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【GET!ザ・トレンド】糖尿病専門医からがんを診療する医師へのメッセージ

はじめに糖尿病に伴うがんリスクには、糖尿病治療薬も関与している可能性がある。本稿では、糖尿病治療薬に関するエビデンスとその解釈上の注意点、および日常診療に携わる医師への提言を述べる。糖尿病治療薬とがんリスク特定の糖尿病治療薬が、がん罹患リスクに影響を及ぼすか否かについての現時点でのエビデンスは限定的であり、治療法の選択に関しては、添付文書などに示されている使用上の注意に従ったうえで、良好な血糖コントロールによるベネフィットを優先した治療1)が望ましい。以下に、治療薬ごとにリスクを述べる。1)メトホルミン筆者らが行ったメタアナリシスでは、メトホルミン服用患者は非服用患者に比べてがんの発症リスクが0.67倍と有意に低下していた(図)2)。がん死リスクもほぼ同等であった。さらに臓器別には、大腸がん約30%、肺がん約30%、肝臓がんに関しては約80%と有意な低下を認めた。ただし、糖尿病で有意に増加するといわれている膵臓がんなどにおいては、リスク比の変化は有意ではなかった。図を拡大するメトホルミンは、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を介して主に肝臓に作用して、血糖降下を発揮する。最近判明してきたことだが、このAMPKという物質は、下流にあるmTORというがん関連因子を抑制することで発がんを抑えるのではないか、という研究が進んでいる。実際に日本人の非糖尿病を対象としたランダム化比較試験(RCT)においても、メトホルミン投与群では非投与群に比べて、大腸がんの内視鏡的マーカーの有意な低下を認めた。ただし、短期間の研究なので、長期的な予後までは判明していない。まだまだ研究段階ではあるが、このようにメトホルミンは、がんの発症を抑える可能性があるということで着目されている。ただし、観察研究が主体なのでバイアスに留意すべきである。 筆者らのメタアナリシスに含まれているRCTや、時間関連バイアス調整後の観察研究3)やRCT(短期間も含む)のみの他のメタアナリシス4)では、結果はニュートラルであった。2)インスリン/スルホニル尿素(SU)薬/グリニド薬理論上は、高インスリン血症によりがんリスクが高まることが懸念される。3~4年ほど前、インスリン投与により乳がんのリスクが有意に増加するという報告が続いた。しかし、これらの報告は研究デザイン上の問題やバイアスが大きく、妥当性は低い(表1)。実際、その後行われた1万2千人余りのランダム化研究などの分析によると、インスリン投与群とインスリン非投与群では、がん全般の発症率およびがんによる死亡リスクともに有意な増減を認めておらず、現時点ではインスリンによるがんリスクの上昇の可能性はほぼ否定されている。表1を拡大する血中インスリン濃度を高めるSU薬も、メタアナリシスでまったくのリスク増減を認めていない。また、グリニド薬に関しては、アジア人の報告ではがん全般リスクはやや上昇するという報告があったが、こちらの疫学研究は非常にバイアスの強い報告なので、まだまだデータとしては限定的である。3)ピオグリタゾン膀胱がんのリスクが上昇するというニュースで、近年話題となった。アメリカの報告では、がん全般としては有意な増減を認めていない。ただし、日本、アメリカ、ヨーロッパの報告を見ると、ピオグリタゾンにより膀胱がんリスクが1.4~2倍あまりも有意に上昇する可能性が示唆されている。実際、フランス・ドイツでは処方禁止、インドでは第1選択薬としての処方は禁止となっている。まだまだ研究段階で最終的な結論は出ていないが、このような現状を踏まえ、添付文書の注意書き(表2)に従ったうえで投与することが必要である。表2を拡大する4)α-グルコシダーゼ阻害薬アメリカの副作用登録では、膀胱がんのリスクが有意に増加するということが報告されている。しかし、台湾の疫学研究では、膀胱がんの有意なリスク増減は認めていない。いずれも非常に限定的でバイアスの強いデータであり、まだまだ最終結論は出ていない。5)DPP-4阻害薬/GLP-1アナログDPP-4阻害薬のメタアナリシスでは、がんリスクの有意な増減はまったく認めていない5)。ただし、含まれている研究は非常に追跡期間の短いものばかりなので、臨床的にあまり価値がないエビデンスである。その後発表されたRCT 2件では有意なリスクの増加を認めていないので、がんのリスクに対する安全性も比較的確保されたものと思われる。6)SGLT2阻害薬今年、わが国でも承認されたこの薬物は、腎臓でのブドウ糖吸収を抑制することで血糖値を下げ、さらに体重も低下する報告がある。まだまだ新薬として登場して間もないものでデータも非常に限定的であるため、長期的なリスクは未知数である。糖尿病患者のがん検診糖尿病ではがんのリスクが高まる可能性が示唆されているため、日常診療において糖尿病患者に対しては、性別・年齢に応じて臨床的に有効ながん検診(表3)を受診するよう推奨し、「一病息災」を目指すことが重要である。がん検診は、がん発見が正確で確実であること、受診率が高いこと、受診の結果予後が改善することを満たして初めて有効性を持つ。日本のがん検診の多くは有効性が実証されておらず、過剰診断と過剰治療によるリスクも小さくはないことに留意する。さらに、無症状でも急激に血糖コントロールが悪化した場合には、がんが潜在している可能性があるため、がん精査を考慮する必要がある。表3を拡大する文献1)国立国際医療研究センター病院.糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け).http://ncgm-dm.jp/center/diabetes_treatment_manual.pdf(参照 2014.8.22)2)Noto H, et al. PLoS One. 2012; 7: e33411.3)Suissa S, et al. Diabetes Care. 2012; 35: 2665-2673.4)Stevens RJ, et al. Diabetologia. 2012; 55: 2593-2603.5)Monami M, et al. Curr Med Res Opin. 2011; 27: 57-64.6)厚生労働省. がん検診について. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_kenshin01.pdf(参照2014.8.22)

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【GET!ザ・トレンド】糖尿病とがんに関する総説

はじめに糖尿病により発がんおよびがん死のリスクが増加する可能性が、近年注目されている1)。また、糖尿病を有する患者ががんになると、生命予後、術後予後が不良であることが報告されている。本稿では両者の関連についてレビューする。糖尿病とがんの関連性糖尿病とがんは、食事、運動不足、喫煙、飲酒など、さまざまな生活要因を介して相互関連している(図1)が、さらに治療薬の関与も示唆されてきている。図1を拡大する糖尿病患者が世界的に急増していることから、糖尿病の予防だけでなく、がん予防対策、がん検診の有効性、さらには糖尿病治療薬に関する研究と診療での認識が重要となってきた。糖尿病では、心血管疾患による死亡が増加するが、がん死の多いわが国では、糖尿病においてもがんは死亡の主因である。そこで、日本でも、日本糖尿病学会と日本癌学会が合同で国民および医療者に対するステートメントを発表している2)(表)。表を拡大する参考を拡大する疫学的エビデンス筆者らが行ったメタアナリシスによると、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて、がんを発症するリスクが約1.2倍と有意に高値であった3)(図2)。図2を拡大するまた、この数値はがんによる死亡リスクについてもほぼ同様3)で、国内外で認められている。さらに、人種間、男女間の比較においても、いずれも糖尿病患者でよりがんのリスクが上昇する傾向を認め、さらにアジア人は非アジア人よりも上昇率が高いことが判明した4)。日本人においては、臓器別でみると、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんの有意なリスク上昇と関連していた2)。糖尿病による発がん機序糖尿病とがんの関連性には、高インスリン血症、高血糖、肥満、炎症、糖尿病治療薬などさまざまな因子が複雑に関与している2)(図3)。図3を拡大する1)高インスリン血症2型糖尿病は、インスリン抵抗性と代償性高インスリン血症を特徴とする。さらに2型糖尿病患者では、肥満や運動不足が多く、高インスリン血症がさらに進行する。インスリンは、insulin-like growth factor-1(IGF-1)受容体を介してがんを誘発することが想定されおり、動物実験で証明されている。一方ヒトでは、1型糖尿病のがんリスクは2型糖尿病より低いものの、一般人との比較では結論に達していない。 なお、糖尿病患者での前立腺がんのリスクが低値であることには、以下の機序が想定されている。糖尿病患者では、性ホルモン結合グロブリンが低値であり、さらにインスリン抵抗性によりテストステロン産生が低下するためにテストステロン低下症が少なくない。 前立腺がんは、テストステロン依存性であるため、糖尿病患者では前立腺がんのリスクが低下する。ただし人種差があるため、日本人を含むアジア人ではこの傾向を認めていない(図2)。2)高血糖2型糖尿病のがん細胞増殖や転移は、高血糖で促進されることが報告されている。また、血糖値とがんリスクには正の相関があることも報告されている。さらに高血糖は、酸化ストレスを高め、それが発がんの第1段階であるDNA損傷を引き起こすことも提唱されている。インスリン分泌不全が2型糖尿病の特徴とされる日本人・韓国人でも私たちの分析でがんリスクの増加を認めたことは、この仮説に合致し、近年発表された前向き研究統合解析でも血糖値とがん死リスクの正の相関傾向が示されている5)。疫学データの限界疫学データではバイアスが少なからず伴い、計算で完全に調整することはできない。とくに、糖尿病の診断は自己申告であることが多いこと、糖尿病患者は通院しているためにがんを発見しやすいなどにより妥当性が低下する。糖尿病に伴うがんリスクは、過大評価されている可能性があり、若干割り引いて解釈することも重要である。参考文献1)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2013; 4: 225-232.2)糖尿病と癌に関する委員会. 糖尿病. 2013; 56: 374-390.3)Noto H, et al. Endocr Pract. 2011; 17: 616-628.4)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2012; 3: 24-33.5)Seshasai SR, et al. N Engl J Med.2011; 364: 829-841.

