サイト内検索|page:3

検索結果 合計:68件 表示位置:41 - 60

41.

素因遺伝子パネルと膵がんリスクの関連(解説:上村直実氏)-886

 わが国の死因順位をみると悪性新生物による割合が増加し続けているが、最近、肝炎ウイルスやピロリ菌による感染を基盤に発症することが判明した肝臓がんや胃がんによる死亡者数が激減しており、さらに、増加し続けてきた肺がんと大腸がんによる死亡者数もついに低下してきた。このような状況の中、毎年のように死亡者数が増加しているのが膵がんである。 膵がんは、発見された際に手術可能な症例が約30%であり、5年生存率も10%以下で予後の悪いがんの代表とされており、早期に発見できる方法が世界中で模索されている。今回、血液で測定可能ながん素因遺伝子パネルを用いて膵がんリスクを検討した研究結果がJAMA誌に掲載された。 3,030例の膵がん症例と対照5万3,105症例を対象として、素因遺伝子の生殖細胞系列変異の頻度を比較した結果、対照と比較して膵がんと関連すると考えられる6つの素因遺伝子変異(Smad4、p53、ATM、BRCA1、BRCA2、MLH1)が同定され、この変異が全膵がん患者の5.5%にみられたことから膵がんの中には遺伝的な素因を有する患者が少なくないことが示唆される。また、がんの既往歴や乳がんの家族歴がこれらの遺伝子変異と関連性を認めていることも、臨床現場で留意すべき点である。 一方、アンジェリーナ・ジョリーの乳房切除で注目された遺伝性乳がんの原因であるBRCA変異が陽性の場合はプラチナ製剤やPARP阻害薬が奏効する可能性が高く、今後、治療法の選択にも遺伝子変異のチェックをしたほうがよい時代となることが予感された。 近い将来、実際の臨床現場において血液検査で種々の素因遺伝子パネルを用いたリスク分類による膵がんの早期発見が可能となることが期待されるが、膵がんの発症は遺伝的要因と環境要因の相互作用に基づく症例が大部分である。したがって、膵がんに関しては動物実験や腫瘍組織の検討から局所における遺伝子異常の解析が進んでいること、腹部超音波や内視鏡検査の精度も向上していることから、今後、素因遺伝子パネルとともに新たな早期発見方法が期待される。

42.

最短8週間治療が可能なC型肝炎治療薬が登場

 アッヴィ合同会社は、すべての主要なジェノタイプ(GT1~6型)のC型肝炎ウイルス(HCV)に感染した成人患者に対して1日1回投与、リバビリンフリーの治療薬であるマヴィレット配合錠(一般名:グレカプレビル/ピブレンタスビル、以下マヴィレット)を11月27日に発売した。マヴィレットは肝硬変を有さない、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)未治療のジェノタイプ1型(GT1)および2型(GT2)のC型慢性肝炎(HCV)感染患者にとって、最初で唯一の最短8週間治療となる。薬価は1錠24,210.40円。 日本は先進国の中でC型肝炎ウイルスの感染率が最も高い国の1つで、感染患者のうちGT1型およびGT2型が97%を占める。また日本は、C型慢性肝炎とその合併症が主な原因となり発症する肝臓がんの罹患率が先進国の中で最も高い。 虎の門病院分院長の熊田 博光氏は、「今回のマヴィレットの発売により、DAA治療は第3世代へと移行し日本のC型肝炎治療は最終章を迎えると考えている。これまでのDAA療法は、ジェノタイプ、ウイルス耐性の有無、過去のDAA治療歴、または透析など、患者さんの状態によりDAA療法を使い分けていたが、マヴィレットの登場により1つの治療レジメンでそのほとんどがカバーされることになる」と述べている。 マヴィレットは今年2月に製造販売承認申請後、3月に優先審査品目に指定され、9月27日に承認された。 マヴィレットは、「肝硬変を有さない、DAA未治療のGT1型およびGT2型のHCVに感染した日本人患者」を対象とした第III相試験(CERTAIN試験)において、8週間の治療で99%(226例/229例)のウイルス学的著効率(SVR12)を達成した。また、他剤DAAで治癒しなかった患者において93.9%(31例/33例)のSVR12の達成となり、患者背景によらず、いずれも高い著効率を示した。副作用(臨床検査異常を含む)は、国内第III相試験において332例中80例(24.1%)に認められ、主な副作用は、そう痒症16例(4.8%)、頭痛14例(4.2%)、倦怠感10例(3.0%)および血中ビリルビン増加8例(2.4%)であった。 <効能・効果>C型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善<用法・用量>○セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノタイプ2)のC型慢性肝炎の場合 通常、成人には1回3錠(グレカプレビルとして300mg及びピブレンタスビルとして120mg)を1日1回、食後に経口投与する。 投与期間は8週間とする。なお、C型慢性肝炎に対する前治療歴に応じて投与期間は12週間とすることができる。○セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノタイプ2)のC型代償性肝硬変の場合○セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノタイプ2)のいずれにも該当しないC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変の場合 通常、成人には1回3錠(グレカプレビルとして300mg及びピブレンタスビルとして120mg)を1日1回、食後に経口投与する。投与期間は12週間とする。

43.

がんリスクが低い血液型は?

 ABO式血液型は遺伝的な特性である。今回、ABO式血液型と、がん全体および各がんにおける発症リスクの関連について、米国・ピッツバーグ大学のJoyce Yongxu Huang氏らが上海コホート研究で調査し、PLOS ONE誌2017年9月7日号に報告した。 本研究は、1986年に登録された中国人男性1万8,244人の前向きコホート研究である。25年のフォローアップ期間中に3,973人ががんを発症した(肺がん964人、大腸がん624人、胃がん560人、肝臓がん353人、膀胱がん172人など)。Cox比例ハザードモデルを使用して、ABO式血液型によるがん全体および各がんのハザード比(HR)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・B型はA型と比べてがん全体のリスクが有意に低かった(HR:0.91、95%CI:0.84~0.99)。・B型とAB型はそれぞれ、消化器がんと大腸がんのリスクが有意に低かった。・B型はまた、胃がんリスクと膀胱がんリスクも有意に低かった。・AB型は、肝臓がんリスクが有意に高かった。・組織型別にみると、B型とAB型は、扁平上皮がんと腺がんのリスクが低かったが、肉腫、リンパ腫、白血病またはその他の細胞型のがんリスクとは関連していなかった。

44.

口腔がんになりやすい職業

 フィンランド・ヘルシンキ大学のLaura Tarvainen氏らが、舌・口腔(oral cavity)・咽頭がんにおける職業別リスクについて、飲酒・喫煙を調整し評価したところ、歯科医師などいくつかの職業で舌がんの相対リスクが高いことがわかった。著者らは、職業的な化学物質への曝露、飲酒や喫煙の増加、ヒトパピローマウイルス感染が関連する可能性を示唆している。Anticancer research誌2017年6月号に掲載。 著者らは、1961~2005 年における北欧諸国の1,490万人と、舌・口腔・咽頭がん2万8,623例のデータを調査。職業別の飲酒については肝硬変による死亡率と肝臓がん発症率に基づいて推定し、職業別の喫煙については肺がん発症率に基づいて推定した。 飲酒・喫煙について調整後、舌・口腔・咽頭がんの相対リスクが1.5を超えた職業は、歯科医師、芸術系職、美容師、ジャーナリスト、司厨、船員、ウエイターなどであった。

45.

