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小さな子どもとの接触は高齢者の肺炎リスクを高める?

 指がベタベタしていたり、鼻水が出ていたりといった小さな子どもにありがちな様子はかわいらしい。しかし、60歳以上の人にとって、未就学児との接触は、危険な肺炎を引き起こす可能性のある細菌である肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae、以下、肺炎球菌)の主要な感染経路となり得る可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米イェール大学公衆衛生大学院のAnne Wyllie氏らによるこの研究結果は、欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表予定。 肺炎球菌は耳や副鼻腔の感染症のほか、肺炎や敗血症、髄膜炎などのより重篤な感染症の主要な原因菌である。米疾病対策センター(CDC)によると、米国では毎年、肺炎球菌感染症により15万件の入院が発生しており、その多くは高齢者である。肺炎球菌は、子ども(特に5歳未満)における肺炎の主要な原因菌であり、また、成人の市中肺炎の10〜30%の原因菌でもある。さらにCDCは、肺炎球菌が定着した無症候性のキャリアーの割合は、成人では5〜10%であるのに対し、学齢期の子どもでは20〜60%に上ると推定している。 Wyllie氏らは、秋から冬にかけての肺炎球菌の流行期(2020/2021シーズンと2021/2022シーズン)に、若年者の同居者がいない93世帯から60歳以上の成人183人(平均年齢70歳、女性51%、白人85%)を試験に登録し、世帯内での肺炎球菌の伝播について検討した。対象者は、2週間ごとに6回にわたって唾液検体を提出し、社会的な行動や健康に関する質問票に回答していた。 1,088点の唾液検体を定量PCR検査で分析したところ、52点(4.8%)の検体で肺炎球菌の存在が確認され、183人中28人(15%)の対象者は、いずれかの時点で肺炎球菌を保有していたことが明らかになった。肺炎球菌保有の点有病率は、子どもと接触していない高齢者(1.6%)と比べて、子どもと毎日/数日おきに接触していた高齢者(10%)では6倍も高かった。また、唾液検体採取前2週間以内に子どもと接触したことを報告した対象者での肺炎球菌保有の点有病率は、5歳未満の子どもと接触した人(14.8%)と5〜9歳の子どもと接触した人(14.1%)で特に高く、10歳以上の子どもと接触した人では8.3%だった。 Wyllie氏は、「われわれの研究では、世帯によっては、複数の唾液検体で肺炎球菌陽性が確認されたケースや、夫婦そろって同時に肺炎球菌陽性であったケースも認められたが、成人から成人への感染を示す明確なエビデンスは見つからなかった」と述べている。そして、「この研究で示唆されたのは、肺炎球菌陽性者が最も多いのは、幼い子どもと接触する機会の多い高齢者だということだ」と付言している。 高齢者での細菌性肺炎罹患リスクを下げるには、ワクチン接種が有効だ。Wyllie氏らは、子どもが定期的に肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)を接種するようになって以降ほどなくして、子どもの肺炎罹患率が90%以上減少したことを指摘している。もちろん、ワクチンは高齢者に対しても保護作用を持つ。同氏は、「成人用肺炎球菌ワクチン接種の主な利点は、全国的な小児用ワクチン接種プログラムの成功にもかかわらず、ワクチンが標的とする肺炎球菌株の一部を今現在も保有し、他人に感染させる可能性のある子どもに曝露する高齢者を直接保護できることだ」とECCMIDのニュースリリースの中で述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

2.

認知症患者の抗精神病薬使用、複数の有害アウトカムと関連/BMJ

 50歳以上の認知症患者において、抗精神病薬の使用は非使用と比較し脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、心不全、骨折、肺炎および急性腎障害のリスク増加と関連していることが、英国・マンチェスター大学のPearl L. H. Mok氏らによるマッチドコホート研究で示された。有害アウトカムの範囲は、これまで規制当局が注意喚起を行っていたものより広く、リスクが最も高かったのは治療開始直後であったという。BMJ誌2024年4月17日号掲載の報告。50歳以上の認知症患者約17万4千例のデータを解析 検討には、英国のプライマリケア研究データベースのClinical Practice Research Datalink(CPRD)AurumおよびGOLDのデータが用いられた。これらのデータベースは、入院、死亡、社会的格差など他のデータと連携している。 1998年1月1日~2018年5月31日に、初回認知症診断日から1年以上CPRDに登録されている50歳以上の成人を対象とし(最初の認知症の診断コードが記録される以前に抗コリンエステラーゼ薬が処方されている患者、診断以前の1年間に抗精神病薬を処方されている患者は除外)、初回認知症診断日以降に抗精神病薬を使用した患者と、初回認知症診断日が同じ(または診断日から56日後まで)で抗精神病薬を使用していない患者(最大15例)を、incidence density samplingを用いてマッチさせた。 主要アウトカムは、脳卒中、静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、心不全、心室性不整脈、骨折、肺炎、急性腎障害とした。抗精神病薬使用期間で層別化し、抗精神病薬使用群と非使用群の累積発生率を用いて絶対リスクを算出。また、観察不能な交絡の可能性を検出するため、関連性のないアウトカム(陰性対照)として虫垂炎と胆嚢炎についても検討した。 計17万3,910例(女性63.0%)の認知症成人が適格条件を満たし、試験に組み入れられた。認知症診断時の年齢は平均82.1歳(SD 7.9)、中央値83歳であった。このうち、研究期間中に抗精神病薬を処方された患者は3万5,339例(女性62.5%)であった。肺炎、急性腎障害、静脈血栓塞栓症、脳卒中、骨折、心筋梗塞、心不全の順にリスクが高い 抗精神病薬使用群は非使用群と比較して、心室性不整脈を除くすべてのアウトカムのリスク増加と関連していた。現在の抗精神病薬使用(過去90日間の処方)に関する有害アウトカムのハザード比(逆確率治療重み付け[IPTW]で調整)は、肺炎2.19(95%信頼区間[CI]:2.10~2.28)、急性腎障害1.72(1.61~1.84)、静脈血栓塞栓症1.62(1.46~1.80)、脳卒中1.61(1.52~1.71)、骨折1.43(1.35~1.52)、心筋梗塞1.28(1.15~1.42)、心不全1.27(1.18~1.37)であった。陰性対照(虫垂炎と胆嚢炎)については、リスク増加は観察されなかった。 心室性不整脈と陰性対照を除くすべてのアウトカムの累積発生率は、抗精神病薬使用群において非使用群より高く、とくに肺炎の絶対リスクおよび群間リスク差が大きかった。抗精神病薬投与開始後90日間における肺炎の累積発生率は、抗精神病薬使用群で4.48%(95%CI:4.26~4.71)に対し、非使用群では1.49%(1.45~1.53)であり、群間リスク差は2.99%(2.77~3.22)であった。

