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母親の産前、産後うつ病と子供の自閉スペクトラム症との関係〜メタ解析

 母親の産前、産後うつ病や周産期うつ病と子供の自閉スペクトラム症(ASD)との関係については、相反する結果が報告されている。オーストラリア・カーティン大学のBiruk Shalmeno Tusa氏らは、母親の産前、産後うつ病や周産期うつ病と小児および青年期におけるASDリスクとの関連についての既存のエビデンスを検証し、統合するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BJPsych Open誌2025年6月4日号の報告。 2024年2月21日までに公表された研究を、PubMed、Medline、EMBASE、Scopus、CINAHL、PsycINFOよりシステマティックに検索した。ランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、サマリー効果推定値はオッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)として算出した。異質性の評価には、Cochranの Q検定およびI2検定を用いた。対象研究における潜在的な異質性の要因を特定するため、サブグループ解析を行った。出版バイアスの評価には、ファンネルプロットとEggerの回帰検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・最終分析には、160万組超の母子を対象とした12件の研究が含まれた。・ランダム効果メタ解析では、子供におけるASD発症リスクは、妊娠前にうつ病を経験した母親の場合52%(OR:1.52、95%CI:1.13〜1.90)、産前うつ病の場合48%(OR:1.48、95%CI:1.32〜1.64)、産後うつ病の場合70%(OR:1.70、95%CI:1.41〜1.99)それぞれ増加していることが明らかとなった。 著者らは「メタ解析の結果、出産前、周産期、出産後にうつ病を経験した母親から生まれた子供は、ASD発症リスクが高いことが判明した。ASDリスクの子供に対する早期スクリーニングおよびターゲットを絞った介入プログラムの必要性が示唆された」と結論付けている。

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進展型小細胞肺がんへの免疫化学療法、日本の実臨床データ

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)に対する1次治療として、抗PD-L1抗体とプラチナ製剤を含む化学療法の併用療法(免疫化学療法)が標準治療となっているが、実臨床における報告は限定的である。そこで、平林 太郎氏(信州大学)らの研究グループは、実臨床において免疫化学療法を受けたED-SCLC患者と、化学療法を受けたED-SCLC患者の臨床背景や治療成績などを比較した。その結果、免疫化学療法が選択された患者は、化学療法が選択された患者よりも全生存期間(OS)が良好な傾向にあったが、免疫化学療法が選択された患者は約半数であり、実臨床におけるED-SCLC治療にはさまざまな課題が存在することが示された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。 本研究は、日本の11施設が参加した多施設共同後ろ向き研究である。2019年8月~2023年6月に、1次治療として免疫化学療法または化学療法を受けたED-SCLC患者181例を対象とした。対象患者を、免疫化学療法を受けた群(免疫化学療法群、96例)と、プラチナ製剤を含む化学療法のみを受けた群(化学療法群、85例)に分け、患者背景、治療成績、免疫化学療法が選択されなかった理由などを後ろ向きに調べた。 主な結果は以下のとおり。・免疫化学療法群は化学療法群と比較して、75歳以上の割合(28.1%vs.56.5%、p<0.001)、間質性肺炎(IP)合併の割合(9.4%vs.41.2%、p<0.001)が有意に低かった。・OS中央値は、免疫化学療法群15.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.3~17.6)、化学療法群9.7ヵ月(同:7.3~12.2)であった。1年OS率は、それぞれ59.9%、34.5%であり、2年OS率は、それぞれ17.7%、2.9%であった。・無増悪生存期間中央値は、免疫化学療法群5.1ヵ月(95%CI:4.7~5.5)、化学療法群4.9ヵ月(同:4.5~5.3)であった。・奏効率は、免疫化学療法群80.2%、化学療法群64.7%であり、病勢コントロール率は、それぞれ90.6%、88.2%であった。・1次治療で免疫化学療法が選択されなかった理由として多かったのは、IP合併(18.8%)、高齢(14.9%)、PS不良(13.3%)であった。・治療中止に至った有害事象は、免疫化学療法群12.5%、化学療法群9.4%に発現した。肺臓炎による治療中止の割合は、それぞれ7.3%、1.2%であった。 本研究結果について、著者らは「ED-SCLC患者に対する免疫化学療法の有効性が実臨床でも示唆されたものの、実際にこの治療法が選択されているのは約半数にとどまっていた」と指摘し「IP合併、高齢、PS不良といった背景を有する患者に対して、免疫化学療法と化学療法のいずれを選択すべきか明確な結論は得られておらず、臨床背景や併存疾患に応じた治療選択にはさまざまな課題があり、今後の検証が必要である」と結論付けている。

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再発・難治性の多発性⾻髄腫治療薬トアルクエタマブを発売/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年8月14日、再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬として、多発性骨髄腫細胞表面に高発現するGPRC5D(Gタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーD)およびT細胞表面に発現するCD3を標的とする二重特異性抗体トアルクエタマブ(遺伝子組換え)(商品名:タービー皮下注)を発売したことを発表した。本剤は、2025年6月24日に「再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」を効能又は効果として承認され、8月14日に薬価収載された。Johnson & Johnsonとしては、テクリスタマブ(遺伝子組換え)(商品名:テクベイリ皮下注)に続き、再発・難治性の多発性骨髄腫に対する2剤目の二重特異性抗体となる。 本剤は、国際共同第I/II相MMY1001試験(MonumenTAL-1試験)および国内第I相MMY1003試験の結果に基づき承認を取得している。これらの試験では、再発・難治性多発性骨髄腫の成人患者を対象に有効性及び安全性を評価し、T細胞リダイレクト治療薬による治療歴の有無にかかわらず、深く持続的な奏効および良好な安全性プロファイルを示した。また、MonumenTAL-1試験における承認申請後の追加カットオフ時点の日本人コホート解析では、追跡期間中央値13.4ヵ月における全奏効率は77.8%で、55.6%が完全奏効以上を達成した。<製品概要>・製品名:タービー皮下注3mg、同40mg・一般名:トアルクエタマブ(遺伝子組換え)・効能又は効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)・用法及び用量:通常、成人にはトアルクエタマブ(遺伝子組換え)として、以下のA法又はB法で投与する。A法:漸増期は、1日目に0.01mg/kg、その後は2〜4日の間隔で0.06mg/kg、0.4mg/kgの順に皮下投与する。その後の継続投与期は、0.4mg/kgを1週間間隔で皮下投与する。B法:漸増期は、1日目に0.01mg/kg、その後は2〜4日の間隔で0.06mg/kg、0.4mg/kg、0.8mg/kg の順に皮下投与する。その後の継続投与期は、0.8mg/kgを2週間間隔で皮下投与する。・薬価:タービー皮下注3mg:3mg1.5mL1瓶146,284円、同40mg:40mg1mL1瓶1,879,962円・製造販売承認日:2025年6月24日・薬価基準収載日:2025年8月14日・発売日:2025年8月14日・製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社

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妊娠中のST合剤予防投与、出生アウトカムを改善せず/NEJM