第8回 「できない」と言えず繕い続けた医師と、信じた患者の思い【患者コミュニケーション塾】

「できない」と言えず繕い続けた医師と、信じた患者の思い27年間にわたって5万8,000件を超える電話相談に対応していると、「医療者のひと言が、患者の不信感をさらに強めてしまった」と感じることがよくあります。それを代表するような、鮮明に覚えている相談事例をご紹介します。その相談は70代の母親を持つ40代の男性からでした。母親は10年以上前にC型肝炎が見つかり、定期的に病院を受診していました。しかし、状態がかなり安定していることもあり、待ち時間の長い大きな病院への通院が苦痛に思えてきたそうです。そこで、7年前に自宅近くのクリニックに通院先を変更したのです。母親がそのクリニックを選んだのは、地域で開かれた市民公開講座で院長の講演を聴いたことがきっかけでした。講演会は在宅医療にまつわるもので、その医師は早くから在宅医療に取り組んでいて、がんの末期状態でも住み慣れた自宅で過ごすことができると力強く話していたそうです。講演の内容だけでなく、人柄にも好感を持った母親は、家族に通院先変更の希望について話しました。しかし息子さんは、「C型肝炎なんだから、肝臓の専門医に診てもらったほうが安心ではないか」と反対したそうです。そのため、母親はまずクリニックに出向き、「私はC型肝炎なのですが、こちらのクリニックで経過観察をしてもらうことは可能ですか?」と確認しました。すると院長は「もちろんです。勤務医時代には私は循環器を専門にしていましたが、開業して訪問診療をするようになって以来、かかりつけ医として科に関係なく、どんな病気の患者さんも広く診ています。どうぞ安心して当院に通院してください」と明言されたそうです。母親はそれを家族に伝え、「あの先生はとても信頼できる医師だから大丈夫」とうれしそうに語っていたそうです。ところが半年ほど前から母親の顔色が優れなくなり、息子さんは病気が悪化しているのではないかと心配になりました。そこで母親に同行し、「検査をしてほしい」とクリニックの院長に頼むと、「では、エコー検査で肝臓の確認をしましょう」とすぐにエコー検査を実施し、「問題ありませんよ。綺麗な肝臓です」と言われたそうです。しかし、その後も明らかに具合が悪くなっていったので、母親を説得して大きな病院の消化器内科を受診しました。すると、肝臓に大きながんが3つ、小さながんは数えきれないくらい散らばっていて「ほかの臓器にも転移していて手の施しようがありません。残念ながら末期状態です」と言われたのです。愕然とした息子さんは、居ても立ってもいられず、クリニックの院長のもとに走り、肝臓がんの末期状態であると診断されたことを伝えました。そして「先生はつい先日、綺麗な肝臓とおっしゃったじゃないですか!?」と問い詰めたところ、院長はしばらくうつむいたのちに、「…私は、肝臓は専門ではないので」と苦し紛れに言ったというのです。通院し始める前にわざわざ確認して、「科に関係なく診る」と言った言葉に母親は安心してかかり続けてきました。それだけに、その院長の言葉はダメ押しとなり、息子さんの不信感をさらに強める結果となってしまいました。「苦し紛れの責任回避や言い訳、説得は決してプラスに働くことはない」―多くの相談をお聴きしてきて私が痛感している結論の1つです。マイナス状況に陥ったときこそ、その人の真の姿が出てしまうのかもしれません。

46.

進行肝細胞がんの1次治療薬となるか?レンバチニブの第III相試験/ASCO2017

 肝細胞がんは世界第2位の死亡原因であり、毎年74万5,000人が死亡している。ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)は、進行肝細胞がん(HCC)の1次治療で唯一、生存期間延長が証明された全身療法である。最近10年間で、幾多の第III相試験がソラフェニブに対する非劣性あるいは優越性評価を行ったものの、失敗に終わっている。レンバチニブ(商品名:レンビマ)は、VEGFR1~3、FGFR1~4、PDGFRα、RET、KITを標的とした経口マルチキナーゼ阻害薬であり、進行HCCの第II相試験において優れた臨床活性を示している。進行HCCの1次治療でソラフェニブとレンバチニブを比較した、国際無作為化オープンラベル第III相非劣性試験REFLECT試験の最終結果を台湾National Taiwan University HospitalのAnn-Lii Cheng氏が報告した。 この無作為化オープンラベル非劣性試験では、全身療法未治療の切除不能HCC患者をレンバチニブ(体重60kg以上は12mg/日、60kg未満は8mg/日)群またはソラフェニブ(400mg×2/日)群に無作為に割り付けた。患者は、測定可能な標的病変を有し、バルセロナクリニック肝臓がん病期分類(BCLC)BまたはC、ECOG PSは1以下であった。主要評価項目は全生存期間(OS)による非劣性の評価で、あらかじめ定義された非劣性マージンは1.08であった。非劣性が証明されたのち、副次有効性評価項目による優越性が評価された。副次有効性評価項目は、修正RECIST(mRESIST)による無増悪生存期間(PFS)、無増悪時間(TTP)および客観的反応率(ORR)であった。  結果、954例が登録された(レンバチニブ群478例、ソラフェニブ群476例)。主要評価項目であるOSは、レンバチニブ群で13.6ヵ月(12.1~14.9)、ソラフェニブ群では12.3ヵ月(10.4~13.9)であった。HRは0.92、95%CIは0.79~1.06であり、主要評価項目の非劣性マージン1.08を達成した。 mRECISTによるPFSは、レンバチニブ群で7.4ヵ月(6.9~8.8)、ソラフェニブ群で3.7ヶ月(3.6~4.6)と、レンバチニブ群で有意に延長した(HR:0.66、95%CI:0.57~0.77、p

47.

中国の糖尿病患者は全死亡率2倍~51万人7年間の前向き研究/JAMA

 ここ数十年で中国の糖尿病有病率が急激に上昇しているが、これまで糖尿病に関連する超過死亡の信頼し得る推定データはなかった。英国・オックスフォード大学のFiona Bragg氏らは、中国の都市部と地方から集めた成人約51.3万例を7年間前向きに追跡した研究で、糖尿病と超過死亡との関連を調査。その結果、中国において糖尿病が、心血管系に限らず幅広い疾患別死亡率増大と関連していること、また、有病者は都市部のほうが多いが、超過死亡との関連は地方のほうが強いことを明らかにした。JAMA誌2017年1月17日号掲載の報告。30~79歳の成人51万2,869例を7年間追跡 研究グループは、糖尿病と超過死亡との関連を評価し、糖尿病関連の絶対超過死亡を、中国の都市部と地方について調べた。7年間の全国前向き調査は、中国10地域(都市部5、地方5)から30~79歳の成人51万2,869例が参加して行われた。被験者は2004年6月~2008年7月に集められ、2014年1月まで追跡を受けた。 ベースラインで糖尿病を確認(既往歴ありまたはスクリーニングにより検出)。主要評価項目は、死亡レジストリで確認した全死因死亡と疾患別死亡で、Cox回帰分析を用いて、ベースラインでの糖尿病有病者vs.非有病者の補正後死亡率比(RR)を推算・比較した。糖尿病関連死は都市部よりも地方で高い 51万2,869例は、平均年齢は51.5(SD 10.7)歳、女性は59%であった。糖尿病有病者は5.9%で、地方4.1%に対し都市部8.1%、男性5.8%に対し女性6.1%、また3.1%が既往患者で、2.8%はスクリーニングにより検出された。 フォローアップ364万人年において、死亡は2万4,909例、そのうち糖尿病有病者は3,384例であった。 非有病者と比較して糖尿病有病者は、全死因死亡率が有意に高かった(1,373 vs.646例/10万、補正後RR:2.00、95%信頼区間[CI]:1.93~2.08)。また、その率比は、都市部よりも地方で高かった(各RRは1.83[95%CI:1.73~1.94]、2.17[95%CI:2.07~2.29])。 糖尿病を有していることで、次の疾患による死亡増大との関連が認められた。虚血性心疾患(3,287例、RR:2.40[95%CI:2.19~2.63])、脳卒中(4,444例、1.98[1.81~2.17])、慢性肝疾患(481例、2.32[1.76~3.06])、感染症(425例、RR、2.29[1.76~2.99])、肝臓がん(1,325例、1.54[1.28~1.86])、膵臓(357例、1.84[1.35~2.51])、女性の乳がん(217例、1.84[1.24~2.74])、女性生殖器系(210例、1.81[1.20~2.74])である。 また、慢性腎臓病(死亡365例)のRRは、都市部(6.83[95%CI:4.73~9.88])と比べて地方(18.69[14.22~24.57])のほうが高かった。 糖尿病有病者において、全死亡の10%(地方16%、都市部4%)が、糖尿病性ケトアシドーシスまたは糖尿病性昏睡(計死亡408例)が原因であることが確認または有望視された。

