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高齢者糖尿病診療ガイドライン2023、薬物療法のエビデンス増え7年ぶりに改訂

 日本老年医学会・日本糖尿病学会の合同編集である『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が5月に発刊された。2017年時にはなかった高齢者糖尿病における認知症、サルコペニア、併存疾患、糖尿病治療薬などのエビデンスが集積したことで7年ぶりの改訂に至った。今回、日本老年医学会の編集委員を務めた荒木 厚氏(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の改訂点について話を聞いた。 高齢者糖尿病とは、「65歳以上の糖尿病」と定義されるが、医学的な観点や治療、介護上でとくに注意すべき糖尿病高齢者として「75歳以上の高齢者と、身体機能や認知機能の低下がある65~74歳の糖尿病」と、より具体的な定義付けもなされている。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023の改訂ポイント6点 日本老年医学会、日本糖尿病学会の両学会は上記のような高齢者糖尿病患者における「低血糖による弊害」「認知症などの併存疾患の影響」などの課題解決のために2015年に合同委員会を設立、その2年後に高齢者糖尿病診療ガイドライン2017年版を発刊した。当時は治療薬のエビデンスなどが乏しかったが、国内外の新しいエビデンスが集積したこと、新薬が登場したこと、そして併存疾患に対する対策や治療目的が明確になったことから、今回6年ぶりの発刊となった。そのような背景のある『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』について、荒木氏は改訂ポイント6点を示した。<注目すべき6つのポイント>1)2017年時点では得られていなかった認知症、フレイル、サルコペニア、悪性腫瘍、心不全などの併存疾患やmultimorbidityに関するエビデンスが記載されている、Question・CQ(Clinical Question)に反映2)血糖コントロール目標を設定するためのカテゴリー分類を行うことができる認知・生活機能質問票(DASC-21)を掲載[p.228付録3]3)運動療法が糖尿病のみならず認知機能やフレイルにも良い影響を与える4)薬物療法ではSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の心血管疾患や腎イベントに対するリスク低減効果に関するエビデンスも集積5)2型糖尿病患者の注射のアドヒアランス低下の対策として、インスリン治療の単純化を記載6)社会サポート制度の活用 このほか、「高齢者糖尿病患者の背景・特徴については第I章に、治療については第IX章p.151~170に掲載されているので一読してほしい」とし、「治療の基本的な内容は『糖尿病治療ガイド2022-2023』にのっとっているので、両書を併せて読むことが理解につながる」とも話した。インスリン治療の単純化はアドヒアランス向上だけでなく、低血糖を減らす 高齢者の場合、腎・肝機能低下による薬剤の排泄・代謝遅延から有害事象を来しやすい。そのため低血糖をはじめ、これまで注意点が強調されることが多かった。一方で、高齢者糖尿病ではポリファーマシーになりやすく、さらに認知機能障害のため服薬アドヒアランスの低下を来しやすい。そのため減薬だけでなく、複雑な処方をシンプルにする“治療の単純化”を行うことが必要になる。2型糖尿病のインスリン治療においても注射のアドヒアランス低下の対策としてインスリン治療の単純化を行う研究が行われている。 これについて同氏は「たとえば、インスリン注射を1日複数回注射している2型糖尿病患者の場合、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などを追加することでインスリン投与回数を1日1回の持効型インスリンのみにすることが治療の単純化となる。このインスリン治療の単純化は、注射回数を1回にしても血糖コントロールは変わらない、もしくは改善し、インスリンの単位数が減ることで低血糖が減ることも報告されてきているため、インスリン治療の単純化は低血糖回避という観点からも有用であると考える。また、複数回のインスリン注射を週1回のGLP-1受容体作動薬やインスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更にすることも治療の単純化となり、低血糖を減らすことが可能となる」とコメント。「これは高齢者のインスリン治療法の大きな進歩」だとも述べ、また、「絶食の不要な経口のGLP-1受容体作動薬において種々の製剤が開発中であり、今後のインスリン治療の単純化にも役立つ可能性がある」ともコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドラインにSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のCQ追加SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は心・腎イベントに関するCQが『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』に新たに盛り込まれた。―――CQ IX-2:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は心血管イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ IX-3:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ X-1:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑制する【推奨グレードA】。CQ X-2:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。――― これについて「高齢者糖尿病においてもSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用は心・腎イベントのリスクや心不全による再入院リスクを低減させるエビデンスがあり、additional benefitがあることが明らかになった。したがって、この両剤はこれらの心・腎に対するベネフィットと副作用のリスクのバランスを考慮しながら使用する必要がある」と同氏はコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023でマルチコンポーネント運動を推奨 高齢者糖尿病でも若年者同様に運動療法は推奨され、血糖コントロールのみならず脂質異常症、高血圧、生命予後などの改善に有効とされ、『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』でも推奨されている。また、糖尿病のない患者と比べ筋量が減少しやすいため、サルコペニア予防としても重要な位置付けにある。今回、有酸素運動・レジスタンス運動・バランス運動・ストレッチングを組み合わせたマルチコンポーネント運動も推奨されている。ただし、高齢者糖尿病患者が行う際には、年齢や合併症、併存疾患、生活スタイルに合わせることがポイントである。 最後に同氏は、地域社会で高齢者糖尿病患者を支えることが今後より一層求められる時代になることから、『社会サポート制度』(p.217)についても言及し、「認知症然り、糖尿病でも地域で生活を続けていけるように、各自治体で高齢者糖尿病のQOLに寄り添うサービスが設けられている場合がある。たとえば、デイケア、通いの場、訪問看護、訪問栄養指導、訪問薬剤指導がそうであるが、そのようなサービスの存在に踏み込んだことも、本改訂での大きな特徴とも言える」と話した。

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認知症リスクが高まるHbA1c値は?

