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第130回 年始、「肺炎」大暴れ

歴史的流行ご存じのとおり、今年のインフルエンザ感染者数は想像を超えるレベルに達しています。抗インフルエンザ薬が出荷調整を強いられています。2025年第1週になってようやく報告数が減りましたが、年末年始で正しい統計が取れているかどうかはよくわからないです1)。とりあえず、このままピークアウトしてくれると助かるところです。ただ、不気味なのは、数は多くないものの新型コロナウイルスが暗躍していることです。「当院かかりつけの患者さまで、39度の発熱で来られました」というコールを、この2週間で何度受けたことか。そんなとき、まず頭に浮かぶのはインフルエンザ。しかし、同時に新型コロナの検査もすると、意外にも新型コロナが陽性になることがあります。症状だけでは、もはや判別が難しいという現実を痛感しています。さらに、「左右両肺に肺炎があるので紹介させていただきます」といった紹介状を持って来院する患者さんも急増中です。胸部CTを撮影してみると、細気管支炎パターンが見られ、「これはマイコプラズマか?」と疑って迅速検査をしても陰性。代わりに肺炎球菌尿中抗原が陽性、さらに血液培養からも肺炎球菌が検出されるケースがありました。ダマシか!この年末年始の呼吸器臨床を端的に表すと、「肺炎大暴れ」です。インフルエンザも過去こんなに肺炎の頻度は高くなかったのに、感染中も感染後も肺炎を起こす事例が多いです。新型コロナも相変わらず器質化肺炎みたいなのをよく起こす。そして、そのほかの肺炎も多い。細菌性肺炎や膿胸も多い。もともと冬はこういった呼吸器感染症が多かったとは思います。だがしかし、いかんせん度が過ぎておる。ワシャこんな呼吸器臨床を約20年経験した記憶がないぞ。「感染症の波」は、いったい何が理由なのか?この異常事態の背景には、何があるのでしょうか。コロナ禍で国全体が感染対策に力を入れていた時期と比べると、確かに感染対策は甘めではあります。交絡要因が多いので、これによって感染症が増えているか判然としませんが、感染対策の緩和と感染症の流行には一定の相関がみられているのは確かです。長期間にわたってウイルス曝露が減り、免疫防御機能が低下するという「免疫負債説」を耳にしていましたが、新型コロナ流行から4年が経過し、むしろ「免疫窃盗」されているという考え方が主流でしょうか。感染症免疫は神々の住まう領域であり、言及するとフルボッコの懸念があるため、この議論はやめておきます。昨年のように二峰性の流行曲線になる可能性はありつつも、インフルエンザはさすがにピークアウトすると予想されます。しかし、新型コロナもマイコプラズマも含めて、呼吸器感染症に関してはまだ予断を許しません。今シーズンは新型コロナのワクチン接種率が低いことも懸念材料です。自己負担額が高いため、接種を見送る人が増えました。当院の職員も、接種率がかなり落ちました。いずれ混合ワクチンとなり、安価となればインフルエンザと同時に接種していく時代が来るかもしれません。ちなみに、年末年始に「中国でヒトメタニューモウイルスが流行している」という報道がありましたが、冬季に流行しやすいウイルスで、それほど肺炎合併例も多くなく、世界保健機関(WHO)も「異常な感染拡大はない、過度に恐れる必要はない」とコメントしています2)。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(2025年1月14日)2)WHO:Trends of acute respiratory infection, including human metapneumovirus, in the Northern Hemisphere(2025 Jan 25)

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乾癬性関節炎〔PsA:psoriatic arthritis〕

1 疾患概要■ 定義乾癬に関節炎(炎症性関節症)を伴ったもの。「関節症性乾癬」とも呼ばれる。乾癬は尋常性(局面型)乾癬が最も多いが、乾癬性紅皮症や汎発性膿疱性乾癬に関節炎が合併することもある。■ 疫学国内外でいくつもの疫学データがあり、乾癬患者の10%以下から多いものでは40%を超えるとする報告もある1)。日本乾癬学会の疫学データでは、乾癬患者の15.2%が2)、また、リウマチ科主導で行われた多施設共同のデータでは14.3%が乾癬性関節炎を有していた。 したがって、紹介患者を受け入れる基幹病院では、乾癬患者のおおよそ14~15%が乾癬性関節炎と推定される。東アジアにおける疫学をみると、乾癬患者における乾癬性関節炎の占める割合は、韓国は9~14.1% 、中国は5.3~7.1% と報告されている3)。働き盛りの青壮年期に多く、わが国では乾癬、乾癬性関節炎ともに男性が多い。■ 病因関節リウマチが滑膜炎であるのに対し、乾癬性関節炎は付着部炎がprimaryな変化と考えられている。付着部は、筋肉や腱が骨に付着する部位で、微細な外的刺激が繰り返し加わることにより付着部に炎症が惹起される。乾癬性関節炎でも二次的な滑膜炎がみられることもある。■ 症状皮膚症状と関節症状があり、皮膚症状は落屑性紅斑(乾癬)で、好発部位は頭、肘、膝、臍などだが、頭の先から足のつま先までどこにみられても不思議ではない。関節症状は末梢関節が侵される頻度が高いが、大関節(頸椎、腰椎、仙腸関節など)が侵されることもまれではない。末梢関節が侵されると、罹患関節の腫脹や変形がみられることもある。また、乾癬性関節炎の中には、皮膚症状が目立たない(非常に軽度の)場合もある。そのほか、爪乾癬(爪の点状陥凹、肥厚、白濁など)がみられることが多く、爪の変化とその近傍の第一関節の痛みや腫れが一緒にみられることもある。皮膚症状(乾癬)が先行、または皮膚症状と関節症状がほぼ同時期に出現する場合が9割以上を占め、関節炎が先行する頻度は少ない4)。■ 分類関節症状により、以下の5群に分けられている (Moll&Wrightの分類)5)。(1)非対称性関節炎型(Oligo-arthritis type)(2)関節リウマチ類似の対称性関節炎型(Poly-arthritis type)(3)定型的関節炎型(DIP type)(4)ムチランス型(5)強直性脊椎炎型(Ankylosing spondylitis[AS]type)■ 予後乾癬においてはさまざまな併存症がみられる。乾癬性関節炎においても、肥満、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病が多い。さらに、動脈硬化症や心筋梗塞の心血管病変が予後に影響することが多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)CASPAR(Classification criteria for psoriatic arthritis)の分類基準がある。炎症性関節症があるのが前提で、3点以上で乾癬性関節炎と診断するとあるが、そもそも患者は皮膚症状がないと皮膚科を受診しないので、乾癬があれば2点、爪乾癬がある(1点)かリウマトイド因子が陰性(1点)であれば、それだけで3点を超えてしまう。他の項目に、指趾炎と呼ばれる手や足の指の芋虫状の腫れ(1点)と、手足の単純X線所見で関節周囲の骨新生像(1点)があるが、どちらも早期にみられる所見ではない。乾癬性関節炎を診断するいくつかの特徴的な症状に、付着部炎や指趾炎があるが、これらがみられるときはすでに早期ではない。したがって早期診断はきわめて難しい。■ 鑑別診断高齢者は膝や腰を始め関節の痛みを訴えることが多い。変形性関節症や関節リウマチを始め、リウマチ性多発筋痛症、痛風、偽痛風など関節の痛みや変形を来すさまざまな疾患との鑑別を要する。とくに手指の変形性関節症を鑑別する必要がある。変形性関節症は、手指DIP関節の変形だけのものは容易だが、痛みを伴うinflammatory osteoarthritis、 erosive osteoarthritisは、乾癬性関節炎との鑑別が難しい。関節リウマチ患者は女性に多く、罹患関節数が少ないこと、DIP関節が罹患することはまれで、同一レベルの関節が侵されるのに対し(横方向)、乾癬性関節炎では同じ指の異なる関節が縦方向に侵され、“Ray distribution”と呼ばれる。血清リウマチ因子や抗CCP抗体は、乾癬性関節炎の1割程度でも陽性にみられる。関節滑膜の増殖は関節リウマチの方が強く、それを反映し両者の差異を検出しうる関節エコーが有用とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)乾癬性関節炎は、皮膚症状が優位な症例、関節症状が優位な症例、どちらも症状が顕著な症例などがある。したがって、皮膚、関節それぞれの重症度をまず評価する。GRAPPAのガイドラインでは、乾癬性関節炎の症状を、末梢関節炎、体軸性関節炎、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪病変の6つのドメインに分け、それぞれの症状ごとに、外用薬、非ステロイド系消炎鎮痛薬、理学療法、ステロイド局注などでコントロール不十分な症例に対しての内服薬(synthetic DMARD)や注射薬(biologic DMARD)の治療法を提示している。内服薬は、通常の非ステロイド系消炎鎮痛薬に加え、メトトレキサートとアプレミラスト(商品名:オテズラ錠)が、乾癬性関節炎に使われる代表的な薬剤である。メトトレキサートは、骨髄抑制と肝障害が頻度の高い注意すべき副作用で、間質性肺炎やHBV再活性化なども頻度は少ないが注意しなくてはならない。アプレミラストは、消化器症状、頭痛の頻度の高い副作用ではあるが、重篤な症状は少ないので高齢者にも使いやすい。新規内服薬としてJAK阻害剤が登場したほか、乾癬性関節炎の関節変形の進行を抑制するには生物学的製剤が中心的に使用されている。生物学的製剤は、TNF、IL-17に対する抗体製剤が使われることが多いが、ほかにIL-23の標的薬もある。4 今後の展望乾癬の治療薬の進歩は目覚ましく、生物学的製剤やJAK阻害剤内服薬が、適応拡大も含めて今後も新規に参入してくると思われる。5 主たる診療科皮膚科、リウマチ内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報日本乾癬患者連合会(患者とその家族および支援者の会)1)山本俊幸. Visual Dermatology. 2017;16:690-693.2)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2017;44:e121.3)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2018;45:273-278.4)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2016;43:1193-1196.5)山本俊幸. 日皮会誌. 2022;132;19-25.公開履歴初回2025年1月8日

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高リスクくすぶり型多発性骨髄腫、ダラツムマブ単剤が有効/NEJM

