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新規汎RAS阻害薬daraxonrasib、NSCLCへの有用性は?/NEJM

 プラチナ製剤併用化学療法および抗PD-1/PD-L1抗体で病勢進行が認められたRAS変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、治療選択肢が限られている。また、RAS遺伝子ファミリー(KRAS、HRAS、NRASを含む)の変異は、NSCLCにおいて最も頻度の高いがんドライバー遺伝子で、NSCLC患者の約30%に認められる。しかし、その大部分には承認された標的治療薬が存在しない。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのKathryn C. Arbour氏らRMC-6236-001 Investigatorsは、第I/II相用量設定試験「RMC-6236-001試験」において、RAS変異を有する固形腫瘍患者に対する経口RAS(ON)マルチ選択的阻害薬daraxonrasib(RMC-6236)の安全性と有効性を評価した。daraxonrasibは、変異型・野生型を問わず、活性型のGTP結合RASタンパク質を標的とする薬剤である。daraxonrasib 300mg以下を投与された既治療RAS変異NSCLC患者において、Grade3以上の有害事象の発現率は54%であり、奏効率(ORR)は30%超であった。NEJM誌2026年9月3日号掲載の報告。第I/II相試験、1日1回10~400mg用量で21日を1サイクルとして経口投与 第I/II相のRMC-6236-001試験は多施設共同試験として、非盲検下にて2つのパート(用量漸増と用量拡大)で構成された。 研究グループは、18歳以上の既治療進行RAS変異NSCLC患者を登録し、daraxonrasibを1日1回10~400mgの用量で、21日を1サイクルとして経口投与した。 主要評価項目は安全性とし、副次評価項目は治験担当医師評価によるORR(RECIST ver1.1に基づく完全奏効または部分奏効)、奏効期間などとした。第III相試験では200mgを選択 2025年7月21日のデータカットオフ時点で、136例の被験者が300mg以下の用量でdaraxonrasibによる治療を受け(120mg以下群26例、160~220mg群59例、300mg群51例)、安全性と有効性が評価された。 300mg以下群において、試験治療下における有害事象は99%の患者で報告され、主な有害事象(30%以上に発現)は発疹、下痢、悪心、嘔吐、口内炎であった。 Grade3以上の有害事象は、73例(54%)で報告され、そのうち発現頻度が5%以上の有害事象は肺炎(10%)、下痢(9%)、発疹(8%)、貧血(5%)であった。Grade5の有害事象は4例に発現した(160~220mg群で呼吸困難、肺炎、心筋梗塞、300mg群で末梢血管障害)。ただし、いずれも治療関連とは判断されなかった。 ORRは、120mg以下群で31%、160~220mg群で34%、300mg群で37%であった。 著者らは、「本試験結果を踏まえて、進行NSCLC患者におけるdaraxonrasib単独療法の第III相試験では、200mgが選択された」と報告している。

2.

肺がんにおけるADCの肺関連有害事象の発現率~メタ解析/JTO

 抗体薬物複合体(ADC)は、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)に対する使用が増えている。一方で、臨床的に重要な肺関連有害事象(肺AE)が報告されているものの、肺がん領域における発現頻度や毒性プロファイルは十分にわかっていない。今回、米国・Icahn School of Medicine at Mount SinaiのRodrigo Paredes de la Fuente氏らが、SCLCまたはNSCLC患者に対するADC治療に伴う肺AEの発現頻度と重症度を系統的レビューおよびメタ解析で検討したところ、全Gradeの肺AEが約3割、肺臓炎/間質性肺疾患(ILD)は8%に認められた。Journal of Thoracic Oncology誌オンライン版2026年8月31日号に掲載。 本研究は、PRISMAに基づく系統的レビューおよびメタ解析で、MEDLINE(Ovid)、Embase(Ovid)、Cochrane CENTRALを用い、2025年1月2日までに発表された研究を検索した。適格研究は、SCLCまたはNSCLC患者を対象にADCを評価した無作為化比較試験および前向き単群試験とした。主要評価項目は、ランダム効果モデルを用いた肺AEの統合発現率であり、肺AEの重症度、肺臓炎/ILD、肺毒性による治療中止、肺AE関連死亡、腫瘍サブタイプ別の差などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・組み入れられた研究は24件で、対象患者は4,048例であった。そのうち、ADC治療を受けた患者は2,855例であった。・肺AEの統合発現率は、全Gradeで30.9%(95%信頼区間:21.5~42.3)、Grade3以上では6.9%(同:4.6~10.3)であった。・肺臓炎/ILDの発現率は全体で8.0%であり、Grade3以上は2.8%であった。・肺毒性による治療中止は6.2%、肺AE関連死亡率は1.96%であった。・全Gradeの肺AEは、SCLC(52.1%)がNSCLC(22.5%)より高頻度であった(p=0.005)。・一方、肺臓炎はNSCLC(12.1%)でSCLC(2.8%)より高頻度であった(p<0.001)。 著者らはこの結果について、「ADC治療を受ける肺がん患者では肺AEが高頻度にみられ、臨床的に意味のある毒性である。肺臓炎/ILDはとくに対応が必要な毒性であり、そのリスクは腫瘍サブタイプと薬剤特性に左右される」とまとめた。

3.

第75回 膵がんに「1日1回の飲み薬」が登場。生存期間は約2倍、ただし1ヵ月600万円

米国食品医薬品局(FDA)は2026年8月26日、転移を有する膵がんの新しい治療薬daraxonrasibを承認しました。1日1回の飲み薬で、承認の根拠となった第III相試験では、生存期間の中央値が化学療法の6.7ヵ月に対し13.2ヵ月と、約2倍に延びています。治療の進歩が乏しかった膵がんでこれほどの差が示されるのは異例です。なぜこの薬が「画期的」と呼ばれるのか。それを理解するには、まず膵がんという病気の難しさから見ていく必要があります。「薬で狙えない」とされてきた標的・RAS膵がんの大半を占める膵管腺がんは、発見が遅れやすく、治療の選択肢も限られてきました。その難しさの一因が、RASという遺伝子ファミリー(とくにKRAS)の変異で、膵臓の腫瘍の90%以上でこれが原因になっています。ところがRASのタンパク質は表面がなめらかで、薬が引っかかる「くぼみ」がありません。そのため長年、研究者の間では「薬で狙えない標的」と考えられてきました。しかし、今回承認されたdaraxonrasibはその障壁を乗り越えました。「RAS(ON)マルチセレクティブ阻害薬」という新しいタイプの薬で、特定の変異型1つだけを狙うのではなく、活性化した状態のRASタンパク質を“のり”のように包み込み、増殖を促すシグナルを止めます。マウスを使った基礎研究で、正常な組織を大きく傷めずに腫瘍だけを叩けることが確認され、臨床試験へ進みました。生存期間2倍という数字の読み方根拠となった臨床試験では、1次治療後に進行した転移を有する膵管腺がんの患者500例を、daraxonrasib(1日1回300mgの内服)と、主治医が選ぶ標準的な化学療法に1対1で割り付けました。すると、全生存期間の中央値は13.2ヵ月vs.6.7ヵ月、死亡リスクは60%低下と明確な差が見られました。1年後に生存していた人の割合は53.2%vs.17.3%と、3倍以上の開きがありました。腫瘍が縮小した人の割合は31.6%vs.11.2%とこれも開きがあり、がんが悪化するまでの期間も7.2ヵ月vs.3.6ヵ月と延びていました。ただし、これらの数値の読み方には注意が必要です。これは「中央値」の比較であり、一人ひとりの余命が必ず2倍になるという意味ではありません。また追跡期間の中央値は8.5ヵ月と短く、長期的にどうなるかは今後の報告を待つ必要があります。試験は薬の割り付けを隠さないオープンラベル方式で、製薬企業が資金を出している点も、頭の片隅に置いておくべき情報です。副作用は「少ない」というより「種類が違う」と表現するのが正確です。重い(Grade3以上)副作用は43.6%vs.57.5%と化学療法より少なく、副作用による治療中止は1.2%vs.11.2%でした。しかし皮膚障害は86%(うち10%が重症)に生じ、間質性肺炎・肺臓炎も2.4%(死亡例1件)報告されています。添付文書には口内炎、下痢、消化管穿孔なども警告として記載されています。化学療法で見られる脱毛や骨髄抑制の代わりに、皮膚と口の管理が治療の要になる薬だといえます。月約600万円、日本ではどうなるか見過ごせないのが費用です。製造元は1ヵ月分の薬価を約3万9,800ドルと発表しました。1ドル150円換算で月およそ600万円、1年で7,000万円を超える計算になります。米国では自己負担額は加入する保険によって大きく変わり、支払い能力が治療の選択を左右しかねません。日本では、2026年8月時点でこの薬は未承認で、保険診療では使えません。ただし先の臨床試験には日本の施設も参加しており、承認申請が進む可能性はあります。仮に承認され保険適用になれば、高額療養費制度により患者本人の負担は月当たり数万~十数万円程度に抑えられる見込みです。一方で、公的医療保険財政への影響は小さくなく、費用対効果の評価が議論になるでしょう。なお、承認を待たずに個人輸入を検討する方もいますが、これは勧められません。品質が保証されず、副作用が起きても医薬品副作用被害救済制度の対象になりません。重い皮膚障害や間質性肺炎の管理が必要な薬であり、専門医の監督なしに使えるものではないのです。膵がんの治療は、数十年にわたり小さな前進の積み重ねでした。今回の承認は、その停滞を破る大きな一歩です。同時に、承認された用途は「1次治療後」に限られ、価格という大きな課題も残ります。ニュースの「生存期間2倍」という見出しの裏側にある、対象となる患者さんの範囲・副作用・費用まで含めて理解しておくことが、この薬と正しく向き合う出発点になるでしょう。1)O'Reilly EM, et al. Daraxonrasib or chemotherapy in previously treated metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med. 2026;395:325-337.2)US Food and Drug Administration. FDA approves daraxonrasib for metastatic pancreatic adenocarcinoma. 2026 Aug 26.3)Wasko UN, et al. Tumor-selective activity of RAS-GTP inhibition in pancreatic cancer. Nature. 2024;629:927-936.4)New FDA-approved oral therapy improves survival for metastatic pancreatic cancer. NYP Advances. NewYork-Presbyterian; 2026 Aug 27.5)Revolution Medicines, Inc. US FDA approves RASONQUE (daraxonrasib), the first broad RAS-targeted medicine in metastatic pancreatic cancer. Press release. 2026 Aug 26.6)Perrone M. FDA approves landmark pancreatic cancer drug that's shown to improve survival. NPR/Associated Press. 2026 Aug 27.