 ジンバブエ・Zvitambo Institute for Maternal and Child Health ResearchのBernard Chasekwa氏らが、同国で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Cotrimoxazole for Mothers to Improve Birthweight in Infants(COMBI)試験」において、妊娠中のトリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)の予防投与は、児の出生時体重を有意に増加させなかったことを報告した。有害な出生アウトカムの根底には、母体感染がある。妊娠中の抗菌薬投与は出生アウトカムを改善する可能性があるが、エビデンスにはばらつきがあり、また、試験の多くは高所得国で行われ、投与は特定の妊娠期間の短期間に限定され、検討されている薬剤も限られている。ST合剤は、サハラ以南のアフリカ諸国、とくにHIV感染者に使用され、薬剤耐性が広がっているものの有効性を維持している。しかし、妊娠中の予防投与が出生アウトカムを改善するかどうかは不明であったことから、研究グループは本検討を行った。NEJM誌2025年6月5日号掲載の報告。HIV感染の有無にかかわらず妊婦をST合剤群とプラセボ群に無作為化 試験は、マラリアが流行していないジンバブエ中央部に位置するシュルグウィ地区の産婦人科クリニック3施設において実施された。尿妊娠検査が陽性で、HIV感染状況が判明しており、ST合剤を現在投与されていないまたは適応のない妊婦を募集し、適格者をST合剤(960mg/日)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、妊娠14週以降出産または流産まで1日2回投与した。 主要アウトカムは出生時体重で、ITT解析を実施した。副次アウトカムは、低出生体重児(<2,500g)の割合、妊娠期間、早産(在胎37週未満)の割合、在胎不当過小児の割合、胎児死亡(流産または死産)、母親の入院または死亡、新生児の入院または死亡、および出生後6週時の年齢別体重・身長・頭囲のzスコアであった。出生時体重、その他の副次アウトカムに差はなし 2021年12月17日~2023年4月23日に計1,860例がスクリーニングを受け、適格者1,428例(76.8%)のうち1,000例が登録・無作為化された。ITT集団は、超音波検査で非妊娠子宮であることが確認された7例を除く993例(ST合剤群495例、プラセボ群498例)であった。 参加者のベースライン特性は、年齢中央値24.5歳、登録時妊娠週数中央値は20.4週、HIV感染者は131例(13.2%)で、ST合剤群495例中458例、プラセボ群498例中458例が試験薬の投与を受け、初回投与時の妊娠週数中央値は21.7週(四分位範囲:17.3~26.4)であった。 ITT集団において、出生時体重(平均値±SD)はST合剤群3,040±460g、プラセボ群3,019±526gであった(平均群間差:20g、95%信頼区間:-43~83、p=0.53)。副次アウトカムも、ほとんどが両群で同等であった。 有害事象の発現は両群で同程度であった。重篤な有害事象は、母親においてST合剤群31件(死亡例なし)、プラセボ群33件(死亡2例)、乳児においてそれぞれ22件(死亡14例)、20件(死亡12例)が報告された。

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ジャガイモ、調理法によって糖尿病リスクに違い/BMJ

 ジャガイモの摂取と2型糖尿病のリスクとの関連について、フライドポテトの摂取量の多さは2型糖尿病のリスク増加と関連していたが、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトを組み合わせた場合は関連していなかった。また、ジャガイモを全粒穀物に置き換えるとリスクが低下する一方、白米に置き換えるとリスクが増加したという。米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのSeyed Mohammad Mousavi氏らが、同国の看護師および医療従事者を対象とした大規模前向きコホート研究等のデータを用いて行った解析の結果を報告した。BMJ誌2025年8月6日号掲載の報告。米国NHS、NHS II、HPFSのデータを解析 研究グループは、米国で行われている3つの前向きコホート研究、Nurses' Health Study(NHS)の1984~2020年、Nurses' Health Study II(NHS II)の1991~2021年、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)の1986~2018年のデータを用い、ベースラインで糖尿病、心血管疾患またはがんの既往がない男女合計20万5,107例を対象として、ジャガイモの摂取と2型糖尿病発症との関連について解析した。 ジャガイモの摂取は2~4年ごとの食物摂取頻度調査票(FFQ)、2型糖尿病の発症は2年ごとの質問票から得た自己報告による疾患の診断、リスク因子、薬剤の使用および生活習慣については情報を収集する質問票を用いて評価した。 ジャガイモの摂取と2型糖尿病発症との関連は、ジャガイモの総摂取量ならびに摂取形態(ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせ、フライドポテト、ポテト/コーンチップ)別に、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。フライドポテトを全粒穀物に置き換えるとリスクは低下 追跡期間517万5,501人年において、2型糖尿病の新規診断が2万2,299例確認された。最新のBMI値およびその他の糖尿病関連リスク因子で調整後、ジャガイモ総摂取量ならびにフライドポテト摂取量の多さは2型糖尿病のリスク増加と関連することが示された。総摂取量が3サービング/週増加するごとに2型糖尿病発症リスクは5%(ハザード比[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.02~1.08)、フライドポテトが3サービング/週増加するごとに20%(1.20、1.12~1.28)それぞれ増加した。一方、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせ(統合HR:1.01、95%CI:0.98~1.05)およびポテト/コーンチップ(1.02、0.98~1.06)の摂取量3サービング/週増加は、2型糖尿病との有意な関連は認められなかった。 置換解析の結果、ジャガイモ3サービング/週を全粒穀物に置き換えると、2型糖尿病発症率がジャガイモ全体で8%(95%CI:5~11)、ベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせでは4%(1~8)、フライドポテトでは19%(14~25)低下すると推定された。一方、白米に置き換えると、ジャガイモ全体、またはベイクドポテト・ボイルドポテト・マッシュポテトの組み合わせで2型糖尿病の発症リスク増加がみられた。 なお、本研究の3コホートと、PubMed/Medline、ISI Web of ScienceおよびEmbaseを用いて特定したジャガイモの摂取量と2型糖尿病との関連に関するコホート研究の合計13コホート(合計58万7,081例、2型糖尿病診断4万3,471例)を対象としたメタ解析の結果、3サービング/週増加ごとの2型糖尿病発症リスクの統合HRは、ジャガイモ全体で1.03(95%CI:1.02~1.05)、フライドポテトで1.16(1.09~1.23)であり、置換メタ解析では、ジャガイモ全体、非フライドポテト、フライドポテトの3サービング/週を全粒穀物に置き換えると、2型糖尿病のリスクがそれぞれ7%(95%CI:5~9)、5%(3~7)、17%(12~22)低下すると推定された。

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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救急診療所では不適切な処方が珍しくない