 くすぶり型多発性骨髄腫は、活動性多発性骨髄腫の無症候性の前駆疾患であり、現在の標準治療は経過観察であるが、活動性多発性骨髄腫への進行リスクが高い患者では早期治療が有益な可能性があるとされる。ギリシャ・アテネ大学のMeletios A. DimopoulosらAQUILA Investigatorsは「AQUILA試験」において、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の治療では注意深い経過観察と比較して抗CD38モノクローナル抗体ダラツムマブ皮下注単剤療法が、活動性多発性骨髄腫への進行または死亡のリスクを有意に改善し、全生存率も良好で、予期せぬ安全性に関する懸念も認めないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年12月9日号で報告された。23ヵ国の無作為化第III相試験 AQUILA試験は、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の治療におけるダラツムマブの有用性の評価を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年5月に日本を含む23ヵ国124施設で患者を登録した(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。 年齢18歳以上、過去5年以内に国際骨髄腫作業部会(IMWG)の基準でくすぶり型多発性骨髄腫との確定診断を受け、活動性多発性骨髄腫への進行リスクが高く、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS、0~5点、点数が高いほど機能障害が重度)のスコアが0または1点の患者を対象とした。 これらの患者を、ダラツムマブの皮下投与を36ヵ月間で39サイクル受けるか、あるいは病勢の進行が確定するまで投与を継続する群、または注意深い経過観察を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。注意深い経過観察群では、疾患特異的治療を受けず、36ヵ月間あるいは病勢が進行するまで観察を継続した。 主要評価項目は無増悪生存(活動性多発性骨髄腫への進行または全死因死亡)とし、IMWG基準に従って独立審査委員会が評価した。完全奏効以上、最良部分奏効以上の割合も良好 390例を登録し、ダラツムマブ群に194例(年齢中央値63.0歳[範囲:31~86]、男性49.0%)、注意深い経過観察群に196例(64.5歳[36~83]、47.4%)を割り付けた。くすぶり型多発性骨髄腫の初回診断から無作為化までの期間中央値は0.72年(範囲:0~5.0)であった。ダラツムマブの投与期間中央値は35.0ヵ月(0~36.1)、サイクル数中央値は38だった。 追跡期間中央値65.2ヵ月の時点で、活動性多発性骨髄腫への進行または全死因死亡に至ったのは、経過観察群が99例(50.5%)であったのに対し、ダラツムマブ群は67例(34.5%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.001)。5年無増悪生存率は、ダラツムマブ群63.1%、経過観察群40.8%であった。 病勢進行までの期間中央値は、それぞれ44.1ヵ月および17.8ヵ月(HR:0.51、95%CI:0.40~0.66)であり、完全奏効以上(厳格な完全奏効+完全奏効)は、17例(8.8%)および0例(0%)、最良部分奏効以上(厳格な完全奏効+完全奏効+最良部分奏効)は、58例(29.9%)および2例(1.0%)だった。 41例が死亡し、内訳はダラツムマブ群15例(7.7%)、経過観察群26例(13.3%)であった(HR:0.52、95%CI:0.27~0.98)。5年全生存率は、それぞれ93.0%および86.9%だった。重篤な有害事象は29.0%、投与中止は5.7% Grade3または4の有害事象は、ダラツムマブ群40.4%、経過観察群30.1%で発現し、最も頻度が高かったのは高血圧で、それぞれ5.7%および4.6%であった。重篤な有害事象は、29.0%および19.4%で発現し、最も高頻度だったのは肺炎で、3.6%および0.5%だった。ダラツムマブ群では、11例(5.7%)で投与中止に至った有害事象を認めた。 Grade3または4の感染症は、ダラツムマブ群16.1%、経過観察群4.6%で発現した。ダラツムマブ群では、32例(16.6%)で投与に関連した全身反応が報告され(Grade3または4は2例[1.0%])、53例(27.5%)で注射部位の局所反応(Grade3または4はなし)を認めた。ダラツムマブ群の18例(9.3%)および経過観察群の20例(10.2%)で2次原発がんが発生した。ダラツムマブによる新たな安全性に関する懸念は確認されなかった。 著者は、「これらの知見は、ダラツムマブは臓器障害の進行を遅らせるか、あるいは完全に防止し、活動性多発性骨髄腫への進行を抑制する可能性を示唆し、深い寛解を達成しない場合でも臨床的な有益性をもたらす可能性があると考えられる」「ダラツムマブをベースとした併用療法などの治療戦略がより適切かは現時点では不明だが、先行試験と本試験の結果を統合すると、本疾患の治療にダラツムマブ単剤療法を一定期間使用することが支持される」としている。

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多発血管炎性肉芽腫症〔GPA:granulomatosis with polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)の主要疾患の1つで、血清中に出現するANCAと小型血管(臓器内動静脈、細動静脈、毛細血管)の肉芽腫性炎を特徴とする。罹患血管には免疫複合体の沈着はほとんどみられない(pauci-immune)。■ 疫学GPAは国が定める指定難病で、2022年度末の指定難病受給者証所持者数は3,437人であり、登録患者数は徐々に増加している。世界的には100万人当たり96.8人の患者数が報告されている。GPAは、日本を含むアジアよりも欧州、とくに緯度が高い地域で多くみられる傾向がある。■ 病因GPAは他の自己免疫性リウマチ性疾患と同様に、遺伝的要因と環境要因が相まって発症すると考えられている。ヨーロッパおよび北米におけるヨーロッパ系集団を対象としたゲノムワイド関連解析では、HLA-DPA1、DPB1遺伝子領域との関連が報告されており、臨床分類よりもPR3-ANCAとの関連がより強くみられる。日本人集団においてもDPB1*04:01の増加傾向が認められている。非HLA領域では、SERPINA1、PRTN3がヨーロッパ系集団で、ETS1の発現低下に関連する単塩基バリアントが日本人集団で関連することが報告されている。■ 症状GPAは発熱・倦怠感、体重減少、筋痛、関節痛などの全身症状と多彩な臓器症状を呈する疾患である。臓器病変は、眼(34~61%)、耳・鼻・咽喉頭(83~99%)、肺(66~85%)、心臓(8~25%)、消化管(6~13%)、腎臓(66~77%)、皮膚(33~46%)、中枢神経(8~11%)、末梢神経(15~40%)に出現する。眼病変、上・下気道病変、腎病変がとくに重要である。眼病変として、結膜炎、上強膜炎、強膜炎、眼球突出、鼻病変として鼻閉・膿性鼻汁・鼻出血、鼻粘膜の痂疲・潰瘍、鞍鼻、耳病変として滲出性または肉芽腫性中耳炎、咽喉頭病変として口腔内潰瘍、声門下狭窄による嗄声・呼吸困難がみられる。肺では肺肉芽腫性結節、肺胞出血、間質性肺炎がみられ、咳・息切れ・喀血などを呈する。腎では壊死性半月体形成性糸球体腎炎が典型的であり、しばしば急速進行性糸球体腎炎として発症する。■ 予後国内の前向きコホート研究では、治療開始後6ヵ月までの死亡率は1.9%で、治療開始後6ヵ月までに末期腎不全に至ったのは3.7%あった。中長期的には、治療に関連した副作用・合併症が問題となる。欧州における検討では、AAV患者を平均7.3年追跡すると65.6%の患者で治療に関連した副作用・合併症(高血圧、骨粗鬆症、糖尿病、心血管イベント、白内障など)がみられ、グルココルチコイドの早期減量・中止が重要と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)国内における診断には指定難病の診断基準が広く用いられている。国際的には、米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会が共同で開発した分類基準(表1)を参考に診断することが多い。疾患特異的自己抗体として抗プロテイナーゼ3(抗PR3)抗体(PR3-ANCA)が知られている。活動期にはCRPが陽性となることが多い。GPAでみられる臓器病変を想定した問診と身体診察に血液検査と画像検査を組み合わせて診断および罹患臓器を検索し、活動性を評価する。表1 GPAの分類基準分類基準を使用する前に以下を考慮する。小・中型血管炎と診断された患者を多発血管炎性肉芽腫症に分類するために、本分類基準を適用すべきである。本分類基準を適用する前に、血管炎類似疾患の除外をすべきである。画像を拡大する10項目の中から該当項目のスコアを合計し、5点以上であれば多発血管炎性肉芽腫症に分類する。(難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班.多発血管炎性肉芽腫症の分類基準[2024年9月20日アクセス]より引用)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ANCA関連血管炎の中でGPAと顕微鏡的多発血管炎(MPA)の標準治療は同一であり、難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班が作成した診療ガイドラインに示されている。標準治療は、寛解導入治療と寛解維持治療で構成される。さらに、長期予後を改善するために、合併症リスクを最小限に抑える必要がある。寛解導入治療ではリツキシマブまたはシクロホスファミドのいずれかを、グルココルチコイドまたはアバコパン(商品名:タブネオス)またはその両者と併用する。リツキシマブはキメラ型抗CD20抗体で、375mg/体表面積1m2を週に1回、4週連続で投与する。シクロホスファミドは15mg/kgを0、2、4、7、10、13週に点滴静注で投与するパターンが標準だが、投与量は年齢と血清クレアチニン濃度で調整し(表2)、投与回数と投与間隔は原疾患の重症度と安全性のバランスで調整する。シクロホスファミドは経口投与(1~2mg/kg/日)も可能だが、副作用の観点から点滴静注が望ましい。表2 年齢および腎機能によるシクロホスファミド投与量の調節画像を拡大する(Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.より引用)アバコパンは経口の補体C5受容体阻害薬で、1回30mgを1日2回朝・夕に内服する。アバコパンは原則的にグルココルチコイドと併用する。アバコパンは腎機能改善に有用である可能性が示されている。アバコパンの副作用として重症肝機能障害(胆道消失症候群を含む)が報告されているので、血管炎の治療に精通した施設での使用が望ましい。標準的な寛解導入療法で使用するグルココルチコイドの投与量は2つの臨床試験結果から、以前よりも大幅に減量された(表3)。表3 寛解導入治療におけるグルココルチコイド減療法画像を拡大する(Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.およびFuruta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.より引用)血清クレアチニン濃度が5.7mg/dLを超える最重症の腎障害を伴うGPAでは、グルココルチコイドとシクロホスファミドに血漿交換が併用される場合がある。MPAおよびGPAに対する血漿交換のメタ解析から、欧州リウマチ学会の推奨では血清クレアチニン濃度が3.4mg/dLを超える腎障害で血漿交換を考慮する場合があるとされている。リツキシマブにより寛解導入した場合には、治療開始後6ヵ月から寛解維持治療に移行し、シクロホスファミド点滴静注の場合には、最終投与後3~4週間で寛解維持治療に移行する。寛解維持治療はリツキシマブまたはアザチオプリンを用いる。寛解維持療法におけるリツキシマブ投与方法は、375mg/体表面積1m2を6ヵ月ごと、500mg/回を6ヵ月ごと、1,000mg/回を4ヵ月または6ヵ月ごとなどがある。アザチオプリンは1~2mg/kg/日を使用し、開始前にNUDT15遺伝子多型検査を実施する。寛解維持治療における有効性はアザチオプリンよりもリツキシマブが有意に優れている。GPAはMPAよりも再発しやすい。寛解維持治療中は症状および検査をモニタリングし、早期に再発の兆候を把握する。腎病変は症状なく再発することがあるため、尿検査を定期的に実施する。寛解維持治療期間は、リツキシマブでは1年6ヵ月よりも4年、アザチオプリンでは1年よりも2年6ヵ月以上が有意に再発を防ぐことが示されている。個々の患者における寛解維持治療期間は、治療開始前の疾患活動性、治療経過、再発歴、合併症を参考に検討する。4 今後の展望GPAの分類基準が改訂され、診断に関する検討は一段落したと考えられる。治療に関する課題として、アバコパンを寛解導入に使用する際に適切なグルココルチコイドの使用方法、リツキシマブの寛解維持療法の標準化、アバコパンの安全性、新規の抗B細胞治療などが挙げられる。5 主たる診療科膠原病リウマチ内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発血管炎性肉芽腫症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(患者とその家族および支援者の会)膠原病サポートネットワーク(患者とその家族および支援者の会)1)針谷正祥 責任編集. Evidence Base Medicineを活かす膠原病・リウマチ診療. メジカルビュー社.2020.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 針谷正祥ほか編集. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023. 診断と治療社.2023.3)Hellmich B, et al. Ann Rheum Dis. 20242;83:30-47.4)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.5)Walsh M, et al. N Engl J Med. 2020;382:622-631.6)Furuta S, et al. JAMA. 2021;325:2178-2187.公開履歴初回2024年12月31日