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免疫性血小板減少症における初のBTK阻害薬「ウェイリズ錠」【最新!DI情報】第70回

免疫性血小板減少症における初のBTK阻害薬「ウェイリズ錠」今回は、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬「リルザブルチニブ(商品名:ウェイリズ錠400mg、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は免疫性血小板減少症を適応症として世界で初めて承認されたBTK阻害薬です。免疫異常に対して多面的に作用し、病態そのものにアプローチすることが期待されています。<効能・効果>持続性および慢性免疫性血小板減少症の適応で、2026年6月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはリルザブルチニブとして1回400mgを1日2回、経口投与します。<安全性>重大な副作用として、感染症(COVID-19[17.2%]、上咽頭炎[咽頭炎を含む、13.6%]、肺炎[1.5%]、尿路感染[7.6%]、腎膿瘍[0.5%]、創傷感染[1.0%]、サイトメガロウイルス血症[0.5%])、肝機能障害(5.1%)、間質性肺疾患(0.5%)があります。その他の副作用として、頭痛、下痢、悪心、腹痛、上腹部痛、腹部不快感、消化器痛、関節痛(いずれも10%以上)、浮動性めまい、咳嗽、湿性咳嗽、嘔吐、消化不良(いずれも10%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、持続性および慢性免疫性血小板減少症に用いられます。2.ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という酵素に可逆的に結合してその働きを抑えることにより、B細胞の自己抗体産生やFcγ受容体を介した貪食を阻害することで、多面的な免疫調節作用を示し、血小板の減少を抑制すると考えられています。3.体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。4.この薬の使用中は、血小板数が安定するまでは週1回を目安に、その後は定期的に血小板数の検査を受けてください。5.重篤な感染症やB型肝炎ウイルスの再活性化が現れることがあるので、発熱などの感染の症状が現れた場合は、ただちに医師に連絡してください。6.息切れ、呼吸困難、咳、発熱などの症状が現れた場合には、間質性肺疾患の可能性がありますので、ただちに医師に連絡してください。【ここがポイント!】免疫性血小板減少症(Immune thrombocytopenia:ITP)は、後天性の自己免疫疾患であり、血小板の破壊亢進および産生障害によって血小板数が減少し、出血傾向を呈する疾患です。国内の患者数は約2万5,000例と推定されており、指定難病63に指定されている希少疾病です。以前は特発性血小板減少性紫斑病と呼ばれていましたが、現在の病名に変更されています。主な症状として、皮膚の点状出血や斑状出血、歯肉出血、口腔粘膜出血、鼻出血、下血などがみられ、重症例では脳出血を引き起こすことがあります。また、倦怠感に加え、出血に対する恐怖や不安、認知機能への影響などを伴うことがあり、患者のQOLは著しく低下します。本剤の有効成分であるリルザブルチニブは、ITPを適応症として世界で初めて承認されたブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton's Tyrosine Kinase:BTK)阻害薬です。BTKはB細胞、マクロファージ、マスト細胞などの免疫細胞に発現し、B細胞の分化や活性化を制御し、自己抗体や炎症性サイトカインなどの産生に関与しています。本剤はBTKを阻害することで、B細胞活性化の抑制、自己抗体産生の減少、Fcγ受容体を介した貪食作用の抑制など、多面的な免疫調節作用を発揮し、血小板減少の改善に寄与します。持続性または慢性のITP患者を対象としたLUNA 3試験(国際共同第III相検証試験:PRN1008-018/EFC17093試験)において、主要評価項目の二重盲検期間における持続的な血小板反応を達成した患者の割合は、本剤群は23.3%(95%信頼区間:16.12~30.49)、プラセボ群は0%で、両群間の差は統計学的に有意でした(p<0.0001)。

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既治療の進行腎細胞がん、ベルズチファン+レンバチニブがPFS改善(LITESPARK-011)/Lancet

 抗PD-1/PD-L1療法後に増悪した進行淡明細胞型腎細胞がん患者において、ベルズチファン+レンバチニブはカボザンチニブと比較し、全生存期間(OS)に有意差はなかったものの無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、安全性プロファイルは単剤投与の場合と同程度であったことが、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのRobert J. Motzer氏らLITESPARK-011 Investigatorsが実施した「LITESPARK-011試験」で示された。著者は、「ベルズチファン+レンバチニブは、抗PD-1/PD-L1療法後の進行淡明細胞型腎細胞がん患者に対する新たな標準治療となりうるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年8月12日号掲載の報告。カボザンチニブと比較、主要評価項目はPFSとOS LITESPARK-011試験は、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北米および南米の25ヵ国、計184施設で実施した第III相無作為化非盲検実薬対照試験である。 対象は、18歳以上の切除不能な局所進行または転移のある淡明細胞型腎細胞がん患者で、1次または2次治療としての抗PD-1/PD-L1療法(VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬併用の有無を問わない)後、または術前・術後補助療法としての抗PD-1/PD-L1療法の最終投与後6ヵ月以内に、病勢進行が認められた患者であった。 研究グループは、適格患者をベルズチファン(120mg)+レンバチニブ(20mg)併用群またはカボザンチニブ(60mg)群に、Web応答システム(ブロックサイズ4)を用いて1対1の割合で無作為に割り付け、病勢進行または許容できない有害事象が発現するまで1日1回経口投与した。 割り付けの層別因子は、国際転移腎細胞がんデータベースコンソーシアム(IMDC)の予後スコア(0、1~2、3~6)、抗PD-1/PD-L1療法の治療ライン(術後補助療法/術前術後補助療法/1次治療、2次治療)、および地域(北米、西ヨーロッパ、その他の地域)であった。 主要評価項目は、盲検下独立中央評価委員会判定によるPFSならびにOSの2つで、無作為化された全例を解析対象集団とし、PFSまたはOSのいずれかで有意差が認められた場合は主要評価項目達成と定義した。 安全性は、無作為化され試験薬を少なくとも1回投与された患者を対象に評価した。PFS中央値は14.8ヵ月vs.10.7ヵ月、ベルズチファン+レンバチニブ群で有意に延長 2021年3月5日~2023年9月1日に955例がスクリーニングされ、このうち747例が無作為化された(ベルズチファン+レンバチニブ群371例、カボザンチニブ群376例)。 患者背景は、565例(76%)が男性、182例(24%)が女性、651例(87%)が白人であった。 第2回中間解析(2025年4月9日データカットオフ、追跡期間中央値:29.0ヵ月、四分位範囲:23.7~34.9)において、PFS中央値はベルズチファン+レンバチニブ群14.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.2~16.6)、カボザンチニブ群10.7ヵ月(95%CI:9.2~11.1)であり、ベルズチファン+レンバチニブ群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.59~0.84、片側p<0.0001、有意水準片側p=0.0047)。 OS中央値は、ベルズチファン+レンバチニブ群34.9ヵ月(95%CI:27.5~未到達)、カボザンチニブ群27.6ヵ月(95%CI:24.0~31.4)で、両群間に有意差は認められなかった(HR:0.85、95%CI:0.68~1.05、片側p=0.061、有意水準片側p=0.0115)。 Grade3以上の有害事象は、ベルズチファン+レンバチニブ群で84%(311/370例)、カボザンチニブ群で83%(307/371例)に発現した。両群で最も発現割合が高かったGrade3以上の有害事象は、高血圧であった(ベルズチファン+レンバチニブ群31%、カボザンチニブ群29%)。副作用による死亡は、ベルズチファン+レンバチニブ群で2例(血栓性微小血管症、肺炎)、カボザンチニブ群で1例(喀血)報告された。

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肝臓病には必ず肝不全用輸液製剤?【ケースで学ぶ輸液オーダー】第6回

肝臓病には必ず肝不全用輸液製剤?「アミノレバン」には経口薬のアミノレバンENと輸液製剤のアミノレバンがあり、ややこしいですね。研修医時代は経口薬をそっくり置き換えたのが輸液製剤だと思っていましたが、それは間違いです。今回は肝疾患の患者さんにおける栄養療法を再確認しましょう。栄養療法の原則は経口・経腸栄養ですが、静脈栄養が必要となることもあります。アミノ酸投与に関して、次の肝疾患の患者さんには、(1)〜(3)のどれが適切な選択でしょうか?(1)アミノレバンを使用する(2)標準的な組成のアミノ酸を含む一般用静脈栄養製剤を使用する(3)アミノ酸は投与しない症例症例1 代償性肝硬変68歳男性、C型肝炎後肝硬変(Child-Pugh A)。癒着性腸閉塞の手術予定で絶食中。AST42U/L、ALT 38U/L、T-Bil 1.0mg/dL、Alb 3.7g/dL、NH3 38μg/dL。意識清明。症例2 非代償性肝硬変72歳男性、アルコール性肝硬変(Child-Pugh C)。食道静脈瘤治療歴、腹水あり。誤嚥性肺炎で入院。数日間絶食予定。T-Bil 4.0mg/dL、Alb 2.3g/dL、PT 45%、NH3 55μg/dL。意識清明、羽ばたき振戦なし。症例2の続き入院3日目、便秘と感染を契機に傾眠傾向となり、NH3 165μg/dL。羽ばたき振戦あり。症例3 劇症肝炎(急性肝不全)35歳女性。3日前から発熱、全身倦怠感、黄疸が出現し、会話のつじつまが合わないことに家族が気付き救急搬送された。来院時は傾眠傾向、羽ばたき振戦を認める。AST 5,240U/L、ALT 4,980U/L、T-Bil 11.8mg/dL、PT 23%、NH3 172μg/dL、血糖 52mg/dL。集中治療室へ入室した。経口用と輸液用のアミノレバンの違い輸液製剤のアミノレバンは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を含む経口剤とは異なり、栄養補充を目的としたものではありません。肝性脳症を改善させるためのアミノ酸インバランスの是正が主な役目です1,2)。経口剤のように栄養療法として継続使用する想定ではなく、あくまでも肝性脳症に対する治療薬という位置づけです。ちなみに肝不全用アミノ酸輸液製剤は一般用静脈栄養製剤と同様、2020年より「透析又は血液ろ過を受けている患者」が禁忌対象から除外されました。現在は肝性脳症を来した透析患者さんにもアミノレバンは投与可能です3)。肝疾患における栄養療法の考えかた~タンパクの取り扱い通常、肝硬変患者では安静時エネルギー消費量が増加しており、エネルギー摂取量の目標は耐糖能異常がない場合は25~35kcal/kg(標準体重)/日とされ、飢餓状態を短くするために1日3〜5回の分割食と就寝前軽食が推奨されています。タンパク摂取量の目標は、タンパク不耐症がない肝硬変患者の場合は1.0~1.5g/kg/日(BCAA製剤を含む)、タンパク不耐症がある肝硬変患者の場合は0.5〜0.7g/kg/日+BCAA高含有肝不全用経腸栄養剤とされます。肝性脳症時であっても、タンパク制限は窒素平衡を負に傾け、体タンパクの分解を促進するため推奨されません1,2)。一方、劇症肝炎では、血漿中の全てのアミノ酸濃度が高くなっており、BCAAを含めてアミノ酸投与は回避しなくてはなりません2)。表1 肝疾患とタンパク必要量画像を拡大する各症例の考え方タンパク不耐性、すなわち肝性脳症がなければ通常の栄養管理を行うことが原則であり、アミノレバンは肝硬変の栄養輸液ではなく「肝性脳症の治療薬」であることを念頭に考えましょう。症例1、症例2はいずれも肝性脳症を伴わない肝硬変患者であり、静脈栄養に際しては(2)の一般用静脈栄養製剤を使用します。しかし症例2の続きでは肝性脳症を併発しており、このときに初めて(1)のアミノレバンを選択して治療します。症例3は劇症肝炎による急性肝不全であり、アミノ酸投与は禁忌のため(3)となります。この場合、輸液は糖電解質輸液を基本とし、血漿交換が行われることでしょう。アミノレバンは栄養輸液ではなく肝不全治療薬です。栄養療法におけるアミノ酸輸液とは切り離して考えましょう。肝不全用アミノ酸製剤を深堀りする肝硬変では、肝機能の低下や筋肉量の減少に伴って代謝に異常が生じます。とくに筋肉でのアンモニア処理にBCAAが消費されてBCAAが低下し、逆に芳香族アミノ酸(AAA)が増加することで、アミノ酸インバランス(フィッシャー比の低下)を引き起こします。Fischerらはこのフィッシャー比の低下に着目し、BCAA含有量を増加させ、含硫アミノ酸やAAAを減少させたFischer処方を考案しました。この特殊組成アミノ酸輸液(Fischer液)により血漿アミノ酸インバランスを是正し、肝性脳症における意識障害の改善に成功しました。このFischer液をそのまま製剤化したものがアミノレバンです4)。アミノレバンは、肝不全時のアルカローシスを増強しないようCl-を多く含んでおり、Na+との間に乖離(Na+:14mEq/L、Cl-:94mEq/L含有)があるため、高クロール性代謝性アシドーシスに注意が必要です。腎機能障害のない患者でもアシドーシスを引き起こす可能性があり、軽度~中等度の慢性腎臓病患者(eGFR:30~60mL/分/1.73m2)では発生率が有意に高いことが報告されています5)。投与開始直後からリスク上昇がみられるため、意識障害の改善が得られた時点で速やかに経口によるBCAA補充への変更を検討する必要があります。表2 アミノレバンと一般アミノ酸製剤(アミパレン)の比較画像を拡大する1)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. 肝硬変診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南江堂;2020.2)日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)編.JSPENコンセンサスブック2 肺疾患/肝疾患/腎疾患. 医学書院;2023.3)今回の「使用上の注意」改訂の経緯と課題について / 日本栄養治療学会4)高橋 善彌太ほか. 臨床医薬. 1982;31:175-185.5)Kaji K, et al. Biol Pharm Bull. 2025;48:46-50.

