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重症βサラセミアへのbeti-cel、89%が輸血非依存性を達成/Lancet

 重症βサラセミアを引き起こす遺伝子型(β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110)を有する輸血依存性βサラセミア(TDT)患者において、betibeglogene autotemcel(beti-cel)の投与により約90%の患者が輸血非依存状態になったことが示された。米国・ペンシルベニア大学のJanet L. Kwiatkowski氏らが、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、米国の8つの医療施設で実施した第III相非無作為化非盲検単群試験「HGB-212試験」の結果を報告した。TDTは、生涯にわたる輸血、鉄過剰症および関連合併症を伴う重篤な疾患である。beti-celによる遺伝子治療は、BB305レンチウイルスベクターで形質導入した自己造血幹細胞および前駆細胞を使用するもので、輸血非依存性を可能にする。著者は、「beti-celは、重症TDT患者においてほぼ正常なヘモグロビン値を達成する可能性があり、同種造血幹細胞移植のリスクや限界がなく、治癒を目指す治療選択肢になると考えられる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年11月8日号掲載の報告。主要アウトカムは輸血非依存状態 HGB-212試験の対象は、β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型を有し、登録前2年間に100mL/kg/年以上の濃厚赤血球(pRBC)輸血歴または年間8回以上のpRBC輸血歴がある臨床的に安定した50歳以下のTDT患者であった。 HSPC動員ならびに用量調整ブスルファンを用いた骨髄破壊的前処置を行った後、beti-celを静脈内投与し、24ヵ月間追跡した。 主要アウトカムは、輸血非依存状態(pRBC輸血なしでHb濃度加重平均9g/dL以上が12ヵ月以上持続)の患者の割合で、beti-celの投与を受けたすべての患者(移植対象集団)を解析対象集団とした。安全性は、試験の治療を開始したすべての患者(ITT集団)を対象に評価した。89%が主要アウトカムを達成 2017年6月8日~2020年3月12日に、20例がスクリーニングされた。1例は進行性肝疾患を有しており適格基準を満たさず、1例はHSPC動員およびアフェレーシス後に試験同意を撤回したため、beti-cel投与患者は18例であった。 男性が10例(56%)、女性が8例(44%)で、同意取得時に18歳未満が13例(72%)、18歳以上が5例(28%)であった。また、β0/β0遺伝子型が12例(67%)、β0/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)、β+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)であった。 beti-celを投与された18例全例が、主要アウトカムの評価対象となった。2023年1月30日時点(追跡期間中央値47.9ヵ月[範囲:23.8~59.0])において、18例中16例(89%)が輸血非依存状態を達成した(推定効果量:89.9%[95%信頼区間:65.3~98.6])。 有害事象は、18例全例に認められたが、beti-celとの関連が疑われる重篤な有害事象は認められず、死亡例も報告されなかった。 全例が第III相試験を完了し、現在進行中の13年間の長期追跡試験「LTF-303試験」に登録された。

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第238回 若い社員の退職理由、「コロナ後遺症」は本当なのか?

国立感染症研究所が発表する最新の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の2024年第45週(11月4~11日)の定点当たり報告数は1.47人。第34週(8月19~25日)の8.8人から現在のところ11週連続で低下している。もっともここ最近、個人的には気になることがあった。一般に新型コロナは若年者では重症化しないと言われているが、今春頃から「うちの若い社員が後遺症でかなり苦しんでいる」という話を3人の知人から別々に聞いていたからだ。ちなみにこの3人同士はまったく面識がない。そして先週、また別の知人と会食していた際に「うちの会社ではすでに今年に入って新人が2人、新型コロナの後遺症がつらいということで相次いで退職した」と聞かされた。まあ、昨今は入社早々、退職代行業者を使って勤務先を辞めてしまうという事例も増えているので、私は当初、「辞める言い訳にでも使っているのではないか?」ぐらいに考えていたのだが、こうも立て続くとさすがに尋常ではないと感じ始めた。しかも、いずれのケースも若い社員が訴えるのは「集中力の極端な低下」や「ブレインフォグ」。会食した友人の話によると、辞めた新人のうちの1人は、感染後、勤務先で「PCのディスプレイに向かっても、表示されている文章が頭に入ってこない」と言っていたという。ということで、ちょっと論文検索をしてみたところ、以下の2件の論文が気になった。1つは中国・清華大学のグループによる研究1)。新型コロナ軽症者185人の感染前後での安静時脳波(EEG)を比較し、補足的に行った認知症状などに関するアンケート結果も含めてまとめた研究である。感染前後のEEGのデータがある点について、ふと不思議に思ってしまったが、論文によると元々の本研究の対象者は、さまざまな年齢層での長期的EEG追跡を目的とした研究の被験者で、たまたまこうしたデータが取れてしまったということらしい。研究では年齢別に成人(26歳以上)、若年成人(20~25歳)、思春期若年者(10~19歳)、小児(4~9歳)に分けて感染前後の影響を調査しているが、若年成人で、記憶、言語、感情処理の機能に関与する側頭葉領域で顕著な脳波の乱れや認知機能の低下が認められたという。もう1つの研究2)はコロンビア大学アービング医療センター放射線科グループによるもの。これも新型コロナパンデミック前から健常ボランティアを対象に行っていた神経画像研究に関連し、ワクチン登場前の新型コロナ感染者(5人)と非感染者(15人)の比較研究である。サンプルサイズは小さいが、新型コロナに関して高齢者に関する研究が多い中で、対象者の年齢中央値が37歳とかなり若い点が特徴的と言える。それによると、前頭葉領域で神経細胞の喪失や炎症を伴う損傷を示唆する組織学的変化が確認された。ちなみに神経認知データの結果では感染者群では悪化傾向はあったものの、非感染者群との有意差は認められなかったという。もっとも2つの研究がかなりの制約の中で行われたものであり、しかも結果に一貫性があるとは言い切れない以上、現時点では数々の示唆の1つに留まる。とはいえ、冒頭で紹介したような偶然にしては似たような状況が重なり過ぎると、どうしても気になってしまうのだ。一応、日本国内でも一部で後遺症に関する研究は行われているようだが、概観すると高齢者などに着目したものや概論的なものがほとんどのようだ。昨今は新型コロナに対する世間の危機感が薄れつつある。とりわけ重症化しにくい若年者では、どうしても高齢者よりは新型コロナをなめがちになる可能性は否めない。しかも、若年者の場合、ワクチンも任意接種で費用は1万5,000円前後となれば、余計のこと感染対策から遠ざかってしまう。このような状況を踏まえると、新型コロナの感染対策を前進させるためには、こうした若年者での正しい知識に基づく危機感の醸成の一環として、後遺症の実態も必要ではないかと思うのだが…。参考1)Sun Y, et al. BMC Med. 2024;22:257.2)Lipton M.L, et al. Heliyon. 2024;10:e34764.

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家庭内のインフル予防、手指衛生やマスクは効果ある?~メタ解析

 インフルエンザの感染対策では、手指衛生やマスク着用などの非薬物介入が推奨されることが多いが、家庭における対策は比較的研究が進んでいない分野である。今回、中国・香港大学のJessica Y. Wong氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析により、非薬物介入は家庭内感染には影響を及ぼさなかったことが明らかになった。International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2024年11月4日号掲載の報告。 インフルエンザウイルス感染は、主に人と人との濃厚接触によって広がり、伝播の多い環境の1つが家庭である。そのため、家庭内で実施可能な非薬物介入はインフルエンザの制御において重要な役割を果たす可能性がある。そこで研究グループは、多くの国で推奨されている9つの非薬物介入(手指衛生、咳エチケット、マスク、フェイスシールド、表面の清掃、換気、加湿、感染者の隔離、物理的距離の確保)が家庭内のインフルエンザ感染予防として有効かどうかを評価するために調査を実施した。 2022年5月26日~8月30日にMedline、PubMed、EMBASE、CENTRALを検索してシステマティックレビューを実施した。「家庭」は血縁に関係なく2人以上で暮らしている集団とし、学生寮や老人ホームなどで実施された研究は除外した。メタ解析では、非薬物介入の有効性のリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。全体的な効果は、固定効果モデルを使用したプール解析で推定した。 主な結果は以下のとおり。・手指衛生については、5,118例の参加者を対象とした7件のランダム化比較試験を特定し、そのうち6件をメタ解析に含めた。マスク着用については、4,247例の参加者を対象とした7件のランダム化比較試験を特定してメタ解析に含めた。・手指衛生はインフルエンザの家庭内感染に有意な予防効果をもたらさなかった(RR:1.07、95%CI:0.85~1.35、p=0.58、I2=48%)。・マスク着用は家庭内感染予防に効果がある可能性があるものの、統計的に有意ではなかった(RR:0.59、95%CI:0.32~1.10、p=0.10、I2=16%)。・手指衛生とマスクの併用でも、統計的に有意な家庭内感染の減少は認められなかった(RR:0.97、95%CI:0.77~1.22、p=0.24、I2=28%)。・プール解析でも、手指衛生やマスク着用が家庭内感染に有意な効果をもたらすことは確認されなかった。・初発患者の症状発現早期に手指衛生やマスク着用を開始することは、家庭内における感染予防に効果的である可能性が示唆された。・上記以外の7つの非薬物介入の有効性に関する公表されたランダム化比較試験は確認されなかった。 これらの結果より、研究グループは「家庭内でのインフルエンザ感染を制御するための個人防護策、環境対策、病人の隔離または物理的距離の確保が大きな予防効果を持つことを裏付けるエビデンスは限られていたが、これらの対策はインフルエンザの人から人への感染に関するメカニズムとして妥当性がある。インフルエンザの感染に関する今後の調査は、家庭内感染に対するガイドラインやエビデンスに基づく推奨事項を準備するうえで役立つだろう」とまとめた。

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前糖尿病の肥満へのチルゼパチド、糖尿病発症リスク93%減/NEJM

