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ノンシュガー甘味料の健康への影響~メタ解析/BMJ

 ドイツ・フライブルク大学のIngrid Toews氏らによる無作為化/非無作為化比較試験および観察試験のシステマティックレビューとメタ解析の結果、ノンシュガー甘味料(non-sugar sweeteners:NSS)の摂取群と非摂取群とでほとんどの健康上のアウトカムに差はみられないことが示された。ただし、著者は「NSSの摂取が有益であるという有力な証拠はなく、NSS摂取の潜在的な有害性が排除されたわけではない」とまとめている。これまでの研究では、NSS摂取による健康への影響(体重、糖尿病、がん、口腔衛生など)が示唆されていたが、一貫したエビデンスは得られていなかった。BMJ誌2019年1月2日号掲載の報告。健康成人/小児対象、ノンシュガー甘味料の摂取vs.非摂取試験をメタ解析 研究グループは、Medline(Ovid)、Embase、Cochrane CENTRAL、WHO International Clinical Trials Registry Platform、ClinicalTrials.gov、および関連する参考文献リストを検索し、過体重/肥満の有無にかかわらず一般的な健康成人/小児を対象に、NSSの非摂取/低摂取と高摂取を直接比較した研究のうち、使用したNSSが明記され、摂取量が1日許容量の範囲内であり、介入期間が7日間以上の研究を特定し、標準的なコクランレビューの方法論に従いシステマティックレビューを実施した。 主要評価項目は、体重/BMI、血糖コントロール、口腔衛生、摂食行動、甘味の好み、がん、心血管疾患、腎疾患、気分、行動、神経認知機能、有害事象であった。ノンシュガー甘味料の摂取の有無や摂取量の違いで健康アウトカムに差はない 1万3,941報がスクリーニングされ、56件の研究が今回のレビューに組み込まれた。このうち、35件が観察研究であった。 成人では、症例数の少ない小規模な研究において、BMI(平均差:-0.6、95%信頼区間[CI]:-1.19~-0.01、2件の研究[174例])ならびに空腹時血糖(平均差:-0.16mmol/L、95%CI:-0.26~-0.06、2件の研究[52例])に関してNSSのわずかな有益性が示されたが、エビデンスの質はそれぞれ、低い、非常に低い、であった。 また、1件の研究(1万7,934例)において、NSSの低摂取は高摂取と比較し体重増加が少ないことが示されたが(平均差:-0.09kg、95%CI:-0.13~-0.05)、エビデンスの質は非常に低かった。他の評価項目についてはすべて、NSS摂取と非摂取ならびに摂取量の違いで有意差は認められなかった。 積極的に減量に取り組んでいる過体重/肥満の成人/小児において、NSSの有効性を示すいかなるエビデンスも確認されなかった(エビデンスの質は非常に低い~中程度)。 小児における検討で、NSS摂取は砂糖の摂取と比較し、BMI Zスコアのわずかな増加が確認されたが(平均差:-0.15、95%CI:-0.17~-0.12、2件の研究[528例]、エビデンスの質は中程度)、体重の差は認められず(平均差:-0.60kg、95%CI:-1.33~0.14、2件の研究[467例]、エビデンスの質は低い)、NSS摂取量の違いによる有意差は確認されなかった(エビデンスの質は非常に低い~中等度)。 なお、著者は、多くの研究は参加者が少なく、短期間であり、研究の方法論や質が限られていたことから、「今後は、適切な介入期間でNSSの影響を評価する必要があり、すべての報告で比較対照や介入法、評価項目について詳細に記述すべきである」と指摘している。

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メトトレキサート少量投与が心臓血管イベントを抑制しうるか?(解説:今井靖氏)-997

オリジナルニュース低用量メトトレキサートは冠動脈疾患例のMACEを抑制せず:CIRT/AHA(2018/11/20掲載) IL-1βを標的とした抗体医薬であるカナキヌマブ投与により心血管イベントおよび一部の悪性腫瘍発生を抑制したというCANTOS研究の成果が記憶に新しいが、より簡便な内服薬としてメトトレキサート(MTX)投与により炎症性サイトカインが抑制されることで心血管イベントが抑制されるか否かを検討したのがこの報告である(CIRT研究)。 この論文によれば心筋梗塞既往があるか多枝冠動脈病変を有し2型糖尿病またはメタボリック症候群を有する4,786症例を(1)週当たり15~20mgを目標用量とする低用量メトトレキサート療法および(2)プラセボ投与の2群に1:1に割り付ける二重盲検比較試験を行っている。なお導入期において非盲検でMTXを5、10、15mgと漸増させ葉酸欠乏を回避するために毎日葉酸を1mg補充しており、その後、盲検化し2群に割付し追跡している。主要エンドポイントは非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中あるいは心臓血管死のいずれかの複合を当初予定していたが、盲検化する前に、入院を要する不安定狭心症も上記エンドポイントの1つとして加えられている。 この研究は中間値2.3年で中止された。残念ながらMTX投与群においてプラセボ群に比較して有意なIL-1β、IL-6、CRPの低下が得られず、また主要エンドポイントについてもMTX群で201例、プラセボ群において207例(イベント発生率:4.13 vs.4.31[100人年当たり]、ハザード比:0.96、95%信頼区間:0.79~1.16)であった。MTX群においては肝逸脱酵素の上昇、白血球数減少、ヘマトクリット値減少および非基底細胞性の皮膚がん発症に関連していた。結論として、安定した動脈硬化性疾患患者において低用量MTXが炎症マーカーを抑制することは無く、また心臓血管イベントを抑制することも無かった。 私見を述べさせていただくが、膠原病、悪性腫瘍など適応がある疾患についてのMTX療法の有用性・妥当性は明確であるが、この研究成果からはMTXを動脈硬化性疾患治療としての投与は断じて避けるべきである。またMTXは週当たり20mgを超えると重篤な副作用が増加することが文献的に知られており、本研究の用量設定の目標15mgというものに循環器内科医として抵抗感を覚えるとともに、一般診療においてMTX投与時に葉酸補充を行うが、たとえば重篤な合併症として知られる間質性肺炎は葉酸投与では回避できないということは周知の事実であり、そのような重大な副作用のことも十分に考慮したうえでの薬物療法であるべきと思われる。また葉酸は補充されているものの、葉酸代謝に関連することが知られる血中ホモシステイン濃度が冠動脈疾患のリスクになることは歴史的に良く知られており(たとえば代謝酵素のMTHFRは葉酸依存性である)、そのような因子の関与、たとえばそれらの血中濃度についてのデータも評価すべきであったかと考える次第である。

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出張で食生活が乱れがちな患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第25回

■外来NGワード「出張中も食事に気を付けなさい!」(あいまいな注意)「出張中はバランスの取れた定食を食べるようにしなさい!」(原因を考えない指導)■解説 出張以外の日は体重管理ができていても、出張中に体重が増えるという患者さんがいます。そういった患者さんは、普段は体重管理ができる食事環境(たとえば、朝・夕食は自宅、昼は社食を利用など)ですが、出張となると、食生活が乱れてしまうパターンが多いです。会社の接待などでやむを得ず外食が続くケースもありますが、出張中に羽目を外して食べ過ぎ・飲み過ぎている可能性もあります。まずは、患者さんのやる気を再確認して、体重管理を阻害する原因を明らかにしましょう。外来では、以下のロールプレイを参考に、患者さんが出張中の食事をどうしているのか聞いてみましょう。原因が明らかになれば、事前に対策を考えることができますね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、体重管理はいかがですか?患者家にいるときは大丈夫なのですが、出張中に体重が増えてしまって…。医師家では体重が管理できているんですね。(できていることをまず褒める)患者そうなんです。朝と晩は妻が健康的な食事を作ってくれますし、昼は社食でヘルシーな定食を頼むようにしています。けど、出張中はそうもいかなくて。医師なるほど。体重が増える原因は何でしょうか?患者一緒に出張した人と飲みに行くことですかね。医師なるほど。他に思い当たることはありますか?患者お昼も外食になるので、食事のカロリーが高くなっているのかも…。医師普段食べないものを食べたりして?患者そうなんです。出張に行くと、今日はいいかなって思ってしまって。医師そうですね、その気持ちのゆるみが、体重が増えてしまう本当の原因かもしれませんね。患者うーん、そうか。困ったな…。医師出張によく行く方でも、上手に体重管理されている人がいますよ!患者え、その方はどうしているんですか?(興味津々)医師今回のように、体重が増える原因を明らかにして、事前に対策を立てておられました。Aさんの場合なら、カロリーを摂りがちなお昼に何を食べるかとか、誰かと飲みに行っても太らない食べ方・飲み方を考えることが大切ですね。患者確かに。それと、気持ちのゆるみ対策ですね。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「出張によく行く方でも、上手に体重管理されている人がいますよ!」

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リンゴ型の脂肪分布、腹部と臀部で異なる遺伝的機序が関与か/JAMA

