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事例030 耳垢栓塞除去(片側)の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説右側耳垢栓塞の患者に「J113 耳垢栓塞除去(複雑なもの)」を算定したところ、過剰であるとB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)が適用となり、査定となりました。さらに、縦覧点検と補記されていました。カルテを確認したところ、前月にも耳垢塞栓除去が行われていました。左右誤りの可能性を考え、対側の左に対する実施かどうかも確認しましたが、査定月と同じ右側に対しての実施でした。耳垢栓塞除去の算定留意事項には、簡単な耳垢栓除去は算定することはできない、耳垢水などを用いなければ除去できない耳垢塞栓を「完全に除去」した場合のみ算定できるとあります。「同側の耳垢栓塞を1月程度にて繰返し除去することは過剰であり、もしも取り残しがあるのであれば、前回の処置が不十分であり完全に除去するまでは一連の治療である」と判定されたものと推測できます。また、耳垢栓塞除去術が行われた月の耳垢栓塞病名は中止などではなく、「治癒」と記載されている必要があります。査定対策として、医師と相談して、耳垢栓塞除去術が行われた月の耳垢栓塞病名は、中止ではなく治癒を記載していただき、前月または同月内複数回の実施があった場合には医学的な必要性を補記いただくようにしています。

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VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月【見落とさない!がんの心毒性】第4回

第4回はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI:Tyrosine Kinase Inhibitor)の心毒性メカニズムと管理法に、草場と森山が解説します。はじめに血管は、酸素や栄養素の供給、炎症部位への細胞輸送など、ヒトのからだにとって必要不可欠な組織です。血管形成は胎生期より始まり、出生後には創傷治癒や月経などの生理的機能、がんや糖尿病などの疾病と深くかかわっています。VEGFR-TKIとは?血管内皮細胞増殖因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)のファミリーにはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、 胎盤増殖因子(PIGF)-1、PIGF-2があり、これらは細胞表面に発現するVEGF受容体(VEGFR)-1、VEGFR-2、VEGFR-3、 NRP(neuropilin)1、NRP2のチロシンキナーゼ型受容体と結合して、下流のシグナル伝達経路を活性化することにより、血管内皮細胞の増殖・分化・遊走や血管透過性の調整など血管新生において中心的な働きをします(図1)。(図1)VEGFRシグナルとVEGFR-TKI画像を拡大する多くのがんにおいて、VEGFRを介したシグナル伝達経路の活性化は、がんの増殖や進展に促進的に働きます。VEGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体のリン酸化を阻害するTKIは「血管新生阻害薬」の一つとして、様々ながんの治療に用いられています。VEGFR-TKIの種類VEGFR-TKI は、主な標的分子であるVEGFR以外にも複数の分子の機能を阻害します。以下に各薬剤の主な標的分子、本邦での適応疾患を(表1)に示します。(表1) VEGFR-TKI の主な標的分子と適応疾患主な心毒性とリスク因子VEGFは、血管拡張作用を有する一酸化窒素とプロスタサイクリンを増加させ、血管収縮作用を有するエンドセリン-1産生を抑制するため、VEGFの機能が阻害されると血圧が上昇すると考えられています1)。そのため、VEGFR-TKIでは高血圧の頻度が高く(15~40%)、治療開始後2ヵ月以内に発症・増悪する場合が多いのが特徴です。また、微小血管の毛細血管床の密度低下や腎臓におけるメサンギウム細胞・内皮細胞障害なども高血圧発症に関与するとされています1)。リスク因子として、高血圧症の既往、NSAIDsやエリスロポエチン製剤との併用が報告されており2)、時に高血圧緊急症に至る場合があるため、適切な治療が必要です。また、心筋障害・心不全(~5%)、血栓塞栓症(0.6~11.5%)、QT延長(0.6~13.4%)などの心血管毒性も見られます3)。がん患者を対象とした研究のメタ解析でもVEGFR-TKIは、心不全、血栓塞栓症のリスク因子と報告されているのです4)5)。そのほか、倦怠感(35~50%)、下痢(30~70%)、手足症候群などの皮膚毒性(15~70%)、肝機能障害(5~50%)の頻度が高いです。管理法予防・治療の基本は、がん治療の効果を維持しながら、毒性のリスクを減らすことを目指します。VEGFR-TKIのみを対象とした心血管毒性の管理法の研究は少なく、特異的な管理法は未確立のため、通常の心血管リスク管理が重要です。高血圧診療の目標は、早期診断と血圧管理であり、リスク因子(高血圧の既往と現在の血圧など)の評価と既存の高血圧の治療は、VEGFR-TKI投与前に開始しましょう。投与開始後は、重篤な合併症を避けるために血圧上昇の早期発見と治療が重要で、通常の高血圧治療と同様に、ACE阻害薬、ARB、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が推奨されています6)。VEGFR-TKIはCYP3A4により代謝されるため、CYP3A4阻害作用を有する降圧剤(非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)との併用は避ける必要があります。心機能の低下した心不全患者では、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬を第一選択とします6)また、VEGFR-TKIは下痢の頻度が高く、利尿剤による脱水を助長する危険性もあります。利尿剤には電解質異常、二次性QT延長のリスクがあるため慎重に用います。重症高血圧があらわれた場合は、循環器専門医と連携して、頻繁なモニタリングと治療効果の評価を行うとともに、VEGFR-TKIの休薬・減量・再開について検討しましょう。心不全診療では、心不全症状発現前の心機能低下を早期発見する為に定期的な心エコー評価を行います。がん治療関連心筋障害を合併した場合は循環器専門医と相談しレニン・アンギオテンシン系阻害薬、β遮断薬などを開始します6)。血栓塞栓症診療では、下肢の浮腫やD-dimer上昇などの血栓症を疑う所見が見られた際に下肢静脈エコーで深部静脈血栓症の評価を行い、臨床的に肺塞栓症を疑う場合は胸部造影CTを行います。静脈血栓塞栓症の診断に至った際は、症例ごとに出血・血栓症のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断します。腎機能正常例では、ワルファリンよりも出血リスクが低い直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されます6)。心不全や血栓塞栓症の症例において、がん治療を休止・中止すべきかどうかはがん治療医と循環器専門医が連携して判断する必要があります。おわりに近年、悪性腫瘍の領域において、精力的な薬剤開発と良好な抗腫瘍効果から、VEGFR-TKIはがん治療に広く用いられるようになってきました。それに伴い、心血管毒性の管理の重要性が増しており、がん治療医と循環器専門医との緊密な連携がより重要になっているのです。1)Li W, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:1160-1178. 2)Robinson ES ,et al . Semin Nephrol. 2010;30:591-601.3)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.4)Ghatalia P, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 2015;94:228 -237.5)Abdel-Qadir H, et al. Cancer Treat Rev. 2017;53:120-127.6)Zamorano JL, et al. Eur Heart J. 2016;37:2768-2801.講師紹介

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コウノドリ(その3)【不妊治療がうまく行かなかったら、どうすればいいの? (生殖の物語)】Part 1

