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再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症、tolebrutinibが障害進行リスク抑制/NEJM

 再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者において、tolebrutinibによる治療はプラセボと比較し障害進行のリスクが低いことを、米国・クリーブランドクリニックのRobert J. Fox氏らHERCULES Trial Groupが、第III相二重盲検プラセボ対照試験「HERCULES試験」の結果で報告した。多発性硬化症(MS)では、経過中に徐々に神経学的症状の進行が生じることがあり、これは障害蓄積(disability accrual)と呼ばれている。現在のMSに対する疾患修飾療法は、再発とは関係のない障害蓄積に対する効果は限られており、その原因の一部は中枢神経系内での慢性、治療抵抗性の神経炎症にあると考えられている。tolebrutinibは、中枢移行性の高い経口ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬で、末梢および中枢神経系の両方の骨髄細胞(ミクログリアを含む)とB細胞を標的としている。これまで、再発を伴わないSPMSに対して承認された治療法はなかった。NEJM誌オンライン版2025年4月8日号掲載の報告。6ヵ月以上持続する障害進行をtolebrutinibとプラセボで比較 研究グループは、過去24ヵ月間に臨床的な再発がなく、過去12ヵ月間に神経学的症状進行の所見がみられ、総合障害度評価尺度(EDSS)(範囲:0~10.0、スコアが高いほど障害度合いが大きい)が3.0~6.5の18~60歳の再発を伴わないSPMS患者を、tolebrutinib群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回60mgを経口投与した。 主要エンドポイントは、6ヵ月以上持続する障害進行(EDSSスコアがベースラインから1.0以上増加[ベースラインスコアが5.0以下の場合]または0.5以上増加[ベースラインスコアが5.0超の場合]と定義)で、ITT解析を行った。tolebrutinib群で障害進行のリスクが低い 2020年10月23日~2023年1月12日に、計1,131例が無作為化された(tolebrutinib群754例、プラセボ群377例)。 追跡期間中央値133週間において、6ヵ月以上持続する障害進行が確認された患者の割合は、tolebrutinib群で22.6%、プラセボ群で30.7%であり、tolebrutinib群で有意に低かった(ハザード比:0.69、95%信頼区間:0.55~0.88、p=0.003)。 重篤な有害事象は、tolebrutinib群で15.0%、プラセボ群で10.4%に発現した。主なものは、tolebrutinib群ではCOVID-19肺炎、多発性硬化症の再発、COVID-19、肺炎、プラセボ群では肺炎と尿路性敗血症であった。死亡率は両群で同程度であった。 また、tolebrutinib群で4.0%、プラセボ群で1.6%の患者で、ALT値の正常範囲上限の3倍を超える上昇が認められた。

2.

間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

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65歳未満の市中肺炎、GL推奨の短期治療の実施率~日本人約2万5千例の解析

 肺炎診療ガイドライン2024では、市中肺炎治療において、初期治療が有効な場合には1週間以内の短期抗菌薬治療を実施することが弱く推奨されている1)。しかし、その実施率は高くないことが示された。酒井 幹康氏(名城大学/豊田厚生病院)らの研究グループが、65歳未満の成人市中肺炎における短期治療の実施状況について、大規模レセプトデータベースを用いて検討した結果をJournal of Infection and Chemotherapy誌2025年5月号で報告した。 研究グループは、JMDCのレセプトデータベースを用いて、2013~22年に初めて市中肺炎と診断され、抗菌薬治療を開始した18~64歳の患者のデータを抽出した。主要評価項目は治療期間とし、入院患者と外来患者に分けて解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者は2万5,572例であり、年齢中央値は入院患者が51歳、外来患者が44歳であった。・1週間以内の短期抗菌薬治療が実施された割合は、入院患者が32%(1,087/3,367例)、外来患者が70%(1万5,614/2万2,205例)であった。10年間の年次推移の範囲は入院患者が31~35%、外来患者が67~72%であり、大きな変動はなかった。・併存疾患のない患者を対象としたサブグループ解析においても、1週間以内の短期抗菌薬治療が実施された割合は、入院患者が32%(403/1,274例)、外来患者が70%(7,089/1万191例)であり、全体集団と同様であった。 本研究結果について、著者らは「とくに入院患者では、治療期間の最適化を進めるため、抗菌薬による治療期間を再検討する必要性があるだろう」とまとめている。

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呼吸器病の漢方治療ガイド プライマリ・ケアで役立つ50処方

呼吸器疾患の漢方がわかると診察力が大幅アップ外来医師必携の漢方処方ガイド。総論として、漢方の概念や考え方、診察方法、漢方薬の成り立ちと副作用、西洋薬と漢方薬の違い、呼吸器疾患に頻用する漢方薬の特徴、各論では、かぜ症候群、インフルエンザ、COVID-19などのウイルス感染症の急性期や遷延期治療、喘息、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔気管支症候群、逆流性食道炎、嚥下性肺炎、非定型抗酸菌症、肺癌に関する漢方治療を解説。さらに本書で解説のある50処方の適応イラストを掲載。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する呼吸器病の漢方治療ガイド プライマリ・ケアで役立つ50処方定価3,850円(税込)判型A5判(並製)頁数136頁(写真・図・表:119点)発行2025年4月著者加藤 士郎(筑波大学附属病院臨床教授)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第262回 蠕動運動を促し、炎症を防ぐ腸神経の圧感知タンパク質を発見

蠕動運動を促し、炎症を防ぐ腸神経の圧感知タンパク質を発見加圧や運動に応じて腸の運動を調節し、病的な腸の炎症を鎮める神経のタンパク質が同定されました1)。平滑筋の息が合った収縮と弛緩、すなわち蠕動運動によって食物が腸を下っていきます。神経細胞が腸の蠕動を支えることは100年以上も前から知られていますが、いったいどうやってそうするのかはよくわかっていませんでした2)。免疫細胞のイオンチャネルPIEZO1が呼吸で加わる力を感知する役割を担い、肺での炎症を誘発することが先立つ研究で示されています3)。PIEZO1が胃腸の蠕動にも寄与するかもしれないとハーバード大学の免疫学の助教授Ruaidhri Jackson氏らは想定し、マウスやヒトの腸の神経を調べてみました。すると、PIEZO1を生成する遺伝子の活発な発現が認められました。神経伝達物質のアセチルコリンを放出して腸の筋肉の収縮を誘発する興奮性神経でPIEZO1は盛んに発現していました。正常なマウスの腸は加わる圧が高まるほど収縮します。一方、PIEZO1遺伝子を欠くマウスの腸組織は圧が加わっても収縮できず、PIEZO1が加圧センサーとして腸の動きを助けることが判明しました。マウスのPIEZO1発現細胞を活性化したところ、腸内の小さなガラス玉が通常のマウスに比べて2倍早く排出されました。一方、腸のPIEZO1発現神経を薬品で働かないようにすると消化がよりゆっくりになりました。すなわちPIEZO1発現神経は腸の内容物の排出を早める働きを担うようです。揺れや他の臓器との接触によって腸に圧を加えうる運動が排便を促すことが随分前から知られています。その作用にもPIEZO1が関わっているらしく、PIEZO1遺伝子を有するマウスは回し車を10分も走れば排便しましたが、PIEZO1が損なわれると運動に応じた腸の運動亢進が認められませんでした。炎症性腸疾患(IBD)も炎症刺激により腸の運動を高めることが知られています。IBDマウスでもPIEZO1は排便を促す働きを担うようであり、PIEZO1が働かないようにすると排便が遅くなりました。しかしPIEZO1を失って生じる影響は排便の遅れだけではなく、先立つ研究で免疫細胞のPIEZO1欠損が肺炎症を減らしたのとはいわば真反対の副作用をもたらしました。すなわち腸神経のPIEZO1欠損は意外にもIBD症状の悪化を招きました。PIEZO1欠損マウスはPIEZO1が正常なマウスに比べてより痩せ、腸粘液やその生成細胞を失っていきました。腸神経PIEZO1欠損マウスでの炎症悪化は、平滑筋の活性を促すのみならず抗炎症作用も担うアセチルコリンが乏しくなることに起因するようです。IBDが引き起こす炎症でPIEZO1が活動することで腸神経は炎症を鎮めるアセチルコリンをどうやら盛んに作れるようになり、同時にIBDの特徴である腸運動の亢進ももたらすのだろうとJackson氏は予想しています2)。今回の成果は腸神経のPIEZO1の活性調節でIBDが治療できるようになる可能性を示唆しています。また、便秘や下痢などの腸運動が絡む病気の治療の開発にも役立ちそうです。ただし、PIEZO1は諸刃の剣で、場所柄で一利一害あるようです。腸神経のPIEZO1欠損がIBD悪化を招きうることを示した今回の結果とは対照的に、免疫系のマクロファージのPIEZO1を省くことはIBDの進行をむしろ防ぎうることが最近の別の研究で示されています4)。その結果は上述した肺での免疫細胞のPIEZO1の働きと一致します。PIEZO1狙いの治療はその存在場所によって働きが異なりうることを念頭において取り組む必要があるのでしょう。 参考 1) Xie Z, et al. Cell. 2025 Mar 20. [Epub ahead of print] 2) Study Identifies Gut Sensor That Propels Intestines To Move / Harvard Medical School 3) Solis AG, et al. Nature. 2019;573:69-74. 4) Wang T, et al. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2025:101495.

