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化学療法誘発性末梢神経障害の克服に向けた包括的マネジメントの最前線/日本臨床腫瘍学会

 2025年3月6~8日に第22回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催され、8日の緩和ケアに関するシンポジウムでは、「化学療法誘発性末梢神経障害のマネジメント」をテーマに5つの講演が行われた。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)は、抗がん剤投与中から投与終了後、長期にわたって患者のQOLに影響を及ぼすものの、いまだ有効な治療の確立に至っていない。そこで、司会の柳原 一広氏(関西電力病院 腫瘍内科)と乾 友浩氏(徳島大学病院 がん診療連携センター)の進行の下、患者のサバイバーシップ支援につなげることを目的としたトピックスが紹介された。CIPN予防戦略の現状と今後の研究開発への期待 まず、CIPNの予防に関する最新エビデンスが、華井 明子氏(千葉大学大学院 情報学研究院)より紹介された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版』には、CIPNを誘起する化学療法薬の使用に際し、予防として推奨できるものはないと記載されている。また、抗がん剤の種類によっては投与しないことを推奨する薬剤もあり、状況に応じて運動や冷却の実施が推奨されるものの、強く推奨できる治療法はない。そのため、多くの患者が苦しんでいる現状が指摘された。 こうした中、手足を冷却または圧迫して局所の循環血流量を低下させることで、抗がん剤をがん細胞に到達させつつ、手足には到達させない戦略がCIPN予防に有効とのエビデンスが散見されており、冷却がやや優位との成績が最近示された。「ただし、冷却の効果は抗がん剤投与中に最大限発揮されるので、投与後数時間経過して出現する症状には効果がない」と、同氏は説明した。 なお、がん治療中の運動は、心肺機能や筋力、患者報告アウトカムなどを改善するとのエビデンスが確立しているため、有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されている。一方、CIPN予防における運動の実施は、本ガイドラインでは推奨の強さ・エビデンスの確実性ともに弱い。同氏は、「それでも治療前のプレハビリテーションにより体力・予備力を高めておくことは有効」とした。また、予防ではなく、CIPN発現例に対する治療であるが、バランス運動、筋力トレーニングおよびストレッチは、いずれも長期的には実施のメリットが大きいとの研究成果が紹介された。 「CIPNの頻度は抗がん剤の種類はもちろん、評価の時期・指標によっても異なり、患者の生活状況や主観が大きく影響する。そのため、評価方法の標準化がCIPN予防/治療戦略の開発につながるだろう。また、運動プログラムのエビデンスは増え続けていることから、ガイドラインの次期改訂では推奨が変わる可能性もある」と、同氏は期待を示した。CIPN治療戦略と実臨床への橋渡しに向けた取り組み 次に、CIPNの治療に関する動向が吉田 陽一郎氏(福岡大学病院 医療情報・データサイエンスセンター 消化器外科)より解説された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版』で薬物療法として推奨されている薬剤は1剤のみであり、予防ではなく治療のみでの使用が可能となっている。同氏はその根拠となった論文と共に、最新のシステマティックレビュー論文に触れ、「エビデンスが不十分で、本ガイドラインにおける推奨の強さは弱い。CIPNの予防や治療の領域では、プラセボが心理的な影響だけでなく、生理的な変化をもたらすことが知られているため、プラセボ効果を含めたデザインの下で臨床試験を実施することが望まれる」と述べた。 こうした中、わが国ではCIPN症状が出現した際に投与する薬剤のアンケート調査が、『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版』の公表前後(2015年および2019年)に実施され、使用薬剤の変化が報告されている。近く再調査が行われる予定で、より現実的なマネジメントの理解につながるとのことである。さらに同氏は、わが国の臨床試験の状況や課題点などを説明するとともに、日本がんサポーティブケア学会 神経障害部会が取り組んでいるCIPNに関する教育動画について、「詳細は日本がんサポーティブケア学会のホームページに近日掲載予定で、2025年5月に開催される同学会の学術集会でも告知予定」と紹介した。がんサバイバーのCIPNに対する鍼灸治療の可能性 わが国では年間100万例ががんに罹患し、治療後も慢性疼痛、とくにCIPNを訴える患者が増えている。石木 寛人氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)は、「乳がんの場合、年間9万例の発症者のうち、5年生存率が90%で、その半数が痛みを抱えているとすれば、毎年約4万例の慢性疼痛患者が発生する。現状では各種鎮痛薬による薬物療法が推奨されているが、痛みの原因を根本的に解決する治療ではないため、非薬物療法のニーズは高まっている」と指摘。 このような背景もあり、同氏が所属する診療科では1980年代から鍼灸治療を緩和ケアの一環として提供してきた。治療は刺入鍼、非刺入鍼、台座灸、ホットパックを組み合わせ、標治法(症状部位の循環改善を促す局所治療)と本治法(体力賦活を図る全身調整)により、CIPNでは週1回30分、3ヵ月間の施術を基本とし、施術後に患者が自宅で行うセルフケア指導も治療に含まれる。 同院では、こうした鍼灸治療の乳がん患者における有用性を検証する前向き介入試験を2022年より実施しており、「結果は2025年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表予定」と、同氏は紹介した。さらに現在、多施設ランダム化比較試験を準備中で、乳がん診療科と鍼灸治療提供施設とのネットワーク作りとして、各施設や学会、企業などと月1回のオンラインミーティングを実施。「円滑な共同研究のためには、まずは互いの人となりや専門性を理解し、強固な連携体制を築いていくことが重要」と強調した。また、鍼灸師が医療機関に出向いて技術交流を行うなど、現場レベルでの連携も進んでいるという。 これに加え、学会やWebセミナーでの交流会、学術団体同士の相互理解を深める取り組みなど、さまざまな普及活動を進めており、「CIPNに苦しむ患者への新たな治療選択肢を提供できる日は近づいている」と、同氏は意欲を示した。CIPNマネジメントにおける医療機器の現状と課題 久保 絵美氏(国立がんセンター東病院 緩和医療科)によると、CIPNのマネジメントには医療機器の活用が重要になるという。ただし、「日・米・欧のガイドラインでCIPN予防/治療における冷却療法や圧迫療法、その他治療法の推奨の強さやエビデンスの質は異なる」と指摘。米国食品医薬品局(FDA)に承認されている機器が紹介されるも一定の評価は得られず、今後も引き続き検証が必要とされた。 一方、内因性疼痛抑制系の賦活や神経成長因子の調整、抗炎症作用などにより複合的に鎮痛をもたらす交番磁界治療器の有効性が、前臨床試験と共に、同氏が研究責任医師として担当した臨床試験で検討されている。それによると、CIPNの原因となる抗がん剤投与終了後1年以上経過した症状固定患者のtingling(ピリピリ・チクチク)やnumbness(感覚の低下)に関して、一定の効果が示唆され保険収載に至っている。 同氏は、「医療機器によるCIPNマネジメントは発展途上で、エビデンス不足が課題である。そのため、前臨床データの拡充と共に、治療効果のさらなる検証は必須」と強調した。脳の神経回路の変化に起因する“痛覚変調性疼痛”の理解と治療戦略 痛みには侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に加え、これまで心因性疼痛や非器質的疼痛と呼ばれていた痛覚変調性疼痛がある。川居 利有氏(がん研究会 有明病院 腫瘍精神科)は、「痛覚変調性疼痛はCIPNに付随するものである。たとえば、3ヵ月を超えるような抗がん剤投与後からの手足のしびれ、強い倦怠感、浅眠、めまい・耳鳴り、食欲低下や、抗がん剤投与終了後も症状が改善せずに遷延・悪化すること、また、不安が強くなり、症状に執着し訴えが執拗になることがある。このような患者に遭遇したことはないだろうか」と問い掛けた。 これは脳神経の可塑的変化により発症、維持される慢性痛で、痛み過敏、睡眠障害、疲労、集中困難、破局思考などを伴う。神経可塑性とは、脳の神経が外部刺激により伝達効率を変化させる能力で、学習や記憶に深く関わる一方、慢性痛では脳の感覚-識別系が抑制され、情動-報酬系、認知-制御系が活性化する。この状態が進むと痛みに対する不安や苦痛が増すばかりか、痛みを軽減する下行性制御系、いわゆるプラセボ回路の機能が低下し、痛みへの自己調節が困難となる。これが不安症や強迫症、治療への期待感の喪失、医療への不信感などにつながるという。 同氏は、「CIPNは長期間に持続し、そこに神経の可塑的変化による痛覚変調性疼痛が追加されることで、痛みはもとより、うつ病や不安症、自律神経症状も加わり、感情調節機能不全に陥る」と説明。また、「CIPNの慢性化では過敏症状の併発に注意し、急激な症状変化の有無についての詳細な問診が大切である。この状態は単なる“気のせい”ではなく、長期間の心理社会的問題などの蓄積による機能障害が原因」とし、「治療には患者との信頼関係の構築が不可欠で、とくに慢性化したケースでは患者の背景や過去の経験に配慮する必要がある。睡眠や心理的ケアは治療上重要なため、心療内科や精神科への適切な紹介が推奨される。CIPNそのものは治らないが、QOL改善には過敏症状のマネジメントが大切」と結んだ。

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第252回 定期接種が目前の帯状疱疹ワクチン、3つの悪条件とは

