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初発統合失調症に対する治療アルゴリズムを作成~日本臨床精神神経薬理学会

 初回エピソードの統合失調症に対する治療アルゴリズムは、十分ではない。さらに、すべての統合失調症の治療アルゴリズムは、急性期治療の適応であって、維持療法には当てはまらない。慶應義塾大学の竹内 啓善氏らは、初回エピソード統合失調症のための急性期および維持期の治療アルゴリズムの作成を試みた。Human Psychopharmacology誌オンライン版2021年7月9日号の報告。初回エピソード統合失調症における急性期治療アルゴリズムの第1選択薬 日本臨床精神神経薬理学会のアルゴリズム委員会は、初回エピソード統合失調症の急性期、興奮状態、維持期における薬理学的治療アルゴリズムを作成した。 初回エピソード統合失調症のための急性期および維持期の治療アルゴリズムの作成を試みた主な結果は以下のとおり。・薬物治療を行っていない初回エピソード統合失調症患者(非高齢者または興奮状態)における急性期治療アルゴリズムでは、以下の治療が推奨される。 ●第1選択薬:アリピプラゾール ●第2、3選択薬:リスペリドン、パリペリドン、オランザピン ●第4選択薬:クロザピン・長時間作用型注射剤抗精神病薬は、服薬アドヒアランス不良の場合または患者の希望に基づいて使用可能である。・初回エピソード統合失調症患者の興奮状態治療アルゴリズムでは、以下の治療が推奨されるが、興奮状態寛解後には、使用薬剤を減量、中止する必要がある。 ●第1選択薬:ロラゼパム ●第2、3選択薬:クエチアピン、レボメプロマジン・初回エピソード統合失調症患者の維持期治療アルゴリズムでは、陽性症状寛解後、抗精神病薬を最小有効用量まで漸減することを推奨している。 著者らは「本アルゴリズムが広く普及し、抗精神病薬治療を行っている患者の負担が最小限になることが望まれる」としている。

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ヘパリン介入のチャンスのある重症化前の新型コロナウイルス感染(解説:後藤信哉氏)

 一般に、疾病は早期介入が重要である。新型コロナウイルスの場合、ウイルス感染という比較的単純な原因が炎症、肺炎などを惹起する。血管内皮細胞へのウイルス浸潤から始まる血栓症も初期の原因は比較的単純である。ウイルス感染に対して生体が反応し、免疫系が寄与する病態は複雑になる。複雑な病態は単純な治療では脱却できない。重症例を確実に入院させるとともに、早期の症例に対する医療介入の意味を示したのが本論文である。重症化していない新型コロナウイルス感染の症例を予防量と治療量のヘパリン群にランダムに分けて予後を検証した。重症化する前に治療量のヘパリンを投与すると、生存退院の可能性が増えることが示された。この論文は重症化前から新型コロナウイルス感染症患者を入院させ、各種の補助治療とともに治療量のヘパリンを投与する価値を示している。2,219例のランダム化比較試験の結果である。重症例と重症化前の症例の差異のメカニズムは不明である。臨床家としてはこのランダム化比較試験の結果は即座に実臨床に取り込むと思う。

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Delta株に対する現状ワクチンの予防効果―液性免疫、細胞性免疫からの考察(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

対象論文【Lancet】Neutralising antibody activity against SARS-CoV-2 VOCs B.1.617.2 and B.1.351 by BNT162b2 vaccination【NEJM】Infection and Vaccine-Induced Neutralizing-Antibody Responses to the SARS-CoV-2 B.1.617 Variantsワクチン接種後のDelta株などVOCに対する中和抗体価の動態 新型コロナ感染症にあって、感染性、病原性が高いVariants of Concern(VOC:Alpha株、Beta株、Gamma株、Delta株)が世界を席巻している。その中で、5月以降、Delta株(インド株、B.1.617.2)の勢力が増し、世界に播種するウイルスの中心的存在になりつつある。現状で使用可能なワクチンは武漢原株のS蛋白遺伝子配列をplatformとして作成されたものであり、S蛋白に複数の遺伝子変異を有するVOCに対して、どの程度の予防効果を発揮するかについては注意深い検証が必要である。本論評では、WallらとEdaraらの2つの論文を基に、Delta株を中心にVOCに対する現状のワクチンの効果を液性免疫(中和抗体)、細胞性免疫(T細胞反応)の面から考察する。 VOCに対する液性免疫(主としてS蛋白に対する特異的IgG抗体によって形成されるウイルス中和抗体)に関して、WallらはBNT162b2(Pfizer社)の2回接種後28日目における変異株に対する中和抗体価は、武漢原株/野生株に対するものに比較して、D614G株(従来株)で2.3倍、Alpha株(英国株)で2.6倍、Beta株(南アフリカ株)で4.9倍、Delta株(インド株)で5.8倍低下していると報告した(論文の補遺参照)。さらに、各中和抗体価の時間推移(2回目ワクチン接種後100日目まで)は、D614G株、Alpha株で時間経過にかかわらずほぼ一定に維持されていたのに対し、Beta株、Delta株では時間経過と共に低下し、少数ではあるが100日後の中和抗体価が検出限界以下になる症例が認められた。さらに、Beta株、Delta株に対する中和抗体価の時間推移は年齢と負の相関を示し、中和抗体価の低下速度は高齢者ほど大きいことが示された。同様の中和抗体価の年齢依存性は、BNT162b2接種後のGamma株に対しても報告されている(Bates TA, et al. JAMA. 2021 Jul 21. [Epub ahead of print])。 これらの結果は、Alpha株には強力な液性免疫回避作用を惹起する遺伝子変異が存在しないが、Beta株、Gamma株ではE484K変異、Delta株ではL452Rを中心とする強力な液性免疫回避変異が存在することから説明可能である。同様の結果はEdaraらによっても、RNAワクチン(Pfizer社のBNT162b2あるいはModerna社のmRNA-1273)2回接種後のDelta株に対する中和抗体価は野生株に対する中和抗体価に比べ、BNT162b2接種後で3.3倍、mRNA-1273接種後で3.0倍低下していると報告された。AstraZeneca社のChAdOx1の2回接種後における中和抗体価は、BNT162b2ワクチン2回接種後の値に比べ、いかなるウイルス種に対しても2倍以上低いことが示された(Wall EC, et al. Lancet. 2021;398:207-209.)。Delta株に対する3回目ワクチン接種の必要性 今後、世界各地で感染拡大が予想されるDelta株に対する中和抗体価の維持は、本変異株に対する予防を確実にするうえで最重要課題の1つである。Pfizer社は、BNT162b2の2回接種後8ヵ月間はDelta株に対する中和抗体価がほぼピーク値を維持するが、それ以降は低下するのでワクチン2回目接種6~12ヵ月後に、さらなるBooster効果を目指した3回目のワクチン接種が必要になると発表した(Pfizer社. 2021年7月28日報道)。Pfizer社は、Delta株に対する中和抗体価が3回目ワクチン接種により2回目接種後に比べ、18~55歳の対象で5倍以上、高齢者で11倍以上増強されると報告した。以上の結果を基に、Pfizer社は8月中にも米国FDAに3回目ワクチン接種の緊急使用許可を申請するとのことである。 ワクチン3回接種はModerna社のRNAワクチンにおいても試みられており、mRNA-1273の2回接種終了5.6~7.5ヵ月後に3回目のワクチンを接種した場合に(3回目のワクチン:mRNA-1273、Beta株のS蛋白遺伝子配列をplatformとして作成されたmRNA-1273.351、あるいは両者のカクテル)、Beta株、Gamma株に対する中和抗体価が、各々、32~35倍、27~44倍上昇することが示された(Wu K, et al. medRxiv. 2021.May 6.)。AstraZeneca社のChAdOx1においても、2回目接種から6~12ヵ月後に3回目の接種を行うことによってAlpha株、Beta株、Delta株に対する中和抗体価が再上昇することが示された(Flaxman A, et al. SSRN. 2021 Jun 28.)。今後のDelta株制御を考えた場合、現状ワクチンの3回接種、あるいは、Delta株のS蛋白遺伝子配列をplatformにした新たなワクチン開発が切望される。ワクチン惹起性液性免疫の発現機序 中和抗体の中核を成すS蛋白に対する特異的IgG抗体を産生する形質細胞数は、2回目のワクチン接種後約1週間でピークに達し、3週間以内にその90%が消失する。それ故、このような短命の形質細胞は“Short-lived plasma cell”と呼称される。しかしながら、S蛋白特異的IgG抗体産生はワクチン接種後少なくとも8ヵ月にわたり持続することが判明しており、この現象は、免疫組織(脾臓、リンパ節)の胚細胞中心において形成されたS蛋白を特異的に認識する記憶B細胞に由来する長期生存形質細胞(Long-lived plasma cell)の作用だと考えられている(Turner JS, et al. Nature. 2021;596:109-113.)。上述したように、現状ワクチンは、Delta株など免疫回避作用を有する変異株に対してS蛋白特異的IgG抗体産生能力が低く、かつ、低下の速度が速いため3回目接種による抗体産生の底上げを考慮する必要がある。ワクチン惹起性細胞性免疫の発現機序 ワクチンの予防効果を規定するもうひとつの重要な因子は、T細胞由来の細胞性免疫の賦活である。ワクチン接種はS蛋白のみを産生するので自然感染の場合と異なりウイルス全長ではなく、S蛋白を構成する種々のアミノ酸配列を抗原決定基(epitope)として細胞性免疫が惹起される。S蛋白は1,273個のアミノ酸で形成されており、たとえば、Delta株ではこのアミノ酸配列の8ヵ所に遺伝子変異が存在するが、Delta株のS蛋白アミノ酸配列は武漢原株/野生株と99%以上の相同性を維持している。CD4-T細胞反応、CD8-T細胞反応を規定する抗原決定基はS蛋白に数多く存在し、それらは、種々のコロナウイルス間で、各々、84.5%、95.3%の相同性が維持されている。その結果、変異株を含む種々のコロナウイルスに対するCD4-T細胞反応、CD8-T細胞反応は、ウイルスの種類によらずほぼ同一レベルに保持される(Tarke A, et al. bioRxiv. 2021.02.27.433180.)。ワクチン接種後の細胞性免疫の持続期間に関しては不明な点が多いが、Barouchらは、野生株を用いた解析ではあるが、細胞性免疫が液性免疫と同様に少なくとも8ヵ月は維持されることを示した(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021 Jul 14. [Epub ahead of print])。液性免疫と細胞性免疫によって決定されるワクチンの予防効果 以上を総括すると、Delta株を中心とするVOCでは、液性免疫回避変異が少ないAlpha株を除き、液性免疫は著明に低下、しかし細胞性免疫はほぼ維持されるものと考えることができる。この事実を基にreal-world settingでの各ワクチンのDelta株に対する発症予防効果を見てみると、BNT162b2の発症予防効果はAlpha株に対して93.7%、Delta株に対して88%、ChAdOx1の発症予防効果はAlpha株に対して74.5%、Delta株に対して67.0%と報告された(Lopez Bernal J, et al. N Engl J Med. 2021;385:585-594.)。他の報告でも傾向は同じで、Delta株に対するワクチンの発症予防効果はAlpha株に対する発症予防効果の94%(BNT162b2)あるいは90%(ChAdOx1)前後であり、液性免疫(中和抗体価)の低下からは説明できない。液性免疫のみによってワクチンの効果が規定されるのであれば、Delta株に対する発症予防効果はAlpha株に対する値の45%前後にならなければならない。 本論評で考察した内容は、変異株に対するワクチンの予防効果は、低下した液性免疫を細胞性免疫が補完していることを意味している。一方で、変異株に対するワクチン惹起性細胞性免疫がほぼ一定に維持されるという事実は、変異株に対するワクチンの予防効果を少しでも上昇させるためには、ワクチン作成、あるいは接種回数に工夫を凝らし、液性免疫を上昇させる以外に有効な手段がないことを物語っている。