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ピロリ感染と糖尿病、胃がん発症に相乗効果

 Helicobacter pylori(以下、HP)感染は胃がんの最も強力な危険因子と認められている。しかし、HP感染者の9割以上は胃がんを発症しないことから、HP感染下に胃がん発症リスクを増大させる他の要因があることが考えられる。久山町研究での検討結果から、その要因の1つに糖代謝異常が示唆されることを、第52回日本癌治療学会学術総会(2014年8月28日~30日、横浜市)にて、九州大学大学院医学研究院環境医学分野の池田 文恵氏が紹介した。 わが国において、胃がんは年齢調整死亡率が低下しているとはいえ、罹患率で見れば男性で1位、女性で2位と、いまだに発症頻度の高いがんである(注:結腸がんと直腸がんを併せて大腸がんとした場合、女性では大腸がんが2位、胃がんは3位)。それゆえ、リスクファクターを明らかにして予防につなげることは重要である。 HP感染は胃がんの危険因子であり、久山町研究においても、HP抗体陽性者は陰性者に比べて、胃がん罹患率が男女とも約2倍と有意に高い。また、HP感染の疑いが強い住民(HP抗体陽性かつペプシノゲン法陽性)における20年間の胃がんの累積罹患率は7.4%と高い。  しかし、この結果はまた、HP感染者の9割以上は胃がんに罹患していないということを示す。池田氏は、HP感染は胃がん発症の十分条件ではなく、他の要因が重なることで発症リスクが増大するのではないかと考察し、その要因の1つとして糖代謝異常について検討した。 わが国では糖尿病患者が急増しており、久山町の男女においても、糖代謝異常(空腹時血糖異常、耐糖能異常、糖尿病)が増加してきている。わが国のプール解析では、大腸がん、肝臓がん、すい臓がんでは糖尿病との関連が報告されているが、胃がんとの関連は明確ではない。国内外の他のコホート研究でも関連性の結果は分かれている。 久山町の疫学調査データにおける検討では、40歳以上の住民2,466人を空腹時血糖レベルで3群(94mg/dL以下、95~104mg/dL、105mg/dL以上)に分け、胃がん発症ハザード比をみたところ、空腹時血糖と胃がん発症との関連が認められた。さらに、HP抗体の有無別にその関連を検討したところ、HP抗体陽性者は空腹時血糖と胃がん発症との間に関連が認められたが、HP抗体陰性者では同関連は認められなかった。 また池田氏は、慢性的な高血糖が胃がん発症に与える影響を調べるため、40歳以上の住民2,603人をHbA1cレベルで4群(JDS値:4.9%以下、5.0~5.9%、6.0~6.9%、7.0%以上)に分け14年間追跡した。その結果、HbA1c 5.0~5.9%群に比べ、6.0~6.9%、7.0%以上の群で胃がん発症のハザード比が有意に上昇し、HbA1cにおいても胃がん発症との関連が認められた。さらに、対象者をHbA1cレベル(6.0%未満もしくはそれ以上)とHP抗体の有無で4群に層別し、胃がん発症のハザード比を検討したところ、HbA1c高値かつHP抗体陽性群で、相乗的に胃がん発症のリスクが上昇することが示された。 これらの結果から、池田氏は「比較的低いレベルの血糖上昇から胃がん発症のリスクが上昇する可能性があること、また、HP感染に慢性的な高血糖が加わることで、胃がん発症リスクがさらに上昇することが示唆される」と述べ、「HP感染および高血糖・糖尿病は胃がんの危険因子の1つであり、両者の間に相乗効果があることが示唆される」とまとめた。

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13種類のがんを1回の採血で診断―次世代のがん診断システム開発プロジェクト始動

 8月18日(月)、独立行政法人国立がん研究センター(東京都中央区)は、血液から乳がんや大腸がんなど13種類のがんを診断するシステムの開発を始めると発表した。 これは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、国立がん研究センター(以下、NCC)、東レ株式会社(以下、東レ)およびアカデミア、企業など他の7機関とともに、健康診断などで簡便にがんや認知症を検査できる世界最先端の診断機器・検査システムの開発を行うプロジェクトの一環である。計画では、患者への負担が小さく、より早期に一度にさまざまながんを診断できる技術の開発を支援することを目的としている。 血液検査によるがんの早期発見では、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫の13種をターゲットにしている。 具体的には、NCCに蓄積された膨大な臨床情報とバイオバンクの検体、マイクロRNA腫瘍マーカーについての研究成果を基盤とし、東レが開発した高感度DNAチップと、東レとNCCが共同開発した血液中に存在するマイクロRNAバイオマーカーの革新的な探索方法を活用して、体液中のマイクロRNAの発現状態についてのデータベースを構築、網羅的に解析するというもの。 この測定技術により、がんや認知症の早期発見マーカーを見出し、これらのマーカーを検出するバイオツールを世界に先駆け実用化することを目指すとしている。詳細はプレスリリースへ

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模擬証人尋問でわかる医事裁判 被告人になり尋問されることは何?

医師資格を持つ3人の弁護士、大磯義一郎氏(浜松医科大学)、富永愛氏(富永愛法律事務所)および小島崇宏氏(大阪A&M法律事務所)が、「模擬証人尋問」を通じて実際の医事裁判の模様を伝える催しが、6月2日横浜市立大学附属病院にて開催された。この催しは、約3ヵ月に1回の割合で全国の大学医学部などで医師、医療従事者、医学生を対象に開催されているものであり、今回は同院の安全管理者会議の一環として開催された。ケアネットでは、同院医療安全管理室のご厚意により、当日の模様を収録。医師が医事裁判で被告の立場に置かれた場合、原告・被告双方からどのような尋問がなされるのか、なかなか垣間見ることのできない模擬尋問の内容を動画ダイジェストでお届けする。事例概要●患者概要患者42歳 男性職業自営業(製靴業)既往歴虫垂炎(18歳・手術)、胆石(36歳)、右肩関節痛(現在被告病院にて加療中)家族歴特記事項なし家族構成妻、子(14歳中学生)嗜好タバコ 15本/日(15歳から)飲酒 5合位/日現病歴右肩関節痛にて被告病院整形外科受診中の患者。整形外科にて肝機能障害指摘。飲酒量も多いことから精査・加療目的で紹介受診となる。●初診時現症(2010年5月21日)主訴肝機能障害指摘身体所見 体温36.6℃、血圧144/88、脈拍60/分、眼瞼結膜 貧血なし、眼球結膜 黄染なし、胸部聴診上異常なし、腹部平坦、軽度膨隆あり、圧痛なし、肝2横指触知、脾臓触知せず、下腿浮腫なし検査所見WBC 7800/μL、RBC 490/μL、Plt 15万/μL、AST 55IU/L、ALT 79IU/L、LDH 592IU/L、γ-GTP 432IU/L、T-Bil 1.6mg/dL、D-Bil 0.9mg/dL、TP 5.8g/dL、Alb 3.4g/dL、BUN 12mg/dL、Cre 0.68mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、UA 8.3mg/dL、BS 132mg/dL●診療の時間経過●裁判の経過患者の死亡を受けて、患者家族が主治医の診断の見落としを疑い、弁護士へ相談。その後に裁判へと発展した。本コンテンツは、その裁判の流れの中での被告医師への尋問を模したものである。●参考資料 民事紛争の流れと医事裁判の流れ模擬証人尋問(ダイジェスト)(監修:大磯義一郎氏、富永愛氏、小島崇宏氏)●裁判用語ミニ解説宣誓証人は宣誓した上で証言を求められる。これは、宣誓という手続きの下で証言内容の真実性を担保するものであり、自分の記憶や意思と異なることを証言すると裁判で敗訴する可能性が高まるだけでなく、刑法169条[偽証罪]により処罰の対象となる。証拠裁判中で「甲1号証」という言葉がでてくる。これは原告(患者側)が提出する証拠が甲○号証、被告(病院側)が提出する証拠が乙○号証となる。丸には提出した順番に数字が入っていくもので、本件では、患者の診療録や肝癌診療ガイドラインなどが証拠として提出された。まとめ(クリックすると下へ開きます) ●証人尋問を終えて 参加者の判断参加者が裁判官の立場で双方の弁論を判断して投票した結果、原告勝訴(23票)、被告勝訴(32票)となり「原告の請求棄却(病院側勝訴)」という結果になった。また、日常診療の際に医療側が注意すべきポイントとして、なるべくカルテへの記載は、丁寧に行う。病状説明の内容、診療の見通しの説明などカルテに記載があれば、裁判になっても事実認定で争われても重要な証拠となる診療時間が限られる中で、パンフレットなどを準備し、渡している姿勢を示す、パンフレットに書き込みなどをして、説明しているという跡を残すなども重要患者に連絡がつかない場合、できる限りの連絡をした旨の内容を示せば訴訟になった場合に考慮されるなどの現場で役立つ内容がアドバイスされた。●実際の医事裁判から学べるコンテンツはこちら。MediLegalリスクマネジメント

