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肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

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第239回 女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会

<先週の動き> 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会日本肥満学会は4月17日、成人女性における低体重や低栄養を背景に多様な健康障害が生じる状態を「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」と定義し、新たな疾患概念として確立する提言を発表した。対象は18歳以上で閉経前までの女性とし、今後は診断基準や予防・治療指針の整備を進める。FUSに該当する症状としては、骨密度の低下や月経異常、貧血、筋力低下、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、低血圧、低血糖、摂食障害、さらには将来の不妊リスクや胎児の低出生体重といった次世代への影響まで多岐にわたる。2023年の国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の女性が20代で24.4%、30代で17.9%と報告されており、先進国の中でもわが国は突出して高い。背景にはSNSやメディアの影響による強い「痩せ志向」や、貧困など社会的・経済的要因も複雑に絡んでいるとされている。学会では「肥満対策と同様に、低体重のリスクにも体系的に対応すべき」として、FUSを社会構造・教育・医療・産業界全体で共有すべき課題と捉えるべきだと提起しているほか、GLP-1受容体作動薬の美容目的での使用拡大にも強い懸念を示している。また、症状が単発で現れることも多く、従来の医療では見逃されやすいことから、健康診断でのスクリーニングや医師・栄養士・心理職との多職種連携による早期介入体制の構築も求めている。今後はメタボリックシンドロームのようにFUSの診断基準を整備し、政策的介入へとつなげたいとしている。「まずは、よく食べて、運動して、眠る。そして不調があれば医療へ」と、学会は社会全体での健康意識の見直しを呼びかけている。 参考 1) 閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題-新たな症候群の確立について-(日本肥満学会) 2) 女性の「痩せ」学会警鐘 20代の2割、新症候群の確立提言(日経新聞) 3) 健康害する女性の低体重・低栄養は「疾患」、肥満学会が位置付け…基準定め治療や予防法を確立(読売新聞) 4) 日本肥満学会ワーキンググループが提唱「成人女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」が新たな疾患概念に(日経メディカル) 5) 「SNSやメディア、貧困など原因」「肥満と比べ軽視されてきた」女性の“低体重・低栄養”巡り、肥満学会が新疾患の枠組み提言(弁護士JPニュース) 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大帯状疱疹ワクチンに、認知症発症リスクの低減効果があることが、米スタンフォード大学などの研究チームによる28万人以上の高齢者を対象とした研究で明らかになった。この研究は、英国ウェールズにおけるワクチン接種開始時の制度を活用した「自然実験」の手法を取り、1933年9月2日以降に生まれた接種対象者と対象外の高齢者を比較したもの。7年間の追跡で、接種群の認知症発症率は非接種群より3.5%ポイント、相対的に20%低かった。この効果は教育歴や持病などの因子を考慮しても変わらず、とくに女性において顕著だった。認知症リスクの低下が、免疫機能の強化や帯状疱疹ウイルスの脳への影響防止による可能性があると示唆されているが、明確なメカニズムは未解明である。なお、従来の生ワクチン「Zostavax」での効果を示した今回の研究に対し、新型の不活化ワクチン「Shingrix」にも同様の効果があるかは今後の検証が必要とされている。専門家は「現行の薬理学的手段よりも有望」と評価し、ワクチン接種が認知症予防の新たな選択肢となる可能性が期待されている。 参考 1) Eyting M, et al. Nature. 2025 Apr 2.[Epub ahead of print] 2) 認知症の予防効果がある「身近なワクチン」とは?高齢者7年間の追跡調査で判明(ダイヤモンドオンライン) 3) 帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々(ナショナルジオグラフィック) 4) “認知症”リスクが20%減-「帯状疱疹ワクチン」接種が認知症発症に与える影響 28万人以上を調査(ITmedia) 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用促進を進めているが、利用率は依然として低迷している。とくに75歳以上の高齢者においては、昨年12月時点での利用率が24.57%に止まり、紛失への不安などから移行が進んでいない。このため厚生労働省は、75歳以上の全員に保険証の代替となる「資格確認書」を交付し、マイナ保険証への一本化を事実上2026年夏まで延期する方針を決定した。原因としては施設での管理の負担や利用者の混乱もあり、実際の運用が追いついていない現状がある。一方で、政府はマイナ保険証の価値を示す取り組みとして、今秋から全国で「マイナ救急」を導入する。救急隊が現場でマイナ保険証をカードリーダーで読み取ることで、患者の既往歴や薬剤情報を即座に把握し、適切な処置や搬送先の選定に役立てる仕組み。昨年度の実証では、意識が不明瞭な高齢者の適切な搬送に繋がる事例が報告されている。今年度は全国の5,334救急隊に拡大する予定で、端末の簡便化により、30秒~1分程度で情報閲覧が可能となる見込み。政府はこれを医療DX推進の鍵と位置付け、利用率向上のきっかけとしたい考え。さらに、スマートフォンでマイナ保険証機能を利用できる実証事業も6月に開始する予定で、順調なら9月にも全国展開される。診察券一体化システムへの補助も継続し、利便性の向上を図る。だが、制度変更の頻発や運用現場の負担には懸念の声も多く、高齢者層を中心とした受け入れの広がりには時間が必要とみられている。 参考 1) 利用率の低さ、状況変わるのか? マイナ保険証、75歳以上は一本化延期(中日新聞) 2) マイナ保険証の救急活用、秋に全国で 既往歴把握し搬送(日経新聞) 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省厚生労働省が、2024年度の医療機関の経常利益率を推計した結果、最頻値が病院運営医療法人で-1.0~0.0%、無床診療所運営法人で-3.0~-2.0%と、いずれも赤字圏内にあることが明らかになった。こうした厳しい経営状況は、福祉医療機構の2025年3月の病院経営動向調査でも裏付けられており、医業収支DIでは一般病院がわずかに改善したものの、精神科病院は-41と大幅に悪化していた。課題としては人件費増加や職員確保難が挙がっている。日本病院会も同日開催した研修会で、経営状況の悪化に警鐘を鳴らした。島 弘志副会長は「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」と述べ、2023年度には一般病院の黒字割合が前年度の79.4%から40.6%へ急落したことを紹介。これを受け、日本病院会など5団体は政府に対し、緊急的な財政支援や診療報酬体系の見直しなどを要望した。さらに、経営環境が予測困難で変動の激しい「VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)時代」への対応として、今後の病院経営には、利益と社会的価値の両立が求められると提言した。また、中小病院における経営改善には、業務の可視化・分析・改善に至る具体的なフローを実践し、データに基づいた行動変容を促す体制が必要とされた。現場では医療従事者の疲弊が進む中、迅速かつ柔軟な対応が地域医療の継続と再生の鍵を握る。行政・経営者・現場の連携と改革が急務となっている。 参考 1) 医療機関の経常利益率、「最頻値」がマイナスに 24年度、厚労省推計(MEDIFAX) 2) 医業収益DI、一般は改善も療養・精神は低下 WAM、3月調査(同) 3) 「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催(Gem Med) 4) 病院経営動向調査の概要(福祉医療機構) 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省厚生労働省は、全国の救命救急センターを対象とした2024年版の「充実段階評価」の結果を発表した。評価対象は2023年末までに運営を開始した全308施設で、最上位の「S」評価を獲得したのは102施設(33.1%)と、前年から1.2ポイント増加した。「A」評価は199施設(64.6%)で最多、「B」は7施設(2.3%)、最低評価の「C」は該当なしだった。評価は救急科専門医の配置、重篤患者の受け入れ数、トリアージ機能などを総合的に採点し、94点以上かつ是正項目がない場合に「S」が与えられる。とくに、日本医科大学付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院の3施設は満点の100点を獲得。神戸市立医療センター中央市民病院は11年連続での満点評価となった。コロナ禍の影響を受けた2020~23年の評価では一部項目が除外されたが、今回は全項目を対象とした従来型の評価が復活。なお、希望した17施設については、新型コロナの影響に関する個別ヒアリングを経た上で評価が決定された。本評価は、診療報酬上の「救急体制充実加算」の基準や、国からの運営補助金額にも影響を与える重要な指標であり、救命救急体制の質的向上や公平な支援配分に直結するものとして注目されている。 参考 1) 令和5年救命救急センターの評価結果(厚労省) 2) 救命救急センターの評価結果(令和5年)について(同) 3) 救急救命センターの充実段階評価、「S」評価が33% 100点満点は3施設 24年(CB news) 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)に勤務する麻酔科医の過重労働が明らかになったことを受け、高知県は外部有識者4人による第三者委員会を設置・調査を実施し、2025年3月に報告書を取りまとめ、公表した。これは2024年度に高知大学医学部から派遣された麻酔科医3人のうち2人が心身の不調を訴えたことが発端で、大学側は県に勤務状況の調査を依頼した。報告書によると、麻酔科医は一人で複数の患者の麻酔を同時に担い、集中治療室で重症患者への対応も行っていた。さらに、「宿日直許可」に基づく労働時間外の時間帯にも救急対応を強いられていた。これにより、同院は労働基準監督署から行政指導を受けている。報告書では、病院側に医師の働き方改革への理解不足、勤務実態の把握やメンタルケアの欠如を指摘し、「具体的な業務改善計画」の策定を求めた。高知大学は2025年度、派遣する麻酔科医を1人減らし2人とした。これにより、病院で行える手術数の減少が懸念されており、病院では非常勤医師の勤務日の増加や外科医による局所麻酔対応などで補おうとしている。年間約2,000件の手術のうち1,500件に麻酔科医が関与している現状で、人的資源の縮小は地域医療体制への影響が大きい。県は6月を目途に改善計画を策定し、高知大学への謝罪と説明を行う方針。同院の担当者は「医師の健康への配慮が不十分で申し訳ない」とコメント。高知大学は「地域医療の責務は認識している。改善が確認され次第、派遣増員を検討したい」としている。なお、第三者委員会の会議は非公開で行われた。 参考 1) 県立幡多けんみん病院における医師の勤務状況に関する第三者委員会について(高知県) 2) 県立幡多けんみん病院で過酷勤務 高知大派遣の麻酔科医が心身不調に 第三者委が改善要求(高知新聞) 3) 県立病院派遣の複数の麻酔科医不調訴え 業務改善求める報告書(NHK)

