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メトホルミンがlong COVIDのリスクを軽減する可能性

 2型糖尿病の治療に広く使用されている経口血糖降下薬のメトホルミンが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の症状の遷延、いわゆるlong COVIDのリスクを軽減することを裏付ける、新たなデータが報告された。米ミネソタ大学のCarolyn Bramante氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に9月17日掲載された。 Long COVIDは、慢性疲労、息切れ、ブレインフォグ(頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態)などの症状を呈し、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後、数週から数カ月続くこともある。現在、米国内で数百万人がこの状態に苦しめられていると考えられている。 一方、昨年発表された研究から、SARS-CoV-2感染後すぐにメトホルミンが処方された過体重または肥満のCOVID-19患者は、long COVIDのリスクが41%低いことが示されていた。今回報告された論文の上席著者であるBramante氏は、「メトホルミンは世界中で入手可能であり、低コストで安全性が確立しているため、long COVIDの予防に有効だとしたら、COVID-19の外来治療に臨床的メリットをもたらす」と述べている。 今回の研究は、2型糖尿病治療のためにメトホルミンが処方されている人でも、昨年報告された研究結果と同様の効果が得られるのかを調べることを目的として、米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された。同大学のSteven G. Johnson氏らにより、血糖管理目的でメトホルミンが処方されている約7万6,000人の米国人糖尿病患者のデータが収集され、同薬が処方されていない1万3,000人以上の糖尿病患者のデータと、long COVIDのリスクが比較された。 Johnson氏らは解析の結果、メトホルミンが処方されていた糖尿病患者は、COVID-19罹患後6カ月以内のlong COVID発症または死亡のリスクが最大21%低いことを見いだした(ハザード比0.79〔95%信頼区間0.71〜0.88〕)。研究グループは、「これらのデータは、メトホルミンの処方がSARS-CoV-2感染後の良好な転帰と関連していることを示す、他の観察研究の結果と一致している」と述べている。 では、メトホルミンは、どのようにしてCOVID-19症状の遷延を防ぐのだろうか? NIHによると、「研究者らは現時点で、メトホルミンがCOVID-19の長期化をどのように防ぐのかを明らかにしていない。しかし、炎症を軽減したり、ウイルスレベルを下げたり、疾患関連タンパク質の形成を抑制するといった、いくつかのメカニズムが存在する可能性を推測している」という。

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歯周病原菌は頭頸部がんのリスクを高める?

 歯周病原菌は、頭頸部がんリスクを高める可能性があるようだ。新たな研究で、13種類の口腔内細菌が頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)のリスク上昇と関連していることが示された。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部人口健康学教授のRichard Hayes氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に9月26日掲載された。Hayes氏は、「われわれの研究結果は、口腔衛生習慣を維持すべきことに対する新たな理由を示すものだ。フロスを使っての歯磨きは、歯周病だけでなく頭頸部がんの予防にも役立つ可能性がある」と述べている。 この研究では、全米21州の50〜74歳の米国人18万4,000人以上を対象にがんの潜在的なリスク因子を調査している進行中の3つの研究プロジェクトのデータが用いられた。これらの研究では、試験参加者が口腔洗浄液サンプルを提出していた。参加者のうち236人(平均年齢60.9歳、女性24.6%)が、平均5.1年間の追跡期間中にHNSCCを発症していた。これら236人と年齢、性別、人種・民族、口腔サンプル採取からの経過時間を一致させたHNSCC未発症者485人を対照として選出した。全ゲノムショットガンシーケンス解析により口腔内の細菌マイクロバイオームを分析するとともに、内部転写スペーサー(ITS)領域のシーケンス解析により口腔内真菌マイクロバイオームについても調査した。 その結果、ベースラインでの全体的な口腔内微生物叢の多様性は、HNSCC発症と関連していなかったが、13種類の口腔内細菌がHNSCC発症に関連していることが明らかになった。これらの細菌種の中には、新たに特定された種(Prevotella salivae、Streptococcus sanguinis、Leptotrichia属の種)も含まれていた。 Hayes氏らは、これら13種類の細菌と、歯周病と最も関連が強い細菌群に含まれる9種類の細菌を用いて総合的な微生物リスクスコアを作成し、HNSCCとの関連を検討した。その結果、このリスクスコアが1標準偏差増加するごとに、HNSCCリスクが50%増加することが明らかになった(多変量解析に基づくオッズ比1.50、95%信頼区間1.21〜1.85)。一方、口腔内の真菌とHNSCCとの間に関連は認められなかった。 論文の筆頭著者であるNYU人口健康学分野のSoyoung Kwak氏は、「われわれの研究結果は、口腔内微生物叢とHNSCCの関係について新たな知見を提供するものだ。これらの微生物は、専門家がHNSCCリスクの高い人にフラグを立てるためのバイオマーカーとして役立つ可能性がある」と述べている。

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第233回 各党の迷走ぶりをみる、衆院解散総選挙に向けた公約とは

さてさて、自民党総裁選が終わり、石破 茂氏が総裁に就任。そのまま首相になった途端、衆院解散総選挙となった。となれば、人気のないテーマとわかりつつも、毎度お馴染み各党の政策とそれに対する独断と偏見に基づく所感を書かないわけにはいかない。いやはや短期間でこれほど政治のことに触れなければならなくなるなど、まったく思っていなかった。毎度のごとく現在衆院に議席を有する国政政党に限定して取り上げていきたい。もっとも議席順や五十音順だとなかなかにバランスを欠く配置となるため、勝手ながら今回は各政党の議席順の奇数順位と偶数順位に分けたい。まずは奇数順である。自民党(1位:258議席)首相就任以来、言動がブレブレと言われる石破 茂氏。今回の選挙で自民党は「2024年政権公約」を公表した。これがどのようなものか、以前取り上げた石破氏の総裁選での公約との比較も交えて取り上げてみたい。総裁選時の石破氏の政策は「5つの『守る』」だったが、同じ「守る」を使いながら今回の自民党としての公約は6つに増えている。社会保障、医療・介護関連は、まず2番目の「暮らしを守る」に登場する。ここで社会保障の項目に記述してある内容(文意は変えずに一部改変)は年金を除くと以下の2点である。全ての世代が安心でき、能力に応じて支える、持続可能な全世代型社会保障の構築予防・健康づくりを強化し健康活躍社会を創る。女性の健康支援の総合対策、がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進。食品の安全を確保し、公衆衛生の向上を図る観点からも生活衛生業を振興。感染症危機管理体制を整備。一番目は総裁選時の「従来の家族モデルを前提とした社会保障の在り方を脱却し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います」がやや言葉が丸くなった感じである。この辺は選択的夫婦別姓に関して従来は「選択なのだから反対する理由がない」から、首相就任後に「国民の間にさまざまな意見があり、政府としては、国民各層の意見や国会における議論の動向などを踏まえ、更なる検討をする必要がある」と発言が後退したことと関連があるかもしれない。いわゆる夫婦同姓に代表されるような「従来の家族モデル」に固執する党内保守派に配慮してフワッとおさめる戦略と見受けられる。2番目については総裁選時に掲げていた政策をより深化させた印象である。というのも総裁選時に「がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進」に関連する文言はまったくなかったからである。また、同じ「暮らしを守る」内では、成長戦略の項目で「2025年大阪・関西万博を、AI、ロボット、ヘルスケア等の新技術の社会実装を先行体験する『未来社会のショーケース』として活用し、イノベーションの力で変革し続ける日本を発信する絶好の機会とします」と言及したほか、経済安全保障の項目で「半導体、医薬品、電池、重要鉱物等の重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化」など、ややナショナリスティックなヘルスケア関連経済政策も掲げている。この辺は総裁選で争った高市 早苗氏や小林 鷹之氏らの政策にやや似通っている。経済に弱いと言われる石破氏の“汚名”返上とやはり党内保守派への配慮の産物だろうか?もっとも社会保障、医療・介護関連以外も眺めまわしてみたが、石破氏の総裁選時の公約と比べ、今回の党としての公約はかなり微に入り細を穿つ内容で、良く書き込まれている印象が強い。これほど短期間でどうしたのだろう? 順当に考えれば、側近がかなり練り込んだのだろうが、それが誰なのか気になってしまう。日本維新の会(3位:44議席)大阪・関西の地域政党から全国政党へと進化しようとしている日本維新の会。前回の2021年衆院選では公示前より4倍弱の議席を積み増したが、昨今では大阪・関西万博に対する支出増大などを背景に、以前より支持を落としているとも伝わる。同党のマニフェストでは、「将来世代への徹底投資で、新しい時代の政治を創る」をキャッチフレーズにしている。ここからは若年保守層への支持浸透を狙っていることが改めてうかがえる。今回、4大改革の1つとして掲げているのが「世代間不公平を打破する社会保障の抜本」だ。これ自体は以前から同党の姿勢として変わらず、「現役世代に不利な制度を徹底的に見直し。高齢者医療制度の適正化による現役世代の社会保険料負担軽減」として、低所得者等へのセーフティネットは確保しながら、高齢者医療費の原則3割負担を主張している。もっともこれまた現役世代への配慮のためか、「こども医療費の無償化」も掲げてしまうところが微妙な感じではある。これは従来から学術関係者からは指摘されている通り、無償化はモラルハザードと表裏一体の関係である。これは同党に限らず思うことだが、小児の医療費無償化を行うぐらいなら、それはせずに児童手当の支給額を積み増したほうが消費にも繋がり遥かにマシだと思うのだが。日本共産党(5位:10議席)日本の政党としてはすでに100年以上、同一政党名で活動し、旧西側諸国の共産党の中では党員数最大である。今回の衆院選では以下のような政策を掲げている。介護保険の国庫負担割合を現行の25%から35%に引き上げ、国費投入を1.3兆円増やし、ホームヘルパー、ケアマネジャーなど介護職の賃金を、「全産業平均」並みに施設職員の長時間・過密労働や「ワンオペ夜勤」の解消に向け、配置基準の見直しや報酬加算・公的補助などを実施介護事業所の人件費を圧迫している人材紹介業者への手数料に「上限」を設定今春の介護報酬改定で引き下げられた訪問介護の基本報酬を早急に元の水準に戻す介護事業が消失の危機にある自治体に対し、国費で財政支援を行う仕組みを緊急につくり、事業所・施設の経営を公費で支援70歳以上の医療費窓口負担を一律1割に引き下げ、負担の軽減・無料化を推進介護保険での軽度者の在宅サービスの保険給付外しや利用料の2割負担・3割負担の対象拡大などを止め、保険給付の拡充、保険料・利用料の減免を図る公費1兆円を投入し、国民健康保険料の抜本的に引き下げ後期高齢者医療制度を廃止病床削減や病院統廃合の中止と医師・看護師を増員で地域医療の体制を拡充マイナ保険証の強制をやめ、健康保険証を存続ざっと見まわせば、「いつもの共産党ポピュリズム」というイメージを抱く有権者が多いと思う。もっともこれまで毎回の国政選挙で各党の政策を見てきた身からすると、若干変化がある。たとえば1番目に挙げた予算について、投入金額など定量的な数字が散りばめられるようになった点である。もっとも公費負担割合の引き上げ率を定めれば、投入予算規模は計算できるので、むしろこれまで数字を積極的に記載してこなかったことが不思議と言ってしまえば、それまでではあるが…。そして毎度お馴染みが医療費や介護サービス利用料の引き上げ反対。しかし、現行や将来の財政負担を考えれば、この場合、その分の財源は若年勤労層への負担転嫁か蜃気楼のようにつかみどころがない将来の経済成長に財源を期待するしかなくなり、不透明感が増す。そもそも同党の場合、歴史の古い政党ゆえのイデオロギー縛りのためか、経済政策が相も変わらず、労働運動と所得再分配の目線が強過ぎる傾向にあり、経済振興策になっていない。余計なお世話を覚悟で言えば、そろそろこの現状から脱して経済政策と連動する財源論を唱えてほしいと思う。病床削減や病院統廃合の中止は、よくよく今後の医療需要の変動を考えれば、少なくとも単なる現状維持は、国民に均てん化した質の低い医療・介護を受けろというようなものだ。一方、比較的、現実味のある政策としては、介護事業所が支払う人材紹介業者への手数料の上限設定である。すでにこの件は社会保障審議会の介護給付費分科会でも議論されていることであり、介護事業所の経営改善の一助にはなる政策である。マイナ保険証の件については、同じ政策を掲げている後段のれいわ新撰組の政策で触れる。れいわ新撰組(7位:3議席)ご存じ山本 太郎氏が党首のリベラル系政党である。古い世代の私はどうしてもバラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「高校生制服対抗ダンス甲子園」にスイミング・パンツ一丁で、全身にサラダ油を塗ってテカテカしたままおどけていたイメージが抜けない。今回の選挙マニフェストでは「世界に絶望している?だったら変えよう。れいわと一緒に。」のキャッチフレーズを掲げ、政策として01~06までの6つの大項目を掲げている。「01増税?ダメ 絶対!」では「社会保険料を下げる!年金は底上げ!」を掲げ、「国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料を国庫負担で引き下げる」「後期高齢者医療制度は持続不可能なので、現役世代の負担と保険料をすべて国の負担とする」を謳っている。「03親ガチャ?国がやる!『子育ては自己責任』終了のお知らせ」では、子供医療費の完全無償化、「04 失われた30年を取り戻す!賃金爆上げ大作戦」では介護・保育の月給10万円アップ、民間事業者が少ない地域では、介護士を公務員化し「公務員ヘルパー」の復活を掲げている。さて、問題はこれらについては財源をどうするのか? に尽きる。従来から山本氏は3~5%までのインフレ水準までは国債を発行してもよいという考えを主張している。同時に同党が累進課税の強化や法人税引き上げを担保に消費税全廃を掲げていることも有名である。とはいえ、国によるインフレ率コントロールは、これまでの歴史から容易ではないことは明らかで、かつ日本の所得税収が中所得以下からの薄く広い徴収に依存している現実を見れば、れいわの財源論はかなり空想と言わざるを得ない。前述の中で「公務員ヘルパー」が何のことかわからない人もいるかもしれないが、介護保険制度創設以前の居宅訪問サービスがそうだったことに由来しているのだろう。これについては一考の余地はある。というのも居宅介護を拒否する人の中には公務員ならば受け入れるというケースもあるからだ。もっともこの場合は公務員と民間企業とで起こるであろう賃金格差をどのようにならすかの問題が生じる。一方、「05 あらゆる不条理に立ち向かう」では、「マイナンバーカードはいらない! 保険証・免許証はこれまでどおり」と主張している。これは個人監視や社会保障の削減につながる懸念があるためとしているが、社会保障の適切な提供のためにはデータ分析が必要であり、そのための基盤になる可能性のあるものは現時点でマイナンバーカードを軸に収集されるデータ以外にない。概観すると、日本共産党と共通する政策が多く、共産党よりもポピュリズム過ぎないか? という印象しかない。参政党(9位:1議席)2020年に結党され、「日本の国益を守り、世界に大調和を生む」との理念を掲げる保守政党である。2022年の参院選では約177万票を集め、元大阪府吹田市議の神谷 宗幣氏が議席を獲得した。これまで衆院に議席はなかったが、2021年の衆院選で国民民主党から出馬し、比例復活(神奈川10区[現18区])で当選した鈴木 敦氏は、旧民主党政権で国交相、外相などを務めた前原 誠司氏らが2023年に結党した「教育無償化を実現する会」に参加(のちに本人は国民民主党に離党届を提出するも党側から除籍される)。今回の衆院解散で同会が日本維新の会に合流を決めた中、選挙区の関係などで鈴木氏はこれに加わらず参政党に入党したため、同党は公示前1議席となった。さて同党は今回、「日本をなめるな」のスローガンの下、「3つの決意と7つの行動」を謳っている。「決意1 奪われる日本の国土と富を護り抜く」では、「消費税減税と社会保障の最適化により国民負担率に35%上限のキャップをはめる」と主張しているが、どのような社会保障最適化を行うかは、同党の衆院選特設ページを見る限りは不明である。また、「決意2 失われる日本の食と健康を護り抜く」では、「行動4 ワクチン薬害問題を党をあげて追究し、被害救済申請の負担軽減と審査の迅速化」を掲げる。同党HPでは令和6年9月時点で新型コロナウイルス感染症ワクチンによる予防接種健康被害救済制度認定件数が8,180件(うち死亡843人)で、これがコロナワクチン以外の過去すべての同制度認定総数3,687件を大幅に超えるペースとして、危険性を強調している。もっともこの数字を解釈なしで見ることが危険である。まず過去のワクチン接種による健康被害認定は、今ほど医療従事者の安全性認識が鋭敏ではなかった時代も含むことや、かつては事後の有害事象の追跡が十分にできない1回接種だったものもあったことから過少報告の可能性が十分にある。さらに制度の救済認定では、厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種で起きたことを否定できない場合も対象としており、新型コロナワクチンの被害救済認定=因果関係の認定ではない。仮に前述の8,000件超すべてに因果関係が認められたとしても、このワクチンの国内接種者は1億人超であり、認定対象となった副反応出現率は0.008%に留まる。一方で統計的な検討からこのワクチンにより数多くの死亡を防げたとする学術論文は多数ある。このようなことから新型コロナワクチンは社会全体で見れば明らかにメリットのほうが大きいと言える。これらのことから同党の主張は過剰にワクチンの危険性を強調していると言わざるを得ない。また、同党HPではレプリコンワクチンに対しても懸念を示しているが、これについては以前、本連載で触れたとおりだ。さらにこの行動4に関連し、以下のような政策を箇条書きしている。薬やワクチンに依存しない治療・予防体制強化で国民の自己免疫力を高める新型コロナワクチンの接種推進策の見直しを求める対症医療から予防医療に転換し、無駄な医療費の削減と健康寿命の延伸を実現「自己免疫力」という言葉もさることながら、それを国家として推進するのは半ば意味不明である。さらに予防を政策的に行う場合、実はそれなりにコストがかかるので、それで単純に将来的な医療費削減につながるとは言い難いのが現実。いずれにせよ同党関係者や支持者には申し訳ないが、かなり現実離れした政策が多い。さて、次回は残る立憲民主党、公明党、国民民主党、社民党についてご紹介したいと思う。

