的な病床稼働率の低下が、冬場に回復する傾向がみられましたが、現在は深刻な影響が続いています。従来の「医師不足」や「看護師不足」による医療崩壊とは異なるものが、新しい形で医療機関に迫っているようです。患者不足の原因まず、医療機関側に原因があると考えられます。今春の診療報酬改定により、急性期一般病床1(旧7:1病床)の平均在院日数が18日以内から16日以内に短縮されました。さらに、医療・看護必要度の見直しも影響しています。急性期病床における「重症度、医療・看護必要度」の評価が変更され、B項目が算定から外れたことや、A項目の「救急搬送後の入院」が、従来の5日から2日に短縮されたことで、急性期病床が絞り込まれました。これにより、軽症患者の早期退院や転院が求められ、結果として入院患者数が減少しています。患者側の原因としては、受療動向の変化が挙げられます。軽度の発熱や呼吸困難で来院した高齢患者は、以前であれば「精査目的」で入院することが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て、多くの高齢者は「病院は快適な場所ではなく、長く滞在したい場所ではない」と感じるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、面会制限や認知症の進行、ADLの低下を経験したことから、病院での不必要な入院を避ける傾向が強まっています。その結果、軽症の肺炎や心不全であっても、入院を希望せず、外来通院での治療を選ぶ患者が増加しています。また、訪問診療の急速な普及も要因の1つです。現在、わが国で訪問診療を受けている患者さんは100万人を超えています(在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に[日経メディカル])。とくに重症の末期がん患者などが、在宅での療養を選ぶケースが増えています。地域によっては、人工呼吸器管理が必要な患者でも、訪問診療やサービス付き高齢者住宅では看取り対応が可能となっています。これまで、末期がん患者は症状が悪化すれば入院していましたが、現在は訪問診療や介護サービスを活用して在宅療養を続けるケースが多くなり、入院患者はより治療に特化した重症患者に限られている傾向があります。訪問診療や訪問看護の認知度向上により、急性期医療機関の役割が変わり、外来受診や訪問診療で療養を続ける患者が増加しています。このため、急性期医療機関への入院は難度の高い手術や高額な治療材料を用いたケースに限られるようになり、ADLの低下や嚥下困難など治癒が難しい症例は積極的に院外に移す傾向が強まっています。コロナ禍によって定期受診の間隔が広がったこと、後期高齢者の増加に伴い、大病院への通院や入院患者数の減少傾向が顕著です。2025年の地域医療構想に向けて政府は病床削減に取り組んでいたのが(病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に[日経新聞])功を奏したとも言えますが、医療の構造変化のスピードがCOVID-19で早まったため、2025年までに実現を目指していた「地域医療構想」の必要病床数以上に医療ニーズが減少してしまい、大部分の医療機関で患者不足に見舞われたというのが真実の姿ではないでしょうか。今後の展望政府は、後期高齢者の増加と労働人口の減少に向けて、2040年を見据えた「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げ、対策を検討しています。とくに75歳以上の高齢者に対する医療・介護の提供体制が今後の課題です。85歳以上の高齢者に対しては、積極的な手術や高度な医療を控える傾向がみられます。心臓手術の件数も減少し、代わりに低侵襲手術が増加しています。今後も内視鏡やロボット手術などの技術革新により、外来手術が増加し、入院期間が短縮されるものと予想されます。全国に整備されたICUやHCU病床も、コロナ禍以降の稼働率低下が問題となっていますが、今後は外来手術センターの設立や回復期への早期転院によって、必要な病床数がさらに減少し、病床再編が求められるでしょう。中小規模の病院では、従来の急性期医療にこだわらず、地域包括医療病棟などへの転換が進むと考えられます。また、政府が進める医療と介護の連携強化が重要となり、病院間の情報共有をデジタル化することで業務効率化が求められます。一般の開業医にとっても、今後、高齢者の歩行能力が低下してしまうと在宅での生活や通院が困難となり、さらに人口の高齢化が進んでいる場合、外来患者数の減少が進むため、新しい患者の獲得のためには、訪問診療の提供や施設などとの連携が必要になると思われます。参考1)在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に(日経メディカル)2)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)3)増える「老衰」「在宅みとり」人生の最期どう迎えるか(NHK)4)病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に(日経新聞)5)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)

