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性的マイノリティ女性は乳がん・子宮頸がん検診受診率が低い、性特有の疾患における医療機関の課題

 性的マイノリティ(SGM)の女性は、乳がんや子宮頸がんの検診受診率が非SGM女性に比べて低いことが全国調査で明らかになった。大腸がん検診では差がみられず、婦人科系がん特有の課題が示唆されたという。研究は筑波大学人文社会系の松島みどり氏らによるもので、詳細は「Health Science Reports」に8月4日掲載された。 がん検診は、子宮頸がんや乳がんの早期発見と死亡率低下に重要な役割を果たしている。先進国と途上国を含む10カ国以上では、平均的なリスクを持つ全年齢層で20%の死亡率低下が報告されている。しかし、日本では2022年時点での子宮頸がん・乳がんの検診受診率はそれぞれ43.6%、47%にとどまっている。この受診率の低さの背景として、教育や所得の問題が議論されてきたが、日本ではSGMの問題という重要な視点が欠けていた。 海外の調査では、SGMの女性は子宮頸がんや乳がん検診を受ける可能性が低いことが明らかになっている。その背景には、拒絶や差別への恐れ、性的指向の隠蔽などが影響していると指摘される。また日本では、子宮頸がんや乳がんの検診が通常産婦人科で行われることから、この日本特有の状況も受診の障壁となっている可能性がある。このような背景から、本研究ではSGM女性は非SGM女性よりも子宮頸がんおよび乳がん検診を受ける可能性が低いという仮定を立て、全国規模のオンライン調査データを用いて検証した。また、大腸がん検診も対象に加え、結果が女性特有のがんに限られるのかどうかを調べた。 本研究では、オンライン縦断調査プロジェクトである「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS Study)」のデータベースより、JACSIS 2022モジュールのデータを使用した。2022モジュールは、2022年9月12日~10月19日の間に行われた追跡調査であり、合計3万2,000のサンプルが含まれた。サンプルを20~69歳の女性に限定した結果、最終的な解析対象は1万2,305人(SGM女性1,371人、非SGM女性1万934人)となった。 調査の結果、子宮頸がん検診の受診率はSGM女性で36.2%、非SGM女性で47.4%、乳がん検診は41.8%対50.1%であり、いずれもSGM女性の方が有意に低かった(いずれもカイ二乗検定、P<0.001)。一方、大腸がん検診の受診率はSGM42.5%、非SGM45.2%であり、その差は小さく統計学的な有意差は認められなかった(カイ二乗検定、P=0.23)。 また、人口統計学的特性および社会経済的地位を考慮したロジスティック回帰分析の結果、SGM女性は非SGM女性に比べて子宮頸がん検診(オッズ比〔OR〕 0.78、95%信頼区間〔CI〕 0.69~0.88、P<0.001)および乳がん検診(OR 0.77、95%CI 0.64~0.93、P<0.01)を受ける可能性が低いことが明らかになった。一方、大腸がん検診についてはSGM女性と非SGM女性の間に有意な差は認められなかった(OR 0.96、95%CI 0.80~1.16)。 著者らは、「本研究は、SGMの女性が子宮頸がんや乳がんなど女性特有のがん検診を受けにくい現状を明らかにし、この分野の理解を深めるものとなっている。結果は、医療現場でSGMの問題に配慮するための政策の重要性を示しており、具体的にはガイドラインの整備や性的に配慮したコミュニケーションの研修、さらに自己採取型HPV検査の導入などが挙げられる。なお、本データでは約12.5%の女性が性的マイノリティであると回答しており、受診率の低さが課題の日本において、国の政策としても決して看過されるべき課題ではない」と述べている。 なお、本研究の限界として、サンプル数の少なさから対象をSGMと非SGMの2群に単純化している点が挙げられる。この単純化により、SGM内の特定のグループ(トランスジェンダーなど)が抱える経験やニーズが見落とされていた可能性がある。著者らは、こうしたグループの独自の医療ニーズや課題を明らかにするためには、より大規模で多様なサンプルを用いた研究が必要であると指摘している。

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第281回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(後編)

INDEXレムデシビルエンシトレルビル感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、感染者数、入院者数、死亡者数から薬剤に関するNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究を紹介した(参考:第277回、第278回、第279回、第280回)。今回はようやく最終回として前回と同じ6誌とその系列学術誌を中心に掲載されたレムデシビル(商品名:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)に関する比較対照群を設定した研究を紹介する。レムデシビル新型コロナウイルス感染症の治療薬として初めて承認された同薬。当初は重症患者のみが適応だったが、その後の臨床試験結果などを受けて、現在は軽症者も適応となっている。新型コロナ治療薬の中で、日本の新型コロナウイルス感染症診療の手引き1)に定義される軽症、中等症I、中等症II、重症までのすべてをカバーするのはこの薬だけである。この薬に関して前述6誌の中で2023年5月以降に掲載された研究は、2024年6月のLancet Infectious Diseases誌に掲載された香港大学のグループによる研究2)である。この研究は評価したい因果効果をみるのに理想的な無作為化比較試験(target trial)をイメージして、可能な限りそれに近づけるように観察データ分析をデザインしていく手法「target trial emulation study」を採用したもの。利用したのはオミクロン株系統が感染の主流となっていた2022年3~12月の香港・HA Statistics保有の電子健康記録。この中からレムデシビル単独療法群(4,232例)、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群(1万3,656例)、併用療法群(308例)の3群を抽出し、主要評価項目を全死因死亡率(90日間追跡、中央値84日)として比較した。レムデシビル単独療法群と比較したハザード比(HR)は、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.18(95%信頼区間[CI]:0.15~0.20)、併用療法群が0.66(95%CI:0.49~0.89)でいずれも有意に死亡率は低下していた。副次評価項目については、ICU入室・人工呼吸器使用の累積発生率でのHRが、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.09(95%CI:0.07~0.11)、併用療法群が0.68(95%CI:0.42~1.12)、人工呼吸器使用率はニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.07(95%CI:0.05~0.10)、併用療法群が0.55(95%CI:0.32~0.94)で、いずれもレムデシビル投与群に比べ有意に低かった。ただし、ICU入室率のみでは、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.09(95%CI:0.07~0.12)と有意に低かったものの、併用療法群では0.63(95%CI:0.28~1.38)で有意差はなかった。この臨床研究は結果として、レムデシビルに対するニルマトレルビル/リトナビルの優越性を示しただけで、オミクロン株系統以降のレムデシビルそのものの有効性評価とは言い難いのは明らかである。だが、対象6誌とその系列学術誌では、オミクロン株優勢期のレムデシビルの有効性を純粋に追求した研究は見当たらなかった。対象学術誌の範囲を広げて見つかるのが、2024年のClinical Infectious Diseases誌に製造販売元であるギリアド・サイエンシズの研究者が発表した研究3)だ。これはオミクロン株系統優勢期である2021年12月~2024年2月の米国・PINC AI Healthcare Databaseから抽出した後向きコホートで、新型コロナで入院し、生存退院した18歳以上の患者を対象にしている。レムデシビル投与群が10万9,551例、レムデシビル非投与群が10万1,035例と対象症例規模は大きく、主要評価項目は30日以内の新型コロナ関連再入院率。結果はオッズ比が0.78(95%CI:0.75~0.80、p<0.0001)で、レムデシビル群の再入院率は有意に低下していた。再入院率の有意な低下は、入院中の酸素投与レベルに関係なく認められ、65歳以上の高齢者集団、免疫不全患者集団でのサブグループ解析でも同様の結果だった。もっとも前述したように、製造販売元による研究であることに加え、対象者のワクチン接種歴や過去の感染歴が不明という点でイマイチ感が残る。一方、オミクロン株系統優勢期での後遺症に対するレムデシビルの有効性を評価した研究は対象6誌では見当たらない。オミクロン株系統優勢期という縛りを外すと、世界保健機関(WHO)が主導した無作為化比較試験「SOLIDARITY試験」の追跡研究として、Nature誌の姉妹誌Communications Medicine誌に2024年11月に掲載されたノルウェー・オスロ大学による研究4)がある。無作為化後、3ヵ月時点での呼吸器症状を中心とする後遺症を調査したものだが、対症療法単独群(一部ヒドロキシクロロキン投与例を含む53例)と対症療法+レムデシビル投与群(27例)との比較では有意差は認められなかった。エンシトレルビル言わずと知れた新型コロナウイルスに対する国産の抗ウイルス薬である。その承認時には主要評価項目の変更などで物議を醸した。該当6誌で研究を探して見つかったのは、JAMA Network Open誌に掲載された同薬の第II/III相臨床試験Phase3 part(SCORPIO-SR試験)の結果、まさに日本での緊急承認時に使用されたデータ5)のみである。改めてその内容を記述すると、発症から72時間未満にいずれも5日間投与されたエンシトレルビル1日125mg群(347例)、1日250mg群(340例)、プラセボ群(343例)の3群でオミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、疲労感)が消失するまでの時間を主要評価項目としている。この結果、エンシトレルビル群はプラセボ群と比較して5症状消失までの時間を有意に短縮(p=0.04)。症状消失までの時間の中央値は、125mg群で167.9時間(95%CI:145.0~197.6時間)、プラセボ群で192.2時間(95%CI:174.5~238.3時間)だった。また、副次評価項目では、ウイルスRNA量の変化が125mg投与群では投与4日目でプラセボ群と比較して有意に減少(p<0.0001)、感染性を有する新型コロナウイルスウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間がプラセボ群と比較して有意に短縮した(p<0.001)。ウイルス力価陰性化までの時間の中央値は、125mg群が36.2時間、プラセボ群が65.3時間だった。なお、エンシトレルビルに関しては米国での上市を念頭に置き、北米、南米、欧州、アフリカ、日本を含むアジアで軽症・中等症の非入院成人(ほとんどがワクチン接種済み)の新型コロナ感染者を対象にした第III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SCORPIO-HR試験」(患者登録期間:2022年8月~2023年12月)も行われ、2025年7月にClinical Infectious Diseases誌に論文6)が掲載された。主要評価項目は新型コロナの15症状が持続的(2日以上)に消失するまでの平均時間だったが、エンシトレルビル群(1,018例)とプラセボ群(1,029例)との間で有意差は認められなかった。この主要評価項目はエンシトレルビルの承認申請を前提に米国食品医薬品局(FDA)との合意で決定されたものだったため、この結果を受けてエンシトレルビルの承認申請は行われていない。一方で塩野義製薬側は、ターゲットを曝露後予防にしたプラセボ対照二重盲検第III相試験「SCORPIO-PEP試験」を2023年から開始。同社の発表によると、試験は米国、南米、アフリカ、日本を含むアジアで実施し、新型コロナウイルス検査で陰性が確認された新型コロナ感染者の12歳以上の同居家族または共同生活者2,387例が登録された。同試験の結果は論文化されておらず、あくまで塩野義製薬の発表になるが、主要評価項目である「投与後10日までの新型コロナ発症者の割合」はエンシトレルビル群が2.9%、プラセボ群が9.0%であり、エンシトレルビル群は統計学的に有意に相対リスクを低下させたという(リスク比:0.33、95%CI:0.22~0.49、p<0.0001)。今後、塩野義製薬は各国で曝露後予防への適応拡大を目指す考えである。 参考 1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第10.1版)(厚生労働省 2024年4月23日発行) 2) Choi MH, et al. Lancet Infect Dis. 2024;11:1213-1224. 3) Mozaffari E, et al. Clin Infect Dis. 2024;79:S167-S177. 4) Hovdun Patrick-Brown TDJ, et al. Commun Med (Lond). 2024;4:231. 5) Yotsuyanagi H, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2354991. 6) Luetkemeyer AF, et al. Clin Infect Dis. 2025;80:1235-1244.

