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倒れてもいいんですか【Dr. 中島の 新・徒然草】(418)

四百十八の段 倒れてもいいんですか前回、成年後見制度用の診断書を作成する際、患者さんを取り違えたというお話をしました。つまり、Aさんの診断書を作成するために、Bさんにインタビューしてしまったわけです。記憶違いも甚だしい。本当に後見人が必要なのは自分じゃないか、とへこんだわけです。ところが、実は3日ほど後にもう1枚診断書作成依頼があり、今度はBさんの名前がありました。つまり、ある意味、間違っていなかったわけです。これ、喜んでいいのか、さらに落ち込んだほうがいいのか、よくわからない状況になりました。年取ると、いろんなことがありますね。話は変わりますが、私が住んでいるマンションでも、10年に1回ぐらい自治会役員が回ってきます。当然のことながら、誰も会長をやりたくありません。皆それぞれに事情があるので、結局、あみだくじを全員で引くことになりました。その結果、高齢の独居女性が会長に当たってしまったのです。この人の名前を、仮に三月 弥生(みつき・やよい)さんとしましょう。高齢といっても随分しっかりしている人ですが、彼女はかなり抵抗しました。三月「私、もう人前でしゃべるのは全然ダメなんです」皆さん「……」三月「引っ込み思案だし、当たると思っていなかったから」皆さん「……」三月「ねっ、もう1度クジをやりましょうよ」皆さん「……」理由をいろいろ並べておられますが、皆、うつむいてじっと聞いています。ここで下手に反論したりすると、ちゃぶ台返しを食らうかもしれません。三月「ここに長く住んできて。独り暮らしなのに」皆さん「……」三月「もう眠れなくなってしまうわ」皆さん「……」思ったことが全部口から出てくるんですかね。でも、皆さんひたすら忍耐です。三月「私、倒れてしまうかもしれませんよ」皆さん「えっ?」周囲に座っている人たちの表情に、怯えが走ります。三月「私が倒れてもいいんですか!」皆さん「倒れるのは、ちょっと……」ここぞとばかりに攻勢に出る三月さん。ちょっと皆さん、何を動揺しているんですか!倒れるとか何とか、これまでの人生で何十回も聞かされたセリフです。ということで私が発言しました。中島「三月さんが倒れたら、副会長が代行しますから」三月「うん、もう!」そのために副会長という役割があるわけですよ。中島「三月さんが会長をやることになって、急に皆の顔が明るくなりましたよ」三月「何てこと言うんですか!」中島「皆で三月さんをお支えしますから」なんでこんなに調子よく出てくるのでしょうね。中島「会長! 一緒に頑張りましょう」三月「会長なんて呼んだら罰金千円取ります」もう無茶苦茶です。中島「三月さん。新しい自分に生まれ変わるチャンスです!」三月「私が寝込んだら往診してくださいよ、中島さん」中島「もちろん往診させていただきますとも」ああ言えば、こう言う。このテの安請け合いも、何十回やってきたかわかりません。ということで、無事に自治会長をかわすことができました。たぶん今の時期には、日本中どこでも揉めているんでしょうね。最後に1句 春分の 自治会巡り 大騒ぎ

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オピオイドによる便秘に新たな薬が登場【非専門医のための緩和ケアTips】第24回

第24回 オピオイドによる便秘に新たな薬が登場オピオイドを服用している患者さんで頻発し、かつ対策が必要な副作用の代表例が便秘です。そんなオピオイドが原因の便秘に対し、新たな薬が登場しています。今日の質問がん疼痛がありオピオイドを処方している患者さんの中で、便秘に悩んでいる方がいます。マグネシウム製剤や大腸刺激性下剤などを処方してみるのですが、頑固な便秘に良い対策はありますか?オピオイドを使用している際の便秘は、オピオイド誘発性便秘症(OIC:opioid-induced constipation)と呼ばれます。オピオイドは、脊髄のμオピオイド受容体に作用することで痛みの伝達をブロックし、鎮痛効果を発揮します。このμオピオイド受容体は中枢神経だけでなく、末梢にも分布しています。消化管に分布する末梢μオピオイド受容体にオピオイドが作用することで、腸管蠕動が抑制され、便秘になってしまうのです。OICはオピオイドを服用している限り、改善することはありません。基本的には「オピオイド服用中はOICが生じる」と考えて対処する必要があります。従来、薬物療法としては、一般的な便秘薬であるマグネシウム製剤や大腸刺激性下剤が用いられてきました。それで症状が緩和されればよいのですが、それでも持続する頑固な便秘もあります。そんな悩みに対して2017年に登場した薬が、今回ご紹介するナルデメジン(商品名:スインプロイク)です。ナルデメジンは先ほど出てきた末梢のμオピオイド受容体と結合することで、オピオイドと拮抗し薬理効果を発揮します。緩下剤などの対症療法と比較して、OICの原因に直接的なアプローチをする薬剤であることがわかるかと思います。ここでふと、「あれ、μオピオイド受容体に結合することでオピオイドに拮抗するなら、鎮痛作用も発揮できなくなるのでは?」と感じた方がいるかもしれません。そこは心配無用で、ナルデメジンは中枢神経のμオピオイド受容体には作用しないため、鎮痛効果は保たれます。ナルデメジンは1日1回0.2mgを内服します。内服回数が少ないことも良い点ですね。腎機能が落ちていても服用できるので、マグネシウム製剤などが使用できない方には良い選択肢です。他の便秘薬同様、処方の際は消化管閉塞がないことの確認が必要です。OICに対する比較的新しい薬剤であるナルデメジンを紹介しました。もちろん、便秘解消には薬だけでなく、食事内容や水分摂取といった生活指導も併せて大切です。今回のTips今回のTipsナルデメジンはオピオイドの副作用による便秘に対する新しい薬。排泄ケアと併せて処方を検討しよう。

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第101回 ウクライナ侵攻の打撃は歯科医療にも、止まらないパラジウム高騰に緊急声明

ロシアによるウクライナ侵攻の影響が、日本の医療界にも及んでいる。西側諸国の経済制裁に対し、ロシアが報復としてレアメタル(希少金属)の輸出禁止措置を取る懸念から、歯科材料に使われるパラジウムの価格が急騰し、歯科医療に悪影響を及ぼしているのだ。歯科医療機関の経営と、患者・国民の口腔の健康を守るため、全国保険医団体連合会(保団連)は3月14日、国に対して状況への対応を講じるよう要望した。パラジウムの約4割をロシアから輸入する日本パラジウムはプラチナの仲間である白金族金属と呼ばれる元素群の1つで、自動車の排ガス浄化触媒や燃料電池に不可欠なレアメタルだ。歯科医療では、金(および銀)とパラジウムの合金は、耐食性や強度、延性が高いため、銀歯の材料の一部として使われている。金銀パラジウム合金(金パラ)の金属組成や成分は、金12%、パラジウム20%とJIS規格(日本産業規格)で定められており、このほかに銀や銅なども含まれる。つまり、金やパラジウムなどの市場価格が歯科医の利益のプラス・マイナスに直結するわけだ。とくに金パラはここ数年、材料費が高騰している。背景には、金の価値の安定性やレアメタルの希少性から、中国マネーやオイルマネーなどが市場へ流れ込み、値上がりしやすくなっている。パラジウムは年間200t前後が世界に供給されており、供給量はロシアが約4割を占め、次に南アフリカ共和国が続く。日本は、パラジウムの約4割をロシアから輸入しているため、ロシア情勢による影響は大きい。市場価格が保険償還価格を上回る「逆ザヤ」問題そのような背景があるため、歯科の診療報酬は半年ごとに改定されているが、2020年4月からは、3ヵ月ごとの見直しへとさらに期間が縮まった。それでも、金パラの診療報酬上の保険償還価格と市場価格が大きくかけ離れ、診療報酬の改定が追い付かないのが実情のようだ。市場価格が保険償還価格を上回る「逆ザヤ」問題も起きており、歯科医の間から「健康保険の治療対象に価格が変動するものを使うのはおかしい」との声が上がっている。パラジウムの市場価格は、2021年12月から3ヵ月足らずで倍増し、金の市場価格も過去最高に上昇した。金パラの保険償還価格は30g当たり8万8,530円であるのに対し、市場価格は12万円を超える状況になり、「逆ザヤ」は約25%に達している。保団連の調査では、今年1月に金パラの市場価格と保険償還価格が逆転して以降、「逆ザヤ」は拡大し続けている。4月の診療報酬改定で、保険償還価格は30g当たり9万4,470円に引き上げられるが、なお市場価格とは大きな乖離がある。「逆ザヤ」解消を求める声を受け、4月から価格改定制度の改善が図られるが、保団連は「この改善は、市場価格を後追いする現行制度について、改定頻度などを見直し、後追いのタイムラグにより生じる価格乖離を緩和するもの。抜本解決策とは言えない」と指摘。素材価格の変動が緩やかな状況であれば、一定の効果が期待できるものの、現状は紛れもなく非常事態であり、先行きの見通しも極めて不透明な状況であるとの認識を示した。保団連は緊急対応と抜本解決を厚労相に要望そのうえで、「コロナ禍で悪化した歯科医療機関の経営を守るためには、平時の対応に留まらず、特例的な対応も含めた喫緊の判断も必要。また、材料の異常な高騰による患者負担の増加が、患者・国民の暮らしと口腔の健康に悪影響を及ぼすこともあってはならない」と主張。歯科医療機関の経営と患者・国民の口腔の健康を守るため、後藤 茂之・厚生労働大臣に以下の対応を要望した。(1)2022年1月以降の金パラ実勢価格と保険償還価格の差を補填する緊急対応を行うこと。(2)対応においては、患者負担増とならない手立てを併せて講じること。(3)2022年4月以降の制度改善にとどまらず、抜本改善へのさらなる検討を進めること。緊迫する国際情勢下、どれも現在の歯科医療において必要な策であろう。東京歯科保険医協会はロシアのウクライナ侵略に非難声明ちなみに、東京歯科保険医協会は3月4日、「ロシアのウクライナ侵略を断固非難する」との声明を発出し、在日ロシア大使館宛に送付した。「主権国家に対する武力による侵略は国連憲章、国際法を踏みにじる行為であり、いかなる理由であれ許されるものではない」「唯一の被爆国として、人の命を奪う戦争や核兵器使用で世界の諸国を威嚇するいかなる行動にも断固として反対する」──。ロシアのウクライナ侵略が、どれだけ世界の人々や医療に迷惑を及ぼし、医療人の不安を募らせたか。国際情勢が激変する中で、一団体が発した声明だが、「一灯破闇」の心意気を感じた。

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周産期における境界性パーソナリティ障害の有病率~メタ解析

 境界性パーソナリティ障害(BPD)は、重度の情緒不安定や対人機能低下を特徴とする精神疾患である。これまでの文献では、周産期におけるBPDは非BPDと比較し、さまざまな生理学的および心理社会学的アウトカムの有害リスクが高いことが示唆されている。しかし、これまで妊娠中および産後のBPDおよびBPDの特徴(BPF)を有する割合を調査したシステマティックレビューは行われていなかった。カナダ・マックマスター大学のDivya Prasad氏らは、周産期のBPDおよびBPFの有病率を調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Archives of Women's Mental Health誌オンライン版2022年2月26日号の報告。 2021年4月6日に3つのデータベース(PubMed、PsycINFO、Embase)を検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。妊娠中、産後、または混合の周産期女性を対象にBPFまたはBPDを評価した研究論文およびカンファレンス抄録を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・16研究(研究論文:14件、カンファレンス抄録:2件)のシステマティックレビューを行い、そのうち7研究をメタ解析に含めた。・非臨床サンプルのうち、妊娠中のBPF有病率は6.9~26.7%であり、周産期全体のBPD有病率は0.7~1.7%であった。・臨床サンプルのうち、周産期全体のBPF有病率は9.7~34%、BPD有病率は2.0~35.2%であった。・メタ解析の結果、臨床サンプルにおける周産期のプールされたBPD有病率は14.0%(95%信頼区間:7.0~22.0)であった。 著者らは「臨床サンプルにおける周産期のBPD有病率は高いことが明らかとなった。周産期女性のBPDを鑑別し、治療を行うためにも、適切な検証済みのスクリーニング法が必要とされる」としている。

