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第270回 絶句の連続…某党が掲げる医療政策

東京都内が猛暑日を迎える中、街中が賑わしい。7月3日に第27回参議院選挙が公示されたからだ。前哨戦とも言われた東京都議選で国政・都政与党の自民党は大敗、公明党も議席を減らし、立憲民主党、国民民主党、参政党が議席増。とくに国民民主党と参政党は前回議席なしから、それぞれ9議席、3議席を獲得した。なかでも参院選を前に過去1週間以内に発表された世論調査で支持率(共同通信は参院選比例投票先)を伸長させているのが参政党で、その支持率はNHKが4.2%、JNN(TBS系列)が6.2%、ANN(テレビ朝日系列)が6.6%、NNN(日本テレビ系列)・読売新聞、朝日新聞がそれぞれ5%、共同通信が8.1%。共同通信調査では自民党に次ぐ第2位、JNN、ANN、NNN・読売新聞の調査で自民党、立憲民主党に次ぐ第3位(国民民主党とタイ)、NHK、朝日新聞の調査で第4位である。本連載では過去から国政選挙時に各政党の政策を取り上げているが、今回はまず急激に支持を広げる参政党の医療・介護政策について、より詳細に見ていきたいと思う。社会保険料を疾患一次予防で削減?昨年の衆議院選挙では「日本をなめるな」、そして今回は「日本人ファースト」をスローガンに掲げる同党。今回はこのスローガンの下に「3つの柱と9つの政策」を謳い、この各柱の下に3つずつ政策が連なっている。まず、「1の柱 日本人を豊かにする~経済・産業・移民~」では、「政策1 “集めて配る”より、まず減税」で、▽対症療法から予防医療への転換で支出を最適化し、社会保険料の負担を軽減▽消費税減税と社会保険料軽減によって国民負担率上限35%の実現を提言している。後者は前回の衆議院選挙でも同党が掲げた政策だが、当時はその方法論を明示はしていなかった。今回、国政選挙でその一端を明示したわけだが、率直に言ってのっけから???である。まず、同党の政策でいう「予防」が「一次予防」を意味するのか、「二次予防」を意味するのかは文言だけでは判別不能である。もっとも一般人がイメージする「予防」の多くは「一次予防」だろう。その前提で考えてみる。世の中に存在する疾患の中には、そもそも原因すら不明で予防策すら見つからないものは多々ある。難病はその典型である。しかも、難病では近年、新たな治療薬の開発・上市も進んでいるが、その多くは高額である。少なくともこの領域では予防も医療費の最適化も困難である。では、ほかの疾患についてはどうか? 端的に言えば、理論上予防対策がある疾患は存在するが、それを具体的に国策に落とし込めるか否かは別問題である。ここで2023年に国立がん研究センターと国立国際医療研究センターが共同で行った、がん予防の経済効果(がんによる経済的負担と生活習慣や環境要因など予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担を推計)に関する研究を引用してみたい。同研究によると、予防可能なリスク要因に起因するがんの経済的負担は約1兆240億円。予防可能な主なリスク要因別の経済的負担は、「感染」が約4,788億円、「能動喫煙」が約4,340億円、「飲酒」が約1,721億円と推計されている。このうち感染、すなわちヘリコバクター・ピロリ菌による胃がん、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がん・中咽頭がんは、ある意味で政策には落とし込みやすいとは言える。とはいえ、定期接種であるHPVワクチンも最終的に接種するかどうかは個人の意思であり、完全なコントロールは不能である。そして喫煙、飲酒はどうするのか? 究極はタバコ、酒の販売禁止しか方策はない。こう言うと、いまだに「酒は多少ならば…」と言い出す人もいるが、昨今の研究では飲酒は量の多少にかかわらず、がんをはじめとする各種疾患のリスクになり得るという研究が明らかになっている。「運動不足」「過体重」に至っては、国として実効性のある政策に落とし込むことすら難しいだろう。政策で国民に運動の励行を半ば強制するならば、もはや北朝鮮のマスゲーム状態である。また、仮にこれらを完全に実行できたとしても、社会保険料の引き下げという形で国民に恩恵をもたらすのは、おそらく数十年後である。確かに疾患予防は理想的ではあるが、それを政策化して定着させるためには、がんに限ってもいくつもの壁がある。また、それ以前に予防に関するエビデンスもいまだ十分とは言えない。このように少なくとも公党が政策として“予防”を掲げる環境にはなく、それでもなお掲げるのであれば、より具体的な政策まで落とし込んだ提案が必要であり、率直に言って、今回の参政党が掲げた内容はファッションの域を出ないというのが個人的な印象である。争いを起こしたいの?そして「2の柱 日本人を守り抜く〜食と健康・一次産業〜」では、「政策5 GoToトラベルで医療費削減」と謳い、▽一定期間、健康を維持し、医療費削減に貢献された高齢者に対し、国内旅行で使えるクーポン券を支給する「Go To トラベルによる医療費削減インセンティブ制度」を創設▽制度導入時に予防医療のエビデンスに基づいたサービスを健康保険の対象とする制度改革も実施と提言している。「Go To トラベルによる医療費削減インセンティブ制度」だが、そもそも加齢により生理機能が低下している高齢者で、何をもって「一定期間、健康を維持した」と定義するかが不明である。ただ、想像するに各種検査値の正常維持を念頭に置いているのではないだろうか? 少なくとも一定期間の健康維持を国の政策として採用するならば、明確な数値が必要だからだ。しかし、それはあまりにも無理があると言わざるを得ない。たとえば血圧値で考えれば、とくに乱れた日常生活を送っていなくとも、加齢とともに上昇するのは医療者ならばご存じのとおり。また、個々人ごとの遺伝的な体質の違いもあり、検査値の正常を維持したくともできない人もいるのである。その中で「健康」と「不健康」を分け、しかもそこにインセンティブを国として与えようなどと言うのは、高齢者内の分断を生む愚策でしかない。頑張ってもクーポン券をもらえない高齢者は、もらえた高齢者をどんな目で見つめるのだろうか?この政策を目にして、あるドラマのワンシーンを思い出した。TBSを代表するドラマ「3年B組金八先生」だ。三者面談の際に自分の成績に見合わない高い志望校を提示した生徒と母親に、武田 鉄矢氏が扮する坂本 金八と石黒 賢氏が扮する副担任の新米教師・真野 明が対峙する。希望する志望校にやや難色を示す金八と真野の前に母親が偏差値60を超えた塾での成績表を見せると、真野が笑いながら「まぐれじゃないのか?」と応じると、母親は「何で褒めてくださらないのですか? 塾の先生は60超えた生徒にはハンバーガーをご馳走してくれるのに…」と食い下がる。この面談を終えた後に、問わず語りのように金八先生が真野先生に語るシーンがある。「しかし塾の先生も本当にむごいことするな。ハンバーガーをおごってもらえなかった。子供の気持ちこそが問題なんだよ。たかだか200円か300円の代物だよ。しかし、おごってもらえなかった子供は食っとるやつをじっと見とるよ。腹の中じゃな、ぶっ殺してやりたいと思いながら食っとるやつを眺めとる。そしてハンバーガーを食うたんびに、その悔しさを思い出すんだよ。ハンバーガーをおごってもらえない子供たち、その大多数がわれわれの教え子だ。しかし、この大多数こそが社会に出ると無口で実に誠実な労働者になる。そして彼らこそが日本を日本の社会を支えてるんですよ。ですから、食い物で釣っちゃいかん、食い物で差別しちゃいかん」(3年B組金八先生シリーズ3 第10話「進路決定・三者面談1」より 全文ママ)まったく同じことがこの件でも言えるのではないだろうか???????さらに「2の柱」では、「政策6 金儲け医療・WHOパンデミック条約に反対」という項目もある。この内容を箇条書きすると、▽感染症の再発防止やまん延防止のための独立した国内機関を設立▽国際機関の勧告が日本の国情や科学的知見に合致しない場合に国内判断を優先する主権的対応を制度化▽危険性の高い病原体を扱う研究施設については、居住地や都市部から十分な距離を確保する立地規制▽ワクチンや治療薬の安全性・有効性は利益相反のない第三者機関による評価を義務付ける制度を整備となる。一番目はすでに自公政権下でこの4月から発足した「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」に近いものかもしれないが、「独立した」という表現からすると、行政機関からも独立したものを想定しているのかもしれない。しかし、より充実した感染症対策を進めるには膨大な予算が必要であり、完全民営の機関設立は現実的とは言えない。3番目についてはバイオセーフティレベル4(BSL4)施設のことを意味していると考えられ、一定の理解もしうるが、人里離れた地域では土砂災害などの危険性も考慮しなければならず、住宅地などから距離を取ればよいという単純なものではない。だが、これ以上に問題なのは2番目と4番目である。そもそも国境を越えた人の往来が活発化している中で、感染症対策を一国独自主義で対応することそのものがナンセンスであることは、すでに新型コロナウイルス感染症のパンデミックで証明済みである。「日本の国情や科学的知見」と言うが、「日本の国情」はまだしも「日本の科学的知見」とはなんぞや?と首をかしげてしまう。そもそも新興感染症では各国とも国際機関と連携しながら科学的知見を共有・統一するのが原則である。そのなかで日本だけの独自の科学的知見と言ってしまうのは、まるで「1+1」の答えが国境を超えると変わるかのような言いっぷりである。そして4番目だが、国の医薬品・ワクチンの承認審査での利益相反管理をまるで知らないかのようだ。もはや、どこぞの国のACIP委員総入れ替え問題を彷彿とさせるレベルの話である。以上をざっくりまとめるならば、医療に対する「ド素人の戯言」である。

