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分娩後出血の最大原因、子宮収縮不全と特定/Lancet

 英国・バーミンガム大学のIdnan Yunas氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、分娩後出血の原因で最も多くみられたのは子宮収縮不全であることを明らかにした。著者は、「この所見は、すべての出産した女性に対して予防的に子宮収縮薬を投与すべきという世界保健機関(WHO)の推奨を裏付けるものである」と述べている。分娩後出血の原因を明らかにすることは、適切な治療およびサービスの提供に必要であり、分娩後出血のリスク因子を知ることは、修正可能なリスク因子への対応を可能とする。研究グループは、分娩後出血の原因とリスク因子の特定および定量化を目的に本検討を行った。Lancet誌オンライン版2025年4月3日号掲載の報告。分娩後出血の発生率、リスク因子を評価 研究グループは、MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Google Scholarにより、1960年1月1日~2024年11月30日に行われた分娩後出血のコホート研究を言語を問わず検索。2人以上の試験研究者が独立して、試験の選択、データ抽出、質の評価を行い、英語で入手できた住民ベースコホート研究を適格とした。 分娩後出血の発生率ならびにリスク因子に対する粗オッズ比(OR)および補正後ORを、ランダム効果モデルを用いて統合した。リスク因子は統合ORに基づき、関連性の強さ(弱い[OR>1~1.5]、中程度[OR>1.5]、強い[OR>2])で分類し評価した。子宮収縮不全70.6%、複数原因7.8% 年齢、人種または民族を問わない女性8億4,741万3,451例を対象とした327件の研究データを組み入れた。ほとんどの研究は方法論的な質が高かった。 分娩後出血の原因として報告された統合割合上位5つは、子宮収縮不全(70.6%[95%信頼区間[CI]:63.9~77.3]、83万4,707例、14研究)、産道損傷(16.9%[9.3~24.6]、1万8,449例、6研究)、胎盤遺残(16.4%[12.3~20.5]、23万5,021例、9研究)、胎盤の異常(3.9%[0.1~7.6]、2万9,638例、2研究)、血液凝固障害(2.7%[0.8~4.5]、23万6,261例、9研究)であった。 また、分娩後出血の原因を複数有する女性の統合割合は7.8%(95%CI:4.7~10.8、666例、2研究)であった。 分娩後出血の原因との関連性が強いリスク因子は、貧血、分娩後出血既往、帝王切開、女性器切除、敗血症、産前受診なし、多胎妊娠、前置胎盤、生殖補助医療の利用、出生体重4,500g超の巨大児、肩甲難産などであった。 分娩後出血の原因との関連性が中程度のリスク因子は、BMI値30以上、COVID-19、妊娠糖尿病、羊水過多、妊娠高血圧腎症、分娩前出血などであった。 分娩後出血の原因との関連性が弱いリスク因子は、黒人およびアジア人、BMI値25~29.9、喘息、血小板減少症、子宮筋腫、抗うつ薬の使用、分娩誘発、鉗子分娩、前期破水などであった。 これらの結果を踏まえて著者は、「分娩後出血との関連性が強いリスク因子に関する知識は、分娩後出血リスクの高い女性を特定するのに役立ち、それらの女性は強化された予防および治療の恩恵を受けることができるだろう」とまとめるとともに、分娩後出血の原因は複数で多重的に存在すると示されたことについて、「治療バンドルの活用が重要であることを裏付けるものである」と述べている。

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花粉症時のアイウォッシュ、その使用傾向が調査で明らかに

 アイウォッシュ(洗眼)は花粉症シーズンの目のトラブル対策として有効な手段だが、洗眼剤の使用傾向は年齢、既往歴、生活習慣などの違いによって異なる、とする研究結果が報告された。若年層、精神疾患の既往、コンタクトレンズ(CL)利用者などが洗眼剤使用に関連する因子であったという。研究は順天堂大学医学部眼科学講座の猪俣武範氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月10日掲載された。 洗眼剤の使用はアレルギー性結膜炎の初期症状の軽減に効果的であるとされるが、現在、花粉症患者における洗眼剤使用の疫学的特徴に関しては知識のギャップが存在している。このギャップを埋めることは、花粉症管理において包括的でエビデンスに基づいた洗眼剤のガイドラインを作成するために不可欠である。そのような背景から、研究グループは花粉症患者における洗眼剤使用者と非使用者を総合的にプロファイリングし、花粉症とセルフケアの習慣に関連するパターンと特徴を特定することを目的とした大規模疫学研究を実施した。 花粉症患者の人口統計、既往歴、ライフスタイル、花粉症の症状などの疫学情報は、順天堂大学が花粉症研究のために開発したスマートフォンアプリケーション「アレルサーチ」より収集された。収集された1万7,597人のうち、研究に同意し、花粉症を有していた9,041人が最終的な解析対象に含まれた。 解析対象9,041人のうち、3,683人(40.7%)が洗眼剤を使用しており、年齢層は20歳未満(47.6%)の割合が最も多かった。洗眼剤使用群では非使用群に比べ、年齢が若く、体格指数(BMI)が高く、薬による高血圧の割合が低く、精神疾患の既往、ドライアイ(DE)診断、腎臓病の既往の割合が高いことが観察された。さらに、洗眼剤使用群ではCLの使用頻度が高く、花粉症シーズンでその使用を中止している割合は低かった。喫煙は洗眼剤使用群で非使用群より有意に高かった。また、ヨーグルトの摂取は、洗眼剤使用群で多かった。 次に単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施し、花粉症患者における洗眼剤使用の関連要因を検討した。その結果、年齢が若い、BMIが高い、精神疾患の既往歴あり、CL使用歴あり、現在のCL使用、1日当たりの睡眠時間が短い(6時間未満)、喫煙歴あり、ヨーグルトの頻繁な摂取、鼻症状スコアが低い、非鼻症状スコアが高い、DE症状がある(軽度~重度)などが、洗眼剤使用の独立した関連因子であることが明らかになった。 また、花粉症関連の眼症状を有する患者の洗眼剤非使用に関連する独立因子は、高齢であること、BMIの低さ、1日当たりの睡眠時間の短さ、DE症状がある(中等度~重度)であった。 本研究の結果について著者らは、「今回の解析結果から、高齢者や重度のDE患者が花粉症の眼症状に洗眼剤を使用していない可能性があることが浮き彫りにされた。これは、花粉症の予防と管理に対する市販の洗眼薬の有効性、副作用、安全性プロファイルについて、今後の花粉症対策や社会的な取り組みを考える上で重要な意味をもつかもしれない」と述べている。 本研究の限界点については、選択バイアスの影響を受け一般化が制限されている可能性があること、自記式調査を採用していることから、想起バイアスや過剰報告の可能性があること、横断研究であるため、洗眼とBMIやヨーグルト摂取などの要因との因果関係を評価できないことなどを挙げている。