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ウイルスを寄せ付けない鼻スプレーを開発

 薬剤を含まない鼻スプレーが、理論的には、マスク着用よりもインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの呼吸器系病原体の拡散を防ぐのに効果的である可能性を示唆する研究が報告された。このスプレーに含まれている医学的に不活性な成分が、人に感染する前に鼻の中の病原体を捕らえるのだという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院麻酔科のNitin Joshi氏らによるこの研究結果は、「Advanced Materials」に9月24日掲載された。 論文の責任著者の一人である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJeffrey Karp氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、呼吸器系病原体が非常に短期間で、人類に極めて大きな影響を与えることをわれわれに示した。その脅威は、今も続いている」と話す。 ほとんどの病原体は、鼻から人体に入り込む。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染者が吐き出す病原体を含んだ小さな飛沫を健康な人が吸い込むと、病原体が鼻腔内に付着して細胞に感染するのだ。こうした病原体に対する対抗手段の一つはワクチン接種だが、完璧ではなく、接種した人でも感染して病原体を伝播させ得る。また、マスク着用も有効な手段ではあるが、やはり完璧ではない。 今回、研究グループが開発した鼻スプレーは、Pathogen Capture and Neutralizing Spray(PCANS、病原体補足・中和スプレー)と名付けられたもの。スプレーに使用されている成分は、米食品医薬品局(FDA)の不活性成分データベース(IID)に登録されている、承認済みの点鼻薬用の化合物か、FDAによりGRAS(食品添加物に対してFDAが与える安全基準合格証)確認物質に分類されている化合物(ゲランガム、ペクチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース〔HPMC〕、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩〔CMC〕、カーボポール、キサンタンガム)であるという。Joshi氏は、「われわれは、これらの化合物を使って、3つの方法で病原体をブロックする、有効成分に薬剤を含まない製剤を開発した。PCANSは、呼吸器からの飛沫を捕らえて病原体を固定し、効果的に中和して感染を防ぐゲル状のマトリックスを形成する」と語る。 研究グループは、3Dプリントされた人間の鼻のレプリカを用いた実験を行い、このスプレーの効果をテストした。その結果、このスプレーにより、鼻腔内粘液と比べて2倍の量の飛沫を捕らえることができることが示された。論文の筆頭著者で同大学麻酔科のJohn Joseph氏は、「PCANSは鼻腔内で粘液と混ざることでゲル化し、機械的強度を100倍まで高めて強固なバリアを形成する。インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎桿菌など、われわれがテストした全ての病原体の100%近くをブロックし、中和した」と成果について語っている。 また、マウスを使った実験では、このスプレーを1回投与するだけで、致死量の25倍のインフルエンザウイルスの感染を効果的に阻止できることも示された。ウイルスがマウスの肺に侵入することはなく、炎症などの免疫反応も認められなかったという。 論文の共著者である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のYohannes Tesfaigzi氏は、「マウスモデルを用いた厳密に計画された研究で、PCANSによる予防的治療は非常に優れた有効性を示し、治療を受けたマウスは完全に保護されたが、未治療のマウスではそのような効果は認められなかった」と述べている。 研究グループは、「今後は、人間を対象にした臨床試験でこのスプレーの効果をテストする必要がある」との考えを示している。また、このスプレーによりアレルゲンを効果的にブロックできるのかどうかについても調査中であるという。

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世界で年間約700万人が脳卒中により死亡、その数は増加傾向に

 気候変動と食生活の悪化によって、世界の脳卒中の発症率と死亡率が劇的に上昇していることが、オークランド工科大学(ニュージーランド)のValery Feigin氏らのグループによる研究で示された。2021年には世界で約1200万人が脳卒中を発症し、1990年から約70%増加していたことが明らかになったという。詳細は、「The Lancet Neurology」10月号に掲載された。 本研究によると、2021年には、脳卒中の既往歴がある人の数は9380万人、脳卒中の新規発症者数は1190万人、脳卒中による死者数は730万人であり、世界の死因としては、心筋梗塞、新型コロナウイルス感染症に次いで第3位であったという。 専門家は、脳卒中のほとんどは予防可能だとの見方を示す。論文の共著者の1人である米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)のCatherine Johnson氏は、「脳卒中の84%は23の修正可能なリスク因子に関連しており、次世代の脳卒中リスクの状況を変える大きなチャンスはある」と述べている。脳卒中のリスク因子は、大気汚染(気候変動によって悪化)、過体重、高血圧、喫煙、運動不足などであり、研究グループは、これらのリスク因子は全て、低減またはコントロール可能であると指摘している。 脳卒中に関連する死亡者数は何百万人にも上る一方で、脳卒中を起こした後に重度の障害が残る患者も少なくない。今回の研究からは、脳卒中によって失われた健康寿命の年数(障害調整生存年;DALY)は、1990年から2021年にかけて32.2%増加していたことも明らかになった。 では、なぜ脳卒中がここまで増加したのだろうか。研究グループの分析によると、多くの脳卒中のリスク因子に人々がさらされる頻度が上昇し続けていることが原因である可能性があるという。本研究では、1990年から2021年までの間に、高BMI、気温の上昇、加糖飲料の摂取、運動不足、収縮期血圧高値、ω-6多価不飽和脂肪酸が少ない食事に関連してDALYが大幅に増加したことが示された(増加の幅は同順で、88.2%、72.4%、23.4%、11.3%。6.7%、5.3%)。 Johnson氏らは、気温の上昇は、もう1つの脳卒中のリスク因子である大気汚染の悪化を意味していると説明する。同氏らは、「暑くてスモッグの多い日が脳卒中リスクに与える影響を最も強く受けるのは貧しい国である可能性が高く、その影響は気候変動によってさらに悪化し得る」と指摘する。実際、出血性脳卒中のリスクに関しては、現在、汚染された空気を吸い込むことは、喫煙と同程度のリスクをもたらすと考えられているという。脳卒中全体に占める出血性脳卒中の割合は約15%で、虚血性脳卒中(脳梗塞)と比べると大幅に低いにもかかわらず、世界のあらゆる脳卒中に関連した死亡や障害の5割が出血性脳卒中に起因するという。 「脳卒中に関連した健康被害は、アジアやサハラ以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)で特に大きい。こうした状況は、管理されていないリスク因子、特にコントロール不良の高血圧や、若年成人における肥満や2型糖尿病の増加といった負担の増大と、これらの地域における脳卒中の予防およびケアサービスの不足によって生まれている」とJohnson氏は指摘する。 しかし、こうした状況を変えることは可能であるとJohnson氏は主張する。例えば、大気汚染は気温上昇に密接に関連するため、「緊急の気候変動対策と大気汚染を減らす取り組みの重要性は極めて高い」と言う。さらに同氏は、「高血糖や加糖飲料の多い食事などのリスク因子にさらされる機会が増えているため、肥満やメタボリックシンドロームに照準を合わせた介入が急務である」と述べている。

