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120)降圧目標は患者さんごとに異なる【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 医師(血圧測定後)血圧は136/84mmHgですね。 患者それならいいぐらいですね。 医師じつは違います。 患者違う!? 医師そうです。どのくらいまで血圧を下げたらいいのかは、年齢や病気によって異なります。 患者そうなんですか。私の場合はどのくらいにしたらいいんですか? 医師糖尿病がある人の目標は130/80mmHg未満になります。蛋白尿が陽性で、腎臓が悪くなってきている人の目標も130/80mmHg未満です。 患者そうすると、もう少し下げたほうがいいわけですね。 医師そうなると、ベストですね。 患者どんなことに気をつけたらいいですか?●ポイント降圧目標値が、年齢や合併症により異なることをわかりやすく説明します●資料

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わかる統計教室 第3回 理解しておきたい検定 セクション6

インデックスページへ戻る第3回 理解しておきたい検定セクション6 対応のあるデータ、対応のないデータとはセクション1 セクション2 セクション3 セクション4 セクション5セクション5では、標準誤差からのデータの散らばり具合を学習しました。セクション6では、帰無仮説と対立仮説、対応のあるデータと対応のないデータについて学んでいきます。■帰無仮説と対立仮説表16の調査データについて仮説検定を行い、新薬Yの母集団における解熱効果を調べたとしましょう。表16 新薬Yと従来薬Xの効果比較このデータについて、明らかにしたいのは次の2つのテーマです。テーマ(1)帰無仮説新薬Yの投与前体温平均値と投与後体温平均値は等しい。対立仮説新薬Yの体温平均値は投与前後で異なる。「新薬Yの体温平均値は投与前に比べ投与後は低くなり、新薬Yは母集団において解熱効果がある」テーマ(2)帰無仮説新薬Yの低下体温平均値と従来薬Xの低下体温平均値は等しい。対立仮説新薬Yの低下体温平均値と従来薬Xの低下体温平均値は異なる。「新薬Yの低下体温平均値は従来薬Xの低下体温平均値より高く、新薬Yは従来薬Xより母集団において解熱効果がある」このデータに仮説検定を適用し、対立仮説が言えるかを調べてみましょう。帰無仮説は、手紙の前文みたいで形式的なものですね。等しいという帰無仮説を前提にして検定の理論、計算は構築されています。私たち分析者においては、対立仮説が重要と言うことになります。これらの2つのテーマは、どちらも体温の平均値を比較しています。平均値の比較ということでは、両テーマにそれほど大きな違いはありません。しかし、平均値の算出に適用したデータに大きな違いがあるのです。■対応のあるデータ、対応のないデータ表17では「投与前後の比較」は同じ患者のデータ、「低下体温の比較」は異なる患者のデータを適用しています。比較するデータの患者が同じ場合、これを「対応のあるデータ」と言います。比較するデータの患者が異なる場合、これを「対応のないデータ」と言います。表17 対応のあるデータ、対応のないデータ対応のあるデータと対応のないデータでは、仮説検定の方法が異なりますので、注意が必要です。テーマ(1)に対する仮説検定を「対応のある場合のt検定」、テーマ(2)の仮説検定を「対応のない場合のt検定」と言います。そこで、それぞれについて、仮説検定のやり方を習得していく必要があります。最初は、対応のある場合の仮説検定を学びましょう。ただし、そのためにはまず、次のセクションで「信頼区間」について、しっかりと勉強しておきましょう。■今回のポイント1)等しいという帰無仮説を前提にして検定の理論、計算は構築されている。私たち分析者においては対立仮説が重要!2)対応のあるデータと対応のないデータでは、仮説検定の方法が異なる!インデックスページへ戻る

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生体吸収性ステントBVSに対する期待とエビデンスの持つ意味~メタ解析の結果~(解説:上田 恭敬 氏)-502

 新たに開発された生体吸収性ステント(BVS:bioresorbable vascular scaffold)と、現時点で最も優れた臨床成績を示している金属製薬剤溶出性ステント(DES:metallic drug-eluting stent)の1つであるXienceステントを比較した、4つの無作為化比較試験の1年時成績のメタ解析が報告された。症例数の合計は、BVSが2,164症例、Xienceが1,225症例である。 結果は、患者についての複合エンドポイントもデバイス(ステント)についての複合エンドポイントも、群間で有意差を認めなかったというものであった。 論文内でも述べられているが、大規模な長期の臨床試験の結果によって、この新しく開発されたデバイスであるBVSが、従来のDESに比べて本当に優れているか否かを示すには、まだまだ長い時間が必要である。しかし、それまでの間、この新しいデバイスを使い続けるためには、1年時のエビデンスとして、BVSの使用によって患者の予後を悪化させていないことを示す必要があるとの考えから、この解析が行われている。 しかし、1年時の成績から必ずしも長期の予後を予測できないことは、CypherステントとEndeavorステントの比較試験の結果が、1年時と5年時でまったく逆になったことからも明らかである。そのことをわかっていながらも、形だけでもエビデンスと呼べるものをつくらないといけない、現在の過度なエビデンス依存状態がみえる。1年時のBVSの成績がXienceよりも優れていようが劣っていようが、5年あるいはそれ以上の長期の成績において、どちらが優れた結果を示すことになるのかは神のみぞ知る問題である。もし、少しでも長期成績を予測しようと思うのであれば、このような統計データではなく、病理やイメージングを用いた研究の結果を、もっと詳細に議論するべきではないだろうか。 しかも、主なエンドポイントとして設定される複合エンドポイントは、通常、試験の目的(今回の場合「BVSが劣っていないこと」)を示しやすいように工夫されているものである。その主なエンドポイントに差がなかったことを第1に主張している論文の表現法にも、この目的がにじみ出ていると感じる。しかし結果としては、標的血管関連心筋梗塞の発症頻度が有意差をもってBVSで高くなっていて、有意差には至っていないが、ステント血栓症が高頻度となっていることが指摘されている。BVSで手技時間が有意に長く、手技成功率が有意に低くなっていることも重要である。また、無作為化試験のメタ解析でありながら、背景因子にかなりの偏りが存在することも問題と思われる。 本解析の結果から出るメッセージは、「成績に差がなかったからBVSを使い続けることは問題ないですよ」といったお墨付きではなく、「BVSによる心筋梗塞の発症増加が認められ、手技成功率も低いので、広く使われればXienceを使うよりも患者の予後を悪化させる可能性がある」といった、注意喚起の内容とすべきではないだろうか。もちろん、金属が体内に残らないことから生じるメリットも想定される新しい技術であり、長期成績については長期の大規模試験の結果が出るまでは誰にもわからないので、「BVSを使うべきではない」とまではいうべきではないが、その真逆の「1年時点ではまったく劣っていなかった」というのは、やはり違和感を覚える。この解析もいずれ結果の詳細は忘れ去られて、結論のみが独り歩きしてしまうことになるのであろうから、結論にどの結果を強調するかは、非常に重要であると思われる。逆に、さまざまな大規模試験の結論が独り歩きしている中で、その結論のみを鵜呑みにしない態度も重要である。蛇足かもしれないが、COURAGE試験の結論として指摘される「安定狭心症患者には、十分な薬物療法をすれば、必ずしも冠動脈形成術をしなくてもよい」という考えも、鵜呑みにすべきでないエビデンスの1つと著者は考えている。

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IRIS試験:脳梗塞とピオグリタゾン-インスリン抵抗性改善薬が経た長い道のり-(解説:住谷 哲 氏)-500

 本論文のタイトルを見た時には、2型糖尿病患者における脳梗塞(以下では虚血性脳卒中および一過性脳虚血発作を脳梗塞とする)の再発予防にピオグリタゾンが有効なのかと思ったが、正しくは「インスリン抵抗性および脳梗塞の既往を有する非糖尿病患者に対して、ピオグリタゾンの投与は脳梗塞または心筋梗塞の発症リスクを有意に抑制した」との内容である。ピオグリタゾンの2型糖尿病患者における心血管イベントの2次予防効果を検討したPROactive試験1)の結果についてはいろいろと議論があるが、本試験の結果の解釈についても注意が必要と思われる。少なくとも2型糖尿病患者の脳梗塞再発を予防するために明日の外来からピオグリタゾンを積極的に投与すべきである、との結果ではない。 インスリン抵抗性が2型糖尿病患者の心血管イベント発症に深く関与していることは、以前から知られている。したがって、インスリン抵抗性改善薬が心血管イベント発症予防に有効だろうと考えるのは自然である。そこで「ピオグリタゾンによるインスリン抵抗性の改善は2型糖尿病患者における心血管イベントリスクを減少させる」との仮説を証明する目的でPROactive試験が行われたが、結果は解析手法の問題もあり、その仮説は証明されなかった。つまり、インスリン抵抗性を改善することで2型糖尿病患者の心血管イベントが抑制されるか否かは、これまで不明であった。 PROactive試験において、ピオグリタゾンの投与により脳梗塞の発症は抑制されなかったが(ハザード比:0.81、95%信頼区間:0.61~1.07)、その後に発表されたサブ解析では、脳梗塞既往患者においてピオグリタゾンの投与により、脳梗塞再発が47%(95%信頼区間:0.34~0.85、p=0.009)減少することが報告された2)。本試験Insulin Resistance Intervention after Stroke (IRIS)が、ClinicalTrial.govに登録されたのが2004年であることを考えると、本試験の対象患者が心筋梗塞ではなく、脳梗塞既往患者が選択されたのもそのあたりに理由があるのかもしれない。しかしその後、同じくチアゾリジン薬に属するロシグリタゾンが心筋梗塞を増加させる可能性が指摘され、さらに、ピオグリタゾンと膀胱がんとの関連も示唆される中で、インスリン抵抗性改善薬に対する熱狂は潮が引くように冷めていった。本試験は、そのような四面楚歌の状況下で地道に続けられていた臨床試験が、ようやく実を結んだといって良い。実臨床で使用され始めてから20年後に、ようやくインスリン抵抗性改善薬の心血管イベント抑制作用が証明されたのである。 本試験では、試験参加6ヵ月以内に脳梗塞を発症した、HOMA-IR>3.0で定義されるインスリン抵抗性を有する非糖尿病患者3,876例を、プラセボ群とピオグリタゾン群に分けて、中央値4.8年にわたり観察した。主要評価項目は、致死性・非致死性脳梗塞および致死性・非致死性心筋梗塞からなる複合エンドポイントとされた。その結果、ピオグリタゾン投与群で主要評価項目が24%減少した(ハザード比:0.76、95%信頼区間:0.62~0.93、p=0.007)。全死亡については両群に差を認めなかった。しかし、副次評価項目である脳梗塞の発症は、ピオグリタゾン群で減少傾向はあるようにみえるが有意差はついていない(ハザード比0.82、95%信頼区間:0.61~1.10、p=0.19)。脳梗塞の再発予防に対する、ピオグリタゾンの効果を検討する目的であれば、脳梗塞の発症のみを主要評価項目に設定すべきであると思われるが、なぜこのような複合エンドポイントになったのかは記載がない。 ピオグリタゾンを使用する際に、現在最も懸念されているのは心不全および骨折である。心不全の発症に関しては、NYHA III、IVの患者およびNYHA IIでEFの低下している患者は最初から除外されており、さらに、心不全の発症を予防するためのアルゴリズムに基づいて、適宜薬剤の減量が行われたため両群に有意な差はなかった。一方、骨折はピオグリタゾン投与群で明らかに増加しており、100例の患者に5年間ピオグリタゾンを投与すると、3例の患者で脳梗塞および心筋梗塞の発症が予防できるが、入院または手術を必要とする骨折が2例発生する計算となった。 インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンが、心血管イベント発症のリスクを低下させることを初めて明らかにした点において、本試験は重要である。しかし、本試験の結果を実臨床に適用するためには下記の点に留意する必要がある。(1)対象は2型糖尿病患者ではない。(2)インスリン測定系は現時点で国際的に統一されていないのでHOMA-IR>3.0は目安程度の意味しかない。(3)脳梗塞および心筋梗塞の複合エンドポイントのリスクが減少したことが示されたのであり、脳梗塞再発予防効果が示されたのではない。(4)心血管イベントの再発予防と引き換えに、入院または手術を必要とする骨折が同程度に増加する可能性がある。 今後、2型糖尿病患者において同様の試験が行われることを期待したいが、現実にはその可能性はきわめて小さいだろう。本論文に対する付属論評でも指摘されているように3)、今後はprecision-medicine approach、つまりピオグリタゾン投与によるリスク・ベネフィット比が最も高い一群(ピオグリタゾン投与により心血管イベントは減少するが心不全、骨折などは増加しない一群)をDNA解析などの結果により投与前に同定し、その一群に対してのみ投与を行うことになっていくだろう。