今回のキーワード客観視生殖心理カウンセリングアイデンティティ確立認知再構築予防心理限界設定アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)少子化対策その2では、ドラマ「コウノドリ」を通して、生殖心理を進化心理学的に、そして文化心理学的に掘り下げました。生殖心理の3つの特徴は、子育てへの欲求、血縁への欲求、そして親アイデンティティへの欲求であることが分かりました。そして、その起源は、それぞれ哺乳(子育てへの欲求の起源)、社会脳(血縁への欲求の起源)、概念化(親アイデンティティへの欲求の起源)であることが分かりました。逆に、子どもを(多く)欲しくない3つの心理的な要因は、子育てのイメージができないから(親性の低下)、子育てで自分のやりたいことができなくなるから(生存の充実化)、子育てにお金がかかり過ぎるから(生殖の高コスト化)であることが分かりました。これらも踏まえて、それでは、不妊治療がうまく行かなかったら、どうすれば良いでしょうか? そして、少子化にどうすれば良いでしょうか? これらの答えを探るために、今回は、引き続きこのドラマを通して、これからの生殖のあり方を一緒に考えていきましょう。不妊治療がうまく行かなかったら、どうすれば良いの?その1の記事でご紹介した助産師の小松が子宮を全摘出するエピソードが、参考になります(シーズン2第7話)。鴻鳥は、手術をためらう小松を自分のピアノ演奏に呼び出し、「僕はずっと小松さんに助けられてきましたから。その恩は、忘れません」と伝えます。すると、小松は、「私、(手術することに)決めたよ。悔しいけど、仕方ない。これが私の人生だ」と開き直ります。鴻鳥は、「あまり頑張り過ぎないでください。頑張ってる小松さんも好きだけど、頑張ってない小松さんも大好きです」「みんな小松さんの味方ですから」と優しく言い添えます。すると、小松は、「私は恵まれてるねえ」「苦しい時に手を差し伸べてくれる人がこんな近くにいる」と言い、涙を流すのです。手術後、小松は、親しい同僚に「今回のことで、みんなが私を自分のことのように心配してくれて」「私は一人じゃないんだな」「私を待ってくれてる人がいる」「私の中から大事なものがなくなっちゃったけどさあ」「私には、私を支えてくれる仲間がいる」「それってさあ、すげえ心強いんだよ」と語ります。ここから、この小松のエピソードを踏まえて、不妊治療がうまく行かなかった場合の心のあり方を3つ挙げてみましょう。(1)子どもができることにとらわれていたことに気づく-客観視1つ目の心のあり方は、不妊治療を通して、子どもができることにとらわれていたことに気づくことです(客観視)。厳密には、小松は不妊治療をしていないですが、不妊になる葛藤を乗り越えています。子どもを持つことを諦めるわけですが、これは同時に「明らめる」ことができたとも言えます。「明らめる」とは、自分の子どもへのとらわれを明らかにして、自分がこれからどう生きていきたいかを明らかにするなど、自分の人生を俯瞰できることです。小松には鴻鳥をはじめとする心強い味方が何人もいました。小松と同じように、不妊治療がうまく行かなかった場合に、味方を得ることができるのが、生殖心理カウンセリングです。生殖心理の専門のカウンセラーによる自己肯定的な働きかけによって、頑張ってきた自分を慰め、自分はそのままでいいという自己肯定感を高める思考トレーニングを受けることができます。そして、悲しみや痛みを抱えて生きることが、人生の深みであり、味わいであることを悟ることができます。また、仲間づくりができるのが、自助グループやピアサポートです。これは、同じ経験をしたからこそ分かり合える仲間で、ネット上の不妊コミュニティによく見られます。自分の先輩がどういう生き方をしているかなどロールモデルを知ることもできます。ただし、注意点があります。それは、たとえば、グループにいたメンバーが妊娠した場合に速やかに脱会するなどのルール作りが必要です。そのために、ある程度の経験や知識がある先輩が必要であることです。アメリカでは、トラブル防止のため、生殖心理カウンセラーなどが入る不妊コミュニティが多いです。(2)自分が本当はどうなりたいのかに気づく-アイデンティティ確立2つ目の心のあり方は、不妊治療を通して、自分が本当はどうなりたいのかに気づくことです(アイデンティティ確立)。小松は、子宮全摘出を経験して、改めて自分を待ってくれている職場の仲間がいることを実感しました。小松と同じように、不妊治療がうまく行かなかったからこそ、気づける人生観があります。それは、繋がりは、必ずしも血の繋がりだけじゃないということです。小松のように、自分の天職を通した仲間との繋がりがあります。ドラマに登場した特別養子縁組をする夫婦のように、養子や里子との情の繋がりもあります。もちろん、夫婦の繋がりもあります。よくよく考えると、子育て期間は、実質せいぜい10年です。子どもが10歳を過ぎれば反抗期です。心理的なサポートは最低限となり、あとは金銭的なサポートが20歳前後まで続くだけです。そして、その後は親子とは言っても、大人同士の関係です。一方で、夫婦の繋がりは、50年です。夫婦の繋がりのほうが圧倒的に重みがあります。逆に言えば、もしも、子どもがあっさりできていたら、次のステージである「子育て競争」で苦しんでいただけかもしれません。子ども中心の人生になってしまい、子どもが自立したあとは、すがっていた親アイデンティティを失ってしまい、空の巣症候群や夫婦危機が訪れていたかもしれません。欧米では、男女を問わず、「あなたは何をする人ですか?」とよく聞かれます。これは、その人のアイデンティティを聞いています。多くの人は、職業、学問、ボランティアなどの社会的な活動を答えます。子育てや家事(専業主婦)は社会的な活動ではないため、そう答える人はあまりいません。とくに日本の女性は、自分が本当はどうなりたいかに気づくことによって、この質問に胸を張って答えることができるようになるでしょう。(3)生殖の物語は書き換えられることに気づく-認知再構築3つ目の心のあり方は、不妊治療を通して、生殖の物語は書き換えられることに気づくことです(認知再構築)。小松は、「お母さんにならない人生」を選びました。それでも、助産師として妊婦や職場の仲間に「お母さん」のように接しています。小松は、助産師として「お母さんになる人生」を選んだとも言えます。小松と同じように、不妊治療がうまく行かなかったとしても、生殖の物語は形を変えて続けることができます。ドラマに登場した特別養子縁組をする夫婦のように、育ての親になることもできます。甥っ子や姪っ子がいる場合は、彼らの面倒を見る、つまり自分の血縁者の子育てへのサポート役になることで、生殖の物語を続けることができます。さらには、仕事やボランティア活動の中で、子どもの教育にかかわったり、後輩育成をすることで、生殖の物語を続けて行くこともできます。なぜなら、生殖は、単に血(遺伝子)を繋げるだけでなく、教え(文化)を繋げることでもあるからです。実際に、動物の生活史戦略の観点からもそう言えます。ほとんどの動物は、生殖能力がなくなった時に寿命が尽きます。たとえば、人間に近い種であるチンパンジーのメスは、閉経33歳≒寿命35歳です。人間の男性についても、加齢とともに生殖能力は徐々に下がっていきますが、0にはならないので、動物と同じです。ところが、人間の女性は、50歳前後の閉経後に生殖能力が0になりますが、そこからさらにプラス数十年の寿命があります。これは、その女性が、祖母として、娘の子育てのサポートをすることで、包括的な生殖適応度を上げるように進化したと考えられています。そして、これは「おばあさん仮説」と呼ばれています。この点で、娘の生殖の物語は、祖母にとっての生殖の物語であるとも言えます。だからこそ、母親は娘の結婚や育児に口出しをするとも言えます。この仮説と同じように、叔母として子育てのサポートをすることで、包括的な生殖適応度が上がるので、「おばさん仮説」も成り立つでしょう。そして、叔母だけでなく、叔父も、さらにすべての男性も女性も、同じ社会の中で、子どもたちの成長や幸せに思いを馳せることで、集団としての包括的な生殖適応度が上がれば、「足長おじさん仮説」も成り立つでしょう。そう考えれば、子どもという存在は、単に誰かの子どもではなく、「社会の子ども」という発想もできます。子どもは社会を維持するために必要であるという点でも、子どもは「授かりもの」であり「社会の宝」であると言えるでしょう。そもそも、子どもは成人したら巣立つものです。この点で、たとえ養子であっても、近所の子どもであって、そして自分の子どもであっても、これから担い手となる「社会の子ども」を預かっているという発想もできます。子育ては、私物化されるものではなく、社会化されるものであるという視点です。この点で、誰かの生殖の物語は、社会の一員である別の誰かの生殖の物語に繋がっているとも言えるでしょう。次のページへ >>

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コウノドリ(その3)【不妊治療がうまく行かなかったら、どうすればいいの?(生殖の物語)】Part 2

これからの生殖のあり方は?-予防心理不妊治療がうまく行かなかった場合の3つの心の持ち方は、子どもができることにとらわれていたことに気づく(客観視)、自分が本当はどうなりたいのかに気づく(アイデンティティ確立)、生殖の物語は書き換えられることに気づく(認知再構築)であることが分かりました。これらは、不妊治療を終えた時の心の持ち方でした。それでは、不妊治療を始める時の心の持ち方は何でしょうか? この視点は、あらかじめよく知っておく、あらかじめよく考えておく、そのためにあらかじめよく伝えておくという点で、予防医学ならぬ、予防心理と言えます。ちょうど、その1の記事でご紹介した不育症の夫婦のエピソードが、参考になります(シーズン2第9話)。その夫は、寝込んでしまった妻について鴻鳥に「どうすれば、妻を笑顔にしてやれますか? 何もできないんです。苦しんでる妻に何もしてやれないんです。それが、つらいです。最初の流産の時からずっと引きずってて、何をしてやったら、妻が昔みたいに笑ってくれるのか。僕の役目は、今までのことを忘れさせてあげることなんですけど」と打ち明けます。すると、鴻鳥は「忘れなくていいんです。忘れる必要ないと思います。僕は、出産は奇跡だと思ってます。修一さん(不育症の夫)が、笑顔にしてあげたい。近くで何とかしてあげたい。必死に頑張ってる姿は、奥さんにとって一番の治療になるんだと思います。その思いはきっと明日に繋がると思います」と説きます。その話を聞いた夫は、家に帰って、妻が好きなベイビー(ピアニスト)の曲のピアノの演奏の練習を始めます。そして、妻に「ベイビーみたいにはなれないけど」と明るく言うのです。そして、妻は「なれるわけないじゃん」と微笑むのです。ここから、この不育症のエピソードを踏まえて、これからの生殖のあり方を考えてみましょう。(1)できることとできないことがあることを先に知っておく-限界設定鴻鳥の「出産は奇跡」と言うセリフがヒントになります。1つ目の心のあり方は、できることとできないことがあることを先に知っておく、つまり限界設定です。これは、不妊治療がうまく行かない可能性も考え、その場合にどうするかもあらかじめ考えておくことです。この心のあり方によって、「こんなはずじゃなかった」という心理に陥るのを防ぐことができます。そして、その1でご説明した不妊治療をやめられなくなる心理に陥るのを防ぐことができます。たとえば、体外受精の回数や期間です。研究結果によると、体外受精は6回までは回数を重ねるごとに出産する可能性が明らかに高まりますが、それ以上は高まらないことが分かっています。6回やってうまく行かなかった場合は、それ以上やってもうまく行かない可能性が高いということです。また、40歳以上の場合は、回数を重ねても可能性が高まらないことが分かっています。つまり、回数の限界は、6回まで(40歳以上は3回まで)が推奨されています。期間としては、2、3年が推奨されています。また、不妊治療は、排卵誘発や受精卵が着床しないことによる心身へのストレス負荷があります。よって、そのストレスが高まっているときは、不妊治療をとりあえず休む選択肢もあらかじめ考えておくことも必要です。とくに要注意なのは、子どもをつくることで意気投合して結婚した場合です。その1の記事でもご説明しましたが、子どもができることが当たり前の結婚生活が続くため、子どもができなければ、離婚リスクが高まります。よって、もし子どもができなかった場合の結婚生活やその期限を先に話し合うことが必要になります。養子や里子を迎えるのか、夫婦生活を充実させるのか、あるいは離婚するのかなどです。ちなみに、期限付きや条件付きの結婚は、契約結婚と呼ばれ、法的に問題はありません。ただし、この離婚リスクを考えると、結婚して専業主婦(専業主夫)になり、経済的な自立を手放すのは相当なリスクがあるのがよく分かります。それを避けるためであると考えれば、無意識的にも、ドラマの不育症の専業主婦の妻が「修ちゃん(夫)にも申し訳なくて。自分の子どもを抱かせてあげられないのがつらい。ごめんね」と涙するのも納得がいきます。また、現実的には、結婚がこのような条件付きの場合、この夫のように妻思いの男性が結婚相手になるとは限らないことも覚悟しておく必要があります。(2)今の生活をはじめとする人生そのものを楽しむ-アクセプタンス鴻鳥の「忘れなくていいんです」「笑顔にしてあげたい(が一番の治療になる)」と言うセリフがヒントになります。2つ目の心のあり方は、今の生活をはじめとする人生そのものを楽しむ、つまり、アクセプタンスです。これは、不妊治療をしてもしていなくても、子どもがいてもいなくても、そして結婚をしてもしていなくても、今生きていることそのものに意味を見いだすことです。そのために、日々のささやかな幸せを実感し、周りを幸せにするささやかな積み重ねを日々積極的にすることです。逆に、とくに要注意なのは、それまでの生活に不満を持っていて、結婚したら幸せになれる(相手が幸せにしてくれる)、子どもができたら夫婦関係が良くなる(相手が変わる)と思い込んでいる場合です。これは、結婚や出産を現状打開の切り札、つまりゴールと考えています。現実的には、結婚や出産は通過点であり、その後の結婚生活や育児生活というプロセスがあります。そのなかで、どうアクセプタンスを発揮できるかのほうが重要になります。子どもがいてもいなくても、自分たちの物語は続いています。どんな物語にしたいか、つまり何を意味付けるかは、結局、自分たち次第であることをあらかじめ話し合う必要があります。(3)幸せになるためのプロセスをいくつも見いだす-コミットメント鴻鳥の「その思いはきっと明日に繋がる」というセリフがヒントになります。3つ目の心のあり方は、幸せになるためのプロセスをいくつも見いだす、つまりコミットメントです。これは、幸せになるというゴールは1つでも、そのプロセスはいくつもあること、つまり、幸せの形は1つだけではないということに気づくことです。そして、プランB、プランCのように、複数のプロセスを常に考えることです。たとえば、不妊治療は人生をより良くするためのプロセスの1つです。そのゴールが子育てをすることなら、そのプランBは、養子や里子を迎えることです。そのプランCは、保育士などの援助職に就くことでしょう。ペットを飼うのも1つでしょう。そのゴールが血縁関係なら、そのプランBは、甥っ子や姪っ子のお世話です。そのプランCは、親戚付き合いです。逆に、とくに要注意なのは、女性が結婚して子どもができることを見越して、「寿退社」をすることです。そして、男性もそれを望むことです。なぜなら、これは、女性のアイデンティティが危うくなるだけでなく、幸せになるためのプロセスの選択肢を減らすことになってしまうからです。また、危ういのは、妊娠する前から、子どもの男女の名前、習い事、育児方針を事細かく具体的に決めてしまうことです。そして、夫婦で「パパ」「ママ」と呼び合い、「うちの○○ちゃんは」という会話練習まで日常的にすることです。もちろん、幸せを具体的に描くことは良いことですが、これらはすべて形(形式)です。中身(プロセス)ではありません。中身とは、子どもを抱っこしたり寝かしつけする喜びや、言葉を教えてあげる楽しさなどをイメージすることです。このプロセスを重視することによって、たとえ子どもができなかったとしても、養子や里子を迎える発想に転換することができます。逆に、形を重視してしまったら、形にとらわれてしまい、発想の転換が難しくなるでしょう。このように、コミットメントとは、幸せになるための選択肢をあらかじめ早い段階でいろいろ考えて、実際に行動することです。なお、アクセプタンスとコミットメントについては、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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コウノドリ(その3)【不妊治療がうまく行かなかったら、どうすればいいの? (生殖の物語)】Part 3

