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第140回 次のパンデミックに備え感染症法等改正、そう言えば感染症の「司令塔機能」の議論はどうなった?

改正感染症法案、岸田文雄首相の約束通り今国会で成立こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、友人の版画家、宇田川 新聞氏の個展「木版画パラダイス」を観に、池袋のB-galleryに行って来ました。「宇田川新聞」と言われても、ピンと来ないかもしれませんが、テレビ東京系で放映されている「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」1)で、赤色、緑色、黒色を使った特徴的なイラストを描いている(厳密には彫っている)版画家と言えばおわかりかと思います。芸能人の表情を絶妙にとらえたシンプルでほのぼのとした版画は、いつ見てもほっとします。彼女(女性です)との付き合いはもう25年近くになりますが、最近の売れっ子ぶりには頭が下がります。ただ、ギャラリーで「オリジナルの作品より、出川番組関連の版画の方が多いんじゃない?」と本音を言ったら、しょぼんとうなだれていました。芸術家は扱いが難しいです。あの独特の版画の実物を見たい方はぜひ覗いてみて下さい2)。さて、今回は先ごろ成立した感染症法改正と、検討が進められている(はずの)、「司令塔機能」について書いてみたいと思います。改正感染症法案は、参院選前の岸田 文雄首相の約束通り、今国会で成立しました。もう一つの“公約”とも言うべき、一元的に感染症対策を行う新しい「司令塔機能」については、その後、あまり報道もありません。一体どうなっているのでしょうか。地域医療支援病院や特定機能病院などと協定を結び医療の提供を義務付け新型コロナウイルス対応の教訓を活かし、今後の感染症のまん延(パンデミック)に備えるための改正感染症法などが11月2日、参院本会議で可決され、成立しました。都道府県は地域医療支援病院や特定機能病院などとあらかじめ協定を結び、病床確保や発熱外来といった医療の提供を義務付けることになります。協定に沿った対応をしない医療機関には勧告や指示を行うほか、場合によっては承認の取り消しもあり得るとされています。施行(協定を締結する規定も)は来年、2023年4月1日付です。医療の提供が義務付けられるのは、自治体などが運営する「公立・公的医療機関」(約6,500施設)、400床以上で大学病院中心の「特定機能病院」(87施設)、200床以上で救急医療が可能な「地域医療支援病院」(685施設)です。また、都道府県は上記を含む全国すべての医療機関と、医療提供を事前に約束する協定を結べるようになります。都道府県は平時から計画をつくり、病床、発熱外来、人材派遣などの数値目標を盛り込み各医療機関への割り当てを決めます。医療機関は協議に応じる義務はありますが、実際に協定を結ぶかは任意です。付則には、新型コロナの感染症法上の位置付けについて速やかに検討するよう政府に求める文言も加わりました。これについては、法案成立直前の11月29日、加藤 勝信厚生労働大臣は会見で、新型コロナを感染症法の「2類相当」から「5類」に見直す検討を本格的に始める方針を示しています。なお、感染症法とあわせて医療法や予防接種法、新型インフルエンザ等対策特別措置法、検疫法なども一括で改正されています。特別措置法では、厚生労働大臣が協力を要請した時に限って、歯科医師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士にワクチン接種を認めました。検疫法では、水際対策により実効性をもたせるため、入国後の個人に自宅待機などを指示できるようにしたうえ、待機中の体調報告に応じない場合の罰則が設けられました。一般の民間病院や診療所については、協定締結は任意この3年間あまりの医療機関のドタバタぶり、個々の医療機関に対する国の権限のなさ(お願いしかできず命令できなかった)を考えると、地域医療支援病院や特定機能病院などへの病床確保や発熱外来といった医療提供の義務付けは、とても意味のあることで、特定機能病院などの承認を取り消す行政処分も含まれていることから、相当の強制力を持つことも確かです。ただ一方で、一般の民間病院や診療所については、都道府県との協議に応じなければならないものの、協定締結は任意のため、どの程度協力を得られるかは不透明です。今回のパンデミックでも、とくに民間病院や診療所の対応に批判が集まったことからも、協議から協力に至るプロセスをもう少し明確にしておく必要がありそうです。岸田首相がぶち上げたもう一つの大きな計画さて、今回の感染症法等の改正は、岸田首相が今年6月15日、通常国会の閉会を受けて行った記者会見で語った「新型コロナをはじめとする感染症に対する新対策」の中に盛り込まれていたことです。岸田首相はこの時、「昨年の総裁選で約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行う。医療体制については、(2021年)11月の「全体像(次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像)」で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることでさらに強化する」と語っていました(「第114回 コロナ新対策決定、協定結んだ医療機関は患者受け入れ義務化、罰則規定も」参照)。当時は参議院選挙を睨んだパフォーマンスと見る向きもありましたが、岸田首相は感染症法改正については、約束を守ったと言えるかもしれません。岸田首相はこの時、もう一つの大きな計画をぶち上げています。それは、一元的に感染症対策を行う「内閣感染症危機管理庁」の新設と、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して「日本版CDC」をつくるというものです。そう言えば、この計画について、最近は話をあまり聞きません。「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し司令塔機能を強化岸田首相の6月15日の会見では、新型コロナウイルスを含む今後の感染症に対応する「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し、司令塔機能を強化することを表明していました。内閣感染症危機管理庁は、感染症の危機に備えて「首相のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行う」組織で、同庁の下で平時から感染症に備え、有事の際は物資調達などを担う関係省庁の職員を同庁の指揮下に置き、一元的な対策を行うとしました。トップには「感染症危機管理監(仮称)」が置かれる予定とのことでした。さらにこの時は、厚労省における平時からの感染症対応能力の強化も表明しています。その施策の目玉は、研究機関である国立感染症研究所と、高度な治療・研究の拠点である国立国際医療研究センターを統合、米疾病対策センター(CDC)をモデルとした、いわゆる「日本版CDC」を厚労省の下に創設するというものでした。この2つの計画は6月17日、新型コロナウイルス感染症対策本部において正式決定しています。新型コロナウイルス感染症対策本部が公表した司令塔機能の具体的な姿その後、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策本部は9月2日、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」を公表し、その中で、司令塔機能の具体的な姿を提示しました。それによれば、司令塔となる「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」については、2023年度中の設置を目指すとして、以下の組織、業務等にするとしています3)。1)感染症対応に係る司令塔機能を担う組織として「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」を設置し、感染症対応に係る総合調整を、平時・有事一貫して所掌する。総理・官房長官を直接助ける組織として内閣官房に設置し、長は官房副長官クラス、内閣官房副長官補を長の代行とし、厚生労働省の医務技監を次長相当とする等、必要な体制を整備する。2)統括庁は、平時から、感染症危機を想定した訓練、普及啓発、各府省庁等の準備状況のチェック等を行う。3)緊急事態発生時は初動対応を一元的に担う(内閣危機管理監と連携して対応)。4)特措法適用対象となる感染症事案発生時は、同法の権限に基づき、各府省庁等の対応を強力に統括する。各府省庁の幹部職員を庁と兼務させる等により、政府内の人材を最大限活用する。これら有事の際の招集職員はあらかじめリスト化し十分な体制を確保する。5)平時・有事を通じて厚生労働省の新組織(いわゆる日本版CDC)とは密接な連携を保ち、感染症対応において中核的役割を担う厚生労働省との一体的な対応を確保する。6)必要となる法律案を次期通常国会に提出し、2023年度中に設置することを目指す。――これらの案から見えてくるのは、今回のコロナ禍にあって、統率がとれなかった各省庁を強力にコントロールしたい、という内閣の強い意思です。とくに、厚生労働省(今回官邸の言うことを聞かなかった、対応がグダグダだったという批判もありました)とそこにつくる新組織(日本版CDC)をきちんと統括したい、という強い思いが伝わって来ます。国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合した「日本版CDC」この「具体策」では、国立感染症研究所と、国立国際医療研究センターを統合して作る新組織、「日本版CDC」についても提示しています。それによれば、新組織については、1)厚生労働省における平時からの感染症対応能力を強化するため、健康局に「感染症対策部(仮称)」を設置し、内閣感染症危機管理統括庁(仮称)との連携の下、平時からの感染症危機への対応準備に係る企画立案や感染症法等に係る業務を行う。2)国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し感染症等に関する科学的知見の基盤・拠点国際保健医療協力の拠点、高度先進医療等の総合的な提供といった機能を有する新たな専門家組織を創設する。3)必要となる法律案を次期通常国会に提出し感染症対策部の設置及び厚生労働省の一部業務移管は2024年度の施行、新たな専門家組織の創設については2025年度以降の設置を目指す。――などとなっています。専門家組織をきっちりコントロールしたい厚労省内閣感染症危機管理統括庁と、厚生労働省、日本版CDCが整備されれば、機動的かつ科学的な対応が100%可能になるかのように書かれてある点が気になります。今回のパンデミックで機能してきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のような、ある意味“第三者”の立場で検討・提言する組織についての記述は、日本版CDCの中に「新たな専門家組織を創設する」と書かれています。ただ、厚労省傘下にしっかり置いて、専門家組織をきっちりコントロールしようという意図が透けて見えます。また、専門家組織が感染症の専門家ばかりで、臨床や医学研究の分野に偏りそうな点も気がかりです。危機管理やIT、経済対策、メディア対策など、医学以外の分野の専門家もしっかりとメンバーに入れておくべきだと思いますがいかがでしょう。さらに、現在、国立感染症研究所は国立の機関、国立研究開発法人 国立国際医療研究センターは国立研究開発法人と、組織形態が異なります。仮に、組織が圧倒的に大きい国立国際医療研究センターに国立感染症研究所が身を寄せる形で統合するとなれば、組織は国立研究開発法人ということになります。国からは一応は独立した組織になるとすれば、危機管理統括庁や厚生労働省がどういう形で影響力を及ぼすかも今後の大きな検討課題でしょう。現在のところ、厚労省が中心となって、これらの新組織の詳細を詰めているとのことです。内閣感染症危機管理統括庁は2023年度中の設置、日本版CDCは2025年以降の設置を目指すとされていますが、実際の稼働まで、まだまだひと悶着、ふた悶着ありそうです。参考1)出川哲朗の充電させてもらえませんか?/テレビ東京2)宇田川新聞個展《木版画パラダイス》(12/13(火)〜12/25(日)、池袋B-gallery、14:00〜18:00、月曜休廊)3)新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策/新型コロナウイルス感染症対策本部