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高齢者への2価RSVワクチン、入院/救急外来受診リスクを低減

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価融合前F蛋白ベース(RSVpreF)ワクチンは、60歳以上の高齢者においてRSV関連下気道疾患による入院および救急外来の受診リスクを低減させたことを、米国・カイザーパーマネンテ南カリフォルニア病院のSara Y. Tartof氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年12月13日号掲載の報告。 RSV感染症は主に幼児・小児の感染症とされているが、高齢者が感染すると重大な転機に至ることがある。しかし、臨床試験では75歳以上の高齢者や併存疾患を有する患者に対する有効性、さらにRSV関連下気道疾患による入院や救急外来受診の予防効果は十分に明らかになっていない。そこで研究グループは、高齢者におけるRSVpreFワクチンの有効性を評価するために後ろ向き症例対照研究を行った。対象は、2023年11月24日~2024年4月9日にカイザーパーマネンテ南カリフォルニア病院に下気道疾患で入院または救急外来を受診してRSV検査を受けた60歳以上の患者であった。 下気道疾患に罹患する21日以上前にRSVpreFワクチンを接種した患者はワクチン接種済みとみなし、RSVpreFワクチンではないRSVワクチンの接種者は除外された。対照は、2つの定義が事前に規定された。(1)厳密な対照群:RSV陰性、ヒトメタニューモウイルス陰性、SARS-CoV-2陰性、インフルエンザ陰性で、ワクチンで予防できない原因による下気道疾患(2)広範な対照群:RSV陰性のすべての下気道疾患 主な結果は以下のとおり。・解析には、RSV検査結果のある7,047例の入院または救急外来受診患者が含まれた。平均年齢は76.8(SD 9.6)歳、女性は3,819例(54.2%)、免疫不全は998例(14.2%)、併存疾患を1つ以上有していたのは6,573例(93.3%)であった。最も多い診断は肺炎であった。・RSV陽性は623例(8.8%)であった。RSV陰性(=広範な対照群)は6,424例(91.2%)で、そのうち厳密な対照群に該当するのは804例であった。・RSVpreFワクチンを接種していたのは、全体では3.2%で、RSV陽性群は0.3%(2例)、厳密な対照群は3.6%(29例)、広範な対照群は3.4%(221例)であった。・RSV陽性群と厳密な対照群を比較した解析では、調整後のワクチンの有効性は91%(95%信頼区間[CI]:59~98)と推定された。・RSV陽性群と広範な対照群を比較した解析では、調整後のワクチンの有効性は90%(95%CI:59~97)と推定された。・重度の下気道疾患による入院および救急外来受診に対する調整後のワクチンの有効性は89%(95%CI:13~99)と推定された。 これらの結果より、研究グループは「RSVpreFワクチン接種は、60歳以上の成人(大部分は75歳以上で合併症を有する)において、RSV関連下気道疾患による入院および救急外来受診に対する予防効果を示した。これらのデータは、高齢者におけるRSVpreFワクチンの使用を支持するものである」とまとめた。

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第223回 押さえておきたい令和7年度スタートの「かかりつけ医機能報告制度」と「新たな地域医療構想」

毎週、さまざまな医療ニュースをお届けしていますが、今回は、これまでの厚生労働省の政策から、今後の医療のあり方などを考えてみたいと思います。2025年は、団塊の世代が全員75歳以上となり、全人口の18%が後期高齢者となる超高齢社会の節目となる年です。15年前の2010年には、死亡者数は119.7万人でしたが、高齢化の進展により死亡者数はさらに増加すると予想されていました(2023年には157.6万人)。全日本病院協会の「病院のあり方に関する報告書」に目を通すと、当時から人口減少・少子高齢社会の急速な進展で、生産年齢人口、労働力人口の減少で看護師や介護職員の不足が予見されていました。このため、政府は平成26年(2014年)に医療介護総合確保促進法を制定し、都道府県において、病床の機能ごとの将来の必要量など、地域の医療提供体制について、二次医療圏ごとに将来のあるべき姿として「地域医療構想」を策定して、バランスのとれた医療機能の分化・連携を進めてきました。成功したかのように思えた政府の計画人口動態などから、「医療需要は2025年がピークとなり、その後は減少傾向、介護需要は2035年がピーク」と導き出されましたが、東京や大阪など大都市圏では介護需要のピークが2040年になるなど地域差も見出されました。さらに入院医療においては「肺炎、骨折、脳卒中・虚血性心疾患、がん、糖尿病」が、外来医療では「循環器系疾患、筋骨格系疾患、神経系疾患、眼および付属器疾患」で患者数の増加が見込まれました。「病院のあり方に関する報告書(2015-2016年版)」では、2015年当時の病床数は125.1万床でしたが、「2025年の時点で152万床程度の病床が必要」との予測から、「病院のベッド数の不足などから死に場所に困る者が年間50万人にも上るのでは」と懸念されていました(当時は看取りの場が病院・診療所が約8割と大半を占めていたため)。このため、厚労省は平成26年(2014年)に医療法を改正し、2025年に向けて地域医療構想の実現を、各都道府県に働きかけてきました。毎年、病床を有する医療機関に対して、病床機能報告を行わせて、医療機関は病棟単位で現在の病床機能と今後の方向性などの報告を行い、それを地域の実情に応じて病床機能の転換、再編などについて協議をしてきました。あわせて、一般病床において医療資源投入量の少ない患者の在宅医療や介護施設への移行などを通じて、2025年に119.1万床となることを目標としていました。結果として、「病床機能報告上の病床数について、2015年から2023年にかけて、125.1万床から119.2万床になり、2025年の必要病床数である119.1万床と同程度の水準」となり、「2025年の必要病床数の方向性に沿って、全体として地域医療構想の進捗が認められる」とほぼ成功したと判断しています。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染爆発で明らかになったように、感染患者の急増によって、救急医療がパンクしたのは事実ですが、政府がこのときに行った規制改革でICTなどを用いた遠隔診療の普及、ナーシングホームでの在宅医による看取りなどが急増したのも事実です。このため、COVID-19が落ち着いた現在では、むしろ患者不足によって病床稼働率が低下し、多くの医療機関や介護施設が赤字に苦しんでいます。病院や介護施設では、患者や利用者が減少しても、看護師やリハビリ職員などの専門職を簡単には解雇できないため、人件費の負担が大きくなり、経営状況の悪化に拍車をかけているのです。労働力不足の中での医療の未来図今後は、人口構造がさらに変化して後期高齢者が増え、労働者が不足する中で、医療や介護の担い手に対するニーズは増え続けるのにかかわらず、弾力的な対応ができません。COVID-19の流行が落ち着いた現在、厚労省は2040年に向けて新たな地域医療構想を策定するため、検討会での議論を経て、12月18日に「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」が公表されました。2024年の骨太の方針に沿った形で「2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病床機能の分化・連携に加えて、医療機関機能の明確化、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方等について、法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得る」とされています。具体的には、さらなる医療機関の機能分化や連携強化、在宅医療の推進、ICTの活用のほか、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)取組みの推進が含まれます。とくにACPについては2024年の診療報酬改定で、入院料の通則に人生の最終段階における意思決定支援と身体的拘束の最小化の取り組みを要件化しています。通則に盛り込まれたということは、実施しなければ、入院料の算定は認めないということであり、多くの入院医療機関は対応が必須となります。かかりつけ医機能報告制度の趣旨と狙いこの「新たな地域医療構想」に向けて用いられるのが、「かかりつけ医機能報告制度」です。これについては、12月22日に開催された「日本在宅療養支援病院連絡協議会」の第2回研究会(2024年12月22日)で、厚労省の高宮 裕介氏(大臣官房参事官救急・周産期・災害医療等、医療提供体制改革担当)の基調講演「かかりつけ医機能報告制度について」がYouTubeで公開されています。解説を聞きましたが、非常に詳細でわかりやすかったので視聴をお勧めします。この中でわかったことは、かかりつけ医機能の報告自体が目的ではなく、報告の結果を基に地域の協議の場で、医療関係者や自治体などともに在宅医療や時間外対応などの対応のほか、介護施設との連携などが図られることが理解できました。現在、在宅医療を行っている在宅医療機関としては、在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院がありますが、最近は後者が増えており2,021施設になりました。日本全国で病院数は8,097施設なので、約25%は在宅医療を実施しており、今後も在宅医療ニーズが増えるのに応じて、急性期病院であっても中小規模の病院がさらに在宅医療に参入することが予想されます。日本在宅療養支援病院連絡協議会は、病院勤務医には馴染みがない訪問診療について、会員向けに在宅医療塾のほか、訪問栄養食事指導の講習会などを行うとのことです。ぜひご参考にされてください。2024年もご愛読ありがとうございました。また、2025年もよろしくお願いします。参考1)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省)2)かかりつけ医機能報告制度(同)3)かかりつけ医機能報告制度について研修・説明会(同)4)地域医療構想に関する主な経緯や都道府県の責務の明確化等に係る取組・支援等(同)5)病院のあり方に関する報告書[2015-2016年版](全日病)6)日本在宅療養支援病院連絡協議会

