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第331回 ポストバイオティックがGLP-1を増やして体重を減らす

小規模ながら二重盲検のプラセボ対照無作為化試験で、経口服用の不活化細菌サプリメント(ポストバイオティック)が肥満/過体重成人の体重を有意に減らしました1,2)。GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が肥満治療の主役に一気に躍り出たものの、治療が長続きしないことは少なくないようです。たとえば米国成人の4~5割ほどが開始から1年と経たずにGLP-1薬の使用を止めてしまっており、胃腸の有害事象を生じた患者はとくにそうでした3,4)。それゆえ、GLP-1薬のような生理作用をGLP-1薬が強いる負担なしでもたらす治療選択肢を必要とする患者は多いようです。有益作用をもたらす不活化微生物やその成分であるポストバイオティックがその需要に応えられるかもしれません。たとえばオリーブやキムチなどの発酵食品を介して口に入る細菌のラクチプランチバチルス プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum[L. plantarum])にその可能性があります。熱で不活化したL. plantarumが短鎖脂肪酸(SCFA)を作る乳酸菌などの細菌を増やし5)、SCFAが豊富だと腸細胞からのGLP-1分泌が促進すること6)が先立つ研究で示されています。ゆえに不活化L. plantarumはGLP-1伝達を介して体重管理を助ける働きがあるかもしれません。そこでアラバマ大学のCharitharth Vivek Lal氏らは、不活化L. plantarumを含むポストバイオティック製品の体重への効果などを米国の過体重/肥満成人80人を募って試みました。使われた製品はResMと呼ばれ、不活化L. plantarumに加えてビタミンなどの微量栄養素と植物抽出物を含みます。被験者は1対1の割合で1日1回ResM服用群かプラセボ服用群に割り振られました。2ヵ月後、ResM群に割り振られた被験者の体重は、ベースライン時に比べて平均3%(2.6kg)減っていました。一方、プラセボ群の体重は減らず、ベースライン時より0.5kg増えていました。また、ResM群の血中のGLP-1活性はベースライン時に比べて2倍ほどに上昇していました。一方、プラセボ群ではほとんど変化がみられませんでした。GLP-1薬につきものの胃腸症状の心配はResMでは比較的少ないらしく、今回の試験で胃腸症状はむしろプラセボ群により多く生じました。深刻な有害事象はResM群とプラセボ群のどちらでもみられませんでした。GLP-1薬がすでに経ているような大規模試験で長期投与の効果持続のほどなどを今後調べる必要があります。それに、ResMの種々の成分の体重低下への寄与のほどもはっきりさせなければなりません。それらのさらなる検討で確かな裏付けが晴れて確立すれば、ResMはGLP-1薬に比べて副作用がより少なくて安上がりな体重減量や減った体重の維持手段を担うようになるかもしれません。参考(1)Pala OSK, et al. medRxiv. 2026 Jul 27. [Epub ahead of print](2)Postbiotic supplement boosts body’s own GLP-1 and weight loss / NewScientist(3)Do D, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2413172.(4)Rodriguez PJ, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2457349.(5)Huang Y, et al. Foods. 2025;14:2799.(6)Tolhurst G, et al. Diabetes. 2012;61:364-371.

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ピロリ菌で大腸がんリスク増、除菌の恩恵を受けやすい人は?

 Helicobacter pylori(H. pylori)感染は大腸がん発症リスクを高める可能性があり、除菌治療が長期的なリスク低減につながる可能性が示された。中国で実施された2つの大規模ランダム化試験の解析により、遺伝的リスクや病原性因子を考慮した層別解析では、除菌の恩恵を受けやすい集団が存在することも明らかになった。北京大学のXuan Han氏らによる研究結果は、Gut誌オンライン版2026年6月30日号に掲載された。 H. pyloriは胃がんや消化性潰瘍の原因菌として知られる一方、近年は慢性炎症や腸内細菌叢の変化などを介して大腸がんにも関与する可能性が指摘されている。今回の解析では、中国・山東省で実施された2つのランダム化試験を対象とした。1つは1995年開始のShandong Intervention Trial(SIT、3,365例、追跡期間29.4年)、もう1つは2011年開始のMass Intervention Trial in Linqu, Shandong Province(MITS、18万284例、追跡期間13.8年)である。MITSでは、宿主の遺伝的リスクとH. pyloriの病原性因子に対する血清陽性率に基づいて大腸がんリスクを評価するケースコホート研究も実施された。 主な結果は以下のとおり。・H. pylori陰性例と比較して、除菌治療を受けていないH. pylori陽性例は、大腸がんリスクが有意に高かった(SIT/ハザード比[HR]:2.96、95%信頼区間[CI]:1.30~6.71、MITS/HR:1.27、95%CI:1.04~1.55)。このリスク増加は、4つのH. pyloriの病原性因子(CagA、HpaA、Omp、HP0305)に対する血清陽性例、および遺伝的リスクが高い例(ポリジェニックリスクスコア上位10%)でとくに顕著であった。・SITでは、H. pylori除菌治療は29.4年間の追跡期間において大腸がんリスクの有意な低下と関連しており(HR:0.47、95%CI:0.22~0.99)、除菌成功例ではより大きな低下が観察された(HR:0.38、95%CI:0.15~0.94)。一方、MITSでは、治療後13.8年時点で全体的な効果は認められなかった(HR:1.17、95%CI:0.95~1.43)。しかし、病原性因子に対する血清陽性例と遺伝的リスクが高い例では保護効果が認められた。 著者らは、試験間の相違について、追跡期間の長さ、除菌レジメン、対照群治療の違いに加え、生活習慣や時代背景の差が影響した可能性を挙げている。さらに「H. pylori感染は胃がんだけでなく大腸がんリスクにも関与する可能性がある。除菌治療による大腸がん予防効果は長期間の追跡で初めて明らかになる可能性があり、とくに遺伝的高リスク者や病原性菌株感染例で恩恵が大きいことが示唆された。また、今後は遺伝情報や菌株情報を組み合わせたリスク層別化により、より個別化された大腸がん予防戦略の構築につながる可能性がある」としている。

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第325回 予防接種法改正へ、水面下で起きていた反対論説

