サイト内検索|page:413

検索結果 合計:35162件 表示位置:8241 - 8260

8241.

間質性肺炎合併肺の薬物療法、改訂GLの推奨は?/日本呼吸器学会

 間質性肺炎(IP)には肺が合併することが多く、IP合併肺に対する治療は急性増悪を引き起こすことが問題になる。近年、肺の薬物療法は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が主流となり、IP合併肺に対する薬物療法について、さまざまな検討がなされている。2023年4月に改訂された特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)では、これらのエビデンスを基に、合併肺に関して新たに3つのCQ(クリニカルクエスチョン)が設定され、合計6つとなった。合併肺に関するCQと関連するエビデンスについて、岸 一馬氏(東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 教授)が第63回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。改訂GLの合併肺に関するCQと推奨 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)は、慢性期、急性増悪、合併肺、肺高血圧症、進行期の5つのセクションで構成され、今回から肺高血圧症と進行期が追加された。合併肺に関するCQは3つ追加された(CQ20-1、20-2、21)1)。 IP合併肺のCQとポイントは以下のとおり。CQ17:IPF(特発性肺線維症)を含むIP合併肺患者に外科治療は推奨されるか? 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2(弱) エビデンスの強さ:C(低) 本邦において、IP合併例肺手術例の予後を調べた研究では、StageIAであっても5年生存率が59%にとどまっていたことが報告されている2)。その理由として、術後急性増悪による死亡の多さがある。IP合併肺1,763例を対象とした後ろ向き研究では、急性増悪が9.3%に発現し、死亡率は43.9%であった3)。術後急性増悪のリスク因子からリスク予測モデルが作成され、その有用性を検討した前向きコホート研究REVEAL-IP Studyが実施された。その結果、術後急性増悪は1,094例中71例(6.5%)に発現し、そのうち39.4%が死亡したが、後ろ向き研究時よりも改善傾向にあった。CQ18:IPFを含むIP合併肺患者に術後急性増悪の予防投薬は推奨されるか? 方向性:行わないことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2(弱) エビデンスの強さ:C(低) 本邦において、ステロイドなどの術前予防投薬を行っても術後急性増悪の発現率は低下しないことが報告されている3)。その後、少数例の検討ではあるがピルフェニドンが術後急性増悪の発現リスクを低下させることが報告され、現在IPF合併肺患者を対象として周術期ピルフェニドン治療の有用性を検討する無作為化比較試験が実施されている4)。CQ19:IPFを含むIP合併肺患者に細胞傷害性抗がん薬は推奨されるか? 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2(弱) エビデンスの強さ:C(低) 本邦において、IP合併非小細胞肺(NSCLC)に対する初回化学療法の前向き試験が複数実施されており、急性増悪の頻度は12%以内で、近年は全生存期間中央値(MST)が15ヵ月を超えている。また、2022年12月には、化学療法とBest Supportive Care(BSC)を後ろ向きに比較した研究結果が報告された。傾向スコアマッチングを行っても、化学療法群はBSC群と比較して全生存期間(OS)が有意に延長した5)。CQ20-1:IPFを含むIP合併肺患者に血管新生阻害に関与する分子標的治療薬は推奨されるか? 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2 エビデンスの強さ:D(非常に低) エビデンスは少ないものの、化学療法にベバシズマブを上乗せしても急性増悪の発現は増加せず、無増悪生存期間(PFS)を延長する傾向が報告されている。また、推奨の決定に関するシステマティックレビューには含まれなかったが、世界で初めてIPF合併NSCLCを対象にニンテダニブの化学療法への上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験(J-SONIC試験)の結果が本邦から報告された。主要評価項目の無イベント生存率(EFS)について、化学療法+ニンテダニブ群は化学療法群と比較して有意差は認められなかったが、奏効率(ORR)は化学療法群が56.0%であったのに対し、化学療法+ニンテダニブ群は69.0%と有意に高かった(p<0.05)。また、PFSについて、中央値は化学療法群が5.5ヵ月であったのに対し、化学療法+ニンテダニブ群は6.2ヵ月であり、有意に延長した(ハザード比:0.68、95%信頼区間[CI]:0.50~0.92)。OSについては、全体では両群間に有意差はなかったが、非扁平上皮NSCLC、GAP StageIのサブグループにおいて、化学療法+ニンテダニブ群が有意に改善した。急性増悪の頻度は、化学療法群1.6%、化学療法+ニンテダニブ群4.1%、全体でも2.9%と低かった6)。CQ20-2:IPFを含むIP合併肺患者にドライバー遺伝子変異に対する分子標的治療薬は推奨されるか? 方向性:行わないことを提案または推奨 推奨の強さ:現段階では結論付けない エビデンスの強さ:D(非常に低) 推奨の強さについて、現段階では結論付けないとされた。これについては、パネル委員の全員が投与しないことを提案または推奨したが、一定の基準に達しなかったため、推奨の強さは決定されなかった。このような推奨となった一因として、日本人の肺患者を対象としてゲフィチニブと化学療法を比較した試験において、ゲフィチニブ群で間質性肺疾患(ILD)の頻度が高く(ゲフィチニブ群4.0%、化学療法群2.1%、オッズ比[OR]:3.2)、ILDによる死亡率が30%を超えたことなどが挙げられる7)。CQ21:IPFを含むIP合併肺患者に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか? 方向性:行わないことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2 エビデンスの強さ:D(非常に低) IP合併肺に対するICIの効果を検討したメタ解析の結果が報告されている。10試験(ILDのある患者179例)が対象となり、そのうち8試験が本邦の報告であった。ORRについて、ILDのある群(34%)はILDのない群(24%)と比較して有意に良好であった(OR:1.99、95%CI:1.31~3.00)。一方、ILDのある群は免疫関連有害事象(irAE)の発現率が有意に高率であった(OR:3.23、95%CI:2.06~5.06)。ICIによる肺臓炎についても、ILDのある群(全Grade:27%、Grade3以上:15%)はILDのない群(同10%、4%)と比較して有意に高率であった(OR:2.91、95%CI:1.47~5.74)8)。また、びまん性肺疾患に関する調査研究班は、IP合併肺におけるICIの薬剤性肺障害に関する後ろ向き研究を実施した。その結果、200例が対象となり、薬剤性肺障害は30.5%に認められた(Grade3以上:15.5%、Grade5:4.5%)。多変量解析の結果、重篤な薬剤性肺障害の危険因子として、IPFあり、IP診断時のSP-D(肺サーファクタントプロテインD)値高値、ICI投与前のCRP値高値が同定された。また、irAEが発現した患者はPFSとOSが有意に良好であり、IP非合併NSCLCにおける過去の報告と一致していた。IP合併肺に関する現状のまとめ 岸氏は、IP合併肺に関する現状について、以下のようにまとめた。・日本からIP合併肺に関するステートメントと特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)が発刊された。・IP合併肺の発生予防、治療による急性増悪に関して抗線維化薬の有用性が報告された。・IP合併進行NSCLCに対してカルボプラチン+タキサン、小細胞肺(SCLC)に対してプラチナ製剤+エトポシドは標準治療と考えられる。・IP合併肺に対するICIにより約30%に薬剤性肺障害が生じるが、比較的良好な治療成績が報告されている。・IP合併肺の治療は、リスクとベネフィットを慎重に検討し、患者の希望も踏まえて決定することが重要である。特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)編集:「特発性肺線維症の治療ガイドライン」作成委員会定価:3,300円(税込)発行年月:2023年4月判型:A4頁数:140頁■参考文献1)「特発性肺線維症の治療ガイドライン」作成委員会編集. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版). 南江堂;20232)Sato T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2015;149:64-70.3)Sato T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2014;147:1604-1611.4)Sakairi Y, et al. J Thorac Dis. 2023;15:1489-1493.5)Miyamoto A, et al. Respir Investig. 2023;61:284-295.6)Otsubo K, et al. Eur Respir J. 2022;60:2200380.7)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:1348-1357.8)Zhang M, et al. Chest. 2022;161:1675-1686.