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乳がんサバイバーの倦怠感、長期的な経過の特徴/JCO

 早期乳がん1次治療後の倦怠感の長期的な経過は個人差が大きい。フランス・Gustave RoussyのInes Vaz-Luis氏らが乳がんサバイバーにおける倦怠感の長期的な経過の特徴を調査した結果から、がん関連の倦怠感の多次元的な性質とその危険因子の複雑さが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2022年3月15日号に掲載。 本研究は、2012~15年に治療を受けたStage I~IIIの乳がん患者を対象とした全国的な大規模前向き研究(CANcer TOxicity)を使用して、倦怠感に関する詳細な縦断的解析を実施した。倦怠感は、診断時、診断後1、2、4年に調査し、ベースラインでの臨床的、社会人口統計学的、行動的、腫瘍関連、治療関連の特徴を入手した。 調査の結果、総合的倦怠感が重度だった4,173例において、その経過について3つの群が特定され、各群の重度の総合的倦怠感のリスク推定値は以下のとおりであった。1)持続的にリスクが高い群:患者の21% 診断時94.8%(95%CI:86.6〜100.0)、4年後64.6%(95%CI:59.2〜70.1)2)リスクが悪化する群:患者の19% 診断時13.8%(95%CI:6.7~20.9)、4年後64.5%(95%CI:57.3~71.8)3)リスクが低いままの群:患者の60% 診断時3.6%(95%CI:2.5~4.7)、4年後9.6%(95%CI:7.5~11.7) また、重度の身体的倦怠感、重度の精神的倦怠感、重度の認知疲労的倦怠感では、社会人口学的要因、臨床的要因、治療関連要因の影響は異なり、重度の総合的倦怠感とは分類が異なった。リスクが悪化する原因としては、うつ病などの感情的な苦痛、ホルモン療法などが示唆された。 著者らは「本研究の結果は、重度の倦怠感のリスクが高い早期乳がん患者を特定し、個別の介入を促進することに役立つ」としている。

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薬物性味覚障害マニュアルが11年ぶりに改定、注意すべき薬剤と治し方は?/厚労省

 『重篤副作用疾患別対応マニュアル』は77項目に細分化され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページに掲載されているが、今回、「薬物性味覚障害」の項が11年ぶりに改定された。薬剤性味覚障害は味覚障害の原因の約20%を占めていること、多くの薬剤の添付文書の副作用に記載されていることから、以下に示すような薬剤を服用中の患者の訴えには十分注意が必要である。味覚障害が副作用に記載されている薬剤を服薬中の患者の訴えに注意<添付文書に口腔内苦味の記載がある薬剤の一例>・ニコチン(禁煙補助剤)・フルボキサミンマレイン酸塩(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI])・ラベプラゾールナトリウム(PPI)・レバミピド(胃炎・胃潰瘍治療薬) ・レボフロキサシン水和物(ニューキノロン系抗菌薬)・炭酸リチウム(躁病・躁状態治療薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚障害の記載がある薬剤の一例>・アロプリノール(キサンチンオキシダーゼ阻害薬・高尿酸血症治療薬)・ジクロフェナクナトリウム(フェニル酢酸系消炎鎮痛薬)・レトロゾール(アロマターゼ阻害薬・閉経後乳治療薬)・ロサルタンカリウム(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚異常の記載がある薬剤の一例>・アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬)・アプレピタント(選択的NK1受容体拮抗型制吐薬)・イリノテカン塩酸塩水和物(I型DNAトポイソメラーゼ阻害型抗悪性腫瘍薬)・インスリンデグルデク[遺伝子組換え]・リラグルチド[遺伝子組換え](持効型溶解インスリンアナログ/ヒトGLP-1アナログ配合薬)・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)・オロパタジン塩酸塩(アレルギー性疾患治療薬)・チアマゾール(抗甲状腺薬)・テルビナフィン塩酸塩(アリルアミン系抗真菌薬)・バルサルタン(選択的AT1受容体遮断薬)・フェンタニル(経皮吸収型持続性疼痛治療薬)・ボリコナゾール(トリアゾール系抗真菌薬)・メトトレキサート(抗リウマチ薬/葉酸代謝拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照 上記のような薬剤を服用している患者が症状を訴えた場合、まずは(1)原因薬剤の中止・減量を行うが、原疾患の治療上、中止などの対応ができない場合、または味覚障害を起こす可能性のある薬剤を複数服用して特定が困難な場合もある。そのような場合でも(2)亜鉛剤の補給[低亜鉛血症がある場合、味蕾の再生促進を期待して補給]、(3)口腔乾燥の治療などで唾液分泌を促進させる、(4)口腔掃除とケアで対応することが必要で、とくに(1)(2)は重要度が高いと記載されている。薬物性味覚障害の初期症状を含めて患者がよく訴える症状<早期に認められる症状>薬物性味覚障害は高齢者に多く、複数の薬剤を服用しており、また発症までの時間や症状もまちまちで、初期の症状を捉えることは困難なことが多い。初期症状を含め、よく訴える症状に以下のようなものがある。 1:味(甘・塩・酸・苦)が感じにくい 2:食事が美味しくない3:食べ物の好みが変わった 4:金属味や渋味など、嫌な味がする 5:味のしないところがある 6:口が渇く<患者が訴えうる自覚症状>1:味覚減退:「味が薄くなった、味を感じにくい」2:味覚消失・無味症:「まったく味がしない」 3:解離性味覚障害:「甘みだけがわからない」4:異味症・錯味症:「しょう油が苦く感じる」 5:悪味症:「何を食べても嫌な味になる」6:味覚過敏:「味が濃く感じる」 7:自発性異常味覚:「口の中に何もないのに苦みや渋みを感じる」 8:片側性味覚障害:一側のみの味覚障害 本マニュアルには医師、薬剤師などの医療関係者による副作用の早期発見・早期対応に資するため、ポイントになる薬物性味覚障害の初期症状や好発時期、医療関係者の対応などが記載されている。 また、患者が読みやすいように、患者やその家族に知っておいてもらいたい副作用の概要、薬物性味覚障害の初期症状、早期発見・早期対応のポイントをできるだけわかりやすい言葉で記載してもいるので、ぜひ参考にしていただきたい。

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オミクロンvs.デルタ、ワクチン接種・感染歴・年齢別の入院・死亡リスク/Lancet

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の重症アウトカムのリスクについて、デルタ変異株(B.1.617.2)よりもオミクロン変異株(B.1.1.529)で大幅に低く、オミクロン変異株ではより重症度の高いエンドポイント発生が大きく低下しており、年齢間のばらつきは顕著であることなどが、英国・ケンブリッジ大学のTommy Nyberg氏らによる検討で示された。オミクロン変異株は部分的なワクチンエスケープと、高い感染性が示されているが、早期の試験でデルタ変異株よりも重症化リスクは低いことが示唆されていた。Lancet誌オンライン版2022年3月16日号掲載の報告。オミクロン変異株vs.デルタ変異株の通院、入院、死亡リスクを検証 研究グループは、デルタ変異株と比較したオミクロン変異株の重症度をよりよく特徴付けるために、通院受診、入院、死亡の相対リスクを評価する大規模全国コホート試験を行った。 2021年11月29日~2022年1月9日に、検査でCOVID-19と確認された英国住民の個人レベルデータを、ワクチン接種状況、通院受診、入院、死亡に関するルーチンデータベースと結び付け、感染確認後の14日以内の通院または入院リスク、もしくは28日以内の死亡の相対リスクを、比例ハザード回帰法を用いて推算し評価した。 解析は、試験日、10歳年齢群単位、民族、居住地域、ワクチン接種状況で層別化し、さらに、性別、複数の剥奪指数、以前の感染の有無、各年齢群で補正して行われた。副次解析では、変異株特異的およびワクチン特異的なワクチン効果、デルタ変異株と比較したオミクロン変異株固有の相対的重症度(ワクチン未接種例など)を推算した。オミクロン変異株の入院・死亡に、mRNAワクチンのブースターの有効性70%以上 デルタ変異株と比較したオミクロン変異株の、通院(入院不要と診断)の補正後ハザード比(HR)は0.56(95%信頼区間[CI]:0.54~0.58)で、入院は同0.41(0.39~0.43)、死亡は0.31(0.26~0.37)であった。 オミクロン変異株vs.デルタ変異株のHR推定値は、解析したすべてのエンドポイントで年齢によるばらつきが認められた。たとえば入院のHRは、10歳未満では1.10(95%CI:0.85~1.42)で、年齢が上がるに従って低下し60~69歳では0.25(0.21~0.30)だったが、それ以降の年齢群では増大し、80歳以上では0.47(0.40~0.56)であった。 両変異株について、以前の感染が、ワクチン接種群(HR:0.47[95%CI:0.32~0.68])とワクチン未接種群(0.18[0.06~0.57])の両症例において、死亡に対するある程度の保護効果をもたらしたことが認められた。一方で、以前の感染は、ワクチン接種によりもたらされる以上の入院に対する追加の保護効果をもたらしていなかった(ワクチン接種群のHR:0.96[0.88~1.04])。しかしながらワクチン未接種群では、以前の感染が中程度の保護効果をもたらしていた(HR:0.55[0.48~0.63])。 オミクロン変異株vs.デルタ変異株のHR推定値は、ワクチン未接種群症例での入院(0.30[95%CI:0.28~0.32])が、主要解析のすべての症例の対応するHR推定値よりも低かった。 mRNAワクチンによるブースター接種は、オミクロン症例の入院および死亡に対して非常に高い保護効果を示した(ブースター接種後8~11週間の入院のHR(vs.ワクチン未接種):0.22[95%CI:0.20~0.24])。ブースターは、1回目と2回目に使用されるワクチンによる影響はみられなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「観察されたリスクの根底には、ワクチン有効性の低下によって相殺された内因性重症度(ワクチン未接種者における)の大幅な低下がある。また、以前のSARS-CoV-2感染は、ワクチン未接種者の入院に対するある程度の保護効果と死亡に対する高い保護効果をもたらしたが、ワクチン接種者では死亡のエンドポイントについてのみ追加の保護効果をもたらしていた。mRNAワクチンのブースター接種は、新たに確認されたオミクロン変異株感染における入院および死亡について70%以上の有効性を維持することが示された」とまとめている。