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Capnocytophaga spp.【1分間で学べる感染症】第29回

画像を拡大するTake home messageCapnocytophaga spp.は、脾機能低下患者において敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことのある重要な起因菌である。今回は、とくに脾機能低下患者において重篤な病態を引き起こす可能性のあるCapnocytophaga spp.(カプノサイトファーガ属細菌)に関して一緒に学んでいきましょう。種類Capnocytophaga属にはC. canimorsus、C. sputigena、C. cynodegmiなどが含まれ、全部で9種類存在します。これらは動物由来(zoonotic)とヒト口腔内常在菌(human-oral associated)の2つに分類されます。C. canimorsusはイヌやネコの咬傷によってヒトに感染することが多い一方で、C. gingivalis、C. sputigenaはヒトの口腔内に存在します。微生物学的特徴Capnocytophaga spp.は通性嫌気性のグラム陰性桿菌であり、発育が遅いのが特徴です。また、グラム染色では特徴的な紡錘型を示すとされています。さらに、莢膜を持つことは微生物学的にも臨床上も重要なキーワードです。莢膜を持つことが、後から述べる解剖学的または機能的無脾症患者において重篤な病態を引き起こす理由となっています。リスク因子Capnocytophaga spp.による感染症のリスク因子として、解剖学的または機能的無脾症、血液悪性腫瘍、過度のアルコール摂取、肝硬変が挙げられます。無脾症患者や肝疾患のある患者は、脾臓が担う莢膜菌に対するオプソニン化と貪食促進の欠如により感染症が重症化しやすいため、早期の診断と治療が求められます。臨床像Capnocytophaga spp.は、動物由来であればイヌやネコなどの動物咬傷による皮膚軟部組織感染、また重篤な場合は敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことがあります。一方、ヒト口腔内常在菌によるものでは、血液悪性腫瘍患者における好中球減少性発熱やカテーテル関連感染症などを来します。それぞれのリスクに応じて、これらを鑑別疾患に挙げる必要があります。薬剤感受性Capnocytophaga spp.は一般的にβ-ラクタム/β-ラクタマーゼ阻害薬に感受性を示します。具体的には、アンピシリン/スルバクタムやタゾバクタム/ピペラシリン、また、セフトリアキソン、カルバペネム系抗菌薬も有効です。一方で、フルオロキノロン系抗菌薬に対しては50%の耐性を示すことが報告されているため、治療選択の際には注意が必要です。上記のリスクを有する患者で動物咬傷の病歴があったり、血液悪性腫瘍患者で血液培養からグラム陰性桿菌を見たりした際には鑑別疾患の1つとしてCapnocytophaga spp.による菌血症を挙げ、治療を遅らせないことが重要です。1)Jolivet-Gougeon A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2000;44:3186-3188.2)Butler T. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015;34:1271-1280.3)Chesdachai S, et al. Open Forum Infect Dis. 2021;8:ofab175.

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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HPVの自己採取検査の郵送は検診受診率を高める

 女性にヒトパピローマウイルス(HPV)感染の有無を調べるために、検体を自分で採取する自宅用検査を郵送で提供したところ、電話のみで検診を促す場合と比べて、子宮頸がん検診の受診率が2倍以上に増加したことが新たな研究で示された。論文の筆頭著者である米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJane Montealegre氏は、「本研究結果は、自宅用検査が子宮頸がん検診へのアクセスを向上させ、ひいては米国における子宮頸がんの負担を軽減する解決策となる可能性を示している」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に6月6日掲載された。 子宮頸がんは、ほぼ全てがHPVによって引き起こされる。本論文の付随論評によると、米国では毎年約1万1,500人の女性が子宮頸がんと診断されている。その半数以上は、HPV検査を受けたことがないか、まれにしか受けていないという。クリニックでの子宮頸がん検診はほとんどの場合、骨盤の内診により行われるが、一部の女性はこの手法に不快感やストレスを感じる可能性があると論評は指摘している。また、検査を受けるための時間を確保し、クリニックまで行く方法を見つける必要もある。 HPVワクチン接種と医療機関での検診の普及によって子宮頸がんの罹患率は大幅に低下したものの、人種や地域、所得による格差は根強く残っている。2025年5月、米食品医薬品局(FDA)は、子宮頸がんの初の自宅用検査を承認した。今回の研究は、この検査がリアルワールドでどのように機能するかを調べる目的で実施された。対象は、米ヒューストン地域在住の30〜65歳の女性2,474人(平均年齢49歳)で、そのほとんど(94%)は人種・民族的マイノリティに属していた。研究グループはこれらの女性を、1)医療機関での子宮頸がん検診受診を促す電話をかける、2)電話に加え自宅用検査キットを郵送する、3)電話と検査キットの郵送に加え、キットが返送されない場合にフォローアップの電話をかける、のいずれかの群にランダムに割り付けた。 ランダム化から6カ月後での子宮頸がん検診の受診率は、電話のみの群では17.4%(144/828人)であったのに対し、電話+キット郵送の群では41.1%(340/828人)、電話+キット郵送+フォローアップ電話の群では46.6%(381/818人)であったことが明らかになった。受診率は、電話のみを受けた群に比べて、電話+キット郵送の群では2.36倍、電話+キット郵送+フォローアップ電話の群では2.68倍高かった。 検査キットを郵送され検診を受けた女性のうち、84.6%(609/721人)が自己採取した検体を返送していた。それらの女性の13.8%(84/609人)は高リスク型HPV検査で陽性反応を示し、追加検査が必要になった。 Montealegre氏は、「米国で自宅用HPV検査が利用可能になるにつれ、それをどのように展開していくかの指針となるデータを集めることが極めて重要になる」と述べ、医療を受ける障壁が最も高い人々をケアする診療所や医療センターでこの検査を利用できるようにすることの重要性を強調している。 研究グループは今後、さまざまなプライマリケアの現場にこの検査をどのように統合するかを検討する予定だ。付随論評を執筆した米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のEve Rittenberg氏は、「自宅用HPV検査の目下の課題は、臨床の現場で安全かつ効果的に導入するための方法だ。特に、異常な結果が出た場合に、臨床医と医療制度がどうすれば適切なタイミングでフォローアップ検査と治療を提供できるかについては明確になっていない」と述べている。

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第274回 有毒な難分解性物質PFASを吸収する腸内細菌を発見

有毒な難分解性物質PFASを吸収する腸内細菌を発見妊娠困難、小児の発達遅延、がんや心血管疾患を生じやすくするなどの数々の害と関連し、便利だけれども分解し難くて環境中や体内にずっと居座る厄介な難分解性化学物質・PFAS(ピーファス)を吸収して糞中に排泄しうる腸内細菌を、ケンブリッジ大学の科学者らが発見しました1,2)。ヒトの腸内のそれらの細菌を底上げすることで、PFASの害をやがては防げるようになるかもしれません。人工の化学物質の環境汚染はもはや安全な水準を超えているかもしれません。水や農業システムの広範囲に及ぶ汚染によって数多の環境汚染物質が食物に吸収され、それらを食する人間の体内に入り込んでいます。そういう環境汚染物質の中で永続化学物質(forever chemical)との異名でも知られるPFASはとくに心配です。消火剤の泡、防水服、食材が張り付かない調理器具、口紅、食品包装などの工業や店頭のありとあらゆる製品に使われている4,730種類の化合物がPFASに属し、近代社会に不可欠なものとなっています。PFASが引っ張りだこなのは、炭素-フッ素(C-F)結合の強度に由来する他に類を見ない安定性と強力な親水/疎水性基に由来する界面活性剤様の便利な特徴によります。しかしそれらの特徴は諸刃の剣でもあり、長く分解されずに環境や人体に蓄積して健康を害します。PFASは数日で尿中に放出されるものもありますが、長い分子構造のものは体内に何年も留まる恐れがあります。PFASの健康への負担は莫大なようです。たとえば欧州全域の年間のPFAS絡みの医療費は実に500~800億ユーロにも達すると試算されています。その欧州や米国での血中PFAS検出率は高く、飲水のPFASを抑えることやPFASの使用を制限することが計画されています。しかし世界的な取り組みにはなっていません。環境中に長くとどまるPFASの効率良い除去法はいまのところありませんが、しかしよい兆しもあり、PFAS汚染地で見つかったシュードモナス属の細菌にPFASを収集する能力があることが判明しています3)。また、乳酸菌がPFASと結合してPFASの毒性を緩和しうることも示唆されています4)。それらの先立つ成果を踏まえてケンブリッジ大学のKiran Patil氏らは人体の腸内細菌とPFASの関わりを検討し、PFASを盛んに吸収しうる38の細菌株の発見にこぎ着けました。それらのうちPFASを最も蓄積するいわばエリート細菌株5種類をマウスの腸に導入したところ、糞中のPFAS排泄が増加し、腸の細菌がPFASを蓄積して体外へと排出しうることが裏付けられました。しかしその結果はあくまでも一回きりのPFAS投与の結果であり、次の課題としてPFASの摂取とその血中濃度、尿や糞中への排泄、微生物組成の長期間の推移を検討する必要があります。Patil氏らは体内のPFASを取り除く微生物を開発する企業であるCambiotics社5)を早くも設立し、目当ての微生物の性能を格段に飛躍させる手段を検討しています2)。 参考 1) Lindell AE, et al. Nat Microbiol. 2025;10:1630-1647. 2) Gut microbes could protect us from toxic ‘forever chemicals’ / Eurekalert 3) Presentato A, et al. Microorganisms. 2020;8:92. 4) Chen Q, et al. Environ Int. 2022;166:107388. 5) Cambiotics社ホームページ