 前糖尿病状態の肥満患者において、3年間のチルゼパチド投与はプラセボと比較して、体重を持続的かつ有意に減少し、2型糖尿病への進行リスクも有意に低減した。米国・イェール大学医学校のAnia M. Jastreboff氏らが、第III相無作為化二重盲検比較試験「SURMOUNT-1試験」の結果を報告した。同試験の早期解析では、チルゼパチドは72週間にわたって肥満患者の体重を大幅かつ持続的に減少させることが報告されていた。本報告では、チルゼパチド投与3年間の安全性アウトカムと、肥満と前糖尿病状態を有する患者の体重減少と2型糖尿病への進行遅延に対する有効性の解析結果を報告した。NEJM誌オンライン版2024年11月13日号掲載の報告。176週までの体重の変化率、193週時の2型糖尿病発症について解析 SURMOUNT-1試験は、非糖尿病の肥満(BMI値30以上、または27以上で糖尿病以外の肥満関連合併症を有する)患者2,539例を、週1回のチルゼパチド5mg群、10mg群、15mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で割り付け、ベースラインで前糖尿病状態ではない患者には72週間、前糖尿病状態の患者には176週間投与した。 今回の解析は、肥満かつベースラインで前糖尿病状態の患者1,032例を対象とした。全例、定期的な生活指導を受け、食事療法(1日当たり500kcal削減)および運動療法(週150分以上)に加えて、チルゼパチドまたはプラセボを176週間投与した。その後、17週間の休薬期間(安全性追跡調査期間)を設け、試験期間は193週間とした。 72週時の主要アウトカムの解析結果についてはすでに報告されている。今回は、重要な副次アウトカムであるベースラインから176週までの体重の変化率(チルゼパチド10mg群、15mg群、プラセボ群について評価)、ならびに176週時および193週時の2型糖尿病発症(チルゼパチド群統合とプラセボ群の比較)について解析した。176週時に平均体重が最大約20%減少、2型DM発症リスクは93%低下 176週時におけるベースラインからの体重の平均変化率は、チルゼパチド5mg群-12.3%、10mg群-18.7%、15mg群-19.7%に対し、プラセボ群では-1.3%であった(いずれもp<0.001)。 176週時における2型糖尿病の発症例は、チルゼパチド群で10例(1.3%)(5mg群4例[1.5%]、10mg群5例[2.0%]、15mg群1例[0.4%])、プラセボ群で36例(13.3%)に認められ、チルゼパチド群においてプラセボ群と比較し2型糖尿病の発症リスクが93%低かった(ハザード比[HR]:0.07、95%信頼区間[CI]:0.0~0.1、p<0.001)。 193週時における2型糖尿病の発症例は、チルゼパチド群で18例(2.4%)、プラセボ群で37例(13.7%)であった(HR:0.12、95%CI:0.1~0.2、p<0.001)。 主な有害事象(新型コロナウイルス感染症以外)は胃腸障害で、ほとんどは軽度~中等度であり、主に最初の20週間の用量漸増期間中に発現した。新たな安全性の懸念は確認されなかった。

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インフル・コロナワクチン接種、同時vs.順次で副反応に差はあるか

 インフルエンザワクチンと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンを同時に接種した場合、1~2週間空けて両ワクチンを順次接種した場合と比較して、中等度以上の発熱、悪寒、筋肉痛などの発生状況に差はみられないことが、無作為化プラセボ対照臨床試験の結果示された。米国・Duke University School of MedicineのEmmanuel B. Walter氏らがJAMA Network Open誌2024年11月6日号に報告した。これまで、両ワクチンの同時接種の安全性に関する無作為化臨床試験データは限定的であった。 本試験は、2021年10月8日~2023年6月14日に米国の3施設で実施された。参加者は5歳以上で妊娠しておらず、4価インフルエンザ不活化ワクチン(IIV4)とCOVID-19のmRNAワクチンの両方を接種する意思のある者であった。1回目には、COVID-19 mRNAワクチンと同時にIIV4または生理食塩水を、反対側の腕に筋肉内投与した。1~2週間後、2回目として1回目に生理食塩水を投与された参加者にはIIV4を、1回目にIIV4を投与された参加者には生理食塩水を投与した。 主要な複合接種後反応(reactogenicity)アウトカムは、1回目および/または2回目の接種後7日以内に、発熱、悪寒、筋肉痛、および/または関節痛の中等度以上の症状がみられた参加者の割合で、非劣性マージンは10%とされた。副次アウトカムは、各接種後7日間の注射部位反応イベントと注射部位以外の有害事象(AE)、および1回目接種後の健康関連QOL(HRQOL)で、EuroQoL 5-Dimension 5-level(EQ-5D-5L)を用いて評価した。重篤な有害事象(SAE)ととくに注目すべき有害事象(AESI)は、121日間評価された。 主な結果は以下のとおり。・全体で335人(平均[SD]年齢:33.4[15.1]歳)が登録され、無作為に割り付けられた(同時併用群:169人、順次併用群:166人)。・63.0%が女性、57.0%が登録時点でCOVID-19感染歴ありまたはIgG抗体陽性であり、76.1%がファイザー製のBNT162b2(2価)を接種した。・同時併用群における主要な複合接種後反応アウトカムの発生率は25.6%(43人)で、順次併用群(31.3%[52人])に対し非劣性であった(補正後群間差:-5.6%ポイント、95%信頼区間:-15.2~4.0%ポイント)。・主要な複合接種後反応アウトカムの発生率は、接種回別にみても同様であった(1回目接種後:23.8% vs.28.3%、2回目接種後:3.0% vs.5.4%)。・同時併用群と順次併用群では、AE(12.4% vs.9.6%)、SAE(ともに0.6%)、およびAESI(11.2% vs.5.4%)の発生率に有意な群間差は認められなかった。・重篤な反応を示した参加者において、EQ-5D-5L Indexの平均(SD)スコアは、ワクチン接種前の0.92(0.08)~0.92(0.09)から2日目までに0.81(0.09)~0.82(0.12)に減少したものの、3または4日目までにはベースラインレベルに回復した。 著者らは今回の結果について、インフルエンザとCOVID-19の流行が予想される期間中に高いワクチン接種率を達成するための戦略として、これらのワクチンの同時接種を支持するものだとしている。

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カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」【最新!DI情報】第27回

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」今回は、カルシニューリン阻害薬「ボクロスポリン(商品名:ルプキネスカプセル7.9mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は、ループス腎炎に対する治療薬として承認された新規のカルシニューリン阻害薬であり、免疫抑制作用により予後が改善することが期待されています。<効能・効果>ループス腎炎の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤投与により腎機能が悪化する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2以下の患者では投与の必要性を慎重に判断し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では可能な限り投与を避けます。<用法・用量>通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルを併用します。<安全性>重大な副作用には、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染症(1.1%)を含む重篤な感染症(10.1%)があり、致死的な経過をたどることがあります。また、急性腎障害(3.4%)が生じることがあるため、重度の腎機能障害患者への投与は可能な限り避けるようにし、中等度の腎機能障害患者には投与量の減量を行います。その他の副作用は、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(いずれも10%以上)、インフルエンザ、帯状疱疹、高カリウム血症、食欲減退、痙攣発作、振戦、悪心、歯肉増殖、消化不良、脱毛症、多毛症(いずれも10%未満)があります。本剤は、主としてCYP3A4により代謝されるため、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(アゾール系抗真菌薬やリトナビル含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤など)との併用は禁忌です。また、P糖蛋白の基質であるとともに、P糖蛋白、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1およびOATP1B3への阻害作用を有するので、ジゴキシンやシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用には注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ループス腎炎の治療薬であり、体内の免疫反応を抑制します。2.飲み始めは原則としてステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルと併用します。3.この薬は、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。4.この薬を使用中に、感染症の症状(発熱、寒気、体がだるいなど)が生じたときは、ただちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で生じる腎機能障害です。この疾患は、尿蛋白や尿潜血を伴い、ネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎症候群を引き起こすことがあります。治療は、急性期の寛解導入療法と慢性期の寛解維持療法があり、急性期の寛解導入療法には強力な免疫抑制療法を実施し、尿蛋白や尿沈査、腎機能の正常化を目指します。治療薬はグルココルチコイド(GC)に加えてミコフェノール酸モフェチル(MMF)またはシクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)の併用投与が推奨されています。ボクロスポリンは、ループス腎炎の治療薬として開発された新規の経口免疫抑制薬です。最近の研究では、MMFとの併用療法がMMF単独療法に比べて、より有効であることが示されています。ボクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用を発揮します。ボクロスポリンの投与開始時は、原則として、GCおよびMMFを併用します。ループス腎炎患者を対象とした国際共同第III相試験(AURORA1試験)では、主要評価項目である投与開始52週時点の完全腎奏効患者の割合は、本剤群の40.8%に対してプラセボ群は22.5%と有意な差が認められました(p<0.001、ロジスティック回帰モデル)。なお、本剤群およびプラセボ群ともに、MMFとGCが併用されていました。

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尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第9回

尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?Teaching point(1)ルーチンで尿検体の嫌気性培養は依頼しない(2)汚染のない尿検体のグラム染色で菌体が見えるのに通常の培養で発育がないときに嫌気性菌の存在を疑う(3)尿検体から嫌気性菌が発育したら、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患や瘻孔形成を疑う《今回の症例》66歳女性。進行子宮頸がんによる尿管狭窄のため半年前から尿管ステントを留置している。今回、発熱と腰痛で来院し、右腰部の叩打痛から腎盂腎炎が疑われた。ステントの交換時に尿管から尿検体を採尿し、グラム染色で白血球と複数種のグラム陰性桿菌を認めた。通常の培養条件では大腸菌のみが発育し、細菌検査室が嫌気培養を追加したところ、Bacteroides fragilisが発育した。検体採取は清潔操作で行われ、汚染は考えにくい。感染症内科に結果の解釈と治療についてコンサルトされた。1.尿検体の嫌気性培養は通常行わない細菌検査室では尿検体の嫌気性培養はルーチンで行われず、また医師側も嫌気培養を行う明確な理由がなければ依頼すべきではない。なぜなら、尿検体から嫌気性菌が分離されるのは約1%1)とまれで、嫌気性菌が常在している陰部からの採尿は汚染の確率が高く起炎菌との判別が困難であり、培養に手間と費用を要するためだ。とくに、中間尿やカテーテル尿検体の嫌気性培養は依頼を断られる2)。嫌気性培養が行われるのは、(1)恥骨上穿刺や泌尿器手技による腎盂尿などの汚染の可能性が低い尿検体、(2)嫌気性菌を疑う尿所見があるとき、(3)嫌気性菌が関与する病態を疑うときに限られる2)。2.嫌気性菌を疑う尿所見は?尿グラム染色所見と培養結果の乖離が嫌気性菌を疑うきっかけとして重要である2)。まず、検体の採取状況で汚染がないことを確認する。扁平上皮の混入は皮膚接触による汚染を示唆する。また、抗菌薬の先行投与がないことも確認する。そのうえで、尿検体のグラム染色で膿尿と細菌を認めるが通常の培養(血液寒天培地とBTB乳糖寒天培地)で菌の発育がなければ嫌気性菌の存在を疑う2)。細菌検査室によっては、この時点で嫌気性培養を追加することがある。グラム陰性桿菌であればより嫌気性菌を疑うが、グラム陰性双球菌の場合には淋菌を疑い核酸増幅検査の追加を考える。一方で、膿尿がみられるのにグラム染色で菌体が見えず、通常の尿培養で発育がなければ嫌気性菌よりも、腎結核やクラミジア感染症などの無菌性膿尿を疑う。3.嫌気性菌が発育する病態は?表に嫌気性菌が発育した際の鑑別疾患をまとめた。なかでも、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患と、泌尿器と周囲の消化管や生殖器との瘻孔形成では高率に嫌気性菌が同定され重要な鑑別疾患である。その他の感染経路に、便汚染しやすい外性器および尿道周囲からの上行性感染やカテーテル、泌尿器科処置に伴う経尿道感染、経血流感染があるがまれだ3)。画像を拡大する主な鑑別疾患となる泌尿器・生殖器関連の膿瘍では、103例のうち95例(93%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定され、その内訳はグラム陰性桿菌(B. fragilis、Prevotella属、Porphyromonas属)、Clostridium属のほか、嫌気性グラム陽性球菌やActinomyces属だったとされる3)。膀胱腸瘻についても、瘻孔形成による尿への便混入を反映し48例のうち44例(92%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定されたとされる4)。逆に尿検体から嫌気性菌が同定された症例を集めて膿瘍や解剖学的異常の頻度を調べた報告はないが、筆者はとくに悪性腫瘍などの背景のある症例や難治性・反復性腎盂腎炎の症例などでは、解剖学的異常と膿瘍の検索をすることをお勧めしたい。また、まれな嫌気性菌が尿路感染症を起こすこともある。通性嫌気性菌のActinotignum(旧Actinobaculum)属のA. schaalii、A. urinale、A. massilienseで尿路感染症の報告がある。このうち最多のA. schaaliiは腎結石や尿路閉塞などがある高齢者で腎盂腎炎を起こす。グラム染色ではわずかに曲がった時々分岐のあるグラム陽性桿菌が見えるのに通常の培養で発育しにくいときは炭酸ガスでの嫌気培養が必要である。A. schaaliiはST合剤とシプロフロキサシンに耐性で、β-ラクタム系薬での治療報告がある5)。Arcanobacterium属もほぼ同様の経過で判明するグラム陽性桿菌で、やはり発育に炭酸ガスを要し、β-ラクタム系薬での治療報告がある6)。グラム陽性桿菌のGardnerella vaginalisは性的活動期にある女性の細菌性膣症や反復性尿路感染症、パートナーの尿路感染症の原因になるが、約3万3,000の尿検体中の0.6〜2.3%とまれである7)。メトロニダゾールなどでの治療報告がある。臨床経過と背景リスクによっては炭酸ガスを用いた嫌気培養の追加が考慮されるだろう。《症例(その後)》造影CTを追加したところ骨盤内膿瘍が疑われ、緊急開腹で洗浄したところ、腫瘍転移による結腸膀胱瘻が判明した。細菌検査室の機転により発育した嫌気性菌が膿瘍および膀胱腸瘻の手掛かりになった症例であった。1)Headington JT、Beyerlein B. J Clin Pathol. 1966;19:573-576.2)Chan WW. 3.12 Urine Cultures. Clinical microbiology procedures handbook, 4th Ed. In Leber AL (Ed), ASM Press, Washington DC. 2016;3.12.14-3.12.17.3)Brook I. Int J Urol. 2004;11:133-141.4)Solkar MH, et al. Colorectal Dis. 2005;7:467-471.5)Lotte R, et al. Clin Microbiol Infect. 2016;22:28-36.6)Lepargneur JP, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998;17:399-401.7)Clarke RW, et al. J Infect. 1989;19:191-193.

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最新 神経眼科エッセンスマスター-診察の基本と疾患別の診療の実際

神経眼科のエキスパートが最新の内容で“わかりやすく”解説「眼科診療エクレール」第5巻神経眼科診療において、(1)疑問に思ったことが直ぐ参照できる、(2)実際の診療に即した内容で臨床に役立つ、(3)患者に説明できる、の3点をコンセプトとして、神経眼科のエキスパートが、最新の内容でわかりやすく解説した極めて良質な参考書。高度な専門的知識と診療技術が必要なために「難解」とされる神経眼科診療に必要な神経機能解剖の知識、問診・視診の技術、さらに検査法を詳しく解説。そのうえで、視神経・視路疾患、眼球運動障害、眼振、瞳孔異常/眼瞼機能異常、そして眼窩および全身疾患まで、神経眼科疾患を網羅的に取り上げて、疾患の背景、病態生理、典型的所見、実際の治療法について解説。非常に高い死亡率の急性浸潤性副鼻腔真菌症、視力予後や生命予後不良の疾患、視神経先天異常や腫瘍との鑑別、高次視覚情報処理機構の障害なども盛り込まれており、神経眼科への興味と理解が深まる絶好の書。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する最新 神経眼科エッセンスマスター -診察の基本と疾患別の診療の実際定価16,500円(税込)判型B5判頁数384頁発行2024年8月担当編集澤村 裕正(帝京大学)相原 一(東京大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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日本の新型コロナワクチン接種意向、アジア5地域で最低/モデルナ

 モデルナ・ジャパンは11月13日付のプレスリリースで、同社が日本およびアジア太平洋地域のシンガポール、台湾、香港、韓国(アジア5市場)において実施した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と新型コロナワクチンに対する意識調査の結果を発表した。その結果、日本は、新型コロナワクチンの接種意向、新型コロナとインフルエンザのワクチンの同時接種意向共に、アジア5地域で最低となった。 2024年9月13日~10月9日の期間に、8歳以上の5,032人(シンガポール:1,001人、香港:1,000人、台湾:1,000人、韓国:1,003人、日本1,028人)を対象に調査実施機関のDynataによってインターネット調査が行われた。 主な結果は以下のとおり。・日本は、新型コロナワクチンの接種意向が5地域で最も低く、「接種する」と回答したのは28.5%、「しない」と回答したのは41.3%だった。アジア5地域全体で「接種する」と回答したのは45.3%、 最も接種意向が高かったシンガポールは約60%だった。・日本は、新型コロナとインフルエンザのワクチンを同時に接種する意向についても最も低く、「同時に接種する」と回答した人が13.3%だった。アジア5地域の平均は32.9%、最も高い香港は46.5%だった。・過去12ヵ月で、新型コロナワクチンを接種した人は、日本では13.6%と最も低く、5地域平均は22.2%だった。新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの両方を接種した人も、日本は11.2%でアジア5地域最低。アジア5地域平均は18.5%。両方を接種した人が最も多かったのは、台湾の23.3%だった。・過去12ヵ月で、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンのどちらも接種をしていないと回答した人は、日本では58.4%と最も多かった。アジア5地域平均は40.8%、最も少ないのは台湾で31.6%だった。・60代以上の高齢者においても、日本では44.9%が新型コロナワクチンもインフルエンザワクチンのどちらも接種をしていないと回答した。・接種意向がない理由について、「副反応が心配」「新しい変異株に対応したワクチンは効果がない」が多く選ばれ、「接種費用」を上回った。・新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、肺炎球菌の各ワクチン接種を重要と考えるかについて質問したところ、インフルエンザワクチンを重要と答えた人が最も多く、次に新型コロナワクチンが続いた。この傾向はどのアジア5地域でも同じだった。各ワクチン接種を「どれも重要ではない」と回答した人は、日本が37.3%と最も多く、他地域より18ポイント以上高かった。・新型コロナワクチンを接種する動機について、「ワクチン効果についての情報が得られた時」「安全性について保証が得られる時」「流行についての報道を見聞きした時」の選択肢を挙げた質問では、日本は「新型コロナワクチンを接種する動機となる項目が一つもない」と答えた人が最も多かった。・COVID-19とインフルエンザのリスクに対する認識について、COVID-19はインフルエンザより重症化率や入院率が高いが、COVID-19はインフルエンザと比較して脅威度が低く評価されていた。 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会は10月17日付で「COVID-19の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨します」との声明を発表し1)、接種意向が低く接種が進んでいない現状に警鐘を鳴らしている。今回の調査では、日本人の接種意向がアジア地域の中でも低いことが、改めて浮き彫りとなっている。

