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原発性胆汁性胆管炎にオベチコール酸が有効/NEJM

 ファルネソイドX受容体作動薬のオベチコール酸(obeticholic acid)は、原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC、原発性胆汁性肝硬変[primary biliary cirrhosis]から病名変更)に対し12ヵ月間の単独療法またはウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソほか)との併用療法により、プラセボに比べアルカリホスタファーゼ(ALP)値と総ビリルビン値を有意に低下させることが認められた。ただし、重篤な有害事象はオベチコール酸投与群において高頻度であった。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学病院のF. Nevens氏らが、オベチコール酸の第III相臨床試験であるPOISE(PBC OCA International Study of Efficacy)試験の結果、報告した。PBCではALP値やビリルビン値が、肝移植や死亡のリスクと相関することが知られている。これまではウルソデオキシコール酸(UDCA)で治療を行っても、肝硬変や死亡へ進行する可能性があった。NEJM誌2016年8月18日号掲載の報告。UDCA既治療PBC患者でオベチコール酸投与とプラセボ投与を比較 POISE試験は、PBCに対するオベチコール酸5mgまたは10mgの有効性および安全性を検討する無作為化二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験で、13ヵ国59施設において実施された。 対象は、UDCAの効果不十分または副作用が許容できない18歳以上のPBC患者217例で、オベチコール酸10mg群、5~10mg群またはプラセボ群に、1対1対1の割合で割り付けられた。5~10mg群では、オベチコール酸5mgを6ヵ月間投与した後、効果が認められた場合に10mgへ増量した。 主要エンドポイントは、12ヵ月時にALP値がベースラインから15%以上低下し、かつ正常範囲上限の1.67倍未満、および総ビリルビン値が正常であることとした。主要エンドポイント達成率、オベチコール酸群46~47%、プラセボ群10% 解析対象(試験薬を1回以上投与された患者)は216例(女性91%、平均年齢56歳)で、このうち93%がベースライン時および試験期間中にUDCAの投与を受けていた。 主要エンドポイントの達成率は、5~10mg群46%、10mg群47%で、プラセボ群の10%より有意に高いことが認められた(両群ともp<0.001)。12ヵ月時におけるALP値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、5~10mg群-113U/L、10mg群-130U/L、プラセボ群-14U/Lで、ALP値の低下は両オベチコール酸群がプラセボ群より有意に大きかった(両群ともp<0.001)。 総ビリルビン値の低下も同様の結果であった(5~10mg群-0.02mg/dL、10mg群-0.05mg/dL vs.プラセボ群0.12mg/dL:両群ともp<0.001) ALP値がベースラインから15%以上低下した患者の割合は、オベチコール酸群がプラセボ群より有意に高値であった(5~10mg投与群77%、10mg投与群77% vs.プラセボ群29%:両群ともp<0.001)。 肝線維化の変化(非侵襲的評価)は、12ヵ月時で両オベチコール酸群ともプラセボ群と有意差はなかった。そう痒症は、オベチコール酸群で最も発現率が高い有害事象であった(5~10mg群56%、10mg群68% vs.プラセボ群38%)。重篤な有害事象の発現率は、5~10mg群16%、10mg群11%、プラセボ群4%であった。

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第3回 ビグアナイド薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第3回】ビグアナイド薬による治療のキホン-ビグアナイド薬による治療のポイントを教えてください。 ビグアナイド(BG)薬は、主に肝での糖新生を抑制し血糖を低下させる、インスリン抵抗性改善系の薬剤です。そのほかに、消化管からの糖の吸収を抑制したり、末梢組織でのインスリン感受性を改善させるといった作用があります。非常に古くから使われている薬剤で、以前は、日本では1日最大用量750mgのメトホルミンしか使用できませんでしたが、海外での使用実績を踏まえ、それまでのメトホルミンの用法・用量を大きく見直し、高用量処方を可能としたメトホルミン(商品名:メトグルコ)が2010年から使用できるようになりました。 上記の作用でインスリン抵抗性を改善し、体重増加を来さないというメリットがあるので、とくに肥満の糖尿病患者さんや食事療法が守れない患者さんに適しています。 腎機能低下例、高齢者、乳酸アシドーシス、造影剤投与に関しては注意が必要ですが、単独で低血糖を起こしにくい薬剤ですので、注意が必要な点を守りながら投与すれば使いやすい薬剤です。-初期投与量と投与回数を教えてください。 通常、1日500mg(1日2~3回に分割)から開始します(各製品添付文書より)。食後投与のものと食前・食後いずれも投与可能な薬剤がありますが、最も異なる点は1日最大用量で、750mg/日(商品名:グリコラン、メデット)と2,250mg/日(同:メトグルコ)があります。メトグルコは通常、750~1,500mg/日が維持用量です。 メトホルミンの主な副作用として消化器症状がありますが、程度には個人差があるように感じています。消化器症状は用量依存性に増加するので、投与初期と増量時に注意し、消化器症状の発現をできるだけ少なくするために、増量する際は1ヵ月以上空けるとよいでしょう。-どの程度の腎障害および肝障害の時、投与を控えたほうがよいでしょうか。 メトグルコを除くBG薬は、腎機能障害患者さん(透析患者含む)には禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、腎機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に腎機能を確認して慎重に投与することとされており、中等度以上の腎機能障害および透析中の患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、血清クレアチニン値が「男性:1.3mg/dL、女性:1.2mg/dL以上」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。 ただし、高齢患者さんの場合、血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあるので(潜在的な腎機能低下)、eGFR(推定糸球体濾過量)も考慮して腎機能を評価したほうがよいでしょう。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスとの関連から、腎機能の評価としてeGFRを用い、「eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合にはメトホルミンは禁忌、eGFRが30~45mL/分/1.73m2の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする」としています2)。 メトグルコを除くBG薬は、肝機能障害患者さんには禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、肝機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に肝機能を確認して慎重に投与することとされており、重度の肝機能障害患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、「ASTまたはALTが基準値上限の2.5倍以上の患者さんおよび肝硬変患者さん」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。-造影剤と併用する時のリスクはどのくらい高いですか? 尿路造影検査やCT検査、血管造影検査で用いられるヨード造影剤との併用によるリスクの程度に関する報告はありませんが、ヨード造影剤は、腎機能を低下させる可能性があるため、乳酸アシドーシスを避けるために、使用する場合は「検査の2日前から検査の2日後の計5日間(緊急の場合を除く)」は服用を中止します3)。また、検査の2日後以降に投与を再開する際には、患者さんの状態に十分注意をする必要があります。-乳酸アシドーシスの頻度と、予防・管理の方法を教えてください。 BG薬による乳酸アシドーシス発現例が多く報告された1970年代を中心とする調査では、フェンホルミン(販売中止)で10万人・年当たり20~60例、メトホルミンでの頻度は10万人・年当たり1~7例程度と報告されています4)。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴として、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4.高齢者 を挙げています2)。 腎機能や心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者といった点は、医療従事者側が留意すべきことですが、脱水やシックデイ、過度のアルコール摂取といった点については、これらが乳酸アシドーシスのリスクになるということを患者さんにお伝えしたうえで指導する必要があります。 とくに、脱水には注意が必要です。夏場、室内でも脱水を起こす可能性があること、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などを来すシックデイのときには脱水を起こす可能性があるため、服薬を中止し、かかりつけ医に相談するなど、患者さんに指導する必要があります。炎天下で農作業を行う方も注意が必要です。とりわけ高齢者は脱水に気付きにくいという特徴があります。また、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)を服用している場合にも注意が必要です。-高齢者に投与する際の用量について知りたいです。そのまま使い続けてよいのでしょうか。 メトホルミンは、高齢者では、腎・肝機能が低下していることが多く、脱水も起こしやすいため、乳酸アシドーシスとの関連から慎重投与するとされています。高齢者については、青壮年に発症し、すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合と、高齢になってから発症した場合に分けて考えます。すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合は、とくに問題がなければ、メトホルミンによって得られる効果を考慮して継続しますが、定期的に腎・肝機能については観察すること、また、用量についても、高用量は使用せず、私は500~750mg/日で維持するようにしています。 高齢になって発症した場合、とくに75歳以上では、慎重な判断が必要とされていますが2)、基本的には推奨されません。1)メトグルコ製品添付文書(2016年3月改訂)2)日本糖尿病学会. メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年5月12日改訂)3)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド20156-2017. 文光堂;2016.4)Berger W. Horm Metab Res Suppl. 1985;15:111-115.

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ウイルス性肝炎の世界疾病負担、約20年間で上昇/Lancet

 ウイルス性肝炎は、世界的に死亡と障害の主な原因となっており、結核、AIDS、マラリア等の感染症と異なり、ウイルス性肝炎による絶対的負担と相対的順位は、1990年に比べ2013年は上昇していた。米国・ワシントン大学のJefferey D Stanaway氏らが、世界疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)研究のデータを用い、1990~2013年のウイルス性肝炎の疾病負担を推定した結果、報告した。検討は、ウイルス性肝炎に対するワクチンや治療が進歩してきていることを背景に、介入戦略を世界的に周知するためには、疾病負担に対する理解の改善が必要として行われた。結果を踏まえて著者は、「ウイルス性肝炎による健康損失は大きく、有効なワクチンや治療の入手が、公衆衛生を改善する重要な機会となることを示唆している」と述べている。Lancet誌オンライン版2016年7月6日号掲載の報告。急性ウイルス性肝炎、肝硬変と肝がんの罹患率と死亡率を評価 研究グループは、GBDのデータを用い1990~2013年における、重要な4つの肝炎ウイルス(HAV、HBV、HCV、HEV)による急性ウイルス性肝炎の罹患率と死亡率、ならびにHBVとHCVによるウイルス性肝炎に起因した肝硬変および肝がんの罹患率と死亡率を、年齢・性別・国別に算出した。 方法としては、急性肝炎については自然経過モデルを、肝硬変・肝がんについてはGBD 2013の死因集合モデルを用いて死亡率を推定するとともに、メタ回帰モデルを用いて全肝硬変有病率および全肝がん有病率、ならびに各原因別の肝硬変および肝がんの割合を推定した。その後、原因別有病率(全有病率と特定の原因別の割合の積)を算出した。障害調整生存年(DALY)は、損失生存年数(YLL)と障害生存年数(YLD)の合計とした。ウイルス性肝炎に起因する死亡数は世界で63%増加 世界のウイルス性肝炎による死亡数は、1990年の89万人(95%不確定性区間[UI]: 86~94万)から2013年は145万人(134~154万)に増加した。同様にYLLは、3,100万年(2,960~3,260万)から4,160万年(3,910~4,470万)へ、YLDは65万年(45~89万)から87万年(61~118万)へ、DALYは3,170万年(3,020~3,330万)から4,250万年(3,990万~4,560万)に上昇した。 ウイルス性肝炎は、1990年では主要死因の第10位(95%UI:10~12位)であったのに対して、2013年では第7位(95%UI:7~8位)であった。 2013年にウイルス性肝炎に起因する死亡が最も多かったのは、アジア東部および南部で、ウイルス性肝炎関連死亡の96%(95%UI:94~97)をHBVとHCVが占めていた。この2つのウイルスの割合はほぼ同等で(HBV 47%[95%UI:45~49] vs.HCV 48%[46~50])であった。 ウイルス性肝炎による死亡数は、結核、AIDS、マラリアの年間死亡数と同等以上であった。

