サイト内検索

検索結果 合計:29件 表示位置:1 - 20

1.

脊髄刺激療法で治療抵抗性の糖尿病性神経障害が改善

 治療抵抗性の有痛性糖尿病性神経障害(painful diabetic neuropathy;PDN)に対する脊髄刺激療法(spinal cord stimulation;SCS)の有用性が報告された。患者の疼痛症状の改善に加えて神経学的評価の改善も認められたという。米アーカンソー大学のErika Petersen氏らが行った無作為化比較試験の報告であり、第75回米国神経学会(AAN2023、4月22~27日、ボストン)での発表に先立ち、研究要旨が2月28日にオンラインで公開された。 米国の糖尿病患者数は約3700万人とされており、最大でその25%がPDNに罹患しているとされる。PDNに対してはさまざまな治療薬が臨床応用されているが、それらの治療に抵抗性を示す患者も少なくない。Petersen氏らは、そのような治療抵抗性PDN患者に対するSCSの安全性と有効性を検討した。 研究対象は、12カ月以上持続する症状があり、内科的治療への反応が十分でない下肢痛を有するPDN患者216人。疼痛の強さが10cmのビジュアルアナログスケールで5cm以上であり、HbA1cが10%以下であることも、適格条件として設定されていた。 無作為に1対1で二分し、1群は従来療法(conventional medical management;CMM)を継続するCMM群、他の1群はCMMにSCSを加えたSCS群に割り付けた。SCSには、痛みを伴う刺激が少ないとされる10kHzの高周波刺激デバイスを用いた。介入期間は24カ月。介入開始6カ月時点で、割り付けられた治療を継続したいか否かを患者に確認し、その希望次第で比較対照群に移行して良いというオプション付きクロスオーバーデザインで実施された。 6カ月後、SCS群の患者では平均76%の疼痛軽減が認められ、CMM群への移行を希望する患者はいなかった。一方、CMM群の患者では平均2%の疼痛悪化が見られ、93%がSCS群への移行を希望した。SCSによる鎮痛効果は持続的であり、24カ月後で平均80%の疼痛緩和が認められた。 臨床医の評価による神経学的所見については、6カ月時点でSCS群の患者の62%に改善が見られた。一方、CMM群で改善が見られた割合は3%だった。SCS群では神経学的所見の改善も持続的であり、24カ月後に66%が改善と判定された。 SCS施行に伴う有害事象としては、デバイス関連感染症が8件発生した。このうち5件はデバイス除去を要し、3件は除去に至らず治癒した。研究グループは、「糖尿病でない患者でのSCSデバイス関連感染症発生率は2.5~10%と報告されており、今回での研究の発生率もそれらの研究と同等と言える」としている。なお、SCSが無効との理由でデバイスが除去された患者はいなかった。 以上よりPetersen氏は、「われわれの研究は、PDNに対するSCSの安全性が許容できるものであり、疼痛を持続的に緩和可能であることを示している」と結論付け、また神経学的評価の改善も認められたことから、「この治療法は疾患修飾療法となり得るのではないか」と付け加えている。 なお、発表者のうち2人は、本研究に資金を提供したNevro Corp社に勤務している。

2.

糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

 糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である1)。 上記のそれぞれの薬剤のDPNPに対する有効性は明らかにされているが、どの薬剤が最も有効なのかを比較検討したhead to headのRCTはない。さらに併用療法についての有効性を検討したRCTにはPとDとの併用療法を検討した小規模のCOMBO-DN試験があるのみである2)。そこで各薬剤の有効性をhead to headで比較すること、および併用療法の有効性を検討することを目的に実施されたのが本試験であり、DPNP治療に新たなエビデンスをもたらした試験であると評価できる。 試験デザインは疼痛に関するRCTでは多用されるクロスオーバーデザインである。1コース16週とし、前半の6週は単剤治療期間、後半の10週が併用治療期間とされた。さらに単なる薬剤の組み合わせではなく、著者らはpathwayと記載しているが、投与順序も検討された。PとGは同様の作用機序なのでPが選ばれた(選択理由として、Gが1日3回投与である、Pと異なり薬物動態が線形でない、およびtitrationに時間を要する、と記載されている)。さらにAとDは両者ともに抗うつ薬であるのでこの組み合わせは除外された。したがって検討されるpathwayはA→P、P→A、D→P、P→Dの4組になる。これを1コース16週間のクロスオーバーデザインで実施すると16×4=64週で試験期間が1年以上となり、試験完遂が困難との判断からP→Dは除外された。その理由は、COMBO-DN試験の結果からP→D、D→Pの疼痛コントロール効果はほぼ同等であり、かつDは1日1回投与でありPと比較して初回投与として適切であると記載されている。このあたりがpragmatic trialとされるゆえんだろう。結果は、A、P、Dのどの薬剤から開始しても単剤での疼痛コントロール効果は同等であること、併用治療によりさらに疼痛コントロール効果が増強されること、どのpathwayでも効果は同等であること、が明らかとなった。さらに疼痛のみならず患者のQOLも同様に改善することが示された。したがって、最初にどの薬剤を投与するか、併用療法としてどの薬剤と組み合わせるかは、主として個々の薬剤による特有の副作用の程度に依存することになる。 DPNPに対しては、単剤を最大耐容量まで増量しても効果が不十分であれば躊躇せずに併用療法に進むことが疼痛コントロールのために有効であることが本試験によって明らかとなった。他の神経障害性疼痛に対しても恐らく同様の有効性が期待されるだろう。しかし腰痛などの神経障害性疼痛以外の疼痛に対しては本試験の結果が適用されないことは言うまでもない。

3.