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飲酒と死亡率~約40万人の大規模前向き研究

 国際がん研究機関(IARC、本部:フランス)のPietro Ferrari氏らは、「欧州がんと栄養前向き調査」(EPIC)により、飲酒と死亡率の関連を調節する因子の役割を調べ、死亡の絶対リスクを推定した。この欧州大規模コホートの結果、飲酒は、全死亡率、飲酒関連がんによる死亡、暴力による死傷と明らかな関連がみられたが、CVD/CHD死亡との関連はわずかであった。また、EPICにおける死亡の絶対リスクから、飲酒が全死亡率の重要な決定因子であることが示唆された。BMJ open誌2014年7月号の掲載報告。 本試験は、欧州10ヵ国23施設で実施した。登録時にがん・糖尿病・心臓発作・脳卒中に罹患していなかった38万395人の男女を平均12.6年間追跡したところ、2万453人に致死的イベントが発生した。そのうち、飲酒がリスク増加と関連するがん(上部気道消化管がん・肝臓がん・大腸がん・乳がんなど)による死亡は2,053人、心血管疾患(CVD)または冠動脈疾患(CHD)による死亡は4,187人、暴力による死傷は856人であった。生涯における平均飲酒量は、登録時の自己申告に基づいて評価した。 主な結果は以下のとおり。・適度な量の飲酒者(0.1〜4.9g/日)に対する多量飲酒者(女性で30g/日以上、男性で60g/日以上)の全死亡ハザード比は、 女性で1.27(95%CI:1.13~1.43)、男性で1.53(同:1.39~1.68)であった。・飲酒量と飲酒関連がんの死亡率は強い関連がみられ、とくに男性で関連が強かった。また、暴力による死傷との関連は男性のみでみられた。・飲酒者において飲酒量とCVD/CHD死亡率に関連はみられず、非飲酒者のほうが適度な飲酒者に比べてハザード比が高かった。・全死亡率は、とくに男性で、ワインよりもビールに強く関連しているようであった。・30g/日以上飲酒している60歳女性の10年全死亡リスクは、非喫煙者で5%、現喫煙者で7%であった。また、60g/日以上飲酒している60歳男性の10年全死亡リスクは、非喫煙者で11%、現喫煙者で18%であった。・競合リスク分析では、男性ではCVD/CHDの死亡率は飲酒関連がんの死亡率より顕著であった。一方、女性ではCVD/CHDと飲酒関連がんの死亡率は同等であった。

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胸のしこりに対し触診や精密検査を行わず肝臓がんを見逃したケース

消化器最終判決判例時報 1610号101-105頁概要狭心症の診断で近医内科に約5年間通院していた74歳の女性。血液検査では大きな異常はみられなかったが、胸のしこりに気付き担当医師に相談したところ、劔状突起であると説明され腹部は触診されなかった。最終診察日に血液検査で肝臓疾患の疑いがもたれたが、その後別の病院を受診して多発性肝腫瘍と診断され、約4ヵ月後に肝腎症候群で死亡した。詳細な経過患者情報1981年4月20日~1994年3月14日まで、狭心症の診断で内科医院に月2回通院していた74歳女性。通院期間中の血液検査データは以下の通り(赤字が正常範囲外)■通院期間中の血液検査データ経過1994年2月24日担当医師に対し、胸にしこりがあることを訴えたが、劔状突起と説明され腹部の診察はなかった。3月10日市町村の補助による健康診断を実施。高血圧境界領域、高脂血症、肝疾患(疑いを含む)および貧血(疑いを含む)として、「要指導」と判断した。1994年3月14日健康診断の結果説明。この時腹部の診察なし(精密検査が必要であると説明したが、検査日は指定せず、それ以降の通院もなし)。3月22日別の病院で検査を受けた結果、肝機能異常および悪性腫瘍を示す数値が出た(詳細不明)。1994年4月1日さらに別医院で診察を受けた結果、触診によって肝臓が腫大していることや上腹部に腫瘤があることがわかり、肝腫瘍の疑いと診断され、総合病院を紹介された。4月4日A総合病院消化器内科で多発性肝腫瘍と診断された。4月7日A総合病院へ入院。高齢であることから積極的治療は不可能とされた。5月6日B病院で診察を受け、それ以後同病院に通院した。5月22日発熱、食欲低下のためB病院に入院した。次第に黄疸が増強し、心窩部痛などの苦痛除去を行ったものの状態が悪化した。7月27日肝内胆管がんを原因とする肝腎症候群で死亡した。当事者の主張患者側(原告)の主張診察の際に実施された血液検査において異常な結果が出たり、肝臓疾患ないしは、肝臓がんの症状の訴え(本件では胸のしこり)があったときには、それを疑い、腹部エコー検査や腫瘍マーカー(AFP検査)などの精密検査を実施すべき注意義務があり、また、エコー検査の設備がない場合には、同設備を有するほかの医療機関を紹介すべき義務がある。担当医師がこれらの義務を怠ったために死亡し、延命利益を侵害され、肝臓がんの適切な治療を受けて治癒する機会と可能性を失った。病院側(被告)の主張当時、肝臓疾患や肝臓がんを疑わせるような症状も主訴もなく、血液検査でも異常が認められなかったから、AFP検査をしたり、エコー検査の設備のあるほかの医療機関を紹介しなかった。患者が気にしていた胸のしこりは、劔状突起のことであった。また、最後の血液検査の結果に基づき、「要指導」と判断してAFP検査を含む精密検査を予定したが、患者が来院しなかった。仮に原告主張の各注意義務違反であったとしても、救命は不可能で、本件と同じ経過を辿ったはずであるから、注意義務違反と死亡という結果との間には因果関係はない。裁判所の判断通院開始から1994年3月10日までの間に、血液検査で一部基準値の範囲外のものもあるが、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑わせるような兆候および訴えがあったとは認められない。しかし、1994年3月14日の時点では、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑い、ただちに触診などを行い、精密検査を行うか転医させるなどの措置を採るべきであった。精密検査の約束をしたとのことだが、検査の日付を指定しなかったこと自体不自然であるし、次回検査をするといえば次の日に来院するはずであるのに、それ以降の受診はなかった。ただし、これらの措置を怠った注意義務違反はあるものの、死亡および延命利益の侵害との間には因果関係は認められない。患者は1981年以来5年間にわたって、担当医師を主治医として信頼し、通院を続けていたにもかかわらず、適時適切な診療を受ける機会を奪われたことによって精神的苦痛を受けた。1,500万円の請求に対し、150万円の支払命令考察外来診療において、長期通院加療を必要とする疾患は数多くあります。たとえば高血圧症の患者さんには、血圧測定、脈の性状のチェック、聴診などが行われ、その他、血液検査、胸部X線撮影、心電図、心エコーなどの検査を適宜施行し、その患者さんに適した内服薬が処方されることになります。しかし、患者さんの方から腹部症状の訴えがない限り、あえて定期的に腹部を触診したり、胃カメラなど消化器系の検査を実施したりすることはないように思います。本件では、狭心症にて外来通院中の患者さんが、血液検査において軽度の肝機能異常を呈した場合、どの時点で肝臓の精査を行うべきであったかという点が問題となりました。裁判所はこの点について、健康診断による「要指導」の際にはただちに精査を促す必要があったものの、検査を実施しなかったことに対しては死亡との因果関係はないと判断しました。多忙な外来診療では、とかく観察中の主な疾患にのみ意識が集中しがちであり、それ以外のことは患者任せであることが多いと思います。一方、患者の側は定期的な通院により、全身すべてを診察され、異常をチェックされているから心配ないという思いが常にあるのではないでしょうか。本件でも裁判所はこの点に着目し、長年通院していたにもかかわらず、命に関わる病気を適切に診断してもらえなかった精神的苦痛に対して、期待権侵害(慰藉料)を認めました。しかし実際のところ、外来通院の患者さんにそこまで要求されるとしたら、満足のいく外来診療をこなすことは相当難しくなるのではないでしょうか。本件以降の判例でも、同じく期待権侵害に対する慰藉料の支払いを命じた判決が散見されますが、一方で過失はあっても死亡との因果関係がない例において慰謝料を認めないという判決も出ており、司法の判断もケースバイケースといえます。別の見方をすると、本件では患者さんから「胸のしこり」という肝臓病を疑う申告があったにもかかわらず、内科診察の基本である「腹部の触診」を行わなかったことが問題視されたように思います。もしその時に丁寧に患者さんを診察し(おそらく腹部の腫瘤が確認されたはずです)、すぐさま検査を行って総合病院に紹介状を作成するところまでたどり着いていたのなら、「がんをみつけてくれた良い先生」となっていたかもしれません。今更ながら、患者さんの訴えに耳を傾けるという姿勢が、大切であることを実感しました。消化器