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予後が改善されつつある難病LAL-D

 アレクシオンファーマ合同会社は、6月23日都内において、5月25日に発売されたライソゾーム酸性リパーゼ欠損症治療薬「カヌマ点滴静注液20mg」[一般名:セベリパーゼ アルファ(遺伝子組み換え)]に関するプレスセミナーを開催した。「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症」(以下「LAL-D」と略す)は、遺伝子変異が原因でライソゾーム酸性リパーゼという酵素活性が低下または欠損することで発症するまれな代謝性疾患であり、患者の多くが肝硬変から肝不全、死亡へと至る予後不良の希少疾患である。セミナーでは、本症の最新知見について2人の研究者が講演を行った。「ちょっと気になる脂肪肝」への意識が大事 はじめに、「LAL-Dの疾患概要と自験例紹介」というテーマで、村上 潤氏(鳥取大学医学部附属病院 小児科 講師)が、診断の視点から自験例を交え、レクチャーを行った。 通常「脂肪肝」は、栄養性、薬剤性、先天代謝異常症などが原因で起こり、腹部エコーやCT、MRI、肝生検などで詳しく診断が行われる。しかし、小児の脂肪肝では、一定頻度で先天性代謝異常が存在し、注意が必要であるという。たとえば、小児で肥満がなく、肝腫大の程度が強く、体重増加不良、低血糖、発達遅滞などの症状や、乳酸、アンモニア高値などを伴う脂肪肝を見かけたら、先天代謝異常症を疑う必要がある。 この先天代謝異常症の一つにLAL-Dがあり、LAL-DにはLAL活性が完全欠損している乳児型のWolman病(WD)と、部分欠損している遅発型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)の2つの表現型がある。 WDでは、顕著な肝・脾腫大や肝不全を観察し、持続性の嘔吐・下痢、腹部膨満、腸管の吸収不良、胆汁うっ滞などの症状があり、急速進行性で致死的である。一方、CESDでは、同じく肝・脾腫大が観察され、一般に肥満はないとされる。臨床所見では、ALT>正常上限の1.5倍以上、LDL-C≧182mg/dL、HDL-C<50mg/dLなどが見られ、肝生検では、小滴性脂肪沈着も観察される。患者の89%が12歳未満で発症、50%が21歳未満で死亡している。 LAL-Dの正確な罹患率は、疫学調査が行われていないため不明であるが、2013年までに全国でWDが12例、CESDが13例報告されている。 自験例として、11歳・男児について、小学校の健診で高脂血症を指摘されたことで精査へとつながり、LAL-Dと診断された例を紹介した。一見、一般的な脂肪肝と見なしがちで、臨床検査や画像診断ではなかなか見分けがつきにくいところが、本症の診断の難しい点であるという。 本症のスクリーニングについては、肝臓関連所見では持続性肝腫大、原因不明のトランスアミナーゼ値上昇、顕著な小滴性脂肪沈着、潜在性肝硬変、インスリン耐性がないメタボリックシンドロームと思われる患者が挙げられ、脂質関連所見では、高LDL-C値および/または低HDL-C値、家族歴不明の家族性高コレステロール血症(FH)疑い、LDLR、APO BおよびPCSK9をコードする遺伝子の検査結果陰性のFH疑いが挙げられる。 確定診断は、非侵襲的で簡便な方法である血中酵素活性測定によって診断される。 補充療法が予後を改善 続いて、「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の臨床像と治療」と題して、天野 克之氏(東京慈恵会医科大学附属病院 消化器肝臓内科 診療医長)が、治療の視点から本症と新治療薬について解説を行った。 従来、LAL-Dは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などと同じ治療法で、支持療法が行われてきた。また、臓器移植を行ってもその治療効果は弱いものであったという。 今回、本症の治療薬として発売されたセベリパーゼ アルファ(商品名:カヌマ)は、遺伝子組換えヒトライソゾーム酸性リパーゼ製剤であり、細胞内に取り込まれた後、ライソゾームに運ばれ、コレステロールエステル(CE)およびトリグリセリド(TG)を加水分解する作用を持つ。これにより脂肪量の減少、LDL-CやTGの低下、HDL-Cの上昇、脂質減少による成長障害の改善が期待されている。 臨床試験は、2歳未満の小児(n=9)と4歳以上の小児/成人(n=66)に分かれて実施され、報告された。 2歳未満の小児では、カヌマを週1回、最大5mg/kgまでを最長208週間投与した結果、生後12ヵ月で9例中6例が生存していたほか、ALT/ASTの顕著な減少、体重増加、リンパ節腫脹、血清アルブミン値の改善が認められた(II/III相試験)。 4歳以上の小児/成人では、30例をプラセボに、36例をカヌマ(1mg/kg、2週に1回投与)に割り付けて、20週の効果を比較した。その結果、ALTの正常化が認められた患者がプラセボ7%に対し、カヌマでは31%、同様にASTでプラセボ3%に対し、カヌマでは42%だった。また、肝脂肪量の減少(ベースラインからの平均変化率)では、プラセボ-4%に対し、カヌマでは-32%だったほか、LDL-C低下、脂質プロファイルの改善なども見られた(III相試験/20週後はオープンラベルで実施)。ALTのベースラインからの平均変化率推移では、投与後4週までに急激に下がり、肝機能が改善されることで以後はフラットに維持される。報告された有害事象は、尿路感染症、アナフィラキシー反応、不安症などで、いずれも重篤なものではないが、投与1年後までみられる場合があるという。 自験例として21歳・女性の例を紹介し、13歳でLAL-Dと診断されて以降、高脂血症などの対症療法が行われてきたが、カヌマによる治療で速やかに肝機能、脂質異常が改善し、対症療法の常用薬の中止も検討されていることを報告し、レクチャーを終えた。関連コンテンツ待望の治療薬登場、希少疾患に福音新薬情報:カヌマ点滴静注液20mg

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合成性ホルモン・ダナゾールでテロメア伸長を確認/NEJM

 テロメア疾患患者に対し、合成性ホルモンのダナゾールの経口投与による治療によって、テロメア伸長がもたらされたことが示された。米国立心肺血液研究所(NHLBI)のDanielle M. Townsley氏らが同疾患患者を集めて行った第I-II相前向き試験の結果で、NEJM誌2016年5月19日号にて発表された。テロメア維持・修復の遺伝子異常は、骨髄不全、肝硬変、肺線維症を引き起こすこと、またがんに対する感受性を高めることが知られている。歴史的に、骨髄不全症候群の治療としてアンドロゲンが有用とされてきたが、組織培養と動物モデルにおける検討で、性ホルモンがテロメラーゼ遺伝子発現を調節することが確認されていた。テロメア疾患患者27例に1日800mg、24ヵ月間経口投与 検討は、テロメア疾患患者に、合成性ホルモンダナゾールを1日800mg、24ヵ月間経口投与して行われた。 治療目標は、テロメア短縮の抑制で、主要有効性エンドポイントは、24ヵ月時点の評価において、テロメア短縮が年換算で20%減少することとした。主要安全性エンドポイントは、治療毒性であった。また、治療の血液学的効果を複数のポイントで調べ、副次的有効性エンドポイントとして評価した。 登録された被験者は、27例(年齢中央値41歳、女性15例)であった。テロメア伸長は6ヵ月、12ヵ月時点でも76~89%で確認 本試験は、被験者27例のうち、主要エンドポイントを評価できた12例全例において、テロメア短縮の抑制が認めら、早期に中止となった。intention-to-treat解析における主要有効性エンドポイント達成率は、12/27例(44%、95%信頼区間[CI]:26~64)であった。 また、意外なことに、ほぼ全患者(11/12例、92%)が、ベースラインと比較して24ヵ月時点でテロメアの伸長が認められた(平均伸長:386bp、95%CI:178~593)。 探索的解析の結果、同様の伸長は、6ヵ月時点でも76%(16/21例、平均伸長:175bp、95%CI:79~271)、12ヵ月時点でも89%(16/18例、同:360bp、209~512)で認められた。 血液学的効果は、3ヵ月時点での評価(19/24例の79%対象)、24ヵ月時点での評価(10/12例の83%対象)において認められた。 ダナゾールの既知の有害作用の発現として、肝酵素上昇が41%、筋痙攣が33%(いずれもGrade2未満)報告された。

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<新規C肝治療薬>治験と実臨床のギャップはなぜ起こる?

 4月11日、都内にて「臨床試験結果と実臨床のギャップはなぜ生まれるのか」をテーマに、メディアラウンドテーブルが実施された(主催:アッヴィ合同会社)。演者は高口 浩一氏(香川県立中央病院 院長補佐 診療科長)。本ラウンドテーブルでは、C型肝炎の新規経口治療薬の話題を交えて、臨床試験データの持つ意味があらためて解説された。進化するC型肝炎治療、その臨床試験は C型肝炎ウイルスは1989年に米国で発見され、1992年からインターフェロンを用いた治療が開始、その後ペグインターフェロン療法が主体の時期が長く続いた。しかし、2014年のインターフェロンを使用しない経口薬のみのダクラタスビル/アスナプレビル併用療法の登場を境に、C型肝炎は経口薬で治療するという新しい時代に突入した。また、2015年にはオムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル配合錠(商品名:ヴィキラックス配合錠)をはじめとした、インターフェロンが効きにくかったジェノタイプ1のC型肝炎患者のウイルス学的著効率(SVR12)が90%を超える薬剤が登場している。 しかし、実臨床では必ずしも臨床試験通りとはいかない。例えば、レジパスビル/ソホスブビル配合錠は臨床試験において日本人におけるSVR12が100%と報告されているが1)、高口氏の施設では投与した97例のSVR12は93.9%と、試験時と比較して低かった。この臨床試験と実臨床の差をどう捉えるべきだろうか? 高口氏は臨床試験の限界として、「5つのToo」を挙げた。臨床試験と実臨床の差、ポイントは「5つのtoo」 臨床試験の持つ問題点として、以下の5つが挙げられる2)。1.Too few:通常1,000例程度と、十分な症例数で検証されているわけではない2.Too simple:症例の年齢や併用薬、合併症などに制限がある3.Too brief:試験薬の投与期間が短い4.Too median-age:症例の年齢幅が狭く、小児や高齢者などへの適用例は少ない5.Too narrow:腎・肝機能障害のある患者や妊婦は対象から除かれている レジパスビル/ソホスブビル配合錠の場合も、実際に使用する患者は臨床試験時よりも高齢者が多いため、加齢に伴う生理機能の低下や併存疾患の存在が影響している可能性がある。また、病状の進行や服薬アドヒアランスが、効果や安全性に影響を与える点も注意が必要だ。新薬をより安全に使用するために、臨床試験データを活用 しかし、臨床試験データを用いることで、試験時より良い治療効果が出る場合もある。高口氏の施設では、ソホスブビル+リバビリンの治療を行った91例におけるSVR12は100%であり、これは臨床試験時の96.4%3)よりも良い結果であった。この点について、高口氏は「臨床試験での結果を基に、副作用対策を行ったためではないか。例えば、リバビリンは重症な貧血などの副作用が起こることもあり、そのため治療の継続が困難な患者もいる。実臨床ではこの点について、投与量を工夫し、より患者に合った量を投与するなど、専門医の臨床経験が治療成績に貢献した点もあるのではないか」と考察した。薬効を最大限に発揮させるために―早期発見の重要性 C型肝炎の治療は日々進化し、完治が望める疾患になりつつある。しかし、疾患が進行し、肝硬変になると薬剤が肝細胞に移行しづらくなるため、治療効果は低下する。高口氏は、現在のC型肝炎治療の問題点として、C型肝炎抗体検査の普及が不十分な点を指摘した。C型肝炎は検査によって容易に発見できるにもかかわらず、検査が普及していないため気付かれないことが多い。そのため、症状が出た時点ではかなり進行しており、薬が効きづらいケースもあるという。 高口氏は、「C型肝炎は簡単な検査で発見できるにもかかわらず、健康診断に組み込まれていない場合が多い。早期発見し、肝硬変に移行する前に治療を開始することは、患者さんにとって大きなメリットとなる。数千円程度の自己負担でできることが多いので、早期発見の重要性を再認識いただき、積極的に検査を実施していただきたい」と、抗体検査の持つ重要性も併せて強調し、セミナーを結んだ。参考文献1)ハーボニ―錠承認時評価資料・国内第III相臨床試験(GS-US-337-0113 試験)2)Rogers AS. Drug Intell Clin Pharm.1987;21:915-920.3)ソバルディ錠・国内第III相臨床試験(GS-US-334-0118 試験)