8242.

コロナワクチンの有効性、40試験のメタ解析結果

 将来の第9波到来を見越した新型コロナ対策として、これまでのブースター接種のタイミングや接種用量などを評価しておく必要がある。伊・Fondazione Bruno Kessler(FBK)のFrancesco Menegale氏らはワクチンの有効性(VE)の経時的変化を数学的に説明できれば、流行時に応用できる可能性があると考え、新型コロナウイルスのデルタ株およびオミクロン株に対するVEとして、VEの半減期や効果減退率に関する調査を実施した。その結果、ワクチン初回接種とブースター接種後の時間経過とともにVEが急速に低下することを示唆した。JAMA Network Open誌2023年5月3日号掲載の報告。 本研究では論文検索データベースとしてPubMedとWeb of Scienceを使用。検索開始から2022年10月19日までの期間に、新型コロナウイルス感染や症候性疾患に対する経時的なVEの推定値を報告した論文からプレプリントまでを抽出してシステマティックレビューならびにメタ解析を行った。なお、各論文で使用されていた主なワクチンはBNT162b2(ファイザー社/ビオンテック社)、mRNA-1273(モデルナ社)だった。 主な結果は以下のとおり。・検索した結果、799件の論文、査読付きジャーナルに掲載された149件のレビュー、35件のプレプリントが該当し、そのうちの40件が分析に使用された。・オミクロン株感染と症候性疾患に対するワクチン初回接種のVEに関する推定値は、最終投与から6ヵ月で20%未満だった。・ブースター接種は、初回接種の投与直後に得られたレベルに匹敵するまでにVEを回復させた。しかし、ブースター接種9ヵ月後のオミクロン株に対するVEは、感染症および症候性疾患に対して30%未満だった。・症候性感染に対するVEが半減するのは、デルタ株では316日(95%信頼区間[CI]:240~470日)、オミクロン株では87日(95%CI:67~129日)と推定された。・また、VEを若年層(18歳未満)と高齢者(60歳以上)で比較したところ、推定値での差はみられなかった(39.2%[95%CI:34.0~44.4] vs.38.7%[95%CI:14.4~63.1])。 研究者らは「本結果は、将来のワクチン接種プログラムの適切な目標とタイミング構築に役立つ可能性がある」としている。

8243.

重症アルコール性肝炎に抗菌薬予防投与は有効か?/JAMA

 重症アルコール性肝炎の入院患者に対する抗菌薬の予防的投与のベネフィットは明らかになってないが、フランス・Lille大学のAlexandre Louvet氏らが292例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、60日全死因死亡率を改善しないことが示された。著者は、「今回示された結果は、重症アルコール性肝炎で入院した患者の生存改善に対して抗菌薬の予防的投与を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2023年5月9日号掲載の報告。Maddrey機能スコア32以上、MELDスコア21以上の患者を対象 研究グループは2015年6月13日~2019年5月24日に、フランスとベルギーの医療センター25ヵ所で、生検で確認された重症アルコール性肝炎の患者292例を対象に試験を開始した。被験者のMaddrey機能スコアは32以上、末期肝疾患モデル(MELD)スコアは21以上だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはプレドニゾロン+アモキシシリン・クラブラン酸(145例)、もう一方にはプレドニゾロン+プラセボ(147例)をそれぞれ投与した。追跡期間は180日で、最終フォローアップは2019年11月19日だった。 主要アウトカムは、60日時点の全死因死亡率だった。副次アウトカムは、90日、180日時点の全死因死亡率、60日時点の感染症、肝腎症候群、MELDスコア17未満のいずれも発生率、および7日時点のLilleスコア0.45未満の患者の割合だった。60日全死因死亡率、アモキシシリン群17%、プラセボ群21%で有意差なし 被験者292例の平均年齢は52.8歳、女性80例(27.4%)で、284例(97%)が解析に含まれた。 60日死亡率は、アモキシシリン群17.3%、プラセボ群が21.3%で統計的有意差はなかった(補正前絶対群間差:-4.7ポイント[95%信頼区間[CI]:-14.0~4.7]、ハザード比[HR]:0.77[95%CI:0.45~1.31]、p=0.33)。 60日時点の感染症発生率は、アモキシシリン群(29.7%)がプラセボ群(41.5%)より有意に低かった(補正前絶対群間差:-11.8ポイント[95%CI:-23.0~-0.7]、サブHR:0.62[95%CI:0.41~0.91]、p=0.02)。その他の副次的アウトカムは、両群で有意差はなかった。 最も多くみられた重篤有害イベントは、肝不全関連(アモキシシリン群25例、プラセボ群20例)、感染症(同23例、46例)、胃腸障害(同15例、21例)だった。

8244.

閉経後の骨粗鬆症治療薬、69試験のネットワークメタ解析で効果比較/BMJ

 閉経後女性への骨粗鬆症治療薬の大部分にベネフィットがあることが、デンマーク・Bispebjerg and Frederiksberg HospitalのMina Nicole Handel氏らによる69試験・被験者総数8万例超を対象としたシステマティックレビューとメタ解析で明らかにされた。骨形成促進薬はビスホスホネートよりも、ベースラインのリスク指標にかかわらず、臨床的骨折および脊椎骨折の予防に有効であることが示された。著者は、「今回の分析結果は、骨折リスクの高い患者への骨形成促進薬による治療を制限する、臨床的エビデンスはないことを示すものであった」とまとめている。BMJ誌2023年5月2日号掲載の報告。ビスホスホネートやSERM、PTH受容体作動薬などのRCTをレビュー・解析 研究グループはMedline、Embase、Cochrane Libraryを基に、1996年1月1日~2021年11月24日に発表され、ビスホスホネート、デノスマブ、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)、副甲状腺ホルモン(PTH)受容体作動薬、ロモソズマブをプラセボまたは実薬と比較した無作為化試験を特定し、システマティックレビューとネットワークメタ解析およびメタ回帰分析を行った。適格試験は、全年齢の非アジア人閉経後女性を対象に、介入時に骨質について幅広い要素を評価したものだった。 主要アウトカムは、臨床的骨折とした。副次アウトカムは、脊椎、非脊椎、腰、その他の主な骨粗鬆症骨折と、全死因死亡、有害イベント、重篤な心血管有害事象だった。骨吸収抑制薬治療、ベースライン時の年齢増加と共に予防効果増大 69試験(被験者総数8万人超)を対象に解析が行われた。臨床的骨折の統合結果は、ビスホスホネート、PTH受容体作動薬、ロモソズマブが、いずれもプラセボに比べ、予防的効果があることを示した。 その中でビスホスホネートはPTH受容体作動薬に比べ、臨床的骨折を軽減する効果が低かった(オッズ比[OR]:1.49、95%信頼区間:1.12~2.00)。デノスマブは、PTH受容体作動薬とロモソズマブに比べ、臨床的骨折の軽減効果が低かった(デノスマブvs.PTH受容体作動薬のOR:1.85[95%CI:1.18~2.92]、デノスマブvs.ロモソズマブのOR:1.56[95%CI:1.02~2.39])。 脊椎骨折リスクについては、すべての薬剤で、プラセボと比べ軽減効果が認められた。実薬の比較では、デノスマブ、PTH受容体作動薬、ロモソズマブが、経口ビスホスホネートに比べ、脊椎骨折の予防効果が高かった。 骨吸収抑制薬による治療は、ベースラインの平均年齢が高くなるにつれ、対プラセボの臨床的骨折リスクの減少幅が増大したが(試験数17、β=0.98、95%CI:0.96~0.99)、それ以外のすべての治療の効果は、ベースラインのリスク指標による影響を受けなかった。 有害アウトカムはみられなかったが、個々のアウトカムに関する効果予測の確実性については、深刻なバイアスリスクや不正確性が示され、評価は中等度~低度であった。

