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コロナ潜伏期間は変異株ごとに短縮、年齢による違いも~メタ解析

 新型コロナウイルスの変異株の進化に伴い、アルファ株からオミクロン株へ、その潜伏期間が徐々に短縮していることが示唆された。また、小児および高齢患者で潜伏期間が長い傾向がみられている。中国・北京大学のYu Wu氏らは、それぞれの変異株によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の潜伏期間を体系的に評価することを目的にシステマティックレビューとメタ解析を実施。JAMA Network Open誌オンライン版2022年8月22日号に報告した。 2019年12月1日~2022年2月10日に、PubMed、EMBASE、ScienceDirectが検索され、PRISMAガイドラインに基づきレビュー担当者が適格な研究からデータを個別に抽出した。パラメータ等は、変量効果モデルによるメタ解析から明らかにされた。潜伏期間は感染から徴候や症状の発症までの時間と定義され、主要評価項目はSARS-CoV-2株ごとの潜伏期間の平均推定値とされた。 主な結果は以下のとおり。・8,112例を対象とした合計142件の研究が含まれた。・潜伏期間について、プールされた平均推定値は6.57日(95%信頼区間[CI]:6.26~6.88、範囲:1.80~18.87日)だった。・アルファ、ベータ、デルタ、およびオミクロン株の潜伏期間について、それぞれ1研究(6,374例)、1研究(10例)、6研究(2,368例)、および 5研究(829 例)のデータが収集された。・変異株ごとにみた平均潜伏期間は、アルファ株で5.00日(95%CI:4.94~5.06日)、ベータ株で4.50日(95%CI:1.83~7.17 日)、デルタ株は4.41日(95%CI:3.76~5.05日)、およびオミクロン株で3.42日(95%CI:2.88~3.96日)だった。・年齢および重症度ごとにみた平均潜伏期間は、高齢患者(60歳以上)で7.43日(95%CI:5.75~9.11日)、小児患者(18 歳以下)で8.82日(95%CI:8.19~9.45 日)だった。また、重症でない患者では 6.99 日(95%CI:6.07~7.92日)、重症の患者では6.69日(95%CI:4.53~8.85日)だった。  著者らは、本結果は新型コロナウイルスがCOVID-19パンデミックを通して継続的に進化および変異し、さまざまな形の感染性および病原性を持つ変異株を生成したことを示唆しているとし、変異株の潜伏期間を特定することは、隔離期間を決定するうえで重要な要素だとしている。

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スタチン投与時の筋症状、9割以上が関連なし/Lancet

 スタチンは動脈硬化性心血管疾患の予防に有効で、広く処方されているが、筋肉痛や筋力低下を引き起こす可能性が高いとの懸念が消えない。英国・オックスフォード大学のChristina Reith氏らCholesterol Treatment Trialists’(CTT)Collaborationは、大規模臨床試験の有害事象データを用いてスタチンの筋肉への影響について検討し、スタチン治療はプラセボと比較して、ほとんどが軽度の筋症状がわずかに増加したものの、スタチン治療を受けた患者で報告された筋症状の90%以上はスタチンに起因するものではなく、スタチンによる筋症状のリスクは心血管に対する既知の利益に比べればはるかに小さいことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年8月26日号に掲載された。23件の大規模無作為化試験のメタ解析 研究グループは、スタチンの筋肉への影響の評価を目的に、スタチン治療の大規模で長期の二重盲検無作為化試験で記録された、個々の参加者における筋肉の有害事象のデータを用いてメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。 対象は、1,000例以上を登録して2年以上の治療を行い、スタチンとプラセボ、またはより高い強度のスタチンとより低い強度のスタチンを比較した二重盲検試験とされ、それぞれ19件および4件の試験が解析に含まれた。 事前に規定されたプロトコルに基づき、スタチンによる筋肉のアウトカムへの影響について、標準的な逆分散法によるメタ解析が行われた。筋症状の多くは治療開始から1年以内に 19件のプラセボ対照比較試験(12万3,940例)のうち、1件(6,605例)は低強度スタチンレジメンとプラセボ、16件は中強度スタチンレジメンとプラセボ、2件は高強度スタチンレジメンとプラセボの比較であった。これら19試験の参加者の平均年齢は63(SD 8)歳、3万4,533例(27.9%)が女性で、5万9,610例(48.1%)が血管疾患の既往歴を有し、2万2,925例(18.5%)が糖尿病だった。 重み付け平均追跡期間中央値は4.3年であった。この間に、少なくとも1件の筋肉痛または筋力低下が発現した患者は、スタチン群が1万6,835例(27.1%)、プラセボ群は1万6,446例(26.6%)であり、スタチン群で相対的に3%増加していた(率比[RR]:1.03、95%信頼区間[CI]:1.01~1.06)。スタチンの影響は、さまざまな筋症状(筋肉痛、筋肉の痙攣や攣縮、四肢痛、その他の筋骨格系の痛みなど)で同程度であった。 治療開始から1年以内では、スタチン群で筋肉痛または筋力低下が相対的に7%増加していた(14.8% vs.14.0%、RR:1.07、95%CI:1.04~1.10)。これは、1,000人年当たり11件(95%CI:6~16)の過剰絶対リスクに相当し、スタチン群の筋肉関連の報告のうち、実際にスタチンに起因するものは約15分の1([1.07-1.00]÷1.07で算出)に過ぎないことを示している。 これに対し、1年目以降は、筋肉痛または筋力低下の初発の報告に、有意な超過は認められなかった(14.8% vs.15.0%、RR:0.99、95%CI:0.96~1.02)。これは、1,000人年当たり0件(95%CI:-2~1)の過剰絶対リスクに相当した。 全期間では、プラセボとの比較において、高強度スタチン(アトルバスタチン40~80mgまたはロスバスタチン20~40mg、1日1回)は低または中強度スタチンよりも筋肉痛または筋力低下の発現のRRが大きく(1.08[95%CI:1.04~1.13]vs.1.03[1.00~1.05])、1年目以降にも高強度スタチンでわずかながら超過が認められた(RR:1.05、95%CI:0.99~1.12)。 一方、2件の高強度スタチンレジメンとプラセボを比較した試験と、4件のより高い強度のスタチンとより低い強度のスタチンを比較した試験(3万724例、追跡期間中央値:4.9年、平均年齢:62[SD 9]歳、血管疾患の既往歴:100%)のデータを用いてスタチンの種類別の解析を行ったところ、個別のスタチンや、臨床的状況の違いによって、筋肉痛または筋力低下の発現のRRに差があるとの明確な証拠は得られなかった。 また、スタチン治療により、クレアチニンキナーゼ値中央値は、臨床的に重要でない、わずかな増加(基準値範囲の上限値の約0.02倍)を示した。 著者は、「これらの結果は、スタチン治療時に患者が筋症状を訴えた場合に、それが実際にスタチンによって引き起こされた確率は低い(10%未満)ことを示唆する。それゆえ、筋症状の管理に関する現行の推奨事項は見直す必要がある」と指摘し、「Heart Protection Study(HPS)のエビデンスに基づくと、筋肉痛または筋力低下のリスクのわずかな増加は、通常は治療中止に至らないイベントによるものと考えられ、クレアチニンキナーゼ値の臨床的に有意な変化をもたらさなかった。これは、スタチンに起因する筋肉痛または筋力低下のほとんどは臨床的に軽度であることを示唆する」としている。

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左室駆出率の軽度低下または保持心不全、ダパグリフロジンが有効/NEJM