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腸内での酪酸産生菌の増加は感染症リスクの低下と関連

 腸内で酪酸産生菌が10%増えるごとに、感染症による入院リスクが14〜25%低下することが、オランダとフィンランドの大規模コホートを対象にした研究で明らかになった。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のRobert Kullberg氏らによるこの研究結果は、欧州臨床微生物学・感染症学会(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表予定。 酪酸は、ビフィズス菌や乳酸菌などの「善玉」の腸内細菌が食物繊維を分解・発酵させる際に産生される短鎖脂肪酸の一種である。米クリーブランド・クリニックの説明によると、酪酸は大腸の細胞が必要とするエネルギーの大部分(約70%)を供給しており、消化器系の健康に重要な役割を果たしているという。 重症の感染症による入院患者において腸内細菌叢に変化が生じることは珍しくなく、また、前臨床モデルでは、好気性の酪酸産生菌が全身感染症に対して保護効果を持つことが示されている。酪酸産生菌は入院患者では減少していることが多く、またこれらの菌は感染症以外の腸疾患に対しても保護効果を持つ可能性が考えられることから、これまで酪酸産生菌に焦点を当てた研究が実施されてきている。しかし、腸内細菌叢が大きく変化することで重症感染症に罹患しやすくなるのかについては、明確になっていない。 今回の研究では、総計1万699人から成るオランダとフィンランドの2つの大規模コホート(オランダコホート4,248人、フィンランドコホート6,451人)を対象に、ベースライン時の腸内細菌叢とその後の感染症関連の入院リスクとの関連が検討された。試験参加者の便サンプルを用いて腸内細菌のDNAシーケンス解析を行い、腸内細菌叢の組成や多様性、酪酸産生菌の相対存在量を評価した。さらに、国の登録データを用いて、便サンプルの採取から5〜7年間の追跡期間中に生じた感染症による入院または死亡について調査した。 追跡期間中に総計602人の参加者(オランダコホート152人、フィンランドコホート450人)が感染症(多くは市中肺炎)により入院または死亡していた。腸内細菌叢と感染症リスクとの関連を検討したところ、腸内細菌叢の中に占める酪酸産生菌の量が10%増えるごとに感染症による入院リスクは、オランダコホートでは25%、フィンランドコホートでは14%低下することが明らかになった。このような結果は、人口統計学的属性やライフスタイル、抗菌薬曝露や併存疾患で調整して解析しても変わらなかった。 こうした結果を受けてKullberg氏は、「ヨーロッパの2つの独立したコホートを用いたこの研究で、腸内細菌叢の組成、特に酪酸産生菌の定着は、一般集団の感染症による入院予防と関連していることが示された」と結論付けている。 研究グループは、「今後の研究では、腸内細菌叢を調整することで重症感染症のリスクを低減できるかどうかを検討する必要がある」と述べている。ただ残念なことに、酪酸産生菌は酸素を嫌う嫌気性細菌であるため、これらの貴重な細菌を腸内に取り込むことは困難であるという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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日常診療に活かす 診療ガイドラインUP-TO-DATE 2024-2025

一瞬の迷いを確信へ ~これが日本の標準的治療~2010年の発行以来、多くの医療従事者に活用されている本書が2年ぶりに改訂しました。今版では日常診療で遭遇頻度の高い疾患を中心に19領域175疾患を取り上げ、各領域の第一人者が当該疾患に関連する複数の診療ガイドラインを精選し、そのポイントについて臨床知を加味して解説しています。本書は、(1)必要な情報をすぐに取り出せる紙面構成、(2)専門家の処方例を一目で把握、(3)標準的治療を最短距離でキャッチできます。巻頭企画では“社会健康医学”をテーマに専門家にご解説いただき、巻末付録では「おさえておきたい!希少疾患のガイドライン」を掲載し、ガイドラインの最新情報が入手できるようにまとめています。ぜひ診療ガイドラインを活かした質の高い医療の提供にお役立てください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する日常診療に活かす 診療ガイドラインUP-TO-DATE 2024-2025定価13,200円(税込)判型A5判変型頁数1,120頁発行2024年2月監修門脇 孝、小室 一成、宮地 良樹ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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肺炎診療GL改訂~市中肺炎の改訂点は?/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版からの約7年ぶりの改訂となる。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が市中肺炎(CAP)に関する改訂のポイントを解説した。非定型肺炎の鑑別を大切にすることに変わりはない CAPへの初期の広域抗菌薬投与や抗MRSA薬のエンピリックな使用は予後を改善せず、むしろ有害であるという報告がある。そのため、エンピリックな耐性菌カバーは予後を改善しない可能性がある。そこで、今回のガイドラインでは、非定型肺炎の鑑別を大切にするという方針を前版から継承し、CAPのエンピリック治療薬の考え方を示している。そこでは、外来患者や一般病棟入院患者では抗緑膿菌薬や抗MRSA薬は使用せず、これらの薬剤は重症例や免疫不全例に検討することとしている(詳細は本ガイドラインp.34図4を参照されたい)。 近年、CAPではウイルスが検出されることが多いことも報告されている2)。そのような背景から、今後は同時多項目遺伝子検査の活用が重要となってくることが考えられる。そこで、今回のガイドラインでは、多項目遺伝子検査に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。多項目遺伝子検査は従来法と比較して原因微生物の同定率が高く(67.5% vs.42.7%)、「行うことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」とされた(CQ19)。なお、多項目遺伝子検査の対象について、岩永氏は「主にCAPがターゲットとなると考えている。とくに免疫不全例では典型的な病像を呈さないことも多いため、これらの症例に有用性があるのではないか」と意見を述べた。CAPのCQとポイント CAPに関するCQとポイントは以下のとおり。・CAPの重症度評価の方法(CQ1) A-DROPスコアはCURB-65スコアやPSIスコアと同等の予測能を示した。A-DROPスコアによる評価は本邦でよく用いられており、簡便であることから「A-DROPスコアによる重症度評価を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)(CQ2) CAPに対するスイッチ療法は注射用抗菌薬の継続と比較して、同等の肺炎治癒率を示し、副作用発現頻度は有意差がないが減少傾向で、入院期間を有意に短縮した。また、医療費についてはシステマティックレビュー(SR)を実施していないが、3件の無作為化比較試験(RCT)においていずれも低下させる傾向にあった。以上から「スイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。・短期抗菌薬治療(CQ3) CAPのアジスロマイシンによる治療とアジスロマイシンを含まない治療のいずれにおいても、短期治療(1週間以内)は標準治療(1週間超)と比較して、死亡率と肺炎治癒率に差がなかった。また、肺炎再燃率や副作用発現率も同等であった。医療費についても、SRは実施していないが、3件のRCTではいずれも低下させる傾向にあった。以上から「初期治療が有効な場合には短期治療を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。ただし多くのRCTが軽症〜中等症を対象としており、重症例、集中治療を要する症例、高齢者などは注意が必要である。・β-ラクタム系薬へのマクロライド系薬の併用(CQ4) 重症例では、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することで死亡率と肺炎治癒率の改善が認められた。1件の観察研究でコストは増加する傾向にあったが、耐性菌発生率は変化しなかった。非重症例では、併用療法により死亡率や肺炎治癒率、入院期間、耐性菌発生率のいずれも変化しなかった。また、1件の観察研究でコストは増加する傾向にあった。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・抗菌薬へのステロイドの併用(CQ5) 全身性ステロイド薬投与は重症例では死亡率を低下させ、非重症例では死亡率を低下させなかった。CAP全体では、併用により肺炎治癒率は変化せず、入院期間が短縮した。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。

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第93回 「高すぎる自己負担額の話」をする?新型コロナのレムデシビル投与前

当院では、中等症以上の新型コロナを現在も引き受けています。「5類感染症」に移行してからというもの、基本的には自施設で診ていただける感染症と思っていましたが、「新型コロナ陽性になりました、当院では対応は難しいので貴院にてよろしく診療お願い申し上げます」という紹介がチラホラとあります。地域で機能集約していくことはよいことだと思いますが…。しかし、いつになったら「特別な感染症」ではなくなるのか、はなはだ疑問ではあります。ところで、中等症以上の新型コロナで入院になるということは、高確率で肺炎を発症しているわけです。新型コロナ陽性者の肺炎というのは、ウイルス性肺炎だけでなく誤嚥性肺炎や二次性器質化肺炎などいろいろな可能性を考慮する必要があるわけですが、抗菌薬を使用する・しないにかかわらず、抗ウイルス薬が必要になることが多いです。錠剤の内服ができないくらい症状がつらかったり、ADLや嚥下機能が低かったりする患者さんが多いので、基本的には入院例に対しては抗ウイルス薬の点滴であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)が適用されることになります。レムデシビル、2024年4月1日から高額になりました。厳密には、これまで自己負担割合に応じて最大9,000円の自己負担で済んでいたものが、そのままガチで負担割合をかけ算した自己負担が生じることになってしまいました。具体的には表のようになります。他の経口抗ウイルス薬と比べると、レムデシビルの点滴が一歩抜きん出ていることがおわかりかと思います。画像を拡大する表. 新型コロナ治療薬の自己負担額(2024年4月1日以降)たとえば、レムデシビルを5日間投与すると、3割負担で約9万円になります。これだと、高額療養費制度の上限に達してしまう患者さんも結構多いのではないでしょうか。自己負担額がこのくらいになる治療を、事前に説明すべきかどうかは診療科や病院によって異なるでしょう。当院では、トラブルにならないように、「4月1日から抗ウイルス薬の自己負担額が高額となっております」という説明をするよう配慮しています。

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C5阻害薬との併用で血管外溶血を抑制する経口PNH治療薬「ボイデヤ錠50mg」【最新!DI情報】第13回

