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治療の選択肢の提示【医療訴訟の争点】第1回

症例肝細胞がん患者に対する治療法(肝切除 or シスプラチンの肝動注化学療法[ Transhepatic Arterial Infusion:TAI])の選択について、“どこまで説明をすべきか”という「説明義務違反」が争われた東京地裁平成26年11月27日判決(診療時は平成18年)を紹介する。争点は多岐にわたるが、治療法の選択肢の説明の点に絞ることとする。<登場人物>患者77歳・女性平成7年以降、肥満症、高血圧症で継続的に被告病院を受診し、血液検査を実施していた。原告患者の子被告大学附属病院、担当医(消化器内科医)事案の概要は以下の通りである。平成18年6月被告病院での血液検査で、γ-GTP高値を指摘された。受診時、左季肋部痛と心窩部圧痛の訴えあり。7月被告病院にて腹部エコー検査と腹部造影CT検査を受け、肝左葉S3に径約14×7cmの巨大腫瘍を認め、肝細胞がんの疑いとなった。8月8日被告病院におけるカンファレンスにて、シスプラチンのTAIが最適と判断され、治療法につき患者と家族に説明がなされた。8月9日消化器内科にてシスプラチンのTAI施行。治療時の腫瘍径は17cmであった。8月15日腹部造影CT検査にて、腫瘍径の増大(20×11cm)がみられた。8月18日消化器内科から消化器外科へ院内紹介され、肝切除術を行う方針となった。9月4日肝切除術施行。11月22日腹部造影CT検査にて、残肝に門脈腫瘍栓を伴う多発再発巣がみられた。以降、他院にて放射線療法や肝動脈化学塞栓術(TACE)を受けるも、平成19年4月27日に死亡した。実際の裁判結果裁判所は、治療の選択肢の説明義務違反につき、シスプラチンのTAIは確立した治療法ではなく、臨床的にも本件のような巨大な肝細胞がんに対する奏効率は低いこと、直ちに肝切除を実施する治療方針も十分に採り得たことなどを指摘した。そして裁判所は、医師らは「治療方針を説明した際、直ちに肝切除するという治療方針も採り得ることを説明すべき義務を負っていた…(中略)シスプラチンのTAIを施行するとその作用によって肝切除を行うまでに4~6週間の間隔を空けなければならないことについても説明すべき義務を負っていた」として、この点を説明していなかったことに対して、説明義務違反(慰謝料200万円)を認めた。なお、“直ちに肝切除をしなかったことが注意義務違反に当たるか”については、裁判所は、「腫瘍径の大きさなどからすれば、平成18年7月31日の時点で肝内転移や門脈侵襲を起こしていた可能性が相当高く…(中略)同日の時点で直ちに肝切除を行うという方針を採っても、その後早期に再発することが予想され、肝切除による予後の改善はほとんど期待し難いものと判断される状況にあった」と指摘し、「早期に肝切除をすること自体にどれほどの意義があったかについては疑問を持たざるを得ない」として注意義務違反はないと判断した。注意ポイント解説本件は、肝切除やシスプラチンのTAIといった複数の治療選択肢があった。当時、一般的に肝切除が行われていた一方で、シスプラチンのTAIは有効性を示すエビデンスが乏しく、診療ガイドラインや学会編集の診療マニュアルでも積極的に推奨されているものではなかった。このような中、直ちに肝切除するという治療法の選択肢が説明されておらず、また、シスプラチンのTAIを施行すると肝切除を行うまでに4~6週間の間隔を空ける必要がある、という医師の提示した治療法に付随する制約の説明もされていなかった。このため、これらの説明がなされていた場合には、患者が肝切除を選択することも合理的と考えられたことから、治療法の選択に関する患者の自己決定権を奪ったと判断された。治療法の有効性や安全性は時代と共に評価が変化しうるが、選択可能な治療法が複数存在する場合(とくに、一般的に行われている治療法と異なる治療法を勧める場合や、ガイドラインなどにおける治療法判断のアルゴリズムの当てはめに疑義が生じうる場合)においては、患者が、医師が最適と判断した治療法とは別の治療法を希望する可能性があることから、別の治療法についても患者に提示し、それぞれの治療法のメリットとデメリットなどを説明することが必要である。医療者の視点医師は最新の治療法に関する知識を常時アップデートする必要があります。また、限られた勤務時間の中で十分な説明を行うことは難儀です。しかし、複数の治療選択肢がある以上、医師は各治療法の特徴を熟知した上で、推奨する治療法以外についても患者に説明をしなければならないことを再認識しましょう。昨今では、医療者でなくても各種ガイドラインに容易にアクセス可能となりました。医師が推奨した治療方針とガイドラインとの間で齟齬がある場合、トラブルに繋がる可能性がある点にも留意しましょう。Take home message複数の治療選択肢が存在する症例では、各治療法のメリットやデメリットを患者に提示する必要がある。キーワード説明義務違反とは…患者の自己決定権の尊重の見地から、医師は、患者に対し、“治療方法などについて患者が自己決定するための情報(患者の状態、考え得る治療の選択肢とそのメリット・デメリット等)を説明する義務”を負う。医師がこの説明義務を怠った場合には、患者の自己決定権を侵害したものとして、これにより生じた損害を賠償する責任を負うこととなる。なお、医師の説明義務違反が問われる多くは上記のような“治療法の選択に関する説明”であるが、このほかにも“療養方法の指導としての説明”や“治療等が終了した場合の説明”の適否が争われることもあるので、この点も注意を要する。

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ウイルスと関連するがん【1分間で学べる感染症】第4回

画像を拡大するTake home messageウイルスと関連するがんを理解しよう。HBVとHPVはワクチンにより予防可能である。がんの原因にはさまざまな因子があることが知られていますが、その中でも近年とくに注目を浴びているのが、感染症によるがんです。人間に感染症を引き起こす病原微生物は、一般的には大きく細菌・ウイルス・真菌・寄生虫と分類されますが、その中でもとくにウイルスはがんと関連するものが多く報告されています。具体的には以下の8つです。EBウイルス(EBV)・バーキットリンパ腫 ・ホジキンリンパ腫 ・鼻咽頭がん などB型肝炎ウイルス(HBV)・肝細胞がんC型肝炎ウイルス(HCV)・肝細胞がん ・非ホジキンリンパ腫HIV・カポジ肉腫 ・非ホジキンリンパ腫 ・子宮頸がん ・非AIDS関連がんヒトヘルペス8型ウイルス(HHV-8)・カポジ肉腫 ・原発性胸水性リンパ腫 ・多中心性キャッスルマン病ヒトパピローマウイルス(HPV)・肛門・子宮頸・陰茎・咽頭・膣がんHTLV-1・成人T細胞性白血病/リンパ腫メッケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV)・メッケル細胞がんこれらのうち、HBVとHPVに関してはワクチンが普及しており、予防可能であるといわれています。がん全体の約12~20%がウイルスと関連すると推定されており、実に大きな割合を占めています。このことを念頭に置き、必要な患者へのスクリーニングや早期発見に役立てましょう。1)Jennifer Brubaker. “The 7 Viruses That Cause Human Cancers”. American Society for Microbiology. 2019-01-25., (参照2024-05-01)

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免疫療法+個別化ワクチン、肝細胞がんの新治療法として有望

