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ChatGPTの音声機能を使って、基礎的な英会話力を伸ばす【タイパ時代のAI英語革命】第4回

ChatGPTの音声機能を使って、基礎的な英会話力を伸ばす生成AI、とくにChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、瞬時に多様な英文を生成し、私たちの学習を多方面でサポートしてくれます。AI技術がいかに進化しても、医療現場で不可欠なのは「話す・聞く」といった基礎的なコミュニケーション能力です。医療英語においても、単語や文法の知識だけでなく、リアルタイムで相手の発言を理解し、自分の意思を正確に伝える力が求められます。今回は、生成AI、とくにChatGPTを活用して、この「話す・聞く」能力を効果的に伸ばす方法を紹介します。従来の英会話学習は、教科書やリスニング教材、英会話教室などが主流でした。しかし最近では、ChatGPTなどのAIを利用し、24時間好きなときに英会話の練習をすることが可能になっています。とりわけ「音声モード」を利用することで、実際の会話に近い感覚で英語を「話す」「聞く」トレーニングができるのです。音声モードを利用する生成AIは主にテキストベースのコミュニケーションが多いですが、少し工夫すれば「話す・聞く」という点に役立てることができます。ChatGPTは音声モードを搭載しており、これはスマホ用のアプリでも、パソコンのブラウザでも使用できます。英会話の練習をする手軽さとしてはスマホのほうが向いているため、ここではスマホアプリでの使用法について解説します。まず、ChatGPTで高度な音声モードを使用するには、図1の右下にあるように音声アイコンをタップし、音声入力を開始します。すると、AIが“Hello! How can I help you today?”などと話し掛けてきます。あとは、スマートフォンのマイクに向かって英語で話すだけです。日本語のモードになっている場合には「英会話の練習をしたいので英語で会話してください」などと言うと、英語のモードに切り替えてくれます。画面右上の設定ボタンから音声を指定することもでき、男性や女性、声のトーンなどから選べるため、気分に合わせて対話する相手を変える楽しみもあります(図2)。図1図2“Dictation”と“Read Aloud”機能を活用するChatGPTの音声会話モードは、AIとリアルタイムで対話できる没入感のある機能ですが、スピーキングとリスニングの学習をさらに深めるためには、“Dictation”(ディクテーション)と“Read Aloud”(リードアラウド)という2つの基本的な機能を意識的に活用することが効果的です。“Dictation”とは、私たちが話した英語をAIが聞き取り、テキストに書き起こす機能のことです。図1のマイクのアイコンをタップして文章を話すと、発話が画面上に文字として表示されますが、これがまさにDictationです。この機能は、自身の発音の正確性を客観的に確認するための、優れたツールとなります。たとえば、「arrhythmia(不整脈)」や「ischemia(虚血)」「anesthesia(麻酔)」といった、日本人にとって発音が難しい、あるいはアクセントの位置を間違えやすい専門用語を含んだ文章で話し掛けてみましょう。自分の発音がAIに正しく認識され、意図したとおりの単語としてテキスト化されれば、それは発音が正確であることの証となります。もし間違った単語に変換されてしまった場合は、どの部分が伝わりにくかったのかを考えるきっかけとなり、発音を改善するための具体的な目標が見つかります。“Read Aloud”は、その名のとおり、ChatGPTが表示したテキストを自然な英語音声で読み上げてくれる機能です。これは、リスニング力を鍛えるための無限の教材となりえます。使い方はシンプルで、図3のようにChatGPTが表示したテキストの左下に表示される“Read Aloud”アイコンをタップします。すると、表示された言語で回答を読み上げてくれます。何かをChatGPTに聞いて、その回答を読み上げてもらうことも可能ですし、読み上げてほしい文章がある場合には「Copy this “(ここに読み上げてほしい文章を入力)”」のように入力すると、ChatGPTがその文章をそのまま返答してくるので、Read Aloudアイコンをタップすると読み上げてくれます。これらの機能は日常英会話や英語での診療、国際学会での発表などさまざまな場面で活用でき、いつでもどこでも利用可能なので、積極的に利用することをお勧めします。図3

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骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版

10年ぶり改訂!人生100年時代に必要な、骨粗鬆症の最適な治療法を選択するためのガイドライン骨粗鬆症による骨折は、QOL、ADLを低下させ、生命予後を悪化させる。健康寿命延伸に骨粗鬆症の予防と治療は欠かせない。加齢とともに有病率が高まり、さまざまな疾患と関連する骨粗鬆症についての知識・情報は、専門医のみならず一般医、メディカルスタッフにも必須といえる。2025年版では、新たにCQ(クリニカルクエスチョン)を設定してシステマティックレビューを行い、エビデンスの評価・統合をして推奨文を作成。また、多くの医療従事者が臨床上疑問に思う課題をQ(クエスチョン)として取り上げ、回答を用意した。骨粗鬆症診療における予防と治療、さらに疫学、成因、リエゾンサービス、医療経済など多様な分野を網羅したガイドラインである。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版定価4,400円(税込)判型A4変形判頁数272頁発行2025年7月編集骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団)ご購入はこちらご購入はこちらAmazonでご購入の場合はこちら

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第279回 「クマ外傷」の医学書が教えてくれるクマ被害の実態、「顔面、上肢の損傷が多く、挿管と出血性ショックに対する輸血が必要なケースも。全例で予防的抗菌薬を使用するも21.1%で創部感染症が発生」

マダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の累計患者数が過去最高にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月に入っても猛暑の日が続きます。この歴史的な暑さのせいもあってか、自然界もいろいろ変調を来しているようです。「第272回 致死率30%!猛威を振るうマダニ感染症SFTS、患者発生は西日本から甲信越へと北上傾向」で取り上げたマダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)も急増中です。国立健康危機管理研究機構は8月26日、8月17日までの1週間に全国から報告されたSFTSの患者は5人で、今年の累計の患者数は速報値で143人となり、過去最多だったと発表しました。これまでに感染者が報告されているのは31道府県で、高知県で14人、大分県で11人、熊本県、長崎県で9人、鹿児島県、島根県、兵庫県で8人など、西日本を中心に多くなっていますが、今年はこれまで感染が確認されていなかった関東地方や北海道でも報告されています。「第272回」でも書いたように温暖化などの影響でSFTSウイルスを持ったマダニの生息域が日本で北上しているのは確かなようです。例年、発症が増え始めるのは4月で、5月にピークを迎え、10月くらいまで続くとされていますが、猛暑の今年は11月くらいまで発症が続くかもしれません。1〜2週間前に山や畑などで作業などをしており、謎の発熱や嘔吐、下痢を起こしている患者の診療には、皆さん重々お気を付けください。クマ被害も過去最多の被害者数となった2023年度と同じ水準増えているということでは、クマの被害も急増中です。山での被害はもちろん、麓の町中での被害も増えています。8月7日付のNHKニュースは、「環境省のまとめでは、今年4月から7月末までにクマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は、長野県が13人、岩手県が12人、秋田県、福島県、新潟県で、それぞれ4人などの、合わせて55人で、このうち北海道と岩手県、長野県で、それぞれ1人が死亡しました。過去の同じ時期と比べると、年間を通じて過去最多の被害者数となった2023年度は56人で、今年度はほぼ同じ水準」と報じています。この夏、私がとくにショックだったのは、8月14日に起こった北海道・羅臼岳で登山中の26歳男性がヒグマに襲われ死亡した事件です。襲ったと思われる母グマが、15日に子グマ2頭と共に駆除され、その後母グマはDNA鑑定で男性を襲った個体と特定されました。登山者が被害に遭った羅臼岳の登山道はかつて私も下ったことがあります。「アリの巣が多く、クマがよく出る」ことで昔から有名で、熊鈴だけではなく笛も頻繁に吹きながら歩いた覚えがあります。北海道警察の事故の調査結果を報じた8月21日付の共同通信によれば、「男性は襲撃直前、同行者から離れて単独で走り、岩尾別温泉に向かって下山していた。クマ避けの鈴は携帯していた。道幅が狭く見通しの悪いカーブで母グマに遭遇したとみられる」とのことです。突然の遭遇で驚いた母グマが防御反応として襲った可能性が高そうです。もう一つショックだったのは、北アルプスの薬師峠キャンプ場(通称:太郎平キャンプ場、富山市有峰)で、ツキノワグマにより登山者のテント及び食料が持ち去られる被害が発生し、このキャンプ場が閉鎖された事件です。ここは薬師岳だけではなく、雲の平や高天ヶ原、黒部五郎岳などにテント泊で行くためには、必ず泊まるキャンプ場です。薬師峠キャンプが使えなくなることによる登山者への影響は甚大です。ちなみに、私は高校時代から今までにこのキャンプ場に20泊近くしていますが、クマには一度も遭ったことがありません。北アルプスのツキノワグマは、登山者の食料を漁ることが常態化してきたのでしょうか。だとしたらとても恐ろしいことです。山麓の町でも、山の中においても、人とクマの生息域が近くなり過ぎたことが、クマ被害急増の大きな原因だと言われています。町中に不用意にゴミを放置しない、柿などの果実を木に成らしっぱなしにしない、キャンプ場では食料の管理を米国の国立公園並みに厳格にする、などの対策を取るとともに、クマに対して「人の活動領域に行ってもいいことはない」ということを多様な手段で教え込むことも必要だと感じる今日この頃です。2023年度に年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった秋田大医学部付属病院の医師たちが症例をまとめるそんなクマ被害急増の中、クマ外傷に特化した医学書が今年4月に出版され全国紙で取り上げられるなど話題になっています。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(新興医学出版社)で編著者は秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授の中永 士師明(なかえ・はじめ)氏です。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)同書の序文によれば、「2023年度のクマ類による人身被害は急増し、東北が141件と突出している。(中略)秋田県内の人身被害は70件となっており、秋田大学医学部付属病院では年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった」とのことで、同書では、2023年に搬送された21例のうち20例について症例写真を例示しながら詳細に分析しています。「クマ外傷の特徴」の章にまとめられたその分析では、患者の平均年齢は74.5歳で、男性が13人を占めていました。受傷場所は市街地が15人で、山林が5人。搬送のピークは10月の7人で、受傷の時間帯に傾向はありませんでした。患者は顔面の負傷が9割で、骨折(9人)や眼球破裂(3人)などのほか、頭蓋骨骨折(1人)もありました。ツキノワグマの攻撃力がいかに強大なものであるかがわかります。同書はこれらのデータから得られる医学的知見として、「クマ外傷は秋に人間の生活圏で多く発生していた。上半身(顔面、上肢)の損傷が多く、全身麻酔による緊急手術が必要であった。一部の患者は挿管と出血性ショックに対する輸血が必要であった。全例で予防的抗菌薬を使用したが、21.1%で創部感染症が発生した。死亡退院はなかったが、15.8%で失明などの重大な後遺症が残った」とまとめています。「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる」「クマ外傷による顔面外傷の実際」の章では、爪が下眼瞼にひっかかることで下涙小管の断裂が起こりやすいこと、顔面神経の損傷とその修復が大きな課題であることを指摘するとともに、「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる。(中略)2023年度の症例のうち眼球損傷と眼筋の障害により3名が片眼を失明した。クマ外傷の後遺症として最も生活に支障をきたす失明を避けるには、まず眼球を守ることを周知しておく必要がある」と書いています。また、多くの患者が、受傷後に不眠やせん妄、急性ストレス反応などを訴えたことから、「クマ外傷による精神的問題」という章も設け、急性ストレス症や心的外傷後ストレス症(PTSD)への対応についても詳細に解説しています。本書は医学書ですが、「クマ外傷の予防策」の章では、クマとの遭遇を避ける方法や、クマを寄せ付けないための方法の解説もあります。コラムも充実しており、「飼い犬は役立つか」、「子グマなら勝てるか?」、「クマのパンチにアッパーカットはない」など興味深いテーマで13本が掲載されています。これから秋を迎え、各地でクマ被害も増えると予想されます。クマに襲われた患者が運ばれてきたときの対処法を学びたい方は、一読をお勧めします。

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経管投与時の投与負担軽減のため、バイアスピリンからダイアルミネート製剤への変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第67回

 在宅医療では、薬学的な有効性・安全性に加えて、実際の投与場面での実用性も重要な要素です。とくに、同等の効果を有する製剤間で投与負担の違いがある場合、患者・介護者の負担軽減を考慮した製剤選択が求められます。しかし、このような製剤特性の違いを理解し、個々の患者さんの状況に応じて最適な選択を行うためには、薬剤師の専門的な判断が不可欠です。患者情報89歳、女性、要介護4基礎疾患脳梗塞、アルツハイマー型認知症、高血圧症服薬管理娘による管理、経管栄養(胃瘻)にて投与月1回の往診あり処方内容(簡易懸濁法での投与)1.バイアスピリン錠100mg 1錠 朝食後2.タケキャブOD錠10mg 1錠 朝食後3.ビオフェルミン配合散 3g 朝昼夕食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.フロセミド20mg 1錠 朝食後6.アジルサルタン錠20mg 1錠 朝食後7.塩化ナトリウム 3g 朝昼夕食後8.ラコールNF配合経腸用半固形剤 900g 毎食後(300-300-300)症例のポイントこの患者さんは、同居の娘さんが主に簡易懸濁法を実施していました。ある日、「懸濁時に熱湯を使用すると懸濁時に薬剤がスムーズに流れないため、錠剤をすべて潰して投与している」と相談をいただきました。粉砕した薬剤は保管時の安定性や取り出しにくさの問題もあり、介護者にとって大きな負担となります。さらに、ICTの情報連携において、下記の要望が寄せられていました。医師「簡易懸濁できるかどうか判断がつかない。処方箋にはどのように入力したらよい?」訪問看護師「懸濁時にお湯でドロドロになることがあるが、何か適さない薬はある? チューブ径の問題? 娘さんも不安そう」ケアマネジャー「同居の娘さんが懸濁は大変、と漏らしている。もっとよい方法があれば娘さんも助かると思う」薬学的な観点から分析すると、まず、熱湯投与していたというビオフェルミン配合散は、お湯で崩壊・懸濁するとチューブ閉塞の要因となる可能性があります(第31回参照)。さらに、バイアスピリン錠は腸溶性製剤であり、簡易懸濁法には不適切な製剤でした。腸溶性コーティングのため崩壊前に亀裂を入れる必要があり、フィルム残渣が残存して完全な懸濁が困難です。崩壊に時間がかかることで投与作業が煩雑になり、粉を取り出しにくいという物理的な問題も介護者の負担を増大させていました。そこで、バイアスピリン錠100mgからバファリン配合錠A81へ変更することで、単に剤形変更ではなく、患者さんの服薬環境を根本的に改善することができると考えました。バファリン配合錠はダイアルミネート製剤であり、亀裂を入れる必要がなく、残渣も残りません。胃酸による刺激を緩和しつつ簡易懸濁法にも適応するため、経管投与患者にとって理想的な選択肢です。画像を拡大する医師への相談と経過バイアスピリンの簡易懸濁法での技術的課題に加え、ビオフェルミン配合散の澱粉による懸濁困難も合わせて説明するため、訪問診療への同行の機会を活用して、医師へ情報共有を行いました。まずは「ドロドロになってしまう薬」の正体が澱粉であることを明確にし、製剤選択による根本的解決の必要性を説明しました。また、バイアスピリンとバファリン配合錠の簡易懸濁法の違いを具体的に説明し、投与負担軽減による服薬コンプライアンス向上への期待について提案することで、医師の理解を得ることができました。その結果、提案のとおりバファリン配合錠A81および酪酸菌製剤への変更が決定されました。処方箋備考欄には「簡易懸濁法で投与」と明記され、家族や看護師に変更内容と投与方法の詳細な説明を実施しました。本症例でとくに重要であったのは、医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーという多職種の連携により、各々の専門性を活かした包括的な問題解決が実現できたことです。各職種の強みが統合されることで、患者・介護者のQOL向上につながる実践的な解決策が見出されました。経管投薬支援料の算定が可能にこの一連の経管投与に関する薬学的管理指導により、経管投薬支援料の算定が可能になりました。経管投薬支援料は、経管投与患者に対する薬剤師の専門的関与を評価する診療報酬項目であり、適切な簡易懸濁法の指導や製剤変更提案などの薬学的管理が算定要件となります。経管投薬支援料の算定は、体系的で継続的な薬学的関与が評価される仕組みです。単発の処方変更提案ではなく、問題の発見から解決、そして効果の検証まで一貫した薬学的管理を提供することで、診療報酬の適正算定と患者利益の向上を両立させることが可能になると実感した症例でした。バファリン配合錠A81販売中止への対応このようにうまくいった処方提案でしたが、バファリン配合錠A81は2025年7月頃に販売が中止されました(経過措置期間は2026年3月末日まで)。この歴史ある製剤の販売終了は、経管投与患者にとって大きな影響を与えます。メーカーは代替候補としてバイアスピリン100mgを案内していますが、本症例のように腸溶性製剤からの変更を目的とした場合には、同じダイアルミネート製剤を選択する必要があります。そこで代替品としては、同じくダイアルミネート製剤である他の後発医薬品(ニトギス配合錠A81、バッサミン配合錠A81、ファモター配合錠A81など)が候補となります。これらの製剤も同様に簡易懸濁法に適応するため、バファリン配合錠で得られた投与負担軽減効果を維持することが可能です。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第4版. じほう;2020.2)バファリン配合錠添付文書情報3)バファリン配合錠販売中止情報

