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認知症・老衰の患者さんに、病状経過を説明するなら…【非専門医のための緩和ケアTips】第21回

第21回 認知症・老衰の患者さんに、病状経過を説明するなら…身体機能の変化を時間軸で示す「病みの軌跡」というグラフ、これまでがん患者・臓器障害患者向けをご紹介してきました。今回の質問は、認知症や老衰の方の経過に関連したものです。どのようなポイントを意識して診療するとよいのでしょうか。ここでも「病みの軌跡」が使えます。今日の質問かかりつけの患者さん。認知症が進行し、外来通院が家族の負担となってきたため、今後は訪問診療で関わることになりました。介護負担も大きく、そのうち寝たきりになりそうです。終末期について、本人・ご家族とどう話し合えばよいのでしょうか?高齢化が進む中、認知症患者も増えています。厚生労働省の人口動態統計(2020年)によれば、老衰は主要死因の第3位です。脳血管障害と肺炎を追い抜いて3位になったのは2018年のことでした。こうした背景から、認知症・老衰の臨床像とケアについて、どんな立場の医療者も基本を理解しておきたいところです。認知症・老衰の身体機能の変化を時間軸で示した、「病みの軌跡」は下のようなパターンとなります。この軌跡から読み取れるのは、「身体機能がふらつきながら、緩徐に低下していく」ことです。私は、終末期までの経過予測が一番難しいのがこのパターンだと感じています。悪性疾患の場合には「5年生存率」など統計学的な指標があり、心不全などの臓器障害の場合には心機能などの客観的指標が参考になります。しかし、認知症が進行して老衰となった高齢者には予後予測に役立つ明確な指標がなく、かつ本人が自分の体調の変化を説明できないケースも多くなります。「食事量が減ったなあ」とか「寝ている時間が長くなってきましたね」といったように医療者と家族が様子を見ながら、そろそろお別れが近いかなと思った段階で話し合いを続けるしかありません。そして、それから何年も同じような状態が続くこともあれば、予想外に早いタイミングで亡くなることもあります。この臨床像の高齢者の多くは、身体機能や認知機能の低下とともに、通院が困難になっていきます。今回のご質問のように早めに訪問診療を提案したり、紹介したりすることも大切です。予測の難しい「病みの軌跡」に対し、医療者には何が求められるのでしょうか。一概には言えませんが、まずは「不確実で個別性の高い経過となる」ことを、家族を含めた関係者で共有することが大切です。そして、注意してほしいポイントも共有します。たとえば、「食事量が低下した場合、体力の低下につながるかもしれませんので、教えてください」といった具合です。高齢者の場合、医療者・家族だけでなく、介護職をはじめとしたさまざまな方が関わるケア提供体制をつくることが大切です。立場の異なる方との話し合いに、ぜひ「病みの軌跡」を活用してください。今回のTips今回のTips認知症・老衰の「病みの軌跡」は、経過予測が難しい。その難しさを関係者と共有しつつ、定期的な評価を繰り返すことが重要です。1)Murray SA, et al. BMJ. 2005;330:1007-1011.

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第95回 救急も機能分化を、軽~中等症患者の受け皿になり得る「慢性期多機能病院」とは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規感染者数が1日10万人を超えているのに伴い、重症者数や救急搬送件数も増え、医療現場の負荷は段々限界に近付いている。ましてこの時期は、感染症だけでなく脳卒中や心筋梗塞などによる救急搬送も増える時期。コロナ対応シフトのしわ寄せは通常医療にも及んでいる。このような状況下、日本慢性期医療協会(日慢協)の武久 洋三会長は1月13日の定例記者会見で、重症患者は高度急性期病院で、軽~中等症患者は地域多機能病院でと、症状に応じて受け入れる医療機関を分けることを提案した。慢性期多機能病院の基となる「慢性期救急」の概念は、医療法人社団永生会の安藤 高夫理事長(前自民党衆議院議員、日慢協副会長)が2005年に提唱したもの。在宅や施設で慢性期療養中の患者が、誤嚥性肺炎や尿路感染症、低栄養、脱水、褥瘡、その他の感染症などで急性増悪した場合、慢性期治療病棟で入院治療を行うというもの。ただし、心筋梗塞や脳卒中発作、骨折、急性腹症、悪性新生物などは急性期救急で受け入れるとした。救急搬送された高齢者の9割は軽症・中等症消防庁が2021年に公表した「令和3年版 救急・救助の現状」によると、事故種別の搬送人員のトップは「急病」(65.2%)で、2位の「一般負傷」(16.4%)を大きく引き離している。「急病」の中身を傷病程度別・年齢区分別に見てみると、「高齢者(65歳以上)」では87.2%が軽症(外来診療)・中等症(入院診療)だった。年齢区分別の搬送人員の推移を見ても、平成12年の37.3%から令和2年の62.3%へと高齢者の割合は増加している。成年以下がこの20年間で20%減少する一方、高齢者は25%も増加している。この傾向に関して、武久会長は「高齢者の軽度救急患者が増えたのは、運転免許返納制度が大きく影響している」と話す。内閣府の令和3年版高齢社会白書によると、65歳以上の単独世帯もしくは夫婦のみの世帯は61.1%で、その割合は40年間で倍増。運転免許の返納により、軽症でも救急車を呼ぶようになったと考えられるわけだ。高齢者の軽症患者が救命救急センターに押し寄せたら、重症患者の受け入れに影響を及ぼすことになるのは必至だ。診療報酬は医療機関の救急受け入れの現状を反映せず救急に関する加算に、救急医療管理加算がある。救急搬送された重篤な患者を受け入れ、早期検査や治療の必要性を踏まえた入院基本料加算で、加算1(950点)と加算2(350点)がある。同加算は一般病床しか算定できないが、実際には救急指定を受けている療養病床を中心とした地域多機能病院(急性期多機能病院、慢性期多機能病院)でも地域の救急患者を受け入れている。しかし、療養病床では同加算は算定できない。算定対象患者以外の患者でも、数多くの急変症状の患者が24時間365日間、救急指定病院を受診している。同加算は「入院時に重篤な状態の患者に対してのみ算定できるもの」とされているが、算定対象患者の状態や判断基準にばらつきがあるといったことが問題視されてきた。そこで、2020年度診療報酬改定の際、レセプト摘要欄に該当する状態や、それぞれの入院時の状態に関する指標として、意識レベル(JCS)や血圧など、該当する状態を算定根拠として記載することなどが要件化された。2021年11月に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の資料から同加算の内訳を見てみると、加算1の場合、10の該当項目のうち、「呼吸不全又は心不全で重篤な状態」と「緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA療法を必要とする状態」の2項目で全体の約半数を占めていた。加算2の場合、「その他の重篤な状態」が最も多く、60%以上を占めていた。救急患者別の受け入れを提案する武久日慢協会長このような結果から、武久会長は「軽~中等度の緊急処置が必要な高齢患者や、高度な技術を要する手術の必要がない軽症患者は、地域の中で、地域多機能病院で解決できる問題だ」と指摘。救急の二極分化に対処するため、本来の重症緊急救急患者は高度急性期病院に、軽~中等度の緊急処置が必要な高齢患者や、手術が不要な患者は地域多機能病院で受け入れるという方法を提案した。救急医療提供体制別に年間救急搬送件数を見ると、高度救命救急センターや救命救急センターは5,000件以上が最も多かったが、2次救急医療機関は分布がばらついていた(2019年開催の中医協資料より)。救急部門はあるが、いずれにも該当しない医療機関は500件未満が最も多かった。2020年度診療報酬改定で新設された加算に、地域医療体制確保加算がある。地域で救急患者を受け入れている2次救急病院などで医師の長時間労働が懸念されていることを受け、適切な労務管理の実施を前提に、「年間2,000件以上の救急搬送患者の受け入れ」など一定の実績を有する医療機関を評価する加算だ。医療機関のインセンティブになる制度改正をこれに対し武久会長は、「要件を緩和して1,000件以上にすべきではないか」と提案する。似たような救急搬送看護体制加算1の施設基準が年間1,000件以上であること、地域の急性期病院は1日3件程度であることが背景にある。このようにして、病床規模が200床未満の中小病院を中心とした「地域救急」患者の受け入れ病院に対する手厚い評価をすれば、軽~中等症患者を積極的に受け入れるインセンティブになる。オミクロン株の感染拡大に伴い、COVID-19患者が急増しているなか、軽~中等症患者までもが3次救命救急センターに押し寄せたら、本当に緊急処置が必要な患者に対応できない事態が起こり得る。救急の機能分化はそれを防ぐ手立てとなるだろう。