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耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したら【とことん極める!腎盂腎炎】第8回

耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したらTeaching point(1)耐性菌が原因菌ではないことがあり、その原因について考える(2)多くが検体採取時のクリニカルエラーであるため採取条件の確認を行う(3)尿中の抗菌薬は高濃度のため耐性菌でも効いているように見えることがある(4)診断が正しいかどうか再確認を行うはじめに尿培養結果と臨床症状が合わない事例は、たまに遭遇することがある。“合わない”事例のうち、耐性菌が検出されていないのに臨床経過が悪い場合と、耐性菌が検出されているが臨床経過はよいものがある。今回は後者について解説していく。培養検査は原因菌のみ検出されるわけではなく、尿中に一定量の菌が存在する場合はすべて陽性となる。そのため、培養検査で検出されたすべての微生物が原因菌ではなく、複数菌が同時に検出された場合では、原因菌以外の菌が分離されていたことになる。それは耐性菌であっても同じであり、耐性菌が検出されているが臨床経過がよい場合、以下の2点が考えられる。1.検出された耐性菌が原因菌ではない場合膀胱内に貯留している尿は一般的に無菌であるが、尿路感染症を引き起こした場合、尿には菌が確認されるようになる。尿培養では尿中の菌量が重要になるが、採取条件が悪くなることで、周辺からの常在菌やデバイス留置による定着菌の混入を最小限におさえて検査を行うことで正しい検査結果が得られる。【採取条件が悪い場合(図)】尿は会陰や腟、尿道周囲の常在菌が混入しやすいため、採取条件が悪い場合は不正確な検査結果を招く恐れがある。画像を拡大する中間尿標準的な採取法で通常は無菌的に採取できるが汚染菌が混入するシチュエーションを把握しておく。女性は会陰や腟、尿道の常在菌が混入しやすいため、採取時は尿道周囲や会陰部を洗浄した後に採尿する。男性は外尿道口を水洗するだけで十分であるが、包茎であれば皮膚常在菌が混入しやすいので包皮を剥いてから採尿する。間欠導尿による採尿で汚染菌の混入を減らすことができる。尿道留置カテーテルからの採尿入れ替え直後のカテーテルを除き、通常カテーテルには細菌がバイオフィルムを形成しているため、検出された細菌が膀胱に停留しているものかどうかはわからない。もし、採尿する場合は、ポートを消毒後に注射器を使い採取をする。また、採尿バッグから採取を行うと室温で自然に増殖した細菌が検出されて不適切であるため行わないこと。尿バッグからの採尿乳児の場合は中間尿の採取は技術的に難しいため、粘着テープ付き採尿バッグを装着する。女児や包茎の男児では常在菌の混入が免れないため、不必要な治療や入院が行われる原因となる。回腸導管からの採尿回腸に常在菌は多く存在しないが、回腸導管やストーマ内は菌が定着しているため採取した尿は解釈が難しくなる。【保存条件が悪い場合】尿を採取後はできるだけ早く培養を開始しないといけないが、院外検査であったり、夜間休日で搬送がスムーズにできなかったりするなど、検査をすぐに開始できない場合が考えられる。尿の保存条件が悪い場合は、少量混入した汚染菌や定着菌が増え、原因菌と判別がしにくくなるほど尿培養で検出されてしまう。尿は採取後2時間以内に検査を開始するか、検査がすぐに開始できない場合は冷蔵庫(4℃)に保管をしなければならない。【複数菌が同時に検出されている場合】原因菌以外にも複数菌が同時に検出され、主たる原因菌が感受性菌で、汚染菌や定着菌、通過菌が耐性菌として検出された可能性がある。たとえば、尿道留置カテーテルが長期挿入されている患者や回腸導管でカテーテル挿入患者からの採尿で観察される。【常在菌の混入や定着菌の場合】Enterococcus属やStreptococcus agalactiae、Staphylococcus aureus、Corynebacterium属、Candida属については汚染菌や定着菌のことが多く、菌量が多くても原因菌ではないこともある(表1、2)1,2)。画像を拡大する画像を拡大する【検査のクリニカルエラーが原因となる場合】検体の取り違え(ヒューマンエラー)別患者の尿を誤って採取し提出した。別患者の検体ラベルを誤って添付した。別患者の検体で誤って培養検査を行った。培養時のコンタミネーション別患者の検体が混入してしまった。環境菌の汚染があった。感受性検査のエラー(テクニカルエラー)感受性検査を実施したところ、誤って偽耐性となった。感受性検査の試薬劣化。感受性検査に使用する試薬が少なかった。感受性試験に使用した菌液濃度が濃かった。2.検出された耐性菌が原因菌の場合【疾患の重症度が低い場合】入院適用がなく、併存疾患もなく、血液培養が陰性で、経口抗菌薬が問題なく服用ができる患者であれば外来で治療が可能な場合がある。その後の臨床経過もよいが、初期抗菌薬に耐性を認めた場合であってもそのまま治療が奏功する症例も経験する。しかし、耐性菌が検出されているため、抗菌薬の変更や治療終了期間の検討は慎重に行わなければならない。【抗菌薬の体内動態が原因となる場合】抗菌薬は尿中へ排泄されるため、尿中の抗菌薬は高濃度となる。尿中に排泄された抗菌薬濃度は血中濃度と平衡状態になく高濃度で貯留するため、たとえ耐性菌であっても感受性の結果どおりの反応をみせないことがある3)。抗菌薬のなかでも、濃度依存性のもの(ニューキノロンやアミノグリコシドなど)では効果が期待できると思うが、時間依存性のもの(β-ラクタム)でも菌が消失することを経験する。しかし、耐性菌であるため感受性菌に比べると細菌学的に効果が劣ることから、感受性の抗菌薬への変更も検討が必要になる。【診断は正しくされているのか】尿路感染症を診断する場合、鑑別疾患から尿路感染症が除外される条件が必要になる。たとえば、細菌が確認されない、膿尿が確認されない、尿路感染症に特徴的な所見が確認されないことが条件になる。尿は、汚染菌や定着菌が同時に検出されやすい検査材料になるため、検出菌の臨床的意義を再度検討し、診断が正しいのか確認することも求められる。おわりに感染症診療がnatural courseどおりにいかないことは、苦しいことであり、診療のうえで楽しみでもある。投与している抗菌薬に感受性の菌しか検出されていないのに、治りが悪いということはたまに遭遇するが、耐性菌が検出されているのにもかかわらず治療経過がよいというのは、どこかにピットフォールが隠れていないか疑心暗鬼になりがちである。治療経過がよいので、わざわざ抗菌薬を変更しないといけないのか、そもそも治療は必要なのか答えはみつからないことが多い。看護師に指示をして結果だけ待つのではなく、採取した尿を確認し、検査結果がどのように報告されているのか一度確認を行うことは、今後の感染症診療をステップアップする足がかりになるため、1つ1つ解決していきたいものである。1)Hooton TM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.2)Chan WW. Chapter 3 Aerobic Bacteriology. Urine Culture. Clinical Microbiology Procedures Handbook 4th Ed. ASM Press. 2016.3)Peco-Antic A, et al. Srp Arh Celok Lek. 2012;140:321-325.

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母乳育児は乳児の喘息リスクを低下させる

 生後1年間を母乳で育てると、乳児の体内に健康に有益なさまざまな微生物が定着し、喘息リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究によると、生後3カ月を超えて母乳育児を続けることにより、乳児の腸内微生物叢の段階的な成熟が促されることが示唆されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のLiat Shenhav氏らによるこの研究結果は、「Cell」に9月19日掲載された。 母乳には、健康に寄与する腸内微生物の増殖を促進するさまざまな栄養素が含まれている。乳児期における母乳育児と微生物の定着は、乳児の発達にとって重要な時期に行われ、どちらも呼吸器疾患のリスクに影響を与えると考えられている。しかし、母乳育児の保護効果や微生物の定着を調節するメカニズムについては、まだ十分に理解されていない。 今回の研究では、CHILDコホート研究に参加した2,227人の乳児を対象に、生後3カ月時と1歳時の鼻腔および腸内の微生物叢、母乳育児の特徴(完全母乳/混合育児/粉ミルク)、および母乳成分の調査を行い、母乳育児が腸内微生物の定着に与える影響、さらにその定着の仕方が呼吸器疾患リスクに与える影響を検討した。 その結果、生後3カ月を超えて母乳育児を行うと、乳児の腸内および鼻腔の微生物叢が徐々に成熟することが示された。逆に、生後3カ月未満で母乳育児をやめると、微生物叢の発達ペースが乱れ、就学前の喘息リスクが上昇することが明らかになった。例えば、生後3カ月未満で母乳育児をやめた乳児の腸内には、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)と呼ばれる細菌種が非常に早期の段階から認められたという。R. gnavusは、喘息などの免疫系の問題に関連するアミノ酸であるトリプトファンの生成と分解に関与していることが知られている。 研究グループはさらに、微生物の動態と母乳の成分に関するデータを用いて、喘息リスクを予測する機械学習モデルを構築し、さらに因果関係を特定するための統計モデルを用いて、母乳育児が乳児の微生物叢の形成を通じて喘息リスクを低下させることを確認した。 研究グループによると、母乳には、ヒトミルクオリゴ糖(母乳に含まれるオリゴ糖の総称)と呼ばれる独自の成分が含まれている。ヒトミルクオリゴ糖は、特定の微生物の助けを借りなければ乳児の体では消化できないため、これらの糖を分解できる微生物は、腸内での生存競争において優位性を得ることになる。一方、生後3カ月未満で断乳して粉ミルクで育てた場合には、粉ミルクの成分を消化するのに役立つ別の微生物群が増加する。これらの微生物の多くは、最終的には全ての乳児の腸内や鼻腔に定着するようになるものの、早期に定着した場合には喘息リスクが増加するのだという。 Shenhav氏は、「ペースメーカーが心臓のリズムを調整するのと同じように、母乳育児は乳児の腸内と鼻腔に微生物が定着するペースと順序を、秩序正しく適切なタイミングで起こるように調節している」と説明する。同氏はさらに、「健康な微生物叢の発達には、適切な微生物が存在するだけでは不十分だ。適切なタイミングと順序で微生物が定着することも必要なのだ」と付け加えている。 Shenhav氏は、「本研究結果は、母乳育児が乳児の微生物叢に及ぼす重大な影響と、呼吸器の健康をサポートする上での母乳育児の重要な役割を浮き彫りにしている。われわれは、この研究で実証されたように、母乳の保護効果の背後にあるメカニズムを解明し、データに基づき母乳育児と断乳に関する国のガイドラインを策定することを目指している」と述べている。同氏はまた、「さらに研究を重ねることで、本研究結果は、母乳育児の期間が3カ月未満だった乳児の喘息を予防する戦略の開発にも貢献する可能性がある」との見方も示している。