帯状疱疹という病気を知る人は、医療者に限らず神経痛でのたうち回るイメージを持つ人が多いだろう。周囲でこの病気を体験した人からはよく聞く話である。身近なところで言うと、私の父は今から10年ほど前に帯状疱疹の痛みがあまりにひどく、夜中に救急車で病院に運ばれたことがある。私自身は現在50代半ばだが、実は18歳という極めて若年期に帯状疱疹を経験している。当時はアシクロビル(商品名:ゾビラックスほか)さえなかった時代だ。ただ、私の場合は軽い痛みはあったものの騒ぐほどではなかった。おそらく非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方されたと思うのだが、それを服用するとその軽い痛みすらなくなった。受診した皮膚科の看護師からは「痛くない帯状疱疹、いいね」と謎のお褒めをいただいた。さて、帯状疱疹については1990年代以降、アシクロビルをはじめとする抗ウイルス薬や帯状疱疹の神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)などが徐々に登場し、薬物治療上は進歩を遂げている。加えて2020年には帯状疱疹専用の乾燥組換えタンパクワクチン・シングリックスが登場した。シングリックス登場以前は水痘の生ワクチンも帯状疱疹予防として使用されていたが、極端に免疫が低下しているケースなどには使えないので、この点でも進歩である。ちなみに新型コロナウイルスワクチンも含め21種類のワクチンを接種し、従来からワクチンマニアを自称する私は、2020年の発売後すぐにシングリックスの接種を終えている。それまで接種部位疼痛ぐらいしか副反応を経験していなかったが、シングリックスの1回目接種時は38℃を超える発熱を経験した。全身症状の副反応を経験した唯一のワクチンでもある。そして今春からはこの帯状疱疹ワクチンが定期接種化する。私自身はワクチンで防げる感染症は、積極的に接種を推進すべきとの考えであるため、これ自体も喜ばしいことである。だが、この帯状疱疹ワクチンの定期接種化がやや面倒なスキームであることはすでに多くの医療者がご存じかと思う。とにかく対応がややこしいB類疾病今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種は、「個人の発症・重症化予防を前提に対象者内で希望者が接種する」という予防接種法に定めるB類疾病に位置付けられた。疾患特性上、この扱いは妥当と言えるだろう。季節性インフルエンザや肺炎球菌感染症などが該当するB類疾病はあくまで法的に接種の努力義務はなく、接種費用の一部公費負担はあるものの、接種希望者にも自己負担が生じる。まあ、これはこれで仕方がない。しかし、私見ながら国が定期接種と定めながら、市区町村による接種勧奨義務がないのはいただけない。自治体の対応は任意のため、地域によっては勧奨パンフレットなどを個々人に郵送しているケースもある。もちろんそこまではしていなくとも、個別配布される市区町村報などに接種のお知らせが掲載されている事例は多い。とはいえ、市区町村報は制作担当者の努力にもかかわらず、案外読まれないものである。集合住宅に居住する人ならば、郵便ポスト脇に設置されたポスティングチラシ廃棄用のゴミ箱に市区町村報が直行しているのを目にした経験はあるはずだ。しかも、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種スキームは、一般人はおろか医療者にとってもわかりにくい高齢者向け肺炎球菌ワクチンの接種スキームに酷似している。具体的には開始から5年間の経過措置を設け、2025年度に65歳となる人とそこから5歳刻みの年齢(70、75、80、85、90、95、100歳)の人が定期接種対象者になり、2025年度は特例として現時点で100歳以上の人はすべて対象者とする。今後、毎年この65歳とそこから5歳刻みの人が対象となるのだ。これ以外には60~64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほとんど不可能な人も対象である。この肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンの定期接種での対象者の5歳刻みは、私の知る限り医師からの評判はあまりよろしくない。「それだったら65歳以上の高齢者を一律接種可能にすべき」という声はたびたび聞くが、この措置はおそらくは公費負担分の予算確保の問題があるからとみられる。とりわけ今回の帯状疱疹ワクチンの場合の予算確保は、国や市区町村担当者にとってかなりの負担だろう。というのも、定期接種では水痘生ワクチンとシングリックスが使われる予定だが、前者は1回接種で全額自己負担の場合は約8,000円、後者は2ヵ月間隔の2回接種で計約4万円。後者は安めの居酒屋で何回たらふく飲み食いできるのだろうという価格である。すでに知られていることだが、今回の定期接種化決定以前に帯状疱疹ワクチンの接種に対して独自の助成を行っている自治体もあり、その多くは接種費用の5割助成、つまり自己負担割合は接種費用の5割である。今回の定期接種化で対象者の自己負担割合がどの程度になるかはまだ明らかになってはいないが、一説には接種費用の3割程度と言われている。この場合、より安価な接種が可能になるが、3割だとしてもシングリックスならば患者自己負担額は2回合計で約1万2,000円と決して安くはない。この(1)5歳刻みの複雑な接種スケジュール、(2)自治体の接種勧奨格差、(3)自己負担額、の3つの“悪”条件は、定期接種という決断を「絵に描いた餅」にしてしまう、いわゆる接種率が一向に高まらないとの懸念を大きくさせるものだ。実際、(1)~(3)がそのまま当てはまる肺炎球菌ワクチンの2019~21年の接種率は13.7~15.8%。この接種率の分母(推計対象人口)には、2019年以前の接種者を含んでいるため、現実の接種率よりは低い数字と言われているものの、結局、累積接種率は5割に満たないとの推計がある。接種率の低さゆえに2014年の定期接種化から設けられた5年間の経過措置は1度延長されたが、事実上対象者の接種率が5割に満たないまま、経過措置は今年度末で終了予定である。接種率向上がメーカーと現場の裁量に任されている?今回の帯状疱疹ワクチンをこの二の舞にしないためには、関係各方面の相当な努力が必要になる。接種率の貢献において一番期待されるのは現場の医師だが、かかりつけの患者であっても全員の年齢を正確に記憶しているわけではないだろうし、多忙な日常診療の中で、まるでA類疾病の自治体配布資料に当たるような説明に時間を割くのは容易ではないだろう。そんな中で先日、シングリックスの製造販売元であるグラクソ・スミスクライン(GSK)が帯状疱疹ワクチンに関するメディアセミナーを開催した。そこで質疑応答の際にこの懸念について、登壇した岩田 敏氏(熊本大学 特任教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授)、永井 英明氏(国立病院機構東京病院 感染症科部長)、國富 太郎氏(GSK執行役員・ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部 本部長)に尋ねてみた。各氏の回答の要旨は以下の通りだ。「われわれ、アカデミアが積極的に情報発信していくことと、かかりつけ医は専門性によってかなり温度差はあると思うが、やはりワクチンはかかりつけ医が勧めるのが一番有効と言われているので、そこの点をもう少し攻めていく必要があると思う」(岩田氏)「肺炎球菌ワクチンの場合は、啓発活動が十分ではなかったのかもしれない。肺炎球菌ワクチンではテレビCMなども流れていたが、やはり私たち医師や自治体がワクチンのことを知ってもらうツールを考えなければならない。その点で言うと私案だが、帯状疱疹ワクチンも含め高齢者に必要なワクチンの種類と接種スケジュールが記載された高齢者用ワクチン手帳のようなものを作成し、それを積極的に配布するぐらいのことをしないとなかなかこの状況(肺炎球菌ワクチンで現実となったB類疾病での低接種率)を打開でないのではないかと思っている」(永井氏)「疾患啓発、ワクチン啓発、予防の大切さを引き続きさまざまなメディアを使って情報発信を継続していきたい。一方、実施主体となる自治体も難しい内容をどう伝えたらよいか非常に苦慮し、限られた資材の中で住民にいかにわかりやすく伝えるかの相談を受けることも非常に多い。その場合に弊社が有するさまざまな資材を提供することもある」(國富氏)また、永井氏が講演の中で示した別の懸念がある。それは前述のように現時点では自治体が帯状疱疹ワクチンの接種に公費助成を行っているケースのこと。現在、その数は全国で700自治体を超える。そしてこの公費助成はワクチンの適応である50歳以上の場合がほとんどだ。ところが今回の定期接種化により、この公費助成をやめる自治体もある。となると、こうした自治体では今後50~64歳の人は完全自己負担の任意接種となるため、永井氏は「助成がなくなった年齢層の接種率は下がるのではないか?」と語る。もっともな指摘である。定期接種化により接種率が下がるというあべこべな現象がおきる可能性があるのだ。昨今は高額療養費制度の改正が大きな問題となっているが、たとえばその渦中で危惧の念を抱いているがん患者などは、抗がん剤治療などにより帯状疱疹を発症しやすいことはよく知られている。自治体の公費助成がなくなれば、該当する自治体で治療中の中年層のがん患者は、帯状疱疹ワクチンで身を守ろうとしても、これまた自己負担である。これでさらに高額療養費が引き上げられたら、たまったものではないはずだ。もちろん国や市区町村の財布も無尽蔵であるわけではないことは百も承知だ。しかし、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種化は喜ばしい反面、穴も目立つ。せめてB類疾病の自治体による接種勧奨の義務化くらい何とかならないものか?