糖尿病性神経障害性疼痛、併用薬による効果の違いは?/Lancet

 糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)に対する鎮痛効果は、アミトリプチリン+プレガバリン、プレガバリン+アミトリプチリン、デュロキセチン+プレガバリンで同等であり、単剤療法で効果不十分な場合に必要に応じて併用療法を行うことで、良好な忍容性と優れた鎮痛効果が得られることが、英国・シェフィールド大学のSolomon Tesfaye氏らが英国の13施設で実施した多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験「OPTION-DM試験」の結果、示された。DPNPに対しては、多くのガイドラインで初期治療としてアミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが推奨されているが、最適な薬剤あるいは併用すべきかについての比較検討はほとんど行われていなかった。OPTION-DM試験は、DPNP患者を対象とした過去最大かつ最長の直接比較のクロスオーバー試験であった。Lancet誌2022年8月27日号掲載の報告。DPNP患者140例を対象に、DN4の7日間平均疼痛スコアを評価 OPTION-DM試験の対象は、改訂トロント臨床神経障害スコア(mTCNS)が5以上の遠位対称性多発神経障害、および神経障害性疼痛4項目質問票(DN4)で7日間の1日平均疼痛(NRS)スコア(範囲0~10)が4以上の神経障害性疼痛を3ヵ月以上有する18歳以上のDPNP患者である。施設で層別化したブロックサイズ6または12の置換ブロック法を用い、アミトリプチリン+プレガバリン(A-P)、プレガバリン+アミトリプチリン(P-A)、デュロキセチン+プレガバリン(D-P)の3つの治療法を各16週間、次の順序で投与する6通りの投与群に、1対1対1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。A-P→D-P→P-A、A-P→P-A→D-P、D-P→A-P→P-A、D-P→P-A→A-P、P-A→D-P→A-P、P-A→A-P→D-P。 3つの治療法はいずれも、第1治療期6週間、第2治療期10週間から成り、第1治療期は単剤療法(A-PではA、D-PではD、P-AではP)を行い、6週後に7日間平均NRSスコアが3未満の奏効例は第2治療期も単剤療法を継続し、非奏効例では第2治療期に併用療法を行った。各治療期は最初の2週間を用量漸増期として、アミトリプチリン25mg/日、デュロキセチン30mg/日、プレガバリン150mg/日から投与を開始し、1日最大耐量(アミトリプチリン75mg/日、デュロキセチン120mg/日、プレガバリン600mg/日)に向けて用量を漸増した。 主要評価項目は、各治療法の最終週(16週時)に測定された7日間平均NRSスコアの治療群間差であった。 2017年11月14日~2019年7月29日に252例がスクリーニングされ、140例が6通りの治療順に無作為に割り付けられた。3つの治療法(A-P、P-A、D-P)で有効性に差はなし 無作為化された140例中、130例がいずれかの治療法を開始し(84例が少なくとも2つの治療法を完遂)、主要評価項目の解析対象となった。 16週時の7日間平均NRSスコア(平均±SD)はいずれも治療法も3.3±1.8であり、ベースライン(130例全体で6.6±1.5)から減少した。各治療法の平均差は、D-P vs.A-Pで-0.1(98.3%信頼区間[CI]:-0.5~0.3)、P-A vs.A-Pで-0.1(-0.5~0.3)、P-A vs.D-Pで0.0(-0.4~0.4)で、有意差は認められなかった。併用療法を受けた患者では、平均NRSスコアの減少が単剤療法を継続した患者より大きかった(1.0±1.3 vs.0.2±1.5)。 有害事象は、3つの治療法を比較すると(A-P vs.D-P vs.P-A)、P-Aではめまい(12% vs.16% vs.24%、p=0.036)、D-Pでは悪心(5% vs.23% vs.7%、p=0.0011)、A-Pでは口渇(32% vs.8% vs.17%、p=0.0003)の発現率が有意に高かった。

4.

糖尿病患者の便秘が冠動脈疾患に独立して関連―江戸川病院

 2型糖尿病患者の便秘が、冠動脈疾患と独立した関連のあることが報告された。江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科の伊藤裕之氏らの研究結果であり、詳細は「Internal Medicine」に5月1日掲載された。 糖尿病患者は合併症の自律神経障害などの影響のために、便秘になりやすいことが知られている。ただし、糖尿病の有無にかかわらず便秘はありふれた症状であり、治療を受けていない患者が多く、疫学的な調査があまり行われていない。最近まで便秘の統一された診断基準がなかったことも、疫学データが少ない一因と考えられる。これらを背景として伊藤氏らは、同院の2型糖尿病患者を対象に便秘の有病率や関連因子を検討した。 対象は2019年8~9月に同院糖尿病外来を受診し、調査協力に同意した2型糖尿病患者410人。抗がん剤治療や緩和ケアを受けている患者、消化器がんの手術が予定されている患者、および炎症性腸疾患や認知症のある患者は除外されている。なお、消化器がんに対する内視鏡的粘膜切除術の既往者は対象に含まれている。対象者の主な特徴は、平均年齢66±12歳、女性42%、BMI25.8±4.4kg/m2、糖尿病罹病期間14±10年、HbA1c7.3±1.0%、インスリン療法27%、糖尿病性神経障害38%、冠動脈疾患13%など。 便秘の有病率は患者自身の判断と、「慢性便秘症診療ガイドライン2017」の定義に基づく診断の2通りで検討した。前者の自己判断による便秘の有病率は29%だった。ただし、便秘を医師に相談したことのある患者は14%に過ぎず、症状のある患者の半数未満だった。 ガイドラインに基づく診断では26%が慢性便秘に該当し、これに「普段から下剤を使用している」と回答した患者を加えると、有病率は36%(146人)になった。なお、自己判断で「便秘でない」と回答した患者の中にも、慢性便秘の診断基準を満たす患者が8%存在した。一方、自己判断で「便秘である」と回答した患者の32%は、診断基準を満たしていなかった。 便秘のある群は便秘でない群(264人)に比べて、高齢で女性が多く、糖尿病罹病期間が長く、それぞれ有意差が存在した。また、インスリンやスタチンが処方されている患者が多く、糖尿病性神経障害や冠動脈疾患の有病率が高いという有意差が見られた。一方、BMIは便秘のある群の方が有意に低値だった。HbA1cは有意差がなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、冠動脈疾患は便秘に独立して関連していることが明らかになった〔オッズ比(OR)2.00(95%信頼区間1.14~3.52)〕。冠動脈疾患以外の関連因子としては、インスリン療法〔OR1.80(同1.11~2.94)〕、女性〔OR1.73(同1.09~2.37)〕、糖尿病性神経障害〔OR1.60(同1.01~2.52)〕が抽出された。反対にBMIとは負の関連が認められた〔OR0.94(同0.89~1.00)〕。 糖尿病患者は冠動脈疾患のリスクが高い。今回の研究で、糖尿病患者の冠動脈疾患と便秘との間に有意な関連のあることが明らかになった。著者らは、「便秘は有病率の高い症状であるため、日常診療で注意が払われることが少ない。しかし、冠動脈疾患のリスク評価のために、糖尿病患者の便秘を積極的に診断することが望ましい」と結論付けている。

5.