 ウエスト/ヒップ比(WHR)の算出の基礎となる腹部(ウエスト)および殿大腿部(ヒップ)の脂肪分布には、それぞれ異なる遺伝メカニズムが関連している可能性があることが、英国・ケンブリッジ大学のLuca A. Lotta氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年12月25日号に掲載された。一般にWHRで評価される体脂肪分布は、BMIとは独立の重要な心血管代謝疾患の寄与因子とされるが、腹部の高脂肪分布または殿大腿部の低脂肪分布によるWHR増加が心血管代謝疾患リスクに影響を及ぼすかは不明だという。遺伝的バリアントとリスクの関連を評価 研究グループは、WHR高値と関連する遺伝的バリアント(genetic variant)を同定し、その心血管代謝疾患リスクとの関連を推定する目的で、多段階的なアプローチによる検討を行った(英国医学研究会議[MRC]の助成による)。 3つの住民ベースの前向きコホート研究(UK Biobank、Fenland、EPIC-Norfolk)、1つのケース・コホート研究(EPIC-InterAct)および既報の6つの全ゲノム関連解析(GWAS)の要約統計量を用い、4つの段階(GWAS、フォローアップ解析)に分けて解析を行った。 第1段階では、脂肪分布関連の遺伝的バリアントを同定するために、BMIによる補正の有無別にGWASを行った。第2段階では、第1段階とは別個に、WHR関連の遺伝的バリアントを用いて、腹部(ウエスト周囲長)の高脂肪分布または殿大腿部(ヒップ周囲長)の低脂肪分布によるWHR高値の多遺伝子スコアを算出した。 第3段階では、二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)を用いて部位別の脂肪塊を測定し、多遺伝子スコアとの関連を検討することで、このスコアの妥当性の評価を行った。第4段階では、6つの心血管代謝疾患リスク因子(収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖、空腹時インスリン、トリグリセライド、LDLコレステロール)および2つの疾患アウトカム(2型糖尿病、冠動脈疾患)と多遺伝子スコアとの関連を評価した。糖尿病、冠動脈疾患のリスク評価に有用な可能性 UK Biobankの欧州人家系の参加者45万2,302例の平均年齢は57(SD 8)歳、女性が54%で、平均WHRは0.87(SD 0.09)であった。GWASでは、202の遺伝的バリアントが、BMIで補正したWHR(66万648例)および非補正WHR(66万3,598例)と関連が認められた。 DEXA解析(1万8,330例)では、WHR高値のウエストおよびヒップの多遺伝子スコアは、それぞれ腹部脂肪の高値および殿大腿部脂肪の低値と特異的な関連がみられた。 フォローアップ解析(63万6,607例)では、ウエストおよびヒップの特異的な多遺伝子スコアはいずれも、BMI補正WHRの1SD上昇ごとに、高収縮期血圧、高拡張期血圧、高トリグリセライド値と関連を示した。 また、2型糖尿病(ウエスト特異的多遺伝子スコア=オッズ比[OR]:1.57、95%信頼区間[CI]:1.34~1.83、1,000人年当たりの絶対リスク増[ARI]:4.4、95%CI:2.7~6.5、p<0.001、ヒップ特異的多遺伝子スコア=OR:2.54、95%CI:2.17~2.96、ARI:12.0、95%CI:9.1~15.3、p<0.001)および冠動脈疾患(ウエスト特異的多遺伝子スコア=OR:1.60、95%CI:1.39~1.84、ARI:2.3、95%CI:1.5~3.3、p<0.001、ヒップ特異的多遺伝子スコア=OR:1.76、95%CI:1.53~2.02、ARI:3.0、95%CI:2.1~4.0、p<0.001)についても、ウエストおよびヒップの特異的な多遺伝子スコアはいずれも、BMI補正WHRの1SD上昇ごとに有意な関連が認められた。 著者は、「腹部脂肪高値または殿大腿部脂肪低値と特異的に関連する遺伝メカニズムは、それぞれ独立に体形と心血管代謝疾患リスクの関連に寄与している可能性がある」とまとめ、「これらの知見は、2型糖尿病および冠動脈疾患のリスク評価や治療の改善に資する可能性がある」としている。

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第5回 糖尿病患者とフレイル・ADL【高齢者糖尿病診療のコツ】

第5回 糖尿病患者とフレイル・ADLQ1 実際、糖尿病患者でどのようにフレイルを評価しますか?高齢糖尿病患者ではフレイル・サルコペニア、手段的/基本的ADL、視力、聴力などの身体機能を評価することが大切です。その中で、フレイルは要介護になることを防ぐという意味で重要な評価項目の1つでしょう。フレイルは加齢に伴って予備能が低下し、ストレスによって要介護や死亡に陥りやすい状態と定義されます(図1)。本邦ではフレイルは健康と要介護の中間の状態とされていますが、海外では要介護を含む場合もあります。運動や食事介入によって一部健康な状態に戻る場合があるという可逆性も、フレイルの特徴です。もう1つの大きな特徴は多面性で、身体的フレイルだけでなく、認知機能低下やうつなどの精神・心理的フレイル、閉じこもりなどの社会的フレイルも含めた広い意味で、フレイルを評価することが大切です。フレイルにはさまざまな指標がありますが、ここでは大きく分けて3つのタイプを紹介します。1つ目は身体的フレイルで、評価法としてCHS基準があります。この基準はL.P.Friedらが提唱したもので、体重減少、疲労感、筋力低下、身体活動量低下、歩行速度低下の5項目のうち3項目以上当てはまる場合をフレイルとします。体重減少は低栄養、筋力低下と歩行速度低下はサルコペニアの症状なので、Friedらによる身体的フレイルは、低栄養やサルコペニアを含む概念とも言えます。本邦ではCHS基準のそれぞれの項目のカットオフ値や質問を修正したJ-CHS基準があります(表1)。2つ目はdeficit accumulation model(障害蓄積モデル)によるフレイルで、高齢者に多い機能障害や疾患の集積によって定義されます。36項目からなるFrailty Indexが代表的な基準です。障害が多く重なることで予備能が低下し、死亡のリスクが大きくなるという考えに基づいて作成されていますが、項目数が多く、臨床的に使いにくいのが現状です。3つ目は高齢者総合機能評価(CGA)に基づいたフレイルであり、身体機能、認知機能、うつ状態、低栄養などを総合的に評価した結果に基づいて評価するものです。本邦では介護予防検診で使用されている「基本チェックリスト」がCGAに基づいたフレイルといえるでしょう。ADL、サルコペニア関連、低栄養、口腔機能、閉じこもり、認知、うつなどの25項目を評価し、8項目以上当てはまる場合をフレイルとします1)(表2)。画像を拡大する(表上部)画像を拡大する(表下部)外来通院の高齢糖尿病患者でまず簡単に実施できるのはJ-CHSでしょう。基本チェックリストを行うことができれば、広い意味でフレイルの評価ができます。基本チェックリストを行うのが難しい場合にはDASC-8を行って、(高齢者糖尿病の血糖コントロール目標における)カテゴリーIIの患者を対象にフレイル対策を行うという方法もあります(第4回参照)。Q2 糖尿病とフレイル・ADL低下の関係、危険因子は?糖尿病患者は、高齢者だけでなく中年者でもフレイルをきたしやすいことがわかっています。糖尿病がない人と比べて、糖尿病患者ではフレイルのリスクが約5倍、プレフレイルのリスクも約2.3倍と報告されています2)。また、糖尿病患者では手段的ADL低下を1.65倍、基本的ADL低下を1.82倍きたしやすいというメタ解析結果があります3)。高齢糖尿病患者では、特に高血糖、重症低血糖、動脈硬化性疾患の合併がフレイルの危険因子として重要です。HbA1c 8.0%以上の患者はフレイル、歩行速度低下、転倒、骨折を起こしやすくなります(図2)。もう一つ重要なことは、糖尿病にフレイルを合併すると死亡リスクが大きくなることです。点数化して重症度が評価できるフレイルでは、フレイルが重症であるほど死亡のリスクが高まることがわかっています。英国の調査では、糖尿病にフレイルを合併した患者では平均余命(中央値)は23ヵ月という、極端な報告もあります4)。Q3 フレイルを合併した患者への運動療法、介入のタイミングや内容をどうやって決めますか?フレイルがあるとわかったら、運動療法と食事療法を見直します。運動療法については、まず身体活動量が低下していないかをチェックします。家に閉じこもっていないか、家で寝ている時間が多くないかを質問し、当てはまる場合は坐位または臥位の時間を短くし、外出の機会を増やすように助言をすることが大切です。フレイル対策で有効とされているのが、レジスタンス運動と多要素の運動です。レジスタンス運動は負荷をかけて筋力トレーニングを行うものです。市町村の運動教室、介護保険で利用可能なデイケア、ジムでのマシントレーニング、椅子を使ってのスクワット、ロコトレ、ヨガ、太極拳などがあり、エルゴメーターや水中歩行などもレジスタンス運動の要素があります。これらは少なくとも週2回以上行うことを勧めています。多要素の運動は、レジスタンス運動ができないフレイルの高齢者に対して、ストレッチ運動から始まり、軽度のレジスタンス運動、バランス運動、有酸素運動を組み合わせて、レジスタンス運動の負荷を大きくしていく運動です。この多要素の運動も身体機能を高め、フレイル進行予防に有効であるとされています。Q4 フレイルを合併した患者への食事療法、エネルギーアップのコツや腎機能低下例での対応を教えてくださいフレイルを考慮した食事療法は十分なエネルギー量を確保し、タンパク質の摂取を増やすことがポイントです。欧州栄養代謝学会(ESPEN)では高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには実体重当たり少なくとも1.0~1.2g/日のタンパク質をとることが推奨されています5)。つまり、体重60㎏の人は70g/日のタンパク質摂取が必要になります。フレイルのような低栄養または低栄養リスクがある場合には、さらに多く、体重当たり1.2~1.5g/日のタンパク質をとることが勧められます。フレイルがある場合、腎症3期まではタンパク質を十分にとり、腎症4期では病状によって個別に判断するのがいいと思います。腎機能悪化の速度が速い場合や高リン血症の場合はタンパク質制限を優先し、体重減少、筋力低下などでフレイルが進行しやすい状態の場合はタンパク質摂取を増やすことを優先させてはどうかと考えています。高齢者は肉をとることが苦手な場合もあるので、魚、乳製品、卵、大豆製品などを組み合わせてとることを勧めます。また、タンパク質の中でも特にロイシンの多い食品、例えば「魚肉ソーセージを一品加える」といった助言もいいのではないでしょうか。朝食でタンパク質を必ずとるようにすると、1日の摂取量を増やすことにつながります。エネルギー量は従来、高齢者は体重×25~30kcalとして計算することが多かったと思いますが、フレイル予防を考えた場合、体重当たり30~35kcalとして十分なエネルギー量を確保し、極端なエネルギー制限を避けることが大切です。例えば体重50㎏の女性では、1,600kcalの食事となります。Q5 フレイルを合併した糖尿病患者への薬物療法、考慮すべきポイントは?フレイルがある糖尿病患者の薬物療法のポイントは1)低血糖などの有害事象のリスクを減らすような選択をする2)フレイルの原因となる併存疾患の治療も行う3)服薬アドヒアランス低下の対策を立てることです。特に重症低血糖には注意が必要で、フレイルだけでなく認知機能障害、転倒・骨折、ADL低下、うつ状態、QOL低下につながる可能性があります。したがって、フレイルの患者では低血糖を起こしにくい薬剤を中心とした治療を行います。メトホルミンやDPP-4阻害薬などをまず使用します。SU薬を使用する場合は、できるだけ少量、例えばグリクラジド10~20㎎/日で使用します。フレイルの患者では、体重減少をきたしうるSGLT2阻害薬や高用量のメトホルミンの使用には注意を要します。特に腎機能は定期的にeGFRで評価し、結果に応じて、メトホルミンやSU薬の用量を調整する必要があります。SU薬はeGFR45mL/分/1.73m2未満で減量、eGFR30mL/分/1.73m2未満で中止します。フレイルの糖尿病患者は心不全、COPD、PADなど複数の併存疾患を有していることが多く、それがフレイルの原因となっている場合もあります。したがって、フレイルの原因となる疾患を治療することも大切です。心機能、呼吸機能、歩行機能を少しでも改善することが、フレイルの進行防止につながります。また、軽度の認知機能障害を伴うことも少なくなく、服薬アドヒアランスの低下をきたしやすくなります。多剤併用も問題となります。両者は双方向の関係があると考えられており、併存疾患の多さや運動療法の不十分さなどが多剤併用の原因となりえますが、多剤併用がフレイルにつながる可能性もあります。したがって、こうした患者では治療の単純化を行うことが必要です。服薬数を減らすことだけでなく、服薬回数を減らすことや服薬のタイミングを統一することも単純化の手段として重要です。例えば、α-GIやグリニド薬を使用する場合には、すべての内服薬を食直前に統一するようにしています。ADL低下や認知症がある場合には、重症低血糖のリスクが高いので、減量・減薬を考慮すべき場合もあります。Q6 他にどのような治療上の注意点がありますか?フレイルがある患者では、認知機能障害、手段的ADL低下、身体活動量低下、うつ状態、低栄養、服薬アドヒアランス低下、社会的サポート不足などを伴っている場合が少なくありません。したがって、状態を包括的に評価できるCGAを行い、その結果に基づき、運動/食事/薬物療法だけでなく、社会的サポートを行うことが大切になります。介護保険を申請し、要介護と認定されれば、デイケアなどのサービスを受けることもできます。認定されない場合でも、老人会、地域の行事、講演会などの社会参加を促して、閉じこもりを防ぐことが社会的なフレイルを防ぐために重要だと考えています。1)Satake S, et al.Geriatr Gerontol Int.2016;16:709-715.2)Hanlon, et al. Lancet Public Health. 2018 Jun 13. [Epub ahead of print]3)Wong E et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2013 ;1: 106–14.4)Hubbard RE, et al. Diabet Med. 2010 ;27:603-606.5)Deutz NE, et al.Clin Nutr 2014;33:929-936.6)Kalyani RR, et al. J Am Geriatr Soc. 2012;60:1701-7.7)Park SW et al. Diabetes. 2006;55:1813-8.8)Yau RK, et al. Diabetes Care. 2013;36:3985-91.9)Schneider AL et al. Diabetes Care. 2013;36:1153-8.

