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本邦初、がん患者の「気持ちのつらさ」のガイドライン/日本肺癌学会

 2024年10月、日本がんサポーティブケア学会と日本サイコオンコロジー学会は『がん患者における気持ちのつらさガイドライン』(金原出版)を発刊した。本ガイドラインは、がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズの第4弾となる。第65回日本肺癌学会学術集会において、本ガイドラインの作成委員長の藤澤 大介氏(慶應義塾大学医学部)が本ガイドライン作成の背景、本ガイドラインで設定された重要臨床課題と臨床疑問(CQ:クリニカルクエスチョン)を紹介した。気持ちのつらさはがん治療や生命予後に悪影響 がん患者における気持ちのつらさは、QOLの低下や痛みの増強を招くだけでなく、がん治療のアドヒアランスの低下を招き、入院期間の延長や生命予後の悪化にもつながる。しかし、その多くは予防や治療が可能であると藤澤氏は強調する。そこで、本ガイドラインでは臨床における気持ちのつらさへの対応方法をアルゴリズムとして示した。 まず、気持ちのつらさへの対応の大原則として「初めから精神心理の専門家が関わるのではなく、すべての医療従事者が温かく常識的な対応をすることが重要である」と藤澤氏は述べた。具体的には、(1)支持的なコミュニケーション、(2)気持ちのつらさの可能性への気付き、(3)ニーズの特定と対応、(4)気持ちのつらさに類似した医学的状況の除外、が必要である。これらの対応をしたうえで、気持ちのつらさが持続する場合や、症状の重い気持ちのつらさが存在する場合には、より精神・心理ケアに特化した介入を検討するという流れである。詳細はガイドラインを参照されたい(p.96~100)。閾値以上の気持ちのつらさの緩和に関する9つのCQを設定 本ガイドラインでは、気持ちのつらさを緩和するための介入について、6つの重要臨床課題と9つのCQを設定した。なお、介入の効果の指標としてはうつ、不安、両者を統合したdistressを用いた。また、気持ちのつらさは正常範囲のものではなく、臨床的介入が必要とされる一定の重症度以上(閾値以上)のものを対象としている。 藤澤氏は、本発表では9つのCQのうち「薬物療法(CQ1、2)」「協働的ケア(CQ4)」「早期からの緩和ケア(CQ5)」「ピアサポート(CQ7)」について紹介した。 9つのCQのなかで、唯一強い推奨となったのは、協働的ケアであった(CQ4、推奨の強さ1[強い]、エビデンスの確実性[強さ]:A[強い])。協働的ケアとは、プライマリ・ケア提供者と精神心理の専門家が協力体制を作って、系統的なケアを提供するというモデルである。海外では、プライマリ・ケア提供者はトレーニングを受けた看護師が担うことが多い。協働的ケアは、本ガイドラインでは強い推奨となったものの「本邦での現状を考えると、実施していない施設が多いのではないか」と藤澤氏は指摘した。そこで、解決策として「がん診療拠点病院には、認定専門看護師が在籍しており、がんカウンセリング料などが算定できる。また、緩和ケアチームが機能していることが多いと考えられるため、がん診療拠点病院にハブとして機能していただき、精神心理の専門家、精神科などと連携しながら系統的な介入の実施を検討していくのが良いのではないか」と述べた。 続いて、藤澤氏は薬物療法について説明した。薬物療法で用いられるのは抗不安薬(CQ1)、抗うつ薬(CQ2)であるが、これらは本ガイドラインでは弱い推奨となった。この根拠として、対象をがん患者に限定すると、薬物療法のエビデンスはあまり確立していないことが挙げられた。ただし、抗不安薬や抗うつ薬は、がん患者に限定しなければ、不安やうつに対して十分なエビデンスを有しているため、有害事象について慎重に考慮したうえで使用することを提案するという形であると、藤澤氏は説明した。 早期からの緩和ケア(CQ5)については、「気持ちのつらさの改善を目的とした場合、単独では推奨しない」という推奨となった。この根拠としては、閾値以上の気持ちのつらさを有する患者を対象とした研究がなかったこと、閾値を設定しない研究では良好な結果もあったものの有意差がない研究が多かったことが挙げられた。ただし、藤澤氏は「早期からの緩和ケアは、進行がんの患者における症状緩和やQOLの向上に有益であることがわかっており、すべてのがん患者に対して実施を考慮すべきという基本スタンスは変わっていない」と付け加えた。 ピアサポート(CQ7)についても、早期からの緩和ケアと同様に「気持ちのつらさの改善を目的とした場合、単独では推奨しない」という推奨となった。こちらも、その根拠としてはエビデンス不足が挙げられた。ただし、うつ・不安以外のアウトカムの改善(例:自己効力感の向上)を認める研究はあり、「実施を否定するものではなく、より専門的な精神心理的介入と併用しながら実施することは十分に考えられる」と藤澤氏は述べた。 本発表の結語として、藤澤氏は「気持ちのつらさに対する介入には、すべての医療者が行うべき対応と、より専門的な介入がある。すべての医療者が重要なプレイヤーであり、専門的な介入に関するエビデンスを踏まえながら協働的に実施する形を作っていきたい」と述べた。

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限局型小細胞肺がんへのデュルバルマブ地固め、日本人でも有効(ADRIATIC)/日本肺癌学会

 限局型小細胞肺がん(LD-SCLC)患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「ADRIATIC試験」の第1回中間解析において、同時化学放射線療法(cCRT)後のデュルバルマブ地固め療法が全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが報告されている1)。本試験の日本人サブグループ解析の結果について、善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:I~III期(I/II期は外科手術不能の患者)でPS0/1のLD-SCLC患者のうち、cCRT後に病勢進行が認められなかった患者730例(PCIの有無は問わない)・試験群1(デュルバルマブ群):デュルバルマブ(1,500mg、cCRT後1~42日目に開始して4週ごと)を最長24ヵ月 264例(日本人19例)・試験群2(デュルバルマブ+トレメリムマブ群):デュルバルマブ(同上)+トレメリムマブ(75mg、cCRT後1~42日目に開始して4週ごと)を最長24ヵ月 200例・対照群(プラセボ群):プラセボ 266例(日本人31例)・評価項目:[主要評価項目]OS、RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS(いずれもデュルバルマブ群vs.プラセボ群)[副次評価項目]OS、RECIST v1.1に基づくBICRによるPFS(いずれもデュルバルマブ+トレメリムマブ群vs.プラセボ群)、安全性など 今回は、デュルバルマブ群とプラセボ群の比較結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・日本人集団ではデュルバルマブ群で高齢の割合が高く、65歳以上の割合はデュルバルマブ群74%、プラセボ群39%であった。cCRT時のプラチナ製剤(シスプラチン/カルボプラチン)はデュルバルマブ群、プラセボ群でそれぞれ95%/5%、87%/13%であり、放射線照射の回数(1日1回/1日2回)はそれぞれ11%/89%、0%/100%であった。・日本人集団において24ヵ月の治療を完了した割合は、デュルバルマブ群52.8%(グローバル全体のITT集団:33.5%)、プラセボ群35.5%(同:26.4%)であった。病勢進行による治療中止はそれぞれ21.1%(同:46.0%)、48.4%(同:58.1%)に認められ、デュルバルマブ群が少ない傾向にあった。・日本人集団におけるOS中央値は、デュルバルマブ群が未到達(グローバル全体のITT集団:55.9ヵ月)、プラセボ群が44.9ヵ月(同:33.4ヵ月)であった(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.24~1.62)。・日本人集団におけるBICRによるPFS中央値は、デュルバルマブ群が44.2ヵ月(グローバル全体のITT集団:16.6ヵ月)、プラセボ群が29.4ヵ月(同:9.2ヵ月)であった(HR:1.05、95%CI:0.44~2.36)。・日本人集団における治験担当医師評価によるPFS中央値は、デュルバルマブ群が44.2ヵ月(グローバル全体のITT集団:16.1ヵ月)、プラセボ群が19.7ヵ月(同:9.2ヵ月)であった(HR:0.68、95%CI:0.28~1.51)。・日本人集団におけるGrade3/4の有害事象は、デュルバルマブ群21.1%(4/19例)、プラセボ群19.4%(6/31例)に発現した。投与中止に至った有害事象はそれぞれ21.1%(4/19例)、9.7%(3/31例)、免疫関連有害事象はそれぞれ47.4%(9/19例)、12.9%(4/31例)に発現した。・日本人集団における肺臓炎/放射線肺臓炎はデュルバルマブ群52.6%(10/19例)、プラセボ群45.2%(14/31例)に発現し、そのうち治療中止に至ったのはそれぞれ3例、2例であった。 本結果について、善家氏は「cCRT後のデュルバルマブ地固め療法は、日本人集団においても臨床的に意義のあるOSの改善を示した。BICRによるPFSは、日本人集団においてはデュルバルマブ群とプラセボ群で同様であったが、治験担当医師評価によるPFSはデュルバルマブ群で良好な傾向にあった。新たな安全性に関するシグナルは認められず、良好なベネフィット/リスクプロファイルを示した。以上の結果は、cCRT後のデュルバルマブ地固め療法が、日本人においてもLD-SCLCに対する新たな標準治療となることを支持するものである」とまとめた。

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固形がんにMRD検査は有用か?学会がガイダンスを作成/日本癌治療学会