 左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保持された心不全(HFpEF)患者の治療において、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるダパグリフロジンはプラセボと比較して、心不全の悪化または死亡のリスクを有意に低減させるとともに、症状の負担を軽減し、有害事象の発現状況は同程度であることが、米国・ハーバード大学医学大学院のScott D. Solomon氏らが実施した「DELIVER試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年8月27日号で報告された。20ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 DELIVER試験は、左室駆出率が軽度低下または保持された心不全患者の治療における、ダパグリフロジンの有効性と安全性の評価を目的とするイベント主導型の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年8月~2020年12月の期間に、日本を含む20ヵ国353施設で参加者のスクリーニングが行われた(AstraZenecaの助成による)。 対象は、年齢40歳以上、安定期の心不全で、左室駆出率が過去に40%以下に低下したが試験登録時には40%以上に上昇しており、2型糖尿病の有無は問わず、構造的心疾患を有し、ナトリウム利尿ペプチド値の上昇が認められる患者とされた。 被験者は、通常治療に加え、ダパグリフロジン(10mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心不全の悪化(心不全による予定外の入院または心不全による緊急受診と定義)または心血管死の複合とされ、time-to-event解析で評価された。また、左室駆出率が正常範囲の患者で薬剤の効果が減弱する可能性が指摘されていたため、60%未満の患者の解析も行った。糖尿病の有無や左室駆出率を問わずに使用の可能性 6,263例が登録され、ダパグリフロジン群に3,131例(平均年齢71.8±9.6歳、女性43.6%、平均左室駆出率54.0±8.6%、2型糖尿病44.7%)、プラセボ群に3,132例(71.5±9.5歳、44.2%、54.3±8.9%、44.9%)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.3年だった。 主要アウトカムの発現率は、ダパグリフロジン群が16.4%(512/3,131例、7.8件/100人年)と、プラセボ群の19.5%(610/3,132例、9.6件/100人年)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73~0.92、p<0.001)。これは、左室駆出率60%未満の患者でも同程度だった(0.83、0.73~0.95、p=0.009)。 主要アウトカムの個々の項目の発現率は、心不全の悪化はダパグリフロジン群が11.8%(368例)、プラセボ群は14.5%(455例)であり(HR:0.79、95%CI:0.69~0.91)、心血管死はそれぞれ7.4%(231例)および8.3%(261例)であった(0.88、0.74~1.05)。また、全死因死亡にも、心血管死と類似の傾向がみられた(0.94、0.83~1.07)。これらの結果は、左室駆出率60%未満の患者でも同程度であった。 主要アウトカムに関するダパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無を含め事前に規定されたほとんどのサブグループで認められた。 また、副次アウトカムである心不全の悪化(初発、再発)と心血管死の総件数は、ダパグリフロジン群で少なく(HR:0.77、95%CI:0.67~0.89、p<0.001)、ベースラインから8ヵ月時までのカンザスシティ心筋症質問票スコア(KCCQスコア、0~100点、点数が高いほど症状や身体制限が少ない)の変化量でみた心不全症状に関しても、ダパグリフロジン群で優れることが示された(win ratio:1.11、95%CI:1.03~1.21、p=0.009)。 有害事象の発生率には2つの群で差はなかった。重篤な有害事象は、ダパグリフロジン群が43.5%、プラセボ群は45.5%で報告され、試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、両群とも5.8%で認められた。 著者は、「本試験では、左室駆出率に関して不均一性は認められず、60%未満と60%以上で全体として同様の治療効果が認められた」とし、「今回の結果から、左室駆出率40%以下の心不全を対象とした先行試験(DAPA-HF試験)と同様に、左室駆出率40%以上の患者においてもダパグリフロジンは心不全の悪化または心血管死のリスクを改善することが明らかとなった。これらのデータは、2型糖尿病の有無や左室駆出率の値にかかわらず、心不全患者における必須の治療法として、SGLT2阻害薬の使用を支持する新たなエビデンスを提供するものである」としている。

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日本人高齢者における片頭痛有病率~糸魚川翡翠研究

 新潟・糸魚川総合病院の勝木 将人氏らは、日本人高齢者の頭痛、片頭痛、慢性連日性頭痛、痛み止めの使い過ぎによる頭痛(薬剤の使用過多による頭痛、薬物乱用頭痛)の有病率を調査するためアンケート調査を実施し、3ヵ月間の頭痛の有病率とその特徴を明らかにしようと試みた。結果を踏まえ著者らは、日本人高齢者の頭痛有病率は諸外国と比較し、決して高いものではないが、片頭痛による社会経済的損失は重大であり、疾患の理解、適切な治療や予防などが重要であると報告している。また、高齢者は、さまざまな併存疾患に関連する重度な頭痛といった特徴を持つ可能性が示唆された。Journal of Clinical Medicine誌2022年8月11日号掲載の報告。 2019年、3回目の新型コロナウイルスワクチン接種後の待機時間を利用し、新潟県・糸魚川市の糸魚川総合病院と能生国民健康保険診療所で、65歳以上の高齢者を対象にアンケート調査を実施した。片頭痛および薬物乱用頭痛の定義には、国際頭痛分類第3版を用いた。慢性連日性頭痛は、1ヵ月に15日以上の頭痛発生と定義した。K-means++法を用いて、クラスタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・有効回答者2,858例における有病率は、頭痛11.97%、片頭痛0.91%、慢性連日性頭痛1.57%、薬物乱用頭痛0.70%であった。・鎮痛薬の併用や非オピオイド鎮痛薬の使用頻度が高かった。・予防薬を使用していた片頭痛患者は1例のみであった。・K-means++法を用いて薬物乱用頭痛患者332例を4つのクラスターに分類したところ、各クラスターの頭痛に下記の特徴が認められた。 ●クラスター1:緊張型頭痛様 ●クラスター2:薬物乱用頭痛様 ●クラスター3:脳卒中・脂質異常症・うつ病などを既往に持つ重症な頭痛 ●クラスター4:光恐怖症や音恐怖症を持つ片頭痛様

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ワルファリンは揺るぎない経口抗凝固薬の本流!(解説:後藤信哉氏)

 抗凝固薬の重篤な出血合併症は怖い。ワルファリンの有効性は確実であるが、重篤な出血合併症が怖いため血栓イベントリスクの高い症例に絞って使用してきた。経口のトロンビン、Xa阻害薬ではワルファリンに勝る有効性は期待できない。ワルファリンの至適PT-INRを2~3と高めに設定して、辛うじて非弁膜症性心房細動にて適応を取得した。リウマチ性の僧帽弁狭窄症など、血栓リスクの高い症例の血栓イベントは単一の凝固因子の選択的阻害薬ではとても予防できないと想定されていた。高齢社会にて非弁膜症性心房細動の数は多い。経口のトロンビン、Xa阻害薬をごっちゃにしてNOAC/DOACなどの軽い名前のイメージで特許期間内に売りまくった。血栓イベントリスクの高い機械弁では、NOAC/DOACがワルファリンにとても勝てないことはすでに解明されていた(Eikelboom JW, et al. N Engl J Med. 2013;369:1206-1214.)。今回は弁口面積2cm2以下の僧帽弁狭窄症を含むリウマチ性の心房細動の症例をNOAC/DOACのリバーロキサバンとワルファリンに割り付け、両者の有効性・安全性を検証した。 非弁膜症性の心房細動の各種ランダム化比較試験と本試験では、有効性エンドポイントが同一ではない。本試験では脳卒中・全身塞栓症に加え、心筋梗塞、心血管死亡、原因不明の死亡が有効性のエンドポイントとされた。症例は50歳前後と典型的な非弁膜症性心房細動よりも若い。観察期間内の有効性エンドポイントしては脳梗塞・全身塞栓症よりも死亡が圧倒的に多い。非弁膜症性心房細動におけるNOAC/DOAC開発試験でも、脳卒中・全身塞栓症よりも死亡が多かった。心房細動の症例をみたら、近未来の死亡こそ警戒されるべきである! 脳卒中・全身塞栓症、死亡ともに、リバーロキサバン群よりもワルファリン群が少なかった。試験がオープンラベルでPT-INRは2~3を目標とされたが、各施設に任された部分が多かった。重篤な出血、頭蓋内出血ともに数の上ではワルファリン群に多いように見えるが、若年のこともあり絶対数は少ない。 リウマチ性心疾患の心房細動など、血栓リスクの高い症例ではワルファリンが必要であることが改めて示された。ワルファリンは古典的で使い方はNOAC/DOACより難しい。しかし、本当に血栓が心配な症例ではワルファリンが必要である。難しいけど若手には頑張って勉強してほしい!

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第125回 学会提言がTwitterで大炎上、医療崩壊にすり替えた国産コロナ薬への便宜では?