 標準的な免疫療法にオーダーメイドの抗腫瘍ワクチン(以下、個別化がんワクチン)を追加することで、肝細胞がんが縮小する患者の割合が、免疫療法のみを受けた場合の約2倍になることが、新たな研究で示された。米ジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターの副所長であるElizabeth Jaffee氏らによるこの研究結果は、米国がん学会年次総会(AACR 2024、4月5〜10日、米サンディエゴ)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に4月7日掲載された。研究グループは、肝細胞がんの診断後、5年間生存する患者の割合は10人に1人未満であるため、このワクチンは患者の生存の延長に役立つ可能性があると話している。 Jaffee氏らはこの研究に肝細胞がん患者36人を登録し、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)による通常の免疫療法に加え、個別化がんワクチンを投与して、その効果を調べた。個別化がんワクチンは、まず、生検で得た患者のがん細胞を分析し、コンピューターアルゴリズムにより変異が生じている遺伝子のうち、免疫系が認識できるタンパク質〔がん細胞で起こる遺伝子変異により新たに生じたがん抗原(ネオアンチゲン)〕を産生している遺伝子を特定した。この情報を基に、最大で40個のネオアンチゲンをコードするDNAを含む個別化がんワクチン(GNOS-PV02)を作成した。ワクチンが投与された患者では、免疫系がこれらのネオアンチゲンを認識し、それらを産生するがん細胞を攻撃するのを助ける。 個別化がんワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせは、腫瘍に大きな打撃を与える。抗PD-1抗体は、腫瘍内で疲れ果て、がん細胞を破壊できなくなった免疫細胞のT細胞を再活性化する。このワクチンはまた、特定の変異タンパク質を標的とするT細胞を新たに呼び寄せて、この効果を補強する。 実際、抗PD-1抗体とともにこの個別化ワクチンを投与された患者の3分の1近く(30.6%)でがん細胞の縮小が認められた。この割合は、免疫療法のみを受けた場合の2倍に当たるという。さらに、8.3%の患者では、治療後の検査でがん細胞が見つからない完全奏効を達成した。 Jaffee氏は、「われわれは、開発中の個別化がんワクチンを使った治療で成果が得られて興奮している。この個別化がんワクチンは、治療の難しいがんに対する次世代の治療法として有望だ」と語っている。 一方、ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のMark Yarchoan氏は、「この研究は、個別化がんワクチンが抗PD-1抗体に対する臨床反応を高めることができるというエビデンスを提供するものだ」と話す。同氏は、「この知見を確認するためには、より大規模なランダム化比較試験が必要だ。それでも、今回の結果が非常に胸躍るものであることに変わりはない」と述べている。

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低用量アスピリンは肝脂肪を減らすか?~MASLD対象RCT/JAMA

 脂肪性肝疾患の1つであるMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)は、進行すると肝硬変や肝細胞がん、その他の合併症のリスクが高まるとされている。しかし、本邦においてMASLDに対する治療薬として承認されている薬剤はなく、治療法の開発が望まれている。アスピリンは前臨床研究や観察研究において、MASLDから肝線維化や肝細胞がんへの進展を抑制する可能性が示されており、MASLDの治療薬候補の1つと考えられている。そこで、米国・マサチューセッツ総合病院のTracey G. Simon氏らの研究グループは、海外第II相プラセボ対照無作為化比較試験を実施し、肝硬変を伴わないMASLDに対する低用量アスピリンの治療効果を検討した。その結果、低用量アスピリンは肝脂肪量を減少させることが示された。本研究結果は、JAMA誌2024年3月19日号にPreliminary Communicationとして掲載された。 本研究は、肝硬変のないMASLD患者80例を対象とした。対象患者を低用量アスピリン群(1日1回81mg)とプラセボ群に無作為に1対1の割合で割り付け、6ヵ月投与した。主要評価項目は、投与6ヵ月時点におけるMagnetic Resonance Spectroscopy(MRS)に基づく肝脂肪量の変化であった。主要な副次評価項目は、投与6ヵ月時点におけるMRSに基づく肝脂肪率の変化、MRSに基づく肝脂肪量30%以上減少の達成率、Magnetic Resonance Imaging-Proton Density Fat Fraction(MRI-PDFF)に基づく肝脂肪量の変化および肝脂肪率の変化であった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の投与6ヵ月時点におけるMRSに基づく肝脂肪量の変化は、プラセボ群が3.6%であったのに対し、低用量アスピリン群は-6.6%であり、低用量アスピリン群が有意に減少した(群間差:-10.2%、95%信頼区間[CI]:-27.7~-2.6、p=0.009)。・投与6ヵ月時点における肝脂肪率の変化は、プラセボ群が30.0%ポイントであったのに対し、低用量アスピリン群は-8.8%ポイントであり、低用量アスピリン群が有意に減少した(群間差:-38.8%ポイント、95%CI:-66.7~-10.8、p=0.007)。・MRSに基づく肝脂肪量30%以上減少の達成率は、低用量アスピリン群がプラセボ群と比較して有意に高かった(42.5% vs.12.5%、p=0.006)。・MRI-PDFFに基づく肝脂肪量・肝脂肪率の変化も、低用量アスピリン群がプラセボ群と比較して有意に優れた(それぞれp=0.004、p=0.003)。

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再発高リスク肝細胞がん術後補助療法、アテゾリズマブ+ベバシズマブでRFS改善(IMbrave050)/Lancet

 根治目的の外科的切除または焼灼療法後に再発リスクが依然として高い肝細胞がん患者への術後補助療法として、アテゾリズマブ+ベバシズマブの併用療法はアクティブサーベイランス(経過観察)と比較して無再発生存期間(RFS)を改善したことが、中国・南京中医薬大学のShukui Qin氏ら「IMbrave050試験」研究グループにより報告された。これまで再発リスクの高い肝細胞がん患者への術後補助療法は確立されていなかった。Lancet誌オンライン版2023年10月20日号掲載の報告。経過観察群と比較、被験者の82%がアジア人、B型肝炎が68% IMbrave050試験は第III相国際非盲検無作為化試験で、世界保健機関(WHO)が定める4地域(欧州、アメリカ大陸、東南アジア、西太平洋地域)の26ヵ国における134の病院および医療センターから、外科的切除や焼灼療法を受けた高リスクの肝細胞がん成人患者を集めて行われた。 患者は双方向音声ウェブ応答システム(置換ブロック法、ブロックサイズ4)により、無作為に1対1の割合で、アテゾリズマブ1,200mg+ベバシズマブ15mg/kgを3週ごと17サイクル(12ヵ月間)静脈内投与する群(アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用群)または経過観察を受ける群に割り付けられた。 主要評価項目は、独立レビュー施設の評価によるITT集団のRFSであった。 2019年12月31日~2021年11月25日に無作為化を受けた患者668例がITT集団に包含された(アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用群334例、経過観察群334例)。ベースライン特性の両群間のバランスは概して良好で、ITT集団は主に男性(555/668例[83%])で占められ、年齢中央値は59歳(四分位範囲[IQR]:51~68)、ほとんどがアジア人(545/668例[82%])であり、77%(515/668例)が中国本土、香港、日本、韓国、台湾からの参加であった。 両群とも肝細胞がんの主な原因はB型肝炎(416/668例[68%])で、バルセロナ臨床肝がんStageAが84%(564/668例)を占めた。外科的切除を受けた患者が88%(585/668例)であり、これらの患者における腫瘍サイズ中央値(診断時の最大腫瘍の最長腫瘍径に基づく)は5.5cm(IQR:3.5~8.5)で、90%(526/585例)に孤立性腫瘍が認められ、61%(354/585例)で微小血管浸潤が報告された。焼灼療法を受けた患者の腫瘍サイズ中央値は2.5cm(IQR:2.3~3.0)であった。併用群でRFSが有意に延長 事前規定の中間解析(2022年10月)時点で、追跡期間中央値は17.4ヵ月(IQR:13.9~22.1)であった。 術後補助療法としてのアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用群のRFS(中央値評価不能[NE]、95%信頼区間[CI]:22.1~NE)は、経過観察群のRFS(中央値NE、95%CI:21.4~NE)と比べて有意に延長した(ハザード比[HR]:0.72、補正後95%CI:0.53~0.98、p=0.012)。 Grade3/4の有害事象の発現は、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用群で136/332例(41%)、経過観察群で44/330例(13%)が報告された。Grade5の有害事象の発現は、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用群で6例(2%、治療関連事象は2例)、経過観察群で1例(<1%)であった。 アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用群で、アテゾリズマブとベバシズマブ両方の投与中止に至ったあらゆるGradeの有害事象の発現は29例(9%)であった。 研究グループは、「われわれの知る限りIMbrave050試験は、肝細胞がんへの補助療法として肯定的な結果を報告した初の第III相試験である」と述べたうえで、「しかしながら、ベネフィット・リスクプロファイルを完全に評価するためには、RFSおよび全生存期間(OS)の両方について長期のフォローアップを行う必要がある」としている。