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末梢血管用ステントZilver PTX、2年目も良好な結果

 2016年3月19日、日本循環器学会学術集会「Late Breaking Clinical Trials/Cohort Studies III」が行われ、福岡山王病院 循環器センター 横井 宏佳氏が、浅大腿動脈用ステントZilver PTXの市販後調査2年目のフォローアップ試験の結果を発表した。 Zilver PTXは、日本が世界に先駆けて発売した浅大腿動脈専用の薬剤溶出ステント(DES)であるが、すでに世界50ヵ国で2,400例以上に使用されている。Zilver PTXは、承認前にはZilver PTX RCT、Zilver PTX SAS試験、市販後にはZilver PTX Japan PMS、Zilver PTX US PAS、EUでの長病変に対するレジストリ研究が行われている。市販後試験の1つ、Zilver PTX Japan PMSの1年の試験結果は、本年のJournal of American College of Cardiology Cardiovascular Intervention誌2016年2月8日号1)で発表されたが、今学会では、その2年フォローアップデータおよび、承認前の2試験(Zilver PTX RCT、Zilver PTX SAS)と比較検討した結果が発表された。 Zilver PTX Japan PMS試験における登録患者の平均年齢は74歳であり、承認前の2試験に比べ高齢であった。また、承認前の2試験に比べ、糖尿病と腎障害を有する例が有意に多く、病変長は14.7mmと有意に長く、完全閉塞が47%、再狭窄への使用が19%と有意に高かった。また、Rutherford 4以上(CLI)も22%含まれており、リアルワールドでは、承認前試験以上に、患者背景が複雑かつ劣悪な患者であることが明らかになった。 この試験では907例、1,075病変をZilver PTXで治療した。2年間のフォローアップ適格患者は741例で、完全フォローアップはそのうち624例である。Thrombosis/Occlusionの発生率は、1年目3%、2年目は3.6%で、1年間で0.6%増加した。これは承認前の2試験や、従来の報告と同等の結果であった。TLR回避率は、1年目91%、2年目は85%で、これも承認前の2試験と同等の結果であった。Primary patency は1年目86.4%、2年は72.3%であり、RCT試験と比べるとやや低いものの、当試験の劣悪な患者背景を考えると、十分容認できるものといえる。 リアルワールドでは、承認前試験と比べ、より複雑な患者・病変背景の中で使われていた。2年目のZilver Japan PMSの結果は、臨床現場においてもこのステントが承認前の成績とほぼ同等の有効性と安全性が得られたことが明らかになった。

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自己免疫性膵炎〔AIP : autoimmune pancreatitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)は、わが国から世界に発信された新しい疾患概念である。わが国におけるAIPは、病理組織学的に膵臓に多数のIgG4陽性形質細胞とリンパ球の浸潤と線維化および閉塞性静脈炎を特徴とする(lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis:LPSP)。高齢の男性に好発し、初発症状は黄疸が多く、急性膵炎を呈する例は少ない。また、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎などの種々の硬化性の膵外病変をしばしば合併するが、その組織像は膵臓と同様にIgG4が関与する炎症性硬化性変化であることより、AIPはIgG4が関連する全身性疾患(IgG4関連疾患)の膵病変であると考えられている。一方、欧米ではIgG4関連の膵炎以外にも、臨床症状や膵画像所見は類似するものの、血液免疫学的異常所見に乏しく、病理組織学的に好中球病変による膵管上皮破壊像(granulocytic epithelial lesion:GEL)を特徴とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)がAIPとして報告されている。この疾患では、IgG4の関与はほとんどなく、発症年齢が若く、性差もなく、しばしば急性膵炎や炎症性腸疾患を合併する。近年、IgG4関連の膵炎(LPSP)をAIP1型、好中球病変の膵炎(IDCP)をAIP2型と分類するようになった。本稿では、主に1型について概説する。■ 疫学わが国で2016年に行われた全国調査では、AIPの年間推計受療者数は1万3,436人、有病率10.1人/10万人、新規発症者3.1人/10万人であり、2011年の調査での年間推計受療者数5,745人より大きく増加している。わが国では、症例のほとんどが1型であり、2型はまれである。■ 病因AIPの病因は不明であるが、IgG4関連疾患である1型では、免疫遺伝学的背景に自然免疫系、Th2にシフトした獲得免疫系、制御性T細胞などの異常が病態形成に関与する可能性が報告されている。■ 症状AIPは、高齢の男性に好発する。閉塞性黄疸で発症することが多く、黄疸は動揺性の例がある。強度の腹痛や背部痛などの膵炎症状を呈する例は少ない。無症状で、糖尿病の発症や増悪にて発見されることもある。約半数で糖尿病の合併を認め、そのほとんどは2型糖尿病である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)自己免疫性膵炎臨床診断基準2018(表)を用いて診断する。表 自己免疫性膵炎臨床診断基準2018【診断基準】A.診断項目I.膵腫大:a.びまん性腫大(diffuse)b.限局性腫大(segmental/focal)II.主膵管の不整狭細像:a.ERPb.MRCPIII.血清学的所見高IgG4血症(≧135mg/dL)IV.病理所見a.以下の(1)~(4)の所見のうち、3つ以上を認める。b.以下の(1)~(4)の所見のうち、2つを認める。c.(5)を認める。(1)高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化(2)強拡1視野当たり10個を超えるIgG4陽性形質細胞浸潤(3)花筵状線維化(storiform fibrosis)(4)閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)(5)EUS-FNAで腫瘍細胞を認めない.V.膵外病変:硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎、後腹膜線維症、腎病変a.臨床的病変b.病理学的病変VI.ステロイド治療の効果B.診断I.確診(1)びまん型 Ia+<III/IVb/V(a/b)>(2)限局型 Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>の2つ以上またはIb+IIa+<III/IVb/V(a/b)>+VIまたはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVb+VI(3)病理組織学的確診 IVaII.準確診限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>またはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVcまたはIb+<III/IVb/V(a/b)>+VIIII.疑診(わが国では極めてまれな2型の可能性もある)びまん型:Ia+II(a/b)+VI限局型:Ib+II(a/b)+VI〔+;かつ、/;または〕(日本膵臓学会・厚生労働省IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班. 膵臓. 2020;33:906-909.より引用、一部改変)本症の診断においては、膵がんや胆管がんなどの腫瘍性の病変を否定することがきわめて重要である。診断に際しては、可能な限りのEUS-FNAを含めた内視鏡的な病理組織学的アプローチ(膵液細胞診、膵管・胆管ブラッシング細胞診、胆汁細胞診など)を施行すべきである。診断基準では、膵腫大、主膵管の不整狭細像、高IgG4血症、病理所見、膵外病変とステロイド治療の効果の組み合わせにより診断する。びまん性の膵腫大を呈する典型例では、高IgG4血症、病理所見か膵外病変のどれか1つを満たせばAIPと診断できる。一方、限局性膵腫大例では、膵がんとの鑑別がしばしば困難であり、従来の診断基準では内視鏡的膵管造影(ERP)による主膵管の膵管狭細像が必要であった。しかし、昨今診断的ERPがあまり行われなくなってきたことなどを考慮して、MR胆管膵管撮影(MRCP)所見、EUS-FNAによるがんの否定所見とステロイド治療の効果を組み込むことにより、ERPなしで限局性膵腫大例の診断ができるようになった。■ 膵腫大“ソーセージ様”を呈する膵のびまん性(diffuse)腫大は、本症に特異性の高い所見である。しかし、限局性(segmental/focal)腫大では膵がんとの鑑別が問題となる。腹部超音波検査では、低エコーの膵腫大部に高エコースポットが散在することが多い(図1)。腹部ダイナミックCTでは、遅延性増強パターンと被膜様構造(capsule-like rim)が特徴的である(図2)。画像を拡大する画像を拡大する■ 主膵管の不整狭細像ERPによる主膵管の不整狭細像(図3、4)は本症に特異的である。狭細像とは閉塞像や狭窄像と異なり、ある程度広い範囲に及んで、膵管径が通常より細くかつ不整を伴っている像を意味する。典型例では狭細像が全膵管長の3分の1以上を占めるが、限局性の病変でも、狭細部より上流側の主膵管には著しい拡張を認めないことが多い。短い膵管狭細像の場合には膵がんとの鑑別がとくに困難である。主膵管の狭細部からの分枝の派生や非連続性の複数の主膵管狭細像(skip lesions)は、膵がんとの鑑別に有用である。MRCPは、主膵管の狭細部からの分枝膵管の派生の評価は困難であることが多いが、主膵管がある程度の広い範囲にわたり検出できなかったり狭細像を呈する、これらの病変がスキップして認められる、また、狭細部上流の主膵管の拡張が軽度である所見は、診断の根拠になる。画像を拡大する画像を拡大する■ 血清学的所見AIPでは、血中IgG4値の上昇(135mg/dL以上)を高率に認め、その診断的価値は高い。しかし、IgG4高値は他疾患(アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息など)や一部の膵臓がんや胆管がんでも認められるので、この所見のみからAIPと診断することはできない。今回の診断基準には含まれていないが、高γグロブリン血症、高IgG血症(1,800mg/dL以上)、自己抗体(抗核抗体、リウマチ因子)を認めることが多い。■ 膵臓の病理所見本疾患はLPSPと呼ばれる特徴的な病理像を示す。高度のリンパ球、形質細胞の浸潤と、線維化を認める(図5)。形質細胞は、IgG4免疫染色で陽性を示す(図6)。線維化は、紡錘形細胞の増生からなり、花筵状(storiform fibrosis)と表現される特徴的な錯綜配列を示し、膵辺縁および周囲脂肪組織に出現しやすい。小葉間、膵周囲脂肪組織に存在する静脈では、リンパ球、形質細胞の浸潤と線維化よりなる病変が静脈内に進展して、閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)が生じる。EUS-FNAで確定診断可能な検体量を採取できることは少ないが、腫瘍細胞を認めないことよりがんを否定できる。画像を拡大する画像を拡大する■ 膵外病変(other organ involvement:OOI)AIPでは、種々のほかのIgG4関連疾患をしばしば合併する。その中で、膵外胆管の硬化性胆管炎、硬化性涙腺炎・唾液腺炎(ミクリッツ病)、後腹膜線維症、腎病変が診断基準に取り上げられている。硬化性胆管炎は、AIPに合併する頻度が最も高い膵外病変である。下部胆管に狭窄を認めることが多く(図4)、膵がんまたは下部胆管がんとの鑑別が必要となる。肝内・肝門部胆管狭窄は、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)や胆管がんとの鑑別を要する。AIPの診断に有用なOOIとしては、膵外胆管の硬化性胆管炎のみが取り上げられている。AIPに合併する涙腺炎・唾液腺炎は、シェーグレン症候群とは異なって、涙腺分泌機能低下に起因する乾燥性角結膜炎症状や口腔乾燥症状は軽度のことが多い。顎下腺が多く、涙腺・唾液腺の腫脹の多くは左右対称性である。後腹膜線維症は、後腹膜を中心とする線維性結合織のびまん性増殖と炎症により、腹部CT/MRI所見において腹部大動脈周囲の軟部影や腫瘤を呈する。尿管閉塞を来し、水腎症を来す例もある。腎病変としては、造影CTで腎実質の多発性造影不良域、単発性腎腫瘤、腎盂壁の肥厚病変などを認める。■ ステロイド治療の効果ステロイド治療の効果判定は、画像で評価可能な病変が対象であり、臨床症状や血液所見は対象としない。ステロイド開始2週間後に効果不十分の場合には再精査が必要である。できる限り病理組織を採取する努力をすべきであり、ステロイドによる安易な診断的治療は厳に慎むべきである。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)経口ステロイド治療が、AIPの標準治療法である。経口プレドニゾロン0.6mg/kg/日の初期投与量を2~4週間投与し、その後画像検査や血液検査所見を参考に約1~2週間の間隔で5mgずつ漸減し、3~6ヵ月ぐらいで維持量まで減らす。通常、治療開始2週間ほどで改善傾向が認められるので、治療への反応が悪い例では膵臓がんを疑い、再検査を行う必要がある。AIPは20~40%に再燃を起こすので、再燃予防にプレドニゾロン5mg/日程度の維持療法を1~3年行うことが多い(図7)。近年、欧米では、再燃例に対して免疫調整薬やリツキシマブの投与が行われ、良好な成績が報告されている。図7 AIPの標準的ステロイド療法画像を拡大する4 今後の展望AIPの診断においては、膵臓がんとの鑑別が重要であるが、鑑別困難な例がいまだ存在する。病因の解明と確実性のより高い血清学的マーカーの開発が望まれる。EUS-FNAは、悪性腫瘍の否定には有用であるが、採取検体の量が少なく病理組織学的にAIPと診断できない例があり、今後採取方法のさらなる改良が求められる。AIPでは、ステロイド治療後に再燃する例が多く、再燃予防を含めた標準治療法の確立が必要である。5 主たる診療科消化器内科、内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報自己免疫性膵炎診療ガイドライン 2020(日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)自己免疫性膵炎臨床診断基準[2018年](日本膵臓学会ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本膵臓学会・厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針の確立を目指す研究」班.自己免疫性膵炎診断基準 2018. 膵臓. 2018;33:902-913.2)日本膵臓学会・厚生労働省IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班.自己免疫性膵炎診療ガイドライン2020. 膵臓. 2020;35:465-550.公開履歴初回2014年03月06日更新2016年03月22日更新2024年07月25日