8245.

5月17日 高血圧の日【今日は何の日?】

【5月17日 高血圧の日】〔由来〕日常的な血圧測定や定期健診を促すことで、高血圧による疾病リスクを低減するために「世界高血圧デー」に准じ、2007年に日本高血圧学会と日本高血圧協会によって制定された。また、毎月17日は、高血圧の原因となる食塩の過剰摂取を防ぐために「減塩の日」として諸活動を行っている。関連コンテンツ降圧目標【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧:脳心血管疾患の危険因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧の人では、コーヒーと緑茶のどちらが危ない?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】体重増加は糖尿病や高血圧のリスク【患者説明用スライド】降圧薬使用とアルツハイマー病との関連~メタ解析

8246.

急速に進行する認知症(前編)【外来で役立つ!認知症Topics】第5回

急速に進行する認知症(前編)患者さんが認知症だと診断されたら、その次にご家族が期待されるのは治療効果である。つまり進行しないこと、進行が遅いことである。認知症の進行ぶりを客観的に評価するために、私のクリニックでは、定期的にMMSEや改訂長谷川式などの神経心理学的なテストをやっていただく。普通は緩徐に低下していくが、3、4割の人では意外ながらも前回よりも高得点が得られる。それを伝えると本人はにっこりされる。だが家族は怪訝そうな表情で、「家では、やることなすことみな悪化したのに」と述べられる。こうした経験から、とくにMCI(軽度認知障害)レベルでは、臨床経過において認知機能と日々の生活機能(IADL:道具的な日常生活機能)は平行しないと考えるようになった。対応に最も窮するのは、ご家族から、「うちの場合、認知症の進行がとくに速いのではないか?」と言われることだ。こうした場合、当方への批判や不信感がありありと伝わってくる。このとき筆者の胸に浮かぶのは、少なからず経験する急速進行性のアルツハイマー病や、まれながら絶対に見逃せないプリオン病である。そこで過去のカルテを読み返すが、症状や脳画像所見が否定型的だったり、どうも普通とは違うなと思われる過去の記述を発見したりした場合、「やだな」と不吉な思いが走る。確かに急速に進行する認知症(RPD:Rapid Progressive Dementia)という用語に合致しそうなケースはある。RPDの定義の1つに、MMSE得点の年間低下が6点以上というものがある。平均的な低下は2~3点(調査によって1.8点~4.5点と大きな開き)とされるだけに、確かに6点以上だと速いと実感する。急速進行性認知症に多い3タイプRPDにはいくつかタイプがある。まずこれまで4例経験したのが、古典的な狂牛病など致死的なプリオン病である。次に脳炎など炎症性疾患である。さらに、確かにアルツハイマー病など変性疾患なのに、というものである。これは2つに大別され、まず脳血管障害、硬膜下血種や正常圧水頭症などほかの病理が加わってくるもの、次にそうしたものがないのにぐんぐん悪化するものである。さて2022年のNature Reviews Neurology誌でRPDに関するレビューがあった1)。それを参考に概要をまとめた。まずその定義は最初の異常から認知症の診断までが1年以下としたものが多い。認知症一般を扱う病院からの報告で、RPDが認知症全体に占める割合を3.7%としたものがあった。当院の経験でも5%以内かと思う。またRPDの基礎疾患としては、プリオン病、変性疾患、炎症性疾患はそれぞれ3分の1を占めるとされる。そこで以下では、認知症一般を診る医師の立場で、こうしたRPDの鑑別のプロセスを示してみたい。プリオン病プリオン病では、自験例で早いものでは数ヵ月で死に至ったこともあり、まず早期の致死が基本である。当初はアルツハイマー病など普通の認知症と思えても、数ヵ月以内に認知機能も身体症状も急速に悪化する。担当医としては、ここで「おかしい、違うぞ!」と思わなければならない。診断根拠としてほぼ確実なのは、早期から見られるMRIの拡散強調画像における大脳皮質の高信号である。なお教科書的に有名な脳波の周期性同期性放電は中・後期にならないと認められない。そこでプリオン病が疑わしいと思ったら、放射線専門医に、皮質の変化を中心に読影してほしいと紹介状を依頼すべきだろう。炎症性脳炎次に各種の脳炎である。最も多いヘルペス脳炎、帯状疱疹脳炎は定型的な症状をもって急性発症することが多いが、ときにRPDのような認知症の1タイプを思わせるケースもある。炎症性疾患として古典的な神経梅毒は近年増加しているのに、見逃されがちであり、無治療例も多いとされる。さらにあるメタアナリシスでは、ヘルペス脳炎患者の42.6%に認知障害が見られると報告している。自己免疫性脳炎免疫介在性の脳炎は、全脳炎の20%余りにも上るとしたイギリスの報告があるように、RPDの鑑別疾患として重要である。自己免疫性脳炎は、その病態に自己免疫学的な機序が介在する脳炎・脳症である。腫瘍を合併し(腫瘍随伴性)、その遠隔効果、すなわち傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome)として発症するものもある。これは、腫瘍に関連する神経筋障害のうち、免疫介在性の機序によるものをいう。傍腫瘍性免疫介在性は、神経抗原を異所性に発現した腫瘍に対する液性免疫反応(自己抗体)と細胞性免疫反応(細胞傷害性T細胞)が自己の神経組織を傷害すると考えられている。自己抗体には、細胞内抗原を認識する抗体、シナプス受容体、細胞膜表面抗原に対する抗体がある。いずれの自己免疫性脳炎においても、早期の腫瘍検索と腫瘍に対する治療が重要であることに変わりはない。そのほかでは、中枢神経領域の悪性腫瘍、繰り返す低血糖、また重度の甲状腺機能低下症などもRPDになりうることに留意したい。最後に、アルコール性認知症は代謝性のRPDとして最も重要ではないかと思われる。これはいわゆる若年性認知症の1割を占め、栄養の偏りや低栄養を伴うことも多い。筆者の経験でも、飲酒をやめてもこうした変性性認知症を思わせるような急速悪化が続いた印象深い症例がある。参考1)Hermann P, et al. Rapidly progressive dementias - aetiologies, diagnosis and management. Nat Rev Neurol. 2022 Jun;18(6):363-376.