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2日目のカレーは食中毒のリスク

翌日のカレーで多い食中毒はウエルシュ菌食中毒●原因と感染経路原因菌は、ヒトなどの大腸内常在菌で下水、耕地などに広く分布するウエルシュ菌(図)。ウエルシュ菌食中毒は、エンテロトキシンにより発症する感染型食中毒であり、年20~40件(平均28件)程度あるが、1事件当たりの平均患者数は83.7人で、他の細菌性食中毒に比べ、圧倒的に多く、大規模事例が多い。食中毒の発生場所は、給食施設などで、主な原因食品は、カレー、スープ、肉団子などがある。●主な症状潜伏時間は通常6~18時間(平均10時間)で、喫食後24時間以降に発病することはほぼない。主要症状は腹痛と下痢。下痢の回数は1~3回/日程度のものが多く、主に水様便と軟便。腹部膨満感が生じることもあるが、嘔吐や発熱などの症状はきわめて少なく、症状は一般的に軽く1~2日で回復する。●治療や予防法特別な治療方法はなく、治療は対症療法が主体。予防は食品中の菌の増殖防止であり、加熱調理食品は小分けするなどして急速冷却し、低温で保存する。保存後に喫食する場合は充分な再加熱を行う。また、前日調理、室温放置は避けるべきである。●その他注意する点ウエルシュ菌が産生する溶血毒のために急死する敗血症例もある。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト ウエルシュ菌感染症より引用(2025年7月4日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第269回 某党のもう1人の爆弾候補、反ワク発言はノリなのか!?

連休ど真ん中の参院選挙7月3日、ついに参議院選挙が告示された。政治が流動化する中で、報道で政党として注目を浴びているのは、最大与党である自民党と昨年の衆院選で躍進した野党の国民民主党ぐらいである。国民民主党は国政でキャスティングボードを握り始めていたが、NHKの世論調査による政党支持率では、今年3月調査で最大野党の立憲民主党(以下、立民)を超えたものの、その後は緩やかに支持率が低下し、5月調査では立民に再逆転を許した。6月調査では前月比0.4%増の5.8%だったが、立民の2.6%増の8.4%に比べ停滞している。ここ最近の停滞については、旧民進党時代に不倫疑惑が持ち上がった山尾 志桜里氏を今回の参議院選挙の比例代表候補として公認することを5月に発表したものの、6月に山尾氏が開いた釈明会見に批判が集まり、その直後に山尾氏の公認を見送ったというドタバタが影響しているとも伝わる。国民民主党、世間を賑わすもう1人の公認実は国民民主党が今回の参議院選挙に際して、もう1つの“爆弾”を抱えていたことは、医療者の間では知っている人も少なくないだろう。過去に立憲民主党の比例代表で当選経験があり、山尾氏と同じく5月に同党の比例代表候補として公認された元格闘家の須藤 元気氏である。須藤氏はコロナ禍後、mRNAワクチンに懐疑的な発信をSNSのX(旧Twitter)で続けてきたことで知られる。たとえば以下のような感じだ。「世界中でストップしたワクチン接種をわが国だけが続けていると言う異常事態」(2023年10月26日)「透明性を示さないのにどうやってコロナワクチンの安全性を国民に理解してもらうんでしょうか。これ以上被害を増やさないためにも中止すべきです」(2023年12月12日)「ワクチン接種前に、そのリスクについてきちんとした説明を受けた方はいらっしゃるでしょうか。国が説明責任を果たしていなかったと考える方は少なくないでしょう。ワクチン接種から超過死亡数が急増したいま、国家が賠償責任を問われても当然だと思います」(2024年4月18日)「風邪に対してリスクのあるワクチンは、もはや不要なのではないでしょうか」(2024年8月31日)「報告されている健康被害の数を考えると、現在も接種が継続されている状況には疑問を感じざるを得ません」(2025年4月5日)ざっと並べただけでも以上である。すべてを書き出せば、本連載10回分はゆうに超えるだろう。その須藤氏を国民民主党が公認したゆえに、代表である玉木 雄一郎氏のXにも批判が相次いだ。須藤氏は公認発表当日、以下のような内容をX上で公表している。「2. ワクチンなど医療分野について 『副反応への懸念』を発信していましたが、ワクチンの重症化予防効果等を含めて科学的根拠を否定する立場ではありません。党の“科学的知見と透明性重視”の方針に従います。 その決意の証として、国民民主党から提示された確認書にサインして、党に提出しました。党として決定した事項に反する行動は取りません」コロナワクチンの反対姿勢はいずこへ須藤氏はこの件についてメディアからの直撃を受けたこともあったが、真正面からの回答は避けてきた。しかし、6月30日、都内での同党の街頭演説会終了後のぶら下がり会見と同日公開された同党衆院議員で救急医の福田 徹氏のYouTubeチャンネル「救急医政治家・福田とおるチャンネル」に動画「【国民民主党】須藤元気さんに科学の大切さを伝えました」で初めてワクチンについて釈明した。前者のぶら下がり会見について、ネット上で公開されていた動画では以下のようなやり取りが行われている。今、玉木代表におっしゃっていただいたように私自身のコロナ禍におけるワクチンについて(の発言は)科学的根拠に乏しいというご指摘を頂きました。その点については本当に深く反省しております。そして私の発信によりその当時本当に一生懸命働いてきた医療従事者の方々に心身ともに大きな負担をおかけしたことを、心からお詫び申し上げます。私自身、ちょっと経緯をお話ししますと、当時コロナ禍はまだよくわからない、いろいろなことがよくわからない状況下の中で、(ワクチンの?)リスクに対しては不安を持っていたのは確かです。その不安を持っている中、因果関係はわからないんですが、私自身の友人が接種後に職場で倒れて亡くなるという、残念でしたし、本当に悔しかったです。その不安がより強化され、その後ワクチン接種後の健康被害に遭われた方にお会いしたり、リスクに対して警鐘を鳴らす学者の方にお話を聞いたりして、私自身、その問題に対して一層深まった(?)のは事実であります。そうした中で国会議員として、やはり中立な立場でいなきゃいけない、何事もリスクとベネフィットがある中で、発信していかなければいけないというのは、自分なりには認識しつつ、ニュース記事の引用であったり、学者の方の言葉を引用して発信していたつもりですが、私自身の言葉足らずであったり、その中には事実と反するものがあるということは、改めて反省しております。国民民主党は、科学的根拠に基づいた実効性の高い感染症対策、公衆衛生政策というものを追求する党だと認識しております。私自身もその党の一員としてしっかりと国民の健康と命を守れるように、今後頑張っていきたいと思います。【記者】須藤さんは反ワク、反原発と言ったことは一度もないというふうにずっとおっしゃり続けていますが、そう捉えても仕方がないような発言が過去はありました。国民民主から出るにあたって、そして専門家の話を聞いた後で、その考えは完全に改まった、今はまったく違う考え方だとおっしゃっているんでしょうか。【須藤】そうですね。反ワクでも私はコロナ禍におけるワクチン以外のすべてのワクチンに対して反対だといったこと、自分は一度もありません。【記者】ワクチンに関しては、世の中にはまだ不安を抱く人、陰謀論とかいろんなものがあると思いますけど、今後再び国会議員という立場になった時には、そういう物の見方に対してはどのように対応していかれますか?【須藤】国民民主党の一員として科学的根拠に基づいた実効性のある感染症対策をやっていくべきだというのを認識しているので、党の仲間と共に発信していきたいと思います。【記者】須藤さんは過去にSNS上にコロナウイルスのワクチン接種で死者が急増したなどの書き込みがありましたが、そうした過去の発信については取り消されるということでよろしいでしょうか?【須藤】そうですね。ただ、決してなかったことにするということはするつもりはありません。もちろん説明責任が必要だと思いますので、ツイートに対しては今後どういうふうにしていくか検討していきたいと思います。【記者】須藤さんが発信したことによって何万リツイートもされているようなものもあるのですが、そういった情報発信をしたことに対しての責任についてはどのようにお考えですか?【須藤】事実に基づいていないものに関しては反省しています。二度とそういうことをしないように党の仲間と共に前に進んでいきたいと思います。この中で語られた友人の件については、一定程度理解はしようと思うのだが、ならばそれほど強い思いがあったのにここまで180度転換すると、個人的にはちょっと理解不能である。約8ヵ月前には、米国・保健福祉省長官にケネディ氏が就任したニュースを引用しながら、こんなつぶやきもXで披露している。「ケネディさんは長年、ワクチンの安全性に関する懸念を提起してきたので、(米国において)政策の見直しやワクチンに対する透明性と安全性が今まで以上に厳しく問われるはずです」立民の比例代表候補として6年前に当選してからこれまで彼が勉強していたことは、一夜にしてガラッと変わるほどのものだったのか?これは極めつきの私見なのだが、須藤氏のSNS発信、とくに最近国民民主党入りしてからの選挙活動の手伝いの映像を見ていると思うことがある。彼自身は元々格闘家だっただけあって、その名の通り映像で見える活動は元気いっぱいでノリがいい。それゆえにワクチンに懐疑的なスタンスも、国民民主党入りとその後の“転向”もすべてノリで動いていないか? と思ってしまうのだ。さてこうした須藤氏をどう評価するかは有権者次第である。いずれにせよ2週間強で結果は判明する。