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肝細胞がん1次治療、camrelizumab+rivoceranibがPFS改善/Lancet

 切除不能な肝細胞がんの1次治療において、抗PD-1抗体camrelizumabとVEGFR-2を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)rivoceranibの併用療法は、標準治療であるソラフェニブと比較して、無増悪生存期間(PFS)が有意に長く、全生存期間(OS)も延長しており、安全性は管理可能で新たな安全性シグナルは確認されなかったことが、中国・Nanjing Medical UniversityのShukui Qin氏らが実施した「CARES-310試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月24日号に掲載された。13の国と地域の無作為化試験、8割以上がアジア人 CARES-310試験は、13の国と地域の95施設で実施された非盲検無作為化第III相試験であり、2019年6月28日~2021年3月24日に参加者の無作為化が行われた(中国・Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsと米国・Elevar Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上の肝細胞がん患者で、バルセロナ臨床肝がん(Barcelona Clinic Liver Cancer:BCLC)病期分類のBまたはCであり、手術または局所領域療法後に病勢が進行し、全身療法による治療歴がなく、肝機能の障害度がChild-Pugh分類A、全身状態が良好(ECOG PS 0/1)な患者であった。 被験者を、camrelizumab(200mg、静注、2週ごと)+rivoceranib(250mg、経口、1日1回)、またはソラフェニブ(400mg、経口、1日2回)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、PFS(RECIST 1.1に基づき盲検下に独立審査委員会が評価)とOSの2つであり、後者は中間解析の結果を報告した。 543例を登録し、camrelizumab+rivoceranib併用群に272例(年齢中央値58歳[四分位範囲[IQR]:48~66]、男性83%、アジア人83%)、ソラフェニブ群に271例(56歳[47~64]、85%、83%)を割り付けた。全体の75%がB型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんであり、74%が脈管浸潤または肝外転移、あるいはこれら双方を有していた。客観的奏効率も良好 追跡期間中央値7.8ヵ月(IQR:4.1~10.6)の時点におけるPFS中央値は、ソラフェニブ群が3.7ヵ月(IQR:2.8~3.7)であったのに対し、併用群は5.6ヵ月(5.5~6.3)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.41~0.65、片側検定のp<0.0001)。 また、追跡期間中央値14.5ヵ月(IQR:9.1~18.7)の時点(2022年2月8日のOSに関する中間解析)でのOS中央値は、ソラフェニブ群の15.2ヵ月(IQR:13.0~18.5)に対し、併用群は22.1ヵ月(19.1~27.2)であり、有意に長かった(HR:0.62、95%CI:0.49~0.80、片側検定のp<0.0001)。 客観的奏効率(最良総合効果としての完全奏効または部分奏効の割合)は、併用群が25%(69/272例)、ソラフェニブ群は6%(16/271例)であり、併用群で有意に優れた(群間差:19%、95%CI:14~25、片側検定のp<0.0001)。 最も頻度の高いGrade3/4の治療関連有害事象は、高血圧(併用群38%[102/272例]vs.ソラフェニブ群15%[40/269例])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(12%[33例]vs.15%[41例])、AST値上昇(17%[45例]vs.5%[14例])であった。 重篤な治療関連有害事象は、併用群24%(66例)、ソラフェニブ群6%(16例)で報告された。治療関連死が各群で1例ずつ認められた(併用群:多臓器不全症候群、ソラフェニブ群:呼吸不全と循環虚脱)。 著者は、「camrelizumab+rivoceranib併用療法は良好なベネフィット-リスクプロファイルを示したことから、切除不能肝細胞がんに対する新たな1次治療の選択肢となると考えられる。免疫併用レジメンに経口投与の抗血管新生TKIを組み込むことで、臨床医がより柔軟に治療法を選択できるようになる可能性がある」としている。

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スタチンで肝疾患を予防できる可能性の高い人は

 スタチン服用が肝疾患を予防する可能性が示唆されている。今回、ドイツ・University Hospital RWTH AachenのMara Sophie Vell氏らは、肝疾患・肝細胞がん発症の減少、および肝臓関連死亡の減少と関連するかどうかを3つのコホートで検討した。その結果、スタチン服用者は非服用者に比べ、肝疾患発症リスクが15%低く、肝細胞がん発症リスクについては最大74%低かった。また、このスタチンのベネフィットは、とくに男性、糖尿病患者、肝疾患の遺伝的リスクがある人で得られる可能性が高いことが示唆された。JAMA Network Open誌2023年6月26日号に掲載。 本コホート研究には、UK Biobank(2006~10年のベースラインから2021年5月の追跡終了まで登録、37~73歳)、TriNetX(2011~20年のベースラインから2022年9月の追跡終了まで登録、18~90歳)、およびPenn Medicine Biobank(2013年から2020年12月の追跡終了まで登録、18~102歳)のデータを使用した。年齢、性別、BMI、民族、糖尿病(インスリンもしくはビグアナイドの使用の有無)、高血圧、虚血性心疾患、脂質異常症、アスピリン服用、処方薬剤数により、傾向スコアマッチングを用いて登録者をマッチングした。主要アウトカムは肝疾患および肝細胞がんの発症と肝臓関連死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・マッチングされた178万5,491例を評価した。追跡期間中に肝臓関連死亡581例、肝細胞がん発症472例、肝疾患発症9万8,497例が登録された。平均年齢は55〜61歳で、男性の割合がやや高かった(最大56%)。・肝疾患の診断を受けたことがないUK Biobankの登録患者(20万5,057例)において、スタチン服用者(5万6,109例)は肝疾患発症リスクが15%低かった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.78~0.92、p<0.001)。また、スタチン服用者は肝臓関連死亡リスクが28%低く(HR:0.72、95%CI:0.59~0.88、p=0.001)、肝細胞がん発症リスクが42%低かった(HR:0.58、95%CI:0.35~0.96、p=0.04)。・TriNetX(156万8,794例)では、スタチン服用者の肝細胞がん発症リスクが74%低かった(HR:0.26、95%CI:0.22~0.31、p=0.003)。・スタチンの肝保護作用は時間と用量に依存し、Penn Medicine Biobank(1万1,640例)では、スタチン服用1年後に肝疾患発症リスクが有意に低下した(HR:0.76、95%CI:0.59~0.98、p=0.03)。・男性、糖尿病患者、ベースライン時にFibrosis-4 indexが高かった患者で、とくにスタチンが有用だった。また、PNPLA3 rs738409リスク対立遺伝子のヘテロ接合体保因者においてスタチンが有用で、肝細胞がん発症リスクは69%低かった(UK Biobank、HR:0.31、95%CI:0.11~0.85、p=0.02)。 今回の3つのコホート研究の結果、スタチンと肝疾患予防に有意な関連が示され、とくに男性、糖尿病患者、肝疾患の遺伝的リスクのある人で有用だった。著者らは「特定のリスクカテゴリーに該当する人はスタチンで大きなベネフィットを得る可能性が高いので、スタチンの適応があるかどうかを判断するために十分に評価を受ける必要がある」としている。

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肝細胞がんデュルバルマブ+トレメリムマブの1次治療、免疫介在性有害事象とOS の関係(HIMALAYA)/ASCO2023