INDEX予防接種法改正の目的RSVの罹患率と重症化率ニルセビマブの効果、海外での位置付け法改正、地味に反対されていた理由予防接種法改正の目的先日閉会した国会では皇室典範改正や副首都法案が世を賑わせたが、医療界にとってはある重要な法案が6月30日に衆院、7月24日に参院で可決成立した。予防接種法の一部改正である。今回の法改正の要点は、従来の同法第二条で「予防接種」に用いる手段をワクチンと定めていたが、これを特定医薬品とし、その区分としてワクチンに加え、「モノクローナル抗体を有効成分として含有し、かつ、ワクチンと同程度にその効果が長期間にわたる医薬品」を含むとした点である。この法令条文だとややわかりにくいが、要は感染予防目的で使用する抗体製剤も予防接種法でカバーするということだ。ここで多くの医療者は「RSウイルス(RSV)に対する抗体製剤・ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス)のことだろう?」と想像するに違いない。率直に言ってしまえば、ほぼ当たりである。"ほぼ"と付けたのは、あくまで厚生労働省は「将来的に登場する感染防止目的の抗体製剤も念頭に」と説明しているためだ。これについてはより詳細な説明として、参院厚生労働委員会で厚生労働大臣の上野 賢一郎氏自ら次のように語っている。「まず予防接種の対象については、すでに先進諸国ではRSV感染症を予防できる新たな手段として抗体製剤が用いられております。また、わが国においても同様の抗体製剤が薬事承認をされているにもかかわらず、現行法(予防接種法)ではワクチンのみが対象と規定され、抗体製剤に係る定期接種に向けた議論などをさらに行うことが困難となっているところであります。こうした中、審議会の提言では抗体製剤が予防接種法上の予防接種に用いる医薬品の1つの例、早期に定期接種において抗体製剤を使用できる環境が整備されることが求められているところであります。このように今般の法改正は、RSV感染症に対する抗体製剤がいわば1つの例として想定されるものでありますが、直ちに個別の製剤を定期接種に位置付けることを目的としたものではなく、当該抗体製剤を定期接種に用いることに関して審議会における議論を行うことを可能にするものであるというふうに考えております」要は各国ではすでにニルセビマブを定期予防接種の中に位置付けているにもかかわらず、現行の予防接種法の定義に沿えば、日本では議論すらできないため、まずは法改正をしたという理屈である。RSVの罹患率と重症化率日本ではニルセビマブは2024年3月、「RSVによる重篤化のおそれがある新生児、乳児、幼児での生後初回または2回目のRSV感染流行期のRSVによる下気道疾患の発症抑制、あるいは重篤化リスクのない新生児・乳児での生後初回のRSV感染流行期のRSV感染による下気道疾患の発症抑制」を適応として承認された。EU、英国では2022年11月、カナダでは2023年4月、米国では2023年7月に承認されており、日本はG7の中では最も承認が遅かった国である。ご存じのようにRSV感染症は小児ではほぼ必発の感染症で、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が最低でも1度は感染する。感染から2~8日の潜伏期間後、発熱、鼻水、咳などの症状が数日続き、初感染した乳幼児の約7割は数日のうちに軽快するが、約3割では喘鳴や呼吸困難、さらに細気管支炎の症状が出るなどの下気道症状が重症化する。2010年代には、2歳未満の乳幼児12~18万人(年間)がRSV感染症と診断され、3~5万人が入院を要したと推計されている。また、入院例の7%がなんらかの人工換気を必要としたとする報告もある。2017年にLancet誌に掲載されたシステマティックレビューに基づく推計1)によると、全世界では生後6ヵ月未満児の約4.6万人を含む、5歳未満の約10.1万人がRSV感染により死亡し、その大部分は低・中所得国で起きている。ニルセビマブの効果、海外での位置付けさて、そのニルセビマブの効果だが、在胎期間29週以上35週未満の健康な早産児を対象に行った50mg単回投与群とプラセボ投与群を比較した無作為化二重盲検第IIb相試験では、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が2.6%、プラセボ群が9.5%で、ニルセビマブ群での発現率は70.1%(95%信頼区間[CI]:52.3~81.2)も有意に低下した。また、RSV感染流行期を初めて迎えた健康な正期産児および後期早産児(在胎35週以上)を対象に行われた無作為化プラセボ対照二重盲検第III相MELODY試験でも、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が1.2%、プラセボ群が5%で、ニルセビマブ群での発現率は74.9%(95%CI:50.6~87.3、p<0.001)低下した2)。ご存じのようにRSVに関しては母子免疫を目的に妊婦が接種をする組換えRSVワクチン・アブリスボがすでに承認されており、過去の本連載(第289回)でも触れたように2026年4月からは妊娠28~36週の妊婦を対象に定期接種が開始された。こうした小児のRSV感染予防に向け、母子免疫ワクチンと抗体製剤が並立するのは、日本以外の先進国も同様である。ちなみに米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)の低所得層や無保険の子供にワクチンを無償提供する連邦プログラム「Vaccines for Children(VFC)」の推奨予防接種スケジュールにニルセビマブが組み込まれた3)際、VFCでのワクチンの定義を抗体製剤も含む形に変更、また、欧州各国では医薬品の扱いのまま公的予防接種プログラムに組み込んでいる。母子免疫ワクチンと抗体製剤の相互の位置付け、使い分けに関しては、米国、欧州、オーストラリアなどでは原則どちらか一方を選択するとしている。母子免疫ワクチンを接種している母親から産まれた新生児・乳幼児には、原則は抗体製剤を投与せず、母子免疫ワクチンを接種していない場合は抗体製剤を選択できるという形だ。ただし、母親が出産直前にワクチンを接種したため抗体が十分移行していないと考えられるケースや早産で生まれてきた場合、出生児が重度の心疾患を有している場合などでは例外的に二重接種を認めている国もある。法改正、地味に反対されていた理由さて、実は今回の法改正については、衆院では「起立総員」すなわち全会一致、参院では賛成多数での可決だった。ここで「衆院は全会一致で、参院は賛成多数とは、参院では反対した政党がいたのか?」という疑問が湧く人もいるだろう。その通りである。衆院の採決結果も全会一致と記述したが、これは厳密に言えば、議場に出席した議員全員の賛成ということであり、欠席者は含まない。実際、当日の衆院本会議の議場の映像を見ると、議長に向かって右端方向に空席が目立つ。ちなみに衆参両院とも議長席に向かって左端から議席数の多い政党の議員席が配置される。さらに参院では個別議員の採決結果4)が公表されており、ここで衆院を欠席した政党・議員がほぼ予測可能になる。参院で同法改正に反対したのは参政党の15人とれいわ新選組の5人である。実際、参政党では、衆参両院の厚生労働委員会、れいわについては参院厚生労働委員会で所属議員が反対の立場から討論を行っている。以下に反対討論で述べられた理由について要約の上で箇条書きする(各人の反対理由は通し番号で列挙する)。◯牧野 俊一氏(衆院厚生労働委員会:参政党・北海道大学医学部卒)(1)高額なニルセビマブを国、自治体、保護者の負担割合が不明確なまま制度のみを先行させることには慎重であるべき(2)ニルセビマブの国際共同臨床試験では投与者の6.2%が抗薬物抗体(ADA)陽性であり、これが人体組織や細胞の一部と交差性を持ち、予期せぬ有害事象につながる可能性は否定しきれない(3)新たなモダリティを予防接種法に適用する以前に新型コロナワクチンやHPVワクチンの副反応で揺らいでいる予防接種行政への信頼回復が先決◯岩本 麻奈氏(参院厚生労働委員会 参政党・東京女子医科大学卒)(4)健康な乳幼児を含む、すべての乳幼児を対象とする根拠が十分に示されていない(5)ニルセビマブの非接種対比増分費用効果比(ICER)は643万8,000円/QALYで、日本で費用対効果の判断目安である500万円/QALYを超えている(6)新規抗体製剤ゆえ投与の有無に関連した乳幼児の安全性を継続的に検証する仕組みづくりが不可欠◯天畠 大輔氏(参院厚生労働委員会 れいわ新選組)(7)安全性の検証と被害救済が不十分(8)立法事実が曖昧なまま、ワクチンとは採用基準が異なる抗体製剤を予防接種法の対象に加えることへの懸念(9)妊婦向けの母子免疫ワクチンの安全性検証や副反応発生状況のデータが揃う前に次の抗体製剤の承認を進める二重推進への懸念以上は一見すると、一定の妥当性がある主張に見える人もいるだろう。ただ、私個人は公党の反対論拠としては疑問に感じるものが少なくない。まず、(3)と(7)の主張はかなり類似点が多い。たとえば新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、これまで1万5,000件以上の健康被害救済制度への申請があり、その審査に時間を要し、なおかつ結果として「判定不能」となるものが多いのは事実であり、牧野、天畠氏とも反対討論前の質疑でこの点について言及している。制度のより円滑な運用を求める主張自体は妥当である。しかし、コロナワクチンに関しては、新規モダリティかつ日本国内で承認されたワクチンの中ではおそらく最も多くの国民が短期間のうちに接種したものであり、過剰反応や漠然とした不安も含め健康被害救済制度申請が多くなったやや異例の事態である。ゆえにそこでの審査遅れをもって制度全体が機能不全であるかのような指摘は、やや揚げ足取りの印象がある。また、そもそもワクチンと有害事象の因果関係を正確に判定するならば、たとえばワクチン接種者全員に対して接種前の検体採取などをしなければ、「判定不能」を減らすことはできない。しかし、そのようなオペレーションが現場でできるかは、医師である牧野氏ならばわかるはずである。そもそも新たな抗体製剤を予防接種法に位置付けるか否かという医学的な議論と予防接種に伴う健康被害救済制度の運用議論は、ある意味別次元のものでもある。そしてもし、今回の参政党やれいわの主張に沿うならば、健康被害救済制度の運用が改善されるまでは、国民は有効なワクチンや抗体製剤の恩恵を享受できないことになり、その間に感染症そのものの被害が拡大してしまう恐れがある。こちらのほうが政治としては失策である。一方、(2)、(6)、(7)、(9)はいずれも抗体製剤そのものの安全性に関する一抹の不安としては理解しうるが、これも揚げ足取りに映る。まず、岩本氏が主張する(6)は、ニルセビマブの場合、承認申請時に提出したプラセボ対照比較試験で一定程度立証済みである。このように書くと「それでは十分とは言えない」との反論もありそうだが、そもそも「どれだけの症例数・期間で、どのような結果ならば安全性が担保された」と言えるのだろうか? この問いは、よくありがちな「臨床試験上は短期的な安全性は確保されていると思われるが、長期ではわからない」という主張にも適用できるだろう。おおむねこの手の主張をする側は自分たちからは明確なエンドポイントは示さない。これでは揚げ足取りと言われても仕方ないのではと思う。また、牧野氏が主張する(2)で指摘するデータは事実だが、ADA陽性者と陰性者の抗体血中濃度は150日まではほぼ同等で、RSV感染率や安全性にも明らかな差は認められないと報告5)されている。さらに、米国食品医薬品局(FDA)の抗微生物薬専門委員会のニルセビマブに関する評価6)では、「2シーズン連続でニルセビマブを投与された被験者では、初回投与が第2シーズンの記憶ADA反応を誘導した、あるいは第1シーズンにADAを有していた被験者のADA反応を増強したことを示す証拠は認められなかった」と明記している。(1)と(5)はわかりやすく言えば、コスパである。この(5)で示されたICERは2025年10月に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で報告された数字で、死亡と罹患中のQOL低下のみを考慮した結果である。このICERの500万円/QALYは、国内での過去の研究7)や国際比較などにより、日本での目安となった経緯があるが、金科玉条のものではない。ちなみに参考にされた研究では、日本での許容額は約500~600万円/QALYと幅のある計算になっていた。この目安に沿えば、ニルセビマブのICERはやや高めだが、前述のようにあくまで死亡と罹患中の患児のQOL低下のみを考慮し、たとえば子供が重症RSV感染症で入院したことに伴う親の経済損失などは考慮されていない。また、小委員会で示された試算では、RSV流行期直前に接種できた時のICERは274万円/QALYまで低下することも示されている。つまり使いようによってはかなり高いコスパが得られるということでもある。一方、牧野、岩本両氏が委員会審議でかなり追及したのが、このICER算定ではニルセビマブの接種費用を用量にかかわらず1回約4万5,000円としている点だ。これには驚く人もいるかもしれない。というのも、現在の国内でのニルセビマブの薬価は、体重5kg未満児向け50mgシリンジが約46万円、5kg以上児向け100mgシリンジが約90万円だからである。これに対しては、委員会の場で厚生労働省感染症対策部長の鷲見 学氏が、企業にヒアリングした結果、この算定価格を設定した旨を説明している。この価格は実は欧米の公的接種向けの卸売価格とほぼ同等であり、実際の納入価格はこれよりも安価といわれている。現在の日本の薬価がなぜこれだけ高いのかは、現状の保険適応対象が非常に限定的であり、その対象患者数の少なさを考慮して薬価設定が行われたと考えればほぼ納得できるはずだ。また、岩本氏は委員会質疑の中で過去5年のRSV感染症の年間死者数が最大29人であり、国側がその年齢別内訳のデータを持ち合わせていないことにも疑問を呈した。かみ砕いて言えば、小児の死者は少なく、その中でも早産児ではない正期産児での死者はごくわずか、すなわち健常乳幼児を幅広く接種対象とするのはコスパが悪いと言いたかったのだろう。もっとも、この点については岩本氏との質疑応答で、鷲見氏が“すべての新生児に接種した場合、絶対リスク減少値を年間の出生者数に単純に当てはめて計算すると約8,200人の入院を防げる”との試算を示している。ニルセビマブの接種で防げる乳幼児の死者はごくわずかでも、これだけの入院を防げるならば子供、親、医療者にとってもメリットは少なくないだろう。このような理由から、私には参政党、れいわ新選組の反対主張は、枝葉末節にこだわり過ぎであり、本質を見失っていると映る。れいわの天畠氏は参院厚生労働委員会の質疑冒頭で「わが党としては、経済的格差による医療アクセスの違いを解消し、子育て世代や小児医療の現場の負担を軽減しようとする政策目的には深く共感する」と発言していたが、失礼ながら今回のような重箱の隅をつつくような指摘に基づく反対によりもし法案が否決・遅延されていたならば、本来助成されるはずだった乳幼児の保護者に対し、高額な自己負担を強いることになる点をどのように考えているのだろう。目的への賛同と採決での反対という結論の間に政策選択上の矛盾が生じているようにしか思えない。いずれにせよ両党の主張については、私個人はやや厳しい言い方になるが、その発言の割には党利党略的なニオイしか感じないのである。1)Shi T, et al. Lancet. 2017;390:946-958.2)MELODY試験(ClinicalTrials.gov)3)CDC:RSV Immunization Guidance for Infants and Young Children4)衆議院:本会議投票結果(第221回国会2026年 7月 24日投票結果)5)Griffin MP, et al. N Engl J Med. 2020;383:415-425.6)AstraZeneca:Advisory Committee Briefing Document_Nirsevimab7)Ohsusa Y, et al. Iryo To Shakai. 2006;16:157-165.