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第213回 医療機関に迫る変化と課題、コロナ後の医療構造再編

経営悪化の先にあるもの2024年も残り3ヵ月となり、今春(令和6年度)の診療報酬改定の影響がみえてきました。多くの入院医療機関では、病床稼働率の低下に苦慮しているところが増えているのではないでしょうか?当院でも、近隣の病院でも同様の悩みがあり、コロナ前には一時的な病床稼働率の低下が、冬場に回復する傾向がみられましたが、現在は深刻な影響が続いています。従来の「医師不足」や「看護師不足」による医療崩壊とは異なるものが、新しい形で医療機関に迫っているようです。患者不足の原因まず、医療機関側に原因があると考えられます。今春の診療報酬改定により、急性期一般病床1(旧7:1病床)の平均在院日数が18日以内から16日以内に短縮されました。さらに、医療・看護必要度の見直しも影響しています。急性期病床における「重症度、医療・看護必要度」の評価が変更され、B項目が算定から外れたことや、A項目の「救急搬送後の入院」が、従来の5日から2日に短縮されたことで、急性期病床が絞り込まれました。これにより、軽症患者の早期退院や転院が求められ、結果として入院患者数が減少しています。患者側の原因としては、受療動向の変化が挙げられます。軽度の発熱や呼吸困難で来院した高齢患者は、以前であれば「精査目的」で入院することが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て、多くの高齢者は「病院は快適な場所ではなく、長く滞在したい場所ではない」と感じるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、面会制限や認知症の進行、ADLの低下を経験したことから、病院での不必要な入院を避ける傾向が強まっています。その結果、軽症の肺炎や心不全であっても、入院を希望せず、外来通院での治療を選ぶ患者が増加しています。また、訪問診療の急速な普及も要因の1つです。現在、わが国で訪問診療を受けている患者さんは100万人を超えています(在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に[日経メディカル])。とくに重症の末期がん患者などが、在宅での療養を選ぶケースが増えています。地域によっては、人工呼吸器管理が必要な患者でも、訪問診療やサービス付き高齢者住宅では看取り対応が可能となっています。これまで、末期がん患者は症状が悪化すれば入院していましたが、現在は訪問診療や介護サービスを活用して在宅療養を続けるケースが多くなり、入院患者はより治療に特化した重症患者に限られている傾向があります。訪問診療や訪問看護の認知度向上により、急性期医療機関の役割が変わり、外来受診や訪問診療で療養を続ける患者が増加しています。このため、急性期医療機関への入院は難度の高い手術や高額な治療材料を用いたケースに限られるようになり、ADLの低下や嚥下困難など治癒が難しい症例は積極的に院外に移す傾向が強まっています。コロナ禍によって定期受診の間隔が広がったこと、後期高齢者の増加に伴い、大病院への通院や入院患者数の減少傾向が顕著です。2025年の地域医療構想に向けて政府は病床削減に取り組んでいたのが(病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に[日経新聞])功を奏したとも言えますが、医療の構造変化のスピードがCOVID-19で早まったため、2025年までに実現を目指していた「地域医療構想」の必要病床数以上に医療ニーズが減少してしまい、大部分の医療機関で患者不足に見舞われたというのが真実の姿ではないでしょうか。今後の展望政府は、後期高齢者の増加と労働人口の減少に向けて、2040年を見据えた「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げ、対策を検討しています。とくに75歳以上の高齢者に対する医療・介護の提供体制が今後の課題です。85歳以上の高齢者に対しては、積極的な手術や高度な医療を控える傾向がみられます。心臓手術の件数も減少し、代わりに低侵襲手術が増加しています。今後も内視鏡やロボット手術などの技術革新により、外来手術が増加し、入院期間が短縮されるものと予想されます。全国に整備されたICUやHCU病床も、コロナ禍以降の稼働率低下が問題となっていますが、今後は外来手術センターの設立や回復期への早期転院によって、必要な病床数がさらに減少し、病床再編が求められるでしょう。中小規模の病院では、従来の急性期医療にこだわらず、地域包括医療病棟などへの転換が進むと考えられます。また、政府が進める医療と介護の連携強化が重要となり、病院間の情報共有をデジタル化することで業務効率化が求められます。一般の開業医にとっても、今後、高齢者の歩行能力が低下してしまうと在宅での生活や通院が困難となり、さらに人口の高齢化が進んでいる場合、外来患者数の減少が進むため、新しい患者の獲得のためには、訪問診療の提供や施設などとの連携が必要になると思われます。参考1)在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に(日経メディカル)2)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)3)増える「老衰」「在宅みとり」人生の最期どう迎えるか(NHK)4)病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に(日経新聞)5)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)

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掌蹠角化症〔PPK:palmoplantar keratoderma〕

1 疾患概要■ 概念・定義掌蹠角化症は、手掌と足底の高度な過角化を主な臨床症状とする疾患群である。主として遺伝的素因により生じるが、非遺伝性の病型もある。掌蹠角化症の中には、掌蹠角化症の皮膚症状に加えて、がんあるいは他臓器の異常を伴うまれな遺伝性疾患も存在し、このような疾患群は掌蹠角化症症候群と呼ばれる。これらの合併症が重篤になると生命予後が悪化する。臨床所見ならびに病理組織像の検討のみから病型を決定するのは困難な場合が多く、遺伝歴の詳細な聴取、最終的には遺伝子変異の同定が必要となる。■ 疫学長島型掌蹠角化症の頻度は、日本および中国ではそれぞれ1万人当たり1.2人ならびに3.1人と見積もられている。ボスニア型掌蹠角化症の頻度はスウェーデンの北部(ボスニア湾沿岸地域)で、一般人口当たり0.3~0.55%(1万人当たり30~55人)と報告されている。筆者らは、2015年に掌蹠角化症の患者数についての全国1次アンケート調査を行った。全国の500床以上の病院の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付して掌蹠角化症全国疫学調査を施行した。この調査では、過去5年間に期間を限定し、掌蹠角化症患者の家系の数、患者数を回答してもらうようにした。型が明らかな家系についてはそれぞれの型の家系の数、患者数の記載を依頼した。また、自由記載欄も設け、アンケート調査についての感想・要望などを記載も求めた。全国690施設の皮膚科ならびに小児科にアンケート用紙を送付した。うち325施設より回答を得た。病型が明らかな家系は113家系、患者数は147例(人口100万人当たり1.2人)であった。約9割は大学病院にて診断されていた。人口100万人当たりの患者数でみると、青森県が最多で、100万人当たり30.6人であった。■ 病因掌蹠角化症を構成するそれぞれの疾患は、大部分が遺伝性疾患である。原因遺伝子に遺伝子変異が生じることにより個々の疾患が引き起こされる。現在、個々の疾患の遺伝子変異は(掌蹠角化症を構成する)大多数の疾患において同定されている。■ 症状手掌と足蹠の過角化が存在する。過角化の程度や罹患部位は、個々の病型により異なる。過角化の状態も病型によりさまざまである。過角化の臨床症状に加え、手掌と足蹠の潮紅を伴う病型(わが国では最も多い病型である長島型掌蹠角化症)もある。■ 分類日本皮膚科学会作成の「掌蹠角化症診療の手引き」では、(1)びまん性角化を示す掌蹠角化症、(2)限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症、(3)掌蹠角化症症候群の3群に分類している。びまん性角化を示す掌蹠角化症には8疾患、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症には9疾患、掌蹠角化症症候群には22疾患が含まれている。■ 予後びまん性角化を示す掌蹠角化症、限局型・先天性爪甲肥厚症・線状・点状掌蹠角化症は、生命予後は良い。掌蹠角化症症候群のうち、がん、拡張型心筋症を合併するものがあり、これらの疾患を合併すると予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)図の病型診断アルゴリズムにしたがって、おおよその病型の見当を付ける。これは外来において視診で行える。Transgrediensとは、掌蹠を超えて、指趾背側や手首、足首、アキレス腱部にまで皮疹が拡大していることである。日本皮膚科学会の掌蹠角化症診療の手引きを参考にすると、調べるべき原因遺伝子が判明する。上記の臨床的診断に引き続いて、患者より採血を行い、白血球よりDNAを抽出、病型の原因遺伝子の塩基配列を決定する。病因遺伝子変異を同定することが出来れば、病型が診断できる。可能であれば、家族の遺伝子変異同定も診療上非常に有益である。。家系図を描くことができれば、遺伝形式が判明し、確定診断に役立つとともに、患者ならびに家族に対して遺伝カウンセリングを行うことができる。図 (遺伝性・非症候性)掌蹠角化症の病型診断アルゴリズム画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)掌蹠角化症は症例数が少なく、大規模な治験が不可能である。そのためエビデンスレベルの高い治療法は確立されていない。現在、有効とされている治療法は、症例報告に基づくものである。1)外用療法サリチル酸ワセリンや尿素軟膏などの角質溶解剤の塗布やカルシポトリオール含有軟膏の塗布を行う。2)皮膚切削術コーンカッター、長柄カミソリ、生検用パンチ、眼科剪刀などを用いて肥厚した角質を除去する。3)内服療法レチノイド内服を行う。ただし、この薬剤には催奇形性があるので、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与してはならない。また、エトレチナートに対し、過敏症の既往歴のある患者、肝障害のある患者、腎障害のある患者、ビタミンA製剤投与中の患者、ビタミンA過剰症の患者には禁忌である。エトレチナートを処方するときには、処方のたびに所定の様式の文書での同意を得る。4)合併症に対する治療絞扼輪や皮膚がんなどの合併症に対しては早期発見に留意し、外科的に対処する。難聴、食道がん、歯周病、心筋症、真菌症、細菌感染症などの合併症に対しては専門医に治療を依頼すると同時に適切な抗真菌薬や抗生物質の投与などを行う。5)患者自身によるケア掌蹠に亀裂ができて疼痛をともなう場合、長柄カミソリなどを用いて、角質を削り、就寝時にワセリンを使用して密封療法(ODT)を行う。掌蹠の亀裂がなくなり、疼痛がやわらぐ。4 今後の展望核酸医薬低分子干渉RNA(siRNA)を用いる治療法も報告されている。KRT6A遺伝子に対するsiRNAを用いて、培養ヒト表皮角化細胞とマウスの皮膚におけるケラチン6aタンパク質の発現を抑制したという報告もある。この治療法は、先天性爪甲厚硬症患者にも使用されており、将来実行可能な方法であるがいまだ明らかになっていない部分もある。リードスルー薬を治療に用いたという報告もある。5例の長島型掌蹠角化症の患者に対してリードスルー薬としてゲンタマイシンを使用して有効であったという報告もあるが、報告例が少なく現時点ではその有効性についての結論は出ていない。ただ、ゲンタマイシンは安全かつ簡便に使用が可能で、本症以外の疾患でも効果が期待されているので、将来有望な治療薬であろう。5 主たる診療科皮膚科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 掌蹠角化症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)掌蹠角化症診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2024年10月14日