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HBc抗体、単独陽性の解釈【1分間で学べる感染症】第24回

画像を拡大するTake home messageHBc抗体が単独で陽性である場合には、1)ウインドウ期、2)既感染(遠隔期)、3)慢性感染(潜伏HBV感染)、4)偽陽性の4つの可能性を考えよう。B型肝炎ウイルス(HBV)感染の血清学的マーカーのうち、単独のHBc抗体陽性に遭遇することがたびたびあります。一見解釈が難しそうに思えるこの結果ですが、次の4つのシナリオを考えることでしっかり理解することができます。1. ウインドウ期急性B型肝炎の回復過程で、HBs抗原が消失し、HBs抗体がまだ出現していない時期です。このHBs抗原の消失とHBs抗体の出現までの間は「ウインドウ期」と呼ばれ、HBc抗体のみ陽性となる可能性があります。この場合は、IgM型HBc抗体が陽性となることが多いです。2. 既感染(遠隔期)過去にHBVに感染し、時間の経過と共にHBs抗体が抗体価の低下によって陰性化する場合があり、HBc抗体のみが陽性となる状態です。とくに高齢者や免疫力が低下した人でみられることがあります。一度HBVに感染しているため、抗がん剤や免疫抑制薬の種類による再活性化のリスクを考慮し、HBV DNAの定期的モニタリングが推奨されます。3. 慢性感染(潜伏HBV感染)HBVに感染し、肝組織内に存在している状態です。HBs抗原が検出されない場合、通常のスクリーニングでは見逃されることがあります。HBV DNAが血清中で検出限界以下または低力価で検出されることがあります。慢性肝疾患や肝がんのリスクが増加する可能性があるため、長期的なフォローアップが必要です。4. 偽陽性近年の酵素免疫測定法(EIA)の精度向上により偽陽性率は低下していますが、自己免疫疾患での交差反応を中心に、一定の割合で発生することがあります。再検査、ほかのHBVを組み合わせることにより、次のステップにつなげることができます。以上、HBc抗体が単独陽性となった場合は、1)ウインドウ期、2)既感染(遠隔期)、3)慢性感染(潜伏HBV感染)、4)偽陽性の4つのうちのいずれかの可能性があります。患者のリスクを踏まえて適切に解釈できるよう心掛けましょう。1)Wang Q, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2017;2:123-134

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セフトリアキソンで腎盂腎炎を伴う腸内細菌細菌菌血症を治療できるか

 セフトリアキソン(CTRX)は尿路感染症における選択薬の1つであるが、他のβ-ラクタム系抗菌薬と比較して尿中排泄率が低いという欠点がある。わが国では2023年にセフォチアム(CTM)が不足したことから、尿路感染症に対するCTRXの需要が高まっている。今回、愛知医科大学の柴田 祐一氏らが、腎盂腎炎を伴う腸内細菌細菌菌血症に対するCTRXと他のβ-ラクタム系抗菌薬の有効性を比較したところ、30日全死亡率は同様であった。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2025年4月9日号に掲載。 本研究では、2014年7月~2024年2月に愛知医科大学病院で血液および尿培養で大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属が検出されたβラクタム系抗菌薬投与患者を後ろ向きに登録した。登録した計123例をCTRX群(CTRXを5日間以上投与)とその他のβ-ラクタム系群(アンピシリン、セファゾリン、CTM、またはセフォタキシムを5日間以上投与)に分け、年齢、チャールソン併存疾患指数、静脈内抗菌薬投与期間、経口抗菌薬への切り替え患者数、アルブミン値、白血球数、C反応性蛋白、体温、ICU入室必要について傾向スコアマッチングした。主要評価項目は、副作用、転帰、30日および90日時点の死亡率だった。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群26例が選出された。・30日全死亡率は両群とも3.8%であった。・再感染や腎盂腎炎による再入院は認められなかった。 著者らは「CTRX治療は腎盂腎炎を伴う腸内細菌細菌菌血症患者の予後に影響を与えなかった。尿中排泄率が低いという理由で尿路感染症に対するCTRXの使用を避ける必要はない」と考察している。

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新型コロナパンデミックが園児の発達に影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、園児の発達をさまざまな面で遅らせているとする研究結果が報告された。パンデミック発生後(2021〜2023年)の園児は、パンデミック発生前(2018〜2020年)の園児と比べて、言語・認知発達、社会的コンピテンス、コミュニケーション能力、一般知識の平均スコアが有意に低いことが明らかになったという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院社会福祉学分野のJudith Perrigo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Pediatrics」に3月10日掲載された。 この研究でPerrigo氏らは、2010年から2023年にかけて米国の園児47万5,740人(平均年齢6歳、男児51.1%)を対象に反復横断パネル研究を実施し、COVID-19パンデミックが園児の発達に与えた影響を調査した。発達状況は、Early Development Instrument(EDI)により、1)身体的健康およびウェルビーイング、2)社会的コンピテンス、3)感情的成熟度、4)言語・認知発達、5)コミュニケーション能力・一般知識の5領域について評価された。 その結果、2018〜2020年のパンデミック前コホート(11万4,359人)と比較して、2021〜2023年のパンデミック後コホート(8万5,827人)では、言語・認知発達(平均変化−0.45、95%信頼区間−0.48~−0.43)、社会的コンピテンス(同−0.03、−0.06~−0.01)、コミュニケーション能力・一般知識(同−0.18、−0.22~−0.15)が有意に低下していた。その一方で、感情的成熟度は有意に上昇していた(同0.05、0.03~0.07)。身体的健康およびウェルビーイングについては、有意な変化は見られなかった。 Perrigo氏らは、「言語と認知発達、コミュニケーション能力・一般知識の領域については特に影響が深刻だった。これはおそらくCOVID-19の公衆衛生対策によって必要となった学校閉鎖とオンラインでの学習環境が原因と考えられる。こうした措置により、子どもが、仲間や保護者ではない大人と日常的に関わる機会も制限された。このことが、本研究で観察された社会的コンピテンスのわずかな低下の説明になるかもしれない」と述べている。 その一方で、パンデミック中に園児の感情的成熟度は高まっていた。この点について研究グループは、「パンデミック中に、COVID-19による死者数、経済的負担、健康不安、ニュース報道などの大人にとってのストレス要因にさらされることが増えたことが、本研究で認められた感情的成熟度の上昇の原因かもしれない」と述べている。 研究グループは、こうしたネガティブな発達の傾向の多くはパンデミックが発生する前から存在していたが、その一部はパンデミック中に低下のペースが減速した」と指摘。「パンデミック発生後、コミュニケーション能力や一般知識、言語・認知発達、身体的健康の変化率は依然として低下しているものの、パンデミック発生前の期間よりも低下率が緩やかになった」と述べる。その上で、「これらの結果は、既存の課題とパンデミックによってもたらされた新たなストレス要因に幼児が対処するための政策の必要性を強調している」と結論付けている。

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呼吸器病の漢方治療ガイド プライマリ・ケアで役立つ50処方

呼吸器疾患の漢方がわかると診察力が大幅アップ外来医師必携の漢方処方ガイド。総論として、漢方の概念や考え方、診察方法、漢方薬の成り立ちと副作用、西洋薬と漢方薬の違い、呼吸器疾患に頻用する漢方薬の特徴、各論では、かぜ症候群、インフルエンザ、COVID-19などのウイルス感染症の急性期や遷延期治療、喘息、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔気管支症候群、逆流性食道炎、嚥下性肺炎、非定型抗酸菌症、肺癌に関する漢方治療を解説。さらに本書で解説のある50処方の適応イラストを掲載。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する呼吸器病の漢方治療ガイド プライマリ・ケアで役立つ50処方定価3,850円(税込)判型A5判(並製)頁数136頁(写真・図・表:119点)発行2025年4月著者加藤 士郎(筑波大学附属病院臨床教授)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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女性の体型は膣内の微生物叢で変わるか/北里大

 腸内の微生物叢がさまざまな疾患などに関連することが、近年の研究で判明している。では、女性の膣内の微生物叢は、健康な女性では、その体型に関連するのであろうか。この課題に対し、北里大学薬学部の伊藤 雅洋氏らの研究グループは、日本人の健康な女性24人の膣液を採取、分析し、菌種を特定するとともにBMIが生菌総数および膣内pHに影響を及ぼすことを明らかにした。この結果は、Frontiers in Cellular and Infection Microbiology誌2025年2月4日号に公開された。膣内微生物叢は大きく4種類に分類できる 研究グループは、健康な女性の膣内微生物叢に影響を及ぼす宿主因子を同定することを目的に、日本人成人女性24人の膣液を採取し、分析を行った。膣液のpHは携帯型pHメーターを用いて測定し、膣液からDNAを抽出。V3~V4領域の16SリボソームRNA遺伝子配列を解析し、細菌種を同定した。さらに、膣液を4種類の選択寒天培地プレートで培養し、増殖したコロニー中の優勢な菌種をコロニーポリメラーゼ連鎖反応で同定するとともにコロニーを集計した。 主な結果は以下のとおり。・膣内細菌叢は、優勢な細菌集団の特徴に基づいてラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・イナース(Lactobacillus iners)、ラクトバチルス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、および多様性グループの4つのカテゴリーに分類された。・優勢菌種は各検査法で一貫していたが、腟内生菌数は個人間で大きく異なった。・BMIは生菌総数および膣内pHに有意な影響を及ぼしたが、年齢は膣内pHのみに影響を及ぼした。 研究グループでは、この結果から「健康な日本人女性の膣マイクロバイオームが非常に多様であるだけでなく、膣内の生菌はBMIや年齢などの宿主因子の影響を受けている」と示唆している。