48.

ピオグリタゾンとがん(解説:吉岡 成人 氏)-397

日本人における糖尿病とがん 日本における糖尿病患者の死因の第1位は「がん」であり、糖尿病患者の高齢化と相まって、糖尿病患者の2人に1人はがんになり、3人に1人ががんで死亡する時代となっている。日本人の2型糖尿病患者におけるがん罹患のハザード比は1.20前後であり、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクが増加することが、疫学調査によって確認されている。糖尿病によってがんの罹患リスクが上昇するメカニズムとしては、インスリン抵抗性、高インスリン血症の影響が大きいと考えられている。インスリンはインスリン受容体のみならず、インスリン様成長因子(IGF-1)の受容体とも結合することで細胞増殖を促し、がんの発生、増殖にも関連する。チアゾリジン薬であるピオグリタゾンとがん ピオグリタゾン(商品名:アクトス)は承認前の動物実験において、雄ラットにおける膀胱腫瘍の増加が確認されていた。そのため、欧米の規制当局により米国の医療保険組織であるKPNC(Kaiser Permanente North California)の医療保険加入者データベースを用いた前向きの観察研究が2004年から行われ、2011年に公表された5年時の中間報告で、ピオグリタゾンを2年間以上使用した患者において、膀胱がんのリスクが1.40倍(95%信頼区間:1.03~2.00)と、有意に上昇することが確認された。さらに、フランスでの保険データベースによる、糖尿病患者約150万例を対象とした後ろ向きコホート研究でも、膀胱がんのリスクが1.22倍(95%信頼区間:1.05~1.43)であることが報告され、フランスとドイツではピオグリタゾンが販売停止となった。また、日本においても、アクトスの添付文書における「重要な基本的注意」に、(1)膀胱がん治療中の患者には投与しないこと、(2)膀胱がんの既往がある患者には薬剤の有効性および危険性を十分に勘案したうえで、投与の可否を慎重に判断すること、(3)患者またはその家族に膀胱がん発症のリスクを十分に説明してから投与すること、(4)投与中は定期的な尿検査等を実施することなどが記載されるようになった。多国間における国際データでの評価 その後、欧州と北米の6つのコホート研究を対象に、100万例以上の糖尿病患者を対象として、割り付けバイアス(allocation bias)を最小化したモデルを用いた検討が2015年3月に報告された。その論文では、年齢、糖尿病の罹患期間、喫煙、ピオグリタゾンの使用歴で調整した後の100日間の累積使用当たりの発症率比は、男性で1.01(95%信頼区間:0.97~1.06)、女性で1.04(95%信頼区間:0.97~1.11)であり、ピオグリタゾンと膀胱がんのリスクは関連が認められないと報告された1)。KPNCの最終報告 今回、JAMA誌に報告されたのが、5年時の中間報告で物議を醸しだしたKPNCの10年時における最終解析である。ピオグリタゾンの使用と膀胱がんのみならず前立腺がん、乳がん、肺がん、子宮内膜がん、大腸がん、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、腎がん、直腸がん、悪性黒色腫の罹患リスクとの関連を、40歳以上の糖尿病患者約20万例のコホート分析およびコホート内症例対照分析で検証したものである。 その結果、ピオグリタゾン使用は、膀胱がんリスクの増加とは関連しなかった(調整後ハザード比1.06:95%信頼区間:0.89~1.26)と結論付けられた。 しかし、解析対象とした10種の悪性疾患中8種の悪性疾患とピオグリタゾンの関連は認められなかったものの、前立腺がんのハザード比は1.13(95%信頼区間:1.02~1.26)、膵がんのハザード比は1.41(95%信頼区間:1.16~1.71、10万例/年当たりの膵臓がんの粗発生率は、使用者で81.8例、非使用者で48.4例)であったことが報告されている。 チアゾリジンの膀胱がんを発症するリスクに対する懸念は払拭されたのか、前立腺がんと膵がんのリスクに関するデータは、偶然なのか、交絡因子の影響なのか、事実なのか……、また1つの問題が提示されたのかもしれない。

49.

