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口唇(口腔)のけがに対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第9回

第9回 口唇(口腔)のけがに対する縫合処置《解説》図1今回は顔面外傷の中でも、口唇と口腔内の創傷についての対応を説明していきます。口唇は特殊な構造であり、外傷の際は適切な処置を施さないと傷跡が非常に目立ってしまう部位です。診察では、まず創部を観察しましょう。創傷の範囲、程度を推測するのに受傷機転は重要なので、処置の前に状況をしっかり聞き取ります。その上で、創がどんな状態か見て縫合が必要なのか判断します。知覚や表情に異常がないか(ある場合は顔面神経の損傷を疑う)を確認し、耳下腺管の損傷についても確認します(図1参照)。疑われる場合は造影が必要になることもあります。また、異物の有無も確認しましょう。場合によって単純X線、CT検査を検討します。口唇部の解剖と傷の程度による縫合処置口唇部の解剖の特徴としては、赤唇と白唇と呼ばれる皮膚と粘膜の境界があることと、遊離縁を形成し、皮膚・口輪筋の筋層・粘膜の3層構造になっていることです。(1)口唇の擦過創、浅いびらん口唇・口腔部に創傷被覆材は使いにくいため、白色ワセリンや口内炎用軟膏などの塗布で保存的に診ていけばよいです。(2)筋層に達する裂創口唇部の外傷の多くが外力と歯による損傷であり、筋層深くまでの損傷または貫通創であることが多いです。とくに口唇は遊離縁になっており組織欠損しやすい部分です。粘膜や舌は感染に強く治癒しやすい部位ではありますが、しっかり洗浄し縫合後も自宅で清潔に保ってもらうよう指示することが大切です。図2欠損がほぼない場合ズレないように縫合開始しましょう(基本は粘膜~筋層~皮膚の3層縫合)。糸は皮膚側6−0、角針の非吸収糸、粘膜側4−0、5−0、丸針の吸収糸などを選びます。エピネフリン入りの麻酔薬を注射すると、赤唇の赤みがなくなって境界がわからなくなるので先にマーキングしておくことが重要です!(図2参照)それでは、縫合を始めましょう!まずは口腔粘膜と赤唇(乾燥唇)の境界部を縫合します。次に、口輪筋の全層縫合を赤唇と白唇の境界部が一致するように行います。そして、赤唇と白唇の境界部に真皮縫合を行います。その後、赤唇と白唇の境界部から表皮縫合を開始します(できればルーペを使用)。最後に、口唇下縁が下垂しないよう粘膜部をラフに縫合します。組織欠損がある場合瘢痕が目立ちにくい縦方向に縫縮していくことが多いです。その際、白唇の長さが変化すると2次修正が困難になってしまいます。縫合に自信がない時は、洗浄・軟膏処置を行い、形成外科(または歯科口腔外科)外来へ依頼しましょう。(3)動物咬傷や高度な汚染創の場合洗浄、デブリードマンのみ、大まかな縫合にとどめて形成外科に紹介しましょう。最後に、後療法についても説明します。口唇周囲は摂食や発語で動きがある部位なので、瘢痕の炎症が遷延しやすく、肥厚性瘢痕やケロイドを起こしやすいです。トラニラスト内服や可能な範囲で傷を安静にするためのテーピングを行います。患者さんにはあらかじめ説明しておきましょう。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.2)安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.3)Frank H. Netter著, 相磯貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

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高齢患者さんの意思決定能力、どう評価する?【非専門医のための緩和ケアTips】第23回

第23回 高齢患者さんの意思決定能力、どう評価する?緩和ケア領域では、治療方針や療養の場の話し合いなどで、意思決定支援をすることが求められます。しかし、高齢で、意思決定能力が低下している方も多いのが実情です。今日の質問開業の内科医です。外来は高齢患者さんが多く、治療方針を話し合う難しさを感じます。明らかに認知症が進行していれば意思決定能力がないと判断できますが、微妙なことが多くて…。治療に関する込み入った話を理解できていなさそうなとき、家族に相談すべきか、本人の意向をどう反映させるか迷います。意思決定能力は、どう評価すればよいのでしょうか?「同じ状況で悩んでいる」という方も多いのではないでしょうか? 私も緩和ケアを専門としてから仲間と議論する機会を持つようになり、「こんな分野もあるんだ!」と感じました。患者さんの意思決定能力を評価するためには、「意思決定能力を構成する要素」を理解する必要があります。3つの構成要素を順に見ていきましょう。1)情報を「受け取れ」るか?意思決定には、その判断のもとになる情報が必要です。たとえば、心不全の患者さんに対し、病名や予後予測などを説明しますよね。こうした情報を受け取り、理解して、はじめて患者さんは自分で意思決定ができます。ここでは、わかりやすい言葉で伝えることや、情報量に配慮することが大切です。2)情報を「検討」できるか?必要な情報が伝わったら、次はその情報をしっかり検討できるかを評価します。たとえば、精神疾患で論理性が障害されていないか、意向が合理的であるか、といった点が評価の対象です。このあたりは患者さんの価値観や人生経験も影響してくるので、評価が難しいところです。私自身の診療の工夫としては、構成要素の1)と2)を確認する意味で、説明後に、「お話ししたことについて、どのように理解したか、教えてもらえますか?」といったように、患者さん自身の言葉で説明し直してもらっています。3)「治療に対する選好を伝え」ることができるか最後は、「自身が考えや意見を伝えられるか?」という点です。自分の考えを他者に伝えるのは、私たちにとっても難しいことです。まして、医師に対し自分の選好を含んだ意見を伝えることに負担を感じる患者さんが多い、というのは想像できるでしょう。私の診療では、まずは患者さんに語ってもらいますが、併せて「言語化のサポート」をしています。具体的には、「先ほどのお話からは、『負担の多い治療はできるだけ避けたい』というお気持ちを感じましたが、いかがでしょうか?」といったように、意向を推測し、言語化したうえで確認するのです。いかがでしょうか?患者さんにベストな医療を提供するうえで、意思決定能力を評価する重要性はますます高まるでしょう。皆さんの取り組みについても、ぜひ教えてください。今回のTips今回のTips「意思決定能力の評価」は緩和ケアだけでなく、全医療者にとって大切なスキル。3つの構成要素を理解して、スキルを高めよう。

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第99回 岸田首相が目指す「新しい資本主義」、社会保障の機能強化はどうなる?

