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トシリズマブとサリルマブ、重症COVID-19患者に有効/NEJM

 集中治療室(ICU)で臓器補助(organ support)を受けた重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、インターロイキン6(IL-6)受容体拮抗薬のトシリズマブとサリルマブによる治療は、生存を含むアウトカムを改善することが認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C. Gordon氏らが、現在進行中の国際共同アダプティブプラットフォーム試験である「Randomized, Embedded, Multifactorial Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia:REMAP-CAP試験」の結果を報告した。重症COVID-19に対するIL-6受容体拮抗薬の有効性は、これまで不明であった。NEJM誌オンライン版2021年2月25日号掲載の報告。アダプティブプラットフォーム臨床試験でトシリズマブとサリルマブの有効性を評価 研究グループは、ICUで臓器補助開始後24時間以内のCOVID-19成人患者を、トシリズマブ(8mg/kg体重)群、サリルマブ(400mg)群、または標準治療(対照群)のいずれかに無作為に割り付けた。 主要評価項目は、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を要しない日数)で、患者が死亡した場合は-1日とした。 統計にはベイズ統計モデルを用い、優越性、有効性、同等性または無益性の事前基準を設定。オッズ比>1は、生存期間の改善、非臓器補助期間の延長、あるいはその両方を示すものとした。標準治療と比較しトシリズマブ、サリルマブで非補助日数が増加、90日生存も改善 トシリズマブ群およびサリルマブ群のいずれも、事前に定義された有効性の基準を満たした。 解析対象は、トシリズマブ群353例、サリルマブ群48例、対照群402例であった。非臓器補助期間の中央値は、トシリズマブ群10日(四分位範囲:-1~16)、サリルマブ群11日(0~16)、対照群0日(-1~15)であった。対照群に対する補正後累積オッズ比中央値は、トシリズマブ群1.64(95%信頼区間[CI]:1.25~2.14)、サリルマブ群1.76(1.17~2.91)で、対照群に対する優越性の事後確率はそれぞれ99.9%、99.5%であった。 90日生存についても、トシリズマブ群とサリルマブ群のプール解析群で改善が認められ、対照群に対するハザード比は1.61(95%CI:1.25~2.08)、優越性の事後確率は99.9%超であった。 その他のすべての副次評価項目についても、これらIL-6受容体拮抗薬の有効性が支持された。

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COVID-19への回復期患者血漿による治療、アウトカム改善効果なし/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者に対する、回復期患者血漿による治療は、プラセボまたは標準的治療と比べて全死因死亡や入院期間、人工呼吸器の使用といった臨床アウトカムのあらゆる有益性と関連しない。スイス・バーゼル大学のPerrine Janiaud氏らが、これまでに発表された10試験についてメタ解析を行い明らかにした。エビデンスの確実性は、全死因死亡については低~中程度で、その他のアウトカムについては低いものだったという。JAMA誌オンライン版2021年2月26日号掲載の報告。ピアレビュー前・後のRCTを対象にメタ解析 研究グループは、ピアレビュー、出版前あるいはプレスリリースされた無作為化試験(RCT)で、回復期患者血漿による治療vs.プラセボまたは標準的治療の臨床アウトカムを評価する検討を行った。 PubMed、Cochrane COVID-19試験レジストリ、LOVE(Living Overview of Evidence)を2021年1月29日時点で検索し、システマティック・レビューを実施。COVID-19の疑いまたは確定診断を受けた患者を対象に、回復期患者血漿による治療とプラセボまたは標準的治療を比較したRCTを特定しメタ解析を行った。 主要解析はピアレビュー済みのRCTのみを対象に行い、2次解析は、出版前やプレスリリースを含む、公表されたあらゆる試験結果を対象に行った。 主要アウトカムは、全死因死亡、入院期間、臨床的改善、臨床的増悪、人工呼吸器の使用、重篤な有害事象だった。レビュー済み4試験とレビュー前6試験を対象に分析 解析には、ピアレビュー済みの4つのRCT(被験者総数1,060例)と、ピアレビュー前の6つのRCT(被験者総数1万722例)が含まれた。 ピアレビュー済み4 RCTの解析において、回復期患者血漿による治療の、全死因死亡に関する要約リスク比(RR)は0.93(95%信頼区間[CI]:0.63~1.38)、絶対リスク差は-1.21%(95%CI:-5.29~2.88)で、データの不正確性によりエビデンスの確実性は低かった。 ピアレビュー前の6 RCTを含めた10 RCTの解析において、全死因死亡に関する要約RRは1.02(95%CI:0.92~1.12)で、非公表データを包含したエビデンスの確実性は中程度だった。 また、ピアレビュー済み4 RCTにおいて、入院期間に関する要約ハザード比は1.17(95%CI:0.07~20.34)、人工呼吸器の使用の要約RRは0.76(0.20~2.87)であり(絶対リスク差-2.56%[95%CI:-13.16~8.05])、両アウトカムに関するデータの不正確性によりエビデンスの確実性は低かった。 臨床的改善、臨床的増悪、重篤な有害事象に関するデータは限定的で、有意差はなかった。

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BRACE-CORONAにより“COVID-19とRA系阻害薬問題”はどこまで解決されたか?(解説:甲斐久史氏)-1360

 2020年9月、欧州心臓病学会ESC2020で発表され、論文公表が待たれていたBRACE-CORONAがようやくJAMA誌に報告された。COVID-19パンデミック拡大早期から危惧された「レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が、新型コロナウイルス感染リスクおよびCOVID-19重症化・死亡に悪影響を与えるのではないか?」というクリニカル・クエスチョンに基づく研究である。2020年4月から6月の間に、ブラジル29施設に入院した軽症および中等症COVID-19患者のうち、入院前からアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を服用していた659例がRA系阻害薬中止群(他クラスの降圧薬に変更)と継続群にランダム化され、入院後30日間の臨床転帰が比較検討された。主要評価項目は、30日間の生存・退院日数。副次評価項目は、入院日数、全死亡、心血管死亡、COVID-19進行(COVID-19悪化、心筋梗塞、心不全の新規発症または増悪、脳卒中など)であった。主要評価項目およびいずれの副次評価項目についても両群間に差はなかった。また、年齢、BMI、入院時の症状・重症度などのサブグループ解析でも主要評価項目に差はみられなかった。以上から、軽症/中等症COVID-19入院患者において、RA系阻害薬をルーチンとして中止する必要はないと結論付けられた。 本研究は、“COVID-19とRA系阻害薬問題”に関する初めての多施設ランダム化臨床試験(RCT)である。これによって、何らかの症状を有した急性期COVID-19の重症化・予後悪化に関してのRA系阻害薬悪玉説は否定されたと考えてもよいだろう。ただし、本研究の対象は高血圧患者で、心不全は約1%(1年以内に心不全入院を有するものは除外)、冠動脈疾患は約4.5%しか含まれないことには注意したい。とはいえ、心不全や冠動脈疾患はCOVID-19重症化・予後悪化の危険因子であり、また、パンデミック下での臨床経験から重症COVID-19による心不全治療においてもRA系阻害薬は有用とされる。したがって、これらの病態を対象に、あえてRA系阻害薬を中止するRCTを行う必要は、理論的さらには倫理的観点からもないであろう。一方、ARB新規投与がCOVID-19入院患者および非入院患者の急性期予後を改善するかについて、感染拡大早期からそれぞれRCTがなされていた。今年2月にようやく症例登録が終了したようである。RA系阻害薬善玉説の観点からの検討であり、その公表が待たれる。 しかし、われわれが最も知りたいことは、このような急性効果ではない。高血圧、腎疾患、さらには心不全や冠動脈疾患といった心疾患に対して、日頃から長期間処方しているRA系阻害薬により、患者さんを感染や重症化のリスクに曝していないかということである。ワクチンや抗ウイルス薬とは異なり、従来の大規模な多施設RCTによる検証は、RA系阻害薬長期服用の感染予防・重症化予防に関してはなじまないであろう。この命題に関しては、中国での感染拡大初期から、単施設や小規模コホートでの後ろ向き登録研究が多くなされた。中にはRA系阻害薬の有用性を強調した報告もみられる。しかし、欧州・米国さらにわが国からの大規模な後ろ向きおよび前向き登録研究、それらを含めた観察研究のメタ解析が次々に報告され、感染確認前のRA系阻害薬服用は、SARS-CoV-2検査陽性、COVID-19重症化や死亡のリスクを増大させることも抑制させることもなく、明らかな影響を与えないことが示されている。有用性評価には依然検討の余地があるが、RA系阻害薬は感染性増大や重症化・予後悪化といった有害事象を増加させないという点では、コンセンサスが得られるのではなかろうか。 そもそも、“COVID-19とRA系阻害薬問題”は、ACE2に関する基礎研究において、「RA系阻害薬がACE2発現を増加させる」「SARSなど急性肺障害モデルにおいてRA系阻害薬が臓器保護的に働く」といった一部の報告が強調され、それぞれ、悪玉説と善玉説の根拠とされている。しかしながら、別稿で詳述したように、これまでの基礎研究を網羅的かつ詳細に検討すると、いずれの主張もその根拠はどうも薄弱なようである(甲斐. 心血管薬物療法. 2021;8:34-42.)。急性期COVID-19に関しては、両仮説ともその妥当性から見直す必要があるかもしれない。最近、急性期に無症候性であった患者も含めて、味覚・嗅覚異常、脱毛、倦怠感、brain fogといった精神症状、息切れなどの症状が数ヵ月間持続するlong COVIDに注目が集まっている。心臓MRIで慢性的な心筋炎症がみられるなど、long COVIDには全身の慢性心血管炎症が関与する可能性が示唆されている。今後、long COVIDの発症予防・治療に対するRA系阻害薬を含めスタチンなどの薬剤の有用性についてRCTを含めた検証を進める意義があろう。 “COVID-19とRA系阻害薬問題”を通じて、質の高い観察研究・ビッグデータ解析の必要性が痛感された。実際にCOVID-19パンデミックをきっかけに、電子診療データやAIを活用したデータの収集、スクリーニング、解析などの各分野に目覚ましい革新が引き起こされている。災い転じて、臨床疫学によるエビデンス構築の新時代を迎えようとしているようである。ちなみに、BRACE-CORONAは、ブラジル全国規模のCOVID-19 registryに基づくregistry-based RCTである。電子診療データなどのリアルワールドデータシステムの枠組み内にRCTを構築することにより、膨大かつ検証可能なデータプールから、自動的に対象症例を抽出し、経時的にデータを収集することができるのみならず、1つのシステム内に複数のRCTを走らせることも可能となる。わが国も遅れをとらないように、情報インフラ・診療情報データベース構築を推し進めなければならない。

