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第187回 医療事故の報告件数が増加傾向、分娩を含む手術が最多/医療安全調査機構

<先週の動き>1.医療事故の報告件数が増加傾向、分娩を含む手術が最多/医療安全調査機構2.マダニ感染症SFTS、ヒトからヒトへの感染、国内で初めて報告/国立感染症研究所3.看護師国家試験、合格率87.8%と4年ぶりに低下/厚労省4.不整脈手術中の医療過誤、福岡高裁が九州医療センターに約2億円の賠償命令5.同一の執刀医による肝臓がん手術後の3人の死亡事故を公表/東海中央病院6.コロナ補助金8,500万円を不正受給した病院に返還命令/福岡県1.医療事故の報告件数が増加傾向、分娩を含む手術が最多/医療安全調査機構日本医療安全調査機構は、医療事故調査・支援センターの2023年の年報を発表した。対象期間は2023年1月1日~12月31日。この期間に報告された医療事故件数は361件と前年より2割ほど増えた。新型コロナウイルス感染拡大時は、医療事故発生報告件数の減少が認められたが、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、医療事故発生報告件数に増加傾向がみられた。2015年10月の医療事故調査制度開始以来、2023年末までに2,909件の医療事故が報告され、その87.3%で院内調査が完了していた。年報によると、1施設当たりの医療事故発生報告件数が最も多かったのは「900床以上」(1床当たり0.53件)で、ついで多かったのが「600~699床」(1床当たり0.44件)と病床規模が大きな病院ほど1床当たりの事故件数が多い傾向が認められた。また、人口100万人当たりで最多の医療事故報告数を記録したのは宮崎県であり、医療事故の起因としては依然として「分娩を含む手術」が最も多くを占めていた。医療事故報告から院内調査結果報告までの期間は平均458.5日に短縮していた。センターへの調査依頼は遺族から21件、医療機関から7件であり、センターへの相談件数はコロナ禍前の水準を超える2,076件だった。これらのデータは、医療事故の正確な報告と透明性の向上、再発防止策の重要性を浮き彫りにしているだけでなく、医療施設での安全対策強化への取り組みがますます求められており、医療事故報告数が多いことが必ずしも医療安全に問題があるわけではなく、正しく報告する文化の醸成が重要であることが示されている。参考1)『2023年 年報』について(日本医療安全調査機構)2)医療事故調査・支援センター 2023年 年報(同)3)医療事故調査・支援センター 2023年 数値版(同)4)人口100万人あたり医療事故報告件数の最多は2023年も宮崎県、手術・分娩に起因する医療事故が依然多い!-日本医療安全調査機構(Gem Med)2.マダニ感染症SFTS、ヒトからヒトへの感染、国内で初めて報告/国立感染症研究所マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」のヒトからヒトへの感染例が国内で初めて確認されたことが、国立感染症研究所によって明らかにされた。2023年4月、90代男性患者がSFTSと診断された後、患者を担当した20代の男性医師が、患者の死後に行った処置により感染。医師は処置時にマスクや手袋を着用していたが、ゴーグルはしておらず、11日後に38℃の発熱などSFTSの症状が現れた。患者と医師のウイルス遺伝子が同一と判断され、これが国内初のヒトからヒトへの感染例と認定された。医師の症状は現在軽快している。これまで、SFTSのヒトからヒトへの感染は中国や韓国で報告されていたが、わが国での確認はこれが初めて。SFTSは、主にマダニに刺されて感染する感染症で、発熱や腹痛などを引き起こし、重症化すると死亡することもある。国立感染症研究所と厚生労働省は、医療従事者に対して患者の血液や体液に触れる可能性がある際の感染予防対策の徹底を改めて呼びかけている。参考1)本邦で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群のヒト-ヒト感染症例(国立感染症研究所)2)マダニの媒介による感染症SFTS ヒトからヒトへ感染 国内初確認(NHK)3)マダニ感染症、国内初の人から人への感染確認…患者を処置した医師に症状(読売新聞) 3.看護師国家試験、合格率87.8%と4年ぶりに低下/厚労省厚生労働省は、第113回看護師国家試験の結果を発表した。これによると今年の合格率は87.8%で、4年ぶりに9割を下回ったことが明らかとなった。2月11日に実施された看護師国家試験は、6万3,301人が受験し、そのうち5万5,557人が合格した。新卒者の合格率は93.2%となり、新卒者の合格者数は5万3,903人だった。一方で、経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者の合格者は17人(受験者294人)だった。助産師および保健師の国家試験においても、助産師は98.8%、保健師は95.7%といずれも新卒者の合格率が高くなっていた。今回の結果は、国の医療人材育成の現状を示すと同時に、外国人看護師候補者に対する支援の必要性を改めて浮き彫りにしている。参考1)第110回保健師国家試験、第107回助産師国家試験及び第113回看護師国家試験の合格発表(厚労省)2)看護師国家試験2024、新卒合格率は93.2%(リセマム)3)看護師国家試験、合格率87.8% 4年ぶりに9割を下回る(CB news)4)看護師国試、外国人候補者は17人合格(MEDIFAX)4.不整脈手術中の医療過誤、福岡高裁が九州医療センターに約2億円の賠償命令カテーテルアブレーション手術中の医療過誤をめぐる医療訴訟で、福岡高等裁判所は九州医療センター(福岡市)に約2億円の賠償命令を命じた。福岡県内の60代男性が不整脈の手術中に心停止し、その際の蘇生措置の遅延により低酸素脳症による意識障害の後遺症を負ったとして、約2億円の損害賠償を求めていた。1審では医療ミスを認めず訴えを退けたが、福岡高裁は控訴審判決で医師の過失を認め、1審判決を変更し約1億8,600万円の賠償を命じた。判決によると、男性は平成26年11月にカテーテルアブレーション治療中に心停止が発生し、医師らによる胸骨圧迫の蘇生措置の開始が遅れたため、約4分50秒間、脳への血流が停止状態にあったことが、男性の重い後遺症と因果関係があるとされた。この過失と後遺症の間の因果関係を認め、1審とは逆に男性側の訴えを認めた。男性の妻は医師の過失が認められたことに対して安堵のコメントを表明するとともに、病院には再発防止に努めるよう要望している。国立病院機構九州医療センターは判決文を精査した上で今後の対応を検討するとしている。参考1)心臓手術後寝たきり状態、国立病院機構に1億8,600万円賠償命令…請求棄却の1審判決を変更(読売新聞)2)手術中の医療過誤認める、国立病院機構に約2億円賠償命令「蘇生措置の開始に遅れ」(産経新聞)3)九州医療センターの過失認め 約2億円賠償命じる 福岡高裁(NHK) 5.同一の執刀医による肝臓がん手術後の3人の死亡事故を公表/東海中央病院岐阜県の東海中央病院(岐阜県各務原市)は、2016~2022年にかけて、同一の外科医が行った肝臓がんの手術により患者3人が死亡した医療事故を公表した。病院によると肝臓がんの手術中に大量出血が発生し、患者はいずれも出血性ショックで死亡した。執刀していた外科医は2023年6月に依願退職している。病院側は医療事故調査委員会の調査結果をもとに報告書をまとめ、医療事故調査・支援センターに再発防止策を含め報告した。報道によれば、病院側は3件のうち2件を医療事故と認めていなかったが、岐阜県の行政指導を受けて全件を医療事故として認定した。病院は、外部委員を含む調査委員会を設置し、再発防止策を公表した。これによると、施設内で対応可能な手術症例の明確化、術前・術後カンファレンス実施体制の構築、病院幹部への再教育などが含まれている。病院は患者の遺族に対して説明を行い、事故調査の結果を真摯に受け止め、医療の安全確保と再発防止に努めると表明した。参考1)当院で発生した医療事故について(東海中央病院)2)東海中央病院 患者3人が死亡する医療事故公表 岐阜 各務原(NHK)3)同じ外科医の手術中に患者3人死亡 各務原の東海中央病院で医療事故、肝切除の手術(中日新聞)4)同じ医師の手術で死亡事故3件、がん患者が肝切除で大量出血…2件は「事故でない」判断覆す(読売新聞)6.コロナ補助金8,500万円を不正受給した病院に返還命令/福岡県「飯塚みつき病院」(福岡県飯塚市)が、新型コロナウイルスに関連する補助金を不正に受給した問題で、福岡県から8,500万円余りの返還命令が出された。この補助金は、新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れるための病床確保や設備整備を支援する目的で提供されていたが、同病院は実際には患者受け入れのための体制が整っていないにも関わらず、不正に補助金を申請していたことが判明した。2022年9月~2023年9月にかけての不正申請により、約7,600万円がすでに交付されており、さらに加算金約900万円の支払いが求められている。会計検査院と県の実地検査で、病院が必要な看護師を配置していないことや、補助金申請に際して虚偽の申請書を作成していたことが明らかになった。とくに、病院では2022年度、新型コロナの患者を1人も受け入れておらず、感染症対策として必要な病棟工事や人工呼吸器の購入などに関する証拠もみつからなかったと報告されている。さらに、病院は今年2月、職員が大量に退職し、診療継続が困難な状況に陥っているため、高齢者を中心とした入院患者は、他の病院への転院を余儀なくされている。福岡県は、この問題を重要視し、不正行為を行ったと判断し、返還命令を出した。病院側は、不正申請の経緯について「前任者に聞かないとわからない」と説明しており、県は県警に情報を提供している。福岡県は、このような悪質な不正行為を許すことはできないとして、他の医療機関に対しても同様の不正がないか調査を進めることにしている。参考1)コロナ病床の補助金8,500万円不正受給…福岡県飯塚市の病院、22年度の患者受け入れゼロ(読売新聞)2)飯塚市の病院 県の新型コロナ補助金8,500万円余を不正申請(NHK)3)新型コロナウイルス感染症対策事業の不正行為の対応について (福岡県)

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糖尿病患者の死因1位は男女ともに悪性新生物/糖尿病学会

 従来、糖尿病患者は、大血管障害で亡くなる患者が多かった。最新の『糖尿病診療ガイド 2022-2023』では、糖尿病治療の目標を「健康な人と変わらない人生」と定義し、糖尿病合併症である糖尿病細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症、進展の阻止を治療の柱としている。 では現在、糖尿病患者はどのような原因で亡くなっているのだろうか。糖尿病学会では「アンケート調査による日本人糖尿病の死因に関する研究委員会」(委員長:中村 二郎氏[愛知医科大学医学部 先進糖尿病治療学寄附講座 教授])を設置し、全国の医療機関にアンケートを行い、死因の調査を行っている。 今回、本委員会による2011~20年の糖尿病患者の死因の調査結果が、日本糖尿病学会誌である「糖尿病」に掲載された。なお、この結果は、2023年に鹿児島で開催された第66回日本糖尿病学会年次学術集会で発表されている。日本人一般に近くなってきた糖尿病患者の死因 本委員会は、1971年から10年ごとの死因の調査を行っており、今回で5回目となる。今回の2011~20年の調査では、1,154施設にアンケートを依頼し、施設全体での死亡症例(糖尿病患者/非糖尿病患者)を収集。208施設より登録された23万3,176症例(糖尿病患者:6万8,555例、非糖尿病患者:16万4,621例)を解析した。 糖尿病患者の死因に関する結果は以下のとおり。・全体では、1位が悪性新生物(38.9%)、2位が感染症(17.0%)、3位が血管障害(10.9%)だった。・男女とも悪性新生物が1位だったが、男性(40.6%)は女性(35.4%)より比率が高かった。血管障害の比率は男性(10.3%)より女性(12.1%)が多く、性差がみられた。・糖尿病性昏睡は全体で0.3%、低血糖性昏睡は全体で0.1%と1%を切っていた。・血管障害の内訳は、脳血管障害は全体で5.2%、虚血性心疾患は全体で3.5%、慢性腎不全は全体で2.3%だった。・悪性新生物の内訳で男性に注目すると、肺がん9.6%、膵がん6.1%、肝臓がん4.6%の順に多かった。膵がんは女性が7.2%と多かった。・感染症では、肺炎が全体で11.4%と感染症全体の3分の2を占めた。・1971~80年の死因に比べ、血管障害(慢性腎不全、虚血性心疾患、脳血管障害)が減少し、悪性新生物と感染症での死亡が増加していた。

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認知症の診断、実は肝硬変の可能性も?