岸田 文雄首相は、提唱している「新自由主義からの転換」と「新しい資本主義」に関連して、社会保障についてはどう考えているのだろうか。『文藝春秋』2月号に、「私が目指す『新しい資本主義』」のグランドデザイン」と題し、岸田氏による「緊急寄稿」が掲載されたが、社会保障の機能強化やその財源確保についての言及はなかった。一方、若者や子育て世代の保険料負担増を否定した。寄稿では冒頭、新自由主義について「市場や競争に任せればすべてがうまくいくという考え方」と定義。以下のような弊害を挙げた。「市場に依存しすぎたことで格差や貧困が拡大したこと、自然に負荷をかけ過ぎたことで気候変動問題が深刻化したことはその一例です」(原文ママ、以下同)。その上で、「市場の失敗がもたらす外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から、資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化すべく、新しい資本主義を提唱していきます」と宣言。そのための経済政策について論じている。若者・子育て世帯の「保険料負担増抑制」の真意「若者世代・子育て世帯の所得引き上げ」について言及する箇所で、岸田氏は「令和版所得倍増」を掲げ、官民の役割分担で「成長と分配の好循環」を作っていくことが経済政策の基本的な方向性と述べている。しかし、賃金と並ぶ分配・再分配政策の核となる、社会保障の機能強化やその財源の確保については触れなかった。一方、「社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じて皆が支え合う持続的な社会保障制度を構築することにより、若者、子育て世帯の保険料負担増の抑制を目指します」と述べて、今後の負担増を否定した。背景には、安倍政権が2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げたことが関係している。引き上げの理由として、歳出総額の3割超を占める社会保障制度の安定的財源確保の必要性を訴え、消費税が(1)働く世代など特定の世代に負担が集中しない(2)景気などの変化に左右されにくく税収が安定している(3)企業の経済活動に中立的、との理由を挙げた。2014年の引き上げ(5%から8%)に続く再度の増税時に、「今後10年間は引き上げる必要はない」と述べた安倍 晋三元首相や、それを継承した菅 義偉前首相の方針を、岸田氏も踏襲していると考えられる。歴代政権の医療政策の中心は「公的医療費の抑制策」「新自由主義」と医療政策との関連を見てみる。約8年間続いた第2次安倍政権は、小泉政権並みの厳しい医療費抑制策を行ったが、新自由主義的な改革は限定的だった。医療法人の米国型「巨大ホールディングカンパニー」化や、混合診療の全面解禁につながる「選択療養制度」は、厚生労働省や日本医師会の反対で実現できなかったのだ。米国型の新自由主義的改革を目指す財務省や経済界と、国民皆保険制度の大枠を維持しながら部分的な公私2階建て制度への編成を目指す厚労省がせめぎ合う中、歴代政権の医療政策の中心は公的医療費抑制策の徹底だったと言える。岸田内閣でも同じであることがうかがえる。「経産省主導内閣」と言われた安倍内閣だが、続く菅内閣では財務省が復権。第2次岸田内閣では首相補佐官6人のうち3人を、首相秘書官8人のうち2人を財務省出身者が占めた。いずれも厚労省からの登用はなかった。コロナ禍、経営悪化を招く医療費抑制策は実施できない財務相の諮問機関である財政制度等審議会(会長=榊原 定征・経団連名誉会長)が昨年5月と12月に出した「建議」で、医療機関に厳しい提案をした。5月の「財政健全化に向けた建議」では、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」と指摘。医療提供体制の効率化と質の改善を両立させるため、地域医療構想を推進する方針を示した。12月の「令和4年度予算の編成等に関する建議」では、「『マイナス改定』を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」と主張。急性期と申告しながらも、診療実績の伴わない“なんちゃって急性期病床”を見直すための地域医療構想の実現や、ゲートキーパー機能を持ったかかりつけ医の制度化などを求めた。いずれの建議においても、主眼は公的医療費の抑制である。しかし、2022年度診療報酬改定では、建議で示された改革案はほとんど制度化されず、診療報酬本体のマイナス改定も見送られた。コロナ禍で医療機関が疲弊している状況下、これ以上の経営悪化を招きかねない極端な医療費抑制策には踏み切れなかったのだろう。目を引く医療・社保改革がない中で注目される政府会議の人選岸田内閣における医療・社会保障改革関連の主だった政策は、看護師や介護士などの賃上げ方針だろうか。このほか、強いて注目するとすれば政府の会議の人選あたりか。昨年11月に発足した「全世代型社会保障構築会議」(座長=清家 篤・日本私立学校振興・共済事業団理事長)の構成メンバーには、「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年)の取りまとめで中心的な役割を担った権丈 善一氏(慶應義塾大学商学部教授)と、香取 照幸氏(上智大学総合人間科学部教授)を登用。同報告書は消費税を財源とした「社会保障の機能強化」をデザインしたものだ。権丈氏は日医のブレーン的存在で、2人の起用は安倍・菅政権では考えられなかった。また、権丈氏は下部組織の「公的価格評価検討委員会」(座長=増田 寛也・日本郵政社長)の構成員にも就いており、今後の議論が注目される。「新自由主義からの転換」唱えながら新自由主義者を登用する矛盾一方で、同じく昨年11月に発足した「デジタル田園都市国家構想実現会議」(議長=岸田首相)の構成員に、竹中 平蔵氏(パソナグループ取締役会長)が就いた。竹中氏は小泉政権で大臣を歴任、新自由主義改革を主導し、安倍政権でも産業競争力会議や、国家戦略特区の特区諮問会議のメンバーに登用された人物だ。ちなみに『文藝春秋』2月号には、安倍元首相の独占インタビュー「危機の指導者とは」も掲載されており、この中で安倍氏は、人事について「情に流されず、政権全体のバランスをとることを重視した」と述べるくだりがある。特定の人物や企業への情によりモリカケ・桜疑惑を招いた当の本人が言うのは説得力に欠くが、安倍政権の閣僚を務めた岸田氏も安倍氏の薫陶を受けていたかもしれない。「聞く力」をアピールする岸田氏だけに、政府の会議メンバーに竹中氏を入れたのはバランスを考慮した上の判断かもしれない。ただ、「聞く力」もほどほどにしないと、諸刃の剣になるだろう。

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ニボルマブの尿路上皮がんアジュバント、CHMPで推奨/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2022年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、根治切除後の再発リスクが高いPD-L11%以上の筋層浸潤性尿路上皮がんの成人患者の術後補助療法として、ニボルマブの承認を推奨したことを発表した。 この肯定的な見解は、全無作為化患者およびPD-L1発現1%以上の患者の両方において、ニボルマブがプラセボと比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無病生存期間(DFS)の延長を示した第III相CheckMate-274試験の結果に基づいたもの。 オプジーボの忍容性は全体的に良好で、安全性プロファイルはこれまでに報告されたオプジーボの固形がん患者における試験のものと一貫していた。

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アルツハイマー病治療薬aducanumabのFDA承認に対する世論調査

 FDAによるアルツハイマー病治療薬aducanumabの承認については、専門家の間でさまざまな意見が出されているが、このことに関する世論については、ほとんど知られていない。米国・ジョンズホプキンス大学School of Public HealthのMichael J. DiStefano氏らは、米国成人を対象に、aducanumabのFDA承認に対する世論調査を実施した。Journal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2022年2月7日号の報告。 対象は、35歳以上の米国成人。aducanumabの承認に関する意見、FDAに対する批判因子の特定、政策対応に関する意見(メディケアおよびメディケイドサービスセンターによる全国的な補償範囲決定に関連する対応など)を調査した。調査には、全国世論調査センターAmeriSpeakパネルから得られた確率ベースのサンプルを用いて、オンライン(英語およびスペイン語)で調査した。パネルおよび調査デザインの選択確率は、人口統計による人口分布と期待反応率の違いにより算出した。選択確率と無回答を調整するため、survey weightを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・調査完了者は、1,025人であった。・回答者の約4分の3は、当初aducanumabについてあまりよくわかっていなかったが、薬剤の潜在的な臨床効果および経済的影響に関する情報を提供したところ、薬剤承認に対する支持率は低かった。・回答者の63%は、ベネフィットを受ける可能性の最も高い患者に対するaducanumabへのアクセス制限を支持すると回答した。・aducanumabのさらなる研究を行うために、軽度アルツハイマー病患者の家族を臨床試験の待機リストに登録する(71%)、ランダム化プラセボ対照試験に登録する(60%)との意見が認められた。・回答者の81%は、試験が失敗した場合、aducanumabの承認を取り消すことに同意した。・aducanumabのためにメディケアプログラムのパートB(補足的医療保険)で1~5ドル(中央値)の支払いを許容していた。 著者らは「aducanumabの承認に対する政策への世論が明らかとなった。政策を策定する際には、情報に通じた一般市民の意見を考慮する必要がある」としている。

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5~17歳へのファイザー製ワクチン、オミクロン株への効果と持続期間は?/CDC

 ファイザー製の新型コロナワクチンについて、12〜17歳におけるデルタ株への2回接種の効果は認められているが、オミクロン株に対する効果や効果持続期間、5〜11歳における効果のデータは少ない。今回、米国・Kaiser Permanente Northern California Division of ResearchのNicola P. Klein氏らの調査から、本ワクチン2回接種により小児および青年のCOVID-19関連の救急部および緊急医療機関への受診を抑制することがわかった。しかしながら、オミクロン株優位の期間ではワクチンの効果は低く、接種後は経時的に低下していた。米国疾病予防管理センター(CDC)のMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)2022年3月4日号に掲載。 本研究では、2021年4月9日~2022年1月29日に米国10州において、COVID-19様疾患で救急部や緊急医療機関を受診した5~17歳の3万9,217例および入院した1,699例を調査し、case-control test-negative designを用いてワクチン効果(VE)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19関連の救急部や緊急医療機関への受診に対するVEは、5〜11歳では2回目接種後14〜67日で46%、12〜15歳および16〜17歳では2回目接種後14〜149日でそれぞれ83%および76%、150日以降はそれぞれ38%および46%だった。なお、16〜17歳では、3回目(ブースター)接種後7日以降にVEは86%に上昇した。・オミクロン株優位の期間におけるCOVID-19関連の救急部や緊急医療機関への受診に対するVEは、12~17歳においてデルタ株優位の期間よりも大幅に低く、2回目接種後150日以降は有意な効果はみられなかった。しかしながら、16~17歳で3回目(ブースター)接種後7日以降に81%に上昇した。・COVID-19関連入院に対するVEは、デルタ株以前/デルタ株/オミクロン株が優位な期間を含む調査した全期間で、5~11歳では2日目接種後14~67日で74%(95%信頼区間が広く、0をまたいでいる)、12~15歳および16~17歳では2日目接種後14~149日でそれぞれ92%および94%、150日以降はそれぞれ73%および88%であった。 今回の結果から、著者らは「対象となるすべての小児および青年は、推奨されるワクチン接種のアップデート(12~17歳におけるブースター接種を含む)を継続する必要がある」としている。