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コロナ感染の抑制、政府・対人信頼度と関連/Lancet

 パンデミックの発生以来、各国の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)死亡率は大きく変動している。それらの変動の要因を検証したところ、パンデミックへの事前対策指標の高低とは関連が認められなかった一方で、政府への信頼度や対人信頼度が高いこと、また政府内の汚職が少ないことが、同感染率の低下と関連していたことを、米国・ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のJoseph L. Dieleman氏らCOVID-19 National Preparedness Collaboratorsが、177の国と地域のデータを基に検証し明らかにした。本検討は、将来のパンデミックへのより効果的な準備と対応のために不可欠な取り組みを明らかにする目的で行われたものだが、著者は、「今回の結果は、主要な修正可能なリスクに関する健康増進は、個々人が公衆衛生ガイダンスに抱く信頼を高めるようなリスクコミュニーケションやコミュニティ戦略へ、より大きな投資をすることで、死亡抑制に結びつくことを示唆するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2022年2月1日号掲載の報告。12のパンデミック事前準備指標、7つの医療体制能力指標などとの関連を検証 研究グループは177の国と地域および181の行政区画について、IHMEモデリング・データベースを基に、SARS-CoV-2感染率とCOVID-19死亡率を抽出し、累積感染率や感染致死率(IFR)を予測し、環境要因、人口統計学的要因、生物学的要因、経済学的要因について標準化し検証した。 感染率については、季節環境(肺炎のリスク比で測定)、人口密度、1人当たり国内総生産(GDP)、標高100m未満の居住人口割合、その他のβコロナウイルス曝露の代理変数を因子として盛り込んだ。 IFRについては、人口年齢分布、平均BMI値、大気汚染曝露、喫煙率、他のβコロナウイルス曝露の代理変数、人口密度、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・がんの年齢標準化罹患率、1人当たりGDPを因子とした。 これらを、間接年齢標準化および多変量線形モデルを用いて標準化。標準化全国累積感染率とIFRについて線形回帰を用いて、12のパンデミック事前対策指標、7つの医療提供体制能力指標、その他10項目の人口統計学的・社会的・政治的状況との関連を検証した。 さらに、SARS-CoV-2感染率に影響を与える可能性のある重要な要因の経路を調べるため、対人信頼度、政府への信頼度や汚職の状況、人々の移動パターンの変化やCOVID-19ワクチン接種率との関連性についても検証した。デンマークレベルの対人信頼度に改善されれば世界の感染率は40.3%減少 2020年1月1日~2021年9月30日の、SARS-CoV-2累積感染率の変動の主な要因は、標高100m未満の居住人口割合(変動の5.4%[95%不確定区間[UI]:4.0~7.9])、1人当たりGDP(4.2%[1.8~6.6])、季節変化に起因する感染の割合(2.1%[1.7~2.7])だった。国別の累積感染率の変動については、その大部分が説明不能だった。 同期間のCOVID-19のIFRの変動に関する主な要因は、国の年齢構成(変動の46.7%[95%UI:18.4~67.6])、1人当たりGDP(3.1%[0.3~8.6])、国平均BMI(1.1%[0.2~2.6])だった。国別のIFR変動の44.4%(29.2~61.7)は、説明不能だった。 国の医療保障の目安となるパンデミック事前対策指標については、標準化感染率やIFRとの関連は認められなかった。 一方、政府への信頼度や対人信頼度、政府の汚職が少ないことと、低い標準化感染率について、強い統計的に有意な関連が認められた。これらの因子は、COVID-19ワクチンが広く普及する中~高所得国において、高いワクチン接種率とも関連していた。また、汚職が少ないことは移動の減少とも関連していた。  こうしたモデルの関連性に因果関係があると仮定した場合、すべての国の政府への信頼度または対人信頼度が、デンマークのレベル(全体の75パーセンタイルに相当)に達すれば、世界の感染率は、政府への信頼度の改善により12.9%(95%UI:5.7~17.8)、対人信頼度の改善では40.3%(24.3~51.4)、それぞれ減少できると予測された。同様に、すべての国のBMIが全体の25パーセンタイルに該当するよう抑制されれば、世界の標準化IFRは11.1%減少するとも予測された。

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COVID-19入院時の患者に糖尿病の診断をする重要性/国立国際医療研究センター

 糖尿病は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクの1つであること、また入院中の血糖コントロールの悪化が予後不良と関連することが知られている。しかし、わが国では入院時点で新たに糖尿病と診断される患者の臨床的な特徴については、明らかになっていなかった。 国立国際医療研究センター病院の内原 正樹氏、坊内 良太郎氏(糖尿病内分泌代謝科)らのグループは、糖尿病を合併したCOVID-19患者の臨床的な特徴を分析し、その結果を発表した。この研究は2021年4月~8月に同院にCOVID-19と診断され入院した糖尿病患者62名を対象に実施された。 その結果、入院時に新たに糖尿病と診断された患者は19名で、糖尿病を合併した患者の約3割で、そのうち60歳未満の男性が12名(63.2%)と高い割合を占めた。また、この19名の患者では、糖尿病の既往や治療歴がある患者に比べて、入院中に重症化する割合が高く、入院初期の血糖コントロールが難しいことがわかった。重症化リスクの糖尿病を事前診療で察知することが重要【研究対象・方法】・2021年4月1日~8月18日までにCOVID-19と診断され、国立国際医療研究センター病院に入院した糖尿病患者62名・患者背景、重症度、血糖値の推移などのデータを集計・分析【研究結果】・62名の糖尿病患者のうち、入院時に新たに糖尿病と診断された患者は19名(30.6%)で、糖尿病の既往がある患者は43名(69.4%)。・新たに糖尿病と診断された患者のうち、60歳未満の男性は12名(63.2%)。・新たに糖尿病と診断された患者は、糖尿病の既往がある患者に比べて、入院中に重症化する割合が高い結果だった(52.6% vs. 20.9%、p=0.018)。・新たに糖尿病と診断された患者は、糖尿病の既往がある患者に比べて、入院後3日間の血糖値の平均が高く、糖尿病の初期の治療に難渋した。 今回の研究により診療グループは、「COVID-19の流行が続く状況でも、健康診断や人間ドックなどの受診を定期的に行い、糖尿病の早期発見や治療介入に繋げることが重要」と見過ごされていた点を指摘した。また、「『基礎疾患なし』と自己申告する患者の中に、一定数未診断の糖尿病患者が含まれていることが想定され、重症化リスクの高い患者の特定のため、今後はCOVID-19診断の段階で、可能な限り血糖値やHbA1cを評価することが望ましいと考える」と新規入院患者への対応にも言及している。

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ブレークスルー感染、女性・30歳以上で起こりやすい?

 ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のJing Sun氏らが新型コロナワクチン接種後のブレークスルー感染*の発生率と発生率比(IRR)を特定することを目的とし、後ろ向きコホート研究を実施。その結果、患者の免疫状態に関係なく、完全ワクチン接種がブレークスルー感染のリスク低下と関連していることが示唆された。また、ブレークスルー感染が女性や30歳以上で起こりやすい可能性も明らかになった。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2021年12月28日号掲載の報告。*本研究ではブレークスルー感染を、ワクチン接種の14日目以降に発症した新型コロナウイルス感染症と定義しており、2回目完了後の発症としていない。 本研究は、全米の新型コロナに関する臨床データを一元化しているNational COVID Cohort Collaborative(N3C)1)のデータに基づいて分析した。2020年12月10日~2021年9月16日の期間に新型コロナワクチンを1回以上接種した症例がサンプルに含まれた。また、ワクチン接種、新型コロナの診断、免疫機能障害の診断(HIV感染、多発性硬化症、関節リウマチ、固形臓器移植、骨髄移植)、そのほかの併存疾患、人口統計データを検証するにあたり、N3C Data Enclaveを介した。 この研究ではFDAが認可した3つの新型コロナワクチン(ファイザー製[BNT162b2]、モデルナ製[mRNA-1273]、J&J製[JNJ-784336725])と、そのほかのワクチン(アストラゼネカ製など)接種者が含まれた。また、完全ワクチン接種というのは、mRNAワクチンとそのほかのワクチン接種の場合は2回接種、J&J製の場合は1回接種と定義。部分ワクチン接種というのは、mRNAワクチンやそのほかのワクチンを1回のみ接種と定義付けた。2回接種または1回のみ接種後のリスクは、ポアソン回帰を使用して免疫機能障害の有無にかかわらず評価された。 主な結果は以下のとおり。・N3Cのサンプルには計66万4,722例が含まれていた。・患者の年齢中央値(IQR)は51歳(34~66)で、そのうち女性は37万8,307(56.9%)と半数以上を占めていた。・全体として、新型コロナのブレークスルー感染の発生率は、完全ワクチン接種者で1,000人月あたり5.0だった。しかし、デルタ変異株が主要株になった後は高かった(2021年6月20日以前と以降の1,000人月あたりの発生率は、2.2(95%信頼区間[CI]:2.2~2.2)vs. 7.3(95%CI:7.3~7.4)だった。・部分ワクチン接種者と比較し完全ワクチン接種者では、ブレークスルー感染のリスクが28%減少した(調整済みIRR [AIRR]:0.72、95%CI:0.68~0.76)。・完全ワクチン接種後にブレークスルー感染した人は、高齢者や女性が多かった。また、HIV感染者(AIRR:1.33、95%CI:1.18~1.49)、関節リウマチ(AIRR:1.20、95%CI:1.09~1.32)、および固形臓器移植を受けた者(AIRR:2.16、95%CI:1.96~2.38)では、ブレークスルー感染の発生率が高かった。・具体的には、ブレークスルー感染リスクは18〜29歳と比較して30歳以上で30〜40%増加した。・ブレークスルー感染リスクは併存疾患の数が増えるにつれて増加したが、このリスクは免疫機能障害の状態に関連しており、とりわけそれによってAIRRが弱められた。 免疫機能障害のある人は完全ワクチン接種しても、そのような状態ではない人よりもブレークスルー感染リスクはかなり高かったことを受け、研究者らは「免疫機能障害のある人は、ワクチン接種を完遂してもマスク着用やワクチンの代替となるような戦略(例:追加接種や免疫原性試験)が推奨される」としている。

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デルタ株流行期前後の比較では患児のICU入院が多い/成育研・国際医研

 国立成育医療研究センターと国立国際医療研究センターの合同研究チームは、デルタ株流行期における小児新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院例の疫学的・臨床的な特徴を、デルタ株が流行する以前と比較検討した。今回、その結果を庄司 健介氏(国立成育医療研究センター)らのグループが発表した。 この研究は、2020年10月~2021年5月までをデルタ株以前、2021年8月~10月までをデルタ株流行期とし、それぞれの期間に登録された18歳未満の小児COVID-19入院例1,299人(デルタ株以前:950人、デルタ株流行期:349人)を対象に実施。その結果、デルタ株流行期は、デルタ株以前に比べて患者年齢が低いこと(中央値7歳vs.10歳)、基礎疾患のある患者の割合が高いこと(12.6%vs.7.4%)、集中治療室(ICU)入院を要した患者が多いこと(1.4%vs.0.1%)などが明らかとなった。 なお、研究では国内最大のCOVID-19レジストリ「COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)」を利用した。(※本研究は、オミクロン株がまだ存在しなかった時期に実施されているため、その影響は検討できていないことなどに留意願いたい)デルタ株流行期ではICU入院の小児患者が増加【背景・目的】 COVID-19の第5波では、小児患者数も増加したが、小児患者の臨床的特徴や重症度がデルタ株の流行により変化があったのか、どのような小児患者が重症化していたのかなどの情報は限られ、解明が求められていた。これらを明らかにすることを目的とした。【研究対象・方法】・研究対象:2020年10月~2021年5月(デルタ株以前)と2021年8月~10月(デルタ株流行期)の間にCOVIREGI-JPに登録された18歳未満のCOVID-19患者・研究方法:COVIREGI-JPに登録されている、患者の背景や臨床経過、予後などのデータを集計・分析【研究結果】・期間中に研究対象となった18歳未満の患者はデルタ株以前950名、デルタ株流行期349名。・入院患者の年齢の中央値はデルタ株以前が10歳、デルタ株流行期が7歳と、デルタ株流行期の方が若年化している傾向にあった。・入院患者に占める無症状の患者の割合はデルタ株以前が25.8%、デルタ株流行期が10.3%と、デルタ株流行期にはより症状のある患者が多く入院していたことがわかった。・ICUに入院した患者の数と割合は、デルタ株以前1名(0.1%)、デルタ株流行期5名(1.4%)と、いずれもデルタ株流行期で高かったことがわかった。症状があった患者に限って同様の解析を行ったところ、デルタ株以前1名(0.1%)、デルタ株流行期5名(1.6%)と患者全体での解析とほぼ同様の結果だった。・ICUに入院した患者のうち、半数(3/6名)は基礎疾患(喘息または肥満)のある患者だった。 研究グループでは、「今後、小児の入院適応やワクチン接種の対象などを考えていく上で、本研究の結果がその基礎データとして利用されることが期待できる」と感想を寄せ、「オミクロン株の与える影響など、引き続き検討していく必要があると考えられる」と研究の展望を語っている。また、「小児のCOVID-19患者の絶対数が増えると、集中治療を要するような小児患者も増えることが予想され、オミクロン株が流行している現在においても、小児患者について注意深く診ていくことが求められる」と注意を促している。

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アベマシクリブのHR+/HER2-乳がん術後薬物療法における位置付けは?

 ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法として、CDK4/6阻害薬アベマシクリブ(商品名:ベージニオ)が2021年12月24日に追加承認を取得した。1月21日「ベージニオに新たな適応症が追加 HR+/HER2-乳癌の術後薬物療法の新しい選択肢とは」と題したメディアセミナー(主催:日本イーライリリー)が開催され、座長として大野 真司氏が登壇、原 文堅氏(ともにがん研究会有明病院)が術後薬物療法におけるアベマシクリブの位置付けについて講演した。 アベマシクリブは2018年9月に、HR+/HER2-の手術不能または再発乳がんに対する治療薬として承認されている。アベマシクリブは骨髄での造血管細胞の成熟に関連するCDK6-サイクリンD3よりも、乳がんの増殖に関連するCDK4-サイクリンD1をより高く阻害するため、パルボシクリブと比較して骨髄抑制が軽く、連日内服が可能という点が特徴となっている。アベマシクリブの用法・用量としては1回150mgの1日2回経口投与であるが、術後薬物療法では投与期間は最大で24ヵ月間、状態に応じて適宜減量することとされた。アベマシクリブのHR+乳がん術後薬物療法における有効性 乳がん―とくにHR+乳がんにおいては、初回診断後5年経過以降も再発リスクがある。再発リスクに応じて、化学療法追加(オンコタイプDXなどの遺伝子検査で判定)、術後内分泌療法の延長(5年→10年)などにより予後は改善してきたが、リンパ節転移の個数が多い場合などの再発高リスクの患者では不十分であった。 再発高リスクの患者を対象とした国際共同第III相monarchE試験では、術後薬物療法としてのアベマシクリブと内分泌療法による併用療法の有効性を検討。主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(iDFS)は、2年時点でアベマシクリブ+内分泌療法群92.6%に対し内分泌療法群89.6%となり、有意にアベマシクリブ併用群で改善がみられた。3年時点では88.6%に対し82.9%とより差が開く形となり、原氏は「フォローアップ期間が延びてその差が広がるということは、それだけアベマシクリブ併用療法の有効性が高いことを示している」と話した。アベマシクリブのHR+乳がん術後薬物療法における有害事象 アベマシクリブの有害事象については、転移・再発乳がんへの治療においてみられたものと同様の傾向で、下痢(82.2%)、好中球減少症(44.6%)、疲労(38.4%)などが多く報告された。日本人サブグループにおいてもアベマシクリブは同様の傾向が報告されている。下痢については、アベマシクリブ投与初期の1~2サイクル目での報告が多くを占める。「ベージニオ適正使用ガイド」では、グレードに応じた用量調整の考え方が示されており、原氏は適切に休薬・減量をすることでマネジメントは可能との認識を示した。 アベマシクリブのその他重大な副作用として、間質性肺疾患、肝機能障害(ALT/AST増加等)、骨髄抑制(好中球減少、白血球減少、貧血等)、静脈血栓塞栓症が挙げられる。原氏は、「適正使用ガイドでは胸部CT検査や肝機能検査、骨髄機能検査などアベマシクリブ投与中に必要な検査とその推奨時期が示されており、われわれはこれを遵守することが求められる」とした。 間質性肺炎に関しては、monarchE試験の日本人集団では13例認められており、うち治験薬との因果関係が認められたのは1例。グレード2以上であれば投与中止(原則として再投与なし)が求められる。 静脈血栓塞栓症は、日本人集団では2例報告されている。全体集団解析での発現率は2.3%で多くが非重篤であるが、原氏は「重篤な事象が起こりうるという認識の下で管理していくことが非常に重要」と指摘した。 最後に同氏は、今後の検討課題として、真にアベマシクリブ併用療法の恩恵に預かることのできる症例を選択するためのバイオマーカー探索、逆にmonarchE試験の対象外症例へのアベマシクリブ適応拡大の可能性の検討、術後に本療法を実施した症例の再発時の治療法の検討を挙げ、講演を締めくくった。

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死に至る薬剤耐性菌感染症、最も多い疾患と原因菌は/Lancet

 薬剤耐性(AMR)は、世界中で人々の健康を脅かす主要な原因となっている。これまでのAMR研究は、特定の地域における限られた病原体と薬剤の組み合わせについて、感染症の発生率や死亡数、入院期間、医療費に及ぼすAMRの影響の評価を行い、広範な地域や、病原体と薬剤の網羅的な組み合わせに関する包括的な検討は行われていないという。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らAntimicrobial Resistance Collaboratorsは、今回、AMR負担に関して現時点で最も包括的な検討を行い、2019年に世界で495万人が細菌のAMRに関連する感染症で死亡し、このうち127万人は薬剤耐性菌感染症が直接の原因で死亡したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年1月18日号に掲載された。204の国と地域で、88件の病原体と薬剤の組み合わせを評価 研究グループは、2019年時点の204の国と地域における、23種の病原体および、88件の病原体と薬剤の組み合わせについて、細菌のAMRに起因する死亡と、これによる障害調整生存年数(DALY)などを推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。 データは、文献の系統的レビュー、病院やサーベイランスのシステム、その他の情報源から収集された。解析には4億7,100万件の患者記録や分離株が含まれ、調査地の数×年数は7,585であった。 予測統計モデルを用いて、データのない場所を含むすべての地域のAMR負担の推定値が算出された。AMR負担には、次の5つの一般的な要素が含まれた。(1)感染症に起因する死亡数、(2)特定の感染性症候群に起因する感染性の死亡の割合、(3)特定の病原体に起因する感染性症候群による死亡の割合、(4)対象となる抗菌薬に対する特定の病原体の耐性の割合、(5)この耐性に関連する死亡または感染期間の過剰リスク。 これらの要素を用いて、2つの反事実的シナリオ(AMR菌に起因する死亡、AMRに関連する死亡)に基づく疾病負担が推定された。世界全体および地域別の最終的な推定値とその95%不確実性区間(UI)が算出された。負担は下気道感染症、関連死は大腸菌、死亡はMRSAで多い 2019年、世界全体における細菌のAMRに関連する死亡数は495万件(95%UI:3.62~6.57)であり、このうちAMR菌に直接起因する死亡数は127万件(91万1,000~171万)と推定された。 地域別のAMR負担は、サハラ以南のアフリカ西部で最も高く、AMR関連の全年齢死亡割合は10万人当たり114.8件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり27.3件であった。これに対し、AMR負担が最も低かったのはオーストララシアで、AMR関連の死亡割合は10万人当たり28.0件、AMR菌に起因する死亡割合は10万人当たり6.5件だった。 また、2019年の世界全体のAMR負担は、主に3つの感染性症候群(下気道感染症/胸部感染症、血流感染症、腹腔内感染症)の割合が大きく、AMR菌に起因する死亡の78.8%をこれらが占めた。さらに、下気道感染症だけで、AMR関連死亡が150万件以上、AMR菌に起因する死亡は40万件以上に達し、最も負担の大きい感染性症候群だった。 世界全体のAMR関連死亡の最も多い原因となった病原体は大腸菌で、次いで黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、肺炎球菌、Acinetobacter baumannii、緑膿菌の順であった。これら6つの主要な病原体による2019年のAMR関連死亡は357万件(全495万件中)で、AMR菌に起因する死亡は92万9,000件(全127万件中)に達していた。 一方、2019年にAMR菌に起因する死亡数が10万件を超え、DALYが350万年以上であった病原体と薬剤の組み合わせは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(12万1,000件)だけであった。 また、AMR菌に起因する死亡数が5万~10万件の組み合わせは6つあり、死亡数が多い順に、超多剤耐性菌(XDR)を除く多剤耐性(MDR)結核菌(6万4,600件)、第3世代セファロスポリン耐性大腸菌(5万9,900件)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(5万7,700件)、フルオロキノロン耐性大腸菌(5万6,000件)、カルバペネム耐性肺炎桿菌(5万5,700件)、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌(5万100件)であった。 著者は、「AMRは、世界各地で主要な死因であり、低医療資源環境では最大の負担となっている。AMR負担と、その原因となる病原菌と薬剤の組み合わせを理解することは、とくに感染予防や管理計画、必須抗菌薬の評価、新たなワクチンや抗菌薬の研究開発に関して、十分な情報を得たうえで地域ごとの施策を決定する際にきわめて重要である。低所得国の多くでは深刻なデータ不足があり、この重要な健康上の脅威に関する理解を深めるためには、微生物学研究所の能力とデータ収集システムの拡充が必要である」と指摘している。

