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第63回 変な抗体や抗原によるCOVID-19重症化を止めうる薬を同定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化に寄与しているらしい非フコシル化抗体が悪さをしないようにする薬剤が見つかりました。また、COVID-19小児の重病MIS-Cに寄与しているとおぼしき過剰な抗原を食い止めうる薬剤が別の研究で見つかっています。重症COVID-19患者の過度の炎症反応をSyk阻害剤ホスタマチニブで防ぎうる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質(S)への非フコシル化抗体の過剰がどうやら重症化に寄与していることをこの2月に発表1)したチームのさらなる研究でその重症化を食い止めうる薬剤が同定されました2,3)。抗SARS-CoV-2抗体が炎症を誘発してしまうことはそれら抗体への糖の一種フコシルの付加が少なくて抗S抗体が大量なことを条件とし、マクロファージで発現するFcγ受容体(FcγR)の一つFcγRIII過剰活性化をおそらく介します。FcγRからの信号伝達にキナーゼSykを必要とします。ということは抗S抗体による免疫活性化をSyk阻害剤で防げるかもしれません。その予想はどうやら間違っておらず、Syk阻害化合物R406は重症COVID-19患者の抗S抗体による炎症促進サイトカイン生成を有意に減らしました。R406は免疫性血小板減少症(ITP)の治療として欧米で承認されているfostamatinib(ホスタマチニブ)の有効成分であり、重症COVID-19患者の抗S抗体による過度の炎症反応をfostamatinibで食い止めうると著者は言っています。ちなみに別のエンベロープウイルス・デングウイルス(DENV)感染の重症化と非フコシル化抗体が多いことの関連も示されており4)、抗体Fc領域への糖鎖付加はウイルスへの免疫反応を左右するようです5)。腸から漏れる新型コロナウイルス抗原が多臓器炎症症候群の引き金かもしれないSARS-CoV-2感染小児の多くは無症状かせいぜい軽い上気道症状で事なきを得ますが、感染がおさまってから数日か数週間後に川崎病に似てはいるものの異なる酷な免疫活性化症候群・多臓器炎症症候群(MIS-C)を時に発症します。そのMIS-Cに腸の防御機能の欠損が寄与しているらしいことが新たな研究で示唆されました6)。SARS-CoV-2が腸を住処とすることは成人の研究で知られるようになっており7)、重度のCOVID-19に陥ると共生微生物の混乱や胃腸の遮断機能の故障によって炎症が悪化します。腸粘膜の遮断機能は腸から血中に抗原が移行するのを防いでおり、細胞間密着結合(タイトジャンクション)を調節しているタンパク質ゾヌリンが多いことと腸の透過性亢進の関連がセリアック病、炎症性腸疾患(IBD)、川崎病などの自己免疫/炎症疾患の研究で知られています。そのゾヌリンが、胃腸症状を伴うことが多いMIS-Cでも上昇を呈することが今回の新たな研究で示されました。ゾヌリンは腸から血液中にSARS-CoV-2抗原がより漏れ出るようにして過剰な炎症反応を引き起こしているようです。新たな研究ではMIS-C小児19人、SARS-CoV-2感染小児26人、非COVID-19小児55人の計100人が調べられました6)。感染から数週間が過ぎてもSARS-CoV-2のRNAは胃腸から検出され、MIS-C小児はゾヌリンを他の小児より多く有していました。MIS-C小児の血漿にはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質やそのサブユニットS1も多く、SARS-CoV-2のそれら抗原はゾヌリン上昇で腸の隙間がふえて漏れ出たものと考えらえました。腸の透過性亢進がMIS-Cの引き金かどうかはまだはっきりせずさらなる研究が必要です。しかしもしそうであるならゾヌリンを阻害して腸の透過性を正常化することはMIS-Cの治療法となりえます。そこで研究者は米国FDAの許可を得て生後17ヵ月のMIS-C小児にゾヌリン遮断薬larazotide(ララゾチド)を試してみました。larazotideはセリアック病を対象にした第III相試験段階にあり、これまでの試験でその安全性が確認されています。生後17ヵ月のMIS-C小児はステロイドや抗体静注などのいつもの治療では良くなりませんでした。しかしlarazotide治療で血漿のスパイク抗原が減り、症状が収まりました。MIS-C患者は何がともあれ最終的には回復することが多く、今回の一例だけではなんとも言えません。研究者はプラセボ対照試験が必要とわかっており、この秋には始めたいと考えています8)。参考1)Larsen MD, et al. Science. 2021 Feb 26;371:eabc8378.2)Why corona patients become critically ill / Universiteit van Amsterdam (UVA)3)Hoepel W, et al. Sci Transl Med. 2021 Jun 2;13:eabf8654.4)Bournazos S, et al. Science2021 Jun 4;372:1102-1105.5)de Alwis R, et al. Science. 2021 Jun 4;372:1041-1042.6)Yonker LM, et al. J Clin Invest. 2021 May 25:149633.7)Gaebler C, et al. Nature. 2021 Mar;591:639-644.8)SARS-CoV-2 Antigens Leaking from Gut to Blood Might Trigger MIS-C / TheScientist

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コロナワクチン後の抗体価、上がりやすい因子と上がりにくい因子/千葉大

 千葉大学病院は6月3日、ファイザー社の新型コロナワクチンを2回接種した同病院の職員1,774人の抗体価を調べたところ、ほぼ全員で抗体価の上昇が見られ、同ワクチンの有効性が確認されたと発表した。千葉大によると、ワクチンへの抗体反応を調べる研究としては現時点で最大規模と見られるという。 本研究は、千葉大学医学部附属病院と千葉大学医学研究院が連携して設置した「コロナワクチンセンター」で実施された。ファイザー社の新型コロナワクチン「コミナティ筋注」を接種した同院職員を対象とし、1回目接種前および2回目接種後に各々採取した血液から抗体価を測定した。 主な結果は以下のとおり。・1回目接種前は2,015例(男性:719例、女性:1,296例、21~72歳)、2回目接種後には、1,774例(男性:606例、女性:1,168例、21~72歳)から血液が採取された。このうち、接種前の段階で抗体が陽性だったのは、21例(1.1%)だった。・2回目接種後、抗体が陽性となったのは1,774例中1,773例(99.9%)だった。・抗体価は、接種前の中央値が<0.4U/mLだったが、接種後は2,060U/mLに上昇していた。・ワクチン接種後の抗体価が上がりにくい因子として、(1)免疫抑制剤を服用(2)高年齢(3)副腎皮質ステロイド薬を服用(4)飲酒頻度が高い、といった事項との関連性が見られた。・一方、ワクチン接種後の抗体価が上がりやすい因子として、(1)COVID-19既往歴あり(2)女性(3)1回目と2回目の接種間隔が長い(18〜25日)(4)抗アレルギー薬を服用(花粉症薬など)、といった事項との関連性が見られた。 本研究結果の詳細は、プレプリントサーバーのmedRxiv1)に6月4日付で掲載されている(今後、審査によっては論文内容が修正される場合あり)。(ケアネット 鄭 優子)1)Antibody responses to BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in 2,015 healthcare workers in a single tertiary referral hospital in Japan(medRxiv)

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第57回 コロナの影響も? 5年連続で合計特殊出生率が低下