土曜日の朝、何気なくTwitterを開いたらトレンドキーワードに「感染症学会」の文字。何かと思って検索して元情報を辿ったところ、行き着いたのが日本感染症学会と日本化学療法学会が合同で加藤 勝信厚生労働大臣に提出した「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」だった。提言は4つだが、そのすべてをひっくるめてざっくりまとめると、「現在の第7波に対応するには早期診断・早期治療体制の確立がカギを握る。そのためには重症化リスクの有無に関係なく使える抗ウイルス薬が必要であり、その可能性がある国産抗ウイルス薬の一刻も早い承認あるいは既存の抗ウイルス薬の適応拡大が必要」というものだ。どうやら発表された9月2日に厚生労働省内にある記者クラブで記者会見をしたらしいが、フリーランスの私は当然それを知る由もない。この点がフリーランスのディスアドバンテージである。国産抗ウイルス薬とは、塩野義製薬が緊急承認制度を使って申請した3CLプロテアーゼ阻害薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)のことだ。同薬の緊急承認審議の中身についてはすでに本連載で触れた通り。連載では文字数の関係上、ある程度議論をリードした発言を抜粋はしているが、本格議論の前に医薬品医療機器総合機構(PMDA)側から緊急承認に否定的な審査報告書の内容が説明されている。その意味で、連載に取り上げた議論内容は少なくとも感情論ではなく科学的検討を受けてのもので、結果として継続審議となった。両学会の提言はそうした科学的議論を棚上げしろと言っているに等しい。もっとも両学会の提言は一定のロジックは付けている。それについて私なりの見方を今回は記しておきたいと思う。まず、4つの提言のうち1番目を要約すると「入院患者の減少や重症化の予防につながる早期診断・早期治療の体制確立を」ということだが、これについてはまったく異論はない。提言の2番目(新規抗ウイルス薬の必要性)は一見すると確かにその通りとも言える。念のため全文を引用したい。「現在使用可能な内服薬は適応に制限があり、60歳未満の方のほとんどは診断されても解熱薬などの対症療法薬の処方しか受けられません。辛い症状、後遺症に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。また、自宅療養中に同居家族に高率に感染が広がることが医療逼迫の大きな原因になっています。こうした状況を打開するためにも、ハイリスク患者以外の軽症者にも投与できる抗ウイルス薬の臨床現場への導入が必要です」私はこの段階でやや引っかかってしまう。確かに現時点で高齢者や明らかな重症化リスクのある人以外は解熱鎮痛薬を軸とする対症療法しか手段がない。しかも、現在の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の重症度判定は、酸素飽和度の数値で決められているため、この数字が異常値でない限りは40℃近い発熱で患者がのたうち回っていても重症度上は軽症となり、解熱鎮痛薬処方で自然軽快まで持ちこたえるしかない。それを見つめる医療従事者は隔靴掻痒の感はあり、何とかしてあげたいという思いに駆られるだろう。それそのものは理解できる。しかし、私たちはこの「思い」が裏目に出たケースを経験している。いわゆる風邪に対する抗菌薬乱用による耐性菌の増加、眠れないと訴える高齢者へのペンゾジアゼピン系抗不安薬の乱用による依存症。いずれも根本は医療従事者の“患者の苦痛を何とかしたい”という「思い」(あるいは「善意」)がもたらした負の遺産である。結果として、提言の2番目は言外に「何ともできないのは辛いから、まずは効果はほどほどでも何とかできるようにさせてくれ」と主張しているように私は思えてしまう。ちなみに各提言では、「説明と要望」と称してより詳細な主張が付記されているが、2番目の提言で該当部分を読むと、その主張は科学的にはやや怪しくなる。該当部分を抜粋する。「感染者に対する早い段階での抗ウイルス薬の投与は、重症化を未然に防ぎ、感染者の速やかな回復を助けるだけではなく、二次感染を減らす意味でも大切です」これは一般の人が読めば、「そうそう。そうだよね」となるかもしれない。しかし、私が科学的に怪しいと指摘したのは太字にした部分である。その理由は2つある。第1の理由は、まず今回の新型コロナは感染者の発症直前から二次感染を引き起こす。発症者が抗ウイルス薬を服用しても二次感染防止は原理的に不可能と言わざるを得ない。服用薬に一定の抗ウイルス効果が認められるならば、感染者・発症者が排出するウイルス量は減ると考えられるので、理論上は二次感染を減らせるかもしれないが、それが服用薬の持つリスクとそのもののコストに見合った減少効果となるかは、はなはだ疑問である。第2の理由は、提言が緊急承認を求めているエンシトレルビルの作用機序に帰する。エンシトレルビルは新型コロナウイルスの3CLプロテアーゼを阻害し、すでに細胞に侵入したウイルスの増殖を抑制することを意図した薬剤である。ヒトの体内に侵入したウイルスが細胞に入り込む、すなわち感染・発症成立を阻止するものではない。たとえばオミクロン株ではほぼ無効として、現在はほぼ使用されなくなった通称・抗体カクテル療法のカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と結合し、細胞そのものへの侵入を阻止する。もちろんこれとて完全な感染予防効果ではなく、厳密に言えば発症予防効果ではあるが、原理的には3CLプロテアーゼ阻害薬よりは二次感染発生の減少に資すると言える。現にオミクロン株登場前とはいえ、カシリビマブ/イムデビマブは、臨床試験で家庭内・同居者内での発症予防効果が認められ、適応も拡大されている。これに対してエンシトレルビルと同じ3CLプロテアーゼ阻害薬で、国内でも承認されているニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)では、家庭内感染リスク低下を評価するべく行った第II/III相試験「EPIC-PEP」でプラセボ群と比較して有意差は認められていない。これらから「二次感染を減らす意味でも大切です」という提言内容には大いに疑問である。そして提言の3番目(抗ウイルス効果の意義)では次のように記述している。「新しい抗ウイルス薬の臨床試験において、抗ウイルス効果は主要評価項目の一つです。新型コロナウイルスの変異株の出現に伴い、臨床所見が大きく変化している今、抗ウイルス効果を重視する必要があります」今回の話題の焦点でもあるエンシトレルビルの緊急承認審議に提出された同薬の第II/III相試験の軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果では、主要評価項目の鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量は、前者で有意差が認められたものの、後者では有意差が認められなかった。この結果が緊急承認の保留(継続審議)に繋がっている。提言の言いたいことは、ウイルス力価の減少、つまり抗ウイルス効果が認められたと考えられるのだから、むしろそれを重視すべきではないかということなのだろう。実際、3番目の提言の説明と要望の項目では、デルタ株が主流だった第5波の際の感染者の重症化(人工呼吸器管理を必要とする人)率が0.5%超だったのに対し、オミクロン株が主流の第6波以後では0.1%未満であるため、重症化阻止効果を臨床試験で示すことは容易ではないと指摘している。それは指摘の通りだが、エンシトレルビルの第IIb相パートはそもそも重症化予防効果を検討したものではない。あくまで臨床症状改善状況を検討したものである。しかも、この説明と要望の部分では「ウイルス量が早く減少することは、臨床症状の改善を早めます」とまるで自家撞着とも言える記述がある。ところがそのウイルス量の減少が臨床症状の改善を早めるという結果が出なかったのがエンシトレルビルの第IIb相パートの結果である。両学会は何を主張したいのだろう。一方で今回のエンシトレルビルの件では、時に「抗ウイルス薬に抗炎症効果(臨床症状改善)まで求めるのは酷ではないか」との指摘がある。しかし、ウイルス感染症では、感染の結果として炎症反応が起こるのは自明のこと。ウイルスの増殖が抑制できるならば、当然炎症反応にはブレーキがかからねばならない。それを臨床試験結果として示せない薬を服用することは誰の得なのだろうか?前述のように作用機序からも二次感染リスクの減少効果が心もとない以上、この薬を臨床現場に投入する意味は、極端な話、それを販売する製薬企業の売上高増加と解熱鎮痛薬よりは根本治療に近い薬を処方することで医師の心理的負荷が軽減されることだけではないか、と言うのは言い過ぎだろうか?さらにそもそも論を言ってしまえば、現在エンシトレルビルで示されている抗ウイルス効果も現時点では「可能性がある」レベルに留まっている。というのも前述の第IIb相パートは検査陽性で発症が確認されてから5日以内にエンシトレルビルの投与を開始している。この投与基準そのものは妥当である。そのうえで、対プラセボでウイルス力価とRNA量の減少がともに有意差が認められたのは投与開始4日目、つまり発症から最大で9日目のもの。そもそも新型コロナでは自然経過でも体内のウイルス量は発症から5日程度でピークを迎え、その時点を境に減少するのが一般的である。この点を考慮すると、第IIb相パートの試験で示された抗ウイルス効果に関する有意差が本当にエンシトレルビルの効果のみで説明できるかは精査の余地を残している。ちなみに緊急承認に関する公開審議では委員の1人から、この点を念頭にエンシトレルビル投与を受けた被験者の投与開始時点別の結果などが分かるかどうかの指摘があったが、事務局サイドは不明だと回答している。さらに指摘するならば同試験は低用量群と高用量群の2つの群が設定されているが、試験結果を見る限りでは高用量群での抗ウイルス効果が低用量群を明らかに上回っているとは言い切れず、用量依存的効果も微妙なところである。総合すれば、エンシトレルビルの抗ウイルス効果と言われるものも、現時点では暫定的なものと言わざるを得ないのだ。また、3番目の提言の説明と要望の項目では「オミクロン株に感染した際の症状としては呼吸器症状(鼻閉・咽頭痛・咳)、発熱、全身倦怠感が主体でこれ以外の症状は少なくなっています」とさらりと触れている。これは主要評価項目の12症状合計スコアで有意差が認められなかった点について、塩野義製薬がサブ解析でこうした呼吸器症状のみに限定した場合にプラセボに対してエンシトレルビルでは有意差が認められたと主張したことを、やんわりアシストしているように受け取れる。これとて緊急承認の際の公開審議に参加した委員の1人である島田 眞路氏(山梨大学学長)から「呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って」とかなり厳しく指摘された点である。そしてこうしたサブ解析で有意差が出た項目を主要評価項目にして臨床研究を行った結果、最終的に有意差は認められなかったケースは実際にあることだ。いずれにせよ私個人の意見に過ぎないが、今回の提言は科学的に見てかなり破綻していると言わざるを得ない。そしてなにより今回の提言の当事者である日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)は、エンシトレルビルの治験調整医師であり、明確に塩野義製薬と利益相反がある。記者会見ではこの点について四柳氏自身が「あくまでも学会の立場で提言をまとめた」と発言したと伝わっているが、世間はそう単純には受け止めないものだ。それでも提言のロジックが堅牢ならばまだしも、それには程遠い。まあ、そんなこんなで土曜日は何度かこの件についてTwitterで放言したが、それを見た知人からわざわざ電話で「あの感染症学会の喧々諤々、分かりやすく説明してくれ」と電話がかかってきた。「時間かかるから夜にでも」と話したら、これから町内会の清掃があって、その後深夜まで出かけるとのこと。私はとっさに次のように答えておいた。「あれは例えて言うと…町内会員らで清掃中の道路に町内会長が○○○したようなもの」これを聞いた知人は「うーん、分かるような、分からないような。また電話するわ」と言って会話は終了した。その後、彼からは再度問い合わせはない。ちなみに○○○は品がないので敢えて伏字にさせてもらっている。ご興味がある方はTwitterで検索して見てください。お勧めはしません(笑)。