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肥満治療薬naltrexone/bupropion合剤の安全性/JAMA

 過体重/肥満患者へのnaltrexone/bupropion組み合わせ治療は、主要有害心血管イベント(MACE)の発生について、プラセボとの比較において非劣性のマージン内であったことが、米国クリーブランド・クリニックセンターのSteven E. Nissen氏らによる、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照非劣性試験の結果、示された。ただし、著者は試験の検出力不足について指摘し、さらなる検討の必要性を提言している。肥満治療について、心血管アウトカムを評価した試験はほとんど行われていない。naltrexoneとbupropionはそれぞれ米国上市薬であるが、両者を組み合わせた肥満治療薬は心血管系の安全性について議論の的となっていた。JAMA誌2016年3月8日号掲載の報告。初回MACE発生までの期間を無作為化試験で評価 試験は、米国266の医療施設で、2012年6月13日~13年1月21日に、心血管リスクが高い過体重/肥満の患者8,910例を登録して行われた。全員に、インターネットベースの体重管理プログラムが提供され、プラセボを受ける群(4,454例)、もしくはnaltrexone 32mg/日+bupropion 360mg/日を受ける群(4,456例)に、無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、無作為化から初回MACE発生までの期間であった。 主要解析では非劣性ハザード(HR)を評価。計画では、米国FDAの命に基づき、378例のイベント発生後のHRの95%信頼区間(CI)上限値1.4で評価すること(試験終了時)、約87例のイベント発生後に同上限値を2.0で評価すること(25%のイベント発生での中間解析)が計画に盛り込まれた。試験スポンサー(Orexigen Therapeutics社)とFDAにより、25%中間解析結果は、試験終了時まで開示しないことで合意がなされたが、スポンサーが特許公開をしたことで25%中間解析結果が公表されるところとなり、その違法性を理由に、試験のアカデミックリーダーシップが試験終了を勧告。スポンサーはこれを了承し試験は早期に打ち切りとなった。MACE発生に関する非劣性マージンは満たしたが、早期終了で検出力不足 被験者8,910例は、平均年齢61.0(SD 7.3)歳、女性が54.5%、32.1%に心血管疾患歴があり、85.2%が糖尿病を有していた。BMI中央値は36.6(四分位範囲33.1~40.9)であった。 25%中間解析の結果、MACE発生は、プラセボ群59例(1.3%)、naltrexone/bupropion群35例(0.8%)であった(HR:0.59、95%CI:0.39~0.90)。 事前計画イベント数の50%発生時の解析では、MACE発生は、プラセボ群102例(2.3%)、naltrexone/bupropion群90例(2.0%)であった(HR:0.88、95%CI:0.57~1.34)。 有害事象の頻度はnaltrexone/bupropion群が高く、胃腸系イベント14.2% vs.1.9%(p<0.001)、中枢神経系症状5.1% vs.1.2%(p<0.001)などが報告された。 著者は、「25%および50%中間解析でも、プラセボと比較したnaltrexone/bupropion MACE発生HRの95%CI上限値は2.0を超えなかった。一方で、予想外の試験早期終了のため、事前に設定された上限値1.4での非劣性の評価ができなかった。したがって、本治療の心血管系の安全性については、なお不明であり、十分な検出力を備えた試験で評価を行うことが必要であろう」とまとめている。

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ベジタリアン/ヴィーガンダイエットって実際どうなの?

 ベジタリアン1)ダイエットは虚血性心疾患とすべてのがんの発症および死亡リスクを、また、ヴィーガン(完全菜食主義)2)ダイエットはすべてのがんの発症リスクを有意に低下させることが、イタリア・フィレンツェ大学のMonica Dinu氏らによるメタ解析で明らかになった。Critical reviews in food science and nutrition誌オンライン版 2016年2月6日号の報告。 ベジタリアンおよびヴィーガンダイエットの有益な効果は、すでに報告されている。 本研究では、ベジタリアン/ヴィーガンダイエットと、慢性疾患のリスク因子、すべての原因による死亡、心血管疾患の発症および死亡、すべてのがん・特定のがんの発症および死亡リスク(大腸がん、乳がん、前立腺がん、肺がん)との関連を明確にする目的でメタ解析を行った。 文献データベースは、MEDLINE、EMBASE、Scopus、The Cochrane Library、Google Scholarを用い、包括的な検索を行った。 主な結果は以下のとおり。・横断的研究86件と前向きコホート研究10件を解析対象とした。<横断的研究の解析結果>・ベジタリアン/ヴィーガン群は雑食群よりも、BMI・総コレステロール・LDLコレステロール・血糖値が有意に低下した。<前向きコホート研究の解析結果>・ベジタリアン群の虚血性心疾患の発症および/または死亡リスク(RR 0.75、95%CI:0.68~0.82)とすべてのがん発症リスク(RR 0.92、95%CI:0.87~0.98)は、雑食群よりも有意に低下したが、心血管疾患・脳血管疾患の発症および死亡リスク、すべての原因による死亡リスク、がんによる死亡リスクに有意な低下はみられなかった。また、特定のがんの発症および死亡リスクとの間には有意な関連は認められなかった。・ヴィーガンのみを対象とした解析では、研究数が限られているものの、すべてのがんの発症リスクが雑食群よりも有意に低下した(RR 0.85、95%CI:0.75~0.95)。・以上の結果より、ベジタリアンダイエットは、虚血性心疾患の発症および/または死亡リスクを25%低下、すべてのがん発症リスクを8%低下させ、ヴィーガンダイエットは、すべてのがんの発症リスクを15%低下させることが示された。1)ベジタリアン:菜食主義者。野菜中心の食生活をする。2)ヴィーガン:完全菜食主義者。肉、魚、卵、乳製品、ハチミツを一切摂取しない。