 高齢化した米国の退役軍人を対象とした新たな研究で、認知症と診断された人の10人に1人は、実際には肝硬変により脳に障害が生じている可能性のあることが示された。米リッチモンドVA医療センターのJasmohan Bajaj氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に1月31日掲載された。 肝硬変は、肝臓の肝組織が徐々に瘢痕化して機能障害を起こすもので、その発症要因には、年齢、男性の性別、アルコール性肝障害、肝炎ウイルス、うっ血性心不全など多数ある。肝硬変の症状の一つである肝性脳症は、本来、肝臓で分解されるはずのアンモニアが、肝硬変や肝臓がんなどによる肝機能の低下が原因で十分に分解されず、血液に蓄積して脳に達し、脳の機能が低下する病態を指す。 肝性脳症では、認知症の症状に似たせん妄や錯乱のエピソードが誘発されることがあるため、臨床症状に基づき両者を鑑別するのは困難な場合が多い。肝性脳症は多くの場合、治療可能であるが、認知症と誤診されることで治療が遅れる可能性がある。肝性脳症患者に治療が施されなければ、患者は昏睡状態に陥り、死に至ることさえある。Bajaj氏は、「肝臓の問題を早期に発見することで的を絞った介入が可能になり、認知機能低下の原因となる治療可能な要因に対処する道が開ける」と話す。 今回の研究でBajaj氏らは、米国退役軍人保健局(VHA)のデータから抽出した、2009年から2019年の間に認知症の診断を受けた17万7,422人(平均年齢78.35歳、男性97.1%)を対象に、未診断の肝硬変の有病率とそのリスク因子について検討した。対象者の中に肝硬変の診断を受けた者はいなかったが、肝臓の線維化を評価する指標であるFibrosis-4(FIB-4)を算出するのに十分な臨床検査(血液検査)の結果がそろっていた。 その結果、対象者の10.3%(1万8,390人)はFIB-4スコアが2.67以上と肝臓の線維化が進行しており、また5.3%(9,373人)ではスコアが3.25以上、つまり肝硬変の可能性が高いことが明らかになった。FIB-4スコア3.25以上と有意な関連を示した因子としては、高年齢(オッズ比1.07、95%信頼区間1.06〜1.09)、男性の性別(同1.43、1.26〜1.61)、うっ血性心不全(同1.48、1.43〜1.54)、ウイルス性肝炎(同1.79、1.66〜1.91)、アルコール使用障害同定テストのスコア(同1.56、1.44〜1.68)、慢性腎臓病(同1.11、1.04〜1.17)が確認された。これに対して、FIB-4スコア3.25以上は白人(同0.79、0.73〜0.85)、糖尿病(同0.78、0.73〜0.84)、脂質異常症(同0.84、0.79〜0.89)、脳卒中(同0.85、0.79〜0.91)、タバコ使用障害(同0.78、0.70〜0.87)、地方に居住していること(同0.92、0.87〜0.97)とは逆相関を示した。 さらに、リッチモンドVA医療センターの認知症患者から二つの検証コホートを作成し、これらのコホートのFIB-4スコアを計算した。その結果、一つのコホートではFIB-4スコアが2.67以上だった患者の割合が11.2%、もう一つのコホートでFIB-4スコアが高スコアだった患者の割合は4.4〜11.2%と類似した結果が得られた。 では、認知症と誤診されがちな肝硬変の診断数を増やすにはどうすればよいのだろうか。Bajaj氏は、肝臓の状態を定期的に評価することが誤診を減らす手始めになると考えている。同氏は、「肝臓の定期的な評価は、肝疾患による認知機能障害を治療して回復させる機会の提供につながり、それが多くの患者やその家族、医師を助けることになる」と話す。その上で同氏は、「本研究の最重要点は、治療可能な肝性脳症を認知症と誤って診断してしまう可能性があることを医師が認識するべきだということだ」と述べている。

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日本人NASH患者の臨床的特徴~5年間のRWDを用いた症例対照研究

 得津 慶氏(産業医科大学公衆衛生学 助教)らが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)およびそれに関連する患者の臨床的特徴を調べるため、国民健康保険ならびに後期高齢者レセプトデータベースといったReal World Data(RWD)を用いて症例対照研究を行った。その結果、NASHの診断定義を満たした患者では非NASH患者に比べてBMIが有意に高いことが示唆された。また、女性、脂質異常症、高血圧症、胃食道逆流症(GERD)、2型糖尿病の罹患割合はNASH群で高く、NASHは肝硬変や肝がんのリスク上昇と関連していたことも示唆された。BMJ Open誌2023年8月22日号掲載の報告。 研究者らは、2015年4月~2020年3月までにNASH(ICD-10の分類表記K75.8[非アルコール性脂肪性肝炎]、K76.0[その他の炎症性肝疾患/その他の脂肪肝])と診断された患者をNASHの診断定義を満たす患者として非NASH患者と照合させ、性別、生年月日、居住地域に従ってランダムに選択した。1次および2次アウトカムの測定値(年齢、性別、BMI、NASH関連の併存疾患、生活習慣病など)の患者背景間の関係についてオッズ比(OR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・NASH患者545例(男性:38.3%)と非NASH(対照)患者18万5,264例(同:43.2%)を抽出した。各群の年齢中央値は68歳(四分位範囲:63.0~75.0)と65歳(同:44.0~74.0)であった。・BMIはNASH患者のほうが対照患者よりも有意に高かった(25.8kg/m2 vs.22.9kg/m2、p<0.001)。・女性、高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病の割合はNASH患者のほうが高かった。さらに、NASHは肝硬変のリスク増加と関連しており(OR:28.81、95%信頼区間[CI]:21.79~38.08)、次に肝臓がんのリスクが高かった(OR:18.38、95%CI:12.56~26.89)。・NASHとうつ病(OR:1.11、95%CI:0.87~1.41)、不眠症(OR:1.12、95%CI:0.94~1.34)、慢性腎臓病(OR:0.81、95%CI:0.58~1.34)のリスクとの間には有意な関連はみられなかった。 これまでの国内研究報告1)にてNAFLD患者の特徴(中年男性と高齢女性の有病率が高い)は示されていた。NASHに関する今回の研究を通じて、本研究者らは「日常診療において、性別や年齢の違いを考慮し、肝臓がんのリスクやNASHに関連するそのほかの生活習慣関連の併存疾患に細心の注意を払う必要がある」としている。

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若~中年での高血圧、大腸がん死亡リスクが増加~NIPPON DATA80

 高血圧とがんリスクとの関連についての報告は一貫していない。今回、岡山大学の久松 隆史氏らが、日本人の前向きコホートNIPPON DATA80において、高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査したところ、30~49歳における高血圧は、後年における大腸がん死亡リスクと独立して関連していることがわかった。Hypertension Research誌オンライン版2023年11月22日号に掲載。 研究グループは、NIPPON DATA80(厚生労働省の循環器疾患基礎調査)において、ベースライン時に心血管系疾患や降圧薬服用のなかった8,088人(平均年齢48.2歳、女性56.0%)を2009年まで追跡。喫煙、飲酒、肥満、糖尿病などの交絡因子で調整したFine-Gray競合リスク回帰を用いて、血圧が10mmHg上昇した場合のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。逆の因果関係を考慮し、追跡開始後5年以内の死亡を除外して解析した。 主な結果は以下のとおり。・29年の追跡期間中に、胃がんで159人(2.0%)、肺がんで159人(2.0%)、大腸がんで89人(1.1%)、肝臓がんで86人(1.1%)、膵臓がんで68人(0.8%)が死亡した。・高血圧は大腸がん死亡リスクと正の関連を認めたが、他のがんによる死亡リスクとは関連を認めなかった。・収縮期および拡張期血圧と大腸がん死亡率の関連は30~49歳で明らかだった(収縮期血圧におけるHR:1.43、95%CI:1.22~1.67、拡張期血圧におけるHR:1.86、95%CI:1.32~2.62)が、50~59歳および60歳以上では認められなかった(収縮期および拡張期血圧における年齢交互作用のp<0.01)。・これらの関連は、喫煙、飲酒、肥満、糖尿病の有無で層別化した解析でも同様にみられた。

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化学物質を扱う労働者のがんリスクの実態

 国内で化学物質を取り扱う職業に就いている労働者は、がんに罹患するリスクが有意に高く、勤務歴が長いほどそのリスクが上昇する可能性を示すデータが報告された。東海大学医学部衛生学公衆衛生学の深井航太氏らの研究によるもので、詳細は「Occupational & Environmental Medicine」に6月9日掲載された。 がんリスクを高める因子として加齢や遺伝素因のほかに、喫煙や飲酒、運動不足といった生活習慣が知られており、がん予防のため一般的には後者のライフスタイル改善の重要性が強調されることが多い。一方、複数の先進国から、全てのがんの2~5%程度は職業に関連するリスク因子が関与して発生しているという研究結果が報告されている。それに対してわが国では、労災認定される職業がんは年間1,000件ほどにとどまり、約100万人とされる1年当たりの全国のがん罹患数に比べて極めて少ない。さらに、労災認定されるがんはアスベスト曝露による肺がんや中皮腫が大半を占めていて、多くの職業がんが見逃されている可能性がある。深井氏らはそのような職業がんの潜在的リスク因子として、化学物質への曝露の影響に着目し、以下の検討を行った。 この研究は、国内最大級の入院患者レジストリである、労働者健康安全機構の労災病院グループ34施設の「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータを用いた多施設症例対照研究として実施された。2005~2020年度に同グループ病院に入院した20歳以上の男性がん患者から、化学物質を取り扱うために特殊健康診断が義務付けられている職業に従事している労働者12万278人を「症例群」として設定。一方、がん以外の入院患者の中から、がんの既往がなく、年齢カテゴリー(5歳ごと)、入院した年、医療機関が症例群に一致する、特殊健康診断の対象でない職業に従事している労働者21万7,605人を「対照群」とした。なお、女性は特殊健康診断を受けていたサンプル数が少数であったため、解析から除外している。 症例群と対照群を比較すると、前者の方が喫煙者・前喫煙者および習慣的飲酒者の割合が高かった。前記のデータセット作成時にマッチングさせた因子(年齢、入院年度、入院医療機関)と、喫煙、飲酒、および職歴(就業年数が最長の職種)を交絡因子として調整したロジスティック回帰分析の結果、化学物質の取り扱い期間(職業的曝露年数)が1年以上の労働者は、以下に記すように、化学物質の取り扱いがない労働者に比べ、全がんと複数の部位のがんの罹患率が有意に高いことが明らかになった。全がんはオッズ比(OR)1.05(95%信頼区間1.01~1.10)、肺がんはOR1.87(同1.66~2.11)、食道がんOR1.63(1.21~2.21)、膵臓がんOR1.80(1.35~2.41)、膀胱がんOR1.38(1.16~1.65)。胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がんの罹患率には有意差がなかった。 次に、職業的曝露年数の三分位で3群に分類してがんリスクを検討。その結果、全がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、膀胱がんについては、曝露年数が長いほど罹患リスクが高いという有意な相関が認められた(全て傾向性P<0.01)。曝露年数を、1~10年、11~20年、21年以上の3群で層別化した検討の結果も同様だった。 続いて、喫煙習慣の有無と職業的曝露年数(曝露なし、20年以下、21年以上)とで全体を6群に分類。喫煙歴と職業的曝露がともにない群を基準としてがん罹患リスクを検討した。すると、喫煙歴がなければ曝露年数が21年以上の場合に肺がんのオッズ比上昇が認められたが、曝露年数20年以下では非有意であり、かつ、肺がん以外のがんは曝露年数にかかわらず、有意なオッズ比上昇は見られなかった。それに対して喫煙者では、曝露年数にかかわらず、全がん、肺がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がん罹患のオッズ比が有意に高かった。 以上の結果を基に著者らは、「化学物質の取り扱いに従事する期間が長いほど、がんリスクが高い可能性が示され、特に喫煙習慣が重なった場合にはよりハイリスクとなると考えられる」と結論付けている。ただし、入院患者対象の症例対照研究であるためサンプリングバイアスが存在すること、残余交絡の存在を否定できないことなどの限界点を挙げた上で、「労働安全衛生法施行令の一部改正により、2023年4月より新たな化学物質規制の制度がスタートしている。今後、他のコホート研究などでの追試や、化学物質への職業的曝露を抑制するアプローチが、がん予防につながるのかの検証が求められる」と付言している。