C型肝炎治療を変える!ソホスブビルとギリアド ~ギリアド社長インタビュー~

慢性C型肝炎の治療は、今、まさにパラダイムシフトの時を迎えている。インターフェロン(IFN)が当たり前のように使われていた時代から、IFNフリーの時代へと急激に変わろうとしている。その主役を担うと期待されているのがソホスブビルである。本年6月にその製造承認申請を行った、ギリアド・サイエンシズ株式会社(以下、ギリアド)の代表取締役社長 折原 祐治氏に話を聞いた。ソホスブビルの現況は?折原 祐治氏折原 ソホスブビルは、C型肝炎のIFNフリー治療を目指して開発されました。2014年6月に、ゲノタイプ2型のC型肝炎に対する治療薬としてソホスブビルの製造販売承認を申請し、2014年9月には、ゲノタイプ1型に対する治療薬としてソホスブビル・レジパスビルの配合剤を申請しました。現在は承認を待つ段階ですが、申請以来、患者さんや医師からの承認時期に対するお問い合わせが相次いでいます。承認は楽しみでもありますが、患者さんや医師の期待を考えると身が引き締まる思いで、楽しみよりも緊張のほうが大きいです。ソホスブビルの臨床効果は?折原 ソホスブビルは、ゲノタイプ1型と2型のそれぞれに対して臨床試験が行われています。まずは、ゲノタイプ2型の試験から紹介します。未治療および治療歴のあるゲノタイプ2型のC型肝炎例に対して、ソホスブビルとリバビリン(600~1000mg/日)を12週投与したところ、97%(n=148/153)において治療終了後12週時の持続的ウイルス学的著効(SVR12)が達成されました。一方、ゲノタイプ1型のC型肝炎例に対しては、ソホスブビル・レジパスビルの12週間投与により、未治療患者(n=83/83)および治療歴のある患者(n=88/88)それぞれでSVR12が100%となりました。このときの主な有害事象は、鼻咽頭炎(29%)、頭痛(7%)、倦怠感(5%)などでいずれも軽度でした。ソホスブビルの特徴は?折原 この薬剤の特徴は主に3つあります。SVR、安全性、耐性です。SVRと安全性については、先ほどの臨床試験結果で紹介しましたので、ここでは耐性についてお話ししたいと思います。現在開発が進んでいるC型肝炎の主な治療薬は、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5A阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬の3種類です。いずれもC型肝炎ウイルスの増殖を直接的に阻害する作用を有しています。ソホスブビルは、NS5Bポリメラーゼ阻害薬に分類され、NS5Bポリメラーゼ阻害薬としては唯一の申請中の薬剤です。増幅するHCV RNA中に入り込み伸長を停止する核酸アナログ製剤であり、この作用機序から、耐性が起こりにくいと期待されています。これからのC型肝炎治療では、いかに薬剤耐性を起こさないで治療するかが重要となってきます。そのため、先に承認された海外では、耐性を起こしにくいソホスブビルはC型肝炎治療のベース薬として使用され、「ソホスブビルに何を追加するか?」が議論されています。ソホスブビルのような革新的な薬剤が、なぜ開発されたか?折原 ギリアドは、いまだ医療ニーズが満たされていない疾患領域の、とくに生命に関わる疾患の治療を向上させることを目指しています。その結果の1つがソホスブビルだと思います。ギリアドは、「For the Patient」を実践しています。興味深い例を1つ挙げますと、米国本社での会議では、「患者さんのためにどうすべきか?」が話し合われます。「日本の患者さんはどのような治療を受けているか?」「良くなっているか?」「何か困っていないか?」が優先して次々に尋ねられます。これまで私は複数の製薬企業に勤務してきました。これまでの製薬企業の場合、売上やシェアといったことが議題のほとんどでしたから、この違いには本当に驚きました。このあたりの姿勢が、革新的な薬剤を生み出すきっかけになっていると思います。ゲノタイプ2型から治験・申請した理由は?折原 ゲノタイプ2型に対する治験から行ったのも、ギリアドならではだと思っています。わが国では慢性C型肝炎のうち約7割が1型、残りの3割を2型が占めると言われ、ゲノタイプ1型に対するIFNフリー治療は、複数社が開発を進めていました。一方、ゲノタイプ2型に対するIFNフリー治療の開発は進められていませんでした。日本にはゲノタイプ1型の患者さんのほうが多く、競合も多いですから、通常、ゲノタイプ1型の治験を優先するかと思います。しかし、私たちはそのように考えませんでした。ゲノタイプ2型の患者さんをIFNフリーに導けるのはギリアドしかいないと考え、まずはゲノタイプ2型に対する治験から開始したのです。ギリアドとは?折原 ギリアドは、1987年に米国カリフォルニアに創立され、2013年に日本進出を果たしたバイオファーマです。全世界での売上は、2013年度が約1兆円、今年度は約2兆円が見込まれ、売上では世界のトップ10に入ると予想されるほど勢いがあります。製品パイプラインは、HIV/AIDS、肝疾患を中心に、今後はオンコロジーへも展開予定です。また、あまり知られていませんが、実は「タミフル」「アムビゾーム」の開発会社でもあります。最後にゲノタイプ1型C型肝炎に対する治療の進歩の速度は驚異的である。約10年前は、IFNの副作用に苦しみながらもSVRは10%程度であったが、リバビリン、PEG-IFN、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬と次々に開発され、ついにSVR が約90%まで改善した。そして、NS5Bポリメラーゼ阻害薬であるソホスブビルの登場により、SVRはほぼ100%に到達する。さらに、安全性も飛躍的に改善されてきている。折原氏も、ベテランの肝臓専門医から「まさか自分が現役の時代にC型肝炎が駆逐される時が来るとは思わなかった。」と言われることがあるという。ソホスブビルなどのIFNフリー治療によりSVRを達成した症例で、実際に肝臓がんが減るかについてはまだ検討が必要である。しかし、C型肝炎患者をSVRへ導きやすくなることは明らかである。今後のC型肝炎治療の明るい未来に大いに期待したい。(ケアネット 鈴木 渉)

50.

がん生存率の動向~日本含む67ヵ国2,570万例のデータ/Lancet

 CONCORDワーキンググルーブでは、1995~2009年における67ヵ国のがん登録データを調査し、がん種別、国・地域別、期間別に5年生存率を推定した結果を報告した。生存率の大きな違いは、早期診断と最適な治療へのアクセスの差による可能性が高い。著者らは、「継続的な世界的サーベイランスは、がん患者と研究者において不可欠な情報源となり、また保健政策と医療システム改善のための政治家への刺激となるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2014年11月26日号に掲載。 本サーベイランスには、67ヵ国279集団のがん登録から、1995~2009年にがんと診断され、2009年12月31日以降まで追跡された成人(15~99歳)2,570万例および小児(0~14歳)7万5千例の記録が提出された。ワーキンググループは、胃がん、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、肺がん、乳がん(女性)、子宮頸がん、卵巣がん、前立腺がん(成人)、白血病(成人・小児)について、年齢(1歳毎)、性別、暦年、人種や民族(一部の国において)によって調整した5年生存率を推定した。計算にあたっては、年齢で調整した生存率計測のための世界標準人口(International Cancer Survival Standard)に沿って行った。 2005~2009年に診断された各がん患者における5年生存率は以下のとおり。【結腸がん・直腸がん・乳がん】ほとんどの先進国で着実に上昇している。結腸がん・直腸がんでは22ヵ国で60%以上に達し、乳がんでは17ヵ国で85%以上に上昇した。【肝臓がん・肺がん】すべての国で低いままである。ヨーロッパではどこの国も20%未満、北米では15~19%、モンゴルとタイでは7~9%と低い。【前立腺がん】多くの国で著しく上昇した。南米、アジア、ヨーロッパの22ヵ国で、1995~1999年から2005~2009年の間に10~20%上昇した。しかし、ブルガリアやタイでは60%未満、ブラジルやプエルトリコ、米国では95%以上と、国によって開きがある。【子宮頸がん】50%未満から70%以上と地域によって大きな差がある。1995~1999年から2005~2009年の間の改善はわずかである。【卵巣がん】エクアドル、米国、アジアおよびヨーロッパの17ヵ国のみ、40%以上であった。【胃がん】他の国が40%未満であるのに比べて、日本(54.0%)と韓国(57.9%)が高かった。【成人白血病】胃がんと対照的に、日本(18.9%)と韓国(23.4%)が他のほとんどの国に比べて低かった。【小児急性リンパ芽球性白血病】いくつかの国で60%未満だが、カナダ、欧州の4ヵ国では90%と高い。

51.

糖尿病とがんの関係とは

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者 糖尿病になると、がんになりやすいって聞いたんですけど、本当ですか?医師 それは本当ですよ。患者 えっ、やっぱりそうなんですか。(少し心配そうな顔)医師 とくに、膵臓がん、肝臓がん、大腸がんになりやすいそうです。患者 それは怖いですね。医師 糖尿病の合併症だけではなく、がんも予防ができたらいいですね。患者 どうしたらいいですか?画 いわみせいじ医師 じつは糖尿病合併症とがんの予防は同時にできますよ。患者 具体的にはどうしたらいいですか?医師 まずは禁煙、次に運動、3番目がたっぷり野菜を食べることです。患者 なるほど。頑張ってやってみます。(嬉しそうな顔)ポイント合併症とがんの予防が同時行えるよう指導すると効果的Copyright© 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

52.