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看護師人数の改善は「患者の命」と「現場」を救う!【論文から学ぶ看護の新常識】第29回

看護師人数の改善は「患者の命」と「現場」を救う!オーストラリアで導入された「看護師の最低配置基準政策」。その効果を調べた研究により、適正な人員配置と患者の安全性、そして看護師自身の幸福度の間に、明確な因果関係があることが示された。Karen B. Lasater氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年8月6日号に掲載された。オーストラリア・クイーンズランド州の看護師最低配置基準政策の導入が、看護師のウェルビーイングと患者安全を改善:準実験的介入研究研究チームは、看護師の最低配置基準政策の導入が、看護師のウェルビーイング、離職意向、および患者安全を改善したかを評価する目的で準実験的介入研究を実施した。最低配置基準政策の対象となった27病院(介入病院)では、内科・外科病棟における平均の看護師(准看護師を含む)対患者比を、日勤帯(朝・午後シフト)では看護師1人あたり患者4人以下、夜勤帯では看護師1人あたり患者7人以下とすることが義務付けられた。この介入病院と、対象とならなかった41病院(比較病院)を、政策導入前と導入2年後の2つの時点で比較。看護師のアウトカム、患者安全指標、ケアの質指標、運営上の失敗(インシデントなど)について評価した。主な結果は以下の通り。介入病院では、導入前と比べて明確な改善が確認された。重度の燃え尽き状態になる確率が24%低下(オッズ比:0.76、95%信頼区間[CI]:0.61〜0.94、p<0.05)職務不満足になる確率が27%低かった(オッズ比:0.73、95%CI:0.59〜0.91、p<0.01)業務量、専門能力開発、職務上の自律性、および勤務スケジュールに対する職務不満足度がすべて有意に低下し、看護師の労働環境スコアも改善した。(一方、比較病院ではこれらの項目は時間とともに悪化した。)介入病院では、ケアの質、患者安全、および運営上の失敗が著しく改善した。(比較病院では概して悪化した。)この研究は、政策立案者や病院管理者に、最低配置基準政策の導入が、看護師にとってより好ましい労働環境、看護師の燃え尽きや職務不満足度の低下を含むより良い職務成果、そして患者ケアの質と安全性の向上をもたらし得るという、強い確信を与えるものである。この研究で最も興味深いのは、もしこの政策がなければ、事態は悪化の一途を辿っていたという衝撃の事実です。実際に、政策が導入されなかった病院では、この調査期間中に看護師たちが自院のケアの質を「悪い」と評価する確率が増加していました。現場は、静かに、しかし確実に疲弊し、質が低下する負のスパイラルに陥っていくことがデータで示されました。この「比較病院の姿」こそ、多くの医療現場が直面している「現在の姿」であり、何もしなかった場合の「現場の未来」だとも言えるのではないでしょうか。この状況に対し、最低配置基準政策は、悪化する流れを完全に断ち切るだけでなく、状況を劇的に好転させる効果を持っていました。具体的には、ケアの質が「悪い」と評価される確率を42%も引き下げるという、明確な効果を示したのです。まさに流れを逆転させる「ゲームチェンジャー」であり、現場を救う「救世主」とも言える一手となっています。さらに、この研究の素晴らしい点は、長年「そうに違いない」と信じられてきた「看護師配置の改善が、現場と患者を救う」という仮説を、信頼性の高い準実験デザインによって、科学的に証明した点です。これにより、両者の関係は単なる「相関関係」から明確な「因果関係」のレベルにまで引き上げられました。看護師の適正な配置が、現場と医療の質を守るための最も確実で強力な一手であると揺るぎない根拠をもって示された、私たち看護師にとって大変希望的な研究です。論文はこちらLasater KB, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Aug 6. [Epub ahead of print]

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日本人急性期統合失調症患者の長期予後に最も影響する早期ターゲット症状は?

 急性期統合失調症における早期治療反応の予測は重要であるが、困難である。福島県立医科大学の小林 有里氏らは、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った患者において、2週間後の特定の症状領域改善が、6週間後の全体的な治療反応を予測するかどうかを明らかにするため、観察研究を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2025年9・10月号の報告。 対象は、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った患者65例(抗精神病薬未使用患者:34例、抗精神病薬未使用再発患者:31例)。ベンゾジアゼピン使用患者は41例(64.1%)であった。治療反応の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)および臨床全般印象改善度(CGI-I)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・受信者動作特性(ROC)分析の結果、曲線下面積(AUC)は、PANSS総スコアで0.788、陰性症状スコアで0.783、興奮症状スコアで0.603、認知機能スコアで0.746、陽性症状スコアで0.738、抑うつ/不安症状スコアで0.735であった。・Kendall's tau相関係数とCramer's V係数では、PANSS総スコア(0.413、p<0.001)、陰性症状スコア(0.411、p<0.001)、両スコアで二分した治療反応(0.573、p<0.001)、認知機能スコア(0.364、p<0.001)、陽性症状スコア(0.344、p<0.001)、抑うつ/不安症状スコア(0.344、p=0.001)について有意な予測関係が認められたが、興奮症状スコア(0.15、p=0.151)については有意な予測関係は認められなかった。・ベンゾジアゼピン使用は、これらの予測関係に有意な影響を及ぼさなかった。 著者らは「本研究は、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った急性統合失調症患者におけるPANSSの5因子モデルの予測妥当性を評価した初めての研究である。早期の症状改善、とくに陰性症状の改善は、全体的な治療反応のより強い予測因子である一方で、興奮症状の改善は関連性が弱いことが示唆された。これらの知見は、急性期統合失調症の治療戦略を最適化するために、早期の症状特異的な評価の重要性を強調している。これらの結果を検証するためにも、より大規模なサンプルを用いたさらなる研究が求められる」と結論付けている。

