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45〜49歳の成人において局所限局期大腸がんの罹患率が上昇

 45〜49歳の成人において、局所限局期の大腸がん(CRC)の罹患率が2019年から2022年にかけて上昇し、CRCスクリーニング検査の受診率も2019年から2023年にかけて上昇したことを示す2報の研究結果が、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月4日掲載された。 米国がん協会(ACS)のElizabeth J. Schafer氏らは、55歳未満の成人(合計21万9,373人)におけるCRC罹患率の傾向を検討した。解析の結果、20〜39歳のCRC罹患率は、2004年以降一貫して年率1.6%で上昇し、40〜44歳および50〜54歳では、2012年以降年率2.0%~2.6%で上昇していた。45〜49歳では、2004〜2019年は年率1.1%増であったが、2019〜2022年は年率12.0%増に加速していた。この急増は局所限局期での診断の増加が主因であり、その罹患率は2019年が10万人当たり9.4人、2021年には11.7人、2022年には17.5人へと増加した。 一方、同協会のJessica Star氏らは、45〜49歳の成人における2019年から2023年にかけてのCRCスクリーニング受診率の変化を検討した。解析の結果、スクリーニング受診率は、2019年の20.8%、2021年の19.7%から、2023年には33.7%に上昇していた(2019年と比較した2023年の調整受診率比〔APR〕1.62)。より詳しくは、大腸内視鏡検査の実施率はそれぞれ19.5%、17.8%から27.7%に上昇し(APR 1.43)、便検査は1.3%、2.7%から7.1%に上昇していた(APR 5.37)。 Star氏は、「若年成人における大腸がんスクリーニング検査の受診率の上昇は好ましいことであり、早期診断の増加につながっている可能性がある。しかし道のりはまだ長い。45〜49歳における大腸がんのスクリーニング受診率は依然として理想的とは言えず、教育歴や保険加入状況が受診率上昇の公平性を妨げている」と述べている。

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質の低い睡眠は脳の老化を早める

 質の低い睡眠は脳の老化を加速させ、その一部は全身の炎症を介して引き起こされている可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。睡眠の質を5段階で評価するスコアが低い人ほど脳の老化が早いことが示されたという。カロリンスカ研究所(スウェーデン)の神経生物学、ケア科学、社会学分野のAbigail Dove氏らによるこの研究結果は、「eBioMedicine」に9月30日掲載された。 Dove氏は、「健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに、脳年齢と実年齢の差は約6カ月拡大した。睡眠不足の人の脳は、脳年齢が実年齢より平均で1歳進んでいるようだ」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模コホート研究であるUKバイオバンクの参加者から抽出した2万7,500人(平均年齢54.7歳、女性54.0%)を対象に、健康的な睡眠パターンと脳年齢との関係、さらにその関係が全身の炎症によってどの程度媒介されるのかが検討された。参加者の睡眠の質は、健康的な睡眠の特徴(朝型、7〜8時間の睡眠時間、不眠がない、いびきをかかない、日中の過度な眠気がない)のスコア(0〜5点)を合計し、睡眠パターンを健康的(4〜5点)、中間(2〜3点)、不健康(0〜1点)の3群に分類した。試験開始時の睡眠パターンは、不健康が898人(3.3%)、中間が1万5,283人(55.6%)、健康的が1万1,319人だった。炎症レベルは、血液サンプルを用いて、複数の炎症マーカーを組み合わせた「INFLAスコア」で評価した。脳年齢は、平均8.9年間の追跡後に脳MRIからAIモデルで推定し、脳年齢から実年齢を引いた脳年齢ギャップ(BAG)を算出した。 健康的な睡眠スコアを連続変数として解析した結果、スコアが低いほどBAGが有意に大きく、健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに脳年齢が実年齢より約0.48歳高くなる傾向が認められた。睡眠パターンを3群に分類して解析すると、睡眠パターンが「健康的」に分類された人と比較して、「中間」に分類された人ではBAGが0.24歳、「不健康」に分類された人では0.50歳、それぞれ有意に高いことが明らかになった。さらに媒介分析では、INFLAスコアがこれらの関連の6.81%と10.42%を媒介していることが示された。 Dove氏は、「われわれの研究結果は、睡眠不足は脳の老化を加速させる可能性があり、その根本原因の一つが炎症であることを示唆している。睡眠の質は調整可能であることから、より健康的な睡眠によって脳の老化の加速、ひいては認知機能の低下さえも防ぐことができる可能性がある」と話している。 Dove氏らは、睡眠不足は、主に睡眠中に働く脳の老廃物除去システムを阻害する可能性があると指摘する。その結果、アルツハイマー病と関連付けられているアミロイドβやタウタンパク質など、脳内の有害物質の濃度が上昇する可能性があるのだという。さらに、睡眠不足は心臓の健康に影響を及ぼし、それが脳の健康に悪影響を及ぼしている可能性も考えられるとしている。 ただし研究グループは、本研究において睡眠不足と脳の老化の関連は示されたものの、直接的な因果関係が証明されたわけではないと指摘している。

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花粉の飛散量が増えると自殺者が増える?

 季節性アレルギーは多くの人にとって厄介なものだが、それが命に関わる可能性があると考える人はほとんどいないだろう。しかし新たな研究で、花粉の飛散量の増加に伴い自殺者数が増加し、特に精神疾患患者への影響は大きいことが明らかにされた。米ミシガン大学社会調査研究所のJoelle Abramowitz氏らによるこの研究結果は、「Journal of Health Economics」12月号に掲載予定。Abramowitz氏らは、季節性アレルギーを原因とする身体的苦痛は睡眠を妨げ、精神的苦痛を増大させ、それが自殺増加の一因となっている可能性が高いと推測している。 Abramowitz氏は、「本研究期間中に、米国では約50万人が自殺した。この研究で新たに得られたデータに基づくと、この期間に花粉が最大1万2,000人の死亡の一因となった可能性があると推定された。これは、年間で約900人から1,200人の死亡に相当する」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。 この研究でAbramowitz氏らは、米国の34の大都市圏に含まれる186の郡で、2006年から2018年の間に集計された自殺件数と毎日の花粉飛散量のデータを用いて、両者の関連を検討した。花粉の飛散レベルを4段階に分けて検討した結果、飛散レベルが上がるにつれて自殺者数も増加することが明らかになった。具体的には、飛散レベルが最も低い場合と比較して、2番目のレベルでは自殺者数は4.5%、3番目のレベルでは5.5%、4番目の最も高いレベルでは7.4%増加していた。精神疾患やその治療歴のある人では、花粉レベルが最も高い日には自殺者数が8.6%増加していた。さらに、花粉の飛散量が多い日には、Googleでの「アレルギー」「うつ症状」に関する検索が増加することも示された。 こうした結果を受けて研究グループは、「この結果は、季節性アレルギーを単なる厄介物として扱うのではなく、もっと真剣に受け止めるべきであることを示している」と述べている。また、Abramowitz氏は、「すでに脆弱な状態にある人では、小さな刺激でも大きな影響を及ぼす可能性がある」と話している。 Abramowitz氏らは、「花粉の飛散予測をより正確にし、季節性アレルギーがメンタルヘルスに与える影響について広く周知することで、人々が自身を守る手段を取れるようになり、命が救われる可能性がある」と述べている。同氏らは、気候変動が進み花粉の季節が長期化して激しくなるにつれて、このことはさらに重要になるだろうと指摘している。 Abramowitz氏は、「花粉などの小さな環境変化に対する反応やメンタルヘルス全般について、われわれは意識を高めるべきだ。本研究結果を踏まえると、医療従事者は患者のアレルギー歴を把握しておくべきだろう。アレルギーと自殺リスクの上昇との関連は、他の研究でも示されている。この研究がより個別化されたケアにつながり、最終的には命を救うことにつながることを願っている」と話している。

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歯みがきで命を守る?手術2週間前の口腔ケアが肺炎予防に効果

