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コロナ感染拡大への祝日の影響、東京と大阪で大きな差

 祝日は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播に影響を及ぼしたのだろうか。京都大学のJiaying Qiao氏らが2020~21年の4都道府県のデータを数理モデルで検討したところ、祝日にCOVID-19伝播が増強したこと、またその影響は都道府県によって異なり、大阪で最も大きく東京で最も小さかったことが示唆された。Epidemiology and Health誌オンライン版2024年1月22日号に掲載。 本研究では、2020年2月15日~2021年9月30日における北海道、東京、愛知、大阪の4都道府県におけるCOVID-19発症と流動性のデータを収集し、祝日の感染頻度の増加を評価した。推定された実効再生産数と、調整前後の流動性、祝日、非常事態宣言を関連付けるモデルを作成した。必須の入力変数として祝日を含めた最も適合性の高いモデルを、祝日がない場合の有効再生産数の反事実を計算するために使用した。 主な結果は以下のとおり。・祝日における実効再生産数の増加率(平均)は、北海道5.71%、東京3.19%、愛知4.84%、大阪24.82%だった。・祝日の影響で増加した感染者数の合計は、北海道580例(95%信頼区間:213~954)、東京2,209例(同:1,230~3,201)、愛知1,086例(同:478~1,686)、大阪5,211例(同:4,554~5,867)だった。 著者らは「今後、適切な公衆衛生および社会対策を立案するうえで、祝日を考慮することが重要であることが明らかとなった」と結論している。

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パンデミック中、妊娠合併症と出産の転帰の一部が悪化

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期間中、妊娠合併症と出産の転帰の一部は悪化していたことが判明した。日本の100万件以上の出産データを調査した結果、パンデミックにより妊娠高血圧や胎児発育不全、新生児の状態などに影響が見られたという。獨協医科大学医学部公衆衛生学講座の阿部美子氏らによる研究結果であり、「Scientific Reports」に11月29日掲載された。 パンデミックによる影響については国際的にも多く研究されており、死産の増加や妊産婦のメンタルヘルスの悪化などが報告されてきた。しかし、パンデミックの状況や国・地域の制限レベルなどにより、その影響は異なるだろう。日本でのパンデミックと妊娠や出産の転帰に関しては検討結果が限られており、日本全国レベルでの大規模な研究が必要とされていた。 そこで阿部氏らの研究グループは、日本産科婦人科学会(JSOG)が管理する全国データから、2016~2020年の妊娠・出産のデータを用いて、パンデミックによる影響を評価した。妊娠合併症については、妊娠高血圧と胎児発育不全を調査。出産の転帰は、分娩時の妊娠週数、出生体重、新生児のアプガースコア7点未満の有無(7点未満は新生児仮死の可能性を示唆する)、死産などを調査した。これらに対するパンデミックの影響は、胎児数(単胎妊娠と多胎妊娠)による影響を考慮し、分けて検討された。 解析された妊娠・出産のデータは、パンデミック前(2016~2019年)が95万5,780件、パンデミック中(2020年)が20万1,772件だった。また、この5年間の単胎妊娠は108万4,724件、多胎妊娠は7万2,828件だった。この間、出産年齢が高い人(35歳以上)の割合は徐々に増加し、他の年齢層(20~34歳、19歳以下)の割合は減少していた。 妊娠合併症に関して比較すると、パンデミック前よりもパンデミック中の方が増加していた。関連因子(出産年齢、出産地域、妊娠前のBMI、不妊治療、胎児発育不全)による影響を調整した検討の結果、単胎妊娠では妊娠高血圧が有意に増えており(調整オッズ比1.064、95%信頼区間1.040~1.090)、多胎妊娠では胎児発育不全が有意に増えていた(同1.112、1.036~1.195)。 出産の転帰についても同様に比べると、単胎妊娠では、早産(同0.958、0.941~0.977)と低出生体重(同0.959、0.943~0.976)は有意に減少していた一方で、アプガースコア7点未満の新生児は、生後1分(同1.030、1.004~1.056)と生後5分(同1.043、1.002~1.086)の両方で有意に増加していた。新生児死亡や死産および妊産婦死亡に関しては、有意な影響は見られなかった。また、多胎妊娠では、これらの出産の転帰に対する有意な影響は認められなかった。これらの結果は、各年に含まれた分娩施設の影響を考慮した感度分析でも同様の傾向を示した。 結果を受けて著者らは、2021年以降の傾向が分析できていないことなどに言及した上で、「日本において、パンデミック中に妊娠合併症と分娩の転帰は悪化した」と結論付けている。パンデミック初期、感染者数はまだわずかであったにもかかわらずこのような転帰の悪化を認めたことに対し、著者らは、パンデミック初期から見られた自宅待機などの行動の変化、情報の混乱、社会的恐怖などによる影響を挙げ、「日本のように強制力のない制限であっても、パンデミック時の社会変化が、妊娠の転帰に悪影響を及ぼす可能性を示唆している」と述べている。

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新型コロナワクチンの国内での有効性評価、VERSUS研究の成果と意義

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの有効性を評価するため、VERSUSグループは国内の13都府県の医療機関24施設で2021年7月から継続的に「VERSUS研究」1)を行っている。本研究は、新型コロナワクチンの国内での有効性を評価し、リアルタイムにそのデータを社会に還元することを目的としている。今後はCOVID-19のみならず、新たな病原体やワクチンを見据えたネットワークを整備・維持していく方針だ。VERSUS研究のこれまでの成果と意義について、2024年1月20日にウェブセミナーが開催された。長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野の森本 浩之輔氏と前田 遥氏らが発表した。なお、BA.5流行期のワクチン有効性の結果は、Expert Review of Vaccines誌2024年1~12月号に論文掲載された2)。 VERSUS研究では、COVID-19を疑う症状があり病院を受診した16歳以上の患者、または呼吸器感染症を疑う症状で入院した16歳以上の患者において、新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、検査陰性者を対照群とした検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究を行い、ワクチン効果(vaccine effectiveness)を推定している。研究におけるアウトカムは、COVID-19の発症予防および入院予防とした。今回の発表では、2021年7月~9月のデルタ株流行期、2022年1月~6月のオミクロン株BA.1/BA.2流行期、2022年7月~11月のオミクロン株BA.5流行期、2022年後半~2023年前半BA.5/BQ.1流行期(オミクロン株対応2価ワクチン開始)、2023年オミクロン株XBB/EG.5.1流行期を通して、ワクチンの未接種者と比較した新型コロナワクチンの有効性が、前田氏によりまとめられた。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、2回接種により発症予防に対してワクチンの高い有効性が認められた。・オミクロン株BA.1/BA.2流行期では、2回接種による有効性は十分ではなく、3回接種が必要であった。16~64歳において、2回接種から180日以上の人での発症予防に対してワクチンの有効性が33.6%に対し、3回接種から90日以内の人では68.7%だった。65歳以上でも同様の傾向で、2回接種の有効性は31.2%に対し、3回接種では76.5%だった。・オミクロン株BA.5流行期では、ブースター接種(3回目または4回目)により、発症予防におけるワクチンの有効性は上昇したが、時間経過により有効性の低下が認められた。16~59歳において、2回接種から181日以上の人での発症予防に対してワクチンの有効性が26.1%に対し、3回目接種から90日以内の人では58.5%と再度上昇した。60歳以上でも、3回目接種181日以上の人では16.5%まで低下したが、4回目接種から90日以内では44.0%まで上昇した。・BA.5流行期の60歳以上におけるワクチンの入院予防効果について、ブースター接種の高い有効性が認められた。呼吸状態の悪い患者など、重症な患者に限定した解析でも同様に高い有効性が認められた。・BA.5/BQ.1流行期では、オミクロン株対応2価ワクチンは、発症予防に中程度の有効性が認められたが、XBB/EG.5.1流行期以降は効果が十分ではなかった。16~64歳において、BA.5/BQ.1流行期では、接種から90日以内で発症予防における2価ワクチンの有効性は56.1%だったが、XBB/EG.5.1流行期では、接種から90日以内では12.3%だった。・BA.5/BQ.1流行期およびXBB/EG.5.1流行期では、65歳以上でも、発症予防については16~64歳と同様の傾向が認められたが、入院予防ではいずれの期間でも高い有効性が認められた。2価ワクチン接種90日以内の入院予防の有効性は、BA.5/BQ.1流行期で72.6%に対し、XBB/EG.5.1流行期では69.1%だった。・いずれの期間においても、ファイザー製とモデルナ製の両mRNAワクチンで有効性の差はみられなかった。・今後XBB.1.5対応ワクチンの評価も行われる予定。 本セミナーの後半では、横浜市立大学データサイエンス研究科/東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐 中氏が、国内でのワクチンの定期接種化に向けた費用対効果の評価を行う際、日本とは医療環境の異なる海外でのデータに依拠するだけでは不十分で、国内でのデータを評価することの重要性を強調した。VERSUS研究によって、国内の有効性データの迅速推計の基盤が整備され、費用対効果やQOL評価に役立つデータの創出に貢献し、さらに、今回築かれた基盤は、今後、他のワクチンの政策決定においても継続的な情報提供が可能になるとまとめた。

