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「フィアスプ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第77回

第77回 「フィアスプ」の名称の由来は?販売名フィアスプ®注フレックスタッチ®フィアスプ®注ペンフィル®フィアスプ®注100単位/mL一般名(和名[命名法])インスリン アスパルト(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果インスリン療法が適応となる糖尿病用法及び用量画像を拡大する警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.低血糖症状を呈している患者2.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年11月10日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年6月改訂(第2版)医薬品インタビューフォーム「フィアスプ®注フレックスタッチ®・フィアスプ®注ペンフィル®・フィアスプ®注100単位/mL」2)Novo Nordisk Pro:製品情報

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ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下 - 3回目booster接種必要性の基礎的エビデンス (解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

ワクチン接種後の時間経過に伴う液性免疫の低下 Levin氏らはイスラエルにおいてBNT162b2を2回接種した一般成人におけるS蛋白IgG抗体価、野生株に対する中和抗体価の時間推移を6ヵ月にわたり観察した(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print] )。その結果、S蛋白IgG抗体価はワクチン2回接種後30日以内に最大値に達し、それ以降、IgG値はほぼ一定速度で低下し、6ヵ月後には最大値の1/18.3まで減少することが示された。野生株に対する中和抗体価の低下はS蛋白IgGと質的に異なり、中和抗体価は、2回接種後3ヵ月間は一定速度で低下、それ以降は、低下速度が緩徐となりほぼ横ばいで推移、6ヵ月後には最大値の1/3.9まで低下した。高齢、男性、併存症(高血圧、糖尿病、脂質異常症、心/腎臓/肝疾患)が2つ以上存在する場合にはS蛋白IgG抗体価ならびに中和抗体価の時間経過に伴う低下はさらに増強された。Levin氏らが示したのと同様の知見はShrotri氏らによっても報告された(Shrotri M, et al. Lancet. 2021;398:385-387. )。Shrotri氏らによると、BNT162b2の2回接種後70日(2.3ヵ月)以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は最大値の1/2まで低下していた。 Shrotri氏らは、AstraZenecaのChAdOx1接種後のS蛋白IgG抗体価の時間推移についても検証し、ChAdOx1の2回接種後のS蛋白IgG抗体価の最大値はBNT162b2接種後に比べ1/10と低く、かつ、ワクチン接種後70日以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は自らの最大値の1/5まで低下することを示した。 ModernaのmRNA-1273の2回接種後3ヵ月にわたるRBD-IgG抗体の低下速度は第I相試験の時に検討され、BNT162b2に比べ緩やかであることが示唆された(Widge AT, et al. N Engl J Med. 2021;384:80-82. )。さらに、mRNA-1273の2回接種後のRBD-IgG抗体価の最大値はBNT162b2の2回接種後の1.4~1.5倍高値であると報告された(Self WH, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1337-1343.、Richards NE, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2124331. )。以上より、コロナウイルスに対するIgG抗体形成能と時間経過に伴う抗体価低下の両者を鑑みた液性免疫原性の優越性はmRNA-1273>BNT162b2>ChAdOx1の順であると結論できる。以上のようなワクチンによる液性免疫原性の違いの結果、mRNA-1273のDelta株新規感染予防効果はBNT162b2よりも優れていることが示された(Puranik A, et al. medRxiv. 2021;2021.08.06.21261707. )。しかしながら、BNT162b2とmRNA-1273の免疫原性の差に関して考慮しなければならない事実は、ワクチン接種を介して生体に導入されるmRNA量の違いである。BNT162b2では30μg、mRNA-1273では100μgを1回の接種で筋注する。すなわち、投与されるmRNA量はmRNA-1273でBNT162b2に比べ約3倍多い。この投与量の差が液性免疫の差を規定している可能性が高く、mRNA-1273に比べBNT162b2がワクチンとして劣っていることを意味するものではない。この考えの妥当性を支持する知見として全身/局所における一般的副反応もmRNA-1273接種後により多く認められることが報告されている(Chapin-Bardales J, et al. JAMA. 2021;325:2201-2202. )。 BNT162b2の2回接種によるDelta株に対する中和抗体価の最大値は野生株に対する値の1/5.8と低い。さらに、Delta株に対する中和抗体価の時間経過に伴う低下率は野生株と大きな差を認めないが、時間経過の出発点である最大値が低いがために2回目接種後100日(3.3ヵ月)経過した時点でのDelta株に対する中和抗体価が検出限界以下まで低下する症例が免疫不全を有さない一般成人の中にも存在することが判明している(Wall EC, et al. Lancet. 2021;397:2331-2333. )。以上の事実から、まん延するコロナウイルスの中心がDelta株である場合には、ワクチン(BNT162b2あるいはmRNA-1273)2回接種後の中和抗体価が3~6ヵ月後には無効域近傍まで低下する人が少なからず存在する可能性を念頭におく必要がある。3回目booster接種 ワクチン接種後のウイルス中和抗体価の予想以上に速い低下によって招来される問題を打破するために世界のワクチン先進諸国では3回目の追加ワクチン接種(booster接種)が開始されつつある。3回目のbooster接種に関しては、次の論評(山口, 田中. ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する)で詳細に論じるので、それを参照していただきたい。本邦ではなぜ夏場の第5波を克服することができたのか? PfizerのBNT162b2を中心にコロナ感染症に対するワクチン接種は2020年12月より世界各国で積極的に進められている。本邦においても2021年4月から一般成人に対するワクチン接種(Pfizer、Moderna)が開始され、10月29日現在、全人口の71.2%(65歳以上の高齢者が最も高く90.6%、12~19歳の若年者が最も低く47.8%)が2回目接種を終了し(首相官邸ホームページ. 新型コロナワクチンについて. Oct. 29, 2021)、本邦はワクチン接種先進国(優等国)の一つに数えられるようになっている(2回接種率:カナダ、イタリアに次ぎ世界第3位)。その結果として、本邦のコロナ第5波は9月初旬より急速に終焉に向かっている。しかしながら、7月以降、ワクチン接種先進国でワクチン接種者におけるDelta株新規感染の急激な増加という新たな問題が発生しており、本邦もこの問題に早晩直面するものと考えておかなければならない。Delta株による新規感染はワクチン接種開始が早かったイスラエル、カタールなどの中東諸国、英国などの欧州諸国、米国などを中心に顕著になっており、主たる原因は、前項で述べたワクチン接種後の液性免疫の経時的低下である。ワクチン接種を早期(2020年の12月)に開始した国では、ワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した国民の数が多くなり、これらの人々では、ワクチン接種により誘導された液性免疫が時間経過とともに低下し、Delta株を中心とする変異株感染に対する予防効果が低い状態に維持されているものと考えなければならない。一方、本邦では、ワクチン接種開始時期の遅延が幸いし、Delta株がまん延し出した2021年の6月以降になってもワクチン接種によって形成された液性免疫の低下が少なくDelta株に対する予防効果が有効域に維持されている国民が多く存在していたものと推測される。それ故、ワクチン接種を昨年の12月早々から開始した国々とは異なり、本邦では、夏場のDelta株による第5波を“運よく”乗り越えることができたものと考えることができる。しかしながら、2021年の12月以降になると、本邦でもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たちの数が増加し、3回目のワクチン接種など何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。ワクチン突破感染(BI:breakthrough infection)なる言葉について 最後に、ワクチン突破感染(BI)という言葉について一言コメントしておきたい。BIはワクチンの感染予防効果が十分に維持されている場合に意味ある言葉でBIを引き起こす個体の背景因子を探求するうえで重要である(山口, 田中. CareNet論評-1422)。しかしながら、ワクチンの予防効果が低下している場合には、BIは個体が有する背景因子とは無関係にワクチン予防効果の低下が“強制的に”規定因子として作用する。それ故、このような場合には、BIという言葉は不適切だと論評者らは考えている。BIの代わりに“ワクチン非接種者、不完全接種者、完全接種者における感染”と正確に記載すべきである。さらに、ワクチン接種後どの時点で発生した感染であるかを明記すべきである。BIに代わる言葉を定義するならば、ワクチン接種者における“液性免疫低下関連感染(DHIRI:decreased humoral immune response-related infection)”という言葉が適切ではないだろうか?