【GET!ザ・トレンド】糖尿病専門医からがんを診療する医師へのメッセージ

はじめに糖尿病に伴うがんリスクには、糖尿病治療薬も関与している可能性がある。本稿では、糖尿病治療薬に関するエビデンスとその解釈上の注意点、および日常診療に携わる医師への提言を述べる。糖尿病治療薬とがんリスク特定の糖尿病治療薬が、がん罹患リスクに影響を及ぼすか否かについての現時点でのエビデンスは限定的であり、治療法の選択に関しては、添付文書などに示されている使用上の注意に従ったうえで、良好な血糖コントロールによるベネフィットを優先した治療1)が望ましい。以下に、治療薬ごとにリスクを述べる。1)メトホルミン筆者らが行ったメタアナリシスでは、メトホルミン服用患者は非服用患者に比べてがんの発症リスクが0.67倍と有意に低下していた(図)2)。がん死リスクもほぼ同等であった。さらに臓器別には、大腸がん約30%、肺がん約30%、肝臓がんに関しては約80%と有意な低下を認めた。ただし、糖尿病で有意に増加するといわれている膵臓がんなどにおいては、リスク比の変化は有意ではなかった。図を拡大するメトホルミンは、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を介して主に肝臓に作用して、血糖降下を発揮する。最近判明してきたことだが、このAMPKという物質は、下流にあるmTORというがん関連因子を抑制することで発がんを抑えるのではないか、という研究が進んでいる。実際に日本人の非糖尿病を対象としたランダム化比較試験(RCT)においても、メトホルミン投与群では非投与群に比べて、大腸がんの内視鏡的マーカーの有意な低下を認めた。ただし、短期間の研究なので、長期的な予後までは判明していない。まだまだ研究段階ではあるが、このようにメトホルミンは、がんの発症を抑える可能性があるということで着目されている。ただし、観察研究が主体なのでバイアスに留意すべきである。 筆者らのメタアナリシスに含まれているRCTや、時間関連バイアス調整後の観察研究3)やRCT(短期間も含む)のみの他のメタアナリシス4)では、結果はニュートラルであった。2)インスリン/スルホニル尿素(SU)薬/グリニド薬理論上は、高インスリン血症によりがんリスクが高まることが懸念される。3~4年ほど前、インスリン投与により乳がんのリスクが有意に増加するという報告が続いた。しかし、これらの報告は研究デザイン上の問題やバイアスが大きく、妥当性は低い(表1)。実際、その後行われた1万2千人余りのランダム化研究などの分析によると、インスリン投与群とインスリン非投与群では、がん全般の発症率およびがんによる死亡リスクともに有意な増減を認めておらず、現時点ではインスリンによるがんリスクの上昇の可能性はほぼ否定されている。表1を拡大する血中インスリン濃度を高めるSU薬も、メタアナリシスでまったくのリスク増減を認めていない。また、グリニド薬に関しては、アジア人の報告ではがん全般リスクはやや上昇するという報告があったが、こちらの疫学研究は非常にバイアスの強い報告なので、まだまだデータとしては限定的である。3)ピオグリタゾン膀胱がんのリスクが上昇するというニュースで、近年話題となった。アメリカの報告では、がん全般としては有意な増減を認めていない。ただし、日本、アメリカ、ヨーロッパの報告を見ると、ピオグリタゾンにより膀胱がんリスクが1.4~2倍あまりも有意に上昇する可能性が示唆されている。実際、フランス・ドイツでは処方禁止、インドでは第1選択薬としての処方は禁止となっている。まだまだ研究段階で最終的な結論は出ていないが、このような現状を踏まえ、添付文書の注意書き(表2)に従ったうえで投与することが必要である。表2を拡大する4)α-グルコシダーゼ阻害薬アメリカの副作用登録では、膀胱がんのリスクが有意に増加するということが報告されている。しかし、台湾の疫学研究では、膀胱がんの有意なリスク増減は認めていない。いずれも非常に限定的でバイアスの強いデータであり、まだまだ最終結論は出ていない。5)DPP-4阻害薬/GLP-1アナログDPP-4阻害薬のメタアナリシスでは、がんリスクの有意な増減はまったく認めていない5)。ただし、含まれている研究は非常に追跡期間の短いものばかりなので、臨床的にあまり価値がないエビデンスである。その後発表されたRCT 2件では有意なリスクの増加を認めていないので、がんのリスクに対する安全性も比較的確保されたものと思われる。6)SGLT2阻害薬今年、わが国でも承認されたこの薬物は、腎臓でのブドウ糖吸収を抑制することで血糖値を下げ、さらに体重も低下する報告がある。まだまだ新薬として登場して間もないものでデータも非常に限定的であるため、長期的なリスクは未知数である。糖尿病患者のがん検診糖尿病ではがんのリスクが高まる可能性が示唆されているため、日常診療において糖尿病患者に対しては、性別・年齢に応じて臨床的に有効ながん検診(表3)を受診するよう推奨し、「一病息災」を目指すことが重要である。がん検診は、がん発見が正確で確実であること、受診率が高いこと、受診の結果予後が改善することを満たして初めて有効性を持つ。日本のがん検診の多くは有効性が実証されておらず、過剰診断と過剰治療によるリスクも小さくはないことに留意する。さらに、無症状でも急激に血糖コントロールが悪化した場合には、がんが潜在している可能性があるため、がん精査を考慮する必要がある。表3を拡大する文献1)国立国際医療研究センター病院.糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け).http://ncgm-dm.jp/center/diabetes_treatment_manual.pdf(参照 2014.8.22)2)Noto H, et al. PLoS One. 2012; 7: e33411.3)Suissa S, et al. Diabetes Care. 2012; 35: 2665-2673.4)Stevens RJ, et al. Diabetologia. 2012; 55: 2593-2603.5)Monami M, et al. Curr Med Res Opin. 2011; 27: 57-64.6)厚生労働省. がん検診について. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_kenshin01.pdf(参照2014.8.22)

53.

