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筋肉痛はタンパク質摂取で抑えられない

 レジスタンス運動(筋肉に繰り返し負荷をかける運動)の前後にタンパク質を摂取することは、運動後の回復とトレーニング効果を高める一般的な戦略である。一方、タンパク質摂取が運動誘発性筋損傷(EIMD:いわゆる筋肉痛)を抑制できるのかについて調査した、英国・ダーラム大学のAlice G. Pearson氏らによるシステマティックレビューの結果が、European Journal of Clinical Nutrition誌2023年8月号に掲載された。筋肉痛はタンパク質摂取群と対照群で有意差はなかった 研究者らはPubMed、SPORTDiscus、Web of Scienceで2021年3月までの関連論文を検索し、運動後の各時点(24時間未満、24時間、48時間、72時間、96時間)におけるタンパク質摂取の効果と、EIMDを計る間接的マーカーのヘッジズ効果量(ES)を算出した。 タンパク質摂取が筋肉痛を抑制できるのかについて調査した主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューに含まれた29の研究は45の試験からなり、うち26の研究と40の試験が1つ以上のメタアナリシスに含まれた。計763例が対象となり、うち94%が若年男性であった。・等尺性随意最大筋力は96時間後(ES:0.563、95%信頼区間[CI]:0.232~0.894)および、等速性随意最大筋力は24時間後(0.639、95%CI:0.116~1.162)、48時間後(0.447、95%CI:0.104~0.790)、72時間後(0.569、95%CI:0.136~1.002)の各時点において、タンパク質摂取による筋力低下の抑制効果が認められた。・クレアチンキナーゼ濃度は、48時間(0.836、95%CI:-0.001~1.673)および72時間(1.335、95%CI:0.294~2.376)時点において、タンパク質摂取群は対照群よりも低下していた。・一方、筋肉痛については、タンパク質摂取群と対照群に有意差はなかった。 著者らは「運動前後のタンパク質摂取は、最大筋力の維持とクレアチンキナーゼ濃度の低下に役立つが、筋肉痛を軽減することはできなかった」としている。

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血友病A/Bのconcizumab予防投与、年間出血回数が大幅減/NEJM

 concizumabは、組織因子経路インヒビター(TFPI)に対するモノクローナル抗体で、血友病の全病型で皮下投与の予防治療薬として検討が進められている。名古屋大学病院の松下 正氏ら「explorer7試験」の研究グループは、インヒビターを有する血友病AまたはBの患者において、concizumabの予防投与はこれを行わずに出血時補充療法(on-demand treatment)のみを行う場合と比較して、年間出血回数(ABR)が大きく減少し、長期的なアウトカムを改善する可能性があることを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌2023年8月31日号に掲載された。4群の非盲検第IIIa相試験 explorer7試験は、2つの無作為化群(グループ1、2)と2つの非無作為化群(グループ3、4)から成る非盲検第IIIa相試験である(Novo Nordiskの助成を受けた)。バイパス製剤による出血時補充療法を受けているインヒビターを有する血友病AまたはBの患者133例(血友病A患者80例、血友病B患者53例)を対象とした。 このうち52例を、少なくとも24週間は出血の予防治療を行わず、出血時補充療法を継続する群(グループ1[非予防治療群]、19例)、またはconcizumabの予防投与を32週間以上行う群(グループ2、33例)に無作為に割り付けた。 残りの81例のうち、21例はexplorer4試験でconcizumabの投与を受けていた患者(グループ3)で、60例はバイパス製剤の予防投与を受けている患者または出血時補充療法を受けている患者(グループ4)であり、いずれのグループにもconcizumabの予防投与を24週間以上行った。 進行中の臨床試験でconcizumabの投与を受けていた3例(本試験の1例を含む)に非致死的血栓塞栓イベントが発生したため、投与を中断し、用法を変更して再開した(4週の時点でのconcizumabの血漿中濃度に基づき用量は調節可能)。 主要エンドポイントは、治療の対象となった自然出血および外傷性出血のエピソードであり、グループ1とグループ2で比較した。投与再開後に血栓塞栓イベントの報告はない 主要エンドポイントの年間出血回数(ABR)の推定平均値は、グループ1の11.8回(95%信頼区間[CI]:7.0~19.9)と比較して、グループ2は1.7回(1.0~2.9)と有意に低かった(率比:0.14、95%CI:0.07~0.29、p<0.001)。また、concizumabの予防治療を受けた全患者(グループ2、3、4)のABRの中央値は0回だった。 自然出血、関節出血、標的関節出血のABRも、グループ1に比べグループ2で低く、率比はいずれも主要エンドポイントとほぼ同様であった(率比:自然出血0.14[95%CI:0.06~0.30]、関節出血0.15[0.07~0.32]、標的関節出血0.12[0.02~0.84])。また、治療の対象となった出血と治療を必要としなかった出血を合わせた全出血の解析でも、ABRはグループ2で低かった(率比:0.33、95%CI:0.17~0.64)。 血友病の病型別の解析では、これらの知見と同様の傾向を認めたが、病型別の優位性を示すほどの検出力はこの試験にはなかった。 concizumab投与の再開後に血栓塞栓イベントの報告はなかった。また、血漿中concizumab濃度は経時的に安定して推移した。 患者報告アウトカムのうちSF-36 v2の「体の痛み」、「身体機能」や「日常役割機能(身体)」はグループ1に比べグループ2で良好な傾向を認めたものの有意な差はなかったが、「全体的健康感」や「活力」はグループ2で優れた。また、Hemophilia-Patient Preference Questionnaireに回答した83例のうち77例(93%)が、前の治療よりもconcizumabが好ましいと答えた。 著者は、「本試験は非盲検デザインで、投与中断期間が結果に測定不能な影響を及ぼした可能性があり、患者報告アウトカムに関する十分なデータの収集が困難であったことなどから、統計学的な検出力が低く、バイアスの可能性がある点に留意する必要がある」としている。