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悪性腸腰筋症候群について【非専門医のための緩和ケアTips】第95回

悪性腸腰筋症候群について私にとって「難治性がん疼痛」といったら、まず想起するのが「悪性腸腰筋症候群」です。聞いたことがない方も多いかもしれませんが、決して珍しいものではないので、この機会に一緒に学んでいきましょう。今回の質問以前に担当していた患者さん。腸腰筋に転移があり、股関節をまったく伸展できない状態でした。オピオイドを増量しても眠るばかりで、痛みが軽減した様子はありません。あまり聞いたことのない転移ですが、どういった対応ができますか?質問にあるような「股関節を伸展できない痛み」というのが、この腸腰筋症候群の特徴的症状です。腸腰筋とは小腰筋、大腰筋、腸骨筋からなる筋肉の総称で、股関節の運動に関わります。有名なのは虫垂炎の腸腰筋兆候ですね。これは虫垂の炎症が腸腰筋に及ぶと、股関節を伸展させたときに伸ばされる腸腰筋に痛みが生じる徴候です。これと同じ原理で、腸腰筋に悪性腫瘍が浸潤することで痛みが生じ、これを悪性腸腰筋症候群と呼びます。この悪性腸腰筋症候群は難治性がん疼痛となることが知られています。これは腸腰筋自体に悪性腫瘍が浸潤することで生じる侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛を併発することが関連します。神経障害性疼痛はオピオイドの効果が発揮しにくいタイプの痛みでしたね。私は子宮頸がんが腸腰筋に転移した若年女性の患者を担当し、その痛みのコントロールに非常に難渋した経験があります。彼女は股関節を伸展させることができず、股関節を屈曲させたままベッドの上で痛みにうなされていました。オピオイドはもちろん、さまざまな鎮痛補助薬を用いたのですが、まったく痛みの軽減ができませんでした。幸いこの方は放射線治療が効果を発揮し、独歩可能な状態で退院することができました。私はこのケースで症例報告を書きました。悪性腸腰筋症候群はCTなどで腸腰筋への転移が認められ、症状が矛盾しなければ診断自体は難しくありません。まずは非オピオイド鎮痛薬とオピオイドを用いながら、鎮痛補助薬を追加します。痛みの原因として腸腰筋の攣縮が関与しているとされ、ジアゼパムやバクロフェンなどの筋弛緩作用のある薬剤が有効だったという報告もあります。ただ、私が今、過去に経験した腸腰筋症候群に対応するとしたら、確実に神経ブロックを勧めるでしょう。その当時、私の施設では神経ブロックの体制がなかったので薬物療法と放射線治療のみを実施しました。非常に痛みが強い中での放射線治療だったため、鎮静を要しました。放射線治療室は鎮静をしながら行うことを想定しておらず、安全の観点からあまり望ましくありません。幸い放射線治療が有効でしたが、体制が整っていれば、薬物療法で鎮痛を試みながら麻酔科に神経ブロックを依頼し、痛みを和らげたあと、安全に放射線治療が実施できるよう試みることでしょう。いずれにせよ、悪性腸腰筋症候群に対するアプローチに確立されたものはありません。緩和ケアの専門家であれば一度は経験したことのある徴候ですので、地域の専門家に相談しながら対応することをお勧めします。今回のTips今回のTips悪性腸腰筋症候群は、まれに遭遇する難治性がん疼痛を来す症候群。専門家に相談しながら対応を。

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第241回 セマグルチドなどのGLP-1の類いが慢性痛の治療手段となりうる

セマグルチドなどのGLP-1の類いが慢性痛の治療手段となりうるGLP-1受容体作動薬セマグルチドが変形性膝関節症の痛みを緩和することが、先月末にNEJM誌に掲載された第III相STEP 9試験で示され1)、体重が大幅に減ればしばしば痛みが劇的に緩和することが確かとなりました2)。GLP-1受容体作動薬は多才で、体重を減らすことに加えて炎症抑制や免疫調節の働きがあります。心血管疾患では、体重減少以外のそのような作用が治療効果に寄与しているようです。たとえばGLP-1受容体作動薬の1つalbiglutideは2018年にLancet誌に結果が掲載されたHarmony Outcomes試験で、プラセボに比べて体重をほんの0.7kg多く減らしただけにも関わらず、心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)をより防ぎました3)。STEP 9試験で認められた鎮痛効果が心血管疾患での有益効果と同様に体重減少以外の要因を介しうるなら、痛みの新たな治療手段の道が開けそうです。そのような要因を示唆する動物実験結果が発表されています。10年前の2014年に発表されたネズミの実験では、脊髄のGLP-1受容体の活性化が炎症性の痛み、神経障害性疼痛、骨腫瘍の痛みを減らすことが示されています4)。最近発表された台湾のチームの研究では、セマグルチドが脊髄の神経炎症を阻害することで糖尿病ラットの神経障害性疼痛を緩和することが示されました。セマグルチドは糖尿病性神経障害による疼痛に対抗する神経保護作用を有するようであり、GLP-1受容体作動薬による炎症/痛覚過敏抑制が神経障害性疼痛の治療手段となりうると著者は言っています5)。また、韓国の研究者らによる別の最近の報告では、GLP-1から生じるペプチドの1つexendin 9-39がマウスの急性痛と慢性痛の両方を緩和しうることが示されました。さらに突き詰めたところ、exendin 9-39の一部のexendin 20-29がTRPV1に結合し、GLP-1受容体機能に手出しすることなく痛みを緩和すると判明しました。どうやらexendin 20-29は慢性痛の対処手段となりうると著者は言っています6)。セマグルチドはヒトのGLP-1と配列が94%一致するGLP-1アナログであり、セマグルチドもまたGLP-1受容体を介さない働きによる鎮痛作用を担うかもしれません。そのようなメカニズムの研究を進めることと並行して、セマグルチドをより活用できるようにする試験も実施できそうです。たとえば、肥満ではない変形性関節症(OA)患者の痛みもセマグルチドでSTEP 9試験と同様に緩和するかどうかを調べるべきでしょう2)。また、GLP-1受容体作動薬使用患者は軟骨がより損失し難いことが別の試験で示唆されており7)、OAでの関節の劣化をGLP-1受容体作動薬で抑制しうるかどうかを確かめるさらなる試験も必要なようです。参考1)Bliddal H, et al. N Engl J Med. 2024;391:1573-1583.2)Felson DT. N Engl J Med. 2024;391:1643-1644.3)Hernandez AF, et al. Lancet. 2018;392:1519-1529.4)Gong N, et al. J Neurosci. 2014;34:5322-5334.5)Lee SO, et al. Cells. 2024;13:857.6)Go EJ, et al. Exp Mol Med. 2024 Nov 1. [Epub ahead of print]7)Zhu H, et al. Ann Rheum Dis. 2023;82:1218-1226.

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ミロガバリン、ペマフィブラートなど4剤に「重大な副作用」追加/厚労省

 厚生労働省は8月27日、ミロガバリン、ペマフィブラートなどの添付文書について、「重大な副作用」の新設などに伴い、使用上の注意改訂指示を発出した。タリージェ「腎機能障害」、パルモディア「肝機能障害、黄疸」が重大な副作用に追加 神経障害性疼痛治療薬であるミロガバリンベシル酸塩(商品名:タリージェ、タリージェOD)の重大な副作用として、新たに「腎機能障害」が新設された。これは、MID-NET(R)を用いた腎機能検査値異常リスクに関する調査結果の概要1,2)、市販後の腎機能障害関連症例および同作用機序を有する薬剤の国内外の注意喚起状況を踏まえ、当該リスクがあると判断されたためである。◯腎機能障害関連症例*†の国内症例の集積状況【転帰死亡症例】 26例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例3例)【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】 *:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例 †:以下の条件にて抽出した症例  ・MedDRA ver.27.0 SMQ「急性腎不全」(広域)またはSOC「腎および尿路障害」に該当する症例  ・本剤投与期間の記載がある症例  ・本剤投与開始後の血清クレアチニン値が男性1.07mg/dL、女性0.79mg/dL以上、GFR推定値/クレアチニンクリアランスが90mL/min/1.73m2未満、蛋白尿2+または尿蛋白/クレアチニン比>0.5(有害事象共通用語規準[CTCAE] ver.5.0のGrade1相当以上)に該当する症例 高脂血症治療薬のペマフィブラート(同:パルモディア、パルモディアXR)については、肝機能障害関連の症例を評価し、症例の因果関係評価および使用上の注意の改訂要否について、専門委員の意見を聴取。その結果、本剤と肝機能障害との因果関係が否定できない症例が集積し、当該症例に黄疸を認める症例が含まれていることから、使用上の注意を改訂し、「肝機能障害、黄疸」を追記することが適切と判断された。◯肝機能障害関連*†の国内症例の集積状況【転帰死亡症例】 25例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例9例。当該9例のうち3例は黄疸も認めた症例)【死亡0例】 *:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例 †:MedDRA ver.27.0 SMQ「薬剤に関連する肝障害-包括的検索(SMQ)」で抽出した症例のうち、CTCAE ver.5.0 Grade3以上に該当する症例を抽出 このほかに、パイナップル茎搾汁精製物(同:ネキソブリッド)には「適用部位出血」が、イオジキサノール(同:ビジパーク)には「急性汎発性発疹性膿疱症」が新たに重大な副作用として追加された。