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セラピー犬は医療従事者の気分を改善する

 セラピー犬は、病院の患者の気分を明るくするのと同じように、医療従事者の気分を高めるのにも役立つことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、セラピー犬セッションにより、米国中西部の外科病棟と集中治療室で働く少数の医療従事者の気分の改善したことが確認されたという。詳細は、「International Journal of Complementary & Alternative Medicine」に7月26日掲載された。 論文の筆頭著者である、米オハイオ州立大学統合健康センターのBeth Steinberg氏は、「病院のスタッフが、われわれが連れて行った犬と一緒に座り、その日の出来事を話しながら涙を流すのを何度も目撃した」と振り返る。同氏はさらに、「たいていの人は、傍に座ってじっと話を聞いてくれる、偏見のない、毛むくじゃらのやさしい動物に親しみを感じるものだ。犬は、あなたの容貌やその日の気分など気にしない。ただ、あなたが自分を必要としていることを感じ取り、寄り添ってくれるのだ」と述べている。 Steinberg氏は、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのスタッフの精神的・情緒的健康の改善を目的に考案されたセラピー犬プログラム「Buckeye Paws」の共同創設者だ。Buckeye Pawsは、パンデミックが過重労働の医療従事者に打撃を与え始める直前の2020年3月に設立された。 このプログラムが実際に効果を上げているのかどうかを調べるため、研究グループは64人の医療従事者を対象にセラピー犬セッションを実施した。参加者には、医師、看護師、ナースプラクティショナー、呼吸療法士、リハビリテーション療法士、患者ケア担当者、病棟事務員が含まれていた。 Steinberg氏は、「この研究への参加者は信じられないほど簡単に集まった。『セラピー犬との交流の効果を調べる研究を実施する』と言うと、すぐに多くの人が『参加します』と答えたからだ」と振り返る。同氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が病院に大きな打撃を与える以前でさえ、スタッフはすでにストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)、仕事への意欲の欠如に悩まされていた」と話す。 ほとんどが病院のスタッフのボランティアで構成されたBuckeye Pawsのハンドラーは、2021年10月から2022年3月までの間に、8週間にわたり週3回、認定セラピー犬7頭を連れてきて、試験参加者と交流させた。参加者は、犬と好きなだけ交流できたが、犬との交流の前後に、ストレス、バーンアウト、ワークエンゲージメントを測定する評価尺度に回答するとともに、気分について自己申告することが求められた。介入の効果はセッション待機者を対照群として検討された。 医療従事者とセラピー犬とのやり取りのほとんどは、臨床ワークステーションやチームルーム、休憩室でのほんの数分間程度のものだったが、結果として、短時間のセッションでも医療従事者に大きな影響を与えることが示された。ストレス、バーンアウト、ワークエンゲージメントについては介入による有意な改善は認められなかったものの、セラピー犬とのセッションを受けた人では、対照群と比べて自己報告による気分が有意に向上していた。 研究グループは、「われわれの研究結果は、入院患者の治療を行う慌ただしい臨床の現場で、動物を用いた介入が医療従事者の気分の改善を通じて即時のベネフィットをもたらす可能性があることを示唆している」と述べている。 Buckeye Pawsは2022年3月に拡大し、現在はオハイオ州立大学の学生と教職員に、セラピー犬による支援を提供している。研究グループによると、現在、このプログラムには29チームの犬ハンドラーチームが参加しており、さらに11チームがトレーニング中、8チームがそのプロセスを開始しているという。

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血友病B、AAVベクターfidanacogene elaparvovecが有効/NEJM

 血友病B患者において、fidanacogene elaparvovecによる治療は定期補充療法より優れており、出血の減少と安定した血液凝固第IX因子(FIX)発現が認められた。米国・ペンシルベニア大学のAdam Cuker氏らが、13ヵ国27施設で実施した非盲検単群第III相臨床試験「BENEGENE-2試験」の結果を報告した。fidanacogene elaparvovecは、高活性のFIX-R338L変異体(FIX-Padua)を発現する遺伝子組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで、第I/IIa相試験においてFIX活性の維持が示されていた。NEJM誌2024年9月26日号掲載の報告。血友病B患者45例にfidanacogene elaparvovecを単回投与 研究グループは、FIX製剤による定期補充療法を6ヵ月以上行うBENEGENE-1導入試験を完了した患者で、FIX活性が2%以下、FIXインヒビター陽性歴がない18~65歳の血友病B患者に、fidanacogene elaparvovecを体重1kg当たり5×1011ベクターゲノムの用量で単回静脈内投与した。 主要エンドポイントは、投与後12週から15ヵ月までの年間出血率(治療した出血エピソードおよび未治療の出血エピソード)で、定期補充療法を受けていた導入期間と比較し、非劣性が達成された場合は優越性を評価することが事前に規定された。安全性についても評価した。 BENEGENE-1導入試験でスクリーニングを受けた316例のうち、抗AAV中和抗体が陽性であった188例(59.5%)を含む不適格患者計204例(64.6%)を除外し102例を登録した。このうち51例がBENEGENE-1導入試験を完了し、BENEGENE-2試験のスクリーニングを受け、適格患者45例がfidanacogene elaparvovecを投与された。年間出血率は定期補充療法に対し71%減少、非劣性および優越性を検証 45例の患者背景は平均年齢33.2歳、73%が白人で、29%が標的関節を有していた。45例中、44例が15ヵ月以上の追跡調査を完了した。 すべての出血エピソードの年間出血率は、導入期間が4.42(95%信頼区間[CI]:1.80~7.05)、投与後12週から15ヵ月までの期間が1.28(95%CI:0.57~1.98)、治療差は-3.15(95%CI:-5.46~-0.83、p=0.008)で、fidanacogene elaparvovec投与により71%減少し、fidanacogene elaparvovecの定期補充療法に対する非劣性および優越性が示された。 15ヵ月時の凝固一段法SynthASilで測定した平均FIX活性は26.9%(中央値:22.9%、範囲:1.9~119.0)であった。 安全性については、38例(84%)に有害事象が認められ、主な事象はアミノトランスフェラーゼ増加であった。アミノトランスフェラーゼ増加またはFIX活性低下に対し、28例(62%)がグルココルチコイドの投与を受けた。 グルココルチコイドの投与開始までの期間は中央値37.5日(範囲:11~123)であり、投与期間中央値は95.0日(範囲:41~276)であった。投与に関連する重篤な有害事象、血栓性イベント、FIXインヒビターの発現、悪性疾患は確認されなかった。

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GNEミオパチー〔GNE myopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義GNEミオパチーは、常染色体潜性遺伝形式をとる進行性の筋疾患である。主に遠位筋から障害されるため、遠位型ミオパチーに分類される。筋病理所見では、縁取り空胞(図1)が特徴的に認められる。図1 GNEミオパチー患者でみられる縁取り空胞を伴う筋線維(mGT染色)画像を拡大する1981年にわが国で「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV)」として最初に報告された。同じ頃、欧米では「遺伝性封入体ミオパチー(hereditary inclusion body myopathy:hIBM)」として報告された。2001年にはGNE遺伝子の変異が原因であることを特定され、「GNEミオパチー」という名称に統一された。■ 疫学わが国には約400人の患者がいると推定されるまれな疾患である。本症は世界的にも珍しいが、日本人、中東のペルシャ系ユダヤ人、インド人、中国人、北アイルランド人、ブルガリアのロマ人など、特定の民族や地域で高頻度の遺伝子変異(創始者バリアント)がみつかっており、これらの集団で患者が多くみられる。■ 病因GNE遺伝子の変異(アロステリック部位以外)が原因であり、9割以上がミスセンス変異である。GNE遺伝子は、シアル酸生合成経路の律速酵素であるウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)2-エピメラーゼ/N-アセチルマンノサミンキナーゼ(GNE/MNK)をコードしている。GNE遺伝子変異によりこれらの酵素活性が低下し、シアル酸の産生が減少する。これにより、組織中の糖タンパク質や糖脂質の低シアル化を引き起こされ、筋力が低下すると考えられる(図2)。図2 GNE遺伝子変異によるシアル酸生合成の低下画像を拡大する■ 症状平均発症年齢は28歳で、多くの患者は20~30歳代で発症する。ただし、一部若年発症例や高齢発症例も存在し、国内の患者登録データによれば、発症年齢は12~62歳にわたる。初期症状としては、歩き方の変化やつまずき易さ、スリッパが履けないなどの症状が多くみられる。中殿筋や内転筋の筋力低下による腰椎前彎や股関節外転、前脛骨筋の筋力低下による下垂足が特徴的な歩容として現れる。病気の進行に伴い、下腿全体、手指、頸部前屈の筋力が低下し、その後上肢全体や体幹の筋力も低下する。大腿四頭筋の筋力は長期間よく保たれ、歩行不能となってからも膝を伸なす力が保たれることが特徴的である。疾患の進行速度は患者によってさまざまであるが、全体としては、発症年齢が若いほど進行が速い傾向がある。たとえば、10歳代で発症した患者の歩行喪失までの平均期間は9年、20歳代では15年、30歳代では27年と報告されている。わが国の患者の9割は、p.D207Vとp.V603Lという2つの創始者変異のいずれかまたは両方を有している。p.D207V保有例は比較的軽症であり、p.V603L保有例はやや重症の臨床経過をたどる傾向がある。たとえば、p.V603Lのホモ接合体では平均10年で歩行能力を失うのに対し、p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体では発症から20年経過しても90%以上が歩行可能であると推定されている。p.D207Vホモ接合例はこれまで数例しかみつかっておらず、大半が無症状のまま生涯を終えるのではないかと推定されている。また、歩行喪失してから呼吸機能が低下する例がみられるため、呼吸機能の定期的な評価が重要である。とくにp.V603Lホモ接合体の患者では呼吸機能障害のリスクが高く、一方でp.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体ではほとんどみられない。近年の研究では、GNEミオパチー患者において血小板減少症や睡眠時無呼吸症候群の合併が一般集団より高頻度で報告されている。血小板減少症の機序として、血小板膜はシアル酸に富んでいるが、患者の血小板は脱シアリル化した糖鎖を発現しており、肝臓で除去されるためと考えられている。睡眠時無呼吸症候群については、その病態メカニズムはまだ解明されていない。妊娠・出産に関しては、GNEミオパチー患者でもおおむね良好な経過をたどることが報告されている。しかし、切迫流産のリスクがやや高く、約2割の患者が出産後に筋力低下の進行を自覚している。また、出産後1年以内に発症した例も報告されており、出産が病気の進行に影響を与える可能性も示唆されている。ただし、育児による身体的負担の増加が症状の自覚を促した可能性もあり、さらなる研究が必要である。■ 予後呼吸機能障害も比較的軽症で、重症例でも夜間の非侵襲的人工呼吸のみで維持できる例がほとんどであり、その他、明らかな心機能障害や嚥下障害の合併はみられず、生命予後は良好と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GNE遺伝子にホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異があり、臨床的特徴が一致する場合、もしくは筋生検所見で縁取り空胞を伴う筋線維を認めた場合、診断が確定する。遺伝子診断がついていない例に関しては、通常の遺伝学的診断では検出できない変異を有する可能性があることから、臨床的特徴および筋生検所見の両方が本症と一致した場合はGNEミオパチー疑い例とする。■ 各種検査所見(1)血液検査クレアチンキナーゼ(CK)上昇が症状の自覚がない時点から観察され、2,500IU/L以下の軽度高値を示すことが多い。筋肉の萎縮に伴い低下し、歩行喪失後はむしろ低値となる。(2)針筋電図筋原性変化を示す。ただし、随意収縮では一見神経原性を思わせる高振幅の運動単位がみられることがある。(3)骨格筋画像中殿筋・大腿屈筋群の脂肪置換が著明な一方、大腿四頭筋が保たれる。体幹では肩甲下筋が早期から脂肪置換される。(4)筋生検縁取り空胞を伴う大小不同の萎縮筋線維が特徴的である(図1)。筋線維内のβアミロイド沈着、ユビキチン陽性封入体、p62陽性凝集体、リン酸化タウなどの所見も認めるが、通常強い炎症反応は伴わない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ シアル酸補充療法(シアル酸徐放錠承認、ManNAc/シアリル乳糖海外治験実施中)モデルマウスへの実験で、シアル酸の経口投与が発症前から行われると発症が予防され、発症後からの投与でも筋症状が改善することが明らかになった。この結果を受け、シアル酸補充療法の臨床試験が各国で実施された。まず、シアル酸は速やかに尿中に排泄されるため、その効果を持続させるために徐放錠が開発された。シアル酸徐放錠の第III相国際共同治験では有意な差が得られず、海外では開発が中止されたが、同様の臨床試験デザインで実施された国内第II/III相試験では上肢筋力の維持が確認された。その結果、2024年3月、アセノイラミン酸(商品名:アセノベル徐放錠500mg)がわが国で承認され、GNEミオパチーに対する世界初の承認薬となった。また、海外ではシアル酸代謝産物のManNAcやシアリル乳糖の臨床試験が行われており、筋力低下や筋の脂肪置換に対する一定の効果が認められ、今後の臨床応用が期待されている。■ 抗酸化剤(モデルマウスで効果実証)モデルマウスへの実験で、低シアリル化により活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の産生が増加すること、シアリル化が改善することでROSやプロテインS-ニトロシル化が減少すること、さらには抗酸化剤であるN-アセチルシステインをモデルマウスに経口投与することで筋萎縮が改善することが報告され、酸化ストレスの軽減が治療ターゲットとなりうることが明らかになった。■ 遺伝子治療(研究中)本症は、1種類の遺伝子の変異により発症する単一遺伝子疾患であり、遺伝子治療による治癒が期待されている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター8型を用いたモデルマウスへの治療では、シアル酸の増加が確認されており、その有効性が期待されている。しかし、本症の患者の約半数がAAV中和抗体を持っているとの報告があり、その場合、AAVベクターの治療効果が得られない可能性が懸念されている。さらに、本症の標的臓器が全身の骨格筋という広範囲にわたるため、遺伝子治療においては染色体への遺伝子挿入のリスクや増殖性ウイルスの出現の可能性を最大限に減らす工夫が必要である。このため、低用量で骨格筋特異的なベクターの開発が試みられている。4 今後の展望GNEミオパチーの治療において、重要な進展があった。先述のシアル酸徐放錠であるアセノイラミン酸が世界初の治療薬として承認され、これにより早期診断・治療介入の重要性が高まっている。しかし、この治療薬の効果は十分とは言えず、より効果的な治療法の開発が進められている。具体的には、より効果的なシアル酸補充療法の研究に加え、抗酸化薬や遺伝子治療などのシアル酸補充療法以外のアプローチも試みられている。これらの新しい治療法の開発により、GNEミオパチー患者のためのさらなる治療法選択肢が増えることが期待されている。また、GNEミオパチーの患者レポジトリを用いた実態調査研究により、本症の理解が深まってきた。今後は、長期的な経過の解明や合併症の病態メカニズムの解明が期待されている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 遠位型ミオパチー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会 GNEミオパチー 診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)国内レジストリ 神経筋疾患患者登録Remudy(GNEミオパチー)(医療従事者向けのまとまった情報。国内患者登録サイトおよび最新情報のニュースレター)患者会情報遠位型ミオパチー患者会(患者とその家族及び支援者の会)遠位型ミオパチーガイドブック(2018年8月刊行)(患者会が作成したガイドブック)1)難治性疾患等政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班編集. GNEミオパチー診療の手引き.2)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024;271:4453-4461.3)Yoshioka W, et al. Curr Opin Neurol. 2022;35:629-636.4)Suzuki N, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2024:jnnp-2024-333853.5)Yoshioka W, et al. Sci Rep. 2022;12:21806.公開履歴初回2024年10月10日