 高血糖状態が続くと、アルツハイマー型認知症の原因となる「アミロイドβ」が溜まりやすくなり、認知症発症リスクが高まるとされる。糖尿病患者が認知症リスクを減らすために目標とすべき血糖コントロールはどの程度か。オーストラリア・National Centre for Healthy AgeingのChris Moran氏らの研究がJAMA neurology誌2023年6月1日号に掲載された。 1996年1月1日~2015年9月30日の期間中、50歳以上の2型糖尿病を有するKaiser Permanente Northern California統合医療システムの会員を対象とした。期間中のHbA1c測定が2回未満、ベースライン時の認知症有病者、追跡期間3年未満の者は除外した。データは2020年2月~2023年1月に解析された。 参加者はHbA1c値が6%未満、6~7%未満、7~8%未満、8~9%未満、9~10%未満、10%以上に該当する割合に基づいて分類された。検査回数が増え、新たな測定値が追加されるごとに、血糖値の累積状態を再計算した。主要アウトカムは認知症の発症で、診断は国際疾病分類第9改訂版のコードを用いた。Cox比例ハザード回帰モデルにより、年齢、人種および民族、ベースラインの健康状態、HbA1c測定回数を調整した上で、累積血糖曝露と認知症との関連を推定した。 主な結果は以下のとおり。・計25万3,211例が登録され、参加者の平均年齢は61.5(SD 9.4)歳、53.1%が男性であった。追跡期間の平均は5.9(SD 4.5)年であった。・測定されたHbA1c値の50%超が9~10%未満または10%以上であった参加者は、50%以下であった参加者と比較して認知症リスクが高かった(9~10%未満の調整後ハザード比[aHR]:1.31[95%信頼区間[CI]:1.15~1.51]、10%以上のaHR:1.74[95%CI:1.62~1.86])。・対照的に、6%未満、6~7%未満、7~8%未満が50%超の参加者は認知症リスクが低かった(6%未満のaHR:0.92[95%CI:0.88~0.97]、6~7%未満のaHR:0.79[95%CI:0.77~0.81]、7~8%未満のaHR:0.93[95%CI:0.89~0.97])。 研究者は「HbA1c値が9%以上の期間が長い成人で認知症リスクが最も高かった。これらの結果は、高齢の2型糖尿病患者に対して現在推奨されている緩やかな血糖目標値を支持するものである」としている。

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第167回 「長期収載品は差額ベッドと同じ」、止められない自己負担化の流れ 「骨太の方針2023」で気になった2つのこと(前編)

山形・酒田で日本の人口減を再び実感こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、所用があって山形県の酒田市に行ってきました。酒田には取材や登山(鳥海山、月山)で度々訪れますが、行くたびに町が寂れていくのが気になります。3年前、酒田駅前におしゃれなホテルができました。しかし、その周辺の土地は“歯抜け”の状態。駐車場にもなっていない空き地も多く、町中には閉院した診療所もありました。「第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)」でも地方の医療機関の大変さについて書きましたが、新幹線が通っておらず、鉄路や車では大都市から時間がかかる地方都市の厳しさを、酒田に来て改めて実感しました(飛行機だと羽田からわずか1時間ですが)。とは言うものの、江戸時代から続くという居酒屋の名店、「久村の酒場」は、相変わらず料理が美味しく満員で、夏の東北の味を存分に堪能することができました。「長期収載品等の自己負担の在り方」に言及さて今回は、「骨太方針2023」について書きます。政府は16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」(骨太方針2023)を閣議決定しました1)。今年の「骨太」については既にあちこちで論評されていますので、ここでは盛りだくさんの医療や社会保障関連の項目から、個人的に気になった2つを取り上げたいと思います。医療や社会保障関連の内容は、「第3章 我が国を取り巻く環境変化への対応」の「3.国民生活の安全・安心」と、「第4章 中長期の経済財政運営」の「2.持続可能な社会保障制度の構築」に盛り込まれています。「第3章」には「花粉症対策」「熱中症対策」「感染症対策」など、一般の人にもわかりやすいキャッチーな内容が並びます。一方、本丸である「第4章」には、政府が推し進めたい社会保障関連の政策が並びます。この中でまず気になったのは、「長期収載品等の自己負担の在り方」への言及です。長期収載品の後発医薬品への置換え、数量ベースでは約8割だが金額ベースでは約4割「2.持続可能な社会保障制度の構築」の中では、「創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置」などさまざまな対策を推進するとしたうえで、「医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」と書かれています。長期収載品は、新薬の特許が切れた後に、薬価基準に収載されたままになっている医薬品のことです。後発品があるにもかかわらず、長期収載品の使用は現在でも1.8兆円と薬剤費全体の2割を占めています。また、後発医薬品への置換えは数量ベースでは約8割に達しようとしていますが、金額ベースでは約4割と諸外国と比較しても低い水準にある、とのことです。「骨太の方針2023」は、長期収載品の売上に依存した現在の日本の先発メーカーのビジネスモデルを変革せよ、と言っているわけです。厚生労働省の有識者検討会で「選定療養」とする案浮上この「骨太」の内容に至る直前には前哨戦とも言える議論がありました。今年1月26日に開かれた厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は、先発メーカーの長期収載品に依存するビジネスモデルからの脱却が論点となりました。そこではなんと、長期収載品の選択が患者の自由意思で行われていることから、差額ベッドなどのように長期収載品を「選定療養」とし、長期収載品と後発品との差額を自己負担としては、という議論もあったとのことです。つまり、安い後発品に比べ長期収載品は無駄な医療費を使う“贅沢品”なので自己負担させよ、というのです。同検討会は6月12日に報告書2)を公表しています。そこには、「後発品への置換えが進んでいない長期収載品については、様々な使用実態や安定供給の確保を考慮しつつ、選定療養の活用など、後発品の使用促進に係る経済的インセンティブとしての患者負担の在り方について、議論が必要ではないか」との一文が入りました。日医は「極めて慎重かつ丁寧に議論することが大切」と牽制日本の先発メーカーに創薬力を付けてもらい、長期収載品の売上に頼らないビジネスモデルをつくってほしい、という考えはもっともです。実際、それが国際競争力を削いできた点は否定できないからです。併せて、「長期収載品と後発品との差額を自己負担とする」というプランも私自身は完全に同意できます。しかし、この提案、現場の医療関係者には少なからぬ動揺を引き起こしました。日本医師会の松本 吉郎会長は、6月21日の定例記者会見で「骨太の方針2023」の各項目への日医の見解を語りました。その中で「長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」と記されたことに対し、「国民目線をもって極めて慎重かつ丁寧に議論することが大切」だと述べました。保険給付範囲が狭まってしまうことや、長期収載品を今でも“愛用”する医師が少なくないことを踏まえた見解と見られますが、実際に長期収載品の自己負担化が実現するかどうかは、これから本格化する中央社会保険医療協議会の議論を待つことになります。次回は、「骨太の方針」に3年連続で記述されたある制度について書きます。(この項続く)参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023/内閣府2)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会報告書/厚生労働省

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糖尿病の正しい理解と持続性GIP/GLP-1受容体作動薬マンジャロへの期待