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卵巣がんの新たな3つのターゲット療法、日本人患者の成績/日本婦人科腫瘍学会

 これまで有効な治療選択肢が限られていた卵巣がんの組織型に対し、分子標的療法の臨床試験が有望な成果を示している。第68回日本婦人科腫瘍学会学術集会では、3つの組織型の新薬における日本人患者の成績を三重大学 金田 倫子氏、兵庫県立がんセンター 山本 香澄氏、名古屋大学 新美 薫氏が紹介した。低異型度漿液性卵巣がんに対するavutometinib+defactinibの日本人成績(RAMP201J) 低異型度漿液性卵巣がん(LGSOC)は卵巣がんの10%未満とまれな組織型である。再発に対する化学療法の奏効率は0~13%と低く、新たな治療法の開発が強く望まれている。 LGSOCではKRAS変異を含むRAS/MAPキナーゼ経路の異常が高頻度に認められることから、この経路を標的とした治療法の開発が期待されている。avutometinibはRAF/MEKクランプ薬で、RAS/MAPK経路におけるRAFとMEKを抑えることでシグナル伝達を阻害する。一方のdefactinibはFAK阻害薬である。avutometinibとdefactinibの併用によりRAF/MEKとFAKを阻害することで高い抗腫瘍効果が期待される。グローバルのRAMP201試験における奏効率(ORR)は全体集団で31%、KRAS変異例では44%。無増悪生存期間(PFS)中央値は全体で12.9ヵ月、KRAS変異例では19.6ヵ月であった。これらのデータを背景に、日本人LGSOCを対象とした第II相試験RAMP201J試験が開発された。 RAMP201Jはプラチナ既治療患者を対象とし、avutometinibとdefactinibを3週投与1週休薬の4週サイクルで投与する。同学術集会では治験担当医の判定による中間解析結果を報告した。日本人は16例が登録され、KRAS変異例が7例、KRAS野生型が9例であった。年齢中央値は47歳、44%の患者が4ライン以上の前治療歴を有していた。 追跡中央値12.4ヵ月での日本人患者のORRは全体で44%、KRAS変異例は71%、KRAS野生型は22%であった。病勢コントロール率(DCR)は全体で94%、KRAS変異例は100%、KRAS野生型は89%であった。全体の44%が1年以上治療を継続しており、治療継続期間中央値はKRAS変異例で11.7ヵ月、KRAS野生型は10.9ヵ月であった。 有害事象(AE)については、ほとんどがGrade1/2であり、Grade3の主なものはCPK上昇と皮疹であった。93%が休薬を必要とし、31%が減量を要したが、AEによる治療中止例はなかった。 今回の結果より、日本人LGSOC患者に対するavutometinib+defactinib併用療法は、RAMP201と同様の有効性・安全性・薬物動態を示すことが確認されている。また、KRAS変異例だけでなくKRAS野生型でも一定の奏効率を示した。現在、第III相試験(RAMP301試験)が実施されている。FRα陽性プラチナ抵抗性卵巣がんに対するmirvetuximab soravtansineの日本人成績 プラチナ抵抗性再発卵巣がんに対する単剤化学療法やベバシズマブ併用療法の有効性は限定的であり、新たな治療選択肢が強く求められている。葉酸受容体α(FRα)は上皮性卵巣がんで高発現することが知られており、有望なバイオマーカーとして注目されている。 mirvetuximab soravtansine(MIRV)はFRαを標的とした抗体薬物複合体(ADC)である。MIRVの有効性・安全性はSORAYA試験(第II相)およびMIRASOL試験(国際共同第III相)で示されており、米国をはじめ複数の国でFRα陽性プラチナ抵抗性卵巣がんへの適応が承認されている。 これらのピボタル試験には日本人が組み入れられていなかった。そのため、日本人に対するMIRVの安全性・有効性・薬物動態を評価する多施設共同オープンラベル第I/II相試験が行われた。第I相ではMIRV(6mg/kg 3週ごと投与)の安全性・薬物動態を、第II相では有効性、安全性などを評価した。 第I相(3例)で用量制限毒性が認められないことを確認し、上記用量で第II相へ移行した。第II相(25例)ではFRα高発現のプラチナ製剤抵抗性上皮性卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんを対象として、ORR、奏効期間(DOR)、安全性を評価した。 結果、主要評価項目であるORRは44%(25例中11例)で、完全奏効は2例で認められた。DCRは88%であった。 全例に何らかのAEが認められ、Grade3以上が52%、重篤なAEが24%に発生したが、AEによる治療中止例・死亡例はなかった。臨床的に重要なAEとして眼障害64%、末梢神経障害28%、肺炎24%が認められた。 これらの結果から、日本人患者においても既報と同様にMIRVの有効性、安全性が得られた。PIK3CA変異卵巣明細胞がんに対するリソバリシブの日本人成績(CYH33-G201) 卵巣明細胞がん(OCCC)はまれで化学療法抵抗性を示すがん種であり、確立された2次治療の選択肢がない。再発例では奏効率8%未満、OS中央値約11ヵ月と予後不良である。 PIK3CA遺伝子のホットスポット(exon9、exon20などの高頻度変異領域)変異はOCCCの30~40%に認められる。リソバリシブ(CYH33)はPI3キナーゼα(PI3Kα)に結合して腫瘍の増殖・生存を抑制することからOCCCの治療薬として期待されている。 CYH33-G201試験はPIK3CAホットスポット変異を有する再発および持続性OCCCを対象とし、リソバリシブ40mg/日経口投与を評価した国際共同第II相試験である。同学術集会では日本人集団の結果が発表された。 日本人患者は52例で、年齢中央値は53.5歳、PS0が94%、前治療ラインは2ラインが最多(48%)であった。PIK3CAホットスポット変異はexon9が39%、exon20が50%である。 主要評価項目のORRは全体集団で34.5%、日本人集団で30.4%であり、両群で同等の有効性が示された。DCRは全体で76.2%、日本人で73.9%であった。PFS中央値は全体・日本人ともに約4.86ヵ月、OS中央値は全体で14.39ヵ月、日本人で11.17ヵ月であった。75%で用量減量が、90%で休薬が実施された。 全例に何らかのAEが認められた。頻度の高い治療関連AEは高血糖(85%)と発疹(75%)で、日本人での発現率はそれぞれ84.6%と75.0%であった。AEによる減量は75%、休薬は90%で発生している。治療関連AEによる死亡は認められていない。 リソバリシブはグローバル試験と同様、日本人患者でも有望な治療選択肢となることが確認された。PIK3CA変異陽性の卵巣明細胞がん治療薬として国内で本年(2026年)7月に承認、発売されている。 卵巣がんの新たな標的であるKRAS、FRα、PIK3CA治療、いずれにおいても日本人でグローバルデータと同様に有効性が確認された。■参考文献RAMP201試験(ClinicalTrials.gov)Banerjee SN, et al. J Clin Oncol. 2025;43:2782-2792.RAMP201J(ClinicalTrials.gov)RAMP301(ClinicalTrials.gov)SORAYA試験(ClinicalTrials.gov)Matulonis UA, et al. J Clin Oncol. 2023;41:2436-2445.MIRASOL試験(ClinicalTrials.gov)Moore KN, et al. N Engl J Med. 2023;389:2162-2174.FRα陽性固形がん成人患者を対象とするTAK-853の試験(jRCT)CYH33-G201試験(ClinicalTrials.gov)

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断水時の熱中症や災害関連死を防ぐポイント/3学会合同記者会見

