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日本人統合失調症患者における自殺企図の出現時期と重症度との関連

 岩手医科大学の伊藤 ひとみ氏らは、日本人統合失調症患者における自殺念慮の出現時期、自殺企図の重症度、これらに関連する因子の調査を行った。PCN Reports誌2025年7月6日号の報告。 対象は、2003〜21年に自殺企図のため救急外来を受診した統合失調症患者273例。自殺念慮の出現時期に基づき、同日群または同日前群のいずれかに分類した。受診時に観察された患者の人口統計学的特徴および精神症状に関するデータを収集した。また、自殺の動機および自殺企図手段に関するデータを分析し、自殺念慮の出現時期、自殺企図手段の重症度、関連因子との関係を検証した。 主な結果は以下のとおり。・同日前群は、同日群と比較し、高度な自殺企図手段を選択する可能性が有意に高かった(p=0.03)。・同日群では、高度な自殺企図手段の選択と幻覚・妄想に関連する自殺動機との間に強い正の相関が認められた(オッズ比[OR]:2.01、95%信頼区間[CI]:1.01〜4.03、p=0.049)。・一方、同日前群では、過去1年間の自殺企図歴と高度な自殺企図手段の選択との間に負の関連が認められた(OR:0.32、95%CI:0.12〜0.86、p=0.023)。 著者らは「日本人統合失調症患者における自殺リスクの評価と介入戦略の強化について重要な知見が明らかとなった。自殺念慮の出現時期は、自殺企図の重症度に有意な影響を及ぼすことが示唆された」と結論付けている。

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胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児、経口補液vs.静脈内補液/NEJM

 胃腸炎を伴う重度急性栄養失調児に対して、経口補液療法と静脈内補液療法の間に、96時間時点の死亡率に関して差異があるとのエビデンスは認められなかった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKathryn Maitland氏らGASTROSAM Trial Groupが非盲検優越性無作為化試験の結果を報告した。国際的な勧告では、体液過剰への懸念から重度急性栄養失調児への静脈内補液療法は推奨されていないが、その懸念を裏付けるエビデンスは不足していた。一方で、現行勧告下での高い死亡率から、静脈内補液療法戦略を選択肢の1つとすることによるアウトカム改善への可能性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2025年6月13日号掲載の報告。アフリカの4ヵ国6病院で生後6ヵ月~12歳児対象の無作為化試験 研究グループは、アフリカの4ヵ国6病院(ウガンダ2、ケニア2、ニジェール1、ナイジェリア1)で、静脈内補液療法(急速または緩徐)が標準的な経口補液療法と比べて死亡率低下と結び付くかを評価する、治験担当医師主導の要因デザインを用いた多施設共同非盲検無作為化優越性試験を実施した。 胃腸炎かつ脱水症状を伴う重度急性栄養失調の生後6ヵ月~12歳児を、2対1対1の割合で次の3種類の補液戦略のいずれか1つを受けるよう割り付けた。(1)経口補液+ショックに対する静脈内ボーラス投与(経口群)、(2)乳酸リンゲル液100mL/kgを3~6時間で投与+ショックに対するボーラス投与(急速静注群)、(3)乳酸リンゲル液100mL/kgを8時間で投与(緩徐静注群) 主要エンドポイントは、96時間時点の死亡率であった。96時間時点の死亡、経口群8%、静注群7% 2019年9月2日~2024年10月27日に計272例が無作為化された(経口群138例、急速静注群67例、緩徐静注群67例)。被験児の年齢中央値は生後13ヵ月であり、28日間追跡調査(最終フォローアップ)を受けた。4例(1%)が中途で脱落したが、全例をすべての解析に組み入れた。経鼻カテーテルを用いた補液が、経口群126/135例(93%)、静注群82/126例(65%)で行われた。ショックに対するボーラス投与が入院期間中に行われたのは経口群12例(9%)、急速静注群7例(10%)、緩徐静注群はなしであった。 96時間時点で死亡は、経口群11例(8%)、静注群9例(7%)(急速群5例[7%]、緩徐群4例[6%])で報告された(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.41~2.52、p=0.69)。 28日時点における死亡は、経口群17例(12%)、静注群14例(10%)(急速群8例[12%]、緩徐群6例[9%])であった(ハザード比:0.85、95%CI:0.41~1.78)。 重篤な有害事象の発現は、経口群32例(23%)、急速静注群14例(21%)、緩徐静注群10例(15%)で報告された。肺水腫、心不全、体液過剰のエビデンスは認められなかった。

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インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA

 米国では2024~25年のインフルエンザシーズン中、大規模な小児医療センターの医師たちから、インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の小児患者数が増加したと報告があった。このことから、同国・スタンフォード大学のAndrew Silverman氏らIA-ANE Working Groupは、全米を対象とした直近2シーズンの症例集積研究を実施。主として若年で直前までは健康であった小児の集団において、IA-ANEの罹患率および死亡率が高かったことを明らかにした。急性壊死性脳症(ANE)は、まれだが重篤な神経系疾患であり、疫学データおよび治療データは限られていた。JAMA誌オンライン版2025年7月30日号掲載の報告。2024~25年インフルエンザシーズンのANE小児を調査 研究グループは、IA-ANEと診断された米国の小児における臨床症状、介入およびアウトカムを明らかにするため、ANEと診断された小児を対象に多施設共同集積研究にて長期追跡調査を行った。 症例募集は、学会、公衆衛生機関を通じたほか、同国内76の大学医療センターの小児専門医に直接コンタクトを取り、2023年10月1日~2025年5月30日の症例の提供を要請して行った。 対象基準は、放射線学的な急性視床障害および臨床検査によりインフルエンザ感染が確認された21歳以下の急性脳症患者とした。 主要アウトカムは、主な症状、ワクチン接種歴、検査値および遺伝学的所見、介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア[0:症状なし、1~2:軽度障害、3~5:中等度~重度障害、6:死亡]など)、入院期間、機能的アウトカムであった。39例(95%)がインフルエンザAに感染 提供された58例のうち、23病院からの41例(女児23例、年齢中央値5歳[四分位範囲[IQR]:2~8])が対象基準を満たした。31例(76%)は重大な病歴を有していなかったが、5例(12%)は複雑な疾患を有していた。 主な臨床症状は、発熱38例(93%)、脳症41例(100%)、けいれん発作28例(68%)であった。39例(95%)がインフルエンザA(A/H1pdm/2009:14例、A/H3N2:7例、サブタイプ不明:18例)、2例がインフルエンザBに感染していた。 検査所見で異常値が認められたのは、肝酵素の上昇(78%)、血小板減少症(63%)、脳脊髄液タンパク質の上昇(63%)などであった。 遺伝子検査を受けた32例(78%)のうち、15例(47%)にANEリスクに関連する可能性がある遺伝的リスクアレルがあり、11例(34%)はRANBP2変異を有していた。季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみ ワクチン接種歴が入手できた38例のうち、年齢に応じた季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみだった。 ほとんどの患者は複数の免疫調節療法を受けていた。メチルプレドニゾロン(95%)、免疫グロブリン静注(66%)、トシリズマブ(51%)、血漿交換(32%)、anakinra(5%)、髄腔内メチルプレドニゾロン(5%)などであった。 ICU在室期間中央値は11日(IQR:4~19)、入院期間中央値は22日(7~36)。11例(27%)が症状発症から中央値3日(2~4)で死亡し、主な死因は脳ヘルニア(91%)であった。90日間の追跡調査を受けた生存児27例のうち、17例(63%)が中等度以上の障害(修正Rankinスケールスコア3以上)を有していた。

