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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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全身性免疫炎症指数はCKDの死亡率に関連

 慢性腎臓病(CKD)患者における全身性免疫炎症指数(SII)のレベルと全死亡率の間にはJ字型の関連があることが、「Immunity, Inflammation and Disease」に9月10日掲載された。 上海中医薬大学(中国)のMeng Jia氏らは、CKD患者におけるSIIと全死亡率の関連性を検討した。分析には、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の対象者であったCKD患者9,303人が含まれた。 解析の結果、中央値86カ月の追跡期間において、SIIレベルと全死亡率との間に明確なJ字型の関連が示された。最低値は、第2四分位数内のSIIレベル478.93で確認された。SIIが478.93を超えると、SIIレベルの標準偏差が1増加するごとに全死亡率のリスクが上昇した(ハザード比1.13)。CKD患者では、SIIの上昇と全死亡率のリスク上昇との間に関連性が見られた(第4四分位数対第2四分位数のハザード比1.23)。SIIとCKDによる死亡率の相関は、60歳以上の対象者および糖尿病患者において特に顕著であった。SIIの極端な5%の外れ値を除外すると、SIIと全死亡率との間には線形の正の関連が見られた。 著者らは、「SII指数は、血小板、好中球、リンパ球の数を網羅しており、炎症状態と宿主免疫応答の間のバランスをより包括的に表す」と述べている。

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心筋梗塞後の待機的手術はいつ実施すべきか

 最も一般的なタイプの心筋梗塞(MI)である非ST部分上昇型心筋梗塞(NSTEMI)を発症した67歳以上の患者に対する待機的非心臓手術は、NSTEMI発症から3~6カ月の期間を置いて実施すべきであることが、新たな研究で示唆された。性急な待機的非心臓手術は、脳卒中や新たな心筋梗塞などの命を脅かす合併症の発症リスクを約2倍、死亡リスクを約3倍に高めることが示されたという。米ロチェスター大学医療センター(URMC)麻酔科・周術期医学・公衆衛生科学教授のLaurent Glance氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Surgery」に10月30日掲載された。 米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)が2014年に発表したガイドラインは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けていない患者に対するMI後の待機的非心臓手術は、60日以上の待機期間を設けることを推奨している。しかし研究グループによると、これらのガイドラインは1999年から2004年にかけて50万人の患者を対象に実施された研究から得られた20年以上も前のデータに基づいているという。Glance氏は、「現在、医師が患者の治療の決定に使用しているデータは時代遅れだ。治療の進歩と患者の絶え間ない変化を考えると、臨床医には最新の情報が必要だ」と指摘する。 今回の研究では、2015年から2020年の間のメディケア請求データを用いて、2017年11月1日から2020年11月30日の間に非心臓手術のために入院した67歳以上の患者に対する522万7,473件の手術(待機的手術362万675件、非待機的手術160万6,798件)を対象に、データの解析を行った。対象患者の平均年齢は75.7歳で、女性が57.0%を占めており、4万2,278人(0.81%)は手術に先立つ2年の間にNSTEMIを発症していた。主要評価項目は、主要心脳血管イベント(MACCE;30日死亡率、入院中のMI、心不全、または脳卒中の発症)、および、あらゆる原因による30日死亡率とし、多変量ロジスティック回帰分析により、NSTEMI発症からの経過時間とこれらのアウトカムとの関連を評価した。 解析の結果、NSTEMI発症から30日以内に待機的非心臓手術を受けた場合、NSTEMI歴のある患者ではNSTEMI歴のない患者に比べて、冠動脈血行再建術を受けたかどうかにかかわりなく、MACCEリスクが有意に上昇することが明らかになった。MACCE発生の調整オッズ比(aOR)は、冠動脈血行再建術を受けていた患者で2.15(95%信頼区間1.09〜4.23、P=0.03)、受けていなかった患者で2.04(同1.31〜3.16、P=0.001)であった。冠動脈血行再建術を受けた患者では、NSTEMI発症から30日以降(薬剤溶出性ステント留置患者では90日以降)にMACCEリスクが横ばいになったが、180日を過ぎるとリスクが再上昇する傾向が認められた。冠動脈血行再建術を受けていない患者では、MACCEリスクは一貫して増加傾向を示した。 一方、NSTEMI発症後に冠動脈血行再建術が施行され、発症後30日以内に待機的非心臓手術を受けた患者での30日以内の死亡のaORは2.88(95%信頼区間1.30〜6.36、P=0.009)で、リスクが約3倍に上昇していた。しかし、発症後61~90日後に待機的非心臓手術を受けた場合にはaORが1.03(同0.57〜1.86、P=0.92)となり、リスクは横ばいになった。同様の条件の患者に対する非待機的心臓手術での30日以内の死亡のaORは1.91(同1.52〜2.40、P<0.001)、91~120日後で1.00(同0.73〜1.37、P=0.99)だった。 こうした結果を受けて研究グループは、「冠動脈血行再建術を受けたNSTEMI発症患者に対する待機的非心臓手術は、発症後90日から180日の間に行うのが合理的かもしれない」との見方を示している。

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高リスクIgA腎症へのエンドセリンA受容体拮抗薬の重度蛋白尿改善効果は確定(解説:浦信行氏)

 エンドセリンA受容体拮抗薬の蛋白尿改善効果はIgA腎症をはじめとして、慢性腎臓病(CKD)や巣状糸球体硬化症等で次々に報告されるようになった。本研究(ALIGN研究)は高リスクIgA腎症を対象とし、エンドセリンA受容体拮抗薬atrasentanの36週での尿蛋白減少効果を偽薬投与群と比較した成績であるが、36.1%有意に減少させたと報告された。 同様の成績は昨年エンドセリンA受容体・アンジオテンシンII受容体デユアル拮抗薬のsparsentanの報告(PROTECT研究)があるので、結果を対比する(CLEAR!ジャーナル四天王-1666「IgA腎症の病態に根差した治療」と同1755「IgA腎症の新たな治療薬sparsentanの長期臨床効果」で解説)。まず、対象はeGFR30 mL/min以上で、尿蛋白1g/day以上であり、両者に差はない。使用薬剤はエンドセリンA受容体・アンジオテンシンII受容体デユアル拮抗薬とエンドセリンA受容体拮抗薬の違いはあるが、対照群が各々イルベサルタンと偽薬であり、本質的な差はないと考える。また、第III相、二重盲検、多国間試験であり、この点に関しても本質的な差はない。また有害事象の発生は2群間に有意差はなく、同様の成績である。ALIGN研究はエンドセリンA受容体拮抗薬と偽薬との対比であるため、より直接的にエンドセリンA受容体拮抗薬の尿蛋白減少効果を評価できたことが両者の違いである。ただし、PROTECT研究はより詳細に尿蛋白減少効果を評価しており、110週に至るまでの長期効果を0.3g/day未満の完全緩解率と1.0g/day未満の部分寛解率も良好な成績で報告されている。尿蛋白の多寡が腎機能障害の進行の程度に関連することを考慮すると、この点に関しても提示してほしかった。 本研究は132週まで継続し、eGFRの推移を2群間で対比する予定である。PROTECT研究は110週までのeGFRのスロープを対比しており、6週から110週までのそれに有意差があったが、1日目から110週までの全スロープでは、残念ながらp=0.058と傾向に留まった。ALIGN研究の今後の期待はこの点にある。