 2026年8月3日、日本救急医学会、日本災害医学会、日本生気象学会の3学会合同による緊急オンライン記者会見『避難生活における熱中症予防の留意点』が開催された。本会見は、令和8年熊本地震の被災地において、猛暑とライフライン障害(断水・停電)が重なる中、避難所や復旧作業現場での「熱中症」および「災害関連疾病」の予防・対策・処置について、各専門家が最新の知見と緊急提言を発信するために実施された。 被災地での災害関連死を防ぐためには、避難所環境の改善から二次災害(エコノミークラス症候群[深部静脈血栓症]、感染症、誤嚥性肺炎などの発生)予防、そして熱中症対策が今回の災害では重要になる。また、災害発生から1週間は日常診療をストップし災害対応として救急外来のみを行ってきた医療機関であっても日常診療が徐々に再開され、それに伴う新たな課題も出てくることが予測される。加えて、今回の災害は熱中症対策が必要にもかかわらず、熱中症対策に不可欠な“水”の供給基盤が著しく阻害されている点が大きな課題となっている。今回の記者会見で示された現場の実状と、実臨床医が患者の命を守るために実践できることとは。避難環境の格差解消が急務 現場で生じている実状と医療提供体制について報告した阿南 英明氏(日本災害医学会 理事/神奈川県立病院機構 理事長)は、自衛隊などの支援により避難所の体育館などへのポータブル空調機やスポットクーラー設置が進む一方で、「避難所間の環境格差が著しい」状況を説明した。環境整備が不十分な避難所では暑熱環境が解消されず、結果として車中泊を余儀なくされている被災エリアが存在するという。令和6年能登半島地震などと比較して2次避難が任意であることも手伝い、避難環境の改善が車中泊解消の喫緊の課題となっている。 今回の地震による熱中症傷病者発生状況について、7月28日~8月2日までの6日間での県南圏域病院(災害拠点病院)の受入患者は計60例に上る。熱中症患者の特性としては60歳以上の高齢者が多数を占めており(65歳以上32例[55.2%])、復電した7月31日以降は減少傾向にあるが、「特別養護老人ホームなどの施設では熱中症が多数発生し、そのほとんどが入院しているため、スクリーニングや支援などの重点的な介入を進めている」と述べた。さらに、発災から1週間が経過し、多くの医療機関が救急外来のみの運用から一般外来の再開へシフトし始めるため、同氏は、現場の医療者への「災害対応と日常診療の二重の負荷」について懸念を示した。 同氏は「避難所の環境整備を進めて車中泊を解消させるとともに、共通の評価指針を用いて災害関連死を確実に予防することが重要である。また、診療再開にあたっては熱中症のみならず、食中毒や感染症などの季節性疾患、さらに活動量低下によるロコモティブシンドロームや嚥下機能低下に伴う誤嚥性肺炎、ストレスや脱水による循環器イベントの発生にも十分な警戒が必要」と語り、被災者が日常に近い生活を取り戻せるよう、医療者が生活機能を含めた包括的支援を行う重要性を訴えた。断水下の熱中症予防対策、ライフライン制限下でのアプローチ法 被災地における熱中症予防の緊急提言を行った神田 潤氏(日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会委員長/日本医科大学武蔵小杉病院)は、断水とエアコンの不稼働が重なる過酷な環境下では、脱水に伴うエコノミークラス症候群のリスクが跳ね上がると指摘する。また、水道水が自由に使えない状況であっても、衛生面に留意しながら実行可能な代替冷却法を被災者へ指導・周知することが求められる。 具体的には、衣類を脱がせた上で微量の水やスプレーで皮膚を湿らせ、うちわや扇風機で送風して気化熱を奪う「蒸散冷却法」や、手のひら(動静脈吻合が豊富な部位)や足の裏、首筋や腋窩などを溜めた水や濡れタオルで部分的に冷やす「局所冷却法」が有効である。使用する水は飲用水でなくとも対応可能であるため、同氏は「水の衛生問題が生じにくい部位から積極的に冷やす手法が実用的」とコメント。また、自治体や民間施設が提供する稼働中の空調エリアの利用を促すほか、大量発汗時にはイオン飲料や経口補水液での塩分・水分補給を徹底させる必要がある点を強調し、「断水状態であっても諦めず、溜め水を利用した蒸散冷却や手のひらなどの局所冷却を工夫して実践してほしい」と訴えた。軽症からの早期介入と厳格な深部体温管理 続けて神田氏は、重症度別の処置および緊急冷却法について解説。熱中症が疑われる初期段階・軽症の時点では、先手を打ってActive Coolingを開始し、「冷暗所への移動」「衣服を弛緩させる」「局所冷却などを迅速に行う」ことが、中症・重症化を防ぐ第一歩となることを説明した。高度の意識障害や多臓器不全を伴う最重症(IV度)の熱中症患者においては、医療機関で Active Cooling を適切に実施した場合であっても死亡率が約20%に達するというきわめて厳しい現状がある。この救命率を少しでも引き上げるためには、医療者による客観的かつ正確な深部体温の測定(直腸温など)が臨床上の鍵を握るという。 同氏は「重症熱中症の救命において最も恐ろしいのは、正確な深部体温を測定していないことで Active Cooling の実施率が低下し、結果として死亡率が上昇してしまうことだ。IV度の重症例であっても、早期に直腸温などで深部体温を把握し、冷水浸漬や体外循環冷却などを用いて目標体温まで迅速に Active Cooling を完遂することが、患者の命を救うために不可欠である」と力強く説明し、臨床現場における迅速かつ確実な冷却プロトコルの徹底についても強く呼びかけた。 永島 計氏(日本生気象学会 理事)は救助・復旧作業者向けに作成した『被災地における熱中症防止に関する提言(作業者向け,Ver.1)』を示し、1)暑さを確認(WBGTや気象情報で危険を見える化)、2)行動を変える(暑さに応じて作業・活動を減らす)、3)計画的に補水(水分・塩分を早めに、繰り返し)、4)無理をしない(頑張らせない、声をかけ、見守る)を強調。「状況の変化に合わせた発信を行っていく」と述べた。 最後に司会を務めた横堀 將司氏(日本救急医学会 理事/日本医科大学救急医学)は初期症状の早期発見に有効な『熱中症判定アプリ』を紹介し、「熱中症の重症度やそれに対する応急処置方法、救急車を呼ぶべきかを判定・指示してくれるので、ぜひアプリを活用してほしい」と締めくくった。

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筋層浸潤性膀胱がん、周術期EV+ペムブロリズマブが有効/NEJM

 シスプラチンベースの化学療法の対象となる筋層浸潤性膀胱がん患者において、周術期(術前・術後)にエンホルツマブ ベドチン(ネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体)+ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)を投与すると、術前補助療法としてシスプラチン+ゲムシタビンを投与した場合と比較して、無イベント生存率(EFS)と全生存率(OS)が有意に改善し、病理学的完全奏効率も有意に良好であり、一方でGrade3以上の有害事象の発現率は高かった。米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学のMatthew D. Galsky氏らKEYNOTE-B15/EV-304 Investigatorsが、米国、欧州連合、その他の地域(日本を含む)の158施設で実施した非盲検無作為化実薬対照第III相試験「KEYNOTE-B15/EV-304試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌2026年7月23日号で発表された。術前シスプラチン+ゲムシタビンと比較 KEYNOTE-B15/EV-304試験は2021年5月~2023年12月に実施され(Merck Sharp and Dohmeなどの助成を受けた)、年齢18歳以上で、組織学的に筋層浸潤性膀胱がん(臨床病期T2~4aN0M0/T1~4aN1M0)と確認され、シスプラチンベースの化学療法が適応の患者を登録した。 被験者808例を、術前にエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブを投与した後に根治的膀胱全摘除術(+骨盤内リンパ節郭清)を行い、術後にエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブの投与を受ける群(周術期EV-Pembro群:405例、年齢中央値66.0歳、男性80.7%)、または術前にシスプラチン+ゲムシタビンを投与した後に根治的膀胱全摘除術(+骨盤内リンパ節郭清)を受ける群(術前Cis-Gem群:403例、年齢中央値66.0歳、男性81.1%)に無作為に割り付けた。 主要評価項目はEFSとし、重要な副次評価項目としてOSおよび病理学的完全奏効(pT0N0)の評価を行った。2年EFS率は79.4%vs.66.2%、2年OS率、病理学的完全奏効率も良好 無作為化からデータカットオフ日(2025年10月27日)までの期間中央値は33.6ヵ月(範囲:22.5~53.6)であった。周術期EV-Pembro群の86.7%、術前Cis-Gem群の89.6%が膀胱全摘除術を受けた。 2年の時点でのKaplan-Meier法による推定EFS率は、術前Cis-Gem群が66.2%(95%信頼区間[CI]:61.2~70.8)であったのに対し、周術期EV-Pembro群は79.4%(95%CI:74.9~83.1)と有意に優れた(イベントまたは死亡のハザード比[HR]:0.53、95%CI:0.41~0.70、p<0.001)。 また、EFS中央値は、周術期EV-Pembro群が未到達、術前Cis-Gem群は48.5ヵ月(95%CI:43.3~未到達)だった。 2年OS率は、術前Cis-Gem群の81.3%(95%CI:77.1~84.8)に比べ、周術期EV-Pembro群は86.9%(95%CI:83.2~89.8)であり、有意に良好であった(死亡のHR:0.65、95%CI:0.48~0.89、両側p=0.006)。 病理学的完全奏効の達成率も、周術期EV-Pembro群で有意に優れた(226例[55.8%]vs.131例[32.5%]、推定群間差:23.4%ポイント、95%CI:16.7~29.8、p<0.001)。Grade3以上の有害事象は75.7%vs.67.2% あらゆる原因によるGrade3以上の有害事象は、周術期EV-Pembro群で75.7%、術前Cis-Gem群で67.2%に発現し、重篤な有害事象はそれぞれ63.3%および48.0%にみられた。手術期のGrade3以上の有害事象は、それぞれ36.2%および35.4%に認められた。 死亡に至った有害事象は、周術期EV-Pembro群で17例(4.2%:術前治療期7例、手術期2例、術後治療期8例)にみられ、このうち治療関連死は2例(いずれも多臓器不全症候群)であった。同様に、術前Cis-Gem群では11例(2.8%:術前治療期2例、手術期9例)にみられ、治療関連死は1例(肺炎)だった。 Grade3以上の薬剤関連有害事象は、周術期EV-Pembro群で46.4%、術前Cis-Gem群で46.5%に発現し、試験薬の投与中止に至った薬剤関連有害事象はそれぞれ35.2%および11.1%にみられた。また、周術期EV-Pembro群で認められたとくに注目すべき有害事象では、皮膚反応(63.5%)と末梢神経障害(36.0%)の頻度が高かった。 著者は、「本試験とKEYNOTE-905試験(シスプラチン適応外の患者で周術期EV-Pembro群の強力な抗腫瘍効果を確認)の結果を合わせると、シスプラチンの適応の有無を問わず、切除可能な筋層浸潤性膀胱がん患者に対する根治的膀胱全摘除術と周術期エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ療法の併用の有用性を裏付けている」「これらの知見は、この病態における免疫療法および抗体薬物複合体に基づく新たな治療選択肢を提示するものである」と指摘している。

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第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

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第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

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高齢患者の術後せん妄スクリーニング、病院間で実施率に大きな差

 高齢患者では、手術後に混乱や見当識障害などを特徴とするせん妄が生じることが少なくないが、術後せん妄のスクリーニング実施率には病院ごとに差があることが、新たな研究で明らかにされた。米国外科学会(ACS)が開発したGeriatric Surgery Verification(GSV)プログラムの認証を取得した病院(GSV認証病院)では、ほぼ全ての術後患者にせん妄スクリーニングが実施されていたのに対し、非認証病院での実施率は50%程度にとどまったという。GSVプログラムは、せん妄、転倒、肺炎などの一般的な術後合併症の予防に重点を置いた医療品質向上プログラムである。米ロヨラ大学医療センターのSarah Remer氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に6月10日掲載された。 Remer氏は、「せん妄の多くは、特に高齢者では低活動型だ。これは患者が周囲との関わりを避けるようになったり無気力になったりする静かなタイプのせん妄だ。定期的なスクリーニングを行わなければ、こうした症例は単なる疲労と誤解され、見逃される可能性がある。しかし一部の病院では、患者に臨床的に明らかな過活動型せん妄が認められた場合にのみスクリーニングを行っている可能性がある。つまり、早期発見のためではなく、臨床的にせん妄が疑われた際の確認目的で使用しているのだ」とニュースリリースで述べている。 本研究の背景情報によると、高齢患者の約25%が術後せん妄を発症する。今回の研究では、2024年に入院手術を受けた75歳以上の患者9万7,886人(平均年齢81.7歳)のデータを解析して、術後せん妄のスクリーニング実施率およびスクリーニング陽性率をGSVプログラム認証の有無別に比較した。 その結果、術後せん妄スクリーニングの実施率は、GSV認証病院で94.3%であったのに対し、非認証病院では52.5%にとどまっていた。一方、せん妄スクリーニング陽性率は、GSV認証病院で11.3%、非認証病院で12.5%であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった。さらに、せん妄スクリーニングを受けた患者のうち、GSV認証病院の患者では、非認証病院の患者と比べて、入院期間が短く、在院日数が上位25%に該当する長期入院(以下、長期入院)の割合も低かった。一方、せん妄スクリーニングで陽性判定を受けた患者を対象にした解析では、入院期間、長期入院の割合、30日以内の再入院率について、両群間に有意差は認められなかった。 Remer氏は、「せん妄は、長期入院、患者転帰の悪化、医療費の増加と関連している。今回の結果は、GSVプログラムの大きな利点の一つが、予防、早期発見、早期回復を支える標準化された多職種連携のケア体制にあることを示唆している」と述べている。さらに同氏は、「せん妄の定期的なスクリーニングは、早期発見や介入につなげられるだけでなく、誘因となった要因を評価する機会も得られるため重要だ」と付言している。 Remer氏によると、家族も術後せん妄の発見に重要な役割を果たせるという。同氏は、「家族や介護者は、患者の思考や行動の微妙な変化に最初に気付くことが少なくない。術後に家族が混乱している様子を見るのはつらいことだが、患者が見当識を保ち、覚醒状態を維持できるよう支援し、急な変化を医療スタッフに知らせる上で家族は重要な役割を担っている。家族は患者を最もよく知っている存在であり、その観察は非常に貴重だ」と説明している。 術後せん妄の予防を支援する対策として、Remer氏は以下のことを推奨している。・補聴器や眼鏡を患者ができるだけ早く使用できるようにする。・時計やカレンダーを見やすい場所に置き、患者の見当識の維持を助ける。・病室の照明を、昼は明るく、夜は暗くするなど、自然な睡眠・覚醒リズムに合わせる。・患者が覚醒し活動的でいられるよう、家族や知人、馴染みの場所、最近の出来事などについて会話を行う。