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モデルナのLP.8.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは8月5日付のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注シリンジ 12歳以上用」および「スパイクバックス筋注シリンジ 6ヵ月~11歳用」について、2025~26年秋冬シーズン向けのオミクロン株JN.1系統の変異株LP.8.1対応とする一部変更承認を、8月4日に厚生労働省より取得したことを発表した。6ヵ月~11歳用については、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する一部変更承認も7月29日に取得した。 これらの承認により、2025年10月から開始予定の定期接種の対象者だけでなく、生後6ヵ月以上のすべての世代で、LP.8.1対応の本ワクチンを接種することが可能となる。12歳以上用は定期接種開始前の9月中、6ヵ月~11歳用は10月に供給開始の予定。 2025~26年秋冬シーズンの定期接種の対象者は、65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人となっている。定期接種は各自治体において設定された自己負担額が発生する。 厚生労働省が8月1日付で発表した新型コロナの発生状況では、2025年第30週(7月21~27日)の定点報告数は全国平均で1医療機関当たり4.12人となり、沖縄県を除く全都道府県で増加している。

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禁煙にはニコチンガムよりニコチン入り電子タバコ

 禁煙に際して、ニコチンを含んだガムや飴を用いるよりも、ニコチンを含む電子タバコの方が、効果が優れていることを示唆する研究結果が発表された。6カ月間での禁煙成功率に、約3倍の差があったという。ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)および国立薬物・アルコール研究センターのRyan Courtney氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。なお、研究者らは、長期的な禁煙継続率への影響は未確認であることを指摘している。 この研究は、公的年金等を受給している社会的弱者に該当する成人のうち、禁煙の意思がありながら毎日喫煙している1,045人を対象として、2021年3月~2022年12月に実施された。ランダムに1対1の割合で2群に分け、1群にはニコチン入りのガムや飴、他の1群にはメンソールやフルーツ風味のフレーバー付きニコチン入り電子タバコを、それぞれ8週間分支給。また、全員に対して5週間にわたり、禁煙サポートのためのテキストメッセージの自動配信を行った。 7カ月後の追跡調査を受けたのは866人(82.9%)だった。割り付けを知らされていない研究者が盲検下で、一酸化炭素呼気試験により禁煙/非成功を判定。ニコチン入りのガムや飴を受け取っていた群では9.6%(523人中50人)が、6カ月間禁煙が継続していたと判定された。一方、電子タバコを受け取っていた群のその割合は28.4%(522人中148人)と高かった(リスク差の推定値18.7%〔95%信頼区間14.1~23.3%〕、電子タバコが優れている事後確率が99%超)。また、自己申告による有害事象の発生率は、電子タバコ群の方が有意に低かった(発生率比0.75〔同0.65~0.88〕、P<0.001)。 以上を基に著者らは、「社会的に不利な立場にある人々を対象とした今回の研究では、フレーバーを選べるニコチン入り電子タバコを、わずかなテキストメッセージによる行動支援と組み合わせて提供した場合、ニコチン代替療法としてのガムや飴と比較して、より高い効果を期待できることが示された」と結論付けている。ただし、「ニコチン入り電子タバコによる禁煙が成功した後に、その状態が長期間維持されるという確実な証拠を得るため、さらなる研究が必要だ」としている。 また、その他の留意事項として、「現時点のエビデンスは、紙巻タバコから電子タバコへと完全に切り替えた場合に、健康リスクが低下する可能性を示唆している。しかし、電子タバコの健康への長期的な影響はほとんど分かっていない。電子タバコが心臓血管系の健康に悪影響を与える可能性があることを示すデータも出てきている」と付け加えている。 なお、日本ではニコチンを含む電子タバコは承認されていない。

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ガバペンチンは認知症の発症リスクを高める?

 発作、神経痛、むずむず脚症候群の治療に使用される薬剤のガバペンチンが、認知症の発症リスク増加と関連している可能性があるとする研究結果が発表された。ガバペンチンを6回以上処方された場合、認知症リスクが29%、軽度認知障害(MCI)リスクが85%増加する可能性が示されたという。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のNafis Eghrari氏らによるこの研究の詳細は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に7月10日掲載された。 研究グループによると、ガバペンチンはオピオイドほど中毒性がないため、慢性疼痛の治療薬としての人気が上昇の一途をたどっている。しかしその一方で、ガバペンチンには神経細胞間のコミュニケーションを抑制する作用があることから、ガバペンチンの使用が認知機能の低下を招く可能性があることに対する懸念も高まりつつあるという。 今回の研究では、大規模医療データベースTriNetXの2004年から2024年までの匿名化した腰痛患者のデータを用いて、ガバペンチンの処方歴と認知症およびMCIリスクとの関連を検討した。年齢や性別などの社会人口学的属性、併存疾患、疼痛関連薬剤などで傾向スコアマッチングを行った結果、解析対象は2万6,416人となった。ガバペンチンは、6回以上の処方歴がある場合を「ガバペンチンの処方歴あり」と見なした。 解析の結果、ガバペンチン処方群では非処方群と比べて、認知症リスクが1.29倍(リスク比1.29、95%信頼区間1.18〜1.40)、MCIリスクが1.85倍(同1.85、1.63〜2.10)であることが示された。対象者を65歳以上の高齢者と18〜64歳の非高齢者に分けて解析すると、高齢者のガバペンチン処方群では非処方群と比べて、認知症リスクが1.28倍、MCIリスクが1.53倍であり、非高齢者でのリスクはそれぞれ2.10倍、2.50倍とより顕著だった。さらに、これらのリスクはガバペンチンの処方頻度の増加に伴い上昇し、処方頻度が12回以上の患者では3〜11回の患者に比べて、認知症リスクが1.4倍、MCIリスクが1.65倍であった。 ただし、本研究は観察研究であるため、ガバペンチンと脳機能低下との直接的な因果関係を証明することはできないと研究グループは指摘している。 研究グループは、「この研究結果は、ガバペンチンを処方された成人患者を綿密に監視し、認知機能低下の可能性を評価する必要があることを裏付けている」と述べている。また研究グループは、「今回の研究が、ガバペンチンと認知症発症との因果関係や、この関係の根底にあるメカニズムの解明を目指すさらなる研究につながることを期待している」と述べている。

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食事パターンは慢性便秘リスクに影響

 食生活を変えることで中高年の慢性便秘リスクを軽減できることが、新たな研究で示された。検討した5つの食事パターンの中で便秘予防効果が最も高かったのは、地中海食とプラントベース食であることが示されたという。米マサチューセッツ総合病院のKyle Staller氏らによるこの研究の詳細は、「Gastroenterology」に7月2日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘は何百万人もの人に影響を与えており、患者の生活の質(QOL)に重大な影響を与える可能性がある。この研究結果は、年齢を重ねるにつれて、特定の健康的な食事が既知の心血管系への効果だけでなく腸にも効果をもたらす可能性があることを示唆している」と話している。 この研究では、医療従事者の健康状態を追跡する3つの研究のデータを分析し、5つの食事パターンおよび食事指標と慢性便秘との関連が検討された。5つの食事パターンおよび食事指標とは、代替地中海食(aMED)、低炭水化物食(LCD)、西洋式食事、植物性食品指数(plant based dietary index;PDI)、経験的炎症性食事パターン(empirical dietary inflammatory pattern;EDIP)であった。地中海食は、野菜、果物、豆類、レンズ豆、全粒穀物、ナッツ類、種子、オリーブ油、ハーブ、スパイスを多く摂取し、乳製品、魚、鶏肉は週に数回の摂取にとどめる一方で、赤肉や加工肉の摂取は控えめにする食事法である。一方、西洋式食事では、赤肉や加工肉、精製穀物、脂肪分の多い食品、甘いお菓子が多く摂取される。 対象者は、Nurses’ Health Study(NHS)参加女性2万7,774人(平均年齢78.4歳)、NHS II参加女性5万5,906人(同60.5歳)、およびHealth Professional Follow-up Study(HPFS)参加男性1万2,237人(同78.6歳)であった。これらの参加者は、それぞれの研究の一環として定期的に食事に関する調査に回答しており、その調査結果から、5つの食事パターンおよび食事指標の長期的な遵守状況が評価された。慢性便秘は、過去1年間で12週間以上繰り返し報告された便秘症状を基に特定された。 2〜4年間の追跡期間中に7,519件の便秘が発生していた。解析の結果、aMEDの遵守度が最も高い最高五分位群では、最も低い最低五分位群と比較して慢性便秘の発症リスクが16%低いことが示された。同様にPDIでも、最高五分位群では最低五分位群に比べて同リスクが20%低かった。一方、EDIP、西洋式食事の最高五分位群では最低五分位群に比べて慢性便秘の発症リスクがそれぞれ24%、22%上昇しており、LCDでも3%の上昇傾向が認められた。 Staller氏は、「この研究結果は、野菜やナッツ類、健康的な脂肪を豊富に含む食生活が中高年の慢性便秘の予防に役立つ可能性があることを示唆している」と結論付けている。また研究グループは、「健康的な食事が便秘の緩和に役立つことは知られているが、特定の食事法が便秘自体を予防できる可能性があることを示した研究はこれが初めてだ」と述べている。 興味深いことに、この研究では、食物繊維の摂取量による影響は認められなかったという。この点についてStaller氏は、「これまで、健康的な食事のメリットは食物繊維によるものだと考えるのが常であったが、われわれの分析では、便秘に対する健康的な食事のメリットは食物繊維の摂取量とは無関係であることが示された」と驚きを表す。ただし研究グループは、「この結果を検証するには、より大規模で若く健康な集団を対象にしたさらなる研究が必要だ」と付け加えている。