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重症化リスク因子を問わない軽症~中等症の新型コロナ治療薬「ゾコーバ錠125mg」【下平博士のDIノート】第112回

重症化リスク因子を問わない軽症~中等症の新型コロナ治療薬「ゾコーバ錠125mg」今回は、抗SARS-CoV-2剤「エンシトレルビル フマル酸錠(商品名:ゾコーバ錠125mg、製造販売元:塩野義製薬)」を紹介します。本剤は、重症化リスク因子の有無に関わらない軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症患者を対象とした初めての抗ウイルス薬であり、発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの症状が消失するまでの期間を短くすることが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2022年11月22日に緊急承認制度に基づく製造販売承認を取得しました。なお、重症度の高いSARS-CoV-2による感染症患者に対する有効性は検討されていません。<用法・用量>通常、12歳以上の小児および成人にはエンシトレルビルとして1日目は375mgを、2~5日目は125mgを1日1回経口投与します。SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始する必要があります。<安全性>国際共同第IIa相、第IIb相、第III相試験(T1221試験)において、5%以上に認められた副作用は、HDLコレステロール低下(16.6%)でした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ウイルスの複製に必要な酵素を阻害することで、新型コロナウイルス感染症の症状を緩和します。発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの症状が消失するまでの期間を短くすることが期待されています。2.初日は1日1回3錠を服用し、2~5日目は1日1回1錠を服用します。3.体調が良くなっても自己判断で中止せず、指示通りに服用を続けてください。4.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数ありますので、服用している薬剤や健康食品、サプリメント、嗜好品をすべて申告してください。5.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。<Shimo's eyes>新型コロナウイルス感染症の治療で、重症化リスク因子のない軽症~中等症患者を対象とした初めての抗ウイルス薬が登場しました。本剤はタンパク質合成過程における3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、新型コロナウイルスの増殖を抑制します。この作用機序は既存類薬のニルマトレルビルと同様です。投与対象は、高熱、強い咳症状、強い咽頭痛などの臨床症状があり、重症度の高くない患者(おおむね中等症II未満)で、症状発現から遅くとも72時間以内に投与を開始します。初日は3錠を1日1回投与し、2~5日目は1錠を1日1回投与します。第II/III試験(T1221試験)において、軽症~中等症のSARS-CoV-2感染者に本剤を5日間経口投与したとき、オミクロン株に特徴的な5症状(1.倦怠感または疲労感、2.熱っぽさまたは発熱、3.鼻水または鼻づまり、4.喉の痛み、5.咳)が快復するまでの時間の中央値は、プラセボ群192.2時間に対し本剤群では167.9時間と有意差をもって約1日短縮しました。また、投与4日目のウイルス量は本剤群でプラセボ群に比べて有意に減少しました。本剤はCYP3Aの基質であり、強いCYP3A阻害作用を有するとともに、P-gp、BCRP、OATP1B1およびOATP1B3阻害作用も有します。このため、併用禁忌薬が多いので、服薬中のすべての薬剤を確認することが必要です。また、本剤で治療中に新たに他の薬剤を服用する場合、事前に相談するよう患者さんに伝えましょう。流通については、安定的な供給が難しいことから、パキロビッドやラゲブリオの一般流通前と同様に、当面の間は厚生労働省が所有した上で、指定された医療機関または薬局に無償で配分されます。当初はパキロビッドの処方実績がある医療機関・薬局に限定されていましたが、2022年12月15日よりその限定が撤廃され、対象が拡大されました。ゾコーバ登録センターに登録し、同センターを通じて配分依頼を行い、患者に交付した後は投与実績を入力します。処方に際しては患者の同意書が必要であり、院外処方に際しては、対応薬局に処方箋とともに記入済みの「適格性情報チェックリスト」を送付する必要があります。本剤の提供時は、自宅療養や宿泊療養の患者さんが来局しなくても済むように「患者の居所への配送・持参」が基本で、患者さんが薬局を訪れることは原則禁止となります。患者さんの過度な期待から安易な不適正使用が行われないように、薬剤師は情報提供をしっかりと行うとともに、併用禁忌薬が多いため安全性監視も行っていきましょう。なお、包装単位は、1箱28錠(14錠PTPシートが2枚)で4人分です。薬価収載されて一般流通する際には1人分の包装単位も販売されることが期待されます。

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第143回 運動意欲を腸内細菌が支える

病気の数々を防ぐ最も効果的な習慣である運動の意欲向上にどうやら腸内細菌が一役買っていることがマウス実験で示されました1)。先立つ研究で腸の微生物が筋肉や心肺機能、さらには脳の生理に関わることが知られています2)。ペンシルバニア大学の微生物学者Christoph Thaiss氏等はそれらの成果を紡ぎ、筋肉・心肺機能・脳を含むより多くの関わりによって生み出されるであろう運動能力への腸内微生物の貢献を調べることを試みました。Thaiss氏等はマウス199匹を用意し、抗生物質いくつかを使ってそれらマウスの腸内細菌を減らすか排除したときの運動性能を2つの手段を使って調べました2)。1つはしばらくの間走ることを強いて持久力を調べるトレッドミルで、もう1つはいつでも好きなだけ走ることができる回し車(wheel)です。どのマウスも飼育カゴの中で同様に自由に動き回ることが可能でしたが、腸内細菌が減ったマウスは腸内細菌がまともなマウスに比べてトレッドミル運動で疲れやすく、運動意欲が乏しくて回し車をあまり使いませんでした。行動を定着させる神経伝達物質・ドーパミンの生成に携わる脳の線条体神経の遺伝子の発現を調べたところ、運動の最中に発現するそれら遺伝子が腸微生物を欠くマウスでは鈍っていました。それらの神経を阻害して運動中のドーパミン生成を妨げたときの運動能力は腸微生物を制限するか完全に除去したときと同じように劣りました。以上の結果は脳でのドーパミン生成が運動意欲に確かに貢献しており、腸の微生物の構成がその調節に何らかの役割を担っていることを意味します。次の疑問は腸内細菌と脳のドーパミンを関連づける仕組みです。その解明のために胃腸と脳をつなぐ神経を阻害してトレッドミルと回し車の実験を再び行いました。その結果、腸-脳連結神経が遮断されていると腸微生物はまっとうでも腸微生物が乏しいマウスと同様の運動低下が生じ、マウスがどれだけ運動するかはその神経の刺激にかかっていると示唆されました。何がその神経を刺激するのかが次に調べられ、2つの細菌・Eubacterium rectale(ユウバクテリウム レクターレ)とCoprococcus eutactus(コプロコッカス ユウタクタス)が生み出す代謝物・脂肪酸アミド(FAA)から作られる神経伝達物質・内在性カンナビノイドが運動中に胃腸神経の受容体を刺激し、脳のドーパミン生成に至ることが判明しました。その腸-脳経路を刺激するとマウスはより走れるようになり、かたや末梢の内在性カンナビノイド受容体の阻害、脊髄の神経除去、ドーパミン阻害は腸微生物排除と同様にマウスをより走れなくしました。運動中の腸の細菌の働きのおかげで運動する意欲がより高まって運動がより身につくことを今回の結果は裏付けました。これまでの研究で運動能力が高いマウスは痛みの感じ難さを示すランナーズハイがより強烈であることが示されており、腸内細菌はよく知られるその高揚感にも携わっているかもしれません。今回のマウス実験で示されたのと同じ腸-脳経路がヒトでも存在するかどうかを研究チームは次に調べる予定です。ヒトでの研究が進めば巷の人に走る習慣を身に付けさせたり一流アスリートの運動能力を最適化する安上がりで安全な食事ベースの手段が実現するかもしれません。また、依存やうつ病で支障を来した気分や意欲の回復手段を生み出せる可能性もあります3)。参考1)Dohnalova L, et al. Nature. 2022 Dec 14. [Epub ahead of print]2)Mice With a Healthy Gut Microbiome Are More Motivated to Exercise / TheScientist3)Gut microbes can boost the motivation to exercise, Penn Medicine study finds / Eurekalert

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COVID-19行動制限の緩和により、喘息増悪が増加

 これまで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンに伴い、喘息増悪が減少したことが報告されている。しかし、制限緩和による喘息への影響についてはいまだ報告されていない。そこで、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のFlorence Tydeman氏らは、行動制限の緩和が急性呼吸器感染症(ARI)の発症や喘息増悪に及ぼす影響を検討した。その結果、制限緩和によりCOVID-19の発症・非COVID-19のARI発症がいずれも増加し、それらはいずれも重度喘息増悪の発現に関連していた。Thorax誌オンライン版2022年11月23日掲載の報告。 調査は、2020年11月~2022年4月の期間において、英国の成人喘息患者2,312例を対象として実施した。顔面被覆具の使用、社会的交流の頻度、ARIの発症、重度喘息増悪の発現について、月1回のオンラインアンケートを用いてデータを収集した。上記に関する経時変化は、ポアソン一般化加法モデルを用いて可視化し、COVID-19・非COVID-19のARI発症と急性増悪の関連は、マルチレベルロジスティック回帰分析を用いて交絡因子を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・2021年4月からの制限緩和に伴い、顔面被覆具の使用の減少(p<0.001)、公共の施設や他の家庭への訪問の頻度の増加(p<0.001)、COVID-19発症の増加(p<0.001)、非COVID-19のARI発症の増加(p<0.001)、重度喘息増悪の発現の増加(p=0.007)が認められた。・非COVID-19のARI発症は重度喘息増悪の発現の独立した関連因子であった(調整オッズ比[aOR]:5.75、95%信頼区間[CI]:4.75~6.97)。COVID-19発症もオミクロン株の発現前(5.89、3.45~10.04)、発現後(5.69、3.89~8.31)のいずれも重度喘息増悪の発現の独立した関連因子であった。 研究グループは、これらの結果から「行動制限の緩和により顔面被覆具の使用が減少、社会的交流が増加し、ARIと喘息のリバウンドが生じた。非COVID-19のARI発症、オミクロン株発現前後のCOVID-19発症はいずれも重度喘息増悪の発現に関連し、その度合いはいずれも同程度であった」とまとめた。