 2023年6月8日、日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、「2型糖尿病治療におけるアンメットニーズと展望」をテーマに、メディアラウンドテーブルを開催した。マンジャロのHbA1c低下効果について検証されたSURPASS J-mono試験 前半では日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部の今岡 丈士氏が、イーライリリー・アンド・カンパニー(米国)による世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」(一般名:チルゼパチド、以下「マンジャロ」)の特徴を紹介した。 イーライリリー・アンド・カンパニーは米国において、マンジャロを2022年6月7日より販売した。日本においては、マンジャロの全6規格のうち、2023年4月18日に開始用量、維持用量の2規格(2.5mg、5mg)を先行で、6月12日には高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)を販売開始した。 マンジャロは、天然GIPペプチド配列をベースに、GLP-1受容体にも結合するように構造を改変した薬剤である。GIPとGLP-1の両受容体に結合して活性化することで、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる働きを有する。 国内第III相臨床試験であるSURPASS J-mono試験は、HbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量を指標として、チルゼパチド5mg/10mg/15mgを週1回投与したときのデュラグルチド0.75mg投与に対する優越性の検討を目的として実施された。対象は食事療法および運動療法のみ、またはチアゾリジン薬を除く経口血糖降下薬の単独療法で血糖管理が不十分な日本人2型糖尿病患者636例(平均年齢56.6歳)で、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群およびデュラグルチド0.75mg投与群に、ほぼ同数となるように無作為に割り当てられた。チルゼパチドの各投与群では、2.5mgから投与を開始し、その後目的の用量まで2.5mgずつ増量していった。 主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの変化量は、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群でそれぞれ-2.4%、-2.6%、-2.8%であり、デュラグルチド0.75mg投与群の-1.3%と比較して有意なHbA1c低下量が認められた(p<0.0001)。発現が認められた有害事象にチルゼパチド各投与群とデュラグルチド投与群で大きな差はなく、主な有害事象は上咽頭炎、悪心、便秘などであった。重篤な有害事象はチルゼパチド投与群で前立腺がん、デュラグルチド投与群でCOVID-19肺炎などが認められた。糖尿病のスティグマを払拭するためには 後半では国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長の門脇 孝氏により、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL達成」について語られた。 糖尿病の遺伝・環境因子の包括的な解析のために、3万6千人以上の日本人糖尿病患者を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)が実施され、2019年にはβ細胞の遺伝子発現調節やインスリン分泌制御に関与する日本人特有の遺伝子が報告された。さらにGWASの結果を基にして、個人の糖尿病に関連する一塩基多型を調べ、高い精度で糖尿病の発症リスクを予測するという臨床応用も検討されているという。 このように糖尿病治療は進んでいる一方、40~50年前の糖尿病のイメージの定着による誤解、糖尿病患者は自己管理が欠如しているという偏見が払拭されていないという。日本人の糖尿病は高度経済成長期に増加し、当時は網膜症による失明が多く治療も限られており、悲惨な病気というイメージが強く、この頃のイメージが社会に定着し、その後の誤解や偏見につながっているとされる。一方で、2022年の調査では糖尿病患者と非糖尿病患者では平均死亡時年齢は2.6歳の差にすぎないという結果が報告されている。また、2型糖尿病は約50%を遺伝子、残りの約50%を、社会環境要因を主とした環境要因により決定するとされており、「糖尿病は性格の欠点、個人の責任感の欠如のせいという自己責任論は二重、三重に誤りである」と門脇氏は語った。 スティグマとは「誤った知識や情報が拡散することにより、対象となった者が精神的、物理的に困難な状況に陥ることを指す」とされる。糖尿病のスティグマは社会や医療従事者から発信され、自分の病気を周囲に隠す、社会生活への参加を避けるなどのネガティブな影響を糖尿病患者に与えてしまう。そうした中、2019年に日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の合同によるアドボカシー委員会が設立され、糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指し、糖尿病の正しい理解を促進する活動が展開されている。門脇氏は「糖尿病のある人に対するさまざまな誤解や偏見を払拭していくアドボカシー活動が大事であり、そのような治療環境を整えることが糖尿病治療の目標達成のうえでとても重要である」とし、「糖尿病治療目標である糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを達成するために、チルゼパチドへの期待が高まっている」と締めくくった。

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フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例【見落とさない!がんの心毒性】第22回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別60代・男性主訴 胸痛既往歴脂質異常症、糖尿病生活歴タバコ20本/日×38年現病歴X年10月下部食道扁平上皮がん T3N2M1(肝転移)、ステージIVbの診断で、放射線化学療法の方針となった。放射線療法50Gy+化学療法「シスプラチン+フルオロウラシル」2コースの初期治療に続いて、「ネダプラチン+フルオロウラシル」を6コース行い完全寛解となった。X+2年7月食道がんの局所再発あり。光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)を500J実施したが、同年9月のCT、PETでリンパ節転移を認め、ネダプラチン+フルオロウラシルを再開した。再開1回目の入院治療時、持続点滴開始3日後に胸部絞扼感が出現。モニター心電図の変化が疑われ循環器科受診。心筋逸脱酵素の上昇はなく、安静時心電図正常、負荷心電図陰性、心エコーも特記所見がなかったため、頓服用の硝酸薬が処方され退院。さらに、2コース目の治療入院の際にもフルオロウラシル持続点滴開始2日目に胸痛発作あり、Ca拮抗薬を開始しつつホルター心電図を実施した。退院後は胸痛発作なく過ごしたため、3コース目で入院したが化学療法開始後に胸痛発作が出現したため、さらに硝酸薬を追加し、がん治療は中止した。循環器科初診時の検査データWBC 3,000/μL、RBC 487×104/μL、Hb 15.2g/dL、Plt 18.0×104/μL、TP 6.9g/dL、Alb 4.3g/dL、AST 23U/L、ALT 32U/L、ALP 230U/L、LDH 178U/L、CK 88U/L、CRP 0.13mg/dl、Na 141mmol/L、K 4.4mmol/L、Cl 102mmol/L、BUN 10.8mg/dL、Cr 1.15mg/dL、Glu 116mg/dL、CEA 1.9ng/mL、CA19-9 16.4U/mL、SCC抗原 1.5ng/mL、BNP 33.2pg/mL、トロポニンT 0.012ng/mL(正常<0.014 ng/mL)安静時心電図と胸痛発作時を含むホルター心電図を以下に供覧。<安静時心電図>画像を拡大する心電図所見洞調律、正常範囲。追加で行ったマスターダブル負荷試験は陰性。<ホルター心電図>【発作時の圧縮波形】画像を拡大する心電図所見心室性期外収縮が出現し、徐々にST上昇の変化をきたしていることが確認できます。【拡大波形】画像を拡大する心電図所見非発作時:ST上昇なし。心電図変化:(1)に比し、ch1でST上昇傾向を認めます。胸痛発作:(2)と比し、ch1でのST上昇が顕著となっています。【問題】本症例の病状、方針として妥当と思われるものはどれか?a.症状、心電図変化からフルオロウラシルに関連した冠攣縮性狭心症を考える。b.3コース目で治療を中止しているが、さらに、ニコランジルなどの冠拡張薬を追加し同一の化学療法を継続すべき。c.ST上昇を認めるので、速やかに心臓カテーテル検査などの精査を行うべき。d.抗がん剤治療のレジメン自体を見直す。1)Shiga T, et al. Curr Treat Options Oncol. 2020;21:27.2)Cucciniello T, et al. Front Cardiovasc Med. 2022;9:960240.3)Chong JH, et al. Interv Cardiol. 2019;14:89-94.4)Redman JM, et al. J Gastrointest Oncol. 2019;10:1010-1014.5)Zafar A, et al. JACC CardioOncol. 2021;3:101-109.講師紹介