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大腸がん死亡率に対する大腸内視鏡検査と2年ごとの便潜血検査の有用性(解説:上村直実氏)

 日本対がん協会の報告によると、2023年の部位別がん死亡数を死因順位別にみると、男性は肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がんの順に多く、女性は大腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、胃がんの順となっている。同年の大腸がん罹患者数は14万8,000人で死亡者数が5万3,000人とされており、罹患者のうち3人に1人が死亡する可能性が推測される。このように、大腸がんは肺がんの次にがん死亡者数が多い疾患であるが、早期がんの完治率は90%以上という特徴を有する疾患であり、早期発見、とくに検診が非常に重要である。 大腸がん検診に関して、直接の大腸内視鏡検査を行う米国に対して、欧州やオーストラリアでは免疫学的便潜血検査(FIT)を用いた検診が主流である。今回、スペインの15施設において2年ごとのFITを用いた検診と1回だけの大腸内視鏡検査を行う検診の各検診プログラムの参加率と10年後の大腸がん死亡率を比較した検討結果が、2025年3月のLancet誌に報告された。結果は、両プログラムへの参加率は大腸内視鏡検査より2年ごとのFIT検診が有意に高く(31.8%vs.39.9%)、10年時の大腸がん死亡率についてはFITベースの検診と大腸内視鏡検査プログラムが同等(0.22%vs.0.24%)であった。すなわち、大腸がん予防のために10年に一度大腸内視鏡検査を行うか、2年に1回FIT検査を行うことが推奨される結果となっている。 日本では、早期発見するための方策として住民検診でFITの2日法が推奨されており、FITによる1次検診から精密検査の内視鏡検査へ誘導する方法が確実に施行されれば、大腸がん死亡者数が激減することが容易に予測される。しかしながら、日本大腸肛門病学会によると、住民検診におけるFIT受診率は20%であり、そのうち便潜血陽性でも精密検査である大腸内視鏡検査を受けているのは60%とされている。なお、大腸がんが発見されるのは全体の0.1〜0.2%とされているが、このうち7割が早期がんで根治可能である。検診受診率が低い点が大きな課題であり、受診率の向上へ向けてさまざまな取り組みが策定されているのが現状である。 これに対して、大腸がん死亡率が高い筆頭国であった米国では、近年大腸がん死亡率が著明に低下している。驚くことに人口が日本の約3倍近くもあるにもかかわらず、本邦の大腸がん死亡者数よりも少なくなっている。米国では50歳を過ぎた国民に通常数十万円を要するCSを1回だけ無償で提供しており、大腸がん検診受診率が約70%と日本に比べて非常に高くなっている。このように、米国と本邦の大腸がん死亡率の差は、検診受診率の差が大きな一因と考えられる。 日本では、マンパワーや費用の問題から住民検診において大腸内視鏡検査を直接用いることは難しい状況である。したがって、FITにより検診に対する参加率をさらに向上させる対策と国民の啓蒙が重要であるとともに、一般診療現場において熟知すべき重要な研究結果と思われる。

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第260回 ほぼ生き残り確定の零売薬局(前編) 「セルフメディケーション推進」のためと薬機法等改正案が180度方針転換の謎

