サイト内検索|page:5

検索結果 合計:2030件 表示位置:81 - 100

81.

RSVのワクチン接種を受けていた妊婦は約11%/国立成育医療研究センター

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染は、乳児の下気道感染症の主要な原因であり、多大な罹患、入院、医療費の増大を引き起こす。RSV母子免疫ワクチンは近年いくつかの国では公費で提供されているが、わが国では任意接種で高額な自己負担費用がかかるため、実際の接種率や社会経済的背景による差は依然として不明確である。そこで、国立成育医療研究センター社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保 祐輔氏らの研究グループは、妊婦のRSVワクチンの接種率とその決定要因について全国調査を行った。その結果、ワクチン接種を受けていた妊婦は約11%に過ぎないことが判明した。この結果は、Journal of Infection and Chemotherapy誌2026年1月号に掲載された。妊婦のRSVワクチン接種、約9割が費用が高いと回答 研究グループは、2024年7月~2025年8月に出産した女性を対象に全国調査を実施した。質問票では、妊婦のRSVワクチンの接種状況、費用の負担感、ワクチン接種への躊躇に関する5Cモデルを含む関連意識、および人口統計学的特性を評価した。接種率を推定し、多変量修正ポアソン回帰分析を用いて接種に関連する要因を分析した。 主な結果は以下のとおり。・回答者1,279人のうち11.6%が妊婦用RSVワクチンの接種を受けていた。・世帯年収や教育歴が高いほどワクチン接種率が高い傾向が認められた。・関東圏外の地域および経産婦では接種率は低く、不妊治療歴のある妊婦、妊娠中のインフルエンザまたはジフテリア・百日咳・破傷風ワクチン接種歴のある妊婦では高かった。・5C領域では、「自信」と「集団的責任感」が高い接種率と関連し、「計算」は低い接種率と関連していた。・接種者の87.2%が費用を「高い」と評価し、未接種者が接種しなかった理由は「予防効果を知らなかった」(28.9%)と「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)であり、77.5%が「無料であれば接種をする」と回答した。 研究グループは、「わが国の妊婦向けRSVワクチン接種率は低く、接種率は社会経済的・地域的格差が認められた。主な障壁は認知度の低さと高額な自己負担費用であった。自己負担費用の軽減と医療提供者による推奨の標準化により、接種率向上と不平等緩和が期待される」と結論付けている。

82.

診療科別2025年下半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Effectiveness of high-dose influenza vaccine against hospitalisations in older adults (FLUNITY-HD): an individual-level pooled analysisJohansen ND, et al. Lancet. 2025 Nov 22;406:2425-2434.<FLUNITY-HD試験>:高齢者のインフルエンザ・肺炎入院予防、高用量ワクチンが標準用量に勝る事前に規定された統合解析において、高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)は標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)と比較して、インフルエンザまたは肺炎による入院に対し優れた予防効果を示し、また、副次評価項目である心肺疾患による入院、検査確定インフルエンザ入院、全原因入院の発生率も減少させました。HD-IIVは、本邦でも2026年10月より75歳以上を対象に定期接種化が決まっています。Inhaler-Related Greenhouse Gas Emissions in the US: A Serial Cross-Sectional AnalysisFeldman WB, et al. JAMA. 2025;334:1638-1649.<吸入器と環境問題>:米国における吸入器関連の温室効果ガス排出量本研究は、米国における過去10年間の吸入器関連の温室効果ガス排出量を分析したもので、とくに噴射剤(HFC)を含む加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)が排出量の98%を占めることを明らかにしました。その社会的コストは57億ドル(1ドル150円換算で約8,550億円)と試算されています。これはもはや医療者個人だけの問題ではなく、政策レベルでの対応が求められる公衆衛生上の課題です。患者さんの吸入デバイス選択においては、吸気力や手技などを最優先すべきですが、環境負荷の少ないドライパウダー吸入器(DPI)やソフトミスト吸入器(SMI)への切り替えが可能かどうかを常に念頭に置く必要があります。Systemic Corticosteroids, Mortality, and Infections in Pneumonia and Acute Respiratory Distress Syndrome : A Systematic Review and Meta-analysisSoumare A, et al. Ann Intern Med. 2025 Dec 2. [Epub ahead of print]<重症肺炎・ARDSへのステロイド>:死亡率低下と感染リスクへの影響市中肺炎におけるステロイド投与に関する長年の論争に1つの決着を与える重要なメタ解析です。非COVIDの重症肺炎やARDSにおいて「低用量・短期間(プレドニン換算3mg/kg/日以下、15日以内)」かつ「早期導入」であれば、死亡率を有意に低下させ、かつ懸念される院内感染のリスクを増やさないという結果でした。集中治療領域において、適切なプロトコル下でのステロイド投与を支持する強固なエビデンスと言えます。Hypertonic Saline or Carbocisteine in BronchiectasisBradley JM, et al. N Engl J Med. 2025;393:1565-1577.<CLEAR試験>:気管支拡張症の増悪予防、高張食塩水とカルボシステインに効果なし気管支拡張症の増悪予防に対し、高張食塩水やカルボシステイン(ムコダインなど)は海外を中心に広く使用されていますが、そのエビデンスは限定的でした。本研究は、英国の大規模な2×2要因RCTで、結果は標準治療への上乗せ効果として、高張食塩水もカルボシステインも52週間の増悪回数を有意に減らさないというものでした(p=0.12、p=0.81)。健康関連QOL(QoL-B、SGRQ、EQ-5D-5L)も改善をしませんでした。本邦ではカルボシステインの使用頻度が高い状況があります。日常診療で気管支拡張症に対して、ルーチンに処方する意義を再考しても良いのかもしれません。Overall Survival with Amivantamab-Lazertinib in EGFR-Mutated Advanced NSCLCYang JC, et al. N Engl J Med. 2025;393:1681-1693.<MARIPOSA試験>:EGFR変異陽性NSCLCの1次治療におけるアミバンタマブ+ラゼルチニブの全生存期間MARIPOSA試験の最終OS解析結果です。現在の標準治療であるオシメルチニブ単剤に対し、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用がHR:0.75(p=0.005)と有意なOS延長を示したことは、EGFR変異陽性肺がん治療における大きなマイルストーンです。3年生存率60%という数字は驚異的ですが、一方でGrade3以上の有害事象が80%(オシメルチニブ群は52%)と高率である点には十分な注意が必要です。とくに皮膚障害や静脈血栓塞栓症(VTE)の管理が実臨床での導入の鍵となります。高い有効性と忍容性のバランスを患者ごとにどう判断するかが、われわれ臨床医に問われています。

83.

間質性肺炎合併NSCLC、遺伝子検査の実施状況と治療成績は?

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)では、治療標的となるドライバー遺伝子異常の有無を遺伝子検査で確認することが一般的である。しかし、間質性肺炎(IP)を合併するNSCLC患者は、薬剤性肺障害のリスクが懸念され、一般的なドライバー変異(EGFR、ALKなど)の頻度が低いことが報告されていることから、遺伝子検査が控えられる場合がある。そこで、池田 慧氏(関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座)らは、びまん性肺疾患に関する調査研究班の分担・協力施設による多施設共同後ろ向き研究を実施し、IP合併NSCLC患者における遺伝子検査の実態、ドライバー遺伝子異常の頻度、分子標的治療の安全性・有効性を調査した。その結果、マルチ遺伝子検査の実施率は依然として低い一方で、特定の遺伝子変異(KRAS、BRAF、METなど)は一定頻度で検出された。また、ドライバー遺伝子異常を同定して適切に治療を行うことで、生存期間の改善につながる可能性も示唆された。本研究結果は、European Journal of Cancer誌で2026年1月12日にオンライン先行公開された。 研究グループは、本邦の37施設において2019年6月~2024年6月に診断した進行・再発の慢性線維化性IP合併NSCLC患者1,256例を対象として、後ろ向きに解析を行った。遺伝子検査の実施状況、ドライバー遺伝子異常の検出頻度、分子標的治療の安全性・有効性、全生存期間(OS)などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者の年齢中央値は74.0歳、喫煙歴ありが95.5%であった。IPの臨床診断は、特発性間質性肺炎(IIPs)が88.1%(1,106/1,256例)を占め、特発性肺線維症が48.7%(612/1,256例)となり、IIPsのなかで最多であった。・遺伝子検査の実施割合は59.2%(95%信頼区間[CI]:56.5~62.0)、治療開始前のマルチ遺伝子検査は41.0%(95%CI:38.3~43.8)にとどまった。・治療開始前にマルチ遺伝子検査を実施した患者(515例)において、13.2%にドライバー遺伝子異常が検出された。最も頻度が高かったのはKRAS遺伝子変異(4.7%、G12C変異が1.9%)であった。EGFR遺伝子変異(2.9%)、BRAF V600E遺伝子変異(1.6%)、MET遺伝子exon14スキッピング変異(1.6%)が続いた。・非扁平上皮NSCLC(320例)に限ると、KRAS遺伝子変異が6.9%(G12Cは3.1%)、EGFR遺伝子変異は3.8%であった。・ドライバー遺伝子異常が検出された患者(84例)のうち、33.3%が分子標的治療を受けた。分子標的治療を受けた患者(28例)における薬剤性肺臓炎の発現割合は、全体で25.0%であり、オシメルチニブ以外の薬剤性肺臓炎はGrade1であった。薬剤別の発現割合は以下のとおり。 ソトラシブ0%(0/6例) オシメルチニブ50.0%(4/8例:Grade2が3例、Grade5が1例) アレクチニブ33.3%(1/3例) ダブラフェニブ+トラメチニブ25.0%(1/4例) テポチニブ25.0%(1/4例)・ドライバー遺伝子異常の状況別にみたOS中央値は、陽性の集団が22.1ヵ月、陰性/不明の患者が13.8ヵ月であり、陽性の集団が良好であった(ハザード比[HR]:0.46、95%CI:0.33~0.64)。・ドライバー遺伝子異常陽性患者のうち、分子標的治療の有無別にみたOS中央値は、分子標的治療ありの集団が39.2ヵ月、なしの集団が24.0ヵ月であった(HR:0.67、95%CI:0.33~1.36)。・多変量解析において、ドライバー遺伝子異常陽性はOS改善と有意な関連がみられた(全体集団のHR:0.57、95%CI:0.38~0.86、p=0.007、何らかの遺伝子検査実施集団のHR:0.42、95%CI:0.23~0.77、p=0.005)。 本研究結果について、本論文の筆頭著者の池田氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【池田氏のコメント】 これまで実臨床の現場では、「IP合併例ではEGFR変異などの頻度が低い」「分子標的薬は薬剤性肺障害のリスクが高い」という懸念から、遺伝子検査、とくにマルチ遺伝子検査の実施自体が手控えられてきた側面が少なからずあったと思います。しかし本研究により、マルチ遺伝子検査を行うことで、KRAS G12C、BRAF V600E、MET exon14スキッピング変異といった、近年治療薬が登場した希少フラクションが一定の割合で確実に存在することが明らかになりました。また、リスク管理を行いつつ適切な分子標的治療へつなげることで、生存期間の延長が得られる可能性も示されました。治療の選択肢が少ないこの患者層において、治療標的を見いだすことは、患者さんにとって大きな希望となります。本研究結果が、IP合併例に対しても「まずはマルチ遺伝子検査を行う」という診療行動への動機付けとなり、1人でも多くの患者さんの治療機会の拡大と予後改善につながることを強く期待しています。