 高齢患者や基礎疾患を持つ患者においては、術後肺炎をはじめとする感染症対策が周術期管理上の大きな課題となる。今回、愛媛大学医学部附属病院の大規模後ろ向き解析で、術前2週間以上前からの体系的な口腔ケアが術後肺炎の発症抑制および入院期間短縮に有効であることが示された。研究は愛媛大学医学部附属病院総合診療サポートセンターの古田久美子氏、廣岡昌史氏らによるもので、詳細は9月3日付けで「PLOS One」に掲載された。 近年、周術期管理や麻酔技術の進歩により、高齢者や重篤な基礎疾患を持つ患者でも侵襲的手術が可能となった。その一方で、合併症管理や入院期間の短縮は依然として課題である。術後合併症の中でも肺炎は死亡率や医療費増大と関連し、特に重要視される。口腔ケアは臨床で広く行われ、病原菌抑制を通じて全身感染症の予防にも有効とされる。しかし、既存研究は対象集団が限られ、最適な開始時期は明確でない。このような背景を踏まえ、著者らは術前口腔ケアについて、感染源除去や細菌管理、歯の脱落防止のために少なくとも2週間の実施が必要であると仮説を立てた。そして、手術2週間以上前からの口腔ケアが術後肺炎予防に有効かを検証した。 本研究では、2019年4月~2023年3月の間に愛媛大学医学部附属病院で手術および術後管理を受けた成人患者1,806人を対象とした。患者は口腔ケア介入の時期に基づき、手術の少なくとも2週間前に体系的な口腔ケアを受けた群(早期介入群)と、手術の2週間以内に口腔ケアを受けた、もしくは口腔ケアを受けなかった群(後期介入群)の2群に分類した。主要評価項目は、院内感染症のDPCコードを用いて特定された術後感染症(術後肺炎、誤嚥性肺炎、手術部位感染症、敗血症など)の発生率とした。副次評価項目は術後入院期間および入院費用であった。選択バイアスを最小化するために、傾向スコアマッチング(PSM)および逆確率重み付け(IPTW)が用いられた。 解析対象1,806人のうち、257人が早期介入群、1,549人が後期介入群だった。年齢、性別、手術の種類など14の共変量を用いたPSMの結果、253組のマッチペアが特定された。PSMおよびIPTW解析の結果、早期介入群では、後期介入群に比べて術後肺炎の発生率が有意に低いことが示された(PSM解析:リスク差 −5.08%、95%CI −8.19~−1.97%、P=0.001;IPTW解析:リスク差 −3.61%、95%CI −4.53~−2.68%、P<0.001)。 さらに、IPTW解析では早期介入群の入院期間は後期介入群より短く、平均で2.55日短縮されていた(95%CI −4.66~−0.45日、P=0.018)。医療費に関しても早期介入群で平均5,385円の減少が認められた(95%CI -10,445~-325円、P=0.037)。PSM解析では同様の傾向が認められたものの、統計的に有意ではなかった。 著者らは、「本研究の結果は、手術の少なくとも2週間前から体系的な術前口腔ケアを実施することで、術後肺炎の発症を有意に減少させ、入院期間を短縮できることを示している。さまざまな統計解析手法でも一貫した結果が得られたことから、標準化された術前口腔ケアプロトコルの導入は、手術成績の改善に有用な戦略となり得る」と述べている。 本研究の限界については、測定されていない交絡因子が存在する可能性があること、単一の施設で実施されたため、研究結果の一般化には限界があることなどを挙げている。

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左心耳閉鎖術?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の症例は、長期間の観察期間内の脳卒中リスクが高い。心房細動による血流うっ滞が血栓形成に寄与している可能性はある。血流うっ滞による血栓形成は、うっ滞が最も重症になる心耳から始まる可能性がある。そこで左心耳を閉じてしまえば心房細動の脳梗塞予防が可能かもしれないとの仮説につながる。 カテーテルアブレーションを受ければ左房の内膜側に損傷ができるので血栓イベントリスクが上昇する。一時的に抗凝固薬を使用するのは血栓イベント予防に有効と考えられる。左心耳閉鎖が有効であるためには、アブレーションにより傷ついた内膜からの血栓が左心耳にて成長している必要がある。本研究では重篤な出血イベント発現リスクを仮説検証のエンドポイントにしている。全身の凝固機能が低下する抗凝固薬使用時には出血イベントリスクが増加する現実に、本研究でも抗凝固療法群の重篤な出血イベント発現リスクは18.1%と左心耳閉鎖群の8.5%よりも高かった。この結果は予想通りである。 問題の血栓イベントリスクは、36ヵ月の総死亡・脳卒中・全身塞栓症にて定義された。有効性エンドポイント発現率は5.3%と5.8%で両群間に差がなかった。抗凝固薬を使用すると重篤な出血イベントリスクは増える。しかし、現実世界では多くの症例が抗凝固介入を受けている。総死亡・脳卒中・全身塞栓症にて定義される血栓イベントリスクは、抗凝固薬使用時の重篤な出血イベントリスクよりもはるかに低い。左心耳閉塞が血栓イベントリスクに及ぼす効果は未知である。心房細動に対する過剰な抗凝固薬投与の反省の時代が来るかもしれない。

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第35回 特別編 ネクソムラボ特別企画『どうすればよかったか?』上映会を開催

統合失調症を発症した実姉とその家族を20年にわたって記録した映画『どうすればよかったか?』*の上映会が2025年9月21日、東京慈恵会医科大学で開催された。千葉大学病院次世代医療構想センターセンター長 特任教授の吉村 健佑氏と浜松医科大学教授の大磯 義一郎氏が共同代表を務める、「次世代社会医学オープンラボNexSoM Labo(ネクソムラボ)」が企画し、東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座教授の越智 小枝氏の協力のもと開催された。*映画『どうすればよかったか?』ドキュメンタリー監督の藤野 知明氏が、統合失調症の症状が現れた実姉と、彼女を精神科の受診から遠ざけた両親の姿を20年にわたって自ら記録したドキュメンタリー。NexSoM Laboは、コロナ禍が一段落したことを契機に2023年度に立ち上がった組織であり、全国の医療系学生・若手医療従事者が社会医学に触れる機会を提供している。第1回のイベントではオンライン双方向参加型のセミナーを、第2回のイベントではグループワークを通した学生の交流を行い、今回の上映会が第3回目のイベントとなった。第2回イベントの様子精神疾患患者へのバイアスを映画で考える今回の上映会は3部構成で開催された。第1部では映画の上映、第2部では共同代表で精神科医でもある吉村氏と映画『どうすればよかったか?』監督の藤野 知明氏による対談企画、第3部では懇親会が行われた。対談企画では、吉村氏から統合失調症治療の歴史と現状、精神疾患に関する法的制度の解説が行われた。また、藤野監督からは、映画の各シーンにおける制作の意図、当時の思いなどが語られた。対談企画中の様子(左から司会を務めた浜松医科大学3年の高木氏、共同代表の吉村氏、監督の藤野氏)【吉村氏による解説】統合失調症の無治療期間が長くなるほど、症状改善が難しくなる。1952年、世界初の抗精神薬であるクロルプロマジンが登場して以降、統合失調症が治療可能な疾患へと変遷していくが、第1世代薬が効かない患者も一定数いる上にパーキンソン症状などの副作用がみられた。1996年以降、非定型抗精神病薬(第2世代)が開発され、現在ではLAI(持続性注射製剤)や部分作動薬(アリピプラゾール)、難治性統合失調症治療薬(クロザピン)など、多くの選択肢があり治療効果が上がっている。しかし、いまだに統合失調症患者に対する偏見は根強く社会復帰の障害となっている。とくに精神科医以外の医師や看護師からの統合失調症の患者に対する偏見が強く、一般医療従事者の約4割が「統合失調症患者は危険である」というステレオタイプのイメージを持っている。また、医学生の多くが「統合失調症患者は社会生活に適応できない」といった否定的なイメージを持っている。【対談企画でのトピック】実家を離れることとなった1992年、「このままでは何も残らない」という思いから帰省ごとに家族の姿を記録するようになった。人々が受け入れがたい事実に直面した際の反応を映しているものであり、周りの人々つまり実弟である監督や両親が中心となった映画である。統合失調症の姉をもつ家族の状況を映画として世の中に出し、統合失調症と取り巻く家族について理解を深める機会を作ったことが、「どうすればよかったか?」に対する問ではないだろうか。(吉村氏)参加した学生からは、以下の感想が寄せられた。家族とは何なのか、家族外には言えない秘密を抱えているかもしれない当事者と家族を支援する在り方とは何なのか考えさせられた」(千葉大4年)答えのない問いをディスカッションしながら考えることができた」(浜松医大3年)ネクソムラボでは、第4回イベントとして、2026年春に能登でのフィールドワークを企画しているという。ネクソムラボ学生代表で浜松医科大学3年の高木 柊哉氏は「能登の復興状況を実際に見ることで、災害医療の現状や課題を肌で感じる機会になるよう企画をしている」と語っている。関連リンクNexSoM Labo『どうすればよかったか?』公式ページ

