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第243回 レプリコンワクチンのデマが現場にも忍び寄る?あるアンケートで明らかに

通称レプリコンワクチンと呼ばれるMeiji Seikaファルマの新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン「コスタイベ」に関して、同社は12月25日、立憲民主党の衆議院議員・原口 一博氏を提訴する方針を明らかにした。この件についての詳細は、後日に改めて述べるが、近年SNS上では一部のワクチン懐疑論者が否定的な情報を拡散しており、その影響が実際に現れている別の事例を目にした。福祉施設入所者の接種状況とその理由12月10日に開催された東京都医師会の定例会見で、東京都老人保健施設協会が行ったインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの接種状況に関する緊急調査の結果1)が報告された。調査は都内の介護老人保健施設184施設を対象に行われ、11月28日に1回目、12月9日に2回目が実施され、回答率はそれぞれ49.5%、46.3%だった。それによると、入所者を対象にインフルエンザワクチンを接種した(予定も含む)施設は99%にのぼったのに対し、新型コロナワクチンに関しては81%に留まった。職員を対象とすると、インフルエンザワクチンは82%、新型コロナワクチンは40%とさらに大きな差が開いた。また、2回目の調査では入所者や職員のワクチン接種希望割合を聴取しており、インフルエンザワクチンでは、入所者の希望割合が「7割以上」だった施設は最多の49%、次いで「6割」が25%なのに対し、新型コロナワクチンでは最多が「3割未満」の31%、次いで「3割」が23%だった。ここでもインフルエンザワクチンに比べ、新型コロナワクチンでは明らかに接種に消極的な実態が浮かび上がった。入所者へ新型コロナワクチン接種を実施しない施設に、施設として実施しない理由を尋ねた結果、「体制不足」が35%、「安全性が心配」が15%、「その他」が50%だった。理由の自由記述では、「ワクチン費用が高い、補助金がない」「施設長(医師)の判断」「家族より心配との声」「コスト面と希望者が少ない」「インフルエンザ接種を優先、コロナは1月以降の実施予定」「独立型老健施設での接種は実費になる」「区からの接種券が使用できないので、家族に他の医療機関で接種してもらっている」「外出した際に病院・クリニックで接種してもらっている」「入所前に接種している」などが挙げられた。自由記述を概観すると、施設側としてはやはり体制の問題、とりわけ自治体発行の接種券が施設での集団接種の場合は使いにくいという事情が大きく影響しているとみられる。同時に見逃せないのは、「家族より心配との声」に代表されるような安全性への過度な不安が15%もあることだ。一方、新型コロナワクチン接種を実施する施設で、入所者が接種を希望しない理由を尋ねた結果、「安全性が心配」が33%、「費用負担」が30%、「その他」が37%と、安全性の問題がやや多かった。これに関連する自由記述は「家族の意向」「以前接種後(に)体調を悪くした」「『何回も打ったからいい』という方もいて以前より危機感が薄くなった様子」「使用ワクチンを『コスタイベ』と案内したところネット情報等で不安視し見合わせた家族が多数あり」「必要性を感じない」「罹患した方や、3~4回接種後から実施していない方などが多い印象」「効果が懐疑的という声あり」「自治体とのやり取りの手間」「外部と接触がないので、もう必要ないと思う」「施設で実施すると実費になり高額になるため」「流行していないから」だった。危機感が薄れているとともに、安全性について懐疑的あるいは恐怖を感じる人が少なくない印象だ。しかも、ここでまさに明らかになったように「コスタイベ」を不安視する家族の声で接種を希望しない入所者がいる現実は、外から眺めている私たちが思っていた以上に深刻と言えそうだ。また、職員に対するワクチン接種実施状況については、インフルエンザワクチンでは「原則として全員」が51%、「希望者のみ」が47%、「実施しない」が2%に対し、新型コロナワクチンでは「実施しない」が52%、「希望者のみ」が48%と、やはりここでもインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの差が明確になっている。新型コロナワクチン接種に対する施設側の意見、要望に関する自由記述もあり、その内容を以下にすべて列挙する。「コロナワクチンは無料と有料があり混乱」「できれば高齢者は無料にしてほしい」「65歳未満のコロナワクチンの費用が高すぎる」「65歳未満のコロナワクチンが今回から全額自己負担となり、高額であることから見合わせる職員が大部分。インフルエンザは年齢問わず自己負担額が低いため施設が職員へワクチン接種をすすめ易い」「各市町村によって手続きや費用が違って事務が煩雑、国に一本化してほしい」「コロナワクチンは高額のため希望しない職員が多い」「5類となり、施設負担(手技含む)特に経済的な問題が発生しており、今後、施設実施できない方向」「自治体に確認する手間がかかる為スムーズにいかない」「集団生活の場であり、より多くの方が接種することが望ましいかと思うが、やはり希望しない方に強制する必要もないと考えている」「施設職員に対してコロナワクチンの助成をして欲しい」「2種混合ワクチンがあると良い。高齢者施設では医療関連の手間をかけられない」このように見てみると、施設側やその職員が新型コロナワクチン接種に積極的とは言えない現実については、定期接種対象の高齢者でも一部費用負担が発生してこれが自治体によって異なること、自立型老健施設が主体の集団接種は施設側に費用負担が発生すること、65歳未満で基礎疾患がない職員などの場合は1回1万5,000円前後の高額な接種費用が全額自己負担など、制度や経済的な問題が主な理由と言える。ただ、接種対象の高齢者側が接種を希望しない理由では、新型コロナワクチンの安全性に関する、有体に言えばデマの“汚染”がすでに見過ごせない程度、浸透していることもわかる。もっとも一般論として考えると(アンコンシャスバイアスかもしれないが)、老健に入所している高齢者でSNS上のデマを直接目にしている人は少数派ではないだろうか。実際、ある程度限られた情報ではあるものの、自由記述を見ると安全性への懸念の表明元は入所者からよりも家族からのほうが多そうである。このようにしてみると、コスタイベを含む新型コロナのmRNAワクチンに関するデマは、もはやエコーチェンバーの枠を超え、現場にも迫りつつあるのだと改めて実感している。ちなみに今回、私の連載のご意見・ご質問欄を通じて介護職の方から「レプリコンワクチンはファイザー、モデルナのmRNAワクチンと同程度の安全性をもつと考えていいのでしょうか?」との問い合わせを受けたが、これに対する私の答えは「国内第III相試験の結果を見る限り、同程度と言えます。私は次回の新型コロナワクチン接種ではコスタイベを選択するつもりです」となる。参考1)東京都医師会定期記者会見(令和6年12月10日):令和6年秋冬の新型コロナワクチン定期接種の状況-東京都老人保健施設協会緊急調査結果から-

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J-CLEAR特別座談会(8)「胃酸分泌抑制薬の長期投与に伴う安全性は?」

J-CLEAR特別座談会(8)「胃酸分泌抑制薬の長期投与に伴う安全性は?」プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの胃酸分泌抑制薬は、逆流性食道炎をはじめ、抗血栓薬やNSAIDsなどによる胃・十二指腸潰瘍の再発抑制のために処方されます。近年、抗血栓薬やNSAIDsなどを処方される高齢者の増加に伴い、胃酸分泌抑制薬の処方数も増加の一途をたどっています。一方で、その長期投与については、さまざまな有害事象も懸念されています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、日本人を対象にP-CABの長期安全性を検証した「VISION研究」へ関わった専門家たちが、胃酸分泌抑制薬による「一般的リスク」「内視鏡所見の変化」「高ガストリン血症」「ピロリ除菌後の胃がんリスク」について、4回にわたってお送りします。なお、この番組は2024年11月28日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。胃酸分泌抑制薬の長期投与に伴う安全性は?出演上村 直実 氏国立国際医療研究センター国府台病院名誉院長木下 芳一 氏兵庫県立はりま姫路総合医療センター病院長春間 賢 氏川崎医科大学総合医療センター総合内科2特別研究員/淳風会医療診療セクター長新倉 量太 氏東京医科大学消化器内視鏡学准教授

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心房細動の早期発見、早期介入で重症化を防ぐ/日本心臓財団