C5阻害薬との併用で血管外溶血を抑制する経口PNH治療薬「ボイデヤ錠50mg」今回は、補体D因子阻害薬「ダニコパン(商品名:ボイデヤ錠50mg、製造販売元:アレクシオンファーマ)」を紹介します。本剤は、補体(C5)阻害薬と併用することで、発作性夜間ヘモグロビン尿症患者の輸血の必要性が軽減し、患者QOLや転帰が改善することが期待されています。<効能・効果>発作性夜間ヘモグロビン尿症の適応で、2024年1月18日に製造販売承認を取得しました。本剤は、補体(C5)阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合に、補体(C5)阻害薬と併用して投与します。<用法・用量>通常、成人には、補体(C5)阻害薬との併用において、ダニコパンとして1回150mgを1日3回食後に経口投与します。効果不十分な場合には1回200mgまで増量することができます。なお、本剤を漸減せずに中止した場合は肝機能障害が現れる恐れがあるため、本剤の投与を中止する場合は最低6日間かけて、1回100mgを1日3回3日間、その後1回50mgを1日3回3日間投与してから中止します。<安全性>本剤により、髄膜炎または敗血症を発症し、急速に生命を脅かす、あるいは死亡に至る恐れがあるため、初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血など)の観察を十分に行う必要があります。また、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの莢膜形成細菌による重篤な感染症(頻度不明)が現れることがあります。その他の主な副作用として、肝酵素上昇(ALT上昇、トランスアミナーゼ上昇など[5%以上])などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療に用いる薬です。補体(C5)阻害薬で効果が不十分な場合に、C5阻害薬と併用して投与されます。2.C5阻害薬の治療中に生じる血管外溶血を防ぎ、輸血の必要性を軽減します。3.投与中に発熱や悪寒、頭痛など感染症を疑う症状が現れた場合は、たとえ軽度であっても主治医に連絡し、直ちに診察を受けてください。4.肝機能検査値異常が起きることがあるので、定期的に肝機能検査を受けてください。<ここがポイント!>発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は血管内溶血およびヘモグロビン尿を特徴とする造血幹細胞疾患です。治療には、補体(C5)阻害薬であるエクリズマブやラブリズマブが用いられ、終末補体経路を持続的に阻害することで血管内溶血を効果的に防ぐことができます。しかし、一部の患者では、終末補体経路の活性化を阻害することで、補体(C3)フラグメントがPNH赤血球の膜上に蓄積して血管外溶血が顕在化し、頻回の輸血が必要になることがあります。そのため、2023年9月よりC3とC3bをターゲットとしたペグセタコプランが臨床使用されていますが、ペグセタコプランで効果が不十分の場合はより重篤なブレイクスルー溶血が懸念されます。ダニコパンは、補体D因子のセリンプロテアーゼ活性を阻害し、補体第二経路の活性化を阻害することでC3フラグメント沈着を阻止します。したがって、血管内溶血を抑制するC5阻害薬とダニコパンを併用することで、血管外溶血も抑制することが期待されます。ダニコパンは生命予後に影響を及ぼす血管内溶血を抑制する、C5阻害薬と併用可能な唯一の経口PNH治療薬です。ラブリズマブまたはエクリズマブが投与されていて血管外溶血が認められるPNH患者を対象とした国際共同第III相試験(ALPHA試験:ALXN2040-PNH-301試験)において、主要評価項目である投与12週時点のヘモグロビン濃度のベースラインからの変化量の最小二乗平均値(標準誤差)は、ダニコパン群で2.940(0.2107)g/dL、プラセボ群で0.496(0.3128)g/dLであり、ダニコパンの優越性が示されました(p<0.0001)。また、副次評価項目である輸血回避できた患者の割合(投与開始から12週間)は、ダニコパン群83.3%、プラセボ群38.1%で、有意な差が認められました(p=0.0004)。

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特発性間質性肺炎の指定難病・診断基準改訂、外科的肺生検なしでも診断可能に/日本呼吸器学会

 間質性肺疾患は、2022年の日本人の死因の第11位となっており1)、対策の必要な疾患である。特発性間質性肺炎(IIPs)は、特発性肺線維症(IPF)を代表疾患とする原因不明の間質性肺炎の総称で、国の指定難病となっている。2024年4月より、本疾患の厚生労働省の診断基準および重症度分類基準が改訂され、蜂巣肺を伴わないIPFやIPF以外のIIPsでも外科的肺生検なしで認定可能になるなど大きな変更があった。そこで、第64回日本呼吸器学会学術講演会のランチョンセミナーにおいて、千葉 弘文氏(札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 教授)が診断基準および重症度分類基準の改訂のポイントを解説した。外科的肺生検なしでも診断可能、iPPFEも認定可能に これまで、高分解能CT(HRCT)で蜂巣肺が認められるIPFを除き、IIPsの診断には外科的肺生検が必要であった。しかし、外科的肺生検は侵襲が大きく、IIPsの急性増悪の誘因の1つとして挙げられるなどリスクが高い。高齢であったり呼吸機能が低下していたりする患者では、外科的肺生検を行うことができず、指定難病の申請が不能となってしまうということがあった。そこで、このたびの改訂では蜂巣肺のないIPFやIPF以外のIIPsにおいても、外科的肺生検を実施せずに認定可能となった2,3)。 また、特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE)や分類不能型IIPsは『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き2022 改訂第4版』でIIPsの1つとして記載されているが、厚生労働省の診断基準に含まれていないという課題もあった。そこで、今回の改訂ではiPPFEの臨床診断基準が設定され、IIPsの診断基準の細分類に「iPPFE」群および「分類不能」群が追加された2,3)。6分間歩行時の最低SpO2が90%未満は安静時PaO2が良好でも重症度分類III度以上 これまでの重症度分類では、動脈血液ガス検査で酸素状態が良好(安静時PaO2 80Torr以上)であれば、6分間歩行試験(6MWT)において低酸素状態であっても重症度分類I度に分類されていた。しかし、予後からみると、旧重症度分類I度のIPF患者の45%はGAPモデル(米国の重症度分類で、予後予測の指標となる)のStageIIまたはIII(肺移植の適応)に該当したことが報告されている4)。また、6MWTで低酸素状態となる重症度分類I度の予後は重症度分類III度の予後に相当するという研究結果も存在する5)。そこで、今回の改訂では安静時PaO2に基づく重症度分類がI度であっても、6MWTにおいて最低SpO2が90%未満であれば公費助成の対象となる重症度分類III度に認定されることとなった2,3)。 しかし、6MWTを多忙な外来のなかで日常的に実施することは難しい。そこで千葉氏は、1分間椅子立ち上がりテストの実施を提案した。この方法であれば、診察室の椅子で実施することができるという。また、この結果は6MWTの結果と非常によく相関することも知られている。この方法の実施タイミングと意義について、千葉氏は「われわれは、3ヵ月に1回などのフォローアップ時に1分間椅子立ち上がりテストを組み入れることで、日常生活における酸素化の悪化を診察室でつかむようにしている。指定難病の申請時に必要な6MWTにおいても、このテストによって最低SpO2が90%未満となることの予想が可能となり有用である」と述べた。患者の難病の制度に関する情報源は主治医 2023年10月に「間質性肺疾患を伴う指定難病:難病法・難病医療費助成制度に関する調査」を日本ベーリンガーインゲルハイムが実施している。この調査結果から、千葉氏は患者の声を紹介した。難病医療費助成制度を利用するうえでの課題として、「制度の変更に関する情報が入りにくい」「制度に関する情報が手に入りにくい」「制度がわかりにくい」という意見が多かった。情報源としては、主治医が圧倒的に多かった(制度利用者の7割超)。この結果を踏まえて、千葉氏は「今回の改訂の内容をしっかりと患者さんに伝えていただきたい。患者さんの生活に直結する制度の変更であるため、われわれもさまざまな手法を用いて情報を伝えていきたいと考えている」と述べた。 最後に、本セミナーの座長を務めた須田 隆文氏(浜松医科大学 内科学第二講座 教授)が「今回の特発性間質性肺炎の診断基準および重症度分類の改訂は非常に大きなものである。これは、確実に患者さんへ適切な医療を届けることにつながるため、多くの先生方に周知いただき、ご対応いただけると幸いである」と述べ、セミナーを締めくくった。