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「はい、はい」と返事だけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第40回

■外来NGワード「ちゃんとわかっているんですか!?」(わかっていないと決めつける)「返事だけはいいですね」(皮肉な言い方)「もう一度、最初から説明しますね」(同じことをしつこく説明する)■解説外来で糖尿病患者さんに検査値の説明をしていると、「はい、はい」と返事はいいのですが、ちゃんと理解できているか、不安になることがありませんか? 中には、ちゃんとわかっていないのにもかかわらず、「医師を不快にさせたくない」「頭が悪いと思われたくない」と考えて、わかっているふりをしている場合もあります。もちろん、「はい、はい」を連発することは、早く診察を終えたいというサインでもあります。そういった患者さんに、HbA1cなどの検査値の意味をちゃんとわかっているのか確認するためには、どうしたらいいのでしょうか? 患者さんに「今の説明でわかりましたか?」と尋ねてみても、ほとんどの場合「はい」と答えるので、本当にわかっているのかどうかは不明です。そんな場合には、「ティーチバック」を試してみましょう。ティーチバックとは、医師の説明したことを患者さん自身の言葉で説明してもらうことです。このティーチバックを糖尿病の療養指導に取り入れた研究では、糖尿病合併症リスクが約3割減り、冠動脈疾患で入院するリスクも半減し、医療費も削減できたと報告されています。とはいえ、突然「では、今話したことを私に説明してください」と医師から言われたら、患者さんは極度に緊張してしまうかもしれません。ティーチバックの説明にも、ひと工夫が必要ですね。■患者さんとの会話でロールプレイ医師今の説明でわかりましたか?患者はい、はい…。医師ハハハ。あまり、わかっていなさそうですね。患者アハハ、ばれましたか。医師それでは、ちょっとHbA1cについて説明してもらえますか?患者えっ、先生に説明するんですか? そんな、専門家に説明なんてできませんよ。(少し困った顔)医師いえいえ。専門用語は使わなくていいので、家族や友人に説明するつもりでお願いします。患者そうですか。えっと…、HbA1cというのは2ヵ月間ぐらいの平均血糖値のことで…。医師なるほど。それから?患者7%を超えると合併症になりやすい…30を足すと体温みたいでわかりやすい…ってところでしょうか。医師いいですね。その説明なら、知り合いの人もよく理解できそうですね。患者そうですか。私も、7%未満を目標に、もっと頑張らないといけませんね。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「家族や友人に○○(HbA1c)を教えるとしたら、どんなふうに説明しますか?」 1)Hong YR, et al. J Am Board Fam Med. 2020;33:903-912.2)Hong YR, et al. J Gen Intern Med. 2019;34:2176-2184.3)Leong A, Wheeler E. Curr Opin Genet Dev. 2018;50:79-85.