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ESMO2025 レポート 消化器がん(上部消化器編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。国立がん研究センター東病院の坂東 英明氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。下部消化器編は こちら1.【食道がん】SKYSCRAPER-07試験(#2094O)食道扁平上皮がんにおいて、切除不能症例および切除可能症例の術後治療としての免疫チェックポイント阻害薬は、すでに本邦で薬事承認されている。一方、切除不能局所進行症例(遠隔転移はないが、局所進行のため切除できない症例)の標準治療は根治的な化学放射線療法であるが、免疫チェックポイント阻害薬を追加することによる有効性の上乗せはまだ検証されていなかった。TIGITは活性化T細胞、NK細胞、制御性T細胞に発現する共抑制因子というものであり、その阻害抗体薬であるtiragolumab(Tira)はPD-L1抗体であるアテゾリズマブ(Atezo)との併用で治療効果が期待されていた。ランダム化二重盲検第III相試験であるSKYSCRAPER-07試験では、StageII~IVAおよび鎖骨上リンパ節転移のみのIVBの食道扁平上皮がん症例を、根治的化学放射線療法の後にTira+Atezo、Atezo+プラセボ、プラセボ+プラセボに1:1:1に割り付けて、1年間の維持療法を実施した。主要評価項目はTira+Atezo群とプラセボ群の主治医が判断した無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)と全生存期間(overall survival:OS)、Atezo+プラセボ群とプラセボ群のOSであり、Tira+Atezo群とプラセボ群の主治医が判断したPFS→OS→Atezo+プラセボ群とプラセボ群のOS、の順番で検定を行う計画であった。結果は、残念ながらTira+Atezo群とプラセボ群の主治医判定のPFSが中央値20.8ヵ月vs.16.6ヵ月(ハザード比[HR]:0.82、p=0.0942)、OSが中央値38.6ヵ月vs.36.4ヵ月(HR:0.91、p=0.4772)と有効性を検証することができなかった。一方でAtezo+プラセボ群とプラセボ群では、主治医判定のPFSが中央値29.1ヵ月vs.16.6ヵ月(HR:0.74、p=0.0113)、OSが中央値未到達vs.36.4ヵ月(HR:0.69、p=0.0085)と有意な治療効果の上乗せを認めた。Tiraの追加による免疫関連有害事象の増加が認められたが、許容される範囲であった。根治的放射線化学療法後のAtezoによる治療効果の上乗せが認められたが、残念ながら統計学的に検証することはできなかった。TIGITの阻害はdetrimentalな効果があることが示唆され、TIGIT阻害薬のこの対象における開発はしばらく進まなそうである。一方でAtezo単剤の有効性は示されており、実臨床での使用が強く望まれる。2.【胃がん】MATTERHORN試験(#LBA81)切除可能胃・胃食道接合部がんを対象としたFLOT+デュルバルマブとFLOT+プラセボを比較したランダム化二重盲検第III相試験であるMATTERHORN試験は、すでに主要評価項目である無イベント生存期間(event-free survival:EFS)が有意に改善したことが報告されている。OSについても中間解析で良好な結果が報告されているが、今回、OSの最終解析結果が報告された。併せて病理学的な効果とEFSの関係についても報告された。3年OSが68.6%vs.61.9%と改善を認め、両群ともに中央値に到達していなかった(HR:0.78、p=0.021)が、事前に設定されたP値(p<0.0499)に到達しており、OSにおいても有効性が検証された。サブグループ解析でも一貫して効果が認められ、PD-L1発現にかかわらず治療効果の上乗せが認められた。病理学的完全奏効(pCR)、主要病理学的奏効(MPR)が得られた症例は一貫してEFSが良好である一方で、ypNにかかわらず、EFSの上乗せが認められた。今後本邦でも、デュルバルマブが胃がん周術期治療に組み込まれる見込みである。本邦においてはFLOT療法の臨床現場での導入が課題である。3.【胃がん】FORTITUDE-101試験(#LBA10)進行胃・胃食道接合部がんにおいてFGFR2bが高発現していることが報告されており、bemarituzumabはFGFR2bを標的とした抗体薬である。第II相試験であるFIGHT試験でbemarituzumab+mFOLFOX6はFGFR2b高発現のHER2陰性胃・胃食道接合部がんにおいて良好な治療効果が認められており、今回第III相試験であるFORTITUDE-101試験の結果が報告された。本試験では、FGFR2bが免疫染色で2+/3+と高発現した(後に≧10%発現の症例に適格性変更)HER2陰性の前治療のない胃・胃食道接合部がんを対象に、bemarituzumab+mFOLFOX6(全体で275例、FGFR2b≧10%が159例)vs.プラセボ+mFOLFOX6(全体で267例、FGFR2b≧10%が165例)に1:1で割り付けが行われた。主要評価項目はFGFR2b≧10%症例におけるOSであり、観察期間中央値11.8ヵ月でbemarituzumab+mFOLFOX6群で中央値17.9ヵ月vs.プラセボ+mFOLFOX6で中央値12.5ヵ月(HR:0.61、p=0.005)と中間評価の時点で優れた結果であった。PFSにおいてもbemarituzumab+mFOLFOX6群で中央値8.6ヵ月vs.プラセボ+mFOLFOX6で中央値6.7ヵ月(HR:0.71、p=0.019)と優れた結果である一方、奏効割合では45.9%vs.44.8%と両群で大きな差を認めなかった。観察期間中央値19.4ヵ月のフォローアップの結果では、bemarituzumab+mFOLFOX6群で中央値14.5ヵ月vs.プラセボ+mFOLFOX6で中央値13.2ヵ月、HR:0.82(0.62~1.08)で治療効果の上乗せが検証できなかった。安全性においては視力障害、角膜障害、貧血、好中球減少、吐き気、corneal epithelial defect(角膜上皮障害)、ドライアイなどが高く認められたが、全体的には許容されるものであった。今後、FOLFOX+ニボルマブにbemarituzumabの上乗せを検証するFORTITUDE-102の結果が報告され、bemarituzumabの有効性と安全性の情報がさらに充実することが期待される。

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第286回 医師も誤解している?マダニによるSFTSの傾向と対策

INDEXマダニによるSFTSの発生率、過去最高に冬も要注意!?SFTSに対するアンコンシャスバイアス治療薬への期待度マダニによるSFTSの発生率、過去最高に今年はダニ媒介感染症の重症熱性血小板減少症候群(略称・SFTS)の患者報告が過去最高を記録している。国立健康危機管理研究機構が発表している感染症発生動向調査週報1)の最新データとなる2025年第42週(10月13~19日)時点では、従来の過去最多である2023年の134例を上回る174例の患者が発生。また、今年はこれまで患者報告がなかった北海道、秋田県、栃木県、茨城県でも孤発的な事例が報告されている。改めて基礎知識を整理すると、SFTSは日本では2013年に初確認されたダニが媒介するSFTSウイルスを原因とする新興の人畜共通感染症である。潜伏期間は6~14日で、主な症状は発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹。特徴的な点は、病名でもわかるように検査値での顕著な血小板減少(10万/mm3未満)である。そしてSFTSで何よりも恐ろしいのは致死率が10~30%で、国内に常在する感染症の中では劇症型溶血性レンサ球菌感染症の致死率約30%に次ぐことだ。徐々に患者報告数も報告地域も拡大する中、一般人、医療者ともに対岸の火事とは言えなくなっている。以前の本連載で新型コロナウイルス感染症が今も高齢者で猛威を振るっていることを記事化したが、この取材に応じてくれた岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏との取材時間は約2時間におよんだ。実はこのうちの約半分は新型コロナから脱線し、萩谷氏が日常診療で接するSFTSの話となった。これがきっかけで私が理事を務めるNPO法人・日本医学ジャーナリスト協会でも10月10日に萩谷氏にSFTSをテーマに講演をしてもらったが、その内容の中にはかなり示唆に富むものが多かったので、今回はその内容を紹介したい。冬も要注意!?講演では、萩谷氏が2013~22年までに国内報告されたSFTS803例の解析結果を紹介した。それによると、この10年間の都道府県別の報告増加率のトップ5は順に三重県、島根県、岡山県、大分県、熊本県。患者発生率と環境要因との関連を解析した結果では、西日本で有意差があった環境要因は農地面積と農業人口であり、2022年までの発生件数を2ヵ月単位で分析すると、発生ピークは5~6月で、流行期は5~10月だった。ここまでは医療者もおおむね違和感はなく受け入れられるだろう。しかし、今回の萩谷氏の講演ではSFTSの意外な一面も“明らか”にされた。まず、前出の解析結果のように一般的にSFTSはマダニの活動期である春から秋にかけて発生する感染症だと考えられているが、実は真冬でもSFTSは発生しているのだ。たとえば直近の2024年の感染症発生動向調査週報によると、第2週(1月8~14日)に島根県と山口県で各1例、年末の第51週(12月16~22日)に長崎県で1例が報告されている。春から秋の時期と比べれば数は少ないが、こと西日本では通年で警戒しなければならない感染症なのである。また、講演の中で紹介された和歌山県での野生(野生化)動物のSFTSウイルス抗体陽性率調査の結果によると、アライグマ、アナグマ、シカ、ノウサギでは30%以上、ハクビシンで20%以上にものぼる。一般的な理解は、こうした動物を吸血したマダニが動物の移動とともに人間の生活圏に近い藪や草むらなどで落下して定着し、そこに入り込んだ人間がこうしたマダニに咬まれることで患者が発生しているというもの。これはおおむね正しいだろうが、萩谷氏が講演内で提示した自験例2例はこの理解の範疇をやや超えるものだった。SFTSに対するアンコンシャスバイアス2例のうち1例は同じマダニが媒介する日本紅斑熱の患者、もう1例がSFTSである。前者の患者は岡山市中心部在住、後者の患者は岡山県西部在住で、ともに問診ではマダニに咬まれるような野山に入った形跡はなかったという。しかし、よくよく話してみると、日本紅斑熱の患者は「ちょうどそのころお墓参りに行きました…」と語り、聞き出してみると墓地のある場所はダニ媒介感染症の好発地域、そしてSFTSの患者は自宅住所を地図上で検索してみると、その自宅が山に隣接する形で存在していた。つまり実際の推定感染地点は、私たちが一見SFTSと無縁と思っている場所にも点在しているのである。ちなみに萩谷氏によれば、西日本地域でSFTSの診療経験が一定以上ある医師にとっては、風評被害などが考えられるため公には明らかにしないものの、周辺のダニ媒介感染症好発地域はほぼ頭に入っており、患者の居住地や移動先などの地名を聞くと、ある程度はSFTSの可能性が判別できるという。また、前出の野生動物のSFTS抗体陽性率のデータ提示の際、萩谷氏が併せて提示したのが複数のマダニに咬まれた鳥の写真。マダニは哺乳類だけでなく、鳥類や爬虫類まで吸血することは知られている。このことから北海道の孤発例については「渡り鳥などにくっついたマダニが本州から北海道に移動して上陸したのだろうと個人的には想像している」と話した。これらを総合すると、SFTSに対して私たちがおぼろげに抱く「マダニの活動が活発な春から秋にかけて野山に入ることで感染しやすく、西日本に多い感染症」というイメージは、半ばアンコンシャスバイアスになっていることを自覚しなければならない。治療薬への期待度一方、過去の本連載でも触れたが、SFTSについては2024年に抗ウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)が承認された。この点について萩谷氏は「ウェルカムな部分はあるものの、本当に良いのか?とも思っている」との見解を示した。その理由は▽薬価が1錠3万9,862円で10日間の標準治療(90錠)の薬剤費総額が約360万円▽これまでの臨床試験が単群で投与群の致死率が医師主導治験で17.4%、企業治験で13%にとどまる、からだ。萩谷氏は「今回の承認は既存の対症治療での致死率が最大30%で、それよりも低い致死率を達成したことでアビガンが承認されたと理解している。しかし、十分とは言えないエビデンスの中で360万円の治療を全例に行う気持ちにはなれないのが正直なところ」と話した。いずれにせよ患者報告が拡大する中で、今回の萩谷氏の話はSFTSが思った以上に厄介な疾患であり、決して油断が許されない現状があることを何よりも雄弁に物語っている。 参考 1) 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報一覧