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脳梗塞の血管内治療、アスピリン・未分画ヘパリンは益より害?/Lancet

 虚血性脳卒中への血管内治療において、周術期のアスピリンまたは未分画ヘパリン投与はいずれも、症候性頭蓋内出血リスクを増大し、機能的アウトカムの有益な効果に関するエビデンスはないことが、オランダ・Erasmus MC University Medical CenterのWouter van der Steen氏らによる無作為化比較試験の結果、示された。アスピリンおよび未分画ヘパリンは、脳卒中の血管内治療において、再灌流とアウトカムを改善するためにしばしば使用される。しかし、その適応に関する効果とリスクは明らかではなかった。Lancet誌オンライン版2022年2月28日号掲載の報告。オランダ15施設で非盲検無作為化試験 虚血性脳卒中患者の血管内治療中に投与を開始した静脈内アスピリンまたは未分画ヘパリンもしくは両薬の安全性と有効性を評価するため、研究グループは2018年1月22日~2021年1月27日にかけて、オランダ15ヵ所の医療センターを通じて、非盲検多施設共同無作為化比較試験を2×3要因デザインにて実施した。登録被験者は、発症から6時間以内で血管内治療が可能だった前方循環系の主幹脳動脈閉塞による虚血性脳卒中の18歳以上患者。適格基準はNIH脳卒中スケール(NIHSS)スコアが2以上で、CTまたはMRIで頭蓋内出血患者は除外した。 Webベースの無作為化法にてブロック化と登録施設の層別化を行い、被験者を無作為に1対1の割合で周術期静脈内アスピリン(300mgボーラス)投与群またはアスピリン非投与群に割り付け、また1対1対1の割合で未分画ヘパリン中等量(5,000 IUボーラス、その後1,250 IU/時を6時間)投与群、同低量(5,000 IUボーラス、その後500 IU/時を6時間)投与群、未分画ヘパリン非投与群に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコアとした。安全性に関する主要アウトカムは、症候性頭蓋内出血。解析はintention to treatベースで行い、治療効果は、ベースライン予後因子で補正後のオッズ比(OR)または共通(common)ORとした。アスピリン群、未分画ヘパリン群ともmRSスコアは悪化傾向 被験者数は663例で、同意を得た人または同意前に死亡した628例(95%)を、修正ITT解析の対象とした。2021年2月4日時点で、データの非盲検化と解析の結果、試験運営委員会は新たな被験者の組み入れを停止し、試験は安全性への懸念から中止となった。 症候性頭蓋内出血のリスクは、非アスピリン群(7%、23/318例)よりもアスピリン投与への割付群(14%、43/310例)で高率だった(補正後OR:1.95、95%信頼区間[CI]:1.13~3.35)。同様に、非未分画ヘパリン群(7%、22/296例)よりも未分画ヘパリン投与への割付群(13%、44/332例)でリスクが高かった(1.98、1.14~3.46)。 有意差は示されなかったが、mRSスコアを悪化させる傾向が、アスピリン群(共通OR:0.91、95%CI:0.69~1.21)と未分画ヘパリン群(0.81、0.61~1.08)のいずれにおいても認められた。

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コロナワクチンのブースター、オミクロン株に最も有効なのは?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「ChAdOx1 nCoV-19」(AstraZeneca製)または「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)の2回接種は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン変異株(B.1.1.529)による症候性疾患への防御効果は限定的である。BNT162b2または「mRNA-1273」(Moderna製)ワクチンによるブースター接種によって、ワクチン有効性は大幅に増大するが、時間の経過とともに減弱する。英国健康安全保障庁(UKHSA:U. K. Health Security Agency)のNick Andrews氏らが、オミクロン株感染者約89万人を対象にイングランドで行った診断陰性(test-negative)デザイン法(TND)による症例対照試験の結果を報告した。オミクロン変異株によるCOVID-19症例の急増によって、現行ワクチンの有効性に関する懸念が生じている中で本検討は行われた。NEJM誌オンライン版2022年3月2日号掲載の報告。ワクチン3種のプライマリ接種+3種ブースター接種の有効性を検証 研究グループは、オミクロン変異株とデルタ変異株による症候性疾患へのワクチン有効性を推定するため、イングランドで診断陰性症例対照試験を行った。ワクチン有効性は、BNT162b2、ChAdOx1 nCoV-19、またはmRNA-1273のそれぞれ2回接種後について算出し、また、BNT162b2、ChAdOx1 nCoV-19、mRNA-1273のいずれかのブースター接種後の有効性を検証した。対オミクロン変異株へのワクチン有効性は、対デルタ変異株より低下 2021年11月27日~2022年1月12日に、オミクロン変異株感染者88万6,774例とデルタ変異株感染者20万4,154例、および診断陰性症例対照試験の適格者計157万2,621例を特定した。 検証した全時点および2回のプライマリ接種と1回のブースター接種のワクチンの全組み合わせにおいて、ワクチン有効性は、対デルタ変異株が対オミクロン変異株より高かった。また、ChAdOx1 nCoV-19の2回プライマリ接種後20週では、オミクロン変異株に対するワクチン有効性はまったく認められなかった。BNT162b2を2回接種後2~4週では、同有効性は65.5%(95%信頼区間[CI]:63.9~67.0)だったが、25週以降では8.8%(7.0~10.5)に低下した。mRNA-1273ワクチン2回接種後2~4週でも、同有効性は75.1%(70.8~78.7)だったが、25週以降では14.9%(3.9~24.7)に低下した。 ChAdOx1 nCoV-19の2回プライマリ接種群において、BNT162b2ブースター接種後の2~4週には、ワクチン有効性は62.4%(95%CI:61.8~63.0)に上昇したが、10週以降では39.6%(38.0~41.1)に低下した。同群において、mRNA-1273ブースター接種では、2~4週後のワクチン有効性は70.1%(69.5~70.7)に上昇したが、5~9週以降では60.9%(59.7~62.1)に低下した。 BNT162b2の2回プライマリ接種群では、BNT162b2ブースター接種後の2~4週には、ワクチン有効性は67.2%(95%CI:66.5~67.8)に上昇したが、10週以降では45.7%(44.7~46.7)に低下した。同群において、mRNA-1273ブースター接種では、2~4週後のワクチン有効性は73.9%(73.1~74.6)に上昇したが、5~9週以降では64.4%(62.6~66.1)に低下した。 mRNA-1273の2回プライマリ接種群では、BNT162b2ブースター接種後の2~4週では、ワクチン有効性は64.9%(95%CI:62.3~67.3)、mRNA-1273ブースター接種後の2~4週では同66.3%(63.7~68.8)だった。5週以降については被験者数が不十分で検証結果は得られていない。

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新型コロナウイルス感染症のメンタルヘルス関連の後遺症(解説:岡村毅氏)