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「セレニカR」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第65回

第65回 「セレニカR」の名称の由来は?販売名セレニカR顆粒40%セレニカR錠200mgセレニカR錠400mg一般名(和名[命名法])バルプロ酸ナトリウム(JAN)効能又は効果○各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療。○躁病および躁うつ病の躁状態の治療。○片頭痛発作の発症抑制。用法及び用量〈各種てんかん(小発作・焦点発作・精神運動発作ならびに混合発作)およびてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療、躁病および躁うつ病の躁状態の治療〉通常、バルプロ酸ナトリウムとして400~1200mgを1日1回経口投与する。ただし、年齢、症状に応じ適宜増減する。〈片頭痛発作の発症抑制〉通常、バルプロ酸ナトリウムとして400~800mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状に応じ適宜増減するが、1日量として1000mgを超えないこと。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)〈効能共通〉1.重篤な肝障害のある患者2.カルバペネム系抗生物質を投与中の患者3.尿素サイクル異常症の患者[重篤な高アンモニア血症があらわれることがある。]〈片頭痛発作の発症抑制〉4.妊婦又は妊娠している可能性のある女性※本内容は2021年8月18日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年9月改訂(第20版)医薬品インタビューフォーム「セレニカ®R顆粒40%、セレニカ®R錠200mg/R錠400mg」2)興和株式会社:製品情報検索

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第71回 「もはや災害時」なら、「現実解」は“野戦病院”、医師総動員、医療職の業務範囲拡大か

福井県は既に“野戦病院”整備こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末も大雨でどこにも行かず家に籠もっていました。甲子園の高校野球も延期に次ぐ延期だったので、NHK BSの「ワースポ× MLB」でMLBの現況をチェックしようと思い、何の気なしに観ていたら、興味深いニュースをやっていました。MLBが12日(日本時間13日)、名作映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年公開)の舞台となったアイオワ州ダイアーズビルで初の公式戦を開催し、ホワイトソックスとヤンキースが1919年頃の雰囲気たっぷりの中、当時の復刻ユニホームで戦った、というニュースです。「ワースポ× MLB」では、トウモロコシ畑から出てくるホワイトソックスとヤンキースの選手らの姿を映し出していましたが、まさにあの映画そのものでした。ケビン・コスナーが主演したこの映画のロケ地、私も約30年前に訪れたことがあります。米国出張の時、留学でアイオワ・シティに住んでいた友人宅に寄り、そこから車で約2時間かけてダイアーズビルまで見学に出かけたのです。映画公開から数年後で、観光客はまばらでした。映画で使われたセットの前の球場(今回の試合のためにMLBが500万ドルかけて新設した球場とは別)で、訪れた人がソフトボールに興じていたのが印象的でした。それにしても、今回の試合で8本も出たホームラン。ボールがフェンスを超え、トウモロシ畑に吸い込まれて行く画像はMLBの試合には見えず、笑えました。さて、今週は先週(第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性)書いた“野戦病院”について補足し、その必要性について改めて考えてみたいと思います。知人から、「“野戦病院”をもうつくった県があるよ」という連絡があったからです。それは、福井県です。福井市内の体育館に100床開設福井県は8月2日、新型コロナウイルス患者を受け入れる新たな病床として最大100床を確保、患者の増加状況に応じて福井市内の体育館1ヵ所に開設し、主に軽症者を受け入れると発表しました。体育館にはベッド、空調、仕切りなどの設備を整えるとのことです。福井県内の病床数はこれで404床となり、宿泊療養施設の146床と合わせると県内に計550床が確保されたことになります。中日新聞等の報道によれば、福井県では今後さらに感染が拡大することに備え、6月補正予算に関連費用を盛り込んでいた、とのことです。常時設置するわけではなく、必要に応じて必要な病床数を開設、近隣の医療機関の医師らが治療に当たるとしています。なお、稼働病床数が増えた場合は、県医師会や看護協会に協力を要請する予定だそうです。「自宅療養では容体が急変しても直ちに対応できない」と福井県担当者東京都や大阪府と人口や医療機関数では比べものになりませんが、少なくとも福井県が軽症者向けとはいえ、“野戦病院”的施設を準備したことは、先進的で評価できることでしょう。福井県ではこれまで、無症状者も含めて全陽性者を病院や宿泊施設で受け入れてきました。8月7日付の日刊ゲンダイDIGITALによれば、同県が「自宅療養させず」を貫いている理由について、県地域医療課の担当者は「自宅療養では容体が急変しても直ちに対応できない。感染判明後、すぐに医師の診療を受ける体制も必要なため、臨時施設を稼働させた。陽性者を速やかに隔離すれば、感染拡大の防止にもつながる」と語ったとのことです。前回も書いたように、中等症、軽症と診断され、自宅で療養するのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうべきです。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させ、中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る仕組みをつくるのです。日本医師会を激しく批判していた長島 一茂氏(「第58回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる?“家庭医構想”というパンドラの匣(前編)」参照)も、8月13日のテレビ朝日の「モーニングショー」で、「(東京都は)入院待機患者と自宅療養者合わせて3万人。東京ドームなど、大規模に患者を集めるところをつくらなくてはいけないのではないか」とコメントしていました。また、東京都医師会の尾崎 治夫会長も8月16日の同番組に出演、東京都の自宅療養患者の状況を説明したうえで、「早急に野戦病院をつくるべきだ」と強調していました。「酸素ステーション」も抗体カクテルもリップサービス止まりか?翻って、1日の新規感染者数2万人超えの状況でも、国の対応は相変わらずの後手後手、その場しのぎの感が拭えません。菅 義偉首相は8月13日の記者会見で、自宅療養者らが酸素吸入を必要とした場合に備える「酸素ステーション」を設置する方針を示し、加えて軽症・中等症向けの抗体カクテル療法を集中的に使用できる拠点の整備についても言及しました。抗体カクテル療法については、対象拡大(入院患者限定から宿泊療養施設入所者などにも)の通知が13日、各都道府県に出されています。ですが、国が打ち出すこうした新機軸は、当面の自分たちの無策をごまかすためのリップサービスにしか聞こえません。そもそも「酸素ステーション」をどれだけ配置しても、中等症、重症患者の根本治療にはなりません。さらに、そのステーションに誰が患者を連れていくのでしょうか。抗体カクテル療法(「第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念」参照)については、医師の24時間配置に加え、日本での供給量にも不安があります。一部の報道で年内20万回分調達(当面は7万回分)と言われていますので、今の新規患者数では単純計算で約10日分しかないことになります。また、 1回(2種類の抗体医薬)で約20万円(米国での医療費)とも言われるこの薬剤を、軽症者(あるいは未発症者)のどの範囲まで投与を認めるのか、という点も問題です。期待を抱かせて、結局は必要な患者すべてには行き渡らない可能性が大です。ちなみに、米国では先週、抗体カクテルが濃厚接触者等、コロナウイルスに曝露した一部の未発症の人にも使用できるようになりました。米国食品医薬品局(FDA)が8月10日、抗体カクテル(REGEN-COV)の緊急使用許可を改訂し、成人および小児におけるCOVID-19の曝露後予防(予防)としての緊急使用を承認したからです。入院や死亡など、重度に進行するリスクが高い人(12歳以上で体重40 kg以上)が対象とのことです。“野戦病院”的施設の開設、医師総動員、医療職の業務範囲拡大をセットで実行すれば新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は8月11日、首都圏などの医療提供体制について「もはや災害時に近い」との見解をまとめました。東京都の小池 百合子知事も8月13日の記者会見で、自宅療養者2万人超の状況など踏まえ、「今、最大級、災害級の危機を迎えている」と強い危機感を表明しています。テレビでは、首都圏の中等症以上の患者が在宅療養を余儀なくされ、入院先探しに難渋している姿が、連日のように報道されています。それらの報道では、在宅医療で対応することの非効率性も指摘されています。菅首相が先週強調した「パルスオキシメーター配布」もまったく進んでいないようです。そう考えると、“野戦病院”的施設の開設は一つの「現実解」でしょう。同時にこれまでコロナ対応に十分に関わってこなかった医師たちを半ば強制的に総動員、“野戦病院”で働いてもらえば、今以上の「安全・安心」を自宅療養者に提供できるでしょう。医学部教育、医師の養成には多額の税金も投入されているわけですから、この際、動員には我慢して応じてもらいましょう。「強制的に動員」する仕組みの構築がすぐには難しいとしたら、医師以外の医療職(看護師、薬剤師、救急救命士…)に医師の業務の一定部分を任せる、という手も考えられます。今回の医療法改正で、医師の働き方改革の観点から、多くの医療職で業務範囲拡大が行われましたが(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)、その拡大範囲以上に、緊急措置として医師の業務を他職種に任せてしまうのです。例えば、宿泊療養施設の医療責任者は看護師にするとか、“野戦病院”での一定部分の医療行為は医師の指示なしでも看護師が行えるようにするなどが考えられます。動員についても、老健施設の管理者は看護師で代行させ、そこの医師を“野戦病院”に振り向ける、といった方法も考えられるでしょう。例によって、日本医師会は自分たちの領分を侵害されることを嫌がるでしょう。しかし、そこは政府がきちんと説得しないと。なにせ今は「災害時」であり有事なのですから。映画「フィールド・オブ・ドリームス」では、ケビン・コスナー演じる主人公が、だだっ広いトウモロコシ畑を整地し、野球場を一からつくるのですが、“野戦病院”は何も空き地に一からつくる必要はありません。ただ、体育館や室内アリーナなどを活用し、医療人材を集めればいいだけのことです。要はこの国の政治家、行政、医療人に、想像力と胆力があるかどうかの問題だと思います。