第106回 非オピオイド鎮痛薬の臨床試験で有望な効果あり

効果は間違いないものの呼吸抑制等の副作用や依存が厄介なオピオイドの代わりとなりうる経口薬が第II相試験2つで有望な急性痛治療効果を示し、承認申請前の大詰めの第III相試験に進むことが決まりました1,2)。第II相試験の1つは外反母趾手術、もう1つは腹部脂肪切除(腹壁形成)手術の患者を募って実施され、米国マサチューセッツ州ボストン拠点バイオテックVertex Pharmaceuticals社の経口薬VX-548高用量の術後痛治療効果がどちらの試験でもプラセボを有意に上回りました。効果は上々で副作用は大したことなく、オピオイドの代わりを見つける試みにはそれら試験の成功で大いに前進したとUniversity College Londonの神経生物学専門家John Wood氏は言っています2)。痛みに携わる神経細胞表面にあり、それら神経細胞に電気信号を放たせるナトリウム(Na)チャネルの研究を背景にVX-548は誕生しました。VX-548はそれらNaチャネルの1つNav1.8を選択的に阻害します。Nav1.8は全身の神経から脊髄への痛み信号の受け渡しに不可欠で、その働き過ぎは痛みをより発生させます。たとえばNav1.8を過活動にする遺伝子変異がある人は傷を負わずとも痛みを被りうることが10年ほど前の研究で判明しています3)。しかしNav1.8や他のNaチャネルNav1.7に限った阻害の鎮痛の実現は困難でした。困難の1つはそれらの構造が心臓、筋肉、脳の機能を担う他のNaチャネルとよく似ていることに端を発します。安全を期すにはそれら臓器の働きに不可欠なNaチャネルにちょっかいを出さすことなく目当てのNaチャネルのみを相手する化合物を仕立てる必要があります。Nav1.8だけを阻害する化合物の実現の困難さはVertex社のこれまでの開発の道のりからも見て取れます。Vertex社にとってVX-548は4度目の正直のようなもので、先立つ3つのNaV1.8阻害薬が臨床開発の道半ばで倒れています。その1つVX-150は3つの第II相試験で好成績を収めたにもかかわらず第III相試験に進んでいません。必要な用量が多すぎて実用には不向きというのがその開発頓挫の一因です。Vertex社はもっと働きが良い化合物を求め、とうとう今回の第II相試験2つの成功に漕ぎ着けました。その1つには外反母趾手術患者274人が参加し、VX-548、プラセボ、オピオイド(ヒドロコドン)含有薬のいずれかの投与群に割り振られ、VX-548高用量投与群の48時間の痛さがプラセボ群に比べて有意に少なく済みました。腹壁形成手術患者303人が参加したもう1つの第II相試験でもVX-548高用量は同様にプラセボに勝りました。VX-548高用量群の痛み減少はヒドロコドン含有薬群も見た目上回りましたが、今回の試験は取るに足る比較ができるほど大規模ではありませんでした2)。VX-548の低用量と中用量の効果は残念ながらプラセボを上回りませんでした。外反母趾手術患者が参加した第II相試験ではVX-548の用量が多いほど有効という傾向はなく、気がかりなことにVX-548中用量の効果はVX-548低用量もプラセボも一見下回っていました1,4)。ともあれVertex社は高用量の効果が認められたことで良しとし、重篤な有害事象は幸いにして生じず中~高用量群の患者の脱落がプラセボやヒドロコドン投与群より少なくて済んだVX-548の急な痛みの治療効果を調べる第III相試験を間もなく今年後半に始めるつもりです。糖尿病性神経障害の痛みや炎症による痛みなどの複雑な事態を含む慢性痛へのVX-548の効果は未知数です。しかし幸先が良いことに神経障害の幾つかや炎症性の痛みでVX-548の標的Nav1.8が重責を担うことがすでに分かっています2)。参考1)Vertex Announces Statistically Significant and Clinically Meaningful Results From Two Phase 2 Proof-of-Concept Studies of VX-548 for the Treatment of Acute Pain / BUSINESS WIRE2)Non-opioid pain pill shows promise in clinical trials / Science3)Gain-of-function Nav1.8 mutations in painful neuropathy. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Nov 204)Vertex claims success with its fourth shot at acute pain / Evaluate

7.

国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」【下平博士のDIノート】第67回

国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」今回は、慢性疼痛治療薬「トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)」を紹介します。本剤は、1日2回(12時間間隔)の投与に最適化された徐放性製剤であり、非オピオイド鎮痛薬で十分な効果が得られない患者の疼痛緩和やアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な慢性疼痛における鎮痛の適応で、2020年9月25日に承認され、2021年1月8日より発売されています。なお、2022年5月に「疼痛を伴う各種がん」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはトラマドール塩酸塩として1日100~300mgを2回(朝、夕が望ましい)に分けて経口投与します。症状に応じて1回200mg、1日400mgを超えない範囲で適宜増減できますが、1回50mg、1日100mgずつ行うことが推奨されています。なお、初回投与は1回50mgから開始することが望ましく、ほかのトラマドール塩酸塩経口薬から切り替える場合は、切り替え前の薬剤の1日投与量、鎮痛効果および副作用を考慮して本剤の初回投与量を設定します。<安全性>国内で日本人を対象に実施された第II、III相試験(慢性疼痛6試験併合)において、本剤との因果関係を否定できない有害事象は749例中597例(79.7%)で報告されています。主なものは、悪心329例(43.9%)、便秘308例(41.1%)、傾眠160例(21.4%)、嘔吐113例(15.1%)、浮動性めまい81例(10.8%)、口渇58例(7.7%)、食欲減退43例(5.7%)でした。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、呼吸抑制、痙攣、依存性、意識消失(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内への痛みの伝達を抑え、一般的な鎮痛薬では治療困難な痛みを和らげます。2.眠気、めまい、意識消失が起こることがあるので、本剤を服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作をしないでください。3.この薬はゆっくり効く部分を持っていますので、割ったり、粉砕したり、かみ砕いたりせずに、そのまま服用してください。4.悪心・嘔吐、便秘、めまい、口が乾く、食欲が低下するなどの症状が現れることがあります。症状が重く、持続する場合はすぐに受診してください。5.有効成分が出た後の錠剤が糞便中に排泄されることがありますが心配ありません。6.飲酒により薬の作用が強くなり、呼吸抑制が起こることがあります。服用中の飲酒は避けてください。<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され、製造販売会社に開発が要請されました。トラマドールを含有する既存の経口薬としては、1日4回服用の速放性製剤(商品名:トラマール)、1日1回服用の徐放性製剤(同:ワントラム)、アセトアミノフェン配合製剤(同:トラムセットなど)が販売されていています。なお、トラマドールはWHO三段階除痛ラダーで「ステップ2」に位置付けられる弱オピオイド鎮痛薬ですが、わが国では麻薬の指定は受けていません。適応症である「慢性疼痛」は、腰痛症、変形性膝関節症、関節リウマチ、脊柱管狭窄症、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群など幅広い原因によって引き起こされます。本剤は、慢性疼痛治療で汎用されているプレガバリンやセレコキシブなどと同じ1日2回投与ですので、併用薬や生活様式に合わせた薬剤を選択することでアドヒアランスが維持・向上できると期待されます。22年5月の改訂で、がん患者の疼痛管理にも本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマール錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。禁忌となるのは、ほかのトラマドール製剤と同様に、12歳未満の小児、本剤に対する過敏症、アルコールや睡眠薬、鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬または向精神薬による急性中毒、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬を投与中または投与中止後14日以内、ナルメフェン塩酸塩水和物を投与中または投与中止後1週間以内、てんかん患者などです。副作用としては、高頻度で悪心・嘔吐、便秘が報告されています。必要に応じて制吐薬や下剤の併用を提案するようにしましょう。※2022年6月、添付文書改訂の内容を基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ツートラム錠50mg/ツートラム錠100mg/ツートラム錠150mg

9.