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ハミガキ頻度が糖尿病・脂質異常症の有病率と関連

 生活習慣を考慮して、歯磨きの頻度の低さは、糖尿病や脂質異常症の高い有病率と関連することが、虎の門病院の桑原 政成氏らの研究で明らかになった。歯磨き習慣は、口腔衛生の改善だけでなく、全身性疾患の予防のために有益であると考えられる。BMJ Open誌2016年1月14日号の報告。 本研究は、心血管疾患のリスク因子である高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、慢性腎臓病と歯磨きとの関連を明確にすることを目的に、聖路加国際病院予防医学センターで2004年1月から10年6月まで実施された大規模、単一施設、横断研究である。 対象は、健康診断を受けた8万5,866人(男性:49.0%、平均47.0±11.5歳)。「毎食後」、「少なくとも1日1回」、「1日1回未満」の3群の基準に従って歯磨き習慣を調べた。歯磨き頻度ごとのオッズ比は、二項ロジスティック回帰を用い、年齢、性別、BMI、生活習慣、喫煙、飲酒、歩行時間、睡眠時間で調整後、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、慢性腎臓病の有病率から算出した。 主な結果は以下のとおり。・各心血管疾患リスク因子の有病率は以下であった(毎食後群、少なくとも1日1回群、1日1回未満群)。高血圧症  (13.3%、17.9%、31.0%)糖尿病   (3.1%、5.3%、17.4%)脂質異常症 (29.0%、42.1%、60.3%)高尿酸血症 (8.6%、17.5%、27.2%)慢性腎臓病 (3.8%、3.1%、8.3%)・「1日1回未満群」は、「毎食後群」よりも糖尿病(オッズ比:2.03、95%CI:1.29~3.21)および脂質異常症(オッズ比:1.50、95%CI:1.06~2.14)の有病率が有意に高かった。高血圧症、高尿酸血症、慢性腎臓病の有病率は、歯磨き頻度によって有意な差を認めなかった。

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DPP-4阻害薬と心不全による入院に関連はあるのか?(解説:小川 大輔 氏)-494

 2型糖尿病の治療において、DPP-4阻害薬は海外では第1選択薬のメトホルミンに次ぐ第2選択薬の1つという位置付けであるが、わが国では最も広く使用されている糖尿病治療薬である。DPP-4阻害薬が汎用される理由は、使い勝手が良く低血糖を起こしにくいためと考えられる。 一方で、DPP-4阻害薬は免疫系に対する影響や、膵炎・膵臓がんに対するリスク、心不全に対するリスクが以前より懸念されている。最近BMJ誌に、インクレチン関連薬と膵臓がんに関するレビュー1)と、DPP-4阻害薬と心不全に関するレビューが同時に掲載された2)。それぞれ、ジャーナル四天王の2016年3月2日公開の記事(インクレチン製剤で膵がんリスクは増大するか)および2016年2月26日公開の記事(DPP-4阻害薬は心不全入院リスクを高める可能性)に、要旨が掲載されているので参照されたい。 今回、中国の研究者らは、2型糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬の使用による心不全リスクの増大について、無作為化比較試験(RCT)および観察研究のシステマティックレビューとメタ解析を行い報告した。心不全については、RCTと観察研究のいずれの解析においても、DPP-4阻害薬群と対照群との間で心不全のリスクに有意差は認められなかった。一方、心不全による入院に関しては、RCT・観察研究ともDPP-4阻害薬群で対照群よりリスクが増加することが示唆された。 この論文では、とくに心血管疾患のリスクを有する2型糖尿病患者においてはDPP-4阻害薬の使用により、心不全そのもののリスクは増えないものの、心不全による“入院”のリスクが若干増大する可能性がある、と指摘している。しかし、この結論をそのまま受け入れることは難しい。なぜなら、著者らが本文中に記載しているとおり、RCT・観察研究の追跡期間が約1~2年と短く、また解析対象とした研究のエビデンスの質が、すべてにおいて高いとはいえないためである。 それ以前に、心不全は増えないが心不全による“入院”が増えるとは、一体何を意味するのか? 心不全が増えなければ、それによる入院も増えるはずがないのではないだろうか。結局、「DPP-4阻害薬の使用により、心不全のリスクも心不全による入院のリスクも増加するかどうかは不明である」というのがこのレビューの結論であろう。

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尿素サイクル異常症〔UCD : urea cycle disorders〕

1 疾患概要■ 概念・定義尿素サイクル異常症(urea cycle disorders:UCD)とは、尿素サイクル(尿素合成経路)を構成する代謝酵素に先天的な異常があり高アンモニア血症を来す疾患を指す。N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、カルバミルリン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、シトルリン血症I型、アルギニノコハク酸尿症、高アルギニン血症(アルギナーゼ欠損症)、高アンモニア高オルニチン高ホモシトルリン尿(HHH)症候群、リジン尿性蛋白不耐症、シトリン異常症、オルニチンアミノ基転移酵素欠損症(脳回転状脈絡膜網膜萎縮症)が含まれる。■ 疫学UCDは、希少難病である先天代謝異常症のなかで最も頻度が高い疾患のひとつであり、尿素サイクル異常症に属する各疾患合わせて、約8,000人に1人の発生頻度と推定されている。家族解析やスクリーニング検査などで発見された「発症前型」、新生児早期に激しい高アンモニア血症を呈する「新生児期発症型」、乳児期以降に神経症状が現れ、徐々に、もしくは感染や飢餓などを契機に、高アンモニア血症と症状の悪化がみられる「遅発型」に分類される。■ 病因尿素サイクルは、5つの触媒酵素(CPSI、OTC、ASS、ASL、ARG)、補酵素(NAGS)、そして少なくとも2つの輸送タンパクから構成される(図1)。UCDはこの尿素サイクルを構成する各酵素の欠損もしくは活性低下により引き起こされる。CPSI:カルバミルリン酸合成酵素IOTC:オルニチントランスカルバミラーゼASS:アルギニノコハク酸合成酵素ASL:アルギニノコハク酸分解酵素ARG:アルギナーゼ補助因子NAGS:N-アセチルグルタミン酸合成酵素ORNT1:オルニチンアミノ基転移酵素CPSI欠損症・ASS欠損症・ASL欠損症・NAGS欠損症・ARG欠損症は、常染色体劣性遺伝の形式をとる。OTC欠損症はX連鎖遺伝の形式をとる。画像を拡大する■ 症状疾患の重症度は、サイクル内における欠損した酵素の種類、および残存酵素活性の程度に依存する。一般的には、酵素活性がゼロに近づくほど、かつ尿素サイクルの上流に位置する酵素ほど症状が強く、早期に発症すると考えられている。新生児期発症型では、出生直後は明らかな症状を示さず、典型的には異化が進む新生児早期に授乳量が増えて、タンパク負荷がかかることで高アンモニア血症が助長されることで発症する。典型的な症状は、活力低下、傾眠傾向、嘔気、嘔吐、体温低下を示し、適切に治療が開始されない場合は、痙攣、意識障害、昏睡を来す。神経症状は、高アンモニア血症による神経障害および脳浮腫の結果として発症し、神経学的後遺症をいかに予防するかが重要な課題となっている。遅発型は、酵素活性がある程度残存している症例である。生涯において、感染症や激しい運動などの異化ストレスによって高アンモニア血症を繰り返す。高アンモニア血症の程度が軽い場合は、繰り返す嘔吐や異常行動などを契機に発見されることもある。睡眠障害や妄想、幻覚症状や精神障害も起こりうる。障害性脳波(徐波)パターンも、高アンモニア血症においてみられることがあり、MRIによりこの疾患に共通の脳萎縮が確認されることもある。■ 予後新生児透析技術の進歩および小児肝臓移植技術の進歩により、UCDの救命率・生存率共に改善している(図2)。それに伴い長期的な合併症(神経学的合併症)の予防および改善が重要な課題となっている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)UCDの診断は、臨床的、生化学的、分子遺伝学的検査に基づいて行われる(図3)。血中アンモニア濃度が新生児は120μmol/L(200μg/dL)、乳児期以降は60μmol/L(100 μg/dL)を超え、アニオンギャップおよび血清グルコース濃度が正常値である場合、UCDの存在を強く疑う。血漿アミノ酸定量分析が尿素サイクル異常の鑑別診断に用いられる。血漿アルギニン濃度はアルギナーゼ欠損症を除くすべてのUCDで減少し、一方、アルギナーゼ欠損症においては5~7倍の上昇を示す。血漿シトルリン濃度は、シトルリンが尿素サイクル上流部の酵素(OTC・CPSI)反応による生成物であり、また下流部の酵素(ASS・ASL・ARG)反応に対する基質であることから、上流の尿素サイクル異常と下流の尿素サイクル異常との鑑別に用いられる。尿中オロト酸測定は、CPSI欠損症・NAGS欠損症とOTC欠損症との判別に用いられる。肝生検が行われる場合もある。日本国内の尿素サイクル関連酵素の遺伝子解析は、研究レベルで実施可能である。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確定診断後の治療は、それぞれのUCDの治療指針に従い治療を行う。各専門書もしくはガイドライン(EUおよび米国におけるガイドライン)が、インターネットで利用できる。日本国内では、先天代謝異常学会を中心として尿素サイクル異常症の診療ガイドラインが作られて閲覧可能である。専門医との連携は不可欠であるが、急性発作時には搬送困難な場合も多く、状態が安定しないうちには患児を移動せずに、専門医と連絡を取り合って、安定するまで拠点となる病院で治療に当たることが望ましい場合もある。■急性期の治療は、以下のものが主柱となる。1)血漿アンモニア濃度の迅速な降下を目的にした透析療法血漿アンモニア濃度を早急に下降させる最善策は透析であり、血流量を速くするほどクリアランスはより早くに改善される。透析方法は罹患者の病状と利用可能な機材による。具体的には、血液濾過(動脈‐静脈、静脈‐静脈のどちらも)、血液透析、腹膜透析、連続ドレナージ腹膜透析が挙げられる。新生児に対しては、持続的血液濾過透析(CHDF)が用いられることが多い。2)余剰窒素を迂回代謝経路により排出させる薬物治療法アンモニア生成の阻害は、L-アルギニン塩酸塩と窒素除去剤(フェニル酪酸ナトリウムと安息香酸ナトリウム)の静脈内投与により行われる。負荷投与後に維持投与を行い、初期は静脈内投与により行い、病状の安定に伴い経口投与へ移行する(投与量は各専門書を参照のこと)。フェニル酪酸ナトリウム(商品名:ブフェニール)は、2013年1月に処方可能となった。投与量は添付文書よりも少ない量から開始することが多い(上記、国内ガイドライン参照)。3)食物中に含まれる余剰窒素の除去特殊ミルクが、恩賜財団母子愛育会の特殊ミルク事務局から無償提供されている。申請が必要である。4)急性期の患者に対してカロリーは炭水化物と脂質を用いる。10%以上のグルコースと脂肪乳剤の静脈内投与、もしくはタンパク質を含まないタンパク質除去ミルク(S-23ミルク:特殊ミルク事務局より提供)の経鼻経管投与を行う。5)罹患者において、非経口投与から経腸的投与への移行はできるだけ早期に行うほうがよいと考えられている。6)24~48時間を超える完全タンパク質除去管理は、必須アミノ酸の不足により異化を誘導するため推奨されていない。7)神経学的障害のリスクの軽減循環血漿量の維持、血圧の維持は必須である。ただし、水分の過剰投与は脳浮腫を助長するため昇圧薬を適切に併用する。心昇圧薬は、投与期間と神経学的症状の軽減度には相関が認められている。※その他マンニトールは、尿素サイクル異常症に伴う高アンモニア血症に関連した脳浮腫の治療には効果がないと考えられている。■慢性期の管理1)初期症状の防止異化作用を防ぐことは、高アンモニア血症の再発を防ぐ重要な管理ポイントとなる。タンパク質を制限した特殊ミルク治療が行われる。必要ならば胃瘻造設術を行い経鼻胃チューブにより食物を与える。2)二次感染の防止家庭では呼吸器感染症と消化器感染症のリスクをできるだけ下げる努力を行う。よって通常の年齢でのワクチン接種は必須である。マルチビタミンとフッ化物の補給解熱薬の適正使用(アセトアミノフェンに比べ、イブプロフェンが望ましいとの報告もある)大きな骨折後や外傷による体内での過度の出血、出産、ステロイド投与を契機に高アンモニア血症が誘発された報告があり、注意が必要である。3)定期診察UCDの治療経験がある代謝専門医によるフォローが必須である。血液透析ならびに肝臓移植のバックアップが可能な施設での管理が望ましい。罹患者年齢と症状の程度によって、来院回数と調査の頻度を決定する。4)回避すべき物質と環境バルプロ酸(同:デパケンほか)長期にわたる空腹や飢餓ステロイドの静注タンパク質やアミノ酸の大量摂取5)研究中の治療法肝臓細胞移植治療が米国とヨーロッパで現在臨床試験中である。:国内では成育医療センターが、わが国第1例目の肝臓細胞移植を実施した。肝幹細胞移植治療がベルギーおよび米国で臨床試験中である。:国内導入が検討されている。6)肝臓移植肝臓移植の適応疾患が含まれており、生命予後を改善している(図4)。画像を拡大する4 今後の展望UCDに関しては、長い間アルギニン(商品名:アルギUほか)以外の治療薬は保険適用外であり自費購入により治療が行われてきた。2013年に入り、新たにフェニル酪酸ナトリウム(同:ブフェニール)が使用可能となり、治療の幅が広がった。また、海外では適用があり、国内での適用が得られていないそのほかの薬剤についても、日本先天代謝異常学会が中心となり、早期保険適用のための働きかけを行っている。このような薬物治療により、アンモニアの是正および高アンモニア血症の治療成績はある程度改善するものと考えられる。さらに、小児への肝臓移植技術は世界的にも高いレベルに達しており、長期合併症を軽減した手技・免疫抑制薬の開発、管理方法の改善が行われている。また、肝臓移植と内科治療の中間の治療として、細胞移植治療が海外で臨床試験中である。細胞移植治療を内科治療に併用することで、コントロールの改善が報告されている。5 主たる診療科小児科(代謝科)各地域に専門家がいる病院がある。日本先天代謝異常学会ホームページよりお問い合わせいただきたい。学会事務局のメールアドレスは、JSIMD@kumamoto-u.ac.jpとなる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(医療従事者向けのまとまった情報)尿素サイクル異常症の診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国尿素サイクル異常症患者と家族の会日本先天代謝異常学会 先天代謝異常症患者登録制度『JaSMIn & MC-Bank』公開履歴初回2013年12月05日更新2016年03月15日