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9月26日 大腸を考える日【今日は何の日?】

【9月26日 大腸を考える日】〔由来〕9の数字が大腸の形と似ていることと、「腸内フロ(26)ーラ」と読む語呂合わせから、健康の鍵である大腸の役割や生息する腸内細菌叢のバランスを健全に保つための方法を広く知ってもらうことを目的に森永乳業が制定。関連コンテンツ中等症~重症の活動性クローン病、グセルクマブ導入・維持療法が有効/Lancetコーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?PPI・NSAIDs・スタチン、顕微鏡的大腸炎を誘発するか?日本人大腸がんの半数に腸内細菌が関与か、50歳未満で顕著/国立がん研究センターほか大腸がん死亡率への効果、1回の大腸内視鏡検査vs.2年ごとの便潜血検査/Lancet

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帯状疱疹ワクチンは心血管イベントリスクを低下させる?

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う皮膚感染症を予防するだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクも低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。帯状疱疹ワクチンのシングリックスを製造販売するグラクソ・スミスクライン(GSK)社のワクチン担当グローバル・メディカル・アフェアーズ・アソシエイト・メディカル・ディレクターのCharles Williams氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされる。水痘に罹患すると、治癒後もウイルスが神経系に潜伏し続け、加齢に伴い免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して帯状疱疹を引き起こすことがある。研究グループによると、水痘罹患経験者の約3人に1人は、ワクチンを接種しなければ帯状疱疹を発症する可能性があるという。米疾病対策センター(CDC)は、50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンの接種を推奨しているほか、免疫不全状態にある19歳以上の人にも接種を推奨している。さらに研究グループによると、帯状疱疹の発症は心筋梗塞リスクを高める可能性や、ウイルスが頭部の大小の血管に侵入して脳卒中リスクを高める可能性も示唆されているという。 今回の研究でWilliams氏らは、帯状疱疹ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、生弱毒化帯状疱疹ワクチン)の心血管イベントに対する効果を検討した研究を検索し、基準を満たした9件(観察研究8件、ランダム化比較試験1件)のデータを統合してメタアナリシスを実施した。9件の研究の参加者は男性が53.3%を占め、平均年齢は53.6~74歳だった。 その結果、帯状疱疹ワクチンを接種した群では未接種の群に比べて、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントの発生リスクが有意に低下することが明らかになった。リスク低下の大きさは、18歳以上の人では18%、50歳以上の人では16%であった。 これらの結果からWilliams氏は、「現時点で入手可能なエビデンスを検討した結果、帯状疱疹ワクチンの接種は心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスク低下と関連していることが分かった」と述べている。ただし研究グループは、対象とした9件の研究のうち8件は観察研究であるため、本研究によりワクチン接種と心血管イベントの発生リスク低下との間に因果関係があることを証明することはできないと指摘している。 さらにWilliams氏は、「メタアナリシスに用いられた研究は全て、一般集団における帯状疱疹予防の手段としてのワクチンの効果を調べることを目的としたものである。それゆえ、今回の結果を、心血管イベントリスクが高い集団に一般化するには限界がある可能性がある。これは、帯状疱疹ワクチンの接種と心血管イベントとの関連を検討するためのさらなる研究が必要であることを意味する」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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RSウイルスワクチンの1回接種は高齢者を2シーズン連続で守る

 米国では、60歳以上の人に対するRSウイルス感染症を予防するワクチン(RSウイルスワクチン)が2023年より接種可能となった。米疾病対策センター(CDC)は、75歳以上の全ての人と、RSウイルス感染症の重症化リスクがある60〜74歳の人は1回接種を推奨している。このほど新たな研究で、高齢者はRSウイルスワクチンの1回接種により2シーズン連続でRSウイルス関連の入院を予防できる可能性のあることが示された。米ヴァンダービルト大学医療センターのWesley Self氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月30日掲載された。 Self氏は、「これらの結果は、RSウイルスワクチンにより高齢者のRSウイルス感染による入院や重症化を予防できることを明確に示している。この新しいワクチン接種プログラムが公衆衛生に有益であることを目の当たりにするのは本当に喜ばしいことだ」と話している。 研究グループによると、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて60歳以上の高齢者に深刻な影響を及ぼし、毎年15万人が入院、8,000人が死亡しているという。Self氏らは今回、2023年10月1日~2024年3月31日、または2024年10月1日~2025年4月30日のRSウイルス流行期に急性呼吸器疾患により米国20州の26病院に入院した60歳以上の人6,958人(年齢中央値72歳、女性50.8%)を対象に、RSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性を検討した。対象者のうち、821人(11.8%)はRSウイルス感染症症例(症例群)、6,137人が対照群とされた。また、1,829人(26.3%)は免疫抑制状態にあった。 RSウイルスワクチンを接種していたのは、症例群で63人(7.7%)、対照群で966人(15.7%)だった。2シーズンを合わせたワクチンの有効性は58%と推定された。また、RSウイルス感染症の発症と同じシーズンに接種した場合のワクチンの有効性は69%、前シーズンに接種した場合の有効性は48%であったが、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.06)。さらに、2シーズンを合わせたワクチンの有効性は、免疫抑制状態にない群で67%であったのに対し、免疫抑制状態にある群では30%と有意に低かった。同様に、非心血管疾患患者でのワクチン有効性は80%であったのに対し、心血管疾患を有する群では56%と有意に低かった。 Self氏は、「われわれのデータは、RSウイルスワクチンの有益な効果は時間の経過とともに弱まる傾向があることを示している」とヴァンダービルド大学のニュースリリースで述べている。 CDCのウェブサイトには、「すでに1回接種を受けた人(昨年を含む)はワクチン接種を完了と見なされ、現時点で追加の接種を受ける必要はない」と記載されている。Self氏は、「本研究結果は、ガイドラインの見直しが必要である可能性があることを示している。初回接種後、一定の間隔を置いてワクチンを再接種することは、より長期間にわたりRSウイルスに対する予防効果を維持するための戦略となり得る」と述べている。その上で同氏は、「単回接種後の効果の持続期間や再接種の必要性について理解するために、ワクチンの有効性を今後も綿密にモニタリングしていくことが重要だろう」との見方を示している。

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唾液に果汁ジュースによる虫歯を防ぐ効果

 虫歯になるのが心配で、果汁ジュースを子どもに与えないようにしている親がいる。しかし、唾液の驚くべき特性のおかげで、ジュースが子どもの口腔内の健康に与える悪影響は長くは続かないことが、新たな研究で示唆された。唾液は、歯の表面に滑らかな膜を作ることで歯や歯茎を細菌から守り、歯のエナメル質の初期の損傷の修復を助ける。研究からは、リンゴジュースを飲むと、一時的にこの保護作用が阻害されるものの、その影響は10分以内に消失し始めることが明らかになったという。英ポーツマス大学歯学・健康ケア学部のMahdi Mutahar氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に9月3日掲載された。 今回の研究では、32人の健康な大学生と大学職員が、水で口をすすぐ群(対照群)とリンゴジュースで口をすすぐ群(ジュース群)に分けられた。Mutahar氏らは両群から、ベースライン時、水またはジュースで口を1分間すすいでから1分後と10分後の3時点で唾液を採取し、口腔内の潤滑性を評価する摩擦測定(トライボロジー試験)や唾液中のタンパク質分析などを行い、両群の唾液の違いを比較検討した。 その結果、水やジュースで口をすすぐと一時的に唾液の潤滑力が低下するが、10分程度で元に戻ることが明らかになった。また意外なことに、潤滑力の低下の程度は水の方が強いことも示された。さらに、ジュースを飲むと、シスタチン類や炭酸脱水酵素など唾液に含まれる主要なタンパク質に影響が及ぶことも示された。 Mutahar氏は、「この結果には本当に驚かされた。これまで長い間、リンゴジュースなどの酸性の飲み物は、飲んだ直後から口腔内の健康、特に歯に対して悪影響を及ぼすものだと考えられてきた。しかし、われわれの研究は、口の中を保護し、迅速に修復して長期的な損傷を回避する上で、唾液が重要な役割を果たしていることを示している」と言う。同氏らは、「リンゴジュースをひと口飲んだ後には、潤滑の中心的役割を担う糖タンパク質のムチンの働きにより潤滑性が回復する可能性が考えられる」と考察している。ただし、注意点もある。同氏は、「リンゴジュースを何度も飲む、あるいは飲んだ後に口を水ですすがずにいるといった理由で長時間にわたって口の中にジュースが残っていると、口腔内の健康に長期的な悪影響が及ぶ可能性がある」と注意喚起している。 Mutahar氏はさらに、「一番の驚きは、水道水で口をすすぐ方がリンゴジュースよりも口腔内の摩擦や乱れを引き起こしやすいことだった」と言う。同氏は、「われわれが使用したポーツマスの水には、ジュースよりも唾液の潤滑性をもたらすタンパク質に干渉するミネラルが含まれているようだ」と話す。 Mutahar氏らは、果汁ジュースを飲みたい子どもや大人に対して以下の推奨を示している。・ゆっくり少しずつ飲むのではなく、素早く飲む。・飲んだ直後に水で口の中をすすいで残った酸や糖を取り除く。・ストローを使い、果汁ジュースが直接歯に触れにくくする。・果汁ジュースを飲んだ後は、次に飲むまで口の中が回復する時間を設ける。 Mutahar氏らは現在、人々が1日に何度も果汁ジュースを飲んだ場合に何が起こるかを調べている。同氏らは、将来的には日常的な飲み物にムチンのような保護的に働く成分を加えることで、人々の歯や歯茎を守れるかどうか検討することも研究課題になり得ると考えている。

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赤肉の摂取は腹部大動脈瘤の発症につながる?