「しょっちゅうこむら返りになる」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第29回

■外来NGワード「この薬さえ、飲んでおけば大丈夫です!」(運動療法に触れない)「何か、運動しなさい!」(あいまいな運動指導)「糖尿病の合併症ですよ。もっと血糖値を下げないと!」(医学的脅し)■解説 有痛性筋痙攣(muscle cramp)、いわゆる「足がつる」状態や「こむら返り」は、健康な人でも久しぶりに運動したときなどに起こります。一方、糖尿病や肝硬変の患者さんでは、ふくらはぎなどの下肢だけでなく、上肢に起こる人もいます。高齢者糖尿病ではとくに頻度が高く、日中にも症状が出現することが報告されています。また、利尿薬、スタチン、β2刺激薬(吸入薬)を使用している人は、リスクが高まるといわれています。この有痛性筋痙攣は、時に睡眠を妨げ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。しかし、この「こむら返り」をかかりつけ医に相談していない事例も多いようです。高リスクの患者さんには、よく眠れているか確認してみましょう。症状が出たときの対処法としては、膝を押さえ下腿三頭筋を他動的に伸展させる方法がよく用いられています。芍薬甘草湯などの漢方薬が汎用されますが、寝る前のストレッチや足の軽い運動なども効果があるので、運動療法と併せて治療を行うことが大切です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者最近、夜中に足がつることが多くて…。医師それは大変ですね。最近、血糖が高い状態が続いているので、何か関係しているのかも。患者やっぱり、糖尿病のせいなんですか?(やや不安そうな顔)医師影響は考えられますね。整形外科的な疾患ではないと思うので…。患者夜中に、痛くて目が覚めてしまうんです。どうしたらいいですか?医師漢方薬などもありますが、もっといい方法がありますよ。患者なるべく薬は増やしたくないので、教えてほしいです!(興味津々)医師寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?患者(実際に足を動かして)これぐらいなら、一人でもできそうです。医師お風呂上がりやテレビを見ているとき、歯磨きの後などでもいいので、寝る前にぜひやってみてください。患者はい。わかりました。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?」1)餘目千史ほか.日本糖尿病教育・看護学会誌. 2016;20:211-220.

11.

175)知っていますか? 低血糖のリスク【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:知っていますか? 低血糖のリスク説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話医師前回の検査結果ですが、HbA1cが7%を切っていました。患者そうですか! よかった…。糖尿病教室で合併症のことを聞いてから心配で心配で…。(安堵した表情)医師ここまでよく頑張りましたね。合併症の予防には高血糖の改善が重要ですが、HbA1cが下がったので、これからは低血糖にも注意してくださいね。患者低血糖は、今までなったことがないので、大丈夫です。医師それはよかったです。ただ、インスリン治療を受けている患者さんのほとんどは、低血糖を経験しているといわれています。患者えっ、そうなんですか!?医師では、ここで問題です。この□□にはどんな言葉が入ると思いますか?患者一番上は交通事故…ですか? あとは…、わかりません。医師残りの答えは、認知症と心筋梗塞です。高齢になると、低血糖に気付きにくくなります。自覚のない低血糖を繰り返していると、これらのリスクも高まるので、ご家族にも低血糖についての注意を伝えておくようにしてください。患者はい。わかりました。(うれしそうな顔)●ポイント穴埋めクイズを用いて、質の良い血糖コントロールの大切さを説明します。患者さん用(解答):知っていますか? 低血糖のリスク■解答交通事故認知症心筋梗塞1)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖2)一般社団法人 日本糖尿病学会 糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告

12.

国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」【下平博士のDIノート】第21回

国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」今回は、「ミロガバリンベシル酸塩錠(商品名:タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg)」を紹介します。本剤は、α2δサブユニットに強力かつ特異的に結合してカルシウムイオンの流入を抑制することで、興奮性神経伝達物質の過剰放出を抑制し、痛みを和らげることが期待されています。<効能・効果>本剤は、末梢性神経障害性疼痛の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年4月15日より販売されました。※2022年3月、添付文書改訂による「中枢性神経障害性疼痛」の効能追加に伴い、適応は「神経障害性疼痛」となりました。<用法・用量>通常、成人にはミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔を空けて漸増します。維持用量は、年齢・症状により1回10~15mgの範囲で適宜増減します。なお、腎機能障害患者に投与する場合は、投与量および投与間隔の調節が必要です。<副作用>日本を含むアジアで実施された臨床試験において、糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者を対象とした854例中267例(31.3%)、帯状疱疹後神経痛患者を対象とした553例中241例(43.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、傾眠(12.5%/19.9%)、浮動性めまい(9.0%/11.8%)、体重増加(3.2%/6.7%)などでした(承認時)。なお、弱視、視覚異常、霧視、複視などの眼障害が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.過敏になっている神経を鎮めることで、しびれ、電気が流れているような痛み、焼けるような痛みなど、末梢神経障害による痛みを和らげます。2.服用中は、めまい、強い眠気、意識消失などが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.本剤の服用を長く続けたり量を増やしたりすることで、体重が増加することがあります。実際に体重が増加し始めた場合はご相談ください。4.この薬を突然中止すると、不眠、吐き気、頭痛、下痢、食欲低下などの症状が現れることがあります。自己判断で減らしたりやめたりしないでください。5.本剤を服用中に飲酒をした場合、注意力、平衡機能の低下を強める恐れがあるので注意してください。<Shimo's eyes>神経障害性疼痛は、『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)』で「体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛」とされ、神経の損傷部位によって“末梢性”と“中枢性”に分類されます。本剤の作用機序は既存薬のプレガバリンと同様ですが、神経障害性疼痛全般に使用できるプレガバリンとは異なり、本剤の適応は「末梢性神経障害性疼痛」に限られています。末梢性神経障害性疼痛の代表例としては、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病の合併症による神経障害性疼痛(痛み・しびれ)、抗がん剤の副作用による神経障害性疼痛などがあります。本剤は低用量から開始して、有効性や安全性を確認しながら維持量に漸増します。腎機能障害のある患者さんや高齢者では副作用が発現しやすいため、慎重に症状や副作用を聞き取りましょう。とくに高齢者ではめまいなどの副作用が生じると、転倒による骨折などを起こす恐れがあるため、細やかな投与量の調節が必要です。神経障害性疼痛は罹病期間が長引きがちで、さらに不安や睡眠障害を引き起こすこともあり、患者さんのQOLに与える影響は甚大です。末梢神経障害性疼痛の治療選択肢が増え、痛みに悩む患者さんの生活に改善がもたらされるのは喜ばしいことです。なお、2019年1月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 タリージェ錠2.5mg/タリージェ錠5mg/タリージェ錠10mg/タリージェ錠15mg

15.