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診療科別2026年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Nerandomilast in progressive pulmonary fibrosis: data from the whole follow-up period of the FIBRONEER-ILD trialWijsenbeek MS, et al. Eur Respir J. 2026 Mar 26. [Epub ahead of print].<FIBRONEER-ILD試験>:ネランドミラストはPPFの臨床的イベントと死亡リスクを低減進行性肺線維症(PPF)を対象としたFIBRONEER-ILD試験の全追跡期間データです。ネランドミラストは、52週時のFVC低下抑制に加え、ILD急性増悪、呼吸器疾患による入院、死亡を含む臨床的に重要なイベントのリスクを低減しました。とくに死亡リスクは両用量でプラセボより低く(ハザード比[HR]:0.51)、有害事象による中止もプラセボと同程度でした。PPFに対する新たな抗線維化治療として、今後の実臨床での位置付けが注目されます。Survival with Osimertinib plus Chemotherapy in EGFR-Mutated Advanced NSCLCJanne PA, et al. N Engl J Med. 2026;394:27-38.<FLAURA2試験>:オシメルチニブと化学療法併用はEGFR変異陽性進行NSCLCのOSを延長EGFR exon 19 deletionまたはL858R変異陽性の未治療進行非扁平上皮NSCLCを対象とした、FLAURA2試験の全生存期間最終解析です。オシメルチニブにプラチナ製剤+ペメトレキセドを併用すると、オシメルチニブ単剤に比べてOS中央値は47.5ヵ月vs.37.6ヵ月に延長しました(HR:0.77)。一方、Grade3以上の有害事象は70%vs.34%と多く、初回治療から併用する患者を慎重に選ぶ必要があります。Amikacin liposome inhalation suspension in newly diagnosed Mycobacterium avium complex lung disease (ARISE): a 6-month double-blind, active comparator trialDaley CL, et al. Ann Am Thorac Soc. 2026;23:536-547. <ARISE試験>:新規診断MAC症へのALIS追加で培養陰性化率が改善新規または再発の非空洞型MAC肺疾患患者を対象に、リポソーム化アミカシン吸入懸濁液(ALIS)の初期治療での有効性を評価した二重盲検実薬対照試験です。アジスロマイシン、エタンブトールにALISを追加した群では、6ヵ月目までの培養陰性化率が80.6%(対照群63.9%)、7ヵ月目までが78.8%(47.1%)と良好でした。QOL-B respiratory domainの改善も示されており、難治例だけでなく初期治療からALISを導入する意義を考えるうえで注目されます。Associations between antibiotic use and outcomes in patients hospitalized with community-acquired pneumonia and positive respiratory viral assaysBiebelberg B, et al. Clin Infect Dis. 2026;82:630-638.<ウイルス陽性市中肺炎>:短期抗菌薬と標準期間で臨床転帰は同等呼吸器ウイルス検査陽性の市中肺炎入院患者を対象に、抗菌薬0~2日と5~7日投与を傾向スコア重み付けで比較した後ろ向き研究です。調整後、入院期間、48時間後のICU入室、院内死亡率、30日間の非入院日はいずれも同等でした。細菌性肺炎が明らかでないウイルス陽性市中肺炎では、抗菌薬を漫然と継続しない判断を後押しするデータです。Oral corticosteroid reduction and discontinuation in adults with corticosteroid-dependent, severe, uncontrolled asthma treated with tezepelumab (WAYFINDER): a multicentre, single-arm, phase 3b trialJackson DJ, et al. Lancet Respir Med. 2026;14:129-140.<WAYFINDER試験>:テゼペルマブは重症喘息の維持OCS減量を後押しOCS依存性の重症非コントロール喘息成人を対象に、テゼペルマブ210mgを4週ごとに投与した第IIIb相単群試験です。52週時点で約90%が喘息コントロールを保ったまま維持OCSを5mg/日以下に減量し、50.3%が完全中止に到達しました。表現型にかかわらずOCS負担を減らせる可能性を示し、実臨床でのステロイド離脱戦略に重要な示唆を与えます。

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高齢でフレイルの再発・難治性多発性骨髄腫患者、ダラツムマブ+イキサゾミブが許容可能

 高齢の再発・難治性多発性骨髄腫患者では、身体機能のばらつきや高い有害事象発現率および治療中止率により予後が悪化する。フランス・Poitiers University HospitalのArthur Bobin氏らは、高齢でフレイルの再発・難治性多発性骨髄腫患者に対してデキサメタゾンを含まないダラツムマブとイキサゾミブの併用療法(I-Dara)を評価したIntergroupe Francophone du Myelome(IFM)2018-02試験において、I-Daraが許容可能な安全性プロファイルを示したことを報告した。また、対象集団を考慮すると奏効率および生存率は許容範囲内であったという。British Journal of Haematology誌2026年7月号に掲載。 本試験は前向き第II相試験で14のIFM加盟施設で実施された。対象は65歳以上、国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)のフレイルスコアが2以上かつECOG PS 0~2の初回または2回目の再発患者で、ダラツムマブ16mg/kg、イキサゾミブ4mg(28日サイクルで1、8、15日目に週1回投与)、メチルプレドニゾロンを投与した。主要評価項目はVGPR(very good partial response)以上の奏効率。 主な結果は以下のとおり。・登録された55例の年齢中央値は82歳であり、90%が75歳以上であった。・VGPR以上の奏効率は32%であった。・追跡期間中央値は35.3ヵ月で、無増悪生存期間中央値は19.5ヵ月であった。全生存期間中央値は未到達であったが、33.6ヵ月時点での生存率は75%であった。・Grade3以上の有害事象は36例(67%)に認められ、うち18例が血球減少症、8例が感染症(うち6例は肺炎)であった。

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糖尿病患者の感染症リスクに警鐘

 糖尿病患者における感染症のリスクが過小評価されているとする論文が、「Diabetes」に6月6日掲載された。英ロンドン大学シティ・セント・ジョージ校のJulia Critchley氏らの研究の結果であり、1型糖尿病と2型糖尿病、さらに糖尿病予備群においても感染症のリスク上昇が認められるという。 糖尿病は体のさまざまな部位にダメージを与え、特に心臓や腎臓、目(網膜)などへの影響が大きいことがよく知られている。しかし研究者らは、「糖尿病による重大な健康リスクの一つである感染症が、そのリスクの大きさに見合うほど注目されていない」としている。 新たな研究から、感染症も糖尿病患者の重大な健康リスクであることが明らかになった。Critchley氏は、「感染症は一般的かつ深刻な健康リスクであるが、適切な予防措置によってその多くを予防できる。それにもかかわらず、臨床ガイドラインではほとんど取り上げられていない。糖尿病患者は世界中で急激に増加している。感染症対策を糖尿病治療の中心に位置づけなければ大きな損失につながる。後回しにしてはならない」と語っている。 Critchley氏らは英国内の医療記録を用いて、糖尿病または糖尿病予備群の人80万人以上(1型糖尿病3万3,829人、2型糖尿病52万7,151人、糖尿病予備群27万3,216人)の感染症リスクを、年齢、性別、民族性の一致する100万人超の糖代謝異常のない人と比較した。その結果、糖代謝異常を有する人では、糖代謝異常のない人と比べて、感染症のリスクが大幅に高いことが明らかになった。・1型糖尿病患者では、かかりつけ医による治療を受ける感染症のリスクが1.81倍、感染症で入院するリスクは3.37倍。・2型糖尿病患者では、かかりつけ医による治療を受ける感染症のリスクが1.51倍、感染症で入院するリスクは1.91倍。・糖尿病予備群の人では、かかりつけ医による治療を受ける感染症のリスクが1.35倍、感染症で入院するリスクは1.33倍。 このほか、2型糖尿病患者の死因として、感染症は心臓病とがんに続き3番目に多いことも判明した。また、肺炎を含む下気道感染症は、1型および2型糖尿病患者における入院の原因として、最も一般的な感染症だった。2型糖尿病患者の感染症関連死では、肺炎を含む下気道感染症や敗血症の影響の大きさが浮き彫りになった。特に敗血症は死亡診断書で基礎死因として記載されにくく、実態が過小評価されている可能性が示された。 さらに、血糖コントロールの指標であるHbA1cの平均値の高さや変動が感染リスクの増加と関連していることが示された。1型糖尿病患者の場合、HbA1cが高いほど感染症のリスクが高く、2型糖尿病患者の場合、HbA1cの変動が入院を要する重篤な感染症のリスクと関連していた。 Critchley氏は、「各国のガイドラインにおいて、糖尿病患者における感染症リスクの増大がより重視されるべきだ。ガイドラインを世界規模で刷新することで医療従事者の意識を高め、それが糖尿病患者の感染症の早期発見と迅速な介入を促し、予防可能な入院や死亡を減らすことにつながるだろう」と述べている。

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発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH:paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)