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胃ろうは必要? 希望する家族・ためらう医療者【こんなときどうする?高齢者診療】第8回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年11月に扱ったテーマ「ACPとよりよい意思決定のためのコミュニケーションスキル」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。高齢者診療には、延命治療や心肺蘇生、生活場所の変更といった大きな決断がつきものです。今回はサロンメンバーが経験した胃ろう造設に関するケースを例に、よりよい意思決定支援につながる医療コミュニケーションのコツを探ります。85歳男性。進行した認知症により経口摂取が難しくなり、誤嚥性肺炎を繰り返し、栄養状態の悪化、体重減少が進んでいる。現在、本人の意向は確認できないが、家族は栄養状態の回復と誤嚥性肺炎の予防のために胃ろう造設を強く希望している。医療チームは、胃ろう造設による栄養状態回復や誤嚥予防が望めないことや造設によるデメリット・リスクが大きいと考え、家族の希望には添えないのではないかと悩んでいる。医療コミュニケーションのための3ステージ意思決定支援(Goals of Care)の場面では、患者や家族と話し合うための準備が不可欠です。米国コロンビア大学の中川俊一氏が提唱した3ステージプロトコル1)は、意思決定支援において多くの医療者が実践できるアプローチです。意思決定のプロセスを3つのステージに分けて順を追って進めることで、患者の価値観と家族のリソースに適した落としどころにたどり着きやすくなります。老年医学の5つのMも活用すると、以下のようになります。(1)病状説明5のM(Matters most、Mind、Mobility、Medication、Multi-complexity)を活用し、包括的に現状理解を深め、病状や予後を患者・家族に共有する(2)治療ゴールの設定患者・家族と治療・介入のゴールを設定する(3)治療オプションの相談2で設定したゴールに最も適したオプション(落としどころ)を提示・相談するひとつずつ見ていきましょう。病状説明のステージのゴールは、関係者全員(医療者・患者・家族など)が現状認識を共有することです。皆が持っている情報を統一することで、予後予測や治療への期待のズレを解消します。ここでのポイントは、現在の病状評価のプロセスに5つのMを活用すること。診断は、①情報収集②情報の統合と解釈③仮説としての暫定診断を繰り返す作業です。5つのMを用いて高齢者に頻度の高い事象の情報収集をすることで、患者の実態をより的確に把握し、診断の精度を高めることができます。それにより予後予測や今後の提案の質も高まります。治療ゴール設定のステージは、前の段階で共有した病状・現状認識をもとに、患者の価値観や優先順位を踏まえて、今後の治療やケアのゴールを設定するステップです。ここでのポイントは、「どのようなゴールを望むか」に加えて、「そのゴールが達成できない場合、何が許容できて、何が許容できないのか」を確認することです。信頼関係が築けている場合は、「どのような状態になったら、自分にとって耐え難い状況だと思いますか?」「もしこうなったら死んだほうがましという状況は何ですか?」といった質問も、患者が心の中で抱えている本音を引き出すきっかけになることがあります。患者本人の意向を直接聞くことができない場合には、「もし本人が現在の状況を理解していたら、何を望み、どのように感じているだろうか」といった問いを家族や親しい人にしてみることが必要です。最後のステージでは、これまでに明らかになった患者の価値観や治療ゴール、家族の意向を踏まえ、医療チームとしての推奨方針を明確に提示します。この段階では、選択肢ごとのメリット・デメリットや実現可能性を具体的に説明しながらも、患者にとって最も価値観に沿った治療オプションがどれであるのかを医療のプロとして明示しましょう。そして、その推奨に対する家族の意見や懸念を丁寧に聞き取り、必要に応じて選択肢を調整しながら、最終的に合意された治療方針を共有します。ステージを1つずつクリアしよう!今回のケースでは、家族は患者の存命を願うあまり、胃ろう造設による栄養状態の改善や誤嚥性肺炎の予防という、実は存在しないかもしれないメリットに注目している可能性があります。一方で、医療者は、胃ろう造設による経管栄養で期待できることの限界やリスクを理解しており、造設がもたらすデメリットやネガティブな転帰を懸念しています。この状況では、家族と医療者の間に認識の違いがあることが、意思決定を難しくしているのかもしれません。この場合はステージ1に戻りましょう。もう一度、現在の病状の共有(進行した認知症で、認知機能の回復が見込めない状態。その結果としての嚥下機能低下、合併症としての誤嚥性肺炎)と、治療的介入に期待できることの限界(進行した認知症患者に対しての胃ろう・経管栄養による誤嚥予防のエビデンスはないこと、栄養状態の改善に関するエビデンスも乏しいこと)などを共有し、家族と医療者の認識の違いを解消する必要があります。ステージ1をクリアしなければ次に進めないのです。現状共有をし直した後、ステージ2で、患者の希望や意向を踏まえて、再度治療ゴールを設定します。患者は認知機能の低下により、胃ろう造設に関する意思決定能力がないと判断されるため、「もし患者が現在の状況を理解できたとしたら、どのような希望や意向を持つだろうか」という視点で、患者の価値観を深く掘り下げていきます。ステージ1まで戻ることで、ステージ2で家族の意向が変わる可能性が生まれ、それに応じてステージ3で医療チームの推奨も変化し、最終的に患者の価値観に最も合った治療方針を見つけることができるでしょう。いかがでしょうか?3ステージプロトコルを使って対話を構成することで、意思決定に関わるコミュニケーションは格段にスムーズになるはずです。私を含めて、医師は対話のスキルを磨くことに苦手意識を持つ方が多いかもしれませんが、コミュニケーションは練習すれば必ず上達するスキルです。ぜひ、一緒に練習していきましょう! コミュニケーション向上の7ステップはオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、コミュニケーションの練習を効率的かつ効果的に行うための7ステップを解説。外科的介入のときに押さえておきたい4つのゴールなどのすぐに活用できるトピックがご覧いただけます。参考1)中川俊一. 米国緩和ケア専門医が教える あなたのACPはなぜうまくいかないのか? . 2024.メジカルビュー社定価2,970円(税込)判型A5判頁数240頁発行2024年9月著者中川 俊一ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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口の中でグミを細かくできないと要介護や死亡のリスクが高い―島根でのコホート研究

 口の中の健康状態が良くないこと(口腔の不健康状態)が、要介護や死亡のリスクの高さと関連のあることを示すデータが報告された。また、それらのリスクと最も強い関連があるのは、グミを15秒間咀嚼してどれだけ細かく分割できるかという検査の結果だという。島根大学研究・学術情報本部地域包括ケア教育研究センターの安部孝文氏らが、島根県歯科医師会、国立保健医療科学院と共同で行ったコホート研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」に10月17日掲載された。 近年、口腔機能の脆弱状態を「オーラルフレイル」と呼び、全身の健康に悪影響を及ぼし得ることから、その予防や改善の取り組みが進められている。また75歳以上の高齢者に対しては、後期高齢者歯科口腔健康診査が全国的に行われている。安部氏らは島根県内でのその健診データを用いて、口腔機能の脆弱を含めた口腔の不健康状態と要介護および死亡リスクとの関連を検討した。 2016~2021年度に少なくとも1回は後期高齢者歯科口腔健康診査を受けた島根県内在住の後期高齢者から、ベースライン時点で介護保険を利用していた人とデータ欠落者を除外した2万2,747人(平均年齢78.34±2.89歳、男性42.74%)を死亡リスクとの関連の解析対象とした。介護保険を利用することなく死亡した人も除外した2万1,881人(同78.31±2.88歳、男性41.93%)を、要介護リスクとの関連の解析対象とした。なお、要介護の発生は、要介護度2以上と判定された場合と定義した。 ベースライン時に、13項目の指標(残存歯数、主観的および客観的咀嚼機能、歯周組織の状態、嚥下機能、構音障害、口腔乾燥など)により、口腔の不健康状態を評価。このうち、客観的咀嚼機能については、グミを口に含んで15秒間でできるだけ細かく咀嚼してもらい、分割できた数の四分位数により4段階に分類して評価した。22個以上に分割できた最高四分位群(上位4分の1)を最も咀嚼機能が優れている群とし、以下、13~21個の群、4~12個の群の順に、咀嚼機能が低いと判定。3個以下だった最低四分位群(下位4分の1)を最も咀嚼機能が低い群とした。 要介護または死亡の発生、もしくは2022年3月31日まで追跡した結果(平均追跡期間は死亡に関しては42.6カ月、要介護に関しては41.4カ月)、1,407人が死亡し、1,942人が要介護認定を受けていた。口腔の不健康状態との関連の解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、疾患〔高血圧、歯周病、脳血管疾患、肺炎、骨粗鬆症・骨折、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病など〕の既往歴、およびそれらに基づく傾向スコア)を統計学的に調整した。 その解析の結果、口腔の不健康状態に関する13項目の評価指標の全てが、死亡リスクと有意に関連していることが明らかになった。例えば残存歯数が28本以上の群を基準として、0本の群は63%リスクが高く(ハザード比〔HR〕1.63〔95%信頼区間1.27~2.09〕)、客観的咀嚼機能の最高四分位群を基準として最低四分位群は87%ハイリスクだった(HR1.87〔同1.60~2.19〕)。要介護リスクについても、口腔乾燥と口腔粘膜疾患を除く11項目が有意に関連していた。例えば残存歯数が0本ではHR1.50(1.21~1.87)、客観的咀嚼機能の最低四分位群はHR2.25(1.95~2.60)だった。 13項目の口腔の不健康状態の指標ごとの集団寄与危険割合を検討したところ、グミで評価した客観的咀嚼機能の低下が、要介護および死亡の発生との関連が最も強いことが分かった。例えば客観的咀嚼機能の最低四分位群の場合、死亡リスクに対する寄与割合が16.47%、要介護リスクに対する寄与割合は23.10%だった。 本研究により、口腔の不健康状態のさまざまな評価指標が要介護や死亡リスクと関連のあることが明らかになった。著者らは、「高齢者の口の中の健康を良好に保つことが、要介護や死亡リスクを抑制する可能性がある。研究の次のステップとして、歯科治療による介入効果の検証が求められる」と述べている。