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英語で「難しい選択でした」は?【1分★医療英語】第86回

第86回 英語で「難しい選択でした」は?Though I said yes to surgery, I’m still quite anxious.(手術を受けますとは言ったものの、まだかなり不安です)I understand your concern. It was a tough call.(お気持ちお察しします。難しい選択でしたよね)《例文1》Making a medical decision can often be a tough call.(医療上の意思決定はしばしば難しくなり得るものです)《例文2》We needed to continue a blood thinner despite the stomach bleeding. That was a tough call.(胃からの出血がありながらも、血をサラサラにする薬を続ける必要がありました。難しい選択でした)《解説》“call”といえば、真っ先に「電話をかける」を思い浮かべる方が多いかもしれません。“I’ll make a quick phone call.”と言えば、「ちょっと短い電話をしてきます」という意味になります。この“call”という単語を名詞で使った場合、電話のほかに「選択肢」という意味で用いることができます。たとえば、“It’s your call.”と言えば、「それはあなたの選択です」という意味になりますし、“good”や“bad”と合わせて、“good call”(良い選択肢)、“bad call”(悪い選択肢)といった使い方もできます。医療の現場では、しばしば難しい選択を迫られるシーンに出合います。たとえば、「治療法Aと治療法Bのどちらを選択するか」、「相反する2つの病態をどう治療していくか、そもそも治療をするのかしないのか」…。こういった場面で、「難しい選択です」と伝えたいとき、“tough”という形容詞と合わせて、“It is a tough call.”と表現することもできます。講師紹介

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Long COVIDに早期メトホルミン投与が有効

 Long COVID(いわゆる新型コロナ後遺症)は、倦怠感や味覚症状など多岐にわたる症状があり、世界中で多くの人が苦しんでいるものの、現時点で確立された治療法はない。米国・ミネソタ大学、Carolyn T Bramante氏らは、COVID-19感染直後の外来患者に、メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンの単独投与と併用投与を行い、COVID-19の重症化予防とLong COVIDのリスク低減効果を評価した研究を行った。メトホルミンはLong COVID発症を約41%減少させた 米国の6施設で行われたこの第III相無作為化四重盲検プラセボ対照COVID-OUT試験において、3剤に重症化予防効果がなかったことはすでに報告されている1)が、本試験のLong COVIDのリスク低減効果の分析がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年6月8日号に掲載された。・対象:COVID-19発症から7日未満、SARS-CoV-2感染確認から3日以内、30~85歳、過体重または肥満の成人参加者は、・メトホルミン+イベルメクチン・メトホルミン+フルボキサミン・メトホルミン・イベルメクチン・フルボキサミン・プラセボの6群にランダムに割り当てられた。・評価項目[主要評価項目]14日目までの重症化率(低酸素血症、救急外来受診、入院、死亡の複合)[副次評価項目]医療従事者によるLong COVID診断 メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミンのLong COVIDのリスク低減効果を評価した研究の主な結果は以下のとおり。・2020年12月30日~2022年1月28日に1,431例が登録され、ランダム化された。1,126例が長期フォローアップに同意し、180日目のLong COVIDの評価を受けた。・1,074/1,126例(95%)が9ヵ月以上のフォローアップを完了した。56.1%が女性でうち7%が妊娠していた。年齢中央値は45歳、BMI中央値は29.8であった。93/1,126例(8.3%)が、300日目までにLong COVIDの診断を受けたと報告した。・300日目までのLong COVIDの累積発生率は、メトホルミン群では6.3%(95%信頼区間[CI]:4.2~8.2)、プラセボ群では10.4%(95%CI:7.8~12.9)だった(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.012)。・メトホルミンの有効性は、事前に規定されたサブグループ間でも一貫していた。メトホルミン投与が症状発現から3日以内に開始された場合のHRは0.37(95%CI:0.15~0.95)だった。イベルメクチン(HR:0.99、95%CI:0.59~1.64)、フルボキサミン(HR:1.36、95%CI:0.78~2.34)は、Long COVIDの累積発生率に影響がなかった。 著者らは「メトホルミンによる外来治療は、プラセボと比較して、Long COVID発症を約41%減少させ、絶対減少率は4.1%であった。メトホルミンはCOVID-19の外来治療として臨床的利益があり、世界的に入手可能で低コスト、かつ安全である」としている。

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妊娠糖尿病への早期治療介入は時期尚早か(解説:住谷哲氏)

 妊娠糖尿病が母児の産科的合併症のリスク増大と関連することが明らかにされている。妊娠糖尿病のスクリーニングはIADPSGが推奨する、初回受診時に通常の糖尿病診断基準を用いて妊娠中の明らかな糖尿病overt diabetes in pregnancyを除外し、それ以外の妊婦に対しては妊娠24~28週に75gOGTTを実施して妊娠糖尿病gestational diabetes mellitusを拾い上げる方法が一般的である。しかし現実的には、糖尿病発症ハイリスク妊婦に対しては24週以前に75gOGTTが実施され、妊娠糖尿病と診断されて治療介入されるケースも少なくない。 IADPSGの推奨の根拠となっているのはHAPO研究であるが、この研究の対象となったのは妊娠24週以降の妊婦のみである点に注意が必要である。したがって、HAPO研究に基づくIADPSGの妊娠糖尿病診断基準を妊娠24週以前の妊婦に適用できるか否かは不明である。さらに24週以前の妊婦にも適用可能であると仮定した場合に、妊娠糖尿病と診断された患者にその時点から早期治療介入すれば母児の予後が改善するかどうかは明らかではない。 本試験は糖尿病発症ハイリスク妊婦のなかで、妊娠20週以前(平均15.6週)に75gOGTTによるスクリーニング検査で妊娠糖尿病と診断された患者を対象として早期治療介入の有効性を検討した。対象患者を妊娠20週以前の診断時から妊娠糖尿病として治療介入する早期治療介入群と、24~28週に実施する通常のスクリーニングまで治療介入しないコントロール群に分けた。コントロール群は、24~28週のスクリーニングで妊娠糖尿病と診断されればその時点から治療介入された。 結果は3つの主要評価項目のうち、新生児有害アウトカムneonatal adverse outcomeは早期治療介入群で有意に減少したが、妊娠関連高血圧pregnancy-related hypertensionおよび新生児除脂肪体重neonatal lean body massは両群に有意差を認めなかった。さらにコントロール群の33%は24~28週で再度実施した75gOGTTで妊娠糖尿病の診断基準を満たしていなかった。早期治療介入群は再度の75gOGTTを実施していないので正確ではないが、早期治療介入群のほぼ30%の患者は妊娠糖尿病ではなかったにもかかわらず治療介入された可能性も否定できない。 本試験の対象は糖尿病発症ハイリスク妊婦であり、そうではない妊婦に本試験の結果が適用できるかは不明である。さらに早期治療介入による新生児有害アウトカムの減少も効果としてはそれほど大きいものではなく、妊娠24~28週でのスクリーニングが適当とするIADPSGの推奨を変更する必要はなさそうに思われる。