 救急診療所では、抗菌薬、ステロイド薬、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)が効かない症状に対してこれらの薬を大量に処方している実態が、新たな研究で示された。研究論文の筆頭著者である米ミシガン大学医学部のShirley Cohen-Mekelburg氏は、「過去の研究では、ウイルス性呼吸器感染症など抗菌薬が適応とならない疾患に対しても抗菌薬が処方され続けており、特に、救急診療所でその傾向が顕著なことが示されている」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 この研究では、2018年から2022年の間に行われた2242万6,546件の救急診療に関する医療データが分析された。これらの診療において、抗菌薬が278万3,924件(12.4%)、ステロイド薬のグルココルチコイドが203万8,506件(9.1%)、オピオイドが29万9,210件(1.3%)処方されていた。 これらの処方を検討した結果、相当数が、患者の診断を考慮すると「常に不適切」または「通常は不適切」な処方であることが判明した。抗菌薬の処方が「常に不適切」とされる診断のうち、中耳炎の30.7%、泌尿生殖器症状の45.7%、急性気管支炎の15.0%において同薬剤が処方されていた。また、グルココルチコイドの処方が「通常は不適切」とされる診断のうち、副鼻腔炎の23.9%、急性気管支炎の40.8%、中耳炎の7.9%において同薬剤が処方されていた。一方、オピオイドについては、処方が「通常は不適切」とされる背部以外の筋骨格系の痛みの4.6%、腹痛・消化器症状の6.3%、捻挫・筋挫傷などの4.0%において処方されていた。 Cohen-Mekelburg氏らは、「これらの結果は、ウイルス性呼吸器感染症の治療としての不適切な抗菌薬処方が最も多いのは救急医療であることを示した最近の研究結果と一致している」と述べている。同氏らによると、これらの薬が不適切に処方されるのは、救急医療スタッフの知識不足、患者による特定の薬剤の要求、処方を決める際のバックアップサポート体制の欠如などが原因になっている可能性が高いという。 これらの処方がもたらす影響は広範囲に及ぶ可能性がある。例えば、抗菌薬の過剰使用により、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が大きな脅威となりつつある。また、米国でのオピオイド危機は、あいまいな理由で大量の鎮痛薬が処方されてきたことによって悪化してきた。 こうしたことからCohen-Mekelburg氏らは、救急診療所が適切な病状に適切な薬を処方していることを確認するために、薬剤管理プログラムが必要であると結論付けている。「抗菌薬、グルココルチコイド、オピオイドの不適切な処方を減らすには、多角的なアプローチが必要だ。救急医療センターの医療従事者がこうした薬剤の処方について判断を下す際には、より多くの支援とフィードバックが役立つだろう」と述べている。

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画期的AI活用法!【Dr. 中島の 新・徒然草】(593)

五百九十三の段 画期的AI活用法!8月7日の立秋を境に、厳しい暑さが少し和らいできました。まもなく迎える終戦記念日は、戦後80年の節目でもあります。太平洋戦争をアメリカ側から見れば、真珠湾への奇襲攻撃を行った日本を正義の鉄槌で無条件降伏させ、占領後に民主国家へと生まれ変わらせた……そんな「美しい物語」ではないでしょうか。しかし、日本には日本の正義があったはず。敗者になったがために戦勝国に言われ放題なのは、やはり複雑な思いがあります。とはいえ、これはあくまでも私の感じていることであり、他の人に自分の考えを押しつけるつもりは毛頭ありません。ただ一つ心掛けたいのは、あの戦争で命を落とした先祖に恥じない生き方をしなくては、ということです。さて、本題の「画期的AI活用法」に移ります。私は以前からChatGPTを利用してきましたが、最近になって臨床現場での非常に有効な使い方を見つけました。それは、薬剤処方のチェックです。高齢患者に10種類前後の薬を処方することは珍しくありません。いわゆるポリファーマシーですね。しかし多剤併用には大きく2つの課題があります。1つは薬物相互作用による副作用リスク。たとえば10種類の薬なら、2剤間の組み合わせは10C2=45通りにものぼります。もう1つは、副作用が疑われた際に原因薬を特定する難しさ。外来の限られた診察時間内でこれを突き止めるのは、きわめて困難です。ここでAIの出番!たとえば、ある80代男性(架空症例)に以下の薬を処方していたとします。アムロジピン、ワルファリン、アトルバスタチン、メコバラミン、ソリフェナシン、ゾルピデム、プレガバリン、レボドパ・ベンセラジド、ブロモクリプチン、ミコナゾールChatGPTに「この中でリスクの高い薬剤の組み合わせは?」と尋ねると瞬時に以下の回答が返ってきました(簡略化しています)。高リスクワルファリン+ミコナゾール(重篤な出血リスク)中リスクゾルピデム+プレガバリン(転倒・せん妄・呼吸抑制)、ゾルピデム+レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(認知機能悪化・転倒)、ソリフェナシン+パーキンソン薬(便秘・尿閉・せん妄)実際、私はワルファリン+ミコナゾールで口腔内出血や血尿を来した症例を経験したことがあります。次に「この患者さんの言動が急におかしくなって薬剤有害事象を疑った場合の被疑薬をリスクで順位付けしてください」と尋ねると、これまた即座に以下の結果が返ってきました。1位:ゾルピデム(せん妄・幻覚・記憶障害)2位:プレガバリン(めまい・傾眠・意識変容)3位:レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(幻覚・妄想・衝動制御障害)4位:ソリフェナシン(せん妄・記憶障害)5位:ワルファリン+ミコナゾール(脳出血による意識変容)これらの副作用は私も実際に経験したことがあり、いずれも薬剤中止によって改善しました。プレガバリンやソリフェナシンの中枢神経症状は意外に思われるかもしれませんが、私はそれぞれ複数症例で見たことがあります。なので決して珍しいものではありません。また、このように被疑薬の候補が多い場合でも、症状出現と薬剤開始の時期を照らし合わせることによって、絞り込むことが可能かと思います。このような形でAIを使う時に注意すべきは、薬剤名を商品名でなく一般名で入力すること。商品名で試してみると、似た名称のまったく異なる薬が他国にあるためか、しばしば見当外れの答えが返ってきたからです。ということで、ポリファーマシーが避けられない現代、AIは非常に心強い味方ですね。読者の皆さまも、どうぞご活用ください。最後に一句 盆来たる AI我らの 戦友ぞ

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生存時間分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第57回

Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子の調整前回まで、Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方を説明しました。今回は、Cox比例ハザード回帰モデルによる交絡因子(連載第45回参照)の調整について、前回に引き続き筆者らが出版した実際の臨床研究論文1)のリサーチ・クエスチョン(RQ)を例にして解説します。Cox比例ハザード回帰モデルは、イベント発生までの時間(生存時間)に対する多変量解析手法です(連載第50回参照)。このモデルにより、特定の要因がハザード(ある瞬間におけるイベント発生のリスク、すなわち瞬間的なイベント発生率)に与える影響を評価できます(連載第55回参照)。Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な形は以下のような積(かけ算)の式で表されます(連載第56回参照)。h(t|X)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2・・・+βnXn)h(t|X):特定の説明変数のセットXを持つ個体の時点tにおけるハザードh0(t):基準ハザード関数X1、X2、…、Xn:交絡因子を含む説明変数β1、β2、…、βn:各説明変数に対応する回帰係数上記のように、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた交絡因子の調整は、回帰モデルの式に交絡因子を説明変数として含めることで行われます。たとえば、事例論文1)の要因である透析導入前腎専門医診療(Pre-Nephrology Visit:PNV)の有無という変数X1が透析導入後早期(1年以内)の死亡のハザード(アウトカム)に与える影響を評価する際に、糖尿病(DM)の有無(X2)が交絡因子であるとします。この場合、回帰モデルの式は以下のようになります。h(t|X1、X2)=h0(t)×exp(β1X1)×exp(β2X2)=h0(t)×exp(β1X1+β2X2)X1:PNVの有無(あり=1、なし=0)X2:DMの有無(あり=1、なし=0)この回帰モデルでは、回帰係数β1は、DMの有無(X2)の効果であるexp(β2X2)を調整したうえでの、PNVの有無(X1)がハザードに与える影響を推定します(連載第55回、第56回参照)。DMという交絡因子の影響を取り除いたPNVの調整ハザード比(adjusted hazard ratio:aHR)は exp(β1)となります。事例論文1)では、交絡因子として、年齢、性別、血液検査データ(ヘモグロビンや血清アルブミンなど)やDMを含む14の並存疾患などの要因を交絡因子として調整したと記載されています。したがって、この研究で実際に使用されたCox比例ハザード回帰モデルの簡略化された概念的な式は、以下のようになります。h(t|PNV、Age、Sex、…、DM)=h0(t)×exp(βPNV・PNV+βAge・Age+βSex・Sex+・・・+βDM・DM)βPNVの指数変換 exp(βPNV)がPNVのaHRとなり、事例論文1)で点推定値は0.57と報告されています 。95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)は0.50〜0.66と1をまたいでおらず、p<0.0001と統計学的にも有意差を認めました。これは、すべての交絡因子を統計的に調整した後でも、PNVを受けた患者群はPNVを受けなかった患者群と比較して、透析導入後早期(1年以内)死亡のリスクが43%低いことを意味します(1-0.57=0.43)。腎臓内科医の存在意義? の1つを示す解析結果を出せた、と安堵しました。1)Hasegawa T et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:595-602.

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房室結節を抑制する薬剤を考えてみよう!【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第8回

房室結節を抑制する薬剤を考えてみよう!(抗不整脈薬)QuestionもともとΔ波を有するウォルフ・パーキンソン・ホワイト(Wolf-Parkinson-White;WPW)症候群で突然心房細動となった方がいました(心電図は以下のとおり)。画像を拡大する

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認知症患者の緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第105回

認知症患者の緩和ケア非がん疾患の緩和ケアとして、最近では「心不全」や「末期腎不全」に対する緩和ケアが注目されていますが、「認知症」への緩和ケアも重要なトピックです。今回は高齢者を中心とした認知症患者への緩和ケアのポイントを考えてみましょう。今回の質問訪問診療をしていると、認知症の高齢者を多く担当するのですが、大半の方は人生の最終段階にあります。こうした方に対する緩和ケアは、どのような点に注意すればよいのでしょうか?先日、がん治療医と食事をする機会があったのですが、「非がん患者の緩和ケアというのが、どうもイメージできないのですよね」とおっしゃっていました。その先生は診療のほぼ100%ががん患者なので、無理もないことだと思います。しかし、緩和ケアを必要とするさまざまな病状のうち、認知症の患者が人数としては最も多いのではないでしょうか。認知症患者の緩和ケアにはどのような特徴があるのでしょうか?「認知症患者の緩和ケア」といっても、まずは「認知症の高齢者」に対する一般的なアセスメントと介入、そしてケアが基本となります。認知症の「中核症状」とされる記憶障害、実行機能障害、見当識障害が日常生活にどの程度影響しているのかを評価しましょう。また、家族などケア提供者にとって大きな負担になるのが「周辺症状」です。周辺症状とは、徘徊、妄想・幻覚、攻撃的な行動などで、在宅療養が難しくなる要因の1つです。これらの症状に対し、認知症治療薬が有効である可能性があれば、投与を検討します。しかし、緩和ケアを必要とする患者は、薬物療法による認知症改善があまり期待できない方が大半です。そこで大切になるのが、本人と家族に対するケアとACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。今回はこのケアの部分について述べたいと思います。認知症患者へのケアは、認知症という病名でひとくくりにするのではなく、患者ごとの認知症の特徴や、生活・人生レベルでの背景を理解することに努めましょう。中核症状および周辺症状の程度と合わせ、これまでどのような仕事をしてきたのか、家族との関係がどうなのか、などについて理解します。こういったプロセス自体が、患者と家族の「大切にされている」という感覚につながり、患者の個別性に合わせたケア提供に役立ちます。「ユマニチュード」と呼ばれるケア手法があります。この手法は「あなたは大切な存在である」と伝え続けることの大切さを説いています。私自身はこの分野のプロではないですが、ユマニチュードについて学んだ際に、非常に多くの部分が緩和ケアに通じると感じました。先ほど述べた「患者を人生レベルで理解する」ということは、この「大切にする」ことにつながるのですね。もう1つ大切なのは、認知症の疾患経過を共有することです。患者や家族は、「認知症は根本的には治らない疾患である」「緩やかな経過の中で寝たきりになっていく」といった事柄を理解していないことが多いです。がんのような確立された疾患イメージがないので、ACPに取り組むことがより重要になるのです。認知症患者の緩和ケアでは、本人が「大切にされている」という感覚を失うことなく、将来に備えた対話に取り組むことが重要です。普段、緩和ケアを実践している方は、「特別なことは求められていない」のだと理解いただけるでしょう。ぜひ、患者ごとの最適なケアを実践してください。今回のTips今回のTips認知症の緩和ケア、「本人が大切にされている」と感じられるケアを提供しよう。

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第23回 「個人の頑張り」ではない!科学が解き明かす、ストレス社会を生き抜く「レジリエンス」