<先週の動き>1.コロナの影響も? 5年連続で合計特殊出生率が低下2.21日から、職場や大学での一般向けワクチン接種開始へ3.75歳以上の自己負担2割の導入へ、医療制度改革関連法案成立4.オンライン診療指針、かかりつけ医は初診から原則解禁へ5.患者の医療情報の共有システム作成へ/データヘルス改革6.外来機能報告でかかりつけ医との連携へ/社会保障審議会1.コロナの影響も? 5年連続で合計特殊出生率が低下厚生労働省は4日に2020年の人口動態統計を発表した。2020年の出生数は84万832人で、前年の86万5,239人より2万4,407人減少し、出生率(人口千対)は6.8(前年7.0)となった。また、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は1.34(前年1.36)と、5年連続で低下していることが明らかとなった。一方、死亡数は137万2,648人で、前年の138万1,093人より8,445人減少し、死亡率(人口千対)は11.1(前年11.2)だった。これにより算出される、自然増減数(出生数と死亡数の差)は-3万1,816人(前年比-1万5962人)となり、自然増減率(人口千対)は-4.3で、前年より0.1低下、14年連続で減少している。また2020年の婚姻件数の概数値は前年比12.3%減の52万5,490件と戦後最少となった。政府は、結婚・妊娠・出産・育児の「切れ目ない支援」のため、先駆的な少子化対策を行う地方公共団体を支援しているが、コロナウイルス感染拡大に伴い、より一層のテコ入れが必要になると考えられる。(参考)20年出生率1.34、5年連続低下 13年ぶり低水準(日経新聞)「出生率」去年1.34 5年連続で前年下回る 「出生数」は最少に(NHK)資料 令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚労省)2.21日から、職場や大学での一般向けワクチン接種開始へ職場や大学などでの新型コロナウイルスワクチン接種について、政府が方針を示した。文部科学省は、各国公立大学法人や各地方公共団体に向けて、職域接種の要望確認についての意向を調査しており、先月26日時点で、全国およそ350の大学が、接種会場としてキャンパスなどを提供できると回答している。なお、附属病院を持たない大学などでは打ち手の確保が課題となっている。国は大学が接種を進める際は、医師や看護師の事前確保を求めているが、人材の確保やワクチンの保管など開始までにさまざまな課題があると見られる。(参考)医学部ある大学、接種計画を続々表明…「ない」大学は打ち手確保に悩む(読売新聞)職場でのワクチン接種 6月21日開始に向け 企業の準備本格化(NHK)資料 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に関する職域接種の要望確認について(調査)(文部科学省)3.75歳以上の自己負担2割の導入へ、医療制度改革関連法案成立4日、課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、参議院本会議で可決、成立した。当初は現役世代の負担軽減を目指したが、削減効果は720億円で1人当たり年700円と大きくはない。2022年以降、団塊世代が後期高齢者となるにつれて、後期高齢者の医療費はさらなる増大が見込まれるため、健保連は早期の施行を強く要望しているが、医師会などは高齢者の受診抑制を懸念しており、今後も見直しを巡って議論が重ねられるだろう。(参考)75歳以上医療費「自己負担2割」改革法成立 22年度後半から(毎日新聞)わずか30円の改革、通過点(日経新聞)医療保険制度改革関連法案に関する資料(健保連)4.オンライン診療指針、かかりつけ医は初診から原則解禁へ昨年4月から臨時特例的に電話・オンライン診療が大幅に拡大されているが、実施件数は毎月1万7,000件数程度と伸び悩んでいる。この中には、本来ならば処方できない「麻薬」「向精神薬」の処方箋、処方日数の上限(7日間)を守らない処方箋などが含まれており、不適切診療を繰り返す医療機関を問題とする声が上がっている。政府は6月2日に新たな成長戦略実行計画案を公表し、オンライン診療については、「安全性と信頼性をベースに、かかりつけ医の場合は初診から原則解禁する」とした。これに対して、日本医学会連合は「オンライン診療の初診に関する提言」を発表し、不適切に遠隔医療が行われ、患者・家族に不利益が生じてはならないとし、「オンライン診療の初診に適さない症状」および「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」を作成した。今後、安全性や有効性が確認された疾患については、2022年度の診療報酬改定で、オンライン診療料の算定対象に加えることが検討される見込み。(参考)オンライン診療料、対象疾患の追加を検討へ 政府、6月中旬に新成長戦略実行計画(CBnewsマネジメント)資料 オンライン診療の初診に関する提言(日本医学会連合)第15回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(厚労省)5.患者の医療情報の共有システム作成へ/データヘルス改革厚労省は、4日に持ち回り審議されたデータヘルス改革推進本部がまとめた工程表を発表した。新型コロナウイルス感染症のため自宅で療養している患者が、医師の健康観察を受けられるように、保健所と医療機関の間で情報共有できるツールを開発することが明らかになった。連携を進めることによって、自宅療養患者の急変についても迅速な対応につなげる。また2022年度からは、新型コロナ以外の感染症についても情報共有に着手する。2024年度にはすべての感染症で保健所と医療機関の連携体制の確立を目指す。このほか、マイナポータルなどを通じて、2021年10月からは国民が自身の特定健診の結果や処方・調剤情報についても確認できるようになるとともに、患者本人が閲覧できる情報(健診情報やレセプト・処方箋情報、電子カルテ情報、介護情報等)については、医療機関や介護事業所でも閲覧可能とする仕組みが今後数年で整備される見通し。(参考)自宅療養者の情報、地域の医療機関が共有のシステム作成へ…容体急変に即応(読売新聞)コロナ自宅療養者、医師が健康観察 保健所と情報共有(日経新聞)データヘルス改革に関する工程表について(データヘルス改革推進本部)6.外来機能報告でかかりつけ医との連携へ/社会保障審議会3日に開催された社会保障審議会医療部会で、医療法等の改正を受けて、今後の医療提供体制改革に向けた検討スケジュールが討議された。長時間労働の勤務医の労働時間短縮および健康確保のための措置を2024年度から実施するため、都道府県による特例水準対象医療機関の指定や医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価の整備などが行われる。また、医療関係職種の業務範囲の見直しを行い、タスクシフト/シェアの推進を進めていく。外来医療の機能については、医療機関に対し、医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める外来機能報告制度の創設を2022年度から開始することが明らかになった。実際に行われている外来医療の機能に応じて、それぞれの医療機関がどのような機能を発揮すべきかの役割分担を明確化し、『かかりつけ医機能』を担う医療機関から、医療資源を重点的に活用する外来を担う医療機関につないでいくなどの機能分化・連携を推進する。(参考)医療制度を止めたオーバーホールは不可能、制度の原点を常に意識し外来機能改革など進める―社保審・医療部会(GemMed)国が4600万円をかけてかかりつけ医機能の好事例を収集 その狙いの先にあるものとは?(Beyondhealth)第79回社会保障審議会医療部会(令和3年6月3日)

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遺伝子ワクチン接種後の新たな変異株感染(Breakthrough Infection)は何を意味するか?(解説:山口佳寿博氏)-1401

 米国においては、2020年12月中旬よりFDAが承認した3種のワクチン(Pfizer:BNT162b2、Moderna:mRNA-1273、Johnson & Johnson:Ad26.COV2.S)の接種が急ピッチで進められており、2021年5月28日現在、18歳以上の米国成人の62%、12歳以上の国民の59%が少なくとも1回のワクチン接種を、18歳以上の51%、12歳以上の48%が完全なワクチン接種(BNT162b2:2回接種、mRNA-1273:2回接種、Ad26.COV2.S:1回接種)を終了している(The New York Times. 2021年5月28日)。ただし、血栓形成という特殊副反応のためにAd26.COV2.Sの接種が2021年4月13日から4月23日までの間中止されたので、本ワクチンの接種率は他の2つのワクチンに比べ低い。上記のデータは、ワクチンによる疑似感染が集団免疫の確立に必要な最低感染率40%を超過し(山口. 日本医事新報 2020;5026:26-31)、米国は現時点でワクチン疑似感染による集団免疫を確立しつつある国だと考えることができる。その結果、2021年1月中旬以降、米国のコロナ感染者数、入院者数、死亡者数は順調に低下し、感染者数は2週間平均で37%、入院者数は23%、死亡者数は12%と明確な低下を示している。 米国CDCの報告によると、2021年4月30日までにワクチン接種者において1万262人の新規コロナ感染者が観察された(CDC COVID-19 Vaccine Breakthrough Case Investigations Team. MMWR; Vol. 70, 2021 May 25)。ワクチン接種後の新規感染者の27%は無症候性、新規感染関連入院は6.9%、新規感染関連死亡は1.3%に認められた。遺伝子配列から決定された検出ウイルスの内訳は、B.1.1.7(英国株):56%、B.1.427/429(米国株):33%、P.1(ブラジル株):8%、B.1.351(南アフリカ株):3%であり、B.1.617(インド株)ならびにB.1.526(米国株)は検出されなかった。一方、本論評で採り上げたHacisuleyman氏らの論文では、2021年3月30日現在、ニューヨーク市における蔓延ウイルスの中心は、B.1.1.7(英国株:26.2%)とB.1.526(米国株:42.9%)であったが、この2種類のウイルスとは異なる新たな変異ウイルスが検出されたと報告された(一つは感染性増強変異と液性免疫回避変異の両者を、もう一つは感染性増強変異のみを有する変異株)(Hacisuleyman E, et al. N Engl J Med. 2021 Apr 21. [Epub ahead of print])。米国全土とニューヨーク市という地域の差があるものの1ヵ月の間に米国発症のB.1.526が消失し、その替わりとして米国発症のB.1.427/429の頻度が急増し、かつ、今まで検出されていなかった新たな変異ウイルスが一過性にせよ検出されたという知見は、ワクチン接種とともに変異ウイルスの選択がダイナミックに進行していることを示す所見として興味深い。 以上の事実が何を意味するかを考察するために現状のワクチンの本質について考えていきたい。世界各国で接種が始まっている現状のワクチンはすべて武漢原株のS蛋白全長をplatformとして作成されたものであり、種々の治験結果から、D614G株(従来株、第2世代変異株)と液性免疫回避作用が弱い英国株(D614Gから進化したN501Y変異を有する第3世代変異株の一つ)に対しては確実な予防効果を発揮することが判明している(山口. J-CLEAR論評-1380. 2021 April 27、Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)。一方、液性免疫回避作用が強い第3世代のB.1.351(南アフリカ株:N501Y変異[+])、P.1(ブラジル株:N501Y変異[+])、B.1.617(インド株、N501Y変異[-])に対する現状ワクチンの予防効果は、D614G株、英国株への効果に比べ有意に低いことが報告されている(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38、Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Apr 21. [Epub ahead of print]、Abu-Raddad LJ, et al. N Engl J Med. 2021 May 5. [Epub ahead of print])。すなわち、5月現在、米国で確立されつつあるワクチン疑似感染による集団免疫は、D614G株(第2世代変異株)とB.1.1.7(英国株、液性免疫回避作用が弱い第3世代変異株)に対するものであり、液性免疫回避作用が強いB.1.351(南アフリカ株)、P.1(ブラジル株)、B.1.617(インド株)、B.1.526(米国株)、その他の新たな第3世代変異株に対する集団免疫は確立に至っていないことに留意する必要がある。米国で確立されつつある集団免疫は、現在の主流ウイルスである液性免疫回避作用が弱い英国株による感染を駆逐し、今後ある一定期間はコロナ感染者数を低下させるであろう(集団免疫の正の効果)。しかしながら、英国株に対する集団免疫の確立は、現在の集団免疫に対して抵抗性を有する種々の第3世代変異株(B.1.351、P.1、B.1.617、B.1.526など)のうちいずれか、あるいは、まったく新しい変異株がウイルスの生存をかけて自然選択される確率を上昇させる(集団免疫の負の効果)(Lauring AS, et al. JAMA. 2021;325:529-531.)。その結果として、近い将来、新たな変異株に起因する感染爆発が起こる可能性があることに注意しなければならない。 以上のワクチン疑似感染に関する考察を支持する事実として、第2世代のD614G株から第3世代の英国株、南アフリカ株、ブラジル株、インド株が発生した状況について考えてみたい。これらの第3世代変異株は、D614G株による重篤な自然感染が発生した地域で流布するようになった。すなわち、D614G株の自然感染によってD614G株に対する集団免疫、あるいは、それに近い状況が英国、南アフリカ、ブラジル、インドにおいて確立され、その結果として、ウイルスは生存のためにD614G株に対する集団免疫に打ち勝つ第3世代変異株を選択、世界の多くの地域で第3世代変異株による感染爆発が発生したものと考えられる(山口. J-CLEAR論評-1381. 2021 April 28)。ワクチン接種による疑似感染で人工的集団免疫が確立された場合にも質的に同様の集団免疫抵抗性のウイルスが近未来に選択されるものと考えなければならない。 米国を中心に論を進めたが、集団免疫確立に伴う負の効果はワクチン接種が急ピッチで進められている他の先進諸国でも発生するものと考えておかなければならない。5月現在、本邦における主流ウイルスもD614G株から英国株に置換されつつあり(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部.2021年5月11日)、ワクチン疑似感染による英国株に対する集団免疫が早晩確立されるであろう。その結果として、一過性の社会的平穏が訪れるはずであるが、その先には、米国を例として考察したワクチン疑似感染による人工的集団免疫に抵抗性の新たな変異ウイルスによる第5波の感染が発生する可能性がある。この場合、いかなる変異株が選択されるかを予測することは難しく、現在すでに発生している液性免疫回避作用が強い第3世代変異株(南アフリカ株、ブラジル株、インド株など)の中から選択されるかもしれないし、新たな変異株(第4世代)が発生する可能性を考えておかなければならない。その意味で、ワクチン接種が進められた場合、変異ウイルスに対する大規模、かつ、確実なモニターを継続する必要があることを絶対的に忘れてはならない。