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疼痛に有効な抗うつ薬は?/BMJ

 オーストラリア・シドニー大学のGiovanni E. Ferreira氏らは、成人の疼痛において抗うつ薬とプラセボを比較した試験に関する26件の系統的レビューのデータの統合解析を行った。抗うつ薬の有効性を示す確実性が「高」のエビデンスは得られなかったが、4種の疼痛において、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)の有効性を示す確実性が「中」のエビデンスが確認された。研究の成果は、BMJ誌2023年2月1日号に掲載された。系統的レビューのデータを統合して要約 研究グループは、病態別の疼痛に対する抗うつ薬の有効性、安全性、忍容性に関して、包括的な概要を提示する目的で、系統的レビューのデータを統合して要約した(特定の研究助成は受けていない)。 医学関連データベース(PubMed、Embase、PsycINFO、Cochrane Central Register of Controlled Trials)に、その創設から2022年6月20日までに登録された文献を検索した。対象は、成人の疼痛について、抗うつ薬とプラセボを比較した系統的レビューとされた。 主要アウトカムは疼痛であった。疼痛の連続アウトカムは、0(痛みなし)~100(最悪の痛み)の尺度に変換され、平均差(95%信頼区間[CI])が示された。また、2値アウトカムはリスク比(95%CI)が提示された。副次アウトカムは、安全性と忍容性(有害事象による投与中止)であった。 得られた結果は、「有効」「有効でない」「結論に至らない」に分類された。エビデンスの確実性は、GRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)で評価した。痛みへの抗うつ薬処方では、より微妙なアプローチが必要 2012~22年に発表された26件の系統的レビュー(156試験、参加者2万5,000例以上)が解析の対象となった。これらのレビューには、22種の疼痛について、8クラスの抗うつ薬とプラセボの42の比較が含まれた。疼痛に対する抗うつ薬の有効性に関して、確実性が「高」のエビデンスを示すレビューは認められなかった。 9件のレビューで、11の比較において、9種の疼痛に対していくつかの抗うつ薬がプラセボと比較して「有効」とのエビデンスが示された。その多くはSNRIの有効性を示すもので、6件のレビューで7種の疼痛に有効であった。 このうち確実性が「中」のエビデンスが得られたのは、いずれもSNRIの有効性が示された次の4つの疼痛であった。背部痛(平均差:-5.3、95%CI:-7.3~-3.3)、術後疼痛(多くが整形外科手術)(-7.3、-12.9~-1.7)、神経障害性疼痛(-6.8、-8.7~-4.8)、線維筋痛症(リスク比:1.4、95%CI:1.3~1.6)。 これ以外の31の比較のうち、5の比較で抗うつ薬は「有効でない」、26の比較では「結論に至らない」であった。 安全性および忍容性のデータのほとんどは不明確だった。SNRIは、化学療法による疼痛、背部痛、坐骨神経痛、変形性関節症の患者において、あらゆる有害事象のリスクを増加させたが、術後疼痛や緊張型頭痛では、そのようなことはなかった。 また、背部痛、坐骨神経痛、変形性関節症、機能性ディスペプシア、神経障害性疼痛、線維筋痛症のレビューでは、SNRIはプラセボより忍容性が低かった。 著者は、「これらの知見は、痛みに対して抗うつ薬を処方する際には、より微妙なアプローチが必要であることを示唆する」としている。

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第24回 痛み診療のコツ まとめ【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第24回 痛み診療のコツ まとめ本連載では、痛みの原因やその内容について23回にわたって概説してまいりました。前回は治療編(2)として、社会復帰に向けた痛みのリハビリテーション療法ついてお話しました。今回は4年余りにわたってお話しました痛みについてのまとめとしてお話ししたいと思います。患者さんには「痛み」の理解を痛みを訴える患者さんにおきましては、病態は類似していても、痛みの性質や程度は個々の患者さんによって実に多種多様です。そのために、疼痛緩和療法も神経ブロック療法、薬物療法、各種理学療法、光線療法、インターベンショナル療法など患者さんに合った有効な治療法を選択する必要があります。それと共に患者さんには、痛みについてのご理解を得ていただくことが大切です。「天気痛」とか「気象痛」とか言われております自然による脅威も存在します。昨今に感じるような気温、湿度、気圧などの激しい変化は、当然ながら、自律神経系の不安定性を増強して、痛みの感受性を増強し、より痛みを訴えられる患者さんが多くなっております。そのような場合には、自分でできる鎮痛法、たとえば鎮痛薬を許容範囲内で増やすとか受診の機会を多く持つとかなどをさまざまな対処法があることをご理解していただくことは、患者さんの不安感を取り除き、安心感や自律神経系の改善に繋がり、痛みの緩和のためにも良い方向に働きます。第5のバイタルサインは「痛みの有無とその程度」実臨床の場におきましては、体温、血圧、脈拍、呼吸の基本的な4つのバイタルサインと共に、第5番目のバイタルサインとして、「痛みの有無とその程度」に関心が持たれるようになってきました。しかも、近年、新しく慢性疼痛に対する適応が認められました強オピオイド製剤や新たなトラマドール製剤も使用されるようになってきたこともあり、ますます慢性疼痛への対策の必要性が注目されてきております。2021年10月2日には、わが国における痛み関連8学会(日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本慢性疼痛学会、日本腰痛学会、日本運動器疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、日本ペインリハビリテーション学会、日本頭痛学会)によります日本痛み関連学会連合が発足し、より強い絆の下で連合として痛みに立ち向かう姿勢を広く世に示してきております。また、国際疼痛学会では、新たな痛みの定義を発表し、より理解しやすい痛みの概念が出来上がっています。それに加えて、新しい痛みの概念として、“nociceptive pain”が提唱され、やはり、日本痛み関連学会連合が「痛覚変調性疼痛」と和訳して、その解釈としては「侵害受容の変化によって生じる痛みであり、末梢侵害受容器の活性化を引き起こす組織損傷またはその恐れがある明確な証拠、あるいは痛みを引き起こす体性感覚系の疾患や障害の証拠が存在しないにもかかわらず生じる痛み」として定義されました。このシリーズの初めに記載した痛みの種類としての侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に加えて痛覚変調性疼痛が登場しました。この痛覚変調性疼痛は単独もありうるかとも思いますが、他の疼痛たとえば侵害受容性疼痛と同時に訴えることもあります。この疼痛の位置付けとしては、中枢性感作などの脳機能の変化から発生する痛覚の変調による痛みと考えられております。高齢社会では痛みへの早期介入が重要痛みは、患者さん本人しかわからないし、患者さんの我慢に頼る時期は終わっています。特に長い人生を歩まなくてはならない高齢社会では、できるだけ早期に疼痛治療を開始することが痛みの軽減に連なり、その後の患者さんの人生にとっても良い結果を導くことと確信しております。本連載が、わが国において痛みを有されておられる患者さんの診断と治療へのさらなる発展に対して、多少なりともお役立てられれば望外の喜びです。今回がこの痛みシリーズの最終回となります。24回のご愛読、誠にありがとうございました。1)三木健司. ペインクリニック. 2022;43:1021-1022.

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1人より2人〜DPNPに対する併用療法という選択肢〜(解説:永井聡氏)

 糖尿病患者の4人に1人に合併しうる糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、QOLに大きな影響を及ぼし、海外の多くのガイドライン1)では、アミトリプチリン(A)、デュロキセチン(D)、プレガバリン(P)、ガバペンチン(G)が第一選択となっており、日本においても同様である2)。これらの推奨は、システマティックレビューからのエビデンスの強さでなされ、単剤としてデュロキセチンが中等度の推奨、アミトリプチリンおよびプレガバリンが低い推奨とされている。ただし、最適な薬剤あるいは併用すべきかについてのある程度の規模の比較試験は行われていなかった。 そのような背景の中、DPNPに対する単剤および併用療法の有効性について、多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験、OPTION-DMが報告され、検討されたどの治療方針でも鎮痛効果は同等であり、併用療法の鎮痛効果は単剤療法を継続した患者より大きいことが示された。 本試験で用いられた薬剤の最大投与量は、アミトリプチリン75mg、デュロキセチン120mg、プレガバリン600mgであるが、単剤での投与量は6週の時点で各群のおよそ半数の患者において、アミトリプチリンが56mg、デュロキセチンが76mg、プレガバリンが397mgで投与されており、デュロキセチンは本邦のDPNPに対する最大投与量を超え、プレガバリンでも標準投与量である300mgを超えていたことから、短期間に投与量の積極的な増量を行うことが重要であることが再確認されている。それでも多くは併用療法へ移行していて、「十分に第一選択薬を投与した」のでは十分とはいえず、「第一選択薬の併用療法」を行うことでさらなる鎮痛効果が期待できる、という新たなエビデンスが登場したことは、臨床的にインパクトのある報告である。 ただし、本試験の結果を実臨床に活用するにはいくつか注意する点がある。どの組み合わせでも「効果は同等」という結果であるが、実際にはどうだろうか。副作用の点からは、プレガバリンではめまい、デュロキセチンでは悪心、アミトリプチリンでは口渇が多く、患者背景上副作用が起きやすい選択は避けるほうが無難であろう。投与量の点からは、本邦でのデュロキセチンの投与上限は60mgであることに注意が必要である。また、プレガバリンは300mg上限のプラセボ対照試験において有効性を証明しえない報告も多かった3)ことから「十二分に」増量することが改めて重要な薬剤であるが確認された。薬価の点ではアミトリプチリンが有利であるが、抗コリン作用のため高用量単剤での高齢者への投与は慎重に考えたい。 本試験の結果の解釈で注意する点も挙げておきたい。DPNPでは1年以内に半数が自然軽減するという報告もある4)。DPNPのプラセボ対照試験におけるプラセボ効果は一般的に高いことから本試験における単剤の奏効率が約40%、併用療法さらに14〜19%に「鎮痛効果を認めた」中には「自然軽減」や「プラセボ効果」も含まれている。また、二重盲検ではあるが医療者には投与量がマスクされておらず患者に「投与量の増量」が認知されプラセボ効果を生じる可能性がある。 それでも、これまでは効果が「不十分」であれば第一選択薬を他剤に切り替えたり、エビデンスや長期的安全性も不足している第二選択薬であるオピオイドを投与したりしていたことを考えると、本試験の「第一選択薬を併用する」新しい治療の「選択肢」は「糖尿病のない人と同じQOL」を目指す糖尿病の合併症治療を考える上で貴重なエビデンス、といえるのではないかと思う。

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糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

 糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である1)。 上記のそれぞれの薬剤のDPNPに対する有効性は明らかにされているが、どの薬剤が最も有効なのかを比較検討したhead to headのRCTはない。さらに併用療法についての有効性を検討したRCTにはPとDとの併用療法を検討した小規模のCOMBO-DN試験があるのみである2)。そこで各薬剤の有効性をhead to headで比較すること、および併用療法の有効性を検討することを目的に実施されたのが本試験であり、DPNP治療に新たなエビデンスをもたらした試験であると評価できる。 試験デザインは疼痛に関するRCTでは多用されるクロスオーバーデザインである。1コース16週とし、前半の6週は単剤治療期間、後半の10週が併用治療期間とされた。さらに単なる薬剤の組み合わせではなく、著者らはpathwayと記載しているが、投与順序も検討された。PとGは同様の作用機序なのでPが選ばれた(選択理由として、Gが1日3回投与である、Pと異なり薬物動態が線形でない、およびtitrationに時間を要する、と記載されている)。さらにAとDは両者ともに抗うつ薬であるのでこの組み合わせは除外された。したがって検討されるpathwayはA→P、P→A、D→P、P→Dの4組になる。これを1コース16週間のクロスオーバーデザインで実施すると16×4=64週で試験期間が1年以上となり、試験完遂が困難との判断からP→Dは除外された。その理由は、COMBO-DN試験の結果からP→D、D→Pの疼痛コントロール効果はほぼ同等であり、かつDは1日1回投与でありPと比較して初回投与として適切であると記載されている。このあたりがpragmatic trialとされるゆえんだろう。結果は、A、P、Dのどの薬剤から開始しても単剤での疼痛コントロール効果は同等であること、併用治療によりさらに疼痛コントロール効果が増強されること、どのpathwayでも効果は同等であること、が明らかとなった。さらに疼痛のみならず患者のQOLも同様に改善することが示された。したがって、最初にどの薬剤を投与するか、併用療法としてどの薬剤と組み合わせるかは、主として個々の薬剤による特有の副作用の程度に依存することになる。 DPNPに対しては、単剤を最大耐容量まで増量しても効果が不十分であれば躊躇せずに併用療法に進むことが疼痛コントロールのために有効であることが本試験によって明らかとなった。他の神経障害性疼痛に対しても恐らく同様の有効性が期待されるだろう。しかし腰痛などの神経障害性疼痛以外の疼痛に対しては本試験の結果が適用されないことは言うまでもない。

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知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール【非専門医のための緩和ケアTips】第35回

第35回 知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール私が緩和ケアの仕事を始めた頃と比べ、臨床で活用できるオピオイドが増えています。今回は、国内承認が比較的最近で、使ったことのある方がまだ少ないと思われる「タペンタドール」についてお話しします。今日の質問「オピオイドといえばモルヒネ」という時代からすると、さまざまなオピオイドの選択肢が増えたことは良いのですが、使い分けがよくわかりません。先日、がん拠点病院から紹介されてきた患者さんは、タペンタドールというオピオイドを内服していました。どういった特徴のある薬剤なのでしょうか?タペンタドール(商品名:タペンタ)は、2014年に保険承認されました。緩和ケアを専門とする医療者には広く知られるようになった一方で、プライマリ・ケア領域では、まだ使用経験のない先生も多いでしょう。タペンタドールは「強オピオイド」に位置付けられる薬剤です。日本では徐放製剤のみが発売されており、適応は各種がんにおける中等度から高度の疼痛です。タペンタドールは薬理学的にはユニークな特徴があります。腎機能障害があっても使用ができ、便秘が少ないとされています。このあたりはモルヒネと比較して、好んで使用される特徴でしょう。オピオイドはμオピオイド受容体を介した鎮痛効果が中心ですが、タペンタドールはSNRI様作用も有しています。SNRIと聞いて抗うつ薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。緩和ケア領域では抗うつ薬を神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬として用います。タペンタドールはこの鎮痛補助役としての作用も有する、ユニークなオピオイドなのです。より薬理学的なポイントとしては、「CYP2D6」という酵素活性に影響を受けない代謝経路になっていることが挙げられます。これは他薬剤との併用の際に大切です。併用薬剤によっては代謝酵素に影響を及ぼし、作用が減弱したり逆に予想よりも強く出たり、といった相互作用が生じるのです。さらなる特徴は、オピオイドの濫用防止の加工がしてあることです。粉砕できないように加工されており、水に溶かすとネバネバのゼリー状になります。よって、経管投与ができません。注射薬もないので、内服が難しくなりそうな患者の場合は、早めに別のオピオイドに変更するマネジメントが必要になります。私がタペンタドールが最も適すると感じるのは、頭頸部がんの難治性がん疼痛の患者、抗真菌薬のような相互作用に注意が必要な薬剤をよく使う血液腫瘍の患者さんなどです。もちろん、こうした患者さんは内服が難しい状況にもなりやすいのでその見極めも必要です。そうした意味では、少し“上級者向け”のオピオイドといえるかもしれません。今回のTips今回のTipsタペンタドールはユニークな特性を持つ、少し“上級者向け”のオピオイド。

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糖尿病性神経障害性疼痛、併用薬による効果の違いは?/Lancet

 糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)に対する鎮痛効果は、アミトリプチリン+プレガバリン、プレガバリン+アミトリプチリン、デュロキセチン+プレガバリンで同等であり、単剤療法で効果不十分な場合に必要に応じて併用療法を行うことで、良好な忍容性と優れた鎮痛効果が得られることが、英国・シェフィールド大学のSolomon Tesfaye氏らが英国の13施設で実施した多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験「OPTION-DM試験」の結果、示された。DPNPに対しては、多くのガイドラインで初期治療としてアミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが推奨されているが、最適な薬剤あるいは併用すべきかについての比較検討はほとんど行われていなかった。OPTION-DM試験は、DPNP患者を対象とした過去最大かつ最長の直接比較のクロスオーバー試験であった。Lancet誌2022年8月27日号掲載の報告。DPNP患者140例を対象に、DN4の7日間平均疼痛スコアを評価 OPTION-DM試験の対象は、改訂トロント臨床神経障害スコア(mTCNS)が5以上の遠位対称性多発神経障害、および神経障害性疼痛4項目質問票(DN4)で7日間の1日平均疼痛(NRS)スコア(範囲0~10)が4以上の神経障害性疼痛を3ヵ月以上有する18歳以上のDPNP患者である。施設で層別化したブロックサイズ6または12の置換ブロック法を用い、アミトリプチリン+プレガバリン(A-P)、プレガバリン+アミトリプチリン(P-A)、デュロキセチン+プレガバリン(D-P)の3つの治療法を各16週間、次の順序で投与する6通りの投与群に、1対1対1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。A-P→D-P→P-A、A-P→P-A→D-P、D-P→A-P→P-A、D-P→P-A→A-P、P-A→D-P→A-P、P-A→A-P→D-P。 3つの治療法はいずれも、第1治療期6週間、第2治療期10週間から成り、第1治療期は単剤療法(A-PではA、D-PではD、P-AではP)を行い、6週後に7日間平均NRSスコアが3未満の奏効例は第2治療期も単剤療法を継続し、非奏効例では第2治療期に併用療法を行った。各治療期は最初の2週間を用量漸増期として、アミトリプチリン25mg/日、デュロキセチン30mg/日、プレガバリン150mg/日から投与を開始し、1日最大耐量(アミトリプチリン75mg/日、デュロキセチン120mg/日、プレガバリン600mg/日)に向けて用量を漸増した。 主要評価項目は、各治療法の最終週(16週時)に測定された7日間平均NRSスコアの治療群間差であった。 2017年11月14日~2019年7月29日に252例がスクリーニングされ、140例が6通りの治療順に無作為に割り付けられた。3つの治療法(A-P、P-A、D-P)で有効性に差はなし 無作為化された140例中、130例がいずれかの治療法を開始し(84例が少なくとも2つの治療法を完遂)、主要評価項目の解析対象となった。 16週時の7日間平均NRSスコア(平均±SD)はいずれも治療法も3.3±1.8であり、ベースライン(130例全体で6.6±1.5)から減少した。各治療法の平均差は、D-P vs.A-Pで-0.1(98.3%信頼区間[CI]:-0.5~0.3)、P-A vs.A-Pで-0.1(-0.5~0.3)、P-A vs.D-Pで0.0(-0.4~0.4)で、有意差は認められなかった。併用療法を受けた患者では、平均NRSスコアの減少が単剤療法を継続した患者より大きかった(1.0±1.3 vs.0.2±1.5)。 有害事象は、3つの治療法を比較すると(A-P vs.D-P vs.P-A)、P-Aではめまい(12% vs.16% vs.24%、p=0.036)、D-Pでは悪心(5% vs.23% vs.7%、p=0.0011)、A-Pでは口渇(32% vs.8% vs.17%、p=0.0003)の発現率が有意に高かった。

