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循環器内科でも血栓溶解療法に期待が集まった時代がありました!(解説:後藤信哉氏)

 心臓でも脳でも、臓器灌流血管が血栓閉塞すると臓器に不可逆的な虚血性障害が起こる。筆者が循環器内科を始めた1980年代には血栓溶解療法に期待が集まった。フィブリン選択性のないストレプトキナーゼによる急性期の生命予後改善効果が大規模ランダム化比較試験(Second International Study of Infarct Survival:ISIS-2試験)にて示され、心筋梗塞急性期の標準治療となると期待された。ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼはフィブリン選択性がない。すなわち、血液中にて線溶が起こりフィブリノーゲンも消費してしまう。血栓を作るフィブリンに選択的に作用する線溶薬を開発できれば標準治療になると期待された。線溶研究は盛り上がった。血管内皮細胞が産生するフィブリン選択的線溶薬tissue type plasminogen activator(t-PA)は期待された。分子生物学の勃興期でもあり、フィブリン選択性の高い製剤、単回静注にて効果の持続する製剤などが多数作られた。 しかし、循環器領域における血栓溶解療法は短期の流行の後に廃れてしまった。廃れた理由の1つは再灌流障害であった。米国では大きな病院への搬送途中に救急車にてt-PAが静注され、再灌流と同時に心室細動になる症例が多発した。t-PAを静注しても全例速やかに再灌流するわけではない。胸痛消失まで不整脈ウオッチしながら観察するのはむしろ苦痛であった。さらに、頭蓋内出血を含む重篤な出血合併症にも難渋した。経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)が普及すると、血栓溶解療法を行わず直接PCIするほうが合併症も少なかった。 本研究では1回静注可能なtenecteplaseと既存のt-PAが比較された。有効性、安全性には大きな差異がなかった。脳梗塞の病態の一部は心筋梗塞と類似する。脳血管疾患の領域が循環器領域の後追いをするのであれば、分子を修飾したt-PAよりカテーテルインターベンションの時代になるのではないだろうか? 今後の急性虚血性脳血管疾患の標準治療の変化に注目したい。

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医師の働き方改革、武器の「アンケート」はこう使え!【今日から始める「医師の働き方改革」】第12回

第12回 医師の働き方改革、武器の「アンケート」はこう使え!「働き方改革で、何がどう変わるんですか?」。私たち働き方改革コンサルタントはそんな質問をよく受けます。最も一般的な回答は「超過勤務が減ります」ですが、実はそれだけではなく、さまざまな効果が表れます。ですが、施設ごとに抱えている課題はさまざまで、「どこから手を付けてよいのやら」と悩む担当者の方が多くいます。ここで私たちがお勧めしているのが「現状を定量化」することです。そして、そのための有効な手法の一つが「アンケート」です。私たちがご一緒している長崎大学病院の働き方改革でも小児科でアンケートを行い、現状を定量化する試みを行いました。担当された佐々木 理代氏にその狙いなどを振り返っていただきます。長崎大学医学部小児科学教室・佐々木 理代氏(写真右)―長崎大学病院の働き方改革「ワークスタイル・イノベーション」の担当となられて、まず何を考えましたか?初めはどのようなプロジェクトなのかも想像がつかず、手探りの状態でした。「残業しない」ことについては、これまでは個人的に頑張ってきたのですが、今回は組織全体の仕組みや状況へのアプローチが含まれており、長期的に見て大きな価値があると感じました。一方で、すでに超多忙な小児科チームに対し、働き方改革プロジェクトのために多くの時間を割いてもらうのは現実的ではありませんでした。今あるリソースでできることから始めようと、アンケートを行うことにしました。小児科の中でもとくに忙しいNICUに着目し、「NICUの働き方の現状を可視化する」ことを目標としました。長崎大学病院におけるNICUの人数や勤務状況はもちろんわかっていますが、それが私たちに特有のものなのか、他施設と比べてどうなのかがわからなかったため、全国の国立大学系のNICUにアンケート回答を依頼しました。アンケートの設問は「スタッフ数、病床数、当直回数や当直明けの勤務、待遇面」です。その結果、全国の22施設からの回答があり、当院の結果を加え23施設の現状を可視化できました。アンケートによって、当院は他施設と比較してNICUの勤務医数は比較的多いものの、当直数が非常に多く、時間外勤務も多いことが確認できました。定量的な把握ができたことで、人員補充や手当ての拡充について、院長に要望を出すことができました。単に「忙しい」、「人を補充してほしい」と言っても説得力に欠けるので、他施設と比較した数値を可視化できたことは大きかったと感じます。人員増強にすぐにつながることは難しいかもしれませんが、今後も客観的な数値に基づいた、意味ある働き方改革の提案をしていきたいと思います。〈解説〉「忙しいから人が欲しい」というのはどこの職場でも聞く要望ですが、どの程度人員が不足しているのかがわからなければ、実際に配置ができません。長崎大学病院小児科では「忙しさ」を定量化するために、自部門だけでなく全国のネットワークを活用したアンケートを採りました。その結果として自分たちの「忙しさ」を客観視し、他施設と比較した適切な人員数を把握して院長にも要望を出すことができました。このあたりは同種の業務を行う施設が多数存在し、ネットワークもある医療機関の強みでしょう。定量化の最も手軽な方法の1つがアンケートです。今回の小児科の取り組みでは、Googleフォームでアンケートを作成し、メーリングリストで全国の国立大学系病院に回答を依頼しました。このように、デジタルツールの進化によってアンケートは手軽に配布・回答・集計ができるようになっています。【設問をどう作成するか】アンケートの設問は、検証したい内容に基づいて作成します。今回の場合、「長崎大学病院のNICUの医師はどのような状況に置かれているのか、全国平均と比べてどの程度忙しいのか?」というのが検証したい内容でした。アンケート作成に当たっては、「忙しい」という主観的な表現を「病床数と勤務医数の対比」や「当直数」という数値に落とし込みました。こうした指標は1つではなく、複数持っておくことが望ましいでしょう。検証したいことがぼんやりしていると設問設計のハードルが上がり、集計しても導きたいメッセージが見えてきません。目的をしっかり考えたうえで設問に入りましょう。【記名式か無記名式か】アンケートを記名式にするか無記名式にするかも大きな問題です。無記名式のメリットは、直接話しにくい話題でも書きやすく、率直な意見が集まりやすいことです。表に出にくい本音を聞き出したいとき、多くの回答を集めたいときは、無記名式が適しています。記名式のメリットは回答の信ぴょう性の高さです。一方で、記名式はきれいごとばかりで本当に聞きたいことが聞けないことも多い、というデメリットがあります。メリット・デメリットは裏表の関係なので、アンケートの目的をよく考えて設定しましょう。【設問数はどうするか】設問数は、多い方がテーマを多面的に捉えることができる一方で、回答者の負荷が高まります。選択式の設問を多くすることで負荷を軽減しつつ集計もしやすくなるので、自由記述と選択式のバランスをとって設定します。【結果はどうするか】集計結果は可能な限りオープンにしましょう。回答者からすれば「結果がどうだったのか」は気になるものです。全体の結果についてのサマリーを回答のお礼と共に回答者に共有することで、その後の取り組みにも関心が高まります。アンケートは働き方改革の調査における強力な武器です。ぜひ効果的な活用方法を考えてみてください。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2【「実践的」臨床研究入門】第22回