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第117回 結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?

結核の集団感染最近、「結核の集団感染」のニュースが多くなっています。保健所が察知したクラスターが増加したことが多かったためですが、日本で高齢者や施設入所者の割合が増えていることも影響しているかもしれません。このまま忘れられていくのかと思っていましたが、結核についてざわざわしてきました。国立感染症研究所の集計によると、9月22日までの患者数は1万1,015人とされています1)。驚くべきことに、この数字は昨年の累計新規報告数をすでに超えており、このまま推移すると、数年ぶりの罹患率に逆戻りする可能性も出てきました(図)。図. 結核新規登録者数と罹患率(筆者作成)コロナ禍に結核が減少した理由は、軽症で受診する人が減ったことによる「過少診断」が一因かもしれません。実際に『結核の統計2024』2)では、診断が遅れた(受診から結核診断までの期間が1ヵ月以上)人の割合は、22.5%と高い数値です。コロナ禍で受診控えが続いたので、2020年以降結核登録者が減った印象はあります。そのため、いつかはリバウンドに転じるのではないかと懸念していました。マイコプラズマやRSウイルスのように、アフターコロナですぐにリバウンドしてくる感染症もあれば、結核のように少し遅れてリバウンドする感染症もあるということでしょう。外国出生者の結核への対策が急務2024年に報告された2023年のデータでは、20~30代の若い結核患者さんのほとんどが外国出生者です。外国出生者の割合は、20~29歳で84.8%と大部分を占めています。外国出生者の結核登録者数は1,619人と前年から405人増加しています。入国して5年以内の外国出生者にしぼると、前年比+73.1%と急増しています。かつての「咳が長引く大学生が受診」といったケースは減少し、代わりに「日本語学校の学生クラスター」や「技能実習生が職場健診で異常を指摘」といったパターンが増加しています。日本における外国出生者の結核のうち、多くを占めるフィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6ヵ国を対象として、現在入国前結核スクリーニングを開始する見込みです。いずれにせよ、2024年の結核罹患率は今年より上昇することは確実で、「低蔓延国」の地位を失い、再び「中蔓延国」に逆戻りする可能性も出てきました。参考文献・参考サイト1)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第38週(2024年10月1日)2)公益財団法人 結核予防会編. 結核の統計2024.

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重度の便秘、メタン生成菌の過剰増殖が原因か

 重度の便秘の原因は、メタンを生成する腸内微生物(メタン生成菌)の過剰な増殖である可能性が、新たな研究で明らかになった。腸内細菌叢のバランスが崩れて腸内メタン生成菌異常増殖症(IMO)が引き起こされている人では、IMOがない人に比べて重度の便秘が生じるリスクが約2倍高いことが明らかになったという。米シーダーズ・サイナイ消化管運動プログラムの医療ディレクターを務めるAli Rezaie氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に8月13日掲載された。 人間の腸内には、細菌ウイルス真菌、古細菌など、数兆個もの微生物が生息している。このような腸内微生物は、食物の消化の促進や免疫反応の管理など、健康の維持に重要な役割を果たしている。しかし、有害な微生物が有益な微生物を駆逐して健康上の問題を引き起こすこともある。例えば、Clostridioides difficileという細菌が腸内に定着すると、ひどい下痢を引き起こすことがある。 メタン生成菌は、細菌真菌とは異なる微生物の一種である古細菌に分類され、IMOは便秘などのさまざまな病気の発症機序に関与していることが示唆されている。このことからRezaie氏らは今回、IMOの症状の特徴を明らかにするために、19件の研究(対象は、IMO患者1,293人、IMOのない対照3,208人)を対象にシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、IMOのある人とない人の消化器症状の発生率と重症度を比較した。 IMO患者には、膨満感(78%)、便秘(51%)、下痢(33%)、腹痛(65%)、吐き気(30%)、おなら(56%)など、さまざまな消化器症状が認められた。解析の結果、IMO患者は対照に比べて、便秘の発生率が有意に高かったが(47%対38%、オッズ比〔OR〕2.04、95%信頼区間〔CI〕1.48〜2.83、P<0.0001)、下痢の発生率は低いことが明らかになった(37%対52%、OR 0.58、95%CI 0.37〜0.90、P=0.01)。また、IMO患者は対照に比べて、便秘の重症度は有意に高いが(標準化平均差〔SMD〕0.77、95%CI 0.11〜1.43、P=0.02)、下痢の重症度は有意に低いことも示された(SMD −0.71、95%CI −1.39〜−0.03、P=0.04)。 便秘は一般的に、食物繊維の摂取不足や薬の副作用などが原因とされるが、研究グループは、腸内細菌の構成も便秘の一因である可能性を疑っていたという。Rezaie氏は、「われわれの研究により、IMO患者は便秘、特に重度の便秘になりやすい一方で、重度の下痢になる可能性は低いことが明らかになった」と述べている。 研究グループは、IMOを原因とする便秘の治療には、抗菌薬と腸内細菌の健康促進を目的とした特別な食事療法を組み合わせる必要があると話す。最も一般的な方法である下剤による治療は、症状を一時的に緩和するものの、問題の根本的な解決にはならない。そのため研究グループは、まずは呼気検査によりIMOの有無を確認することが重要だと話す。 Rezaie氏によると、IMOは簡単な呼気検査で確認できるという。同氏は、「腸内に古細菌が過剰に存在するとメタンの生成が増え、その一部が血流に入り込んで肺に運ばれ、呼気として排出される。IMOの診断テストは、そのような呼気中のメタンを利用して行われる。基本的に、メタンが過剰に存在する人は、便秘、鼓腸、腹部膨満感、下痢など、多くの消化器症状を呈する」と説明する。 Rezaie氏は、「将来的には、IMOを原因とする便秘に悩む人を対象に、特定の治療法や個別化された治療法の開発を進めたいと考えている。そのための最初のステップは、呼気検査により過剰なメタン生成を特定し、古細菌の過剰増殖を検出することだ。それが、最終的にはより的を絞った治療法の開発につながる可能性がある」と話す。同氏はさらに、「これは、一般的な下剤による治療から脱却するための大きな一歩だ」と付言している。