 赤肉を大量に摂取すると、致死的となることもある腹部大動脈瘤(AAA)の発症リスクが高まる可能性があるようだ。赤肉や他の動物性食品に含まれる成分は、腸内細菌によって分解されたのち、肝臓で酸化されてTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)となり、血液中に蓄積する。新たな研究で、血中のTMAOレベルが高い人ほどAAAの発症リスクが高いことが示された。米クリーブランド・クリニック血管医学部門長のScott Cameron氏らによるこの研究結果は、「JAMA Cardiology」に8月20日掲載された。 AAAは腹部の最も太い動脈(腹部大動脈)に瘤のような膨らみが生じる病態である。通常、大動脈の壁は、心臓から送り出される血液の圧力に耐えられる程度に強固である。しかし、動脈硬化などにより部分的に血管壁が弱くなると、そこに膨らみが生じる。このような大動脈瘤は、大きくなるにつれて破裂のリスクが高まり、破裂が病院外で発生した場合には、80%のケースで致死的になるという。 Cameron氏によると、現状ではAAAに対する治療選択肢は手術かステント留置術のみであり、動脈瘤リスクを有する人を予測できる血液検査は存在しない。また、AAA患者は通常、大動脈が破裂して体内に大量出血が起こるまで症状が現れないという。 動物実験では、TMAOはAAAの進行や破裂を促進することが報告されている。今回の研究では、大動脈の定期的な画像検査サーベイランスを受けている2つのコホートのデータを用いて、TMAOレベルとAAA発症や急速な拡大(年間4.0mm以上)、外科手術が推奨される状態(直径5.5cm以上、または急速な拡大)との関連が検討された。コホートの1つはヨーロッパ人(237人、年齢中央値65歳、男性89.0%)、もう1つは米国人(658人、年齢中央値63歳、男性79.5%)で構成されていた。 解析の結果、ヨーロッパコホートでは、血中のTMAOレベルが高いことはAAAの従来のリスク因子(喫煙、高血圧など)や腎機能とは独立してAAAリスクの上昇と関連していることが示された。また、高TMAOにより、急速に拡大するAAAのリスク(調整オッズ比2.75、95%信頼区間1.20〜6.79)、および手術が推奨される状態になるリスク(同2.67、1.24〜6.09)を予測できる可能性も示された。さらに、米国コホートでも、ヨーロッパコホートと米国コホートを統合して解析しても、同様の結果となることが確認された。 Cameron氏は、「これらの結果は、TMAOレベルを標的とすることが、手術以外の動脈瘤疾患の予防と治療に役立つ可能性があることを示唆している」と述べている。また研究グループは、今回の結果がAAAの有効な血液検査の開発につながる可能性があるとの見方も示している。 さらに研究グループは、本研究結果が、AAAリスクを有する人が赤肉の摂取量を減らすことで、自らを守るための対策を講じるのに役立つ可能性があると話している。論文の上席著者である、クリーブランド・クリニック心臓血管・代謝科学部長のStanley Hazen氏は、「TMAOの生成には腸内細菌が関与しており、動物性食品や赤肉を摂取すると、そのレベルが高くなる。TMAOの産生経路を標的とした薬剤は、前臨床モデルにおいて動脈瘤の発生と破裂を阻止することが示されているが、ヒトではまだ利用できない。本研究結果は、手術が必要になるまで経過観察する現在の臨床診療と比較して、大動脈の拡張や早期動脈瘤の予防や治療における食事療法の重要性を示唆しているため、共有する価値がある」と述べている。 ただし研究グループは、赤肉や動物性食品を多く含む食生活とAAAを直接結び付けるには、さらなる研究が必要だと指摘している。

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脂肪分の多い食事が好中球性喘息の一因か

 脂肪分の多い食べ物は、子どもの喘息の一因となる可能性があるようだ。特定の食品に含まれる脂肪が、微生物や細菌のタンパク質によって引き起こされる非アレルギー性の喘息である好中球性喘息に関連していることが、新たな研究で示された。米フィラデルフィア小児病院のDavid Hill氏らによるこの研究結果は、「Science Translational Medicine」に8月27日掲載された。Hill氏らによると、好中球性喘息はアレルギー性喘息よりも治療が難しく、入院が必要になるほど重篤な症状が引き起こされる可能性がアレルギー性喘息よりも高いという。 好中球性喘息は、好中球が過剰に集まって炎症を起こすタイプの喘息であり、この過程には免疫細胞のマクロファージも関与している。マクロファージは吸入されたアレルゲンなどの異物を認識し、炎症性サイトカインなどを分泌する。これにより好中球が誘導され、気道炎症が悪化する。一方、肥満は、慢性炎症や代謝異常を通じてマクロファージを含む免疫細胞の性質を変化させることが知られている。過去の研究では、肥満が喘息、特に好中球性喘息と関連することが示されていたが、その要因が肥満そのものなのか、食事成分なのかは明らかになっていない。 この研究でHill氏らはまず、前臨床試験として動物に高脂肪食を与える実験を行った。その結果、動物性脂肪や加工食品に含まれていることの多い飽和脂肪酸の一種、ステアリン酸が肺のマクロファージに蓄積し、肥満を引き起こすことなく気道の炎症を誘導することが確認された。その一方で、オリーブオイルなどに含まれている一価不飽和脂肪酸のオレイン酸には炎症抑制効果が認められることや、炎症性サイトカインのインターロイキン(IL)-1βやタンパク質のIRE1αを阻害すると、ステアリン酸による肺炎症が抑えられることも確認された。さらに、肥満の小児喘息患者においても、高脂肪食の摂取に関連してマクロファージ様細胞の活性化が認められた。 Hill氏は、「この研究以前は、小児肥満を好中球性喘息の原因と疑う人が多かった。しかし、肥満ではない小児でも好中球性喘息が見られるため、別のメカニズムが存在する可能性も指摘されていた」と同病院のニュースリリースの中で説明する。その上で同氏は、「本研究では、前臨床研究と小児を対象にした研究の両方において、特定の飽和脂肪酸を含む食事は、肥満とは無関係に好中球性喘息を引き起こす可能性のあることが示された」と述べている。 一方、論文の共著者であるフィラデルフィア小児病院呼吸器・睡眠医学部長のLisa Young氏は、「喘息は小児の最も一般的な慢性疾患の一つであり、喘息のサブタイプに応じて異なる治療が必要になることもある。喘息に関連するリスク因子や誘因はさまざまにあるが、本研究は、特定の食事成分が、特に治療の難しい好中球性喘息にどのように関連しているかを示すエビデンスを提供している。これらの知見は新たな治療戦略の開発を促すものであり、標的を絞った食事療法がこのタイプの喘息の予防に役立つ可能性を示唆しており、大変励みになる」と述べている。

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ピロリ除菌は全年齢層で有効、国際的なコンセンサス発表/Gut

 台湾・台北で行われた「Taipei Global Consensus II」において、Helicobacter pylori(H. pylori)感染の検査・除菌による胃がん予防戦略に関する国際的な合意文書が公表された。日本を含む12ヵ国・地域(台湾、中国、香港、韓国、日本、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ドイツ、フランス、オーストラリア、米国)の32人の専門家がGRADEシステムを用いてエビデンスを評価し、28のステートメントで80%以上の合意が得られた。この内容はGut誌オンライン版2025年9月5日号に掲載された。 主なステートメントの内容は以下のとおり。H. pylori除菌は全年齢層で有効 H. pyloriは胃がんの主要因であり、除菌により全年齢層で胃がんリスクが減少することが確認された。とくに前がん病変(萎縮性胃炎・腸上皮化生など)が発症する前に除菌することで、最大のリスク低減効果が得られる。また、除菌は消化性潰瘍の治癒促進と再発予防、NSAIDs/アスピリン関連の潰瘍リスク低減にも有効である。家族単位でのアプローチが重要 H. pyloriの感染経路は主に家庭内であり、家族全員を対象とした検査と治療が感染拡大防止と治療効果向上の両面で有効とされた。推奨される検査と治療[検査法]尿素呼気検査、便中抗原測定法を推奨。陽性率が低い地域では血清抗体検査も容認されるが、非血清学的検査で確認が必要。[治療法]抗菌薬耐性率が高い地域では、ビスマス系4剤併用療法(PPIもしくはP-CAB+ビスマス製剤+テトラサイクリン系抗菌薬+ニトロイミダゾール系抗菌薬)が第1選択となる。P-CABを基本とするレジメンも選択肢となる(※日本における初回標準治療は、PPIもしくはPCAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法)。[除菌確認]全例で再検査による除菌確認が強く推奨される。[内視鏡検査]胃がんリスクが高い、またはアラーム症状を有する感染者には内視鏡検査が推奨される。[安全性と今後の課題]除菌による逆流性食道炎と食道腺がんのリスク増加は認められなかった。一方で、長期的な腸内細菌叢・耐性菌への影響、抗菌薬使用増加による環境負荷などは今後の研究課題とされた。さらにH. pyloriワクチン開発の必要性や、遺伝子研究に基づくリスク層別化戦略の確立も未解決の課題である。結論 本コンセンサスは、・成人のH. pylori感染者全員に除菌を推奨・胃がん予防に有効な戦略として臨床実装を推進を結論とした。今後は最適な検査の時期、長期アウトカム評価、精密なリスク層別化の検証が求められる。