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PTSDに対する心理療法のための治療同盟~メタ解析

 治療を成功させるために、治療同盟は有用な要素である。恐怖、不信、回避などの症状を有するPTSD患者では、治療同盟がとくに重要であるにもかかわらず、包括的なシステマティックレビューによる検討は、行われていなかった。英国・マンチェスター大学のRuth Howard氏らは、PTSD患者における治療同盟を予測できる可能性のある因子および治療同盟がアウトカムに及ぼす影響について調査を行った。Clinical Psychology & Psychotherapy誌オンライン版2021年7月8日号の報告。 PRISMAガイドラインの優先報告項目に従って34件の適格研究が抽出され、研究の質を評価した。治療同盟の予測因子を特定するため、narrative synthesisを行った。PTSDにおける治療同盟と治療アウトカムとの関連を評価するため、12件の研究をメタ解析に含めた。 主な結果は以下のとおり。・アタッチメント、対処方法、心理学的因子を含むいくつかの変数は、治療同盟を予測する可能性があることが報告されていた。・治療変数は、治療同盟の予測因子ではなかった。・対面療法および遠隔療法のいずれにおいても、治療同盟はPTSDの治療アウトカムの有意な予測因子であった(集計されたエフェクトサイズ:r=-0.34)。・本研究の限界として、研究対象が査読済みの英語文献に限定されていた点、研究の質が低~中程度と評価(本研究領域では選択バイアスが起こりやすい)された点が挙げられる。 著者らは「PTSD患者における治療同盟は、対面療法、遠隔療法のいずれにおいても治療アウトカムの予測因子であり、その影響は、他の疾患集団と同等以上であると考えられる。このことは、トラウマを抱えた患者に対応するうえで、非常に重要である。PTSD治療における治療同盟を予測する因子を特定するためには、さらなる研究が必要とされる」としている。

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低GI/GL食が糖尿病患者のHbA1c低下をもたらす/BMJ

 主に血糖降下薬やインスリン製剤で中等度にコントロールされている1型および2型糖尿病の成人患者において、低グリセミック指数(GI)/グリセミック負荷(GL)の食事パターンを導入すると、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値のほか空腹時血糖値や血中脂質、体重といった心臓代謝リスク因子に関して、小さいが意義のある改善がもたらされることが、カナダ・トロント大学のLaura Chiavaroli氏らの検討で示された。研究の詳細は、BMJ誌2021年8月4日号で報告された。低GI/GL食の無作為化対照比較試験のメタ解析 研究グループは、欧州糖尿病学会(EASD)の食事療法に関する診療ガイドラインの改訂に資するデータを得る目的で、低GI/GL食の効果を検討した無作為化対照比較試験を対象に系統的レビューとメタ解析を行った(EASDなどの助成を受けた)。 2021年5月13日の時点で、医学データベース(Medline、Embase、Cochrane Library)に登録された文献を検索した。対象は、糖尿病における低GI/GL食の効果について検討した3週間以上の無作為化対照比較試験とされた。 主要アウトカムはHbA1c値とされた。2人の研究者が個別にデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。データは、変量効果モデルによって統合された。また、GRADEを用いて、エビデンスの確実性の評価が行われた。HbA1c値の低下はエビデンスの確実性も高い 1型および2型糖尿病患者1,617例が参加した29の試験のデータを含む27の論文が解析に含まれた。参加者は、主に2型糖尿病(90%)の成人患者(93%)で、ほとんどが中高年(年齢中央値56歳、範囲:11~67歳)であり、過体重または肥満(BMI中央値31、範囲:19~36)がみられ、血糖降下薬(69%)やインスリン製剤(14%)、またはこれらの併用(7%)で中等度にコントロールされていた(ベースラインのHbA1c中央値7.7%、範囲:6.2~13.8%)。 低GI/GLの食事パターンは高GI/GLの対照食に比べ、小さいが意義のあるHbA1c値の低下をもたらした(平均差:-0.31%、95%信頼区間[CI]:-0.42~-0.19、p<0.001、異質性のI2=75%、p<0.001)。 また、低GI/GL食は、副次アウトカムのうち空腹時血糖値(p<0.001)、LDLコレステロール(p<0.001)、non-HDLコレステロール(p=0.002)、アポB(p=0.03)、トリグリセライド(p=0.04)、体重(p<0.001)、BMI(p=0.003)、C反応性蛋白(p=0.03)の低下をもたらしたが、血中インスリン、HDLコレステロール、ウエスト周囲長、血圧には有意な差はみられなかった。 HbA1c値の低下に関してはエビデンスの確実性が高かったが、副次アウトカムの多くは確実性が中程度であった。 著者は、「低GI/GLの食事パターンは、1型および2型糖尿病患者が血糖コントロールや心臓代謝リスク因子の目標値を達成するための付加的な治療法としてとくに有用と考えられる。これらの知見は、15年以上前に発行されたEASDの診療ガイドラインの改訂に資するものとなるだろう」としている。

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片頭痛発作の発症抑制薬、アイモビーグ皮下注発売/アムジェン

 アムジェン株式会社は2021年8月12日、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤 エレヌマブ(遺伝子組換え)(商品名:アイモビーグ)を発売したことを発表した。本剤は2021年6月に「片頭痛発作の発症抑制」の効能又は効果で製造販売承認を取得していた。 本剤はCGRP受容体を阻害することで片頭痛患者における片頭痛を予防できるように特異的にデザインされた完全ヒトモノクローナル抗体。複数の臨床試験で本剤の安全性および有効性が検討されている。4,000人以上の患者が本臨床試験プログラムに参加した。アイモビーグは、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、スイスメディック(Swissmedic)、オーストラリア医療製品管理局(TGA)など、世界の多くの規制当局から成人の片頭痛予防薬として承認されている。製品概要販売名:アイモビーグ皮下注70mgペン一般名:エレヌマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:片頭痛発作の発症抑制効能又は効果に関する注意:・十分な診察を実施し、前兆のある又は前兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、又は慢性片頭痛であることを確認した上で本剤の適用を考慮すること。・最新のガイドライン等を参考に、非薬物療法、片頭痛発作の急性期治療等を適切に行っても日常生活に支障をきたしている患者にのみ投与すること。用法及び用量:通常、成人にはエレヌマブ(遺伝子組換え)として70mgを4週間に1回皮下投与する。製造販売承認日:2021年6月23日薬価基準収載日:2021年8月12日発売日:2021年8月12日薬価:アイモビーグ皮下注70mgペン 41,356円製造販売元:アムジェン株式会社

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脊髄性筋萎縮症で初の経口治療薬エブリスディ発売/中外製薬