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第218回 医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省

<先週の動き>1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省11月20日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師不足地域での開業や勤務を促すための経済的支援策と、医師過剰地域での開業規制などを検討する案を有識者検討会に提示した。医師不足地域では、開業や勤務に対する経済的支援を強化するほか、医師派遣を行う医療機関への支援も検討される。その一方で、医師過剰地域では、都道府県が必要な医療機能を要請し、応じない場合は勧告や公表を行うことができるようにする案が示された。医師不足地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関を拡大する案も提示され、地域医療支援病院だけでなく、公立病院や公的医療機関も対象とする方針。日本病院会は、強制的な配置ではなく、医師の意欲や情熱を高める対策を重視するよう提言している。今後、医師の地域偏在是正に向け、厚労省は規制強化と経済的支援を組み合わせた総合的な対策パッケージを年内に策定する。参考1)第12回新たな地域医療構想等に関する検討会 医師偏在是正対策について(厚労省)2)医師不足地域で診療所開業支援など 医師の偏在に対策案 厚労省(NHK)3)医師過剰地域の診療所、開業に要件 厚労省案(日経新聞)4)医師少数地域での勤務要件、対象拡大を提案 厚労省、勤務期間は「1年以上」に延長(Gem Med)2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省厚生労働省は、11月19日に電子処方箋を導入した施設が全国で18.9%に止まっており、政府が推進する医療DXの進捗に遅れが生じていることを明らかにした。調剤薬局では導入率は5割を超えているものの、病院や診療所では導入が遅れている。電子処方箋は、薬の処方箋を電子化し、医療機関や薬局間で共有するシステム。政府は、医療情報の共有による重複投薬の防止や医療の質向上などを期待して導入を進めているが、システム改修の費用や時間などが課題となっている。福岡 資麿厚生労働大臣は、記者会見で「システム改修費の負担や周囲の施設への普及状況を様子見する医療機関が多いことが要因だ」と説明し、普及拡大に努める姿勢を示した。一方、マイナ保険証の利用率も低迷している。11月21日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、今年10月の利用率は15.67%と、前月から増加したものの、目標には到達していない。12月2日には現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証が基本となるが、混乱を避けるために政府は、現行の健康保険証も1年間は使用できる措置を設けている。政府は、これまで電子処方箋の導入とマイナ保険証の利用を進めてきた。来年度からは介護保険証もマイナンバーカードに一体化されるなど、今後も普及を促進していく方針だが、医療・介護事業者への支援や国民への丁寧な説明など、さらなる取り組みが必要とみられる。参考1)第186回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)マイナ保険証の利用率 10月なのに15.67% 病院27.96%、医科診療所12.91%(CB news)3)マイナ保険証を活用 電子処方箋導入の医療機関などは18.9%(NHK)3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省11月22日に厚生労働省は、2023年の医療施設(静態・動態)調査・病院報告を公表した。これによると美容外科を標榜する診療所が2,016施設となり、3年間で43.6%増加したことが明らかになった。その一方で、産婦人科・産科を有する一般病院は前年比17施設減の1,254施設、小児科を有する一般病院は29施設減の2,456施設となり、それぞれ30年以上減少が続いている。近年は少子化による需要低下に加え、出産数そのものが大幅に減少していることが背景にある。今年1~9月の出生数は前年比5.2%減の54万人で、通年で70万人を割る見通し。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のレポートによると、美容外科医の増加が顕著で、2020年には診療所の35歳未満の医師の15.2%が美容外科で勤務していることが明らかになった。こうした状況について、山形大学大学院の村上 正泰教授は、医局の影響力低下や給与の低さ、長時間労働などが、若手医師の美容外科流出の要因になっていると指摘している。政府は、医師の働き方改革や待遇改善、キャリア支援などを進めることで、若手医師が保険診療の現場で働き続けられる環境を整備する必要がある。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況2)産婦人科・産科が33年連続で最少更新 小児科のある一般病院も30年連続減 厚労省調査(産経新聞)3)診療所の美容外科が急増、3年間で4割増 厚労省調査、小児科は減少(朝日新聞4)美容外科3年で4割増 厚労省調査、伸び率首位 医師偏在助長の指摘も(日経新聞)5)1~9月出生数54万人 通年で70万人割れ公算大(東京新聞)4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会日本医師会は、2025年1月から医療機関や医療従事者を対象とした「SNS等における誹謗中傷相談窓口」の運用を開始する。この窓口は、SNSや口コミサイト上での誹謗中傷や悪意ある書き込みに対処するための支援を目的としており、背景には医療機関に対する誹謗中傷が深刻化している状況がある。総務省は11月21日、SNS事業者に対し、誹謗中傷への対応を義務付ける改正プロバイダ責任制限法の施行に向け、月平均利用者数が1,000万人超のSNSを対象とする方針を示した。これにより、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramなどが規制対象になるとみられる。改正法は2025年5月までに施行される予定で、SNS事業者には投稿削除の申し出に対し、迅速な判断と結果通知が義務付けられる。10月に日医が実施したアンケートでは、回答者の77%が誹謗中傷を経験し、そのうち削除を求めた投稿の8割が削除されていないことが判明。また、「相談したい」と答えた医療従事者は82%に達した。この結果を受け、相談窓口では電話とWebでの相談を受け付け、対応策を提示するほか、必要に応じて弁護士の紹介も行う。さらに、口コミサイトやSNSにおける「ペイシェントハラスメント」への関心が高まり、法的アドバイスを求める声も多い。相談窓口の開設により、医療現場の負担軽減と情報共有の場の構築が期待されている。日医の取り組みは、医療従事者と患者間の信頼関係を守る一助となるだけでなく、医療機関の社会的信用を保つ重要なステップとなる。今後の運用状況に注目が集まっている。参考1)SNS等における誹謗中傷相談窓口開設について(日本医師会)2)口コミサイトの誹謗中傷、日医が相談窓口開設へ 25年1月ごろ運用開始 法的アドバイスも(CB news)3)中傷対応義務、利用者1,000万人超のSNS対象 Xなど念頭(日経)5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が合同で行った病院経営調査によると、2023年度の病院経営は、新型コロナウイルス関連の補助金減少や収入減の影響を受け、深刻な赤字に転落したことが明らかになった。調査対象となった967病院の2023年度の経常利益率は、100床当たりマイナス1.3%で、前年度のプラス4.9%から赤字に転落した。これは、新型コロナ関連の補助金などが大幅に減少したことに加え、本業の医療収入も減少したことが主な要因。2024年6月単月のデータでは、国の病院、自治体の病院、医療法人など、5つの開設主体のすべてで赤字を計上した。とくに、自治体病院の赤字幅が大きく、100床当たりマイナス9.2%に達した。病床区分別にみると、一般病院の赤字幅が最も大きく、100床当たりマイナス5.8%だった。療養・ケアミックス病院と精神科病院は黒字を維持したものの、前年同月からは悪化している。3団体では、2024年度の病院経営はさらに厳しさを増すと予想しており、病院経営の大きな転換点を迎えたと指摘している。また、医療機関の人材不足や人件費の高騰、医療材料費の高騰なども経営悪化に拍車をかけている。病院経営の悪化は、医療の質低下や医療提供体制の縮小に繋がりかねないと懸念されている。政府は、病院経営の安定化に向けた抜本的な対策を早急に講じる必要がある。参考1)2024年度 病院経営定期調査 概要版-最終報告(集計結果)-(病院3団体)2)病院の経常収支、5つの開設主体全て赤字に 6月単月、3団体の病院経営定期調査で(CB news)3)967病院の経常利益率マイナス1.3%に 23年度 3団体調査「24年度はさらに厳しさ増す」(同)6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連近年、国内においてジェネリック医薬品を中心に医療用医薬品の供給不安が続き、とくに咳止め薬や解熱鎮痛剤の不足が深刻化し、小児科や薬局で患者対応に苦慮する現場が広がっている。中でもジェネリック(後発薬)医薬品を中心に薬局や医療機関で不足が深刻化している。日本製薬団体連合会が行った今年9月の調査では、医療用医薬品の18.5%に当たる3,103品目が出荷調整の対象となり、その6割以上がジェネリック医薬品だった。咳止め薬や解熱鎮痛剤、抗生物質の不足は、小児科や薬局ではとりわけ深刻で、代替薬への対応や粉薬が足りない場合に錠剤をすり潰す処方も行われている。冬季には、インフルエンザなど感染症の流行による患者の増加が予想され、薬不足が患者や医療現場にさらなる負担をかける懸念が高まっている。薬不足の背景には、複数のジェネリックメーカーによる品質不正がある。2020年以降、小林化工や日医工、業界最大手の沢井製薬で重大な不正が発覚した。これらの企業では、試験結果の捏造などの不正行為を防ぐ体制が機能しなかった。わが国のジェネリック市場は約1.4兆円で190社が参入しており、1社当たりの平均売上高はわずか70億円強と小規模。少量多品目生産による非効率な状態の中、シェア獲得のためにメーカーは価格競争を激化させ、さらに薬価の引き下げもあり、コスト競争がメーカーの収益を圧迫しているため、後発品の製造から撤退するメーカーも相次いでいる。安定供給のためには、医薬品の品質管理強化や生産体制の改革が急務とされているが、ジェネリック医薬品の生産効率を高めるための仕組み作りが求められている。今後の見通しとしては大手製薬会社による増産で、半年後に改善が見込まれている。薬不足は、患者や医療従事者に深刻な影響を与えており、政府と業界が一体となって安定供給に向けた取り組みを加速する必要がある。参考1)「医薬品供給状況にかかる調査(2024年10月)」 について(日薬連)2)医薬品 依然約2割が供給に支障 せき止め薬や解熱鎮痛剤も(NHK)3)薬不足はいつ終わる?ジェネリック再編#1(ダイヤモンドオンライン)4)第一三共・エーザイ・田辺三菱製薬…国内製薬大手が、処方薬の8割を占めるジェネリック市場から軒並み撤退した理由(同)