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第280回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(前編)

INDEXニルマトレルビル/リトナビルモルヌピラビルニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、その1(第277回)では感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめ、その2(第278回)では流行ウイルス株とこれに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)、その3(第279回)ではワクチンの有効性について比較的大規模に検証された研究を取り上げた。今回は治療薬について、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)とモルヌピラビル(同:ラゲブリオ)について紹介する。もっとも、漠然と論文のPubMed検索をするのではなく、日本での5類移行後にNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究をベースにした。ニルマトレルビル/リトナビル2024年4月のNEJM誌に掲載されたのが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「EPIC-SR試験」1)。新型コロナの症状出現から5日以内の18歳以上の成人で、ワクチン接種済みで重症化リスク因子がある「高リスク群」とワクチン未接種または1年以上接種なしでリスク因子がない「標準リスク群」を対象にニルマトレルビル+リトナビルの有効性・安全性をプラセボ対照で比較している。ちなみにこの研究の筆頭著者はファイザーの研究者である。主要評価項目は症状軽快までの期間(28日目まで)、副次評価項目は発症から28日以内の入院・死亡の割合、医療機関受診頻度、ウイルス量のリバウンド、症状再発など。まず両群を合わせたニルマトレルビル/リトナビル群(658例)とプラセボ群(638例)との間で主要評価項目、副次評価項目のいずれも有意差はなし。高リスク群、標準リスク群の層別で介入(ニルマトレルビル/リトナビル投与)の有無による主要評価項目、副次評価項目の評価でもいずれも有意差は認めていない。唯一、高リスク群で有意差はないものの、入院・死亡率がニルマトレルビル/リトナビル群で低い傾向があるくらいだ。実はEPIC-SR試験は、各国でニルマトレルビル/リトナビルの承認根拠となった18歳以上で重症化のリスクが高い外来での新型コロナ軽症・中等症患者を対象にした臨床試験「EPIC-HR試験」の拡大版ともいえる。その意味では、より幅広い患者集団で有効性を示そうとして図らずも“失敗”に終わったとも言える。有効性が示せたEPIC-HR試験と有効性が示せなかったEPIC-SR試験の結果の違いの背景の1つとしては、前者が 2021年7~12月、後者が2021年8月~2022年7月という試験実施時期が考えられる。つまり流行主流株が前者は重症化リスクが高いデルタ株、後者はデルタ株より重症化リスクの低いオミクロン株という違いである。このオミクロン株が流行主流株になってからの研究の1つが、2023年4月にBMJ誌に掲載された米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループによる米国退役軍人省の全国ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究2)である。最終的な解析対象は2022年1~11月に新型コロナの重症化リスク因子が1つ以上あり、重度腎機能障害や肝疾患の罹患者、新型コロナ陽性が判明した時点で何らかの薬物治療や新型コロナの対症療法が行われていた人を除く新型コロナ感染者25万6,288例。これをニルマトレルビル群(3万1,524例)と対症療法群(22万4,764例)に分け、主要評価項目を新型コロナ陽性確認から30日以内の入院・死亡率として検討している。その結果では、ワクチンの接種状況別に検討した主要評価項目の相対リスクは、未接種群が 0.60(95%信頼区間[CI]:0.50~0.71)、1~2回接種群が0.65(95%CI:0.57~0.74)、ブースター接種群が0.64(95%CI:0.58~0.71)で、いずれもニルマトレルビル/リトナビル群で有意なリスク減少が認められた。また、感染歴別での相対リスクも初回感染群が0.61(95%CI:0.57~0.65)、再感染群が0.74(95%CI:0.63~0.87)でこちらもニルマトレルビル/リトナビル群でリスク減少は有意だった。また、サブグループ解析では、ウイルス株別でも相対リスクを検討しており、BA.1/BA.2優勢期が0.64(95%CI:0.60~0.72)、BA.5優勢期が0.64(95%CI:0.58~0.70)で、この結果でもニルマトレルビル/リトナビル群が有意なリスク減少を示した。一見するとNEJM誌とBMJ誌の結果は相反するとも言えるが、後者のほうは対象が高齢かつ重症化リスク因子があるという点が結果の違いに反映されていると考えることができる。一方、新型コロナを標的とする抗ウイルス薬では、後遺症への効果や家庭内感染予防効果なども検討されていることが少なくない。後遺症への効果についてはLancet Infectious Disease誌に2025年8月掲載されたイェール大学のグループによるプラセボ対照二重盲検比較研究3)、JAMA Internal Medicine誌に2024年6月に掲載されたスタンフォード大学のグループによって行われたプラセボ対照二重盲検比較研究4)の2つがある。研究実施時期と症例数は前者が2023年4月~2024年2月で症例数が100例(ニルマトレルビル/リトナビル群49例、プラセボ/リトナビル群51例)、後者が2022年11月~2023年9月で症例数が155例(ニルマトレルビル/リトナビル群102例、プラセボ/リトナビル群53例)。両研究ともにニルマトレルビルの投与期間は15日間である。前者は18歳以上で新型コロナ感染歴があり、感染後4週間以内に後遺症と見られる症状が確認され、12週間以上持続している患者が対象。主要評価項目はニルマトレルビル/リトナビルあるいはプラセボ/リトナビル投与開始後28日目の米国立衛生研究所開発の身体的健康に関する患者報告アウトカム(PROMIS-29)のベースラインからの変化だったが、両群間に有意差はなかった。後者は18歳以上、体重40kg超で腎機能が保たれ、新型コロナ感染後、疲労感、ブレインフォグ、体の痛み、心血管症状、息切れ、胃腸症状の6症状のうち2つ以上を中等度または重度で呈し、90日以上持続している人が対象となった。主要評価項目は試験開始10週後のこれら6症状のリッカート尺度による評価だったが、こちらも両群間で有意差は認められなかった。家庭内感染予防についてはNEJM誌に2024年7月に掲載されたファイザーの研究者によるプラセボを対照としたニルマトレルビルの5日間投与と10日間投与の第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験5)がある。対象は2021年9月~2022年4月に新型コロナの確定診断を受けた患者の家庭内接触者で、無症状かつ新型コロナ迅速抗原検査陰性の18歳以上の成人。症例数はニルマトレルビル/リトナビル5日群が921例、10日群が917例、プラセボ群(5日間または10日間投与)が898例。主要評価項目は14日以内の症候性新型コロナ感染の発症率で、結果は5日群が2.6%、10日群が2.4%、プラセボ群が3.9%であり、プラセボ群を基準としたリスク減少率は5日群が29.8%(95%CI:-16.7~57.8、p=0.17)、10日群が35.5%(95%CI:-11.5~62.7、p=0.12)でいずれも有意差なし。副次評価項目の無症候性新型コロナ感染の発生率でも同様に有意差はなかった。もっとも、この研究では参加者の約91%がすでに抗体陽性だったことが結果に影響している可能性がある。モルヌピラビルこの薬剤については、最新の研究報告でいうとLancet誌に掲載されたイギリスでのPANORAMIC試験6)の長期追跡結果となる。同試験は非盲検プラットフォームアダプティブ無作為化対照試験で、2021年12月~2022年4月までの期間、すなわちオミクロン株が登場以降、新型コロナに罹患して5日以内の50歳以上あるいは18歳以上で基礎疾患がある人を対象に対症療法に加えモルヌピラビル800mgを1日2回、5日間服用した群(1万2,821例)と対症療法群(1万2,962例)で有効性を比較したものだ。ちなみに対象者のワクチン接種率は99.1%と、まさにリアルワールドデータである。主要評価項目は28日以内の入院・死亡率だが、これは両群間で有意差なし。さらに副次評価項目として罹患から3ヵ月、6ヵ月時点での「自覚的健康状態(0~10点スケール)」「重症症状の有無(中等度以上)」「持続症状(後遺症)」「医療・福祉サービス利用」「就労・学業の欠席」「家庭内の新規感染発生率」「医薬品使用(OTC含む)」「EQ-5D-5L(健康関連QOL)」を調査したが、このうち3ヵ月時点と6ヵ月時点でモルヌピラビル群が有意差をもって上回っていたのはEQ-5D-5Lだけで、あとは3ヵ月時点で就労・学業の欠席と家庭内の新規感染発生率が有意に低いという結果だった。ただ、家庭内新規感染発生率は6ヵ月時点では逆転していることや、そもそもこの評価指標が6ヵ月時点で必要かという問題もある。また、後遺症では有意差はないのにEQ-5D-5Lと就労・学業の欠席率で有意差が出るのも矛盾した結果である。もっと踏み込めば、この副次評価項目での有意差自体がby chanceだったと言えなくもない。一方、前述のBMJ誌に掲載されたニルマトレルビルに関する米国退役軍人省ヘルスケアデータベースを用いた後ろ向き観察研究を行った米国・VA Saint Louis Health Care Systemのグループは同様の研究7)をモルヌピラビルに関しても行っており、同じくBMJ誌に掲載されている。研究が行われたのはオミクロン株が主流の2022年1~9月で、対象者は60歳以上、BMI 30以上、慢性肺疾患、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、糖尿病のいずれかを有する高リスク患者。主要評価項目は30日以内の入院・死亡率である。それによるとモルヌピラビル群7,818例、対症療法群7万8,180例での比較では、主要評価項目はモルヌピラビル群が2.7%、対症療法群が3.8%、相対リスクが0.72(95%CI:0.64~0.79)。モルヌピラビル群で有意な入院・死亡率の減少が認められたという結果だった。ちなみにモルヌピラビル投与による有意な入院・死亡低下効果は、ワクチン接種状況別、変異株別(BA.1/BA.2優勢期およびBA.5優勢期)、感染歴別などのサブグループ解析でも一貫していたという。ニルマトレルビルか? モルヌピラビルか?新型コロナでは早期に上市されたこの2つの経口薬について、「いったいどちらがより有効性が高いのか?」という命題が多くの臨床医にあるだろう。承認当時の臨床試験結果だけを見れば、ニルマトレルビルに軍配が上がるが、果たしてどうだろう。実は極めて限定的なのだが、これに答える臨床研究がある。Lancet Infectious Disease誌に2024年1月に掲載されたオックスフォード大学のグループが実施したタイ・バンコクの熱帯医学病院を受診した発症4日未満、酸素飽和度96%以上の18~50歳の軽症例でのニルマトレルビル/リトナビル、モルヌピラビル、対症療法の3群比較試験8)である。実施時期は2022年6月以降でニルマトレルビル/リトナビル群が58例、モルヌピラビル群が65例、対症療法群が84例。主要評価項目はウイルス消失速度(治療開始0~7日)で、この結果ではニルマトレルビル/リトナビル群は対症療法群に比べ、ウイルス消失速度が有意に加速し、モルヌピラビル群はニルマトレルビル/リトナビル群との非劣性比較でモルヌピラビル群が劣性と判定された(非劣性マージンは10%)。さて、今回はまたもやニルマトレルビル/リトナビルとモルヌピラビルで文字数をだいぶ尽くしたため、次回レムデシビル(同:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)でようやく最後になる。 1) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1186-1195. 2) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e073312. 3) Mitsuaki S, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:936-946. 4) Geng LN, et al. JAMA Intern Med. 2024;184:1024-1034. 5) Hammond J, et al. N Engl J Med. 2024;391:224-234. 6) Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293. 7) Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e072705. 8) Schilling WHK, et al. 2024;24:36-45.