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「ランタスXR」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第76回

第76回 「ランタスXR」の名称の由来は?販売名ランタス®XR注 ソロスター®一般名(和名[命名法])インスリン グラルギン(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果インスリン療法が適応となる糖尿病用法及び用量通常、成人では、初期は1日1回4~20単位を皮下注射するが、ときに他のインスリン製剤を併用することがある。注射時刻は毎日一定とする。投与量は、患者の症状及び検査所見に応じて増減する。なお、その他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1日4~80単位である。ただし、必要により上記用量を超えて使用することがある。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.低血糖症状を呈している患者2.本剤の成分又は他のインスリン グラルギン製剤に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年11月3日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年2月改訂(第8版)医薬品インタビューフォーム「ランタス®XR注 ソロスター®」2)サノフィe-MR:製品情報

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NAFLDの肝線維化ステージが肝合併症・死亡リスクに影響か/NEJM

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の組織学的スペクトラム全体の死亡や肝臓・肝臓以外のアウトカムの予後は十分に解明されていないという。米国・バージニア・コモンウェルス大学のArun J. Sanyal氏らNASH Clinical Research Network(CRN)は「NAFLD DB2試験」において、NAFLDの中でも肝線維化stageが高い(F3、F4)患者は低い(F0~2)患者に比べ、肝関連合併症や死亡のリスクが高く、F4では糖尿病や推算糸球体濾過量が40%超低下した患者の割合が高いことを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌2021年10月21日号で報告された。米国の前向きレジストリ研究 研究グループは、NAFLDのすべての組織学的スペクトラムが含まれる米国の患者集団における、肝線維化の進展度別のアウトカムの評価を目的に、多施設共同前向きレジストリ研究を行った(米国国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所[NIDDK]などの助成を受けた)。 本研究には、NASH CRNのレジストリから2009年12月~2019年4月の期間に登録された患者が選出され、FLINT試験(オベチコール酸とプラセボを比較した無作為化試験)を終了した患者も含まれた。 対象は、肝生検でNAFLDが確認され、48週後までに少なくとも1回の診察を受けた成人患者であった。死亡と他のアウトカムの発生率が、ベースラインの組織学的特徴に基づいて比較された。 主要アウトカムは、全死因死亡、肝代償不全(臨床的に明らかな腹水、脳症、静脈瘤出血)、肝細胞がん、肝臓以外のがん、心血管イベント、脳血管イベントなどとされた。新たな肝代償不全イベントの発生で全死因死亡率上昇 解析には1,773例(平均年齢52歳、女性64%)が含まれ、肝線維化stage(NASH CRN分類)はF4(肝硬変)が167例、F3(架橋線維化[bridging fibrosis])が369例、F0~2(F0:線維化なし、F1:軽度、F2:中等度)が1,237例であった。診断名は、脂肪性肝炎が55%、境界型脂肪性肝炎が20%、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のない脂肪肝が25%だった。 追跡期間中央値4年(IQR:2.1~7.4)の期間に全体で47例(3%)が死亡し、100人年当たりの死亡率は0.57件であった。全死因死亡率は、肝線維化stageが上がるに従って増加し、100人年当たりF0~2で0.32件、F3で0.89件、F4では1.76件であった(F4のF0~2に対するハザード比[HR]:3.9、95%信頼区間[CI]:1.8~8.4、F3のF0~2に対するHR:1.9、95%CI:0.9~3.7)。 また、100人年当たりの肝関連合併症の発生率も、肝線維化stageの上昇に伴って増加した([静脈瘤出血]F0~2:0.00件、F3:0.06件、F4:0.70件、[腹水]0.04件、0.52件、1.20件、[脳症]0.02件、0.75件、2.39件、[肝細胞がん]0.04件、0.34件、0.14件)。 さらに、肝線維化stageがF4の患者はF0~2に比べ、2型糖尿病の発生率が高く(7.53件vs.4.45件/100人年)、推算糸球体濾過量が40%超低下した患者の割合が高かった(2.98件vs.0.97件/100人年)。一方、心イベントや肝臓以外のがんの発生には、肝線維化stageの違いによる差は認められなかった。 年齢、性、人種、およびベースラインの糖尿病、NASH、非アルコール性脂肪肝の有無、組織学的重症度で補正すると、新たな肝代償不全イベント(腹水、脳症、静脈瘤出血)の発生は全死因死亡率の上昇と関連していた(補正後HR:6.8、95%CI:2.2~21.3)。 著者は、「本研究は観察研究であるため、線維化の重症度と全死因死亡との因果関係を証明するものではない」と指摘し、「F3はF0~2に比べ肝代償不全イベントや肝細胞がんの発生率が高かったことから、線維化stageをF3からF2へと1段階下げることで肝代償不全イベントが減少するとの仮説の理論的根拠をもたらし、これを検証するための試験が進行中である」としている。

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急性尿閉は泌尿生殖器・大腸・神経系オカルトがんの臨床指標?/BMJ

 急性尿閉は、泌尿生殖器や大腸、神経系のオカルトがん(潜在がん)の臨床マーカーとなる可能性があり、急性尿閉を呈する年齢50歳以上の患者で、明確な基礎疾患がみられない場合は、オカルトがんを考慮すべきとの知見が、デンマーク・オーフス大学のMaria Bisgaard Bengtsen氏らの調査で得られた。研究の成果は、BMJ誌2021年10月19日号で報告された。一般人口と比較するデンマークのコホート研究 本研究は、急性尿閉と診断された患者における泌尿生殖器、大腸、神経系のがんのリスクの評価を目的とするデンマークの全国的なコホート研究である(研究助成は受けていない)。 デンマーク全国患者レジストリ(Danish National Patient Registry)から、1995~2017年の期間に、デンマークの全病院において急性尿閉で初回入院となった年齢50歳以上の患者が選出された。 主要アウトカムは、急性尿閉患者の、一般人口との比較における泌尿生殖器、大腸、神経系のがんの絶対リスクおよびこれらのがんの過剰リスクとされた。ほとんどのがんで、過剰リスクは急性尿閉診断から3ヵ月以内に限定 急性尿閉の初回診断を受けた7万5,983例が解析に含まれた。年齢中央値は76歳(IQR:68~83)、82.6%が男性で、追跡期間中央値は3.3年(IQR:1.1~7.0)、36.1%が追跡期間5年以上であった。急性尿閉の初回診断時に、48.0%が泌尿生殖器系疾患の、27.3%が神経系疾患の診断歴があり、13.2%は糖尿病を有していた。 急性尿閉の初回診断後の前立腺がんの絶対リスクは、3ヵ月後が5.1%(3,198例)、1年後が6.7%(4,233例)、5年後は8.5%(5,217例)であった。3ヵ月以内に急性尿閉患者で検出された前立腺がんの観察罹患数は3,198例で、期待罹患数は93例であり、1,000人年当たり218例の過剰な前立腺がん患者が認められた(標準化罹患比:34.5、95%信頼区間[CI]:33.3~35.7)。 急性尿閉の診断後3~<12ヵ月には、前立腺がんの観察罹患数はさらに1,035例増加し、この間の期待罹患数は244例であり、1,000人年当たり21例で過剰ながんが検出された(標準化罹患比:4.2、95%CI:4.0~4.5)。診断後1年を超えると、急性尿閉患者の前立腺がんのリスクは、実質的に一般人口との差がなくなった(標準化罹患比:1.1、95%CI:1.0~1.2)。 急性尿閉の診断後3ヵ月以内の1,000人年当たりのがんの過剰リスクは、尿路がんが56例、浸潤性膀胱がんが24例、女性の生殖器がんが24例、大腸がんが12例、神経系がんが2例であった。調査対象となったがんのほとんどでは、過剰リスクは3ヵ月以内に限定されていたが、前立腺がんと尿路がんは3~<12ヵ月の期間も増加した状態が続いた。女性では、浸潤性膀胱がんの過剰リスクが数年間持続した。 著者は、「ほとんどのがんでは、急性尿閉の診断後3ヵ月以降に過剰リスクは認められず、がんの発見に大きな遅れは生じていないことが示唆された。前立腺がんと尿路がんリスクの3ヵ月を超える持続的な上昇が、これらのがんの早期発見の機会となるかは解明されておらず、今後の研究の焦点となる可能性がある」としている。