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Staphylococcus lugdunensis【1分間で学べる感染症】第15回

画像を拡大するTake home messageS. lugdunensisは、ほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なる特徴を持つ。黄色ブドウ球菌と同様に侵襲性感染を引き起こすことを覚えておこう。皆さんはStaphylococcus lugdunensis(スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス:S. lugdunensis)という菌の名前を聞いたことがありますか? 今回は、この菌になじみがある方もそうでない方も、いま一度一緒に学んでいきましょう。では、なぜこの菌が重要なのでしょうか。結論から言うと、S. lugdunensisは「治療が遅れると致死率が高いから」です。皆さんは、表皮ブドウ球菌にはなじみがあるかもしれません。S. lugdunensisは表皮ブドウ球菌と同じコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であるにもかかわらず、黄色ブドウ球菌に非常によく似た特徴を持っています。最も重要なポイントは、コンタミネーションが疑われることの多い表皮ブドウ球菌をはじめとするほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なり、血液培養でS. lugdunensisが検出されたら、メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)と思って、その後の感染巣の検索や治療を検討しなければならない、ということです。S. lugdunensisの歴史から簡単に紹介すると、1988年にフランスのリヨンで初めて報告されました。lugdunumはリヨンのラテン語名であり、報告された土地の名が付けられました。微生物学的特徴としては、グラム陽性球菌に分類され、上記コアグラーゼ陰性を示します。コロニーはクリーム色で血液寒天培地において溶血を示すことが特徴です。粘着因子を有することが、高い病原性を示す理由でもあり、人工物が体内に存在する場合にはバイオフィルムを形成して抗菌薬が効果を発揮するのに難渋することがあります。主な臨床的な特徴としては、感染性心内膜炎や菌血症、皮膚軟部組織感染症や骨関節感染症など、黄色ブドウ球菌と類似の感染症を引き起こします。抗菌薬の感受性に関しては、セファゾリンを中心とした抗MSSA用の抗菌薬のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、ST合剤などにも感受性を示すことが多いとされます。以上、S. lugdunensisについて解説しました。「S. lugdunensisを見たらMSSAと思って治療する」という鉄則を念頭に置き、迅速な診断と適切な治療を心掛けるようにしましょう。1)Aldman MH, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2021;40:1103-1106.2)Heilbronner S, et al. Clin Microbiol Rev. 2020;34:e00205-e00220.3)Argemi X, et al. J Clin Microbiol. 2017;55:3167-3174.

