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1.ソトラシブの承認(CodeBreaK 100試験とCodeBreaK 200試験)KRAS遺伝子変異陽性は、EGFR遺伝子変異に次いで本邦では多い遺伝子変異である。このKRAS遺伝子変異のうち、KRAS G12C遺伝子変異陽性を対象としたソトラシブが2次療法以降での使用で日常臨床に導入された。ソトラシブの重要な試験としては、KRAS G12C遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(126例)を対象としたPhase II試験(CodeBreaK 100試験:Skoulidis F, et al. N Engl J Med. 2021;384:2371-2381.)において、奏効率37.1%、無増悪生存期間(PFS)中央値6.8ヵ月、全生存期間(OS)中央値12.5ヵ月であり、毒性も下痢・悪心・倦怠感・肝障害を認めるものの比較的軽度であった。また、ソトラシブとドセタキセルを比較したPhase III試験(CodeBreaK 200試験:Johnson ML, et al. ESMO 2022.)も報告され、PFS中央値はソトラシブ群が5.6ヵ月、ドセタキセル群が4.5ヵ月で、ハザード比(HR)は0.66(95%信頼区間[CI]:0.51~0.86)であった。奏効率はソトラシブ群が28.1%、ドセタキセル群が13.2%でp<0.001とソトラシブ群が有意に高かった。また、OS中央値はソトラシブ群が10.6ヵ月、ドセタキセル群が11.3ヵ月でHRは1.01(95%CI:0.77~1.33)で有意差は認めなかった(クロスオーバー率26.4%)。2.術前化学療法:ニボルマブ・プラチナ併用療法(CheckMate-816試験)本年度のトピックは周術期治療が中心であったと思われるが、切除可能非小細胞肺がん(腫瘍径≧4cmまたはリンパ節転移陽性)に対するニボルマブ・プラチナ併用療法(3週間ごとに3サイクル)のネオアジュバント療法については、CheckMate-816試験(Forde PM, et al. N Engl J Med. 2022;386:1973-1985.)が報告されている。この試験は、ニボルマブ・プラチナ併用療法とプラチナ併用療法の術前化学療法を比較するPhase III試験で行われ、中間解析におけるイベントフリー生存期間(EFS)中央値は、ニボルマブ・プラチナ併用療法群で31.6ヵ月、プラチナ併用療法群では20.8ヵ月で、ニボルマブ・プラチナ併用療法群で有意に改善した(HR:0.63、97.38%CI:0.43〜0.91、p=0.005)。また、病理学的complete response(pCR)はニボルマブ・プラチナ併用療法群の24%に対し、プラチナ併用療法群は2.2%であった(p<0.0001)。OSのHRは0.57(99.67%CI:0.3〜1.07)とニボルマブ・プラチナ併用療法群で良好だが統計学的有意差は示しておらず、長期フォローアップの結果が待たれるところである。3.術後化学療法:アテゾリズマブ(IMPower010試験)完全切除されたIB-IIIA期(TMS分類第7版)の非小細胞肺がん患者を対象とし、プラチナ併用療法による術後化学療法終了後のアテゾリズマブ療法(3週間ごと、1年投与)が日常臨床に導入された。術後化学療法アテゾリズマブの重要な試験として、完全切除されたIB-IIIA期(TMS分類第7版)の非小細胞肺がん患者を対象とし、アテゾリズマブを支持療法と比較したPhase III試験(IMPower010試験:Felip E, et al. Lancet. 2021;398:1344-1357.)が報告された。その結果、PD-L1陽性のII-IIIA期(882例)における無再発生存期間(DFS)中央値は、アテゾリズマブ群で未到達、支持療法群で35.3ヵ月であり、HRは0.66(95%CI:0.50~0.88)と統計学的に有意に改善した。なお、DFSのHRは、PD-L1 50%以上では0.43(95%CI:0.27~0.68)と良好であったのに対して、PD-L1 1-49%では0.87(95%CI:0.6~1.26)であり、PD-L1の発現で効果が異なる傾向が示された。さらに、先日のWCLC 2022(Felip E, et al. WCLC 2022.)では、フォローアップ期間延長の結果が示され、36ヵ月時点での生存率はそれぞれ82.1%と78.9%であった(HR:0.71、95%CI:0.49~1.03)。4.術後化学療法:オシメルチニブ(ADAURA試験)完全切除されたIB-IIIA期(TMS分類第7版)に対するEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象とし、3年間のオシメルチニブ療法(1日80mg[1錠])が日常臨床に導入された。術後化学療法オシメルチニブの重要な試験として、完全切除されたIB-IIIA期(TMS分類第7版)に対するEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象とし、オシメルチニブをプラセボと比較したPhase III試験(ADAURA試験:Wu YL, et al. N Engl J Med. 2020;383:1711-1723.)(682例)が報告され、EGFR遺伝子変異陽性のII-IIIA期における24ヵ月時点での無再発生存率は、オシメルチニブ群で90%、プラセボ群で44%、HRは0.17(99.06%CI:0.11~0.26)と統計学的に有意に大きく改善した。