 日本心臓財団メディアワークショップは、都内で「心房細動の診療」をテーマにメディアワークショップを開催した。 心房細動(AF)は心臓内の心房が異常な動きをし、不整脈を引き起こす疾患である。AFでは、自覚症状を伴わないことが多く、気付かずに長期間放置すると心房内に生じた血栓が血流にのり、脳血管障害や心不全などを発症させる恐れがある。早期発見が重要であり、治療ではカテーテルアブレーションや薬物による治療が行われる。そして、早期発見では、日常の検脈や健康診断が重要となるが、近年では、テクノロジーの発達とデジタルデバイスの普及により、これまで見つかりにくかった無症候性や発作性タイプのAFの早期発見が可能になってきている。 セミナーでは、AFの病態やリスク、早期発見のための静岡市清水区でのAI診断の取り組みなどが解説された。AFの患者は100人に1人の時代 最初に「心房細動管理の最新トレンド」をテーマに清水 渉氏(日本医科大学大学院 医学研究科 循環器内科学分野 教授)が、最近のガイドラインからみたAFの病態や治療、カテーテルアブレーションについて解説した。 AFは、高齢の男性に多く、その有病率は増え続けている。患者数は100万人と推定され、100人に1人がAFと考えられる。2018年からは法律に基づき、「国民の健康寿命の延伸等を図るため」に脳卒中とならび国を挙げて対策を要する疾患となっている。 そして、AFを発症すると脳梗塞発症リスクが5倍、心不全で5倍、認知症で2倍という報告もあり、健康寿命、生命予後に大きく影響する。 現在、わが国にはAFに関係するガイドラインが4つある。『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』(編集:日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン/後述の3ガイドラインも同様)では、病態生理として「肥満」「高血圧」「糖尿病」「睡眠呼吸障害」などが伝導障害となり、電気的リモデリングを促進させ、AFのトリガーになることが示されている。 『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』では、4つの段階に分けてAFと生活習慣管理・包括管理を示している。第1段階では「急性期の管理」、第2段階では「増悪因子の管理」、第3段階では「脳梗塞の予防」、第4段階では「症状の改善」が記載されている。とくに第4段階の症状の改善について、リズムコントロール(洞調律維持)およびレートコントロール(適切な心拍数調節)が症状改善に行われるが、「動悸などの症状が強い」「AFの持続で心不全の発症・増悪が危惧される」「AF発症関連の併存疾患が比較的少ない」などの患者ではリズムコントロールが望ましいとガイドラインでは記されている。 次に症状の発見について触れ“Fukuoka Stroke Registry”から「急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者における、脳卒中発症前の心房細動の診断状況、抗凝固療法の実施状況」について、脳卒中発症前にAFの診断がなかった人が45.9%に上ることを紹介するとともに1)、AF患者において無症候性の割合について37.7%の報告もある2)と紹介し、AFの発見が難しいことを説明した。では、発見が難しいAFをどのように見つけるか? 日常生活で簡単にできる方法として身体診察の「検脈」の方法を紹介するとともに、『2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン』に触れ、ガイドラインの中に記載されているAFのスクリーニングと治療に用いられる各デバイスの特徴について説明を行った。最近では、ウェアラブルの測定機器が進歩しているが、その精度はまだ未知数であり、エビデンスも確立されていないために長時間心電図モニターや携帯心電図などの心電図記録によるデバイスで診断することになっている。進歩するAFの治療 『2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療』からAFの治療では、カテーテルアブレーションと抗凝固治療が行われる。 カテーテルアブレーションは、20221年のデータでわが国では約11万件施行されている。とくに心不全を合併したAFでは、カテーテルアブレーションは、全死亡・心不全入院を有意に減少させる報告があるので、予後を改善できる可能性が高い3)。 また、近年ではLVEF(左室駆出率)の低下した心不全(HFrEF)にも治療の適応が拡大されているほか、新しいカテーテル治療法として熱を伴わず特殊な電気ショックを利用して細胞のアポトーシスを誘導するパルスフィールドアブレーション(PFA)も登場し、安全に外科的治療が施行できるようになってきているという。 抗凝固療法に関しては、『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』で直接経口抗凝固薬(DOAC)4薬剤の用法・用量設定基準が明記され、すべてのDOACがCHADS2スコア1点以上で使用が推奨されている。また、腎機能障害、認知症、フレイルなどの高リスク高齢者についても積極的なDOACの使用を記していると説明し、レクチャーを終えた。AI診断で未診断のAFを発見 「『隠れ心房細動』を早期発見するための、AIとリモートテクノロジーを用いた取り組み-静岡市清水区における地域医療プロジェクトについて-」をテーマに笹野 哲郎氏(東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学分野 教授)が、静岡市清水区で行われている心電図のAI診断とデバイスによるリモートモニタリングによるAFの早期発見の取り組みについて説明した。  静岡市清水地区の高齢化率は約32%とわが国の平均よりやや進んだ高齢化率を示し、すでにAFと診断された人が2,036人、隠れAFの人が2,000人とほぼ同数であることから、この地区が選定されたという。この取り組みでは、地元の市立清水病院と清水医師会が共同事業者となり現地で健診などを実施、連携する東京科学大学がデータのAI解析を行い、解析結果をフィードバックするものである。 同地区で行われているAFの早期発見メソッドとしては、「12誘導心電図のAI診断」、「デバイスによるリモートモニタリング」が行われている。AFは、肺静脈からのトリガー興奮の後、左心房内で異常興奮が持続することで起るが、発作時でなくとも心房リモデリングの評価はできるとして、AIの深層学習により発作性AFの推定をさせている。 そして、AIによるAF発見は実現可能な段階にあり、2022年1月から開始されたプロジェクトでは、2023年7月までに検診を受けた362例のうち11例(3.04%)に未診断のAFを発見したという。 また、デバイスによるリモートモニタリングについて、スマートウォチやスマートリングなどの精度は向上途上であり、やはり現在医療機器で使用されているモニタリング機器での検査が行われる。 今後、早期発見のために装着されるウェアラブル機器による生体モニタリングなどについては、利用者が中途で止めてしまわないようにモニタリングの重要性を教育すること、一切操作不要でモニタリングできるシステムの開発と導入が望まれると展望を語り、講演を終えた4)。

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抗精神病薬の多剤併用は50年間でどのように変化したのか

 抗精神病薬の多剤併用は、有害事象リスクが高く、単剤療法と比較し、有効性に関するエビデンスが少ないにもかかわらず、臨床的に広く用いられている。南デンマーク大学のMikkel Hojlund氏らは、精神疾患患者における抗精神病薬の多剤併用率、傾向、相関関係を包括的に評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。The Lancet Psychiatry誌2024年12月号の報告。 対象研究は、年齢や診断とは無関係に、精神疾患または抗精神病薬を使用している患者における抗精神病薬の多剤併用率を報告したオリジナル研究(観察研究および介入研究)。2009年1月〜2024年4月までに公表された研究をMEDLINE、Embaseより検索した。2009年5月以前の関連研究は、抗精神病薬の多剤併用率に関するこれまでの2つのシステマティックレビューより特定した。プールされた抗精神病薬の多剤併用率は、ランダム効果メタ解析を用いて推定した。抗精神病薬の多剤併用に関連する相関関係の特定には、サブグループ解析および混合効果メタ回帰解析を用いた。実体験を有する人は、本プロジェクトには関与しなかった。 主な結果は以下のとおり。・研究517件(個別時点:599件)、445万9,149例(平均年齢:39.5歳、範囲:6.4〜86.3歳、性別や民族に関するデータはまれ)をメタ解析に含めた。・ほとんどの研究には、統合失調症スペクトラム症患者が含まれていた(270件、52%)。・全体として、抗精神病薬の多剤併用率は24.8%(95%信頼区間[CI]:22.9〜26.7)、統合失調症スペクトラム症患者では33.2%(95%CI:30.6〜36.0)、認知症患者では5.2%(95%CI:4.0〜6.8)であった。・抗精神病薬の多剤併用率は、地域により異なり、北米では15.4%(95%CI:12.9〜18.2)、アフリカでは38.6%(95%CI:27.7〜50.6)であった。・全体的な抗精神病薬の多剤併用率は、1970年から2023年にかけて有意な増加が認められた(β=0.019、95%CI:0.009〜0.029、p=0.0002)。また、成人患者は小児および青年患者よりも高く(27.4%[95%CI:25.2〜29.8]vs.7.0%[95%CI:4.7〜10.3]、p<0.0001)、入院患者は外来患者よりも高かった(31.4%[95%CI:27.9〜35.2]vs.19.9%[95%CI:16.8〜23.3]、p<0.0001)。・抗精神病薬の多剤併用は、単剤療法と比較し、次のリスク増加が認められた。【再発】相対リスク(RR):1.42、95%CI:1.04〜1.93、p=0.028【精神科入院】RR:1.24、95%CI:1.12〜1.38、p<0.0001【全般的機能低下】標準化平均差(SMD):−0.31、95%CI:−0.44〜−0.19、p<0.0001【錐体外路症状】RR:1.63、95%CI:1.13〜2.36、p=0.0098【ジストニア】RR:5.91、95%CI:1.20〜29.17、p=0.029【抗コリン薬使用などの有害事象の増加】RR:1.91、95%CI:1.55〜2.35、p<0.0001【副作用スコアの高さ】SMD:0.33、95%CI:0.24〜0.42、p<0.0001【補正QT間隔延長】SMD:0.24、95%CI:0.23〜0.26、p<0.0001【全死亡率】RR:1.19、95%CI:1.00〜1.41、p=0.047 著者らは「過去50年間で、抗精神病薬の多剤併用率は世界的の増加がみられ、その傾向は統合失調症スペクトラム症患者でとくに高かった。抗精神病薬の多剤併用は、単剤療法よりも、疾患重症度が高く臨床アウトカム不良と関連しているが、これらの問題を解決するものではない。さらに、抗精神病薬の多剤併用は、全死亡率を含む副作用の増加と関連していることが示された」と結論付けている。