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糖代謝の改善にコーヒーやお茶は効果があるか~メタ解析

 前向きコホート研究では、コーヒーやお茶の摂取と糖尿病発症リスクとの関連が示されているが、コーヒーやお茶が糖代謝を改善するかどうかは不明である。今回、横浜市立大学の近藤 義宣氏らは、無作為化比較試験の系統的レビューとメタ解析により、コーヒー、緑茶、紅茶、烏龍茶の糖代謝への影響を調べた。その結果、とくに55歳未満またはアジア人の集団において、緑茶の摂取が空腹時血糖(FBG)を低下させる可能性が示唆された。Nutrients誌2019年1月号に掲載。空腹時血糖を下げる可能性はコーヒーや紅茶では認められなかった 本研究では、2017年2月19日までに公表された論文を電子データベースで検索した。糖代謝を改善するかどうかの主要評価項目は介入後のFBGの平均差である。 コーヒーやお茶の糖代謝への影響を調べた主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた892報のうち、27研究(参加者1,898人)をメタ解析した。・ネットワークメタ解析から、プラセボまたは水と比較して、緑茶がFBGを下げる可能性があることが示唆された(-2.10mg/dL、95%信頼区間:-3.96~-0.24mg/dL、p=0.03、中等度のエビデンスの質)。カフェイン入り/カフェイン抜きのコーヒーや紅茶では認められなかった。・サブグループ解析では、緑茶のFBGに対する影響は、平均年齢55歳未満での研究またはアジア人集団での研究でのみ、統計学的に有意であった。・烏龍茶群もFBGの有意な減少を示したが、エビデンスの質は非常に低かった。

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高カロリーなのはファストフードだけではない/BMJ

 外食のエネルギー量は、フルサービス食およびファストフード食のいずれもきわめて高く、むしろファストフード食のほうが低い傾向があり、これは広範な地域でみられる現象で、世界的な肥満の下支えとなっている可能性が、米国・タフツ大学のSusan B. Roberts氏らの調査で明らかとなった。肥満の有病率は多くの国で増加し続けている。大規模にチェーン展開しているレストランの栄養情報によると、ファストフードは世界的な肥満の最も重要な寄与因子とされるが、他の形式のレストランの食事については、エネルギー量の測定データがなく、肥満への寄与の程度はほとんど知られてないという。BMJ誌2018年12月12日号(クリスマス特集号)掲載の報告。世界6都市223種の外食を調査 研究グループは、5ヵ国のフルサービスおよびファストフードのレストランの、注文数の多い食事のエネルギー量を測定し、米国と比較する横断的調査を行った(研究資金の一部として米国農務省の助成を受けた)。 6ヵ国の主要都市(ブラジルのリベイラン・プレト、中国の北京、フィンランドのクオピオ、ガーナのアクラ、インドのバンガロール、米国のボストン)で無作為に選出された111店のフルサービス(接客係が給仕し、店内で着席して食事を摂る)およびファストフード(カウンターで供され、店内または店外で食事を摂る)のレストランで提供される223種(フルサービス食:136種、ファストフード食:87種)の一般的な食事の代表サンプルを用いてエネルギー量を測定した。フィンランドでは、5つの職場の社員食堂で提供される10種の食事も含まれた。当該レストランで注文の多い食事を観察単位とし、食事のエネルギー量の測定にはボンブ熱量計が用いられた。米国より低いのは中国のみ 米国と比較して、レストランの食事のエネルギー量の加重平均値が低かったのは、中国だけであった(719kcal[95%信頼区間[CI]:646~799] vs.1,088kcal[1,002~1,181]、p<0.001)。 分散モデル分析では、ファストフード食のエネルギー量はフルサービス食よりも33%低かった(p<0.001)。フィンランドでは、社員食堂の食事がフルサービスやファストフードレストランよりもエネルギー量が25%低かった(平均880[SD 156]kcal vs.1,166[298]kcal、p=0.009)。 多元配置分散分析では、国、レストラン形式、食事の食材数、重量は、食事のエネルギー量を予測した(R2=0.62、p<0.001)。フルサービス食の94%、ファストフード食の72%が、600kcal以上であった。 モデル解析では、中国を除くと、現在のフルサービス食またはファストフード食を毎日1食摂ると、追加食や飲み物、間食、前菜、デザートを摂らなくても、あまり体を動かさない女性に求められる1日のエネルギー量の70~120%が供給される可能性が示唆された。 著者は、「一般的な思い込みに反し、ファストフード食のエネルギー量は、フルサービスのレストランの食事よりも3割以上も低かった」とまとめ、「高エネルギーのレストランの食事は、世界的な肥満蔓延の重大な寄与因子であり、公衆衛生的介入における影響力の大きい標的として妥当である」と指摘している。

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自分の動脈硬化病変を見せられると生活習慣病が改善する(解説:佐田政隆氏)-994

 急性心筋梗塞は、狭心症を生じるような高度の冠動脈の動脈硬化病変が進行して完全閉塞することで生じると従来考えられていた。しかし、最近の研究によると、6~7割の急性心筋梗塞の原因は、軽度な内腔の狭窄しか来さない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞であるとされている。急性心筋梗塞は発症してしまうと突然死につながる怖い病気であるが、その多くは前兆がなく、発症を予知することは困難である。 ヒトの動脈硬化は、従来考えられていたよりかなり早期に子供の頃から始まり、生活習慣病のコントロールが悪いと無症状のうちに進行して、突然心血管イベントを誘発することが多くの研究で示されている。そこで、将来の心筋梗塞の発症を防ぐためには、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病のコントロールや禁煙といった1次予防が重要である。しかし、多くの人は、食事などの生活指導、運動指導、場合によっては薬物療法を行っても、現在は痛くも痒くもないため、アドヒアランスは悪く改善に結びつかない。 そこで、現場の先生方にお尋ねすると、発症してしまうと突然死になることを話したり、実際の頸動脈エコーでプラークの存在を見せるなど、工夫を凝らしておられる経験をお聞きする。しかし、どのような生活指導、服薬指導が効果的であるのか、エビデンスがないのが現状であった。 このスウェーデンで約3,500例を対象に1年追った、オープンラベルの無作為化比較試験では、介入群では、頸動脈の中膜複合体や無症候性のプラークといった頸動脈エコー所見を、血管年齢を色分けするわかりやすい図を用いて説明して、看護師が電話で理解していることを確認した。一方、対照群では通常の方法で生活指導、服薬指導をした。1年後のフラミンガム・リスクスコア(FRS)と、欧州のSCORE(systematic coronary risk evaluation)は、介入群で有意に改善していた。生活習慣の改善もあったと思われるし、服薬のアドヒアランスも向上したと思われる。 やはり、無症状でも自分の動脈硬化が思いのほか進行しているのを見せつけられると、生活習慣病治療へのモチベーションが上がると思われる。日本では、日本人の死亡原因の約6割を占める生活習慣病の予防のために、40~74歳までの人を対象に特定健診が行われて、特定保健指導が行われている。しかし、必ずしも効果を上げているとは言えない。生活習慣病に有効に介入することで、心筋梗塞の発症はもっと低下させることができるはずである。今回の研究などが積み重なって、有効な1次予防の方法が確立することを期待する。

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心房細動は待つのではなく見つけに行く時代(解説:矢崎義直 氏)-993