高CVリスク肥満者の糖尿病発症をlorcaserinが抑制/Lancet

 選択的セロトニン2C受容体作動薬lorcaserinは、過体重・肥満の前糖尿病患者において糖尿病の予防効果を発揮するとともに、糖尿病患者では細小血管合併症を抑制することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のErin A. Bohula氏らが行った「CAMELLIA-TIMI 61試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年10月4日号に掲載された。lorcaserinは、プロオピオメラノコルチンの産生を、視床下部で活性化することで食欲を制御する。米国では、長期的な体重管理において、食事療法や運動療法の補助療法として承認されている。糖尿病、前糖尿病、正常血糖値に分け、プラセボと比較 本研究は、lorcaserinによる糖尿病の予防と寛解導入を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、8ヵ国473施設が参加した(Eisaiの助成による)。 対象は、アテローム動脈硬化性心血管疾患、または複数の心血管リスクを有する過体重・肥満(BMI≧27)の患者であった。アテローム動脈硬化性心血管疾患患者は40歳以上とし、複数のリスク因子(糖尿病と他の1つ以上の心血管リスク因子)を有する患者は、男性は50歳以上、女性は55歳以上とした。 被験者は、lorcaserin(10mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。全例が、強化行動療法から成る標準化された体重管理プログラムへの参加を推奨された。 代謝に関する有効性のエンドポイントは、ベースライン時に前糖尿病(HbA1c:≧39mmol/mol[5.7%]~<48mmol/mol[6.5%]または空腹時血漿グルコース:5.6~6.9mmol/L[100~125mg/dL])の患者における2型糖尿病の発症までの期間とした。有効性の副次アウトカムは、非糖尿病の集団における2型糖尿病の発症、前糖尿病患者における正常血糖値の達成、糖尿病患者におけるHbA1cの変化であった。 2014年2月~2015年11月の期間に1万2,000例が登録された。両群に6,000例ずつが割り付けられ、中央値で3.3年(IQR:3.0~3.5)のフォローアップが行われた。ベースラインの内訳は、糖尿病が6,816例(56.8%)、前糖尿病が3,991例(33.3%)、正常血糖値が1,193例(9.9%)などであった。6つの群の年齢中央値は62~64歳、女性が26.8~40.7%含まれた。体重が有意に減少、前糖尿病の糖尿病リスクが19%低減 ベースラインの平均体重は、糖尿病患者が107.6kg(SD 21.3)、前糖尿病患者は101.8kg(19.2)、正常血糖値の集団は97.8kg(17.0)であった。1年時の体重は、糖尿病患者ではlorcaserin群がプラセボ群よりも2.6kg(95%信頼区間[CI]:2.3~2.9)減少し、前糖尿病患者では2.8kg(2.5~3.2)、正常血糖値の集団では3.3kg(2.6~4.0)減少した(いずれもp<0.0001)。 lorcaserin群はプラセボ群に比べ、前糖尿病患者における糖尿病リスクが19%有意に低減し(8.5 vs.10.3%、ハザード比[HR]:0.81、95%CI:0.66~0.99、p=0.038)、3年間で1件の糖尿病イベントの予防に要する治療必要数(NNT)は56件であった。同様に、非糖尿病患者の糖尿病リスクはlorcaserin群で23%低下した(6.7 vs.8.4%、0.77、0.63~0.94、p=0.012)。 lorcaserin群はプラセボ群に比し、前糖尿病患者における正常血糖値の達成率が高い傾向がみられたが、有意差は認めなかった(9.2 vs.7.6%、HR:1.20、0.97~1.49、p=0.093)。 HbA1cは、糖尿病患者ではベースラインの平均値の53mmol/mol(7.0%)から、lorcaserin群のほうがプラセボ群よりも有意に低下した(最小二乗平均の差:-0.33%、95%CI:-0.38~-0.29、p<0.0001)。前糖尿病患者(-0.09%、p<0.0001)、正常血糖値の集団(-0.08%、p<0.0001)においても、lorcaserin群で有意に改善した。 糖尿病患者における細小血管合併症(持続性微量アルブミン尿、糖尿病網膜症、糖尿病性神経障害の複合)の発症率は、lorcaserin群で21%有意に少なかった(10.1 vs.12.4%、HR:0.79、95%CI:0.69~0.92、p=0.0015)。 糖尿病患者では、重篤な合併症を伴う重症低血糖はまれであり、lorcaserin群で頻度が高い傾向がみられた(12件[0.4%]vs.4件[0.1%]、p=0.054)。 著者は、「これらの知見は、適度で継続的な体重減少は代謝に関する健康を改善する可能性があるとの見解を強化し、体重および代謝に関する健康の長期的管理の補助療法としてのlorcaserinの役割を支持するものである」としている。

16.