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事例021 発熱患者等対応加算の漏れ【斬らレセプト シーズン4】

解説外来感染対策向上加算の届出を行っている診療所において、他病にて治療中の患者がインフルエンザ疑いなどの感染症疑いにて受診されているにもかかわらず、「発熱患者等対応加算」(以下「同加算」と略す)が算定されていない事例を複数見受けました。この事例にはパターンがあり、「外来感染対策向上加算」を算定した日の同月翌日以降に受診されている場合でした。A001 再診料注15「外来感染対策向上加算」は、初診料算定日を含み月1回のみの算定ができます。ただし書きに「(同加算は)発熱その他感染症を疑わせるような症状を呈する患者に対して適切な感染防止対策を講じたうえで再診を行った場合について月1回に限り点数を更に所定点数に加算する」と記載されています。計算担当者に話を聞くと、「外来感染対策向上加算の加算であるので別日には算定できません」と回答がありました。外来感染対策は算定上月1回であっても、すべての診療に継続して対策されています。したがって、同加算は同月内別日の診療であっても単独で算定できると解されています(疑義解釈その1 問4 2024.3.28)。このことを伝えて算定漏れの対策としました。また、別の診療所では、発熱患者を駐車中の自動車内にて診療を行っているのみでは算定できないと解されていましたが、この診療でも適切な感染対策は当然に行われています。駐車中の自動車内にて通常患者と分離している場合も算定要件に含まれることを伝えています。

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睡眠不足の看護師は感染症に罹患しやすい

 夜間勤務(以下、夜勤)の影響で睡眠不足を感じている看護師は、風邪やその他の感染症への罹患リスクの高いことが新たな研究で明らかになった。研究グループは、「シフト勤務が睡眠の質に与える影響が看護師の免疫系に打撃を与え、感染症にかかりやすくさせている可能性がある」と述べている。Haukeland大学病院(ノルウェー)睡眠障害コンピテンスセンターのSiri Waage氏らによるこの研究結果は、「Chronobiology International」に3月9日掲載された。 この研究は、ノルウェーの看護師1,335人(女性90.4%、平均年齢41.9歳)を対象に、睡眠時間、睡眠負債、およびシフト勤務の特徴と自己報告による感染症の罹患頻度との関連を検討したもの。これらの看護師は、過去3カ月間における睡眠時間、睡眠負債、シフト勤務、および感染症(風邪、肺炎/気管支炎、副鼻腔炎、消化器感染症、泌尿器感染症)の罹患頻度について報告していた。 その結果、睡眠負債(1〜120分、または2時間超)が多いほど感染症の罹患リスクは上昇することが明らかになった。睡眠負債がない人と比べた睡眠負債がある人での感染症罹患の調整オッズ比は、睡眠負債が1〜120分、2時間超の順に、風邪で1.33(95%信頼区間1.00〜1.78)と2.32(同1.30〜4.13)、肺炎/気管支炎で2.29(同1.07~4.90)と3.88(同1.44~10.47)、副鼻腔炎で2.08(同1.22~3.54)と2.58(同1.19~5.59)、消化器感染症で1.45(同1.00~2.11)と2.45(同1.39~4.31)であった。 また、夜勤の有無や頻度(0回の場合と比べて1〜20回の場合)は、風邪のリスク増加と関連していた。風邪の調整オッズ比は、夜勤がない場合と比べてある場合では1.28(95%信頼区間1.00〜1.64)、夜勤が0回の場合と比べて1〜20回の場合では1.49(同1.08〜2.06)であった。一方、睡眠時間やクイックリターン(休息間隔が11時間未満)と感染症罹患との間に関連は認められなかった。 Waage氏は、「睡眠負債や、夜勤を含む不規則なシフトパターンは、看護師の免疫力を弱めるだけでなく、質の高い患者ケアを提供する能力にも影響を及ぼす可能性がある」と「Chronobiology International」の発行元であるTaylor & Francis社のニュースリリースの中で指摘している。 研究グループは、病院や医療システムは看護師が十分な睡眠を取れるようにすることで、患者により良いケアを提供できる可能性があると述べている。論文の共著者であるHaukeland大学病院のStale Pallesen氏は、「夜勤の連続勤務を制限し、シフト間に十分な回復時間を確保するなど、シフトパターンを最適化することで、看護師は恩恵を受けることができる」とニュースリリースで話している。同氏はさらに、「免疫系が正常に機能するには睡眠が重要であることに対する医療従事者の認識を高めるとともに、定期的な健康診断とワクチン接種を奨励することも役立つ可能性がある」と付言している。

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乳がんサバイバーは多くの非がん疾患リスクが上昇/筑波大

 日本の乳がんサバイバーと年齢をマッチさせた一般集団における、がん以外の疾患の発症リスクを調査した結果、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことを、筑波大学の河村 千登星氏らが明らかにした。Lancet Regional Health-Western Pacific誌2025年3月号掲載の報告。 近年、乳がんの生存率は向上しており、乳がんサバイバーの数も世界的に増加している。乳がんそのものの治療や経過観察に加え、乳がん以外の全般的な健康状態に対する関心も高まっており、欧米の研究では、乳がんサバイバーは心不全や骨折、不安・うつなどを発症するリスクが高いことが報告されている。しかし、日本を含むアジアからの研究は少なく、消化管出血や感染症などの頻度が比較的高くて生命に関連する疾患については世界的にも研究されていない。そこで研究グループは、日本の乳がんサバイバーと一般集団を比較して、がん以外の12種類の代表的な疾患の発症リスクを調査した。 日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月~2019年12月に登録された18~74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1:4の割合でマッチングさせた。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者であった。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症)と6つの非心血管系疾患(骨粗鬆症性骨折、その他の骨折[肋骨骨折など]、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ)の発症リスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例(対照群)であった。平均年齢は両群ともに50.5(SD 8.7)歳であった。・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全(調整ハザード比[aHR]:3.99[95%信頼区間[CI]:2.58~6.16])、消化管出血(3.55[3.10〜4.06])、不安・うつ(3.06[2.86〜3.28])、肺炎(2.69[2.47~2.94])、心房細動(1.83[1.40~2.40])、その他の骨折(1.82[1.65~2.01])、尿路感染症(1.68[1.60~1.77])、骨粗鬆症性骨折(1.63[1.38~1.93])の発症リスクが高かった。・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降(1~10年)よりも高かった。とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98(95%CI:5.43~6.60)、1年以降のaHRが1.48(1.34~1.63)であった。骨折リスクは診断から1年以降のほうが高かった。・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にあった。アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にあった。 これらの結果より、研究グループは「医療者と患者双方がこれらの疾患のリスクを理解し、検診、予防、早期治療につなげることが重要である」とまとめた。

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「胃癌治療ガイドライン」改訂のポイント~外科治療編~/日本胃癌学会