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事例012 頭部外傷へのデブリードマン加算などの算定漏れ【斬らレセプト シーズン4】

解説ある内科の診療所において、レセプト点検を行っていたところ、生食と被覆材を使用した時間外の創傷処理の算定に対して違和感を覚えたために、精査を行いました。電子カルテのプログレスを参照したところ、創傷処理が行われたことのみが記載されて、創の大きさやどのような縫合がなされたのかの記録がありませんでした。医師に問い合わせてみますと、患者には診察前の時間外に対応されたようです。患者からは「室内にて転倒した先に茶碗があり、前額部と頭部に挫滅創を負った」と来院時に訴えがあったとのことでした。治療は、前額部に認められた挫滅時の皮弁を取り除いて真皮縫合、創面は被覆材にて術後の傷跡が目立たないように配慮したとのことでした。医師のお話からは、「K000 創傷処理『4 筋肉、臓器に達しないもの(長径5cm未満)』」の点数に加えて、処理前処置の「K000 [注3] デブリードマン加算」、さらに前額部は真皮縫合対象の部位のため「K000 [注2] 真皮縫合加算が算定」ができます。ただし、被覆材は、材料の留意事項によって創傷処理に含まれるとされているために算定できません。医師には、当初算定の約4倍の診療報酬が算定できることを告げて、来院時の事実を簡潔に追記いただきました。レセプトは正しい請求の通り修正して請求を行いました。内科のように外傷対応の事例が少ない場合には、カルテ記載が簡潔になりすぎて後日の検証ができなくなるケースを経験しています。今回は誤算定の防止と後日の検証が可能となるように、医師に施術開始時間と原因、部位と創の大きさ・深さ、行われた処理・処置の内容と使用した薬剤・材料を必ず記入されるようにお願いしました。

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EGFR陽性NSCLC、CRT後のオシメルチニブは日本人でも良好(LAURA)/日本肺学会

 2024 ASCO Annual Meetingにて、第III相無作為化比較試験「LAURA試験」の結果、切除不能なEGFR遺伝子変異陽性StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)における化学放射線療法(CRT)後のオシメルチニブ投与により、無増悪生存期間(PFS)が大幅に改善することが報告された。本試験の日本人集団の結果について、神奈川県立がんセンターの加藤 晃史氏が第65回日本肺学会学術集会で発表した。LAURA試験 試験デザインと結果の概要試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験対象:18歳以上(日本は20歳以上)の切除不能なStageIIIのEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者のうち、CRT(同時CRTまたはsequential CRT)後に病勢進行が認められなかった患者216例試験群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ(80mg、1日1回)を病勢進行または許容できない毒性、中止基準への合致のいずれかが認められるまで 143例対照群(プラセボ群):プラセボ※ 73例評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性など※:BICRによる病勢進行が認められた患者は非盲検下でオシメルチニブへのクロスオーバーが許容された。 データカットオフ時点(2024年1月5日)における全体集団のPFSの成熟度は56%、OSの成熟度は20%であり、BICRによるPFS中央値は、オシメルチニブ群39.1ヵ月、プラセボ群5.6ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.16、95%信頼区間[CI]:0.10~0.24、p<0.001)。OS中央値は、オシメルチニブ群54.0ヵ月、プラセボ群未到達であった(HR:0.81、95%CI:0.42~1.56、p=0.530)。プラセボ群で病勢進行が認められた患者の81%が、オシメルチニブへクロスオーバーした。 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・全体集団216例のうち、日本人は30例(オシメルチニブ群23例、プラセボ群7例)含まれていた。全体集団と比較して、年齢中央値はやや高く(日本人集団:71歳、全体集団:63歳)、オシメルチニブ群に含まれるPS0の患者の割合も高かった(日本人集団:78%、全体集団:56%)。・BICRによるPFS中央値は、オシメルチニブ群38.4ヵ月、プラセボ群6.4ヵ月であった。データカットオフ時点ではイベントが少なく、HRは算出されていないが、全体集団と同様にオシメルチニブのベネフィットが示された。1年PFS率はそれぞれ74%、29%、2年PFS率はそれぞれ65%、14%であった。・データカットオフ時点で、オシメルチニブ群の26%(6例)、プラセボ群の14%(1例)で死亡が報告された。・安全性プロファイルは全体集団と一致していたが、放射線肺臓炎はオシメルチニブ群で83%(19例)、プラセボ群で57%(4例)と、日本人集団で多く報告されていた(全体集団ではそれぞれ48%、38%)。しかし、Grade3以上の報告はオシメルチニブ群の4%(1例)のみであり、Grade4/5の報告はなかった。また、放射線肺臓炎が原因でオシメルチニブの投与中止に至った症例は1例のみであった。放射線肺臓炎の報告が多かった理由は、日本における集中的な間質性肺疾患(ILD)モニタリングの結果と考察された。 加藤氏は、今回の解析結果はLAURA試験の全体集団の結果と一致しているとし、オシメルチニブのCRT後の使用は日本人に対しても良好なベネフィット・リスクプロファイルを示したとまとめた。 ディスカッサントとして登壇したテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのKeunchil Park氏からは、本試験において病勢進行などが認められるまでオシメルチニブを投与継続することの意義などについて指摘があった。Park氏は、24ヵ月以降のオシメルチニブ群とプラセボ群のPFSを比較しながら、StageIIIの患者の治癒の可能性について言及した。また、切除可能/不能いずれの患者も含まれるStageIIIの患者の不均一性も踏まえ、治療戦略を検討する必要があると語った。 これを受けて加藤氏は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治癒の難しさに触れ、各施設の状況を踏まえて、術後補助療法もしくはCRT後というフロントラインでオシメルチニブの使用を検討することが望ましいのではないかと考えを語った。

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非肥満2型糖尿病患者の心血管障害へのSGLT2阻害薬の効果は/京大

 糖尿病の薬物治療で頻用されているSGLT2阻害薬。しかし、SGLT2阻害薬の有効性を示した過去の大規模臨床研究の参加者は、平均BMIが30を超える肥満体型の糖尿病患者が多数を占めていた。 わが国の実臨床現場ではBMIが25を下回る糖尿病患者が多く、肥満のない患者でも糖分を尿から排泄するSGLT2阻害薬が本当に有効なのかどうかは、検証が不十分だった。そこで、森 雄一郎氏(京都大学大学院医学系研究科)らの研究グループは、協会けんぽのデータベースを活用し、わが国のSGLT2阻害薬の効果検証を行った。その結果、肥満傾向~肥満の患者ではSGLT2阻害薬の有効性が確認できたが、BMI25未満の患者では明らかではなかったことがわかった。本研究の結果はCardiovascular Diabetology誌2024年10月22日号に掲載された。肥満者にSGLT2阻害薬の主要アウトカムの効果はみられた一方で非肥満者ではみられず この研究は、2型糖尿病でBMIが低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管アウトカムに対する有効性を、従来の試験よりも細かい層別化を用いて検討することを目的に行われた。 研究グループは、2015年4月1日~2022年3月31日の協会けんぽのデータベースを活用し、3,000万例以上の現役世代の保険請求記録および健診記録を用い、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究を行った。 SGLT2阻害薬の新規使用者13万9,783例とDPP-4阻害薬の使用者13万9,783例をBMI区分(20.0未満、20.0~22.4、22.5~24.9、25.0~29.9、30.0~34.9、35.0以上)で層別化し、マッチングした。主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全。 主な結果は以下のとおり。・参加者の17.3%(4万8,377例)が女性で、31.0%(8万6,536例)のBMIが低~正常だった(20.0未満:1.9%[5,350例]、20.0~22.4:8.5%[2万3,818例]、22.5~24.9:20.5%[5万7,368例])。・追跡期間中央値24ヵ月で、主要なアウトカムは参加者の2.9%(8,165例)に発現した。・SGLT2阻害薬は全集団において主要アウトカムの発生率低下と関連していた(ハザード比[HR]:0.92[95%信頼区間[CI]:0.89~0.96])。・BMIが低~正常の集団では、SGLT2阻害薬は主要アウトカム発生率の低下と関連しなかった(20.0未満のHR:1.08[95%CI:0.80~1.46]、20.0~22.4のHR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、22.5~24.9のHR:0.92[95%CI:0.84~1.01])。 この結果から研究グループは、「2型糖尿病患者の心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の効果は、BMIが低いほど低減するようであり、BMIが低~正常(25.0未満)の患者では有意ではなかった。これらの結果はSGLT2阻害薬の投与開始時にBMIを考慮することの重要性を示唆している」と述べている。