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クローン病へのグセルクマブの静脈内導入療法と皮下維持療法の有効性と安全性:2つの第III相試験(GALAXI-2および3)の48週時点の結果(解説:上村 直実 氏)

 指定難病であるクローン病(CD)の患者数は日本でも次第に増加して、近々5万例に達する見込みであるが、潰瘍性大腸炎と違って軽症例は少なく中等症から重症例が多く、内科的治療により寛解不能で外科的手術が必要な患者も多いのが現状である。完全治癒が見込めないCDに対する治療の基本は、病気の活動性のコントロールにより寛解状態を維持し、さらに日常生活に影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症を予防することにあるが、最近は内視鏡的な粘膜治癒を目的とした治療方針が必須となっている。粘膜治癒を目的とした抗TNF療法が使用されるケースが増えているが、抗TNF療法の無効例や効果が減弱してくる患者、副作用により治療中断を余儀なくされる症例が少なくなく、中等症から重症例に対しては、インターロイキン(IL)阻害薬や抗インテグリン抗体薬などの生物学的製剤が使用されることが多くなっている。 今回、中等症~重症の活動期CDの寛解導入および寛解維持療法における新たなIL阻害薬であるグセルクマブ(商品名:トレムフィア[ヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体])の有用性と安全性を検証するためにプラセボおよび抗IL12/IL-23p40抗体ウステキヌマブ(同:ステラーラ)を対照とした二重盲検トリプルダミー試験が行われた結果、グセルクマブが寛解導入および維持療法においてプラセボおよびウステキヌマブと比べて有意な優越性を示したことが2025年7月のLancet誌に掲載された。 本研究の特徴は、プラセボのみでなく実薬を対照とした点と寛解導入試験開始時の割り付けのままで維持療法終了時まで一貫して評価するtreat-through designを採用している点である。すなわち、寛解導入試験の開始時に2用量のグセルクマブとプラセボおよびウステキヌマブの4群に無作為割り付けをして、治療開始12週時点での臨床的奏効率を比較した後、そのまま同じ薬剤の投与を継続して40週時点での臨床的有効率および内視鏡的奏効率を比較検討した方法である。この研究方法は、潰瘍性大腸炎に対する寛解導入および維持療法におけるエトラシモドの有用性を示した研究(CLEAR!ジャーナル四天王「潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるetrasimodの有用性」)や活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性(CLEAR!ジャーナル四天王「活動性クローン病に対する抗サイトカイン抗体ミリキズマブの有効性と安全性」)などで使用された研究デザインであり、今後、標準的な試験方法となる可能性が高い。 実薬同士の比較試験については、昨年報告されたCDに対するリサンキズマブ(商品名:スキリージ)とウステキヌマブの直接比較試験(CLEAR!ジャーナル四天王「クローン病に対するリサンキズマブとウステキヌマブの直接比較」)に引き続くものであるが、グセルクマブとウステキヌマブはわが国でCDに対する保険適用を有している薬剤であり、今後、このような実薬同士の比較試験が公表されると臨床現場で使用する際に有益な情報となると思われる。

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小児の熱中症【すぐに使える小児診療のヒント】第5回

小児の熱中症暑い日が続いていますね。今回は小児の熱中症についてお話します。近年、「熱中症」という言葉の認知度は大きく高まりました。学校や保育施設では暑さ対策が徹底され、保護者の多くにも「熱中症=命に関わる疾患」として理解されるようになっています。これは、予防意識の向上という点で非常に重要であり、歓迎すべき変化です。しかしその一方で、「夏の体調不良はすべて熱中症」とみなしてしまう風潮が広がっているようにも感じます。症例3歳、男児。発熱と倦怠感、頭痛があり、外来を受診。母「今日、公園で遊んだあとから、ぐったりしてきました。暑かったのでやっぱり熱中症でしょうか?」夏の外来では、このような保護者の訴えとともに小児が受診することが増えます。「熱中症」というワードが広く知られるようになって15年ほどになりますが、熱中症診療ではどのような点に注意すればよいのでしょうか。小児が熱中症にかかりやすい理由小児は、大人に比べて熱中症にかかりやすく、さらに重症化もしやすいと言われています。その背景には、いくつかの身体的・行動的な特徴があります。体温調節機能の未熟さ乳幼児は汗腺の発達が不十分であるため、体内に熱がこもりやすく、体温が急激に上昇してしまうリスクがあります。身体的な特徴体重に対して体表面積が大きいため、外気温の影響を受けやすいです。また、地面に近い位置にいるぶん、大人よりも地面からの照り返し(輻射熱)の影響を強く受けます。体調変化を伝えるのが困難喉の渇きやしんどさを訴えることができず、そのまま無理をして遊び続けてしまうこともあります。小児の熱中症では見た目の元気さに惑わされず、小児の様子をよく観察し、大人が先回りして声かけや水分補給、環境調整を行うことが重要です。熱中症の病態と診療のポイント熱中症の病態は、大きく「暑熱障害」と「脱水」に分けられます。暑熱障害は高体温の遷延により神経細胞が障害される病態です。一方、脱水では発汗や水分摂取不足により循環血液量が減少し、臓器虚血を引き起こします。細胞障害によって放出されるDAMPs(Damage-associated molecular patterns)が免疫系を刺激し、炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6など)や組織因子の産生を促進することで血管内皮障害を引き起こし、播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全へと進行することもあります。診断は「暑熱環境にいる、あるいはいた後」に出現する症状(立ちくらみ、生あくび、大量発汗、意識障害、高体温など)に基づき、感染症や中枢性高体温、甲状腺クリーゼなど他の原因疾患を除外して行います。2024年に改訂された日本救急医学会のガイドラインでは、最重症のIV度(深部体温40.0℃以上かつグラスゴー・コーマ・スケール[GCS]≦8)が新たに追加され、重症度がI〜IV度の4段階に分類されるようになりました。画像を拡大する熱中症では発汗や不感蒸泄による水・電解質の喪失が顕著なため、塩分を含む経口補水液(Oral rehydration solution:ORS)の使用が重要です。経口摂取困難時や意識障害がある場合は点滴治療が必要であり、重症例では迅速な深部体温測定と積極的な冷却(Active Cooling)が予後を左右します。初期対応の遅れが重症化を招くため、的確な病態理解と迅速な対応が求められます。「熱中症」という名前の強さとその影熱中症の認知度が高まったことは歓迎すべきことですが、すべての「夏の不調」が熱中症として扱われてしまうという懸念もあります。たとえば「暑い日に屋外で遊んでいた」「運動後にぐったりした」といった状況があると、医療者でさえ熱中症を第一に想起し、他の鑑別診断が後回しになる場面がみられます。熱中症と類似の臨床像(高体温、嘔吐、意識障害など)を示す小児疾患は少なくありません。一般的なウイルス感染症から、急性脳炎・脳症、髄膜炎、尿路感染症、胃腸炎、甲状腺疾患や頭部外傷まで、幅広い疾患が鑑別に挙がります。とくに小児では、「不機嫌」や「活気低下」など非特異的な症状が中心となるため、早々に熱中症と決めつけてしまうことは非常に危険です。診断においては、特定の病態に引き寄せられすぎず、バイタルサイン・身体所見・病歴を丁寧に積み上げていく姿勢が大切です。「本当に熱中症なのか?」「他の病態を見逃していないか?」という視点を持ち続けることが、適切な診断と介入につながると考えます。症例(続き)冒頭の症例では、状況を鑑みると熱中症も疑われましたが、咳嗽や咽頭発赤などの上気道症状を認めたため、迅速検査を行ったところインフルエンザと診断されました。小児の熱中症に向き合うには、医療者と保護者、それぞれの立場からの気づきと行動が大切です。医者は症状に先入観なく向き合い、見逃してはならない他疾患を見極める姿勢を持ち、保護者には予防の基本と受診の目安をわかりやすく伝えていくことが求められます。暑い季節だからこそ、より一層冷静な診療を心がけたいものです。次回は小児の外傷処置についてお話します。ひとことメモ:保護者に伝えたい予防と初期対応小児は、自分で暑さから逃れる行動をとることが難しく、体調の異変にも気づきにくいものです。そのため、まわりの大人の対応が大切です。診療時にはぜひ以下の点を保護者に伝えてみてください。■予防のポイント喉が渇く「前に」こまめな水分や塩分補給を涼しく通気性のよい服+帽子の着用、日陰や屋内での定期的な休憩ベビーカーを日なたに置かない■気づいてほしい変化顔が赤い/元気がない/汗が多すぎるor少ない/ぼーっとしている/生あくびなど■初期対応と受診の目安すぐに涼しい場所へ、衣類をゆるめて脇や首を冷たいタオルや氷嚢で冷却(冷えピタは意味なし!)経口補水液が飲めれば少量ずつ補給反応が鈍い、けいれん、ぐったりしている場合は迷わず救急車を参考資料 1) 日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2024 2) こども家庭庁:みんなで見守り「こどもの熱中症」を防ぎましょう! 3) Courtney W, et al. Pediatr Rev. 2019;40:97–107. 4) 日本救急医学会熱中症に関する委員会編.小児における熱中症 2018年改訂版.へるす出版;2018.