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tirzepatideの効果、心血管高リスク2型DMでは?/Lancet

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの週1回投与は、インスリン グラルギンと比較し52週時点のHbA1c値低下について優越性が示され、低血糖の発現頻度も低く、心血管リスクの増加は認められないことが示された。イタリア・ピサ大学のStefano Del Prato氏らが、心血管への安全性評価に重点をおいた第III相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURPASS-4試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2021年10月18日号掲載の報告。tirzepatideの3用量(5、10、15mg)とインスリン グラルギンを比較 試験は、14ヵ国、187施設において実施された。適格患者は、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬のいずれかの単独または併用投与による治療を受けており、ベースラインのHbA1c値が7.5~10.5%、BMI値25以上、過去3ヵ月間の体重が安定している2型糖尿病の成人患者で、心血管リスクが高い患者とした。心血管リスクが高い患者とは、冠動脈・末梢動脈・脳血管疾患の既往がある患者、または慢性腎臓病の既往がある50歳以上の患者で、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満またはうっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスII/III)の既往がある患者と定義した。 研究グループは、被験者をtirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群またはインスリン グラルギン(100U/mL)群に1対1対1対3の割合で無作為に割り付け、tirzepatideは週1回、インスリン グラルギンは1日1回皮下投与した。tirzepatideは2.5mgより投与を開始し、設定用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。インスリン グラルギンは10U/日で開始し、自己報告による空腹時血糖値が100mg/dL未満に達するまで漸増した。52週間投与した時点で有効性の主要評価項目について解析し、その後、心血管疾患に関する追加データを収集するため最大で52週間の追加治療を行った。 有効性の主要評価項目はベースラインから52週までのHbA1c値の変化量で、tirzepatide(10mg、15mg)のインスリン グラルギンに対する非劣性(非劣性マージン 0.3%)および優越性を検証した。安全性として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中および不安定狭心症による入院の複合エンドポイント(MACE-4)についても評価した。10、15mg群で血糖降下作用の非劣性・優越性を確認、心血管リスクに差はなし 2018年11月20日~2019年12月30日に、3,045例がスクリーニングされ、2,002例が無作為に割り付けられた。治験薬の投与を1回以上受けた修正ITT集団は1,995例で、tirzepatide 5mg群329例(17%)、10mg群328例(16%)、15mg群338例(17%)、インスリン グラルギン群1,000例(50%)であった。 52週時点におけるHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値±SE)は、tirzepatide 10mg群-2.43±0.053%、15mg群−2.58±0.053%、グラルギン群-1.44±0.030%であった。グラルギン群に対する推定治療差は、10mg群で−0.99%(97.5%CI:−1.13~−0.86)、15mg群で−1.14%(97.5%CI:−1.28~−1.00)であり、非劣性および優越性が確認された。 有害事象については、tirzepatide群で悪心(12~23%)、下痢(13~22%)、食欲不振(9~11%)、嘔吐(5~9%)の発現頻度がグラルギン群(それぞれ2%、4%、<1%、<2%)より高かったが、ほとんどが軽症~中等度で、用量漸増期に生じた。低血糖(血糖値<54mg/dLまたは重症)の発現頻度は、tirzepatide群(6~9%)がグラルギン群(19%)より低く、とくにSU薬を用いていない患者で顕著であった(tirzepatide群1~3%、グラルギン群16%)。 MACE-4のイベントは全体で109例に認められた。tirzepatide 5mg群19例(6%)、10mg群17例(5%)、15mg群11例(3%)で、tirzepatide群合計で47例(5%)、インスリン グラルギン群では62例(6%)であった。tirzepatide群のグラルギン群に対するMACE-4イベントのハザード比は0.74(95%信頼区間:0.51~1.08)であり、MACE-4のリスク増加は認められなかった。試験期間中の死亡はtirzepatide群で25例(3%)、グラルギン群で35例(4%)、計60例確認されたが、いずれも試験薬との関連性はないと判定された。

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汎PPAR作動薬のlanifibranor、活動性NASHに有効/NEJM

 活動性非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者において、汎ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)作動薬lanifibranorの1,200mg、1日1回24週間経口投与は、プラセボと比較して肝線維化が増悪することなく脂肪変性・活動性・線維化(SAF)評価スコアの活動性(SAF-A)が2点以上低下した患者の割合を有意に増加させた。ベルギー・アントワープ大学のSven M. Francque氏ら、lanifibranorの無作為化二重盲検プラセボ対照第IIb相試験「NATIVE試験」の結果を報告した。NASHの治療はアンメットニーズであるが、lanifibranorはNASHの発症に重要な役割を果たす代謝、炎症および線維形成の各経路を調節し、前臨床研究では1種類または2種類のPPARに対する作動薬より高い効果が示唆されていた。今回の結果を受けて著者は、「第III相試験におけるlanifibranorのさらなる評価が期待される」とまとめている。NEJM誌2021年10月21日号掲載の報告。lanifibranor 1,200mg群、800mg群、またはプラセボ群を比較 研究グループは、18歳以上で活動性が高い非肝硬変NASH患者247例を、lanifibranor 1,200mg、800mg、またはプラセボ群に1対1対1の割合に無作為に割り付け、それぞれ1日1回24週間投与した。 主要評価項目は、線維化の悪化を伴わないSAF-Aスコア(肝細胞の風船様変性と炎症性細胞浸潤;スコアの範囲は0~4、スコアが高いほど疾患活動性が高いことを示す)の2ポイント以上の低下。副次評価項目は、NASHの消失と線維化の退縮であった。1,200mg群でプラセボ群より活動性(SAF-Aスコア)が有意に低下 無作為化された247例中、103例(42%)が2型糖尿病、188例(76%)が中等度または高度の線維化を有していた。 線維化の悪化を伴わないSAF-Aスコアの2ポイント以上低下を達成した患者の割合は、lanifibranorの1,200mg群がプラセボ群より有意に高く(55% vs.33%、リスク比[RR]:1.69、95%信頼区間[CI]:1.22~2.34、p=0.007)、800mg群では差はなかった(48% vs.33%、1.45、1.00~2.10、p=0.07)。 lanifibranorの1,200mg群および800mg群はいずれもプラセボ群と比較し、線維化の悪化を伴わないNASH消失率(49%および39%、vs.22%)、NASH悪化を伴わない線維化ステージ1段階以上改善率(48%および34%、vs.29%)、NASH消失かつ線維化ステージ1段階以上改善率(35%および25%、vs.9%)が高率であった。また、lanifibranorの両群で肝酵素値が低下し、ほとんどの脂質、炎症、線維化のバイオマーカーが改善した。 有害事象による投与中止の発現率はすべての群で5%未満であり、群間で類似していた(1,200mg群4%、800mg群5%、プラセボ群4%)。プラセボ群に比べてlanifibranor群で発現率が高かった主な有害事象は、下痢、悪心、末梢性浮腫、貧血、体重増加であった。

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「トルリシティ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第75回

第75回 「トルリシティ」の名称の由来は?販売名トルリシティ®皮下注0.75mg アテオス®一般名(和名[命名法])デュラグルチド(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果2型糖尿病用法及び用量通常、成人には、デュラグルチド(遺伝子組換え)として、0.75 mgを週に1回、皮下注射する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者[インスリン製剤による速やかな治療が必須となるので、本剤を投与すべきでない。] 3. 重症感染症、手術等の緊急の場合[インスリン製剤による血糖管理が望まれるので、本剤の投与は適さない。]※本内容は2021年10月27日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年3月改訂(第9版)医薬品インタビューフォーム「トルリシティ®皮下注0.75mgアテオス®」2)Lillymedical.jp:製品情報

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やせ過ぎは尿路感染症の死亡の危険因子に/国立国際医療研究センター