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喫煙によるがん死亡リスクの増加

タバコを吸っていると、がんによる死亡の危険性は高くなります全てのがん男性 1.97倍、女性1.57倍喉頭がん男性 5.47倍肺がん男性4.79倍、女性3.88倍肝臓がん男性1.81倍、女性1.73倍口腔・口唇・咽頭がん男性2.66倍、女性1.97倍食道がん男性3.39倍、女性1.90倍胃がん男性1.51倍、女性1.22倍膵臓がん男性1.58倍、女性1.73倍尿路(膀胱、腎盂、尿管)がん男性5.35倍、女性1.86倍タバコを吸わない人を1としたときの、タバコを吸っている人のがんによる死亡の危険性Katanoda K, et al. J Epidemiol 2008;18:251-264.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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18)糖尿病とがんリスクのうまい説明法【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話患者糖尿病になると、がんになりやすいって聞いたんですけど、本当ですか?医師それは本当ですよ。患者えっ、やっぱりそうなんですか。(少し心配そうな顔)医師とくに、膵臓がん、肝臓がん、大腸がんになりやすいそうです。患者それは怖いですね。医師糖尿病の合併症だけではなく、がんも予防ができたらいいですね。患者どうしたらいいですか?医師じつは糖尿病合併症とがんの予防は同時にできますよ。患者具体的にはどうしたらいいですか?医師まずは禁煙、次に運動、3番目がたっぷり野菜を食べることです。患者なるほど。頑張ってやってみます。(嬉しそうな顔)●ポイント合併症とがんの予防が同時に行えると指導すると効果的

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大腸がん手術後の患者さんへの説明

手術のあと大腸がんの手術を受けられた方へ編著:東京医科歯科大学大学院 応用腫瘍学 助教 石黒 めぐみ氏監修:東京医科歯科大学大学院 腫瘍外科学 教授 杉原 健一氏Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.あなたの受けた手術手術を行った日手術で切除した範囲年月日術式名(受けた手術の名称)きずお腹の創Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.2病理検査の結果深達度□□□□□□大腸癌取扱い規約【第8版】←粘膜大腸(断面)←粘膜下層Tis(粘膜まで)T1(粘膜下層まで)T2(固有筋層まで)T3(漿膜下層まで)T4a(漿膜に露出)T4b(ほかの臓器に浸潤)←固有筋層←漿膜下層←漿膜リンパ節リンパ節転移□ なし□ あり ➡個(□N1 □N2 □N3)以上の結果を総合するとあなたの大腸がんの病理学的進行度(ステージ)はほかの臓器への転移0□ 術前の検査では認めていません□ ほかの臓器への転移が疑われます➡(臓器)ⅠⅡⅢaⅢbⅣと診断されます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.3【参考】大腸がんの進行度(ステージ)ステージ0粘膜・がんが粘膜の中にとどまっているステージⅠ・がんが粘膜下層あるいは固有筋層までにとどまっている・リンパ節転移がないステージⅡ粘膜下層固有筋層・がんが固有筋層を超えている・リンパ節転移がない漿膜下層漿膜・リンパ節転移があるステージⅢステージⅣⅢa:リンパ節転移が1~3個Ⅲb:リンパ節転移が4個以上・ほかの臓器への転移や腹膜播種がある肝転移Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.リンパ節転移肺転移早期がん進行がん腹膜播種4今後の治療について☑:あなたに当てはまるもの① 大腸がんの「再発」とは?② 大腸がん手術後の定期検査③ 術後補助化学療法④ 一時的人工肛門の閉鎖⑤その他のがんの検診についてCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.5①大腸がんの「再発」とは?a)大腸がんの「再発」とは?・手術でがんをすべて取りきったと思っても一定の割合で再発が起こります。大腸から離れた場所に❝飛び火❞した目に見えない大きさのがん徐々に増えてきて画像に写る大きさのしこりになったもの1cmくらい手術前手術後Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.再発6①大腸がんの「再発」とは?b)大腸がんの再発率・手術のときのステージが進んでいるほど再発する確率(再発率)は高くなります。(%)5030.8%43.240再発率302010013.3%3.7%2.712.124.3結腸がん直腸がん16.75.7ステージⅠステージⅡステージⅢ大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991~1996年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.7【参考】大腸がんの5年生存率(%)10094.091.68084.877.760.0604018.8200ステージ0ステージⅠステージⅡ ステージⅢa ステージⅢb ステージⅣ大腸癌研究会・大腸癌全国登録 2000~2004年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.8①大腸がんの「再発」とは?c)大腸がんの主な再発形式・大腸がんの再発には、以下のようなものがあります。遠隔再発ほかの臓器に再発・肝再発腹膜再発吻合部再発(腹膜播種)お腹の中(腹腔内)に種をまいたように散らばって再発腸をつなぎ合わせた部分に再発局所再発・肺再発もともとがんがあった周囲に再発・その他:脳や骨などCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.9②大腸がん手術後の定期検査a)定期検査はなぜ必要?・大腸がんの再発は、手術で取りきれれば治る可能性があります。・再発が起こっていないかどうかをチェックするために手術後には定期的な検査が大切です。・手術のあと、5年間は定期検査を行います。大腸がんの再発のうち、96%が手術後5年以内に起こります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.10②大腸がん手術後の定期検査b)定期検査のスケジュール(例)・以下のようなスケジュールに従って定期検査を行います。※ステージや患者さんのからだの状態によって多少異なります。1年2年問診・診察3ヵ月ごと直腸指診【直腸がん】3ヵ月ごと4年5年6ヵ月ごと腫瘍マーカー3年胸部・腹部CT6ヵ月ごと6ヵ月ごと骨盤CT【直腸がん】6ヵ月ごと6ヵ月ごと大腸内視鏡検査1~2年ごと大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.11③術後補助化学療法a)術後補助化学療法とは?・からだの中に残っているかもしれない見えないがん細胞を攻撃し、再発を防ぐ あるいは 再発を遅らせることを目的として、手術のあとに行う抗がん剤治療のことを「術後補助化学療法」といいます。【術後補助化学療法の対象となる患者さん】・ステージⅢの患者さん・ステージⅡのうち再発する危険性が高いと思われる患者さん・原則として術後1~2ヵ月を目安に開始し、6ヵ月行います。・通常は2~3週おきの外来通院で治療します。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.12③術後補助化学療法b)術後補助化学療法で使用されるレジメン・大腸がんの術後補助化学療法で使用されるレジメンには、以下のようなものがあります。※レジメンとは、使用する薬剤とその組み合わせ、投与する量やスケジュールなど治療の「レシピ」のようなものです。レジメン剤型投与方法投与スケジュール・5-FU+LV療法注射薬2時間かけて点滴週1回×6回その後2週間休む・UFT+LV療法飲み薬内服(1日3回)4週間内服その後1週間休む・カペシタビン療法飲み薬内服(1日2回)2週間内服その後1週間休む・FOLFOX療法注射薬48時間かけて点滴2週間おき・CapeOX療法飲み薬+注射薬点滴は約2時間カペシタビンは内服(1日2回)点滴+2週間内服その後1週間休むCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.13④一時的人工肛門の閉鎖・今回の手術では、以下のような目的で、一時的な人工肛門を造設しました。□腸のつなぎ目を安静に保ち、縫合不全*を予防するため。□ 術後、縫合不全*が起こったため。*縫合不全:腸のつなぎ目がほころびること・腸のつなぎ目が落ち着いたころを見計らって人工肛門を閉鎖する(もとに戻す)手術を行います。・1~2時間程度の手術です。・今回の手術と同様、全身麻酔で行います。・おおよその入院期間:日程度・手術を行う時期の目安:年お腹の壁(腹壁)月ころCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.口側の腸管皮膚筋層腹膜肛門側の腸管14⑤その他のがんの検診についてa)ほかの臓器のがんの検診について・大腸がんにかかったあとも、ほかの臓器のがんにかかる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんがほかの臓器のがんにかかる頻度は1~5%と報告されています。・大腸がんの手術後には、再発のチェックを目的とした定期検査を行いますが、ほかの臓器のがんの検査としては必ずしも十分ではありません。・自治体などで実施されるがん検診は、積極的に受けましょう。大腸がん手術後の定期検査では見つかりにくいがん・胃がん・食道がん・乳がん・子宮がん・前立腺がん大腸がん手術後の定期検査で見つかりやすいがん・肺がんCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.・肝臓がん15⑤その他のがんの検診についてb)別の大腸がんができる可能性があります・大腸がんの手術を受けたあとも、大腸の別の部分に別の大腸がん/大腸ポリープができる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんで、大腸の別の部分に別の大腸がんができる頻度は1~3%と報告されています。これは一般集団に比べておよそ1.5倍高い頻度です。・5年間の「手術後の定期検査」が終了したあとも、2~3年に1回の大腸内視鏡検査を受けることが勧められます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.16退院後の生活について① 退院後の食生活② 退院後の日常生活③ 退院後の仕事復帰④ 退院後のスポーツやレジャーCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.17①退院後の食生活・原則として食事の内容に制限はありません。・「ゆっくり、よく噛んで、腹八分目」を心がけましょう。【食事のとり方の基本】➊ 規則正しく食事をとりましょう。➋ ゆっくり、よくかんで食べましょう。➌ 一度にたくさん食べすぎないようにしましょう。➍ バランスよく、消化の良いものを中心にとりましょう。➎ 水分をしっかりとりましょう。➏ アルコールはほどほどに。➐ 腸閉塞のサインを知っておきましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.詳しくは24ページ18【参考】一度にたくさん食べ過ぎるとよくない食品・原則として食事の内容に制限はありません。・ただし、以下のような消化されにくい食べ物を一度にたくさん食べると、つまったり流れにくくなったりして、腸閉塞を起こすことがあります。詳しくは24ページ食べ方や調理法を工夫して適量を食べるようにしましょうこんぶ・わかめなどの海藻類ごぼう・れんこんなど繊維質の根菜類きのこ類こんにゃく・よく噛む・こまかく刻む(繊維と垂直に切る)・やわらかく煮込む などまめ類Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.19②退院後の日常生活・退院後2ヵ月ほどはあまり無理をしないほうがよいですが自分の体力の回復に合わせて、徐々に行動範囲を広げていきましょう。・適度に体を動かしましょう。きずおとなしくして創を大事にしていたからといって、きず創の治りやがんの治りがよいわけではありません。適度な運動は体力や筋力を回復させ、胃腸の活動を活発にします。血行をよくし、手術の傷跡の治りもよくします。・まずは散歩や、軽い家事などがよいでしょう。疲れ具合に応じて、出かける時間や距離、作業の量や程度を増やしたりしてみましょう。病院への通院もよいリハビリになります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.20③退院後の仕事復帰・デスクワーク中心の仕事であれば、手術後1ヵ月程度・からだを動かす仕事であれば、手術後2~3ヵ月程度が復帰の目安です。・軽めの仕事から徐々に始めていくのがよいでしょう。いきなりもとの仕事の内容・量を目指すのではなく、時短勤務や、一時的に仕事の内容を変更すること(外回り→内勤)なども考慮しましょう。・ご家族や職場の人たちのサポートが心身ともに大切です。ひとりで悩まずに、周りの人たちと協力して、手術後の回復期を乗り切りましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.21④退院後のスポーツやレジャー・体を鍛え上げるような激しい運動をする必要はありません。自分の体力に合わせて、好きな運動を生活に取り入れて楽しみましょう。・お腹に力が入るような運動は、手術後2~3ヵ月は控えましょう。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。腹壁瘢痕ヘルニアの原因になることがあります。詳しくは25ページ2~3ヵ月は…・もちろん旅行だって楽しめます。とくに制限はありません。はじめのうちはあまり無理のない範囲で楽しみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.22今後起こりうる手術の影響☑:あなたに当てはまるもの① 腸閉塞(イレウス)② 腹壁瘢痕ヘルニア③ 排便習慣の変化□【結腸がん】□【直腸がん】□【人工肛門】④ 排尿機能障害【直腸がん】⑤ 性機能障害【直腸がん】Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.23①腸閉塞(イレウス)・お腹の手術を受けた後は、癒着などにより、何らかのきっかけで便の通りが突然悪くなることがあります。これを「腸閉塞(イレウス)」といいます。便やガス(おなら)の出が悪くなり、お腹が張ったり、お腹が痛くなったり、嘔吐したりします。・軽い場合は食事をしばらくお休みすれば改善します。それで改善しない場合は、鼻から管を入れて腸の内容物を吸い出したり、手術が必要になる場合もあります。軽いお腹の張りを感じても、便やガス(おなら)が出ている場合は、食事の量を減らして様子を見てください。強い腹痛、嘔吐、排便・排ガスがない などがある場合は、飲食はせずに、ただちに病院に連絡してください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.24②腹壁瘢痕ヘルニア・お腹の壁(腹筋)を縫い合わせた部分のうち、筋肉に弱いところがあると、そこから腸がお腹の外に脱出することがあります。これを「腹壁瘢痕ヘルニア」といいます。皮膚筋層腹膜小腸・大腸きずお腹に力を入れたり長時間立っていたりすると、お腹の創の付近がポコッと盛り上がり、押すとペコペコします。あおむけに寝たり、お腹の力を抜くことによって、簡単に腸がお腹の中に戻る場合は、日常生活に支障がなければ、治療を急ぐ必要はありません。脱出した腸がねじれて血行が悪くなったりした場合には、強い痛みが起こります。この場合はただちに手術が必要ですので、すぐに病院に連絡してください。・腹壁瘢痕ヘルニアを予防するため、✔ 手術後2~3ヵ月は、腹圧のかかる作業は避けてください。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。✔ 太りすぎないように気を付けてください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.25③排便習慣の変化【結腸がん】・結腸がんの手術では、日常生活に支障が出るような変化はほとんどありません。手術後2~3ヵ月は、やや便通が落ち着かないと感じることもあると思います。時間の経過とともに、少しずつ落ち着いてくるのが一般的です。規則正しい食生活が大切です。とくに朝食はきちんととりましょう。散歩などの適度な運動も効果的です。・便秘・下痢が続くなど、便通にお悩みのときは主治医に相談してください。便を柔らかくする薬や下痢止めなど、いろいろなお薬で改善する場合があります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.26③排便習慣の変化【直腸がん】・直腸がんの手術では、肛門が残っても、直腸の大部分が切り取られているので、十分に便をためられないために、以下のような排便習慣の変化が見られます。・便の回数が増える・残便感がある・便意をがまんできない・寝ている間やお腹に力を入れたときに便やガスが漏れてしまう※程度には個人差があります。・半年~1年くらいの経過で、徐々に改善してきます。・排便のパターンをつかんで、上手に付き合っていきましょう。対策・夜間や外出時の漏れが心配な場合は、生理用品や尿取りパットを使う。(トイレットペーパーはお尻が荒れてしまうので避ける!)・外出直前の食事は避ける。・駅や外出先では、あらかじめトイレの場所を確認しておく。・シャワートイレがおすすめ(携帯用のものもあります)。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.27③排便習慣の変化【人工肛門】・人工肛門に関する悩みやトラブルがあるときは、「ストーマ外来」で専門の医師・看護師に相談してみましょう。【ストーマ外来のリスト】「日本創傷・オストミー・失禁管理学会」ホームページhttp://www.etwoc.org/stoma.html・人工肛門・人工膀胱をもつ患者さんの会もあります。「日本オストミー協会」ホームページ http://www.joa-net.org/日常生活に役立つさまざまな情報が得られます。・永久人工肛門になった患者さんでは、「直腸膀胱機能障害」(通常は4級)として身体障害者手帳を取得できます。・装具の給付、税の控除などのサービスを受けることができます。・患者さん自身(またはご家族)による申請が必要です。・申請以降に助成が開始されるので、早めに申請の手続きを。・詳しくは、市区町村の福祉担当窓口や、病院の社会福祉士(ソーシャルワーカー)に問い合わせてみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.28④排尿機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより排尿機能に障害が出ることがあります。尿道括約筋対策膀胱● 膀胱のセンサーの障害・尿意がよくわからない・膀胱に尿がたまりすぎてあふれる● 膀胱が収縮する機能の障害・膀胱の壁が固くなって伸びが悪い→あまり尿をためられずにあふれてしまう・押し出す力が弱く、“残尿”が増える・尿意がなくても、一定の時間ごとにトイレに行く。・男性の小用も座ってゆっくりと。・排尿時に下腹部を圧迫する(手で押す+前かがみ)。・症状に応じたお薬で症状が改善する場合があります。・自己導尿(自分で尿道に管を入れて尿を出す)Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談29⑤性機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより性機能に障害が出ることがあります。下大静脈腹部大動脈上下腹神経叢下腹神経骨盤神経叢(下下腹神経叢)骨盤内臓神経(勃起神経)直腸への神経枝膀胱への神経枝【男性の場合】・勃起障害・射精障害※女性の場合の性機能への影響はよくわかっていません。・手術の影響による症状です。恥ずかしがらずに主治医に相談しましょう。対策・お薬で改善する場合があります。・専門の医師への相談もできます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談30