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日本人における気圧の変化と片頭痛との関係

 獨協医科大学の辰元 宗人氏らは、日本の健康保険請求データベースの大規模データと気象データを照合し、気圧変化の大きい季節が片頭痛発症に及ぼす影響を調査するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。Frontiers in Neurology誌2025年9月10日号の報告。 本研究では、JMDC請求データと日本の気象データを用いて分析した。片頭痛の診断歴を有する患者を対象とし、片頭痛と最初に診断された医療機関の所在地に基づいて8つの地域サブグループに分類した。片頭痛発症までの期間(各季節の初日からトリプタンが処方されるまでの期間と定義)を、気圧変化が最も大きい季節と最も小さい季節で比較した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、2万6,777例。・8つの地域全体において、夏季の気圧変化が最も小さかった。・一方、7つの地域では冬季に最も大きな気圧変化がみられ、1つの地域では秋季に最も大きな気圧変化がみられた。・いずれの地域においても、気圧変化が最も大きかった季節と最も小さかった季節の間で生存曲線に差は認められなかった。・Cox回帰分析では、性別と年齢を含む最小調整モデルにおいて、気圧変化が最も大きかった季節のハザード比は0.970(95%信頼区間[CI]:0.951〜0.989)であった。・一方、8つの共変量を含む完全調整モデルでは、気圧変化が最も大きかった季節のハザード比は1.294(95%CI:1.007〜1.663)であった。 著者らは「本研究では、気圧変化の大きい季節と片頭痛発症との間に有意な関連は認められなかった。今後の研究では、より詳細な分析を行うために、都道府県レベルを超えて、より詳細な居住地データを検討する必要がある」としている。

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がん治療のICI、コロナワクチン接種でOS改善か/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、多くのがん患者の生存期間を延長するが、抗腫瘍免疫応答が抑制されている患者への効果は限定的である。現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、ICIへの感受性を高めることが知られているが、製造のコストや時間の課題がある。そのようななか、非腫瘍関連抗原をコードするmRNAワクチンも抗腫瘍免疫を誘導するという発見が報告されている。そこで、Adam J. Grippin氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンもICIへの感受性を高めるという仮説を立て、後ろ向き研究を実施した。その結果、ICI投与前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチン接種を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者および悪性黒色腫患者は、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)が改善した。本研究結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表され、Nature誌オンライン版2025年10月22日号に掲載された1)。 本発表では、切除不能StageIIIまたはStageIVのNSCLC患者884例および転移を有する悪性黒色腫患者210例を対象とし、ICI初回投与の前後100日以内のCOVID-19 mRNAワクチン接種の有無で分類して解析した結果が報告された。また、COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、前臨床モデル(マウス)を用いて検討した結果とその考察も紹介された。 主な結果は以下のとおり。【後ろ向きコホート研究】・NSCLC患者(接種群180例、未接種群704例)において、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、StageやPD-L1発現状況にかかわらずOSが延長した。各集団のハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり(全体およびStage別の解析は調整HRを示す)。 全体:0.51、0.37~0.71 StageIII:0.37、0.16~0.89 StageIV:0.52、0.37~0.74 TPS 1%未満:0.53、0.36~0.78 TPS 1~49%:0.48、0.31~0.76 TPS 50%以上:0.55、0.34~0.87・悪性黒色腫患者(接種群43例、未接種群167例)においても、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、OS(調整HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)およびPFS(同:0.63、0.40~0.98)が延長した。・NSCLC患者において、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、未接種群、100日後以降接種群と比較してPD-L1 TPS平均値が高かった(31%vs.25%vs.22%)。同様に、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群はPD-L1 TPS 50%以上の割合も高かった(36%vs.28%vs.25%)。【前臨床モデル】・免疫療法抵抗性NSCLCモデルマウス(Lewis lung carcinoma)と免疫療法抵抗性悪性黒色腫モデルマウス(B16F0)において、COVID-19 mRNAワクチンとICIの併用は、ICI単独と比較して腫瘍体積を縮小した。・COVID-19 mRNAワクチンは、IFN-αの産生を増加させた。・悪性黒色腫モデルマウスにおいて、IFN-αを阻害するとCOVID-19 mRNAワクチンとICIの併用の効果は消失した。・COVID-19 mRNAワクチンは、複数の腫瘍関連抗原について、腫瘍反応性T細胞を誘導した。・COVID-19 mRNAワクチン接種によりCD8陽性T細胞が増加し、腫瘍におけるPD-L1発現も増加した。 COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、Grippin氏は「免疫学的にcoldな腫瘍に対して、COVID-19 mRNAワクチンを接種するとIFN-αが急増し、腫瘍局所での自然免疫が活性化される。その活性化により腫瘍反応性T細胞が誘導され、これらが腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を攻撃すると、腫瘍はT細胞応答を抑制するためにPD-L1の発現を増加させる。そこで、COVID-19 mRNAワクチンとの併用でICIを投与し、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害することで、患者の生存期間の改善が得られるというメカニズムが示された」とまとめた。 なお、今回示された効果を検証するため、無作為化比較試験「Universal Immunization to Fortify Immunotherapy Efficacy and Response(UNIFIER)試験」が計画されている。

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HER2陽性尿路上皮がん、disitamab vedotin+toripalimabがPFS・OS改善(RC48-C016)/NEJM

 未治療のHER2陽性局所進行または転移のある尿路上皮がん患者において、HER2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)であるdisitamab vedotinと抗PD-1抗体toripalimabの併用療法は、化学療法と比較して主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に延長することが認められた。中国・Peking University Cancer Hospital and InstituteのXinan Sheng氏らRC48-C016 Trial Investigatorsが、中国の72施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「RC48-C016試験」の事前に規定されたPFS解析およびOS中間解析の結果を報告した。HER2を標的とするADCの単剤療法は、化学療法後のHER2陽性尿路上皮がんに対する有効な治療選択肢として確立されている。disitamab vedotinは、単剤療法として、またPD-1を標的とした免疫療法との併用において、有望な抗腫瘍活性と安全性が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年10月19日号掲載の報告。PFSとOSを主要評価項目として、化学療法と比較 研究グループは、病理組織学的に確認された切除不能な局所進行または転移のある尿路上皮がんを有し、術前または術後補助療法後12ヵ月以内の病勢進行または再発は認められず、かつ全身化学療法未治療で、中央検査にてHER2陽性(IHCスコア1+、2+または3+)が確認された18歳以上の患者を、disitamab vedotin+toripalimab群と化学療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 disitamab vedotin+toripalimab群では、disitamab vedotin 2.0mg/kgとtoripalimab 3 mg/kgをいずれも2週間ごとに投与し、化学療法群では3週間を1サイクルとしてゲムシタビン1,000mg/m2を1日目と8日目に、シスプラチン70mg/m2またはカルボプラチンAUC=4.5を1日目に投与し、病勢進行、許容できない毒性発現または規定サイクル完了(化学療法は6サイクル、disitamab vedotin+toripalimabは上限なし)まで継続した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFS、およびOS、副次評価項目は奏効率、病勢コントロール率、奏効期間、安全性などであった。disitamab vedotin+toripalimab群のPFSとOSが有意に延長 適格患者484例が無作為化された(disitamab vedotin+toripalimab群243例、化学療法群241例)。 追跡期間中央値18.2ヵ月において、PFS中央値はdisitamab vedotin+toripalimab群13.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.1~16.7)、化学療法群6.5ヵ月(5.7~7.4)であり、disitamab vedotin+toripalimab群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%CI:0.28~0.46、p<0.001[有意水準0.05])。OS中央値もそれぞれ31.5ヵ月(95%CI:21.7~推定不能)、16.9ヵ月(14.6~21.7)で、disitamab vedotin+toripalimab群で有意に延長した(HR:0.54、95%CI:0.41~0.73、p<0.001[有意水準0.009])。 奏効率は、disitamab vedotin+toripalimab群76.1%(95%CI:70.3~81.3)、化学療法群50.2%(43.7~56.7)であった。 安全性プロファイルはdisitamab vedotin+toripalimab群が化学療法群と比較し良好で、Grade3以上の治療関連有害事象はdisitamab vedotin+toripalimab群で55.1%、化学療法群で86.9%に認められた。 なお、著者は、中国のみで実施された臨床試験であること、両群とも完全奏効が得られた患者の割合は同時期の他の臨床試験で報告されている割合よりも低かったこと、中国ではアベルマブによる維持療法は未承認であるため利用できなかったことなどを研究の限界として挙げている。