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医療裁判にも影響か?肝機能の指標がALT>30に

 肝機能検査として血液検査で汎用されるALT値。今後、これが30を超えていたら、プライマリ・ケア医やかかりつけ医による肝疾患リスクの確認が必要となる―。6月に開催された第59回日本肝臓学会総会にて、ALT>30を指標とする『奈良宣言』が公表された。これは、かかりつけ医と消化器内科医が適切なタイミングで診療連携することで患者の肝疾患の早期発見・早期治療につなげることを目的に、さまざまなエビデンスに基づいて設定された。記者会見では吉治 仁志氏(奈良県立医科大学消化器内科学 教授/日本肝臓学会理事)らが本宣言の背景や目的を説明しており、今回ケアネットでは日本肝臓学会理事で本宣言での特別広報委員を務める江口 有一郎氏(江口病院 ロコメディカル総合研究所 所長)に独自取材を行った。「ALT>30」の根拠と利点 ALTの新たな指標設定の理由は、以下のとおりである。(1)シンプルで健診や一般診療で汎用されている項目(2)英文も含めて基準値に関する文献が多数存在する(3)わが国の特定保健診査(特定健診)および人間ドック学会の基準値はALT30以下(4)特定健診や人間ドック学会の基準値は日本消化器病学会肝機能研究班の意見書に基づいて決定 今回、なぜこのような基準値を設けたのか、プライマリ・ケア医としても第一線で活躍する江口氏によると「これまでは“肝炎ウイルス検査を受けましょう”とか“肝臓は沈黙の臓器”というように文脈で注意喚起を行っていた。しかし、それでは捉え方に個人差が生じてしまうため、行動経済学の観点を盛り込み、参照点※を明確にするために、一般の方でも聞き覚えのある検査指標であるALTに注目して基準を設けた」と説明した。一般市民の方は「ALT>30でかかりつけ医を受診しましょう」と言われても、基準値範囲内であり自覚症状もなければ、健康指導を受けるだけと思ってしまいがちである。しかし、「明確な基準がなかったことから亡くなった方が多くいるのは事実であり、B型・C型肝炎の患者会や原告団の方々もこの宣言に賛成の意を示され、これ以上肝臓で苦しむ人を増やしたくないとおっしゃっている」と話した。※参照点(Reference Point):プロスペクト理論における利得と損失の判断を分ける基準点学会が宣言した指標、裁判にも影響か また同氏によると、宣言後に本指標を無視してしまうと、注意義務違反が生じる場合もあるという。「肝硬変や肝臓がんは年数を経て病態が進行していく疾患なので、ある患者がこの宣言以降に人間ドックでALTが35だったとしましょう。しかし、医師は基準値内だからと次の行動を起こさず、翌年にその患者が肝硬変になって“医師に検査を進めてもらえなかった”と医療裁判を起こしたらどうだろうか」と例示し、「ある弁護士からは医師側が敗訴する可能性が十分ありうるといった見解を受けたため、医療安全の観点からも医療者に周知していく必要がある」と医師側のリスクを指摘した。同氏によるとこの宣言の指標が浸透するには1~2年はかかるそうだが、その間に医師一人ひとりが新たな指標を意識し、注意しておく必要がありそうだ。 なお、今回の宣言は『日本における主要な臨床検査項目の共用検査範囲』(日本臨床検査標準協議会)では基準値内の症例も対象となるが、健康成人の約15%でALT>30を満たすとの報告があることから、この宣言がプライマリ・ケア医やかかりつけ医の診療に影響を与えうるとも学会は見解を示している。さらに、厚生労働省が作成した令和6年度版の『標準的な健診・保健指導 プログラム』での健診検査項目の保健指導判定値及び受診勧奨判定値(別紙5)において、保健指導判定値(ALT≧31、AST≧31)として記されている点は、本指標の明確な根拠である。 現在、YouTubeにて「奈良宣言2023 over30 せんとくん」が公開されており、視聴回数は38万回を突破している(7/14時点)。このようなSNSを活用した市民啓発にも力を入れている同氏は「国内では日本糖尿病学会や日本動脈硬化学会などが疾患予防啓発の一環として、熊本宣言や大阪宣言を行っている。肝臓学会も50年もの歴史のなかでこのようなステートメントを提言したのは初の試みであり、大きなことと言える。ぜひ、慢性肝臓病(Chronic Liver Disease:CLD)予防のために患者さんの検査値をチェックし、ほかの検査値と複合的に診断・鑑別、そして専門医への紹介を行ってもらいたい」とし、「日本肝臓学会では奈良宣言特設サイトを設け、一般市民や患者向けの説明リーフレットなどの患者啓発ツールを自由にダウンロードして使えるよう用意しているので、ぜひ活用してほしい」と締めくくった。

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がん死亡率、ファストフード店の多さと関連

 住居地を選ぶ際にスーパーや飲食店へのアクセスの良さを考慮する人は少なくない。今回、米国・オーガスタ大学のMalcolm Seth Bevel氏らは米国における飲食店へのアクセス条件が肥満関連のがん死亡率と関係するのかどうかを調査した。近年、野菜などの生鮮食料品が入手困難な地域はFood Desert(食の砂漠)と呼ばれ、一方でファストフード店が多く集中し生鮮食品を取り扱う店が少ない地域はFood Swamp(食品沼)と呼ばれている。 今回の横断研究では、2012年、2014~15年、2017年、2020年の米国農務省(USDA)のFood Environment Atlasと、2010~20年の米国疾病予防管理センター(CDC)の18歳以上の成人の死亡率データを使用し、Food DesertとFood Swampの両スコアと肥満関連のがん死亡率との関連について調査した。解析には年齢調整した混合効果モデルが用いられ、Food Swampの指標として、食料品店や野菜などの直売所の数に対するファストフードやコンビニの店舗数の比率を計算しスコア化した。Food SwampとFood Desertのスコアが高ければ(20.0~58.0)、その郡は健康的な食品資源が少ないと判定された。また、肥満と関連する13種類のがん(子宮内膜がん、食道腺がん、胃噴門部がん、肝臓がん、腎がん、多発性骨髄腫、髄膜腫、膵臓がん、大腸がん、胆嚢がん、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん)による死亡率を人口10万人あたり71.8以上で「高い」とし、人口10万人あたり71.8未満で「低い」と分類した。 主な結果は以下のとおり。・米国3,142郡のうち、合計3,038郡(96.7%)がこの分析に含まれ、そのうち758郡(25.0%)で肥満関連のがん死亡率が高かった(四分位範囲[IQR]の“最も高い”範囲)。・これらの特定の郡ではほかの郡と比べ、非ヒスパニック系黒人住民の割合が高く(3.26%[IQR:0.47~26.35] vs.1.77%[IQR:0.43~8.48])、65歳以上でもその割合が高かった(15.71%[IQR:13.73~18.00] vs.15.40%[IQR:12.82~18.09])。・また、肥満関連のがん死亡率が高い郡は、低い郡と比較して以下の特徴が挙げられた。 貧困率が高い(19.00%[IQR:14.20~23.70] vs.14.40%[IQR:11.00~18.50]) 肥満率が高い(33.00%[IQR:32.00~35.00] vs.32.10%[IQR:29.30~33.20]) 糖尿病の罹患率が高い(12.50%[IQR:1:1.00~14.20] vs.10.70%[IQR:9.30~12.40])・これらの郡では、Food Desert(7.39%[IQR:4.09~11.65] vs.5.99%[IQR:3.47~9.50])およびFood Swamp(19.86%[IQR:13.91?26.40] vs.18.20%[IQR:13.14~24.00])に居住する人の割合が高かった。・相関分析の結果、Food DesertとFood Swampの両スコアが肥満関連がん死亡率と正の相関関係があり、Food Desertと肥満関連のがん死亡率との間の相関がわずかに高いことが示唆された(Food Desert:ρ=0.12、Food Swamp:ρ=0.08)。しかし、Food DesertとFood Swampの指数スコアはユニークであると決定付けられ、低い係数が与えられた。・Food Swampスコアが高い郡では、肥満関連のがん死亡のオッズが77%増加した(調整オッズ比:1.77、95%信頼区間:1.43~2.19)。また、Food DesertとFood Swampのスコアの3つのレベル(低-中-高)と肥満関連のがん死亡率との間には、正の用量反応関係も観察された。

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肺がん減少の一方で乳がん・前立腺がんは増加/全米がん統計

 米国がん協会は、毎年米国における新たながんの罹患数と死亡数を推定して発表している。2023年の最新データがCA Cancer Journal for Clinicians誌2023年1/2月号に掲載された。発表されたデータによると、2023年に米国で新たにがんと診断される人は195万8,310人、がんによる死亡者は60万9,820人と予測されている。死亡者数が最も多いがん種は、男性は肺がん、前立腺がん、大腸がんの順で、女性は肺がん、乳がん、大腸がんの順であった。 がん罹患率は、がんリスクに関連する行動パターンと、がんスクリーニング検査の使用などの医療行為の変化の両方を反映する。たとえば、1990年代初頭の前立腺がんの罹患率(人口10万人当たり)の急増は、それ以前に検査を受けていなかった男性の間で前立腺特異抗原(PSA)検査が急速に広まった結果、無症候性前立腺がんの検出が急増したことを反映している。その後、高齢男性に対するPSA検査が推奨されなくなったことから罹患数は20年間減少を続けていたが、2014~19年には再度増加に転じ、2023年には9万9,000人の新規罹患者が予測されている。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種推進によって20代前半の女性の子宮頸がん発症率は2012年から2019年にかけて65%低下した。 全体としては、女性に比べて男性のほうが罹患率の傾向は良好だった。2015から2019年にかけての女性の肺がん罹患率の減少は男性の2分の1のペース(年1.1%対2.6%)であり、乳がんや子宮体がんの罹患率は増加を続けている。肝臓がんやメラノーマの罹患率は50歳以上の男性では安定、若年男性では減少した。結果として、性差は徐々に縮小し、がん全体の男女の罹患率比は1992年の1.59(95%信頼区間[CI]:1.57~1.61)から2019年には1.14(95%CI:1.14~1.15)まで低下した。ただし、この比率は年齢によって大きく異なり、20~49歳では女性が男性よりも約80%高い一方で、75歳以上では男性が約50%高かった。 2020年からはCOVID-19感染流行があったにもかかわらず、また他の主要な死因とは対照的に、がん死亡率は2000年代には年1.5%、2015~20年には年2%と減少を続け、1991~2020年までに33%減少し、推定380万人の死亡が回避された。この進歩は喫煙の減少、乳がん・大腸がん・前立腺がん検査の普及、そして治療の進歩を反映したもので、とくに白血病、メラノーマ、腎臓がんの死亡率が急速に減少(2016~20年には年約2%)したことや、肺がんの死亡率減少が加速したことに表れている。すべてのがんを合わせた5年相対生存率は、1970年代半ばに診断された49%から2012~18年に診断された68%に増加した。しかし、死亡率における人種格差が最も大きい乳がん、前立腺がん、子宮体がんの罹患率上昇により、今後の減少の進展は弱まる可能性があるという。

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ペムブロリズマブ+化学療法による胆道がん1次治療、生存期間を延長(KEYNOTE-966)/Merck

 2023年1月25日、Merck社は、第III相KEYNOTE-966試験の最終解析結果を公表。ペムブロリズマブと標準化学療法(ゲムシタビンおよびシスプラチン)の併用は、進行または切除不能な胆道がんの1次治療において全生存期間(OS)を統計学的に有意に改善した。また、同試験におけるペムブロリズマブの安全性プロファイルは、これまでの試験の結果と一貫していた。 この結果については、今後さまざまな腫瘍関連学会で発表するとともに、各国の規制当局へ承認申請する予定。 KEYNOTE-966試験は、進行または切除不能な胆道がんの1次治療としてペムブロリズマブ+ゲムシタビン・シスプラチン併用を、プラセボ+ゲムシタビン・シスプラチン併用と比較する無作為化二重盲検第III相試験である。主要評価項目はOSで、副次評価項目は無増悪生存期間、客観的奏効率、奏効期間、安全性などであった。 胆道がんは肝臓がんの15%を占め、毎年21万1,000例が世界で新たに胆道がんと診断され、17万4,000例が死亡すると推定されている。胆道がんの予後は非常に不良で、5年生存率は5〜15%と報告されている。

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一般集団よりも2型DM患者でとくに死亡率が高いがん種は?

 2型糖尿病の高齢患者のがん死亡率を長期的に調査したところ、全死因死亡率の低下とは対照的にがん死亡率は上昇し、とくに大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮内膜がんのリスクが増加していたことを、英国・レスター大学のSuping Ling氏らが明らかにした。Diabetologia誌オンライン版2023年1月24日掲載の報告。 これまで、年齢や性別などの人口統計学的要因が2型糖尿病患者の心血管アウトカムに与える影響は広く研究されているが、がん死亡率への影響については不十分であった。そこで研究グループは、人口統計学的要因や肥満や喫煙などのリスク因子が2型糖尿病患者のがん死亡率に与える長期的な傾向を明らかにするため、約20年間のデータを用いて調査を行った。 対象は、1998年1月1日~2018年11月30日に2型糖尿病と新規で診断され、英国の診療データベース「Clinical Practice Research Datalink」に登録された35歳以上の13万7,804例であった(年齢中央値63.8歳、女性44.6%、白人83.0%、非喫煙者46.9%、正常体重者11.7%、BMI中央値30.6kg/m2)。年齢、性別、人種、貧困状態(複数の剥奪指標ランク)、BMI、喫煙の有無で調整し、全死因、全がん、がん部位別の死亡率を一般集団と比較した。 主な結果は以下のとおり。・2型糖尿病患者119万4,444人年(中央値8.4年[四分位範囲:5.0~12.2年])の追跡で、3万9,212例(28.5%)が死亡した。・全死因死亡率は、1998年~2018年にすべての年齢(55歳、65歳、75歳、85歳)で減少した。・全がん死亡率は55歳と65歳で減少したが、75歳と85歳で増加した。また、白人、現在/過去の喫煙者で増加したが、他の人種や非喫煙者では減少傾向にあった。・全がん死亡率の平均年間変化率(AAPC)は、55歳で-1.4%(95%信頼区間[CI]:-1.5%~-1.3%)、65歳で-0.2%(-0.3%~-0.1%)、75歳で+1.2%(+0.8%~+1.6%)、85歳で+1.6%(+1.5%~+1.7%)であった。また、AAPCが高かったのは、女性+1.5%(男性+0.5%)、最貧困層+1.5%(最富裕層+1.0%)、重度肥満者+5.8%(普通体重者+0.7%)であった。・一般集団と比較した2型糖尿病患者の標準化死亡比(SMR)は、全死因1.08(95%CI:1.07~1.09)、全がん1.18(1.16~1.20)、大腸がん2.40(2.26~2.54)、肝臓がん2.13(1.94~2.33)、膵臓がん2.12(1.99~2.25)、子宮内膜がん(女性のみ)2.08(1.76~2.44)、胆嚢がん1.36(0.99~1.83)、乳がん(女性のみ)1.09(1.01~1.18)、肺がん1.04(1.00~1.08)であった。 研究グループは、上記の結果から「2型糖尿病の高齢患者では、全死因死亡率の低下とは対照的にがん死亡率は上昇し、とくに大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮内膜がんが増加していた。高齢者、貧困層、喫煙者における個別のがん予防と早期発見のための戦略が必要である」とまとめた。

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加糖飲料が女性の肝臓がんを増やす?