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わかる統計教室 第3回 理解しておきたい検定 セクション5

インデックスページへ戻る第3回 理解しておきたい検定セクション5 標準誤差(SE)とはセクション1 セクション2 セクション3 セクション4セクション4では、仮説検定の概念としてその考え方と具体的な検定手順を学習しました。引き続いてセクション5では、標準誤差を求め、データの散らばり具合をみて、検定の正確性を判断します。■標準偏差と標準誤差仮説検定で最初にすることは、標準誤差(SE)を求めることです。よく似た統計用語に標準偏差(SD)がありますね。標準誤差(standard error)とは、標準偏差を√nで割った値です。注)標準誤差と標準偏差とは類似しているので、混乱を避けるため本文では標準誤差をSE(標準誤差)あるいはSEで表します。このSEとはいったい何なのかが、気になりますね。今までの勉強で、この式の中にある標準偏差(SD)はおわかりだと思います。データの散らばりの程度を示す値です。SDが大きいと、外れ値があったり、解熱剤で言えば解熱の効き目が患者によって異なったりするという傾向が大きいということです。したがって、SDは小さいほうが良いわけです。では、サンプルサイズnの大小関係については、どう考えれば良いでしょうか。母集団のことを知るためには、サンプルサイズnは大きいほうが良いですね。SEの式を見てください。SD、nがどのような場合、SEは小さくなるでしょうか。SDが小さく、nが大きいときにSEが小さくなります。つまり、データの散らばり程度とサンプルサイズnの大きさを考慮して求められたSEは、母集団のことを知るためのバロメーターとなるのです。ですから、SEは重要だということです。SEについて、興味深いお話をしておきましょう。少し難しいかもしれません。●SEは標本平均の分布の散らばり程度(標準偏差)ある調査の標準偏差をsとする。SEはs÷√nである。nが十分に大きな値のときは、sは母集団の標準偏差に等しい。調査の実施は通常1回だが、多数回(たとえば1,000回)実施したとする。各調査の平均値をx1、x2、…、x1,000とする。この平均値を「標本平均」と言う。標本平均x1、x2、…、x1,000 1,000個の標準偏差をuとする。1回の調査より求められたSEであるs÷√nは、標本平均の標準偏差であるuに等 しい。調査より求められたSEは、実際には実施していない多数回(1,000回)の調査の標本平均の散らばり程度(標準偏差)を示しているということである。この法則を「中心極限定理」と言う。1730年代にフランスの数学者シモン・ラプラス(Pierre-Simon de Laplace)は、中心極限定理の法則を見出した。最終的に1930年代フィンランドのリンデベルグ(Jarl Waldemar Lindeberg)とフランスのレヴィ(Paul Pierre Levy)が、中心極限定理が成立することを証明した。このようにSEは、標本平均のSDであるという考えに基づき、仮説検定の公式が作られているということです。仮説検定を学ぶために、SEとは別にもう1つ知っておくべきことがあります。それが、「対応のあるデータ」「対応のないデータ」です。こちらについては、セクション6で学んでいきましょう。■今回のポイント1)標準偏差(SD)が小さく、サンプルサイズnが大きいときに標準誤差(SE)は小さくなる!2)データの散らばり程度、サンプルサイズnの大きさを考慮して求められたSEは、母集団のことを知るためのバロメーター!3)SEは標本平均の分布のSD!インデックスページへ戻る

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スーグラほかSGLT2阻害薬は高齢者に安全か

 3月3日、アステラス製薬株式会社は、「本邦の高齢者におけるSGLT2阻害薬の安全性と有効性」と題し、演者に横手 幸太郎氏(千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学講座 教授)を招き、プレスセミナーを開催した。講演では、65歳以上の高齢者7,170人を対象としたSGLT2阻害薬イプラグリフロジン(商品名:スーグラ)錠の大規模調査「STELLA-ELDER」の中間報告も行われた。約10年でHbA1cは下がったが… はじめに、2型糖尿病をメインにその概要や機序が説明された。わが国の糖尿病患者は、疫学推計で2,050万人(2012年)と予想され、この5年間で予備群といわれている層が減少した半面、糖尿病と確定診断された層は増加しているという。血糖コントロールについては、さまざまな治療薬の発売もあり、2002年と2013年を比較すると、2型糖尿病患者のHbA1cは7.42%から6.96%へと低下している。しかしながら、患者の平均BMIは24.10から25.00と肥満化傾向がみられる。SGLT2阻害薬の課題 これまで糖尿病の治療薬は、SU薬をはじめメトホルミン、チアゾリジン、DPP-4阻害薬などさまざまな治療薬が上市されている。そして、これら治療薬では、患者へ食事療法などの生活介入なく治療を行うと、患者の体重増加を招き、このジレンマに医師、患者は悩まされてきた。 そうした中で発売されたSGLT2阻害薬は、糖を尿中排出することで血糖を下げる治療薬であり、体重減少ももたらす。また、期待される効果として、血糖降下、膵臓機能の改善、血清脂質の改善、血圧の低下、腎機能の改善などが挙げられる。その反面、危惧される副作用として、頻尿による尿路感染症、脱水による脳梗塞などがあり、昨年、日本糖尿病会から注意を促す「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が発出されたのは記憶に新しい。 米国では、処方率においてDPP-4阻害薬をすでに抜く勢いであるが、わが国では、5%前後と低調である。今後、わが国でも適応の患者にきちんと使えるように、さらなる検証を行い、使用への道筋を作ることが大切だという。スーグラ処方の注意点 続いて、イプラグリフロジン(スーグラ)錠について、高齢者を対象に行われた全例調査「STELLA-ELDER」の中間報告の説明が行われた。 「STELLA-ELDER」は、スーグラの高齢者への安全性について確認することを目的に、2014年4月から2015年7月にかけて、本剤を服用した65歳以上(平均72.2歳)の2型糖尿病患者(n=7,170)について調査したものである。 スーグラの副作用の発現症例率は全体で10.06%(721例)であった。多かった副作用の上位5つをみてみると皮膚疾患(2.27%)が最も多く、次に体液量減少(1.90%)、性器感染症(1.45%)、多尿・頻尿(1.32%)、尿路感染症(0.77%)などであった。いずれも重篤ではなく、90%以上がすでに回復している。また、これら副作用の発現までの日数について、「脱水・熱中症」「脳血管障害」「皮膚関連疾患」「尿路/性器感染」は、投与開始後早期(30日以内)に発現する傾向が報告された。 スーグラの全例調査で注目すべきは、高齢者に懸念される「低血糖」の発現状況である。全例中23例(0.3%)に低血糖が発現し、とりわけBMIが18.5未満の患者では発現率が高い(6.8%)ことが示された。また、腎機能に中等度障害、軽度障害がある患者でも高いことが報告された。その他、体液減少に伴う副作用の発現については、75歳以上(68/2,223例)では75歳未満(68/4,947例)に比べ、発現率が約2倍高くなることも示された。 最後に、横手氏は、「これらの調査により、腎機能が低下している、痩せている高齢者(とくに75歳以上)には、処方でさらに注意が必要となることが示された。今後も適正な治療を実施してほしい」とレクチャーを終えた。アステラス製薬 「STELLA-ELDER」中間報告はこちら(pdfが開きます)「SGLT2阻害薬」関連記事SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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コントロール不良の糖尿病へのデグルデク+リラグルチド vs.グラルギン増量/JAMA