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ドラマ「ドラゴン桜」(前編)【なんでそんなに東大に入りたいの? 学歴ブランド化の不都合な真実とは?(教育ビジネス)】Part 1

今回のキーワード東大ブランド知能の高さ性格の望ましさシープスキン効果学歴ブランド化学歴階級社会学歴インフレ教育ビジネス皆さんは、学歴にこだわりますか? 自分の子どもをなるべく高学歴にさせたいと思いますか? ただ大卒であるだけでなく、有名大卒にさせたいですか?その象徴として、東大があります。それでは、あえて考えてみましょう。なぜ東大に入りたい(入れたい)のでしょうか? 学歴へのこだわりは、個人の自由かもしれませんが、社会としてはどうでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、ドラマ「ドラゴン桜」を取り上げます。このドラマに登場する桜木先生の発言を通して、学歴ブランド化の問題点を明らかにして、その不都合な真実に迫ります。なんで東大に入りたいの?舞台は、いわゆる教育困難校。主人公の桜木は、元暴走族上がりの弁護士で、一風変わった受験コンサルタントです。このドラマは、彼の方法論によって、もともと勉強が好きではなかった生徒たちが次々と東大に合格していくというサクセスストーリーです。ある学校の職員会議で、教頭先生が言い出します。「この経営難を脱却するには…東大合格者の輩出です」「日本最高学府のトップである東大合格者を複数人出せば、わが学園の名は全国的に広まることでしょう」「東大ブランドにあやかり生徒数を増やす。これしか生き残るすべはありません」と。そして、桜木先生が招かれていくという展開です。まず、東大に入りたい(入れさせたい)一番の理由は、東大ブランドが手に入るからであることが分かります。このブランドによって、出身高校は有名になるというアドバンテージを得ることができるわけです。そして、何より、本人がその後により良い仕事、より良い収入という人生のアドバンテージを得ることができると考えられているからです。もちろん、東大に入りたいほかの理由として、「東大に入ってあの先生の講義を受けたい」「この研究をしたい」などがあります。これらは、東大での教育そのものを理由にしていますが、けっして多数派ではありません。その理由として、東大生の多くが、入学後にはなるべくスムーズに単位を取って卒業することに重きを置いているからです。東大ブランドが証明するものは?それでは、東大ブランドによって、なぜより良い仕事、より良い収入が得られるのでしょうか? ここから、東大ブランドが証明するものを、主に2つ挙げてみましょう。(1)知能の高さドラマでは、たびたび偏差値というワードが飛び交います。そして、東大は、学力偏差値が最も高い大学であることから、最も優秀な人が集まるところとされています。1つは、知能の高さ(認知能力)です。ちなみに、東大に合格するために必要な知能指数(IQ)は120以上と言われています。(2)性格の望ましさもう1つは、性格の望ましさ(社会適応能力)です。その望ましさとは、主に真面目さと協調性です。よって、真面目さの資質を測るために、受験科目は多ければ多いほど良いです。そして、協調性の資質を測るために、大学の授業はむしろ難解で癖があればあるほど好都合です。なぜなら、それでも適応できる性格であることを証明できるからです。逆に、受験科目を減らしたり、分かりやすい授業をするなどの革新的なことをやり過ぎてしまったら、真面目さや協調性が測れなくなってしまう点で、そのブランドの価値を下げてしまうでしょう。だからこそ、伝統と実績が強調されるのです。この点で、東大を中退する人は、東大に見切りをつけて自分で起業するくらいとんでもなく仕事能力の高い人か、逆に東大の教育環境についていけないくらい実は仕事能力の低い人という両極端の評価をされてしまいます。この点で、東大ブランドは、知能テストだけでは代用できないことが分かります。次のページへ >>

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ドラマ「ドラゴン桜」(前編)【なんでそんなに東大に入りたいの? 学歴ブランド化の不都合な真実とは?(教育ビジネス)】Part 2