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MSSA菌血症、セファゾリンvs.クロキサシリン/Lancet

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンと比較して有効性は非劣性で、忍容性は良好であることが示された。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のCharles Burdet氏らが、大学病院を含むフランスの21施設で実施した無作為化非盲検非劣性試験「CloCeBa試験」の結果を報告した。セファゾリンは広く使用されているものの、MSSA菌血症の治療における有効性はこれまで臨床試験で検討されたことはなかった。結果を踏まえて著者は、「MSSA菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンの代替薬となりうる」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月17日号掲載の報告。セファゾリンの有効性と安全性をクロキサシリンと比較 CloCeBa試験の対象は、標準的な微生物学的検査またはGeneXpert PCRによりMSSAが血液培養から検出された18歳以上の入院中の患者であった。スクリーニング時点でMSSAに有効な抗菌薬が72時間超投与されていた患者、血管または人工弁などの血管内インプラントを有する患者、感染が疑われる材料を体内に有する患者、脳卒中(1ヵ月以内)・脳膿瘍・髄膜炎の臨床所見を呈している患者などは除外された。 研究グループは、適格患者をコンピュータ生成のブロック法を用いて、セファゾリン群とクロキサシリン群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。血管アクセス関連菌血症の有無(末梢静脈カテーテルおよび中心静脈カテーテルを含む)および施設で層別化した。 セファゾリン群では25~50mg/kgを8時間ごとに(最大1日6g)、クロキサシリン群では25~50mg/kgを4~6時間ごとに(1日8~12g)、いずれも60分かけて静脈内投与した。総治療期間は14日以上とし、無作為化された治療を7日間投与した後は治験責任医師の選択で治療を変更することが可能とされた。 主要エンドポイントは治療成功で、90日目まで再発のない細菌学的成功、90日時点での臨床的成功、および90日時点での生存の複合とした。細菌学的成功は、3日目(感染性心内膜炎患者では5日目)の血液培養陰性、臨床的成功は感染に関連する症状および所見の消失と定義された。 ITT解析を行い、治療成功の非劣性マージンは12%とした。治療成功率はセファゾリン群75%、クロキサシリン群74%で、非劣性を確認 2018年9月5日~2023年11月16日に315例が登録され、セファゾリン群(158例)またはクロキサシリン群(157例)に無作為化された。同意撤回などによりセファゾリン群で12例、クロキサシリン群で11例が除外され、ITT解析対象集団は各群146例となった。 患者背景は、平均年齢62.7歳(SD 16.4)、男性が215例(74%)で、Pitt bacteraemia score中央値は0(四分位範囲:0~0)であった。 主要複合エンドポイントの達成は、セファゾリン群75%(109/146例)、クロキサシリン群74%(108/146例)で確認され、群間差は-1%(95%信頼区間:-11~9、p=0.012)で、セファゾリン群の非劣性が確認された。 重篤な有害事象は、試験治療終了時においてセファゾリン群で15%(22/146例)、クロキサシリン群で27%(40/146例)に認められた(p=0.010)。ただし、この差は2~7日目までの割り付けられた治療のみを受けた場合に限定して解析すると有意ではなかった。急性腎障害は、クロキサシリン群(12%、15/128例)でセファゾリン群(1%、1/134例)より発現頻度が高かった(p=0.0002)。

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75歳以上の乳がん検診は過剰診断か~日本人での検討

 乳がん検診は死亡率低下と関連する可能性があるが、高齢者においては過剰診断が懸念される。今回、石巻赤十字病院の佐藤 馨氏らが、高齢化地域における75歳以上の女性において検討した結果、検診と死亡率低下に有意な関連はみられなかったものの、検診群において乳がんによる死亡は認められなかった。Preventive Medicine Reports誌2025年10月9日号に掲載。 本研究では、石巻赤十字病院で乳がんと診断された75~98歳(中央値81歳)の女性289例(2011~20年)を後ろ向きに解析した。患者を検診群(40歳以上の全女性を対象とした2年ごとの全国規模集団ベース乳がんスクリーニングで診断)と非検診群(症状で診断もしくはCTなどの他疾患の画像検査で偶然発見)に分類した。主要評価項目は全死亡率であった。比較にはMann-Whitney のU検定、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定、生存率はKaplan-Meier法、log-rank検定、予後因子はCox比例ハザードモデルで解析した。 主な結果は以下のとおり。・289例中46例(15.9%)が検診を受け、243例(84.1%)が検診を受けていなかった。・検診群は、若年で腫瘍が小さく、リンパ節転移が少なく、手術回数が多かった。・単変量解析では検診が死亡率の低下と関連していたが、多変量解析では関連がみられなかった。・検診群では乳がんによる死亡は認められなかったが、非検診群では25例(10.3%)に認められた(p=0.02)。

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調査した市販飲料の全てにマイクロプラスチックを検出

 近年、米粒よりも小さいプラスチック片であるマイクロプラスチック(MP)の拡散が懸念されている。こうした中、ペットボトルで販売されていない飲み物も含め、ソフトドリンク、紅茶、コーヒーなど、検査された全ての温かい飲み物と冷たい飲み物にMP粒子が混入していることが、新たな研究で明らかになった。英バーミンガム大学のMuneera Al-Mansoori氏らによるこの研究結果は、「Science in the Total Environment」に9月20日掲載された。 MPとは、直径5mm以下のプラスチック片で、中にはマイクロメートル(μm)またはミクロン単位の非常に小さなサイズのものもある。MPの摂取は、生殖器系、消化器系、呼吸器系の損傷など、人体への健康被害につながる可能性が指摘されている。 今回、Al-Mansoori氏らは、イギリスで市販されている31種類の飲み物を対象に、MPの含有量を調査した。飲み物は、ソフトドリンク、エナジードリンク、フルーツジュース、アイスティー、ホットティー、ホットコーヒー、アイスコーヒーの7つのカテゴリーに分類された。提供形態は、ペットボトル、紙製の使い捨てカップ、ガラスのカップなどさまざまであった。なお、本研究では合成プラスチックポリマーを検査対象とし、自然界で生成され、時間の経過とともに分解するセルロースのMPは含めなかった。 その結果、飲み物の提供形態に関わりなく、調査した全てのサンプルからMPが検出された。平均濃度が最も高かったのはホットティーで60±21MP/Lであり、次いで、ホットコーヒーでの43±14MP/L、アイスコーヒーでの37±6MP/L、アイスティーでの31±7MP/Lであった。温かい飲み物は冷たい飲み物に比べてMP濃度が有意に高く、温度が高いと包装材からのMP溶出が促進されることが示唆された。ジュースのMP濃度は30±11MP/L、エナジードリンクは25±11MP/Lで、濃度が最も低かったのはソフトドリンクの17±4MP/Lであった。 検出されたMPのサイズは10〜157μmで、髪の毛1本が約70μmであることを考えると、ほとんど目に見えないサイズだと言える。形状は破片、ポリマーの種類はポリプロピレン(PP)が最も多かった。ただし、本研究では、10μmを超える粒子しか検出されなかったため、さらに小さなナノプラスチックが存在していた可能性があることを研究グループは指摘している。 研究グループによると、飲み物中の合成プラスチックの含有量を増加させ得る要因としては、熱、炭酸(泡が容器にかける圧力やストレスでMP量が増加する)、酸性度の高さ、包装材(ペットボトル入りの飲料は紙やアルミボトル入りの飲料よりもMP濃度が高い)の4つが考えられるという。また、飲み物がパッケージ化される場所の空気や飲み物に使用される水がMPの発生源になる可能性もあると指摘している。 世界中でプラスチックの消費と廃棄物が増加し続ける中、MPは新たな経路で環境に侵入し、最終的には食物連鎖に入り込んでいる。こうした事態を受けて米イリノイ州環境保護局は、MPへの曝露を減らすために以下の方法を提案している。それらは、1)可能な限り、プラスチックフリーの包装食品、飲料、衛生用品を選択すること、2)プラスチックの使用を減らし、微生物により分解される材質のものを選ぶこと、3)使用済みのプラスチックは、特に摩耗の兆候が見られる場合にはリサイクルに出すこと、4)買い物にはエコバッグを使用すること、5)衣類は可能な限り天然繊維(綿、ウール、シルク)を選ぶことである。