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透析を要する腎不全患者、MRAは心血管死を予防するか/Lancet

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、心不全および非重症慢性腎臓病の患者の心血管イベントを予防する可能性があるが、透析を要する腎不全患者への効果は明らかではない。カナダ・McMaster UniversityのLonnie Pyne氏らの研究チームは、この患者集団におけるMRAの有効性と安全性の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を実施。ステロイド型MRAは、透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさなかったことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。19試験4,675例のメタ解析 本研究では、1974~2015年に発表された論文に関する以前の系統的レビューに、その後2025年3月18日までに新たに報告された10件の論文(最近の2つの大規模試験[ALCHEMIST、ACHIEVE]を含む)を追加してデータを更新し、メタ解析を実施した(本研究は特定の研究助成を受けていない)。 維持透析療法を受けている腎不全の成人(年齢18歳以上)患者において、MRAと対照(プラセボまたは標準治療)を比較した無作為化対照比較試験を対象とし、ステロイド型MRAに関する19件の試験(スピロノラクトン18件、エプレレノン2件、これら2剤を対象とした1件を含む)に参加した4,675例を解析に含めた。 主要アウトカムは心血管疾患による死亡率とし、経験的ベイズ法に基づく変量効果モデルを用いて評価した。心血管死のリスクに差はない 心血管死亡率の評価は11件(4,349例)の試験で行われ、このうち5件(3,562例)はバイアスリスクが低く、6件(787例)は高かった。低バイアスリスク試験における心血管死の発生率はMRA群で14.8%(264/1,785例)、対照群で15.5%(276/1,777例)であり(オッズ比[OR]:0.98[95%信頼区間[CI]:0.80~1.20]、I2=2.9%、τ2=0.0、エビデンスの確実性:中)、両群間に差を認めなかった。 MRA群で、1,000例当たりのイベント数が年間1件(95%CI:-14~11)減少すると示唆された。 また、高バイアスリスク試験における心血管死の発生率のORは0.33(95%CI:0.17~0.67)、全試験のORは0.73(0.46~1.16)であった。高カリウム血症、女性化乳房のリスクが上昇 心血管死以外の7つの評価項目に関する低バイアスリスク試験または全試験の解析結果は以下のとおりであった。MRA群で高カリウム血症(≧6.5mmol/L)と、女性化乳房または乳房痛のリスクが上昇したが、各試験の絶対リスクは低かった。・心不全による入院:低バイアスリスク試験2件(3,182例)、MRA群5.9%(94/1,580例)vs.対照群6.6%(106/1,602例)、OR:0.70(95%CI:0.30~1.65)、I2=71.1%、τ2=0.29、エビデンスの確実性:低。 ・全死因死亡:同6件(3,602例)、30.6%(553/1,805例)vs.31.9%(574/1,797例)、0.97(0.84~1.12)、0%、0、中。 ・全入院:同1件(2,538例)、57.8%(728/1,260例)vs.58.5%(748/1,278例)、0.97(0.83~1.14)、中。 ・高カリウム血症(≧6.0mmol/L):全試験5件(1,104例)、33.7%(190/563例)vs.31.8%(172/541例)、1.07(0.81~1.40)、0.0%、0.0、低。 ・高カリウム血症(≧6.5mmol/L):低バイアスリスク試験4件(2,918例)、8.2%(120/1,465例)vs.5.7%(78/1,375例)、1.50(1.11~2.03)、0.0%、0.0、中。 ・女性化乳房または乳房痛:同5件(3,448例)、2.3%(40/1,728例)vs.0.7%(12/1,720例)、3.02(1.57~5.81)、0.0%、0.0、中。 ・低血圧:全試験5件(3,012例)、2.3%(35/1,509例)vs.2.0%(30/1,500例)、1.04(0.61~1.78)、0.0%、0.0、低。非ステロイド型MRAの情報はない 著者は、「本研究の知見は、ステロイド型MRAは透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさず、潜在的な有害性(harm)のリスクを示唆する」「これらの患者のサブグループにおけるステロイド型MRAの効果に関する情報は不十分であり、非ステロイド型MRAについては情報がまったくない」としたうえで、「これらの患者は心血管死のリスクが依然として高く、有効な治療法が引き続き緊急に求められている」とまとめている。

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日本の乳がんサバイバーにおける子宮体がんリスク

 日本の乳がんサバイバーの子宮体がんリスクは、乳がんではない女性と比べて7.71倍高いことが、筑波大学の河村 千登星氏らによるマッチドコホート研究で示された。また内分泌療法別にみると、タモキシフェン投与患者では5.67倍、内分泌療法なしの患者で3.56倍リスクが高かった。Breast Cancer誌オンライン版2025年8月27日号に掲載。 本研究は、複数の健康保険組合のレセプトおよび健診データによるJMDC Claims Databaseを用いたマッチドコホート研究である。2005年1月~2019年12月に登録された乳がんサバイバー2万3,729人と、年齢とデータベース登録時期で1:4でマッチさせた乳がんではない女性9万5,659人における子宮体がんリスクを、層別化Cox回帰分析を用いて比較した。さらに、マッチングから1年後に追跡を開始し、非層別化Cox回帰分析を用いて内分泌療法(タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬、内分泌療法なし)別のリスクを評価した。 主な結果は以下のとおり。・乳がんサバイバー2万3,729人とマッチさせた乳がんではない女性9万5,659人(年齢中央値:49.5歳)における子宮体がん発生例数は、それぞれ56例、40例(1,000人年当たり0.73例、0.13例)であり、調整ハザード比(HR)は7.71(95%信頼区間[CI]:4.56~13.0)であった。・内分泌療法別の子宮体がんの発生例数(1,000人年当たり例数)および乳がんではない女性に対する調整HR(95%CI)は以下のとおり。 - タモキシフェン群(9,183例):26例(0.92例)、5.67(3.20~10.0) - アロマターゼ阻害薬群(4,582例):5例(0.43例)、2.17(0.79~5.95) - 内分泌療法なし群(5,763例):10例(0.61例)、3.56(1.66~7.65)

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あなたの「心臓年齢」は何歳?