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COVID-19経口治療薬「モルヌピラビル」の有効性(解説:小金丸博氏)

 モルヌピラビルはSARS-CoV-2や他のRNAウイルスに対して活性を有するリボヌクレオシドアナログである。RNA依存性RNAポリメラーゼに作用することによりウイルスRNAの配列に変異を導入し、ウイルスの増殖を阻害する。今回、重症化リスクを有する非重症COVID-19患者に対するモルヌピラビルの有効性と安全性を検討した第III相プラセボ対象ランダム化二重盲検試験の結果がNEJM誌オンライン版に報告された。被験者1,433例を対象とした解析では、プラセボ投与群(699例)の重症化が68例(9.7%)だったのに対し、モルヌピラビル投与群(709例)では48例(6.8%)であった(相対リスク減少率:30%)。死亡者数はプラセボ投与群9例(1.3%)に対してモルヌピラビル投与群では1例(0.1%)であり、モルヌピラビル投与群で少数であった。劇的な効果とはいえないものの、非重症COVID-19に対して一定の重症化予防効果を示した。 サブグループ解析の結果をみてみると、発症4~5日目の患者、肥満患者(BMI 30以上)、ベースラインのSARS-CoV-2抗体陰性の患者(未感染者)でモルヌピラビルの有効性を認めた。既感染者より未感染者に対してモルヌピラビルが有効性を示す理由が明確でないが、発症時のウイルス量が多い方が有効性を期待できる結果となっており、関連が推察される。 高濃度酸素投与が必要な重症患者、発症6日目以降の患者、新型コロナウイルスワクチン接種者、人工透析患者等は、本試験から除外された。これらの患者に対する有効性は確立していないことに注意が必要である。 本試験の結果を参考に、本邦においても2021年12月24日に特例承認された。発症早期の重症化リスク因子を有するCOVID-19患者に対して適応があり、妊婦、または妊娠している可能性のある女性には投与できない。本薬剤は非重症COVID-19患者に対する国内初の経口抗ウイルス薬である。治療の選択肢が増えたこと、外来患者に対して投与できることは、医療者側にとっても大きなメリットとなる。副反応についての情報はまだ不十分であり、さらなる知見の集積が必要である。

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新型コロナ、スーパースプレッダーとなりうる人の特徴/東京医科歯科大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、すべての患者が等しく感染を広げるのではなく、高いウイルスコピー数をもつ特定の患者がとくに感染を広げていくことが知られる。東京医科歯科大学の藤原 武男氏らによるRT-PCR検査によるウイルスコピー数を用いたCOVID-19入院患者の後ろ向き解析の結果、3つ以上の疾患の既往歴および、糖尿病、関節リウマチ、脳卒中の既往がスーパースプレッダーのリスク因子となることが示唆された。Journal of Infection誌オンライン版2021年12月30日号にレターとして掲載の報告より。 2020年3月~2021年6月に、中等症から重症のCOVID-19で東京医科歯科大学病院に入院し、少なくとも1回以上RT-PCR検査が行われた患者が解析対象とされた。入院患者の電子カルテの情報を基に、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・関節リウマチ・がん・慢性腎不全・脳卒中・心疾患・呼吸器疾患・アレルギーといった基礎疾患の有無とウイルスコピー数について関連が調査された。 主な結果は以下の通り。・計379例が適格となり、解析対象とされた。年齢中央値は59歳で、約33%が女性だった。・PCRテスト回数の中央値は2(1~26)回。複数回PCRテストを実施した患者の90%以上で、ウイルス量は1回目または2回目でその個人の最大値を示した。・約59%に基礎疾患があり、約21%に3つ以上の基礎疾患があった。・基礎疾患について詳細は、高血圧症が38.5%、糖尿病が21.6%、がんが18.7%、脂質異常症が18.5%、呼吸器疾患が10.8%、心疾患が9.0%、高尿酸血症が7.7%、慢性腎臓病が6.6%、脳卒中が5.0%、関節リウマチが2.1%だった。・1人を除きワクチンは未接種だった。・性別、年齢、喫煙状況について調整後の多変量回帰分析の結果、上記基礎疾患を3つ以上重複して有する患者では、基礎疾患のない患者と比較して、ウイルスコピー数が87.1倍(95%信頼区間[CI]:5.5~1380.1)高く、ウイルスコピー数の多さと有意に関連していた。・また、関節リウマチ患者では1659.6倍(95%CI:1.4~2041737.9)、脳卒中患者では234.4倍(95%CI:2.2~25704.0)倍、糖尿病患者では17.8倍(95%CI:1.4~ 223.9)ウイルスコピー数が高く、ウイルスコピー数の多さと有意に関連していた。・入院時の血液検査結果における血小板数とCRPレベルの低さも、ウイルスコピー数の多さと関連していた。 著者らは、軽症患者が解析に含まれていない点、変異株による影響が不明な点等の本研究の限界を挙げたうえで、基礎疾患の有無や検査値などの入院時に得られる情報に基づき、スーパースプレッダーとなる可能性の高い患者に対しては、とくに感染の初期において注意深い感染管理措置が必要なことが示されたとまとめている。

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BNT162b2とmRNA-1273の液性/細胞性免疫、感染/発症/重症化予防効果の推移:オミクロン株を中心に(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