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高齢者のポリドクター研究、最適受診施設数は2〜3件か

 複数の医療機関に通う高齢者は多いが、受診する施設数が多ければ多いほど恩恵が増すのだろうか。今回、高齢者を対象とした大規模コホート研究で、複数施設受診が死亡率低下と関連する一方、医療費や入院リスクが上昇することが明らかとなった。不要な入院を予防するという観点からは最適な受診施設数は2〜3件とされ、医療の質と負担を両立させる上での示唆が得られたという。研究は慶應義塾大学医学部総合診療教育センターの安藤崇之氏らによるもので、詳細は9月1日付で「Scientific Reports」に掲載された。 高齢者では、複数の併存疾患を抱える人も少なくない。多疾患は死亡率や要介護、入院率、医療費の増加と関連しており、高齢化社会を特徴とする先進国の医療制度に大きな課題をもたらしている。特に日本では、多疾患を持つ高齢者の増加に伴い、「ポリドクター(polydoctoring、複数の医師による診療)」と呼ばれる現象が社会的な問題となっている。「ポリドクター」は、異なる医師や医療施設が患者を管理することで、ケアの分断や医療費の増加を招くリスクがある点が懸念されている。 著者らは以前、高齢者のポリドクターの背景として、眼疾患や骨粗鬆症、前立腺疾患、変形性関節症といった慢性疾患が関連することを示した。しかし、ポリドクターが患者の転帰にどのように影響するかは十分に解明されていない。そこで著者らは、日本の大規模保険請求データベースを用い、多疾患を抱える高齢者の定期通院施設数(RVF)と、死亡や入院などの転帰との関連を明らかにするため、後ろ向きコホート研究を実施した。 本研究では、DeSCヘルスケア株式会社が提供するデータベースを用い、75~89歳の複数の慢性疾患を有する患者233万8,965人を解析対象とした。追跡期間は2014年4月~2022年12月であった。主要評価項目は全死亡率とした。副次評価項目は全入院、外来ケアで予防可能な疾患(ACSC)による入院、外来医療費が含まれた。いずれの評価項目も多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。各群の比較はRVFが1施設の群を基準として行った。 解析対象の中央値年齢は78歳で、参加者の58%が女性だった。RVFの中央値は2施設、併存疾患の中央値は5つであった。外来医療費の中央値は37万1,230円だった。追跡期間中に33万8,249人(14.5%)が死亡し、122万201人(52.2%)が入院した。そのうち29万1,376人(12.5%)はACSCによる入院であった。 全死亡に対する多変量Cox比例ハザードモデルでは、RVFが0施設の群(定期受診なし)が最も死亡率が高く、RVFの施設数が増えるにつれて生存率は改善した。RVFが0施設の参加者の死亡リスクは最も高く、ハザード比(HR)は3.23(95%CI 3.14~3.33、P<0.0001)であった。一方、RVFが5施設以上の参加者では死亡リスクが最も低く、HRは0.67(95%CI 0.62~0.73、P<0.0001)であった。ACSCによる入院では、2~3施設の群で入院率が最も低く、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇するU字カーブを描いた。 外来医療費についても、RVFの施設数が増えるにつれて費用も増加する傾向が見られた。RVFが5施設以上の参加者では、RVFが1施設の参加者に比べ外来医療費が3.21倍(95%CI 3.17~3.26、P<0.0001)に増大した。 本研究について著者らは、「ポリドクターは死亡率を低下させる一方で、入院率や医療費の増加とも関連しており、ACSCによる入院を最小化する最適な受診施設数は2~3施設であることが示された。これらの結果は、高齢化社会において、ケアの連携や医療資源の管理を改善しつつ、ポリドクターのメリットとコストのバランスをとる戦略の必要性を示している」と述べている。 なお、RVFが5施設以上になると再び入院率が上昇する理由については、関与する医療機関が多すぎるとケアの継続性が損なわれ、全体的なメリットが減少する可能性を指摘している。

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ロスの姉に会いにいく【Dr. 中島の 新・徒然草】(604)

六百四の段 ロスの姉に会いにいくだんだん気温が下がってきましたね。こんな時、私は風呂場の窓を開けっぱなしにして熱い湯船につかります。冷たい風が顔にあたって気分は露天風呂。寒い季節ならではの楽しみです。さて、慢性疾患で私の外来に通っている80歳の女性患者さん。ご主人は86歳ですが、お二人とも元気で、どこへでも歩いて出掛けるそうです。 患者 「この前、名古屋から高校の同級生が来てくれたの」 中島 「それはすごいですね。皆さんお元気で素晴らしいです」 患者 「でも、近所のお友達がだんだん減っていってね」 中島 「そいつは『あるある』ですね」 患者 「そうなのよ。亡くなったり、足が弱って外出できなくなったりして」 一緒に来ていた娘さんが話に加わりました。 娘 「母の8歳上の姉がロサンゼルスに住んでいるんです」 中島 「皆さん本当に長寿ですね」 娘 「伯母は日本に帰るのが難しいので、母に来てほしいと言うんです。行っても大丈夫でしょうか?」 8歳上ということは88歳。その年齢で飛行機に乗って太平洋を越えるのは簡単なことではありません。が、「お互い元気なうちに一度顔を見ておこう」という気持ちはよくわかります。口には出しませんでしたが。 中島 「行ってあげたらいいんじゃないですか」 娘 「でも、もし向こうで何かあったらどうしようかと……」 中島 「そういう場合に備えて、娘さんかどなたかが付き添ってあげましょう」 娘 「これまでは一人で行っていたんですが、やはり私が付き添ったほうがいいですよね」 中島 「それと、万が一、現地で倒れたときのために保険には入っておくべきです」 アメリカで医療機関にかかると、想像以上の費用がかかります。数百万円、場合によっては数千万円になることも珍しくありません。 娘 「現地で病院を受診したら、診断書をもらわなくてはなりませんね」 中島 「そうです。後で保険金を請求する時に必要です」 娘 「やっぱり」 中島 「私たちも外国からの観光客を診療した場合は、英文の診断書を発行していますよ」 以前は英文診断書1枚書くだけでも大騒ぎになっていましたが、今はChatGPTなどのツールを活用して容易に作成できるようになりました。最近では「○○さんの英文診断書1枚お願いします」と医師事務作業補助者に気軽に依頼する医師もいるほどです。旅行先での診断書には大切な役割が2つあります。1つは保険会社への情報提供。帰国後に医療費の支払いを請求する際に「どのような診断で、どのような治療を受けたのか」を示す根拠になります。CTを撮影したのか、抗菌薬を使用したのか、あるいは外科的処置を行ったのか。なぜそのような費用が発生したのか理由を明確にすることが求められます。もう1つは患者さんの帰国先の医師への情報提供です。どのような根拠で診断がなされ、どのような治療が行われたのか。可能であれば「今後はこの薬を○日まで継続してください」といった治療方針の記載も望ましいところ。この2つの目的を1枚の診断書にまとめておくことが理想的です。というわけで、日本人が海外へ行く際にも大切な点は同じですね。出発前に保険へ加入しておくこと、そして現地の医療機関を受診した場合には診断書を必ず受け取っておくこと。この2点をお伝えしました。この患者さんが無事にロサンゼルスへ渡り、姉妹が元気に再会できることをお祈りしています。最後に1句 晩秋の ロスに向かうは 80歳

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心不全に伴う体液貯留管理(1):ポケットエコーで評価する2つの指標【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第7回