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90日超のVTE経口抗凝固療法、最適薬は?/JAMA

 静脈血栓塞栓症(VTE)で入院後に長期経口抗凝固療法を受けた患者の探索的解析において、90日超の処方・投与についてアピキサバン(商品名:エリキュース)はワルファリンと比較して、再発VTEによる入院の発生割合をわずかだが有意に低下した。一方で、大出血による入院の発生割合に有意差はなかった。また、アピキサバンvs.リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)またはリバーロキサバンvs.ワルファリンのいずれの比較においても有意差はなかったという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院/ハーバード大学医学大学院のAjinkya Pawar氏らが検討結果を報告した。VTE治療ガイドラインでは、経口抗凝固薬を用いた治療は90日以上と推奨されているが、90日超の継続投与での最適な薬剤に関するエビデンスは限定的であった。JAMA誌2022年3月15日号掲載の報告。アピキサバンvs.リバーロキサバンvs.ワルファリンの探索的解析 研究グループは、再発VTE、大出血による入院、および死亡のアウトカムについて、抗凝固療法開始90日後のアピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンの処方・投与を比較する探索的後ろ向きコホート試験を行った。fee-for-service Medicare(2009~17年)および2つの民間健康保険(2004~18年)のデータベースを用い、VTEで入院・退院後に経口抗凝固療法を開始し90日超の投与が継続された成人6万4,642例を対象に、VTE治療開始90日後の処方薬アピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンについてアウトカムを比較した。 主要アウトカムは、再発VTEによる入院、大出血による入院で、傾向スコア重み付け法にて補正を行い解析した。患者は90日間の治療後も、治療中止、アウトカム発生、死亡、試験登録抹消またはデータが入手できる限り、エピソードの追跡を受けた。重み付けCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算し評価した。再発VTE入院についてのみ、アピキサバン群vs.ワルファリン群で有意差 試験には、アピキサバン群9,167例(平均年齢71[SD 14]歳、女性5,491例[59.9%])、リバーロキサバン群1万2,468例(69[14]歳、7,067例[56.7%])、ワルファリン群4万3,007例(70[15]歳、2万5,404例[59.1%])が包含された。 再発VTEに関する追跡期間中央値は109(IQR:59~228)日間、大出血に関しては同108(58~226)日間であった。 傾向スコア重み付けで補正後、再発VTE入院の発生率について、アピキサバン群はワルファリン群と比較して有意に減少したが(9.8 vs.13.5/1,000人年、HR:0.69[95%CI:0.49~0.99])、リバーロキサバン群とでは有意差は認められなかった(9.8 vs.11.6、0.80[0.53~1.19])。また、リバーロキサバン群とワルファリン群で有意差はなかった(11.6 vs.13.5、0.87[0.65~1.16])。 大出血入院の発生率は、アピキサバン群44.4/1,000人年、リバーロキサバン群50.0/1,000人年、ワルファリン群47.1/1,000人年で、アピキサバン群vs.ワルファリン群のHR(95%CI)は0.92(0.78~1.09)、アピキサバン群vs.リバーロキサバン群では0.86(0.71~1.04)、リバーロキサバン群vs.ワルファリン群では1.07(0.93~1.24)であった。

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一般的な指標だけから急性腎障害を予測できるか?(解説:今中和人氏)

 急性腎障害(AKI)発生の影響は大きい。複数の新規バイオマーカーと開心術後AKIとの関連が報告されているが、実用面のハードル(結果判明の迅速さ、検体の取り扱い、コストはスクリーニング検査として容認可能か、など)があるのか、あまり普及していない。確かに、たとえば無尿になった後に結果が出るのでは実臨床では使い物にならないが、術前血清クレアチニン(Cr)などの一般的な指標のAKI予測力は不十分である。 本論文は2000~19年のクリーブランド・クリニック本院における成人開心術5万8,526例からAKI予測モデルを作成し、その有用性を3つの関連市中病院の4,734例で確認した(術前Cr 4mg/dl以上や透析患者は除外。術中も含め早々にAKIが明らかな患者も除外)。患者背景は似通っており、年齢中央値60代後半、男性70%前後、白人が90%前後、体重は82~85kg、糖尿病は20%台で、96%が人工心肺下の手術であった。 対象アウトカムは4つで、術後72時間以内または14日以内に生じた、stage 2以上のAKIまたは透析実施とし、説明変数に術前Cr、術後1回目の採血でのCrの変動、血清アルブミン、ナトリウム、カリウム、重炭酸、尿素窒素と、手術終了から1回目の採血までの時間、を採用した。4つのアウトカムそれぞれについて係数の異なる予測数式を作成し、対象アウトカムの発生リスク1%、5%、10%、20%をメルクマールに的中率も検討した。 クリーブランド・クリニック本院では、術後72時間以内に生じたstage 2以上のAKIが4.6%、透析実施が1.48%、14日以内ではそれぞれ5.4%、1.74%であり、関連病院でもほぼ同等のアウトカム発生率だった。術後1回目の採血は、本院では中央値10時間後、関連病院では6時間後に行われた。本論文の主題である予測モデルは、本院症例で術後72時間以内のイベント発生のAUCがそれぞれ0.876、0.916、14日以内発生ではAUC 0.854、0.900で、クリーブランド・クリニックが過去に発表した予測モデル以上に精度が高かった。このモデルを関連病院症例に適用したところ、72時間以内のAUCが0.860、0.879、14日以内だとAUC 0.842、0.873と、良好な予測識別力が実証された。 そもそもAKIは主に術後のCr上昇で定義されるが、これと独立していない説明変数(もちろん、ナトリウムや重炭酸とはオッズ比が桁違い)が含まれること、本モデルはほぼ腎要因だけで構成されているが、AKI発生には人工心肺時間やカテコラミン量など、術中要因・腎前性要因の影響も大きいこと、透析開始の基準が詳述されていないこと、陰性的中率は95%以上、透析に限定すると99%以上と非常に高いが、そもそも事象発生が2%未満と少なく陽性的中率はいま一歩なことなど、気になる点は若干ある。しかし開心術後に必ずチェックし、迅速に結果が得られる指標のみで高精度にAKI発生を予測できた意義は大きい。なお近年は薬剤で尿量を確保することで、AKIはともかく透析は回避できるケースが増えているので、遠からず新バージョンが登場すると思われる。

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新型コロナワクチンからリスクとベネフィットを考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第46回

第46回 新型コロナワクチンからリスクとベネフィットを考える新型コロナとの闘いが続きます。3回目のワクチン接種の普及が鍵といわれています。小生もワクチン接種会場の問診係として何度か協力しております。接種に当たり皆に配布されるワクチンについての説明用紙に、「接種に当たっては、リスクとベネフィットをご理解いただき、納得したうえで接種してください」と記載してあることに気づき驚きました。リスクとベネフィットに基づいて、ワクチンを接種するかしないかを選択することは難しいことだと感じたからです。これは、医師や医療関係者にも難しいことで、一般市民の方々には本当に困難なことに思えます。私たちは日々の生活をしていく中でも、毎日多くのことを選択しています。晩御飯はなににするか? 肉か魚か? 肉は高価だが国産にするか外国産にするか? 休日にはどこに行こう? ディズニーランドか田舎の温泉宿か? 自分の車で行くか電車で行くか? などなど…です。選択の結果、良い結果になることもあれば悪い結果になることもあります。しかし、この程度の選択では生命を左右するほどの差異に至ることはないので気楽です。人生に大きく関わる選択もあります、この人と結婚して良いのか? もっと良い次の出会いがあるかもしれない。この課題では、選択が正しかったのか間違っていたのかの評価が困難であることと、いったん解消してリセットすることも可能な社会システムも準備されています。しかし、医療における選択は命に関わるだけに重大です。なによりも、いったん失われた命はリセットして回復させることはできません。ワクチンの接種によって得られる利益つまりベネフィットと、副反応などのリスクを比較し判断するのは、なぜ難しいのでしょうか。ワクチンは、感染症の抗菌薬や対症療法薬ではありません。すでに感染し発熱や呼吸困難に苦しむ患者の治療薬であれば、その薬剤の効果を評価することは比較的容易です。ワクチンは予防薬ですから、すでに疾患をもつ患者への治療薬のような目に見える効果がありません。ワクチンを接種して健康な生活を続ける人々は、「俺はワクチンを打たなくても感染もしなかったし元気でいた」と思うのです。責めるわけではありません。それが人間です。健康な人は、感染症予防や感染症拡大の抑制といったワクチンの役割に気づくことはありません。ワクチンのベネフィットは、ワクチンを接種した人としなかった人での、感染率や死亡率の差異などの疫学的に正確に収集したデータに拠らなければ判明しません。こういったデータに基づく地味な情報を粛々と報じて、わかりやすく解説する成熟した報道機関が期待される由縁です。一方で、ワクチンの副反応などのリスクは可視化が容易です。ワクチン接種後の、心筋炎や心膜炎などの個々の症例の情報はソーシャルメディアなどを通して拡散しがちです。これにより、ワクチン接種を躊躇したり、懸念を示したり、あるいは接種に強く反対したりする人々が増える可能性があります。実際に、ワクチン後の心筋炎はゼロではありません。その点について、日本循環器学会は声明を発表しています。一部を紹介します(2022年3月12日日本循環器学会ホームページ確認)。新型コロナウイルスワクチン接種後の急性心筋炎と急性心膜炎の発症率は、新型コロナウイルス感染後の急性心筋炎と急性心膜炎の発症率に比較して極めて低い。新型コロナウイルスワクチン接種後に発症する急性心筋炎と急性心膜炎の大半は軽症である。新型コロナウイルスワクチン接種による利益は、ワクチン接種後の急性心筋炎と心膜炎の危険性を大幅に上回る。さらにワクチン接種のリスクとベネフィットを複雑にするのが集団免疫という概念です。ワクチンは集団免疫として働きますので、ワクチンの接種率も重要です。例えば、自分勝手な独裁者は、ワクチンを接種しなくとも自分以外の全員にワクチンを強制的に接種させればワクチンの利益を享受することができます。ワクチンは、背景因子によって医学的に接種できない人が一定数いますので、可能な人は受けていただきたい理由です。ワクチンを接種しないという意思決定は個人的な選択のように見えますが、集団免疫のため他者への影響を伴うものであることを認識すべきです。ワクチン接種は幅広い社会における義務の一部という考えの背景です。今回は、新型コロナのワクチンをめぐってのリスクとベネフィットを考えてみました。話を変えます。とっても変な夢を見ました。オリンピックの開会式などで鳩が一斉に放たれ競技場から飛び去る状況はイメージできると思います。自分の見た夢を紹介します。世の中の人すべてがマスクをはずし捨て去ると、そのマスクがあたかも鳩が離散するかのようにヒラヒラと天高く消え去っていくシーンです。これは、きっと正夢に違いありません。コロナ収束を願っております。

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関節型若年性特発性関節炎〔pJIA:Polyarticular Juvenile Idiopathic Arthritis〕