前回、網羅的なPubMed検索を行うために役立つツールであるMeSH(Medical Subject Headings)の概要を説明しました。今回からは、MeSHも活用したPubMed検索式の具体的な作成方法について解説します。まずは、あなたの「漠然とした臨床上の疑問」であるクリニカル・クエスチョン(CQ)を「具体的で明確な研究課題」であるリサーチ・クエスチョン(RQ)に変換しましょう(連載第1回参照)。言い換えると、CQをRQの典型的な「鋳型」であるPE(I)COのP(対象)とE(曝露要因)もしくはI(介入)、C(比較対照)、O(アウトカム)に流し込むのです。ここでは、われわれが最近出版したコクラン・システマティックレビュー (SR: systematic review)論文1)のPICOを例に挙げて、説明します。検索式はPとI(もしくはE)で構成する降圧薬の1種であるアルドステロン受容体拮抗薬は、心血管疾患(CVD: cardiovascular disease)発症リスクを低下させることが知られています。しかし、腎機能が廃絶した透析患者では、アルドステロン受容体拮抗薬の作用機序から重篤な高カリウム血症を生じる懸念もあり、その有効性と安全性については確かなエビデンスは確立されていませんでした。このような背景のもと、われわれは下記のCQとRQ(PICO)を立案しました。CQ:アルドステロン受容体拮抗薬は透析患者の予後を改善するかP:透析患者I:アルドステロン受容体拮抗薬C:プラセボもしくは通常治療(アルドステロン受容体拮抗薬なし)O:全死亡、CVD死亡、CVD発症、高カリウム血症、などこのように、RQ(PICO)を立てた後、はじめに押さえておくべき検索式作成のポイントは、下記のとおりです。まず、PとI(またはE)というRQの2つの構成要素の概念を英語検索ワードに変換して、検索式の構築を考えます。適切な英語検索ワードの選択については連載第3回で解説しました。その手順を踏んで、Pの構成要素の概念である「透析」をライフサイエンス辞書で検索してみると、まず"dialysis"という英語キーワードがヒットします。続いて、前回解説したMeSHも調べてみましょう。MeSHデータベースで"dialysis"を検索すると、リンクのように"Renal Dialysis"や”Dialysis”、"Peritoneal Dialysis"などのMeSH term(統制語)がヒットします。Iのアルドステロン受容体拮抗薬もライフサイエンス辞書で調べると、"aldosterone receptor antagonist"という英語キーワードが検索されます。同様に、MeSHデータベースで"aldosterone receptor antagonist"をキーワードに検索すると、リンクのように”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”がMeSH termでした。検索式作成におけるもう一つのポイントは、CとOは検索式に一般的には含めない、ということです。なぜなら、CやOはひとつの構成概念では決まらないことが多いからです。実際、今回提示したわれわれのコクランSR1)論文のRQ(PICO)でも、Cはプラセボもしくは通常治療と2つの概念で構成されています。Oも、ここで記載した4つのアウトカムだけでなく、Summary of findings tableに記載した主要なものだけでも、女性化乳房(アルドステロン受容体拮抗薬の頻度の多い副作用)、左心室重量(心エコーにて評価)と計6つ挙げています1)。また、PubMedでの検索の対象になるのは論文タイトルと抄録ですので、CやOの構成概念は必ずしも記載されていないことが多い、ということもCとOを検索式に含めない理由とされています。1)Hasegawa T,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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処置後の予防的抗菌薬【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q25

処置後の予防的抗菌薬Q25症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗った。縫合し、ドレッシング材で被覆もしたぞ。あとは…創部の感染予防に抗菌薬を処方しないとな。何を処方しよう?

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事例004 B001_36 下肢創傷処置管理料の算定【斬らレセプト シーズン3】

解説「J000-2 下肢創傷処置」は、「糖尿病性足潰瘍、閉塞性動脈硬化症などから生じる下肢潰瘍に対して、創の状態、感染、虚血の状態、静脈の状態、足の変形について評価を行った上で、感染制御、血流改善や必要に応じて圧迫療法、荷重部や前足部に対しては免荷を行いながら、創傷処置を行う」(日本フットケア・足病医学会公開資料より抜粋)と定義されています。単なる下肢の創傷処置ではなく、新たな総合的処置として設定されました。算定に当たっては、基礎疾患を含む総合的な評価とその結果を診療録へ記載して、潰瘍の処置を実施します。評価の結果、軟膏の塗布または湿布貼付のみで済む場合は皮膚科軟膏処置または湿布処置を算定します。下肢創傷処置と創傷処置、爪甲除去(麻酔を要しないもの)および穿刺排膿後薬液注入を併せて算定することはできません。複数の下肢創傷が存在する場合には、主たるものとして1番高い点数のみを算定します。下肢創傷処置を算定した場合は、レセプトの摘要欄に「下肢創傷の部位および潰瘍の深さ」を記載します。なお、「日本フットケア足病医学会認定師 講習会Ver.2」を受講されている医師が下肢創傷に対する評価と管理を継続的に行った場合、医療職免許取得後実務経験3年などの簡単な施設基準の届出が必要ですが、「B001_36 下肢創傷処置管理料」の月1回500点も算定できます。

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若年層での3回目接種、オミクロン株流行下も感染率低下/JAMA

 若年層での新型コロナウイルスワクチンのブースター接種の有効性を検討するため、米国の医療情報コンサルティング企業のIQVIAは、全米プロバスケットボール協会(NBA)の選手およびスタッフにおいて、ブースター接種者と未接種者の感染発生率を調査した結果、オミクロン株流行期でも、ブースター接種が感染率を有意に低下させることが示された。本結果は、JAMA誌2022年6月2日号オンライン版のリサーチレターに掲載された。 本研究では、2021年12月1日~2022年1月15日の期間に、有症状や濃厚接触、チーム内での感染発覚を契機に、核酸増幅法による検査を1回以上受けた選手およびスタッフを対象とした。被験者のワクチン接種状況について、調査開始時にはブースター接種を受けていなくても、調査終了までにブースター接種完了者の割合が増加しているため、被験者の接種状況の変化に応じて人日数で計上し、Andersen-Gill Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。 対象となった2,613例(男性88%、年齢中央値33.7歳[IQR:27.3~45.2])のうち、45日間追跡できたのは67%だった。ファイザー製ワクチン、またはモデルナ製ワクチンの初回シリーズを2回完了、もしくはジョンソン・エンド・ジョンソン製の単回接種用ワクチンを1回接種したブースター未接種群が1万890人日(715例)、ブースター接種を受けて14日経過したブースター接種群は7万4,165人日(2,164例)だった。調査期間の開始から終了までに、ブースター接種を受ける資格がある人の割合は、26%(682例)から8%(205例)に減少し、ブースター接種完了者の割合は49%(1,282例)から85%(2,215例)に増加した。 主な結果は以下のとおり。・ブースター未接種群では127例、ブースター接種群では608例が感染し、調整ハザード比(aHR)は0.43(95%信頼区間[CI]:0.35~0.53、p<0.001)となり、ブースター未接種群よりブースター接種群のほうが、感染率が著しく低かった。・有症状感染を評価する2次解析でもaHRは0.39(95%CI:0.30~0.50、p<0.001)となり、ブースター未接種群よりブースター接種群のほうが、感染率が低いことが示された。・入院や死亡は発生しなかった。・ゲノム解読できた339の感染例のうち、オミクロン株が93%を占めていた。 本研究のブースター接種群は、2021年12月1日時点でブースター接種からの経過日数の中央値が20日であり、時間とともに有効性が低下するというワクチンの性質を反映していない可能性がある。しかし、本研究により、健康な若年層でワクチン接種率の高いコホートにおいて、ブースター接種を受けることで、オミクロン株流行期でも、有症状感染と無症状感染共に、感染率を有意に低下させることが示された。

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HER2低発現乳がん、HER2ゼロと異なるサブタイプとみなすべきか/JAMA Oncol