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急性冠症候群における早期SGLT2阻害薬使用の効果

 SGLT2阻害薬は糖尿病治療だけでなく、現在では心不全(HF)や腎不全の治療にその活躍のフィールドを拡大している。HFの臨床転帰を改善することは、すでにさまざまなエビデンスが報告されているが、早期の急性冠症候群(ACS)ではエビデンスは限定的であった。この疑問に対し、国立循環器病研究センターの金岡 幸嗣朗氏らの研究グループは、入院中の急性冠症候群患者に対し、SGLT2阻害薬の早期使用と非SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬の使用の関連を検討した結果を報告した。European Heart Journal-Cardiovascular Pharmacotherapy誌オンライン版2023年5月12日掲載。ACSへのSGLT2阻害薬の早期介入はイベント抑制につながる可能性 本研究は、レセプト情報・特定健診情報データベースを用いて後方視的コホート研究で行われた。対象は2014年4月~2021年3月までに20歳以上のACSで入院した患者。 主要アウトカムは、全死因死亡またはHF/ACS再入院の複合とした。1:1の傾向スコアマッチングを用いて、HF治療に応じて、非SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬と比較した早期SGLT2阻害薬使用(入院後14日以下)の転帰との関連を明らかにした。 対象となった38万8,185例のうち、重度のHFを有する患者は11万5,612例、有さない患者は27万2,573例であった。 主な結果は以下のとおり。・SGLT2阻害薬非使用者と比較し、SGLT2阻害薬使用者は、主要アウトカムとのハザード比(HR)が、重症HF群で低かった(HR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.76~0.91、p<0.001)・非症状HF群では有意差はなかった(HR:0.92、95%CI:0.82~1.03、p=0.16)・SGLT2阻害薬の使用は、DPP-4阻害薬と比較し、重症HFおよび糖尿病患者における転帰のリスクが低いことが示された(HR:0.83、95%CI:0.69~1.00、p=0.049) 以上の結果から金岡氏らの研究グループは、「早期ACS患者におけるSGLT2阻害薬の使用は、重症HF患者において主要転帰のリスクを低下させたが、重症HFではない患者ではその効果は不明だった。そのほか、HFあり群のうち、糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の開始は、わが国でよく用いられているDPP-4阻害薬の開始と比較しても、主要エンドポイントの減少と関連していた」と早期使用がイベント抑制につながる可能性を示唆した。

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英語で「今日はどうされましたか」は?【1分★医療英語】第85回

第85回 英語で「今日はどうされましたか」は?How can I help you today?(今日はどうされましたか?)I have a chest pain.(胸が痛いです)《類似表現》What brings you here today?What can I do for you today?(今日はどうされましたか?)《解説》問診では、日本語では「今日はどうされましたか?」というオープンクエスチョンで始める場合が多いと思いますが、意外と英語で言うのは難しいかもしれません。親しい間柄の人に「どうしたの?」と聞く場合は、“What happened?”、“What is the problem?”、“What’s the matter with you?”といったフレーズがよく知られていますが、これらは「何があったの?」といったニュアンスの砕けた表現であり、医師と患者さんの会話で使うのは避けるべきです。また“Why are you here today?”(なぜあなたはここにいるのですか?)という表現も、間接的に「来るべきではなかった」という意味になってしまうためNGです。その代わりに、“How can I help you today?”、“How may I help you today?”といった表現や、類似表現として挙げたような、“What brings you here today?”、“What can I do for you today?”という表現を使うことによって、スムーズに問診をスタートさせることができるでしょう。講師紹介

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歯の痛み、どのくらいの頻度で“虫歯リスク”なのか

 日本歯内療法学会が、直近3ヵ月で歯の痛みを感じたことがある20~60代の800名を対象に『歯の痛みの放置』に関するアンケート調査を実施。その結果、痛みの強さや頻度に関わらず断続的に痛みを感じている人には一定の「虫歯リスク」があることが推察された。 主な結果は以下のとおり。・痛みの頻度ごとの内訳は、いつも痛む人(痛みが1~3日に1回程度)25.9%、ときどき痛む人(痛みが毎週~2、3週ごとに1回程度)32.1%、まれに痛む人(1~3ヵ月に1回程度)42.0%だった。・まれに痛む人の半数以上は違和感程度で、痛みを感じる箇所は特定のところだった。・痛みを感じた後に歯科受診したのは、全体の4割程度だった。・歯科検診で「虫歯」と診断された割合は、いつも痛む人33.0%、ときどき痛む人31.0%、まれに痛む人43.1%だった。・歯科検診していない人のうち、痛みを半年以上放置した割合は、まれに痛む人で56.8%にのぼった。一方、いつも痛む人でも半年以上も痛みを放置した割合は43.4%と長期間放置する人が多くみられた。 歯に痛みが生じるケースとして虫歯以外には、1)知覚過敏、2)歯肉炎・歯周病、3)ストレス、4)親知らず、5)かみ合わせやかむ力の異常、6)歯のヒビや割れなどがある。虫歯の場合には冷たい物・甘い物だけではなく、熱いものを食べたり、飲んだりした際に数秒の痛みを感じた場合は歯髄近くまで進んでいる場合が多いそうなので、熱い物がしみた場合には虫歯の可能性を考慮して歯科受診を検討したほうがよいかもしれない。―――【調査概要】調査主体:一般社団法人 日本歯内療法学会調査対象:直近 3ヵ月で歯の痛みを感じたことがある20~60代の800名(20代、30代、40代、50代、60代を男女に分け、それぞれ80名を調査。「医薬品、健康食品、薬品、化学、石油化学」「市場調査」「医療、福祉」「出版、印刷」「メディア・マスコミ・広告業」にお勤めの方は除く)調査方法:WEBアンケート調査時期:2023年5月19日~23日―――