 ソーダなどの加糖飲料が、女性の肝臓がん発症リスクを高める可能性があるとする研究結果が、米国栄養学会議(ASN)の年次学術集会(NUTRITION 2022、6月14~16日、オンライン開催)で報告された。閉経後の女性9万人以上を対象とする研究から、加糖飲料の摂取頻度が1日に1回以上の人は、1カ月に3回未満の人と比べて、肝臓がんの発症が7割以上多いという結果が得られたという。 発表者の1人である米ハーバードT. H.チャン公衆衛生大学院のXuehong Zhang氏は、「われわれの研究結果が今後の研究でも追認された場合、肝臓がんによる疾病負担の抑制に、加糖飲料の摂取量を減らす公衆衛生戦略を推進すべきと言って良いのではないか」と語っている。ただし同氏らは、本研究では加糖飲料が肝臓がん発症の原因であるとの結論を導くことはできず、両者の間に関連がある可能性が示されたにとどまることを強調している。 この研究は、閉経後の女性の健康状態を長期間追跡している「女性の健康イニシアチブ(WHI)研究」のデータを用いて行われた。1990年代半ばに研究参加登録された50~79歳の閉経後女性9万504人を中央値18年間追跡し、肝臓がんの新規発症リスクを調査した。参加登録時に行った加糖飲料の摂取量に関するアンケートから、全体の約7%が1日に12オンス(約340g)の加糖飲料を1杯以上飲んでいた。 追跡期間中に、205人が肝臓がんを発症した。加糖飲料を1日に1杯以上飲むと回答していた人は、加糖飲料を全く飲まないか月に3杯未満と回答していた人に比べ、肝臓がんの発症が73%多かった。研究者らは、加糖飲料は肝臓がんの危険因子である肥満と2型糖尿病のリスクを高める可能性があると指摘している。さらに、インスリン感受性の低下や肝臓への脂肪蓄積にもつながり、それらはいずれも肝臓にダメージを与えるという。 Zhang氏は本研究の限界点についても述べている。具体的には、「このような観察研究では、加糖飲料の摂取が、肝臓がん罹患率上昇の原因なのか、または肝臓がんリスクを高める不健康なライフスタイルのマーカーに過ぎないのかを判定することができない。われわれの研究結果は慎重な解釈が求められ、今後の研究による追試が必要だ」としている。また、WHI研究の参加者は閉経後女性のみであるため、男性や閉経前女性の加糖飲料摂取の影響は依然不明だ。 米国がん協会(ACS)の患者会活動部門のトップを務めるArif Kamal氏は、「本報告は加糖飲料の健康リスクを検討した最新の研究結果であり、肝臓がんとの潜在的な関係を示唆しており興味深い」と評価。その上で、「加糖飲料摂取と肝臓がんリスクとの関連が肥満によって媒介されるのか、もしくはBMIの変化とは独立しているのかを確認するためのさらなる研究が必要」と指摘している。 また、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのSamantha Heller氏は、「1日に12オンスの加糖飲料を1杯以上飲むという習慣と、1カ月に3杯飲むこととの間には大きなギャップがある。前者のようなライフスタイルの人には、果物・野菜、食物繊維の摂取量が少なく、肉類やジャンクフード、ファストフードの摂取量が多く、運動量が少ない人が多いのではないだろうか」との疑問を投げかけている。 Heller氏は、「ソーダやそのほかの加糖飲料の過剰摂取は、肥満や肥満に関連する慢性疾患の一因でもある」と語る。米国では2003~2018年にかけて、加糖飲料の消費量が着実に減少してきたが、全体的な消費量は依然として高いままだ。Heller氏によると、「飲料メーカーの広告戦略が、一般市民のそのような消費行動を刺激している」とのことだ。同氏は、加糖飲料に替えて、「水や炭酸水、お茶、ハーブティー、もしくは果汁100%ジュースを飲むと良い」とアドバイスしている。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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日本人がん患者の心血管疾患、発生しやすいがん種などが明らかに/日本循環器学会

 近年、がん患者の生存率向上により治療の副作用の1つである心毒性が問題視されている。ところが、アジア圏のなかでもとくに日本国内のそのような研究報告が乏しい。今回、村田 峻輔氏(国立循環器病センター予防医学・疫学情報部)らが、国内がん生存者における心血管疾患の全国的な発生率に関する後ろ向きコホート研究を行い、不整脈、心不全(HF)、および急性冠症候群(ASC)の100人年当たりの発生率(IR)は、それぞれ2.26、2.08、0.54 で不整脈とHFでは明らかに高く、一般集団と比較してもHFやACSのIRは非常に高いことが明らかになった。本結果は2022年3月11~13日に開催された第86回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies2で報告された。 本研究では、がん患者の心血管疾患発症に関し「HBCR(Hospital-based cancer registry)を用いてがん患者における心血管疾患の発生状況を説明する」「年齢・性別による発症頻度の違いを比較」「がん患者の心不全予防調査」の3つを目的として、対象者を1年間追跡して各心血管疾患の年間発生率を調査した。2014~2015年のDPCデータから対象のがん患者(乳がん、子宮頸がん、結腸がん、肝臓がん、肺がん、前立腺がん、胃がん)の心血管疾患発生状況を、HBCRデータからがん種、病期、1次治療に関する情報を抽出し、不整脈、HF、ASC、脳梗塞(CI)、脳出血(ICH)、静脈血栓塞栓症(VTE)の6つの発生率を調査した。各心血管疾患について、全がん患者、がん種別、年齢・性別のサブグループで100人年当たりのIRと95%信頼区間を算出した。また、各がん種で各心血管疾患のIRを比較、HF発生に対する潜在的な予測因子を調べるためにロジスティクス回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・本研究の対象者は、2014~15年にがん診療連携拠点病院495施設でがん(乳がん、子宮頸がん、結腸がん、肝臓がん、肺がん、前立腺がん、胃がん)と診断された者から外来のみまたは18歳未満の患者を除外した54万1,956例だった。・患者の構成は、乳がんと子宮頸がん患者では若年者が多く、いずれも1次治療には外科的治療の選択が多かった。一方、肝臓がんと肺がんはいずれも40%超が1次治療として化学療法を実施していた。・不整脈、HF、およびACSの100人年当たりのIRは、それぞれ2.26、2.08、0.54で不整脈とHFでは明らかに高く、一般集団と比較してもHFやACSのIRは非常に高かった。これは年齢・性別で比較しても明らかであった。・不整脈とHF、ACSの発生率を年齢・性別でみると、高齢者かつ男性で多かった。・がん種ごとにIRをみたところ、肺がん、肝臓がん、結腸がん、そして胃がん患者では不整脈の頻度が高かった。・肺がんと肝臓がん患者ではHFのIRも高く、化学療法や外科的治療が関連していた。その予測因子として、肺がんのオッズ比(OR)は、病期stage2で1.23(95 %信頼区間[CI]:1.08~1.40、p=0.001)、stage3で1.26(同:1.13~1.41、p

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リキッドバイオプシーによる術後再発リスク評価(COSMOS-CRC-01)/日本臨床腫瘍学会

 2021年に国内で初めて、リキッドバイオプシーを用いた固形がんに対する包括的ゲノムプロファイリングが保険承認された。現在、リキッドバイオプシーを用いた血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析し術後の微小残存腫瘍(MRD)を検出することで術後の再発リスクを評価するというCOSMOS試験が進行中だ。 MRD測定は造血器腫瘍分野における予後予測に広く使われており、固形がんにおける予後予測にも使えるのではないかと検討されていた。COSMOS試験は国立がん研究センターを中心としたがん臨床研究の基盤であるSCRUM-Japanのプロジェクトの1つであり、大腸がん、胃がん、膵がん、肝臓がん、メラノーマ患者を対象としている。 2022年2月に行われた第19回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2022)では中村 能章氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科)が大腸がん患者を対象としたCOSMOS-CRC-01試験の中間解析結果を発表した。[COSMOS-CRC-01試験]・対象:切除可能なステージ0~IIIの大腸がん患者・術前、術後28日、3ヵ月ごと術後1年、6ヵ月ごと術後2~5年間測定・Guardant Reveal(未承認)を用いてゲノム異常とエピゲノム異常を同時解析 主な結果は以下のとおり。・2020年1月~2021年4月に501例が登録され、そのうちステージIIまたはIIIの根治切除を受けた93例を解析した(追跡期間中央値:15.6ヵ月)。年齢中央値70(34~88)歳、61%が男性、ステージIIとIIIがほぼ同数であった。・術前ctDNA解析が成功した89例のうち、11例(12%)にゲノム異常、11例(12%)にエピゲノム異常、53例(60%)に両方の異常が認められ、計75例(84%)がctDNA陽性と判定された。・術後28日時点のctDNA解析は93例全例で成功し、2例(2%)にゲノム異常、14例(15%)にエピゲノム異常、7例(8%)に両方の異常が認められ、計23例(25%)でctDNA陽性となった。・ゲノム解析においては、APC、BRAF、CTNNB1、KRAS、PIK3CA、TP53といった大腸がんにおいて重要な遺伝子変異が認められ、これら遺伝子変異の腫瘍分画(血中に遊離しているセルフリーDNA全体におけるctDNAの割合)の最低値は0.03%、またエピゲノム異常の腫瘍分画の最低値は0.006%だった。・今回のデータカットオフ日(2021年11月30日)時点で、93例中12例に再発が認められ、うち6例(50%)では術後28日時点でctDNAが陽性だった。また再発した12例のうち、術後2回以上の血液解析が行われた11例では、うち10例(91%)が術後いずれかの時点でctDNAが陽性だった。・術後ctDNAが陽性となった時点から再発までの期間の平均値は6.6ヵ月だった。・術後28日時点でのctDNA陰性例の1年無病生存期間(DFS)が93%だったのに対し、陽性例は同83%だった。 中村氏は「今回の結果は、血液のゲノム・エピゲノム解析が、補完的に術後MRDを検出することを示した。追跡期間が短く、対象者も少ないために今回の結果は限定的であるが、組織採取を必要としないリキッド検査の利点は大きく、6ヵ月前という早い時期に再発を予測でき、リスクの高低によって術後の化学療法を変更できる可能性もある。今後のさらなる追跡によって本検査の有用性を明らかにしたい」としている。

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第88回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(前編)