心不全に伴う体液貯留管理(1):ポケットエコーで評価する2つの指標今回から、4回にわたって心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介します。ここでは「下大静脈の径と呼吸性変動を見て右房圧を推定する」「VMTスコアを評価して左室充満圧を推定する」「利尿薬の導入・増量・減量の判断をする」という目標を設定して、解説していきます。ポケットエコーで血行動態を評価する心不全の増悪、非代償性の心不全への進行の評価には、血行動態の評価が非常に重要です。左心不全を例にとって考えると、起座呼吸、夜間発作性呼吸困難などの症状、レントゲン所見(バタフライシャドウ[肺水腫])、心エコー所見(左室充満圧:TRPG、E/A、E/e'、LAVI[左房容積係数])が参考になります。そのなかでも、血行動態の評価において心エコーが非常に大きな役割を果たします。さまざまな心エコー手法(カラードプラ、パルスドプラ、連続波ドプラ、組織ドプラ)を用いて、左室充満圧や左房圧上昇を評価することで、有用な情報が得られるのです。しかし、詳細な心エコーの実施が難しい状況もあります。そのような場合でもポケットエコー、つまりBモードだけで評価することができれば、有用な情報が得られます。ポケットエコーでは、VMTスコア(後述しますが、左心不全の要素と考えてください)、下大静脈(IVC)の2つを評価するのが基本的な戦略となります(表)。表 ポケットエコーで評価する血行動態指標画像を拡大する下大静脈の径と呼吸性変動を見て右房圧を推定する推定右房圧の一般的な分類は、3mmHg、8mmHg、15mmHgの3つに分けるのが主流です。下大静脈径は21mmがカットオフ値になりますが、長軸で評価するのが慣習だと思います。しかし、短軸の断面像でも断面の円形化が右房圧上昇を示唆するのではないかという報告があります。そのため、長軸だけでなく短軸で判断することも重要となります。肝臓を窓にして見ると、心窩部で観察しにくい人も肋間から下大静脈を観察することができます。それでは、動画を見てみましょう。下大静脈の観察短軸像でも、右房圧の判断ができることがおわかりいただけたのではないでしょうか。VMTスコアとは?ここで、聞き慣れないVMTスコアという指標を紹介します(図)。図 VMTスコア:時相解析に基づく左室充満圧指標画像を拡大するVMTは、僧帽弁と三尖弁の開放の時相差を見ていきます。生理的には、通常は三尖弁が先に開くのですが、左房圧(左室充満圧)が徐々に上がっていくにつれて、僧帽弁が先に開くようになります。これをBモードで観察していくと、左房圧と相関することが発見され、この指標が開発されました。これに加えて、先ほど解説した下大静脈径から推定する右房圧と組み合わせ、総合的に0~3点でスコア化することで、いわゆる非代償性の左心不全および両心不全の判断に有効な指標となります。それでは、VMTスコア0~3点について、詳しく見ていきましょう。点数の分類は以下のように解釈できます。0点三尖弁が先行して開き、下大静脈の拡張もない1点三尖弁と僧帽弁が同時に開くが、下大静脈の拡張はない2a点三尖弁と僧帽弁が同時に開き、下大静脈の拡張もある(右心不全の要素が強い)2b点僧帽弁が先行して開くが、下大静脈の拡張はない(左心不全の要素が強い)3点僧帽弁が先行して開き、下大静脈の拡張もある(両心不全を示唆)このなかで、VMTスコアが2a点以上の場合は、代償性の慢性心不全というよりは非代償性である可能性が高く、治療介入を検討すべき状態であることが示唆されます。 では、動画でVMTスコアの見かたを見てみましょう。細かく止めながらみるのがコツとなります。VMTスコアの見かた心不全評価の手技の到達目標心不全の評価におけるポケットエコーの手技の到達目標を以下にまとめます。【下大静脈(IVC)】さまざまなアプローチで描出できる肝静脈との合流部を意識できる右房への流入を観察できる【VMTスコア】心窩部で4腔像を描出できるシネを用いてVMTを評価できる心尖部で4腔像を描出できる次回は、この目標に基づいて手技を学んでいきましょう。