84.

抗菌薬による末梢神経障害【1分間で学べる感染症】第37回

画像を拡大するTake home message一部の抗菌薬・抗真菌薬は末梢神経障害を引き起こす可能性があり、とくに慢性使用時や高用量使用時には、そのリスクを念頭に置いた処方・モニタリングが重要であることを理解しよう。抗菌薬の使用中に、患者から「手足がしびれる」「足裏の感覚が鈍い」といった訴えがあった場合、まず考慮すべきは「薬剤性末梢神経障害(drug-induced peripheral neuropathy)」です。とくに抗菌薬を長期投与する機会の多い免疫不全、結核、真菌感染症の患者では、強く意識しておくことが重要です。今回は、抗菌薬による末梢神経障害の頻度や経過に着目して、代表的な薬剤を整理していきましょう。抗菌薬ごとの特徴と注意点メトロニダゾール抗嫌気性菌治療で広く使われる薬剤であり、高用量での長期使用(4週間で42g以上)では末梢神経障害が比較的高頻度で報告されています。症状は亜急性で、用量調整と早期中止により改善するといわれますが、一部の患者では長期間持続することがあります。イソニアジド結核治療の第1選択薬ですが、ビタミンB6(ピリドキシン)欠乏により末梢神経障害を起こすことがあります。ビタミンB6を併用することで発症頻度は大きく低下しますが、常に可能性を念頭に置いておくことが重要です。リネゾリドグラム陽性球菌に対する治療薬として使用されますが、2週間以上の使用で30%前後の頻度で神経障害が生じると報告されており、比較的頻度が高い抗菌薬として押さえておく必要があります。エタンブトール視神経障害のイメージが強い薬剤ですが、まれに末梢神経障害も報告されており、とくに高齢者や腎機能低下例では注意が必要です。フルオロキノロン系非常にまれながら感覚障害、異常感覚といった末梢神経障害が発現することが知られています。腱障害(腱炎や腱断裂、アキレス腱が多い)と併せて理解しましょう。ジアフェニルスルホン(ダプソン)ハンセン病やニューモシスチス肺炎の予防に使われる薬剤で、亜急性から慢性の経過をとる神経障害が報告されています。トリアゾール系抗真菌薬ボリコナゾールを中心に、慢性使用で神経毒性のリスクが上昇することが示唆されています。ボリコナゾールでは幻覚、高濃度で中枢神経障害も併せて覚えるようにしましょう。クロラムフェニコール現在では使用頻度が低い薬剤ですが、慢性的な神経毒性の報告があるため、投与機会がある場合には注意が必要です。末梢神経障害は、患者のQOLを大きく損なう副作用にもかかわらず、原因が特定されにくく、かつ進行性である可能性がある点で非常に重要です。上記の抗菌薬を継続している患者では、常に末梢神経障害のリスクを念頭に置き、出現した際には中止あるいは変更を検討します。1)Mauermann ML, et al. JAMA. 2025 Nov 17. [Epub ahead of print]

85.

年を取っても「新庄監督のように真っ白な歯にしたい!」、口元は社会交流の出発点【外来で役立つ!認知症Topics】第37回

歯科領域と認知障害の密接な関係筆者は東京科学大学(旧:東京医科歯科大学)の同窓会館内で勤務しているので、歯科関係者との連携も少なくない。それだけに、軽度認知障害(MCI)の診察をしている他の先生方と比べて、口腔領域の話題に触れることが多いほうだろう。認知障害に関わる歯科領域の課題としては、咀嚼や嚥下障害、誤嚥性肺炎、また基本となる「口からの食物摂取」といったものがすぐに思い浮かぶ。ところが実際には、それら以上に「自分の口元の美醜や口の臭いなどが人からどう見られるか」を密かに悩む人が少なくないようだ。当然かもしれないが、これは難聴者が他者との交流を遠慮して積極的になれないのと似た傾向を生む。「口腔ケア」の真意と認知症予防への期待さて本稿のテーマである「口腔ケア」だが、私自身、以前はこの言葉を漠然と使っており、正しく理解してこなかった。改めて調べてみると、口腔ケアとは、単に歯磨きなどで口腔内の清潔を保つだけでなく、口腔機能の維持やその健康度向上のためのリハビリまでを含む幅広い内容を指す。歯や歯茎、舌、口腔粘膜、義歯を含む口の中の清掃、口腔内や口周りのマッサージ、咀嚼や嚥下のトレーニングまでが含まれる。こうした口腔ケアは「器質的ケア」と「機能的ケア」の2種類に分類される。前者は歯周病や誤嚥性肺炎の予防のために口の中を清潔に保つための口腔ケアを、後者は口腔機能つまり食べる、話す、表情をつくるなど口の働きの維持、回復を目指すケアを指す。口腔ケアの一般的な効果と目的は次のようにまとめられる。1.虫歯や歯周病など口腔内トラブルの減少2.口腔中の細菌が原因となる誤嚥性肺炎や感染症などの予防3.味覚改善による食欲増進4.発音改善による円滑なコミュニケーションの獲得5.認知症予防5つ目の「認知症予防」については、従来、口の開け閉めや咀嚼することが、脳(とくに海馬)に刺激を与えて脳の活性化につながるといわれてきた。それに加え、最近では「歯周病菌が脳内の炎症を惹起することで、アルツハイマー病を発生・悪化させるのではないか」とする観点からも注目されている。社会交流を妨げる「口元劣等感」の正体一方で、認知症予防における「社会交流」の重要性は確立している。冒頭で触れたMCIの領域において、他者とのコミュニケーションへの積極性という観点からの口腔ケアは、これまではさほど注目されてはこなかった。しかし、社会交流を妨げるのが、この口周囲の問題から生じる「会話しない」「しゃべらない」である。経験上、そこには2つの要因がある。1つは、口元の外見に自信がないことである。ある程度お年を召しても、いや、お年を召したからこそ、口元の美しさを気にする人は結構多い。人と会話するとき、「相手に口元を見られて、歯並びが悪いことがわかってしまうので、口をしっかり開けてしゃべれない」「人前でマスクを外せない」と言う人もいる。こうした口元劣等感は歯並びだけではなく、残歯の数、義歯の状態、歯の色なども関係する。そしてもう1つは口臭である。もっとも、その多くは主観にすぎず、実際には問題ないことも少なくない。しかしいずれにせよ、こうした悩みは他者との会話を減らし、社会交流を通した脳の活性化や「脳トレ」が不十分になりやすい。また、大きな声で滑舌良く喋ったり歌ったりすることができにくくなれば、発声や咀嚼・嚥下、さらには呼吸機能面にも悪影響を及ぼしかねない。若者だけではない「白い歯」願望こうした口元への劣等感の中で、比較的対応が容易と思われるのが「歯の色」である。筆者はこれまで、歯のホワイトニングは10代・20代の若者が主体だと思っていた。ところが実際には、中年期以降の利用者が多いということを最近知った。ホワイトニングの希望に関して尋ねてみると、あっけにとられる返事がよく返ってくる。「テレビで見る歌手や、プロ野球日本ハム新庄 剛志監督のように真っ白にしたい」と言うのである。筆者が「あまりに白いのは不自然では。年齢相応の白さがあると思うのだが」などと伝えても、「見栄えを良くするには、あれくらい真っ白でないと」と述べる人も少なくない。実際、ホワイトニングの素材にはさまざまな白さの度合いが選べ、歯科医院ばかりでなく自宅で行えるものも普及している。自覚しにくい口臭への対策また、口臭は自己識別が難しいだけに、問題ないのに気にする人が多い反面、強い臭いに自覚がない人も多い。最近では「口臭チェッカー」といって、1万円以内程度で購入できる口臭を客観評価する機器も出回っている。口臭の大部分は口腔内に原因があり、その多くは舌苔と歯周病だが、とくに前者の関わりがより大きい。原因物質では硫化水素とメチルメルカプタンが約90%を占める。これらは口腔内の嫌気性菌が、唾液・血液・剥離上皮細胞・食物残渣中の含硫アミノ酸を分解・腐敗させて産生される揮発性硫黄化合物である。歯周病には、歯磨きならぬ「歯茎磨き」が何よりだそうだ。筆者の後輩の歯科医は、1日6回の歯茎磨きをやれば、1ヵ月以内に効果てきめんと教えてくれた。舌苔に対しては、専用の舌ブラシやスポンジブラシなどを使って、舌表面を清潔にすることである。認知障害の有無にかかわらず、口元コンプレックスが、社会交流、つまり他者とのコミュニケーションに及ぼす影響は少なくないようだ。それだけに、MCIの方々の診察において、適切なアドバイスや歯科医への紹介は欠かせない。

86.