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第212回 新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省10月1日、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳の人を対象として新型コロナウイルスワクチンの定期接種が開始された。今回の接種では、新たに接種できるワクチンとして「レプリコンワクチン」が追加されており、このワクチンはmRNAが細胞内で自己複製する特徴を持つ。従来のmRNAワクチンと比較して少ない接種量で高い抗体価を得られる可能性があるが、発症や重症化に対する効果については、まだ不明と指摘もされている。臨床試験では、発症予防効果が約57%、重症化予防効果は95%と確認されている。レプリコンワクチンは、世界で初めて日本で実用化されたもので、国内外での承認が進められている。一方で、従来のワクチン同様、副反応として接種部位の痛みや発熱などが報告されており、安全性は過去のmRNAワクチンと大きな違いはないとされている。接種費用は、国が1回当たり約8,300円を補助するが、無料から7,200円の自己負担まで、自治体によって自己負担額が異なり、負担額に幅がある。また、健康被害が発生した場合の救済制度も一部変更され、軽度の症状での支給はなくなり、入院が必要な場合に限って補助が行われることになった。使用されるワクチンは5種類で、今回の定期接種では主にオミクロン株「JN.1」に対応したものが提供されるが、流行している「KP.3」に対しても一定の効果が期待される。参考1)新型コロナ、初の定期接種開始 高齢者ら対象、自己負担あり(共同通信)2)無料~7,200円 新型コロナ予防接種の自己負担 自治体ごとに開き(朝日新聞)3)新型コロナワクチン定期接種 5種類のうちレプリコンワクチンとは 効果や副反応 専門家の見方は(NHK)4)レプリコンワクチン、コロナ接種で世界初実用化 有効性や安全性は?(毎日新聞)2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省2024年10月から、医療制度が改定され、ジェネリック医薬品の使用を促進するため、先発医薬品を希望する場合に患者の自己負担額が増加する制度が導入された。具体的には、先発薬とジェネリック薬の価格差の4分の1が患者の自己負担となり、患者が先発薬を選んだ場合、これまでより高額の費用を負担する必要が生じる。この制度の目的は、医療費抑制を図ることにあり、国はジェネリック薬の普及率をさらに高めることを目指している。たとえば、先発薬が1錠100円、ジェネリック薬が60円の場合、その差額40円の4分の1に当たる10円に消費税が加算され、患者の負担が増えることになる。この新制度は、あくまで医療上の必要性がなく、患者が先発薬を希望する場合に適用され、医師が先発薬を処方する必要があると判断した場合や、ジェネリック薬の在庫がない場合は例外となる。全国的にジェネリック薬の不足が続いており、薬局はこの制度導入によって需要が集中し、さらに供給不足が深刻化することを懸念している。とくに冬季の感染症流行時には、ジェネリック薬に対する需要がさらに高まると予想され、薬局では在庫管理が難しくなる可能性があると指摘されている。患者の間では、ジェネリック薬を選ぶ人が増えると見込まれる一方で、とくに子供に対しては先発薬を希望する家庭も一定数存在し、自己負担が増えても先発薬を選ぶ傾向がある。また、世帯収入が高い世帯ほど先発薬を選択する割合が増えるという調査結果も報告されている。さらに、厚生労働省は「在宅自己注射の薬剤も対象」になることを示しているが、外来や往診・訪問診療での「注射薬」は対象外となることを疑義解釈で通知を発出している。今回の改定は、医療費削減に向けた大きな一歩となるが、患者や医療現場に与える影響も少なくなく、今後の運用が注目される。参考1)後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(厚労省)2)「長期収載品の選定療養」導入 Q&A(同)3)長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について[その3](同)4)先発医薬品処方の自己負担額10月から引き上げ(NHK)5)先発薬の一部“値上げ” 自己負担 来月から新制度 厚労省、医療費削減へジェネリック促進(東京新聞)6)長期収載品の選定療養、在宅自己注射の薬剤は対象になるが、「外来や往診・訪問診療での注射薬」は対象外-厚労省(Gem Med)3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省9月30日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの取組の方向性を示した。議題となった「医師の偏在」は過去10年で、人口規模が小さい二次医療圏においては診療所数が減少傾向にある一方、50万人以上の二次医療圏では、2012~2022年にかけて診療所数が増加傾向するなど深刻化しており、とくに地方や特定の診療科での医師不足が問題となっている。厚労省は医師偏在の是正に向けた対策として、都市部での新規開業を許可制にし、開業数の上限を設ける案を提示した。しかし、職業選択の自由や営業の自由との兼ね合いから慎重な意見も多く、議論は続いている。厚労省の対策パッケージでは、医師の不足する地域での勤務経験を医療機関の管理者要件とすることや、経済的インセンティブを通じて医師を誘導する方策が検討されている。また、医師が多数存在する地域での新規開業希望者に対しては、地域で不足している医療機能をカバーすることを求める仕組みの強化が提案された。しかし、日本医師会などからは、規制が過度に強化されると医師の志望者が減少する可能性があるとの反対意見が出るなど結論は出なかった。このほか、経済的なインセンティブによる誘導策として、医師不足地域への医師派遣の強化や、診療報酬の見直しなども提案され、「重点医師偏在対策支援区域」として特定の地域に医師を集中的に配置することや、派遣医師の待遇改善を進めることが提案されている。厚労省では、医師不足解消のため、国や地方自治体が協力して支援体制を整備し、大学病院などと連携して医師派遣を行う仕組みを強化する考えを示している。これに対し、日本病院会の相澤 孝夫会長は記者会見で、「医師の偏在を是正するための対策を国に提案する方針」を示し、今後も議論が継続される見通し。参考1)第9回新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)診療所多い地域に「開業の上限」厚労省提案 新規開業を都道府県の「許可制」に(CB news)3)診療所の開業許可制に慎重論、厚労省の有識者検討会で(日経新聞)4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府石破 茂首相は、10月4日の就任後初めての所信表明演説で、社会保障制度の見直しに着手することを明言し、医療、介護、子育てを含む幅広い分野での改革を進めることを明らかにした。これによると、「現行の制度が時代に合っているかを再検討し、多様な人生選択を支える柔軟な制度設計を目指す」と語った。とくに、少子高齢化が進行する中で、現役世代の負担軽減が課題であり、子育て支援や年金制度改革が焦点となる。石破首相は子育て支援について「手当より無償化」を重視し、医療費や年金制度の見直しも検討される見通しだ。新たに就任した福岡 資麿厚生労働大臣は、社会保障制度改革に積極的に取り組むと期待され、財務大臣には厚労相を経験した加藤 勝信氏が起用された。両者ともに社会保障分野での豊富な経験を持ち、とくに年金制度や医療費負担の改革が大きなテーマとなる。日本医師会の松本 吉郎会長は、福岡厚労相と加藤財務相の就任を歓迎し、地域医療の守りを強調した。また、デジタル担当大臣に就任した平 将明氏は、健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化方針を堅持する姿勢を示し、医療DXの推進に力を入れる意向を表明した。保険証とマイナンバーカードの統合により、医療費やカルテのデジタル管理が進むことが期待される。参考1)第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説(内閣府)2)石破首相、社会保障全般の見直しを表明 時代に合った制度への転換も(CB news)3)現役世代の負担減、課題に 子育て支援、年金改正も焦点-石破新内閣の課題・社会保障(時事通信)4)平将明デジタル大臣、「保険証廃止」を堅持する理由説明-「医療DXの恩恵は桁違い」(CNET Japan)5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会法医学教室の解剖医の不足がさらに深刻化することが、読売新聞の報道で明らかになった。報道によると2030年までに全国で24人の教授が定年退職する予定であり、とくに地方では解剖医が1人しかいない地域が14県、さらに1県では解剖医が不在となっている。今後、死亡者数の増加が見込まれる中、解剖医の供給が追いつかなくなる事態が懸念されている。解剖医の不足は、死因究明の遅れや犯罪の見逃しにつながる可能性があり、警察が取り扱う約20万体の遺体のうち、解剖されるのは1割程度に止まっている。日本法医学会は、各都道府県に専任の解剖医を配置する「死因究明医療センター」の設置を提言しているが、進展はみられない。法医学者の確保が急務とされる中、若い医師が敬遠しがちな分野であり、大学における解剖医の後任確保が難しい状況が続いている。さらに、解剖医が少ない地域では教授の退職や転任が発生すると、他県に依頼しなければならず、捜査に遅れが出る事象も起こっている。政府も法医学教室の人員確保を強調しており、死因究明の重要性を社会全体で共有する必要性があると指摘されている。同学会では、解剖医のキャリアパスを紹介するセミナーを開催し、将来の人材育成にも取り組んでいるが、現状の人員不足は依然として大きな課題となっている。参考1)死因究明の解剖医が足りない…法医学教室の教授の大量定年退職、2030年までに全国で24人(読売新聞)2)法医学会が初の学生向けセミナー開催~社会的ニーズ紹介、将来の人材確保へ~(時事通信)6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局関東信越厚生局は、9月30日に、千葉県野田市の小張総合病院が、看護職員の勤務実績を実際よりも多く申告するなどの不正により、診療報酬約5億7,000万円を不正請求していたとして、この病院の保険医療機関の指定を2025年4月1日付で取り消すと発表した。不正は2014~2017年にかけて行われ、元職員の内部告発により発覚した。これに対し、病院を運営する医療法人「圭春会」は、事業を医療法人「徳洲会」に譲渡する予定であり、診療は引き続き行われると発表した。小張総合病院は二次救急指定病院であり、野田市において重要な役割を果たしている。昨年度は約4,700件の救急搬送を受け入れており、病床数は350床、消化器内科や小児科を含む28の診療科を持つ。熊谷 俊人知事は、この不正行為が市の中核的な医療機関で発生したことを「誠に残念」としつつも、運営の引き継ぎを支援し、地域医療体制の維持に取り組む考えを示した。関東信越厚生局は、不正に受け取った診療報酬の返還を求めている。参考1)保険医療機関の行政処分について (関東厚生局)2)診療報酬5億7,000万円を不正請求 千葉・野田市の病院、保険医療機関の指定取り消し(産経新聞)3)救急病院が診療報酬不正疑い保険医療機関指定取消決定 野田(NHK)

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tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第13回

言葉の由来「結核」は英語で“tuberculosis”(トゥバキュロウスィス)といいます。この病名は、「小さな塊」や「結節」を意味するラテン語の“tuberculum”に、状態を表す接尾辞の“-osis”が合わさってできたものです。結核の感染部位に小さな結節や塊が形成されることから、この名前が付けられました。「結核」という病名が医学的に使用され始めたのは19世紀のことです。結核の病態は古代から知られており、ヒポクラテスなど古代の医師たちもこの病気について記述を残していますが、当時は原因がわからず「消耗病」といった名称で呼ばれていました。医学や解剖学の進展で、死亡者の肺に小さな瘤がみられることがわかり、19世紀半ばに“tuberculosis”という病名が付けられました。結核の原因となる細菌である“mycobacterium tuberculosis”は、1882年にドイツの細菌学者ロベルト・コッホによって発見され、この発見が結核の診断と治療に革命をもたらしました。なお、結核菌は太古の昔から存在しており、イスラエル沖から発掘された紀元前7,000年ごろの人骨から結核菌の遺伝子が検出されています。日本では、結核は弥生時代からあったといわれていますが、本格的に流行したのは江戸時代から明治時代で、スペイン風邪流行下の1920年ごろに死亡者数はピークを迎えました。一時期は国民の死亡原因の首位になり、「国民病」と恐れられていましたが、結核予防法の制定や隔離治療、BCGの予防接種の推進などにより死亡者数は減少に転じました。併せて覚えよう! 周辺単語粟粒結核miliary tuberculosis多剤耐性結核multidrug-resistant tuberculosis空気予防策airborne precaution潜在性結核感染症latent tuberculosis infection非結核性抗酸菌症nontuberculous mycobacterial infectionこの病気、英語で説明できますか?Tuberculosis is a contagious disease caused by Mycobacterium tuberculosis, primarily affecting the lungs. It spreads through the air and can be latent or active. Symptoms include a persistent cough, fever, and weight loss. Tuberculosis is treatable with antibiotics but remains a global health challenge.講師紹介

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スマートマスクで呼気から健康状態をチェック

 実験段階にある「スマートマスク」によって、吐いた息からその人の健康状態をチェックできる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。バイオセンサーが取り付けられたこのシンプルな紙製のマスクは、呼吸器疾患や腎臓病などさまざまな健康問題のモニタリングに使える可能性を秘めているという。米カリフォルニア工科大学(CalTech)医用工学教授のWei Gao氏らによるこの研究の詳細は、「Science」8月30日号に掲載された。 このマスクは、受動冷却システムにより人の呼気をマスク上で冷却して液体化し、リアルタイムでその分析を行う。この論文の筆頭著者でCalTechのWenzheng Heng氏によると、呼気の凝縮液には、溶解性のガスだけでなく、エアロゾルや飛沫の形で存在する揮発性ではない物質が含まれており、これらを疾患のマーカーとして検査することができるのだという。分析結果のデータは、ワイヤレスでスマートフォンやタブレット、コンピューターに転送される。Gao氏によると、このマスクは比較的低コストで製造でき、材料費はわずか1ドル程度だという。 このマスクの性能を確かめるために、Gao氏らは一連の実験を行った。そのうちの1つの実験では、このマスクを用いて喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人の呼気を検査した。その結果、このマスクにより、両疾患における炎症マーカーである亜硝酸塩を正確に検出できることが確認された。また、別の実験では、血中アルコール濃度を検知するためにこのマスクを使用し、飲酒運転の現場での検査やアルコール摂取のモニタリングにも利用できることが示された。さらに3つ目の実験では、マスクによって腎臓病の指標となる呼気中のアンモニアガスの濃度を検知できるかが検証された。腎機能が低下すると、尿素などのタンパク質代謝の副産物が血液や唾液に蓄積し、呼気中のアンモニアガス濃度が高くなる。実験の結果、スマートマスクにより検知されたアンモニアガスの濃度から、血中の尿素濃度をかなり正確に知ることができることが確認された。 Gao氏は、「これらの初期の研究は、概念実証(PoC)段階のものだ。われわれはこの技術を拡大し、さまざまな健康状態に関連するマーカーを組み込みたいと考えている。これは、幅広い用途に使える全般的な健康状態のモニタリングのプラットフォームとして機能するマスクを作るための基礎となる」と説明している。 一方Heng氏は、CalTechのニュースリリースの中で、「このマスクは、呼吸器疾患や代謝性疾患の管理および精密医療における新たなパラダイムを象徴するものだ。なぜなら、毎日マスクをすることで呼気検体を簡単に得ることができ、さらに呼気中の化学分子をリアルタイムで分析できるからだ」と述べている。 なお、このマスクを着用した研究参加者は、呼吸器障害に苦しんでいる人も含めて、マスクが快適だと感じていたと研究グループは付け加えている。Gao氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以来、人々がマスクを使用する頻度は増えた。こうしたマスク使用の広がりを利用して、自宅やオフィスでリアルタイムで健康状態のフィードバックを得るための、個別化された遠隔モニタリングを実現できるはずだ。例えば、その情報を使って、治療の効果を評価することもできるかもしれない」と話している。