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第222回 インフル・コロナ同時流行、対症療法薬不足の恐れ/厚労省

<先週の動き>1.インフル・コロナ同時流行、対症療法薬不足の恐れ/厚労省2.電子処方箋で誤表示トラブル、24日まで発行停止で一斉点検/厚労省3.帯状疱疹ワクチン、2025年度から65歳定期接種へ2025年4月開始/厚労省4.医師偏在対策で地方勤務医に手当増額へ、2026年度から/厚労省5.進む医療の「在宅シフト」在宅患者は過去最多、入院は減少/厚労省6.高額療養費制度の見直し、来年夏から70歳以上の外来2千円増/厚労省1.インフル・コロナ同時流行、対症療法薬不足の恐れ/厚労省インフルエンザの流行が全国的に拡大している。厚生労働省によると、2024年12月9~15日までの1週間に、全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの患者数は9万4,259人、1医療機関当たり19.06人となり、前週比110.9%増と8週連続で増加。40都道府県で注意報レベルの10人を超え、大分県(37.22人)、福岡県(35.40人)では警報レベルの30人を超えた。全国の推計患者数は約71万8,000人に上る。札幌市ではインフルエンザ警報が発令され、小中学校で学級閉鎖などの措置が相次いでいる。一方、新型コロナウイルスの感染者数も3週連続で増加。同期間の全国の新規感染者数は19,233人、1医療機関当たり3.89人(前週比1.27倍)で、44都道府県で増加。北海道(11.93人)、岩手県(10.51人)、秋田県(9.29人)で多く、沖縄県(1.09人)、福井県(1.49人)、鹿児島県(1.51人)で少ない。新規入院患者数も1,980人(前週比1.21倍)と増加傾向にある。北海道では新型コロナウイルスの患者が2024年度最多を更新し、インフルエンザとの同時流行が懸念されている。さらに、マイコプラズマ肺炎や手足口病の報告も過去5年間に比べて多く、医療現場では、発熱外来がひっ迫し、受診を断らざるを得ない状況も発生している。こうした状況を受け、厚労省は、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの対症療法薬(解熱鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬、トラネキサム酸)の需給が逼迫する恐れがあるとして、医療機関や薬局に対し、過剰な発注を控え、必要最小限の処方・調剤を行うよう要請した。具体的には、医療機関には治療初期からの長期処方を控え、必要最小日数での処方や残薬の活用を、薬局には地域での連携による調剤体制の確保や代替薬の使用検討を求めている。厚労省は対症療法薬の増産を製薬会社に依頼しているが、増産分の出荷前に感染症が急激に流行すれば、需給が逼迫する可能性もある。現時点では、在庫放出などで昨年同期の1.2倍の出荷量の調整が可能だが、今後の感染状況によっては不足する懸念もあるため、安定供給されるまでは過剰発注を控えるよう呼びかけている。専門家は、年末年始は人の移動や接触機会が増え、感染がさらに広がる可能性があると指摘。とくに今年は新型コロナ流行でインフルエンザへの免疫がない人が多いと考えられ、流行のピークは来年1月頃と予測されている。手洗いや咳エチケット、マスク着用、ワクチン接種など、基本的な感染対策の徹底が重要となる。また、小児科ではインフルエンザ以外にも感染性胃腸炎や溶連菌感染症なども増えており、注意が必要だ。参考1)インフルの定点報告数が注意報レベルに 感染者数は9万人超え(CB news)2)コロナやインフルの対症療法薬、過剰な発注抑制を 需給逼迫の恐れ 厚労省が呼び掛け(同)3)コロナ感染者3週連続増 前週比1・27倍、厚労省発表(東京新聞)4)インフルエンザ患者数 前週の2倍以上 40都道府県が“注意報”(NHK)5)新型コロナ患者数 3週連続増加 “冬休み 感染広がる可能性も”(同)6)今般の感染状況を踏まえた感染症対症療法薬の安定供給について(厚労省)2.電子処方箋で誤表示トラブル、24日まで発行停止で一斉点検/厚労省厚生労働省は、マイナ保険証を活用した「電子処方箋」システムにおいて、医師の処方と異なる医薬品が薬局側のシステムに表示されるトラブルが7件報告されたことを受け、12月20~24日までの5日間、電子処方箋の発行を停止し、全国の医療機関・薬局に対し一斉点検を実施する。電子処方箋は、処方箋情報を電子化し、複数の医療機関や薬局がオンラインで共有できるサービス。2023年1月から運用が開始され、重複投薬や飲み合わせの悪い薬の処方を防ぎ、薬局での待ち時間短縮などのメリットがあるとされる。一方で、2024年11月時点で導入率は病院で3.0%、医科診療所で7.6%、薬局で57.1%に止まっている。今回報告された7件のトラブルは、いずれも医療機関や薬局におけるシステムの設定ミスが原因で、医師が処方した薬とは別の薬が薬局の画面に表示されていた。薬剤師らが気付いたため、誤った薬が患者に渡ることはなかったが、健康被害が発生する可能性もあったと福岡 資麿厚生労働相は指摘している。一斉点検期間中、医療機関は紙の処方箋で対応し、点検が完了した医療機関から順次、電子処方箋の発行を再開する。厚労省は、点検が完了した医療機関をホームページで公表する予定。また、医療機関に対し、医薬品マスタの設定確認や、特殊な事例を除きダミーコードを設定しないよう呼びかけているほか、薬局に対しては、調剤時に必ず薬剤名を確認するよう求めている。厚労省は、電子処方箋のベンダーに対しても提供するコードの使用について報告を求め、その結果を公表する。2024年11月時点で、電子処方箋を発行している医療機関は2,539施設、同月の推定処方箋枚数約7,500万枚のうち、電子処方箋は約11万枚(約0.15%)だった。政府は2024年度中に、おおむねすべての医療機関と薬局に電子処方箋を導入する目標を立てていたが、今回のトラブルを受け、目標達成に影響が出る可能性もある。厚労省は、国民に必要な医薬品を確実に届けられるよう、システムの安全性確保に万全を期すとしている。参考1)電子処方箋システム一斉点検の実施について(厚労省)2)電子処方箋の導入薬局で「処方と異なる医薬品」が表示されるトラブル、福岡厚労相「健康被害が発生しうる」(読売新聞)3)マイナ保険証活用「電子処方箋」でトラブル 20日から発行停止(NHK)4)電子処方箋システム、一斉点検へ 薬局で誤った薬の表示トラブル7件(朝日新聞)3.帯状疱疹ワクチン、2025年度から65歳定期接種へ2025年4月開始/厚労省厚生労働省は、2025年4月から帯状疱疹ワクチンについて原則65歳を対象とした定期接種とする方針を決定した。高齢者に多い帯状疱疹の予防と重症化を防ぐことが目的で、接種費用は公費で補助される。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染で免疫が低下した60~64歳も対象となる。帯状疱疹は、水疱瘡と同じウイルスが原因で、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。50歳以上でかかりやすく、患者は70代が最も多い。皮膚症状が治まった後も、神経痛が数年間残るケースもあり、80歳までに3人に1人が発症するという研究データもある。現在、50歳以上を対象に「生ワクチン」と「組換えワクチン」の接種が行われているが、任意接種のため自己負担が必要(約8,000~44,000円)。定期接種化により、接種費用は国や自治体からの補助が見込まれ、自己負担額は自治体によって異なる見通しだ。開始時期は2025年4月(予定)、対象は原則65歳とするが、HIV感染で免疫が低下した60~64歳も対象とされるほか、経過措置として2025年4月時点で65歳を超えている人に対し、5年間の経過措置を設け、70、75、80、85、90、95、100歳で接種機会を提供するほか、100歳以上の人は定期接種初年度(2025年度)に限り全員を対象とする。帯状疱疹は、高齢になるほど発症しやすく、重症化しやすい。また、長年にわたって生活の質を低下させることもあるため、定期接種化により、高齢者の健康維持に寄与することが期待されている。一方で、定期接種化前に接種希望者が増え、ワクチンの供給が不足する可能性も指摘されている。厚労省は、ワクチンの安定供給に向けて必要な対応を検討するとしている。今後は、政令の改正手続きを進め、準備が整った自治体から順次、定期接種が開始される予定。参考1)帯状疱疹ワクチンについて(厚労省)2)帯状ほう疹ワクチン 来年度定期接種へ 65歳になった高齢者など(NHK)3)帯状疱疹ワクチン、65歳対象の「定期接種」に…66歳以上には経過措置(読売新聞)4)帯状疱疹ワクチン、65歳を対象に25年4月から定期接種へ 5年の経過措置を設け、70歳なども対象に 厚科審(CB news)4.医師偏在対策で地方勤務医に手当増額へ、2026年度から/厚労省厚生労働省は12月19日に開催したの社会保障審議会医療保険部会で、医師偏在対策を検討した。医師不足が深刻な地域で働く医師を増やすため、2026年度を目途に新たな支援策の導入を図る見込み。具体的には、医師少数区域に「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」を指定し、同区域で勤務または派遣される医師の勤務手当を増額する。この財源には医療保険の保険料を充てることが了承された。手当増額の仕組みは、社会保険診療報酬支払基金が保険者から徴収した保険料を財源とし、都道府県が実施主体となる。費用総額は、国が人口、可住地面積、医師の高齢化率、医師偏在指標などを基に設定し、各都道府県へ按分・配分する予定。この措置に対し、健康保険組合連合会(健保連)など保険者側からは、保険料負担増への懸念や費用対効果への疑問が示された。これを受け厚労省は、対策の進捗や効果を検証する仕組みを整備する方針を示した。国、都道府県、健保連などが参加する会議体を想定し、効果や現役世代の保険料負担への影響を検証する。さらに、保険医療機関に「管理者」の役職を新設し、医師の場合、臨床研修後2年、保険医療機関での勤務3年以上を要件とする。これにより、適切な管理能力を持つ医師を管理者に据え、保険医療の質・効率性向上を図るとともに、美容医療などへの医師流出を抑える狙いがある。今回の措置は医師偏在解消に向けた一歩となる。しかし、保険者の理解を得て実効性を高めるためには、費用総額の設定、効果検証の具体化、保険料負担増を抑えるための診療報酬抑制策など、今後の議論が重要となる。参考1)第190回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)医師の手当て増額支援、保険者から財源徴収 偏在対策 医療保険部会で了承(CB news)3)医師偏在対策の効果、検証の仕組み整備へ 厚労省(日経新聞)4)都心に集中する医師 「前例なき」参入規制検討も、踏み込み不足?(毎日新聞)5.進む医療の「在宅シフト」在宅患者は過去最多、入院は減少/厚労省厚生労働省が2024年12月20日に発表した2023年「患者調査」の結果によると、在宅医療を受けた外来患者数が1日当たり推計23万9千人と、1996年の調査開始以来、過去最多を記録したことが明らかになった。前回調査(2020年)から6万5,400人増加しており、在宅医療の需要が高まっていることがうかがえた。一方、同年10月の病院・一般診療所を合わせた入院患者数は1日当たり推計117万5,300人で、現在の調査方法となった1984年以降で過去最低を更新した。前回調査から3万6千人減少しており、入院から在宅への移行が進んでいることが示唆された。患者調査は3年ごとに実施され、今回は全国の病院や診療所、歯科診療所計約1万3千施設を対象に、2023年の特定の1日における入院・外来患者数を調査し、推計した。参考1)令和5年(2023)患者調査の概況(厚労省)2)入院患者数、過去最低を更新 23年患者調査(MEDIFAX)3)在宅医療患者1日23万人で最多 23年調査、入院は最少更新(共同通信)6.高額療養費制度の見直し、来年夏から70歳以上の外来2千円増/厚労省厚生労働省は、医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、2025年夏から段階的に見直す方針を固めた。所得区分ごとに自己負担の上限額を2.7~15%引き上げる。とくに高所得者層の引き上げ幅を大きくし、年収約1,160万円以上の区分では月約3万8,000円増の約29万円となる。一方、住民税非課税世帯などの低所得者層に対しては、引き上げ幅を抑えたり、段階的な引き上げを実施することで、急激な負担増による受診控えを防ぐ狙いがある。今回の見直しは、高額な医療費負担を軽減するセーフティーネットである同制度の持続可能性を確保しつつ、子供関連政策の財源確保に向けた医療費抑制を図る目的がある。また、保険給付の抑制により、現役世代を中心に保険料負担の軽減効果も見込まれる。具体的には、2025年8月に70歳未満は、所得区分ごとに自己負担限度額を2.7~15%引き上げ。一般的な収入層(主に年金収入約200万円以下、窓口負担1割)は月2,000円増の2万円。それ以上の所得水準の場合は特例対象外。また、70歳以上で年収約370万円を下回る人が外来受診にかかる費用を一定額に抑える「外来特例」の自己負担限度額も月額2,000円引き上げる方針であり、受診抑制につながる可能性も指摘されているが、詳細については今月末までに決定される見込み。さらに、2026年8月以降に、所得区分を3つに再編して、段階的に引き上げる予定。高額療養費制度の見直しは、国民皆保険制度を守るために、持続可能性と医療費抑制のバランスを取るために行われる。今後、社会保障審議会医療保険部会で具体的な制度設計をめぐる議論を深め、今月末までに最終決定される見通し。参考1)医療保険制度改革について(厚労省)2)高額療養費の外来特例 上限を2千~1万円引き上げ 厚労省最終調整(朝日新聞)3)高額療養費上限引き上げ 激変緩和 最終形は27年8月、3段階検討(同)4)高額療養費の負担上限、高所得で月3.8万円上げ 厚労省(日経新聞)