これからの社会としての生殖のあり方は?-少子化対策これからの生殖のあり方は、できることとできないことがあることを先に知っておく(限界設定)、今の生活をはじめとする人生そのものを楽しむ(アクセプタンス)、幸せになるためのプロセスをいくつも見いだす(コミットメント)ことであると分かりました。これらは、個人としての生殖のあり方でした。それでは、社会としての生殖のあり方はどうでしょうか?生殖は、個人的な問題だから社会が介入する必要はないという意見があります。一方で、その社会が少子化によって機能しなくなると、個人の生活も機能しなくなります。たとえば、介護の問題です。老後は、血縁者ではなく、福祉でみてもらうとしても、その福祉制度を支えるのは社会、つまり次世代の子どもたちです。次世代の子どもたちが少なければ、介護の制度自体が機能しなくなるでしょう。やはり、福祉をはじめとする持続可能な社会が成り立つには、次世代の子どもが減っていないことが大前提です。ちょうど、その2の記事でご紹介した鴻鳥の後輩女医の下屋のセリフが参考になります(シーズン1第6話)。それは、「女には、産みたくても産めない時があるんです。出産や子育てにはお金がかかりますし、社会に出てキャリアを積もうと思ったら、あっという間に30過ぎちゃいます」というセリフでした。さらに彼女は、「それに妊娠したら、マタハラ(マタニティハラスメント)が待ってるかもしれないんですよ」「女医は子どもを産むからあてにならないと言われるじゃないですか」と付け加えます。すると、そばにいた別の女医が「産休後に復帰できない女医もいる。要は、簡単に子どもを育てられる環境じゃないってこと」と付け加えます。そして、鴻鳥は「生みたいときに生めるのが女性のまっとうな権利なんだけどね」とまとめようとします。しかし、その別の女医は「でも、現実はそうじゃない、女にはタイムリミットがあるの」と指摘するのです。ここから、このワンシーンを踏まえて、これからの社会としての生殖への取り組み、つまり少子化対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)経済的なサポートその2の記事で、子どもを(多く)つくらない心理的な原因の1つに、子育てにお金がかかり過ぎる点を挙げました。1つ目の少子化対策は、子育てへの経済的なサポートです。確かに、すでに少子化対策の一環として、児童手当が支給されています。しかし、子育て支援としては、極めて限定的です。よって、妊娠・出産、保育、義務教育、医療など、成人までかかる費用をほぼ無償にすることです。そして、児童手当は、家計が潤うくらいのインセンティブをつけることです。そもそも、子どもは、社会にとって次世代の生産財です。社会がもっと抜本的に投資する必要があります。逆に、これまでの少子化対策がうまく行かなかった点として、子育て支援が限定的であったこと以外に、婚活支援に投資してしまったことが指摘されています。結婚すると自由もお金も制限されてしまうという受け身的な非婚の心理が広がってしまったため、婚活支援の効果はもはや期待できないでしょう。むしろ、効果的なのは、結婚していない人ではなく、すでに結婚をしている人への介入です。つまり、合計特殊出生率よりも、希望出生率に注目することです。これは、結婚して希望する子どもの数です。たとえば、次の4つのケースに場合分けします。1.結婚していない男女が結婚して1人目の子どもをつくる2.結婚していても子どもがいない夫婦が1人目の子どもをつくる3.結婚して子どもが1人いる夫婦が2人目をつくる4.結婚して子どもが2人いる夫婦が3人目をつくるそして、その中でどのケースが最も効率が良い国家投資になるかを考えることです(パリティ拡大率)。この点で、不妊治療の保険適用は現実的です。もちろん、希望出生率をあげることは、結果的に合計特殊出生率をあげることになります。(2)身体的なサポートその2の記事で、子どもを(多く)つくらない心理的な原因の1つに、子育てで自分のやりたいことができなくなる点を挙げました。2つ目の少子化対策は、子育てへの身体的なサポートです。確かに、保育園や学童保育所の待機児童の数は減ってきました。しかし、充分とは決して言えません。とくに母親のワンオペ育児の状況は大きく改善していません。その原因として、父親の育児協力が不十分であることが指摘されています。よって、まず0歳児からの保育園の拡充をすることです。そして、父親の育児協力を担保するため、育児休暇、育児時短勤務などを制度化することです。会社で仕事をしていない代わりに、家庭で育児という仕事をしているという発想を社会で共有することです。なぜなら、子どもは社会にとって次世代の生産財だからです。社会として、育児にもっと理解をする必要があるでしょう。(3)教育的なサポートその2の記事で、子どもを(多く)つくらない心理的な原因の1つに、子育てのイメージができない点を挙げました。3つ目の少子化対策は、子育てへの教育的なサポートです。確かに、ドラマの女医が「リミット」に触れているように、妊孕性(妊娠のしやすさ)は40歳が1つの目安であることは、かなり世の中に知れ渡りました。しかし、親性(子育てへの自信ややりがい)の個人差やその低下については、あまり世の中に知られていません。また、その親性を家庭内で育むことが難しくなっています。よって、親性を高めるのが、家庭で限界があるなら、教育制度の中で取り組むことです。たとえば、ボーイスカウト・ガールスカウトのような異学年グループを小学校の学校教育の中で取り入れることです。小学校高学年2人と小学校1年生1人の3人グループをつくって、勉強を教えるのです。週1回の生活科や道徳の教科の枠組みで可能でしょう。また、小学校の各学年から6人ずつのグループをつくって、学校のイベントを行うこともできるでしょう。さらに、中学校では、地域の幼保育園との交流を通して、乳幼児と定期的にかかわる何らかの取り組みも望まれます。子育ては、大人だけでなく、子どもも学ぶ必要があることを共通認識とする必要があります。そうすることで、未来の社会の人たちの親性が全体的に高まり、子育てへのイメージがよりできるようになります。そして、子育て自体が喜びと感じる心理は、結婚すると自由もお金も制限されてしまうという受け身的な非婚の心理を上回るでしょう。また、育児へのリアルな理解が得られることで、ドラマの下屋や別の女医が指摘する「マタハラ」はなくなるでしょう。「コウノドリ」とは?タイトルの「コウノドリ」は、「コウノトリ」に濁点が付けられています。不思議に思った人も多いでしょう。これは、実は、書籍の業界のヒットの法則として、マンガ原作者の意図により、あえてつけられたという経緯があります。ただ、同時に、生殖の当たり前から脱することが込められているようにも思えてきます。今回、生殖には、さまざまな意味合いがあることが分かりました。そのことをよく理解したとき、私たちは、単に自分の子どもをつくる「コウノトリ」としてではなく、いろんな生き方を受け入れて誰かの生殖にも思いを馳せることができる「コウノドリ」として、私たち自身の生殖の物語をより豊かに紡いでいくことができるのではないでしょうか?1)子育て支援と心理臨床18:子育て支援合同委員会、福村出版、20192)子どものいない人生の歩き方:くどうみやこ、主婦の友社、20183)不妊治療のやめどき:松本亜樹子、WAVE出版、20164)進化と人間行動:長谷川眞理子ほか、放送大学教材、20075)日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?:山田昌弘、光文社文庫、20206)一人っ子男性が「結婚」に縁遠い傾向にある理由:荒川和久、東洋経済オンライン、2020<< 前のページへ■関連記事テネット【なんで時間を考えるのが癒しになるの?(アクセプタンス&コミットメント・セラピー[ACT])】