 新型コロナウイルス感染症の後遺症としてメンタルヘルス関連の症状は多い。この論文によると精神疾患の診断を受ける可能性は約1.5倍に、精神疾患に対する処方を受ける可能性は約1.9倍に増える。 さらに、新型コロナウイルス感染症で入院した人に限ると、精神疾患の診断を受ける可能性は約3.4倍に、精神疾患に対する処方を受ける可能性は約5.0倍に増えるとのことだ。 認知機能低下も約1.8倍に増えている点も注目したい。 本研究では、新型コロナウイルスに感染した米国の退役軍人15万人強(平均年齢63歳、男性が90%)でコホートをつくり、これを新型コロナウイルスに感染していない同時代の退役軍人の対照群と比較している。さらに、この時代に生きる人は世界的パンデミックを体験しているが、われわれ皆がそうであるように人生観・世界観に大いに影響を受けている。そこでその影響を除くべく、新型コロナウイルス出現前の時代でも対照群をつくっている。さらにさらに、インフルエンザでの入院とも比較するという、用意周到なデザインである。 ちなみにインフルエンザでの入院に比べても精神疾患は明らかに多い。 なお、オピオイドについても処方は約1.7倍、依存は約1.3倍に増えている。オピオイドは先日のバイデン大統領の一般教書演説でも国家の4つの統一課題に挙げられていた。4つの課題とはオピオイド、メンタルヘルス、退役軍人支援、がんであるが、がん以外はこの論文にすべて含まれている! 現代米国を代表する論文であるかもしれない。オピオイド中毒死は「絶望死」といわれ現代米国社会の闇を体現しているようであり1)、わが国においても今後重要な課題になるかもしれない。 本研究の対象は、あくまで退役軍人であるため、男性が多く、比較的高齢である点は、押さえておくべきだろう。 また、ウイルス感染後に精神症状というと、何かとてつもない危機が人類に迫っているかのように報道されるかもしれない。しかし、そもそもウイルス感染後はギランバレー症候群や慢性疲労症候群などが起こるものである。医療関係者にとっては周知の事実だ。冷静に対応することも重要だ。 厚労省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」の別冊として「罹患後症状のマネジメント」というものを出しており大変わかりやすいので一読をお勧めする2)。 新型コロナウイルス感染症は、おそらくすべての人に、この自分が死ぬ可能性を想起させたという点で、東日本大震災と同様に日本人の死生観に大きな影響を与えたことであろう。後遺症が、血栓症や炎症反応の影響が大きいのか、心理社会的影響が大きいのか、それは歴史が明らかにするだろう。

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手書きメモを用いた直腸がんのインフォームドコンセント【誰も教えてくれない手術記録 】第12回

第12回 手書きメモを用いた直腸がんのインフォームドコンセントこんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。今回はちょっとした番外編として、手書きイラスト(メモ)を活用したインフォームドコンセントの一例をご紹介します。(主に外科医の)皆さんは、患者さんへの「術前説明」を普段どのようにしているでしょうか? 人によってさまざまなスタイルがあると思いますが、僕は時間が許せば「患者さんの目の前で白紙にイラストを描きながら説明する」というスタイルを取っています。最近では、患者説明用スライドや動画コンテンツを活用している病院もありますよね。もちろん、このように既成の資料を用いた説明でも過不足ないと思いますが、医師が患者さんと向き合って、直接語りかけながら手描きのイラストで補足していく説明が、より温かみがあり患者さんからの信頼も得られやすいのではないでしょうか(あくまでも私見です)。それでは、直腸がんに対する術前説明のイラストの一例をご紹介します。※話しながら描いた場面を想定した字とイラストなので、多少の読みづらさはご容赦ください。1枚目:解剖や機能、現在の病状、望ましい治療法、その治療を行わない場合に予想される経過・症状の説明2枚目:手術内容(アプローチ方法・切除範囲・再建方法)の説明3枚目:周術期合併症、術後経過の説明実際にはこれら手描きイラストを描きながら、口頭で説明していきます。術前説明のスタイルは人それぞれ、説明にかけられる時間も状況次第でさまざまですが、どんな場合でも大切なのは患者さんの理解と安心を得ることです。そのための一手段として、手描きイラストでの説明は有効だと思います。ただし、患者さんはその場ではわかった気になっても、時間が経てば忘れてしまうこともあります。どんな資料や方法を用いて説明するにしても、後から振り返りやすいような工夫ができるとなお良いですよね。術前説明にも、皆さんの日頃のオペレコ作成で培ったイラスト作成能力が大いに役立つことでしょう。説明後に「すごくわかりやすかったです。ありがとうございます」と患者さんから感謝の言葉がもらえたら大成功ですね!今回のようなテーマはいかがでしたか? 手術イラストに限らず、医療とイラストレーションの関わりについても今後取り上げていきたいと思います。お楽しみに!

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口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)【知って得する!?医療略語】第7回

第7回 口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)最近、口の中が燃えるように痛い病気があると聞きました。本当にそんな病気があるのですか?そうなんです、本当にあるんです!文字通り、口の中の灼熱感を特徴とする口腔内灼熱症候群(BMS)という疾患があります。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】BMS【日本語】口腔内灼熱症候群【英字】burning mouth syndrome【分野】脳神経【診療科】耳鼻科・歯科口腔外科・疼痛治療科・心療内科【関連】一次性BMS・二次性BMS・舌痛症※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。口腔内のヒリヒリ、ピリピリした不快な灼熱感を訴える患者さんは、口腔内灼熱症候群(BMS:Burning mouth syndrome)を想定する必要があるかもしれません。恥ずかしながら、筆者が最近まで知らずに過ごしてしまった疾患の1つです。BMSは、幅広い診療科の医師が遭遇する可能性があるため、今回紹介いたします。BMSは国際頭痛分類第3版において、「3ヵ月を超えて、かつ1日2時間を超えて連日再発を繰り返す、口腔内の灼熱感または異常感覚で、臨床的に明らかな原因病巣を認めないもの」と定義されており、口腔粘膜は外見上正常、感覚検査を含めた臨床診察は正常とされています。BMSの原因は、歯科処置や口内炎などの局所的異常が原因とされていますが、発症契機が不明な場合も多いようです。また、BMSは心理社会課題や精神疾患の合併が多いことを指摘する研究報告がある一方、BMS患者の舌生検で粘膜上皮の神経線維に器質的変化を認めたことが報告され、近年はfMRIによる研究も進められています。さらに近年、BMSは一次性BMSと二次性BMSに区別される傾向にあります。二次性BMSの原因は、全身疾患と局所疾患に分類され、全身疾患に伴う二次性BMSの基礎疾患には薬剤誘発性、貧血(Plummer Vinson症候群)、シェーグレン症候群、糖尿病が挙げられており、BMS患者の診療では、血液検査による貧血、ビタミンB12、葉酸、微量金属(亜鉛・銅)のスクリーンニングの必要性が指摘されています。なお、BMSの口腔内疼痛症状は、日内変動も報告され午前より午後に強くなる傾向があるそうです。筆者が遭遇したBMS患者さんも同様の傾向が見られ、灼熱感を和らげるため冷水の多飲がみられたことを付記します。近年、増加傾向が指摘されているBMS。お時間が許せば、以下の論文をご一読ください。1)羽藤 裕之他. 1次性burning mouth syndrome患者の臨床的検討. 日口内誌. 2020;26:8-15.2)山村 幸江. 口腔灼熱症候群・舌痛症の診療. 耳鼻臨床. 2018;111:148-149.3)任 智美. 舌痛症の取り扱い. 日耳鼻. 2016. 119-144.4)日本頭痛学会:国際頭痛分類第3版(第3部)

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第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚

「飲食店の規制を続ける効果が小さい」と「まん防」延期に反対の委員もこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」の適用期間が18都道府県で3月21日まで延長されました。延長地域のうち東京や大阪、神奈川など9都府県は病床使用率が5割以上で、重点措置の効果に改めて疑問符が投げかけられています。政府の基本的対処方針分科会では今回の重点措置延長に対し、行動経済学を専門とする大阪大学特任教授の大竹 文雄氏ら委員2人が反対したとの報道がありました。大竹氏はオミクロン型の重症化リスクの低さに加え、クラスターは高齢者施設や保育所で多発していると指摘し、飲食店の規制を続ける効果が小さいことなどを反対理由としたそうです。「まん防」はもはや行政が”やってる感”を出すための道具に過ぎないようです。感染拡大を抑え込み、収束に向かわせるには、ワクチンの3回目接種が必須と思われますが、3月7日に首相官邸ホームページで公表された3回目接種の完了率は全体で24.9%、65歳以上高齢者で61.0%と依然低いままです。国(と各自治体)はこの接種遅れをどう挽回するのか、これからの施策に注目したいと思います。さて今回は滋賀県大津市にある基幹病院、地方独立行政法人・市立大津市民病院(401床)で起きている外科系医師の大量退職事件について書いてみたいと思います。外科・消化器外科・乳腺外科の9人が退職へ同病院の大量退職が発覚したのは2月初旬でした。各紙報道によれば、今年2月、病院内で突然「大津市民病院 外科・消化器外科・乳腺外科で治療中の患者様へ」と題した文書が配布されました。3科の医師9人(常勤医8人、非常勤医1人)連名の文書には「退職しなければいけないこととなりました。当院院長・理事長・事務局長により決定された病院運営上の判断とのことです」と記されていました。9人はいずれも京都大学医学部の外科学教室から派遣されている医師でした。医師側はパワーハラスメントだと主張問題が表沙汰になったことを受け、病院側は2月15日に記者会見を開き、医師9人が3月末以降退職する意向を示している事実を認めるとともに、京大側から14日に「今後は医師を派遣しない」との連絡があったと説明しました。記者会見を受け、各紙が一斉にこの事実を報じました。毎日新聞等の報道によれは、昨年9月、経営陣が外科医側に外科の経営状況に関する相談をした際、経営改善の意思がみられなかったため、市立大津市民病院のトップである北脇 城理事長が「消化器外科は府立医大(京都府立医科大学)と交代するように」と発言。消化器外科と乳腺外科を兼任している医師もおり、医師らは「全員交代」と認識したとのことです。医師側はパワーハラスメントだと主張したものの、病院内部の検証ではパワハラとは認定されなかったとのことです。医師側は冒頭の文書を病院内で患者向けに配布し、2月7日には大津市医師会に対し、「2月2日から新規手術の紹介患者の受け入れを基本的に中止している」と連絡したとのことです。「収入実績が悪いことが問題の背景にある」と理事長15日の記者会見で北脇理事長は、「外科・消化器外科・乳腺外科の収入実績が悪いことが問題の背景にある」と説明したものの、「(府立医大の医師と)交代する事実もなく、パワハラではない」と弁明、「近隣の病院から医師を派遣してもらうよう依頼するとともに、京大側にも引き続き派遣を求めている。診療体制への影響を最小限に食い止めたい」と話したそうです。また、外部の弁護士による第三者委員会を立ち上げ、パワハラの有無の検証を始めていることも明らかにしました。京大派遣の脳神経外科5人も退職へ新規の外科手術の停止など、日常診療に大きな障害が生じている中、事態は好転どころか悪化に向かいました。2月18日付の各紙は脳神経外科の全医師5人が、4月以降に退職する意向を示していると報じました。朝日新聞等の報道では、この5人も京大から派遣されている医師で、取材を受けた医師の1人は北脇理事長から同科の業績が悪いとして「府立医大から来春、3人の医師を派遣してもらい、脳卒中科を設ける。今いる2人は退任してほしい」と告げられた、と語ったとのことです。京大側はこの件についても人事に関するパワハラが生じたと判断、医師の引き上げを決定したとのことです。この事態に対し病院側は、2月18日に北脇理事長と若林 直樹院長の連名で、「脳神経外科とは、計画を踏まえた対応強化について協議を行ってきており、人事を巡って病院幹部によるパワーハラスメント的な行為があったと主張されていることは遺憾」とのコメントを発表しています。なお、3月5日付の毎日新聞は、同病院の脳神経外科医が3日、病院職員に対し「やむなく退職する予定」とメールで伝え、今夏に退職する旨を明らかにしたと報じています。同紙によれば、脳神経外科医らは「実績が良好にもかかわらず、経営陣からスタッフ減員や任用拒否を迫られるなどのハラスメント的行為を受け、信頼関係が崩壊したことが原因」と伝えたそうです。これで、大津市民病院を辞めようとしている医師は、合計14人となります。大津市、滋賀県も困惑、今後の対応を検討へこの事件、地域の医療提供体制に混乱をもたらしていることから、独立行政法人の出資者である大津市のみならず、滋賀県も病院の今後の対応を注視しています。大津市の佐藤 健司市長は2月21日に開かれた通常会議の本会議冒頭で、「設置者として遺憾。こうした事態を招いた法人の責任は極めて重い。県に協力を要請するなど、設置者として対応に努める」と述べました。さらに、3月2日の市議会での代表質問では、設置者としての市の対応や姿勢をただす質問が相次ぎ、佐藤市長は診療への影響などに関する病院側からの報告を精査している段階とし「必要に応じ、さらなる対応を検討する」と答弁したとのことです。また、三日月 大造・滋賀県知事は2月25日の県議会一般質問で「病院や大津市、派遣元の大学と課題を共有し、対応を検討したい」と答弁しています。理事長は府立医大病院の病院長経験者人事に関してパワハラがあったのか、なかったのか。純粋に経営改善のために派遣元の医局を変えようとしたのか、別の理由があったのかは現時点では判然とせず、第三者委員会の判断待ちとなっています。そんな中、一つ気になったのは、医師派遣を止めると言っているのが京大の外科、脳神経外科であるのに対し、パワハラを告発された経営者側の北脇理事長、そしてナンバー2の若林院長がともに京都府立医科大学の出身者だという点です。北脇理事長は京都府立医大の産婦人科学教室の教授を2021年3月まで努め、2017〜2019年は京都府立医科大学附属病院の病院長も務めていました。現在は京都府立医科大学名誉教授でもあります。公表されている最近の事業報告などを見ると、大津市民病院自体の経営状況は決して良好とは言えませんが、2020年度については、「財務状況としては、医業収支はマイナス14億8,600万円と医業収益の落ち込みに より多額の損失となったが、国等の補助金等により、経常収支において20億5,800万円の経常利益を確保することができた」としています。コロナ対応もあり、2021年度も補助金等でおそらく相当の黒字計上になっていると思われます。外科や脳神経外科で喫緊の経営改善が必要だったかはわかりませんが、だからといって「派遣医局を京大から府立医大に単純に替えればいい」という考え方は相当強引に見えます。調べてみると、同病院では、2019年にも産婦人科医の大量退職が起こっており、同年6月以降、分娩の取り扱いは休止したままです。北脇理事長の専門は産婦人科ですが、理事長に赴任した2021年4月以降も分娩は再開されていません。「ジッツを経営状況のいい大規模病院に集約する」ことが大学医局のこれからの役割関西の医療界では、府立医大と京大医学部との仲の悪さは昔から有名です。お互いに「川向こう(鴨川の向こう岸)」と呼び合うと聞いたこともあります。歴史的には府立医大の前身(京都府立医学専門学校)のそのまた前身である京都府医学校の方が古く、京都帝国大学医科大学が設立された時には京都府医学校から医師を大量に引き抜いたという逸話もあるようです。そういった歴史的な背景もあり、京阪神では京大医学部よりも、府立医大のジッツ(関連病院)の方が圧倒的に多いと言われています。一般の人から見れば、京大は全国区、府立医大は地方区の医学部ですが、京阪神地域においては、府立医大はジッツなどの勢力において一目置かれる存在なのです。とは言うものの、今回の事件が、「母校である府立医大のジッツを増やしたかった」という、極めて昭和的な理由が背景にあるのだとしたら、それこそ税金を払っている大津市民はたまりません。そもそも人口減少が急速に進み、各地の病院の統廃合が喫緊の課題となっている中、ジッツを闇雲に増やすことは時代に逆行する行為だと言えます。医師の働き方改革も本格化する中、大学医局のこれからの役割は、「ジッツを経営状況のいい大規模病院に集約し、大人数のスタッフで大量の症例や手術を効率的にこなす体制を作ること」だからです。症例数も少なく若手医師のトレーニングにもならない病院からは医師を引き上げる、というのが、これからのトレンドなのです。そうした意味でも、大学医学部の教授が天下って、地方の公立・公的病院等の院長を名誉職的に務める、という時代は昭和・平成で終わったと言えるでしょう。もはや病院経営は、天下った元教授が片手間にできるような甘い仕事ではないのです。

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ニボルマブ+化学療法の食道扁平上皮がん1次治療、CHMPで推奨/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、2022年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、PD-L1発現1%以上の切除不能な進行、再発または転移のある食道扁平上皮がん(ESCC)成人患者の1次治療薬として、ニボルマブとフルオロピリミジン系およびプラチナ系薬剤を含む化学療法の併用療法の承認を推奨したことを発表した。 今回のCHMPの肯定的な見解は、第III相CheckMate-648試験の中間解析の結果に基づいている。同試験で、ニボルマブと化学療法の併用療法は化学療法と比較して、PD-L1発現1%以上の切除不能な進行、再発または転移のあるESCC患者において、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある全生存期間(OS)のベネフィットを示した(OS中央値:15.4ヵ月 vs.9.1ヵ月、ハザード比:0.54、99.5%信頼区間:0.37~0.80、p<0.001)。