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大酒飲みは早死する/Lancet

 ロシアの喫煙男性は、ウオッカ摂取量が多いほど死亡リスクが増大することが、ロシアがん研究センターのDavid Zaridze氏らが、約20万人を対象に行った前向き観察試験で明らかになった。また、その主な原因は、これまでの研究結果で特定されていた事故や自殺といった外因や、上部気道消化管がん、肝臓がんなどの疾患であることも確認されたという。Lancet誌オンライン版2014年1月31日号掲載の報告より。35~54歳20年死亡リスク、ウオッカ摂取量週3本以上は1本未満の2倍超 研究グループは、1999~2008年にかけて、ロシアの3都市で、成人20万例に聞き取り調査を行い、2010年まで追跡して死因別死亡率を調べた。既往歴のない15万1,000例について35~74歳までフォローアップし、ポアソン回帰分析にて、ウオッカ摂取量と死亡リスクとの関連を分析した。 被験者のうち、既往歴のない男性喫煙者5万7,361人について分析した結果、35~54歳での20年死亡リスクは、ベースライン時の週当たりのウオッカ摂取量が1本未満の人が16%(95%信頼区間:15~17%)、1~2.9本が20%(同:18~22%)、3本以上が35%(同:31~39%)と、摂取量が増えるに従ってリスクが増大した(傾向p<0.0001)。超過死亡の原因は外因と上部気道消化管がん、肝臓がん、肝疾患など また、55~74歳での同死亡リスクも、ウオッカ摂取量が少ないほうから、それぞれ50%(同:48~52%)、54%(同:51~57%)、64%(同:59~69%)だった(傾向p<0.0001)。 ウオッカ摂取量が多い人の超過死亡率は、事故や自殺といった外因によるもの、または、別の後ろ向き試験の結果から明らかになった上部気道消化管がん、肝臓がん、その他の肝疾患などのアルコール摂取と関連する8つの疾患が主な原因だった。 一方で、自己申告のウオッカ摂取量については減少傾向の変動がみられた。週3本以上飲んでいると申告した人も数年後に再インタビューした時には、その半数以上が1本未満に減量していた(185/321例)。そのため、大量飲酒のハザードは減ると思われたが、ベースライン時の自己申告によるウオッカ摂取量は死亡リスクの強力な予測因子であった。また、男性の非喫煙者や女性では、自己申告による大量飲酒はまれだったが、同様の絶対超過死亡リスクがあることも示唆されたという。