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亜鉛欠乏症、日本人の特徴が明らかに

 亜鉛欠乏症*は、免疫機能の低下、味覚障害、嗅覚障害、肺炎、成長遅延、視覚障害、皮膚障害などに影響を及ぼすため、肝疾患や慢性腎臓病などをはじめとするさまざまな疾患を管理するうえで、血清亜鉛濃度の評価が重要となる。今回、横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)らが日本人患者の特徴と亜鉛欠乏との相関関係を調査する大規模観察研究を行った。その結果、日本人の亜鉛欠乏患者の特徴は、男性、入院患者、高齢者で、関連する病態として呼吸器感染症や慢性腎臓病などが示唆された。Scientific reports誌2024年2月2日号掲載の報告。*「亜鉛欠乏症」は亜鉛欠乏による臨床症状と血清亜鉛値によって診断されるとされている。これに対し、「低亜鉛血症」は亜鉛欠乏状態を血清亜鉛値から捉えたもの。 研究者らは2019年1月~2021年12月の期間、メディカル・データ・ビジョン(MDV)が保有する日本全国のレセプトデータベースを使用して、遡及的かつ横断的観察研究を実施した。研究母集団のうち、20歳未満の患者、亜鉛含有薬剤の処方後に血清亜鉛濃度が評価された患者を除く、外来および入院患者1万3,100例の血清亜鉛データを解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は69.0歳、男性は48.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値±SDは65.9±17.6μg/dLで、4,557例(34.8%)が亜鉛欠乏症(60μg/dL未満)に、5,964例(45.5%)が潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL)に該当した。・亜鉛欠乏症との有意な関連がみられたのは、男性(オッズ比[OR]:1.165)、高齢者(OR:1.301)、入院患者(OR:3.367)だった。男性の亜鉛欠乏症の割合は50代を境に高くなったが、80代では男女共に40%以上が亜鉛欠乏症であった。・亜鉛欠乏症の割合が高い併存疾患について、年齢と性別による多変量解析後の調整オッズ比(aOR)は、肺臓炎で2.959、褥瘡や圧迫で2.403、サルコペニアで2.217、新型コロナウイルス感染症で1.889、慢性腎臓病で1.835だった。・また、亜鉛欠乏症と有意な関連がみられた薬剤のaORは、スピロノラクトンが2.523、全身性抗菌薬が2.419、フロセミドが2.138、貧血治療薬が2.027、甲状腺ホルモンが1.864、と明らかになった。

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肥満症治療薬は手術前の胃残留量増加に関連

 ウゴービやオゼンピックのような肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)の使用者は、全身麻酔を要する手術前でも胃残留量の多いことが、新たな研究から明らかになった。研究グループは、GLP-1受容体作動薬の使用者の場合、現行のガイドラインで推奨されている手術前の絶食時間では不十分な可能性を示唆する結果だとの見方を示している。米テキサス大学健康科学センターヒューストン校のSudipta Sen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に3月6日掲載された。 全身麻酔を要する手術では通常、誤嚥性肺炎や窒息のリスクを防ぐために手術前の絶食が求められる。Sen氏らは、全身麻酔下にあったGLP-1受容体作動薬の使用者が、手術中に自分の吐物を誤嚥したとの報告を受けて、GLP-1受容体作動薬の使用と胃残留量の増加との関連を調べることを決めたと話す。 対象は、2023年6月から7月の間に全身麻酔下での待機的手術が予定されていた18歳以上の患者124人(平均年齢56歳、女性60%)で、このうちの62人(50%)はGLP-1受容体作動薬を週に1回使用していたが(曝露群)、残る半数は使用していなかった(対照群)。主要アウトカムは、胃超音波検査で評価した多量の胃残留物で、具体的には、固形物、濃度の高い液体、または1.5mL/kg以上の透明な液体がある場合と定義された。 その結果、多量の胃残留物が確認された対象者の割合は、曝露群で56%(35/62人)であるのに対し、対照群では19%(12/62人)であることが明らかになった。結果に影響を及ぼす因子を調整して解析した結果、GLP-1受容体作動薬の使用により多量の胃残留物が認められる可能性が30.5%上昇することが示された。 Sen氏は、「GLP-1受容体作動薬を使用している患者では、手術前に絶食していたにもかかわらず、その半数以上に手術前の胃超音波検査で多量の胃残留が認められた」と振り返る。研究グループは、「これらの結果は、米国麻酔科学会が2023年に発表した、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用の有無をスクリーニングし、その使用に付随するリスクを患者に知らせることを求める推奨内容と一致する」と述べる。 ガイドラインではまた、医師が、手術前にはGLP-1受容体作動薬の使用を控えることを検討すべきことも推奨されている。Sen氏は、「患者は、外科医や麻酔科医にこの薬の使用の有無を正直に伝える必要がある。この情報は、選択的手術の前に薬物の投与を調整したり、長期絶食を勧めたり、必要であれば選択的手術を再スケジュールするなど、適切な推奨を提供するために極めて重要だからだ」と主張する。また同氏は、「GLP-1受容体作動薬使用者の手術前の絶食時間を延長する新たな治療ガイドラインが必要かもしれない」と話している。

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ベイフォータス、新生児および乳幼児のRSウイルス発症抑制・予防にて製造販売承認取得/AZ

 アストラゼネカとサノフィは2024年3月27日付のプレスリリースにて、長時間作用型モノクローナル抗体であるベイフォータス(一般名:ニルセビマブ[遺伝子組換え])が「生後初回または2回目のRS(Respiratory Syncytial)ウイルス感染流行期の重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児、乳児および幼児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制」ならびに「生後初回のRSウイルス感染流行期の前出以外のすべての新生児および乳児におけるRSウイルス感染による下気道疾患の予防」を適応として、3月26日に日本における製造販売承認を取得したことを発表した。 ニルセビマブは、重症化リスクの高い早産児、特定の疾患を有する新生児、乳幼児におけるRSウイルス感染による下気道疾患(LRTD)の発症抑制に加え、世界で初めて健康な新生児または乳児をRSウイルスから守るために承認された予防を効能・効果とする薬剤である。今回の承認は、ニルセビマブの3つの主要な後期臨床試験に基づく。すべての臨床評価項目において、ニルセビマブの単回投与は一般的なRSウイルス感染流行期間とされる5ヵ月間にわたり、RSウイルス感染によるLRTDに対して一貫した有効性を示した。 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 小児科学 主任教授の森内 浩幸氏は、「2歳までにほぼすべての子供が罹患し、その数十%は細気管支炎や肺炎を起こします。流行すると小児病棟はこの病気の患児が増加し場合によっては酸素が投与され、人工呼吸器装着や集中治療管理が必要なことも経験します。RSウイルスはずっと昔からいて、毎年多くの子供たちを苦しめてきました。元々健康な子を含むすべての乳児がこのウイルス、RSウイルスのリスクに曝されています。幸いRSウイルス感染症の重症化を防ぐ手段が登場し、小児科医にとって朗報です」と述べている。<製品概要>販売名:ベイフォータス筋注50mgシリンジ、ベイフォータス筋注100mgシリンジ一般名:ニルセビマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:1. 生後初回又は2回目のRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)感染流行期の重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児、乳児及び幼児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制2. 生後初回のRSウイルス感染流行期の1. 以外のすべての新生児及び乳児におけるRSウイルス感染による下気道疾患の予防用法及び用量:生後初回のRSウイルス感染流行期には、通常、体重5kg未満の新生児及び乳児は50mg、体重5kg以上の新生児及び乳児は100mgを1回、筋肉内注射する。生後2回目のRSウイルス感染流行期には、通常、200mgを1回、筋肉内注射する。製造販売承認年月日:2024年3月26日 製造販売元:アストラゼネカ株式会社販売元:サノフィ株式会社