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HIV-1感染者への週1回配合剤、1日1回薬に非劣性/NEJM

 ウイルス学的抑制を維持しているHIV-1感染者において、週1回投与の配合錠イスラトラビル/レナカパビル(ISL/LEN)は1日1回投与の配合錠ビクテグラビル/エムトリシタビン/テノホビル アラフェナミド(B/F/TAF)に対して、HIVウイルス量の抑制維持に関して非劣性であることが示された。ドイツ・ボン大学病院のJurgen K. Rockstroh氏らISLEND-1 Study Teamが日本を含む12ヵ国106施設で実施した第III相の二重盲検無作為化実薬対照非劣性試験「ISLEND-1試験」の結果を報告した。1日1回投与の配合錠はHIV-1感染者の治療を一変させたが、服薬アドヒアランスに関する課題が効果を限定的なものとしていることから、研究グループは長期作用型経口薬との組み合わせが投与頻度を抑えた新たな治療選択肢となりうるかを検証した。NEJM誌オンライン版2026年7月29日号掲載の報告。B/F/TAFからISL/LENへの切り替えの有効性および安全性を評価 ISLEND-1試験は、B/F/TAFの投与により少なくとも6ヵ月間ウイルス学的抑制(血漿HIV-1 RNA量50コピー/mL未満)を維持している18歳以上の成人HIV-1感染者を対象とし、1日1回投与のB/F/TAFから週1回投与のISL/LENへの切り替えの有効性および安全性を評価した。 被験者は、週1回投与のISL/LEN(2mg/300mg)群または1日1回のB/F/TAFを継続投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、96週間投与を受ける計画とされた。全被験者が適合プラセボの投与を受け、盲検化が維持された。 主要評価項目は、48週時点のHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者割合で、判定には米国食品医薬品局(FDA)が定義するスナップショットアルゴリズムが用いられ、非劣性マージンはFDAガイドラインに基づき4%ポイントと設定された。48週時点でHIV-1 RNA量50コピー/mL以上、切り替え群は0例 総計607例が無作為化され、主要解析に含まれた(304例がISL/LEN群、303例がB/F/TAF群)。被験者のうち21%が女性で、人種構成は31%が黒人、26%がヒスパニック/ラテン系であり、65歳以上の高齢者が15%であった。 48週時点でHIV-1 RNA量50コピー/mL以上の被験者は、ISL/LEN群では報告例がなく、B/F/TAF群では1例(0.3%)であった(群間差:-0.3%ポイント、95.002%信頼区間[CI]:-1.4~0.8)。また、HIV-1 RNA量50コピー/mL未満であった被験者は、それぞれ284例(93.4%)と280例(92.4%)であった(群間差:1.0%ポイント、95%CI:-3.2~5.2)。 48週時点におけるCD4+T細胞数のベースラインからの平均変化量は、ISL/LEN群-10個/μL、B/F/TAF群-18個/μLであった(最小二乗平均群間差:12個/μL、95%CI:-16~39)。 試験治療の中止に至った有害事象は、ISL/LEN群6例(2.0%)、B/F/TAF群5例(1.7%)で発現した。Grade3以上の重篤な有害事象の発現はそれぞれ16例(5.3%)および14例(4.6%)で報告された。

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ブラシ検査で口腔扁平上皮がんを高精度に検出

 新たな研究で、口腔扁平上皮がん(OSCC)を1時間以内に診断できる非侵襲的なブラシ検査が、がんの検出率向上につながる可能性が示された。ブラシで採取した細胞からRNAを抽出し、対象とする遺伝子のmRNA発現量を調べる多遺伝子アッセイ「qMIDSV3」により、OSCCを感度95.7%、特異度95.1%で検出できたという。英ロンドン大学クイーン・メアリー校分子口腔腫瘍学教授のMuy-Teck Teh氏らによるこの研究結果は、6月23日付で「Biomarker Research」に掲載された。 米国がん協会(ACS)によると、米国では2026年に、口腔・中咽頭がんの新規患者数は約6万480人、これらのがんによる死亡者数は約1万3,150人になると予測されている。また、研究グループによると、口腔がん患者の53%はステージ4になってから診断されている。ステージ4はがんが最も進行した状態で、治療の成功率も低くなる。口腔・中咽頭がんのリスクが高いのは、喫煙者、多量飲酒者、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染者である。さらに、日光曝露も、特に口唇がんリスクを高める。 口腔がんの診断では、舌や歯茎、頬、扁桃などから組織を採取する生検が必要となる。そのため、特に繰り返し検査が必要な場合には、患者だけでなく医師も生検の実施に消極的になりがちだという。 過去の研究では、マイクロバイオプシーを用いた多遺伝子アッセイであるqMIDSV2の有効性が検討された。今回の研究では、マイクロバイオプシーの代わりにブラシ検査を用いた多遺伝子アッセイ(qMIDSV3)でも同等の診断精度が得られるのかが検討された。qMIDSV3では、丸いブラシを使って口腔内の疑わしい病変から細胞を採取する。その後、採取した細胞からRNAを抽出し、OSCCとの関連が知られている2つの遺伝子(INHBA、S100A16)と、発現量を標準化するための2つの参照遺伝子(YAP1、POLR2A)の、計4遺伝子のmRNA発現量を測定し、その結果をアルゴリズムで解析して悪性指数を算出し、がんの可能性を評価する。 今回の研究では、545人の患者から採取した1,090検体を解析し、ブラシ検査の有効性を検証した。解析の結果、この検査のOSCC検出の感度は95.7%、特異度は95.1%であり、偽陽性率は4.9%、偽陰性率は4.3%であった。 Teh氏は、「ブラシによる細胞採取検査の性能がマイクロバイオプシーに匹敵したことには本当に驚いた。これは、この4つの遺伝子が示す生物学的シグナルの一貫性が極めて高いため、ブラシで採取した表層の剥離細胞からでも十分検出できることを示唆している」と述べている。その上で、「患者は、分子診断に基づくトリアージのために、従来のマイクロバイオプシーのような、低侵襲ではあるものの組織採取を伴う検査を受ける必要がなくなる」と強調している。研究グループは、qMIDSV3を導入することで、不必要な外科的組織生検の最大90%を回避できる可能性があると推定している。 Teh氏は、「口腔がんの生存率は、どれだけ早期に発見できるかに直接関係している。しかし、現行の診断方法は大まかで、疑わしい病変が見つかった患者の多くは、最終的に良性であるにもかかわらず、生検を受けることになる。qMIDSV3は、こうした状況を変える可能性がある。この検査を用いれば、臨床医は患者を迅速かつ非侵襲的に、高い精度でトリアージできるようになる。さらに重要なのは、繰り返し実施できるため、前がん病変が持続する患者を定期的かつ系統的に経過観察し、従来よりもはるかに早い段階で口腔がんを発見できる可能性があることだ」とニュースリリースで述べている。 ロンドン大学クイーン・メアリー校は現在、この検査を実用化するための商業パートナーを探しており、適切な提携先が見つかれば、約2年以内の市場投入が可能になるとしている。

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実臨床におけるレカネマブとAChE阻害薬の有用性比較

 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は、アルツハイマー病の症状を緩和する。一方、レカネマブは、アルツハイマー病の進行を修飾する可能性が示されている。しかし、レカネマブの安全性や臨床的影響に関するリアルワールド・エビデンスは、依然として限られている。台湾・Mackay Medical UniversityのChuo-Yu Lee氏らは、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病の患者を対象に、レカネマブ投与を開始した場合とAChE阻害薬を投与した場合の安全性および有効性を比較するため、本研究を実施した。Alzheimer's Research & Therapy誌オンライン版2026年6月22日号の報告。 2023年7月〜2025年9月にMCIまたはアルツハイマー病と診断された患者を対象に、米国の電子カルテネットワークであるTriNetXを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。標的試験エミュレーションの手法を用いて、傾向スコアマッチング(1:1)およびCox比例ハザードモデルによってリスクの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・レカネマブ群は、AChE阻害薬群と比較し、神経画像上の異常所見の発生率が5倍高いことが示された。しかし、治療継続率(1年間)は同程度であった(53.4%vs.52.5%)。・マッチング後、各コホートには589例が含まれた。・AChE阻害薬群と比較し、レカネマブ群は、認知症の行動・心理症状(BPSD)のリスク(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.36〜0.77)および救急受診のリスク(HR:0.66、95%CI:0.51〜0.85)が有意に低かった。一方、入院のリスクは高かった(HR:1.31、95%CI:1.03〜1.67)。・レカネマブの使用は、抗精神病薬(HR:0.47、95%CI:0.32〜0.70)、抗うつ薬(HR:0.60、95%CI:0.43〜0.85)、メラトニン受容体作動薬/オレキシン受容体拮抗薬(HR:0.61、95%CI:0.42〜0.88)、抗菌薬(HR:0.61、95%CI:0.44〜0.86)、抗真菌薬(HR:0.57、95%CI:0.37〜0.88)の使用頻度の低下と関連していた。一方、ステロイドの使用頻度は、レカネマブ使用者において高い傾向が認められた(HR:2.19、95%CI:1.55〜3.10)。 著者らは「レカネマブの投与開始は、AChE阻害薬を中心とした従来の治療戦略と比較し、同等の治療継続率を有していたほか、探索的解析において、BPSDや救急受診のリスク低下、精神神経用薬や感染症関連薬の使用減少が認められた。ただし、レカネマブに関連する神経画像上の異常所見の発生率が高かったことや入院およびコルチコステロイド使用のリスクが増加したことは、アミロイド関連画像異常(ARIA)に対する積極的な臨床モニタリングおよびマネジメントを反映している可能性が高い。残存交絡の可能性を排除できず、結果の解釈には慎重を期す必要があるものの、これらの探索的知見は、バイオマーカーで確認されたコホートや直接比較による無作為化試験により、さらなる検証に値するものである」としている。

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COVID-19後の眼症状、通常検査では見逃される異常が明らかに