1 疾患概要■ 定義・分類若年性特発性関節炎(JIA)は16歳未満に発症し6週間以上持続する原因不明の慢性関節炎の総称である。発症から6ヵ月までの臨床像から、(1)全身型、(2)少関節炎、(3)rheumatoid factor(RF)陰性多関節炎、(4)RF陽性多関節炎、(5)乾癬性関節炎、(6)腱付着部炎関連関節炎、(7)分類不能型の7病型に分類され1)、また治療の視点から、全身型、関節型、症候性の3つに整理されている(図1)。図1 JIAの病型分類と関節型JIAの位置付け画像を拡大する6歳未満に発症した原因不明の慢性関節炎は、発症から6ヵ月以内の臨床症状や検査所見から7病型に分類される。また、治療の観点から、全身型JIA、関節型JIA、症候性JIAの3つに分類するが、このうち関節型JIAとは、主に少関節炎JIA、RF陰性およびRF陽性多関節炎JIAを指し、全身型JIAで発症し、全身症状が消退しても関節炎が遷延するものも含まれる。関節型JIAとは、主に(2)少関節炎JIAと(3)RF陰性および(4)RF陽性多関節型JIAの3病型を指す。少関節炎JIAと多関節炎JIAは炎症関節の数で区分されており、前者は4関節以下、後者は5関節以上と定義されている。また、(1)全身型JIAの約20%は、その後、全身症状(発熱、皮疹など)を伴わず関節炎が遷延する経過をとるため(全身型発症多関節炎)、関節型JIAに含められている。■ 疫学わが国のJIAの有病率は小児10万人当たり8.8~11.6と報告され、推定患者数は2,893人である。また、JIAの病型の比率2)は、全身型41.2%、少関節炎20.2%、RF陰性多関節炎13.7%、RF陽性多関節炎18.2%であることから、関節型JIAの患者数は約1,700人程度と推定される。■ 病因関節型JIAの病因は不明であるが、抗核抗体陽性例が多い少関節炎JIAやRF陽性多関節炎JIAは自己免疫疾患の1つと考えられている。また、後述する生物学的製剤biologic disease modifying anti-rheumatic drugs(bDMARDs)の有効性から、関節型JIAの病態形成にTNFやIL-6などの炎症性サイトカインや、T細胞活性化が関与していることは明らかである。■ 症状1)関節症状関節は腫脹・発赤し、疼痛やこわばり、痛みによる可動域制限を伴う。関節炎は、少関節炎JIAでは大関節(膝、足、手)に好発し、多関節炎JIAではこれに小関節(指趾、頸椎など)が加わる。しかし、小児では本人からの関節症状の訴えは少ない。これは小児では痛みを具体的に説明できず、痛みを避ける動作や姿勢を無意識にとっているためと考えられる。そのため、起床時の様子や午前中の歩行容姿、乳児ではおむつ交換時の激しい啼泣などから、保護者が異常に気付くことが多い。2)関節外症状関節症状に倦怠感や易疲労感を伴う。関節症状と同様、倦怠感は起床時や午前中に強いが、午後には改善して元気になる。そのため、学校では午前中の様子をさぼりや無気力と誤解されることがある。微熱を伴うこともあるが高熱とはならず、皮疹もみられない。少関節炎JIAを中心に、JIAの5~15%に前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)がみられる。関節炎発症から6年以内に発症することが多く、発症リスクとして、4歳未満発症と抗核抗体陽性が挙げられている。また、発症早期には自覚症状(眼痛、羞明)に乏しい。そのため、早期診断には眼症状がなくても定期的な眼科検診が欠かせない。■ 予後適切な治療により長期寛解が得られれば、JIAの約半数は無治療寛解(off medication寛解)を達成する。ただその可能性は病型で異なり、少関節炎JIAやRF陰性多関節炎では過半数が無治療寛解を達成するが、RF陽性多関節炎JIAや全身型発症多関節炎JIAでは、その達成率は低い(図2)。完治困難例の関節予後は不良であり、不可逆的な関節破壊による機能障害が進行し、日常生活に支障を来す。しかし、わが国では2008年にJIAに対する最初のbDMARDsが認可され、今後は重篤な機能障害に至る例は減少することが期待されている。少関節炎JIAに好発するぶどう膜炎は治療抵抗性であり、ステロイド点眼で寛解しても減量や中止後に再燃を繰り返す。そのため、眼合併症(帯状角膜変性、白内障、緑内障など)が経過とともに顕在化し、視機能が障害される。ぶどう膜炎についても、2016年にbDMARDsの1つであるアダリムマブ(adalimumab:ADA)が非感染性ぶどう膜炎で認可され、予後の改善が期待されている。図2 JIAの病型別累積無治療寛解率画像を拡大する鹿児島大学小児科で治療した全身型89例および多関節型JIA196例、合計285例のうち、すべての治療を中止し、2年間寛解状態を維持したものを、無治療寛解と定義し、その累積達成率を病型毎に検討した。その結果、JIA285例全体の累積無治療寛解率は罹病期間5年で33.1%であったが、病型別の達成率では、RF陽性多関節炎JIAと全身型発症多関節型JIAで低値であった。* 全身型で発症し、全身症状消失後も関節炎が遷延する病型**全身型で発症し、疾患活動期には関節炎と全身症状を伴う病型2 診断 (検査・鑑別診断も含む)持続する原因不明の関節炎がJIAの必須要件であるが、特異的な所見に乏しいために診断基準は確立されていない。したがって、臨床症状や検査所見を参考にJIAの可能性を検討し、鑑別疾患を除外して初めて診断される。■ 臨床症状関節炎は固定性・持続性で、しばしば倦怠感や易疲労性を伴う。関節症状(関節痛、こわばり感)は起床時や朝に強く、時間とともに改善する。高熱や皮疹はみられない。■ 検査所見抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody :ACPA)が陽性であればRF陽性多関節炎JIAの可能性が高い。一方RFは、RF陽性多関節炎JIAでは必須であるが、他のJIA病型では陰性であり、むしろシェーグレン症候群や混合性結合組織病での陽性率が高い。したがって、ACPAやRFが陰性でもJIAを否定できず、少関節炎JIAやRF陰性多関節炎JIAの可能性を検討する必要がある。MRIや関節エコー検査における肥厚した関節滑膜や炎症を示唆する所見は、関節型JIAの早期診断に有用であるが、JIAに特異的な所見ではない。一方、X線検査による関節裂隙の狭小化や骨糜爛などの破壊像はJIAに特異性が高いものの、早期診断には役立たない。MMP-3の増加は関節炎の存在や関節破壊の進行予知に有用である。しかし、健康幼児のMMP-3はほとんどが測定感度以下であるため、正常値であっても慎重に判断する。また、MMP-3の評価にはステロイドの影響を除外する必要がある。■ 鑑別疾患小児の関節痛に対する鑑別疾患を、疼痛部位や臨床経過、随伴症状、検査所見を含めて図3に示す。図3 疼痛部位や経過、臨床所見からみた小児の関節痛の鑑別疾患画像を拡大する年齢別には、乳幼児では悪性疾患(白血病)や自己炎症性疾患、年長児では他の膠原病やリウマチ性疾患、線維筋痛症、悪性疾患(骨肉腫)などを中心に鑑別する。一方、感染症や若年性皮膚筋炎との鑑別は全年齢にわたって必要である。関節炎に発熱や皮疹を伴う場合は、皮膚筋炎や全身性エリテマトーデスなどの膠原病疾患だけでなく、全身型JIAやブラウ症候群などの自己炎症性疾患を鑑別する。特に白血病や悪性疾患については、JIAとして治療を開始する前に除外しておくことは重要である。白血病を含む小児腫瘍性疾患1,275例を検討した報告では、発症時に関節炎を伴う例が102例(8%)存在し、これを関節型JIA 655例と比較したところ、「男児」、「単関節炎」、「股関節炎」、「全身症状」、「夜間痛や背部痛」が悪性疾患のリスク所見であった。特に白血病の初期は末梢血が正常であることが多く、骨髄検査で除外しておくことが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療目標関節型JIAの治療目標は関節炎病態に寛解を導入し、破壊性関節炎の発生や進行を抑止することである。一方、JIAの約半数は、治療寛解を長期維持した後に治療中止が可能で、その後も再燃せずに無治療寛解を維持する(図2)。そのため、関節型JIAにおいても、その最終的な治療目標は永続性のある無治療寛解(完治cure)であり、この点がRAとの最も大きな違いである。■ 治療評価1)診察時の評価関節痛や倦怠感、朝のこわばりの持続時間などで評価する。小児では訴えが不明確で評価が難しため、保護者からもたらされる日常生活の情報(歩行容姿や行動量などの変化)が参考になる。理学所見では、活動性関節炎(関節腫脹や圧痛)の数や、関節可動域の変化で評価する。検査では、炎症指標(CRP、赤沈、血清アミロイドA)やMMP-3、関節エコー所見などが参考になる。2)疾患活動性の総合評価27関節を評価するJuvenile Arthritis Disease Activity Score(JADAS)27が臨床評価に用いられている(図4)3)。RAで用いられるDAS28と異なり、少関節炎JIAで好発する足関節炎の評価が可能である。JADAS27の評価項目はVisual analog scale (VAS、0-10cm)による(1)医師および(2)患児(または保護者)の評価、(3)活動性関節炎数(0-27)、(4)標準化赤沈値([1時間値-20]/10、0-10)の4項目からなり、その合計スコア値(0-57)で評価する。なお、活動性関節炎とは、関節の腫脹または圧痛がある関節、圧痛がない場合は伸展屈曲負荷をかけた際に痛みがある関節と定義されている。また、JADAS27から標準化赤沈値を除いたスコア値を用いて、疾患活動性を寛解、低度、中等度、高度の4群にカテゴリー化するcut-off値も定義されている。3)寛解の種類と定義臨床寛解(clinical inactive disease)の定義は、(1)活動性関節炎、(2)活動性のぶどう膜炎、(3)赤沈値およびCRP値の異常、(4)発熱、皮疹、漿膜炎、脾腫、リンパ節腫脹がなく、(5)医師による総合評価が最小値で、(6)朝のこわばりが5分以下の6項目をすべて満たした状態である。また、この臨床寛解を治療により6ヵ月以上維持していれば治療(on medication)寛解、治療中止後も1年以上臨床寛解を維持していれば、無治療(off medication)寛解と分類される。図4 JADASを用いた関節型JIAの疾患活動性評価画像を拡大する医師および患児(または保護者)による総合評価、活動関節炎数、標準化赤沈値の集計したスコア値で疾患活動性を評価する。JADASには評価関節の数により、JADAS71、JADAS27、JADAS10の3つがあるが、臨床現場ではJADAS27が汎用されている。JADAS27では、DAS28で評価しない頸椎、両股関節、両足関節を評価する一方、DAS28で評価する両側の4-5MP関節、両肩関節は評価しない。疾患活動性を寛解、低活動性、中等度活動性、高度活動性の4群に分類する場合、標準化ESR値を除いた3項目の合計スコア値を用いる。その際のスコア値は、関節炎数が4関節以下の場合は、それぞれ0~1、0~1.5未満、1.5~8.5未満、8.5以上、関節炎数が5関節以上の場合は、それぞれ0~1、0~2.5未満、2.5~8.5未満、8.5以上と定義されている。■ 治療の実際(図5)4)関節型JIAの3病型のいずれも、以下の手順で治療を進める。また、治療開始後の臨床像の変化を、症状、理学所見、検査値、関節エコー、JADAS27などで評価し、治療の有効性と安全性を確認しながら治療を進める。図5 関節型JIAの治療手順画像を拡大する治療目標は無治療寛解である。予後不良因子のあるhigh risk群では、初期治療からNSAIDsにcsDMARDs(第1選択薬はMTX)を併用し、無効であれば生物学的製剤bDMARDsの追加併用を検討する。1)初期治療(1)1stステップ関節痛に対し、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を開始するとともに、予後不良因子(RF、ACPA、関節破壊像、日常生活に重要な頸椎・股・手関節などの関節炎)の有無を検討する。JIAに保険適用のあるNSAIDsは、イブプロフェン(30~40mg/kg/日、分3、最大2,400mg/日)とナプロキセン(10~20mg/kg/日、分2、最大1,000mg/日)に限られている。また、NSAIDsで疼痛コントロールが不十分でQOLが著しく低下している場合、少量ステロイド薬(glucocorticoid:GC)を併用することがある。ただ、GCはその強い抗炎症作用でCRP値や関節痛を改善させても、関節炎病態を寛解させない。そのためGCは2ndステップの治療効果が確認されるまでの橋渡し的な使用に限定すべきであり、漫然と継続してはならない。予後不良因子がある場合は、速やかに2ndステップの治療を開始する。予後不良因子がない場合はNSAIDsのみで経過を診るが、2週間経過しても改善が得られなければ、2ndステップの治療に移行する。(2)2nd ステップ従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(conventional synthetic disease modifying anti-rheumatic drugs:csDMARDs)をNSAIDsに追加併用する。第1選択薬はメトトレキサート(methotrexate:MTX)であり、globalな標準投与量は有効血中濃度(ピーク値5.8×10-7moles/L以上)が得られる10~15 mg/m2/週(分1、空腹時投与)である5)。しかし、わが国でのJIAでの承認投与量は4~10mg/m2/週であるため、MTX10mg/m2を週1回、空腹時に分1で投与するのが一般的な投与法である。また、副作用軽減を目的にフォリアミン5mgをMTX投与翌日に投与する。このMTXの投与量10mg/m2は、平均的な体格の小学生1年生で8mg、中学生1年生で15mgに相当する。RAでの上限投与量が16mgであることを考えれば、成人より相対的に高用量であるが、これは小児では、MTXの腎排泄が成人と比べて早いためである。そのため、小児では腎障害や骨髄抑制の発生は少ない。また、高齢者に多いMTXによる肺障害も極めてまれである。小児での主な副作用は嘔気や気分不良で、中学生以降の年長児ではほぼ必発である。そのため、訴えの強い小児では制吐剤の併用、就寝前の服用、剤型の変更などを検討する。なお、DMARDsには既感染の結核やB型肝炎ウイルス(HBV)を再活性化させる可能性がある。そのため、投与開始前に結核(T-spotや胸部Xp/CT)やHBV関連抗原/抗体(HBsAg、HBsAb、HBcAb)の検査を行って感染の有無を確認する。また、トキソプラズマやサイトメガロウイルス、ニューモシスチス肺炎や他の真菌感染症(β-D-glucan)の有無を検討しておくことも必要である。MTX開始後2ヵ月経過しても十分な効果が得られない場合、MTXを他のcsDMARDs (サラゾスルファピリジン[sulfasalazine]やイグラチモド[iguratimod/商品名:ケアラム]など)へ変更する選択肢もある。しかし、海外でその推奨度は低く、またcsDMARDsの効果発現までさらに数ヵ月を要すること、わが国ではJIAに保険適用のあるcsDMARDsはMTX以外にはないこともあり、他のcsDMARDsへの変更は現実的ではない。したがって、次の治療ステップである生物学的製剤(bDMARDs)の追加併用を検討する。(3)3rdステップ関節型JIAに保険適用のあるbDMARDsは、TNF阻害薬のエタネルセプト(Etanercept :ETA)とアダリムマブ(Adalimumab:ADA)、IL-6阻害薬のトシリズマブ(Tocilizumab :TCZ/同:アクテムラ)、T細胞選択的共刺激調整剤のアバタセプト(Abatacept:ABT/同:オレンシア)の4製剤のみである(表)。表 関節型JIAに保険適用のある生物学的製剤画像を拡大するa)TNF阻害薬ETNはTNF受容体(TNF-R2)とヒトIgG1Fcとの融合蛋白製剤であり、血中のTNFα/βと結合することで標的細胞表面上のTNF R2との結合を阻害し、TNFによる炎症誘導シグナルの伝達を抑制する。半減期が短く、0.4mg/kgを週2回皮下注で投与する。JIAで認可された剤形はETNを凍結乾燥させたバイアル製剤のみであり、家族が投与前に溶解液を調合する必要があった。その後、2019年にETN注射液を容れた目盛付きシリンジ製剤(同:エタネルセプトBS皮下注シリンジ「TY」が、また2022年にはエタネルセプトBS皮下注シリンジ「日医工」)がバイオシミラー製剤としてJIAで保険適用を取得し、利便性が向上した。ADAはTNF-αに対する完全ヒト型モノクローナル抗体で、中和抗体として標的細胞上のTNFα受容体へのTNF結合を阻害する。また、TNF産生を担う活性化細胞膜上に発現したTNFαとも結合し、補体を介した細胞傷害性(ADCC)によりTNF産生を抑制する。投与量は固定量で、体重30kg未満では20mgを、体重30kg以上では40mgを、2週毎に皮下注で投与する。わが国のJIA375例を対象とした市販後調査では、投与開始24週後のDAS寛解(DAS28-4/ESR<2.6)達成率は、治療開始時の21.7%から74.7%に増加し、また難治性のRF陽性多関節炎JIAや全身型発症多関節炎JIAにおいても、それぞれ61.9%、80.0%まで増加した。この市販後調査は、前向きの全例調査であることから、臨床現場(real world)での治療成績と考えられる。b)IL-6阻害薬TCZはIL-6受容体に対するヒト化モノクローナル抗体である。細胞膜上のIL-6受容体および流血中のsoluble IL-6受容体と結合し、IL-6のシグナル伝達を阻害し、炎症病態を制御する。4週ごとにTCZ 8mg/kgを点滴静注で投与する。RAに保険適用のある皮下注製剤や、TCZと同じ作用機序をもつサリルマブ(sarilumab/同:ケブザラ)はJIAでは未承認である。多関節型JIA132例を対象とした市販後調査(中間報告)では、投与開始28週後の医師による全般評価は、著効53%、有効42%であり、あわせて90%を超える例が有効と判断された。また、投与前と投与28週後の関節理学所見の変化を57例で検討すると、疼痛関節数(平均)は5.3から1.5へ、腫脹関節数(平均)は5.6から1.6へ減少し、赤沈値も32mm/時間から5mm/時間へと改善した。c)T細胞選択的阻害薬ABTはcytotoxic T lymphocyte associated antigen-4(CTLA-4)とヒトIgG1-Fcとの融合蛋白(CTLA-4-Ig)であり、抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)のCD80/86と強力に結合する。そのため、APCのCD80/86とT細胞のCD28との結合で得られる共刺激シグナルが競合的に遮断され、T細胞の過剰な活性化が抑制される。1回10mg/kgを4週ごとに点滴静注で投与する。皮下注製剤はJIAでは未承認である。1剤以上のcsDMARDに不応な関節型JIA190例を対象とした海外での臨床試験では、ACRpedi 50/70/90改善の達成率は投与4ヵ月時点でそれぞれ50/28/13%であった。また、引き続き行われた6ヵ月間のdouble blind期間においてABT群はプラセボ群と比較して有意な寛解維持率を示した。さらにその後の長期投与試験では、4年10ヵ月の時点でのACRpedi 50/70/90改善達成率はそれぞれ34/27/21%であり、有効性の長期継続が確認された。2)bDMARDs不応例の治療bDMARDs開始後は、その有効性と安全性を監視する。初めて導入したbDMARDsの投与開始3ヵ月後のDAS28が2.49以下であれば、2年以上の寛解が期待できるとした報告がある。しかし、臨床所見やJADASやDAS28スコアの改善が不十分で、bDMARDs不応と思われる場合は、治療変更が必要である。その際は、作用機序の異なる他のbDMARDsへのスイッチが推奨されている。Janus kinase(JAK)阻害薬は、分子標的合成(targeted synthetic:ts)DMARDsに分類され、bDMARDs不応例に対するスイッチ薬の候補である。JAKは、IL-2、 IFN-γ、IFN-αs、IL-12、IL-23、IL-6などの炎症性サイトカインの受容体に存在し、ATPと結合してそのシグナルを伝達する。JAK阻害薬はこのATP結合部位に競合的に結合し、炎症シグナル伝達を多面的に阻害することで抗炎症作用を発揮する。また、低分子化合物であるため内服で投与される。Rupertoらは、多関節炎JIA225例(関節型JIA184例、乾癬性関節炎20例、腱付着部炎関連関節炎21例)を対象にトファシニチブ(tofacitinib:TOF/同:ゼルヤンツ)の国際臨床試験を行った。まず18週にわたりTOF5mgを1日2回投与し、ACR30改善達成例を実薬群72例とプラセボ群70例の2群に分け、その後の再燃率を44週まで検討した。その結果、TOF群の再燃率は29%と低く、プラセボ群の53%と有意差を認めた(hazard比0.46、95%CI 0.27-0.79、p=0.0031)。現在、JIAに保険適用のあるJAK阻害薬はないが、バリシチニブ(baricitinib)の国際臨床試験がわが国でも進行中である。4 今後の展望疫学研究では、JIAを含む小児リウマチ性疾患の登録が進められている(PRICURE)。臨床研究では、前述のように関節型JIAに対するJAK阻害薬のバリシチニブの国際臨床試験が進行中である。5 主たる診療科小児科であるが、わが国の小児リウマチ専門医は約90名に過ぎず、また専門医のいる医療機関も特定の地域に偏在している。そのため、他の領域に専門性を持つ多くの小児科専門医が、小児リウマチ専門医と連携しながら関節型JIAの診療に携わっている。日本小児リウマチ学会ホームページの小児リウマチ診療支援MAPには、小児リウマチ診療に実績のある医療機関が掲載されている。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会 小児リウマチ診療支援MAP(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児リウマチ性疾患国際研究組織(PRINTO)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報JIA家族会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Petty RE, et al. J Rheumatol. 2004;31: 390-392.2)武井修治,ほか. 小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究, 平成19年度総括・分担研究報告書2008.2008.p.102-111.3)Consolaro A, et al. Arthritis Rheum. 2009;61:658-666.4)小児リウマチ調査検討小委員会. 全身型以外の関節炎に対する治療、若年性特発性関節炎初期診療の手引き2015. メディカルレビュー社;2015.p.59-66.5)Wallace CA, et al. Arthritis Rheum. 1989;32:677-681.公開履歴初回2022年3月23日