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脂肪性肝疾患の診療のポイントと今後の展望/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年登場する糖尿病治療薬は、血糖降下、体重減少作用だけでなく、心臓、腎臓、そして、肝臓にも改善を促す効果が報告されているものがある。 そこで本稿では「シンポジウム2 糖尿病治療薬の潜在的なポテンシャル:MASLD」より「脂肪性肝疾患診療は薬物療法の時代に-糖尿病治療薬への期待-」(演者:芥田 憲夫氏[虎の門病院 肝臓内科])をお届けする。脂肪性肝疾患の新概念と診療でのポイント 芥田氏は、初めに脂肪性肝疾患の概念に触れ、肝疾患の診療はウイルス性肝疾患から脂肪性肝疾患(SLD)へとシフトしていること、また、SLDについても、近年、スティグマへの対応などで世界的に新しい分類、名称変更が行われていることを述べた。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれてきた疾患が、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)へ変わり、アルコールの量により代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated[alcohol-related] liver disease:ALD)に変更された。 MASLDの診断は、3つのステップからなり、初めに脂肪化の診断について画像検査や肝生検で行われる。次に心代謝機能の危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の有無(1つ以上)、そして、他の肝疾患を除外することで診断される。CMRFでは、BMIもしくは腹囲、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールの基準を1つ以上満たせば確定診断される。とくに腹囲基準の問題については議論があったが、腹囲はMASLD診断に大きく影響しないということで現在は原典に忠実に「男性>94cm、女性>80cm」とされている。 肝臓の診療で注意したいのは、肝臓だけに注目してはいけないことである。エタノール摂取量別に悪性腫瘍の発症率をみるとMASLDで0.05%、MetALDで0.11%、ALDで0.21%という結果だった。アルコール摂取量が増えれば発がん率も上がるという結果だが、数字としては大きくないという。現在は4人に1人が脂肪肝と言われる時代であり、いずれSLDが肝硬変の1番の原因となる日が来ると予想されている。 また、MASLDで実際に起きているイベントとしては、心血管系イベントが多いという。自院の統計では、MASLDの患者で心血管系イベントが年1%発生し、他臓器悪性疾患は0.8%、肝がんを含む肝疾患イベントが0.3%発生していた。以上から「肝臓以外も診る必要があることを覚えておいてほしい」と注意を促した。 その一方で、わが国では心血管系イベントで亡くなる人が少ないといわれており、その理由として健康診断、保険制度の充実により早期発見、早期介入が行われることで死亡リスクが低減されていると指摘されている。「肝臓に線維化が起こっていない段階では、心血管系リスクに注意をする必要があり、線維化が進行すれば肝疾患、肝硬変に注意する必要がある」と語った。 消化器専門医に紹介するポイントとして、FIB-4 indexが1.3以上であったら専門医へ紹介としているが、この指標により高齢者の紹介患者数が増加することが問題となっている。そこで欧州を参考にFIB-4 indexの指標を3つに分けてフォローとしようという動きがある。 たとえばFIB-4 indexが1.3を切ったら非専門医によるフォロー、2.67を超えたら専門医のフォロー、その中間は専門・非専門ともにフォローできるというものである。エコー、MRI、採血などでフォローするが、現実的にはわが国でこのような検査ができるのは専門医となる。 現在、ガイドライン作成委員会でフローチャートを作成しているところであり、大きなポイントは、いかにかかりつけ医から専門医にスムーズに紹介するかである。1次リスク評価は採血であり、各段階のリスク評価で専門性は上がっていき、最後に専門医への紹介となるが、検査をどこに設定するかを議論しているという。MASLDの薬物治療の可能性について 治療における進捗としては、MASLDの薬物治療薬について米国で初めて甲状腺ホルモン受容体β作動薬resmetirom(商品名:Rezdiffra)が承認された。近い将来、わが国での承認・使用も期待されている。 現在、わが国でできる治療としては、食事療法と運動療法が主流であり、食事療法についてBMI25以上の患者では体重5~7%の減少で、BMI25未満では体重3~5%の減少で脂肪化が改善できる。食事療法では地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)が勧められ、炭水化物と飽和脂肪酸控えめ、食物繊維と不飽和脂肪酸多めという内容である。米国も欧州も地中海食を推奨している。 自院の食事療法のプログラムについて、このプログラムは多職種連携で行われ、半年で肝機能の改善、体重も3~5%の減少がみられたことを報告した。すでに1,000人以上にこのプログラムを実施しているという。また、HbA1c、中性脂肪のいずれもが改善し、心血管系のイベント抑制効果が期待できるものであった。そして、運動療法については、中等度の運動で1日20分程度の運動が必要とされている。 基礎疾患の治療について、たとえば2型糖尿病を基礎疾患にもつ患者では、肝不全リスクが3.3倍あり、肝がんでは7.7倍のリスクがある。こうした基礎疾患を治療することで、これらのリスクは下げることができる。 そして、今注目されている糖尿病の治療薬ではGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、肝炎の活動性と肝臓の線維化の改善に効果があり、主要評価項目を改善していた。このためにMASLDの治療について、わが国で使われる可能性が高いと考えられている。 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、第II相試験でMASLDの治療について主要評価項目の肝炎活動性の改善があったと報告され、今後、次の試験に進んでいくと思われる。 SGLT2阻害薬について、自院では5年の長期使用の後に肝生検を実施。その結果、「肝臓の脂肪化ならびに線維化が改善されていた」と述べた。最大の効果は、5年の経過で3 point MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)がなかったことである。また、これからの検査は肝生検からエコーやMRIなどの画像検査に移行しつつあり、画像検査は肝組織をおおむね反映していたと報告した。 おわりに芥田氏は、「MASLDの診療では、肝疾患イベント抑制のみならず、心血管系のイベント抑制まで視野に入れた治療の時代を迎えようとしている」と述べ、講演を終えた。

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進行肛門扁平上皮がん、標準治療vs. retifanlimab上乗せ/Lancet

 プラチナ製剤化学療法中に病勢進行した進行肛門管扁平上皮がん(SCAC)において、retifanlimabは抗腫瘍活性を示すことが報告されている。英国・Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのSheela Rao氏らPOD1UM-303/InterAACT-2 study investigatorsは、本疾患の初回治療における、カルボプラチン+パクリタキセル療法へのretifanlimab上乗せを前向きに評価する、第III相の国際多施設共同二重盲検無作為化対照試験「POD1UM-303/InterAACT-2試験」を行い、臨床的ベネフィットが示され、安全性プロファイルは管理可能であったことを報告した。著者は、「結果は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法が、進行SCAC患者に対する新たな標準治療と見なすべきであることを示すものであった」とまとめている。Lancet誌2025年6月14日号掲載の報告。日本を含む12ヵ国70施設で試験 POD1UM-303/InterAACT-2試験は、EU、オーストラリア、日本、英国、米国の12ヵ国70施設で行われた。対象者は、18歳以上、切除不能の局所再発または転移のあるSCACでECOG performance status が0または1、全身療法歴なし、HIVのコントロール良好(CD4陽性Tリンパ球数200/μL超、ウイルス量検出限界未満)な患者を適格とした。 被験者は、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセルに加えてretifanlimab 500mgまたはプラセボを4週ごと静脈内投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、最長1年間投与された。プラセボ群の被験者は、病勢進行が確認された場合にretifanlimab単独投与への切り替えが可能であった。 主要評価項目は、RECIST 1.1に基づく独立中央判定の無増悪生存期間(PFS、すなわち無作為化の日から最初に記録された病勢進行またはあらゆる原因による死亡の日まで)とした。有効性はITT集団で評価した。PFS中央値はretifanlimab群9.3ヵ月、プラセボ群7.4ヵ月、HRは0.63 2020年11月12日~2023年7月3日に、376例が適格性の評価を受け、308例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)またはプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(154例)に無作為化された。222/308例(72%)が女性で、86/308例(28%)が男性であった。 PFS中央値は、retifanlimab群9.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~11.3)、プラセボ群7.4ヵ月(7.1~7.7)であった(ハザード比[HR]:0.63[95%CI:0.47~0.84]、片側p=0.0006)。 重篤およびGrade3以上の有害事象は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群(47.4%および83.1%)がプラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群(38.8%および75.0%)より発現頻度が高かった。最も多かったGrade3以上の有害事象は、好中球減少症(それぞれ35.1%vs.29.6%)および貧血(19.5%vs.20.4%)であった。 致死的有害事象4例がretifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル群で発現したが、治療に関連したものは1例(汎血球減少症)のみであった。また、プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル群では致死的有害事象が1例発現したが、治療に関連していなかった。

