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今季インフルエンザ治療のポイントとは?

 今季インフルエンザは沖縄県での発生を皮切りに早くも流行が始まっているが、今年はどのような対策を講じればよいのだろうか? 2019年10月23日、塩野義製薬株式会社主催のメディアセミナー「インフルエンザの疫学と臨床」が開催。池松 秀之氏(日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 リサーチディレクター)がインフルエンザ疫学や薬剤耐性の現況について報告した。今年の流行時期とインフルエンザ型は? 人間に影響を及ぼすインフルエンザウイルスにはA型(亜型としてH1N1[ソ連型]、H1N1pdm、H3N2[香港型]など)とB型がある。そのうちどちらが流行するかで流行時期は毎年異なるのだが、基本的には1月下旬~2月上旬にA型が、それに遅れてB型がピークを迎える。池松氏は各年度でのインフルエンザの流行型・亜型の内訳を提示し過去の動向について解説。2008~09年はインフルエンザのH275Y変異株H1N1(ソ連型)が大流行したものの翌年には消失。新型インフルエンザと呼ばれたH1N1pdm09が出現し、 以降はH1N1pdm09とH3N2が交互に、同様にA型とB型も交互に流行した。この状況を踏まえ、流行の予測は困難であるが、これまでの流行を参照にすると「今年は2010~11年、もしくは2012~13年のようにB型が流行、A型はH1N1が多く発生するのではないか」と述べ、「今年は例年より流行が早く、ピークが年明けになるかどうかはわからない。気温や気候による研究もたくさん実施されているが、それらは明確な予測指標に至っていない」と語った。ウイルス残存率や耐性株からみる今年の注意点とは 昨年はバロキサビルの発売年だったこともあり、多くの医師がバロキサビルを処方したことで耐性株出現などの研究報告が世間を賑わせた。このことから、今年はバロキサビル耐性株に対する治療薬選択への懸念が広がっているが、同氏の所属するインフルエンザ研究班が2018~19年に実施した臨床現場における成人での発熱や症状の改善やウイルスの残存率に関する調査によると、バロキサビルでは治験時と同様の成績(バロキサビルとオセルタミビルでは前者のほうが早くウイルスが消失した)が得られたという。これより同氏は、「治験成績が臨床現場と相違なかったことから、われわれはバロキサビルの治験時データは信頼できると考えている」と述べた。加えて、5種類のインフルエンザ治療薬での平均解熱時間に差がなかったことから、「成人の場合、どの薬剤を選択するかは各医師の患者に適切と思われる薬剤の選択で良い」と、研究班の見解を示した。また、日本感染症学会の提言で話題となった12歳未満への投与については「バロキサビルを絶対使ってはいけないと制限するものではないと受け取っている」とコメントした。 第III相無作為化プラセボ対照予防投与試験であるBLOCKSTONE試験の結果によると、プラセボ群(バロキサビル以外の治療群、n=375)で2例の同居家族がアミノ酸変異(I38変異)を認めた。しかし、この同居家族はその後インフルエンザを発症し、バロキサビルを服用したためI38変異が検出されたという。学会が提言した“慎重投与”が意味することとは? 過去に研究班の症例でもオセルタミビル治療後の成人にて感受性低下ウイルスが分離された例があったが、この時、重症化や周囲への蔓延はなかったという。これを踏まえ、「今後、バロキサビル耐性ウイルスが“治療前”にどれだけ広がるか、バロキサビルの治療にどれくらい影響があるのかは、注意深く見ていく必要がある」と述べ、「成人での感染実験や症状の程度とウイルス量の関係性をみた試験の結果1)、2)を参考に、ウイルス量を早く減らすことで重症化を防げるならば、(ウイルス量を早く消失させることができる)バロキサビルの価値が見いだせるのではないか」とも語った。 耐性に関しては、「小児ばかりがクローズアップされているが、高齢者でも変異ウイルスが一定の頻度で出ているので、高齢者に対しても今後注意を払っていく必要がある」と述べ、「これまではバロキサビル服用後の患者の変異株検出が取り上げられていたが、これは驚くことではない。今年、国立感染症研究所によって未投与患者における耐性株の検出が報告された。耐性株がどの程度伝播していくのかなど、臨床的影響に対して不明点が多いので非常にインパクトがある」とコメントした。さらに「インフルエンザウイルスが免疫機構を免れる新たな手段を手に入れる気配を見せるならば十分注意が必要」と注意点を示した。 最後に同氏は「作用機序やこれまでの試験から推察するに、鳥インフルエンザなどを含め受診が遅れた重症患者のウイルス量低下においてバロキサビルは貢献できるかもしれない」と、締めくくった。 なお、塩野義製薬株式会社によると、今年の9月末までに得られた検体におけるサーベイランススタディは日本小児感染症学会、日本ウイルス学会の両学術集会にて報告された。(11月7日 記事内容を一部修正いたしました)

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日本の進行胃がんに対するニボルマブのリアルワールドでの成績(JACCRO GC-08: DELIVER)/ESMO2019

 第III相ATRRACTION-2試験において、ニボルマブは3次治療以降の胃がんに対する有効性を示しているが、PS不良例、腹膜播種例などが含まれるリアルワールドでのデータはない。聖マリアンナ医科大学の砂川 優氏らは、リアルワールドでの進行胃がんに対するニボルマブの効果と安全性、そして腸内マイクロバイオームを含む宿主免疫バイオマーカーを検証した前向き観察研究JACCRO GC-08(DELIVER)の中間成績を欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で報告した。 JACCRO GC-08試験は、組織学的に腺がんであることが確認されたPS 0~2の食道胃接合部がんを含む切除不能な進行胃がんでニボルマブでの単剤治療を行う症例を対象とし、治療前後での便や血液を採取し、腸内細菌種・ゲノム情報、遺伝子多型、遺伝子発現、メタボロームを測定し、ニボルマブの有効性・安全性の予測因子を探索・検証する研究。 試験は2018年3月から開始され、目標症例数は500例。当初の200例で、予測因子を探索し、そこで得られた予測因子候補を300例で検証する計画。 主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は全奏効率(ORR)、病態制御率(DCR)、腫瘍縮小率、腫瘍増大率(TGR)、無増悪生存期間(PFS)、安全性、バイオマーカー解析。今回発表されたのは前半200症例の患者背景と臨床結果。 主な結果は以下のとおり。・解析可能症例は198例、年齢中央値は70歳、男性が75%であった。・PSは0が47%、1が39%、2が14%であり、腹膜転移は45%にみられた。・腫瘍径が測定可能だった124例でのORRは5.6%(95%信頼区間[CI]:2.3~11.3)、DCRは33.1%(95%CI:24.9~42.1)であった。・投与開始1ヵ月間のTGRが測定できた105例では、58.4%でニボルマブ投与開始後にTGRの減少が認められたが、24.8%では投与開始前と比較してTGRが2倍以上になる高度進行と判定された。・PS別のDCRはPS 0が38%、PS 1が35%、PS 2が22%であった。・DCRは印環細胞がん、腹膜播種性転移、腹水の因子を持つ症例で低率だった。・HER2発現状況あるいは好中球/リンパ球比でDCRに差は認めなかった。

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日本で広域抗菌薬が適正使用されていない領域は?