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紹介状の書き方、相手が快・不快と思う分かれ道【紹介状の傾向と対策】第6回

<あるある傾向>前医の診断の根拠がわからない<対策>診断根拠を明確に記載する。ただし、ポイントを押さえて簡潔に多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担の大きな業務の1つです。しかし、紹介状の不備は、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者さんの不利益やトラブルにつながりかねません。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ今回は上記の留意点(5)「診断根拠・診断経緯は適宜詳述」について解説します。読者の先生方と同様に、筆者も日々さまざまな疾患の患者紹介を受けます。いろんな医師の紹介状を読むなかで、本当にきちんとした紹介状だなと感服させられることがあります。感服させられるポイントの1つに、診断の経緯や根拠を的確に押さえて記載されていることが挙げられます。そして、そのような紹介状は、文面は長すぎず簡潔にまとめられています。つまり情報の取捨選択が適切で情報粒度が絶妙なのです。多くの臨床医は、紹介されてくる患者さんに付けられた病名を見たとき、「その診断はどうしてついたのだろうか」「その診断は本当にあっているのだろうか」という、確認のためではあるものの一種の疑念に似た思考が反射的に走るのではないかと思います。たとえば、リウマチ性多発筋痛症と診断され、ステロイド導入後にフォローのために紹介されてきた患者がいたとします。しかし、紹介状の傷病名を見て、まず頭に浮かぶのは、そのリウマチ性多発筋痛症の診断は本当に正しいのだろうか、その医師の診断を信じて良いのだろうかと一瞬考えてしまうのです。その時に知りたいのは、紹介医がどのような根拠からその診断を導いたかです。類似した症状や所見を示す疾患の可能性はどのように除外されたかが記載されていれば、疑う余地はありません。このように読んでいて気持ち良いと感じる紹介状は、読み手が抱くであろう疑問に答えるかのように、必要な情報を的確な順番に並べているのです。そのような紹介状は臨床医が最初に抱いた疑念に対し、納得感を与え、そして次の瞬間には紹介医への信頼ともいえる心地よい「快」の感情が生まれるのです。一方、リウマチ性多発筋痛症の診断名とステロイドの継続依頼だけが記載され、診断根拠が適当過ぎたらどうでしょうか。筆者なら、不明熱に対し適当にステロイドを入れてお茶を濁した可能性を勘ぐってしまいます。つまり不信感の「不快」の感情が生じてしまうのです。このように、紹介状はその文面1つで相手の医師の感情を「快」にも「不快」にも変えるのです。ただでさえ忙しい臨床の現場です。紹介先の医師には「快」を与えられる紹介状を書けるよう修練を積んでいきたいものです。

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コロナ5類移行後の院内感染対策の現状は?/医師1,000人アンケート

 5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行となったが、医療機関ではその前後の過渡期に、これまで継続してきたさまざまな院内感染対策の緩和について議論されていた。5類に移行して約1ヵ月経過し、新規コロナ感染者は全国的に増加傾向にあり、院内感染対策をどこまで緩和するか、今なお難しい判断が迫られている。 病床の有無やコロナ診療状況など条件の異なる医療機関において、院内感染対策の現状や、抱えている課題を把握するため、病院を20床以上、診療所を20床未満と定義し、病院522人、診療所502人の会員医師1,024人を対象に『病院・診療所別 新型コロナ5類移行後の院内感染対策アンケート』を5月30日に実施した。5類移行後、病院93%、診療所72%がコロナ診療している 「Q1. 勤務先の医療機関における、5類移行前後での新型コロナの診療状況」という設問では、「5類移行の前後で、いずれもコロナ診療を受け付けている」「5類移行前は受け付けていなかったが、移行後は受け付けている」「5類移行前は受け付けていたが、移行後は受け付けていない」「5類移行の前後で、いずれも受け付けていない」の4つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 病院では、84%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、9%が5類移行後に新たに受け付けるようになった。診療所では、56%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、16%が移行後に新たに受け付けるようになった。なお本調査では、コロナ診療の割合の低い眼科、皮膚科、泌尿器科といった診療科も含まれている。コロナ5類移行後、PPE着用は感染症疑い患者の診察時のみが多数 「Q2. 個人防護具(PPE)の着用について」という設問では、「勤務中は常にPPEを着用している」「感染症疑いの患者の診察時のみPPEを着用している」「PPEを着用していない」の3つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 コロナ診療している病院では、常にPPE着用している割合は12%で、79%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療している診療所でも、常にPPE着用している割合は12%で、64%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療をしていない医療機関でも、病院の49%、診療所の33%が感染症疑いの患者の診察時のみPPE着用し、診療所の5%が常に着用していると回答した。 「Q3. 診療中の手指消毒のタイミングについて」という設問では、「診療室や病室に入るとき」「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」のそれぞれの場合に対して、病院では約60%の医師がいずれの場合も手指消毒を行っているとした。診療所では、45%が「診療室や病室に入るとき」、約55%が「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」に手指消毒を行っていると回答した。コロナに罹患した職員の療養期間、病院と診療所で傾向の差 「Q4. 勤務先の医療機関での、コロナに罹患した医療従事者の療養期間は何日か」という設問では、医療機関の規模とコロナ診療の有無で、結果に若干の傾向の差が出た。最も慎重な結果だったのはコロナ診療している病院であり、4日以下が8%、5日が56%、7日が24%、8日以上が10%であった。コロナ診療していない病院では、4日以下が8%、5日が64%、7日が21%、8日以上が5%であった。 診療所はコロナ診療の有無にかかわらずほぼ同等で、コロナ診療している場合は、4日以下が13%、5日が63%、7日が17%、8日以上が2%。コロナ診療していない場合は、4日以下が17%、5日が62%、7日が16%、8日以上が3%であった。病院と比べて診療所のほうが、4日以下の割合が約2倍多くなっている一方で、7日、8日以上の割合は病院のほうが多かった。 「Q5. 入院予定患者に対する事前のコロナスクリーニング検査の実施状況について」という設問では、病院では、PCR検査を実施しているのが31%、抗原検査を実施しているのが27%、検査は行わず、事前に診察でコロナの診断を行っているのが9%、事前スクリーニング検査は実施していないとしたのが29%となり、結果が拮抗していた。コロナ院内感染が広がった際の責任の所在に課題感 「Q6. 院内の感染対策を緩和していくうえで、判断に迷っていること、難しいと感じること」という設問では、以下のような意見が挙げられ、新型コロナに対する人々の危機感の薄れとは裏腹に、医療機関がさまざまな課題を抱えていることが浮き彫りになった。患者がコロナ感染対策せずに来院する・ウイルス感染は依然として続いているのに、あたかも、なくなったかのごとく振る舞う患者が結構みられるようになった。(診療所・内科・60代)・マスクをしない患者さんがよく来るようになった。(診療所・皮膚科・40代)コロナ院内感染・クラスター・感染が広がった際の責任の所在。(病院・呼吸器外科・30代)検査・入院時に陰性でも、後に感染が判明することがある。(病院・糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)・明らかにコロナ感染症だと思われる方の中には、検査を希望されない方が一定の割合で存在する。(診療所・内科・60代)・以前は患者負担なく検査できたのでやりやすかったが、今はそうではないので困る。(診療所・消化器内科・40代)動線・ゾーニング・現状は時間分離で診療を行っているが、一般患者さんとの分離が十分できている保証はない。(診療所・内科・70代以上)面会・新型コロナ感染者が1人でも院内に発生した場合に、面会制限をしたほうがいいのか、判断に困っています。(病院・内科・50代)PPE・どこまでPPEを緩めるか。(診療所・内科・50代)職員への対応・職員の同居人に発熱者が出ても新型コロナかどうか不明の場合の出勤調整の判断に迷う。(診療所・内科・60代)・咳嗽が残った従事者の勤務。(診療所・内科・60代)コロナ感染対策の基準がわかりづらい・適正な指針が見当たらない。(病院・消化器内科・50代)・高齢者が多いため緩和しにくい。(診療所・内科・50代)・最近また新型コロナウイルス感染患者が増えてきた。(病院・外科・40代)・コロナ以外にもインフルエンザや麻疹、結核などのルールアウトもしておらず、アウトブレイクに対して一抹の不安はある。(病院・麻酔科・50代)・地域・全国のコロナ患者の状況、ベッドがどれくらい埋まっているかの情報・統計が得られなくなり、院内の感染対策を緩めていい時期が不明瞭。(診療所・内科・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。5類移行後の院内感染対策はどうしている?/医師1,000人アンケート なお、ケアネットライブでは『アフターコロナの院内感染対策・新ルール』を6月21日(水)20時からライブ配信する。聖路加国際病院 感染管理担当の坂本 史衣氏が、最新の知見を踏まえ、今後のコロナ院内感染対策で徹底すべきこと、緩和してもよいことなど、実践例を交えながら解説する。本講義はCareNet.com会員であれば無料で視聴できる。