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低リスクDCIS、積極的モニタリングvs.標準治療/JAMA

 低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する積極的モニタリング(6ヵ月ごとに乳房画像検査と身体検査を実施)は、ガイドラインに準拠した治療(手術±放射線治療)と比較して、追跡2年時点の同側乳房浸潤がんの発生率を上昇せず、積極的モニタリングの標準治療に対する非劣性が示された。米国・デューク大学のE. Shelley Hwang氏らCOMET Study Investigatorsが前向き無作為化非劣性試験「COMET試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2024年12月12日号掲載の報告。グレード1/2のDCIS女性を対象、同側浸潤がん診断の2年累積リスクを評価 研究グループは、2017~23年にUS Alliance Cancer Cooperative Groupのクリニック試験地100ヵ所で、ホルモン受容体陽性(HR+)グレード1/2のDCISと新規診断された40歳以上の女性995例を登録して試験を行った。 被験者は、積極的モニタリング群(484例)またはガイドライン準拠治療群(473例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、同側浸潤がん診断の2年累積リスクで、事前に計画されたITT解析およびper-protocol解析で評価した。非劣性マージンは0.05%。2年累積発生率、積極的モニタリング群4.2%、ガイドライン準拠治療群5.9% 957例が解析対象となった。積極的モニタリング群は63.7歳(95%信頼区間[CI]:60.0~71.6)、ガイドライン準拠治療群は63.6歳(55.5~70.5)であり、全体では15.7%が黒人女性、75.0%が白人女性であった。 事前規定された主要解析(追跡期間中央値36.9ヵ月)において、DCISの手術を受けたのは346例で(積極的モニタリング群82例、ガイドライン準拠治療群264例)、浸潤がんと診断されたのは46例(19例、27例)であった。 Kaplan-Meier法による同側浸潤がんの2年累積発生率は、積極的モニタリング群4.2%、ガイドライン準拠治療群5.9%で、群間差は-1.7%(95%CI上限0.95%)であり、積極的モニタリングのガイドライン準拠治療群に対する非劣性が示された。 浸潤がんの腫瘍特性は、両群間で統計学的な有意差はなかった。 また、全体として68.4%(665例)が内分泌療法の開始を報告していた(積極的モニタリング群345例[71.3%]、ガイドライン準拠治療群310例[65.5%])。これら内分泌療法を受けたサブグループの同側浸潤がんの発生率は、積極的モニタリング群3.21%、ガイドライン準拠治療群7.15%で、群間差は-3.94%(95%CI:-5.72~-2.16)であった。 著者は、「より長期の試験を行うことで、積極的モニタリングが永続的な安全性と忍容性を提供するかを明らかにできるだろう」とまとめている。

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タクシーと救急車の運転手、アルツハイマー病による死亡率低い/BMJ

 タクシーと救急車の運転手は、アルツハイマー病による死亡率がすべての職業の中で最も低いことが、米国・ハーバード医学大学院・ブリガム&ウィメンズ病院のVishal R. Patel氏らによる住民ベースの横断研究で示された。アルツハイマー病で最初に萎縮がみられる脳領域の1つに海馬がある。海馬は空間記憶とナビゲーションに使用される脳領域で、研究グループは、空間処理とナビゲーション処理を頻繁に必要とする職業のタクシーと救急車の運転手について、アルツハイマー病による死亡率を他職業と比較し分析した。先行研究で、タクシー運転手は一般集団と比較して、海馬の機能が強化されていることが示されていた。BMJ誌2024年12月17日号クリスマス特集号「Death is Just Around the Corner」掲載の報告。タクシーと救急車の運転手を含む443職業の、アルツハイマー病による死亡率を評価 研究グループは、米国住民ベースの全死亡レジストリである国家人口動態統計システム(National Vital Statistics System、NVSS)から、2020年1月1日~2022年12月31日のデータ(死亡時年齢18歳以上)を入手し分析した。データは死亡証明書に基づくもので、ICD-10に基づく死因、死亡時年齢、人種、民族、学歴などのほか、職業に関するデータが含まれている。職業欄は、以前は記述式だったが2020年にコード化され、2020~22年には米国人口の約98%をカバーしていた。 分析対象データセットには、443の職業が含まれていた。そのうち、タクシー運転手と救急車運転手および残り441の各職業の、アルツハイマー病による死亡率を調べ、死亡時年齢およびその他の社会人口学的要因で補正し評価した。タクシーと救急車の運転手の死亡率、全職業の中で最も低い 死者897万2,221例の職業情報が入手でき、そのうち死因としてアルツハイマー病が記載されていたのは3.88%(34万8,328例)であった。 アルツハイマー病による死亡率は、タクシー運転手が1.03%(171/1万6,658例)、救急車運転手は0.74%(10/1,348例)であった。死亡時年齢等で補正後、救急車運転手は0.91%(95%信頼区間[CI]:0.35~1.48)、タクシー運転手は1.03%(0.87~1.18)で、全職業の中で最も低かった。一般集団の死亡率は1.69%(95%CI:1.66~1.71)だった(タクシー運転手、救急車運転手との比較ではいずれもp<0.001)。また全職業において、アルツハイマー病による死亡の補正後オッズ比は、タクシー運転手と救急車運転手で最も低かった(最高責任者[chief executive]を参照群として比較した両職種統合のオッズ比:0.56[95%CI:0.48~0.65])。 こうした傾向は、リアルタイムな空間処理およびナビゲーション処理の必要度が低い他の輸送関連職(バス運転手、船長、航空機パイロット)ではみられず、また他の認知症タイプ(血管性、不特定)でもみられなかった。さらに、アルツハイマー病を主因とした場合と一因とした場合でも、結果は一貫していた。 著者は、「得られた所見は、タクシーや救急車の運転手が行っているようなナビゲーション処理タスクや空間処理タスクが、アルツハイマー病に対する何らかの保護効果に関与する可能性を提示するものであった」とまとめている。