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第238回 新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省厚生労働省は、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳を対象とした新型コロナウイルスワクチンの定期接種に対する国の助成(1回当たり8,300円)を、2025年度から終了する方針を決定し、都道府県に通知した。2024年度に始まった定期接種制度では、全額公費の「特例臨時接種」からの移行に伴う、急な自己負担増を避けるため、基金を活用した助成が行われていた。2025年度の定期接種は秋に開始予定だが、助成終了によって接種費用の自己負担額は増加するが、一部自治体は独自の補助を検討している。なお、低所得者に対しては無料接種を継続する方向で調整中。今後、定期接種の対象外となる人は、原則、全額自己負担での任意接種となる。新型コロナ対策における他の公費支援も、すでに2024年3月末で終了している。 参考 1) コロナワクチン定期接種 国助成取りやめへ 自己負担増の可能性(NHK) 2) 新型コロナワクチン助成終了へ 高齢者ら向け定期接種、低所得者無料は残す予定(産経新聞) 3) 厚労省、コロナワクチン助成終了へ 高齢者らの定期接種(日経新聞) 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省2025年4月6日、長崎県対馬市から福岡市の病院へ患者を搬送中の民間の医療搬送用ヘリコプターが壱岐島沖で墜落、転覆し、搭乗していた6人のうち、患者(86歳)と付き添いの家族(68歳)、男性医師(34歳)の3人が死亡した。機体は離陸から約17分後に着水した可能性があり、搭載されていたGPSは午後1時47分に発信を停止。救難信号を発信する航空機用救命無線機も作動が確認されず、国土交通省は信号を受信していなかった。機体は民間病院の福岡和白病院が運用し、佐賀県のエス・ジー・シー佐賀航空が委託運航していた。同社は過去にも複数の死亡事故を起こしており、運輸安全委員会が事故原因を調査している。この事故を受けて、厚生労働省は7日に全国のドクターヘリ運航会社および関係医療機関に対し、安全点検を求める通知を発出。操縦士による常時の気象確認や整備士による待機中の機体点検を義務付け、再点検や一時的な運航停止の検討も要請された。今回の事故で浮き彫りになったのは、離島における医療搬送の脆弱性である。対馬市など長崎県の離島では、高度医療を提供する三次救急施設が存在せず、ヘリ搬送が命綱となっている。2023年度の県内ドクターヘリ搬送実績(232件)のうち、離島由来は85件を占めていた。事故機は「ドクターヘリ」ではなく、柔軟な搬送を可能にする民間の医療用ヘリであり、全国には同様の運用機が4機存在する。こうした機体は、ドクターヘリ体制の補完的役割を果たすが、安全性の担保とコスト負担が課題とされる。事故を受け、福岡和白病院は当面のヘリ搬送を停止。関係者は再発防止と信頼回復を誓っており、安全性向上と離島医療の継続性が急務となっている。 参考 1) 厚労省 ドクターヘリ運航会社など安全点検通知 長崎の事故受け(NHK) 2) 医療ヘリ事故 離島医療「最後の砦」 救急搬送継続に危惧(毎日新聞) 3) 離島救急搬送の“命綱”不在で募る不安 壱岐沖事故の影響 長崎県ドクターヘリ、点検で運用を休止(長崎新聞) 4) 長崎ヘリ事故 病院の運航は無期限休止 学会「同型機の再点検を」(毎日新聞) 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会先日、俳優の広末 涼子氏が交通事故後、搬送先の病院で看護師に対し暴力をふるったとして現行犯逮捕された事件や、大阪の訪問看護師に対する患者による暴行事件が報道され、これを契機に医療現場における患者・家族からの暴力やハラスメント、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」問題が注目されている。報道に対して、医療従事者からは「ようやく患者による暴力が報じられた」といった声が上がり、現場の切実な実態が明らかにされた。看護職に対するハラスメントは日常的であり、日本看護協会の調査では、身体的暴力を受けた非管理職スタッフ22%のうち93%が患者によるものだった。また、性的言動(77%)や精神的攻撃(40%)も多数報告されている。医療従事者が声を上げにくい背景には、患者の病状や精神状態への配慮、組織文化、認識の甘さがある。実際、暴力を受けても警察に通報されることはまれで、看護師による患者への暴力は報道されても、その逆はほとんど報じられていない。その一方で、医療現場における暴力・ハラスメントは、医療者の離職、精神疾患、地域医療の崩壊につながる深刻な問題となっている。厚生労働省も医療職の確保や職場環境改善の一環として、訪問看護師向けに防犯機器導入費の補助制度を開始するなど、対策を強化しており、東京都ではカスハラ防止条例が施行され、静岡県も同様の条例制定を検討している。こうした社会的動向を踏まえ、医療機関にはハラスメント対策マニュアル整備や研修の実施、ポスター掲示などによる啓発活動が求められている。患者側にいかなる事情があろうと、医療従事者に対する暴力やハラスメントは許されるものではなく、病院としても毅然とした対応と再発防止策の構築が求められる。「患者だから許される」という認識を改め、安心・安全な医療提供体制の確立が急務となっている。 参考 1) 2019年 病院および有床診療所における看護実態調査報告書(看護協会) 2) 訪問看護において「看護師等が暴力・ハラスメントを受ける」ケースが散見され、防犯機器の購入費用などを補助-厚労省(Gem Med) 3) 広末涼子逮捕の裏で噴出した医療従事者の「切実な訴え」長年耐え忍んだ患者からの暴力の実態(東洋経済) 4) 広末涼子さん逮捕、医療現場のカスハラに注がれる厳しい目「いかなる場合も許されない」離職の原因にも(弁護士ドットコム) 5) 広末涼子容疑者を逮捕 傷害容疑、看護師に暴行か-静岡県警(時事通信) 6) 訪問看護の20代女性を包丁で切り付け、殺人未遂容疑で86歳男を逮捕(産経新聞) 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省厚生労働省は、4月9日に開かれた中央社会保険医療協議会診療報酬改定結果検証部会で、ジェネリック医薬品(後発薬)の供給状況に関する最新調査結果を明らかにした。全国の薬局や医療機関を対象とした調査では、供給体制の逼迫が依然として深刻であることが浮き彫りとなった。保険薬局では84.1%が「支障を来している」と回答し、「供給が悪化した」との回答も43.1%に上った。病院では63.3%、診療所では53.4%が供給悪化を報告しており、医療現場全体に影響が広がっている。この背景には、2020年以降の後発薬メーカーによる品質不正や生産停止の影響がある。中小企業が多数品目を小規模ロットで製造する非効率な構造が、長年にわたり放置されており、現場では納品の遅延、処方変更などの業務負担が常態化している。実際に希望通りの納品がなされた薬局は1%未満に止まった。政府は、2024年度診療報酬改定で後発薬の使用促進を進めており、調剤割合90%以上の薬局は66.1%に達した。一方、供給が追いつかない現状に対し、医療機関からは安定供給体制の構築が最重要課題とされ、病院の90.8%、診療所の65.8%がそれを最も必要な対応として挙げている。厚労省はこうした状況を打開するため、品目統合や企業連携を後押しする基金の創設を盛り込んだ薬機法改正案を今国会に提出。出荷量と需要量の「見える化」による需給バランスの把握、電子処方箋データ活用による増産促進も目指す。一方、現場では医薬品供給状況を共有する民間データベースが活用され始めている。 参考 1) 後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書[概要](厚労省) 2) 後発薬の供給「悪化した」病院の6割超 診療所は5割超(CB news) 3) 4年も続く「薬不足」、ジェネリック産業構造足かせ 品目統合や企業連携後押しに基金設立(産経新聞) 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省厚生労働省は、物価高騰の影響で経営が悪化している医療機関や介護施設を対象に、無利子・無担保で最大7億2,000万円の優遇融資を行う支援策を発表した。融資は独立行政法人・福祉医療機構(WAM)を通じて実施され、4月8日から申請が受け付けられている。とくに病院に対する貸付上限額は、従来の500万円から大幅に引き上げられ、2年間無利子で、最大5年間は元本返済猶予となる。対象は前年同期比で収支が悪化し、職員の処遇改善加算を届け出ている施設で、2年以内の経営改善計画の提出が条件となっている。また、病床削減や地域医療構想に基づく再編に協力する場合は、さらに優遇される。介護老人保健施設などについても、無担保融資の上限が500万円から1億円に拡大される。この措置は、病院団体が「地域医療が崩壊寸前」と訴え、国に支援を求めたことが背景にある。調査によれば、2024年度に経常赤字を計上した病院は全体の61.2%に上り、経営状況は深刻だ。診療報酬などの公定価格では物価や人件費の高騰に対応しきれず、多くの医療機関がコスト増に苦しんでいる。WAMでは、2024年12月から優遇融資制度を実施しており、今回の拡充はコロナ禍以降で最大規模の支援となる。政府はこの制度を通じて、医療・介護現場の資金繰りを下支えし、事業継続を図る方針を示している。 参考 1) 物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金のお知らせ(福祉医療機構) 2) 最大7.2億円の無利子融資=医療事業者へ物価高対策で-政府(時事通信) 3) 物価高対策の無担保融資、上限7億円超に拡充 病院向け(日経新聞) 4) 物価急騰によるコスト増等で「収支差額の減少」や「経常赤字」となっている医療機関や介護施設などに優遇融資を実施-福祉医療機構(Gem Med) 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構独立行政法人・国立病院機構(本部・東京)が2024年度に下した全国計47人の懲戒処分について、報道機関への発表を一切行わず、自機構のホームページに短期間掲載するに止めていたことが判明した。処分内容には懲戒解雇2件、停職22件を含む重大事案が含まれていたが、いずれの地域グループでも記者発表は行われなかった。たとえば東海北陸グループでは、職務上の立場を悪用して部下に性的関係を強要した理学療法士が懲戒解雇となり、鈴鹿病院では障害患者への虐待で看護師ら5人が停職や戒告処分を受けた。また、九州グループでは盗撮や勤務中の飲酒などにより看護師や医師が停職処分を受けていたが、いずれも報道発表されていない。処分はホームページ内の「情報公開」欄に約3週間のみ掲載されており、閲覧には複数の操作を要していた。かつては報道発表を行っていた地域も含め、2023年度以降は原則非公表方針に転換されており、報道基準も明確に定められていない。機構本部は「今後の対応を検討中」としているが、情報公開の不透明さと組織の説明責任の欠如に対し、専門家からは「信頼性を損なう」と懸念の声が上がっている。 参考 1) 国立病院機構が懲戒処分の47人を報道発表せず、ホームページのみ掲載…「公表のあり方について検討」と担当者(読売新聞) 2) 盗撮などの懲戒処分、国立病院機構九州グループが報道機関に発表せず…2023年7月~25年3月で17人(同) 3) 国立病院機構、悪質セクハラで1人懲戒解雇 東海北陸管内、2024年度の処分10件(中日新聞)