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日本人の炭水化物摂取量と死亡リスクは男女で逆の関係に~J-MICC研究

 これまで、炭水化物や脂質の摂取量と死亡リスクの関連を検討した研究において、一貫した結果が得られていない。そこで、田村 高志氏(名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野 講師)らの研究グループは、日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)に参加した8万1,333人を対象として、炭水化物、脂質の摂取量と死亡との長期的な関連について検討した。その結果、日本人は男性では炭水化物の摂取量が少ないと死亡リスクが高くなり、女性では炭水化物の摂取量が多いと死亡リスクが高くなる傾向がみられた。本研究結果は、The Journal of Nutrition誌オンライン版2023年6月2日号に掲載された。日本人の炭水化物摂取、男性は摂取量が少ないと死亡リスクが有意に高い 35~69歳の男性3万4,893人、女性4万6,440人(それぞれBMI値[平均値]23.7、22.2)をベースライン時(2004~14年)から2017年末または2018年末まで追跡した。食事頻度質問票を用いて炭水化物、脂質、総エネルギー摂取量を推定した。総エネルギー摂取量に占める炭水化物、脂質の割合(炭水化物エネルギー比率、脂質エネルギー比率)別に死亡リスクを評価した。リスク評価において、多変量解析により調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 日本人の炭水化物、脂質の摂取量と死亡との長期的な関連について検討した主な結果は以下のとおり。・追跡期間(平均8.9年)中に、2,783人の死亡が確認された(男性1,838人、女性945人)。・男性では、炭水化物エネルギー比率が40%未満の群は、50%以上55%未満の群と比較して全死亡リスクが有意に高く(aHR:1.59、95%CI:1.19~2.12)、炭水化物エネルギー比率が低いと全死亡リスクが高くなる傾向がみられた(p for trend=0.002)。・追跡期間5年以上の女性では、炭水化物エネルギー比率が65%以上の群は、50%以上55%未満の群と比較して全死亡リスクが高い傾向にあり(HR:1.71、95%CI:0.93~3.13)、炭水化物エネルギー比率が高いと全死亡リスクが高くなる傾向がみられた(p for trend=0.005)。・男性では、脂質エネルギー比率が35%以上の群は、20%以上25%未満の群と比較してがん死亡リスクが高かった(HR:1.79、95%CI:1.11~2.90)。・女性では、脂質エネルギー比率と全死亡リスク、がん死亡リスクに逆相関の傾向がみられた(それぞれp for trend=0.054、0.058)。 著者らは、本研究結果について「男性では炭水化物の摂取量が少ない場合、女性では炭水化物の摂取量が多い場合、死亡リスクが高くなる傾向がみられた。炭水化物の摂取量が比較的多い日本人成人では、脂質の摂取量が多い女性の死亡リスクが低下する可能性がある」とまとめた。

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併存症のある患者での注意点~高齢者糖尿病診療ガイドライン2023/糖尿病学会