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モデルナ製COVID-19ワクチン、追加免疫の接種対象が12歳以上に拡大

 モデルナは2022年12月12日付のプレスリリースで、「スパイクバックス筋注」(1価:起源株)、「スパイクバックス筋注」(2価:起源株/オミクロン株BA.1)および「スパイクバックス筋注」(2価:起源株/オミクロン株BA.4/5)の追加免疫について、日本における添付文書を改訂し、接種対象年齢が12歳以上に拡大されたことを発表した。 これについてモデルナ・ジャパン代表取締役社長の鈴木 蘭美氏は「オミクロン株とその亜系統による感染が拡大する中、モデルナのCOVID-19ワクチンにより進学や受験といったイベントを控える方の多い12~17歳の年齢層をCOVID-19から守れることを嬉しく思います」と述べている。 なお、日本小児科学会(会長:岡 明氏[埼玉県立小児医療センター])の予防接種・感染症対策委員会は、同学会のホームページで「5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を発表しており、COVID-19の重症化予防に寄与することが確認されたことを踏まえ、メリットがデメリットを大きく上回ると判断し、小児へのワクチン接種を推奨している。

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bDMARD未治療の乾癬性関節炎、ビメキズマブの有効性は?/Lancet

 生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)による治療歴がない乾癬性関節炎患者において、ビメキズマブはプラセボと比較して、16週時の関節、皮膚、画像的な有効性アウトカムについて有意な改善が認められた。真菌感染の発現を含むビメキズマブの安全性プロファイルは、尋常性乾癬患者を対象にしたIL-17A阻害薬のこれまでの第III相試験結果と一致していた。英国・グラスゴー大学のIain B. Mclnnes氏らが、14ヵ国135施設で実施された52週間の第III相無作為化二重盲検プラセボ対照実薬(アダリムマブ)参照試験「BE OPTIMAL試験」の結果を報告した。ビメキズマブは、IL-17AおよびIL-17Fを選択的に阻害するモノクローナルIgG1抗体で、ビメキズマブの有効性と安全性は並行して実施されたBE OPTIMAL試験とBE COMPLETE試験の2つの第III相試験で検証された。Lancet誌オンライン版2022年12月6日号掲載の報告。ビメキズマブの有効性と安全性を対プラセボで検証 BE OPTIMAL試験は、52週間の無作為化二重盲検プラセボ対照実薬(アダリムマブ)参照試験で、16週間のプラセボ対照二重盲検期と、36週間の治療盲検期で構成される。本論では、事前に計画された24週時の主要解析結果が報告された。 適格基準は、18歳以上でスクリーニングの6ヵ月以上前から国際的な乾癬性関節炎の分類基準(CASPAR)を満たし、圧痛関節数(TJC)が3関節以上(68関節中)、腫脹関節数(SJC)が3関節以上(66関節中)、1ヵ所以上の活動性の乾癬病変または乾癬の既往患者で、乾癬性関節炎または乾癬に対して生物学的製剤の投与歴がある患者は除外した。 患者を、ビメキズマブ(1回160mgを4週ごとに皮下投与)群、プラセボ(2週ごとに皮下投与)群、アダリムマブ(1回40mgを2週ごとに皮下投与)群に3:2:1の割合で無作為に割り付けた(地域[北米、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、アジア]および骨びらん数[0または1以上]で層別化)。プラセボ群は、16週時にビメキズマブ(1回160mgを4週ごとに皮下投与)に切り替え、52週まで投与した。なお、本試験では、ビメキズマブ群またはプラセボ群と、アダリムマブ群を比較するための検出力はなかった。 主要エンドポイントは、米国リウマチ学会分類基準の50%以上改善(ACR50)を達成した患者の割合とし、解析にはnon-responder imputation法(評価が得られなかった症例はノンレスポンダーとして補完)を用いた。有効性解析対象集団は無作為化された全患者(intention-to-treat集団)、安全性解析集団は治験薬の投与を1回以上受けた患者とした。ACR50達成率はビメキズマブ群44%、プラセボ群10% 2019年4月3日~2021年10月25日の期間に、1,163例がスクリーニングを受け、852例がビメキズマブ群(431例)、プラセボ群(281例)、アダリムマブ群(140例)に無作為に割り付けられた。 16週時のACR50達成率は、ビメキズマブ群44%(189/431例)、プラセボ群10%(28/281例)、アダリムマブ群46%(64/140例)であり、プラセボ群と比較してビメキズマブ群で有意に高かった(オッズ比:7.1、95%信頼区間:4.6~10.9、p<0.0001)。 16週時までに治療下で発現した有害事象は、ビメキズマブ群で431例中258例(60%)、プラセボ群で281例中139例(49%)、アダリムマブ群で140例中83例(59%)報告された。死亡例はなかった。

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第24回 新型コロナ抗体薬の栄枯盛衰

どんどん効かなくなる抗体薬臨床現場で最も使った抗体薬といえば、ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)です。2022年の初頭あたりは、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)とソトロビマブを大事に使っていました。当時院内在庫が3本しかなくて、結局のところ、軽症例で海外のようにレムデシビル(商品名:ベクルリー)が使えないかと声が上がり、軽症の入院患者さんの抗ウイルス薬は、基本的にレムデシビルという流れになったと記憶しています。オミクロン株がBA.2になって、スパイクタンパクのS371F変異が影響し、これまで効果的と考えられたソトロビマブも有効性が低下していきました1)。主に血液悪性腫瘍などの抗体価が得られにくい患者さんに対して、チキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名:エバシェルド)が予防的に用いられてきましたが、ここにきて再び変異ウイルスがBA.5からBQ.1.1などに変わりつつあります。最近、分離したBQ.1.1とXBBに対する抗体薬の効果は期待できないとする報告がありました2)。FRNT50(ウイルスの50%を中和する血清の希釈率の逆数)は表のとおりです。表. 抗体薬の効果(参考資料2をもとに筆者作成)もはや現在流通している抗体薬のすべてがBQ.1.1やXBBに効果を持たないことから、今後抗体薬が登場しても、またウイルスが変異して、といういたちごっこになる可能性があります。抗体薬はこのような変異が起こると、効果を失っていくのかと正直驚かざるを得ませんでした。頑張ってコマースした製剤が過去の薬剤になっていく構図は、製薬会社としてもつらいだろうなと思います。抗ウイルス薬は効果を保っている幸いにも抗ウイルス薬は変異ウイルスにも効果があることがわかっており、今後も使用されていくと思われます。塩野義製薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)は国際的には認められていませんが、重症化予防効果などのエビデンスが示されれば、使用が増えてくるかもしれません。現時点では、レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)に先んじて使用することは推奨されていません。12月9日に塩野義製薬から、エンシトレルビルの使用状況や副作用データをまとめた報告がありましたが、1,024人に処方されているものの、とくに重篤な副作用は報告されていないとのことです。参考文献・参考サイト1)Iketani S, et al. Antibody evasion properties of SARS-CoV-2 Omicron sublineages. Nature. 2022 Apr;604(7906):553-556.2)Imai M, et al. Efficacy of Antiviral Agents against Omicron Subvariants BQ.1.1 and XBB. N Engl J Med. 2022 Dec 7. [Epub ahead of print]

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長年の謎。ウイルス感染はなぜ寒い時期に増える?

 ウイルス性気道感染症は、冬の時期に増えることが知られているが、そのメカニズムはこれまで明らかになっていなかった。ハーバード大学のDi Huang氏らの研究グループは、上気道感染症の原因となるウイルスを撃退する鼻の中の免疫反応を発見した。さらに、この免疫反応は気温が低くなると抑制され、感染症が発生しやすくなることを明らかにした。本研究結果は、The Journal of Allergy and Clinical Immunologyオンライン版2022年12月6日に掲載された。 先行研究により、鼻孔の細胞が細菌ウイルスなどの病原体を検出すると、細胞外小胞(EV)が粘液中に放出され攻撃することが報告されている。そこで、健康人や手術を受ける患者から採取した鼻粘膜組織を用いて、Toll様受容体3(TLR3)を介した免疫応答における鼻腔上皮細胞由来EVの役割が検討された。具体的には、TLR3刺激による鼻腔上皮細胞由来EVの分泌や組成、EVの呼吸器ウイルス(コロナウイルス、ライノウイルス)に対する抗ウイルス活性とそのメカニズム、TLR3を介した抗ウイルス免疫に及ぼす低温の影響などが検討された。 主な結果は以下のとおり。・TLR3アゴニストのpoly(I:C)(polyinosinic-polycytidylic acid)への曝露により、TLR3シグナルを介して鼻腔上皮細胞由来EVの分泌が増加した。・鼻腔上皮細胞由来EVは、マイクロRNA(miR-17)の送達およびLDL受容体(LDLR)、接着分子ICAM-1などの表面受容体を介したウイルスとの結合・中和による抗ウイルス活性を通じて宿主をウイルス感染から保護することが示された。・健康人を室温の環境(23.3℃)から寒い環境(4.4℃)に移動させて15分経過すると、鼻の中の温度が約5℃低下した。そして、この温度低下を鼻粘膜組織に適用したところ、EVの総分泌量の減少、EV中のmiR-17量の低下、EV上のLDLR、ICAM-1の発現量の低下がみられ、EVの抗ウイルス活性が低下した。 著者らは、本研究の重要なポイントとして、「鼻腔上皮細胞由来EVが、TLR3を介した抗ウイルス免疫に関与していること」「鼻腔上皮細胞由来EVが、マイクロRNAの輸送および直接的にウイルスを中和することにより、感染を抑制していること」「寒い環境では、鼻腔上皮細胞由来EVを介した抗ウイルス活性が低下すること」の3点を挙げている。