 インスリン グラルギンとメトホルミンによる治療中でコントロール不良の2型糖尿病患者に対し、インスリン デグルデク/リラグルチド治療はインスリン グラルギン増量治療と比べて、26週時点の評価でHbA1c値の低下値について非劣性が確認され、2次解析によりその値が有意に大きかったことが確認された。米国・テキサス大学のIldiko Lingvay氏らが、2型糖尿病患者557例について行った第III相無作為化非盲検比較試験の結果、示された。JAMA誌2016年3月1日号掲載の報告。26週後のHbA1c値、体重などの変化を比較 研究グループは、2013年9月~14年11月に10ヵ国75ヵ所の医療機関を通じて、2型糖尿病でインスリン グラルギン(20~50U)とメトホルミン(1,500mg/日以上)治療中だが、HbA1c値が7~10%とコントロール不良の、BMI40以下の患者557例を対象にtreat-to-target法にて試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはインスリン デグルデク/リラグルチド(278例、最大投与量:デグルデク50U/リラグルチド1.8mg)の治療を行い、もう一方にはインスリン グラルギンを目標血糖値72~90mg/dLで週2回増量する治療(279例、最大投与量設定なし)を行った。 主要評価項目は、26週後のHbA1c値の変化で、非劣性マージンは0.3%とした。デグルデク/リラグルチド群の非劣性が示された場合、副次エンドポイントとして、優越性について評価し、また、HbA1c値の変化以外に体重の変化、低血糖エピソードなども評価した。体重変化、低血糖イベント発生率も、デグルデク/リラグルチド群の優越性確認 被験者の平均年齢は58.8歳、うち女性は49.7%だった。26週時点で追跡可能だった92.5%について分析を行った。 HbA1c値の変化幅は、グラルギン増量群が-1.13%に対し、デグルデク/リラグルチド群は-1.81%で、推定治療差(ETD)-0.59%(95%信頼区間[CI]:-0.74~-0.45)と、非劣性基準を満たし(p<0.001)、統計的な優越性基準も満たした(p<0.001)。 また、体重変化についても、グラルギン増量群1.8kg増に対し、デグルデク/リラグルチド群は-1.4kgと減少がみられた(ETD:-3.20kg、同:-3.77~-2.64、p<0.001)。 確認された低血糖イベントについても、グラルギン増量群が5.05件/患者投与年に対し、デグルデク/リラグルチド群は2.23件/患者投与年と有意に少なかった(推定率比:0.43、95%CI:0.30~0.61、p<0.001)。 全体的にみて、また重篤有害事象率についても、両群で差はみられなかった。ただし、非重篤だが消化器系有害事象の報告が、デグルデク/リラグルチド群で多かった(79件 vs.18件)。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる長期間の有効性、安全性の評価が求められる」と結論している。

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スタチンは心臓手術後の急性腎障害を予防するか/JAMA

 スタチン未治療、既治療を問わず、心臓手術を受ける患者への周術期の高用量アトルバスタチン(商品名:リピトールほか)投与は、術後の急性腎障害(AKI)リスクを低減しないことが判明した。米国・ヴァンダービルト大学のFrederic T. Billings IV氏らが、二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、明らかにした。全体では有意差はないものの、投与群でリスクの増大が認められ、スタチン未治療患者では開始により有意なリスク増大が示された。スタチンについては、AKI発症機序に影響を及ぼす可能性が示されており、最近のいくつかの観察研究の解析報告で、スタチン既治療患者で心臓手術後のAKIリスク低減が報告されていた。ただし、それらの解析は検証が十分なものではなかった。JAMA誌2016年3月1日号掲載の報告より。スタチン未治療、既治療患者を対象に二重盲検プラセボ対照無作為化試験 試験は、ヴァンダービルト医療センターで、2009年11月~14年10月に成人の心臓手術患者を対象に行われた。 研究グループは、スタチン未治療患者(199例)について、アトルバスタチンを手術前日80mg/手術当日朝(開始3時間以上前)40mg/術後入院期間中AM10時に40mgを投与する群(102例)、または適合プラセボ群(97例)に無作為に割り付けた。また、試験登録時にスタチン治療を受けていた患者(416例)については、手術日まで同処方投与を続け、アトルバスタチンを手術当日朝(開始3時間以上前)80mg/術後はAM10時に40mgを投与する群(206例)、または適合プラセボ群(210例)に無作為に割り付けた。既治療群は手術翌日に既処方のスタチン投与を再開した。 主要エンドポイントは、AKIの発症で、手術後48時間以内の血清クレアチニン値0.3mg/dL上昇(Acute Kidney Injury Network基準)で定義した。プラセボ群と有意差なし、未治療患者では周術期開始でリスクが増大 本試験は、スタチン未治療でアトルバスタチンを投与されたCKD(eGFR<60mL/分/1.73m2)患者でAKI発症の増大が認められ、データ・安全モニタリング委員会が早期中止を勧告した。試験を完了し解析に組み込まれた患者は615例(中央値67歳、女性30.6%、糖尿病患者32.8%)であった。 全被験者(615例)で、AKI発症は、アトルバスタチン群64/308例(20.8%)、プラセボ群60/307例(19.5%)であった(相対リスク[RR]:1.06、95%信頼区間[CI]:0.78~1.46、p=0.75)。 スタチン未治療患者(199例)では、AKI発症は、アトルバスタチン群22/102例(21.6%)、プラセボ群13/97例(13.4%)でみられた(RR:1.61、95%CI:0.86~3.01、p=0.15)。血清クレアチニン値の上昇は、アトルバスタチン群中央値0.11mg/dL(第10~90パーセンタイル値:-0.11~0.56mg/dL)、プラセボ群中央値0.05mg/dL(同:-0.12~0.33mg/dL)であった(中央値差:0.08mg/dL、95%CI:0.01~0.15mg/dL、p=0.007)。 スタチン既治療患者(416例)では、AKI発症は、アトルバスタチン群42/206例(20.4%)、プラセボ群47/210例(22.4%)であった(RR:0.91、95%CI:0.63~1.32、p=0.63)。術後の血清クレアチニン値の上昇は、両群間で有意差はなかった。 以上を踏まえて著者は、「結果は、心臓手術後のAKI予防目的のスタチン開始治療を支持しないものであった」と結論している。

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子供の喘息・アトピーは在胎期間に関連する

 子供の喘息とアトピー性皮膚炎は、在胎期間と関係するのだろうか。フィンランドで、早産児における7歳までの喘息治療および喘息とアトピー性皮膚炎による入院の必要性を評価する目的で、全国登録研究が行われた。その結果、前期/後期早産(32~36週)児では、正期産児よりも学齢期の喘息リスクが高いこと、一方でアトピー性皮膚炎による入院リスクは低いことが明らかになった。European Journal of Pediatrics誌オンライン版2016年2月22日号掲載の報告。 本調査は、1991~2008年の間にフィンランドで生まれた子供101万8,302人を対象に行われた。在胎期間に応じて、以下の4つのカテゴリに分類し、この分類に基づき、7歳時までの各疾患の罹患との相関を評価した。・超早産(32週未満、very preterm;VP)・前期早産(32~33週、moderately preterm;MP)・後期早産(34~36週、late preterm;LP)・正期産(37週以降、term control;term) 主な結果は以下のとおり。・喘息の薬物治療は、在胎期間が短い子供ほど多く受けていた(VP>MP>LP>term、それぞれ15.4%、8.0%、5.7%、3.8%)。・喘息による入院も同様の傾向が見られた(VP>MP>LP>term、20.1%、10.6%、7.3%、4.8%)。・MPおよび・LPにおける喘息の薬物治療が生じるリスクは、子供の性別(男児がより高リスク)、妊娠中の喫煙歴、妊娠糖尿病、人口呼吸器による加療などにより予測することができた。・アトピー性皮膚炎による入院は、在胎期間が長くなるほどリスクが高まった(term>LP>MP、罹患率は5.2%、4.7%、4.2%)。

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妊娠とメトホルミン-本当に「禁忌」なのか?-(解説:住谷 哲 氏)-492

 肥満人口の増加とともに、耐糖能異常を合併した妊婦の数も増加している。耐糖能異常合併妊娠は、妊娠前糖尿病(pregestational diabetes)、overt diabetes in pregnancy、妊娠糖尿病(gestational diabetes:GDM)に分類されるが、その管理目標は母児の周産期合併症を予防することにある。妊娠中の血糖管理の基礎は食事療法であるが、血糖降下薬を必要とする場合は少なくない。ある薬剤が妊娠中に使用できるかどうかについては、わが国には明確な基準がなく、米国FDAのpregnancy category(薬剤胎児危険度分類基準)を参考にすることが多い。妊娠中に使用できる血糖降下薬はインスリンのみで、他の血糖降下薬は「禁忌」と一般的に考えられているが、本論文で使用されたメトホルミンはカテゴリーBに分類され、実は妊婦に対して使用可能である(ただし、わが国の添付文書には妊婦への投与は禁忌と記載されている)。 GDMに対するメトホルミン投与の有用性が広く知られるようになったのは、2008年に報告されたMiG(Metformin versus Insulin for the Treatment of Gestational Diabetes)試験が契機である1)。この試験では、751例のGDM患者を、メトホルミン2,500mg投与群とインスリン投与群に分け、本論文とほとんど同様のアウトカムを評価した。その結果、主要評価項目では両群に有意差を認めず、胎児に対する有害事象の発症率も両群で有意差を認めなかった。しかし、試験で割り振られた治療を再度選択したいと答えた患者がメトホルミン群で有意に多かった。さらに、この試験で誕生した新生児の満2歳時の体格および体組成を比較した結果が報告されているが、メトホルミン投与群の母親から誕生した子供は、インスリン投与群に比較して、より皮下脂肪が多く内臓脂肪が少ないことが示された(MiG TOFU)2)。その後も、GDMに対するメトホルミンの有用性を検討した試験が行われ、それらを統合したsystematic reviewにおいては、インスリンに対するメトホルミンの優越性が結論されている3)。 以上述べたように、GDMに対するメトホルミンの有用性はすでに確立している。そこで、本論文においてはさらに一歩進んで、耐糖能異常を合併しない肥満合併妊婦に対するメトホルミンの有用性が検討された。対象患者は、高リスクの妊婦を選択する目的でBMI>35とされた。また、メトホルミン投与量不足の可能性を最小にするため、投与量は3,000mg/日とされた。その結果は、主要評価項目である新生児出生体重Zスコア中央値は両群間に有意差を認めなかったが、妊娠高血圧腎症(妊娠中毒症)の発症率は、メトホルミン投与群でオッズ比0.24 (95%信頼区間:0.10~0.61、p=0.001)に減少した。さらに、新生児の有害アウトカムの発症率も両群に差はなかった。 本試験およびMiG試験の結果からいえることは、その有用性に加えて、妊婦に対するメトホルミンの安全性であろう。当然ながら両試験において、乳酸アシドーシスは1例も発生していない。もちろん、今後も引き続きメトホルミン投与群の妊婦から誕生した新生児に対する長期的な観察が必要であることは言うまでもない。しかし、耐糖能異常合併妊娠のみならず、肥満合併妊娠も増加しているわが国においても、妊娠におけるメトホルミンの位置付けを再考する必要があると考えられる。