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4月9日 子宮頸がんを予防する日【今日は何の日?】

【4月9日 子宮頸がんを予防する日】〔由来〕「し(4)きゅう(9)」(子宮)の語呂合わせから、「子宮頸がん」予防の啓発活動を行っている「子宮頸がんを考える市民の会」(東京)が制定。この日を中心に「子宮頸がん」についてのセミナーなどを開催している。関連コンテンツウイルスと関連するがん【1分間で学べる感染症】子宮頸がん、どの年齢層で多い?【患者説明用スライド】再発・転移子宮頸がんへのtisotumab vedotin、日本人でも有望な結果/日本癌治療学会再発・転移子宮頸がん、化学療法+cadonilimabがPFS・OS改善/Lancet局所進行子宮頸がん、導入化学療法+CRTがPFS・OS改善/Lancet

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尿臭、尿色は尿路感染に関連するのか?【とことん極める!腎盂腎炎】第14回

尿臭、尿色は尿路感染に関連するのか?Teaching point(1)尿臭は尿路感染に対する診断特性は不十分であるが、一部の微生物・病態での尿路感染では特徴的な臭いのものがある(2)尿色の変化は体内変化を示唆するも、尿路感染での尿色変化はほとんどない。しかし、尿道留置カテーテルでの一部の細菌感染でのpurple urine bag syndrome はたまにみられ、滅多にみることはないが緑膿菌による緑色変化は特異性がある1.尿臭と尿路感染疾患の一部には特異的な尿臭があるものがあるが、尿路感染に関しては、特異的なものはほとんどない。尿中に細菌が存在し、その細菌がアンモニアを生成すると異常な刺激臭となるが、細菌の有無に関係なく尿pHによって尿中に多く含まれるアンモニアイオンがアンモニアとなる。これは感染を示唆するものではないため、その違いを判別することは難しい。また尿の通常の臭いはウリノイドと呼ばれ、濃縮された検体ではこの臭いが強くなることがあり、こちらとの判別も困難である。中国で行われた、高齢者の尿パッドの臭気と顕微鏡・培養検査とを比較した研究では、過剰診断にも見逃しにもなり、尿臭が尿路感染の診断にも除外にも寄与しづらいことが示唆されている1)。尿臭で尿路感染の原因診断に寄与するものは限られるが、知られているのは腐敗臭となる細菌尿関連の2病態である。1つが腸管からの腸内細菌が膀胱へ移行することで尿が便臭となる腸管膀胱瘻2)、もう1つが尿路感染症としては珍しいが、時として重要な病原体になり得るAerococcus urinaeである3)。細菌ではないが、真菌であるCandida尿路感染は、アルコール発酵によりbeer urineといわれるビール様の臭いがすることがある4)。以上から、尿臭で尿路感染を心配する家族や介護職員もいるが、細菌真菌が尿路に存在する可能性を示唆するのみで、そもそも細菌真菌が存在することと感染症が成立していることとは別であること、それらが存在すること以外にも尿臭の原因があることなどを説明することで安心を促し、尿路感染かどうかの判断は、尿臭以外の要素で行うことが肝要である。2.尿色と尿路感染正常の尿は透明で淡黄色である。そのため、尿の混濁化や色の変化は、体内の変化を示唆する徴候となり、食物、薬剤、代謝産物、感染症などが色調変化の原因となる。尿路感染そのものによる尿の色調変化は滅多にないが、比較的みられるのは、尿道留置カテーテルを使用している患者の細菌尿で、尿・バッグ・チューブが紫色に変化するpurple urine bag syndrome5)と呼ばれるものである(図1)。図1 purple urine bag syndrome画像を拡大する尿中のアルカリ環境と細菌の酵素によって形成された生化学反応の代謝産物によるもので、腸内細菌により摂取したトリプトファンがインドールに分解され、その後、門脈循環に吸収されてインドキシル硫酸塩に変換され、尿中に排泄される。尿中のアルカリ環境と細菌の酵素(インドキシルスルファターゼ、インドキシルホスファターゼ)が存在する場合、インドキシルに分解される。分解産物である青色のインジゴと赤色のインジルビンが合わさった結果、紫となる(図2)。その酵素を産生できる細菌は報告だけでも、Escherichia coli、Providencia属、Klebsiella pneumoniae、Proteus属など多岐にわたるため、起因菌の特定は困難である。図2 purple urine bag syndromeの原理画像を拡大するその他の色調変化は、まれながら緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による緑色変化がある。色の変化ごとのアセスメント方法はあるが、感染にかかわらないものも多く、本項では省略し、色調変化の原因の一部を表2,6,7)に挙げる。感染症そのものによる変化とは異なるが、抗微生物薬など薬剤による尿色変化は、患者が驚いて自己中断することもあり、処方前の説明が必要となる。とくにリファンピシンによる赤色変化は有名で、中断による結核治療失敗や耐性化リスクもあるため重要である。表 尿の色調変化の原因画像を拡大する1)Midthun SJ, et al. J Gerontol Nurs. 2004;30:4-9.2)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.3)Lenherr N, et al. Eur J Pediatr. 2014;173:1115-1117.4)Mulholland JH, Townsend FJ. Trans Am Clin Climatol Assoc. 1984;95:34-39.5)Plaçais L, Denier C. N Engl J Med. 2019;381:e33.6)Cavanaugh C, Perazella MA. Am J Kidney Dis. 2019;73:258-272.7)Echeverry G, et al. Methods Mol Biol. 2010;641:1-12.

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レンチウイルス抗CD20/抗CD19 CAR-T細胞、再発・難治性マントル細胞リンパ腫で全奏効率100%(第I/II相試験)/JCO

 再発・難治性マントル細胞リンパ腫(MCL)に対する二重特異性レンチウイルス抗CD20/抗CD19(LV20.19)CAR-T療法の第I/II相試験の結果、100%の全奏効率(ORR)を示し、88%で完全奏効(CR)を達成した。米国・Medical College of WisconsinのNirav N. Shah氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年3月31日号で報告。 本試験は、2ラインの治療に失敗または移植後に再発したMCL患者を対象とし、LV20.19 CAR-T細胞はCliniMACS Prodigyを用いて施設内で製造された。ナイーブT細胞と幹細胞メモリー(SCM)様T細胞を増やし最終CAR-T細胞を最適化するため、8日間もしくは12日間のフレキシブルな工程で製造した。 主な結果は以下のとおり。・再発・難治性MCL患者17例(第I相:3例、第II相:14例)にLV20.19 CAR-T細胞を2.5✕106個/kg単回投与した結果、最良ORRが100%(CR:88%、部分奏効:12%)で、第II相における90日CR率の有効性基準を超えた。・データカットオフ時点で2例が再発したが、追跡期間中央値15.8ヵ月において無増悪生存期間および全生存期間の中央値には達していない。・サイトカイン放出症候群が94%(16例)に発現したが、すべてGrade1または2であった。・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群が28日間で18%(3例)に発現し、うち2例は可逆的なGrade3であった。・非再発死亡が3例にみられたが、いずれもB細胞無形成の状況だった。・最終のLV20.19 CAR-T細胞はSCM様T細胞/ナイーブT細胞の割合が高く、ほとんどの患者がアフェレーシスから8日以内に投与された。 本試験から、著者らは「施設内でフレキシブルな工程で製造されたLV20.19 CAR-T細胞が、再発・難治性MCLに対して実現可能で安全かつ有効であることを示した」と結論している。

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組み換え帯状疱疹ワクチン シングリックス、定期接種として使用可能に/GSK