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ファイザーの新型コロナワクチン副反応疑い、2回目に多い?/CDC

 2021年2月時点の米国での新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)の有害事象について、Pfizer/BioNTech社とModerna社のワクチンに関する有害事象を収集した結果、ワクチン副反応報告システム(VAERS)に報告されたレポートの90%超は非重篤なものであった。また、分析期間中のアナフィラキシーの発生は、接種100万回あたり4.5例で、インフルエンザワクチン(100万回あたり1.4例)、肺炎球菌ワクチン(100万回あたり2.5例)の範囲内であることも明らかになった。米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年2月19日にMMWR Early Releaseとして発表した。 米国では、食品医薬品局(FDA)が2020年12月11日にPfizer/BioNTech ワクチンを、同年12月18日にModernaワクチンに対して、緊急使用許可(EUA)を発行した。両ワクチンとも接種回数は2回で、まず医療従事者および介護施設(LTCF)の居住者に投与が行われた。 CDCはこれらの安全性モニタリングに、VAERS、有害事象自発報告システム(SRS)、V-safe*などのアクティブな監視システムを使用し、接種の最初の期間(2020年12月14日~2021年1月13日)の安全性データの記述的分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・期間中、1,379万4,904回のワクチンが接種された。このうち843万6,863回(61.2%)は女性に接種された。・VAERSは有害事象に関する6,994例のレポートを受信した。これは非重篤6,354例(90.8%)、重篤640例(9.2%)に区分された。113例(1.6%)が死亡したが、うち78例(65%)はLTCF居住者だった。・VAERSに報告された症例の年齢中央値は42歳(範囲:15~104歳)で、最も報告された症状は、頭痛(22.4%)、倦怠感(16.5%)、めまい(16.5%)だった。・死亡診断書、病理解剖報告、診療記録、およびVAERSと医療者からの報告によると、これらの死亡とワクチン接種に因果関係は示唆されなかった。・アナフィラキシーの報告は62件で、Pfizer/BioNTechは46件(74.2%)、モデルナは16件(25.8%)だった。・V-safeに報告された有害事象のうち、Pfizer/BioNTechワクチンを接種していた症例では、1回目より2回目投与後のほうが多く、発熱と悪寒の割合は2回目の投与後のほうが1回目よりも4倍以上高かった。 研究者らは「アナフィラキシーの出現頻度は他のワクチン接種後に報告されたものと同等の割合で稀なことから、今回の報告は医療提供者ならびに市民に対し安全性の促進に一役買うのでは」と言及している。*:V-safeとは、 CDCが新型コロナワクチン接種プログラムのために特別に確立した安全監視システム。ワクチン接種後の個々の健康状態を把握するため、テキストメッセージとWebで調査するためのスマートフォンベースのツール。ワクチン接種後の最初の週に、登録者は局所注射部位と全身反応に関する調査を毎日行う。登録者は、欠勤の有無、日常生活の可否、症状が出現した場合に医療者からケアを受けたかなどを尋ねられる。

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新型コロナワクチンを拒む一般人の割合と特徴-米国の場合

 米国では2月8日の時点で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン5,930万回分が配布され、少なくとも3,160万人が1回目のワクチン接種を行った。ワクチン開始前に実施された全米世論調査では、多くの人が新型コロナワクチンの接種をためらっていたが、2020年9月から12月にかけて、ワクチンを接種したいと回答した割合は、全体的に39.4%から49.1%に増加し、接種する「可能性が低い」と回答した割合は38.1%から32.1%に減少していたことが明らかになった。米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年2月12日に発表した。 CDCは新型コロナワクチンに対する認識と接種意思を調査する目的で、2020年9月と12月に18歳以上の米国人を代表する3,541人に対し確率に基づくサンプル(Ipsos KnowledgePanel)を用いてインターネットパネル調査を実施し、18~64歳(基礎疾患あり/なし)、65歳以上、エッセンシャルワーカー従事に分類した。“もし、新型コロナワクチンを今日無料で接種できるとしたら、接種する可能性はどのくらいありますか?”との質問内容に対し、回答選択肢を「必ず受ける/受ける可能性が非常に高い」「可能性がやや高い」「可能性が低い」と定めた。接種の可能性について“必ず”または“非常に高い”という回答は意思があるとし、“可能性が低い”という回答は意思がないとした。 主な結果は以下のとおり。・「必ず受ける/受ける可能性が非常に高い」の回答は、エッセンシャルワーカー*で8.8ポイント(37.1%→45.9%)、65歳以上で17.1ポイント(49.1%→66.2%)、基礎疾患**を有する18~64歳で5.3ポイント(36.5%→41.8%)と、9月から12月にかけて増加した。・「可能性が低い」との回答は、エッセンシャルワーカーで4.8ポイント(40.2%→35.8%)、65歳以上で11.1ポイント(29.8%→18.7%)、基礎疾患を有する18~64歳で2.1ポイント(40.4%→38.3%)減少した。・また、基礎疾患を持たずエッセンシャルワーカーではない18~64歳の場合、「必ず受ける/受ける可能性が非常に高い」の回答は9.5ポイント(38.0%→48.7%)増加し、「可能性が低い」との回答は7.6ポイント(39.8%→32.2%)減少した。・若年成人、女性、非ヒスパニック系黒人、居住区域が首都圏外、低学歴、低収入世帯(年収:3万5,000〜4万9,999ドル)、健康保険未加入の層がワクチンを接種する「可能性が低い」と最も多く回答していた。*:エッセンシャルワーカー:医療者ほかインフラ整備に必要不可欠な建設作業員など**:慢性腎臓病、心不全、COPDなどを有する者 研究者らは「新型コロナの罹患率と死亡率のリスクが高い集団の健康を保護し、健康の不平等を減らすためにもワクチン接種は重要である。国民の信頼をさらに高める戦略を実施するため、追加の取り組みが必要」としている。

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ロシア製COVID-19ワクチン、約2万人接種で有効率91.6%/Lancet