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帯状疱疹ワクチン、65歳を対象に定期接種化を了承/厚労省

 12月18日に開催された第65回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、帯状疱疹を予防接種法のB類疾病に位置付けるとし、帯状疱疹ワクチンの定期接種化が了承された。 2025年4月1日より、原則65歳を対象に定期接種が開始される見込み。高齢者肺炎球菌ワクチンと同様に、5年間の経過措置として、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳時に接種する機会を設ける方針だ。また、60歳以上65歳未満の者であっても、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害を有する者として厚生労働省令で定める者も対象となる。帯状疱疹にかかったことのある者についても定期接種の対象となる。 使用するワクチンは、乾燥弱毒生水痘ワクチン(商品名:ビケン)、または乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用)となる。 接種方法については以下のとおり。【乾燥弱毒生水痘ワクチンを用いる場合】 0.5mLを1回皮下に注射する。【乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを用いる場合】 1回0.5mLを2ヵ月以上7ヵ月未満の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。ただし、疾病または治療により免疫不全、免疫機能が低下している、もしくは低下する可能性がある者については、医師が早期の接種が必要と判断した場合、1回0.5mLを1ヵ月以上の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。 ※接種方法の注意点として、帯状疱疹ワクチンの交互接種は認められない。同時接種については、医師がとくに必要と認めた場合に行うことができる。乾燥弱毒生水痘ワクチンとそれ以外の注射生ワクチンの接種間隔は27日の間隔を置くこととする。 定期接種化に関して、使用ワクチンの1つに定められた「シングリックス筋注用」を生産するグラクソ・スミスクラインは、同日にステートメントを発表した。 ステートメントによると、日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスがすでに体内に潜んでいるとされ、50歳を過ぎると帯状疱疹の発症が増え始め、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するという。また、高血圧・糖尿病・リウマチ・腎不全といった基礎疾患がある人は、帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告もあるという。今回の了承について、「さらに多くの人々が帯状疱疹のリスクから守られることに寄与する大きな一歩」としてワクチンの供給に貢献することを示した。

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再発・難治濾胞性リンパ腫、レナリドミド+リツキシマブへのtafasitamab上乗せ(inMIND)/ASH2024

 再発/難治(R/R)濾胞性リンパ腫(FL)では、抗CD-20抗体併用療法であるレナリドミド(len)とリツキシマブ(R)が用いられる。 そのような中、R/R FLにおける抗CD-19抗体tafasitamabのlen+Rへの上乗せ効果を評価する第III相inMIND試験が行われている。同試験の初回解析結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLaurie H. Sehn氏が第66回米国血液学会(ASH2024)で発表した。・試験デザイン:第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験・対象:グレード1~3Aの成人R/R FL(または辺縁帯リンパ腫)、抗CD-20抗体療法を含む1ライン以上の前治療歴あり・試験群:tafasitamab(12mg/kg)12サイクル(1~3サイクルは毎週、4~12サイクルは2週ごと)+len(20mg)12サイクル(Day1~21連日)+R(375mg/m2)5サイクル(1サイクルは毎週、2~5サイクルは4週ごと)(TAFA群、273例)・対照群:プラセボ+len+R(PBO群、275例)・評価項目:【主要評価項目】治験医師評価の無増悪生存率(PFS)【副次評価項目】PET-CR率、全生存率(OS)、独立評価委員会(IRC)評価のPFS、全奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、後治療までの期間(TTNT)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は64歳(75歳以上19.7%)、FLIPI(中等度・高リスク濾胞性リンパ腫国際予後指標)3~5が52.4%、GELF(Groupe d’Etude des Lymphomes Folliculaires)高腫瘍量規準該当が82.8%、POD24(初回化学療法後24ヵ月以内の再発・増悪)は31.6%と比較的高リスクな集団であった。・追跡期間中央値14.1ヵ月時点のPFS中央値はTAFA群22.4ヵ月、PBO群13.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.43、95%信頼区間[CI]:0.32~0.58、p<0.0001)と有意にTAFA群で良好であった。・PFSはすべてのサブグループにおいてTAFA群が優れていた。・PET-CR率はTAFA群49.4%、PBO群39.8%(オッズ比[OR]:1.5、95%CI:1.04〜2.13、名目上p=0.0286)と有意にTAFA群で良好であった。・ORRはTAFA群83.5%、PBO群72.4%(OR:2.0、95%CI:1.30〜3.02、名目上p=0.0014)と有意にTAFA群で良好であった。・頻度の高いGrade3/4の試験治療下における有害事象(TEAE)は好中球減少(TAFA群39.8%、PBO群37.5%)、肺炎(それぞれ8.4%、5.1%)などであった。・TEAEによる投与中止は、TAFA群の11%、PBO群の7%にみられた。 inMINDはR/R FLに対して初となる、抗CD19と抗CD20という2つの抗体を併用した試験としても評価される。レナリドミド・リツキシマブ併用へのtafasitamabの上乗せは、R/R FLに対する新しい標準治療としての将来性を示した、とSehn氏は結んだ。

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ビタミンB3はCOPD患者の肺の炎症を軽減する?

 ビタミンB3を毎日摂取することで、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺の炎症が軽減する可能性のあることが、小規模な臨床試験で明らかになった。コペンハーゲン大学(デンマーク)のMorten Scheibye-Knudsen氏らによるこの研究結果は、「Nature Aging」に11月15日掲載された。Scheibye-Knudsen氏は、「炎症は、COPD患者の肺機能を低下させる可能性があるため、この結果が意味するところは大きい」と述べている。 COPD患者は、肺炎やインフルエンザ、その他の重篤な呼吸器感染症に罹患しやすく、罹患した場合には致命的となることもある。Scheibye-Knudsen氏らは、安定期COPD患者40人(平均年齢71.9歳)と、年齢や性別、BMIが類似した健康な対照20人(平均年齢70.9歳)を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施し、COPDに対するニコチンアミドリボシド(NR)の効果を評価した。NRはビタミンB3の一種である。COPD患者と対照は、それぞれの群内で、6週間にわたりNR(2g)またはプラセボを摂取する群に1対1の割合でランダムに割り付けられた。対象者は12週間後に追跡調査を受けた。主要評価項目は、炎症マーカーであるインターロイキン8(IL8)のベースラインから6週間目までの変化量とした。 その結果、COPD患者では、IL8の変化量の最小二乗平均値が、NR群で−46.2%、プラセボ群で13.4%であることが明らかになった。両群間の治療効果の差は−52.6%(95%信頼区間−75.7〜−7.6%、P=0.030)であり、NR群ではプラセボ群に比べてIL8の値が有意に低下していた。このようなNRの効果は12週間後も持続しており、治療効果の差は−63.7%(同−85.7〜−7.8%、P=0.034)と推定された。 次に、NR摂取により体内のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)のレベルがどの程度変化するのかをCOPD患者と対照との間で比較・検討した。NAD+は、免疫機能や炎症などの加齢に関連した複数の経路に関与する中心的な分子として注目されており、ヒトや動物では加齢とともに減少することも知られている。ベースライン時のNAD+の最小二乗平均値は、COPD患者で31.9μM、対照で34.8μMであったが、6週間後には、COPD患者のNR群で71.1μM、対照のNR群で49.4μMに上昇していた。しかし、プラセボ群では、COPD患者でも対照でもNAD+に有意な変化が認められなかった。COPD患者では対照に比べて、NR摂取によるNAD+の増加量が多かったものの、この差は統計学的に有意ではなかった。 Scheibye-Knudsen氏は、「われわれの体内では、加齢に伴いNAD+の代謝も進むようだ。NAD+の減少は、喫煙により生じるようなDNA損傷後にも見られる」と話している。この研究で、ビタミンB3(NR)の摂取によりNAD+レベルが上昇し、細胞の老化の兆候が抑えられたことから、同氏は、「NAD+は、今後の研究と治療の対象となる可能性がある」と述べている。 Scheibye-Knudsen氏は、「この研究結果を確認し、NRのCOPD治療における長期的な効果を判断するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。研究グループは、そのために、より大規模な研究を計画しているところだという。Scheibye-Knudsen氏は、「この研究が、COPD患者に新たな治療選択肢への道を切り開くことを期待している」と話している。