 心房細動は最もメジャーな不整脈の1つであるが、無治療だと塞栓症のリスクが高く、とくに心原性脳梗塞は重症化し死亡率も高い。心房細動を早期に診断し、適切な抗凝固療法を行うことが重要であるが、症状のない心房細動も多く、定期的な通常の心電図検査では検出が困難なこともある。そこで、心房細動のスクリーニングとして長時間の心電図モニタリングが可能なシステムの開発が進んでいる。 mSToPS試験(mHealth Screening to Prevent Strokes trial)は自己装着型の2週間記録可能なパッチ型心電計を使用し、心房細動の新規検出率を検討した。対象は年齢が75歳以上、もしくは高血圧や糖尿病などのリスクを1つ以上持った55歳以上の男性か65歳以上の女性とし、過去に心房性不整脈の既往があれば除外した。被験者の募集はAetnaやMedicareなどの医療保険システムに登録されている対象者に、郵便もしくはeメールで試験参加を勧誘した。オンラインで同意が得られれば試験に登録され、患者データなどはネット経由で得るという、登録が完全にデジタル化された新しい試みと言える。この方法により、通常の治験登録よりも登録時間を短縮でき、コストも抑えられ、普段治験とは疎遠なpopulationにもアプローチでき、よりリアルワールドに近い対象を選出できるという利点がある。 最終的に2,659例(平均年齢72.4歳、38.6%が女性)が選出され、パッチ型心電計を早期に装着する群(先行開始群)と4ヵ月遅らせて装着する群(遅延開始群)に無作為に割付をした。登録後4ヵ月の時点では、先行開始群が遅延開始群と比較し、心房細動の検出率が有意に高かった(3.9% vs.0.9%、絶対差:3.0%、95%信頼区間:1.8~4.1%)。また、この先行開始群と遅延開始群を合わせた症例の中で合計30分以上パッチ型心電計を使用し、解析ができた1,738例(全体の65.4%)を1年間フォローした。これらとマッチさせたコホート群3,476例と心房細動の検出率を比較しところ、パッチ型心電計使用群の方が、心房細動を多く検出した(6.7/100人年 vs.2.6/100人年、絶対差:4.1、95%信頼区間:3.9~4.2)。そのほか、パッチ型心電計使用群で抗凝固薬開始率、循環器科外来受診率が高かったが、心房細動による救急外来受診や入院率に差はなかった。 本試験の結論として、パッチ型心電計は心房細動発症のハイリスク群において、心房細動の検出に有用である事が示された。このように今後、長時間心電図モニタリングにより早期の心房細動の診断が可能となり、適切な治療が行われれば、脳梗塞や死亡率の減少など、clinical outcomeの改善も期待される。 一方、長時間心電図モニタリングにはまだ課題も残されている。1つは、心電計の装着率の問題である。本試験中にパッチ型心電計を少しも使用しなかった症例が917例、全体の34.5%に及ぶ。また心電計を装着した症例のうち40例がパッチによる皮膚炎を起こし、うち32例が装着中止を余儀なくされている。モニタリング期間は長ければ長いほど、当然心房細動の検出率は上がってくるが、アドヒアランスの問題も念頭に置かなければならない。 また、本試験では、長時間のモニタリングのおかげで、通常の心電図検査では到底捉えることのできなかったであろう短い持続時間の心房細動が多く検出されている。何分以上、もしくは何時間以上持続した心房細動を塞栓症のリスクと考えるかまだ明確な答えはない。 このように長時間心電図モニタリングならではの課題もあるが、その症例の塞栓症のリスク、出血のリスク、年齢、心房細動の持続時間を考慮し、抗凝固療法の適応を決める必要がある。

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英外食チェーン、推奨エネルギー量の料理は9%のみ/BMJ

 英国の主要外食チェーンで提供される主な食事のうち、英国公衆衛生局が推奨する1食当たりのエネルギー量が600kcal以下の食事はわずか9%である一方、47%に及ぶかなり多くの食事が1,000kcal以上とエネルギー量が過度であることが明らかになった。英国・リバプール大学のEric Robinson氏らが、英国の外食チェーン27社の食事を調査した結果で、著者は「ファストフード店の食事の栄養価は不十分だがきちんと表示はされている。一方で、英国のフルサービスで提供するレストランの食事のエネルギー量は過度な傾向がみられ、懸念の元である」と述べている。BMJ誌2018年12月12日号(クリスマス特集号)掲載の報告。レストラン21社とファストフード6社を調査 研究グループは、英国の主要外食チェーン27社を対象に、主な食事1万3,396種のエネルギー量を調査した。調査対象とした外食チェーンのうち、21社がフルサービスレストラン、6社がファストフード店を展開していた。 主要評価項目は、英国公衆衛生局が推奨する1食当たりのエネルギー量600kcal以下の食事の割合と、1,000kcal以上と過度なエネルギー量の食事の割合だった。レストランの食事のほうがファストフードより平均268kcal高い 計1万3,396種の食事の平均エネルギー量は、977kcal(95%信頼区間[CI]:973~983)だった。 英国公衆衛生局の推奨エネルギー量600kcal以下の食事の割合は9%(1,226種)だったが、1,000kcal以上のエネルギー量過多な食事の割合は47%(6,251種)とかなり多かった。 また、ファストフード店に比べてフルサービスレストランの食事は、エネルギー量が有意に過度であり、その差は平均268kcal(95%CI:103~433)だった。

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高血圧の定義、現状維持であれば1万人あたり5人の脳心血管イベントが発症するという警鐘(解説:桑島巖氏)-989

 2017年に発表された米国ACC/AHA高血圧ガイドラインでは、高血圧基準がJNC7に比べて、収縮期、拡張期とも10mmHg下がり130/80mmHgとされた。この定義変更はSPRINT研究の結果を大幅に取り入れたものであるが、果たしてこの新しい高血圧基準をアジア住民に当てはめた場合、どの程度が脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患から免れるのであろうか。その課題に対する答えを示したのがこの論文である。 本論文は、韓国国民健康保険サービスに参加した20~39歳までの約250万人について2006年から10年間追跡し、その間に発生した4万4,813件の脳血管障害、脳心血管死についてACC/AHA定義に従って分析したものである。 それによると、130~139/80~89mmHgのステージ1レベルの高血圧でも<120/80mmHgの正常血圧に比較すると10万人当たり年間51人多く、脳心血管疾患が発生していたという。なかでもアジア人の特性として脳卒中発症が冠動脈疾患発症の2倍多いことも明らかにしており、日本人にとっても参考になるデータである。 わが国でも策定中の高血圧治療ガイドライン2019では、混乱を招くという意味から高血圧の定義を変更する予定はないようであるが、このようなデータを見ると混乱を招くことを恐れるより、国民の脳卒中や心筋梗塞発症をこそ恐れるべきであり、高血圧の定義も米国にならって130/80mmHgとすべきである。

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リナグリプチンのCARMELINA試験を通して血糖降下薬の非劣性試験を再考する(解説:住谷哲氏)-991

 eGFRの低下を伴う腎機能異常を合併した2型糖尿病患者における血糖降下薬の選択は、日常臨床で頭を悩ます問題の1つである。血糖降下薬の多くは腎排泄型であるため腎機能に応じて投与量の調節が必要となる。DPP-4阻害薬の1つであるリナグリプチンは数少ない胆汁排泄型の薬剤であり、腎機能に応じた投与量の調節が不要であるため腎機能異常を合併した患者に投与されることが多い。 これまでにDPP-4阻害薬の安全性を評価した心血管アウトカム試験CVOTでは、サキサグリプチンのSAVOR-TIMI 53、アログリプチンのEXAMINE、シタグリプチンのTECOSが発表されている。リナグリプチンの安全性を評価した本試験の報告により、DPP-4阻害薬の安全性を評価したすべてのCVOTが出そろったことになる。本試験の最大の特徴は、リナグリプチンが胆汁排泄型であることに基づいて、これまで報告されたCVOTの中で最多の腎機能異常合併2型糖尿病患者を組み入れた点にある。 6,979例がエントリーされたが、その半数以上がeGFR<60mL/min/1.73m2であり、eGFR<30mL/min/1.73m2の患者も約15%含まれていた。主要評価項目は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中からなる3-point MACEであったが、副次評価項目にはESRDへの移行、腎関連死、ベースラインから40%以上のeGFRの低下の持続からなる腎複合エンドポイントが含まれている。中央値2.2年の観察期間において、プラセボ群の3-point MACE発症率は5.63/100人年であり、これまで実施されたCVOTの中で最も高リスクであった。このことは腎機能異常合併2型糖尿病患者の心血管リスクがきわめて高いことを示している。既報のDPP-4阻害薬のCVOTと同様に、主要評価項目ではプラセボ群に対する非劣性が証明されたが優越性は証明されなかった。期待された腎複合エンドポイントでも優越性は証明されなかった。多くの探索的アウトカムexploratory outcomeの中でプラセボ群と有意差を認めたのはアルブミン尿の進展HR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)、複合細小血管エンドポイントHR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)のみであった。重症低血糖の頻度もプラセボ群との間に有意差を認めなかった。また観察期間中のHbA1cはリナグリプチン群で0.36%有意に低下した。 本試験も含めて既報のCVOTはすべて非劣性試験non-inferiority trialであり、その結果をどのように解釈して日常臨床に適用すればよいのだろうか? 確かにすべての非劣性試験は製薬企業が新たな薬剤を販売するための臨床試験であり、われわれ臨床家にとっても患者にとってもメリットはないとの指摘にも一理ある1)。非劣性試験で証明されるのは、対象である新たな血糖降下薬(試験薬)が既存の血糖降下薬と比較して3-point MACEなどの心血管イベントを非劣性マージン(多くはハザード比の95%信頼区間の上限が1.3に設定される)を超えて増加させないことのみである。これをクリアすればその試験薬は「安全な血糖降下薬」としてのお墨付きを当局から得られる。つまり心血管イベントを29%増加させる可能性があっても血糖降下薬としては許容されることになる(この点については議論があるが本稿では割愛する)。そうであれば何も高価な新薬(試験薬)を使う必要はなく、プラセボ群で使用された従来の安価な血糖降下薬を使えばよいではないか、との反論も当然あるだろう。 血糖降下薬を投与する目的は心血管イベントなどの真のアウトカムを改善することにあり、HbA1cなどはあくまで代用のアウトカムsurrogate outcomeである。HbA1cを低下させれば腎症を含めた細小血管障害リスクが低下することはこれまでに証明されている。つまり将来の細小血管障害リスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは正当化される。本試験においてリナグリプチンは代用のアウトカムであるHbA1cと、同じく代用のアウトカムである尿アルブミンを有意に減少させたが、これはHbA1cの低下による可能性が高い。一方、心血管イベントについては、RCTのメタ解析によると厳格な血糖管理により非致死性心筋梗塞を含めた冠動脈疾患は減少するが、脳卒中、全死亡は減少しないと報告されている2)。つまり将来の心血管イベントリスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは、細小血管障害の場合と同じ程度に正当化されるとは言い難い。 CVOTでは、血糖降下作用とは独立した心血管イベントリスクの上昇の有無を検証するために、試験デザインとしてプラセボ群と試験薬群とのglycemic equipoise(血糖コントロールつまりHbA1cが両群で試験期間中に同等であること)が要求されている。しかし本試験も含めた既報のすべてのCVOTにおいては試験薬群のHbA1cが有意に低下している。この点について、プラセボ群で血糖管理が強化されなかったのは倫理的に問題であるとの意見もあるが、筆者の見解は少しく異なる。実際にはCVOTに組み入れられたようなきわめて心血管イベント高リスクの患者で、かつ、すでに複数の血糖降下薬を併用してHbA1cが8.0%程度の患者において、インスリンを増量、SU薬を増量、他の血糖降下薬を追加することはACCORDの結果が報告されて以降、容易ではないのが現実ではないだろうか。血糖降下薬を増量、追加して血糖管理を強化するbenefitとharmを天秤に掛けると、clinical inertiaとの批判もあるが、現状維持を選択する判断になることが多い。さらに本試験に組み入れられたような腎機能異常を合併した患者においては、より一層その傾向が顕著である。つまりプラセボ群では血糖管理を強化しなかったのではなく、従来の血糖降下薬では強化できなかったのが事実に近いだろう。言い方を変えれば、試験薬により血糖管理を少しではあるが強化できたと言ってよい。そのような条件下においても、リナグリプチンが心血管イベントリスクを増加させずに血糖降下作用を発揮できることは本試験において証明されたと考えてよい。 非劣性試験は前述したように、患者にとって真のアウトカムの改善をもたらす薬剤を生み出す試験ではない。CVOTにおいて優越性を示した血糖降下薬はこれまでに複数存在するが、特殊な対象患者群、短い観察期間を考えるとすべての2型糖尿病患者にbenefitをもたらすかは不明である。今後はCVOTで優越性を示した薬剤を用いて、幅広い患者群に対する長期間の優越性試験superiority trialが実施されることを期待したい3)。

