サイト内検索

検索結果 合計:241件 表示位置:1 - 20

1.

下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

2.

プライマリケアで利用可能な、新たな肝臓のリスク予測モデル/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のRickard Strandberg氏らの研究チームは、プライマリケアで容易に入手できるバイオマーカーを用いて、肝臓の不良なアウトカムのリスク予測モデル「CORE(cirrhosis outcome risk estimator)」を開発。観察研究により、COREは一般集団の肝関連アウトカムの予測において、現時点で第1選択として推奨される検査法であるFIB-4を上回る性能を発揮し、肝疾患リスク患者を層別化する新たな手段となりうることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年9月29日号に掲載された。COREで主要有害肝アウトカムの10年リスクを評価 研究チームは、プライマリケア環境で主要有害肝アウトカム(major adverse liver outcome:MALO)の発生を予測する新たなリスクモデルとしてCOREを開発し、その妥当性の検証目的で住民ベースのコホート研究を実施した(特定の助成は受けていない)。 モデル開発には、既知の肝疾患歴がなく、プライマリケアまたは産業保健健診で血液検査を受けたスウェーデンのAMORISコホート(48万651例)のデータを用いた。また、外的妥当性の検証は、フィンランドのFINRISKとHealth2000(2万4,191例)、および英国のUK Biobank(44万9,806例)のデータを用いて行い、FIB-4スコアと比較した。 COREは、年齢、性別、AST値、ALT値、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)値で構成された。 代償性・非代償性肝硬変、肝細胞がん、肝移植、肝関連死の複合アウトカムをMALOとし、その10年リスクを評価した。識別能、較正能、臨床的有用性が優れる 追跡期間中央値28年の時点で、7,168件のMALOイベントが観察された。10年時のMALO発生リスクは0.27%であった。 訓練データにおける10年後の受信者動作特性曲線下面積(ROC-AUC)は、FIB-4が79%(95%信頼区間[CI]:78~80)であったのに対し、COREは88%(95%CI:87~89)を達成し、識別能が優れることが示された。検証コホートにおける10年後のCOREのROC-AUC(FINRISK:81%[95%CI:77~87]、UK Biobank:79%[78~80])は訓練データよりも低かったが、FIB-4のROC-AUCは73%(データを入手できたUK Biobankの値)と訓練データのCOREよりも低かった。 COREの較正能は3つのコホートのすべてで良好であり、リスクの予測値と観察値に良好な一致を認めた。また、決定曲線分析では、あらゆるリスク閾値においてCOREはFIB-4よりも高い純利益(net benefit)をもたらすことが示され、優れた臨床的有用性が確認された。 著者は、「一般集団にはMALOのリスクの高い人々(とくに2型糖尿病や肥満者)が多く、肝硬変や肝細胞がんなどの重大な合併症が発生する前に患者を発見するには、安価でプライマリケアで容易に可能な非侵襲的検査が求められる」「COREは、将来のMALO予測に関してFIB-4を上回る性能を示し、プライマリケアにおいてMALOリスクを有する臨床的に重要な患者を特定するための有望な第1選択の検査法となる可能性がある」としている。

3.

第283回 B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連

B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンの糖尿病予防効果を示唆する台湾の研究者らの試験結果1)が、まもなく来週開催される欧州糖尿病学会(European Association for the Study of Diabetes:EASD)年次総会で報告されます2,3)。具体的には、HBVワクチンのおかげでHBVへの免疫が備わった人は、糖尿病全般を生じ難いことが示されました。高血糖が続いて心血管疾患、腎不全、失明などの深刻な事態を招く糖尿病の世界の患者数は昨年6億例弱を数え、このままなら2050年までに45%上昇して8億例を優に超える見込みです4)。当然ながら糖尿病治療の経済的な負担は甚大で、総医療費の12%を占めます。肝臓は体内の糖が一定に保たれるようにする糖恒常性維持の多くを担っています。空腹時にはグリコーゲン分解と糖新生により血糖値が下がりすぎないようにし、食後にはグリコーゲン合成によって余分な糖をグリコーゲンに変えて血糖値を抑えます。そのような糖恒常性をHBV感染が害するらしいことが先立つ研究で示唆されています。HBVのタンパク質の1つHBxが糖新生に携わる酵素の発現を増やして糖生成を促進し、糖を落ち着かせる働きを妨げるようです。HBV感染者はそうでない人に比べて糖尿病である割合が高いことを示す試験がいくつかありますし、約5年の追跡試験ではHBV感染と糖尿病を生じやすいことの関連が示されています5)。そういうことならワクチンなどでのHBV感染予防は糖尿病の予防でも一役担ってくれるかもしれません。実際、10年前の2015年に報告された試験では、HBVワクチン接種成功(HBsAb陽性、HBcAbとHBsAgが陰性)と糖尿病が生じ難くなることの関連が示されています6)。その糖尿病予防効果はワクチンがHBV感染を防いで糖代謝に差し障るHBV感染合併症(肝損傷や肝硬変)を減らしたおかげかもしれません。それゆえ、HBVワクチンの糖尿病予防効果がHBV感染予防効果と独立したものであるかどうかはわかっていません。その答えを見出すべく、台湾の台北医学大学のNhu-Quynh Phan氏らは、HBVに感染していない人の糖尿病発現がHBVへの免疫で減るかどうかをTriNetX社のデータベースを用いて検討しました。HBV感染を示す記録(HBsAgかHBcAbが陽性であることやHBVとすでに診断されていること)がなく、糖尿病でもなく、HBVへの免疫(HBV免疫)があるかどうかを調べるHBsAb検査の記録がある成人90万例弱の経過が検討されました。それら90万例弱のうち60万例弱(57万3,785例)はHBsAbが10mIU/mL以上(HBsAb陽性)を示していてHBV免疫を保有しており、残り30万例強(31万8,684例)はHBsAbが10mIU/mL未満(HBsAb陰性)でHBV免疫非保有でした。HBV感染者はすでに省かれているので、HBV免疫保有群はワクチン接種のおかげで免疫が備わり、HBV免疫非保有群はワクチン非接種かワクチンを接種したものの免疫が備わらなかったことを意味します。それら2群を比較したところ、HBV免疫保有群の糖尿病発現率は非保有群に比べて15%低くて済むことが示されました。さらにはHBV免疫がより高いほど糖尿病予防効果も高まることも示されました。HBsAbが100mIU/mL以上および1,000mIU/mL以上であることは、10mIU/mL未満に比べて糖尿病の発現率がそれぞれ19%と43%低いという結果が得られています。年齢、喫煙、糖尿病と関連する肥満や高血圧といった持病などを考慮して偏りが最小限になるようにして比較されましたが、あくまでも観察試験であり、考慮から漏れた交絡因子が結果に影響したかもしれません。たとえばワクチン接種をやり通す人は健康により気をつけていて、そもそも糖尿病になり難いより健康的な生活習慣をしているかもしれません。そのような振る舞いが結果に影響した恐れがあります。HBV免疫が糖尿病を防ぐ仕組みの解明も含めてさらなる試験や研究は必要ですが、HBVワクチンはB型肝炎と糖尿病の両方を防ぐ手立てとなりうるかもしれません。とくにアジア太平洋地域やアフリカなどのHBV感染と糖尿病のどちらもが蔓延している地域では手頃かつ手軽なそれらの予防手段となりうると著者は言っています1)。 参考 1) Phan NQ, et al. Diagnostics. 2025;15:1610. 2) Study suggests link between hepatitis B immunity and lower risk of developing diabetes / Eurekalert 3) Hepatitis B vaccine linked with a lower risk of developing diabetes / NewScientist 4) International Diabetes Federation / IDF Atlas 11th Edition 2025 5) Hong YS, et al. Sci Rep. 2017;7:4606. 6) Huang J, et al. PLoS One. 2015;10:e0139730.

4.