ワクチン開発の現状 2022年1月12日現在、世界で開発されているワクチンは152個(開発中止になった10個を含む)に及び、その中で28個のワクチンが世界各国によって緊急使用あるいは完全使用が承認され、各ワクチンの感染/発症予防効果、重症化予防効果、特異的副反応などが徐々に明らかにされている。その結果、優れたワクチンとして生き残りつつあるのが、本邦をはじめ世界の先進国で優先的に使用されているRNAワクチンに分類されるPfizer/BioNtech社のBNT162b2(商品名:コミナティ筋注)とModerna社のmRNA-1273(同:スパイクバックス筋注)の2つである。 2021年の11月以降、世界を席巻するウイルスはデルタ株からオミクロン株に置換されつつある。本邦でも2022年1月に入り、オミクロン株感染者の急激な増加を認めている。オミクロン株のS蛋白をPlatformにしたワクチン開発は理論的には困難な問題ではない。しかしながら、新たなワクチンを実地臨床の現場で使用できるためには第I相から第III相に至る治験を介して有効性、安全性を検証する必要があり、膨大な時間を要する。その意味で、今年の冬から春にかけて世界を席巻するであろうオミクロン株に対する予防策としては、現在使用可能なBNT162b2、mRNA-1273の2回接種(通常接種)に加え、3回目以上のブースター接種を組み合わせて立ち向かう必要がある。以上のような事実を踏まえ、オミクロン株に対する今後のワクチン政策を医学的に正しい方向に誘導するためには、BNT162b2とmRNA-1273の予防手段としての優越性の違いを確実に把握しておく必要がある。RNAワクチン通常接種(2回接種)後のオミクロン株に対する液性免疫、細胞性免疫、予防効果の時間推移 BNT162b2、mRNA-1273を2回接種した場合の野生株(先祖株)S蛋白-RBD(Receptor binding domain)に対する中和抗体価のピーク値(2回目ワクチン接種2~4週後)は、BNT162b2接種後に比べmRNA-1273接種後のほうが40~50%高い(Richards NE, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2124331., Self WH, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1337-1343.)。しかしながら、BNT162b2、mRNA-1273接種後の野生株中和抗体価はピーク値が異なるものの、それ以降4~6ヵ月間はほぼ同じ速度で低下する(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021;385:e84., Pegu A, et al. Science. 2021;373:1372-1377.)。 BNT162b2接種後のオミクロン株に対する中和抗体価は、ピーク値を与える時間帯ですでに検出限界近傍まで低下していた。また、mRNA-1273のオミクロン株に対する中和抗体価は、ワクチン接種後4~6ヵ月経過した時点で検出限界以下であった(Rossler A, et al. N Engl J Med. 2022 Jan 12. [Epub ahead of print])。以上より、BNT162b2、mRNA-1273のオミクロン株中和作用はワクチン接種後のいかなる時間帯でもほぼ無効と考えることができる。この現象はオミクロン株S蛋白に存在する多彩な遺伝子変異に起因する強力な液性免疫回避によって惹起されたものである。 ワクチン接種によって形成されたS蛋白には、CD4-T細胞反応を賦活する抗原決定基(Epitope)が約30個、CD8-T細胞反応を賦活する抗原決定基が約50個存在する(山口, 田中. 日本医事新報 2021;5088:38.)。但し、T細胞反応を規定する抗原決定基の個数に関する報告は一定しておらず、確実な個数は現時点では同定されていない。これらの抗原決定基は種々の変異の影響を受け難く、オミクロン株以外の変異株において85~95%(Tarke AT, et al. bioRxiv. 2021;433180.)、オミクロン株においても70~80%が維持される(WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update. 2022 Jan 7.)。ワクチン接種後のT細胞性免疫の持続期間は野生株を用いた解析ではあるが、少なくとも8ヵ月間は緩徐に低下しながらも維持されることが示された(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021;385:951-953.)。以上より、オミクロン株に対するワクチン惹起性T細胞性免疫は、時間経過と共にゆっくりと低下するものの、比較的長期間にわたり有効域に維持されるものと考えられる。賦活化されたCD4-T細胞はB細胞由来の液性免疫(中和抗体)と共同し補完的にウイルス感染を抑制する。一方、CD8-T細胞は、ウイルスに感染した生体細胞を殺傷/処理し、生体が感染後の過剰免疫状態に陥ることを阻止する(重症化抑制)。 本論評で取り上げたDickermanらの論文(Dickerman BA, et al. N Engl J Med. 2020;386:105-115.)は、アルファ株、デルタ株感染に対するBNT162b2、mRNA-1273の感染/発症予防効果、重症化(一般入院、ICU入院、死亡)予防効果の差を観察したものである。アルファ株、デルタ株感染にあって、感染/発症予防効果、ICUを含む入院予防効果に関してmRNA-1273のほうが勝っていた。しかしながら、死亡予防効果は両ワクチンで有意差を認めなかった。 オミクロン株に対する両ワクチンの予防効果に関する英国健康安全保障庁(UKHSA)の解析によると(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)、BNT162b2接種後のデルタ株発症予防効果が90%(ワクチン接種2~4週後)から60%(ワクチン接種後25週以上)まで低下するのに対し、同じ時間帯においてオミクロン株発症予防効果は65%から10%前後まで低下した。一方、mRNA-1273接種後のデルタ株発症予防効果は95%(ワクチン接種2~4週後)から75%(ワクチン接種後25週以上)まで低下、オミクロン株発症予防効果は同じ時間帯で70%から10%前後まで低下した。定性的に同様の結果は、米国からも報告されている(Accorsi EK, et al. JAMA. 2022 Jan 21. [Epub ahead of print])。これらの結果は、デルタ株に対する発症予防効果の時間的低下はmRNA-1273でより緩徐であるが、オミクロン株に対する発症予防効果の時間的低下は両ワクチンでほぼ同程度であることを意味する。オミクロン株に対する発症予防効果の時間推移は液性免疫の動態(両ワクチンの中和抗体形成能は低くワクチン接種直後から検出限界近傍)からは説明できず、予防効果の大部分が時間経過と共にゆっくりと低下するT細胞性免疫の賦活によって維持されていることを示唆する。そのため、オミクロン株に対するBNT162b2とmRNA-1273の発症予防効果の差は小さい。オミクロン株抑制を考えた場合、液性免疫ではなく細胞性免疫の賦活が重要である。その意味で、ドイツ・テュービンゲン大学で開発中のT細胞免疫賦活に特化したワクチン(CoVac-1)に論評者らは注目している(Heitmann JS, et al. Nature. 2021 Nov 23. [Epub ahead of print])。 オミクロン株に対するBNT162b2接種後の入院予防効果は、2~24週後に72%であったものが25週以上経過すると52%まで低下した。一方、デルタ株に対するBNT162b2の入院予防効果は接種後の時間経過(接種後20週以内)と無関係に90%前後の値を維持し(Tartof SY, et al. Lancet. 2021;398:1407-1416.)、オミクロン株に対する入院予防効果の動態とは異なっていた。オミクロン株感染における種々の重症化状態(酸素投与、機械呼吸、ICU入院、入院中の死亡)の頻度を解析した論文によると、これらの指標の発生頻度はデルタ株感染に比べオミクロン株感染で有意に低いことが示された(Maslo C, et al. JAMA. 2021 Dec 30. [Epub ahead of print])。オミクロン株が高感染性、低病原性の性質を有する特異的なウイルスであることは感染発症初期から観察されていた。感染性の増強は、Q498R, N501Y, H655Y, N679K, P681Hなどの多彩なS蛋白アミノ酸変異に起因する(CDC. Science Brief. 2021 Dec 2.)。一方、オミクロン株の低病原性は、肺胞領域でのウイルス複製/増殖能が低く、重症化の引き金になる肺炎が発生し難いという実験的事実から説明される(HKUMed News. HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung. 2021 Dec 15.)。RNAワクチンブースター接種(3回目接種)後のオミクロン株に対する液性免疫、細胞性免疫、予防効果の時間推移 播種ウイルスの主体がデルタ株からオミクロン株に置換されつつある現在、オミクロン株を標的とした3回目ブースター接種の意義を明らかにする必要がある。オミクロン株に対する2回ワクチン接種後の中和抗体価は検出限界近傍の低値である(上述)。Nemetらの解析によると(Nemet I, et al. N Engl J Med. 2021 Dec 29. [Epub ahead of print])、BNT162b2の2回目接種5.5ヵ月後のオミクロン株中和抗体価に比べ3回目接種1ヵ月後の中和抗体価は97倍増加した。mRNA-1273の3回目ブースター接種に関するModerna社の報道によると(Moderna. Press Release. 2021 Dec 20.)、mRNA-1273の3回目接種後のオミクロン株に対する中和抗体価は2回目接種後の83倍まで増加したとのことである。 英国健康安全保障庁(UKHSA)の解析によると、BNT162b2の2回目接種後25週以上経過した時点で10%前後まで低下したオミクロン株に対する発症予防効果は、3回目ブースター接種2~4週後には70%以上に回復した(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)。しかしながら、3回目接種から10週以上経過するとBNT162b2のオミクロン株発症予防効果は40%台まで再度低下した。BNT162b2の3回目接種後のオミクロン株に対する発症予防効果の推移は、2回目接種後とは異なり、主として中和抗体価の動態によって説明可能である。mRNA-1273の3回目接種後のオミクロン株に対する発症予防効果は78%と報告され、BNT162b2の効果とほぼ同程度であった(Accorsi EK, et al. JAMA. 2022 Jan 21. [Epub ahead of print])。しかしながら、mRNA-1273の3回目接種後の各ウイルスに対する発症予防効果の時間推移は報告されていない。 BNT162b2の3回目接種によるオミクロン株に対する入院予防効果は、2回接種後25週以上で52%まで低下したが、3回目接種2週以後で88%まで回復した(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)。入院予防効果など重症化予防効果が主としてT細胞性免疫によって規定されるならば、UKHSAの観察結果は、BNT162b2の3回目ブースター接種はオミクロン株に対する液性免疫に加え細胞性免疫も改善することを意味する。 mRNA-1273はBNT162b2に比べ一般的に免疫原性、予防効果の面でより優れた効果を発揮することが判明したが、オミクロン株に対する作用/効果には明確な差を認めない。両者の差を招来する主たる原因は生体に導入されるmRNA量の違いである。成人においてmRNA-1273の通常接種によって生体に導入されるmRNA量はBNT162b2の3.3倍であり、その結果として高い免疫原性が発現する。しかしながら、mRNA導入量の多さは副反応の多さとも関連し、mRNA-1273では心筋炎を含む多くの副反応の頻度がBNT162b2よりも有意に高いことを知っておく必要がある(Chapin-Bardales J, et al. JAMA. 2021;325:2201-2202., Husby A, et al. BMJ. 2021;375:e068665.)。