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原発性胆汁性胆管炎〔PBC : Primary Biliary Cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。中高年女性に好発し、皮膚掻痒感で初発することが多い。しかし、多くの症例では無症候性の時期にたまたま発見され、長く無症候性のまま経過する。黄疸はいったん出現すると、消退することなく漸増することが多い。一部の症例では門脈圧亢進症状が高頻度に出現する(表1)。画像を拡大する従来、病名は「原発性胆汁性肝硬変」となっていたが、現在は早期に診断することができるようになり、またウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid;UDCA)の効果もみられることから、現在診断されている多くの患者は肝硬変には至っていない。実際は肝硬変ではないにもかかわらず「肝硬変」が病名に入っていることで、患者の精神的負担が大きい、との患者団体の要請に応じ、2016年より世界的に、英文字略語のPBCはそのまま残し、「Primary Biliary Cholangitis(PBC)」と改名された。日本語では、「原発性胆汁性胆管炎」と改名されることになった。■ 疫学男女比は約1:7、診断時平均年齢は50~60歳で、幼小児期での発症はみられない1)。発生数は1980年の調査開始以来増加傾向にあったが、1990年代以降は横ばいで推移している。新たに診断される症例のうち約70~80%は無症候性PBCである。無症候性PBCを含めた総患者数は全国で約5万~6万人と推計される1)。■ 病因本症は種々の免疫異常とともに、自己抗体の1つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody:AMA)が特異的(90%)かつ高率(90%)に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすい。さらに、組織学的には障害胆管周囲にT細胞優位の高度の単核球浸潤がみられることなどから、病態形成には自己免疫学機序が強く関与していると考えられる。多くの疾患同様、本疾患も多因子疾患であり、遺伝学的要因を基盤に環境要因が作用することよって発症し、病態形成がなされることが想定されている。家族集積性のあることや一卵性双生児における一致率がきわめて高いことなどから、発症には遺伝的素因の関与が示唆される。HLA-DR8 (DRB1*08)が人種を超えて疾患感受性遺伝子として働いている可能性が想定され、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、HLA-DR以外の新たな疾患関連遺伝子多型の情報が集積されつつある2)。環境因子としては、大腸菌などの細菌からの感染が想定されている。また、工業地帯や汚染廃棄物処理施設の近郊で発症が多いとの疫学研究などより、大気汚染や化学物質、化粧品などによる抗原の修飾がPBC発症のきっかけとなっている可能性が想定されている。■ 症状本疾患にみられる症状は、(1)胆汁うっ滞に基づく症状(2)肝障害・肝硬変および随伴する病態に伴う症状(3)合併した他の自己免疫疾患に伴う症状に分けて考えることができる。病初期は無症状であるが(無症候性PBC)、黄疸を呈する以前から胆汁うっ滞に基づく搔痒感が出現する。身体所見としては、症候性PBCでは黄疸のほか、掻痒のために生じた掻き傷、高脂血症に伴う眼瞼黄色腫が観察され、肝臓は腫大していることが多い。本疾患は他の自己免疫性疾患・膠原病を合併しやすく、なかでもシェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、関節リウマチの頻度が高い。門脈圧亢進症状を早期から呈しやすく、高齢者や進行例では肝細胞がんの併発も考慮する必要がある。■ 分類1)臨床病期分類皮膚搔痒感、黄疸、食道静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく症候を伴う症候性PBC(sPBC)とこれらの症候を欠く無症候性PBC(aPBC)に分類される。症候性PBCはさらに、皮膚掻痒感のみ認め血清総ビリルビン値が2.0mg/dL未満のs1PBCと、血清総ビリルビン値が2.0mg/dL以上の黄疸を認めるs2PBCに細分される1)。2)組織学的病期分類わが国の診療ガイドラインでは、サンプリングエラーを最小限にするように工夫された中沼らによる新しい分類の使用が推奨されている。1期(no progression)、2期(mild progression)、3期(moderate progression)、4期(advanced progression)の4期に分類される。3)特殊型特殊なタイプとして、以下の病態がある。(1)PBC-AIHオーバーラップ症候群(PBC-AIH overlap syndrome)PBCの特殊な病態として、肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する本病態がある。副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、PBCの亜型ではあるが、PBCの典型例とは区別して診断する必要がある。(2)AMA陰性PBC、自己免疫性胆管炎(AIC)AMAは陰性であるが、PBCに特徴的な臨床像と肝組織像を呈し、PBC症例の約10%を占める。これらのうち抗核抗体陽性を呈する病態に対しautoimmune cholangiopathyあるいはautoimmune cholangitis(AIC)などの名称が提唱された。副腎皮質ステロイドの投与が奏効する症例もあり、UDCAの効果がみられない症例に対して試みられる。■ 予後PBCの進展形式は、緩徐進行型、門脈圧亢進症先行型、黄疸肝不全型の大きく3型に分類される(図)。多くは長期間の無症候期を経て徐々に進行するが(緩徐進行型)、黄疸を呈することなく食道静脈瘤が比較的早期に出現する症例(門脈圧亢進症型)と早期に黄疸を呈し、肝不全に至る症例(黄疸肝不全型)がみられる。肝不全型は比較的若年の症例にみられる傾向がある。黄疸期(s2PBC)になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清総ビリルビン値が5.0mg/dLで55%、8.0mg/dLを超えると35%となる。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、厚労省研究班の診断基準(表1)に則って行うが、(1)血液所見で慢性の胆汁うっ滞所見(ALP、γ-GTPの上昇)(2)AMA陽性所見(間接蛍光抗体法またはELISA法)(3)肝組織学像で特徴的所見(CNSDC、肉芽腫、胆管消失)の3項目が重要である1)。〔肝組織像が得られる場合〕(1)組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの。(2)AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの。〔肝組織像が得られない場合〕AMAが陽性で、しかも臨床像および経過からPBCと考えられるもの。■ 臨床検査成績慢性の胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇、血清IgMの高値、AMAの出現が特徴的である。■ 抗ミトコンドリア抗体(AMA)と抗核抗体AMAの対応抗原として、ピルビン酸脱水素酵素E2コンポーネント(PDC-E2)をはじめとするミトコンドリア内膜に存在するオキソ酸脱水素酵素複合体を構成する蛋白が明らかになっている。PDC-E2反応性CD4陽性T細胞がPBC患者の肝臓、所属リンパ節および末梢血で有意に増加していることが示され、本疾患の成立・維持に重要な役割を果たしていることが想定される。PBCではAMAのほか、抗セントロメア抗体、抗核膜孔抗体(抗gp210抗体)、抗multiple nuclear dot抗体(抗sp100抗体)など数種の抗核抗体も陽性化する。核膜孔の構成成分に対する抗gp210抗体は特異度ほぼ100%と疾患特異性が高く、PBC患者の約20~30%で陽性化する。本抗体は予後不良なPBC症例で陽性になる率が高く、PBCの臨床経過の予測因子として有用であることが示されている1)。■ 肝組織像自己免疫機序を反映する肝内胆管病変(CNSDC)がPBC肝の基本病理所見であり、肉芽腫の形成も特徴的である。肝内小型胆管が選択的に進行性に破壊される。その結果、慢性に持続する肝内胆汁うっ滞が出現し、肝細胞障害、線維化、線維性隔壁が2次的に形成され肝硬変に進行する。■ 鑑別診断・除外診断画像診断(超音波、CT)で閉塞性黄疸を完全に否定したうえで、慢性の胆汁うっ滞性肝疾患および自己抗体を含む免疫異常を伴った疾患という観点から鑑別診断が挙げられる(表2)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根治的治療法は確立されていないが、ウルソデオキシコール酸はPBC進展抑制効果を有し、現在第1選択薬である。予後の改善も期待でき、実際UDCAが投与される以前の時期と比較するとPBCの予後はかなり改善している。進行したPBCではUDCAで進展を止めることは難しく、肝硬変・肝不全に進行すれば肝移植が唯一の治療手段となる。血清総ビリルビン値が5.0mg/dL以上になると肝移植を考慮し、肝移植専門医へ紹介することが望まれる。■ 薬物療法1)ウルソデオキシコール酸(UDCA)(商品名:ウルソなど)胆道系酵素の低下作用のみでなく、組織の改善、肝移植・死亡までの期間の延長効果が確認されている1)。通常1日600mgが投与されるが、効果が不十分の場合は900mgに増量される。2)ベザフィブラート(同:ベザトールSR、ベザリップなど)UDCAの効果が乏しい症例でベザフィブラート(400mg/日)が有効な症例もみられる1)。UDCAとは作用機序が異なることから併用投与が望ましいとされる。3)副腎皮質ステロイド通常のPBCに対する投与は病態の改善には至らず、とくに閉経後の中年女性においては骨粗鬆症を増強する副作用が表面に出てくるので、むしろ禁忌とされている。PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎所見が明瞭である場合は、本剤の投与が推奨される1)。■ 肝移植胆汁うっ滞性肝硬変へと進展した場合は、もはや内科的治療で病気の進展を抑えることができなくなるため、肝移植が唯一の救命法となる1)。肝移植適応時期の決定は、Mayo(updated)モデルや日本肝移植適応研究会のモデルが用いられている。移植後は免疫抑制薬を投与し、術後合併症、拒絶反応、再発、感染に留意し経過を追う。4 今後の展望本疾患を含め、自己免疫疾患の病因および発症原因の早期解明は期待しがたい。したがって、根本治療の開発にはまだ長い期間がかかるものと思われる。しかし、UDCAについては確実に長期効果もみられており、また、ベザフィブラートについては長期効果のレベルの高いデータは得られていないものの、作用機序に関する基礎データを含め、臨床データも集積しつつあり、UDCAとの併用効果が確立するものと思われる。一方、細胞レベルでの解析や、疾患感受性および進行に関与する遺伝子の解析データも出つつあり、病因の解明とともに、個別化医療が可能となる日もそう遠いものではないと思われる。5 主たる診療科内科、肝臓内科、消化器内科、肝臓移植外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療ガイドライン厚生労働科掌研究費補助金難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン2012(医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省難病情報センターホームページ 原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公的助成情報難病情報センター 各相談窓口紹介(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会東京肝臓友の会(患者向けの情報)大阪肝臓友の会(患者向けの情報)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班.原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2012年). 肝臓. 2012; 53: 633-686.2)厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイド. 文光堂. 2010.3)厚生労働省難治性疾患克服研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 患者さん・ご家族のための原発性胆汁性胆管炎(PBC)ガイドブック. 研究班2013事務局. 2013.4)The Intractable Hepatobiliary Disease Study Group supported by the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan Guidelines for the management of primary biliary cirrhosis. Hepatol Res. 2014; 44: 71-90.公開履歴初回2014年01月09日更新2016年03月29日