 ロシア国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所(NRCEM)で開発された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の非相同組み換えアデノウイルス(rAd)ベクターワクチンGam-COVID-Vac(スプートニクV)の第III相試験中間解析の結果が、NRCEMのDenis Y. Logunov氏らによってLancet誌2021年2月20日号で報告された。COVID-19に対する有効率は91.6%と高く、2万人を超える大規模な参加者において良好な忍容性が確認された。Gam-COVID-Vacは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)完全長糖蛋白S(rAd26-SおよびrAd5-S)の遺伝子を持つrAd26型(rAd26)とrAd5型(rAd5)をベースとする複合ベクターワクチンで、prime-boost異種ワクチン接種法に基づき、先にrAd26を接種後、21日の間隔を空けてrAd5が接種される。2020年8月に終了した第I/II相試験では、良好な安全性プロファイルを示し、強力な体液性免疫および細胞性免疫の誘導が認められている。モスクワ市25施設のプラセボ対照無作為化第III相試験 研究グループは、COVID-19に対するGam-COVID-Vacの有用性の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施し、2020年9月7日~11月24日の期間にモスクワ市の25施設で参加者の登録を行った(ロシア・モスクワ市保健局などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、抗SARS-CoV-2 IgM/IgG抗体陰性、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法でSARS-CoV-2陰性、COVID-19歴がなく、登録前の14日間にCOVID-19患者との接触がなく、登録前30日間に他のワクチン接種歴のない参加者であった。 被験者は、ワクチン群またはプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り付けられた。担当医、参加者を含むすべての試験関係者には、割り付け情報は知らされなかった。ワクチンは、prime-boostレジメンに基づき、1回目にrAd26が筋注され、21日の間隔を空けてrAd5が筋注された(いずれも、ウイルス粒子1011、用量0.5mL)。 主要アウトカムは、初回接種後21日(2回目接種日)以降にPCR検査で確定されたCOVID-19の参加者の割合とした。ワクチンの有効率(%)(予防効果)は、(1-オッズ比[OR])×100の式で算出された。主要アウトカムの評価は2回の接種を受けた参加者で行い、重篤な有害事象はデータベースのロック時に少なくとも1回の接種を受けた全参加者で評価した。21日以降の中等症~重症COVID-19に対する有効率は100% 2万1,977例の成人が登録され、ワクチン群に1万6,501例、プラセボ群には5,476例が割り付けられた。このうち1万9,866例(ワクチン群1万4,964例、プラセボ群4,902例)が2回の接種を受け、主要アウトカムの解析に含まれた。2回接種例の平均年齢はワクチン群が45.3(SD 12.0)歳、プラセボ群は45.3(11.9)歳であり、両群間で性別の分布、合併症の罹患率、感染リスクに差はなかった。 初回接種後21日以降に、COVID-19と確定された参加者は、ワクチン群が1万4,964例中16例(0.1%)、プラセボ群は4,902例中62例(1.3%)であり、ワクチンの有効率は91.6%(95%信頼区間[CI]:85.6~95.2、p<0.0001)であった。 5つの年齢層(18~30歳、31~40歳、41~50歳、51~60歳、60歳以上)および男性・女性の有効率はいずれも87%以上であり、とくに60歳以上の有効率は91.8%(95%CI:67.1~98.3、p=0.0004)と良好であった。また、中等症~重症COVID-19に対する有効率は、初回接種後15~21日は73.6%(p=0.048)であり、21日以降はワクチン群での発生は認められず(対照群は20例で発生)、この期間の有効率は100%(94.4~100.0、p<0.0001)だった。 初回接種後42日時におけるSARS-CoV-2糖蛋白Sの受容体結合ドメイン(RBD)特異的IgG抗体の検出率は、ワクチン群が98%(336/342検体)で、幾何平均抗体価(GMT)は8,996、抗体陽転率は98.25%であり、プラセボ群の15%(17/114検体)、30.55、14.91%と比較して有意に高かった(p<0.0001)。また、中和抗体のGMTは、ワクチン群が44.5、抗体陽転率は95.83%であり、プラセボ群の1.6、7.14%よりも有意に高値であった(p<0.0001)。これらのデータにより、ワクチンによる体液性免疫応答の誘導が確認された。 さらに、ワクチン群では、初回接種日と比較して、28日の時点における抗原再刺激によるインターフェロン-γ分泌量(中央値32.77pg/mL、p<0.0001)が有意に増加し、ワクチンによる細胞性免疫応答の誘導が認められた。プラセボ群では、このような反応はなかった。 最も頻度の高い有害事象は、インフルエンザ様疾患、注射部位反応、頭痛、無力症であった。報告された有害事象のほとんどがGrade1(94.0%[7,485/7,966例])で、Grade2は5.66%(451例)、Grade3は0.38%(30例)であった。希少な有害事象は122例(ワクチン群91例、プラセボ群31例)で報告された。 重篤な有害事象は、68例に70件認められ、ワクチン群が0.3%(45/1万6,427例)、プラセボ群は0.4%(23/5,435例)であったが、独立データ監視委員会によって、いずれもワクチン接種とは関連がないと確定された。試験期間中に4例(ワクチン群3例[<0.1%]、プラセボ群1例[<0.1%])が死亡したが、ワクチン関連のものはなかった。 著者は、「このワクチンは、他のSARS-CoV-2ワクチンとともに、SARS-CoV-2ワクチンの世界的なパイプラインの多様化に貢献すると考えられる」としている。研究グループは、現在、ワクチンの1回接種レジメンを評価する研究を進めているという。

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自宅で超重症COVID-19を診きった1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第182回

自宅で超重症COVID-19を診きった1例pixabayより使用日本でCOVID-19を診療する場合、基本的に肺炎があったりSpO2が低かったりすると、入院適応になります。当然、両肺に肺炎があって呼吸不全があろうものなら、即入院なわけですが……。エクアドルで報告された、自宅療養で重症例を診きった超絶症例報告を紹介しましょう。Cherrez-Ojeda I, et al.The unusual experience of managing a severe COVID-19 case at home: what can we do and where do we go?BMC Infect Dis . 2020 Nov 19;20(1):862.主人公は、60歳のエクアドル人女性です。7日前から咳と息切れが見られており、救急外来のトリアージでSpO2 86%(室内気)と両側肺炎が見られ、SARS-CoV-2 PCRが陽性になりました。呼吸数が32回/分とかなり厳しい状態だったのですが、入院する部屋がなく、外来治療を余儀なくされました。イヤ、無理でしょ…PaO2が47.70Torrと書いてあるんですが……。――とはいえ、部屋がないものはない。適切な治療プランを立て、自宅に帰さなければいけません。メチルプレドニゾロン、低分子ヘパリン、ニタゾキサニド(抗ウイルス薬)を看護師の往診で投与するよう指示しました。酸素濃縮器も自宅に設置し、鼻カニューレで酸素投与を開始しました。PubMedなどからこの論文の元文献を見てほしいのですが、両肺真っ白です。本当に真っ白のARDSです。日本だといろいろと問題視されそうですが、自宅で急死することもなく、この女性患者さんは次第に回復していきました。治療開始4日目に、危うくSpO2が80%を切るところまでいきましたが、その後復活しています。治療開始14日後の胸部CTでは、陰影の大部分が軽快しました。日本でここまでの医療逼迫に陥ることはないと信じたいですが、自宅やホテルでマネジメントする方法も考えるべき時期が来るもしれません。SpO2が低い症例に、ステロイド錠を手渡すことを検討してもよいかもしれませんが、国内の診療常識ではちょっと難しいでしょうね。

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第47回 ワクチン副反応疑い報道でメディアに課せられた責務

いま、新型コロナウイルス感染症に関する報道と言えば、ワクチン接種に関するものがかなりの部分を占める。そんな中、優先接種対象者として接種した医療従事者の中で、接種3日後にくも膜下出血で死亡した事例が3月2日、厚生労働省から報告された。今回のプレスリリースには、「副反応疑い報告制度の透明性の向上及び周知等のため、当面、接種後にアナフィラキシー又は死亡の報告を受けた際に公表するものです」と但し書きが付いている。いわば因果関係が証明されたものではないし、実際リリースを読み込めば、多くの医療従事者はワクチン接種との因果関係はほぼなしと見るだろう。さて新聞各紙はこれをどう報じたか。一覧にすると次のようになる。「ワクチン接種3日後、くも膜下出血で死亡 因果関係不明」(朝日新聞)「ワクチン接種後にくも膜下出血で死亡か 因果関係は評価できず」(毎日新聞)「ワクチン接種後の初の死亡事例、因果関係不明」(日本経済新聞)「ワクチン接種した60代女性、3日後に死亡…死因はくも膜下出血か」(読売新聞)「コロナワクチン接種後、60代女性死亡 くも膜下出血か」(産経新聞)見出しはきれいにほぼ2種類に分かれた。各紙の報道内容を読めばわかるが、基本的には冷静に淡々と報じている。個人的には、前者3紙の「因果関係不明」のほうが、因果関係なしも含めて示唆する見出しのため、ここからより正確な記事内容の推定が可能になると考える。また、中でも日経は記事の第2パラグラフというかなり早めの段階で「海外の接種事例でワクチンとくも膜下出血の関連を明確に示す報告はないとみられ、偶発的な事案の可能性もある」とより具体的に記述し、「死亡」というキーワードに感覚的に反応しやすい読者に暗に冷静さを求めている。この件については、「わざわざ報じなくとも良いではないか」との意見もあることは承知している。ただ、今回の新型コロナは現代ではまれに見るほど全世界で人々の日常生活をマヒさせており、国や医療関係者もより多くの人にできるだけ早期にワクチンを接種してほしいと願っていると考えて差し支えないだろう。一方、現状で使用可能になったmRNAワクチンは、今回が初の実戦投入。しかも、当初、ワクチン登場まで相当時間がかかるとみられていた中で、わずか1年で臨床現場に出てきたことから、一般人にとっては「期待半分、疑心半分」が本音ではないだろうか?そのような状況下では、たとえ誤解であったとしても国民の一部から「情報隠ぺい」と捉えられるような事態が起これば、一気にワクチンに対する信頼性は低下し、「より多くの国民にできるだけ早期の接種」という目標はあっという間に瓦解する。だからこそ敢えて因果関係の確定までのプロセスも含めてなるべく公開することで信頼性を担保しようという、ある種「苦渋」の決断と考えられる。そしてメディアの側も事情は似たようなものだ。日本中が注目しているワクチンに関して、国が公開している情報を完全に無視すれば「メディアは意図的にワクチンの安全性に目をつぶっている」と言われてしまう。ただ、今回のワクチンに関する安全性をめぐる報道に関しては、メディア側は最終結果も報じる必要があると感じている。最終結果とは因果関係の推定がほぼ終了した時点である。今回の事例で言えば、もしワクチン接種と因果関係がないだろうとの結論になった時点で「3月2日に厚生労働省が発表したワクチン接種後にくも膜下出血を起こして死亡したケースは、死亡とワクチン接種との間に因果関係はない可能性が高いと専門家は判断した」という感じできちんとフォローアップ報道を行うということだ。そうでないと、読者・視聴者は「死亡」という事実のみを脳内に刻み込んでネガティブイメージが維持されるからだ。そのうえで今回のワクチン接種を契機に私たちメディアだけでなく、医療従事者、行政関係者が一致して伝えなければならない情報があると考えている。それは「有害事象」と「副反応」の違いである。もちろん、この記事を目にするであろう方々に「有害事象とはワクチン接種後、その影響があると考えられる期間に起こったネガティブな反応全て。そのうちワクチンとの因果関係が濃厚とされたものが副反応」と説明するのは釈迦に説法である。ところが医療に縁のない一般人にとって、この違いは説明されればその場で理解はできるものの、知識としてはなかなか定着しない。だが、この違いを多くの国民が理解すれば、副反応に対する漠然とした恐怖の一部は緩和できる可能性があると考える。実は先日、ある国会議員と意見交換した時に「今回のワクチン接種を契機に各自治体のワクチン接種に関するHPに<有害事象とは?><副反応とは?>という基礎的な用語集を付記するように働きかけてはいかがか?」と提案した。するとこの国会議員からは「実はその働きかけはすでに行われているのだが、自治体ごとの温度差が大きい」との反応が返ってきた。まあ、さもありなんである。だからといって行政関係者が悪いなどと言うつもりはない。ただ、行政関係者に温度差があるからこそ、その隙間を医療従事者、メディア関係者が埋めなければならないとも思う。さまざまなチャネルからシャワーのように同じこと繰り返し伝えることが、知識としての定着の第一歩であることは、「PCR検査」という言葉が日常的に使われるようになった現在が端的な証明となっている。このように書くと「そうはいってもPCR検査の中身を正確に理解していない人がほとんどだろう」という指摘があることは承知している。ただ、言葉として定着しなければ、知識としての定着はあり得ない。目で見て読めない英単語を耳で聞いても分かるわけはないのと同じである。そして「有害事象」と「副反応」の違いが国民の間に定着してくれば、今回発表されたようなワクチン接種直後の死亡例の公表の仕方、報道の仕方も必然的に変わってくる。新型コロナのワクチン接種開始は、そうした好ましい変化を獲得するための、またとない機会でもある。