【GET!ザ・トレンド】糖尿病とがんに関する総説

はじめに糖尿病により発がんおよびがん死のリスクが増加する可能性が、近年注目されている1)。また、糖尿病を有する患者ががんになると、生命予後、術後予後が不良であることが報告されている。本稿では両者の関連についてレビューする。糖尿病とがんの関連性糖尿病とがんは、食事、運動不足、喫煙、飲酒など、さまざまな生活要因を介して相互関連している(図1)が、さらに治療薬の関与も示唆されてきている。図1を拡大する糖尿病患者が世界的に急増していることから、糖尿病の予防だけでなく、がん予防対策、がん検診の有効性、さらには糖尿病治療薬に関する研究と診療での認識が重要となってきた。糖尿病では、心血管疾患による死亡が増加するが、がん死の多いわが国では、糖尿病においてもがんは死亡の主因である。そこで、日本でも、日本糖尿病学会と日本癌学会が合同で国民および医療者に対するステートメントを発表している2)(表)。表を拡大する参考を拡大する疫学的エビデンス筆者らが行ったメタアナリシスによると、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて、がんを発症するリスクが約1.2倍と有意に高値であった3)(図2)。図2を拡大するまた、この数値はがんによる死亡リスクについてもほぼ同様3)で、国内外で認められている。さらに、人種間、男女間の比較においても、いずれも糖尿病患者でよりがんのリスクが上昇する傾向を認め、さらにアジア人は非アジア人よりも上昇率が高いことが判明した4)。日本人においては、臓器別でみると、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんの有意なリスク上昇と関連していた2)。糖尿病による発がん機序糖尿病とがんの関連性には、高インスリン血症、高血糖、肥満、炎症、糖尿病治療薬などさまざまな因子が複雑に関与している2)(図3)。図3を拡大する1)高インスリン血症2型糖尿病は、インスリン抵抗性と代償性高インスリン血症を特徴とする。さらに2型糖尿病患者では、肥満や運動不足が多く、高インスリン血症がさらに進行する。インスリンは、insulin-like growth factor-1(IGF-1)受容体を介してがんを誘発することが想定されおり、動物実験で証明されている。一方ヒトでは、1型糖尿病のがんリスクは2型糖尿病より低いものの、一般人との比較では結論に達していない。 なお、糖尿病患者での前立腺がんのリスクが低値であることには、以下の機序が想定されている。糖尿病患者では、性ホルモン結合グロブリンが低値であり、さらにインスリン抵抗性によりテストステロン産生が低下するためにテストステロン低下症が少なくない。 前立腺がんは、テストステロン依存性であるため、糖尿病患者では前立腺がんのリスクが低下する。ただし人種差があるため、日本人を含むアジア人ではこの傾向を認めていない(図2)。2)高血糖2型糖尿病のがん細胞増殖や転移は、高血糖で促進されることが報告されている。また、血糖値とがんリスクには正の相関があることも報告されている。さらに高血糖は、酸化ストレスを高め、それが発がんの第1段階であるDNA損傷を引き起こすことも提唱されている。インスリン分泌不全が2型糖尿病の特徴とされる日本人・韓国人でも私たちの分析でがんリスクの増加を認めたことは、この仮説に合致し、近年発表された前向き研究統合解析でも血糖値とがん死リスクの正の相関傾向が示されている5)。疫学データの限界疫学データではバイアスが少なからず伴い、計算で完全に調整することはできない。とくに、糖尿病の診断は自己申告であることが多いこと、糖尿病患者は通院しているためにがんを発見しやすいなどにより妥当性が低下する。糖尿病に伴うがんリスクは、過大評価されている可能性があり、若干割り引いて解釈することも重要である。参考文献1)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2013; 4: 225-232.2)糖尿病と癌に関する委員会. 糖尿病. 2013; 56: 374-390.3)Noto H, et al. Endocr Pract. 2011; 17: 616-628.4)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2012; 3: 24-33.5)Seshasai SR, et al. N Engl J Med.2011; 364: 829-841.

54.

ピロリ感染と糖尿病、胃がん発症に相乗効果

 Helicobacter pylori(以下、HP)感染は胃がんの最も強力な危険因子と認められている。しかし、HP感染者の9割以上は胃がんを発症しないことから、HP感染下に胃がん発症リスクを増大させる他の要因があることが考えられる。久山町研究での検討結果から、その要因の1つに糖代謝異常が示唆されることを、第52回日本癌治療学会学術総会(2014年8月28日~30日、横浜市)にて、九州大学大学院医学研究院環境医学分野の池田 文恵氏が紹介した。 わが国において、胃がんは年齢調整死亡率が低下しているとはいえ、罹患率で見れば男性で1位、女性で2位と、いまだに発症頻度の高いがんである(注:結腸がんと直腸がんを併せて大腸がんとした場合、女性では大腸がんが2位、胃がんは3位)。それゆえ、リスクファクターを明らかにして予防につなげることは重要である。 HP感染は胃がんの危険因子であり、久山町研究においても、HP抗体陽性者は陰性者に比べて、胃がん罹患率が男女とも約2倍と有意に高い。また、HP感染の疑いが強い住民(HP抗体陽性かつペプシノゲン法陽性)における20年間の胃がんの累積罹患率は7.4%と高い。  しかし、この結果はまた、HP感染者の9割以上は胃がんに罹患していないということを示す。池田氏は、HP感染は胃がん発症の十分条件ではなく、他の要因が重なることで発症リスクが増大するのではないかと考察し、その要因の1つとして糖代謝異常について検討した。 わが国では糖尿病患者が急増しており、久山町の男女においても、糖代謝異常(空腹時血糖異常、耐糖能異常、糖尿病)が増加してきている。わが国のプール解析では、大腸がん、肝臓がん、すい臓がんでは糖尿病との関連が報告されているが、胃がんとの関連は明確ではない。国内外の他のコホート研究でも関連性の結果は分かれている。 久山町の疫学調査データにおける検討では、40歳以上の住民2,466人を空腹時血糖レベルで3群(94mg/dL以下、95~104mg/dL、105mg/dL以上)に分け、胃がん発症ハザード比をみたところ、空腹時血糖と胃がん発症との関連が認められた。さらに、HP抗体の有無別にその関連を検討したところ、HP抗体陽性者は空腹時血糖と胃がん発症との間に関連が認められたが、HP抗体陰性者では同関連は認められなかった。 また池田氏は、慢性的な高血糖が胃がん発症に与える影響を調べるため、40歳以上の住民2,603人をHbA1cレベルで4群(JDS値:4.9%以下、5.0~5.9%、6.0~6.9%、7.0%以上)に分け14年間追跡した。その結果、HbA1c 5.0~5.9%群に比べ、6.0~6.9%、7.0%以上の群で胃がん発症のハザード比が有意に上昇し、HbA1cにおいても胃がん発症との関連が認められた。さらに、対象者をHbA1cレベル(6.0%未満もしくはそれ以上)とHP抗体の有無で4群に層別し、胃がん発症のハザード比を検討したところ、HbA1c高値かつHP抗体陽性群で、相乗的に胃がん発症のリスクが上昇することが示された。 これらの結果から、池田氏は「比較的低いレベルの血糖上昇から胃がん発症のリスクが上昇する可能性があること、また、HP感染に慢性的な高血糖が加わることで、胃がん発症リスクがさらに上昇することが示唆される」と述べ、「HP感染および高血糖・糖尿病は胃がんの危険因子の1つであり、両者の間に相乗効果があることが示唆される」とまとめた。

55.

13種類のがんを1回の採血で診断―次世代のがん診断システム開発プロジェクト始動

 8月18日(月)、独立行政法人国立がん研究センター(東京都中央区)は、血液から乳がんや大腸がんなど13種類のがんを診断するシステムの開発を始めると発表した。 これは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、国立がん研究センター(以下、NCC)、東レ株式会社(以下、東レ)およびアカデミア、企業など他の7機関とともに、健康診断などで簡便にがんや認知症を検査できる世界最先端の診断機器・検査システムの開発を行うプロジェクトの一環である。計画では、患者への負担が小さく、より早期に一度にさまざまながんを診断できる技術の開発を支援することを目的としている。 血液検査によるがんの早期発見では、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫の13種をターゲットにしている。 具体的には、NCCに蓄積された膨大な臨床情報とバイオバンクの検体、マイクロRNA腫瘍マーカーについての研究成果を基盤とし、東レが開発した高感度DNAチップと、東レとNCCが共同開発した血液中に存在するマイクロRNAバイオマーカーの革新的な探索方法を活用して、体液中のマイクロRNAの発現状態についてのデータベースを構築、網羅的に解析するというもの。 この測定技術により、がんや認知症の早期発見マーカーを見出し、これらのマーカーを検出するバイオツールを世界に先駆け実用化することを目指すとしている。詳細はプレスリリースへ

56.