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誤嚥性肺炎に関連する抗コリン薬~日本医薬品副作用データ

 日本の超高齢化社会は、とくに高齢者の誤嚥性肺炎のマネジメントに関して、大きな課題を呈している。大阪・藤立病院の上田 章人氏らは、主に日本医薬品副作用(JADER)データベースを用いて、抗コリン薬使用と誤嚥性肺炎の発生率との関連を調査した。Respiratory Investigation誌2024年11月号の報告。 2004年第1四半期〜2023年第3四半期のJADERデータベースより抽出した、60歳以上の誤嚥性肺炎2,367例のデータを分析に用いた。シグナル検出による報告オッズ比を用いて、誤嚥性肺炎と抗コリンリスクスケールに記載されている49の薬剤との関連を評価した。これらの関連性を検証するため、MEDLINEとコクランライブラリーの調査結果を組み込んだスコープレビューが実施された。 主な結果は以下のとおり。・一次解析では、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなど特定の薬剤に関連する誤嚥性肺炎リスクの増加が認められた。・20の薬剤が、誤嚥性肺炎リスク増加と有意に関連していた。・とくに高齢者などの高リスク集団や統合失調症、パーキンソン病などの患者において、これらの薬剤のドーパミンブロック作用を考慮することの重要性が示唆された。 著者らは「誤嚥性肺炎リスクを軽減するためには、クロザピン、ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなどの強力なドーパミンブロック作用を有する抗コリン薬を注意深くモニタリングする必要がある。これらの関連をさらに調査するためにも、今後の観察研究や介入研究が求められる」と結論付けている。