私たちは、ストレスの多い現代社会で、しばしば「もっと強くならなければ」「精神力を鍛えなければ」と考えがちです。しかし、その「強さ」は、個人の気力や根性だけではなく、食事や人とのつながり、社会のあり方そのものによって育まれるものではないか――。医学雑誌Nature Medicine誌に掲載された論文1)は、逆境から回復し、健やかに生きる力、すなわち「レジリエンス」の概念を根底から見直すよう迫っています。この論文は、世界中の多様な環境における脳の健康をテーマにしています。その多角的な視点は、私たち日本人が自分たちの社会や生活を見つめ直し、脳をストレスから守るためのヒントを与えてくれています。レジリエンスの新常識:個人の「頑張り」ではなく複数領域の「バランス」伝統的に、「レジリエンス」は個人の心理的な強さと見なされがちでした。しかし、この論文は、その見方を「断片的だ」と指摘し、レジリエンスをより包括的なものとして捉え直しています。なぜなら、これまでの研究の蓄積により、レジリエンスは複数の領域が相互に作用し合って成り立つ、動的な能力だとわかってきたからです。その「複数の領域」というのは、以下のようなものです。生物学的領域脳の予備能や遺伝的要因、後天的に遺伝子の働きを変えるエピジェネティクスなどが含まれる認知的領域生涯を通じた教育、知的好奇心を刺激する職業、学習習慣などが、柔軟性を高める心理学的領域感情をうまく調整する力、ストレスへの対処法、自分を客観的に見るメタ認知などが、精神的な安定を支える社会的領域家族の絆、友人関係、コミュニティとのつながりといった社会的支援が、強力な防波堤となる環境的領域経済状況、地域社会の安全性なども、私たちのレジリエンスを左右するこの視点は、ともすれば「自己責任」や「個人の努力」が強調されがちな日本社会にとって、意識転換を促すものかもしれません。不調を感じたとき、それは単にその人の「心が弱い」からではなく、社会的・環境的な要因を含めたバランスが崩れているサインなのかもしれません。現代社会の「見えないストレス」と脳の摩耗 「アロスタティック負荷」この論文で中心的な役割を果たすのが、「アロスタシス」と「アロスタティック負荷」という概念です。アロスタシスとは、ストレスに反応して心拍数やホルモンなどを変化させ、体を適応させようとする重要な生命維持システムです。しかし、ストレスが慢性的に続くと、システムは常にフル稼働状態となり、やがて心身に「摩耗・損傷」が蓄積していきます。これが「アロスタティック負荷」です。アロスタティック負荷は、心血管疾患や代謝異常、そして認知機能の低下といったさまざまな病気のリスクを高めます。論文では、貧困や社会不安などがアロスタティック負荷を高める要因として挙げられていますが、これを日本の文脈で考えてみましょう。長時間労働、過度な受験競争、息苦しい同調圧力、そして近年深刻化する介護負担。これらは、まさに現代日本社会が抱える慢性的なストレス要因そのものです。私たちは気づかぬうちに脳と身体をすり減らし、アロスタティック負荷を溜め込んでいる可能性があります。興味深いことに、論文は「逆境に耐えること」を美徳とする文化的な価値観でさえ、感情の抑制を強いることで慢性的なストレスにつながる可能性があると示唆しています。「我慢」や「忍耐」を重んじる文化は、一歩間違えれば、それ自体がストレスにつながるリスクをはらんでいるのです。私たちの暮らしに眠る「レジリエンスの資源」を再発見するでは、私たちはストレス社会の中で、ただ摩耗していくしかないのでしょうか。決してそうではありません。この論文は、私たちが自分たちの文化や生活の中に眠る「レジリエンスの資源」を再発見することの重要性を教えてくれています。1. 日本版「社会的つながり」の価値を見直す論文では、アフリカの相互扶助の精神「Ubuntu」やラテンアメリカの家族の結束「Familismo」を文化的なレジリエンスの例として挙げています。日本では、かつての「ご近所付き合い」や地域のお祭り、会社や組合といった共同体が、人々の精神的な安定を支える重要な「社会的リソース」でした。近年、こうしたつながりは希薄化していますが、家族や親しい友人との関係、趣味のサークルなど、意識的に社会的ネットワークを見直すことが、アロスタティック負荷を軽減する助けになるでしょう。2. 伝統的な日本食に秘められた可能性栄養がレジリエンスに与える影響も無視できません。論文では、西洋化された食生活が伝統的な食事の保護的な役割を侵食していると警鐘を鳴らしています。これは、食の欧米化が進んだ日本にもそのまま当てはまるのではないでしょうか。魚介類(オメガ3脂肪酸)、大豆製品、野菜、発酵食品などを豊富に含む伝統的な和食は、生物学的なレジリエンスを支える優れた食事法であったかもしれません。日本食のような伝統的な食の価値を見直し、日々の食卓に取り入れることもまた、レジリエンスを高める上で重要なのかもしれません。3. 生涯を通じた学びと活動の役割高齢期におけるレジリエンスは、身体的な活動、知的な活動への参加、そして社会参加によって促進されます。これは、日本で重要視される「生きがい」の概念にも通じます。定年後も学び続けたり、地域の活動に参加したり、趣味に打ち込んだりすることは、単なる楽しみだけでなく、ストレス耐性を高め、脳の健康を維持するための科学的根拠のある実践なのです。この論文が示しているのは、レジリエンスとは「不屈の精神で耐え忍ぶこと」ではなく、心と身体、そしてそれを取り巻く社会や環境との間で、しなやかな「バランス」を保ち続ける動的なプロセスであるという健康観です。私たちの社会が抱える構造的なストレス(アロスタティック負荷)から目をそらさず、同時に、私たちの文化や生活の中に根付いているレジリエンスの資源(社会的つながり、伝統的な日本食、生きがい)を最大限に活用する。その両輪を意識することが、変化の激しい時代を健やかに生き抜くための道筋なのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Udeh-Momoh CT, et al. Resilience and brain health in global populations. Nat Med. 2025 Jul 29. [Epub ahead of print]

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循環器病予防に大きく寄与する2つの因子/国立循環器病研究センター

 心血管疾患(CVD)リスク因子については、高血圧や喫煙、体型、栄養などの関連性が指摘されている。では、これらの因子はCVDへの寄与について、どの程度定量化できるのであろうか。このテーマに関して、国立循環器病研究センター予防医学・疫学情報部の尾形 宗士郎氏らの研究グループは、高度なマイクロシミュレーションモデル「IMPACT NCD-JPN」を開発し、2001~19年に起きた循環器病のリスク要因の変化が、全国の循環器病(冠動脈疾患と脳卒中)の発症数、死亡数、医療費、QALYs(質調整生存年)にどのような影響を与えたかを定量的に評価した。その結果、収縮期血圧(SBP)の低下と喫煙率の低下が循環器病発症の軽減に大きく寄与していることがわかった。この結果は、The Lancet Regional Health Western Pacific誌2025年7月8日号に掲載された。男女ともに収縮期血圧と喫煙率の低下がCVD発症予防に寄与 研究グループは、2001~19年までの日本の人口集団(30~99歳)を、7つのCVDリスク因子の生涯データを用いてシミュレートし、集団におけるCVD発症率、死亡率、医療経済を推定した。ベースケースは観察傾向を反映、対照シナリオでは2001年の水準が継続したと仮定した。主要なアウトカムは、脳卒中と冠動脈疾患を含む全国的なCVD発症率であり、IMPACT NCD-JPNを用い、対照分析を含むマイクロシミュレーション研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2001~19年にかけて、SBPと喫煙率は、男性/女性でそれぞれ6.8/7.2mmHgと18.4/6.8%減少した。・LDLコレステロール(LDL-c)、HbA1c、体格指数(BMI)、身体活動(PA)、果物/野菜(FV)の摂取量は、よりわずかな変化または悪化する傾向を示した。・ベースケースと対照シナリオについて、IMPACT NCD-JPNでCVD発生率を推定し、シナリオ間の差を定量化した結果、CVDリスク因子の変化により、期間累計で84万件(95%不確実性間隔:54万~130万)の国内CVD症例を予防またはその発症を遅らせた。・個々のCVDへの寄与度は、SBP:54万件、喫煙:28万件、LDL-c:2万7,000件、HbA1c:7,900件、BMI:-1万5,000件、PA:-1万6,000件、FV:-1万1,000件だった。 以上の結果から研究グループでは、「わが国における2001~19年までのCVDの負担減少の大部分は、SBPと喫煙の減少によるものだった。LDL-cとHbA1cからはわずかな効果が得られたが、BMIの増加、PAの低さ、およびFV摂取量の不足がこれらの効果を一部相殺した」と考えている。