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新型コロナの後遺症、入院患者と自宅療養者で違い/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症での一般診療医(GP)受診率について、COVID-19で入院を要した患者(入院患者)と入院を必要とせずコミュニティで療養した患者(コミュニティ療養者)で差があることを、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのHannah R. Whittaker氏らがイングランド住民を対象としたコホート研究で明らかにした。コミュニティ療養者では、時間の経過とともに受診率が低下する後遺症もあったが、不安や抑うつなど受診が継続している後遺症があり、ワクチン接種後に受診率の低下が認められる後遺症があることも明らかにされた。これまでいくつかの観察研究で、COVID-19回復後の持続的な症状および新たな臓器機能障害は報告されているが、それらは主に重篤症状の入院患者でみられたもので、コミュニティ療養者の長期アウトカムを比較した研究はごくわずかで、いずれも小規模で選択バイアスの掛かったものであった。また、大規模な住民ベースのコホート研究での経時的評価やCOVID-19ワクチン接種後のアウトカムの評価も行われていなかった。BMJ誌2021年12月29日号掲載の報告。イングランドのCOVID-19後遺症によるGP受診率を調査 研究グループは、COVID-19入院患者とコミュニティ療養者の急性期症状回復後の後遺症でのGP受診率を調べるとともに、コミュニティ療養者の受診率の経時的変化およびワクチン接種後の受診率の変化を調べた。データソースとして、イングランドのGP 1,392人が寄与する臨床診療研究データリンク(Clinical Practice Research Datalink Aurum[CPRD Aurum])を用いた。 対象者は、2020年8月1日~2021年2月14日にCOVID-19と診断された45万6,002例(男性44.7%、年齢中央値61歳)。診断後、2週間以内に入院した患者(1万8,059例)もしくはコミュニティ療養を受けた患者(43万7,943例)で、フォローアップ期間は最長9.2ヵ月であった。解析では、非COVID-19患者からなるネガティブ対照群(3万8,511例)と、パンデミック前のインフルエンザ患者のコホート群(2万1,803例)も設定し評価が行われた。 主要アウトカムは、新規の症状、疾患、処方および医療サービス利用を目的としたGP受診率で、入院患者vs.コミュニティ療養者、感染前vs.感染後とそれぞれ比較した。医療サービス利用についてはCox回帰法および負の二項回帰法を用いた。 解析は、ネガティブ対照群とインフルエンザ患者群と順次実施。コミュニティ療養者については、COVD-19診断後のアウトカムを経時的に記録し、さらに、負の二項回帰法を用いて、COVID-19後の症状を有した療養者についてワクチン接種前後の比較も行った。コミュニティ療養者は嗅覚・味覚障害が、入院患者は静脈血栓塞栓症が最も高頻度 ネガティブ対照群およびインフルエンザ患者群と比較して、コミュニティ療養者群、入院患者群ともに、複数の後遺症でのGP受診率が有意に高率であった。 コミュニティ療養者群のGP受診で、感染前の12ヵ月間と比べて最も頻度が高かったのは、嗅覚または味覚もしくは両方の障害(補正後ハザード比[HR]:5.28、95%信頼区間[CI]:3.89~7.17、p<0.001)、静脈血栓塞栓症(3.35、2.87~3.91、p<0.001)、肺線維症(2.41、1.37~4.25、p=0.002)、筋肉痛(1.89、1.63~2.20、p<0.001)。また、COVID-19診断後の医療サービス利用の増大も認められた(1.15、1.14~1.15、p<0.001)。COVID-19診断後4週以上で最も頻度の高かったアウトカム(絶対発生率)は、関節痛(2.5%)、不安症(1.2%)、そしてNSAIDの処方(1.2%)であった。 入院患者群のGP受診で、感染前の12ヵ月間と比べて最も頻度が高かったのは、静脈血栓塞栓症(補正後HR:16.21、95%CI:11.28~23.31、p<0.001)、悪心(4.64、2.24~9.21、p<0.001)、パラセタモールの処方(3.68、2.86~4.74、p<0.001)、腎不全(3.42、2.67~4.38、p<0.001)。また、COVID-19診断後の医療サービス利用の増大も認められた(発生率比:1.68、95%CI:1.64~1.73、p<0.001)。COVID-19診断後4週以上で最も頻度の高かったアウトカム(絶対発生率)は、静脈血栓塞栓症(3.5%)、関節痛(2.7%)、および息切れ(2.8%)であった。 コミュニティ療養者群では、不安や抑うつ、腹痛、下痢、全身疼痛、悪心、胸部圧迫感、耳鳴での受診が、フォローアップ期間中継続して認められた。また、コミュニティ療養者群ではワクチン接種前と比べて1回目のワクチン接種後に、神経障害性疼痛、認知障害、強オピオイドおよびパラセタモール使用を除き、すべての症状、処方、医療サービス利用についてGP受診率の低下が認められた。虚血性心疾患、喘息、胃・食道疾患についてもGP受診率の低下がみられた。

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2型糖尿病へのSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のベネフィット/BMJ

 成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬が共有するベネフィットとして、重症低血糖を起こすことなく、全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、腎不全、重症高血糖の発生低下および体重の減少があることを、ニュージーランド・オタゴ大学のSuetonia C. Palmer氏らが764試験、被験者総数42万例超を対象にしたネットワークメタ解析によって明らかにした。ただし、絶対ベネフィットは、心血管リスクや腎疾患リスクなど患者個々のリスクプロファイルによって、大幅に違いがみられることも示されたという。著者は、「今回のレビューは、BMJ Rapid Recommendationsに直接的に反映される方法が用いられ、すべての結果は既存の糖尿病治療への両クラスの薬剤の追加に言及するものであった」と述べている。BMJ誌2021年1月13日号掲載の報告。MedlineやEmbaseなど、20年8月までレビュー 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane CENTRALを基に、2020年8月11日までに発表された試験結果についてシステマティック・レビューを行った。適格条件は、成人2型糖尿病患者を対象にSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬と、プラセボや標準的治療、その他血糖降下治療を比較し、24週以上追跡した無作為化試験。2人の独立したレビュアーによって、適格性のスクリーニングおよびデータ抽出、バイアスリスクの評価が行われた。 データを基に頻度論に基づく変量効果モデルを用いてネットワークメタ解析を行い、エビデンスの確実性については、GRADEシステムで評価した。 アウトカムは、患者1,000人当たりの5年間の推定絶対治療効果で、被験者のリスクプロファイルに応じて次の5段階に分け検証した。非常に低リスク(心血管リスクなし)、低リスク(3つ以上の心血管リスクあり)、中リスク(心血管疾患)、高リスク(CKD)、非常に高リスク(心血管疾患・CKD)。検討はBMJ Rapid Recommendationsプロセスに準じ、ガイドラインパネルがレビューの監視を規定した。SGLT2阻害薬、死亡や心不全による入院リスクをGLP-1受容体作動薬より低下 764試験、被験者総数42万1,346例を対象に分析が行われた。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬ともに、全死因死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全のリスクをいずれも低下した(高い確実性のエビデンス)。 両薬剤間の顕著な違いは、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬より死亡や心不全による入院のリスクを低下したこと、GLP-1受容体作動薬は非致死的脳卒中リスクを低下したがSGLT2阻害薬では同効果は認められなかったことだった。 また、SGLT2阻害薬は性器感染症の原因となり(高い確実性)、GLP-1受容体作動薬は重度消化器イベントの原因となる可能性が示された(低い確実性)。両薬剤ともに、体重減少効果も示されたが、エビデンスの確実性は低かった。 なお、手足切断、失明、眼疾患、神経障害性疼痛、健康関連の生活の質(QOL)については、両薬剤ともにその効果を示すエビデンスがほとんどもしくはまったくなかった。 両薬剤の絶対ベネフィットは、心血管リスクや腎疾患リスクのランクにより大きな違いが認められた。

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片頭痛患者の神経障害性疼痛に対する抗CGRPモノクローナル抗体

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は、末梢神経障害の一般的な特徴である神経因性疼痛の発症に関連することを示すエビデンスが増加している。臨床研究では、抗CGRPモノクローナル抗体が、片頭痛の予防に効果的であることが示唆されているが、ヒトの神経因性疼痛を含む非頭痛の慢性疼痛に対する効果は明らかになっていない。米国・ミズーリ大学のSeung Ah Kang氏らは、慢性片頭痛を合併している患者の神経因性疼痛に対する抗CGRPモノクローナル抗体の有効性について、評価を行った。Muscle & Nerve誌オンライン版2020年12月21日号の報告。 慢性片頭痛および末梢神経障害患者14例をレトロスペクティブにレビューした。すべての患者は、抗CGRPモノクローナル抗体による治療が行われていた。neuropathy pain scale(NPS)および1ヵ月間の片頭痛日数(MHD)に関するデータを、患者報告により収集した。データの収集は、抗CGRPモノクローナル抗体による治療の3ヵ月前、0ヵ月および3、6、9、12ヵ月後に行った。 主な結果は以下のとおり。・抗CGRPモノクローナル抗体による治療により、NPSスコアは、ベースライン時の89.3から治療12ヵ月後の52.1へ41.7%の減少が認められた(p<0.05)。・1ヵ月間のMHDは、ベースライン時の19.8から12ヵ月後の13.2へ33.3%の減少が認められた(p<0.05)。 著者らは「抗CGRPモノクローナル抗体による治療は、慢性片頭痛患者の神経障害性疼痛を有意に改善した。これらの結果を確認するために、より多くの患者集団を対象とした盲検化ランダム化研究は、実施する価値があるであろう」としている。