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ワクチン接種後の手のしびれ、痛みをどう診るか(2)

これまで、安全な筋肉注射手技に従ってワクチンを接種する限り、末梢神経損傷については「接種会場で深く理解しておく必要はない」「ひとくちに神経損傷と言ってもさまざまな状態がある」「神経損傷が無い場合でも手の痺れを訴えることがある」と解説してきました。これらを当然のことと思う先生もいらっしゃるでしょうが、私は医原性末梢神経損傷を考える上で大切な基礎知識と考えています。今回は神経損傷ではなくても「手のしびれや痛み」を訴える患者についての事例や、ワクチン接種会場での被接種者への対応について紹介したいと思います。<今回のポイント>ワクチン接種会場で被接種者が指先まで違和感を訴えても、すぐに「正中神経損傷」や「尺骨神経損傷」などと判断するのは避けたほうがよい。ワクチン接種時の「手がしびれたりしませんか?」という声かけは、解剖学的には合理的でなくても、臨床的に意味がないわけではない。慎重に神経損傷を診断すべき症例には、どのようなものがありますか?医原性末梢神経損傷が疑われたある症例について説明します。Aさん(70代女性)は、左肘の静脈から採血された際に指先まで響くような電撃痛を訴えたものの、すぐに針を抜かれることなく採血が試みられたとのことです。その後徐々に痛みはひどくなり、肘だけでなく手までビリビリとしびれるような疼痛のために眠れなくなりました。1ヵ月後には服の袖が当たっても痛いほどで、左手がうまく使えない状態になり、当初診察した整形外科医により、「正中神経損傷」という病名で当院へ紹介されました。「指先にまで響くような電撃痛」と言えば、指先まで繋がっている正中神経や尺骨神経を刺してしまったのでは、と考えてしまうこともあるのではと思います。さらにこの時点でCRPS(複合性局所疼痛症候群)という病名をすぐに思い浮かべる医師もいらっしゃるでしょう。しかし初診時、実際には正中神経の障害を疑う身体所見はありませんでした。超音波診断装置などを用いた結果、尺側皮静脈に接して走行する内側前腕皮神経の採血に伴った障害に心因的な要素が重なったものと診断しました(図1)。画像を拡大する尺側皮静脈(青の網掛け部分)に伴走して走行する直径約0.3mmの内側前腕皮神経(黄色矢印)の周囲の皮下組織に、血腫形成後と考えられる一部低エコー領域(点線囲い部)を認めるが、皮神経の明らかな形態上の異常所見は認めなかった。近年の超音波診断装置では径1mm未満の皮神経であっても断裂や偽神経腫の形成を確認可能であり、治療方針の決定に活用することができる。すべての臨床に関わる医師に知っていただきたいのですが、きっちり神経学的所見(感覚障害の範囲や運動機能の評価、あるいは誘発テストなど)を行わずに「正中神経損傷」という病名を安易にカルテに記載することは避けるべきです。司法からみると内科医も整形外科医も同じ医師ですから、後々裁判になった際にややこしい問題に発展することがあります。皮神経損傷と正中神経損傷では、医療側の責任は大違いなのです。もっとも整形外科医でも上記のような誤った診断を下す事例もあるのですが。まわりくどくなりましたが、つまり「末梢神経損傷の正確な診断を下す」ことは必ずしもワクチン接種の現場ですぐに行う必要はなく、できれば第三者としてきちんと評価できる医師に紹介するべきではないかということです。よほど激烈な症状でない限り、当日に治療を開始しなければならないものではありません。上記症例ではなぜ正中神経を刺していないのに、そんなに強い痛みが起こったのですか?この患者さんの話をよくよく聞いてみると、数ヵ月前に行った採血での医療従事者の対応が原因で、今回の採血前から穿刺に対する強い不安を抱いていたことが分かりました。人間の脳は、実際に刺されることによる局所の侵害刺激だけではなく、記憶や不安といった心理的要素によっても痛みをより強く認識することが知られています。前腕を支配する皮神経への穿刺であるのに指先までしびれが出ることについて不思議に思われるかもしれません。たとえば、手根管症候群は典型的な正中神経の障害であり、「感覚鈍麻」を母指から環指の橈側に生じることはよく知られています。一方で手根管症候群患者の自覚する「しびれ」は小指を含んだ手全体であることは珍しいものではありませんが1)、おそらく整形外科や脳神経内科以外だと意外に思われる方もいらっしゃるでしょう(図2)。画像を拡大する典型的な正中神経障害である手根管症候群であっても、患者自身の訴える「しびれ」は小指を含むことは稀ではない。同様に、患者が訴える「しびれ」の領域と実際に生じる「感覚鈍麻」の領域が一致しないことは、医原性末梢神経損傷の症例でもしばしば経験する。つまり患者の感じる「しびれ」は必ずしも障害をうけた神経領域に該当するものではないのです。採血などの場合、正中神経や尺骨神経に針が当たることがなくても手まで違和感を自覚することはしばしばあります。医療行為をきっかけに生じたこのような症状は、もともと患者が抱えていた不安や不適切な初期対応によって、さらに悪循環に入り難治性の痛みとなることがあります。医原性末梢神経損傷と慢性化・難治化の危険因子、その対応については日本ペインクリニック学会によるペインクリニック治療指針(p128)に素晴らしい文章がありますので、すべての医療従事者にぜひ一度読んでいただきたいと思います。大切なのは、薬液を注入せずに針で神経を突いただけであれば自然に末梢神経は回復することが期待できるものの、その後の対応によって治りにくく強い痛みになるということです。さきほど症例提示した採血後の強い腕の痛みを訴えたAさんには、慎重な診察に加えて不安や不満をできるだけ汲み取りながら丁寧に病状を説明し、その後症状は自然に改善しました。患者の不安に対して早めに誠実に対応することは、その後の経過に影響すると考えます。「手にビリっとくる感じがありませんか?」と声をかけることに意味はありますか?安全な筋肉注射の手技に従って筋肉注射を行う限り、橈骨神経に穿刺することはないはずです。肩峰下三横指での穿刺で放散痛をともなわず腋窩神経を生じたとの報告もありますから、逆に穿刺時に放散痛がなかったから神経損傷を避けられるというわけでもなさそうです。そのような意味では、「手にビリっとくる感じがありませんか?」という声かけに解剖学的な合理性は無いといえるかもしれません。しかし、黙ったままブッスリと刺されるよりも、被接種者の不安を汲み取って声をかけることは大切ですから、まったく無意味な声かけだとも思いません。このあたりは初めて対面する瞬間からの雰囲気作りも含めて、医師や看護師のテクニックの一つではないでしょうか(図3)。画像を拡大する実際には「チクッとしますよ」と言った次の瞬間に接種は終わってしまう。そのため筋肉注射手技の指導内容には声かけの内容を当初含めていなかった。しかし、当院の研修医が「手にビリっとくる感じはありませんか?」と自発的に声かけしてくれたことで、筆者自身は安心感を得て注射を受けることができた。仮に接種会場で被接種者が「腕にしびれがきました」と訴えた時には、「自分の不安を無視された」と思われないように対応してほしいと思います。正確な神経学的所見をとることが難しくても、「大丈夫ですか?」とこちらの心配を伝え、手指の自動運動などを確認しましょう。可能性は限りなく低いかもしれませんが器質的異常を疑うとすれば、整形外科医としては末梢神経損傷よりむしろ偶発的な脳梗塞などを見逃すほうが心配なくらいです。その上で「後日もし症状が続くようであれば、整形外科を受診してください」などと説明するのが良いでしょう。そのためには、あらかじめどの医療機関が医原性末梢神経障害をよく診てくれるのか把握しておくことは無駄ではないと思います。当院でワクチン接種を受けたあと、腕の違和感を訴えて受診されたある職員によくよく聞いてみると「急に接種の順番が決まり、自分自身納得できず不安が強い状態で注射を受けた」という背景に行き当たりました。興味深いのは、診察室でいろいろと症状に関する不安を吐き出してもらった直後、「違和感が軽くなったように思います」と言われたことで、その後自然経過で症状も改善されたようです。また別の職員は、「自分でも変だと思うのですが、実は接種の予診前から緊張して手に違和感を覚えていました」とのことでした。これらの自覚症状について器質的な機序を説明することは難しくても、「このような合併症は起こらないはずだから知りません」という態度ではなく「そう感じることがあっても不思議ではないですよね」と共感することが大切なのではと思います。おわりに今回の新型コロナウイルスワクチンについては、明らかに誤った情報がネット上に溢れています。それを「科学的なものではない」と切り捨てることは簡単です。しかし不確かな情報が嫌でも目に入ってくる世の中ですし、それを信じてしまう人は被害者でもあります。ワクチンについての不安や、自分の体に針が刺されることの不安、あるいは医療従事者の対応によって腕の違和感が強くなったりすることは自然な心の作用だと思いますから、接種に関わる医師や看護師はできるだけそれを汲み取り、少しでも安心してもらえるよう個々においても対応することが重要ではないだろうかと思います。 (参考)患者説明スライド「新型コロナワクチン、接種会場に行く前に」参考1)Caliandro P, et al. Clin Neurophysiol. 2006;117:228-231.