 2025年3月、「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編)が改訂された。2021年から4年ぶりの改訂で、第7版となる。3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会では、「胃癌治療ガイドライン第7版 改訂のポイント」と題したシンポジウムが開催され、外科治療、内視鏡治療、薬物療法の3つのパートに分け、改訂ポイントが解説された。改訂点の多かった外科治療と薬物療法の主な改訂ポイントを2回に分けて紹介する。本稿では外科治療に関する主な改訂点を取り上げる。「薬物療法編」はこちら【外科治療の改訂ポイント】木下 敬弘氏(国立がん研究センター東病院 胃外科) 総論部分の大きな改訂点としては、胃の切除範囲として従来の6つの術式に加えて「胃亜全摘術(小彎側をほぼ全長に渡って切離し、短胃動脈を一部切離する幽門側の胃切除)」を追加したこと、これまであいまいだったコンバージョン手術の定義を「初回診察時に根治切除不能と診断され薬物療法が導入された症例で、薬物療法が奏効した後に根治切除を企図して行われる手術」と定めたことがある。クリニカル・クエスチョンに関する改訂点としては、「低侵襲手術の推奨度を全体的に強化」、「コンバージョン手術の推奨度を変更」、「胃切除後長期障害・高齢患者に関するCQを追加」、「病態進行(PD)の適応・断端陽性例などのCQを追加」が大きな点だ。具体的に新設・変更された主なCQは以下となっている。CQ1-1【変更】切除可能な胃癌に対して、腹腔鏡下手術は推奨されるか?・標準治療の選択肢の一つとして腹腔鏡下幽門側胃切除術は行うことを強く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さA)・c StageI胃癌に対して胃全摘術、噴門側胃切除術は行うことを強く推奨する。(合意率78%、エビデンスの強さC)CQ1-2【変更】切除可能な胃癌に対して、ロボット支援手術は推奨されるか?・切除可能な胃癌に対して、ロボット支援手術を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さC)「前版では、ロボット支援手術はStageIまでの推奨だったが、今版からその記載が外れ、より広範な推奨となった。現在行われているJCOG1907試験(胃がんにおけるロボット支援下胃切除術の腹腔鏡下胃切除術に対する優越性を検証するランダム化比較試験)の結果によって、将来的には推奨度が変わる可能性がある」CQ1-3【新設】進行胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術は推奨されるか?・標準治療の選択肢の一つとして進行胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術は行うことを弱く推奨する。(合意率90%、エビデンスの強さC)「多くの後ろ向き研究で、腹腔鏡下胃全摘術は手術時間は延長するものの、出血量は少なく、再発・生存期間で開腹手術と差がないと報告されている。現在、韓国で胃全摘を要する進行胃がんを対象とした後ろ向き試験(KLASS-06)が行われており、登録が完了した段階だ」CQ1-4【新設】術前化学療法に対する低侵襲手術(腹腔鏡下手術/ロボット支援手術)は推奨されるか?・術前化学療法に対して、低侵襲手術を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さC)「欧州と中国から、腹腔鏡下手術と開腹手術を比較した前向き研究の報告がある。生存期間や術後短期成績においては差がないと考えられるが、観察期間が短く、エビデンスレベルは高くないと判断した」CQ2-3【新設】胃上部の癌に対して噴門側の極小胃を温存した幽門側胃切除術は推奨されるか?・適切な切除断端が確保できれば、胃上部の早期癌に対して噴門側の極小胃を温存した幽門側胃切除術を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さC)「新たに設定した胃亜全摘術に関するCQとなる。後ろ向き研究のレビューで、手術時間、合併症発生割合、術後栄養状態、術後障害などの点において胃全摘術よりも優れている可能性が示唆されている」CQ3-3【新設】十二指腸浸潤・膵頭部浸潤を来した進行胃癌に対して膵頭十二指腸切除は推奨されるか?・十二指腸浸潤・膵頭部浸潤を来した進行胃癌に対して膵頭十二指腸切除を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さC)「リンパ節転移が比較的軽度で、R0切除が得られる、患者の全身状態が良好という条件を満たした場合に、行うことを弱く推奨とした」CQ5-2【変更】Conversion手術は推奨されるか?(術後化学療法も含む)・StageIV胃癌症例に対してconversion手術を行うことは、現時点ではエビデンスに乏しく明確な推奨ができない。(合意率78.9%、エビデンスの強さC)・また、conversion手術でR0切除が達成されたStageIV胃癌に対しては、術後補助化学療法に関する明確な推奨ができない。(合意率78.9%、エビデンスの強さC)「前版では、『化学療法により一定の抗腫瘍効果が得られ、R0切除が可能と判断される』との条件付きで『弱く推奨』としていたが、今回は投票結果が80%に至らず、推奨が出せなかった。化学療法が奏効した患者を対象にconversion手術を行い、その生存期間を報告した研究は単群の後ろ向き研究が大半で、患者選択バイアスも大きい。現在、国内で化学療法奏効例に対するConversion surgeryの意義を検討する第III相試験JCOG2301が進行中だ」CQ5-3【新設】出血/狭窄の姑息切除やバイパス手術、ステント留置術は推奨されるか?・出血/狭窄の姑息切除やバイパス手術、ステント留置術を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さD)「ステントは短期的な有用性は高いが長期的には再狭窄のリスクがある。胃空腸バイパスは短期的な合併症リスクは高いものの長期的なQOL維持に優れているとの報告が多いなど、それぞれの特徴を理解して選択することが重要だ」CQ5-4【新設】CY1に対する胃切除術は推奨されるか?(術後化学療法も含む)・胃切除時にCY1が判明した場合は、手術を先行し、術後化学療法を行うことを弱く推奨する。(合意率94.7%、エビデンスの強さC)・また、初回治療前に審査腹腔鏡でCY1が判明した場合は、化学療法後にCY0になった時点で胃切除を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さC)「腹腔洗浄細胞診陽性(CY1)胃がんは、2パターンに分けた推奨となった。胃切除後に化学療法を行うことにより、再現性をもって25%前後の5年生存率が示されている。また、化学療法でCY0に陰転化した場合、5年生存率は34.2%と高く、陰転化なし群と比較したハザード比は2.04と報告されている」CQ6-3【新設】食道胃接合部癌に対する腹腔鏡下手術/ロボット支援手術は推奨されるか?・食道胃接合部癌に対する手術療法として、腹腔鏡下手術またはロボット支援手術を行うことを弱く推奨する。(合意率70%、エビデンスの強さD)「食道胃接合部がんを対象に、開腹と腹腔鏡下手術を比較したランダム化比較試験の報告はない。単施設後ろ向き比較研究や症例集積研究においては、低侵襲手術で出血量が少なく、早期回復が認められたと報告されている」CQ7-2【新設】残胃癌に対して腹腔鏡下手術/ロボット支援手術は推奨されるか?・残胃癌に対する腹腔鏡下手術/ロボット支援手術について、現時点では明確な推奨ができない。(合意率70%、エビデンスの強さD)CQ7-3【新設】残胃空腸吻合部の残胃癌に対して空腸間膜リンパ節郭清は推奨されるか?・残胃空腸吻合部の残胃癌に対して、空腸間膜リンパ節郭清を行うことを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さC)CQ8【新設】切除断端が永久標本で陽性と診断された場合に再手術は推奨されるか?・胃切除後に永久標本で切除断端が陽性と診断された場合の再手術に関しては明確な推奨ができない。(合意率100%、エビデンスの強さD)「後ろ向き研究で、早期がんでは切除断端陽性を予後不良因子とする報告が多いが、高度進行例では再手術の意義は薄れる可能性が示唆されている」CQ9【新設】胃切除後長期障害への対応・CQ9-1:脾摘後の肺炎球菌のワクチンの接種:弱く推奨(合意率90%、エビデンスの強さD)・CQ9-2:胃全摘後のVitB12投与:弱く推奨(合意率90%、エビデンスの強さC)・CQ9-3:胃切除後のヘリコバクター・ピロリ除菌:明確な推奨ができない(合意率100%、エビデンスの強さC)CQ10-1【新設】手術の術式を決める際に、年齢を考慮することは推奨されるか?・高齢者に対してはリンパ節郭清範囲を縮小した縮小手術や低侵襲手術を行うことを弱く推奨する。(合意率70%、エビデンスの強さD)CQ10-4【新設】高齢者・サルコペニア患者に対する周術期の栄養/運動療法は推奨されるか?・高齢者・サルコペニア患者に対する周術期の栄養/運動療法については明確な推奨ができない。(合意率94.7%、エビデンスの強さD)「長期生存と術後合併症についてレビューした。術後合併症については減少可能性が示唆されるが、対象患者と介入方法のばらつきが大きく、エビデンスに乏しいと判断した」

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オフポンプCABGの周術期管理、NIRS+血行動態モニタリングは有効か/BMJ

 オフポンプ冠動脈バイパス術(CABG)の周術期管理において、通常ケアと比較して、近赤外線分光法(NIRS)による組織酸素飽和度モニタリングと血行動態モニタリングのガイドに基づくケアは、組織酸素化をほぼベースラインの水準に維持するが、このアプローチは術後の主要な合併症の発生率を減少させないことが、中国・天津大学のJiange Han氏らBottomline-CS investigation groupが実施した「Bottomline-CS試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2025年3月24日号で報告された。中国の単施設無作為化対照比較試験 Bottomline-CS試験は、NIRSによる組織酸素飽和度の測定と血行動態モニタリングによる周術期管理が、オフポンプCABGの術後合併症を減少させるかの評価を目的とする評価者盲検単施設無作為化対照比較試験であり、2021年6月~2023年12月に三次教育病院である天津市胸科医院で行われた(Tianjin Science and Technology Projectなどの助成を受けた)。 年齢60歳以上の待機的オフポンプCABGを予定している患者1,960例(平均年齢69歳、男性70%)を登録し、このうち修正ITT集団として1,941例をガイド下ケア群(967例)または通常ケア群(974例)に無作為に割り付けた。 全患者で、NIRSによる複数部位(左・右前額部と片側前腕の腕橈骨筋)の組織酸素飽和度モニタリングと血行動態モニタリングを行った。また、両群とも通常ケア(適応がある場合に、動脈圧、中心静脈圧、心電図、経食道心エコー図などの検査を行う)を受けた。 ガイド下ケア群では、麻酔開始から、抜管あるいは術後最長24時間まで、手術の24~48時間前に設定した術前ベースライン値の±10%以内の組織酸素化の維持を目標に、NIRSと血行動態モニタリングをガイドとしたケアを行った。通常ケア群では、治療医に組織酸素濃度測定値と血行動態データを隠蔽した状態で、通常のケアを行った。 主要アウトカムは、術後30日時点での術後合併症(脳、心臓、呼吸器、腎臓、感染症、死亡)の複合の発生率とした。組織酸素飽和度は改善、複合アウトカムに有益性はない 麻酔中に、ベースライン値の±10%の範囲を超える組織酸素飽和度測定値の曲線下面積は、通常ケア群に比べガイド下ケア群で有意に小さく(左前額部:32.4 vs.57.6%×分[p<0.001]、右前額部:37.9 vs.62.6[p<0.001]、前腕:14.8 vs.44.7[p<0.001])、ガイド下ケアによる組織酸素飽和度の改善を確認した。 これに対し、主要複合アウトカムの発生率はガイド下ケア群で47.3%(457/967例)、通常ケア群で47.8%(466/974例)と、両群間に有意な差を認めなかった(リスク比:0.99[95%信頼区間[CI]:0.90~1.08]、p=0.83)。副次アウトカムにも有意差はない 副次アウトカム(複合アウトカムの個々の項目、初発の心房細動、入院期間)にも、両群間に有意差はなかった。最も差が大きかったのは肺炎の発生率で、通常ケア群(12.4%[121/974例])よりもガイド下ケア群(9.1%[88/967例])で低く、未補正では有意差(リスク比:0.73[95%CI:0.56~0.95]、p=0.02)を認めたものの、多重比較で補正すると有意ではなくなった(p=0.60)。 著者は、「これらの知見は、オフポンプCABG中に組織酸素化を維持するためにNIRSと血行動態モニタリングをルーチンに使用することを支持しない」「主要複合アウトカムの相対リスクは95%CIの範囲が狭く(幅0.18)、これはこの偏りのない所見の頑健性を強調するものであり、本試験の検出力に不足はないことを示している」としている。