糖尿病患者は日常的にしびれを感じている

 2018年5月24日から3日間、都内で第61回日本糖尿病学会年次学術集会「糖尿病におけるサイエンスとアートの探究」が開催された。5月25日のシンポジウム「神経障害の病態と治療―痛みを科学する」の概要を紹介する。半数の糖尿病患者は、外来でしびれや痛みを話さない 糖尿病性神経障害は、早期から発症する重大な合併症であり、なかでも糖尿病性多発神経障害(DPN)は、QOLを著しく低下させ、進行すると生命予後の短縮につながる疾患である。DPNは、罹病期間や血糖コントロールと関連し、5~10年単位で緩徐に進行するが、国際的に統一された診断基準はいまだ確立されていない。わが国では、「糖尿病性神経障害を考える会」の簡易診断基準とDPNの臨床病期分類(I~V期)などが用いられ、日常診療でのスクリーニングが行われている。また、ハンマーの金属部分や竹串の鋭端と鈍端を足に当てて、簡易的に神経(温痛覚)障害の初期症状をチェックする検査ができるという。 厚生労働省の「平成19年国民健康・栄養調査」によると、糖尿病と診断された患者の中で、「神経障害(手足がしびれる、感覚がにぶくなるなど)がある」と答えた人は、11.8%だった。しかし、実際の外来では半分ほどの患者しか神経症状を訴えていない。糖尿病性神経障害は、糖尿病が発覚する前から発症しているケースもあるため、なるべく早期に発見し、適切な治療と良好なコントロールを行う必要がある。医療者が、しびれや痛みを感じている患者の訴えを積極的に拾い上げることが望まれる。HbA1cの下降幅が大きいほど、治療後の神経障害が大きい 出口 尚寿氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科糖尿病・内分泌内科学)は、「有痛性糖尿病性神経障害の臨床像」をテーマに発表を行った。 痛みを伴う糖尿病性神経障害は、感覚神経(温痛覚)と自律神経により構成される小径神経の障害(small fiber neuropathy:SFN)であり、DPNのような典型的病型のほか、主にメタボリックシンドロームに起因する耐糖能障害や、急性有痛性神経障害など、多様な病態・病型を含み、脂質異常症や高血圧症など、さまざまな因子の関与が示唆される。また、長期間HbA1cが高値だった患者の治療において、期間あたりのHbA1c下降幅が大きいほど、治療後に生じる神経障害の程度と障害の分布が大きい傾向にあるという。 神経障害による痛みの治療は、「神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン」に準じて行うが、病型に応じた疼痛へのアプローチが求められる。第1選択薬(プレガバリン、デュロキセチンなど)を少量で開始し、効果と副作用をみながら漸増するが、急性で激しい疼痛がある病型では、速やかな増量や第2選択薬(トラマドールなど)の追加などが必要となる。出口氏は、「糖尿病患者にとって、疼痛は大きなストレスとなる。初期用量で効かないからと、薬を増量せずに中止するのではなく、副作用がクリアできれば、まず常用量をしっかり使うべき。患者さんの声を聞き、根気強く痛みと向き合いケアすることが大切だ」と強調した。痛みの緩和+運動習慣でQOLの低下を食い止める 住谷 昌彦氏(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター)は、「糖尿病関連疼痛の治療学」をテーマに発表を行った。 糖尿病性神経障害は、無髄神経線維(C線維)から有髄神経線維へと障害が進展していくが、簡易診断基準では有髄神経障害の症状しかスクリーニングできない可能性がある。しかし、C線維の障害だけでも疼痛は発症しうる。また、神経障害の初期には神経線維が保たれていても、痛みや知覚過敏などの徴候を示すことがあり、知覚鈍麻だけが糖尿病性神経障害の特徴ではない。神経障害に伴う症状は、寛解と増悪を繰り返して進行することが知られているが、病期が進むまで無症候な例もあるという。神経障害の重症度と疼痛の重症度が必ずしも相関しないため、とくに初期のしびれや違和感の把握が重要で、肥満があると、痛みやしびれが強く出る傾向にある。 神経障害性疼痛を持つ患者は、足の痛みなどが原因で、転倒に対する恐怖が付きまとうが、家にこもりがちになることに対して住谷氏は警鐘を鳴らした。運動量の減少が招く筋肉量の低下は、ロコモティブシンドロームの入り口となる危険性がある。同氏は、「痛みの治療だけではQOLは改善されない。QOLの改善には、適切な薬物治療を行って痛みをコントロールしたうえで、運動・食事療法も並行する必要がある。痛みを緩和して、運動習慣を定着させることが、QOL低下の悪循環を止めるために重要である」と語った。■参考厚生労働省「平成19年国民健康・栄養調査報告 第4部 生活習慣調査の結果」■関連記事神経障害性疼痛の実態をさぐる

17.

第12回 糖尿病合併症対策のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第12回】糖尿病合併症対策のキホン―眼科、腎機能、神経障害などの非専門領域の検査は、どのくらいの頻度でどこまで行うべきでしょうか。また専門医を紹介すべきタイミングと連携のコツを教えてください。 糖尿病網膜症の発症・進展抑制、早期治療のために、眼科医との連携は重要です。初診時に、眼科に行ったことがあるかを確認し、行ったことがなければ、眼科医に紹介します。1度眼科を受診すると、眼科医のほうでその後の定期検診を指示してくれますが、こちらでも、定期的に眼科を受診するように指導します。とくに問題がなければ半年に1回、網膜症がある場合は、重症度に応じた受診間隔でよいでしょう。「糖尿病治療ガイド2016-2017」(日本糖尿病学会編・著)では、眼科医への定期的診察の目安として、病期ごとに「正常(網膜症なし):1回/6~12ヵ月」「単純網膜症:1回/3~6ヵ月」「増殖前網膜症:1回/1~2ヵ月」「増殖網膜症:1回/2週間~1ヵ月」としています1)。 糖尿病腎症は、慢性透析療法の原疾患の第1位で2)、透析療法を受けている糖尿病患者さんの生命予後は非糖尿病の透析患者さんよりも不良で、心血管疾患や感染症リスクも高く重症化しやすいため3)、腎症についても、早期発見、進展抑制が求められます。腎症は、糸球体濾過量(GFR、推算糸球体濾過量:eGFRで代用)と尿中アルブミン排泄量あるいは尿蛋白排泄量によって評価できます。eGFRは、血清クレアチニン(Cr)を用いて「eGFR(mL/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287(女性の場合は、この値に×0.739)」で換算できるので、受診時に一般的な腎機能検査として、尿蛋白排泄量およびCr、BUNの検査は必ず行います。また、尿中アルブミン量を3~6ヵ月に一度測定し、アルブミン/クレアチニン比(ACR:Albumin Creatinine Ratio)を算出することで、尿蛋白が出現する前に腎臓の変化を発見することができます。網膜症のない場合、正常アルブミン尿であっても、eGFR<60mL/分/1.73m2の場合は、他の腎臓病との鑑別のために、また遅くとも尿中アルブミン排泄量が300mg/gクレアチニンを超えたら、専門医に紹介し、以降、定期的に腎臓専門医を受診してもらうようにします。 一般的には、糖尿病の三大合併症は神経障害→網膜症→腎症の順に進行し、神経障害は最も早く現れます。神経障害は、血糖コントロールの悪化とともに起こることが多いですが、糖尿病と診断される前、境界型の段階から存在するため、しばしば糖尿病診断の糸口になることもあります。神経障害の症状は非常に多岐にわたるため、糖尿病以外の原因による神経障害との鑑別が重要になります。足の末梢神経障害について、症状が著しく左右非対称であったり、筋萎縮や運動神経障害が強い場合は、神経内科に紹介します。 外来で注意したい糖尿病の合併症の1つに、指や爪の白癬症(水虫)や変形、胼胝(べんち、たこ)、足潰瘍・足壊疽などの「足病変」があります。神経障害および血流障害、易感染性が足潰瘍・足壊疽の主な原因になりますが、それ以外に、網膜症による視力低下で、身の回りを清潔にすることがおろそかになる、足にできた傷に気付かない、足に合わない靴を履いているなどが間接的な原因になり、足病変を悪化させることがあります。足潰瘍はひどくなると足壊疽になり、切断に至ることもあるため、まず予防をきちんとすること、できてしまった場合は、できるだけ早期に診断し対処します。予防のためには、患者さんに、毎日足を観察して異常があれば連絡するように伝えます。また、医療従事者側でも、診察の際に足を診察し、早期診断に努めるようにします。―糖尿病性神経障害の基本的な診断法と治療法について教えてください。 神経障害には、広範囲に左右対称性にみられる「多発神経障害(広汎性左右対称性神経障害)」と「単神経障害」があり、多くみられるのは多発神経障害です。 両足の感覚障害(両足のしびれや疼痛、また、足の裏に薄紙が貼りついたような感覚や砂利の上を歩いているような感覚になる知覚異常など)や穿刺痛、電撃痛、灼熱痛といった自発痛(ジンジン、ビリビリ、チリチリなど)、触覚・温痛覚の低下・欠如といった自覚症状、両側アキレス腱反射、両足の振動覚および触覚のうち、複数の異常があれば、多発神経障害の可能性があります。自覚症状については、かなりひどくならないと患者さんから訴えてくることはないため、注意が必要です。 多発神経障害の予防・治療のために、まずは良好な血糖コントロールを維持することが重要です。ただし、長期間の血糖不良例では、急激な血糖低下により、神経障害が悪化する可能性があります(治療後神経障害)。神経障害の自覚症状を改善する薬剤として、アルドース還元酵素阻害薬「エパルレスタット(商品名:キネダック)」があり、神経機能の悪化の抑制が報告されています4)。また、自発痛に対しては、Ca2+チャネルのα2δリガンド「プレガバリン(商品名:リリカ)」やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)「デュロキセチン(商品名:サインバルタ)」、抗不整脈薬「メキシレチン(商品名:メキシチール)」、抗けいれん薬「カルバマゼピン(商品名:テグレトール)」、三環系抗うつ薬などが単独、もしくは併用で使用できます。―高齢者ではどこまで合併症対策をすべきでしょうか? 高齢であっても、高血糖は糖尿病合併症の危険因子になるため、非高齢者同様、合併症の発症・進展を見据えた血糖コントロールは重要です。 しかし、高齢者の合併症は、非高齢者とは異なる特徴があります。高齢者でとくに問題になるのは認知機能の低下で、高齢患者さんでは、高血糖による認知症の発症リスクが高くなることが報告されています5,6)。また、高齢者では、高血糖によるうつ症状の発症・再発が多くなることも報告されています7)。そのほか、歯周病が増悪しやすいこと、急性合併症のうち、糖尿病ケトアシドーシスは若年者が多いのに対し、高齢者では高血糖高浸透圧症候群が多いなど1)、高齢者と非高齢者では留意すべき合併症が異なることを念頭に置く必要があります。 また、高齢者の合併症対策を考えるうえで、最も大切なのは血糖コントロールの考え方です。高齢者では、身体機能や認知機能、生理機能の低下や多くの併発症の可能性があり、個人差が非常に大きいことから、非高齢者とは異なる観点で、個別化した血糖コントロール目標および治療を検討することが求められます。高齢糖尿病は、若・壮年に発症し高齢化した患者さんと、高齢になって発症した患者さんで分けて考えます。とくに、高齢発症の糖尿病患者さんでは、生活スタイルや家族構成、身体的・精神的機能を考慮した治療戦略、さらには合併症対策を立てたほうがよいでしょう。また、高齢者では、年齢によっては余命を考慮し、できるだけQOLを損なうことなく、望ましい治療を選択することも重要です。 高齢者については、「糖尿病治療ガイド2016-2017」で初めて「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が掲げられました(詳細は、第1回 食事療法・運動療法のキホン-高齢者にも、厳密な食事管理・運動を行ってもらうべきでしょうか。をご参照ください)1)。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2016-2017. 文光堂;2016.2)一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況. 2015年12月31日現在.3)羽田 勝計、門脇 孝、荒木 栄一編. 糖尿病最新の治療2016-2018. 南江堂;2016.4)Hotta N, et al. Diabet Med. 2012;29:1529-1533.5)Yaffe K, et al. Arch Neurol. 2012;69:1170-1175.6)Crane PK, et al. N Engl J Med. 2013;369:540-548.7)Maraldi C, et al. Arch Intern Med. 2007;167:1137-1144.