8247.

第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

8248.

夜勤と認知症リスク~UK Biobankの縦断的研究

 中国・Jinan University First Affiliated HospitalのYitong Ling氏らは、夜勤労働とすべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症との関連性を調査し、夜勤労働の影響およびアルツハイマー病に対する遺伝的感受性を評価した。その結果、常に夜勤をしている労働者では、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが高いことが示唆された。また、アルツハイマー病の発症リスクは、アルツハイマー病の遺伝的リスクスコア(GRS)の違いにかかわらず、常に夜勤をしている労働者で高いことが報告された。Journal of Neurology誌オンライン版2023年4月6日号の報告。 データ抽出には、UK Biobankのデータベースを用いた。対象は24万5,570例、平均フォローアップ期間は13.1年であった。夜勤とすべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症との関連性を評価するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・すべての原因による認知症を発症した患者は1,248例であった。・最終的な多変量調整済みモデルでは、認知症のリスクは、常に夜勤をしている労働者で最も高く(HR:1.465、95%信頼区間[CI]:1.058~2.028、p=0.022)、次いで不規則なシフト勤務の労働者であった(HR:1.197、95%CI:1.026~1.396、p=0.023)。・アルツハイマー病を発症した患者は474例であった。・最終的な多変量調整済みモデルでは、アルツハイマー病の発症リスクも同様に、常に夜勤をしている労働者で最も高かった(HR:2.031、95%CI:1.269~3.250、p=0.003)。・常に夜勤をしている労働者は、アルツハイマー病のGRSの低・中・高、いずれのグループにおいても、アルツハイマー病の発症リスクの高さと関連していた。

8249.

コロナ罹患の医療者、療養期間5日では短過ぎる?/感染症学会・化学療法学会

 5月8日の新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、罹患者の療養期間について、これまで有症状者は発症日から7日間経過し、症状が軽快し24時間経過した場合に解除可能であったものが、5日間まで短縮された。しかし、とくに免疫不全者のいる医療機関では院内感染予防のため、罹患した職員の就業可能日について慎重な検討が行われている。大阪医科薬科大学病院感染対策室の浮村 聡氏らの研究チームは、新型コロナに罹患した医療従事者を対象に、発症もしくは検査陽性から7日目に定量PCR検査を実施し、Ct値でウイルスの感染力を評価し、自宅療養期間の妥当性を検証した。4月28~30日に開催された第97回日本感染症学会総会・学術講演会/第71回日本化学療法学会学術集会合同学会にて浮村氏が発表した。 同病院では、NEJM誌の論文1)で示されたデータに基づいて、新型コロナ罹患による隔離解除基準をCt値30以上と設定している。2022年8月18日~11月11日の期間において、新型コロナに罹患した医療従事者に対し、就業開始前に定量PCR検査を行った。検査実施日は発症日を0日とし、調査開始当初は10日目以降に、調査途中の9月7日から国の定める基準が変更となったため7日目以降に、Ct値30を超えるまで再検査を行った。 主な結果は以下のとおり。・無症候性感染者で10日目にCt値30を超え就業可能と判断できたのは79.1%(235/297例)、7日目にCt値30を超えたのは78%(33/42例)であった。・有症状者で7日目にCt値30を超えたのは25.6%(11/43例)、諸事情から8日目に初回検査となった14例では62%(9/14例)がCt値30を超えた。 本結果により、有症状者では発症日から7日目に25.6%しか就業可能と判断できず、有症状者の隔離期間は7日間では短いことが示された。同病院では、感染者が増加した状態では、再検査による感染対策室の業務逼迫の恐れがあり、本結果を踏まえて、再検査の確実性が期待される8日目を初回の検査日とするのが妥当と考え、有症状者の初回検査日を8日目、無症状者を7日目に変更した。その後、さらに検査業務の緩和のため、Ct値25未満の者のみ再検査を要する体制に変更した。 5類移行後について、職員の自宅待機期間は短縮の方向で対応し、業務復帰のためのPCR検査は廃止する一方で、症状が軽快する臨床経過の評価と、N95マスク装着による感染対策の強化や、院内感染につながりやすい業務について把握し、そのような業務内容の再考が必要だとしている。

8250.

FDA、AD型認知症に伴う行動障害へのブレクスピプラゾールを承認/大塚

 大塚製薬とH.ルンドベックA/Sは5月11日、同社の抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)のアルツハイマー(AD)型認知症に伴う行動障害(アジテーション)の治療における効能追加の承認を米国食品医薬品局(FDA)より取得したことを発表した。今回の承認により、本剤は米国において本適応を有する初めての抗精神病薬となる。なお本剤について、処方薬ユーザーフィー法(PDUFA)による優先審査が認められていた。 ブレクスピプラゾールは、2015年にFDAが「成人の大うつ病補助療法」および「成人の統合失調症」の2つの効能で承認し、現在、統合失調症治療薬として約60の国と地域で使用されている。 AD型認知症を有する患者の約半数で、介護者に対する暴言、暴力、錯乱などの行動障害が認められている。行動障害を含む認知症に関連する症状は、介護者の負担を重くし、患者自身や家族、介護者の生活の質を低下させるとともに、患者が家族と同居できず介護施設へ入居せざるを得ない要因となっている。 今回の承認は、AD型認知症の可能性があると診断され、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが5~22点であり、薬物療法を必要とする行動障害のある51~90歳の患者が対象となった「331-12-283試験」と「331-14-213試験」の2つの第III相臨床試験において、良好な結果が得られたことに基づいている。 331-12-283試験では、主要評価項目であるCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)総スコアのベースラインから12週目までの平均変化量において、ブレクスピプラゾール2mg/日投与群は、プラセボ投与群に対して統計学的に有意な改善を示した(p<0.05)。 331-14-213試験では、本剤2mg/日および3mg/日投与群は、主要評価項目であるCMAI総スコアのベースラインから12週目までの平均変化量において、プラセボ投与群と比較して統計学的に有意な改善を示した(p<0.05)。 本剤の忍容性は全般的に良好であり、投与中止の発生率は低く、ほかの適応症でみられた既知の安全性プロファイルと同様であった。 AD型認知症に伴う行動障害の治療における本剤の開始用量は、1日1回0.5mgを1~7日目に服用することが推奨される。8~14日目までは1日1回1mg、15日目では1日1回2mgに増量する。推奨される目標用量は1日1回2mgである。臨床効果および忍容性に基づいて、少なくとも14日後に1日1回3mgの最大推奨用量まで増量することができる。 本剤の最も一般的な副作用は、頭痛、めまい、尿路感染、鼻咽頭炎、睡眠障害(傾眠・不眠)である。本剤は、同クラスの抗精神病薬と同様に、抗精神病薬による治療を受けた認知症関連の精神症を有する高齢患者の死亡リスクが高いことについて黒枠警告される。

8251.