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市中肺炎、12%が「不適切な診断」

 市中肺炎は一般的な疾患だが、診断の正確性とそれに関連する有害性についてはあまり知られていない。米国ミシガン大学・アナーバー校のAshwin B. Gupta氏らは市中肺炎の不適切な診断の特徴を明らかにすることを目的に、前向きコホート研究を行った。この結果はJAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年3月25日号に掲載された。 ミシガン州の48の病院で、市中肺炎を理由に入院し、入院1日目または2日目に抗菌薬投与を受けた成人患者を対象とした。調査は2017年7月1日~2020年3月31日にカルテレビューおよび患者への電話連絡で実施され、データ解析は2023年2~12月に行われた。 不適切な診断は、市中肺炎の徴候または症状が2つ未満または胸部画像検査が陰性の患者への抗菌薬投与と定義した。不適切な診断のリスク因子を評価し、不適切な診断とされた患者については30日間の複合アウトカム(死亡率、再入院、救急外来受診、C. difficile感染、および抗菌薬関連有害事象)を記録した。交絡因子および治療傾向を調整し、抗菌薬の完全投与(3日超)と短期投与(3日以下)に層別化して評価した。 主な結果は以下のとおり。・市中肺炎の治療を受けた入院患者1万7,290例のうち、不適切な診断の基準を満たしたのは2,079例(12.0%)だった。2,079例の年齢中央値は71.8(IQR:60.1~82.8)歳、女性が1,045例(50.3%)で、このうち1,821例(87.6%)が抗菌薬の完全投与を受けた。・患者全般と比較して、不適切な診断を受けた患者は高齢であり(10年当たりの調整オッズ比[AOR]:1.08、95%信頼区間[CI]:1.05~1.11)、認知症(AOR:1.79、95%CI:1.55~2.08)、または来院時の精神状態の変化(AOR:1.75、95%CI:1.39~2.19)を有する可能性が高かった。・不適切な診断を受けた患者において、抗菌薬の完全投与と短期投与の30日複合アウトカムに差はなかった(25.8% vs.25.6%、AOR:0.98、95%CI:0.79~1.23)ものの、完全投与は抗菌薬の有害事象リスクと関連していた(31/1,821例[2.1%] vs.1/258例[0.4%]、p=0.03)。 研究者らは「このコホート研究において、市中肺炎で入院した患者では、高齢、認知症、精神状態に変化がみられた患者では不適切な診断のリスクが高く、不適切な診断がされた患者は抗菌薬の投与が長期になり、それが抗菌薬の有害事象と関連することが示唆された」とした。

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HER2過剰発現NSCLCへのT-DXd、第II相試験結果(DESTINY-Lung01)/Lancet Oncol

 抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、既治療のHER2遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした国際共同第II相試験(DESTINY-Lung02)において有用性が認められ1)、すでに用いられている。既治療のHER2過剰発現またはHER2遺伝子変異陽性の進行・再発NSCLC患者を対象とした国際共同第II相試験(DESTINY-Lung01)も実施されており、HER2過剰発現の集団における結果が、オランダ・Leiden University Medical CenterのEgbert F. Smit氏らによって、Lancet Oncology誌2024年4月号で報告された。なお、本試験のHER2遺伝子変異陽性の集団における結果はすでに報告されている2)。・対象:HER2過剰発現(IHC 2+または3+)が認められ、既知のHER2遺伝子変異のない既治療の進行・再発非扁平上皮NSCLC患者90例・5.4mg/kg群:T-DXd 5.4mg/kgを3週間ごとに点滴静注投与 41例(コホート1A)・6.4mg/kg群:T-DXd 6.4mg/kgを3週間ごとに点滴静注投与 49例(コホート1)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づく奏効率(ORR)[副次評価項目]奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)など 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は5.4mg/kg群62歳、6.4mg/kg群63歳であり、男性の割合はそれぞれ54%、61%、白人の割合はそれぞれ76%、63%であった。・前治療ライン数中央値はいずれの群も3で、プラチナ製剤による治療歴を有する割合は5.4mg/kg群98%、6.4mg/kg群92%、抗PD-1/PD-L1抗体薬による治療歴を有する割合はそれぞれ80%、73%であった。・データカットオフ時点(2021年12月3日)における追跡期間中央値は5.4mg/kg群10.6ヵ月、6.4mg/kg群12.0ヵ月、治療期間中央値はそれぞれ5.5ヵ月、4.1ヵ月であった。・BICRに基づくORRは、5.4mg/kg群34.1%(CR:2例、PR:12例)、6.4mg/kg群26.5%(CR:0例、PR:13例)であった。・DOR中央値は、5.4mg/kg群6.2ヵ月、6.4mg/kg群5.8ヵ月であった。・PFS中央値は、5.4mg/kg群6.7ヵ月、6.4mg/kg群5.7ヵ月であった。・OS中央値は、5.4mg/kg群11.2ヵ月、6.4mg/kg群12.4ヵ月であった。・Grade3以上の有害事象は、5.4mg/kg群51%(21例)、6.4mg/kg群82%(40例)に認められ、主なもの(いずれかの群で10%以上に発現)は好中球減少症(それぞれ0%、24%)、肺炎(5%、12%)、疲労(7%、12%)、病勢進行による死亡(10%、12%)、呼吸困難(5%、10%)であった。・治療薬に関連したGrade3以上の有害事象は、5.4mg/kg群22%(9例)、6.4mg/kg群53%(26例)に認められた。・薬剤性間質性肺疾患/肺臓炎は、5.4mg/kg群5%(2例)、6.4mg/kg群20%(10例)に認められた。 本研究結果について、著者らは「HER2過剰発現のNSCLCでは既存治療の抗腫瘍活性が低いことを考慮すると、T-DXdはアンメットニーズを満たす可能性がある。本研究結果は、T-DXdによる治療のさらなる検討を支持するものである」とまとめた。

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シナジス、RSウイルス発症抑制で製造販売承認(一部変更)取得/AZ

 アストラゼネカは、2024年3月26日付のプレスリリースで、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤「シナジス」(一般名:パリビズマブ[遺伝子組換え])について、RSウイルス感染症の重症化リスクの高い、肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する乳幼児を新たに投与対象とする製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。 RSウイルスは、乳幼児の気管支炎や肺炎を含む、下気道感染の原因となる一般的な病原体であり、2歳までにほとんどの乳幼児が感染するといわれており、早産児や生まれつき肺や心臓などに疾患を抱える乳幼児に感染すると重症化しやすいとされている。シナジスは、これらの重症化リスクを有する乳幼児に対し発症抑制の適応としてすでに承認されている。 今回の承認は、森 雅亮氏(聖マリアンナ医科大学 リウマチ・膠原病・アレルギー内科/東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座 教授)が実施した医師主導治験の結果に基づく。シナジスの投与対象としてすでに承認されている疾患以外にも、その病態からRSウイルス感染症に対し慢性肺疾患と同等の重症化リスクが存在する疾患の存在が指摘されていた。そこで、日本周産期・新生児医学会が中心となり、関連学会である日本先天代謝異常学会、日本小児神経学会、日本小児呼吸器学会および日本小児外科学会から要望を集めた結果、換気能力低下および/または喀痰排出困難によりRSウイルス感染症が重症化するリスクの高い肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症または神経筋疾患を伴う乳幼児への追加適応が望まれていることがわかった。これらの疾患は国内推定患者数が少なく大規模臨床研究が困難であるため、医師主導治験が実施された。医師主導治験では、今回承認された疾患群における有効性、安全性、および薬物動態を検討し、いずれの疾患においてもRSウイルス感染による入院は認められなかった。 本治験を率いた森氏は、「今回の承認の基となった治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が、革新的な医薬品・医療機器の創出を目的とした臨床研究や治験のさらなる活性化を目的とした研究を推進する“臨床研究・治験推進研究事業”に採択されている。これまで薬事承認のなかった重症化リスクの高い肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患を有する患者に対して、ようやく臨床の場でシナジスを広く使用できることをうれしく思う」と述べている。 松尾 恭司氏(アストラゼネカ 執行役員ワクチン・免疫療法事業本部長)は、「シナジスは、今まで日本においてRSウイルス感染症による重篤な下気道疾患の発症抑制に対する唯一の抗体薬として、多くの早産児や生まれつき肺や心臓などに疾患を抱える乳幼児の医療に貢献してきた。今回の承認により、これまでシナジスを投与できなかったハイリスクの乳幼児とそのご家族に対しても貢献できることを大変うれしく思う」としている。