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3~17歳へのコロナワクチン、オミクロン優勢期の効果は?/BMJ

 アルゼンチンで、3~17歳の小児・青少年に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン(mRNA-1273[モデルナ製]、BNT162b2[ファイザー製]、BBIBP-CorV[Sinopharm製])2回接種の有効性について調べたところ、死亡に対する予防効果は、優勢となっている変異株の種類にかかわらず、小児・青少年ともに高値を維持していたことが明らかにされた。ワクチン接種後の短期間におけるSARS-CoV-2感染予防効果については、オミクロン変異株が優勢であった間は低かったこと、また時間の経過とともに同効果は急激に低下することも明らかにされた。アルゼンチン・保健省のJuan Manuel Castelli氏らが、約14万人のケースとそのマッチング対照を解析した、診断陰性例コントロール試験の結果で、BMJ誌2022年11月30日号で発表された。アルゼンチンで84万例超を対象に診断陰性例コントロール試験 研究グループは、アルゼンチンの国内サーベイランス・システムのデータベースと、ワクチンレジストリを基に、診断陰性例コントロール試験を行い、小児(3~11歳)・青少年(12~17歳)へのCOVID-19ワクチン2回接種の、SARS-CoV-2感染やCOVID-19関連死に対する有効性を推定し評価した。 対象は、2回のCOVID-19ワクチンのプライマリ接種対象者で、SARS-CoV-2感染歴がなく、2021年9月~2022年4月にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査または迅速抗原検査を受けた3~17歳、84万4,460例。マッチング対照の照合を行い、23万1,181例のケースのうち13万9,321例(60.3%)について解析を行った。 主要アウトカムは、SARS-CoV-2感染とCOVID-19関連死だった。条件付きロジスティック回帰分析で、ワクチン2回接種者の非接種者に対するオッズ比(OR)を推算した。ワクチン有効率は、(1-OR)×100%で算出した。小児の対SARS-CoV-2感染有効率、デルタ株優勢期間は61%、オミクロン株では16% デルタ変異株優勢期間のSARS-CoV-2感染に対するCOVID-19ワクチン2回接種の有効率は、小児が61.2%(95%信頼区間[CI]:56.4~65.5)、青少年が66.8%(63.9~69.5)だった。オミクロン変異株優勢期間は、それぞれ15.9%(13.2~18.6)、26.0(23.2~28.8)だった。 ワクチン有効性は、接種後、日数経過とともに低下し、とくにオミクロン変異株優勢期間の低下は急激で、小児では、接種後15~30日で37.6%(95%CI:34.2~40.8)であったが、60日以降では2.0%(1.8~5.6)へと低下し、青少年ではそれぞれ55.8%(52.4~59.0)から12.4%(8.6~16.1%)への低下が認められた。 一方で、オミクロン変異株優勢期間の、SARS-CoV-2感染関連死に対するワクチン有効率は、小児が66.9%(95%CI:6.4~89.8)、青少年が97.6%(81.0~99.7)だった。

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自宅コロナ死、4割は同居家族あり/COVID-19対策アドバイザリーボード

 第109回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、12月7日に開催された。その中で「新型コロナ患者の自宅での死亡事例に関する自治体からの報告について」が報告された。 調査期間中776名の自宅で死亡した者の解析から、死亡者の79%が70代以上であり、基礎疾患がある者が69%、親族などと同居が42%いた。また、ワクチン接種歴も不明が34%で一番多いものの、「3回接種」も28%と多かった。 政府では、「Withコロナに向けた政策の考え方」に則り、今後必要な医療資機材の提供、国民への正確な知識の普及に努めるとしている。 以下に概要を示す。70代以上の高齢者で、基礎疾患がある人は死亡が多い【調査概要】期間: 2022年7月1日~8月31日地域:全国都道府県条件:新型コロナウイルス感染症患者(死後陽性確認者も含む)で自宅にて死亡した者を本年10月に都道府県を通じ、その年齢、基礎疾患、同居の有無、ワクチン接種歴、死亡に至るまでの経過などを調査(ただし自宅療養中に症状が悪化し、医療機関に入院した後に死亡した事例は除く)。【結果概要】 合計776名(男性460名、女性316名)(死亡時の年齢構成) 80代以上が58%、70代以上が21%、60代以上が9%(基礎疾患の有無) 「あり」が69%、「なし」が19%、「不明」が12%(ワクチンの接種歴) 「不明」が34%、「3回」が28%、「未接種」が20%(単身・同居などの状況) 「不明」が48%、「同居」が42%、「単身」が10% その他の事項は次のとおり。・死亡直前の診断時の症状の程度について、軽症・無症状が41.4%、中等症が13.1%、重症が7.1%、不明または死亡後診断が38.4%・生前に陽性が判明した者は70.1%、死後に陽性が判明した者は29.9%・発生届の届出日が死亡日よりも前であった事例が50.6%、発生届の届出日が死亡日と同日であった事例が31.2%、発生届の届出日が死亡日以降であった事例が17.9%、不明が0.3%・自宅療養の希望ありが22.8%、希望なしが10.3%、不明者および死後陽性が判明した者が66.9%発熱がなく、毎日訪問介護を受けていても死亡のケースも【具体的な死亡事例について】・救急搬送の搬入時の検査で陽性が判明したケース。・家族や親族などに自宅で倒れているところを発見されたケース。・陽性が判明したが、本人や家族の意思により自宅療養を希望したケース。・高齢であることや末期がんであることにより自宅での看取りを希望したケース。・自宅療養中に急速に重症化して死亡したケース。・同居家族から感染し、自宅での死亡につながったケース。・コロナ以外の要因で死亡し、死後に陽性が判明したケース。・入院や宿泊療養、治療を希望しないケース。・浴槽で意識がなくなっているところを同居家族に発見されたケース。・入院調整や宿泊療養の対象となるも、直後に死亡したケース。・主治医からの健康観察や訪問看護を受けていたものの、死亡したケース。・自宅訪問するも応答なく、警察に協力依頼を行ったケース。・症状があったが検査や受診を受けずに、死後に陽性が判明したケース。・家族は入院を希望していたが、自宅療養となり、死亡したケース。・発熱がなく、毎日訪問介護を受けていたが、死亡したケース。【自治体での取組事例】・体調の変化・悪化の早期把握のため、自宅療養開始時の説明、ホームページ、SMSなどで電話相談窓口への連絡を自宅療養者に対して周知。・療養者支援センターを開設。若年層にはSMSを利用して調査を実施し、保健所が電話で調査すべき対象者を重症化リスクが高い方に絞ることで連絡遅滞を防ぐ改善を行った。・陽性者からの要請があった場合、感染防護対策を行ったうえで、直ちに現場に向かう体制を施行。【今後の対応】 「Withコロナに向けた政策の考え方」の考え方に則り、入院治療が必要な患者への対応の強化、発熱外来や電話診療・オンライン診療の体制強化、治療薬の円滑な供給、健康フォローアップセンターの拡充と自己検査キットの確保などの対策を進めるとともに、国民への情報提供と重症化リスクなどに応じた外来受診・療養への協力の呼びかけなどに取り組んでいく。

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第142回 ウルソでコロナ予防

胆石などの胆汁鬱滞性肝疾患の治療で広く使用されている馴染みの薬・ウルソデオキシコール酸(UDCA)、いわゆるウルソは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の細胞侵入の玄関・ACE2への同ウイルスの結合を阻止することが知られています1,2)。体内では細菌によって胆汁酸から作られるそのウルソの働きはSARS-CoV-2のACE2結合阻止にとどまらず、なんとACE2それ自体を減らしてSARS-CoV-2感染(COVID-19)を予防しうることが新たな研究で判明しました3-5)。新たな研究ではACE2発現が胆汁酸受容体として知られるファルネソイドX受容体(FXR)によって調節されていることがまず突き止められ、続いてFXR伝達抑制を担うウルソがはたしてACE2発現を減らすことが見出されました。ウルソでACE2発現を抑制することでSARS-CoV-2感染を予防しうることはハムスターの実験で確認されています。9匹のハムスターにヒトでの使用量相当のウルソを投与し、他の6匹には生理食塩水を与え、しばらくしてからそれらハムスターをSARS-CoV-2感染ハムスターと同居させました。その4日後にハムスターを安楽死させて肺を調べたところ食塩水投与群ではすべてからSARS-CoV-2が検出されました。一方、ウルソ投与群でのSARS-CoV-2検出は3匹に1匹で済んでいました5)。餌を自由に食べられるようにしたにもかかわらず食塩水投与ハムスターはSARS-CoV-2感染ハムスターとの同居の後に体重がおよそ9%減りました。一方、ウルソ投与群のハムスターは体重が若干上昇しており、ウルソ投与群のハムスターはどうやらSARS-CoV-2に感染したとしても重症化を免れていたようです。移植されず仕舞いのヒトの肺や肝臓を譲り受けて行った実験でもウルソによるACE2抑制がSARS-CoV-2を感染し難くすることが確認されました。研究はさらに続き、生身の人ではどうかが検討されました。8人にウルソを5日間服用してもらい、SARS-CoV-2感染の主な入り口である鼻上皮細胞をスワブ(nasopharyngeal swab)で採取して調べたところACE2が減っていました。英国の原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者情報を集めているUK-PBCのデータ解析でも同様で、ウルソ使用は血清ACE2が少ないことと関連しました。続いてウルソに予後改善効果があるのかどうかがCOVID-19を被った慢性肝疾患患者およそ千人のデータを使って検討されました。その結果、ウルソ使用患者31人は入院、集中治療室(ICU)、死亡がウルソ非使用患者155人に比べてより少なくて済んでいました。肝臓移植患者の記録集を使った比較でもウルソ使用患者(24人)の方がウルソ非使用患者(72人)に比べて中等度や重度以上のCOVID-19をより免れていました。また、著者等が文献執筆中に知った肝硬変患者3千人超のデータ解析ではウルソ使用とCOVID-19がより生じ難いことやより重度のCOVID-19に至り難いことの関連が示されています。30年前から売られているウルソはおよそ安全で副作用がほとんどなく4)、長期投与が可能であり、体が弱い人のCOVID-19の予防薬としてとくに役立つ可能性があります。二重盲検試験を実施してウルソとACE2レベル変化やSARS-CoV-2感染しやすさの関連を調べる必要があると著者は結論しています。ウルソ生成腸内細菌がコロナ死亡率の地域差と関連COVID-19による死亡率は国毎にだいぶ異なり、去年11月に名古屋大学の研究チームが発表した成果によるとCOVID-19死亡率のそのような地域差にどうやら腸内細菌Collinsella(コリンセラ)属が寄与しているようです6,7)。コリンセラ属は他でもないウルソ生成菌であり、肝臓で作られて腸内に放出された胆汁酸をウルソに変換します。名古屋大学の研究チームは10ヵ国953人の匿名の公開情報を解析し、腸内のコリンセラ属が乏しいこととCOVID-19死亡率が高いことの関連を見出しました。ポルトガルでの試験ではより重度のCOVID-19とコリンセラ属が乏しいことの関連が示されており8)、名古屋大学の研究と一致します。ウルソはCOVID-19予防やCOVID-19合併症の緩和効果があるかもしれず、ウルソを作るコリンセラ属のそれらの効果をさらなる試験で調べる必要があると名古屋大学の研究チームは結論しています。参考1)Poochi SP, et al. Food Front. 2020;1:168-179. 2)Carino A, et al. Front Chem. 2020 Oct 23;8:572885.3)Brevini T, et al. Nature. 2022 Dec 5. [Epub ahead of print]4)A liver disease drug could be repurposed to protect against COVID - new research / The Conversation5)Drug that targets ACE2 receptors may work against new covid variants / New Scientist6)Hirayama M, et al. PLoS One. 2021;16:e0260451.7)腸内細菌 Collinsella 属が COVID-19 の感染・重症化を予防 / 名古屋大学8)Moreira-Rosario A, et al. Front Microbiol. 2021;12:705020.