小細胞肺がんに対するICI+化学療法は、高齢患者でも治療選択肢/日本呼吸器学会

 小細胞肺がん(SCLC)の治療選択肢となっている免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法は、高齢患者においても有効な選択肢である可能性が示された。日本医科大学千葉北総病院の清水 理光氏が第63回日本呼吸器学会学術講演会で発表した。 高齢化が進むわが国では、SCLCにおいても75歳以上の高齢患者が増加している。しかし、これらの患者集団に関する検討は十分ではない。清水氏らは、75歳以上の進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)に対するICI+化学療法の有効性と安全性を検討した。2019年8月〜2023年3月に、同施設で1次治療にICI+化学療法を受けたES-SCLC患者を、後方視的に観察している。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)。75歳以上(n=8)と75歳未満(n=10)に分けて解析した。 主な結果は以下のとおり。・PFS中央値は、75歳以上群で197日、75歳未満群では267日であった(p=0.394、95%信頼区間[CI]:95.7〜420.1)。・全生存期間(OS)中央値は、75歳以上群で500日超、75歳未満群では339日であった(p=0.359、95%CI:294.1〜370.9)。・ICI+化学療法のレジメン別のPFSは、デュルバルマブ+化学療法群で152日、アテゾリズマブ+化学療法群では197日超であった(p=0.812、95%CI:99.2〜294.8)。・奏効率は75歳以上群で50%、75歳未満群では60%であった。・Grade3以上の有害事象は、75歳以上群の50%、75歳未満群では60%に発現した(t-value=0.102)。 75歳以上の高齢者のES-SCLCに対するICI+化学療法は75歳未満と比較して奏効率、安全性ともに統計学的に有意な差はみられなかった。また、少数の解析ではあるがICIレジメン間でのPFSについても差は認められなかった。清水氏は、75歳以上の高齢者のES-SCLCにおいてもICI+化学療法は有効な選択肢となると述べている。

8252.

進行TN乳がんへのペムブロリズマブ+化療、臨床的有用性が得られ化療中止した例やimAE発現例でも有効(KEYNOTE-355)/ESMO BREAST 2023

 手術不能な局所再発または転移・再発トリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療においてペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較した第III相KEYNOTE-355試験の探索的解析の結果、ペムブロリズマブ+化学療法により臨床的有用性が得られた患者でペムブロリズマブの最終投与前に化学療法を中止した患者、また免疫介在性有害事象(imAE)発現患者において、CPSにかかわらず、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が改善したことが示された。米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center のHope S. Rugo氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 本試験では、PD-L1 CPS 10以上の患者において、ペムブロリズマブ+化学療法により統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるPFSとOSの改善が示されたことが報告されている。今回は、ペムブロリズマブ+化学療法を受け完全奏効(CR)もしくは部分奏効(PR)を達成または病勢安定(SD)を24週以上持続した患者、すなわち臨床的有用性が得られた患者のうちペムブロリズマブ最終投与前21日より前に化学療法を中止した患者におけるPFSとOSを評価した。さらに、ペムブロリズマブ+化学療法を受けた患者でimAEが1件以上発現した患者においても評価した。・対象:PD-L1陽性の手術不能な局所再発もしくは転移・再発TN乳がん(ECOG PS 0/1)・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのうちいずれか)・対照群:プラセボ+化学療法 今回の探索的解析における主な結果は以下のとおり。・2021年6月15日のデータカットオフ時点で、ペムブロリズマブ+化学療法の治療を受け臨床的有用性が得られた患者において、ペムブロリズマブ投与中止前に化学療法を中止した患者および全体でのペムブロリズマブ投与期間中央値、化学療法期間中央値、PFS中央値、OS中央値は、順に以下のとおりで、CPSに関係なくPFS、OSとも上回っていた。- 治療を受けた全患者 化学療法中止例(92例):14.1ヵ月 6.0ヵ月 14.5ヵ月 32.9ヵ月 全体(317例)     : 9.4ヵ月 7.9ヵ月 11.6ヵ月 26.4ヵ月- CPS 1以上の患者 化学療法中止例(70例):15.3ヵ月 5.9ヵ月 18.7ヵ月 34.5ヵ月 全体(249例)     : 9.4ヵ月 8.2ヵ月 11.7ヵ月 26.6ヵ月- CPS 10以上の患者 化学療法中止例(46例):20.8ヵ月 6.8ヵ月 36.7ヵ月 未到達 全体(143例)     :11.1ヵ月 8.5ヵ月 14.4ヵ月 34.4ヵ月・imAE発現患者および全体におけるペムブロリズマブ投与期間中央値、化学療法期間中央値、PFS中央値、OS中央値は、順に以下のとおりで、imAE発現患者でPFS、OSとも上回っていた。- 治療を受けた全患者 imAE発現例(149例):8.8ヵ月 7.2ヵ月 9.7ヵ月 23.9ヵ月 全体(562例)    :5.6ヵ月 5.1ヵ月 7.5ヵ月 17.2ヵ月- CPS 1以上の患者 imAE発現例(109例):8.8ヵ月 7.3ヵ月 9.8ヵ月 26.3ヵ月 全体(421例)    :5.9ヵ月 5.1ヵ月 7.6ヵ月 17.6ヵ月- CPS 10以上の患者 imAE発現例(64例):10.4ヵ月 8.4ヵ月 11.8ヵ月 35.6ヵ月 全体(219例)   : 7.6ヵ月 5.8ヵ月  9.7ヵ月 22.8ヵ月 今回の解析から、ペムブロリズマブ+化学療法で臨床的有用性が得られた患者において、PD-L1発現レベルにかかわらず、化学療法中止後もペムブロリズマブは有用であることが示唆された。この結果から、Rugo氏は「臨床的有用性が得られて化学療法を中止した患者において、ペムブロリズマブ継続が適している」とした。

8253.