 グラクソ・スミスクラインは、2025年4月1日、予防接種法施行規則および予防接種実施規則の一部改正で帯状疱疹が予防接種法のB類疾病に位置づけられたことにより、同社の帯状疱疹のワクチン「シングリックス筋注用(以下、シングリックス)」が定期接種として使用可能となったと発表した。 シングリックスは、帯状疱疹の予防を目的とした世界で初めての遺伝子組換え型のサブユニットワクチンで、現在50ヵ国以上で販売されている。日本では、2018年3月23日に50歳以上を対象に、2023年6月26日に帯状疱疹発症リスクの高い18歳以上を対象に承認を取得している。また、シングリックスは、50歳以上で10年以上の帯状疱疹の予防効果の持続が示されている。 日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスがすでに体内に潜んでいる可能性があり、50歳を過ぎると帯状疱疹の発症が増え始め、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれている。 また、高血圧・糖尿病・リウマチ・腎不全といった基礎疾患罹患者は、帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告がある。たとえば、高血圧患者は、非高血圧患者と比較して発症リスクが約1.9倍、糖尿病患者は、非糖尿病患者と比較して約2.4倍というデータが報告されている。帯状疱疹ワクチンの定期接種対象者定期接種の対象者:・65歳の者・60歳以上65歳未満の者であって、ヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者対象者の経過措置:・令和7年4月1日から令和12年3月31日までの間に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は100歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者・令和7年4月1日から令和8年3月31日までの間、令和7年3月31日において100歳以上の者帯状疱疹ワクチン「シングリックス」 製品概要製品名:シングリックス筋注用一般名:乾燥組換え帯状疱疹ワクチン効能又は効果:帯状疱疹の予防国内製造販売承認取得日:・50歳以上:2018年3月23日・帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上:2023年6月26日販売国数:50ヵ国以上(2025年3月時点)用法及び用量:・50歳以上:0.5mLを2回、通常、2ヵ月の間隔をおいて、筋肉内に接種する。・帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上:0.5mLを2回、通常、1~2ヵ月の間隔をおいて、筋肉内に接種する。有効性:・50歳以上の成人:97.2%・50~59歳:96.6%・60~69歳:97.4%・70歳以上:97.9%予防効果の持続性:10年以上安全性:・重大な副反応:ショック、アナフィラキシー・主な副反応:疼痛、発赤、腫脹、胃腸症状(悪心、嘔吐、下痢、腹痛)、頭痛、筋肉痛、疲労、悪寒、発熱

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第237回 百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省2025年に入り、百日咳の患者報告数が急増している。国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所などが統合)によると、3月23日までの1週間で全国から458人の患者が報告され、今年の累計は4,100人に達した。これは前年(2024年)の年間累計4,054人をすでに上回っている。都道府県別では、大阪府336人、東京都299人、新潟県258人、沖縄県252人、兵庫県233人の順で多く、都市部および一部地域での患者増加が顕著である。百日咳は主に小児の間で感染が拡大し、生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸発作、肺炎、脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性が高い。背景には、新型コロナウイルス感染症流行下での感染対策により百日咳の発生が抑えられていたことで、集団免疫が低下した可能性が指摘されている。また、患者の増加に伴い、従来のマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の報告も複数の地域で確認されており、日本小児科学会は注意喚起を行っている。耐性菌感染例では、標準的な治療にもかかわらず感染拡大リスクが残るため、治療薬の選択については感染症に詳しい小児科医との連携が推奨される。現行の定期予防接種には百日咳成分を含む四種混合ワクチン(DPT-IPV)があり、生後2ヵ月から接種ができる。厚生労働省および専門家は、生後2ヵ月を迎えた段階での速やかな接種を呼びかけており、とくに乳児家庭では感染拡大防止の観点からも接種率の向上が重要とされている。 参考 1) 「百日ぜき」急増 今年すでに4,100人、去年の患者数上回る(毎日新聞 ) 2) 百日せき ことしの累計患者数が4,100人に 去年1年間を上回る(NHK) 3) 百日せき「耐性菌」各地で報告 “速やかにワクチン接種を”(同) 4) 百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について (小児科学会) 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会日本救急医学会は、対話型AI「ChatGPT」による救急受診のアドバイスについて、「一般利用者が正確に理解できない可能性がある」とする研究結果を公表した。研究では、総務省消防庁の救急受診ガイドを基に466の症例(うち314例は緊急度が高い)をAIに判断させ、その回答を救急専門医7人と一般人157人が評価した。専門医の評価では、AIの回答は重症例で97%、軽症例で89%の精度で適切な判断をしているとされた。しかし、一般人は、同じ回答をみても重症例で「救急受診が必要」と解釈できたのは43%、軽症例で「不要」と判断できたのは32%に止まった。これはAIの助言が正確であっても、専門用語の受け取り方や伝わり方にズレが生じている可能性が指摘されている。さらに、AIの助言に「信頼して従った」とする人は全体の約半数に止まり、逆に不安が増したと答えた人も約13%存在した。研究を主導した東京慈恵医科大学の田上 隆教授は「AIの判断精度は高いが、解釈の誤りによる危険があるため、過度な依存は避けるべき」と述べている。学会は、体調に不安がある場合はAIだけに頼らず、医療者に相談し、わかりやすく説明を受けることの重要性を強調している。また、AIが正しく使われるためには、表現の工夫や専門家のサポートが不可欠であり、とくに緊急時には人との連携が不可欠だとしている。 参考 1) 救急受診すべきか「チャットGPT」助言、利用者が解釈誤る恐れ…「過度な依存避けるべき」(読売新聞) 2) 生成AIによる救急外来受診の推奨に関する妥当性研究-生成AIの回答に対する専門家と非医療従事者の解釈の差が明らかに-(日本救急医学会) 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省厚生労働省は4月3日に社会保障審議会の医療保険部会を開き、マイナ保険証のスマホ搭載のスケジュール案を示した。部会では、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できるようにして、2025年9月頃から希望する医療機関から順次導入を開始する方針を示した。まず、同年6~7月に全国10ヵ所程度の医療機関や薬局で実証事業を実施し、スマホでの操作性や資格確認のエラーなどを検証。問題がなければ、9月から環境の整った医療機関で本格運用を始める。スマホ保険証により、患者はマイナンバーカードを持参しなくても診療を受けられるようになるが、導入は医療機関ごとの任意対応であり、全施設への義務付けは行われない。そのため、スマホ対応していない医療機関も存在し、初めて受診する際にはマイナ保険証や資格確認書の持参が推奨される。マイナ保険証の全国利用率は2025年2月時点で26.6%と依然として低迷しており、政府は利用促進策の一環として、医療機関の診察券とマイナンバーカードの一体化、外付けリーダー導入への補助、顔認証付きカードリーダーの改善などを進めている。救急現場での活用を目指す「マイナ救急」や訪問看護ステーションへのオンライン資格確認導入も併せて推進している。また、後期高齢者医療制度の対象者には、スマホ対応やマイナ保険証の有無にかかわらず、2026年7月まで有効な「資格確認書」を交付し、受診機会の確保を図る。現役世代を中心にスマホ対応の需要は高く、今後の普及とシステム整備に向けた国の支援と広報強化が求められている。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」機能搭載のスマホでの受診 9月ごろから導入へ(NHK) 3) “スマホ保険証”9月ごろから順次運用開始へ マイナ保険証の利用底上げ策 厚労省(CB news) 4) マイナ保険証、利用率26%に(日経新聞) 5) スマートフォンへマイナ保険証機能を搭載、2025年夏頃から対応済医療機関で「スマホ保険証受診」可能に-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府2025年4月1日、感染症危機に備える新たな専門組織「国立健康危機管理研究機構」(JIHS:Japan Institute for Health Security)が発足した。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合により設立され、感染症をはじめとする健康危機への科学的かつ実践的な対応を一元的に担う。米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」として、初動対応の迅速化、研究と臨床の連携強化、情報発信の向上を目指す。JIHSでは、新型コロナウイルス流行時の教訓を踏まえ、感染症の調査・分析、ワクチン・治療薬の開発、診療支援体制の構築を平時から推進。有事の際には、病原体の特徴や患者情報の早期把握、リスク評価を政府に助言する。また、災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も機構内に設置され、現場対応力の強化が図られる。初代理事長にはNCGM前理事長の國土 典宏氏、副理事長には感染研前所長の脇田 隆字氏が就任。厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁と連携し、政策決定に科学的知見を提供する。福岡 資麿厚生労働大臣は「感染症危機管理体制の強化を着実に進める」と述べている。政府はJIHSに対し、6年間の中期目標として「初動対応の迅速化」「研究開発の強化」「有事の臨床機能の整備」「人材育成と国際連携」の4項目を掲げ、国民への平時からの情報発信にも取り組み、次なるパンデミックに向けた備えを社会全体で推進していく方針。4日には東京都内で設立記念式典が開催され、政府関係者や医療機関が参加。國土理事長は「科学と実践を融合し、次の健康危機にも即応できる体制を構築する」と意気込みを語っている。 参考 1) 国立健康機器管理研究機構 2) 日本版CDCが1日発足 感染研と国際医療センターを統合(時事通信) 3) 健康危機に備え新機構発足 略称は「JIHS」 有事の対応能力強化(産経新聞) 4) 健康危機に備え新機構「JIHS」発足 有事対応強化(日経新聞) 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省厚生労働省は、4月3日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、第3期全国医療費適正化計画(2018~2023年度)の実績を報告した。後発医薬品の数量シェアは全国平均81.2%と目標を達成した一方、特定健診・保健指導の実施率(58.1%・26.5%)およびメタボ該当者の削減率(16.1%)は未達となった。医療費は推計49.7兆円に対し、実績48.0兆円と1.7兆円削減されたが、新型コロナによる受診抑制の影響も含まれていた。新たに実施される第4期全国医療費適正化計画(2024~2029年度)では、医療費を全国で約4,336億円削減する方針であり、主な施策として、後発薬・バイオシミラー使用の促進(約2,186億円)、多剤・重複投薬の適正化(約976億円)、効果が乏しい医療(風邪や急性下痢への抗菌薬処方など)の見直し(約270億円)、白内障手術や化学療法の外来移行(約106億円)などが挙げられている。この他、特定健診・保健指導推進による効果は約120億円、生活習慣病重症化予防で約678億円を見込む。加えて、医薬品の使用標準化を進める「地域フォーミュラリ」の導入も検討されている。第4期ではコロナの影響が少ないため、施策の効果がより明確に評価される見込み。また、医療費上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論は2025年秋に持ち越された。医療費増加に直面する中、制度の持続可能性と公平性の両立が課題となっている。 参考 1) 第3期医療費適正化計画の実績評価及び第4期全国医療費適正化計画について(厚労省) 2) 後発薬数量シェア81.2%、3期計画 目標達成 メタボ健診は未達(CB news) 3) 2024-29年度の第4期医療費適正化計画、全国で約4,336億円の医療費適正化効果を見込んでいる-社保審・医療保険部会(Gem Med) 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省民間企業による唾液・尿などを用いた疾患リスク判定サービス(いわゆるDTC検査)の拡大を受け、厚生労働省と経済産業省は、「無資格者が個人に疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反に当たる」との見解を、3月28日付の事務連絡として都道府県に通知した。DTC(Direct to Consumer)検査は、消費者と事業者が直接検体や検査結果をやりとりする仕組みで、近年は遺伝子解析を用いたものも多く、市場拡大が進んでいる。一方で、サービスの品質や信頼性には課題があり、医療行為との境界線が不明確との指摘もあった。今回の通知では、無資格の民間事業者は医学的判断を下すことができないため、検査後のサービスは一般的な測定結果や基準値、測定項目に関する一般的情報の提供に止めるべきとされている。疾患リスクや罹患可能性に関する通知は、医師法に抵触する恐れがあり、今後の規制強化も視野に入る。通知は、医療・介護分野と関連する「健康寿命延伸産業」の事業活動指針の改定に伴い出されたもので、DTC検査を提供する事業者への影響が注目される。 参考 1) 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(厚労省・経産省) 2) 医師資格ない検査ビジネス、疾患リスク通知は「違法」 厚労省と経産省が事務連絡(産経新聞) 3) 疾患リスク通知は「違法」 検査ビジネスで事務連絡(東京新聞)