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第10回 カラダを温める食べ方【実践型!食事指導スライド】

第10回 カラダを温める食べ方医療者向けワンポイント解説カラダを温めることは、寒い冬の中で快適に毎日を送るための重要なポイントです。血流が悪くなると、代謝量が落ちる原因になるばかりか、冷えることで、「外出が億劫になる」「部屋の中でじっとして動かない」など活動量も落ちていきます。その結果、体重増加や食べ過ぎなどにつながってしまいます。また、カラダが冷えると筋肉も固くなり、けがや転倒のきっかけにもなります。寒い冬こそ代謝量や活動量が上がるよう、カラダを温める食べ方を意識してもらいましょう。以下ポイントについて解説をします。■ポイント1:肉や魚を食べる食事を摂取すると、消化の際に熱が産み出され、その一部が体熱となって消費されます。その結果、食事の後はカラダが温かくなり、安静時においても代謝量が増えます。これを『食事誘発性熱産生』(DIT:Diet Induced Thermogenesis)と言います。栄養素によって、このエネルギー量は異なり、タンパク質のみ摂取の場合は、摂取エネルギーの約30%、糖質のみ摂取では約6%、脂質のみ摂取では約4%と言われています。つまり、肉や魚、卵、大豆製品といったタンパク質の摂取は、ほかの栄養素と比べてカラダを温める働きが強いと言えます。また、筋肉量を増やすと体温はより高まるので、タンパク質の中でも脂肪が少なく、筋肉を作るのに適した栄養成分で組成されているヒレ肉や赤身肉、魚、卵などを、毎食意識して食べてもらうのが良いでしょう。■ポイント2:温かい汁物を食べる温かい汁物や食物の摂取には、カラダを直接温める働きがあります。とくに汁物など液状のものは、喉から胃に流れる過程で温かさを長く感じることができます。また、胃は冷たいものが入ると収縮し、動きが緩慢になりますが、温められることで動きが活発になり、消化促進にもつながります。■ポイント3:ショウガを食べるショウガの成分には6-ジンゲロール、6-ショウガオール、ジンゲロンなどがあります。生の状態で多く含まれる6-ジンゲロールを加熱または乾燥させることで、6-ショウガオールへ変化します。6-ショウガオールは内側からカラダを温める働きがあるので、スープや味噌汁など汁物や炒め物に加えるなどの加熱調理による食べ方を意識すると、より効果的です。また、残ったショウガをスライスして、乾燥させておくと無駄なく利用できるのでおすすめです。■ポイント4:辛い料理を食べるカプサイシンは、末梢血管を広げ、血流を改善する働きが期待できます。血流がスムーズになることで、指先やつま先など末端の循環を高め、酸素や栄養素の運搬を促し、カラダを温める働きがあります。辛い料理を食べることも良いですが、苦手な方は、炒め物や煮物に輪切り唐辛子を少し加える、うどんなどに七味唐辛子や一味唐辛子をふるなど、一手間加えてみることもおすすめです。■ポイント5:生野菜より茹で野菜野菜は水分を多く含むため、生野菜の多量摂取は、冷たい水分を摂取し、カラダを冷やす要因となります。「生野菜を食べないと、ビタミンやミネラルが摂取できない」と考える方も多いですが、茹で野菜でもビタミンやミネラルは摂取できます。生野菜から流出するのは水溶性のビタミンやミネラルの一部であり、すべてがなくなるわけではありません。刻んで水につけた葉物からは、ビタミンCが約50%減少するというデータもありますが、50%は残存します。生野菜はかさがあるため、サラダでは大量に食べるのは難しいです。しかし、茹でることで、かさが減り、一度に食べられる量が増えるので、かえって効率的にビタミンやミネラルが摂取できます。また、ビタミンやミネラルの流出を減らすには、生で食べる場合は“洗ってから切る”、加熱して食べる場合は“茹でてから切る”がポイントです。カラダを温めることは、環境整備や運動だけでなく、食事でも対策ができます。『寒い時期こそ、カラダを温めることを意識し、活動量を上げましょう』と、患者さんにお伝えすると良いでしょう。

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SGLT2阻害薬は動脈硬化性疾患を合併した2型糖尿病には有用かもしれないが日本人では?(解説:桑島巖氏)-988

 今、2型糖尿病の新規治療薬SGLT2阻害薬の評価が医師の間で大きく分かれている。一方は積極的に処方すべしという循環器科医師たち、もう一方は慎重であるべきという糖尿病治療の専門医師たちである。 自らの専門の立場によって分かれる理由は、このレビューを読み込むとよくわかる。そして一般臨床医は個々の症例にどのように処方すべきか、あるいは処方すべきでないかが理解できる内容である。 このレビューはSGLT2阻害薬に関して、これまでに発表された3つの大規模臨床試験、EMPA-REG、CANVAS Program、DECLARE-TIMI58を結果について独立した立場から俯瞰し、レビューした論文である。 総じて、SGLT2阻害薬は動脈硬化疾患既往例における心血管イベント抑制には効果が期待でき、とくに心不全や腎疾患例では動脈硬化疾患の有無にかかわらず、再入院予防や末期腎不全への進展予防に有用である可能性が示されている。 しかし半面、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化性疾患の既往のない例では、心血管イベントや心血管死の予防には有用性が認められないことも明らかにしている。 3つのトライアルには、以下のような違いがある。1.EMPA-REG試験は動脈硬化性疾患(脳卒中や虚血性心疾患)既往例が100%を占めているのに対して、DECLAREは40.6%にすぎない。このバックグラウンドの違いは結果に大きく影響している。2.そして、EMPA-REG試験では動脈硬化性疾患既往での心不全入院、心血管死予防における効果がDECLARE試験よりも2倍も大きい。3.EMPA-REG試験とCANVAS試験では動脈硬化疾患既往例のMACE(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)予防効果は認められたのに対して、DECLARE試験では認められなかった。 上記3項目は各々の試験の対象バックグラウンドの違いと、後で述べる用量の違い*がこの結果に影響していると思われる。4.心不全入院、心血管死予防効果は、EMPA-REG試験では、心不全既往のない例で顕著だったが、心不全既往例では認められなかった。一方、DECLARE試験では心不全既往のあるなしにかかわらず予防効果はあってもわずかである。5.腎機能障害例での心不全入院予防効果はEMPA-REG試験とCANVAS試験では認められたが、DECLARE試験ではみられなかった。6.AMPUTATIONと骨折のリスク増加はCANVAS(カナグリフロジン)のみにみられ、他の2剤ではみられなかった。共通点1.動脈硬化疾患既往を有さない2型糖尿病では、いずれの薬剤もMACEの予防効果や心不全入院、心血管死の抑制効果はなかった。つまり再発予防にのみ有用であって、脳卒中や心筋梗塞既往のない例でのMACE予防にはあまり効果は期待できない。2.動脈硬化疾患既往例での腎機能悪化予防と腎臓死抑制効果は3剤とも非常に大きい。心不全入院予防と腎不全悪化予防効果は、心不全や腎不全の既往にかかわらず3剤とも認められる傾向がある。3.心不全入院、腎不全の悪化予防効果の機序としては、HbA1c低下作用は、いずれのSGLT2阻害薬もプラセボ群との間の差が0.4~0.6%にすぎないことから、血糖抑制作用よりも、SGLT2阻害薬が有するナトリウム利尿作用が大きく関与していると思われる。まとめ SGLT2阻害薬は動脈硬化性疾患既往例では、心不全入院と心血管死の予防効果とMACEの発症予防に対して有用性は期待できるが、すべての試験が日本での適用用量でのエビデンスではない。 動脈硬化性疾患既往のない高リスクだけの2型糖尿病例では、有用性は期待できない。このことは、動脈硬化性疾患既往歴が半数以下しか含まれていないDECLARE試験では、MACE予防効果は認められず、心不全入院や心血管死の予防効果も軽度にとどまることから明らかである。*用量についての補足説明 CANVAS試験で用いられた薬剤用量が、わが国の最大適用用量をかなり上回っていることは注意すべきである。すなわち、CANVAS試験ではカナグリフロジン300mg/日まで用いられており、日本で保険収載の最大用量(100mg)を大幅に超えている。

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加齢黄斑変性、酸化LDLと関連なし

 血清中の酸化低密度リポタンパク質(酸化LDL)は、加齢黄斑変性(AMD)の発症または悪化において統計学的に有意な関連は認められないことが示された。米国・ウィスコンシン大学マディソン校のRonald Klein氏らが、ビーバーダム眼研究(BDES:Beaver Dam Eye Study)のデータを解析、報告した。Ophthalmology誌オンライン版2018年12月17日号掲載の報告。 BDESは、1988年にウィスコンシン州ビーバーダム市在住の43~84歳の住民を対象とする前向き観察研究として開始された。研究グループは、血清中の酸化LDLとAMDとの関連を調べる目的で、BDESにおいて1988~2016年に約5年間隔で行われた6回の調査期のうち1回以上の調査期に診察を受けた4,972例から、50%(2,468例)を無作為に抽出し、各調査期に保管された凍結検体についてELISA法を用いて酸化LDLを測定した。1人が複数回の調査期に診察を受けているため、合計6,586件の結果が含まれている。 AMDはWisconsin Age-related Maculopathy Grading Systemにより評価し、重症度を5段階に分類して調査した。あらゆるAMDや後期AMDの発生率、および25年にわたるAMDの悪化・改善など、AMDの推移と酸化LDLとの関連を、Multi-State Markov(MSM)modelを用いて同時解析した。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける酸化LDL値(平均±SD)は、75.3±23.1U/Lであった。・年齢、性別、ARMS2と補体H因子(CFH)の対立遺伝子、および調査期で補正すると、調査期間初期の酸化LDLは、あらゆるAMDの発生率において統計学的に有意な関連は認められなかった(酸化LDL 10U/L当たりのハザード比[HR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.98~1.09)。・酸化LDLは単独で、AMD重症度の悪化や、後期AMDの発生率とも関連を認めなかった。・スタチン使用歴、喫煙状況、BMIおよび心血管疾患既往歴に関して補正後も、酸化LDLは、あらゆるAMDの発生率あるいはAMDの悪化と関連を認めないままだった。