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境界性パーソナリティ障害に非定型抗精神病薬は有効なのか〜メタ解析

 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者は、心理社会的機能に問題を抱えていることが多く、その結果、患者自身の社会的関与能力の低下が認められる。英国・サセックス大学のKatie Griffiths氏らは、成人BPD患者の心理社会的機能の改善に対する非定型抗精神病薬の有効性を検討した。Psychiatry Research Communications誌2024年9月号の報告。 1994〜2024年に実施されたプラセボ対照ランダム化比較試験6件をメタ解析に含めた。対象は、オランザピン、クエチアピン、ziprasidone、アリピプラゾールのいずれかで治療されたBPD患者1,012例。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析では、BPD患者の心理社会的機能の治療において、非定型抗精神病薬の小さな改善を示す証拠が明らかとなった。・とくに、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、機能の全般的評価(GAF)スコアの改善が認められた。・複数の研究より、GAFのp値を組み合わせたところ、統計学的に有意であることが示唆された。・非定型抗精神病薬は、対人関係、職業機能、家族生活の質の改善においても、プラセボより優れていた。・社会生活、余暇活動においても、ポジティブな改善傾向が認められた。・非定型抗精神病薬治療では、体重増加や過鎮静など、既知の副作用発現がみられた。 著者らは「BPD患者に対する非定型抗精神病薬治療は、心理社会的機能やその他の症状改善に有用であるが、その効果は、プラセボをわずかに上回る程度であり、臨床的意義については議論の余地が残る。そのため、より多くのランダム化比較試験が必要とされる」としている。

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手術目的の入院患者の有害事象、多くは予防可能/BMJ

 米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のAntoine Duclos氏らは、多施設共同後ろ向きコホート研究の結果、手術目的で入院した患者の3分の1以上で有害事象が確認され、そのうちの約半数が重大な有害事象であり、また多くが予防できた可能性があることを明らかにした。これまでの研究では、2018年のすべての入院医療で入院患者の約4人に1人に有害事象が認められたことが報告されているが、外科手術(周術期を含む)における有害事象の発生と主な特徴について、最新の評価が必要とされていた。著者は、「今回の結果は、周術期医療全体で、すべての医療従事者が関与し患者の安全性向上を進めていく必要性がきわめて高いことを強調している」とまとめている。BMJ誌2024年11月13日号掲載の報告。11施設の約6万4,000例から無作為抽出した1,009例を解析 研究グループは、米国の11施設(100床未満:2、100~200床:4、201~500床:2、700床超:3)において、2018年に手術目的で入院した18歳以上の成人患者6万4,121例のうち、重み付けランダムサンプリングにより無作為に抽出した1,009例について解析した。 訓練を受けた看護師9人がすべてのカルテを精査して有害事象(医療に起因し、追加のモニタリング、治療または入院が必要となった、または死亡に至った予期しない身体的損傷と定義)を特定した。その後、医師8人が、事象の発生と特徴、重症度を確認し、臨床的に重要な事象(不要な害[harm]を引き起こすが速やかな回復につながる)、重篤な事象(相当の介入および回復期間の延長につながる)、生命を脅かす事象または死亡に至った事象の4つに分類するとともに、それらが予防可能であったかどうかについても評価した。38%に有害事象が発現、全有害事象の21%は予防可能、49%は手術関連有害事象 解析対象1,009例のうち、383例(38.0%、95%信頼区間:32.6~43.4)で1件以上の有害事象が発生し、160例(15.9%、12.7~19.0)で1件以上の重大な有害事象(重篤な事象、生命を脅かす事象または死亡に至った事象)が認められた。 全有害事象593件のうち、353件(59.5%)は予防できた可能性あり、123件(20.7%)はおそらくまたは確実に予防可能であったと判定された。 原因別では、外科手術関連有害事象が最も多く(292件、49.3%)、次いで薬剤関連有害事象(158件、26.6%)、医療関連感染症(74件、12.4%)、患者ケア関連有害事象(66件、11.2%)、輸血関連有害事象(3件、0.5%)の順であった。 有害事象の発生場所は、一般病棟(289件、48.8%)が最も多く、次いで手術室(155件、26.1%)、集中治療室(77件、13.0%)、回復室(20件、3.3%)、救急外来(11件、1.8%)、その他院内(42件、7.0%)の順であった。 有害事象に関与した職種は、主治医(531件、89.5%)、看護師(349件、58.9%)、研修医(294件、49.5%)、上級医(169件、28.5%)、フェロー(68件、11.5%)であった。

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重症βサラセミアへのbeti-cel、89%が輸血非依存性を達成/Lancet

 重症βサラセミアを引き起こす遺伝子型(β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110)を有する輸血依存性βサラセミア(TDT)患者において、betibeglogene autotemcel(beti-cel)の投与により約90%の患者が輸血非依存状態になったことが示された。米国・ペンシルベニア大学のJanet L. Kwiatkowski氏らが、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、米国の8つの医療施設で実施した第III相非無作為化非盲検単群試験「HGB-212試験」の結果を報告した。TDTは、生涯にわたる輸血、鉄過剰症および関連合併症を伴う重篤な疾患である。beti-celによる遺伝子治療は、BB305レンチウイルスベクターで形質導入した自己造血幹細胞および前駆細胞を使用するもので、輸血非依存性を可能にする。著者は、「beti-celは、重症TDT患者においてほぼ正常なヘモグロビン値を達成する可能性があり、同種造血幹細胞移植のリスクや限界がなく、治癒を目指す治療選択肢になると考えられる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年11月8日号掲載の報告。主要アウトカムは輸血非依存状態 HGB-212試験の対象は、β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型を有し、登録前2年間に100mL/kg/年以上の濃厚赤血球(pRBC)輸血歴または年間8回以上のpRBC輸血歴がある臨床的に安定した50歳以下のTDT患者であった。 HSPC動員ならびに用量調整ブスルファンを用いた骨髄破壊的前処置を行った後、beti-celを静脈内投与し、24ヵ月間追跡した。 主要アウトカムは、輸血非依存状態(pRBC輸血なしでHb濃度加重平均9g/dL以上が12ヵ月以上持続)の患者の割合で、beti-celの投与を受けたすべての患者(移植対象集団)を解析対象集団とした。安全性は、試験の治療を開始したすべての患者(ITT集団)を対象に評価した。89%が主要アウトカムを達成 2017年6月8日~2020年3月12日に、20例がスクリーニングされた。1例は進行性肝疾患を有しており適格基準を満たさず、1例はHSPC動員およびアフェレーシス後に試験同意を撤回したため、beti-cel投与患者は18例であった。 男性が10例(56%)、女性が8例(44%)で、同意取得時に18歳未満が13例(72%)、18歳以上が5例(28%)であった。また、β0/β0遺伝子型が12例(67%)、β0/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)、β+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)であった。 beti-celを投与された18例全例が、主要アウトカムの評価対象となった。2023年1月30日時点(追跡期間中央値47.9ヵ月[範囲:23.8~59.0])において、18例中16例(89%)が輸血非依存状態を達成した(推定効果量:89.9%[95%信頼区間:65.3~98.6])。 有害事象は、18例全例に認められたが、beti-celとの関連が疑われる重篤な有害事象は認められず、死亡例も報告されなかった。 全例が第III相試験を完了し、現在進行中の13年間の長期追跡試験「LTF-303試験」に登録された。