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第237回 百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省2025年に入り、百日咳の患者報告数が急増している。国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所などが統合)によると、3月23日までの1週間で全国から458人の患者が報告され、今年の累計は4,100人に達した。これは前年(2024年)の年間累計4,054人をすでに上回っている。都道府県別では、大阪府336人、東京都299人、新潟県258人、沖縄県252人、兵庫県233人の順で多く、都市部および一部地域での患者増加が顕著である。百日咳は主に小児の間で感染が拡大し、生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸発作、肺炎、脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性が高い。背景には、新型コロナウイルス感染症流行下での感染対策により百日咳の発生が抑えられていたことで、集団免疫が低下した可能性が指摘されている。また、患者の増加に伴い、従来のマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の報告も複数の地域で確認されており、日本小児科学会は注意喚起を行っている。耐性菌感染例では、標準的な治療にもかかわらず感染拡大リスクが残るため、治療薬の選択については感染症に詳しい小児科医との連携が推奨される。現行の定期予防接種には百日咳成分を含む四種混合ワクチン(DPT-IPV)があり、生後2ヵ月から接種ができる。厚生労働省および専門家は、生後2ヵ月を迎えた段階での速やかな接種を呼びかけており、とくに乳児家庭では感染拡大防止の観点からも接種率の向上が重要とされている。 参考 1) 「百日ぜき」急増 今年すでに4,100人、去年の患者数上回る(毎日新聞 ) 2) 百日せき ことしの累計患者数が4,100人に 去年1年間を上回る(NHK) 3) 百日せき「耐性菌」各地で報告 “速やかにワクチン接種を”(同) 4) 百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について (小児科学会) 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会日本救急医学会は、対話型AI「ChatGPT」による救急受診のアドバイスについて、「一般利用者が正確に理解できない可能性がある」とする研究結果を公表した。研究では、総務省消防庁の救急受診ガイドを基に466の症例(うち314例は緊急度が高い)をAIに判断させ、その回答を救急専門医7人と一般人157人が評価した。専門医の評価では、AIの回答は重症例で97%、軽症例で89%の精度で適切な判断をしているとされた。しかし、一般人は、同じ回答をみても重症例で「救急受診が必要」と解釈できたのは43%、軽症例で「不要」と判断できたのは32%に止まった。これはAIの助言が正確であっても、専門用語の受け取り方や伝わり方にズレが生じている可能性が指摘されている。さらに、AIの助言に「信頼して従った」とする人は全体の約半数に止まり、逆に不安が増したと答えた人も約13%存在した。研究を主導した東京慈恵医科大学の田上 隆教授は「AIの判断精度は高いが、解釈の誤りによる危険があるため、過度な依存は避けるべき」と述べている。学会は、体調に不安がある場合はAIだけに頼らず、医療者に相談し、わかりやすく説明を受けることの重要性を強調している。また、AIが正しく使われるためには、表現の工夫や専門家のサポートが不可欠であり、とくに緊急時には人との連携が不可欠だとしている。 参考 1) 救急受診すべきか「チャットGPT」助言、利用者が解釈誤る恐れ…「過度な依存避けるべき」(読売新聞) 2) 生成AIによる救急外来受診の推奨に関する妥当性研究-生成AIの回答に対する専門家と非医療従事者の解釈の差が明らかに-(日本救急医学会) 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省厚生労働省は4月3日に社会保障審議会の医療保険部会を開き、マイナ保険証のスマホ搭載のスケジュール案を示した。部会では、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できるようにして、2025年9月頃から希望する医療機関から順次導入を開始する方針を示した。まず、同年6~7月に全国10ヵ所程度の医療機関や薬局で実証事業を実施し、スマホでの操作性や資格確認のエラーなどを検証。問題がなければ、9月から環境の整った医療機関で本格運用を始める。スマホ保険証により、患者はマイナンバーカードを持参しなくても診療を受けられるようになるが、導入は医療機関ごとの任意対応であり、全施設への義務付けは行われない。そのため、スマホ対応していない医療機関も存在し、初めて受診する際にはマイナ保険証や資格確認書の持参が推奨される。マイナ保険証の全国利用率は2025年2月時点で26.6%と依然として低迷しており、政府は利用促進策の一環として、医療機関の診察券とマイナンバーカードの一体化、外付けリーダー導入への補助、顔認証付きカードリーダーの改善などを進めている。救急現場での活用を目指す「マイナ救急」や訪問看護ステーションへのオンライン資格確認導入も併せて推進している。また、後期高齢者医療制度の対象者には、スマホ対応やマイナ保険証の有無にかかわらず、2026年7月まで有効な「資格確認書」を交付し、受診機会の確保を図る。現役世代を中心にスマホ対応の需要は高く、今後の普及とシステム整備に向けた国の支援と広報強化が求められている。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」機能搭載のスマホでの受診 9月ごろから導入へ(NHK) 3) “スマホ保険証”9月ごろから順次運用開始へ マイナ保険証の利用底上げ策 厚労省(CB news) 4) マイナ保険証、利用率26%に(日経新聞) 5) スマートフォンへマイナ保険証機能を搭載、2025年夏頃から対応済医療機関で「スマホ保険証受診」可能に-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府2025年4月1日、感染症危機に備える新たな専門組織「国立健康危機管理研究機構」(JIHS:Japan Institute for Health Security)が発足した。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合により設立され、感染症をはじめとする健康危機への科学的かつ実践的な対応を一元的に担う。米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」として、初動対応の迅速化、研究と臨床の連携強化、情報発信の向上を目指す。JIHSでは、新型コロナウイルス流行時の教訓を踏まえ、感染症の調査・分析、ワクチン・治療薬の開発、診療支援体制の構築を平時から推進。有事の際には、病原体の特徴や患者情報の早期把握、リスク評価を政府に助言する。また、災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も機構内に設置され、現場対応力の強化が図られる。初代理事長にはNCGM前理事長の國土 典宏氏、副理事長には感染研前所長の脇田 隆字氏が就任。厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁と連携し、政策決定に科学的知見を提供する。福岡 資麿厚生労働大臣は「感染症危機管理体制の強化を着実に進める」と述べている。政府はJIHSに対し、6年間の中期目標として「初動対応の迅速化」「研究開発の強化」「有事の臨床機能の整備」「人材育成と国際連携」の4項目を掲げ、国民への平時からの情報発信にも取り組み、次なるパンデミックに向けた備えを社会全体で推進していく方針。4日には東京都内で設立記念式典が開催され、政府関係者や医療機関が参加。國土理事長は「科学と実践を融合し、次の健康危機にも即応できる体制を構築する」と意気込みを語っている。 参考 1) 国立健康機器管理研究機構 2) 日本版CDCが1日発足 感染研と国際医療センターを統合(時事通信) 3) 健康危機に備え新機構発足 略称は「JIHS」 有事の対応能力強化(産経新聞) 4) 健康危機に備え新機構「JIHS」発足 有事対応強化(日経新聞) 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省厚生労働省は、4月3日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、第3期全国医療費適正化計画(2018~2023年度)の実績を報告した。後発医薬品の数量シェアは全国平均81.2%と目標を達成した一方、特定健診・保健指導の実施率(58.1%・26.5%)およびメタボ該当者の削減率(16.1%)は未達となった。医療費は推計49.7兆円に対し、実績48.0兆円と1.7兆円削減されたが、新型コロナによる受診抑制の影響も含まれていた。新たに実施される第4期全国医療費適正化計画(2024~2029年度)では、医療費を全国で約4,336億円削減する方針であり、主な施策として、後発薬・バイオシミラー使用の促進(約2,186億円)、多剤・重複投薬の適正化(約976億円)、効果が乏しい医療(風邪や急性下痢への抗菌薬処方など)の見直し(約270億円)、白内障手術や化学療法の外来移行(約106億円)などが挙げられている。この他、特定健診・保健指導推進による効果は約120億円、生活習慣病重症化予防で約678億円を見込む。加えて、医薬品の使用標準化を進める「地域フォーミュラリ」の導入も検討されている。第4期ではコロナの影響が少ないため、施策の効果がより明確に評価される見込み。また、医療費上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論は2025年秋に持ち越された。医療費増加に直面する中、制度の持続可能性と公平性の両立が課題となっている。 参考 1) 第3期医療費適正化計画の実績評価及び第4期全国医療費適正化計画について(厚労省) 2) 後発薬数量シェア81.2%、3期計画 目標達成 メタボ健診は未達(CB news) 3) 2024-29年度の第4期医療費適正化計画、全国で約4,336億円の医療費適正化効果を見込んでいる-社保審・医療保険部会(Gem Med) 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省民間企業による唾液・尿などを用いた疾患リスク判定サービス(いわゆるDTC検査)の拡大を受け、厚生労働省と経済産業省は、「無資格者が個人に疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反に当たる」との見解を、3月28日付の事務連絡として都道府県に通知した。DTC(Direct to Consumer)検査は、消費者と事業者が直接検体や検査結果をやりとりする仕組みで、近年は遺伝子解析を用いたものも多く、市場拡大が進んでいる。一方で、サービスの品質や信頼性には課題があり、医療行為との境界線が不明確との指摘もあった。今回の通知では、無資格の民間事業者は医学的判断を下すことができないため、検査後のサービスは一般的な測定結果や基準値、測定項目に関する一般的情報の提供に止めるべきとされている。疾患リスクや罹患可能性に関する通知は、医師法に抵触する恐れがあり、今後の規制強化も視野に入る。通知は、医療・介護分野と関連する「健康寿命延伸産業」の事業活動指針の改定に伴い出されたもので、DTC検査を提供する事業者への影響が注目される。 参考 1) 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(厚労省・経産省) 2) 医師資格ない検査ビジネス、疾患リスク通知は「違法」 厚労省と経産省が事務連絡(産経新聞) 3) 疾患リスク通知は「違法」 検査ビジネスで事務連絡(東京新聞)

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市中肺炎へのセフトリアキソン、1g1日2回vs.2g1日1回~日本の前向きコホート

 セフトリアキソンは、日本感染症学会/日本化学療法学会の感染症治療ガイドラインにおいて市中肺炎入院患者におけるエンピリック治療の第1選択薬の1つに挙げられている。投与方法は1g1日2回点滴静注または2g1日1回点滴静注が推奨されているが、これらを比較した前向き研究は限られている。今回、倉敷中央病院の中西 陽祐氏らが、これらの投与方法の有効性と安全性を前向きコホート研究で比較し、報告した。Journal of Infection and Chemotherapy誌2025年1月号に掲載。 本研究では、2010年10月~2018年12月に倉敷中央病院に入院した市中肺炎患者を前向きに登録し、セフトリアキソン1g1日2回(12時間ごと)または2g1日1回(24時間ごと)で初期治療を受けた患者を解析した。主要評価項目は初期治療失敗率、副次評価項目は30日死亡率と副作用で、バイアスを最小にするために逆確率重み付け(IPTW)解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・合計457例のうち、186例が1g1日2回、271例が2g1日1回であった。・IPTW調整後、1g1日2回と2g1日1回の初回治療失敗率は2.43%と4.46%(p=0.27)、30日死亡率は2.95%と6.43%(p=0.13)でどちらも有意差はみられなかった。・IPTW調整後の副作用発現頻度は、1g1日2回が1.04%、2g1日1回が4.20%で、後者のほうが高かったものの有意差は認められなかった(p=0.08)。 本試験の結果から、著者らは「有効性・安全性とも有意差は認められなかったが、副作用の点では1g1日2回のほうが安全な選択肢である可能性がある」とし、「治療戦略として1日目に2gを1回、2日目以降は1gを2回投与することが考えられ、これにより副作用を最小限に抑えながら早期の臨床効果を得られるかもしれない」と考察している。