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肝臓病を「かゆみ」の視点で考える

 2016年3月15日、東京都中央区で大日本住友製薬株式会社により、「知られていない肝臓病のかゆみ」をテーマにプレスセミナーが開催され、2つの講演が行われた。肝臓病の「かゆみ」でQOL低下 初めに、鈴木 剛氏(東都医療大学ヒューマンケア学部 教授)より「肝臓病はかゆくなる?」と題した講演が行われた。 慢性肝疾患では、症状の進行に伴い「かゆみ」が生じることがあり、B型肝炎の8%1)、C型肝炎(肝硬変、肝細胞がん等を含む)の15~25%2,3)でかゆみの症状が発現すると報告されている。なかでも原発性胆汁性肝硬変(PBC)では、かゆみの発現率が69%と高い傾向にあり、そのうちの74%が睡眠障害を訴えたとの報告もある4)。日本でも「皮膚がかゆい(22.4%)」、「よく眠れない(18.8%)」といったアンケート結果が得られている。このように肝疾患におけるかゆみは、時に強く現れ、活動性や睡眠を著しく阻害するため、患者のQOLを低下させる原因の1つといわれている。 肝疾患によるかゆみは、「中枢性のかゆみ」であり、βエンドルフィン等(かゆみ誘発系)とダイノルフィン(かゆみ抑制系)のバランスが崩れ、βエンドルフィン等が増えることで引き起こされると考えられている。かゆみの特徴について、鈴木氏は「“かゆくて眠れない”、“全身に現れる”、“皮膚の病変がなくとも、掻痒感がある”、“抗ヒスタミン薬や鎮静剤などを投与しても、有効でない場合も多い”、“かゆい部分をかいても緩和されないことが多い”などが挙げられる」と述べた。さらに「慢性肝疾患に伴う掻痒症の患者数を推定するための医師調査を実施したところ、“かゆみを有する患者がいる”と答えた数が実際の患者数と比べ低くなる、つまり医師と患者のかゆみに対する捉え方が解離しているケースがある」と指摘した。肝疾患に伴う「かゆみ」は患者の立場で考える 次に、熊田 博光氏(虎の門病院分院長)より「慢性肝疾患に伴う掻痒症について」と題した講演が行われた。 肝疾患患者に実施された肝炎関係研究分野のアンケートによると、「体がだるい」、「手足がつる」、「体がかゆい」の順に訴えが多い。熊田氏は、「これらはC型肝疾患の3大症状だが、“体がだるい”は肝炎が完治すると改善し、“手足がつる”は芍薬甘草湯などの薬剤で改善がみられる。しかし、“体がかゆい”についてはもっと効果のある薬があれば…」と感じていたという。というのも、虎の門病院で肝疾患患者にかゆみのアンケートを実施したところ、かゆみを訴えた患者(肝疾患患者全体で35.7%、PBC患者で54.5%)のうち、従来のかゆみ止めで56.1%は良くなったが、43.9%は“かゆみが残る”、“良くならない”といった「難治性のかゆみ」を伴っていることが明らかになったためである。 昨年、肝疾患患者における、これら従来のかゆみ止めで効果不十分な難治性のかゆみに対して、ナルフラフィンによる治療が選択肢に加わった。熊田氏は、「この薬剤により、かゆみが抑えられ、よく寝られるようになるケースも多い。肝疾患患者の立場になって考えると、非常に大きな効果と言えるかもしれない」と述べた。続けて、「今、日本では脂肪性肝炎が増えてきている。この疾患は自覚症状がないため、患者を早期に見つけることは大切。今後は、かゆみを抑えるなど、肝疾患患者の生活環境を良くすることにも力を入れていく必要があるのではないか」と述べ、講演を締めくくった。参考文献1)Bonachini M. Dig Liver Dis. 2000;32:621-625.2)Cribier B, et al. Acta Derm Venereol.1998;78:355-357.3)南 健ほか. 日皮会誌. 2001;111:1075-1081.4)Rishe E, et al. Acta Derm Venereol. 2008;88:34-37.

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C型肝炎IFNフリー治療薬の費用対効果とは?

 英国、オーストラリアなどで公的医療保険の給付の可否の判断に使用されている医療技術評価(HTA)が2016年4月より日本で試行導入される。これに先立ち、アッヴィ合同会社は、2月4日にC型肝炎インターフェロンフリー治療薬の費用対効果に関するプレスセミナーを都内で開催した。 1月に中医協が示した選定基準によると、C型肝炎治療薬のソバルディ(一般名:ソホスブビル)やその類似薬が日本版HTAの対象になる見込みだ。この日本版HTAにおいて、効果指標には、質調整生存年(QALY)が基本的に用いられることとなる。 講師を務めた東京大学大学院 薬学系研究科 特任准教授・五十嵐 中氏の最新の研究結果(論文投稿準備中)によると、非肝硬変における、C型肝炎無治療群とC型肝炎治療薬のヴィキラックス(一般名:オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル)使用群との費用対効果の比較では、ヴィキラックス使用群のほうがより安く、効果があるといえるとのことだ。そしてこのように高価な薬において、“安くてよく効く”という結果になることはまれであることを付け加えた。 また、各国のHTAにおいても、C型肝炎インターフェロンフリー治療薬は価格に見合った効果があるという評価がされているという。一方で、HTAでは、医療予算全体へのインパクトは測れないため、総合的な評価も重要であると述べた。 2015年に実施された医師対象の調査では、肝臓専門医の約半数が、QALY、ICERなどの医療経済用語を知っており、肝臓専門医、消化器専門医の約7割が、C型肝炎治療薬処方の際の重要な判断項目の1つとして取り入れている/取り入れたいと考えているという状況を紹介した。これを受けて同氏は、昨今、医療系の学会においても、医療経済がテーマとして取り上げられていることがしばしばあり、関心の高まりは喜ばしいことだが、費用のみの比較が中心であることが多いため、そこに効果の視点を加え評価するという費用対効果の考えを、ぜひより多くの現場の医療者に知ってほしいと訴えた。 日本版HTAは4月の試行導入後、企業や大学による分析を経て、総合評価の結果が2018年以降の薬価に反映される予定だ。

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ウィルソン病〔Wilson disease〕

1 疾患概要■ 定義肝臓およびさまざまな臓器に銅が蓄積し、臓器障害を来す常染色体劣性遺伝性の先天性銅代謝異常症である。■ 疫学わが国での発症頻度は約3万5千人に1人、保因者は約120人に1人とされている。■ 病因・病態本症は、銅輸送ATPase(ATP7B)の遺伝子異常症で、ATP7Bが機能しないために発症する。ATP7B遺伝子の変異は症例によりさまざまで、300以上の変異が報告されている。正常では、ATP7Bは肝細胞から血液および胆汁への銅分泌を司どっており、血液中への銅分泌のほとんどは、セルロプラスミンとして分泌されている。ATP7Bが機能しない本症では、肝臓に銅が蓄積し、肝障害を来す。同時に血清セルロプラスミンおよび血清銅値が低下する。さらに肝臓に蓄積した銅は、オーバーフローし、血液中に出てセルロプラスミン非結合銅(アルブミンやアミノ酸に結合しており、一般に「フリー銅」といわれている)として増加し、増加したフリー銅が脳、腎臓などに蓄積し、臓器障害を来すとされている(図1)。画像を拡大する■ 症状・分類5歳以上のすべての年齢で発症する。40~50歳で発症する例もある。神経型は肝型に比較して、発症年齢は遅く、発症は8歳以上である。ウィルソン病は、症状・所見により、肝型(肝障害のみ)、肝神経型(肝機能異常と神経障害)、神経型(肝機能は異常がなく、神経・精神症状のみ)、溶血発作型、その他に分類される。本症での肝障害は非常に多彩で、たまたま行った検査で血清トランスアミナーゼ(ALT、AST)高値により発見される例(発症前)から、慢性肝炎、急性肝炎、劇症型肝炎、肝硬変などで発症する例がある。神経症状の特徴はパーキンソン病様である。神経型でも肝臓に銅は蓄積しているが、一般肝機能検査値としては異常がみられないだけである。肝機能異常が認められなくても、表1の神経・精神症状の患者では、本症の鑑別のために血清セルロプラスミンと銅を調べるべきである。画像を拡大する神経・精神症状は多彩で、しばしば診断が遅れる。本症患者で当初はパーキンソン病、うつ病、総合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、パラノイア症候群(偏執病)などと誤診されていた例が報告されている。表1の「その他の症状」が初発症状を示す患者もいる。したがって、表1の症状・所見の患者で原因不明の場合は、本症を鑑別する必要がある。■ 予後本症に対する治療を行わないと、病状は進行する。肝型では、肝硬変、肝不全になり致命的になる。肝細胞がんを発症することもある。神経型では病状が進行してから治療を開始した場合、治療効果は非常に悪く、神経症状の改善がみられない場合もある。また、改善も非常に緩慢であることが多い。劇症型肝炎や溶血発作型では、迅速に対応しなければ致命的になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断に有効な検査を表2に示す。また、診断のフローチャートを図2に示す。表2の補足に示すように、診断が困難な場合がある。現在、遺伝子診断はオーファンネットジャパンに相談すれば実施してくれる。画像を拡大する症状から本症を鑑別する場合、まずは血清セルロプラスミンと銅を測定する。さらに尿中銅排泄量およびペニシラミン負荷試験で診断基準を満たせば、本症と診断できる。遺伝子変異が同定されれば確定診断できるが、臨床症状・検査所見で本症と診断できる患者でも変異が同定されない場合がある。確定診断に最も有効な検査は肝銅濃度高値である。しかし、劇症肝不全で肝細胞が著しく壊死している場合は、銅濃度は高くならないことがある。患者が診断されたら、家族検索を行い、発症前の患者を診断することも必要である。鑑別診断としては、肝型では、慢性肝炎、急性肝炎、劇症型肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎などが挙げられる。神経型はパーキンソン病、うつ病、総合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、パラノイア症候群(偏執病)などである。また、関節症状では関節リウマチ、心筋肥大では心筋症、血尿が初発症状では腎炎との鑑別が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症の治療薬として、キレート薬(トリエンチン、ペニシラミン)、亜鉛製剤がある(表3)。また、治療の時期により初期治療と維持治療に分けて考える。初期治療は、治療開始後数ヵ月で体内に蓄積した銅を排泄する時期でキレート薬を使用し、その後は維持治療として銅が蓄積しないように行う治療で、亜鉛製剤のみでよいとされている。画像を拡大する肝型では、トリエンチンまたはペニシラミンで開始する。神経型では、キレート薬、とくにペニシラミンは使用初期に神経症状を悪化させる率が高い。したがって神経型では、亜鉛製剤またはトリエンチンで治療を行うのが望ましい。ウィルソン病は、早期に診断し治療を開始することが重要である。とくに神経型では、症状が進行すると予後は不良である。早期に治療を開始すれば、症状は消失し、通常生活が可能である。しかし、怠薬し、急激な症状悪化を来す例が問題になっている。治療中は怠薬しないように支援することも大切である。劇症型肝炎、溶血発作型では、肝移植が適応になる。2010年現在、わが国での本症患者の肝移植数は累計で109例である。肝移植後は、本症の治療は不要である。発症前患者でも治療を行う。患者が妊娠した場合も治療は継続する。亜鉛製剤で治療を行っている場合は、妊娠前と同量または75mg/日にする。キレート薬の場合は、妊娠後期には、妊娠前の50~75%に減量する。4 今後の展望1)本症は症状が多彩であるために、しばしば誤診されていたり、診断までに年月がかかる例がある。発症前にマススクリーニングで、スクリーニングされる方法の開発と体制が構築されることが望まれる。2)神経型では、キレート薬治療で治療初期に症状が悪化する例が多い。神経型本症患者の神経症状の悪化を来さないテトラチオモリブデートが、米国で治験をされているが、まだ承認されていない。3)欧米では、本症の診断治療ガイドラインが発表されている。わが国では、2015年に「ウィルソン病診療指針」が発表された。5 主たる診療科小児科、神経内科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報ウィルソン病友の会1)Roberts EA, et al. Hepatology. 2008; 47: 2089-2111.2)Kodama H, et al. Brain & Development.2011; 33: 243-251.3)European Association for the Study of the Liver. J Hepatology. 2012; 56: 671-685.4)Kodama H, et al. Current Drug Metabolism.2012; 13: 237-250.5)日本小児栄養消化器肝臓学会、他. 小児の栄養消化器肝臓病診療ガイドライン・指針.診断と治療社;2015.p.122-180.公開履歴初回2013年05月30日更新2016年02月02日