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「電気絆創膏」で皮膚感染を予防する可能性

 実験段階にある「電気絆創膏」によって、いつの日か医師は薬を全く使わずに細菌感染を防げるようになる可能性のあることが、新たな研究で示された。皮膚パッチを通じて知覚できないほど弱い電気的刺激を与えることで、人間の皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が10倍近く減少したことが確認されたという。米シカゴ大学化学科教授のBozhi Tian氏らによるこの研究の詳細は、「Device」に10月24日掲載された。Tian氏は、「この研究により、薬剤を使わない治療、特に薬剤耐性が深刻な問題となっている皮膚感染症や創傷の治療において素晴らしい可能性が広がった」と話している。 Tian氏らによると、電気はすでに数多くの疾患の管理に利用されている。例えば、ペースメーカーは電気を利用して安定した心拍を維持しており、眼球インプラントは電気で網膜を刺激することで視力を部分的に回復させることができる。 今回の研究では、抗菌薬の代わりに電気を使って表皮ブドウ球菌の増殖を制御できるかが調査された。研究グループは、表皮ブドウ球菌に着目した理由を、切り傷や医療処置によってこの菌が人体に侵入すると深刻な感染症を引き起こす可能性があるからだと説明している。なお、これまでに、全てのクラスの抗菌薬に耐性を持つ3種類の表皮ブドウ球菌の菌株が出現している。論文の責任著者の一人で米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)分子生物学教授のGurol Suel氏は、「ブドウ球菌は皮膚の常在菌であり、微生物生態系の一部を構成している。そのため、皮膚から完全に除去することは、別の問題が生じる可能性があるため望ましいことではない」と説明している。 今回の研究では、まず、マイクロエレクトロニクス技術を用いて、表皮ブドウ球菌の電気的刺激に対する生理的な反応を調査した。その結果、理想的な酸性条件下(pH 5)では、抗菌薬を使用しなくても細菌のバイオフィルム形成を99%抑制することが示された。しかし、弱アルカリ性(pH 7.4)の条件下では、細菌に対する電流の効果は示されなかった。健康な人間の皮膚は弱酸性だが、慢性の傷は中性からアルカリ性になる傾向がある。 この情報に基づき、研究グループは電子薬学皮膚パッチを設計した。この皮膚パッチには、1.5ボルトの微弱な電流を流すための電極と、酸性環境を作り出す水性ゲルが含まれている。豚の皮膚モデル上でこの皮膚パッチによる18時間の治療を行ったところ、表皮ブドウ球菌のレベルは、電気的刺激を与えていないブタの皮膚モデルと比べて10倍近く減少したことが示された。細菌に汚染されたカテーテルに皮膚パッチを貼った場合も、結果は同様であった。 研究論文の筆頭著者であるシカゴ大学のSaehyun Kim氏は、「電気的刺激に対する細菌の反応に関しては十分に研究されていない。その一因は、細菌が反応を示す条件が明らかになっていないことにある」と話し、「細菌が特定の条件下でのみ反応する性質を明らかにすることは、異なる条件を調べて他の細菌種を制御する方法を見つけ出すことにつながる」としている。 さらなる研究でこの皮膚パッチの安全性と有効性を検証する必要はあるが、Tian氏らは、薬なしで感染症を制御できる「電気絆創膏」につながる可能性があるとの考えを示している。

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アナフィラキシーの認識と対応にはいまだ課題も

 アナフィラキシーは、ごく微量であっても、ピーナッツなどの食物アレルゲンに対して突然生じる重篤なアレルギー反応で、生命を脅かすこともある。このほど、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次総会(ACAAI 2024、10月24〜28日、米ボストン)で発表された2件の研究から、米国のアナフィラキシーへの対応プロトコルには州によりばらつきがあり、その多くは不完全で時代遅れであること、また、アレルギーを持つ人やその介護担当者の多くが、アナフィラキシーが生じた際に、どの時点で何をすべきかを正しく理解していないことが判明した。 1件目の研究は、米ベイラー医科大学の免疫学・アレルギー・レトロウイルス学部門のSasha Alvarado氏らが、アレルギークリニックの待合室で96人の患者を対象に実施した調査結果に基づくもの。この調査は、アナフィラキシーに対する知識やアナフィラキシーが起きた際に必要とされる行動計画の要素を評価するためのものだった。 その結果、95.8%の患者にエピネフリン(アドレナリンと同義、アナフィラキシーの症状悪化を抑える補助治療であるエピペンの有効成分)が処方されており、73%はアナフィラキシーの症状を認識することに「慣れている」と回答していた。しかし、エピネフリンが必要な症状について正しく把握できていたのはわずか14%に過ぎなかった。アレルゲンに曝露した可能性があり、発疹や喘鳴などの症状が現れている場合には、64.5%がエピネフリンを自己注射すると答えたが、10.8%は最初に救急治療室(ER)を受診すると回答した。エピネフリンの使用を躊躇する理由としては、どの症状を治療すべきか不明(40.6%)、ER受診への躊躇(24%)、911に電話することへの躊躇(17.7%)、エピネフリンの自己注射器の使用法が不明(11.5%)、注射針への恐怖心(5.2%)が挙げられた。 Alvarado氏は、「アナフィラキシーを早期に認識してエピネフリンで治療すれば、転帰改善につながることは分かっている。この調査結果は、アレルギー患者がアナフィラキシーを適切に認識して治療するために、より良い教育が必要であることを示している」と述べている。 米メモリアルヘルスケアシステムのCarly Gunderson氏らによる2件目の研究では、アナフィラキシー発生時に何をすべきか混乱するのは患者だけではないことが示された。この研究では、米国30州のアレルギー反応やアナフィラキシーへの対応プロトコルを調査し、アナフィラキシーの認識におけるギャップの有無や救急医療の改善点について評価した。 その結果、アナフィラキシーの定義さえも州によってさまざまであり、定義に胃腸症状を含めたプロトコルを採用していた州はわずか半数(50%)、発作の特定に役立つ神経症状を含めていた州はわずか40%であることが明らかになった。また、治療に関しても、州によって手順が異なっていることも判明した。97%の州が、アナフィラキシーの第一選択治療としてエピネフリンを推奨している一方で、エピネフリンの自己注射器の使用を認めている州は57%(17州)にとどまっていた。また、呼吸器症状がある場合の対応として、90%の州(27州)でアルブテロール、73%の州(22州)で点滴、60%の州(18州)でステロイドが推奨されていた。 研究グループは、「エピネフリン自己注射は便利で効果的であるにもかかわらず、多くのプロトコルでは許可されていない」と述べている。また、ステロイドの使用については「時代遅れの推奨だ」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第217回 医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省