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肥満だと新型コロナ重症化しやすいと知らない人が4割/アイスタット

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による緊急事態宣言下、多くの事務職はテレワークに代替され、不要不急の外出も制限されている。家にこもる日々が1年以上に渡るが、身体にどのような変化があったのであろうか。 「コロナ太りの実態の把握」をテーマに、株式会社アイスタットは5月18日にアンケートを行った。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員30~59歳の有職者、東京・大阪在住の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2021年5月18日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(30~59歳/有職者/東京・大阪)を対象アンケート結果の概要・コロナ太りは全体の35.3%! 体重の増加量が大きい人ほど、コロナ禍が影響している傾向あり!・「週1~2日」「気がむいたとき」に運動をしている人は、コロナ太りした人の割合の方が多かった! ダイエットを気にしているのか、運動をし始めた様子がうかがえた!・コロナ太りした人はそうでない人と比べ食生活の変化では、「食品摂取の偏り、バランスが悪くなった」の割合が最も多かった!・テレワークを実施している人ほど、「コロナ太り」が多い傾向!・約4割の人が「肥満がある人が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい」を知らなかった!コロナ禍以前から健康維持していた人は太らない 最初に「コロナ禍以前と比較して(最近1年間)の体重増減」を聞いたところ、「ほとんど変わらない」が48.7%で最も多く、次に「約1~2kg増えた」が13.3%、「約2~3kg増えた」が13.0%と続いた。また、「体重増加の有無」の割合をみると「あり」は41.3%、「なし」は58.7%で、約4割の回答者が最近1年間で太ってしまったとの回答結果だった。外出控えによる運動不足などによる結果がうかがえた。 「体重増減は、コロナ禍での外出自粛が影響している」か聞いたところ、「影響している」が46.7%、「影響していない」は53.3%だった。そして、「影響している」と回答した中で「コロナ禍が影響して体重が増えた」と答えた割合は、全体の35.3%だった。また、「影響していない」と回答した中で「体重増加なし」は47.3%で、コロナ禍が体重増加の要因となったことがうかがえた。 「何らかの運動を定期的に行っているか」を聞いたところ、「ほとんど行っていない」が46.3%、「週に1日未満(気がむいたとき)」が10.7%、「週に2日は行っている」が8.3%の順で多かった。コロナ太りの有無との関連をみると、定期的な運動を「週3日以上から毎日」行っていると回答した人は「コロナ太りでない」の回答者の割合が多かったことから、運動習慣ある人の体重はコロナ禍でも維持されていることがわかった。 「食生活に変化があったか」を聞き、コロナ太りの有無との関連をみた。食生活に変化があった内容を回答した人は「コロナ太り」の割合が多く、「特に変わらない」と回答した人は「コロナ太りではない」の割合が多かった。「コロナ太りした」と答えた35.8%の回答者が、「食品摂取の偏り、バランスが悪くなった」と回答し、「間食をとる機会が増えた」も28.3%と回答数が多かった。一方で「コロナ太りしていない」と回答した人の53.6%が「(食生活は)特に変わらない」と回答しており、日ごろの食生活の維持の重要性をうかがわせた。 「コロナ禍で気を付けていること」を聞き、コロナ太りの有無との関連をみた。「コロナ太りした」人の回答では、「特に何もしていない」(28.3%)、「ウォーキング・ジョギングをする」(24.5%)、「定期的に体重を測定し記録する」(22.6%)の順で多かった。一方、「コロナ太りしていない」人の回答では、「特になにもしていない」(42.8%)、「規則正しい生活を心がけている」(21.6%)、「ウォーキング・ジョギングをする」(19.1%)の順で多かった。コロナ太りしない人ほど、コロナ禍前と変わらない生活を過ごしていると推定され、日ごろの健康管理の大切さがうかがわれた。 「最近1ヵ月間のテレワーク実施状況を聞き、実施有無別に分類した。「実施している」が39.3%で、「実施していない」の60.7%を下回った。「ほぼ毎日テレワーク」は16.0%で、定着率の低さが判明した。コロナ太りの有無別にみると、テレワークを実施していると回答した人は「コロナ太り」の割合が多く、実施していないと回答した人は「コロナ太りではない」の割合が多かった。テレワーク実施者は、通勤回避、在宅の増加により、あきらかに運動不足が影響を及ぼしていると推定される結果となった。 最後に「肥満がある人が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいことを知っていたか」を聞いたところ、「知らなかった」が39.7%、「なんとなく知っていた」が32.3%、「知っていた」の28.0%の順だった。まだまだ重症化リスクの要因が浸透しておらず、今後の啓発活動が重要であることが示された。

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新型コロナウイルスの感染性高める抗体を発見/大阪大

 大阪大学の荒瀬 尚教授ら研究グループは5月24日、COVID-19 患者由来の抗体解析により、新型コロナウイルスへの感染によって、感染を防御する中和抗体だけでなく、逆に感染性を高める「感染増強抗体」が産生されていることを発見したと発表した。感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合することで、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が高くなるというメカニズムで、この感染増強抗体が中和抗体の感染防御作用を減弱させることもわかった。Cell誌オンライン版2021年5月24日号掲載の報告。感染増強抗体は抗体依存性感染増強(ADE)とはまったく異なる新たなメカニズム 抗体はウイルス感染防御に重要な機能を担う一方で、逆に抗体によって感染が増悪する現象(抗体依存性感染増強:ADE)が見られることがある。ADEはデングウイルスなどで知られており、デングウイルス感染後、異なる型のデングウイルスに感染すると、最初の感染で産生された抗体により重症化する場合がある。こうした抗体による感染増強には、ある種の免疫細胞が発現しているFc受容体が関与していると考えられてきた。 本研究では、COVID-19 患者で産生される抗体の機能を解明するために、患者の免疫細胞から同定された76種類のスパイクタンパク質に対する抗体を解析。その結果、Fc受容体を介した抗体依存性感染増強とは異なり、ウイルス粒子に結合するだけで感染性をFc受容体非依存性に高める抗体が存在することがわかった。また、COVID-19患者における感染増強抗体と中和抗体を測定してその差を調べたところ、重症患者において感染増強抗体が高い傾向が認められた。一方、非感染者においても少量ながら感染増強抗体を保有するケースも見られ、そうした人では、感染やワクチン投与によって感染増強抗体の産生が高まる可能性が考えられるという。  さらに、感染増強抗体が中和抗体によるACE2結合阻害能を減弱させることも明らかになり、感染増強抗体が産生されると、中和抗体の効きが悪くなる可能性があるという。実際、感染増強抗体は新型コロナウイルスのヒト細胞への感染性を顕著に増加させていた。本研究結果は、これまでに知られていた抗体依存性感染増強とはまったく異なる新たなメカニズムが存在することを示唆している。 著者らは、「実際に感染増強抗体が体内で感染増悪に関与しているかはまだ不明であり、今後の詳細な解析が必要」としつつ、「中和抗体が十分効かない変異株に対しては、感染増強抗体が優位に作用する可能性があるため、将来的には感染増強抗体の産生を誘導しないワクチン開発が必要になる可能性がある」と述べている。

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国内コロナ患者へのCT検査実施率とVTE発症の実態は?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者での血栓症が世界的に報告されている。日本国内でもその状況を把握するために種々のアンケート1)2)が実施されてきたが、発症率や未診断症例(under-diagnosis)に関する詳細は不明であった。そこで、京都大学の山下 侑吾氏らは画像診断症例を対象にCOVID-19症例の静脈血栓塞栓症(VTE)発症の実態を正確に調査するレジストリ研究を実施した。その結果、以下4点が明らかになった。1)国内の現実臨床では、COVID-19症例に造影CT検査が実施される事はかなり少数だった。2)VTE発症について、軽症例では一例も認めなかったが、重症例では比較的高率だった。3)VTE発症例では、肥満やCOVID-19重症例の割合が多かった。4)VTE発症例と非発症例の生存退院の割合には有意差を認めなかった。また、肺塞栓症の重症度はすべて軽症だった。 この報告はCirculation Journal誌2021年5月20日号オンライン版に掲載された。研究概要と結果 本研究は、日本静脈学会および肺塞栓症研究会の有志「日本でのVTEとCOVID-19の実態調査タスクフォース」によって実施された医師主導の多施設共同の後ろ向き観察研究である。対象者は2020年3~10月に参加施設22件において、PCR検査でCOVID-19と確定診断された症例の中から、胸部を含む造影CT検査が実施された患者1,236例。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19症例の中で、造影CT検査が実施されていたのは45例(3.6%)だった。・そのうちの28例(62%)では、VTE発症を疑い造影CTが撮像されたていたが、残りの症例は別目的での撮像であった。・45例のうちVTEを認めたのは10例だった。COVID-19の重症度別では、軽症は0%、中等症は11.8%、重症は40.0%だった。・VTE発症例は非発症例と比較して、過体重(81.6kg vs. 64.0kg、p=0.005)かつBMI高値(26.9 kg/m2 vs. 23.2kg/m2、p=0.04)であり、人工呼吸器やECMOを要するような重症例の割合が有意に高かった(80.0%vs. 34.3%)。・一方、VTE発症例と非発症例で、退院時の生存割合に有意な差は認められなかった(80.0%vs. 88.6%)。・45例のうち30例(66.7%)には抗凝固薬が投与されていた(予防用量の未分画ヘパリン:46.7%、治療用量の未分画ヘパリン:30.0%、低分子ヘパリン:13.3%)。・VTE発症例において、入院からVTE診断までの日数の中央値は18日であり、50.0%の患者はICU入室中に診断された。残り50%の患者は一般病棟入室中に診断されていた。・8例(17.8%)に肺塞栓症を認めたが、肺塞栓症の重症度はすべて軽症例であった。しかし、5例(11.1%)に大出血イベントを認めていた。 研究者らは、「海外では、予防的な抗凝固療法の実施に関して、適切な対象患者、抗凝固療法の種類と強度、および投与期間などを検討するさまざまな報告が相次いでいる。日本の現場でも、画像診断の可否を含めどのように対応すべきか議論を進めていくことが重要と考えられる」と考察している。

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第60回 コロナワクチン接種を優先すべき意外な職種とは?