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第10回 初心忘るべからず~心電図に先入観は禁物~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第10回:初心忘るべからず~心電図に先入観は禁物~新年、明けましておめでとうございます。2019年が皆さまにとって素敵な1年になるといいですね。おかげさまで、本連載も10回目を迎えることができ、今後ますます、心電図に関するわかりやすく有益な情報発信をしてゆく所存です。さて、新年一発目は初心にかえるべく大事な症例を扱いましょう。症例提示67歳、男性。糖尿病、高血圧で治療中。10年前に冠動脈インターベンション(PCI)実施の既往あり。4ヵ月前にも急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)で入院し、再狭窄(ステント内高度狭窄病変)の治療がなされていた。1ヵ月前から明け方の胸部不快・倦怠感が出現し、2週間前に救急外来を受診。諸検査結果から“帰宅可”とされた。今回は定期外来で受診し、以下のように症状を訴え、緊急入院となった。『今朝もまた調子が悪かったです。こないだ救急で来たときは大丈夫って言われました。前回の狭心症の時より軽いような気がするんですけど、なーんかやっぱり変なんです』定期外来時(図1)および救急外来時(図2)の心電図を以下に示す。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する(図2)救急外来時の心電図(2週間前)画像を拡大する【問題1】外来時の心電図(図1)の所見として正しくないものを2つ選べ。1)心室期外収縮2)心房細動3)ST低下4)異常Q波5)房室ブロック解答はこちら2)、4)解説はこちら1)×:肢誘導3拍目はワイドで洞周期のタイミングよりも早期に出ており、「心室期外収縮(PVC)」で間違いありません2)○:自動診断下部のコメントを見ると「心房細動が疑われます」となっていますね。でもこれは誤り。“悪魔のささやき”です(笑)。期外収縮の部分を除いてR-R間隔も整で、特徴的なf波(細動波)もありません(第4回)3)×:目を皿のようにして眺めると、I、II、そしてV2~V6誘導で「ST低下」があります。しかも、心筋虚血ありの時に多い“悪性”な「水平型」のようです4)○:aVR誘導を除き、最初に陰性に振れているQRS波はどこにもありません5)×:自動診断の「房室ブロックII度(Mobitz)」は×ですが、選択肢の「房室ブロック」は正しいです。これが最初から一人で見抜けたのなら、今回ボクから学ぶことはあまりないかも!?お決まりの読み“型”を思い出せ!さぁ、2019年はじめの症例は、冠危険因子リッチで、実際に心カテ治療歴もある男性です。ただ、今回は循環器外来での一場面。4ヵ月前に緊急PCIをされた時とは性状が少し違う、弱い胸部症状を訴えています。まずは、心電図(図1)を系統的な読み“型”(第1回)で判断すると、R-R間隔は不整、心拍数は期外収縮がない右側(胸部誘導)に対して検脈法を用いると48/分ですし、また、全体の10秒間の記録からは60/分(QRS波が10個)と算出できます(第3回)。ちなみに、どうしても最初に自動診断に目がいく人! それ自体は別に構いませんが、できれば自分で系統的な読みをした上での“たしかめ”に活用するほうが良いでしょう。次に、“ピッタリ”のP波はカタチがやや気になりますが、「向き」的には洞調律ですかね(第2回)。以下“クルッとスタート バランスよし!”でひっかかるのは、“スター”部分のST変化。なんだかST低下がありそうです。ここで、なーんかオカシイナと思ったら…過去の心電図との比較が重要です。この人の場合、2週間前にも同じような症状で救急受診しているので、その際の心電図(図2)と比べてみます。冠動脈疾患の既往がガッツリある人なので、どうしてもST変化に目がいってしまうのは医師の“性”でしょうか。現場では2枚の心電図を横に並べて、どこが変化したのかを見るのでしょう(そんなクイズも世間にありますね)。すると新規にST低下が出現しており、しかも虚血性ST変化としては“ホンモノ”を示唆することが多い「水平型」ではないですか! 左室肥大で見られるV5・V6誘導でのQRS高電位所見を伴わないST低下であることも重要だとボクは考えます。つまり、 このST変化は左室肥大では説明できないわけです。また、ST変化以外に今回問題となるのは、自動診断でも挙げられている「房室ブロック」です。細かく言うと「房室ブロックII度(Mobitz)」なので間違いもありますが、心電計がP波をきちんと認識できているということですから、ある意味スゴいです。これらの問題点を踏まえて次の問題をどうぞ。【問題2】心筋トロポニン、CK・CK-MBの上昇はなく、心エコーでの左室壁運動異常もなかった。以上のことからどんな病態を想定し、どうマネジメントするか?解答はこちら病態の想定:ACSや有症候性徐脈(房室ブロック)、冠攣縮性狭心症などマネジメント:冠動脈造影、房室ブロックの精査・加療を行う解説はこちらこの問題は、今回ボクが最も伝えたいことに関係します。この方は採血や心エコーでの異常はないようです。でも、濃厚な狭心症治療歴、加えて新出のST変化、とくに水平型ST低下ですから、冠動脈病変、なかでもACS再発を第一に疑うこと自体は悪くありません。“早朝だけ”のようなキーワードから「冠攣縮性狭心症」を思い浮かべた人もセンス良しです。また、既往にも以前の心電図にもない「房室ブロック」が認められていますので、これに関連した胸部症状ではないかどうかも疑うべきです。マネジメントとしては…狭心症を疑い、冠動脈造影を実施。また、房室ブロックについても精査する必要がありますね。実際、この方は「不安定狭心症(急性冠症候群)」の疑いで緊急入院となりました。これはGood-Jobだったのですが、まずかったのは、“その他”の選択肢を考えるのをやめてしまったこと。心臓カテーテル検査を行って冠動脈狭窄(動脈硬化症)や冠攣縮を評価し、場合によっては血行再建治療をすると同時に、もう一つの大きな異常である「房室ブロック」への対処も想定してこそデキるドクターです。徐脈に関連した症状や心不全徴候ありと考えればペースメーカー植え込みの適応がありますし、その前に一時ペーシングを行う必要性はありませんか…?ST部分にばかり気をとられて、心電図から「房室ブロック」を指摘できない人は、その先に進みようがありません。ST変化のほかに不整脈もあるぞ!病歴や背景因子からして、患者さんの胸部症状の原因として、冠動脈疾患(虚血性心疾患)を疑うのは定石ですし、できて当然だと思います。この方は左冠(状)動脈(前下行枝)に治療歴があり、心電図(図1)をよく見るとaVR誘導でST上昇もあるので、『かなり上流でのヤバイ病変なのでは…』と、とらえる人もいるかもしれません。もちろん、悪くないでしょう。同日に入院後、“準緊急”でなされた冠動脈造影では、ステント狭窄やほかの新規病変もありませんでした。そのためか、この時点で担当医は、心電図(図1)に心室期外収縮以外の大事な不整脈があるということを完全に見落とし、安心しきってしまいました。たしかに、心拍数もメチャクチャ遅いわけでもない、期外収縮もある、「心拍数62/分」と表示されていた…そのため「徐脈性不整脈」の存在と影響を頭に思い描くことができなかったのでしょう。ここで、心電図(図1)より抜粋したV1誘導(あるいは“僧帽性P”に見えるII誘導)を見て下さい(図3)。(図3)心電図(図1)よりV1誘導のみ抜粋画像を拡大する左から奇数個目のP波はブロックされており、QRS波は続きません。つまり、2:1房室ブロックと診断できるんです。自動診断の言う「II度(Mobitz)」ではなく、「2:1房室ブロック」。これが正しい心電図診断です。「2:1」というのは、“つながる”(房室伝導できる)と“落ちる”(房室伝導できずにQRS波が脱落する)が交互にくるという意味です。担当医はまず、2週間前の心電図(図2)のV1誘導と比べて、明らかにT波のカタチが変わっている(おかしい)ことに気づくべき(クルッ“ト”チェックの時点でね)。図中の矢印はP波ですよ! QRS波の直前にコンスタントにあるP波とまったく同じ波形がT波終末部に重なっているのです。このようにV1誘導のP波は、“2相性”であるなど目立つ形状のことも少なくありません。なので、P波の認識が外せない不整脈解析において、ほかよりもV1誘導が不整脈を読み解くのに適している理由の一つなんです。心電図のメッセージは漏れなく受信したい実際のカルテには「洞調律、以前にないST低下」という記載のみで、カテの翌日に退院可とされていました。サマリーにも房室ブロックに関する言及はありませんでした。この房室ブロックは間欠的(一過性)だったため、めまいやふらつき、息切れなどの典型的な徐脈症状もこの患者さんにはありませんでした(その後しばらく外来心電図でも房室ブロックなし)。そのためか、退院後も不定期に続く類似の訴えが問題提起されませんでした(外来担当医には“真実”が見えてなかったためでしょう)。そして緊急入院から半年以上も後のこと。患者さんは『以前は、時折、朝だけ出現していた症状が、最近は1日中になって身体全体が重くてだるい』と訴えて、再び救急受診することになります。この時に担当した別の医師は、「2:1房室ブロック」に気づき、最終的にペースメーカー植え込みがされました。幸い、術後は胸部症状と倦怠感が完全に消失(主訴が房室ブロックによるものであることを示唆しています)したそうです。めでたし、めでたし。ちなみに、心電図(図1)で認められたST低下についてはどうでしょう?血行再建を要するほどではない狭窄が数カ所あり、それが房室ブロックに伴う徐拍化で相対的に心筋虚血を生じた可能性などを考えますが、正確な機序に関しては難しいように思います。最後に述懐。当初、入院担当医、そして心カテも含め指導した上級医(外来医)は共に循環器医でした。彼らを笑う、あるいは責めたところで、何も問題は解決しませんし、ボクが最も嫌いなことです。むしろ“人の振り見て我が振り直せ”。先入観は時に“プロ”であっても盲目にさせるもの。担当者が心電図の放つメッセージをすべて受信できていたら、今回のようなジャッジには絶対ならなかったはずですし、どんな立場の医師であろうと、患者さん本人や家族にとっては“ヤブ医者”と感じるかもしれません。でも、もし半年前にペースメーカーを入れてあげられていたら、患者さんをもっと早く快適にできたわけですし、もしも「冠動脈狭窄なし=冠攣縮」のような短絡的思考でジルチアゼムなどを処方していたら、医原性に完全房室ブロックを作っていた可能性もあります。すべてがすべて、心電図の“読み落とし”に起因する結果と考えられませんか…?もちろん仮定の話で、悲観しすぎかもしれませんが。『この患者さんは“冠疾患の人”だから…』だと決めつけて、心電図でST変化だけしか見ない医師に“正解”は見えません。心電図を読む時は、まず先入観なく真っ白な気持ちで読むのです。その上で所見を解釈し、行動に移す段階で患者背景などの追加情報を乗せるのが正しい“順序”なのです。過剰な先入観の怖さ、そして系統的な心電図判読の重要さ…それを本症例が教えてくれている気がします。サン=テグジュペリの星の王子さまは、「大切なものは目に見えない」と言いました。ただ、心電図の場合には少し違います。すべて“見えてる”んです。でも、読む側の頭と心とが整わないと消えてしまうだけ。「心電図は漏れなく系統的に読むぞ!」皆さんが新年にDr.ヒロと改めてそう誓ってくれることを祈りたいと思います。Take-home Message1)「異常かな?」と思う所見があったら、必ず過去の心電図と比較せよ!2)強すぎる先入観は、心電図を読む上では障害! まずは頭を“真っ白”にして読もう3)不整脈解析にはV1誘導が最適な判断材料となることが多い【古都のこと~下鴨神社~】ボクの初詣といえば下鴨神社。この名前、実は通称で、本当は賀茂御祖(かもみおや)神社と言うそうです。1994年(平成6年)、世界遺産に登録されたこともあり、今年も全国からの参拝客で大賑わいでした(写真は早朝に撮影)。ボクの元日は家族とともにご祈祷を受けることから始まるのですが、このご祈祷、国宝の本殿に通されてさい銭を投げる参拝客の真ん前で執り行われるのです。そんな気恥ずかしさや足に心地よい玉砂利の感覚を味わうのが、ここ数年恒例の醍醐味なのです。