 「心臓年齢」を算出するための新たなツールを用いた研究から、多くの米国人の心臓の生理学的年齢は暦年齢よりも高く、特に男性では女性よりも心臓の老化が進んでいることが明らかになった。ツールを開発し、研究結果を報告した米ノースウェスタン大学循環器疫学教授のSadiya Khan氏らは、人々にそれぞれの心臓年齢を伝えることで、より健康的な生活習慣や治療に対する意識向上につながる可能性があるとの見方を示している。詳細は、「JAMA Cardiology」に7月30日掲載された。 Khan氏は、「心筋梗塞や脳卒中、心不全のリスクを下げる薬による治療を受けるべき人の多くが、実際にはそのような治療を受けていない。この新たな心臓年齢の計算ツールが、予防についての議論を促し、最終的にはあらゆる人の健康の向上に役立つことを期待している」と述べている。 Khan氏らが開発した心臓年齢の計算ツールは無料で公開されており、オンラインで利用可能だ。同氏らによると、このツールは米国心臓協会(AHA)のPREVENT計算式に基づいている。PREVENT計算式は、患者の心血管リスクをパーセンテージで表すもので、医師はこの計算式による結果を、例えば、「あなたの心血管プロフィールでは、10人中8人が今後10年間に心血管イベントを起こす可能性がある」という具合に説明する。しかし、Khan氏らは、患者にとっては心臓の状態を「年齢」で表す方が理解しやすいのではないかと考えた。 Khan氏らは今回、2011~2020年に米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した米国民を代表する30〜79歳の成人1万4,140人のデータにこのツールを適用した。分析時点で心臓病の既往歴がある参加者はいなかった。 分析の結果、ほとんどの参加者において、暦年齢よりも心臓年齢の方が高いことが示された。例えば、全体の参加者を見た場合、女性の暦年齢の平均は51.3歳であったのに対し、心臓年齢の平均は55.4歳だった。また、男性の結果はそれ以上に悪く、暦年齢の平均は49.7歳であったのに対し、心臓年齢の平均は56.7歳と大幅に高かった。 Khan氏らは特定の人口学的要因も心臓年齢に関係していることを指摘している。例えば、男性で学歴が高卒以下の人の約3分の1(32.5%)は、暦年齢と比べて心臓年齢が10歳以上高いことが示された。また、男女ともに黒人やヒスパニック系の人では暦年齢を心臓年齢が上回る傾向にあることも判明した。  ノースウェスタン大学のニュースリリースによると、「黒人男性の心臓年齢は実年齢より8.5歳、ヒスパニック系男性では7.9歳、アジア系男性では6.7歳、非ヒスパニック系白人男性では6.4歳高いことが示された。また、女性に関しては黒人女性で6.2歳、ヒスパニック系女性で4.8歳、非ヒスパニック系白人女性で3.7歳、アジア系女性で2.8歳、それぞれ心臓年齢が実年齢よりも高いという結果が得られた」という。 このような健康格差を縮小させるには「予防」が鍵になるとKhan氏は言う。同氏は、「心臓病のリスクについて医師と患者が効果的な話し合いの機会を持ち、心筋梗塞や脳卒中、心不全などを防ぐための治療法に関する適切な情報提供につなげる上で、このツールが役立つことを願っている」と述べ、新たなツールが人々の行動変容のきっかけになることに期待を示している。 さらにKhan氏は、「重要なのは、心臓年齢が分かった場合、われわれのツールボックスには、心臓の老化を遅らせるための有効な選択肢が多くそろっていることだ。特に心臓病のリスクをあまり意識しない若い年代にとっては、このことはより重要であるかもしれない」と強調している。

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内リンパ嚢減荷術が回転性めまいと片頭痛に有効

 内リンパ嚢減荷術(ELSD)は片頭痛を伴うメニエール病(MD)に有効であり、術後に回転性めまいと片頭痛が緩和したという研究結果が、「Acta Oto-Laryngologica」に4月30日掲載された。 北京大学(中国)のLin Han氏らは、104人のMD患者を対象にMDと片頭痛の関連を検討した。ELSD前後の効果を評価するため、回転性めまいの月間発現回数と片頭痛指標を用いた。対象者を、片頭痛を併発するMD患者とMDのみを有する患者に分け、回転性めまいの緩和率を比較した後、片頭痛を併発するMD患者を対象に術後の回転性めまいと片頭痛の緩和について評価した。 解析の結果、術後の回転性めまい緩和率は、MDのみの患者で46.7%、片頭痛を併発するMD患者で40.68%であり、有意差は認められなかった。術後の回転性めまいの月間発現回数と片頭痛指標は、片頭痛を併発するMD患者で有意に低下した。回転性めまいと片頭痛の転帰のカッパ値は0.505であった。高血圧でないことは、回転性めまいと片頭痛の緩和の独立した予測因子であった。また、男性であることは、片頭痛緩和の独立した予測因子であった。 著者らは、「術後の回転性めまいと片頭痛の緩和にある程度の一致が認められ、これら2つの疾患には、炎症に関連する共通の病因があることが示唆される」と述べている。

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新インプラントデバイスがBCG不応性膀胱がんに有効

 TAR-200と呼ばれる、薬剤を封入した小さなプレッツェル型のインプラントデバイスにより、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)治療に反応しない高リスク膀胱がん患者の5人中4人でがんが消失したとする第2相臨床試験の結果が報告された。米南カリフォルニア大学ケック医学校泌尿器腫瘍科長のSiamak Daneshmand氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Clinical Oncology」に7月30日掲載された。 Daneshmand氏は、「これまで、治療抵抗性を示す膀胱がんに対する治療選択肢は非常に限られていた。この新しい治療法は、一般的な膀胱がんに対する治療法としてこれまでに報告されたものの中では最も効果が高い」と述べている。 従来の治療では膀胱内に液体のゲムシタビンを注入するが、薬剤は数時間で排泄されてしまうため、がんに対する効果は限定的であった。一方、ジョンソン・エンド・ジョンソン社が開発したTAR-200は、プレッツェル型の小型デバイスにゲムシタビンを封入したもので、カテーテルを通して膀胱内に挿入される。TAR-200は膀胱内で、1回の治療サイクルである3週間にわたりゲムシタビンをゆっくりと持続的に放出する。「この研究の背景にある理屈は、薬剤が膀胱内にとどまる時間が長いほど深く浸透し、より多くのがんを破壊できるというものだ」とDaneshmand氏は説明している。 今回の臨床試験は、BCG不応性の筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者85人を対象に実施された。NMIBCは膀胱がんの中で最も多いタイプのがんである。対象患者はいずれも再発や他の部位への転移の可能性が高いため、高リスクと診断されていた。患者のうち、BCG不応性の上皮内がん(CIS)を有する群(乳頭状腫瘍の有無は問わない)は、C1群(TAR-200+セトレリマブ〔抗PD-1モノクローナル抗体〕、53人)、C2群(TAR-200単独、85人)、C3群(セトレリマブ単独、28人)に、CISを伴わず乳頭状腫瘍のみを有する患者はC4群(TAR-200単独、52人)に割り付けられ、それぞれの治療を受けた。治療期間は、TAR-200が24カ月、セトレリマブが18カ月であった。主要評価項目は、C1~C3群では完全奏効率、C4群では無病生存率とされた。 その結果、C2群では、完全奏効率は82.4%(70/85人)、治療反応期間の中央値は25.8カ月であることが明らかになった。C1群とC3群の完全奏効率は67.9%と46.4%であった。また、C4群での6・9・12カ月時点での無病生存率はそれぞれ、85.3%、81.1%。70.2%であった。 これらの結果を踏まえてDaneshmand氏は、「化学療法薬を数時間ではなく数週間かけてゆっくりと放出する方が、はるかに効果的なアプローチのようだ」と述べている。 米食品医薬品局(FDA)はTAR-200に新医薬品申請の優先審査を認可した。これはFDAが、この機器の審査を迅速化することを意味すると研究グループは述べている。なお、本臨床試験は、ジョンソン・エンド・ジョンソン社傘下のヤンセン・リサーチ&ディベロップメント社の資金提供を受けた。