 日本癌治療学会は、固形がんを対象に、がん種横断的にMRD検査の最新エビデンスを集め、検査の適正利用・研究を目指すことを目的としたガイダンス「分子的残存病変(molecular residual disease:MRD)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」(日本癌治療学会:編、日本臨床腫瘍学会・日本外科学会:協力)を作成し、2024年10月に学会サイト上で公開した。※MRDの概念は複数あり、Pubmedでも以下の3つの名称が混在するが、今回のガイダンスにおけるMRDは2の概念に基づくもの。 1.Minimally Residual Disease…血液腫瘍における定義(現在のMRD関連論文の4分の3を占める) 2.Molecular Residual Disease…近年のctDNAに基づく、分子レベルの残存病変 3.Measurable Residual Disease…定量的に測定可能な残存病変 MRDは、抗がん剤の投与などにより一定の治療効果が確認された後も患者の体内に残る微小なレベルのがん病変を指す。もともとは造血器腫瘍における研究が先行しており、2024年4月には米国食品医薬品局(FDA)の委員会がMRDを多発性骨髄腫の臨床開発のエンドポイントとすることを認めるなど、研究・臨床への応用が進む。固形がんにおいても、血液を用いたリキッドバイオプシー検査の臨床導入を契機に、大腸がんなどを中心にMRD評価による再発リスク層別化を検証する臨床試験が多数行われ、臨床応用や保険承認を目指す流れができつつある。今回の見解書(ガイダンス)もこのような背景から作成されたものだ。 ガイダンスは以下の構成となっている。―――――――――――――――――――・総論:ctDNA、MRDについて、MRD検査に関する国内外のガイドライン記載・各論:各領域の臨床動向(消化管、肺、乳腺、泌尿器、肝胆膵、婦人科、頭頸部、皮膚)・クリニカル・クエスチョン(CQ1~9)・参考資料――――――――――――――――――― ガイダンス公開と同時期に行われた第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)では、「MRDがもたらす切除可能固形がん周術期治療の近未来―切除可能固形がんにおけるMRD利用ガイダンス発刊に寄せて」と題したシンポジウムが行われ、ガイダンスの作成ワーキンググループの委員が、ガイダンスに収載されたエビデンスや各領域における検査実施や応用の現状を報告した。 MRDに関するエビデンスが蓄積してきた造血器腫瘍領域と異なり、固形がん領域におけるMRD検査の臨床応用は道半ばだ。シンポジウムではMRD検査活用に対する「賛成派」「反対派」の立場に分かれ、ディスカッションを行った。賛成派がこれまで報告された研究結果を基に有用性を示す一方で、反対派は「がん種ごとに検出率が異なり、臓器横断的に利用できるのかは疑問」「複数のアッセイがあり、精度の検証や最適化がされていない」「膵がんのような予後の悪いがんでは、MRD陰性の中にも再発ハイリスク層が存在する。MRD陰性を理由とした治療中止に本当にベネフィットはあるか」「MRDの結果だけで患者を層別化するのは、個別化医療の流れに反するのでは」といった、現時点における疑問点や課題点を挙げた。 また、各領域の報告では、がん種ごとに重要なサブタイプと判定すべき時期・検査が異なるためMRD検査の実施判定が難しい、すでに確立されたバイオマーカーがありMRD検査の必要性が薄いなど、MRD検査に対するスタンスに違いも見られた。 最後にワーキンググループ委員長を務める小林 信氏(国立がん研究センター東病院)が、ガイダンスに掲載された9つのクリニカルクエスチョン(CQ)から5つを紹介した。CQ1:術後MRD検査には、どのようなアッセイが推奨されるか?推奨1-1:MRD検査として分析的妥当性及び臨床的妥当性が示された検査を強く推奨する。→「臨床的妥当性」がキーワードで、これはMRD検査の感度・特異度や的中率、陽性患者と陰性患者の予後の比較、MRD検出から再発までの期間などにより評価される。これらの指標が適切な臨床試験で示されているアッセイの利用を「強く推奨する」。CQ2:どのような症例を対象にMRD検査を行うことが推奨されるか?推奨2-1:術後再発リスク評価を目的として、根治的切除が行われている症例を対象にMRD検査を行うことを強く推奨する。→MRD検査は、がん患者を対象に低侵襲にctDNAを解析し、再発の証拠がある前に分子的再発を特定する検査である。従って、基本的に根治的切除が行われている症例が対象となる。具体的ながん種、Stageに関しては、適切な研究により臨床的妥当性を示すことが必要である。たとえば、大腸がんに関してはCIRCULATE-JapanによるGALAXY試験によってStageを問わず陽性例の再発リスクが高いことが示されているため、根治切除後の全症例が推奨の対象となる。一方、再発サーベイランスに関しては、がん種・Stageごとのリスクを考慮し、低リスク症例に高コストのMRD検査を続けることは望ましくないだろう。CQ4:MRD検査はいつ行うことが勧められるか?推奨4-2:術後再発リスクを目的とする場合、術後補助療法開始前且つ術後2~8週を目安としたMRD検査を推奨する。→MRD検査は術後再発リスクを評価し、術後の補助療法の適用を判断することが主な目的であり、検査実施は術後2~8週間が妥当とした。この根拠は、手術直後は侵襲の影響でctDNAが高値となり、術後2週以降に標準化することだ。あとはがん種ごとのガイドラインにおける術後補助療法の開始時期から逆算し、検査を実施することになるだろう。CQ6:術後MRD陽性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?術後MRD陽性の患者に対して、各がん種に応じた術後補助療法を行うことを推奨する。→MRDが消失すると予後が良い、MRD陽性例に術後補助療法を行うと予後が良い、というエビデンスが、がん種横断的に示されている。ただ、こうしたデータは再発高リスク例を対象とした後ろ向き研究が多いことには注意が必要だ。MRD陽性・再発低リスク例に対する補助療法の有用性を示したエビデンスはなく、この点はがん種ごとにガイドラインの推奨も異なり、委員間で意見の相違もあった。CQ8:術後MRD陰性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?術後MRD陰性の患者に対しても、各がん種に応じた術後補助療法を行うことを考慮する。ただし腫瘍因子・患者因子などを考慮して治療強度の低いレジメンの適用や術後補助療法を行わないことも選択肢となりうる。→大腸がんを対象としたDYNAMIC試験では、MRD陰性例であっても病理学的因子の不良例は有意に予後が悪いという結果が示されるなど、MRD陰性の結果だけで術後補助療法の省略・簡略化を決めることは難しい。ただ、がん種によってはMRD陰性例における術後観察群の経過が良好という報告もあり、このような推奨となった。現在進行中の大腸がんを対象にMRD陰性例の術後補助療法の有無を比較したVEGA試験の結果などを見て、再度検討することになるだろう。「MRD検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」/日本癌治療学会

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ペムブロリズマブのNSCLC周術期治療(KEYNOTE-671)は日本人でも有効/日本肺癌学会

 ペムブロリズマブの非小細胞肺がん(NSCLC)周術期治療(KEYNOTE-671)は米国、欧州に続き、本邦でも2024年8月28日にNSCLCにおける術前・術後補助療法の適応を取得している。この根拠となった第III相「KEYNOTE-671試験」における日本人集団の結果について、聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科主任教授の佐治 久氏が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageII、IIIA、IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版に基づく)試験群:ペムブロリズマブ200mg+化学療法(シスプラチン[75mg/m2]+ゲムシタビン[1,000mg/m2を各サイクル1、8日目]またはペメトレキセド[500mg/m2])を3週ごと最大4サイクル→手術→ペムブロリズマブ200mgを3週ごと最大13サイクル(ペムブロリズマブ群:397例)対照群:プラセボ+化学療法(同上)を3週ごと最大4サイクル→手術→プラセボを3週ごと最大13サイクル(プラセボ群:400例)評価項目:[主要評価項目]無イベント生存期間(EFS)および全生存期間(OS)[副次評価項目]病理学的奏効(mPR)、病理学的完全奏効(pCR)、有害事象など 追跡期間中央値36.6ヵ月の時点における全体集団のEFS中央値は、ペムブロリズマブ群では47.2ヵ月、プラセボ群では18.3ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.48~0.72)。OS中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達、プラセボ群では52.4ヵ月であった(HR:0.72、95%CI:0.56~0.93、p=0.0052[片側])。 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・全体集団797例中、日本人は82例(10.3%)(ペムブロリズマブ群39例、プラセボ群43例)であった。手術に至った割合はペムブロリズマブ群85%(33例)、プラセボ群91%(39例)であり、全体集団(ペムブロリズマブ群82%、プラセボ群79%)より良好であった。・データカットオフ時点(2023年7月10日)におけるEFS中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達、プラセボ群では32.8ヵ月であった(HR:0.62、95%CI:0.33~1.19)。3年EFS率は、それぞれ66.1%、45.1%であった。・OS中央値は、両群ともに未到達であった(HR:0.87、95%CI:0.34~2.20)。3年OS率はペムブロリズマブ群では78.0%、プラセボ群では77.9%であった。・ペムブロリズマブ群のmPR率は28.2%(95%CI:15.0~44.9)、pCR率は12.8%(95%CI:4.3~27.4)、プラセボ群のmPR率は7.0%(95%CI:1.5~19.1)、pCR率は2.3%(95%CI:0.1~12.3)であり、ペムブロリズマブ群で良好であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はペムブロリズマブ群59%(23例)、プラセボ群47%(20例)に認められ、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)およびインフュージョンリアクション(IRR)は、ペムブロリズマブ群で18%(7例)に認められた。両群ともに死亡に至ったTRAE、irAE、IRRは認められなかった。 佐治氏は、今回の有効性、安全性の結果はKEYNOTE-671試験の全体集団の結果と同等であるとし、「日本人におけるペムブロリズマブの術前・術後補助療法の使用を支持するものである」とまとめた。