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新しい慢性めまい疾患「PPPD」とは?【知って得する!?医療略語】第8回

第8回 新しい慢性めまい疾患「PPPD」とは?新しいめまいの疾患概念が登場したって本当ですか?めまいに関して、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)という疾患概念が確立し、耳鼻科系医学誌を中心に注目されています。そのため、複数の診療科が関与しうるPPPDは、多くの医師が知っておくと良いかもしれません。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】PPPD【日本語】持続性知覚性姿勢誘発めまい【英字】Persistent Postural-Perceptual Dizziness【分野】脳神経・心療内科【診療科】耳鼻科・精神科【関連】視覚起因性めまい VV(visual vertigo)恐怖性姿勢めまいPPV(phobic postural vertigo)空間と動きの不快感 SMD(space motion discomfort)慢性自覚性めまい CSD(chronic subjective dizziness)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。めまいは多くの臨床医が遭遇する症状の1つですが、慢性的めまいに関して、近年注目されている『持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD:Persistent Postural-Perceptual Dizzines)』は、耳鼻科医のみならず内科、心療内科、精神科、リハビリ科など複数診療科の医師が関わる可能性のある疾患のため、取り上げたいと思います。PPPDは2017年にBarany学会から診断基準が提示された新しい慢性めまいの疾患です。診断基準は、日本語版が日本めまい平衡医学会から示されており、「3ヵ月以上持続する浮遊感」「不安定感」「非回転性めまい」を主訴に、体動や動く物体を見たとき、あるいは複雑な視覚パターンを見たときに増悪します。筆者が経験した患者2名は、縞模様の物をみると、明らかな症状の増悪があり、1名は前庭片頭痛が前駆していました。両名とも日常生活や仕事に大きな支障がありました。慢性めまいの39%がPPPDだったとする報告もあり、慢性めまいの鑑別として重要です。PPPDに特徴的な検査異常はなく、臨床症状と経過より診断します。PPPDの治療法は、抗うつ薬や抗不安薬による薬物治療と、認知行動療法・前庭リハビリテーションによる非薬物治療があります。PPPDを認識しておくことは有用だと思います。お時間が許せば、下の総説論文で詳細をご確認ください。1)堀井 新. 日耳鼻. 2020;123:170-172.2)五島 史行. 日耳鼻. 2021;124;1467-1471.