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胃がんT-DXd、日本における販売後調査の最終解析/日本胃癌学会

 抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は「がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌」に対し2020年9月に承認された。現在では胃がん3次治療以降に広く使用されているが、間質性肺疾患(ILD)の発現が重要なリスクとして認識されており、ILDリスクを評価する観察期間12ヵ月の製造販売後調査(PMS)が実施された。2025年3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会総会では、愛知県がんセンターの室 圭氏が本調査の最終解析結果を発表した。 主な結果は以下のとおり。・2020年9月〜2021年12月にT-DXdが投与された全1,129例が登録され、そのうち1,070例が解析対象となった。患者の年齢中央値は70.0歳(65歳以上が71.6%)、77.4%が男性であった。ECOG 0~1が90%、2~4が10%、組織型はIntestinalタイプが46.2%、Diffuseタイプが19.0%であった。・治療期間中央値は3.94ヵ月だった。薬剤承認の根拠となったDESTINY-Gastric01試験では治療開始時のT-DXd投与量は6.4mg/kgであったが、本解析では5.4mg/kg以下での開始例が2割程度存在し、この割合は治療継続と共に増加した。・12ヵ月時点におけるT-DXdによる治療状況は治療中11.8%、中止88.2%であった。治療中止の理由は原疾患進行が65.9%、ILDによる中止が9.9%、ILD以外の有害事象による中止が9.3%であった。・薬剤関連ILDの発現割合は9.63%(103例)、Grade≧3が2.8%(30例)、Grade5は1.21%(13例)であり、DESTINY-Gastric01試験と同等の結果であった。ILDのタイプではOP(器質化肺炎)が64例と最多で、最も予後が悪いとされるDAD(びまん性肺胞損傷)は8例だった。・ILDの発症タイミングは治療開始後2~3ヵ月目が最も多かったが、1~12ヵ月目のどの時期でも生じた。ILD発症患者の転帰は、回復が46.6%(48例)、軽快が21.4%(22例)、回復したが後遺症ありが5.83%(6例)、未回復が10.68%(11例)、死亡が12.62%(13例)であった。・ILDのリスク因子は75歳以上、ILD・放射線肺臓炎・COPDそれぞれの既往だった。 室氏は「ILDの発症頻度は既報どおりであり、診療医はこれをしっかりと認知して治療に当たる必要がある。ILDはタイプによって重症度が異なり、早期発見や専門医につなげるため、こうした分類を消化器がん診療医であるわれわれもある程度知っておくことが重要だ」とした。

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第236回 はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省

<先週の動き> 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務 /国がん 3.2025年度の専攻医は過去最多の9762人、外科医が増加/専門医機構 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生 /保団連 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省日本国内で、はしか(麻しん)の患者報告が増加しており、注意が必要となっている。国立感染症研究所の調査によると、今年の患者数はすでに32人に達し、昨年の総患者数に迫る勢い。とくに、ベトナムへの渡航歴がある患者が多く報告されている。患者の年齢層は20~30代が中心で、全患者の7割近くを占めている。はしかは感染力が非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染によって人から人へと伝播する。免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症すると言われており、発熱、咳、鼻水などの風邪のような症状や、発疹が現れる。重症化すると肺炎や中耳炎を合併し、脳炎を発症する場合もある。こうした状況を受け、厚生労働省と外務省は、国民に対し注意喚起を行っている。海外渡航を予定している人は、渡航先の流行状況を確認し、予防接種歴を確認することが推奨されている。予防接種を受けていない場合は、渡航前に接種を検討することが重要である。 参考 1) 麻しんについて(厚労省) 2) 海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起(外務省) 3) 麻しん累積報告数の推移 2018年~2025年(第1~11週)(国立感染症研究所) 4) はしか患者報告相次ぐ 全国で32人 ベトナム渡航で感染か(毎日新聞) 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務/国がん国立がん研究センターは、大腸がんの死亡率低減に向け、全国統一の検診プログラム導入を提言する「大腸がんファクトシート」を公開した。ファクトシートによると、わが国における75歳以上の大腸がん年齢調整死亡率は、諸外国と比較して高い水準にある。1992年から導入された便潜血検査による対策型検診は、死亡率の減少に一定の効果をみせたものの、その減少幅は他国に比べて緩やかである。この要因として、住民検診、職域検診、人間ドックなど、多岐にわたる検診が混在し、精度管理指標の評価が困難であることが指摘されている。結果として、検診の効果が十分に発揮されていない可能性がある。提言では、検診プログラムの全国統一化、または全数把握システムの構築を求め、データの一元管理による精度管理の向上、受診率・精密検査受診率の向上が重要であると強調している。現状では、大腸がん検診の受診率は低迷しており、2023年度の住民検診受診率はわずか6.8%に止まる。また、職域検診など、法的根拠のない検診も存在し、データが十分に公表されていない点も課題となっている。ファクトシートでは、大腸がんの病態、罹患・死亡の動向、リスク要因、検診、治療、今後の対策など、多岐にわたる情報が網羅されている。とくに、日本人のリスク要因として「喫煙、飲酒、肥満、高身長」が挙げられ、食生活や運動習慣の改善が重要であることが示された。また、便潜血検査の有効性が改めて示される一方で、大腸内視鏡検査については、現在進行中の大規模試験の結果を踏まえた慎重な検討が必要とされている。国がんは、今後の対策として、日本人に適した予防法の確立、全国統一プログラムによる検診の実施、受診勧奨の強化、精度管理の徹底などを提言している。とくに、大腸内視鏡検査については、有効性の検証とともに、対象者、処理能力、精度管理、安全性、検査歴などの課題解決に向けた検討を求めている。 参考 1) 大腸がんファクトシート(国立がん研究センターがん対策研究所) 2) 大腸がん検診、全国統一のプログラム実施を 諸外国より高い死亡率 国がんがファクトシート公開(CB news) 3) 大腸がんの罹患数・死亡数低下に向け、まず住民検診、職域検診、人間ドック等に分かれている「がん検診データ」を集約し実態把握をー国がん(Gem Med) 3.2025年度の専攻医は過去最多の9,762人、外科医が増加/専門医機構日本専門医機構は、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人となる見込みであることを明らかにした。医学部定員の増加を背景に、全体として採用数は増加傾向にある。とくに、医師不足が深刻な外科では、前年度比56人増の863人と増加が顕著であった。耳鼻咽喉科も72人増と大幅な伸びを示した。一方、精神科、産婦人科、放射線科などでは減少がみられた。地域別では、東京近郊で増加傾向にあるが、医師不足が深刻な東北地方での増加は限定的。この地域偏在の解消に向け、2026年度からは新たなシーリング制度が導入され、医師不足地域との連携を促進する仕組みとなる。専門研修と並行して研究を目指す「臨床研究医コース」は、25人と増加に転じた。機構は、2026年度に研究奨励賞を創設するなど、研究医育成への支援を強化する方針を示している。また、機構では、医師の地域・診療科偏在を解消しつつ、質の高い専門医育成を目指すため、今後も制度の改善に取り組むとしている。 参考 1) 2025年度専攻医採用数一覧(日本専門医機構) 2) 来年度の専攻医数、過去最多に(Medical Tribune) 3) 新専門医目指す「専攻医」の2025年度採用は9,762名、外科専攻医が増加、東北地方での専攻医増は限定的-日本専門医機構(Gem Med) 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生/保団連マイナ保険証の利用を巡り、全国保険医団体連合会(保団連)が実施した調査で、医療機関の約9割で何らかのトラブルが発生していたことが明らかになった。トラブルの内容としては、氏名や住所の漢字が正確に表示されないケースが最も多く、次いでカードリーダーの接続不良や認証エラー、資格情報が無効となるケース、マイナ保険証の有効期限切れなどが報告されている。これらのトラブルにより、医療機関では窓口業務の負担が増加し、とくに高齢者を中心に、カードリーダーの使用が困難な患者や、使用方法を理解できない患者への対応に時間を要している。また、資格情報などの確認が取れるまで、患者に医療費を全額負担させるケースも発生している。保団連は、こうした状況を受け、トラブル時にバックアップとなる健康保険証の存続を訴えている。従来の保険証は、患者が医療機関を受診する際に資格を証明する重要な役割を果たしており、医療機関と患者の双方にとって有益であることが調査結果からも示唆されている。マイナ保険証の利用には、初診の患者の登録が簡単になる、資格情報の確認がオンラインで可能になるなどのメリットもある。しかし、トラブル発生時の対応に時間がかかることや、再診の患者が多い現状を考慮すると、マイナ保険証のメリットは限定的であるという指摘もある。さらに、マイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書の有効期限は5年であり、2020年にマイナポイント事業でカードを作成した人の更新時期が迫っている。今後、電子証明書の失効によりマイナ保険証が利用できなくなる人が増加し、医療現場でのトラブルがさらに多発することが懸念されている。 参考 1) 保険証発行停止後の医療現場のマイナ保険証トラブルは? 8,000医療機関から回答(保団連) 2) マイナ保険証エラーで「いったん全額負担」1,720件 医療機関を全国調査したら「トラブルあった」9割(東京新聞) 3) マイナ保険証移行後にトラブル 9割の医療機関で 保団連の中間集計(CB news) 4) “マイナ保険証”使えず医療費「患者が全額負担」のケースも多数…保団連が現場トラブルの実態を報告(弁護士JP) 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ自民・公明・維新の3党は3月27日に、社会保障改革に関する協議体の2回目の会合を開き、OTC類似薬(市販薬と類似の医療用医薬品)の保険適用除外について、来週開催される次回の会合で議論することを決定した。維新の会の岩谷 良平幹事長は、会合後の記者会見で、主な議題は協議テーマの選定であり、1回目の会合に続きOTC類似薬の保険給付の見直しを提案したと説明。これに対し、自民・公明両党は改革案の提出を求め、岩谷幹事長は弊害や課題を整理し、協議を進める考えを示した。また、自民・公明両党は専門家を招いての議論を提案したが、維新の会は迅速な改革を主張し対立。結果として、次回の会合に専門家を招くことは見送られた。一方、日本医師会はOTC類似薬の健康保険からの適用除外に強く反対している。保険適用除外による患者の経済的負担増加や受診控えによる健康被害、薬の適正使用が困難になることを懸念している。とくに高齢者や基礎疾患を持つ患者への影響は大きく、医療費全体の増加も指摘した。ドラッグストア協会は、医療費抑制には理解を示しつつも、患者の負担増を懸念し、財源の活用方法を含めた議論を求めている。3党は今後、週1回のペースで協議を重ね、5月中旬までに一定の方向性をまとめる予定。しかし、専門家の参加や改革案の内容を巡り、早くも意見の隔たりが表面化しており、議論の行方は不透明である。 参考 1) 社保改革で実務者が初会合 自公維3党協議(日経新聞) 2) OTC類似薬の保険適用除外、3党で来週協議へ 専門家の出席巡り激しい応酬も 社会保障改革(CB news) 3) 社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化に強い懸念を表明(日医ニュース) 4) ドラッグストア協会 OTC類似薬の保険適用除外論議にコメント(ドラビズオンライン) 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省厚生労働省は、地域医療構想の実現を加速化するため、各都道府県に「推進区域」を設定する取り組みを進めており、新たに兵庫県の「東播磨構想区域」を推進区域に追加した。これにより、全都道府県から計74ヵ所の推進区域が出そろった。高齢化の進展に伴い、2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを占める「いわゆる団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となる。これに伴い、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化することが予想される。地域医療構想は、こうした医療ニーズの増加・複雑化に対応できるような効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するために、各地域で進められている取り組みである。しかし、2025年度を目前に控えた現時点でも、地域医療構想の実現に向けた取り組みの進捗状況は地域によって大きなばらつきがある。具体的には、「病床の必要量と2025年の病床数見込みとの乖離があり、それに関する分析が進んでいない地域がある」「医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成が進んでいない地域がある」といった状況となっている。さらに、すべての構想区域で、救急医療提供体制や医師確保など、医療提供体制に何らかの問題を抱えていることが判明している。そこで厚労省は、地域医療構想実現に向けた動きを加速化するため、2024年3月に、各都道府県におおむね1~2ヵ所ずつ「推進区域」を指定し、当該区域において「推進区域対応方針」を作成し、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する方針を固めた。推進区域は、厚労省と都道府県とで調整し、データ特性だけでは説明できない病床数の差異や、再検証対象医療機関の対応状況、その他医療提供体制上の課題などを総合的に勘案して設定される。各都道府県は、2024年度中に、推進区域の地域医療構想調整会議で協議を行い、当該区域における将来のあるべき医療提供体制、医療提供体制上の課題、当該課題の解決に向けた方向性・具体的な取り組み内容を含む「区域対応方針」を策定し、それに基づく取り組みを推進することが求められる。また、推進区域のうち10~20ヵ所程度は「モデル推進区域」として指定され、厚労省による技術的・財政的支援が行われる。 参考 1) 地域医療構想における推進区域及びモデル推進区域の設定等について(厚労省) 2) 推進区域74ヵ所出そろう、兵庫の「東播磨」追加 25年の地域医療構想 モデル推進区域は16ヵ所(CB news) 3) 地域医療構想実現に向けた取り組みの加速化を目指す【推進区域】、兵庫県明石市、加古川市など含む「東播磨」区域を追加決定-厚労省(Gem Med)