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高齢者の肥満診療はどうすべきか

 2018年12月18日に一般社団法人 日本老年医学会(理事長:楽木 宏実氏)は、同会のホームページにおいて『高齢者肥満症診療ガイドライン2018』(作成委員長:荒木 厚氏)を公開した。 本ガイドラインは、同会が作成方針を打ち出している「高齢者生活習慣病管理ガイドライン」、すなわち 「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」「肥満症」のガイドラインの第4弾にあたり、日本肥満学会の協力を得て作成されたものである。作成では既刊の『肥満症診療ガイドライン2016年版』を参考に、認知症・ADL低下の観点から新たにクリニカルクエスチョン(CQ)を設定し、システマティックレビューを実施したものとなっている。 17のCQで肥満症診療に指針 ガイドラインでは、「肥満または肥満症の診断」「肥満症の影響」「肥満症の治療」と全体を3つに分け、各項目でCQを設定している。とくに「肥満症の影響」は厚く記載され、肥満と認知症リスク、運動機能低下、循環器疾患との関係が記されている。 具体的に「肥満または肥満症の診断」では、肥満症の特徴について「高齢者ではBMIが体脂肪量を正確に反映しないことが少なくないこと」「BMIよりもウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比が死亡リスクの指標となること」「内臓脂肪が加齢と共に増加すること」などが記されている。 「肥満症の影響」では、「高齢期の認知症のリスク」について、「中年期の肥満は高齢期の認知症発症のリスクであるので注意(推奨グレードA)」とする一方、「高齢者の肥満は認知症発症リスクとはならず、認知症発症リスクの低下と関連する」としている。また、「サルコペニア肥満は単なる肥満と比べ、ADL低下・転倒・骨折、死亡のリスクとなるか」では、「サルコペニア肥満は単なる肥満と比べてよりADL低下・転倒・骨折、死亡をきたしやすいので注意する必要がある(推奨グレードA)」とし注意を促している。 「肥満症の治療」では、「生活習慣の改善で体重、BMIを是正することでADLや疼痛、QOLは改善するか」について、「ADL低下、疼痛、QOLを改善することができる(推奨グレードB)」としているほか、「肥満症を治療すると認知機能は改善するか」では、「認知機能は改善する可能性がある(推奨グレードB)」などが記されている。 本ガイドラインの詳細については、同会のホームページで公開されているので参照にしていただきたい。

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第8回 冬の救急編:心筋梗塞はいつ疑う!?【救急診療の基礎知識】

12月も終盤。最近では都内も一気に冷え込んできました。毎朝布団から出るのが億劫になってきた今日この頃です。救急外来では急性冠症候群や脳卒中の患者数が上昇しているのではないでしょうか?ということで、今回は冬に多い疾患にフォーカスを当てようと思います。脳卒中は第5回までの症例で述べたため、今回は急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に関して、初療の時点でいかにして疑うかを中心に考えていきましょう。●今回のPoint1)胸痛を認めないからといって、安易に否定してはいけない!?2)急性冠症候群?と思ったら、常に大動脈解離の可能性も意識して対応を!?3)帯状疱疹を見逃すな! 必ず病変部を目視し、背部の観察も忘れるな!?はじめに急性冠症候群は、冠動脈粥腫の破綻、血栓形成を基盤として心筋虚血を呈する症候群であり、典型例は胸痛で発症し、心電図においてST上昇を認めます(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)。典型例であれば誰もが疑い、診断は容易ですが、そればかりではないのが現実です。高感度トロポニンなどのバイオマーカーの上昇を認めるものの、ST変化が認められない非ST上昇型心筋梗塞(non-ST elevation myocardial infarction:NSTEMI)、バイオマーカーの上昇も伴わない不安定狭心症(unstable angina pectoris:UAP)の診断を限られた時間内で行うことは難しいものです。さらに、胸痛が主訴であれば誰もがACSを疑うとは思いますが、そうではない主訴であった場合には、みなさんは疑うことができるでしょうか。STEMI患者であれば、発症から再灌流までの時間を可能な限り短くする必要があります。そのためには、より早期に疑い対応できるか、具体的にはいかにして疑い心電図をとることができるかがポイントとなります。今回はその辺を中心に一緒に考えていきましょう。急性冠症候群はいつ疑うべきなのか?胸痛を認める場合「胸痛を認めていれば10分以内に心電図を確認する」。これは救急外来など初療に携わる人にとって今や常識ですね。痛みの程度がたいしたことがなくても、「ACSっぽくないなぁ」と思っても、まずは1枚心電図検査を施行することをお勧めします。何でもかんでもというのは、かっこ悪いかもしれませんが、非侵襲的かつ短時間で終わる検査でもあり、行うことのメリットが大きいと考えます。胸痛を認めACSを疑う患者においては、やはり大動脈解離か否かの鑑別は非常に重要となります。頻度は圧倒的にACSの方が多いですが、忘れた頃に解離はやってきます。まずはシンプルに理解しておきましょう。突然発症(sudden onset)であった場合には、大動脈解離をまず考えておいたほうがよいでしょう。ACSも急性の胸痛を自覚することが多いですが、大動脈解離はそれ以上に瞬間的に痛みがピークに達するのが一般的です。数秒内か数分内かといった感じです。「なんだか痛いな、いよいよ痛いな」というのがACS、「うわぁ!痛い!」というのが解離、そんな感じでしょうか。皮膚所見は必ず確認ACSを数時間の診療内にカテーテル検査を行わずに否定することは意外と難しく、HEART score(表1)1)などリスクを見積もるスコアリングシステムは存在しますが、低リスクであってもどうしても数%の患者を拾いあげることは難しいのが現状です。しかし、胸痛の原因となる疾患がACS以外に確定できれば、過度にACSを心配する必要はありません。画像を拡大する画像を拡大する高齢者の胸痛の原因として比較的頻度が高く、発症時に見逃されやすい疾患が帯状疱疹です。帯状疱疹は年齢と共に増加し、高齢者では非常に頻度の高い疾患です。痛みと皮疹のタイムラグが数日存在(長ければ1週間程度)するため、発症時には皮疹を認めないことも多く診断では悩まされます。胸痛患者では心電図は必須であるため、胸部誘導のV6あたりまでは皮膚所見が勝手に目に入ってくるとは思いますが、背部の観察もきちんと行っているでしょうか。観察を怠り、ACSの可能性を考えカテーテル検査が行われた症例を実際に耳にします。皮疹がまったくない状態でリスクが高い症例であれば、カテーテル検査を行う状況もあるかもしれませんが、明らかな皮疹が支配領域に認められれば、帯状疱疹を積極的に疑い、無駄な検査や患者の不安は回避できますよね。疼痛部位に加えて、神経支配領域(胸痛であれば背部、腹痛であれば背部に加え臀部)は必ず確認する癖をもっておくとよいでしょう。胸痛を認めない場合ACSを疑うことができなければ、心電図をオーダーしないでしょう。いくら高感度トロポニンなど有効なバイオマーカーが存在していても、フットワークが軽い循環器医がいても、残念ながら目の前の患者さんを適切にマネジメントできないのです。胸痛を認めない患者とは(1)高齢、(2)女性、(3)糖尿病、これが胸痛を認めない心筋梗塞患者の3つの代表的な要素です。2型糖尿病治療中の80歳女性の約半数は痛みを認めないのです2,3)。これがわずか数%であれば、胸痛がないことを理由にACSを否定することが可能かもしれませんが、2人に1人となればそうはいきません。3大要素以外には、心不全や脳卒中の既往症がある場合には、痛みを認めないことが多いですが、これらは普段のADLの低下や訴えが乏しいことが理由でしょう。既往症から心血管系イベントのリスクが高い患者ということが認識できれば、虚血性病変を疑い対応することが必要になります。胸痛以外の症状無痛性心筋梗塞患者の入口はどのようなものでしょうか。言い換えれば、胸痛以外のどのような症状を患者が訴えていたら疑うべきなのでしょうか。代表的な症状は表2のとおりです。これらの症状を訴えて来院した患者において、症状を説明しうる原因が同定できない場合には、ACSを考え対応する必要があります。65歳以上の高齢者では後述するcoronary risk factorが存在しなくても心筋梗塞は起こりえます。年齢が最大のリスクであり、高齢者ではとくに注意するようにしましょう。画像を拡大するたとえば、80歳の女性が嘔気・嘔吐を主訴に来院したとしましょう。バイタルサインは意識も清明でおおむね安定しています。高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症の指摘を受け内服加療中です。さぁどのように対応するべきでしょうか。そうです、病歴や身体所見はもちろんとりますが、それと同時に心電図は一度確認しておきましょう。症状が数日持続している、食欲は通常どおりあるなど、ACSらしくないなと思ってもまずは1枚心電図を確認しておくのです。入口を広げると、胸痛ではなく失神や脱力、冷や汗などを認める患者においても「ACSかも!?」と思えるようになり、「胸痛はありませんか?」とこちらから問診できるようになります。患者は最もつらい症状を訴えるのです。胸痛よりも嘔気・嘔吐、脱力や倦怠感が強ければ、聞かなければ胸痛を訴えないものなのです。Coronary risk factorACSを疑った際にリスクを見積もる必要があります。冠動脈疾患の家族歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙者、慢性腎臓病などはリスクであり、必ず確認すると思いますが、これらをすべて満たさない場合にはACSは否定してよいのでしょうか。答えは「No」です。 年齢が最大のリスクであり、65歳以上の高齢者では、前述したリスクファクターのどれも該当しなくても否定してはいけません。逆に40~50代で該当しなければ、可能性はきわめて低くなります。ちなみに家族歴はどのように確認していますか? 「ご家族の中で心筋梗塞や狭心症などを患った方はいますか?」と聞いてはいませんか。この問いに対して、「私の父が80歳で心筋梗塞にかかった」という返答があった場合に、それは意味があるでしょうか。わが国における心筋梗塞の平均発症年齢は、男性65歳、女性75歳程度です。ですから年齢を考慮すると心筋梗塞にかかってもおかしくはないなという、少なくともそれによって診療の方針が変わるような答えは得られませんね。ポイントは「若くして」です。先ほどの問いに対して「私の父は50歳で心臓の病気で亡くなりました」や、「私の兄弟が43歳で数年前に突然死して、不整脈が原因と言われました」といった返答があれば、今目の前にいる患者さんがたとえ若くても、家族歴ありと判断し、慎重に対応する必要があるのです。さいごに胸痛を認めればACSを疑い、対応することは誰もができるでしょう。しかし、そもそも疑うことができず、診断が遅れてしまうことも一定数存在するはずです。高齢者では(とくに女性、糖尿病あり)、入口を広げること、そして帯状疱疹に代表される心筋梗塞以外の胸痛疾患もきちんと鑑別に挙げ、対応することを意識してください。次回は、意識障害のピットフォールに戻り、アルコールによる典型的な意識障害のケースを学びましょう。1)Poldervaart JM, et al. Ann Intern Med. 2017;166:689-697.2)Canto JG, et al. JAMA. 2000;283:3223-3229.3)Bayer AJ, et al. J Am Geriatr Soc.1986;34:263-266.