線維化を伴うMASH、efruxiferminが線維化を改善/Lancet

 中等度~重度の線維化を伴う代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)患者において、efruxifermin 50mg週1回投与はプラセボと比較し、96週時に線維化が改善した患者の割合が有意に高かった。米国・Houston Methodist HospitalのMazen Noureddin氏らが、米国の41施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「HARMONY試験」の96週時の評価結果を報告した。efruxiferminは、MASH治療薬として開発中の線維芽細胞増殖因子21(FGF21)アナログである。結果を踏まえて著者は、「第III相試験で、efruxiferminの有効性および安全性を評価することが望まれる」とまとめている。Lancet誌2025年8月16日号掲載の報告。MASH悪化を伴わない線維化ステージ1段階以上の改善、96週時の結果を報告 研究グループは、生検でMASH(「非アルコール性脂肪性肝疾患活動性スコア」が4以上、かつ脂肪化、風船様変性および小葉炎症のスコアが1以上と定義)が確認され、線維化ステージF2またはF3の成人(18~75歳)患者を、efruxifermin 28mg群、同50mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与した。 患者、治験担当医師、病理医、施設スタッフおよび治験依頼者は、投与群の割り付けについて盲検化された。 主要エンドポイントは、24週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上の改善で、この結果はすでに報告されている。本報告では、96週時の治療終了時評価として、主要エンドポイントの最終評価と、線維化悪化を伴わないMASHの消失等について解析した。 2021年3月22日~2022年2月7日に、128例が無作為化された。このうち126例がefruxiferminまたはプラセボを少なくとも1回投与され、修正ITT解析に組み入れられた。128例中79例(62%)が女性、49例(38%)が男性であった。96週時の改善、プラセボ群24%、efruxifermin 28mg群46%、同50mg群75% 修正ITT解析対象集団において、96週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージが1段階以上改善した患者の割合は、プラセボ群19%(8/43例)に対し、efruxifermin 28mg群が30%(12/40例)(プラセボ群との差:12%ポイント[95%信頼区間[CI]:-6~31]、p=0.19)、同50mg群が49%(21/43例)(同31%ポイント[12~49]、p=0.0030)であった。 96週時に生検を受けた88例においては、線維化ステージが1段階以上改善した患者が、プラセボ群で34例中8例(24%)であったのに対し、efruxifermin 28mg群では26例中12例(46%)(プラセボ群との差:22%ポイント[95%CI:-1~45]、p=0.070)、同50mg群では28例中21例(75%)(同52%ポイント[31~73]、p<0.0001)に認められた。 有害事象は、efruxifermin 28mg群で40例中38例(95%)、同50mg群で43例中43例(100%)、プラセボ群で43例中42例(98%)に報告された。efruxifermin群ではプラセボ群より軽度~中等度の胃腸障害が多くみられた。いずれの群でも、薬剤誘発性肝障害や死亡の報告はなかった。

5.

薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

6.

第273回 孤軍奮闘を迫られる、三次救急でのコロナ医療の現状

INDEX5類感染症移行から2年、コロナの現状日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解入院患者が増加する時期と患者傾向今も注意すべき患者像治療薬の選択順位ワクチン接種の話をするときの注意5類感染症移行から2年、コロナの現状今年もこの時期がやってきた。何かというと新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行期である。新型コロナは、一般的に夏と冬にピークを迎える二峰性の流行パターンを繰り返している。2025年の定点観測による流行状況を見ると、第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)は定点当たりの報告数が5.32人。冬のピークはこの翌週の2025年第2週(2025年1月6~12日)の7.08人で、この後は緩やかに減少していき、第21週(同5月19~25日)、第22週(同 5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び上昇に転じ、最新の第29週(同7月14~20日)は3.13人となっている。2023年以降、この夏と冬のピーク時の定点報告数は減少している。実例を挙げると、2024年の冬のピークは第5週(2024年1月29日~2月4日)の16.15人で、今年のピークはその半分以下だ。しかし、これを「ウイルスの感染力が低下した」「感染者が減少した」と単純に捉える医療者は少数派ではないだろうか?ウイルスそのものに関しては、昨年末時点の流行株はオミクロン株JN.1系統だったが、年明け以降は徐々にLP.8.1系統に主流が移り、それが6月頃からはNB.1.8.1系統へと変化している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium」によると、LP.8.1系統はJN.1系統と比べ、ウイルスそのものの感染力は低いながらも免疫逃避能力は高く、実効再生産数はJN.1とほぼ同等、さらにNB.1.8.1系統の免疫逃避能力はLP.8.1とほぼ同等、感染力と実効再生産数はLP.8.1よりも高いという研究結果が報告1)されている。ウイルスそのものは目立って弱くなっていないことになる。つまり、ピーク時の感染者が年々減少しているのは、結局は喉元過ぎれば何とやらで、そもそも呼吸器感染症を疑う症状が出ても受診・検査をしていない人が増えているからだろうと想像できる。そしてここ1ヵ月ほど臨床に関わる医師のSNS投稿を見ても感染者増の空気は読み取れる。おそらく市中のクリニック、拠点病院、大学病院などの高度医療機関では、感染者増の実態の中で見えてくる姿も変わってくるだろう。ということで新型コロナの感染症法5類移行後の実際の医療現場の様子の一端を聞いてみることにした。日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解場所は岡山県。同県は47都道府県中、人口規模は第20位(約183万人)で県庁所在地の岡山市は政令指定都市である。人口増加率と人口密度は第24位、人口高齢化率は第28位(31.4%)とある意味、日本国内平均的な位置付けにある。同県では県ホームページに公開された新型コロナの患者報告数や医療提供のデータを元に、感染症の専門家など5人の有志チームが分析コメントを加えた情報を毎週発表している。今回話を聞いたのは、有志メンバーである岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏と津山中央病院総合内科・感染症内科部長の藤田 浩二氏である。岡山大学病院は言わずと知れた特定機能病院で病床数849床、津山中央病院はへき地医療拠点病院で病床数489床。ともに三次救急機能を有する(岡山大学は高度救命救急センター)。ちなみに高齢化率で見ると、岡山市は27.2%と全国平均より低めなのに対し、中山間地域の津山市は32.4%と全国平均(29.3%)や岡山県全体よりも高い。まず感染の発生状況について萩谷氏は「保健所管内別のデータを見れば数字上は地域差もあるものの、その背景は率直に言ってわからない。かつてと違い、今はとくに若年者を中心に疑われてもほとんど検査をしないのが現状ですから」と話す。藤田氏も「定点報告は、あくまでも検査で捕捉されたものが数字として行政に届けられたものだけで、検査をしない、医療機関を受診しない、あるいは受診しても検査をしてないなどの事例があるため、実態との間に相当ロスがある。あくまでも低く見積もってこれぐらいという水準に過ぎません」とほぼ同様の見解を示した。ただ、藤田氏は「大事なのは入院患者数。この数字は誤魔化せない」とも指摘した。入院患者が増加する時期と患者傾向では新型コロナの入院実態はどのようなものなのか? 萩谷氏は「大学病院では90代で従来から寝たきりの患者などが搬送されてくることはほぼありません。むしろある程度若年で大学病院に通院するような移植歴や免疫抑制状態などの背景を有する人での重症例、透析歴があり他院で発症し重症化した例などが中心。ただ、ここ数ヵ月で見れば、そのような症例の受診もありません」とのこと。一方で地域の基幹病院である津山中央病院の場合、事情は変わってくる。藤田氏は「通年で新型コロナの入院患者は発生しているが、お盆期間やクリスマスシーズン・正月はその期間も含めた前後の約1ヵ月半に70~80歳の年齢層を中心に、延べ100人強の入院患者が発生する」と深刻な状況を吐露した。また、高齢の新型コロナ入院患者の場合、新型コロナそのものの症状の悪化以外に基礎疾患の悪化、同時期には地域全体で感染者が増加することから後方支援病院でも病床に余裕がないなどの理由から、入院は長期化しがち。藤田氏は「こうした最悪の時期は平均在院日数が約1ヵ月。一般医療まで回らなくなる」との事情も明かす。さらに問題となるのは致死率。現在のオミクロン系統での感染者の致死率は全年齢で0.1%程度と言われるものの「基礎疾患のある高齢者が入院患者のほとんどを占めている場合の致死率は5~10%。昨年のお盆シーズンは9%台後半だった」という。今も注意すべき患者像こうしたことから藤田氏は「新型コロナではハイリスク患者の早期発見・早期治療の一点に尽きる」と強調。「医療者の中にも、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症診療の手引きの記述を『症状が軽い=リスクが低い』のような“誤読”をしている人がいます。しかし、基礎疾患がある方で今日の軽症が明日の軽症を保証しているわけではありません。率直に言うと、私たちの場合、PCR検査などで陽性になりながら、まだ軽症ということで解熱薬を処方され、経過観察中に症状悪化で救急搬送された事例を数多く経験しています。軽症の感染者を一律に捉えず、ハイリスク軽症者の場合は早期治療開始で入院を防ぐチャンスと考えるべき」と主張する。藤田氏自身は、新型コロナのリスクファクターの基本とも言える「高齢+基礎疾患」に基づき、年齢では60代以降、基礎疾患に関してはがん、免疫不全、COPDなどの肺疾患、心不全、狭心症などの心血管疾患、肝硬変などの肝臓疾患、慢性腎臓病(透析)、糖尿病のコントロール不良例などでは経口抗ウイルス薬の治療開始を考慮する。前述の萩谷氏も同様に年齢+基礎疾患を考慮するものの「たとえば60代で高血圧、糖尿病などはあるもののある程度これらがコントロールできており、最低でもオミクロン系統までのワクチン接種歴があれば、対症療法のみに留まることも多い」と説明する。治療薬の選択順位現在、外来での抗ウイルス薬による治療の中心となるのは、(1)ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)、(2)モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、(3)エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の3種類。この使い分けについては、藤田氏、萩谷氏ともに選択考慮順として、(1)⇒(2)⇒(3)の順で一致する。藤田氏は「もっとも重視するのはこれまで明らかになった治療実績の結果、入院をどれだけ防げたかということ。この点から必然的に第一選択薬として考慮するのはニルマトレルビル/リトナビルになる」と語る。もっとも国内での処方シェアとしては、(3)、(2)、(1)の順とも言われている。とくにエンシトレルビルに関しては3種類の中で最低薬価かつ処方回数が1日1回であることが処方件数の多い理由とも言われているが、萩谷氏は「重症化予防が治療の目的ならば、1日1回だからという問題ではなく、重症化リスクを丁寧に説明し、何とか服用できるように対処・判断をすべき」と強調する。また、モルヌピラビルについては、併用禁忌などでニルマトレルビル/リトナビルの処方が困難な場合、あるいはそうしたリスクが評価しきれない重症化リスクの高い人という消去法的な選択になるという点でも両氏の考えは一致している。また、萩谷氏は「透析歴があり、診察時は腎機能の検査値がわからない、あるいは腎機能が低過ぎてニルマトレルビル/リトナビルの低用量でも処方が難しい場合もモルヌピラビルの選択対象になる」とのことだ。ワクチン接種の話をするときの注意一方、最新の厚労省の人口動態統計でも新型コロナの死者は3万人超で、インフルエンザの10倍以上と、その深刻度は5類移行後も変わらない。そして昨年秋から始まった高齢者を対象とする新型コロナワクチンの接種率は、医療機関へのワクチン納入量ベースで2割強と非常に低いと言われている。ワクチン接種について藤田氏は「実臨床の感覚として接種率はあまり高くないという印象。医師としてどのような方に接種してほしいかと言えば、感染した際に積極的に経口抗ウイルス薬を勧める層になります。実際の診療で患者さんに推奨するかどうかについては、そういう会話になれば『こういう恩恵を受けられる可能性があるよ』と話す感じでしょうか。とにかくパンデミックを抑えようというフェーズと違って、今は年齢などにより受けられる恩恵が違うため、一律な勧め方はできません」という。萩谷氏も「やはり年齢プラス基礎疾患の内服薬の状況を考え、客観的にワクチンのメリットを伝えることはあります。とくに過去にほかの急性感染症で入院したなどの経験が高い人は、アンテナが高いので話しやすいですね。ただ、正直、コロナ禍の経験に辟易している患者さんもいて、いきなり新型コロナワクチンの話をすると『また医者がコロナの話をしている』的に否定的な受け止め方をされることも少なくないので、高齢者などには肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンなどと並べてコロナワクチンもある、と話すことを心がけている」とかなり慎重だ。現在の世の中はかつてのコロナ禍などどこ吹く風という状況だが、このようにしてみると、喉元過ぎて到来している“熱さ”に、一部の医療者が人知れず孤軍奮闘を迫られている状況であることを改めて認識させられる。 参考 1) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e443.