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がん患者における婚姻状況と生存率の関連

 婚姻状況(配偶者の有無)によって、がん診断時のステージや根治的治療の実施、がんによる死亡率に違いはあるのだろうか。 ハーバード大学のAyal A. Aizer氏らが、米国のがん登録システムであるSurveillance, Epidemiology and End Results(SEER)programを用いて、死亡数の多いがんについて調査したところ、配偶者のいないがん患者では、診断時における転移、治療の不足、がんによる死亡のリスクが有意に高いことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2013年9月23日号に掲載。 著者らは、SEERデータベースを用い、2004年~2008年に肺がん、大腸がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、肝臓がん/肝内胆管がん、非ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、卵巣がん、食道がんと診断された126万898例の患者を同定した。そのなかから、臨床情報およびフォローアップ情報のある73万4,889例について、多変量ロジスティック回帰分析およびCox回帰分析を用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・配偶者がいる患者は、いない患者(別居、離婚、死別を含む)より、転移を伴って診断されることが少なく(補正オッズ比[OR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.82~0.84、p<0.001)、根治的治療を受けることが多く(補正OR:1.53、95%CI:1.51~1.56、p<0.001)、人口統計学的特性・ステージ・治療に関する因子で調整後のがん関連死亡が少ない(調整ハザード比:0.80、95%CI:0.79~0.81、p<0.001)ことが示された。・これらの関係は各がんにおいて分析した場合も有意であった(各がんのすべてのエンドポイントでp<0.05)。・配偶者がいることに関連付けられるメリットは、女性より男性のほうがすべてのアウトカムで大きかった(すべての場合でp<0.001)・前立腺がん、乳がん、大腸がん、食道がん、頭頸部がんでは、配偶者がいることに関連付けられる延命効果が、化学療法で報告されている延命効果よりも大きかった。

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世界におけるがんの発症動向を予測。2030年にはどうなる?

がんは今後数十年間で、世界のすべての地域で罹患および死亡における主要な原因疾患となることが予測される。では、地域によって状況は異なるのだろうか。Bray氏らが、平均寿命・教育・GDPの複合指標である人間開発指数(HDI)のレベルで分けて評価したがん発症の傾向と2030年までの予測を、The Lancet Oncology誌オンライン版2012年6月1日号に報告した。この報告によると、2008年は、最も高レベルのHDIの地域ではがん全体の半数を乳がん・肺がん・大腸がん・前立腺がんで占めており、中レベルのHDIの地域ではこれらに加えて、食道がん・胃がん・肝臓がんも多かった。またこれら7種類のがんは、中レベルから非常に高レベルのHDIの地域において、すべてのがんの62%を占めていた。一方、低レベルのHDIの地域では、乳がんや肝臓がんより子宮頸がんのほうが多かった。184ヵ国全体では、男性で9種類のがんが多く、なかでも前立腺がん・肺がん・肝臓がんが最も多かった。女性では、乳がん・子宮頸がんが最も多かった。発症人数の変化については、中レベルと高レベルのHDIの地域では、子宮頸がん・胃がんの発症率の減少が、乳がん・前立腺がん・大腸がんの発症率の増加によって相殺されるとしている。本研究で推測されるような傾向が続けば、がんの発症人数は2008年の1,270万人から2030年には2,220万人に増加し、すべてのがんにおける発症率が増加することが予測されるという。今回の結果から、多くの国々の急速な社会的・経済的変化により、感染に関連するがんは減少するが、その減少は生殖・栄養・ホルモン因子に関連するがんの増加によって相殺されることが示唆されている。ターゲットを絞った介入が、予防接種・早期発見・効果的な治療の実施と並行した効果的な一次予防戦略を通じて、がん減少に導く可能性があると、著者らは提言している。(ケアネット 金沢 浩子)

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B型慢性活動性肝炎治療薬 ペグインターフェロン-α-2a製剤(商品名:ペガシス)

 ペグインターフェロン-α-2a製剤(商品名:ペガシス)が、2011年9月、「B型慢性活動性肝炎におけるウイルス血症の改善」の効能・効果追加を承認された。ペガシスの適応追加に関する審査は、優先審査に指定され、申請から約8ヵ月という異例のスピードであった。B型慢性肝炎の経過は多様 B型肝炎は、肝臓がんの原因の17%を占め、わが国には約150万人のB型肝炎キャリアがいると報告されている。B型肝炎キャリアの多くは、無症候性キャリアであるが、無症候性キャリアからも肝臓がんが突然発症するなどB型肝炎の経過には多様性があり、治療が難しい疾患である。治療の中心はIFNとエンテカビル 現在のB型慢性肝炎は、おもにインターフェロン(IFN)、核酸アナログ製剤、肝庇護薬で治療されており、2011年B型慢性肝炎の治療ガイドラインでは、35歳未満はIFN、35歳以上は核酸アナログ製剤のエンテカビルが、多くの患者カテゴリーで治療の中心とされている1)。 しかし、従来のIFNは、適応がHBe抗原陽性例のみであったため対象が限定され、さらに、一般的に3回/週の投与を必要としたため、利便性も高いとはいえなかった。核酸アナログ製剤は、B型肝炎ウイルスの増殖を強力に抑制し、かつ、経口投与のために利便性が高いものの、長期にわたり投与する必要があり、耐性ウイルスの出現や投与中止による肝炎の急性増悪も懸念されている。ペガシスはHBe抗原陽性例に加え陰性例にも有効 そのような中、ペガシスがB型慢性活動性肝炎に対して適応追加された。ペガシスは、従来のIFN-α-2aに40KDaのポリエチレングリコール(PEG)を結合させ血中からのIFN消失時間を延長し効果を持続させた薬剤である。すでにC型慢性肝炎での高い治療実績がある。 ペガシスは、HBe抗原陽性例を対象に、有効性・安全性をみた国内第Ⅱ/Ⅲ相試験において、用量、投与期間に応じて高い効果が認められた。その試験において、ペガシス90μg48週群は17.1%、180μg48週(3回/週)群は19.5%の有効率を示し、ペガシス週1回48週投与のIFNα週3回24週投与に対する非劣性が検証された。また、ペガシス90μg48週投与により、投与終了24週時で24.4%にHBeセロコンバージョンが認められた。 ペガシスは、HBe抗原陰性例を対象とした国内第Ⅱ/Ⅲ相試験において、90μg週1回48週投与により、投与終了後24週時に、HBV DNA <4.3Log copies/mL達成率が37.5%、ALT≦40IU/L達成率が68.8%となり、HBe抗原陰性例に対しても優れた効果が認められた。 B型慢性活動性肝炎におけるウイルス血症の改善に対する国内臨床試験において、副作用(臨床検査値異常を含む)は225例全例に認めらている。主な副作用は、発熱71.6%、頭痛65.3%、倦怠感63.1%等であった。興味深いのはHBsセロコンバージョンの達成 HBs抗原陽性かつHBe抗原陰性例における肝癌の発生率は、HBs抗原陰性かつHBe抗原陰性例の9.6倍であると報告され2)、最近ではHBsセロコンバージョンを治療目標のひとつとするようになってきている。 このHBsセロコンバージョンに対して、ペガシスは興味深いデータがある。ペガシスは、B型慢性活動性肝炎に対する国内臨床試験で、90μgおよび180μg48週投与の両群で、投与終了24週後に、それぞれHBsセロコンバージョン(いずれも1/41例)が見られている。IFNによる免疫の賦活化は投与終了後も継続するため3)、投与終了からの期間が長くなると、HBsセロコンバージョン率がさらに上昇すると予想される。HBsセロコンバージョンは、核酸アナログ製剤では達成が難しいため、ペガシス特有の作用として注目される。ペガシスへの期待 ペガシスのB型慢性活動性肝炎への適応追加により、投与回数の少ないIFN(従来のIFN:1週3回、ペガシス:1週1回)が使用可能となった。また、48週の投与が可能となり、従来のIFNよりも高い治療効果(HBeセロコンバージョン率、HBsセロコンバージョン率等)が期待できるようになった。さらに、HBe抗原陰性例にもIFNが使用可能となった。 今後、ペガシスにより、B型肝炎の新たな治療戦略が登場することが期待される。特に妊娠を希望する若い世代には朗報と言えるのではないだろうか。

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臓器移植レシピエントのがん発症リスクは2倍以上、最大は非ホジキンリンパ腫の7.5倍