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GIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストLY3298176は第3のインクレチン関連薬となりうるか?(解説:住谷哲氏)-986

 インクレチンは食事摂取に伴って消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの総称であり、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagon-like peptide-1)の2つがある。GIPおよびGLP-1は腸管に存在するK細胞、およびL細胞からそれぞれ分泌され、インスリン分泌促進以外の多様な生理活性を有している。しかしGIPは高血糖状態においてはインスリン分泌作用が弱いこと、脂肪細胞に作用して脂肪蓄積につながることから、現在はGLP-1のみがGLP-1受容体作動薬として臨床応用されている。しかし生理状態では両者は同時に分泌される、いわば双子の腸管ホルモンであり、この両ホルモンの受容体を同時に刺激する目的で開発されたのがGIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストLY3298176である。 LY3298176はGIPに類似した39個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、20番目のリジンに脂肪酸側鎖を結合することで週1回投与を可能とした。GIP受容体とGLP-1受容体の両者に高い親和性で結合して細胞内シグナル伝達を惹起することが基礎実験で確認されている1)。基礎実験から臨床への橋渡しとなるproof of concept試験をクリアした後に実施されたphase 2 trialが本試験である。プラセボ群に加えて、実薬群としてはすでに発売されているデュラグルチド1.5mgが用いられて、1mg、5mg、10mg、15mgの4用量が検討された。 26週にわたり血糖降下作用、体重減少作用に対する有効性、および有害事象を検討したが、その結果は非常にimpressiveであった。試験開始時の平均HbA1cは8.1%、BMIは32.6kg/m2であったが、15mg投与群におけるHbA1cの低下はプラセボ群と比較して-1.94%、デュラグルチド群と比較しても-0.73%であった。さらにデュラグルチド群の2%に対して、10mg投与群の18%、15mg投与群の30%は正常血糖値とされるHbA1c<5.7%を達成した。体重減少についてもデュラグルチド群の-2.7kgに対して、-11.3kgであった。予想されたように消化器系の有害事象は用量依存性に増加したが多くは一過性であった。また重症低血糖は1例もなかった。 LY3298176による血糖降下作用および体重減少作用が、GLP-1受容体またはGIP受容体のいずれを介した作用なのかは、本試験の結果からは明らかではない。デュラグルチド群と比較してLY3298176の作用はより強力であることからGIP受容体を介した作用がdominantであると考えるのが妥当と思われるが、これまでの報告ではGIPの単独投与による血糖降下作用および体重減少作用はこれほど著明ではない。いずれにせよ本薬剤の投与により30%の患者の血糖値がほぼ正常化し、著明な体重減少が得られた結果から、非常にpromisingな薬剤であり第3のインクレチン関連薬となりうる可能性は高い。やはり双子のインクレチンはtwincretinとして作用するのが本来の姿であるのかもしれない。

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ダパグリフロジンと心疾患予防の関係は

 11月26日、アストラゼネカ株式会社と小野薬品工業株式会社は、アメリカ心臓協会(AHA)でDECLARE‐TIMI 58 試験(以下「本試験」と略す)の発表が行われたのを期し、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、糖尿病領域と循環器領域の2つの視点から試験結果に対し説明が行われた。DECLARE‐TIMI 58 試験概要 複数の心血管リスク因子、心血管疾患の既往歴を有する患者を含む、CVイベントリスクが高い成人2型糖尿病患者を対象に、ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)の治療が及ぼす影響をプラセボとの比較で評価した試験。患者登録では、日本を含む世界33ヵ国882施設から1万7千例超の患者が参加。無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験。実施はアストラゼネカ株式会社。高血糖の人は心不全リスクが高い 糖尿病領域では、門脇 孝氏(一般社団法人 日本糖尿病学会 理事長、東京大学大学院医学系研究科 特任教授、帝京大学医学部附属溝口病院 常勤客員教授)を講師に迎え、本試験の意義を確認した。 最近の調査から糖尿病患者と一般の健康な人との間では、平均寿命の差に約8~11年の隔たりがあること(2001~10年)、心不全合併症の糖尿病患者は心不全の既往がない糖尿病患者と比較して生存率が低いこと1)などを指摘、糖尿病患者の心血管イベントリスクへ警鐘を鳴らした。 本試験では、対象に2型糖尿病で「40歳以上および虚血性心疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患のいずれか1つ以上を有するもの」(2次予防)または「男性55歳以上、女性60歳以上で脂質異常、高血圧、喫煙のいずれか1つ以上のリスク因子を有するもの」(1次予防)を組み入れ、最長6年、平均追跡期間4.2年と長いスパンでみたものであると解説。なかでも「対象者に複数のリスク因子保有者が組み入れられている点は、臨床での実患者像に近い」と同氏は試験の意義を強調した。 本試験の結果につき、48ヵ月経過後プラセボ群のHbA1cが8.3%→8.1%だったのに対し、ダパグリフロジン群は8.3%→7.7%(最小二乗平均の差における95%CI 0.40~0.45)と有意に低下し、体重も同期間でプラセボ群が91kg→89kgだったのに対し、ダパグリフロジン群は91kg→87kg(最小二乗平均の差における95%CI 1.7~2.0)と有意に減少していた。 有効性に関し、主要心血管イベント(MACE)のイベント発生率ではプラセボ群が9.4%だったのに対し、ダパグリフロジン群は8.8%で有意差は認められなかった(HR 0.93[信頼区間0.84~1.03])一方で、心不全による入院と心血管死では、プラセボ群が5.8%だったのに対し、ダパグリフロジン群は4.9%と有意な減少(HR 0.83[信頼区間0.73~0.95])を認め、腎複合評価項目ではプラセボ群が5.6%だったのに対し、ダパグリフロジン群は4.3%と同じく有意な減少(HR 0.76[信頼区間0.67~0.87])を認めた2)。 安全性では、重篤な有害事象、重症低血糖、急性腎障害、膀胱がんでプラセボに非劣性だったのに対し、投与中止の有害事象、糖尿病性ケトアシドーシス、性器感染症はプラセボよりも高い数値だった。 以上の本試験の結果から同氏は「高血糖とリスクファクターを持つ人は症状こそ見えないが、心不全、腎不全の病態が進行していることが示唆された。また、心血管イベントの既往がない患者さんに対して、心不全・腎イベントの発症を抑制できることが初めて示唆され、今後は、健康な人と変わらないQOLの確保と寿命の維持のためにも、患者個々の背景と合ったエビデンスを持つ薬剤を使用していくべきと考える」と展望を語り、レクチャーを終えた。糖尿病患者は心不全の際に立っている 続いて小室 一成氏(一般社団法人日本循環器学会 代表理事、東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授)を講師に迎え、循環器領域から本試験結果への考察を説明した。 循環器疾患では、「心不全」が増加傾向にあり、重要な疾患と位置づけられている。心不全は、徐々に悪化するので早期から急性イベントや入院を防止することが大切だが、糖尿病患者では主要な合併症であることが知られている。糖尿病患者の生存率は、前述の講演の内容通りだが、「糖尿病患者は、心不全を起こす際に立っているようなものであり、いかに進行の傾斜を緩やかにするのかが重要だ」と指摘する。そのため、糖尿病患者では心不全を発症させないことが大事であり、予防では、糖尿病発症、左室リモデリング、左室機能障害、心不全の診断の4つの予防機会があるという。 その他、本試験のほかEMPA-REG OUTCOME、CANVAS Programの3試験の解析から本試験の対象者のハザード比が低いことも報告された。 実際、これらの試験成績を受けて小室氏は、「SGLT2阻害薬には、心血管既往歴のある2型糖尿病患者の心不全予防に有効だとしながらも、一次予防症例や後期高齢者などへの有効性についてはこれからの課題」である。「今後、治療に関するガイドラインなども議論が活発になると考えている」と述べ、講演を終えた。※ダパグリフロジンは2型糖尿病のみ承認取得した薬剤であり、心不全や心血管死などへ効能効果はない。また、わが国での開始使用量は5mg/日で、効果不十分などの場合は最大10mg/日まで増量可能。■関連記事CV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA

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