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肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果【論文から学ぶ看護の新常識】第8回

肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果成人肺炎に対する胸部理学療法についてのコクランレビューは、2010年に初めて発表され、2013年に更新された。新たに2件の研究を追加し再分析を行ったアップデート版が、The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年9月6日号に掲載された。コクランレビュー:成人の肺炎に対する胸部理学療法本アップデートでは、2013年の結果に新たに2件の研究(540例)を追加し、合計8件のランダム化比較試験(RCT)、974例を分析対象とした。以下の5種類の胸部理学療法を検討した。1)従来の胸部理学療法、2)オステオパシー徒手療法(OMT;脊柱抑制、肋骨挙上、筋膜リリースを含む)、3)アクティブサイクル呼吸法(呼吸コントロール、胸郭拡張運動、強制呼気技術を含む)、4)呼気陽圧療法(PEP)、5)高頻度胸壁振動法(HFCWO)。主要評価項目として、死亡率、治癒率、入院期間、発熱期間、抗生物質使用期間、ICU滞在期間、人工呼吸期間、副作用を設定した。いずれもエビデンスの確実性は非常に低いが、以下の通りの結果となった。死亡率:従来の胸部理学療法(無介入との比較)、OMT(プラセボとの比較)、HFCWO(無介入との比較)は、いずれも死亡率を改善する可能性はほとんどない。治癒率:従来の胸部理学療法とアクティブサイクル呼吸法(無介入との比較)は、治癒率改善にほとんど影響を与えない可能性がある。OMTは、治癒率を改善する可能性がある(リスク比[RR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.01~2.51)。入院期間:OMT、従来の胸部理学療法、アクティブサイクル呼吸法は、入院期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEP(無介入との比較)は、入院期間を平均1.4日短縮する可能性がある(平均差[MD]:−1.4日、95%CI:−2.77~−0.03)。発熱期間:従来の胸部理学療法、OMTは、発熱期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEPは、発熱期間を0.7日短縮する可能性がある(MD:−0.7日、95%CI:−1.36~−0.04)。抗生物質使用期間:OMTとアクティブサイクル呼吸法は、いずれも抗生物質の使用期間にほとんど影響を与えない可能性がある。集中治療室(ICU)の滞在期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄(気管支鏡肺胞洗浄単独との比較)では、ICU滞在期間を3.8日短縮する可能性がある(MD:−3.8日、95%CI:−5.00~−2.60)。人工呼吸期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄は、人工呼吸期間を3日短縮する可能性がある(MD:−3日、95%CI:−3.68~−2.32)。副作用:1件の試験では、2名の参加者にOMT後一過性の筋肉の圧痛が発生した。別の試験では、3件の重篤な有害事象によりOMT後に早期に試験から除外された。1件の試験では、PEPでの有害事象は報告されなかった。主要な結論に変更はなかった。現在のエビデンスでは、胸部理学療法が成人肺炎患者の死亡率や治癒率を改善する効果については非常に不確かである。一部の理学療法は入院期間、発熱期間、ICU滞在期間、および人工呼吸期間をわずかに短縮する可能性がある。しかし、これらの結果は確実性の非常に低いエビデンスに基づいており、さらなる検証が求められる。成人肺炎患者に対する胸部理学療法の今回のレビューでは、死亡率や治癒率への効果は不確実という結果でした。一部の手法では、入院日数やICU滞在期間、発熱期間を短縮する可能性が示唆されましたが、いずれもエビデンスの確実性は低く、さらなる大規模研究が必要です。その一方で、胸部理学療法の効果がないと証明されたわけではありません(統計上、効果があるかどうかがわからないが正確な捉え方です)。看護師としては、胸部理学療法単独の効果に過度な期待を寄せるのではなく、体位管理や呼吸訓練、早期離床などの多角的なケアを組み合わせて行うことが重要です。現場では個々の患者さんに応じたケアが最優先になります。とくに、患者さんの全身状態を見極めながら、呼吸介助や痰の排出を促す方法を取り入れるなど、個々の状況に合わせたプランを立案しましょう。また効果の根拠が限られるからこそ、他職種とも連携を図り、安全性を担保しながら最適なケアを提供する姿勢が求められます。実践する際は、患者さんの負担やリスクを常に評価し、無理のない範囲で効果的に行う方法を検討することが大切です。今後も新たな知見を確認しながら柔軟にケア介入を考えていきましょう。論文はこちらChen X, et al. Cochrane Database of Syst Rev. 2022;9(9): CD006338.

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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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高齢者のために開発された抗原量4倍のインフルワクチン「エフルエルダ筋注」【最新!DI情報】第35回

高齢者のために開発された抗原量4倍のインフルワクチン「エフルエルダ筋注」今回は、「高用量4価インフルエンザHAワクチン(商品名:エフルエルダ筋注、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は、国内初の高用量4価インフルエンザHAワクチンであり、60歳以上の成人におけるインフルエンザの新たな予防選択肢として期待されています。<効能・効果>インフルエンザの予防の適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>60歳以上の人に1回、0.7mLを筋肉内接種します。なお、医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、脊髄炎、視神経炎、ギラン・バレー症候群、けいれん(熱性けいれんを含む)、肝機能障害、黄疸、喘息発作、血小板減少性紫斑病、血小板減少、血管炎(IgA血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、白血球破砕性血管炎など)、間質性肺炎、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、急性汎発性発疹性膿疱症、ネフローゼ症候群(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応は、疼痛(43.8%)、頭痛、筋肉痛、倦怠感(いずれも10%以上)、紅斑、腫脹、硬結、内出血、そう痒感(注射部位そう痒感、ワクチン接種部位そう痒感)、下痢、嘔吐、咳嗽、口腔咽頭痛、鼻炎、上咽頭炎、悪寒、発熱、疲労(いずれも0.1~10%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.このワクチンは、60歳以上の人に対してインフルエンザの予防目的で接種されます。2.このワクチンの接種により、インフルエンザウイルスに対する抗体ができてかかりにくくなります。3.接種後一定時間は体調に変化がないか様子をみるため、背もたれや肘かけのある椅子など、体重を預けられるような場所で座るなどして待っていてください。4.待っている間は、なるべく立ち上がることを避け、座っていてください。5.接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染力の強い急性ウイルス性疾患です。流行するインフルエンザウイルスには、A型(H1N1亜型およびH3N2亜型)とB型(山形系統およびビクトリア系統)の4種類があります。インフルエンザは、すべての年齢層で感染して発症しますが、とくに65歳以上の高齢者が罹患すると、重症化するリスクが高くなり、死亡に至ることがあります。インフルエンザの発症や重症化の予防にはワクチン接種が効果的です。通常、4価インフルエンザHAワクチン(各インフルエンザウイルス株につき15μg)が接種されますが、高齢者では若年成人と比較して免疫応答が不十分なことがあります。エフルエルダ筋注は、60歳以上の高齢者に対する予防効果を高めるために、1株当たりの抗原量を60μgに増量した国内初の高用量4価インフルエンザHAワクチンです。65歳以上の成人を対象とした海外第III/IV相試験(FIM12試験)におけるインフルエンザ発症率について、高用量ワクチン群の標準用量ワクチン群に対する相対的有効性は24.24%であり、高用量ワクチンの優越性が検証されました。また、60歳以上の日本人健康成人を対象とした国内第III相試験において、赤血球凝集抑制(HAI)幾何平均抗体価(GMT)比およびHAI抗体陽転率から、標準用量4価インフルエンザHAワクチンに対する優越性が検証されました。