第301回 アルブミンの抗カビ作用を発見

血中のありふれたタンパク質であるアルブミンの抗カビ作用が発見されました1,2)。ケカビ(Mucorales)の類いの真菌が引き起こすムコール症は、場合によっては死に至りもする日和見感染症で、打つ手は限られ、発症の仕組みはあまりわかっていません。死と隣り合わせでもあり、患者全体の死亡率は50%を超え、播種性患者の死亡率は100%近くになります。ムコール症は組織の甚大な壊死を特徴とし、そのため抗真菌薬は感染病巣に到達できず、ひどく外観を損ねる手術をしばしば必要とします。他の真菌感染症と異なり、ムコール症はもっぱら代謝不調患者に発生します。具体的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う免疫代謝不調、制御不良の糖尿病、アシドーシス、鉄過剰症、栄養失調などがムコール症を生じ易くします。半世紀以上も前3)からヒトの血清のケカビ阻止効果が報告されています。ギリシャのクレタ大学のAntonis Pikoulas氏らの新たな検討でもその効果が改めて確認され、健康なヒトの血清はケカビの増殖を防いだのに対して、ムコール症患者の血清のその効果はほぼ皆無でした。アルブミンは血清に最も豊富なタンパク質で、血管内、間質、粘膜表面で生理機能を担います。興味深いことに、ムコール症を生じ易くする種々の免疫代謝失調患者に低アルブミンがよく認められます。そこでPikoulas氏らはムコール症へのアルブミンの働きを詳らかにすることを思い立ち、まず初めに血清アルブミン濃度とムコール症の生じやすさやその経過との関連にあたりました。ムコール症を生じ易いことが知られる血液がん患者を調べたところ、実際に肺ムコール症に陥った患者のほとんどのアルブミンは、細菌性肺炎やアスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus)による肺炎患者に比べて有意に乏しいことが示されました。糖尿病やCOVID-19を主な危険因子とする肺ムコール症患者などでも同様の結果が得られ、さらには重度の低アルブミン(2.5g/dL以下)が調べたどのムコール症集団でも転帰不良と関連しました。アルブミンこそどうやらケカビ阻止に寄与するらしく、アルブミンを省いた健康なヒトの血清はケカビ阻止活性が低下していました。一方、A. fumigatus阻止活性は保たれていました。そして、アルブミンこそケカビの増殖を防ぐ作用を担うことが精製アルブミンやマウスを用いた実験で明らかになります。精製アルブミンはケカビの増殖に限って阻止し、他の主な病原性細菌や真菌への有意な活性はありませんでした。アルブミンを欠くマウスはムコール症に限って生じ易くなり、その血清にアルブミンを与えるとケカビを阻止できるようになりました。アルブミンがケカビを阻止する仕組みにはアルブミンを結合した遊離脂肪酸(FFA)の流通が貢献しています。アルブミンは抗真菌活性を失わせるFFAの酸化を防ぎ、アルブミンが結合したFFAはケカビのタンパク質合成を阻止することで病原因子の発現を制してケカビを無毒化します。ムコール症患者ではその仕組みが機能していないらしく、血清のFFAがより酸化されていました。FFAがケカビのタンパク質合成に限って阻止する仕組みの詳細が今後の研究で明らかになるだろうと著者は言っています。参考1)Pikoulas P, et al. Nature. 2026 Jan 7. [Epub ahead of print]2)Blood protein thwarts deadly fungal disease / Nature3)Gale GR, et al. Am J Med Sci. 1961;241:604-612.

87.

高用量リファンピシン、結核性髄膜炎の予後を改善するか/NEJM

 結核性髄膜炎患者に対する治療において、リファンピシンの高用量投与は標準用量投与と比較して6ヵ月以内の死亡率を改善せず、有害な作用をもたらす可能性も否定できないことが、ウガンダ・Makerere UniversityのDavid B. Meya氏らHARVEST Trial Teamが実施した「HARVEST試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年12月18・25日号に掲載された。3ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 HARVEST試験は、インドネシア、南アフリカ、ウガンダの9ヵ所の病院で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり(英国医学研究審議会[MRC]などの助成を受けた)、2021年3月~2024年7月に成人(18歳以上)の結核性髄膜炎患者499例(ITT集団)を登録した。 被験者を、標準用量のイソニアジド+リファンピシン(10mg/kg/日)+エタンブトール+ピラジナミド(配合錠)に加え、追加リファンピシン錠(総投与量35mg/kg/日)を連日経口投与する群(高用量群、249例)、またはプラセボを投与する群(標準用量群、250例)のいずれかに無作為に割り付け、8週間投与した。両群とも、9~12ヵ月の治療期間の残りの期間は標準治療を受けた。 主要アウトカムは、無作為化から6ヵ月以内の死亡であった。 ITT集団(499例)の年齢中央値は37歳(四分位範囲[IQR]:28~45)で、222例(44.5%)が女性であった。428例(85.8%)はdefinite/probableの結核性髄膜炎だった。また、306例(61.3%)がMRC疾患重症度分類のグレード2で、304例(60.9%)はHIV感染者であった。ベースラインで348例(69.7%)が抗結核治療(中央値で3日間)を受け、473例(94.8%)がグルココルチコイドを処方されていた。サブグループ、副次アウトカムにも有益性はない 無作為化から6ヵ月以内の死亡(主要アウトカム)は、高用量群で109例(Kaplan-Meier推定値44.6%)、標準用量群で100例(40.7%)に発生し、両群間で有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.17、95%信頼区間[CI]:0.89~1.54、p=0.25)。 また、6ヵ月以内に死亡した被験者の死亡までの期間中央値は、高用量群が13日(IQR:4~39)、標準用量群は24日(6~56)だった。 サブグループ解析でも、高用量群で有益な作用を示すエビデンスは認めなかった。高用量群で死亡率が高いサブグループとして、ベースラインで抗レトロウイルス療法(ART)を受けていたHIVの被験者(高用量群42%vs. 標準用量群25%、HR:2.01、95%CI:1.07~3.78)と、脳脊髄液(CSF)中の白血球数が<5/mm3の被験者(59%vs.36%、2.01、1.14~3.54)を認めた。 Kaplan-Meier法による12ヵ月時の死亡率(高用量群47.0%vs.標準用量群43.7%、HR:1.14、95%CI:0.88~1.49)や、24週時の修正Rankinスケールスコア(オッズ比:0.80、95%CI:0.58~1.11)にも両群間で有意差はみられなかった。また、他の副次アウトカム(Liverpool Outcomeスコア、グラスゴー・コーマ・スケールスコアなど)にも、両群間で有意差はなかった。新たな安全性シグナルの発現はない 新たな安全性シグナルは観察されなかった。重篤な有害事象(高用量群33.7%vs.標準用量群40.4%、p=0.12)の頻度は両群で同程度だった。グレード3~5の誤嚥性肺炎(6.4%vs.1.6%、p=0.006)が、高用量群で多く発生した。 グレード3/4の肝イベントのうち、総ビリルビン値の上昇(≧2.6×基準範囲上限[ULN]、9.6%vs.3.6%、p=0.007)が高用量群で高頻度にみられた。グレード3/4の薬剤性肝障害(8.0%vs.4.4%、p=0.09)は高用量群で頻度が高い傾向を認めたが、薬剤性肝障害による死亡は両群とも発生しなかった。 著者は、「高用量リファンピシンによる有益性が得られなかった説明として、次の2点が挙げられる。(1)高用量群では、肝代謝の誘導がより強かったため、グルココルチコイドの曝露量が低かった可能性がある、(2)高用量リファンピシンによるマイコバクテリアのより迅速な殺菌が、理論上は、より強い(有害な)免疫学的反応を引き起こした可能性がある」としている。

88.

抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化には反対/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、1月7日に定例の記者会見を開催した。会見では、松本氏の年頭あいさつのほか、抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化に関するパブリックコメントへの意見、赤ひげ大賞の受賞者発表などが行われた。 松本氏は年頭のあいさつとして干支の「午」に触れ、自身が年男であることから「地域医療を守るという強い決意のもと、情熱的でかつエネルギッシュな1年としたい」と語った。また、箱根駅伝の青山学院大学の連覇を例に「選手への指導体制や人材育成、サポートなどが連覇に大切であり、これは医療にもつながる」と述べた。 2025年について参議院選挙や年末の補正予算編成、そして、令和8年度の診療報酬改定について振り返るとともに「OTC類似薬や高額療養費など、未解決の課題についても医療現場の意見が表明できる場に参加していきたい」と語った。 そして、2026年の抱負については、高市 早苗総理大臣が先ごろ表明した「国民会議」の立ち上げについて、さまざまな手段で医師会の意見を主張していくこと、現在最多の会員数17万8,593人を本年さらに更新できるよう、「引き続き努力し、会員数だけではなく、会員全体の力もしっかりと伸ばしていきたい」と抱負を述べた。個人にリスクを負わせるスイッチOTC化には反対 「抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化に関するパブリックコメント」について、常任理事の今村 英仁氏(公益財団法人慈愛会 理事長)が、医師会の考えを説明した。「抗インフルエンザ薬のスイッチOTC化」について、医師会は反対の意を表明すると述べた。 その理由として以下の6つの項目を挙げた。・インフルエンザは、発熱やせきなどの軽症例にとどまらず、肺炎や脳症などの重篤な合併症を引き起こしうる感染症である。そのために抗インフルエンザ薬は、発症時期や症状の経過、基礎疾患の有無、年齢などを総合的に評価した上で、医師の管理下で適正に使用されるべき医薬品である。・スイッチOTC化により、医師の診断を伴わない患者の自己判断使用が拡大すると、「インフルエンザ以外の疾患に対する誤用」「投与開始時期を誤ることによる効果低下」「受診遅れによる重症化リスクの増大」などのさまざまな事態が懸念される。・抗インフルエンザ薬の不適切使用は、耐性ウイルス出現のリスクを高め、社会全体の感染症対策を脅かす公衆衛生上の課題になる。・高齢者や小児、妊婦、基礎疾患を有する方など、重症化リスクの高い人々に対しては、抗ウイルス薬の使用可否や投与方法を慎重に判断する必要があるが、こうしたリスク評価を個人の自己判断に委ねることで、重症例の増加や救急医療などの医療資源のひっ迫を招きかねない。・インフルエンザ流行期における受診動向や急性呼吸器感染症の感染状況の把握は、医療機関を通じて行われてきたことを踏まえ、スイッチOTC化により医療機関を介さない中途半端な治療が広がれば、流行状況の把握や適切な対策立案が困難となり、わが国全体の感染症対応力を低下させる恐れがある。・医薬品供給問題について、医療用製造ラインの一部をスイッチOTC製造ラインに変更することになれば、医療用抗インフルエンザ薬が必要なときに医療現場に届かないことが懸念される。 おわりに今村氏は、「社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬やスイッチOTC化の推進は、必要なときに適切な医療を受けられない国民が増えることが危惧される。日本医師会としては、医師の診断と治療の下で国民の健康と安全を守り、国民皆保険制度を堅持する姿勢で今後も対応する」と述べた。 最後に常任理事の黒瀬 巌氏(医療法人社団慶洋会 理事長)が、第14回「日本医師会 赤ひげ大賞」として、大賞受賞者5人と功労賞受賞者20人の決定を報告し、会見を終えた。

89.

呼吸器系ウイルス検査陽性の市中肺炎、抗菌薬0~2日間vs.5~7日間

 米国胸部学会(ATS)が2025年に発表した最新の市中肺炎(CAP)ガイドラインでは、呼吸器系ウイルス検査陽性となった入院CAP患者全例に対して、抗菌薬を投与することを条件付きで推奨している1)。しかし米国感染症学会(IDSA)は非重症患者に対するこの推奨に同意せず、非重症患者では重複感染の可能性を検討するために多少の時間をかけることによるリスクはほとんどなく、抗菌薬を開始するかおよびいつ開始するかについては臨床医の裁量の余地があるとしている2)。米国・ペンシルベニア大学のBrett Biebelberg氏らはこれらの患者集団における抗菌薬投与の頻度・期間と転帰を評価する目的で、大規模な多施設共同の傾向スコア重み付け解析を実施。結果をClinical Infectious Diseases誌オンライン版2025年12月11日号で報告した。 本研究では、2015年6月~2024年12月に5つの病院において、来院後48時間以内に肺炎が疑われる臨床所見を認め、かつ呼吸器系ウイルス検査陽性の入院患者を後ろ向きに特定。臨床データを用いて、0~2日間の抗菌薬投与を受けた患者と5~7日間の抗菌薬投与を受けた患者について、傾向スコア法により全体およびウイルスごとの転帰を比較した。 主な結果は以下のとおり。・呼吸器系ウイルス検査陽性でCAP疑いの入院患者6,779例のうち、3,269例が0~2日間、1,560例が5~7日間の抗菌薬投与を受けた。・平均年齢は67.5歳(SD 17.6)、46.9%が女性で、検出ウイルスはSARS-CoV-2ウイルスが60.3%、インフルエンザ(AもしくはB)ウイルスが17.4%、RSウイルスが9.2%、ライノウイルスが7.3%などであった。・プロカルシトニン値>0.25μg/Lなど除外基準に該当した患者を除く2,614例(抗菌薬投与0~2日間:1,720例、同5~7日間:894例)を解析対象とした。・抗菌薬投与0~2日間の患者と5~7日間の患者の間で、入院期間(11.7日vs.11.1日、オッズ比[OR]:1.05、95%信頼区間[CI]:0.97~1.15)、48時間後のICU入院率(28.3%vs.28.2%、OR:1.01、95%CI:0.86~1.18)、院内死亡率(9.5%vs.9.8%、OR:0.97、95%CI:0.74~1.27)、30日間の病院不在日数(16.9日vs.17.0日、OR:0.99、95%CI:0.95~1.03)における有意差は認められなかった。・結果は、SARS-CoV-2以外のウイルスおよびインフルエンザウイルスのみに限定した場合、抗菌薬の投与期間を0日間と5~7日間で比較した場合、入院時に肺炎のICD-10コードを有する患者に限定した場合も一貫していた。 著者らは今回の結果について、呼吸器系ウイルス検査陽性のCAP疑い患者の多くにおいて抗菌薬は有益でない可能性を示唆するものとしている。

90.

CKD高齢者への高用量インフルワクチン、肺炎などの入院を減少

 高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果を検証したDANFLU-2試験の結果、高用量インフルエンザワクチンは標準用量と比較してインフルエンザまたは肺炎による入院を有意に低下させなかったことが報告されている。今回、事前に規定された慢性腎臓病(CKD)の有無別のサブグループ解析において、CKD患者では高用量インフルエンザワクチンがインフルエンザまたは肺炎による入院リスクを有意に低下させたことを、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のKatja Vu Bartholdy氏らが明らかにした。Journal of the American College of Cardiology誌2025年12月23日号掲載の報告。 DANFLU-2試験は、デンマークの直近3回のインフルエンザ流行期(2022~23年、2023~24年、2024~25年)に、65歳以上の高齢者を高用量または標準用量の4価インフルエンザ不活化ワクチンの接種を受ける群に無作為に割り付けた非盲検ランダム化比較試験。主要エンドポイントはワクチン接種後14日目から翌年5月31日までに発生したインフルエンザまたは肺炎による入院の割合で、副次エンドポイントはインフルエンザによる入院・肺炎による入院・心肺系疾患による入院・あらゆる入院・全死因死亡であった。事前に規定されていたサブグループ解析として、CKDの有無による相対ワクチン有効率を評価した。 主な結果は以下のとおり。・DANFLU-2試験に参加した33万2,438例(平均年齢73.7±5.8歳、女性48.6%)のうち、4万6,788例(14.1%)がベースライン時にCKDを有していた。そのうち2万3,486例が高用量群、2万3,302例が標準用量群に無作為に割り付けられた。・主要エンドポイントである肺炎またはインフルエンザによる入院は、CKD集団では4万6,788例中708例(1.5%)、非CKD集団では28万5,641例中1,640例(0.6%)に発生した(リスク比:2.6、95%信頼区間[CI]:2.4~2.9)。CKD集団ではすべての副次エンドポイントのリスクも高かった。・CKD集団における肺炎またはインフルエンザによる入院に対する相対ワクチン有効率は16.9%(95%CI:3.4~28.5)だったのに対し、非CKD集団では0.6%(95%CI:-9.6~28.5)であった(相互作用のp=0.046)。・CKD集団におけるインフルエンザまたは肺炎による入院の絶対リスクは、高用量群で1.3%、標準用量群で1.7%であり、絶対リスク減少率は-0.29%(95%CI:-0.50~0.058、治療必要数[NNT]=359)であった。・インフルエンザによる入院に限ると、CKD集団における高用量インフルエンザワクチンの相対ワクチン有効率は68.6%(95%CI:46.7~82.3、NNT=561)で大きな効果が認められたのに対し、非CKD集団では30.6%(95%CI:7.2~48.3、NNT=3,953)であった(相互作用のp=0.0079)。・心肺系疾患、心血管疾患、心不全、検査で確認されたインフルエンザによる入院については、CKDの有無による効果の差は認められず、同様の効果が示された(すべての相互作用のp>0.05)。 これらの結果より、研究グループは「DANFLU-2試験のCKD患者を対象とした事前規定のサブグループ解析において、高用量インフルエンザワクチンは標準用量と比較してインフルエンザまたは肺炎による入院、およびインフルエンザによる入院を減少させた。これらの結果は、リスクの高い集団において、高用量インフルエンザワクチンが標準用量よりも臨床的に意義のあるベネフィットを有することを示唆している」とまとめた。

91.