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Rothia mucilaginosa(旧名:Stomatococcus mucilaginosus)【1分間で学べる感染症】第34回

画像を拡大するTake home messageRothia mucilaginosaは好中球減少症患者においてしばしば検出されるグラム陽性球桿菌であり、その特徴を理解しよう。Rothia mucilaginosa(旧名:Stomatococcus mucilaginosus、呼び方はRothia[ロシア])は、もともと口腔内常在菌として知られていましたが、血液悪性腫瘍や好中球減少症の患者において菌血症の起因菌となることがあり、近年その臨床的意義が注目されています。なかでも、持続性好中球減少症(prolonged neutropenia)の患者において血液培養から検出された場合は、迅速な治療が必要となるため、注意が必要です。グラム染色Rothiaはグラム陽性球桿菌で、集簇状あるいは双球状を呈することが多いです。形態的にはブドウ球菌と類似して見えることがあり、注意深く評価することが必要です。コロニー培養すると白色で非溶血性のコロニーを形成し、粘稠性を呈するのが特徴です。リスク因子Rothia感染症のリスク因子としては血液悪性腫瘍、とくに持続性好中球減少症が挙げられます。また、フルオロキノロン系抗菌薬による予防投与を受けている患者は、ブレークスルー感染として菌血症を引き起こすことがあります。菌血症の原因菌血症の原因としては、腸管からのbacterial translocation(細菌移行)や、口腔粘膜炎(mucositis)、中心静脈カテーテルなどのカテーテル関連血流感染(catheter-related blood stream infection:CRBSI)が主な原因とされています。抗菌薬治療にはペニシリン系やセフェム系を中心としたβ-ラクタム系抗菌薬が有効であり、必要に応じてバンコマイシンも使用されます。初期治療においてはバンコマイシンが用いられることもありますが、感受性結果に応じて適宜調整を行う必要があります。Rothiaはコンタミネーションと間違われることも多くありますが、上記のような免疫不全の患者では、治療が遅れると致死的な感染を引き起こす可能性があります。したがって、その特徴と適切な対応を知っておくことが重要です。1)Ramanan P, et al. J Clin Microbiol. 2014;52:3184-3189.2)Abidi MZ, et al. Diagn Microbiol Infect Dis. 2016;85:116-120.

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60歳以上への2価RSVワクチン、RSV関連呼吸器疾患による入院を抑制/NEJM

 60歳以上の高齢者に対する呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価RSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種は、同ワクチンを接種しなかった場合と比較し、RSV関連呼吸器疾患による入院が減少したことが示された。デンマーク・Copenhagen University HospitalのMats C. Hojbjerg Lassen氏らが、研究者主導のプラグマティックな第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験の結果を報告した。RSVは、高齢者において重篤な疾患を引き起こす可能性がある。RSVpreFは、RSV関連呼吸器疾患を予防することが示されているが、入院に関連するアウトカムへの有効性に関する無作為化試験のデータは限られていた。NEJM誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。デンマークの60歳以上、約13万例をRSVpreFワクチン接種群と未接種群に無作為化 研究グループは、2024~25年冬季シーズンにデンマーク在住で市民登録番号を有する60歳以上の高齢者を募集し、参加者を1対1の割合でRSVpreFワクチン接種群(RSVpreF群、単回筋肉内投与)またはワクチン未接種群(対照群)に無作為に割り付け追跡評価した。 ベースラインデータおよびアウトカムデータは、デンマーク登録番号を介して各種の全国医療レジストリーから収集した。追跡調査期間は、初回試験来院予定日(接種日の変更にかかわらず)の14日後から2025年5月31日までとした。 主要エンドポイントはRSV関連呼吸器疾患による入院、主な副次エンドポイントはRSV関連下気道疾患による入院、およびあらゆる原因による呼吸器疾患による入院であった。解析はITT集団を対象とし、主要エンドポイントおよびRSV関連の副次エンドポイントの成功基準は「ワクチン有効率>20%」と事前に規定した。 2024年11月18日~12月28日に、本試験に招待された139万9,220例のうち13万1,379例(60歳以上のデンマーク人口の約8.6%)が無作為化され、このうち13万1,276例がITT集団に組み込まれた。RSV関連呼吸器疾患による入院の発生率は0.11 vs.0.66、有効率は83.3% 追跡調査期間中のRSV関連呼吸器疾患による入院はRSVpreF群で6万5,642例中3例、対照群で6万5,634例中18例に発生し、発生率は1,000人年当たり0.11 vs.0.66であった。ワクチン有効率は83.3%(95%信頼区間[CI]:42.9~96.9)であり、事前に規定された基準(最小有効率>20%)を満たした(p=0.007)。 RSVpreF群では、対照群と比較しRSV関連下気道疾患による入院も少なく(1件vs.12件、ワクチン有効率:91.7%、95%CI:43.7~99.8、最小有効率>20%のp=0.009)、あらゆる原因による呼吸器疾患による入院も少なかった(284件vs.335件、有効率:15.2%、95%CI:0.5~27.9、有効率>0%のp=0.04)。 重篤な有害事象の発現率は、RSVpreF群2.1%(1,341/6万3,045例)、対照群2.4%(1,669/6万8,326例)であり、両群で同程度であった。

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COVID-19罹患は喘息やアレルギー性鼻炎の発症と関連

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患により、喘息、アレルギー性鼻炎、長期にわたる慢性副鼻腔炎の発症リスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。一方で、ワクチン接種により喘息と慢性副鼻腔炎のリスクは低下することも示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のPhilip Curman氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に8月12日掲載された。 Curman氏は、「ワクチン接種が感染そのものを防ぐだけでなく、特定の呼吸器合併症に対しても優れた予防効果をもたらす可能性のあることが興味深い」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。 この研究でCurman氏らは、米国の電子健康記録のデータベースを用いて後ろ向きコホート研究を実施し、COVID-19罹患後における2型炎症性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、好酸球性食道炎)のリスクを評価した。対象者は、COVID-19に罹患した97万3,794人、新型コロナワクチン接種者69万1,270人、新型コロナウイルスに感染しておらず、ワクチンも未接種の対照群438万8,409人である。 解析の結果、COVID-19罹患群では対照群に比べて、喘息のリスクが65.6%(ハザード比1.656、95%信頼区間1.590〜1.725)、アレルギー性鼻炎のリスクが27.2%(同1.272、1.214〜1.333)、慢性副鼻腔炎のリスクが74.4%(同1.744、1.671〜1.821)、有意に高いことが明らかになった。アトピー性皮膚炎と好酸球性食道炎のリスクについては変化が見られなかった。その一方で、ワクチン接種者ではむしろリスク低下が見られ、喘息リスクは32.2%(同0.678、0.636〜0.722)、慢性副鼻腔炎リスクは20.1%(同0.799、0.752〜0.850)低下していた。直接比較からは、COVID-19罹患群ではワクチン接種群に比べて呼吸器系の2型炎症性疾患リスクが 2〜3倍高いことが示された。 これらの結果を踏まえてCurman氏は、「本研究結果は、COVID-19への罹患は気道に2型炎症性疾患を引き起こす可能性があるものの、他の臓器には影響しないことを示唆している」と述べている。 ただし研究グループは、本研究は観察研究であり、COVID-19罹患と気道の2型炎症性疾患との間に関連が示されたに過ぎないとして、慎重な解釈を求めている。

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インフルワクチンの効果、若年には有意だが80歳以上で認められず/日本臨床内科医会