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ESMO2024レポート 肺がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日にかけて、ESMO2024がスペインのバルセロナで開催された。肺がん領域でも多くの注目される内容が発表されたが、その中でもとくに現在や近未来の日常臨床に影響を与えそうなものについていくつか紹介したい。すでに報告されているpositive試験のアップデート内容がある一方で、期待された第III相試験のnegativeデータも複数報告されていたことも印象的であった。LBA48:CCTG BR.31試験試験概要BR.31試験は、完全切除された非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する補助療法としてのデュルバルマブの有効性と安全性を評価する第III相二重盲検プラセボ対照試験である。試験デザイン患者は完全切除後に原則プラチナベースの化学療法を受けた後、2:1の割合でデュルバルマブ(20mg/kgを4週ごとに1年間)またはプラセボの投与を受けた。PD-L1発現が25%以上の患者で、EGFRおよびALKの遺伝子変異を持たない患者での無病生存期間(DFS)が主要評価項目であり、副次評価項目として全生存期間(OS)、生活の質(QOL)、および安全性が評価された。結果PD-L1発現が25%以上の患者群では、デュルバルマブを投与された群とプラセボ群でDFSに有意な差は認められなかった。DFS中央値はデュルバルマブ群で69.9ヵ月、プラセボ群で60.2ヵ月であり、ハザード比は0.935(p=0.642)であった。また、安全性プロファイルは従来の知見と一致しており、重大な有害事象(Grade3/4)の発生率は23.5%であった。結論完全切除後のNSCLC患者に対して、デュルバルマブはDFSの延長に寄与しないことが示された。治療関連有害事象(TRAE)は発生したものの、全体的な安全性は許容範囲内とされた。コメント本試験は、本邦も西日本がん研究機構(WJOG)を介して参加したグローバル試験であり、その結果も注目されたが、結果はnegativeであり残念であった。NSCLCの術後補助療法では、これまでにアテゾリズマブやペムブロリズマブの良好な結果が示されていたが、それらとの結果の違いの原因については明らかではない。デュルバルマブについては後述の術前・術後にデュルバルマブを使用するAEGEAN試験は良好な結果であったため、やはり免疫療法は術後投与よりも術前投与のほうが有利であることが示唆された。LBA49:AEGEAN試験研究概要AEGEAN試験において、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)のクリアランスが術前治療中の病理学的効果および無イベント生存期間(EFS)に与える影響を評価することを目的とした。研究デザインこの研究では、手術可能なNSCLC患者(IIA~IIIB期)が対象となり、デュルバルマブ1,500mgとプラチナベースの化学療法を4サイクル行い、その後、12サイクルのデュルバルマブまたはプラセボを投与した。試験の探索的エンドポイントとして、ctDNAクリアランスと病理学的完全奏効(pCR)、EFSとの関連が評価された。結果ctDNAクリアランスが得られた患者では、pCR率が大幅に改善した。とくに、術前治療4サイクル後にctDNAがクリアされた患者では、EFSが有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.23、p<0.05)。また、ctDNAクリアランスが得られた患者の5年EFS率は73.4%に達し、予後良好な患者群であることが示された。結論手術可能なNSCLC患者において、術前のctDNAクリアランスはpCRおよびEFSの改善と強く関連しており、治療効果の早期予測指標として有望である。コメントAEGEANレジメンは本邦ではまだ承認されていないが、今後承認が期待されている。ctDNAクリアランスを含めた術前治療後の評価により高率にpCRを予測できるようになれば、術前療法のみで治癒し、手術を必要としない患者も将来的には予測できるようになるかもしれない。また、リキッドバイオプシーにより術後療法の必要性も判断できるようになることを期待したい。1208MO:NEJ034試験試験概要この第III相試験は、特発性肺線維症(IPF)を伴う肺がん患者に対する周術期ピルフェニドン療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。ピルフェニドンは抗線維化および抗炎症作用を持つ薬剤であり、術後の急性増悪を予防できるかどうかが検証された。試験デザイン患者は、周術期にピルフェニドンを4週間投与された群と投与されなかった群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、術後30日以内に発生した急性増悪の割合であった。結果ピルフェニドン群で急性増悪の発生率は6.1%、対照群では10.3%と報告されたが、この差は統計学的に有意ではなかった(p=0.339)。ピルフェニドンの投与が急性増悪の予防に明確な効果を示すことはできなかった。結論日本人患者を対象としたこの試験では、ピルフェニドンが術後の急性増悪を防ぐ効果は示されなかった。コメント本邦における肺がん手術では手術関連死はほとんどなく、世界的にもきわめて良好であるが、間質性肺炎合併肺がん患者においては術後急性増悪が発生するとその致死率は約50%とされているため、本試験の結果は注目されていた。結果はnegativeであり残念であった。間質性肺炎合併肺がん患者に対する、より安全な治療法の開発が期待される。1243MO:JCOG1914試験試験概要この第III相試験は、切除不能な局所進行NSCLCを有する高齢者(75歳以上)に対する週1回のカルボプラチン(CBDCA)+nab-パクリタキセル(nab-PTX)療法と毎日の低用量CBDCA療法を比較したものである。