 抗菌薬の使用量は薬剤耐性と相関し、複数の細菌に作用する広域抗菌薬ほど薬剤耐性菌の発生に寄与する。日本の抗菌薬使用量は他国と比べ多くはないが、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドといった経口の広域抗菌薬の使用量が多い。AMR臨床リファレンスセンターは9月24日、11月の「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」を前にメディアセミナーを開催。日馬 由貴氏(AMR臨床リファレンスセンター 薬剤疫学室室長)、具 芳明氏(同 情報・教育支援室室長)らにより、最新の使用量データや市民の意識調査結果が報告された。2020年までに“経口の広域抗菌薬半減”が目標 国主導の「AMR対策アクションプラン」は、2013年比で2020年までに(1)全体で抗菌薬を33%減少、(2)経口の広域抗菌薬を半減、(3)静注薬を20%減少、を目標として掲げている1)。実際の使用量データをみると、人口千人当たりの1日抗菌薬使用量は、2013年と比較して2018年で10.6%減少している。このうち、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドはそれぞれ17~18%ほど減少がみられる。 一方で、内服用抗菌薬と静注用抗菌薬に分けてみると、この減少は内服用抗菌薬によるもので、静注用抗菌薬の使用量は全く減っていない。日馬氏は、「全体として目標達成にはさらなる努力が必要だが、とくに静注用抗菌薬の使用削減については今後の課題」とし、その多くが高齢者で使用されていることを含め、効果的な介入方法を探っていきたいと話した。本来不要なはずの処方にかかる費用の推計値は年10億円超 非細菌性急性上気道炎、いわゆるかぜには本来抗菌薬は不要なはずだが、徐々に減少しているものの、2017年のデータでまだ約3割の患者に処方されている。セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドがその大部分を占め、費用に換算すると年10億円を超えると推定される2)。非細菌性急性上気道炎への抗菌薬処方率を患者の年齢別にみると、19~29歳で43.26%と最も高く、次いで30~39歳が42.47%であった。日馬氏はまだ推測の域を出ないとしたうえで、「就労世代でとくに使われがちということは、仕事を休めないなどの事情から患者側からの求めがあるのかもしれない」と話した。 もう1領域、課題として挙げられたのが急性膀胱炎に対する抗菌薬使用だ。2016年のデータで、急性膀胱炎に対する抗菌薬処方はフルオロキノロンが52.4%と最も多く、第3世代セファロスポリンが38.9%と、広域抗菌薬がほとんどを占める2)。実際、日本のガイドラインではフルオロキノロンが第1選択になっている。しかし、欧米ではST合剤などが第1選択で、フルオロキノロンは耐性への懸念から第1選択薬としては推奨されていない。同氏は、「使用期間は長くないものの患者数が多いため、広域抗菌薬全体の使用量に対する寄与が大きい」とし、「必ずしも欧米との単純比較ができるものではないが、日本でも広域抗菌薬から狭域抗菌薬にスイッチしていく何らかの方策が必要ではないか」と話した。薬剤耐性=体質の変化? 患者との認識ギャップを埋めるために AMR臨床リファレンスセンターでは、毎年市民を対象とした抗菌薬に関する意識調査を行っている。2019年はEU諸国でのデータとの比較などが行われ、具氏が最新の調査結果を解説した。「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果がある」という項目に対して「あてはまらない」と正しく回答した人は35.1%、「あてはまる」と誤った認識を持っている人が45.6%に上った。EU28ヵ国で同様の質問をした結果は正しい回答が66.0%となっており、日本では誤った認識を持つ人が多いことが明らかとなった。 「今後かぜで医療機関を受診した場合にどんな薬を処方してほしいですか?」という問いに対しては、31.7%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答。「だるくて鼻水、咳、のどの痛みがあり、熱は37℃、あなたは学校や職場を休みますか?」という問いには、24.4%が「休まない」、38.5%が「休みたいが休めない」と答えており、働き方改革が導入されたとはいえ、休みたくても休めない実情が明らかになっている。 また、薬剤耐性という言葉の認知度について聞いた質問では、50.4%が「薬剤耐性、薬剤耐性菌という言葉を聞いたことがない」と回答している。「薬剤耐性とは病気になる人の体質が変化して抗菌薬・抗生物質が効きにくくなることである」という誤った回答をした人も44.3%存在した。具氏は、AMR臨床リファレンスセンターのホームぺージ上で患者説明用リーフレットの公開がはじまったことを紹介。「抗菌薬は必要ないと判断した急性気道感染症の患者に、医師が診察室で説明に用いることを想定したリーフレットなどを公開しているので活用してほしい」と話して講演を締めくくった。

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低リスク妊娠、第3期のルーチン超音波は有益か?/BMJ

 低リスク単胎妊娠において、妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことは通常ケアと比較して、出産前の在胎不当過小(SGA)胎児の検出率を高めるが、重度有害周産期アウトカムの発生減少には結びつかないことが明らかにされた。オランダ・アムステルダム大学医療センターのJens Henrichs氏らが、1万3,046例の妊婦を対象に行った無作為化比較試験の結果で、著者は「妊娠第3期に超音波検査をルーチンに行うことを支持しない結果であった」とまとめている。BMJ誌2019年10月15日号掲載の報告。妊娠28~30週、34~36週に超音波検査を提供し通常ケアと比較 研究グループは2015年2月1日~2016年2月29日にかけて、オランダ国内の助産施設60ヵ所を通じて登録した、16歳以上の低リスク単胎妊娠の妊婦を対象に無作為化比較試験を行った。 施設では通常のケアとして、定期的な子宮底長測定と、臨床的に必要な超音波検査を行った。試験開始3、7、10ヵ月の各時点で、被験者の3分の1をコントロール群から介入群に割り付け、介入群に対しては、通常ケアに加え、妊娠28~30週、34~36週に2回のルーチン超音波検査を提供した。両群に対して同様の多専門的アプローチを行い、胎児発育の特定とケアを行った。 主要アウトカムは、複合重度有害周産期アウトカム(周産期死亡、Apgarスコア4未満、意識障害、仮死、てんかん発作、補助呼吸、敗血症、髄膜炎、気管支肺異形成症、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、壊死性腸炎と規定)だった。副次アウトカムは、母体の重篤な病的状態、自然分娩・出生だった。重度有害周産期アウトカム発生、介入群32%、コントロール群19% 試験には1万3,520例(平均妊娠22.8週)が登録され、解析には、オランダ全国周産期レジストリまたは病院記録のデータがある1万3,046例(介入群7,067例、コントロール群5,979例)が包含された。 SGA胎児の検出率は、コントロール群19%(78/407例)に対し、介入群は32%(179/556例)と有意に高率だった(p<0.001)。 一方で、主要アウトカム発生率は、介入群1.7%(118例)、コントロール群1.8%(106例)だった。交絡因子を補正後、両群には有意差は認められなかった(オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.70~1.20)。 なお、介入群ではコントロール群に比べ、誘発分娩の発生率が高く(OR:1.16、95%CI:1.04~1.30)、陣痛促進の発生率は低かった(0.78、0.71~0.85)。母体のアウトカムとその他の産科学的介入について有意な差はなかった。

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スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

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咽頭・扁桃炎へのペニシリンV、1日4回×5日間の効果/BMJ

 A群レンサ球菌に起因する咽頭・扁桃炎のペニシリンVによる治療について、現在推奨されている1日3回×10日間療法に対して、1日4回×5日間療法が臨床的アウトカムに関して非劣性であることが示された。再発と合併症の発生数は、両群間で差はみられなかったという。スウェーデン公衆衛生局のGunilla Skoog Stahlgren氏らが行った無作為化非盲検非劣性試験の結果で、著者は「ペニシリンVの1日4回×5日間療法は、現在の推奨療法に代わりうるものとなるかもしれない」とまとめている。抗菌薬への耐性増加と新しい抗菌薬の不足もあり、既存の抗菌薬の使用を最適化することの重要性が強調されている。咽頭・扁桃炎はプライマリケアで最も頻度の高い感染症の1つで、スウェーデンおよび欧州諸国の処方薬に抗菌薬が占める割合はかなり高いという。研究グループは、ペニシリンVの総投与を、臨床的有効性を十分に維持したまま低減できるか調べるため本検討を行った。BMJ誌2019年10月4日号掲載の報告。1日4回×5日間(計16g)vs.1日3回×10日間(計30g) 試験は2015年9月~2018年2月に、スウェーデン国内の17のプライマリ医療センターで行われた。対象は、6歳以上で、A群レンサ球菌による咽頭・扁桃炎を呈し、Centor criteria(発熱38.5度超、圧痛を伴うリンパ節腫脹、白苔を伴う扁桃腺炎、咳の欠如)を3または4つ満たす患者とした。 被験者は、ペニシリンV 800mgを1日4回5日間(計16g)投与する群(5日間療法群)、または同1,000mg用量を1日3回10日間(計30g)投与する群(10日間療法群)に無作為に割り付けられ、追跡評価が行われた。 主要アウトカムは、抗菌薬療法終了後5~7日間の臨床的治癒(主要な残存症状や咽頭扁桃炎または再発症候性の臨床的所見がみられない完治と定義)の達成率。非劣性マージンは10ポイントと事前に規定した。副次アウトカムは、細菌の消滅、症状軽減までの期間、再発・合併症・扁桃腺炎の発現頻度、および有害事象パターンなどであった。主要アウトカムの臨床的治癒率、5日間療法群の非劣性を確認 433例が無作為に、5日間療法群(215例)または10日間療法群(218例)に割り付けられた。修正intention-to-treat集団には422例が包含され、各群の年齢中央値は30.0歳、31.0歳で、女性の割合が65.1%、62.9%であった。また、per protocol集団は397例が包含された。 per protocol集団当たりでの臨床的治癒率は、5日間療法群89.6%(181/202例)、10日間療法群93.3%(182/195例)であった(両群差:-3.7ポイント、95%信頼区間[CI]:-9.7~2.2)。 細菌消滅の割合は、5日間療法群80.4%(156/194例)、10日間療法群90.7%(165/182例)だった(両群差:-10.2ポイント、95%CI:-17.8~-2.7)。1ヵ月以内の再発はそれぞれ8例と7例(0.6、-4.1~5.3)、追跡3ヵ月までの合併症は0例と4例(-2.1、-4.7~0.5)、同じく新たな扁桃腺炎は6例と13例(-3.8、-8.7~1.0)であった。症状軽減までの期間は、修正intention-to-treat集団、per protocol集団における検討のいずれにおいても、5日間療法群のほうが有意に短期であった(log rank検定のp<0.001)。 有害事象は主に下痢、悪心、外陰膣炎で、10日間療法群で発生率が高く、事象期間が長期であった。

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急性咽頭炎に対するアモキシシリンへの変更提案の論拠【うまくいく!処方提案プラクティス】第7回