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診療所のマイナ保険証利用率は10%未満の施設が約7割/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催し、年末年始の感染症対策ならびに診療所における医療DXに係る緊急調査の結果について説明を行った。 初めに松本氏が、会員医療機関の経営逼迫に対し政府などへの要望、医師偏在対策への提案など、この1年の医師会のさまざまな事業を振り返った。続いて「年末年始の感染症対策等について」として副会長の釜萢 敏氏(小泉小児科医院 院長)が、この数週間で急増しているインフルエンザ流行への対策、同時に新型コロナウイルス感染症への対応について説明した。とくにインフルエンザの迅速診断キットが外来などの現場で不足していることに触れ、医師会として厚生労働省に要望を出していること、臨床現場では特定のメーカーのキットだけでなく、融通できるキットを使用して診断を行ってもらいたいと語った。また、予防対策として「『マスク着用、手指衛生とうがい、換気の実施』は、従来どおり行ってもらいたい」と述べた。診療所のDXのカギは人材育成と政府の支援 「診療所における医療DXに係る緊急調査の結果」について、担当常任理事の長島 公之氏(長島整形外科院長)が概要を説明した。 冒頭、先般の電子処方箋の不具合による発行停止に触れ、「健康被害発生を防ぐために万全を期してほしい。不具合の解消までの再開延期は妥当だが、今後こうした事態が発生しないようにお願いしたい。そのために医師会も支援・協力をする」と語った。 次に今回行われた医療DXに係る緊急調査の結果の内容について説明した。 本アンケートは、医療DX推進が拙速に進められると医療提供体制に混乱や支障が生じるという懸念、医療DX推進体制整備加算の電子処方箋導入に関する施設基準の経過措置が令和7(2025)年3月31日までであること、診療所での医療DXの取り組みについての調査は今まで行われていないことから、実態や負担感について緊急調査を実施したもの。 調査は、2024年9月20日~10月4日まで無作為に抽出した医師会員の診療所管理者(院長)1万人にWebで行い、うち4,454人(回答率44.5%)から回答を得た。回答年齢階層はほぼ均等で、内科、眼科、小児科の順で回答が多かった。1)マイナ保険証について マイナ保険証の利用率は低迷。調査では、利用率(レセプト件数ベース)が10%未満の施設が全体の約7割を占めた。また、医療DX推進体制整備加算の令和7(2025)年1月から予定されている施設基準(10%以上)を満たせない施設が多かった。傾向として院長の年齢が高い施設や小児科(患児のカードが作成されていない)などで利用率がさらに低い傾向だった。2)電子処方箋について 電子処方箋を導入済みで運用中は4.6%、導入済みだが未運用が9.9%で、導入率は計14.5%で低迷。医療DX推進体制整備加算の経過措置(~令和7年3月末)後の施設基準を満たす施設はごく一部に止まっていた。未運用の理由は「地域の薬局や医療機関が未運用である」が多く、課題として地域が一体となって推進することが求められた。また、電子処方箋を導入していない理由は、「システム費用面の負担が大きい」が58.3%、「導入のメリットを感じない」が52.5%、「ICTに詳しい人材の不足」が40.4%だった。3)電子カルテ・電子カルテ情報共有サービスについて 電子カルテの使用割合は62.6%であった。院長の年齢階層が高いほど使用率が下がるが、70歳以上の階層でも41.4%が使用していた。これは、回答者がICTに慣れた医師が多い可能性もあり、偏りには留意が必要。また、電子カルテ情報共有サービスについては、診療中にネットワーク上の患者情報をみることは難しいという意見が約4割を占めた。有事の際の利用など認識度は低く、現時点では内容が十分に周知されていない状況だった。4)医療DXに係る課題について(1)ICT人材不足と医師の作業負担 ICTの知識がある人材が不足していると回答した施設は9割強にのぼった。64.1%の施設では医師が診療のかたわらにシステム対応を行っており、システム対応の作業負担は大きいことがうかがえた。(2)システム費用負担 電子カルテとレセコンを合わせると高額なシステム費用を負担している施設が多く、95%の施設はシステム費用の負担を感じていた。国や自治体からの補助金や診療報酬上の十分な手当がないと、医療DXの推進は困難な状況だった。5)まとめ・診療所は規模が小さく、ICT対応に係る負担感が大きい。ICT人材は不足し、システム事業者に払う費用負担は重荷となっている。・医療DXの推進には、国の全面的な支援が必要で、現場の実情に即した診療報酬上の手当てと、補助金の検討が求められる。その際、単純な平均値だけではなく分布を踏まえて対応すべきである。・ステークホールダーが多い中、効果的な情報提供が不可欠であり、システム事業者対応に伴う作業負担の軽減、高齢の医師などへの支援も求められる。・医療DXはわが国の患者・国民により良い医療を提供するためのきわめて重要な取り組みである。災害時に患者の診療情報を閲覧できるなど、わかりやすい説明を現場に提供し、急がず、丁寧に進めることが肝要である。・医師会においても高齢の医師を含む地域の医師・医療機関に寄り添い、情報提供と支援を今後も行っていく。 以上の内容を踏まえ長島氏は、医療のDX化は必要であり、推進を認めつつも、政府による義務化や強制には難色を示し、「医療機関も患者もDX化で取りこぼしのないように援助・支援を行うべきである。さまざまな診療報酬の加算も期限を設けるのではなく、実情を考慮してもらいたい」と語り、説明を終えた。

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医学生向け医療マネジメントゼミTerraco2025開講~1期生募集【ご案内】

 病院経営について学びたい医学生を対象とした医療マネジメントゼミTerraco2025が2025年4月に開講される。 本ゼミは村上 大介氏(板倉サテライトクリニック 院長/日本医科大学千葉北総病院循環器内科 非常勤講師)がコースディレクターを務め、各分野の最前線で活躍する講師をお招きし、ケーススタディなどを通じて双方向的で実践的なプログラムを目指す。全12回のプログラムを受講することで、少子高齢化、医療介護人材不足、医療DXなど変化の大きい医療状況を乗り越えるために必要なスキルを身に付けることができる。なお、参加申込期間は2025年1月1~31日で、募集定員 20名と限られているため、応募多数の場合は選考となる。 開催概要は以下のとおり。開催期間:2025年3月~2026年3月(1年間)   ※月1回開催、平日20時開始(各回90~120分)会場:オンライン開催(Zoom)   ※最終回(修了式を兼ねる)のみ都内近郊を予定対象:新大学3~6年生(医学生のみ)定員:20名参加費:無料参加申込期間:2025年1月1日(水)~31日(金)◆参加申し込みはこちら【本プログラムで扱う内容】・マネジメント・リーダーシップ・地域医療(医療過疎)と医療資源の集約化・医療DX・ヘルスケア・人材開発・組織開発・地域におけるポジショニング・病院によるまちづくり・災害医療、BCP・医療安全・病院広報、マーケティング・人材採用、ブランディング・医療、介護、福祉の新時代・医療政策、診療報酬改定・組織改革・ボトムアップ 村上氏は「医療マネジメントの理解や経験を通じ、正解の見えづらい社会や未来に対して大いなる可能性をもって知的に暴れてほしい」と願い、そして「寺子屋=立場や年齢に関係なく学びたい者が無料で集える場、Terra=地球/大地(ラテン語)、テラ=10の12乗倍、Co=子/医学生たち、という想いを込めて本プログラム名をTerracoと名付けた。ぜひ、一緒に学び合いましょう」とコメントを寄せている。【お問い合わせ先】医療マネジメントゼミTerraco事務局E-mail:terraco1114@gmail.comホームページはこちら

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明晰な頭脳の維持には骨格筋量の維持が重要

 筋肉を維持することは認知症の予防に役立つ方法の一つである可能性があるようだ。新たな研究で、高齢者の側頭筋の減少はアルツハイマー病(AD)のリスク上昇と関連していることが示された。この研究を実施した米ジョンズ・ホプキンス大学医学部神経学教授のMarilyn Albert氏は、「骨格筋の少ない高齢者は、他の既知のリスク因子を考慮しても、認知症リスクが約60%高いことが明らかになった」と述べている。この研究結果は、北米放射線学会年次総会(RSNA 2024、12月1〜5日、米シカゴ)で発表された。 研究グループは、骨格筋は人の体重の約3分の1を占めており、加齢とともに減少する傾向があると説明する。また、頭部の側面に位置する側頭筋は、下顎を動かす際に使われる筋肉であるが、その厚さと面積は体全体の筋肉減少の指標となることが過去の研究で示されているという。 これらのことを踏まえてAlbert氏らは今回の研究で、アルツハイマー病神経画像イニシアチブ研究に参加した認知症のない高齢者621人(平均年齢77歳)を対象に、加齢に伴う側頭筋の減少がADの発症リスクに与える影響を検討した。研究開始時の脳MRI画像から両側の側頭筋をセグメント化して合計断面積(CSA)を計算し、参加者をCSAの大きい群(大CSA群、131人)と小さい群(小CSA群、488人)に分け、両群間でADの発症率、認知機能スコアの変化、および脳容積の変化を比較した。追跡期間の中央値は5.8年だった。 解析の結果、小CSA群では大CSA群に比べて、既知のリスク因子で調整後もADの発症リスクが約60%高いことが明らかになった。また、小CSA群は、記憶複合スコア、機能的活動に関する質問票のスコアのより大幅な低下、さらに脳容積のより大幅な減少と関連することも示された。 ただし、この研究は、骨格筋の減少と認知症との関連を調べることを目的にデザインされたものであり、因果関係が明らかにされたわけではない。それでも、研究グループの一員であるジョンズ・ホプキンス大学放射線科教授のShadpour Demehri氏は、「重要な筋肉が失われていることが分かれば、ウェイトトレーニングや食事管理などの手段で筋肉の減少を遅らせることができる。これらの介入は、認知機能低下や認知症リスクを軽減できる可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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食品中の果糖はがんの進行を促進する?