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AZ社の新型コロナワクチン、接種間隔は3ヵ月が有益/Lancet

 ChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)ワクチンの2回接種は、主要解析の結果、中間解析と一致して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し有効であることが確認された。探索的事後解析では、パンデミックにおける供給不足時にできるだけ早く大多数の住民にワクチンを行き渡らせるための短い接種間隔プログラムより、3ヵ月の接種間隔のほうが2回目接種後の予防効果が改善しており利点があることも示された。英国・オックスフォード大学のMerryn Voysey氏らオックスフォード・ワクチン・グループが、AZD1222ワクチンに関する4つの臨床試験の統合解析結果を報告した。AZD1222ワクチンは、英国の医薬品・医療製品規制庁により標準用量を4~12週間の間隔で2回接種する緊急使用が承認され、英国でのワクチン導入計画では、ハイリスクの人々を対象にただちに初回接種を行い、12週間後に2回目接種を行うことになっていた。Lancet誌オンライン版2021年2月19日号掲載の報告。4試験の統合主要解析と接種間隔別等の探索的事後解析を実施 研究グループは、単盲検無作為化比較試験である英国の第I/II相試験「COV001試験」および第II/III相試験「COV002試験」、ならびにブラジルの第III相試験「COV003試験」と、二重盲検無作為化比較試験である南アフリカの第I/II相試験「COV005試験」について、事前に設定されていた統合解析に主要解析と、探索的事後解析を行った。 試験では、18歳以上の健康成人がChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種群(標準用量として5×1010のウイルス粒子を2回接種)、または対照群(対照ワクチンまたは生理食塩水)に1対1の割合で無作為に割り付けられ、英国の試験では、一部の被験者に、1回目は低用量(ウイルス粒子2.2×1010)、2回目は標準用量を接種した。 主要評価項目は、ウイルス学的に確定された症候性COVID-19で、2回目接種後14日以降に1つ以上の特定症状(37.8度以上の発熱、咳嗽、息切れ、嗅覚消失/味覚消失)を認め、核酸増幅検査(NAAT)陽性と定義した。副次有効性解析には、初回接種後22日以降の発症例を組み込んだ。また、免疫測定法および疑似ウイルス中和抗体価で評価した抗体反応を探索的評価項目とした。 主要解析対象集団は、盲検化された独立評価委員会により判定されたNAAT陽性のCOVID-19患者で、ベースライン時にSARS-CoV-2のN蛋白血清反応陰性かつ2回目接種後に最低14日間追跡調査が行われ、NAATで過去のSARS-CoV-2感染の証拠がないすべての被験者であった。安全性解析対象集団には、最低1回の接種を受けた全被験者が含まれた。ワクチン有効率、全体66.7%、標準用量2回接種(接種間隔12週間以上)81.3% 2020年4月23日~12月6日の期間に4つの試験で2万4,422例が登録され、そのうち1万7,178例が主要解析に組み込まれた(ワクチン接種群8,597例、対照群8,581例)。データカットオフ日は、2020年12月7日であった。 主要評価項目を満たした症候性COVID-19患者は計332例発生した。ワクチン群84例(1.0%)、対照群248例(2.9%)で、ワクチンの有効率は66.7%(95%信頼区間[CI]:57.4~74.0)であった。初回接種後21日以降に、COVID-19による入院はワクチン群では確認されず、対照群で15例認められた。 重篤な有害事象は、ワクチン群0.9%(108/1万2,282例)、対照群1.1%(127/1万1,962例)に確認された。接種と関連がないと思われる死亡が7例(ワクチン群2例、対照群5例)発生し、うち対照群の1例はCOVID-19関連死であった。 探索的解析の結果、標準用量単回接種後、22~90日間におけるワクチンの有効性は76.0%(95%CI:59.3~85.9)であった。モデル解析では、初回接種から最初の3ヵ月間で感染予防効果は減弱しないことが示唆された。また、この期間中の抗体価は維持されており、90日目までの低下は最小限であった(幾何平均比[GMR]:0.66、95%CI:0.59~0.74)。 さらに、標準用量2回接種者において、プライム/ブースト(1回目と2回目)の間隔は、長いほうが短期間の場合より2回目接種後の有効性が高かった(有効率:12週間以上81.3%[95%CI:60.3~91.2]、6週間未満55.1%[95%CI:33.0~69.9])。18~55歳の被験者では、接種間隔が12週間以上の場合、6週間未満と比較して抗体価が2倍以上高いことが示唆された(GMR:2.32、95%CI:2.01~2.68)。

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ファイザーの新型コロナワクチン、イスラエルで高い有効性を実証/NEJM

 PfizerとBioNTechによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチン「BNT162b2」の推定有効率は、2回接種後で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に対しては92%、症候性COVID-19に対しては94%、重症COVID-19には92%と、いずれも高いことが報告された。イスラエル・Clalit Health ServicesのNoa Dagan氏らが、イスラエル最大のヘルスケア組織(HCO)からのデータを用いて、約60万人のワクチン接種者と非接種の適合対照者について行った試験で明らかにした。COVID-19に対する集団予防接種キャンペーンが世界各地で開始されている中、ワクチンの有効性は非コントロール下で多様な集団におけるさまざまなアウトカムの評価が必要となっている。著者は、「今回の試験結果は、全国的なワクチン集団接種について評価したもので、mRNAワクチンBNT162b2がさまざまなCOVID-19関連アウトカムに対して有効であることを示し、無作為化試験の結果と一致する所見が得られた」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年2月24日号掲載の報告。SARS-CoV-2感染、COVID-19による入院や重症などへの有効性を検証 研究グループは、イスラエル最大のHCO「Clalit Health Services(CHS)」の加入者データを基に、2020年12月20日~2021年2月1日に、BNT162b2の接種者と、人口統計学的・臨床的特徴に基づき適合した非接種対照者を対象とした試験を行った。 アウトカムは、記録されたSARS-CoV-2への感染、症候性COVID-19、COVID-19による入院、重症疾患、死亡だった。各アウトカムについて、Kaplan-Meier推定法を用いて、ワクチンの有効性(1-リスク比)を推算し評価した。推定有効率は年齢群を問わず同等 ワクチン接種群と適合対照群には、それぞれ59万6,618人が包含された。 ワクチン初回接種後14~20日後のワクチン推定有効率は、記録されたSARS-CoV-2への感染が46%(95%信頼区間[CI]:40~51)、症候性COVID-19は57%(50~63)、COVID-19による入院は74%(56~86)、重症疾患は62%(39~80)だった。 ワクチン2回目接種後7日以降の同値は、それぞれ92%(95%CI:88~95)、94%(87~98)、87%(55~100)、92%(75~100)だった。 また、ワクチン初回接種後14~20日後の、COVID-19による死亡に関するワクチン推定有効率は72%(95%CI:19~100)だった。 記録されたSARS-CoV-2への感染と症候性COVID-19について評価した、特定サブ集団における推定有効率は、年齢群を問わず同等だった。ただし、複数の併存疾患者においてはわずかだが有効性が低下する可能性が示された。

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「フィニバックス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第41回

第41回 「フィニバックス」の名称の由来は?販売名フィニバックス®点滴静注用0.25gフィニバックス®点滴静注用0.5gフィニバックス®キット点滴静注用0.25g一般名(和名[命名法])ドリペネム水和物(JAN)[日局]効能又は効果〈適応菌種〉ドリペネムに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属(エンテロコッカス・フェシウムを除く)、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属、ペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス属、プレボテラ属 〈適応症〉敗血症、感染性心内膜炎、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、精巣上体炎(副睾丸炎)、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎、化膿性髄膜炎、眼窩感染、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、眼内炎(全眼球炎を含む)、中耳炎、顎骨周辺の蜂巣炎、顎炎用法及び用量通常、成人にはドリペネムとして1回0.25g(力価)を1日2回又は3回、30分以上かけて点滴静注する。 なお、年齢・症状に応じて適宜増減するが、重症・難治性感染症には、1回0.5g(力価)を1日3回投与し、増量が必要と判断される場合に限り1回量として1.0g(力価)、1日量として3.0g(力価)まで投与できる。通常、小児にはドリペネムとして1回20mg(力価)/kgを1日3回、30分以上かけて点滴静注する。なお、年齢・症状に応じて適宜増減するが、重症・難治性感染症には、1回40mg(力価)/kgまで増量することができる。ただし、投与量の上限は1回1.0g(力価)までとする。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.バルプロ酸ナトリウムを投与中の患者※本内容は2021年3月3日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年2月改訂(第16版)医薬品インタビューフォーム「フィニバックス®点滴静注用0.25g・フィニバックス®点滴静注用0.5g/フィニバックス®キット点滴静注用0.25g2)シオノギ製薬:製品情報一覧

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第47回 「発症10日したらもう他人に感染させない」エビデンス明示で、回復患者受け入れは進むか?