コロナ禍、受診者が激減したがん検診こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週は約2年ぶりに人間ドックを受診しました。諸般の事情から、近所の民間病院のドックを受けたのですが、なかなか興味深い体験をしました。そこのドックを選んだ理由の一つは、胃の検査がX線ではなく内視鏡検査であること(未だにバリウムを飲むX線検査だけの医療機関が多い)でした。ただ、実際に行ってみると、人間ドック専用のスペースや検査機器があるわけではなく、受診者は通常の診療を受ける患者の間に入って、さまざまな検査を進めていくシステム(眼底検査は眼科外来に、というように)でした。ドック専門の医療機関ではない病院が、自費の人間ドック受診者を受け入れる際に用いられる手法です。しかし、このコロナ禍の中、健常な一般人(=私)を、患者が診療を待つ各診療科を回らせるのはリスクが高過ぎるのではないでしょうか(そもそも、その病院はまだ面会禁止中でした)。所見があると内視鏡検査に進んで二度手間になるX線検査ではなく内視鏡検査を受けられたのはよかったのですが、コロナ感染の不安を感じた1日でした。ということで、今回はコロナ禍の中、受診者が激減し、大きな問題になっているがん検診について書いてみたいと思います。折も折、週刊文春の12月16日号では、「15種類のがんを判定できる」と鳴り物入りで全国展開中のHIROTSバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道され、話題となっています。がん検診や、がんの簡易検査でいったい何が起きてきるのでしょう。がん診断件数、胃がん13.4%減、大腸がん10.2%減1ヵ月ほど前の11月4日、日本対がん協会は、2020年に新たに診断されたがんの件数が前年に比べて約1割減った、とする調査結果を発表しました。調査は、同協会とがん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)が共同で、全がん協会加盟施設、がん診療連携拠点病院、がん診療病院、大学病院など486施設に対し、今年7月〜8月に行ったものです。回答を得た105施設では、2020年のがん診断件数は8万660件で、2019年の8万8,814件より8,154件(9.2%)少なく、治療数(外科的・鏡視下的)も減ったことがわかりました。最も減少幅が大きかったのは胃がんで13.4%減。続いて大腸がん10.2%減、乳がん8.2%減、肺がん6.4%減、子宮頸がん4.8%減という結果でした。日本対がん協会はこの結果について、「がん診断の減少は早期が顕著なため、進行期の発見の増加が心配されます。さらに治療や予後の悪化、将来的にはがん死亡率の増加するおそれもあります」とコメントしました。調査結果を報道した11月4日付の朝日新聞は、全国から患者が集まる公益財団法人がん研究会有明病院(東京都江東区)の結果も伝えています。それによれば、「紹介されて来る患者が減り、去年の手術数は前年から15%減った。胃がん全体の手術数は32%減だった。進行度を表すステージ別でみると、ほかのステージでは大きな差がないのに、最も早期の『ステージIA』では50%も減っていた」とのことです。院内がん登録全国集計では全登録数が6万409件減少さらに11月25日には、国立がん研究センターが2020年の院内がん登録全国集計報告書を公表しました。この報告書でも日本対がん協会の調査と同様の傾向が見て取れます。同報告書によると、2019年と比較して、院内がん登録病院の約7割に当たる594施設で全登録数が6万409件(施設平均4.6%)減少した、とのことです。全国集計では、20年の1年間にがんの診断や治療を受けた患者の院内情報について、院内がん登録を実施した863施設から集めた104万379例のデータを分析。がん診療連携拠点病院等450施設での5大がんの全登録数の推移を見ると、肝臓がんは男女ともにほぼ横ばいでしたが、男性では胃・大腸がん、女性では乳房・胃がんの減少が大きかった、とのことです。とくに胃がんでは、前年の登録数に比べて男性で11.3%、女性で12.5%も減少していました。また、2016~2020年の院内がん登録全国集計のすべてに参加した735施設を対象に、診断月、発見経緯、病期等の要因別の登録数について、2016~2019年の4年平均と2020年を比較したところ、2020年の全登録数は4年平均と比べて98.6%減少。診断月別では、緊急事態宣言が出ていた5月に登録数の減少が見られ、がん検診発見例、検診以外の発見例ともに減少を認めたそうです。11月25日に開いた記者会見で同センターの担当者は、「自覚症状など検診以外の発見例でも登録数が減少している。新型コロナウイルスの感染拡大により、一定の受診控えが生じていた可能性がある」と説明したとのことです。がん検診受診者数の減少と医療機関の受診・通院控えが影響こうした診断件数の減少の原因の一つが、がん検診受診者数の減少であることは間違いありません。2020年4~5月の緊急事態宣言の際には、自治体などで実施されるがん検診が相次いで中止されました。日本対がん協会の調査では、20年のがん検診の受診者数は前年に比べて約3割減だったそうです。この他、医療機関への受診・通院控えの影響も指摘されています。コロナ禍、医療機関を受診すること自体が感染リスクを高めるため、少々体の具合が悪くても受診を先延ばしにしてしまう人が増えたわけです。この受診控えは、生活習慣病など、慢性疾患の患者にも起きたため、他の病気での通院をきっかけにがんが見つかるケースも減ったとみられています。そもそも低いがん検診の受診率にコロナが追い打ちそもそも日本は、欧米の先進諸国に比べ、がん検診の受診率が極めて低い状況にあります。コロナ禍前の2019年の受診率は、男性の肺がん検診受診率53.4%を最高に、その他の胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんは3〜4割台です。この数字は、OECD加盟諸国と比べて極めて低水準で、例えば乳がん検診、子宮頸がん検診の受診率は、米国では80%以上、英国では70%以上です。そんな状況で新型コロナウイルスの感染拡大が起こったわけで、数年後に進行がんの患者が医療機関に殺到する可能性も考えられます。今後、がん検診の受診率をどう上げていくかは、日本のがん医療にとって喫緊の課題と言えそうです。がん検診避け自費の線虫検査に走る人の意識とは日本のがんの早期発見がそのような深刻な状況に置かれた中、週刊文春の12月16日号では、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道し、医療界に衝撃を与えています。そもそも、死亡率減少のエビデンスが確立している5大がんの検診の受診は控えながら、エビデンス不透明かつ15のがんも発見できると喧伝する保険外の検査に走る人々の意識も謎です。苦しい検査よりラクで手軽な検査に手が伸びてしまうのは、「がんは切らずに治せる」という言葉にすがる人々との意識と、ある意味共通しているのかもしれません。では、線虫がヒトの尿を“嗅ぎ分けて”がんを判定するという「N-NOSE」のいったい何が問題視されているのでしょうか?(この項続く)。

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ASCO2021 レポート 消化器がん(肝胆膵がん)