 糖の一種である果糖(フルクトース)は、がん細胞の増殖を促す燃料になる可能性があり、果糖の摂取を控えることが、がんと闘う手段の一つになり得ることが、新たな研究で示唆された。米セントルイス・ワシントン大学遺伝学・医学部教授のGary Patti氏らが、米国立衛生研究所(NIH)から一部助成を受けて実施したこの研究の詳細は、「Nature」に12月4日掲載された。 米国人が毎日口にしている食品には高果糖コーンシロップが多用されており、果糖はすでに米国人の食生活に広く浸透している。Patti氏は、「高果糖コーンシロップは、キャンディーやケーキから、パスタソースやサラダ用ドレッシング、ケチャップまで、極めて多くの食品に含まれている。意図的に摂取を回避しようとしない限り、高果糖コーンシロップを食事から除くことは困難である」と話す。 何世代か前までは、米国人の果糖の摂取量は比較的少なかった。しかし、数十年前から食品業界は多くの製品に高果糖コーンシロップを添加するようになった。そのタイミングと一致して、50歳以下の人の間で特定のがんが徐々に増加しているとPatti氏らは指摘している。 Patti氏らは今回の研究で、果糖が腫瘍の成長にどのような影響を与えるのかを調査した。まず、メラノーマ、乳がん、子宮頸がんの動物モデルに果糖を多く含む餌を与え、腫瘍の成長速度を測定した。その結果、果糖は、体重や空腹時血糖値、空腹時インスリン値に影響を与えることなく腫瘍の成長を促進することが確認された。Patti氏は、「果糖の影響の大きさには驚かされた。腫瘍の成長速度が2倍以上に加速したケースもあった。果糖の大量摂取が腫瘍の進行に極めて大きな悪影響を及ぼすことは明らかだ」と述べている。 しかし、次の実験室での分子レベルの分析から、がん細胞には、果糖を栄養源として直接利用するための生化学的機構が備わっていないことが判明した。Patti氏らが、高果糖食で飼育した動物の血液中の小分子について再調査したところ、リゾホスファチジルコリン(LPC)などのさまざまな脂質のレベルが上昇していることが確認された。また、肝細胞が果糖を代謝する過程でLPCを放出することも明らかになった。Patti氏は、「興味深いことに、がん細胞自体は適切な生化学的機構を発現していないため、果糖を栄養素として利用できなかった。しかし、肝細胞はそれが可能であり、果糖をLPCに変換して、それをがん細胞に栄養として供給することができる」と話している。 Patti氏は、「食事に含まれる果糖ががんの発症にどのような影響を及ぼすのかについて、今後、もっと多くのことが分かれば素晴らしいことだ」と言う。その一方で、「今回の研究で明らかになったメッセージの一つは、不幸にもがんに罹患した場合には、果糖の摂取を回避すべきだということだ。しかし、果糖はあまりにも多くの食品に含まれているため、残念ながら、『言うは易し行うは難し』というのが現実だ」と付け加えている。

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2024年を終えるに当たって【Dr. 中島の 新・徒然草】(561)

五百六十一の段 2024年を終えるに当たっていよいよ激動の2024年も終わりを迎えようとしています。正月の能登半島地震、翌2日の羽田空港地上衝突事故で始まった2024年ですが、大谷翔平選手のMLBでの大活躍や、日経平均株価のバブル期超えという明るいニュースもありました。考えてみれば、そもそも平穏な1年などというものはなく、毎年のように何か予想外のことが起こっているわけですね。私自身を振り返ってみると、何といっても定年退職したことが一番の出来事です。前々回に述べたように、週2回の外来と医師会活動や看護学校での講義のほかは、自宅で過ごす毎日。やはり時間に余裕ができたのは大きく、外来の患者さんたちにも「先生、前より元気そうね」と言われたりします。外来の患者さんといえば、若い人の中には結婚や出産というめでたいこともあったりします。ある脳梗塞の女性患者さんは、生まれたばかりの赤ん坊を連れてきてくれました。患者「普段は目立たないけど、子供を抱っこしたりするとバランスが悪くて」中島「そういう時に片麻痺が露呈してしまうのか……」患者「もう母や旦那に頼りっぱなしで情けないです」中島「そんなもん、利用できるものはすべて利用したほうがいいですよ」彼女は実家が目の前にあるので、何かと母親に助けてもらいながらの子育てです。一緒に診察室に来ていた母親は孫を抱きながら「そうは言っても育児は終わりがありますからね」と仰っていました。頼もしい!一方、別の頭部外傷の女性患者さんは、つい子供にきつく当たってしまうというのが悩みのようでした。高次脳機能障害のために感情を抑えづらいのがその原因。3歳の女の子を連れての受診ですが、彼女の場合は周囲に助けてくれる人があまりいないようです。中島「ママ、怒ったりする?」女の子「うん」中島「ママは怖い?」女の子「うん」患者「何を言ってるの!」まずい……余計なことを聞いてしまった。中島「でも、優しいママは大好き?」女の子「うん」一体、この先はどうなるのでしょうか。中島「保育所の利用とかで必要な書類があったら、何でも書きますから、遠慮なく言ってください」患者「ありがとうございます」別の患者さんは、小学生から中学生までの3人の子供がいる状態で、脳内出血を発症してしまいました。やはり片麻痺があるので、家事には苦労しています。患者「上の子は本当だったら反抗期なんでしょうけど……」中島「親に反抗している余裕もないんですね」患者「そうなんですよ。もう全員で家事を手伝ってくれています」中島「それは立派。立派過ぎる!」子供たちが診察室に付いてくることがあったら、私なりに労ったり励ましたりしなくてはなりませんね。そういえば、父親としての悩みというのも聞かされました。この患者さんは、交通事故の後に仕事も私生活もうまくいかなくなってしまったのですが、子供の話をする時だけは嬉しそうな表情です。患者「上の子が中学生になりまして」中島「こないだ小学校に入ったと聞いたばっかりなのに!」患者「それで、小学校からの友達と一緒にハンドボール部に入ったんですけど」中島「頑張ってますね」患者「それが同じポジションで、友達のほうばかりが試合に出してもらっているそうなんですよ」中島「そりゃあ辛いなあ」患者「それでハンドボールをやめたいとか言い出して」中島「でも、レギュラーになれない自分とどうやって折り合いを付けて頑張れるか、というのが部活動の本当の意味だと思いますけどね」患者「そうなんですか!」中島「とはいえ、本人は本人でいろいろ考えているでしょうから、あまり親が『ああしろ、こうしろ』と言い過ぎるのも良くないと思いますけど」今にして思えば、部活動というのは社会の縮図でした。よくあれだけ泣いたり笑ったりしたもんだと思います。部活動では、本当にたくさんの失敗をしてしまいましたが、医療現場と違って人が死ぬということがなかったのが救いでした。今になってそんな風に思います。ともあれ。あと数日間の2024年、無事に終わってほしいですね。読者の皆さん。良い年をお迎えください。最後に1句外来で 患者と悩む 年の暮れ

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切除不能EGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がんに対するCRT後オシメルチニブ:LAURA試験【肺がんインタビュー】第105回

第105回 切除不能EGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がんに対するCRT後オシメルチニブ:LAURA試験切除不能EGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)における化学放射線療法(CRT)後オシメルチニブを評価する第III相LAURA試験の日本人サブセットを含めた結果が発表された。試験概要、主要結果、そして視聴者からの質問に対して共同研究者である神奈川県立がんセンターの加藤 晃史氏に解説いただいた。参考Shun Lu, et al. Osimertinib after Chemoradiotherapy in Stage III EGFR-Mutated NSCLC. N Engl J Med.2024; 391:585-597.