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糖尿病患者の死因1位は男女ともに悪性新生物/糖尿病学会

 従来、糖尿病患者は、大血管障害で亡くなる患者が多かった。最新の『糖尿病診療ガイド 2022-2023』では、糖尿病治療の目標を「健康な人と変わらない人生」と定義し、糖尿病合併症である糖尿病細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症、進展の阻止を治療の柱としている。 では現在、糖尿病患者はどのような原因で亡くなっているのだろうか。糖尿病学会では「アンケート調査による日本人糖尿病の死因に関する研究委員会」(委員長:中村 二郎氏[愛知医科大学医学部 先進糖尿病治療学寄附講座 教授])を設置し、全国の医療機関にアンケートを行い、死因の調査を行っている。 今回、本委員会による2011~20年の糖尿病患者の死因の調査結果が、日本糖尿病学会誌である「糖尿病」に掲載された。なお、この結果は、2023年に鹿児島で開催された第66回日本糖尿病学会年次学術集会で発表されている。日本人一般に近くなってきた糖尿病患者の死因 本委員会は、1971年から10年ごとの死因の調査を行っており、今回で5回目となる。今回の2011~20年の調査では、1,154施設にアンケートを依頼し、施設全体での死亡症例(糖尿病患者/非糖尿病患者)を収集。208施設より登録された23万3,176症例(糖尿病患者:6万8,555例、非糖尿病患者:16万4,621例)を解析した。 糖尿病患者の死因に関する結果は以下のとおり。・全体では、1位が悪性新生物(38.9%)、2位が感染症(17.0%)、3位が血管障害(10.9%)だった。・男女とも悪性新生物が1位だったが、男性(40.6%)は女性(35.4%)より比率が高かった。血管障害の比率は男性(10.3%)より女性(12.1%)が多く、性差がみられた。・糖尿病性昏睡は全体で0.3%、低血糖性昏睡は全体で0.1%と1%を切っていた。・血管障害の内訳は、脳血管障害は全体で5.2%、虚血性心疾患は全体で3.5%、慢性腎不全は全体で2.3%だった。・悪性新生物の内訳で男性に注目すると、肺がん9.6%、膵がん6.1%、肝臓がん4.6%の順に多かった。膵がんは女性が7.2%と多かった。・感染症では、肺炎が全体で11.4%と感染症全体の3分の2を占めた。・1971~80年の死因に比べ、血管障害(慢性腎不全、虚血性心疾患、脳血管障害)が減少し、悪性新生物と感染症での死亡が増加していた。

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悪性褐色細胞腫の治療に、スニチニブが有望/Lancet

 本試験(FIRSTMAPPP試験)以前に、転移のある褐色細胞腫および傍神経節腫(パラガングリオーマ)患者を対象とした無作為化対照比較試験は行われていないという。フランス・パリ・サクレー大学のEric Baudin氏らが、この腫瘍の治療において、プラセボと比較してスニチニブ(VEGFR、PDGFR、RETを標的とする受容体チロシンキナーゼ阻害薬)は、1年無増悪生存率を有意に改善し安全性に差はないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年2月22日号で報告された。欧州4ヵ国のプラセボ対照無作為化第II相試験 FIRSTMAPPP試験は、欧州4ヵ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ)の14施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2011年12月~2019年1月に、年齢18歳以上、散発性または遺伝性の転移を有する進行性褐色細胞腫およびパラガングリオーマの患者78例(年齢中央値54歳、男性59%)を登録した(フランス保健省などの助成を受けた)。 これらの患者を、スニチニブ(37.5mg/日、39例)またはプラセボ(39例)を経口投与する群に無作為に割り付けた。プラセボ群からスニチニブ群へのクロスオーバーは許容した。 主要評価項目は、中央判定による12ヵ月の時点での無増悪生存患者の割合とし、Simon two-step designに基づき解析を行った。69%で前治療、1年無増悪生存率は36% 78例中25例(32%)が生殖細胞系SDHx遺伝子変異を有しており、54例(69%)は前治療を受けていた。 12ヵ月の時点での無増悪生存は、プラセボ群が39例中7例(19%、90%信頼区間[CI]:11~31)であったのに対し、スニチニブ群は39例中14例(36%、23~50)であり、スニチニブ群の有効性に関する仮説の妥当性が確証された。 また、無増悪生存期間中央値は、スニチニブ群8.9ヵ月、プラセボ群3.6ヵ月、全生存期間中央値はそれぞれ26.1ヵ月および49.5ヵ月、奏効率は36.1%および8.3%(両群とも完全奏効例はなく、すべて部分奏効例)であり、スニチニブ群の奏効期間中央値は12.2ヵ月だった。有害事象の多くはGrade1/2 両群とも有害事象の多くはGrade1または2であった。最も頻度の高いGrade3または4の有害事象は、無力症(スニチニブ群7例[18%]、プラセボ群1例[3%])、高血圧(5例[13%]、4例[10%])、背部痛/骨痛(1例[3%]、3例[8%])だった。 スニチニブ群で3例(呼吸不全、筋萎縮性側索硬化症、直腸出血)が死亡し、直腸出血の1例は試験薬関連死と考えられた。プラセボ群では2例(誤嚥性肺炎、敗血症性ショック)が死亡した。 著者は、「この希少がんの初めての無作為化試験は、本症における抗腫瘍効果に関して、最も高い水準のエビデンスを持つ治療選択肢としてスニチニブの使用を支持するものである」と結論し、「スニチニブは、今後、他のすべての治療選択肢と比較すべき標準的な全身療法としての役割を果たす可能性がある」と指摘している。

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第185回 国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省