臓器移植を受けた人(レシピエント)のがん発症リスクは、一般の人の2倍以上に増大することが明らかにされた。32種類のがんについてレシピエントの発症リスク増大が認められ、なかでも最も発症頻度が高かったのは非ホジキンリンパ腫で、発症リスクは約7.5倍に上った。米国国立がん研究所(NCI)のEric A. Engels氏らが、約18万人のレシピエントと、13州のがんに関する登録簿を調べ、明らかにしたもので、JAMA誌2011年11月2日号で発表した。これまでの研究から、レシピエントは、免疫機能低下や臓器ウイルス感染が原因で、がんの発症リスクが増大することは知られていた。がん全体の標準化罹患比は2.10、過剰絶対リスクは10万人・年当たり719.3研究グループは、1987~2008年の米国移植レシピエントの登録簿「US Scientific Registry of Transplant Recipient」に登録された17万5,732人の臓器移植レシピエントを元に、多種のがん発症リスクについて分析した。同レシピエントのうち、腎臓が58.4%、肝臓が21.6%、心臓が10.0%、肺が4.0%だった。全体では、がんを発症したのは1万656人で、発症率は1,375人/10万人・年、標準化罹患比は2.10(95%信頼区間:2.06~2.14)、過剰絶対リスクは719.3/10万人・年(同:693.3~745.6)だった。肝臓移植後6ヵ月以内の肝臓がん発症リスクは500倍超なかでも、非ホジキンリンパ腫の発症頻度が最も高く、発症者数は1,504人、発症率は194.0/10万人・年、標準化罹患比は7.54(同:7.17~7.93)、過剰絶対リスクは168.3/10万人・年(同:158.6~178.4)だった。次いで頻度が高かったのは肺がんで、発症者数は1,344人、発症率は173.4/10万人・年、標準化罹患比は1.97(同:1.86~2.08)、過剰絶対リスクは85.3/10万人・年(同:76.2~94.8)。続いて肝臓がんで、発症者数は930人、発症率は120.0/10万人・年、標準化罹患比は11.56(同:10.83~12.33)、過剰絶対リスクは109.6/10万人・年(同:102.0~117.6)、腎臓がんの、発症者数752人、発症率は97.0/10万人・年、標準化罹患比は4.65(同:4.32~4.99)、過剰絶対リスクは76.1/10万人・年(同:69.3~83.3)だった。肺がんについては、肺移植レシピエントで最も発症リスクが高く標準化罹患比は6.13だったが、他の臓器移植レシピエントでも高く、心臓2.67、肝臓1.95、腎臓1.46であった。肝臓がんについては、肝移植レシピエントでのみ発症リスクが増大し、標準化罹患比は43.83、なかでも移植後6ヵ月の同リスクは著しく高く同比508.97に上った。術後10~15年のリスクも2倍以上に上った(標準化罹患比:2.22、95%信頼区間:1.57~3.04)。腎臓がんは、腎移植レシピエントで高く標準化罹患比は6.66で、その値は追跡期間中に上昇したり下降したりした。また肝移植レシピエント(同1.80)、心移植レシピエント(同2.90)でもリスク増大が認められた。

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C型慢性肝炎治療剤 テラプレビル

新規C型慢性肝炎治療剤であるテラプレビルが、2011年1月、承認申請された。優先審査品目に指定されたことから、早期の承認が見込まれる。社会的に大きな関心を集めるC型慢性肝炎治療肝臓がんは、がんの中でも予防可能ながんとして注目されている。わが国の肝臓がんは、72%がC型肝炎由来、17%がB型肝炎由来であることが報告されており、肝臓がん発症の高リスク例は、C型およびB型肝炎ウイルスの検査で事前に予測することができる。そのため、国としても対策に注力しており、肝炎ウイルス検診の実施、肝炎研究7ヵ年戦略、肝炎治療における助成金の交付など数多くの取り組みがなされている。また、報道機関などで取り上げられることも多く、国民の関心が高い疾患といえる。Genotype1・高ウイルス量におけるSVR率の向上が課題現在のC型慢性肝炎治療では、C型肝炎ウイルスのGenotypeとウイルス量をもとにした4つのカテゴリーに分け、それぞれで異なる治療戦略がとられている。近年の医療の発展により、多くの患者カテゴリーで治療成績が向上したが、Genotype1・高ウイルス量のカテゴリーに属する患者の治療成績は現在も良好とはいえず、大きな問題となっている。このカテゴリーに属する患者は、現在の治療の中心であるペグインターフェロン、リバビリンの併用療法(48週)であっても、SVR (Sustained Viral Response:ウイルス学的著効)率が約50%に留まり、約半分の患者でウイルス消失が達成できていない。さらに、多くの患者がこのカテゴリーに属しているため、Genotype1・高ウイルス量へのSVR率向上は大きな医療ニーズとなっている。テラプレビルの追加でSVR率の大幅な上昇が可能にC型慢性肝炎ウイルスの増殖抑制作用を有するNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤であるテラプレビルは、こうした医療ニーズを満たす薬剤として、すでに医師ばかりでなく患者からも大きな期待を集めている。国内でもGenotype1・高ウイルス量患者を対象に第Ⅲ相試験が行われている。ペグインターフェロンα-2b、リバビリンの2剤併用療法48週(PR48)群と、最初の12週をテラプレビル、ペグインターフェロンα-2b、リバビリンの3剤併用療法を行い、その後12週をペグインターフェロンα-2b、リバビリンの2剤で後観察したテラプレビル追加群(TVR12/PR24)の2群に割り付け、SVR、HCV RNA陰性化率、および安全性を検討した。この試験におけるPR48群のSVRは初回治療例で49.2%であった。TVR12/PR24群においては、初回治療例73.0%、前治療再燃例88.1%、前治療無効例が34.4%であった。、初回治療無効例でのSVR率の差はもちろんだが、現在有効な治療手段を持たない前治療無効例の3分の1でSVRを獲得し、新たな治療手段を示した点も興味深い。HCV RNAの累積陰性化率をみると、PR48群が6週で15.9%、48週で79.4%と比較的緩やかに上昇しているのに対し、TVR12/PR24群は6週時点ですでに97.6%、24週では98.4%と、早期かつ高い陰性化を示している。一方、有害事象の発現率では、PR48群においてもすでにヘモグロビン量減少や皮膚症状の発現例がみられ、テラプレビルの併用により発現率が強まる可能性が示唆された。今後は、皮膚症状への適切な対応については皮膚科との連携がより重要視されよう。テラプレビルの併用は、副作用上昇の可能性があるため注意が必要であるが、治療期間の短縮化、SVR率の向上性などを鑑みても有用な治療法だといえよう。承認前から治療ガイドラインで推奨これらの試験結果を受け、厚生労働省研究班は、すでにテラプレビル承認後の治療ガイドライン(初回投与)を策定・発表している。テラプレビル承認後のガイドラインでは、Genotype1・高ウイルス量の患者さんに対しては、ペグイントロン、レベトール、テラプレビルの3剤併用24週投与が推奨される。肝炎の治療薬が、承認前からガイドラインで推奨されるのは、今やB型肝炎治療のスタンダードなったバラクルードと同じで、その期待の高さがうかがえる。実際、テラプレビルは、わが国で優先審査品目に指定され、通常の新薬よりも早い承認が予想される。すでにFDAでは、今年4月に諮問委員会が満場一致で承認を支持、5月には正式に承認された。このような背景がわが国でも追い風になる可能性は高い。

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准教授 長谷部光泉 先生「すべては病気という敵と闘うために 医師としての強い気持ちを育みたい」