7.

コンサルテーション―その3【脂肪肝のミカタ】第6回

コンサルテーション―その3Q. 肝がんスクリーニングをいかに行うべきか?本邦の『NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)』では、肝生検で肝線維化ステージF0-1(もしくはエラストグラフィでF0-1相当)であった場合は生活習慣の改善を指導し、エラストグラフィは1年後の再評価を考慮する、と記されている。肝硬変の場合には本邦の『肝癌診療ガイドライン』に準じ、6ヵ月ごとの腹部超音波検査、6ヵ月ごとの腫瘍マーカー(AFPやPIVKAII)の測定を行い、肝がんスクリーニングを推奨している。代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)由来の肝がんの特徴として、AFPよりPIVKAIIの陽性率が高いとされる。男性で線維化ステージF2以上(もしくはエラストグラフィでF2相当以上)、女性で線維化ステージF3以上(もしくはエラストグラフィでF3相当以上)は肝がんのリスクがあるため、6~12ヵ月ごとの腹部超音波検査を考慮するとされている(図)1)。図. 肝線維化進展例の絞り込みフローチャート(本邦における肝がんのサーベイランス)画像を拡大する現時点で、MASLD由来の肝硬変症例の画像スクリーニングを、どのような間隔で、どの検査を行うべきか、確立したものはない。医療経済や保健医療制度まで考慮したスクリーニング方法の構築が今後の課題と言える。1)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.

8.

Capnocytophaga spp.【1分間で学べる感染症】第29回

画像を拡大するTake home messageCapnocytophaga spp.は、脾機能低下患者において敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことのある重要な起因菌である。今回は、とくに脾機能低下患者において重篤な病態を引き起こす可能性のあるCapnocytophaga spp.(カプノサイトファーガ属細菌)に関して一緒に学んでいきましょう。種類Capnocytophaga属にはC. canimorsus、C. sputigena、C. cynodegmiなどが含まれ、全部で9種類存在します。これらは動物由来(zoonotic)とヒト口腔内常在菌(human-oral associated)の2つに分類されます。C. canimorsusはイヌやネコの咬傷によってヒトに感染することが多い一方で、C. gingivalis、C. sputigenaはヒトの口腔内に存在します。微生物学的特徴Capnocytophaga spp.は通性嫌気性のグラム陰性桿菌であり、発育が遅いのが特徴です。また、グラム染色では特徴的な紡錘型を示すとされています。さらに、莢膜を持つことは微生物学的にも臨床上も重要なキーワードです。莢膜を持つことが、後から述べる解剖学的または機能的無脾症患者において重篤な病態を引き起こす理由となっています。リスク因子Capnocytophaga spp.による感染症のリスク因子として、解剖学的または機能的無脾症、血液悪性腫瘍、過度のアルコール摂取、肝硬変が挙げられます。無脾症患者や肝疾患のある患者は、脾臓が担う莢膜菌に対するオプソニン化と貪食促進の欠如により感染症が重症化しやすいため、早期の診断と治療が求められます。臨床像Capnocytophaga spp.は、動物由来であればイヌやネコなどの動物咬傷による皮膚軟部組織感染、また重篤な場合は敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことがあります。一方、ヒト口腔内常在菌によるものでは、血液悪性腫瘍患者における好中球減少性発熱やカテーテル関連感染症などを来します。それぞれのリスクに応じて、これらを鑑別疾患に挙げる必要があります。薬剤感受性Capnocytophaga spp.は一般的にβ-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害薬に感受性を示します。具体的には、アンピシリン/スルバクタムやタゾバクタム/ピペラシリン、また、セフトリアキソン、カルバペネム系抗菌薬も有効です。一方で、フルオロキノロン系抗菌薬に対しては50%の耐性を示すことが報告されているため、治療選択の際には注意が必要です。上記のリスクを有する患者で動物咬傷の病歴があったり、血液悪性腫瘍患者で血液培養からグラム陰性桿菌を見たりした際には鑑別疾患の1つとしてCapnocytophaga spp.による菌血症を挙げ、治療を遅らせないことが重要です。1)Jolivet-Gougeon A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2000;44:3186-3188.2)Butler T. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015;34:1271-1280.3)Chesdachai S, et al. Open Forum Infect Dis. 2021;8:ofab175.

9.