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次世代のCAR-T細胞療法―治療効果を上げるための新たなアプローチ/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が開催され、13日のJSH-ASH Joint Symposiumでは、『次世代のCAR-T細胞療法』と題して、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)療法の効果の毒性を最小限にとどめ、治療効果をより高めるための新たな標的の探索や、細胞工学を用いてキメラ抗原受容体(CAR)構造を強化した治療、およびoff the shelf therapyを目標としたiPS細胞由来次世代T細胞療法の試みなど、CAR-T細胞療法に関する国内外の最新の話題が紹介された。CAR-T細胞療法を最適化するための新しい標的の開発 CAR-T細胞療法はB細胞性悪性腫瘍や多発性骨髄腫(MM)などに対する効果が認められているが、毒性については解決すべき課題が残っている。ガイドラインでは主な合併症として、サイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が取り上げられているが、CAR-T細胞療法による新たな、または、まれな合併症とその管理についての情報は少なく、新たな標的の検討とともに明らかにしていく必要がある。米国血液学会(ASH)のCAR-T細胞療法のワークショップでは、CAR-T細胞の病態生理の理解、まれな毒性についてのデータの蓄積、on-target off-toxicityを回避するための的確な標的となる抗原などが検討されている。 Fabiana Perna氏(Moffitt Cancer Center)らは腫瘍関連抗原(TAA)および腫瘍特異的抗原(TSA)、さらに腫瘍特異的細胞表面プロテオームの解析を行っている。同氏らはこれまで、急性骨髄性白血病(AML)におけるCAR-T細胞療法の標的を同定するために、プロテオームと遺伝子発現の同時解析を行い、26個の標的を同定した。このうち15個は臨床試験で用いられ、その多くがAMLの正常細胞上に高発現する蛋白であった。 MMに対してはB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T(BCMA-CAR-T)細胞療法の成績は良好とはいえず、新たな標的抗原が必要である。Perna氏らはMM患者約900例のサンプル約4,700検体を用い細胞表面のプロテオームを解析し、RNAシーケンスを行い、腫瘍組織に高発現するBCAAを含む6個の標的を同定した。そのうちSEMA4Aは再発/難治性MM患者での高発現が認められた。BCMA-CAR-T細胞療法後の再発はBCMAの発現低下に関連し、CARの機能低下を惹起すると考えられ、的確な標的の探索が必要である。Perna氏らはSEMA4AがCAR-T細胞療法の標的となりうると考え、SEMA4A-CAR-T細胞療法を試みている。なお、MM患者の免疫療法に関しては第I相試験が予定されている。 また、Perna氏らはmRNAスプライシングに由来する白血病特異的抗原の解析パイプラインを開発中であり、AML患者サンプルからスプライスバリアントの異常発現を認めたことから、同氏は、疾患特異的スプライスバリアントを標的とした治療法につながることを期待していると述べた。CAR-T細胞療法抵抗性克服と新たな応用の探求 CAR-T細胞療法は、CD19およびBCMA抗原を標的として、B細胞性悪性腫瘍(リンパ腫、白血病)およびMMに対して行われている。BCMA-CAR-T細胞療法は初期治療の奏効率は高いが、長期寛解率は低くとどまっている。CAR-T細胞の機能不全は抗原逃避、T細胞欠損、腫瘍微小環境(TME)などにより惹起される。そこで、酒村 玲央奈氏(メイヨー・クリニック 血液内科)は、CAR-T細胞療法の治療抵抗性克服と新たなストラテジーを探求するうえで、重要な鍵となる免疫抑制細胞について検討した。 がん関連線維芽細胞(CAF)は、CAR-T細胞の機能不全を誘導するが、同時にMM患者の治療効果を高める可能性があると考えられている。これまでの酒村氏の検討でMM患者由来のCAFがTGF-βなど抑制性サイトカイン産生を増加させ、PD-1/PD-L1結合を介してCAR-T細胞を阻害し、FAS/FASリガンド経路を介してCAR-T細胞にアポトーシスを誘導、制御性T細胞(Treg)を動員することが示された。また、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的としたCAR-T細胞はマウスの体重を有意に減少させ、off target効果による重篤な毒性を惹起すると考えられ、CAF表面上に発現するCS1およびBCMAの2つを標的としたCAR-T細胞は腫瘍細胞およびCAFを溶解することが示された。さらに、BCMA-CAR-T細胞療法施行患者由来の骨髄サンプルを用いたシングルセルRNAシーケンスを行い、non-responder由来のCAFが高頻度にデスリガンド(抗腫瘍性リガンド)を発現すること、non-responder由来のT細胞は慢性的に刺激され疲弊したphenotypeであることが明らかとなった。また、non-responder由来の骨髄サンプルではTMEを支配する腫瘍関連マクロファージ(TAM)とCAFの有意なクロストークの存在が示された。 間葉系幹細胞(MSC)は多能性細胞であり、免疫抑制および組織再生治療における効果が研究されている。そこで酒村氏は、MSCの免疫抑制効果を向上させるために、細胞工学技術を用い健康な人から得た脂肪由来のMSCにCARを搭載し、移植片対宿主病(GVHD)に対する治療戦略をマウスモデルで検討した。研究には、とくにGVHDをターゲットとしたE-cadherin(Ecad)特異的なCAR-MSC(EcCAR-MSC)を用いた。EcCAR-MSCの開発では、Ecad特異的な単鎖可変フラグメント(scFV)クローンが生成され、CAR-CD28ζ構造を設計し安定発現させてMSCの免疫抑制機能を強化したことが示された。 GVHDモデルにおいてEcCAR-MSCはマウスの体重減少を軽減し、GVHD症状を緩和し生存率を向上させた。また、Ecad陽性大腸組織へ特異的に移行し、T細胞活性を抑制し免疫調節機能効果を向上させた。また、シングルセルRNAシーケンスにより、抗原特異的刺激を受けたEcCAR-MSCにおいてIL-6、IL-10、NF-κBなどの免疫抑制シグナル経路の活性化が認められた。EcCAR-MSCのCD28ζシグナルドメインを含むCAR構造体はより強い免疫抑制効果を示した。 酒村氏は、CARを用いたMSCの免疫抑制機能を強化する新たな細胞治療とGVHDおよび腫瘍抑制における可能性を提示した。また、MSCの開発は免疫環境の調節を可能とし、炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など自己免疫疾患の治療にも新たなアプローチを提供するものと考えると述べ、CAR-T細胞療法を進展させ、より多くの患者予後の改善を目指したいと結んだ。難治性腫瘍に対するiPS細胞由来次世代T細胞療法の開発 難治性NK細胞リンパ腫に対しては、L-アスパラギナーゼを含む抗がん剤治療や末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)による細胞治療が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。とくに末梢血由来T細胞は細胞治療後に疲弊し、長期的には腫瘍が増大することが知られている。そこで、安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科血液内科学)はNK細胞リンパ腫患者の末梢血よりエプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原特異的CTLを使用し、iPS細胞を作製後、再びT細胞に分化誘導し、iPS細胞由来若返りCTL(rejT)を作製し、NK細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、rejTはNK細胞リンパ腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示した。次いでNK細胞リンパ腫細胞株を腹腔内注射したマウスを用い、rejTおよび末梢血由来T細胞で治療し生体内での抗腫瘍効果を比較検討した結果、両群とも有意な腫瘍増大抑制効果が認められた。さらにrejTは末梢血由来T細胞に比べ有意な生存期間延長効果を示し、マウス体内でメモリーT細胞として長期間生存し、リンパ腫再増殖抑制効果が持続したことが示された。 次いで安藤氏は、末梢血EBV抗原LMP2特異的CTLからiPS細胞を作製し分化誘導後、iPS細胞由来若返りLMP2抗原特異的CTL(LMP2-rejT)がEBV関連リンパ腫に対し強い抗腫瘍効果を発揮することをマウスモデルで証明した。また、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期生存し、難治性リンパ腫の再発抑制を維持することを確認した。 安藤氏はこの手法を応用し、LMP2-rejTにCARを搭載することで、2つの受容体を有し、同時に2つの抗原(CD19、LMP2抗原)を標的にできるiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスを用いた検討ではDRrejTは受容体を1つのみ有する従来のT細胞に比べ、難治性の悪性リンパ腫に対し強力な抗腫瘍効果と、生存期間延長効果を示し、メモリーT細胞として長期生存が示された。 また、安藤氏はiPS細胞に小細胞肺がん(SCLC)に高発現するGD2抗原標的キメラ抗原受容体(GD2-CAR)を遺伝子導入後、分化誘導したiPS細胞由来GD2-CART細胞(GD2-CARrejT)を作製し、SCLCに対する強い抗腫瘍効果を示した。さらに、GD2-CARrejTは末梢血由来のGD2-CART細胞に比べ、疲弊マーカーであるTIGITの発現がきわめて低いことを明らかにした。また、マウスの検討でGD2-CARrejTは末梢血由来LMP2-CTLに比べNK/T細胞リンパ腫を抑制することが示された。 さらに、安藤氏はiPS細胞由来ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的CTL(HPV-rejT)を作製し、HPV-rejTは末梢血由来CTLと比較して子宮頸がんの増殖を強力に抑制することを確認した。子宮頸がん患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化には課題がある。一方、健康な人のCTLから作成した他家iPS細胞を用いた場合、これらの問題は解決するが、患者免疫細胞からの同種免疫反応により抗腫瘍効果が減弱する。そこでCRISPR/Cas9技術を用い、HLAクラスIをゲノム編集した健常人由来他家HPV-CTL(HLA-class I-edited HPV-rejT)を作製した。マウスを用いた検討で、HLA-class I-edited HPV-rejTは患者免疫細胞から拒絶されずに子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。また、末梢血由来HPV-CTLに比べ、細胞傷害活性に関するIFNG遺伝子や、組織レジデントメモリー細胞に関係するITGAE遺伝子などの発現レベルが有意に高く、組織レジデントメモリー細胞を豊富に含むことが示された。これらの機能解析により、HLA-class I-edited HPV-rejTはTGF-βシグナリングによりCD103発現レベルを上昇させ、その結果、抗原特異的細胞傷害活性が増強することが明らかとなった。現在、HLA-class I-edited HPV-rejTを用いた治療の安全性を評価する医師主導第I相試験が進行中である。 安藤氏はiPS細胞由来の抗原特異的、そしてHLA編集細胞が、off the shelfのT細胞療法に、持続可能で有望なアプローチを提供するものと期待されると締めくくった。

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MET exon14スキッピングNSCLC、グマロンチニブの日本人データ(GLORY)/日本肺癌学会