 HER2低発現乳がんは、HER2ゼロ乳がんとは異なる生物学的サブタイプとして考えるべきかどうか。米国・Dana-Farber Cancer InstituteのPaolo Tarantino氏らが、Stage I~III乳がんにおけるHER2低発現と臨床病理学的特徴および予後の関連を調べたところ、ホルモン受容体(HR)陽性およびトリプルネガティブ(TN)乳がんにおいて、HER2低発現乳がんを明確な生物学的サブタイプとは解釈できないという結果が示された。JAMA Oncology誌オンライン版2022年6月23日号に掲載。HER2低発現例とHER2ゼロ例の臨床病理学的特徴と予後を比較 本研究は、Dana-Farber Brigham Cancer Centerで2016年1月~2021年3月に手術したすべての乳がん患者の前向きデータベースから、Stage I~IIIのHER2陰性浸潤性乳がん患者5,235例を対象とし、2021年9月~2022年1月のデータを解析した。HER2低発現(IHCスコアが1+もしくは2+でISH陰性)およびHER2ゼロ(IHCスコア0)の患者における臨床病理学的特徴および病理学的完全奏効率(pCR)、無病生存期間(DFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)を比較した。 HER2低発現と臨床病理学的特徴および予後の関連を調べた主な結果は以下のとおり。・Stage I~IIIのHER2陰性浸潤性乳がん患者5,235例のうち、5,191例(99.2%)が女性で、初回手術時の年齢中央値(範囲)は59.0歳(21.0~95.0)、HER2低発現例は2,917例(55.7%)、HER2ゼロ例は2,318例(44.3%)だった。・HRの発現は、HER2低発現例が90.6%で、HER2ゼロ例の81.8%より有意に多かった(p<0.001)。・エストロゲン受容体(ER)レベルとHER2低発現の割合は正の相関を示し、低ER患者はHER2ゼロが多く、高ER患者はHER2低発現が多かった。・術前化学療法を受けた675例におけるpCR率は、HER2ゼロ例のほうがHER2低発現例より高かった(26.8% vs.16.6%、p=0.002)が、HR陽性、低ER、低ERを除くHR陽性、TNの患者を別々に分析すると有意な差はなかった。・探索的生存解析では、HR陽性およびTN乳がんの患者では、HER2低発現例とHER2ゼロ例でDFS、DDFS、OSに差はみられなかった。 著者らは「この結果は、HER2低発現乳がんを明確な生物学的サブタイプとして解釈することを支持するものではなかった」とし、「HER2低発現はERレベルと正の相関があり、HER2ゼロ例では低ER例が多く、また低ER例の予後が悪いことから、HER2低発現例の予後解析の交絡に関連しているかもしれない」としている。

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急性期脳梗塞の血栓回収、アルテプラーゼ併用で良好な再開通率/Lancet

 ステント型血栓回収デバイスを用いた血栓除去術単独療法は、アルテプラーゼ静注+血栓除去術併用療法に対して非劣性は認められず、再開通率は低いことが、スイス・ベルン大学のUrs Fischer氏らが実施した「SWIFT DIRECT試験」の結果、示された。血栓除去術単独療法が静脈内血栓溶解+血栓除去術併用療法と同等の効果があるかどうかは議論が続いていたが、著者は、今回の結果を受け「適格患者における、血栓除去術前のアルテプラーゼ静注の割愛は支持されない」とまとめている。Lancet誌2022年7月9日号掲載の報告。ステント型血栓除去デバイスによる血栓除去術、90日後の機能的自立を比較 「SWIFT DIRECT試験」は、欧州およびカナダの48施設で実施された、医師主導の前向き無作為化非盲検評価者盲検試験。研究グループは、CTAまたはMRAで頭蓋内内頸動脈、中大脳動脈第1セグメントまたはその両方に閉塞が確認され、発症から4時間30分以内にアルテプラーゼ静注が可能で、無作為化後75分以内に血栓除去術が施行可能な患者を、血栓除去術単独群とアルテプラーゼ静注+血栓除去術群(併用群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血栓除去術は両群とも市販のステント型血栓除去デバイスSolitaire(米国Medtronic製)を用い、可能な限り早期に施行された。併用群では無作為化後、可能な限り早期にアルテプラーゼ(0.9mg/kg、最大90mg)を60分間静脈内投与(投与開始時に総量の10%を急速投与)した。 有効性の主要評価項目は、90日後の修正Rankinスケール(mRS)スコアが2点以下(機能的自立)の患者の割合で、評価者盲検とした。単独群の併用群に対する非劣性は、Mantel-Haenszelリスク差の片側95%信頼区間(CI)下限値で評価し、非劣性マージンを12%と事前に規定した。安全性の主要評価項目は、症候性頭蓋内出血であった。主要評価項目の非劣性を認めず、治療後の再開通率は91% vs.96%と併用群が良好 2017年11月29日~2021年5月7日に5,215例がスクリーニングされ、423例が無作為化された。このうち、同意辞退等の15例を除く408例が主要解析対象集団となった(単独群201例、併用群207例)。 90日後のmRSスコア2点以下の患者の割合は、単独群57%(114/201例)、併用群65%(135/207例)で、補正後群間リスク差は-7.3%(95%CI:-16.6~2.1%)、片側95%CI下限値は-15.1%で事前規定のマージン-12%を超えており、単独群の併用群に対する非劣性は示されなかった。 症候性頭蓋内出血は、単独群で201例中5例(2%)、併用群で202例中7例(3%)に認められた(群間リスク差:-1.0%、95%CI:-4.8~2.7)。 血管内治療後の再開通成功は、単独群のほうが観察された割合が低かった(91%[182/201例]vs.96%[199/207例]、群間リスク差:-5.1%[95%CI:-10.2~0.0]、p=0.047)。

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新規診断多発性骨髄腫、3剤併用(RVD)+ASCTでPFS延長/NEJM

 新規多発性骨髄腫の成人患者において、レナリドミド+ボルテゾミブ+デキサメタゾン3剤併用療法(RVD)と自家造血幹細胞移植(ASCT)の組み合わせは、RVD単独と比較して無増悪生存(PFS)期間を延長したが、全生存(OS)期間には差がなかったことが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPaul G. Richardson氏らが米国の56施設で実施した無作為化非盲検第III相試験「DETERMINATION試験」の結果、示された。新規診断の多発性骨髄腫患者に対し、RVDにASCTを追加して、その後レナリドミド維持療法を病勢進行まで継続した場合の有効性については不明であった。NEJM誌2022年7月14日号掲載の報告。RVD+ASCT vs.RVD単独の無作為化非盲検第III相試験 研究グループは、2010年10月1日~2018年1月30日に18~65歳で新規に診断された症候性の多発性骨髄腫患者873例を登録し、適格基準等を満たした729例にRVDを1サイクル投与した後、撤回等を除く722例をRVD単独群とRVD+ASCT(移植)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 RVD単独群(357例)では、RVDを2サイクル投与し幹細胞を採取した後、RVDを5サイクル投与した。移植群(365例)では、RVDを2サイクル投与し幹細胞を採取した後、高用量メルファラン+ASCTを施行し、回復後(約60日目)にRVDを2サイクル追加した。その後は、両群とも維持療法としてレナリドミドを病勢進行、許容できない副作用またはその両方が現れるまで継続した。 主要評価項目はPFS、副次評価項目は奏効率、奏効期間、無増悪期間、OS、QOLおよび有害事象であった。PFSはRVD+ASCT群67.5ヵ月、RVD単独群46.2ヵ月で有意差(p<0.001) 追跡期間中央値76.0ヵ月において、病勢進行または死亡のイベントはRVD単独群で189例(52.9%)、移植群で139例(38.1%)、計328例発生し、PFS中央値はRVD単独群46.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:38.1~53.7)、移植群67.5ヵ月(95%CI:58.6~未到達)で、病勢進行または死亡のリスクはRVD単独群が移植群より53%高かった(ハザード比[HR]:1.53、95%CI:1.23~1.91、p<0.001)。 部分奏効以上(PR+VGPR+CR+sCR)の患者の割合は、RVD単独群95.0%、移植群97.5%(p=0.55)、完全奏効以上(CR+sCR)の患者の割合はそれぞれ42.0%、46.8%(p=0.99)であった。 Grade3以上の治療関連有害事象はRVD単独群で78.2%、移植群で94.2%に認められた。 5年生存率はRVD単独群79.2%、移植群80.7%であった(死亡のHR:1.10、95%CI:0.73~1.65)。

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双極II型障害の急性うつ病エピソードに対する第2世代抗うつ薬療法~メタ解析

 双極II型障害(BD-II)に関するエビデンスに基づく治療ガイドラインは、限られている。メイヨークリニック医科大学のJin Hong Park氏らは、急性BD-IIうつ病における第2世代抗うつ薬単剤療法の有効性および安全性を推定するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、急性BD-IIうつ病に対する第2世代抗うつ薬単剤療法は、良好な副作用プロファイルを有し、切り替え率の有意な増加を来すことなく、短期的に有効であることが示唆された。Psychopharmacology Bulletin誌2022年5月31日号の報告。 2021年3月までに公表された研究を、データベースより検索した。対象研究には、ランダム化比較試験(RCT)のみを含めた。アウトカムは、治療反応率、治療期発現感情交代(treatment-emergent affective switch:TEAS)の割合、副作用による治療中止、すべての原因による治療中止とした。リスク比(RR)の算出には、Mantel-Haenszelランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・3,301件の研究をスクリーニングし、全文レビューのため15件を特定した。・選択基準を満たした研究は5件であり、その内訳は、二重盲検RCTが4件(533例)、非盲検RCTが1件(83例)であった。・2件の二重盲検RCT(第2世代抗うつ薬単剤療法223例[ベンラファキシン群:65例、セルトラリン群:45例]、リチウム単剤療法113例[対照群])をメタ解析に含めた。・第2世代抗うつ薬単剤療法は、リチウム単剤療法と比較し、治療反応率が類似していた(RR:1.44、95%CI:0.78~2.66)。・第2世代抗うつ薬単剤療法は、リチウム単剤療法と比較し、TEASの割合に有意な差が認められなかった(p=0.76)。・第2世代抗うつ薬単剤療法は、リチウム単剤療法と比較し、副作用による治療中止率が有意に低かったが(RR:0.32、95%CI:0.11~0.96、p=0.04)、すべての原因による中止率に有意な差は認められなかった。・BD-IIうつ病に対する第2世代抗うつ薬単剤療法の短期的および長期的な役割を調査するRCTを、早期に実施する必要がある。

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BA.4/BA.5感染者の症状は?