東大ブランドの不思議な点は?桜木先生は、全校生徒の前で「東大に行け!」と力説します。すると、ある生徒が「そういう(東大のように)偉そうなところ、みんな嫌いだよ」と言い放ちます。おもむろに、桜木先生は「俺もだ。東大みたいなブランド、ありがたがっている連中見るとヘドが出る。てめえが東大行ったってだけで人生成功したと思ってるやつら、目の前の相手が東大出たと知った瞬間に卑屈になるやつは、みんなゲス野郎だ」と言い返すのです。ここで、東大ブランドの不思議な点が見えてきます。それは、東大卒というだけで優遇されることです。実は、東大ブランドの価値は、東大での教育そのもの(内容)ではなく、東大での教育が修了したという結果(形式)であるということです。その理由として、東大で受けた教育が直接一般職(専門職や研究職を除く)の仕事に貢献するのは、実際にはごく一部であるからです。もちろん、一般教養が仕事に貢献することは多少あります。語学力や論理的思考能力が培われるという意見もあります。しかし、あえて東大(もっと言えば一般の大学)の教育である必要はないでしょう。なぜなら、世の中には、語学学校やビジネススクールがたくさんあります。そして、現在の情報社会では、インターネットの動画やオンライン講座でいくらでも教養を身に付けることができるからです。そして、これらのほうが厳しい競争原理が働いているため、もっと分かりやすくて楽しく、効率的に学ぶことができるからです。この点を企業側も学生側も、最初から見越しています。だからこそ、企業側も学生側も大学での成績に重きを置いていないのです。こうして、東大生(もっと言えば一般の大学生)の多くが入学後にはなるべくスムーズに単位を取って卒業することに重きを置くのです。応用経済学では、これをシープスキン効果と呼んでいます。シープスキンとは羊皮のことです。古くは卒業証書がこのシープスキン(羊皮紙)に印字されていたことに由来します。つまり、卒業証書(学歴)があるかないかで、受けた教育が同じであっても、収入が違ってしまうことです。シープスキン効果はどれくらいあるの?このシープスキン効果は、とくに東大に限った話ではありません。OECD(経済協力開発機構)の報告書[2018]によると、日本人の大卒の平均収入は、高卒の1.4倍強です。40%増えた内訳は、もともとの知能の高さ、もともとの性格の望ましさ、大学における教育効果、そしてシープスキン効果が考えられます。ここで、知能テストと性格テストによる調査の結果から、この内訳を数値化したいところですが、日本ではこの研究が進んでいません。そこで、アメリカの研究を参考にします。まず、アメリカ人の大卒の平均収入は、高卒の1.7培です。70%も増えており、学歴による収入格差が大きい点で、実はアメリカは日本よりも学歴社会であることが分かります。そして、知能テストと性格テストの補正によって、知能の高さは70%のうちの20%分、性格の良さは10%分を占めていることが分かっています1)。これらを足した30%分が本人の実力になります。そして、残りの増え幅の40%分が教育効果とシープスキン効果になるわけです。教育効果とシープスキン効果の割合については、算出することは難しいです。ただ、推定されるシープスキン効果の割合が大きくなるのは、就いた仕事が教育効果の不要な一般職である場合と言えます。逆に、シープスキン効果が小さくなるのは、就いた仕事が教育効果の必要な専門職や研究職である場合と言えます。なお、アメリカの研究では、知能テストと性格テストの補正をしても、高校中退は高卒の0.85倍、大学中退は大卒の0.78倍(高卒の1.1倍弱)になってしまうことも分かっています。これらを含めた格差からも、知能と性格が同じであっても、学歴があるというだけで収入が割り増しになっていくことが分かります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドラマ「ドラゴン桜」(前編)【なんでそんなに東大に入りたいの? 学歴ブランド化の不都合な真実とは?(教育ビジネス)】Part 3

学歴ブランド化の問題点は?学歴は、手に入れた場合に優遇されるという個人としての恩恵があることが分かりました。一方で、社会全体としてはどうでしょうか? ここから、東大に限らず、学歴ブランド化の社会的な問題点を、桜木先生のセリフをヒントに大きく3つ挙げてみましょう。(1)学歴がないと搾取される側になってしまう-学歴階級社会桜木先生が、全校生徒の前でいきなり挑発するシーン。彼は言います。「おまえらにその(東大に入る)価値があるとは思えない。見るからにぐずでのろま。勉強も学校生活もみんな中途半端。1日中、やれスマホだ、ゲームだ。毎日何となくぼけーとした日を送ってやがる。バカばっかりだ! バカなだけなら、まだいい。無関心、無気力、甘ったれ、根性なし。そんなおまえらがこのまま何となく世の中に出てみろ。あっという間に、薄汚い社会の渦に飲みこまれ、知らず知らずに搾取され、騙され、カモにされ、こき使われる。一生社会の奴隷となって、もがき続け死んでいくんだ」と。1つ目の問題点は、学歴がないと搾取される側になってしまうことです。これは、学歴があると優遇されるシープスキン効果を逆から言い表しています。学歴が、職業の単なるふるい分けの役割を果たすだけでなく、シープスキン効果によって生活レベルの格差(収入格差)を生み出すように働いています。これは、ひと言で言えば、学歴階級社会です。(2)みんなが学歴を高くしようとする-学歴インフレ桜木先生は、全校生徒を鼓舞するシーン。彼は言います。「東大なんてのはなあ、やり方次第で簡単に入れる」「賢いやつはだまされずに得して勝つ。バカはだまされて損して負け続ける。これが、今の世の中の仕組みだ。だから、おまえら。だまされたくなかったら、損して負けたくなかったら、おまえら勉強しろ! 手っ取り早い方法を教えてやる。東大に行け!」と。2つ目の問題点は、みんなが学歴を高くしようとすることです。学歴がなければ搾取されることを知ったら出てくる当然の発想です。彼の東大特進クラスには数人集まりました。しかし、よくよく考えると、もしも全校生徒全員が東大を目指したらどうなるでしょうか? 東大の合格者は最初から定員が決まっているわけで、全員東大に入ることはできません。いわゆるゼロサムゲームです。競争率が上がって、ますます東大の価値が高まります。これは、ひと言で言えば、学歴インフレです。(3)教育関係者の既得権が増える-教育ビジネス桜木先生は、全校生徒の前でさらに続けます。「社会にはルールがある。その上で生きていかなきゃならない。だがな、そのルールってやつは、すべて頭の良いやつが作っている。それはつまり、どういうことか(というと)、そのルールは、すべて頭の良いやつに都合の良いように作られてるってことだ!」と。そして、実は、その「頭の良いやつ」の中に、教育関係者も含まれます。3つ目の問題点は、教育関係者の既得権が増えることです。学歴インフレによって、彼らの需要が必然的に増えます。大学への入学希望者が増えれば、大学の価値が高まります。実際に、少子化になって数十年経っているにもかかわらず、現在まで大学の数は増え続けています。すると、大学に関係する雇用が増えます。とくに、もともと就職先が限られていて学歴過剰になりがちな大学院卒の人たちの打って付けの受け皿になります。また、塾や予備校などの受験教育に関係する雇用も増えます。そして、実は桜木先生もその1人であると言えます。一方で、受験生や大学生(専門職や研究職を目指す学生を除く)の多くは、大卒という学歴を得るために、仕事や生活にあまり役に立たないうえに必ずしも楽しくない教育を受けるようにさらに駆り立てられます。そして、卒業後は受けたその教育のほとんどを忘れてしまうのです。これは、もはや時間とお金と労力の壮大な無駄づかいに思えてきます。旧ソ連に「国は給料を払うふりをして国民は働くふりをする」というジョークがあります。同じように、学歴インフレが進んだ学歴階級社会では「学校は教えるふりをして学生は学ぶふりをする」というジョークが生まれてしまいそうです。つまり、学歴ブランド化によって一番恩恵を受けるのは、教育を受ける側ではなく、実は教育をする側であるということです。これは、教育のビジネス化、つまり教育ビジネスという不都合な真実です。1)「大学なんか行っても意味はない?」P106:ブライアン・カプラン、みすず書房、2019<< 前のページへ

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青年期の学力向上と抑うつ症状との関連

 シンガポール国立大学のRyan Y. Hong氏らは、青年期の学力向上と抑うつ症状との長期的な関連性を調査した。その結果、学力構築の維持を目的とした介入が、抑うつ症状の悪化を予防する可能性が示唆された。Development and Psychopathology誌オンライン版2022年8月12日号の報告。 対象は、シンガポールの青年741人。学業成績と抑うつ症状に関する過去の研究を拡張し、1学年度にわたる3-wave縦断的研究を行い、学力低下仮説(学力構築における過去の問題がその後の抑うつ症状に影響を及ぼす)および適応浸食仮説(過去の抑うつ症状がその後の能力構築に悪影響を及ぼす)の2つの競合する仮説を検証した。高次能力構築因子(複数の構成要素の動機付け変数を用いて操作可能)と抑うつ症状との関連性を評価するため、ランダムインターセプトとクロス遅延パネルモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・個人の能力構築の減少が、その後の個人の抑うつ症状を予測することが示唆されたが、逆の関係は認められなかった。・個人の能力構築の変動は、学年度末の成績と教師が報告した適応の問題を予測した。・全体として、学力低下仮説が支持された。