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便秘は心臓病のリスクを高める?

 便秘は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究では、便秘のある人における主要心血管イベント(MACE)の発生リスクは、正常な排便習慣を持つ人より2倍以上高いことが示されたという。セント・ヴィンセント病院(オーストラリア)の臨床データアナリストであるTenghao Zheng氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology」に9月24日掲載された。研究グループは、「便秘はMACEのリスク上昇と独立して関連する潜在的なリスク因子であることが明らかになった」と同誌のニュースリリースの中で述べている。 この研究でZheng氏らは、便秘は、高血圧などの従来の心血管疾患のリスク因子とともにMACEリスクに関連しているとの仮説を立て、UKバイオバンク参加者40万8,354人の健康データの分析を通じてその仮説を検証した。データには、電子健康記録、ライフスタイル調査の結果、自己申告による健康状態や薬の使用状況などが含まれていた。参加者のうち、2万3,814人に便秘があることが確認された。MACEは、急性冠症候群、虚血性脳卒中(脳梗塞)、心不全のいずれかの発生と定義された。 解析の結果、便秘のある人は、正常な排便習慣を持つ人と比べてMACEリスクが2倍以上有意に高いことが明らかになった(オッズ比〔OR〕2.15、P<1.00×10-300)。便秘はMACEのサブグループとも有意に関連しており、リスクは、心不全(OR 2.72)、脳梗塞(同2.36)、急性冠症候群(同1.62)の順で高かった。 また、15万7,414人に高血圧の診断歴があり、このうちの8.6%(1万3,469人)には便秘もあった。便秘のない高血圧患者と比べて、便秘のある高血圧患者でもMACEのオッズは有意に高く(OR 1.68)、MACEの発生リスクは34%高いことが示された(ハザード比1.34、P=2.3×10-50)。 さらに、便秘と心血管疾患に関連すると考えられる900万以上の遺伝的変異の解析から、便秘は心血管疾患と約21%から27%の遺伝的変異を共有しており、両者の間に遺伝的相関のあることが明らかになった。さらに、ゲノム解析により、便秘が遺伝的な特性である可能性は約4%と推定された。 研究グループは、このように便秘とMACEの関連が特定されたことで、「プレシジョンメディシン(精密医療)の原則に沿った、個々の患者のリスク評価に基づいた新たな治療介入を見出し、より効果的な管理戦略を実施できるようになる」との見方を示している。 その一方でZheng氏らは、「便秘とMACEの関連をより深く理解するために、さらなる研究が必要である」と述べている。

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1日わずか5分の身体活動の追加が血圧低下に効果的

 毎日の生活の中に、自転車に乗るなどの運動に近い身体活動をわずか5分加えるだけで、血圧が下がり、心血管疾患のリスク低下につながる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。論文の筆頭著者である、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のJoanna Blodgett氏は、「良いニュースは、身体能力にかかわりなく、短時間で血圧に良い影響がもたらされることだ。われわれの研究は、階段を上ることやちょっとした用事に自転車を使うことなど、日常生活に組み込むことができる、運動に近いあらゆる身体活動の効果を検討した点がユニークだ」と述べている。この研究結果は、「Circulation」に11月6日掲載された。 研究グループによると、世界中で高血圧は約13億人の成人に影響を及ぼしており、脳卒中などによる早期死亡の最大の原因の一つとなっている。今回の研究は、1万4,761人の成人ボランティア(平均年齢54.2±9.6歳)を対象にしたもの。対象者が大腿部に装着する加速度計で測定したデータをもとに、24時間の行動を、睡眠、座位行動、立位行動、ゆっくりとした歩行(1分間に100歩未満)、速歩き(1分間に100歩以上)、およびランニングやサイクリングなどの運動に近い身体活動に分類し、血圧(収縮期血圧と拡張期血圧)との関連を検討した。 対象者が6種類の行動に費やした時間の平均は、睡眠7.13±1.19時間、座位行動10.7±1.9時間、立位行動3.2±1.1時間、ゆっくりとした歩行1.6±0.6時間、速歩き1.1±0.5時間、運動に近い身体活動16.0±16.3分であった。運動に近い身体活動や睡眠に費やす時間が長いほど、血圧は低い傾向が認められた。また、運動に近い身体活動を毎日5分追加することで、収縮期血圧は0.68mmHg、拡張期血圧は0.54mmHg低下すると推定された。 これらの結果を受けて研究グループは、収縮期血圧2mmHg、拡張期血圧1mmHgの低下など、血圧がわずかに低下するだけで、心血管疾患の発症リスクが10%低下する可能性があると指摘。日課に、運動に近い身体活動を1日10~20分程度取り入れることで、それが実現できる可能性があると述べている。また研究グループは、サイクリング、階段の昇降、短時間のランニングなど、心拍数を上げる身体活動は全て、高血圧を緩和する効果があると説明する。Blodgett氏は、「われわれの研究結果は、ほとんどの人にとって、血圧を下げるには、ウォーキングなどのそれほど負担のかからない身体活動よりも、心拍数を上げるような身体活動が鍵となることを示唆している」と述べている。 一方、共著者の一人であるシドニー大学(オーストラリア)医学・健康学分野教授のEmmanuel Stamatakis氏は、「運動をあまりしない人にとっては、ウォーキングは血圧にいくらか良い効果がある」と強調している。同氏は、「1日当たりわずか5分の運動や運動に近い身体活動を追加することで血圧が低下するという結果は、短時間の高強度の身体活動が血圧管理にいかに効果的であるかを強調するものだ」とUCLのニュースリリースで述べている。

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第238回 若い社員の退職理由、「コロナ後遺症」は本当なのか?