オミクロン株BA.4/BA.5感染者でみられた症状(BA.1感染者との比較)76%BA.156%58%51%BA.4/BA.558%52%48%51%43%41% 40%38%31%26%18%7%18%12%17%9%17%8%15% 15%9%6%8%2%0%1% 0%1%対象:フランスで2022年4~5月にBA.4/BA.5に感染した288例(年齢中央値:47歳)と2021年11月~2022年1月にBA.1に感染した281例(同:35歳)[フランス公衆衛生局による2022年6月15日発表データより] 倦怠感、せき、発熱、頭痛などが多く報告されています BA.1感染者と比べると、鼻水、吐き気、下痢、味覚・嗅覚障害が多い傾向がみられました 症状が続いた期間はBA.1感染者が4日間(2~7日)だったのに対し、BA.4/BA.5感染者では7日間(3~10日)と長い傾向がみられました 無症状者はBA.1感染者では10.9%だったのに対し、BA.4/BA.5感染者では3%でしたCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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認知症の初診はなぜ遅れる? 新たな評価ツールを開発【コロナ時代の認知症診療】第17回

なぜ、認知症の受診や初期診断が遅れるか2021年の日本の病院における入院者数は、1984年以来、約40年ぶりに最少を記録した。全国の医療機関における初診患者数についてもおそらく同様と思われる。さてAducanumabを始め、アルツハイマー病の疾患修飾薬の適応は、軽度認知障害やそれ以前の段階だと考えられている。まさに早期発見が早期治療につながる。ところが以前から、家族が認知症かなと感じても、実際に医療機関を受診する迄には、2年もかかるといわれてきた。それがコロナ禍による受診控えでさらに遅れていると思われる。ここは何とか打開する必要がある。そこでまず「なぜ、認知症の受診や初期診断が遅れるか」を調べてみた。この問題に関するレビュー1)によれば、介護者が認知症に気付き難いこと、それに関する教育不足が最初に指摘されている。また患者や介護者と担当医との間のコミュニケーションがまずいことも挙げられている。さらに注意不足や対処戦略が思いつかないこと、そして認知症などは考えたくない否認もある。多くの臨床医は、認知症患者さんが、いわゆる病態否認、つまり「自分の健忘をはじめとする認知機能障害に気づいてない、否定すること」をしばしば経験されているであろう。どうすれば受診してもらえるか?家族の試行錯誤ところで現実的に、このような場合に家族はただ指をくわえているだけであろうか? これまでに多くの方々から、当事者を専門家の元へ誘う方法についてそれぞれのやり方を伺ってきた。よくあるのは、「健康診断へ行こう」とか「血圧が高いから心配なので脳動脈硬化など診てもらおう」といったものである。経験的にはこれらはあまりうまくいかない。印象に残ったのが、あるジェネラリストによるものである。ご主人に認知症が疑われる場合、奥さんが「認知症が心配なので診てもらおうと思う。でも怖いからあなたもついてきて」というのである。これはかなり成功率が高い。なお奥様がそれとおぼしき例では、「行きたければあなたが行けばいい」と言われるケースもあるそうだ。筆者はこれまで、当事者もしくは医療関係者の意見しか知らなかった。けれども最近は、高齢者の悩み事に特化した社会福祉士の事務所もある。意外ながら、お金や家族関係、終活はもとより、こうした医療受診までも、医師や法律家に相談する以前の初期問い合わせが来るようになっていると聞く。幾つか具体的な台詞を教えてもらったが、医療関連法や倫理を基本とする私達とは異なる視点からの説得力がある。いずれにせよ、敷居の高い専門家よりも、まずは「困りごと相談」的で気安いことが普通の人には大切なようだ。目に見える行動からMCI状態を評価する新ツールところで初期診断までに必要とする時間を短くするには、新たにどんな手法があるだろうか? と私の周辺では何年も前から話題になっていた。そこで日本老年精神医学会の有志を中心に新たなチェック法を作成することになった。それが「目に見える行動からMCI状態を評価する」という新たな測定尺度である2)。さて認知症分野では、MMSE や改訂長谷川式に代表される認知機能の簡易スクリーニング検査がある。ところがこれらは、自分の知能を試されているという感じを当事者に与えてしまうことがある。そこで家族など観察者の報告による評価もある。たとえば記憶を評価するのに、「物忘れが多くなった」、注意力をみるのに「何かしていてもすぐに飽きてしまう」など行動から推察できる認知能力の低下をみるのである。同じように日常生活動作(ADL)から、「トイレに間に合わない」とか、「食事の動作が適切でない」等からの評価もある。また道具的ADLでは、「ガスコンロやリモコンがうまく使えない」、「ATM操作ができない」などもある。けれども認知機能やADLなど学問領域からの発想とは異なり、誰の目にも見える行動一般から初期状態を捉えようとする尺度はなかった。また基本的に認知症を把握しようというもので、 MCI を指摘しようとするものもなかった。しかも報告者は基本的に家族介護者である。ところが最近では、一人暮らしや知友のない高齢者は全く珍しくない。そこで「MCI-J」という、行動変化から初期に気づくための尺度を作成した。第1の特徴は、報告者は家族介護者のみならず、当事者でもまた医療機関のスタッフでも良い。けれども当事者は自分に甘く、介護者は厳しい。そこで、500人弱のデータから、当事者との続柄ごとに、同じ人をみても、どれくらい評価に差があるかを算出した。この数値を用いて重み付けしている。だからもし全く同じ回答内容であっても、誰が評価したかにより判定は異なる。対象とする疾患はアルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症である。明らかな発作歴や麻痺のある脳血管性認知症は含まない。最終的に13の質問項目となった。それらによりこうした認知症疾患の前駆状態や初期認知症をかなり把握できた。ちなみに感受性は90%、特異性は57%だが、スクリーニングテストなので感受性が高ければ、特異性は少し低くても良いと考えている。なおこの尺度は、紙の上ではなく、スマホやタブレットなどのITデバイスに載せ、アルゴリズムを自動計算させるものである。終わりに。本尺度は認知症の見当付けに有用そうである。けれどもこれで認知症が疑われた場合には、早めに専門家を訪れることが不可欠である。参考1)Bradford A, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2009;23:306-314.2)Asada T, et al.Int J Griatr Psychiaty.2022 Aug;37.