薬機法等改正法、衆院で可決も19項目の附帯決議こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手、なかなか勝てないですね。4月19日(現地時間)、テキサス・レンジャーズ戦に登板した佐々木投手は6回2失点と好投、リードしたまま降板するも、抑えの投手がサヨナラホームランを打たれ、またしても勝ち投手になれませんでした。球速は最速155キロ前後と今ひとつでしたが、スプリット、スライダーの制球が良くなってきただけに残念でした。勝てないと言えば、今シーズンからロサンゼルス・エンゼルスの先発陣にいる菊池 雄星投手もまだ0勝です。今年のエンゼルスは例年より調子がいい(4月22日現在、勝率5割2分)のですが、なぜか菊池投手が投げる時だけ打線が沈黙、勝ちにつながりません。それでも腐らずに淡々と投げる姿には頭が下がります。岩手県出身のこの2投手に早く勝ち星が付きますように。今回は、本連載でも度々書いてきた、処方箋なしで一部の医療用医薬品が購入できる「零売薬局」を巡る奇妙な動きについて書いてみたいと思います。衆議院厚生委員会は4月16日、薬機法等改正法案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)を与野党の賛成多数で可決しました。自民、公明、立民、維新、国民の各党が賛成、れいわ、共産が反対しました。採決後に19項目の附帯決議が採択されました。附帯決議は自民、立民、維新、国民、公明の5派共同提案によるものです。そして翌17日、薬機法等改正案は衆院本会議で与党などの賛成多数で可決され参議院に送られました。薬機法等改正法案は、「1)医薬品等の品質及び安全性の確保の強化」「2)医療用医薬品等の安定供給体制の強化等」「3)より活発な創薬が行われる環境の整備」「4)国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等」の4つの柱で構成、医療機関にとくに関係の深いのが4番目の柱で、この中に零売の原則禁止や濫用リスクのある医薬品の分類・販売方法見直しなどが盛り込まれていました。「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」と附帯決議さて、19項目の附帯決議ですが、この中にいわゆる「零売」に関する項目が含まれています。以下のような一文です。「十三:処方箋なしでの医療品医薬品の販売について、いわゆる零売規制の具体的な運用を定める厚生労働省令やガイドライン等の策定にあたっては、処方箋医薬品以外の医療品医薬品の積極的なOTC化推進及び薬剤師との相談を通じて、患者が主体的に医薬品を選択購入するセルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないように留意し、処方箋の交付を受けたもの以外のものに対して医療用医薬品の販売が認められるやむを得ない場合の範囲運用については、国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう十分に配慮すること」つまり、今回の法改正で「原則禁止」となるはずだった零売が、「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」という附帯決議が付いたことで、生き残りがほぼ確定したのです。国会提出時の法律の方針を180度転換させる内容です。医療用医薬品は処方箋に基づく販売を基本とすることを明確化、リスクの低い医療用医薬品、「やむを得ない場合」に限り薬局での販売を認める零売薬局については、「第197回 強引過ぎる零売薬局規制とやる気のないスイッチラグ対策で実感する厚労省の守旧派ぶり、GLP-1ダイエット処方規制の方が最優先では?」でも詳しく書きました。この回では、厚生労働省が2024年1月にまとめた「医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ」の内容を紹介しました。「とりまとめ」では、日常的に零売を行う薬局や、「処方箋なしで病院の薬が購入できる」とうたう薬局が存在することなど、かねてから問題視されてきた零売について、「やむを得ない場合」のみ販売可能であることを法令で明記し、販売可能時の条件も法令で定める方針を打ち出しました。それについて私は「零売という販売システムにおいて甚大な健康被害があったわけでもなく、単に広告表現に不適切な事例が散見されただけで、零売という薬剤販売のユニークな仕組みを一律に法律で規制してしまうというのは、相当強引なやり方ではないか」と疑問を呈しました。その後、「とりまとめ」に書かれた零売規制の方針はそのまま厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(福井 次矢部会長)の議論のとりまとめに引き継がれ、今回の薬機法等改正案(附帯決議採択前の当初案)に盛り込まれることになったのです。具体的には、医療用医薬品については処方箋に基づく販売を基本とすることを法律で明確化、リスクの低い医療用医薬品については例外として「やむを得ない場合」に限り、薬局での販売を認めることとなりました。この「やむを得ない場合」は省令で定めることになり、一般用医薬品で代用できない場合が該当するとされました。さらに販売に際しては、「販売量は最小限」「原則、患者の状況を把握している薬局が対応」「薬歴状況・販売状況の記録義務付け」といった厳しいルールも課されることになっていました。日常的に「患者の状況を把握している」のは調剤料で生きている薬局と考えられます。そういった薬局が零売を積極的に行うとは思えないので、非現実的なルールと言えます。零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして薬剤師らが国を相手取り訴訟こうした零売規制を盛り込んだ薬機法等改正案を政府は2月12日に閣議決定し、国会に提出しました。日本医師会はもちろん賛成、零売自体は薬剤師の役割・職能向上につながると考えられるのに、日本薬剤師会もなぜか賛成しました。しかし、国会提出前後から零売規制を巡ってはさまざまな動きがありました。その代表的な出来事が1月17日、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしたことです。1月20日付の日経ドラッグインフォメーションによれば、原告の一人である長澤薬品(東京都豊島区)の長澤 育弘氏は記者会見で、「『薬剤師の職能を脅かす法改正がいま進められようとしている』との強い危機感により、今回の提訴に至った」と説明、裁判において「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。また担当弁護士は「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」とも説明しました。国会に提出後も各方面から規制に反対意見そんな中、国会に提出された薬機法等改正案ですが、零売規制には各方面から反対意見も聞かれるようになりました。3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会では、日本総研調査部の成瀬 道紀主任研究員が公述人として出席、零売規制について発言しています。3月17日付の薬事日報によれば、成瀬氏は「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べ、その理由として、「プライマリケアの中に薬剤師を位置付けること」と「医療保険財政の持続性確保」を挙げたとのことです。一方、審議に入った衆院厚労委員会では、立憲民主党の議員などから零売規制に疑問が投げられました。4月11日付けの薬事日報によれば、早稲田 夕季議員は零売規制について「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」とし、やむを得ない場合について「現場の薬剤師にとって判断が難しく、萎縮したり結果的に零売が大きく制限される懸念があってはならない」、「薬剤師の判断に一定の裁量を残す制度が不可欠。過度な指導や規制により営業継続が困難とならないよう、必要最小限かつ合理的な規制措置にとどめてほしい」と訴えたとのことです。これに対し福岡 資麿厚生労働相は、「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」との考えを示しました。この考えがそのまま、先に紹介した附帯決議の文面につながったと考えられます。法案提出後の急な、そして謎の方針転換…。背景には一体何があったのでしょうか?(この項続く)

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吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ【論文から学ぶ看護の新常識】第12回

吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ看護師の吸引前アセスメントの実施率や適切な吸引圧の使用率はいずれも50%未満であり、吸引に関する知識と実践との間にギャップがあることが、研究結果から明らかとなった。Halita J Pinto氏らの研究で、Indian Journal of Critical Care Medicine誌2020年1月号に掲載された。看護師の気管内吸引に関する知識と実践:システマティックレビュー研究グループは、看護師の現行の実践におけるギャップを明らかにし、安全な実践に向けた包括的なガイドラインを提案することを目的として、システマティックレビューを実施した。2002年から2016年の期間に、あらかじめ定義されたキーワードを用いて論文データベースから論文を抽出した。レビューはPRISMAに従って実施した。質的データはメタ統合の手法で記述し、気管内吸引に関する知識と実践を明らかにするために、信頼性の高い量的エビデンスを統合する量的分析を実施した。最終的に30件の研究がメタ統合の対象となり、そのうち6件が量的分析に適した情報を提供した。量的分析によって明らかとなった、看護師の実施率に関する主な結果は以下の通り。吸引前の患者状態の評価:36%(2件の研究、対象者70人、実施者25人)必要時のみ吸引を実施:62%(3件の研究、対象者146人、実施者91人)吸引前の患者への説明:65%(5件の研究、対象者175人、実施者113人)吸引前の手洗い:62%(4件の研究、対象者148人、実施者92人)適切な吸引カテーテルサイズの使用:36%(3件の研究、対象者140人、実施者50人)適切な吸引圧(80~150mmHg)の使用:46%(4件の研究、対象者191人、実施者87人)吸引時間(15秒未満):59%(4件の研究、対象者150人、実施者88人)吸引後の再評価:100%(1件の研究、対象者30人、実施者30人)吸引後の手洗:91%(3件の研究、対象者82人、実施者75人)合併症の可能性についての認識があるにもかかわらず、推奨されている診療ガイドラインを順守していないことが報告された。臨床現場で日常的に行われる気管内吸引ですが、私たち看護師の知識と実践の間にはしばしばギャップがあることをご存知でしょうか。本レビューは、少し前のものにはなりますが、このギャップに注目し、気管内吸引の安全性と効果を高めるための重要なポイントを示した面白い研究です。日常的なケアになっている分、意外と答えられる項目が多いのかなと思いました。本文を読むと、吸引後のアセスメントの実施率は100%でしたが、吸引前にアセスメントを実施している看護師はわずか36%とかなり低い結果でした。意外にも見落とされがちなのが、吸引前の患者への説明です。吸引は患者にとって不快で痛みを伴う処置ですが、適切な説明と疼痛管理を行うことで、患者の不安やストレスを軽減できることが指摘されています。忙しい業務の中で作業的になり、つい説明を忘れてしまう気持ちもわかりますが、忘れないようにしたいものです。また、吸引は必要な時にのみ行い、15秒以内に留めるなど、最小限の侵襲で最大の効果を得るよう心がけましょう。と言いながらも、理想的なケアと現実的なケアの中でギャップはかなり生じると思います。日本では、『気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための)』1)が出ていますので、今一度、自分自身の知識と実践を確認してみてはいかがでしょうか?論文はこちらPinto HJ, et al. Indian J Crit Care Med. 2020;24(1):23-32.1)日本呼吸療法医学会. 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための). Jpn J Respir Care. 2024;41(1):1-47.