 切除不能肝細胞がん(uHCC)に対する1次治療として抗PD-L1抗体デュルバルマブと抗CTLA-4抗体トレメリムマブの併用は、免疫介在性有害事象(imAE)発生の有無にかかわらず、全生存期間(OS)の延長を示していた。第III相のHIMALAYA試験の探索的解析の結果として、香港humanity and health clinical trial centerのGeorge Lau氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)にて発表した。 HIMALAYA試験はuHCCを対象とした国際多施設共同オープンラベル第III相試験である。デュルバルマブとトレメリムマブを併用するSTRIDEレジメンはソラフェニブに比べて有意なOS改善を、デュルバルマブ単剤はソラフェニブに対して非劣性を示していた。・対象:局所療法の適応とならない未治療のuHCC・試験群1:トレメリムマブ300mg 単回+デュルバルマブ1,500mg 4週ごと(STRIDE群、388例)・試験群2:デュルバルマブ1,500mg 4週ごと(Dur群、389例)・対照群:ソラフェニブ400mg×2/日(Sora群、389例)・評価項目:[主要評価項目]OS(STRIDE群対Sora群)[副次評価項目]OS(Dur群対Sora群、非劣性)、無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)、全奏効率(ORR)、安全性など 今回は、HIMALAYA試験の探索的解析から、imAEとOSの関連について、STRIDE群とDur群で検討されている。 主な結果は以下のとおり。・STRIDE群およびDur群のimAEの多くは低Gradeであり、ほとんどが治療開始から3ヵ月以内に発現していた。・STRIDE群でのimAE発現は139例(35.8%)、非発現は249例(64.2%)、Dur群のimAE発現は64例(16.5%)、非発現は324例(83.5%)であった。・STEIDE群のimAE発現グループにおけるOS中央値は23.2ヵ月、非発現グループでは14.1ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.727(95%信頼区間[CI]:0.557~0.948)であった。・STRIDE群におけるimAE発現および非発現グループの6ヵ月OS率は、それぞれ36.2%と27.7%であった。・Dur群でのimAE発現グループにおけるOS中央値は17.8ヵ月、非発現グループでは16.5ヵ月であり、HRは1.136(95%CI:0.820〜1.574)であった。 Lau氏は「imAEの発現はSTRIDEレジメンによるOSの延長を妨げず、また、STRIDEレジメンでは、imAE発現の有無にかかわらず長期生存が観察された」と述べた。

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肝細胞がんへのアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用術後補助療法の患者報告アウトカム(IMbrave050)/ASCO2023

 肝細胞がん(HCC)に対するアテゾリズマブとベバシズマブの併用術後補助療法を評価するIMbrave050試験の探索的研究から、同レジメンは健康関連QOLや機能スコアに悪影響を及ぼさないことが示された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、近畿大学の工藤 正俊氏が発表したもの。 追跡期間17.4ヵ月において、IMbrave050試験の主要評価項目である無再発生存期間(RFS)は、対照群と比較してアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用群で有意に改善しており(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.56~0.93、p=0.012)、また、同併用療法の安全性についても既知の報告との一致していた。今回の発表は、患者報告アウトカム(PRO)に基づく追加解析である。・対象:切除または焼灼療法後の再発高リスクHCC患者(668例)・試験群:術後補助療法としてアテゾリズマブとベバシズマブを3週ごと12ヵ月または17サイクル投与(併用群、334例)・対照群:経過観察(観察群、334例)・評価項目:[主要評価項目]独立評価機関(IRF)評価のRFS[事前に設定された探索的PRO評価項目]全般的健康感(GHS)/QOL、身体・役割・感情・社会機能のベースラインからの変化(評価にはIL42-EORTC QLQ-C30が用いられた) 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、併用群、観察群とも93%超の患者において、IL42-EORTC QLQ-C30の実施が継続されていた。・ベースラインにおけるGHS/QOL、身体機能、役割機能、感情機能、社会機能の平均スコアは両群でほぼ等しく、いずれも一般集団に比べて高いスコアを示していた。・治療期間中17サイクルを通じ、併用群のGHS/QOL、身体機能、役割機能、感情機能、社会機能は維持され、どの時点においても臨床的に意味のある悪化は認められなかった。・ベースライン時から17サイクル目までの変化は両群とも同等であった。 発表者の工藤氏は、「アテゾリズマブとベバシズマブの併用は、再発高リスクHCCの術後補助療法の実臨床を変える治療選択肢となる可能性がある」と述べた。

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切除不能肝細胞がんの1次治療、STRIDEレジメンでOS延長/AZ

 2023年4月4日(木)にアストラゼネカ主催のプレスセミナーが開催され、肝細胞がん治療における免疫チェックポイント阻害薬のさらなる可能性について、千葉大学大学院医学研究院消化器内科学 教授の加藤 直也氏が語った。加藤氏は、「肝細胞がんは肝予備能を維持し、悪化させないことが大切。デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)と2023年3月に薬価基準収載されたトレメリムマブ(製品名:イジュド)を併用するSTRIDEレジメンは肝臓に負担をかけにくく、理にかなっているのではないか」と述べた。外科的な治療が不可能なケースの多い肝細胞がんだが、薬物治療の新たな局面を迎え、長期生存率の向上が期待できそうだ。予後に大きく影響するのは“肝予備能” 肝細胞がんでは簡単に手術のできないケースが多く、手術ができる人はたった2割である。ただし、他がん腫と異なり、切除不能例であってもさまざまな治療選択肢がある。全生存期間延長を目標に据え、最適な治療選択を行うことが肝要である。 ただし、多くの選択肢を残すには肝予備能の維持が重要であり、予後に大きく影響する。加藤氏は、「肝予備能さえ保てれば、次の薬を試すことができる。複数の薬を使えるほうが予後は良くなる」と強調した。炎症なしタイプの肝細胞がんはプライミングの強化が必要 腫瘍細胞はCTLA-4、PD-1などが関与して誘導される免疫寛容により、免疫系からの攻撃を逃れている。免疫チェックポイント阻害薬は、この機能を阻害することで免疫系を活性化し腫瘍細胞を攻撃する薬だが、炎症の少ないがんには効きにくいと言われている。炎症が少なくてもキラーT細胞がある程度存在すればまだ有効であるが、そうでない場合は効果が薄い。炎症なしタイプが3分の2を占める肝細胞がんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を高めるには、プライミングの強化がまず必要である。デュルバルマブ、トレメリムマブは免疫だけで肝がんと戦える デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法であるSTRIDEレジメンは、VEGF/VEGFR阻害なしの初めてのレジメンである。 プライミングフェーズとして、トレメリムマブがCTLA-4を介した免疫抑制経路を阻害し、T細胞の活性化を促す。そして、エフェクターフェーズで、デュルバルマブがPD-L1を介した免疫抑制経路を阻害し、T細胞によるアポトーシスを促す。両剤の併用によって、免疫反応の複数の段階で抗腫瘍活性をもたらすT細胞の活性化と機能増強が行われることで、抗腫瘍免疫を増強する。HIMALAYA試験の概要と結果 では、臨床試験の結果はどうだったのだろうか。本セミナーでは第III相ランダム化比較試験のHIMALAYA試験の結果が紹介された。 本試験ではトレメリムマブの初回1回投与、デュルバルマブ4週間隔で投与するSTRIDE群とソラフェニブ投与群、デュルバブマブ投与群で、 全生存期間(OS)などを比較した。 OS中央値はSTRIDE群で16.43ヵ月[95%信頼区間[CI]:14.16~19.58]、ソラフェニブ群で13.77ヵ月[95%CI:12.25~16.13]であり、STRIDE群でOSの有意な延長がみられた。 STRIDE群の主な有害事象は下痢、そう痒症、発疹など。また、免疫関連有害事象の発現率はSTIRIDE群で35.8%、Grade3以上の有害事象発生率は12.6%であった。 切除不能肝細胞がんでは、OSの延長を目標に、最適な治療選択を行うことが最も重要である。今回、トレメリムマブとデュルバルマブの併用療法が1次治療の選択肢に新たに追加された。加藤氏は、「炎症なしタイプが半数以上を占める肝細胞がんでは、まずプライミング強化が必要となる。この点において、STRIDEレジメンは理にかなったものであり、1次治療の新しい選択肢となる」と語った。

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スタチン・アスピリン・メトホルミンと肝がんリスクとの関連~メタ解析