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オミクロン株のlong COVIDリスク、デルタ株より低い

 新型コロナウイルス感染症のオミクロン株は以前に流行したデルタ株と比較して急性期の症状が軽症であることが報告されているが、コロナ罹患後の後遺症、いわゆるlong COVIDのリスクも低いことが、ノルウェー・公衆衛生研究所のKarin Magnusson氏らの調査で示された。本研究の結果はNature Communications誌2022年11月30日号で報告された。 研究者らは、ノルウェーにおける18~70歳の全国民を対象に、医療データベースを使った前向きコホート研究を行った。オミクロンとデルタ株の流行が最も重複した期間(2020年12月8日~2021年12月31日)を対象に、オミクロン株の感染者の罹患後症状を、デルタ株感染者・非感染者と比較した。さらに、検査陽性後14~126日までの追跡期間を、急性期(14~29日)、亜急性期(30~89日)、慢性期(90日以上)に分け、罹患後症状の有病率の推定値も示した。 主な結果は以下のとおり。・全国民369万6,005人のうち、17万3,317人が期間中に1回以上のPCR検査を受け、うち5万7,727人が陽性と判定された。うち2万3,767人がデルタ株の感染者(デルタ群)、1万3,365人がオミクロン株の感染者(オミクロン群)だった。オミクロン群は、デルタ群に比べ、若年で高学歴、合併症が少なく、ワクチン接種の頻度も高い傾向があった。・オミクロン群およびデルタ群の両方で、PCR検査の陰性者と比較して、罹患後症状のリスクが20~30%増加し、息切れの発症リスクが30~80%増加した・全期間(14〜126日)における具体的な訴えを直接比較したところ、オミクロン群とデルタ群の差は認められなかったが、オミクロン群はデルタ群に比べ、検査後90日以上経過した時点でいずれかの症状を持つリスクが低く(1万人あたり43人[95%CI:14〜72]減)、筋骨格系の痛みのリスクも低かった(1万人あたり23人[95%CI:2〜43]減)。・ワクチン接種者(14~210日前に1、2、3回接種)では、オミクロン群(9,368人)はデルタ群(1万4,160人)と比較して90日以上の罹患後症状有病率が1万人あたり36人(95%CI:1~70)減ることが示された。

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第127回 新型コロナウイルスの2類見直しについて討議開始/感染症対策分科会

<先週の動き>1.新型コロナウイルスの2類見直しについて討議開始/感染症対策分科会2.75歳以上の医療保険料、年間5,300円の負担増へ/厚労省3.がん患者数、コロナ前の水準に、進行がん患者増を懸念/国立がん研究センター4.医療機関にセキュリティ対策研修用ポータルサイト開設/厚労省5.かかりつけ医機能について、年内に結論へ/全世代型社会保障構築会議6.改正精神保健福祉法と改正難病法が成立/参院1.新型コロナウイルスの2類見直しについて討議開始/感染症対策分科会政府は新型コロナウイルス感染症対策分科会を12月9日に開き、今年の年末年始の感染対策について考えをまとめ、公表した。この中で、オミクロン株対応ワクチンの早期接種を求めるとともに、医療逼迫防止のために、重症化リスクが低い人については咽頭痛や発熱などの自覚症状が出た場合は、自宅での抗原定性検査キットを使うことも検討を求めた。また、定期的に換気することも求めた。さらに、新型コロナの2類感染症の見直しについても、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」への引き下げについても議論されたが、致死率などがインフルエンザに近づいているという意見もある一方で、死亡数が多いといった意見も出され、最新のデータに基づいた評価をもとに、改めて議論することとなった。(参考)年末年始の感染対策についての考え方(新型コロナウイルス感染症対策分科会)新型コロナの感染症法上の扱い 改めて議論へ 政府分科会(NHK)ワクチン年内接種呼び掛け コロナ分科会 年末年始の医療逼迫回避(時事通信)2.75歳以上の医療保険料、年間5,300円の負担増へ/厚労省厚生労働省は12月9日に開催された社会保障審議会医療保険部会において、年末までに医療保険の見直し案による試算を公表した。これによると、出産育児一時金を47万円に増額した場合、75歳以上が加入している後期高齢者医療制度の保険料が年間5,300円増加する見込みとなっている。政府は、出産一時金については50万円に引き上げる方針のため、健康保険料はこの試算より増額が見込まれている。なお、実際に保険料が増えるのは、75歳以上のうち年金収入が153万円以上の所得がある人で、全体の約4割に止まるとみられる。高齢者医療をすべての世代で公平に支え合う仕組みのため、政府はさらに改革を進めていく方針。(参考)第160回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)24年度医療保険料 75歳以上、年5300円増 政府試算(毎日新聞)後期高齢者の年間保険料 2年後 約5400円の負担増 厚労省が試算(NHK)75歳以上、平均年5300円負担増 医療保険見直し案、厚労省が試算公表(朝日新聞)3.がん患者数、コロナ前の水準に、進行がん患者増を懸念/国立がん研究センター国立がん研究センターは12月9日に、2021年1月1日から12月31日の1年間にがんと診断または治療された患者の院内がん登録データをまとめ、速報値として報告書としてウェブサイトで公表した。院内がん登録データの提出があった拠点病院453施設と小児拠点6施設のうち、過去4年間にわたってデータ提出のあった計455施設を対象にデータをまとめたところ、2021年の院内がん登録数は、2018年と2019年の2ヵ年平均登録数と比較して101.1%とほぼ同程度であることが明らかとなり、新型コロナウイルスの影響で減った2020年と比べると2021年は感染拡大前の水準であったことがわかった。一方、2021年の登録症例は、2018年と2019年の平均登録数と比較したところ、多くのがん種で早期がんでの登録の割合が減少しており、今後も継続的に分析を行う必要があるとしている。(参考)院内がん登録2021年全国集計速報値 公表 2021年のがん診療連携拠点病院等におけるがん診療の状況(国立がん研究センター)国立がん研究センター「がん情報サービス がん統計」報告書ページ(同)国がん 21年院内がん登録全国集計結果を公表 コロナ禍で減少の新規患者数が同程度に(ミクスオンライン)昨年がん診断・治療、コロナ前並みの81万件…想定より少なく「進行がんで見つかる恐れ」(読売新聞)4.医療機関にセキュリティ対策研修用ポータルサイト開設/厚労省厚生労働省は、医療機関へのランサムウェアによるサイバー攻撃が増加しているのを受け、12月8日に、医療機関向けに「医療機関向けセキュリティ教育支援ポータルサイト」を開設した。医療機関の経営者に対して最近のサイバー攻撃事例を紹介するほか、システム管理者に向けてはインシデント対応やシステム設定などを伝える。また、一般の医療従事者には情報セキュリティの基本や注意点などを説明する。さらにトラブル発生時の相談・初動対応依頼窓口も設置されている。(参考)医療機関向けセキュリティ教育支援ポータルサイト(厚労省)医療機関向けサイバーセキュリティ対策研修を開始します(同)医療機関にセキュリティ知識を ソフトウェア協会が講習事業スタート(ITmedia)医療機関にサイバー研修 厚生労働省がポータルサイト(日経新聞)5.かかりつけ医機能について、年内に結論へ/全世代型社会保障構築会議政府は、12月7日に全世代型社会保障構築会議を開催し、報告書の取りまとめに向け、論点整理を巡って議論を行った。当日、論点となったのは医療・介護制度改革のほか、誰もが安心して希望通りに働くことができる社会保障制度の構築、子育て支援。医療・介護保険制度の改革では、今後の高齢者人口のさらなる増加を見据え、「かかりつけ医機能」制度の整備は不可欠とし、具体的なかかりつけ医の機能として「日常的に高い頻度で発生する疾患・症状について幅広く対応し、オンライン資格確認も活用して患者の情報を一元的に把握し、日常的な医学管理や健康管理の相談を総合的・継続的に行うこと」とし、「休日・夜間の対応、他の医療機関への紹介・逆紹介、在宅医療、介護施設との連携」も必要ではないかとされた。今後は、年内に議論をまとめ、来年の通常国会での関連法改正を目指す方向とみられる。(参考)全世代型社会保障の構築に向けた各分野における改革の方向性(全世代型社会保障構築会議)「かかりつけ医機能」年内結論 全世代型会議「足元の課題」(CB news)かかりつけ医機能の方向性決定は年内か 政府の全世代型社会保障構築会議が報告書の素案を提示(日経ヘルスケア)6.改正精神保健福祉法と改正難病法が成立/参院12月10日、会期末の参院本会議で精神保健福祉法、難病法の改正案も含めた「障害者総合支援法等改正案」が成立した。難病法の改正案には、これまで難病の申請を行った日からされていた医療費助成を「重症と診断された日」にさかのぼって受けられることにするほか、障害福祉サービス利用時に使える「登録者証」の発行が盛り込まれた。このほか、難病患者や小児慢性特定疾病患者らのデータベースの整備により、製薬企業が難病患者のデータベースのデータを利活用できるようにして、新薬の開発を促進することを目指す。また、精神科病院の管理者に対し、病院の職員への研修や患者の相談体制の整備など、患者虐待防止策義務付けた改正精神保健福祉法も同日成立した。(参考)障害者総合支援法等改正案の概要(厚労省)「改正難病法」成立 患者からは一日も早く治療薬開発求める声(NHK)精神科病院の患者虐待防止策義務づけ 改正精神保健福祉法成立(同)1人暮らし促進 障害者支援、改正法成立(毎日新聞)