再発・難治性多発性骨髄腫、テクリスタマブ+ダラツムマブでPFS延長(MajesTEC-3)/NEJM

 1~3ラインの前治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫患者において、テクリスタマブ+ダラツムマブ併用療法は、ダラツムマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン併用療法またはダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン併用療法(DPdまたはDVd群)と比較し、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長させることが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のLuciano J. Costa 氏らが20ヵ国150施設で実施した非盲検第III相試験「MajesTEC-3試験」の結果で示された。T細胞表面のCD3と骨髄腫細胞表面のB細胞成熟抗原を標的とする二重特異性モノクローナル抗体であるテクリスタマブは、第I/II相試験で再発または難治性の多発性骨髄腫に対する持続的な奏効を示し、抗CD38を標的とするヒト型モノクローナル抗体であるダラツムマブは多発性骨髄腫患者において生存期間の延長が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年12月9日掲載の報告。テクリスタマブ+ダラツムマブの有効性および安全性をDPdまたはDVdと比較 研究グループは、プロテアソーム阻害薬およびレナリドミドを含む1~3ラインの前治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫患者を、テクリスタマブ+ダラツムマブ併用群と、治験担当医師選択によるDPdまたはDVd群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 前治療歴が1ラインのみの患者は、国際骨髄腫作業部会(IMWG)の基準によりレナリドミド耐性であることが必須であった。 主要評価項目は、独立判定委員会によるPFS、主要な副次評価項目は完全奏効以上(完全奏効[CR]または厳格な完全奏効[sCR])、奏効率(部分奏効以上)、微小残存病変陰性(MRD:閾値10-5)、全生存期間、症状悪化までの期間であった。テクリスタマブ+ダラツムマブでPFSが有意に延長、奏効率、MRD陰性率も高値 2021年10月22日~2023年9月29日に587例が無作為化された(テクリスタマブ+ダラツムマブ群291例、DPdまたはDVd群296例)。 データカットオフ(2025年8月1日)時点の追跡期間中央値34.5ヵ月において、テクリスタマブ+ダラツムマブ群はDPdまたはDVd群と比較してPFSを有意に延長した。推定36ヵ月PFS率は、テクリスタマブ+ダラツムマブ群83.4%(95%信頼区間[CI]:78.2~87.4)、DPdまたはDVd群29.7%(95%CI:23.6~36.0)であり、ハザード比は0.17(95%CI:0.12~0.23、p<0.001、初回中間解析の有意水準p=0.0139)であった。 テクリスタマブ+ダラツムマブ群はDPdまたはDVd群と比較し、CR以上(81.8%vs.32.1%)、奏効率(89.0%vs.75.3%)、およびMRD陰性率(58.4%vs.17.1%)のいずれも有意に高かった(すべてのp<0.001)。 重篤な有害事象はテクリスタマブ+ダラツムマブ群で70.7%、DPdまたはDVd群で62.4%に認められ、最も多かったのは肺炎であった(それぞれ16.6%、13.1%)。有害事象による死亡はそれぞれ7.1%(20例)および5.9%(17例)であった。

92.

化学療法中のワクチン接種【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第6回

化学療法中のがん患者は、化学療法の影響や原疾患により免疫力が低下しているため、感染症に罹患しやすく重症化しやすい傾向があります。国内のガイドラインやASCOガイドラインおいても、がん患者の治療やケアにおいて適切なワクチン接種がもたらす良い影響が述べられています。今回は固形がん化学療法中の患者を想定した、5つの主なワクチンの特徴や効果、推奨される接種時期についてお話しします。1)インフルエンザワクチン背景がん患者がインフルエンザに罹患した場合、死亡のリスクが高いことが複数の研究から報告されています。とくに肺がんや血液腫瘍患者はより重症化するリスクが高いことが知られています。インフルエンザワクチンは、A型(H3N2・H1N1)とB型の3株を含む混合ワクチンであり、世界的流行株とWHO推奨株に基づき毎年選定されるため、毎年の接種が推奨されます。健康な人における有効性は70~90%程度とされていますが、流行株との一致度により変動します。予防効果と安全性複数の研究から、血清学的な反応は健康な人と比較して劣る可能性はあるものの、予防医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されています。近年、高用量インフルエンザワクチン(商品名:エフルエルダ筋注)が承認され、米国では65歳以上のがん患者に高用量ワクチン接種が推奨されています。化学療法中のインフルエンザワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。注意点リツキシマブやオファツムマブ、オビヌツズマブなどの治療後は、少なくとも半年間はワクチン効果が期待できない可能性があります。また、免疫抑制薬を服用中の患者でも効果が低い場合があります。接種時期インフルエンザワクチンは10~12月までの接種が推奨されています。化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種するのが理想ですが、治療中に流行期を迎える場合は接種時期を調整する必要があります。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。2)肺炎球菌ワクチン背景日本の成人市中肺炎では、肺炎球菌が最も頻度の高い起炎菌です。65歳以上や糖尿病・心不全などの基礎疾患を有する場合には、重症感染症を起こしうるため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨されています。国内データでは、侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は約19%と高く、患者の約7割は65歳以上です。また、固形がん患者や脾摘患者が肺炎球菌感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが高いことが報告されています。予防効果と安全性肺炎球菌ワクチンによる抗体価の上昇は、化学療法中であっても健康な人と同等であると報告されています。化学療法中の肺炎球菌ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。ワクチンの特徴ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス[PPSV23]:定期接種)と結合型ワクチン(キャップバックス[PCV21]、プレベナー20[PCV20]、バクニュバンス[PCV15])の2種類があります。免疫力をつける力(免疫原性)はPCV21/20/15のほうがPPSV23より高いです。日本ワクチン学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会では、がん患者へのPCV20の1回接種もしくはPCV15とPPSV23の連続接種を推奨しています。画像を拡大する接種時期肺炎球菌感染症は1年を通して発生するため、季節を問わず接種が可能です。化学療法開始前(少なくとも2週間前)に接種、もしくは化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。3)帯状疱疹ワクチン背景水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)初感染は水痘として発症し、感染後に後根神経節に不活性状態で長期間潜伏します。その後、加齢・疲労・病気などで免疫が弱まるとウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。症状は片側に帯状に広がる発疹と刺すような痛みが典型的で、約10%の症例で帯状疱疹後神経痛が発生し、QOLを低下させる原因になります。免疫不全のない患者と比較して、固形がん患者は約5倍、血液がん患者は約10倍帯状疱疹の頻度が高いことが報告されています。画像を拡大する安全性化学療法中の帯状疱疹ワクチン投与に関してとくに重篤な有害事象が増加するという報告はありません。生ワクチンは、免疫低下患者(がん薬物療法中やステロイド使用中)には接種不可です。接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。4)新型コロナ(COVID-19)ワクチン背景がん患者はCOVID-19に罹患すると重症化しやすいため、ワクチン接種の利益は大きいです。そのため、基本的には接種を検討すべきとされています。ただし、がんの種類や治療内容、免疫状態により、効果や副反応が異なる可能性があります。治療のタイミングにより接種時期を調整したほうがよい場合もあります。副反応が治療の有害事象と区別しにくい場合があるため注意が必要となります。総じて、患者ごとの状況に応じて主治医と相談して判断することが重要と考えられます。予防効果と安全性ワクチンを接種したがん患者約3万例を対象とした観察研究が報告されており、がん患者であってもCOVID-19ワクチンを2回接種することで感染リスクが低下することが示されています。一方でワクチンの感染リスク低下効果は58%(非がん患者:90%以上)であり、がん患者ではワクチンの効果が減弱する可能性が示唆されています。とくにワクチン接種前6ヵ月以内に化学療法を受けた場合はワクチンの効果が低いことが報告されています。定期的な追加接種が推奨され、感染時は早期の受診と抗ウイルス薬治療が重要となります。接種時期基本的に最新の推奨スケジュールに従った接種が推奨され、明確な最適時期はまだ不明ですが化学療法の開始前に接種して、化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期を避けて接種することが望ましいです。抗CD20抗体(リツキシマブやオビヌツズマブなど)治療後半年以内はワクチンの効果が乏しいことが示されています。注意事項ワクチン接種により、接種側の腋窩・鎖骨上窩・頸部リンパ節の腫大が報告されており、PETでも集積を認めることがあり、転移との鑑別が必要になる場合があります。画像検査の際にはワクチン接種歴と部位の情報を得ておくことが望ましいです。5)RSウイルスワクチン背景高齢者、慢性の基礎疾患(喘息、COPD、心疾患、がんなど)、免疫機能が低下している人は、RSウイルス感染症の重症化リスクが高く、肺炎、入院、死亡などの重篤な転帰につながる可能性があります。また、RSウイルス感染症は、喘息、COPD、心疾患などの基礎疾患の増悪の原因となることもあり、日本では約6万3,000例の入院と約4,500例の院内死亡が推定されています。米国での大規模データ研究では、がん患者がRSウイルス感染症に罹患した場合、非がん患者と比較して死亡のリスクが2倍以上高いことが報告されています。画像を拡大する接種時期化学療法の開始前(少なくとも2週間前)に接種します。化学療法中は骨髄抑制の最も低下した時期(nadir)を避けて接種することが望ましいです。1)Kamboj M, et al. JCO Oncol Pract. 2024;20:889-892. 2)日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会. 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A:2021.3)国立がん研究センター:がん情報サービス4)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版:2022.5)アレックスビー筋注用添付文書6)アブリスボ筋注用添付文書講師紹介

93.