SGLT2阻害薬が脂肪肝の改善に有効か

 SGLT2阻害薬(SGLT2-i)と呼ばれる経口血糖降下薬が、脂肪肝の治療にも有効な可能性を示唆する研究データが報告された。慢性的な炎症を伴う脂肪肝が生体検査(生検)で確認された患者を対象として行われた、南方医科大学南方医院(中国)のHuijie Zhang氏らの研究の結果であり、詳細は「The BMJ」に6月4日掲載された。 論文の研究背景の中で著者らは、世界中の成人の5%以上が脂肪肝に該当し、糖尿病や肥満者ではその割合が30%以上にも及ぶと述べている。脂肪肝を基に肝臓の慢性的な炎症が起こり線維化という変化が進むにつれて、肝硬変や肝臓がんのリスクが高くなってくる。 一方、これまでに行われた複数の研究から、尿中へのブドウ糖排泄を増やすことで血糖値を下げるSGLT2-iに、脂肪肝を改善する作用のあることが示されている。ただしそれらの研究では、画像検査や血液検査によって脂肪肝の存在が推定される患者を対象としていた。それに対して今回報告された研究は、脂肪肝の中でも慢性炎症が起きている、よりハイリスクな状態である代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を、生検によって診断した患者を対象に行われた。著者らによると、生検でMASHが確認された患者を対象としてSGLT2-iの効果を検討した研究は、これが初めてだという。 中国国内の三次医療機関6施設で、MASHと診断された成人154人をランダムに2群に分け、1群をSGLT2-iの一種であるダパグリフロジン(10mg)群、他の1群をプラセボ群として48週間介入した。参加者の平均年齢は35.1±10.2歳で、BMIは29.2±4.3であり、2型糖尿病が45%を占めていた。また、肝疾患の活動性を表すスコア(NAS)は6.0±1.1で、肝線維化ステージはF1が33%、F2が45%、F3が19%だった。 主要評価項目である、肝線維化の悪化(線維化ステージの進行)を伴わないMASHの改善(NASが2点以上低下、または3点以下になること)は、ダパグリフロジン群では53%、プラセボ群では30%に認められ、前者で有意に多かった(リスク比〔RR〕1.73〔95%信頼区間1.16~2.58〕)。また副次評価項目として設定されていた、肝線維化の悪化を伴わないMASHの寛解は、同順に23%、8%(RR2.91〔同1.22~6.97〕)、MASHの悪化を伴わない線維化の改善は、45%、20%であり(RR2.25〔1.35~3.75〕)、いずれもダパグリフロジン群に多く認められた。なお、有害事象によって治療を中止した患者の割合は、1%、3%だった。 著者らは、「われわれの研究結果は、ダパグリフロジンが肝臓の脂肪化と線維化の双方を改善し、MASHの経過に有意な影響を及ぼす可能性を示唆している。これらの効果を確認するために、より大規模かつ長期間の臨床研究が求められる」と述べている。

10.

サルコペニア・フレイル、十分なエビデンスのある栄養療法とは?初の栄養管理ガイドライン刊行

 サルコペニア・フレイルに対し有効性が示された薬物療法はいまだなく、さまざまな栄養療法の有効性についての報告があるが、十分なエビデンスがあるかどうかは明確になっていない。現時点でのエビデンスを整理することを目的に包括的なシステマティックレビューを実施し、栄養管理に特化したガイドラインとしては初の「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」が2025年4月に刊行された。ガイドライン作成組織代表を務めた葛谷 雅文氏(名鉄病院)に、ガイドラインで推奨された栄養療法と、実臨床での活用について話を聞いた。「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A」とされた栄養素は 本ガイドラインでは、4つのエネルギー産生栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、アミノ酸)、2つの微量栄養素(ビタミン、ミネラル)、およびプロ・プレバイオティクスについて、サルコペニア・フレイルの治療に対する介入の有効性が検討された。その中で、エビデンスが十分にあり強い推奨(推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A)とされたのは、以下の2つのステートメントである:サルコペニアならびにフレイルへのたんぱく質の栄養介入は、特に運動療法との併用において筋肉量と筋力を改善することが示されており、行うことを推奨する(CQ4a) 葛谷氏は、「今までの観察研究で十分なたんぱく質の摂取がサルコペニアやフレイルの予防に重要であるという報告は蓄積されている。一方、すでにサルコぺニアやフレイルに陥っている対象者へのたんぱく質の栄養介入のみによる確実性の高いエビデンスは十分ではなく、運動との併用による明確な効果が、システマティックレビューの結果示された」と説明。実臨床でのたんぱく質摂取の指導に関しては、1食当たり25g(=75g/日)または1.2 g/kg体重/日を目安として「肉や魚100g当たりたんぱく質は1~2割程度」と説明することが多いとし、1日トータルで必要量をとることも大切だが、朝昼晩の各食事でまんべんなく摂取することが重要とした。また、とにかく肉を食べなければいけないというイメージが根強いが、魚や大豆製品・チーズなどの乳製品からも摂取は可能であり、日本人の食生活として取り入れることが難しいものではないと話した。サルコペニアへのロイシンおよびその代謝産物であるHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)を主としたアミノ酸を含む栄養介入は、筋肉量、筋力、身体機能を改善するため、行うことを推奨する(CQ5a) ロイシンはたんぱく質を構成する必須アミノ酸の1つで、とくにサプリメントからの摂取について多くのエビデンスが蓄積されている。ただし実臨床では、サプリメントの活用も1つの選択肢ではあるものの、まずは食品からの摂取が推奨されると葛谷氏は話し、その際の目安として「アミノ酸スコア」が参考になるとした。「アミノ酸スコア」は各食品に含まれる必須アミノ酸の含有バランスを評価した指標。スコアの最大値は100で、100に近いほど質の高いたんぱく質源とされる。スコア100の食品の例としては、牛肉・豚肉・鶏肉、魚類、牛乳、卵、豆腐などがある。 その他の栄養素については、「サルコペニアへのビタミンDの単独介入の効果は明らかでないが、ビタミンD不足状態にあるときの運動やたんぱく質との複合介入は筋力や身体機能の改善への効果が期待できるため、行うことを推奨する(CQ6a)」が、「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B」とした。葛谷氏は、疫学的にはビタミンD欠乏がサルコペニアと関連するという報告はあるが、ビタミンDを強化することによる筋力に対する効果についてのエビデンスはまだ十分ではないとし、ステートメントにあるように、不足状態にあるときに運動やたんぱく質と組み合わせた複合介入をすることが望ましいと話した。CKD、肝硬変、心不全など併存疾患がある場合の栄養療法 本ガイドラインでは、慢性腎臓病(CKD)、肝硬変、慢性心不全、慢性呼吸不全(COPDなど)、糖尿病の5つの疾患を取り上げ、これらを伴うサルコペニアとフレイルの予防・治療に対する栄養療法についてもCQを設定してシステマティックレビューを実施している。この中で「推奨の強さ:強」とされたのは、肝硬変患者および糖尿病患者に対する以下の4つのステートメントであった。[肝硬変]・合併するサルコペニア・フレイルに対する就寝前補食や分岐鎖アミノ酸の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A]・合併するサルコペニア・フレイルに対するHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B]・サルコペニア・フレイルを合併した肝硬変患者の転帰(入院期間や感染症、およびADL)改善を目的としたHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14c、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B][糖尿病]・サルコペニア・フレイルを合併した2型糖尿病患者に対し、身体機能の改善を目的とした栄養指導とレジスタンス運動の併用[CQ17b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B] 葛谷氏は、「領域によってエビデンスが十分ではない部分があることが明らかになった」と話し、今後のエビデンス蓄積に期待を寄せた。サルコペニア・フレイルの診断時点ではまだ引き返せる、早めの介入を 高齢患者の中にはまだメタボを過度に気にする人がいると葛谷氏は話し、「メタボの概念は非常に重要なものではあるが、75歳以上の高齢者では頭を切り替える必要がある」とした。高齢になって体重が減少し始めた時点およびフレイル・サルコペニアの診断がついた時点ではまだ可逆的な状況である可能性が高いので、食事・運動療法および社会性を保つための介入が重要となると指摘した。 また同領域の研究の進捗に関して、今回のシステマティックレビューの結果、各栄養素単体の摂取の有効性についてのエビデンスはまだまだ不足していることが明らかになったと話し、前向き研究・介入研究が不足しているとした。さらに栄養療法の実施による、身体機能障害や入院・死亡といった転帰不良に対する効果を検証する介入研究が、今後必要となるだろうと展望を述べた。

11.