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に12週間以上持続する目の症状に関する新たな知見が、リンショーピング大学(スウェーデン)実験眼科学教授のNeil Lagali氏らにより、7月8日付で「Nature Communications」に報告された。この研究によると、軽症のCOVID-19罹患後12週間以上、最長3年にわたり、強い目の痛みや光過敏(まぶしさ)、読書時の見えづらさ、ピントの合わせにくさといった症状に悩まされる患者が存在し、通常の眼科検査ではこうした症状の原因となる異常は見つからないものの、特殊な検査で神経や免疫の異常が確認されたという。Lagali氏は、「こうした患者が訴える眼症状の原因は、標準的な眼科検査では確認できず、異常を見つけるには特殊な検査を行う必要があった。その結果、パズルのピースがつながるように症状の原因が明らかになった」と述べている。 今回の研究では、軽症のCOVID-19罹患後に12週間以上持続する眼症状(persistent ocular symptom;POS)を有する患者100人と、COVID-19に罹患したもののPOSは発症していない対照者32人の目を調べた。 その結果、通常の眼科検査では両群に大きな違いは認められなかった。しかし、近見時の両眼の協調運動を詳しく調べたところ、POS群では、眼球がわずかに内側へずれる「内斜位」が認められ、眼球のずれを補正する能力(融像予備力)も低下していた。また、光刺激に対する動的瞳孔測定では、暗順応後の瞳孔径と光刺激後の最小瞳孔径はいずれも対照群より大きく、瞳孔が収縮するまでの時間も延長していた。研究グループは、POSの一つである光過敏について、瞳孔反射の異常によって眼内に入る光量を十分に調節できなくなっていることが一因である可能性を指摘している。さらに、内斜位については、眼球運動を制御する神経がCOVID-19の影響を受けた可能性があると考察している。 さらに、生体共焦点顕微鏡(IVCM)などを用いた詳細な検査では、POS群では角膜上皮基底下神経叢の神経線維密度の低下や、活性化した樹状細胞・T細胞の増加が認められ、角膜で炎症や免疫活性化が生じていることが示唆された。涙液のプロテオーム解析では、これらの所見を裏付ける神経障害やT細胞の制御異常、炎症に関連するタンパク質の発現パターンの変化が確認された。研究グループは、これらの結果はCOVID-19による長期的な神経炎症を示唆するものと考察している。 研究グループによると、POSを有する患者の症状は日常生活に大きな支障を及ぼしており、患者の3人に1人が休職または時短勤務を余儀なくされていると回答したという。Lagali氏は、「こうした患者は日常生活で本当に大変な思いをしている。今回の研究によって目に何が起きているのかが分かり、COVID-19がどのようにしてこれらの問題を引き起こしたのかを示す重要な手がかりも得られた」と話している。 研究チームは、今回の研究成果が、COVID-19罹患後のPOSのより適切な診断法や有効な治療法の開発につながることを期待している。

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日本におけるVZV髄膜炎発生率、12年で3倍超に

 日本における水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)髄膜炎の発生率は、過去12年間で3倍超に増加していることが、東京大学の山形 直毅氏らによる研究で明らかになった。一方で、大多数の患者はアシクロビルの長期静注療法により治療され、退院時には転帰が良好であったことも示されている。Journal of the Neurological Sciences誌2026年9月15日号掲載の報告より。 本研究では、2011年4月~2023年3月にVZV髄膜炎と診断された1,680例を、日本の全国入院患者データベースであるDPCデータを用いて特定した。VZV髄膜炎の年間発生率は、VZV髄膜炎患者数を各年の人口で除算し、DPC対象となる急性期病院の割合を用いて補正することにより算出した。また、対象患者の治療レジメン(抗ウイルス薬を含む)および臨床的アウトカム(院内死亡率および退院時のBarthel Index)について検討した。 主な結果は以下のとおり。・VZV髄膜炎の年間平均発生率は10万人年当たり0.25であり、2011年の0.13から2022年の0.46へと増加した。・96.4%の患者が初期治療として高用量アシクロビル静注療法を受け、投与期間中央値は11日間であった。アシクロビル静注療法を受けた患者のうち、89.3%が長期投与(7日間以上)を受けていた。・院内死亡率は0.8%であり、退院時のBarthel Indexが90以上であった患者は87.4%であった。

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働き方改革で研修医のバーンアウトは減ったのか~2万5千人を調査

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時、世界中で医師、とくに臨床研修医においてバーンアウトが大幅に増加した。一方、わが国では、医師の過重労働を減らし健康状態を改善するため、2023年に医師の働き方改革の準備を開始し、2024年4月に施行した。今回、千葉大学/英国・グラスゴー大学の小野 亮平氏らは、COVID-19流行時および国の働き方改革の準備期・施行期における、研修医のバーンアウトと労働環境の経時的変化について、多施設共同反復横断研究で調査した。その結果、臨床研修医のバーンアウトは2020年度に最も高く、その後、仕事への満足度、勤務時間、診療負担の改善に伴い減少したことが示された。BMJ Open誌2026年7月21日号に掲載。 本研究の対象は、日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)による2020年度・2022年度・2023年度・2024年度の基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)を受験した1年目および2年目の臨床研修医である。自己記入式アンケートにより、週当たり勤務時間、救急当直回数、受け持ち入院患者数、自己学習時間、バーンアウトに関するデータを収集した。人口統計学的特性および施設特性を調整後、多変量ロジスティック回帰分析により働き方改革の各時期とバーンアウトとの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計2万5,368人の臨床研修医が参加した(2020年度:6,816人、2022年度:6,063人、2023年度:6,584人、2024年度:5,905人)。・バーンアウトの割合は、COVID-19流行初期の2020年度に最も高かった(21.7%)が、2024年度には13.3%に低下した。・仕事への満足度の割合は、2020年度の62.3%と比較して、働き方改革開始後の2024年度には75.4%まで改善した。・週80時間以上勤務していた臨床研修医の割合は、2020年度の19.9%から2024年度には2.3%に減少した一方、週45時間未満は2.5%から24.7%に増加した。・働き方改革前の2020年度・2022年度と比べたバーンアウトの調整オッズ比は、準備期の2023年度で0.60(95%信頼区間:0.55~0.66)、施行期の2024年度で0.67(同:0.61~0.74)であった。 著者らは「これらの結果は、業務負荷のバランスを改善するためのシステムレベルの取り組みが、臨床研修医のウェルビーイングの向上と関連している可能性を示唆している」と結論した。ただし、本研究が各年度で異なる臨床研修医を調査した反復横断研究であることやCOVID-19流行の収束と働き方改革の準備・施行時期が重なっていることなどから、働き方改革が原因と断定するには慎重な解釈が必要としている。

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新型コロナ・インフルワクチンの同時接種で有害事象は増えず

 この秋は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの対策が一度で済むかもしれない。新たな研究で、新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種しても、インフルエンザワクチンのみを接種した場合と比べて安全上のリスクは増加しないことが示された。米ワシントン大学医学部および米VA St. Louis Health Care SystemのYan Xie氏らによるこの研究は、「Annals of Internal Medicine」に6月30日掲載された。 この研究では、米国の退役軍人(VA)約250万人の電子医療記録データを用いて、新型コロナワクチン(二価ワクチン、XBB対応ワクチン、およびKP対応ワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種した場合とインフルエンザワクチンを単独接種した場合とで、接種後90日以内の有害事象の発生について比較・評価した。2022年9月1日から2025年8月26日の間に70万5,124人が2種類のワクチンを同時接種し、181万3,205人はインフルエンザワクチンのみを接種していた。 有害事象は46種類を対象とし、重症度に応じて、1)重症で生命を脅かす事象(Tier 1)、2)臨床的に重要な事象(Tier 2)、3)比較的軽度または自己限定性の事象(Tier 3)の3段階に分類した。有害事象の具体的な例は、Tier 1では脳静脈洞血栓症や心筋梗塞、肺塞栓症など、Tier 2では心房細動や心房粗動、深部静脈血栓症など、Tier 3ではベル麻痺、失神、耳鳴りなどである。 解析の結果、重症度のレベルにかかわりなく、有害事象リスクについて同時接種群と単独接種群の間に統計学的な有意差は認められなかった。リスク比は、Tier 1で1.03(95%信頼区間0.99~1.09)、Tier 2で0.99(同0.96~1.03)、Tier 3で0.99(同0.96~1.02)であった。3種類の新型コロナワクチンが使用された期間別に解析しても、同時接種は有害事象のリスク増加と関連していなかった。 著者らは、「今回の結果は、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種することの短期的な安全性を支持するものであり、今後のワクチン接種に関する推奨を策定する際にも役立つ可能性がある」と述べている。

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第306回 無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省