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精神疾患治療薬と自動車運転能力~システマティックレビュー

 モビリティは、日常生活において重要な機能であるが、薬理学的な治療を行っている精神疾患患者では、交通安全に関する特定の課題を抱えている。ドイツ・kbo-Inn-Salzach-KlinikumのAlexander Brunnauer氏らは、精神疾患治療薬と自動車運転能力との関連を調査した。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2021年5月26日号の報告。 PRISMAガイドラインに従って、PubMedより1970~2020年に公表された文献をシステマティックに検索した。主要評価項目として、交通法規に従って運転するための対象患者の適合性を推定するため、路上教習でのパフォーマンス、ドライビングシミュレータでのパフォーマンス、精神運動、視覚機能を評価した。 主な結果は以下のとおり。・特定された40件の研究(精神疾患患者数:1,533例、女性の割合:38%、年齢中央値:45歳)のうち、60%以上は横断的および非盲検試験であった。・安定期の治療薬投与下において、運転関連スキルに重度の問題が認められた患者の割合は、以下のとおりであった。 ●抗精神病薬投与中の統合失調症または統合失調感情障害患者:31%(範囲:27~42.5%) ●抗うつ薬投与中の単極性または双極性障害患者:18%(範囲:16~20%)・運転能力に対し、第1世代抗精神病薬より第2世代抗精神病薬、三環系抗うつ薬より新規抗うつ薬のほうが優れることが示唆された。・多くの患者において、非鎮静または鎮静系抗うつ薬治療開始から2~4週以内に、運転スキルの有意な改善または安定が認められた。・ジアゼパムでは、治療開始後最初の3週間に運転能力の有意な悪化が確認されたが、メダゼパム(低用量)、temazepam、ゾルピデムでは、影響が認められなかった。・鎮静系抗うつ薬またはベンゾジアゼピンの長期使用患者では、明らかな路上教習での問題は認められなかった。 著者らは「臨床的に配慮した精神疾患治療薬の長期使用は、運転能力を改善または安定させることが示唆された。治療コンプライアンスを強化するため、運転能力に影響を及ぼす医薬品に関する既存の分類システムに、長期使用の影響に関する情報も盛り込む必要がある」としている。

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温水洗浄便座が院内感染を媒介する可能性?

 いまや、日本の世帯の8割超が使用していると見られる温水洗浄便座。患者の清潔にも有用であるため、医療機関でも多く導入されているが、便座のウォータージェットノズルを介して多剤耐性菌が院内感染を広がるリスクを示唆する新たな研究結果が明らかになった。東京医科大学病院感染制御部・感染症科准教授の中村 造氏らの研究チームが、今月、オンライン開催された第31回欧州臨床微生物学・感染症学会(ECCMID)で報告した。著者らは、「温水洗浄便座に関連した院内感染の報告は初めてで、感染制御に大きな影響を与える可能性がある」と述べている。 研究グループは、2020年9月~2021年1月、東京医科大学病院の血液病棟のトイレに設置された温水洗浄便座のウォータージェットノズルから検体を採取し、多剤耐性菌の有無を調べた。このトイレは、重症敗血症患者を含む多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant P. aeruginosa:MDRP)感染患者3例が使用していた。研究では、DNAフィンガープリント法により、3例が保有するMDRP株とノズルから採取されたMDRP株が一致するかどうかを調べた。MDRP株は、イミペネム、メロペネム、アミカシン、シプロフロキサシンなど、少なくとも2種類の抗菌薬に耐性を示すものと定義した。 その結果、患者の検体とノズルから採取した検体の株が一致し、いずれの検体も緑膿菌ST235クローンが優勢であった。 著者らは、単一の病院病棟における小規模研究であり、遺伝子解析では、患者からノズルへ移行した菌なのか、あるいはその逆なのかは判別できないなど、いくつかの研究の限界があるとしながらも、「本研究は、MDRPが患者集団内で伝染しており、汚染された温水洗浄便座のノズルを介して院内感染が広がる可能性があることを強く示唆するものである」と指摘。その一方、「徹底した手洗いや環境浄化で院内の衛生状態を良好にすることで、患者の免疫が低下していても感染制御は可能だ」と述べている。

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HER2低発現乳がんの臨床的特徴/Lancet Oncol

 抗HER2抗体薬物複合体の開発により、HER2低発現の患者を含む乳がん患者に新たな治療オプションがもたらされている。この新たなサブタイプの臨床的・分子生物学的特徴は、HER2陰性乳がん患者とどのように異なるのか。ドイツ・University Hospital of Giessen and MarburgのCarsten Denkert氏らが、術前化学療法への反応や予後を含む、HER2低発現症例の特徴をHER2陰性乳がん症例と比較し、Lancet Oncology誌オンライン版2021年7月9日号に報告した。HER2低発現乳がんはHER2陰性乳がんより生存期間が長い 研究者らは、2012年7月30日~2019年3月20日に実施された4つの前向き試験(GeparSepto、GeparOcto、GeparX、Gain-2 neoadjuvant)において、併用術前補助化学療法で治療されたHER2非増幅型の原発性乳がん患者2,310例のコホートを対象に、プール解析を実施。HER2検査は、すべての試験で参加者の無作為割り付け前に前向きに行われた。HER2低発現の状態の評価は米国臨床腫瘍学会/米国病理学会のガイドラインに基づき、IHC1+またはIHC2+/ in-situ陰性と定義され、HER2陰性はIHC0と定義された。 無病生存率および全生存率のデータは、1,694例(GeparXを除く3試験から)で利用可能であり、追跡期間中央値は46.6ヵ月であった(IQR:35、0~52、3)。2変量および多変量ロジスティック回帰モデルとコックス比例ハザードモデルは、エンドポイントの病理学的完全奏効(pCR)、無病生存率、および全生存率の分析のために事前定義された統計分析計画に基づいて実行された。 HER2低発現乳がん患者の状態を評価した主な結果は以下のとおり。・2,310の腫瘍のうち計1,098(47.5%)がHER2低発現であり、1,212(52.5%)がHER2陰性であった。・HER2低発現腫瘍を有する患者1,098例中703例(64.0%)がホルモン受容体陽性であったのに対し、HER2陰性腫瘍を有する患者では1,212例中445例(36.7%)であった(p<0.0001)。・HER2低発現腫瘍のpCR率は、HER2陰性腫瘍よりも有意に低かった(1,098例中321例[29.2%] vs.1,212例中473例[39.0%]、p=0.0002)。・また、ホルモン受容体陽性サブグループのpCR率は、HER2低発現腫瘍ではHER2陰性腫瘍と比較して有意に低かった(703例中123例 [17.5%] vs.445例中1053例 [23.6%]、p = 0.024)、しかしホルモン受容体陰性サブグループではこの差はみられなかった(395例中198例 [50.1%] vs.767例中368例 [48.0%]、p=0.21)。・HER2低発現腫瘍を有する患者は、HER2陰性腫瘍を有する患者よりも有意に長い生存期間を示した(3年無病生存率:83.4%[95%CI:80.5~85.9] vs.76.1% [72.9~79.0]、層別ログランク検定p=0.0084/3年全生存率:91.6%[84.9~93.4] vs.85.8%[83.0~88.1]、層別ログランク検定p=0.0016)。・ホルモン受容体陰性腫瘍の患者でも生存率に差がみられた(3年無病生存率:84.5%[79.5~88.3] vs.74.4%[70.2~78.0]、層別ログランク検定p=0.0076/3年全生存率:90.2%[86.0~93.2] vs.84.3%[80.7~87.3]、層別ログランク検定p=0.016)、ただしホルモン受容体陽性腫瘍の患者ではみられなかった(3年無病生存率:82.8%[79.1~85.9] vs.79.3%[73.9~83.7]、層別ログランク検定p=0.39/3年全生存率:92.3%[89.6~94.4] vs.88.4%[83.8~91.8]、層別ログランク検定p=0.13)。 研究者らは、これらの結果はHER2低発現腫瘍がHER2陰性腫瘍とは異なり、標準化されたIHC評価によって乳がんの新しいサブグループとして識別できることを示すとまとめている。また、HER2低発現腫瘍には特定の生物学的特徴があり、治療と予後への反応に違いがみられ、治療抵抗性のホルモン受容体陰性腫瘍でとくにその傾向がみられるとしている。