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ESMO2022スタート!注目演題を特設サイトでチェック

 9月9日~13日(現地時間)まで、欧州最大の腫瘍学会であるESMO2022(欧州臨床腫瘍学会年次総会)が、フランス・パリとオンラインのハイブリッド形式で開催される。すでに公式サイト上では、プログラムと一部の演題を除いたアブストラクトがオープンしている。 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors'Picks」(医師会員限定)では、ESMO2022のスタートにあわせ、数多くの演題の中から、複数のエキスパートが選定した「注目演題」をピックアップ。会期にあわせてオープンした特設サイトにおいて、「肺がん」「消化器がん」「乳がん」「泌尿器がん」のがん種別に、見どころポイントとともに紹介している。 学会終了後は、視聴レポートやまとめ記事なども続々アップしていく予定だ。Doctors’Picks ESMO2022特設サイト

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鼻腔拭い液のコロナ検査、自己採取と医療者で結果は異なるか/JAMA

 4~14歳の小児が簡単な説明資材を視聴した後に自己採取した鼻腔拭い液からの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出率は、医療従事者が採取した鼻腔拭い液での検出率とほぼ一致したことが、米国・エモリー大学のJesse J. Waggoner氏らが実施した横断研究の結果、示された。SARS-CoV-2の検査が拡大しているが、小児の自己採取が検査の精度に及ぼす影響が不明であるため、14歳未満の自己採取による鼻腔拭い液を用いた検査は緊急使用許可(EUA)が得られていなかった。JAMA誌オンライン版2022年8月26日号掲載の報告。小児に自己採取についてビデオと印刷物で説明 研究グループは、2021年7月~8月の期間に、Children’s Healthcare of Atlantaの各施設において過去24時間以内に鼻咽頭スワブ検査でSARS-CoV-2陽性または陰性が記録された小児を募集し、参加の同意が得られた症状を有する4~14歳の197例を登録した(130例は救急外来で登録され、67例は電話連絡により検査会場に戻るよう依頼)。 鼻腔拭い液の自己採取についての短い説明ビデオをタブレットまたはスマートフォンで見てもらうとともに、文章と画像で示した説明資料(印刷物)を配布した。 その後、まず参加者に被験者は鼻腔拭い液を自己採取してもらい、次に医療従事者(小児科の看護師)が2回目の検体を採取した。 主要評価項目は、EUAを取得しているリアルタイムRT-PCR検査によるSARS-CoV-2検出と、サイクル閾値(Ct値)による相対定量の、自己採取と医療従事者採取の比較とした。自己採取と看護師採取での一致率は、SARS-CoV-2陽性も陰性も約98% 197例中1例は、医療従事者が採取した検体が無効であったため解析から除外された。196例のうち108例(55.1%)が男性で、年齢中央値は9歳(四分位範囲[IQR]:6~11)であった。 自己採取および医療従事者採取の両方でSARS-CoV-2陽性は44.4%(87/196例)、陰性は53.6%(105/196例)で、いずれか片方のみが陽性はそれぞれ2例であった。 自己採取と医療従事者採取の陽性一致率は97.8%(95%信頼区間[CI]:94.7~100.0)、陰性一致率は98.1%(95.6~100.0)であり、SARS-CoV-2のCt値に両群間で有意差は確認されなかった(Ct値の平均値±SD:自己採取26.7±5.4 vs.医療従事者採取26.3±6.0、p=0.65)。 なお、著者は、参加者が有症者に限定されていたこと、デルタ株の流行期であったこと、参加は自主的であり選択バイアスにつながる可能性があること、などを研究の限界として挙げている。

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冠動脈の中等度狭窄、FFRガイド下PCI vs IVUSガイド下PCI/NEJM

 虚血性心疾患が疑われる中等度狭窄患者において、冠血流予備量比(FFR)ガイド下での経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管内超音波法(IVUS)ガイド下と比較し、24ヵ月時点での死亡・心筋梗塞・再血行再建術の複合イベントの発生に関して非劣性であることが示された。韓国・ソウル大学病院のBon-Kwon Koo氏らが、韓国および中国の18施設で実施した無作為化非盲検試験「Fractional Flow Reserve and Intravascular Ultrasound-Guided Intervention Strategy for Clinical Outcomes in Patients with Intermediate Stenosis trial:FLAVOUR試験」の結果を報告した。冠動脈疾患患者のPCI評価において、血行再建術およびステント留置の決定にFFRまたはIVUSによるガイドを用いることができるが、両目的のためにどちらか一方のガイドを用いた場合の臨床アウトカムの差異は不明であった。NEJM誌2022年9月1日号掲載の報告。1,682例を対象に、2年後の死亡・心筋梗塞・再血行再建術の複合を比較 研究グループは、虚血性心疾患が疑われ、冠動脈造影で中等度狭窄(目測で2.5mm以上の標的血管に40~70%のde novo狭窄)を認め、PCIの施行が検討されている19歳以上の患者を、FFRガイド群またはIVUSガイド群に、施設および糖尿病の有無で層別して1対1の割合で無作為に割り付けた。 PCIの実施基準は、FFRガイド群ではFFR≦0.80、IVUSガイド群では最小内腔面積≦3mm2、または3~4mm2でプラーク量>70%とした。 主要評価項目は無作為化後24ヵ月時点での全死亡・心筋梗塞・再血行再建術の複合で、IVUSガイド群に対するFFRガイド群の非劣性マージンは2.5%とした。副次評価項目は、主要評価項目の各イベント、脳卒中、シアトル狭心症質問票(Seattle Angina Questionnaire:SAQ)で評価した患者報告アウトカムなどであった。 2016年7月~2019年8月に4,355例がスクリーニングを受け、選択基準を満たした1,682例が、FFRガイド群838例、IVUSガイド群844例に割り付けられた。FFRガイド下PCIはIVUSガイド下PCIに対して非劣性 PCI実施率は、FFR群44.4%、IVUS群65.3%であった。無作為化後24ヵ月間に、FFR群で67例、IVUS群で71例に主要評価項目の複合イベントが発生した。Kaplan-Meier法で推定した発生率は、FFR群8.1%、IVUS群8.5%であり、非劣性マージンを満たした(絶対差:-0.4%、片側95%信頼区間[CI]上限値:1.8%、片側97.5%CI上限値:2.2%、非劣性のp=0.01)。 副次評価項目については、FFR群とIVUS群で全死亡(1.3% vs.2.3%)、心筋梗塞(1.9% vs.1.7%)、再血行再建術(5.7% vs.5.3%)、脳卒中(0.7% vs.1.2%)のいずれも有意差はなく、SAQで評価した患者報告アウトカムも両群で類似していた。

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オミクロン株流行中のニルマトレルビルによるCOVID-19の重症化転帰(解説:寺田教彦氏)