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水害の後に皮疹や眼の不快感を訴えるボランティアが続出、原因は?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第3回

水害の後に皮疹や眼の不快感を訴えるボランティアが続出、原因は?2018年7月、西日本豪雨と呼ばれる水害が中国地方を襲い、とくに被害が甚大であった岡山県倉敷市では多くの家屋が浸水し、多くの犠牲者が出ました。孤立した真備記念病院には近隣住人や患者・職員を含めた数百人が密集し、自衛隊やNGOと共に夜が明けるのを待って救助に入り、岡山大学病院にヘリで多くの患者を搬送、DMATと一緒に活動させていただきました。ボランティアに多発した眼・皮膚症状真夏で過酷な暑さの中でしたが、多くのボランティアが、泥まみれの家屋の清掃やがれき撤去、避難所管理に来てくださいました。しかし、水害の数日後から、ボランティアを中心に眼のかゆみや充血、皮膚の湿疹を訴える患者さんが急増し、仮設診療所では、普段あまり災害現場で見かけない眼科や皮膚科の先生に大活躍していただきました。その後、眼や皮膚症状が出た原因を探ったところ、倉敷市が消毒目的に散布した消石灰であることがわかったのです1)。消石灰は水酸化カルシウム[Ca(OH)2]のことで、ご存じのように水溶液は強アルカリ性を示します。水害の後に消石灰を撒く理由は、地面のpHを上げることによる抗菌作用を期待してのことであり、衛生環境の改善と感染症予防を目的としています。水害後の泥水や排水には、腸管系病原体(大腸菌、赤痢菌、ノロウイルスなど)が含まれていることがあり、国土交通省や厚生労働省のガイドラインでも、「水害後の公衆衛生管理において、必要に応じて消石灰を用いる」ことが記載されています。多くの自治体の水害衛生マニュアルにも同様の記述があり、汚泥や有機物の腐敗によるアンモニアや硫化水素などの臭気成分の発生を抑え、害虫の発生・媒介感染症の観点からも、倉敷市が広報し、市民に消石灰を配布し、庭に撒くように指示があったようです。消石灰の使用リスク消石灰は実際に土壌のサルモネラや腸球菌の増殖を抑制しますし2)、ブタの死体を消石灰と一緒に土に埋めると、腐敗を遅らせることが示されています3)。今でも土葬をする国では、防臭や衛生面から消石灰を一緒に入れて埋葬することがあるようです。しかし、消石灰は皮膚に付くと炎症を起こしますし、目に入ると角膜や結膜が損傷を受けます。自治体によって対応が異なりますが、最近は毒性を考慮して水害の後の消石灰散布は行わないことが多いようです4)。かつては、グラウンドにラインを引く時には消石灰が使われていました。しかし、多くの子供たちに今回と同様の目や皮膚の症状が見られたため、2007年から文部科学省から全国の学校に指導が入り、現在は消石灰ではなく、炭酸カルシウム(CaCO3)が主に使われています。 参考 1) Yamada T, et al. Increase in the incidence of dermatitis after flood disaster in Kurashiki area possibly due to calcium hydroxide. Acute Med Surg. 2019;6:208-209. 2) Nyberg KA, et al. Treatment with Ca(OH)2 for inactivation of Salmonella Typhimurium and Enterococcus faecalis in soil contaminated with infected horse manure. J Appl Microbiol. 2011;110:1515-1523. 3) Schotsmans EM, et al. Effects of hydrated lime and quicklime on the decay of buried human remains using pig cadavers as human body analogues. Forensic Sci Int. 2012;217:50-59. 4) 中尾篤典. こんなにも面白い医学の世界第58回「白い粉のお話」. レジデントノート. 2019年7月号掲載

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第275回 レカネマブ15%薬価下げ報道で改めて考える、「認知症を薬で治す」は正しいの?(前編)