 グマロンチニブは、METチロシンキナーゼのATP結合部位を選択的かつ競合的に阻害する薬剤であり、既存のテポチニブ、カプマチニブと同様の作用機序を有する。グマロンチニブは、MET遺伝子exon14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)を適応とする薬剤として、本邦では2024年6月に製造販売承認を取得し、同年10月に発売された。本承認の評価試験である国際共同第Ib/II相試験「GLORY試験」1)の第II相パートにおける、全体集団および日本人集団の結果について、後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院)が第65回日本肺癌学会学術集会で報告した。試験デザイン:国際共同第Ib/II相試験(今回は第II相試験の試験デザインと結果を示す)対象:未治療または2ラインまでの前治療歴があり、MET遺伝子exon14スキッピング変異陽性のStageIIIB~IVのNSCLC患者84例(日本人:10例)投与方法:グマロンチニブ 300mg(1日1回、経口)を病勢進行または許容できない毒性の発現まで評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づく奏効割合(ORR)[副次評価項目]病勢コントロール割合(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)など 主な結果は以下のとおり。・対象患者84例の背景は、男性が57%(日本人集団:60%)、腺がんが75%(同:80%)、StageIVが87%(同:100%)、前治療歴ありが45%(同:20%)などであった。・有効性解析対象集団は79例(日本人集団:8例)であった。・主要評価項目のBICRに基づくORRは、全体集団が66%、日本人集団が75%であった。・DCRは、全体集団が84%、日本人集団が100%であった。・前治療歴の有無別にみたBICRに基づくORRは、未治療の集団(44例[日本人集団:7例])では71%(日本人集団:71%)、前治療歴ありの集団(35例[同:1例])では60%(同:100%)であった。・DOR中央値は、全体集団が8.3ヵ月、日本人集団が5.0ヵ月であった。・PFS中央値は、全体集団が8.5ヵ月、日本人集団が7.6ヵ月であった。・全体集団における主な治療関連有害事象(30%以上に発現)は、浮腫(80%)、低アルブミン血症(38%)、食欲減退(32%)、頭痛(32%)であった。日本人集団で2例以上に発現したGrade3以上の治療関連有害事象は浮腫(2例)のみであった。・投与中断に至った有害事象は全体集団で40%、日本人集団で40%に発現した。減量に至った有害事象は全体集団で37%、日本人集団で60%に発現した。 本発表の結語として、後藤氏は「主な有害事象として、浮腫や低アルブミン血症があるが、それらを休薬や減量などで上手にマネジメントすることで、長期にわたってグマロンチニブを患者さんへ届けていただきたい」と述べた。

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呼吸困難に対しては鎮静? モルヒネの増量?【非専門医のための緩和ケアTips】第87回

呼吸困難に対しては鎮静? モルヒネの増量?呼吸困難への対応について書いた「第84回 緩和的鎮静に用いる薬剤」の掲載後、読者の方から実践的なご質問をいただきました。難治性の身体症状の代表格である呼吸困難に対するアプローチについてです。今日の質問呼吸困難に対してモルヒネで鎮静することは推奨されない、と書かれていましたが、こちらに疑問があります。考え方はわからないでもないですが、ケースバイケースで対応すべきではないでしょうか。これは、実臨床で非常に悩ましい場面を経験するからこそのご質問ですね。ご質問者は、かなり豊富な緩和ケア実践を積まれているのではと推察します。さて、今回のご質問である「呼吸困難に対し、“鎮静”よりも“モルヒネ増量”で対応することの是非」について、私の見解を述べたいと思います。「最も無難な答え」としては、質問者の方も書かれているように「ケースバイケース」になるでしょう。ただ、それだとちょっと不親切な気がしますので、もう少し深掘りしてみましょう。こうした問いに対しては、「どのようなケースはモルヒネ増量が望ましく、どのような点が異なると鎮静が望ましいのか」という視点で考えることが重要です。この問題に対して、私は2つの軸で考えています。1つ目の軸は、「モルヒネ増量によって、目標とする呼吸困難の緩和がどの程度の確率で可能か?」というものです。ほかの分野の薬剤でも同様ですが、ある程度の臨床経験を積むと「これなら効きそう」「この症状だとあまり効かないかな」といったことを感じながら診療していることでしょう。そうした経験値を基に、モルヒネを増量して症状が軽減したため、少し増量してみる、という判断はありうるでしょう。逆に、原疾患の病態が不可逆的だったり早い速度で悪化したりしていれば、モルヒネを増量しても有効でない可能性が高いでしょう。その際は鎮静をせざるを得ないと判断するケースが多くなります。2つ目の軸は「患者の望んでいる覚醒度」です。症状が非常に重く、夜も寝られない状況であれば、少しでも早く症状を和らげて欲しいと考える患者さんが多いでしょう。もちろん、鎮静の倫理的妥当性は常に慎重に検討することが必要ですが、そうした状況では「モルヒネをゆっくり増量」というのは、患者の望む対応でないかもしれません。反対に、「症状をある程度我慢してでも、しっかり起きていたい」と希望する患者さんもいます。そうした方には、鎮静薬は患者の望む症状コントロール目標に見合ってない介入になってしまいます。こうしたケースでは、副作用の心配がなければ、モルヒネ増量が優先度の高い対応となるでしょう。個別の状況で判断が異なる論点なので、少し複雑に感じられる方もいるでしょう。ただ、こうした個別の状況において、「この患者さんは何を目指していて、今はどういう状況なのか?」と考えながら実践する点が、緩和ケアのやりがいでもあります。どちらが正解というよりも、「どういう状況ならば、どのやり方が最善なのか」を常に考え、うまくいった時のやりがいを感じていただけたら幸いです。今回のTips今回のTips緩和ケアにおいては、ケースバイケースに対応した考え方が大切です。

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NSCLCへのニボルマブ+イピリムマブ±化学療法、実臨床の有効性・安全性(LIGHT-NING第4回中間解析)/日本肺癌学会

 国際共同第III相試験CheckMate 9LA試験、CheckMate 227試験の結果に基づき、進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、ニボルマブ+イピリムマブ±化学療法が保険適用となり、実臨床でも使用されている。2試験の有効性の成績は、少数例ではあるものの日本人集団が全体集団よりも良好な傾向にあった一方、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は、日本人集団が全体集団よりも高い傾向にあったことが報告されている。そこで、ニボルマブ+イピリムマブ+化学療法(CheckMate 9LAレジメン)、ニボルマブ+イピリムマブ(CheckMate 227レジメン)を使用した患者のリアルワールドデータを収集するLIGHT-NING試験が実施された。本試験の第4回中間解析の結果について、山口 哲平氏(愛知県がんセンター呼吸器内科部)が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。試験デザイン:後ろ向き観察研究対象:未治療の進行・再発NSCLC患者544例(有効性解析対象515例)試験群1:ニボルマブ(360mgを3週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと)+化学療法(3週ごと、2サイクル)(CM 9LA群:318例)試験群2:ニボルマブ(240mgを隔週または360mgを3週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと)(CM 227群:226例)評価項目:[主要評価項目]治療状況、全生存期間(OS)、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)、治療中止に至ったTRAEなど[副次評価項目]irAEの発現時期とirAEに対する治療内容および症状改善までの期間、irAEの有効性への影響など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は15.2ヵ月であった。・対象患者の年齢中央値は70歳、女性が18.8%、PS 0~1/2/3以上が89.1%/5.9%/1.3%、扁平上皮がんが27.6%、PD-L1発現状況が1%未満/1~49%/50%以上/不明は46.3%/34.9%/9.4%/9.4%であった。・治療別にみた年齢中央値はCM 9LA群が67歳、CM 227群が73歳、75歳以上の割合はそれぞれ12.3%、42.0%であり、高齢の患者では化学療法を含まないニボルマブ+イピリムマブが多く選択される傾向にあった。また、StageIV(一部切除不能StageIIIを含む)/再発の割合は、CM 9LA群が78.9%/21.1%、CM 227群が69.0%/31.0%であり、CM227群で再発の割合が高く、遠隔転移の割合が低かった。・解析時点において、イピリムマブのみを中止した患者の割合は2.6%、ニボルマブとイピリムマブの両剤を中止した患者の割合は91.9%で、イピリムマブ中止の内訳は病勢進行が43.2%、有害事象が42.8%であった。・OS中央値は、CM 9LA群が21.7ヵ月、CM 227群が18.8ヵ月であり、1年OS率はそれぞれ67.4%、61.8%、2年OS率はそれぞれ47.3%、44.0%であった。いずれの群でもPD-L1の発現状況による明らかな差はみられなかった。・PFS中央値は、CM 9LA群が6.8ヵ月、CM 227群が6.3ヵ月であり、1年PFS率はそれぞれ32.9%、36.1%、2年PFS率はそれぞれ21.0%、23.2%であった。いずれの群でもPD-L1の発現状況による明らかな差はみられなかった。・進行・再発別にみたOSの解析では、CM 9LA群におけるOS中央値はStageIV集団が17.6ヵ月、再発集団が29.2ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(ハザード比[HR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.39~0.89)。同様に、CM 227群ではそれぞれ13.9ヵ月、27.8ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(同:0.65、0.39~0.96)。・進行・再発別にみたPFSの解析でも、CM 9LA群におけるPFS中央値はStageIV集団が5.6ヵ月、再発集団が11.1ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(HR:0.70、95%CI:0.49~0.98)。同様に、CM 227群ではそれぞれ5.3ヵ月、10.0ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(同:0.71、0.50~0.99)。・医師判定に基づく奏効率は、40.1%(CM 9LA群:41.9%、CM 227群:37.4%)であった。・Grade3/4のTRAEは43.9%(CM 9LA群:53.5%、CM 227群:30.5%)に発現した。・治療関連死は3.7%(CM 9LA群:4.1%[13例]、CM 227群:3.1%[7例])に認められた。 本結果について、山口氏は「有効性に関して、CM 9LA群とCM 227群は同様の結果であり、いずれの群もPD-L1発現状況によっても治療効果に大きな差はみられなかったが、再発の集団で良好な傾向にあった。安全性に関する新たなシグナルは観察されず、安全性プロファイルはCheckMate 9LA、CheckMate 227試験と同様であった」とまとめた。

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肺がん周術期のサンドイッチ療法って何?【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第8回

第8回:肺がん周術期のサンドイッチ療法って何?パーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト神奈川県立がんセンター 加藤 晃史 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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激しい興奮を伴うせん妄への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第86回