<先週の動き>1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省11月13日に財政制度等審議会は、2025年度予算編成に向けた議論を行い、財務省は医師の偏在対策が不十分であるとして、規制強化などを求める提言を行った。審議会で増田 寛也分科会長代理は、「これまでの取り組みは実効性が乏しかった」と指摘し、「診療報酬の減算などの経済的ディスインセンティブ措置を含め、より強力な対策が必要だ」と強調した。財務省は、医師多数区域での開業規制や診療報酬の地域別単価設定、自由開業・自由標榜の見直しなどを提言、また、地域で過剰な医療サービスを提供する医療機関に対し、診療報酬を減算する仕組みの導入の提案を行った。さらに、診療科別の医師偏在指標が不足している点を批判し、厚生労働省に対し、診療科ごとの医師偏在指標を早急に作成するよう求めた。これらの提言に対し、日本医師会は反発する可能性がある。政府は、年末までに医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定する予定だが、規制強化と医師確保の両立が課題となる。参考1)社会保障(財務省)2)過剰な医療への診療報酬減算を提言、財務省 偏在是正策、外来機能は「転換・集約」(CB news)3)医師偏在対策「手ぬるかった」財政審分科会で 増田氏は「もう一段強く」と主張(同)2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」が基本となることを受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は11月13日、患者の資格確認方法の変更に伴うルール見直しを了承した。このため厚生労働省は、医療機関や薬局がマイナ保険証や資格確認書で患者の資格を確認できるよう、療養担当規則を改正する。マイナンバーカードを持っていない人や、健康保険証としての利用を登録していない人でも、保険者から発行される「資格確認書」を医療機関に提示することで、これまで通り保険診療が受けられる。資格確認書は、カード型、はがき型、A4型の3種類があり、氏名や被保険者番号などが記載される。申請は不要で、対象者には現行の健康保険証の有効期限に応じて、加入している医療保険者から無償で交付される。デジタル庁では、資格確認書の交付や健康保険証の有効期限に関する情報を公開し、マイナンバーカードの未取得者や、マイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録していない人が従来通り保険診療を受けられるよう国民へ周知を図っている。中医協の小塩 隆士会長は、「マイナ保険証への移行に伴う混乱を懸念し、保険診療を受けられない人が出ないよう、必要があれば制度を改めるべきだ」と危惧している。厚労省は、マイナ保険証の利用促進に取り組む一方、国民が安心して保険診療を受けられるよう、制度の周知徹底に努めるとしている。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)12月2日以降の資格確認、療担規則見直しへ 厚労相が諮問 即日答申(CB news)3)2024年12月2日以降のマイナ保険証「以外」(資格確認書等)で保険診療受けるための法令整備を決定-中医協総会(2)(Gem Med)4)12月2日で発行停止の健康保険証、代わりとなる「資格確認書」の交付対象や方法は?-デジ庁が公開(CNET Japan)3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府医療費が高額になった場合に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、政府は自己負担の上限額を引き上げる方向で検討に入った。11月15日、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」で、高額療養費制度の見直しを求める意見が相次いだ。厚生労働省は、医療費の増加や患者の負担能力向上を踏まえ、上限額を引き上げることで医療費の抑制と現役世代の保険料負担軽減を図りたい考え。具体的な引き上げ幅は、年収区分に応じて7~16%を軸に調整されており、所得が低い人への配慮も検討されている。引き上げは2段階で行われ、2025年度に上限額を引き上げた後、2026年度には年収区分を細分化し、高所得者はより高い上限額とする見込みである。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限を設け、超過分を健康保険組合などの保険者が給付する仕組み。近年、高額な新薬の登場や高齢化により、医療費が高額化するケースが増加しており、制度の適用件数と支給総額は増加している。政府は、今回の見直しを通じて、支払い能力に応じた負担を求める「応能負担」を強化したい考え。その一方で、患者の自己負担が増えることから、与野党を問わず反発が出る可能性もあり、今後の議論の行方が注目されている。参考1)全世代型社会保障構築会議[第19回](内閣府)2)高額療養費、見直し求める 政府の有識者会議(日経新聞)3)「高額療養費制度」上限額引き上げる方向で検討 厚労省(NHK)4)高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大5万400円、来年夏めど(朝日新聞)4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省値上げが続く出産費用と支援策の課題について、厚生労働省は11月13日に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開き、出産費用の上昇や支援策の有効性を巡り多角的な議論が展開された。全国の正常分娩による出産費用は2024年度上半期で平均51万8,000円に達し、昨年度からさらに1万1,000円増加した。出産育児一時金は、2023年4月に42万円から50万円に引き上げられたが、実際の負担額を賄いきれないケースが多く、都道府県別では東京や神奈川で高額化が顕著となっている。一時金が不足する割合は、全国平均で45%に上り、個室利用料などを含めるとその割合は80%に達している。また、出産費用の「見える化」を目的としたウェブサイト「出産なび」についても検討会で報告が行われた。2024年5月に開設されたこのサイトは、認知率は36%、利用率は18%と低調で、妊婦の情報収集への活用が進んでいない現状が明らかとなった。その一方で、利用者の満足度は高く、妊婦が望む情報の充実が求められている。出産費用の保険適用(現物給付化)については賛否が分かれている。推進派は、経済的負担軽減や標準化の重要性を訴える一方、地方の産科医療体制への悪影響や財源問題を懸念する声もある。とくに一時金引き上げと同時に医療機関が費用を引き上げた印象が拭えず、さらなる分析が必要との意見が多く挙げられた。少子化対策として「安心して出産できる環境整備」の必要性が叫ばれる中、今後は出産費用の地域差解消や制度の簡素化、支援内容の拡充が急務となる。2025年春を目途に検討会での意見が集約される予定。参考1)第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省)2)「出産なび」を知らない妊産婦が6割超 開設後3ヵ月時点で 厚労省検討会に報告(CB news)3)出産育児一時金の引き上げで軽減されたはずが…妊婦の負担額が再び増加、原因は産院の値上げ(読売新聞)4)出産費用 半数近くで一時金の50万円上回る 厚生労働省(NHK)5)出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず-出産関連検討会(Gem Med)5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省美容医療をめぐるトラブル増加を受け、厚生労働省は規制強化に乗り出す。11月13日に開かれた厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、クリニックなどに安全管理措置の状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける案を含む報告書案が議論された。この背景には、美容医療に関する健康被害や料金トラブルなどの相談が急増している現状がある。国民生活センターへの相談件数は、2023年度には5,507件と、5年間で3倍に増加した。報告書案では、自由診療が多い美容医療は、保険診療に比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であることや、患者の要望や医師の技量によって合併症や後遺症のリスクも高まる可能性があることなどが課題と指摘している。対応策として、医療機関による定期報告の仕組み導入が提案された。報告内容には、安全管理措置の実施状況、医師の専門医資格の有無、トラブル発生時の相談窓口などが含まれ、患者にとって必要な情報は自治体が公表する。厚労省は、年内にも正式な対策をまとめる方針。また、この検討会で臨床研修修了直後に若手の医師が美容医療分野に流入していることが指摘されたが、この問題は医師の偏在是正の観点から、厚労省において別途必要な検討がなされる見込み。参考1)美容医療の適切な実施に関する報告書(案)(厚労省)2)美容医療の安全管理状況を自治体に年1回定期報告へ 健康被害や料金相談増加で厚労省方針(産経新聞)3)美容医療、安全管理状況を年1回報告へ 自治体に 厚労省方針(毎日新聞)4)美容医療「安全管理の報告」取りまとめ案 若手医師の“直美”「別途検討必要」(CB news)6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)は11月14日、生後6ヵ月の女児に抗菌薬を過剰投与する医療ミスがあり、女児が死亡したと発表した。女児は先天性疾患で入院しており、9月に肺炎症状がみられたため、医師が抗菌薬の点滴を指示した。しかし、医師は通常濃度の5倍の抗菌薬を投与するよう誤って指示し、看護師もそれに気付かず投与。さらに、投与時間も本来の2時間ではなく1時間と指示し、2倍の速度で投与していた。女児は点滴開始から約1時間後に心拍数が低下し、その後死亡が確認された。医師は「なぜ初歩的なことを間違ったのかわからない」と話しているという。病院では、医療事故調査委員会を設置し、投与と死亡の因果関係を調査する。また、病理解剖では、新型コロナウイルス感染や敗血症などの疑いもみられたが、抗菌薬の副作用に多い不整脈などは確認されなかったという。病院側は、医療ミスと死亡の因果関係は現時点では明らかではないとしているが、再発防止に向け、正しい希釈方法を看護師らが確認できるようシステムを改修するなどの対策を講じるとしている。参考1)規定量5倍の抗菌薬投与、女児が1時間半後に死亡…医師「なぜ初歩的なこと間違ったかわからない(読売新聞)2)兵庫県立こども病院 生後6か月の乳児 薬の過剰投与後に死亡(NHK)3)乳児に抗菌薬を過剰に投与、直後に死亡 兵庫・こども病院で医療事故(朝日新聞)4)兵庫県立こども病院で医療ミス 生後6カ月の女児に高濃度の抗菌薬を投与、2時間半後に死亡(神戸新聞)

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パンデミック中は国内在留外国人の自殺率も高まった

 国内に暮らす外国人の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自殺率に関するデータが報告された。外国人もパンデミックとともに自殺率が上昇したこと、男性においてはそのような変化が日本人よりも長く続いていたことなどが明らかにされている。筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野と国立国際医療研究センターグローバルヘルス政策研究センターの共同研究で、谷口雄大氏、田宮菜奈子氏、磯博康氏らによる論文が「International Journal for Equity in Health」に7月31日掲載された。 日本は世界的に見て自殺率が高いことが知られている。またCOVID-19パンデミック中に自殺率の上昇が認められた、数少ない国の一つでもある。一方、外国人の自殺率がパンデミックの影響を受けたのか否かは明らかにされていない。外国人は社会経済的な不平等にさらされやすく、医療アクセスの問題も抱えていることが多いため、パンデミック発生によって日本人よりも強い負荷が生じていた可能性がある。これらを背景として谷口氏らは、パンデミック中の国内在留外国人の自殺率がどのように変化したのかを、日本人と対比しながら詳細に検討した。 2016~2021年の厚生労働省「人口動態調査」の個票データから、自殺による死亡に関するデータを取得。年齢、性別、国籍の情報が欠落している人を除外したところ、この間の自殺者数は、日本人が12万1,610人(うち女性31.2%)、外国人は1,431人(同37.5%)だった。年齢については日本人男性が中央値52歳(四分位範囲38~68)、日本人女性は同55歳(39~72)、外国人男性は48歳(31~63)、外国人女性は50歳(35~63)だった。本研究では四半期ごとの自殺率を、人口に占める自殺者数の割合で表し、パンデミック前の対照期間(2016~2018年)の自殺率の変動との差分(difference-in-differences;DD)を算出することで、パンデミックの影響を推定した。 四半期ごとの自殺率を日本人と外国人で比較すると、男性と女性の双方において、常に日本人の自殺率の方が高値で推移していた。この差は、自殺率が高かった高年齢層の割合が、日本人で高かったことが一因と考えられる。年齢で層別化(40歳未満、40~59歳、60歳以上)して解析した結果、59歳以下の層において日本人と外国人との自殺率の差が顕著だった。 国籍別に見ると、パンデミック前より自殺率が高いことが報告されていた韓国・朝鮮籍の人では、ほかの国籍の外国人や日本人よりも高い自殺率で推移し、特に60歳以上の男性で顕著に高値だった。なお、韓国・朝鮮籍の自殺者数は、外国人自殺者の過半数(男性50.4%、女性51.1%)を占めていた。 ところで、パンデミック発生とともに国内の自殺率はいったん低下し、その後、反転して高値となったことが知られている。日本人におけるパンデミック初期の自殺率低下は、危機的状況における社会的な連帯感の高まり、労働時間の減少、政府による給付金などが背景にあるのではないかと推測されているが、外国人は、それらの恩恵を受けにくかった可能性がある。実際に本研究でも、2020年第2四半期のDDは、日本人の方が外国人よりも有意に低かった。 例えば、対照期間と比較した場合の同四半期の男性の自殺率は、日本人ではDD-0.90(95%信頼区間-1.12~-0.68)と統計学的に有意に低下したのに対して、外国人は0.97(同0.096~1.85)と有意に上昇しており、日本人と在留外国人の自殺率の推移の差を示すDDの差(difference-in-difference-in-differences;DDD)が1.87(1.20~2.54)と有意だった。女性においても、同四半期の日本人では自殺率が有意に低下した一方、外国人では有意な変化が認められず、DDDは1.23(0.51~1.94)と有意だった。 また、日本人男性における自殺率は2021年第3四半期以降、対照期間と有意でないレベルに低下した一方、外国人男性の自殺率は有意な上昇が続き、同年第4四半期のDDDは1.48(0.81~2.15)と有意であり、パンデミックの影響が日本人よりも長期間続いていた可能性が考えられた。なお、女性のDDDについては2021年以降、日本人と在留外国人の間で有意な差を認めなかった。 著者らは、「COVID-19パンデミック中、全体として在留外国人と日本人の双方で自殺率の上昇が見られた。初期には日本人では自殺率の低下が観察されたが外国人では見られず、また外国人男性の自殺率は2021年末まで高止まりしていた。われわれの研究結果は、パンデミックのような状況においては、社会経済的に脆弱な集団に対して適切なメンタルヘルスサポートが必要なことを示唆している」と総括。また、パンデミック中に外国人男性、特に、失業率が高かったと報告されている韓国・朝鮮籍の男性において自殺率が特に上昇していたことを指摘し、「適切な雇用機会の確保も重要」と述べている。

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新型コロナ感染中の運転は交通事故のリスク【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第269回

新型コロナ感染中の運転は交通事故のリスク疾患によっては、罹病中に運転することが交通事故のリスクとされるものがあります。たとえば、糖尿病でインスリン治療を受けている人は、無自覚低血糖によって運転の支障を来すことがあります。そのため、運転免許証の取得や更新時に虚偽申告をした場合の罰則規定が設けられています。運転前に血糖測定を行うように指導することが重要です。発熱していて、医療機関を受診する場合、公共交通機関を使うと他人に感染を広げてしまうので、自家用車を自分で運転して受診する人が多いでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、どうも交通事故のリスクが高くなるようで…。Erdik B, et al. Driving Under the Cognitive Influence of COVID-19: Exploring the Impact of Acute SARS-CoV-2 Infection on Road Safety. Neurology, 2024;103 (7_Supplement_1):S46-S47.この論文は、COVID-19の急性発症と交通事故数の関連性を調査したものです。2020~22年のデータを用いて、米国7州での交通事故記録とCOVID-19の統計を比較分析しました。結果、急性のCOVID-19と交通事故増加の関連性が観察されました(オッズ比:1.5)。つまり、急性期のCOVID-19で運転すると、交通事故のリスクが高くなるということです。ちなみに、この交通事故リスクは、飲酒運転やてんかんを持っている場合のリスクと同程度であったと考察されています。これを受けて筆者らは、COVID-19は、その後の後遺症(Long COVID)だけでなく、急性期の交通事故リスクを高める可能性があると指摘しています。熱があればそりゃしんどいだろうと思いますが、機序としてはウイルスの神経系への影響とも述べられています。医療従事者は、COVID-19の患者を診療する際、認知・運転の低下の可能性を考慮する必要があります。できるなら、家族が運転する車で来院いただきたいところですね。

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将来は1時間程度で結果が出る血液検査が可能に?