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脳静脈洞血栓症患者の血小板減少症、COVID-19流行前はまれ/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の以前には、脳静脈洞血栓症(CVST)患者におけるベースラインの血小板減少症の頻度は低く、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)や血小板第4因子(PF4)/ヘパリン抗体の発生もきわめてまれであったことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのMayte Sanchez van Kammen氏らの調査で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2021年7月2日号で報告された。COVID-19ワクチンであるChAdOx1 nCov-19(AstraZeneca/Oxford)およびAd.26.COV2.S(Janssen/Johnson & Johnson)の接種後4~28日以内に、血小板減少症を併発するCVSTを発症した症例が報告されており、その根本的な病理学的機序として、PF4/ヘパリン抗体に関連する免疫介在性反応が提唱されている。7ヵ国7病院の検体の後ろ向き記述的解析 研究グループは、COVID-19の世界的流行以前にCVSTと診断された患者において、入院時の血小板減少症、HIT、PF4/ヘパリン抗体の発現の頻度を明らかにする目的で、レトロスペクティブな記述的解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 解析には、フィンランド、オランダ、スイス、スウェーデン、メキシコ、イラン、コスタリカの国際脳静脈洞血栓症コンソーシアムに参加している7つの病院から得られた、1987年1月~2018年3月の期間にCVSTと診断された患者の検体が用いられた。 865例で、ベースラインの血小板数のデータが得られた。このうち93例のサブセットで、以前の試験(2009年9月~2016年2月)で採取された凍結血漿検体を用いてPF4/ヘパリン抗体の解析が行われた。 主要アウトカムは、入院時の血小板減少症(血小板数<150×103/μL)、HIT(担当医の診断による)、PF4/ヘパリンIgG抗体(光学濃度[吸光度]>0.4、過去に血漿検体を採取した患者のサブセット)の頻度とされた。血小板減少症8.4%、HIT 0.1%、PF4/ヘパリン抗体0% 865例(年齢中央値40歳[IQR:29~53]、女性70%)のうち、73例(8.4%、95%信頼区間[CI]:6.8~10.5)が血小板減少症であり、751例(86.8%)が正常血小板数(150~450×103/μL)、41例(4.7%)は血小板増加症(>450×103/μL)であった。 血小板減少症73例の重症度の内訳は、軽症(血小板数100~149×103/μL)が52例(6.0%)、中等症(50~99×103/μL)が17例(2.0%)、重症(<50×103/μL)は4例(0.5%)だった。 PF4/ヘパリン抗体を伴うHITは、1例(0.1%、95%CI:<0.1~0.7)にみられた。また、血漿検査が行われた93例の便宜的な検体のサブセットでは、8例(9%)に血小板減少症(軽症6例、中等症2例)が認められ、PF4/ヘパリン抗体がみられた患者はいなかった(0%、95%CI:0~4)。抗PF4 IgGの光学濃度中央値は0.106(IQR:0.088~0.142、範囲:0.064~0.357)だった。 著者は、「これらの知見は、ChAdOx1 nCoV-19およびAd26.COV2.S COVID-19ワクチンと、血小板減少症を伴う脳静脈洞血栓症との関連性を調査する際に、有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

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禁煙治療、cytisineはバレニクリンに対して非劣性示せず/JAMA

 禁煙を希望する毎日喫煙者の禁煙治療において、cytisineの25日間投与のバレニクリン84日間投与に対する非劣性は示されなかったとの試験結果が、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のRyan J. Courtney氏らによって報告された。cytisineは、プラセボやニコチン代替療法よりも有効であることが示されているが、これまで禁煙治療で最も有効とされるバレニクリンとの比較検討は行われていなかった。JAMA誌2021年7月6日号掲載の報告。オーストラリアの非盲検無作為化非劣性試験 本研究は、禁煙治療におけるcytisineのバレニクリンに対する非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化臨床試験であり、2017年11月~2019年5月の期間にオーストラリアの2つの州(ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州)で参加者の募集が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上で、禁煙を試みる意思のある毎日喫煙者であった。妊婦や授乳中の女性、7ヵ月以内に妊娠の予定のある女性は除外された。参加者は、cytisineまたはバレニクリンの投与を受ける群に、無作為に割り付けられた。試験薬は参加者に郵送され、データの収集は主にコンピュータ支援の電話インタビューで行われたが、主要アウトカムの評価は対面診療で実施された。 薬剤の投与は製薬企業が推奨する用量に準拠した。cytisine群は、1~3日目に1.5mgのカプセルを2時間ごとに最大1日6回服用し、25日間で1日1~2カプセルまで徐々に減量した。禁煙は5日目に開始した。バレニクリン群は、1~3日目に0.5mgの錠剤を1錠服用し、4~7日目は2錠服用、8日目に禁煙を開始して1mg錠の1日2回服用を84日目(12週)まで継続した。全参加者に、標準的な電話による行動支援を受ける方法が紹介された。 主要アウトカムは6ヵ月間の継続的な禁煙とし、追跡期間7ヵ月の時点で6ヵ月間の継続的禁煙(6ヵ月間の喫煙タバコ本数が5本を超えない)を自己申告した参加者に対し、呼気一酸化炭素濃度測定検査(≦9ppmで禁煙と判定)を行った。非劣性マージンは5%とし、片側検定の有意水準の閾値は0.025とした。6ヵ月禁煙率:11.7% vs.13.3% 1,452例の参加者が登録され、cytisine群に725例、バレニクリン群に727例が割り付けられた。全体の平均年齢(SD)は42.9(12.7)歳で、女性が742例(51.1%)であった。このうち試験を完了したのは1,108例(76.3%)だった。 呼気一酸化炭素濃度測定検査で、6ヵ月間の継続的な禁煙が実証された参加者の割合は、cytisine群が11.7%(85/725例)、バレニクリン群は13.3%(97/727例)であり、cytisine群のバレニクリン群に対する非劣性は確証されなかった(リスク差:-1.62%、片側97.5%信頼区間[CI]:-5.02~∞、非劣性のp=0.03)。 自己申告による6ヵ月間および3ヵ月間の継続的な禁煙の達成について優越性の評価を行ったが、いずれも有意な差はみられなかった。 少なくとも1回の服薬を行った参加者(cytisine群675例、バレニクリン群663例)における自己申告による有害事象は、cytisine群が482例で997件と、バレニクリン群の510例で1,206件と比較して頻度が低かった(発生率比[IRR]:0.88、95%CI:0.81~0.95、p=0.002)。重篤な有害事象は、cytisine群が17例(2.5%)、バレニクリン群は32例(5.0%)で認められた(IRR:0.97、95%CI:0.55~1.73、p=0.92)。 著者は、「非劣性が達成されなかった理由として、cytisineの標準的な用量と投与期間が至適ではない可能性がある」としている。

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CGMはリアルタイムか間歇スキャン式のいずれが優れているか?(解説:住谷哲氏)

 持続グルコース測定器(continuous glucose monitoring:CGM)は皮下間質液中のグルコース濃度を持続的に測定する機器で糖尿病治療に活用されている。CGMには大きく分けて3種類あり、現在わが国で使用できる機器も併せて記載すると、(1)リアルタイムCGM (real-time CGM[rtCGM]):その時の血糖値が常に測定表示されるもの(Dexcom G4 PLATINUM、ガーディアン コネクト)、(2)間歇スキャンCGM(intermittently scanned CGM[isCGM]、flush glucose monitoring[FGM]とも呼ばれる):患者がセンサーをスキャンした時にのみグルコース値が表示されるもの(FreeStyleリブレ)、(3)professional CGM(pCGM):患者はグルコース値を装着中に見ることができず検査終了後に解析するもの(FreeStyleリブレPro)、になる。グルコース値の読み取りも当初は専用のリーダーが必要であったが、現在ではBluetoothを用いてスマートフォンや腕時計型デバイスで読み取り可能のものも登場している。 本試験はrtCGMのisCGMに対する優位性を検証する目的で、rtCGMの開発企業であるDexcomによって実施されたRCTである。isCGMであるFreeStyleリブレを少なくとも半年以上使用している1型糖尿病患者をDexcom G6変更群(介入群)とFreeStyleリブレ継続群(対照群)に振り分けて6ヵ月間経過を観察した。結果は、目標グルコース値維持時間(time in range:TIR)、低血糖時間(<54mg/dL)、6ヵ月後のHbA1cの改善の程度のすべてにおいてrtCGMの優位性が示された。 CGMの違いが血糖コントロールの改善につながった理由については明らかではない。しかし筆者らが考察しているように、Dexcom G6に装備されているアラート機能、とくに低血糖トレンドアラートが影響した可能性が最も考えられる。今後はアラート機能を搭載したisCGM(FreeStyle Libre 2)が発売されるようなので、それとの比較試験が実施されればこの点についてより明らかになると思われる。 現時点では血糖コントロールの改善という点では、isCGMよりもrtCGMに優位性があるのは間違いないだろう。機器の扱いに問題がなければ、血糖変動の大きいすべての糖尿病患者にrtCGMを装着することで、血糖コントロールの改善とQOLの改善が得られる。しかし医療費の問題があり、装着が望ましい患者のごく一部しかその恩恵を受けていないのが現実である。テクノロジーは日進月歩であるが、わが国の医療制度が追い付いていかないのが残念である。

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第66回 一般市民がやる気になる緊急事態宣言の解除基準とは