脂肪性肝疾患の診療のポイントと今後の展望/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年登場する糖尿病治療薬は、血糖降下、体重減少作用だけでなく、心臓、腎臓、そして、肝臓にも改善を促す効果が報告されているものがある。 そこで本稿では「シンポジウム2 糖尿病治療薬の潜在的なポテンシャル:MASLD」より「脂肪性肝疾患診療は薬物療法の時代に-糖尿病治療薬への期待-」(演者:芥田 憲夫氏[虎の門病院 肝臓内科])をお届けする。脂肪性肝疾患の新概念と診療でのポイント 芥田氏は、初めに脂肪性肝疾患の概念に触れ、肝疾患の診療はウイルス性肝疾患から脂肪性肝疾患(SLD)へとシフトしていること、また、SLDについても、近年、スティグマへの対応などで世界的に新しい分類、名称変更が行われていることを述べた。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれてきた疾患が、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)へ変わり、アルコールの量により代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated[alcohol-related] liver disease:ALD)に変更された。 MASLDの診断は、3つのステップからなり、初めに脂肪化の診断について画像検査や肝生検で行われる。次に心代謝機能の危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の有無(1つ以上)、そして、他の肝疾患を除外することで診断される。CMRFでは、BMIもしくは腹囲、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールの基準を1つ以上満たせば確定診断される。とくに腹囲基準の問題については議論があったが、腹囲はMASLD診断に大きく影響しないということで現在は原典に忠実に「男性>94cm、女性>80cm」とされている。 肝臓の診療で注意したいのは、肝臓だけに注目してはいけないことである。エタノール摂取量別に悪性腫瘍の発症率をみるとMASLDで0.05%、MetALDで0.11%、ALDで0.21%という結果だった。アルコール摂取量が増えれば発がん率も上がるという結果だが、数字としては大きくないという。現在は4人に1人が脂肪肝と言われる時代であり、いずれSLDが肝硬変の1番の原因となる日が来ると予想されている。 また、MASLDで実際に起きているイベントとしては、心血管系イベントが多いという。自院の統計では、MASLDの患者で心血管系イベントが年1%発生し、他臓器悪性疾患は0.8%、肝がんを含む肝疾患イベントが0.3%発生していた。以上から「肝臓以外も診る必要があることを覚えておいてほしい」と注意を促した。 その一方で、わが国では心血管系イベントで亡くなる人が少ないといわれており、その理由として健康診断、保険制度の充実により早期発見、早期介入が行われることで死亡リスクが低減されていると指摘されている。「肝臓に線維化が起こっていない段階では、心血管系リスクに注意をする必要があり、線維化が進行すれば肝疾患、肝硬変に注意する必要がある」と語った。 消化器専門医に紹介するポイントとして、FIB-4 indexが1.3以上であったら専門医へ紹介としているが、この指標により高齢者の紹介患者数が増加することが問題となっている。そこで欧州を参考にFIB-4 indexの指標を3つに分けてフォローとしようという動きがある。 たとえばFIB-4 indexが1.3を切ったら非専門医によるフォロー、2.67を超えたら専門医のフォロー、その中間は専門・非専門ともにフォローできるというものである。エコー、MRI、採血などでフォローするが、現実的にはわが国でこのような検査ができるのは専門医となる。 現在、ガイドライン作成委員会でフローチャートを作成しているところであり、大きなポイントは、いかにかかりつけ医から専門医にスムーズに紹介するかである。1次リスク評価は採血であり、各段階のリスク評価で専門性は上がっていき、最後に専門医への紹介となるが、検査をどこに設定するかを議論しているという。MASLDの薬物治療の可能性について 治療における進捗としては、MASLDの薬物治療薬について米国で初めて甲状腺ホルモン受容体β作動薬resmetirom(商品名:Rezdiffra)が承認された。近い将来、わが国での承認・使用も期待されている。 現在、わが国でできる治療としては、食事療法と運動療法が主流であり、食事療法についてBMI25以上の患者では体重5~7%の減少で、BMI25未満では体重3~5%の減少で脂肪化が改善できる。食事療法では地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)が勧められ、炭水化物と飽和脂肪酸控えめ、食物繊維と不飽和脂肪酸多めという内容である。米国も欧州も地中海食を推奨している。 自院の食事療法のプログラムについて、このプログラムは多職種連携で行われ、半年で肝機能の改善、体重も3~5%の減少がみられたことを報告した。すでに1,000人以上にこのプログラムを実施しているという。また、HbA1c、中性脂肪のいずれもが改善し、心血管系のイベント抑制効果が期待できるものであった。そして、運動療法については、中等度の運動で1日20分程度の運動が必要とされている。 基礎疾患の治療について、たとえば2型糖尿病を基礎疾患にもつ患者では、肝不全リスクが3.3倍あり、肝がんでは7.7倍のリスクがある。こうした基礎疾患を治療することで、これらのリスクは下げることができる。 そして、今注目されている糖尿病の治療薬ではGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、肝炎の活動性と肝臓の線維化の改善に効果があり、主要評価項目を改善していた。このためにMASLDの治療について、わが国で使われる可能性が高いと考えられている。 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、第II相試験でMASLDの治療について主要評価項目の肝炎活動性の改善があったと報告され、今後、次の試験に進んでいくと思われる。 SGLT2阻害薬について、自院では5年の長期使用の後に肝生検を実施。その結果、「肝臓の脂肪化ならびに線維化が改善されていた」と述べた。最大の効果は、5年の経過で3 point MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)がなかったことである。また、これからの検査は肝生検からエコーやMRIなどの画像検査に移行しつつあり、画像検査は肝組織をおおむね反映していたと報告した。 おわりに芥田氏は、「MASLDの診療では、肝疾患イベント抑制のみならず、心血管系のイベント抑制まで視野に入れた治療の時代を迎えようとしている」と述べ、講演を終えた。

12.

MASH代償性肝硬変に対するefruxiferminの有用性(解説:相澤良夫氏)

 臨床肝臓病学の関心は、HCVを含む慢性ウイルス肝炎からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の治療に移りつつある。慢性C型肝炎/肝硬変は、抗ウイルス薬の進歩により激減しHCVの根絶も視野に入っているが、わが国に相当数存在するMASHに対し直接的に作用する治療薬は、今のところ保険収載されていない。しかし、中等度以上の線維化を伴うMASHは進行性の病態であり、MASH治療薬の登場が待ち望まれている。 このアンメットニーズに対して、米国FDAは肝硬変以外の中等度から高度の肝線維化を伴うMASH に対し、食事療法や運動療法と共に使用する肝臓指向性THR-βアゴニストのresmetirom(1日1回経口投与)を承認し、MASHの成因に根差した新たな治療戦略が確立されつつある。 efruxiferminを含むFGF(線維芽細胞増殖因子)21アナログはホルモン様の作用があり、さまざまな臓器に作用して糖・脂質代謝を改善する薬剤で、resmetiromと同様にMASHに対する治療効果が期待されている。今回のMASH代償性肝硬変を対象とした36週間の臨床試験(週1回の皮下注射)では線維化改善効果は認めなかったが、より長期(96週間)に治療された症例では有害事象の増加なしに疾患活動性が制御され、線維化が改善する可能性が強く示された。今後は、エンドポイントを96週あるいはさらに長期に設定した治療研究が期待される。 C型代償性肝硬変では、HCVが排除されてから長期間(5年程度)経過すれば肝硬変の線維化が改善することが示されている。今回の試験では、同様の事象がMASH肝硬変でも生じる可能性が示され、従来は非可逆的な病変とされていた肝硬変も可逆的な病変で、病因が長期にわたって制御されれば改善しうる可逆性の病変であるという、パラダイムシフトが起こりつつあることが実感された。 なお、この研究には燃え残り(肝臓の線維化が進んで脂肪沈着が減少、消失した状態)のMASH肝硬変も20%未満含まれ、治療効果は典型的なMASHと差がなかった。この結果は、多様な薬理作用を有するefruxiferminの汎用性を示唆するものと考えられ、efruxiferminを含むFGF21アナログ製剤やTHR-βアゴニストがわが国の臨床現場でも早急に使用できるようになることが期待される。

13.

疫学・自然経過―その2【脂肪肝のミカタ】第3回

疫学・自然経過―その2Q. 肝臓だけではない、イベント数の実態は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は肝臓だけの病気と考えるべきではない。肝硬変や肝がんを含む肝疾患イベントよりも、心血管系イベントや肝臓以外の悪性疾患患者のほうが多いとされる(図2)。(図2) 虎の門病院で組織学的にMASLDと診断された552例における各種イベント発生頻度画像を拡大する肝外悪性疾患では、男性で大腸がん、女性で乳がんのリスクが増加することが示されており、健康診断や人間ドック等による、年齢に応じた悪性疾患のスクリーニングの重要性も啓発していく必要がある1-4)。また、心血管系リスク症例の絞り込みも重要な課題である。動脈硬化性疾患予防ガイドラインで、動脈硬化性心血管疾患の発症予測モデルとして採用されているスコアなどの活用も検討されるべきである5)。MASLDは背景にメタボリックシンドロームが存在するため、肝臓の線維化の状態に寄らず、常に心血管系イベントや肝臓以外の悪性疾患にも注意を払う必要がある。とくに、肝臓の線維化が進行していない症例では、心血管や肝臓以外の悪性疾患のイベントのほうが目立ち、肝臓の線維化進行例では肝硬変や肝がんを含む肝疾患イベントのほうが目立つ6)。すなわち、イベントの頻度は相対的に考えるべきといえる(図3)。(図3)MASLDからの各種イベントの実態画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.4)Akuta N, et al. BMC Gastroenterol. 2021;21:434.5)日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022.6)Vuppalanchi R,et al. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2021;18:373-392.

14.