 いつの日か、手のひらサイズの血液検査デバイスで、わずか1時間程度で結果を得られるようになる可能性を示唆する研究結果が報告された。この携帯型デバイスは手のひらに収まる大きさで、音波を使って少量の全血サンプルからバイオマーカーを分離・測定するもので、検査の全プロセスに必要な時間は70分足らずだという。米コロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のWyatt Shields氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」10月16日号に掲載された。Shields氏は、「われわれは使いやすく、さまざまな環境で導入でき、短時間で診断に関する有用な情報を提供する技術を開発した」と話している。 このような少量の血液を用いた血液検査に関する報告は、今回が初めてではない。血液検査会社のTheranos社は「1滴の血液で数百種類のバイオマーカーを測定できる」との触れ込みで事業を展開していたが、2015年に虚偽であることが発覚。同社は2018年に解散し、創業者のElizabeth Holmes氏は禁固11年超の有罪判決を受け、現在も服役中である。 Shields氏らによると、今回報告された新たなデバイスは、システマティックな実験と査読を受けた研究をベースとしたものであり、Theranos社が主張した検査とは仕組みが異なるという。研究論文の筆頭著者でコロラド大学ボルダー校化学・生物工学分野のCooper Thome氏は、「彼らが主張したことを今すぐに実現するのは不可能だが、多くの研究者が似たようなことが可能になるのを望んでいる。今回の研究は、その目標に向けた1歩となるかもしれない。ただし、誰でもアクセスできる科学的根拠に裏付けられている」と話している。 現在使われている血液検査は、針や注射器で1本またはそれ以上のバイアルに血液を採取する必要があり、検査機関から結果が出るまで数時間から数日かかる。新型コロナウイルスへの感染や妊娠の有無を調べる迅速検査では、血中あるいは尿中のバイオマーカーの有無に基づき、迅速に「イエス」か「ノー」の情報が提供される。しかし、これらの検査ではバイオマーカーの量を測定することはできない。 今回報告された新たな検査技術は、血液サンプルの中のさまざまなバイオマーカーを捉えるように設計することができる「機能的負の音響コントラスト粒子(functional negative acoustic contrast particles;fNACPs)」を用いたもの。fNACPsは、特定のバイオマーカーを全血から直接捕まえるための「目印」を持っている。採取された血液サンプルをデバイス内でfNACPsと混ぜ合わせると、音波の作用によってターゲットとなるバイオマーカーを捕縛したfNACPsが採取チャンバーにとどまり、他の血液成分は洗い流される。fNACPsが捕縛した各バイオマーカーは蛍光タグで標識され、ポータブル蛍光計とフローサイトメーターでその量が測定されるという仕組みだ。Thome氏は、「われわれの検査は、基本的には極めて少量の液体から音波を使って迅速にバイオマーカーを分離している。これは血中のバイオマーカーを測定する全く新しい方法だ」と大学のニュースリリースで述べている。 このデバイスが実用化されるまでにはさらなる研究が必要であるが、ベッドサイドや移動診療所で指先穿刺によって採取された血液から重要な医療情報がただちに提供される日が来ることをShields氏らは思い描いている。Shields氏は、「急速に広がるウイルス感染症が出現した場合や、急性呼吸器疾患や炎症性疾患の場合、実際に何が起こっているのかを素早く正確に測定できるようにしておくことは重要だ」と言う。研究グループはまた、「この検査は、ブースター接種の必要性や、特定のアレルギーやがんに関連するタンパク質保有の有無を判定するのにも役立つ可能性がある」と述べている。

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第238回 広がる救急車利用の選定療養費化、茨城県では筑波大病院1万3,200円、土浦協同病院1万1,000円、その他病院7,700円と料金に違い

救急車利用の選定療養費化のスキーム、じわりじわりと広がる気配こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンはストーブリーグに突入、今年も日本からMLBに誰が行くのかで盛り上がっています。そんな中、千葉ロッテマリーンズは11月9日、佐々木 朗希投手(23)の今オフのポスティングによるメジャー挑戦を容認することを発表しました。あと2年待てばMLBの「25歳ルール」による契約金制限が解けるので、佐々木投手自身も、譲渡金の入る球団も金銭的にWin-Winとなったでしょうが、ロッテとしては、佐々木投手の“わがまま”に折れた形での容認となりました。2022年の完全試合の印象は強烈ですが、大事に育てられ過ぎたのか、故障も多く5年間で登板はわずか64試合で、29勝15敗、防御率2.10という「中の下」の成績です。中4日、中5日で162試合を戦うMLBで果たして通用するのでしょうか。日本で怪我がちだった選手の多くは、MLBでも早々と故障してしまう傾向にあります。同じくMLB挑戦予定の、“旬”を過ぎた読売ジャイアンツの菅野 智之投手(ストレートで150キロ出ない)とともに、今後の“活躍”を見守りたいと思います。さて今回は、全国で広がりを見せ始めた軽症患者の救急車利用の“有料化”について書いてみたいと思います。“有料化”とは言っても、厳密には保険外併用療養費制度の一つ、選定療養費の仕組みを活用したものですが、三重県松阪市に続いて、茨城県が全県での導入を決め、12月からスタートさせます。救急車利用の選定療養費化のスキームは今後じわりじわりと広がっていきそうな気配です。軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」としてガイドラインで例示茨城県は10月18日、「緊急性のない救急搬送患者から選定療養費を徴収する際のガイドライン」(救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン)1)を策定、公表しました。県内22病院で12月2日から救急車による救急搬送の際、緊急性が認められなかった場合に、患者から選定療養費を徴収する予定です。対象となる患者については、軽度の切り傷・擦過傷、風邪などを「緊急性が低い症状」として例示しました。なお、県単位で救急搬送に選定療養費の仕組みを導入するのは全国で初めてです。茨城県によれば2023年度の救急搬送は14万3,046件で増加傾向が続いているとのことです。うち6万8,549件、47.9%を軽症等が占めており、この状況が続けば救急医療の体制が維持できなくなるとして、4月以降検討を重ね、厚生労働省や県医師会、各病院などと協議を経て、選定療養費化に至ったとのことです。「軽症」と診断された場合も救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースは徴収の対象外同ガイドラインは、患者が救急車で搬送された場合、選定療養費の対象となる「緊急性が認められない」ケースかどうかを医療機関が判断する目安として作られました。具体的には、救急車要請時の緊急性が認められない可能性がある主な事例として、以下が提示されています。ア. 明らかに緊急性が認められない症状:1)軽度の切り傷のみ、2)軽度の擦過傷のみイ. 緊急性が低い症状(※ただし、別の疾患の兆候である可能性あり):1)微熱(37.4℃以下)のみ、2)虫刺創部の発赤、痛みのみで、全身のショック症状は無い、3)風邪の症状のみ、4)打撲のみ、5)慢性的又は数日前からの歯痛、6)慢性的又は数日前からの腰痛、7)便秘のみ、8)何日も前から症状が続いていて特に悪化したわけではない、9)不定愁訴のみ、10)眠れないのみイについては「緊急性が低いことから、基本的に緊急性が認められないものとするが、診断の結果、別の疾患の兆候である可能性を否定できず、評価が難しいケースや判断に迷うケースである場合は、緊急性が認められるものとして差し支えない」として、現場で選定療養費の徴収対象外と判断して構わないとしています。なお、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時には改善して結果として「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当するため、徴収の対象とはならないとしています。徴収額は初診患者の選定療養費に準じる茨城県は7月に全県での導入を公表、12月から多くの救急患者を受け入れている県内22病院で一斉に運用を開始することにしました。紹介状なしの初診患者から選定療養費の徴収を義務付けられている県内22病院のうち、友愛記念病院と古河赤十字病院(いずれも古河市)は12月時点の参加を見送り、既に選定療養費を徴収していた病院が20病院、徴収していない病院が2病院となりました。徴収額は紹介状なしの初診患者の選定療養費と同額となるため、病院ごとに異なります。筑波大学附属病院が1万3,200円、総合病院土浦協同病院と筑波メディカルセンター病院が1万1,000円、白十字総合病院が1,100円で、ほかの病院は7,700円(いずれも税込)。なお、白十字総合病院と筑波学園病院は地域医療支援病院等ではなく、紹介状なしの初診の選定療養費徴収が義務付けられていませんが、今回、軽症救急患者に限って選定療養費を設定したとのことです。「救急車の有料化ではありません」と県は強調茨城県は今回の救急車利用の選定療養費化について、一般向けにQ&A集も用意しています。それによれば、「Q.救急車を有料化するということですか?」という質問に対しては、「救急車の有料化ではありません。既存の選定療養費制度の運用を見直し、救急車で搬送された方のうち、救急車要請時の緊急性が認められない場合には、対象病院において選定療養費をお支払いいただくものです」と、「有料化ではない」旨を強調しています。有料化と選定療養費化は制度が違うと言われても、県民にとっては“負担増”になるのは同じです。これまで無料だった筑波大学附属病院への搬送が1万3,200円というのは、かなりの出費と言えるでしょう。軽症者のタクシー代わりの救急車利用の抑止力としては、それなりに機能しそうです。三重県松阪市は3ヵ月間のモニタリング結果を公表ところで、救急車利用の選定療養費化の先駆けだった三重県松阪市は10月25日、三重県松阪地区で2次救急医療を担う3病院(松阪市民病院、松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院)における、救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費を徴収する取り組みのモニタリング結果を報告しました2)。三重県松阪地区では3病院において、6月から救急車利用時に入院に至らなかった軽症患者などから選定療養費7,700円を徴収する取り組みを始めていました。報告されたモニタリング期間は、運用開始の2024年6月1日~8月31日の3ヵ月間で、救急車で3病院に搬送(病院収容)された人を対象に、搬送された時間帯や年齢、特別の料金の徴収有無に加え、主たる搬送要因・傷病名などを調査しました。選定療養費の徴収対象となったのは278人、7.4%3病院の救急搬送における費用徴収の状況について、救急車で3病院に搬送された3,749人のうち、帰宅となり、さらに費用徴収の対象となったのは278人、7.4%でした。徴収対象者の傷病内訳としては、最多は疼痛24人(8.6%)、次いで打撲傷21人(7.6%)、熱中症・脱水症21人(7.6%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)16人(5.8%)、めまい15人(5.4%)、胃腸炎・食道炎等15人(5.4%)でした。徴収対象外となった1,778人の内訳は、「緊急の患者等、医師の判断による」が最多で1,014人(57.0%)。そのほか、再診が408人(22.9%)、交通事故等が178人(10.0%)、生活保護受給者が88人(4.9%)、紹介状ありが57人(3.2%)でした。費用を徴収した278人のうち高齢者が114人(41.0%)でした。「持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認」と松阪市傷病程度別の救急搬送人員数は、軽症者率が52.9%と前年同期の59.4%から6.5%減少した一方で、中等症者率が42.8%と前年同期の37.0%から5.8%増加しました。一方、「松阪地区救急相談ダイヤル24の相談件数」は7,969件で、前年同期と比較して2,390件(42.8%)増加しました。以上の結果を踏まえ、松阪市は「医療機関の適正受診に繋がる状況が確認でき、今回の取り組みは、『一次二次救急医療の機能分担』、ひいては、『救急車の出動件数の減少』等、持続可能な松阪地区の救急医療体制の整備に一定の寄与が確認できたのではないか」と評価しています。松阪市、茨城県に続く自治体が今後続出することは必至モニタリング期間のため、ゴリゴリと選定療養費を徴収してはいない状況にあって、徴収対象が7.4%というのは結構高い数字と言えるのではないでしょうか。紹介状なしの200床以上の病院(特定機能病院、地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関)の初診・再診時などに、病院が独自に設定した選定療養費を徴収する仕組みを軽症救急患者に適用するというスキーム、誰が考えたのか、なかなか名案だと思います。ただ、松阪市のように管轄の3病院だけでやるのではなく、茨城県のように全県で対応したほうが、国民に“正しい”救急車利用の仕方を周知できるでしょう。さらに言えば、茨城県のケースでも、病院によって選定療養費にバラツキがあるのは今後の制度定着に向けては具合が悪そうです。今後、軽症救急の選定療養費は紹介状なしの額とは別に「県内均一」にする、2次救急、3次救急で額を変える、といった工夫が必要でしょう。いずれにせよ、松阪市、茨城県に続く自治体が続出することは必至と考えられます。参考1)救急搬送における選定療養費の取扱いに係る統一的なガイドライン/茨城県2)三基幹病院における選定療養費について/松阪市