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第18回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その1【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第18回 痛み診療のコツ・治療編(2)神経ブロック・その1前回までは治療編(1)として、薬物療法について解説しました。今回は、神経ブロックに焦点を当てて説明していきたいと思います。神経ブロックとは神経ブロックとは、脳脊髄神経および神経節や神経叢、交感神経および神経節や神経叢に神経ブロック針を刺入して、神経に直接またはその近傍に局所麻酔薬や神経破壊薬を注入し、その薬物効果で神経の伝導機能を一時的あるいは永久的に遮断する方法です。また、神経を特殊な針を用いて高周波熱凝固し、同様に神経の伝導を遮断する方法も神経ブロックに含まれます。痛み治療における神経ブロックでは、外来患者さんの場合では運動機能を残し、痛覚のみをブロックする方法を選択します。手術時の神経麻酔(ブロック)と、この点において大いに異なります。神経ブロックの意義(1)診断的ブロック神経ブロックにより、痛みに関与する神経を診断することができます。この診断的ブロックそのものによっても痛み治療になります。(2)痛み伝導路の遮断当然のことながら、痛み伝導路の遮断によって痛みの緩和が得られます。局所麻酔薬による神経ブロックでは、効果は一時的なものと考えますが、繰り返し神経ブロックを施行することで、痛みのない時間を作ることが大切です。これにより、最初に述べた痛みの悪循環が断ち切られ、痛みから解放されます。(3)交感神経の遮断知覚神経のみならず、交感神経の遮断が生じると、当然ことながら、交感神経の過剰反応が緩和され、末梢血管が拡張し、末梢循環不全が解消されることで痛みが抑制されます。神経ブロックの種類通常よく用いられるのは、以下の種類です。脳神経ブロック:三叉神経末梢枝神経ブロック知覚神経ブロック:腕神経叢ブロック、肩甲上神経ブロック交感神経ブロック:星状神経節ブロック交感・知覚・運動神経ブロック:頸部・胸部・腰部・仙骨硬膜外ブロック などこのほか、比較的一般に施行されているのが、トリガーポイントブロックです。安全性が高く、それなりの鎮痛効果が得られます。神経ブロックの適応(1)有痛性疾患三叉神経痛や肋間神経痛などのいわゆる神経痛、末梢神経障害性疼痛、末梢循環障害性疼痛、がん性疼痛などが含まれます。(2)無痛性疾患本態性顔面神経麻痺、顔面けいれん、眼瞼けいれん、手掌多汗症、突発性難聴などが含まれます。神経ブロックに使用される薬物(1)局所麻酔薬リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ボプスカイン、ジブカインなどがあります。効果持続時間が薬物によって異なりますので、ブロックの目的に合わせて使います。(2)神経破壊薬エタノール(99.5%)、フェノールグリセリン、フェノール水(7%)などを用います。(3)ステロイド神経の炎症や絞扼症状が強い場合には、水溶性ステロイド薬を局所麻酔薬に適量添加します。神経ブロックの合併症局所麻酔薬中毒、アナフイラキシーショック、神経損傷、血管内注入、などが見られることがあるので、ブロック後十分な観察が必要です。患者さんに対し、あらかじめ十分な説明をしておくと共に、万一、合併症が生じた場合の緊急蘇生器具などの準備が大切です。以上、神経ブロックを取り上げ、その意義、種類、適応、使用される薬物、合併症などについて述べました。痛みを有する患者さんに接しておられる読者の皆様に、少しでもお役に立てれば幸いです。次回は神経ブロックの実際についてさらに具体的に解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S180-S181

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「患者フォロー義務化」のメリット示す調査結果が公表【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第54回

2020年9月1日に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の改正法が施行され、服薬期間中の患者さんの状態を確認する「患者フォローアップ」が義務化されました。個人的には、一連の改正の中で、患者さんに一番影響が大きい項目だと思っています。実際にこの「患者フォローアップ」はどれほど効果があるのでしょうか。成果を収集検証した調査結果が公表されましたので紹介します。日本保険薬局協会は9月10日の定例会見で、改正医薬品医療機器法によって義務化された患者への「服用期間中フォローアップ」について、成果を収集検証した調査結果を公表した。それによると、会員企業20社282薬局から集めた525事例では、51%にあたる268事例で「処方内容に変更」があり、さらに85事例で「薬剤の中止」に結びついたと報告した。首藤正一会長は「これほど、大きな成果が出るとは思わなかった」と指摘し、薬剤中止を含めた「用法用量の減量」や「残薬調整」などの129事例によって、1ヵ月換算の医療費削減効果が109万円になることを強調した。(2020年9月11日付 RISFAX)調査は2020年7月14日~8月31日に行われ、20社282薬局から報告された525事例が検証されています。その結果、フォローアップ後に処方医への情報提供や連携につながった事例は384件(73%)で、処方変更や経過改善などの成果につながった事例は497件(95%)と報告されています。95%が成果につながったというのは驚くべき割合ですね。その成果につながった497事例のうち、処方内容の変更がみられたのが268件(51%)、服薬状況や副作用の確認など処方変更以外の成果につながったのが342件(65%)、服薬状況や体調、副作用で改善がみられたのが434件(83%)でした。処方内容の変更があった268事例のうち、薬剤の中止は85件、他剤への変更は65件、減量が37件で、医療費の削減効果は処方換算で1ヵ月109万円だったとあります。一方、処方追加が40件、増量が11件で、患者さんの症状をよく聞き取って必要な薬剤や投与量を判断して提案していることがわかります。処方変更となった医薬品は「血圧降下薬」がもっとも多く24件で、続いて「下痢・浣腸剤」が22件、神経障害性疼痛の治療薬など「中枢神経系用薬」が20件でした。抗がん剤も11件報告されています。処方変更以外の成果につながった342件の内訳は、「服薬状況の確認」が152件、「副作用の確認」が128件、「体調変化の確認」が76件、「副作用の発見」が46件、「服薬に関する再指導」が31件でした。また、フォローアップをきっかけに、かかりつけ薬剤師の新規契約に至ったケースも19件あったとのことです。これらの成果は、積極的なフォローアップの取り組みを後押しするものになるのではないでしょうか。フォローアップは特別な取り組みではない義務化に先立ち、2020年7月に日本薬剤師会より「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」が出されています。フォローアップのやり方については、まだ模索中という方も多いと思いますので、ぜひ一読されることをお勧めします。日々の服薬指導の振り返りやブラッシュアップにも、この手引きは活用できると思います。これらの取り組みを患者さん本人にお伝えし、何かフォローしてほしいことはないか、不安なことはないかと積極的に尋ねてもいいかもしれません。今回の薬機法改正は、「これまで進めてきた医薬分業の成果と課題を踏まえ、患者の多くが医薬分業のメリットを実感できるような取り組みを進める」ということが課題とされています。日本保険薬局協会の調査結果をみると、患者フォローアップによって本来の薬局の役割が果たせていることに加えて、患者さんや医療費にまで貢献できたという結果が出ています。薬局全体で取り組むモチベーションになるのではないでしょうか。「薬局でお薬をもらってよかった」「お薬で不安なことは薬剤師に相談しよう」と、1人でも多くの患者さんが医薬分業のメリットを感じられるようになることを願います。

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第16回 治療編(1)薬物療法・その3【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第16回 治療編(1)薬物療法・その3前回は、神経障害性疼痛への緩和適応を有する薬物について説明しました。今回は、侵害受容性疼痛に対して使用されているオピオイドについて説明しましょう。オピオイドには、麻薬指定を受けていない薬物と、麻薬指定薬とがあります。麻薬は、国の指定によって「麻薬」になります。したがって、同じ薬でも麻薬としての扱いは国によって異なります。オピオイドを使用している患者さんが外国に旅行される場合、訪問国の麻薬事情を調べておく必要があります。ここでは、わが国における非麻薬系のオピオイドとして、トラマドール製剤とブプレノルフィン貼付薬について解説します。(1)トラマドール<作用機序>オピオイド受容体への作用と、下行性抑制系の賦活効果を示すノルアドレナリン・セロトニンの再取り込みの阻害作用によって、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>通常の鎮痛薬では効果が得られない非がん性慢性疼痛の患者さんでは、1日2回投与が基準です。25mg錠と50mg錠がありますが、基本的には25mg×2で開始します。高齢者には、就寝前投与25mg1錠から開始し、患者さんが薬物に慣れたら朝夕の25mg×2に増量します。通常、とくに副作用や疼痛緩和効果が見られなければ、25mg×4、50mg×4と順次増量していきます。最大投与量は、400mg(50mg×8/日)です。副作用としては、嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、口渇、ふらつき、傾眠、意識消失などがあります。肝機能障害にも注意が必要です。(2)トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ワントラム)<作用機序>トラマドール製剤なので、本質的に上記と同様です。<投与上の注意>トラマドールの必要投与量が25mg×4になるようであれば、ワントラム1錠(トラマド-ル100mg含有)が便利です。これはトラマドールの徐放剤であり、トラマドール25mgが1日4回の経時的投与されているのと同様の血中濃度を維持でき、しかも1日1回の投与ですので、患者さんにとってもコンプライアンスの維持が容易になります。(3)トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤錠(商品名:トラムセット)<作用機序>上記トラマドールの作用機序に、アセトアミノフェンの作用機序が加わります。すなわち、中枢性プロスタノイドの抑制、内因性下行性抑制系セロトニン系の活性化、内因性オピオイドの増加などの鎮痛機序がアシストされることが推定され、トラマドール単独に比較して、より疼痛緩和効果が期待できます。<投与上の注意>トラマドール37.5mgとアセトアミノフェン325mgとの配合薬です。非がん性慢性疼痛では、1回1錠、必要に応じて1日4回投与します。基本的には、投与間隔を4時間は空けるようにします。最大投与量は1回2錠、1日8錠までとなっています。投与を中止する際には、トラマドール製剤なので、いずれも漸次減量していきます。アセトアミノフェンを別に投与する場合には、必ず、トラムセットに含まれているアセトアミノフェンの含有量を計算し、4,000mg/日を超えないように注意してください。アセトアミノフェンの副作用に肝機能障害がありますので、長期投与する場合は、いずれにしても肝機能をモニタリングすることが重要です。(4)ブプレノルフィン(商品名:ノルスパン テープ)<作用機序>オピオイド受容体への作用は部分的作動性ではありますが、親和性は強く、強力な鎮痛作用を示します。皮膚から吸収される1週間貼付の徐放剤です。同じ貼付部位での1週間貼付剤なので、皮膚への影響により掻痒を訴え、剥がすと発赤が認められる場合があります。そのために、1週間ごとに貼付部位をローテーションしていきます。<投与上の注意>投与に際しては、e-ラーニングの習得が必要です。保険適応症例は、腰痛症と変形性関節症のみです。また、現在のところ2週間分の処方しかできないので、患者さんの受診は最長2週間ごとになります。最大投与量は20mg/週(20μg/時)です。5、10、20mgの貼付薬があり、痛みの強度により、投与量を決めていきます。そのため、基本的には5mg貼付薬から開始し、1~2週間ごとに投与量の増減を行い、適切な貼付量を決めていきます。貼付開始後および増量後には、3日程度の観察期間が必要です。副作用としては、トラマドールと同様に嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、口渇、頭痛、ふらつき、傾眠、意識消失など、通常のオピオイドに見られる症状があります。1週間という長期間貼付なので、掻痒、発赤などの皮膚症状が見られることがあり、貼付部位をローテーションすることが重要です。以上、痛み治療の第2段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。次回はさらに痛みの程度が強くなった場合に使用する強力な麻薬性オピオイドについて解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S156-S1572)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S1553)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S154