1969年9月14日生まれ。博士(医学)、博士(工学)。1994年3月慶應義塾大学医学部医学科卒業後、同大学病院にて研修94年4月同大学大学院医学研究科博士課程。96年11月ハーバード大学医学部放射線科心臓血管造影およびIVR部門留学(~99年)。98年4月同大学医学部助手。04年4月同大学理工学部機械工学科・鈴木哲也研究室共同研究員および医療班チームリーダー。05年4月国家公務員共済組合連合会立川病院放射線科医長。08年4月東邦大学医療センター佐倉病院放射線科講師。09年8月同病院放射線科准教授。日本血管内治療学会評議員。日本IVR学会代議員、他。10年日本学術振興会 榊奨励賞受賞、第96回北米放射線学会Certificate of Merit受賞、他多数。低侵襲治療としてIVRカテーテル治療に大きな魅力を感じた放射線科領域を大別すると、X線検査、CT、MRI、核医学検査などに代表される放射線診断学とがん治療に代表される放射線治療学があります。CT、MRIなどが登場する前から存在した「血管造影法」は、私が専門とする放射線診断学の根幹です。血管のない臓器は存在しないため、古くから重要な診断法として発展してきました。しかしながら、CT、MRIなどの医療機器の技術革新によって血管造影の役割も変わってきました。皮膚に局所麻酔をしてほんの2㎜だけの傷をつけるだけで血管内に「カテーテル」と呼ばれる管を挿入し、臓器に直接アプローチできるので、たとえば循環器領域であれば心臓にアプローチして狭心症や心筋梗塞を治す。消化器領域では、肝臓がんであれば肝動脈塞栓術のように大腿動脈から患部のすぐそばまで細いカテーテルを挿入して抗がん剤を流して腫瘍を兵糧攻めにする。脳神経領域では、急性期の脳梗塞の血栓溶解療法や動脈瘤を詰めることもできます。また、下肢の動脈硬化の場合、風船付きカテーテルを挿入し直接狭くなった血管を広げ、歩けなかった患者さんが歩いて帰えれるようになる。CTやエコー、MRIなどの画像支援の下に血管内だけでなく臓器を直接穿刺して治療する。画像を使った血管内治療および血管以外の臓器などに対する、画像支援下の低侵襲治療、これが私の専門領域です。医学の世界に入った当初から、IVR(インターベンショナルラジオロジー)に興味があり魅力を感じていました。これからの治療は、身体に大きくメスを入れて手術するだけではなく、患者さんに優しい治療でありながら効果的な治療が求められています。カテーテルの技術にせよ、医療器具にせよ、どんどん進歩してくるであろうと考えました。その進歩と共に、カテーテル治療が今後の医療現場において主流になってくるのではないかとも考えていました。それは現実になってきていると確信しています。IVR治療で劇的に変わる患者さんのQOLIVRでできることは血管を開く、詰める、溶かす、生検のための組織を切除して取り出す、直接腫瘍を穿刺して治療する、簡単にいうとこれらが主な分野です。具体的には、動脈硬化で詰まった血管を開き、血栓で詰まった血管を溶かすことができる。体を大きく切開することなく組織を取り出し診断を確定する、ドレナージといって体内の深い部分の膿をCT・エコー・MRIで見ながら吸い取る。詰めるは塞栓術といって、肝臓がん治療の他、体の中で緊急出血した場合、血圧が低下し、身体を大きく開くことはできないので、救急治療として金属のコイルを詰めて止血し、一命を救うこともできます。今までは大きく開腹、開胸しなくてはならなかった手術が、IVR治療によって足の付け根や腕の部分を局所麻酔で2から3mm切開し、動脈や静脈にカテーテルを挿入して治すことができるようになっています。これにより患者さんの入院日数は劇的に短縮されました。局所麻酔のため危険性も減りますし、入院期間も短くなり、痛みが少ないなど多くのメリットがあります。心臓疾患の場合、以前ならば最低でも1から3ヵ月の入院を余儀なくされましたが、IVR治療では、長くて10日、われわれは3日から1週間入院を目安にしています。ただし、入院期間が短縮されたからといって、簡単な病気だったと勘違いはしないでほしい。血管内で手術は行われていますから、それなりのリスクがあることも十分知っておいてほしいと思います。患者さんにとって簡単そうに思えるIVR治療ですが、医師としては熟練した手技と全身疾患に対して知識や経験がないとできない分野です。実際に治療を行えるようになるまでには、綿密なトレーニングが必要です。東邦大学では後期研修医あるいは大学院生の1年目から血管内治療のトレーニングを本格的に重ねてもらいます。われわれの科では、画像診断もやりながら低侵襲の治療をする、研究にも取り組み積極的に国内外の学会で発表するという3本の柱を忘れることなく、必死で若手の医師が毎日を過ごしています。臨床医としての経験を活かした研究開発私がこの世界に入った時にはすでに、血管内治療のデバイスであるステントやバルーンの8割が輸入品でした。許認可の問題もあって、欧米の製品を平均2年遅れで買わなければいけない現状があります。その上、必ずしも日本人に適しているデバイスではありません。日本人にとって使いにくくて直してもらうにしても、製品ができあがってくるまでに1年、2年、3年かかる場合もあります。目の前の患者さんを治せるツールがあるのに、サイズが合わないだけで使えないという現実にジレンマを感じていました。私が慶應の研修医だった当時、恩師で、放射線医の第一人者であり、日本のIVRの父ともいえる平松京一教授(当時)の計らいで、医師になってから2年半後にハーバード大学で研鑚(けんさん)を積むようにと言われました。そこで約3年半、留学することになってしまいました。研修医が終わったばかりで、何の実力もないし、研究歴もなかった。渡米前には、多くの上司にも心配されました。ハーバード大学で最初の数ヵ月はお客さん扱いでしたし、もう帰国しようかとどまろうかと考えながら細々と実験を始めました。その実験データを基に数ヵ月後に書きあげたプロトコールが運良く認められて潤沢な公的研究費が与えられて、それをきっかけに状況が変わりました。そこのチームのチーフに任命され、血管の中の遺伝子治療研究が始まりました。詰まった心臓血管の中にステント(金属のメッシュ状の筒)を入れると、再狭窄が起こります。ステントは血流を劇的に改善しますが、血管を無理に開くため血管の内皮細胞や血管平滑筋細胞に傷がつきます。血管には破れると修復する作用があって、傷を修復する過程で、金属の周囲に血栓が付き、その刺激が過剰平滑筋細胞の増殖を促し、血管がまた詰まってしまうのです。それを治すために特殊なバルーンカテーテルというのを用いてそこから薬剤を出す。当時は、ステント留置後、20%から40%は半年後には詰まるといわれていました。確かに、血管内の遺伝子治療は実験的に成功し、米国IVR学会やNIHなどで受賞しました。けれども、やはり金属ステントそのものの留置が「諸刃の剣」だということに気づき、帰国後、材料工学の研究を独学で始めました。体になじみにくい金属が、長期的によい成績をだせるわけがないと考えたからです。しかしながら、金属の特性としてしなやかさや耐腐食性などを上回る素材はなかなかありません。それならば、既存のものにコーティングを施したらどうか、と考えました。ただし、コーティングするにしても体に害を及ぼすものでは当然使えません。行き着いたのがダイヤモンド系のコーティングでした。ダイヤモンドは、「物質の王様」といわれるだけあって、非常につるつるしているばかりではなく、耐摩耗性という特性があり、さらに炭素は身体を構成する成分の一つなので、人体に悪影響を及ぼしません。現在、主流となっている薬剤溶出性ステントから出てくる薬剤は薬効が強く正常の血管内皮細胞にダメージを与えるものが主流ですが、ダイヤモンドというのは化学的に安定しているばかりでなく、細胞に毒性を与えない特性を持っています。われわれは、さらにダイヤモンド系コーティングにフッ素を混在させることによって、血液の付着も防げることを初めて発見しました。つまり、フッ素を添加したDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)というコーティングは、血液をはじき付着を防ぐので、血栓ができにくい。さらに、血管内に残るのは炭素を主流とするダイヤモンド系素材なので、身体に悪いものではありません。これらの研究開発には、医学の知識だけではなく工学知識の力が不可欠でした。そこで、臨床医の立場で工学との通訳をしなければいけないと痛感しました。なぜならば、工学の思考と医学の研究者の思考回路はまったく違うからです。ですが、工学者も研究の応用の幅を広げたいと考えているし、医学者もテクノロジーを利用する考えが必要です。互いの歩み寄りを円滑にするために、私は医学部の栗林幸夫教授のご指導の下、医学博士を取得し、その後、工学部の鈴木哲也教授の下で工学博士を取得しました。これからも研究開発において、医工連携のための通訳になれたらと思いますし、私に続く若い医師や研究者を育成することに力を注いでいます。ゼロからのスタートに惹かれ挑戦慶應からこちらへ来たのは、ここはほぼゼロからということに興味を持ちました。現在の教室の寺田一志教授の誘いもあり、今までやってきたことをここで一度リセットして挑戦してみるのもいいだろうと考えました。慶應もいい環境ではありましたが、東邦大学の伝統と自由な気風、研究に対しても「自由にやれ」というムードがありました。特に、東邦佐倉病院では、他の臨床医の方々も、慶應から来た新参者にすごく親切にしてくれて、雰囲気もよかったし、全体的にやる気の気運が高まっている瞬間でした。今では県内でもトップクラスのIVR症例数を誇る施設になりつつありますが、こちらに来た当時はIVR治療もあまり積極的に行われていませんでした。それでも、循環器センターや消化器センターなど各診療科の多くの先生のご協力があって、現在にいたっています。これは、東邦大学の気風とセンター単位で行われるチーム医療にうまく融合した結果だと思います。前病院長の白井教授が臨床・研究に対する基礎を構築し、現在の田上病院長を中心にした執行部の積極的な支援の賜物だと思います。当院循環器センターの専門外来である「血管内治療・IVR外来」は、循環器内科医、心臓血管外科医、臨床検査医、放射線科医、心臓リハビリ医、形成外科医、糖尿病代謝内科医など本当の意味でのチーム医療ができるように構築してきました。カンファレンスの意思が医師同士の間で一貫しているというのは、患者さんにとっても安心できることだと思います。臨床としては主に肝臓がんや救急出血や動脈瘤などの塞栓術と下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO: arteriosclerosis obliterans)に伴い、詰まってしまった血管の血管形成術がメインです。糖尿病や動脈硬化で足が壊死してしまうのを治療するのがメインです。私にとって医療器具の研究はライフワークですが、実は臨床が9割。この臨床の経験があるからこそ研究のテーマが明確に打ち出せるのだと思います。これからは教育にも力を注ぐ私がこれから望むものは、若い人の教育です。まだ私も若いですけど……(笑)。若い人を教育するということは、自分が教育されることでもあります。教えるというのは、教えられることでもあります。先入観のない眼で若い人と日本から何かを発信したい。座右の銘は「感謝して今日もニコニコ働きましょう」。決して一人で仕事をしているのではなく、周りのスタッフ、上司、親、自分の周りの人すべてが笑顔でいられる医療をやりたい。そのために臨床はもちろん、研究や医療器具の開発もしたい。若い医師には、どんどん広い世界を見て、自分のアイデンティティ、日本人であるとか医師になるという明確な自覚を持ってほしい。勇気を持って新しいことにもチャレンジしてほしい。それらを一緒にやっていきたい。だからうちの科では工学部との交流や留学なども積極的にプログラミングしています。若いうちから何でも経験させ、国際学会発表も全員が入局2年以内に経験するように指導しています。敵は病気なので、最高の技術、最高の人間性、患者さんを治したいという気持ちを強く身につけてほしいと考えています。是非、そんなピュアな高い志を持った若い先生と学閥や分野を越えて一緒に働きたいという希望を持っています。質問と回答を公開中!

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