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早期発症双極症の認知機能、躁病エピソード期と寛解期の比較

 トルコ・Konya Eregli State HospitalのCelal Yesilkaya氏らは、早期発症型の双極症の躁病エピソード患者と寛解期患者における認知機能の程度を調査し、比較検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年3月3日号の報告。 対象は、双極症の躁病エピソード患者55例、寛解期患者40例と健康対照者30例。さらに、躁病エピソード患者のうち、31例(56.4%)は寛解期と評価された。包括的な認知バッテリーを用いて、言語および視覚学習/記憶、注意力、抑制、問題解決、作業記憶、処理速度、言語流暢スキルを評価した。全体的な認知能力を推定するため、グローバル認知因子を算出した。心の論理(Theory of mind:ToM)の評価には、Reading the Mind in the EyesおよびFaux-Pasテストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・双極症患者と健康対照者は、性別および教育によりマッチさせた。・寛解期患者の平均年齢は、他群よりも有意に高かった。・躁病エピソード患者では、抗精神病薬の投与量が最も多かった。・躁病エピソード患者は、寛解期患者と比較し、処理速度(Cohen's d:0.51〜0.78)、注意力(d:0.57)、抑制(d:0.56〜0.63)、全般的認知機能(d:0.54)の中程度の低下が認められた。・寛解期患者は、健康対照者と比較し、言語記憶(d:1.03〜1.32)、作業記憶(d:0.88〜1.13)、ToM(d:0.60〜0.87)、処理速度(d:1.21〜1.27)、問題解決(d:0.56〜0.67)、注意力(d:0.58)、抑制(d:0.89〜1.00)、視覚記憶(d:1.28〜1.37)のパフォーマンスが低かった。 著者らは「躁病エピソード患者は、社会的認知、処理速度、抑制、注意力の障害がより顕著であった。今後の研究では、神経認知障害の治療を目的とした薬物療法および心理療法の介入に焦点を当てる必要がある」と結論付けている。

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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医師の子供の約6割が中学受験または予定している/医師1,000人アンケート

 2023年の調査によると、東京都では5人に1人が中学受験をして進学するなど、大都市圏では中高一貫校に人気がある。「公立学校よりも豊かな学習環境で学ばせたい」や「来るべき大学受験のために進学校で学ばせたい」など理由はさまざまである。 では、大都市圏の医師の子供は中学受験を行っているのであろうか。また、受験の動機や合格するための対策、受験までの費用などどのくらい支出しているのだろうか。 CareNet.comでは、3月21~27日にかけて、関東圏(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)の会員医師1,000人に「中学受験」の実状について聞いた。中学受験の動機は「親の希望」がトップ 質問1で「中学受験をしたか。あるいは、受験する予定か」(単回答)を聞いたところ、「受験した/する予定」と回答した医師が64%、「受験しなかった/しない予定」が36%と半数以上の医師の子供が中学受験をしていた。地域別の比較では、わずかだが関西圏(66%)で受験したあるいは予定の人が多かった(関東圏62%)。 質問2で「中学受験の動機」(3つまで選択/複数回答)を聞いたところ、「親の希望」が70%、「子供本人の希望」が50%、「進学実績」が25%の順で高かった。地域別で5%以上差があった項目は「学校の設備」で、関東圏が9%に対し関西圏では4%だった。 質問3で「中学受験対策」(複数回答)を聞いたところ、「塾」が92%、「親など家族が勉強をサポート」が27%、「家庭教師」が12%の順で高かった。地域別では関東圏で「家庭教師」(16%)が関西圏(9%)よりも高かった。 質問4で「小学6年生のときに支出した教育費(塾・家庭教師・通信教育などの費用のみ、受験費用などは含まない)の合計」(単回答)について聞いたところ、「50万円以上100万円未満」が30%、「100万円以上150万円未満」が23%、「50万円未満」が18%の順で高かった。地域別では、100万円未満だった家庭の割合は、関西圏(55%)が関東圏(49%)よりも高い傾向がみられた。 質問5で「中学受験に関する意見や受験でのエピソード」を自由回答で聞いたところ、次のコメントが寄せられた。【受験動機や家族のサポートなど】・ある程度自由な校風で、自然も多く、本人に合っていて良かった。おかげで、国公立大学医学部に現役で合格した(60代/内科)・子供をやる気にさせるのに毎日苦労した(40代/放射線科)【受験勉強や受験日当日のハプニングについて】・連日受験で親子ともども大変だったので、早い段階で1つ合格校を確保しておくと、精神的に楽になる(40代/糖尿病・代謝・内分泌内科) ・子供が第1志望の受験日にインフルエンザになった(60代/精神科)【受験後の様子や中学受験への見解について】・親子で同じ目標に向かうという体験はとても貴重だった(50代/麻酔科)・小学生のうちにやれることがいっぱいあるのに、今の子供達は時間がないのがかわいそう(60代/小児科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の子の中学受験率は約6割

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高齢の大動脈弁狭窄症、TAVI後のダパグリフロジン併用で予後を改善/NEJM