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高齢の市中肺炎、セフトリアキソンvs.スルバクタム・アンピシリン

 高齢者の市中肺炎の初期対応として、嫌気性菌をカバーするスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、カナダの市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究では、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させたことが報告されている1)。そこで、山本 舜悟氏(大阪大学)らの研究グループは、市中肺炎により入院した65歳以上の患者を対象としたデータベース研究を実施し、セフトリアキソン(CTRX)とSBT/ABPCを比較した。その結果、SBT/ABPCのほうがCTRXよりも院内死亡率が高かった。本研究結果は、Open Forum Infectious Diseases誌2025年3月5日号に掲載された。 研究グループは、健康・医療・教育情報評価推進機構が管理するデータベースを用いて、2010~23年に市中肺炎により入院した65歳以上の患者のうち、初期治療としてCTRXまたはSBT/ABPCを用いた患者2万6,633例を抽出した。CTRX群とSBT/ABPC群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。主要評価項目は院内死亡率とし、副次評価項目はC. difficile感染症(CDI)の発生率とした。逆確率重み付け法を用いて、両群の調整リスク差(aRD)、調整オッズ比(aOR)、それらの95%信頼区間(CI)を推定することで評価した。 主な結果は以下のとおり。・CTRX群は1万1,727例、SBT/ABPC群は1万4,906例であった。・院内死亡率はCTRX群9.0%、SBT/ABPC群10.5%であり、SBT/ABPC群が高かった(aRD[95%CI]:1.5%[0.7~2.4]、aOR[95%CI]:1.19[1.08~1.31])。・CDIの発生率はCTRX群0.4%、SBT/ABPC群0.6%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aRD[95%CI]:0.2%[0.0~0.4]、aOR[95%CI]:1.45[0.99~2.11])。・誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団を対象としたサブグループ解析において、院内死亡率はCTRX群11.5%、SBT/ABPC群14.2%であり、SBT/ABPC群が高かった(aOR[95%CI]:1.27[1.14~1.40])。・同様に、誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団のCDIの発生率はCTRX群0.5%、SBT/ABPC群0.8%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aOR[95%CI]:1.52[1.00~2.31])。 本研究結果について、著者らは「膿胸や肺膿瘍などの嫌気性菌の関与が明らかな場合を除き、高齢の市中肺炎患者に対する初期治療として、嫌気性菌カバーする抗菌薬の使用は避けるべきである可能性が示された」とまとめた。

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認知症の急速悪化、服用中の薬剤が引き金に?【外来で役立つ!認知症Topics】第27回

認知症の急速進行性患者(Rapid Decliner)少なからぬ認知症の患者さん、とくにアルツハイマー病(AD)患者の外来治療は長期にわたりがちで、2年や3年はざら、時には10年ということもある。そうした中で、この病気が進行していくスピード感というものがだんだんとわかってくる。ところが、「なぜこんなにも急速に悪化するのか」という驚きと、主治医としての後ろめたさを感じてしまうような症例を少なからず経験する。こうした患者さんは、医学的には急速進行性患者(Rapid Decliner:RD)と呼ばれる。急速進行性認知症とは、本来プリオン病をプロトタイプとするが、プリオン病との鑑別で最も多いのは急速進行性のADだとされる。このようなケースでは、本人というよりも主たる介護者が、そのことを嘆かれ、治療の変更や転医などを相談されることもある。しかし担当医として容易にはお答えができず、忸怩たる思いを経験する。また新薬の治験のようにADの経過を評価する際にもRDはしばしば問題になる。というのは、こうした新薬の効果は、多くの場合、わずかなものである。そこに一般的な患者の経過から飛び抜けて悪化を示すケースがあると、「結果解析ではこうしたRDを例外として対象から除外するのか?」などの統計解析上の取り扱いが問題になると聞く。急速進行性アルツハイマー病(RD AD)の定義さて急速進行性AD(RD AD)の定義では、MMSEのような認知機能評価尺度の点数悪化や発症から死亡に至るまでの時間により示されることが多い。RD ADの定義として、MMSEの年間点の得点低下が6点以上とするものが多い1)。一般的には年間低下率は、2~3点とされるから、その倍以上である。また普通は7~8年とされるADの生存期間だが、RD ADでは、それが2年以内とされることも多い2)。つまり約3~4分の1程度も短命である。このようなRD ADを予測する要因としては、合併症として、血管性要因、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。また慢性的な心不全や閉塞性肺疾患の関与も注目されてきた。しかしいずれも確立していない。さらに一般的には若年性が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではない。バイオマーカーでは、脳脊髄液中の総タウ、リン酸化タウの高値は予測要因の可能性があるとされる。多くの遺伝子多型も研究報告されてきた。最もよく知られた遺伝子多型のAPOEだが、この役割については賛否両論ある。以上をまとめると、RD ADの予測要因として確立したものはなさそうである。RD ADの症状:体力低下、BPSD、IADLの障害もっとも実臨床の場面でRD ADが持つ意味は上記のような医学的な定義とは少し異なる。つまり体力低下、認知症にみられる行動および神経心理学的な症状(BPSD)や道具的ADL(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)の障害などが急速に進んで日常生活の維持が困難になって、急速進行が事例化するケースが多いと思う。たとえば、大腿骨頸部骨折や各種の肺炎後に衰弱が急に進むという訴えがある。IADLでは、排泄の後始末ができない・汚れたおむつで便器を詰まらせる、着衣失行など衣類が着られなくなった、などが多い。またBPSDでは、多くの介護者にとって、幻視や幻聴、そして妄想の出現はショックが大きい。つまり家族介護者は、認知機能の低下というよりは、衰弱やIADLの低下、衰弱や幻覚妄想による言動のように、目に見える変化が急速な悪化と感じやすい。服用中の薬剤が急速悪化の引き金にさて問題は、こうしたケースへの対応である。これには2つのポイントがある。まず診断の見直しという基本の確認である。ここでは必要に応じてセカンドピニオンも考慮すべきである。次にRDの危険因子とされた要因を点検することである。とくに注目すべきは、服用薬剤の副作用だろう。診断の見直しでは、まずビタミンB群、梅毒やHIVを含む血液検査はしておきたい。新たな脳血管障害などが加わった可能性もあるからCTやMRI等の脳画像の再検査も考慮する。また脳脊髄液検査や脳波検査も、感染症やプリオン病などの可能性を踏まえてやっておきたい。高度検査では、遺伝学的な検査、また悪性腫瘍の合併を考慮してWhole body PET-CTが必要になるケースもあるだろう。さらに炎症系の関りも視野に入れて、専門医との相談に基づいて、抗炎症治療による治療的診断として、イムノグロブリン、高用量ステロイドなどの投与もありうる。いずれにせよこれらでは、躊躇なくセカンドオピニオンが求められる。危険視の中でも、服用薬剤が重要である。まず向精神薬がある程以上に長期間にわたって投与されていれば、これらが心身の機能にも生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。なお向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬のほかに、抗てんかん薬、抗パーキンソン薬などが含まれる。とりわけ、他科から処方されている薬剤は案外盲点かもしれない。他科の担当医はご自分の領域の治療薬に精通されていても、それが認知症に及ぼす影響まではあまり注意されていないかもしれない。それだけに「おくすり手帳」などを見せてもらう必要がある。さまざまな薬剤の中でも、とくに抗コリン薬は要注意である。これは過活動性膀胱の治療薬など泌尿器科用薬剤、循環器用薬剤に多い。またヒスタミンH2受容体拮抗薬、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、循環器系治療薬、抗菌薬などにも目配りが求められる。参考1)Soto ME, et al. Rapid cognitive decline in Alzheimer's disease. Consensus paper. J Nutr Health Aging. 2008;12:703-713. 2)Harmann P, Zerr I. Rapidly progressive dementias – aetiologies, diagnosis. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.

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第233回 コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省