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日本における認知症予防、社会参加の促進はどの程度効果があるのか

 社会参加は、認知症発症リスクの低下と関連している可能性があり、近年日本において増加傾向にある。この社会参加の促進が、認知症発症率の変化と関連している可能性がある。医療経済研究機構の藤原 聡子氏らは、5つの自治体における2つの高齢者コホートの認知症発症率を比較し、その違いが社会参加と関連しているのか、あるいは社会参加の変数と関連しているかを検討した。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2025年10月号の報告。 日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを分析した。本研究は、要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者を対象とした2つの3年間フォローアップ調査コホート(2013〜16年:2万5,281人、2016〜19年:2万6,284人)で構成された。生存分析を用いて、コホートおよび社会参加を説明変数として認知症のハザード比(HR)を算出した。解析は、年齢別(65〜74歳、75歳以上)に層別化し、人口統計学的因子、社会参加、社会参加に関連する変数について調整した。 主な内容は以下のとおり。・認知症発症率は、コホート間で1万人年当たり149.7人(2013〜16年)から131.3人(2016〜19年)へ減少していた。・2016〜19年のコホートにおける性別および年齢調整HRは、65〜74歳で0.83(95%信頼区間[CI]:0.67〜1.03)、75歳以上で0.83(95%CI:0.75〜0.91)であった。・社会参加および社会参加に関連する変数を調整した後、75歳以上での有意差は消失した(HR:0.99、95%CI:0.89〜1.09)。 著者らは「75歳以上の認知症発症率の低下は、社会参加および社会参加と関連する変数が影響を及ぼしている可能性がある。これらの知見は、社会参加と認知症発症率低下との間に潜在的な関連があることを示唆しているが、結果を確認するためにも、さらなる研究が求められる」とまとめている。

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「地域医療、医療DX、医薬品の安定供給」を2026年予算要求に要望/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、8月6日に定例の記者会見を開催した。会見では、「2026年度予算要求の要望事項」、「紙カルテ利用診療所の電子化対応可能性に関する調査」、「マイナ保険証のスマートフォン搭載対応」、「OTC類似薬に係る最近の状況」について説明が行われた。医療機関の経営が危機の中で要望する3項目 はじめに松本氏が、「2026(令和8)年度予算要求要望」について内容の説明を行った。今回、概算要求事項として「(1)地域医療への予算確保、(2)医療DXの適切な推進のための予算確保、(3)医薬品の安定供給」の3つを要望していると述べた。具体的な要望内容は以下のとおりである。(1)地域医療への予算確保  地域医療を担う人材の確保、医療提供体制の整備、小児・周産期医療体制の強力な方策の検討、救急災害医療など。(2)医療DXの適切な推進のための予算確保  サイバーセキュリティ対策費用の支援、オンライン資格確認や標準型電子カルテなどの導入・維持支援など。(3)医薬品の安定供給  安定供給に向けた製造能力の強化、後発医薬品産業の構造改革の要望 また、令和8年度診療報酬改定への対応については、高齢化社会への対応だけでなく、人件費・材料費の高騰分、さまざまな医療DXなどへの補助など大幅なプラス改定を要望していること、緊急の支援だけでなく、期中の改定も検討していただき、先般発表された政府の「骨太の方針」に合わせた形での改定を望むと説明した。紙カルテの廃止は地域医療の崩壊につながる 次に「紙カルテ利用診療所の電子化対応可能性に関する調査」、「マイナ保険証のスマートフォン搭載対応」の2つのテーマについて、担当常任理事の長島 公之氏(長島整形外科 院長)が調査の内容などを説明した。 「紙カルテ利用の診療所の電子化対応可能性に関する調査」は、2025年4~6月に全国の紙カルテ利用中の診療所に対して行われたもの(n=5,466)。  電子カルテの導入可能性では、「紙カルテが必要」と回答した診療所は77.0%に上り、医師の年齢が高いほど電子カルテの導入に消極的だった。また、診療所のスタッフ数、外来患者数が少ない診療所ほど導入が不可能と回答した。導入できない理由としては、「操作不得手で診療が十分でなくなる」、「導入してもあと数年しか使わない」、「電子カルテの操作ができない」などの理由だった。 医師会では、これらの調査から「すべての医師が現状のままでも医療が継続できる」ことが大前提であることから、地域医療を崩壊させないためにも、電子処方箋や電子カルテの義務化はするべきではないこと、ただ電子化を希望する医師などには導入・維持がしやすい環境整備が必要であること、医師会としても医療現場の声を聴き、施策に反映させながら、国や関係機関と取り組んでいきたいと説明した。 引き続いて、「マイナ保険証のスマートフォン搭載対応について」に関し、本年9月以降に対応機能を全医療機関に開放するものであり、その対応は個々の医療機関によって異なること、そして、9月以降にすぐに対応できるものではないこともあり、「患者さんをはじめ受診される方はマイナ保険証も持参してもらいたい」と強く希望を述べた。また、「医師会では現場で混乱が起きないように掲示用素材を作成しているので、それらを利活用して啓発していただきたい」と語り、説明を終えた。 最後に「OTC類似薬に係る最近の状況について」をテーマに担当常任理事の江澤 和彦氏(医療法人和香会 理事長)が、昨今の議論について、難病や障害者の経済的負担の増加や患者の臨床的リスクなどに多大な懸念があり、医師会としては「国民の健康リスクに与える影響も大きく、慎重な対応が求められる」と警鐘を鳴らした。