 日本臨床内科医会が毎年実施しているインフルエンザに関する前向き多施設コホート研究の統合解析が行われ、インフルエンザワクチンは40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方で、高齢者や基礎疾患を持つ人々では有効性が低下することが明らかになった。日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班の河合 直樹氏らによる本研究はJournal of Infection and Public Health誌2025年11月号に掲載された。 研究班は、2002~03年から2018~19年までの17シーズンにわたり、全国543施設から14万8,108例の外来患者を登録した。シーズン前に接種状況を登録、シーズン中にはインフルエンザ様症状で受診した患者の迅速抗原検査結果を登録、シーズン終了後に接種群と非接種群(対照群)における罹患率から毎年の発症予防効果(有効率)を算出した。2002~14年は3価、2015~19年は4価の不活化ワクチンが使用された。ロジスティック回帰分析による調整後、17年間におけるワクチンの発症予防効果を推定した。本解析にはCOVID-19パンデミック前のデータが使われており、超高齢化とCOVID-19後のインフルエンザ再興を背景に、年齢層、基礎疾患、ウイルスタイプ、シーズンごとのワクチン有効性評価を目的としていた。 主な結果は以下のとおり。・14万8,108例の参加者の年齢中央値は58歳、女性が58.7%だった。解析の結果、発症予防におけるワクチン有効率(調整後のシーズン別プール解析)は0~15歳で56%、16~65歳で51%と有意な有効性が示されたが、50歳以上では有効性が徐々に低下し、とくに80歳以上では有意な発症予防効果は確認されなかった。・基礎疾患を有する未接種者の罹患率は、15歳以下では基礎疾患のない患者よりも有意に高かった(p<0.001)。未接種の気管支喘息患者のインフルエンザ罹患率は、疾患なし患者より高く(10.9%対4.0%)、とくに15歳以下の小児(24.2%対12.9%)で顕著であった。気管支喘息小児における調整後ワクチン有効率は60%と疾患なし小児(47%)よりも高かった。・インフルエンザAに対する調整後のワクチンの有効性は40代まで有意であり、インフルエンザBに対しては20代まで有意であった。また、インフルエンザAの未調整のワクチン有効性は40%から15%まで低下(2002~09年と2010~19年の比較)しており、これは近年のA香港型における抗原変異や卵馴化による可能性が示唆された。 研究者らは「本研究は、季節性インフルエンザワクチンが40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方、年齢とともに有効性が低下し、80歳、とくに90歳以上では有意な発症予防効果は確認されないことを示した。これらの知見は、ワクチン応答が低下する可能性のある高齢者に対する高用量やアジュバント添加ワクチンの開発や、標的を絞った戦略の必要性を明らかにしている。とはいえ、そのメカニズムは完全には解明されておらず、今回はクリニックを受診した軽症患者を対象とした解析であることからも、ワクチン接種は依然として入院や重症化リスクを低下させる可能性がある。また、基礎疾患の有無によるワクチン有効性の差は、リスク集団に対する特別な予防戦略の必要性を示している。COVID-19パンデミック後のインフルエンザ再興を見据え、年齢層や基礎疾患に応じたワクチン接種戦略の最適化が求められる」としている。

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第284回 抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防

抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)のアゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を減らしました1,2)。ドイツの病院で募った健康な18~65歳の成人が参加したプラセボ対照第II相試験の結果です。アゼラスチンの効果はもっと幅広いかもしれず、なんなら風邪として知られるライノウイルス感染を減らしうることも示唆されました。アゼラスチンはアレルギー性鼻炎を治療する点鼻薬として海外では広く店頭販売されていますが、2022年に報告された前臨床研究で抗SARS-CoV-2活性が示唆されています3)。その研究では販売されている承認薬一揃いからSARS-CoV-2に効く薬を探すことが試みられ、アゼラスチンに白羽の矢が立ちました。細胞で検討したところ、市販の点鼻液の400分の1ほどの濃度のアゼラスチンの抗SARS-CoV-2活性が示されました。また、市販の点鼻液を5倍に薄めた0.02%のアゼラスチンが鼻組織のSARS-CoV-2の複製を72時間以内にほぼ完全に阻止しました。その前臨床検討結果を頼りにドイツで実施された無作為化試験CARVINで、まずはアゼラスチンのSARS-CoV-2感染治療効果が示されます。同国のUrsapharm Arzneimittel社が主催の同試験では、2021年3~4月にかけて募ったSARS-CoV-2感染患者90例が、鼻組織検討で有効だった0.02%のアゼラスチン、市販品と同一の0.1%のアゼラスチン、プラセボのいずれかを1日3回点鼻しました。その結果、11日間の投与期間のアゼラスチン0.1%群のウイルスがプラセボ群に比べて有意により減少しました4)。また、アゼラスチン0.1%群の症状は最も改善しました。その結果を受けてインドでより多くの被験者を募って実施された無作為化試験CARVIN-IIでも同様に有望な結果が得られています。CARVIN-II試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施され、抗原検査でSARS-CoV-2感染が判明した294例が参加しました。CARVIN試験と同様にアゼラスチン0.1%が1日3回点鼻された患者のウイルスがプラセボ群に比べてより減少しました5)。また発熱、虚弱、低酸素症がプラセボに比べてより改善しました。それら2つの試験結果や作用機序を踏まえるに、アゼラスチンの感染予防効果を調べることは理にかなっているようです。そこでドイツのザールラント大学(Saarland University)のRobert Bals氏らは、アゼラスチン点鼻のSARS-CoV-2やその他の呼吸器病原体の感染予防効果を無作為化試験で調べてみることにしました。同試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施されました。健康な成人がザールラント大学で募集され、最終的に450例が1日3回のアゼラスチンかプラセボの点鼻に割り振られました。約2ヵ月(56日)間の感染率はアゼラスチン群のほうがプラセボ群より有意に低く、それぞれ2.2%と6.7%でした(オッズ比:0.31)。意外にも、SARS-CoV-2以外で最も多かった感染のライノウイルス感染率もアゼラスチン群がプラセボ群より同様に低く、それぞれ1.8%と6.3%でした。ただし、その差が有意かどうかは検討されていません。より大規模な多施設での無作為化試験でのさらなる検討が必要ですが、アゼラスチン点鼻は思い立ったらすぐに実行可能な手軽な手段として既存の予防対策を補完する役割を担えるかもしれません。脆弱な人、感染率が高い時期、旅行する人にはとくに有益かもしれません。 参考 1) Lehr T, et al. JAMA Intern Med. 2025 Sep 2. [Epub ahead of print] 2) Clinical study shows that nasal spray containing azelastine reduces risk of coronavirus infection by two-thirds / Eurekalert 3) Konrat R, et al. Front Pharmacol. 2022;13:861295. 4) Klussmann JP, et al. Sci Rep. 2023;13:6839. 5) Meiser P, et al. Viruses. 2024;16:1914.

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抗アレルギー点鼻薬がコロナ感染リスクを低減

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の曝露前予防には、ワクチン接種以外の医薬品の選択肢は限られている。今回、抗アレルギー薬であるヒスタミン受容体拮抗薬アゼラスチン※の点鼻スプレーは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の発生率の有意な減少と関連し、SARS-CoV-2以外の呼吸器病原体の総感染リスク低減とも関連していたことを、ドイツ・ザールランド大学のThorsten Lehr氏らが明らかにした。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年9月2日号掲載の報告。※抗アレルギー点鼻薬としてのアゼラスチンは海外では一般用医薬品として発売されているが、わが国では未発売。 ワクチン接種と集団免疫の確立により、COVID-19の重症度は大幅に軽減された。しかし、引き続き公衆衛生上の大きな負担であり、とくに高リスク集団に対する効果的な曝露前予防の方法が求められている。そこで研究グループは、SARS-CoV-2およびその他の呼吸器病原体に対する曝露前予防としてのアゼラスチン0.1%点鼻スプレーの有効性を評価するため、第II相二重盲検プラセボ対照試験を実施した。 対象は、急性感染症の兆候がなく、SARS-CoV-2迅速抗原検査が陰性の18~65歳の健康なボランティア450人で、2023年3月~2024年7月に登録された。アゼラスチン点鼻スプレー群またはプラセボスプレー群に1:1の割合で無作為に割り付けられ、1日3回、56日間、鼻孔ごとに投与した。感染の高リスク状況においては1日5回への増量投与を任意に選択できた。 参加者は週2回、研究スタッフによるSARS-CoV-2迅速抗原検査を受け、陽性の場合はPCR検査で確認された。症状があるにもかかわらず迅速抗原検査が陰性の場合には、SARS-CoV-2を含む呼吸器病原体に対してマルチプレックスPCR検査を実施した。主要評価項目は、試験開始から56日までにPCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染の発生率であり、両群の比較には2群間の比率の差を検定するz検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・450人のうち227人がアゼラスチン群、223人がプラセボ群に無作為に割り付けられた。平均年齢は33.5歳、女性66.4%、白人92.7%、アフリカ系0.9%、アジア系4.9%、その他の民族が1.6%であった。・主要評価項目であるSARS-CoV-2感染の発生率は、アゼラスチン群はプラセボ群と比較して有意に低かった。 -アゼラスチン群2.2%(5/227例)vs.プラセボ群6.7%(15/223例) -リスク差:-4.5%ポイント、95%信頼区間(CI):-8.3~-0.7、p=0.02 -オッズ比:0.31、95%CI:0.11~0.87・アゼラスチン群では、症候性SARS-CoV-2感染の発生が少なく(1.8%vs.6.3%)、感染者におけるSARS-CoV-2感染までの期間が長く(31.2日vs.19.5日)、迅速抗原検査の陽性期間が短く(3.4日vs.5.1日)、SARS-CoV-2以外の呼吸器病原体を含む総感染者数が少なかった(21人vs.49人)。・PCR検査で確認されたライノウイルス感染症の発生率は、アゼラスチン群のほうがプラセボ群よりも低かった(1.8%vs.6.3%)。・有害事象の発現率は両群で同程度であったが、薬剤との関連が疑われる有害事象(主に苦味、鼻出血、倦怠感)はアゼラスチン群で多く報告された。 研究グループは、「本試験はサンプルサイズが小さく、主に健康なワクチン接種済みの集団を対象としていたため、これらの知見を他の状況に一般化できるかどうかは限定的」としたうえで、「これらの結果は、アゼラスチン点鼻スプレーがSARS-CoV-2による呼吸器感染症の発生率を低下させる可能性を示唆している。アゼラスチン点鼻スプレーは、確立された安全性プロファイル、入手しやすさ、使いやすさから、とくに大規模な集会や旅行といった感染リスクの高い状況における曝露前予防としての可能性がある」とまとめた。