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息切れがして歩きが遅い【漢方カンファレンス2】第8回

息切れがして歩きが遅い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】80代男性主訴呼吸困難、歩きが遅くなった既往慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰椎椎間板ヘルニア生活歴50歳まで喫煙、ADLは自立。病歴50歳時にCOPDと診断。呼吸器内科で吸入薬を中心とした治療を受け、咳や痰がときおりある程度で落ち着いていた。3ヵ月前に腰痛が悪化して、腰椎圧迫骨折の診断で3週間の入院加療を行った。退院後、腰痛は軽減して日常生活は問題なくできていたが、歩行時の息切れがひどくなった。以前から妻と散歩をしていたが、妻の歩きについていけなくなった。呼吸機能検査では悪化はなく、漢方治療を希望して受診した。現症身長161cm、体重52kg。体温35.4℃、血圧115/77mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%。呼吸音は異常なし、軽度の下肢浮腫あり。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療開始。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後息切れは変わらない。夜間尿が1〜2回に減った。下肢の浮腫は減ったが冷えは変わらない。ブシ末3包 分3を追加2ヵ月後腰痛と息切れがずいぶん楽になった。散歩に行く意欲がでてきた。3ヵ月後散歩で息切れがなくなって、妻と同じ速度で散歩ができるようになったと喜んでいる。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 寒がりです。 足、とくに膝下が冷えます。 足は冷えますが、足の裏がほてることがあります。 横になりたいほどではありませんが歩くと息切れがひどくきついです。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 入浴で温まると、腰痛はどうなりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴の時間は長いです。 入浴後は腰痛が軽くなります。 冷房は好きでも嫌いでもありません。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇く方です。 温かい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃は弱くありませんか? だいたい1日1L程度です。 食欲はあります。 胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかきますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 下痢や便秘はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は1日12回くらいです。 夜は3回トイレに行くので困っています。 便は毎日出ます。下痢はありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 朝が一番きついということはありませんか? 腰痛はどうですか? よく眠れますか? 歩くときついですがじっとしていれば倦怠感はありません。 朝は調子がよいです。 腰痛は随分よくなりましたが動くとまだ痛いですね。 睡眠は問題ありません。 日中の眠気はありませんか? 目の疲れや抜け毛は多くありませんか? 足をよくつりますか? 頭痛やめまいはありませんか? 下肢はむくみませんか? 眠気はありません。 目の疲れや抜け毛はありません。 足はつりません。 頭痛やめまいはしません。 夕方になると下肢がむくみます。 風邪をひきやすいですか? 咳や痰はひどいですか? 風邪はあまりひきません。 咳はたまに出る程度です。痰も量は少ないです。 ときどき粘っこい痰が出ます。 イライラや不安はありませんか? どれくらい生活に支障が出ていますか? イライラや不安はありませんが、何をするにも億劫になりました。以前はグランドゴルフもやっていましたが、いまは散歩にいく気力もありません。 【診察】顔色は正常。脈診ではやや沈・強弱中間の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は中等度より軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋緊張あり、上腹部と比べて下腹部の腹力が低下している小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。下肢に浮腫が軽度あり、触診で冷感あり。カンファレンス 今回の症例は、呼吸困難感と歩行速度の低下を訴える高齢の男性です。 COPDはコモンな疾患で、抗コリン薬やステロイドの吸入が標準的な治療ですが、それ以外の治療は乏しいです。本症例は呼吸機能検査の悪化はなく、腰椎圧迫骨折を契機に出現した症状ということで、肺というよりは体力や筋力の低下が問題で「リハビリを頑張ってください」と言いたくなりますね。 そうですね。COPDの治療には生活の質の改善や身体活動性の維持・向上が含まれますから、リハビリの強化は必要ですね。 全身倦怠感や息切れのために積極的にリハビリが行えない、意欲が低下してなかなかリハビリが進まないケースも多いですね。 そういうケースに漢方薬を使うことでリハビリがスムーズに行えるように支えることができたらよいね。 それでは、順番にみていきましょう。 下肢、とくに膝下の冷えの訴えがあるので陰証でしょうか。そのほか寒がり、入浴の時間は長い、温かい飲み物を好む、触診で下肢に冷感があるなどが陰証を示唆する所見です。ただし、横になりたいほどの倦怠感はない、脈は強弱中間であることから、少陰病や厥陰病(けついんびょう)というわけではないようです。 そうだね。ただし腰痛が入浴で温まると改善するということは、冷えの関与が考えられるね。 入浴で温まると痛みがよくなるということで附子(ぶし)を使いたくなります。 それでは漢方診療のポイント(2)の虚実はどうだろう? 脈は強弱中間、腹力は中等度より軟弱であることからやや虚証〜虚実間です。 そうですね。では気血水の異常を考えてみましょう。 歩行できついという全身倦怠感があるので気虚でしょうか? 疲れやすさは気虚と考えることができるね。ただし本症例では気虚の倦怠感の特徴である食欲低下や昼食後の眠気は目立たないね。また、風邪をひきやすいことも気虚の特徴だけど、そちらもないよね。 気虚はありそうだけど、典型的な気虚というわけでもなさそうですね。 また、朝調子が悪いという気鬱の全身倦怠感でもないようです。 血の異常はどうだろう? 抜け毛、こむら返り、目の疲れなど血虚はありません。瘀血は舌暗赤色、舌下静脈の怒張があります。 水毒の所見としては下肢の浮腫がありますね。また夜間尿3回は夜間頻尿で水毒と考えることができますね。ここまでをまとめると、太陰病で、気虚はありそうだけど典型ではない、瘀血、水毒となりますね。 散歩に行く意欲がない、何をするのも億劫というのは気鬱でしょうか? 気鬱としてもよいかもしれないね。ただし、下肢の冷え、腰痛、夜間頻尿、歩行速度の低下などと意欲の低下を一元的に考えるとどうだろう? なるほど、心身一如の漢方治療ですね。それらを加齢に伴う症状として考えると漢方医学的には腎虚(じんきょ)と捉えることができませんか? そのとおり。腎の働きが加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚というよ。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退だね。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型だけど、手掌や足底のほてりを訴えることもあるよ。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状だね(腎虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 腎虚といえば、坐骨神経痛や夜間頻尿など、腰下肢痛や排尿異常を思い浮かべてしまいますが、さまざまな症状が含まれるのですね。 先天の気は腎に蓄えられることから、全身倦怠感や意欲の低下といった気虚と類似した症状もあらわれることがあるのも理解できるね。 現代ではフレイルやサルコペニアなどが老化の概念として活用されていますね。とくにフレイルには多面性があって、身体的フレイル、心理・精神的フレイル、社会的フレイルに分類され、心理社会的側面な意味を含むことも腎の働きと似ていますね。 あとは細かい点だけど、足の裏がほてるという症状も腎虚で出現する症状だよ。 本症例をまとめましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、下肢、とくに膝下が冷える、入浴は長い、下肢に冷感→陰証(太陰病)(2)虚実はどうか脈:やや強弱中間、腹:中等度より軟弱→やや虚証〜虚実間(3)気血水の異常を考える歩くと倦怠感→気虚?、舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血、下肢浮腫→水毒、下肢冷えと浮腫、腰痛、夜間頻尿、意欲の低下→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む加齢症状、小腹不仁解答・解説【解答】本症例は、腎虚に対して用いる八味地黄丸(はちみじおうがん)で治療をしました。【解説】腎虚に対して用いる漢方薬が八味地黄丸です。古典を参考に八味丸(はちみがん)という場合もあります。八味地黄丸は、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)が体を栄養・滋潤する作用があり、そのほか、利水作用のある茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、駆瘀血作用のある牡丹皮(ぼたんぴ)に加え、体を温める桂皮(けいひ)と附子で構成されます。八味地黄丸は太陰病の虚証に適応となる漢方薬ですが、虚証の程度は軽く、虚実間からやや実証まで幅広く適応になります。ひどく虚弱で胃が弱い人ではしばしば胃もたれすることがあるので注意が必要です。そのため食前ではなくあえて食後に内服する、あるいは減量して用いる場合もあります。この胃もたれは構成生薬の地黄が原因です。八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)を加えたものが牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)で浮腫やしびれが強い場合に用います。また、冷えが目立たない症例では桂皮と附子を除いた六味丸(ろくみがん)を用います。腎虚の治療の効果判定は、加齢に伴う症状ですから、内服によりすべての症状がすみやかに改善することは難しく、じっくりと月単位で内服してもらいます。八味地黄丸は軽度アルツハイマー認知症患者に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に併用することで、女性や65歳以上では有意に認知機能を改善させたという前向きオープンラベル多施設ランダム化比較試験があります1)。また、精神症状に関する報告として、八味地黄丸を意欲の低下を目標に15症例に投与したところ、7割以上に有効で八味地黄丸には意欲賦活作用があるとする症例報告2)やうつ病患者の倦怠感や気力の低下に八味地黄丸や六味丸が有効であったとする報告3)があります。また呼吸器症状に関しても気管支喘息に対する八味地黄丸の効果4)やストレスに起因した慢性咳嗽に八味地黄丸が有効であった症例5)が報告されています。腎虚の治療薬は、夜間頻尿や過活動膀胱などに対する泌尿器科的な症状や牛車腎気丸が末梢神経障害に用いるといったイメージが強いですが、腎虚はもっと幅広い概念であるため、精神症状や呼吸器症状に有効であるということにも注目すべきでしょう。「腎は納気(のうき)を司(つかさ)どる」といわれ、肺だけでなく腎も呼吸にも関与しているとされているのです。今回のポイント「腎虚」の解説生命活動を営む根源的エネルギーである気(き)は「先天の気」と「後天の気」に分けられます。生まれた後は呼吸や消化によって後天の気を取り入れることができます。一方、先天の気は、生まれながらの生命力というべきもので「腎」に宿ります。腎は現代医学的な腎臓とは異なる概念で、全身の生命活動を支える根本的な臓器として、水分代謝の調整のほか、成長、発育、生殖能、呼吸機能などが含まれます。腎の働きは加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚といいます。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退です。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型ですが、手掌や足底のほてりを訴えることもあります。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状です。また、腎は思考力、判断力、集中力の保持にかかわっていると考えられ、腎虚ではそれらが低下して、易疲労感や意欲の低下が出現します。腎虚を示唆する身体所見として、上腹部より下腹部の腹力が減弱した小腹不仁(図)があります。今回の鑑別処方今回は八味地黄丸や牛車腎気丸から展開する漢方治療を紹介します。八味地黄丸は腎虚に対して用いる漢方薬ですが、さらにほかの漢方医学的異常を認める場合はそれぞれの病態に応じてほかの漢方薬と併用します。八味地黄丸や牛車腎気丸には附子が含まれていますが、冷えを伴わない場合は六味丸を用います。六味丸は小児の発育障害のような病態に用いられた歴史があります。逆に冷えや痛みが強い場合には八味地黄丸や牛車腎気丸にブシ末を併用して冷えや痛みに対する治療を強化します。また腰以下の冷え、とくに腰周囲や大腿部の冷えが目立つ場合は苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)を併用します。全身倦怠感が強く気虚を合併していれば、補中益気湯を併用することもあります。補中益気湯と八味地黄丸の併用はしばしば男性不妊に対する治療で用います。八味地黄丸に含まれる地黄で胃もたれを生じるような場合は人参湯(にんじんとう)と併用することがあります。また脱水傾向があるとか、気道粘膜が乾燥傾向にあって乾性咳嗽を伴う場合には、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を併用します。麦門冬湯には滋潤(じじゅん)作用といって潤す作用があり、COPD患者で乾燥傾向があってしつこい咳嗽(喀痰はあっても少量)がある場合に適応です。今回の症例で乾性咳嗽が目立っていれば併用すればよいでしょう。この麦門冬湯と八味地黄丸の併用は煎じ薬では味麦地黄丸(みばくじおうがん)という漢方薬と類似した構成です。また、当科では「八味丸と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に持ち込めば勝ち戦」という漢方治療の口訣があります。最初は食欲低下、冷え、不眠など、それぞれの漢方治療を行うけれども、最後に八味地黄丸や桂枝茯苓丸を内服できるようになればこちらの漢方治療が上手くいったという意味です。さまざまな症状が改善して漢方医学的異常として最後に残るのは腎虚と瘀血ということで、なんとも味わい深い口訣です。漢方外来ではそれらを飲んでいて、積極的に運動をするなど、活動的な高齢者も多いです。2つの漢方薬はともに甘草を含まないことから偽アルドステロン症の恐れもなく、地黄による胃もたれや漢方薬によるアレルギーさえなければ長期内服しやすい組み合わせになります。参考文献1)Kainuma M, et al. Front Pharmacol. 2022;13:991982.2)尾﨑哲, 下村泰樹. 日東医誌. 1993;43:429-437.3)Yamada K, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2005;59:610-612.4)伊藤隆ほか. 日東医誌. 1996;47:443-449.5)木村容子ほか. 日東医誌. 2016;67:394-398.

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難治性うつ病患者、搬送後に心室頻拍に!【中毒診療の初期対応】第1回

<今回の症例>年齢・性別52歳・女性患者情報難治性うつ病の診断で某院精神科にて通院加療していた。仕事から帰宅した夫が、リビングで倒れていて呼びかけてもまったく反応がない状態であるのを発見し、救急センターに搬送された。初診時はいびき様呼吸、呼吸数22/分、SpO2 98%(フェイスマスクにて酸素3L/分)、血圧78/46mmHg、心拍数124bpm、意識レベルJCS 200、瞳孔 左右5.5mm同大、対光反射 緩慢、体温38.6℃であった。心電図モニターでは、QRS(0.18sec)およびQTc(0.50sec)の延長(図1)が認められた。身体所見では、皮膚の乾燥、腸蠕動音の減弱が認められた。気管挿管により気道を確保し、経鼻胃管を挿入したところ薬物残渣が大量に吸引された。突然、心電図モニターで心室頻拍(図2)が出現したが、脈は触知できた。上段:(図1)搬送直後の心電図下段:(図2)経鼻胃管挿入後の心電図画像を拡大する検査値・画像所見末梢血では、WBC 9.80×103/mm3、Hb 13.8g/dL、Ht 39.6%、Plt 132×103/mm3、生化学検査では、TP 6.9g/dL、AST(GOT)12IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 320IU/L、CPK 125IU/L、AMY 253IU/L、Glu 132mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.6mg/dL、Na 140mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 106mEq/L、動脈血ガス(フェイスマスクにて酸素3L/分)、pH 7.336、PaCO2 30.8Torr、PaO2 112.3Torr、HCO3- 16.7mmol/L、BE -3.6mmol/L、乳酸値 4.6mmol/Lであった。<問題1><解答はこちら>2.第1世代三環系抗うつ薬<問題2><解答はこちら>4.炭酸水素ナトリウム1)上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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