試験デザイン患者はCBDCA+nab-PTXまたは低用量CBDCAを放射線療法と併用して投与された。化学放射線療法(CRT)後はデュルバルマブによる維持療法が推奨された。主要評価項目はOSであり、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、奏効率、患者報告アウトカム(PROs)、および安全性が評価された。結果PFSの結果では、1年PFS率はCBDCA+nab-PTX群で55.5%、低用量CBDCA群で59.0%と報告され、OSに関してもCBDCA+nab-PTX群で79.6%、低用量CBDCA群で87.3%であり、ともに有意差は確認されなかった。TRAE(Grade3/4)は両群ともに比較的多く報告され、CBDCA+nab-PTX群での治療関連死も観察された。結論高齢の日本人患者において、CBDCA+nab-PTX療法は、低用量CBDCA療法に対して優位性を示さなかった。コメント本試験は中間解析の結果、将来的にもCBDCA+nab-PTX群のOSでの優越性が示される可能性はきわめて低いと判断され、無効中止となった。本邦においては、高齢者に対するcCRTにおいて標準的な化学療法レジメンは引き続き低用量CBDCAということになる。LBA54:MARIPOSA-2試験試験概要この第III相試験は、EGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者において、オシメルチニブ治療後のアミバンタマブ+化学療法併用に与える影響を評価することを目的としており、今回はアップデートされたOSが発表された。試験デザイン患者は、アミバンタマブ+化学療法、または化学療法単独の群に無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目としてOS、治療後の症状進行までの時間(TTSP)、治療中断までの時間(TTD)、および安全性が評価された。結果2回目の中間解析では、アミバンタマブ+化学療法併用群は化学療法単独群と比較してOSの延長傾向が示された(HR:0.73)。また、TTSPやTTDの観点からもアミバンタマブ併用群のほうが優れており、副作用プロファイルは既存のデータと一致していた。結論オシメルチニブ治療後の進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対して、アミバンタマブ+化学療法は全体的な生存率を改善し、今後の標準治療の1つとなる可能性がある。コメントMARIPOSA-2試験におけるアミバンタマブ+化学療法併用群と化学療法単独群の比較について報告された。2回目の中間解析でOSの延長傾向が報告された。オシメルチニブ治療後増悪時の治療選択は課題であり、本レジメンの本邦での承認が期待される。LBA55:MARIPOSA試験(抵抗性メカニズムの解析)研究概要この試験は、進行NSCLC患者に対する1次治療としてのアミバンタマブ+lazertinibの併用療法と、オシメルチニブ単独療法における獲得抵抗性メカニズムを比較することを目的としている。試験デザインEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC患者を対象に、アミバンタマブ+lazertinib群(429例)とオシメルチニブ群(429例)で比較した。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目としてOS、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、および安全性が評価された。結果ctDNAを用いたGuardant360 CDx がん遺伝子パネルにより、アミバンタマブ+lazertinib群とオシメルチニブ群では抵抗性メカニズムの違いが明らかになった。とくに、MET増幅がオシメルチニブ群では9.3%の患者に認められたのに対し、アミバンタマブ+lazertinib群では1.8%と低かったことが確認された。さらに、EGFRの二次性耐性変異発生率も、アミバンタマブ+lazertinib群のほうが低かったことが報告された。結論EGFR変異を有する進行NSCLC患者において、アミバンタマブ+lazertinibはオシメルチニブと比較して、EGFRおよびMETに関連した耐性メカニズムの発生率を有意に低下させた。コメントアミバンタマブの作用機序として期待通りの結果である。とくに、治療前と治療終了時のctDNAの比較により獲得耐性メカニズムを研究した点は興味深い。アミバンタマブ+lazertinib療法も本邦での承認が期待されている。LLBA81:ADRIATIC試験研究概要ADRIATIC試験は、限局型小細胞肺がん(LS-SCLC)患者を対象に、デュルバルマブ療法の有効性を評価したものである。とくに、cCRTの使用レジメンおよび予防的頭蓋照射(PCI)の影響に焦点を当てた。試験デザイン限局型SCLC患者において、cCRT後にデュルバルマブを投与した群と標準治療を比較した。PCIの使用も含めて、治療後のOSおよびPFSに与える影響が検討された。結果デュルバルマブ併用療法は、cCRT後の生存率を改善することが示されたが、PCIの有無やcCRTの内容にかかわらず、その効果は持続した。TRAE(Grade3/4)は両群で同様に発生し、安全性において大きな差は認められなかった。結論限局型SCLC患者に対するデュルバルマブ併用療法は、標準治療に比べて統計学的に有意な生存利益をもたらした。とくに、PCIの使用にかかわらず良好な結果が示されており、今後の標準治療として採用される可能性がある。コメント現在、限局型SCLCに対して免疫チェックポイント阻害薬は本邦では承認されていないが、ADRIATIC試験の結果により本邦での承認も期待される。今回の内容は限局型SCLCに対する本レジメンの標準的な使用をサポートすることになると考えられる。