 尿路感染症のために入院している患者は年間約10万人と推定され、高齢になるほど患者は増え、90歳以上では1年間で100人に1人が入院し、その入院医療費は年間660億円にのぼると見積もられている。その実態はどのようなものであろう。 国立国際医療研究センターの酒匂 赤人氏(国府台病院総合内科)らは、東京大学などとの共同研究により、尿路感染症で入院した23万人の大規模入院データをもとに、尿路感染症による入院の発生率、患者の特徴、死亡率などを明らかにすることを目的に調査を行い、今回その結果を発表した。 その結果、年間約10万人が入院し、患者平均年齢は73.5歳で、女性が64.9%を占め、入院中の死亡率は4.5%だった。また、年代や性別にかかわらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた。23万人のデータを解析【研究の背景・目的】 尿路感染症は敗血症やDIC(播種性血管内凝固症候群)といった重篤な状態に至ることもあり、死亡率は1~20%程度と報告され、高齢、免疫機能の低下、敗血症などが死亡の危険因子だと言われているが、日本での大規模なデータはなかった。わが国の大規模入院データベースであるDPCデータを利用し、尿路感染症による入院の発生率などを明らかにすることを目的に研究を行った。【方法】 DPCデータベースを用い、2010~15年に退院した約3,100万人のうち、尿路感染症や腎盂腎炎の診断により入院した15歳以上の患者23万人のデータを後ろ向きに調査(除く膀胱炎)。年間入院患者数を推定し、患者の特徴や治療内容、死亡率とその危険因子などを調査した。【結果】・患者の平均年齢は73.5歳、女性が64.9%を占めた・年代や性別にかかわらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた・尿路感染症による入院の発生率は人口1万人当たりで男性は6.8回、女性は12.4回・高齢になるほど入院の発生率が高くなり、70代では1万人当たり約20回、80代では約60回、90歳以上では約100回・15~39歳の女性のうち、11%が妊娠していた・入院初日に使用した抗菌薬はペニシリン系21.6%、第1世代セフェム5.1%、第2世代セフェム18.5%、第3世代セフェム37.9%、第4世代セフェム4.4%、カルバペネム10.7%、フルオロキノロン4.5%・集中治療室に入ったのは2%、結石や腫瘍による尿路閉塞に対して尿管ステントを要したのは8%だった・入院日数の中央値は12日で、医療費の中央値は43万円・入院中の死亡率は4.5%で、男性、高齢、小規模病院、市中病院、冬の入院、合併症の多さ・重さ、低BMI、入院時の意識障害、救急搬送、DIC、敗血症、腎不全、心不全、心血管疾患、肺炎、悪性腫瘍、糖尿病薬の使用、ステロイドや免疫抑制薬の使用などが危険因子だった尿路感染症の死亡の危険因子で体型が関係 今回の調査を踏まえ、酒匂氏らは次のようにコメントしている。「尿路感染症は女性に多いことが知られているが、高齢者では人口当たりの男性患者は女性と同程度であることもわかった。夏に尿路感染症が多いことが、今回の研究でも確かめられ、さらに年代や性別によらないことがわかった。また、冬に死亡率が高いこともわかった。一方で、なぜ季節による変化があるのかについてはわからず、今後の他の研究が待たれる。患者一人当たりの平均入院医療費は約62万円(日本全体で年間約660億円と推定)がかかっており、医療経済的な観点でも重要な疾患であることが確かめられた。尿路感染症には軽症から重症なものまであり、死亡率は1~20%とかなり幅があるが、今回の研究では4.5%だった。死亡の危険因子として、従来わかっている年齢や免疫抑制などのほかにBMIが低いことも危険因子であることがわかった。近年、さまざまな疾患で太り過ぎよりもやせ過ぎていることが体によくないということがわかってきたが、今回の研究でもBMI18.5未満の低体重ではそれ以上と比べて死亡率が高いことがわかった」。 なお、今回の研究にはいくつかの限界があり、内容を解釈するうえで注意を要するとしている。

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キャノーラ油1日大さじ1杯増、死亡5%減/BMJ

 食事によるα-リノレン酸(ALA)の摂取量が多い集団は少ない集団に比べ、全死因死亡や心血管疾患(CVD)死、冠動脈疾患(CHD)死のリスクが有意に低いが、がんによる死亡リスクがわずかに高く、ALAの血中濃度が高いと全死因死亡とCHDによる死亡のリスクが低下することが、イラン・テヘラン医科大学のSina Naghshi氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年10月14日号に掲載された。ALA食事摂取量と死亡の関連を評価するメタ解析 研究グループは、ALAの食事摂取量やその組織バイオマーカーと、全死因死亡、CVD死、がん死との関連の評価を目的に、前向きコホート研究を系統的にレビューし、メタ解析を行った(イラン・アバダン医科大学の助成を受けた)。 2021年4月30日の時点で、医学データベース(PubMed、Scopus、ISI Web of Science、Google Scholar)に登録された文献を検索した。解析には、成人(年齢18歳以上)を対象とした前向きコホート研究で、ALAの食事摂取量または組織バイオマーカー(脂肪組織、血液)と、全死因死亡、CVD死、CHD死、がん死との関連の相対リスク推定値(ハザード比[HR]、オッズ比[OR]、95%信頼区間[CI])のデータを記載した論文が含まれた。 メタ解析では、食事によるALA摂取量が最も多い集団の最も少ない集団に対する要約相対リスクと95%CI値が算出された。また、用量反応解析で、ALA摂取量と死亡の用量反応的関連の評価が行われた。全死因死亡やCVD死、CHD死のリスクが有意に低下 前向きコホート研究の41の論文(1991~2021年に出版、年齢幅18~98歳、各試験の参加者数の範囲162~52万1,120例、全参加者数119万7,564例)が、系統的レビューとメタ解析の対象となった。各試験の追跡期間は2~32年で、この間に19万8,113例が死亡し、このうち6万2,773例がCVD死、6万5,954例はがん死であった。 変量効果モデルによるメタ解析では、ALA摂取量が最も多い群(1日当たりの摂取量中央値:1.59g、IQR:1.26~2.25)は最も少ない群(0.73g、0.36~0.89)に比べ、全死因死亡(統合相対リスク:0.90、95%CI:0.83~0.97、I2=77.8%、15試験)のリスクが有意に低かった。絶対リスク差は-113(95%CI:-192~-34)であり、最高摂取量群では1万人年当たり113件の全死因死亡が回避されることが示された。 また、最高摂取量群は最低摂取量群に比べ、CVD死(統合相対リスク:0.92、95%CI:0.86~0.99、I2=48.2%、16試験)およびCHD死(0.89、0.81~0.97、I2=5.6%、9試験)のリスクも有意に低下したが、がん死(1.06、1.02~1.11、I2=3.8%、10試験)のリスクはわずかに増加した。 一方、線形用量反応解析では、ALA摂取量が1日当たり1g(キャノーラ油大さじ1杯またはクルミ0.5オンス相当)増加すると、全死因死亡(統合相対リスク:0.95、95%CI:0.91~0.99、I2=76.2%、12試験)とCVD死(0.95、0.91~0.98、I2=30.7%、14試験)のリスクがいずれも5%低下した。 ALA組織内濃度が最も高い群は最も低い群に比べ、全死因死亡のリスクが有意に低かった(統合相対リスク:0.95、95%CI:0.90~0.99、I2=8.2%、26試験)。また、ALA血中濃度の1標準偏差の増加ごとに、CHDによる死亡のリスクが有意に低下した(0.92、0.86~0.98、I2=37.1%、14試験)。 著者は、「メタ解析に含まれた試験の多くは欧米の研究であるため、これらの知見を全世界の人口に当てはめるには慎重を期すべきと考えられる。また、ALAの潜在的な健康効果をより包括的に評価し、ALAを多く含む特定の食品が、がんや他の原因による死亡とは異なる関連を持つかを評価するために、ALAとより広範な死因の関連について検討する研究を行う必要がある」としている。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第13回