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診療所での効果的な感染対策例/COVID-19対策アドバイザリーボード

 第108回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、11月30日に開催された。その中で日本プライマリ・ケア連合学会より「診療所における効果的な感染対策の好事例の紹介」が報告された。 これは、本格的な冬を迎え、プライマリ・ケアの外来には発熱などの感冒様症状を訴える患者が増えると予想されていることに鑑み、これに備え、これまでの新型コロナ流行下で実践されてきたプライマリ・ケアでの効果的な感染対策の工夫例と発熱外来を設置・運用するうえでの工夫例をまとめたもので、以下に概要を示す。診療所における効果的な感染対策の工夫例【工夫1】待合室における感染対策・自家用車で来院している患者は車中で待機してもらう。・基本的な感染対策を徹底する。具体的には窓開け、サーキュレーターの活用、二酸化炭素モニターを設置する。【工夫2】診察・検体採取時の感染対策(1)院内のゾーニング・動線分離を行う・発熱・感冒様症状患者の駐車場と院内への動線を一般患者と分離する(例:矢印などで導線をわかりやすく表示する)。・発熱・感冒様症状患者用の診察スペースなどを確保する(例:パーティションによる簡易な分離/空き部屋などを診察室として活用など)。・空間的分離を行わない場合において、発熱・感冒様症状のある患者とそうでない患者を、時間的に分離して診察する。(2)個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)の着脱を工夫する・患者対応時にはサージカルマスクを常時装着し、飛沫曝露のリスクがある場合はアイシールド・フェイスシールドを装置する。・患者に手や体幹が直接接触する可能性がある場合は、手袋・ガウンも装着する。・1対応ごとに手指消毒を徹底する。手袋を使用する場合は、1対応毎に手袋を交換し手指消毒も徹底する。サージカルマスク、アイシールド・フェイスシールド、ガウンの交換は、大量の飛沫を浴びたり、それらが患者に直接接触した場合に限定してもよい。(3)検体採取の場所を工夫する・検体採取を屋外や駐車場(や車中)で行う(ただしプライバシーへの配慮は必要)。・唾液によるPCR検査・抗原定量検査や、鼻かみ液によるインフルエンザ迅速抗原検査を活用することで飛沫やエアロゾルの発生を抑える。(4)その他の感染対策上の工夫・難聴の患者と大声で会話することを避けるために、スマートフォンを用いた翻訳機器の音声認識・自動文字化機能を活用する。・患者にタブレット端末を渡して、オンラインで診療、説明などを行う。・上記のような感染対策が構造的に困難な場合は、時間的分離で対応する。【工夫3】処方・調剤における工夫・特例承認の経口抗ウイルス薬の処方に必要な同意書を電子化し、タブレット上でサインを得る。・発熱患者への処方・調剤の流れについて近隣調剤と共に確認し、感染対策の助言を行い、発熱患者が薬剤を受け取れる体制を構築する。・調剤薬局が近接している場合は、患者は自院駐車場の自家用車内で待機し、薬局から手渡しに向かう。・調剤薬局において電話やオンラインでの服薬指導や配送体制を構築する。発熱外来を設置・運用する上での課題と工夫例【課題1】通常診療よりも大きな作業負担を軽減する 初診患者が多くなるため、病歴・背景情報把握にかかる負担の軽減が必要・事前にWEB問診(インターネットによる問診)システムで情報収集する(例:企業が提供するWEB問診システムを活用し、対面診察の時間を短縮など)。・発熱・感冒様症状用の問診票を用意し、緊急性のある症状の有無、電話診療やオンライン診療の可否、新型コロナ感染症治療薬の適応などを事前に確認する。【課題2】院内感染が生じた場合の休業リスクに備える・日本医師会などが提供する休業補償保険に加入する。・医療機関の休業が生じても個別の訪問診療を維持するために、平時から地域の医療機関間での連携体制を整える(例:地域の在宅患者情報を共有するネットワークへの加入など)。・休業した場合でも可能な限り電話・オンライン診療を継続する。【課題3】かかりつけ患者に重症化リスクの高い患者が多い・院内各所での感染対策に工夫が必要。・電話・オンライン診療の適切な活用。【課題4】施設構造などの問題で理想的な感染対策が難しい・施設構造などの制約を踏まえた現実的かつ効果的な感染対策を工夫する。・時間的分離(診療時間の分割)による対応。・電話・オンライン診療の適切な活用。【課題5】発熱・感冒様症状患者への処方・調剤の流れを工夫する・上記【工夫3】を参照。【課題6】必要に応じて一部の患者にオンライン診療を適切に活用する・予約時の情報でオンライン対応できると判断した患者にはオンライン診療を提案する。・事前にWEB問診で情報を収集する。・企業が提供するオンライン診療システムの導入。・行政が設置するオンライン診療センターで診療を行う。【課題7】入居しているテナントの管理者の理解を得るよう努める・時間的分離を検討する(例:発熱・感冒様症状患者専用の診療時間帯、曜日を設けるなど)。・電話・オンライン診療の適切な活用。 なお、別添1では「PPE(個人用防護具)の着脱について」、別添2では「発熱等かぜ症状外来事前問診例」を図で表記している。

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週1回のrezafungin、侵襲性カンジダ症治療に有望/Lancet

 カンジダ血症または侵襲性カンジダ症の成人患者の治療において、週1回投与の次世代エキノカンジン系抗真菌薬rezafunginは、2つの有効性の主要評価項目について、毎日1回投与のカスポファンギンに対し非劣性であることが、米国・カリフォルニア大学デービス校医療センターのGeorge R. Thompson III氏らが実施した「ReSTORE試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月25日号で報告された。15ヵ国の無作為化非劣性試験 ReSTORE試験は、15ヵ国66施設が参加した多施設共同二重盲検ダブルダミー無作為化非劣性第III相試験であり、2018年10月~2021年8月の期間に患者のスクリーニングが行われた(Cidara TherapeuticsとMundipharmaの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、カンジダ血症または侵襲性カンジダ症に起因する感染症の全身性の徴候(発熱、低体温、低血圧、頻脈、頻呼吸)が認められ、真菌学的に血液または通常は無菌と考えられる部位の検体からカンジダ血症または侵襲性カンジダ症と確定された患者であった。 被験者は、rezafungin(1週目に400mg、2週目以降は200mg、2~4回投与)を週1回(残りの6日はプラセボを投与)、またはカスポファンギン(1日目に負荷投与量70mg、2日目以降は50mg)を毎日1回、いずれも最長4週間、静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要評価項目は2つで、(1)14日の時点での欧州医薬品庁(EMA)の総合的治癒(臨床的治癒、画像的治癒、真菌学的消失)、(2)30日の時点での米国食品医薬品局(FDA)の全死因死亡(死亡または生死不明)とされ、いずれも非劣性マージンは20%であった。安全性も両群で同程度 199例が登録され、rezafungin群に100例、カスポファンギン群に99例が無作為に割り付けられた。全体の平均年齢は61(SD 15.2)歳、女性が41%であった。 EMAの主要評価項目である14日時の総合的治癒は、rezafungin群が93例中55例(59%)、カスポファンギン群は94例中57例(61%)で達成された(重み付け群間差:-1.1%、95%信頼区間[CI]:-14.9~12.7)。 また、FDAの主要評価項目である30日時の全死因死亡は、rezafungin群が93例中22例(24%)、カスポファンギン群は94例中20例(21%)であった(群間差:2.4%、95%CI:-9.7~14.4)。 総合的治癒は群間差の95%CI下限値が-20%より大きく、全死因死亡は群間差の95%CI上限値が20%より小さかったことから、いずれもrezafungin群のカスポファンギン群に対する非劣性が示された。 試験期間中に少なくとも1件の有害事象が、rezafungin群の98例中89例(91%)、カスポファンギン群の98例中83例(85%)で発現した。いずれかの群で5%以上の頻度で発現した有害事象のうちrezafungin群で高頻度であったのは、発熱(rezafungin群14%、カスポファンギン群5%)、低カリウム血症(13%、9%)、肺炎(10%、3%)、敗血症性ショック(10%、9%)、貧血(9%、9%)であった。重篤な有害事象は、それぞれ55例(56%)および52例(53%)で認められた。 著者は、「安全で有効な週1回投与のエキノカンジン系抗真菌薬が使用可能になれば、投与回数が減少することで、カテーテル留置の必要性やその関連費用が削減され、カテーテル関連の有害な転帰が減少する可能性がある」としている。