激しい興奮を伴うせん妄への対応緩和ケアの実践で常に遭遇するせん妄ですが、とくに激しい興奮を伴うときは非常に大変です。今回は訪問看護師さんからご質問いただきました。今日の質問在宅で終末期患者をケアしていると、時々、非常に強い興奮を伴ったせん妄を経験します。患者さんは怒りとともに、殴りかかろうとするくらいの興奮です。こんな時、どうすれば良いのでしょうか。見ている家族もつらそうで、少しでもできることがないかと思います。強い興奮を伴うせん妄は、本当に大変ですよね。私も経験がありますし、なかなか難しい対応を強いられたことも多くあります。点滴を引きちぎり、手当たり次第にモノを投げようとするなど、本当に手が付けられないような状況もありました…。このような状況でわれわれに何ができるのでしょうか。まず大前提として、せん妄の対応は原因となっている「身体疾患の改善」と環境などの「非薬物療法」の検討が必要となります。とはいえ、緩和ケアの実践では終末期状態の方が多く、身体状況は不可逆なことが多いですよね。なので、なかなか根本解決が難しいのが苦しいところではあります。さて、そういった基本的なことを理解し、実践している前提で、今回の質問のような非常に激しい興奮を伴うせん妄にはどのように対応するのでしょうか?共通見解やエビデンスに乏しい分野ですが、私の対応例をご紹介します。まず、このような状況では、本人と周囲の人の安全確保を優先しましょう。その観点から、身体拘束をせざるを得ない、という判断も必要になります。身体拘束はもちろん好ましいことではないものの、本人が暴れてベッドから落ちて骨折する、周囲の人がけがをする、などのことも許容されません。ここはジレンマを抱えながらの実践になると思います。もちろん、身体拘束が必要なくなったらすぐに解除することは大前提です。このような興奮状態の場合、そのままでの投薬は現実的に困難です。よって、人手を集め、身体拘束などで安全を確保したうえで、薬剤の投与を検討します。基本的にはハロペリドールなどの抗精神病薬を用いて、効果を評価しながらベンゾジアゼピン系薬を用います。具体的にはハロペリドールを0.5mg投与し、そのうえでミダゾラムなどをゆっくり投与します。ミダゾラムは半減期が2時間程度と短く、好んで使用する専門家が多いと思います。また、ベンゾジアゼピン系薬には拮抗作用を持ったフルマゼニルがあることも重要な点ですので、覚えておきましょう。ベンゾジアゼピンによる鎮静が過剰になった場合にも、半減期の短さと拮抗薬の存在が強みになります。一方、せん妄への処方としては、抗精神病薬以外は適応外使用になりますので、ここはよく理解して使用する必要があります。適応外使用であっても使用禁忌というわけではないですし、患者負担が増えることもありません。ただ、有害事象の発現時などには、その使用判断の妥当性は問われることを理解しておく必要があるでしょう。ベンゾジアゼピン以外の選択肢として、クロルプロマジンを使う時もあります。クロルプロマジンは内服だけでなく、筋肉注射可能な注射薬もあり、せん妄の時には重宝します。これらの鎮静作用の強い薬剤の注意点は、先に述べた適応外使用となることに加え、これらの鎮静作用自体がせん妄の悪化要因になり得ることです。それもあって鎮静効果が遷延せず、かつ作用時間が短いベンゾジアゼピンであるミダゾラムを優先して使用している方が多いのでしょう。最後に、改めてせん妄を診る時は、治癒可能な原因を見逃さないことが大切です。とくに、経過中に生じた新たな興奮を伴うせん妄は、脱水や新規薬剤など新たな要因が関与していることも多いので、対応しながら再評価する必要があります。今回のTips今回のTips興奮を伴うせん妄には、場合に応じて身体抑制と鎮静作用の強い薬剤を使用し、原因を改めて検討、評価する。日本総合病院精神医学会せん妄指針改訂班編. せん妄の臨床指針 せん妄の治療指針 第2版.星和書店;2015.

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ESMO2024レポート 乳がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日まで5日間にわたり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)がハイブリッド形式で開催された。COVID-19の流行以降、多くの国際学会がハイブリッド形式を維持しており、日本にいながら最新情報を得られるようになったのは非常に喜ばしい。その一方で、参加費は年々上がる一方で、今回はバーチャル参加のみの会員価格で1,160ユーロ(なんと日本円では18万円超え)。日本から参加された多くの先生方がいらっしゃったが、渡航費含めると相当の金額がかかったと思われる…。それはさておき、今年のESMOは「ガイドラインが書き換わる発表です」と前置きされる発表など、臨床に大きなインパクトを与えるものが多かった。日本からもオーラル、そしてAnnals of Oncology(ESMO/JSMOの機関誌)に同時掲載の演題があるなど、非常に充実していた。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。KEYNOTE-522試験本試験は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を対象とした術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を見た二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。カルボプラチン+パクリタキセル4コースのち、ACまたはEC 4コースが行われ、ペムブロリズマブもしくはプラセボが併用された。病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存(EFS)でペムブロリズマブ群が有意に優れ、すでに標準治療となっている。今回は全生存(OS)の結果が発表された。アップデートされたEFSは、両群ともに中央値には到達せず、ハザード比(HR):0.75、95%信頼区間(CI):0.51~0.83、5年目のEFSがペムブロリズマブ群で81.2%、プラセボ群で72.2%であり、これまでの結果と変わりなかった。OSも中央値には到達せず、HR:0.66(95%CI:0.50~0.87、p=0.00150)、5年OSが86.6% vs.81.7%と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった(有意水準α=0.00503)。また、pCRの有無によるOSもこれまでに発表されたEFSと同様であり、non-pCRであってもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。この結果から、StageII以上のTNBCに対してはペムブロリズマブを併用した術前化学療法を行うことが強固たるものとなった。 DESTINY-Breast12試験本試験は脳転移を有する/有さないHER2陽性転移乳がん患者に対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の有効性を確認した第IIIb/IV相試験である。脳転移を有するアームと脳転移を有さないアームが独立して収集され、主に脳転移を有する症例におけるT-DXdの有効性の結果が発表された。脳転移アームには263例の患者が登録され、うち157例が安定した脳転移、106例が活動性の脳転移を有した。活動性の脳転移のうち治療歴のない患者が39例、治療歴があり増悪した患者が67例であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、その他の評価項目として脳転移のPFS(CNS PFS)などが含まれた。脳転移を有する症例のPFS中央値は17.3ヵ月(95%CI:13.7~22.1)、12ヵ月PFSは61.6%と非常に良好な成績であり、これまでの臨床試験と遜色なかった。活動性の脳転移を有するサブグループでも同等の成績であったが、治療歴のないグループでは12ヵ月PFSが47.0%とやや劣る可能性が示唆された。12ヵ月時点のCNS PFSは58.9%(95%CI:51.9~65.3)とこちらも良好な結果であった。安定した脳転移/活動性の脳転移の間で差は見られなかった。測定可能病変を有する症例における奏効率は64.1%(95%CI:57.5~70.8)、測定可能な脳転移を有する症例における奏効率は71.7%(95%CI:64.2~79.3)であった。OSは脳転移のある症例とない症例で差を認めなかった。この結果からT-DXdの脳転移に対する有効性は確立したものと言ってよいであろう。これまで(とくに活動性の)脳転移に対する治療は手術/放射線の局所治療が基本であったが、今後はT-DXdによる全身薬物療法が積極的な選択肢になりうる。 CAPItello-290試験カピバセルチブは、すでにPI3K-AKT経路の遺伝子変化を有するホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)転移乳がんに対して、フルベストラントとの併用において有効性が示され、実臨床下で使用されている。本試験は転移TNBCを対象として、1次治療としてパクリタキセルにカピバセルチブを併用することの有効性を検証した二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。818例の患者が登録され、主要評価項目は全体集団におけるOSならびにPIK3CA/AKT1/PTEN変異のある集団におけるOSであった。結果はそれぞれ17.7ヵ月(カピバセルチブ群)vs. 18.0ヵ月(プラセボ群)(HR:0.92、95%CI:0.78~1.08、p=0.3239)、20.4ヵ月vs. 20.4ヵ月(HR:1.05、95%CI:0.77~1.43、p=0.7602)であった。PFSはそれぞれ5.6ヵ月vs. 5.1ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.61~0.84)、7.5ヵ月vs. 5.6ヵ月(HR:0.70、95%CI:0.52~0.95)と、カピバセルチブ群で良好な傾向を認めた。奏効率もカピバセルチブ群で10%程度良好であった。しかしながら、主要評価項目を達成できなかったことで、IPATunity130試験(ipatasertibのTNBC1次治療における上乗せ効果を見た試験で、PFSを達成できなかった)と同様の結果となり、TNBCにおけるAKT阻害薬の開発は困難であることが再確認された。ICARUS-BREAST01試験本試験は抗HER3抗体であるpatritumabにderuxtecanを結合した抗体医薬複合体(ADC)であるpatritumab deruxtecan(HER3-ADC)の有効性をHR+/HER2-転移乳がんを対象に検討した第II相試験である。本試験はCDK4/6阻害薬、1ラインの化学療法歴があり、T-DXdによる治療歴のないHR+/HER2-転移乳がんを対象として行われた単アームの試験であり、主治医判定の奏効率が主要評価項目とされた。99例の患者が登録され、HER2ステータスは約40%で0であった。HER3の発現が測定され、約50%の症例で75%以上の染色が認められた。主要評価項目の奏効率は53.5%(95%CI:43.2~63.6)であり、内訳はCR:2%(0.2~7.1)、PR:51.5%(41.3~61.7)、SD:37.4%(27.8~47.7)、PD:7.1%(2.9~14.0)であった。SDを含めた臨床的有用率は62.6%(52.3~72.1)と、高い有効性を認めた。有害事象は倦怠感、悪心、下痢、好中球減少が10%以上でG3となり、それなりの毒性を認めた。探索的な項目でHER3の発現との相関が検討されたが、HER3の発現とHER3-DXdの有効性の間に相関は認められなかった。肺がん、乳がんでの開発が進められており、目の離せない薬剤の1つである。ERICA試験(WJOG14320B)最後に昭和大学先端がん治療研究所の酒井 瞳先生が発表した、T-DXdの悪心に対するオランザピンの有効性を証明した二重盲検化プラセボ対象第II相試験であるERICA試験を紹介する。T-DXdは悪心、嘔吐のコントロールに難渋することのある薬剤である(個人差が非常に大きいとは思うが…)。本試験では、5-HT3拮抗薬、デキサメタゾンをday1に投与し、オランザピン5mgまたはプラセボをday1から6まで投与するデザインとして、166例の患者が登録された。主要評価項目は遅発期(投与後24時間から120時間まで)におけるCR率(悪心・嘔吐ならびに制吐薬のレスキュー使用がない)とされた。両群で80%の症例が5-HT3拮抗薬としてパロノセトロンが使用され、残りはグラニセトロンが使用された。遅発期CR率はオランザピン70.0%、プラセボ56.1%で、その差は13.9%(95%CI:6.9~20.7、p=0.047)と、統計学的有意にオランザピン群で良好であった。有害事象として眠気、高血糖がオランザピン群で多かったが、G3以上は認めずコントロール可能と考えられる。制吐薬としてのオランザピンの使用はT-DXdの制吐療法における標準治療になったと言えるだろう。