コクラン・ライブラリー~該当フル・レビュー論文を読み込んでみるCQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後上記は、これまでブラッシュアップしてきた、われわれのCQとRQ(PECO)です。前回、コクラン・ライブラリーで”low protein diet”をキーワードに関連先行研究を検索したところ、読み込むべきフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)として、下記の2編が挙げられました。Low protein diets for non‐diabetic adults with chronic kidney disease(慢性腎臓病を有する非糖尿病成人のための低たんぱく食)1)Protein restriction for diabetic renal disease(糖尿病性腎疾患に対するたんぱく摂取制限)2)文献1)の書誌情報を確認してみると、連載第11回でUpToDate®の活用法を解説した際に引用した文献3)と論文タイトルが若干異なり、また筆頭著者名が変更され、出版年も2009から2020に変わっています。しかし、コクラン・ライブラリー収載フル・レビュー論文の固有IDであるCD番号(CD001892)は同一であり、文献1)は文献3)の「アップデート論文」であることに気が付きます。コクランでは新しいエビデンスを取り入れるために、定期的なフル・レビュー論文のアップデートを著者に求めています。コクラン・ライブラリーのホームページでこの最新のフル・レビュー論文1)を見ると、タイトル、著者名の直下に、Version published: 29 October 2020 Version historyとの記載があります。また、“Version history”には更新履歴のリンクが貼られており、クリックすると2000年11月出版の初版から、2006年4月、2009年7月3)、2018年10月、そして2020年10月の最新版まで計5回にわたってアップデートされていることがわかります。連載第11回執筆時点(2021年8月)では UpToDate®では2018年10月および2020年10月のアップデート論文1)はカバーされていないようでしたので、最新版1)のフル・レビュー論文の内容をチェックしてみましょう。UpToDate®で引用されたバージョン3)と比較すると、システマティック・レビュー(SR:systematic review)に組み込まれたランダム化比較試験(RCT:randomized controlled trial)は10編(解析対象患者数2,000名)から17編(解析対象患者数2,996名)に増えていました。また、UpToDate®で引用されたバージョン3)では行われていなかった、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)と超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)の比較もなされています。その結果は下記の様に記述されています。超低たんぱく食は低たんぱく食と比較して末期腎不全(透析導入)に到るリスクは35%減少する(相対リスク[RR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.49~0.85)が、推定糸球体濾過量(eGFR)の変化に影響を及ぼすかは不明であり、死亡のリスク(RR:1.26、95%CI:0.62~2.54)にはおそらく差はなかった(筆者による意訳)。われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ) は0.5g/kg/標準体重/日未満という厳格な低たんぱく食の効果を検証しようとするものです。このRQにより役立つ先行研究からの知見が、UpToDate®では網羅されてない最新のフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)で言及されていることに気が付きます。これまで述べてきたように、診療ガイドライン、UpToDate®、コクラン・ライブラリー、などの質の高い2次情報源を補完的に活用することにより、効率的で網羅的な関連先行研究のレビューを行うことができるのです。1)Hahn D et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 29;10:CD001892.2)Robertson L et al.Cochrane Database Syst Rev.2000;CD002181. 3)Fouque D et al. Cochrane Database Syst Rev.2009 Jul 08;3;CD001892.

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ブレークスルー感染、重症化因子に肥満や心疾患

 ブレークスルー感染で重症化する患者の特性は何か。米国で行われた研究結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版9月7日号に掲載された。 イエール医科大学のPrerak V. Juthani氏らはイエール大学のヘルスケアシステムのデータを使い、SARS-CoV-2感染が確認された入院患者を対象としたシステマティックレビューを行った。2021年3月23日~7月1日にSARS-CoV-2で入院した患者(入院時にPCR検査で陽性)を対象とした。接種したワクチンはmRNA-1273(モデルナ製)、BNT162b2(ファイザー製)、Ad.26.COV2.S(Janssen製)で、ワクチンの完全接種は症状発現または検査陽性より少なくとも14日前にワクチン接種を完了(モデルナ製、ファイザー製は2回、Janssen製は1回)していること、とした。 主な結果は以下のとおり。・イエール大学の関連病院に入院した969例の陽性患者のうち 172 例(18%)が入院時に少なくとも 1 回ワクチンを接種していた。このうち103例は部分接種(モデルナ製またはファイザー製1回)、15例は完全接種ながら接種から14日が経過しておらず、54例が完全接種でブレークスルー感染と認定された。・ブレークスルー感染の54例の重症度を評価したところ、25例(46%)が無症状、4例(7%)が軽度、11例(20%)が中等度、14例(26%)が重症または重篤だった。・重症・重篤患者の年齢中央値は80.5(IQR:76.5~85.0)歳で、14例中4例が集中治療を必要とし、1例が人工呼吸を必要とし、3例が死亡した。・重症・重篤患者14例の既往症は、過体重(BMI25kg/m2以上、n=9)、心血管疾患(n=12)、肺疾患(n=7)、悪性腫瘍(n=4)、2型糖尿病(n=7)、免疫抑制剤の使用(n=4)などであった。14例中13例がファイザー製を接種していた。 著者らは、以下のようにまとめている。・入院患者の5分の1が少なくとも1回のワクチン接種を受けていたが、その多くは完全接種ではなく、ワクチンの高い感染予防や重症化予防効果が確認された。・ブレークスルー感染例の4分の1が重症化したことは、ワクチンの有効性を減じる変異株の出現や高齢、過体重、免疫抑制剤の使用などの合併症を持つ患者ではワクチンに対する免疫反応が効かないなど、さまざまな因子を反映していると考えられる。・ファイザー製接種者はモデルナ製やJanssen製に比べ、ブレークスルー感染後の重症化例が多かった(2021年5月17日までにコネチカット州で配布されたワクチンはファイザー製135万8,175、モデルナ製104万4,420、Janssen製26万7,000)。・今後の研究では、ブレークスルー感染者のワクチン応答が不十分である因子を特定し、緩和することが必要である。

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浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第7回

第7回 浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!―Key Point―片側性の下腿浮腫は、深部静脈血栓症の可能性を第一に考える突然発症の浮腫はアナフィラキシーや血管浮腫を想起する薬剤が原因で浮腫を起こすことがある症例:73歳女性主訴)左下肢腫脹現病歴)4日前から左下肢が腫れてきた。膝背部や大腿が椅子に座ると痛む。近くの診療所からリンパ浮腫の疑いと紹介があった。胸痛や歩行時の息切れはない。既往歴)特になし身体所見)バイタルサインは体温:36.4℃、血圧111/59mmHg、心拍数63回/分、呼吸数20回/分、SpO2 95%(室内気)。意識清明、左下肢全体に浮腫と発赤があった。経過)鑑別診断として深部静脈血栓症と蜂窩織炎を考えた。骨盤造影CT検査を行い左総腸骨静脈血栓症と診断した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!どの部位に浮腫があるか発症形式(時期)病態生理【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】浮腫の部位、発症形式に注目し、病態生理を考える全身性浮腫心不全、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症、甲状腺機能低下症、薬剤(Ca拮抗薬、NSAIDs、ステロイド、シクロスポリン)局所性浮腫口唇(血管浮腫)、上肢(上大静脈症候群)、片側下肢(深部静脈血栓症、蜂窩織炎、リンパ浮腫)発症形式(時期)突然発症(数分以内)アナフィラキシー、血管浮腫急性発症(数日)深部静脈血栓症、蜂窩織炎、急性糸球体腎炎慢性(数ヵ月)心不全、肝硬変、静脈不全病態生理1)患部を指で圧迫する非圧痕性浮腫甲状腺機能低下症、リンパ浮腫圧痕性浮腫fast edema(40秒以内に圧痕が消失)なら低アルブミン血症、slow edema (40秒経っても圧痕が残る)なら心不全、静脈不全2)血栓の有無や静脈不全を見逃さない血栓片側性下腿浮腫では、深部静脈血栓症→肺塞栓の可能性を第一に考える。悪性腫瘍(とくに腺がん)に伴う過凝固が原因で深部静脈血栓症ができることもある。静脈不全見逃されていることが多い。内果の血管拡張、うっ滞性皮膚炎、静脈瘤、足関節付近の色素沈着、下腿潰瘍があれば疑う。3)浮腫の原因は複合的なことが多い1)[例]薬剤(Ca拮抗薬)+静脈不全+塩分過多+長時間の立位図)正常と静脈不全の下肢2)画像を拡大する【STEP3】治療を検討する● 深部静脈血栓症抗凝固療法● 静脈不全塩分制限、下肢挙上、弾性ストッキング● 薬剤性薬剤の中止<参考文献・資料>1)高橋良. 本当に使える症候学の話をしよう. じほう.2020.p.124-154.2)Thai KE, at al. Fitzpatrick’s Dermatology in General Medicine. 7th. 2007.p.1680.