レポーター紹介今年のASCOもCOVID-19の影響でVirtual meetingとなり、2年連続Web開催となった。2021年6月4日から始まったが、いつものようなワクワク感がない。今年は、肝胆膵領域でそこまで面白い演題がなかったこともあるのだが、海外の先生と接する機会もなく質問もできないので、演題を生で聞かなきゃという気持ちに焦りもなく、あとでon demandで見ようという感じになる。また、ASCO期間中に集中して行われていたmeetingも数少なくなり、ASCOが終わって1ヵ月たってもだらだらと行われている感じである。そして、気が付いたらESMO-GI(WCGC)まで終わっているという状況であり、ASCOだという華やかさがなく、寂しさを感じた。やはり顔を見ながら、お互いの意見を突き付けてdiscussionする機会が欲しい。いろんな先生と交流の機会があることで、やる気も高まってくるものである。しかも、昨年、ASCO memberは参加費が不要だったので、今年も不要になることを信じて事前登録もしていなかったため、ASCO当日、慌てて全額を支払い、Virtual meetingに参加することとなった。当日参加は1,395ドルもかかり、非常に痛い出費である。「くっそー、COVIDの野郎め」と八つ当たりしながら、ChicagoでDeep-Dish Pizzaを食べている自分をイメージして、いつものDomino’s Pizzaを食べつつ、今年のASCOを振り返りたいと思う。肝臓がんさて、本題です。まずは肝臓がんから解説します。今年の肝胆膵領域はあまり面白い演題がなかったなというのが本音である。肝細胞がん領域では、Oral presentationに2演題が選ばれていたが、Poster discussionでは1演題も採択されていなかった。また、今年発表されるであろうと期待されていたデュルバルマブ+tremelimumabの第III相試験(HIMALAYA)やペムブロリズマブ+レンバチニブの第III相試験(LEAP-002)、tislelizumabの第III相試験(RATIONALE-301)などの大規模試験の結果を期待していたのだが、報告されなかった。そして、今年も中国からFOLFOX肝動注化学療法の第III相試験が2演題であり、中国1国のみでいくつもの第III相試験を発表しており、どんなに肝細胞がんの患者さんがいるのだろうかと感じずにはいられなかった。進行肝細胞がんに対するオキサリプラチン+フルオロウラシル併用肝動注療法とソラフェニブ療法の比較:ランダム化第III相試験(The FOHAIC-1 study)著者:Ning Lyu, et al.、Oral presentation本試験は、肝内腫瘍量が多い進行肝細胞がん症例に対する1次薬物療法として、FOLFOX肝動注療法の有効性を、ソラフェニブをコントロールとして検証するランダム化第III相試験(FOHAIC-1試験)である。主な適格基準はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)Stage BまたはC、Child-Pugh分類A~B7、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status(PS)0~2などで、肝動注群とソラフェニブ群に1:1で割り付けられた。FOLFOX肝動注療法は、オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン(LV)200mg/m2、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m2および5-FU 2,400mg/m2 46時間持続投与を3週間ごとに行い、ソラフェニブ群はソラフェニブ1回400mgを1日2回内服した。ソラフェニブ群の全生存期間(OS)の中央値を8.0ヵ月、肝動注群を14ヵ月、検出力90%、両側α=0.05として、36ヵ月間の登録期間、最大60ヵ月の追跡期間として、247例の登録が必要となり、260例の登録を目標症例数として設定された。登録患者は肝動注群(130例)とソラフェニブ群(132例)に割り付けられた。患者背景は両群において有意な差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目であるOSは、ソラフェニブ群と比べて肝動注群で有意に良好であった。薬物療法によるダウンステージングは、肝動注群で16例(12.3%)、ソラフェニブ群で1例(0.8%)に認めた。また、腫瘍の肝占拠割合が50%以上または門脈本幹に腫瘍栓を有する高リスク群のOSも肝動注群で有意に良好であった。RECISTv1.1による客観的奏効割合(ORR)は肝動注群で有意に良好だった(p<0.001)。薬剤に関連したGrade3以上の有害事象はむしろソラフェニブ群で有意に多く、主な有害事象は、肝動注群のオキサリプラチン投与に伴う腹痛(40.6%)であったが、投与による有害事象で肝動注療法を中止した患者はいなかった。画像を拡大するこのように、肝内病変が進行した肝細胞がん患者を対象として、FOLFOX肝動注療法はソラフェニブと比較した第III相試験において、有意に良好なOSとORRが示された。かなり予後の厳しい肝腫瘍量が50%以上の症例や門脈本幹に腫瘍栓を有する症例でも有効であり、ダウンステージできた症例、局所療法にコンバージョンできた症例も高率に認められ、有害事象も低頻度であり、今後が期待される結果であった。しかし、本試験は中国単施設の結果で、B型肝炎の患者が90%前後を占める対象で行われた試験であり、解釈には注意が必要であることや、現在の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法と比較してどうなのかなど疑問点も残っており、この試験の結果に基づきFOLFOX肝動注療法が標準治療と位置付けられるまでには至っていない。術前補助療法としてのFOLFOX肝動注療法は、ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者の予後を改善させた:多施設共同ランダム化第III相試験の中間解析著者:Li S, et al.、Oral presentationミラノ基準外のBCLC Stage A/Bの切除可能肝細胞がんに対して、術前補助療法FOLFOX肝動注療法を行った患者と肝動注療法は行わずに切除した患者の有効性と安全性を、多施設共同ランダム化第III相試験にて検討した。ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者に対して、術前補助療法としてFOLFOX肝動注療法を施行した群と、術前補助療法を行わずに直接手術を行う群に1:1でランダムに割り付けられた。術前肝動注群は2サイクルのFOLFOX肝動注療法を施行し、忍容性があれば抗腫瘍効果を確認し、完全奏効/部分奏効が得られていれば切除、安定であれば追加の2サイクルの肝動注療法を行い、増悪の場合には次治療へ移行した。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、無再発生存期間(RFS)と安全性とした。切除可能肝細胞がん患者208例が登録され、術前化療群99例、切除先行群100例が解析対象となった。患者背景において、両群間に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。術前化療群では、ORR 63.6%、病勢制御割合(DCR)96.0%で、88例(88.9%)で肝切除が施行された。術前化療群は、脈管浸潤の割合が11.4%であり、切除先行群(39.0%)と比べて低値であった。OSとPFSは術前化療群で有意に良好であったが、RFSは両群間に有意差はなかった。FOLFOX肝動注療法群の有害事象は、Grade1を59.6%、Grade2を26.3%に認めたが、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。なお、OSとPFSのサブグループ解析では、50歳以下の若い患者や腫瘍が単発である患者、AFPが400ng/mL以上と高い患者、HBV-DNAが低い患者においてより良好な結果が示された。画像を拡大する著者らは、FOLFOXによる肝動注療法は、肝細胞がんに対して効果的で安全であること、ミラノ基準外の切除可能BCLC A/Bの肝細胞がん患者に対して生存期間の延長効果が見込まれることを結論付けた。本試験の結果、肝細胞がんの術前補助療法として、FOLFOX肝動注療法の有用性が示された。この演題のDiscussantは、39%の症例が多発例であり、通常、切除しないような症例が多数含まれていることや中国の5施設の結果であり、B型肝炎の患者が中心である点については注意して解釈すべきであり、日常診療に取り入れる前に世界規模または欧米での検証が必要であろうとコメントしていた。このように、中国からFOLFOX肝動注療法に関連する2演題が発表された。ともに、中国1ヵ国での第III相試験であり、全世界で受け入れられるには、さらなる試験が必要である。しかし、これだけの試験を中国だけで、症例集積できることが驚きである。しかも、この試験のほかにも、昨年、sintilimab+ベバシズマブ-バイオシミラーの第III相試験(ORIENT-32)、donafenibの第III相試験、apatinibの第III相試験など、進行がんでも中国1ヵ国で行った試験の結果が報告されており、計り知れないほど患者さんがいて、臨床試験に参加してくれる環境ができていることを考慮すると、今後の肝細胞がんの薬物療法の開発において、中国の存在が重要になってくることが改めて予想された。また、この数年、アジアを中心に肝細胞がんに対する肝動注療法の有用性を示唆する結果が報告されてきており、肝細胞がんの薬物療法において、肝動注療法が再度、見直される日が来る可能性も十分にあることが示された。余談であるが、Q&Aセッションで、抗がん剤の投与方法についてDiscussionがあった。通常、米国では肝動注を行う場合に抗がん剤が100mL程度注入できるポンプを皮下に埋め込んで投与を行うことが多い(ポンプは結構な大きさで、皮下に埋められる米国人患者もすごいのではあるが…)。中国ではポンプの合併症はどうかという質問があり、演者らはポンプを使用していないことを説明し、腫瘍の多いところにカテーテルを挿入して投与しているとのことであった。柔軟に対応が可能で、より効率よく抗がん剤が投与できることを解説していたが、では、カテーテルを留置せず、どうやって2日間のFOLFOXを投与しているのか、私には謎であった。質問できる知り合いの先生が中国にはいなかったため答えはわからないのであるが、おそらく3週に1回、血管造影を行い、カテーテルを挿入した後は2日間、動かずに安静にして投与しているのかなと勝手に想像しているところである。胆道がん胆道がんでは、ナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(LV)と5-FU/LVを比較したランダム化第II相試験がOral presentationで1演題、取り上げられていた。非常に期待できる2次治療のレジメンが報告されたが、遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の開発に移行していた胆道がんが、また細胞障害性抗がん剤の開発に戻るのかなと、少し不安も隠せなかった。ゲムシタビン+シスプラチン併用療法後の転移性胆道がん患者に対するリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリンの併用療法:多施設ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)著者:Yoo C, et al.、Oral presentation切除不能・転移性胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン療法(GC)後に進行した症例の2次治療の標準治療は確立していない。ABC-06試験によって、2次治療としてFOLFOX療法を行うことで、積極的な症状コントロールのみを行った患者と比べて、OSが延長したことが示されたが、まだその治療成績は十分とは言い難い。ゲムシタビン耐性の膵がんに対するナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-FU/ロイコボリン(LV)療法は、NAPOLI-1試験の結果、プラセボと比較してPFSとOSの延長が示された。胆道がんでも本レジメンによる治療が有効である可能性がある。1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者を対象として、2次治療としてNal-IRI+5-FU/LVと5FU/LVを比較した多施設共同非盲検ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)が行われた。対象は、1次治療でGC療法を行って病勢の進行が確認された胆道がん患者174例であった。患者は、Nal-IRI(70mg/m2、90分)+5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群と、5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目は盲検下の独立中央判定委員会によるPFSとして、副次評価項目は担当医師によるPFS、OS、ORR、安全性などであった。症例数設定は、Nal-IRI+5-FU/LV群のPFS中央値を3.3ヵ月、5-FU/LV群の中央値を2ヵ月、検出力80%、両側α=5%、ハザード比0.6で有意差が検出できるように設定し、総数174例が必要と判断された。患者背景において、両群に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目である独立中央判定委員会によるPFSはNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。副次評価項目である担当医師によるPFSやOSもNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。独立中央判定委員会によるORRは両群で有意差を認めなかったが、担当医師判定では統計学的な有意差を認めた。安全性について、好中球減少症と疲労は、5-FU/LV群と比較してNal-IRI+5-FU/LV群に多く認められたが、膵がんに対して行われたNAPOLI-1試験の結果と同様の結果であった。画像を拡大するNal-IRI+5FU/LV療法は、1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者に対してPFS、OS、ORRを有意に改善させた。Nal-IRI+5-FU/LV療法の有害事象は十分に管理可能で、膵がんに対するNAPOLI-1試験で示された安全性と同様の結果であった。今回の検討は韓国のみで行われた臨床試験であり、全世界に一般化できる結果ではないが、この試験の統計学的事項は十分な検出力があり、PFSやORRも中央判定で行われており、抗腫瘍効果も十分に評価できる。この試験の結果から、Nal-IRI+5-FU/LV療法はGC療法で増悪した進行胆道がん患者に対する標準治療の1つとして考慮されるべきであると著者らは結論していた。確かに、本試験の結果はNal-IRI+5-FU/LV療法は、GC療法の2次治療としてABC-06試験で優越性が示されたFOLFOXレジメンよりも良好なPFS、OS、ORRが示されており、かなり期待できるレジメンである。また、ランダム化第II相試験ではあるが、第III相試験と遜色のない試験デザインで行われている。演者であるYoo先生は知り合いなので、直接、試験デザインについて聞いてみたところ、症例数設定は第III相試験としても十分であるが、主要評価項目としてPFSを選択したので、第IIb相試験としたとコメントがあった。なるほど、第IIb相試験というあまり聞き慣れない相にしているのはそういうことであったか、と。そして、Yoo先生は、第III相試験と宣言して行えばよかったなと後悔されていた。しかし、仮に本試験が第III相試験であったとしても、韓国1ヵ国の試験であり、アジアの結果を米国のFDAや欧州のEMEAが受け入れるかどうかは微妙である。また、本試験でOSでも有意差があるといっても、PFSが主要評価項目であるランダム化第II相試験であり、OSを主解析として行った試験ではないため、この試験結果をもって標準治療とするには時期尚早と考える。今後、Nal-IRI+5-FU/LVとFOLFOXのどちらが良いのかを明らかにする検討も必要であり、IDH1変異に対するIDH阻害剤、FGFR変異に対するFGFR阻害剤など、actionableな遺伝子変異を有する患者において、どちらを先行して治療すべきかなども明らかにする必要があると思われる。膵がん膵がんでは、Oral presentationに1演題も取り上げられていなかったが、Poster discussionでは6演題、取り上げられていた。膵がんにおいては薬物療法も停滞期で、なかなか次の良い薬剤が登場してこない状況である。今回のASCO2021で何らかの目を見張る結果が報告されることを期待したが、まだ突破口が見えていない現状であった。その中でも、やはり日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)からの発表などいくつか知っておいてほしい結果があるので、取り上げて解説する。局所進行膵がんに対するmodified FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の無作為化比較第II相試験(JCOG1407)著者:Ozaka M, et al.、Poster discussionFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GEM+nab-PTX療法)は、それぞれProdige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したレジメンである。どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験であり、局所進行膵がんに対する評価はこれまで十分に行われていない。今回、局所進行膵がん患者を対象として、FOLFIRINOX療法の5-FUの静注とイリノテカンの投与量を150mg/m2に減量し、有害事象を軽減させたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とGEM+nab-PTX療法の有効性と安全性を検討し、より有望な治療法を選択することを目的としてランダム化第II相試験(JCOG1407)が行われた。本試験の対象は、全身化学療法歴のない局所進行膵がん患者であり、mFOLFIRINOX療法群とGEM+nab-PTX療法群に1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目はOS(1年生存割合)、副次的評価項目はPFS、無遠隔転移生存期間、ORR、CA19-9奏効割合、有害事象発生割合などであった。症例数設定は、2つの試験治療群のうち、1年生存割合が良好な群を53%、不良な群を63%と仮定し、良好な試験治療を正しく選択できる確率が85%以上となるように算出した。また、2つの試験治療群のうち、良好な群の期待1年生存割合を70%と仮定し、閾値1年生存割合を53%、片側有意水準α=5%、検出力80%とし、必要症例数は120例と算出された。mFOLFIRINOX療法群に62例、GEM+nab-PTX療法群に64例で、計126例が登録された。患者背景では、両群に大きな偏りは見られなかった。JCOG1407試験の結果を表に示す。1年生存割合はGEM+nab-PTX療法群で良好だったが、2年生存割合はmFOLFIRINOX療法群で良好であり、ハザード比は1.162(95%CI:0.737~1.831)であった。PFSと無遠隔転移生存期間は有意差を認めなかったが、mFOLFIRINOX療法群で良好な傾向であった。ORRは有意差を認めなかったが、GEM+nab-PTX療法群で良好であった。CA19-9奏効割合はGEM+nab-PTX療法群で有意に良好であった。有害事象において、Grade3~4の好中球減少/白血球減少はGEM+nab-PTX療法群で高率、全Gradeの悪心/嘔吐や下痢はmFOLFIRINOX療法群で高率に認められたが、治療関連死は見られなかった。画像を拡大する本試験は、局所進行膵がんに対する2つのレジメンを比較した最初のランダム化試験であった。GEM+nab-PTX療法群の1年生存割合はmFOLFIRINOX療法群より良好であったが、mFOLFIRINOX療法群は2年生存割合が高く、その他の項目では良かったり悪かったりとなっており、どちらが良好とは言い難い結果であった。局所進行膵がんに対しては、『膵癌診療ガイドライン2019年版』でも転移性膵がんのエビデンスに基づき、mFOLFIRINOXとGem+nab-PTXが提案されているが、しっかりしたランダム化比較試験は行われていない。今回はJCOG肝胆膵グループで行われたmFOLFIRINOXとGem+nab-PTXを比較するランダム化第II相試験の結果は、主要評価項目である1年生存割合では、Gem+nab-PTXが良好であったが、全体の生存曲線や2年生存割合ではmFOLFIRINOXが優勢であった。下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性はmFOLFIRINOX群で高頻度に認められたが、骨髄抑制や神経障害はGem+nab-PTX群で高頻度に認められており、優劣はつけ難い結果であった。今後、長期間の追跡調査を行い、どちらを選択すべきかを明らかにしていくことが必要である。NRG1融合遺伝子陽性の膵がんや他の固形がんに対するzenocutuzumabの有効性と安全性著者:Schram AM, et al.、Oral presentation膵がんに対するNRG1融合遺伝子に対するzenocutuzumabのpreliminaryな結果が報告されていた。zenocutuzumab(MCLA-128)はADCC活性を持つHER2、HER3を阻害する二重特異性抗体で、HER3にNRG1 fusionのEGF-likeドメインの結合を阻害することで、HER2/HER3の二量体形成を阻害し、下流のPI3K/AKT/mTORシグナルによる腫瘍増殖を阻害する抗体製剤である。NRG1融合遺伝子を有する患者に有効性が期待され、開発が進んでいる。膵がんパートに登録された12例のうち5例(42%)に奏効が得られており、11例中11例全例でCA19-9の50%以上の低下が認められ、7例(64%)においては正常値まで低下したことが報告された。有害事象はGrade1~2であり、重篤な消化器や皮膚、心毒性は認めなかったことが報告され、期待されている薬剤である。膵がんにおけるNRG1融合遺伝子の頻度は1%未満といわれており、非常にまれではあるが、60歳以下の若年者やKRAS wildの患者に多く認められることを手掛かりとして、聖マリアンナ医大と国立がん研究センター東病院を中心に、NRG1のスクリーニングが行われている。術前化学放射線療法が膵がん患者の生存期間を改善させる:多施設共同第III相試験(PREOPANC)の長期治療成績著者:Van Eijck C, et al.、Poster discussion切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対して、ゲムシタビンによる術前化学放射線療法は、切除先行と比べて、R0切除割合や無病生存期間を改善させた。生存期間においては良好な傾向は示されていたが、有意な差を認めていなかった。今回、この試験を長期フォローアップすることで、生存期間への効果が検討された。結果を表に示す。R0切除割合やN0切除割合、Intention to treatによるOS、切除できた患者のOS、補助療法を受けた患者のOSにおいて、化学放射線療法群で有意に良好な結果が示された。切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対する術前治療の有効性が示されたことにより、日本ではすでに術前治療が標準治療であるが、海外でも術前治療へよりシフトすることが推測された。画像を拡大するまとめ今年のASCO2021では、肝細胞がんでは初回薬物療法として肝動注化学療法、胆道がんでは2次治療としてNal-IRI+5-FU/LV、膵がんでは局所進行膵がんの1次治療としてmFOLFIRINOX/Gem+nab-PTX、切除可能/切除可能境界膵がんに対する術前化学放射線療法など、少し昔の時代に戻ったかのように、主要演題には細胞障害性抗がん剤による治療が席巻していた。しかし、肝胆膵がんでは分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでおり、今後、新たなエビデンスはこれらの治療から生まれてくると思われる。今年のASCOでは世の中を大きく変えるような結果は出てこなかったが、世界的にも注目される重要な学会であり、Web開催であろうと、みんなが参加する学会である。ぜひ来年は、COVID-19が落ち着いて、現地でみんなと一緒にFace to Faceで談笑しながら、肝胆膵のOncologyについて語り合いたいものである。1)Ning Lyu, Ming Zhao. Hepatic arterial infusion chemotherapy of oxaliplatin plus fluorouracil versus sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma: A biomolecular exploratory, randomized, phase 3 trial (The FOHAIC-1 study). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4007)2)Shaohua Li, Chong Zhong, Qiang Li, et al. Neoadjuvant transarterial infusion chemotherapy with FOLFOX could improve outcomes of resectable BCLC stage A/B hepatocellular carcinoma patients beyond Milan criteria: An interim analysis of a multi-center, phase 3, randomized, controlled clinical trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4008)3)Changhoon Yoo, Kyu-Pyo Kim, Ilhwan Kim, et al. Liposomal irinotecan (nal-IRI) in combination with fluorouracil (5-FU) and leucovorin (LV) for patients with metastatic biliary tract cancer (BTC) after progression on gemcitabine plus cisplatin (GemCis): Multicenter comparative randomized phase 2b study (NIFTY). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4006)4)Masato Ozaka, Makoto Ueno, Hiroshi Ishii, et al. Randomized phase II study of modified FOLFIRINOX versus gemcitabine plus nab-paclitaxel combination therapy for locally advanced pancreatic cancer (JCOG1407). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4017)5)Alison M. Schram, Eileen Mary O'Reilly, Grainne M. O'Kane, et al. Efficacy and safety of zenocutuzumab in advanced pancreas cancer and other solid tumors harboring NRG1 fusions. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 3003)6)Casper H.J. Van Eijck, Eva Versteijne, Mustafa Suker, et al. Preoperative chemoradiotherapy to improve overall survival in pancreatic cancer: Long-term results of the multicenter randomized phase III PREOPANC trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4016)