 中外製薬株式会社は、8月12日に乳幼児では最も頻度の高い致死的な遺伝性疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるリスジプラム(商品名:エブリスディ)のドライシロップ60mgの販売を開始した。本製品はSMAで初の経口の治療薬であり、患者・患児の治療での利便性の向上が期待される。 SMAは、脊髄の運動神経細胞の変性により筋萎縮や筋力低下を示す遺伝性の神経筋疾患。乳幼児では最も頻度の高い致死的な遺伝性疾患で、乳児期から小児期に発症するSMAの患者数は10万人あたり1~2人とされる。SMAの原因遺伝子はSMN遺伝子で、SMN1遺伝子の機能不全に加え、SMN2遺伝子のみでは十分量の機能性のSMNタンパクが産生されないため発症する疾患。 リスジプラムは、SMN(survival motor neuron)タンパクの欠損につながる5番染色体の変異によって引き起こされる、SMAを治療するためにデザインされたSMN2スプライシング修飾剤。SMNタンパクレベルを増加させ、維持することでSMAを治療するよう設計されている。SMNタンパクは全身にみられ、運動神経と運動機能の維持に重要な働きをする。リスジプラムは、2020年8月に米国で、2021年3月に欧州で承認を取得し、わが国では同年6月23日に製造販売承認を取得している。 同社では、「本治療薬は、乳児から成人までの広い年齢層で有効性を示し、経口剤のため在宅治療が可能となる。SMAの患者とその家族の皆様に、新たな治療選択肢によるこれまでにない価値を届けられるように、適正使用の推進に努めていきたい」と抱負を語っている。製品概要販売名:エブリスディ ドライシロップ 60mg一般名:リスジプラム効能・効果:脊髄性筋萎縮症用法・用量:通常、生後2ヵ月以上2歳未満の患者にはリスジプラムとして、0.2mg/kgを1日1回食後に経口投与する。通常、2歳以上の患者にはリスジプラムとして、体重20kg未満では0.25mg/kgを、体重20kg以上では5mgを1日1回食後に経口投与する。薬価:エブリスディ ドライシロップ60mg 97万4,463.70円/1瓶承認日:2021年6月23日薬価基準収載日:2021年8月12日販売開始日:2021年8月12日

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腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021、“腰痛の有無”を削除

 『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版』が5月に発刊された。2011年の初版を踏襲しつつも今版では新たに蓄積された知見を反映し、診断基準や治療・予後に至るまで構成を一新した。そこで、腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン(GL)策定委員長の川上 守氏(和歌山県立医科大学 名誉教授/済生会和歌山病院 院長)に、脊柱管狭窄症の評価方法や難渋例などについて話を聞いた。腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインに“腰痛の有無は問わない”基準 腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインの目的の1つは、これを一読することで今後の臨床研究の課題を見つけてもらい、質の高い臨床研究が多く発表されるようになることだが、脊柱管狭窄症の“定義”自体に未だ完全な合意が得られていない。そのため診断基準も日進月歩で、明らかになった科学的根拠を基に随時更新を続けている。今回は腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン初版の診断基準で提示していた「歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する」を削除し、以下のとおりに「腰痛の有無は問わない」と明記された。<診断基準>(1)殿部から下肢の疼痛やしびれを有する(2)殿部から下肢の症状は、立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する(3)腰痛の有無は問わない(4)臨床初見を説明できるMRIなどの画像で変性狭窄所見が存在する その理由は、脊柱管や椎間板の狭小化による神経組織や血流の障害から惹起される腰痛と非特異的腰痛を鑑別する確立された評価法がないためである。さらに、川上氏によると「ガイドライン作成の基本は論文査続だが、腰痛の定義が一致していないことが問題で、臀部の痛みを腰痛に含める場合もある。腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021の6ページにあるように、腰痛を明確に鑑別することができないことから『腰痛の有無を問わない』とした。ただし、診断基準の(1)(2)(4)は従来通りで、これが揃えば腰部脊柱管狭窄による症状であると判断できる」と説明した。 一方で、「腰部脊柱管狭窄症患者の腰痛が除圧術で良くなったという報告がある。臀部痛を腰痛に含めた場合には神経障害性の痛みである可能性があり、神経除圧で腰痛が改善する例もある。前任地の和歌山県立医科大学紀北分院では、腰部脊柱管狭窄症患者の腰痛を明確に定義して、他の症状や画像所見との関係を調査した。その結果は投稿中だが、狭窄の程度や有無よりも椎間板や終板の障害と関連することが明らかとなったので、次回の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン改訂には引用してもらえるのではと考えている」とも話した。腰部脊柱管狭窄症診断ツールの利用とその状況、紹介タイミング 診断に有用な病歴や診察所見は、NASS(North American Spine Society)ガイドラインやISSLS(International Society for the Study of the Lumbar Spine)のタスクフォースによる国際的調査で報告された7つの病歴などに基づいている。また、診断ツールとしては、初版より“腰部脊柱管狭窄症診断サポートツール”(p12.表1)の使用が推奨されており、専門医のみならず、プライマリ・ケア医による診断、患者の自己診断にも有用とされる。 診断ツールの普及率や実際の使用例について、同氏いわく「このツールは広く使われているのではないか。と言うのは、優秀な友人の内科医が、“立位で下肢痛あり、ABI 0.9以上、下肢深部腱反射消失した75歳の女性を、腰部脊柱管狭窄症サポートツール8点と紹介状につけて紹介してくれたことがあった。実際は、変形性膝関節症だったが、地域でプライマリ・ケアを担っている先生が使ってくれているのだなぁと実感したことがあった」とし「しかしながら、腰部脊柱管狭窄症サポートツールは参考にはなるものの、最終的な診断は画像所見を含めて整形外科医、脊椎外科医にお願いしてほしい。7点をカットオフ値に設定した場合の感度は92.8%、特異度は72.0%である」と専門医への紹介理由を補足した。腰部脊柱管狭窄症、非専門医が鑑別できる症例と難しい症例 腰部脊柱管狭窄症と鑑別すべき疾患には“末梢動脈疾患などの血管性間欠跛行”がある。一般的にはABIを使って鑑別するが、非専門医などでABIを導入していない場合は「足背動脈や後脛骨動脈が触知するかどうかでABIの代わりになるだろう。また、糖尿病や高血圧症などの併存疾患があり、上述した動脈に触れない、または触れにくい場合には、専門医に紹介することを推奨している」と専門医への紹介タイミングにも触れた。 一方で、脊柱管狭窄症と鑑別が難しいのは、慢性硬膜下血腫、脳梗塞、パーキンソン病、頚髄症、胸髄症、末梢神経障害、そして末梢動脈疾患(PAD)の存在だ。同氏は「腰部脊柱管狭窄症と紹介された人の中に、実際はほかの疾患であった患者さんが結構いたのは事実。今はMRIが簡単に撮像できるが、画像上の脊柱管狭窄は高齢者であればかなりの頻度である。そこに下肢症状があると腰部脊柱管狭窄症と考えられてしまう傾向にある。そのため、他疾患がないか、他科への対診も含めて十分に検討した上で『腰部脊柱管狭窄症である』と分かった時には安心する。何故ならば、希望があれば最終的には手術で対応できるから」と自身の経験した難渋例と向き合い方を語った。 最後に腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021の編集にあたって苦労した点を伺うと、「やはり、“CQ12-2:腰部脊柱管狭窄症に対する椎弓根スクリューを用いた制動術は保存治療、除圧術、除圧固定術よりも有用か”のところ。論文の少ない項目もあったが、比較的質の高そうな論文を見ても最近の動向とかけ離れていることがわかった。併発症の発生率の高さや従来の術式を凌駕する臨床成績ではない点、並びにコストを考えると推奨し難い結果だった」と述べるとともに「今回の改訂で力を入れた1つに文言・文章の統一がある。委員会の先生方は育った大学・医局が違うため、文章の表現も微妙に異なる。文章の言い回しの統一を3人のコアメンバー(井上 玄氏[北里大学 診療教授]、関口 美穂氏[福島県立医科大学 教授]、竹下 克志氏[自治医科大学 教授])にお願いして、一緒に校正を行った。十分読み応えがあり、なおかつ非常に読みやすい文章のガイドライン改訂版になったと自負している」と振り返り、次回の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン改訂では、「医療者と患者双方に有益で相互理解に役立つか、効率的な治療により人的・経済的負担の軽減が期待できるかを視野に進めたい」と締めくくった。