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高齢者の夜間頻尿、改善のカギは就寝時間か

 夜間頻尿は特に高齢者を悩ませる症状の一つであり、睡眠の妨げとなるなど生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすことがある。今回、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、高齢者の夜間頻尿が改善する可能性があるとする研究結果が報告された。研究は、福井大学医学部付属病院泌尿器科の奥村悦久氏らによるもので、詳細は「International Journal of Urology」に4月26日掲載された。 夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状、と定義されている。主な原因としては、夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害が知られている。疫学研究により、夜間頻尿はあらゆる年齢層における主要な睡眠障害の一因であり、加齢とともにその有病率が上昇することが示されている。加齢に伴う睡眠障害の一つの特徴として、就寝時間が早まる傾向がある。その結果、高齢者では総睡眠時間は延長するものの眠りが浅くなり、軽い尿意で覚醒するようになる。しかし、睡眠障害の治療が夜間頻尿の改善につながることを示唆する前向き臨床試験の報告は限られている。このような背景を踏まえ著者らは、就寝時刻を調整することで高齢者の夜間頻尿が改善するという仮説を立てた。 本研究では、睡眠・覚醒活動を測定するウェアラブルデバイスを患者に装着して就寝してもらった。得られた1週間分の就寝時刻、中途覚醒時間のデータから、最急降下法を応用して考案した独自のアルゴリズム(特許出願中)を用いて患者ごとに適切な就寝時刻を決定し、その時刻に就寝する生活を続けることによる夜間頻尿の変化を検証した。解析対象は、2021年4月~2023年12月にかけて、夜間頻尿を主訴として福井大学附属病院とその関連病院を受診した患者33名とした。患者を交互割り付けで4週間毎の介入→非介入群と非介入→介入群の2群に分け、それぞれに対し2週間のウォッシュアウト期間を設けるクロスオーバー試験を実施した。介入期間中は、上記方法で決定した個別の就寝時刻に就寝してもらい、排尿状態は各期間の前後3日に記録した排尿日誌を、睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いてそれぞれ評価した。主要評価項目は夜間排尿回数(Nocturnal urinary frequency;NUF)の変化量とし、副次評価項目は夜間尿量(Nocturnal urine volume;NUV)、就寝から第一覚醒までの時間(Hours of undisturbed sleep;HUS)、NUV(NUV per hour;NUV/h)、PSQIなどの変化量と設定した。変化量はrepeated measures ANOVAで評価した。 解析対象は、新型コロナウイルス感染症流行に伴う移動制限、生活習慣の変化などの理由により9名を除外した24名となった。対象の平均年齢は79.7±5.6歳であり、男性17名、女性7名であった。介入前の対象群の平均就寝時刻は21時30分で、介入後は22時11分となり、24人中22人が就寝時間を遅らせる結果となった。 介入期間中のNUFは、非介入期間と比較して有意に減少した(-0.90回 vs -0.01回、P<0.01)。さらに、Spearmanの順位相関検定の結果、NUFの変化量と就寝時間の変化量の間には有意な相関が認められた(r=-0.58、P=0.003)。 また非介入期間と比較して、介入期間においてHUSは有意に延長し(62.8分 vs. 12.7分、P=0.01)、NUVは有意に減少した(-105.6mL vs. 4.4mL、P=0.04)。特にHUSまでのNUV/hが有意に減少し(-28.4mL/h vs. -0.17mL/h、P=0.04)、さらにPSQIも有意な改善を認めた(-2.4 vs. 1.2、P=0.02)。 本研究の結果について著者らは、「夜間頻尿を有する高齢者は最適な就寝時刻より早く就寝している傾向にある可能性が高い。しかし、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、睡眠の質にとって非常に重要な要素であるといわれる『就寝から第一覚醒までの時間』が有意に延長され、これに伴い夜間尿量、特に『就寝から第一覚醒までの時間』における単位時間あたりの尿量が有意に減少し、結果として夜間排尿回数が有意に減少する可能性がある。これらの結果は、就寝時刻の調整が夜間頻尿に対する有効な行動療法となる可能性を示唆している。また、実際の就寝時刻と最適な就寝時刻の差が大きい患者ほど介入の有効性が高い可能性がある」と述べている。

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第272回 悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見

悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見ピロリ菌は身を寄せる胃の上皮細胞にIV型分泌装置を使って毒素を注入します。CagAという名のその毒素の意外にも有益な作用をカロリンスカ研究所主体のチームが発見しました1-3)。その作用とはタンパク質の凝集によるアミロイドの形成を阻止する働きです。アミロイドはアルツハイマー病、パーキンソン病、2型糖尿病、細菌感染などの数々の疾患と関連します。CagAはそれらアミロイド関連疾患の治療手段として活用できるかもしれません。ピロリ菌が住まうヒトの胃腸は清濁入り交じる細菌のるつぼです。消化や免疫反応促進で不可欠な役割を担うヒトに寄り添う味方がいる一方で、胃腸疾患や果ては精神不調をも含む数多の不調を引き起こしうる招かれざる客も居着いています。ピロリ菌は世界の半数ほどのヒトの胃の内側に張り付いており、悪くすると胃潰瘍や胃がんを引き起こします。腸の微生物に手出しし、細菌の代謝産物の生成を変える働きも知られています。ピロリ菌がヒトに有害なことはおよそ当たり前ですが、カロリンスカ研究所のチームが発見したCagAの新たな取り柄のおかげでピロリ菌を見る目が変わるかもしれません。ピロリ菌はCagAを細胞に注入してそれら細胞の増殖、運動、秩序を妨害します。ヒト細胞内でCagAはプロテアーゼで切断され、N末端側断片と病原性伝達に寄与するC末端側断片に分かれます。カロリンスカ研究所のGefei Chen氏らは構造や機能の多さに基づいてN末端側断片(CagAN)に着目しました。大腸菌や緑膿菌などの細菌が作るバイオフィルムは宿主の免疫細胞、抗菌薬、他の細菌を寄せ付けないようにする働きがあります。バイオフィルムは細菌が分泌したタンパク質がアミロイド状態になったものを含みます。ピロリ菌は腸内細菌の組成や量を変えうることが知られます。その現象は今回の研究で新たに判明したCagANのバイオフィルム形成阻止作用に起因しているのかもしれません。緑膿菌とCagANを一緒にしたところ、バイオフィルム形成が激減しました3)。アミロイド線維をより作るようにした緑膿菌のバイオフィルム形成もCagANは同様に阻止しました。CagANの作用は広範囲に及び、細菌のアミロイドの量を減らし、その凝集を遅らせ、細菌の動きを鈍くしました。ピロリ菌で腸内細菌が動揺するのは、ピロリ菌の近くの細菌がCagANのバイオフィルム形成阻止のせいで腸内の殺菌成分により付け入られて弱ってしまうことに起因するかもしれないと著者は考えています1)。バイオフィルムを支えるアミロイドは細菌の生存を助けますが、ヒトなどの哺乳類の臓器でのアミロイド蓄積は種々の疾患と関連します。病的なアミロイド線維を形成するタンパク質は疾患ごとに異なります。たとえばアルツハイマー病ではアミロイドβ(Aβ)やタウ、パーキンソン病ではαシヌクレイン、2型糖尿病は膵島アミロイドポリペプチドがそれら疾患と関連するアミロイド線維を形成します。CagANはそれらのタンパク質のどれもアミロイド線維を形成できないようにする働きがあり、どうやらタンパク質の大きさや電荷の差をものともせずアミロイド形成を阻止しうるようです。Googleの人工知能(AI)AlphaFold 3を使って解析したところ、CagANを構成する3区画の1つであるDomain IIがアミロイド凝集との強力な結合相手と示唆されました。Domain IIを人工的に作って試したところ、アルツハイマー病と関連するAβのアミロイド線維形成がきっちり阻止されました。アミロイド混じりのバイオフィルムを作る薬剤耐性細菌感染やアミロイド蓄積疾患は人々の健康に大きな負担を強いています。今回の研究で見出されたCagANの取り柄がそれら疾患の新たな治療法開発の足がかりとなることをChen氏らは期待しています2,3)。 参考 1) Jin Z, et al. Sci Adv. 2025;11:eads7525. 2) Protein from bacteria appears to slow the progression of Alzheimer's disease / Karolinska Institutet 3) A Gut Pathogen’s Unexpected Weapon Against Amyloid Diseases / TheScientist

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JN.1対応コロナワクチン、発症・入院予防の有効性は?(VERSUS)/長崎大

 2024年度秋冬シーズンの新型コロナワクチン定期接種では、JN.1系統に対応した1価ワクチンが採用された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2024年10月1日~2025年3月31日の期間におけるJN.1系統対応ワクチンの有効性について、国内多施設共同研究(VERSUS study)の第12報となる結果を、2025年6月11日に報告した1)。本結果により、JN.1系統対応ワクチンの接種により、発症予防、入院予防において追加的な予防効果が得られる可能性が示された。 VERSUS studyは、2021年7月1日より新型コロナワクチンの有効性評価を継続的に実施しており、2024年10月1日からはインフルエンザワクチンの有効性評価も開始している。今回の報告のうち、発症予防の有効性評価では、2024年10月1日~2025年3月31日に国内14施設を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が疑われる症状で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者を対象とした。また、入院予防の有効性評価では、同期間に国内11施設で、呼吸器感染症が疑われる症状または肺炎像を認めて入院した60歳以上の患者を対象とした。受診時に新型コロナワクチン接種歴およびインフルエンザワクチン接種歴が不明な場合は除外された。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とする検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究で、COVID-19の発症および入院に対するJN.1系統対応ワクチンの追加的予防効果を、JN.1系統対応ワクチンを接種していない場合と比較して評価した。JN.1系統対応ワクチンは、mRNAワクチン(ファイザー、モデルナ、第一三共)、組換えタンパクワクチン(武田薬品工業)、レプリコンワクチン(Meiji Seika ファルマ)の5種類が使用された。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・18歳以上の4,680例(検査陽性者990例、陰性者3,690例)が対象となった。年齢中央値51歳(四分位範囲[IQR]:34~72)、65歳以上が32.7%、男性48.1%、基礎疾患を有する人33.7%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の発症予防有効性は54.6%(95%信頼区間[CI]:29.9~70.6)であった。・接種後の日数別有効性は、接種後7~60日では55.5%(95%CI:20.7~75.0)、接種後61日以上では53.5%(95%CI:12.8~75.2)。・年齢別では、18~64歳のJN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の有効性は60.0%(95%CI:11.6~81.9)、65歳以上では52.5%(95%CI:15.9~73.2)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は51.5%(95%CI:19.6~70.8)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の883例(検査陽性者171例、陰性者712例)が対象となった。年齢中央値83歳(IQR:76~89)、男性59.0%、基礎疾患を有する人98.3%、高齢者施設入所者29.9%。・JN.1系統対応ワクチン接種なしと比較した、JN.1系統対応ワクチン(接種後7日以上経過)の入院予防有効性は63.2%(95%CI:14.5~84.1)であった。・重症度別のワクチンの有効性は、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した場合では68.3%(95%CI:1.1~89.8)、CURB-65スコア中等症以上の患者に限定した場合では53.9%(95%CI:-9.7~80.6)、入院時肺炎がある患者に限定した場合では67.4%(95%CI:7.4~88.5)。・新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は72.9%(95%CI:22.8~90.5)であった。 本研究により、既存のワクチン接種歴の有無にかかわらず、JN.1系統対応ワクチンの追加接種が発症および入院予防に対して追加的な有効性をもたらす可能性が示唆された。本報告は2025年5月30日時点での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断され公開された。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有される予定。

