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皮膚の色が濃いと酸素飽和度は高く表示される?pixabayより使用いつもふざけた態度で連載を書いているトンデモドクターみたいな扱いになっていることもありますが、たまには臨床的に大事なおどろき論文も紹介しましょう。皮膚の色が濃いと、酸素飽和度が正しく表示されないとして、2021年にFDA(米国食品医薬品局)から注意喚起が発令されました1)。この発令はNEJM誌2020年12月17日号に掲載された研究結果に基づいており、同研究において、黒人の患者の11.7%が、経皮的酸素飽和度が正常であるにもかかわらず、動脈血液ガス分析で酸素飽和度が88%を下回っている「隠れ低酸素血症」を有していることが示されています2)。さて、呼吸器内科のトップジャーナルであるEuropean Respiratory Journalで、人種ごとの経皮的酸素飽和度を調べた研究が報告されています。Crooks CJ, et al. Pulse oximeter measurements vary across ethnic groups: an observational study in patients with COVID-19.Eur Respir J. 2022 Apr 7;59(4):2103246.2020年2月1日~2021年9月5日の間に、ノッティンガム大学病院にCOVID-19疑いまたは確定で入院した患者のデータを収集し、30分の間に血液ガス分析による酸素分圧+パルスオキシメーターの経皮的酸素飽和度のペアが揃ったデータを、主要アウトカムとして使用しました。ICUのデータは入手できなかったため、それ以外の患者さんが対象となりました。動脈血液ガス分析と比較して、パルスオキシメーターで測定した経皮的酸素飽和度の平均差には差が確認され(p=0.02)、2種類以上の人種が混ざった集団で、最も差が大きいことがわかりました(+6.9%、95%信頼区間[CI]:−21.9~+35.8)。反面、白人(+3.2%、95%CI:−22.8~+29.1)がその差が最も低く、黒人(+5.4、95%CI:−25.9~+36.8)とアジア人(+5.1%、95%CI:−23.8~+34.0)は中程度の差異が確認されました。動脈血液ガス分析による酸素飽和度の測定値が90%未満の集団では、パルスオキシメーターはすべての人種において酸素飽和度を過大評価し、95%以上の集団では過小評価することがわかりました(p<0.0001)。混合効果線形モデルでも、白人と比較した場合、黒人・アジア人・2種類以上の人種が混ざった集団において、動脈血液ガス分析よりもパルスオキシメーターで測定した酸素飽和度の数値が高いことがわかりました。そのため、皮膚の色が濃い人は、真の酸素飽和度が90%未満というとても重要なゾーンにおいて、過大評価されがちであり、隠れ低酸素血症を見逃すリスクが高いことがわかりました。ちなみに、マニキュアは一般的に測定エラーを引き起こすため、真っ黒や真っ赤なものは、できるだけ避けることが望ましいですが3)、光が散乱するので低めに出たり高めに出たりします。1)Pulse Oximeter Accuracy and Limitations: FDA Safety Communication. 2022 Feb. 19, UPDATE 2022 June 21.2)Sjoding MW, et al. Racial Bias in Pulse Oximetry Measurement. N Engl J Med. 2020;383:2477-2478.3)真茅孝志, 他. パルスオキシメータにおけるマニキュア使用と外乱光の影響についての基礎的検討. 医科器械学. 2003;73(4):207.