<先週の動き> 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁 1.無医地区が575地区に増加 医師不足エリア再拡大/厚労省厚生労働省は、2025年10月末時点の「無医地区」が全国で575地区となり、2022年の前回調査から18地区増えたと公表した。無医地区人口も12万2,206人から13万4,753人へ1万2,547人増加した。国による定義では無医地区とは「医療機関がなく、中心地点からおおむね半径4キロ以内に50人以上が居住し、受診に長時間を要するなど医療機関を容易に利用できない地域」を指す。長期的には1984年の1,276地区から徐々に減少してきていたが、今回の調査で増加に転じ、医師不足地域が再び広がり始めた可能性が示された。都道府県別では、大分県が44地区で前回より6地区増え、岩手県、島根県、山口県、沖縄県が各4地区増加した。無医地区人口は大分県で5,852人、沖縄県で3,861人、山口県で1,920人増えるなど、地区数以上に住民への影響が拡大した地域もある。その一方で、福岡県は4地区、富山県と奈良県は各2地区減少した。山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県には無医地区がなかった。厚労省は、診療所の閉院や高齢医師の引退後に後継者を確保できないことが増加の主因とみている。なお、これとは別に厚労省は7月31日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2028年度以降、医学部臨時定員を全国で削減する方針を示している。厚労省としては医師少数県や全国の医師偏在指標を下回る県には削減幅を緩和する考えだが、定員増は想定していない。このため、医師不足を訴える自治体からは地域偏在が固定化・助長される懸念が出ており、単純な医師養成数だけでなく、地域枠医師の離脱防止、結婚や育児、介護を含む柔軟な勤務、キャリア形成を支える伴走型支援が重要となる。さらに、基幹病院とへき地診療所が医師を融通する地域医療連携推進法人、巡回診療、オンライン診療、搬送体制を組み合わせ、1人の医師に依存しない広域ネットワークへ転換する必要がある。無医地区の拡大は、慢性疾患の継続管理や予防接種だけでなく、救急受診の遅れ、在宅医療・看取りの空白、基幹病院への患者集中にもつながる。医師には、地域の診療所単位ではなく、2次医療圏全体で外来、救急、在宅、訪問看護、薬局をどう維持するかという視点が求められる。 参考 1) 令和7年度無医地区等及び無歯科医地区等調査の結果を公表します(厚労省) 2) 575地区で医療機関ゼロ 22年比18増、厚労省調査(共同通信) 3) 「無医地区」増加に転じる 25年10月末 18増の計575地区に(CB news) 4) 「全国値」未満は緩和検討 厚労省 医学部臨時定員、28年度は全都道府県で削減へ(同) 2.高額療養費、8月から患者負担増 長期療養者には年間上限/厚労省高額な医療費の患者負担を抑える高額療養費制度が8月1日から見直された。所得区分ごとの月額自己負担上限は、住民税非課税世帯で4~5%、それ以外でおおむね7%引き上げられる。たとえば70歳未満で年収約370~770万円の場合、従来の「8万100円+医療費の一定部分の1%」から「8万5,800円+(総医療費-28万6,000円)×1%」となり、定額部分で5,700円増える。さらに2027年8月には所得区分を細分化し、年収約650~770万円では定額部分が11万400円となるなど、現行制度と比べ最大38%の負担増となる見通し。その一方で、長期療養者への配慮として、8月から年間自己負担上限が新設された。年収約370~770万円では年53万円で、所得に応じ18~168万円に設定される。直近12ヵ月で3回、月額上限に達すると4回目以降の負担が軽減される「多数回該当」の上限額は原則据え置く。これまで月ごとの上限にわずかに届かず、多数回該当の対象にならなかった患者も、年間上限により負担が抑えられる場合がある。ただし年間上限は償還払いとなるため、患者がいったん上限を超える金額を立て替えなければならない可能性がある。厚生労働省は今回の見直しにより、2027年度時点で保険料と公費による医療給付を年間約2,450億円削減できると試算する。このうち約1,070億円は、患者の受診行動の変化による医療費減少を見込んだものだ。厚労省は、長期療養者や低所得者に配慮しており、必要な受診が抑制されるとは想定していないと説明する。しかし、患者団体や医療関係者からは、がんや難病など高額な治療を継続する患者の受診控えや治療断念、生活困窮につながるとの懸念が出ている。また、今回の見直しによる患者側の負担増(所得区分や受療状況によって年間負担は異なる)に対し、保険料の軽減効果は1人当たり年約1,400円(月額約117円)にとどまり、負担増とのアンバランスさを疑問視する指摘もある。今回の見直しでは、高所得者ほど医療利用時の負担を重くする「応能負担」が強化された点も論点となる。保険料や税の段階ですでに所得に応じた負担を求める中、専門家からは給付を受ける際にも負担差を広げることが、国民皆保険を支える連帯を損なうとの意見もある。医療現場では、患者の年齢や所得区分、多数回該当、年間上限、加入する健康保険の付加給付を確認し、治療費の見通しを早期に説明する必要がある。また、マイナ保険証を利用すれば、原則として限度額適用認定証がなくても窓口負担を上限額までに抑えられる。がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーと連携し、経済的理由による治療の中断を防ぐ支援が一層重要となる 参考 1) 高額療養費制度 自己負担の上限額引き上げも 年間上限額を新設(NHK) 2) 高額療養費、負担上限が8月から最大7%増 来夏には最大38%増(朝日新聞) 3) 高額療養費見直し 政府説明をデータでたどると? ロジックに異論(同) 4) 所得高ければ医療費負担も重く…広がる「応能負担」、専門家は問題視(同) 5) 今日から変わる「高額療養費制度」 “年間上限”導入も自己負担増に患者団体「治療断念につながる」懸念(弁護士JPニュース) 3.24年度の社会保障給付費138兆円 医療はコロナ費減で1.9%減/社人研国立社会保障・人口問題研究所は、2024年度の社会保障費用統計を公表した。年金、医療、介護、子育て支援などに充てられた社会保障給付費(ILO基準)は138兆3,019億円で、前年度から2兆6,703億円、2.0%増加した。増加は3年ぶりで、新型コロナウイルス対策に伴う支出が膨らんだ2021年度の138兆7,544億円に次ぐ過去2番目の規模となった。人口1人当たりでは111万7,100円と、前年度より2万6,400円、2.4%増えた。部門別では、年金が57兆8,528億円と最も多く、前年度比1兆4,592億円、2.6%増加した。物価や賃金の動向を反映し、2024年度の年金改定率が+2.7%となったことなどが影響した。介護や子供・子育て、生活保護などを含む「福祉、その他」は35兆6,436億円で、2兆836億円の増加、6.2%増えた。介護報酬の+1.59%改定や児童手当の所得制限撤廃などが押し上げ要因となった。その一方で、医療は44兆8,055億円で、前年度から8,726億円、1.9%減少し、2年連続のマイナスとなった。新型コロナ対策費の縮小が主因で、医療需要そのものの減少を示すものではない。給付費全体に占める構成割合は、年金41.8%、医療32.4%、福祉その他25.8%だった。社会保障給付費の国内総生産(GDP)比は21.53%で、前年度より0.37ポイント低下した。給付費は増えたものの、GDPの伸びがそれを上回ったためで、2021年度の24.07%をピークに低下が続く。社会保障財源(ILO基準)は155兆6,896億円で、年金積立金の運用実績低下に伴う資産収入の減少により21.4%減少した。財源構成は社会保険料53.3%、公費37.5%など。高齢化に加え、物価・賃金、報酬改定、少子化対策が給付費を左右する構造が改めて示された。 参考 1) 令和6(2024)年度 社会保障費用統計の集計を公表します~社会保障給付費、3年ぶりに増加~(社人研) 2) 24年度の社会保障給付費138兆円 高齢化で2番目の水準 厚労省(時事通信) 3) 2024年度の社会保障給付費、過去2番目に多い138兆円 GDP比は低下(日経新聞) 4) 社会保障給付費が3年ぶりに増加 対GDP比は減少続く 24年度(朝日新聞) 5) 24年度の社会保障給付費、「医療」は1.9%減 社人研(MEDIFAX) 4.ドクターヘリの安定運航へ財政支援 広域搬送網の再設計も/厚労省厚生労働省は、整備士不足などで一部地域のドクターヘリが運休している問題を受け、「救急医療搬送体制等のあり方に関する検討会」を開催し、安定運航に向けた議論を始めた。ドクターヘリは、救急医療機器を備え、医師・看護師が同乗して現場や搬送中に診療を行う専用機で、一般的に操縦士、整備士、医師、看護師らが搭乗する。2022年までに京都府を除く46都道府県へ導入されたが、整備士の確保難から東京、大阪、徳島などで運休が発生している。運休地域では、近隣県のドクターヘリ、消防防災ヘリ、ドクターカー、救急車による代替や相互応援が行われ、例外的に整備士を同乗させず操縦士2人で運航する「ツーパイロット制」も検討されている。大阪府は新たにエアロトヨタへ委託し、8月24日から月10日程度の限定運航を再開する予定だが、予備機を利用するため不具合時には再び停止する可能性がある。厚労省によると、2025年度は46都道府県57機で事業を実施した一方で、2026年4月時点で運航を委託できていたのは43都道府県54機にとどまった。年間受諾件数は2024年度に2万8,405件で、救急医療の基盤として定着している。国は今年度の当初予算に100億円を確保し、飛行時間に応じた運航委託費の補助基準額を引き上げた。さらに、機体整備や資機材、整備士確保などを支援する緊急事業として補正予算22億円を計上した。検討会では、短期的には運航事業者への財政支援、共同運航、規制の見直しを進め、9月にも中間取りまとめを行う。中長期的には整備士、操縦士、医療従事者の必要数を推計し、養成・確保策を構築する。今後は、ヘリ単独の維持ではなく、地域の搬送距離や疾病構造を踏まえ、消防防災ヘリやドクターカーを含む広域救急搬送網として再設計する視点が求められる。 参考 1) 救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)の現状について(厚労省) 2) ドクターヘリ安定運用に向けて必要な支援は何か、社会構造変化の中でドクターヘリの役割をどう考えるか-救急医療搬送体制検討会(Gem Med) 3) 大阪府のドクターヘリ、新たな委託先はエアロトヨタ 8月下旬から一部運航再開へ(産経新聞) 5.自由診療の再生医療に行政処分 患者死亡受け改善命令/厚労省厚生労働省は7月31日、自由診療の再生医療を提供していた「ネオポリス診療所銀座クリニック」(東京都中央区)と「大阪ベテスダクリニック」(大阪府泉佐野市)の管理者に対し、再生医療等安全性確保法に基づく改善命令を出した。銀座クリニックでは今年3月、慢性疼痛に対する治療として本人の脂肪由来細胞を投与された外国籍の60代女性が急変し、搬送先で死亡。厚労省は同月13日、治療の一時停止を命じ、その後、提供体制を調査していた。調査では、細胞加工を委託する事業者を介し、韓国の再生医療グループが患者ごとの投与細胞数や投与方法を指定したリストを作成し、クリニックがその内容に従って処置していたことが判明した。医師ではない第三者が実質的に治療内容を決定する体制が常態化し、治療で得た利益の大部分も同グループなどに渡っていたという。さらに、国に届け出た再生医療提供計画から逸脱した治療を行うなど、複数の法令違反が認められた。厚労省は、第三者の影響力を排除し、医療機関が自らの責任で適正な提供体制を構築するよう求めた。大阪ベテスダクリニックでも同様に第三者主導の提供体制が確認され、再生医療後に体調不良で入院を要した患者1人について必要な報告をしていなかったとして改善命令を受けた。銀座クリニックの死亡原因については引き続き調査中である。今回の事案は、患者死亡事故を契機とした立ち入り調査により、外部事業者主導の不適正な運営体制や計画逸脱が発覚し、法に基づく改善命令が出された(因果関係の調査は継続中)。さらに、高額な自由診療として拡大する再生医療で、治療の医学的妥当性だけでなく、指示系統、利益配分、有害事象報告、届け出内容との整合性を含む管理体制の検証が不可欠であることを示した。再生医療等安全性確保法では、医療機関が提供計画を作成し、認定再生医療等委員会の審査を経て国に届け出ることなどを求めている。外部の事業者が治療設計や集患、収益配分まで事実上支配すれば、医師の独立した判断や緊急時対応が損なわれる恐れがある。自由診療の再生医療を提供する医療機関は、委託先との契約関係や治療決定過程を点検し、重篤な有害事象を速やかに報告する体制の再確認が求められる。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について(厚労省) 2) 不適切再生医療で銀座の診療所に改善命令 厚労省 細胞投与で外国籍の患者死亡(産経新聞) 3) 患者死亡の再生医療クリニックなどに改善命令 厚労省(NHK) 4) 「銀座クリニック」の黒幕/「再生医療」謳う自由診療に札付きの輩(FACTA online) 6.移植患者の術後管理置き去り 有償あっせんの元NPO理事長を再逮捕/警視庁警視庁などの合同捜査本部は7月28日、カンボジアでの生体腎移植を別の患者に有償であっせんしたとして、NPO法人「難病患者支援の会」の元理事長で、一般社団法人「国際医療相談室」を実質的に運営していた菊池 仁達容疑者(66)を臓器移植法違反の疑いで再逮捕した。再逮捕容疑は2025年、千葉県内の60代男性にカンボジアでの生体腎移植をあっせんし、医師への謝礼や手数料名目で約850万円を受け取った疑い。男性は渡航後、中国人コーディネーターに現地医療費などとして約13万ドル、当時約1,900万円を支払い、カンボジア人男性とみられるドナーから腎臓移植を受けたとされる。渡航前には、菊池容疑者と協力関係にあった大阪市内の病院で血液検査などを受け、病院長の紹介状が中国人コーディネーターを介して現地の中国人医師団に送られていた。その一方で、男性は「アフターケアも万全」と説明されていたにもかかわらず、帰国後の受け入れ先が確保されておらず、受診を断られるなどして10ヵ所余りの医療機関を転々とした。このため移植後に必要な処置を受けるまで2ヵ月以上かかったというが、現在の容体は安定している。捜査本部は、同法人が設立された2024年3月以降、少なくとも患者5人から計4,500万円以上を受け取り、その一部が菊池容疑者の保釈金調達に伴う借金返済へ充てられたとみている。患者ごとの請求額は約500~900万円と幅があった。菊池容疑者は過去にもベラルーシでの無許可移植あっせんで実刑判決を受けており、保釈中に今回の事業を主導した疑いがある。臓器移植法は、患者とドナーを対価により結び付ける行為や、無許可のあっせんを禁じている。今回の事件は、海外渡航移植の不透明な費用構造に加え、免疫抑制剤の投与や感染対策など、帰国後の国内医療への引き継ぎが整わないまま患者が置き去りにされる危険性も浮き彫りにしたが、海外での移植内容やドナー情報、感染症・免疫抑制療法に関する情報が不十分な場合、国内医療機関で安全な術後管理を引き継ぐことが困難になる問題も浮き彫りとなった。 参考 1) 臓器移植法違反事件 帰国後の男性 受診拒否で医療機関を転々(NHK) 2) 別の男性にも臓器移植手術あっせんか NPO元理事を再逮捕へ(同) 3) 臓器移植あっせん事件、別の患者からも対価か 元NPO理事再逮捕へ(朝日新聞) 4) 臓器有償あっせん、患者から受け取った現金を菊池被告が借金返済に…保釈金1,800万円の調達でできた借金(読売新聞)