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小児・思春期の2価コロナワクチン、有効性は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する2価mRNAワクチンについて、小児・思春期(5~17歳)へのSARS-CoV-2感染および症候性COVID-19に対する保護効果が認められることが示された。米国疾病予防管理センター(CDC)のLeora R. Feldstein氏らが、3つの前向きコホート試験に参加した約3,000例のデータを解析し報告した。米国では12歳以上については2022年9月1日から、5~11歳児については同年10月12日から、COVID-19に対する2価mRNAワクチンの接種を推奨しているが、その有効性を示す試験結果は限られていた。著者は、「今回示されたデータは、小児・思春期へのCOVID-19ワクチンの有益性を示すものである。対象となるすべての小児・思春期は、推奨される最新のCOVID-19ワクチン接種状況を維持する必要がある」と述べている。JAMA誌2024年2月6日号掲載の報告。米国計6ヵ所で集めたデータを統合し解析 研究グループは、米国で行った3つの前向きコホート試験(計6ヵ所で実施)の2022年9月4日~2023年1月31日のデータを統合し、5~17歳の小児・思春期におけるCOVID-19に対する2価mRNAワクチンの有効性を推定した。被験者総数は2,959例で、定期的サーベイ(人口統計学的・世帯特性、慢性疾患、COVID-19症状を調査)を行った。サーベイでは、症状の有無にかかわらず自己採取した鼻腔ぬぐい液スワブを毎週提出してもらい、また症状がある場合には追加の同スワブを提出してもらった。 ワクチン接種の状況は定期的サーベイで集め、州の予防接種情報システムや電子カルテで補完した。 採取したスワブを用いてRT-PCR検査でSARS-CoV-2ウイルスの有無を調べ、症状の有無にかかわらず陽性はSARS-CoV-2感染と定義した。検体採取から7日以内に2つ以上のCOVID-19症状がある検査陽性例を、症候性COVID-19と定義した。 COVID-19 2価mRNAワクチン接種者と、非接種者または単価ワクチンのみ接種者について、Cox比例ハザードモデルを用いてSARS-CoV-2感染や症候性COVID-19のハザード比を算出。年齢や性別、人種、民族、健康状態、SARS-CoV-2感染歴、試験地別の流行型の割合、地域ウイルス感染率などで補正を行い評価した。感染率は2価ワクチン群0.84/1,000人日、非2価ワクチン群1.38/1,000人日 被験者2,959例のうち、女子は47.8%、年齢中央値は10.6歳(四分位範囲[IQR]:8.0~13.2)、非ヒスパニック系白人は64.6%だった。COVID-19 2価mRNAワクチンを1回以上接種したのは、25.4%だった。 試験期間中、SARS-CoV-2感染が確認されたのは426例(14.4%)だった。このうち184例(43.2%)が症候性COVID-19を有した。426例の感染者のうち、383例(89.9%)はワクチン未接種または単価ワクチンのみ接種者で(SARS-CoV-2感染率1.38/1,000人日)、43例(10.1%)が2価mRNAワクチン接種者だった(同感染率0.84/1,000人日)。 SARS-CoV-2感染に対する2価mRNAワクチンの有効性は、54.0%(95%信頼区間:36.6~69.1)で、症候性COVID-19に対する同有効性は49.4%(22.2~70.7)だった。 ワクチン接種後の観察期間中央値は、単価ワクチンのみ接種者は276日(IQR:142~350)だったのに対し、2価mRNAワクチン接種者は50日(27~74)であった。

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「肉なし」食生活でコロナリスクが4割低下?

 植物性食品をベースにした食生活は、血圧の低下、血糖コントロールの改善、体重減少など、さまざまな健康上の利点と関連付けられているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患リスクを低減させる可能性もあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、植物性食品をベースにした食生活により、COVID-19罹患リスクが39%低下する可能性が示されたという。Hospital das Clinicas FMUSP(ブラジル)のJulio Cesar Acosta-Navarro氏らによるこの研究結果は、「BMJ Nutrition Prevention and Health」に1月9日掲載された。 この研究では、2022年3月から7月の間にソーシャルネットワークとインターネットで募集した研究参加者を対象に、食生活のパターンがCOVID-19の罹患と重症度などに及ぼす影響を検討した。調査に回答した723人のうち、702人が本研究の対象者とされた。食生活のパターンは、動物性食品と植物性食品の両方を摂取している雑食群(424人)と、植物性の食品をベースとした食事を摂取している菜食群(278人)に分けられた。菜食群は、ヴィーガン、および卵と乳製品は摂取するラクト・オボ・ベジタリアンから成るベジタリアン(191人)と、植物性食品の摂取が基本だが時に動物性食品も摂取するフレキシタリアン(87人)で構成されていた。 全体で330人(47.0%)がCOVID-19の診断を受けたことを報告した。重症度は、224人(31.9%)が軽症、106人(15.1%)が中等症〜重症だった。雑食群では菜食群に比べてCOVID-19の罹患率が有意に高かった(51.6%対39.9%、P=0.005)。COVID-19の重症度についても、雑食群で菜食群に比べて中等症〜重症の人の割合が有意に高かったが(17.7%対11.2%、P=0.005)、症状の持続期間については両群で有意な差は認められなかった(P=0.549)。 多変量ロジスティック回帰モデルによる検討の結果、菜食群では雑食群に比べてCOVID-19罹患リスクが39%低いことが示された。菜食群をベジタリアンとフレキシタリアンに分けて解析しても、罹患リスクは雑食群よりもベジタリアンで39%、フレキシタリアンで38%低かった。重症度に関しては、雑食群と菜食群の間でも、また菜食群をベジタリアンとフレキシタリアンに分けて3群間で検討した場合でも、有意な差は認められなかった。 こうした結果から研究グループは、「植物性食品をベースにした食事は免疫系の機能を高める栄養素を多く含んでおり、それが新型コロナウイルスへの感染を防ぐ要因になっているのかもしれない」との見方を示している。Acosta-Navarro氏は、「これらの知見と他の研究結果を踏まえ、またCOVID-19の発症に影響を与える因子を特定することの重要性に鑑みて、われわれは、植物性の食品をベースにした食事やベジタリアンの食事パターンの実践を推奨する」と話している。 本研究には関与していない、NNEdPro食品・栄養・健康のグローバル研究所のShane McAuliffe氏は、「この研究結果は、新型コロナウイルスへの感染のしやすさに食事が関係している可能性を示唆する既存のエビデンスに新たに加わるものだ」と評価する。一方で同氏は、「ただし、特定の食事パターンがCOVID-19罹患リスクを増加させるかどうかについて確固たる結論を出すには、より厳密で質の高い研究が必要であることに変わりはない」と述べている。

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真菌薬の過剰処方が薬剤耐性真菌感染症増加の一因に

 米国では、医師が皮膚症状を訴える患者に外用抗真菌薬を処方することが非常に多く、それが薬剤耐性真菌感染症の増加の一因となっている可能性のあることが、米疾病対策センター(CDC)のJeremy Gold氏らによる研究で示唆された。この研究結果は、「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」1月11日号に掲載された。 抗真菌薬に耐性を示す白癬(カビの一種である皮膚糸状菌を原因菌とする感染症)は、新たに現れつつある非常に大きな脅威の一つである。例えば、南アジアでは近年、外用や経口の抗真菌薬が効かない白癬が大流行した。このような薬剤耐性白癬の症例は米国の11の州でも確認されており、患者には広範囲に及ぶ病変が現れ、診断が遅れる事態が報告されているという。 抗菌薬の乱用が薬剤耐性細菌の増加につながるように、真菌も抗真菌薬に曝露すればするほど、薬剤耐性真菌が自然に増えていく。CDCのチームは、世界中で報告されている薬剤耐性真菌感染症の増加は、外用の抗真菌薬の過剰処方が原因ではないかと考え、2021年のメディケアパートDのデータを用いて、外用抗真菌薬の処方状況を調べた。データには、抗真菌薬(ステロイド薬と抗真菌薬の配合薬も含める)の処方箋の数量や処方者などに関する情報が含まれていた。 その結果、2021年にメディケアパートD受益者に処方された外用抗真菌薬の件数は645万5,140件であることが明らかになった。最も多かったのは、ケトコナゾールの236万4,169件(36.6%)、次いでナイスタチンの187万1,368万件(29.0%)、クロトリマゾール・ベタメタゾンの94万5,838件(14.7%)が続いた。101万7,417人の処方者のうち、13万637人(12.8%)が外用抗真菌薬を処方していた。645万5,140件の処方箋の40.0%(257万9,045件)はプライマリケア医の処方によるものだったが、処方者1人当たりの処方件数は皮膚科医で最も多く(87.1件)、次いで、足病医(67.2件)、プライマリケア医(12.3件)の順だった。さらに、645万5,140件の処方箋の44.2%(285万1,394件)は、処方数が上位10%に当たる1万3,106人の処方者により処方されたものだった。 Gold氏らは、抗真菌薬処方にまつわる大きな問題は、ほとんどの医師が皮膚の状態を見ただけで診断しており、「確認診断検査」を行うことがほとんどない点だと指摘する。さらに研究グループは、ほとんどの外用抗真菌薬が市販されていることを指摘した上で、「この研究結果は、おそらくは外用抗真菌薬の過剰処方の一端を示しているに過ぎない」との見方を示している。外用抗真菌薬の中でも、特に、ステロイド薬と抗真菌薬を組み合わせたクロトリマゾール・ベタメタゾンの多用は、薬剤耐性白癬の出現の大きな要因であると考えられている。この薬は、鼡径部、臀部、脇の下など、皮膚が折り重なる部分に塗布すると、皮膚障害を引き起こす可能性がある上に、長期にわたって広範囲に使用すると、ホルモンバランスの異常を引き起こすこともあると、研究グループは説明している。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「真菌による皮膚感染症が疑われる場合、医療従事者は慎重に抗真菌薬を処方すべきだ」と結論付けている。さらに、「過剰処方や薬剤耐性真菌感染症の危険性を減らすために、医師は外用抗真菌薬や抗真菌薬・ステロイド薬配合薬の正しい使用法について患者を教育すべきだ」と付言している。

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第181回 医療DXで未来が変わる、マイナ保険証の利用率が鍵に