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第138回 ご存じですか?ジェネリック供給不足の逼迫度

ジェネリック医薬品(以下、ジェネリック)を中心とした医薬品不足がさらに深刻化しているようだ。12月5日に日本製薬団体連合会(日薬連)安定確保委員会が、医療用医薬品を取り扱う企業に対して2022年8月末時点の自社製造販売承認取得品目の出荷状況を調査したアンケート結果を公表した。それによると、回答が寄せられた223社の1万5,036品目のうち「通常出荷」は71.8%に留まり、昨年同期の調査での79.6%から悪化傾向が見られたという。このうち「出荷停止」は全体の7.3%に当たる1,099品目で、昨年同期調査の4.8%(743品目)から増加。また、行政処分を受けた企業の出荷停止品目の影響もあり、「限定出荷(出荷調整)」は20.8%(3,135品目)で、こちらも昨年同期調査の15.5%(2,400品目)から増加した。ちなみに前年同期調査の回答は 218社、1万5,444品目なので、完全な比較はできないが、回答企業が増加したにもかかわらず、品目が減少したことについて同委員会では「行政処分を受けた企業による品目整理などの影響により、品目数は減少したと推測される」との分析を示している。いずれにせよ前回調査比で回答企業数増、品目数減の中で出荷停止、限定出荷品目の絶対数が増加していることを考えれば、完全な比較ではなくとも現在の医薬品供給状況が昨年よりもひっ迫していることは明らかである。そして出荷停止品目の90.7%、限定出荷品目の89.7%がジェネリックである。ご存じのように今回の医薬品不足は本を正せば、2020年12月にジェネリック専業メーカーの小林化工が製造していた抗真菌薬への睡眠導入薬成分の混入事件がきっかけである。事件の原因究明の結果、同社では承認書と異なる手順の製造という不正が常態化していたことが発覚。同社は薬機法に基づく史上最長の116日間の業務停止命令を受け、最終的には廃業に追い込まれた。この事件以降、ほぼ同様の不正がジェネリック専業メーカーで相次いで発見され、次々と業務改善命令や業務停止処分を受けた。主なものだけでも2021年3月の国内最大手・日医工(売上高約1,900億円)、同年9月の長生堂製薬(同約145億円)、2022年3月の共和薬品工業(同約287億円)、同年9月の辰巳化学(同約166億円)など。処方する医師には必ずしも馴染みのない社名も多いかもしれないが、安価なジェネリックの場合、日医工を含む上位3社が飛び抜けた売上高を有する以外は零細企業が多く、売上高100億円超の企業規模でも市場プレゼンスは小さくない。現在約1兆2,000億円強と推定される国内ジェネリック市場の中で、ここに名前を挙げた企業の売上高を合算すると約2,500億円なので、実に市場の6分の1以上を形成する企業が行政処分を受けたという異常事態だ。今回の日薬連調査では最近処分を受けた辰巳化学の影響は織り込まれていないので、直近の供給状況は日薬連発表より厳しいと考えざるを得ず、今後の供給状況も当面は厳しいと予想される。まずは小林化工以降のドミノ倒しのような不正発覚を見ていると、新たな不正が発覚する可能性は否定できない。そして、前述の日医工はアメリカ事業の不振に今回の行政処分による出荷停止・調整が追い打ちをかけ、事業再生ADRを適用し、国内投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズの出資を受けて再建を目指すことになった。しかも、来春には上場廃止の予定。これまで同社は国内ジェネリック専業メーカー最大手として不採算品目でも医療現場にニーズがあれば供給することをウリにしていたが、上場廃止までして再建に臨む以上、不採算品目の整理は避けられないだろう。現に11月には95品目もの販売中止を発表したが、同社の製造品目数は1,200品目超で国内トップだ。同社とジェネリック専業メーカー筆頭のつばぜり合いを続けてきた沢井製薬の約800品目の1.5倍もある。この点からもさらなる品目整理は避けられないだろう。そのツケは今のところ行政処分などを受けずに“平常運転”を続けているジェネリック専業メーカー各社に覆いかぶさる。しかし、零細企業でも1社で100品目程度を製造していることは稀ではないジェネリック専業メーカーの特徴が問題解決の最大の障害だ。一つの製造ラインを特定品目の製造のみに使うことはできず、複数品目を製造する。しかも、この複数品目は時期ごとに異なる。生産計画自体が複雑なモザイク状態で運営され、のりしろが少ない。現時点で行政処分と無縁な企業は、現在の供給状態に応えようとしてこの少ないのりしろすら排した“非常運転”になっている。それでも3割が供給不安というのが現状である。医療現場からすると「何とかしろ」と言いたくもなるだろうが、もはやない袖は振れない状態なのである。しかも、ここに来て各社の重荷になっているのは、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界的な物価高と日本特有の事情とも言える円安だ。ある業界関係者は「(ジェネリック製造に必要な)原薬の調達価格はものによっては昨年の2倍になっている」と嘆く。しかも、物価高で製造にかかる光熱費も上昇している。にもかかわらず、昨年から始まった毎年薬価改定で価格勝負のジェネリックは格好の引き下げターゲットになり、薬価がスパイラル的に低下し、原価率は上昇の一途となっている。こうした状況にもかかわらず、供給不安定解消を目指す関係各方面の努力の前に各種規制が立ちはだかる。10月9~10日に仙台で開催された日本薬剤師会学術大会で講演した日本ジェネリック製薬協会副会長の川俣 知己氏(日新製薬社長、本社:山形県)は、供給不安定解消のためにジェネリック専業メーカー同士が試みた「協力」が断念に追い込まれていたことを明らかにした。講演で川俣氏が語った「協力」とは、専業メーカー各社の生産能力や供給不安定品目の具体的な供給状況などを業界内で情報交換し、各社で製造を分担してこの危機を打開するというものだった。しかし、この件を上部団体である日薬連に相談したところ、公正取引委員会にお伺いを立てることになり、結果として得られた回答が「業界主導の生産調整は価格を高止まりさせる恐れがあるので認められない」とのものだったという。川俣氏は「われわれにとっては非常事態だったので、許容してもらいたかった」と無念そうに語った。一方、保険薬局の現場も規制に悩まされている。現状の少なからぬ品目の供給不安定な状況下で保険薬局が最も恐れるのは、予期せぬ長期処方の処方箋が持ち込まれることだ。東北地方のある保険薬局の薬剤師は次のように嘆く。「今は初来局の患者さんが持ち込む処方箋が30日処方というだけでもドキドキするのに、たまに60日処方の処方箋が持ち込まれると肝が冷える。とはいえ、何とかこちらも出そうと必死になる。ところがその必死さが裏目に出た経験もある」その経験とは60日処方の処方箋で指定された医薬品が同一ジェネリックメーカーのものですべて用意できず、処方医と患者の了解を取って同一成分の2社のジェネリックで何とか取りそろえたというものだ。この時は社会保険診療報酬支払基金の審査ではねられてしまったという。「たとえ同一成分であっても、万が一副作用が発生した際、どちらの製品が原因か判別不能になる恐れがあるため」という理由だ。今回の一件は行政処分を受けた企業は別にして、その他のジェネリック専業メーカー、医療現場、行政ともそれぞれの主張はいずれも一定の正当性を有する。だが、医療が「取り締まり行政」の下に置かれているという現状を考えれば、行政の采配ぶりが事態の解決に大きな影響を及ぼすことだけは確かだ。もちろん何もかも行政が悪いとは言わないが、今回の騒動を傍から見ると当事者の中で最も掛け声止まりのスタンスに見えて仕方がないのは、やはり行政である。そろそろ“重い腰”を上げて欲しいと願うのは、ないものねだりなのだろうか。

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新型コロナ、コミュニティ迅速抗原検査は入院を減少/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の無症状者を対象とした全市的なコミュニティ迅速抗原検査の導入は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連入院の大幅な減少と関連していることが、英国・リバプール大学のXingna Zhang氏らによる合成コントロール研究の結果、示された。多くの国が、COVID-19の拡大を制御するために住民ベースの無症状者対象検査プログラムを展開したが、地域での大規模な自主検査が感染拡大を阻止しCOVID-19の重症化を抑制するかどうかのエビデンスは不足していた。著者は、「SARS-CoV-2の大規模なコミュニティ迅速抗原検査は、感染減少および入院予防に役立つ可能性がある」とまとめている。BMJ誌2022年11月23日号掲載の報告。無症状者への迅速抗原検査プログラムの有効性を検証 Covid-SMARTは、英国政府が実施した無症状者対象の任意の自由参加によるSARS-CoV-2迅速抗原検査プログラム(検査センターにて監視下で自己検体採取)で、2020年11月6日からリバプール市に居住または勤務するすべての人に対し試験的に導入された。 研究グループは、英国国民保健サービス(NHS)Digitalが提供するHospital Episode Statistics(HES)の2020年10月5日~2021年1月17日のデータを用い、リバプール市(一般人口49万8,042人)と、過去のCOVID-19関連入院率や社会人口学的要因が類似するよう重み付けした英国の他の地域(対照地域)を、COVID-19関連入院について合成コントロール法により比較した。 主要評価項目は、2020年11月19日~2021年1月15日におけるCOVID-19関連入院患者数(週間)で、中地域調査区(MSOA)で集計した。MSOAは、地方自治体内の標準的な地理的単位(平均人口7,200人)で、リバプール市は61のMSOAで構成されている。対照地域と比較してコミュニティ検査の導入でCOVID-19関連入院率が低下 リバプール市におけるCovid-SMARTは、英国全土のロックダウンのため2020年11月6日~12月3日の期間は軍の支援により検査が強化された。この期間のCOVID-19関連入院率は、対照地域と比較してコミュニティ検査が導入されたリバプール市で43%(95%信頼区間[CI]:29~57)低かった(p<0.001)。この低下率は絶対数で146例(95%CI:96~192)減少に相当する。 全介入期間(2020年11月6日~2021年1月2日)では、COVID-19関連入院率は対照地域と比較してリバプール市で16%(95%CI:0~27)低かった(p=0.07)。 2020年12月3日~2021年1月2日のCOVID-19段階的制限の地域差を補正した後では、リバプール市のCOVID-19関連入院率は対照地域と比較して25%(95%CI:11~35)低く(p<0.001)、絶対数の減少は239例(95%CI:104~333)と推定された。