夜間・24時間血圧、死亡リスク予測に有用/Lancet

 先行研究で24時間自由行動下血圧は、診察室血圧よりも包括的な血圧の評価が可能であり、診察室血圧や家庭血圧に比べ健康アウトカムをよりよく予測すると報告されている。英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らは、今回、スペインのレジストリーデータを用いた検討で、とくに夜間の自由行動下血圧は診察室血圧と比較して、全死因死亡や心血管死のリスクに関して有益な情報をもたらすことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年5月5日号に掲載された。約6万例で血圧と死亡の関連を評価するコホート研究 研究グループは、高血圧の評価のためにプライマリケア施設を受診した患者において、診察室血圧および24時間自由行動下血圧と、全死因死亡および心血管死との関連を評価する目的で、観察コホート研究を行った(スペイン高血圧学会などの助成を受けた)。 解析には、Spanish Ambulatory Blood Pressure Registry(スペイン全17州の国民保健システムに登録された223ヵ所のプライマリケア施設の医師によって選択された患者)の2004年3月1日~2014年12月31日の診察室血圧と自由行動下血圧のデータが使用された。対象は、年齢18歳以上、ガイドラインで自由行動下血圧測定が推奨される患者(白衣高血圧が疑われる患者、難治性または治療抵抗高血圧の患者など)であった。 死亡例の血圧の測定値について、五分位数で定義される5つの群に分けて解析が行われた。 5万9,124例(平均年齢58.7[SD 14.1]歳、女性47.0%、平均診察室血圧148.0/86.5mmHg、平均24時間自由行動下血圧128.8/76.2mmHg)が登録され、フォローアップ期間中央値9.7年の時点で7,174例(12.1%)が死亡した。白衣高血圧は死亡と関連しない ベースラインにて5分位数で定義された5群のうち血圧の値が上位の4群では、24時間自由行動下収縮期血圧(1SD上昇当たりのハザード比[HR]:1.41、95%信頼区間[CI]:1.36~1.47)が診察室収縮期血圧(1.18、1.13~1.23)よりも、全死因死亡との関連が強かった。 診察室血圧で補正後も、24時間自由行動下血圧は全死因死亡との間に強い関連が認められた(HR:1.43、95%CI:1.37~1.49)。一方、24時間自由行動下血圧で補正すると、診察室血圧の全死因死亡との関連は減弱した(1.04、1.00~1.09)。 診察室収縮期血圧と比較した情報の有益性(予測能)は、夜間の自由行動下血圧が最も優れ、全死因死亡が591%、心血管死は604%であった。 これらの知見は、ベースライン時に高血圧治療を受けていた患者(59%)、受けていなかった患者(41%)、全年齢層、男性・女性のすべてで一貫して認められた。 また、正常範囲内の血圧と比較して、全死因死亡リスクの上昇が仮面高血圧(診察室血圧が正常で24時間自由行動下血圧が上昇)(HR:1.24、95%CI:1.12~1.37)と持続性高血圧(1.24、1.15~1.32)で認められたが、白衣高血圧(診察室血圧が上昇、24時間自由行動下血圧は正常)ではみられなかった。同様に、心血管死リスクの上昇も仮面高血圧(1.37、1.15~1.63)と持続性高血圧(1.24、1.15~1.32)で確認されたが、白衣高血圧ではみられなかった。 著者は、「夜間血圧と死亡との強い関連は、とくに高リスク患者における夜間血圧の評価と管理の必要性を強調するものである」とし、「仮面高血圧に関連する死亡リスクは、これらの患者は通常、診察室血圧のみのスクリーニングでは発見されないことから懸念がある。白衣高血圧と死亡リスクの増加に関連がなかった点は心強いが、これらの患者の多くは持続性高血圧に移行すると考えられる」と指摘している。

8254.

早期妊娠糖尿病への即時治療、児と母体の予後は?/NEJM

 妊娠20週以前の妊娠糖尿病女性において、即時治療は治療を延期または行わない場合と比較して、新生児の有害なアウトカムの複合の発生をある程度は抑制するものの、妊娠関連高血圧や新生児の除脂肪体重には差がないことが、オーストラリア・ウエスタンシドニー大学のDavid Simmons氏らが実施した「TOBOGM試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年5月5日号で報告された。4ヵ国の無作為化対照比較試験 TOBOGM試験は、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、インドの17病院が参加した無作為化対照比較試験であり、2017年5月~2022年3月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、高血糖のリスク因子を有し、2013年のWHO基準で妊娠糖尿病の診断を受けた妊娠4週~19週6日の女性が、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による反復検査の妊娠24~28週時の結果に基づき、妊娠糖尿病に対する即時治療を行う群、または治療を延期あるいは行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは次の3つであった。(1)新生児の有害なアウトカム(妊娠37週未満での出生、分娩外傷、出生体重4,500g以上、呼吸窮迫、光線療法、死産/新生児死亡、肩甲難産)の複合、(2)妊娠関連高血圧(preeclampsia[妊娠高血圧腎症]、eclampsia[子癇]、妊娠高血圧)、(3)新生児の除脂肪体重。新生児の呼吸窮迫に大きな差 793例が解析に含まれ、即時治療群に400例(平均[±SD]32.1±4.8歳)、対照群に393例(32.6±4.9歳)が割り付けられた。初回OGTTは、平均で妊娠15.6±2.5週に実施された。 新生児の有害なアウトカムの複合は、即時治療群では378例中94例(24.9%)で認められ、対照群の370例中113例(30.5%)に比べて発生率が低かった(補正後群間リスク差:-5.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-10.1~-1.2)。 妊娠関連高血圧は、即時治療群では378例中40例(10.6%)、対照群では372例中37例(9.9%)で発生した(補正後群間リスク差:0.7ポイント、95%CI:-1.6~2.9)。また、新生児の平均除脂肪体重(副次アウトカムに変更)は、即時治療群が2.86±0.34kg、対照群は2.91±0.33kgだった(補正後群間平均差:-0.04kg、95%CI:-0.09~0.02)。 新生児の呼吸窮迫は、即時治療群では376例中37例(9.8%)で発生したのに対し、対照群では365例中62例(17.0%)で発生した(補正後群間リスク差:-7ポイント、95%CI:-12~-3)。スクリーニングや治療に関連した重篤な有害事象に関しては、両群間に差はみられなかった。 著者は、「WHO基準で早期の妊娠糖尿病と診断された女性の3分の1は反復OGTTで妊娠24~28週時に妊娠糖尿病ではなかったが、この知見は先行の観察研究と一致する」としている。

8255.

大動脈解離の診療が優れているのはドイツか日本か?【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第25回

ドイツから帰国し、日本で心臓血管外科医をやっていると「わが国の大動脈解離症例は本当によく助かる!」とヒシヒシ感じます。とくに私がドイツで勤務していた病院は、かなり人口の過疎地域であったこともあり、年間で1,000例弱程度の手術件数があるにもかかわらず、大動脈解離症例は月に2~3例程度しかありませんでした。なんせ人間より牛の数の方が多いような過疎地域でした(知らんけど)ので…100キロ以上離れた地域から患者がヘリで搬送されてくることも珍しくありませんでした。搬送数自体が少ないので、たまにやってくると毎回そこそこの騒ぎになっていました。普段は非常に洗練された手術をする上級医たちが、明らかに自信なさげに対応する姿を何度も目の当たりにしました。実際に救命できなかった症例も多く、「大動脈解離とは怖い病気なんだ」と実感していました。ドイツの大動脈解離の術後死亡率は16.9%ドイツのA型急性大動脈解離って、一体どのくらいの救命率なの?実はドイツ胸部外科学会は2006年からA型急性大動脈解離のレジストリー(German Registry for Acute Aortic Dissection Type A :GERAADA)を設立しました。これはドイツだけでなく、オーストリア・スイスなど、ドイツ語圏内の施設50ヵ所以上が参加し、A型急性大動脈解離についての統計が取られています。ドイツ胸部外科学会のサイト上では、このGERAADAのデータベースを用いて、A型急性大動脈解離の30日後死亡率のリスク評価を簡単に行うことができます。A型急性大動脈解離のリスク評価アプリそれによるとA型急性大動脈解離の術後30日以内の死亡率は16.9%とのことです。これはわが国の9.2%と比較すると、かなり高い数値となっています。「なんだ、ドイツ大したことね~な」ではありません。実はドイツの数値はアメリカやヨーロッパ全体のデータのそれと同じ程度なのに対し、わが国のデータが良すぎるのです。わが国の死亡率が低い理由なぜわが国のデータが飛び抜けて優れているのか。よく言われているのは、「欧米は心臓外科の施設集約化が進んでいる。その結果、1施設あたりの手術件数が増えることで治療のクオリティを上げることができた一方で、緊急患者の搬送に時間を要してしまうというデメリットが生まれてしまった」ということです。わが国では、大体どこで発症しても、大動脈解離の手術ができる病院へ、割とすぐにアクセスできる環境にあるということです。実際、ドイツでは搬送中に急変を起こしてしまい救命できなかった症例を何度もみました。わが国でも今後ますます心臓外科のセンター化が進んでいくことと思いますが、必ずしもセンター化がメリットだけではないということが、このデータ比較からそうした側面もみえてきます。

8256.