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性差という個体の特徴の意義~女性は心房細動の予後規定因子なのか~(解説:西垣 和彦 氏)-491

性差医療とその本質とは? 歴史的に医学は成人男性を標準個体とし、その病態や臨床経過・予後、診断から治療に至るまでを確立してきた。しかし近年、危険因子や薬剤の効果においても性差があることが明らかになるにつれ、性差の存在がクローズ・アップされるようになった。この性差という個体の特徴における相違は、生物学的要因としてのホルモンバランスの違いなどがその原因として挙げられている。現代医学は、この性差を無視して成立しなくなったこともあり、性差研究を通して医療に反映させる性差医療が発展してきた。しかし、この性差医療に関し危惧されることがある。それは、性差がもたらすだろう損得を種々追求するがあまり、性差は個体の特徴の1つに過ぎないという本質を失念し、人種や年齢などの寄与度の高い危険因子の存在を無視・偏重して解析することであり、さらに性差がその疾患の予後を規定する普遍の定理かのような提起をしてしまうことである。このことは厳に慎まなければならない。 本論文のポイントは? 本論文のポイントをまとめる。本論文は、女性であることが心房細動の予後規定因子としてより強い心血管イベント/死亡リスクであるのか、30件のコホート研究、計437万1,714例を解析対象として行ったメタ解析研究である。 その結果、心房細動の各アウトカムに対する相対危険の男女比(女性/男性)は、全死亡:1.12(1.07~1.17)、脳卒中:1.99(1.46~2.71)、心血管死:1.93(1.44~2.60)、心イベント:1.55(1.15~2.08)、心不全:1.16(1.07~1.27)であった。したがって、心房細動は、女性であることが心血管イベントや死亡リスクに対し、より強い予後規定因子であると報告している。著者らはその機序として、女性のほうが男性より治療が遅れるのではないかということや、抗凝固薬による出血が多いことが、より強い心血管イベント/死亡リスクとなったのではないかとしているが、あくまでも著者らの推論の域を出ない。 各国の心房細動に対する抗凝固療法ガイドラインにおける性差 心房細動患者の生命予後に対する性差の影響に関しては、わが国も含めてこれまでも多くの研究報告がなされているが、その結果は混沌としていて一定の見解が得られていない。 フラミンガム心臓研究の38年に及ぶ追跡調査では、心房細動の危険度は高血圧があれば男性1.5倍、女性1.4倍とほぼ同等であったが、糖尿病があれば男性1.4倍、女性1.6倍高いという結果が報告された1)。 わが国の心房細動の有無と死亡リスクの関連を検討した、1万人以上の住民を登録したNIPPON DATA80では、非心房細動患者の死亡リスクを1としたとき、心房細動患者の循環器疾患死亡リスクは、男性で1.4倍、女性で4.0倍と多く、総死亡リスクは男性で1.4倍、女性で2.4倍と、女性において心房細動は全死亡あるいは心血管死の独立した危険因子であることが示された2)。しかし、この研究データは1980年~1999年の追跡調査より得られていることから、ワルファリンによる抗凝固療法が普及する以前を反映しているものと考えられ、現状に即応していないものと考えられている。 一方、最近では、心房細動患者の生命予後に関して、女性という因子はそれほど強い危険因子ではないのではないかという報告がなされている。デンマークで行われた、ワルファリン療法を受けていない心房細動患者7万例を登録したコホート研究によると、うっ血栓心不全、高血圧、および糖尿病といったCHADS2スコア1点のリスクと比較して、女性という性差のリスクがきわめて低いことが示された3)。 このような混沌とした結果を受けて、各国のガイドラインも異なった取り扱いをしている。2014年10月にアップデートされた、カナダの心房細動に対する抗凝固療法のガイドラインでは、女性という因子のみはエビデンスがないと抗凝固の対象には入れないとしている4)。これに対して、2015年2月にヨーロッパ心血管プライマリケア学会から出された、心房細動における脳梗塞予防のコンセンサスガイドラインでは、65歳以上の女性あるいは75歳以上の男性であるならば、CHA2DS2-VAScスコアの他のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断することとしており、女性という性差を心房細動の予後規定因子として重要視している5)。 わが国のガイドラインにおいては、65歳未満でほかに器質的心疾患を伴わない心房細動患者において、女性であることは単独の危険因子にならないとし、さらに65~74歳は性別にかかわらず考慮可となりうることから、単独因子として女性という性差は記載されていない6)。さらに、昨年5月に報告されたわが国のJ-RHYTHMレジストリを用いたCHA2DS2-VAScスコアの妥当性を検討した論文では7)、血栓塞栓症は男性(年1.6%)に比較し、女性(年1.2%)ではかえって少ないこと、CHA2DS2-VAScスコアから女性を除いたスコアリングは、血栓塞栓症のリスク層別化の点で有用であり、さらに日本人では、65歳以上や血管疾患もあまりリスク因子として効いていないことから、かえってこれらの因子を含めると予測能が落ちるため、むしろCHADS2スコアで抗凝固薬の使用を評価するのがよいと結論付けられている。はたして女性は心房細動の危険因子なのか? これまでの結果から、心房細動患者に対する抗凝固療法の適応を考慮するとき、女性という性差をその危険因子として考えることよりも、やはり人種による差が大きいといわざるを得ない。その点、この論文は所詮欧米のガイドラインを構築するエビデンスに過ぎず、わが国のガイドラインを左右するほどの影響力は持ち合わせていない。 米国心臓協会 (American Heart Association)の活動として、“Go Red for Women”が提唱されている。この標語は、日本人にとってわかりづらい英語の表現であったこともあり、私が『女性の心血管疾患を減らすことを目的として、女性に積極的に呼びかけていこうという運動の名称』であると知ったのは、かなり経ってからである。米国における女性の心血管疾患罹患の深刻化が問題となっていることの一端であるが、わが国の現状とはかなり異なっているといわざるを得ない。参考文献1)Kannel WB, et al. Am J Cardiol. 1998;82:2N-9N.2)Ohsawa M, et al. Circ J. 2007;71:814-819.3)Olesen JB, et al. BMJ 2011;342:d124.4)Verma A, et al. Can J Cardiol. 2014;30:1114-1130.5)Hobbs FR, et al. Eur J Prev Cardiol. 2016;23:460-473.6)日本循環器学会ほか. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版).PDF (2016.3.1参照)7)Tomita H, et al. Circ J. 2015;79:1719-1726.

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糖尿病患者への降圧治療、ベネフィットあるのは140mmHg以上の人/BMJ

 糖尿病患者に対する降圧治療は、ベースライン収縮期血圧値が140mmHg以上であれば、全死因死亡リスクや心血管疾患リスクの低減効果が認められるものの、140mmHg未満では、逆に心血管死リスクが増大することが示された。スウェーデン・ウメオ大学のMattias Brunstrom氏らが、システマティック・レビューとメタ解析の結果、明らかにした。糖尿病患者への降圧治療は、同患者で増大がみられる心血管疾患リスクを低減するが、至適血圧値については議論が分かれている。BMJ誌オンライン版2016年2月24日号掲載の報告。糖尿病患者100例以上のRCTを分析対象に 研究グループは、CENTRAL(Cochrane Central Register of Controlled Trials)、Medline、Embase、BIOSISを基に、システマティック・レビューとメタ解析を行った。 糖尿病患者100例以上を対象にした無作為化比較試験で、治療期間は12ヵ月以上、降圧薬対プラセボ、2種類の降圧薬対1種類の降圧薬の比較を行ったものや、目標血圧値の違いによる比較を行った試験を分析対象とした。 糖尿病患者の降圧治療について、ベースラインなどの血圧値の違いによる、死亡や心血管疾患発症への低減効果を検証した。 49試験、被験者総数7万例超についてメタ解析 49試験(被験者総数7万3,738例)について、メタ解析を行った。被験者のほとんどが、2型糖尿病の患者だった。 分析の結果、ベースライン収縮期血圧値が150mmHg超の群は、降圧治療により、全死因死亡(相対リスク:0.89、95%信頼区間[CI]:0.80~0.99)、心血管死亡(0.75、0.57~0.99)、心筋梗塞(0.74、0.63~0.87)、脳卒中(0.77、0.65~0.91)、末期腎不全(0.82、0.71~0.94)のリスクが、いずれも有意に低減した。 また、ベースライン収縮期血圧値が140~150mmHgの群でも、降圧治療により、全死因死亡(0.87、0.78~0.98)、心筋梗塞(0.84、0.76~0.93)、心不全(0.80、0.66~0.97)のリスクが有意に低減した。 一方で、ベースライン収縮期血圧値が140mmHg未満の群については、降圧治療により、心血管死リスクは増大し(1.15、1.00~1.32)、全死因死亡リスクも増大の傾向がみられた(同:1.05、0.95~1.16)。メタ回帰分析の結果、ベースライン収縮期血圧が低い人ほどアウトカムは不良で、心血管死(収縮期血圧値10mmHg低下ごとの相対リスク:1.15、95%CI:1.03~1.29、p=0.015)、心筋梗塞(同:1.12、1.03~1.22、p=0.011)については降圧治療による有意な悪影響がみられた。これらの結果を踏まえて著者は、「糖尿病患者で収縮期血圧140mmHg未満の人への降圧治療は、心血管死リスク増大と関連しており、ベネフィットはみられなかった」とまとめている。 なお、降圧治療のリスク低減効果について、治療達成収縮期血圧値(140mmHg超、130~140mmHg、130mmHg未満で分類)で分析した場合も、同様のパターンがみられた。