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進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは【見落とさない!がんの心毒性】第7回

今回のお話ひと昔前までの放射線治療(RT)では、がん病変に関連した広範囲を対象に照射していたため、ホジキンリンパ腫、乳がん、食道がん、肺がんなど胸部RTが必要ながん腫では心臓縦隔が広範囲に照射されてしまい、急性期および遠隔慢性期に放射線関連心血管合併症(RACD :Radiation Associated Cardiovascular diseases:)を発症していました。しかし、最近は心臓回避技術の向上、いわゆるRTのオーダーメイド治療が進化しRACDの発症頻度は減少しています。ゆえに一昔前と同様の考察でRACDに対峙していては時代遅れです。一方、放射線による組織障害、その結果として生じた心血管障害への対応には案外これまで通りのRACDへの理解が不可欠であり、RACDリスク管理として一般的心血管リスク因子の適正化が重要です。つまるところ、従来から循環器医が注力している診療要素がここでも大事なのは明らかで、結局は、臨床におけるRACDに対する急な理論武装は不要な様に思っています。もちろん、現代のRTに精通し、それによる新規RACDへの探究は極めて重要と考えますが、まずは基本に忠実な診療を施す事、そしてこれは放射線治療医の先生方へのお願いとなりますがRACDスクリーニングへも目を向ける重要性をお届けしたいと思います。そのほかにも、最新RTが不整脈治療に有効となる可能性!? なんていう話題についてもご紹介してみたいと思います。なお、RACDという表記について、別のRIHD(Radiation Induced Heart Disease)の表記も見かけます。この領域において、まだ統一表記になっていないと理解しています。今回は筆者が従来から使用し、また今回2021年第4回日本腫瘍循環器学会でも表記で利用されたRACDを本稿では使用します。RACDの基本の基:平均心臓照射量とのリニアな関係まずは2013年NEJM誌からの報告です。乳がん患者においてRT治療後5年目から冠動脈イベント頻度は高まりはじめ、少なくとも20年間はリスクが続き、平均心臓照射量が多ければ多いほど冠動脈イベントの増加に関連する事が示されました1)(図1)。(図1)心臓への平均照射量に応じた冠動脈イベントの割合1)画像を拡大する「線量依存性」かつ「慢性期発症」というのがRACDの基本の基です。多くはないものの急性発症もある事は申し添えておきます。RACDの発症は近年の技術革新により減少しています。しかし、がん患者、がんサバイバーが更に増加する昨今、そして、高齢化により心疾患を抱えたRT患者の増加も想像にたやすく、今後も臨床においてRACDを診療する機会はなくならないでしょう。別途、胸部以外の部位へのRTでも炎症やほかの機序により心血管障害を起こす可能性もあるのですが2)、混乱を来すのでここでは扱いません。RTの技術革新、New RACDは従来型とは違うのか次にホジキンリンパ腫に対するRTを例に技術革新を紹介します3)。(図2)ホジキンリンパ腫に対するRTの時代ごとの変遷画像を拡大する(A)時代ごとで分かるRT技術革新。拡大放射線療法であるマントル照射(B)以前の治療法(D)(B)に比較しIMRTを用いたinvolved-site RTでは(C)心臓を回避したより限局的治療を可能とし、DIBH(deep inspiration breath-hold、深吸気呼吸停止)法も適用し心臓部位への照射量は軒並み抑えられています3)(図2)を見ると心臓への照射量は劇的に減少しています。強度変調放射線治療(IMRT:intensity-modulated RT)、定位放射線治療(SRT:Stereotactic RT)のほか、粒子線治療といった高精度放射線療法の導入により、オーダーメイド放射線治療ができるようになった近年、一昔前のRTと現在のものとでは、もう同等比較はできません。心臓照射はより回避され、がん病変へのより限局的治療へと進化し、冠動脈、心筋、弁膜など心臓内の各重要部位が回避できるRTに進化を遂げています。この新時代RTいわゆるNew RACDは従来のものとは異なり、より限局的な心血管障害になるでしょうし、患者毎、がん病変毎で個々に異なるRACDの病態を呈する前提で行われていくでしょう。そういう意味で、New RACDとRACDは確実に異なります。問題点は…当の小生もですが、New RACDについて深く語れるほど循環器医がRTの進化に追いついておらず、New RACDの詳細を大して認識できていないという事です。ただし、New RACDの発症形態、特有の予後などまだ不明な点が多いものの、結果として生じた心血管系組織障害に対する臨床的対応はそれほど変わらないとも言えます。 結局、主治医がとるべき臨床的対応は、従来のRACDに対するものとさほど変わらないのではないかと思っています。よく知られているRACD前述した通り、New RACDはより限局的な心血管障害となり、発症形態は従来のRACDとは異なると推察されます。、その臨床的病型について、注意点はこれまでとさほど変わらないとし、まずはRACDの代表的な所をお示しします。RACDとしておさえておきたい病態を(図3)に示しました4),5)。RTにより心室では拘束性障害や収縮性障害をきたします。そのほか、冠動脈硬化、弁膜硬化、刺激伝導障害、自律神経機能障害、心膜疾患、心嚢水貯留、上行大動脈の全周性高度石灰化 (porcelain aorta)などが生じます。(図3)RACDとして挙げられる心臓関連病態4),5)画像を拡大するRACDの多くは遠隔慢性期に発症―RT後にも症例に応じたRACDスクリーニング計画、心血管リスク因子の適正化が重要RACDの特徴は急性期障害もあるものの、問題の多くが治療後遠隔期の慢性期障害となる事です。ゆえに、がん治療病院の管理から離れた後に発症する懸念から、いかにあらかじめの患者教育が大事かということになります。そして、RACDリスクが高い患者にはRT後の定期的なRACDスクリーニングの計画が推奨されます。(表1)にRACDのリスク因子を示しました。中には「心血管疾患リスク因子の保有」とあります。この心血管疾患リスク因子管理がRACDの進行回避において非常に重要なのです。そして、項目にある「コバルト線源」については近年における臨床現場ではあまり一般的治療ではないと聞いています。ただし、過去に治療歴がある患者の場合には注意すべきであり知っておくことは望ましいですよね。(表1)RACDのリスク因子4),7)RACDによる冠動脈病変は周囲組織を含め硬化が強くPCIでもバイパス手術でも成績が不良と言われます6)。これらを改善させるためにもスクリーニングによる早期検出で少しでも安全な治療が可能になる事に期待がもたれます。(図4)にはスクリーニングを含めたRACD管理アルゴリズムを示しました。(図4)RACD管理アルゴリズム5),8)画像を拡大する逆の発想!?心室性不整脈に対するRTの可能性RACDを起こす放射線障害ですが、その組織傷害性を利用したRTによる不整脈源性障害心筋への治療利用が考えられています。phase I/II ENCORE-VT(Electrophysiology-Guided Noninvasive Cardiac Radioablation for Ventricular Tachycardia) trialが行われ、難治性心室性頻拍に対してその有効性と安全性が報告されました9)。今後、そういう治療が主流になって行くのでしょうか、興味津々です。おわりに進化したRTによるRACD、いわゆるNew RACDについて、発症形態や予後など不明な点が多く、われわれはそれを明らかにすべく更なる探求が必要であると思います。しかし、その臨床的対応については、まずは従来のRACD対する対応と大きく変える必要は無いのではないでしょうか。重要なのは、治療後遠隔慢性期の発症形態をとるRACDの発見が遅れないよう、あらかじめ患者教育を施し、RACDリスク因子となる高血圧、糖尿病、脂質異常などのリスク管理、そしてRACDに対するスクリーニングの計画が検討される事、つまりRT後の患者が放置されない医療的アプローチが肝要であるのだと思います。循環器医も腫瘍科医も現段階ではRT新時代に取り残されているのかもしれませんが、これまでの知識や経験をもってNew RACDへ対応して行くことが先決でしょう。また、そんな状況だからこそ、腫瘍科医や放射線科医、そして循環器医が互いの強みを発揮しながらの協働が必要になってくるわけです。そして、当然、新世代RT特有のNew RACDの側面も今後明らかになってくることにも期待が高まります。最新の情報をアップデートしていきましょう。1)Darby SC, et al. N Engl J Med. 2013;368:987-998.2)Haugnes HS, et al. J Clin Oncol. 2010;28:4649-4657.3)Bergom C, et al. JACC CardioOnc. 2021;3:343-359.4)Desai MY, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:905-927.5)志賀太郎編. 医学書院. 2021. 循環器ジャーナル.(II章, がん放射線療法に関連した心血管合併症[RACD])6)Reed GW, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2016;9:e003483.7)Jaworski C, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:2319-2328.8)Ganatra S, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2020;2:655-660.9)Robinson C, et al. Circulation. 2019;139:313-321.講師紹介