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70歳以上のER+/HER2-高リスク乳がん、術後化学療法追加は有益か/Lancet

 genomic grade index(GGI)高リスクのエストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)の70歳以上乳がん女性患者において、術後内分泌療法への化学療法追加は、生存ベネフィットをもたらさず有害事象の増加と関連していた。フランス・Institut CurieのEtienne Brain氏らGERICO&UCBG/Unicancerが第III相無作為化優越性試験の結果を報告した。70歳以上のER+/HER2-浸潤性乳がん女性において、標準的な術後補助療法は内分泌療法である。術後化学療法については、高齢乳がん患者に関するエビデンスは少なく、エビデンスの不足は主にER+患者に関係していることから、研究グループは進展するゲノムシグネチャーの技術がER+乳がん患者における術後化学療法の選択改善に役立つ可能性があるとして、高い予後識別能のエビデンスレベルを有するGGI検査を活用して被験者を絞り込み、本検討を行った。結果を踏まえて著者は、「試験結果は、高齢乳がん患者群における術後内分泌療法への化学療法追加のベネフィット・リスクバランスについて、重要なデータを提供するものであった」とまとめている。Lancet誌2025年8月2日号掲載の報告。GGI高リスクのER+/HER2-乳がん患者を対象に試験 試験は、フランスおよびベルギーの84医療施設で、70歳以上、ER+/HER2-の原発乳がんまたは局所再発で、完全切除後かつ全身治療前の女性患者を対象に行われた。GGI検査(Ipsogen開発)は中央判定で、パラフィン包埋腫瘍組織を用いてRT-PCR法により8つの遺伝子を調べて行われた。 GGI高リスクであった患者を、タキサンベースまたはアントラサイクリンベースの術後化学療法を3週ごと4サイクル、その後に内分泌療法を受ける群(化学療法群)、または内分泌療法のみを受ける群(化学療法なし群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化では、フレイルの状態(G8スクリーニングツールスコアで14以下vs.14超)、リンパ節転移(転移ありvs.転移なし)、試験施設による層別化も行われた。 主要評価項目は、全生存期間(OS)であった。化学療法あり・なし群のOS、統計学的有意差なし 2012年4月12日~2016年4月14日に1,969例がGGIに関するスクリーニングを受け、高リスクであった1,089例が化学療法群(541例)または化学療法なし群(548例)に無作為化された。年齢中央値は75.1歳(四分位範囲[IQR]:72.5~78.7)、フレイル(G8スコア14以下)が認められた患者は437例(40%)であった。化学療法群では281例(52%)がタキサンベース、148例(27%)がアントラサイクリンベースのレジメンを受けた(111例[21%]は化学療法を受けなかった)。 追跡期間中央値7.8年(95%信頼区間[CI]:7.5~7.8)において、OS率は、化学療法群が4年時点90.5%(95%CI:87.6~92.8)、8年時点72.7%(67.8~77.0)、化学療法なし群は4年時点89.3%(86.2~91.6)、8年時点68.3%(63.3~72.7)であった(層別化log-rank検定のp=0.2100、ハザード比:0.83[95%CI:0.63~1.11])。OSの絶対群間差は統計学的に有意ではなく、4年時点1.3%ポイント(95%CI:-2.4~5.0)、8年時点4.5%ポイント(-2.1~11.1)であった。 安全性の解析結果は、化学療法なし群のほうが好ましいものであった。Grade3以上の有害事象が少なくとも1件発現したのは、化学療法なし群では52/548例(9%)であった(治療に関連しない死亡1例含む)が、化学療法群は183/541例(34%)であった(死亡3例、うち1例は治療に関連)。

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輸液選択、乳酸リンゲル液vs.生理食塩水/NEJM

 日常的に行われている静脈内輸液投与に関して、乳酸リンゲル液のほうが生理食塩水よりも臨床的に優れているかは不明である。カナダ・オタワ大学のLauralyn McIntyre氏らCanadian Critical Care Trials Groupは、病院単位で期間を区切って両者を比較した検討において、乳酸リンゲル液を使用した場合に、初回入院後90日以内の死亡または再入院の発生率は有意に低下しなかったことを示した。NEJM誌オンライン版2025年6月12日号掲載の報告。カナダの7病院で試験、12週間ずつ使用をクロスオーバー 研究グループは、カナダのオンタリオ州にある7つの大学および地域病院で、非盲検、2期間、2シークエンス、クラスター無作為化クロスオーバー試験を実施した。静脈内輸液を病院全体で12週間ずつ乳酸リンゲル液または生理食塩水に割り付け、アウトカムを比較した。乳酸リンゲル液または生理食塩水使用への切り替えは、ウォッシュアウト後に行った。 主要アウトカムは、初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合とした。副次アウトカムは、主要アウトカムの各項目、入院期間、初回入院後90日以内の透析導入、90日以内の救急外来受診、自宅以外の施設への退院とした。 アウトカムデータは、保健行政データベースから入手した。解析は病院単位で行い、主要アウトカムは、参加病院全体で平均化した乳酸リンゲル液使用と生理食塩水使用の効果を比較推算した。初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合発生率は同等 試験は2016年8月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより試験が中断される前に、7病院が12週間ずつ2期間の試験を完了した。 主要アウトカムに関するデータは、4万3,626例の適格患者から入手できた(乳酸リンゲル液群2万2,017例、生理食塩水群2万1,609例)。 初回入院後90日以内の死亡または再入院の複合発生率は、乳酸リンゲル液群20.3±3.5%、生理食塩水群21.4±3.3%であった(補正後群間差:-0.53%ポイント、95%信頼区間:-1.85~0.79、p=0.35)。 副次アウトカムの結果もすべて、主要アウトカムの結果と一致していた。重篤な有害事象は報告されなかった。

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卵は本当にLDL-C値を上げるのか

 朝食の定番である卵は、コレステロール値を上昇させ、心臓病のリスクを高めると一般的に考えられている。しかし、卵に関する新たな研究で、1日に2個の卵と飽和脂肪酸の少ない食事を組み合わせて摂取した人では、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール(LDL-C)値が低下し、心血管疾患の発症リスクが低下する可能性のあることが示された。その一方で、飽和脂肪酸はLDL-C値を上げる傾向があることも判明した。南オーストラリア大学のJonathan Buckley氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」7月号で報告された。 Buckley氏は、「われわれは、固ゆで卵のような厳格なエビデンスをもって、謙虚な卵の名誉を守ったと言えるだろう。朝食の中で心臓の健康に悪影響を与える可能性が高いのは、卵ではなくベーコンやソーセージなのだ」と話している。 卵は、コレステロールを多く含む一方で飽和脂肪酸の含有量は少ないという点でユニークな食品だとBuckley氏は話す。同氏は、「それにもかかわらず、そのコレステロール値の高さから、健康的な食生活における卵の位置付けについて疑問を抱く人が多い」と指摘する。米クリーブランド・クリニックによると、LDL-C値が100mg/dLを超えると心臓病のリスクがあり、160mg/dL以上になると「高リスク」とされる。LDL-Cが高くなると、動脈内にプラークが形成されやすくなり、心筋梗塞や脳卒中の原因となる。 今回の研究でBuckley氏らは、LDL-C値が3.5mmol/L(135.35mg/dL)未満の成人61人(平均年齢39±12歳)を対象にランダム化クロスオーバー試験を実施し、食事由来のコレステロールおよび飽和脂肪酸がLDL-C値に与える影響を検討した。対象者は、5週間ずつ以下の3種類の食事法を実践した。すなわち、コレステロールは多め(600mg/日、卵2個/日を含む)、飽和脂肪酸は少なめ(エネルギー比率6%)に摂取する群(卵摂取群)、卵は摂取せずコレステロールは少なめ(300mg/日)、飽和脂肪酸は多め(エネルギー比率12%)に摂取する群(卵なし群)、コレステロールも(600mg/日、卵1個/週を含む)飽和脂肪酸(エネルギー比率12%)も多めに摂取する群(対照群)である。48人が3種類の食事法の全てを完了した。各食事法の完了後に血液サンプルを採取し、それぞれの食事法がLDL-Cに与える影響を調べた。 その結果、卵摂取群では対照群と比較してLDL-C値が有意に低いことが示された(103.6±3.1mg/dL対109.3±3.1mg/dL、P=0.002)。これに対し、卵なし群(107.7±3.1mg/dL)と対照群との差は統計学的に有意ではなかった(P=0.52)。一方、全ての食事法において、飽和脂肪酸の摂取量はLDL-C値と有意に正の相関を示したのに対し、食事性コレステロールの摂取量とLDL-C値との間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、「これまで、西洋式の食事に典型的な高コレステロール・高飽和脂肪酸の食事の影響を、高コレステロール・低飽和脂肪酸の食事や低コレステロール・高飽和脂肪酸の食事の影響と直接比較した研究は存在しなかった」と指摘する。Buckley氏は、「この研究では、コレステロールと飽和脂肪酸の影響を分けて調べ、飽和脂肪酸の少ない食事の一部として卵を摂取した場合には、LDL-C値を上昇させないことを示した。LDL-C値上昇の真の原因は飽和脂肪酸なのだ」と述べている。