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閉塞性肥大型心筋症、aficamtenが有効/NEJM

 β遮断薬は、有効性に関するエビデンスが限定的であるにもかかわらず、症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の初期治療に用いられてきた。心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenは、標準治療への追加投与で左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが示されている。スペイン・Centro de Investigacion Biomedica en Red Enfermedades Cardiovaculares(CIBERCV)のPablo Garcia-Pavia氏らMAPLE-HCM Investigatorsは、HCMの治療におけるこれら2つの薬剤の単剤投与の臨床的有益性を直接比較する目的で、国際的な第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験「MAPLE-HCM試験」を実施。メトプロロール単剤に比べaficamten単剤は、最高酸素摂取量の改善に関して優越性を示し、症状の軽減や左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数の改善と関連したことを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年9月11日号で報告された。世界71施設で参加者を登録 MAPLE-HCM試験は2023年6月~2024年8月に、北米、欧州、ブラジル、イスラエル、中国の71施設で参加者のスクリーニングを募り行われた(Cytokineticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳、左室壁厚が15mm以上(疾患の原因となる遺伝子変異またはHCMの家族歴がある場合は13mm以上)のHCMと診断され、スクリーニングにおいて左室駆出率(LVEF)が60%以上、かつ安静時の左室流出路圧較差が30mmHg以上、またはバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差が50mmHg以上の患者であった。 被験者を、aficamten(5mg/日で開始し、2週ごとに5mgずつ増量して6週目に20mg/日とする)+プラセボを投与する群、またはメトプロロール(50mg/日で開始し、2週ごとに50mgずつ増量して6週目に200mgとする)+プラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週目までの最高酸素摂取量の変化とした。主要エンドポイントが有意に良好 175例を登録し、aficamten群に88例、メトプロロール群に87例を割り付けた。全体の平均年齢は58歳で、58.3%が男性であった。ベースラインの安静時の平均左室流出路圧較差は47mmHg、バルサルバ法で誘発時の平均左室流出路圧較差は74mmHgであり、平均LVEFは68%で、NYHA心機能分類IIの心不全が70.3%を占めた。NT-proBNP値中央値は468pg/mL(四分位範囲:198~968)だった。 主要エンドポイントは、メトプロロール群が-1.2mL/kg/分(95%信頼区間[CI]:-1.7~-0.8)であったのに対し、aficamten群は1.1mL/kg/分(0.5~1.7)と有意に良好であった(最小二乗平均群間差:2.3mL/kg/分、95%CI:1.5~3.1、p<0.001)。6つの副次エンドポイント、5つが有意に優れる 次の5つの副次エンドポイントは、aficamten群で有意に優れた。(1)24週時のNYHA心機能分類が1分類以上改善の達成率(51%vs.26%、最小二乗平均群間差:25%[95%CI:11~39]、p<0.001)、(2)ベースラインから24週目までのカンザスシティ心筋症質問票-臨床サマリースコア(KCCQ-CSS)の変化量(15.8点vs.8.7点、6.9点[2.6~11.3]、p=0.002)、(3)24週目までのバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差の変化量(-40.7mmHg vs.-3.8mmHg、-34.9mmHg[-43.4~-26.4]、p<0.001)、(4)NT-proBNPのベースライン値に対する24週時の値の相対的な変化(0.3 vs.1.4、0.19[0.15~0.24]、p<0.001)、(5)24週目までの左房容積係数の変化量(-3.8mL/m2 vs.2.8mL/m2、-7.0mL/m2[-9.1~-4.9]、p<0.001)。 一方、24週目までの左室心筋重量係数の変化量(-6.9g/m2 vs.-3.8g/m2、-4.9g/m2[-11.7~2.0]、p=0.16)は両群間に有意な差を認めなかった。有害事象の発現状況は同程度 投与開始後に、aficamten群の65例(74%)、メトプロロール群の66例(76%)で1件以上の有害事象が発現した。重篤な有害事象はそれぞれ7例(8%)および6例(7%)に、早期の投与中止に至った有害事象は1例(1%、短期間のウイルス性疾患を発症後に突然死)および3例(3%)に、減量に至った有害事象は1例(1%、めまい)および4例(5%、立ちくらみ2例、徐脈1例、疲労感1例)に認めた。 著者は、「本試験で認めたメトプロロールに対するaficamtenの臨床的有益性は、心筋ミオシンの阻害による左室流出路閉塞の軽減に起因する可能性が高い」「本試験はaficamten単剤療法だけでなく、閉塞性HCM患者におけるメトプロロール単剤の投与量、治療効果、副作用に関する独自の知見をも提供する」としている。

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レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?【外来で役立つ!認知症Topics】第33回

レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?認知症には70以上もの原因疾患があるが、レビー小体型知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)、血管性認知症に次ぎ3番目に多い。ADのMCI(軽度認知障害)の特徴はわかっていても、「MCIレベルのDLBの特徴は?」と問われると、筆者は最近まで「はて?」という状態であった。DLB研究の元祖である小阪 憲治先生の名言に「DLBを知れば知るほど、その幅広さがわかってくる」というものがある。臨床の場でこの病気の患者さんを診ていると、一言でDLBといっても、見られる症候は実にさまざまであり、この言葉はまさに至言である。また、この病気の大脳病理について経験豊かな友人が次のように教えてくれた。「レビー小体病といっても、さまざまな病変分布や病理の程度にグラデーションがあって、検査前の見込みと検査結果はしょっちゅう乖離する。ADのほうがずっと簡単」と。DLBの診断では、激しい寝ぼけ(レム睡眠行動障害)、幻視、パーキンソン症候、そして認知機能などの変動が大きいことが軸である。DLBの権威であるIan G. McKeith氏らによれば、MCIレベルのDLBには3つの表現型がある。まず「精神症状初発型」、次に「せん妄初発型」、さらに認知機能障害パターンから分類される「MCI-LB」タイプである。今回は、この3つについてまとめてみたい。1)精神症状初発型他の認知症性疾患と比べたとき、DLBの初発症状として、老年期になって初発する大うつ病や精神病は、とても際立っている。代表的な症状としては、人の姿が見えるといった幻視、家族を偽物だと思い込むような妄想や誤認がある。また、アパシー(無気力)、不安がある。こうした症状で初発する認知症性疾患は他にまずないため、これらの症状はDLBを疑う大きなヒントになる。レム睡眠行動障害(RBD)も有用な着眼点になるが、抗うつ薬を使うことによってRBDが生じることもあるので、ここは要注意である。また、DLB を疑ううえで、パーキンソン症状の中で、動作緩慢よりも振戦や筋硬直のほうが、より有用である。なお、精神病発症型のDLB発症時では、パーキンソン症候、認知機能の変動、幻視、RBDという典型症候がみられたのは、わずか3.8%にすぎなかったという報告がある1)。この数字が語るのは、目の前の患者さんは「精神疾患に間違いない、まさかDLBとは!」と誰もが思ってしまう落とし穴だろう。2)せん妄初発型認知機能の変動、意識の清明度・覚醒度の変化は、DLBの中核症状である。そのため、せん妄で初発する人も多い。これまで認知機能障害がなかった人で、いきなりせん妄が生じるのはなぜだろうか? まずDLBという病態はせん妄を来しやすい素地を持っているのかもしれないし、あるいは曇りを伴う重篤な意識の変動をせん妄とみている可能性もある。さらにはこれら両者なのかもしれないが、答えはわからない。ところで、せん妄初発のDLBの存在に留意することには別の意義もある。というのは、一般的なせん妄に対する第1選択薬は抗精神病薬とされるが、もしこの型のDLBにこうした薬剤を投与したら、症状が悪化する可能性が高いからである。なお、せん妄や意識変動はDLB患者の介護者の43%が報告するほど多く、4人に1人のDLB患者がせん妄を繰り返し、累積の回数はAD患者のそれの約4倍といわれる。また、DLBが診断される前にみられるせん妄は、ADに比べて6倍近く高い。高齢患者においてせん妄が長引く場合、実は背後にDLBが隠れていると考えるべきとされる。つまり、「病歴にせん妄が多ければDLBを想起!」である。3)MCI-LBMCIの概念は、1990年代のRonald C. Petersen氏による提唱で有名になったが、それは「アルツハイマー病前駆状態では、他の認知機能は保たれているのに記憶のみが障害される」というものであった。このオリジナルの概念に改変がなされ、現在では「記憶障害」対「非記憶の認知機能障害」、障害される認知領域が「単数」対「複数」という基準で4つのMCI亜型に分類されるようになった。Petersen氏の提唱したオリジナルMCIは、ADの予備軍における「記憶障害」+「単数」である。しかし、レビー小体型認知症の前駆状態であるMCI-LBは、「非記憶障害」が基本で、障害領域は「単数」も「複数」もある。とくに最初期には、本人も介護者も記憶障害を訴えないことが珍しくない。つまり記憶障害は比較的軽い一方で、主に注意や遂行機能障害といった前頭葉の機能障害がみられる。また錯視など、視覚認知に障害を認める例もある。いずれにせよ、記憶障害単独型MCIのADコンバートに対して、「非記憶型」のMCI-LBがADになることはまれで、その10倍もDLBになりやすい。4)その他の留意点DLBにおけるRBDの意味RBD(レム睡眠行動障害)はDLB診断において重要である。ある12年間の追跡調査では、RBDを持つ人の73.5%が、 DLBなど神経変性疾患にコンバートしたという報告もある2)。悪夢は周囲の人によって気付かれ、RBD診断の手がかりになるが、鑑別すべきものに睡眠時無呼吸症候群、睡眠中のてんかん発作などがある。確実な診断には、ポリソムノグラフィによる測定が望まれる。どんなタイプのMCIであれ、RBDを伴うときはDLBを想起すべきである。自律神経症状などDLB患者で、初診時に自律神経障害を認めることもまれではない。便秘、立ちくらみ、尿失禁、勃起障害、発汗増加、唾液増加などのどれか1つ以上が、25~50%の患者で見つかる3)。しかし、こうした症状は他のさまざまな疾患でも見られるため、それらがあるからといって必ずしもDLBだと思う必要もない。なお、無嗅覚症もDLBのMCI期によくみられるが、その原因は数多あるため(たとえば新型コロナウイルス感染症など)、診断的価値がとくに高いわけではない。1)Gunawardana CW, et al. The clinical phenotype of psychiatric-onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review. J Neurol. 2024;271:606-617.2)Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. 2019;142:744-759.3)McKeith IG, et al. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. 2020;94:743-755.