海外に比べて接種率が低いと言われる新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種率だが、6月1日時点で医療従事者等と高齢者の1回目接種完了者合計は931万4,956回。現在のワクチン接種対象年齢から計算しても総対象者はほぼ1億2,000万人となるので、国民全体で見れば、接種率はまだ1割にも達していないことになる。政治主導で決まった1日100万回接種という目標に対して、現状(6月1日)で52万回強。政府は今月中に職域接種や大学での接種なども開始して目標達成を目指すとみられる。今回の接種で優先順位が最も高かった「医療従事者等」の接種回数は6月1日時点で1回目が465万3,566回、2回目が313万9,628回に達した。この括りでの優先接種対象者は約480万人と推定されているため、1回目接種の完了者はすでに9割超に達している。そして、約3,600万人と推計される高齢者のうち1回目接種が完了したのは620万人強で、ようやく6人に1人という計算だ。ところが、ここにきて国や地方自治体が設置した大規模接種会場では、すでに予約の空きも目立つことが報じられている。その典型が防衛省の運営する大手町の大規模接種センターで、東京都民の高齢者向けに用意した予約枠に空きが目立ったことから、周辺3県の高齢者の受付を前倒しした。こうした現象はほかの地域でも起きている。「仙台会場は予約に空き 大規模接種、1000人以上余裕ある日も」(河北新報)「大規模接種の予約「4割空き」 愛知で準備急ピッチ」(朝日新聞)「大阪市の大規模接種会場、予約埋まらず 利便性低い?」(日本経済新聞)大規模接種会場の予約に空きが出やすい主な理由は、会場のアクセスがあまり良くない、あるいはミスマッチな場所(大手町は現役世代にとってはアクセスが良いが、自宅を中心に生活している高齢者にとっては必ずしもアクセスが良いとは言えない)ためと言われる。ところがこうした予約の空きが報じられるたびに、市区町村の集団接種やかかりつけ医接種の予約者の一部がより早い接種に期待をかけて大規模接種会場に予約を入れ、結果的に二重予約になる問題が指摘されている。そして自治体側ではその予約取り消しに職員がさらに四苦八苦し、さらに一部の個別接種医療機関では逆にワクチン予約の空きが出て埋まらないという何とも酷な状況が起きている。すでに余剰ワクチンの扱いについては、前回、国も最終的には誰に接種しても問題なしという趣旨の通知を出したことを紹介している。ただ、各自治体とも接種券がまだ発行されていない住民や他の自治体の住民を接種対象とすると、後の事務作業が煩雑になることが予想されるためか、余剰ワクチン接種の対象者にも細かく優先順位を付けたりしているところが少なくない。たとえば、ネットメディアの「BUSINESS INSIDER」が記事公開している東京23区の余剰ワクチン対応もかなりまちまちだ。概して言えば、優先接種対象の高齢者で代わりを探す、高齢者の付き添い者、高齢者施設職員、小中学校教職員などが「次点」対象者となっている。ただ、私個人は医療従事者等の接種完了が見えてきたからこそ、高齢者以外の新たな優先接種の対象を設定すべきではないかと考えている。ちなみに最優先だった「医療従事者等」については、リンク先を見れば分かる通り、単純に医師や看護師だけでなく、広く新型コロナ患者に接する人が対象になっている。では、誰を新たな優先接種の対象とするべきかというと、それは「新型コロナ対応に欠かせない人」である。「『新型コロナ患者に接する人』と何が違うのか?」という人もいるかもしれない。だが、患者には接しなくとも対応に必要な人たちはいるはずである。私は次のニュースを見た時にまさにそう思ったのである。「札幌市コールセンターでクラスター 受付時間変更に」(テレビ朝日)札幌市が大手企業へ業務委託したワクチン接種予約のコールセンターでクラスターが発生したというもの。このニュースに対して一部では「民間に丸投げするからこうなる」との指摘もあるようだが、それは筋違いである。そもそも自治体側はマンパワーが不足しているから委託をせざるを得ないケースがほとんどだ。ちなみにこのケースは関係者によると、コールセンター内でのフェイスシールドやマスクの着用が徹底されていなかったことがクラスター発生の原因だったらしいが、そもそもこれらの人たちが1回でもワクチン接種を行っていれば、発生が避けられた可能性は十分にある。「たかだかコールセンター?」という人もいるかもしれないが、これからワクチン接種回数をより増やしていくためには、こうした人たちが安全に業務できる環境を整備することは重要である。また、実は各自治体などが設けている発熱相談コールセンターの担当者も実は優先接種対象者ではない。あるコールセンターで勤務し、医療従事者の国家資格も持つ人は「よく周囲から『あなたは優先接種対象なんだよね?』と聞かれますが、現時点で1回もワクチン接種をしていないと話すと、すごく驚かれます」と明かす。これ以外にもワクチンや医薬品を輸送する運送関係者や医薬品卸関係者も対象とはなっていない。新型インフルエンザ等対策特措法では国民生活や経済安定に資する業者として「特定接種」という対象を設け、これに医薬品卸関係者も入っているのだが、あくまで患者との接触の有無を前提に今回の優先接種対象からは外れている。また、自治体でワクチン接種などの関連業務に従事する公務員も自治体によってかなりワクチン接種状況が異なると言われている。有効なワクチンが登場してきたとはいえ、今も一旦感染すれば決定的な治療薬もないのが新型コロナの現状だ。しかも、こうした関連業務の従事者から感染者が報告されれば、二次感染に対する警戒レベルは高くせねばならず、当然ながら濃厚接触者追跡などもより厳格になる。そうすれば当然のことながらその業務がマヒする可能性が高まる。いずれにせよ、これらの人たちは大規模接種会場や個別接種医療機関の近隣の小中学校教職員よりも優先度が高い人であるはず。国や各自治体にはより現実的な対応を望みたいところだ。

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心筋炎と心筋梗塞を簡便に鑑別できる新規miRNAを同定/NEJM

 心筋炎のマウスおよびヒトにおいて同定された新規マイクロRNA(miRNA)のヒト相同体(hsa-miR-Chr8:96)は、心筋炎患者と心筋梗塞患者の区別に利用できる可能性があることを、スペイン・国立心臓血管研究センターのRafael Blanco-Dominguez氏らが明らかにした。心筋炎は、冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(MINOCA)と初期診断を受けた患者の最終診断となることが多く、心筋梗塞の基準を満たす患者の約10~20%にみられる。急性心筋炎の診断は通常、心内膜心筋生検または心臓MRIのいずれかが必要であるが、前者は侵襲的であり、後者はすべての施設で利用できるわけではない。そのため、新たな診断法が求められていた。NEJM誌2021年5月27日号掲載の報告。心筋炎または心筋梗塞モデルマウスのT細胞を解析 研究グループは、心筋炎に特異的なmiRNAを同定するため、マウスに実験的自己免疫性心筋炎または心筋梗塞を誘発した後、CD4陽性T細胞およびTh17細胞を分離してmiRNAマイクロアレイ解析と定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)解析を実施した。また、コクサッキーウイルスにより心筋炎を誘発したマウスから採取した検体でも、qPCRを実施した。 さらに、このmiRNAのヒト相同体を同定し、急性心筋炎患者の血漿における発現を、各種対照群での発現と比較した。心筋炎患者で確認され心筋梗塞患者では検出されないmiRNAを確認 炎症性サイトカインであるインターロイキン-17を産生するTヘルパー(Th17)細胞が、心筋炎の急性期における心筋損傷の特徴であることを確認した。Th17細胞により合成されるmiRNAのmmu-miR-721が、急性自己免疫性心筋炎またはウイルス性心筋炎のマウスの血漿中に存在することが確認されたが、急性心筋梗塞のマウスの血漿からは検出されなかった。 このmmu-miR-721のヒト相同体をクローニングし、hsa-miR-Chr8:96と名付けた。hsa-miR-Chr8:96は、心筋炎患者の独立した4つの患者コホートで特定された。血漿中hsa-miR-Chr8:96の検出による急性心筋炎と急性心筋梗塞の鑑別に関するROC曲線下面積は0.927であった(95%信頼区間[CI]:0.879~0.975)。年齢、性別、駆出率、血清トロポニン値で補正したモデルでも、このmiRNAの診断的価値が認められた。 なお著者は、このmiRNAは拡張型心筋症などの他の心疾患では評価されておらず、hsa-miR-Chr8:96の発現には大きなばらつきがみられたことなどから、「hsa-miR-Chr8:96が心筋炎の診断検査に適しているかを判断するには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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がん通院中患者の新型コロナ抗体量は低値、投与薬剤によって差も/国がん

 国立がん研究センターとシスメックスは、がん患者における新型コロナウイルスの罹患状況とリスクを評価するため、2020年8月から10月にかけて500人のがん患者と1,190人の健常人について新型コロナウイルスの抗体保有率と抗体量を調査した。 その結果、新型コロナウイルスの罹患歴のない対象では、がん患者、健常人共に抗体保有率は低く、両群で差がないことがわかった。一方、抗体の量は、健常人と比較し、がん患者で低いことが明らかになった。これは年齢、性別、合併症の有無、喫煙歴といった因子で調整しても有意な差を認めた。 さらに、がん治療が抗体量に与える影響を検証したところ、細胞障害性抗がん剤を受けている患者では抗体量が低く、免疫チェックポイント阻害薬を受けている患者では高いことが明らかになった。同研究結果から、がんの合併、ならびにがん薬物療法が抗体量に影響を与える可能性が示唆された。 本調査結果は、JAMA Oncology誌2021年5月28日号(オンライン版)に掲載された。

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コロナワクチン接種の最新版手引き、対象拡大やモデルナが追記/厚労省

 厚生労働省は6月1日付で、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(3.0版)」を公開した。今回の改版では、ファイザー社のワクチン接種対象者が「16歳以上」から「12歳以上」へ変更となったことや、や、5月21日に特例承認されたモデルナ社のコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」についての記載などが追記された。 本改版の改訂内容は以下のとおり。・ファイザー社のワクチンのドライアイスを用いた保管方法について削除・ファイザー社のワクチンが2~8℃で1ヵ月保管可能になったことに伴う改訂・ファイザー社のワクチンの対象者が12歳以上の者になったことに伴う改訂・接種単価、超低温冷凍庫の適正使用、武田/モデルナ社のワクチン、基礎疾患を有する者の確認方法、電話や情報通信機器を用いた診療の活用、意思確認を行うことが難しい場合の対応、保冷バッグの取扱い、在宅療養患者等に係る対応、副反応疑い報告についての追記・接種順位、新型コロナワクチンの各社情報、予診票の様式の更新 手引き(3.0版)のほか、最新の臨時接種実施要領や予診票などは、厚生労働省のホームページに掲載されている。

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第60回 立法措置のないコロナワクチン「打ち手」拡大に保団連が疑義