英語で「病棟を任せます」は?【1分★医療英語】第80回

第80回 英語で「(病棟などを)任せます」は?I will eat a quick lunch. Please hold down the fort while I am away from the floor unit.(簡単に昼食を済ませてきます。その間、[病棟を]任せますよ)Sure, enjoy your lunch!(もちろんです。昼食楽しんできてください!)《例文1》医師AI will hold down the fort because she has a vacation and is off work next week.(彼女は来週休暇で職場に来ないので、その間は私が責任を持って対応する予定です)医師BOkay I will keep that in mind.(わかりました。覚えておきますね)《解説》“hold(down)the fort”という慣用句について解説します。「Cambridge Dictionary」によると、“to have responsibility for something while someone is absent”という訳になっています。元々の英語の直訳では“the fort”(砦)を“hold down”(護る、保つ)という意味から来ているようですね。それが慣用句となり、日本語で訳すならば、「誰かがいない間に、その場の責任を任せます」といった意味ですね。一見使える場面が限られるように思われますが、実は米国の医療現場で働く際に使われる場面にたびたび出くわし、私もそこでこの表現を学びました。日本人は聞き慣れなくても、ネイティブの方々がよく使う表現の一つといえるでしょう。医療現場において、「自分が一時的にその場を離れないといけないが、誰かに患者や状況を見ていてもらう必要がある際」にぴったり当てはまる表現です。さらに具体的にいうと、夜間救急当直などでチームメンバーや上司が少し休憩をとる際に「その間、頼んだよ」といった感じで使います。また、この表現は一般慣用句で医療場面以外でも使えますので、もっと幅広く「留守番を頼んだよ」というようなニュアンスでも使えます。そう捉えると、日本語でも頻繁に使われる表現ですよね。また、使い方としては“hold down the fort”そのままの表現で聞くことが多い印象ですが“down”を省略した“hold the fort”でも使用できます。こうした英語の慣用句をさらりと日常で使いこなせるようになると格好良いですね。講師紹介

8257.

日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」【下平博士のDIノート】第120回

日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」今回は、肥満症治療薬「セマグルチド(遺伝子組換え)(商品名:ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は肥満症を適応として承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬であり、高血圧などを有し、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症患者の体重減少効果が期待されています。<効能・効果>肥満症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、あるいはBMIが35kg/m2以上の患者に処方されます。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射します。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射します。患者さんの状態に応じて適宜減量します。<安全性>日本人被験者が参加した第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験、NN9536-4382試験)において、2,008例中1,359例(67.7%)に副作用が発現しました。主なものは、悪心(36.4%)、下痢(23.5%)、嘔吐(19.1%)、便秘(19.0%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎(0.1%)、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸が設定されています(発現率の記載のないものは頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬には、脳に作用して食欲を抑えることで、体重を減らす作用があります。2.血糖値を下げる作用があるため、脱力感、倦怠感、高度の空腹感、めまいなどの低血糖症状が現れた場合は糖質を含む食品を取ってください。また、高所作業、自動車の運転などに注意してください。3.1週間に1回、同一曜日に皮下に注射してください。適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんまたはご家族は自己注射することができます。注射は、腹部、ふともも、上腕に行います。注射箇所は毎回変更し、少なくとも前回の場所から2~3cm離して注射してください。4.1回使い切りの注射薬です。5.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などの症状が現れた場合は、使用を中止して速やかに医師の診察を受けてください。6.次回の投与日を忘れないように、カレンダーなどに書き留めることをお勧めします。7.凍結を避けて冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。<Shimo's eyes>本剤は、肥満症治療薬として承認された唯一のGLP-1受容体作動薬です。固定注射針付きシリンジを注入器にセットした単回使用のコンビネーション製品で、週1回皮下投与します。名称の「SD」は、単回投与を意味するSingle Doseの頭文字に由来します。GLP-1は小腸のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンであり、血糖降下作用のほか、中枢における摂食抑制作用を有するため、体重を減少させる効果があります。本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、2型糖尿病を有する患者において両剤が併用された際の有効性および安全性は確認されていません。投与する対象患者については厳しい条件が課せられていて、(1)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有していること、(2)食事療法・運動療法を行っても効果が不十分であること、(3-1)BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有していること、または(3-2)BMIが35kg/m2以上であることが求められます。日本人が参加した国際共同第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験)および国際共同第III相試験(NN9536-4382試験)において、投与68週時までの体重変化率および5%以上の体重減少達成率でプラセボに対する優越性を示しました。重大な副作用として、低血糖、急性膵炎が現れることがあります。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、使用を中止して速やかに医師の診察を受けるように指導しましょう。本剤と同じセマグルチドを有効成分とする薬剤として、週1回投与の注射剤であるオゼンピック皮下注が2018年3月に、1回使い切りの同SD製剤が2020年3月に、1日1回投与の経口薬であるリベルサス錠が2020年6月に、それぞれ2型糖尿病を効能・効果として承認されています。自由診療において、これらの薬剤がダイエット・美容目的で適応外処方されることが問題となっています。ウゴービ皮下注の臨床試験では、BMIならびに肥満に関連する健康障害の参加基準が厳格に定められていたことから、これらの薬剤の不適正使用について日本糖尿病学会から注意喚起されており、健康被害の防止と適正使用の推進が求められています。なお、本剤は「最適使用推進ガイドライン対象品目」であり、処方には条件が付く可能性があります。関連サイトGLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

8258.