なお、EGFR遺伝子変異陽性のIB-IIIA期における24ヵ月時点での無再発生存率は、オシメルチニブ群で89%、プラセボ群で52%であり、HRは0.20(99.12%CI:0.14~0.30)で、統計学的に有意に改善した。さらに、先日のESMO 2022(Tsuboi M, et al. ESMO 2022.)では、フォローアップ期間延長の結果が示され、Stage II/IIIAのDFS中央値は、オシメルチニブ群65.8ヵ月、プラセボ群21.9ヵ月で、HRは0.23(95%CI:0.18〜0.30)であった。また、Stage IB-IIIAのDFS中央値はオシメルチニブ群65.8ヵ月、プラセボ群28.1ヵ月で、HRは0.27(95%CI:0.21〜0.34)であった。5.外科の切除 肺葉切除vs.肺区域切除2cm以内の小細胞はいがんにおける肺区域切除と肺葉切除を比較したPhase III試験(JCOG0802/WJOG4607L: Saji H, et al. Lancet 2022:399:1607-1617.)が報告された。登録患者は、無作為割り付けの後、肺葉切除術(554例)または肺区域切除術(552例)(肺区域切除術群では、22例が肺葉切除に変更)が施行されている。5年全生存率は肺区域切除術群で94.3%、肺葉切除術群で91.1%であり、HRは0.663(95%CI:0.474~0.927、非劣性p<0.0001、優位性p=0.0082)と肺区域切除術群が統計学的に有意に良好であった。また、5年無再発生存率は肺区域切除術群で88.0%、肺葉切除術群で87.9%であり、HRは0.998(95%CI:0.753~1.323、p=0.9889)であった。局所再発率は肺区域切除術群で10.5%、肺葉切除術群で5.4%(p=0.0018)であり、肺区域切除術群で高いものの、術後呼吸機能低下については肺区域切除術群のほうが肺葉切除術群より有意に軽いことが報告され、条件がそろった場合の縮小手術の有用性が証明された。6.HER2陽性非小細胞肺がんのトラスツズマブ デルクステカン(ADC)トラスツズマブ デルクステカンは、抗体にトラスツズマブ、薬物がデルクステカンで構成されている。HER2陽性非小細胞肺がんにおけるトラスツズマブ デルクステカンの有効性と安全性を確認したPhase II試験(DESTINY-Lung01試験:Li BT, et al. N Engl J Med. 2022;386:241-251.)が報告された。非小細胞肺がんでは初となる免疫薬物複合体(ADC)の有効性を示した報告である。91例の患者が参加しており、奏効率55%(95%CI:44~65)で、病勢コントロール率は92%(95%CI:85~97)であった。また、治療奏効期間は9.3ヵ月(95%CI:5.7~14.7)、PFS中央値は8.2ヵ月(95%CI:6.0~11.9)、OS中央値は17.8ヵ月(95%CI:13.8~22.1)であった。主な毒性は血液毒性であったが、死亡例も含む肺障害も報告されている。今後、日常臨床への導入が進むと思われるが、毒性にも注意を払う必要があるといえる。7.ICI+Chemo、ICI+ICIの5年生存の発表PD-L1 50%以上のペムブロリズマブの5年生存率が31.9%と報告(Reck M, et al. J Clin Oncol. 2021;39:2339-2349.)され、ドライバー遺伝子変異陰性非小細胞肺がんでも長期生存の期待が高まってきている中、今年はESMO 2022において、扁平上皮がんのPhase III試験であるKEYNOTE-407試験の5年生存率(Nivello S, et al. ESMO2022.)と非扁平上皮がんのPhase III試験であるKEYNOTE-189試験の5年生存率(Garassino MC, et al. ESMO2022.)が報告された。5年生存率は、PD-L1の発現に関わらない全体集団において、KEYNOTE-407試験ではペムブロリズマブ・プラチナ併用療法群で18.4%、KEYNOTE-189試験ではペムブロリズマブ・プラチナ併用療法群で19.4%であった。さらにPD-L1 50%以上、PD-L1 1-49%、PD-L1陰性におけるペムブロリズマブ・プラチナ併用療法群の5年生存率は、KEYNOTE-407試験では、それぞれ23.3%、20.6%、10.7%であり、KEYNOTE-189試験では、それぞれ29.6%、19.8%、9.6%であった。プラチナ併用療法は短期の病勢増悪を防ぐという意味では重要であるが、長期生存への寄与という点では十分でないのかもしれない結果であった。また、同時期にニボルマブ+イピリムマブ療法の5年生存の結果も報告された(Brahmer JR, et al. J Clin Oncol. 2022 Oct 12. [Epub ahead of print])。同試験ではPD-L1陽性の5年生存率は24%であり、その中でもPD-L1 50%以上の5年生存率は32%、PD-L1 1-49%の5年生存率は16%であった。それに対して、PD-L1陰性の5年生存率は19%であった。長期生存の観点からは、ニボルマブ+イピリムマブ療法はPD-L1陰性では良好な生存率を示したのに対し、PD-L1陽性ではイピリムマブの上乗せ効果が限定的である可能性が示されており、イピリムマブの効果を予測するバイオマーカーの開発が待たれるところである。免疫チェックポイント阻害薬の日常臨床導入により、一般臨床においても、ドライバー遺伝子変異陰性非小細胞肺がんでも長期生存が期待できるようになりつつあることは、意義が大きいことである。