海外学会での発表やスピーチが苦手な人にも参考になるイチローのスピーチこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。7月27日(現地時間)、米国ニューヨーク州クーパーズタウンにある米野球殿堂の式典でイチローが行ったスピーチ、よかったですね。決して流暢とは言えない英語ながら、数々のジョークを混じえながら語られた19分のスピーチは、「これまで殿堂入りした選手のスピーチの中でも、最もすばらしいものの一つだった」と激賞する米国メディアもあるようです。個人的には、「When fans use their precious time to come watch you play, you have a responsibility to perform for them, whether we are winning by 10 or losing by 10, I felt my duty was to motivate the same from opening day through game 162. I never started packing my equipment or taping boxes until after the season’s final out. I felt it was my professional duty to give fans my complete attention each and every game.」の一節が心に響きました。一方、イチロー好きの友人は「dream(夢)」と「goal(目標)」の違いについて語ったところに感激したと話していました。ネット上には実際のスピーチの動画や、英語全文とその訳文が上がっていますので、まだ耳にしていない、目にしていない方はぜひチェックしてみてください。海外学会での発表やスピーチが苦手という人にも参考になるはずです。さて今回は、エーザイと米国バイオジェン社が共同開発したアルツハイマー病治療薬・レカネマブ(商品名:レケンビ)の薬価が「15%引き下げられる」と報道された件について書いてみたいと思います。レカネマブはアルツハイマー病の原因とされるタンパク質(アミロイドβ)を除去する効果があり、認知機能の低下を遅らせる初めての医薬品として2023年9月に日本で承認されました。薬価はなぜ引き下げられることになったのでしょうか。2019年から始まった費用対効果評価制度の対象となっていたレカネマブ7月9日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でレカネマブの費用対効果に関する評価結果が提出され、今後、中医協での更なる議論を経て15%引き下げられる見通しとなりました。日本の薬価制度には「費用対効果評価制度」というものがあります。市場規模が大きい、または著しく単価が高い医薬品・医療機器を対象に、費用対効果評価専門組織が分析し、薬価などが調整される制度で2019年に始まりました。レカネマブの薬価は200mg1瓶4万5,777円、500mg1瓶11万4,443円で、ピーク時の予想投与患者数は3.2万人で予想販売金額は986億円と高額になるため、この制度の対象となっていました。ちなみに、平均的な薬剤費は年間1人当たり約300万円とのことです。今回、レカネマブの分析を担当したのは国立保健医療科学院の保健医療経済評価研究センター(C2H:Core to Evidence-Based Health Policy)です。同センターは7月9日に、ホームページで現在の3分の1程度の薬価が妥当とする評価結果を公表しています1)。それによれば、レカネマブのICER(増分費用効果比)は1,000万円/QALY以上で費用対効果は比較対象技術と比べて「低い」との結果でした。ICERは、費用の増加分を効果の指標であるQALYの増加分で割った値で、低いほど費用対効果が良いとされます。「1,000万円/QALY以上」は「高過ぎる」と評価されたわけです。「画期的な認知症治療薬」であり、介護費用の削減効果も期待されていることから特別な対応も「費用対効果が低い」とされたものの、レカネマブは「画期的な認知症治療薬」であり、介護費用の削減効果も期待されていることから、中医協では、レカネマブの費用対効果評価について1)「価格調整範囲の特別ルール」を設ける、2)介護費縮減効果について「勘案する場合・しない場合」それぞれの分析結果を踏まえて対応を改めて中医協で検討する、という特別な対応が取られることになりました。まず価格調整範囲については、費用対効果評価の結果「ICERが500万円/QALYとなる価格」(費用対効果が優れていると判断される基準値)と「見直し前の価格」の差額を算出し、その25%を調整額(引き下げは有用性加算部分だけに留めず、薬価全体が見直し対象に)とするが、価格が引き下げとなる場合には、調整後の価格の下限は「価格全体の85%(調整額は価格全体の15%以下)」とすることになりました。介護費縮減効果については「介護費用縮減効果も勘案して費用対効果評価を行う場合」と「医療部分のみに着目して費用対効果評価を行う場合」との2つのデータを算出することになりました。もっとも、分析結果ではどちらの場合も「ICERが500万円/QALYとなる価格」は現在の薬価の約3分の1、25〜35%程度と大幅に低かったとのことです。というわけで、介護費用を含めても含めなくても薬価は下限の85%、すなわち「15%引き下げ」の見通しとなったわけです。エーザイは「厚労省の評価は薬の費用対効果を過小に評価している」と反論こうした評価に対し、エーザイは7月9日に会見を開き、企業(エーザイ)による分析と公的機関(C2H)による分析・評価手法や対象とした試験に違いがあり、「厚労省の評価は薬の費用対効果を過小に評価している」と反論したとのことです。7月23日付の日経バイオテクの「エーザイのアルツハイマー病薬『レケンビ』で明らかになった費用対効果評価制度の課題」と題された記事は、「要するにエーザイは、レケンビの18ヵ月以降の投与継続によりベネフィットが拡大したというOLE試験(非盲検でのオープンラベル継続投与試験)に基づいて分析を行ったのに対して、公的分析はあくまでも第3相臨床試験の18ヵ月のデータのみで分析したことが違いの最大の要因と言える」と書くと共に、エーザイと費用対効果評価専門組織との間で分析・評価手法に関して考え方の相違があったことについて、「こうしたやりとりから浮かび上がるのは、費用対効果評価の方法論がまだ十分に確立されておらず、モデルやデータの選び方によって大きなばらつきが生じるということだ。分析者によってこれだけ結果に違いがあるものを薬価の調整に用いて、関係者の納得が得られるかは疑問だ」と指摘しています。さらに同記事は、「今回のレケンビに関しては、将来的に重度の認知症患者を減少させるコンセプトの早期アルツハイマー病治療薬の価値を、MCIや軽度認知症患者に18ヵ月間投与した結果だけで評価していいのかには疑問を感じる。費用対効果評価を行うには、実臨床でのデータがまだ十分ではないというのが実情ないだろうか」と国の組織が主体となって行われる公的分析に疑問を投げ掛けています。いずれにせよ、レカネマブの薬価は引き下げられることになりそうです。今後の患者や医療現場への影響はどうなるのでしょうか。(この項続く)参考1)レカネマブ(レケンビ)の評価結果を公開しました/国立保健医療科学院

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家族の関与に負担を感じる?ICU看護師の意識調査【論文から学ぶ看護の新常識】第25回

家族の関与に負担を感じる?ICU看護師の意識調査オランダのICU看護師は、家族が患者ケアに関与することに対して、肯定的ではない意識を抱えていることがIsha Verkaik氏らの研究で示された。Intensive and Critical Care Nursing誌2025年8月号に掲載の報告。集中治療中の成人患者への家族関与の重要性に関する、集中治療室看護師の意識:多施設横断研究研究チームは、看護ケアへの家族の関与に関するICU看護師の意識を明らかにし、人口統計学的および職業的特徴とこれらの意識との関連を調査することを目的に、多施設横断研究を行った。オランダ全土の10病院で実施し、ICU看護師は、家族看護態度調査票(FINC-NA、スコア範囲22〜110点)を含むオンライン質問票に回答した。データは記述統計と重回帰分析を用いて分析した。主な結果は以下の通り。583名のICU看護師がFINC-NAに回答した(回答:42%)。ICU看護師の意識の平均スコアは73.3(標準偏差:8.78)であった。全体として、ICU看護師はケア提供において家族を重要であると認識していた。しかし、「家族の関与を促進する」と「負担としての家族」というサブスケールにおいて、ICU看護師の意識はあまり肯定的ではなかった。家族の関与に対する肯定的な意識が低いことは、週あたりの臨床勤務時間が長いこと、および教育病院ではなく大学病院に勤務していることと、有意に関連していた。ICU看護師は、他の臨床現場の看護師と比較して、家族をケアに関与させることに対する意識があまり肯定的でないことが示された。本研究では、ICU看護師は家族をケア提供において重要だと認識している一方、「家族の関与を促進する」および「家族を負担に感じる」という点では、肯定的ではないことが明らかになりました。とくに、週あたりの臨床勤務時間が長い看護師や、大学病院に勤務する看護師でその傾向がみられることも示されました。この結果は、集中治療という困難な臨床環境に直面する患者の家族に対する看護師の態度を浮き彫りにしています。看護師の役割は、患者だけでなくその家族をもサポートすることに本質があり、家族が役割を果たせることや家族自身の力が発揮できるように支援することは、非常に重要だと考えます。しかし現実は、家族の存在が仕事の負担感の増加やストレス、仕事の妨げとなると感じているICU看護師が多いという結果でした。これは、多忙なICU現場での家族看護実践における課題を示しています。しかし、この結果は、看護師が主導となって家族の関与を推進していくための示唆に富んだ内容でもあります。とくに、ガイドラインの不足が家族の関与を妨げている可能性が指摘されており、現場で活用できる「家族関与のガイドライン」を整備することが、家族のケア参加を推進し、この課題を解決する一歩となると考えます。論文はこちらVerkaik I, et al. Intensive Crit Care Nurs. 2025;89:104065.