国立感染症研究所が発表する最新の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の2024年第45週(11月4~11日)の定点当たり報告数は1.47人。第34週(8月19~25日)の8.8人から現在のところ11週連続で低下している。もっともここ最近、個人的には気になることがあった。一般に新型コロナは若年者では重症化しないと言われているが、今春頃から「うちの若い社員が後遺症でかなり苦しんでいる」という話を3人の知人から別々に聞いていたからだ。ちなみにこの3人同士はまったく面識がない。そして先週、また別の知人と会食していた際に「うちの会社ではすでに今年に入って新人が2人、新型コロナの後遺症がつらいということで相次いで退職した」と聞かされた。まあ、昨今は入社早々、退職代行業者を使って勤務先を辞めてしまうという事例も増えているので、私は当初、「辞める言い訳にでも使っているのではないか?」ぐらいに考えていたのだが、こうも立て続くとさすがに尋常ではないと感じ始めた。しかも、いずれのケースも若い社員が訴えるのは「集中力の極端な低下」や「ブレインフォグ」。会食した友人の話によると、辞めた新人のうちの1人は、感染後、勤務先で「PCのディスプレイに向かっても、表示されている文章が頭に入ってこない」と言っていたという。ということで、ちょっと論文検索をしてみたところ、以下の2件の論文が気になった。1つは中国・清華大学のグループによる研究1)。新型コロナ軽症者185人の感染前後での安静時脳波(EEG)を比較し、補足的に行った認知症状などに関するアンケート結果も含めてまとめた研究である。感染前後のEEGのデータがある点について、ふと不思議に思ってしまったが、論文によると元々の本研究の対象者は、さまざまな年齢層での長期的EEG追跡を目的とした研究の被験者で、たまたまこうしたデータが取れてしまったということらしい。研究では年齢別に成人(26歳以上)、若年成人(20~25歳)、思春期若年者(10~19歳)、小児(4~9歳)に分けて感染前後の影響を調査しているが、若年成人で、記憶、言語、感情処理の機能に関与する側頭葉領域で顕著な脳波の乱れや認知機能の低下が認められたという。もう1つの研究2)はコロンビア大学アービング医療センター放射線科グループによるもの。これも新型コロナパンデミック前から健常ボランティアを対象に行っていた神経画像研究に関連し、ワクチン登場前の新型コロナ感染者(5人)と非感染者(15人)の比較研究である。サンプルサイズは小さいが、新型コロナに関して高齢者に関する研究が多い中で、対象者の年齢中央値が37歳とかなり若い点が特徴的と言える。それによると、前頭葉領域で神経細胞の喪失や炎症を伴う損傷を示唆する組織学的変化が確認された。ちなみに神経認知データの結果では感染者群では悪化傾向はあったものの、非感染者群との有意差は認められなかったという。もっとも2つの研究がかなりの制約の中で行われたものであり、しかも結果に一貫性があるとは言い切れない以上、現時点では数々の示唆の1つに留まる。とはいえ、冒頭で紹介したような偶然にしては似たような状況が重なり過ぎると、どうしても気になってしまうのだ。一応、日本国内でも一部で後遺症に関する研究は行われているようだが、概観すると高齢者などに着目したものや概論的なものがほとんどのようだ。昨今は新型コロナに対する世間の危機感が薄れつつある。とりわけ重症化しにくい若年者では、どうしても高齢者よりは新型コロナをなめがちになる可能性は否めない。しかも、若年者の場合、ワクチンも任意接種で費用は1万5,000円前後となれば、余計のこと感染対策から遠ざかってしまう。このような状況を踏まえると、新型コロナの感染対策を前進させるためには、こうした若年者での正しい知識に基づく危機感の醸成の一環として、後遺症の実態も必要ではないかと思うのだが…。参考1)Sun Y, et al. BMC Med. 2024;22:257.2)Lipton M.L, et al. Heliyon. 2024;10:e34764.

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いよいよ多変量解析 その2【「実践的」臨床研究入門】第49回

多変量解析手法の選択と留意点臨床研究における多変量解析の主な目的の1つは交絡因子の調整です(連載第40回参照)。交絡因子は、Research Question(RQ)のE(要因)とC(対照)との「理想的な」比較を歪める因子、と説明しました(連載第45回参照)。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQ(簡略版)を下記に再掲します(連載第40回参照)。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者E(要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上O(アウトカム):1)末期腎不全 2)糸球体濾過量(GFR)低下速度また、これまでの先行研究の知見や医学的観点から、下記の因子をわれわれのRQの交絡因子として挙げてデータを収集し(連載第45回参照)、その仮想データ・セットを用いた記述統計の結果を、論文の表1としてEZR(Eazy R)で作成しました(連載第46回、第47回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値臨床研究では、多変量解析の代表的な手法として種々の回帰分析が行われます。回帰分析は、アウトカム指標を表す1つの変数(目的変数)と1つ以上の説明変数(交絡因子)との関係をいろいろな数式で表現し、モデル化します。どのような回帰分析モデルを選択するかはアウトカム指標の種類、すなわち目的変数の型で決まります。アウトカム指標の種類、目的変数の型は生存時間(連載第42回参照)および連続変数とカテゴリ変数に大別されるのでした(連載第46回参照)。前述したわれわれのRQ(簡略版)のOで挙げられている末期腎不全(の発症までの時間)は生存時間であり、GFR低下速度は連続変数となります。末期腎不全というアウトカムの発症までの時間は考慮せず、発症の有無のみで扱う場合はカテゴリ(2値)変数となります。生存時間は「打ち切り」も考慮したカテゴリ(2値)変数という捉え方もできます(連載第37回、第41回、第42回参照)。アウトカム指標(目的変数)の型の違いによって、それぞれ対応する回帰分析モデルは下記のようになります。連続変数:線形回帰(重回帰)カテゴリ(2値)変数:ロジスティック回帰生存時間:Cox比例ハザード回帰交絡因子の調整を多変量解析で行う際、サンプルサイズに比してあまり多くの説明変数(交絡因子)を回帰分析モデルに投入すると、モデルが不安定となります。そのため、回帰分析モデルごとに、投入可能な説明変数(目的変数)の数の目安が下記のように示されています。線形回帰(重回帰):説明変数(交絡因子)1つにつき、サンプルサイズ15例ロジスティック回帰:説明変数(交絡因子)1つにつき、アウトカム指標(目的変数)の少ない方のカテゴリ10例Cox比例ハザード回帰:説明変数(交絡因子)1つにつき、イベント数10例それでは、計画している交絡因子の調整が、われわれの仮想データ・セットで可能かどうか確認してみましょう。説明変数(交絡因子)の数は前述したように計8変数となります。まず、Oの1)末期腎不全(の発症までの時間)は生存時間ですので、Cox比例ハザード回帰分析を用います。説明変数(交絡因子)1つにつき、イベント数10例、すなわち8×10=80例が必要ですが、仮想データ・セットから計算した総イベント数は185例ですので(連載第41回参照)、充分です。Oの2)GFR低下速度は連続変数であり、線形回帰(重回帰)分析で必要なサンプルサイズの目安は8×15=120例です。作成した表1をみると、仮想データ・セットのサンプル数の総計は638例ですので(連載第47回参照)、こちらも大丈夫そうです。次回からは、それぞれの回帰分析モデルを用いた多変量解析の実際について、仮想データ・セットを使用したEZRの操作方法を交えて解説していきます。