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第256回 コロナ流行、今夏に到来か?

もう世間では新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のことはどこ吹く風だろう。厚生労働省の人口動態統計を見ると、概数が発表されている昨年10月までの新型コロナによる国内の累計死者数は3万1,376例である。参考までに過去の数字を挙げると、感染症法上の5類移行が行われた2023年は3万8,086例、その前年の2022年は4万7,638例である。2023年の11月と12月の新型コロナによる死亡者の月報概数合計が約3,500例なので、同年と2024年が同水準と仮定すれば、2024年の新型コロナの死者数は前年よりもやや少なくなる可能性がある。ちなみにその定義にはやや注意が必要なものの、2023年の同統計上のインフルエンザの死亡者数は1,383例である。もちろんインフルエンザ後の合併症による死亡も考慮するならば、この数字もかなり大きなものになるだろう。とはいえ、それは新型コロナも同様である。しかも、感染者報告がほぼ冬に限られるインフルエンザと違い、新型コロナは通年で患者が発生する。実際、2023年の同統計では、新型コロナの死亡者数は1~3月と7~9月に増加する二峰性を示している。結局、現在の新型コロナの死者数は統計上の数字としてフラットに捉えてよいものではなく、インフルエンザと比べても厄介なことは明らかだろう。今後、この数字が改善するのかどうかと言えば、個人的にはやや悲観的に見ている。少なくとも2025年は悪化するのではないかと予想している。この予想は昨秋から始まった初の新型コロナワクチンの定期接種状況に由来する。昨年9月に厚生労働省が厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会)で明らかにした2024年度定期接種に伴う新型コロナワクチン供給量の見込みは約3,224万回分。しかし、一部報道によると、1月下旬時点での医療機関納入実績を基に算出される65歳以上の接種率は22%に過ぎない。ここから考えるに、2024年の新型コロナの死者数がその前年と同レベルかやや低い水準に留まる見込みなのは、それまでの特例臨時接種で高齢者が比較的マメにワクチン接種をしていることによるブースター効果が2024年中は比較的保たれていたからと見ている。こうした見方をするのは個人的な経験も影響している。以前の本連載で触れたように、私は2024年3月末の特例臨時接種期限ギリギリに5回目の新型コロナワクチン接種をしている。この前日に採血した新型コロナのスパイクタンパク抗体(中和抗体)検査(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)の結果は6,252.0U/mLだった。1つ前の4回目接種が2022年12月なので、自分で言うのも何だが、1年3ヵ月が空いたわりにはかなり高めの値である。そして6回目を任意接種する判断材料として、昨年12月上旬にインフルエンザワクチン接種に合わせて再びスパイクタンパク抗体検査をしたが、その結果は9,999.9U/mL。要は上限オーバーである。この結果を受けて、費用対効果を加味して6回目接種を行おうと考え、今はその時期を検討中である。65歳以上の高齢者の場合、特例臨時接種の期間にかなり真面目に接種している人は5回以上接種しているはずなので、一定程度のブースター効果は維持されていると考えられる。しかし、最新の接種率が約5人に1人程度であるならば、かなりの人が夏の流行時期には感染・発症防御できるレベルの抗体価を維持できていないだろう。正直、表現は適切ではないのは百も承知だが、この夏はその答え合わせとなる。いや、もしかしたら、今後、確定値が発表される2025年1~3月の新型コロナ死者数でその一端が見えてくるかもしれない。正直、私の嫌な予想は外れてほしいと思うのだが…。

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母乳育児は子どもの血圧低下に関連

 母乳育児には、子どもの血圧を下げる効果があるようだ。最新の研究で、生後1週間と1カ月時点で腸内細菌の多様性が高く、特にビフィズス菌に代表されるBifidobacterium属が多く存在する場合、6カ月以上にわたる母乳育児が6歳時の血圧に対して保護的に働く可能性のあることが明らかになった。米コロラド大学アンシュッツメディカルキャンパスのNoel Mueller氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association」に2月27日掲載された。Mueller氏は、「われわれの研究結果は、幼児期の腸内細菌叢が小児期の心血管の健康に潜在的に重要な意味を持つことを示唆している」と話している。 この研究でMueller氏らは、デンマークの小児喘息に関する研究(Copenhagen Prospective Studies on Asthma in Childhood 2010)に参加した526人の子どもを対象に、乳児期の腸内細菌の多様性や組成と小児期の血圧との関連と、その関連に母乳育児が与える影響について検討した。生後1週間、1カ月、1年時点に対象児から採取された便検体の分析により腸内細菌に関するデータを得た。また血圧は、3歳時と6歳時に測定した。 解析の結果、全体的には腸内細菌の多様性と血圧との間に関連は認められなかったが、母乳育児の期間が関連に大きく影響することが示された。具体的には、腸内細菌の多様性が高い場合、母乳育児期間が6カ月以上だった子どもでは血圧が低くなる傾向が認められたのに対し、6カ月未満だった子どもでは血圧が高くなる傾向が認められた。また、生物の多様性の指標であるシャノン指数が1上昇するごとに、母乳育児期間が6カ月以上だった子どもでは6歳時の収縮期血圧が1.86mmHg低下していたのに対し、6カ月未満だった子どもでは0.73mmHg上昇していた。さらに、生後1週間および1カ月の時点で2種類のBifidobacterium属(Bifidobacterium-a976、Bifidobacterium-78e)の量が多い場合、6カ月以上の母乳育児は、6歳時の収縮期血圧の低下と関連していることも示された。 研究グループは、腸内細菌が、特に母乳で育てられた子どもの血圧を改善する可能性のあることに対しては、いくつかの理由が考えられると話す。例えば、特定の腸内細菌は、乳児の母乳の消化を助けるように進化したことが考えられるという。これらの細菌は、分解する母乳がなければ、代わりに乳児の腸の内壁を餌にしてしまうことがあり、その場合、細菌や脂肪が血流に入りこむ「リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)」と呼ばれる症状を引き起こす可能性があるという。また研究グループは、リーキーガットは、成人の血圧上昇や炎症と関連があると指摘する。 研究グループは、「小児期の血圧が成人期まで持続するパターンは明らかになっており、それが長期的には健康に影響することを考えると、この発見は公衆衛生にとって重要な意味を持つ」と話す。その上で、「われわれの研究結果は、腸内細菌叢の最適な発達のためだけでなく、生涯にわたる心血管の健康を改善するためにも、乳児期を通して母乳育児を促進することの重要性を強調している」と付言している。

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腸管GVHDの発症・重症化および予防・治療における腸内細菌叢の役割/日本造血・免疫細胞療法学会