今回は、「まとめる月曜日」の特別編として、「マイナ保険証」に焦点をあて、今後の展望や医療機関ができること、やるべき対応について、井上 雅博氏に寄稿いただきました。マイナ保険証とは政府は団塊の世代が、すべて75歳以上の後期高齢者になる2025年までに、それぞれの地域で地域包括ケアの充実や病床再編を進めています。さらに新型コロナウイルス感染拡大が収束した今、医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとしています。今後迎える超高齢社会で、労働人口の減少に伴う労働力不足に対応しつつ、医療・介護サービスの効率化と質の向上の実現を目指しています。これらの基盤整備推進を行う上で、医療・介護分野で患者情報やさまざまな医療情報を共有する仕組みを進化させることを目的として、電子カルテの共有サービスを2025年4月に開始することを決定しています。その鍵となるのがマイナンバーカードと保険証の機能を統合した「マイナ保険証」です。医療DX推進本部が目指すもの政府は、2022(令和4)年10月の閣議決定で、医療分野でのDXを通して、サービスの効率化・質の向上を実現する基盤整備を推進するため、内閣に医療DX推進本部を設置しました。合わせて医療DX推進本部が推進する施策として、(1)「全国医療情報プラットフォームの創設」、(2)「電子カルテ情報の標準化など」、(3)「診療報酬改定DX」の3つの柱が発表されました。この中で3番の「診療報酬改定DX」は、2年ごとの診療報酬改定で発生する電子カルテの更新作業の負担を軽減するデジタル人材の有効活用やシステム費用の低減を目指していますが、1番大切な項目は「全国医療情報プラットフォームの創設」であり、オンラインによる資格確認システムのネットワークの拡充を行い、レセプト・特定健診などの情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテの医療・介護全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームを創設することを目指しています。厚生労働省は、「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループにおいて、医療や介護情報共有のための「電子カルテ情報共有サービス」について議論を進めており、本格的な稼働は2025年4月からとなっています。このサービスにより、患者さんが自分の病態を把握し、医師からアドバイスを受けたり、患者さんが他院を受診する際に医療者に情報を共有する、救急搬送時に医療機関に情報を提供することが可能となるように、電子カルテベンダーに対しても具体的な技術解説書のほか、実現に向けた工程表なども公表されています。電子カルテの情報共有で、臨床現場が変化する2025年4月に「電子カルテ情報共有サービス」が立ち上がると、マイナ保険証を介して診療現場では、お薬手帳の処方の情報以外に健診データ、病名、アレルギー歴、感染症、紹介状、入院サマリーを含む「3文書6情報」が共有されるようになります。これらについて具体的に説明します。3文書には、[1]健康診断結果報告書[2]診療情報提供書[3]退院時サマリーが含まれており、他の医療機関で入院治療を行った場合、その治療内容なども把握できるようになります。また、6情報に含まれるのは、患者さんの(1)傷病名(2)アレルギー(3)感染症(4)薬剤禁忌(5)検査(救急、生活習慣病)(6)処方(処方は文書抽出のみ)です。これらの情報は、医療機関を受診した患者さんの同意があれば、マイナ保険証を介して24時間以内は患者さん情報が閲覧可能になり、他院での病名、処方内容などもすべて把握できるようになります。今後、紹介状の内容やお薬手帳の内容を基に診察していた一人一人の医師にとって、患者さんの予診や問診以外で得られる情報が増えることになり、自院で行う検査や処方について、共有情報に基づいて行うことが必須となります。もちろん、情報セキュリティについて、医療機関側には適切な情報管理や、医療情報システムの運用や安全管理が課せられることになります。このため医療機関が扱う個人情報保護については2023年5月に出された「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」に準拠した対応が、すべての医療機関に求められることになります。このガイドラインが対象とする医療機関とは、病院だけではなく、一般診療所、歯科診療所、助産所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者なども含まれており、病院の電子カルテだけではないため、すべての医療従事者にはこのガイドラインへの対応が求められます。なお、電子カルテ情報共有サービスを用いることが不可能な場合(相手先が電子カルテ情報共有サービスを導入していない場合)は、これまで通り紙運用となりますが、多くの連携医療機関を抱える基幹病院は基本的に「電子カルテ情報共有サービス」で対応することが予想されるため、診療所レベルでも対応が必要となるでしょう。退院サマリーの早期作成が求められるように一部の高度急性期病院(湘南鎌倉総合病院など)では、「患者の退院時に退院サマリーが完成してからでないと退院許可ができない」という方式をとっている医療機関もあると聞きますが、退院時に紹介状を作成して紹介先に受診をする場合は、今後はマイナ保険証を利用して「退院サマリー」の添付が可能となります。現在、退院患者の退院サマリーについて、退院後14日以内に記載された割合が9割以上あることが診療録管理体制加算1で求められており、診療録管理体制加算がDPC病院の要件であるため、多くの急性期病院では退院サマリーの2週間以内の完成が求められています。また、卒後臨床研修評価機構(略称:JCEP)の認定を受けた臨床研修指定病院においては、退院時サマリーの作成率は、退院後1週間以内100%を常に目指すことが必要とされています。高度急性期の医療機関では、退院時までのすべてのサマリー完成は困難だと考えます。しかし、退院後に他の医療機関に紹介受診となった場合、退院時サマリー添付は必須とはなってはいませんが、診療情報提供書を「電子カルテ情報共有サービス」に保存するタイミングが退院時であることを考えると、退院サマリーについても同様の運用が今後想定されます。このため、今まで以上に勤務医は入院時から退院を意識した退院サマリーの作成が必要になると考えられます(具体的な運用方法は「医療DXについて(その3)」を参照ください)。鍵となるのはマイナ保険証の利用率厚労省は、マイナンバーカードと健康保険証との一体化をデジタル庁とともに取り組んでいますが、マイナンバーカードを発行しただけでは利用できず、マイナンバーカードの健康保険証利用の申込みが必要となります。さらに前述の「電子カルテ情報共有サービス」を利用して医療の効率化を図るためには、マイナ保険証を持参してもらわなければならないため、発行数ではなく利用率を引き上げる政策が必要となりました。これらについて、厚労省は、医療機関や薬局への支援策の詳しい運用を関係団体などにマイナ保険証の利用促進に関する通知をしました。通知によれば、「現行の健康保険証の発行については、2024(令和6)年12月2日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する、そして、マイナ保険証の利用促進のため、国が先頭に立って、医療機関・薬局、保険者、経済界が一丸となり、より多くの国民の皆様にマイナ保険証を利用し、メリットを実感してもらえるように、あらゆる手段を通じてマイナ保険証の利用促進を行っていく…」とあり、実際に利用率が上昇した医療機関には「支援金」が交付されるような仕組みまで創設しています。このほか、生活保護における医療扶助のオンライン資格確認の運用開始も今年の3月1日から開始されるなど、徐々に現場でも利用されるようなサービスの充実がはかられています。また、今年1月の能登半島地震では、マイナンバーカードを持参しなくても、本人の同意の下、薬剤情報・診療情報・特定健診など情報の閲覧が可能な措置(災害時モード)を実施することで、患者さんの薬剤情報などの閲覧により、診療に役立ったように具体的な事例でメリットを提示したり、ポスターを作成したり、啓発用の漫画を公開するなど、厚労省のプロモーションは強化されています。現在、マイナ保険証の利用率が全国で4~5%と低迷していますが、今年1~5月、6~11月の前半、後半でそれぞれ利用率の上昇率に対して2回の支援金が交付されるという前代未聞のキャンペーンが行われ、医療機関による患者さんへの働きかけが強化されると予想されます。今後、医療機関側に求められるマイナ保険証への対応はさまざまな場面で混乱する可能性もありますが、医療DXの対応で避けられない部分もあり、できるだけ政府の目指す21世紀型の医療・介護連携のために対応に乗り出すことが必要と思われます。参考1)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)2)マイナ保険証支援金セミナー&診療報酬のプチお知らせ[動画](厚労省)3)マイナ保険証利用促進のための医療機関等への補助等の支援策について(同)4)電子カルテ情報共有サービスにおける運用について(同)5)医療DXの推進に関する工程表について(同)6)医療扶助のオンライン資格確認(同)7)マイナンバーカードの保険証利用でみんなにいいことたくさん!!(同)8)電子カルテ情報共有サービス-医療機関等向け総合ポータル(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会)

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令和6年度コロナワクチン接種方針を発表、他ワクチンと同時接種が可能に/厚労省

 厚生労働省は2月7日の「新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会」1)にて、令和6年度(2024年度)の接種方針を発表した。2月5日に開催された第55回生科学審議会予防接種・ワクチン分科会2)の議論を踏まえ、2024年3月末まで特例臨時接種が実施されている新型コロナワクチンは、4月以降、インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症と同じ定期接種のB類疾病に位置付け、高齢者等に対して個人の発病または重症化を予防し、併せて蔓延予防に資することを目的とした接種を実施することとした。対象は65歳以上、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓、呼吸器のいずれかの機能の障害、またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者。定期接種開始は9月以降となる。他ワクチンとの同時接種も可能に 新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの接種間隔については、特例臨時接種となっている現在は、インフルエンザの予防接種は同時接種可能であるが、その他の予防接種との間隔は13日以上空けることとされている。4月以降は定期接種実施要領の規定どおり、注射生ワクチン以外のワクチンにおいては接種間隔を定めず、医師がとくに必要と認めた場合は同時接種を行うことが可能とした。この方針は、諸外国における新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの同時接種を可能とする状況も参考にされた。秋冬接種はWHO推奨株を基本に 接種に使用するワクチンについて、これまでは流行株の状況やワクチンの有効性等に関する知見に加え、諸外国の動向も踏まえて決定し、その後、ワクチンの製造販売業者による薬事申請等がなされ供給されていた。また、世界保健機関(WHO)は2023年以降、株構成に関する専門家会議を少なくとも年2回開催する方針を示している。直近では2023年12月に開催された3)。これらを踏まえ、令和6年度の秋冬接種に用いられるワクチンの検討については、最新のWHOの推奨株を用いることを基本とした。選択肢の確保の観点から、mRNAワクチン以外にもさまざまなモダリティのワクチンを開発状況に応じて用いることとし、具体的な対応株の検討などは、インフルワクチン同様に、研究開発及び生産・流通部会にて行われる。

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フレイル、「やせが多い」「タンパク質摂取が重要」は誤解?