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ESMO2024レポート 肺がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日にかけて、ESMO2024がスペインのバルセロナで開催された。肺がん領域でも多くの注目される内容が発表されたが、その中でもとくに現在や近未来の日常臨床に影響を与えそうなものについていくつか紹介したい。すでに報告されているpositive試験のアップデート内容がある一方で、期待された第III相試験のnegativeデータも複数報告されていたことも印象的であった。LBA48:CCTG BR.31試験試験概要BR.31試験は、完全切除された非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する補助療法としてのデュルバルマブの有効性と安全性を評価する第III相二重盲検プラセボ対照試験である。試験デザイン患者は完全切除後に原則プラチナベースの化学療法を受けた後、2:1の割合でデュルバルマブ(20mg/kgを4週ごとに1年間)またはプラセボの投与を受けた。PD-L1発現が25%以上の患者で、EGFRおよびALKの遺伝子変異を持たない患者での無病生存期間(DFS)が主要評価項目であり、副次評価項目として全生存期間(OS)、生活の質(QOL)、および安全性が評価された。結果PD-L1発現が25%以上の患者群では、デュルバルマブを投与された群とプラセボ群でDFSに有意な差は認められなかった。DFS中央値はデュルバルマブ群で69.9ヵ月、プラセボ群で60.2ヵ月であり、ハザード比は0.935(p=0.642)であった。また、安全性プロファイルは従来の知見と一致しており、重大な有害事象(Grade3/4)の発生率は23.5%であった。結論完全切除後のNSCLC患者に対して、デュルバルマブはDFSの延長に寄与しないことが示された。治療関連有害事象(TRAE)は発生したものの、全体的な安全性は許容範囲内とされた。コメント本試験は、本邦も西日本がん研究機構(WJOG)を介して参加したグローバル試験であり、その結果も注目されたが、結果はnegativeであり残念であった。NSCLCの術後補助療法では、これまでにアテゾリズマブやペムブロリズマブの良好な結果が示されていたが、それらとの結果の違いの原因については明らかではない。デュルバルマブについては後述の術前・術後にデュルバルマブを使用するAEGEAN試験は良好な結果であったため、やはり免疫療法は術後投与よりも術前投与のほうが有利であることが示唆された。LBA49:AEGEAN試験研究概要AEGEAN試験において、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)のクリアランスが術前治療中の病理学的効果および無イベント生存期間(EFS)に与える影響を評価することを目的とした。研究デザインこの研究では、手術可能なNSCLC患者(IIA~IIIB期)が対象となり、デュルバルマブ1,500mgとプラチナベースの化学療法を4サイクル行い、その後、12サイクルのデュルバルマブまたはプラセボを投与した。試験の探索的エンドポイントとして、ctDNAクリアランスと病理学的完全奏効(pCR)、EFSとの関連が評価された。結果ctDNAクリアランスが得られた患者では、pCR率が大幅に改善した。とくに、術前治療4サイクル後にctDNAがクリアされた患者では、EFSが有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.23、p<0.05)。また、ctDNAクリアランスが得られた患者の5年EFS率は73.4%に達し、予後良好な患者群であることが示された。結論手術可能なNSCLC患者において、術前のctDNAクリアランスはpCRおよびEFSの改善と強く関連しており、治療効果の早期予測指標として有望である。コメントAEGEANレジメンは本邦ではまだ承認されていないが、今後承認が期待されている。ctDNAクリアランスを含めた術前治療後の評価により高率にpCRを予測できるようになれば、術前療法のみで治癒し、手術を必要としない患者も将来的には予測できるようになるかもしれない。また、リキッドバイオプシーにより術後療法の必要性も判断できるようになることを期待したい。1208MO:NEJ034試験試験概要この第III相試験は、特発性肺線維症(IPF)を伴う肺がん患者に対する周術期ピルフェニドン療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。ピルフェニドンは抗線維化および抗炎症作用を持つ薬剤であり、術後の急性増悪を予防できるかどうかが検証された。試験デザイン患者は、周術期にピルフェニドンを4週間投与された群と投与されなかった群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、術後30日以内に発生した急性増悪の割合であった。結果ピルフェニドン群で急性増悪の発生率は6.1%、対照群では10.3%と報告されたが、この差は統計学的に有意ではなかった(p=0.339)。ピルフェニドンの投与が急性増悪の予防に明確な効果を示すことはできなかった。結論日本人患者を対象としたこの試験では、ピルフェニドンが術後の急性増悪を防ぐ効果は示されなかった。コメント本邦における肺がん手術では手術関連死はほとんどなく、世界的にもきわめて良好であるが、間質性肺炎合併肺がん患者においては術後急性増悪が発生するとその致死率は約50%とされているため、本試験の結果は注目されていた。結果はnegativeであり残念であった。間質性肺炎合併肺がん患者に対する、より安全な治療法の開発が期待される。1243MO:JCOG1914試験試験概要この第III相試験は、切除不能な局所進行NSCLCを有する高齢者(75歳以上)に対する週1回のカルボプラチン(CBDCA)+nab-パクリタキセル(nab-PTX)療法と毎日の低用量CBDCA療法を比較したものである。試験デザイン患者はCBDCA+nab-PTXまたは低用量CBDCAを放射線療法と併用して投与された。化学放射線療法(CRT)後はデュルバルマブによる維持療法が推奨された。主要評価項目はOSであり、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、奏効率、患者報告アウトカム(PROs)、および安全性が評価された。結果PFSの結果では、1年PFS率はCBDCA+nab-PTX群で55.5%、低用量CBDCA群で59.0%と報告され、OSに関してもCBDCA+nab-PTX群で79.6%、低用量CBDCA群で87.3%であり、ともに有意差は確認されなかった。TRAE(Grade3/4)は両群ともに比較的多く報告され、CBDCA+nab-PTX群での治療関連死も観察された。結論高齢の日本人患者において、CBDCA+nab-PTX療法は、低用量CBDCA療法に対して優位性を示さなかった。コメント本試験は中間解析の結果、将来的にもCBDCA+nab-PTX群のOSでの優越性が示される可能性はきわめて低いと判断され、無効中止となった。本邦においては、高齢者に対するcCRTにおいて標準的な化学療法レジメンは引き続き低用量CBDCAということになる。LBA54:MARIPOSA-2試験試験概要この第III相試験は、EGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者において、オシメルチニブ治療後のアミバンタマブ+化学療法併用に与える影響を評価することを目的としており、今回はアップデートされたOSが発表された。試験デザイン患者は、アミバンタマブ+化学療法、または化学療法単独の群に無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目としてOS、治療後の症状進行までの時間(TTSP)、治療中断までの時間(TTD)、および安全性が評価された。結果2回目の中間解析では、アミバンタマブ+化学療法併用群は化学療法単独群と比較してOSの延長傾向が示された(HR:0.73)。また、TTSPやTTDの観点からもアミバンタマブ併用群のほうが優れており、副作用プロファイルは既存のデータと一致していた。結論オシメルチニブ治療後の進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対して、アミバンタマブ+化学療法は全体的な生存率を改善し、今後の標準治療の1つとなる可能性がある。コメントMARIPOSA-2試験におけるアミバンタマブ+化学療法併用群と化学療法単独群の比較について報告された。2回目の中間解析でOSの延長傾向が報告された。オシメルチニブ治療後増悪時の治療選択は課題であり、本レジメンの本邦での承認が期待される。LBA55:MARIPOSA試験(抵抗性メカニズムの解析)研究概要この試験は、進行NSCLC患者に対する1次治療としてのアミバンタマブ+lazertinibの併用療法と、オシメルチニブ単独療法における獲得抵抗性メカニズムを比較することを目的としている。試験デザインEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC患者を対象に、アミバンタマブ+lazertinib群(429例)とオシメルチニブ群(429例)で比較した。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目としてOS、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、および安全性が評価された。結果ctDNAを用いたGuardant360 CDx がん遺伝子パネルにより、アミバンタマブ+lazertinib群とオシメルチニブ群では抵抗性メカニズムの違いが明らかになった。とくに、MET増幅がオシメルチニブ群では9.3%の患者に認められたのに対し、アミバンタマブ+lazertinib群では1.8%と低かったことが確認された。さらに、EGFRの二次性耐性変異発生率も、アミバンタマブ+lazertinib群のほうが低かったことが報告された。結論EGFR変異を有する進行NSCLC患者において、アミバンタマブ+lazertinibはオシメルチニブと比較して、EGFRおよびMETに関連した耐性メカニズムの発生率を有意に低下させた。コメントアミバンタマブの作用機序として期待通りの結果である。とくに、治療前と治療終了時のctDNAの比較により獲得耐性メカニズムを研究した点は興味深い。アミバンタマブ+lazertinib療法も本邦での承認が期待されている。LLBA81:ADRIATIC試験研究概要ADRIATIC試験は、限局型小細胞肺がん(LS-SCLC)患者を対象に、デュルバルマブ療法の有効性を評価したものである。とくに、cCRTの使用レジメンおよび予防的頭蓋照射(PCI)の影響に焦点を当てた。試験デザイン限局型SCLC患者において、cCRT後にデュルバルマブを投与した群と標準治療を比較した。PCIの使用も含めて、治療後のOSおよびPFSに与える影響が検討された。結果デュルバルマブ併用療法は、cCRT後の生存率を改善することが示されたが、PCIの有無やcCRTの内容にかかわらず、その効果は持続した。TRAE(Grade3/4)は両群で同様に発生し、安全性において大きな差は認められなかった。結論限局型SCLC患者に対するデュルバルマブ併用療法は、標準治療に比べて統計学的に有意な生存利益をもたらした。とくに、PCIの使用にかかわらず良好な結果が示されており、今後の標準治療として採用される可能性がある。コメント現在、限局型SCLCに対して免疫チェックポイント阻害薬は本邦では承認されていないが、ADRIATIC試験の結果により本邦での承認も期待される。今回の内容は限局型SCLCに対する本レジメンの標準的な使用をサポートすることになると考えられる。

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切除可能NSCLC、周術期ペムブロリズマブの追加が有効(KEYNOTE-671)/Lancet