 スタチン、アスピリン、メトホルミンが肝細胞がんを予防する可能性があることを示唆する報告があるが、これまでのメタ解析は異質性やベースラインリスクを適切に調整されていない試験が含まれていたため、シンガポール・National University of SingaporeのRebecca W. Zeng氏らは新たにメタ解析を実施した。その結果、スタチンおよびアスピリンは肝細胞がんリスク低下と関連していたが、併用薬剤を考慮したサブグループ解析ではスタチンのみが有意であった。メトホルミンは関連が認められなかった。Alimentary Pharmacology and Therapeutics誌オンライン版2023年1月10日号に掲載。 このメタ解析では、スタチン、アスピリン、メトホルミンの肝細胞がんリスクへの影響について、傾向スコアマッチングもしくは逆確率治療重み付けを用いてベースラインリスクのバランスをとって検討した試験を、2022年3月までMedlineおよびEmbaseデータベースを用いて検索した。肝細胞がんの多変量調整ハザード比(HR)は、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・スタチンは、全体として肝細胞がんリスクの低下と関連していた(HR:0.52、95%信頼区間[CI]:0.37~0.72、10試験、177万4,476例)。さらに、肝硬変、B型/C型肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患、アスピリンとメトホルミンの併用および脂溶性スタチンを考慮した試験のサブグループ解析において肝細胞がんリスクの低下と関連していた。・アスピリンは、全体として肝細胞がんリスクの低下と関連していた(HR:0.48、95%CI:0.27~0.87、11試験、219万285例)が、スタチンやメトホルミンとの併用で検討した試験では関連が認められなかった。・メトホルミンは、全体として肝細胞がんリスクの低下と関連していなかった(HR:0.57、95%CI:0.31~1.06、3試験、12万5,458例)。

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デュルバルマブ+化学療法が胆道がんに、トレメリムマブ+デュルバルマブが肝がんに承認/AZ

 アストラゼネカは、2022年12月23日、デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)が「治癒切除不能な胆道癌」および「切除不能な肝細胞癌」を適応症として承認されたと発表。また、新たな抗CTLA-4抗体トレメリムマブ(同:イジュド)はデュルバルマブとの併用療法が、「切除不能な肝細胞癌」を適応症として承認されたと発表した。胆道がん(BTC)におけるデュルバルマブ 今回の承認は第III相TOPAZ-1試験の中間解析に基づいたもの。デュルバルマブと化学療法の併用療法が承認されたことにより、限られた治療法しかなかった治癒切除不能なBTCに免疫治療が可能となる。 TOPAZ-1試験は、切除不能な進行または転移のあるBTCを対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照国際多施設共同試験。BTCの1次療法として、デュルバルマブと化学療法の併用療法と、プラセボと化学療法の併用療法を比較している。肝細胞がん(HCC)におけるデュルバルマブとトレメリムマブ 今回の承認は第III相HIMALAYA試験の結果に基づくもの。デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法が承認されたことにより、切除不能なHCCに対して2剤の免疫治療薬による治療が可能になる。 HIMALAYA試験は、未治療の切除不能進行HCCを対象とし、デュルバルマブ単剤療法群、デュルバルマブにトレメリムマブを初回単回追加投与し、その後デュルバルマブを投与する群と標準治療薬のソラフェニブを比較した第III相無作為化非盲検国際多施設共同試験である。

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B型肝炎(HB)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第15回

今回は、ワクチンで予防できる疾患(VPD:vaccine preventable disease)の1つであるB型肝炎を取り上げる。B型肝炎はがんの原因となりうるウイルス性疾患の1つで、わが国では2006年に定期接種に導入された。ワクチンで予防できる疾患B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に感染し、一過性の感染もしくは持続性の感染を起こす。B型肝炎に感染すると20~30%が急性肝炎を発症し、そのうち1%前後が劇症化して昏睡・死亡に至ることがある。ウイルスを排除できず持続感染に至ると、慢性肝炎を発症し、さらに肝硬変、肝細胞がんを生じることがある。この持続感染の多くは出産時や乳幼児期に成立するため、ワクチンによる出生早期からの予防が望まれる1)。感染は血液や体液を介して成立する。母親がHBV保有者である場合、妊娠中あるいは出産中に、胎児もしくは新生児が母親の血液を介して感染することがある(垂直感染)。また、近年では性感染の割合も増加しており、2006~2015年に報告された急性B型肝炎のうち70%は性的接触による感染であった2)。さらに父子感染、保育園での集団感染といった汗、涙などによる感染が疑われる例も報告されている。そのほか医療従事者や清掃業者などが針刺し事故などの血液曝露で感染することがある1)(水平感染)。急性B型肝炎は感染症法において5類感染症に位置付けられており、診断から7日以内の届け出が義務付けられている1,3)。WHO(世界保健機関)による2019年の報告によると全世界の2億9,600万人がHBV持続感染者(キャリア)で、肝硬変や肝細胞がんにより年間82万人が亡くなっている4)。ワクチンの概要と接種スケジュール(表)表 B型肝炎ワクチンの概要画像を拡大する(おとなとこどものワクチンサイトより引用)開発、普及の歴史B型肝炎ワクチンは、1985年に母子感染予防事業として導入された。この事業では全妊婦で感染を確認し、HBs抗原陽性妊婦から出生した乳児に公費でワクチンおよび免疫グロブリン投与を行った。これにより94~97%と高率に母子感染が予防できるようになった5)。さらにWHOおよびUNICEF(国際連合児童基金)は、1992年にB型肝炎制圧のため、全世界の全新生児を対象にB型肝炎ワクチンの接種を行うように推奨した。これを受けて2016年10月には定期接種(A類疾病)となり、わが国においてもB型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチンとなった1,3)。1)効果B型肝炎ウイルスの感染を予防する。2)対象定期接種(1)1歳に至るまでの年齢にある者(2)長期療養などで定期接種期間中に受けることができなかった者(治療後2年間)3)保険適応(1)HBs抗原陽性(B型肝炎ウイルスキャリア)の母親から出生した児(2)血液曝露後:事故発生からなるべく早く経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)と共に1回目を接種する(保険適応は7日以内)。業務上の曝露でHBs抗原が陽性なら労災保険が適応される。4)任意接種上記以外のすべての場合5)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。6)注意点B型肝炎ワクチンによりアナフィラキシーを起こしたことがある場合は禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント1)どのような人に勧めるか?血液・体液に曝露する可能性のあるすべての人、つまり基本的にはすべての人に推奨される。特に医療・介護従事者、清掃業者、血液透析患者、コンタクトスポーツ(ラグビー、レスリングなど)をする人には必須である。そのほかHIV陽性者などの免疫不全者、HBs抗原陽性者のパートナーにも強く推奨される。また、海外留学の要件になることも多く、留学を考える人にとっても必須ワクチンの1つである。2)3回接種の途中で、異なる種類のワクチンを使っても良いか?問題はない。現在国内には、遺伝子型A由来のワクチン(商品名:ヘプタバックス-II[MSD社])と遺伝子型C由来のワクチン(同:ビームゲン[KMバイオロジクス社])の2種類が流通している。いずれも異なる遺伝子型に対しても有効であり、互換性がある。3)3回目接種が遅れた場合はどうすればよいか?気付いた時点で速やかに3回目を接種する。4)3回接種後の抗体確認は必要か?定期接種では不要である。ただし母子感染予防対象者、医療従事者などのハイリスク者では、3回目接種から1~2ヵ月後の抗体検査が推奨される。HBs抗体値が10mIU/mL未満の場合は1回の追加接種を行い、環境感染学会が推奨する図のアルゴリズムで対応する。被接種者の約10%が、1シリーズ(3回)接種後も抗体反応ができない(non responder)もしくは悪い(low responder)とされている。なお、若いほど抗体獲得率が高い7)ため、なるべく早期の接種が推奨される。図 ワクチン接種歴はあるが抗体の上昇が不明の場合の評価画像を拡大する(環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.より転載)今度の課題、展望従来のワクチンで十分な感染予防効果が期待できないワクチンエスケープ株が報告されており、新しいワクチンの開発が進んでいる。HBVは3種類のエンベロープ蛋白(small-S、middle-S、large-S蛋白)を持つ。従来のワクチンはsmall-S蛋白を抗原としているが、現在開発されているのはmiddle-S蛋白からなる“Pre-S2含有”ワクチンと、large-Sとsmall-S蛋白を併用するワクチンで、より多くのHBV株に対する効果が期待される1,8)。B型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチンである。職種を問わず全世代で推奨されるワクチンの1つであり、2016年4月以前に生まれた人の多くはワクチン接種歴がなく免疫を持たないため、1度は接種を検討すると良いだろう。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)B型肝炎、海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019. 日本渡航医学会; 2019.p.85-86.2)国立感染症研究所. IASR.2016;37:438.3)日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021.(2022年9月アクセス)4)Hepatitis B. WHO.5)白木和夫. IASR. 2000;21:74-75.6)環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.(2022年11月アクセス)7)厚生労働省. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版).(2022年9月アクセス)8)Washizaki A, et al. Nature Communications. 2022;13:5207.講師紹介