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オミクロン株BQ.1.1とXBBに対するコロナ治療薬の効果を比較/NEJM

 新型コロナウイルス感染症の第8波では、オミクロン株BA.5がまだ主流ではあるものの、主に欧米で見られるBQ.1.1系統(BA.5系統から派生)や、インドやシンガポールなどのアジア諸国で急激に増加しているXBB系統(BA.2系統から派生)の感染例が、国内でも徐々に増加している。河岡 義裕氏らによる東京大学、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所、米国ウィスコンシン大学が共同で行った研究において、患者から分離したBQ.1.1とXBBに対して、4種類の抗体薬と3種類の抗ウイルス薬についてin vitroでの有効性を検証したところ、抗体薬はいずれも感染を阻害しなかったが、抗ウイルス薬は高い増殖抑制効果を示した。本結果は、NEJM誌オンライン版2022年12月7日号のCORRESPONDENCEに掲載された。 試験薬剤は、抗体薬のソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、チキサゲビマブ/シルガビマブ、bebtelovimab、抗ウイルス薬のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビルである。 今回の試験では、患者から分離したBQ.1.1とXBBに対する治療薬の効果について、新型コロナウイルスの従来株(中国武漢由来の株)、オミクロン株BA.2、BA.5のそれぞれに対する効果と比較した。抗体薬について、FRNT50(ライブウイルス焦点減少中和アッセイで50%のウイルスを中和する血清希釈)を用いて評価した。また、抗ウイルス薬について、ウイルスの増殖を阻害するかどうかを、IC50(50%阻害濃度)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。【抗体薬】・BQ.1.1とXBBに対するソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、チキサゲビマブ/シルガビマブの中和活性は、いずれも著しく低かった。・bebtelovimabは、BA.2とBA.5に対して高い中和活性を維持していたが、BQ.1.1とXBBに対する中和活性は著しく低かった。【抗ウイルス薬】・BQ.1.1に対するレムデシビルは、従来株に対する本剤の0.6倍のIC50の値となり、高い効果を示した。モルヌピラビルでは1.1倍、ニルマトレルビルでは1.2倍となり、従来株とほぼ同等のIC50の値を示した。・XBBに対しては、レムデシビルでは0.8倍、モルヌピラビルでは0.5倍のIC50の値となり、従来株より高い効果を示した。ニルマトレルビルでは1.3倍のIC50の値を示した。・これら3種類の抗ウイルス薬のBQ.1.1とXBBに対する効果は、BA.2とBA.5に対する効果を上回るものだった。 抗ウイルス薬のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビルは、オミクロン株から新たに派生したBQ.1.1とXBBに対して、いずれも高い増殖抑制効果が認められた。また、著者は本結果について、BQ.1.1とXBBが、BA.2とBA.5を含む以前の系統よりも優れた免疫回避力を持っていることが示唆され、オミクロン株の継続的な変異に対して、新たな治療用モノクローナル抗体の必要性が高まっていると指摘している。

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黄色ブ菌、大腸菌などの感染症関連死は依然多い/Lancet

 2019年の世界の感染症関連死は推定1,370万人で、うち黄色ブドウ球菌、大腸菌など33の細菌属・種が原因の死亡は770万人だった。また、同細菌による年齢標準化死亡率はサハラ以南アフリカのスーパーリージョンで最も高かった。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏ら、薬剤耐性の世界疾病負担(Global Burden of Antimicrobial Resistance)に関する研究グループ「GBD 2019 Antimicrobial Resistance Collaborators」が解析結果を報告した。先行研究により、薬剤耐性感染症と敗血症関連の死亡数が推定され、感染症が依然として世界の主要な死因を占めることが明らかになっている。公衆衛生上の最大の脅威を特定するためには、一般的な細菌(抗菌薬への耐性あり/なしの両者を含む)の世界的負荷を理解することが求められている中、本検討は、33の細菌属・種による11の重大感染症と関連する死亡について世界的な推算値を求めた初となる研究で、Lancet誌オンライン版2022年11月18日号で発表された。204の国と地域の33の細菌属・種による死亡数を推定 研究グループは、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2019のメソッドと、薬剤耐性の世界疾病負担2019で記述されている特定条件を満たした部分集合データを用いて、2019年に発生した33の細菌属・種による11の感染症に関連する死亡数を推算した。本検討には、1万1,361調査地域年にわたる3億4,300万人の記録と分離株が包含された。 各病原体に関連した死亡数を3段階モデル(感染による死亡、感染症に起因する死亡のうち特定の感染症による死亡割合、感染症に起因する死亡のうち特定の病原体による死亡割合)を用いて推定した。推定値は、2019年における204の国と地域、全年齢、男女について算出。標準的なGBDメソッドに従って、対象の各数量の事後分布から1,000の2.5パーセンタイルと97.5パーセンタイルを抽出し、33の細菌属・種に関連する死亡と感染の最終推定値について95%不確実性区間(UI)を算出した。33細菌属・種の関連死、世界全死亡の約14% 2019年の感染症関連死は推定1,370万人(95%UI:1,090万~1,710万)で、そのうち33の細菌属・種(抗菌薬への耐性あり/なしの両者を含む)による11の感染症関連死は、770万人(570万~1,020万)だった。 2019年の33細菌属・種の関連死は、世界全死亡の13.6%(95%UI:10.2~18.1)を占め、敗血症関連の全死亡の56.2%(52.1~60.1)を占めると推定された。なかでも黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎球菌、肺炎桿菌、緑膿菌の5種の病原菌が、調査対象とした細菌による死因の54.9%(52.9~56.9)を占めた。 死因となった感染症や病原菌は、地域や年齢により異なった。また、調査対象細菌による年齢標準化死亡率は、サハラ以南アフリカのスーパーリージョンで最も高く230人/10万人(95%UI:185~285)だった一方、高所得のスーパーリージョンで最も低く52.2人/10万人(37.4~71.5)だった。 黄色ブドウ球菌は、135ヵ国において細菌による死亡の最大の原因で、また、世界的にみて15歳超で最も多く死亡と関連していた。5歳未満の小児では、肺炎球菌が細菌による死亡の最大の原因だった。 2019年に、600万人以上が3種の細菌感染症で死亡しており、200万人超が死亡した感染症は下気道感染症(400万人)と血流感染症(291万人)の2種で、100万人超の死亡は腹膜・腹腔内感染症(128万人)によるものだった。 著者は、「今回調査した33細菌属・種は、世界的な健康ロスの実質的な原因であるが、感染症や地域によって分布にかなりのばらつきがあった。GBDレベル3の根本的な死因と比較すると、これら細菌関連死は2019年の世界で2番目に多い死因に分類される」と述べ、国際保健コミュニティで緊急に介入を優先すべき事項とみなすべきで、対応戦略として、感染予防、抗菌薬の最適使用、微生物学的分析能力の改善、ワクチン開発・改良、利用可能なワクチンのより広範な使用などを提言している。

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心不全患者の緩和ケアの特徴は?【非専門医のための緩和ケアTips】第41回

第41回 心不全患者の緩和ケアの特徴は?非がん疾患の緩和ケアが注目されるようになり、いち早く保険収載された心不全患者の緩和ケア。がん患者に対する緩和ケアの経験をもとに、心不全の緩和ケアにもぜひ取り組んでいただきたいのですが、そこには疾患特性を意識した工夫も必要になります。今回は心不全の緩和ケアに関する特徴について考えていきます。今日の質問訪問診療をしていると、がんよりもむしろ、非がん疾患の患者さんの終末期に対応する機会が多くあります。中でも終末期心不全患者が今後増えていくと聞きました。心不全患者の緩和ケアについて、注意すべき点は何でしょうか?今回の質問にあるように、在宅医療の緩和ケアでは非がん疾患への対応が非常に多くなります。繰り返す誤嚥性肺炎や進行した認知症、神経難病などさまざまな疾患がある中でも、近年は心不全の緩和ケアが注目されています。「心不全パンデミック」って聞いたことがあるでしょうか? これは高齢化に伴い、心不全患者が非常に多くなることを意味しています(かつては私も講演などでよく使っていた用語ですが、新型コロナウイルスのパンデミックと誤解されそうなため最近はあまり使っていません)。高齢化に直面する地域の多くで心不全患者の増加が予想されます。都市部や地方などそれぞれの状況によっても変わりますが、ご自身の地域の医療計画などを参考に、心構えをしましょう。さて、心不全の緩和ケアにおいて意識するべきことは何でしょうか? 私が最も特徴的だと感じるのは、「増悪寛解を繰り返し、可逆性の判断が難しい」という点です。つまり、「治療の効果がどの程度見込まれるか、事前に判断しにくい」のです。心不全患者はしばしば急性増悪が生じますが、そうしたタイミングでは呼吸困難を中心とした症状も強く、静脈薬の投与も要するために入院が必要になります。軽症であれば在宅での治療もある程度まで可能ですが、血行動態に作用する薬剤を使ったり経過が時間単位で推移したりするため、入院を勧めることが多いでしょう。ここがポイントです。心不全患者の終末期は、在宅医療といった特定の療養の場で完結せず、地域の入院医療機関との連携が重要になるのです。皆さん、急性期病院で急性心不全患者の入院を担当する部門と連携体制をつくっているでしょうか?こうした連携では「顔の見える関係」の重要性が言われます。在宅医療だけでは完結しない特性を持つ慢性疾患、とくに増悪時には急性期医療機関でないと対応しにくいのが心不全の終末期であり、心不全の緩和ケアは地域レベルでの連携構築が大切な分野です。そこを意識した行動をぜひ考えてみてください。具体的にお勧めしたいのが、患者さんを紹介する際などに電話で直接やり取りすることです。新型コロナウイルスの流行前であれば、地域連携を意識した勉強会などもよく開催されていましたが、今は少し自発的な行動が必要でしょう。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips心不全の緩和ケアでは、増悪寛解を繰り返す疾患特性があり、急性期病院との連携が必要となることを知りましょう。

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