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第118回 記者も唖然…塩野義コロナ薬の承認審議で識者が発したガチ発言

2時間にわたる王者対挑戦者のボクシング・タイトルマッチ。1ラウンド目に挑戦者は王者の軽いジャブの後、アッパーカットをくらいおもむろにダウン。2~4ラウンドは挑戦者のストレートパンチが王者の顔面を捉え、一旦持ち直したかに見えたが、5ラウンド目は王者のジャブが軽く決まりよろける。その後はほぼ王者の一方的な連打がさく裂し、最終12ラウンドまで持ちこたえたものの、3人のジャッジの判定は大差で王者に-。ボクシングにたとえるとそんなところだろうか?何かというと、7月20日に開催された厚生労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会・医薬品第二部会合同会議で行われた塩野義製薬の新型コロナ治療薬候補の3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の緊急承認審議だ。結論から言うと第III相試験を待って議論すべきということで、委員ほぼ全員が一致して継続審議を決定した。過去の連載記事から繰り返しになって恐縮だが、エンシトレルビルに関しては今年5月の薬機法改正で新設された緊急承認制度を使った承認申請が行われている。塩野義製薬が申請に当たって提出したデータは第II/III相試験のうち、軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果。主要評価項目は鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量の2つ。前者については低用量(125mg)群、高用量(250mg)群、ともにプラセボ群と比べて有意な減少を示したものの、後者は有意差が認められなかった。ちなみに塩野義製薬側は、後者については現在主流のオミクロン株に特徴的な4症状に限定して解析すると有意差が認められたことを強調している。すでに6月に行われた医薬品第二部会では、緊急承認に否定的な意見が多かったものの、緊急承認制度では薬事分科会の審議も必要になるため、この日に持ち越した。そして今回の審議はやや異例だった。というのも1つの薬を巡る審議がYoutube Liveを通じて全国にリアルタイムで公開されたからである。新薬の承認審議がここまでガラス張りにされたのは初と言って良い。ちなみに私は報道公開枠で会議場にいた。事務方からの一通りの説明とそれを受け、審議の方向性について医薬品第二部会長の清田 浩氏(井口腎泌尿器科・内科新小岩副院長、元東京慈恵会医科大学教授)に意見が求められた。「まず付け加えたいのは、医薬品第二部会の臨時部会が開かれたのは6月22日。ちょうどコロナの患者数が下げ止まっていた時期です。現在の第7波が来ることもある程度予感していたかもしれませんが、現実にこうなるとは予想し得なかった時期なので、多少議論に危機感が欠けていた印象を持っております。その後、追加の有効性として、Long COVIDの率が減る、ウイルスの再拡散を抑えるというデータがあり、そういったポジティブなデータをどう解釈するかも議論の材料としていただければと思います」これに対して医薬品第二部会委員で山梨大学学長の島田 眞路氏から横やりが入った。「6月22日は確かに感染状況はひどくはなかったですが、諸外国でも出てましたし、日本でも来るんじゃないかという危機感を持って私達は審議したと思っております。清田部会長がどう考えたか知りませんが、危機感がなかったとおっしゃっているのにはびっくりしました。先ほどのいくつかの実験データが追加されたとのことですが、これはすでに塩野義さんは提出されてましたよ。(症状の)期間が短くなるんじゃないかとか。Long COVIDだけは出してなかったかもしれませんけど、あとのデータはだいたい示されていました。しかも、これはエンドポイントが修正されたりしたようなものです。たとえば12症状(合計スコア)ではまったく効果が認められなかったわけなので、われわれとしては効果は認められないと判断したのであって、それが呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って。それをわざわざされて、有効性があるというところをピックアップしてやるのは、臨床試験としてはやっちゃいけないことだと思いますけどね」司会が引き取り、委員ではない独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原 康弘氏が補足的な意見を求められた。この状況を収めようとしたのだろう。藤原氏は、公開された審査報告書内の第IIb相試験でのエンシトレルビル125mg、250mg、プラセボ投与後120時間までの12症状スコアのグラフを参照するように呼び掛けて次のように語った。「この推移を見ていただいたらわかりますが、私も元々呼吸器専門医なので普通にパッと見ると、これ差がないんじゃない? と見えます。PMDAとしても普通の感覚で見たのでしょう。先ほど説明がありましたように確かにRNA量は有意差をもって下がっているものの、臨床効果はこのぐらいかなというのが正直な判断であったと私は類推いたします。また、話題に上がった後付け解析ですが、途中の(事務局の)説明で多重性というお話がありました。今回、塩野義さんが何度も何度も事後解析をしていますが、そうするとby chanceで有意になることはよくあります。p値(統計学的有意差)が0.05ならば、20回に1回は間違った結果になるのは自明の理なので、繰り返し統計解析する時はp値はすごく小さくするとか、事務局が説明した多重性の調整をきちんとやらなければいけないのですが、それをやらずに何度も何度も解析してどこかで有意差が出たから良いんじゃないのと言ってるのが塩野義さんかな、と私は理解しております」さすがにこの発言には驚き、メモを取っていた手を止め、リモート参加していた藤原氏の様子が映し出されたディスプレイを凝視してしまった。周囲を見回すと、数人がやはり目を見開いてディスプレイを見ている。藤原氏は臨床医でありながら、過去には臨床薬理学分野の研究経験もあり、PMDAの前身である国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターで新薬の承認審査を担当していたこともある。しかし、そのキャリアはほぼ一貫して国立の研究機関・医療機関に身を置いてきた公務員だ。その意味ではある種退屈な「お役所言葉」を駆使してきた立場であるはずの藤原氏が衆人環視の中でここまで製薬企業をディスる(若者言葉で失礼)とは思いもしなかった。このあとエンシトレルビルの治験調整医師であった日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)、岩田 敏氏(国立がん研究センター中央病院感染症部長)、大石 和徳氏(富山県衛生研究所長)の3人が参考人として意見陳述。いずれも主要評価項目ではない症状消失までの期間が3日間短縮できたデータなどを援用し、現時点で有効性の推定は可能という立場を取った。しかし、この後、前述の島田氏が再び異議を唱えた。参考人3人のうち2人が塩野義製薬との利益相反があり、なおかつ全員がPMDAの審査に対する塩野義製薬の反論に即した主張をしていると批判し、利益相反なしと申告していた大石氏にも利益相反がないかの確認を求めたのだ。大石氏が「利益相反がない」と伝えると、島田氏は「PMDAが審査した結果に対して、3人が3人、塩野義製薬の意見に同調する方を選ぶのはフェアなやり方ではない」と事務方に要請した。事務方からは「感染症の専門家からのご意見としてこちらからお呼び…」と発言しかけるも、島田氏が遮り、「感染症の専門家なんてごまんといるわけです。にもかかわらず3人中2人が塩野義製薬との利益相反がある方を呼ぶのは。もうちょっとフェアな方を呼んでいただかないと議論がかみ合わない」と苦言を呈した。その後は全体の空気がネガティブになり始める。この空気が完全にネガティブに転換したのは、それまで日本医師会常任理事として薬事分科会委員を務めていた松本 吉郎氏が日本医師会の新会長に就任したことに伴う交代で、今回から薬事分科会委員として出席した日本医師会常任理事の神村 裕子氏の発言だった。過去の本連載でも触れたように、エンシトレルビルには催奇形性があることがすでに報じられており、今回の審議で示された審査報告書にはその詳細が記述されている。それによると、ラットでの胎児の骨格変異、ウサギでの胚・胎児死亡、胎児の軸骨格の奇形・変異、外表に奇形所見で短尾と二分脊椎が認められたという。PMDA側の見解では潜在的な催奇形性リスクがあり、ラットとウサギの無毒性量は、ヒトでの血漿中曝露量基準でそれぞれ約3.8倍と約2.4倍で十分な安全域を有しておらず、承認時には、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とすることが適切というものだった。この点を踏まえて神村氏が次のように述べた。「私は女性の医師ですので、女性の患者さんがたくさんいます。この中でたとえば妊娠の可能性のある患者さんに禁忌という場合、妊娠しているかどうかわからないとなると、とても怖くて使えない。また、錠剤が大きくて飲み難いことはありますが、既に同じような作用機序のニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)があるなかで、なぜそちらではダメなのかと考えている。当然ながら私が臨床の外来で、この程度の呼吸器症状の有効性の差が出たと言われても、『とても使いたくはないな』と、申し訳ないですけれども率直にそう感じました。またCYP3A阻害作用が強いということを考えれば、やはり慢性疾患にかかっていらっしゃる高齢の患者さんたちにも使えない。となると、非常に使える幅が狭くなる。第III相試験ではっきりした結果が出るまで、手を出せないと思っています」この率直な意見は新任委員ならではとも言えるのかもしれない。それ以上に実臨床に携わる医師の意見は非常に臨場感のあるものだった。審議の雰囲気はここで一気に最終結論の方向に傾いたように感じた。神村氏が触れたCYP3A阻害作用については、すでにPMDAから冒頭にニルマトレルビル/リトナビル同様に併用禁忌が多くなる見込みと説明された。かつ、PMDAの審査報告書では、仮に緊急承認するとしても「有効性が示されていない状況で、本剤が承認される場合には、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、治療薬の投与が必要と考えられる患者を対象とし、禁忌等に該当する場合や供給量の関係で入手できない場合等で他の治療薬が使用できない場合に限り本剤を使用することが妥当である」との医薬品第二部会委員の意見が付記されていた。平たく言えば、重症化リスク因子を有し、既存の治療薬が使えない場合のみをエンシトレルビルの適応とすべしというものである。ちなみに今回提出された資料の中で私個人が目を引いたのは、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が提出した資料の中にあった7月19日現在までに使われた新型コロナ治療薬別の患者数である。それによると、モルヌピラビル(同:ラゲブリオ)が23万5,900例、ソトロビマブ(同:ゼビュディ)が15万例、ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)が1万4,100例という数字である。治療必要数の比較で最も抗ウイルス効果が高いと言われているニルマトレルビル/リトナビルはもともとの供給量が少ないと言われているものの、2月の承認から5ヵ月間でこの程度しか使われていないのである。この背景には当然併用禁忌の多さもあるだろう。となると同じように併用禁忌が多くなる見込みで、既存薬が使えない場合のみにエンシトレルビルを使うならば、必要となる患者は極めて少数ではないだろうか? しかも、この日、すでにエンシトレルビルの第III相パート結果は11月中に明らかになるという見通しも示された。この点にも委員の質問が相次いだ。最終的に審議時間終了の午後8時直前、ちょっとした動きがあった。厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長の吉田 易範氏が、医薬品第二部会委員で神村氏と同じ日本医師会常任理事である宮川 政昭氏に近づき耳打ちした。その直後、薬事分科会長である和歌山県立医科大学薬学部教授の太田 茂氏が「ほかの委員からどなたかご発言がありますでしょうか? よろしいようでしたら、本日の議論を取りまとめたいと思いますので、少しお時間をいただければ」と言いかけた瞬間、宮川氏が口を開いた。「今までの議論をお聞きして、先ほどPMDAの方からありましたように第III相試験の組み入れが全部終わったということですから、たぶん第III相試験は、大体時期的に言えば11月初旬(ここで事務方から『11月に総括報告書が提出されるということで聞いております』との声)…。はい。ですからそういうところをしっかりと見定めるということ、つまり緊急承認の枠組みというものが、ここである程度否定されたというわけではないものの、そういうものではないということであれば、第III相試験を待ってしっかりとした薬事としての承認体制を組んでいくというようなことも重要と思いますので、そういうことも含め、お考えいただければと思います」ここで件の島田氏が「宮川先生の意見に賛成です」と発言。これを受けて太田氏が委員に継続審議を打診。オンライン参加の委員も含め次から次に「異議なし」「賛成します」「賛成です」という声が相次ぎ、2時間強の長いようで短い議論は終結した。しかし、あの塩野義製薬を思いっきりディスった藤原氏は、今回の審議公開に同意した塩野義製薬に感謝の意を表していたが、これは私も同感である。ここまで透明性が確保できるならば、医薬品に対する一般人の信頼を勝ち取る一助になるのではないかと改めて感じている。参考薬事分科会・医薬品第二部会 合同会議 資料