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急性呼吸器感染症が2025年4月から5類感染症に/厚労省

 厚生労働省は、2025(令和7)年4月7日から感染症法施行規則改正により急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection:ARI)を感染症法上の5類感染症に位置付け、定点サーベイランスの対象とすることを発表した。 ARIは、急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)または下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)を指す病原体による症候群の総称で、インフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルス、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなどが含まれる。 ARIを5類感染症に位置付けた目的として、飛沫感染などにより周囲の人に感染させやすいのが特徴であり、新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、次の2点が示されている。(1)流行しやすいARIの流行の動向を把握すること(2)仮に未知の呼吸器感染症が発生し、増加し始めた場合に、迅速に探知することが可能となるよう、平時からサーベイランスの対象とする 厚労省では、今回の5類感染症への位置付けにより、公衆衛生対策の向上につながるとしている。 来年の4月7日以降、ARI定点医療機関および病原体定点医療機関は、多くの5類感染症の定点把握と同様に、1週間当たりの患者数の報告(発生届のように患者ごとに届出を作成・報告する必要はない)が求められ、ARI病原体定点医療機関には、これまでどおり、検体の提出が求められる。また、定点医療機関の指定は都道府県が実施し、指定以外の医療機関に対し、新たに報告を求めることはない。 ARI定点医療機関および病原体定点医療機関が報告する患者または検体を提出する患者は、「咳嗽、咽頭痛、呼吸困難、鼻汁、鼻閉のどれか1つの症状を呈し、発症から10日以内の急性的な症状であり、かつ医師が感染症を疑う外来症例」とされている。提出する検体は、すべての患者から採取するのではなく、一部の患者からのみ採取し、検体の数などは今後公表される予定。 そのほか、今回の位置付けにより特別な患者負担や学業・就業など日常生活での制約はない。 参考までに現在5類感染症に指定されている感染症では、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発疹、百日咳などがある。

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日本人の主な死因、10年間の変化

日本人の主な死因、10年間の変化350悪性新生物(腫瘍)300死亡率(人口10万対)250心疾患(高血圧性を除く)200老衰150100脳血管疾患肺炎誤嚥性肺炎新型コロナ腎不全不慮の事故5002014201520162017201820192020アルツハイマー病202120222023 [年]厚生労働省「人口動態統計」2023年(確定数)保管統計表 死亡(年次)「第5表-11 死因順位別にみた年次別死亡率(人口10万対)」「第5表-13 死因(死因簡単分類)別にみた性・年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」より集計Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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伝わりそうで伝わらない病院の言葉【もったいない患者対応】第19回

伝わりそうで伝わらない病院の言葉私たちは毎日のように無意識に専門用語を使っているせいで、患者さんにも思わずわかりにくい言葉を使ってしまうことがあります。他の医療者が病状説明しているのを横で聞いていて、「その言葉では伝わらないのでは…?」と思うことも非常によくあります。言葉の意味がわからなかったときに、医療者に対して臆せず聞き返すことができる人は決して多くありません。「よくわからないけれどわかったふりをしておこう」と思って黙ってしまい、後になって何か問題が起きた際に、医療者との信頼関係が崩れる恐れもあります。ここでは、私がよく気になる7つの言葉を挙げてみます。増悪(ぞうあく)「増悪」は私たち医療者が非常によく使う言葉ですが、一般的にはほとんど使われない言葉です。血液検査やCT検査の結果を見せて患者さんに説明しながら、「徐々に増悪しているようです」と言っている医師を見かけることがありますが、なかなか患者さんは理解しづらいでしょう。字面を見ると意味はわかりますが、口頭で「ぞうあく」と言うと意味は伝わりにくいはずです。「悪化している」「悪くなっている」と言うほうがよいと思います。余談ですが、医療者のなかにこれを「ぞうお」と間違って覚えている人がいます。「憎悪」は「憎しみ」、「増悪」は「増える」と、漢字が違うのでご注意ください。認める・得る医療者の間では、「ここに腫瘍が認められます」「改善が得られています」のような説明をよくしますが、一般的な会話ではまず使いません。電話で患者さんのご家族に、「お母さんのレントゲン写真の結果なんですが、肺炎の改善が認められます」と説明している人を見たことがありますが、「かいぜんがみとめられる」と聞いて、すぐに意味がわかる人はいないでしょう。指摘できない画像レポートなどでよく見る「異常は指摘できません」は、非医療者から見ればかなり不思議な表現です。一見すると「異常があるのかないのかよくわからない」という印象をもたれます。医療者にとっては、異常が本当に「ない」と証明することはできないこと、あくまで、行った診察や検査で「異常が見当たらなかった」だけであることを含意する意図で、「指摘できない」は便利に使える言葉です。しかし、このあたりの微妙な感覚を患者さんと共有するのは難しく、「指摘できない」では意図がうまく伝わりません。そのため、「いまの時点では検査で異常は見当たりませんが、検査ではわからないような異常が起きている可能性もあるため、症状が現れたらすぐにもう一度検査をしましょう」と、丁寧に説明をするほうがよいでしょう。頻回(ひんかい)「頻回」も私たち医療者がよく使う言葉です。最新の広辞苑には載っているのを確認しましたが、一般的にはあまり使われない言葉でしょう。「頻繁」はよく使われる言葉ではありますが、「頻回」は「頻繁」ともニュアンスが少し違います。患者さんに説明するときは、状況に応じて「繰り返し」「何度も」のような言い換えが必要でしょう。所見(しょけん)「画像所見は良くなっているんですが…」「血液検査では貧血の所見があります」といった表現を私たちはよくしますが、患者さんが相手だと、やや口頭では伝わりにくいという実感があります。「所見」は、「あなたの所見を聞かせてください」というように、辞書的には「見た目での判断」「意見」「考え」といった意味の言葉だからです。「画像所見」「検査所見」のような、医療現場で使う「所見」は、これとは少しニュアンスが異なります。検査の「所見」という場合は、「検査結果」や「検査からわかること」とし、病状に関して「~の所見」というときは、「サイン」「兆候」「きざし」のような表現に言い換えるほうが無難です。傾眠(けいみん)「今朝から傾眠傾向です」と看護師が患者さんのご家族に説明している姿をときどき見ます。便利な言葉なので、医療現場で私たちはよく使いますが、やはり一般的には理解されにくい言葉です。「意識がぼんやりしている」「すぐに眠ってしまう」のような言い換えが必要ではないかと思います。発赤(ほっせき)「発赤」も、患者さんにとってはなかなか難しい専門用語です。文字で見ると意味はわかりますが、「ほっせき」と言葉で発するとまったく理解されないことがあるため、注意が必要です。一方、「発疹(ほっしん)」は「突発性発疹」など一般的に知られた病名に付いているため、音だけでも理解できることが多いようです。

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統合失調症患者における21の併存疾患を分析

 統合失調症とさまざまな健康アウトカムとの関連性を評価した包括的なアンブレラレビューは、これまでになかった。韓国・慶熙大学校のHyeri Lee氏らは、統合失調症に関連する併存疾患の健康アウトカムに関する既存のメタ解析をシステマティックにレビューし、エビデンスレベルの検証を行った。Molecular Psychiatry誌オンライン版2024年10月18日号の報告。 統合失調症患者における併存疾患の健康アウトカムを調査した観察研究のメタ解析のアンブレラレビューを実施した。2023年9月5日までに公表された対象研究を、PubMed/MEDLINE、EMBASE、ClinicalKey、Google Scholarより検索した。PRISMAガイドラインに従い、AMSTAR2を用いて、データ抽出および品質評価を行った。エビデンスの信頼性は、エビデンスの質により評価および分類した。リスク因子と保護因子の分析には、等価オッズ比(eRR)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・本アンブレラレビューには、19ヵ国、6,600万人超の参加者を対象とし、21の併存疾患の健康アウトカムを評価した88件の原著論文を含む9件のメタ解析を分析に含めた。・統合失調症患者は、以下の健康アウトカムとの有意な関連が認められた。【喘息】eRR:1.71、95%信頼区間[CI]:1.05〜2.78、エビデンスのクラスおよび質(CE):有意でない【慢性閉塞性肺疾患】eRR:1.73、95%CI:1.25〜2.37、CE:弱い【肺炎】eRR:2.63、95%CI:1.11〜6.23、CE:弱い【女性患者の乳がん】eRR:1.31、95%CI:1.04〜1.65、CE:弱い【心血管疾患】eRR:1.53、95%CI:1.12〜2.11、CE:弱い【脳卒中】eRR:1.71、95%CI:1.30〜2.25、CE:弱い【うっ血性心不全】eRR:1.81、95%CI:1.21〜2.69、CE:弱い【性機能障害】eRR:2.30、95%CI:1.75〜3.04、CE:弱い【骨折】eRR:1.63、95%CI:1.10〜2.40、CE:弱い【認知症】eRR:2.29、95%CI:1.19〜4.39、CE:弱い【乾癬】eRR:1.83、95%CI:1.18〜2.83、CE:弱い 著者らは「統合失調症患者は、呼吸器、心血管、性機能、神経、皮膚に関する健康アウトカムに対する広範な影響が認められており、統合的な治療アプローチの必要性が明らかとなった。主に、有意ではなく、エビデンスレベルが弱いことを考えると、本知見を強化するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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麻疹ワクチン、接種率の世界的な低下により罹患者が増加