模擬証人尋問でわかる医事裁判 被告人になり尋問されることは何?

医師資格を持つ3人の弁護士、大磯義一郎氏(浜松医科大学)、富永愛氏(富永愛法律事務所)および小島崇宏氏(大阪A&M法律事務所)が、「模擬証人尋問」を通じて実際の医事裁判の模様を伝える催しが、6月2日横浜市立大学附属病院にて開催された。この催しは、約3ヵ月に1回の割合で全国の大学医学部などで医師、医療従事者、医学生を対象に開催されているものであり、今回は同院の安全管理者会議の一環として開催された。ケアネットでは、同院医療安全管理室のご厚意により、当日の模様を収録。医師が医事裁判で被告の立場に置かれた場合、原告・被告双方からどのような尋問がなされるのか、なかなか垣間見ることのできない模擬尋問の内容を動画ダイジェストでお届けする。事例概要●患者概要患者42歳 男性職業自営業(製靴業)既往歴虫垂炎(18歳・手術)、胆石(36歳)、右肩関節痛(現在被告病院にて加療中)家族歴特記事項なし家族構成妻、子(14歳中学生)嗜好タバコ 15本/日(15歳から)飲酒 5合位/日現病歴右肩関節痛にて被告病院整形外科受診中の患者。整形外科にて肝機能障害指摘。飲酒量も多いことから精査・加療目的で紹介受診となる。●初診時現症(2010年5月21日)主訴肝機能障害指摘身体所見 体温36.6℃、血圧144/88、脈拍60/分、眼瞼結膜 貧血なし、眼球結膜 黄染なし、胸部聴診上異常なし、腹部平坦、軽度膨隆あり、圧痛なし、肝2横指触知、脾臓触知せず、下腿浮腫なし検査所見WBC 7800/μL、RBC 490/μL、Plt 15万/μL、AST 55IU/L、ALT 79IU/L、LDH 592IU/L、γ-GTP 432IU/L、T-Bil 1.6mg/dL、D-Bil 0.9mg/dL、TP 5.8g/dL、Alb 3.4g/dL、BUN 12mg/dL、Cre 0.68mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、UA 8.3mg/dL、BS 132mg/dL●診療の時間経過●裁判の経過患者の死亡を受けて、患者家族が主治医の診断の見落としを疑い、弁護士へ相談。その後に裁判へと発展した。本コンテンツは、その裁判の流れの中での被告医師への尋問を模したものである。●参考資料 民事紛争の流れと医事裁判の流れ模擬証人尋問(ダイジェスト)(監修:大磯義一郎氏、富永愛氏、小島崇宏氏)●裁判用語ミニ解説宣誓証人は宣誓した上で証言を求められる。これは、宣誓という手続きの下で証言内容の真実性を担保するものであり、自分の記憶や意思と異なることを証言すると裁判で敗訴する可能性が高まるだけでなく、刑法169条[偽証罪]により処罰の対象となる。証拠裁判中で「甲1号証」という言葉がでてくる。これは原告(患者側)が提出する証拠が甲○号証、被告(病院側)が提出する証拠が乙○号証となる。丸には提出した順番に数字が入っていくもので、本件では、患者の診療録や肝癌診療ガイドラインなどが証拠として提出された。まとめ(クリックすると下へ開きます) ●証人尋問を終えて 参加者の判断参加者が裁判官の立場で双方の弁論を判断して投票した結果、原告勝訴(23票)、被告勝訴(32票)となり「原告の請求棄却(病院側勝訴)」という結果になった。また、日常診療の際に医療側が注意すべきポイントとして、なるべくカルテへの記載は、丁寧に行う。病状説明の内容、診療の見通しの説明などカルテに記載があれば、裁判になっても事実認定で争われても重要な証拠となる診療時間が限られる中で、パンフレットなどを準備し、渡している姿勢を示す、パンフレットに書き込みなどをして、説明しているという跡を残すなども重要患者に連絡がつかない場合、できる限りの連絡をした旨の内容を示せば訴訟になった場合に考慮されるなどの現場で役立つ内容がアドバイスされた。●実際の医事裁判から学べるコンテンツはこちら。MediLegalリスクマネジメント

57.

飲酒と死亡率~約40万人の大規模前向き研究

 国際がん研究機関(IARC、本部:フランス)のPietro Ferrari氏らは、「欧州がんと栄養前向き調査」(EPIC)により、飲酒と死亡率の関連を調節する因子の役割を調べ、死亡の絶対リスクを推定した。この欧州大規模コホートの結果、飲酒は、全死亡率、飲酒関連がんによる死亡、暴力による死傷と明らかな関連がみられたが、CVD/CHD死亡との関連はわずかであった。また、EPICにおける死亡の絶対リスクから、飲酒が全死亡率の重要な決定因子であることが示唆された。BMJ open誌2014年7月号の掲載報告。 本試験は、欧州10ヵ国23施設で実施した。登録時にがん・糖尿病・心臓発作・脳卒中に罹患していなかった38万395人の男女を平均12.6年間追跡したところ、2万453人に致死的イベントが発生した。そのうち、飲酒がリスク増加と関連するがん(上部気道消化管がん・肝臓がん・大腸がん・乳がんなど)による死亡は2,053人、心血管疾患(CVD)または冠動脈疾患(CHD)による死亡は4,187人、暴力による死傷は856人であった。生涯における平均飲酒量は、登録時の自己申告に基づいて評価した。 主な結果は以下のとおり。・適度な量の飲酒者(0.1〜4.9g/日)に対する多量飲酒者(女性で30g/日以上、男性で60g/日以上)の全死亡ハザード比は、 女性で1.27(95%CI:1.13~1.43)、男性で1.53(同:1.39~1.68)であった。・飲酒量と飲酒関連がんの死亡率は強い関連がみられ、とくに男性で関連が強かった。また、暴力による死傷との関連は男性のみでみられた。・飲酒者において飲酒量とCVD/CHD死亡率に関連はみられず、非飲酒者のほうが適度な飲酒者に比べてハザード比が高かった。・全死亡率は、とくに男性で、ワインよりもビールに強く関連しているようであった。・30g/日以上飲酒している60歳女性の10年全死亡リスクは、非喫煙者で5%、現喫煙者で7%であった。また、60g/日以上飲酒している60歳男性の10年全死亡リスクは、非喫煙者で11%、現喫煙者で18%であった。・競合リスク分析では、男性ではCVD/CHDの死亡率は飲酒関連がんの死亡率より顕著であった。一方、女性ではCVD/CHDと飲酒関連がんの死亡率は同等であった。

58.