 人生100年時代といわれ、90歳を迎える人の割合は女性では約50%ともされている。そのなかで、老衰が死因の第3位となっており1)、老衰の予防が重要となっている。また、要介護状態への移行の原因の約80%はフレイルであり、フレイルの予防が注目されている。 そこで、2024年1月26日(腸内フローラの日)に、青森県りんご対策協議会が「いま注目の“健康・長寿”における食と腸内細菌の役割 腸内細菌叢におけるりんごの生体調節機能に関する研究報告」と題したイベントを開催した。そのなかで、内藤 裕二氏(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)が「京丹後長寿研究から見えてきたフレイルの現状~食と腸内細菌の役割~」をテーマに、日本有数の長寿地域とされる京丹後市で実施している京丹後長寿コホート研究から得られた最新知見を紹介した。フレイルの4つのリスク因子、やせではなく肥満がリスク 内藤氏はフレイルのリスク因子は、大きく分けて4つあることを紹介した。1つ目は「代謝」で、糖尿病や高血圧症、がんの既往歴、肥満などが含まれる。実際に、京丹後市のフレイルの人にはやせている人はほとんどいないとのことである。2つ目は「睡眠」で、睡眠時間ではなく睡眠の質が重要とのことだ。3つ目は「運動」で、日常的な身体活動度の低さがリスク因子になっているという。4つ目は「環境」で、これには食事、薬剤、居住地などが含まれる。このなかで、内藤氏は運動と食事の重要性を強調した。高タンパク質食はフレイルの予防にならない!? 厚生労働省が公開している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、65歳以上の高齢者のフレイルやサルコペニアの発症予防には、少なくとも1g/kg/日以上のタンパク質摂取が望ましいとしている2)。しかし、内藤氏はこれだけでは不十分であると指摘した。高齢者の高タンパク質食は、サルコペニアの発症予防にならないどころか発症のリスクとなっているという報告もあり3)、単純にタンパク質を多く摂取すればよいわけではないことを強調した。フレイル予防に有用な栄養素とは? 内藤氏は、京丹後長寿コホート研究でフレイルと非フレイルを比較した結果を報告した(未発表データ)。3大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)について検討した結果、フレイルの有無によって脂質や炭水化物の摂取量には差がなく、タンパク質についても植物性タンパク質がフレイル群でわずかに少ないのみであった。しかし、6大栄養素(3大栄養素+ミネラル、ビタミン、食物繊維)に範囲を広げて比較すると、フレイル群はカリウムやマグネシウム、ビタミンB群、食物繊維の摂取が少なかった。また、食物繊維を多く含む食品のなかで、その他野菜(非緑黄色野菜)や豆類の摂取がフレイル群で少なかったことも明らかになった。 京丹後長寿コホート研究では、食物繊維の摂取が腸内細菌叢にも影響することもわかってきた。食物繊維の摂取と酪酸産生菌として知られるEubacterium eligensの量に相関が認められたのである。Eubacterium eligensの誘導に重要な食物繊維はペクチンであり4)、内藤氏は「りんごにはペクチンが多く含まれており、フレイル群で不足していたカリウムやマグネシウムも多く含まれているので、フレイル予防に役立つのではないか」と述べた。 食物繊維について、現在の日本人の食事摂取基準2)では成人男性(18~64歳)は21g/日以上、15~64歳の女性は18g/日以上が摂取目標値とされている。しかし、最新の世界保健機関(WHO)の基準では、10歳以上の男女は天然由来の食物繊維を25g/日摂取することが推奨されているため5)、内藤氏は「日本が世界基準に遅れをとっていることを認識してほしい」と述べた。

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自殺未遂者の身体損傷、精神疾患のない人ほど大きい

 精神疾患は自殺の主な危険因子の一つであり、自殺予防対策では精神疾患のある人への支援が重要視されている。秋田大学大学院看護学講座の丹治史也氏らが秋田市内の自殺未遂者のデータを分析した結果、精神疾患の既往のない人は、その既往がある人と比べて、致死性の高い自殺企図の手段を選ぶ傾向があり、身体所見の重症度も高いことが分かった。同氏らは、精神疾患のある人だけでなく、精神疾患のない人にも配慮した自殺予防対策が重要だとしている。詳細は「Journal of Primary Care & Community Health」に11月19日掲載された。 日本の自殺率は近年減少傾向にあったが、新型コロナウイルス感染症の流行が影響して増加に転じている。自殺の主な危険因子には自殺未遂歴と精神疾患が挙げられる。自殺企図者の9割以上が精神疾患を有するとの報告もあり、精神疾患のある人は自殺リスクが高いと言われている。一方で、精神疾患のない人は致死性の高い自殺手段を選ぶ傾向のあることが報告されているが、精神疾患の有無と自殺未遂者の身体所見の重症度との関連は明らかになっていない。そこで、丹治氏らは今回、秋田市のデータを用い、自殺未遂者における精神疾患の既往の有無と救急搬送時の身体所見の重症度との関連を調べる二次データ解析を実施した。 この研究は、秋田市内5施設で収集した自損患者診療状況シートのデータを用い、2012年4月から2022年3月の間に救急搬送された自殺未遂者806人を対象に実施したもの。精神疾患の既往を曝露変数とし、主要評価項目は、自殺未遂者の身体所見の重症度(中等症または重症)とした。対象者のうち女性が67.6%を占め、76.4%(616人)は1つ以上の精神疾患の既往を有していた。 年齢と性、自殺企図の回数および支援者の有無で調整した解析の結果、自殺未遂者において、精神疾患の既往と身体所見の重症度との間に有意な負の関連が認められた〔有病割合比(PR)0.40、95%信頼区間0.28~0.59〕。つまり、自殺未遂者において、精神疾患の既往がない人は身体所見の重症度が高いことが分かった。この関連には年齢や性による差は認められなかった。また、自殺企図の手段に関する分析では、精神疾患の既往がある人は薬物過剰摂取などの致死性の低い方法を選ぶケースが多かったのに対し、既往のない人は、首つりや手首の深い損傷など致死性の高い方法を選ぶ傾向にあった。 以上から、著者らは「致死性の高い自殺企図の手段を選択するということは、自殺死亡に至るリスクが高まることを意味する。今回の研究は、精神疾患の診断がつく前に自殺を企図する可能性は高いことを考慮することの重要性を強調するものだ」と述べ、「精神疾患がなくても精神科を受診したり、社会的な支援を得られたりしやすい環境を整えることが自殺率の低下につながる可能性がある」と付言している。

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自宅で受ける病院レベルの医療の安全性と有効性を確認

 自宅で病院レベルの医療を受けた人は、入院して治療を受けた人と同程度に良好な経過をたどる可能性のあることが、米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のDavid Michael Levine氏らによる研究から明らかになった。同研究では、自宅で病院レベルの医療を受けた人の死亡率は低く、すぐに救急外来受診を必要とする状態に陥る可能性も低いことが示されたという。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月9日掲載された。 Levine氏は、「患者の自宅で提供される病院レベルの医療は非常に安全で質も高いようだ。本研究では、患者の生存期間が延び、再入院の頻度も抑えられることが示された」と話した上で、「もし、自分の母親や父親、きょうだいがこのような形で医療を受けるチャンスがあるならば、そうすべきだ」と付け加えている。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対する対応として、米国のメディケア&メディケイドサービスセンター(CMS)は、2020年にAcute Hospital Care at Home Waiver initiative(在宅急性期医療の規制免除イニシアチブ)を発足し、メディケア認定病院が、患者の自宅で病院レベルの医療を提供できるようにした。これを受け、米国37州、300施設の病院の数千人の患者が、病院ではなく自宅で医療を受けた。ただし、現行の規制免除プログラムは2024年12月に終了する見通しだ。 米国病院協会(AHA)によると、技術の進歩により病院は幅広いサービスを患者の自宅で提供できるようになった。例えば、X線検査や最新の心臓画像検査、静脈注射による治療や検査のための検体の採取が可能であり、ベッドサイドまで食事や薬を届けることもできる。 Levine氏らは今回の研究で、自宅で病院レベルの医療を受けた患者の状態を評価するため、出来高払い制のメディケアパートAの2022年7月1日から2023年6月30日の間の請求データを用いて、在宅急性期医療の規制免除プログラムによる医療を受けた患者5,858人(女性54%、白人85.2%、75歳以上61.8%、身体障害あり18.1%)のデータを分析した。対象患者のうち、42.5%が心不全、43.3%が慢性閉塞性肺疾患(COPD)、22.1%ががん、16.1%が認知症を抱えていた。 解析の結果、対象患者の死亡率は0.5%であり、24時間以内に病院に戻ることになった患者の割合も6.2%に過ぎないことが示された。さらに、自宅での急性期医療の終了から30日以内に介護施設への入所が必要となった患者の割合は2.6%、同期間に死亡した患者の割合は3.2%、病院への再入院が必要となった患者の割合は15.6%だった。 Levine氏は、「病院レベルの医療を自宅で受けることが良好な転帰につながる理由と思われるものは数多くある」と説明する。例えば、「医療専門家は、患者の自宅で患者にどのように自身のケアをすべきかを教えることができる上に、自宅という環境は、患者にとって病院よりも起き上がって動き回りやすい」ため、治療後の移行がスムーズなのだという。また、患者の自宅で医療を提供することを通じて、医療専門家が患者の生活を垣間見ることができるため、患者の健康状態の悪化につながり得る要因などに気付くことができるのも理由だという。 さらに今回の研究では、患者の人種や民族、あるいは障害の有無によって自宅で病院レベルの医療を受けた場合のアウトカムに差はないことも明らかになった。Levine氏は、「従来の入院治療ではアウトカムに大きな格差があることが分かっているだけに、社会的に疎外されている集団で臨床的に意味のある差がなかったことは心強い。このことは、自宅での急性期医療が多様な患者や家庭に対応できることを示唆している」と述べている。