 今回は、抗菌薬の処方提案について紹介します。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。また、医師に提案する際は、上記の擦り合わせや治療方針の確認を心掛けましょう。患者情報40歳、男性(会社員)現 病 歴 :高血圧血圧推移:130/70台既 往 歴 :15歳時に虫垂炎にて手術主  訴:咽頭痛、発熱、頸部リンパ節の腫脹処方内容1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後3.トラネキサム酸錠500mg 3錠 分3 毎食後4.ポビドンヨード含嗽剤7% 30mL 1日数回含嗽症例のポイントこの患者さんは、2日前より咽頭痛と発熱が生じたため、かかりつけの診療所を受診しました。来院時の発熱は38℃後半で、圧痛を伴う頸部リンパ節の腫脹から急性咽頭炎と診断され、上記の薬剤が処方されました。薬局でのインタビューでは、とくに咽頭の症状が強く、唾をのみ込むときに口の中や咽頭に強い痛みを感じていましたが、鼻汁や咳嗽はないということを聞き取りました。まず気になったのは、急性咽頭炎に対してレボフロキサシンが処方されていたことです。急性咽頭炎の大多数はウイルス性であり、細菌性の割合は10%程度と低めですので、抗菌薬が必要ないことも多くあります。この患者さんは下表のように細菌性も十分疑われますが、細菌性の場合に主にターゲットとなりうる起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A β-hemolytic streptococcus:GAS)です。レボフロキサシンは広域スペクトラムかつ肺結核をマスクするリスクなどもありますので、本症例においては特別な理由がなければ第1選択には挙がらない抗菌薬ではないかと考えました。咽頭感染かつGASがターゲットであればペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンが第1選択薬となります。そこで、患者さんにペニシリンやほかのβラクタム系抗菌薬によるアレルギーがないことを確認したうえで、医師に疑義照会することにしました。<細菌性咽頭炎を疑うためのツール>(文献2より改変)処方提案と経過電話にて、本症例における処方医の考えるターゲットと治療方針を確認したところ、GAS迅速抗原検査は陽性であり、細菌性咽頭炎の診断はついているということがわかりました。そして、「GAS陽性=レボフロキサシン」という認識で薬剤選択をしたと回答がありました。確かにレボフロキサシンも感受性はありますが、今回の症例のように症状が咽頭に限局しているGASをターゲットとして治療する場合、アモキシシリンのほうがより狭域で感受性が高いことを提案しました。医師は、アモキシシリンはあまり使ったことがないからそれでよいのか判断に迷われていましたが、処方提案の承認を得ることができました。薬剤変更の結果、アモキシシリン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後で10日間投与することとなりました。その後、患者さんは10日間のアモキシシリンの治療を終了し、咽頭炎は軽快しました。1)厚生労働省健康局結核感染症課 編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. 厚生労働省健康局結核感染症課;2017.2)岸田直樹. 総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!. じほう;2015.3)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版;2019.

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自然呼吸で吸入可能な1回完結型インフル治療薬「イナビル吸入懸濁用160mgセット」【下平博士のDIノート】第35回

自然呼吸で吸入可能な1回完結型インフル治療薬「イナビル吸入懸濁用160mgセット」今回は、長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害薬「ラニナミビル(商品名:イナビル吸入懸濁用160mgセット)」を紹介します。本剤は、吸入力が弱く、既存の吸入粉末薬の使用が困難だった小児や高齢者などにも使える1回完結型のインフルエンザ治療薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、A型またはB型インフルエンザウイルス感染症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年10月25日より発売される予定です。なお、既存の吸入粉末薬とは異なり、予防投与としては使用できません。<用法・用量>成人および小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして160mgを日本薬局方生理食塩液2mLで懸濁し、ネブライザを用いて単回吸入投与します。<副作用>国内で実施された第III相試験において、安全性評価対象症例441例中9例(2.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、下痢・嘔吐が各2例(0.5%)、便秘・悪心・虚血性大腸炎が各1例(0.2%)でした。インフルエンザ異常行動・言動に該当する有害事象は1例(気分変化)に認められましたが、本剤との因果関係は「関連なし」と判定されています。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、気管支攣縮、呼吸困難、異常行動、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、多形紅斑(いずれも頻度不明)が吸入粉末薬で認められている重大な副作用として注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることで、インフルエンザの症状を緩和します。2.吸入時は、吸入マスクを口元にあててリラックスしながら、深く口で呼吸してください。3.小児が泣いたり暴れたりして吸入の継続が困難になった場合、いったん機械を止めて、落ち着いてから吸入を再開してください。霧が出なくなったら終了です。4.インフルエンザにかかった時は、薬の有無や種類を問わず飛び降りなどの異常行動を起こす恐れがあります。発熱から少なくとも2日間は、窓の鍵を確実にかけるなど、転落などの事故に対する防止対策を徹底してください。<Shimo's eyes>同成分の既存の剤形として吸入粉末薬がありますが、今回ネブライザで吸入するタイプの製剤が発売されます。本剤は、吸入力が弱い小児や高齢者でも十分量の吸入が期待できます。ジェット式ネブライザを使用して吸入するため、通常は吸入用機器(コンプレッサー)を設置している病院で使用されることが想定されます。凍結乾燥製剤の溶解に用いる生理食塩水、シリンジ、注射針などは、医療施設で用意する必要があります。吸入粉末薬と異なる点として、添加剤に乳糖が含まれないので、乳糖不耐症や乳製品アレルギーなどの患者に対しても使用できます。また、年齢に応じた用量の設定はありません。本剤は、従来の吸入容器による吸入手技を必要としないため、医療機関の感染予防対策にも有効と考えられます。

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HIV感染妊婦、結核のイソニアジド予防療法開始は出産後に/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染し抗レトロウイルス療法を受けている妊婦において、結核予防のためのイソニアジド療法の開始時期は、出産後に比べて妊娠中のほうが、リスクが大きいと思われることが示された。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のAmita Gupta氏らが、イソニアジド予防療法の開始時期を検証した多施設共同二重盲検プラセボ対照非劣性試験「IMPAACT P1078 TB APPRISE試験」の結果を報告した。抗レトロウイルス療法を受けているHIV感染妊婦の結核予防を目的とした、イソニアジド療法の安全性、有効性および適切なタイミングに関しては明らかになっていなかった。NEJM誌2019年10月3日号掲載の報告。イソニアジドの開始を、妊娠中(即時群)と産後3ヵ月時(遅延群)とで比較 研究グループは、18歳以上で妊娠14~34週のHIV感染妊婦を、妊娠中にイソニアジド予防療法を開始する即時群と、分娩後12週時点で開始する遅延群のいずれかに無作為に割り付けた。即時群では、イソニアジド(1日300mg)を試験参加時から登録後28週間毎日経口投与し、その後は分娩後40週までプラセボを投与した。遅延群では、試験参加時から分娩後12週までプラセボを投与し、その後の28週間イソニアジド(1日300mg)を毎日投与した。母親と乳児を、分娩後48週まで追跡した。 主要評価項目は、母親におけるGrade3以上の治療関連有害事象と、有害事象による治療レジメンの永続的中止の複合エンドポイントであった。非劣性マージンは、イベント発生率の群間差の95%信頼区間(CI)上限が5件/100人年未満とし、intention-to-treat解析を行った。 2014年8月~2016年4月の期間で計956例が登録された。有害妊娠アウトカムの発生が即時群で高率 主要評価項目のイベントは、即時群で477例中72例15.1%、遅延群で479例中73例15.2%に発生した。発生率はそれぞれ15.03件/100人年および14.93件/100人年で、発生率の群間差は0.10(95%CI:-4.77~4.98)であり、非劣性基準を満たしたことが確認された。 死亡は、即時群2例、遅延群4例であった(発生率は0.40/100人年、0.78/100人年、群間差:-0.39、95%CI:-1.33~0.56)。死亡はすべて出産後に起こり、4例は肝不全(うち2例[各群1例]はイソニアジドによる肝不全)が原因であった。結核は6例(各群3例)で確認され、発症率は即時群0.60/100人年、遅延群0.59/100人年であった(群間差:0.01、95%CI:-0.94~0.96)。有害妊娠アウトカムに含まれるイベント(死産または自然流産、低出生体重児、早産、乳児の先天異常)の発生率は、即時群が遅延群より高値であった(23.6% vs.17.0%、群間差:6.7ポイント[95%CI:0.8~11.9])。 なお著者は、妊娠初期の女性を除外したこと、器官形成に関するイソニアジドの影響を評価していなかったこと、最近結核に曝露した女性を除外したことなどを挙げて、研究結果は限定的であるとしている。

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免疫チェックポイント阻害薬の効果、抗菌薬投与で減弱?

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を左右する興味深い知見が発表された。広域抗菌薬(ATB)療法によって引き起こされるディスバイオシス(dysbiosis、腸内細菌叢の破綻)が、ICIの効果を減弱する可能性があるという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン、ハマースミス病院のDavid J. Pinato氏らが、実臨床でICI治療を受ける患者を対象に前向き多施設コホート研究を行い、ICI投与前のATB投与により、全生存期間(OS)および奏効率が悪化したことを示した。著者は「ICI治療予後不良の決定要因として、ATBを介した腸内細菌叢の変化の解明が喫緊の課題である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年9月12日号掲載の報告。 研究グループは、ICI治療と同時またはICI投与前のATB療法と、通常の臨床診療にてICI治療を受けたがん患者のOSおよび奏効との間に関連があるかどうかを評価する目的で、3次医療施設2施設にて前向き多施設コホート研究を実施した。 対象は、臨床試験ではなく通常診療でICI治療を受けるがん患者で、2015年1月1日~2018年4月1日に196例が登録された。 主要評価項目は、ICI治療開始からのOS、RECIST(ver. 1.1)に基づく奏効、ICI治療抵抗性(ICI初回投与後、pseudo-progressionを認めることなく6~8週で進行と定義)であった。 主な結果は以下のとおり。・196例の患者背景は、男性137例、女性59例、年齢中央値68歳(範囲:27~93歳)で、がん種別では非小細胞肺がん119例、悪性黒色腫38例、その他39例であった。・OSは、ATB事前投与例2ヵ月、同時投与例26ヵ月(ハザード比[HR]:7.4、95%CI:4.2~12.9)であった。・同時投与はOSと関連しなかったが(HR:0.9、95%CI:0.5~1.4、p=0.76)、ATB事前投与は事前投与なしと比較してOSの有意な悪化が認められた(HR:7.4、95%CI:4.3~12.8、p<0.001)。・ICI治療抵抗性は、事前投与例が21/26(81%)で、同時投与例の66/151(44%)と比較して有意に高率であった(p<0.001)。・事前投与ありは事前投与なしと比較して、がん種にかかわらず一貫してOSが不良であった(非小細胞肺がん:2.5 vs.26ヵ月[p<0.001]、悪性黒色腫:3.9 vs.14ヵ月[p<0.001]、その他の腫瘍:1.1 vs.11ヵ月[p<0.001])。・多変量解析の結果、ATB事前投与(HR:3.4、95%CI:1.9~6.1、p<0.001)およびICI治療奏効(HR:8.2、95%CI:4.0~16.9、p<0.001)は、腫瘍部位、腫瘍量およびPSとは独立してOSと関連していることが認められた。