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ペミガチニブ、FGFR2変異胆道がんに期待/インサイト

 インサイト・バイオサイエンンシズ・ジャパンは2021年7月15日、「胆道がんにおけるがんゲノム診断に基づく分子標的治療薬がもたらす新しい未来」と題したWebメディアセミナーを開催。日本胆道学会理事長の東北大学大学院 消化器外科学分野教授 海野倫明氏らが、胆道がん治療と本年発売されたFGFR2阻害薬ペミガチニブ(製品名:ペマジール)について紹介した。予後不良な胆道がん。なかでも深刻な肝内胆管がん 胆道がんには3つの病型があるが、いずれも予後不良である。なかでも肝内胆管がんは、黄疸などの症状が現れにくく、初回診断時すでに進行した病期であることが多い。そのため、生存期間中央値13.5ヵ月と3病態のなかで、もっとも予後不良である。肝内胆管がんの罹患数は(肝臓がんの一部として集計される)、肝臓がんの6%とされる。推奨薬剤がない切除不能例の2次治療 切除不能胆道がんの薬物治療、1次治療の推奨はゲムシタビンとシスプラチンの併用またはS-1とシスプラチンの併用である。しかし、2次治療のガイドライン推奨薬剤はなく、新たな治療選択肢が望まれていた。FGFR2遺伝子変異と肝内胆管がん標的治療 そのような中、遺伝子解析により、FGFR2遺伝子融合/再構成が肝内胆管がんにもっとも多い遺伝子変異であることが明らかになり、また、FGFR2をターゲットした分子標的薬ペミガチニブが胆道がんを適応として承認された。 ペミガチニブの有効性は、既治療のFGFR2変異陽性胆道がんの第II相試験FIGHT-202で検討されている。試験の結果、FGFR2遺伝子融合/再構成患者(コホートA)に対する全奏効率35.5%と主要評価項目を達成し、病勢制御率も82%と良好な成績を示した。初期標準治療の終了後には、がん遺伝子パネル検査でFGFR2変異を確認し、ペミガチニブが選択可能か検討して欲しいと海野氏は述べる。 なお、ペミガチニブのコンパニオン診断薬としてはFoundation One CDxが、本年(2021年)2月に承認されている。

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原発不明がん、NGSから原発を推定した治療の成果は?(NGSCUP)/日本臨床腫瘍学会

 原発不明がん(CUP)は全悪性腫瘍の2〜5%を占める。生命予後は不良、治療法は未確立であり、経験的にプラチナ製剤とタキサンの併用が行われている。最近の腫瘍ゲノム解析の進歩によりCUP個別患者の腫瘍の遺伝子発現/異常パターンから原発腫瘍を推定し、特異的治療を行う試みがある。第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO Virtual2021)では、未治療のCUPに対し次世代シークエンサー(NGS)による遺伝子プロファイリングから推定された原発疾患に対する標準的治療を行う多施設共同第II相試験の結果を千葉大学の滝口 裕一氏が発表した。 対象は未治療の転移を有するCUP患者110例(PS 0~2)。対象患者はNGS検査ののち、推定された原発腫瘍に対する標準治療を受けた。主要評価項目は1年全生存(OS)割合。副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効率、有害事象などである。事前に設定された1年全生存(OS)割合の95%信頼区間(CI)の下限は40%であった。 主な結果は以下のとおり。・97例が推定された原発腫瘍に対する治療を受けた。・NGSにより推定された原発腫瘍としては肺がん22%、肝臓がん16%、腎がん16%、大腸がん12%など、組織型は腺がん52.6%、低分化腺がん16.5%、未分化がん15.5%、扁平上皮がん9.3%であった。・1年OS割合は53.1%(95%CI:42.6~62.5)で、事前に設定された閾値を上回り、主要評価項目を達成した。・OS中央値は13.7ヵ月、PFS中央値は5.2ヵ月であった。・発見された遺伝子異常は、TP5346.4%、KRAS19.6%、CDKN2A18.6%であった。・事前に定義した有効な薬物療法がある腫瘍(大腸がん、乳がん、卵巣がん、腎がん、前立腺がん、膀胱がん、非小細胞肺がん、胚細胞腫瘍、リンパ腫)と推定された患者はそれ以外と比べ、OS15.7ヵ月対11.0ヵ月(HR:0.634、p=0.078)、PFS5.5ヵ月対2.8ヵ月(HR:0.578、p=0.019)と、良好な生存期間を示す傾向が認められた。

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肝臓がん2020 Wrap Up【消化器がんインタビュー】第7回

第7回 肝臓がん2020 Wrap Up出演:国立がん研究センター 東病院 肝胆膵内科長 池田 公史氏2020年肝細胞がんの重要トピックを国立がん研究センター東病院の池田公史氏が、一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肝細胞がん研究の要点がわかる。