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インフルエンザウイルスを中和する新たな抗体を同定

 手ごわい敵との闘いで新たな武器の入手につながりそうな研究結果がこのほど明らかになった。米ピッツバーグ大学医学部のHolly Simmons氏らは、複数のインフルエンザウイルス株を中和できる可能性のある、これまで見つかっていなかったクラスの抗体を同定したことを発表した。この抗体は、現在よりも幅広いインフルエンザウイルス株に対して有効なワクチンの開発につながる可能性があるという。研究の詳細は、「PLOS Biology」に12月21日掲載された。 インフルエンザウイルスがヒトに感染する際には、ウイルス表面の糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)が重要な役割を果たす。インフルエンザワクチンは、免疫システムにHAと結合する抗体を作らせて、HAがヒトの細胞に侵入するのを阻止する。しかし、抗体が結合するHAの部位は抗体ごとに異なることに加え、ウイルス自体も変化することから、作られた抗体を回避できる新たなウイルス株が生まれる。 インフルエンザワクチンは、毎年、専門家がそのシーズンに流行する可能性のある主な株を予測し、それに基づき製造される。予測は的中することもあるが、その確率はそれほど高くない。研究グループは、「インフルエンザウイルスの変異に対応するためには、毎年、インフルエンザワクチンを作りかえる必要がある。しかし、われわれの研究から、より広範な防御免疫を誘導するための障壁は驚くほど低い可能性のあることが示唆された」と話している。 現在、さまざまな研究によって、複数のインフルエンザウイルス株に対して予防効果を発揮するワクチンの開発が模索されている。その多くは、HAの2つの型であるH1とH3の両方に防御効果を発揮する抗体に焦点を当てている。H1とH3にもさまざまな亜型が存在するため、広範に感染を引き起こす。 これに対して、今回の研究は、いくつかのH1株に見られる小さな変化に着目したものだ。Simmons氏らの説明によると、H1株表面のHAに「133a挿入」と呼ぶアミノ酸の挿入があると、タンパク質の立体構造に変化が生じて抗体が結合できなくなり、中和効果がなくなるのだという。 Simmons氏らは、4人の患者から採取した血液検体を用いて一連の実験を行い、133a挿入の有無にかかわらず、一部のH3株と一部のH1株を中和できる新たなクラスの抗体を同定した。これらの抗体は、他の抗体とは異なる分子的特徴を持っており、H1株とH3株を異なるメカニズムで交差中和するという。 Simmons氏らは、「今回の研究によって、ウイルスに対するより広範な防御効果を持つワクチンの開発に寄与し得る抗体のリストが増えた」と説明。また、「インフルエンザワクチンの製造のあり方を変えることを裏付けるエビデンスが増える中、今回の研究結果もその一つとなるものだ」と付け加えている。

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第180回 ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省

<先週の動き>1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省厚生労働省は、1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、2024年度の診療報酬改定で急性期一般入院料1の平均在院日数を現行の18日から16日に短縮することを決定した。この決定は診療側と支払側の意見は大きく分かれていたため、公益裁定により行われた。これまで厚労省が進めてきた病床機能分化推進を目的としている。また、重症度や医療・看護必要度の基準も見直され、とくにB項目は廃止される方向で固まった。今回の改定では、急性期入院治療が必要な患者の集約化を進め、医療資源の適切な配分を促すために行われる。公益委員は、地域包括医療病棟の新設や入院基本料の見直しを踏まえ、該当患者割合の基準を高く設定することが将来の医療ニーズに応える上で重要だと指摘した。一方、診療側は、新型コロナウイルス感染症の特例終了後の経営の厳しさを理由に、平均在院日数の基準変更に反対し、影響の小さい見直しを求めた。また、支払側は、急性期病床の適切な集約を進めるために、より厳しい基準の採用と該当患者割合の引き上げを主張した。最終的に、公益裁定により平均在院日数の「16日以内」への短縮と、重症度・医療看護必要度の基準見直しが決定された。今回の改定により、地域医療の質の向上と効率化を目指し、急性期病床の機能分化と連携強化を推進することが望まれている。参考1)中医協 個別改定項目(その2)について(厚労省)2)1月31日の中医協の公益裁定で決定 急性期一般入院料1の平均在院日数は「16日」に短縮(日経ヘルスケア)3)24年度診療報酬改定 急性期の機能分化推進へ 急性期一般入院料1の平均在院日数「16日」に短縮(ミクスオンライン)2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁新型コロナウイルス感染症の長期化により、わが国の救急医療体制が逼迫していることが総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」から明らかになった。救急出動件数と搬送人数は共に増加傾向にあり、救急車の要請から病院受け入れまでの時間が延長し、搬送先病院をみつけるまでの照会件数も増加している。この状況は、救急現場の負担増加とともに、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。2022年中の救急出動件数は723万2,118件で前年比16.7%の増加、搬送人員は621万9,299人で13.2%増加した。搬送は救急自動車が大部分を占め、消防防災ヘリによる搬送もわずかに増加していた。救急出動の主な原因は急病で、とりわけ呼吸器系、消化器系、心疾患、脳疾患のケースが多くみられた。また、軽症者の割合も増加しており、救急搬送の要請が重症患者や重篤患者に限定されるべきであるとの国民意識のシフトが必要とされている。救急搬送の過程で、119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間は全国平均で10.3分、病院に収容されるまでの時間は47.2分となり、コロナ禍の影響で時間が延伸している。医療機関への受け入れ照会回数の増加や、搬送先病院のみつけにくさは、コロナ禍における救急医療提供体制の逼迫を示している。この状況に対応するため、厚生労働省は発熱外来や相談体制の強化、かかりつけ医を持つことの重要性を自治体に要請している。また、救急隊による応急処置の重要性が高まっており、医師の現場出動も広がっている。さらに、救急救命士が、病院前で重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置を救急外来でも実施できるよう法律改正が行われている。参考1)新型コロナ感染症の影響で救急医療体制が逼迫、搬送件数増・病院受け入れまでの時間延伸・照会件数増などが顕著―総務省消防庁(Gem Med)2)「令和5年版 救急・救助の現況」(総務省消防庁)3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省厚生労働省は、2024年4月より製薬会社による医師への研究資金提供に関する規制を強化する。製薬会社が、自社製品の臨床研究を大学病院などで行う医師に対して提供する資金の公表を義務付ける臨床研究法の施行規則を改正することにより、透明性を高めることを目的としている。改正後は、製薬企業が提供する研究資金のほか、医師への接待費用や説明会、講演会にかかった費用と件数も公表対象となる。これにより、医師が所属する大学などへの寄付金、講演会の講師謝金、原稿執筆料に加え、これまで公表対象外だった接待費用なども含めた透明性の確保が図られる。今回の規制強化は、高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受けて制定され、2018年に施行された臨床研究法に基づくもの。この法律は、製薬会社から研究を実施する大学側に寄付金が提供されていた事実を背景に、研究の透明性を高めることを目的としている。また、日本製薬工業協会は、2011年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、2022年にも改定している。このガイドラインでは、製薬企業と医療機関、医療関係者の産学連携における透明性と信頼性の向上を目指し、製薬企業の活動が倫理的かつ誠実なものとして信頼されるための取り組みを強調している。臨床研究法との関係においても、ガイドラインは臨床研究に関連する資金提供の情報公開を義務付け、国民の信頼確保に寄与することを目指している。今回の規制強化により、製薬企業と医療機関の資金提供について透明性を高め、医療機関・医療関係者が特定の企業・製品に深く関与することによる利益相反の問題を解消し、患者の健康を最優先にした倫理的かつ誠実な医療の提供を目指している。参考1)医師への接待費、公表義務化へ…研究資金提供の製薬会社に対し4月から(読売新聞)2)企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(日本製薬工業協会)4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省糖尿病治療薬をダイエット目的で使用する不適切な医療広告が増加している問題に対し、厚生労働省は医療広告ガイドラインの見直しを行うことを決めた。とくに、GLP-1受容体作動薬を「ダイエット薬」として処方する事例が問題視され、関係学会から有効性や安全性が確認されていないとの警鐘が鳴らされている。GLP-1受容体作動薬は、食欲や胃の動きを抑える効果があるため、糖尿病治療以外にもダイエット目的で使用されている。厚労省は、1月29日に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使用する場合、公的な救済制度の対象外であることを明示するなど、ガイドラインの「限定解除要件」に新たに項目を追加する方針を明らかにした。また、美容医療サービスなどの自由診療でのインフォームド・コンセントの留意事項も見直される。ダイエット目的での不適切な医療広告によって、糖尿病患者が必要とする薬が手に入らない事態を引き起こしており、健康被害の報告も増加している。ダイエット目的で使用した場合の副作用には、吐き気、気分の低下、頭痛、胃のむかつきなどがあり、使用者からは苦しんだとの声が上がっている。厚労省は、不適切な医療広告に対処する都道府県に対して、実施手順書のひな形を提供し、指導、対応を促す方針。さらにネットパトロール事業を通じて違反が確認された医療機関には通知され、多くは6ヵ月以内に改善されているが、一部では改善が遅れているケースもあるため、厳格な対応が求められており、医療広告に関する全国統一ルールの検討や、医療機関のウェブサイトだけでなく、SNSや広告への対処も検討されている。また、一般国民への正しい情報提供と理解促進の強化が必要とされている。参考1)第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会(厚労省)2)医療広告ガイドライン改正へ 厚労省「未承認薬は救済制度の対象外」明示、限定解除要件に(CB news)3)「糖尿病治療薬を用いたダイエット」などで不適切医療広告が目に余る、不適切広告への対応を厳格化せよ-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4)「糖尿病治療薬」“ダイエット目的”での使用相次ぎ健康被害が続出 薬不足で糖尿病患者が薬を手にできないケースも…(FNNプライムオンライン)5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省2024年12月に現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証への完全移行が予定されている。この移行に向けて、厚生労働省は医療機関や薬局に対してマイナ保険証の利用促進策を通知した。支援策には、利用促進、顔認証付きカードリーダーの増設、再来受付機・レセプトコンピューターの改修コストの補助が含まれる。利用促進に関しては、利用率の上昇に応じて1件当たり最大120円の支援金が提供される予定。具体例として、国家公務員の利用率は4.36%と低迷し、とくに防衛省では2.50%と最も低い利用率を記録している。同様に電子処方箋の普及も伸び悩んでおり、導入率は約6%に留まっている。これには、システム導入費の負担が大きな障壁となっていることが原因の1つとされている。さらに、マイナ保険証の導入に対する現場の反発も広がっている。大阪府保険医協会のアンケートでは、回答した医療機関の約7割が現行の保険証の存続を支持しており、マイナ保険証の利用に際してのトラブルも多く報告されている。医療現場からは、マイナ保険証の導入による受付業務の負担増や患者の待ち時間の増加が懸念されている。政府はマイナ保険証の利用促進とデジタル化の推進を図っているが、現場の声や患者の不安に十分考慮した取り組みが求められる。専門家は、マイナ保険証のメリットが十分に理解されていない現状を指摘し、デジタル化に適応できない人たちへの配慮や現場の声を反映したスケジュールの見直しが必要だと提言している。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)3)マイナ保険証、国家公務員も利用低迷 昨年11月は4.36%(朝日新聞)4)「トラブル多い」「利用は少ない」 マイナ保険証、広まる現場の反発(同)6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取鳥取県立中央病院の救命救急センターの医師が、消防の救急救命士に対してパワーハラスメント行為を行っていた問題について、病院は6件のパワハラ、またはパワハラの恐れがある行為を認めた。これに対し、12件はパワハラには当たらないと判断された。問題の行為には、救急救命士への高圧的な口調での対応や、一方的に電話を切るなどの行為が含まれている。病院側は、救急救命士からの医療行為に必要な指示を出すよう要請されたにもかかわらず、指示を拒否したり、救急救命士の発言が終わる前に電話を切ったりするなど、救急救命士を指導したいという思いが行き過ぎた行為があったと認めた。この問題について、病院長は記者会見を開き、パワーハラスメントに該当する言動があったことを発表し、今後は研修会などを通じて医師と救急救命士との信頼関係の醸成を図ると述べた。同病院は、消防局に対して謝罪し、関係回復に努めるとしている。また、県病院局はハラスメント防止委員会を立ち上げ、医師らの処分を検討する方針を示している。参考1)県立中央病院医師の救急救命士へのパワハラ6件と発表(NHK)2)救命士に電話ガチャ切りパワハラ 鳥取県立中央病院の救急医(産経新聞)3)「それってぼくが助言しなきゃいけないことですか」「一方的に電話を切られた」医師から救急隊員へのパワハラさらに判明 鳥取県立中央病院(山陰放送)