全国医学部長病院長会議がコロナ重症症例診療で見解こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。春本番、プロ野球のキャンプも日米で本番を迎えています。春の沖縄キャンプ地巡りが大好きな知人がいて、ある時、スポーツニュースを観ていたらバックネット裏にスカウトのように陣取る姿が映り、驚いたことがあります。今年のキャンプは無観客なので、そういった楽しみや驚きもなく、寂しいものです。そんな中、景気のいい話もあります。2月25日、東北楽天ゴールデンイーグルスは田中将大投手に特化したファンクラブの申し込みを同日開始したところ、10人限定の年会費180万円のコースが14分で完売した、と発表しました。また、1,000人限定の1万8,000円のコースも4時間余りで完売したそうです。楽天ファンでもない私でも1万8,000円なら安い、と思いエントリーしようと考えたくらいです。ことほど左様に私を含めた誰もがスポーツ観戦など外に出かけたくうずうずしている今日このごろですが、首都圏以外の6府県の緊急事態宣言が28日で解除されました。各府県は飲食店への営業時間の短縮要請などを徐々に緩和するとのことですが、暖かさに誘われ、飲み会も増えていきそうです。英国型の変異株は実行再生産数を0.4〜0.7引き上げるとの報告もあります。第4波到来の可能性は割と高いのでは、と思いますが、皆さんいかがでしょう。少々状況が落ち着いてきた中、全国医学部長病院長会議は2月24日、「新型コロナウイルス重症症例診療を担う医療施設に関する見解」を、会長の湯澤 由紀夫氏(藤田医科大学病院 院長)と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わる課題対応委員会委員長の瀬戸 泰之氏(東京大学医学部附属病院 院長)の連名で公表しました。前回、「第46回 第4波を見据えてか!? 厚労省が『大学病院に重症患者を受け入れさせよ』と都道府県に事務連絡」では、大学病院、中でも国立大学病院の動きが鈍い、と書きましたが、全国医学部長病院長会議が自ら、今後の大学病院の役割について対外的に見解を公表したのは大きな意味がある、と言えるでしょう。「今こそ重症症例の診療体制の整備に取り組むべき」見解では、「今後、また未曾有の感染症が襲ってくるときに備えるためにも、わが国の緊急時医療体制の構築を再考する絶好の機会ととらえている。このような重症症例診療を行いうる医療体制の構築に相応の時間を要するのは自明であり、平時よりの備えが肝要である」として、今こそ重症症例の診療体制の整備に取り組むべきだと訴えました。具体的には、コロナの重症者の治療は「高度かつ統制のとれたチームワークのもと治療を行なわなければならない」として、「重症症例の診療は大学病院、救命救急センターなど、従来より高度な集中治療を行ってきた医療施設が中心的に担うべき」としました。一方で、大学病院や救命救急センターなどでは、「新型コロナウイルス感染症の重症患者への診療」と共に「新型コロナウイルス感染症以外の高度医療」を提供しなければならならず、「通常診療の維持を前提とした新型コロナウィルス重症症例診療に必要な医療体制確保について、実態ニーズを踏まえたものとなるよう検討いただきたい」としています。その上で、「新型コロナウィルス重症治療は これまでにない総合的かつ統合的な加療であり、通常の重症肺炎診療とは異なるものでもあり、施行するにあたり相応の診療報酬が病院運営上必須である」と、報酬上の手当も国に求めました。端的に言えば、「コロナの重症者には通常診療と並行して取り組むが、相応のお手当はお願いします」ということのようです。「後方病床あるなら大学病院も頑張る」私自身がとくに重要だと思ったのは、後半の連携に関するくだりです。見解では、「円滑な重症症例病床運用のためには、重症症例を診る施設がその治療に集中するため、軽快ないしは改善した場合の後方病床確保も重要な課題となる」と指摘、「特に、重症から回復した高齢者が退院基準を満たしても、そのまま自宅退院できることはまれであり、後方病床に移送できなければ重症病床の活用に支障が生じる。医療状況が逼迫している折、そのような医療提供体制の役割分担を推進することは医療効率化のためにも極めて重要」と、回復した患者の受け入れる後方病床の整備を強く求めています。「後方病床を整備してくれるなら、大学病院も頑張るよ」とも読めるのですが、確かに回復した患者の引き受け手がなく、いつまでも大学病院に入院させていては、新規入院を受け入れることができないわけで、その体制をつくっておくことは重要です。ちなみに、見解では、後方病床の確保を“下り”の流れと表現しています。退院基準の見直し案と感染可能期間のエビデンス明示ちょうど第3波が収まり、比較的余裕が出てきた今こそ、それぞれの地域において後方病床の役割を果たす病院をきちんと決めておくべきです。ただ、地域のよっては、「コロナ回復患者引き受けます」と手を挙げる病院はまだまだ多くはないようです。“流れ”づくりの主役となるべきは、日本医師会、四病院団体協議会、全国自治体病院協議会によってつくられた「新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議」だと思うのですが、これについては前回書いたので今回は触れません。実は、先々週にも回復患者引き受けに関連した動きがありました。厚生労働省は2月18日の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(座長:脇田 隆字・国立感染症研究所所長)の第24回会合に対し、新型コロナウイルス感染症の退院基準の見直し案を提示、あわせて発症からの感染可能期間などのエビデンスも提示したのです。退院基準見直し案では、有症状者については人工呼吸器等による治療の有無別に分け、治療を行った場合には発症日から15日間経過し、かつ症状軽快後72時間経過した場合に退院可能とするが、「発症日から20日間経過するまでの間は、適切な管理を行う」などの条件を付けました。他方、人工呼吸器等治療を行わない場合(軽症・中等症)については現行通り(1.発症日から10日間経過し、かつ症状軽快72時間経過した場合に退院可能とする。2.症状軽快後24時間経過した後、24時間以上間隔をあけ 2回のPCR検査又は抗原定量検査で陰性を確認できれば、退院可能とする)としました。軽症・中等症は「現行通り」でも大丈夫な理由・エビデンスについては、「軽症・中等症において、感染性のあるウイルス粒子の分離報告は 10 日目以降では稀であり、これら の症例において、症状が消失してからも長期的にウイルス RNA が検出される例からの二次感染を認める報告は現時点では見つからなかった」とし、「退院後のPCR 再陽性例における感染性や、再陽性例からの二次感染を認める報告も現時点では見つからなかった」としています。医療機関だけでなく一般にもアピールすべきでは要するに、「発症日から10日したらもう他人に感染させない」「症状軽快後、PCR陽性が続く場合も他人に感染させない」というわけです。厚労省としては、この見直し案とエビデンスによって、一般病院や介護施設での回復患者の受け入れが進み、重症病床の回転が良くなることを期待しているわけですが、本当に地域でそうした“流れ”が普通に構築されることを期待したいと思います。ところで、なぜこの事実(エビデンス)を、医療機関だけでなく一般にももっと広く、強くアピールしないのでしょう。何かまた、「国民があらぬ誤解する」とでも国は考えているのでしょうか(新型コロナウイルス感染症は発症の数日前から感染力が高まることを、国は昨年の感染拡大当初、国民に知らせるのをためらっていた、と聞いています)。少々、謎です。このエビデンスがしっかり世の中に浸透すれば、それこそ報酬さえ手厚くすれば後方病院は回復患者受け入れに手を挙げるでしょうし、問題となっている職場における理不尽な感染者差別(復職後に陰性証明を要求されたり、在宅勤務を強制されたり人が出ているそうです)なども減ると思うのですが…。

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新型コロナ、医療者の転帰不良リスクはあるか?