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第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感

18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」がやっと解除こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月21日、18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」が解除されました。全面解除は実に約2ヵ月半ぶりです。ただ、これからの時期、お花見、春休み、新学期、新年度などで宴会や移動が活発化します。「第7波」に備えた体制は怠りなく進めておく必要がありそうです。ところで、先週のこのコラムで、「鈴木 誠也選手はサンディエゴ・パドレス、菊池 雄星投手はトロント・ブルージェイズと合意したとの報道もありました」と書きましたが、鈴木選手の情報は一部スポーツ紙の勇み足による“誤報”でした。その後、鈴木選手は歴史あるシカゴ・カブスと合意、契約しました。契約金は5年総額8,500万ドル(約101億3,000万円)と伝えられており、日本人野手の渡米時の契約としては、4年総額4,800万ドルの福留 孝介(当時、カブス)を上回る史上最高額とのことです。カブスと言えば「ヤギの呪い(Curse of the Billy Goat)」で有名なチームです。鈴木選手が何らかの呪いに襲われることなく、大活躍することを願っています(「ヤギの呪い」自体は2016年のワールドシリーズ優勝で解けたと言われていますが…)。さて、今回も前回に引き続き、少し趣向を変え、最近私や知人が体験した“アカン”医療機関について、書いてみたいと思います。【その3】オンライン診療ゆえの“マイルド”処方に困った友人新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に感染した友人の話です。症状は軽快し、PCR検査も陰性となって療養解除となったのですが、数週間経ってもひどい咳がなかなか止みません。とくに夜間がひどく、「これは『いつもの処方』が必要だ」と感じた彼は、時節柄、外来診療ではなく近所のクリニックでオンライン診療を受けることにしました。「いつもの処方」とはステロイド内服薬の服用です。これまでも風邪などで気管支がひどくやられると、炎症が治まらずひどい咳が遷延することがたびたびありました。そんなときだけ、知り合いの呼吸器内科医に頼んで、ステロイド(プレドニゾロンなど)を頓服で処方してもらっていたのです。ただ、その呼吸器内科医は最近、遠方の病院に異動してしまったため、今回は渋々、呼吸器内科も標榜し、オンライン診療にも対応している近所のクリニックをネットで見つけ、受診することにしたわけです。ステロイド内服薬を出せない、出さないオンライン診療医LINEを用いてのオンライン診療は、初めての体験でとても緊張したそうです。これまでの咳治療の経験も詳しく説明し、「スパッ」と咳が止まるステロイド内服薬の処方を頼んでみたのですが、願いは叶えられなかったそうです。「結局、吸入薬のサルタノールインヘラーとツムラ麦門冬湯エキス顆粒が出されただけだった。粘ってみたんだけど…」と友人。サルタノールインヘラーは、β2アドレナリン受容体刺激剤です。ステロイドも入っている吸入薬(ブデホルなど)もあるはずなのに、それも避け、漢方を気休めに上乗せするというのは、幾多のしつこい咳と戦ってきた彼にとっては、効き目があまり期待できない“マイルド”過ぎる処方でした。「オンラインで初診だと、マイルドで安全な処方をしたくなるのはわかるが、患者側の意見もきちんと聞いて欲しい。これで咳にまだ数週間悩まされると思うとウンザリだ。結局、次は外来に来てくれと言われたし…」と、オンライン診療に不満たらたらの友人でした。処方箋が届いたのは診療から5日後実はこの話、これだけで終わりませんでした。水曜日にオンライン診療を受診し、「処方箋は郵送します」と言われたのですが、2日後の金曜になっても処方箋が届かなかったのです。金曜夕刻に診療所に電話すると、夜8時過ぎに、クリニックの事務職員が薬(おそらく院内調剤)を持って自宅にやって来たそうです。「処方箋はちゃんと郵送したのですが」と弁明する職員でしたが、現物が届いたのは翌週月曜でした。これは全く“アカン”ですね。最終的に彼は、最初の処方では全く軽快しませんでした。翌週末に外来を訪れ、今度はステロイドも入ったブデホルを入手することができ、その後徐々に快方に向かったそうです。新しいタイプの“粗診粗療”が増えるのではオンライン診療については、処方箋のやり取りと、薬剤のデリバリーが障害になることがある、とも聞きます。クリニックから薬局にファクスやメールで処方箋を送るにしても、その薬局が患者の近所にあるか、宅配を行っていなければなりません。また、そうしたオンライン診療の処方箋に対応できる“かかりつけ”薬局を持っている人もまだ多くはありません。診療から薬剤入手までのインターバルの解消は、オンライン診療普及に向けた大きな課題の一つでしょう。オンライン診療については、「第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント」でも詳しく書きました。こうした新しい動きに対し、日本医師会の今村 聡副会長は3月2日の定例会見で、自由診療下でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬のダイエット目的での不適切処方が横行している状況について問題提起をしました。今村氏は、「本来の治療に用いる医薬品が不適切に流通して健康な方が使用してしまうというような状況は、国民の健康を守るという日本医師会の立場としては看過できない」と話したとのことです。オンライン診療のこうした“悪用”は確かに問題ですが、私自身は、逆に友人が経験したような、対面でないために慎重になり、治療効果が低い、“マイルド”過ぎる薬剤を処方してしまうという、新しいタイプの“粗診粗療”が増えることを危惧しています。ステロイドと同様、抗菌薬も初診からの投与を嫌う医師が多い印象があります。診断が適切なら問題はないのですが、結局、2回目からはリアルの対面受診を余儀なくされ、本来服用が必要な薬にたどり着くまでに通院回数が増えるとしたら、オンライン診療のメリットはほぼないに等しいと思うのですが、皆さんどうでしょう。次回も、引き続き“アカン”医療機関を紹介します(この項続く)。

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初発統合失調症の抗精神病薬早期減量に伴う治療中止や入院リスク

 初回エピソード統合失調症患者に対する抗精神病薬の早期減量が、治療中止や精神科入院リスクに及ぼす影響について、韓国・蔚山大学校のSung Woo Joo氏らが調査を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2022年3月1日号の報告。 対象は、韓国・Health Insurance Review Agencyデータベースを用いて抽出された初回エピソード統合失調症患者1万6,153例。診断後6ヵ月時点での減量幅により3群に分類した(非減量群、50%以下減量群、50%超減量群)。非減量群を参照群とし、診断6ヵ月後より1年間のフォローアップ期間中における抗精神病薬の減量に関連する治療中止および精神科入院リスクを評価するため、最初の3ヵ月間の1日平均オランザピン換算量(10mg未満、10~20mg、20mg超)で層別化されたCox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・50%超減量群では、すべてのサブグループにおいて治療中止リスクが高かった。 ●平均オランザピン換算量10mg未満/日(ハザード比[HR]:1.44、95%信頼区間[CI]:1.24~1.67、p<0.01) ●平均オランザピン換算量10~20mg/日(HR:1.60、95%CI:1.37~1.86、p<0.01) ●平均オランザピン換算量20mg超/日(HR:1.62、95%CI:1.37~1.91、p<0.01)・平均オランザピン換算量10mg未満/日のサブグループでは、抗精神病薬50%以下の減量と治療中止リスクの増加との関連が認められた(HR:1.20、95%CI:1.09~1.31、p<0.01)。・50%超減量群では、平均オランザピン換算量10mg未満/日のサブグループでのみ、入院リスクの増加との関連が認められた(HR:1.48、95%CI:1.21~1.80、p<0.01)。 著者らは「本結果より、精神科入院リスクを抑制するためには、一定量の抗精神病薬治療が必要であり、抗精神病薬の大幅な減量は、治療中止リスクを上昇させる可能性が示唆された」としている。

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リハビリテーションでの感染症対応の指針まとまる/日本リハビリテーション医学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防では、人と人との間に距離をとることが推奨されているが、理学療法や運動療法では患者の体を支えたりする必要もあり難しい。そのためCOVID-19に感染する、感染させるリスクが日常生活に比べて高くなる。 日本リハビリテーション医学会(理事長:久保 俊一氏[京都府立医科大学])は、2022年2月21日に「日本リハビリテーション医学会 感染対策指針 COVID-19含む」を制作、同学会のホームページで公開した。 本指針は、リハビリテーション診療患者と医療従事者の距離が近く、接している時間も長時間となることに鑑み、同学会診療ガイドライン委員会において、新興感染症などに対応した医療関連感染対策の指針が必要と判断され、策定が決定されたもの。COVID-19だけでないリハビリテーションでの感染症対策 主な内容は次の通り。1)平常時対応・(平常時の)標準予防策、経路別予防策は?・(平常時)の職員教育の方法は?2)新興・再興感染症・新興・再興感染症にはどのようなものがあり、どのような感染予防策が必要か?3)COVID-19蔓延期・地域での対応・入院リハビリテーションに際する対応は?・外来リハビリテーションに際する対応は?・訪問リハビリテーションに際する対応は?・通所リハビリテーションに際する対応は?・発熱や上気道症状などCOVID-19を疑う症状を呈している患者への対応は?・職員の健康管理はどのように行うか?・家族との面談方法は?・外部関係者との面会・手続きは?・その他の対応は?4)COVID-19確定症例との濃厚接触・COVID-19患者との濃厚接触の定義は?・濃厚接触者となった患者への対応は?・濃厚接触者となった職員の就業は?5)COVID-19確定症例の対応・COVID-19と診断された患者の訓練はどのように行うか?レッドゾーンの中でリハビリテーションを行う際の感染対策は?・COVID-19と診断された場合、特別な対策が必要な期間は? 同学会では、指針の利用にあたり「2021年12月での一般論をまとめたものであり、各医療機関内に設定されている感染対策指針がある場合には、そちらが優先される」としている。また、「医療関連感染対策の基本は、すべての職員が、すべての患者・利用者に対して基本的手順を確実に実施することにあり、医療機関ごとに設定された指針を熟知し、それを遵守することが必須である」とし、医療関連感染において、「リハビリテーション診療はハイリスク領域であり、そのことを十分に認識して診療にあたる必要で、医療関連感染対策の推進のため、本指針を役立てて欲しい」と記している。

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がん悪液質におけるアナモレリンのレスポンダー(ONO-7643-04)/日本臨床腫瘍学会

 がん悪液質の国内第II相プラセボ対照比較ONO-7643-04試験における、アナモレリン奏効患者のサブ解析が、第19回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2022 )で静岡県立静岡がんセンターの内藤立暁氏により発表された。ONO-7643-04試験のサブ解析、アナモレリンが優越性示す ONO-7643-04試験のサブ解析の結果、ほとんどのサブグループでアナモレリンの優越性が示された。ただし、PS不良例など一部のサブグループでの優越性の低さが示されている。・対象:非小細胞肺がんに関連するがん悪液質患者(n=174)・試験薬群:アナモレリン(n=84)・対照群:プラセボ(n=90)・評価項目:除脂肪体重(LBM)、体重、食欲に対する奏効率、OOLなど ONO-7643-04試験のアナモレリン奏効患者におけるサブ解析の主な結果は以下のとおり。・除脂肪体重に関する全体の奏効率はアナモレリン群64.4%に対しプラセボは28.9%、オッズ比(OR)は4.41で、アナモレリン群で有意に良好であった(p<0.001)。・ただし、PS不良群(ECOG PS2、OR:4.00、p=0.140)と、同時併用薬なし群(OS:1.20、p=0.820)では他のサブグループと比べ低かった。・全体重に関する全体の奏効率はアナモレリン群65.4%、プラセボ16.7%、ORは9.46で、アナモレリン群で有意に良好であった(p

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安定冠動脈疾患の診断と治療~JCSガイドラインフォーカスアップデート版発表/日本循環器学会