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人工甘味料は代謝に影響する? レビューとメタ解析が新たな知見

 人工甘味料を含むノンカロリーまたは低カロリーの非栄養性甘味料(non-nutritive sweeteners;NNS)は、過去数十年にわたり、砂糖に比べて健康的な代替品であると言われてきた。しかし、新たな研究によるとNNSは、腸内細菌叢などを介した機序が関与することで代謝に影響を与える可能性があるという。米タフツ大学フリードマン栄養科学政策大学院のMeng Wang氏らが、これまでの研究報告をレビューしたほか、新たなメタ解析を実施した結果であり、詳細は「Current Atherosclerosis Reports」に6月25日掲載された。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究の特徴は、水やプラセボなどカロリーを含まない対照と比較することで、NNSを用いることによる摂取カロリーの変化の影響ではなく、NNS自体の直接的な生理学的影響をより詳細に検討した点にある」と解説。そして、「それぞれの臨床試験の結果を統合すると、NNSが代謝に悪影響を及ぼす可能性が示唆される」と述べている。 Wang氏らの研究では、NNSの摂取が心血管代謝疾患のリスクに及ぼす影響を検討した、成人を対象とする21件のランダム化比較試験を統合解析するとともに、コホート研究の結果もレビューした。その結果、ランダム化比較試験の統合解析では、NNS群は対照群と比べて空腹時インスリン値と、長期的な血糖コントロールの指標であるHbA1cが高く、インスリン感受性の低下傾向も認められた。 研究者らは、このような関連の背景にある機序の一つとして、NNS摂取による腸内細菌叢への影響が考えられるとしている。これまでの研究から、いくつかのNNSが腸内細菌叢の組成や機能を変化させる可能性が指摘されているという。 また、コホート研究のレビューでは、NNSの摂取量が多い人は、2型糖尿病や心血管疾患のリスク上昇との関連も認められた。研究者らは、これらの結果からNNSが代謝に悪影響を及ぼす可能性が示唆されるものの、因果関係の確認にはさらなる研究が必要だと述べている。 その一方、論文の上席著者であるタフツ大学Food is Medicine研究所のDariush Mozaffarian氏は、「加糖飲料を何杯も飲むなど、食事で大量の添加糖を摂取している人の場合、それをNNSに置き換えるというのは良い選択肢であるかもしれない」としている。ただし同氏も、「それが安全で無害だと安易に考えることはできない。できるだけ控えるというのが、賢明な選択だろう」と付け加えている。 また研究者らは、米国の食品表示制度の欠陥が、この領域の研究の妨げとなっていると指摘している。現行の制度によると、メーカーはNNSの使用を明記することが義務付けられているが、その含有量を記載する必要はない。そのため、NNSの摂取量と疾患リスクの関連に関して、明確なエビデンスを構築することが困難だとしている。

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第329回 マイクロプラスチックの吸収をサプリメントで予防

口にしたマイクロ/ナノプラスチック(微細プラスチック:MNP)を取り除く不活化細菌の効果が、実際に即した臨床試験で裏付けられました1-3)。世界のプラスチック製造がほぼ皆無だったおよそ1世紀前に比べて、今や年間数億トン規模へと急増しました。2000年以降に製造されたプラスチックがこれまでに製造されたプラスチックの半数超を占めます。すなわち、現世代に押しかかるプラスチックの量は過去のどの世代よりも膨大です。プラスチックは朽ちることなく自然環境に蓄積し続け、マイクロやナノ単位の微細な断片であるMNPへとちぎれていきます。MNPは水、空気、食品にあまねく混入しており、生態系へのその蓄積の懸念が日増しに大きくなっています。MNPの混入はヒトも例外ではなく、血液、腸、尿、脳などのさまざまな組織でこれまでに確認されています。MNPに対抗する生理的な手段の検討が始まっており、食物繊維のキトサンや小麦のふすまが腸のマイクロプラスチックを減らしうることが示されています4,5)。興味深いことにマイクロプラスチックを分解する細菌がヒトの腸から見付かっています6)。さらには有益な微生物(プロバイオティック)やその代謝物がプラスチックを吸着して体内に吸収されるのを防ぎうることが示唆されています。たとえば乳酸菌(LAB)の類いがMNPを吸収し、便として排出されるようにすることが動物での検討で示されています。生きているプロバイオティックが腸でどれだけ生き残れるかはヒトによってまちまちです。一方、いわば死んでいる不活化した有益微生物(ポストバイオティック)なら生きた働きを必要としないという利点があります。何年か前のこと、米国のフロリダ州を拠点とするQuorum Innovationsの設立者らは、われわれの体内の微生物のバイオフィルム機能が上皮の表面を守る守護(guardian)の働きを担うらしいことに気付きます7)。その発想を出発点として開発されたQi601という名称のポストバイオティック製品が、どうやらMNPを取り去って細胞に吸収されるのを防ぐ働きを担うことが新たな検討で判明しました。Qi601は乳酸菌の類いのLmosilactobacillus fermentum LfQi6をバイオフィルム培養で増やし、遠心分離して洗い、熱で不活性化したものの凍結乾燥品です。手始めの検討でQi601が主たるナノプラスチックのポリスチレンナノ粒子(PSNP)に確実に結合することが示されました。液中でQi601は用量が多いほどPSNPをより捕らえ、最大で9割近いPSNPを吸着しました。消化を模す環境で試したところ、Qi601はPSNPの92%を吸着しました。また、腸の上皮細胞の表面や中にPSNPが溜まらないようにし、細胞内のPSNPを減らす働きも示しました。最終的に、臨床試験でQi601の効果も裏付けられました。市販のガムを噛んでいるときにさまざまなマイクロプラスチックが唾液中に放たれうることが昨年発表された試験で示されています8)。その発見を拠り所として、ガムを噛んで唾液中に混じったマイクロプラスチックをQi601がどれだけ回収できるかが確かめられました。試験では被験者に市販のガムを5秒ほど噛んでもらい、続いてQi601を口に含んでもらいました。すると唾液中のプラスチックがQi601なしに比べて10分の1ほどに減っていました。腸の立体培養(gut organoid)や動物を使った実験などを含むさらなる検討が進行中と著者は言っています1)。そのような検討の後に、マイクロプラスチックを回避する食品サプリメントとしてQi601がやがて使われるようになるかもしれません。 参考 1) Berkes EA, et al. bioRxiv. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print] 2) First Human Study Shows Qi601 Probiotic Binds Microplastics and Retains 98% During Digestion / EINPresswire.com 3) Supplement that binds to microplastics may remove them from our body / NewScientist 4) Casella C, et al. Foods. 2025;14:2190. 5) Wang H, et al. Food Chem. 2026;514:149161. 6) Jang Y, et al. Sci Total Environ. 2024;929:172775. 7) Quorum Innovations’ Invention: Qi601 Biofilm Shield -Working With Our Evolutionarily Entrained Microbes / Quorum Innovations 8) Lowe L, et al. J Hazard Mater Lett. 2025;6:100164.

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第305回 「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省