 重症の大動脈弁狭窄症で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受け、心不全イベントのリスクが高い高齢患者において、標準治療単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンを併用すると、全死因死亡または心不全悪化の発生率が有意に改善することが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのSergio Raposeiras-Roubin氏らDapaTAVI Investigatorsが実施した「DapaTAVI試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年4月10日号に掲載された。スペインの無作為化対照比較試験 DapaTAVI試験は、TAVIを受けた大動脈弁狭窄症の高齢患者におけるダパグリフロジン併用の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2021年1月~2023年12月にスペインの39施設で参加者の無作為化を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成を受けた)。 重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受け、心不全の既往歴に加え腎不全(推算糸球体濾過量[eGFR]25~75mL/分/1.73m2)、糖尿病、左室駆出率(LVEF)<40%のうち少なくとも1つを有する患者1,222例(平均[±SD]年齢82.4±5.6歳[72%が80歳以上、7%以上が90歳以上]、女性49.4%)を対象とした。これらの患者をTAVI施行後に、標準治療に加えダパグリフロジン(10mg、1日1回)の経口投与を受ける群(605例)、または標準治療のみを受ける群(618例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、追跡期間1年の時点における全死因死亡または心不全の悪化(心不全による入院または心不全で緊急受診し利尿薬静脈内投与を受けたことと定義)の複合とした。主要アウトカムを有意に改善 全体の43.9%が糖尿病、17.0%がLVEF<40%、88.6%がeGFR 25~75mL/分/1.73m2で、平均eGFRは56.2±16.4mL/分/1.73m2であった。追跡期間中にダパグリフロジン群の103例(17.0%)が投与中止となり、標準治療単独群の43例(7.0%)が心不全以外の理由でダパグリフロジンの投与を開始した。標準治療単独群の1例が追跡不能となり主解析から除外された。 主要アウトカムのイベントは、標準治療単独群で124例(20.1%)に発生したのに対し、ダパグリフロジン群では91例(15.0%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.95]、p=0.02)。 全死因死亡はダパグリフロジン群47例(7.8%)、標準治療単独群55例(8.9%)(HR:0.87[95%CI:0.59~1.28])、心不全悪化はそれぞれ57例(9.4%)および89例(14.4%)(サブHR:0.63[95%CI:0.45~0.88])で発生した。性器感染症、低血圧症の頻度が高い 非外傷性四肢切断(ダパグリフロジン群0.8%vs.標準治療単独群0.6%、p=0.72)、重症低血糖症(0.7%vs.1.3%、p=0.26)、がん(5.0%vs.3.6%、p=0.23)の発生率は両群で同程度であった。両群とも糖尿病性ケトアシドーシスの報告はなかった。 一方、性器感染症(1.8%vs.0.5%、p=0.03)および低血圧症(6.6%vs.3.6%、p=0.01)はダパグリフロジン群で高頻度だった。ダパグリフロジン群の37例(6.1%)が、有害事象により投与中止となった。 著者は、「これらの結果は、高齢患者においてSGLT2阻害薬は安全で、臨床的有益性をもたらすことを裏付けるものと考えられ、高齢患者へのSGLT2阻害薬の処方が少ない現状を考慮すると重要な知見といえるだろう」としている。

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テレビを消すと糖尿病になりやすい人の心血管リスクが低下する

 2型糖尿病になりやすい遺伝的背景を持つ人は、心臓発作や脳卒中、末梢動脈疾患などのアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクも高い。しかし、そのリスクは、テレビのリモコンを手に取って「オフ」のスイッチを押すと下げられるかもしれない。香港大学(中国)のMengyao Wang氏らの研究によると、テレビ視聴を1日1時間以下に抑えると、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDリスクの上昇が相殺される可能性があるという。この研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に3月12日掲載された。 Wang氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」参加者のうち、遺伝子情報のデータがある成人34万6,916人(平均年齢56±8.0歳、女性55.4%)を対象に行われた。2型糖尿病に関連する138の遺伝子情報を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出し、低位(PRSの下位20%)、中位(低位・高位以外)、高位(PRSの上位20%)の3群に分類。また、テレビ視聴時間は自己申告に基づき、1日1時間以下の群(20.7%)と2時間以上の群(79.3%)の2群を設定した。 中央値13.8年間追跡したところ、2万1,265件のASCVDイベントが記録されていた。ASCVDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、就業状況、肉・魚・果物・野菜などの摂取量、経済状況ほか)を調整後、テレビ視聴時間が1日2時間以上の群はPRSにかかわらず、1日1時間以下の群よりもASCVDリスクが12%高かった(ハザード比1.12〔95%信頼区間1.07~1.16〕)。またPRSが中位および高位の群でも、テレビ視聴時間が1日1時間以下である限り、ASCVDリスクの上昇は認められなかった。 その一方で、PRSが低位であっても2時間以上テレビを視聴している群は、向こう10年間のASCVDリスクが2.46%であり、この数値は、PRSが高位ながらテレビ視聴時間が1時間以下の群のASCVDリスクである2.13%よりもやや高かった。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究結果は、テレビ視聴時間を減らすことが、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDを予防するための、重要な行動目標となる可能性を示唆している」と総括。また、「疾患を予防し健康を増進するために、特に2型糖尿病の遺伝的リスクが高い人々に対しては、テレビを見る時間を減らして健康的な習慣を身に付けることを奨励すべきだ」と付け加えている。論文の上席著者である同大学のYoungwon Kim氏も、「2型糖尿病および長時間の座位行動は、ASCVDの主要なリスク因子である。そして、座位行動の多くをテレビ視聴が占めており、それが2型糖尿病とASCVDのリスク上昇につながっている」と解説している。 米国心臓協会(AHA)の身体活動委員会の委員長である、米バージニア大学シャーロッツビル校のDamon Swift氏は、「この研究は、テレビの視聴を減らすことが、2型糖尿病のリスクが高い人にも低い人にも有益であることを示唆している」と論評。また「健康増進におけるライフスタイル選択の重要性を示している」と語っている。なお、同氏は本研究には関与していない。