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切除可能NSCLC、周術期ペムブロリズマブの追加が有効(KEYNOTE-671)/Lancet

 未治療の切除可能な早期非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、術前化学療法単独と比較し、術前ペムブロリズマブ+化学療法と術後ペムブロリズマブ療法を行う周術期アプローチは、3年全生存率が有意に優れ、無イベント生存期間が延長し、安全性プロファイルも良好であることが、カナダ・マギル大学ヘルスセンターのJonathan D. Spicer氏らが実施した「KEYNOTE-671試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月28日号で報告された。国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 KEYNOTE-671試験は、日本を含む世界189施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年5月~2021年12月に参加者の無作為化を行った(Merck Sharp & Dohmeの助成を受けた)。 年齢18歳以上、未治療の切除可能なStageII、IIIA、IIIB(N2)のNSCLCで、全身状態はECOG PSが0または1の患者を対象とした。 術前にペムブロリズマブ(200mg、3週ごとに静脈内投与)+シスプラチンベースの化学療法を4サイクル行った後に手術を施行し、術後ペムブロリズマブ(200mg、3週ごとに静脈内投与)療法を13サイクル行う群(ペムブロリズマブ群)、または術前にプラセボ(3週ごとに静脈内投与)+シスプラチンベースの化学療法を4サイクル行った後に手術を施行し、術後にプラセボ(3週ごとに静脈内投与)を13サイクル投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は2つで、ITT集団における全生存期間(無作為化から全死因による死亡までの期間)および無イベント生存期間(無作為化から、予定された手術を不可能にする局所進行、手術時の切除不能腫瘍の存在、RECIST version 1.1に基づく担当医評価の病勢進行または再発、全死因死亡、いずれかが最初に発生するまでの期間)とした。全生存期間中央値は未到達 797例を登録し、ペムブロリズマブ群に397例(年齢中央値63歳、女性118例[30%]、東アジア人123例[31%])、プラセボ群に400例(64歳、116例[29%]、121例[30%])を割り付けた。2回目の中間解析時の追跡期間中央値は36.6ヵ月だった。 Kaplan-Meier法による36ヵ月全生存率は、プラセボ群が64%であったのに対し、ペムブロリズマブ群は71%と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.93、p=0.0052[片側])。全生存期間中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達であり、プラセボ群では52.4ヵ月であった。 また、無イベント生存期間中央値は、プラセボ群の18.3ヵ月に比べ、ペムブロリズマブ群では47.2ヵ月と延長した(HR:0.59、95%CI:0.48~0.72)。新たな安全性シグナルの出現はない as-treated集団の解析では、治療関連有害事象はペムブロリズマブ群で97%(383/396例)、プラセボ群で95%(381/399例)に認めた。Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で45%(179例)、プラセボ群で38%(151例)に、重篤な治療関連有害事象はそれぞれ18%(73例)および15%(58例)に発現した。 ペムブロリズマブ群では、死亡に至った治療関連有害事象が1%(4例)(心房細動、免疫介在性肺疾患、肺炎、心臓突然死、各1例)、すべての治療の中止に至った治療関連有害事象が14%(54例)で発生した。免疫介在性有害事象およびインフュージョンリアクションは、ペムブロリズマブ群で26%(103例)にみられた。 著者は、「周術期ペムブロリズマブの効果に関する有益性は、健康関連QOLの長期的な低下を伴わず、新たな安全性シグナルは出現しなかったことである」とし、「これらの知見は、切除可能なStageII~IIIB(N2)NSCLCに対する術前化学療法への周術期ペムブロリズマブの追加は、標準治療の選択肢となる可能性があることを支持するものである」と述べている。

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肺がん診療のリアル

肺がん診療の現在(リアル)がわかる! 肺がん診療が面白くなる!!呼吸器専門医・がん治療認定医である経験豊富な著者が実際に肺がん患者さんに対して行っている診療を1冊の書籍にまとめました。本書は著者が発信している肺がん患者さん向けのYouTube『呼吸器ドクターNの肺がんチャンネル』とも連動しており、QRコードで関連動画に簡単にアクセスできます。本書とあわせて動画をご視聴いただくと、肺がん診療についてさらに理解を深めていただくことができるはずです。本書を通じて肺がん診療のリアルを感じてください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する肺がん診療のリアル定価4,950円(税込)判型A5判頁数250頁発行2024年10月著者野口 哲男(市立長浜病院呼吸器内科/呼吸器ドクターN)ご購入はこちらご購入はこちら

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ワクチン接種はかかりつけ医に相談を/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は10月2日、定例会見を開催した。会見では、松本会長が先日発足した石破 茂内閣誕生に言及し、医師会は地域を支える重要な医療インフラとして政権と一体となって政策を推進すること、防災省の提案もあるように医師会も災害対策を重要な事項と考えていること、医療・介護業界が物価高騰を上回る賃上げが実現できることなどを要望し、今後も諸政策で連携していくことを語った。また、先般発生した能登半島豪雨への支援金について10月末まで医師会員、一般からの寄付を募っていることを説明した。新型コロナウイルス感染症の重症化防止に高齢者はワクチン接種の検討を 次に感染症担当の笹本 洋一常任理事(ささもと眼科クリニック 理事長・院長)が 「季節性インフルエンザと新型コロナウイルス等の予防接種について」をテーマに、今秋の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、季節性インフルエンザへのワクチン接種などについて医師会の取り組みや考えを説明した。 COVID-19と季節性インフルエンザは流行傾向にあるが、COVID-19ワクチンの接種が10月1日より開始された。大きな変更点は、公費による無料接種ではなくなったことで、自治体による定期接種となる。対象者は「65歳以上の方」、「60~64歳で心臓、腎臓などに基礎疾患がある方、免疫機能に障害がある方」などが定期接種の対象となり、一部自己負担の有料接種となる。対象者は重症化予防のためにも接種を検討していただき、接種できるワクチンの種類、自己負担額については各自治体により異なるために確認してもらいたいと説明した。また、COVID-19ワクチンは、医師が必要と認めた場合、季節性インフルエンザや肺炎球菌ワクチンとの同時接種もできるので、かかりつけ医に相談してもらいたいと述べた。 そのほか、HPVワクチンの公費負担によるキャッチアップ接種にも触れ、9月末日までの初回接種を医師会としては広く啓発してきたが、これを逃した方も10月中の接種で最短で4~5ヵ月で公費負担の期日内に終えることができるので、かかりつけ医などに相談して欲しいと説明するとともに、通常の定期接種についても近医に問い合わせをお願いしたいと述べた。