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順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座【大学医局紹介~がん診療編】

九冨 五郎 氏(主任教授)佐々木 律子 氏(助教)板倉 萌 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴順天堂大学乳腺腫瘍学講座は、日本でも数少ない乳腺外科と乳腺内科で構成されている講座です。乳腺診療、とくに乳がん治療においては外科手術と薬物療法は2大治療ツールとされていますが、外科と内科が講座内で連携を取りながら日々診療・研究・教育に取り組んでいます。順天堂大学附属順天堂医院においては、2006年に大学病院では初めて乳腺センターが設立され、センターの診療において中心的な役割を果たしています。順天堂医院の乳腺センターはほかの関連診療科や診療部門と密に連携を取りながら、Patient Firstの精神で1人ひとりの患者さんに寄り添いながら最高の医療を届けられるように日々努力を続けています。当院における乳腺センターの取り組みは日本だけではなく海外からも評価を受け、毎年数多くの見学者を受け入れております。外科治療においては、最先端の機器を用いて新しい治療に取り組んでいます。縮小化にシフトしている外科治療の中でも手術で救える症例は確固たる技術で助けるというコンセプトで皆が精進しています。薬物療法に関しては、最新の臨床試験に数多く参加して最先端の治療を行っています。薬剤選択や薬剤の副作用マネージメントのみならず、再発症例においてはトータルマネージメント(治療、ACP、緩和等)を念頭に診療にあたっています。医局カンファレンス・外来カンファレンスの様子講座の研修先としての魅力 (1)豊富な症例数手術件数は本院で約500件、分院 (練馬・浦安・静岡)と併せて1,000件を超えています。年間の本院での化学療法実施数は3,864件(2023年度)で、治験も多数実施しています。(2)他科・多職種連携が充実診断から治療まで、放射線診断・治療医、病理医、形成外科医 (自家組織および人工乳房再建術)、臨床遺伝専門医 (遺伝カウンセリング外来併設)、腫瘍内科医(がん遺伝子パネル検査)、産科医 (妊孕性温存はリプロダクションセンターと連携)、認定看護師、乳腺科専属超音波技師、がん治療認定薬剤師とチーム医療を実践しています。(3)指導層の充実、各分野のエキスパートによる指導外科分野以外に腫瘍内科と遺伝診療の指導医が在籍。大学院では、幅広い基礎・臨床講座、連携研究施設との共同研究が可能です。医局の雰囲気指導医との距離が近く、相談しやすい雰囲気が特徴です。日常診療に加えて、学会発表や論文執筆の機会も積極的に提供されており、充実したサポート体制が整っています。また、最新の治療情報の共有も活発です。さらに、医師としての成長だけではなく、プライベートとの両立も重視しています。性別や年齢を問わず、ワークライフバランスのとれた勤務環境は、サステナブルな医局運営に繋がると考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ~当科で乳腺診療医の基礎を築きませんか~乳腺診療医の魅力は多岐にわたりますが、まず強調したいことは、その社会的ニーズの高さです。乳がんは女性が最も罹患する悪性腫瘍で、年々患者数が増加している一方で、乳腺専門医は全国的に不足しています。ニーズがあるため、乳がん治療は日々進化しています。個々の患者にとって最適な治療を考え、寄り添う新たな仲間をお待ちしています。また、乳腺診療は医師自身のライフステージに合わせて柔軟に関われる点も大きな魅力です。医師のキャリアは、専門医取得を目指す最初の10年が注目されがちですが、実際には定年まで40年近い長い道のりがあります。乳腺診療は、その期間を通じて、臨床や研究など多様な形で関わる可能性を広げられる分野です。その第一歩をふみだす環境として最適な当医局で、研鑽を積み、ぜひ一緒に乳腺診療の未来を築きましょう。気軽に見学へお越しください!これまでの経歴順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属静岡病院で初期研修を2年間行いました。初期研修開始時には内科志望でしたが、ローテーションで外科を回った際に手術の楽しさを知り、外科系の診療科へ興味が出てきました。診断から手術、薬物治療、緩和治療と一貫して患者さんに関わることができる点や、女性医師の需要が高い科である点に魅力を感じ、乳腺科を志望しました。同医局を選んだ理由順天堂大学に入局を決めた理由としては、母校であることに加え、手術件数が多く外科専門医や乳腺専門医を取得するための十分な症例数があること、大学病院として治験や研究に積極的であることが魅力的でした。私は同大学出身ですが、他大学出身者の医局員も多く、学閥もなく和気藹々とした雰囲気がある点も当医局の強みと感じています。現在学んでいること入局2年目までは、初期研修先である順天堂大学医学部附属静岡病院の消化器外科で外科の基礎を学ばせていただき、3年目から乳腺に主軸をおいた診療に携わっています。症例の相談もしやすい環境にあり、外来診療や手術、病棟管理を通じて上級医の先生方のご指導のもと、研鑽を積ませていただいています。毎年の学会発表や論文執筆も熱心にご指導いただきました。現在は大学院に入学し、研究に励む日々を送っています。乳腺科にご興味がある方はぜひ見学にいらしてください!順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座住所〒113-8431 東京都文京区本郷3-1-3問い合わせ先rt-sasaki@juntendo.ac.jp(医局長 佐々木 律子)breast-office@juntendo.ac.jp(医局秘書)医局ホームページ順天堂大学医学部乳腺腫瘍学講座【乳腺腫瘍学】順天堂大学医学部附属順天堂医院乳腺科(乳腺センター)専門医・認定医取得実績のある学会日本外科学会日本乳学会日本治療学会日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会日本人類遺伝学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)外科および乳腺専門医取得に必要な症例が十分経験できる(2)乳がんの診断から外科・薬物・放射線療法、そして緩和ケアまで網羅的に経験を積める(3)乳がん診療を提供するさまざまな領域のエキスパートが在籍しており、最新の情報を入手することができる詳細はこちら順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床研修センター 専門研修プログラム

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ギンナンを食べ過ぎて痙攣発作、対処法は?【これって「食」中毒?】第7回

今回の症例年齢・性別2歳7ヵ月・男児患者情報父親は近くの公園でギンナンの種子(図1)を大量に採取した。帰宅後に、ギンナンの種子から悪臭を放つ外種皮をきれいに取り除いて内種皮(図2)を取り出し、トンカチで硬い殻に割れ目を入れてフライパンで炒った(図3)。男児は父親に殻を割ってもらい、緑色になったギンナンの胚乳を1時間かけて50個程食べた。男児は摂取3時間後に嘔吐し、腹痛を訴えた。さらに摂取3時間半後には全般性強直発作が生じて、呼びかけにも反応がなくなったため、摂取4時間後に救命救急センターに搬送されたが、搬送中にも全般性強直発作が生じた。(図1~3)画像を拡大する初診時は気道開通、呼吸数26/分、SpO2 99%(室内気)、血圧102/72 mmHg、心拍数136 bpm(整)、意識レベルJCS 3、体温37.2℃であった。朦朧状態で開瞼していたが、疎通がとれずベッド上で安静が保てなかった。検査値・画像所見末梢血では、白血球増多(9.82×103/µL)を認めた。動脈血ガス(室内気)では、pH 7.31、PaO2 92.4mmol/L、PaCO2 32.4mmol/L、HCO3- 18.4mmol/L、BE -5.2mmol/L、乳酸値4.6 mmol/Lであった。頭部CTでは、異常所見を認めなかった。問題

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第128回 年末年始、インフルエンザ・新型コロナの大流行が直撃

インフルエンザの流行曲線がヤバイさて毎年のように感染症に警戒しなければならない年末。昨シーズンは、新型コロナもインフルエンザも年明けからわりと流行していましたが、今シーズンはインフルエンザの流行曲線がほぼ直角に上がっています。第50週で19.06人。定点医療機関あたりの感染者数が5週間で1から一気にここまで上がりました(図)。やべえ!画像を拡大する図. インフルエンザとCOVID-19の定点医療機関あたりの感染者数(筆者作成)1)外来でも、インフル陽性、インフル陽性、新型コロナ陽性、インフル陽性…といった感じで報告が上がっていて、時折混ざってくる新型コロナにドキっとする日々です。幸いマイコプラズマは当地域では徐々に減ってきており、もともと風邪症状や気管支炎止まりのことが多いため、全体として入院を逼迫するような要因にはなっていません。マイコプラズマの感染者が若い人が中心、という理由もあるでしょう。しかし、インフルエンザや新型コロナに関しては、高齢者が罹患すると、わりと入院が必要になります。年末年始はまた大変なことになるのかなあと身構えています。新型コロナもじわじわ増えており、第50週で3.89人です。過去、この立ち上がりから流行を迎えなかったことはありません。ですから、ほどなく新型コロナも注意報レベルになることも既定路線でしょう。2年連続、同時流行。乾燥している病院インフルエンザウイルスは、相対湿度が40%を超えるとウイルスの活性化率が急速に低下することが知られています2)。ゆえに、医療機関においても40%ラインは確保したいところ。新型コロナも同様です。121ヵ国の気象データと新型コロナの感染者数・死亡者数を調べたアメリカのデータによると、室内の相対湿度を40~60%に維持することで、新型コロナの感染だけでなく、ひいては死亡者数まで低下するという研究結果が報告されています3)。温度環境は良好に管理されているものの、相対湿度については、多くの医療機関や高齢者福祉施設では40%を下回っています。そもそも、湿度をしっかり管理している病院って多くないかもしれません。レジオネラなどの院内アウトブレイクがあったら問題になりますし、加湿器はなかなか置けないかもしれませんね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移2)Noti JD, et al. High Humidity Leads to Loss of Infectious Influenza Virus from Simulated Coughs. PLoS One. 2013;8(2):e57485.3)Verheyen CA, et al. Associations between indoor relative humidity and global COVID-19 outcomes. J R Soc Interface. 2022;19(196):20210865.