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輸液バッグからマイクロプラスチックが血流に流入か

 医師や健康分野の専門家の間で、人体の奥深くにまで侵入するマイクロプラスチックに対する関心が高まりつつある。こうした中、医療行為でさえもこの微小なプラスチックへの曝露を増やす要因となり得ることが、新たな研究で示された。プラスチック製の輸液バッグから投与される液剤の中にもマイクロプラスチックが含まれていることが明らかになったという。復旦大学(中国)環境科学・工学部教授のLiwu Zhang氏らによるこの研究は、「Environment & Health」に2月14日掲載された。Zhang氏らは、「われわれの研究から、マイクロプラスチックが血流に入り込むという、人間に最も直接的に影響するプラスチック汚染の一面が浮き彫りになった」と述べている。 Forbes誌の最近の記事によると、マイクロプラスチックは、認知症や脳の健康問題、心疾患、脳卒中、生殖機能の問題、乳幼児の疾患など、さまざまな健康問題と関連していることが複数の研究で示されているという。2025年2月初旬に「Nature」に発表された研究によると、人間の脳から検出されるマイクロプラスチックの量は、2016年と比べて2024年には約50%増加したという。さらに、研究グループによると、マイクロプラスチックは人間の血中からも検出されている。血中を流れるマイクロプラスチックは、肺、肝臓、腎臓、脾臓などの臓器に蓄積されやすいという。 研究グループは今回、2つの異なるメーカーの点滴用生理食塩水入りの輸液バッグを購入し、その中身を静脈内輸液速度と同じ40~60滴/分でガラス容器に滴下した。次に、収集した液体を、0.2μmのポリカーボネートろ紙を用いた真空ろ過装置でろ過し、ろ紙上に残った物質をイオン水に浸して超音波処理した後に乾燥。最終的にSEM-EDS(走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析)とラマン分光分析法を用いて、マイクロプラスチックの分析を行った。 その結果、どちらのメーカーの生理食塩水にも、ポリプロピレン製の輸液バッグと同じポリプロピレン粒子が相当数(約7,500個/L)含まれていることが明らかになった。この結果は、点滴を通して何千個ものマイクロプラスチックが人間の血流に混入する可能性があることを示唆していると研究グループは言う。研究グループはこの結果に基づき、複数の輸液バッグが必要になる脱水症状の治療では血流に入り込むマイクロプラスチックの数が約2万5,000個、腹部手術の場合には約5万2,500個に達する可能性があると試算している。 Zhang氏らは、輸液バッグを紫外線や熱から遠ざけることで、マイクロプラスチックが液剤に混入しにくくなる可能性があるとの見方を示している。また、病院や診療所では、患者が点滴を受けている間にマイクロプラスチックを除去するろ過システムの導入を検討しても良いかもしれないとしている。 研究グループは、「今後の研究では、より直接的な毒性学的研究に重点を置いて、マイクロプラスチックの潜在的な毒性とそれに関連する健康リスクを総合的に評価するべきだ」との見解を示し、「今回の研究結果は、マイクロプラスチックが人間の健康にもたらす潜在的な危険性の軽減に向けた適切な政策や対策を立案するための科学的根拠となるだろう」と述べている。

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肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

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血栓溶解療法は後方循環系脳梗塞に発症後24時間まで有効か?(解説:内山真一郎氏)

 中国で行われたEXPECTS研究は、CTで高度の早期低吸収域がなく、血栓除去術が予定されていない、発症後4.5~24時間の後方循環系脳梗塞患者において、アルテプラーゼ投与と標準的内科治療を比較した無作為化試験である。結果は、90日後の自立例がアルテプラーゼ投与群で標準的内科治療群より有意に多く、36時間以内の症候性頭蓋内出血は両群間で有意差がなかった。 最近行われた無作為化比較試験では、灌流画像で証明された前方循環系の大血管閉塞患者で発症後24時間まで治療時間枠を拡大できる可能性が示唆されていたが、この研究により実用的で安価なCTでも症例選択に代用できることが示された。後方循環系は前方循環系よりも側副血行が豊富で虚血耐性が高く、血栓溶解療法による脳出血リスクが低いと考えられる。本研究では、血栓除去術が予定されていた大血管閉塞による重症例が除外されたことも脳出血リスクの低下に貢献したと思われる。本研究の限界として、対象患者が漢人のみであったため他の人種には全般化できないことを挙げているが、人種的に近い日本人患者には大いに参考になる結果ではないかと思われる。

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直美を再考する――偏在する志望診療科と、偏らせてはならない希望【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第83回

活気に満ちた学会会場2025年3月末、第89回日本循環器学会がパシフィコ横浜で開催されました。活気に満ちた会場、熱のこもった発表。私も一参加者として学び、そして応援に駆けつけました。当科の若手医師が初めて全国規模でのポスター発表に挑戦する姿を見届けるためです。事前の予行演習から気合い十分で、緊張感がみなぎっていました。ポスター会場へ向かうには、製薬企業や医療機器メーカーのブースが立ち並ぶ展示ホールを通る必要があります。学会運営に欠かせない資金を、こうした企業の出展料で賄うという仕組みです。企業は、お金をかけてブースを出展しても、訪ねてくれる人がいなければ意味がありません。訪問者数を確保するために、口頭発表の会場からポスター会場に移動するには、展示ホールを通過しなければならないように配置されています。ブースへの来場を促すための導線設計には、思わず感心してしまいます。まるで祭りの夜店を冷やかすような感覚で、私もこの華やかな通路を歩くのが密かな楽しみです。その中に、ひっそりと佇むオーストラリア心臓病学会のブースがありました。「ぜひ現地の学会にも参加を」という誘いの展示です。ふと掲示物を眺めていると、快活な笑顔の大柄な女性が現れ、コアラのぬいぐるみを手渡してくれました。両手がクリップになっている愛らしい作りです。私はカバンのストラップにそのコアラをぶら下げ、足取り軽くポスター会場へ向かいました。「中川先生! お久しぶりです」会場で声を掛けてくれたのは、仕事上で親交のある若手の女性医師でした。「お元気そうで何よりですね」しばらく世間話を交わし、別れ際に彼女が言いました。「先生、コアラ似合ってますよ」内心では結構な歳のオヤジが何をはしゃいでいるのだ!と感じていたのかもしれません。「あのブースで配ってますよ、ぜひどうぞ」やや照れながら返しました。数日後、彼女から1通のメールが届きました。内容はこうです。彼女には小さな娘さんがいて、そのコアラをとても気に入っているとのこと。「子供は早く大きくなってほしいような、でもずっと小さいままでいてほしいような……そんな気持ちになります」と締めくくられていました。その言葉に、私は胸を打たれました。母親としての喜びと、時の流れへのかすかな寂しさ。その複雑な感情がにじむ、やさしい一文です。学会出張の数日間だけ子供の顔を見なかった母親には、その時間に確実に成長した証に気付いたのかもしれません。親のまなざしが感じられます。彼女は確かに「今」を大切にして子育てを楽しんでいるのだと感じました。わが循環器内科のスタッフにも、小さな子供を育てる医師が多くいます。果たして私は、彼らが「今」を大切にできる環境を整えているだろうか、そう問い直さずにはいられませんでした。診療科偏在――どうすれば「きついけれど、やりがいある」科に集まるか?さて、日本の医療が抱える構造的な課題の一つに、若手医師の診療科偏在があります。外科系や循環器内科など、「忙しくて過酷」「報われにくい」とされる科は敬遠されがちです。一方で美容外科などは、自由診療ゆえに高収入で、時間の融通も利きやすいことから人気を集めています。象徴的な存在が、「直美」と呼ばれる若手医師たちです。初期研修を終えるとすぐに美容医療に進む医師たちを、やや皮肉を込めてそう呼ぶことがあります。消化器外科などの一般外科医として何年か経験した後に美容外科に転向する医師も存在します。直美よりも、転科して加わる者のほうが多いかもしれません。自分の知り合いにも、心臓血管外科医として10年以上の経験がありながら転向する決断をした医師がいます。そこには子供の病気という背景がありました。家族のために費やす時間を確保する必要があったのです。彼は、美容外科医として成功し、またお子さまも元気に成長しています。どの医師にも、それぞれの場面で優先すべき家庭内の事情があるのです。美容外科を選択する医師を非難するだけでは解決しません。では、どうすれば再び、循環器内科のような「きついけれど、やりがいある」診療科に若手医師が集まるのでしょうか。待遇改善はもちろん必要です。しかしそれ以上に、当直明けの確実な休養や、子供と過ごす時間を大切にできる柔軟な働き方、こういった医師としての人生と、親としての人生、その両方を尊重できる職場づくりが不可欠だと私は思うのです。医療は、人の命と人生に寄り添う仕事です。だからこそ、医師自身も人生の喜びを犠牲にしてはならないのです。若い医師たちがやりがいを持って働きながら、家族との時間も慈しむことができる社会こそが、医療の未来を支えるのではないでしょうか。