 2022年3月11~13日に開催された第86回日本循環器学会学術集会で、中埜 信太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター 心臓内科)が3月11日に発行された『2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療』について概要を説明した。本フォーカスアップデート(FU)は、2019年に発表された「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つから新たな知見をまとめて作成。最近の大規模研究のエビデンスに基づき、安定冠動脈疾患(CAD)の管理全般に求められる指針の提供を主たる目的としている。英語版も同時に発行された。 近年、「ISCHEMIA試験」を含めた保存的治療や血行再建に関する大規模試験によるエビデンスの創出がきっかけとなり、欧州や米国、さらには本邦の冠動脈疾患診療ガイドラインが次々と改訂された。これらのエビデンスがとりわけ「安定した中等度以上の心筋虚血を呈する冠動脈疾患」に与えた影響は甚大である。しかしながら、中埜氏はこれら大規模試験の結果の一部だけを切り取り「一人歩きさせてはいけない」と注意を促した。 試験で除外された病態(左室収縮障害、重度の心不全、急性冠症候群に近い状態、進行した慢性腎臓病、左冠主幹部病変等)には、臨床的に問題となる多くの症例が含まれているため、注意が必要だ。同様に、複雑化した冠動脈疾患に対するガイドラインを活用するためには、「どのような患者のどのようなフェイズ(急性vs慢性、安定vs不安定など)に適用されるべきか」を強く意識して、該当する患者に適用することが求められる。 本FUは第1~5章で構成される。主な対象疾患は「閉塞性安定CAD(無症状を含む)」であり、1年以上前にACSや血行再建がある例も考慮している。各章では、診断ワークアップや経過観察中における不安定狭心症などのACSに近い病態への監視について繰り返し注意喚起している。なお、心不全・左室機能障害、高度CKDなどのサポートするエビデンスの少ない高イベントリスク群に関しては、特別な考慮が必要な疾患として第5章にまとめて記載されている。 以下に各章のポイントを示す。《第1章》ベースラインの系統的評価・CADが疑われる患者の年齢、性別、症状から検査前確率(PTP)をまず評価。続いて臨床的尤度(CL)を加味した修正PTPを推測して、次の最適な検査を導く。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・きわめて低いPTPならさらなる検査を保留してもよい。・患者報告アウトカム(PRO)を評価し、リスク層別化と重症度変化の一助とする。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)※定期的な評価にも推奨される《第2章》非侵襲的画像検査の選択・非侵襲的検査の選択は、PTPと施設における検査の使用状況の二軸で考える。・PTPが中等度以上では冠動脈CT(CCTA)または機能的イメージング(SPECT、負荷CMR、負荷心エコー)を施行する。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・CCTAはCADの診断(主に非閉塞性CAD、LMCAの否定)に有用。確定的な所見が得られない場合は、補完的に機能的イメージングやFFR-CTを考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)・機能的イメージングは(主にPTPが高い患者の)虚血や心筋生存能、イベントリスクの評価に有用。・無症状に近い低PTP患者へのオプションは、運動耐容能・運動反応性の評価を目的とした負荷心電図、またはイベントリスクの予測を目的とした冠動脈カルシウム(CAC)スキャンを考慮する。(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)・非侵襲的画像検査でLMCA/LMCA相当の病変が示唆された場合、あるいは診断過程で症状増悪がある、または薬剤抵抗性の症状が続く場合は侵襲的冠動脈造影(CAG)を考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)《第3章》CAGと血行再建の適応とタイミング・CAGは、非侵襲的検査を経た後の血行再建を行う可能性を視野に入れて検討する。フレイル度が高い、認知機能が低い患者など、血行再建が不向きな患者にはリスク評価目的のみのCAGは行うべきでない。(推奨クラスIII Harm、エビデンスレベルB)・非侵襲的検査とCAG所見が合致しない場合、確認のためFFR/NHPRs測定を考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)・非侵襲的検査で結論が得られない場合、もしくは心不全でCADを疑う所見があり、血行再建によるベネフィットが得られる可能性がある場合はCAGを考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)・広範な心筋虚血をもたらす冠動脈病変に対し、共同意思決定(SDM)に基づく血行再建を行う。(推奨クラスI、エビデンスレベルB)・至適内科治療(OMT)のみだと薬の量や数が増えてしまうケースもあり、血行再建のリスク・ベネフィットに関しては十分な情報提供と議論を要する。安定CADでは必ずしも緊急的に行う必要はないことから、患者個々の価値観や趣向と合うように共同で意思決定を行う。《第4章》OMT・診断過程の早期(侵襲的検査の検討前)に、症状緩和・イベント予防に必要な薬剤を投与し、並行して生活習慣の是正にも取り組む。・血行再建の有無にかかわらず、診断確定後は薬物治療の最適化を継続する。・心血管イベントを避けるため、低用量アスピリンによる抗血栓療法と、目標値を明確にした脂質低下療法を行う。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・LDL-コレステロールは初期値から50%以上の低下かつ絶対値として70mg/dL未満を目標とする。《第5章》高リスク患者に対する特別な考慮・高リスク群は現場で問題になるが、エビデンスが圧倒的に不足しており、個別対応が求められる。大きな課題として残っている現状。・心不全・左室機能不全に対しては「STICH長期成績」「ISCHEMIAサブ解析」などの臨床試験がアップデートされた。治療は、『2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療』を参考に、通常の心不全治療に順守する。・高度CKD患者への血行再建のベネフィットは未確立だが、予後予測には核医学検査が有用。「SHARP」「ISCHEMIA-CKDサブ解析」の臨床試験がアップデートされた。・フレイル・高齢者では、余命やQOL等を総合的に判断して血行再建を決定する。PCI関連の臨床試験がアップデートされ、経橈骨動脈アプローチ(TRA)が推奨されている。