今週から東京都では4回目となる新型インフルエンザ等特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が発出された。あまりこういう書き方はしたくないのだが、本連載の第63回のような内容を書いた私としては、今回ばかりはどんなに抑え込もうとしても「そら見たことか」と言いたくなる。政府や自治体からすれば、「何もしなかったわけではなく、緊急事態宣言からまん延等防止等重点措置(まん防)に移行していたのだから」と言いたいのかもしれないが、それが意味をなさないのは、すでに過去の結果を見れば明らかである。ただ、一部に「まん防なんぞ、そもそも効果がない」という人がいるが、それは乱暴な物言いだとも思う。たとえば、宮城県や愛媛県のようにまん防に移行しても緩やかに感染者が減少している自治体はある。ワクチン接種の進行度合いも影響しているのではないかという見方も成り立つかもしれないが、東京都と宮城県、愛媛県で接種率に極端な違いはない。要は人口密度が高く、かつ高齢化率が低い、そこに人流が多いというファクターが加わると、強い措置でなければ効果が望めないということだろう。もっとも緊急事態宣言は感染者減少に対する一定の効果はあるものの限界はある。とりわけ緊急事態宣言に基づく対策の軸となる自治体から飲食店への営業自粛や営業時間短縮の命令に違反しても行政罰に留まるだけであるため、実際には違反店が散見される状態になっている。この点は大きな抜け穴である。今回政府が違反店の出現を防ぐ目的で、飲食店への休業支援金の先渡し方針を明らかにしたまでは良かったのだが、これに加え「違反店情報を金融機関へ提供する」とか「酒類卸売販売業者に違反店への販売を行わないよう要請する」通知を発出。これが世論の猛反発を浴び、通知は撤回に追い込まれた。そもそもこの要請のナンセンスな点は、商売をやっている人に取引先を事実上取り締まれと言っていることだ。金融機関にしろ酒類卸売業者にしろ、取引先の飲食店がつぶれてしまっては元も子もない。つぶれて融資や売掛金が回収できなくなるくらいならば、違反営業することを黙認するだろう。また、違反するならば「融資しません」「販売しません」と言えば、その飲食店は他の取引先に流れるだけで根本的な解決にはならない。しかも金融機関や卸売業者は自分の売上を落とすだけになる。ついでに言うと、この仕組みでは「違反店の情報を国や自治体が金融機関に提供する」としているが、そうした情報は国や自治体よりも金融機関のほうが持っているはずで、仕組みとしてもあまり有効ではない。そもそも今回の一連の混乱の原因は、過去にも指摘したが違反への対処が行政罰で、しかもそれが徹底されていないからだ。現に緊急事態宣言下などでの違反営業に対する行政罰に関する報道を見ると、最近になってようやく東京都で4店が過料を科され、これが全国初のケースのようである。しかし、東京都での違反店数がたった4店でないことは明らかである。要は目立つところ、訴えやすいところが標的にされただけと言っても良い。その意味では改正特措法施行後3回の緊急事態宣言を経験している中で、そろそろ緊急事態宣言やまん防の効果などを詳細に検討したうえで、将来的には特措法での行政罰の刑事罰化も選択肢の一つとして考える必要があるのではないかと個人的には考えている。そもそも私個人は国などによる私権制限などを伴う規制はどんないかなる場合であっても最小限に留めるべきと従来から考えている。しかし、対抗手段のない新興感染症のパンデミック収束のためには、どうしても強制力が伴う対策が必要になる点は否めないとも痛感している。また、今回の特措法のように行政罰となると、違反店への対応は自治体が主体となるため、市街地が広大にもかかわらず、自治体のマンパワーが限られた東京都のような地域では、どうしても目立った店舗のみが行政罰を科せられ、違反店と遵守店の間だけでなく、違反店同士でも不公平感が生まれる罰則適用になってしまう。その点、刑事罰の場合は、各地域に配置された警察署、派出所が対応でき、行政罰の時と比べ、マンパワー不足は解決される。また、「警察」が乗り出すことに対する民間での心理的負荷は大きいため、行政罰と比べれば違反や再発への抑止効果もあると考えられる。一方で、こうした法律とは別に個人的には従来から必要だと思っていることがある。それは出口指標の明確化だ。今でも政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が示した感染状況を示す4つのステージで、ステージ4相当が緊急事態宣言発出で、解除については「ステージ3相当から安定的にステージ2に向けて指標が低下しつつある」としてはいる。しかし、この解除基準は明らかに経済横にらみでさじ加減を調整することを念頭に置いているため曖昧さが多く、感染ステージ評価が複数の指標で成り立っていることから一般市民に分かりにくいものになっている。その意味ではこのステージ分類は維持しつつも、ステージ分類で使用している指標の中の1~2つを利用して、一般市民向けに緊急事態宣言解除の具体的目安を示すべきではないかと考えている。たとえば一部の専門家がメディア向けに東京都での解除基準を問われた時によく出てくる「1日の感染者報告が100人以内」といった類のものだ。そうすれば一般市民も出口に向けて今どのような状況にあるかがわかり、自身の感染対策の振り返りや見直しにもつながりやすいのではないだろうか?もしかしたらこうしたやり方をすれば、行政罰のまま現在の緊急事態宣言やまん防を運用できるかもしれないとさえ思うことがある。いずれにせよ、従来のような緊急事態宣言の運用は、少なくとも首都圏では限界にあることは改めて認識する必要があるだろう。

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緩和ケアを体系的に学ぶなら、まずはここから!【非専門医のための緩和ケアTips】第7回

第7回 緩和ケアを体系的に学ぶなら、まずはここから!だんだん暑くなってきましたね。外来に通院している患者さんに「熱中症に気を付けて」とアドバイスするのもこんな時期です。今日の質問緩和ケアを学んでみたいのですが、何から始めればいいのでしょうか? 関連する学会は入ったほうがいいですか?今回は、緩和ケアを学びはじめた若手の先生からよく聞かれる質問です。実は5、6月にかけ、緩和ケア業界は忙しくなります。それは、毎年6月に最も会員数が多い関連学会である、日本緩和医療学会の学術大会が開催されるからです。コロナの影響による学会オンライン化の流れもあり、演題の打ち合わせだけでなく発表の事前収録なども含め、タスクが多くなる時期です。私も所属するこの日本緩和医療学会について、少し紹介させてください。会員数は1万2,012名(2021年7月1日時点)、医師は約半数で、残りは看護師が最多、次いで薬剤師、リハビリテーション専門職など多職種で構成されています。緩和ケアを実践するうえでチーム医療は非常に大切であり、いろいろな職種が参加する学会である点が特徴です。日本緩和医療学会が取り組んでいる事業をいくつか紹介します。緩和ケアに関連したガイドラインの作成エビデンスの集積が難しい分野ではありますが、その中でもわかっていることを理解し、根拠をもって診療することは大切です。学会では「がん疼痛」「がん患者の呼吸器症状の緩和」「がん患者の消化器症状の緩和」「苦痛緩和のための鎮静」といった、緩和ケアで重要な分野についてのガイドラインを作成しています。これらのガイドラインは学会サイトより無料でダウンロード可能となっており、困ったとき、迷ったときに調べてみるのに便利です。緩和ケアセミナー学会では、緩和ケアを学びたい医療者を対象としたセミナーを数多く開催しています。たとえば、年2回開催される「教育セミナー」では、1日かけてさまざまなトピックの講演が行われます。最近はオンライン形式で参加が容易になり、1,000人近い参加者が一緒に学ぶ場となっています。医師だけでなく看護師など緩和ケアに関わる多職種が参加し、テーマも他学会ではなかなか聞くことのできないものがめじろ押し。最近でも、臨床宗教師の方のお話や、意思決定を支援するうえで知っておきたい法律と倫理のセッションなどユニークな講演が行われています。学会に入会すればストリーミング配信も視聴できるので、自己学習教材にもなります。こうした、ほかにないコンテンツを利用できるだけでも学会入会のメリットがあると感じます。また、緩和医療認定医や専門医を目指す先生にとっては資格取得要件ともなっているので、計画的に受講いただければと思います。2021年6月18日~19日に第26回日本緩和医療学会学術大会がオンラインと現地開催のハイブリッド形式で開催されました。どこの分野も同様でしょうが、学術大会はパンデミック下における学術活動を基盤とした、貴重な学びとネットワーキングの機会を創出しています。次回は、開催直後の今年の学術大会の内容を報告します。日本緩和医療学会今回のTips今回のTips緩和ケアを学ぶならぜひ日本緩和医療学会へ。ガイドラインやセミナーを通じて、緩和ケアの学習機会を提供しています。近年はオンラインで参加しやすくなっています!

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ニルセビマブがRSウイルスの高リスク乳児に有効/第II/III相MEDLEY試験

 アストラゼネカは、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)感染の高リスク乳児を対象にニルセビマブの安全性と忍容性を評価した第II/III相のMEDLEY試験において、良好な結果を示したことを7月8日付けのプレスリリースで発表した。 ニルセビマブはアストラゼネカとサノフィにより開発中のアストラゼネカ独自の半減期延長(YTE)技術を用いた長時間作用型抗体。乳幼児に直接免疫を与え、RSウイルスに対する感染予防効果を発揮させる可能性がある。 今回良好な結果を示したMEDLEY試験は、早産児およびシナジスによる治療が適格な高リスク乳幼児*を対象とし、ニルセビマブの安全性および忍容性の評価を目的とした無作為化二重盲検シナジス対照第II/III相試験。2019年7月~2021年5月までの期間に、RSウイルス流行シーズンを初めて迎えた約925例の乳幼児に対し、ニルセビマブまたはシナジスの投与を行って評価した。ニルセビマブの安全性として投与後360日間の有害事象(TEAEs)および重篤な有害事象(TESAEs)の発現頻度を、慢性肺疾患(CLD)に罹患した乳児、先天性心疾患(CHD)に罹患した乳児、早産児のいずれか1つ以上に該当する乳児に対して評価したところ、試験下で発現したTEAEsもしくはTESAEsの発現率は両治療群間で同様だった。*高リスク乳幼児:CLD/CHDを発症していない在胎35週以内の乳児、もしくはCLDまたは血行動態に異常のあるCHD発症の早産児と定義。 なお、ニルセビマブは第III相のMELODY試験(RSウイルスの流行シーズンを初めて迎えた健康な後期早産児および正期産児において、プラセボと比較し、RSウイルスに起因する診療を要した下気道感染症(LRTI)の発症頻度をみたもの)も評価中である。

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コロナワクチンのアナフィラキシー、患者さんに予防策を聞かれたら?