 未治療の切除可能な早期非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、術前化学療法単独と比較し、術前ペムブロリズマブ+化学療法と術後ペムブロリズマブ療法を行う周術期アプローチは、3年全生存率が有意に優れ、無イベント生存期間が延長し、安全性プロファイルも良好であることが、カナダ・マギル大学ヘルスセンターのJonathan D. Spicer氏らが実施した「KEYNOTE-671試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月28日号で報告された。国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 KEYNOTE-671試験は、日本を含む世界189施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年5月~2021年12月に参加者の無作為化を行った(Merck Sharp & Dohmeの助成を受けた)。 年齢18歳以上、未治療の切除可能なStageII、IIIA、IIIB(N2)のNSCLCで、全身状態はECOG PSが0または1の患者を対象とした。 術前にペムブロリズマブ(200mg、3週ごとに静脈内投与)+シスプラチンベースの化学療法を4サイクル行った後に手術を施行し、術後ペムブロリズマブ(200mg、3週ごとに静脈内投与)療法を13サイクル行う群(ペムブロリズマブ群)、または術前にプラセボ(3週ごとに静脈内投与)+シスプラチンベースの化学療法を4サイクル行った後に手術を施行し、術後にプラセボ(3週ごとに静脈内投与)を13サイクル投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は2つで、ITT集団における全生存期間(無作為化から全死因による死亡までの期間)および無イベント生存期間(無作為化から、予定された手術を不可能にする局所進行、手術時の切除不能腫瘍の存在、RECIST version 1.1に基づく担当医評価の病勢進行または再発、全死因死亡、いずれかが最初に発生するまでの期間)とした。全生存期間中央値は未到達 797例を登録し、ペムブロリズマブ群に397例(年齢中央値63歳、女性118例[30%]、東アジア人123例[31%])、プラセボ群に400例(64歳、116例[29%]、121例[30%])を割り付けた。2回目の中間解析時の追跡期間中央値は36.6ヵ月だった。 Kaplan-Meier法による36ヵ月全生存率は、プラセボ群が64%であったのに対し、ペムブロリズマブ群は71%と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.93、p=0.0052[片側])。全生存期間中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達であり、プラセボ群では52.4ヵ月であった。 また、無イベント生存期間中央値は、プラセボ群の18.3ヵ月に比べ、ペムブロリズマブ群では47.2ヵ月と延長した(HR:0.59、95%CI:0.48~0.72)。新たな安全性シグナルの出現はない as-treated集団の解析では、治療関連有害事象はペムブロリズマブ群で97%(383/396例)、プラセボ群で95%(381/399例)に認めた。Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で45%(179例)、プラセボ群で38%(151例)に、重篤な治療関連有害事象はそれぞれ18%(73例)および15%(58例)に発現した。 ペムブロリズマブ群では、死亡に至った治療関連有害事象が1%(4例)(心房細動、免疫介在性肺疾患、肺炎、心臓突然死、各1例)、すべての治療の中止に至った治療関連有害事象が14%(54例)で発生した。免疫介在性有害事象およびインフュージョンリアクションは、ペムブロリズマブ群で26%(103例)にみられた。 著者は、「周術期ペムブロリズマブの効果に関する有益性は、健康関連QOLの長期的な低下を伴わず、新たな安全性シグナルは出現しなかったことである」とし、「これらの知見は、切除可能なStageII~IIIB(N2)NSCLCに対する術前化学療法への周術期ペムブロリズマブの追加は、標準治療の選択肢となる可能性があることを支持するものである」と述べている。

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肺がん診療のリアル

肺がん診療の現在(リアル)がわかる! 肺がん診療が面白くなる!!呼吸器専門医・がん治療認定医である経験豊富な著者が実際に肺がん患者さんに対して行っている診療を1冊の書籍にまとめました。本書は著者が発信している肺がん患者さん向けのYouTube『呼吸器ドクターNの肺がんチャンネル』とも連動しており、QRコードで関連動画に簡単にアクセスできます。本書とあわせて動画をご視聴いただくと、肺がん診療についてさらに理解を深めていただくことができるはずです。本書を通じて肺がん診療のリアルを感じてください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する肺がん診療のリアル定価4,950円(税込)判型A5判頁数250頁発行2024年10月著者野口 哲男(市立長浜病院呼吸器内科/呼吸器ドクターN)ご購入はこちらご購入はこちら

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短くなる在院日数、緩和ケア病棟の役割はどう変わる?【非専門医のための緩和ケアTips】第85回

短くなる在院日数、緩和ケア病棟の役割はどう変わる?緩和ケア病棟の診療報酬体系ってご存知でしょうか? 実は在院日数によって、点数が大きく変わります。今回は医療政策や診療報酬改定で、緩和ケア病棟での緩和ケアがどう変わっていくかを考えてみたいと思います。今回の質問私の外来に通院中のがん患者さん、知人から緩和ケア病棟のことを聞いたそうで、紹介してほしいと相談がありました。ご本人は緩和ケア病棟について非常によく理解されていたのですが、近隣の緩和ケア病棟に連絡したら、「入院して1ヵ月以内には退院してもらいます」と言われました。「ついのすみか」のイメージで緩和ケア病棟を捉えていたので、私も患者さんも少しびっくりというか、がっかりしてしまいました。なぜ、このようなことになっているのでしょうか?ご質問ありがとうございます。これは2012年の診療報酬改定より、入院期間によって診療報酬が変わるようになったことが大きく影響しています。大枠としては、入院期間が短期であるほど病院の収益は大きく、長期入院は減収につながりやすい、という扱いです。そして、現在までその傾向はより強くなっています。具体的には次の表をご覧ください。画像を拡大する入院後、30日以内、31~60日、61日以上と段階的に診療報酬点数が低くなっていきます。緩和ケア病棟入院料1と2は入院待機期間などの条件が設定されており、より重篤な患者の入院に早く対応できる施設であれば緩和ケア病棟入院料1を算定できます。さて、この前提のうえで皆さんに考えてほしいのですが、このような診療報酬体系によって緩和ケア病棟の運営はどのような影響を受けるのでしょうか? 緩和ケアでも診療報酬に基づいた収益を基に、職員に給料を支払いながら組織の持続性を高めたり、より良い医療を提供できるように設備や教育投資をしたりしていく必要があります。必然的に、緩和ケア病棟の在院日数を短くする力学が働きます。かつては緩和ケア病棟というと、「ついのすみか」として何ヵ月も入院しているような患者さんが多くいました。生活の場としての機能を提供しながら、病状や症状の変化に合わせて支援を行っていました。ですが、こうした光景は診療報酬の改定に合わせ、全国の緩和ケア病棟から消え去ってしまいました。私の見聞きする範囲では、多くの緩和ケア病棟では入院時に「症状が落ち着いたら、転院するか自宅に退院していただいています。入院期間の目安は1ヵ月です」といった説明を行っているようです。この状況に対しては、立場によってさまざまな意見があります。経営に近い目線からは、緩和ケア病棟もほかの急性期病棟同様に入院しては退院していくスピード感のあるベッドコントロールが求められます。ただ、緩和ケアを実践したい医療者の中には、もう少しゆっくりとした時間軸でケアを提供したいと考えている人も多くいます。患者さんや家族としても、緩和ケア病棟に入院してやっと症状が和らいで穏やかに過ごせている状況で、退院の話が出てくるわけです。「せわしない、落ち着かない…」といった感想を持たれるのも当然です。一方で、医療政策や地域包括ケアという文脈からは、「入院施設は生活の場ではない」ことが基本です。入院しないとできない医学的介入が必要なくなり、在宅でも対応可能な状態となったら退院する、という流れも当然といえば当然です。皆さんはどのように考えますか?私自身は、個別には緩和ケア病棟に長期入院する必要のある患者さんもいると思う半面、基本的には「入院病棟は生活の場としての機能を提供することが難しい」ことを患者さん、ご家族に共有し、丁寧に退院支援に取り組むことが重要だと考えています。今回のTips今回のTips在院日数が短くなっている緩和ケア病棟、今後も役割の変化が予想されます。

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EGFR陽性NSCLC、CRT後のオシメルチニブの安全性プロファイル(LAURA)/WCLC2024

 切除不能なEGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)における化学放射線療法(CRT)後オシメルチニブを評価する第III相LAURA試験の安全性解析が、世界肺がん学会(WCLC2024)で神奈川県立がんセンターの加藤 晃史氏から報告された。・対象:切除不能なStageIIIのEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者(CRT後に病勢進行なし)216例・試験群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ(80mg、1日1回)を病勢進行または許容できない毒性、中止基準への合致のいずれかが認められるまで 143例・対照群(プラセボ群):プラセボ 73例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・曝露期間中央値はオシメルチニブ群24.0ヵ月、プラセボ群8.3ヵ月と両群で差があった。・全Gradeの有害事象(AE)発現はオシメルチニブ群98%、プラセボ群88%であった。・頻度の高いAEは放射線肺臓炎(CRT治療患者)、下痢および皮疹(オシメルチニブ治療患者)であった。・Grade≧3のAE発現はオシメルチニブ群は35%、プラセボ群は12%だったが、曝露期間で調整するとオシメルチニブ群17.7/100人・年、プラセボ群12.6/100人・年であった。・放射線肺臓炎の発現はオシメルチニブ群48%、プラセボ群38%であった。Grade≧3の発現はそれぞれ2%と0%で、ほとんどがGrade≦2であった。また、オシメルチニブ群、プラセボ群とも96%がアジア人であった。・同試験の毒性管理ガイドラインに準じた放射線肺臓炎による投与中止はオシメルチニブ群10%、プラセボ群7%であった。・間質性肺疾患(ILD)の発現はオシメルチニブ群8%、プラセボ群1%であった。 これらの結果から、加藤氏は根治的CRT後のオシメルチニブ療法を切除不能なStageIIIのEGFR変異NSCLCに対する新たなスタンダードとして支持するものだとしている。

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ALK陽性肺がん5年PFS中央値未達のロルラチニブ、アジア人に対する成績(CROWN)/ESMO2024