1 疾患概念■ 定義発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は、glycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー生合成に関わるPIGA遺伝子などに後天的変異を獲得した造血幹細胞が、クローン性に拡大することで発症するまれな造血幹細胞疾患である1)。GPIアンカー型タンパク質の欠損により、赤血球表面の補体制御因子であるCD55およびCD59の発現が低下・欠損し、補体による血管内溶血を来す。PNHは単なる溶血性貧血ではなく、血管内溶血、血栓症、造血不全を三主徴とする疾患として理解する必要がある。■ 疫学PNHは希少疾患であり、わが国では指定難病に含まれる。2024(令和6)年度の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は1,264人であり、人口10万人当たり約1.0人に相当する。ただし、これは医療費助成制度に基づく患者数であり、軽症例、未申請例、subclinical PNH、骨髄不全に伴う微小PNHクローンなどは含まれにくいため、実際の有病者数を過小評価している可能性がある。PNHは若年から中年期の成人に多いが、小児から高齢者まで幅広く発症しうる。わが国での診断時年齢中央値は45歳で、20~60代と均等に分布する。欧米では溶血や血栓症を主体とする古典的PNHが多いのに対し、わが国を含むアジアでは、再生不良性貧血など骨髄不全を背景とするPNHが比較的多いとされる2)。■ 病因PNHの直接的な原因は、PIGA遺伝子などGPIアンカー生合成関連遺伝子の後天的変異である。ただし、PIGA変異を有する微小なPNHクローンは健康な人にも検出されることがあり、変異の獲得だけでは臨床的PNHの発症を十分に説明できない。PNHクローンの拡大には、再生不良性貧血に代表される免疫学的骨髄不全の環境が重要と考えられている。すなわち、免疫学的機序により正常造血が抑制される一方で、GPIアンカー欠損造血幹細胞が相対的に生存優位性を獲得し、PNHクローンとして拡大する。このためPNHは、補体介在性溶血と骨髄不全が併存する疾患である(図1)。図1 補体活性化経路とPNH古典経路、レクチン経路、第2経路の3つの活性化経路はいずれもC3の活性化を経て、C5から始まる終末補体経路の活性化に至る。健康な人では、CD55によりC3転換酵素(C4b2b、 C3bBb)とC5転換酵素(C4b2b3bとC3bBb3b)の形成が抑制、崩壊が促進され、CD59によりC5b-9(MAC)の形成が阻害され、過剰な補体活性化が抑制されているが、これらを欠損したPNH型赤血球では、補体による溶血が進行する。画像を拡大する■ 症状PNHの症状は多彩である。典型的には、貧血に伴う倦怠感、息切れ、動悸、黄疸、ヘモグロビン尿を認める。血管内溶血により遊離ヘモグロビンが血中に放出されると、平滑筋弛緩作用を持つ一酸化窒素が消費され、平滑筋攣縮に伴う腹痛、嚥下困難がしばしばみられるほか、勃起障害、肺高血圧症などを来すことがある。また、遊離ヘム、破壊された赤血球に由来する膜成分、血小板活性化、血管内皮障害、組織因子発現、好中球細胞外トラップ形成などが複合的に関与し、血栓傾向をもたらす3)。血栓症はPNHの生命予後を左右する重要な合併症であり、肝静脈、門脈、脳静脈洞など非典型部位に生じることがある。慢性のヘモグロビン尿により鉄欠乏、尿細管障害、慢性腎臓病を来すこともある。■ 分類PNHは、臨床像により(1)溶血を主体とする古典的PNH、(2)再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などに合併する骨髄不全型PNH、(3)両者の性質を併せ持つ混合型PNHの3つに分類される。ただし実臨床では、溶血と造血不全の要素を併せ持つ症例が多く、分類名にこだわるよりも、個々の患者で溶血、血栓症、造血不全のどれが臨床的に問題となっているかを評価することが重要である。■ 予後PNHの予後は、C5阻害薬の登場により大きく改善した。エクリズマブおよびラブリズマブは、血管内溶血を強力に抑制し、血栓症リスクを低下させ、PNH患者の生命予後を、健康な人に近い程度にまで改善した。その一方で、貧血の改善が十分でない症例や、骨髄不全や腎障害の合併、血栓症の既往のほか、抗補体薬治療中の溶血(breakthrough hemolysis:BTH)の問題は、長期予後や生活の質に影響する。したがって、現在のPNH診療では、生命予後の改善に加え、貧血、倦怠感、輸血依存、治療負担をどこまで改善できるかが重要な課題となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)PNHは、溶血性貧血を疑う所見(血清LDH値高値、ハプトグロビン低下、網赤血球増加、間接ビリルビン上昇)があり、Coombs陰性の場合にまず鑑別疾患に挙がる。また、ヘモグロビン尿、原因不明の血栓症、あるいは再生不良性貧血や低リスク骨髄異形成症候群に伴うPNH血球の検出を契機に疑う。確定診断には、フローサイトメトリーによるGPIアンカー型タンパク質欠損血球の検出と定量が必須である。『発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版』では、臨床的PNHの基準として、PNHタイプ赤血球(II型+III型)が1%以上、かつ血清LDH値が正常上限の1.5倍以上であることが明確化された。赤血球ではCD55、CD59の欠損を評価し、type II、type III赤血球の割合を確認する。顆粒球や単球ではFLAERを用いた高感度解析が有用であり、輸血の影響を受けにくい。鑑別診断としては、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症をはじめとする先天性溶血性貧血、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、血栓性微小血管症(TTP、HUS、補体介在性TMAなど)、機械弁関連溶血などが挙げられる。また、骨髄不全を伴う場合には、再生不良性貧血、低形成性MDS、MDS/AMLへの進展を鑑別する必要があり、骨髄検査、染色体検査、遺伝子検査を併用する。3 治療(図2)図2 補体活性化経路とPNH治療薬C5阻害薬は、補体終末経路を阻害することで血管内溶血を速やかかつ持続的に抑制し、貧血を改善し、血栓症リスクも低下させる。しかし、補体活性化経路の上流に位置する補体成分C3がPNH型赤血球上に蓄積し(オプソニン化)、肝臓や脾臓のマクロファージに貪食される(血管外溶血)ことで、貧血が残存する患者が存在する。こうした患者に対しては、補体上流(近位補体)を阻害する薬剤であるペグセタコプラン(C3阻害薬)、イプタコパン(B因子阻害薬)、ダニコパン(D因子阻害薬、ただしC5阻害薬と併用)が適応となる。画像を拡大する治療は溶血、血栓症、骨髄不全のそれぞれに対する対症療法が中心となる。骨髄不全の治療は、再生不良性貧血に準じて行う。軽症例では経過観察、葉酸補充、鉄欠乏への対応などを行い、subclinical PNHでは背景にある骨髄不全の評価・管理を行う。慢性溶血に対する長期ステロイド投与は推奨されない。鉄欠乏を伴う場合、抗補体療法が導入されていない症例では、鉄補充によりPNH型赤血球の産生が増加し、溶血が増悪することがあるため注意を要する。高度貧血には赤血球輸血を行うが、通常、洗浄赤血球を用いる必要はない。臨床的に問題となる溶血、輸血依存、血栓症またはその既往、腎障害、平滑筋攣縮症状を有する例では、抗補体療法を検討する。わが国では初回治療として、C5阻害薬であるエクリズマブ(商品名:ソリリス)およびラブリズマブ(同:ユルトミリス)、クロバリマブ(同:ピアスカイ)が使用可能である。これらのC5阻害薬は、終末保体経路を阻害することで血管内溶血を速やかかつ持続的に抑制する。これにより、貧血症状や輸血依存の改善に加えて、PNHの重大な合併症である血栓症リスクの低減にもつながる。ラブリズマブは長時間作用型であり、8週に1度の点滴投与、クロバリマブは、リサイクリング抗体技術を用いたC5阻害薬であり、4週ごとの皮下投与が可能である。エクリズマブ、ラブリズマブからクロバリマブに切り替える、あるいはその逆の場合、drug-target-drug complexに関連する一過性の免疫反応に注意する必要がある。C5阻害薬によりLDHが十分抑制されても、C3沈着に伴う血管外溶血、骨髄不全、腎性貧血などにより貧血や倦怠感が残存することがある。C5阻害薬による適切な治療でも十分な効果が得られないPNHに対し、近位補体阻害薬が適応となっている。C3阻害薬ペグセタコプラン(同:エムパベリ)は、C5阻害薬で効果不十分な症例においてHb改善、輸血回避、倦怠感改善を示した。D因子阻害薬ダニコパン(同:ボイデヤ)は、C5阻害薬に併用する経口薬であり、血管外溶血が残存する症例で貧血改善が期待される。B因子阻害薬イプタコパン(同:ファビハルタ)は、補体第2経路を阻害する経口単剤治療薬であり、血管外溶血を引き起こさずに血管内溶血を阻害する。骨髄不全型PNHでは、抗補体薬のみでは血球減少が十分改善しないため、再生不良性貧血に準じた免疫抑制療法を検討する。ATG投与時には補体活性化により溶血発作を来す可能性があり、溶血が強い症例では抗補体療法を先行または併用することが望ましい。同種造血幹細胞移植は根治療法であるが、治療関連死亡や合併症のリスクが高いため、抗補体療法後も反復する血栓症、重症造血不全、MDS/AMLへの進展例などに限って慎重に検討する。4 今後の展望PNH治療は、C5阻害薬による血管内溶血の制御を基盤としつつ、残存貧血、血管外溶血、倦怠感、輸血依存、治療負担を改善する方向へ進展している。今後は、LDHを正常上限の1.5倍未満に抑えることに加え、Hb値の改善、輸血回避、QOL改善、BTH予防を含めた総合的な治療目標が求められる。その一方で、近位補体阻害薬単剤では、感染、ワクチン接種、手術、服薬アドヒアランス不良などを契機としたBTHに注意が必要である4,5)。とくに経口薬では、飲み忘れや中断が生じた場合に補体制御が不十分となり、溶血が再燃する可能性がある。また、感染対策は薬剤ごとの電子添付文書に従う。C5阻害薬では髄膜炎菌、近位補体阻害薬では髄膜炎菌に加えて肺炎球菌、インフルエンザ菌b型などへの感染対策が必要となる。治験中の薬剤としては、抗C5抗体pozelimabと、肝臓でのC5産生を抑制するsiRNA製剤cemdisiranを組み合わせた治療が挙げられる。わが国でも活動性PNH患者を対象とした第III相臨床試験が実施されており、血中C5の直接阻害とC5産生抑制を組み合わせることで、持続的なC5制御と治療負担の軽減が期待される。その一方で、抗C5抗体に補体制御因子Factor Hの機能を組み合わせたKP104のような二重機能性薬剤も海外で開発が進められているが、現時点でわが国におけるPNH治験の実施は確認できない。MASP-3阻害抗体zaltenibart(OMS906)は、pro-factor Dからfactor Dへの成熟を阻害し、補体第2経路を抑制する薬剤で、海外では第III相開発が進められている。今後は、このような新規薬剤に加え、既存薬間のスイッチ、併用療法、妊娠・周術期管理、長期安全性、医療経済性に関する実臨床データの蓄積が重要となる。診断面では、PNHクローンサイズ、赤血球C3沈着、補体活性、BTHリスク、骨髄不全の程度を組み合わせた評価により、患者ごとに最適な抗補体薬を選択する個別化医療が進むと考えられる。PNHは希少疾患であるが、補体制御異常、骨髄不全、クローン性造血が交差する疾患であり、その診療の進歩は他の補体関連疾患の理解にも波及することが期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(指定難病62)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人日本PNH研究会(医療従事者向けのまとまった情報) 1) Hill A, et al. Nat Rev Dis Primers. 2017;3:17028. 2) 三谷絹子ほか. 発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班 2023. 3) Rother RP, et al. JAMA. 2005;293:1653-1662. 4) Notaro R, et al. N Eng J Med. 2022;387:160-166. 5) Fattizzo B, et al. Blood. 2025;146:411-421. 公開履歴初回2026年7月10日

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移植適応のある未治療多発性骨髄腫へのテクリスタマブベースの導入療法~第II相試験(MajesTEC-5)