第163回 GLP-1薬でがん予防? / アルツハイマー病アジテーション治療薬を米国が初承認

GLP-1受容体作動薬は肥満患者のがん予防効果も担いうるGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)が肥満患者の体重を減らすことに加えて、ともするとがん予防効果も担いうることが被験者20例の免疫細胞を調べた試験で示唆されました1)。肥満成人は今や世界で6億人を超えます。肥満は2型糖尿病、心血管疾患、多くのがん(乳房・腎臓・大腸がんなど)と関連します。また、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の害を被りやすくします。ナチュラルキラー(NK)細胞は体内を巡るリンパ球の約10%を占める免疫細胞であり、病原体の侵略を食い止め、がんの発現を防ぐ役割を担います。しかし肥満はどうやらNK細胞を害するらしく、その数を減らし、機能を妨げることが先立つ研究で示されています。たとえばマウスの実験によると肥満のNK細胞は代謝が行き詰まっていて腫瘍と戦えず、腫瘍増殖を食い止めることができません2)。また、肥満小児のNK細胞を調べたところ合図に応じる能力が劣っており、増殖して腫瘍を除去するという本来の働きを全うできませんでした3)。すなわち肥満だとNK細胞は目当ての細胞に取り付いて除去することができなくなるようであり、肥満患者はそれゆえがんや感染症を被りやすいのかもしれません。先立ついくつかの研究でGLP-1薬はマクロファージやT細胞などの免疫細胞に手を加えることが知られています。アイルランドの2人の研究者・Andrew Hogan氏やDonal O’Shea氏などが携わった2016年の報告はそれらの1つで、脂肪組織のインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)の活性化作用がGLP-1薬の体重減少効果に寄与しうることが示唆されました4)。その両氏が率いるチームは続いてNK細胞へのGLP-1薬の作用の検討にも乗り出し、体重管理のためにGLP-1薬投与を始める肥満患者を募ってNK細胞の変化を調べました。投与されたGLP-1薬はノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドで、うれしいことに同剤投与はNK細胞のサイトカイン生成や目当ての細胞を壊す効果の向上と関連しました。リラグルチドでNK細胞機能が改善するのは体重減少のおかげというわけではなさそうで、同剤はNK細胞の代謝を底上げすることで体重減少とは関係なく直接的にその働きを回復させるようです。世界保健機関(WHO)の推定によると世界の成人の13%が肥満です5)。上述のとおり肥満は種々のがんを生じやすくし、たとえば米国で毎年診断されるがんの40%が太り過ぎや肥満と関連します6)。今回の発見はGLP-1薬を使う肥満患者を勇気づけるものであり、それら薬剤ががんを生じ難くするという効果さえ担うことを示唆しているとO’Shea氏は言っています7)。アルツハイマー病患者の行動障害治療薬を米国FDAが初めて承認アルツハイマー型認知症患者の暴言、暴力、錯乱などの行動障害(アジテーション)治療のFDA承認を抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)が先週11日に取得し、米国でその用途を有する初めてにして唯一の薬剤となりました8)。大塚製薬のアルツハイマー型認知症アジテーション治療の取り組みはブレクスピプラゾールにとどまりません。10年ほど前の2014年に発表されたAvanir社買収で大塚製薬の手に権利が渡った別の薬剤AVP-786のその用途の第III相試験が進行中であり、来年2024年4月に完了する見込みです9)。参考1)De Barra C, et al. Obesity. 2023 May 9. [Epub ahead of print]2)Michelet X, etal. Nat Immunol. 2018;19:1330-1340.3)Tobin LM, et al. JCI Insight. 2017;2:e94939.4)Lynch L, et al. Cell Metab. 2016;24:510-519.5)Obesity and overweight / WHO6)Cancers Associated with Overweight and Obesity Make up 40 percent of Cancers Diagnosed in the United States / CDC7)Maynooth University research reveals cancer-killing benefits of popular obesity treatment / Eurekalert8)FDA Approves First Drug to Treat Agitation Symptoms Associated with Dementia due to Alzheimer's Disease / PRNewswire9)大塚ホールディングス株式会社 2022年度決算説明会

8259.

DOACの出血リスクが少ないのは?リバーロキサバンvs.エドキサバン

 非弁膜症性心房細動(NVAF)治療として直接経口抗凝固薬(DOAC)の用量規定を遵守しない投与(off-label dosing)は適応外使用となる。一方、現実の本剤処方の実態は、かなりの頻度で規定用量非遵守の低用量使用(off-label underdosing)が行われている。そこで、北摂総合病院の諏訪 道博氏らは血漿濃度(PCs:plasma concentrations)をモニタリングし、1日1回服用のリバーロキサバンとエドキサバンの投与状況を調査した。その結果、NVAF患者のPCsを監視することで、リバーロキサバンとエドキサバンの出血リスク軽減のための用量調整が可能なことを実証した。また、出血の発生率はリバーロキサバン群よりエドキサバン群で少ないことも明らかになった。Circulation Reports誌2023年3月10日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・NVAFの外来患者のうち、リバーロキサバン処方群(391例)とエドキサバン処方群(333例)についてPCsのモニタリングを実施した。PCsの出血イベントのカットオフ値(リバーロキサバン:404 ng/mL、エドキサバン:402 ng/mL)はROC曲線から決定され、それを超えた患者(リバーロキサバン:28.1%、エドキサバン:12.6%)では用量調整が行われ、モニタリングを用いたoff-label dosingにより出血イベントは減少した。・追跡期間の中央値はリバーロキサバンが13ヵ月、エドキサバンが10ヵ月で、出血イベントの年間発生率はエドキサバンよりもリバーロキサバンのほうが高かった(患者年あたり4.88件vs.3.73件、p<0.05)。・さらに、クレアチニンクリアランスが50mL/min以上で、体重60kg以下の患者群の場合、リバーロキサバンは15mg(日本人標準用量)、 エドキサバンは30mgがそれぞれ適応となるが、リバーロキサバン15mgでは、エドキサバン30mgよりも出血イベントの発生率が高くなった(22.2% vs.2.9%、p<0.01)。 研究者らは「これは、リバーロキサバンでの出血発生率が高いとされる理由の一因と思われた」としている。

8260.

術後せん妄予防にメラトニン投与が有望~メタ解析

 術後せん妄は、死亡率に影響を及ぼす問題である。術後せん妄の多くは予防可能であり、予防薬としてメラトニン投与が有望であるといわれている。英国・Bristol Royal InfirmaryのJonathan Barnes氏らは、術後せん妄の予防におけるメラトニンの有効性に関する最新のエビデンスのシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、メラトニンは、成人の術後せん妄発生率を低下させる可能性が示唆された。BMJ Open誌2023年3月29日号の報告。術後せん妄の予防におけるメラトニンの有効性を患者1,244例で解析 1990年1月1日~2022年4月5日までに公表された術後せん妄に対するメラトニンのランダム化比較試験を、各種データベース(EMBASE、MEDLINE、CINAHL、PsycINFO)および臨床試験レジストリ(ClinicalTrials.org)から、システマティックに検索した。対象には、成人の術後せん妄発生率に対するメラトニンの影響を調査した研究を含めた。バイアスリスクの評価には、Cochrane risk of bias 2 toolを用いた。主要アウトカムは、術後せん妄の発生率、副次アウトカムは、術後せん妄の期間および入院期間とした。データの合成には、ランダム効果メタ解析を用い、フォレストプロットで図式化した。研究の方法論およびアウトカム測定の概要も調査した。 術後せん妄の予防におけるメラトニンの有効性を解析した主な結果は以下のとおり。・さまざまな外科の専門分野の患者1,244例を対象とした11件の研究をメタ解析に含めた。・7件の研究では、さまざまな用量でメラトニンが使用されており、4件の研究ではラメルテオンが使用されていた。・術後せん妄の診断には、8つの異なる診断ツールが使用されていた。・評価時期は、研究によりさまざまであった。・バイアスリスクは、6件の研究で低く、5件の研究でやや懸念があると評価された。・対照群と比較したメラトニン群の術後せん妄発症に対するcombined ORは0.41(95%信頼区間:0.21~0.80、p=0.01)であった。

検索結果 合計:35162件 表示位置:8241 - 8260