18.

慢性腰痛治療のゴールは「何ができるようになりたいか」

 慢性腰痛症に伴う疼痛に対し、2016年3月、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチン塩酸塩(商品名:サインバルタ)の適応追加が承認された。これを受けて、4月19日、本剤を販売する塩野義製薬株式会社と日本イーライリリー株式会社が、痛みのメカニズムと治療薬の適正使用をテーマにメディアセミナーを開催した。 このなかで、講師を務めた福島県立医科大学 整形外科教授の紺野 愼一氏は、「慢性腰痛における治療は、それによって何ができるようになりたいかを目標にするのが重要だ」と述べた。 慢性疼痛は、中枢神経系の異常などによって、3ヵ月以上痛みが持続することが一般的な定義である。急性疼痛と異なり、痛みの原因となる外傷疾患が治癒した後も長期間持続するため、ADLやQOLへの影響が問題となる。全国20歳以上の男女を対象に行ったインターネット調査によると、2010年度時点で、有病率から推計される慢性疼痛保有者は2,315万人に上り、そのうち約56%が「腰痛」を訴えたという。調査ではさらに、痛みによって仕事などに支障を来したり、休職したりした人が約55%に上ることもわかった。  こうした慢性腰痛に対して治療を進めていくうえで、何に留意すべきなのだろうか。紺野氏は、大きく2つのポイントを挙げる。 1つ目は治療開始時にある。疼痛治療において、何より痛みを和らげることが重要ではあるが、完全に痛みを取ることを最終目標とすると、患者も医療者もなかなかゴールにたどり着けない。紺野氏は、「慢性腰痛によってどんなことができなくなったのか」を患者にヒアリングしたうえで、「治療によってどんなことができるようになりたいのか」を考え、それを両者の共通目標として治療を進めていくことが重要だという。目標はできるだけ具体的な内容で、「夫婦で30分程度の散歩ができるようになりたい」とか、「腰痛のためにやめていた大好きなゴルフが再びできるようになりたい」など、患者一人ひとりの思いに添うことが大事だ。 2つ目は治療体制にある。組織の炎症など、痛みの原因がはっきりしている急性腰痛と異なり、慢性腰痛は必ずしも“腰が悪い”わけではない。紺野氏によると、慢性腰痛保有者の3分の1は心理社会的要因が少なからず関わっており、「多面的、集学的なアプローチが必要」という。紺野氏が臨床で実践しているのは月1回のリエゾンカンファレンスで、メンバーは整形外科に関連した医療スタッフのほか、精神科医や臨床心理士、精神科ソーシャルワーカーで構成する。カンファレンスでは、患者の成育歴に虐待がないかや、最近の仕事や家族に関する悩みなど、幅広くかつ詳細な情報が共有される。一見、症状とは関連がないように思われるが、こうした情報から患者の置かれている状況をひも解くことで、腰痛の真の原因が明らかになることがあるという。 これらの治療アプローチに共通するのは、医師と患者のコミュニケーションだ。紺野氏は、腰痛を訴える患者に対し、単純ではない痛みのメカニズムがあることを医師がきちんと説明し理解を得たうえで、患者の望むゴールを共に目指すには、綿密なコミュニケーションに裏付けられた互いの信頼感が何をおいても基本だと強調した。 講演後の質疑応答では、サインバルタの適正使用についての質問が挙がった。サインバルタは、国内では2010年に「うつ病・うつ状態」、2012年に「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」、2015年に「線維筋痛症に伴う疼痛」に対して承認を取得してきたが、今回SNRIとして初めて「慢性腰痛症に伴う疼痛」の治療薬として承認された。紺野氏は、慢性腰痛の新たな治療選択肢となる期待感を示したうえで、「整形外科医にはなじみのない薬剤なので、処方にあたっては医師自身がまず副作用や安全性をきちんと理解しなればならない」と述べた。

19.