 移植適応のある未治療多発性骨髄腫(NDMM)に対する、BCMA/CD3二重特異性抗体テクリスタマブベースの導入療法の安全性と有効性を検討した第II相GMMG-HD10/DSMM-XX(MajesTEC-5)試験の結果、移植適応のあるNDMMに対して、テクリスタマブベースの導入療法レジメンが、構成する各薬剤と比較して一貫した安全性プロファイルと顕著な早期微小残存病変(MRD)陰性率を示した。ドイツ・Heidelberg University HospitalのMarc S. Raab氏らがNature Medicine誌オンライン版2026年6月25日号に報告した。 本試験は、移植適応のあるNDMMを対象とした第II相試験で、事前規定された3つのコホートのプール解析に49例が組み入れられ、テクリスタマブ+ダラツムマブ+レナリドミド(Tec-DR、arm AおよびA1)、またはTec-DRにボルテゾミブを併用したTec-DVR(arm B)の投与を受けた。主要評価項目は有害事象および重篤な有害事象の発現頻度と重症度、副次評価項目は全奏効率(ORR)、MRD陰性率、MRD陰性完全寛解(CR)率など。今回の解析は維持療法前時点までの導入療法および自家幹細胞移植フェーズであった。 主な結果は以下のとおり。・Grade3/4のTEAE(治療中に発現した有害事象)は91.8%にみられ、その多くは血液毒性(リンパ球減少59.2%、好中球減少59.2%、白血球減少18.4%)であった。Grade5のTEAEは報告されなかった。・重篤な有害事象は55.1%にみられ、発熱(12.2%)が最も多かった。感染症は全Gradeで81.6%、Grade3/4は36.7%で、最も頻度の高いGrade3/4の感染症はCOVID-19と肺炎(いずれも6.1%)であった。サイトカイン放出症候群は67.3%にみられたが、すべてGrade1または2で自然軽快し、治療中止には至った例はなかった。治療関連のICANS(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群)は認められなかった。・維持療法前時点におけるMRD陰性CR率は91.8%であった。・MRD陰性率は、寛解導入後サイクル3時点(10-5:46/46例)、サイクル6時点(10-5:46/46例、10-6:46/46例)、維持療法前時点(10-5:40/40例)のいずれも100%であった。・ORRは100%であった。・総採取幹細胞数の中央値は8.1×106/kgであった。 著者らは、「これらのデータは、移植適応のあるNDMMにおけるTec-D(V)R導入療法の実現可能性を支持するものであり、レジメンの各薬剤と比較して一貫した安全性プロファイルと顕著な早期MRD陰性率が示された」としている。

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既治療の再発・難治性多発性骨髄腫、mezigdomide追加が有効/Lancet

 主に抗CD38抗体薬やレナリドミドによる治療に抵抗性を示す多発性骨髄腫において、セレブロンE3リガーゼ調節薬であるmezigdomideとカルフィルゾミブ+デキサメタゾンの併用(MeziKd)は、カルフィルゾミブ+デキサメタゾン(Kd)と比較して無増悪生存期間(PFS)の有意な延長をもたらし、感染症を含むGrade3または4の有害事象の頻度が高いものの管理可能であることが、ギリシャ・アテネ大学のMeletios A. Dimopoulos氏らが実施した「SUCCESSOR-2試験」の中間解析で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年6月14日号に掲載された。26ヵ国の無作為化対照比較第III相試験 SUCCESSOR-2試験は、日本を含む26ヵ国160施設で実施した非盲検無作為化対照比較第III相試験(Bristol Myers Squibbの助成を受けた)。 2023年2月~2025年11月に、測定可能な多発性骨髄腫を有し、少なくとも1つの治療レジメン(抗CD38抗体薬およびレナリドミドを含む)による前治療歴があり、その治療で最小奏効(minimal response)以上を達成し、直近の治療中または治療後に病勢の進行が確認された成人患者を登録した。 被験者479例(年齢中央値68歳[四分位範囲[IQR]:61~75]、女性227例[47%]、アジア人147例[31%])を、MeziKdを受ける群(288例)またはKdのみを受ける群(191例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、PFSとし、独立審査委員会が評価した。PFSが2倍以上に、全奏効も良好 ベースラインで479例中120例(25%)が75歳以上で、診断後の経過期間中央値は4.5年(IQR:2.5~7.3)であった。411例(86%)が抗CD38抗体薬抵抗性、363例(76%)がレナリドミド抵抗性で、前治療ライン数中央値は2(IQR:2~4、範囲:1~9)であり、127例(27%)が前治療ライン数4以上であった。 追跡期間中央値10.6ヵ月の時点で、PFS中央値は、Kd群8.3ヵ月に対し、MeziKd群は18.0ヵ月と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.48、95%信頼区間[CI]:0.36~0.63、p<0.0001)。 また、完全奏効以上は、MeziKd群77例(27%)、Kd群17例(9%)(群間差:18%、95%CI:11~24)、非常によい部分奏効以上は、それぞれ173例(60%)および59例(31%)(群間差:29%、95%CI:20~37)であり、全奏効(部分奏効以上)は、231例(80%)および102例(53%)(群間差:27%、95%CI:18~35)で達成された。 今回の中間解析時において、死亡はMeziKd群の22%(62/288例)、Kd群の27%(51/191例)で報告された(HR:0.79、95%CI:0.54~1.15)。Grade3、4の好中球減少、感染症が多い Grade3または4の有害事象は、MeziKd群で241例(84%)、Kd群で105例(56%)に認められ、好中球減少(176例[61%]、17例[9%])および感染症(98例[34%]、29例[16%])の頻度が高かった。Grade3または4の好中球減少は、アジア(81%[71/88例])に比べ米国(44%[12/27例])および欧州(46%[50/109例])で頻度が低かった。これらの多くは、標準治療および支持療法で管理可能であった。 重篤な有害事象は、MeziKd群で188例(65%)、Kd群で63例(34%)に発現し、肺炎(44例[15%]、12例[6%])の頻度が高かった。また、Grade5の治療関連有害事象は、それぞれ8例(3%)および1例(1%)で報告された(群間差:2%、95%CI:-1~5)。死亡は、MeziKd群で62例(22%)、Kd群で51例(27%)に認められ、その主な原因は病勢の進行であった。 著者は、「経口mezigdomideと静注カルフィルゾミブ+経口または静注デキサメタゾンの併用療法は、地域医療を含む多様な医療現場で広く導入が可能な外来治療の選択肢となる」「これらの知見は、この3剤併用療法が再発・難治性多発性骨髄腫に対する強力で導入しやすい新たな標準治療となることを示すものである」としている。

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第302回 骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府