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加齢や疲労による臭い、短鎖脂肪酸が有効

 2019年9月11日、「大腸劣化」対策委員会が主催するメディアセミナーが開催され、松井 輝明氏(帝京平成大学健康メディカル学部 教授)が「『大腸劣化』を防ぐ短鎖脂肪酸のパワーについて」講演を行った。セミナー後半では沢井 悠氏(株式会社サイキンソー)、関根 嘉香氏(東海大学理学部化学科 教授)2名の専門家がそれぞれの視点から腸内細菌叢の重要性を語った。大腸劣化の予防には短鎖脂肪酸 大腸劣化とは、『大腸に多く存在する腸内フローラが、偏った食生活やストレス・睡眠不足などによって老廃物や有害物質が作られることで正常な機能が保てなくなり、最終的には大腸がんなどの大腸疾患のみならず全身の健康リスクにまで発展すること』を意味する。 腸内フローラには数千種類以上、数百兆個以上の種々の菌が存在し、善玉菌優位のバランス(善玉菌、悪玉菌、日和見菌それぞれの比率が2:1:7の状態)保持が必要とされる。しかし、無理なダイエットによる炭水化物制限による食物繊維不足、過度な動物性タンパク質摂取や食の欧米化進展という近年の日本人の偏った食文化が、悪玉菌へ餌を供給するとともに悪玉菌優位の環境をもたらし、最終的には腸内劣化により大腸がんなどの発症を招いてしまう。 そこで、松井氏はこのリスクを回避する方法として、善玉菌の餌となる短鎖脂肪酸を増やすコツとそのメカニズムについて解説した。短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌や酪酸菌が水溶性食物繊維などを食べた際に産生される物質で、酢酸や酪酸などを示し、腸内環境を弱酸性にして善玉菌が発育しやすい環境へ整える。ビフィズス菌から産生される酢酸には整腸作用、免疫力向上、血中コレステロール低下などの作用が期待でき、酪酸菌から産生される酪酸には、大腸のバリア機能強化や、大腸を動かすエネルギーの産生作用がある。これを踏まえ、同氏は「善玉菌の餌となるオリゴ糖、イヌリン、大麦や海藻類を積極的に取ることが重要」と述べ、穀物摂取量低下による食物繊維不足に危機感を示した。 短鎖脂肪酸の増加には食物繊維の摂取が有用であることについて、同氏は山口県岩国市で実施された臨床試験(水溶性食物繊維を多く含むスーパー大麦グラノーラを1ヵ月間、毎日摂取する試験)を例示し、「排便量や便の性状だけではなく、肌の状態や睡眠状態の改善もみられた。腸内環境の整備が整腸作用だけに留まらず、全身の健康に貢献することを示唆する結果が得られた」とコメントした。4人に1人が大腸劣化の可能性 腸内細菌叢の検査キットを開発・販売する沢井氏は「日本人の腸内フローラについて」を講演。同氏は「当社の検査結果を集計したところ、40代以降の4人に1人は大腸劣化の疑いがあることが明らかとなった。ただし、腸内フローラの多様性については、20代で低かった」とコメントし、加齢だけが大腸劣化の原因ではないことを明らかにした。疲労臭はビフィズス菌で解決 「腸内細菌叢と体臭の関係について」について講演した関根氏によれば、人間が放出するガスには皮膚ガスと呼ばれるものがあり、判明しているだけでも300種を超える。皮膚ガスの放散経路には、「表面反応由来」「皮膚腺由来」「血液由来」の3経路があり、表面反応由来の加齢臭は皮脂の酸化が原因のため、洗って落とすことができる。しかし、血液由来のダイエット臭(アセトン)や疲労臭(アンモニア)は洗っても落とすことができない。 では、どのように血液由来の臭いを減らせば良いのだろうか? 疲労臭の主成分アンモニアの血中濃度は、腸内細菌の改善によって減らせることが明らかになっている。そこで、関根氏らはラクチュロース(牛乳に含まれる乳糖を原料として作られる二糖類。大腸に到達後、ビフィズス菌の餌になる)の摂取試験を行い、「ビフィズス菌数の増加に伴う皮膚からのアンモニア放散量の減少を示唆した」という。この研究によって、腸内環境の改善で疲労臭が軽減できることを世界で初めて見いだした同氏は「これから体臭に関する新たな知見も報告する予定」と締めくくった。

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インフルエンザ発症リスクは喫煙者で5倍超

 喫煙者は、非喫煙者と比較してインフルエンザの発症リスクが高い可能性が示唆された。英国・ノッティンガム大学のLawrence Hannah氏らは、喫煙とインフルエンザ感染との関連をシステマティックレビューで調査し、結果をthe Journal of Infection誌2019年8月26日号に報告した。 研究グループは、MEDLINE、EMBASE、CINAHL、LILACS、Web of Scienceのデータベースを、それぞれ創刊から2017年11月7日までの期間検索し、関連するランダム化比較試験、コホート研究および症例対照研究を特定した。臨床症状からインフルエンザを定義した研究6件と、検査でインフルエンザウイルスが確認された研究3件が対象とされた。 研究の質は、Newcastle-Ottawa Scaleを使用して評価され、プールされたオッズ比(OR)は、ランダム効果モデルを使用して推定された。 主な結果は以下のとおり。・9つの研究、4万685例の患者についてレビューを行った。・インフルエンザ様症状を報告した6つの研究において、現在の喫煙者は非喫煙者よりも、発症リスクが34%高かった(OR:1.34、95%信頼区間[CI]:1.13~1.59)。・検査で発症が確認された3つの研究において、現在の喫煙者は、インフルエンザ発症リスクが非喫煙者の5倍を超えていた(OR:5.69、95%CI:2.79~11.60)。

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第19回 噛む回数を増やすメリットと簡単実践方法【実践型!食事指導スライド】

第19回 噛む回数を増やすメリットと簡単実践方法医療者向けワンポイント解説肥満や糖尿病の予防に対して、「よく噛みましょう」「1口30回噛みましょう」と伝えられることがありますが、早食い癖のついている人にとって「よく噛むこと」は、実行しにくい行動です。よく噛むためには「噛むメリット」を知り、「噛めるメニュー」を選ぶコツが必要です。●噛むメリットとは何か?1)唾液が出て口内が清潔になる噛むことは唾液の分泌を促します。唾液には食べ物のカスや細菌を洗い流す作用があり、虫歯や歯周病予防につながります。2)消化がスムーズ唾液に含まれる消化酵素のアミラーゼには、デンプンを分解し消化吸収を高める働きがあります。また、咀嚼運動により刺激され、胃液の分泌を助けます。3)満腹感が得やすい噛むことにより満腹中枢が刺激されます。また、腸管から分泌されるGLP-1やPYY(ペプチドYY)*による刺激が迷走神経から視床下部へ伝達され、摂食が調整されます。健常人を対象にした実験で、咀嚼回数が多いほど、GLP-1やPYYの血中の濃度が高くなるという結果があります。*:摂食抑制に機能する消化管ホルモン4)肥満や糖尿病のリスク低下消化促進や満腹中枢の刺激などの働きが合わさることで、食べる量が調整され、肥満の予防、糖尿病のリスク低下につながります。5)脳を刺激し活性化咀嚼刺激を与えることにより、脳を刺激し記憶力や集中力を高める働きがあることがわかっています。また、マウスモデルでは成長期における咀嚼刺激の低下が、顎の骨や咀嚼筋の成長を抑制し、海馬をはじめとする脳神経系の発達を妨げることで、記憶や学習機能を障害する可能性もが示唆されています。その結果、記憶や認知症の治療や予防につながり、咀嚼機能の維持や強化に有効であると期待されています。●噛むための簡単実践方法i)箸を使うスプーンやフォークを使うことで、1口の量が大きく、流し込み食べをしやすくなります。箸の動作を意識することでひと口の量が調整され、また、動きがでることで噛む回数を増やすことができます。ii)丼・麺などの単品ものよりも定食スタイルにする丼物や麺類は同じ味が続きやすく、味の変化が少ないことで満足度を下げ、食べる速度を上げがちです。定食スタイルで箸を使うことにより、口中で味の変化が起こり、ゆっくりと味わうことがしやすくなります。iii)いろいろな食材を取り入れる食感の変化のなさ、柔らかさも噛む回数を減らす原因です。単品で食べるより、違う食材をプラスする意識をもてば、噛む回数を増やすことができます。たとえば、「白飯にふりかけを合わせるよりも、しらす干しや納豆をのせる」「唐揚げ単品よりも千切りキャベツを添える、パンで挟む」など、ひと手間で噛む回数と満足度を変えることができます。iv)食材は大きく切る・細かくしない・加工は少なく食材が大きく切られているほうが、当然ながら噛む回数を増やすことができます。また、食感があることが重要です。ハンバーグなどやわらかい料理よりもステーキなどを選ぶことで、噛みごたえを増やすことができます。v)素材のままを1品加える味が濃いと噛まずに飲みこみやすくなりますが、素材のままの味わいのものは、味を感じようと自然と噛む動作が増えます。たとえば、チャーハンは早食いできても、炊いただけの玄米ご飯は早食いできない、といったところです。自然と噛めるメニューを加えることは、実は、栄養バランスが自然と整う方法でもあります。