世界の主要な20の疾病負担要因、男性の健康損失が女性を上回る

 2021年の世界疾病負担研究(GBD 2021)のデータを用いた新たな研究で、女性と男性の間には、疾病負担の主要な20の要因において依然として格差が存在し、過去30年の間にその是正があまり進んでいないことが示された。全体的に、男性は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や交通事故など早期死亡につながる要因の影響を受けやすいのに対し、女性は筋骨格系の疾患や精神障害など致命的ではないが長期にわたり健康損失をもたらす要因の影響を受けやすいことが示されたという。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のVedavati Patwardhan氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Public Health」5月号に掲載された。 Patwardhan氏らは、GBD 2021のデータを用いて、1990年から2021年における10歳以上の人を対象に、世界および7つの地域における上位20の疾病負担要因の障害調整生存年(DALY)率について、男女別に比較した。DALYとは、障害や疾患などによる健康損失を考慮して調整した指標であり、1DALYとは1年間の健康な生活の損失を意味する。20の疾病負担要因は、COVID-19、心筋梗塞、交通事故、脳卒中、呼吸器がん、肝硬変およびその他の慢性肝臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰痛、うつ病、結核、頭痛、不安症(不安障害)、筋骨格系疾患、転倒、下気道感染症、慢性腎臓病、アルツハイマー病およびその他の認知症、糖尿病、HIV/エイズ、加齢性難聴およびその他の難聴であった。 その結果、2021年では、検討した20要因のうちCOVID-19や肝臓病など13要因で男性のDALYは女性よりも高いことが推定された。男女差が最も顕著だったのはCOVID-19で、年齢調整DALY(10万人当たり)は男性で3,978、女性で2,211であり、男性の健康負担は女性に比べて44.5%高かった。COVID-19の負担は地域を問わず男性の方が高かったが、特に差が大きかったのはサハラ以南のアフリカ、ラテンアメリカ諸国、カリブ海諸国だった。 DALYの男女差の絶対値が2番目に大きかった要因は心筋梗塞で、10万人当たりのDALYは男性で3,599、女性で1,987であり、男性の健康負担は女性より44.7%高かった。地域別に見ると、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジアでは男女差が大きかった。 また、女性に比べて男性に多い要因は、年齢が低いほどリスク増加が小さい傾向が認められたが、交通事故による負傷は例外であり、世界中で10〜24歳の若い男性で不釣り合いに多く発生していた。 一方、女性は長期的な健康損失をもたらす疾患において男性よりもDALYが高い傾向が見られた。特にDALYの男女差が顕著だったのは、腰痛(絶対差478.5)、うつ病(同348.3)、頭痛(332.9)であった。また、女性には、人生の早い段階からより深刻な症状に悩まされ、その症状は年齢とともに悪化する傾向も認められた。 論文の共著者である米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のGabriela Gil氏は、「女性の健康損失の大きな要因、特に筋骨格系疾患と精神疾患は十分に注目されているとは言えない。女性のヘルスケアに対しては、性や生殖に関する懸念などこれまで医療制度や研究資金が優先してきた領域を超えた、より広範な取り組みが必要なことは明らかだ」と述べている。 論文の上席著者であるIHMEのLuisa Sorio Flor氏は、「これらの結果は、女性と男性では経時的に変動したり蓄積されたりする多くの生物学的要因と社会的要因が異なっており、その結果、人生の各段階や世界の地域ごとに経験する健康状態や疾患が異なることを明示している」との見方を示す。その上で、「今後の課題は、性別やジェンダーを考慮した上で、さまざまな集団において、早期から罹患率や早期死亡の主な原因を予防・治療する方法を設計して実施し、評価することだ」と述べている。

15.

MASHによる代償性肝硬変、efruxiferminは線維化を改善せず/NEJM

 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)による代償性肝硬変患者において、efruxiferminは36週時点で線維化の有意な改善を示さなかった。米国・Houston Methodist HospitalのMazen Noureddin氏らが、米国、プエルトリコおよびメキシコの45施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SYMMETRY試験」の結果を報告した。線維芽細胞増殖因子21(FGF21)アナログであるefruxiferminは、MASHによる線維化ステージ2または3の患者を対象とした第II相試験において線維化の軽減とMASHの消失が認められたが、MASHによる代償性肝硬変(線維化ステージ4)の患者における有効性と安全性に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2025年5月9日号掲載の報告。主要アウトカムは36週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上改善 SYMMETRY試験の対象は、18~75歳、MASHと一致する肝組織学的所見が認められ、Child-Pughスコアが5または6(Child-Pugh分類A)、線維化ステージ4の代償性肝硬変患者であった。 加えて、2型糖尿病、またはメタボリックシンドロームの構成要素(肥満、脂質異常症、高血圧、空腹時血糖上昇)のうち2つ以上を有していることを要件とした。 研究グループは、適格患者をefruxifermin 28mg群、50mg群、またはプラセボ群に、1対1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回皮下投与した。 主要アウトカムは、36週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上の改善、副次アウトカムは、96週時の同様の改善、ならびに36週および96週時におけるMASHの消失とした。主要アウトカムはITT解析により評価された。36週時の改善、プラセボ群13%、efruxifermin 28mg群18%、50mg群19% 2021年12月21日~2022年12月16日に182例が無作為化され、このうちefruxiferminまたはプラセボの投与を受けた181例がITT解析集団および安全性解析対象集団に含まれた。36週時に154例、96週時に134例で肝生検が行われた。 36週時にMASHの悪化を伴わず線維化が改善した患者の割合は、プラセボ群で13%(8/61例)、efruxifermin 28mg群で18%(10/57例)(層別因子補正後のプラセボ群との差:3%ポイント[95%信頼区間[CI]:-11~17]、p=0.62)、50mg群で19%(12/63例)(プラセボ群との差:4%ポイント、95%CI:-10~18、p=0.52)であった。 96週時にMASHの悪化を伴わず線維化が改善した患者の割合は、それぞれ11%(7/61例)、21%(12/57例)(プラセボ群との差:10%ポイント、95%CI:-4~24)、29%(18/63例)(プラセボ群との差:16%ポイント、95%CI:2~30)であった。 有害事象は、efruxifermin両群で99%、プラセボ群で97%の患者に発現した。efruxifermin群でプラセボ群より発現が多かった有害事象は、主に胃腸障害(下痢、悪心、食欲亢進)であり、ほとんどは軽度または中等度であった。

16.