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6つの食習慣と肝細胞がんリスクの関連:メンデルランダム化研究

 飲酒経験などの食習慣と肝細胞がん(HCC)リスクとの間に、潜在的な因果関係があることが報告された。Hepatology Communications誌2022年8月号掲載の報告。 食生活はHCCと関連があると報告されているが、因果関係があるかどうかは依然として不明である。中国・香港中文大学のYunyang Deng氏らは、東アジア人の集団においてメンデルランダム化※を用いた、食生活とHCCリスクの潜在的な因果関係の探索を目的とした研究を実施した。※メンデルランダム化(MR)は、因果関係を推論するための研究デザインとして導入された。MR研究の多くは、遺伝的に予測される曝露とアウトカムとの関連を評価するために、曝露と有意に関連する遺伝子変異を操作変数(IV)として使用している。遺伝子変異は親から子へランダムに遺伝するため、潜在的な交絡因子や逆の因果関係による影響を受けにくいとされ、MRに基づく研究デザインは、無作為化比較試験(RCT)では調査できない多くの曝露を調査することが可能である。 本研究はバイオバンク・ジャパンのデータを用いて実施され、2003~18年にかけて20~89歳までの20万人を超える参加者が募集された。そのうち、飲酒経験(16万5,084人)、アルコール摂取(5万8,610人)、コーヒー摂取(15万2,634人)、茶の摂取(15万2,653人)、牛乳の摂取(15万2,965人)およびヨーグルト摂取(15万2,097人)という6つの食習慣に関する要約レベルのゲノムワイド関連解析データが用いられた。また、HCC(1,866症例、対照19万5,745人)のデータも入手した。曝露と関連する一塩基多型(SNP)(p<5×10-8)を操作変数(IV)として選択し、飲酒経験、アルコール摂取、コーヒー摂取について、5つ、2つ、6つのSNPが同定された。茶、牛乳、ヨーグルトの摂取については、1つのSNPが用いられた。オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、逆分散加重(SNPが2つ以上のIVの場合)またはWald比(SNPが1つのIVの場合)により算出された。 主な結果は以下のとおり。・飲酒経験(OR:1.11、95%CI:1.05~1.18、p<0.001)およびアルコール摂取(OR:1.57、95%CI:1.32~1.86、p<0.001)はHCCリスクと正の相関があった。逆に、コーヒー摂取はHCCリスクと逆相関していた(OR:0.69、95%CI:0.53~0.90、p=0.007)。・茶、牛乳、ヨーグルトの摂取についても同様の逆相関が認められ、OR(95%CI)はそれぞれ0.11(0.05~0.26)、0.18(0.09~0.34)、0.18(0.09~0.34)であった(すべてp<0.001)。 6つの食習慣とHCCリスクとの間には、潜在的な因果関係が認められた。著者らは、食習慣がHCCに与える影響に関するエビデンスの提供は、臨床診療に役立つものであると述べている。

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肝細胞がん1次治療にcamrelizumab+rivoceranibが有用/ESMO2022

 抗PD-1抗体薬camrelizumabとVEGFR-2TKIであるrivoceranibの併用は、ソラフェニブに比べて未治療の切除不能な肝細胞がん患者の無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を改善した。無作為化第III相試験の結果として、中国・Nanjing UniversityのShukui Qin氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象: バルセロナ臨床肝がん(BCLC)stage B/Cで、未治療の切除不能または転移のある肝細胞がん患者・試験群:camrelizumab+rivoceranib(272例)・対照群:ソラフェニブ(271例)・評価項目:[主要評価項目]PFS、OS[副次評価項目]奏効率(ORR) 主な結果は以下のとおり。・BCLC stage Cの患者は試験群86.0%、対照群85.2%、両群ともにアジア人が82.7%を占めていた。・中央値7.8ヵ月の観察期間において、PFS中央値は試験群5.6ヵ月、対照群3.7ヵ月であり、試験群で有意な改善を認めた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.41〜0.65、p<0.0001)。・中央値14.5ヵ月の観察期間において、OS中央値は試験群22.1ヵ月、対照群15.2ヵ月であり、試験群で有意なOS改善を示していた(HR:0.62、95%CI:0.49〜0.80、p<0.0001)。・試験群のPFSおよびOSの改善効果はサブグループに一貫して認められていた。・独立評価委員会(BIRC)判定によるORRは、試験群25.4%、対照群5.9%であった(p<0.0001)。・Grade3~4および5の治療関連有害事象は、試験群で80.5%と0.4%、対照群では52.0%と5.9%に発現した。主なものは高血圧、AST上昇、蛋白尿、ALT減少などであった。有害事象による治療中断は試験群で24.3%、対照群で4.5%にみられた。 以上の結果を受け、Qin氏は「camrelizumabとrivoceranibの併用療法は、切除不能な肝細胞がん患者に対する新たな1次治療レジメンとして期待される」と結んだ。

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肝細胞がん1次治療 レンバチニブ+ペムブロリズマブの成績(LEAP-002)/ESMO2022

 切除不能な肝細胞がん(aHCC)に対する1次治療としてのレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法は、レンバチニブ単独に比べ、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)ともに統計学的な有意差は認められなかった。 日本も参加した国際共同の二重盲検第III相LEAP-002試験の解析結果である。米国・カリフォルニア大学のRichard S. Finn氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:前治療歴を持たない切除不能なaHCC症例・試験群:ペムブロリズマブ3週ごと+レンバチニブを連日投与(Pem群:395例)・対照群:プラセボ3週ごと+レンバチニブを連日投与(Len群:399例)ペムブロリズマブとプラセボは最大35サイクルまで・評価項目:[主要評価項目]OS、独立評価委員会判定によるPFS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・最終解析のデータカットオフ(2022年6月)での観察期間中央値は32.1ヵ月であった。・両群の患者背景に偏りはなく、ウィルス性病因が約6割、肝外病変ありが約6割、BCLC病期分類のBが約2割であった。・OS中央値は、Pem群21.2ヵ月、Len群19.0ヵ月、ハザード比(HR)は0.840(95%信頼区間[CI]:0.780~0.997)、p=0.0227であったが、事前に規定されたOSのp=0.0185を超えることはできなかった。24ヵ月OS率はPem群が43.7%、Len群が40.0%だった。・中間解析時のPFS中央値は、Pem群8.2ヵ月、Len群8.0ヵ月、HRは0.867(95%CI:0.734~1.024)、p=0.0466と、こちらも事前規定のp=0.002を超えることはなかった。・最終解析時点のPFSのHRは0.834で、1年PFS率はPem群34.1%、Len群29.3%、2年PFS率は16.7%と9.3%であった。・ORRはPem群26.1%、Len群17.5%、DoR中央値は、Pem群16.6ヵ月、Len群10.4ヵ月であった。・両剤併用による新たな安全性シグナルは報告されなかった。Grade3/4の有害事象はPem群で61.5%、Len群で56.7%に発現した。有害事象により投薬を中止した割合は18.0%と10.6%であった。・ステロイドが投与された免疫原性の有害事象症例は、Pem群で9.6%、Len群で1.8%であった。・試験の後治療として免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けた割合は、Pem群で14.4%、Len群で22.8%であった。