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統合失調症患者における治療開始前後の色彩感覚と認知機能

 統合失調症患者は発症の初期段階で、視覚機能や眼組織構造に有意な変化がみられることが、多くの研究で報告されている。統合失調症の病因における新たな科学的進歩の探求を可能にするには、眼組織や眼機能の潜在的な分野を調査する目的で、脳の構造・機能の従来の研究を変革することが求められる。しかし、虹彩構造と統合失調症との相関関係を調査した研究はほとんどなく、エビデンスは不十分であった。中国・Chengde Medical UniversityのLi Duan氏らは、虹彩構造、色彩感覚、認知機能が、初発統合失調症患者において抗精神病薬治療前後で変化するかを分析し、統合失調症の早期臨床スクリーニングと診断を簡便に測定可能なバイオマーカーの特定を試みた。その結果、統合失調症患者の色彩感覚は、認知機能と共に改善することが示唆された。著者らは、陰窩や色素点を伴う虹彩構造の特徴は、統合失調症の薬物治療効果に大きな影響を及ぼす可能性があり、統合失調症を鑑別する潜在的なバイオマーカーである可能性があることを報告した。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2022年6月13日号の報告。 対象は、初発統合失調症患者61例(男性:22例)。抗精神病薬治療開始前の認知機能および色彩感覚を評価するため、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)およびFarnsworth-Munsell Dichotomous(D-15 Hue Test)をそれぞれ用いた。対象患者に、医師の処方に従い第2世代抗精神病薬(オランザピン換算量)による6週間の治療を実施し、治療前(ベースライン)および治療2週目、4週目、6週目(フォローアップ時点)に、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて治療効果を評価した。まず、虹彩の特徴に基づき対象患者を分類した。次に、薬物治療効果を群間比較し、虹彩の特徴と治療効果との関連を検討した。最後に、ベースライン時と治療6週目の認知機能および色彩感覚の変化を比較し、それぞれに対する抗精神病薬の治療効果を分析した。 主な結果は以下のとおり。・虹彩構造の特徴に基づき対象患者61例を次のように分類した。 ●陰窩なし:28例、あり:33例 ●色素点なし:35例、あり:26例 ●シワなし:42例、あり19例・ベースライン時、すべての患者のPANSSスコアに有意な差は認められなかったが、各フォローアップ時点において、「陰窩あり」および「色素点あり」の患者では有意な差が認められた。・特定の虹彩構造の特徴がない患者(「陰窩なし」および「色素点なし」)は、他の患者と比較し、PANSSスコアの有意な減少が確認されており(p<0.05)、これは薬物療法が非常に効果的であることを示唆している。・薬物療法の影響を除外すると、未治療の初発統合失調症患者におけるD-15とMoCAの結果に有意な関連が認められた(r=-0.401、p<0.05)。・MoCAスコアは、ベースライン時と比較し、抗精神病薬治療6週目で有意に高かった(平均差=2.36、t=10.05、p<0.01)。

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コロナ疑い熱中症患者への最新対応法/日本救急医学会

 日本救急医学会は『新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)』発刊に関する記者会見を7月15日に行った。初版が発刊されてから2年、今回はとくに“熱中症とマスク着用の関係性”と“蒸散冷却法の使用有無”に焦点が当てられて改訂が行われ、神田 潤氏(帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センター/新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ タスクフォース長・編集長)がこれらの根拠などについて解説した。マスク着用が熱中症の危険因子となる根拠はない 第2版は初版のクリニカルクエスチョンを継承し、新たに報告された論文結果を踏まえて検討が行われた。第2版におけるQ1~7とその回答は以下のとおり。―――Q1:マスクを着用すると、体温が上がるか?A:暑熱環境における1時間程度の軽度の運動、あるいは20分のランニング程度の運動強度では、マスクの着用が体温に及ぼす影響はない。Q2:マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?A:健常成人においてマスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない。Q3:COVID-19の予防で「密閉」空間にしないようにしながら、熱中症を予防するためには、どのようにエアコンを用いるべきか?A:職場や教室等、人の集まる屋内では、密閉空間を避けるため、自然な風の流れが生じるように2方向の窓を開ける換気を適宜行い、室温を測定しながら、エアコンの温度設定を調節する。Q4:熱中症とCOVID-19は臨床症状から区別できるか?A:熱中症とCOVID-19はいずれも多彩な全身症状を呈するため、臨床症状のみから鑑別は困難である。Q5:血液検査は熱中症とCOVID-19の鑑別に有用か?A:両者の鑑別に有用な血液検査の項目はない。Q6:高体温、意識障害で熱中症を疑う患者の胸部CT検査はCOVID-19の鑑別診断に有用か?A:確定診断と除外診断に用いるには、不適切である。Q7:COVID-19の可能性がある熱中症患者の場合、蒸散冷却法を用いて、患者を冷却するべきか?A:通常の感染対策を行ったうえで蒸散冷却法を用いた積極的冷却を行ってもよいが、各施設で迅速に使用できる冷却法を選択するのが望ましい。―――マスク、呼吸困難感に影響及ぼす1)も熱中症リスクではない マスク着用時の体温上昇について、神田氏は「健常成人のボランティアの実験2)などでは、マスクを着用したとしても、熱中症のリスクは増大しなかった。ただし、高齢者や小児、既往のある人は、健常成人と同じ結果が出るかわからないため注意が必要。また、マスクをしていないからといって、熱中症のリスクが小さくなるわけではない」と強調した。蒸散冷却法にエアロゾルを介した感染リスクはない 熱中症患者に蒸散冷却法を用いると、発生するエアロゾルによって体表のウイルスが拡散するのではないか、と指摘されていた。そこで、同氏らはそれを検証するために人形を用いて実験を行い、その結果、人形表面の冷却効果を認めるも体表からの水分蒸発に伴うエアロゾルの発生は認めなかったことを明らかにした。これについて「蒸散冷却法による体表からの水分蒸発に伴うエアロゾルを介した感染のリスクはないものの、ほかの冷却法と同様に、患者がコロナ罹患者であった場合には会話や咳などによる感染のリスクが残存するため、感染対策を継続する必要がある」と述べ、「 一方で、どの冷却法を実施するかについては、蒸散冷却法を特別に推奨するものではなく、各施設で迅速に使用できる方法を選択するのが望ましい」と説明した。 このほか、同氏は「シャワー後の扇風機・うちわの使用は、蒸散冷却法そのものであるが、エアロゾルを介した感染リスクはないため、エアコン以外の熱中症対策(とくに停電時)として有効である。同様に、屋外のミストシャワーも蒸散冷却法そのものなので有効だ。エアロゾルの発生については検討していないが、シャワー自体にウイルスが存在しないので、エアロゾルを介した感染リスクは少ない。ただし、まわりに人がいる場合はマスクの着用が必要」と解説した。