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腫瘍内細菌叢が肺がんの予後を左右する

 細菌は外的因子としてがんの発生に寄与するが、近年、腫瘍の中にも細菌(腫瘍内細菌叢)が存在していることが報告されている。今回、肺がん組織内の腫瘍細菌叢の量が、肺がん患者の予後と有意に関連するという研究結果が報告された。研究は、千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学(金田篤志教授)および呼吸器病態外科学(鈴木秀海教授)において、越智敬大氏、藤木亮次氏らを中心に進められ、詳細は「Cancer Science」に4月11日掲載された。 近年、がんの予後と腫瘍内細菌叢の関係が注目されている。その中でも、肺がんに関する研究は、喀痰や気管支肺胞洗浄液に含まれる腫瘍外部の細菌に焦点を当てたものがほとんどであり、腫瘍内細菌叢とその予後への影響について検討したものは限られている。そのような背景を踏まえ著者らは、腫瘍内細菌叢が肺がん患者の予後に与える影響を評価するために、単施設のコホート研究を実施した。 本研究では、最も一般的な肺がんの2つの組織型、肺腺がん(LUAD)と肺扁平上皮がん(LUSC)が解析された。肺がんの腫瘍サンプルは、千葉大学医学部付属病院で2016年1月~2023年12月の間に手術を受けた507人(LUAD 369人、LUSC 138人)より採取された。再発手術と術前化学療法を行った症例は除外した。腫瘍内細菌叢のゲノムDNA(bgDNA)の定量はqPCR法により行い、bgDNAが大量に検出された症例については、蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)により、腫瘍組織内の局在が確認された。 腫瘍サンプルのqPCRの結果、391サンプル(77.1%)で、定量範囲下限以上のbgDNAが検出された。LUADおよびLUSCサンプルを用いたFISH解析により、組織中に細菌が存在することが示されたが、LUSCにおいては、細菌は間質に多く存在していた。 次に性別、病期(I~III)、組織型(LUAD、LUSC)などの患者特性ごとに、細菌叢のbgDNAのコピー数を調べた。その結果、他の患者特性では有意な差は認められなかったが、組織型では、LUSCと比較しLUADで有意に細菌叢のbgDNAのコピー数が多いことが分かった(P=1×10-7)。 定量化された391の検体は、bgDNAの定量値に基づき、細菌叢高容量群、低容量群、超低容量群の3群に分類し、全生存率(OS)と無再発生存率(RFS)との相関が検証された。その結果、LUADでは、細菌叢の量はOSやRFSのいずれとも有意に相関していなかった。しかしLUSCでは、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量および多変量解析の結果、OSおよびRFSと有意に関連し、病期とは独立した予後因子として特定された。 本研究について金田教授は、「腫瘍内細菌叢は組織型に差異はあるものの、多くの肺がん組織で認められた。この細菌叢の量は、予後の悪い肺扁平上皮がんを層別化する上で有用なマーカーとなる可能性がある」と述べており、鈴木教授は、「これら細菌の肺がん発症や進展への寄与については今後さらなる研究が必要である」と付け加えた。

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第248回 骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府

<先週の動き> 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府政府は、医療費削減の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分・効果が類似する医療用医薬品)」の保険適用見直しを検討しており、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」にその方針が盛り込まれた。自民・公明・日本維新の会の3党が合意し、社会保障費抑制と現役世代の保険料軽減を目的としている。見直し対象は、花粉症薬や解熱鎮痛薬、保湿剤、湿布などで、最大で7,000品目とされる。仮に保険給付から除外されれば、患者の自己負担は数千円~数万円単位で跳ね上がる。とくに慢性疾患や難病患者、小児、在宅患者への影響が懸念されている。日本医師会の松本 吉郎会長は18日の記者会見で、「医療提供が可能な都市部と異なり、へき地では市販薬へのアクセスも困難。経済性を優先しすぎれば、患者負担が重くなり、国民皆保険制度の根幹が揺らぐ」と指摘。医療機関での診療や処方の自由度が制限されることにも懸念を示した。また、現場の開業医からも、「処方薬が保険適用外となれば、治療選択肢が狭まり、医師としての判断が制限される」「市販薬への誘導が誤用や副作用を招きかねない」との声が上がっている。とくに皮膚疾患やアレルギー疾患、疼痛管理においては、治療の中核となる薬剤が影響を受けるとされる。6月18日には、難病患者の家族らが約8万5千筆の署名とともに厚生労働省に保険適用継続を要望。厚労省は「具体的な除外品目は未定で、医療への配慮を踏まえて議論する」としているが、今後の制度設計次第で現場への影響は甚大となる可能性がある。次期診療報酬改定との整合性も含め、制度の動向を注視しつつ、患者支援の観点から声を上げていくことが求められる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府) 2) 市販薬と効果似た薬の保険外し、患者に懸念 医療費節約で自公維合意(日経新聞) 3) 日医会長、3党合意のOTC類似薬見直しに懸念 骨太方針は高評価、次期診療報酬改定に期待(CB news) 4) 「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出(弁護士JPニュース) 5) 「OTC類似薬」保険適用の継続を 難病患者家族が厚労省に要望書(NHK) 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種の効果と課題が、複数の研究から改めて浮き彫りになっている。東京大学の古瀬 祐気教授らの推計によれば、2021年に国内で行われたワクチン接種がなければ、死者数は実際より2万人以上増えていたとされる。ワクチン接種の開始が3ヵ月遅れた場合、約2万人の追加死亡が生じた可能性があり、接種のタイミングが公衆衛生に与える影響の大きさが示された。一方、接種を妨げた要因として「誤情報」と「孤独感」の影響が注目されている。同チームの調査では、誤情報を信じた未接種者が接種していれば、431人の死亡を回避できたとの推計もなされている。さらに、東京科学大学らの研究では、若年層のワクチン忌避行動に「孤独感」が強く影響していたことが判明した。都内の大学生を対象とした調査では、孤独を感じる学生は、感じない学生と比べてワクチンをためらう傾向が約2倍に上った。社会的孤立(接触頻度)とは異なり、孤独感という主観的要因がワクチン行動に与える心理的影響が独立して存在することが示された。東京都健康長寿医療センターの研究でも、「孤独感」はコロナ重症化リスクを2倍以上高めるとの結果が示されており、孤独感が接種率の低下だけでなく、重症化リスクの増大にも寄与している可能性がある。今後の感染症対策では、誤情報対策だけでなく、心の健康や社会的つながりを強化する施策が、接種率の向上および重症化予防の両面において重要になると考えられる。次のパンデミックに備えるためにも、若年層に対する心理的支援や信頼形成のアプローチが不可欠である。 参考 1) 若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響(東京科学大学) 2) ワクチン接種をためらう若者 孤独感が影響 東京科学大など調査(毎日新聞) 3) 接種遅れればコロナ死者2万人増 21年、東京大推計(共同通信) 4) 「孤独感」はコロナ感染症の重症化リスクを高める、今後の感染症対策では「心の健康維持・促進策」も重要-都健康長寿医療センター研究所(Gem Med) 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協厚生労働省は、6月18日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、2026年度の診療報酬改定に向け、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価の見直しについて検討した。今年の医療法改正により医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能など)報告制度が始まったことを踏まえ、「機能強化加算」や地域包括診療料などの体制評価が現状に即しているかが問われている。厚労省は6月に開かれた「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で、医療機関が報告する「介護サービス連携」「服薬の一元管理」などの機能は診療報酬で評価されているが、「一次診療への対応可能疾患」など一部機能は報酬上の裏付けがない点を指摘。これに対し支払側委員からは、既存加算は制度趣旨に適さず、17領域40疾患への対応や時間外診療など実態に即した再評価を求める声が上がった。また、診療側からは、看護師やリハ職の配置要件など「人員基準ありきの報酬」が現場に過度な負担を強いており、患者アウトカムや診療プロセスを評価軸とすべきとの意見も強調された。とりわけリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は基準が厳しく、取得率が1割未満に止まっている現状が報告された。今後の改定論議では、「構造(ストラクチャー)」評価から「プロセス」「アウトカム」重視への段階的な移行とともに、新たな地域医療構想や外来機能報告制度との整合性が問われる。かかりつけ医機能の再定義とそれを支える診療報酬のあり方は、地域包括ケア時代における制度の根幹をなす論点となる。 参考 1) 第609回 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」の診療報酬見直しへ 機能強化加算など、法改正や高齢化踏まえ(CB news) 3) 診療側委員「人員配置の要件厳し過ぎ」プロセス・アウトカム重視を主張(同) 4) 2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ-中医協(Gem Med) 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省2025年4月時点でオンライン診療を厚生労働省に届け出た医療機関数が1万3,357施設に達し、前年より2,250件増加したことが厚労省の報告で明らかになった。届け出数は、初診からのオンライン診療が恒久化された2022年以降増加傾向にあり、対面診療全体に占める割合も2022年の0.036%から2023年は0.063%に上昇した。厚労省の分析によれば、オンライン再診では精神疾患の割合が高く、2024年7月の算定データでは「適応障害」が最多で8,003回(9.1%)、次いで高血圧症や気管支喘息、うつ病などが続いた。とくに対面診療が5割未満の施設では、再診での適応障害(22.2%)やうつ病、不眠症など精神科領域の算定が顕著だった。この結果から中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会では、「オンラインと対面での診療内容の差異を調査すべき」との指摘もあった。こうした中、日本医師会は6月18日、「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を発足。郵便局などを活用した地域支援型の導入モデルを想定し、医療関係4団体や自治体、関係省庁、郵政グループとともに初会合を行った。松本 吉郎会長は「利便性や効率性のみに偏らず、安全性と医療的妥当性を担保した導入が不可欠」と強調し、とくに医療アクセスに困難を抱える地域、在宅医療、災害・感染症時の手段としての有効性に言及した。郵便局のインフラを活用した実証事業も一部地域で始動しており、診療報酬制度の課題、患者負担への配慮、医師会・自治体との連携が今後の焦点となる。 参考 1) オンライン診療に1.3万施設届け出 厚労省調べ、4月時点(日経新聞) 2) オンライン再診、精神疾患の割合が高く 厚労省調べ(CB news) 3) オンライン診療で医産官学の協議会発足 郵便局など活用で連携を強化(同) 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省厚生労働省は6月19日、医療療養病床から介護施設などへの転換を支援する「病床転換助成事業」の今後の在り方について、社会保障審議会・医療保険部会で実態調査結果を報告した。2008年度に開始され、これまでに7,465床の転換に活用されたが、今後の活用予定医療機関は2025年度末時点で1.4%、2027年度末でも3.0%に止まり、活用実績も病院7.3%、有床診療所3.7%と低迷している。事業延長については委員の間で意見が分かれ、健康保険組合連合会の佐野 雅宏委員らは既存支援策との重複や利用率の低さを理由に廃止を主張。一方、日本医師会の城守 国斗委員は、申請手続きの煩雑さや認可の遅れがネックとなっていると指摘し、当面の延長と支援対象の拡大を提案した。今後、厚労省は部会の意見を整理し、年度内に方針を提示する見通し。地域医療の再編を進める上で、同事業の位置付けと実効性が改めて問われている。 参考 1) 病床転換助成事業について(厚労省) 2) 病床転換の助成事業、活用予定の医療機関1-3% 事業の延長に賛否 医療保険部会(CB news) 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省痩身やリフトアップ目的で人気を集めるHIFU(高密度焦点式超音波)による美容医療で、違法施術により重篤な被害を受けた事例が再び注目を集めている。2021年に東京都内のエステサロンで医師免許のない施術者からHIFUを受け、重度のやけどを負った女性が損害賠償を求め提訴。2025年6月、エステ側が謝罪し、解決金を支払う形で和解が成立した。厚生労働省は2024年6月、「HIFU施術は医師による医療行為であり、非医師が行うことは医師法違反」と明確化したにもかかわらず、違法施術による健康被害は依然として後を絶たない。美容医療に起因する健康被害の相談件数は2023年度に822件と、5年前の1.7倍に増加。熱傷、重度の形態異常、皮膚壊死などの深刻な合併症が報告されている。こうした背景から、東京・新宿の春山記念病院では、美容医療トラブル専門の救急外来を本格的に開始。美容クリニックと施術情報の事前共有を行うなど、連携体制を整備している。厚労省も、美容医療を提供する医療機関に対し、合併症時の対応マニュアル整備や他院との連携構築、相談窓口の報告を義務化する方向で検討を進めている。医師が美容医療に携わる場合は、医療行為の厳密な定義のもと、適切な説明責任とアフターフォロー体制の構築が不可欠である。また、美容分野に参入する無資格者の排除に加え、トラブル患者の受け皿となる救急医療体制との連携も、今後の制度整備における重要課題となる。 参考 1) 「やせる」美容医療でやけど、エステ店側と和解 被害「氷山の一角」(朝日新聞) 2) 医師以外の「ハイフ施術」でやけど エステサロンと被害女性が和解(毎日新聞) 3) “美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立(NHK) 4) 美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿(同)