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デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用および体重減少作用は基礎インスリン デグルデクより優れている(解説:住谷哲氏)

 SURPASS-3はデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの臨床開発プログラムSURPASS seriesの一つであり、基礎インスリンであるデグルデクとのhead-to-head試験である。2018年にADA/EASDの血糖管理アルゴリズムがGLP-1受容体作動薬を最初に投与すべき注射薬として推奨するまでは、経口血糖降下薬のみで目標とする血糖コントロールが達成できない場合には基礎インスリンの投与がgold standardであった。特に持効型インスリンであるグラルギンの登場後は、BOT(basal-supported oral therapy)として広く一般臨床でも用いられるようになっている。 tirzepatideは5mg、10mg、15mgの3用量が設定され、2.5mg/週から開始し4週ごとに増量された。一方デグルデクは10単位/日から開始し、treat-to-target法により自己血糖測定による空腹時血糖値FBG<90mg/dLを目標として1週間ごとに増量された。デグルデクは毎日投与であるがtirzepatideは週1回投与であり、maskingは不可能であるため試験デザインはopen-labelである。 結果は、主要評価項目である52週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。さらにHbA1c<7.0%、HbA1c<6.5%、HbA1c<5.7%の達成率も、tirzepatideの3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に高値であった。treat-to-target法を用いたことにより、FBGについては、5mg投与群ではデグルデク群に比して有意に高値であったが、10mgおよび15mg群ではデグルデク群との間に有意差は認められなかった。この結果から予想されるように、血糖日内変動における食後2時間後血糖値は、3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に低値であった。有害事象についても、<54mg/dLの低血糖の頻度は3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも少なかった。 経口血糖降下薬の多剤併用療法でも目標血糖値が達成されない患者において、次のステップとして基礎インスリン投与によるBOTが開始されることは現在でも少なくない。現時点でBOTは次第にGLP-1受容体作動薬に置き換わりつつあるが、近い将来デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬がGLP-1受容体作動薬に置き換わるのも現実的になってきたと思われる。

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ペムブロリズマブとルテチウム177の併用は去勢抵抗性前立腺がん治療に有望(PRINCE)/ESMO2021

 ルテチウム177-PSMA-617(LuPSMA)とペムブロリズマブの併用療法が、転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対して良好な効果と安全性を示すことが、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのShahneen Sandhu氏より、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)にて発表された。 今回のPRINCE試験は第I相b試験であり、試験薬のLuPSMAは、すでに欧米で承認され、その放射線による殺細胞作用と免疫チェックポイント阻害薬の併用効果が期待されていた。・対象:エンザルタミド、アビラテロン、アパルタミド、ドセタキセルの治療歴を有し、画像上PSMAの高発現が確認され、測定可能病変があるmCRPC・試験群:ペムブロリズマブ200mg 3週ごと最大35サイクル(2年間)まで+LuPSMA 6週ごと最大6サイクル投与・評価項目[主要評価項目]PSA値を50%以上低下させる割合(P-RR)、安全性[副次評価項目]画像評価による無増悪生存期間(rPFS)、PSA上昇をイベントとした無増悪生存期間(P-PFS)、全生存期間(OS) 主な結果は以下のとおり。・登録症例数は37例、年齢中央値72歳、グリソンスコア8以上が62%、全例でエンザルタミドかアビラテロンの前治療があり、ドセタキセル治療歴ありも70%であった。・一般的な有害事象は、Grade1/2が、口腔乾燥76%、全身倦怠感43%、発疹25%など。血液毒性は血小板減少14%、貧血8%、好中球減少3%などであった。・Grade3の免疫関連有害事象として、大腸炎2例、膵炎、腎炎、糖尿病、筋無力症などがそれぞれ1例ずつ報告された。・追跡期間中央値38週時点のP-RRは73%であった。・治療開始から12週時点で、PSMAが発現なく血中循環腫瘍細胞(CTC)の検出がなかった症例は61%であった。・24週時点でのrPFS率は65%、P-PFS率は68%であった。 演者は最後に「ペムブロリズマブの生存に対する寄与を評価するためにはさらなる追跡期間が必要であり、腫瘍環境の精査にはバイオマーカーの評価も必要である」と結んだ。

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男性の抑うつ症状や肥満の改善に対するeHealthプログラムの影響

 肥満とうつ病は、男性において相互に関連する健康上の問題であるにもかかわらず、これらの問題を管理するためのサポートは十分に行われていない。オーストラリア・ニューカッスル大学のMyles D. Young氏らは、セルフガイドのeHealthプログラム(SHED-IT:Recharge)が過体重または肥満の改善および抑うつ症状の改善に寄与するかについて、検討を行った。Journal of Consulting and Clinical Psychology誌2021年8月号の報告。 抑うつ症状(PHQ-9スコア5以上)を有するBMI 25~42kg/m2の男性125例を対象に6ヵ月間のランダム化比較試験(RCT)を実施した。対象患者は、eHealthプログラム群62例または対照群63例にランダムに割り付けられた。3ヵ月間のプログラムは、印刷物およびオンライン(Webサイト、インタラクティブモジュールなど)を用いて実施した。プログラムは、エビデンスに基づく男性のダイエットプログラムにメンタルフィットネスを加えて行った。主要アウトカムは、3ヵ月後の体重および抑うつ症状の変化とした。評価は、ベースライン時、3ヵ月後、6ヵ月後に行った。プログラムのアウトカムを調査するため、治療企図(ITT)線形混合モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・3ヵ月後、体重および抑うつ症状の改善に対する中程度の効果が認められた。 ●体重(調整後平均差:-3.1kg、95%CI:-4.3~-1.9、d=0.9) ●抑うつ症状(調整後平均差:-2.4、95%CI:-4.0~-0.9、d=0.6)・これらの効果は、6ヵ月間持続しており、他の健康アウトカムの継続的な改善によりサポートされた。 著者らは「ダイエットプログラムとメンタルヘルスサポートを組み合わせたセルフガイドのeHealthプログラムの実施により、男性の抑うつ症状や肥満の改善が認められた。身体的および精神的な問題を抱える患者を対象とした統合的介入は、効果的な治療戦略である可能性が示唆された」としている。