 医療従事者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクが高いが、感染後の転帰不良リスクはあるのか。北米の医療者127例を対象として後ろ向き観察コホート研究の結果が発表された。JAMA Network Open誌2021年1月28日号掲載の報告。 2020年4月15日~6月5日までに北米の36施設で確認された、1,992例のCOVID-19成人患者が対象に含まれた。データ解析は2020年9月10日~10月1日に行われ、患者のベースライン時の特性、併存疾患、症状、治療法および転帰に関するデータが収集された。 主要評価項目は人工呼吸器の利用または死亡の複合エンドポイントだった。 主な結果は以下のとおり。・解析されたのは1,790例で、内訳は医療従事者127例と非医療従事者1,663例だった。3:1の傾向スコアマッチングが行われ、122例の医療従事者と366例の非医療従事者がマッチングされた。・女性は医療従事者で71例(58.2%)、非医療従事者で214例(58.5%)、平均年齢(SD)は医療従事者で52(13)歳、非医療従事者で57(17)歳だった。・複合エンドポイントについて、両者の間に有意差はなかった(補正後オッズ比:0.60、95%信頼区間:0.34~1.04)。・医療従事者は集中治療室への入院を必要とする可能性が低く(0.56、0.34~0.92)、7日以上の入院を必要とする可能性も低かった(0.53、0.34~0.83)。・人工呼吸器の利用(0.66、0.37~1.17)、死亡(0.47、0.18~1.27)、昇圧薬の利用(0.68、0.37~1.24)についても、両者の間に有意差はなかった。

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特例承認から3日で接種開始した新型コロナワクチン「コミナティ筋注」【下平博士のDIノート】第69回

特例承認から3日で接種開始した新型コロナワクチン「コミナティ筋注」今回は、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)ワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて承認されたCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)に対するワクチンであり、2回の筋肉内注射で発症を予防することが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年2月14日に特例承認されました。なお、本剤の予防効果の持続期間は確立していません。本剤(コミナティ筋注[1価:起源株])に加えて、2022年1月にコミナティ筋注5~11歳用、2022年9月にコミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)、2022年10月にコミナティ筋注6ヵ月~4歳用およびコミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)が承認されています。<用法・用量>日局生理食塩液1.8mLにて希釈し、1回0.3mLを合計2回、通常3週間の間隔で筋肉内に接種します。3回目・4回目接種による追加免疫の場合、前回の接種から少なくとも3ヵ月経過した後1回0.3mLを筋肉内に接種します。副反応が現れることがあるので、接種後は一定時間観察を行い、異常が認められた場合には適切な処置を行います。本剤の初回接種時にショック、アナフィラキシーが認められた被接種者に対しては、本剤2回目の接種を行わないこととされています。<薬剤調製時の注意>※抜粋本剤は-90~-60℃から-25~-15℃に移し、-25~-15℃で最長14日間保存できます。なお1回に限り、再度-90~-60℃に戻し保存することができます。冷蔵庫(2~8℃)で解凍する場合は、2~8℃で1ヵ月間保存することができます。希釈後の液は2~30℃で保存し、希釈後6時間以内に使用します。<安全性>海外第I/II/III相試験(C4591001試験)の第II/III相パート(プラセボ対照無作為化多施設共同試験)において、本剤接種群(2回接種後)の安全性評価対象3,758例で報告された主な副反応は、注射部位疼痛2,730例(72.6%)、疲労2,086例(55.5%)、頭痛1,732例(46.1%)、筋肉痛1,260例(33.5%)などでした。また、Grade3以上の有害事象が2%を超えたものは、疲労143例(3.8%)と頭痛76例(2.0%)でした。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。3.医師による問診、検温および診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは、本剤の接種を受けることができません。4.合計2回を3週間の間隔で筋肉内に接種します。1回目の接種から3週間を超えた場合は、できる限り速やかに本剤の2回目の接種を受けてください。5.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡をとれるようにしておいてください。6.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で初めて承認された新型コロナウイルス感染症の発症予防を目的とするワクチンであり、有効成分はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするmRNA(トジナメラン)です。海外C4591001試験における新型コロナウイルス感染症発症予防効果および本剤2回目接種後2ヵ月時点の安全性のデータに基づいて、米国では2020年12月11日に緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)が出され、欧州では同月21日に条件付き販売承認がされています。2021年2月時点ですでに世界70ヵ国以上で接種が行われており、わが国でもようやく医療従事者など向けの優先接種が始まりました。なお、優先接種対象となる医療従事者には薬局薬剤師も含まれることが通知されています。プラセボ群と比較した本剤の発症予防効果は、前述の試験によると95%と報告されており、1回目の接種12日目以降から発症者が少なくなっています。また、試験後に発症し、重症化した10例のうち1例が本剤群、9例がプラセボ群であり、本剤を投与することで重症化を防ぐことができる可能性もあります。効果の持続期間や毎年の接種が必要かどうかについてはまだ十分な見解が得られていません。副反応で最も懸念されるのはアナフィラキシーなどのアレルギー反応です。アナフィラキシーは全身の複数臓器に症状が現れるものであり、アナフィラキシーショックはそのうち血圧低下や意識障害を伴い、場合によっては生命を脅かす危険な状態に至るものです。アナフィラキシーは、迅速かつ適切に対応すれば命に関わることはほとんどないと考えられるので、患者さんが用語を混同して過度に恐れている場合はきちんと説明しましょう。なお、接種後にアナフィラキシーが生じた人の多くは、過去に食品や薬、その他の種類のワクチン、蜂の刺傷などによるアレルギー反応やアナフィラキシーの既往歴がありました。本剤は添加物としてポリエチレングリコール(PEG)を含有しているため、PEGやポリソルベートに重度な過敏症の既往がある人は禁忌となっています。しばしばアレルギー源となる鶏卵やゼラチン(安定剤)、チメロサール(防腐剤)、ラテックス(容器)は使用されていません。わが国の治験は、日本人160例を対象に行われ、海外と同様に免疫を獲得しています。副反応の報告も海外データとの差はなく、重篤なものはありませんでした。しかし、本剤は特例承認されたものであり、製造販売後も引き続き情報を収集する必要があります。有害事象が認められた際は、必要に応じて予防接種法に基づく副反応疑い報告制度を利用しましょう。※2021年5月・11月、2022年4月・10月に添付文書改訂により修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 コミナティ筋注2)ファイザー新型コロナウイルスワクチン医療従事者専用サイト3)コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(コミナティ筋注)の使用に当たっての留意事項について(厚労省)

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「COVID-19ワクチンに関する提言」、日本での安全性データ等追加/日本感染症学会

 2021年2月よりわが国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まった。これを受けて、日本感染症学会(理事長:東邦大学医学部教授 舘田 一博氏)は、2月26日に「COVID-19ワクチンに関する提言」(第2版)を同学会のホームぺージで発表、公開した。 第1版は2020年12月28日に発表され、ワクチンの開発状況、作用機序、有効性、安全性、国内での接種の方向性、接種での注意点などが提言されていた。今回は、第1版に新しい知見を加え、とくにワクチンの有効性(変異株も含む)、ワクチンの安全性などに大幅に加筆があり、筋肉内注射に関する注意点の項目が新しく追加された。【ワクチンの有効性】・COVID-19ワクチンの有効性の追加 ファイザーの臨床試験:55歳以下で95.6%、56歳以上で93.7%、65歳以上で94.7%の有効率。しかし、75歳以上では対象者数が十分でなく評価できていない。 モデルナの臨床試験:65歳未満で95.6%、65歳以上で86.4%の有効率。それ以上の年齢層では評価されていない。 アストラゼネカの臨床試験:接種群における70歳以上の割合は5.1%にすぎず評価不十分。 いずれのワクチンも、75歳を超える高齢者での有効性については今後の検討課題であり、接種群で基礎疾患のある人の割合は、ファイザーの臨床試験で20.9%、モデルナで27.2%、アストラゼネカで24.7%と比較的多く含まれているものの、それぞれの基礎疾患ごとの有効性の評価は十分ではなく、今後検討が必要としている。【「変異株」とワクチンの効果】 提言では「SARS-CoV-2の変異速度は24.7塩基変異/ゲノム/年とされており、2週間に約1回変異が起き、その変異によってウイルスのタンパク質を構成するアミノ酸に変化が起こることがある」とされ、「とくにスパイクタンパク質のACE2との結合部位近くのアミノ酸配列に変化が起きると、SARS-CoV-2の感染性(伝播性)やワクチンで誘導される抗体の中和作用に影響が出る」と述べている。 また、イギリス変異株について、「感染力(伝播力)が36%から75%上昇すると推定されているものの、ファイザーのワクチンで誘導される抗体による中和作用には若干の減少がみられるが、ワクチンの有効性には大きな影響はない」としている。 一方、南アフリカおよびブラジルの変異株は、「COVID-19回復期抗体の中和作用から回避する変異であることが報告され、ワクチンの有効性に影響が出ることが懸念されている」としている。【ワクチンの安全性】・海外の臨床試験における有害事象 海外の臨床試験では、「活動に支障が出る中等度以上の疼痛が、1回目接種後の約30%、2回目接種後の約15%に、日常生活を妨げる重度の疼痛が、1回目で0.7%、2回目で0.9%報告された」と紹介している。また、「この接種後の疼痛は接種数時間後から翌日にかけてみられるもので、1~2日間ほどで軽快。注射の際の痛みは軽微と思われる」と推定している。そして、海外での高齢者や基礎疾患を有する者への接種では、「現在のところ死亡につながるなどの重篤な有害事象は問題になっておらず、COVID-19に罹患して重症化するリスクに比べるとワクチンの副反応のリスクは小さいと考えられる」と考えを示している。・わが国での臨床試験における有害事象 ファイザーのCOVID-19ワクチン「コミナティ筋注」では、海外での臨床試験の結果と比べ、「局所の疼痛、疲労、頭痛、筋肉痛、関節痛はほぼ同等、悪寒の頻度がやや高くなっている。発熱は、37.5℃以上対象(国内定義/海外定義は38℃以上)で1回目が10%、2回目が16%と高い頻度だったが、発熱者のほぼ半数を37.5~37.9℃の発熱が占めているため、その割合は海外の結果と大きな違いはなかった」としている。・mRNAワクチンによるアナフィラキシー 1回目接種直後のアナフィラキシーの報告について、米国での当初の調査では、「100万接種あたりのアナフィラキシーの頻度が、ファイザーのワクチンで11.1、モデルナのワクチンで2.5と、すべてのワクチンでの1.31に比べて高くなっている。両ワクチンのアナフィラキシーに関する報告をまとめると、女性が94.5%を占め、アナフィラキシーの既往をもつ者の割合は38.7%、接種後15分以内に77.4%、30分以内に87.1%が発症している。その症状は、ほとんどが皮膚症状と呼吸器症状を伴うもので、アナフィラキシーショックを疑わせる血圧低下は1例のみだった。なお、その後の米国の調査で、アナフィラキシーの頻度は両ワクチン合わせて100万接種あたり4.5」と報告している。【国内での接種の方向性】 優先接種対象者として(1)医療従事者などへの接種、(2)65歳以上の高齢者、(3)高齢者以外で基礎疾患を有する者、および高齢者施設など(障害者施設などを含む)の従事者の順番で接種を進める予定と追記するとともに、妊婦については、「『妊婦および胎児・出生時への安全性』が確認されていないため、現時点では優先接種対象者には含まれていない。国内外の臨床試験において『妊婦などへの安全性』が一定の水準で確認された時点で再検討すべきと考えている」と方向性を示している。【筋肉内注射に関する注意点】・接種部位と接種方法 接種部位は上腕外側三角筋中央部で、成人では肩峰から約5cm(3横指)下にあたる。標準的には22~25G、長さ25mmの注射針で、皮膚面に90℃の角度で注射。なお「COVID-19ワクチンの臨床試験ではすべて三角筋外側中央部に接種されており、その他の部位への接種の有効性については検証されていないとし、臀部への接種は、坐骨神経損傷の可能性があることと皮下脂肪のために筋肉内に針が届かない懸念もあることから推奨されていない」としている。 そのほか「逆流を確認は不要」、「接種する腕は、利き手ではない側に接種することが望ましい」、「接種後は注射部位を揉む必要はない」などの具体的な接種方法が示されている。・接種時の感染対策 接種時の感染対策として「接種者は、マスクを着用するとともに、被接種者ごとに接種前後の消毒用アルコールによる手指衛生が必要」とし、「手袋を着用する場合は被接種者ごとに交換が必要であり、手袋着用前と脱いだ後に手指消毒が必須」としている。・接種後の発熱・疼痛に対する対応 接種後の発熱や疼痛に対し「アセトアミノフェンや非ステロイド性解熱鎮痛薬を使用することは可能。ただし、発熱・疼痛の出現する前にあらかじめ内服しておくことは望ましくない」としている。その理由として「解熱鎮痛薬の投与が免疫原性に影響を与える可能性があるため」と説明している。 提言では、ワクチンの有効性と安全性を評価したうえで、ワクチン接種を望む一方で、「ワクチン接種を受けることで安全が保証されるわけではなく、接種しても一部の人の発症、無症状病原体保有者として人に感染を広げる可能性があること」についても注意をうながし、COVID-19の蔓延状況が改善するまでは、マスク、手洗いなどの基本的な感染対策の維持を推奨している。