入院させてほしい【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第6回

入院させてほしいPointプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をACSCsという。ACSCsによる入院の割合は、プライマリ・ケアの効果を測る指標の1つとされている。病診連携、多職種連携でACSCsによる入院を減らそう!受け手側は、紹介側の事情も理解して、診療にあたろう!症例80歳女性。体がだるい、入院させてほしい…とA病院ERを受診。肝硬変、肝細胞がん、2型糖尿病、パーキンソン病などでA病院消化器内科、内分泌内科、神経内科を受診していたが、3科への通院が困難となってきたため、2週間前にB診療所に紹介となっていた。採血検査でカリウム7.1mEq/Lと高値を認めたこともあり、幸いバイタルサインや心電図に異常はなかったが、指導医・本人・家族と相談のうえ、入院となった。内服薬を確認すると、消化器内科からの処方が診療所からも継続されていたが、内容としてはスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されており、そこにここ数日毎日のバナナ摂取が重なったことによるもののようだった。おさえておきたい基本のアプローチプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をAmbulatory Care Sensitive Conditions(ACSCs)という。ACSCsは以下のように大きく3つに分類される。1:悪化や再燃を防ぐことのできる慢性疾患(chronic ACSCs)2:早期介入により重症化を防ぐことのできる急性期疾患(acute ACSCs)3:予防接種等の処置により発症自体を防ぐことのできる疾患(vaccine preventable ACSCs)2010年度におけるイギリスからの報告によると、chronic ACSCsにおいて最も入院が多かった疾患はCOPD、acute ACSCsで多かった疾患は尿路感染症、vaccine preventable ACSCsで多かった疾患は肺炎であった1)。実際に、高齢者がプライマリ・ケア医に継続的に診てもらっていると不必要な入院が減るのではないかとBarkerらは、イギリスの高齢者23万472例の一次・二次診療データに基づき、プライマリ・ケアの継続性とACSCsでの入院数との関連を評価した。ケアが継続的であると、高齢者において糖尿病、喘息、狭心症、てんかんを含むACSCsによる入院数が少なかったという研究結果が2017年に発表された。継続的なケアが、患者-医師間の信頼関係を促進し、健康問題と適切なケアのよりよい理解につながる可能性がある。かかりつけ医がいないと救急車利用も増えてしまう。ホラ、あの○○先生がかかりつけ医だと、多すぎず少なすぎず、タイミングも重症度も的確な紹介がされてきているでしょ?(あなたの地域の素晴らしいかかりつけ医の先生の顔を思い出してみましょう)。またFreudらは、ドイツの地域拠点病院における入院患者のなかで、ACSCsと判断された104事例をとりあげ、紹介元の家庭医にこの入院は防ぎえたかというテーマでインタビューを行うという質的研究を行った。この研究を通じてプライマリ・ケアの実践現場や政策への提案として、意見を提示している(表)。地域のリソースと救急サービスのリンクの重要性、入院となった責任はプライマリ・ケアだけでなく、病院なども含めたすべてのセクターにあるという合意形成の重要性、医療者への異文化コミュニケーションスキル教育の重要性など、ERの第一線で働く方への提言も盛り込まれており、ぜひ一読いただきたい。ACSCsは高齢者や小児に多く、これらの提言はドイツだけでなく、世界でも高齢者の割合がトップの日本にも意味のある提言であり、これらを意識した医師の活躍が、限られた医療資源を有効に活用するためにも重要であると思われる。表 プライマリ・ケア実践現場と政策への提言<プライマリ・ケア実践チームへの提言>患者の社会的背景、服薬アドヒアランス、セルフマネジメント能力などを評価し、ACSCsによる入院のリスクの高い患者を同定すること処方を定期的に見直すこと(何をなぜ使用しているのか?)。アドヒアランス向上のために、読みやすい内服スケジュールとし、治療プランを患者・介護者と共有すること入院のリスクの高い患者は定期的に症状や治療アドヒアランスの電話などを行ってモニタリングすること患者および介護者にセルフマネジメントについて教育すること(症状悪化時の対応ができるように、助けとなるプライマリ・ケア資源をタイミングよく利用できるようになるなど)患者に必要なソーシャルサポートシステム(家族・友人・ご近所など)や地域リソースを探索することヘルステクノロジーシステムの導入(モニタリングのためのリコールシステム、地域のリソースや救急サービスのリンク、プライマリ・ケアと病院や時間外ケアとのカルテ情報の共有など)各部署とのコミュニケーションを強化する(かかりつけ医と時間外対応してくれる外部医師間、入退院支援、診断が不確定な場合に相談しやすい環境づくりなど)<政策・マネジメントへの提言>入院となった責任はプライマリ・ケア、セカンダリ・ケア、病院、地域、患者といったすべてのセクターにあるという合意を形成すべきであるACSCsによる入院はケアの質の低さを反映するものでなく、地理的条件や複雑な要因が関係していることを検討しなければならないACSCsに関するデータ集積でエキスパートオピニオンではなく、エビデンスデータに基づいた改善がなされるであろう医療者教育において異文化コミュニケーションスキル教育が重視されるだろう落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls紹介側(かかりつけ医)を、責めない!前に挙げた症例のような患者を診た際には、「なぜスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されているんだ!」とついつい、かかりつけ医を責めたくなってしまうだろう! 忙しいなかで、そう思いたくなるのも無理はない。でも、「なんで○○した?」、「なんで△△なんだ?」、「なんで□□になるんだよ」などと「なんで(why)」で質問攻めにすると、ホラあなたの後輩は泣きだしたでしょ? 立場が違う人が安易に相手を責めてはいけない。後医は名医なんだから。前医を責めるのは医師である前に人間として未熟なことを露呈するだけなのである。まずは紹介側の事情をくみ取るように努力しよう。この症例でも、病院から紹介になったばかりで、関係性もあまりできていないなかでの高カリウム血症であった。元々継続的に診療していたら、血清カリウム値の推移や、腎機能、食事の状況など把握して、カリウム製剤や利尿薬を調節できたかもしれない。また紹介医を責めると後々コミュニケーションが取りにくくなってしまい、地域のケアの向上からは遠ざかってしまう。自分が紹介側になった気持ちになって、診療しよう。Pointかかりつけ医の事情を理解し、診療しよう!起きうるリスクを想定しよう!さらにかかりつけ医の視点で考えていきたい。この方の場合はまだフォロー歴が短いこともあって困難だったが、前医からの採血データの推移の情報や、食事摂取量や内容の変化でカリウム値の推移も予測可能だったかもしれない。糖尿病におけるsick dayの説明は患者にされていると思うが、リスクを想定し、かつ対処できるよう行動しよう。いつもより体調不良があるけど、なかなかすぐには受診してもらえないときには、電話を入れたり、家族への説明をしたり、デイケア利用中の患者なら、デイケア職員への声掛けも有効だろう! そうすることで不要な入院も避けられるし、患者家族からの信頼感アップも間違いなし!!「ERでは関係ない」と思わないで、患者の生活背景を聞き出し、患者のサポートシステム(デイケア・デイサービスなど)への連絡もできるようになると、かっこいい。かかりつけ医のみならず、施設職員への情報提供書も書ける視野の広い医師になろう。Point「かかりつけ医の先生とデイケアにも、今回の受診経過と注意点のお手紙を書いておきますね!」かかりつけ医だけに頑張らせない!入院のリスクの高い患者は、身体的問題だけでなく、心理的・社会的問題も併存している場合も少なくない。そんな場合は、かかりつけ医のみでできることは限られている。患者に必要なソーシャルサポートシステムや地域リソースを患者や家族に教えてあげて、かかりつけ医に情報提供し、多職種を巻き込んでもらうようにしよう! これまでのかかりつけ医と家族の二人三脚の頑張りにねぎらいの言葉をかけつつ(頑張っているかかりつけ医と家族を褒め倒そう!)、多くの地域のリソースを勧めることで、家族の負担も減り、ケアの質もあがるのだ。「そんな助けがあるって知らなかった」という家族がなんと多いことか。医師中心のヒエラルキー的コミュニケーションでなく、患者を中心とした風通しのよい多職種チームが形成できるように、お互いを尊重したコミュニケーション能力が必要だ! 図のようにご家族はじめこれだけの多職種の協力で患者の在宅生活が成り立っているのだ。図 永平寺町における在宅生活を支えるサービス画像を拡大するPoint多職種チームでよりよいケアを提供しよう!ワンポイントレッスン医療者における異文化コミュニケーションについてERはまさに迅速で的確な診断・治療という医療が求められる。患者を中心とした多職種(みなさんはどれだけの職種が浮かぶだろうか?)のなかで、医師が当然医療におけるエキスパートだ。しかし、病気の悪化、怪我・事故は患者の生活の現場で起きている。生活に目を向けることで、診断につながることは多い。ERも忙しいだろうが、「患者さんの生活を普段支えている人たち、これから支えてくれるようになる人たちは誰だろう?」なんて想像してほしい。ERから帰宅した後の生活をどう支えていけばよいかまで考えられれば、あなたは超一流!職能や権限の異なる職種間では誤解や利害対立も生じやすいので、患者を支える多職種が風通しのよい関係を築くことが大事だ。医療者における異文化コミュニケーション、つまり多職種連携、チーム医療は、無駄なER受診を減らすためにも他人ごとではないのだ。病気や怪我さえ治せば、ハイ終わり…なんて考えだけではまだまだだ。もし多職種カンファレンスに参加する機会があれば、積極的に参加して自ら視野を広げよう。ACSCsへの適切な介入とは? ─少しでも防げる入院を減らすために─入院を防ぐためには、単一のアプローチではなかなか成果が出にくく、複数の組み合わせたアプローチが有効といわれている2)。具体的には、患者ニーズ評価、投薬調整、患者教育、タイムリーな外来予約の手配などだ。たとえば投薬調整に関しては、Mayo Clinic Care Transitions programにおいても、皆さんご存じの“STOP/STARTS criteria”を活用している。なかでもオピオイドと抗コリン薬が再入院のリスクとして高く、重点的に介入されている3)。複数の介入となると、なかなか忙しくて一期一会であるERで自分1人で頑張ろうと思っても、入院回避という結果を出すまでは難しいかもしれない。そこで先にもあげたように多職種連携・Team Based Approachが必要だ4)。それらの連携にはMSW(medical social worker)さんに一役買ってもらおう。たとえば、ERから患者が帰宅するとき、患者と地域の資源(図)をつないでもらおう! MSWと連絡とったことのないあなた、この機会に連絡先を確認しておこうね!ACSCsでの心不全の場合は、専門医やかかりつけ医といった医師間の連携はじめ、緩和ケアチームや急性期ケアチーム、栄養士、薬剤師、心臓リハビリ、そして生活の現場を支える職種(地域サポートチーム、社会サービス)との協働も必要になってくる。またACSCsにはCOPDなども多く、具体的な介入も提言されている。有症状の慢性肺疾患には、散歩などの毎日の有酸素トレーニング30分、椅子からの立ち上がりや階段昇降、水筒を使っての上肢の運動などのレジスタンストレーニングなどが有効とされている。家でのトレーニングが、病院などでの介入よりも有効との報告もある。「家の力」ってすごいよね。理学療法士なども介入してくれるとより安心! 禁煙できていない人には、禁煙アドバイスをすることも忘れずに。ERで対応してくれたあなたの一言は、患者に強く響くかもしれない。もちろん禁煙外来につなぐのも一手だ! ニコチン補充療法は1.82倍、バレニクリンは2.88倍、プラセボ群より有効だ5)。勉強するための推奨文献Barker I, et al. BMJ. 2017:84:356-364.Freud T, et al. Ann Fam Med. 2013;11:363-370.藤沼康樹. 高齢者のAmbulatory care-sensitive conditionsと家庭医. 2013岡田唯男 編. 予防医療のすべて 中山書店. 2018.参考 1) Bardsley M, et al. BMJ Open. 2013;3:e002007. 2) Kripalani S, et al. Ann Rev Med. 2014;65:471-485. 3) Takahashi PY, et al. Mayo Clin Proc. 2020;95:2253-2262. 4) Tingley J, et al. Heart Failure Clin. 2015;11:371-378. 5) Kwoh EJ, Mayo Clin Proc. 2018;93:1131-1138. 執筆

17.