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mRNAワクチン後の心筋炎、予防に有効な接種間隔は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチン接種後の心筋炎のリスクが最も高いのは、思春期および若年成人の男性であり、これらの集団ではモデルナ製よりファイザー製のワクチンを用い接種間隔は30日以上が望ましいこと、5~11歳の小児での心筋炎発症は非常に稀でエビデンスの確実性は低いことなどを、カナダ・アルバータ大学のJennifer Pillay氏らが、システマティック・レビューの結果、報告した。著者は、「mRNAワクチンに関連した心筋炎は良性と思われるが、長期追跡データは限られており、生検や組織形態学等の適切な検査を用いた前向き研究によりメカニズムの解明が進むだろう」とまとめている。BMJ誌2022年7月13日号掲載の報告。大規模研究、観察研究、サーベイランスデータ、症例シリーズなど46件の研究を解析 研究グループは、Medline、EmbaseおよびCochrane Libraryを用い、2020年10月6日から2022年1月10日までに発表された論文(参考文献リストおよび灰色文献は2021年1月13日まで)を検索し、システマティック・レビューとエビデンスの統合を行った。 適格基準は、1万例超または地域住民を対象とした大規模研究または多施設の観察研究、およびCOVID-19 mRNAワクチン接種後に確認された心筋炎または心膜炎について報告しているサーベイランスデータ(発症率およびリスク要因)、症例シリーズ(5例以上、臨床症状、短期的な臨床経過および長期アウトカム)、オピニオン、レター、レビューおよび仮説的メカニズムに焦点を当てた原著とした。 評価者1人がスクリーニングし、他の1人が機械学習プログラムを用いて優先順位付けを行い除外の50%を検証した。2番目の評価者は、全文、抽出データ、および修正Joanna Briggs Institute toolを用いたバイアスリスク評価について、すべての除外を検証した。GRADEを用い発症率やリスク因子についてのエビデンスの確実性の評価をチームのコンセンサスで決定した。 解析に組み込まれた研究は46件であった(発症率に関する研究14件、リスク因子7件、特徴および短期経過11件、長期転帰3件、メカニズム21件)。mRNAワクチン接種後の心筋炎発症リスクは12~29歳男性、モデルナ製で高い mRNAワクチン接種後の心筋炎発症率は、100万人当たり12~17歳では50~139例(エビデンスの確実性:低)、18~29歳では28~147例(エビデンスの確実性:中)と、思春期の男性および若年成人男性で最も高かった。5~11歳の少年少女と18~29歳の女性では、BNT162b2(ファイザー製)ワクチン接種後の心筋炎発症率は100万人当たり20例未満と思われた(エビデンスの確実性:低)。 mRNAワクチン3回目接種後の発症率については、エビデンスの確実性は非常に低かった。 18~29歳の心筋炎発症率は、mRNA-1273(モデルナ製)ワクチン接種後のほうがファイザー製と比較しておそらく高いと思われた(エビデンスの確実性:中)。12~17歳、18~29歳、18~39歳では、mRNAワクチン2回目接種後の心筋炎/心膜炎発症率は、1回目接種から31日以上経過後に2回目を接種したほうが、30日以内に2回目を接種した場合と比較して低い可能性があった(エビデンスの確実性:低)。18~29歳の男性に限定したデータでは、心筋炎/心膜炎の発症率を大きく低下させるためには、接種間隔を56日以上にする必要があることが示唆された。 臨床経過および短期転帰は、5~11歳については小規模な症例シリーズ1件(8例)のみであった。思春期および成人については、心筋炎発症例のほとんど(>90%)が年齢中央値20~30歳の男性で、2回目接種後2~4日に症状が発現した(71~100%)。ほとんどの人(≧84%)が短期間(2~4日)入院した。 心膜炎に関してはデータが限られていたが、患者の年齢、性別、発症時期、入院率は心筋炎よりばらつきがあった。 長期追跡調査(3ヵ月、38例)を行った症例シリーズ3件において、50%超の患者で心エコー所見異常の持続、症状あるいは薬物治療の必要性や活動制限の継続も示唆された。 メカニズムの仮説を記述した研究は16件で、エビデンスを直接支持または反論するものはほとんどなかった。 なお、本レビューは現在進行中であり(Living evidence syntheses and review)、今後のアップデートはCOVID-19 Evidence Network to support Decision-making(COVID-END)のウェブサイトに掲載される予定だという。

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ノババックス製ワクチン、12歳以上の接種を承認/添付文書改訂

 厚生労働省は7月21日、ノババックス製新型コロナウイルスワクチン「組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン」(商品名:ヌバキソビッド筋注)について添付文書を改訂し、初回免疫(1回目・2回目)の接種対象者の年齢を、18歳以上から12歳以上に引き下げたことを発表した。なお、本ワクチンの3回目の追加接種は、従来どおり18歳以上が対象となっている。また、初回免疫でほかのメーカーのワクチンを接種した者に対しては、ノババックス製ワクチンを3回目に使用した際の有効性と安全性は確立していないとしている。 今回の改訂は、本ワクチンの海外第III相臨床試験「2019nCoV-301試験」の12~17歳の被験者を対象としたパートの試験成績を踏まえたものとなる。ワクチン接種群1,491例とプラセボ群756例が参加した本試験の結果、2回目接種後の追跡期間中央値がワクチン接種群で64日、プラセボ群で63日において、ワクチン効果(VE)が79.54%(95%信頼区間:46.83~92.13)であることが示された。 12~17歳における本ワクチンの安全性については、少なくとも1回接種した2,232例で評価し、発現頻度が10%以上、もしくは日常生活を妨げるほど重症の副反応として、圧痛、疼痛、頭痛、疲労、筋肉痛、倦怠感、悪心/嘔吐、発熱、関節痛が報告された。副反応の大部分は、接種後1~2日以内に発現し、持続期間の中央値は1~2日であったという。 ワクチンの添付文書における主な改訂は以下のとおり。7.1 初回免疫7.1.1 接種対象者12歳以上の者。7.1.2 接種回数本剤は2回接種により効果が確認されていることから、原則として、他のSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく2回接種するよう注意すること。7.1.3 接種間隔1回目の接種から3週間を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施すること。7.2 追加免疫7.2.1 接種対象者18歳以上の者。SARS-CoV-2の流行状況や個々の背景因子等を踏まえ、ベネフィットとリスクを考慮し、追加免疫の要否を判断すること。7.2.2 接種時期通常、本剤2回目の接種から少なくとも6ヵ月経過した後に3回目の接種を行うことができる。7.2.3他のSARS-CoV-2ワクチンを接種した者に追加免疫として本剤を接種した際の有効性、安全性は確立していない。