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軽症でのレムデシビル投与を追記、コロナ診療の手引き6.2版/厚労省

 1月27日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第6.2版」を公開し、全国の自治体に通知を行った。レムデシビルの軽症者への投与方法を追加 6.2版の主な改訂点は以下の通り。●改訂点【1 病原体・疫学】・オミクロン株について更新・国内・海外発生状況を更新【4 重症度分類とマネジメント】・重症度別マネジメントのまとめを更新・軽症、中等症Iについて更新 重症化リスクのある患者へのレムデシビル・モルヌピラビル・中和抗体薬投与方法について追加【5 薬物療法】・レムデシビル 重症化リスクのある軽症・中等症Iの患者を対象とした試験の結果を追加 (プラセボ群と比較し、入院または死亡を87%減少させた) 軽症者への投与方法を追加・軽症・中等症患者を対象とした治療薬の臨床試験についてまとめた表を追加・トシリズマブ メタアナリシスの結果を追加 投与方法、投与時の注意点を更新・未承認薬を整理し、一覧で標記(ファビピラビル含む)

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オミクロン株感染3万例、入院・重症化リスクを解析/Lancet

 南アフリカ共和国・国立感染症研究所(NICD)National Health Laboratory ServiceのNicole Wolter氏らは、国内の4つのデータベースを用いた解析から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン変異株感染者は、同時期に診断された非オミクロン変異株感染者と比較して入院リスクが低いこと、早期のデルタ変異株感染者と比較して重症化リスクが低いこと、この重症化の減少の一部はおそらく過去の感染やワクチン接種による免疫の結果であると考えられることを明らかにした。オミクロン変異株は、2021年11月に同国で確認され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の増加と関連していた。Lancet誌オンライン版2022年1月19日号掲載の報告。症例・検査・ウイルスゲノム解析・入院サーベイランスデータを連携し評価 研究グループは、南アフリカ共和国の次の4つのデータベースから個人レベルのデータを連携し解析した。(1)NICDのNotifiable Medical Conditions Surveillance Systemにリアルタイムに報告されたCOVID-19症例データ、(2)公的検査機関(National Health Laboratory Service)および民間の大規模検査機関1社におけるSARS-CoV-2検査データ、(3)民間および公的診断研究所からNICDに送られた臨床検体、および5つの州の肺炎サーベイランスプログラムを介して収集されたSARS-CoV-2ゲノム解析データ、(4)COVID-19による入院に関する積極的サーベイランスシステム「DATCOV」(南アフリカ共和国の全病院をカバー)のデータ。 多変量ロジスティック回帰モデルを用い、2021年10月1日~11月30日に診断されたCOVID-19患者の入院と重症化(集中治療室入室、酸素治療、人工呼吸器使用、体外式膜型人工肺使用、急性呼吸促迫症候群または死亡)を、オミクロン変異株感染者と非オミクロン変異株感染者で比較するとともに、2021年10月1日~11月30日に診断されたオミクロン変異株感染者と2021年4月1日~11月9日に診断されたデルタ変異株感染者の重症化を比較した。 オミクロン変異株感染は、TaqPath COVID-19 PCR検査(Thermo Fisher Scientific製)でS遺伝子が検出されなかった(S gene target failure:SGTF)感染を代替として用い、S遺伝子が検出された非SGTF感染を非オミクロン変異株感染とした。デルタ変異株はゲノムシークエンスにより同定した。オミクロン株感染者は、入院が少なく、重症化が少ない 南アフリカ共和国では、2021年10月1日(第39週)~12月6日(第49週)に、計16万1,328例のCOVID-19患者が報告され、うち今回の解析対象検査機関からの報告は10万4,529例であった。このうちTaqPath PCR検査で診断されていたのは3万8,282人で、オミクロン変異株感染は2万9,721例、非オミクロン変異株感染は1,412例報告された。オミクロン変異株感染の割合は、39週目の3.2%(2/63例)から、48週目には97.9%(2万1,978/2万2,455例)に増加した。 2021年10月1日~11月30日において、入院した患者の割合はオミクロン変異株感染者2.4%(256/1万547例)、非オミクロン変異株感染者12.8%(121/948例)で、入院に関連する因子を調整した入院のオッズはオミクロン変異株感染者で有意に低下した(補正後オッズ比[aOR]:0.2、95%信頼区間[CI]:0.1~0.3)。 2021年12月21日までの院内転帰が判明している患者(382例)において、重症化した患者の割合は、オミクロン変異株感染者21%(42/204例)、非オミクロン変異株感染者40%(45/113例)で、重症化に関連する因子で補正後の重症化オッズ比は0.7(95%CI:0.3~1.4)であった。 また、2021年10月1日~11月30日に診断されたオミクロン変異株感染者は、同年4月1日~11月9日に診断されたデルタ変異株感染者と比較して、重症化に関連する因子で補正後のオッズは有意に低かった(62.5%[496/793例]vs.23.4%[57/244例]、aOR:0.3、95%CI:0.2~0.5)。

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COVID-19治療薬の特徴一覧を追加、薬物治療の考え方12版/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医学部教授])は、1月24日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方第12版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 今回の改訂では、適用・効果の追加承認がなされたトシリズマブ(商品名:アクテムラ)に関する記載が追加されたほか、他の治療薬の知見を更新し、現在使用できる治療薬4剤の特徴を記した一覧表が附表として追加された。 主な改訂点について、以下に抜粋する。総論【3. 抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミング】 「重症化リスクが高い患者を対象とした治療薬の特徴で、巻末の附表参考」や「軽症例での薬物治療の適応の場合、感染病態および薬理作用の観点などからも、感染または発症から早期の治療開始が望ましい。また、中等症以上で全般的な薬物治療を検討」の文言変更。「予防接種歴のみで治療薬の適応を判断するしない」、「患者の病態など総合的に勘案して適応を決定する」ように追加。【4. 抗ウイルス薬等の選択】 オミクロン株には、カシリビマブ/イムデビマブは使用が推奨されないこと、妊娠および妊娠の可能性がある場合は、モヌルピラビルは使用できないことなどを追加。抗ウイルス薬について【レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用100mg)】・臨床報告について国内と海外記載を変更・投与時の注意点について投与期限(10日目まで)、小児への投与の注意点と推奨されない小児を追加記載【モルヌピラビル】・臨床報告について国内と海外記載を変更【ファビピラビル】・臨床報告について国内と海外記載を変更・薬剤提供は2021年12月27日で取り扱い終了の記載追加中和抗体薬について【カシリビマブ/イムデビマブ】・「発症抑制での投与時の注意点」を追加・In vitroでの変異株への効果を追加【ソトロビマブ】・備考でオミクロン株への評価を追加・「発症後での投与時の注意点」で重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与などの項目を追加免疫調整薬・免疫抑制薬【トシリズマブ】・海外での臨床報告を変更・国内での使用実績を変更・2022年1月の適応追加を追記・投与方法、投与時の注意点を変更(投与方法)通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注する。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、トシリズマブして8mg/kgをさらに1回追加投与できる。(投与時の注意点)・酸素投与、人工呼吸器管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うこと。・海外医師主導治験は室内気SpO2が92%未満または酸素投与中でCRP値7.5mg/dL以上のSARS-CoV-2による肺炎患者を対象として実施され、副腎皮質ステロイド薬併用下で本剤の有効性が確認されている。当該試験の内容を熟知し、本剤の有効性および安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。・海外医師主導治験では副腎皮質ステロイド薬を併用していない患者において本剤投与により全死亡割合が高くなる傾向が認められた。・バリシチニブとの併用について、有効性および安全性は確立していない。その他 附表として「重症リスクを有する軽症COVID-19患者への治療薬の特徴(2022年1月時点)」を追加 本手引きの詳細は、同学会のサイトで確認していただきたい。■関連記事ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