胸のしこりに対し触診や精密検査を行わず肝臓がんを見逃したケース

消化器最終判決判例時報 1610号101-105頁概要狭心症の診断で近医内科に約5年間通院していた74歳の女性。血液検査では大きな異常はみられなかったが、胸のしこりに気付き担当医師に相談したところ、劔状突起であると説明され腹部は触診されなかった。最終診察日に血液検査で肝臓疾患の疑いがもたれたが、その後別の病院を受診して多発性肝腫瘍と診断され、約4ヵ月後に肝腎症候群で死亡した。詳細な経過患者情報1981年4月20日~1994年3月14日まで、狭心症の診断で内科医院に月2回通院していた74歳女性。通院期間中の血液検査データは以下の通り(赤字が正常範囲外)■通院期間中の血液検査データ経過1994年2月24日担当医師に対し、胸にしこりがあることを訴えたが、劔状突起と説明され腹部の診察はなかった。3月10日市町村の補助による健康診断を実施。高血圧境界領域、高脂血症、肝疾患(疑いを含む)および貧血(疑いを含む)として、「要指導」と判断した。1994年3月14日健康診断の結果説明。この時腹部の診察なし(精密検査が必要であると説明したが、検査日は指定せず、それ以降の通院もなし)。3月22日別の病院で検査を受けた結果、肝機能異常および悪性腫瘍を示す数値が出た(詳細不明)。1994年4月1日さらに別医院で診察を受けた結果、触診によって肝臓が腫大していることや上腹部に腫瘤があることがわかり、肝腫瘍の疑いと診断され、総合病院を紹介された。4月4日A総合病院消化器内科で多発性肝腫瘍と診断された。4月7日A総合病院へ入院。高齢であることから積極的治療は不可能とされた。5月6日B病院で診察を受け、それ以後同病院に通院した。5月22日発熱、食欲低下のためB病院に入院した。次第に黄疸が増強し、心窩部痛などの苦痛除去を行ったものの状態が悪化した。7月27日肝内胆管がんを原因とする肝腎症候群で死亡した。当事者の主張患者側(原告)の主張診察の際に実施された血液検査において異常な結果が出たり、肝臓疾患ないしは、肝臓がんの症状の訴え(本件では胸のしこり)があったときには、それを疑い、腹部エコー検査や腫瘍マーカー(AFP検査)などの精密検査を実施すべき注意義務があり、また、エコー検査の設備がない場合には、同設備を有するほかの医療機関を紹介すべき義務がある。担当医師がこれらの義務を怠ったために死亡し、延命利益を侵害され、肝臓がんの適切な治療を受けて治癒する機会と可能性を失った。病院側(被告)の主張当時、肝臓疾患や肝臓がんを疑わせるような症状も主訴もなく、血液検査でも異常が認められなかったから、AFP検査をしたり、エコー検査の設備のあるほかの医療機関を紹介しなかった。患者が気にしていた胸のしこりは、劔状突起のことであった。また、最後の血液検査の結果に基づき、「要指導」と判断してAFP検査を含む精密検査を予定したが、患者が来院しなかった。仮に原告主張の各注意義務違反であったとしても、救命は不可能で、本件と同じ経過を辿ったはずであるから、注意義務違反と死亡という結果との間には因果関係はない。裁判所の判断通院開始から1994年3月10日までの間に、血液検査で一部基準値の範囲外のものもあるが、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑わせるような兆候および訴えがあったとは認められない。しかし、1994年3月14日の時点では、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑い、ただちに触診などを行い、精密検査を行うか転医させるなどの措置を採るべきであった。精密検査の約束をしたとのことだが、検査の日付を指定しなかったこと自体不自然であるし、次回検査をするといえば次の日に来院するはずであるのに、それ以降の受診はなかった。ただし、これらの措置を怠った注意義務違反はあるものの、死亡および延命利益の侵害との間には因果関係は認められない。患者は1981年以来5年間にわたって、担当医師を主治医として信頼し、通院を続けていたにもかかわらず、適時適切な診療を受ける機会を奪われたことによって精神的苦痛を受けた。1,500万円の請求に対し、150万円の支払命令考察外来診療において、長期通院加療を必要とする疾患は数多くあります。たとえば高血圧症の患者さんには、血圧測定、脈の性状のチェック、聴診などが行われ、その他、血液検査、胸部X線撮影、心電図、心エコーなどの検査を適宜施行し、その患者さんに適した内服薬が処方されることになります。しかし、患者さんの方から腹部症状の訴えがない限り、あえて定期的に腹部を触診したり、胃カメラなど消化器系の検査を実施したりすることはないように思います。本件では、狭心症にて外来通院中の患者さんが、血液検査において軽度の肝機能異常を呈した場合、どの時点で肝臓の精査を行うべきであったかという点が問題となりました。裁判所はこの点について、健康診断による「要指導」の際にはただちに精査を促す必要があったものの、検査を実施しなかったことに対しては死亡との因果関係はないと判断しました。多忙な外来診療では、とかく観察中の主な疾患にのみ意識が集中しがちであり、それ以外のことは患者任せであることが多いと思います。一方、患者の側は定期的な通院により、全身すべてを診察され、異常をチェックされているから心配ないという思いが常にあるのではないでしょうか。本件でも裁判所はこの点に着目し、長年通院していたにもかかわらず、命に関わる病気を適切に診断してもらえなかった精神的苦痛に対して、期待権侵害(慰藉料)を認めました。しかし実際のところ、外来通院の患者さんにそこまで要求されるとしたら、満足のいく外来診療をこなすことは相当難しくなるのではないでしょうか。本件以降の判例でも、同じく期待権侵害に対する慰藉料の支払いを命じた判決が散見されますが、一方で過失はあっても死亡との因果関係がない例において慰謝料を認めないという判決も出ており、司法の判断もケースバイケースといえます。別の見方をすると、本件では患者さんから「胸のしこり」という肝臓病を疑う申告があったにもかかわらず、内科診察の基本である「腹部の触診」を行わなかったことが問題視されたように思います。もしその時に丁寧に患者さんを診察し(おそらく腹部の腫瘤が確認されたはずです)、すぐさま検査を行って総合病院に紹介状を作成するところまでたどり着いていたのなら、「がんをみつけてくれた良い先生」となっていたかもしれません。今更ながら、患者さんの訴えに耳を傾けるという姿勢が、大切であることを実感しました。消化器

59.

喫煙によるがん死亡リスクの増加

タバコを吸っていると、がんによる死亡の危険性は高くなります全てのがん男性 1.97倍、女性1.57倍喉頭がん男性 5.47倍肺がん男性4.79倍、女性3.88倍肝臓がん男性1.81倍、女性1.73倍口腔・口唇・咽頭がん男性2.66倍、女性1.97倍食道がん男性3.39倍、女性1.90倍胃がん男性1.51倍、女性1.22倍膵臓がん男性1.58倍、女性1.73倍尿路(膀胱、腎盂、尿管)がん男性5.35倍、女性1.86倍タバコを吸わない人を1としたときの、タバコを吸っている人のがんによる死亡の危険性Katanoda K, et al. J Epidemiol 2008;18:251-264.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

60.

18)糖尿病とがんリスクのうまい説明法【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話患者糖尿病になると、がんになりやすいって聞いたんですけど、本当ですか?医師それは本当ですよ。患者えっ、やっぱりそうなんですか。(少し心配そうな顔)医師とくに、膵臓がん、肝臓がん、大腸がんになりやすいそうです。患者それは怖いですね。医師糖尿病の合併症だけではなく、がんも予防ができたらいいですね。患者どうしたらいいですか?医師じつは糖尿病合併症とがんの予防は同時にできますよ。患者具体的にはどうしたらいいですか?医師まずは禁煙、次に運動、3番目がたっぷり野菜を食べることです。患者なるほど。頑張ってやってみます。(嬉しそうな顔)●ポイント合併症とがんの予防が同時に行えると指導すると効果的

検索結果 合計:68件 表示位置:41 - 60