<先週の動き>1.コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省2.高額療養費の引き上げを凍結、参院選への影響か-与党内にも異論噴出/政府3.2026年度診療報酬改定、医療機関の経営危機対応が最優先課題/三保連4.自治医大卒業生が修学資金返還を巡り提訴、「契約は憲法違反」と主張/自治医大5.吉祥寺南病院、事業継承が決定 救急・災害医療の機能維持へ/東京都6.殺人隠蔽のみちのく記念病院、元院長ら2人を起訴/青森県1.コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省厚生労働省は2025年2月26日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版」を公開した。前回の改訂から1年4ヵ月ぶりで、各章の要点をまとめた「Point」を追加し、罹患後症状が続く場合に利用できる支援制度の解説や患者向け説明資料を付録として掲載した。改訂では、罹患後症状の疫学に関する最新知見が追加され、大阪府八尾市の調査結果を基に、感染者の罹患後症状の割合が3ヵ月後の14.3%から18ヵ月後には5.4%に低下する傾向が示された。また、罹患後症状ごとの診療アプローチを整理し、プライマリ・ケアの対応や専門医への紹介基準などを明確化した。さらに、労災保険や障害年金、自立支援医療制度など、患者が利用できる支援制度を詳述し、厚労省は2月27日に関連Q&Aも改訂した。今回の改訂により、医療従事者の診療支援強化と患者への適切な情報提供が期待されている。参考1)新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版(厚労省)2)新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A(同)3)罹患後症状が続く場合に活用できる支援制度を追記「コロナ罹患後症状のマネジメント」が1年4ヵ月ぶりに改訂(日経メディカル)4)新型コロナウイルス感染症に係る罹患後症状 (いわゆる後遺症)実態把握調査結果について(愛知県)2.高額療養費の引き上げを凍結、参院選への影響か-与党内にも異論噴出/政府政府は3月7日、今年8月に予定していた高額療養費制度の自己負担上限額の引き上げを見送ることを決定した。患者団体の強い反発に加え、与野党からの批判が高まり、夏の参院選への影響を懸念する声が強まったことが背景にある。当初、政府は医療費の増大に対応するため、2025年8月~2027年8月にかけて3段階で負担上限を引き上げる方針だった。しかし、患者団体から「治療を続けられなくなる」との訴えが相次ぎ、政府は2月末に2026年以降の引き上げを再検討すると発表した。それでも批判は収まらず、与党内でも選挙への悪影響を懸念する声が拡大。公明党や自民党の参議院議員が見直しを求め、政府は最終的に引き上げそのものを見送る判断を下した。石破 茂首相は7日夜、患者団体と面会し、「8月の改定を含め、全体の見直しを見合わせる。秋までに改めて方針を検討する」と述べた。患者団体の代表は「われわれの声が一定程度届いた」と評価する一方で、再検討の期間が短く、当事者の意見が十分反映されるか懸念を示した。政府がこの制度の見直しを進めた背景には、医療費の増加と社会保障費の持続可能性確保の問題がある。高額な医薬品の普及により高額療養費の支給額は増加傾向にあり、政府は負担区分の細分化や負担上限の引き上げによって、財政の健全化を図る考えだった。しかし、拙速な決定プロセスが批判を招き、結果的に3度目の方針転換を余儀なくされた。今後の焦点としては、秋までに政府がどのような新方針を打ち出すかにある。代替財源の確保や制度の持続可能性を維持しつつ、患者の負担を最小限に抑える方策が求められる。また、予算案の再修正が必要となるため、国会での審議にも影響が及ぶ見通しだ。参考1)石破首相、高額療養費上げ見送り=今秋までに新方針検討-25年度予算案再修正へ(時事通信)2)高額療養費制度 負担上限額 ことし8月の引き上げ見送りへ 政府(NHK)3)高額療養費の負担引き上げ見送り、参院選への影響考慮…新年度予算案は衆院で再議決の異例の展開へ(読売新聞)4)高額療養費上げ見送り、拙速議論のツケ 医療改革に逆風(日経新聞)5)高額療養費の負担増見送り表明、石破首相 秋までに改めて方針を検討・決定へ(CB news)3.2026年度診療報酬改定、医療機関の経営危機対応が最優先課題/三保連3月6日に開催された三保連合同シンポジウムで、2026年度の診療報酬改定において、病院の経営危機への対応が最優先課題であるとの声が相次いだ。内科系学会社会保険連合(内保連)の小林 弘祐理事長は「病院が赤字で潰れてしまえば、良い医療を提供することもできない」と強調し、医療従事者の人件費高騰や医療材料のコスト増加が経営を圧迫している現状を指摘した。政府が25年度予算案で社会保険料の負担軽減を目的に医療費削減を打ち出したことについて、関係者からは強い警戒感が示された。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の瀬戸 泰之会長も「医療機関が経営危機にあるのは間違いない」と述べ、診療報酬の適切な引き上げを求めた。看護分野では、看護系学会等社会保険連合(看保連)が専門性の高い看護師を手術室や救急外来に配置することへの評価を求める方針を示し、具体的な提案を月内に厚生労働省へ提出する予定だ。また、がん患者への妊孕性相談指導の評価など、看護ケアの質向上に向けた要望も出された。外科分野では、外保連の渡邊 雅之実務委員長が、ロボット支援手術の評価向上や整形外科の手術コード(Kコード)の精緻化を求める方針を示した。現行の評価では、ロボット支援手術は従来の手術法に比べて収益が低く、医療機関の負担が大きいことが問題視されている。また、物価高騰や人件費増加が病院経営に大きな影響を与えており、診療報酬の総枠拡大が不可欠とされた。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、高額医療機器の更新が困難になっている現状を指摘し、「医療の質を維持するためには診療報酬の適切な引き上げが必要」と述べた。今後、三保連は診療報酬改定に向けた提言をまとめ、政府への働きかけを強める方針だ。医療機関の経営基盤を強化し、持続可能な医療提供体制を確保するため、適切な診療報酬改定が求められる。参考1)令和8年度診療報酬改定に期待するもの 三保連の重点要求項目(三保連)2)経営危機への対応を最優先に、学会から指摘相次ぐ 三保連シンポで(CB news)3)2026年度診療報酬改定で医療技術の適切な評価・点数引き上げを行い、病院経営の持続性を確保せよ-内保連・外保連・看保連(Gem Med)4.自治医大卒業生が修学資金返還を巡り提訴、「契約は憲法違反」と主張/自治医大自治医科大学を卒業した医師が、同大学の修学資金貸与制度の違法性を主張し、自治医大と愛知県を相手取り訴訟を提起した。訴えの内容は、修学資金の返還義務の不存在確認と国家賠償請求である。自治医大の修学資金貸与制度は、医師不足地域の医療確保を目的とし、学生に修学資金を貸与し、卒業後に指定された公立病院などで一定期間勤務することで返還が免除される仕組み。しかし、途中で指定病院を辞職した場合、修学資金と損害金を一括返済する義務が発生する。原告の医師は、大学在学中に約2,660万円を貸与されたが、家庭の事情により指定勤務先を退職しようとした。しかし、自治医大や愛知県は退職を認めず、最終的に一方的に退職を迫られたと主張。その後、大学側から修学資金と損害金の一括返済を求められたため、契約条項の憲法違反や労働基準法違反を理由に訴訟を起こしたもの。代理人の弁護士は「指定勤務を強制することは憲法が保障する居住・移転の自由に反する可能性がある」と指摘し、修学資金返還義務の法的根拠の正当性を問うている。一方、自治医大は公式声明で「本学の修学資金制度は、地域医療を確保するために合理的かつ重要な制度であり、関係法令にも適合している」と反論。これまで原告に対し返還請求の説明を行ってきたとした上で、訴訟の提起を「遺憾である」と表明し、法廷で制度の正当性を主張していく方針を示している。今回の訴訟は、地域医療を担う医師確保の必要性と、医師のキャリア選択の自由とのバランスが問われる問題として、今後の医療政策にも影響を与える可能性がある。参考1)本学卒業生からの訴訟提起に関する本学の見解(自治医大)2)「無知な受験生を囲い込む、悪魔のような制度」自治医大の修学金貸与制度巡り卒業生の医師が提訴(弁護士JPニュース)3)Dr.NKMR〈自治医大卒医師/弁護士志望の法科大学院生/アンチ地域枠制度〉@自治医大・愛知県を提訴5.吉祥寺南病院、事業継承が決定 救急・災害医療の機能維持へ/東京東京都武蔵野市の吉祥寺南病院は老朽化と建設費高騰のため2024年9月に診療を休止していたが、社会医療法人社団・東京巨樹の会が事業を継承することが決定した。東京巨樹の会は関東や九州で病院を運営するカマチグループに属し、今後、既存の建物を取り壊し、新たな病院を建設する予定。新病院は、これまでの二次救急医療機関や災害拠点連携病院としての役割を引き継ぎ、病床数も増やす方針だが、開院時期は未定。吉祥寺エリアでは過去10年間で病院の閉鎖が相次ぎ、救急病床が大幅に減少していたため、地域住民の不安が高まっていた。小美濃 安弘市長は「地域医療の再建に向け、市としても支援を行う」と述べ、事業継承を歓迎した。市民からも「医療機関の減少は困る」「存続が決まり安心した」との声が上がっている。東京巨樹の会は「地域とともに、救急や災害対応に強い病院を作りたい」とし、早期の診療再開を目指している。参考1)“存続危機”の吉祥寺南病院、事業後継者が決定 診察再開時期は未定(TOKYO MX)2)吉祥寺南病院 品川の法人が事業継承 二次救急機能も受け継ぐ(東京新聞)3)休止の東京・吉祥寺南病院、東京巨樹の会へ事業承継(日経新聞)6.殺人隠蔽のみちのく記念病院、元院長ら2人を起訴/青森県青森県八戸市の「みちのく記念病院」で発生した患者間の殺人事件について、青森地検は7日、当時の院長・石山 隆被告(61)と主治医である弟の哲被告(60)を犯人隠避罪で起訴した。両被告は、2023年3月、入院患者の男性(73)が別の患者に殺害されたことを知りながら警察に通報せず、虚偽の死亡診断書を作成し、事件を隠蔽したとされる。死亡診断書の名義人となった医師は認知症を患い、実際には意思疎通が困難な状態であったことも明らかになった。青森県と八戸市は病院に対して立ち入り検査を実施し、医師の勤務実態と記録の不一致、病室の定員超過、許可を得ない設備変更などの問題を確認した。7日には病院に対し改善勧告を行い、勤務証明書類の提出や病床数の適正化を求めた。また、専門家は精神科病棟の特性として外部のチェックが入りにくいことを指摘し、病院内での権力乱用が放置されていた可能性を示唆した。さらに、行政の監査が書類確認に止まり、実質的な医療の質の検証が行われていなかった問題点も浮かび上がった。この病院では、死亡診断書を専門に作成する「みとり医」と呼ばれる高齢医師を雇用し、適切な診療を行わないまま死亡診断書を発行していた疑いもある。警察の捜査では、この名義の診断書が200件以上確認され、その7割が「肺炎」とされていた。事件の背景には、医療機関の管理体制の不備や、社会的に「必要悪」として機能してきた病院の構造的問題がある。地域医療の維持と患者の人権保護の両立が求められる中、今後の行政の対応が注視されている。参考1)病院内殺人隠蔽事件 死亡診断書専門の高齢“みとり医”も(NHK)2)殺人隠蔽の「みちのく記念病院」元病院長らを起訴 青森県と市が改善勧告も(産経新聞)3)患者殺害隠蔽で虚偽診断書 病院元院長ら2人を犯人隠避罪で起訴(毎日新聞)

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