政府は新型コロナワクチン接種を加速するため、不足している「打ち手」を救急救命士や臨床検査技師にまで広げようとしている。医師や看護師以外の職種で最初に候補に挙がった歯科医師に対し、厚生労働省が4月26日付で事務連絡を発出、歯科医師による新型コロナワクチン接種について法的な整理を示した。これに対し、全国の医師・歯科医師10万7,000人で構成する全国保険医団体連合会(保団連)は5月21日、宇佐美 宏副会長(歯科代表)名で、「歯科医師による新型コロナワクチン接種は法律により適法性を確保して実施すべき」との声明を発表、問題点を指摘した。行き当たりばったりの職種拡大方針に疑問歯科医師法第1条は歯科医師の任務を「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保する」と規定している。声明では「新型コロナウイルス感染症が国民の生命と健康を脅かす中で、その対策に参画することは歯科医師の職業的使命である。必要に応じ、安全性を確保してワクチン接種に協力することは、歯科医師としてやぶさかではない」と、打ち手としての役割には前向きな姿勢を示した。一方、打ち手不足問題については「新型コロナワクチン接種のための体制確保は、ワクチンの開発・供給を巡る動向の中で十分に想定しえた課題である」と指摘。「厚労省が、円滑に対応できるようあらかじめ法律による対応に動かず、人材の逼迫が起こってから緊急避難的に解釈による対応をとったことには問題がある」と、行き当たりばったりの職種拡大方針に疑問を呈した。厚労省は事務連絡で、ワクチン接種のための筋肉内注射は医行為に該当し、医師法第17条に違反するとした上で、以下の3点の条件を示している。(1)歯科医師の協力なしにはワクチン接種が実施できない(2)歯科医師に筋肉内注射の経験があるか必要な研修を受けている(3)被接種者の同意がある。この3条件を満たす場合、「公衆衛生上の観点からやむを得ないものとして、医師法第17条との関係では違法性が阻却され得るものと考えられる」とした。そして集団接種会場に限り、医師の監督下で歯科医師によるワクチン接種の筋肉内注射を可能とした。これは、歯科医師によるPCR検査の検体採取についての法的整理と同じ手法だ。声明では「新型コロナワクチンについては、接種後一定頻度でのアナフィラキシーの発生や、死亡事例も報告されている。PCR検査の検体採取以上に深刻なリスクを伴うことは明らかであり、同じ医行為であっても検討には一層の慎重さが求められる。それにもかかわらず、PCR検査の検体採取と同様に、行政解釈により歯科医師の実施を可能とすることは不適切である」と、行政解釈による対応を批判した。国は解釈と条件を示すだけ、責任は現場任せ…その上で、「本来的に、国会審議を通じて必要性と安全性について広く合意し、立法により適法性を確保した上で実施されるべきものである」と提案。「医師法の定めを超えて歯科医師の協力が必要と判断するのであれば、責任を現場任せにして解釈と条件だけを示すのではなく、法律を根拠に実施できる条件を整えることが行政の責任である」と、現場視点からの問題点を示した。様々な職種の協力を得て新型コロナワクチンの接種が進んでも、今後も新たなウイルスの感染拡大が起こる可能性がある。声明では「これからも起こり得る緊急事態への対応も視野に、協力に当たる歯科医師の法律上の位置付けを明確にするよう、厚労省の責任ある対応を求める」と結んでいるが、ほかの職種に関しても同様の措置が必要だろう。医療人の善意に頼るだけでなく、安心して対応できる体制づくりが必要だ。

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ファイザー社の新型コロナワクチン、接種対象が12歳以上に

 米国・ファイザー社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用ワクチン「コミナティ筋注」の接種対象者が、「16歳以上」から「12歳以上」に変更・拡大された。厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(分科会長:脇田隆字・国立感染症研究所所長)が5月31日、新型コロナウイルス感染症にかかる予防接種の実施について指示した厚生労働大臣通知の一部改正案の諮問を受け、これを了承した。適用は6月1日付。 新たに接種対象となった12~15歳について、同ワクチンの国内治験は実施されておらず、審議に当たっては海外の臨床試験データが提示された。それによると、ワクチンの有効性は、接種前から2回目接種後7日以前にSARS-CoV-2感染歴がない場合は100.0%(95%信頼区間[CI]:75.3~100.0)、同感染歴を問わない場合も100.0%(95%CI:89.9~97.3)だった。 また、2回目接種後1ヵ月のSARS-CoV-2血清中和抗体価の評価については、12~15歳(190例)の中和抗体幾何平均値は1239.5(95%CI:1095.5~1402.5)で、16~25歳(170例)の中和抗体幾何平均値705.1 (95%CI:621.4~800.2)に対する非劣性が示された。有害事象の頻度および種類については、16~25歳と同様だった。 「コミナティ筋注」については、5月31日付で添付文書が改訂され、「用法及び用量に関する注意」「接種回数」「特定の背景を有する者に関する注意」「副反応」「適用上の注意」の項にそれぞれ内容の追加・改訂の記載がある。

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中国のコロナワクチン2種、初の第III相試験中間解析/JAMA

 中国で開発された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化ワクチン2種の、第III相二重盲検無作為化試験の事前規定中間解析の結果が、アラブ首長国連邦・Abu Dhabi Health Services CompanyのNawal Al Kaabi氏らによって発表された。試験は中国Sinopharmの子会社であるChina National Biotec Group(CNBG)に属する武漢生物製品研究所と北京生物製品研究所がデザインし、中東4ヵ国で被験者を集めて行われた。中間解析にはうち2ヵ国(アラブ首長国連邦とバーレーン)の被験者4万例超のデータが包含された。ワクチンの症候性COVID-19に対する予防効果はプラセボ接種の対照群と比較し72.8~78.1%であり、重篤な有害事象発生率は0.4~0.5%で対照群と同等だったという。JAMA誌オンライン版2021年5月26日号掲載の報告。SARS-CoV-2・WIV04株/HB02株からの不活化ワクチンを投与 試験に用いられたワクチンは、中国・武漢の金銀潭医院(Jinyintan Hospital)の2人の患者からそれぞれ採取されたSARS-CoV-2分離株(WIV04株とHB02株)を基に開発されたものである。 研究グループは、SARS-CoV-2等への感染歴がない18歳以上を無作為に3群に分け、WIV04株から作った不活化ワクチン(5μg/回)、HB02株から作った不活化ワクチン(4μg/回)、および水酸化アルミニウム(対照群)を、それぞれ2回、21日間隔で投与した。 主要アウトカムは、無作為化時にSARS-CoV-2感染が認められなかった被験者における、ワクチン2回投与から14日以降の症候性COVID-19(検査により確認)に対する有効性だった。副次アウトカムは、重症COVID-19に対する有効性とした。 有害事象・副反応に関するデータは、1回以上投与した被験者を対象に集計した。重症COVID-19、対照群で2人に対しワクチン群では0人 ワクチンまたはプラセボ1回以上投与を受けたアラブ首長国連邦とバーレーンの被験者は計4万382例(WIV04群1万3,459例、HB02群1万3,465例、対照群1万3,458例)で、平均年齢は36.1歳、男性が84.4%だった。このうち2回投与を受け、2回投与後14日以降に1回以上のフォローアップを実施し、また試験開始時に、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が陰性だった3万8,206例(94.6%)を対象に分析を行った。 追跡期間中央値77日(範囲:1~121)において、症候性COVID-19が確認されたのは、WIV04群26例(12.1/1,000人年)、HB02群21例(9.8/1,000人年)であり、対照群は95例(44.7/1,000人年)だった。対照群と比較したワクチンの有効性は、WIV04群72.8%(95%信頼区間[CI]:58.1~82.4)、HB02群78.1%(64.8~86.3)だった(いずれもp<0.001)。 重症COVID-19の発生は、対照群で2例報告されたが、不活化ワクチン群では発生しなかった。 接種後7日間の副反応の報告は、WIV04群44.2%、HB02群41.7%、対照群46.5%だった。重篤な有害事象はまれで、WIV04群64例(0.5%)、HB02群59例(0.4%)、対照群78例(0.6%)と3群で同等だった。 なお、最終解析では、さらにエジプトとヨルダンの被験者データも包含して分析する予定となっているが、両国からの被験者数が3,469例であったことから結果が大幅に変わる可能性は低いなどとして、最終解析のためのデータ収集については未確定だとしている。

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BNT162b2(コミナティ筋注)のReal-World Settingにおける予防効果はなぜ国/地域によって異なるのか?(解説:山口佳寿博氏)-1400

 mRNAワクチンであるBNT162b2(以下、ワクチン)の第III相試験が終了した後、real-world settingでの実際の予防効果が、ワクチン接種が早期に開始された中東諸国(イスラエル、カタール)、英国、米国などから相次いで報告されている。各国で報告された予防効果は、必ずしも一致せず背景因子に何らかの差が存在するものと考えられる。本論評では、Angel氏らの論文(Angel Y, et al. JAMA. 2021 May 6. [Epub ahead of print])を基礎としながら、なぜ、各国からの報告でワクチンの予防効果に差を認めたのか、その原因について考察する。Angel氏らは、2020年12月20日~2021年2月25日の2ヵ月の間にワクチンを2回接種したイスラエルの医療従事者を対象(接種者:5,517人、非接種者:757人)として2回目ワクチン接種後7日以上経過した時点での有症候性感染、無症候性感染に対するワクチンの予防効果を検討した。その結果、有症候性感染に対する予防効果は97%、無症候性感染に対する予防効果は86%であることが示された。一方、Dagan氏らは、ほぼ同じ時期(2020年12月20日~2021年2月1日)にワクチンを接種したイスラエルの一般住民を対象(接種者と非接種は同数で各59万6,681人、総数はイスラエルの総人口の13%に相当)とした解析で、2回目のワクチン接種後7日以上経過した時点での有症候性感染に対する予防効果が94%、無症候性感染を含む感染全体に対する予防効果が92%、入院予防効果が87%、重症化予防効果が92%であると報告した(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)。対象者数、従事する仕事の内容に差を認める両解析ではあるが、最も信頼できる有症候性感染予防効果に関しては2つの論文でほぼ同じ値が報告された。この時期のイスラエルでは、従来株(D614G株)から英国株(B.1.1.7)に蔓延ウイルスの置換が進んでいた時期で、上記の2つの論文は、従来株と英国株が混在した状況下でのワクチンの有効性を示したものだと判断できる。この予防効果は、従来株が主流を占めた2020年の夏から秋にかけて施行されたワクチンの第III相試験によって示された予防効果(95%)とほぼ同じであり(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)、英国株に対するワクチンの予防効果は従来株に対するそれと同等であると結論できる。 英国株が主体を占めた英国からの報告では、80歳以上の高齢者にあって、有症候性感染に対するワクチン2回接種後の予防効果は89%であり、年齢と無関係にワクチンの予防効果はほぼ維持されることが判明した(Bernal JL, et al. BMJ. 2021;373:n1088.)。 カタールでは、2021年3月31日までに26万5,410人が2回目のワクチン接種を終了した。この時期、カタールを席巻していたウイルスは、44.5%が英国株、50%が南アフリカ株(B.1.351)であり、同じ中東のイスラエルとは異なったウイルス分布を示していた。このような状況下で、Abu-Raddad氏らは英国株、南アフリカ株に対するワクチンの予防効果を検証した(Abu-Raddad LJ, et al. N Engl J Med. 2021 May 5. [Epub ahead of print])。ワクチン2回接種後14日以上経過した時点での英国株の有症候性感染に対する予防効果は89.5%、南アフリカ株の有症候性感染に対する予防効果は75%で、南アフリカ株に対するワクチンの予防効果は英国株に対する予防効果より14.5ポイント低いことが示された。この結果は、南アフリカ株が液性免疫回避変異を有し(山口. J-CLEAR論評-1381, 2021 April 28)、ワクチン接種後のウイルス中和作用を抑制したことが原因の一つであることを示唆する。 2020年12月17日~2021年3月20日の間に米国で施行されたワクチン予防効果に関する検討では(2回接種:2,776人、1回接種:3,052人、非接種:2,165人)、有症候性感染に対する予防効果が84%、無症候性感染に対する予防効果が72%であることが示された(Tang L, et al. JAMA. 2021 May 6. [Epub ahead of print])。これらの値はAngel氏らがイスラエルから報告した値に比べ13~14ポイント低い。米国において蔓延しているウイルスの種類は複雑で、米国CDCは、2021年4月30日現在、米国全土で英国株、米国株(B.1.427/429)、ブラジル株(P.1)、南アフリカ株と多数の変異ウイルスが混在して流布していると報告した(CDC COVID-19 Vaccine Breakthrough Case Investigations Team. MMWR; Vol. 70, 2021 May 25)。これらの変異ウイルスの多くは、ワクチン接種によって形成される中和抗体に対して抵抗性を有し、ワクチンの予防効果を低下させる(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38)。 以上のように、ワクチンの予防効果は国によって異なり、その地域に流布しているウイルスの種類が主たる規定因子として作用する。それ故、いかなるウイルスが蔓延しているかを念頭に置いて各国から報告された予防効果に関するデータを読み解く必要がある。