 麻疹ワクチン接種率の低下により、2022年から2023年にかけて、世界中で麻疹罹患者が20%増加し、2023年には1030万人以上がこの予防可能な病気を発症したことが、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が共同で実施した研究により明らかになった。この研究の詳細は、「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月14日号に掲載された。 CDC所長のMandy Cohen氏は、「麻疹罹患者が世界中で増加しており、人命と健康が危険にさらされている。麻疹ワクチンはウイルスに対する最善の予防策であり、ワクチン接種の普及拡大に向けた取り組みに引き続き投資する必要がある」とCDCのニュースリリースで述べている。 一方、WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「麻疹ワクチンは過去50年間で、他のどのワクチンよりも多くの命を救ってきた。さらに多くの命を救い、この致死的なウイルスが最も影響を受けやすい人に害を及ぼすのを阻止するためには、居住地を問わず、全ての人がワクチンを接種できるように投資しなければならない」と話している。 WHOとCDCによると、2023年には2220万人の子どもが2回接種の麻疹ワクチンの1回目さえ受けていなかったという。これは、2022年から2%(47万2,000人)の増加であった。2023年の世界全体での子どもの麻疹ワクチンの1回目接種率は83%であったが、2回目を接種したのはわずか74%であった。保健当局は、麻疹のアウトブレイクを防ぐために、麻疹ワクチン接種率を95%以上に維持することを推奨している。また、CDCは、麻疹ウイルスに感染した人がウイルスに対する免疫を保持していない場合、周囲の人の最大90%にウイルスが広がる可能性があるとしている。 麻疹のアウトブレイクが報告された国は、2022年の36カ国から2023年には58%増加の57カ国となった。57カ国中27カ国(47%)はアフリカであった。2023年の麻疹罹患者(1034万1,000人)は、2000年(3694万人)と比べると72%減少していたが、2022年(罹患者864万5,000人)からは20%増加していた。一方、麻疹による2023年の死者数(10万7,500人、主に5歳未満)は、2020年(死亡者80万人)からは87%、2022年(11万6,800人)からは8%減少していた。WHOとCDCは、2022年と比べて2023年に死亡者がわずかに減少したのは、子どもが麻疹に罹患しても、医療環境が整っていて死亡する可能性が低い地域で最大の感染拡大が起きたことが主な理由だと述べている。CDCによると、米国では、2024年の11月21日時点で、すでに31州とワシントンDCで麻疹のアウトブレイクが16回発生し、280症例が報告されている。2023年には、わずか4回のアウトブレイクしか発生していなかった。 麻疹の症状には、高熱、咳、結膜炎、鼻水、口内の白い斑点(コプリック斑)、頭からつま先まで広がる発疹などがある。WHOは、乳幼児は肺炎や脳の腫れなど、麻疹による重篤な合併症のリスクが最も高いとしている。なお、麻疹のワクチン接種率は、新型コロナウイルス感染症パンデミック中に世界的に低下し、2008年以来最低の水準に達した。

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自覚症状に乏しい糖尿病性腎症に早く気付いて/バイエル

 バイエルは、11月14日の「糖尿病の日」に合わせ、糖尿病と合併症に関する啓発イベントを開催した。イベントでは、糖尿病専門医による糖尿病に関するプレスセミナーとお笑いコンビ「ガンバレルーヤ」をゲストに迎えての市民向けの疾患啓発が行われた。糖尿病の合併症の腎臓病では透析導入になりやすい 「糖尿病と合併症ってどんな病気? 患者さん中心の医療について考える」をテーマに坊内 良太郎氏(国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター/糖尿病内分泌代謝科)が、糖尿病の病態、診療、合併症を抑えるポイントを解説した。 わが国の糖尿病と疑われる人の数は約2,000万人にのぼり、国民の5~6人に1人は糖尿病の危険があるとされる国民病となっている。 糖尿病は「インスリンの作用不足により起こる血糖値が高い状態が続く疾患」であり、診断では空腹時血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上あれば糖尿病が強く疑われ、再度の検査で確定診断となる。また、健康診断などでよく話題になるHbA1cも6.5%以上は糖尿病が強く疑われる指標となる。 糖尿病にはI型、II型、妊娠、そのほか(薬剤性、肝臓疾患など)の4種類があり、その症状として「のどの渇き、水分の多飲」「日中・夜間の頻尿」「疲れやすい」「体重減少」などがある。そして、これらの症状は自覚症状に乏しく放置しがちであり、医療機関を受診しないことで合併症のリスクが高まる。 糖尿病合併症では、脳卒中、心筋梗塞、壊疽(神経障害)などの大血管障害と網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害がある。また、併存症として肺炎などの感染症、肝臓・膵臓などの悪性腫瘍、歯周病なども糖尿病患者では起こりやすく、重症化しやすい。 とくに糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な疾患であり、病期がかなり進行するまで自覚症状に乏しいために、診断がされたときには腎不全で透析導入になるケースが多い。実際、日本透析医学会の調査では、糖尿病性腎症は透析導入の約4割を占めていると報告されている。糖尿病合併症の抑制には血糖、血圧、脂質の厳格な管理が求められる 現在、日本糖尿病学会では、診療ガイドラインなどで糖尿病治療の目標として、「健康な人と変わらない寿命と生活の質(QOL)の達成」を示している。糖尿病の根治が難しい以上、合併症を抑えることが重要となる。 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法だが、これでも効果が不十分な場合に薬物療法が追加される。いずれも患者の自主的な取り組みなしには成功しない治療である。また、HbA1cを7%未満に抑えれば網膜症や腎症の悪化リスクを抑えことができるという研究報告1)のほか、血圧を130/80mmHg未満に抑えたり、LDLコレステロールを適切に管理したりすれば合併症のリスク低減が期待できるため、ガイドラインなどで推奨されている。そのほか、わが国のJ-DOIT3の研究結果から血糖、血圧、脂質の厳格な管理が糖尿病の合併症予防につながり、とくに脳血管合併症や腎症に効果があるとされている2)。 最後に坊内氏は、糖尿病やCKDの治療において大切なこととして、「医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションが重要である。共同意思決定(SDM)として治療のゴールを決めるために、患者さんが価値観や好みをきちんと医師などに伝えることで、患者さん個々に合った治療法の提案をすることができる」と語り、講演を終えた。 この後開催された疾患啓発イベント「体験型ボードゲームで学ぶ糖尿病と合併症 ~腎臓の声に耳を傾けよう~ in 丸の内」のオープニングイベントでは、先の講演者の坊内氏が糖尿病の3大合併症として、網膜症、腎症、神経障害を挙げたうえで、糖尿病性腎症はかなり進行するまで自覚症状に乏しいことに言及。「定期的な検査、とくに尿検査を行い、このイベントのタイトルにもなっている『腎臓の声』にしっかり耳を傾けよう」と呼びかけ、ゲストのガンバレルーヤの2人は「自覚症状が出にくいからときちんと病院に行って定期的に検査を受けることが大事なんですね」と早期発見の大切さに納得していた。また、会場では、特大サイズのボードゲームが人気で、多くの参加者が糖尿病とその合併症について学んでいた。

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日本人の主な死因(2023年)

日本人の主な死因その他食道 2.8%21.0%前立腺 3.5%肺および気管・気管支19.8%大腸(結腸・直腸)13.9%悪性リンパ腫3.8%アルツハイマー病1.6%その他悪性新生物(腫瘍)25.0%24.3%乳房 4.1%膵胃胆のう・胆道 4.5%10.5%10.1%肝・肝内胆管 6.0%n=38万2,504人腎不全 1.9%心疾患新型コロナウイルス感染症 2.4%不慮の事故2.8%誤嚥性肺炎3.8%(高血圧性を除く)心疾患14.7%老衰脳血管疾患 12.1%6.6%肺炎慢性リウマチ性4.8%心筋症 1.5%0.8%慢性非リウマチ性心内膜疾患5.2%くも膜下出血n=157万6,016人10.7%31.3%n=10万4,533人20.6%心不全42.9%急性心筋梗塞13.4% 不整脈および伝導障害15.6%その他 2.9%脳内出血その他n=23万1,148人脳梗塞55.1%厚生労働省「人口動態統計」2023年(確定数)保管統計表 都道府県編 死亡・死因「第4表-00(全国)死亡数,都道府県・保健所・死因(死因簡単分類)・性別」より集計注:死因順位に用いる分類項目(死因簡単分類表から主要な死因を選択したもの)による順位Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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“しなくてもいいこと”を言う【もったいない患者対応】第18回

“しなくてもいいこと”を言う患者さんに対して指示を出す際に、「〇〇してください」だけでなく、「〇〇しなくてもいいですよ」という指示が必要なケースがあります。軽度外傷の消毒、抗菌薬たとえば、縫合処置のいらないような切り傷や擦り傷など、軽度の外傷で来院した患者さんには、「以前はこういった傷にはイソジン(ヨード液)のような消毒液で消毒していたんですが、いまは消毒が傷の治りを悪くすることがわかっているのでやらないんですよ」といった説明をしておくのが望ましいと考えています。というのも、「傷は消毒しなければならないものだ」と考えている患者さんは多いので、消毒をせず水道水による洗浄だけで対処し、のちに創部感染を起こしたりすると、「消毒してもらえなかったからではないか」と医師に対して不信感を抱くおそれがあるからです。ほかにも、「こうした小さな傷であれば抗生物質(抗菌薬)は不要です。傷が膿んだりしたときには抗生物質を処方しますが、いまの時点では必要ないんですよ」といった説明が必要なのも、同じ理由です。患者さんによっては、過去の経験から「怪我には抗生物質が必要だ」と思い込んでいる方が多いからです。消毒と同様に、創部感染などの合併症を起こした際に問題になるため、あらかじめ説明すべきです。風邪に対する抗菌薬抗菌薬でいえば、風邪も同じです。もし風邪の患者さんから「抗生物質をもらえませんか?」と言われたら、前述のとおり「風邪はほとんどがウイルス感染なので、抗生物質は効かないんですよ。吐き気や下痢、アレルギーなどの副作用のデメリットのほうが大きいので、いまの時点では使用しないほうがいいでしょう」といった説明を返すことができますが、なかにはこうした質問をわざわざせず、心の中で、「抗生物質がもらえると思っていたのにもらえなかった」という不満を抱える患者さんもいるかもしれません。すると、のちに悪化して肺炎などを起こしてから、「あのとき、抗生物質を処方してもらえなかったからこんなことになったのだ」と誤解されるリスクがあるのです。医師が説明する必要がないと思ったことでも、一般的に知られておらず、かつ患者さんが誤解しがちなポイントは、先回りして伝えておくことが大切です。“すべきこと”に比べると“しなくてもいいこと”は、きちんと意識していないと抜け落ちてしまいがちです。十分に注意しましょう。

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