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胆道がんのリスク因子とは?大規模データで明らかに

 胆道がんは、進行期で発見されやすく、予後の悪いがんとして知られている。今回、60万人以上を対象とした大規模コホート研究から、胆道がんの各サブタイプに共通するリスク因子に加え、サブタイプごとに特有のリスク因子も明らかになったとする報告が発表された。研究は静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の臼井健氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に7月8日掲載された。 胆道がんは、胆管がん(BDC)、胆嚢がん(GC)、乳頭部がん(AC)を含み、その罹患率と死亡率は世界中で増加している。日本では年間2万人以上が新たに罹患し、がん死亡原因の第6位(2019年の全がん死亡者の約3.7%)を占める。また、胆道がんは進行期で発見されることが多く、胆道がんの切除が困難な患者では生存期間の中央値は1年程度とされ、切除可能な時までに発見および診断されることが重要である。早期発見のためにはリスク因子の特定が重要で、胆道がんには肥満や糖尿病、胆石、膵・胆管合流異常など多くの因子が関与すると報告されている。従来の研究では、胆道がんのサブタイプであるBDC、GC、ACについて、それぞれ個別にリスク因子が検討されてきたものの、これらを単一の大規模コホート内で同時に評価した研究はほとんどなかった。またACに関しては、元よりリスク因子に関する情報が乏しかった。そこで本研究では、医療ビックデータから1つの大規模コホートを生成し、各サブタイプに共通するリスク因子および特有のリスク因子を包括的に明らかにすることを目的とした。 本研究では、静岡県市町国保データベースを用いた。解析データセットには、2012年4月1日~2021年9月30日までの保険請求に基づき、適格性を満たす62万5,513人が含まれた。各胆道がんや併存疾患はICD-10コードによって特定された。 胆道がん発症前の研究参加者における追跡期間の中央値は6.2年(最長は8.5年)だった。観察期間中に、それぞれBDCが1,433人、GCが838人、ACが205人発症した。このコホートにおけるBDC、GC、ACの年間発症率は、それぞれ10万人年あたり41.9人(95%信頼区間〔CI〕 39.8~44.1)、24.5人(95%CI 22.9~26.2)、5.9人(95%CI 5.2~6.9)であった。 各胆道がんのリスク因子を同定するため、まず単変量Cox回帰分析で各因子の関連を評価した。変数間の相関はSpearmanの相関係数で確認し、相関の強い2つの変数については1つを選んだ。選ばれたリスク因子候補を多変量Cox回帰モデルに投入した。解析の結果、胆道がんの各サブタイプに共通するリスク因子としては、高齢、男性、肝機能異常、高血圧や糖尿病が挙げられた。また、各胆道がんに特有のリスク因子としては、BDCではB型肝炎ウイルス感染およびC型肝炎ウイルス感染、BDCとGCでは総胆管結石、GCでは胆嚢結石、ACではリウマチ性疾患がそれぞれ同定された。 本研究について著者らは、「本研究の意義は、各胆道がんのリスクを包括的に再評価し、また各サブタイプ特有のリスク因子を明らかにした点にある。これらの知見は胆道がんの早期発見と予後改善に向けた、標的を絞ったスクリーニングおよび予防戦略の策定に役立つ可能性がある」と述べている。

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糖尿病患者の運動の頻度と死亡リスクの関係

“週末にまとめて運動”でも糖尿病患者の死亡リスク低下すべての死因による死亡リスク心血管疾患による死亡リスク中高強度運動を行っていない人の死亡リスクを1とすると…21%減10.90.7917%減0.8333%減10.980.67中高強度運動なし週150分未満週末のみ 週3回以上で(週1~2回) 150分以上で150分以上19%減0.81中高強度運動なし週150分未満週末のみ 週3回以上で(週1~2回) 150分以上で150分以上【対象】米国の成人糖尿病患者5万1,650人【追跡期間中央値】9.5年 Wu Z, et al. Ann Intern Med. 2025 Jul 22. [Epub ahead of print]中高強度運動とは…?座って楽にしている状態を1としたときに、その3倍以上のエネルギーを消費する運動[中強度運動の例]散歩、ラジオ体操、アクティブなヨガ、ボウリング、ゴルフなど[高強度運動の例]ジョギング、サイクリング、登山、テニス、水泳、縄跳びなどCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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福井大学医学部 病態制御医学内科学第一講座(附属病院血液・腫瘍内科)【大学医局紹介~がん診療編】

山内 高弘 氏(教授)今村 善宣 氏(助教)山内 英暉 氏(医員)講座の基本情報教室の取り組みと特徴当科は、昭和55年福井医科大学内科学第一講座として開講以来40年以上にわたり抗腫瘍薬の基礎研究・臨床研究を専門とする全国でもまれな内科です。基礎的には、抗腫瘍薬の臨床薬理と薬剤耐性を研究テーマとしています。臨床的には、たくさんの臨床試験や治験を行っていますが、患者さんの診療を第一として地域医療を守ります。学内・学外の先生方との連携を重視し、がん薬物療法のメッカとして「がんを薬でなおそう」を目標に、基礎理論とエビデンスに基づいた合理的で最先端の診療を実践しています。教室の目標は、「楽しく、仲良く、全力で!」 をモットーに、教室の発展と教室員一人ひとりの夢の実現を両立させることであります。自由な雰囲気の中で若い先生方が実力を伸ばしていくことができる教室です。力を入れている治療/研究テーマ当科では、早期治験からJCOG大規模第III相試験まで多段階の臨床試験を広く展開しています。また、抗がん薬耐性機序の解明やTLS発症リスク因子の同定を目指す基礎・トランスレーショナル研究も並行して推進中です。加えて、高齢がん患者を対象としたリアルワールドデータ解析や、造血器腫瘍パネル検査に向けた骨髄クロットのプレアナリティカル解析など、研究テーマは多岐にわたり、医局員一人ひとりの関心・適性に応じた自主的な研究活動を支援しています。医学生/初期研修医へのメッセージ福井という地方の特性を活かし、患者さんとの距離が近い環境で診療と研究に主体的に参加できます。多職種カンファレンスや研究企画会議では、若手のアイディアが尊重され、教授や先輩医師からの直接指導を受けながら実務経験を積める機会が豊富です。地域連携プロジェクトにも早期から関わることで、がん診療の専門性と総合的な医療力を同時に磨けます。地方だからこそ得られる深い学びと手応えを、ぜひ一緒に味わいましょう。Uターン・Iターンも大歓迎です!これまでの経歴2016年3月に福井大学を卒業後、4月から福井大学医学部附属病院で初期研修を行いました。血液・腫瘍内科をローテートした際に、化学療法や移植によって一貫して内科で悪性腫瘍を治療できる点に惹かれ、2018年4月に血液・腫瘍内科に入局しました。2019年4月からは関連病院で専門研修を行いました。いずれの施設でも血液疾患、一般内科の診療について指導医の先生方から手厚い御指導をいただき2021年に内科専門医、2023年に血液専門医を取得しました。2023年4月から福井大学医学部附属病院に戻り、大学院に入学し抗がん薬について基礎研究を行っています。同医局を選んだ理由当院は県内唯一の移植認定施設であり、化学療法から同種造血幹細胞移植まで一貫して経験できます。治験も多数行っており、最新の治療に触れることができます。また、時間外や休日はオンコール制であり、福井県でメリハリをつけて働きながら血液・腫瘍内科として経験を積むのによい環境と考えました。また、医局の雰囲気や診療スタイルも自分の性質に合っていると感じ入局を決めました。実際、内科医・血液内科医として非常に充実した専門研修をさせていただいたと感じています。まずは、ぜひお気軽に見学にお越しください!福井大学医学部 病態制御医学内科学第一講座(附属病院血液・腫瘍内科)住所〒910-1193 福井県吉田郡永平寺松岡下合月23-3問い合わせ先tyamauch@u-fukui.ac.jp医局ホームページ福井大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科福井大学医学部 病態制御医学内科学第一講座専門医取得実績のある学会日本内科学会、日本血液学会、日本臨床腫瘍学会、日本造血・免疫細胞療法学会、日本輸血・細胞治療学会、日本老年医学会、日本プライマリ・ケア学会、日本痛風・尿酸核酸学会研修プログラムの特徴(1)当科は基礎的には長年にわたり抗腫瘍薬の基礎的検討を行い、臨床的には多くの臨床試験・治験を行ってきました。当科での研修でがん薬物療法の基礎を固めることができます。さらに発展的に、薬剤耐性克服を基礎的に検討したり、最先端の新規治療薬による治療を経験することができます。(2)北陸三県の中でも当科の造血細胞移植件数は多く、移植治療をしっかりと身に付けることができます。(3)日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医が4名おります。福井県での専門医11名のうち9名が当科出身者で、うち5名が当教室内にいます。固形がんも含め高いレベルのがん薬物療法を学ぶことができます。(4)腫瘍崩壊症候群、制吐療法、がん関連静脈血栓塞栓症といったがん関連有害事象についても掘り下げた研究を行っています。がん患者さんの包括的診療を学ぶことができます。