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COVID-19重症化防止に抗がん剤ベバシズマブが有効である可能性

 重症のCOVID-19患者に抗がん剤ベバシズマブを投与することで、死亡率が低下し、回復が早まる可能性があることが、イタリアと中国で行われた小規模な試験によって明らかになった。Nature Communication誌2月5日オンライン版掲載の報告。 シングルアームの本試験は、2020年2月15日~4月5日に中国とイタリアの2施設において26例の成人患者が登録され、28日間のフォローアップが行われた。COVD-19感染はPCR検査で判定され、重症度は呼吸数が30回/分以上、安静時の酸素飽和度が93%以上、動脈酸素分圧/吸入酸素濃度(PaO2/FiO2)が100mm~300mmHg、胸部画像のびまん性肺炎によって判断した。適格となった参加者には標準治療に加え、100mLの生理食塩水に溶解したベバシズマブ(500mg)を90分以内に単回投与し、投与後1日目と7日目のデータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢中央値は62歳、20人(77%)が男性だった。症状発現から入院までの期間中央値は10日、入院からベバシズマブ投与までの期間中央値は7日だった。・ベバシズマブ投与群はPaO2/FiO2が著しく改善し、28日目までに24例(92%)が酸素吸入が不要となり、17例(65%)が退院した。悪化例や死亡例はなかった。・発熱のあった14例のうち、13例(93%)が投与から72時間以内に正常化した。・ベースライン時に人工呼吸器を装着していた6例すべてがフォローアップ期間内に装着を停止し、うち4例は退院した。 ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であり、VEGFタンパク質を選択的に阻害することで血管形成を阻害し、がん細胞の成長に必要な栄養が供給されるのを妨げる。著者らは、「重症COVID-19患者の多くはVEGFレベルの上昇、肺水腫、肺組織の血管病変など、マーカーに関連する症状があるため、ベバシズマブが重症化防止に有効である可能性があるとの仮説を立てた」としつつ、有効性を実証するためには大規模なランダム化比較試験が必要としている。

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死亡例の約2割がCOVID-19、アフリカ・ザンビアの首都調査/BMJ

 アフリカでは、南アフリカ共和国を除き、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染範囲や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響についてほとんど知られていない。米国・ボストン大学公衆衛生大学院のLawrence Mwananyanda氏らは、ザンビア共和国のルサカ市でCOVID-19の死亡への影響についてサーベイランス研究を行った。その結果、予想に反して、同市の約3.5ヵ月間の死者の約2割がCOVID-19で、COVID-19が確認された死亡例の年齢中央値は48歳、66%が20~59歳であることなどが明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2021年2月17日号に掲載された。アフリカは、COVID-19のデータがないため、COVID-19はアフリカを飛び越えて伝播し、影響はほとんどないとの言説が広く醸成されている。これは、「エビデンスはない」が、「非存在のエビデンス」として広範な誤解を招く好例とも考えられている。アフリカの都市部での系統的死後サーベイランス研究 研究グループは、アフリカの都市部におけるCOVID-19の死亡への影響を直接的に評価する目的で、プロスペクティブな系統的死後サーベイランス研究を行った(Bill & Melinda Gates財団の助成による)。 対象は、ザンビアで最大規模の3次病院であるルサカ市のUniversity Teaching Hospital(UTH、他施設からの紹介を含め市の80%以上の死亡を登録)の死体安置所で、死後48時間以内に登録された全年齢層の死亡例であった。 死後の鼻咽頭拭い液を用いて、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法でSARS-CoV-2の検査を行った。死亡例は、COVID-19の状況、死亡場所(施設[UTH] vs.市中[UTH以外でのすべての死亡で、他施設からUTHへの紹介を含む])、年齢、性別、リスク因子としての基礎疾患で層別化された。 2020年6月15日~9月30日の期間に死亡した372例が試験に登録された。PCR検査の結果は364例(97.8%)で得られ、施設が96例(26.4%)、市中が268例(73.6%)であった。患者がまれではなく、検査が少ないから過少報告に SARS-CoV-2は、PCR法の推奨サイクル閾値(CT値)である<40サイクルによる測定では15.9%(58/364例)で検出された。CT値を40~45サイクルに拡張すると、さらに12例でSARS-CoV-2が同定され、死亡例の陽性率は19.2%(70/364例)となった。このうち69%(48/70例)が男性だった。 SARS-CoV-2陽性死亡例の死亡時年齢中央値は48歳(IQR:36~72)で、このうち市中死の患者は47歳(34~72)、施設死の患者は55歳(38~73)だった。COVID-19が確認された死亡例の割合は年齢が高くなるに従って上昇したが、76%(53例)は60歳未満であり、このうち46例(66%)は20~59歳だった。 COVID-19が確認された死亡例の多くは市中死(73%[51/70例])であり、このうち死亡前にSARS-CoV-2の検査を受けた患者はいなかった。施設死(27%[19/70例])では、死亡前にSARS-CoV-2検査を受けていたのは6例のみだった。 COVID-19が確認された死亡例の症状に関するデータは70例中52例で得られ、このうち44例(63%)でCOVID-19に典型的な症状(咳、発熱、息切れ)が認められたが、死亡前にSARS-CoV-2検査を受けていたのは5例のみだった。 19歳未満では、7例(10%)でCOVID-19が確認され、このうち死亡前に検査を受けたのは1例のみであった。年齢別の内訳は、1歳未満が3例で、3歳、13歳、16歳が1例ずつ(いずれも市中死)であり、1歳の1例のみが施設死だった。 COVID-19死亡例で最も頻度の高い合併症は、結核(22例[31%])、高血圧(19例[27%])、HIV/AIDS(16例[23%])、アルコール乱用(12例[17%])、糖尿病(9例[13%])であった。 著者は、「COVID-19が確認された死亡例のほとんどは、検査能力のない市中死であったが、施設死であっても、COVID-19の典型的な症状を呈しているにもかかわらず、死亡前に検査を受けた患者はほとんどいなかった。したがって、COVID-19患者がまれだったためではなく、検査がまれにしか行われなかったことが原因で、COVID-19の報告が過少であったと考えられる」とまとめ、「これらのデータが一般化可能であるとすると、アフリカにおけるCOVID-19の影響はかなり過小評価されていることになる」と指摘している。