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重症血友病BにおけるAAV遺伝子治療、13年後の有効性・安全性は?/NEJM

 アデノ随伴ウイルス(AAV)を介した遺伝子治療は、血友病Bの有望な治療法である。米国・セントジュード小児研究病院のUlrike M. Reiss氏らは、2014年に、scAAV2/8-LP1-hFIXcoを単回静脈内投与した重症血友病Bの患者において、この遺伝子治療が成功したことを報告した。しかし、臨床的ベネフィットの持続性については不確実性が残っており、またAAVを介した遺伝子導入の長期安全性は不明であった。研究グループは、治療に成功した患者集団について入手できた追跡期間中央値13.0年のデータを解析し、第IX因子の発現は持続しており、臨床的ベネフィットは維持され、遅発性の安全性に関する懸念は認められなかったことを報告した。NEJM誌2025年6月12日号掲載の報告。患者10例に低用量、中用量、高用量のいずれかで遺伝子治療 研究グループは2010年3月~2012年12月に、重症血友病Bの男性患者10例(年齢範囲22~64歳)に対して、3用量群(低用量:2×1011ベクターゲノム[vg]/kg体重、中用量:6×1011vg/kg、高用量:2×1012vg/kg)のいずれかで、scAAV2/8-LP1-hFIXcoの単回静脈内投与を行った。 低用量で2例、中用量で2例、高用量で6例がそれぞれ遺伝子治療を受けた。 有効性のアウトカムは、第IX因子活性、年間出血率、第IX因子製剤使用などであった。安全性は、臨床イベント、肝機能、画像検査などで評価した。第IX因子活性は3用量群すべてで安定 2023年12月31日の追跡期間中央値13.0年(範囲:11.1~13.8)の時点において、第IX因子活性は3用量群すべてで安定していた。平均値は、低用量群1.7 IU/dL、中用量群2.3 IU/dL、高用量群4.8 IU/dLであった。 10例中7例は、補充療法を受けていなかった。 年間出血の中央値は、14.0件(四分位範囲[IQR]:12.0~21.5)から1.5件(0.7~2.2)へと9.7(IQR:3.7~21.8)分の1に減少していた。 第IX因子製剤の使用は、12.4(IQR:2.2~27.1)分の1に減少していた。 ベクター関連の有害事象は、計15件発現し、主にアミノトランスフェラーゼ値の一時的な上昇であった。第IX因子インヒビター、血栓症または慢性肝障害は、いずれの被験者でも発現が報告されなかった。 2件のがんが確認されたが、試験担当医師と専門多職種チームによって、ベクターとは無関係であると判断された。 被験者1例で、遺伝子治療10年後の肝生検において、肝細胞中に転写活性のある導入遺伝子の発現が認められたが線維化や異形成は伴っていなかった。 追跡期間中AAV8に対する中和抗体価は高いままであり、ベクターの再投与は阻害される可能性があることが示唆された。

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第267回 ワクチン懐疑派が集結、どうなる?米国のワクチン政策

やはり、トランプ氏より危険だった嫌な予感が的中してしまった。3回前の本連載で米国・トランプ政権の保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)について言及したが、「ついにやっちまった」という感じだ。前述の連載公開10日後の6月9日、ケネディ氏は米国・保健福祉省と米国疾病予防管理センター(CDC)に対してワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員を解任すると発表したからだ。アメリカでは政権交代が起こると官公庁の幹部まで完全に入れ替わる(日本と違い、非プロパーが突如、官公庁幹部に投入される)のが常だが、1964年に創設されたACIP委員が任期途中(任期4年)で解任された事例は調べる限りない模様である。一斉に解任された委員に代わって、ケネディ氏は新委員8人を任命した。このメンツが何とも香ばしい。ある意味、粒ぞろいの人選まず、ほぼ各方面から懸念を表明されているのが、国立ワクチン情報センター(National Vaccine Information Center:NVIC)ディレクターで看護師のヴィッキー・ペブスワース氏と医師で生化学者のロバート・W・マーロン氏の2人である。ペブスワース氏については、所属が「国立」となっているので公的機関のような印象を受けるが、完全な民間団体で従来からワクチン接種が自閉症児を増やすという、化石のような誤情報を声高に主張している。同センターによると、ペブスワース氏自身がワクチン接種で健康被害を受けた息子の母親であるという。マーロン氏は1980年代後半にmRNAの研究を行っていたとされ、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するmRNAワクチンの発明者だと自称している。その後は大学で教鞭をとったり、ベンチャー系製薬企業の幹部に就任したりしている。mRNAワクチンの発明者を自称しながら、今回のファイザーやモデルナのワクチンには否定的で、「最新のデータによると、新型コロナワクチン接種者は未接種者に比べて感染、発症、さらには死亡する可能性が高くなることが示されている。そしてこうしたデータによると、このワクチンはあなただけでなく、あなたのお子さんの心臓、脳、生殖組織、肺に損傷を与える可能性があります」などと主張している人物である。どこにそんなデータがあるのか見せてもらいたいが。これ以外でも、mRNAワクチンは若年者で死亡を含む深刻な害悪があると主張するマサチューセッツ工科大学教授のレツェフ・レヴィ氏、コロナ禍中の2020年10月に全米経済研究所が若年者などは行動制限せずに集団免疫獲得を目指すべきと政策提言した「グレートバリントン宣言」の起草者に名を連ねた生物統計学者のマーティン・クルドルフ氏とダートマス大学ガイゼル医学部小児科教授のコーディ・マイスナー氏も含まれている。意味不明な選出もこれだけワクチンを含む新型コロナ対策における亜流・異端のような人物たちが過半数を占め、驚くべき状況である。ACIPはケネディ氏の“趣味”仲間の井戸端会議になり果ててしまったと言ってよいだろう。残るのは元米国立衛生研究所(NIH)の所員で精神科医のジョセフ・R・ヒッベルン氏、元救急医のジェームズ・パガーノ氏、慢性疾患患者向けの治療薬投与システムを開発するベンチャー企業の最高医療責任者(CMO)で産婦人科医のマイケル・A・ロス氏だが、ケネディ氏の志向と合致する前述の5氏と比べれば、この3氏はなぜ選出されたのかも意味不明である。ただ、もともと感染症学や予防医学や公衆衛生学などの専門家に加え、消費者代表を加えてバランスを取っていた以前のACIPとはまったく異なる組織になったことだけは確かである。これから考えれば、昨今国会でキャスティングボードを握り始めた某野党の参議院選比例代表候補者にワクチン懐疑派の候補者が1人含まれているなどという日本の状況は、まだましなのかもしれない(もちろん私自身はそれを許容するつもりはないが)。