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第282回 エベレスト並みの低酸素でパーキンソン病が改善しうる

エベレスト並みの低酸素でパーキンソン病が改善しうるエベレストのベースキャンプくらいに相当する標高5,000メートルほどの薄い空気と同等の低酸素環境がパーキンソン病を模すマウスの脳を守り、動作を回復させました1-3)。その結果によると、パーキンソン病は細胞の機能障害により脳の酸素を過剰にし、それが仇となって神経変性が進むようです。あくまでもマウスでの検討結果なのでヒトでも当てはまるかをさらなる検討で調べる必要がありますが、酸素摂取を控えめにすることはパーキンソン病を予防し、ともすると症状を減らすことすら可能かもしれません。パーキンソン病は脳の黒質緻密部(SNpc)のドーパミン(DA)放出神経の封入体形成とミトコンドリア機能不全を特徴とします。封入体は主に繊維状のαシヌクレイン(α-syn)凝集でできています。α-Synは140のアミノ酸が連なったタンパク質で、SNCA遺伝子から作られます。α-synの生理機能はいまだよくわかっていませんが、その凝集の初期段階で作られる繊維は細胞内の営みや小器官の多くにひどく有害とみなされています。とりわけミトコンドリアはα-synに弱いようです。パーキンソン病でのミトコンドリア障害は、古くは1980年代の終わりごろから長く示唆されています4)。病的なα-synはミトコンドリア複合体I(MCI)を害し、ミトコンドリアの断片化や遺伝子発現の低下、膜電位低下、神経軸索輸送の障害、酸化的リン酸化の妨害、活性酸素種(ROS)生成亢進を招きうることが知られています。実際、殺虫剤のロテノン(rotenone)や人工ヘロインのメペリジン(meperidine)の類いの合成で生じるMPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)などのMCI阻害薬が、DA放出神経を害してパーキンソン病症状を誘発しうることが知られています5,6)。パーキンソン病患者のSNpcでのMCI欠損が確認されていますし、遺伝性のパーキンソン病の多くがミトコンドリアタンパク質を損なわせることも知られています。それに、マウスのDA放出神経のMCIを省くとパーキンソン病症状が発生します。どうやらパーキンソン病の発症にはミトコンドリア機能不全が深く関わるようです。ミトコンドリアの欠陥で生じうるリー症候群への低酸素の効果が先立つマウスでの検討で示唆されています。灰白質を侵す神経変性が特徴7)のリー症候群を模すMCI活性低下マウスを11%の低酸素で過ごさせると神経変性が阻止され、寿命が大幅に延長しました8)。線虫を使った最近の研究でも同様の効果が確認されています9)。さらには、酸素が薄い高地でパーキンソン病患者の症状が改善することが報告されています10)。それらの研究成果を踏まえ、ハーバード大学の研究者らは低酸素がパーキンソン病のSNpcのDA放出神経の変性を防ぎ、運動障害を緩和するのではないかと仮説を立てました。研究チームはパーキンソン病を模すα-Syn注射マウスを2群に分け、一方を21%の酸素のいつもの空気環境におき、もう一方を高度4,800メートルほどの環境に相当する11%の低酸素環境で過ごさせました。α-Syn注射から3ヵ月後の様子を調べたところ、いつもの空気で過ごしたマウスはレビー小体を多く発現し、神経が死に、重度の運動障害を被りました。レビー小体は主にα-synの凝集でできています。一方、低酸素で過ごしたマウスはレビー小体を多く発現したにもかかわらず神経は死なず、運動障害を生じずに済みました。また、低酸素環境はすでに症状が発生し始めたマウスの神経損失を食い止め、運動能力を回復させる効果も示しました。どうやら低酸素はレビー小体の形成を阻止しませんが、それらのタンパク質凝集で神経が障害されるのを防ぐ効果があるようです。α-Synやレビー小体を標的としない新たな仕組みのパーキンソン病治療が可能かもしれません。すでに研究チームはその道を進んでおり、低酸素の働きをまねる飲み薬(hypoxia in a pill)によるミトコンドリア疾患治療の開発に取り掛かっています2,3)。低酸素はパーキンソン病やリー症候群以外の神経疾患にも有益なことがマウスでの検討で示されており、複数の仕組みを介して手広く神経を保護するようです。 参考 1) Marutani E, et al. Nat Neurosci. 2025 Aug 6. [Epub ahead of print] 2) Breathing low-oxygen air slows Parkinson’s progression in mice / Eurekalert 3) Breathing Low-Oxygen Air Improves Parkinson’s Symptoms in Mice / Harvard Medical School 4) Schapira AH, et al. J Neurochem. 1990;54:823-827. 5) Langston JW. et al. Science. 1983;219:979-980. 6) Maturana MGV, et al. Neurotoxicology. 2015;46:35-43. 7) Lake NJ, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 2015;74:482-492. 8) Jain IH, et al. Science. 2016;352:54-61. 9) Meisel JD, et al. Cell. 2024;187:659-675. 10) Sunvisson H, et al. J Neurosci Nurs. 1997;29:255-260.

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入浴関連死、最もリスクの高い都道府県は?

 日本人は頻繁に入浴する習慣があるため、とくに高齢者では世界で最も溺死率が高い。入浴関連死の予防は公衆衛生上の喫緊の課題となっている。奈良県立医科大学の田井 義彬氏らは、1995~2020年の日本全国の入浴関連溺死約11万例について調査した。その結果、屋外の低気温が入浴関連死のリスクを高めるだけでなく、そのリスクが温暖な鹿児島県でとくに顕著であることが示された。本研究は、Environmental Health and Preventive Medicine誌2025年号に掲載された。 本研究では、日本の1995~2020年における浴槽内での偶発的な溺死および溺水に関する死亡診断書データ(ICD-10コードW65)を収集し、気象庁の気温データと照合した。日平均気温と入浴関連死リスクの関連性を調べるために、一般化加法混合モデル(GAMM)を用いて解析した。気温の変化に伴うリスクの変動を捉えるため、リスクが最も高い日と最も低い日の比率をピーク相対リスク(RR)と定義し、これを算出した。 主な結果は以下のとおり。・全国で11万938例の入浴関連死が確認された。90.0%が住居、6.2%が商業・サービス施設であった。・入浴関連死のリスクは、日平均気温が1.8℃で最も高くなった。日平均気温30.3℃の最低リスク時と比較して、RRは9.7(95%信頼区間[CI]:9.5~9.9)であった。・とくに男性や65歳以上の高齢者で、死亡リスクが高い傾向が認められた。日平均気温が極端な低温時や高温時よりも、中間の気温範囲でリスクが高くなることが認められた。・都道府県別にみると、鹿児島県で最もリスクが高く、ピークRRは19.6(95%CI:16.2~23.6)であった。一方、北海道が最低で、ピークRRは3.8(95%CI:3.4~4.3)であった。九州や四国など、冬場に温暖な地域のほうが、北海道や東北、北陸などの寒い地域よりも、概してリスクが高かった。この理由として、温暖な地域の住宅は断熱性が低く、冬場の屋内気温が低いことが原因である可能性が指摘された。・都道府県別では、住宅断熱性の指標である複層ガラス窓の普及率が高いほど、ピークRRの低下と有意に関連していた。また、単身世帯の高齢者の割合が高いことも、高リスクと関連していた。 本研究により、入浴関連死には、気温だけでなく、地域ごとの住宅環境や社会的要因が関連していることが示された。著者らは、温暖な地域に住む高リスク者が寒さのリスクを軽視しがちであることから、予防の意識を高めることや、住宅の断熱性など冬季の居住環境の見直しを促すことが予防につながる可能性を示唆している。