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12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」【下平博士のDIノート】第34回

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」 今回は、ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤「リサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL)」を紹介します。本剤は、初回および4週時の後は12週ごとに皮下投与する薬剤です。少ない投与頻度で治療効果を発揮し、長期間持続するため、中等症から重症の乾癬患者のアンメットニーズを満たす薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月24日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはリサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて1回75mgを投与することができます。<副作用>尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の患者を対象とした国内外の臨床試験(国際共同試験3件、国内試験2件:n=1,228)で報告された全副作用は219例(17.8%)でした。主な副作用は、ウイルス性上気道感染27例(2.2%)、注射部位紅斑15例(1.2%)、上気道感染14例(1.1%)、頭痛12例(1.0%)、上咽頭炎10例(0.8%)、そう痒症9例(0.7%)、口腔ヘルペス8例(0.7%)などでした。150mg投与群と75mg投与群の間に安全性プロファイルの違いは認められていません。なお、重大な副作用として、敗血症、骨髄炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎などの重篤な感染症(0.7%)、アナフィラキシーなどの重篤な過敏症(0.1%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となるIL-23の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.体内の免疫機能の一部を弱めるため、ウイルス細菌などによる感染症にかかりやすくなります。感染症が疑われる症状(発熱、寒気、体がだるい、など)が現れた場合には、速やかに医師に連絡してください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹、風疹、麻疹・風疹混合、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.入浴時に体をゴシゴシ洗ったり、熱い湯船につかったりすると、皮膚に過度の刺激が加わって症状が悪化することがありますので避けてください。5.風邪などの感染症にかからないように、日頃からうがいと手洗いを心掛け、体調管理に気を付けましょう。インフルエンザ予防のため、流行前にインフルエンザワクチンを打つのも有用です。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、以前より副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売されている生物学的製剤は、本剤と標的が同じグセルクマブ(商品名:トレムフィア)のほか、抗TNFα抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)およびインフリキシマブ(同:レミケード)、抗IL-12/23p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ(同:コセンティクス)およびイキセキズマブ(同:トルツ)、抗IL-17受容体A抗体のブロダルマブ(同:ルミセフ)などがあります。また、2017年には経口薬のPDE4阻害薬アプレミラスト(同:オテズラ)も新薬として加わりました。治療の選択肢は大幅に広がり、乾癬はいまやコントロール可能な疾患になりつつあります。本剤の安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。本剤の投与は基本的に医療機関で行われると想定できますので、薬局では併用薬などの聞き取りや、生活指導で患者さんをフォローしましょう。本剤は、初回および4週後に投与し、その後は12週ごとに投与します。国内で承認されている乾癬治療薬では最も投与間隔が長い薬剤の1つとなります。通院までの間の体調を記録する「体調管理ノート」や、次回の通院予定日をLINEの通知で受け取れる「通院アラーム」などのサービスの活用を薦めるとよいでしょう。参考日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)アッヴィ スキリージ Weekly 体調管理ノート

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新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(1)【新型タバコの基礎知識】第9回

第9回 新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(1)Key Points加熱式タバコや電子タバコによるハーム・リダクションの可否を考えるためには、発がん性物質だけでなく、ニコチン依存症に関する理解も必要。ニコチンの本当のリスク:ニコチン依存症は実は“幸せ”を奪っている。最近、米国で電子タバコによるものと考えられる呼吸器症状・疾患のために6人が死亡したとする報道がなされ、トランプ大統領がフレーバー添加の電子タバコの使用を禁止する旨を発信したとして話題になっています。死亡は最大レベルの不可逆的有害事象であり、この電子タバコによると考えられる死亡の事実は重いものです。専門家団体が電子タバコなら害がほとんどない(95%少ない)と主張していた英国でも、電子タバコの扱いについて見直すべきではないかという意見も出ています。しかし、電子タバコによる害が本当に大きいのかどうかを判定するためには、死亡の件数よりも、死亡が発生する確率が高いのか低いのかを判定することが求められます。現在のところ、その情報は得られていません。私は、今回の死亡例の報告に関しては、電子タバコの極端なヘビーユーザーや、違法薬剤等を添加して使用するなどの変則的使用が原因なのではないかと推測していますが、これは想像の域を出ていません。まずは、米国がまとめる報告書を待ちたいと思います。さて、今回のテーマは、ハーム・リダクション(害の低減)です。ハーム・リダクションとは、簡単に言うと、大きな害のある行動をそれよりも小さな害の行動に置き換えることによって、害は完全にはなくせないが、害を少なくさせること、をいいます。具体例としては、薬物使用者らが1つの注射器を回し打ちすることによってHIVウイルス感染が蔓延するという問題に対して、薬物使用をやめさせる取組みとは別に、HIVウイルス感染を防止するために無料の注射器を配ったという事例があります。また、自動車事故による死亡を防ぐために、自動車事故をなくす取組みとは別に、運転時にシートベルトを着用する、ということもハーム・リダクションの一例として知られています。タバコ問題の場合のハーム・リダクション戦略として、どうしてもタバコをやめられない人に対して、タバコの代わりにニコチン入りの電子タバコ等を吸ってもらったら、有害物質への曝露を減らせるのではないか、というわけです。しかし、議論は単純ではありません。世界的にハーム・リダクションの効果や可能性が主に議論されているのは、ニコチン入りの電子タバコについてです。タバコ問題におけるハーム・リダクションについて考えていくために、今回はニコチン依存症について取り上げたいと思います。そもそもニコチン依存症とは何でしょうか?ニコチン依存症とは「血中のニコチン濃度がある一定以下になると不快感を覚え、喫煙を繰り返してしまう疾患」とされます1)。ニコチンを摂取していると、それなしでは不快感を感じるようになってしまい、摂取すればその不快感がなくなるので、繰り返し摂取するようになってしまうのです。 ニコチンは吸収が速く、体内から消失するのも速いため、喫煙してから30分程度ですぐにニコチン切れ症状を生じてしまい、「吸いたい、吸いたい」となってしまうのです。 しかし、この説明だけではニコチン依存症の本当の意味で残酷な病態については理解できないかもしれません。ニコチン依存症は実は、“幸せを奪っている”のです。ニコチン依存になると、楽しいことやうれしいことがあっても、楽しい! うれしい! と感じなくさせられてしまうのです。人生の楽しみや幸せを奪うのがニコチン依存なのです。禁煙した人が「禁煙したら、ご飯がおいしくなった」と言っているのを聞いたことがあるのではないでしょうか。でも実はそうではなくて、もともとご飯はおいしいのです。喫煙していると、ニコチンという物質が、人がおいしいと感じたり、楽しい、うれしい、幸せだと感じたりするときに機能する脳の中の報酬系(ほうしゅうけい)回路を邪魔してしまい、もともとおいしいご飯を食べても、おいしいと感じられなくさせられてしまっていたのです。喫煙していると、ご飯を食べても、楽しいことがあっても、幸せだと感じるようなタイミングでも、それを感じることができなくさせられてしまっているといえます。喫煙者はタバコを吸っていない時間はすぐにニコチン欠乏状態となり、いつも「吸いたい、吸いたい」という感情に支配されてしまうのです。ニコチンの欠乏状態を喫煙により補充した瞬間だけニコチンが足りているという満足感が得られ、喫煙者はそれでニコチンにより救われた気になってしまいます。本当は、ニコチンにより「おいしい、楽しい、うれしい、幸せ」を感じることが奪われているのに、です。このことを実証した実験研究があるので、紹介します2)。うれしいことがあると脳の報酬系回路の反応が活発になります。それをMRIを使って測定した研究です。多くの子どもは、チョコレートをもらったらうれしいと感じるものだと思います。この研究では、タバコを吸っている10代の男女43人と、吸っていない10代の男女43人に、チョコレートをあげたときの脳の反応を比べています。その結果、図のように脳の報酬系回路の反応性は、タバコを吸っているかどうかで大きく違っていました。光っている反応が強いほど、脳の報酬系回路の反応が強い(例えば、うれしいと感じている)ことを示しています。タバコを多く吸っているほど、脳の反応が弱くなっていたのです。チョコレートをもらうことは些細なことであって、そんなにうれしがることではない、と指摘する人もいるかもしれません。しかし、些細なことの積み重ねが人生ではないでしょうか。ニコチンという物質は、そんな些細な幸せを奪ってしまうのです。加熱式タバコには、紙巻タバコとほとんど変わらないレベルのニコチンが含まれています(第3回参照)。そのため、紙巻タバコから加熱式タバコにスイッチしても、ニコチン依存は維持されます。タバコが吸いにくい環境で、加熱式タバコなら吸うことができるからという理由で、加熱式タバコを吸っている人もいます。加熱式タバコによりニコチンを補充しやすくなり、より強固なニコチン依存状態に陥ってしまう可能性もあるのです。画像を拡大する第10回は、「新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)」です。1)厚生労働省e-ヘルスケアネット「ニコチン依存症」2)Peters J et al. Am J Psychiatry. 2011; 168: 540-549.2