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コロナ治療薬「ロナプリーブ」、短期入院や宿泊療養でも使用可/厚労省

 厚生労働省は8月13日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として先月、国内における製造販売を承認した「ロナプリーブ点滴静注セット300」「同1332」について、医療機関への配分を指示する事務連絡(2021年7月20日付で発出)の一部を改訂。主に軽症者~中等症を受け入れる医療機関における短期入院や、宿泊療養施設での使用も想定されるとの認識を示し、新たに記載を追加した。 今回の追記は、事務連絡の別添にある質疑応答集に加えられたもの。「ロナプリーブ」は、現状として安定的な供給が難しいことから、当面の間、重症化リスクのある入院患者が投与対象となり、本剤の配分を受けられる医療機関は、投与対象者を受け入れている病院または有床診療所とされていた。 改訂により、新たに使用できるケースとして「短期入院」と「宿泊療養施設・入院待機ステーション(臨時の医療施設等)」が示された。「短期入院」の場合は、主に軽症者~中等症を受け入れる医療機関において入院、投与後一定時間の健康観察を行った上、ごく短期間で宿泊療養・自宅療養に移行するというケースが想定される。一方「宿泊療養施設・入院待機ステーション(臨時の医療施設等)」の場合は、投与後の容態悪化に対応できるよう、療養先を有床診療所や有床の臨時医療施設化するというケースが想定される。なお、高齢者施設や自宅については、現時点では対象とならない。 ロナプリーブの配分を希望する場合は、従来通り、厚労省が「ロナプリーブ登録センター」に登録し、同センターを通じて配分依頼を行うことになる。具体的な登録方法・依頼方法については、製造販売業者からの案内または中外製薬ホームページ「PLUS CHUGAI」を参照、もしくはロナプリーブ専用ダイヤル(0120-002621)への問い合わせとなる。

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乾癬治療の生物学的製剤、重篤感染症リスクの違いは?

 乾癬治療の生物学的製剤と重篤感染症リスクについて、生物学的製剤を選択する際に有用な研究報告が、フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)のLaetitia Penso氏らによる中等症~重症の乾癬患者を対象としたコホート研究で示された。 エタネルセプト新規使用者を比較対照とした重篤感染症リスクは、インフリキシマブ、アダリムマブでは高い一方、ウステキヌマブでは低かった。またIL-17およびIL-23阻害薬やアプレミラストでは重篤感染症リスクの増大は認められなかったものの、非ステロイド性抗炎症薬や全身性コルチコステロイドとの併用によって増大したという。著者らは、「さらなる観察研究で、最新の薬剤に関する結果を確認する必要がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年7月21日号掲載の報告。 研究グループは、フランス国民の約99%をカバーする国民健康データシステム(National Health Data System)のデータを用いて、エタネルセプトを比較対照薬として、乾癬治療に使用される生物学的製剤およびアプレミラストの重篤感染症のリスクを評価するコホート研究を行った。 2008年1月1日~2019年5月31日にデータベースに登録された、2年以内に2つ以上の局所ビタミンD誘導体の処方を受けた成人乾癬患者を適格と定義し、試験対象集団には、生物学的製剤またはアプレミラストの新規使用者(すなわち前年に生物学的製剤またはアプレミラストの処方がなかった)を包含した。HIV感染症やがん、移植、または重篤感染症の既往者は除外した。フォローアップ終了は2020年1月31日であった。 主要エンドポイントは重篤感染症の発生で、傾向スコア加重Cox比例ハザード回帰モデルを用いたtime-to-event解析で、加重ハザード比(wHR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・生物学的製剤の新規使用者計4万4,239例が特定された。平均年齢は48.4(SD 13.8)歳、男性が2万2,866例(51.7%)、追跡期間中央値は12ヵ月(四分位範囲:7~24)だった。・計2万9,618例(66.9%)が初回に腫瘍壊死因子阻害薬を、6,658例(15.0%)がIL-12/23阻害薬を、4,093(9.3%)がIL-17阻害薬を、526例(1.2%)がIL-23阻害薬を、そして3,344例(7.6%)がアプレミラストの処方を受けた。・重篤感染症の発生は計1,656件で、全体の粗発生率は1,000人年当たり25.0(95%CI:23.8~26.2)だった。・最も頻度の高い重篤感染症は消化管感染症であった(645例・38.9%)。・時間依存共変数を調整後、重篤感染症のリスクはエタネルセプトの新規使用者と比べて、アダリムマブ(wHR:1.22、95%CI:1.07~1.38)またはインフリキシマブ(1.79、1.49~2.16)の新規使用者では増大した。・同様の評価で、ウステキヌマブの新規使用者では低下した(wHR:0.79、95%CI:0.67~0.94)。・同様の検討で、IL-17およびIL-23阻害薬グセルクマブまたはアプレミラストの新規使用者では、増大は認めらなかった。・重篤感染症リスクは、非ステロイド性抗炎症薬または全身性コルチコステロイドの併用で増大することが認められた。

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新型コロナウイルスにより急性心筋梗塞と脳梗塞のリスクが上昇(解説:佐田政隆氏)

 2021年8月8日に東京オリンピック2020が終了したところであるが、ニュースでは新型コロナウイルスの感染拡大の話題が連日取り上げられている。デルタ株が猛威を振るい各都道府県で新規感染者数の記録が更新され、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の施行地域も拡大している。また、医療現場のひっ迫状態に関する報道も続く。このような中、軽症者のみならず中等症の患者も一部は自宅待機することと、政府の方針が転換された。しかし、軽症者でも急変して死に至ることがあることが報告され、在宅療養者の不安の声がテレビに映し出されている。 では、新型コロナウイルス患者が急変する原因は何か、予測因子は何かを明らかにすることが重要である。以前から、急変は肺炎の増悪ばかりでなく血栓症でないかと多くの指摘があった。 本論文では、スウェーデンの個人識別番号(personal identification numbers)を用いた国家登録データベースが解析された。2020年2月1日~9月14日のCOVID-19感染患者8万6,742例が対象になった。34万8,481例のマッチした対照群と比較検討された。第0病日を除外して2週間のオッズ比は急性心筋梗塞が3.41、脳梗塞は3.63であった。第0病日を含めると2週間のオッズ比は急性心筋梗塞が6.61、脳梗塞は6.74であった。 今回は、静脈血栓塞栓症は解析の対象となっていないが、オッズ比はもっと高くなると思われる。突然の急性心筋梗塞、脳梗塞の発症を予知する診断技術や、抗血栓薬の予防的投与がCOVID-19患者の予後を改善するといったはっきりとしたエビデンスが確立していない現状では、本論文の締めくくりに記載されているようにCOVID-19ワクチン接種を加速するしか解決策はないようである。

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原則40歳以上が対象のコロナワクチン「バキスゼブリア筋注」【下平博士のDIノート】第80回