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第231回 某学会がレプリコンワクチンの安全性に懸念表明!?気になる内容は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチンの特例臨時接種が今年3月末に終了したが、65歳以上の高齢者と60~64歳までの基礎疾患を有する人たちに対する定期接種が10月1日からスタートした。今回の定期接種はファイザー、モデルナ、第一三共のmRNAワクチン、ノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチンの5種類のワクチンが使用される。レプリコンワクチンの作用機序このうち巷で話題をさらっているのが、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチン「コスタイベ」である。これは通称レプリコンワクチンと称される。ウイルスのスパイクタンパク質とRNAを鋳型にRNAを複製する酵素であるレプリカーゼのmRNAを脂質ナノ粒子で包んだ自己増幅型mRNAワクチンである。これを筋肉注射すると、体内でレプリカーゼの働きによりウイルスのスパイクタンパク質のmRNAが多数複製され、それに応じて中和抗体も多数産生される。さらに、これまでよりも少量のmRNAを投与することで効率的に中和抗体が産生でき、かつ抗体価の持続期間も長いという仕組みである。端的に言えば、投与したmRNAが一時的に自己増幅(増殖ではない)するという新技術だ。さて、“これが巷で話題になっている”というのは、すでに多くの医療者がご存じのようにネガティブな意味でだ。主には「レプリコンワクチンは、接種した人の体内で増殖したmRNAが人やほかの動物に感染する危険性がある」という主張である。SNS隆盛の現在はとくにネガティブ情報は拡散されやすいが、こうした科学的に見て不可思議な説に医療系の国家資格を持つ人々も加担しているため、なんとも厄介である。学会がレプリコンワクチンを忌避!?そうした最中、日本看護倫理学会が「【緊急声明】 新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」を8月8日に公開した。ちなみに私自身は今回初めて同学会の存在を知ったが、「看護倫理の知を体系的に構築する」ことを目的に2008年に設立された学会とのこと。さて、その主張は主に5点である。1点目はコスタイベの主な治験実施国であるベトナムや、もともとMeijiがこのワクチンを導入したArcturus Therapeutics社が本社を置くアメリカでは承認されていないことに対する疑問であり、それゆえに安全性に懸念があるのではないかとの指摘だ。しかし、これ自体ははっきり言って揚げ足取りに近い。国情や規制当局の在り方によっても変わってくることだからである。ちなみに国外で米・Arcturus Therapeutics社は豪・CSL Seqirus社と開発提携しており、CSL社のホームページでは欧州連合で承認申請中と記載されている。また、Meiji側が9月末に行った記者会見では、ベトナムで承認準備、アメリカで承認申請に向けて準備が進むほか、数ヵ国で開発中である。そもそも新型コロナワクチンの場合、先行したファイザー、モデルナ両社の製品による接種が急速に進行したため、後発企業は被験者確保に苦労したことはよく知られている。こうした事情も併せて考えれば、日本が先行承認されたことは驚くに値しない。実はこの手の指摘は、今回の定期接種に用いられているノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチンの日本での緊急承認時も「ノババックスの本国であるアメリカでは承認されていない」とネガティブな方向性でSNS上では指摘されていた。しかし、当時すでにEUでは承認されており、後にアメリカでも承認されている。さて緊急声明の2点目は、このワクチンに関して最も多いネガティブ指摘である接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念があります」と言うもの。そもそもこの「シェディング」という用語自体は、以前からワクチンに懐疑的な人たちがSNS上で使っていたが、今回よく調べてみたところ、英語の「shed(発する、放つ)」の現在分詞らしい。声明では「望まない人にワクチンの成分が取り込まれてしまうという倫理的問題をはらんでいます」としているが、いやはやである。そもそも声明では「感染」という言葉を誤用している。感染とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着・増殖し、寄生した状態を指す。このワクチンも先行したファイザー、モデルナのワクチンも成分として封入されているmRNAは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパクのみを生成する。これのみで医学的な定義の感染は起こりえない。しかも、元来、不安定で細胞内で分解されてしまうmRNAが、そのまま血中を流れて肺で呼気に混入してヒトから排出されるなど、もはやファンタジーの域である。それだったら、長年、麻疹や風疹で使われているウイルス本体を弱毒化した生ワクチンのほうがよっぽど危険であるし、生ワクチンではここで言うシェディングに相当するような現象が起きたことはあるが、大局的に問題になったことはない。極めて雑な例えをするが、この主張は私個人からすると「刺身を食べてしばらくしたら、その人の口から生きた小魚が継続的に飛び出すようになった」と言われるくらいナンセンスである。3点目は「人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在します」というもの。要は投与したmRNAがDNAそのものに影響を及ぼすのではないかとの主張である。この点はヒトでの逆転写酵素の有無に関連するものだが、厳密に言えばその可能性はゼロではない。しかし、率直に言って「あなたが明日死ぬ可能性はゼロではない」というレベルのものである。ちなみにここの項目ではスウェーデンで行われた培養細胞にファイザーのmRNAワクチンを曝露させたin vitroの実験でDNAへの逆転写が起こったとの論文を引用している。しかし、免疫応答も含め通常の生体内とは異なる条件で行われた実験であり、使用された細胞は高分化型ヒト肝癌由来細胞株 Huh-7。そもそもがん細胞由来の細胞株なら正常なDNA複製が行われるとは言えないはずで極めて特殊な条件で行われている。4点目は、そもそもファイザー、モデルナのmRNAワクチンですらリスクの説明が必ずしも十分ではないという指摘だが、これについてはさまざまな受け止めがあろうと思う。少なくとも私個人は、厚生労働省を筆頭に自治体も神経質なまでに情報発信をしていたとの認識である。5点目はレプリコンワクチンが定期接種に用いられることで、患者を守るとの至上命題で医療者を中心にワクチン接種に関する主体的な自己決定権が脅かされるとの懸念。正直、これもどちらかというと感情論であり、レプリコンワクチンに対する懸念とはやや別物ではないかと考える。いずれにせよ今回の声明は、ピッチャーがマウンドからいきなり外野スタンドに投球し始めたかのような違和感を覚えるもので、私個人は読み切るのに相当疲れた次第である。

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ワクチン接種はかかりつけ医に相談を/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は10月2日、定例会見を開催した。会見では、松本会長が先日発足した石破 茂内閣誕生に言及し、医師会は地域を支える重要な医療インフラとして政権と一体となって政策を推進すること、防災省の提案もあるように医師会も災害対策を重要な事項と考えていること、医療・介護業界が物価高騰を上回る賃上げが実現できることなどを要望し、今後も諸政策で連携していくことを語った。また、先般発生した能登半島豪雨への支援金について10月末まで医師会員、一般からの寄付を募っていることを説明した。新型コロナウイルス感染症の重症化防止に高齢者はワクチン接種の検討を 次に感染症担当の笹本 洋一常任理事(ささもと眼科クリニック 理事長・院長)が 「季節性インフルエンザと新型コロナウイルス等の予防接種について」をテーマに、今秋の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、季節性インフルエンザへのワクチン接種などについて医師会の取り組みや考えを説明した。 COVID-19と季節性インフルエンザは流行傾向にあるが、COVID-19ワクチンの接種が10月1日より開始された。大きな変更点は、公費による無料接種ではなくなったことで、自治体による定期接種となる。対象者は「65歳以上の方」、「60~64歳で心臓、腎臓などに基礎疾患がある方、免疫機能に障害がある方」などが定期接種の対象となり、一部自己負担の有料接種となる。対象者は重症化予防のためにも接種を検討していただき、接種できるワクチンの種類、自己負担額については各自治体により異なるために確認してもらいたいと説明した。また、COVID-19ワクチンは、医師が必要と認めた場合、季節性インフルエンザや肺炎球菌ワクチンとの同時接種もできるので、かかりつけ医に相談してもらいたいと述べた。 そのほか、HPVワクチンの公費負担によるキャッチアップ接種にも触れ、9月末日までの初回接種を医師会としては広く啓発してきたが、これを逃した方も10月中の接種で最短で4~5ヵ月で公費負担の期日内に終えることができるので、かかりつけ医などに相談して欲しいと説明するとともに、通常の定期接種についても近医に問い合わせをお願いしたいと述べた。

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わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」【最新!DI情報】第24回

わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」今回は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名:フルミスト点鼻液、製造販売元:第一三共)を紹介します。本剤は、国内初の経鼻インフルエンザワクチンであり、針穿刺の必要がなく注射部位反応もないことから、患者負担の軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、インフルエンザの予防の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、2024年8月13日に製造販売承認事項一部変更承認を取得しました。<用法・用量>2歳以上19歳未満の人に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧すします。医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショックおよびアナフィラキシー(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔、頭痛(いずれも10%以上)、鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザ(いずれも1~10%未満)、発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎(いずれも1%未満)などがあります。本剤は安定剤として精製ゼラチンを含有していますので、ゼラチンに対してショックやアナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、血管性浮腫ほか)などの過敏症の既往のある人には注意が必要です。また、製造工程由来不純物として、卵由来の尿膜腔液成分(卵白アルブミン、タンパク質および鶏由来DNA)が混入する可能性があるため、鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈する恐れのある人に対しても注意が必要です。本剤は弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫抑制状態の人には使用できません。<患者さんへの指導例>1.この薬は、鼻へ噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです。鼻へ噴霧するため、針を刺す必要がありません。2.接種の対象は、2~18歳の人です。3.この薬は、噴霧後に積極的に吸入(鼻ですする)する必要はありません。4.まれにショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、いつもと違う体調変化や異常を認めた場合は、速やかに医師に連絡してください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性呼吸器感染症であり、日本ではインフルエンザに関連した超過死亡数が年間1万例を超えると推定されています。インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防やインフルエンザに関連した重度合併症を防ぐ主要な手段です。フルミスト点鼻液は、日本で初めて承認された経鼻投与型の3価の弱毒生インフルエンザワクチンであり、A型株(A/H1N1およびA/H3N2)とB型株(B/Victoria系統)のリアソータントウイルス株を含有しています。本剤の特徴は、「低温馴化」、「温度感受性」および「弱毒化」であり、噴霧された弱毒生ウイルスが鼻咽頭部で増殖し、自然感染(野生株の感染)後に誘導される免疫と類似した、局所および全身における液性免疫、細胞性の防御免疫を獲得できます。また、本剤は、針穿刺の必要がなく、注射部位反応もないことから、被接種者の心理的・身体的負担の軽減も期待されています。日本では、2024~25シーズンから使用が認められました。日本人健康小児(2歳以上19歳未満)を対象とした国内第III相試験(J301試験)において、抗原性を問わないすべての分離株によるインフルエンザ発症割合は、本剤群で25.5%(152/595例)、プラセボ群で35.9%(104/290例)であり、本剤群のプラセボ群に対する相対リスク減少率は28.8%(95%信頼区間:12.5~42.0)でした。95%信頼区間の下限は事前に設定した有効性基準(0%)を上回っており、プラセボに対する本剤の優越性が検証されました。日本小児科学会より「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」が出され、使い分けが示されました。2〜19歳未満に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨していますが、喘息患者、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザHAワクチンを推奨しています。また、生後6ヵ月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンのみが推奨されています。参考日本小児科学会:経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方

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