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ASCO- GI 2020レポート 消化器がん

インデックスページへ戻るレポーター紹介今回、2020年1月23日~25日に米国・サンフランシスコにおいて開催されたASCO GI 2020に参加し、すでに現地速報という形で注目演題を報告させていただいているが、音声などが乱れたこともあり、補足とともにそこで取り上げることができなかった演題を報告させていただきます。DAY1 Cancers of the Esophagus and StomachOral SessionRESONANCE試験:The Randomized, Multicenter, Controlled Evaluation of S-1 and Oxaliplatin (SOX) as Neoadjuvant Chemotherapy for Chinese Advanced Gastric Cancer Patients.(abstract #280)Chen L, et al.中国から発表された局所進行胃がんに対する術前S-1/オキサリプラチン併用療法(SOX)の有効性に関する無作為化第III相試験である。本試験はStageII/IIIの切除可能胃がんおよび接合部がんを対象とし、手術+術後SOX療法(AC群:adjuvant group)に対する術前SOX療法+手術+術後補助化学療法(NC群:Neoadjuvant group)の優越性を検証した。AC群は術後補助化学療法としてSOX療法を8サイクル施行し、一方NC群は術前SOX療法を2~4サイクル施行後に手術を行い、術後SOX療法は術前投与を含め計8サイクル施行する。SOX療法は共にS-1(80~120mg/day、day1~14、3週ごと)およびオキサリプラチン(130mg/m2、day1、3週ごと)である。主要評価項目は3年間の無病生存割合(3y-DFS)であった。772例が登録され、各群に386例が割り付けられた。両群間の患者背景に偏りはなく、cT3はNC群:AC群=64%:66%、cT4はNC群:AC群=12%:13%であり、cStageIIはNC群:AC群=39%:42%、cStageIIIはNC群:AC群=61%:58%であった。NC群において術前SOX療法は91.9%において投与完遂し、術後補助化学療法を含め8サイクル投与が53.2%において完遂可能であったのに比し、AC群における8サイクル投与完遂率は47.7%であった。R0切除率はNC群においてAC群よりも有意に良好であり(94.8% vs.83.8%)、NC群では46.4%にダウンステージングを認め、術後病理学的完全奏効(pCR)を23.6%に認めた。コメント中国で実施された局所進行胃がんに対する術前SOX療法の有効性を検証した第III相試験の第1報である。主要評価項目である3y-DFSの結果はいまだ不明であるが、術前SOX療法を施行することによりR0切除率の向上とダウンステージングが示唆された。ただし、抄録とR0切除率や治療奏効割合(pRR)の結果が異なるなどいくつか気になる点があり、評価には最終的な報告を待つ必要があると考える。POSTER SessionAPOLLO-11試験:Feasibility and pathological response of TAS-118 + oxaliplatin as perioperative chemotherapy for patients with locally advanced gastric cancer(abstract #351)Takahari D, et al.進行胃がんに対するTAS-118(S-1+ロイコボリン)とオキサリプラチンの併用療法(TAS-118/L-OHP)は、2019世界消化器がん会議(WCGC)においてS-1/CDDP併用療法との比較第III相試験(SOLAR試験)として公表されているが、今回、局所進行胃がん症例に対する周術期化学療法での忍容性を検討する単群第II相試験であるAPOLLO-11試験(UMIN000024688)の第1報が報告された。本試験はリンパ節転移を伴うcT3-4局所進行胃がんを対象とし、術前治療としてTAS-118(80~120mg/日、day1~7、2週ごと)およびL-OHP(85mg/m2、day1、2週ごと)併用療法を4コース施行後、胃切除+D2郭清が実施され、術後補助化学療法としてTAS-118単剤x12コース(Step1)もしくはTAS-118/L-OHP併用療法x8コース(Step2)が行われた。主要評価項目は(1)術前TAS-118/L-OHP併用療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性と(2)術後補助化学療法の忍容性であり、今回の報告では(1)術前TAS-118/L-OHP併用療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性結果が報告された。45例が登録され、術前TAS-118/L-OHP併用療法4コースが完遂されたのが40例(89%)であり、最終的に43例(96%)において外科的切除が完遂可能であった。患者背景は年齢中央値=64歳、男性=82%、胃原発/接合部がん=89%/11%、腸型/びまん型=69%/31%、cT3/4a=29%/71%、cN1/2/3=56%/38%/7%、臨床病期IIB/IIIA/IIIB/IIIC=24%/36%/33%/7%であった。術前化学療法における各薬剤の相対薬物濃度(RDI)中央値はTAS-118=91.7%、L-OHP=100.0%であった。術前TAS-118/L-OHP併用療法におけるGrade3以上の有害事象として、下痢(17.8%)、好中球減少症(8.9%)、食欲不振(4.4%)、口腔粘膜炎(4.4%)、白血球減少症(2.2%)、悪心(2.2%)、倦怠感(2.2%)を認めた。R0切除率は95.6%(90%CI:86.7~99.2%)であった。術後標本による病理学的治療効果(Grade1b-3)を62.2%(90%CI:48.9~74.3%)に認め、うち病理学的完全奏効割合(pCR)は13.3%であり、ダウンステージが68.9%(90%CI:55.7~80.1%)の症例において得られた。コメント局所進行胃がんに対する術前TAS-118/L-OHP併用療法に関する初めての報告であり、術前化学療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性が確認された。今後、術後補助化学療法パートの忍容性結果が報告予定であり、長期予後と合わせてその結果が期待される。EPOC1706試験:An open label phase 2 study of lenvatinib plus pembrolizumab in patients with advanced gastric cancer(abstract #374)Kawazoe A, et al.KN-061試験(胃がん2次治療)やKN-062試験(胃がん1次治療)の結果よりPD-L1陽性胃がんに対するペムブロリズマブ単剤療法の奏効割合は約15%と報告されている。一方、マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブは腫瘍関連マクロファージを減少させ、CD8陽性T細胞の浸潤を増強することによる抗PD-1抗体の抗腫瘍効果増強が報告されており、進行胃がんに対するレンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法の単群第II相試験であるEPOC1706試験(NCT03609359)の結果が報告された。本試験は進行胃がんを対象とし、レンバチニブ(20mg/日内服)とペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)の併用療法を病勢進行や毒性などの理由による治療中止まで継続するスケジュールで実施された。主要評価項目は担当医判定による全奏効割合(ORR)である。29例が登録され、患者背景は年齢中央値=70歳、男性=90%、腸型/びまん型=52/48%、初回治療/2次治療=48/52%、HER2陽性=17%、dMMR/pMMR=7/93%、EBV陽性=3%、PD-L1 CPS≧1/<1=66/34%であった。腫瘍縮小効果は非常に良好であり、主要評価項目である担当医判定によるORRはCR1例を含む69%(95%CI:48~85%)、病勢制御割合(DCR)は100%(95%CI:88~100%)であった。無増悪生存期間中央値は7.1ヵ月(95%CI:4.2~10.0)、生存期間中央値には至っていなかった。レンバチニブによる有害事象としてGrade3以上の高血圧(38%)、蛋白尿(17%)を認め、ほとんどの症例においてレンバチニブの1段階以上の減量が必要であったが、減量により毒性はマネジメント可能であった。コメント進行胃がんに対する、非常に切れ味良好な腫瘍縮小効果を認める新規併用療法である一方、immatureではあるがその効果の継続が治療継続期間中央値6.9ヵ月(範囲:2.8~12.0)、PFS 7.1ヵ月と限られており、今後の追加報告が期待される。ATTRACTION-2試験 3年フォローアップ:A phase 3 Study of Nivolumab in Previously Treated Advanced Gastric or Gastric Esophageal Junction Cancer(abstract #383)Chen LT, et al.2レジメン以上の化学療法に対して不応の切除不能進行再発胃がん・接合部がんを対象にニボルマブの有効性をプラセボ比較で検証した第III相試験であるATTRACTION-2試験の3年追跡結果報告である。2017年のLancet誌報告時のニボルマブ投与群の生存期間中央値(mOS)は5.26ヵ月、1年生存割合(1y-OS)は26%であり、2018年のESMOで発表された2年追跡結果における2y-OSは10.6%、2年無増悪生存割合(2y-PFS)は3.8%であった。今回新たに1年間の追加観察期間を設けた報告において、ニボルマブ群の3y-OSは5.6%、3y-PFSは2.4%であった。ニボルマブ群の15例とプラセボ群の3例が3年以上の長期生存を認めており、プラセボ群の3例のうち2例は病勢進行後にニボルマブによる加療を受けていた。ニボルマブ群のうち、最良効果(BOR:best overall response)がCRもしくはPRであった32例(9.7%)の生存期間中央値は26.88ヵ月であり、1y-OSは87.1%、2y-OSは61.3%、3y-OSは35.5%であった。BORがSDであった76例(23%)の生存期間中央値は8.87ヵ月であり、1y-OSは36.1%、2y-OSは7.4%、3y-OSは3.0%であった。ニボルマブ群のうち55.5%の症例において免疫関連の有害事象を認め、これら免疫関連有害事象を認めた症例のmOSは7.95ヵ月であり、認めなかった症例のmOSは3.81ヵ月であった(HR=0.49)。コメント今回、3年の観察期間を設けた報告によりニボルマブ投与によって3年以上の長期生存を得られる症例が5%程度いることが示唆され、またBORがCRもしくはPRとなりえる約10%程度の症例においては、約3分の1において3年以上の生存が得られる可能性が示唆された。毒性に関して、ほとんどの場合、既報のごとくニボルマブによる治療開始後3ヵ月以内に発生していたが、なかには治療開始後2年以上の経過の後に免疫関連有害事象として肺障害や腎障害が出現したケースも認め、ニボルマブ投与に当たってはその投与終了後にも免疫関連有害事象の出現に関して引き続き注意が必要であることが示唆された。MSI status in > 18,000 Japanese pts:Nationwide large-scale investigation of microsatellite instability status in more than 18,000 patients with various advanced solid cancers.(abstract #803)Akagi K, et al.本邦におけるMSI-Hの頻度に関して、2018年12月~2019年11月の1年間にMSI検査キット(FALCO)による解析が実施された2万5,789例を対象に検討。2万5,563例(99.1%)で解析可能であり、うち959例(3.75%)がMSI-Hであった。MSI-Hは10~20代の若年者(7.43%)および80代以上の超高齢者(5.77%)において認める傾向が強く、また既報のごとく早期病期(StageI~III)に比べ進行期(StageIV)においてその頻度は少なかった(StageI~III:StageIV=6.02%:3.05%)。がん種別のMSI-Hの頻度は子宮体がん(17.00%)、小腸がん(9.23%)、胃がん(6.73%)、十二指腸がん(5.79%)、大腸がん(3.83%)、NET/NEC(3.60%)、前立腺がん(3.04%)、胆管がん(2.26%)、胆嚢がん(1.55%)、肝がん(1.15%)、食道がん(1.00%)、膵がん(0.74%)であった。コメントMSI-H腫瘍に関して、既報と照らし合わせても最も多くの対象で検討した非常に貴重な報告であり、日本人MSI-H腫瘍の状況を反映していると考える。DAY2 Cancers of the Pancreas, Small Bowel, and Hepatobiliary TractOral SessionPROs from IMbrave150試験:Patient-reported Outcomes From the Phase 3 IMbrave150 Trial of Atezolizumab + Bevacizumab Versus Sorafenib as First-line Treatment for Patients With Unresectable Hepatocellular Carcinoma.(abstract #476)Galle PR, et al.切除不能肝細胞がんの1次治療例を対象に、標準治療であるソラフェニブに対するアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)/ベバシズマブ(抗VEGF抗体)併用療法の優越性がESMO-Asia 2019において報告されており、主要評価項目である生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の両エンドポイントにおいてアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法が有意に良好であった(OS-HR:0.58、p=0.0006、PFS-HR:0.59、p<0.0001)。今回、副次評価項目である患者報告(PRO:patient-reported outcomes)によるQOL評価、身体機能評価、症状評価(疲労感、疼痛、食欲低下、下痢、黄疸)の結果が発表された。評価はEORTC QLQ-C30およびQLQ-HCC18により行われ、治療中は3週ごとに、治療中止後は3ヵ月ごとに1年間実施された。92%以上の症例においてアンケートが回収可能であり、QOL、身体機能、症状の悪化までの期間(TTD:time to deterioration)はいずれもアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法においてソラフェニブより良好であった。コメント切除不能肝細胞がんに対する1次化学療法において、新たな標準療法であるアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法のソラフェニブに対する有効性および安全性が報告された。本邦においても早期の臨床導入に期待したい。Poster SessionStudy117:A Phase 1b Study of Lenvatinib Plus Nivolumab in Patients With Unresectable Hepatocellular Carcinoma(abstract #513)Kudo M, et al.切除不能肝臓がんに対する標準治療の一つであるレンバチニブと、ソラフェニブ治療後の治療選択肢であるニボルマブの併用療法の至適投与量を検討した第Ib相試験である。本試験はBCLC(Barcelona Clinic Liver Cancer) Stage B(肝動脈化学塞栓療法が不応)またはStage C、Child-Pugh分類Aの切除不能肝臓がん症例を対象に、レンバチニブ(12mgもしくは8mg/day)+ニボルマブ(240mg、2週ごと)併用療法を投与した。本試験はPart1とPart2で構成され、Part1では用量制限毒性(DLT:dose-limiting toxicities)を評価目的に6例登録し、Part2はexpansion cohortとして全身化学療法歴のない切除不能肝臓がん患者が24例登録された。主要評価項目は忍容性および併用療法の安全性である。患者背景は年齢中央値=70歳、男性=80%、BCLC Stage B/C=57%/43%、Child-Pugh 5/6=77%/23%、B型肝炎/C型肝炎/アルコール性/不明/その他=20%/20%/30%/23%/6.7%、肝外病変あり/なし=43%/57%である。レンバチニブによる毒性中止を2例(6.7%)に認め、ニボルマブによる毒性中止を4例(13.3%)に認めた。頻度の高い有害事象として手足症候群(60%)、発声障害(53%)、食欲低下(47%)、下痢(47%)、蛋白尿(40%)を認めたが、Grade3以上の有害事象は手足症候群(3.3%)、発声障害(3.3%)、食欲低下(3.3%)、下痢(3.3%)、蛋白尿(6.7%)であった。担当医評価による腫瘍縮小割合(ORR)は76.7%であり、Part2登録例における腫瘍縮小が得られるまでの期間は1.87ヵ月であり、無増悪生存期間(PFS)中央値は7.39ヵ月であった。コメント切除不能肝臓がんの治療に関して、マルチキナーゼ阻害薬(レゴラフェニブ、レンバチニブ)と免疫check point阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の併用療法が検討されており、本学会においてもほかにレゴラフェニブ/ペムブロリズマブ併用療法に関する発表があった(#564)。その中でもレンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法に関しては、AACR2019で発表された第Ib相試験であるKEYNOTE-524/Study 116試験(#CT061/18)の中間解析結果に基づき、切除不能肝臓がんの1次治療としてFDAよりBreakthrough Therapy指定を受けており、今後の追加報告が期待される。PACS-1 study:A Multicenter Clinical Randomized Phase II Study of Investigating Duration of Adjuvant Chemotherapy with S-1 (6 versus 12 months) for Patients with Resected Pancreatic Cancer. (abstract #669)Yamashita Y, et al.本邦における膵がん術後補助化学療法としてのS-1至適投与期間を検討した無作為化第II相試験。本試験は膵がん切除後例(T1-4、N0-1、M0)を対象とし、術後補助化学療法としてS-1内服を半年間投与する群と1年間投与する群に1:1の割合で割り付けされた。主要評価項目は2年間の生存割合(2y-OS)である。両群間の患者背景に偏りはなかった。術後S-1半年投与群は64.7%において治療完遂が可能であったが、1年間投与群においては44.0%が完遂可能であった。生存期間(OS)および無病生存期間(DFS)において、統計学的有意差はないものの術後S-1投与期間は半年間群のほうが1年間群より良好な傾向であった。(2年OS:半年間群 vs.1年間=71% vs.65% [HR=1.239、 p=0.3776 ])、( 2年DFS:半年間群 vs.1年間=57% vs.51%[HR=1.182、p=0.3952]) コメント膵がん術後補助化学療法としてのS-1至適投与期間は6ヵ月と考える。DAY3 Cancers of the Colon, Rectum, and AnusOral SessionJCOG1007(iPACS):A randomized phase III trial comparing primary tumor resection plus chemotherapy with chemotherapy alone in incurable stage IV colorectal cancer:JCOG1007 study(abstract #7)Kanemitsu Y, et al.切除不能StageIV大腸がんのうち無症状症例に対して、原発切除を化学療法に先行して行うことの優越性を検証した無作為化第III相試験である。本試験は腫瘍による狭窄などの症状を有さず、待機手術としての原発切除を予定できる治癒切除不能のStageIV大腸がん初回治療例を対象とし、標準治療であるA群:オキサリプラチンベース(FOLFOX/CapeOX)+ベバシズマブ併用療法群とB群:原発切除後にオキサリプラチンベース(FOLFOX/CapeOX)+ベバシズマブ併用療法を受ける群に無作為割り付けされた。主要評価項目は全生存期間である。当初770例を目標に試験が開始されたが、症例登録が伸びなかったために統計設定が見直され280例を登録目標とされたが、160例登録時の初回中間解析の結果、試験群であるB群の生存曲線が対照群であるA群を下回っていたため途中中止となり今回結果が発表された。両群間の患者背景に偏りはなかった。主要評価項目である全生存期間においてA群:B群=26.7ヵ月:25.9ヵ月(HR=1.10、one-sided p=0.69)であり、B群の優越性は認めなかった。副次評価項目であるPFSはA群:B群=12.1ヵ月:10.4ヵ月(HR=1.08)であり、原発切除先行群(B群)において術後死亡例を3例(4%)に認めた。コメント今回の結果より、腫瘍随伴症状を有さないStageIV大腸がんに対して、一律に原発切除を化学療法に先行して行うことは推奨されず、同症例に対しては化学療法の先行を検討すべきと考える。同様の対象に対して、欧州において無作為化比較試験(SYNCHRONOUS試験-ISRCTN30964555、CAIRO4試験)が進行中であり、今後これらの報告にも注意が必要と考える。BEACON CRC QoL:Encorafenib plus cetuximab with or without binimetinib for BRAF V600E-mutant metastatic colorectal cancer:Quality-of-life results from a randomized, three-arm, phase III study versus the choice of either irinotecan or FOLFIRI plus cetuximab(abstract #8)Kopetz S, et al.治療歴を有するBRAF V600E遺伝子変異陽性進行再発大腸がん例に対する治療としてMEK阻害薬であるビニメチニブ、BRAF阻害薬であるエンコラフェニブおよび抗EGFR抗体であるセツキシマブの3剤併用療法と、エンコラフェニブとセツキシマブの2剤併用療法、セツキシマブと化学療法の併用(対照群)を比較する第III相試験であるBEACON CRC試験における患者報告によるQOL評価と最新の生存データが発表された。本試験の結果はすでに2019年9月にNEJM誌において報告されており、全生存期間の中央値は対照群で5.4ヵ月、3剤併用群で9.0ヵ月(HR=0.52、pレポーター紹介インデックスページへ戻る

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