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誤嚥性肺炎へのスルバクタム・アンピシリンvs.第3世代セファロスポリン~日本の大規模データ

 誤嚥性肺炎に対する抗菌薬として米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、セフトリアキソン(CTRX)やセフォタキシム(CTX)などの第3世代セファロスポリンを推奨しており、膿胸や肺膿瘍が疑われない限り、スルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)など嫌気性菌に有効な抗菌薬のルーチン投与は推奨されていない。今回、東京大学の谷口 順平氏らは全国DPCデータベースを用いて、誤嚥性肺炎の入院患者に対するこれらの単一抗菌薬治療の有効性を直接比較する大規模研究を実施した。その結果、SBT/ABPCが第3世代セファロスポリン(CTRXが主)より院内死亡率が低く、Clostridioides difficile(C. difficile)感染症の発生率が低いことが示された。Respiratory Medicine誌2025年10月号に掲載。 本研究では、わが国の包括的な全国入院患者データベースであるDPCデータベースを用いて、2010年7月~2022年3月に誤嚥性肺炎と診断された患者を同定し、投与薬剤に基づきSBT/ABPC群と第3世代セファロスポリン(CTRXまたはCTX)群に分けた。交絡因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップウェイティングを用いて、両群間の院内死亡率およびC. difficile感染症の発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象となった54万8,972例のうち、SBT/ABPC群は42万4,446例、第3世代セファロスポリン群が12万4,526例(CTRX 97.7%、CTX 2.3%)であった。・平均治療期間は、SBT/ABPC群が8.5日(標準偏差[SD]:4.3)、第3世代セファロスポリン群が7.9日(SD:4.1)であった。・傾向スコアオーバーラップウェイティングの結果、SBT/ABPC群のほうが院内死亡率が有意に低く(14.6%vs.16.4%、リスク差[RD]:-1.8%、95%信頼区間[CI]:-2.1~-1.5、p<0.001)、C. difficile感染症発生率も低かった(2.0%vs.2.8%、RD:-0.8%、95%CI:-0.9~-0.7、p<0.001)。 本結果から、著者らは「誤嚥性肺炎に対する抗菌薬選択は、個々の患者の臨床状況に応じて調整する必要があると考えられる」とした。

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治療抵抗性うつ病に対する早期ブレクスピプラゾール補助療法

 うつ病治療では、患者の苦痛を最小限に抑えて、臨床的ベネフィットを最大化するために、可能な限り早い段階で適切な治療を行う必要がある。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & Commercialization Inc.のShivani Kapadia氏らは、うつ病の早期および後期におけるブレクスピプラゾール併用療法の有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験の事後解析を行った。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2025年7月3日号の報告。 対象は、抗うつ薬治療で効果不十分な成人の治療抵抗性うつ病外来患者。ブレクスピプラゾール併用療法に関する3件の6週間ランダム化二重盲検プラセボ対照試験のデータを統合した。年齢中央値、診断時年齢、エピソード数、エピソード持続期間、過去に服用していた抗うつ薬数に基づき早期群および後期群に分類した。有効性はMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)総スコアの変化、安全性は治療中に発現した有害事象により評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬にブレクスピプラゾール2〜3mg/日を併用した併用群(579例)は、プラセボを併用した対照群(583例)と比較し、6週目のMADRS総スコアの改善(p<0.05)が大きかった。早期群および後期群などのすべてのサブグループにおいて有効であった(範囲:−1.79〜−2.92)。・治療中に発現した有害事象の発生率は、サブグループ全体で併用群53.1〜67.2%、対照群43.0〜51.8%であり、早期群と後期群での差は認められなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾール併用療法は、治療抵抗性うつ病の早期段階において抑うつ症状を改善し、患者および医療制度へのベネフィットを最大化する。うつ病の後期段階においても、ブレクスピプラゾール併用療法の有効性は示されるが、投与を遅らせるメリットは認められない」と結論付けている。

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重篤な慢性疼痛、遠隔・オンライン認知行動療法で改善/JAMA

 通常の慢性疼痛よりも身体活動が制限される可能性が高い、高インパクト慢性疼痛の患者において、通常ケアと比較して遠隔医療または自己完結型のオンライン技術による拡張性のある認知行動療法に基づく慢性疼痛(CBT-CP)治療は、疼痛重症度を有意に軽減し、疼痛に関連する身体機能/生活の質(QOL)にも改善をもたらす可能性があることが、米国・Kaiser Permanente Center for Health ResearchのLynn L. DeBar氏らが実施したRESOLVE試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年7月23日号で報告された。米国の第III相無作為化試験 RESOLVE試驗は、高インパクト慢性疼痛の重症度の軽減における遠隔またはオンラインでのCBT-CP治療の相対的な有効性の評価を目的とする第III相無作為化試験であり、2021年1月~2023年2月に米国の4つの保健システムから患者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 年齢18歳以上、Graded Chronic Pain Scale-Revisedの基準で筋骨格系の高インパクト慢性疼痛と判定され、英語での会話およびインターネットか電話での通信が可能で、電子健康記録(EHR)に基づく臨床的な基準を満たす患者を対象とした。 被験者を、次の3つの群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。(1)健康指導員群:CBT-CP治療に基づく、指導員による1対1での技能訓練(8つのセッション)を、電話またはビデオカンファレンス(被験者の好みでいずれかを選択)で受ける、(2)painTRAINER群:CBT-CP治療に基づく、オンラインでの技能訓練(8つのセッション)を無料のサイト(painTRAINER)で受ける、(3)通常ケア群:米国慢性疼痛協会(ACPA)の疼痛管理リソースガイド(2020年版)のコピーを受け取る。 主要アウトカムは、ベースラインから3ヵ月後までの、11項目の簡易疼痛質問票(短縮版)(Brief Pain Inventory-Short Form:BPI-SF)の疼痛重症度スコアの臨床的に意義のある最小変化量(MCID)(30%以上の低下)の達成とした。オンラインより指導員で高い効果 2,331例(平均年齢58.8歳、女性1,712例[74%]、農村部/医療過疎地域在住者1,030例[44%])を登録し、健康指導員群に778例、painTRAINER群に776例、通常ケア群に777例を割り付けた。2,210例(94.8%)が試験を完了した。 3ヵ月の時点で、疼痛重症度スコアのMCID(30%以上の低下)を達成した患者の補正後の割合は、健康指導員群が32.0%(95%信頼区間[CI]:29.3~35.0)、painTRAINER群が26.6%(23.4~30.2)、通常ケア群は20.8%(18.0~24.0)であった。 通常ケア群に比べ2つの介入群はいずれも、疼痛重症度のMCID達成率が有意に高く(通常ケア群に対する健康指導員群の相対リスク[RR]:1.54[95%CI:1.30~1.82]、通常ケア群に対するpainTRAINER群のRR:1.28[1.06~1.55])、オンラインでの自己完結型のpainTRAINERプログラムよりも健康指導員で高い効果が得られた(painTRAINER群に対する健康指導員群のRR:1.20[1.03~1.40])(オムニバス検定p<0.001)。副次アウトカムも介入群で良好 副次アウトカムであるベースライン時から6ヵ月後および12ヵ月後の疼痛重症度のMCID達成率、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月後の疼痛強度のMCID達成率、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月後の疼痛関連障害(pain-related interference)スコアのMCID達成率は、いずれも通常ケア群に比べ2つの介入群で有意に優れ、全般的にpainTRAINER群より健康指導員群で良好であった。 著者は、「これらのCBT-CP治療は医療資源の消費が少なく、医療システム内でエビデンスに基づく非薬物療法による疼痛治療の利用可能性を向上させると考えられる」「電話/ビデオカンファレンスおよびオンライン介入によるCBT-CP治療に基づくプログラムの提供を集約化することが効果的であり、今後、全国の臨床組織や医療機関に広く普及する可能性があると示唆される」としている。