 5月11日~13日に城山ホテル鹿児島をメイン会場に第66回 日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 高齢者の糖尿病患者では、糖尿病とは別に併存症があるケースが多い。では、糖尿病以外の疾病もある高齢者の糖尿病患者の診療はどうあるべきであろう。 本稿では、「シンポジウム10 より良い高齢糖尿病ケアを目指して」より「高齢者糖尿病の合併症と併存症」(杉本 研氏 [川崎医科大学総合老年医学])の口演をお届けする。 2023年5月に『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2023』(以下「ガイドライン」と略す)が上梓され、今回の口演は、このガイドラインの内容を踏まえて構成されている。 今回のガイドラインの改訂では、合併症と併存症につき、「併存症」が独立して章立てされた。また、併存症の予防・管理が、健康寿命の延伸には重要となることが改めて確認され、引き続き、高齢の糖尿病患者の診療では、平均余命の減少と低血糖の高リスクをどのように防止するかが重要とされている。 とくに杉本氏は「高齢者の併存疾患で注意したいのが、動脈硬化性疾患であり、高齢者のADLとQOLを大きく損ない健康寿命などに影響を与える」と診療での注意点を強調した。 続いて先のガイドライン中で「高齢者の併存疾患」を取り上げ、重要なポイントを説明した。 なお、ガイドラインでは、「CQ」と「Q」に分けて、「CQ」は「推奨度(推奨グレード)を問う疑問として回答が可能な臨床的疑問」を、「Q」は「CQ以外の臨床的疑問(推奨グレードは付さない)」について記述している。■高齢者の糖尿病治療が認知機能などの低下抑制になるかは不明 CQ V-3「高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か?」というCQでは「血糖コントロールが認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU:推奨するだけの明確根拠がない)、「糖尿病治療薬による治療が認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU)として研究の余地を残している。 Q V-4「高齢者糖尿病の高血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病または高血糖は、フレイル、サルコペニアの危険因子である」とされ、これについて杉本氏は「8つのメタ解析から糖尿病はフレイルの危険因子となり(オッズ比1.48)1)、サルコぺニアはBMI25以下で増加する」と説明した。 同様にQ V-5「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコぺニアに危険因子である」としている。 Q V-6「高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か?」というQでは「高齢者糖尿病の血糖コントロールが筋量や筋力の維持に有効かは明らかではない」としている。ただ、HbA1cとサルコぺニアの関係では、いくつかの論文で弱い相関を示唆するものもあり、今後研究が待たれる。また、薬物治療の影響については、フレイルとSGLT2阻害薬との関係は「現状では『明らかでない』としか言えない」と杉本氏は説明した。 Q V-8「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子であり、インスリン使用者ではとくに注意を要する」と転倒への注意を記載している。 Q V-9「高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か?」というQでは「高齢者糖尿病における血糖コントロール状態は転倒に影響するが、厳格な血糖コントロールの影響は明らかではない」、「高齢者糖尿病における血糖コントロールの改善が転倒の予防に有用であるかは不明である」と研究の余地を残している。■高齢者糖尿病の心不全の予防・改善に糖尿病治療薬は有効か 悪性腫瘍や心不全、multimorbidity(多疾患罹患)についても触れ、とくに心不全、multimorbidityでは次の3つのQについて説明を行った。 Q V-16「高齢者糖尿病において糖尿病治療薬は心不全の予防・改善に有効か?」というQでは、「高齢者糖尿病においてSGLT2阻害薬は心不全の予防・改善に有効な可能性がある」とする一方で「高齢者糖尿病においてDPP-4阻害薬が心不全リスクに及ぼす影響は明らかではない」と記載している。 そして、このQに関して杉本氏は、SGLT2阻害薬による心不全への影響は70歳以上でより良かったとする報告2)がある一方で、有意なBNPの低下がなかったとする報告もある3)ことを述べ、自験例としながらもSGLT2阻害薬で左室心筋重量係数(LVMI)の低下がみられたことを報告した。 Q V-18「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすいか?」というQでは、「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすい」と記載している。 また、Q V-19「高齢者糖尿病のmultimorbidityではどのような点に注意すべきか?」というQでは「高齢者糖尿病のmultimorbidityにどのような対応を行うべきかのエビデンスは不足しているが、低血糖に注意し、多職種で患者・家族の意思決定の支援をしながら目標を設定していくことが望ましい」と記載している。 今回のガイドラインを受け杉本氏は75歳以上では4つ以上の疾患の合併割合が多くなること、とくに認知症、腎機能不全、骨折が多くなることを指摘するとともに、「重症低血糖では、糖尿病治療薬もインスリンやSU薬など3剤以上の併用も多くなり、ポリファーマシーへの配慮も必要」と述べ、口演を終えた。■参考文献1)Hanlon P, et al. Lancet Healthy Longev. 2020 Dec;1:e106-e116.2)Martinez FA, et al. Circulation. 2020;141:100-111.3)Tamaki S, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e007048.

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加糖飲料の多飲は2型DM患者の死亡・心血管病リスクを増加させるとの警鐘に耳を傾けよう!―(解説:島田俊夫氏)

 一般集団においての加糖飲料の過剰摂取が、がん、心血管病リスクおよび死亡を高めるとの報告も数多くみられる1)。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のLe Ma氏らが、2つの大規模前向きコホート試験、Nurses’ Health Study (女性看護師が対象:年齢30~55歳)とHealth Professionals Follow-up Study(男性医療従事者が対象:年齢40~75歳)の参加者中、ベースラインおよび追跡期間中に2型DMと診断された男女1万5,486例を対象に、飲料別摂取と死亡およびCVD(Coronary Vascular Disease:心血管病)アウトカムの関連を調査し、飲料摂取量については食品摂取頻度質問票を使って評価し、2~4年ごとに更新された情報を加味して解析を行った。 この研究は1次アウトカムを全死因死亡、2次アウトカムをCVD発症および死亡に設定していた。この研究成果の要約 加糖飲料の多飲が死亡リスクを増加させ、平均追跡期間18.5年で、CVDの発症は3,477例(22.3%)、死亡は7,638例(49.3%)と報告された。多変量調整後、各種飲料摂取量の5分類中、最高量群の最低量群に対する死亡のプール解析ハザード比(HR)は、加糖飲料に関しては、HRは1.20(95%CI:1.04~1.37)と増加した。他方、コーヒー、低脂肪乳に関しては摂取量とリスクは逆相関(死亡ハザード比の低下)が認められた。 2型DM確定後にコーヒーの摂取量増加者では非増加者に対して、全死因死亡の低下が観察された。同様の関連性が紅茶と低脂肪乳についてもみられた。 さらに、加糖飲料から人工甘味料入り飲料への変更で、全死因死亡とCVD死の有意な低下が認められた。加糖飲料、フルーツジュース、全脂肪乳からコーヒー、紅茶、真水への変更に関しても全死因死亡の低下が一貫して認められた。コメント 2型DM患者での加糖飲料の多飲は全死因死亡、CVD発症および死亡を増加させるため、甘さの誘惑に負けることなく、加糖飲料の摂取には細心の注意を払うことが命を守る最善の策であり、加糖飲料は極力避け、健康人においてさえもこの考えに従うことを勧めたい。 加糖飲料は2型DM患者においては高血糖を生じやすく、糖質の高い果物ジュースも同様の危険を有すると考えるべきです。人工甘味料に関しては安全性に関して今のところ砂糖に比べ約数百から数千倍の甘みがあるため、少量の使用で済むことを考慮すれば懸念は小さいと考えられるが、安全性が担保されているわけではない2)。さらに、カロリーゼロだということで大量に使用する場合の安全性には疑問点もあり、安易に飛びつくことは避けるべきと考える。 加糖飲料はCVDリスク、全死因死亡、がんリスクを高める事実を真摯に受け止め、加糖飲料の摂取を極力控えることが、2型DM患者はもちろん、健康人にとってもリスク軽減につながると考える。

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