<先週の動き>1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省厚生労働省の武見 敬三厚生労働省大臣は、関西国際空港に到着したアラブ首長国連邦(UAE)発の国際便に搭乗していた5人から、はしかの感染が確認されたことを3月8日に発表した。この感染者は、2月24日にエティハド航空EY830便で関空に到着し、岐阜県で1人、愛知県で2人、大阪府で2人が感染していることが判明している。武見厚労相は、はしかの感染疑いがある場合、公共交通機関の利用を避け、医療機関に電話で相談するよう国民に強く呼びかけた。また、はしかは空気感染するため、手洗いやマスクでは予防が難しく、ワクチン接種が最も有効な予防策であることを強調した。はしかは世界的に流行しており、2023年の感染者数は前年の1.8倍の30万人を超え、とくに欧州地域では前年の60倍に当たる5万8,114人と大幅に増加している。国内でも感染が広がる可能性があり、すでに複数の感染者が報告されている。はしかには10~12日の潜伏期間があり、発症すると高熱や発疹が出現し、肺炎や脳炎などの重症化リスクがある。武見厚労相は、国内での感染拡大を防ぐために、ワクチン接種を含む予防策の徹底を呼びかけ、2回のワクチン接種で95%以上の人が免疫を獲得できるとされ、国は接種率の向上を目指しているが、2回目の接種率が目標に達していない状況。参考1)はしか、厚労相が注意喚起 関空到着便の5人感染確認(毎日新聞)2)はしかの世界的流行 欧州で60倍 国内も感染相次ぐ 国が注意喚起(朝日新聞)3)麻しんについて(厚労省)2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定について3月5日に官報告示を行ない、新たに急性期病床として設けられる「地域包括医療病棟」の詳細について発表した。この病棟は、とくに高齢者の救急搬送に応じ、急性期からの早期離脱を目指し、ADL(日常生活動作)や栄養状態の維持・向上に注力する。この病棟は、看護師の配置基準が「10対1以上」で、かつリハビリテーション、栄養管理、退院・在宅復帰支援など、高齢者の在宅復帰に向けて一体的な医療サービスを提供することが求められている。また、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職を2名以上、常勤の管理栄養士を1名以上配置することを求めている。地域包括医療病棟入院料は、DPC(診断群分類)に準じた包括範囲で設定され、手術や一部の高度な検査は出来高算定が可能とされ、加算ポイントとしては、入院初期の14日間には1日150点の初期加算が認められる。さらに、急性期一般入院料1の基準が厳格化され、急性期から地域包括医療病棟への移行を促す。この改定により、急性期病棟、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟という3つの機能区分が明確にされ、患者のニーズに応じた適切な医療提供の枠組みが整うことになる。この改革の背景には、高齢化社会における救急搬送患者の増加と、それに伴う介護・リハビリテーションのニーズの高まりがあり、地域包括医療病棟は、これらの課題に対応するため、急性期治療後の患者に対して継続的かつ包括的な医療サービスを提供することを目指す。参考1)地域包括医療病棟、DPC同様の包括範囲に 診療報酬改定を告示(CB news)2)新設される【地域包括医療病棟】、高齢の救急患者を受け入れ、急性期からの離脱、ADLや栄養の維持・向上を強く意識した施設基準・要件(Gem Med)3)令和6年度診療報酬改定の概要[全体概要版](厚労省)【動画】3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省電子処方箋の運用開始から1年、全国の医療機関や薬局において導入が約6%にとどまっていることが明らかになった。とくに病院の運用開始率は0.4%と非常に低く、25道県では運用を始めた病院が1つもない状況。導入が進まない主な理由として、高額な導入費用、医療機関や薬局が緊要性を感じていないこと、さらには患者からの認知度の低さが挙げられている。電子処方箋は、医療のデジタル化推進の一環として導入され、医師が処方内容をサーバーに登録し、患者が薬局でマイナンバーカードか健康保険証を提示することで、薬剤師がデータを確認し、薬を渡す仕組み。これにより、患者の処方履歴が一元化され、重複処方の防止や薬の相互作用チェックなど、医療の質向上が期待されている。政府は、2025年3月までに約23万施設での電子処方箋の導入を目指しており、システム導入費用への補助金拡充などを通じて、その普及を後押ししていく。しかし、病院での導入費用が約600万円、診療所や薬局では55万円程度が必要であることが普及の大きな障壁となっている。3月3日時点で、電子処方箋の運用を始めた施設は計1万5,380施設に達しているが、そのうち薬局が全体の92.4%を占めており、医科診療所、歯科診療所、病院での導入は遅れている。厚労省は、診療報酬改定に伴うシステム改修のタイミングでの導入を公的病院に要請しており、導入施設数の増加を目指す。参考1)電子処方箋の導入・運用方法(社会保険診療報酬支払基金)2)電子処方箋導入わずか6% 運用1年、費用負担も要因(東京新聞)3)電子処方箋、病院の「運用開始率」0.4%-厚労省「緊要性を感じていない」(CB news)4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労公立・公的病院で働く看護師、臨床検査技師、事務職員など約8割が現在の職場を辞めたいと考えていることが、全日本自治団体労働組合(自治労)の調査によって明らかになった。この調査は、47都道府県の公立・公的病院勤務者1万184人を対象に実施され、36%がうつ的症状を訴えていた。理由としては、業務の多忙、人員不足、賃金への不満が挙げられており、とくに「業務の多忙」を理由とする回答が最も多く、新型コロナウイルス感染症が5類へ移行した後も、慢性的な人員不足や業務の過多が改善されていない状況が背景にあると分析されている。新型コロナ関連の補助金減額による病院経営の悪化と人件費の抑制も、問題の一因とされている。自治労は、業務量に見合った人員確保や公立・公的医療機関での賃上げ実施の必要性を訴えているほか、医師の働き方改革に伴い、医療従事者全体の労働時間管理や労働基準法の遵守が必要だとしている。参考1)公立病院の看護師ら、8割が「辞めたい」 3割超がうつ症状訴え(毎日新聞)2)公立病院の看護師など 約8割“職場 辞めたい” 労働組合の調査(NHK)3)「職場を辞めたい」と感じる医療従事者が増加-衛生医療評議会が調査結果を公表-(自治労)5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?わが国は「不妊治療大国」と称されながらも、体外受精の成功率は10%台前半に留まり、米国や英国と比べ約10ポイント低い状況であることが明らかになった。日経新聞の報道によると、不妊治療に取り組むタイミングの遅れが主な原因とされている。不妊治療の開始年齢が遅いことによる成功率の低下は、出産適齢期や妊娠についての正確な知識の提供が不足していることと関係しており、わが国の「プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)」の取り組みが十分ではないことによる。わが国は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の件数が世界で2番目に多いにもかかわらず、出産数に対する成功率は低いままであり、この理由として年齢が上がるほど、成功に必要な卵子の数が減り、治療開始の遅れだけでなく、高齢になるにつれて卵子の質が低下することにも起因する。不妊治療の体験者からは、治療の長期化による心身への負担や、職場での理解不足による仕事と治療の両立の困難さが指摘されている。また、不妊治療について適切な時期に関する情報が不足していることも、問題として浮き彫りになっている。企業や自治体による不妊治療支援は徐々に広がりをみせているが、職場での不妊治療への理解を深め、支援体制を構築することが求められる。NPOの調査によれば、治療経験者の多くが職場の支援制度の不足を訴えており、不妊治療に関する休暇・休業制度や就業時間制度の導入が望まれている。参考1)不妊治療、仕事と両立困難で働き方変更39% NPO調査(日経新聞)2)不妊治療大国、日本の実相 体外受精の成功率10%台前半(日経新聞)3)プレコンセプションケア体制整備に向けた相談・研修ガイドライン作成に向けた調査研究報告書(こども家庭庁)6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁京都地裁は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性への嘱託殺人罪などで起訴された被告医師(45)に対し、懲役18年の判決を下した。女性の依頼に応えて行ったとされる殺害行為について、被告は「願いをかなえた」ためと主張し、弁護側は自己決定権を理由に無罪を主張したが、裁判所はこれを退け、「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と述べた。判決では、「自らの命を絶つため他者の援助を求める権利は憲法から導き出されるものではない」と指摘、また、社会的相当性の欠如やSNSでのやり取りのみで短期間に殺害に及んだ点を重視した。被告の医師は2019年、別の被告医師と共謀し、女性を急性薬物中毒で死亡させたとされ、さらに別の殺人罪でも有罪とされた。事件について、亡くなった女性の父親は「第2、第3の犠牲者が出ないことを願う」と述べ、ALS患者の当事者からは、「生きることを支えられる社会であるべき」という訴えがされていた。判決は、医療行為としての嘱託殺人の範囲や自己決定権の限界に関する議論を浮き彫りにした。参考1)ALS嘱託殺人、医師に懲役18年判決 京都地裁「生命軽視」(日経新聞)2)ALS女性嘱託殺人 被告の医師に対し懲役18年の判決 京都地裁(NHK)3)「命絶つため援助求める権利」憲法にない ALS嘱託殺人判決、弁護側主張退ける(産経新聞)