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Vol. 4 No. 3 ACC/AHA 脂質管理ガイドラインコントロバーシー その経緯と現在の考え

荒井 秀典 氏国立長寿医療研究センターはじめに米国のNHLBI(National Heart, Lung, and Blood Institute)が中心となって作成したNCEP-ATP III(National Cholesterol Education Program-Adult Treatment Panel)のガイドラインが2001年に発表され、そのガイドラインが2004年に改訂された。心筋梗塞、脳卒中などの動脈硬化性疾患の予防のための脂質管理に関しては、本ガイドラインが作成された米国だけでなく、アジアを含め多くの国々で脂質管理のガイドラインとして使われてきたと思われる。2008年頃よりNCEP-ATP IIIの改訂版であるNCEP-ATP-IV作成に向けた作業が行われていたが、結局NHLBIはその作成を断念せざるをえなかったと聞く。その後、American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)という米国を代表する循環器の学会が、NHLBIと共同で動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)のリスクを減少させるための脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年11月に発表した1)。そのガイドラインは、これまでのガイドラインから180度転換を図るものであった。ACC/AHAガイドラインは、脂質異常症に関する3つのcritical questions(CQ)に対する回答の形で作成されており、質の高いrandomized controlled trial(RCT)とメタ解析の論文を中心に系統的にレビューし、作成された。したがって、フォローアップ期間の短いRCTやRCTのサブ解析などは採用されていない。ACC/AHAガイドラインは、これまで数多く実施されてきたスタチンによるRCTおよびそのメタ解析の結果をもとに脂質管理の指針が出された結果となっている。このため、実臨床とは解離したガイドラインとの批判もある。メタ解析についてはCholesterol Treatment Trialists' collaborationなどのメタ解析の結果から2-4)、ハイリスク群における高用量スタチンを推奨するガイドラインとなっている。スタチンによるASCVD発症予防効果が期待できる4つのグループを同定設定されたCQに対してシステマティックレビューを行った結果、スタチン治療による多くの心血管イベント抑制を示すエビデンスおよびそのメタ解析より、治療が有益と判断される以下の4つの患者群が同定された。その4つの患者群とは、「ASCVDを有する患者(2次予防患者)」、「LDL-コレステロール(LDL-C)が190mg/dL以上の患者(続発性は除く)」、「LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳のASCVD既往のない糖尿病患者」、「LDL-Cが70~189mg/dL、ASCVD既往も糖尿病もない40~75歳で、10年間のASCVDリスクが7.5%以上(10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく)の患者」である。治療方針は、図に示すようなアルゴリズムに従って決定される。まず、2次予防で75歳以下の患者に対しては高用量スタチンによる治療を行うべきであり、76歳以上の患者には中用量スタチンによる治療を行う。1次予防においては、家族性高コレステロール血症など極めて冠動脈疾患の発症リスクの高い原発性高脂血症に対する治療の必要性から、LDL-Cが190mg/dL以上で21歳以上であれば、高用量スタチン治療を行う。わが国のガイドラインにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上ある場合には家族性高コレステロール血症の可能性が強くなるため、スタチン治療を考慮すべきであるとしているが、家族性高コレステロール血症でなければ、高用量スタチン治療を推奨しているわけではない。次に40歳から75歳までの糖尿病患者は1型、2型を問わずスタチン治療が推奨されている。なかでも10年間のASCVD発症リスクが7.5%以上の患者においては高用量スタチンが、それ以外では中用量スタチンによる治療が推奨される。4つめのグループとしては、2次予防でもLDL-C 190mg/dL以上でも糖尿病でもなくても、10年のASCVD発症リスクが7.5%以上の群であり、この基準を満たす場合にはスタチン治療の適用となる(表)。このように、治療方針決定のための判断材料としては、10年間のASCVD発症リスクを用いる以外は理解しやすく、治療を行う医師は高用量か中用量のスタチンを選べばよいということで、decision makingが容易となっている。図 動脈硬化性疾患予防のためのスタチン治療の推奨画像を拡大する表 高用量、中用量スタチンの治療対象画像を拡大するLDL-Cおよびnon HDL-Cの管理目標値は設定しない本ガイドラインでは、LDL-Cやnon HDL-Cの管理目標値を設定せず、図に示すように高用量(50%以上のLDL-C低下)あるいは中用量(30~50%のLDL-C低下)のスタチンによる治療が推奨されている。その理由は特定のLDL-Cを目標として(例えば、130mg/dL未満と100mg/dL未満でどちらのグループでよりイベント発症が少ないかなど)比較をしたRCTがないからであると説明されている。わが国の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20~30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されており、LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状ではないことに関して異論はないが、日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、アドヒアランスを維持するためには管理目標値が必要であると考えている。したがって、動脈硬化性疾患予防ガイドラインにあるようにLDL-Cの管理目標値を考慮しながら治療にあたるというのがより実際的ではなかろうか。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドラインではLDL-Cの管理目標を設定しているが、“脂質管理目標値は到達努力目標値である”ことも認識すべきである。すなわち、100%その値をクリアすることを求めているわけではない。また、ASCVD予防のための脂質低下治療に関しては、高用量、中用量のスタチンのみが推奨されているが、わが国の保険診療では認められていない用量が推奨されている。非常にリスクが高い場合には、高用量スタチンが選択されるであろうが、日本で認められている最大用量のスタチンを用いることになるであろう。さらに、スタチン以外の薬剤でASCVDの発症リスクを有意に減少させる、あるいはスタチンとの併用で相加的なリスク減少が得られるとのエビデンスは得られなかったとされているが、JELISやACCORD Lipidのサブ解析などのエビデンスも考慮し、わが国のガイドラインでは、スタチン以外の薬剤の使用についても妥当としている。1次予防のための包括的リスク評価本ガイドラインにおいては、米国における5つのコホート研究10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく。年齢、性別、人種(アフリカ系アメリカ人かそれ以外)、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無により、その患者の10年間のASCVD発症リスクが計算される。また、生涯リスクも計算される。しかしながら、このリスクチャートをアジア人に適用することは、リスクの過大評価につながることは容易に想像できる。すでに欧米人の解析でも、NCEP-ATP IIIを適用した場合と比べて、スタチンの治療対象となる患者がかなり増加するとの試算もある。例えば、60歳以上の高齢者はほとんどがスタチンによる治療対象となるといわれている。このようにスタチン治療の適応範囲を広げることは、日本人における動脈硬化性疾患発症リスクを考えても現実的ではない。現在わが国のガイドラインでは、NIPPON DATA80を元にしたリスクチャートを用いており、これが日本人のリスク予測には妥当と考えている。ただ、死亡がエンドポイントとなっているため、今後は発症をエンドポイントとしたリスク評価手法を検討していく必要性はあろう。なおこのガイドラインでは、当然ではあるが、スタチン治療を開始する前に患者とのdiscussionが必要であると述べられており、正しい方向性である。安全性への配慮本ガイドラインでは、採用したRCTの成績に基づいて安全性に関する推奨を行っているが、特にスタチンによる糖尿病の新規発症、筋症(CK上昇を伴わないケースも多い)、認知機能低下などである。スタチンによる糖尿病の新規発症に関してはメタ解析の結果も発表されており、明らかであるが、スタチンによる心血管イベント抑制効果をしのぐものではない。また、メタ解析の結果からスタチンによる糖尿病の新規発症は用量依存性であり、スタチンの用量が少ない日本においては糖尿病の新規発症が欧米に比べ低いことが予想できる。スタチンによる糖尿病の新規発症のメカニズムは十分に明らかになっておらず、今後の検討課題である。バイオマーカーや非侵襲性検査の役割本ガイドラインにおいて、すでに述べたように年齢、性別、人種、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無が主要な危険因子であり、これらの危険因子により計算された10年間のASCVD発症リスクが7.5%未満の際に、高感度CRP、冠動脈のカルシウムスコア、ankle brachial index(ABI)などのバイオマーカーあるいは非侵襲性検査を用いることも考慮してよいとなっているが、そもそも慢性腎臓病(CKD)がリスクとしてカウントされておらず、日本でよく使用されている頸動脈エコーについてもエビデンスの欠如から採用されていない。頸動脈エコーについては、もちろん症例を選ぶべきではあろうが、治療の意欲やアドヒアランスを考えると有用な検査であろう。もちろん、エビデンスの蓄積をさらに進めるべきである。脂質異常症ガイドラインの今後の方向性本ガイドライン作成委員は、本ガイドラインがASCVD抑制のみにフォーカスしたガイドラインであり、脂質異常症の包括的なマネジメントのためのガイドラインではないことは認めている。したがって、今後実施すべき臨床試験について以下のように記載している。すなわち、高TG血症の治療はどうすべきか、non HDL-Cを治療ターゲットとできるか、アポB、Lp(a)、LDL粒子数などのマーカーがリスク評価に使えるか、治療方針決定のための最もよい非侵襲検査はなにか、生涯ASCVDリスクは使えるか、心不全や透析患者のなかでスタチンの恩恵を受けることができるのはどのようなグループか、スタチンによる新規糖尿病発症の長期的な影響はどうなのか、RCTから除外されているグループ(HIV患者、臓器移植患者)へのスタチンの効果はどうなのか、などである。いずれも重要なテーマであるが、RCTにそぐわないものもあり、観察研究などの結果もガイドラインに反映させるべきであろう。まとめ今回のACC/AHAガイドラインの特徴の1つは、脂質管理目標値を設定しないことである。ACC/AHAガイドラインにおける治療指針はスタチンによるRCTのみに基づいているため、LDL-Cを中心とした管理のみが強調されている点は注意が必要であり、レムナントなど他の脂質マーカーにも着目して、残余リスクの管理を考慮しながら治療にあたるべきである。今後、ガイドラインの作成は、ACC/AHAガイドラインのようにRCTのみをベースとしたものになる可能性が高いが、時間、コストなどの問題を考えると観察研究などのエビデンスもある程度は取り入れながら、ガイドラインの作成を行うことが現実的ではないかと思われる。文献1)Stone NJ et al. 2013 ACC/AHA guideline on the treatment of blood cholesterol to reduce atherosclerotic cardiovascular risk in adults: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 2014; 129: S1-45.2)Baigent C et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet 2005; 366: 1267-1278.3)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaboration et al. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170,000 participants in 26 randomised trials. Lancet 2010; 376: 1670-1681.4)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators et al. The effects of lowering LDL cholesterol with statin therapy in people at low risk of vascular disease: meta-analysis of individual data from 27 randomised trials. Lancet 2012; 380: 581-590.

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