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若者がADHD治療薬の使用を中止する理由

 注意欠如多動症(ADHD)は、成人期まで継続する可能性のある神経発達障害である。ADHD治療薬は、継続的に使用することが重要であるにもかかわらず、若者の多くは成人期にやめてしまうことが少なくない。そのため、成人期よりADHD治療薬を再開することもあり、中止が時期尚早であった可能性が示唆されている。英国・エクセター大学のDaniel Titheradge氏らは、若者がADHD治療薬を中止してしまう理由について、調査を行った。Child: Care, Health and Development誌オンライン版2022年1月31日号の報告。 CATCh-uS(Children and Adolescents with ADHD in Transition between Children's services and adult Services)プロジェクトの定性データを用いて、ADHD治療薬の使用中止理由を調査した。若者を次の3群に分類した。(1)成人向け治療介入移行前の若者21例(2)成人向け治療介入への移行が成功した若者22例(3)小児向け治療介入離脱後、成人向け治療介入を再度受けた若者21例。対象患者には、半構造化面接を実施し、主題分析およびフレームワーク分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ADHD治療薬の使用を中止した理由は、以下のとおりであった。 ●薬物治療のベネフィットと副作用のバランス ●小児期のADHDの認識および教育障害 ●若者の生活環境と治療介入へのアクセスの課題 著者らは「ADHDの若者における長期的な予後やQOL改善のためには、ADHD治療薬の中止に対処するための多元的アプローチ、非薬理学的治療へのアクセスや心理教育の改善などが必要とされる。これら、若者のADHD治療薬の中止理由は、ADHD特有のものではないため、小児でみられる他の慢性疾患においても、服薬アドヒアランスと関連していると考えられる」としている。

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抗CGRP抗体フレマネズマブの使用継続による効果の変化

 片頭痛の予防的治療の主な目的は、発作頻度の減少、重症度の軽減、期間の改善、片頭痛関連障害の軽減などである。これまでの片頭痛予防薬では、投与を継続するたびに、次の投与を行う前に臨床症状の再発または悪化が認められる減弱効果が報告されている。米国・The Headache Center of Southern CaliforniaのAndrew M. Blumenfeld氏らは、片頭痛予防に対する抗CGRP抗体フレマネズマブの四半期ごとまたは月1回投与において、継続投与により有効性の減弱効果が認められるかについて、検討を行った。Headache誌2020年11月号の報告。 慢性片頭痛(CM)または反復性片頭痛(EM)患者に対する12週間のフレマネズマブ投与を評価した第III相試験であるHALO試験および追加サブセットとして追加された312例の新規患者を対象に、12ヵ月間の長期多施設ランダム化二重盲検並行群間第III相試験を実施した。CMまたはEM患者に対し、月1回または四半期ごとのフレマネズマブ投与を行った。本事後分析では、投与後1~2週目と3~4週目、1~3週目と4週目、1~2週目と11~12週目における平均片頭痛日数の差を評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は1,890例(CM:1,110例、EM:780例)であった。・3、6、9、15ヵ月目において、週ごとの平均片頭痛日数の差は、投与後1~2週目と3~4週目、1~3週目と4週目では認められなかった。・第1四半期(1~3ヵ月)または第2四半期(4~6ヵ月)において、1~2週目と11~12週目の週ごとの平均片頭痛日数に実質的な増加は認められなかった。・週ごとの平均片頭痛日数は、CMおよびEM患者のいずれにおいても、投与方法にかかわらず最初の2週間で大幅な減少(30~42%)が認められた。平均片頭痛日数の減少は、第1四半期の最後の2週間で安定しており、第2四半期以降も同様な反応が維持されていた。 著者らは「長期第III相試験のデータを用いた事後分析では、フレマネズマブの四半期ごとまたは月1回投与を行った患者では、投与間隔の終わりに向かって有効性の減弱効果が認められないことが示唆された」としている。

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新型コロナワクチン4種、6ヵ月後までの有効性をメタ解析/Lancet

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)への感染や、症候性新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発現に対する4種のワクチンの有効率は、完全接種後1ヵ月から6ヵ月までの間に平均で約20~30%低下するが、重症化に対する有効率の低下は約9~10%と小さいことが、世界保健機関(WHO)のDaniel R. Feikin氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年2月21日号に掲載された。4種のワクチンの効能・効果を評価するメタ回帰分析 研究グループは、さまざまな臨床アウトカムに対するCOVID-19ワクチンの感染防御期間のエビデンスを系統的にレビューし、接種後の時間経過に伴うデルタ変異株に起因するワクチン突破型感染の割合の変動を評価する目的で、メタ回帰分析を行った(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成を受けた)。 2021年6月17日~12月2日の期間に公表された査読済みまたは査読前の論文に関して、系統的レビューが行われた。対象は、COVID-19ワクチンの効能(efficacy)に関する無作為化対照比較試験と、COVID-19ワクチンの効果(effectiveness)に関する観察研究とされた。 ワクチンの完全接種を受けた集団における離散時間間隔での効能・効果について検討が行われ、事前に定義されたスクリーニング基準を満たした研究が、全文のレビューの対象とされた。 変量効果を用いたメタ回帰分析で、完全接種後1~6ヵ月のワクチンの効能・効果の平均変化量の推定が行われた。 310の論文が全文レビューの対象とされ、18の研究(いずれもオミクロン変異株の広範な感染拡大が始まる前に行われた)が解析に含まれた。7報が査読済み、10報は査読前の研究で、3報は無作為化対照比較試験、15報は導入後観察研究であり、米国の研究が8報、英国が2報、カナダ、フィンランド、イスラエル、カタール、スペイン、スウェーデンが各1報で、残りの2報は複数の国が参加した臨床試験だった。バイアスリスクの評価では、3試験が低、8試験が中、7試験は高であった。重症化への有効率は、約8割が6ヵ月後まで70%以上で維持 全体で、78件のワクチン別の効能・効果の評価が行われた(コミナティ[Pfizer-BioNTech]38件、mRNA-1273[Moderna]23件、Ad26.COV2.S[Janssen]9件、バキスゼブリア[AstraZeneca]8件)。 SARS-CoV-2感染に対するワクチンの効能・効果は、完全接種後1ヵ月から6ヵ月までに、全年齢層で平均21.0%ポイント(95%信頼区間[CI]:13.9~29.8、p<0.0001)低下し、高齢者(各試験の定義で50歳以上)では平均20.7%ポイント(10.2~36.6、p=0.0004)低下した。 症候性COVID-19におけるワクチンの効能・効果は、完全接種後1ヵ月から6ヵ月までに、全年齢層で平均24.9%ポイント(95%CI:13.4~41.6、p<0.0001)低下し、高齢者では32.0%ポイント(11.0~69.0、p=0.006)低下していた。 また、重症COVID-19では、ワクチンの効能・効果が同期間に、全年齢層で10.0%ポイント(95%CI:6.1~15.4、p<0.0001)、高齢者では9.5%ポイント(5.7~14.6、p<0.0001)、それぞれ低下したが、感染や症候性COVID-19の発現に対する効能・効果に比べると低下の幅が小さかった。COVID-19の重症化に対するワクチンの効能・効果は、全体の81%の患者が、接種後6ヵ月まで70%以上で維持されていた。 著者は、「ワクチンの効能・効果の低下は、試験のバイアスの影響を除外できないものの、少なくとも免疫力の低下が原因の可能性がある。COVID-19ワクチンの施策を更新するには、6ヵ月以降のワクチンの効能・効果の評価を行うことが重要であろう」としている。

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リフィル処方箋のルールは?どんな患者に適している?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第85回