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日本のメモリークリニックにおける聴覚障害や社会的関係とBPSDとの関連性

 認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知症患者とその介護者のQOLに悪影響を及ぼす。そのため、BPSDを予防するための修正可能なリスク因子を特定することは、非常に重要である。滋賀医科大学の田中 早貴氏らは、聴覚障害、社会的関係とBPSDとの関連を調査するため、横断的研究を実施した。Psychogeriatrics誌2025年1月号の報告。 対象は、2023年7月~2024年3月に日本のメモリークリニックを受診した患者179例。純音聴力検査および質問票によるインタビューを行い、医療記録をレビューした。聴覚障害の定義は、聴力がより良好な耳における純音聴力検査で測定された平均聴力レベル40dB以上とした。BPSDの有無および重症度の評価には、BPSD25Qベースの質問票を用いた。交絡因子で調整したのち、聴覚障害、社会的関係指標とBPSDの有無および重症度との関連を評価するため、部分回帰係数を算出する多重回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・分析対象患者は144例(平均年齢:82.7歳、女性の割合:66.7%[96例])。・多重回帰分析では、聴覚障害患者は、他人と同居している非聴覚障害患者と比較し、他人との同居(β=1.49、p=0.038)または独居(β=2.23、p=0.044)にかかわらず、BPSDの発生率が高かった。・聴覚障害患者の定期的に会話している(β=1.51、p=0.027)または社会的交流に参加していない患者(β=2.02、p=0.020)は、同様の状況にある非聴覚障害患者と比較し、BPSDの発生率が高かった。・同様に、聴覚障害患者の独居(β=4.54、p=0.033)および社会的交流が欠如した患者(β=3.89、p=0.020)では、BPSDの重症度に上昇が認められた。 著者らは「聴覚障害患者では、独居および社会的交流の欠如は、BPSDの発生および重症度の両方に関連していることが示唆された。さらに、聴覚障害患者は、同居家族や他人との会話を通じたコミュニケーションの増加により、BPSDの発生率が上昇する可能性がある。コミュニケーションによるストレスを軽減し、社会的つながりを維持することは、これらの課題を解決するうえで、不可欠であろう」と結論付けている。

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重症血友病A、新たな第VIII因子発現遺伝子治療が有望/NEJM

 第VIII因子インヒビターのない重症血友病A患者において、レンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入した自己造血幹細胞(HSC)による遺伝子治療は、安定した第VIII因子発現が得られ、第VIII因子活性は末梢血中のベクターのコピー数と相関することが、インド・Christian Medical College VelloreのAlok Srivastava氏らの検討で示された。研究の成果はNEJM誌オンライン版2024年12月9日号に掲載された。5例を対象とするインドの第I相試験 研究グループは、第VIII因子インヒビターのない重症血友病Aにおけるレンチウイルスベクターを用いた自己CD34陽性HSCによる第VIII因子発現遺伝子治療の安全性と有効性の評価を目的に、インドの単施設において第I相試験を行った(インド政府科学技術省などの助成を受けた)。 年齢22~41歳の男性患者5例を対象とした。骨髄指向性CD68プロモーターを有する新規F8導入遺伝子(ET3)を含むレンチウイルスベクター(CD68-ET3-LV)を用いて、自己HSCに導入用エンハンサーなし(第1群、2例)または導入用エンハンサーあり(第2群、3例)のいずれかで形質導入した。患者は、骨髄破壊的前処置後に遺伝子導入HSCの移植を受けた。 治療の安全性については、生着とレジメン関連毒性作用の評価を行い、有効性は第VIII因子活性と年間出血率で評価した。 5例の患者のCD68-ET3-LV導入自己CD34陽性HSCの投与量は、体重1kg当たり5.0×106~6.1×106であった。最終の製剤中のベクターコピー数は、第1群の2例が1細胞当たり1.0および0.6で、第2群の3例は1細胞当たり1.5、0.6、2.2だった。全例で生着、インヒビターの発現はない 予想どおり全例で重度の血球減少が発現し、絶対好中球数の最低値は0.1×109/L未満、血小板数最低値は20×109/L未満であった。一方、全例で生着が得られ、好中球生着までの期間中央値は11日(範囲:10~12)、血小板生着までの期間中央値は15日(12~15)だった。重症好中球減少の期間中央値は8日(7~11)、重症血小板減少の期間中央値は3日(1~7)であった。 移植特性は第1群と第2群で差がなかった。5例のうち4例は、遺伝子治療後1~3ヵ月までには血球数が正常範囲に戻った。残りの1例(第2群)は、治療後14ヵ月には血球数が正常範囲となった。 好中球減少と血小板減少を除き、グレード2以上の有害事象はどの患者にも発現しなかった。最も頻度の高い有害事象は、吐き気(±嘔吐)であった。また、第VIII因子インヒビターは、製剤の投与後にどの患者にも発現しなかった。投与後4~22ヵ月目に行った遺伝子組み込み部位解析では、安全性に関する懸念は認めなかった。 これらのデータは、導入用エンハンサーがこのレンチウイルスベクターの遺伝子組み込みプロファイルに悪影響を及ぼさないことを示している。治療前に年間20件以上の出血が0件に 内因性第VIII因子の発現は、第2群の1例で投与後18日目に早くも観察された。60日目の第VIII因子活性値は、第1群の2例では7.9 IU/dLおよび4.0 IU/dLであり、第2群の3例では28.0 IU/dL、14.2 IU/dL、36.6 IU/dLであった。 第1群の2例では、投与後28日目から最後の追跡調査までの第VIII因子活性の中央値は、5.2 IU/dL(範囲:3.0~8.7)および1.7 IU/dL(1.0~4.0)であり、末梢血ベクターコピー数はそれぞれ0.2および0.1であった。同様に、第2群の3例では、第VIII因子活性中央値は37.1 IU/dL(18.3~73.6)、19.3 IU/dL(6.6~34.5)、39.9 IU/dL(20.6~55.1)であり、末梢血ベクターコピー数はそれぞれ4.4、3.2、4.8だった。 遺伝子治療前に、5例は少なくとも年間20件の出血イベントを報告していたが、治療後の累積追跡期間81ヵ月(追跡期間中央値14ヵ月[範囲:9~27])の時点で、年間出血率は5例ともゼロであった。 著者は、「このfirst-in-human試験の初期結果は、血友病Aの遺伝子治療の新たな可能性を示すものである。すべての患者で、より若い時期に施行可能であり、第VIII因子の持続的発現をもたらすと考えられる。この予測が正しいかは、より多くの患者を対象とした長期の臨床試験で明らかになるだろう」としている。

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中等~重度の椎骨脳底動脈閉塞、血管内治療vs.内科的治療/Lancet