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先天性難聴児、遺伝子治療で聴力回復/Lancet

 常染色体劣性難聴9(DFNB9)の小児の治療において、ヒトOTOF遺伝子導入アデノ随伴ウイルス血清型1型(AAV1-hOTOF)を用いた遺伝子治療は、安全かつ有効であり、新たな治療法となる可能性があることが、中国・復旦大学のJun Lv氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年1月24日号に掲載された。中国1施設の単群試験 本研究は、中国の1施設(復旦大学附属眼耳鼻喉科医院)で行われた単群試験であり、2022年10月~2023年6月に参加者のスクリーニングを行った(中国国家自然科学基金委員会などの助成を受けた)。 年齢1~18歳、重度~完全難聴で、OTOF遺伝子の2つのアレルの双方に変異を認め、人工内耳を埋め込んでいないか、片側のみに埋め込んでいる患児6例(男女3例ずつ、年齢1.0~6.2歳)を登録した。用量制限毒性とGrade4/5の有害事象は発現せず AAV1-hOTOFを、正円窓から蝸牛に注射(単回)した。6例のうち1例には9×1011ベクターゲノム(vg)、5例には1.5×1012vgを注射した。全例が26週間のフォローアップを完了した。 注射後6週の時点で用量制限毒性(主要エンドポイント)は発現せず、試験期間中にGrade4または5の有害事象は認めなかった。合計48件の有害事象が観察され、このうち46件(96%)はGrade1または2であり、2件(4%)はGrade3(1例で2件の好中球数の減少、いずれも自然消退)であった。6例中5例でABR閾値が改善 5例で聴力の回復を認め、0.5~4.0kHzにおける聴性脳幹反応(ABR)の平均閾値が40~57dB低下した。 9×1011vgのAAV1-hOTOFの投与を受けた患児(1例)では、平均ABR閾値はベースラインの95dB以上から、4週後には68dB、13週後には53dB、26週後には45dBにまで改善した。また、1.5×1012vgの投与を受けた患児(5例)のうち4例では、平均ABR閾値はベースラインの95dB以上から、48dB、38dB、40dB、55dBと変化し、26週には聴力の回復を認めた。 聴力が回復した患児では、音声知覚(speech perception)の改善がみられた。 著者は、「本研究は、DFNB9の治療における遺伝子治療の安全性と有効性に関するエビデンスを提供し、他の遺伝性難聴の新たな治療法としての遺伝子治療の基礎を築くものである」としている。

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COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている1,2)。 同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験3)等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。 本研究では、30歳以上でCOVID-19発症から7日以内の外来患者を、高用量のフルボキサミン群とプラセボ群に無作為に割り付けて比較した。結果は、主要アウトカムである症状改善までの期間短縮は認めず(調整ハザード比:0.99、95%信頼区間:0.89~1.09、有効性のp=0.40)、副次アウトカムの28日以内死亡例は両群ともに0例で、入院や救急外来/救急診療部受診ではフルボキサミン群14例(2.4%)に対してプラセボ群21例(3.6%)とフルボキサミン群での医療介入イベントは3分の1程度少なかったが、事前に定めた基準を満たすほどの差はなかった4)。 また、忍容性の観点では、「調子が悪いため、薬を飲むつもりはない」と報告した患者は、フルボキサミン群6.4%に対してプラセボ群は2.1%と、以前から想定されていた高用量フルボキサミンにおける忍容性の低さが示されたと考える。以上より、昨年の論文に続き、本研究でもCOVID-19に対するフルボキサミン投与の有効性は示されなかった。 今回の主要アウトカムであるCOVID-19の症状改善までの期間短縮では、有意差を示した過去の報告は乏しく、COVID-19に対して死亡率低下や重症化予防効果を示したニルマトレルビルやモルヌピラビルでさえほとんどない。 統計学的に有意な症状改善効果を示した薬剤にはエンシトレルビルがあり、プラセボに比較して症状消失までの時間を約24時間短縮させている5)。本邦で重症化リスクは低いが症状の強い患者から対症療法以外の薬剤も処方希望がある場合は、フルボキサミンを処方するよりもエンシトレルビルを処方するほうが理にかなっているだろう。 ただし、昨今のCOVID-19診療では、流行株の変化やワクチン接種の効果により、死亡率や重症化率は低下傾向で、外来患者の症状もデルタ株流行時よりも軽減しているように感じている。流行株が変遷した現在において、症状改善までの期間短縮のメリットが薬価や副作用・ウイルス耐性化のリスクといったデメリットに勝る薬剤を発見・開発することは、今後もなかなか難しいかもしれない。 さて、現在の医療現場でCOVID-19に関する問題として残っていることには、施設入所や入院中の患者で発生するCOVID-19クラスターがある。執筆時点で、COVID-19に対する発症予防効果が期待されている薬剤は、ワクチンや抗体療法を除くと証明されておらず、現在の流行株によるクラスター対策で即時に有用な薬剤はない。COVID-19は、重症化リスクの乏しい患者においては、インフルエンザウイルスなどと近い重症度になりつつある6)が、現在でも感染力は強く、施設内・院内感染におけるクラスターはいまだに施設や医療機関に負荷をかける原因となっている。 しかし、COVID-19に対して重症化予防が証明された抗ウイルス薬でも、発症予防効果が証明された薬剤はなく、症状改善までの期間短縮の薬剤よりも発症予防効果のある薬剤のほうが医療現場でのニーズは高いかもしれない。■参考1)McCarthy MW, et al. JAMA. 2023;329:269-305.2)CareNet.comジャーナル四天王「フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA」(2023年1月30日)3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)CareNet.comジャーナル四天王「コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA」(2024年1月12日)5)日本感染症学会 COVID-19治療薬タスクフォース「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版」(2023年2月14日)6)Xie Y, et al. JAMA. 2023;329:1697-1699.

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プロバイオティクスはCOVID-19の発症を遅らせる?

 プロバイオティクス、特に乳酸菌の摂取は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した同居家族を持つ新型コロナワクチン未接種者のCOVID-19発症を遅らせ、発症した場合でも症状を軽減する効果のあることが、新たな臨床試験で明らかにされた。米デューク大学医学部麻酔科学分野のPaul Wischmeyer氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Nutrition」1月号に掲載された。Wischmeyer氏は、「この研究結果は、COVID-19や将来流行する可能性のある他の疾患との闘いにおいて、共生微生物が貴重なパートナーになり得るという考えに信憑性を与えるものだ」と話している。 プロバイオティクスは、主に消化管に生息する有益な細菌や酵母を増やすように設計されている。「プロバイオティクスに呼吸器感染症を予防する効果があることを示す強力なエビデンスは、COVID-19が発生する前からあった」とWischmeyer氏は説明する。 この研究では、プロバイオティクスの摂取が、COVID-19のリスクを低減するための低リスクで低コスト、かつ導入の容易な方法となり得るかどうかが、二重盲検化ランダム化比較試験で検討された。対象者は、過去7日間で家庭内にCOVID-19罹患者がいた1歳以上の新型コロナワクチン未接種者182人で、新型コロナワクチンが広範に接種されるようになる前の2020年6月から2021年6月の間に試験に登録された。これらの対象者は、曝露後予防として28日間、プロバイオティクス(Lacticaseibacillus rhamnosus GG)を摂取する群(プロバイオティクス群)と、プラセボを摂取する群(プラセボ群)に1対1でランダムに割り付けられた。このうち135人(プロバイオティクス群66人とプラセボ群69人)が治療を開始した。主要評価項目は、COVID-19曝露から28日間でのCOVID-19の発症であった。 その結果、プロバイオティクス群ではプラセボ群に比べて、COVID-19の発症リスクが有意に低いことが明らかになった(26.4%対42.9%、P=0.02)。全体的なCOVID-19罹患率は、プロバイオティクス群で8.8%、プラセボ群で15.4%と前者の方が低かったが、統計的に有意な差は認められなかった(P=0.17)。ただし、プロバイオティクス群では、COVID-19の診断を受けるまでの時間が有意に長かった(P=0.049)。 こうした結果についてWischmeyer氏は、「プロバイオティクスは免疫系を強化し、炎症に関わる体内の化学物質を減少させ、感染に対する肺の防御能を高めることが知られている」と指摘。その上で、「今回の試験で得られた結果は、われわれにとっては驚きではなかった。インフルエンザなどの呼吸器感染症に対するプロバイオティクスの強い有効性を実証した先行研究がいくつかあったからだ」と話している。 Wischmeyer氏は、「プロバイオティクスは、ワクチン接種が受けにくい低所得国や、『ワクチン疲れ』で新型コロナワクチンのブースターの接種率が低い米国の地域では特に有用な可能性がある」との見方を示す。米疾病対策センター(CDC)によると、2023年に改良版の新型コロナワクチンを接種した人は、米国の人口の20%以下であるという。