2022年4月からの報酬改定が間近に迫ってきました。皆さんの薬局でも対応に追われているのではないでしょうか。今回は賛否両論が巻き起こっているリフィル処方箋について詳しく見ていきましょう。リフィル処方箋は、症状が安定している患者さんに対して、医師および薬剤師の適切な連携のもと、一定期間内は処方箋を反復利用できるというものです。議論自体は10年以上前からなされてきましたが、今回の改定でいよいよ導入が決まりました。一見紛らわしい制度に、2016年度から始まった分割調剤があります。これは医師が指定した日数・量の範囲内の薬剤を分割して患者さんに渡す制度ですので、繰り返し使用できるリフィル処方箋とはまったく異なります。そして、残念ながら分割調剤は浸透しませんでした…。このリフィル処方箋は患者さんの通院負担の軽減になり、またその普及度合いは医師がどのくらい薬局を信頼しているのかということに比例すると思っていますので、ぜひ普及してほしいです。リフィル処方箋のルールは以下のように定められました。(1)処方箋の使用回数の上限は3回。(2)29日以内/回のリフィル処方を行えば、現行ルールにある30日以上の投薬による処方箋料の減算を受けない。(3)リフィル処方箋による調剤は同一の薬局で行うべきである旨を薬剤師が患者に説明する。(4)薬剤師は患者の服薬状況などの確認を行い、リフィル処方箋による調剤が不適切と判断した場合は受診勧奨を行い、処方医に速やかに情報提供を行う。(5)リフィル処方箋により調剤した場合、薬剤師が調剤した内容や患者の服薬状況などについて必要に応じて処方医に情報提供を行う。(2)のとおり、長期処方に対する減算からは除外されており、処方医側のデメリットを減らして普及を促す工夫がなされています。そして、(5)にあるように、リフィル処方でとくに問題がなかった場合は、原則として医師に情報提供する必要はありません。しかし、医師もせっかく患者さんと薬剤師を信用してリフィル処方箋を発行しているわけですので、リフィル処方後の患者さんの状態や問題がなかったことなどを積極的に報告することで、医師の不安も軽減されてリフィル処方箋の普及につながっていくのではないでしょうか。どのような方にリフィル処方箋が適するかについては、症状が安定している患者さんであることは言うまでもありませんが、すでに長期処方を受けている患者さんではメリットは少ないでしょう。それほど長期処方ではない患者さんに対して、「まずは体調に問題がないかリフィル処方箋で確認」となるのかもしれません。しばらくは医師もどのような場合にリフィル処方箋が適するのかを探りながらの導入になることが予想されます。処方医とコミュニケーションを取って、医師の不安や患者さんの不利益がないようにフォローアップできたらなと思います。前回と今回の改定内容を見る限り、今後も「薬局は地域に貢献すべし。調剤後のフォローを行う役割を負う」という流れは変わらないと確信しています。先のことを言い過ぎて鬼が笑いそうですが、次の2024年は診療報酬・介護報酬の同時改定です。同時改定の際は大幅な変更があると言われています。どのような状況でリフィル処方が行われ、薬剤師がどのような対応を取ったのか、そして患者さんにどのような変化があったのかが次回の議論の的になるのではないかと思います。

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ロタウイルスワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第12回

ワクチンで予防できる疾患ロタウイルスは、乳幼児の急性胃腸炎を引き起こす代表的な病原体である。発熱と嘔吐から症状が始まり、水様性下痢を伴うようになる。ほとんどの場合は1週間程度で自然軽快するが、激しい嘔吐や下痢のために脱水症を起こし、点滴治療や入院が必要になる場合もある。5歳未満の急性胃腸炎の入院患者のうち、40〜50%はロタウイルスが原因である。また、脱水症の他にも、けいれん、腎不全、脳症などを起こすことがあり、5歳未満児の急性脳症の起因病原体としては、インフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルス-6に次いで3番目に多い1)。ロタウイルスは糞口(経口)感染により拡大するが、非常に感染力が強く、衛生状態に関係なく5歳までにほとんどすべての乳幼児が感染すると言われている。重症例は初感染時に起こりやすく、繰り返し感染することで徐々に軽症化するため、年長児以降では不顕性感染になることも多い。わが国でのロタウイルス胃腸炎は冬から春に多く報告されているが、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年以降はロタウイルスによる感染性胃腸炎の患者報告数は激減している(図)。図 定点あたり報告数画像を拡大する国立感染症研究所. 感染症発生動向調査2022年第3週より抜粋ロタウイルス感染症には抗ウイルス薬などの特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となる。また、感染力が非常に強いため、適切な感染対策を行っても完全に予防することが困難である。そのため、乳児へのワクチン接種によるロタウイルス感染予防および重症化予防が重要となる。ロタウイルスワクチンの概要わが国では、1価ロタウイルスワクチン(商品名:ロタリックス)および5価ロタウイルスワクチン(同:ロタテック)の2種類の経口生ワクチンが認可されている(表)。表 ロタウイルスワクチン接種スケジュール画像を拡大するカバーする血清型は異なるが、1価ワクチンは交差免疫により他の血清型にも効果を発揮するため、同等の有効性が認められている2)。ロタウイルスワクチンは、前述のようにロタウイルス胃腸炎が2回目以降は軽症化するという性質を応用したものであり、その効果は、胃腸炎感染予防74~87%、重症化予防85~98%と非常に高い3)。効果の持続期間も生後2~3年まで確認されている。また、国内においてもワクチン接種による5歳未満児の入院率減少の効果が報告されている4)。ワクチン接種後に易刺激性、下痢、嘔吐などの副反応が国内で報告されているが、いずれも数日以内に回復し、重篤なものはまれである。頻度は非常に低いが(2~10万人に1人3))、初回接種後に腸重積を起こすことがある。第一世代のロタウイルスワクチン(同:RotaShield)が導入された際に、腸重積発症頻度の増加が確認されたため販売中止となった。現在使用されているワクチンは、腸重積発症リスクがRotaShieldの1/5~1/10と低くワクチン接種のメリットがリスクをはるかに上回る4)が、注意深く観察する必要がある。接種のスケジュールロタウイルスワクチンの接種スケジュールを表に示す。1価ロタウイルスワクチンと5価ロタウイルスワクチンでは接種回数が異なるため注意が必要である。原則として同じ種類のワクチンでスケジュールを完遂することが望ましい。しかし、転居後にいずれか一方のワクチンしか実施されていないなどの理由により、原則によることができないやむを得ない事情があると当該市町村長が認めた場合には、他方のワクチンにて接種することが可能である(具体的な接種方法については定期接種実施要領を参照5))。また、月齢3ヵ月以降に腸重積の発症率が増加するため、ワクチンの初回接種はできるだけ早い時期に実施することが必要である。出生15週0日以降の初回接種については安全性が確立されていないため、出生14週6日までに初回接種を完了させることが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイントロタウイルスワクチンは経口生ワクチンであり、接種後1週間程度は便中にウイルスが排出されるため、おむつ交換時の手洗いなどの感染対策について説明しておくと良い。また、接種後の吐き出しを避けるために、接種前後は授乳を控えるように説明する。少量でも飲み込んでいれば一定の効果があり、ロタウイルスワクチンは複数回接種することから、万が一吐き出した場合でも1回投与と考え、追加の投与は必要ない5)。ロタリックスについては添付文書上、任意接種としての再投与が可能となっているが推奨はされていない。重篤な副反応として腸重積の可能性についても事前に保護者などに説明しておく必要がある。接種後1週間以内に、激しく泣く、機嫌が良かったり悪かったりを繰り返す、嘔吐を繰り返す、血便が出るなどの症状があった場合には、必ず医療機関を受診するように伝えておく。今後の課題・展望ロタウイルスワクチンは非常に効果の高いワクチンであるが、わが国では長年任意接種のために接種率が上がらなかった。ようやく2020年10月より定期接種化され、今後のロタウイルス胃腸炎および合併症の減少が期待されるところである。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト予防接種Q&A1)国立感染症研究所. IASR. 2019;40:209-210.2)Jonesteller CL, et al. Clin Infect Dis. 2017;65:840-850.3)CDC. The Pink Book. Chapter19:Rotavirus. 4)国立感染症研究所. 日本におけるロタウイルスワクチンの効果. 2019;40:212-213.5)厚生労働省. 定期接種実施要領.講師紹介