肝線維化を有するMASH、週1回セマグルチドが有効/NEJM

 中等度または重度の肝線維化を有する代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)の治療において、プラセボと比較してGLP-1受容体作動薬セマグルチドの週1回投与は、肝臓の組織学的アウトカムを改善するとともに、有意な体重減少をもたらすことが、米国・Virginia Commonwealth University School of MedicineのArun J. Sanyal氏らが実施したESSENCE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年4月30日号で報告された。37ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 ESSENCE試験は、中等度~重度の肝線維化を有するMASHの治療におけるセマグルチドの有効性と安全性の評価を目的とする進行中の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2021年5月~2023年4月に日本を含む37ヵ国253施設で患者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。今回は、最初の800例に関する中間解析の結果を公表した。 年齢18歳以上、生検で確定したMASHで、ステージF2またはF3の肝線維化を有する患者を、セマグルチド(2.4mg)を週1回皮下投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は240週とし、この中間解析は72週目に行った。 主要エンドポイントは、肝線維化の悪化を伴わない脂肪肝炎の消失、および脂肪肝炎の悪化を伴わない肝線維化の改善とした。脂肪肝炎の消失、肝線維化の改善とも有意に優れた セマグルチド群に534例、プラセボ群に266例を割り付けた。全体の平均(±SD)年齢は56.0(±11.6)歳で、女性が57.1%、白人が67.5%であった。平均BMIは34.6(±7.2)で、2型糖尿病患者が55.9%含まれた。肝線維化はステージF2が31.3%、ステージF3が68.8%だった。 72週の時点で、肝線維化の悪化を伴わない脂肪肝炎の消失の割合は、プラセボ群が34.3%であったのに対し、セマグルチド群は62.9%と有意に高かった(推定群間差:28.7%ポイント[95%信頼区間[CI]:21.1~36.2]、p<0.001)。 また、脂肪肝炎の悪化を伴わない肝線維化の改善を示した患者の割合は、プラセボ群の22.4%に比べ、セマグルチド群は36.8%であり有意に良好だった(推定群間差:14.4%ポイント[95%CI:7.5~21.3]、p<0.001)。消化器系有害事象の頻度が高い 副次エンドポイントの解析では、体重の変化量(セマグルチド群-10.5%vs.プラセボ群-2.0%、推定群間差:-8.5%ポイント[95%CI:-9.6~-7.4]、p<0.001)、および脂肪肝炎の消失と肝線維化の改善の両方を達成した患者の割合(32.7%vs.16.1%、16.5%ポイント[10.2~22.8]、p<0.001)が、セマグルチド群で有意に優れた。 一方、36-Item Short Form Health Survey(SF-36)の体の痛み(bodily pain)のベースラインから72週目までの平均変化量(0.9 vs.-0.5、推定群間差:1.3%ポイント[95%CI:0.0~2.7]、p=0.05)は、セマグルチド群で痛みの程度が低い傾向がみられたが、統計学的に有意な差を認めなかった(事前に、p<0.0045を満たす場合に有意差ありと判定することと定めたため)。 重篤な有害事象は、セマグルチド群で13.4%、プラセボ群でも13.4%に発現した。試験中止に至った有害事象は、それぞれ2.6%および3.3%に認めた。最も頻度の高い有害事象は両群とも消化器系のもので、悪心(36.2%vs.13.2%)、下痢(26.9%vs.12.2%)、便秘(22.2%vs.8.4%)、嘔吐(18.6%vs.5.6%)がセマグルチド群で多かった。 著者は、「MASHの生物学的特性に基づくと、脂肪肝炎が消失すると肝線維化が抑制されると予測され、線維化のステージが高いことは不良なアウトカムと関連するため、ステージの低下はとくに重要と考えられる」「本試験の知見と先行研究の結果を統合すると、ステージF2またはF3の肝線維化を有するMASHの治療におけるセマグルチドの有益性が支持される」「セマグルチドは肝硬変患者にも安全に使用できるが、肝硬変における有効性は確立していないため、MASH患者では肝硬変のスクリーニングを行って、それに応じた治療を行うことが重要である」としている。

18.

肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

19.

肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

20.

鉄欠乏症心不全患者に対するカルボキシマルトース第二鉄の静注は、心不全入院と心血管死を有意に減少させなかった:The FAIR-HF2無作為化臨床試験-心不全治療において貧血は難題-(解説:佐田政隆氏)

 心不全では貧血を伴うことが多く、貧血は心不全の重要な予後規定因子である。心不全による貧血の進行の機序としては、慢性炎症、腎機能低下、体液貯留による血液希釈、鉄欠乏などが想定されているが、「心・腎・貧血症候群」として近年、問題視されており、その病態の悪循環を断つためにいろいろな介入方法が試みられているが、特効薬がないのが現状である。 鉄欠乏は心不全患者の半数以上に合併し、心不全症状や運動耐容能の低下、心不全入院、心血管死と関連することが報告されている。鉄欠乏状態を評価するため、2つの指標が用いられている。フェリチンは体内の鉄を貯蔵するタンパク質で、血液中のフェリチンの量を測定することで体内の鉄の貯蔵量を推定することができる。一方、血清鉄は、トランスフェリンというタンパク質に結合して搬送され、血清鉄/総鉄結合能✕100(%)が鉄飽和度(TSAT)と呼ばれ、血液中の鉄と結合しているトランスフェリンの割合を指し、鉄の過不足を判断する指標として用いられる。心不全患者の鉄欠乏の基準として、血清フェリチン<100ng/mL、または血清フェリチン100~300ng/mLかつTSAT<20%と定義されており、このような患者を対象にして鉄補充の有効性と安全性をみる数々の臨床研究が行われてきた。6分間歩行や最大酸素摂取量といったソフトエンドポイントでは有効性を示した報告が多いが、心血管死と心不全入院といったハードエンドポイントでは、有効性を示すことができなかった研究がほとんどである。 今回のFAIR-HF2研究でも、カルボキシマルトース第二鉄の静注は主要評価項目である心血管死+心不全入院を36ヵ月の経過観察期間中に、減らす傾向はあったが有意差を示すことはできなかった。患者のQOLや患者自身による全体的な健康評価の改善に寄与することは確認された。 このような状況下、2025年3月28日発表の日本循環器学会・日本心不全学会の心不全診療ガイドラインにおいて、「鉄欠乏を有するHFrEF/HFmrEF患者に対する心不全症状や運動耐容能改善を目的にした静注鉄剤を考慮する」ことが推奨クラスIIaとされている。しかし、鉄過剰は酸化ストレスの増加をもたらし、脱力感や疲労感を生じさせ、発がん性との関係も報告され、重症の場合は、肝硬変や糖尿病、勃起不全、皮膚色素沈着、糖尿病といったヘモクロマトーシス様の症状を呈する。漫然と鉄剤を投与するのではなく、血清フェリチンやTSATによる細目なモニターが重要である。 心不全患者では慢性炎症のためヘプシジンが上昇しており、フェロポルチンといったマクロファージ中の鉄の有効利用を促進するタンパク質の分解が生じ、鉄利用が障害されている。このため、単なる鉄剤の投与が貧血の改善につながらないことが多い。最近、貧血治療薬として経口のHIF-PH阻害薬が各社から発売され、保存期慢性腎臓病患者と透析患者で、ヘモグロビン上昇作用はESA製剤に非劣性であることが報告されている。HIF-PH阻害薬は、ヘプシジンの低下、鉄の利用促進作用があることも報告されており、今後、心腎貧血症候群の悪循環を断ち切って、心不全患者の予後改善効果のエビデンスがRCTで示されることが期待される。

検索結果 合計:241件 表示位置:1 - 20