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乾癬への生物学的製剤、真菌感染症のリスクは?

 生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症リスクはどれくらいあるのか。南 圭人氏(東京医科大学皮膚科)らの研究グループは、臨床現場において十分に理解されていないその現状を調べることを目的として、単施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、インターロイキン(IL)-17阻害薬で治療を受けた乾癬患者は、他の生物学的製剤による治療を受けた患者よりも真菌感染症、とくにカンジダ症を引き起こす可能性が高いことが示された。さらに、生物学的製剤による治療を開始した年齢、糖尿病も真菌感染症の独立したリスク因子であることが示された。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2024年9月30日号掲載の報告。 研究グループは、生物学的製剤の投与を受けている乾癬患者における真菌感染症の罹患率とリスクを評価することを目的として、乾癬患者592例を後ろ向きに調査した。 主な結果は以下のとおり。・73/592例(12.3%)において真菌感染症が確認された。・IL-17阻害薬を使用した患者は、他の生物学的製剤を使用した患者よりも真菌感染症の発生率が高率であった。・真菌感染症のリスク因子は、生物学的製剤の種類(p=0.004)、生物学的製剤による治療開始時の年齢(オッズ比:1.04、95%信頼区間:1.02~1.06)、および糖尿病(同:2.40、1.20~4.79)であった。 著者らは、本研究には生物学的製剤による治療を受けなかった患者が対象に含まれていなかったこと、使用されていた生物学的製剤の種類が多くの患者で変更されていたことなどの限界を指摘している。

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第240回 ウイルス学者が自身の乳がんを手ずから精製したウイルスで治療

50歳の女性科学者が研究室で手ずから作ったウイルスで自身の乳がんを治療し、成功しました。クロアチアのザグレブ大学のBeata Halassy氏は2016年に乳がんと診断され、その2年後の2018年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)を再発します。さらに2020年にはかつて乳房切除したところの最初は小さかった漿液腫が直径2cmの固形腫瘍へと進展して、2回目の再発に直面しました1)。MRI/PET-CT検査で転移やリンパ節への移行は認められなかったものの、腫瘍は胸筋や皮膚に達していました。Halassy氏はその再発も手に余るTNBCであろうと覚悟し、がん細胞を死なせ、抗腫瘍免疫を促す腫瘍溶解性ウイルスに似たウイルスを腫瘍へ投与する治療をする、と彼女を診る腫瘍科医に告げました。腫瘍溶解性ウイルス治療(OVT)の経過を観察することを腫瘍科医は了承し、有害事象や腫瘍進展の際にOVTを止めて定番療法が始められるようにしました。OVTの臨床試験は進行した転移を有するがんをもっぱら対象としてきましが、転移前のがんを対象とする開発も始まっています。たとえば、転移前の乳がんのOVT込み術前治療を検討した第I/II相試験で奏効率向上効果が示唆されています2)。Halassy氏はOVTの専門家ではありませんが、ウイルスの培養や精製の経験はOVT治療の実行の自信となりました。Halassy氏はかつて研究で扱ったことがある2つのウイルスを順番に自身のがんに投与しました。その1つは小児ワクチン接種で安全なことが知られる麻疹ウイルス(MV)のエドモンストンザグレブ株です。もう1つは副作用といえばせいぜい軽いインフルエンザ様症状を引き起こすぐらいで、ヒトにほとんど無害な水疱性口内炎ウイルス(VSV)のインディアナ株です。MVは乳がんで豊富に発現する分子2つを足がかりにして細胞に侵入し、VSVはマウスでの検討で乳がん阻止効果が認められています。Halassy氏の共同研究者はHalassy氏が準備したそれらウイルスをHalassy氏の腫瘍に2ヵ月にわたって直接注射しました。幸いOVTはうまくいき、もとは2.47cm3だった腫瘍は0.91cm3へと大幅に縮小しました。硬すぎて注射針を刺すのが極めて困難だった腫瘍は、治療後にやわ(softer)になって容易に注射できるようになりました1)。また、侵襲していた胸筋や皮膚から離脱し、手術で取り除きやすくなりました。全身の副作用といえば発熱と寒気ぐらいで、深刻な副作用は認められませんでした。取り出した腫瘍を調べたところ、免疫細胞のリンパ球が腫瘍塊の45%を占めるほどにがっつり侵入しており、リンパ球と線維組織が豊富で腫瘍細胞が見当たらない部分もありました。そのような豊富な線維化は昔ながらの術前化学療法での完全寛解後にしばしば認められます。どうやらOVTは目当ての効果を発揮して免疫系の攻撃を導いたようです。取り出した腫瘍にHER2が認められたことからHalassy氏は手術後に抗HER2抗体トラスツズマブを1年間使用しました。そして手術後に再発なしで45ヵ月を過ごすことができています。数多のジャーナルが掲載拒否Halassy氏の手ずからのウイルス治療の報告は十数ものジャーナルに却下された後、今夏8月にようやくVaccines誌に掲載されました。Halassy氏の自己治療(self-experimentation)の掲載を拒否したジャーナルの倫理上の懸念は意外なことではないとの法と医学の専門家Jacob Sherkow氏の見解がNattureのニュースで紹介されています3)。掲載したら患者が定番の治療を拒んでHalassy氏のような治療を試すことを促してしまうかもしれないということが問題なのだとSherkow氏は言っています。一方、自己治療の経験が埋没しないようにする手立ても必要だとSherkow氏は考えています。Halassy氏もSherkow氏が指摘するような心配は心得ており、がんの最初の治療手段として腫瘍溶解性ウイルスを自己投与してはいけないと言っています1)。そもそも、実行には多大な科学的素養と技術を要する自身の治療を真似ようとする人はいないだろうとHalassy氏は踏んでいます。Halassy氏が望むのは、自身の経験ががんの術前治療でのOVTの使用を検討する正式な臨床試験が進展することです。いまやHalassy氏の経験から新たな道が生まれようとしています。この9月にHalassy氏は家畜のがんを腫瘍溶解性ウイルスで治療する取り組みへの資金を手に入れました3)。目指すものが自身の自己治療の経験によってまったく違うものになったとHalassy氏は言っています。参考1)Forcic D, et al. Vaccines (Basel). 2024;12:958. 2)Soliman H, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:1012-1018.3)This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab / Nature

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第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