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第60回 スギ、亀田、セコム…。“ずる賢い”医療者たちの“抜け駆け”接種で垣間見えた病院経営のダークサイド

“抜け駆け”ワクチン接種で大騒ぎこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週は神宮球場にセ・パ交流戦のヤクルト−日ハム戦を観戦に行って来ました。ヤクルト球団に勤める友人に頼んで5,000人限定のチケットを確保、友人との2年ぶりのプロ野球観戦が実現しました。小雨降る中、カッパ、マスク、飲酒なしの観戦は、なかなか辛いものがありましたが、入団2年目、星稜高校出身の奥川 恭伸投手の好投を間近で観ることができ、満足の一日でした。観戦後、外苑前で一杯、と思ったのですが、当然ながらどこの飲食店もやっておらず、空きっ腹のまま現地解散になったのは少々残念でした…。さて、東京や大阪など9都道府県に出されていた緊急事態宣言が6月20日まで延長となりました。東京都、京都府、大阪府、兵庫県は4月25日からですから、実に2ヵ月近く緊急事態宣言下にあることになります。各地の新規陽性者数が引き続き高い水準であること、関西圏や北海道などで病床逼迫が続いていること、インドで発生した変異株の流行が懸念されること、などが延長の理由とされています。そんな中、医療従事者に続き、65歳以上の高齢者のワクチン接種が遅々として、ではあるものの進んでいます。予約電話がつながらない、高齢者には到底できないと思われるインターネット予約の煩雑さなどが話題となっていますが、まあ新しい試みには困難が付きものです。高齢者以外の一般人が打つころには、もう少しスムーズに予約ができるシステムになっていることを願うばかりです。今回は、高齢者接種が始まってから大騒ぎとなった”抜け駆け”ワクチン接種について考えてみたいと思います。スギ薬局を経営するスギホールディングス会長夫妻による地元・愛知県西尾市での”抜け駆け”接種未遂や、いくつかの市町村の首長の接種が話題となりましたが、先々週は亀田総合病院、先週はセコム医療システムの”抜け駆け”接種が週刊誌やTVなどで報道されました。ただ、それぞれの“抜け駆け”の意味合いや悪質性は微妙に異なっているようです。医療従事者よりVIPを優先した亀田総合病院千葉県鴨川市の医療法人鉄蕉会・亀田総合病院の”抜け駆け”接種は、週刊文春の5月27日号(5月20日発売)でスッパ抜かれました。同誌の報道によれば、東証一部上場のシステム関連会社、オービックの代表取締役会長夫妻(共に80歳代、東京都大田区在住)が、亀田総合病院に割り当てられた医療従事者枠の新型コロナウイルス・ワクチンを4月に接種していたとのことです。会長夫妻が接種した時点で、同病院の医療従事者の接種は完了していませんでした。おそらく、同病院の従業員によるタレコミで週刊文春が動いたのでしょう。同誌によれば、会長夫妻は同病院にとってのVIPであり、亀田医療大学の開学に際しての寄付など、毎年多額の寄付を行っているとのことです。会長夫妻への接種を勧め、医療従事者用のワクチンの使用を決めたのは、鉄蕉会理事長の亀田 隆明氏とされています。亀田総合病院は週刊文春に対し書面で「ご夫妻には亀田医療大学設立当初から理事にもなっていただき、以来個人として寄付をいただき何とか経営が成り立っています。(中略)ご夫妻の年齢を考慮し、早めのワクチン接種は不可欠と判断しました。(中略)当院職員の接種希望者全員分のワクチン確保の目途が立った上で、余剰分を使用しています。当院配布分の『対象となる医療従事者等』の枠を使用しました」と回答していますが、鴨川市以外の住民に、医療従事者用を自院で働くスタッフよりも先に打つのは明らかにアウトですね。なお、この件よりも前に発覚したスギ薬局の会長夫妻の接種未遂は、会長夫妻側から西尾市への強固な要請があったということです。夫妻は薬剤師の免許は持っているようですが現場には出ていないわけですから、こちらもアウトですね。亀田が位置する医療圏の高齢化、人口減は深刻さて、私は記者時代に何度も亀田総合病院を取材し、理事長の亀田氏にも取材を行ったことがあります。週刊文春は、亀田総合病院が、米週刊誌Newsweekが患者満足度などを基に毎年発表している「World's Best Hospitals 2021」で国内第3位にランクインしたことや、亀田氏が、2019年『カンブリア宮殿』(テレビ東京)に「革新経営者」として登場した、といった“明”の部分に触れていますが、地元の地銀や都銀などからの巨額な借り入れの存在や、医療以外の事業の失敗といった“暗”の部分は書かれていません。亀田氏はまだ副理事長だったバブル時代、関連企業で千葉県・幕張に「ホテルフランクス」を開業、ホテル事業に乗り出しましたが、結局失敗し、ホテルは売却に至っています。「革新経営者」は言い過ぎのような気もします。現在、亀田総合病院が位置する医療圏の高齢化や人口減は深刻で、病院経営にも少なからぬ影響を及ぼしているでしょうし、成田空港に近いことから力を入れていたメディカルツーリズムもコロナで開店休業状態でしょう。従業員のタレコミのリスクを負い、ルールを曲げてまでVIP(いわゆるパトロン)のワクチン接種を敢行しなければならないほどに、医療法人鉄蕉会の経営は苦しいのかもしれません。セコム役員が提携先の病院で接種と報道もう一つニュースになった“抜け駆け”接種は、セコムの常務で子会社・セコム医療システムの取締役会長である布施 達朗氏によるものです。5月21日、TBS(JNN系列)は警備大手セコムの役員である布施氏が、提携先の病院で“医療従事者向け”の新型コロナワクチンを接種していた、と報じました。この報道によれば布施氏は、千葉県松戸市の医療法人誠馨会・新東京病院で、3月13日と4月1日の2回、医療従事者向けに優先的に割り当てられたワクチンを接種したということです。JNNの取材に対し、セコム医療システムは「3月初旬に新東京病院から『ワクチンに余剰が出た』として、接種のお誘いを受けた」「布施会長は医師と席を同じにする機会も多く、接種の必要があるとの病院側の判断だったが、軽率であり、お断り申し上げるべきだった」とコメントしたとのことです。また、報道では、新東京病院では、ほかにも病院職員ではない取引先など、少なくともおよそ80人が医療従事者向けワクチンの接種を受けたとされています。新東京病院は「セコムの病院」このケース、亀田と似ているようで構造はまったく違います。JNNの記者はその点もきちんと報道すべきだったと思いますが、気がついていなかった可能性もあります。報道では、ワクチンを接種したのは「提携先の病院」とされていますが、新東京病院は「セコムの病院」であり、布施氏は自分が“経営する”病院でワクチン接種を行ったのです。医療関係者なら既知のことだと思いますが、セコムは「提携病院」と称して多くの病院を実質的に経営しています。セコム医療システムはセコムのさまざまな医療事業を束ねる会社であると同時に、病院経営を行う会社でもあります。その先駆けは東京都世田谷区にある久我山病院で1992年から経営に当たっています。その後も経営が傾いたり、経営者が手放したりした病院などに支援の手を差し伸べてきました。その経営スキームはさまざまですが、基本、セコムが言う「提携」とは、債務保証を含む経営支援であり、土地や建物をセコムが賃貸したり、医療機器などをセコムの関連会社が販売・リースをしたりすると共に、医療法人に経営スタッフを送り込む、という仕組みになっています。かねてから循環器系が強かった新東京病院は、2006年にセコム医療システムの提携病院となり、2008年に前から提携法人であった千葉県の医療法人誠馨会が吸収し、現在に至っています。なお、セコムの提携医療機関はセコム医療システムのサイトで見ることができます。病院については現在、北海道から兵庫まで20病院が提携先となっています。札幌で有名な手稲渓仁会病院、あの長嶋 茂雄氏もリハビリをした東京都渋谷区の初台リハビリテーション病院も提携医療機関です。アウトとセーフの間、グレーの“抜け駆け”そう見てくると、「ほかにも病院職員ではない取引先などの少なくともおよそ80人が医療従事者向けワクチンの接種を受けた」というのは、病院に出入りするセコムの関連会社の社員たちがワクチンの接種を受けた、と考えられなくもありません。善意で解釈すれば、関東地区の提携病院の中の基幹病院とも言える新東京病院でセコムの関連社員たちをまとめて受けさせ、出入りする病院で感染したり感染させたりすることを予防するのが目的であったとも考えられます。市町村の首長が優先接種の際に語る理由、「私は病院の管理者だから」というのと同じロジックです。新東京病院のホームページには「一部報道につきまして」として、今回の件について中村 淳病院長のお詫びの文章が掲載されています。そこでは「不当又は軽率な新型コロナワクチン接種はしておりません」として、「報道の一部にありました『非職員』というのは派遣業務、委託業者等で病院内部に頻回に出入りし、医療機関としての業務に携わっている者であり、患者さまにも接触する可能性のある方々です。医療従事者等に含まれうる非職員らを守るためにワクチンを接種したのではなく、あくまで病院内部で入院しておられる患者さまを守るために、通常医療を適正に提供するために」接種した、と弁明しています。他の病院では、クラークや清掃担当、そして首長も医療従事者として接種を受けているのですから、この接種はアウトとセーフの間、グレーだったと解釈できます。もっとも布施氏が既に病院にはほとんど赴かない立場だったとしたら問題ですが。 観客制限なし、マスクなしでビール飲みまくりの米国球場それにしても、日本のこのワクチン接種を巡るドタバタ振りはなんでしょう。この日曜(5月30日)、NHKBSでMLBのヒューストン・アストロズ対サンディエゴ・パドレスを観戦していたのですが、ヒューストンにあるミニッツメイド・パークはもはや観客制限はなく、ほとんどの観客はマスクなしで、ビールを飲みまくり観戦していました(州によって基準は違うようですが)。米国疾病予防管理センター(CDC)はワクチンの接種を完了すれば、屋内外を問わず、マスクを着用しなくてもよいとする新たな指針を5月13日に発表(バスや飛行機、病院など混雑した屋内では引き続きマスク着用が求められる)、それがもう全米で浸透しつつあります。全米の1日の新規感染者はまだ2万人近くもいるのに、です。私も早くワクチンを打って、神宮球場恒例の「生ビール半額ナイター」に行きたい、と切に思ったこの週末でした。