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喫煙で死亡リスクが上がる疾患

喫煙する女性は、さまざまな疾患の死亡リスクが高くなります<喫煙経験のない女性の死亡確率を1としたときの値>110203035.3慢性肺疾患21.4肺がん大動脈瘤腸間膜虚血口腔・咽頭がんなど冠動脈性心疾患アルコール性肝硬変膀胱がん食道がん肺炎脳血管疾患406.325.584.834.473.353.293.103.093.06※3以上の疾患を抜粋Pirie K, et al. Lancet. 2013;381:133-141.Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.

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世界初の治療が行われている難病

 12月8日、都内において「『命を考える』~患者さまのためにわたしたちができること 知られざる難病 脂肪萎縮症」と題して、塩野義製薬株式会社はメディアセミナーを開催した。「脂肪萎縮症」は、100万人に1人に発生する難病で、根治療法はなく、患者の生命予後も不良の難病である。罹患率100万人に1人の難病 セミナーでは、本症の診療ガイドラインの作成委員長である中尾 一和氏(京都大学大学院医学研究科 メディカルイノベーションセンター 特任教授)が、「脂肪萎縮症の診断と治療を取り巻く環境」をテーマに、疾患の概要を説明した。 脂肪萎縮症は、「種々の原因により、全身性、部分性、あるいは限局性に脂肪組織が萎縮する疾患」であり、難治性の糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝などの合併症を呈する。本症の原因はいまだ解明されていないが、脂肪細胞の発生分化・増殖・機能に関わる遺伝子異常、感染症、自己免疫疾患、薬剤、注射など機械的な圧迫、除神経などにより生じると考えられている。本症は脂肪組織が萎縮する疾患のため、摂取エネルギーを過剰にしても、体内に蓄積されず、かえって合併症を悪化させるという。本症は、遺伝性要因によるものか、非遺伝性要因によるものかで大別され、さらに脂肪萎縮が全身性、部分性、あるいは限局性に認められるかによって細分類される。 疫学では、世界的にみて罹患率は100万人に1人であり、わが国では36人の患者が報告されている。脂肪萎縮症の診断と治療 本症の診断では、脂肪細胞の萎縮、アディポカインの減少・欠乏、糖脂質代謝異常などの所見で診断するほか、MRIのT1強調所見での確認も有効であるという。また、本症では血中レプチン濃度も低下することから、この数値の動きも診断の助けとなる。 治療に関しては、特効薬が確立されていなかったこともあり、対症療法の有効性は限定的で、予後についても患者が30歳を過ぎると糖尿病合併症、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肥大型心筋症などの疾患により、亡くなる場合が多かった。 こうした中、当初、米国で肥満症治療薬として研究が進められていたレプチンについて、本症治療への有効性が認められ、レプチン補充療法が開発された。そして、2013年に世界で初めて、わが国において薬事承認されたものである。 レプチン補充療法は、1日1回皮下注射で投与する。全身性・部分性脂肪萎縮症、小児・成人の区別なく施行できる。 効果としては、投与開始後1~2週間で空腹時血糖、中性脂肪濃度は有意に改善する。また、5年間のレプチン補充療法の効果としては、空腹時血糖、HbA1c、中性脂肪、肝臓容積がいずれも低下または基準値内を示しており、有効性と安全性も確認されている1)。 この治療法により、患者に健康な人並みの生命予後が実現されること、さらにiPS細胞などの応用により将来、脂肪細胞の再生ができるようになることを期待すると、レクチャーを終えた。疾患ネットワーク作りが急務 続いて、小児科領域から横谷 進氏(国立成育医療研究センター病院 副院長)を迎え、「脂肪萎縮症の診断、治療を促進するために~環境整備・患者支援を考える」と題し、中尾氏と対談が行われた。 対談では、難病の新医療補助制度により、本症が指定難病に指定されたこと、また、小児期に発症すれば、小児慢性特定疾病として指定難病と同じく治療費などの補助が受けられるようになったことを受けて、全年齢期に応じた治療環境が整ったことへの評価が語られた。 また、実臨床では、医師同士、専門医同士のネットワーク作りが重要であるとの意見が交わされた。たとえば、ある勉強会で報告された事例として、糖尿病が急激に発症・進行した患者を専門医に紹介したことで、本症への診断へとつながった例などが挙げられ、専門医に紹介や問い合わせが行われることが必要だとした。最後に中尾氏が、「今後、日本ホルモンステーションへの症例の集約や、内分泌学会で進めている診療ガイドラインの作成により、正しい診断を期したい」と結んだ。(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツケアネット・ドットコム 希少疾病ライブラリ 脂肪萎縮症はこちら。参考文献1)Ebihara K, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:532-541.