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円錐角膜〔keratoconus〕

1 疾患概要■ 定義円錐角膜は、進行性の両眼角膜中央部もしくは下方の菲薄化と突出を来す疾患であり、近視化と不正乱視による視力低下を来す。■ 疫学円錐角膜の発症頻度は、450〜2,000人に1人とされてきた。しかし、診断技術の進歩により、軽症の円錐角膜の検出頻度が上がっている。屈折矯正外来を訪れる患者のうち円錐角膜または円錐角膜疑い患者は5%前後にみられる。また、難波らの調査からは、疑い例も含めると日本人の約100人に1人程度の有病率であるという結果が報告されていることから、軽症例も含めると従来考えられているよりも罹患人口が多い可能性が高い。性差については報告により異なるが、わが国では男性に多いという報告が多数ある。■ 病因明らかな病因はいまだに不明である。数多くの遺伝子変異が報告されているが、実際に遺伝的素因が明らかな例はあまり多くない。ダウン症候群やレーバー先天盲、エーラス・ダンロス症候群、マルファン症候群などでは円錐角膜の発症率が高いことが知られている。その他リスクファクターとしては、アトピーなどのアレルギー眼疾患、頻繁に目をこする、などが挙げられる。■ 症状軽度の症例では自覚症状はほとんどない場合もあるが、中等度以上になると近視性乱視と不正乱視が出現する。そのために眼鏡矯正視力が不良になりハードコンタクトレンズによる矯正が必要になる。ほとんどの場合両眼性に生じるが、程度に左右差があることも多い。■ 分類角膜の突出部位別の分類としては、以下のものがある。Nipple角膜中央の狭い範囲(5ミリ以下)に突出がみられるもの。Oval     突出部位が中央やや下方にみられるもの。最も頻度が高い。Globus突出部位が角膜の4分の3の範囲に及ぶもの。また、重症度分類としては、Amsler分類(表)が古くから用いられているが、測定機器の進歩によって、細隙灯顕微鏡で検出できない初期の変化が捉えられるようになってきたために、見直す必要がある。表 Amsler-Krumeich分類画像を拡大する■ 予後円錐角膜の多くは思春期から青年期にかけて発症し、その後加齢とともに進行するが、中年以降になると進行速度が緩やかになってやがて停止する。しかしながら、進行の有無やスピードには個人差が大きく、近年の報告によれば30歳以降でも進行する症例もみられることが明らかになっている。経過中に、デスメ膜破裂を来す場合がある。局所的な実質の浮腫と、それに伴う急速な視力低下と軽度の眼痛を認める(急性水腫:図1)。浮腫は自然に軽快するが、実質瘢痕を残すと視力が回復せずに角膜移植が必要となることもあるので、急性水腫を来さないような治療方針を建てることが重要となる。図1 急性水腫の前眼部所見急激に発症する角膜中央部の浮腫で、スリットランプでしばしば実質の裂隙とデスメ膜の断裂を認める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)円錐角膜の診断には、正確な視力検査、自覚的屈折検査と角膜形状解析検査を行う必要がある。細隙顕微鏡での異常所見としては、角膜中央〜Vogt’s striae(角膜実質の線状の皺壁:図2)、Fleisher ring(突出部の周辺に認められるリング状のヘモジデリン沈着)、上皮化の瘢痕などが挙げられ、主として中等症以上で初めて認められる。図2 Vogt’s striae突出部に生じる細かい実質の皺壁。初期の円錐角膜の診断には、角膜トポグラフィー(形状解析検査)が有用であり、角膜中央から下方の前方突出が特徴的である(図3)。図3 典型的な円錐角膜の角膜トポグラフィー像下方角膜曲率の急峻化を認める。近年では、多くの機器で円錐角膜のスクリーニングプログラムが搭載されている。より初期の診断には、角膜前面だけではなく後面も評価でき、角膜厚の分布も検出できる角膜トモグラフィー(断層撮影)の感度が高い。さらに、角膜形状でなく生体力学的特性を調べる検査の有用性も報告されている。鑑別疾患としては、円錐角膜よりも周辺部角膜の菲薄化と突出を来たすペルーシド角膜辺縁変性が挙げられる。円錐角膜よりも発症が遅く進行が停止するまでの期間も長い。その他、レーシックなどの角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症(エクタジア)も円錐角膜と同様の所見を呈する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)円錐角膜の治療は、視力矯正と進行予防の2つの目的があり、前者はさらに保存的治療と外科的治療に分かれる。■ 視力矯正1)保存的治療軽度の場合は眼鏡やソフトコンタクトレンズも用いられるが、一般的には酸素透過性ハードコンタクトレンズによる矯正が中心となる。角膜突出の程度が強くなると、多段階のベースカーブを有する円錐角膜用のハードコンタクトレンズが必要となる場合もある。ハードコンタクトレンズに伴う異物感が強い場合は、ソフトコンタクトレンズの上にハードコンタクトレンズを乗せる“piggy-back”とよばれる装用法や、中心部がハードレンズで周辺部がソフトレンズのハイブリッドレンズ、あるいは強膜レンズが用いられることもある。2)外科的治療軽度の非進行例については、有水晶体眼内レンズによる近視・乱視の矯正も試みられている。近年、角膜実質の混濁をともなわない例については、角膜実質にPMMA製のリングを入れる「角膜内リング」も一部で行われるようになった(国内未承認)。これによって角膜形状の改善とハードコンタクトレンズ装用感の向上が得られる場合がある。保存的治療で充分な視力矯正が得られない場合、角膜移植が1つの選択となりうる。かつては角膜全層を移植する「全層角膜移植」が広く行われたが、術後合併症への対策が欠かせないという欠点があり、それを補うために角膜実質をデスメ膜の直上まで切除して移植する「深層層状角膜移植」が行われているが、手術手技が難しいという欠点を持つ。■ 進行抑制約20年前から、「角膜クロスリンキング」という円錐角膜の進行抑制を目的とした治療が、諸外国で広く行われるようになった(国内未承認)。角膜実質内にリボフラビン(ビタミンB12)を浸透させた後に、紫外線を照射することで角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して強度を向上させる。これまでの研究で、円錐角膜の進行抑制が大半の例で得られ、若干の形状改善効果もあることが報告されている。進行抑制が得られれば、角膜移植などの外科的治療を受けずに済む可能性が高く、患者の生活の質の向上に役立つ。4 今後の展望上に挙げた治療法のいくつかは保険未収載であったり、機器の承認が取れていないため、治療は多くの場合が自費診療として行われる。特に角膜クロスリンキングは、疾患の進行抑制を効率で得られるために患者のQOLを長期にわたって改善できることが海外で報告されており、わが国でも早急に実施体制が整うことが求められる。また、多くの円錐角膜患者にとってハードコンタクトレンズは生活に欠かせないが、市町村によってはその購入に対する補助がなされないなど、患者負担が大きいことが問題となっている。5 主たる診療科眼科。しかし多くの例では、眼鏡店やコンタクトレンズ販売店、あるいは屈折矯正手術施行施設を訪れることも多く、これらの施設で適切に円錐角膜の診断をつけることが重要である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報円錐角膜研究会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Keratoconus Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Amsler M. Ophtalmologica. 1946;111:96–101.公開履歴初回2023年3月8日

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英語で「吐き戻す」は?【1分★医療英語】第18回

第18回 英語で「吐き戻す」は?I am worried about my daughter because she spit up milk a lot yesterday.(娘が昨日何度もミルクを吐き戻したので心配です)Okay, what is her baseline?(なるほど、通常はどの程度[吐き戻すの]ですか?)《例文》医師Helping her burp during and after feeding will prevent from spitting up.(授乳中や授乳後にげっぷをさせてあげると、吐き戻しを防げますよ)患者Oh, that is good to know!(そうなのですね、良いことを伺いました!)《解説》今回は小児医療でよく使われる「吐き戻す」という表現をお伝えします。AAP(米国小児科学会)のサイトでは、“vomiting”は胃の内容物が口から体外に強制的に吐き戻されること、“spitting up”は強制的な筋収縮は関与せず、しばしばげっぷに伴い胃の内容物が口から出てくること、と説明されています。母乳や人工乳を飲んだ赤ちゃんが、食後にミルクを口から吐き出してしまうことがあるのですが、これがまさに“spitting up”(吐き戻す)に当たります。大人が悪心を伴って嘔吐するときのニュアンスとは大きく異なります。“spit”を単体で使う際には、「唾を吐く」もしくは「口に入れたものを飲み込まずに出す」という意味合いとなり、こちらもまた上記とはニュアンスが異なります。小児領域で言えば、子供が食べようとしたものが口に合わず、すぐに「ぺっ」と外に出すような状況です。米国で小児医療に携わっていると、赤ちゃんの“spit up”を心配して救急やクリニックを訪れる家族が非常に多く、たびたび耳にする言葉です。英語圏の方は“spit up”“vomit”“spit”といった表現を自然に使い分けていますので、ニュアンスの違いを理解して、患者の年齢や症状に応じて使い分けてみてください。講師紹介

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