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新型コロナ感染の後遺症リスクが高い人の特徴/BMJ

 新型コロナウイルス感染によって後遺症が出現することは多数報告されているが、重症度によって異なるのか、どんな人に起こりやすいのかなど具体的なことは不明だ。そこで、ユナイテッド・ヘルスグループOptumLabsに所属するSarah E. Daugherty氏らが新型コロナウイルス感染症の急性期後(回復期・慢性期)の後遺症発症リスクを調べた結果、「50歳以上」「既往あり」「新型コロナで入院」に該当する患者が最もリスクが高くなることを明らかにした。一方で、メンタルヘルスなどのいくつかの後遺症リスクは、年齢や既往歴の有無に関係なく増加することも示唆した。BMJ誌2021年5月19日号掲載の報告。 研究者らは、18~65歳における新型コロナウイルス感染症の回復期・慢性期に偶発的な後遺症を発症する超過リスクと相対危険度を調べるため、2019年1月から新型コロナウイルス感染症の診断日まで継続的に健康保険プランに登録されていた18〜65歳について後ろ向きコホート研究を行った。対象者を傾向スコアマッチングで調整後、3群(2020年群[新型コロナの診断がなかったもののPCR陽性または2020年に新型コロナで入院した18~65歳]、2019年群[2020年のパンデミック時に医療サービスの利用減少で発生する可能性のある確認バイアスを説明するために作成したグループ]、ウイルス性下気道疾患の既往群[過去にインフルエンザ、急性気管支炎などを発症した18~65歳])と比較し、新型コロナ急性感染後4ヵ月の超過リスクとハザード比を算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の14%(2万7,074例/19万3,113例)は、回復期・慢性期に治療を要する1つ以上の新たなタイプの後遺症があり、その割合は2020年群よりも4.95%高かった。・後遺症リスクは、50歳以上ではあらゆる症状において最も高かった。一方、18 ~ 34歳の若年成人では高血圧、不整脈、凝固亢進状態、記憶障害、糖尿病、疲労などが、いくつかの条件でわずかではあるが有意に上昇した(すべてのp<0.001)。メンタルヘルスを発症するリスクは、年齢に関係なく有意に増加した (相互作用のp=0.35)。・新型コロナウイルス感染に起因する超過リスクは、急性期から4ヵ月後の診断で100人あたり0.02~2.26と低かった(すべてのp<0.001) 。 研究者らは、「新型コロナウイルス感染の回復期・慢性期において、ほかのウイルス性疾患ではあまり見られない特定のタイプの後遺症を含む、臨床的に新しい後遺症を発症する過剰なリスクが示され、これは医療計画にも影響する」としている。

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ワクチン接種で役立つ地方発の知恵/首相官邸・戸田市

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一般向けのワクチン接種が、全国的に始まり、軽微な不備はあるものの、現在は順調に進んでいる。 接種に際しては、会場設営、人口構成、医療者の分布など地域の個々の事情に応じた対応がなされている。 こうした状況の中で、首相官邸の「新型コロナウイルス感染症対策」の特設ページでは、一部の自治体だけでなく、他の自治体でも利用できる活動について収集したものを「ワクチン接種これいいね。自治体工夫集」としてまとめ、公開している。地域の状況に合わせて工夫する自治体の接種体制 工夫集は「医療従事者確保」「効率的な接種体制」「予約システム、円滑な予約体制」「大規模接種会場」の4つのパートに分かれ、各自治体の取り組みが紹介されている。【医療従事者確保】(研修医の活用や医師などのチーム編成接種会場の設置、潜在看護師の活用など)・集団接種会場への研修医の派遣(奈良県)・医師・歯科医師・看護師の「別動隊」による接種機会の拡大(神奈川県大和市)・潜在看護師の掘り起こし(滋賀県)【効率的な接種体制】(予約なしで地区ごとに接種、接種センター作り集中化、地域モデルの共有、医師が巡回して接種など)・地区ごとの集団接種(福島県相馬市)・ワクチンの集中管理(岡山県岡山市)・県内市町村のモデル事例の共有(長野県)・会場内医師巡回方式の導入(東京都調布市)【予約システム、円滑な予約体制】(独自のWEB抽選システムで申込受付)・予約抽選申込方式の導入(兵庫県加古川市)【大規模接種会場】(地元大学との連携やワクチン接種センターの設置、期間限定の高齢者接種センターの設置など)・県・市・国立大学の連携によるワクチン接種センターの開設(宮城県・仙台市)・空港・大学における大規模接種会場の設置(愛知県)・県営ワクチン接種センターの設置(群馬県)・大規模接種会場の設置(兵庫県神戸市)・県高齢者ワクチン接種センターの設置(埼玉県)いつあってもおかしくないワクチン接種のアクシデントはこれ! 埼玉県戸田市は、一般報道をもとにまとめたワクチン接種現場でのアクシデント事例集を作成し、市内の医療機関に配布した。この事例集は、ワクチン接種に携わる医療従事者向けにまとめられたもので、今後のワクチン接種活動での注意喚起を込め、同市の危機管理防災課が作成した。 アクシデント事例として「ワクチンの使用期限(6時間)の認識不足」、「保管・解凍・搬送に関する認識不足」「希釈・分注に関す認識不足」「バイアルの取り扱いに関する認識不足」「注射器の取り扱いに関する認識不足」「本人確認ミス」に分かれ、現在36項目の事例と原因が記載されている。 具体的事例として、「ワクチンに生理食塩水を注入する際、量を間違え使えなくなった。原因として調製方法がしっかりと伝わっていなかった」「中身が空である注射器を誤って接種した。原因として使用済みの注射器を廃棄せずにテーブルに置いてしまった」「集団接種会場で男性に1日2回接種した。原因として接種の案内係が男性の予診票を確認しなかった。接種した直後に誤りに気付いた」 などが記載されている。 いずれもどこの現場でも起りうる事例なので、先述の工夫集とともに今後の対策に役立てていただきたい。なお、首相官邸の工夫集、戸田市の事例集は今後も随時更新をしていく予定。

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冷蔵保存しやすい新たな新型コロナワクチン「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」【下平博士のDIノート】第75回

冷蔵保存しやすい新たな新型コロナワクチン今回は、新たに特例承認された新型コロナウイルスワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、わが国で2番目に承認された新型コロナウイルスワクチンであり、冷蔵状態での保存可能期間が長く、希釈の必要がないため、大規模接種会場などで活用がしやすいと考えられます。※本剤の販売名は、販売当初は「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」でしたが、2021年12月、3回目接種(追加免疫)の用法・用量追加の特例承認に伴い、「スパイクバックス筋注」と変更されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年5月21日に承認されました。なお、現時点では本剤の予防効果の持続期間は確立していません。12歳未満についての有効性、安全性は確立されていないため、本剤の接種は12歳以上が対象です。<用法・用量>《初回免疫》1回0.5mLを2回、通常4週間の間隔を置いて筋肉内に接種します。本剤は2回接種することで効果が確認されていることから、ほかのSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく、本剤を2回接種する必要があります。1回目の接種から4週を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施します。《追加免疫》前回の接種から少なくとも5ヵ月経過した後1回0.25mLを筋肉内に接種します。<安全性>海外第II/III相試験および国内第I/II相試験で報告された主な副反応は、疼痛(92.7%)、疲労(70.7%)、頭痛(66.5%)、筋肉痛(60.5%)、関節痛(44.6%)、悪寒(46.0%)、悪心・嘔吐(23.7%)、リンパ節症(21.9%)、発熱(15.5%)、腫脹・硬結(16.6%)、発赤・紅斑(12.3%)、遅発性反応(疼痛、腫脹、紅斑など)(1%以上)、そう痒感、じん麻疹、発疹および顔面腫脹(すべて1%未満)、急性末梢性顔面神経麻痺(頻度不明)でした。重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。3.医師による問診や検温、診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。1回目に副反応が現れた場合は、2回目の接種前に医師などに伝えてください。4.副反応として、注射した場所の痛み・腫れ・発赤などの局所症状、発熱、頭痛、疲労、筋肉痛などが現れることがあります。これらの症状の多くは、接種後1~2日以内に発現し、1~3日持続した後に回復します。症状が4日以上続く場合はご相談ください。5.心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で2番目に承認された新型コロナウイルスワクチンであり、有効成分はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするmRNA(CX-024414)です。米国で実施された第III相試験(COVE試験)で認められた発症予防効果は94.1%であり、すでに国内で接種が進められているファイザー製ワクチン(商品名:コミナティ筋注)の94.6%と同程度です。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、重大な副反応として懸念されているアナフィラキシーは、2021年1月時点で758万1,429回接種のうち19件(2.5件/100万回)と報告されています。本剤は、公的接種の対象として「予防接種実施規則」および「新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領」に準拠して使用することが求められており、当面は大規模接種会場を中心に接種を進める方針が厚生労働省により示されています。保管については、-20℃±5℃の冷凍状態なら半年間の保存が可能で、冷蔵温度(2~8℃)では2時間半で解凍後30日間、また室温(15~25℃)1時間での解凍後、8~25℃で12時間の保存が可能です。調製方法について、本剤は希釈の必要はありません。接種直前は室温で15分放置します。本剤の1バイアルには10回接種分の用量が充填されており、一度針を刺したバイアルは6時間以内に使い切る必要があります。本剤は、2021年12月に18歳以上における3回目接種が特例承認され、2022年4月に4回目接種が承認されました。追加免疫の投与量は1回目、2回目の半量(0.25mL)とされています。※2021年7月と12月、2022年4月、厚生労働省の情報などを基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 スパイクバックス筋注(旧販売名:COVID-19ワクチンモデルナ筋注)2)武田/モデルナ社の新型コロナワクチンについて(厚労省)

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