<先週の動き> 1.骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府 2.医師確保計画GL通知、重点医師偏在区域を明示/厚労省 3.200床以上病院の電子カルテ導入、2028年度100%へ2年前倒し/政府 4.2040年の地域医療構想、急性期病床4割減・包括期は拡大/厚労省 5.協会けんぽ黒字拡大、医療費と後期高齢者支援金も増加/協会けんぽ 6.京都大を国際卓越研究大学に認定へ、初年度200億円支援/文科省 1.骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府政府は6月30日に経済財政諮問会議を開き、「骨太の方針2026」原案を示した。2027年度予算編成を見据え、医療・介護提供体制と社会保障負担の見直しが大きな論点となった。医療保険制度では、高齢者の受診行動や所得状況を踏まえた窓口負担の見直しについて、2027(令和9)年度予算編成過程で結論を得る方針が盛り込まれた。ただし、この記載には調整中を示す「P」マークが付いており、今後の与党調整や閣議決定までに文言が変わる可能性がある。高齢者の窓口負担をめぐっては、財政制度等審議会が「70歳以上の患者負担を原則3割とする方向を提言する」という一方で、上野 賢一郎厚労相は一律3割負担には慎重な姿勢を示しており、年末の予算編成に向けて政府・与党内で調整が続く見通し。医療現場にとっては、自己負担増大による受診抑制、慢性疾患の管理、救急受診、未治療や重症化リスクへの影響も含め、制度設計の行方を注視する必要がある。診療報酬については、経済・物価動向が2026年度改定時の見通しから大きく変動し、医療機関などの経営状況に支障が生じた場合、2027(令和9)年度予算編成過程で診療報酬上の加減算を含む追加調整を行うと明記された。物価高、人件費上昇、委託費・材料費増が病院経営を圧迫するなか、2026年度改定後も経営実態を踏まえた対応が検討対象となっている点は重要である。その一方で、医療提供体制については、2040年に向けて必要病床数を上回っているとされている一般病床と療養病床で約5万6,000床、基準病床数を超えている精神病床約5万3,000床を対象に病床数の適正化を進め、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとした。地域包括ケアシステムの深化、高齢者救急、在宅医療、中山間・人口減少地域での柔軟なサービス提供も課題に挙げられている。さらに、医師偏在対策を進め、地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員削減にも取り組む方針が示された。介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定では、物価変動に対応しつつ、他職種と遜色のない処遇改善を図るとしており、医療・介護人材確保も引き続き重要課題となる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2026 原案 (経済財政諮問会議) 2) 高齢者窓口負担見直し、年末の予算編成で結論出す方針-骨太方針2026原案(医事新報) 3) 「骨太の方針」が大幅なスリム化も、医療政策の記載数は増えた?(日経メディカル) 4) 2027年度介護報酬改定では「他職種と遜色のない処遇改善の実現を図る」骨太の方針原案、病床数適正化や医学部定員削減を明記(同) 2.医師確保計画GL通知、重点医師偏在区域を明示/厚労省厚生労働省は、都道府県が2027年度から運用する第8次後期の医師確保計画策定ガイドラインを通知し、重点医師偏在対策支援区域を対象とする「医師偏在是正プラン」の考え方を示した。医師偏在は、地域間・診療科間で長年の課題とされ、地域枠を中心に医師数を増やしてきたものの、ミクロの医師不足解消には十分つながっていない。ガイドラインでは、経済的インセンティブ、地域医療機関の支え合い、医師養成過程を通じた取組みを組み合わせ、医師の勤務・生活環境や柔軟な働き方に配慮しながら、中堅・シニアを含む全世代の医師にアプローチする方針を掲げた。重点区域は、一定の定住人口が見込まれる一方で、必要な医師を確保できず、人口減少より医療機関の減少速度が速い地域などに設定し、優先的・重点的に対策を進める区域とされた。都道府県は厚労省が示す候補区域を参考に、医師偏在指標、可住地面積当たり医師数、へき地尺度、医療機関へのアクセス、診療所医師の高齢化率、住民の受診行動、人口動態などを踏まえ、地域医療対策協議会と保険者協議会で協議した上で、真に重点的な医師確保が必要な区域に限って設定する。支援対象とする医療機関については、重点区域内の全医療機関を一律に対象とするのではなく、とくに支援が必要な医療機関を選定する。選定に当たっては、設立母体にかかわらず、今後策定される新たな地域医療構想や地理的条件を踏まえ、地域医療対策協議会・保険者協議会で合意を得る必要がある。必要医師数は、候補区域を重点区域に設定する場合、原則として候補区域の要件を脱するために必要な人数を基準とする。施策面では、重点区域で診療所を承継・開業する場合の施設・設備整備や一定期間の地域定着支援、中核病院などから重点区域内の医療機関へ医師を派遣する際の費用支援、勤務医の離職防止や新規勤務医確保に向けた土日の代替医師確保支援などが示された。 参考 1) 医師確保計画策定ガイドライン~第8次(後期)~(厚労省) 2) 医師偏在是正プランの考え方を明示 確保計画策定GLで 厚労省通知(CB news) 3.200床以上病院の電子カルテ導入、2028年度100%へ2年前倒し/政府6月30日に内閣府は日本成長戦略会議を開き、取りまとめた「日本成長戦略」について公開した。この中で、医療DX基盤の整備を成長投資の重点分野に位置付け、電子カルテ導入目標を一部前倒しした。電子カルテ未導入の200床以上の病院については、療養病床などが中心の病院を除き、2028年度までに普及率100%を目指す。従来は2030年までにおおむね全医療機関への導入を目指す方針だったが、200床以上の未導入病院では期限が2年前倒しされる形となる。背景には、医療情報の共有、診療の効率化、医療の質向上に加え、創薬・医療機器開発に必要なデータ基盤の整備がある。成長戦略では、クラウドネイティブに最適化された医療DX基盤について、「大量のデータを必要とする創薬・医療機器の開発の基盤」であり、医療提供体制の効率化・質向上、サイバー攻撃への強靱性確保に不可欠と位置付けている。政府は、従来の院内サーバー管理を中心とするオンプレミス型の医療機関情報システムを、クラウドネイティブ型へ刷新する方針を示した。これにより、サイバーセキュリティ対策の強化と、全国的なデータ連携基盤の構築を図るとしている。2030年までには、電子カルテ普及率を約100%、地域の拠点病院のサイバーセキュリティ対策を100%とし、大病院向けクラウドネイティブ型製品の提供も目指す。具体策として、厚労省などが認証したクラウドネイティブ型電子カルテ製品の普及を促進し、大病院向け製品については一体的・集中的な開発と普及を支援する。また、ネットワークの外部接続点の監視、サーバー等の管理強化など、サイバーセキュリティ対策も強化する。さらに、全国医療情報プラットフォームの拡充やデータ連携基盤の整備、病院DXの推進も盛り込まれた。厚労省の調査では、2023年10月時点の電子カルテ導入率は、400床以上で93.7%、200~399床で79.2%まで進んでいる一方で、200床未満では59.0%にとどまる。今後、200床以上の未導入病院は、電子カルテ導入だけでなく、クラウド移行、標準化、サイバー対策、地域医療情報連携への対応を同時に迫られる。医療機関にとって電子カルテは、単なる院内システムではなく、診療情報共有、医療安全、経営効率化、研究・創薬基盤、BCP対策を支える基幹インフラとして再定義されつつある。 参考 1) 日本成長戦略(内閣府) 2) 電子カルテ導入 200床以上は「28年度100%」2年前倒し 政府目標(CB news) 4.2040年の地域医療構想、急性期病床4割減・包括期は拡大/厚労省厚生労働省は7月3日、2040年を見据えた新たな地域医療構想策定ガイドラインと、全国の必要病床数の機械的試算を公表した。この中で、2040年の必要病床数は、2025年度比で約10万床少ない106.9万床とされ、人口減少と医療需要の質的変化が病床再編を迫る構図が明確になった。とりわけ急性期病床は66万床から37.4万床へ約4割減少とされる一方で、高齢者救急、退院支援、早期リハビリ、在宅復帰を担う「包括期病床」は41.6万床と大きく位置付けられた。慢性期は28.0万床でおおむね維持される見通しである。背景にあるのは、85歳以上高齢者の増加と生産年齢人口の減少である。ガイドラインでは、2040年に向けて高齢者救急や在宅医療の需要が増える一方で、急性期需要は多くの地域で減少し、医師・看護職員の確保は一層困難になると整理している。従来の地域医療構想は病床機能の分化・連携が中心だったが、今回は入院に加えて外来、在宅、介護連携、人材確保までを含む「地域全体の医療提供体制」の再設計に踏み込む点が大きい。都道府県は2026年度から2027年度前半にかけて医療需要や提供体制をデータ分析し、構想区域の点検・見直しを行う。2028年度までに、急性期拠点機能を担う具体的医療機関名、各病院が2040年に担う医療機関機能、必要病床数、入院・外来・在宅・介護連携・人材確保の取組を地域医療構想として策定する。急性期拠点は人口20~30万人に1施設を目安とし、手術、救急搬送、医師確保、施設老朽化など実績と持続可能性を踏まえて協議される。病院にとっては、今後の議論が「自院の病床数」だけでなく、「地域で何を担う病院か」を問うものとなる。厚労省によると医療機関機能は、高齢者救急・地域急性期、急性期拠点、在宅医療等連携、専門等機能、大学病院本院の医育・広域診療機能に整理される。各医療機関は現在の機能、2040年に担う機能、診療実績を各都道府県に報告し、地域医療構想調整会議での協議を経て、遅くとも2028年度までに2040年の医療機関機能を決定する。高齢者救急では、誤嚥性肺炎や心不全などを受け入れ、早期からリハビリ、栄養、口腔、退院調整を行い、介護施設や在宅とつなぐ力が問われる。ガイドラインも、高齢者救急では入院早期からリハビリテーション、栄養管理、口腔管理を行い、在宅医療や介護との連携を包括的に進める必要性を示している。さらに明記すべきは、地域医療構想と医療計画の関係が変わる点である。これまで地域医療構想は医療計画の記載事項の一つだったが、新たな地域医療構想は医療計画の上位概念として位置付けられ、第9次医療計画はその具体的な実行計画となる。2次医療圏も、見直された構想区域と原則一致させる方向であり、今後の診療報酬、医師確保、救急、在宅、介護連携の議論は、この構想と連動して進む。各病院は、地域医療構想調整会議での実績データに基づく協議に備え、自院の救急受入、手術、退院支援、在宅・介護連携、人材確保の実績を可視化し、地域内での役割を早急に整理する必要がある。 参考 1) 地域医療構想策定ガイドライン(厚労省) 2) 地域医療構想でガイドライン公表 40年見据え、都道府県が策定-厚労省(時事通信) 3) 急性期の病床、40年の必要数4割減 厚労省試算(日経新聞) 4) 令和8年度都道府県医師会地域医療構想策定等ガイドライン説明会(日本医師会) 5) 1つの病院が「急性期拠点機能」と「高齢者救急・地域急性期機能」とを同時に持つことは認めない-新地域医療構想GL(1)(Gem Med) 5.協会けんぽ黒字拡大、医療費と後期高齢者支援金も増加/協会けんぽ全国健康保険協会(協会けんぽ)は、2025年度の医療分決算見込みを公表した。協会会計と国の特別会計を合わせた合算ベースで、収入は12兆3,406億円、支出は11兆6,611億円となり、単年度収支差は6,795億円の黒字となった。黒字は前年度より209億円増加し、協会けんぽ発足後でも高水準の決算となる。収入増の主因は保険料収入の伸びであり、保険料収入は11兆546億円、前年度比4,057億円増となった。背景には、賃上げによる標準報酬月額の上昇と、被保険者数の増加がある。2025年度の被保険者数は2,604.4万人で前年度比1.8%増、平均標準報酬月額は31.5万円で同1.8%増となった。その一方で、支出も増加している。保険給付費は7兆5,369億円で前年度比2,818億円増、拠出金などは3兆7,829億円で同1,634億円増となった。とくに加入者1人当たり保険給付費は3.5%増加しており、医療の高度化や受診動向の変化が影響している。また、後期高齢者支援金は2兆4,891億円に増加し、団塊の世代がすべて75歳以上となったことによる概算納付額の増加や精算負担の増加が主因とされる。今回の黒字は、賃金上昇と被保険者数増による保険料収入の増加が、医療費や高齢者医療への拠出増を上回った結果である。ただし、支出の伸び率4.2%は収入の伸び率4.1%を上回っており、財政構造が安定化したとみるのは早い。協会けんぽ自身も、2026年度診療報酬改定で本体改定率が3.09%と高い伸びとなり、2026年6月以降の医療費に反映されること、さらに平均保険料率が2026年度から10.0%から9.9%へ引き下げられることを指摘している。医療機関にとっては、協会けんぽの黒字を単純な「財政余力」と捉えるより、保険料収入の伸びに支えられながらも、医療費、後期高齢者支援金、診療報酬改定の影響が重なり、今後の保険者財政が再び厳しくなる可能性を意識すべき局面である。準備金残高は6兆5,457億円、保険給付費などの7.2ヵ月分に相当するが、加入者の平均年齢上昇、医療の高度化、後期高齢者支援金の高止まりには引き続き留意が必要である。 参考 1) 2025(令和7)年度協会けんぽの決算見込みについて(協会けんぽ) 2) 協会けんぽ、昨年度6,795億円の黒字 賃上げで保険料収入増(日経新聞) 3) 協会けんぽ 昨年度決算 6,795億円黒字 賃上げで保険料収入増加(NHK) 6.京都大を国際卓越研究大学に認定へ、初年度200億円支援/文科省文部科学省は7月3日、世界トップレベルの研究力を目指す「国際卓越研究大学」に京都大学を認定する方針を発表した。政府の総合科学技術・イノベーション会議などへの諮問を経て、今夏にも正式認定される見通しで、東北大学、東京科学大学に続く3校目となる。初年度となる2026年度の助成額は約200億円が見込まれている。国際卓越研究大学制度は、政府が設置した10兆円規模の大学ファンドの運用益を活用し、最長25年間にわたって年数百億円規模の支援を行う仕組みである。わが国の研究力が国際的に相対的低下を続けるなか、大学の研究環境や若手研究者の育成、国際競争力の強化を図ることが目的とされる。京都大学が高く評価されたのは、従来の「小講座制」から「デパートメント制」への大規模な組織改革である。教授を頂点とする約1,000の小講座・研究室単位の体制は、専門性を深める一方で、閉鎖性や若手研究者の独立性の確保が課題とされてきた。京大はこれを廃止し、学術領域ごとに約20のデパートメントへ再編する計画を示した。2029年4月までの完全移行を目指し、若手・中堅研究者が独立して研究できる環境作り、分野横断型研究の推進、研究支援体制の強化による研究時間の確保を進める。また、京大は研究成果に基づく資金配分の仕組みや、大学院教育の強化も掲げている。今後25年間で年間の博士号取得者を現在の約690~700人から約3倍の2,100人規模に増やすほか、引用回数が上位10%に入る「トップ10%論文」の割合を現状の約2倍に引き上げる目標も盛り込んだ。同大の湊長 博総長は、「世界水準の研究大学を確立し、社会課題の解決やイノベーション創出につなげたい」と考えを示している。その一方で、同じく2回目の公募に申請していた東京大学は、医学部をめぐる不祥事やガバナンス上の課題などを理由に継続審査となった。今回の京大への認定は、単なる大型助成ではなく、大学組織の統治、研究者の自立性、国際競争力を問う改革の一環といえる。医師・医学研究者にとっても、医学部・大学病院を含む研究体制や若手育成のあり方に影響する動きとして注目される。 参考 1) 国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議(アドバイザリーボード)における審査の結果について(概要) 2) 京大を卓越大に認定へ 200億円支援、小講座制を廃止し組織再編(朝日新聞) 3) 世界トップレベル目指す「国際卓越大」に京都大を認定へ、東北大・東京科学大に続く3校目…今年度200億円助成見通し(読売新聞) 4) 京大を「国際卓越研究大学」に認定へ 今年度200億円助成見込み(NHK)

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