 ニルマトレルビルは、本邦では商品名「パキロビッドパック(以下パキロビッド)」としてCOVID-19重症化予防薬として用いられている。「パキロビッド」はニルマトレルビルをリトナビルでブーストした薬剤であり、効果的な経口抗ウイルス薬である。ただし、リトナビル成分のため、併用禁忌や併用注意の薬剤が多いことが知られており、投薬時には投薬歴を確認する必要がある。 同薬剤は、症状を伴うCOVID-19に罹患した、重症化リスクの高いワクチン未接種の成人を対象とした試験(EPIC-HR試験)においてプラセボと比較して、入院または死亡のリスクを88%低減させ、高い有効性を示した(Hammond JS, et al. N Engl J Med. 2022;386:1397-1408.)。有効性の直接比較はされていないが、同様の患者集団で報告されたレムデシビルの有効性に匹敵し(Gottlieb RL, et al. N Engl J Med. 2022;386:305-315.)、モルヌピラビルの有効性に勝る可能性もあり(Jayk Bernal A, et al. N Engl J Med. 2022;386:509-520.)、本邦でも外来患者で重症化リスクの高い患者に用いられている。 2022年9月現在、新型コロナウイルスはオミクロン株が流行しているが、EPIC-HR試験はデルタ株流行下で行われた研究である。ニルマトレルビルのオミクロン株に対する抗ウイルス薬は実験室上のデータではあるが、BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の増殖を効果的に抑制することが示されたため、(Takashita E, et al. N Engl J Med. 2022;387:468-470.)、オミクロン株流行下でも有効性を期待され使用されていた。 ただし、オミクロン株流行下での同薬剤の有効性を臨床現場で評価したデータではないため、オミクロン株流行中のニルマトレルビル投与はCOVID-19重症化予防にどの程度寄与するかはエビデンスが乏しかった。今回の研究で、オミクロン株が急増しているイスラエルで、ニルマトレルビルの無作為化対照試験が行われ、オミクロン株でも重症化予防効果を確認することができた。さらに、実臨床で参考にできるポイントとして、ワクチン接種や罹患に伴う免疫状況や年齢によるサブグループ解析が行われている点がある。 EPIC-HR試験の対象と本邦の執筆時のCOVID-19罹患者の差異として、流行株が異なること以外にワクチン接種の有無があるだろう。本邦では新型コロナウイルスワクチン接種は進み、重症化する患者の減少に寄与した。しかし、ワクチンを接種していても高齢者や重症化リスクの高い患者の中には咽頭痛や倦怠感が強くなり、入院を要する患者がいることも事実である。2022年9月の本邦ではワクチン未接種者、COVID-19未罹患者の診療を行うことはあるが、それよりもワクチン接種済み患者や、COVID-19罹患歴のある患者の診療の機会のほうが多い。ワクチン接種歴のある患者についても、ニルマトレルビル投与は有意な重症化予防効果が得られるかは不明確であったが、本研究では免疫状態に関してもサブグループ解析を実施しており参考にできる。 本研究で、65歳以上の患者でCOVID-19による入院率は、ニルマトレルビル投与患者では14.7例/10万人日に対して、非投与群では58.9/10万人日(補正ハザード比:0.27、95%CI:0.15~0.49)であり、死亡ハザード比は0.21(95%CI:0.05~0.82)と有意差が認められた。 それに対して40~64歳の患者に関しては、COVID-19による入院率は、ニルマトレルビル投与患者では15.2例/10万人日に対して、非投与群では15.8/10万人日(補正ハザード比 0.74、95%CI:0.35~1.58)であり、死亡ハザード比は1.32 (95%CI:0.16~10.75)だった。 以上より、本文では65歳以上の患者では、ニルマトレルビル投与により入院率や死亡率は低下をしたが、65歳未満の成人に関しては明らかなメリットは判明しなかったと結論付けている。 確かに、上記の40~64歳未満の患者では有意差はないが、免疫状態も加味したサブグループ解析では、結果がやや異なる。ニルマトレルビルを投与された40~64歳患者で、入院調整ハザード比は免疫を有している患者では1.13(95%CI:0.50~2.58)ではあるが、免疫のない患者では0.23(95%CI:0.03~1.67)であった。 本研究の結果から、「パキロビッド」をどのような患者に用いるかについて考える。 臨床的な問題としては、重症化リスクにはさまざまな因子があり、ワクチン接種状況や年齢などの因子も関与するため、画一的に抗ウイルス薬の適応は決めることは難しいが、NIHのCOVID-19治療ガイドライン(Prioritization of Anti-SARS-CoV-2 Therapies for the Treatment and Prevention of COVID-19 When There Are Logistical or Supply Constraints Last Updated: May 13, 2022)では、抗ウイルス薬の使用を優先させるべきリスク集団を提案している。 今回の結果を参考にすると、65歳以上の重症化リスクがある場合はワクチン接種済(グループ3)でも、ワクチン接種なし(グループ2)でも投与のメリットが確認され、40~64歳でも重症化のリスクはあるがワクチン未接種(グループ2)ならば投与のメリットはありそうである。 最終的には個々の症例で検討する必要はあるが、本研究結果からも抗ウイルス薬の使用を優先させるべきリスク集団で3以上のグループで「パキロビッド」の投与は理にかなっていそうである。 流行株がオミクロン株に変化し、デルタ株と比較して入院を要したり重症化したりする率は低下してきた(Menni C, et al. Lancet. 2022;399:1618-1624.)。しかし、オミクロン株でもCOVID-19に伴い原疾患が悪化したり、もともと身体機能に余力が乏しい患者では入院を要したりすることもあり、内服で高い重症化予防率を示す「パキロビッド」は患者の重症化および入院予防の一助になる。抗ウイルス薬は高価な薬剤であり、また副作用を起こすこともあるため、慎重に適応を考える必要はあるが、投与が好ましい患者には適切に使われることを期待したい。 また、オミクロン株に対する抗ウイルス薬の効果に関しては、本論文以降に発表された研究で、オミクロン株BA.2流行中の香港において、モルヌピラビルとニルマトレルビル・リトナビル投与により、死亡、疾患進行、酸素療法をどの程度回避できるかの報告がある(Wong CKH, et al. Lancet Infect Dis. 2022 Aug 24. [Epub ahead of print])。コントロール群と比較してモルヌピラビル群は52%、ニルマトレルビル・リトナビル群は66%死亡リスクが減少していた。抗ウイルス薬のhead-to-headの比較ではないが、こちらの結果からも重症化リスクの高い外来患者では、可能な限り「パキロビッド」が投与できるように調整してみることが好ましいかもしれない。

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続・腹を立てない方法【Dr. 中島の 新・徒然草】(442)

四百四十二の段 続・腹を立てない方法9月になりましたが、涼しくなったり暑くなったり台風が来たり。もう無茶苦茶です。まだまだ暑いので、車に乗るときにはクーラー全開。なので下りると必ず眼鏡が曇ってしまいます。本格的な秋はいつになったら来るのでしょうか?さて、4年ほど前のこと。本欄で「二百二十八の段 腹を立てない方法」というのを紹介しました。そのキッカケとなった事件は、電車に乗ってきた小学生くらいの男の子に「ハゲや!」と叫ばれたことです。母親と思しき女性は「すいませんねえ」と言ってヘラヘラしているだけ。私自身もうまく言い返すことができず、悔しい思いをしました。ずっと後になって思いついたセリフが「ハゲって漢字でどう書くのか、おっちゃんに教えてくれるか?」というものです。世の中の小学生の99%は答えることができないでしょう。そこですかさず「小学生やったら無理かな。ほな、お母ちゃん教えてくれるか?」と母子まとめて言い負かすわけですよ。しかし、この方法では相手がルサンチマンを持つだけで、決してハッピーエンドではありません。そこで最近、思い付いたのが別の方法。ネットで読んだ記事をヒントにしています。小学生「ハゲや!」母親「すみませんねえ」中島「ボク、おっちゃんが何でハゲたかわかるか?」小学生「ええ? わからん」中島「子供の時に野菜を食べへんかったからや」小学生「野菜食べへんかったらハゲるの?」中島「そや。とくにピーマンとニンジンをちゃんと食べとけよ。おっちゃんみたいにハゲるぞ」小学生「うん」きっと横にいるお母さんも、ヘラヘラをやめて感謝してくれることでしょう。こういう返し方を思い付くと、実際にやってみたくなるものです。電車に乗ったら「ハゲや!」という小学生に出会えますかね。最後に1句台風や 野菜食べつつ やり過ごす

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知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール【非専門医のための緩和ケアTips】第35回