<先週の動き> 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ 1.「攻めの予防医療」公表 がん検診60%と国民皆歯科検診の実現へ検討/厚労省厚生労働省は、7月23日に健康寿命の延伸を目指す施策パッケージ「U.E.N.O.Plan」を公表した。従来のように国民の自主的な健康行動を促すだけでなく、行政や保険者が能動的に介入し、行動変容を後押しする「攻めの予防医療」への転換を掲げている。重点領域は、「がん・循環器病等、栄養・食生活、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケア」の6分野である。がん対策では、2028年度までに胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の主要5がん検診の受診率目標を60%、精密検査受診率を90%としている。就業状況に応じた受診勧奨、職域と自治体の連携、受診率の見える化、未受診理由の調査、ポータルサイトの開設を進めるほか、事業者と保険者による「コラボヘルス」を強化する。要精密検査者への勧奨や相談支援も充実させ、検診を受けるだけでなく、診断・治療につなげる仕組みを重視する。歯科保健では、2027年度から「国民皆歯科検診」の実現に向け、現在10歳ごとの歯周病検診を5歳ごとに拡大し、希望者が唾液などによる簡易検査を毎年受けられる仕組みを検討する。栄養分野では、生活習慣病予防に向けた「食事ガイド」を2026年度中に作成する。リハビリテーションは、心身機能の回復にとどまらず、日常生活動作の改善、社会参加、健康増進を支える重点領域とされた。急性期での早期・休日リハビリ、地域の通いの場や短期集中予防サービス、訪問・通所リハビリなどを予防、医療、介護を通じて切れ目なく提供し、科学的根拠に基づくポータルサイトで本人の主体的参加を促す。ただし、新規施策は情報発信が中心で、実効性は今後の診療報酬・介護報酬や予算措置に左右される。日本慢性期医療協会は、この提言に関連して、高齢者の要介護化や重度化の大きな要因である転倒・骨折を防ぐ「攻めのリハビリ戦略」を提言した。理学療法士・作業療法士が、身体機能、住環境、栄養、服薬、骨粗鬆症を評価する「転倒リスク健診」、ICT・AIを用いた自宅環境評価、要介護前の予防的リハビリの制度化が柱である。「転倒させない、転倒しても骨折させない、骨折しても寝たきりにさせない」の3段階で介入し、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制を目指す。今後は、理念を現場で実行できる人員配置、財源、評価制度の具体化が焦点となる。 参考 1) U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~(厚労省) 2) 攻めの予防医療推進する「U.E.N.O.Plan」を公表 主要ながん検診受診率60%達成へ 28年度までに(CB news) 3) 日慢協、「攻めのリハビリ戦略」提言 骨折・転倒を防ぐリスク健診など(同) 4) 厚労省「攻めの予防医療」、リハビリを予防・医療・介護貫く重点領域に位置づけ(PT-OT-ST.net) 2.日本人の平均寿命、男女とも延伸 女性は41年連続世界一/厚労省厚生労働省は、7月24日に2025年の「簡易生命表」を公表した。それによると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳で、前年よりそれぞれ0.25歳、0.20歳延びた。男女とも前年を上回るのは2023年以来2年ぶり。女性は41年連続で世界1位を維持し、男性はスウェーデン、スイス、イタリアなどに次いで7位となり、前年から順位を1つ下げた。男女差は5.98年で、前年より0.05年縮小した。平均寿命は、その年の年齢別死亡率が今後も続くと仮定した場合に、0歳児が平均して何歳まで生きるかを示す指標である。今回の数値は、わが国に住む日本人を対象とした2025年の簡易生命表に基づく。わが国では男性が2020年まで9年連続、女性が8年連続で過去最高を更新していたが、新型コロナウイルス感染症による死亡増加の影響で2021年、2022年は男女ともに低下した。2023年にはいったん回復したものの、2024年は男性が横ばい、女性が0.01歳短くなっていた。今回の延伸には、がん、心疾患、新型コロナによる死亡率の低下が寄与した。男性ではがん、女性では新型コロナや心疾患による死亡率低下の影響がとくに大きかった。その一方で、肺炎や老衰による死亡割合は増加しており、高齢化に伴う死因構造の変化もみられる。国際比較では、女性は日本に続き韓国、スペインが上位となり、男性はスウェーデンが82.52歳で首位、スイスが82.40歳と続いた。ただし、各国の公表年や集計方法には違いがあり、順位は参考値として捉える必要がある。厚労省は、わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスで、保健福祉水準の高さを示す一方で、なおコロナ禍前の水準(2020年時点で男性81.56歳、女性87.71歳)には戻っていないとしている。今後は寿命の延伸だけでなく、健康寿命との差を縮め、フレイルや生活習慣病を予防し、要介護期間を短くする取り組みが一層重要となる。 参考 1) 令和7(2025)年簡易生命表の概況 2) 2025年の平均寿命 男女とも前年上回る 女性は世界1位(NHK) 3) 平均寿命、男女とも延び 昨年、女性は87.33歳で世界首位 厚労省まとめ(日経新聞) 4) 日本人の平均寿命、女性は41年連続「世界一」の87.33歳…男性81.35歳(読売新聞) 3.高額療養費、8月から負担増 社会保障費膨張で改革圧力強まる/政府政府は、7月24日に医療費の自己負担を一定額に抑える高額療養費制度について、2026年8月と2027年8月の2段階で患者負担の上限を引き上げる関連政令を閣議決定した。8月1日から所得区分ごとの月額上限を4~7%引き上げ、さらに2027年8月には所得区分を細分化したうえで、現行比最大38%まで引き上げる。年収約370~770万円では、現在の基準額8万100円が2026年8月から8万5,800円となり、2027年8月以降、年収約650~770万円では11万400円となる。その一方で、長期療養者への配慮として、2026年8月から所得に応じた年間上限を新設し、同年収帯では53万円とする。現行制度は、月ごとの自己負担限度額を超えた分を保険者が給付する仕組みで、直近12ヵ月で3回以上該当した場合、4回目以降の負担を軽減する「多数回該当」がある。今回、この多数回該当の限度額は原則据え置く。厚生労働省の資料では、健保組合の1,000万円以上の高額レセプトは2010年度の174件から2024年度には2,328件に増えており、高額医薬品や高度医療の普及を背景に制度の持続可能性が課題となっている。さらに70歳以上の外来通院の負担を抑える「外来特例」も見直し、一般区分の月額上限は現在の1万8,000円から2026年8月に2万2,000円、2027年8月に2万8,000円へ引き上げる。低所得層には据え置きや年間上限を設ける。政府は給付費を抑え、現役世代の保険料軽減につなげる狙いだが、患者団体は、がんや難病など継続治療が必要な患者の受診控えや治療中断を懸念する。背景には、膨張を続ける社会保障費がある。2026年度当初予算で社会保障費は39兆円と歳出の約3割を占め、財務省は2027年度の自然増を約4,000億円と見込む。政府・与党内では、70歳以上の窓口負担引き上げ、介護サービスの2割負担対象拡大、外来特例の廃止、OTC類似薬の追加負担などを巡り温度差がある。介護報酬改定による賃上げ対応も歳出増要因となる。さらに「骨太の方針」から例年の「財政健全化」の文言が消え、長期金利が一時2.9%に達するなど、市場は歳出膨張への警戒を強めている。制度の持続可能性と患者のセーフティーネットを両立できるかが焦点で、医療現場には所得区分、年間上限、多数回該当を踏まえた丁寧な説明と相談支援が求められる。 参考 1) 高額療養費制度の概要(厚労省) 2) 高額療養費、8月から負担増 月4~7%、年間上限額を新設(共同通信) 3) 高額療養費の上げ決定 負担上限、来月から2段階(日経新聞) 4) 社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準(日経新聞) 4.電子カルテ、2030年にほぼ100%へ 国はクラウドと情報共有を標準に/政府政府は7月21日に、新たな規制改革実施計画を閣議決定した。医療分野では、電子カルテを単に院内で保存する装置から、全国で医療情報を共有・活用する基盤へ転換する方針を打ち出している。政府目標として2028年度までに200床以上の病院、2030年までに全医療機関での普及率ほぼ100%を掲げる一方、上野 賢一郎厚生労働大臣は記者会見で法改正に基づく目標達成義務は「政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない」との見解を示している。現在使用している電子カルテや紙カルテの継続利用も可能とされているが、政策の全体像としてはクラウド化と情報共有を軸としたデジタル化が加速している。中心となるのはクラウドネイティブ型電子カルテである。厚生労働省は一定の標準仕様、情報連携、セキュリティ要件を満たす製品の認証制度を2026年度中に整備し、2027年春の認証開始を目指す。多要素認証やペネトレーションテスト、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスとの接続を想定し、中小病院や診療所には認証製品の導入補助も検討する。院内サーバー中心の仕組みから、ベンダーが更新や防御を担うクラウド型へ誘導する狙いがある。政府の重点計画も、クラウドネイティブ型の認証制度と標準型電子カルテの普及を明記した。電子カルテ情報共有サービスは2026年度中に全国運用を開始し、以後はバイタル、画像、病理・画像診断レポートなど共有情報を拡大する。薬局、訪問看護、介護事業所との連携も視野に入り、診療情報は施設内で完結せず、患者を軸に流通する方向となる。保存期間も、先天性疾患や小児がんなど長期追跡が必要な疾患を念頭に延長が検討される。既存カルテの継続使用は当面可能だが、更新時には標準化、クラウド、外部連携への対応が事実上の選択条件になっていく。医師にとって電子カルテは単なる記録媒体ではなく、地域連携、救急、処方、研究、AI活用の入口となる。その一方で、システム障害時の診療継続、アクセス権限、情報漏えい対策、入力負担への備えは不可欠である。医療機関は「義務化されるまで待つ」のではなく、次回更新を見据え、データ移行性、標準規格、バックアップ、サイバー対策を早期に点検すべき段階に入った。 参考 1) 規制改革実施計画(内閣府) 2) デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル庁) 3) 電子カルテ、厚労省が認証制度 中小病院や診療所の導入補助を検討(日経新聞) 4) 電子カルテデータの保存期間を延長へ 年内結論、規制改革実施計画(CB news) 5) 厚労相「医療機関に電子カルテ導入の義務はない」(保団連) 5.看護学生、10年で3割減 地域医療を脅かす看護師不足/厚労省看護師不足が、地方を中心に病床削減や病棟閉鎖という形で地域医療を直撃している。看護師養成課程の受験者は2025年度に14万1,234人で、10年間で30.8%も減少している。18歳人口の減少はこの期間に9.1%に過ぎず、単なる少子化だけでは説明できない。とくに専門学校の受験者は63.2%減り、宮城県、沖縄県を除く全都道府県で定員割れとなっている。さらに2030年度までに94課程が廃止される予定で、卒業生の8割超が地元で就職する専門学校の縮小は、地域の看護師不足に深刻な影響を与える。背景には、看護師の夜勤を含む不規則な勤務形態、責任の重さ、実習負担、学費、賃金の伸び悩みがある。看護師養成には102単位が必要で、そのうち約4分の1を実習が占める。SNSでは「実習がきつい」との印象も広がる。さらに50~54歳の看護師の平均月収は20~24歳より7万7,000円高い程度で、年齢や経験を重ねても処遇が伸びにくいこともある。購買力平価ベースの給与でも米国やオーストラリアを大きく下回り、診療看護師など公的なキャリアアップ制度が乏しいことも職業選択上の弱点となっている。影響はすでに顕在化している。岐阜県立下呂温泉病院では看護職員が約10年で50人減り、配置基準に合わせて実質稼働病床を130床まで縮小した。市立金山病院も看護師不足を一因に療養病棟を閉鎖した。青森県むつ市でも患者受け入れ制限が検討されるなど、看護師不足は医師不足と同様に、病院の診療機能そのものを規定する問題である。病院に空床があっても看護配置がなければ入院を受けられず、救急、手術、病棟運営、退院支援、在宅移行まで連鎖的に影響するため、地域にとって非常に重要な課題となる。また、医師の業務を看護師へ一方的に移すだけでは看護師の業務負担が増えるため、医師事務作業補助者や看護補助者を含む役割分担、指示の標準化、不要な慣行の見直しに医師も関与しなければならない。厚生労働省は2040年までの需要推計、新人研修の充実、ICT教材、遠隔授業、養成校の統廃合・サテライト化、教員配置基準の柔軟化を検討する。日本病院会からは、看護師偏在対策として卒後臨床研修や地域マッチングを導入する案も出ている。自治体による修学支援、地元勤務を条件とした学費給付、外国人看護補助者の活用も進む。ただし、確保策だけでなく、賃金、夜勤負担、教育支援、柔軟な勤務、専門性に応じた評価を一体で見直さなければ、看護師の志望者数減と離職の連鎖は止まらない。看護師の確保は、看護部門だけの課題ではなく、病院経営と地域医療構想の根幹に位置付けるべき大きな課題となっている。 参考 1) 消える看護学生、10年で3割減 地域医療の持続に黄信号(日経新聞) 2) 新人看護職員研修充実による看護師の資質向上、看護師養成校の人員体制柔軟化等による経営支援等を検討-看護職員養成・確保検討会(Gem Med) 3) 看護師の確保策にとどまらず「偏在対策」が必要、医師と同様の「卒後一定期間の臨床研修」制度を検討せよ-日病・相澤会長(同) 4) 看護師不足、人材確保へ模索 岐阜県下呂市、行政連携や外国人材活用(NHK) 6.医療機関の倒産、上半期で過去2番目 後継者難が深刻化/東京商工リサーチ東京商工リサーチによると、2026年上半期に倒産した病院、診療所、歯科医院は前年同期比15.1%増の38件と医療機関の経営悪化が一段と鮮明になっていることが明らかになった。上半期としては、2006年以降で2009年の39件に次ぐ2番目の高水準である。内訳は病院が4件と前年同期から半減した一方で、診療所は19件、歯科医院は15件に増加。診療所は過去20年間で最多となり、地域の身近な医療機関ほど厳しい状況に置かれている。倒産原因は、患者数や収入の減少など「販売不振」が22件、「既往のしわ寄せ」が8件で、合わせて約8割を占めた。さらに、後継者難による倒産は過去最多の11件に上り、全体の約3割を占めた。倒産の37件、97.3%が破産で、民事再生は1件だけだった。経営不振に陥った医療機関では、第三者への承継や再建が難しい実態がうかがえる。その一方で、裁判所への申し立てなどを伴う倒産には至らないものの、事業継続を断念し、廃業を選ぶ医療機関も急増している。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は722件だったが、2025年には823件へ増え、2年連続で過去最多を更新した。うち診療所が661件を占め、診療所経営者の56.7%が70歳以上とされる。2025年の倒産も66件で過去最多となった。背景には、光熱費、医薬品、医療材料、給食費、建設費、人件費の上昇に対し、公定価格である診療報酬へ十分に転嫁できない医療特有の構造がある。厚生労働省の調査でも、2024年度は一般病院の67.6%、医療法人の一般診療所の37.4%が赤字だった。患者数の減少、職員不足、施設の老朽化、後継者不在が重なれば、地域から医療機関が失われ、救急や在宅医療を含む残存施設への負担集中を招く。資金支援だけでなく、早期の事業承継、医療機関の再編・連携、物価や賃金を反映した診療報酬上の対応が急務となっている。 参考 1) 2026年上半期「医療機関」倒産 増勢続く 上半期で2番目の38件、「後継者難」は最多(東京商工リサーチ) 2) 日本の医療は崩壊寸前? 医療機関の休廃業・解散は過去最多722件(AERA)