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嚢胞性線維症〔CF : cystic fibrosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義嚢胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は、欧米白人の出生2,000~3,000人に1人と、比較的高い頻度で認められる常染色体劣性遺伝性疾患であるが、日本人にはきわめてまれとされている。1938年にAndersonにより、膵外分泌腺機能異常を伴う疾患として初めて報告されて以来、現在では全身の外分泌腺上皮のCl-移送機能障害による多臓器疾患として理解されている。近年のCFに関する遺伝子研究の進歩により、第7染色体長腕にあるDNAフラグメントの異常(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR遺伝子変異)がCFの病因であることがわかってきた。このCFTR遺伝子変異は、世界中で400種類以上報告されており、△F508変異(エクソン10上の3塩基欠失によるCFTR第508番アミノ酸であるフェニルアラニンの欠失)が、欧米白人におけるCF症例の約70%に認められている。■ 疫学かつては東洋人と黒人にはCFはみられないと考えられていたが、現在では約10万人に1人と推測されている。わが国では厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班によってCFの実態調査が行われ、1952年にわが国での第1例の報告以来、1980年の集計で46例が報告された。その後、当教室における1993年までの集計によって、104例(男57例、女47例)のCF患者の報告を認めている。単純に計算すると、わが国におけるCF患者の頻度は出生68万人に1人の割合となるが、CFに対する関心が高まったことなどから、1980年以降の頻度は出生35万人に1人の割合となり、確定診断に至らなかった例や未報告例などを考慮すると、真の頻度はさらに高いものと思われる。また、2009年の全国調査では、過去10年間の患者数は44例程度と報告されている。日本人CF症例の遺伝子解析の検討は少なく、王らは3例のCF患児に、花城らはCF患児1例にそれぞれ△F508変異の有無を検索したが、この変異は認められなかった。また、古味らは、△F508変異に加えてCFTR遺伝子のエクソン11に存在するG542X、G551D、およびR553X変異の有無も検索したが、いずれの変異も認められなかった。筆者らは、NIH(米国国立衛生研究所)のgenctic research groupとの共同研究により5例のCF患者およびその家族の遺伝子解析を行い、興味ある知見を得ている。すなわち全例において、△F508変異をはじめとする16種類の既知のCFTR遺伝子変異は認められなかったが、single stand conformational polymorphism analysisにより4例においてDNAシークエンスの変異を認めた(表1)。この変異が未知のCFTR遺伝子変異であるのか、あるいはCFTR遺伝子とは関係しないpolymorphismであるのかの検討が必要である。画像を拡大する■ 病因1985年にWainwrightらによって、第7染色体上に存在することが確認されたCF遺伝子が、1989年にMichigan-Toronto groupの共同研究により初めて単離され、CFTRと命名された。RiordanらによりクローニングされたCFTR遺伝子は、長さ250kbの巨大な遺伝子で、1,480個のアミノ酸からなる膜貫通蛋白をコードしている(図1)。翻訳されたCFTR蛋白の構造は、2つの膜貫通部(membrane spanning domain)、2つのATP結合構造(nucleotide binding fold:NBF 1、NBF 2)、および調節ドメイン(regulatory domain)の5つの機能ドメインからなっている。1991年にはRichらの研究により、CFTR蛋白自身がCl-チャンネルであることが証明され、最近では、NBF1とNBF2がCl-チャンネルの活性化制御に異なる機能を持つことが報告されている。このCFTR遺伝子の変異がイオンチャンネルの機能異常を生じ、細胞における水・電解質輸送異常という基本病態を形成していると考えられている。CFTR遺伝子のmRNA転写は、肝臓、汗腺、肺、消化器などの分泌および非分泌上皮から検出されている。CFTR遺伝子変異のなかで過半数を占める主要な変異が、CF患者汗腺のCFTR遺伝子のクローニングにより同定された△F508変異である。この△F508変異は欧米白人におけるCF症例の約80%に認められているが、そのほかにも、400種類以上の変異が報告されており、これらの変異の発生頻度および分布は人種や地域によって異なっている(表2)。△F508変異の頻度は、北欧米諸国では70~80%と高く、南欧諸国では30~50%と低いが、東洋人ではまだ報告されていない。画像を拡大する画像を拡大する■ 症状最も早期に認められ、かつ非常に重要な症状として、胎便性イレウスによる腸閉塞症状が挙げられる。粘稠度の高い胎便が小腸を閉塞してイレウスを惹起する。生後48時間以内に腹部膨満、胆汁性嘔吐を呈し、下腹部に胎便による腫瘤を触れることがある。腸管の狭窄や閉塞がみられることもある。わが国におけるCF症例の集計では、27.9%が胎便性イレウスで発症している(表3)。膵外分泌不全症状は約80%の症例で認められ、年齢とともに症状の変化をみることもある。食欲は旺盛であるが、膵リパーゼの分泌不全による脂肪吸収不全のため多量の腐敗臭を有する脂肪便を排泄し、栄養不良による発育障害を来してくる。低蛋白血症による浮腫、ビタミンK欠乏による出血傾向、低カルシウム血症によるテタニーなどの合併症を認める場合もある。粘稠な分泌物の気管および気管支内貯留と、それに伴うブドウ球菌や緑膿菌などの感染により、多くは乳児期から気管支炎、肺炎症状を反復して認めるようになる。咳嗽、喘鳴、発熱、呼吸困難などの症状が進行性にみられ、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの閉塞機転に伴う病変が進展し慢性呼吸不全に陥り、これが主な死亡原因となる。胸郭の変形、バチ状指、チアノーゼなども認められる。CF患者では汗の電解質、とくにCl濃度が異常に高く、多量の発汗によって電解質の喪失を来し、発熱や虚脱などの“heat prostration”と呼ばれる症状を呈することが知られている。その他の症状として、閉塞性黄疸、胆汁性肝硬変、耐糖能異常、副鼻腔炎症状などをはじめとする種々の合併症状が報告されている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ CFの一般的な診断法表4にわが国のCF患者104例における確定診断時の年齢分布を示した。全症例の半数以上である64例(61.5%)が1歳までにCFと診断されており、新生児期にCFと診断された30例(28.8%)のうち29例が胎便性イレウスにて発症した症例であった。したがって、胎便性イレウス症候群では、常にCFの存在を念頭におき、メコニウム病(meconium ileus without CF)との鑑別を行っていく必要がある。CFの診断には、汗の電解質濃度の測定が必須であり、Cl濃度が60mEq/L以上であればCFが疑われる。Pilocarpine iontophoresis刺激による汗の採取法が推奨されているが、測定誤差が生じやすく、複数回測定する必要がある。当教室では米国Wescor社製の発汗刺激装置および汗採取コイルを使用し、ほとんど誤差なく簡便に汗の電解質濃度を測定している。CFを診断するうえで、膵外分泌機能不全の存在も重要であり、その診断は、脂肪便の有無、便中キモトリプシン活性の測定、PFD試験やセクレチン試験などによって行っていく。X線検査により、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの肺病変の診断を行う。画像を拡大する■ CFのマス・スクリーニング欧米において、1973年ごろよりCFの新生児マス・スクリーニングが試みられるようになり、1981年にCrossleyらが乾燥濾紙血のトリプシン濃度をradioimmunoassayにて測定して以来、CFの新生児マス・スクリーニング法として、乾燥濾紙血のトリプシン濃度を測定する方法が広く用いられるようになった。さらに1987年にはBowlingらが、より簡便で安価なトリプシノーゲン濃度を測定し、感度および特異性の点からもCFの新生児マス・スクリーニング法として非常に有用であると報告している。筆者らも、わが国におけるCFの発生率を調査する目的で東京都予防医学協会の協力を得て、CFの新生児マス・スクリーニングを行った。方法は、先天性代謝異常症の新生児マス・スクリーニング用の血液乾燥濾紙を使用し、Trypsinogen Neoscreen Enzyme Immunoassay Kitにて血中トリプシノーゲン値を測定した。結果は、3万2,000例のトリプシノーゲン値は、31.8±8.9ng/mLであり、Bowlingらが示した本測定法におけるカットオフポイントである140ng/mLを超えた症例はなかった(図2)。画像を拡大する■ CFの遺伝子診断CFの原因遺伝子が特定されたことにより、遺伝子診断への期待が高まったが、CF遺伝子の変異は人種や地域によってまちまちであり、本症の遺伝子診断は足踏み状態であると言わざるを得ない。欧米白人では、△F508変異をはじめとするいくつかの頻度の高い変異が知られており、これらの検索はCFの診断に大いに役立っている。しかしながら、わが国のCF症例における共通のCF遺伝子の変異は、まだ特定されておらず、PCR-SSCP解析と直接塩基配列解析を用いて遺伝子変異を明らかにすることが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法新生児期にみられる胎便性イレウスに対しては、ガストログラフィンによる浣腸療法などが試みられるが、多くは外科手術が必要となる。膵外分泌不全による消化吸収障害に対しては、膵酵素剤の大量投与を行う。しかし近年、膵酵素剤の大量投与による結腸の炎症性狭窄の報告も散見され、注意が必要である。胃酸により失活しない腸溶剤がより効果的である。栄養障害に対しては高蛋白、高カロリー食を与え、症例の脂肪に対する耐性に応じた脂肪摂取量を決めていく。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、膵酵素を必要とせずに吸収されるため、カロリー補給には有用である。必須脂肪酸欠乏症に対しては、定期的な脂肪乳剤の経静脈投与が必要である。脂溶性ビタミン類の吸収障害もみられるため、十分量のビタミンを投与する。呼吸器感染に対しては、気道内分泌物の排除を目的としてpostural drainageと理学訓練(physiotherapy)を行い、吸入療法および粘液溶解薬や気管支拡張薬などの投与も併せて行っていく。感染の原因菌としてはブドウ球菌と緑膿菌が一般的であるが、検出菌の感受性テストの結果に基づいて投与する抗菌薬の種類を決定していく。1~2ヵ月ごとに定期的に入院させ、2~3剤の抗菌薬の積極的な予防投与も行われている。抗菌作用、抗炎症作用、線毛運動改善作用などを期待してマクロライド系抗菌薬の長期投与も行われている。肺機能を改善する組み換えヒトDNaseの吸入療法や気道上皮細胞のNa+の再吸収を抑制するためのアミロイド、さらに気道上皮細胞からのCl-分泌促進のためのヌクレオチド吸入療法などが、近年試みられている。4 今後の展望まずは早期に診断して、適切な治療や管理を行うことが大切であり、その意味から早期診断のための汗のCl-濃度を測定する方法の普及が望まれる。さらに遺伝子検索を行うにあたっての労力と費用の負担が軽減されることが必要と思われる。適切な治療を行うためには、今後も肺や膵臓および肝臓の機能を改善させたり、呼吸器感染症を予防する新薬の開発が望まれる。さらに遺伝子治療や肺・肝臓移植が可能となり、生存年数が欧米並みに30歳を超えるようになることを期待したい。5 主たる診療科小児科、小児外科、呼吸器内科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査 一次調査の集計(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業)難病情報センター:膵嚢胞線維症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病患者支援の会(内閣府認定NPO法人、腎移植や肝移植などの情報提供)Japan Cystic Fibrosis Network:JCFN(嚢胞性線維症患者と家族の会)1)成瀬達ほか.第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性膵疾患に関する調査研究」平成21年度 総括・分担研究報告書. 2010; 297-304.2)Flume PA, et al. Am J Respir Care Med. 2007; 176: 957-969.3)清水俊明ほか.小児科診療.1997; 60: 1176-1182.4)清水俊明ほか.小児科. 1987; 28: 1625-1626.5)Wainwright BJ, et al. Nature. 1985; 318: 384-385.公開履歴初回2013年08月15日更新2015年12月15日

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遺伝子型2/3型HCV、ソホスブビル+velpatasvirが有効/NEJM

 遺伝子型2および3型のC型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の治療において、ソホスブビル(SOF)とvelpatasvir(VEL)の併用療法は、従来の標準治療に比べ持続性ウイルス学的著効(SVR)の達成率が優れることが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のGraham R Foster氏らが実施した2つの臨床試験(ASTRAL-2、-3試験)で示された。ヌクレオチドアナログNS5Bポリメラーゼ阻害薬であるSOFは、リバビリン(RIB)との併用で2/3型HCVの治療薬として使用されている。VELは、すべての遺伝子型のHCVに抗ウイルス活性を有する新規NS5A阻害薬であり、SOFとの併用の第II相試験で慢性2/3型HCV感染患者において良好なSVR率が報告されている。NEJM誌オンライン版2015年11月17日号掲載の報告。遺伝子型別の2つの試験に800例以上を登録 ASTRAL-2試験は遺伝子型2型HCVを、ASTRAL-3試験は3型HCVを対象とする多施設共同非盲検無作為化第III相試験(Gilead Sciences社の助成による)。 対象は、両試験とも年齢18歳以上で、6ヵ月以上のHCV感染歴がある患者とし、インターフェロンを含むレジメンでSVRが達成されなかった患者を約20%、代償性肝硬変を有する患者を約20%登録することとした。 ASTRAL-2試験では、SOF(400mg)とVEL(100mg)を1日1回、12週投与する群(SOF+VEL群)またはSOF(400mg)とRIB(体重<75kg:1,000mg、≧75mg:1,200mg)を1日1回、12週投与する群(SOF+RIB群)に無作為に割り付けられた。ASTRAL-3試験では、SOF+VEL群はASTRAL-2試験と同じく12週、SOF+RIB群は24週の投与を行った。 主要評価項目は、治療終了から12週時のSVRとし、SVRはHCV RNA<15IU/mLと定義した。 ASTRAL-2試験では、2014年10月15日~12月18日に米国の51施設に266例が登録され、SOF+VEL群に134例、SOF+RIB群に132例が割り付けられた。ASTRAL-3試験では、2014年7月30日~12月17日に北米、欧州、オセアニアの8ヵ国の76施設に552例が登録され、SOF+VEL群に277例、SOF+RIB群には275例が割り付けられた。12週時SVR達成率:2型 99 vs.94%、3型 95 vs.80% 平均年齢は、ASTRAL-2試験が両群とも57歳、ASTRAL-3試験はSOF+VEL群が49歳、SOF+RIB群が50歳で、男性がそれぞれ64%、55%、61%、63%であった。ASTRAL-2試験は肝硬変患者が両群とも14%、既治療例がそれぞれ14%、15%含まれ、ASTRAL-3試験は肝硬変患者が29%、30%、既治療例は両群とも26%だった。 治療終了から12週時のSVR達成率は、遺伝子型2型HCVではSOF+VEL群が99%(95%信頼区間[CI]:96~100)と、SOF+RIB群の94%(95%CI:88~97)に比べ有意に良好であった(p=0.02)。3型HCVでは、それぞれ95%(95%CI:92~98)、80%(95%CI:75~85)であり、SOF+VEL群で有意に優れた(p<0.001)。 治療終了後の再燃が、2型HCVではSOF+VEL群には認めなかったが、SOF+RIB群で6例(5%)にみられ、3型HCVではそれぞれ11例(4%)、38例(14%)に認められた。治療中のウイルス学的治療不成功が、3型HCVのSOF+RIB群で1例に認められた。 3型HCVでは、未治療の非肝硬変例の12週時SVR達成率はSOF+VEL群が98%、SOF+RIB群は90%、肝硬変例はそれぞれ93%、73%であり、既治療の非肝硬変例は91%、71%、肝硬変例は89%、58%と、いずれもSOF+VEL群で良好な傾向がみられた。 最も頻度の高い有害事象は、疲労(2型:SOF+VEL群15%、SOF+RIB群36%、3型:SOF+VEL群26%、SOF+RIB群38%)、頭痛(18、22、32、32%)、悪心(10、14、17、21%)、不眠(4、14、11、27%)であった。有害事象による治療中止は、2型HCVのSOF+VEL群で1例(不安、頭痛、集中力低下で第1日に中止)、3型HCVのSOF+RIB群で9例に認められた。 重篤な有害事象は、2型HCVのSOF+VEL群で2例(1%、肺炎が1例、腸炎と腹痛が1例)、SOF+RIB群で2例(2%、関節炎が1例、うつ状態が1例)、3型HCVではSOF+VEL群が6例(2%)、SOF+RIB群が15例(5%)に発現した。 著者は、「代償性肝硬変例を含む遺伝子型2および3型HCVに対し、ソホスブビル+velpatasvir併用療法は、前治療の有無にかかわらずソホスブビル+リバビリンによる標準治療よりも高いSVR率を達成し、有害事象や検査値異常の頻度が低かった」とまとめ、「遺伝子型1、2、4、5、6型HCVを対象としたASTRAL-1試験の結果と統合すると、SOF+VEL併用の12週投与は遺伝子型にかかわらず高い有効性を発揮すると考えられる」と指摘している。