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海外旅行と医療用麻薬【非専門医のための緩和ケアTips】第88回

海外旅行と医療用麻薬がん疼痛の症状緩和に医療用麻薬が処方されている場面をよく見かけるようになりました。今回は、医療用麻薬が一般的になってきたからこそ出合う状況に関する話題です。今回の質問外来通院中の患者さんで、医療用麻薬を処方している方がいます。幸い、症状緩和ができており、今度、海外旅行に行くそうです。患者さんから、「インターネットで『医療用麻薬は海外に持っていけない』と書いてあったのですが、どうすればよいでしょうか?」と質問がありました。どのようにアドバイスすべきでしょうか?海外旅行時の医療用麻薬の話題ですね。緩和ケア領域でときどき話題になるトピックです。結論からいうと、医療用麻薬を海外に持ち出すことは可能ですが、事前申請が必要になります。「事前」とは、出国日の2週間前までを指すため、早めに対応する必要があります。申請に必要な書類は以下のとおりです。1)医師の診断書…1通(以下の情報を記載)住所、氏名医療用麻薬が必要な理由処方された麻薬の品名・規格、それらの1日量2)麻薬携帯輸出許可証/輸入許可証 各1通申請用紙、記載例は、厚生労働省・地方厚生局・麻薬取締部のサイトからダウンロード可能。3)携帯する医療用麻薬の品名が確認できる資料お薬手帳で対応可能4)返信用封筒(宛先を明記)輸入/輸出許可証(日本語・英語を各1通)の送付用長3用以上の封筒(A4サイズが同封できる封筒)切手を貼付(送料は自己負担)これらの書類を準備し、患者さん自身が申請します。日本在住の方であれば住所地を管轄する厚生労働省・地方厚生局・麻薬取締部が窓口となります。海外在住の方は、入国予定の空港などを管轄する同局に申請します。「麻薬取締部」と聞くと、テレビ番組などで紹介される、空港で人や犬が荷物チェックをしている光景が思い浮かぶのではないでしょうか。医療とはまったく関係ない気がしますが、こうした接点があったのですね。交付された許可証は出国/入国時に税関で提示する必要があるので、そのことも患者さんに伝えておきましょう。このように、海外に医療用麻薬を持ち出す場合には、事前申請が必要となり、外来で急に「来週から海外に行きます」と相談されても、対応が難しくなります。時間がない場合は、医療用麻薬以外のNSAIDsなどで鎮痛できるかを試してみる必要があります。うまくいけばよいのですが、海外で症状が悪化する可能性があるなど、医師としても不安が残ります。まずは普段から患者さんに「海外に行く際は事前に教えてください」と伝え、コミュニケーションを取っておくことが重要です。麻薬取締部のサイトには「時間的余裕がない場合は、直接電話で相談するように」と書かれており、急ぎの相談をする手段はあるようですが、余裕を持った対応が基本です。今回のTips今回のTips医療用麻薬を海外へ持ち出す際は、2週間前までに申請が必要。

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組織のための老年医学の型―AFHS【こんなときどうする?高齢者診療】第7回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年10月に扱ったテーマ「複雑な問題に落としどころを見つけるには?」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。組織全体で高齢者ケア向上を目指す5つのMの考え方を駆使して患者・家族に適切なケア提供の方法を見出したとしても、組織としてスキルを持つスタッフが十分にいない、予算が足りないなどのリソース不足により、最適なケアを実現できないという状況が多くの施設で起こっています。そこで今回は、組織全体で高齢者医療を改善するための視点を考えてみましょう。まず初診で来院した高齢男性のケースをイメージしてください。例えば、5つのMの1つである「薬(Medication)」に注目すると、服薬情報や高齢者に有害事象を引き起こしやすい薬について確認することが重要になります。80歳男性 初診時の服薬アセスメントいつ行うか誰が行うか何を行うかアセスメント結果の記録方法 どこに、何を記載するのか高リスク薬服用時のアクションプラン 誰に情報共有し、次のアクションにつなげるのか皆さんの施設では、上記のような項目は明確に定められていますか? 病棟ごとに、診療科ごとに、担当者ごとにばらつきはありませんか?もし定まっていない場合、適切な介入がなされる患者もいれば、アセスメントや介入から漏れ、リスクの高い薬を継続して服用している患者もいる可能性があります。医療者が「薬が高齢者に与える影響やリスクを理解している」という段階と、実際にアセスメントや介入が患者に届いている段階には大きな隔たりがあります。同一施設内で一貫して適切な医療が提供されるよう、組織的な対策が必要です。対策の一例として、北米を中心に導入されているシステムをご紹介します。組織のための老年医学の型:エイジフレンドリ・ヘルスシステムの利点Age Friendly Health System(AFHS)は、施設全体で高齢者に安全で適切な医療を提供するためのフレームワークで、属人性を減らし、標準化されたケアを実現するための取り組みです。2018年に始まり、北米では約4,000施設が認証を取得し、300万人以上の患者がこの仕組みの恩恵を受けているといわれています。AFHS導入により、入院期間の短縮、手術時間の短縮、コスト削減、再入院率の低下、転倒予防スクリーニングの実施率向上といったメリットが報告されています1,2)。現状を見つめる:自施設でできていることを見つけよう!AFHSは日本でも十分に応用可能なスキームです。まずは施設内ですでに行われている取り組みを俯瞰し、どこがうまく機能しているかを見つけることが重要です。AHFS実践のポイント(1)自施設でできていることを確認する(2)不十分な点を見つけて補強する(3)外部評価を活用するお気付きの方もいるかもしれませんね!AFHS は、5つのMからMulti complexityを除いた4つのM(認知・身体機能・薬・大切なこと)のアセスメントと介入の標準化を目指しています。ですから、薬に限らず、転倒リスクや認知機能、本人が大切にしていることについても、アセスメントの時期、担当者、方法、記録方法を見直してみてください。そうすることにより、各分野の優先順位が整理され、チーム全体で適切な資源配分をしやすくなります。すべての施設において、すでにうまくできている部分が必ず存在します。まずその強みを認識し、次に改善が必要な部分を見つけましょう。外部からのフィードバックも含め、小さな改善から始めることで、自施設の強みをさらに引き出すことが大切です。最初から大きな改善をする必要はありません。自施設の強みを活かし、持続的なケアの向上を目指しましょう! オンラインサロンではもやもや症例検討会とAHFSの実践のコツをシェアオンラインセッションでは、理学療法士のサロンメンバーから寄せられたもやもや症例ディスカッション、そしてAFHSを自施設で活用するためのさらに細かなコツをお話いただいています。参考1)The John A.Hartford Foundation.Age-Friendly Health Systems in Action.2)樋口雅也. 医学のあゆみ 291巻3号.医歯薬出版;2024. p222-227.

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