原則40歳以上が対象のコロナワクチン「バキスゼブリア筋注」今回は、「コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組み換えサルアデノウイルスベクター)(商品名:バキスゼブリア筋注、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は5月の特例承認後、国内使用について検討されていましたが、7月末に原則40歳以上の人への接種が承認されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年5月21日に特例承認され、7月30日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、予防接種法に基づく臨時接種として、原則40歳以上の人に使用することが承認されました。なお、(1)他の新型コロナウイルスワクチンに含まれる成分にアレルギーを有するなど医学的見地からとくに本剤を希望する場合、(2)他国で本剤の1回目を接種してから入国した場合、(3)他ワクチンの流通停止など緊急の必要がある場合、などであれば18~39歳でも接種が認められています。<用法・用量>1回0.5mLを4~12週間の間隔を置いて、2回筋肉内に接種します。本剤は2回接種により効果が確認されていることから、同一の効能・効果を持つ他ワクチンと混同することなく2回接種します。最大の効果を得るためには8週以上の間隔を置いて接種することが望ましいとされています。<安全性>臨床試験で報告された主な副反応は、注射部位圧痛(62.9%)、注射部位疼痛(54.7%)、疲労(51.6%)、頭痛(51.1%)、倦怠感(43.8%)、筋肉痛(43.5%)、発熱感(33.5%)、悪寒(31.0%)、関節痛(26.6%)、悪心(20.5%)、注射部位熱感(17.9%)、注射部位挫傷(17.9%)、注射部位そう痒感(13.1%)でした。重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、血栓症・血栓塞栓症(脳静脈血栓症・脳静脈洞血栓症、内臓静脈血栓症など)(いずれも頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。1回目に副反応が現れた場合は、2回目の接種前に医師などに伝えてください。3.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。4.副反応として、注射した場所の痛み・腫れ・発赤などの局所症状、発熱、頭痛、疲労、筋肉痛などが現れることがあります。接種後の注射部位の痛みや筋肉痛、発熱などの副反応に対して、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン、ロキソプロフェンなど)の使用が可能です。5.1回目接種時の副反応の多くは接種翌日に見られ、発症から1~3日以内に治まります。症状が回復せず、痛みや高熱などが持続する場合は、医師の診察を受けてください。6.心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。7.ごくまれに血小板減少症を伴う血栓症が起こることがあります。接種後4~28日は激しい頭痛や持続する頭痛、あざ、注射部位以外の小さな点状の内出血などの症状にとくに注意してください。これらの症状が認められた場合には、ただちに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で初めて承認されたウイルスベクターワクチンで、サル(チンパンジー)由来の非増殖性で弱毒化されたアデノウイルスに、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質の遺伝子を組み込んだ新しい製造方法のワクチンです。これまでに承認されているファイザー製ワクチン、モデルナ製ワクチンは、保管温度がそれぞれ-75℃、-20℃という超低温でしたが、本剤は2~8℃の冷蔵温度で6ヵ月間保管できるため流通・管理が容易で、当然ながら解凍の必要もありません。また、希釈の必要もありません。接種間隔は、8週以上の間隔を置くことが推奨されており、他ワクチンよりも長く設定されています。これは、初回接種から2回目接種までの接種間隔が、8週未満の場合よりも8週以上の場合のほうが有効性が高いためです。さらに、12週以上のほうが、6週未満の場合よりも有効率が高いということが報告されています。副反応は国内第I/II相試験と海外臨床試験の結果で大きな違いはありませんが、すでに承認されている2種のmRNAワクチンと異なり、2回目よりも初回接種後の副反応の頻度が高いことが特徴です。重大な副反応としては、血小板減少症を伴う血栓症に注意が必要です。本剤接種後に非常にまれ(10万人当たり1人未満)ですが、重篤な血小板減少症を伴う血栓症が認められ、致死的転帰の症例も報告されています。この血栓症が海外で問題視されたことから、わが国では使用が見合わせられていましたが、7月30日に公的接種の対象として厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で承認されました。なお、本剤は7月27日に添付文書の改訂指示が発出され、「毛細血管漏出症候群」が追記され、本症の既往歴のある人は接種不適当者とされました。本剤との関連性は確立されていないものの、海外において非常にまれながら手足の浮腫、低血圧、血液濃縮、低アルブミン血症などが報告されているため、そのような症状が認められた場合はただちに医師などに相談するようにあらかじめ伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 バキスゼブリア筋注

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下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】第5回

第5回 下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?―Key Point―下痢症状から急性胃腸炎の診断をするときは、本当に診断が正しいのかどうか後ろめたい気持ちにならなければならない。なぜなら、ゴミ箱診断の可能性があるからである。48歳男性が動悸を主訴に救急室を受診。1週間前から臥位で寝ると息苦しいという。3日前に下痢と発熱が出現。昨日は37.9℃、水様便10回と嘔吐20回あり。意識清明で38.2℃、血圧230/102mmHg、心拍数132回/分(絶対性不整脈)、呼吸回数22回/分だった。ベラパミル(商品名:ワソラン)5mgを2回静注しても頻脈は変化なし。甲状腺機能を調べるとTSH:0.01μIU/mL(基準値:0.3~4.0)、 FT4:8ng/dL(基準値:0.9~1.7)であった。このとき優秀な後期研修医が「発熱+下痢+嘔吐+頻脈+心不全、これって甲状腺クリーゼじゃないの」と気が付いてくれた。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!経口摂取や消化液の分泌により、毎日7.5Lの水分が消化管に流れ込む。小腸でほとんどの水分が吸収され、1.2Lの水分が大腸に到達する。大腸は1Lの水分を吸収するため、正常の便は200mLの水分を含む。したがって、大量の下痢は小腸に病変があることを示す1)急性下痢は感染症、慢性下痢は感染症以外で起こることが多い急性下痢では脱水になっていないかの評価が重要である就寝中に起こる下痢は器質的疾患の存在を示唆する大腸がんでは便秘のみならず下痢となることもある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】疾患の緊急性を見極める下痢は腸管以外の原因から考える。下痢の原因は腸管にあると考えがちだが、緊急性が高い腸管以外の疾患から考えるようにするとよい。●緊急性が高い“腸管以外”の疾患甲状腺クリーゼ、アナフィラキシー、トキシックショック症候群(TSS)、敗血症、腹膜炎、膵炎、薬剤●うんちしたい症候群(しぶり腹)大動脈瘤の切迫破裂、直腸がん、異所性妊娠、虚血性腸炎、炎症性腸疾患、細菌性大腸炎、急性虫垂炎、憩室炎、直腸異物*しぶり腹とは激しい便意にもかかわらず、ほとんど便が出ない状態*S状結腸や直腸に刺激が加わるとしぶり腹になる●血便が出る感染性下痢症腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ【分類】■急性下痢(1)炎症性(大腸型)下痢腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、カンピロバクター、赤痢アメーバ*発熱、少量頻回(8~10回/日)の血性下痢、しぶり腹(2)非炎症性(小腸型)下痢ノロウイルス、ロタウイルス、コレラ、ウェルシュ、ランブル鞭毛虫*軽度の発熱、多量の水様下痢(3~4回/日)、悪心嘔吐、脱水■慢性下痢2)(1)浸透圧性下痢乳糖不耐症、下剤*乳糖不耐症は大人になって起こることがある*絶食により下痢は軽快する(2)炎症性下痢炎症性腸疾患、顕微鏡的大腸炎、放射線照射性腸炎、好酸球性腸炎、悪性腫瘍(大腸がん、悪性リンパ腫)*NSAIDsやプロトンポンプ阻害薬は顕微鏡的大腸炎を起こす*炎症性腸疾患は30~40代で多く、顕微鏡的大腸炎は70~80代に多い。(3)吸収不良症候群慢性膵炎、small intestinal bacterial overgrowth(SIBO、小腸内細菌異常増殖症)、短腸症候群*脂肪便は悪臭を伴い、便器に付着したり水に浮いたりする(4)分泌性下痢神経内分泌腫瘍(カルチノイドやVIPoma)、胆汁酸による下痢(5)腸管運動の異常過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能亢進症、強皮症(6)慢性感染症ランブル鞭毛虫、アメーバ赤痢、Clostridium difficile【STEP3】検査で原因を突き止める●急性下痢のほとんどは自然治癒するので検査は不要●以下の症状があれば検査が必要発熱(38.5℃超)、血便、脱水、ひどい腹痛、免疫力が低下している、高齢者(70歳超)、衛生状態が悪い外国から帰国症状に応じて血算、生化学、ヘモグロビン、便中白血球、便培養、CD毒素/抗原、寄生虫、大腸カメラを考慮する。●薬が原因の下痢は多い(薬剤性下痢)化学療法薬、抗菌薬、NSAIDs、アンギオテンシンンII受容体拮抗薬(とくにオルメサルタン)、プロトンポンプ阻害薬、ジゴキシン、メトホルミン、コルヒチン、ジスチグミン*、人工甘味料、アルコール*ジスチグミン(商品名:ウブレチド)はコリン作動性クリーゼを起こす<参考文献>1)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. p.176-197.2)Alguire PC, et al. MKSAP18 Gastroenterology and Hepatology. 2018. p.26-35.