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治療抵抗性再発単極性うつ病と治療抵抗性双極性うつ病との違い

 重度かつ持続的な精神疾患は、英国人の約3%に影響を及ぼしており、重大な障害および平均寿命の有意な低下と関連している。これには、主に治療抵抗性再発単極性うつ病や治療抵抗性双極性うつ病の2つのタイプがある。両疾患おける表現型の違いや抗うつ薬に対する治療反応の違いは、神経異常の違いを示唆している。双極性うつ病は、単極性うつ病との臨床的鑑別が困難な場合もあるが、両疾患で治療法が異なるため、これらを客観的に鑑別する方法の開発は重要である。英国・ダンディー大学のSzabolcs Suveges氏らは、強化学習ドリフト拡散モデルを用いた意思決定および報酬獲得・損失回避タスク中に取得した事象関連fMRIを用いて、治療抵抗性再発単極性うつ病と双極性うつ病患者の一般成人精神医学において長期フォローアップ調査を行った。Brain誌オンライン版2025年8月4日号の報告。 単極性うつ病と双極性うつ病の両方において、報酬学習シグナルが同様に鈍化し、損失回避学習シグナルが増加し、同様の精神運動遅延がみられるとの帰無仮説を検証した。 主な内容は以下のとおり。・帰無仮説と一致し、両疾患タイプにおいて、意思決定の異常な遅延が認められ、個々の患者における強化学習ドリフト拡散モデルのパラメータ推定値は、うつ病の重症度と相関していた。・単極性うつ病では、ポジティブなフィードバックの結果と価値のシグナルが鈍化し、ネガティブなフィードバックのシグナルが増加することが示唆された。・しかし、帰無仮説とは対照的に、双極性うつ病は線条体の報酬予測誤差シグナル伝達が維持され、単極性うつ病でみられた海馬および外側眼窩前頭葉における損失事象の強化符号化が欠如していた。・全体として、治療抵抗性再発単極性うつ病と治療抵抗性双極性うつ病は、外側眼窩前頭皮質の報酬価値シグナルと扁桃体の損失価値シグナルに関して、対照群と比較し、同様の神経異常パターンを示した。・しかし、両疾患は、とくに海馬、線条体、外側眼窩前頭葉の機能に有意な違いがみられ、客観的な鑑別が可能であることが示唆された。・神経画像解析の結果とサポートベクターマシンを用いた場合、精度74.3%で両疾患を鑑別可能であった。 著者らは「本結果を確認するためにも、重度かつ持続的な治療抵抗性再発単極性うつ病および治療抵抗性双極性うつ病患者を対象としたさらなる研究が求められる」としている。

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自己免疫性肺胞蛋白症、GM-CSF吸入薬molgramostimは有効か/NEJM

 自己免疫性肺胞蛋白症(aPAP)は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体による進行性のサーファクタントの貯留と低酸素血症を特徴とするまれな疾患で、肺胞マクロファージがサーファクタントを除去するにはGM-CSFが必要となる。米国・シンシナティ小児病院医療センターのBruce C. Trapnell氏らIMPALA-2 Trial Investigatorsは、aPAP患者におけるmolgramostim(遺伝子組換えヒトGM-CSF吸入製剤)の有効性と安全性の評価を目的に、第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(IMPALA-2試験)を実施。molgramostimの1日1回吸入はプラセボに比べ肺のガス交換能を有意に改善させたことを報告した。研究の成果は、NEJM誌2025年8月21・28日合併号に掲載された。16ヵ国で164例を登録 IMPALA-2試験は、2021年5月~2023年6月に、日本を含む16ヵ国43施設で参加者を登録し行われた(Savaraの助成を受けた)。 年齢18歳以上、血清中の抗GM-CSF自己抗体濃度の上昇と、胸部CT・肺生検・気管支肺胞洗浄液の細胞診の一致した所見に基づきaPAPの診断を受けた患者164例を対象とした。molgramostim群(300μg、1日1回、吸入)に81例、プラセボ群に83例を割り付け、48週間投与した。 主要エンドポイントは、一酸化炭素肺拡散能(DLCO)*1のベースラインから24週までの変化量(ヘモグロビン濃度で補正、予測値に対する割合として算出)であった。*1:DLCOの変化量はaPAPの重症度(サーファクタント貯留の程度)と相関する。肺線維症では、10%ポイントの変化量が臨床的に意義のある最小差(MCID)とされるが、aPAPにおけるMCIDは確立されていない。24週時のDLCOが有意に改善 被験者の平均(±SD)年齢は、molgramostim群が50.8(±13.0)歳、プラセボ群が48.4(±12.7)歳、それぞれ37例(46%)および29例(35%)が女性であった。 主要エンドポイントであるDLCOのベースラインから24週までの最小二乗平均変化量は、プラセボ群が3.8%ポイント(95%信頼区間[CI]:1.4~6.3)であったのに対し、molgramostim群は9.8%ポイント(7.3~12.3)と有意な改善を認めた(推定群間差:6.0%ポイント[95%CI:2.5~9.4]、p<0.001)。 また、副次エンドポイントのうち、DLCOのベースラインから48週までの最小二乗平均変化量(molgramostim群11.6%ポイントvs.プラセボ群4.7%ポイント、推定群間差:6.9%ポイント[95%CI:2.9~10.9]、p<0.001)、St. George’s Respiratory Questionnaire total(SGRQ-T)*2のスコアのベースラインから24週までの変化量(-11.5点vs.-4.9点、-6.6点[-11.4~-1.8]、p=0.007)が、molgramostim群で有意に優れた。 一方、St. George’s Respiratory Questionnaire activity(SGRQ-A)*2のスコアのベースラインから24週までの最小二乗平均変化量(molgramostim群-13.0点vs.プラセボ群-5.2点、推定群間差:-7.8点[95%CI:-14.1~-1.5])には有意差はみられなかった。*2:SGRQ-T、SGRQ-Aとも0~100点で評価。スコアが高いほど呼吸器系の健康関連QOLが悪化。安全性プロファイルは許容範囲内 48週間の介入期間中に発現した有害事象のほとんどは軽度または中等度で、投与中止に至った有害事象はmolgramostim群で2例、プラセボ群で1例にみられた。重篤な有害事象は、それぞれ14例(17%)および20例(24%)に発現した。 molgramostim群で10%以上に発現した有害事象は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、咳嗽、発熱、鼻咽頭炎、関節痛、頭痛、下痢であった。COVID-19(22%vs.10%)と下痢(11%vs.2%)は、プラセボ群に比べmolgramostim群で高頻度であった。 著者は、「24週の時点で、プラセボに比べmolgramostimは肺のガス交換能(DLCO)を有意に改善し、この良好な状態が48週時まで維持された」「呼吸器系の健康関連QOL(SGRQ-T)も24週時に改善した」とまとめ、「肺のガス交換能の改善と一致して、すりガラス様陰影スコアと全肺洗浄を受けた患者数が改善したことから、molgramostimによりサーファクタントの負荷が軽減したと考えられる」としている。

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