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α1-アンチトリプシン欠乏症〔AATD:α1-antitrypsin deficiency〕

※なお、タイトル「α1-アンチトリプシン欠乏症」の「α1」は「α1」が正しい表記となる。(web上では、一部の異体字などは正確に示すことができないためご理解ください)1 疾患概要■ 定義α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)は、血液中のα1-アンチトリプシン(AAT)の欠乏により肺疾患や肝疾患を生じる常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患である1)。肺では若年性に肺気腫を生じ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症する。気管支拡張症を合併する例もある。肝臓では、新生児期に黄疸や肝機能障害を認める場合があり、成人期には肝硬変・肝不全に移行し、肝細胞がんを発症することがある。欧米では、COPDの1~2%はAATDによるとされる。頻度は少ないが、皮下脂肪織炎や肉芽腫性血管炎を合併することがある。AATDは難病法に基づいて疾病番号231番の指定難病となり、重症度に応じて医療費助成対象疾患となった。■ 疫学ほぼ世界中で報告されているが、ヨーロッパや北米では比較的多い疾患で、約1,600~5,000人出生あたり1人とされている1)。わが国では極めてまれであり、呼吸不全に関する調査研究班と日本呼吸器学会による全国疫学調査では14名(重症9人、軽症5人)の発端者が集積され、有病率は24家系(95%信頼区間:22-27)と推計された2)。■ 病因AATDは、第14染色体長腕(14q32.1)にあるSERPINA1遺伝子の異常により生じる単一遺伝子疾患である。AATは394個のアミノ酸からなる分子量約52kDaの糖タンパク質で、血清蛋白分画のα1-グロブリン分画の約9割を占める(図1)。セリンプロテアーゼインヒビタ-として機能し、生体内で最も重要な標的は好中球エラスターゼである。主に肝臓で産生されて流血中に放出されるが、他に好中球、単球、マクロファージ、肺や腸管の上皮細胞からも産生される。図1 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)患者の血清蛋白電気泳動画像を拡大する健常者(A)と比べ、AATD(B)ではα1-グロブリン分画が欠損している(矢印)。SERPINA1遺伝子は共優性co-dominantに発現して遺伝様式に寄与する。150種類以上の変異型(バリアント)が報告されており、(a)質的・量的に正常なAATを産生する正常型バリアント、(b)流血中にAATがまったく検出されないnull型バリアント、(c)減少するdeficient型バリアント、あるいは (d)機能が変化してしまうdysfunctional型バリアントなどに分類される。正常型バリアント以外の病的バリアントを両方の対立遺伝子として受け継いでいる個体はAATDを発症するが、片方が正常型バリアントである場合には血清AAT濃度の低下は軽度で、通常は肺疾患や肝疾患の発症リスクとはならず保因者と呼ばれる。AATは、遺伝子変異によるアミノ酸置換により蛋白全体の荷電状態が変化し、等電点電気泳動における泳動位置、すなわち、AATの“表現型”が変化する。泳動位置の違いから、陽極pH4に近い位置からアルファベットの若い“B”、陰極pH5に近いものを“Z”と命名される。中央部は90%以上の遺伝子頻度を占める“M”となる。新規に同定されたSERPINA1バリアントの表現型には、表現型アルファベットに下付の小文字で同定された地名が付される。AATDの原因となるバリアントの多くはdeficient型バリアントであり、欧米ではZ型(Glu342Lys)とS型(Glu264Val)が最も多いのに対し、わが国ではSiiyama型(Ser53Phe)が85%と高頻度に検出される。わが国では遺伝学的に明らかにされたZ型の報告はない。deficient型バリアントでは変異AAT分子の折りたたみ構造が変化し、肝細胞の小胞体内で重合体polymerを形成して蓄積し流血中へ分泌できなくなるため、血清中濃度が低下する。さらに、好中球エラスターゼ阻害活性自体も低下している。 dysfunctional型バリアントは血液中のAAT蛋白量は正常であるが好中球エラスターゼ阻害活性が低下したタイプで、F型(Arg223Cys)が知られている。■ 病態生理1)好中球エラスターゼ阻害活性の低下~喪失によりもたらされる影響血清AAT濃度は通常20~50μMであり、気道被覆液中に拡散し好中球エラスターゼに代表されるセリンプロテアーゼによる組織破壊に対し防御的に働いている。しかし、11μM以下(<50mg/dL)になるとプロテアーゼによる組織破壊を十分防げず肺気腫が進行する(プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡)。Z型では、血清AAT濃度は約2~10μMと著明に低下している。喫煙は、AAT正常者でもCOPD発症の最大の危険因子であるが、AATDでは喫煙感受性が非常に高く、より若年で肺気腫が進行しCOPDを発症する。一方、MZなど正常型とdeficient型のヘテロ接合型は、その中間の血清AAT濃度(>11μM)を呈するため、COPDを発症するリスクはないとされてきたが、最近の研究ではCOPD発症リスクがあるとする成果も報告されている。2)小胞体内や細胞外での変異AAT重合体の蓄積変異AATは小胞体内で重合体を形成して貯留し、小胞体ストレスとなり細胞を障害する。これが肝障害の主たる要因である。変異AAT重合体は、流血中、肺の気道被覆液中、肺組織などの組織間液中などの細胞外でも検出される。細胞外の変異AAT重合体は炎症を誘起する作用があり、好中球や単球に対する走化性因子や活性化因子として作用し、肺での炎症のみならず、脂肪織炎や血管炎の発症に関与すると考えられている。■ 臨床症状労作時息切れ、咳や痰などの呼吸器症状はもっともよくみられる初発症状であるが、本症に特異的な症状はない。肺疾患の有病率は主に患者の喫煙歴に依存し、喫煙歴のあるAATD患者では70%以上がスパイロメトリーでCOPDの基準を満たすが、非喫煙者では約20~30%程度である。AATDの肺気腫は汎細葉性肺気腫であり、細葉中心性肺気腫の病理像を示すAAT正常者とは異なる。胸部単純X線所見では、AAT正常者のCOPDと異なり下肺野優位に肺気腫を示唆する透過性亢進を認める(図2)。胸部CTでは汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認め、気管支拡張を伴う例もある(図3)。図2 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部X線所見画像を拡大する肺野全体の透過性亢進、血管影の減少を認めるが、両側下肺野に著しい。図3 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部高分解能CT画像画像を拡大する(A)AAT正常のCOPD症例。細葉中心性肺気腫を示唆する低吸収領域を認める。(B)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認める。(C)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域とともに気管支拡張像を認める。■ 経過と予後非喫煙AATD患者ではCOPDの発症は少なく、喫煙AATD患者より生存期間も長い。例えば、非喫煙AATDでCOPDを発症した症例の死亡年齢の中央値は65歳であるのに対し、喫煙AATDでCOPDを発症した症例は40歳と報告されている。さらに、PI*ZZ(Z型バリアントのホモ接合)のAATDの非喫者で無症状の場合は、ほぼ正常の寿命が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ どのような状況でAATDを疑い、血清AAT濃度を測定するか?AATDを疑って血清AAT濃度(ネフェロメトリー法)を測定する事が何よりも重要である 3,4)。従来から、一般的COPDとはやや異なる臨床像(若年者、非喫煙者、喫煙歴があったとしても軽度、COPDの家族歴など)を示すCOPD患者などでは血清AAT濃度を測定するべき3)とされてきた(表 ATR/ERSステートメント)。しかし、有病率の高いヨーロッパや北米でさえ、今だにAATDのunderdiagnosis状況が持続しており、2016年の成人AATD患者の管理・治療ガイドライン4)やGOLD 2022レポートでは、「すべてのCOPD患者には、年齢、人種を問わず、AATDの診断テストを行うべきである」と述べている(表)。表 どのようなときにAATDを疑い、診断のための検査を考慮するべきか?画像を拡大する■ 診断基準AATDは、血清AAT濃度<90mg/dL(ネフェロメトリー法)と定義され、AAT欠乏の程度は、軽症(血清AAT濃度50~90mg/dL)あるいは重症(<50mg/dL)の2つに分類される5)。AATは急性相反応蛋白質であるため感染症などの炎症性疾患では増加すること、一方、肝硬変、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性胃腸症などの他の原因でも減少しうるので、診断に際してはこれらの病態を除外する必要がある。指定難病では、重症度2以上が医療費助成の対象となる。重症度の評価方法については難病情報センターを参照されたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 予防を含めた全般的考え方肺疾患の予防には、喫煙しない、受動喫煙も含めて有害粒子の吸入曝露を避けること、が大切である。AATD患者では、定期的にスパイロメトリーあるいは胸部CTを行い、肺疾患の発症あるいは進行をモニタリングする。COPDを発症している場合には、COPDの治療と管理のガイドラインに準じて治療を行う。呼吸不全に至った症例では肺移植の適応となる。肝疾患発症の危険因子についてはよくわかっていないが、肥満は肝疾患のリスクを高め、男性は女性よりリスクが高い。AATD患者では肝炎ウイルス(HAV、HBV)のワクチン接種、アルコールを摂取しすぎない、健康的な食事を心がけることが推奨されている。AATD患者では、年1回程度の採血による肝機能のモニタリング、腹部超音波検査による肝がんのスクリーニングを適宜行う。■ AAT補充療法(augmentation therapy)病因・病態に則した治療としてAAT補充療法がある。ヒトのプール血漿から精製されたAAT製剤を週1回点滴静注(60mg/kg)する治療であり、CT画像における気腫病変の進行を遅らせる効果、死亡率を低下させる効果が報告されている。わが国では4名の重症AAT患者が参加した治験が実施され6)。欧米人で示されている安全性と薬物動態、すなわち、AAT(60mg/kg)を週1回点滴静注することにより、肺胞破壊に対し防御的な血清AAT濃度>11μM(>50mg/dL)を維持できることが示された。その結果、ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター(商品名:リンスパッド)点滴静注用1,000mg(凍結乾燥製剤)(海外商品名:Prolastin-C)として2021年7月に上市された。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビターは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気流閉塞を伴う肺気腫などの肺疾患を呈し、かつ、重症AATDと診断された患者[血清AAT濃度<50mg/dL(ネフェロメトリー法で測定)]に投与する。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター1,000mgを添付溶解液20mLで溶解し、ヒトAATとして60mg/kgを週1回、患者の様子を観察しながら約0.08mL/kg/分を超えない速度で点滴静注する。最後に、ルート内のAATすべてが患者に投与されるよう生理食塩液25mLに換えて同じ速度で点滴して終了する。体重60kgの成人では、全体で約20分以上を要する。AAT補充療法を開始するタイミングについて明確な基準はない。週1回の点滴静注を非常に長期にわたって継続する必要があるが、数十年以上にわたって投与し続けると想定した場合、長期投与における有害事象のリスクに関する情報は乏しい。成人AATDの治療と管理のガイドラインでは、FEV1<65%predの症例では、患者の意向を確認した上でAAT補充療法を検討するとされている3,4)。肝障害に対する特異的治療はなく、栄養指導、門脈圧亢進症の管理などの支持療法が主体である。門脈圧亢進症がある場合には、出血のリスクがあるためNSAIDsの投与は避ける。重症の肝不全では肝移植が適応となる。4 今後の展望患者細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞に分化させた後にゲノム編集で病的バリアントを正常バリアントに換えて患者に移植する研究、siRNAによる肝細胞でのSERPINA1発現のサイレンシング、異常AATのポリマー形成を阻害する薬剤などの試みがある。近年、AATDの正確な実態把握と治療効果の追跡を継続的に行い、長期的な管理戦略を構築することを目的に、欧州では多国間にわたる臨床研究協力の取り組みが始まっている。わが国においては、呼吸器財団、日本呼吸器学会、厚生労働省難治性疾患政策研究事業、難病プラットホームの4者の支援を受け、本症を含めた希少肺疾患を対象としたレジストリ(登録制度)が開設されている。希少肺疾患登録制度5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。肝疾患については消化器内科、脂肪織炎や肉芽腫性血管炎では皮膚科および関連する診療科と連携する必要がある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター α1-アンチトリプシン欠乏症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alpha-1 Foundation 米国の患者団体ホームぺージ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)希少肺疾患登録制度(医療従事者向けのレジストリ情報サイト)1)Greene CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16051. 2)Seyama K, et al. Respir Investig. 2016;54:201-206. 3)American Thoracic Society;European Respiratory Society. Am J Respir Crit Care Med. 2003;168:818-900. 4)Sandhaus RA, et al. Chronic Obstr Pulm Dis. 2016;3:668-682.5)佐藤晋ほか、難治性呼吸器疾患・肺高血圧に関する調査研究班.α1-アンチトリプシン欠乏症診療の手引き2021 第2版. 2021.6)Seyama K, et al. Respir Investig. 2019;57:89-96. 公開履歴初回2022年5月12日