 7月に入り、新型コロナワクチン接種が65歳未満でも本格化している。厚生労働省の副反応報告1)によると、現時点では「ワクチンの接種体制に直ちに影響を与える程度の重大な懸念は認められない」との見解が示されており、アナフィラキシーやその他副反応のリスクよりも新型コロナの重症化予防/無症状感染対策というベネフィットが上回るため、12歳以上へのワクチン接種は推奨される。 しかし、接種対象者の年齢範囲が広がることで問題となるのが、SNS上での根拠のないワクチン批判である。その要因の1つが「アナフィラキシー」だが、患者自身で出来る予防策はあるのだろうかー。今回、日本アレルギー学会のCOVID-19ワクチンに関するアナウンスメントワーキンググループのひとりである中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)に話を聞いた。ワクチンだけを恐れる矛盾を指摘 まず、中村氏はワクチン不安に陥る前に、あらかじめ知っておくべきこととして2点を提示した。一つは「腕の痛みなどの注射部位反応や筋肉痛、頭痛、寒気、倦怠感、発熱などの反応は、ワクチンに対する身体の正常な免疫反応を反映している」ということで、それらは数日以内に消失する。もう一つは「わが国における新型コロナワクチン接種後に起こったアナフィラキシーの報告で信頼に足るものは100万回あたり7件と報告されており、医療機関で使用される造影剤(100万回あたり約400件)や肺炎などの感染症で使用される抗生物質(100万回あたり100~500件)に比べると極めて少ない」という事実である。今回の新型コロナワクチンに限らず一般にワクチンはほかの医薬品に比べてアナフィラキシーが少ないと言われているにもかかわらず、接種を怖がる人が多いのは、「一部マスコミの注意喚起が強調され過ぎたのかもしれない。ただし、ごく稀とはいえ誰にでも新型コロナワクチンによるアナフィラキシーがあり得るのは事実であり、個人的にできる予防策があればそれに越したことはない」とも話した。 アナフィラキシーを増強させる促進要因(飲酒、運動、月経前状態など)2)はいくつか明らかになっているものの、実際にアナフィラキシーが発症する際にはさまざまな要因が絡み合うため、「これという確かな予防策は存在しない」と同氏はコメント。しかし、予防策が断定できなくとも患者が心得ておくべきは、「ワクチン接種日の数日前から体調を整えておくこと」であり、医療者の役割は「自分の患者からワクチン接種の可否について相談された場合にリスク因子の有無を正確に見極めること」と話した。その際に参考になるのは、アナフィラキシーの主な原因が新型コロナワクチンの主成分ではなく添加物(ポリエチレングリコール[PEG]やポリソルベートなど)との報告である。実際にファイザー製やモデルナ製にはPEGが、アストラゼネカ製にはPEGに交差反応性のあるポリソルベート80が添加されている。 一方、これらの賦形剤は多くの医薬品(注射薬、錠剤、外用薬、など)や化粧品に(PEGはマクロゴールの名称で)広く含有されており、同氏は「私の所属する医療機関で扱っている医薬品4,000種類以上に含まれている。そして、多くの患者は普段から定期的にこれらを体内に取り込んでいることになる。もちろん、その接種経路により症状誘発の程度が異なることはあり得るが、自分が担当する患者さんにワクチン接種の可否を訊ねられた際には、定期処方薬にそれらが含有されていることを確認した上で、『あなたは一般に新型コロナワクチンの原因と言われている成分を毎日服用しているのに普段何ともないのですから、そんなに心配することはないですよ』とアドバイスをして安心していただくようにしている」と、添加物の実状と患者の不安を払拭させるような声掛け方法を例示した。 現在、PEGは日本薬局方には医薬品添加物として、分子量200、300、400、600、1000、1500、1540、4000、6000、20000が登録されており、添付文書ではマクロゴール◯◯や下記のようにPEG◯◯などと記載されていることが多い(◯◯は分子量)。<各ワクチンに含有される主な添加物>・コミナティ筋注(ファイザー):2-[(ポリエチレングリコール)-2000]- N,N-ジテトラデシルアセトアミド・COVID-19ワクチンモデルナ筋注(モデルナ):λ1, 2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メチルポ リオキシエチレン(PEG2000-DMG)、トロメタモール(アナフィラキシー報告あり)・バキスゼブリア筋注(アストラゼネカ):ポリソルベート80アナフィラキシーの“既往なし”でも注意したい患者 加えて、PEGやポリソルベートに対するアレルギーが考えにくい場合でも、ワクチン前に受診を薦めたい患者として「喘息患者のなかでもコントロール不良な人、そして、“かくれ喘息”の人」を挙げた。喘息はアナフィラキシーの重症化リスクの1つであるため、「喘息治療をしていないが、ゼーゼー、ヒューヒューと喘息様の症状を有する人、治療を続けていても発作が多かったりコントロールが不良だったりする人は、ワクチン前にしっかり診断と治療を受け、コントロールしておくことも重要」とし、接種後には「通常の2倍の時間、30分間は経過観察が必要」とも話した。 これらを踏まえ、アナフィラキシー発症リスクの高い例と注意すべき患者像を以下のように示す。<アナフィラキシーに注意すべき患者像>( )内は主な可能性・高齢者(薬剤に過敏歴がある場合、化粧品使用とその経験が長い)・女性(化粧品の使用率が高く、PEGへの経皮感作の可能性がある)・喘息の既往(コントロール不良、発作が多い)、かくれ喘息<アナフィラキシーの発生リスクを探る>(優先順)1)アナフィラキシーに最もリスクがある患者は“PEGやポリソルベートによるアナフィラキシー歴あるいは1回目のワクチン接種でアナフィラキシーがあった”人。その場合には接種を見送る/2回目接種を見送る必要がある。2)次に注意すべきは、“原因不明あるいは不特定多数の医薬品などによるアナフィラキシー歴(PEGやポリソルベートに対するアレルギーの可能性を有する)”がある人。この人は可能な限り主治医に事前相談し、集団接種会場ではなく医療機関での個別接種が望ましい。3)“アナフィラキシー歴はあるが、PEG・ポリソルベートなどの賦形剤以外の物質(食物、金属など)が原因として確定している”人は通常通りワクチン接種を行っても差し支えないと言える。 アレルギー反応にはアナフィラキシーや花粉症、食物アレルギーなどを引き起こすI型、II型(血小板減少症など)、III型(SLEや関節リウマチなど)、IV型(接触皮膚炎など)が存在するが、食物アレルギーはアナフィラキシーと同型に分類されるため、食物アレルギーを抱える患者は接種に不安を抱え、ためらうこともあるかもしれない。これについては、日本アレルギー学会が今年3月に公開したアナウンスメント3)にも「少なくとも現時点では花粉、食物などの特定の抗原に対する I 型アレルギーや、アナフィラキシー症状を伴わない喘息、アトピー性皮膚炎などのアトピー疾患であることが、新型コロナウイルスワクチンに対する過敏性を予測するものではないことを意味する」と示されている、と強調した。医療者としての声掛けー新型コロナワクチンに不安な被接種者へ 新型コロナに罹患した際の症状は死に至る場合もある。感染から回復しても長引く後遺症(疲労感・倦怠感や息切れ…)に悩まされることになり、それらの症状からいつ完全回復を遂げられるかはまだ明らかにされていない。ワクチン接種時の一時的な副反応症状(発熱、倦怠感など)と発症率が低く適切な治療により致命的になることがほとんどないアナフィラキシー、どちらのリスクが自分にとって危険であるのかを天秤にかけた場合、「ワクチンを接種せずに新型コロナに罹患することだけは避けるべきであるのは自明」と同氏は繰り返した。 最後に、ワクチン接種に関し医療者が患者にできることとして、「今後の変異株の拡大などにより若い人でも重症化することが懸念されている現状では、患者にワクチンを諦めさせるのではなく、推奨することが大切なのではないか」とワクチン接種が患者の命を救う最善の手立ての1つであることを強く訴えた。中村 陽一(なかむら よういち)氏横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長1955年香川県生まれ。81年徳島大卒。91年医学博士取得および米国ネブラスカ大学留学。2000年国立病院機構高知病院臨床研究部長を経て05年より現職および昭和大学医学部客員教授。日本アレルギー学会功労会員。同学会アナフィラキシー対策委員会委員長。