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新世代ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneは2型糖尿病性腎臓病において心・腎イベントを軽減する(FIGARO-DKD研究)(解説:栗山哲氏)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は心血管リスクを軽減 心・腎臓障害の一因としてミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰発現が知られている。MR拮抗薬(MRA)が心血管系イベントを抑制し、生命予後を改善するとのエビデンスは、RALES(1999年、スピロノラクトン)やEPHESUS(2003年、エプレレノン)において示されている。そのため、実臨床においてもMRAは慢性心不全や高血圧症に標準的治療として適応症をとっている。 2型糖尿病は、長期に観察すると高頻度(約40%)に腎障害(Diabetic Kidney Disease:DKD)を合併し、生命予後を規定する。DKDに対しては、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬が第一選択であるが、この根拠はLewis研究、MARVAL、RENAAL、IDNT、IRMA2など、多くの検証により裏付けされている。一方、RAS阻害薬によっても尿アルブミン低減が十分でない症例も少なからずあり、より一層の腎保護効果、尿アルブミン低減効果を期待できる薬物療法が求められている。ステロイド型MRAであるスピロノラクトンやエプレレノンは、降圧効果だけでなく、ACE阻害薬やARBとの併用で一層の尿アルブミン低減効果が示唆されている。しかし、これらのMRAは、高K血症の誘発や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を引き起こすことが問題視されている。とくにエプレレノンは、DKDや中等度以上のCKDでは禁忌である。 最近、新世代の非ステロイド型選択的MRAとしてエサキセレノンやfinerenoneなどが開発され、本稿で紹介するFIGARO-DKDなどの臨床研究が進んでいる、しかし、はたしてこれら新規薬剤がDKDの心・腎保護において真に「新たな一手」となりうるかは現時点で必ずしも明確でない。FIGARO-DKDの概要 Finerenoneは、MR選択性が高い非ステロイド型選択的MRAである。2015年Bakrisらは、finerenoneの初めてのランダム化試験を行い、DKD患者において尿アルブミン低減効果を報告した(Bakris GL, et al. JAMA. 2015;314:884-894.)。FIGARO-DKDは、2021年8月に開催された欧州心臓病学会(ESC 2021)において米国・ミシガン大学のPittらにより、2型糖尿病と合併するCKD患者においてfinerenoneの上乗せ効果が発表された。本研究は、欧州、日本、中国、米国など48ヵ国が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験である。対象は、18歳以上の2型糖尿病患者とDKD患者7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。対象患者は、最大用量のRAS阻害薬(ACE阻害薬あるいはARB)が受容された患者であり、実薬群でfinerenoneの上乗せ効果を観察した。腎機能からは、持続性アルブミン尿が中等度(尿アルブミン/クレアチニン比[ACR]:30~<300)でeGFRが25~90mL/min/1.73m2(ステージ2~4のCKD)、あるいは持続性アルブミン尿が高度(尿ACR:300~5,000)でeGFRが≧60mL/min/1.73m2(ステージ1~2のCKD)の群について解析された。開始時の血清K値は4.8mEq/L以下であった。 主要エンドポイント(EP)は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の心血管複合アウトカムであり、副次EPとして、末期腎不全(ESRD)、eGFRの40%以上の持続的な低下、腎関連死など、腎複合アウトカムである。結果は、主要EPのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)であり、前者で有意に良好であった(HR:0.87、95%CI:0.76~0.98、p=0.03)。その内訳は、心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で有意に低かった。一方、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中には差異はみられなかった。なお、収縮期血圧は、4ヵ月で-3.5mmHg、24ヵ月で-2.6mmHg低下した。副次EPは腎関連で、ESRDへの進展がfinerenone群(0.9%)でプラセボ群(1.3%)に比し有意に低値であった(HR:0.64、95%CI:0.41~0.995)。さらに、尿ACRは、finerenone群でプラセボ群に比し32%低下した(HR:0.68、95%CI:0.65~0.70)。腎複合アウトカムであるeGFRの基礎値からの57%低下と腎関連死の評価においても、finerenone群(2.9%)はプラセボ群(3.8%)より低値であった(HR:0.77、95%CI:0.60~0.99)。一方、高K血症(5.5mEq/L以上)の発現頻度は、finerenone群はプラセボ群の約2倍であった(10.8% vs.5.3%)。 以上の成績から、RAS阻害薬へのfinerenoneの上乗せ療法は、CKDステージ2~4で中等度のアルブミン尿を呈するDKD患者と、CKDステージ1~2で高度のアルブミン尿を呈するDKD患者の両者において、心血管アウトカムを改善すると結論された。FIGARO-DKDとFIDELIO-DKD FIGARO-DKDに先行し、2020年のNEJM誌に類似の研究FIDELIO-DKDが発表されている。両者の基本的な差異は、(1)主要EP:FIDELIO-DKDは腎複合、FIGARO-DKDは心血管複合、(2)平均eGFR:FIDELIOで44mL/min/1.73m2、FIGAROで68mL/min/1.73m2、(3)追跡期間中央値:FIDELIOで2.6年、FIGAROでは3.4年と、やや長い点である。 FIDELIO-DKDの結果、主要EPは腎複合アウトカムで18%低下、副次EPとして心血管複合アウトカムは14%低下した。このことから、finerenoneの上乗せ療法は、CKDの進展と心血管系イベントを抑制し、心・腎リスクを低下させることが示唆された。ただし、FIDELIO-DKDにおいて高K血症の発現頻度は、finerenone群でプラセボ群(21.7% vs.9.8%)より多く、これはFIGARO-DKDの頻度に比べて約2倍であった。 研究の患者背景や試験デザインに差異はあるものの、2021年のFIGARO-DKDは、2020年のFIDELIO-DKDと同様、finerenoneの心・腎保護作用を追従した結果であった。とくに、腎機能が正常なDKD患者でのFIGARO-DKDにおいて心血管系イベントの抑制効果が再現されたことは、MRAによる早期介入の重要性を示唆するものであり、臨床的意義はある。わが国の新規透析導入の原因疾患の第1位が糖尿病によるDKDであることから、新規非ステロイド型MRA、finerenoneによる薬物治療は一定の光明をもたらす期待がある。MRAの上乗せはDKD治療として生き残れるか? 振り返ると、2010年ごろまでの状況においては、2型糖尿病を合併するCKD患者では、RAS阻害薬とMRAを併用することが標準治療となる可能性が期待されていた。しかし、2015年から普及したSGLT2阻害薬は、DKD治療に劇的なインパクトを与えた。すなわち、2015年から2019年にかけてEMPA-REG OUTCOME、CANVAS、CREDENCE、DECLARE-TIMI 58でSGLT2阻害薬の心血管イベント改善や腎保護が次々に明らかにされた。さらに、2019年から2021年にはEMPEROR-Preserved、Emperor-Reduced、DAPA-HF、DAPA-CKDなどにより、糖尿病CKDに限らず、非糖尿病CKDの心・腎保護のエビデンスも集積されてきた。これらのSGLT2阻害薬の成績は、血糖降下療法に確実な心・腎保護のエビデンスの報告が少なかった時代を経験してきた著者ら腎臓・糖尿内科医にとっては、まさに青天の霹靂なる大きな驚きであった。GLP-1受容体アゴニスト(GLP-1 RA)についても、SUSTAIN、REWIND、LEADERなどで心血管リスクや腎保護が観察され、DKD治療学の根幹が大きく変わろうとしている。欧米のレスポンスは迅速で、「KDIGOガイドライン2020年版」においては、DKDに対する第一選択としてRAS阻害薬と共にメトホルミンとSGLT2阻害薬の併用が推奨されている。 MRAのDKD治療上の位置付けに関しては、「KDIGOガイドライン2020年版」では、DKD治療の難治例に限り使用が推奨されている。確かに、SGLT2阻害薬やGLP-1 RAがなかった時代を時系列で振り返ると、治療抵抗性DKDの腎保護に対してRAS阻害薬とMRAの2剤によるdual blockadeで腎保護を目指すのは、一戦略ではあった。しかし、上述したごとくSGLT2阻害薬とGLP-1 RAの登場と関連する多くの心・腎保護のエビデンス集積から、MRAを上乗せする選択枝に疑問が生じつつある。その最も大きな問題点は、やはり高K血症であろう。MR阻害によるアルドステロン作用の低下が、高K血症を招来させることは自明である。DKDの病態には、普遍的に低レニン性低アルドステロン症(Hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)が存在する。HRHAの病態下では、アルドステロン作用の低下から高K血症を来しやすい。また、DKDによる腎機能低下は、Kクリアランス低下から高K血症を助長する。RAS抑制薬とMRAのdual blockadeが、DKDでは期待するほどのベネフィットはないと考えるのは、腎臓専門医の立場からの著者の独断と偏見ではないであろう。とはいうものの、DKD治療を離れ循環器専門医の立場から考えると、MRAの慢性心不全への心保護のメリットは決して否定されるものではない。 なお、2019年に日本で開発された非ステロイド型選択的MRA・エサキセレノンもRAS阻害薬との併用療法に期待が持たれている。2型糖尿病で微量アルブミン尿(ACR:45~<300)を呈するDKD患者449例を対象にした第III相ランダム化試験(ESAX-DN試験、Ito S, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2020;15:1715-1727.)において、プラセボに比べ尿ACRの低下は認めるものの、5.5mEq/L以上の高K血症出現率は4倍と高頻度であった。本剤の適応症は高血圧症のみであり、現時点でDKDや慢性心不全への適応拡大は未定である。

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