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MASH代償性肝硬変に対するefruxiferminの有用性(解説:相澤良夫氏)

 臨床肝臓病学の関心は、HCVを含む慢性ウイルス肝炎からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の治療に移りつつある。慢性C型肝炎/肝硬変は、抗ウイルス薬の進歩により激減しHCVの根絶も視野に入っているが、わが国に相当数存在するMASHに対し直接的に作用する治療薬は、今のところ保険収載されていない。しかし、中等度以上の線維化を伴うMASHは進行性の病態であり、MASH治療薬の登場が待ち望まれている。 このアンメットニーズに対して、米国FDAは肝硬変以外の中等度から高度の肝線維化を伴うMASH に対し、食事療法や運動療法と共に使用する肝臓指向性THR-βアゴニストのresmetirom(1日1回経口投与)を承認し、MASHの成因に根差した新たな治療戦略が確立されつつある。 efruxiferminを含むFGF(線維芽細胞増殖因子)21アナログはホルモン様の作用があり、さまざまな臓器に作用して糖・脂質代謝を改善する薬剤で、resmetiromと同様にMASHに対する治療効果が期待されている。今回のMASH代償性肝硬変を対象とした36週間の臨床試験(週1回の皮下注射)では線維化改善効果は認めなかったが、より長期(96週間)に治療された症例では有害事象の増加なしに疾患活動性が制御され、線維化が改善する可能性が強く示された。今後は、エンドポイントを96週あるいはさらに長期に設定した治療研究が期待される。 C型代償性肝硬変では、HCVが排除されてから長期間(5年程度)経過すれば肝硬変の線維化が改善することが示されている。今回の試験では、同様の事象がMASH肝硬変でも生じる可能性が示され、従来は非可逆的な病変とされていた肝硬変も可逆的な病変で、病因が長期にわたって制御されれば改善しうる可逆性の病変であるという、パラダイムシフトが起こりつつあることが実感された。 なお、この研究には燃え残り(肝臓の線維化が進んで脂肪沈着が減少、消失した状態)のMASH肝硬変も20%未満含まれ、治療効果は典型的なMASHと差がなかった。この結果は、多様な薬理作用を有するefruxiferminの汎用性を示唆するものと考えられ、efruxiferminを含むFGF21アナログ製剤やTHR-βアゴニストがわが国の臨床現場でも早急に使用できるようになることが期待される。

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長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効

長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効中国の長寿の村で見つかった細菌が、プラセボ対照無作為化試験でうつ病や鼻炎の治療効果を示しました1,2)。精神の不調の世界的な負担の主因であるうつ病と、便秘などの胃腸不調の関連が最近になって報告されています。たとえば、米国人口を代表する米国国民健康栄養調査 (NHANES)の情報を調べた試験で、慢性の下痢や便秘がうつ病患者でより多く認められています3)。うつ病患者495例の慢性の下痢と便秘の有病率はそれぞれ15.53%と9.10%で、うつ病でない4,709例のそれらの有病率(それぞれ6.05%と6.55%)より高いことが示されました。いくつかの報告によると、うつ病などの気分障害と胃腸不調の関連には腸-脳軸(gut-brain axis)と呼ばれる腸と中枢神経系(CNS)のやり取りが関係しているようです。また、胃腸の微生物が胃腸と脳の通信を促しており、その乱れはうつ病、自閉症、パーキンソン病などの神経や精神の疾患と関連するようです。そこで、ためになる細菌(プロバイオティクス)などで腸内微生物環境を手入れして精神不調を治療する試みが増えています。長寿で知られる中国南西部の村(巴馬)の1人の長寿老人(centenarian)の便から見つかったBifidobacterium animalis subsp. Lactis A6(BBA6)という細菌の研究はその1つで、BBA6が微生物-腸-脳軸を手入れして注意欠如・多動症を模すラットの海馬や記憶の障害を緩和しうることが北京農業大学のRan Wang氏らの研究で示されています4)。その後Wang氏らはBBA6の研究を臨床段階へと進め、うつ病、具体的には便秘でもあるうつ病患者へのBBA6の効き目を調べるプラセボ対照無作為化試験を実施しました。試験にはうつ病患者107例が参加し、便秘でもあるうつ病患者と便秘ではないうつ病患者がそれぞれ8週間のBBA6かプラセボを投与する群に割り振られました。BBA6投与の効果は便秘合併うつ病患者に限って認められました。それら便秘合併うつ病患者への8週間のBBA6投与後のハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)はプラセボ投与群より低くて済んでいました1)。便秘症状の評価尺度PAC-SYMもBBA6投与群のほうがプラセボ群より下がりました。便秘とうつ病の合併を模すラットで調べたところ、BBA6はうつ病患者に有害らしいキヌレニンを減らしてセロトニンを増やすことが示されました5)。便秘合併うつ病患者のBBA6投与後の血液や便にはセロトニンが多く、キヌレニンが少ないことも確認されており、ラットでの検討と一致する結果が得られています。また、BBA6が投与された便秘合併うつ病患者は先立つ研究でうつ病治療効果やセロトニン生成促進効果が示唆されているビフィドバクテリウムとラクトバチルスがより多く、トリプトファン生合成経路が盛んでした。どうやらBBA6はセロトニンやキヌレニンの出所であるトリプトファン代謝を手入れすることで便秘とうつ病の合併を緩和するようです。さて、BBA6が役立ちうる用途はうつ病治療に限られるわけではなさそうで、Wang氏らによる別のプラセボ対照無作為化試験では、アレルギー性鼻炎の治療効果が示されています2)。試験には通年性アレルギー性鼻炎患者70例が参加し、うつ病試験と同様にBBA6かプラセボが8週間投与され、ベースライン時と比べた8週時点の鼻症状検査点数低下の比較でBBA6がプラセボに勝りました。Wang氏らは便秘とうつ病の合併への長期の効果を調べる試験を予定しています5)。また、アレルギー性鼻炎治療効果のさらなる裏付け試験が必要と述べています2)。 参考 1) Wang J,et al. Sci Bull(Beijing). 2025 Apr 21. [Epub ahead of print] 2) Wang L, et al. Clin Transl Allergy. 2025;15:e70064. 3) Ballou S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17:2696-2703. 4) Yin X, et al. Food Funct. 2024;15:2668-2678. 5) Probiotic breakthrough: Bifidobacterium animalis subsp. Lactis A6 shows promise in alleviating comorbid constipation and depression / Eurekalert

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うつ病予防に対するカフェインの作用メカニズム

 疫学研究において、カフェイン摂取はうつ病と逆相関しており、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。中国・重慶医学大学のWentao Wu氏らは、うつ病と腸内細菌叢との関連に着目し、予防的なカフェイン摂取が腸脳軸に作用することでうつ病発症に影響を及ぼすかを調査するため、本研究を実施した。European Journal of Pharmacology誌2025年8月5日号の報告。 オスC57BL/6Jマウスを対照群、慢性予測不能ストレス(CUS)を負荷した群(CUS群)、カフェイン(CAF)を腹腔内投与後、CUSを負荷した群(CAF群)にランダムに割り付けた。うつ病様行動および不安様行動を評価し、腸脳軸関連分子を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較し、CUS群は、体重、スクロール嗜好、中心距離(%)が有意に低く、不動時間が長かった。しかし、対照群とCAF群では、これらの指標に差は認められなかった。・CUS群で有意な減少がみられた腸管バリア完全性関連因子(ZO-1、claudin-1、MUC2)は、CAF群では認められなかった。また、CUS群で認められた2つの血漿中炎症因子(LPS、NLRP3)の変動、4つの海馬中炎症関連因子(TNF-α、IL-1β、AC、BDNF)の変動は、CAF群では認められなかった。・対照群とCUS群との間で6つの分化遺伝子が同定されたが、対照群とCAF群との間では同定されず、これら6つの鑑別疾患のうち、5つとスクロール嗜好との有意な相関が確認された。 著者らは「これらの結果は、早期カフェイン介入が、腸内細菌叢、腸管バリアの完全性、神経炎症を調節することで、うつ病予防につながる可能性を示唆している」と結論付けている。

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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