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成人の心血管疾患患者は一般的な感染症のワクチンを接種すべき/ACC

 米国心臓病学会(ACC)が、心血管疾患の成人患者における予防接種に関する専門家のコンセンサス声明である「2025 Concise Clinical Guidance: An ACC Expert Consensus Statement on Adult Immunizations as Part of Cardiovascular Care(2025年簡潔版臨床ガイダンス:心血管ケアの一環としての成人予防接種に関するACC専門家コンセンサス声明)」を作成し、「Journal of the American College of Cardiology」に8月26日公表した。声明では、心血管疾患患者が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、インフルエンザ、RSウイルス感染症などの一般的な感染症を予防するワクチンを接種することの重要性が強調されている。 ACCの新ガイドライン作成委員会委員長を務めた米スタンフォード大学医学部のPaul Heidenreich氏は、「心血管疾患患者にとって、呼吸器感染症やその他の重篤な疾患に対するワクチン接種は極めて重要だ。しかし、人々が接種すべきワクチンの種類や頻度、接種することの重要性を十分に理解できるようにするには、いくつかの障壁がある」とACCのニュースリリースの中で述べている。同氏はさらに、「本ガイドラインを通して、われわれは、臨床医がこれらの内容について患者と話し合い、標準的な予防・治療計画の一環として患者自身がワクチン接種を管理できるよう支援することを促したいと考えている」と付け加えている。 本声明は、トランプ政権により国のワクチン接種システムの抜本的な再構築が行われている中で発表された。特に新型コロナワクチンに関しては、接種が推奨される人を限定するなど、政権の厳しい監視下に置かれている。 声明によると、心血管疾患患者は呼吸器系ウイルスへの感染による影響を受けやすく、重症化、入院、死亡のリスクが高いという。研究では、ワクチンがこうしたリスクの低減に非常に効果的であることが示されている。しかしACCによれば、プライマリケア医のうち、診察時に患者のワクチン接種状況を評価しているのはわずか30%だという。 ガイドラインでは、以下のことが推奨されている。・心血管疾患患者を含む全ての成人は、心血管イベントや死亡のリスクを減らすために、毎年インフルエンザワクチンを接種すること。・心疾患を患う19歳以上の成人は、肺炎や菌血症、髄膜炎などの予防とそれらの疾患を原因とする入院や死亡を防ぐために、1回接種型の肺炎球菌ワクチンを接種すること。 ・COVID-19の重症化、死亡、心筋梗塞、心筋炎、脳卒中、心房細動、long COVIDのリスクを軽減するために、新型コロナワクチンを接種すること。・心血管疾患のある50~74歳の成人、および75歳以上の全ての成人は、RSウイルス感染症予防のためにRSウイルスワクチンを1回接種すること。・心血管疾患のある成人は帯状疱疹の発症リスクが高い可能性があるため、50歳以上の成人は脳卒中や心筋梗塞を予防するために帯状疱疹ワクチンを2回接種すること。 声明では、心筋炎が新型コロナワクチン接種のまれな副作用として報告されていることに言及しているが、ワクチンにより心筋炎を発症するリスクは、COVID-19罹患により発症するリスクよりも低いことを指摘している。 さらに声明には、「心血管疾患患者が一度に複数のワクチンを接種しても危険はなく、実際には、複数のワクチンを同日に接種することで効率性が向上する可能性がある。ただし、2種類の肺炎球菌ワクチンの接種が必要な人は、同時に接種してはならない」と記述されている。

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第279回 ワクチン有効性の今、3つの論文から考察

INDEX2023年10月~24年8月に検査した60歳以上の入院予防効果2023年10月~24年4月の18歳以上対象の入院予防効果XBB.1.5対応型の組換えタンパクワクチンによる中和抗体価感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、前々回は感染者数、入院者数、死亡者数の観点からまとめ、前回は流行ウイルス株とこれに対抗するワクチンの変遷(有効性ではなく規格などの変遷)について紹介した。今回は文字数の関係でワクチンの有効性について比較的大規模に検証された最近のデータを複数紹介し、治療薬についてはさらに次回に譲ることにする。2023年10月~24年8月に検査した60歳以上の入院予防効果オミクロン株系統になってから新型コロナワクチンの感染予防、発症予防効果が低下していると言われているが、今から取り上げる研究を見ると、入院予防効果もやや低下しているのが現実である。PLOS One誌に2025年6月に発表されたカナダ・ケベック州保健研究所のグループによる同州の急性期病院で新型コロナの症状により検査を受けた60歳以上を対象に行われたtest-negative designの症例対照研究1)を参照したい。主要評価項目としてXBB.1.5対応型mRNAワクチンによる入院予防効果とその効果持続性を評価している。PLOS One誌という学術誌にネガティブな評価もあることは承知しているが、この研究の特徴は研究期間中に流行ウイルス系統がXBB系統、JN.1系統、KP.2/3系統と変化し、各期間の入院予防効果も算出している点である。test-positive症例数はXBB系統期(1,321例)、JN.1系統期(1,838例)、KP系統期(1,372例)など計5,532例、test-negative対照は10万8,473例(各系統期は順に1万2,881例、5万3,414例、2万8,595例ほか)。全期間を通じたXBB.1.5ワクチンの入院予防効果の有効率は30%(95%信頼区間[CI]:24~35)、XBB系統優勢期が54%(同:46~62)、JN.1系統優勢期が23%(同:13~32)、KP.2/3系統優勢期が0%(同:-18~15)である。JN.1系統から大きく有効性が低下しているが、これはXBB系統とJN.1系統(KP系統はこの子孫株)で大きくウイルスの系統が異なっていることからほぼ説明できるだろう。ちなみに論文内ではハイブリッド免疫(感染+ワクチン)では、JN系統期であっても有効率は41%と高くなる傾向があることも言及している。ちなみにワクチン接種からの経時的有効性の変化では、接種1〜2ヵ月後が最大(XBB系統期::55%、JN系統期:23%、KP系統期:60%)で、3ヵ月後以降は急速に低下し、4ヵ月以降の有効性はほぼ消失しているという結果だ。ただ、より批判的に見れば、この研究期間ではワクチンに最も適応したXBB系統期が期間中の最初の1~2ヵ月のみで、その後、JN系統期に移行しているため、ワクチン対応ウイルス株が流行株とほぼ一致していた場合の有効性の低下速度も同じくらい早いかは厳密な意味で判定はできないだろう。また、この結果は、純粋に臨床的見地から流行を抑え込もうとした場合、現在の日本の定期接種のような季節性的な対応でワクチン株を選定していては対応しきれない可能性も示唆している。2023年10月~24年4月の18歳以上対象の入院予防効果一方、Lancet eClinicalMedicine誌に掲載されたXBB.1.5対応ファイザー製1価ワクチンの欧州4ヵ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、スペイン)でのリアルワールドデータを用いたJN.1株に対するtest-negative designの症例対照研究2)による入院予防効果を評価した研究も紹介する。前述の研究とやや似たようなセッティングだが、こちらは対象者が18歳以上のSARI(重症急性呼吸器感染症)で入院した患者3万8,094例を対象に、JN.1変異株に感染、またはJN.1優勢期間中の陽性患者(test-positive群)4,776例と陰性患者(test-negative群)3万3,318例で、ワクチン接種の有無(両群のワクチン接種者合計7,847例)を基に入院予防効果の有効率を算出したものだ。その結果、研究期間中の全体の有効率は53.8%(95%CI:38.4~65.4)。接種後の週数別の有効率は2〜4週未満が52.2%、4〜8週未満が48.9%、8〜12週未満が56.9%、12〜16週未満が54.6%、16〜22週未満が59.5%だった。この研究では5ヵ月間にわたり有効性の低下は認められず、前述のカナダの研究とかなり違う。もっとも試験デザインを見ると対象年齢が大きく異なる。ちなみに論文中では年齢別の有効率も示されており、それによると、18~64歳が56.5%、65~79歳が62.5%、80歳以上が48.8%だった。この2つの研究における入院の定義は後者がより厳格であるが、実はこの後者の研究の筆頭著者がファイザー社の社員であることも考慮に入れたほうが良いかもしれない。ただ、有効性の違いはあるにせよ、致死的になりやすい高齢者で一定の入院予防効果は認められるとは言えるだろう。XBB.1.5対応型の組換えタンパクワクチンによる中和抗体価一方、2023年以降のオミクロン株系統での組換えタンパクワクチンの臨床的な有効性を示す信頼性の高そうな研究論文は少なくとも私が検索した限りでは見つけられなかった。結局、世界的に新型コロナワクチン接種の主流はmRNAワクチンになっているため、十分な症例数を集めることができないのが現実なのだろう。XBB系統以降の論文としては、2025年5月に開発元である米・ノババックス社の研究者を筆頭著者としたLancet Infectious Disease誌掲載のXBB.1.5対応型ワクチンの免疫原性を調べた第II/III相単群試験による研究3)がある。この研究は米国国内30施設で、過去3回以上のmRNAワクチン接種経験がある18歳以上の健常成人332人を対象にXBB.1.5対応型ワクチンを追加接種し、別の試験で起源株対応の同ワクチンを接種した人とXBB.1.5株に対する中和抗体価(幾何平均抗体価:GMT)を比較したもの。それによると、XBB.1.5に対する中和抗体GMTは、XBB.1.5株対応ワクチン接種者が905.9で、対照群が156.6。GMT比は5.8倍で優越性が確認されたという結果である。さて、次回はようやく治療薬の現状について触れたい。 1) Carazo S, et al. PLoS One. 2025;20:e0325269. 2) Nguyen JL, et al. EClinicalMedicine. 2024;79:102995. 3) Alves K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:585-594.

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