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大理石骨病〔osteopetrosis〕

1 疾患概要■ 定義大理石骨病(osteopetrosis)は、破骨細胞の機能不全による骨吸収障害により、びまん性の骨硬化性疾患の総称である。遺伝的異質性の高い疾患であり、症状も早期に発症する重症の新生児型/乳児型、中等度の中間型、軽症の遅発型まで多様である。腎尿細管性アシドーシスや免疫不全を伴う病型もある。骨硬化による高骨量であるにもかかわらず、脆く骨折しやすい。■ 疫学わが国では患者は100人未満とされている。新生児型/乳児型は20万人に1人、遅発型では2万人に1人と報告されている。■ 病因破骨細胞の形成や機能に関連する複数の遺伝子異常(TCIRG1、CLCN7、OSTM1、TNFSF11、TNFRSF11A、PLEKHM1、CA2、SLC4A2、IKBKG、FERMT3、RASGRP2、SNX10)が報告されている。新生児型/乳児型は常染色体潜性遺伝、遅発型は常染色体顕性遺伝である。■ 症状新生児型/乳児型は早期より重度の骨髄機能不全(貧血、易感染性、出血傾向、肝脾腫など)、脳神経症状(難聴、視力障害、顔面神経麻痺など)、水頭症、低カルシウム血症、成長障害などを呈する。汎血球減少となるため感染や出血を生じやすく、幼児期までの死亡率は高い。中間型は、小児期に発症して骨折、骨髄炎、難聴、低身長、歯牙の異常など種々の症状を呈するが、骨髄機能不全は重篤ではない。遅発型では骨髄機能不全は認められず、病的骨折、下顎の骨髄炎、顔面神経麻痺などで診断されることが多い。また、遅発型では他の理由で施行された骨X線検査によって偶然発見されることもある。■ 予後新生児/乳児型では重度の貧血、出血、肺炎、敗血症などにより乳幼児期に死亡するものがある。視力障害、水頭症も問題となる。中間型の長期予後に関しては不明な点が多い。遅発型の生命予後は良い。成人期以降では骨折の遷延治癒や偽関節、骨髄炎、進行性の難聴などが日常生活における問題となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)上記の症状と下記の検査所見を合わせて診断する(表)。X線所見としては、全身性の骨硬化像を認め、頭蓋底や眼窩縁の骨硬化像、長管骨骨幹端のundermodeling(Erlenmeyerフラスコ状変形)や帯状透亮像、椎体終板の硬化像(サンドイッチ椎体、ラガージャージ椎体)、長管骨や恥骨などの骨内骨像などを特徴とする。新生児型/乳児型はしばしば低カルシウム血症、汎血球減少症を認める。表 大理石病の診断基準画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)重症の新生児/乳児型では骨髄移植、造血幹細胞移植などが試みられているが、現時点で確立されたものはない。種々の症状に応じての対症療法が中心となる。骨折に関しては著しい骨硬化により手術による固定術は困難なことが多い。骨髄炎は遷延化することが多く、長期にわたる薬物治療を要する。視覚障害に対する視神経の外科的減圧術は、技術的な困難さはあるが、一定の成果があるとされている。進行性の難聴に対しては補聴器が必要となる。歯科口腔関連では口腔外科的処置を必要とすることがある。4 今後の展望造血幹細胞移植の工夫、さまざまな前臨床試験が行われている。5 主たる診療科小児科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 大理石骨病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 大理石骨病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Wu CC, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102:3111-3123.2)Gene Reviews Japan(GRJ):CLCN7関連大理石骨病3)Palagano E, et al. Curr Osteoporos Rep. 2018;16:13-25.公開履歴初回2024年10月3日

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