 中等度~重度の症状を呈する椎骨脳底動脈閉塞患者において、標準的な内科的治療と比較して血管内治療は強固な有益性を示し、良好な機能的アウトカムの達成の可能性が高く、症候性頭蓋内出血のリスクは有意に増加するものの、全体的な機能障害および死亡率の有意な減少と関連することが、米国・ピッツバーグ大学のRaul G. Nogueira氏らが実施した「VERITAS研究」で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年12月11日号で報告された。4つの試験のメタ解析 研究グループは、急性椎骨脳底動脈閉塞患者における血管内治療の安全性と有効性を評価するために、標準的な内科的治療(対照)と比較した無作為化試験の系統的レビューを行い、患者レベルのデータを統合したメタ解析により、事前に規定したサブグループにおける有益性を検討した(特定の研究助成は受けていない)。 2010年1月1日~2023年9月1日に実施された無作為化試験の中から4つの試験(ATTENTION、BAOCHE、BASICS、BEST)を選出した。 主要アウトカムは、90日後の良好な機能状態(修正Rankin尺度[mRS]スコア[0~6点、高点数ほど機能状態が不良、6点は死亡]が0~3点)とした。安全性のアウトカムとして、症候性頭蓋内出血と90日死亡率を評価した。90日mRSスコア0~3点達成率:45% vs.30% 4試験の参加者988例のデータを統合した。血管内治療群は556例(56%)、対照群は432例(44%)であった。全体の年齢中央値は67歳(四分位範囲:58~74)、686例(69%)が男性だった。904例(91%)が脳卒中の推定発症時から12時間以内に無作為化された。3試験は中国人が対象で、988例中690例(70%)を占めた。1試験は欧州人とブラジル人を対象としていた。 良好な機能状態を達成した患者の割合は対照群よりも血管内治療群で高く、90日時にmRSスコア0~3点を達成した患者は、対照群が30%(128例)であったのに対し、血管内治療群は45%(251例)であった(補正後共通オッズ比[OR]:2.41、95%信頼区間[CI]:1.78~3.26、p<0.0001)。 血管内治療群は機能的自立度(mRSスコア0~2点の達成率)が高かった(血管内治療群35%[194例]vs.対照群21%[89例]、補正後共通OR:2.52、95%CI:1.82~3.48、p<0.0001)。また、血管内治療群で症候性頭蓋内出血のリスクが有意に高かった(5%[30例]vs.<1%[2例]、11.98、2.82~50.81、p<0.0001)にもかかわらず、全体的な機能障害の程度(2.09、1.61~2.71、p<0.0001)および90日死亡率(36% vs.45%、0.60、0.45~0.80、p<0.0001)は有意に低かった。心房細動や頭蓋内動脈硬化の有無にかかわらず有益 血管内治療の効果の異質性は、ベースラインの脳卒中重症度(ベースラインのNIHSSスコアが10点未満では効果が不確実)および閉塞部位(閉塞部位が近位であるほど有益性が大きい)については認められたが、年齢、性別、ベースラインの後方循環ASPECTSスコア、心房細動または頭蓋内アテローム性動脈硬化性疾患の有無、発症から画像診断までの時間で定義されたサブグループではみられなかった。 著者は、「アジア人は頭蓋内動脈硬化性疾患の発生率が高いことが知られているため、今回の知見の欧米諸国に対する一般化可能性について考慮する必要がある」「脳卒中重症度が軽度で、神経画像上広範な梗塞を呈する椎骨脳底動脈閉塞症患者に対する血管内治療の有益性はまだ不明であるが、これらの結果により椎骨脳底動脈閉塞症のさまざまな患者において血管内治療の有意な臨床的有益性が示された」としている。

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抗凝固薬とNSAIDsの併用は出血リスクを高める

 抗凝固薬を使用している人が、イブプロフェンやナプロキセンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用すると、脳や腸、肺、膀胱での制御不能な出血リスクが2倍以上に上昇することが、新たな研究で明らかにされた。抗凝固薬は通常、脳卒中や心筋梗塞、あるいは脚や肺の血栓を治療または予防するために処方される。一方、NSAIDsには血液を薄める作用のあることが知られている。オーフス大学病院(デンマーク)のSoren Riis Petersen氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に11月18日掲載された。 Petersen氏らは、デンマークの全国レジストリを用いて、抗凝固薬を使用している静脈血栓塞栓症(VTE)患者がNSAIDs(イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン)を使用した際の出血リスクについて検討した。対象は、2012年1月1日から2022年12月31日の間にVTEの治療のために経口抗凝固薬を処方された患者5万1,794人(年齢中央値69歳、女性48%)であった。 その結果、あらゆる出血の100人年当たりの発生率は、NSAIDsを使用していない期間では3.5(95%信頼区間〔CI〕3.4〜3.7)であったのに対し、NSAIDsを使用している期間では6.3(同5.1〜7.9)であった。NSAIDs使用によるあらゆる出血のリスクは、使用していない場合と比べて2倍以上に上昇していた(調整ハザード比〔aHR〕2.09、95%CI 1.67〜2.62)。NSAIDsの種類別に見た場合の出血のaHRは、イブプロフェン1.79(同1.36〜2.36)、ジクロフェナク3.30(同1.82〜5.97)、ナプロキセン4.10(同2.13〜7.91)であった。 一方、出血リスクを部位別に検討した際のaHRは、消化管出血2.24(同1.61〜3.11)、頭蓋内出血3.22(同1.69〜6.14)、胸部および呼吸器系の出血1.36(同0.67〜2.77)、泌尿器系の出血1.57(同0.98〜2.51)、出血による貧血2.99(同1.45〜6.18)であった。これらの結果は、抗凝固薬の種類やVTEのサブタイプ別に検討しても同様であった。 Petersen氏は、「脚や肺の血栓を治療するために抗凝固薬を使用している人では、痛みや炎症の治療のためにNSAIDsの使用を検討する際には注意が必要であることが、われわれの研究で明示された」と欧州心臓病学会(ESC)のニュースリリースの中で結論付けている。同氏は、「NSAIDsと抗凝固薬の併用を考えている人は、事前に医師に相談することをお勧めする」とアドバイスしている。 この論文の付随論評を執筆した、英シェフィールド大学臨床心臓病学教授のRobert Storey氏は、「NSAIDsは広く使用されており、世界中で処方箋の約8%を占めている上に、多くの場合、店頭でも入手可能だ」と指摘する。その上で同氏は、「NSAIDsと抗凝固薬の併用を避けることが、過剰な出血リスクを回避するための最も安全な戦略であることは明らかだ。しかし、それが不可能な場合、どのような緩和策が考えられるのだろうか。NSAIDsの処方は、当然のことながら、可能な限り最低用量とし、使用期間も最短にすべきだ。また、使用するNSAIDsの種類や、内服か外用かなどの投与方法も重要な要素になると考えられる」と話している。

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歯周病と糖尿病の強固な関連

 歯周病と糖尿病は、健康にダメージを与えるという点で恐ろしい関係性を持っていると、研究者らが警告している。その1人であるベルン大学(スイス)のAnton Sculean氏は、「最近の研究から、糖尿病は歯周病の主要なリスク因子であるだけでなく、この二つの病気の関係は双方向であって、互いに悪影響を強め合うことが分かっている」と解説する。なお、同氏は欧州歯周病連盟(EFP)の年次総会(EuroPerio11)の会長も務めている。 Sculean氏によると、この二つの病気の関係は、時間が経つにつれて致命的な結果を招く可能性さえあるという。中等度から重度の歯周病は、長期的には心臓病や全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスク上昇と関連してくるとのことだ。 糖尿病は現在、世界中で8億人以上が罹患していると推定されている。この病気は、体内で十分なインスリン(血糖値を調節するホルモン)が産生されないか、インスリンに対する細胞の反応が弱くなることで発症する。EFPは、11月14日の世界糖尿病デーに発行したニュースリリースで、糖尿病は重度の歯周病のリスクを3倍に高めると述べている。実際に、糖尿病患者の血糖コントロールが不十分になると、歯周病の重症度が上昇することも報告されている。それはなぜだろうか? Sculean氏らはその理由を、血糖値が適切にコントロールされていないと、免疫システムの働きが低下し、歯周病を引き起こす細菌感染と戦うことが困難になるからだと解説する。また糖尿病は、体の炎症反応を高め、歯周組織へのダメージをより悪化させる可能性もある。加えて、歯周病が悪化すると全身の炎症反応が引き起こされ、それによって細胞のインスリンに対する反応がさらに低下するというメカニズムも、EFPのリリースには解説されている。このように、歯周病と糖尿病は互いに作用して状態を深刻にするという「悪循環」を作り出す。 しかし、逆に言えば、歯周病を治療することで、糖尿病をコントロールしやすくなるということだ。EFPは、「歯周病と糖尿病が悪循環を起こすという事実は、歯科の専門家がほかの医療提供者と緊密に連携を取り、口腔の健康と糖尿病管理の双方に対応した包括的なケアを、患者が確実に受けられるようにする必要性のあることを再確認させるものだ」と表現している。 EFPの推計によると、現在、世界中で10億人以上が重度の歯周病を患っているとされる。マドリード大学(スペイン)のEduardo Montero氏は、「EFPは糖尿病と歯周病の関連という課題に取り組むことを大変重視している。なぜなら、糖尿病と歯周病は口腔の健康だけでなく、世界中の何百万人もの人々の全身の健康状態に影響を与えるからだ」と述べている。同氏はまた、「一般の人々、医療専門家、政策立案者の意識を高めることが不可欠である。糖尿病と歯周病の双方向の関係を認識し、口腔の健康を世界の保健戦略に組み込み、より総合的な医療システムへと移行していかなければならない」と強調している。

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