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大気汚染物質への曝露は髄膜腫リスクを高める

 大気汚染物質を吸い込む量が多い人は、髄膜腫と呼ばれる脳腫瘍のリスクが高いことが、新たな研究で示された。髄膜腫は、脳や脊髄を覆う組織の層にできる脳腫瘍の中でも発生頻度が高い腫瘍だが、ほとんどは良性である。この研究では、粒子状物質や二酸化窒素など複数の種類の大気汚染物質が髄膜腫のリスクを高める可能性のあることが示された。デンマークがん研究所のUlla Hvidtfeldt氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に7月9日掲載された。Hvidtfeldt氏は、「さまざまなタイプの大気汚染物質が健康に悪影響を与えることが示されてきた。このうち超微小粒子は極めて小さく、血液脳関門を通過できるため、脳組織に直接的な影響を与える可能性がある」と話している。 米クリーブランド・クリニックによると、米国では毎年17万人以上が髄膜腫と診断されている。髄膜腫の症状は、頭痛、めまい、吐き気、視力の変化、難聴、けいれん、記憶障害、筋力低下または麻痺、行動や性格の変化などで、主な治療法は手術や放射線療法、化学療法である。  Hvidtfeldt氏らは今回の研究で、デンマークの成人395万9,619人(平均年齢35歳、女性49.6%)を対象に、21年間にわたって追跡し、大気汚染物質への曝露と中枢神経腫瘍(脳や脊髄の腫瘍)との関連を検討した。追跡期間中に1万6,596人が中枢神経腫瘍を発症しており、そのうち4,645人は髄膜腫だった。大気汚染物質は、直径0.1μm未満の超微小粒子、直径2.5μm以下の微粒子物質(PM2.5)、二酸化窒素、元素状炭素を対象とし、10年間の平均曝露量を住所から推定した。 その結果、髄膜腫の発症率は、大気汚染物質への曝露量が最も少なかった人で0.06%であったのに対し、最も多かった人では0.2%と約3倍に達していたことが明らかになった。対象とした各大気汚染物質への曝露量が四分位範囲当たり増加するごとの髄膜腫発症のハザード比は、二酸化窒素が(8.3μg/m3増加)で1.12、直径0.1μm未満の超微小粒子(5,747個/cm3増加)で1.10、PM2.5(0.4μg/m3増加)で1.21、元素状炭素(4μg/m3増加)で1.03であった。ただし、これらの大気汚染物質とより悪性度の高いタイプの脳腫瘍の間には明確な関連は認められなかった。 Hvidtfeldt氏は、「われわれの研究は、交通やその他の原因による大気汚染物質への長期的な曝露が髄膜腫の発症に関与している可能性があることを示唆している。またこの研究は、大気汚染が心臓や肺だけでなく脳にも影響を及ぼすというエビデンスの蓄積にも寄与するものだ」と付け加えた。 さらにHvidtfeldt氏らは、この研究デザインでは大気汚染物質と髄膜腫に直接的な因果関係があることは証明できず、今回はこれらの間の関連性を示したに過ぎないことも付け加えている。Hvidtfeldt氏は、「この結果を確認するためにさらなる研究が必要だが、もし、大気の清浄化によって脳腫瘍のリスクが下がるのであれば、公衆衛生に大きな変化をもたらす可能性がある」と話している。

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米国で肥満関連がんによる死亡が20年で3倍以上に

 米国では過去20年間で、肥満に関連するがんによる死亡が3倍以上に増加したとする研究結果が、米国内分泌学会(ENDO2025、7月12~15日、サンフランシスコ)で発表された。米ハッケンサック・メリディアン・ジャージーショア大学医療センターのFaizan Ahmed氏らが報告した。 Ahmed氏らの研究によって、肥満関連の13種類のがんによる米国での死亡率が、1999年から2020年の間に、100万人当り3.7人から13.5人に増加したことが明らかにされた。主任研究者である同氏は、「肥満は多くのがんの重大な危険因子であり、死亡率の上昇に寄与している」と解説。また、「われわれの研究から、特に農村部や医療サービスが行き届いていない地域で、肥満に関連するがんによる死亡のリスクが高いことも示された」としている。 研究者らは、研究背景の説明の中で、米国の成人の40.3%が肥満であり、肥満関連のがんは、同国で毎年診断されるがん全体の約40%を占めていると述べている。肥満関連のがんとは、具体的には食道がん、乳がん、大腸がん、子宮がん、胆嚢がん、胃がん、腎臓がん、肝臓がん、卵巣がん、膵臓がん、甲状腺がん、脳腫瘍の一種である髄膜腫、そして血液がんの一種である多発性骨髄腫が該当するという。 今回発表された研究では、米疾病対策センター(CDC)のデータを用いて肥満関連のがんによる死亡例3万3,572件を特定し、その経時的な推移を解析した。その結果、肥満関連のがんによる死亡率は1999年から2020年の間に、平均すると1年に6%近くのスピードで増加していた。特に、2018年から2020年にかけての死亡率の増加は、平均で19%以上と急速なものだった。 この研究ではまた、女性、高齢者、黒人、ネイティブアメリカン、農村部の居住者など、特定のグループで、肥満関連のがんによる死亡率の増加が顕著であることも明らかになった。肥満関連のがんによる死亡率を地域で比較すると、中西部が100万人当たり約8人と最も高く、反対に北東部は同6人未満と最も低かった。研究者らは、「このような傾向のあることを踏まえると、肥満関連のがんの予防措置、早期スクリーニング、医療アクセスの公平性の確保など、的を絞った公衆衛生対策が極めて重要と考えられる」と結論付けている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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バイオニック膝関節を用いた義足で下肢切断患者の動きが改善

 「より良く、より強く、より速く」。これはテレビドラマシリーズ『600万ドルの男(Six Million Dollar Man)』に登場するバイオニック・マンのキャッチフレーズだが、近い将来、足を膝上で切断した人にも同じ言葉が当てはまるようになるかもしれない。米マサチューセッツ工科大学(MIT)K. Lisa Yangバイオニクス・センター共同ディレクターのHugh Herr氏らが、オッセオインテグレーテッド・メカノニューロナル人工装具(OMP)と呼ばれるバイオニック膝関節を用いた義足(以下、バイオニック義足)によって切断患者の歩行速度が向上し、階段の昇降も楽になり、障害物をうまく避けられるようになったとする研究結果を、「Science」に7月10日発表した。 Herr氏らによると、一般的な切断例に対して作られる義足は、切断された足の残存部分に差し込むソケットを備えている。それに対し、このバイオニック義足は骨に直接固定され、神経系によって直接制御される組織統合型の人工装具であり、ユーザーの筋肉や骨組織と一体化することで、より高い安定性と動作のコントロール性の向上を実現させるという。実際、このバイオニック義足を装着した2人の被験者は、「義足が自分の体の一部であるかのように感じた」と話したという。 このバイオニック義足は、切断部位に残された大腿骨にチタン製の棒状のロッドを挿入することで、従来の義足よりも優れた機械的制御と荷重支持が可能になる。論文の筆頭著者であるMITのTony Shu氏は、「われわれの義足は、荷重に耐える構造と考えられている骨格に直接荷重をかけるようになっている。これに対し、従来のソケット式の義足は不快感を伴いやすく、皮膚感染を引き起こしやすい」とニュースリリースの中で述べている。 埋め込まれたロッドには、切断された足に残存する筋肉から情報を収集するためのワイヤーと電極も組み込まれている。収集されたデータはロボット制御装置に送られ、ユーザーが意図した通りに義足を動かすために必要なトルク(回転力)の計算に用いられるという。Shu氏は、「身体とデバイス間の情報伝達と機械的な接続を向上させるために、全てのパーツが連携して動くようになっている」と言う。 今回、男女2人の被験者が、切断部位の主動筋と拮抗筋を人工的に連結し、残存神経をこれらの筋に接合させる手術(agonist-antagonist myoneuronal interface;AMI)を受け、バイオニック義足を装着。この2人の運動機能の改善状況を、AMIは受けたがバイオニック義足は装着していない8人と、AMIとバイオニック義足装着のいずれも受けていない7人の計15人の改善状況と比較した。 その結果、AMIを受けバイオニック義足を装着した2人では、AMIは受けたがバイオニック義足は装着していない被験者や、従来型の義足を装着した被験者と比べて、歩く、指定角度まで膝を曲げる、階段を上る、障害物をまたぐといった動作がより優れていたことが示された。 Herr氏は、「ロボット義足のAIシステムの精度をどんなに高めても、ユーザーにとっては外部装置のようにしか感じられなかった。しかし、この組織統合型のアプローチでは、ユーザーに『どこまでがあなたの体ですか?』と尋ねた場合、統合が進んでいれば進んでいるほど、ユーザーが『義足も自分の一部だ』と回答する可能性が高まるのだ」と述べている。 なお、OMPシステムが米食品医薬品局(FDA)の承認を得るためにはより大規模な臨床試験が必要であり、承認までには5年程度かかる可能性があるとHerr氏は話している。