糖尿病患者のトータルケアを考える

 2014年2月19日(水)都内にて、糖尿病患者の意識と行動についての調査「T-CARE Survey」を題材にセミナーが開かれた(塩野義製薬株式会社 開催)。演者である横浜市立大学の寺内 康夫氏(分子内分泌・糖尿病内科学 教授)は、患者が治療に前向きに取り組むためには「治療効果の認識」「症状の理解」が重要と述べ、患者の認知・理解度に応じて個々に合ったアプローチをすべき、と述べた。 T-CAREとは 「塩野義製薬が考える“糖尿病患者さまのトータルケア”」を意味する名称とのこと。以下、セミナーの内容を記載する。【糖尿病患者の3割が治療ストレスを感じている】 『糖尿病患者の約30%が治療を続けることにストレスを感じている』これは、糖尿病患者の意識と行動を把握するためのインターネット調査「T-CARE Survey」の結果である。「T-CARE Survey」は全国の20代~60代の男女を対象に2013年10月に実施されたインターネット調査で、一般回答者2万254名、糖尿病患者3,437名の回答が得られている。その結果、糖尿病患者は高血圧や脂質異常症と比較してストレスを感じやすく、そのストレス度合いは、喘息やアレルギーなどの自覚症状がある疾患と同程度であることが明らかになった。糖尿病は症状が少ないにもかかわらず、患者さんはストレスや不安を感じやすいことから、リスクケアのみならず、生活環境や心理的不安も見据えたトータルケアが必要と考えられる。【心配事・不満の上位は、『合併症の不安』】 糖尿病患者は何に不安を感じているのだろうか。患者さんの心配事や不満の上位は「透析になるのが怖い」「失明するのが怖い」といった「合併症の不安」であった。また約1割が「足のしびれや痛みが我慢できない」と感じていることも明らかにされた。寺内氏は、この結果を基に「患者さんに医療機関との接点を持ち続けてもらう、つまり続けて通ってもらうことが不安解消にも重要」と述べた。【治療継続には『病状理解』と『治療効果の認識』】 では、患者さんに治療を続けてもらうにはどうすべきか。今回の調査では「糖尿病患者の治療モチベーションに関する検証」も行われた。糖尿病の知識、治療への評価、周囲との関係性といったいくつかの項目を仮説として設定し、重回帰分析等を用いて検証を行った結果、「自分の病状の理解」「治療効果の認識・理解」の2項目が治療モチベーション向上に寄与していることが明らかになった。医師やスタッフの説明を通じて患者さんに病状を理解してもらい、効果を認識させることが治療にも有用なようだ。【メディカルスタッフへの相談も有用】 患者さんが糖尿病疾患について相談する相手をみると、医師が83%、配偶者・パートナーが52.8%であった。一方、看護師・薬剤師・管理栄養士といったメディカルスタッフへの相談はいずれも30%未満であり、まだまだ少ないといえる。しかし、メディカルスタッフに相談している患者は相談していない患者に比べ、前向きに治療に取り組む割合が高いこともわかっており、チームサポートの重要性がうかがえる。【糖尿病療養指導士を要としたコミュニティサポート推進が望まれる】 患者さんの家庭環境はどうだろうか。「家族が治療やケアに協力してくれる」という回答は56.4%であった。家族ケア有りの場合、前向きに治療に取り組む割合は高く、医療従事者側も家族によるサポートを促すことができる。しかし、一人暮らしの高齢世帯の増加を鑑みると、今後は家族のみならず、地域のコミュニティによるサポートが推進されていくことを期待したい。自身が日本糖尿病療養指導士認定機構の役員を務める寺内氏は、今後、介護施設や在宅医療スタッフの中に糖尿病療養指導士の資格を持つ方が増え、地域のコミュニティサポートが推進されていくことを期待したい、と述べた。【編集後記】 講演の最後に寺内氏は、「トータルケアの実践には患者をタイプ分類し、タイプ別のアプローチを工夫することが有用」と述べた。タイプ別アプローチ方法が確立し、治療に不満を抱く方や疾患を放置する患者さんが、治療に前向きに取り組めるようになることを期待したい。

20.

HbA1cの改善に加え患者QOLも向上―DPP-4阻害薬へのグラルギンの併用エビデンス(ALOHA2)

サノフィ株式会社池田勧夫氏近年DPP-4阻害薬は日本で急速に普及してきたが、DPP-4 阻害薬を含む経口血糖降下薬(OHA)を服用しても良好な血糖コントロールが得られない場合がある。そこで、池田氏らは、DPP-4 阻害薬を含むOHAで血糖コントロールが目標に達していない日本人の2 型糖尿病患者を対象にインスリン グラルギン(以下、グラルギン)を追加し、24週間観察した前向き研究(ALOHA 2)を行った。その結果が国際糖尿病連合の世界糖尿病会議(12月2~6日、メルボルン)で発表され、グラルギンの追加でHbA1cが大きく低下するだけでなく、治療満足度が有意に改善することが明らかとなった。OHA2剤でグラルギンを始めるケースが最も多い本研究の対象となったのは、これまでOHAによる治療を受け、グラルギンを開始する4 週間前のHbA1c が6.5%以上だった20歳以上の2,602例。これまでインスリンによる治療を受けたことがなく、経口薬への追加でグラルギンを開始し、24週まで継続した症例をBOT 群とした。BOT 群は1,629 例。観察期間は24 週間。BOT群のベースラインの患者背景は年齢が61.8 歳、HbA1cは9.58%、FPGは2 0 4.6 mg/dL、2 時間P PGは272.8mg/dL。糖尿病罹患期間は10年未満が3 4.7%、10~15年が19.5%、15年以上が23.9%、併存疾患は糖尿病性神経障害が22.5%、糖尿病性網膜症が14.6%、糖尿病性神経障害が14.9 %、高血圧が47.8%、脂質異常症が51.9% など。またベースラインで使用されていたOHAの数は、1 種類が29.3%、2 種類が34.8%、3 種類が26.9%、4種類が9.1%であり、観察期間中に高頻度に併用されたOH Aはスルホニル尿素薬が71.5%、DPP-4 阻害薬が60.7%、ビグアナイド薬が4 8.6 %などであった(表1)。画像を拡大するHbA1cはベースラインから1.6%低下、空腹時血糖値だけでなく食後血糖値も大きく改善基礎インスリンとDPP-4 阻害薬の併用療法は、2 型糖尿病患者の空腹時血糖値(FPG)と食後血糖値(PPG)の両方を管理し、良好な血糖コントロールが得られる治療法として注目されているが、本研究ではグラルギンの追加によりHbA1cがベースラインから最終評価時までで1.61%有意に低下していた(p

検索結果 合計:29件 表示位置:1 - 20