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C型慢性肝炎ジェノタイプ1型治療薬「ヴィキラックス配合錠」発売

 アッヴィ合同会社(本社:東京都港区、社長 : ジェームス・フェリシアーノ)は、ジェノタイプ1型C型慢性肝炎ウイルス(HCV)に感染した成人患者(代償性肝硬変を含む)の治療薬として「ヴィキラックス配合錠」(オムビタスビル水和物・パリタプレビル水和物・リトナビル配合錠)を11月26日に発売した。ヴィキラックスの薬価は1錠26,801.20円。 ヴィキラックスは、2種の直接作用型抗ウイルス剤であるオムビタスビルとパリタプレビルにリトナビルを加えた配合剤で、12週間にわたって固定用量を1日1回服用する。厚生労働省より2015年4月に優先審査対象に指定され、2015年2月の製造販売承認申請後、7ヵ月後の2015年9月承認された。 本承認は第III相臨床試験のGIFT-I試験を根拠とし、主要評価項目であるIFN治療の対象で肝硬変を発症していない高ウイルス量(≥100,000 IU/mL)の未治療患者においては、ウイルス学的著効率(SVR12)95%(n=106/112)であった。また、GT1b型C型代償性肝硬変患者を対象とした副次的評価項目では、SVR12が91%(n=38/42)であった。NS5A領域のY93変異(耐性変異)による影響では、変異なし症例でSVR12が99%(301/304)と非常に高い効果を示し、GT1b型感染患者の13%に見られた変異症例では83%(39/47)となった。 全治療群のうち、3例(n=3/363)が治療期間中にウイルス学的無効となり、8例(N=8/354)が治療後の再燃を示し、有害事象により治療を中止したのは3例であった。また、多く認められた有害事象(5%超)は、鼻咽頭炎、頭痛、末梢性浮腫、悪心、発熱、および血小板数減少であった。アッヴィ合同会社からのお知らせはこちら。

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肝炎は全例が“治る”時代、では今後の対策は?

 ギリアド・サイエンシズ株式会社(以下、ギリアド)の主催により、“新薬「ソバルディ」「ハーボニー」登場で変わる肝炎治療 臨床現場のいま”をテーマに、C型慢性肝炎プレスセミナーが2015年10月27日、東京都中央区で開催された。肝炎ウイルス感染対策、これまでと今後 始めに、田中 純子氏(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 疫学・疾病制御学 医学部 衛生学講座 教授)より「疫学的視点からみたウイルス性肝疾患患者数の経年推移」と題した講演が行われた。 わが国における肝がんの死亡者数は、2000年頃から緩やかに減少しつつあるが、いまだに年間死亡者数は3万人を超えており、対策が望まれる疾患の1つである。 これまで、住民健診における肝炎ウイルス検査の追加(2002年)や、肝炎無料検査の実施(2007年)、肝炎対策基本法の施行(2010年)などにより、世界の中でも早期に肝炎ウイルス対策に取り組んできた。田中氏は、「検査強化を施策として行ってきた結果、肝炎ウイルスの潜在キャリア数は、推定240~305万人(2000年)から、推定77.7万人(2011年)に減少することができた」と述べた。しかし、感染を知ったものの、(継続的な)受診をしないキャリアが、いまだに推定53~118万人存在するため、受診勧奨や受療継続といった課題が残されているという1)。田中氏は、今後の肝炎・肝がん対策について、「すでに通院中の人には、適切な治療を受けられるようにすること、肝がんの自覚症状がなく、病院受診に至っていない人には、治療に結び付くよう工夫することが、肝炎・肝がん死亡減少のため重要となる」と指摘した。肝炎治療、油断は禁物 次に、榎本 信幸氏(山梨大学 医学部内科学講座第一教室 教授)より「C型慢性肝炎の最新治療」と題した講演が行われた。 これまでC型肝炎治療は、ペグインターフェロン・リバビリン療法が一般的であったが、副作用の問題や、患者の高齢化(すでに治療経験があり、インターフェロンが使えないケースや、効かないケースが増加)といった問題から、投与方法や副作用管理が簡便な治療が望まれていた。こうした背景の下、インターフェロンフリーの治療薬発売が続いているなかで、今年9月、新たに1日1回1錠、12週間の経口投与で治療を完了するジェノタイプ1型 C型慢性肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」(一般名:レジパスビル・ソホスブビル配合錠、以下ハーボニー)が発売された。ハーボニーは、治療歴、代償性肝硬変の有無、年齢および投与前のNS5A耐性変異の有無にかかわらず、SVR12率は100%を達成している。 このように一見、C型肝炎は解決したように思えるが、榎本氏は、「C型肝炎ウイルスが消えても肝がんができることがあるため油断はできない」と警鐘を鳴らす。とくに「高齢」、「男性」、「γGTP上昇」、「AFP上昇」では肝がんリスクが高くなるため、ウイルス排除後のフォローが重要だという。榎本氏は、「“肝がん予防のABC”という考え方、すなわち、A:Age(65歳以上)、B:B型肝炎、C:C型肝炎、D:DM(糖尿病、血糖値が高い)、E:Ethanol(アルコールを毎日飲む)、F:Fibrosis(線維)、Fat(脂肪)、Fe(鉄)、G:Gender(男性)のすべてに注意を払うことが大切、BやCだけを治すようでは手遅れとなることもある」と注意を促した。費用対効果の判断は冷静に 最後に、五十嵐 中氏(東京大学大学院 薬学系研究科 特任准教授)より「ソバルディ・ハーボニーの医療経済的な価値」と題した講演が行われた。 新薬の医療経済評価を行うには、原則として「増分費用効果比(コスト増加分の質調整生存率に対する割合)」を考慮し、増大した分のコストが、健康で過ごせる期間に見合っているかを判断する。五十嵐氏は、「“ソバルディ”、“ハーボニー”は、価格だけみれば確かに高価だが、コスト増大分に見合った効果の改善があれば良いのではないか」と述べた。 肝炎から肝硬変、肝がんに進行してしまった場合、難しい治療や多額の治療費用が必要になることも珍しくはない。五十嵐氏は、「高額な薬代であっても、健康に過ごせる期間の延長や、将来的な治療費削減効果を考えれば、妥当ではないか」と説明し、講演を締めくくった。 ソバルディ、ハーボニーの登場により、肝炎治療の未来は明るくなった。だからこそ、今後、ウイルス排除後のフォローなど、肝炎・肝がん死亡減少のための対策が重要となってくるのではないか。(ケアネット 佐藤 駿介)参考1)田中純子ほか. a肝炎ウイルス感染状況に関する疫学基盤研究. In:急性感染も含めた肝炎ウイルス感染状況・長期経過と治療導入対策に関する研究. 肝炎等克服政策研究事業.