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AI技術で非黒色腫皮膚がんリスクモデルの精度が向上

 皮膚科におけるディープラーニング技術の活用報告が相次いでいる。今回発表されたのは、非黒色腫皮膚がんの予測モデル開発に関する研究報告で、台湾・台北医学大学のHsiao-Han Wang氏らがディープラーニング技術を活用し、高リスク集団を捉えることが可能な精度の高い予測モデルを開発した。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年9月4日号掲載の報告。 研究グループは、アジア人集団において、UV曝露または特異的病変に関する情報なしで、大規模で多次元的な非画像医学情報をベースとした非黒色腫皮膚がんのリスク予測モデルを、ディープラーニングを活用して開発する研究を行った。 1999年1月1日~2013年12月31日の台湾全民健康保険研究データベースから、200万例のサンプル患者を無作為抽出してデータベースを構築。初発のがんとして非黒色腫皮膚がんと診断された患者群と、非がん無作為対照群を抽出して解析した。リスク予測モデルにはディープラーニングアプローチである畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)が使われ、3年間の臨床診断情報、医療記録、経時的な情報を使用して、翌年までの特定の患者の皮膚がんリスクを予測した。モデルの重要・確定因子を調査するため、段階的な特徴選択も行われた。統計的解析は2016年11月1日~2018年10月31日に実施。モデルの性能を感度、特異度、AUROC曲線を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・患者群1,829例(女性923例[50.5%]、平均年齢65.3歳[SD 15.7])と、対照群7,665例(女性3,951例[51.5%]、平均年齢47.5歳[SD 17.3])が含まれた。・時間統合型の特徴マトリクス(time-incorporated feature matrix)として連続的な診断情報と処方情報を用いた、非黒色腫皮膚がんの1年発生リスクの予測モデルは、AUROC 0.89(95%信頼区間[CI]:0.87~0.91)、平均感度83.1%(SD 3.5%)、平均特異度82.3%(SD 4.1%)を達成した。・予測のための識別特性因子は、皮膚上皮内がん(AUROC:0.867、-2.80%)およびほかの慢性併存疾患(骨の変性[AUROC:0.872、-2.32%]、高血圧[0.879、-1.53%]、慢性腎不全[0.879、-1.52%]など)であった。・トラゾドン、アカルボース、全身性抗真菌薬、スタチン、非ステロイド性抗炎症薬、サイアザイド系利尿薬などの薬剤は、このモデルにおける最上位の識別特性であった。・上記の薬剤はいずれも、個別に除外した場合にAUROCが1%超減少した(トラゾドン[AUROC:0.868、-2.67%]、アカルボース[0.870、-2.50%]、全身性抗真菌薬[0.875、-1.99%]など)。

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(膿疱性)乾癬〔(pustular) psoriasis〕

1 疾患概要■ 概念・定義表皮角化細胞の増殖あるいは角質の剥離障害によって、角質肥厚を主な病態とする疾患群を角化症という。なかでも炎症所見の顕著な角化症、つまり潮紅(赤くなること)と角化の両者を併せ持つ角化症を炎症性角化症と称するが、乾癬はその代表的疾患である1)。乾癬は、遺伝的要因と環境要因を背景として免疫系が活性化され、その活性化された免疫系によって刺激された表皮角化細胞が、創傷治癒過程に起こるのと同様な過増殖(regenerative hyperplasia)を示すことによって引き起こされる慢性炎症性疾患である2)。■ 分類1)尋常性(局面型)乾癬最も一般的な病型で、単に「乾癬」といえば通常この尋常性(局面型)乾癬を意味する(本稿でも同様)。わが国では尋常性乾癬と呼称するのが一般的であるが、欧米では局面型乾癬と呼称されることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の75.9%を占める3)。2)関節症性乾癬尋常性(局面型)乾癬患者に乾癬特有の関節炎(乾癬性関節炎)が合併した場合、わが国では関節症性乾癬と呼称する。しかし、この病名はわかりにくいとの指摘があり、今後は皮疹としての病名と関節炎としての病名を別個に使い分けていく方向になると考えられるが、保険病名としては現在でも「関節症性乾癬」が使用されている。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の14.6%を占める3)。3)滴状乾癬溶連菌性上気道炎などをきっかけとして、急性の経過で全身に1cm程度までの角化性紅斑が播種状に生じる。このため、急性滴状乾癬と呼ぶこともある。小児や若年者に多く、数ヵ月程度で軽快する一過性の経過であることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の3.7%を占める3)。4)乾癬性紅皮症全身の皮膚(体表面積の90%以上)にわたり潮紅と鱗屑がみられる状態を紅皮症と呼称するが、乾癬の皮疹が全身に拡大し紅皮症を呈した状態である。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の1.7%を占める3)。5)膿疱性乾癬わが国では単に「膿疱性乾癬」といえば汎発性膿疱性乾癬(膿疱性乾癬[汎発型])を意味する(本稿でも同様)。希少疾患であり、厚生労働省が定める指定難病に含まれる。急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する重症型である。尋常性(局面型)乾癬患者が発症することもあれば、本病型のみの発症のこともある。妊娠時に発症する尋常性(局面型)乾癬を伴わない本症を、とくに疱疹状膿痂疹と呼ぶ。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の2.2%を占める3)。■ 疫学世界的にみると乾癬の罹患率は人口の約3%で、世界全体で約1億2,500万人の患者がいると推計されている4)。人種別ではアジア・アフリカ系統よりも、ヨーロッパ系統に多い疾患であることが知られている4)。わが国での罹患率は、必ずしも明確ではないが、0.1%程度とされている5)。その一方で、健康保険のデータベースを用いた研究では0.34%と推計されている。よって、日本人ではヨーロッパ系統の10分の1程度の頻度であり、それゆえ、国内での一般的な疾患認知度が低くなっている。世界的にみると男女差はほとんどないとされるが、日本乾癬学会の調査ではわが国での男女比は2:16)、健康保険のデータベースを用いた研究では1.44:15)と報告されており、男性に多い傾向がある。わが国における平均発症年齢は38.5歳であり、男女別では男性39.5歳、女性36.4歳と報告されている6)。発症年齢のピークは男性が50歳代で、女性では20歳代と50歳代にピークがみられる6)。家族歴はわが国では5%程度みられる6,7)。乾癬は、心血管疾患、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、肥満、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、うつ病の合併が多いことが知られており、乾癬とこれらの併存疾患がお互いに影響を及ぼし合っていると考えられている。膿疱性乾癬に関しては、現在2,000人強の指定難病の登録患者が存在し、毎年約80人が新しく登録されている。尋常性(局面型)乾癬とは異なり男女差はなく、発症年齢のピークは男性では30~39歳と50~69歳の2つ、女性も25~34歳と50~64歳の2つのピークがある8)。■ 病因乾癬は基本的にはT細胞依存性の免疫疾患である。とくに、細胞外寄生菌や真菌に対する防御に重要な役割を果たすとされるTh17系反応の過剰な活性化が起こり、IL-17をはじめとするさまざまなサイトカインにより表皮角化細胞が活性化されて、特徴的な臨床像を形成すると考えられている。臓器特異的自己免疫疾患との考え方が根強くあるが、明確な証明はされておらず、遺伝的要因と環境要因の両者が関与して発症すると考えられている。遺伝的要因としてはHLA-C*06:02(HLA-Cw6)と尋常性(局面型)乾癬発症リスク上昇との関連が有名であるが、日本人では保有者が非常に少ないとされる。また、特定の薬剤(βブロッカー、リチウム、抗マラリア薬など)が、乾癬の誘発あるいは悪化因子となることが知られている。膿疱性乾癬に関しては長らく原因不明の疾患であったが、近年特定の遺伝子変異と本疾患発症の関係が注目されている。とくに尋常性(局面型)乾癬を伴わない膿疱性乾癬の多くはIL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の機能喪失変異によるIL-36の過剰な作用が原因であることがわかってきた9)。また、尋常性(局面型)乾癬を伴う膿疱性乾癬の一部では、ケラチノサイト特異的NF-κB促進因子であるCaspase recruitment domain family、member 14(CARD14)をコードするCARD14遺伝子の機能獲得変異が発症に関わっていることがわかってきた9)。その他、AP1S3、SERPINA3、MPOなどの遺伝子変異と膿疱性乾癬発症とのかかわりが報告されている。■ 症状乾癬では銀白色の厚い鱗屑を付着する境界明瞭な類円形の紅斑局面が四肢(とくに伸側)・体幹・頭部を中心に出現する(図1)。皮疹のない部分に物理的刺激を加えることで新たに皮疹が誘発されることをKoebner現象といい、乾癬でしばしばみられる。肘頭部、膝蓋部などが皮疹の好発部位であるのは、このためと考えられている。また、3分の1程度の頻度で爪病変を生じる。図1 尋常性乾癬の臨床像画像を拡大する乾癬性関節炎を合併すると、末梢関節炎(関節リウマチと異なりDIP関節が好発部位)、指趾炎(1つあるいは複数の指趾全体の腫脹)、体軸関節炎、付着部炎(アキレス腱付着部、足底筋膜部、膝蓋腱部、上腕骨外側上顆部)、腱滑膜炎などが起こる。放置すると不可逆的な関節破壊が生じる可能性がある。膿疱性乾癬では、急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する8)(図2)。膿疱が融合して環状・連環状配列をとり、時に膿海を形成する。爪病変、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、時に結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがある10)。図2 膿疱性乾癬の臨床像画像を拡大する■ 予後乾癬自体は、通常生命予後には影響を及ぼさないと考えられている。しかし、海外の研究では重症乾癬患者は寿命が約6年短いとの報告がある11)。これは、乾癬という皮膚疾患そのものではなく、前述の心血管疾患などの併存症が原因と考えられている。乾癬性関節炎を合併すると、前述のとおり不可逆的な関節変形を来すことがあり、患者QOLを大きく損なう。膿疱性乾癬は、前述のとおり呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがあり、生命の危険を伴うことのある病型である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)多くの場合、先に述べた臨床症状から診断可能である。症状が典型的でなかったり、下記の鑑別診断と迷う際は、生検による病理組織学的な検索や血液検査などが必要となる。乾癬の臨床的鑑別診断としては、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、亜鉛欠乏性皮膚炎、ジベルばら色粃糠疹、扁平苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、類乾癬、菌状息肉症(皮膚T細胞リンパ腫)、ボーエン病、乳房外パジェット病、亜急性皮膚エリテマトーデス、皮膚サルコイド、白癬、梅毒、尋常性狼瘡、皮膚疣状結核が挙げられる。膿疱性乾癬に関しては、わが国では診断基準が定められており、それに従って診断を行う8)。病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を証明することが診断基準の1つにあり、診断上は生検が必須検査になる。また、とくに急性期に検査上、白血球増多、CRP上昇、低蛋白血症、低カルシウム血症などがしばしばみられるため、適宜血液検査や画像検査を行う。膿疱性乾癬の鑑別診断としては、掌蹠膿疱症、角層下膿疱症、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosisを含む)などがある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)外用療法副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3製剤が主に使用される。両者を混合した配合剤も発売されている。2)光線療法(内服、外用、Bath)PUVA療法、311~312nmナローバンドUVB療法、ターゲット型308nmエキシマライトなどが使用される。3)内服療法エトレチナート(ビタミンA類似物質)、シクロスポリン、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、メトトレキサート、ウパダシチニブ(JAK1阻害薬)、デュークラバシチニブ(TYK2阻害薬)が乾癬に対し保険適用を有する。ただし、ウパダシチニブは関節症性乾癬のみに承認されている。4)生物学的製剤抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ ペゴル)、抗IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)、抗IL-17A抗体(セクキヌマブ、イキセキズマブ)、抗IL-17A/F抗体(ビメキズマブ)、抗IL-17受容体A抗体(ブロダルマブ)、抗IL-23p19抗体(グセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブ)、抗IL-36受容体抗体(スペソリマブ)が乾癬領域で保険適用を有する。中でも、スペソリマブは「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている膿疱性乾癬に特化した薬剤である。また、多数の生物学的製剤が承認されているが、小児適応(6歳以上)を有するのはセクキヌマブのみである。5)顆粒球単球吸着除去療法膿疱性乾癬および関節症性乾癬に対して保険適用を有する。4 今後の展望抗IL-17A/F抗体であるビメキズマブは、現時点では尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に承認されているが、関節症性乾癬に対する治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には関節症性乾癬にもビメキズマブが使用できるようになる可能性がある。膿疱性乾癬に特化した薬剤であるスペソリマブ(抗IL-36受容体抗体)は静注製剤であり、現時点では「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている。しかし、フレア(急性増悪)の予防を目的とした皮下注製剤の開発が行われており、その治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には急性期および維持期の治療をスペソリマブで一貫して行えるようになる可能性がある。乾癬は慢性炎症性疾患であり、近年は生物学的製剤を中心に非常に効果の高い薬剤が多数出てきたものの、治癒は難しいと考えられてきた。しかし、最近では生物学的製剤使用後にtreatment freeの状態で長期寛解が得られる例もあることが注目されており、単に皮疹を改善するだけでなく、疾患の長期寛解あるいは治癒について議論されるようになっている。将来的にはそれらが可能になることが期待される。5 主たる診療科皮膚科、膠原病・リウマチ内科、整形外科(基本的にはすべての病型を皮膚科で診療するが、関節症状がある場合は膠原病・リウマチ内科や整形外科との連携が必要になることがある)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 膿疱性乾癬(汎発型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本皮膚科学会作成「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版」(現在、日本皮膚科学会が新しい乾癬性関節炎の診療ガイドラインを作成中であり、近い将来に公表されるものと思われる。一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本乾癬患者連合会(疾患啓発活動、勉強会、交流会をはじめとしてさまざまな活動を行っている。都道府県単位の患者会も多数存在し、本会のwebサイトから検索できる。また、都道府県単位の患者会では、専門医師を招いての勉強会や相談会を実施しているところもある)1)藤田英樹. 日大医誌. 2017;76:31-35.2)Krueger JG, et al. Ann Rheum Dis. 2005;64:ii30-36.3)藤田英樹. 乾癬患者統計.第32回日本乾癬学会学術大会. 2017;東京.4)Gupta R, et al. Curr Dermatol Rep. 2014;3:61-78.5)Kubota K, et al. BMJ Open. 2015;5:e006450.6)Takahashi H, et al. J Dermatol. 2011;38:1125-1129.7)Kawada A, et al. J Dermatol Sci. 2003;31:59-64.8)照井正ほか. 日皮会誌. 2015;125:2211-2257.9)杉浦一充. Pharma Medica. 2015;33:19-22.10)難病情報センターwebサイト.11)Abuabara K, et al. Br J Dermatol. 2010;163:586-592.公開履歴初回2019年9月24日更新2022年12月22日