外科医のキャリア終盤に思い出した 何でも診られる医者への憧れ【ReGeneral インタビュー】第3回

外科医のキャリア終盤に思い出した 何でも診られる医者への憧れ「手術だけしていればいい環境じゃなかった」そう語るのは、総合医育成プログラムを受講中の五本木 武志氏。卒後すぐに消化器外科でキャリアをスタートし、現在は28診療科・331床を持つ筑波学園病院の病院長として、最前線で地域医療を率いています。外科外来、救急、病棟診療に加え、病院運営まで担う多忙な身で、なぜ総合医育成プログラムを受講しているのか?その理由にキャリアの次の一手を探ります。即決受講の背景に 外科医としての“憧れ”と現場の必然――総合医育成プログラムの受講は即断即決だったと伺っています。その理由は。2024年2月にたまたま知人から総合医育成プログラムを紹介されて、即刻申し込みました。もともと、卒後6年間、消化器外科のレジデントとして筑波大附属病院にいた間、3年以上は、外の病院でありとあらゆる疾患の患者を診ていました。手術だけでなく打撲から肺炎まで、本当に何でもです。レジデント時代の指導教官は外科医で、本当に何でも診る先生でした。その人のようになりたいという憧れもありました。当時からちょこちょこ勉強はしていたけども手術が忙しくて体系的に学ぶ暇はもちろんありません。昔から総合的な診療を学びたい思いがあったので、話を聞いたときに、これだ!と思いました。もっとも、2024年は病院長になったのと重なって、ほとんど受講できませんでした。2025年に非同期型・同期型の混合学習1)になって、ようやく受けられるようになりました。修了要件まであと2単位。もうすぐ修了です。本では学べなかった“現場の勘所”を、プロから教わる――プログラムで扱うのは内科領域が多いと思います。専門外の講義を受ける感想は。正直にいって、すべてが楽しいです。肺炎だとか脳卒中だとか、わからないことはいままではすべて本で勉強してきました。周りに教えてくれる先生もいませんでしたから。ずっと持っていたのは、本にはこう書いてあるけど、実際に診るときはどうなっているんだろう、という疑問です。プログラムでは、領域ごとに専門医や総合医の先生から、教科書だけではカバーできない話が聞ける。肺炎ひとつにしても、こういうときはこういう肺炎を考える、こういう抗菌薬を使うといった、現場の勘所を教わるのが、皮膚科でも腎臓でも、血液内科でも、毎回楽しかったです。総合診療で光る外科医の嗅覚・待つ力を学ぶ挑戦――外科医だから苦労したことはありますか。そうですね、外科の早く結論を出したがる癖はあります。外科医って手術をするにしてもしないにしても、なるべく早く決断してすぐに実行したい。それが日常になっていて、様子を見るという選択に慣れていないところがあります。だから、内科の先生の待つ力、忍耐力はすごいなと思います。外科医の即断即決を活かすときと、ここは内科医の様子を見る力を使うという使い分けができてくるのが理想ですね。――外科医の特性が活きる場面は。そのとき一番重要な問題に切り込む習慣は、総合診療でも役立っていると感じます。外科医の嗅覚ともいえるかもしれません。何が一番やばくて問題なのかを嗅ぎ当てるんです。問題の核心に回り道せずに切り込んでいけるのは強みですね。もちろん、総合診療ではさまざまな情報を集めて結論を出す力が必須で、そこを内科の先生から学んでいます。膝関節穿刺を実演で教える熱意、コミュニケーションのプロから教わる人間力――印象的な講義はありましたか?整形外科の仲田和正先生のセッションは印象に残っています。膝関節穿刺のレクチャーで、ご自分の膝に針を刺して実演してくれた。こんな先生、そうそういません。こういう先生に教わる研修医は幸せだろうなと思いました。それから、ノンテクニカルスキルコースはどれも新鮮で面白かったです。MBTI2)やミーティング・ファシリテーション3)といった、医者になってからまず聞く機会のない分野の講義です。ノンテクの先生方は、相手のスタンスやものの見方をふまえて、人に教えるプロという感じです。どうしても医者は立場的に上から目線になりがちで、看護師やほかの医療者と話すとき、一方的になってしまう。それがノンテクのセッションを受けてから、相手の性格や考え方を推測して話す心の余裕ができてきた。たとえば「俺はこう思うけど、君の意見は?」ときくことができるようになりました。断定しすぎずに話す、相手に意見を求めることができることで、医療者・患者問わず、コミュニケーションによい影響があり、それが治療にもつながっていると感じています。次に受けるコーチングの授業も楽しみにしています。脳卒中から小児まで。幅広く診療に活きる学び――学んだことをどのように現場で使っていますか。毎日、ありとあらゆる場面で使っています。なぜかというと、週3回の外科外来のほかに、救急搬送・ウォークインで来る救急外来の対応も当番制で持っています。救急は若い先生たちが主だけど、忙しくて断らなくちゃいけないとなったときは俺を呼べと言ってあるので、最終的に誰も診る人がいない救急患者は僕に回ってきます。小児も肺炎も骨折も、何でもです。それに、うちのような一般病院は、病院として総合的に見る必要があって、救急診療科という部門を作りました。ここでの受け持ち患者が10人。疾患は脳卒中亜急性期、肺炎、尿路感染、脊椎圧迫骨折まで、本当にさまざまです。こういう何でも診る環境で、肺炎っぽい徴候の患者が来た、血液疾患を疑う患者が来たというとき、受講前は本やネットで調べていたのが、今はレクチャーの資料を引っ張り出しています。現場の目線で何を考えてどう進めるかが整理されていて、効率が圧倒的によくなりました。熱発の子どもが来たときに、身体のどんな兆候を一番先に診るか、除外すべき疾患、必要な検査、治療の選択肢がパッケージで出てくる。そういう感じでプログラムの内容は現場で助けてくれています。みんな受けた方がいいんじゃないかって思います。手術を若手に託した後、僕たちはどう働くか――もともと総合的な診療に興味があったとのことですが、いつから実際にいまの診療スタイルになってきたのですか。外科医は皆いつか手術をやめるときが来るでしょう。だいたい最初に目が見えなくなる。僕も老眼も始まる50代くらいから「救急領域に近いところで生きていかなくちゃいけない」と思い始めていました。今62歳で、手術は自分がやるよりも若い先生方に任せて引き継いでもらっています。手術をやめた後にどう医者を続けるかには、若手育成、管理職などいろいろ道があって、僕は以前から救急と総合診療に興味があったから今の働き方になっています。病院長になったので現場と管理を両輪で回している感じですね。トップが動くと病院が動く・現場で示すリーダーシップ――病院長として、総合医を病院内に増やすためにどのような取り組みをしていますか。僕がしているのは背中を見せること。上からやれと言っても、人は動かないと思うんです。今までうちの病院では誰も総合診療をしていなかったから、自分が患者を受け持って診る。僕たちはこういう診療をしていくぞと現場で示す。そうすると、病院が力を入れて向かっていく方向が明確になると思います。口で言うよりも効果があると信じています。立ち上げた救急診療科の医師はまだ2人。ここから同じ志を持つ仲間を増やしたい。背中を見せると同時リクルートも進めて、グループを大きくしたいと思っています。外科医の強みと総合診療で、医者として長く生きる――総合診療に興味を持った外科の先生方にメッセージを。総合診療をしてみようと思ったとき、外科のキャリアは非常に有利です。手術後は、肺炎になったり脳梗塞が起きたり、細かい不具合が次々と起きます。かといって、すぐに呼吸器内科や脳神経外科に転科するわけじゃない。そのまま外科で全身を診て、必要なら連携する。そこで外科医は患者全体を診る癖がついています。その経験は、総合医としての診療にも直結する。だから自信を持って学んでほしいです。切った後に全身を診てきた習慣や経験が大きな武器になります。高齢者はどんどん増えていて、専門だけやっていればいい病院が減っていくことは明らかです。「この疾患は、外科の領域ではない」と自分で線を引いていたら、世界がどんどん狭まってしまう。若い先生は若いうちから、そうでない先生は今から、自分の専門ではないと切り捨てずに、視野を広げ、関心を持つことが医者として長生きすることにつながるんじゃないかと思います。自信をもって新しいことを学んでみてください。 引用 1) 非同期型学習はeラーニングを用いた自己学習で、自分のペースでいつでもどこでも受講可能。同期型学習はWeb会議ツールを使用したライブ研修。土日祝の決められた時間にリアルタイムでグループディスカッションなどを行う 2) Myers-Briggs Type Indicatorの略称。ユングのタイプ論をもとにして開発された自己分析メソッドを活用した、 性格タイプ別コミュニケーションに関する研修 3) 医療チームにおけるミーティングを活性化させ、会議の質と効率を向上させるための、会議ファシリテーションの実践的スキルを学ぶ研修

94.

ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

95.

認知症リスク低下と関連しているワクチン接種は?