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オミクロン株流行時期における5~11歳児に対するBNT162b2ワクチンの有効性(解説:寺田教彦氏)

 本研究はBNT162b2ワクチンのオミクロン株流行時期における5~11歳を対象にした研究である。 オミクロン株の流行中に新規のワクチン接種を受けた小児におけるBNT162b2ワクチンの有効性を推定するため、イスラエル最大の医療組織であるクラリット・ヘルス・サービス(CHS)のデータを用いて2021年11月23日以降にワクチン接種を受けた5~11歳児と未接種の対照をマッチさせてSARS-CoV-2感染の予防、有症状のCOVID-19患者を比較しており、和文要約は「オミクロン株流行中の5~11歳へのワクチン接種、実際の有効性は?/NEJM」に記載がある。 2022年7月中旬の現況としては、海外では5~11歳のワクチン接種で3回目を実施している国もあり、本邦も厚生労働省が3回目の接種について議論開始を検討している状況である。しかし、本邦では5~11歳の小児の接種率は低いままであり、2022年7月17日の首相官邸公式サイトを参考にすると、小児接種率は、2回接種完了者は17.6%、1回以上接種者は19.0%である(首相官邸公式サイト「新型コロナワクチンについて」)。本文では今回の研究を参考に、小児におけるBNT162b2ワクチン2回接種の意義について考察をする。 本研究のデータによると、BNT162b2ワクチンの推定有効率は感染予防については2回接種後7~21日で51%(95%CI:39~61%)であり、症候性COVID-19の予防効果は48%(95%CI:29~63%)だった。年齢サブグループ別に見た傾向としては10~11歳の高年齢グループに比較して5~6歳の低年齢グループのほうがワクチンの有効性は高かった。 本研究ではこのワクチンの効果を中等症の予防効果と評しており、私も適切な評価であると考える。 ワクチン接種の是非を論じる際は、接種によるメリットとデメリットを勘案する必要があるが、直接的なメリットとしては「発症(および感染)の予防効果」と「重症化の予防効果」があり、デメリットとしては「接種後の副反応」があるだろう。 これらについては、同様の話題で執筆の機会を頂き、CLEAR! ジャーナル四天王「小児期および青年期におけるオミクロン株に対するファイザー製ワクチン(BNT162b2ワクチン)の予防効果-1520」で論じた。当時は、5~11歳の予防効果のエビデンスを待ちたいとしたが、本研究から判明したエビデンスを用いて再度検討してみよう。感染と発症の予防効果は、成人のオミクロン株で低下しているように小児でも低下は認めるが、中等症程度の予防効果は期待できる。新型コロナウイルス感染症が流行した初期は小児の感染例は少なかったが、最近の本邦では、むしろ5~11歳が流行の中心となっている(第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード[令和4年7月13日])。また、5~11歳でも重症化する患者の報告や本邦でもCOVID-19罹患後の死亡例の報告があることを考えると、一概に小児は軽症であると断定することもしづらくなってきている。 以上より、5~11歳は現時点では新規COVID-19患者数で比較的多くの割合を占める年代であり、ワクチン2回接種では中等度とはいえ感染予防効果と重症化予防効果が期待できるメリットがあり、接種後の副反応は、成人などと比較し軽度で、重篤な副反応は増加していないことを考えると、2回接種によるメリットはデメリットを上回ると考える。 また、上記のようなワクチン接種の直接的なメリットではないが、ワクチン接種により、小児のCOVID-19流行を防ぐことは、これらの年代の学習や共同生活の機会が失われるリスクを下げることが期待できるだろう。それは、小児でもCOVID-19の流行が起これば、学級閉鎖や学校閉鎖の対応が実施されるからである。 さて、ここからはエビデンスとは離れ、臨床現場の感覚を記す。 小児症例では、一般に入院を要したり、重篤化する症例は少ないと考えられているが、入院を要するほどでないと医療従事者が判断する場合でも、食事摂取が不良だったり、頭痛や咽頭痛の訴えが強い場合に医療機関の受診を希望される両親が多い。このようなケースでは、医療機関を受診し、医師から「大丈夫ですよ」と声を掛けてもらうことで安心できることが多いようだが、COVID-19患者の受け入れには医療機関も十分な感染対策をしなければならず、医療逼迫の一因になっている感は否めない。 しかし、咽頭痛や倦怠感などによっては、数日間食事や水分摂取が難しくなり、入院が必要と判断されうる小児もいることを考えると、一概に医師の診察は不要とすることはできないだろう。 小児でのCOVID-19における致死率は高いとはいえないが、ある程度症状が悪化する症例があることは確かであり、ワクチン未接種により小児患者のCOVID-19患者が増加すると、一定数の医療機関受診が必要な患者が発生し、小児医療に逼迫が起こりかねず、受診が必要な小児患者の受診ができないという事態を起こすことも懸念される。また、病院職員などのCOVID-19陽性者の感染経路を調査すると児童からの感染と考えられる事例が増加しており、小児患者の増加は、エッセンシャルワーカーの濃厚接触者や感染者が増加することにもつながると考えられ、医療機関の負担となる可能性がある。 以上より、総合的に勘案すると5~11歳のワクチン接種は本人にとっても社会にとっても、実施するメリットのほうがデメリットより現時点では大きいと私は考えている。

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何事も練習【Dr. 中島の 新・徒然草】(435)

四百三十五の段 何事も練習ケアネットでは、「以前にも書いたかもしれない」と不安になることが……。それで、バックナンバーを確認するわけです。ところが、つい自分が書いたものを読んでしまうのが情けない。たとえば、当時は現職だった安倍総理大臣。安倍さんを複数回、ネタにしていました。三百十六の段「プレゼンを鍛える総理大臣ごっこ」三百十七の段「総理大臣ごっこで思考を整理」これら2つの記事ですが、やはり安倍元総理の存在感は別格だった気がします。さて、今回の話は職場のセクハラです。私の外来に通院している中年男性の悩みの種は、職場でのセクハラ。同じ職場で働いている男性が、昼休みになるとやってきて、体を触るのだそうです。もちろん、やめてくれとは言うのですが、相手に知的障害があるためか、なかなか理解してもらえません。とはいえ、やって良い事と悪い事があるのは当然のこと。そこで私は知恵を伝授しました。チリン、チリンと鳴るチャイムを持っておき、何かされたら鳴らすことを。そうすれば同僚たちが「何だ、何だ」と集まってきて、セクハラ男は引き離されるはず。何度も繰り返して注意されれば、しまいにはチャイムを見せるだけで引っ込むのではないか。本人にも同伴の母親にもそう説明し、お2人とも喜んで帰りました。ところがこの作戦、あまりうまくいきませんでした。つい「このくらいだったら」と、体を触られても我慢してしまうのだそうです。中島「それはダメですよ。何でも明確な意思表示が大切です!」母親「でも、なかなかチャイムを鳴らすところまでできなくて」結局、許容範囲のラインが自分でもはっきりしないのと、実際にチャイムを鳴らすのは勇気がいるのと、両方で躊躇してしまうようです。中島「とにかくですね、セクハラ男の顔を見たら、もうチャイムを鳴らしましょう」患者「え、ええ」何とも歯がゆい事になってしまいました。で、私は考えたわけです。やはり練習が必要なのではないか、と。セクハラ男が近寄ってくるまではいいとして、体に触れた瞬間にアクション!チャイムをチリン、チリン、チリンと鳴らすとともに大声を出す。「やめて下さい。誰か助けて!」このくらいはっきりと言うべきですね。この患者さんの次回の診察の時には、脳外科外来で練習してもいいかもしれません。まず私が被害者役になって、チャイムを鳴らしながら大声を出す。そして次はセクハラ男になって、患者さんに怒鳴られる役になる。そういう練習を10回もやれば、自然に声が出るというもの。とはいえ、本当に診察室でそんな練習をやったら周囲がびっくりします。まずは場所探しからしなくてはなりませんね。そして何事も練習あるのみ。Practice makes perfect!最後に1句猛暑日に 声出す練習 「助けて!」と

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