 腸管移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における特徴的な合併症で、予後を左右するだけでなく、移植後の生活の質も低下させる。近年、腸管GVHDと腸内細菌叢との関連に注目した研究は増えているが、まだ不明な点も多い。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「腸内細菌叢とGVHD:治療への新たな道を切り開く」と題したシンポジウムが行われ、腸内細菌叢とGVHDとの関連についての研究が4名から報告された。急性GVHDのpathobiontの同定とファージ由来酵素を用いた新規治療法 植松 智氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野)らのグループは同種移植患者46例の腸内細菌叢の16SrRNA解析を行い、30例でEnterococcus属細菌が増加していることを確認した。また、患者糞便由来のE. faecalisを単離し、これが外分泌毒素サイトライシンを産生する強毒株で、バイオフィルム関連遺伝子群を豊富に有する系統と明らかにした。さらに、マウスを用いた実験で患者糞便由来E. faecalisが急性GVHD関連死亡を増加させることを確認した。 植松氏らのグループは以上の結果から、E. faecalisがGVHDの発症と関わるpathobiontであり、前処理で他の細菌が死滅するなか、サイトライシンを産生する強毒株のE. faecalisがバイオフィルムを形成することによって腸管に濃縮し、増殖した後、産生されたサイトライシンによる上皮細胞障害が腸管GVHDの増悪に寄与していると考え、E. faecalisの排除によりGVHD関連死亡を抑えられるのではないかと推測した。 そこで、患者糞便由来E. faecalisのゲノムを網羅的に解析し、E. faecalisに特異的に感染するバクテリオファージ由来のエンドライシン配列を抽出した後、多種類の株で共通に検出されたエンドライシンを合成。このE. faecalis特異的エンドライシンの溶菌効果とバイオフィルム溶解作用をin vitroで確認した後、マウスを用いた実験でGVHD関連死亡率が大幅に改善すること、さらに患者糞便を移植したマウスでもGVHD関連死亡率が大幅に改善することを確認した。 植松氏はこうした結果について、「実臨床でも使えるようなデータが得られたと感じた」と述べ、「今後、E. faecalis特異的エンドライシンは、GVHDの新規治療薬として期待される」とまとめた。造血幹細胞移植患者の移植早期から長期における腸内細菌叢に関する解析結果 福島 健太郎氏(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は、造血幹細胞移植領域で近年行われた腸内細菌叢と予後の関連についての複数の研究に関し、「既報の多くは移植後のある一時点において多様性を評価していて、菌叢を構成する菌成分の違いや経時的な菌叢の変化についてはあまり着目した研究がなかった」と指摘した。 福島氏らのグループは、大阪大学医学部附属病院で造血幹細胞移植を行った患者から糞便を連日採取して16SrRNAメタゲノム解析を行った。その結果、移植前後で腸内細菌叢に変化がなく、多様性が保持された群は予後良好、菌叢に変化があり多様性が失われた群は予後不良であることが明らかになった。「菌叢の安定化が非常に重要である」ことがわかってきたと福島氏は述べ、とくに移植後1ヵ月のEnterococcus増加が予後の悪化に関連すると報告した。 また、移植後長期にわたって生存し、日常生活に戻った患者群の腸内細菌叢は健常人に近づいているという仮説を立てたが、移植後長期生存者の腸内細菌叢を実際に調べたところ、移植後3年未満、3~10年、10年以上のいずれでも、菌叢の多様性が回復しないということがわかったと報告した。 さらに、同種移植後にクローン病様の病変が認められた患者に糞便移植(FMT)を実施し、3ヵ月後に粘膜が正常化した症例を紹介したほか、移植前に腸内においてEnterococcusが優勢であった患者はFMT後1日目にドナーと同様の菌叢になるが、その後にEscherichiaなどが優勢になるという非常に興味深い結果となったと報告した。また、プロバイオティクスにも注目していると述べ、進めている研究について紹介した。 最後に、腸内細菌叢への介入として、先に講演した植松氏のファージについて「非常に魅力的な選択」と述べたほか、「FMT、プロバイオティクスなどさまざまなアプローチの可能性があって、産学連携が重要と考えている」とまとめた。移植前の口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながる可能性 藤原 英晃氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科)らのグループは、自院において2010~15年に造血細胞移植を行った273例を解析し、重症口内炎は慢性GVHDの発症率を上昇させるという関連を認めたほか、PTCyハプロ移植の71例のみの解析でも同様の関連を認めた。さらに、こうした患者の移植前後の口腔粘膜検体31例の解析で、慢性GVHD発症群では移植前から菌叢の多様性が低下し、生着後もそれが継続していたことがわかったと報告した。 そこでマウスによる検討のために、マウスの歯間に糸を留置して口腔内に歯周炎を引き起こすOLPという手法で口腔内dysbiosisを誘発し、骨髄移植を行った。その結果、慢性GVHDに関してはOLPマウスで慢性GVHDスコアが明らかに悪くなり、PTCyを用いたマウスモデルでも同様の結果が認められた。こうしたOLPマウスでは移植後における口腔内細菌叢の多様性が低下し、口腔内および糞便中細菌量の増加が認められ、とくにEnterococcusは移植前から口腔内・糞便中ともに増加していたと述べ、口腔内のEnterococcusが腸管に流れていき、定着するのではないかと指摘した。 また、OLPマウスでは移植前から所属リンパ節(頸部リンパ節)における抗原提示細胞の活性化が認められ、頸部リンパ節の免疫染色および培養検査によりEnterococcusの影響が強いことが明らかになったと述べた。さらに、OLP後にEnterococcusを塗布したマウスで移植後に慢性GVHDが悪化したこと、OLPを除去し歯周炎が改善した状態で移植を行うとOLPを維持した群より重症度が低下したことを示し、OLPの除去による口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながると述べた。なお、抗生剤による口腔炎症の改善で一定の効果が期待できることも実験で明らかになったと報告した。 最後に、「口腔内でdysbiosisが起きる状況にあると局所(頸部リンパ節)での反応が増幅し、それが全身の慢性GVHDに影響する。同様に腸管にも影響することにより長期的な予後に影響するのではないか」とまとめ、「移植前後の徹底した口腔ケアや歯科介入の重要性を確認することができた」と述べた。炎症記憶と腸内細菌によるGVHD重症化のメカニズム 橋本 大吾氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)は、免疫寛容の破綻後に組織の恒常性を維持するメカニズムとして概念的に提唱されている「組織寛容」について冒頭で紹介し、豊嶋 崇徳氏(北海道大学)らのグループの研究から、腸幹細胞が腸の組織寛容を維持しているシステムではないかと指摘した。一方、GVHD回復後のFlareで腸管GVHDの発症が増加することが示されており、炎症後の組織幹細胞にエピジェネティックな変化が生じて炎症記憶として残るからではないかと考えられている。 そこで橋本氏らのグループは、同系造血細胞移植(syn-HCT)または同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後のマウスの陰窩から作成したオルガノイド(「Syn」または「Allo」)のクロマチン構造をATACシーケンスで解析し、アクセシビリティに関してAlloがSynより有意に高い遺伝子457個を特定した。橋本氏は、この中で重要な領域として抗原処理と提示(とくにMHCクラスII[MHC-II])に関与する遺伝子とインターフェロン(IFN)-γに対する反応に関与する遺伝子を挙げ、転写の準備ができているこれらのプロモーター領域が判明したことについて「まさに炎症記憶が本当にできていると知った瞬間だった」と述べた。なお、フローサイトメトリーによるタンパク質レベルでの確認でも、IFN-γ刺激による腸管上皮MHC-II発現が炎症記憶により亢進したうえ、オルガノイドを継代しても記憶が継承されることが明らかになったと述べた。 さらに、小山 幹子氏(米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センター)のマウスを用いた研究で、レシピエントの腸管上皮MHC-IIの欠損でGVHDが軽減すること、腸内細菌がIFN-γ産生を誘導し、腸管上皮MHC-IIを発現させること、MHC-II誘導性細菌と抑制性細菌が存在し、抑制性細菌のマウスへの経口投与で上皮MHC-II発現が低下することなどが示されたと紹介した。 最後に、腸管のMHC-II発現は、腸内細菌叢の差により定常状態である程度の差があるうえ、GVHD後には炎症記憶の存在によりIFN-γ刺激によるMHC-II発現がさらに高まり、GVHD Flareにつながると考えられるとまとめた。今後は「組織寛容を上げて急性GVHDや慢性GVHDを起こさないようにし、移植片対白血病/リンパ腫(GVL)効果を誘導するのが究極的な目標」だと述べた。

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マラリア対策のための高解像度地図の最新版、COVID-19の影響は?/Lancet

 オーストラリア・カーティン大学のDaniel J. Weiss氏らは、マラリアの空間的に不均一な進展を追跡し、戦略的なマラリア対策に役立てる目的で、マラリアの感染有病率、発生率、死亡率に関する世界的な高解像度地図を作成した。この地図により、2000年代初頭からのマラリア対策への前例のない投資によって、マラリアがもたらす莫大な負担が回避されたが、アフリカの症例発生率は横ばいで推移しており、リスク人口の急速な増加によりアフリカの症例発生数は増加し、その結果として世界の熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)を病原体とする症例発生数は、大規模投資以前の水準に戻っていることが示された。研究の成果は、Lancet誌2025年3月22日号に掲載された。2022年の症例発生数は2004年以降最多 研究グループは、2000~22年のデータを用いてマラリアの高解像度地図を作成した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けた)。これは、2019年以来の最新版となる。 その結果、サハラ以南のアフリカにおけるマラリア感染有病率および症例発生率は、2015年以降、一貫して前年比の改善がみられず、停滞が続いていることが示された。 また、マラリア罹患の負担がサハラ以南のアフリカに集中しており、他の流行地域と比較してこの地域の人口が急増していることから、2022年の熱帯熱マラリア原虫を病原体とする症例発生数は2億3,480万例(95%不確実性区間[UI]:1億7,920万~2億9,900万)であり、2004年以降で最多であったと推定された。2022年のパキスタンの大洪水後に感染拡大 これらの結果にもかかわらず、マラリアによる死亡者数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けた2020~22年を除き、2015年以降もサハラ以南のアフリカ、そして世界的にも減少を続けた。 同様に、世界的には改善が停滞しているが、アフリカ以外では熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)を病原体とする感染有病率や症例発生率の減少が続いていた。 その一方で、2022年にパキスタンで発生した大洪水後のマラリアの大規模な感染拡大によって、この改善傾向が逆転し、三日熱マラリア原虫を病原体とする症例発生数が世界で1,243万例(95%UI:1,070万~1,483万)に達した。 アフリカでは、人口密度の高い地域で早期に感染率のプラトーに達したのに対し、人口の少ない地域では緩やかな改善傾向が続いていることが示された。 著者は、「アフリカ以外では、2015年以降もマラリア感染有病率や症例発生率の改善が続いているが、2022年に三日熱マラリア原虫を病原体とする症例発生数が再び増加したことから、気候ショックに直面した場合のマラリア対策の脆弱性が浮き彫りとなった」「COVID-19関連の混乱は、マラリア症例発生数と死亡者数の増加をもたらしたが、COVID-19流行国がパンデミック中もマラリア対策を優先したこともあって、その影響は懸念されたほど深刻ではなかった」「この疾患に対抗する勢いを取り戻すには、ツールや戦略の改善が急務であることに変わりはない」としている。