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医師の命狙う凶悪事件に何を思う【在宅医インタビュー】

 医師の命を狙った、卑劣な事件が相次いでいる。記憶に新しいところでは、今年1月27日、埼玉県ふじみ野市で、男(66)が死亡した母親の訪問診療を担当していた在宅クリニック関係者を自宅に呼び出し、散弾銃を発砲。担当医(44)を殺害したほか、同行していた理学療法士(41)に大けがを負わせた。男は自宅内に立てこもった末、殺人および殺人未遂容疑などで逮捕、送検された。さいたま地検は3月3日より鑑定留置を行い、男の刑事責任能力の有無などを調べている。 昨年12月には、大阪・北新地で、雑居ビル4階の心療内科・精神科の医療機関に、男(61)がガソリンを撒いて放火。中にいた医師やスタッフ、患者合わせて26人が殺害された。いずれの容疑者も、相識の医師らを巻き込み自殺を企図したとみられる背景が共通しており、「拡大自殺」などとも言われているが、後者は事件後に死亡しており、全容の解明は不可能になってしまった。 命を救ってくれる、あるいは治療により社会活動に適応できる状態にしてくれるはずの医師が、期待に応えてくれなかったことへの報いか、あるいは処罰感情か―。 こうした事件の報に触れるたびに、医師がみずからの身の安全を守ることと、応召義務を果たすことの難しさを感じる。また、何か事が起こるたびに安全マニュアルや設備点検の徹底が叫ばれるが、それは本質的な解決につながるのだろうかと疑問を感じていた。 社会を動揺させる事件が起きても、現場の在宅医は今日も担当する患者宅を訪問し、心療内科では疾患を抱える患者の診療に忙しい。しかし、その胸中では何を思っているのか。今回、匿名を条件に1人の在宅医に話を聞くことができた。前述のふじみ野市の事件で亡くなった鈴木医師と同年代。答えづらい内容の質問に対しても、慎重に言葉を選びながら真摯に応じていただいた。<今回取材した医師プロフィール>40歳(男性)の訪問診療医。麻酔科医として4年間の病院勤務の後、在宅診療所を設立。東京西部エリアにて、主に末期がん患者の終末期ケアや神経難病患者の訪問診療を行っている。◇◇◇ ふじみ野の事件で亡くなった鈴木 純一先生と直接の面識はなく、人となりも想像するしかできませんが、志をもって在宅医療に携わり、患者さんを大事に考えていらっしゃったということを報道などで見聞きし、そういう実直な人柄の先生がこのような事件で命を落とされたことは、同じ在宅医療に携わる同士として、ただただ悲しく、同時に憤りも感じました。 事件に対する一般の方たちの意見として、医師が亡くなった患者の弔問に行ったことについて疑問視するような声もありましたが、ケースバイケースだと思います。 当院では行っていませんが、規模の大きな診療所では、遺族会をつくり、家族を看取った後の精神的なケア(グリーフケア)をやっているところもあります。診療時はもちろん患者さんのケアが最優先ですが、在宅医療は同時に家族もケアしていくことになるので、そうしたつながりで、亡くなった後に線香を上げに行くということとイコールではないですが、弔問のようなことを絶対にしないということはないと思います。――患者が亡くなった時点で関係が断たれるということではなく、グリーフケアなどで引き続き関係性が継続することはあるということ? その通りです。当院では、亡くなった後ご家族と継続的に連絡を取ることはありませんが、夫婦のどちらかをお看取りしたことのご縁で、何年か後にその連れ合いの方から看てほしいと依頼されるケースもありますし、親族や知り合いの診療を依頼されることもあり、必ずしも完全に関係が切れるというわけではない。それは、在宅じゃなくても地域の診療所ではよくあることではないでしょうか。こういう事件があると、亡くなった患者家族と関わらないほうがいいという世論や、学会や関連団体の指針が出ることがあるかもしれませんが、本来、人と人との関係性なので、やみくもに規制すればいいわけではないと思います。 ただ、クレームを収めることを目的に弔問に行くのは危ないことだということは、改めて認識しました。あくまで報道を見聞きする範囲ですが、今回のケースに限って言えば、生前から関係性が良好で、とくに思い入れの強い患者さんだからというよりは、当初からトラブルを解決する目的の訪問だったように見受けられます。相手もそのつもりで待ち構えていて、結果的に重大な事件に発展してしまいました。 どうすれば防ぎ得たのか。私も100点の答えは持ち合わせていません。患者さんや、家族との関係性次第というところでしょうか。あとは対面する目的。今回のように、不満を持った遺族に呼び出されたような経緯であるならば、なおさら慎重な対応が必要なのだろうとは思います。――自身の診療経験で、実際に危害を加えられたり、危険を感じたりしたことはある? 自身で言うと、後になって納得がいかないというクレームを受けた経験はありますが、直接的な危害の経験はありません。見聞きする範囲ですが、医師に直接という人は少ないものの、看護師などに暴力を振るったとか、そういうケースはよく聞きますね。ただ、精神的に警戒した、ちょっと怖いなと思ったことはありました。明らかに精神的・医学的に異常を感じる方で、言っていること、考えることが噛み合わないケースです。だからといって具体的に何か危害を加えられたわけではないですが、やはりそういう場合はこちらも警戒するというか、物理的に背中を向けないで対面を心掛けるなど、そういうことは気を付けました。 私の場合、往診はまったくの1人。これは診療所によって大きく異なるところで、中には診療所付のドライバーや看護師がいて、常に複数人での往診ができるところもあります。訪問診療は、特別な事情がないかぎり診療所から半径16キロ以内と法的に決まっていますが、32キロ圏内というのはかなり広いです。1人ひとりに時間が掛かることもあり、私の場合は1日に平均8~10件を車で往診しています。麻酔科が専門というのもあり、末期のがん患者さんを多く診ています。それ以外には、ALSなどの神経難病、老衰、脳梗塞後の方なども。そういった事情もあり、入った時点で1年以内に亡くなる患者さんが多く、何年も診療が継続する方は少数です。診療所としては、年間で70人くらいの方をお看取りしていて、感覚としては、3ヵ月から半年というケースが多いように思います。――在宅を選ぶ方、選ばざるを得ない方とは? 人生の最期が視野に入ってきたとき、病院か家かと聞かれたら家を選ぶ人は多いです。ある程度家族がいて受け入れられる場合は、とくに家を望まれます。がん治療で急性期病院に通った後に家かホスピスかという選択になり、ホスピスを選びたいが相当な費用が掛かる。そういう経済的な理由もあって、家で最期を迎える人もいます。――整った条件で在宅を選ぶか、消去法として家を選ばざるを得ないという二極化している? それはあるかもしれないですね。でも、独居の患者さんを家で看取るというケースも多いですよ。看護師やヘルパーに毎日入ってもらって、それでも誰もいない時間帯に亡くなっているケースはもちろんありますが、孤独死で何日も発見されないというような最悪の状態にならずとも、家で最期を迎える方も多くいます。消去法的な選択肢であっても、家にいたいという方にとっては価値ある、有意義なことなのかなと。これは在宅医をやってみるまではわからなかったことです。――訪問診療では、患者さんや家族とどのようなコミュニケーションを? やはり、在宅のほうが家族も含めた密なコミュニケーションになってくると思います。ただ、これもやってみてわかったことですが、在宅医療というのは、完全に治るとか治すということより、家でいかにして苦痛を少なくして楽しく過ごせるかというところを手伝う側面が強いと思います。したがって、病を治すことよりも心身の状態のケアが在宅にはより強く求められる。それは病院でも診療所でも大切なことには変わりないのですが、患者のみならず、家族も含めて行うことが大事です。そうなると、医学的に妥当なこと、正しいこと以上に、最期を見据えた患者の思いに寄り添うことが大事になってくる。あくまで極端な例ですが、末期がんで余命も長くない患者さんが、酒やタバコを楽しみたいという思いがあれば、病院だと止められるのは当然だが、家ならばそれで1日、2日寿命が仮に短くなったとしても、好きな酒を飲み、タバコも吸っても構わないと考えます。もちろん、患者さんの望みを何でもやみくも聞くというわけではないし、そうした望みを患者さんが持っていることを家族に丁寧に説明することも大事です。私は在宅医歴10年くらいですが、やっていく中で1つひとつ気付いて軌道修正を加えて行った感じで、当初はちょっと慣れないところもありました。在宅の中でも、厳格な先生はもちろんいらっしゃいます。そこは、患者さんとの関係なども含めた総合的な判断、ケースバイケースです。私自身は、患者さんが家で過ごす時間をいかに楽しく有意義にできるかというところが、1日でも1分でも長く命を生かすことより大事だと思うので、ある程度楽しく過ごせるように緩めるところは緩めるという考え方ですね。――在宅であっても医療は医療として、患者や家族からの期待感があると思う。それに対する責任は重くない? たしかに重い部分もありますが、家族と頻回に顔を合わせているからこそ、患者さんが弱っていくことを徐々に受け入れていってもらい、最期の看取りの瞬間に着地することができる。もちろん、頻回に顔を合わせているからこそのしんどさはあるけれど、逆にあまり会わずにコミュニケーションも少ない中で残念な結果になった場合のしんどさもあるので、どちらがいいとも言えないですね。――看取りを多く経験して、先生自身が患者さんの死に対する「慣れ」を自覚することは? 正直なところ、それはあると思います。とくに在宅を始めた最初のころの看取りの気持ちを考えると、今は自分の中でも冷静で、気持ちがそれほど乱れることもないし、看取りをすることに慣れてきているという自覚はあります。ただ、ご遺族にとっては唯一の関係性の肉親であったり家族であったりする人との別れです。そういう中で掛けるべき言葉は慎重に選ぶように心掛けています。それもやはり患者さん1人ひとり、それぞれの家族との関係性によります。基本的には、家族の方が看取りをやり切ったと思える気持ちになるよう前向きな言葉掛けを意識しています。――自宅を訪問すると、その家が抱えている問題なども見えてくるのでは? なかなかうまく社会的な関わりを持てないご家族や患者さんはたしかにいらっしゃいます。在宅はチーム医療の側面が大きく、ケアマネや訪問看護師も関わってくるので、実務的な部分では訪問看護師のほうが、訪問頻度が高いです。普段の話し相手という部分ではケアマネの役割もとても大きい。皆でみて、精神的なケア、悩みを一緒に解決することは多いです。ただ、そこからはみ出してしまう人もいて、相手側からもう関わらないでほしい、来ないでほしいと拒絶されるケースはある。そういう形で、訪問が続かなくなるケースも少なくありません。 いずれにしても、お宅に入ってみて初めてわかることですが、社会的関わりのみならず、家庭内の人間関係も成り立っていない、破綻しているご家庭も少なからずある。そういった場合は、ケアマネなどと連携しながらあらゆるアプローチは試みてはみるものの、結局は受け入れられずにみずから関係を断って、支援の枠から飛び出してしまう方は少なくないというのが実感です。 家族関係のケアはとくに難しいです。医療者として訪問して、どこまで踏み込んでいいのか迷うし、入って来るなと拒絶されることで、医療的にもケアできなくなってしまうのは本末転倒なので。――今回の事件を巡り、メディアではさまざまな課題が提起された。危機管理対策や、そのための人員確保やマニュアル整備、また、そもそも在宅医療に携わる人員不足に言及する内容も。在宅医として、この事件に対するメディアや世間の捉え方に対し思うことは? 何より、鈴木先生を悼み、故人の尊厳がきちんと守られていたのは妥当だと思いました。先生の人柄がよく、ただそれが故に理不尽にも凶弾に倒れてしまったという内容がほとんどでした。ゴシップ的な記事だと、襲撃された側にも問題があったのではないかというような、無関係なことまで根掘り葉掘り書かれるようなものもあったりしますから。ただ、在宅医が足りないというような視点は…半分は正しく、半分は当たっていないかもしれない。それを言えば、場所にもよるし、産婦人科医が足りないとか、離島には医師そのものが足りないという事情もあるので、在宅医だけがことさら不足しているという論調はどうなのかな、とは思います。たしかに十分ではないですが、この事件に絡めて論じる問題ではないかな。 安全対策が手薄だったから起きたという報道もありました。これも、在宅医療に携わるすべての人が、より手厚く安全が守られるようになればいいなと思う反面、例えば、警備スタッフのような人が同行したとしても、いきなり攻撃されたのでは避けられないケースもあります。 病院、診療所、在宅、いずれも同じようなリスクは常にあると思います。ただし、相手のホームに入っていく以上、その分のリスクの高さはたしかにあるのでしょう。ならば、訪問をやめれば安心かというと、そういうものでもない。それはもう臨床をやっている以上は逃れられないことです。私としては、あるかもしれない危険にどう備えるかというところを考えるしかないかなと思います。 たとえば警察官同行のような強い実効力があるルール整備をしたら解決なのか―。ちょっと極端かもしれませんが、一時期ストーカー規制が叫ばれ、さまざまな法整備も進められてきましたが、現実を見ると、それでも結局命を失うケースが後を絶ちません。医療におけるルール、法整備もそれと似ている部分があると思っていて、完全に犯行を実行しようと相手が決意をしたら、なかなかその危害を未然に防ぐことは難しいというのが現実だと考えます。患者とは一切接触しないオンライン診療のみに振り切るとか、患者との対面頻度を極端に減らして、大勢の目がある中でしか診療しないとか、そこまでやれば防げることもあるかもしれませんが、現実的ではない。在宅をやっている以上、調子が悪いと連絡を受ければすぐに往診するし、物理的なルール、マニュアル整備では難しく、いかに人間関係を構築するかということや、こういう人は高リスクと、より注意をして対応することで、少しでも可能性のパーセンテージを減らすことに尽きると思うのです。 ちょっと飛躍的かもしれませんが、議論を突き詰めていくと、この国における死生観というところと関連があるのではないかと私は考えます。ある程度年老いて衰えてくると、死は避けられない、仕方のないことなのだということを、もっと社会や政治が考えることが大事なのではないかと思うのです。医療が進展し、健康寿命が延びることは喜ばしいけれども、医療費の問題もさらに加速するでしょう。豊かな人はどんどん医療を受け、貧しい人は諦めざるを得ないという格差も、より拡がるかもしれない。死が理不尽なものと考えれば、「拡大自殺」という形で他者を巻き込んだ攻撃にもなってしまう。しかし、どんな人であっても避けることはできず、等しく訪れる「死」というものに対し、どう向き合うのかということは、社会全体でもっと真剣に考えてもいいのではないかと思います。そして、生きた長さよりも、心の充足、どういう人生を生きたかというところを重視することを、医師も考えながら医療をしたほうがいいのではないかと―。在宅医療に従事する中で、私はそう強く思うようになりました。

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非心臓手術の血栓予防、DOAC vs.低分子量ヘパリン/BMJ

 非心臓手術を受ける患者の血栓予防において、直接経口抗凝固薬(DOAC)と低分子量ヘパリン(LMWH)はいずれも、これらの投与を行わない場合に比べ症候性静脈血栓塞栓症の発現を抑制するが、これらの薬剤は同程度に大出血を増加させる可能性があり、DOACによる症候性静脈血栓塞栓症の予防効果はLMWHよりも大きいと考えられることが、カナダ・マックマスター大学のMaura Marcucci氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年3月9日号で報告された。68件の試験の頻度論的ネットワークメタ解析 研究グループは、非心臓手術を受ける患者の血栓予防において、DOACとLMWHが、有益性と有害性に及ぼす影響を評価する目的で、文献の系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2021年8月までに医学データベース(Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials[CENTRAL])に登録された文献を検索した。対象は、非心臓手術を受ける18歳以上の成人患者の血栓予防において、LMWH(低用量[例:エノキサパリン40mg、1日1回、皮下投与]、高用量[例:同30mg、1日2回、皮下投与])、DOAC(ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン)、積極的治療を行わない集団(プラセボまたは無治療)を比較した無作為化対照比較試験であった。 主要アウトカムは、症候性静脈血栓塞栓症、症候性肺塞栓症、大出血とされた。多変量の変量効果モデルを用いた頻度論的ネットワークメタ解析で、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し、GRADE(grading of recommendations, assessment, development, and evaluation)でエビデンスの確実性を評価した。 68件(整形外科 51件、一般外科 10件、婦人科手術 4件、胸部手術 2件、泌尿器科手術 1件)の無作為化対照比較試験(4万5,445例)がネットワークメタ解析に含まれた。症候性肺塞栓症はどの薬剤でも抑制されない 症候性静脈血栓塞栓症の発現は、積極的治療を行わない群と比較して、低用量LMWH(OR:0.33、95%CI:0.16~0.67)、高用量LMWH(0.19、0.07~0.54)、DOAC(0.17、0.07~0.41)のいずれにおいても低下し(エビデンスの確実性:中~高)、絶対リスク差は、ベースラインのリスクに応じて1,000例当たり1~100件であった。 DOACは、低用量LMWHに比べ症候性静脈血栓塞栓症の発現が有意に低かった(OR:0.53、95%CI:0.32~0.89)が、高用量LMWHとは差がなかった(0.93、0.51~1.71)(エビデンスの確実性:中)。 症候性肺塞栓症は、どの薬剤によっても抑制されなかった(エビデンスの確実性:低~中)。 大出血の発現は、積極的治療を行わない群と比較して、低用量LMWH(OR:2.04、95%CI:1.28~3.22)、高用量LMWH(3.07、1.39~6.77)、DOAC(2.01、1.08~3.73)のいずれでも増加し(エビデンスの確実性:中~高)、高リスク例では絶対リスク差が1,000例当たり50件であった。 低用量LMWHと比較した場合、高用量LMWHでは症候性静脈血栓塞栓症が抑制されず(OR:0.57、95%CI:0.26~1.27)、大出血は増加した(1.87、1.06~3.31)のに対し、DOACでは症候性静脈血栓塞栓症が抑制され(0.53、0.32~0.89)、大出血は増加しなかった(1.23、0.89~1.69)。 著者は、「個々の患者や手術に特有の静脈血栓塞栓症と出血のベースラインのリスクを知ることができれば、本研究の知見は、非心臓手術における静脈血栓塞栓症に関するネットベネフィットについて決定を行う際に、有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

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