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コロナ第10波、今のXBB.1.5対応ワクチン接種率は?/厚労省

 2024年1月26日付の厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染は、1月15~21日の1定点当たりの報告数が12.23人となり、前週の8.96人から約1.36倍増加している。都道府県別で多い順に、福島県(18.99人)、茨城県(18.33人)、愛知県(17.33人)となっている。COVID-19による入院患者数は3,462人で、すでに第9波のピーク時(2023年8月21~27日)の水準を上回っており1)、第10波が到来したと考えられる。 一方、首相官邸サイトの1月30日付の発表によると、新型コロナワクチンの令和5年秋開始接種(XBB.1.5対応ワクチン)の接種率について、65歳以上の高齢者では51.6%、全年代では21.5%と、低い水準にとどまっている2)。全額公費負担の特例臨時接種は2024年3月末で終了し、4月以降は、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳を対象に、秋冬に自治体による定期接種が原則有料で行われる。対象者以外の接種希望者は、任意接種として、時期を問わず全額自費で接種することとなる。 厚労省は1月26日に、予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会・医薬品等安全対策部会安全対策調査会が実施した、「オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの初回接種および追加接種にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)」の結果を発表した3)。本調査では、ファイザーおよびモデルナのXBB.1.5対応ワクチンについて、最終接種から4週間後までの安全性を評価する前向き観察研究であり、順天堂大学、国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)が共同で実施した。 主な結果は以下のとおり。・ファイザーのワクチンは、2023年9月29日~2024年1月5日に1,943人が追加接種した。モデルナのワクチンは、2023年10月13日~2024年1月5日に237人が追加接種した。・ファイザーのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた1,751人では、37.5℃以上の発熱が16.5%(38.0℃以上は6.5%)にみられ、局所反応は疼痛が87.5%にみられた。・モデルナのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた971人では、37.5℃以上の発熱が39.9%(38.0℃以上は21.7%)にみられ、局所反応は疼痛が93.4%にみられた。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチンは、2回目から令和4年秋開始接種に比べて発熱の頻度が低く、倦怠感、頭痛は2回目から4回目接種より頻度が低かった。1回目接種に比べて発熱、倦怠感、頭痛は頻度が高く、局所の疼痛は1回目から4回目接種よりも頻度が低かったが、全体的に大きな違いは認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチンは、3回目接種に比べて頭痛の頻度が低く、令和4年秋開始接種より発熱、倦怠感、頭痛の頻度が高かったが、局所疼痛の頻度は全体的に大きな違いは認めなかった。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチン接種者862人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗ヌクレオカプシドタンパク質抗体(抗N抗体)価が陰性者は接種前7,821U/mL、接種1ヵ月後1万7,971U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前2万3,860U/mL、接種1ヵ月後4万6,106U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチン接種者307人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗N抗体価が陰性者は接種前6,749U/mL、接種1ヵ月後2万1,797U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前1万9,851U/mL、接種1ヵ月後3万8,136U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・ファイザーとモデルナのXBB.1.5対応ワクチンのいずれも、PMDAへの副反応疑い報告は認められていない。ファイザーのワクチンにおいては因果関係を問わない重篤な有害事象(SAE)は認められていない。モデルナのワクチンにおいて3件の因果関係を問わないSAEが認められている。 なお、現在主流となっているオミクロン株JN.1に対しても、XBB.1.5対応ワクチンは入院や死亡といった重症化の予防に有効だとする見解が、JAMA誌オンライン版2024年1月12日号で示されている4)。

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第199回 コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見/コロナ感染でドーパミン神経が老化する

コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染でよく生じる症状の1つ、くしゃみを誘発する仕組みが見つかりました。SARS-CoV-2は手持ちのプロテアーゼPLpro(パパイン様プロテアーゼ)を頼りに複製します。そのPLproが感覚神経の一員である侵害受容神経を活性化してくしゃみを誘発することがマウスを使った検討で明らかになりました1)。ウイルス感染の別の主な症状である咳をPLproが促すかどうかは検討されませんでした。というのもマウスの咳を確かめようがなかったからです2)。しかしPLproが咳も引き起こしている可能性はありそうです。PLproは侵害受容神経で発現するイオンチャネルTRPA1を介した作用により、くしゃみや痛みを誘発することが今回の研究で示されました。TRPA1活性化の咳誘発作用が先立つ研究で知られており3)、PLproが咳も誘発するかどうかを調べることは価値がありそうです。PLproはSARS-CoV-2の複製に不可欠なことから、その阻害薬の開発が進んでいます。たとえばビタミンA誘導体イソトレチノンにPLpro阻害作用があると示唆されており、Clinicaltrials.govには同剤による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の臨床試験がいくつか登録されています。また、米国・Sound Pharmaceuticals社の開発品ebselenもどうやらPLpro阻害作用があるらしく、COVID-19患者を対象にした2つの第II相試験が進行中です。今回の結果によるとそれらPLpro阻害薬はこれまでの見込み以上の症状緩和作用や感染の拡大を防ぐ作用を担いうるかもしれません。くしゃみを誘発するウイルスはほかにもありますが、そもそもウイルス感染のくしゃみの原因はこれまでわかっていませんでした。今回見つかった仕組みはSARS-CoV-2のみならず、そのほかのウイルス感染の症状や感染の伝播を減らす手段の開発にも役立ちそうです2)。コロナ感染でドーパミン神経が老化する続いて、SARS-CoV-2が神経に支障を来す仕組みを同定し、COVID-19患者のパーキンソン病症状の発生に注意する必要があることを示唆した研究成果を紹介します。COVID-19の嗅覚/味覚障害や頭痛などの神経異常はますます広く知られるようになっています。神経のSARS-CoV-2感染のしやすさは一様ではないらしく、たとえばiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作ったドーパミン放出(DA)神経はSARS-CoV-2感染を許し、皮質神経はそうでないことが先立つ研究で示されています。新たな研究の結果、SARS-CoV-2感染したiPS細胞由来DA神経はパーキンソン病と関連する老化状態に陥ることが示されました4,5)。SARS-CoV-2感染で老化経路の活性化がみられたのはDA神経細胞のみで、肺を模す組織(肺オルガノイド)、膵臓細胞、肝臓オルガノイド、心臓細胞のSARS-CoV-2感染では老化経路遺伝子の有意な働きは認められませんでした。そういう神経老化を防ぎうる手段も早くも同定されました。検討されたのは米国FDA承認薬一揃いで、まずそれらをiPS細胞由来DA神経に与え、次にSARS-CoV-2を加えた後に細胞老化の生理指標βガラクトシダーゼ(β-gal)活性が測定されました。その結果やほかの検討により、3つの薬・リルゾール、イマチニブ、メトホルミンがDA神経へのSARS-CoV-2感染を阻止してその老化を防ぐことが判明しました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療に使われるリルゾールとSARS-CoV-2感染の関わりは知られていませんが、イマチニブのSARS-CoV-2阻止作用は肺オルガノイドを使った先立つ研究で確認されています。メトホルミンといえばSARS-CoV-2感染した肥満や2型糖尿病患者の死亡率低下と同剤使用の関連が示されており、COVID-19治療効果を担いうることが知られています。それら薬剤がSARS-CoV-2感染に伴う神経病変を解消しうるかどうかは今後調べる価値がありそうです。また、SARS-CoV-2感染した人にパーキンソン病関連症状が発生していないかどうかを注意して観察する必要がありそうです。パーキンソン病で損傷を受けやすいのが脳の黒質のDA神経A9型であるのと同様に、そのA9型はSARS-CoV-2にどうやらとくに影響を受けやすいことが今回の研究で示唆されています。参考1)Mali SS, et al. bioRxiv. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)Why does COVID-19 make you sneeze? / Science3)Grace MS, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2011;24:286-288.4)Yang L, et al. Cell Stem Cell. 2024 Jan 10. [Epub ahead of print]5)SARS-CoV-2 Can Infect Dopamine Neurons Causing Senescence / Weill Cornell Medicine

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HIV感染妊婦のマラリア予防、間欠的予防療法の追加が有効/Lancet

 スルファドキシン/ピリメタミン耐性が高度で、通年性のマラリア感染がみられる地域において、ドルテグラビルをベースとする抗レトロウイルス薬の併用療法(cART)を受けているHIV感染妊婦に対するマラリアの化学予防では、コトリモキサゾール連日投与による標準治療への、dihydroartemisinin-piperaquine月1回による間欠的予防療法の追加は、これを追加しない場合と比較して、分娩までのマラリア原虫(Plasmodium属)の活動性感染のリスクが有意に低下することが、ケニア中央医学研究所のHellen C. Barsosio氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年1月12日号で報告された。アフリカ6施設のプラセボ対照無作為化試験 本研究は、ケニア西部の3施設とマラウイの3施設で実施した二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2019年11月~2021年8月の期間に参加者を登録した(European and Developing Countries Clinical Trials Partnership 2などの助成を受けた)。 ドルテグラビルベースのcARTを受けており、妊娠期間が16~28週で、単胎妊娠のHIV感染妊婦904例を登録し、コトリモキサゾール連日投与+dihydroartemisinin-piperaquine月1回投与を行う群(追加群)に448例(平均年齢29.2歳)、コトリモキサゾール連日投与+プラセボ月1回投与を行う群(対照群)に456例(平均年齢29.2歳)を無作為に割り付けた。NNTは7 dihydroartemisinin-piperaquineまたはプラセボの初回投与から2週間以降、分娩までの母体のマラリア感染(主要エンドポイント)の割合は、対照群が15%(70/452例)であったのに対し、追加群は7%(31/443例)と有意に低かった(リスク比:0.45、95%信頼区間[CI]:0.30~0.67、p=0.0001)。 妊娠中から分娩までの100人年当たりのマラリア感染の発生率は、対照群が77.3であったのに比べ、追加群は25.4であり有意に低下していた(発生率比:0.32、95%CI:0.22~0.47、p<0.0001)。1回の妊娠当たりの1回のマラリア感染を防止するための治療必要数(NNT)は7(95%CI:5~10)だった。有害妊娠アウトカム、重篤な有害事象の頻度は同程度 忍容性は両群とも良好であった。投与開始から4日以内の悪心は、対照群に比べ追加群で多かった(7%[29/446例]vs.3%[12/445例])が、すべて一過性(≦2日)であり、患者の自己申告でほとんどが軽度であった(97%[28/29例]vs.100%[12/12例])。 有害妊娠アウトカム(低出生時体重児、在胎不当過小児、早産、胎児消失[死産、流産]、新生児死亡)(追加群25% vs.対照群27%、p=0.52)と、その個々の要素の発生率は、いずれも両群間に差を認めなかった。また、重篤な有害事象の発生率も、母親では100人年当たり追加群が17.7(23件)、対照群は17.8(25件)、新生児(生後6週まで)では100人年当たりそれぞれ45.4(23件)および40.2(21件)と、いずれも両群で同程度だった。 著者は、「この追加レジメンは、ドルテグラビルベースのcARTを受けているHIV感染妊婦のマラリア化学予防を大幅に改善する可能性があり、施策としての検討に値する。今後は、実臨床における実行可能性と費用対効果を評価する研究が求められる」としている。