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HIMALAYA試験でデュルバルマブ+tremelimumabの肝がん1次治療が有望な成績/AZ

 アストラゼネカは、2022年1月26日、第III相HIMALAYA試験の結果から、切除不能な肝細胞がん(HCC)のうち、全身療法による前治療歴がなく、局所療法の適応とならない患者の1次治療として、デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)に免疫反応を誘導(プライミング)するtremelimumab単回投与を追加した併用療法が、ソラフェニブと比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある全生存期間(OS)の延長を示したことを発表した。HIMALAYA試験においてSTRIDEレジメンが死亡リスクを22%低下 このイミフィンジと抗CTLA4抗体であるtremelimumabの新たな用量および投与スケジュールは、STRIDEレジメン(Single Tremelimumab Regular Interval Durvalumab)と呼ばれる。HIMALAYA試験の結果は、2022年1月21日のASCO-GIで発表された。 肝がんは、世界中で6番目に多く診断されているがんであり、米国、欧州、日本では毎年約80,000人、中国では26万人が進行性の切除不能なHCCに罹患している。 HIMALAYA試験において、STRIDEレジメンはソラフェニブと比較して、死亡リスクを22%低下させた(ハザード比[HR]:0.78、96.02%信頼区間[CI]:0.65〜0.93、p=0.0035)。OS中央値はSTRIDEレジメン群16.4ヵ月に対し、ソラフェニブ群13.8ヵ月、客観的奏効率(ORR)はSTRIDEレジメン20.1%に対しソラフェニブ群5.1%、奏効期間中央値はSTRIDEレジメン群 22.3ヵ月に対し、ソラフェニブ群18.4ヵ月であった。 デュルバルマブにtremelimumabを追加しても重度の肝毒性発現は増加せず、出血リスクも認められなかった。HIMALAYA試験ではイミフィンジ単剤療法も検証され、OS中央値は16.6ヵ月対13.8ヵ月で、ソラフェニブ群に対するOSの非劣性(HR:0.86、95.67%CI:0.73~1.03)、およびソラフェニブ群に対する忍容性プロファイルの改善が示された。

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デュルバルマブ+tremelimumab、肝がん1次治療として全生存期間を有意に延長(HIMALAYA)/AZ

 アストラゼネカは、2021年10月15日、第III相HIMALAYA試験の結果を発表。局所療法が適さない切除不能な肝細胞がん患者の1次治療として、デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)に、免疫反応を誘導(プライミング)する高用量のtremelimumab単回投与を追加した併用療法が、ソラフェニブと比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある全生存期間の延長を示したことを明らかにした。 このtremelimumabおよびデュルバルマブの新たな用量と投与スケジュールは、STRIDEレジメン(Single Tremelimumab Regular Interval Durvalumab)と呼ばれる。 イミフィンジ単剤療法は、OSにおいてソラフェニブに対する非劣性を示し、数値上は良好な傾向にあった。さらにソラフェニブと比較して忍容性プロファイルの改善が認められた。 第III相HIMALAYA試験のデータは、今後の医学学会で発表予定。

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