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常染色体優性多発性嚢胞腎〔ADPKD : autosomal dominant polycystic kidney disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義PKD1またはPKD2遺伝子の変異により、両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する疾患。■ 診断基準ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎ガイドライン(第2版)」)1)家族内発生が確認されている場合(1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの(2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの2)家族内発生が確認されていない場合(1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合(2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合※除外すべき疾患多発性単純性腎嚢胞(multiple simple renal cyst)腎尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)多嚢胞腎(multicystic kidney 〔多嚢胞性異形成腎 multicystic dysplastic kidney〕)多房性腎嚢胞(multilocular cysts of the kidney)髄質嚢胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney〔若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis〕)多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)【Ravineの診断基準】(表)(家族歴がある場合の画像診断基準)画像を拡大する■ 疫学一般人口中に占める多発性嚢胞腎患者数(有病率)は、病院受診者数を基に調査した結果では一般人口3,000~7,000人に1人である。病院患者数に占める多発性嚢胞腎患者数は3,500~5,000人に1人、病院での剖検結果では被剖検患者約400人に1人である。メイヨー病院があるオルムステッド郡(米国)で1年間に新たに診断された患者数(発症率)は、一般人口1,000~1,250人あたり1人である。調査方法、調査年代、調査場所などにより、結果に差異が認められる。今後、治療薬が利用可能になると受療する患者数が増加し、有病率も増える可能性がある。■ 病因(図を参照)画像を拡大するPKD1またはPKD2遺伝子の変異による。PKD1は16p13.3、PKD2は4q21-23に位置する。PKD1とPKD2の遺伝子産物 polycystin 1(PC 1)とPC2はtransient receptor potential channel for polycystin(TRPP)subfamilyで、Caチャネルである。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在する。PCは腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞などの繊毛に存在する。尿細管腔の内側に存在する繊毛は、尿細管液の流れに反応して屈曲する。屈曲によるshear stressはPCや繊毛機能に関係する蛋白を活性化し、細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高める。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患をもたらすことが明らかとなり、繊毛疾患(ciliopathy)として概括されている。PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値である。細胞内Ca濃度が低下すると、cyclicAMP(cAMP)分解酵素(PDE)活性が低下し、またcAMPを産生するadenyl cyclase(AC)活性が高まり、細胞内cAMP濃度が高まる。その結果、cAMP依存性protein kinase A(PKA)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR、Wnt、Raf/MEK/ERK、JAK/STAT、mTORなど)が活性化され細胞増殖が起きる。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)に関与しており、細胞極性機能を失った細胞増殖が起きる結果、嚢胞が形成される。また、PKAはcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を刺激し、嚢胞内へのCl分泌を高める。腎尿細管(集合管)に存在するバソプレシン(AVP)V2受容体は、AVPの作用を受け、ACおよびcAMP、PKAを介して水透過性を高める。この過程でcAMPは嚢胞を増大させる。ソマトスタチンはACを抑制するので、治療薬として期待される。■ 症状多くの患者は30~40代までは無症状で経過する。1)腎機能低下腎機能の低下と総腎容積は相関し、総腎容積が3,000mLを超えると腎不全になる確率が高い。しかし、3,000mLを超えない場合でも腎不全になる場合もある。腎不全による症状(疲労、貧血、食欲低下、皮膚搔痒など)は、他疾患による腎不全症状と同じである。透析導入平均年齢は55歳位であったが、最近では60歳近くになっている。患者全体では70歳で約50%が終末期腎不全になる。2)高血圧血管内皮機能の異常により高血圧を来すと考えられ、腎機能が低下する以前から発症する。60~80%の患者が高血圧に罹患している。高血圧になっている患者では腎臓腫大と腎機能低下の進行が速い。3)圧迫症状腎臓や肝臓の嚢胞(60~80%の患者に嚢胞肝が併存)が腫大するにつれて、腹部膨満感、少し食べるとお腹が張る、前屈が困難になる、背腰部痛、腹部痛などの圧迫症状が出現する。腎嚢胞は平均年5~6%の割合で増大するので、加齢とともに症状は進行する。4)脳血管障害脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症頻度が高い。脳出血の原因として高血圧がある。脳動脈瘤の発生頻度(約8%)は一般より高い。5)血尿・尿路感染症血管の構築異常により血管が裂け、嚢胞内に出血し、疼痛を引き起こす。出血巣と尿路が交通すると血尿になる。また、変形した尿路のために尿路感染症を起こしやすい。嚢胞感染が起きると抗菌薬が嚢胞内に移行しにくいので難治性になることがある。6)その他尿路結石、鼠径ヘルニア、大腸憩室、心臓弁膜機能異常などの頻度が高い。■ 分類遺伝子の変異部位に応じて、PKD1とPKD2に分かれる。約85%はPKD1である。PKD1の方が症状は強く、腎不全になる平均年齢も若い。■ 予後生命予後に関するデータはない。腎機能に関しては症状の項参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断基準に準ずる。家族歴と画像検査(超音波、CT、MRIなど)で比較的正確に診断できるが、中には診断に迷う症例もあり、遺伝子診断が有用な場合もある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)トルバプタン(商品名: サムスカ)による治療AVP V2受容体拮抗薬トルバプタンは、ナトリウム利尿をあまり伴わない水利尿作用があり、低ナトリウム血症、体液貯留の治療薬として開発され、わが国では、2010年に心不全による体液貯留、2013年に肝硬変による体液貯留への治療薬として承認を受けている。2003年にモザバプタン(トルバプタンの前段階の薬)が、多発性嚢胞腎モデル動物に有効であると発表され、2007年から多発性嚢胞腎患者1,445名を対象として、トルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同治験が行われた。腎臓容積増大速度を約50%、腎機能低下速度を約30%緩和する結果が2012年秋に発表され、わが国において2014年3月に多発性嚢胞腎治療薬として承認され、臨床使用が始まっている。わが国での投薬適応基準は、総腎容積≧750mL、総腎容積増大速度≧年5%、eGFR≧15 mL/min/1.73m2などである。服用開始時には入院が必要で、その後月1回の血液検査で肝機能(5%程度に肝機能障害が発生する)、血清Na値(飲水不足で高Na血症になる)、尿酸値(上昇する)などのモニターが必要である。また、トルバプタンの処方医はWeb講習を受講し、登録する必要がある。2)高血圧の治療ARBが第1選択薬として推奨される。標準的降圧目標(120/70~130/80)とより低い降圧目標(95/60~110/75)との2群を5年間追跡したところ、より低い降圧群での総腎容積増大速度が低かったことが報告されているので、可能なら収縮期血圧を110未満にコントロールすることが望ましい。3)Na摂取制限Na摂取と腎嚢胞増大速度は相関するので、Na摂取は制限したほうがよい。4)飲水動物実験では飲水によって嚢胞の増大抑制効果が認められているが、人で飲水を奨励した結果では、逆に嚢胞増大速度とeGFR低下速度が増大したことが報告されている。水道水では、消毒用塩素の副産物ジクロロ酢酸に嚢胞増大作用があることが報告されている。多発性嚢胞腎患者では、腎機能が低下するにしたがい血清浸透圧とAVPが高くなることが報告されている。人における飲水効果には疑問があるが、脱水によるAVP上昇は避けるべきである。5)カフェインや抗うつ薬カフェインはPDEを抑制しcAMP濃度を上昇させ、嚢胞増大を促進する可能性がある。SSRI、三環系抗うつ薬などはAVPの放出を促進するため、多発性嚢胞腎では嚢胞増大を促進することが考えられる。6)開発中の薬剤(1)トルバプタン〔AVP V2受容体阻害薬〕は、大規模な臨床試験で腎嚢胞増大と腎機能悪化を抑制する効果が示され1)、わが国では2014年3月、カナダ、ヨーロッパでは2015年3月に認可が下りている。(2)ソマトスタチンアナログは小規模な臨床試験で肝臓と腎臓の嚢胞増大に有効と報告されているが、当局への申請を目的とする大規模な臨床試験は行われていない。(3)mTOR阻害薬であるシロリムスとエベロリムスの臨床試験が行われたが、副作用が強く臨床効果が認められなかった。7)腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)腎動脈を塞栓し、腎臓を縮小させることで症状の緩和をもたらす。すでに透析が導入され、尿量が1日500mL以下の患者が対象となる。8)腹腔鏡下腎嚢胞開創術、腎摘除術抗菌薬抵抗性または反復感染の原因になっている嚢胞が特定される場合、あるいは数個の嚢胞が特別に大きくなり圧迫症状が強い場合、腹腔鏡下に特定の嚢胞を開窓する手術が適応となる。出血が強い場合や、反復する嚢胞感染がある場合、患者に腎機能の予後をよく説明したうえで同意を前提として腎摘除術(腹腔鏡下腎摘除術も行われる)が選択肢となる。4 今後の展望1)最近の研究では、総腎容積増大速度が5%/年以下でも、腎不全に進行することが示されている。トルバプタン適応基準となった総腎容積増大速度≧5%/年の基準では、これら腎不全に進行する患者を除外することになる。2)トルバプタンの作用として利尿作用があるが、利尿作用を少なくする薬剤が望まれる。3)多発性嚢胞腎の進展機序は、cAMP-PKAを介する経路のみではないので、cAMP-PKA非依存性経路を抑制する薬剤開発が望まれる。4)肝臓嚢胞に有効なソマトスタチンアナログの臨床開発が望まれる。5 主たる診療科腎臓内科、泌尿器科、脳動脈瘤があれば脳外科(多発性嚢胞腎に関心の高い医師の存在)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報多発性嚢胞腎啓発ウエブサイト(杏林大学多発性嚢胞腎研究講座)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発性嚢胞腎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)常染色体多発性嚢胞腎(順天堂大学医学部泌尿器科)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ADPKD.JP (~多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト~/大塚製薬株式会社)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PKDの会(患者と患者家族の会)1)Torres VE,et al.N Engl J Med.2012;367:2407-2418.2)東原英二 編著.多発性嚢胞腎~進化する治療最前線~.医薬ジャーナル;2015.3)Irazabal MV, et al. J Am Soc Nephrol.2015;26:160-172.公開履歴初回2013年04月18日更新2015年10月27日

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世界の疾病負担は改善しているか:GBD 2013の最新知見/Lancet

 2012年、「世界の疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)」の最初の調査(1993年)以降、初めての全面改訂の結果が公表された。この取り組みはGBD 2010研究と呼ばれ、世界187ヵ国の死亡および疾病の原因の情報に基づき、1990年と2010年の国別の障害調整生命年(disability-adjusted life-years:DALY)および健康調整平均余命(health-adjusted life expectancy:HALE)を報告している。その後、GBDは必要に応じて毎年更新することとなり、GBD 2013研究については、すでに国別の損失生存年数(years of life lost; YLL)や障害生存年数(years lived with disability; YLD)などのデータが公表されており、今回は最新の解析結果が報告された。Lancet誌オンライン版2015年8月27日号掲載の報告。1990~2013年の188ヵ国、306の疾病原因のDALY、HALEを評価 研究グループは、世界188ヵ国における1990~2013年の306種の傷病に関するDALYおよびHALEの評価を行った(Bill & Melinda Gates Foundationの助成による)。 既報のGBD 2013研究の年齢特異的死亡率、YLL、YLDのデータを用いて、1990、1995、2000、2005、2013年のDALYおよびHALEを算出した。 HALEの計算にはSullivan法を用い、国別、年齢別、性別、年度別の年齢特異的死亡率および1人当たりのYLDの不確定性を示す95%不確定性区間(uncertainty interval:UI)を算出した。 306の疾病原因に関する国別のDALYは、YLLとYLDの総和として推算し、YLL率とYLD率の不確定性を表す95%IUを算出した。 「疫学転換(epidemiological transition)」のパターンは、個人収入、15歳以降の学校教育の平均年数、総出生率、平均人口年齢から成る「社会的人口統計状況(sociodemographic status)」の複合指標で定量化した。 すべての国で疾病原因別のDALY率の階層的回帰分析を行い、社会的人口統計状況因子、国、年度に関する分散分析を行った。健康が増進しても保健システムへの需要は低下しない 世界的な出生時平均余命は、1990年の65.3年(95%UI:65.0~65.6)から2013年には71.5年(71.0~71.9)へと6.2年(5.6~6.6)延長した。 この間に、出生時HALEは56.9年(54.5~59.1)から62.3年(59.7~64.8)へと5.4年(4.9~5.8)上昇しており、総DALYは3.6%(0.3~7.4)減少し、10万人当たりの年齢標準化DALY率は26.7%(24.6~29.1)低下した。 1990年から2013年までに、感染性疾患、母体疾患、新生児疾患、栄養疾患の世界的なDALY、粗DALY率、年齢標準化DALY率はいずれも低下したのに対し、非感染性疾患の世界的なDALYは上昇しており、粗DALY率はほぼ一定で、年齢標準化DALY率は減少していた。 2005年から2013年の間に、心血管疾患や新生物などの特定の非感染性疾患のほか、デング熱、食物媒介吸虫類、リーシュマニア症のDALYが上昇したが、他のほぼすべての疾病原因のDALYは低下していた。2013年までのDALY上昇の5大原因は、虚血性心疾患、下気道感染症、脳血管疾患、腰頸部痛、道路交通傷害であった。 下痢/下気道感染症/他の一般的な感染性疾患、母体疾患、新生児疾患、栄養疾患、その他の感染性疾患/母体疾患/新生児疾患/栄養疾患、筋骨格系障害、その他の非感染性疾患の各国間の差や経時的な変動の50%以上は、社会的人口統計状況によって説明が可能であった。 一方、社会的人口統計状況は、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、肝硬変、糖尿病/泌尿生殖器疾患/血液疾患/内分泌疾患、不慮の外傷のDALY率の変動については10%も説明できなかった。 また、予測されたとおり、社会的人口統計状況の上昇により、負担がYLLからYLDへと転換しており、筋骨格系障害、神経障害、精神/物質使用障害によるYLLの減少およびYLDの上昇が、これを促進したと考えられる。 平均余命の上昇はHALEの上昇よりも大きく、DALYの主原因には各国間に大きなばらつきが認められた。 著者は、「世界の疾病負担は改善している」と結論し、「人口増加と高齢化がDALYを押し上げているが、粗DALY率には相対的に変化はなく、これは健康の増進は保健システムへの需要の低下を意味しないことを示している。社会的人口統計状況が疾病負担の変動をもたらすとする疫学転換の概念は有用だが、疾病負担には、社会的人口統計状況とは関係のない大きな変動が存在する」とまとめている。 また、「これは、保健政策の立案や関係者の行動に向けて適切な情報を提供するには、国別のDALYおよびHALEの詳細な評価が必要であることをいっそう強調するもの」と指摘している。

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