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がん臨床医は地方でこそ育つ! 長年の思いの転身と1年の成果【Oncologyインタビュー】第29回

2020年4月、肺がん診療を専門とする野上 尚之氏は長く務めた四国がんセンターを辞し、愛媛大学呼吸器内科の教授に着任した。新天地での挑戦を決意した背景には、医師になった時から抱えていた地域医療と後進育成への思いがあったという。エリア画像を拡大する―2020年、四国がんセンターから愛媛大学に移られました。転身の理由は?「地域医療をやらなければ」という長年の思いからです。私の生まれは岡山県の県北で、地方の医療事情の大変さを痛感して育ち、そこに関わりたいと思って医者になりました。しかし、卒業後は都市部の勤務が多く、地域医療への思いはいったん脇に置いてキャリアを積んできました。それが、2003年に愛媛県の四国がんセンターに赴任してから、地域医療の問題をなおさら痛感するようになったのです。そして、今治市医師会と愛媛大学の山口 修教授からのご支援があり、地域胸部疾患治療学講座を開講する機会を頂きました。―地域医療の問題とは、具体的にどんなものなのでしょうか?何より私の専門である呼吸器内科医が、全国的にも、愛媛県下でもあまりにも少ないのです。さらに県庁所在地である松山市に大病院と呼吸器内科専門医が集中し、東予と南予には数名しかいない状況でした。愛媛県は喫煙率が高く、肺気腫や肺がんなどの呼吸器疾患の患者さんが多いのですが、松山市外の患者さんは車で何時間もかけて専門医のいる病院へ通ってくるわけです。若い方は仕事を休み、高齢の方は付き添いも必要となり、あまりに負担が大きいと感じました。この地域に何とか呼吸器内科医を増やし、遠くから通院しなくても地域で呼吸器医療を完結させたい。50歳を超え、退職までの残された10年余りを長年の思いである地域医療と後進育成に使おうと思ったのです。良性呼吸器疾患や専門の胸部悪性腫瘍について、診断から治療・緩和ケアまでをサテライト施設である今治の地で完結するシステムをつくり、それを愛媛県下のほかの地域にも広げていく、という理想を持っています。―なぜ、愛媛県には呼吸器内科医が少ないのでしょうか?地方大学の共通の課題として、そもそも他府県出身の学生が多く、卒業後に地元に帰ってしまうという問題があります。また、地元の卒業生も県内外の都市部の医療機関に初期研修で出て、そのまま帰ってこないこともあります。これに加え、これまで呼吸器という領域が若い先生たちに人気がなかった、という点もあるでしょう。肺がんや重症肺炎、肺線維症など呼吸困難に苦しむ患者さんを診る機会が多かったり、かつての肺がんが非常に予後の悪いがんだったり…。そうした「苦しそうな患者さんを見るに忍びない」「自分がしてあげられることが少ない」「つらい死にたびたび立ち会わねばならない」といったイメージや一種の無力感から、専門として選んでもらいにくい、という面があったと思います。呼吸器内科・外科・腫瘍内科・放射線科による合同カンファレンス―呼吸器内科医を増やすため、具体的にどんなことをされているのでしょうか?私の役割は「“みこし”になること」だと思っています。あの大学にはあの先生がいてあんなことをやっているという、いわば看板・旗の役割です。「愛媛大学呼吸器内科ではこんなことをやっている」ということが目に見えないと興味を持ってもらえません。これまでも、愛媛大学呼吸器内科は、呼吸器内科医、いや内科医であれば皆が知っているだろう間質性肺炎のマーカーの開発など、立派な業績が多々あるのですが、奥ゆかしい性格ゆえ(笑)か、学内外であまりアピールしていませんでした。私は大した医者ではありませんが、機会あって四国がんセンターに長く務め、国際共同治験に関わった経験や全国の大学や施設の先生と共同研究をした経験があるので、そうしたことを発信し、呼吸器診療の可能性を学生や若い医師に伝え、この領域に明るい未来があることを知ってもらいたいのです。大学の授業では、肺がん診療を劇的に変えた免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の治験の裏話を紹介するなど、呼吸器診療の歴史や現在に興味を持ってもらえるよう工夫しています。もはや呼吸器内科の治療は無力ではないし、皆を待っている愛媛の患者さんがたくさんいる、ということをしっかり伝えようと思っています。―学生や若手医師の反応はいかがですか?今年(2021年)4月には、5人が呼吸器内科を選択し、入局してくれます。例年1~2人でゼロの時もあった、と聞いているので画期的ではないですか? きっとこれまでの呼吸器内科の先生方の熱意や努力がやっと若い先生たちに伝わりだしたのだ、と思います。実習時、肺がん患者さんに新しい薬剤を投与して劇的に症状が改善する経験をし、呼吸器診療に興味を持ってくれた学生もいます。「肺がん診療は嫌いでしたが、こんなに効いてびっくりです」と言われました。呼吸器疾患の半分は肺がんですから、勉強のしがいもあるでしょう。肺がんは治療の進歩が非常に速く、ここ20年ほどで診療方法も治療も、寿命さえも様変わりしました。そうした部分を的確に伝えれば興味を持ってくれる人がいる。まだ私が就任して1年弱ですが、やるべきことの方向は間違っていない、という手応えがあります。5人入局を10年続ければ、50人の呼吸器内科医が生まれます。夢みたいですが、それだけいれば、県内のあちこちに専門医を派遣し、どこでも呼吸器内科診療を完結できるようになるでしょう。それが今の私の大きな夢です。ポリクリ学生向けの座学講座の様子―若手医師が都市部を目指す理由として「地方では専門的な医療が学べない」という点があるのではないでしょうか。実は、呼吸器診療においては、「都会でないと学べない」といった新しい治療法や技術というものはなくなってきています。この点は他科の先生ともよく話をするのですが、呼吸器内科にかかわらず、すべての内科系の領域でそうした傾向です。がん診療に限っても、治験は日本中のどの施設でも参加できますし、本学には内視鏡技術に優れた先生もいます。肺がんは診療ガイドラインがしっかりできてきたので、遺伝子変異を特定してそれに合った薬を処方する、という基本診療の流れは、地方でもまったく問題なく行えます。よほど特殊な専門を目指すのでない限り、地方にいるハンデはないですし、むしろ都市部のがんセンターなどよりも、臨床に即した多様な症例を診られると思います。―若手医師にどんなキャリアパスを勧めているのでしょうか。まずは呼吸器疾患全般を診るスキルを身に付けるため、県内の呼吸器専門医のいる施設で研修をします。その後、希望に応じて専門性の高い施設にも行ってもらっています。気を付けているのは研修医や若い先生を孤立させないことです。必ず1施設に2人以上、指導環境の整った施設に派遣することがポイントだと思います。指導医も満足にいない施設に1人で派遣され、疲弊して辞めてしまう若手医師を今まで多く見てきました。「今困っているんだから、早く人を派遣してくれ!」と言われることもあるのですが(笑)、若手は派遣する施設と人数を集約し、チームで育てる。それも愛媛県全体で大切に育てる意識でいます。「人は城で、人は財産」という強い意識が、指導側の人間が少ない今だからこそ、大切だと思います。研修修了後は、個々人の希望に合わせた施設で専門性を磨いてほしいと思います。免疫学のこの先生、国立がん研究センターのこの先生に学びたい、といった希望があれば、私がつなぐこともできます。かつて大学が医局員を外部施設に出すことを嫌がる風潮もありましたが、もはや今はそんな時代ではないですよ。どんどん外に出てスキルアップし、いずれ学びを大学に還元してもらえればいいと思っています。第二内科に入局した先生たちと(前列左端は山口 修教授)―若手医師を引き付け、育てるポイントは何でしょうか?それがあるなら私が知りたいです(笑)。実際、島根大学の礒部 威教授に若手の勧誘と育成について聞きに行ったことがありますが、「こつなんてないよ」と笑われてしまいました。でも、礒部先生のお人柄と共に、同大には津端 由佳里先生という素晴らしい女性講師の方がいらして女性の入局者も多い。そうした若手の憧れとなるロールモデルの存在・育成がとても大切なのだろうと感じました。若手には目の前の診療技術を身に付けると同時に「3~5年先の未来も一緒に見よう」と言っています。具体的には国際共同治験に参加し、最新の治療や研究に関わる機会をつくっています。新型コロナの影響で勉強会や学会もオンライン化が進み、地方からの発信が容易になった面もあると思います。愛媛大では以前からオンラインで授業やカンファレンスを行っていますし、画像診断なども地域の施設とオンライン相談を行っています。―あらためて、呼吸器内科という専門の魅力とは?今では1年目が1人当直なんてあり得ないでしょうが、私の時代では普通でした。地方の病院で1人当直をしていた時、喘息の患者さんが救急車で来院し、チアノーゼを起こしていて本当に危ない状態でした。今でも普通に行われているステロイド点滴静注をしたところ、瞬く間に症状が改善したのです。「医師として人を助けることができた。1年目のこんな自分でも人の役に立てる」と実感した体験でした。喘息は吸入治療薬が進歩して重症な患者さんは減ってきているので、今であれば肺がん患者さんかもしれません。新しい治療が続々出て、以前なら助けられなかった患者さんを助けられるようになっています。若手もそうした劇的に変わる治療の最前線に立てる、未来の医療を変える一助になると実感できる。それがこの専門の魅力ではないでしょうか。

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