第35回 知っておきたい新しいオピオイド(1)タペンタドール私が緩和ケアの仕事を始めた頃と比べ、臨床で活用できるオピオイドが増えています。今回は、国内承認が比較的最近で、使ったことのある方がまだ少ないと思われる「タペンタドール」についてお話しします。今日の質問「オピオイドといえばモルヒネ」という時代からすると、さまざまなオピオイドの選択肢が増えたことは良いのですが、使い分けがよくわかりません。先日、がん拠点病院から紹介されてきた患者さんは、タペンタドールというオピオイドを内服していました。どういった特徴のある薬剤なのでしょうか?タペンタドール(商品名:タペンタ)は、2014年に保険承認されました。緩和ケアを専門とする医療者には広く知られるようになった一方で、プライマリ・ケア領域では、まだ使用経験のない先生も多いでしょう。タペンタドールは「強オピオイド」に位置付けられる薬剤です。日本では徐放製剤のみが発売されており、適応は各種がんにおける中等度から高度の疼痛です。タペンタドールは薬理学的にはユニークな特徴があります。腎機能障害があっても使用ができ、便秘が少ないとされています。このあたりはモルヒネと比較して、好んで使用される特徴でしょう。オピオイドはμオピオイド受容体を介した鎮痛効果が中心ですが、タペンタドールはSNRI様作用も有しています。SNRIと聞いて抗うつ薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。緩和ケア領域では抗うつ薬を神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬として用います。タペンタドールはこの鎮痛補助役としての作用も有する、ユニークなオピオイドなのです。より薬理学的なポイントとしては、「CYP2D6」という酵素活性に影響を受けない代謝経路になっていることが挙げられます。これは他薬剤との併用の際に大切です。併用薬剤によっては代謝酵素に影響を及ぼし、作用が減弱したり逆に予想よりも強く出たり、といった相互作用が生じるのです。さらなる特徴は、オピオイドの濫用防止の加工がしてあることです。粉砕できないように加工されており、水に溶かすとネバネバのゼリー状になります。よって、経管投与ができません。注射薬もないので、内服が難しくなりそうな患者の場合は、早めに別のオピオイドに変更するマネジメントが必要になります。私がタペンタドールが最も適すると感じるのは、頭頸部がんの難治性がん疼痛の患者、抗真菌薬のような相互作用に注意が必要な薬剤をよく使う血液腫瘍の患者さんなどです。もちろん、こうした患者さんは内服が難しい状況にもなりやすいのでその見極めも必要です。そうした意味では、少し“上級者向け”のオピオイドといえるかもしれません。今回のTips今回のTipsタペンタドールはユニークな特性を持つ、少し“上級者向け”のオピオイド。

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第10回 第7波で終わるはずもなく

第7波の収束と死亡者数全国各地のコロナ病棟で第7波の収束の兆しが見えてきました。新学期が始まってリバウンドする可能性もあったのですが、とりあえず第7波の喧騒もそろそろ落ち着いてきましたね(図1)。図1. 国内の新型コロナ新規陽性者数と死亡者数(筆者作成)現状をまとめてみましょう。感染者が急激に増えて死亡者数が問題になったのは第3波以降ですが、過去最多の死亡者数を記録したのは、執筆時点では第6波です。「ただの風邪だろう」と思われていたオミクロン株の伝播性が過去最悪で、多くの高齢者が死亡することになりました。第7波はBA.5が主体でした。第6波を超える感染者数だったことから、おそらく第7波の死亡者数が最多になるのではと予想されています。ピークアウトしつつあるとはいえ、第7波はすでに1万人の死亡者数を突破していることから、前波を超える死亡者数に到達するでしょう(図2)。図2. 新型コロナ 各波の死亡者数(筆者作成)現在、新型コロナ病床に残っているのは、施設や自宅に戻ることが難しくなった寝たきりの高齢者が主体で、後方支援病院に搬送が滞っている状況はコロナ禍初期からあまり変わらない光景です。いくら自治体が後方支援をお願いしても、過活動性の認知症の患者さんを引き受けてくれるところは多くありません。第8波はどうなる?第7波で終わって、第8波が来ないということは医学的にありえませんので、間違いなく第8波はやってきます。ただ、発生届を一定の重症度以上の患者さんに絞っている自治体が出てきており(宮城県など)、感染者数の全容が把握できない自治体は増えてくるかもしれません。となると、第8波がどのような年齢層にどのような重症度で広がっていくのかという解釈は後付けになってしまい、何となく医療逼迫度がこのくらいかなという印象を肌で感じながら立ち向かうことになると予想されます。いずれにしても日本はウィズコロナに舵を切らなければいけなくなったわけですから、第8波はほぼ現状の武器で立ち向かうことになります。感染者数がそこまで多くないように見えるのに、救急医療などがじわじわと逼迫する見えない恐怖と戦うような波にならないことを祈るばかりです。

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ブースター接種、異種のほうが効果が持続する可能性

 世界的に新型コロナワクチンのブースター接種が進む中で、同種・異種ワクチンのどちらがブースター接種により適しているかを検討した研究結果が発表された。米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのC.Sabrina Tan氏らによる本研究は、JAMA Network Open誌2022年8月1日号に掲載された。 研究者らは、少なくとも6ヵ月前にBNT162b2(ファイザー製)の2回接種を完了した68例を対象に、ファイザー製とAd26.COV2.S(Johnson & Johnson製)によるブースター接種を行い、4ヵ月後の液性および細胞性免疫反応を評価した。 参加者の登録は2021年8月12日~10月25日に行われ、SARS-CoV-2感染既往がある場合、他のワクチンの接種を受けている場合、免疫抑制剤の投与を受けている場合は除外された。4ヵ月後にフォローアップを行い、データ解析は2021年11月~2022年2月にかけて行われた。主要評価項目は4ヵ月(16週)後の中和抗体、結合抗体、機能的抗体による免疫応答だった。 主な結果は以下のとおり。・68例中、27例がファイザー製(年齢中央値[SD]35[23~76]歳)、41例がJ&J製(36[23~84]歳)のブースター接種を受けた。56例(82%)が女性だった。・いずれのワクチンも、懸念される変異株に対するものも含め、体液性および細胞性免疫反応の増加と関連していた。・オミクロン株に対する中和抗体の値は、ファイザー製のブースター接種では2週目に中央値(IQR)1,018(699~1,646)をピークに、16週目には148(95~266)まで6.9倍減少した。J&J製では、4週目に中央値(IQR)859(467~1,838)をピークに、16週目には403(208~1,130)まで2.1倍減少した。 著者らは、「J&J製のアデノウイルスベクターワクチンはmRNAワクチンと比較して初期の抗体価は低いものの、16週後の抗体応答および防御効果についてはmRNAワクチンよりも持続していた。これらの知見は今後のブースター戦略に役立つものだ」としている。

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認知症の興奮症状に対するモンテッソーリケアの有効性~メタ解析

 子供の主体性や尊厳を尊重する幼児教育理論であるモンテッソーリ教育を、高齢者や認知症介護に取り入れたモンテッソーリケアは、西欧諸国において興奮症状の治療に有用な非薬理学的介入であることが報告されている。しかし、アジア人を対象とした研究のほとんどはサンプルサイズが小さく一貫性が認められていないため、その結果の信頼性は制限されている。中国・The Third Hospital of QuzhouのLingyan Xu氏らは、アジア人認知症患者における認知症関連興奮症状に対するモンテッソーリケアの有効性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、アジア人認知症患者に対するモンテッソーリケアは、標準ケアと比較し、とくに身体的攻撃性による興奮症状を減少させる可能性が示唆された。しかし著者らは、本研究では、身体的非攻撃行動や言葉による攻撃行動に対する有効性が認められなかったことから、身体的攻撃性に対する効果の信頼性についても、今後のさらなる検討が求められるとしている。Medicine誌2022年8月12日号の報告。 プロスペクティブランダム化臨床研究(RCT)より、利用可能なデータを抽出した。身体的攻撃行動、身体的非攻撃行動、言葉による攻撃行動のアウトカムをプールした。データソースは、Medline、Embase、Cochrane Library、China National Knowledge Infrastructure(CNKI)、WanFang、China Science and Technology Journal Database(VIP)。適格基準は、アジア人認知症患者における認知症関連興奮症状に対するモンテッソーリケアの有効性を評価するため実施されたプロスペクティブRCTとした。独立した2人の研究者が、該当文献より利用可能なデータ(ベースライン特性およびアウトカム)を抽出した。モンテッソーリケアと標準ケアの有効性を比較するため、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)およびNurses’ Observation Scale for Inpatient Evaluation(NOSIE)を含む測定尺度を用いた。加重平均差を用いたプール分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、合計460例が含まれた。・モンテッソーリケアによる興奮症状のプールされた平均差は、標準ケアと比較し、-3.86(95%CI:-7.38~-0.34、p=0.03)であった。・モンテッソーリケアによる各症状のプールされた平均差は、以下のとおりであった。 ●身体的攻撃行動:-0.82(95%CI:-1.10~-0.55、p<0.00001) ●身体的非攻撃行動:-0.81(95%CI:-1.68~0.55、p=0.07) ●言葉による攻撃行動:0.38(95%CI:-0.92~1.68、p=0.57)

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