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小児用ワクチン中のアルミニウム塩は慢性疾患と関連しない

 120万人以上を対象とした新たな研究で、小児用ワクチンに含まれるアルミニウム塩と自閉症、喘息、自己免疫疾患などの長期的な健康問題との間に関連は認められなかったことが示された。アルミニウム塩は、幼児向け不活化ワクチンの効果を高めるためのアジュバントとして使用されている。スタテンス血清研究所(デンマーク)のAnders Hviid氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。 アルミニウム塩はワクチンのアジュバントとして長年使われているものの、アルミニウム塩が慢性自己免疫疾患やアトピー性皮膚炎、アレルギー、神経発達障害のリスクを高めるのではないかとの懸念から、ワクチン懐疑論者の標的にもなっている。 今回Hviid氏らは、デンマークで1997年から2018年の間に生まれ、2歳時にデンマークに居住していた122万4,176人の児を対象に、ワクチン接種によるアルミニウム塩への累積曝露量と慢性疾患との関連を検討した。対象児は2020年まで追跡された。アルミニウム塩の累積曝露量は生後2年間に接種したワクチンに含まれる成分から推算し、曝露量1mg増加ごとのリスクを検討した。アウトカムとした慢性疾患は、以下の3つの疾患グループに分類される50種類の疾患であった。すなわち、自己免疫疾患として皮膚・内分泌・血液・消化管に関わる疾患とリウマチ性疾患が36疾患、アトピー性またはアレルギー性疾患として喘息、アトピー性皮膚炎、鼻結膜炎、アレルギーなど9疾患、神経発達障害として自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など5疾患である。 その結果、生後2年間のアルミニウム塩の累積曝露量は、対象とした50種類の疾患のいずれについても、発症率の増加とは関連していないことが示された。疾患グループ別に見ると、アルミニウム塩曝露量が1mg増加するごとの調整ハザード比は、自己免疫疾患で0.98(95%信頼区間0.94~1.02)、アトピー性・アレルギー性疾患で0.99(同0.98~1.01)、神経発達障害で0.93(同0.90~0.97)であった。 Hviid氏は、「これらの結果は、アルミニウム塩に対する懸念の多くに対処し、小児用ワクチンの安全性について明確かつ強固なエビデンスを提供している」と述べるとともに、「この結果は、親が子どもの健康のために最善の選択をする必要があることを示すエビデンスでもある」と付け加えている。 なお、この研究は、2022年に米疾病対策センター(CDC)の資金提供を受けて実施された、アルミニウム塩含有ワクチンと喘息の関連性を示唆した研究に対する反論として実施された。同研究はその後、ワクチンに含まれるアルミニウム塩と、食品、水、空気、さらには母乳など他の発生源由来のアルミニウムを区別できていなかったとして批判されている。  米フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センター所長のPaul Offit氏も、「ワクチンによるアルミニウム塩曝露量が多い人と少ない人を比較する場合、交絡因子をコントロールし、これらの人が摂取したアルミニウム塩供給源がワクチンに限定されていることを知る必要がある」と指摘している。 米国では、アルミニウム塩はジフテリア・破傷風・百日咳(DTaP)ワクチンのほか、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンにも使用されている。接種したアルミニウム塩は大部分が2週間以内に体内から排出されるが、微量のアルミニウム塩は何年も体内に残ることがある。専門家らは、単一の研究で何かが安全であると証明することはできないものの、この研究は、ワクチンに含まれるアルミニウム塩が無害であることを示してきた過去の研究成果に加わるものであるとの見解を示している。

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自分のトリセツを知るとだいぶ楽になる(解説:岡村毅氏)

 認知行動療法について、皆さんはどのくらい知っているだろうか? 医療が「悪いところを取る」「折れたものをつなげる」「薬を飲んで治す」といった領域だけだと思っているシンプルな人にはなかなかわかってもらえない。大学生などに説明するときに使っているのは「自分のトリセツを知ることだ」という説明である。 たとえば、こうである…。最近とても暑いので、精神科の外来では調子の悪いパニック症の人によく出会う。「空気が熱いと息苦しい感じがする。パニック発作のときみたいな体験をする。そうなると不安が亢進し、呼吸が速くなり、確かにパニック発作が起きてしまう」と説明すると、多くの患者さんは良くなる。自分の身に何が起きているかわかるからである。 相手によっては、さらに畳み掛ける。「人間なんて天候に左右される弱い存在なのです。暑すぎると調子が悪い、雨だと気分が沈む。そういうものです」と言うと、ハッとする人もいる。別に大したことは言っていないのだが、自分が弱い存在だということをつい忘れてしまっているのだ。私に言わせれば、これも認知行動療法の原型である。 さて、慢性疼痛に対して認知行動療法が効くことはずいぶん前からわかっていた。身体が損傷を受ければ痛みが生じる。これが急性の疼痛である。ところが、その時期を過ぎても延々と痛みが続くものが慢性疼痛である。慢性疼痛には複合的な要因があり、もちろん心理的要因も大きい。痛みが続くと気持ちが沈み、痛みが来たらどうしようといつも構えていると、身体が緊張して、より一層痛みが生じる、というようなことも起こる。いつも痛みのことを考えていると、症状がより目立ってしまうということもあるだろう(読者の皆さま、40歳を過ぎるといつもどこか微妙に痛くないですか?)。 ただし、認知行動療法をするために医療機関等を受診するのは大変である。そこで本研究は、(1)電話やオンライン会議を用いた1対1の認知行動療法、(2)e-learningのようなオンライン教材、(3)相談先や対処方法の情報を渡す(これが対照群である通常のケア)に分けて比較している。臨床的に意味のある改善は、(1)は(3)に比べて1.54倍、(2)は(3)に比べて1.28倍得られた。 オンラインの1対1の認知行動療法ができればよいし、それが無理でもオンラインの自己学習型のプログラムでも十分効果があるということだ。なお、このオンラインプログラムは実は無料で公開されている(painTRAINER)。 となると、オンラインの認知行動療法と、対面の(リアルの)認知行動療法は違うのだろうか、という疑問が生じる。うつ病に関してはメタアナリシス(文献)があり、効果は同等、ただし対面のほうが脱落率は低い。まあそうだろうな、という結果だ。知識として自分のトリセツを知る分にはオンラインでも対面でも変わらないが、人と人が数十センチの距離で対峙するとき、さまざまな不確実な事象が起こり、これが対面の心理療法の醍醐味だ、というのが精神科医である私の見解だ。

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