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第179回 コロナ第10波とインフルエンザが同時流行、警戒を呼びかける/厚労省

<先週の動き>1.コロナ第10波とインフルエンザが同時流行、警戒を呼びかける/厚労省2.診療報酬改定、医療従事者の処遇改善とともに入院基本料・初診料を引き上げへ/厚労省3.岸田首相、認知症施策推進本部で認知症対策の強化を指示/政府4.小児とAYA世代のがん患者の10年後の生存率が明らかに/国立がん研究センター5.新型コロナ後も続く少子化、2023年出生数が大幅減/厚労省6.労災認定された過労死自殺の遺族が病院に2億円超の賠償請求/兵庫1.コロナ第10波とインフルエンザが同時流行、警戒を呼びかける/厚労省厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルスの新規感染者数が9週連続で増加していることが明らかになった。1月15日~21日の間に約5,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は計6万268人で、1定点当たり12.23人となり、前週の8.96人から約1.36倍に増加した。入院患者数も昨年末の約2倍に増加している。都道府県別では、福島県が最多で18.99人、茨城県が18.33人、愛知県が17.33人と続いている。東京都は8.33人、大阪府は7.96人、福岡県は10.40人。新規入院患者数は3,462人で、前週から600人増加したが、集中治療室(ICU)に入院している患者数は115人で、前週より21人減少。季節性インフルエンザの新規感染者数も増加しており、1定点当たり17.72人となっている。専門家は「新型コロナはすでに冬の流行期に入っており、『第10波』入り」を指摘している。参考1)「コロナ第10波に入った」の声…インフルと同時流行(読売新聞)2)全国のコロナ感染者数、9週連続で増加 入院患者は昨年末の2倍に(朝日新聞)3)新型コロナ インフルエンザ ともに患者数増加 感染対策徹底を(NHK)2.診療報酬改定、医療従事者の処遇改善とともに入院基本料・初診料を引き上げへ/厚労省厚生労働省は、1月26日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、来年度の診療報酬改定で入院基本料の引き上げを決定した。今回の改定の主な目的は、40歳未満の勤務医や事務職員の賃上げを実現すること。また、医療従事者の処遇改善や日常的な感染防止対策の原資として、初診料や再診料の引き上げも含んでいる。入院基本料の見直しでは、栄養管理体制の基準の明確化、患者意思決定支援の推進、身体的拘束の最小化などが求められている。今回の改定により、国費ベースで約800億円の財源が確保され、医療行為の対価に当たる本体部分が0.88%引き上げられる。そのうち、0.61%分の財源は看護職員や病院薬剤師、コメディカルの賃上げに充てられ、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップが行われる。また、40歳未満の勤務医や薬局に勤務する薬剤師、事務職員らの賃上げに0.28%分程度の財源が回される予定。急性期入院医療に関しては、急性期充実体制加算や総合入院体制加算の要件が厳格化され、急性期病棟のリハビリテーション、口腔管理、栄養管理の充実に向けた新加算が評価される。同時に、DPC(診断群分類)参加基準も厳格化され、基礎係数の見直しが行われる。参考1)個別改定項目(その1)について(厚労省)2)入院基本料引き上げへ、若手勤務医らの賃上げで 初・再診料もアップ 24年度診療報酬改定(CB news)3)急性期充実・総合入院体制加算の要件厳格化、急性期病棟のリハ・口腔・栄養管理を新加算で評価、DPC参加基準厳格化-中医協総会(1)(Gem Med)4)若手勤務医や事務員等の処遇改善は「入院料や初再診料アップ」で対応、「点数増が処遇改善につながったか」の検証は?-中医協総会(2)(同)3.岸田首相、認知症施策推進本部で認知症対策の強化を指示/政府2024年1月26日、政府は認知症対策に関する国の基本計画を策定するため、「認知症施策推進本部」の初会合を開催した。岸田 文雄首相は、認知症の当事者やその家族から意見を聞き、今秋に計画を策定することを目指している。岸田首相は、認知症になり得るすべての人々が尊重され、支え合いながら共生する活力ある社会の実現を強調した。この基本計画では、認知症の人々が尊厳と希望を持って暮らせるようにするための基本理念を定めている。政府は、認知症の人々と共生できる社会環境の整備、認知症の予防、治療薬の開発などについて議論し、関連施策をまとめる予定。また、岸田首相は、認知症と共に希望を持って生きる新しい認知症観の理解促進の重要性を指摘し、高齢者の生活課題への取り組みに生かすことを強調した。参考1)岸田首相 認知症対策強化へ “政府一丸で必要な取り組みを”(NHK)2)認知症基本計画、今秋策定へ 推進本部が初会合-政府(時事通信)3)認知症の人との共生、今秋めどに基本計画策定 施策推進本部が初会合(朝日新聞)4.小児とAYA世代のがん患者の10年後の生存率が明らかに/国立がん研究センター国立がん研究センターは、2011年にがんと診断された小児(0~14歳)とAYA世代(15~39歳)の患者の10年後の生存率を初めて集計し、公表した(この結果は全国341施設の約36万例のデータを基にしている)。小児がんの生存率は比較的高く、とくに白血病の10年生存率は86.2%、脳腫瘍は71.5%で、5年生存率と比べて大きな低下はみられなかった。AYA世代では、がんの種類によって生存率に差があり、乳がんの10年生存率は83.5%、脳・脊髄腫瘍は77.8%となった。子宮頸部・子宮がんの10年生存率は87.2%で、大きく低下していないことが確認された。全体のがん患者の10年生存率は実測で46%、がんの影響を直接的に計算した生存率は53.5%だった。研究者は、「小児がん患者の長期の予後が良いことを示すデータが乏しかったが、この研究で裏付けられた」と指摘している。また、「AYA世代のがん患者には、がんの種類や年齢に応じたきめ細かいケアが必要である」と強調している。参考1)院内がん登録2022年登録例集計 公表 2022年のがん診療連携拠点病院等におけるがん診療の状況(国立研究開発法人 国立がん研究センター)2)がん診断の0~39歳 10年後の生存率を初集計 “実感”裏付け(毎日新聞)3)小児がん、10年生存70~90% 初の集計、大人より高い傾向(日経新聞)4)小児・「AYA世代」 がん患者 10年後の生存率 初公表(NHK)5.新型コロナ後も続く少子化、2023年出生数が大幅減/厚労省厚生労働省がまとめた人口動態統計速報によると、2023年1月~11月までの日本の出生数が69万6,886人に減少し、前年同期比で5.3%の減少を記録したことが明らかになった。これは2004年以降で初めて70万人を下回る数値であり、2023年通年の出生数は過去最少となる見通し。同期間の婚姻件数も前年比5.6%減の45万1,769組と減少し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による出会いの機会減少が一因とされる。しかし、COVID-19が感染症法上の5類に移行した後も婚姻件数の回復はみられない。一方で、死亡数は1.4%増の144万4,146人となり、自然増減はマイナス74万7,260人に達した。出生数の減少と高齢化の進行により、わが国の人口減少が進んでいる。政府は2024年度から3年間で少子化対策を強化し、出生減に歯止めをかける計画を立てている。これには児童手当や育児休業給付の拡充が含まれ、26年度までに年3.6兆円の予算が確保される予定。参考1)2023年の出生数、過去最少か 1~11月出生数69万6千人(産経新聞)2)23年1~11月までの出生数が70万人割れ(CB news)3)23年1~11月の出生数、69.6万人 前年同期比5.3%減(日経新聞)6.労災認定された過労死自殺の遺族が病院に2億円超の賠償請求/兵庫2024年1月27日、兵庫県神戸市の甲南医療センターに勤務していた26歳の医師、高島 晨伍さんが自殺した事件に関して、遺族が病院の院長らに対し、2億3,000万円余りの損害賠償を求める民事訴訟を起こすことが報道で明らかになった。高島さんは亡くなる直前まで100日間連続で勤務し、亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働は207時間余りだった。西宮労働基準監督署は「極度の長時間労働により精神障害を発症し自殺した」として、すでに労災認定をしている。遺族によると、高島さんの両親は運営法人「甲南会」と具 英成院長を相手取り、過重労働を知っていたにも関わらず是正措置をとらなかったため自殺したと主張している。また、この事件の発生前に他の若手医師も過酷な勤務状況を訴えていたが、病院幹部は「僕ら昔の世代の人間やから…意識が違う」と述べ、適切な対応がなされていなかったことも明らかになっている。参考1)100連勤・月200時間超の時間外労働で若手医師が自殺 病院の院長らに2億3,000万円余りの損害賠償求め来週にも提訴へ(MBS)

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