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした第III相「CROWN試験」の5年フォローアップ1)におけるアジア人サブグループ解析の結果、全体集団と同じくロルラチニブが無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、頭蓋内病変の進行も抑えることが示された。中国・Guangdong Lung Cancer InstituteのYi-Long Wu氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IVのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者(無症状の中枢神経系[CNS]転移は許容)・試験群:ロルラチニブ(100mg/日)・対照群:クリゾチニブ(250mg×2/日)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、頭蓋内奏効率(IC-ORR)、奏効期間(DOR)、頭蓋内奏効期間(IC-DOR)、頭蓋内病変進行までの期間(IC-TTP)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体集団296例のうち、120例(日本48例、中国48例、韓国21例、その他3例)がアジア人サブグループとして解析された。試験群は59例(年齢中央値:61歳[範囲:49~70])、対照群は61例(55歳[47~66])であった。ベースライン時に脳転移を認めたのは、試験群で13例、対照群で16例であった。・データカットオフ時点(2023年10月31日)で、治験担当医師評価によるPFS中央値は試験群未到達、対照群9.2ヵ月であり(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.13~0.37)、5年PFS率は試験群63%、対照群7%であった。・試験群ではEML4-ALKのバリアントサブタイプ(バリアント1または3)やTP53変異の有無にかかわらず、PFS中央値は未到達であった。・ORRは試験群81.4%、対照群59.0%で、ベースライン時に脳転移を認めた集団のIC-ORRは試験群69.2%、対照群6.3%であった。・IC-TTP中央値は試験群未到達、対照群14.6ヵ月であった(HR:0.01、95%CI:<0.01~0.1)。・試験群におけるGrade3/4の有害事象(AE)は81.4%に発現し、その内訳は高トリグリセライド血症(33.9%)、高コレステロール血症(22.0%)、体重増加(22.0%)などであった。・試験群における中枢神経系・精神系のAEとして、認知障害(25.4%)、気分障害(11.9%)などが認められた。・AEにより投与中止に至った割合は試験群で5.1%、対照群で8.3%であった。 Wu氏は、今回の結果をCROWN試験の全体集団の結果と一致しているとしたうえで「ALK陽性NSCLCのアジア人患者に対し、1次治療としてロルラチニブを用いることを支持するデータである」とまとめた。

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末梢動脈疾患でがんリスク増、とくに注意すべき患者は?

 下肢末梢動脈疾患(PAD)に関連したがんリスクの増加が報告されているが、喫煙などの重要な交絡因子が考慮されておらず、追跡期間も10年未満と短い。今回、米国・ジョンズ・ホプキンス大学/久留米大学の野原 正一郎氏らは、ARIC(atherosclerosis risk in communities)研究の参加者を対象に、長期にわたってPADとがん発症の独立した関連を検討した。その結果、症候性PAD・無症候性PADとも交絡因子調整後もがんリスクと有意に関連し、とくに喫煙経験者ではがんリスクが1.4倍、肺がんリスクは2倍以上だった。International Journal of Cardiology誌オンライン版2024年9月19日号に掲載。 本試験では、ARIC研究の参加者のうち、ベースライン時にがんではなかった1万3,106例(平均年齢:54.0歳、男性:45.7%、黒人:26.1%)を、症候性PAD(臨床歴もしくは間欠性跛行)、無症候性PAD(足関節上腕血圧比[ABI]≦0.9)、ABIによる5つのカテゴリー(0.9~1.0、1.0~1.1、1.1~1.2、1.2~1.3、1.3<)に分類した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値25.3年の間に4,143例でがんを発症した。・25年間の累積がん発症率は症候性PADで37.2%、無症候性PADで32.3%、その他のカテゴリーで28.0~31.0%であった。・症候性PAD(ハザード比[HR]:1.42、95%信頼区間[CI]:1.05~1.92)および無症候性PAD(HR:1.24、95%CI:1.05~1.46)は、喫煙や糖尿病などの潜在的交絡因子調整後も、がんリスクと有意に関連していた。・喫煙の有無別にみると、喫煙経験者ではPAD(症候性および無症候性)はPADなしに比べてがんリスクと強い関連(HR:1.42、95%CI:1.21~1.67)がみられた一方、喫煙未経験者ではみられなかった。この結果は肺がんにおいて最も顕著であった(HR:2.16、95%CI:1.65~2.83)。 著者らは「PAD患者はエビデンスに基づいたがん予防とスクリーニングを受けるべき」と述べている。

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高齢NSCLCへのICI、化学療法の併用を検討すべき集団は?(NEJ057)/ESMO2024

 75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法はICI単剤と比較して、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を改善せず、Grade3以上の免疫関連有害事象の発現を増加させたことが報告されている1)。本研究の詳細な解析が実施され、PD-L1低発現(TPS 1~49%)かつ肺免疫予後指標(LIPI:Lung Immune Prognostic Index)が中間/不良の集団では、ICI+化学療法がICI単剤と比較してPFSとOSを改善したことが報告された。本庄 統氏(札幌南三条病院 呼吸器内科)が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)において本研究結果を発表した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで治療を開始した1,245例(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:OS、PFS、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したPD-L1陽性(TPS≧1%)のNSCLC患者をPD-L1高発現(TPS≧50%)、PD-L1低発現(TPS 1~49%)に分けて解析した。また、対象患者をLIPI良好(好中球/リンパ球比[NLR]≦3かつLDHが基準値上限以下)、中間(NLR>3またはLDHが基準値上限超)、不良(NLR>3かつLDHが基準値上限超)に分類した。 今回報告された主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(600例)の内訳は、PD-L1高発現61%(364例)、PD-L1低発現39%(236例)であり、LIPI良好40%(238例)、LIPI中間/不良60%(362例)であった。・PD-L1低発現かつLIPI中間/不良の集団において、OS中央値はICI+化学療法群18.3ヵ月、ICI単剤群8.6ヵ月であり、ICI+化学療法群がOSを改善した(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)。・PD-L1低発現かつLIPI中間/不良の集団において、PFS中央値はICI+化学療法群7.8ヵ月、ICI単剤群3.3ヵ月であり、ICI+化学療法群がPFSも改善した(HR:0.56、95%CI:0.39~0.81)。・PD-L1低発現かつLIPI良好の集団では、ICI+化学療法群のOS(HR:1.66、95%CI:0.82~3.36)、PFS(同:1.18、0.71~1.95)の改善は認められなかった。・PD-L1高発現の集団では、LIPIによるICI+化学療法群とICI単剤群のPFS、OSの違いはみられなかった。 本研究結果について、本庄氏らの研究グループは「高齢のNSCLC患者へのICI治療において、化学療法の併用のベネフィットが得られる患者の特定にLIPIが有用である可能性が示唆された」とまとめた。

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EGFR exon19挿入変異NSCLCへのEGFR-TKI、第1~3世代の効果は?/WCLC2024

 EGFR遺伝子exon19挿入変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、第2世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が有効であることが示唆された。EGFR-TKIの登場により、主要なEGFR遺伝子変異(exon21 L858R、exon19欠失変異)を有するNSCLC患者の予後は改善している。しかし、uncommon変異を有するNSCLC患者に対するEGFR-TKIの有効性はさまざまであり、希少変異であるexon19挿入変異に対する有効性は明らかになっていなかった。そこで、上原 悠治氏、泉 大樹氏(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)らの研究グループは、遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」において、NSCLC患者のEGFR遺伝子exon19挿入変異の発現割合およびEGFR-TKIの有効性を検討した。本研究結果は、2024年9月7~10日に米国・サンディエゴで開催された世界肺がん学会(WCLC2024)において発表された。 研究グループは、遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」の対象となったNSCLC患者1万6,204例について、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析によりEGFR遺伝子exon19挿入変異を有する割合を調べた。また、EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者の共変異の割合も検討した。さらに、EGFR遺伝子exon19挿入変異(K745_E746insIPVAIK)またはexon19欠失変異(E746_A750)を導入したEGFR分子を発現するBa/F3細胞モデルを用いて、EGFR-TKIへの感受性を検討した。また、AlphaFoldとOpenFoldを用いた立体構造予測により、EGFR exon19挿入変異体とEGFR-TKIとの結合状態を予測した。最後に、EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者における第1~3世代EGFR-TKIの臨床的有効性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析が可能であった1万5,226例中3,269例(21%)にEGFR遺伝子変異が認められ、そのうちexon19挿入変異が認められた患者は13例であった(0.1%)。EGFR遺伝子exon19挿入変異の内訳は、K745_E746insIPVAIKが12例、 K745_E746insVPVAIKが1例であった。・主要なEGFR遺伝子変異を有するNSCLC患者とEGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者の背景には違いがみられなかった。・EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者における主な共変異は、TP53遺伝子変異(62%)、EGFR遺伝子増幅(15%)、CDKN2B遺伝子増幅(8%)、PIK3CA遺伝子変異(8%)、FGFR遺伝子変異(8%)であった。・Ba/F3細胞モデルを用いた解析では、EGFR遺伝子exon19挿入変異(K745_E746insIPVAIK)を導入したEGFR分子を発現する細胞株のEGFR-TKIに対する感受性は、第2世代EGFR-TKIが最も高かった(IC50の範囲:0.57~0.95pM)。第1世代EGFR-TKI、第3世代EGFR-TKI、EGFR exon20挿入変異体への活性を示すEGFR-TKIのIC50は、それぞれ61~158nM、13.8nM、1.78~21.3nMであった。・立体構造予測においても、第2世代EGFR-TKIのアファチニブがEGFR exon19挿入変異体のcavityに入り込み、結合すると予測された。・EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者13例中12例がEGFR-TKIによる治療を受けた。無増悪生存期間(PFS)中央値は7.2ヵ月(95%信頼区間:6.0~推定不能)、全生存期間(OS)中央値は20.1ヵ月(同:16.3~推定不能)であった。・細胞株と立体構造予測の知見に基づいて、EGFR-TKIの世代別に抗腫瘍効果を比較したところ、第2世代EGFR-TKIが最も高い奏効割合を示した。【PFS中央値】 第1世代(2例):8.7ヵ月 第2世代(5例):14.7ヵ月 第3世代(5例):4.4ヵ月【OS中央値】 第1世代(2例):25.5ヵ月 第2世代(5例):未到達 第3世代(5例):15.9ヵ月【奏効】 第1世代(2例):PR 1例、SD 1例 第2世代(5例):PR 4例、SD 1例 第3世代(5例):SD 3例、PD 2例 以上の結果について、研究グループは「細胞株、立体構造予測、大規模臨床データベースのすべての結果が一致し、EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者に対して、第2世代EGFR-TKIが最も有効であることが示唆された」とまとめた。

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