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次世代のCAR-T細胞療法―治療効果を上げるための新たなアプローチ/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が開催され、13日のJSH-ASH Joint Symposiumでは、『次世代のCAR-T細胞療法』と題して、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)療法の効果の毒性を最小限にとどめ、治療効果をより高めるための新たな標的の探索や、細胞工学を用いてキメラ抗原受容体(CAR)構造を強化した治療、およびoff the shelf therapyを目標としたiPS細胞由来次世代T細胞療法の試みなど、CAR-T細胞療法に関する国内外の最新の話題が紹介された。CAR-T細胞療法を最適化するための新しい標的の開発 CAR-T細胞療法はB細胞性悪性腫瘍や多発性骨髄腫(MM)などに対する効果が認められているが、毒性については解決すべき課題が残っている。ガイドラインでは主な合併症として、サイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が取り上げられているが、CAR-T細胞療法による新たな、または、まれな合併症とその管理についての情報は少なく、新たな標的の検討とともに明らかにしていく必要がある。米国血液学会(ASH)のCAR-T細胞療法のワークショップでは、CAR-T細胞の病態生理の理解、まれな毒性についてのデータの蓄積、on-target off-toxicityを回避するための的確な標的となる抗原などが検討されている。 Fabiana Perna氏(Moffitt Cancer Center)らは腫瘍関連抗原(TAA)および腫瘍特異的抗原(TSA)、さらに腫瘍特異的細胞表面プロテオームの解析を行っている。同氏らはこれまで、急性骨髄性白血病(AML)におけるCAR-T細胞療法の標的を同定するために、プロテオームと遺伝子発現の同時解析を行い、26個の標的を同定した。このうち15個は臨床試験で用いられ、その多くがAMLの正常細胞上に高発現する蛋白であった。 MMに対してはB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T(BCMA-CAR-T)細胞療法の成績は良好とはいえず、新たな標的抗原が必要である。Perna氏らはMM患者約900例のサンプル約4,700検体を用い細胞表面のプロテオームを解析し、RNAシーケンスを行い、腫瘍組織に高発現するBCAAを含む6個の標的を同定した。そのうちSEMA4Aは再発/難治性MM患者での高発現が認められた。BCMA-CAR-T細胞療法後の再発はBCMAの発現低下に関連し、CARの機能低下を惹起すると考えられ、的確な標的の探索が必要である。Perna氏らはSEMA4AがCAR-T細胞療法の標的となりうると考え、SEMA4A-CAR-T細胞療法を試みている。なお、MM患者の免疫療法に関しては第I相試験が予定されている。 また、Perna氏らはmRNAスプライシングに由来する白血病特異的抗原の解析パイプラインを開発中であり、AML患者サンプルからスプライスバリアントの異常発現を認めたことから、同氏は、疾患特異的スプライスバリアントを標的とした治療法につながることを期待していると述べた。CAR-T細胞療法抵抗性克服と新たな応用の探求 CAR-T細胞療法は、CD19およびBCMA抗原を標的として、B細胞性悪性腫瘍(リンパ腫、白血病)およびMMに対して行われている。BCMA-CAR-T細胞療法は初期治療の奏効率は高いが、長期寛解率は低くとどまっている。CAR-T細胞の機能不全は抗原逃避、T細胞欠損、腫瘍微小環境(TME)などにより惹起される。そこで、酒村 玲央奈氏(メイヨー・クリニック 血液内科)は、CAR-T細胞療法の治療抵抗性克服と新たなストラテジーを探求するうえで、重要な鍵となる免疫抑制細胞について検討した。 がん関連線維芽細胞(CAF)は、CAR-T細胞の機能不全を誘導するが、同時にMM患者の治療効果を高める可能性があると考えられている。これまでの酒村氏の検討でMM患者由来のCAFがTGF-βなど抑制性サイトカイン産生を増加させ、PD-1/PD-L1結合を介してCAR-T細胞を阻害し、FAS/FASリガンド経路を介してCAR-T細胞にアポトーシスを誘導、制御性T細胞(Treg)を動員することが示された。また、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的としたCAR-T細胞はマウスの体重を有意に減少させ、off target効果による重篤な毒性を惹起すると考えられ、CAF表面上に発現するCS1およびBCMAの2つを標的としたCAR-T細胞は腫瘍細胞およびCAFを溶解することが示された。さらに、BCMA-CAR-T細胞療法施行患者由来の骨髄サンプルを用いたシングルセルRNAシーケンスを行い、non-responder由来のCAFが高頻度にデスリガンド(抗腫瘍性リガンド)を発現すること、non-responder由来のT細胞は慢性的に刺激され疲弊したphenotypeであることが明らかとなった。また、non-responder由来の骨髄サンプルではTMEを支配する腫瘍関連マクロファージ(TAM)とCAFの有意なクロストークの存在が示された。 間葉系幹細胞(MSC)は多能性細胞であり、免疫抑制および組織再生治療における効果が研究されている。そこで酒村氏は、MSCの免疫抑制効果を向上させるために、細胞工学技術を用い健康な人から得た脂肪由来のMSCにCARを搭載し、移植片対宿主病(GVHD)に対する治療戦略をマウスモデルで検討した。研究には、とくにGVHDをターゲットとしたE-cadherin(Ecad)特異的なCAR-MSC(EcCAR-MSC)を用いた。EcCAR-MSCの開発では、Ecad特異的な単鎖可変フラグメント(scFV)クローンが生成され、CAR-CD28ζ構造を設計し安定発現させてMSCの免疫抑制機能を強化したことが示された。 GVHDモデルにおいてEcCAR-MSCはマウスの体重減少を軽減し、GVHD症状を緩和し生存率を向上させた。また、Ecad陽性大腸組織へ特異的に移行し、T細胞活性を抑制し免疫調節機能効果を向上させた。また、シングルセルRNAシーケンスにより、抗原特異的刺激を受けたEcCAR-MSCにおいてIL-6、IL-10、NF-κBなどの免疫抑制シグナル経路の活性化が認められた。EcCAR-MSCのCD28ζシグナルドメインを含むCAR構造体はより強い免疫抑制効果を示した。 酒村氏は、CARを用いたMSCの免疫抑制機能を強化する新たな細胞治療とGVHDおよび腫瘍抑制における可能性を提示した。また、MSCの開発は免疫環境の調節を可能とし、炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など自己免疫疾患の治療にも新たなアプローチを提供するものと考えると述べ、CAR-T細胞療法を進展させ、より多くの患者予後の改善を目指したいと結んだ。難治性腫瘍に対するiPS細胞由来次世代T細胞療法の開発 難治性NK細胞リンパ腫に対しては、L-アスパラギナーゼを含む抗がん剤治療や末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)による細胞治療が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。とくに末梢血由来T細胞は細胞治療後に疲弊し、長期的には腫瘍が増大することが知られている。そこで、安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科血液内科学)はNK細胞リンパ腫患者の末梢血よりエプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原特異的CTLを使用し、iPS細胞を作製後、再びT細胞に分化誘導し、iPS細胞由来若返りCTL(rejT)を作製し、NK細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、rejTはNK細胞リンパ腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示した。次いでNK細胞リンパ腫細胞株を腹腔内注射したマウスを用い、rejTおよび末梢血由来T細胞で治療し生体内での抗腫瘍効果を比較検討した結果、両群とも有意な腫瘍増大抑制効果が認められた。さらにrejTは末梢血由来T細胞に比べ有意な生存期間延長効果を示し、マウス体内でメモリーT細胞として長期間生存し、リンパ腫再増殖抑制効果が持続したことが示された。 次いで安藤氏は、末梢血EBV抗原LMP2特異的CTLからiPS細胞を作製し分化誘導後、iPS細胞由来若返りLMP2抗原特異的CTL(LMP2-rejT)がEBV関連リンパ腫に対し強い抗腫瘍効果を発揮することをマウスモデルで証明した。また、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期生存し、難治性リンパ腫の再発抑制を維持することを確認した。 安藤氏はこの手法を応用し、LMP2-rejTにCARを搭載することで、2つの受容体を有し、同時に2つの抗原(CD19、LMP2抗原)を標的にできるiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスを用いた検討ではDRrejTは受容体を1つのみ有する従来のT細胞に比べ、難治性の悪性リンパ腫に対し強力な抗腫瘍効果と、生存期間延長効果を示し、メモリーT細胞として長期生存が示された。 また、安藤氏はiPS細胞に小細胞肺がん(SCLC)に高発現するGD2抗原標的キメラ抗原受容体(GD2-CAR)を遺伝子導入後、分化誘導したiPS細胞由来GD2-CART細胞(GD2-CARrejT)を作製し、SCLCに対する強い抗腫瘍効果を示した。さらに、GD2-CARrejTは末梢血由来のGD2-CART細胞に比べ、疲弊マーカーであるTIGITの発現がきわめて低いことを明らかにした。また、マウスの検討でGD2-CARrejTは末梢血由来LMP2-CTLに比べNK/T細胞リンパ腫を抑制することが示された。 さらに、安藤氏はiPS細胞由来ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的CTL(HPV-rejT)を作製し、HPV-rejTは末梢血由来CTLと比較して子宮頸がんの増殖を強力に抑制することを確認した。子宮頸がん患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化には課題がある。一方、健康な人のCTLから作成した他家iPS細胞を用いた場合、これらの問題は解決するが、患者免疫細胞からの同種免疫反応により抗腫瘍効果が減弱する。そこでCRISPR/Cas9技術を用い、HLAクラスIをゲノム編集した健常人由来他家HPV-CTL(HLA-class I-edited HPV-rejT)を作製した。マウスを用いた検討で、HLA-class I-edited HPV-rejTは患者免疫細胞から拒絶されずに子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。また、末梢血由来HPV-CTLに比べ、細胞傷害活性に関するIFNG遺伝子や、組織レジデントメモリー細胞に関係するITGAE遺伝子などの発現レベルが有意に高く、組織レジデントメモリー細胞を豊富に含むことが示された。これらの機能解析により、HLA-class I-edited HPV-rejTはTGF-βシグナリングによりCD103発現レベルを上昇させ、その結果、抗原特異的細胞傷害活性が増強することが明らかとなった。現在、HLA-class I-edited HPV-rejTを用いた治療の安全性を評価する医師主導第I相試験が進行中である。 安藤氏はiPS細胞由来の抗原特異的、そしてHLA編集細胞が、off the shelfのT細胞療法に、持続可能で有望なアプローチを提供するものと期待されると締めくくった。

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