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

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潰瘍性大腸炎の粘膜治癒、歯みがき頻度と関連

 潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸粘膜に慢性的な炎症が生じる炎症性腸疾患(IBD)の一つである。今回、日本人のUC患者275人を対象とした研究で、歯みがき頻度が高いほど粘膜治癒(内視鏡で大腸粘膜の炎症が認められない状態)の達成と関連することが示された。一方、残存歯数との関連は認められなかった。研究は、済生会今治病院内科の八木専氏、愛媛大学総合健康センターの古川慎哉氏らによるもので、詳細は5月28日付の「Digestive Diseases and Sciences」に掲載された。 近年、口腔内細菌叢と腸内細菌叢が相互に影響し合う「口腔-腸軸(oral-gut axis)」への関心が高まっており、口腔環境とIBDとの関連を示す報告が増えている。歯周病やう蝕(虫歯)、歯の喪失はUCやクローン病との関連が報告されているほか、歯みがきは口腔内の細菌量や炎症を減らし、腸内環境や全身の炎症反応にも影響を及ぼす可能性があると考えられている。一方で、口腔ケアとUCの病勢との関連については十分に検討されていない。また、UCでは粘膜治癒が長期寛解や良好な予後につながる重要な治療目標とされている。こうした背景から著者らは、UC患者における残存歯数および歯みがき頻度と、粘膜治癒との関連を検討した。 著者らは、2015~2019年に愛媛県内の医療機関で診療を受けたUC患者275人を対象に横断解析を行った。質問票を用いて生活習慣や口腔の健康状態を調査し、残存歯数は20本以下、21~27本、28本の3群、歯みがき頻度は1日1回以下、2回、3回以上の3群に分類した。粘膜治癒はMayo内視鏡スコア(MES)0と定義し、ロジスティック回帰分析を用いて関連を検討した。多変量解析では年齢、性別、BMI、喫煙、飲酒、プレドニゾロン(ステロイド薬)使用の有無、罹病期間、病変範囲などで調整した。 対象患者の年齢中央値は50.7歳で、58.2%が男性だった。粘膜治癒(MES 0)を達成していた患者は24.7%だった。 残存歯数と粘膜治癒との間に有意な関連は認められなかった。一方、歯みがき頻度別にみると、粘膜治癒率は1日1回以下の群で15.4%、1日2回の群で24.8%、1日3回以上の群で32.1%と、歯みがき頻度が高いほど粘膜治癒率は上昇する傾向を示した。 年齢や性別、BMI、喫煙・飲酒習慣、プレドニゾロン使用、罹病期間、病変範囲などを調整したロジスティック回帰分析でも、歯みがき頻度は粘膜治癒と独立して関連していた(調整オッズ比 2.87、95%信頼区間 1.19~7.29、傾向性のP値=0.021)。 本研究では、日本人UC患者を対象に、歯みがき習慣と粘膜治癒との関連が検討された。その結果、歯みがき頻度が高いほど粘膜治癒と関連する一方、残存歯数との関連は認められなかった。著者らは、残存歯数は過去の口腔状態を反映する指標であり、現在の炎症活動とは一致しない一方、歯みがき頻度は口腔内環境を介して腸に影響する「口腔-腸軸」に関与する可能性があると考察している。また、UCでは症状と内視鏡所見が必ずしも一致しないことから、口腔衛生は主に粘膜炎症に関与している可能性が示唆される。 著者らは、「本研究は横断研究であり因果関係を示すものではないが、歯みがきは患者自身が日常的に実践できる簡便な生活習慣である。今後、前向き研究や介入研究で関連が確認されれば、口腔ケアがUC患者の病勢コントロールを支援する新たなアプローチとなる可能性がある」と述べている。今回の結果については、消化器疾患の管理における口腔環境の重要性を示唆するものと強調した。 なお、本研究では、歯みがき習慣や残存歯数が自己申告であることから情報バイアスの可能性があることなどを研究の限界として挙げている。

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Burnt-out MASLD、肝癌切除後予後を左右する新たな高リスク表現型か

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)では、病態の進行に伴って肝脂肪が消失する「Burnt-out MASLD」と呼ばれる状態に至ることがある。今回、肝細胞癌(HCC)患者931例を対象とした研究で、Burnt-out MASLDを有する患者では肝切除後の再発および生存予後の悪化と独立して関連することが示された。術後のリスク層別化に役立つ新たな高リスク表現型として注目される。研究は、埼玉医科大学国際医療センター消化器外科(肝胆膵外科)の渡邉幸博氏らによるもので、詳細は5月29日付の「Liver International」に掲載された。 MASLDは、肥満や2型糖尿病の増加を背景に、近年ではHCCの主要な原因の一つとして注目されている。一方、MASLDは脂肪沈着や線維化の程度がさまざまで、病態の幅が広いことも特徴だ。中でも、病態の進行に伴って肝脂肪が減少し、高度線維化や肝硬変を伴う「Burnt-out MASLD」は、その代謝性の背景が見えにくく、従来は原因不明の肝硬変として扱われることもあった。しかし、Burnt-out MASLDが単に進行した肝障害を反映した状態なのか、それともHCC術後の再発や生存に影響する独自の病態なのかは明らかではなかった。こうした背景から著者らは、MASLD関連HCC患者におけるBurnt-out MASLDの臨床的意義を検討した。 著者らは、2007~2025年に埼玉医科大学国際医療センターでHCCに対する根治的肝切除を受けた連続症例(931例)を対象に後ろ向き解析を行った。背景肝(がん以外の肝組織)の病理所見については、2人の肝病理専門医が独立して評価し、脂肪沈着と線維化の程度を組み合わせて4つの表現型に分類した。Burnt-out MASLDは、高度線維化(F3~F4)と脂肪沈着5%未満を特徴とし、他の慢性肝疾患の原因を除外した上で定義した。主要評価項目として、4つの表現型と無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)との関連を多変量Cox比例ハザードモデルで解析した。副次評価項目では、Clavien-Dindo分類に基づく術後合併症を評価した。 解析の結果、Burnt-out MASLDを有する患者は、他の病因群と比べても最も予後不良だった。Burnt-out MASLD群の3年/5年RFSはそれぞれ21%/14%、3年/5年OSは65%/43%で、non-burnt-out MASLDに加え、肝炎ウイルスやアルコールに関連するHCCと比べても最も低かった。 MASLD関連HCC患者に限定した解析では、脂肪沈着が保たれ線維化が軽度な群を基準とした場合、Burnt-out MASLDはHCC再発リスクの上昇(ハザード比〔HR〕 1.87、95%信頼区間〔CI〕 1.10~3.17、P=0.020)および全死亡リスクの上昇(HR 3.38、95%CI 1.57~7.28、P=0.002)と独立して関連していた。一方、脂肪減少のみを認める群や、高度線維化のみを認める群では、無再発生存期間や全生存期間との有意な関連は認められず、脂肪減少と高度線維化が併存するBurnt-out MASLDのみが高リスク表現型として抽出された。 肝機能が保たれた患者や高度線維化症例に限定した解析においても、概ね同様の傾向が確認され、Burnt-out MASLDの不良予後は単なる肝機能低下や線維化の進行だけでは説明できなかった。一方、Burnt-out MASLDは術後合併症や90日死亡率の増加とは関連しなかった。 著者らは、脂肪減少のみ、あるいは高度線維化のみではなく、両者が併存するBurnt-out MASLDがHCC切除後の予後に影響する独立した高リスク表現型であることが示されたと報告した。Burnt-out MASLDの把握は、MASLD関連HCC患者における術後のリスク層別化やフォローアップ戦略の最適化につながる可能性があるとしている。 なお、本研究は単施設の後ろ向き解析であり、結果の一般化には制限がある。また、一部の生活習慣因子や分子情報は解析に含まれておらず、Burnt-out MASLDの病態機序については今後の検討が必要とされる。

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