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「リリカ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第7回

第7回 「リリカ」の名称の由来は?販売名リリカ®カプセル/OD錠 25mg・75mg・150mg 一般名(和名[命名法])プレガバリン(JAN)効能又は効果神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛用法及び用量神経障害性疼痛通常、成人には初期用量としてプレガバリン1 日150mgを1日2回に分けて経口投与し、その後 1 週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高用量は600mgを超えないこととし、いずれも1日2回に分けて経口投与する。線維筋痛症に伴う疼痛通常、成人には初期用量としてプレガバリン1日150mgを1日2回に分けて経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増した後、300~450mgで維持する。なお、年齢、症状によ り適宜増減するが、1日最高用量は450mgを超えないこととし、いずれも1日2回に分けて経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2020年7月8日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年1月改訂(改訂第13版)医薬品インタビューフォーム「リリカ®カプセル/OD錠 25mg・75mg・150mg」2)ファイザー:製品情報

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第15回 治療編(1)薬物療法・その2【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第15回 治療編(1)薬物療法・その2前回は、主として末梢性疼痛に用いられる薬物療法について解説しましたが、今回は、末梢性神経障害性疼痛への除痛適応を持つ、新薬ミロガバリンとプレガバリン、そして比較的副作用の少ない鎮痛薬ノイロトロピンについて説明しましょう。表に神経障害性疼痛の原因になりうる疾患を示しております。この中でも、末梢性神経障害性疼痛の代表症例として、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛が挙げられます。画像を拡大する(1)ミロガバリン<作用機序>神経前シナプスの電位依存性カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入したCa2+により神経が興奮して、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)など、いわゆる神経伝達物質が放出されます。このCa2+チャネルにはいくつかのサブユニットで構成されておりますが、ミロガバリンはそのうちのでもα2δサブユニットに結合することによりCa2+チャネルの活動が抑制されることでCa2+の流入が低下します。その効果により、神経伝達物質の放出が抑制されて痛みが緩和されると考えられています。<投与上の注意>1日2回投与が基準です。2.5mg、5mg、10mg、15mg錠がありますが、基本的には5mgX2で開始しますが、患者さんが少しきついと感じられた時には2.5mgX2で開始し、副作用あるいは疼痛緩和効果が見られなければ、1~2週間ごとに10mgX2、15mgX2と漸増し、最終的には1日30mgまで投与します。副作用としては、傾眠、浮動性めまい、体重増加などがあります。高齢者では転倒・骨折の恐れがあるので、細心の注意が必要です。また、自動車運転などの機械操作は回避する必要があります。(2)プレガバリン<作用機序>前述のミロガバリンと同様の作用機序、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>ミロガバリンと同様ですが、中枢性神経障害に対する適応も有しています。元はカプセル剤でしたが、和製でOD錠になりましたので、疼痛時にはそのまま服用できるのが魅力です。25、75、150mgOD錠があり、1日4回まで、最高600mgまで処方できます。副作用もミロガバリンと同様で、眠気には注意が必要です。眠前に服用するとよく眠れるようです。(3)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)<作用機序>ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを摂取した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した300種類以上非蛋白性生体活性物質を含んでおり、単一での効果成分は不明です。作用機序としては、下行性疼痛抑制系の活性化が考えられております。その他、抗炎症作用、興奮性神経ペプチドの放出の抑制、交感神経作用抑制、血流改善、神経保護作用などが推測されています。<投与上の注意>副作用には発疹、掻痒、悪心、眠気などが認められていますが、その発現頻度や重症度は極端に低いため、高齢者や長期療養者に対しても使いやすいことが特徴です。1日4錠(1錠4単位)を朝夕2回に分けて経口投与します。注射薬では1日1回1管を静脈内、筋肉内または皮下に注射します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄. ペインクリニック. 2013; 34: 1227-12372)花岡一雄. ペインクリニック. 2011; 143: 441-4443)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S168

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第12回 痛みの治療法【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第12回 痛みの治療法これまで11回にわたって、痛みの基本的概念から身体各部の痛みについて述べてまいりました。この<痛み>シリーズの最終回として、今回は痛みの治療法を概説いたします。痛み治療は末梢→中枢が原則、治療法は多岐に基本的な痛みの治療方針としては、神経の末梢部位から攻めていきます。たとえば神経ブロックにおきましても、罹患部分が末梢であれば痛みのトリガーポイントからブロックしていきます。効果が見られなければ、順次中枢部へと進んでいきます。末梢神経ブロックの次には、硬膜外ブロックが適応となります。その次には、脊髄や脳組織もターゲットとなります。電気神経刺激療法におきましても、体表の末梢神経から始めまして、脊髄電気刺激、脳電気刺激などへ移行し、鎮痛効果が見られなければ、神経ブロック同様に刺激部位を上位中枢へと移動していきます。大脳皮質を刺激する電気痙攣療法(ECT)は、うつ病に効果が認められておりますが、難治性慢性疼痛の治療にも応用されています。ECTによって嫌な記憶を忘れることも、疼痛の緩和をもたらすからです。低出力レーザー治療を含む光線療法も広く応用されてきております。レーザー治療は、神経ブロックの効果には多少及ばないものの、高齢患者を想定すると副作用が少ないために安全で有用性も高いと考えられております。患者参加型の疼痛治療法も試みられております。痛みは患者本人にしかわからないために、患者が痛みを感じた時に痛み治療薬を患者自身で投与する方法です。Patient Controlled Analgesia (PCA:自己調節鎮痛法)と呼ばれておりますが、ディスポーザブルセットからコンピュータ内蔵機器まで様々な装置が使用されております。主として鎮痛薬の静脈投与ですが筋肉投与も可能です。経口投与による頓服投与スタイルもPCAの一種ですが、あらかじめ基本となる鎮痛薬をベースとしまして、痛い時に使用する頓服用の鎮痛薬を、痛みが強くなるようであれば患者自身の判断で服用してもらいます。インターベンショナルな痛みの治療法も様々考案されております。そのうち、仙骨硬膜外腔癒着剥離術は腰痛治療にも応用されております。ビデオガイドカテーテルを仙骨裂孔から挿入し、ディスプレイ画面にて、癒着部を確認しながら、剥離を行っていきます。それと同時に生理食塩水で炎症部を洗浄し、発痛物質を洗い出すことによって、鎮痛を得る方法です。近年、分子生物学的手法の進展によって、痛みに関連する神経の受容体が次々と発見され、複雑な痛みの機序が徐々に解明されてきております。また、個々の患者さんによって、その疼痛機序は異なっておりますので、責任受容体や痛みの機序を容易に見つけ出すためのテストが必要になってきました。このためにドラッグチャレンジテスト(DCT)を活用することによって有効的な薬物を見出して、より効果的な薬物療法を施行していくことが大切です。使用される薬物としては、ケタミン、ATP(アデノシン3燐酸)、チオペンタール、ミダゾラム、モルヒネ、リドカイン、フェントラミンなどです。ケタミンはN-メチル‐D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の拮抗薬であり、NMDA受容体の活性化が原因の痛みに効果的です。ATPは脊髄A1受容体を介する神経調節機構に働きます。チオペンタールは、抗痙攣作用や精神的原因などの中枢神経抑制作用によって、痛みを軽減する効果を持っています。ミダゾラムも、チオペンタールと同様の作用を持っておりますが、筋緊張の改善作用もありますので、疼痛も緩和されます。モルヒネは、脊髄オピオイド受容体に作用するとともに、下行性抑制系も賦活して、強い鎮痛効果を発揮します。リドカインは、痛み神経の異常興奮を抑制する作用を有しておりますので、神経が原因となる神経障害性疼痛に効果がみられます。フェントラミンは、痛みの機構に交感神経系の関与があるときに効果があります。このようにして、それぞれの患者の痛みの機構を解明することによって、関連する薬物の投与や、脊髄・脳電気刺激療法などの適応が考慮され、治療法が重点的に応用されるために患者の負担が少なくなる上、より良い効果が早く得られるため、有効率もそれだけ高くなります。難治性疼痛の患者さんには、認知行動療法、マインドフルネスなどの心理療法も活用されております。運動療法を含む理学療法にも効果が見られております。最近、痛み患者の遺伝子の解析も試みられております。痛みが残存する人、しない人などの遺伝子の違いが解明されれば、痛み治療対象者や治療対象薬の選定にも有用となります。人生100年時代への対策の一つとして、2,000万人と言われる慢性疼痛の患者さんが、痛みを軽減することによって、患者さん自身で完結できる人生を歩んでいただければ、この上ない喜びです。<CareNet.com編集部よりお知らせ>本連載は、今回でいったん完結となります。2020年1月より、花岡一雄先生執筆による新連載を開始予定です。痛みの治療法をより具体的に掘り下げ、密度の濃い内容でお届けいたします。ぜひ、ご期待ください!

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