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高齢てんかん患者では睡眠不足が全死亡リスクを押し上げる

 睡眠不足が健康に悪影響を及ぼすとするエビデンスの蓄積とともに近年、睡眠衛生は公衆衛生上の主要な課題の一つとなっている。しかし、睡眠不足がてんかん患者に与える長期的な影響は明らかでない。米ウォールデン大学のSrikanta Banerjee氏らは、米国国民健康面接調査(NHIS)と死亡統計データをリンクさせ、高齢てんかん患者の睡眠不足が全死亡リスクに及ぼす影響を検討。結果の詳細が「Healthcare」に4月23日掲載された。 2008~2018年のNHISに参加し、2019年末までの死亡記録を追跡し得た65歳以上の高齢者、1万7,319人を解析対象とした。このうち245人が、医療専門家からてんかんと言われた経験があり、てんかんを有する人(PWE)と定義された。 PWE群と非PWE群を比較すると、性別の分布(全体の39.2%が男性)や高血圧・糖尿病の割合は有意差がなかった。ただし年齢はPWE群の方が若年で(73.3±0.48対74.6±0.08歳)、現喫煙者・元喫煙者、肥満、慢性腎臓病(CKD)、心血管疾患(CVD)が多く、貧困世帯の割合が高いなどの有意差が見られた。睡眠時間については6時間未満、6~8時間、8時間以上に分類した場合、その分布に有意差はなかった。なお、以降の解析では睡眠時間7時間未満を睡眠不足と定義している。 平均4.8年の追跡期間中の死亡率は全体で37.3%、PWE群では46.5%、非PWE群は37.2%だった。非PWEかつ睡眠不足なし群を基準とする交絡因子未調整モデルの解析では、PWEかつ睡眠不足あり群の全死亡リスクが有意に高かった(ハザード比〔HR〕1.92〔95%信頼区間1.09~3.36〕)。 交絡因子(年齢、性別、人種/民族、飲酒・喫煙状況、教育歴、貧困、肥満、高血圧、糖尿病、CKD、CVDなど)を調整した解析でも、PWEかつ睡眠不足あり群はやはり全死亡リスクが有意に高かった(HR1.94〔同1.19~3.15〕)。それに対して、PWEで睡眠不足なし群は有意なリスク上昇が認められなかった(HR1.00〔同0.78~1.30〕)。 Banerjee氏らは、「てんかんと睡眠不足が並存する場合、予後が有意に悪化する可能性のあることが明らかになった。てんかん患者の生活の質(QOL)向上と生命予後改善のため、睡眠対策が重要と言える。臨床医は脳波検査に睡眠検査を加えたスクリーニングを積極的に行うべきではないか」と述べている。

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硬膜外カテーテル、13%で位置ずれ? 経験豊富な医師でも注意が必要

 硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。 硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。 解析対象は、2005年1月1日~2022年12月31日までの間に、富山大学附属病院にて硬膜外麻酔を伴う全身麻酔が施行された1万1,559人とした。これらの患者のうち、手術当日を含む術後5日以内に胸部CTまたは腹部CTが撮影された患者を特定した。術後CT画像より、カテーテル先端が黄色靭帯を貫通していなかった場合を「位置異常」と定義した。群間比較にはχ2検定とMann-Whitney U検定を用い、カテーテル位置異常を従属変数、麻酔科医の卒後年数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。 最終的な解析対象は、術後の胸部または腹部CT画像で硬膜外カテーテルの挿入が確認された189人であった。患者の年齢中央値は71歳(範囲:15~89歳)、女性は全体の41%を占めた。すべての患者において、硬膜外カテーテルは左側臥位で傍正中アプローチにより挿入され、主な挿入部位は胸椎中部(48%)および胸椎下部(49%)であった。挿入を担当した医師の卒後経験年数の中央値は5.7年(2.0~35.4年)であった。 硬膜外カテーテルの位置異常は24人で認められた(12.7%、95%信頼区間〔CI〕8.3~18.3)。これらの症例では、カテーテルの先端は椎骨(椎弓:9、肋横突起:2、棘突起:1)、浅層軟部組織(脊柱起立筋内:5、皮下:4)、深層軟部組織(椎間孔内:2、背側胸膜下腔:1)に確認された。 正常なカテーテル位置群と位置異常群での特性の違いを調べたところ、患者の年齢やBMI、挿入部位による相違は認められなかったが、位置異常群の麻酔科医は卒後の経験年数が有意に長かった(中央値5.6年 vs. 10.1年、P=0.010)。ロジスティック回帰分析を用いて、カテーテルの位置異常と経験年数の相関を解析した結果、カテーテルの位置異常の発生率は麻酔科医の経験年数の増加に伴い有意に増加することが示された(卒後1年あたりのオッズ比1.08、95%CI 1.02~1.15)。 本研究について著者らは、「術後CTで確認された硬膜外カテーテル先端の位置不良は全体の約13%に認められた。挿入を担当した麻酔科医の卒後年数が長いほど位置異常のリスクが高くなる傾向があり、経験豊富な医師であっても適切な挿入位置の確認が重要である」と述べている。 なお、経験年数の増加に伴い、カテーテルの位置異常の発生率が上昇する理由としては、1)経験に伴う不注意や過信による一次的な位置異常、2)経験を積んだ麻酔科医が皮膚へのカテーテル固定に十分な注意を払わなくなり、結果として患者の体動により生じる二次的な位置異常、の2つの可能性が指摘されている。

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