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コンビニと症状検索アプリが連携、何のため?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第150回

コンビニエンスストアのセブン-イレブンが、症状検索アプリを提供する会社と手を組み、新たなサービスを展開するようです。それはどのようなサービスで、それぞれのメリットはどこにあるのでしょうか?セブン-イレブン・ジャパンは31日、医療スタートアップのUbie(ユビー、東京・中央)と資本業務提携を結んだと発表した。ユビーの症状検索サービスを利用する人向けに、セブンの宅配サービスを提案する。今後コンビニ店舗でユビーが持つ健康関連の情報を発信するなどして、実店舗をヘルスケアの拠点として活用する。(2025年3月31日付 日本経済新聞)セブン-イレブンは、言わずと知れたコンビニエンスストア最大手で、全国で2万1,743店舗(2025年2月末時点)を有し、最近では商品お届けサービス「7NOW(セブンナウ)」を展開しています。一方、Ubieは医師と技術者が2017年に立ち上げたベンチャー企業で、症状検索アプリ「ユビー」やAI問診などの医療機関向けパッケージ「ユビーメディカルナビ」、さらに製薬企業と協業して疾患・治療情報を提供する「ユビー for Pharma」などのサービスを展開しています。「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションとし、医療業界全体のDXを推進している会社です。今回、リアル店舗を有するセブン-イレブンと、医療テクノロジーを提供するUbieが提携することにより、新たなサービスを展開するようです。第1弾として、「7NOW」と「ユビー」との相互連携に関する実証実験を開始すると発表しました。具体的には、「ユビー」を利用する体調不良で外出が難しい人に、症状検索結果の画面で「7NOW」の利用を案内します。また、体調不良を感じた人が「7NOW」を利用した際、注文完了後にシームレスに「ユビー」で症状を検索できるように連携するとしています。ユビーを利用する人にはセブン-イレブンの商品が提案され、セブン-イレブンを利用する体調不良の人にはユビーが案内される、というイメージでしょうか。セブン-イレブンのプレスリリースでは、「両社は本提携を通じ『生活の中で一番身近なヘルスケアステーション』として食と医療を掛け合わせた新たな価値創造に取り組み、お客様の健康寿命延伸に貢献してまいります」としています。これまでもコンビニエンスストアはさまざまな医療サービスとの提携を実施しています。調剤薬局を併設しているお店もありますし、今では一般用医薬品の販売も当たり前に行われています。一方で、それらがきちんと利益を生み出しているかどうかは疑問です。健康や医療は異業種が参入したがる領域ではありますが、国民皆保険がある日本において、食と医療を掛け合わせたサービスできちんと利益を上げて、それを継続させるということは、実はとても難しいことではないでしょうか。セブン-イレブンが最大手であること、また今回のサービスは両社にデメリットやリスクが少ないことから続けやすいかもしれませんが、今回のサービスを使ったお客さんが「提案されてよかった!」と思えるものになるのか、その反響や今後発表されるであろう第2弾の取り組みを楽しみにしたいと思います。

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肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

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異常のない長引く咳嗽【日常診療アップグレード】第28回

異常のない長引く咳嗽問題46歳男性が長引く咳を訴えて来院した。12日前から微熱と倦怠感があり咳、鼻水、咽頭痛が出現した。発熱と鼻水、咽頭痛はよくなったが、咳だけが続いている。既往歴にうつ病がありSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を内服中である。バイタルサインは正常で胸部聴診も異常を認めない。SARS-CoV-2とインフルエンザの検査は陰性である。しばらくすれば咳は止まるでしょうと安心感を与え帰宅させた。

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第263回 パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望

パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望幹細胞から作った神経細胞によるパーキンソン病治療の2試験の待望の結果が、時を同じくして先週16日にNature誌に報告されました1-4)。それら試験の被験者はおよそ安全に経過観察の2年間を過ごすことができ、移植された神経細胞はパーキンソン病で失われるドーパミン生成/放出神経細胞(DA神経)に成り代わって十分長く存続してドーパミンを作りうると示唆されました。2つのチームがめいめい実施したそれらの試験はともに小規模で、主な目的は安全性の検討です。被験者数は2試験合わせて19例ばかりで、震えがはっきりと減った被験者もいますが、プラセボ群がないことなどもあって効果の判定には不十分で、より大規模な試験での検討が今後必要です5,6)。両試験で神経を作るのに使われた幹細胞はおよそ無限に増え続けることができ、心身を形成するあらゆる細胞に分化しうる特別な能力を有します。2試験で移植された神経細胞の起源は幹細胞ですが、その出所が異なります。一方では受精後の胚から得られるヒト胚性幹細胞(hES細胞)、もう一方では成人の体細胞から人工的に生み出される人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞が作られました。パーキンソン病はDA神経が失われることによる進行性の神経病態で、振戦、こわばり、動作緩慢を引き起こします。残念ながら根治療法はなく、2050年までに世界のパーキンソン病患者数はおよそ2,500万例に達すると予想されています7)。失われたDA神経をそれに代わる細胞の移植で補充してパーキンソン病治療を目指す取り組みの先駆けの報告は1980年代にさかのぼります8)。試されたのはDA神経が豊富とされる胎児の中脳腹側の細胞のパーキンソン病患者への移植です。胎児由来細胞が移植された脳領域では幸いにしてドーパミンの量が回復し、運動機能の改善が長続きしました。それらの結果はパーキンソン病の細胞移植の治療効果を裏付けるものですが、胎児脳組織はそう簡単に手に入るものではありませんし、手に入ったとしてその質はまちまちかもしれません。それに倫理的な懸念もあります。そういう課題の解決手段の1つとして幹細胞からDA神経を大量に作る試みが始まり、しばらくすると世界の多くのチームがヒト幹細胞からDA神経を生み出せるようになりました。研究はさらに進んでパーキンソン病を模す動物への移植実験で症状や動作の改善効果が示されるようになり、2020年にはパーキンソン病患者の初のiPS細胞治療例が報告されるに至ります9)。その1例の患者には自身の皮膚細胞由来のiPS細胞を分化させて作った前駆DA神経が2017~18年に脳の左側と右側に2回に分けて移植されました10)。移植細胞の存続がPET写真で確認され、移植後18ヵ月と24ヵ月時点での患者の症状は安定か改善していました。実用に堪える細胞を作る技術は原料がiPS細胞とhES細胞の場合のどちらでもその後改善し、今や複数例を集めての臨床試験が実施されるようになっています。今回発表された2試験の1つはわが国の京都大学医学部附属病院で実施された第I/II相試験で、iPS細胞から作った前駆DA神経がパーキンソン病患者7例の脳の両側の被殻に移植されました。移植細胞が拒絶されないように免疫抑制薬が15ヵ月間投与されました。2年間(24ヵ月)の経過観察で幸いにも重篤な有害事象は生じておらず、効果検討対象の6例のうち4例は薬の効果がない状態での運動症状検査値(MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコア)の改善を示しました。もう1つはBayerの子会社のBlueRock Therapeutics社が米国とカナダで実施した第I相exPDite試験で、パーキンソン病患者12例が参加し、京都大学の試験とは違ってhES細胞由来の前駆DA神経が脳に移植されました。移植場所は被殻で、京都大学での試験と同じです。やはり免疫抑制薬が投与されました。投与期間は1年間です。exPDite試験の18ヵ月間の安全性経過は日本での試験と同様におよそ問題はなく、移植細胞と関連する有害事象は生じていません。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアは高用量群でより下がっており、18ヵ月時点ではもとに比べて平均23点低くて済んでいました。脳の写真を調べたところドーパミン生成の上昇が認められ、免疫抑制薬の使用停止後も含む18ヵ月間の観察期間のあいだ、少なくともいくらかの移植細胞は存続したようです5)。京都大学での試験でも同様にドーパミン生成の増加を示す結果が得られています。昨年2024年9月にBlueRock社はexPDite試験のさらに長い24ヵ月(2年間)の経過を速報しています11)。安全性は引き続き良好で、移植細胞と関連する有害事象はありませんでした。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアの低下もおよそ維持されており、高用量投与群は24週時点を22点低下で迎えています。BlueRock社の前駆DA神経はbemdaneprocelと名付けられて開発されており、exPDite試験での良好な結果を頼りに早くも本年前半、すなわちこの6月末までに第III相試験が始まる見込みです12)。 参考 1) Tabar V, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 2) Sawamoto N, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 3) 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が示唆 / 京都大学医学部附属病院 4) Potential Treatment for Parkinson’s Using Investigational Cell Therapy Shows Early Promise / Memorial Sloan Kettering Cancer Center 5) ‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials / Nature 6) Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease / Nature 7) Su D, et al. BMJ. 2025;388:e080952. 8) Lindvall O, et al. Arch Neurol. 1989;46:615-631. 9) Schweitzer JS, et al. N Engl J Med. 2020;382:1926-1932. 10) Novel Treatment Using Patient's Own Cells Opens New Possibilities to Treat Parkinson's Disease / PRNewswire 11) BlueRock Therapeutics’ Investigational Cell Therapy Bemdaneprocel for Parkinson’s Disease Shows Positive Data at 24-Months / BUSINESS WIRE. 12) BlueRock Therapeutics announces publication in Nature of 18-month data from Phase 1 clinical trial for bemdaneprocel, an investigational cell therapy for Parkinson’s disease / GlobeNewswire

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未治療CLLへのアカラブルチニブ+オビヌツズマブ、6年PFSの結果(ELEVATE-TN)/Blood

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ単独またはアカラブルチニブとオビヌツズマブ併用の有用性を評価した第III相ELEVATE-TN試験において、追跡期間中央値74.5ヵ月での成績を米国・Willamette Valley Cancer InstituteのJeff P. Sharman氏らが報告した。アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群の有効性と安全性は維持され、無増悪生存期間(PFS)は、高リスク患者を含めてchlorambucil+オビヌツズマブ群より延長していた。Blood誌オンライン版2025年4月8日号に掲載。 本試験は、未治療CLLを対象に、アカラブルチニブ単独およびアカラブルチニブ+オビヌツズマブをchlorambucil+オビヌツズマブと比較した無作為化多施設共同非盲検第III相試験である。主要評価項目は、独立判定委員会(IRC)評価によるアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)、重要な副次評価項目は、IRC評価によるアカラブルチニブ単独群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)で、他の副次評価項目は、全奏効率、次治療までの期間、全生存期間(OS)などであった。 主な結果は以下のとおり。・535例がアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群(179例)、アカラブルチニブ単独群(179例)、chlorambucil+オビヌツズマブ群(177例)に無作為化された。・PFS中央値は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群およびアカラブルチニブ単独で未達、chlorambucil+オビヌツズマブ群では27.8ヵ月であった(いずれもp<0.0001)。推定72ヵ月全PFS率は順に78.0%、61.5%、17.2%であった。・アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はアカラブルチニブ単独群よりPFSを改善した(ハザード比[HR]:0.58、p=0.0229)。IGHV変異なし、17p欠失/TP53変異、Complex karyotypeを有する患者では、アカラブルチニブ単独群、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にPFSが改善した(アカラブルチニブを含む両群でそれぞれp<0.0001、p≦0.0009、p<0.0001)。・OS中央値は3群とも未達であり、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にOSが延長した(HR:0.62、p=0.0349)。推定72ヵ月OS率は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群83.9%、アカラブルチニブ単独群75.5%、chlorambucil+オビヌツズマブ群74.7%であった。・4年経過以降に発現した有害事象はほとんどがGrade1~2で、有害事象、重篤な有害事象、注目すべき事象の発現割合は、アカラブルチニブを含む群で同程度であり、アカラブルチニブおよびオビヌツズマブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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