 高齢者で多くみられる認知症は、公衆衛生上の優先事項である。しかし、認知症に対するワクチン接種の有用性については、十分に解明されていない。イタリア・National Research CouncilのStefania Maggi氏らは、一般的な成人向けのワクチン接種が認知症リスク低減と関連しているかを評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Age and Ageing誌2025年10月30日号の報告。 2025年1月1日までに公表された研究をPubMed、Embase、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。対象研究は、50歳以上の成人において、ワクチン接種を受けた人と受けていない人の間で認知症および軽度認知障害(MCI)の発症率を比較した観察研究とした。4人の独立したレビュアーがデータを抽出し、ニューカッスル・オタワ尺度を用いて研究の質を評価した。リスク比(RR)と95%信頼区間(CI)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。主要アウトカムは、認知症(そのサブタイプを含む)の発症率とした。 主な結果は以下のとおり。・分析対象研究は21件(参加者:1億403万1,186例)。・帯状疱疹ワクチン接種は、すべての認知症(RR:0.76、95%CI:0.69~0.83)およびアルツハイマー病(RR:0.53、95%CI:0.44~0.64)のリスク低下と関連していた。・インフルエンザワクチン接種は、認知症リスクの低下と関連しており(RR:0.87、95%CI:0.77~0.99)、肺炎球菌ワクチン接種もアルツハイマー病リスクの低下と関連していた(RR:0.64、95%CI:0.47~0.87)。・破傷風、ジフテリア、百日咳の三種混合ワクチン接種も、認知症発症リスクの有意な低下と関連していた(RR:0.67、95%CI:0.54~0.83)。 著者らは「成人に対するワクチン接種、とくに帯状疱疹、インフルエンザ、肺炎球菌、三種混合のワクチン接種は、認知症リスクの低下と関連している。認知症予防のための公衆衛生施策に、ワクチン接種戦略を組み込むべきである」と結論付けている。

96.

慢性鼻副鼻腔炎の手術後の再発を防ぐ留置ステントへの期待/メドトロニック

 日本メドトロニックは、慢性副鼻腔炎手術後に使用するわが国初のステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステント「PROPEL」の発売によせ、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、慢性副鼻腔炎の疾患概要と診療の現状と課題などが講演された。副鼻腔炎手術後の再発予防への期待 「慢性副鼻腔炎の病態と最新治療-手術療法を中心に-」をテーマに、鴻 信義氏(東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 教授)が講演を行った。 はじめに鼻腔内の解剖を説明するとともに、副鼻腔炎について、誰もがなりうる疾患であり、急性副鼻腔炎で3ヵ月以上鼻閉、粘性・膿性鼻漏、頭重感、嗅覚障害、後鼻漏などの症状が持続した場合、慢性副鼻腔炎と診断される。患者はわが国には、100万~200万人と推定され、その中でも好酸球性副鼻腔炎患者は20万人と推定されている。慢性化すると鼻茸(ポリープ)がしばしば発生し、病態は悪化するが生命予後に大きく関係することもないので、病状に慣れてしまい、放置や受診控えなどの患者も多いという。その一方で、重症例での内視鏡下副鼻腔手術は年間6万例行われている。 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者の疾患負荷として鼻閉、鼻漏、嗅覚障害などに関連し、食品などの危険察知の低下や仕事のパフォーマンスの低下、睡眠障害などが指摘され、QOLに大きな影響を及ぼす。 慢性副鼻腔炎には、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌を原因とする非好酸球性副鼻腔炎と喘息患者に多く鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎があり、後者は指定難病に指定され、寛解が難しいケースは眉間などに膿が貯まる病態とされている。 慢性副鼻腔炎の保存療法としては、・鼻処置・副鼻腔自然口開大処置・ネブライザー・上顎洞洗浄、鼻洗浄・薬物療法(抗菌薬、消炎酵素薬、気道粘液調整・溶解薬、抗アレルギー薬、ステロイド、漢方薬など)の4つの療法が行われ、効果がみられない場合に手術適応となる。 現在行われている内視鏡下副鼻腔手術(ESS)では、術後の患者の自覚症状やQOLは大きく改善されている一方で、術後1年にわたる加療継続、半数が数年で再発するなどの課題も指摘されている。そして、再発例では、再手術、ステロイド投与、分子標的薬投与などが行われる。とくにステロイド投与については、症状の改善に効果はあるものの投与薬剤や方法が統一化されていないことや骨粗鬆症や肝障害のリスクなどの課題も治療現場では危惧されている。また、現在使用されているスプレー式では、患部に確実に届かなかったり、長時間の作用がなかったりという課題も明らかになっている。 そこで、こうした課題の解決のために登場したステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステントであれば、30日間鼻腔内にステロイド成分を放出することで再発防止となり、良好な術後ケアができることが期待されている。すでに米国では10年以上使用されており、効果や安全性も確認されている。 最後に鴻氏は、「ステントの留置で術後の再燃リスクを大幅に低減する可能性があり、わが国の慢性副鼻腔炎の術後管理の在り方を変えることに期待している」と結び、講演を終えた。

97.

認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増

 亜鉛欠乏が神経の炎症やシナプス機能障害をもたらすことで認知機能低下の可能性が指摘されているが、実際に亜鉛欠乏と認知症の発症を関連付ける疫学的エビデンスは限られている。今回、台湾・Chi Mei Medical CenterのSheng-Han Huang氏らが、亜鉛欠乏が新規発症認知症の独立した修正可能なリスク因子であり、明確な用量反応関係が認められることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年11月4日号掲載の報告。 研究者らは、亜鉛欠乏と認知症の新規発症リスクの関連を調査するため、TriNetXの研究ネットワークを用いて、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛の検査を受けた50歳以上を対象とした後ろ向きコホート研究を実施。対象者を亜鉛濃度(欠乏症:70μg/dL未満、正常値:70~120μg/dL)で層別化し、認知機能障害の既往がある者、亜鉛代謝に影響を与える疾患を有する患者を除外後、人口統計学的特性、併存疾患、薬剤、臨床検査値に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は3年以内の新規認知症の発症とした。また、追加評価項目として認知機能障害を、本研究の解析アプローチ検証のための陽性対照評価項目として肺炎を含めた。*原著論文では亜鉛濃度をμg/mLで表記しているが、診療指針等を考慮し本文ではμg/dLに修正。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群に3万4,249例が含まれた。・亜鉛欠乏は、認知症発症リスクを34%上昇させる(調整ハザード比[HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.17~1.53、p<0.001)、肺炎発症リスクを72%上昇させる(調整HR:1.72、95%CI:1.63~1.81、p<0.001)ことと関連していた。・認知機能障害は、全期間を対象とした解析では有意な関連を示さなかった(調整HR:1.08、95%CI:0.92~1.28、p=0.339)が、新型コロナウイルス感染症パンデミック前の期間(2010~19年)の解析では、調整HRが1.38(95%CI:1.11~1.72、p=0.004)と有意な関連を示した。・軽度から中等度の亜鉛欠乏(50~70μg/dL)と重度の亜鉛欠乏(50μg/dL未満)をそれぞれ正常亜鉛レベルでの認知症新規発症リスクと比較した場合、軽度から中等度の亜鉛欠乏の調整HRは1.26(95%CI:1.10~1.46)、重度の亜鉛欠乏では調整HRは1.71(95%CI:1.36~2.16)と用量反応関係が明らかであった。 これらの知見より研究者らは、「認知症予防戦略において血清亜鉛の状態を評価し、最適化することの重要性を支持する。因果関係を明らかにし、最適な介入プロトコルを決定するためにランダム化比較試験の実施が期待される」としている。

98.

成人のRSウイルスワクチンに関する見解を発表/感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会

 日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解

99.