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インフルエンザ予防効果、N95マスクvs.医療用マスク/JAMA

 外来医療従事者(HCP)におけるN95マスクと医療用マスク装着によるインフルエンザ予防効果を調べた結果、インフルエンザの罹患率について有意差は認められなかったことが示された。米国疾病予防管理センター(CDC)のLewis J. Radonovich Jr氏らが、米国の7医療センター・137外来部門で行ったクラスター無作為化プログマティック効果比較試験の結果で、JAMA誌2019年9月3日号で発表した。両マスクの効果については結論が出ていなかった。インフルエンザ予防効果を無作為にN95または医療用マスクに割り付けて比較 研究グループは2011年9月~2015年5月にかけて、米国内7医療センターの外来部門137ヵ所を通じて試験を行い、HCPがN95マスクまたは医療用マスクを装着した場合の、インフルエンザおよびウイルス性呼吸器感染症の予防効果を比較した。最終フォローアップは2016年6月だった。 4年間の試験期間中、毎年、ウイルス性呼吸器感染症の発症率がピークとなる12週間に、各医療センター内の外来部門を被験者数や患者数などでマッチングした。被験者は、無作為にN95マスク群と医療用マスク群に割り付けられ、呼吸器感染症の患者に近づく際には割り付け指定されたマスクを装着した。 主要アウトカムは、検査で確定したインフルエンザの罹患率。副次アウトカムは、急性呼吸器疾患、検査確定の呼吸器感染症、検査確定の呼吸器疾患、インフルエンザ様疾患の各罹患率などだった。また、介入アドヒアランスも評価した。インフルエンザ罹患率、N95マスク群8.2%、医療用マスク群7.2% N95マスクと医療用マスク装着によるインフルエンザ予防効果を調べた被験者数は2,862例で、平均年齢は43歳、女性は82.8%だった。N95マスク群は189クラスター(1,993例、延べ2,512HCPシーズン)、医療用マスク群は191クラスター(2,058例、延べ2,668HCPシーズン)だった(1被験者の複数シーズン参加あり)。 検査確定のインフルエンザ感染症は、N95マスク群207例(HCPシーズンの8.2%)、医療用マスク群193例(同7.2%)で、両群間に有意差は認められなかった(群間差:1.0ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.5~2.5、p=0.18、補正後オッズ比:1.18、95%CI:0.95~1.45)。 副次アウトカムについても両群で有意差はなく、急性呼吸器疾患はN95マスク群1,556例vs.医療用マスク群1,711例(群間差:-21.9/1,000HCPシーズン、[95%CI:-48.2~4.4]、p=0.10)、検査確定の呼吸器感染症は679例vs.745例(同:-8.9[-33.3~15.4]、p=0.47)、検査確定の呼吸器疾患は371例vs.417例(同:-8.6[-28.2~10.9]、p=0.39)、インフルエンザ様疾患は128例vs.166例(同:-11.3[-23.8~1.3]、p=0.08)だった。 マスクの装着について、「いつも」または「時々」と回答した人の割合は、N95マスク群89.4%に対し、医療用マスク群90.2%だった。