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薬不足をリアルに感じている患者は2割/アイスタット

 近年では、都市部で24時間営業の薬局が出現したり、インターネットで市販薬が購入できたりと市販薬購入のハードルはさらに下がってきた。また、不急ではない病気やけがでは、医療機関に頼らず市販薬で様子をみるという人も多いのではないだろうか。 こうした「薬をもらうなら病医院へ」の常識が変わりつつある今、薬不足、オーバードーズなど薬に関する深刻な問題も顕在する。また、一般人のジェネリック医薬品(後発品)の服用状況や飲み切らなかった処方箋薬の扱いなどの実態を知るためにアイスタットは、薬に関するアンケート調査を2016年5月の第1回に続き、今回実施した。調査概要形式:Webアンケート形式調査期間:2024年2月15日回答者:セルフ型アンケートツールFreeasyに登録している20~69歳の300人アンケート概要・最近1年間で処方箋薬を服用した人は6割近く。年代が高くなるほど服用率が多い・最近1年間で市販薬を服用した人は6割を超える。40代の服用が最多・最近1年間の薬の服用割合は、「処方箋薬」より「市販薬」の方が多い・最近1年間で「処方箋薬」「市販薬」の両方を服用している「併用型」の人は4割・日本国内で薬不足が深刻な問題になっている中、実際に薬不足を感じている人は2割・処方箋薬を処方された人(280人)のうち、飲み切らない人は約8割 飲み切らない人(218人)のうち、再発時に残った薬を服用する人は8割、捨てる人は2割 残った薬の使用期限は、「処方日から1年未満であれば再発時に服用する」が最多・ジェネリック医薬品を拒否する人は1割弱・オーバードーズについて「問題である」と思っている人は7割・37.5℃以上の発熱ではじめにすること第1位は「市販薬で様子をみる」基本ジェネリック医薬品でよいとする人は7割超 質問1で「最近1年間で、病医院で処方された薬(処方箋薬)をどのくらいの頻度で服用したか(内服薬、外服薬を問わず)」(単回答)について聞いたところ、「服用したことはない」が42.3%、「毎日」が34.0%、「体調が悪いとき、体調を改善したいときのみ」が14.0%という順で多かった。この回答を服用の有無別にみると、最近1年間で処方箋薬の服用がある人は6割近くいた。年代別では、服用の有無で「ある」と回答した人は「60代」で最も多く、年代が高くなるにつれ服用率が高い傾向がみられた。 質問2で「最近1年間で、ドラッグストアなどの店頭で購入した薬をどのくらいの頻度で服用したか(内服薬、外服薬を問わず)」(単回答)について聞いたところ、「体調が悪いとき、体調を改善したいときのみ」が48.7%、「服用したことはない」が39.0%、「定期的に」が7.3%の順で多かった。服用の有無別にみると、最近1年間で市販薬を服用した人は6割を超えていたほか、年代別で服用の有無で「ある」を回答した人は「40代」で最も多かった。 質問3で「最近1年間のうち、『薬不足』を感じたことがあるか」(単回答)について聞いたところ、「薬不足を感じなかった」が82.3%、「薬不足を感じた」が17.7%だった。薬を必要とする人(205人)のみを抽出し、解析した結果、「薬不足を感じなかった」が79.5%、「薬不足を感じた」は20.5%だった。ほぼ全体と同様の回答動向だった。なお、薬不足を感じた人の内訳は、「ドラッグストアなどの店頭のみ感じた」が7.3%、「病医院の処方箋薬のみ感じた」が6.8%、「両方で感じた」が6.3%だった。 質問4で「薬不足を感じた」と回答した53人に「最近1年間のうち、『薬不足』を感じた理由」(複数回答)について聞いたところ、「ドラッグストアや薬局でいつも購入している薬がなく、他の薬を購入した」が37.7%、「病医院でいつも服用している薬がなく、やむを得ず別の薬を処方された」が32.1%、「病医院で処方される薬の個数が減少したと感じた」「ニュースや身近の人の話を聞いて」が同率で22.6%と多かった。 質問5で「医療機関や薬局で処方された飲み薬をすべて服用しなかった場合、その薬はどうしているか」(単回答)について2群に分けて聞いた。はじめに「今まで飲み薬を処方されたことはない」と回答した20人を除いた280人を対象に処方箋薬の「飲み切り状況」を聞くと、処方箋薬を「飲み切らない人」が77.9%、「今まで残したことはない」が22.1%で、処方箋薬を飲み切らない人は約8割だった。次に、処方箋薬を飲み切らない人(218人)への同じ質問では、再発時に残った薬を服用する人は8割、捨てる人は2割だった。さらに残った薬の使用期限を調べてみると、「処方日から1年未満であれば再発時に服用する」が27.5%、「処方日から3年以上でも服用する」が17.0%と多かった。 質問6で「医療機関や薬局でジェネリック医薬品(後発品)を薦められた場合の回答」(単回答)について聞いたところ、「常に問題ないと答える」が49.7%、「自らお願いする」が23.7%、「どの疾患の治療薬かに応じて、選択有無を決める」が20.3%と多かった。 質問7で「『オーバードーズ』(過剰摂取)についてどう思うか」(単回答)について聞いたところ、「問題である」が74.7%で、「どちらともいえない」が15.0%、「問題であると思わない」が10.3%であった。年代別の解析では、「問題である」と回答した人は「50代」で最も多かった一方、「問題であると思わない」と回答した人は「20代/30代」の若者世代で最も多かった。 質問8で「37.5℃以上の発熱をした場合、はじめにすること」(単回答)について聞いたところ、「市販の風邪薬・解熱剤で様子をみる/対処する」が43.3%、「薬や病医院の受診に頼らず、安静にして様子をみる/対処する」が29.3%、「すぐに、発熱外来を予約/受診する」が12.7%で多かった。年代別では、「20代/30代」に「自己検査キット」「発熱外来へ受診」が多く、「50代」に「市販薬」「処方箋薬の残り」が、「60代」に「薬や受診に頼らず、安静にする」という回答が多かった。 質問9で発熱しても「すぐに発熱外来に行かない人(262名)」に「37.5℃以上の発熱をした場合、『すぐに発熱外来を受診しない』理由」(複数回答)について聞いたところ、「高熱でなければ、病医院に行く必要性を感じないから」が40.5%、「病医院の通院・診療が面倒だから」が27.9%、「費用がかかるから」が21.8%で多かった。処方箋薬と市販薬で服用が多いのは アンケ―ト結果から「処方箋薬」と「市販薬」の服用状況を解析したところ、「毎日」「定期的に」の服用割合は「処方箋薬」の方が多く、「体調が悪いとき、体調を改善したいときのみ」の服用割合は「市販薬」の方が多かった。一方、「服用したことはない」を除いた合計では、「処方箋薬」が57.7%、「市販薬」が61.0%で、「処方箋薬」より「市販薬」の方が多いことが判明した。 アンケ―ト結果から「薬の服用タイプ」を集計したところ、「処方箋薬」「市販薬」の両方を服用している「併用型」の人は43.0%、病医院を受診せずに「市販薬のみ」で対処する人は18.0%、「処方箋薬のみ」で対処する人は14.7%、「服用なし」の人は24.3%であり、「併用型」が最も多かった。

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市中誤嚥性肺炎、嫌気性菌カバーは必要?

 誤嚥性肺炎の治療において、本邦では嫌気性菌カバーのためスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、海外では誤嚥性肺炎の0.5%にしか嫌気性菌が認められなかったという報告もあり1)、米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、嫌気性菌カバーは必須ではないことが記載された2)。また、2023年に実施されたシステマティックレビューにおいて、嫌気性菌カバーの有無により、誤嚥性肺炎患者に転帰の差はみられなかったことも報告されている3)。しかし、本レビューに含まれた論文は3本のみであり、サンプルサイズも小さく、結論を導くためには大規模研究が必要である。そこで、カナダ・クイーンズ大学のAnthony D. Bai氏らは、約4千例の市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させた。本研究結果は、Chest誌オンライン版2月20日号で報告された。 研究グループは、カナダの18施設において市中誤嚥性肺炎で入院した患者のうち、入院から48時間以内に抗菌薬が投与された3,999例を対象とした後ろ向き研究を実施した。セフトリアキソン、セフォタキシム、レボフロキサシンが投与された患者を非カバー群(2,683例)とした。アモキシシリン・クラブラン酸※、モキシフロキサシンが投与された患者、非カバー群の薬剤とクリンダマイシンまたはメトロニダゾールが併用された患者を嫌気性菌カバー群(1,316例)とした。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目はC. difficile大腸炎の発現、治療開始後のICU入室であった。なお、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。※:本研究が実施されたカナダではSBT/ABPCが使用できないため、SBT/ABPCに相当するものとした。 主な結果は以下のとおり。・入院期間中央値は非カバー群6.7日、嫌気性菌カバー群7.6日であった。・院内死亡率は非カバー群30.3%(814例)、嫌気性菌カバー群32.1%(422例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後の院内死亡リスクの群間差は1.6%(95%信頼区間[CI]:-1.7~4.9)であり、両群間に有意差は認められなかった。・C. difficile大腸炎の発現率は非カバー群0.2%以下(5例以下)、嫌気性菌カバー群0.8~1.1%(11~15例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後のC. difficile大腸炎の発現リスクの群間差は1.0%(95%CI:0.3~1.7)であり、嫌気性菌カバー群で有意にリスクが高かった。・治療開始後のICU入室率は非カバー群2.5%(66例)、嫌気性菌カバー群2.7%(35例)であった。 著者らは、本研究には抗菌薬を必要としない誤嚥性肺炎患者が含まれる可能性があること、院外死亡や再入院の評価ができなかったこと、多くの患者で肺炎の原因菌が特定できていなかったことなどの限界が存在することを指摘しつつ、「誤嚥性肺炎において、嫌気性菌カバーは院内死亡率を改善せず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させることから不要である可能性が高いと考えられる」とまとめた。

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