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わが国初のエムポックス治療薬「テポックスカプセル200mg」【最新!DI情報】第36回

わが国初のエムポックス治療薬「テポックスカプセル200mg」今回は、テコビリマト水和物「テコビリマト水和物(商品名:テポックスカプセル200mg、製造販売元:日本バイオテクノファーマ)」を紹介します。本剤は、エムポックスも適応とするわが国初の抗ウイルス薬で、公衆衛生上の危機に瀕した際の治療薬として期待されています。<効能・効果>痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症の適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および小児には、以下の用法および用量で14日間、食後に経口投与します。体重13kg以上25kg未満:テコビリマトとして200mgを1日2回12時間ごと体重25kg以上40kg未満:テコビリマトとして400mgを1日2回12時間ごと体重40kg以上120kg未満:テコビリマトとして600mgを1日2回12時間ごと体重120kg以上:テコビリマトとして600mgを1日3回8時間ごと <安全性>副作用として、頭痛(10%以上)、浮動性めまい、上腹部痛、腹部不快感、下痢、悪心、嘔吐(1%以上)、ヘマトクリット減少、ヘモグロビン減少、白血球減少症、血小板減少症、食欲減退、肝機能検査値上昇、不安、うつ病、不快気分、易刺激性、パニック発作、注意力障害、味覚不全、脳波異常、不眠症、片頭痛、傾眠、錯感覚、心拍数増加、動悸、口腔咽頭痛、腹部膨満、アフタ性潰瘍、口唇のひび割れ、便秘、口内乾燥、消化不良、おくび、鼓腸、胃食道逆流性疾患、排便回数減少、口の錯感覚、触知可能紫斑病、全身性そう痒症、発疹、そう痒性皮疹、関節痛、変形性関節症、悪寒、疲労、びくびく感、倦怠感、疼痛、発熱、口渇(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、天然痘、エムポックス、牛痘に対して使用されます。2.この薬は、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症に使用されます。3.この薬は、症状が発現した後、速やかに使用します。<ここがポイント!>エムポックスは、1970年にザイール(現:コンゴ民主共和国)で初めてヒトへの感染が確認されたオルソポックスウイルス属のエムポックスウイルスによる感染症です。以前は「サル痘」と呼ばれていましたが、2023年に感染症法上の名称がエムポックスに変更されました。エムポックスウイルスには、コンゴ盆地型(クレードI)と西アフリカ型(クレードII)の2系統があります。クレードIはクレードIIに比べて死亡率が高く、それぞれ10%程度および1%程度の致死率が報告されています。最近では、アフリカを中心にクレードIの蔓延があり、WHOは2024年8月に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。日本国内では、2022年に国内1例目の患者が報告されて以降、2025年3月までに合計252例が報告されています。天然痘(痘そう)は、1980年5月にWHOによって世界根絶が宣言され、日本でも定期種痘が中止されています。そのため、多くの人々が天然痘に対して免疫を持っておらず、今後、生物テロなどによる天然痘ウイルスの再出現によるアウトブレイクが発生した場合には、その対策が重要な課題となる可能性があります。テコビリマトはオルソポックスウイルス属のエンベロープの形成および細胞外への放出に関与するVP37タンパク質と宿主細胞の輸送タンパク質(Rab9 GTPaseおよびTIP47)との相互作用を阻害することにより、感染細胞からのウイルス放出を阻害します。本剤は、痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症に対するヒトでの有効性を評価する試験は行われていませんが、非臨床試験において抗ウイルス作用が示されたことから、主に公衆衛生上の危機に瀕した際、または危機に瀕する見込みがある際に使用される薬剤として承認されました。なお、本剤は、欧州などでの承認申請において提出した資料に基づき、審査および調査を迅速に進めるよう厚生労働省より依頼があったものです。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の支援を受けて開発されました。

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botulism(ボツリヌス症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第23回

言葉の由来「ボツリヌス症」は英語で“botulism”といいます。この病名の語源はラテン語の“botulus”に由来し、これはなんと「ソーセージ」を意味する言葉です。病名に食品名とは奇妙な印象ですが、この名前は1820年代にドイツ南部で発生した「ソーセージ中毒」の集団発生に関連しています。当時はソーセージ製品の保存技術が未熟だったため、毒素が産生されやすい環境が整っていたのです。ドイツの医師ユスティヌス・ケルナーが、ソーセージを食べた後の中毒症状を詳細に記述し、これが最初の臨床的なボツリヌス中毒の記述となりました。ボツリヌス中毒の原因菌であるClostridium botulinumが同定されたのは、約80年後の1895年のことでした。ベルギーの小さな村で発生した葬儀の夕食会での集団食中毒をきっかけに、ゲント大学の細菌学教授、エルメンゲムが発見しました。なお、近代以前にも、ボツリヌス中毒が認識されていた可能性はあります。たとえば、10世紀のビザンチン帝国の皇帝レオ6世が血のソーセージの製造を禁止する勅令を出していたという記録があり、これは古代からこの種の食中毒の危険性が認識されていた可能性を示唆しています。また、現代でもこの食中毒は定期的に発生しており、日本では辛子蓮根や小豆ばっとう(小豆汁にうどんが入った東北地方の郷土料理)など、真空パック製品などを原因とするボツリヌス食中毒が報告されています。併せて覚えよう! 周辺単語神経毒neurotoxin食中毒food poisoning麻痺paralysis嫌気性菌anaerobesこの病気、英語で説明できますか?Botulism is a rare but serious illness caused by a toxin that attacks the body's nerves. It causes difficulty breathing, muscle paralysis, and can be fatal. The toxin is produced by bacteria called Clostridium botulinum bacteria, which can grow in improperly preserved food.講師紹介

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新型コロナ入院患者、退院後も2年以上にわたり死亡リスクは高い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院歴がある人は、回復して自宅に戻れたとしても、決して安心できる状態とは言えないことが新たな研究で示唆された。COVID-19で入院した患者は、初回の感染から最長で2年半の間、全死亡リスクの高いことが明らかになったという。パリ・ビシャ病院(フランス)のSarah Tubiana氏らによるこの研究の詳細は、「Infectious Diseases」に2月27日掲載された。 Tubiana氏は、「これまで人々の関心の多くは新型コロナウイルスの短期的な危険性に向けられてきたが、われわれの研究では、COVID-19による入院歴のある人では、数カ月後、さらには数年後まで、重度の合併症リスクが高い状態が続くことが示された。この公衆衛生に対する長期的な影響は重大だ」と指摘する。 Tubiana氏らは今回の研究で、2020年1月1日から8月30日までの間にCOVID-19に罹患して入院したフランスの成人6万3,990人(平均年齢65歳、男性53.1%、COVID-19入院群)を追跡し、年齢、性別、居住地を一致させた、同時期にCOVID-19で入院していない対照群31万9,891人の健康状態と比較した。追跡期間中央値は、COVID-19入院群で894日、対照群で896日だった。 最長で30カ月間にわたる追跡期間中の10万人年当たりの累積全死亡率は、COVID-19入院群で5,218件であったのに対し、対照群では4,013件であった(発生率比1.30、95%信頼区間1.27〜1.33)。6カ月単位で分けて分析すると、COVID-19入院群の全死亡リスクは最初の6カ月間で最も高く(調整ハザード比2.93)、6〜12カ月後では低下し(同1.08)、その後は30カ月後まで大きく変化することはなかった(同1.07)。 また、COVID-19入院群はあらゆる原因により再入院するリスクも高く、10万人年当たりの累積入院率は対照群の1万2,095件に対してCOVID-19入院群では1万6,334件であった(発生率比1.35、95%信頼区間1.33〜1.37)。6カ月単位で見ると、COVID-19入院群の再入院リスクは、最初の6カ月間で最も高く(全入院の調整部分分布ハザード比2.47)、6〜12カ月後の期間で低下し(同1.21)、その後、30カ月後まで低下し続けた(同1.05)。 疾患別にCOVID-19入院群の再入院リスクを見ると、特に呼吸器疾患による再入院リスクが約2倍高かった(発生率比1.99)。また、糖尿病、慢性腎臓病、神経疾患、心血管疾患、精神疾患による再入院リスクも高かった。このような過剰リスクは、入院から6カ月(0〜6カ月)および6〜12カ月後では低下したが、24〜30カ月後では、神経疾患、呼吸器疾患、慢性腎不全、糖尿病による再入院リスクが統計学的に有意に上昇していた。 論文の上席研究者で、パリ・シテ大学(フランス)の感染症専門家であるCharles Burdet氏は、「入院から30カ月が経過しても、COVID-19患者では死亡あるいは重度の健康上の合併症リスクが高い状態が続いていた。これは、この疾患が人々の生活に長期にわたって広範な影響を及ぼすことを示している」と「Infectious Diseases」を発行するTaylor & Francis社のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「この研究結果は、こうした長期的な健康リスクの背後にあるメカニズムと、リスクを軽減する方法を解明するための、さらなる研究の必要性を明確に示している」と付け加えている。 研究グループによると、COVID-19は全身の臓器やシステムにダメージを与えることが知られており、特に命に関わる重症の感染症となった場合、その可能性が高いという。「ただ、今回の研究は新型コロナウイルスの新しい変異株が出現する前の感染者を対象としているため、こうしたリスクはその後に新型コロナウイルスに感染した、より最近の入院患者には完全には当てはまらないかもしれない」と研究グループは付け加えている。

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