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第73回 若いマウスの糞移植で老齢マウスの脳が若返り

歳を取ると忘れっぽくなり、習い事が身に付き難くなります。脳の機能を良好に保つのは容易ではありませんが、老いたマウスが若いマウスからある物を取り入れることで脳の衰えが解消して若返りうることが示されました1,2)。ヒトでも同様の効果があるとすればしない手はないでしょうが、怖じ気付かずに実行するには相当なガッツで腹を決める必要があるかもしれません。老齢マウスが若いマウスから何を受け取ったかといえばその糞です。そうすることで糞中の微生物の老化への関与が検討されました。研究者は生後3~4ヵ月の若いマウスの糞を8週間のあいだ週に2回栄養チューブで生後19~20ヵ月の老齢マウスに投与しました3)。その結果、最初の変化として老齢マウスの腸の微生物組成が若いマウスに似通い始め、若いマウスと同様に腸球菌がより豊富になりました。脳も変化し、学習や記憶と関連する脳領域・海馬の性質が若いマウスのそれにより近くなりました。老化と関連する脳と末梢の免疫の差も解消しました。効果は振る舞いにも現れました。迷路をより早く通れるようになり、もう1回させたところ迷路の道順をより覚えており、老化と関連する認知障害の改善が裏付けられました。若いマウスではなく老齢マウスの糞が与えられた老齢マウスではそれらの効果は認められていません。老いた個体の糞を若い個体に移植するとどうなるのか? 去年5月の別の報告4)によると若返りとは逆の衰えが生じます。すなわち老齢ラットからの糞移植で若いラットはワーキングメモリー障害、樹状突起棘の減少、神経栄養因子(BDNF)発現低下などの認知機能低下を意味する振る舞いや脳の変化を呈しました。血を薄めるだけでも若返る?若返りの源はなにも糞中微生物に限らず血液にもどうやら含まれています。数年前のスタンフォード大学のTony Wyss-Coray氏等の論文報告によると、老齢マウスに若いマウスの血漿を注射したところ糞の移植と同様に老化関連認知障害が改善しました5)。血漿の投与はいつもの臨床の一環であり、その試験をするのに米国FDAの承認を得る必要がありません。そこで早速Wyss-Coray氏等は新会社を設立し、若い人の血漿をアルツハイマー病患者に投与する試験の計画に取り掛かり、2014年5月の論文発表から4ヵ月後の同年9月には早くも試験へのアルツハイマー病患者の組み入れが始まりました。18~30歳の若者の血漿をアルツハイマー病患者18人に投与したその試験の結果は2019年にJAMA Neurology誌に掲載され、主な目当てであった安全性や良好な忍容性などが確認されました6)。効果のほどは被験者数が少なくて投与期間も短いのでなんとも言えず、今後の大規模試験での検討が必要です。若さに頼らない若返りの方法も研究されています。たとえば血を薄めることはその1つで、去年5月の報告によると老いたマウスの血漿の半分をそれらに含まれるアルブミン相当量含有(アルブミン5%)生理食塩水で置き換えて血漿中のタンパク質を薄めたところ脳、肝臓、筋肉が若い血を入れたときと同程度かそれ以上に若返りました7,8)。血漿成分を変える瀉血は自己免疫疾患の治療として米国FDAにすでに承認されています。高齢者の健康や回復力の改善に瀉血が役立つかもしれないと著者は述べています。参考1)Boehme M,et al. Nature Aging. 2021 Aug 9.2)Microbes turn back the clock as UCC research discovers their potential to reverse aging in the brain / University College Cork3)New poo, new you? Fecal transplants reverse signs of brain aging in mice / Science4)Li Y,et al. Aging (Albany NY). 2020 May 1;12:7801-7817.5)Villeda SA,et al.Nat Med. 2014 Jun;20:659-63.6)Sha SJ, et al.JAMA Neurol. 2019 Jan 1;76:35-40.7)Mehdipour M, et al. Aging (Albany NY). 2020 May 30;12:8790-8819.8)Diluting blood plasma rejuvenates tissue, reverses aging in mice /Eurekalert.

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双極性障害に対する認知行動療法の有効性~システマティックレビュー

 双極性障害は、慢性的な経過をたどり、死亡リスクに重大な影響を及ぼす精神疾患である。双極性障害の生涯有病率は、1~1.5%といわれており、躁症状とうつ症状またはその両方が認められる混合状態の再発エピソードを特徴としている。双極性障害の治療には、薬理学的および心理学的治療があり、認知行動療法(CBT)の有用性が示されているものの、現在のエビデンスでは十分な臨床情報が得られていない。ペルー・Hospital de Emergencias Villa El SalvadorのGlauco Valdivieso-Jimenez氏は、双極性障害に対するCBT単独療法または薬理学的治療の補助療法としてのCBT併用療法の有効性を判断するため、システマティックレビューを実施した。Revista Colombiana de Psiquiatria誌オンライン版2021年7月6日号の報告。 抽出された17件の文献のシステマティックレビューを実施した。選択基準は、18~65歳の双極性障害患者を対象に、薬理学的治療の有無にかかわらずCBTの有効性を評価した定量的または定性的な英語文献とした。除外基準は、システマティックレビューおよびメタ解析文献、双極性障害に加えて他の診断を有する患者を含み疾患別に結果を評価しなかった文献、DSMまたはICDの双極性障害診断基準を満たしていない患者を対象とした文献とした。双極性障害およびCBTをキーワードとして用いて、2020年1月5日までの文献を各種データベース(PubMed、PsycINFO、Web of Science)より検索した。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、1,531例が含まれた。・加重平均年齢は、40.703歳であった。・CBTのセッション数は8~30セッション、合計時間は45~120分であった。・すべての研究において、抑うつ症状レベルおよび躁症状の重症度の改善、機能の改善、再発再燃の減少、不安症状レベルおよび不眠の重症度の改善が認められた。 著者らは「双極性障害に対するCBT単独または併用療法は、治療後およびフォローアップ中に有用な結果をもたらすと考えられる。CBTにより、抑うつ症状や躁症状の軽減、再発再燃の減少、心理社会的機能レベルの上昇が期待できる」としている。

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日本の子宮頸がん、過去10年の罹患率増は世界ワースト

 子宮頸がんは、発症頻度は高いものの予防や制御のしやすいがんであり、先進国においては経済や社会の発展に伴って、罹患数や死亡数は減少トレンドにある。しかし、感染予防に最も効果的なHPVワクチンの接種が進んでいない日本においてはこの傾向と反する状況にあることが新たな研究で裏付けられた。子宮頸がんの罹患率・死亡率と、人間開発指数(HDI)との関連を調べた中国チームの調査によるもので、Cancer誌オンライン版8月9日号に掲載された。子宮頸がんの罹患率を国際比較すると日本は4.2%と最も高かった 研究チームは、2018年の子宮頸がんの罹患率と死亡率をGLOBOCANデータベースから抽出し、平均寿命、教育、国民総所得からなる平均的な社会経済的発展の指標である人間開発指数との相関関係を国際比較した。現在のトレンドはCancer Incidence in Five Continents PlusとWHO(世界保健機関)の死亡率データベースから経時的なデータが得られる世界31ヵ国を対象に、Joinpoint回帰法による年間変化率を用いて分析した。さらに、うち27ヵ国を対象に、今後15年間の将来の傾向についてAPCモデルを用いて予測した。 子宮頸がんの罹患率と死亡率を国際比較した主な結果は以下のとおり。・全体の子宮頸がんの罹患率および死亡率は、人間開発指数と負の相関があった(罹患率r = -0.56、死亡率r = -0.69、p < 0.001)。しかし、日本においては正の相関があった(罹患率r= 0.48、p

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