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心不全の患者さんに、病状経過を説明するなら…【非専門医のための緩和ケアTips】第20回

第20回 心不全の患者さんに、病状経過を説明するなら…この連載で繰り返しお伝えしてきたように、緩和ケアを提供する相手はがん患者に限りません。心不全や慢性呼吸器疾患など、臓器障害の経過についても知っておく必要があります。ここでも、前回のがんのケースで紹介した「病みの軌跡」と呼ばれる、疾患ごとの身体機能低下と時間軸を示したグラフが役立ちます。今日の質問かかりつけの心不全患者さん、昨年2回の緊急入院をしています。数年前と比べると徐々に身体機能が低下してきているものの、まだ外来通院は可能です。心不全は予後予測が難しいと聞くので、今後の対応に悩んでいます。非がん疾患の予後予測が難しいのは、おっしゃるとおりです。そして、一般の診療医が対応する疾患としては、がんよりも非がん疾患のほうが多いでしょう。心不全のような特定の臓器機能の低下に伴った疾患の経過の説明には、臓器障害パターンの「病みの軌跡」が有効です。2005年にBritish Medical Journal誌で発表された論文1)が基になっています。図:臓器障害の「病みの軌跡」原著論文を基に筆者作成この「臓器障害」には、心不全だけでなく、慢性閉塞性肺疾患のような呼吸不全を来す疾患や腎疾患なども含まれます。この疾患グループの特徴は、「増悪寛解を繰り返しながら、そのたびに身体機能が低下する」というものです。たとえば、心不全患者さんの多くが増悪での入院を経験します。質問者の患者さんも入退院を繰り返していますよね。そのほか、肺炎など感染症の併発といった、さまざまなきっかけで入院が必要となります。治療介入でいったんは改善するのですが、入院前と比べると廃用が進み、臓器機能がより低下するケースが多くなります。そういった経過を繰り返し、やがてはお看取りする、という経過です。時間軸としては数年単位というケースが多いでしょう。ポイントは、患者さんとご家族が「入院のたびに身体機能が低下している事実に気付いていない」ことです。治療後に回復したため、以前からの低下を実感できないケースが多く、本人の治療体験としても「悪くなってもまた治療できる」と感じやすい疾患群なのです。だからこそ、「増悪寛解を繰り返しながら、そのたびに身体機能が低下する」という「病みの軌跡」を共有することが有効です。悪化防止の重要性を理解することで、食事や薬物療法のアドヒアランスも向上するでしょう。今回のTips今回のTips臓器障害の「病みの軌跡」は、増悪寛解を繰り返しながら身体機能が低下する。1)Murray SA, et al. BMJ. 2005;330:1007-1011.

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コロナ流行開始以降、小児の感染症による入院・死亡が減少/BMJ

 イングランドの小児では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行の発生以降、重度の侵襲性感染症や呼吸器感染症、ワクチンで予防可能な感染症による入院が大幅かつ持続的に減少し、このうち敗血症や髄膜炎、細気管支炎、肺炎、ウイルス性喘鳴、上気道感染症による入院から60日以内の死亡数も減少したことが、英国・オックスフォード大学のSeilesh Kadambari氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2022年1月12日号で報告された。イングランドの0~14歳の観察研究 本研究は、イングランドにおける小児の呼吸器感染症、重度の侵襲性感染症、ワクチンで予防可能な感染症による、入院および死亡に及ぼしたCOVID-19の世界的大流行の影響の評価を目的とする住民ベースの観察研究である(Office for Health Improvement and Disparitiesなどの助成を受けた)。 研究グループは、イングランドのすべての国民保健サービス(NHS)病院から、2017年3月1日~2021年6月30日の期間における0~14歳の小児の入院データを入手し、全国的な死亡データと関連付けた。19種の感染症(重度の侵襲性感染症6種、呼吸器感染症8種、ワクチンで予防可能な感染症5種)について、COVID-19の世界的大流行の発生前後で、入院率および死亡転帰を比較した。 個々の感染症について、毎月の入院数、2020年3月1日の前後での入院数の変化率、同日前後での60日死亡率の補正後オッズ比(OR)を算出した。インフルエンザ入院が94%、麻疹入院が90%減少 2020年3月1日以降の12ヵ月間に、それ以前の36ヵ月間と比較して、腎盂腎炎を除く18種の感染症で、入院数の顕著な減少が認められた。 呼吸器感染症では、インフルエンザによる入院の減少率が最も高く、平均年間入院数は2017年3月1日~2020年2月29日に5,379件であったのに対し、2020年3月1日~2021年2月28日には304件となり、減少率は94%(95%信頼区間[CI]:89~97)に達した。次いで同期間の入院は、細気管支炎が5万1,655件から9,423件へと82%(79~84)減少し、続いてクループ(減少率78%、95%CI:65~87)、中耳炎(74%、71~77)の順であった。 重度の侵襲性感染症による入院の減少率は、髄膜炎(減少率50%、95%CI:47~52)が最も高く、次いで蜂巣炎(43%、39~48)、感染性関節炎(35%、28~41)、敗血症(33%、30~36)の順であった。また、ワクチンで予防可能な感染症による入院の減少率は、流行性耳下腺炎(ムンプス)の53%(95%CI:32~68)から麻疹の90%(80~95)までの幅がみられた。 このようなCOVID-19以外の感染症による入院の減少は、すべての人口統計学的サブグループと基礎疾患を有する小児で確認された。 6つの感染性疾患(敗血症、髄膜炎、細気管支炎、肺炎、ウイルス性喘鳴、上気道感染症)では、入院数の減少に伴い60日死亡数も減少した。ただし、肺炎については、60日の絶対死亡数は減少したが(2017~20年の3年の年間平均193件、2020年3月1日以降156件)、入院から60日以内の死亡率は2020年3月1日以降に増加していた(年齢・性別で補正したOR:1.73、95%CI:1.42~2.11、p<0.001)。 著者は、「COVID-19の世界的大流行期に、SARS-CoV-2感染を抑制するために多様な行動変容(非薬物的介入)や社会的施策(学校閉鎖、都市封鎖、旅行制限)が採択され、これが小児の一般的な感染症や重篤な感染症をも低下させたと考えられる。社会的制約の進展とともに、これらの感染症の持続的なモニタリングが求められる」としている。

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