セフトリアキソン【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第7回

セフトリアキソン前回はセファゾリンを勉強しました。そのスペクトラムは「S&S±PEK」です。復習は間に合っていますか? これらは皮膚軟部組織感染症や尿路感染症の起因菌でした。「±PEK」の部分は、厚生労働省のJANISなども参考にするという解説もしました。この知識を踏まえて、今回はセフトリアキソンについて紹介します。皆さんが毎日のように使われている抗菌薬なのではないでしょうか。セフトリアキソンのスペクトラムセフトリアキソンは第3世代セフェム系です。「トリ」がつくので「トリオ」で3。これで覚えてください。スペクトラムは「S&S+HMPEK」です。セファゾリンは「±」となっており、煮え切らない感じでしたが、今回は「+」で示しています。そして、HとMが加わりました。HMPEKは「ヘンペック」と呼んで「雌鶏がついばむ(hen pecks)」です。よくわからない語呂合わせなのですが、感染症科医の間で伝統的に使われている語呂なので覚えて損はないと思います。HはHaemophilus influenzae、MはMoraxella catarrhalisです。両方とも上下気道感染症の起因菌ですね(図1)。図1 セフトリアキソンのスペクトラム画像を拡大するそうすると、セフトリアキソンが皮膚軟部組織感染症、上下気道感染症、尿路感染症の代表的な起因菌を一通りカバーできることになるわけです。蜂窩織炎、肺炎、腎盂腎炎です。少なくとも救急外来でみかける感染症の半分くらいはこういった感染症ですね。残りはお腹の感染症くらいです。そのため、救急外来でよくセフトリアキソンが使われていると思いますが、それで大きな失敗をしない理由もこれでおわかりになるのではないでしょうか。ある意味、セフトリアキソンは救急外来の守護神と呼べてしまうわけです。ただその一方で、あくまで救急外来という点に注意が必要です。入院患者では緑膿菌感染症なども問題になるのですが、そういったところまではセフトリアキソンは対応しきれていません。院内感染症に対応するには、もっと世代の進んだセフェム系が必要になります。インフルエンザ桿菌の薬剤耐性分類HMPEKでHaemophilus influenzae(インフルエンザ桿菌)の話題が出てきたため、少しだけ補足します。インフルエンザ桿菌は、薬剤耐性機構を勉強するモデルとしてとっても使いやすいのです。インフルエンザ桿菌を薬剤耐性で分類すると、BLNAS、BLPAR、BLNARの3つにわかれます。とは言っても、覚えるのが大変なので、便宜的にレベル1、レベル2、レベル3でとりあえず十分です。レベル3のBLNARだけ、余力があれば覚えてください。図2 インフルエンザ桿菌の薬剤耐性分類画像を拡大するレベル1のBLNASタイプは楽勝です。アンピシリンを入れたら鍵穴にはまって簡単にやっつけることができます(図3)。図3 BLNASタイプへのアンピシリン画像を拡大するただし、インフルエンザ桿菌はアンピシリンに対抗すべく、レベル2のBLPARタイプにレベルアップします。これはβラクタマーゼを使ってアンピシリンを打ち落としてくるため、アンピシリンが効きません。そのため、βラクタマーゼ対策として人類側としては、アンピシリン・スルバクタムを使います。こうしてレベル2のBLPARタイプをやっつけることができます(図4)。図4 BLPARタイプへのアンピシリン・スルバクタム画像を拡大するしかし、インフルエンザ桿菌はさらに進化します。レベル3のBLNARでは、ペニシリン結合蛋白を変異させて、鍵穴の形を変えてしまいます。そうすると、アンピシリン・スルバクタムでも鍵穴が合わず太刀打ちできません(図5)。図5 BLNARタイプへのアンピシリン・スルバクタム画像を拡大するそのため、鍵穴の合うセフトリアキソンを持ってこないといけないわけです。これでやっとインフルエンザ桿菌をやっつけることができるわけです(図6)。図6 BLNARタイプへのセフトリアキソン画像を拡大するこのように、薬剤耐性機構を知っていると、抗菌薬をもっと楽しく勉強できると思います。今回出てきたBLNARはよく使う言葉なので、知っておいて損はないと思います。まとめセフトリアキソンは 「S&S+HMPEK」で覚えましょう。蜂窩織炎、肺炎、腎盂腎炎など救急外来でみる感染症の多くに対応しているため、使い勝手の良い抗菌薬です。ただし、あくまで救急外来、つまりは市中感染症に過ぎないわけで、院内感染症に対しては少々スペクトラムが不足している点にも気をつけていただければと思います。

100.

成人の肺炎球菌感染症予防の新時代、21価肺炎球菌結合型ワクチン「キャップバックス」の臨床的意義/MSD

 MSDは11月21日、成人の肺炎球菌感染症予防をテーマとしたメディアセミナーを開催した。本セミナーでは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎 寛氏が「成人の肺炎球菌感染症予防は新しい時代へ ―21価肺炎球菌結合型ワクチン『キャップバックス』への期待―」と題して講演した。高齢者肺炎球菌感染症のリスクや予防法、10月に発売されたキャップバックスが予防する血清型の特徴などについて解説した。高齢者肺炎の脅威:一度の罹患が招く「負のスパイラル」 迎氏はまず、日本における肺炎死亡の97.8%が65歳以上の高齢者で占められている現状を提示した。抗菌薬治療が発達した現代においても、高齢者肺炎の予後は依然として楽観できない。とくに強調されたのが、一度肺炎に罹患した高齢者が陥る「負のスパイラル」だ。 肺炎による入院はADL(日常生活動作)の低下やフレイルの進行、嚥下機能の低下を招き、退院後も再発や誤嚥性肺炎を繰り返すリスクが高まる。海外データでは、肺炎罹患群は非罹患群に比べ、その後の10年生存率が有意に低下することが示されている1)。迎氏は、高齢者肺炎においては「かかってから治す」だけでは不十分であり、「予防」がきわめて重要だと訴えた。 また迎氏は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の重篤性についても言及した。肺炎球菌に感染した場合、4分の1の患者が髄膜炎や敗血症といったIPDを発症する。IPD発症時の致死率は約2割に達し、高齢になるほど予後が不良になる。大学病院などの高度医療機関に搬送されても入院後48時間以内に死亡するケースが半数を超えるなど、劇症化するリスクが高いことを指摘した。 さらに、インフルエンザ感染後の2次性細菌性肺炎としても肺炎球菌が最多であり、ウイルスとの重複感染が予後を著しく悪化させる点についても警鐘を鳴らした。とくに、高齢の男性が死亡しやすいというデータが示された2)。定期接種と任意接種の位置付け 現在、国内で承認されている主な成人用肺炎球菌ワクチンは以下のとおりである。・定期接種(B類疾病):23価莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)対象:65歳の者(65歳の1年間のみ)、および60〜64歳の特定の基礎疾患を有する者。※以前行われていた5歳刻みの経過措置は2024年3月末で終了しており、現在は65歳のタイミングを逃すと定期接種の対象外となるため注意が必要である。・任意接種:結合型ワクチン(PCV15、PCV20、PCV21)21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21、商品名:キャップバックス)やPCV20などの結合型ワクチンは、T細胞依存性の免疫応答を誘導し、免疫記憶の獲得が期待できるが、現時点では任意接種(自費)の扱いとなる。最新の接種推奨フロー(2025年9月改訂版) 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会による合同委員会が発表した「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」では、以下の戦略が示されている3)。・PPSV23未接種者(65歳など)公費助成のあるPPSV23の定期接種を基本として推奨する。任意接種として、免疫原性の高いPCV21やPCV20を選択すること、あるいはPCV15を接種してから1〜4年以内にPPSV23を接種する「連続接種」も選択肢となる。・PPSV23既接種者すでにPPSV23を接種している場合、1年以上の間隔を空けてPCV21またはPCV20を接種(任意接種)することで、より広範な血清型のカバーと免疫記憶の誘導が期待できる。従来行われていたPPSV23の再接種(5年後)に代わり、結合型ワクチンの接種を推奨する流れとなっている。 また、迎氏は接種率向上の鍵として、医師や看護師からの推奨の重要性を強調した。高齢者が肺炎球菌ワクチンの接種に至る要因として、医師や看護師などの医療関係者からの推奨がある場合では、ない場合に比べて接種行動が約8倍高くなるというデータがある4)。このことから、定期接種対象者への案内だけでなく、基礎疾患を持つリスクの高い患者や、接種を迷っている人に対し、医療現場から積極的に声を掛けることがきわめて重要であると訴えた。既存ワクチンの課題と「血清型置換」への対応 肺炎球菌ワクチンの課題として挙げられたのが、小児へのワクチン普及に伴う「血清型置換(Serotype Replacement)」である。小児へのPCV7、PCV13導入により、ワクチンに含まれる血清型による感染は激減したが、一方でワクチンに含まれない血清型による成人IPDが増加している5)。 迎氏は「現在、従来の成人用ワクチンでカバーできる血清型の割合は低下傾向にある」と指摘した。そのうえで、新しく登場したPCV21の最大の利点として、「成人特有の疫学にフォーカスした広範なカバー率」を挙げた。PCV21の臨床的意義:IPD原因菌の約8割をカバー PCV21は、従来のPCV13、PCV15、PCV20には含まれていない8つの血清型(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)を新たに追加している。これらは成人のIPDや市中肺炎において原因となる頻度が高く、中には致死率が高いものや薬剤耐性傾向を示すものも含まれる。 迎氏が示した国内サーベイランスデータによると、PCV21は15歳以上のIPD原因菌の80.3%をカバーしており、これはPPSV23(56.6%)やPCV15(40.0%)と比較して有意に高い数値である6)。 海外第III相試験(STRIDE-3試験)では、ワクチン未接種の50歳以上2,362例を対象に、OPA GMT比(オプソニン化貪食活性幾何平均抗体価比)を用いて、PCV21の安全性、忍容性および免疫原性を評価した。その結果、PCV21は比較対照のPCV20に対し、共通する10血清型で非劣性を示し、PCV21独自の11血清型においては優越性を示した。安全性プロファイルについても、注射部位反応や全身反応の発現率はPCV20と同程度であり、忍容性に懸念はないと報告されている7)。コロナパンデミック以降のワクチン戦略 講演の結びに迎氏は、新型コロナウイルス感染症対策の5類緩和以降、インフルエンザや肺炎球菌感染症が再流行している現状に触れ、「今冬は呼吸器感染症の増加が予想されるため、感染対策と併せて、改めてワクチン接種の啓発が必要だ。日本は世界的にみてもワクチンの信頼度が低い傾向にあるが、肺炎は予防できる疾患だ。医療従事者からの推奨がワクチン接種行動を促す最大の因子となるため、現場での積極的な働き掛けをお願いしたい」と締めくくった。■参考文献1)Eurich DT, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2015;192:597-604. 2)Tamura K, et al. Int J Infect Dis. 2024;143:107024. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)4)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172. 5)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41. 6)厚生労働省. 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報 7)生物学的製剤基準 21価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)キャップバックス筋注シリンジ 添付文書

検索結果 合計:2030件 表示位置:81 - 100