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COVID-19入院患者へのIL-6受容体拮抗薬、メタ解析で全死亡抑制/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者を対象とした臨床試験の前向きメタ解析の結果、IL-6受容体拮抗薬は通常の治療やプラセボと比較し、28日全死因死亡率の低下と関連していることが認められた。WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies(REACT)Working Groupメンバーで、英国・St Thomas' HospitalのManu Shankar-Hari氏らが報告した。COVID-19入院患者へのIL-6受容体拮抗薬の有効性を評価した臨床試験では、有益、有効性なし、有害とさまざまな報告がされていた。JAMA誌オンライン版2021年7月6日号掲載の報告。27試験の1万930例について、前向きメタ解析を実施 研究グループは、2020年10月~2021年1月に、電子データベースを検索して試験を特定し(試験状況や言語による制限なし)、さらに専門家への連絡を介して追加の試験を特定した。適格としたのは、COVID-19入院患者を対象に、IL-6受容体拮抗薬投与群と、IL-6受容体拮抗薬あるいはコルチコステロイドを除く他の免疫調整薬のいずれも投与しない群に無作為に割り付けた試験とした。 可能性のある適格試験72件のうち、27件(37.5%)が試験の選択基準を満たした。 主要評価項目は、無作為化後28日全死因死亡率、副次評価項目は侵襲的人工換気への移行または死亡、28日までの2次感染リスクなど9項目である。 Cochrane Risk of Bias Assessment Toolを使用してバイアスリスクを評価し、試験結果の不一致はI2統計量を用いて評価した。主要解析は、28日全死因死亡率のオッズ比(OR)の逆分散加重固定効果メタ解析とした。 27試験の計1万930例(年齢中央値61歳[中央値の範囲52~68]、女性3,560例[33%])が解析に組み込まれた。IL-6受容体拮抗薬群で、通常治療またはプラセボ群と比較し28日全死因死亡率が低下 無作為化後28日間に、IL-6受容体拮抗薬群6,449例中1,407例、通常治療またはプラセボ群4,481例中1,158例が死亡した(要約OR:0.86、95%信頼区間[CI]:0.79~0.95、固定効果メタ解析のp=0.003)。 これはIL-6受容体拮抗薬群の絶対死亡リスクは22%、通常治療またはプラセボ群の推定死亡リスクは25%に相当し、対応する要約ORは、トシリズマブが0.83(95%CI:0.74~0.92、p<0.001)、サリルマブは1.08(0.86~1.36、p=0.52)であった。 コルチコステロイドの投与を受けた患者では、通常治療またはプラセボ群と比較した死亡の要約ORは、トシリズマブ0.77(95%CI:0.68~0.87)、サリルマブ0.92(0.61~1.38)であった。 侵襲的人工換気への移行または死亡のORは、通常治療またはプラセボ群と比較して、IL-6受容体拮抗薬群全体で0.77(95%CI:0.70~0.85)であり、トシリズマブで0.74(0.66~0.82)、サリルマブで1.00(0.74~1.34)であった。 28日目までの2次感染の発生率は、IL-6受容体拮抗薬群21.9%、通常治療またはプラセボ群17.6%であった(OR:0.99、95%CI:0.85~1.16)。

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10種の待機的整形外科手術、臨床的効果は?/BMJ

 多くの一般的な待機的整形外科手術は保存治療と比較して、全体/サブグループにおいて有効と思われるが、より効果的であることを示す強力で質の高いエビデンスはないという。英国・National Institute for Health Research Bristol Biomedical Research CentreのAshley W. Blom氏らが、レベル1のエビデンスのアンブレラレビューの結果を報告した。著者は、「強力なエビデンスが不足しているにもかかわらず、これらの手技のいくつかは、特定の状況下において国のガイドラインで推奨されている」として、「一般的な待機的整形外科手術と無治療、プラセボ、非手術的治療と比較する研究を優先することが急務である」とまとめている。BMJ誌2021年7月7日号掲載の報告。10種の手術について、無作為化比較試験のメタ解析のアンブレラレビューを実施 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Libraryおよび参考文献を、2020年9月まで検索し、最も一般的な10種類の待機的整形外科手術のいずれかの臨床効果を無治療、プラセボまたは非手術的治療と比較した無作為化試験のメタ解析(メタ解析がない場合は他の研究デザイン)を特定し、アンブレラレビューを行った。 10種類の整形外科手術とは、関節鏡視下前十字靭帯再建術、関節鏡視下膝半月板修復術、関節鏡視下膝半月板部分切除術、関節鏡視下腱板修復術、関節鏡視下肩峰下除圧術、手根管減圧術、腰椎除圧術、腰椎固定術、人工股関節全置換術、人工膝関節全置換術である。 2人の研究者が独立して要約データを抽出し、3人目の研究者が加わりコンセンサスを得た。各メタ解析の方法論的な質はAssessment of Multiple Systematic Reviews instrumentを用いて評価し、Jadad decision algorithmを用いてどのエビデンスが最も優れているかを確認した。また、英国国立医療技術評価機構のエビデンス検索を用いて、各手技の推奨がエビデンスを反映しているかについて確認した。 主要評価項目は、一般的な待機的整形外科手術のエビデンスの質と量、および関連する国の臨床ガイドラインにおける推奨度との比較であった。手根管減圧術および人工膝関節全置換術のみ、非手術的治療より優れる 無作為化比較試験では、手根管減圧術および人工膝関節全置換術については、非手術的治療に対する優越性が支持された。人工股関節全置換術または半月板修復術については、非手術的治療と比較した無作為化比較試験はなかった。他の6つの手技に関する臨床試験のエビデンスは、非手術的治療と比較して有益性はないことを示した。 ほとんどの一般的な待機的整形外科手術は、決定的な無作為化比較試験が行われていないため、質の高いエビデンスに裏付けられていないことが明らかとなった。

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治療抵抗性統合失調症の遺伝的研究~COMTおよびGAD1遺伝子

 前頭前野におけるドパミン作動性ニューロンからガンマアミノ酪酸(GABA)介在ニューロンへの投射は、統合失調症の病因と関連している。統合失調症の臨床像に対するドパミンシグナルとGABA発現との相互作用の影響は、これまで研究されていなかった。これらの相互作用は、前頭前野の機能と密接に関連している可能性があり、関連分子との特定の対立遺伝子(遺伝的機能の低下または脆弱)を有する患者では、治療抵抗性へ移行する可能性がある。千葉大学の小暮 正信氏らは、治療抵抗性統合失調症に特有の対立遺伝子の組み合わせを調査するため、COMTおよびGAD1遺伝子に焦点を当て、遺伝子関連研究を実施した。Journal of Molecular Neuroscience誌オンライン版2021年6月14日号の報告。 対象は、治療抵抗性統合失調症群171例、非治療抵抗性統合失調症群592例、健康対照群447例。 主な結果は以下のとおり。・COMT遺伝子にrs4680のMet対立遺伝子を有する患者およびGAD1遺伝子にrs3470934のC/Cホモ接合体を有する患者の割合は、治療抵抗性統合失調症群で他の群よりも有意に高かった。・非治療抵抗性統合失調症群と健康対照群との間に、有意な差は認められなかった。・これまでの研究で明らかとなったこれら一塩基多型の機能の方向性を考慮すると、Met/CC対立遺伝子の組み合わせを有する患者は、前頭前野のドパミンレベルが高く、GABA発現の可能性が低いと推測される。 著者らは「治療抵抗性統合失調症患者では、ドパミン作動性シグナルとGABAシグナルの相互作用が、非治療抵抗性統合失調症患者や健康対照者と異なっている可能性が示唆された」としている。

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基礎インスリンで治療中の2型糖尿病患者の血糖コントロールに対するCGMの効果(解説:小川大輔氏)

 糖尿病の診療において、血糖コントロール状況を把握する検査として血糖値とヘモグロビンA1cが通常用いられる。血糖値は採血時点の、ヘモグロビンA1cは過去1~2ヵ月間の血糖の状況を表す検査であり、外来診療ではこの2つの検査を同時に測定することが多い。さらにインスリンあるいはGLP-1受容体作動薬などの注射製剤を使用している患者は、日常生活において血糖を把握するために自己血糖測定を行うことが一般的である。 通常の自己血糖測定によるモニタリング(BGM)は測定のたびに指先を穿刺する必要があり、また連続した血糖の変動を捉えることができないという欠点がある。一方、近年使用されている持続血糖モニタリング(CGM)は一度装着すると血糖の変動を連続して把握することができるというメリットがある。CGMは毎食後や睡眠中の血糖コントロール状況がわかるため、糖尿病専門外来では糖尿病治療薬の変更や選択に活用されている。 2018年7月から2019年10月までに米国のプライマリケア施設で基礎インスリンを使用している2型糖尿病患者に対し、CGMの有効性の評価を目的とする無作為化臨床試験の結果がJAMA誌に報告された1)。対象は1日1回あるいは2回の基礎インスリンを用いて治療中の2型糖尿病患者であり、CGMまたはBGMでのモニタリングを行う群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。インスリン以外の糖尿病治療薬の有無は問わないが、食前のインスリンは使用していないことが条件である。主要評価項目は8ヵ月後の平均HbA1c値、副次評価項目は血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)の時間の割合、血糖値が250mg/dL以上の時間の割合、8ヵ月後の平均血糖値である。 30歳以上の2型糖尿病患者175例が登録され、CGM群に116例、BGM群に59例が割り付けられた。平均HbA1c値は、CGM群がベースラインの9.1%から8ヵ月後には8.0%へ、BGM群は9.0%から8.4%へと低下し、CGM群で有意な改善効果が認められた。またCGM群はBGM群に比べ、血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)の時間の割合(59% vs.43%)、血糖値>250mg/dLの時間の割合(11% vs.27%)、ベースライン値で補正された8ヵ月後の血糖値(179mg/dL vs.206mg/dL)が、いずれも有意に良好であった。有害事象としては重症低血糖がCGM群で1例(1%)、BGM群で1例(2%)報告された。 基礎インスリン療法を行っているが血糖コントロールが不良(HbA1c値7.8~11.5%)の2型糖尿病患者に対し、従来のBGMをCGMに替えると8ヵ月後のヘモグロビンA1cがより低下したという結果である。これまでに1型糖尿病を対象とした試験でCGMを用いることにより血糖コントロールが改善するということは複数報告されており、強化インスリン療法を行っている2型糖尿病を対象とした試験2)でも同様の結果が報告されている。今回初めて基礎インスリン療法を行っている2型糖尿病を対象とした試験でCGMの有効性が示された。ただ、1日1~3回血糖値を測定するBGM群に対し、血糖の情報量が圧倒的に多いCGM群でもっと差があるかと思ったが、予想外にその差は0.4%とわずかであった。またHbA1c値8.5%以上のとくに血糖コントロール不良の患者では両群で有意差がなかった。これは本試験が糖尿病専門医のいる医療機関ではなくプライマリケア施設で実施されており、専門医が直接インスリン投与量の管理を行っていないことが関係していると考えられる。せっかくCGMを用いても、得られた血糖日内変動のデータを解釈しインスリン投与量の調節に活かせなければ意味がない。ただCGMを装着すればよいというわけではない、というメッセージをこの研究は与えている。

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