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痛くなってからでは遅い帯状疱疹

 帯状疱疹は、60歳以降が好発年齢といわれており、強い痛みと残存する神経痛が患者のQOLに大きな影響を及ぼす。水痘として感染したウイルスによるが、一度感染してしまったウイルスを排除する術は今のところなく、ワクチンで予防することが高齢での発症・重症化を防ぐ唯一の手段となる。 2019年8月27日、武田薬品工業が「帯状疱疹の診療・予防の最新動向」をテーマに、都内にてセミナーを開催した。最新の帯状疱疹診療にはどのようなポイントがあるのだろうか。今後も増え続ける? 高齢者の帯状疱疹 はじめに、川島 眞氏(医療法人社団ウェルエイジング Dクリニック東京 総院長/東京女子医科大学 名誉教授)が「高齢化社会における帯状疱疹診療の方向性」について講演を行った。わが国では年間約60万人が帯状疱疹を発症すると推定されており、そのうち50歳以上が約7割を占める。80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を経験するという報告もあり、近年、50歳以上の発症率は増加傾向にある1)。 原因として、小児の水痘ワクチンが2014年に定期接種化されて以降、水痘患者の減少により免疫のブースター効果を受ける機会が減っていることが考えられる。帯状疱疹の発症数と水痘の流行は逆相関することが以前から知られており、帯状疱疹患者は今後も増加していくと予想される。発症予防には細胞性免疫の強化が必須 小豆島における前向き疫学研究(SHEZ study2))において、帯状疱疹の発症率や、発症リスク・重症度と免疫の関連などについて調査が行われた。その結果、発症リスクは水痘皮内反応(細胞性免疫)が強い人ほど低く、一方で、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に対する抗体価は発症リスクに影響しないことが明らかになった。帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛(PHN)の発症予防には、細胞性免疫が重要だ。 水痘・帯状疱疹ワクチンの接種で、VZV特異的細胞性免疫の強化が期待されている。海外の臨床試験では、水痘・帯状疱疹ワクチンにより、プラセボと比較して帯状疱疹の発症が51.3%、PHNの発症が66.5%減少したという報告3)がある。 川島氏は「帯状疱疹診療は、高齢化に伴い治療から予防へ方針が移ってきている。帯状疱疹を予防するワクチンは50歳以上が対象なので、免疫が低下してワクチンが打てなくなる前に接種勧奨することが重要」と強調した。発症後の経過で、痛みは変化していく 続いて、山口 重樹氏(獨協医科大学 医学部 麻酔科学講座 教授)が「帯状疱疹にまつわる痛みについて」をテーマに語った。帯状疱疹の痛みは、「焼けつくよう」「電気が走るよう」などと表現され、病期に伴い侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛へ変化していくことが特徴だ。 山口氏は「痛みとは心身共に影響があるもので、痛みの続く期間が長いほど正常な生活が妨げられ、生命予後にも影響を及ぼすことがわかっている。よって、治療では痛みをできる限り早く改善することが非常に大切だ」と示した。皮膚症状が改善しても、患者の痛みは続いている 帯状疱疹患者の半数以上が、発症時(初診時)から中等度以上の強い痛みを自覚している。皮膚症状は、抗ウイルス薬の投与によって2週間程度で軽減し、4週間程度で消失に至るが、疼痛残存率は21日後で50%、90日後で12.4%、1年後で4.0%という報告4)がある。皮膚症状が重篤であるほど、また高齢であるほど痛みが遷延する可能性が高くなる。 「帯状疱疹は皮膚の病気と思われがちだが、神経の病気でもある。皮膚症状が治まった後も残る疼痛のつらさは、家族や周りの人から理解されにくい面がある」と指摘した。 PHNを疑う兆候として「針で刺されるような痛み」「電気が走るような痛み」など、「しびれ」を連想させる表現がよく用いられるという。とくに、衣服がこすれたり冷風にあたったりするだけで痛む「アロディニア(異痛症)」がある場合は注意しなければならない。「神経障害性疼痛を感じている患者さんは、着替えや入浴を嫌がったり、罹患部にガーゼを当てたり保湿剤を塗ったりする様子が見受けられることがある」と診断のポイントを示した。強い痛みが改善したあとは、休薬を目指す 長期間強い痛みを感じている患者は、抑うつや不安、不眠、自己肯定感の低下、痛みの破局化(死んだほうがまし、生きている意味がないと感じるなど)など、生活でのさまざまな苦痛を感じている。医療者は、患者の感じている痛みの強弱だけでなく、種々の尺度で痛みを多面的に評価し、治療を進めていくことが求められる。 「私が考える痛み治療の目安は半年間。ピークを超えたら徐々に減薬し、休薬を目指す。神経が損傷している場合、痛みが完全になくなることはないので、元の生活に戻すことを意識して、痛みから気を逸らせる環境(趣味など)を作ることも大切」とまとめた。 帯状疱疹やPHNの予防にはワクチンが有効だが、発症後の早期介入も予後に大きく関わる。院内の待合室などに帯状疱疹のポスターを貼っておくと、患者だけでなく家族の目にも止まり、疾患・ワクチンの啓発につながるかもしれない。

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第28回 生菌製剤は本当に抗菌薬関連下痢症に効果があるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗菌薬(antibiotics)と生菌製剤(probiotics)の併用は日常的に見掛ける定番処方だと思います。双方の英語の語源からも対になっているイメージがあります。抗菌薬は腸内細菌叢を障害し、Clostridium difficile(以下、CD)感染症を含む抗菌薬関連下痢症を引き起こすことがありますので、生菌製剤によって腸内細菌叢のバランスを改善し、下痢症を予防することを期待した処方です。健康成人ではとくに併用しなくても問題ないことが多いですが、安価ですのでよく用いられています。今回は、抗菌薬とよく併用される生菌製剤の効果について紹介します。まず代表的な生菌製剤として、耐性乳酸菌製剤(商品名:ビオフェルミンR、ラックビーR)があります。「耐性」とあるように、商品名の「R」はresistanceの頭文字で、普通錠にはない抗菌薬への耐性が付加されています。これらはとにかく多用されていますので、適応のないニューキノロン系やペネム系などとの誤併用に対して疑義照会をした経験がある方は多いのではないかと思います。そのような場合、代替薬として何を提案すべきか迷いますよね。「R」の製剤ではなく普通錠を提案しがちですが、普通錠で抗菌薬投与時の下痢を予防できるのでしょうか?この疑問に関するエビデンスとして、PLACIDEという多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を紹介します。生菌製剤の抗菌薬関連下痢症の予防効果を検証した、それまでになかった大規模な試験です1)。対象は1剤以上の抗菌薬を投与された65歳以上の入院患者2,941例(99.9%が白人)です。対象患者は、乳酸菌2株とビフィズス菌2株を含む生菌製剤(総菌数6×1010)群またはプラセボ群に1:1で無作為に割り付けられ、1日1回21日間服用しました。主要評価項目は、8週以内の抗菌薬関連下痢症または12週以内のCD関連下痢症でした。8週以内の抗菌薬関連下痢症の発現率は、生菌製剤群10.8%(159例)、プラセボ群10.4%(153例)であり、有意差はありませんでした(RR:1.04、95%信頼区間[CI]:0.84~1.28、p=0.71)。また、CD関連下痢症の発現率はそれぞれ0.8%(12例)、1.2%(17例)であり、こちらも有意差はありませんでした(RR:0.71、95%CI:0.34~1.47、p=0.35)。抗菌薬の内訳はペニシリン72%、セファロスポリン24%、カルバペネムまたは他のβラクタム2%、クリンダマイシン1%、キノロン13%でした。ただし、検出力を考慮すると、本当は有意差があるのに有意差なしとなるβエラーが生じている可能性があり、実際には生菌製剤の効果があるのに無効と判断されているケースも除外できないので、乳酸菌とビフィズス菌には抗菌薬関連下痢症の予防効果がないと判断するのは注意が必要かもしれません。酪酸菌には抗菌薬関連下痢症を減少させるエビデンスありでは、他の菌株ではどうなのでしょうか? 酪酸菌(宮入菌)製剤(商品名:ミヤBM)を用いた研究がありますので紹介します。上気道感染症または胃腸炎の小児110例を、(1)抗菌薬のみ服用する群27例、(2)抗菌薬治療の中間時点から酪酸菌製剤を併用する群38例、(3)抗菌薬治療の開始と同時に酪酸菌製剤を併用する群45例の3グループに分けて腸内細菌叢の変化を調査しています2)。抗菌薬のみを服用した群では下痢が59%で観察され、総糞便嫌気性菌とくにビフィズス菌が減少していました。一方で、抗菌薬治療の中間時点または開始時から酪酸菌製剤を併用した群では、酪酸菌製剤が嫌気性菌を増加させるとともにビフィズス菌の減少を防ぎ、下痢の発現率はそれぞれ5%および9%に減少しました。本剤は酪酸菌の芽胞製剤で、胃酸によって死滅せず、腸で発芽して効果を発揮するため効果が期待できるというのは製剤特性からも説明できます。酪酸菌に加えて、糖化菌とラクトミンを配合した酪酸菌配合剤(商品名:ビオスリー配合錠)も同様に有効であるものと推察されます。薬局にいたときは、これらの生菌製剤を併用処方される患者さんもよく見掛けました。もしこれらの生菌製剤が無効の場合は、ラクトミン+ガゼイ菌で抗菌薬関連下痢症およびCD関連下痢症の頻度が減ることを示唆した研究も参考になります3)。抗菌薬関連下痢症は頻度が高く、治療継続への影響も大きいので、より適切な生菌製剤を提案できるようにしておくとよいかと思います。1)Allen SJ, et al. Lancet. 2013;382:1249-1257.2)Seki H, et al. Pediatr Int. 2003;45:86-90.3)Gao XW, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:1636-1641.

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