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多枝病変の高齢心筋梗塞、完全血行再建術vs.責任病変のみ/NEJM

 心筋梗塞と多枝病変を有する75歳以上の患者の治療において、生理学的評価ガイド下(physiology-guided)完全血行再建術は、責任病変のみへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と比較して、1年後の時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術の複合アウトカムのリスクが低下し、安全性アウトカムの指標の発生は同程度であったことが、イタリア・フェラーラ大学病院のSimone Biscaglia氏らが実施した「FIRE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年9月7日号で報告された。欧州3ヵ国の医師主導無作為化臨床試験 FIRE試験は、欧州3ヵ国(イタリア、スペイン、ポーランド)の34施設が参加した医師主導の無作為化臨床試験であり、2019年7月~2021年10月に患者のスクリーニングを行った(イタリア・Consorzio Futuro in Ricercaの助成を受けた)。 対象は、年齢75歳以上、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)で入院し、責任病変へのPCIが成功し、冠動脈に1つ以上の非責任病変が存在する多枝病変を有する患者であった。 被験者を、責任病変のPCIに加えて生理学的評価ガイド下完全血行再建術を行う(完全血行再建術)群、または責任病変以外への血行再建術は行わない(責任病変のみ血行再建術)群に無作為に割り付けた。完全血行再建術群では、プレッシャーワイヤーまたは血管造影で機能的に重要な非責任病変を特定し、そのすべてにPCIを施行した。 主要アウトカムは、1年時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、虚血による血行再建術の複合とした。完全血行再建術群で予後改善、心血管死と心筋梗塞の複合も良好 1,445例を登録し、完全血行再建術群に720例、責任病変のみ血行再建術群に725例を割り付けた。全体の年齢中央値は80歳(四分位範囲[IQR]:77~84)、528例(36.5%)が女性、509例(35.2%)がSTEMIによる入院患者であった。入院期間中央値は5日(IQR:4~8)で、責任病変のみ血行再建術群(5日[IQR:3~7])に比べ完全血行再建術群(6日[4~8])で長かった。 主要アウトカムのイベントは、責任病変のみ血行再建術群が152例(21.0%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は113例(15.7%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.01)。この有益性は、4つの項目のうち脳卒中を除く3項目の減少によってもたらされた。1つのイベントを防止するための治療必要数(NNT)は19例であった。 主な副次アウトカムである心血管死と心筋梗塞の複合は、責任病変のみ血行再建術群では98例(13.5%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は64例(8.9%)と低い値を示した(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。NNTは22例だった。 安全性のアウトカム(造影剤関連の急性腎障害、脳卒中、出血[BARCタイプ3、4、5]の複合)の発現は、完全血行再建術群では162例(22.5%)、責任病変のみ血行再建術群では148例(20.4%)で認め、両群間に有意な差はなかった(HR:1.11、95%CI:0.89~1.37、p=0.37)。 著者は、「待機的な侵襲性の冠動脈手術は、若年患者に比べ高齢患者では施行される可能性が低いが、今回の試験では、先行試験と一致して、高齢患者における生理学的評価ガイド下完全血行再建術によるリスクの低減を認めた。最初の1年間のKaplan-Meier曲線では経時的に2群間の乖離が進み、完全血行再建術の有益性の増加が観察された」としている。

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日本人高齢者の歩行速度と軽度認知障害リスクとの関係

 これまでの研究では、歩行速度の低下と認知機能低下との関連が示唆されている。しかし、この関連が高齢者集団の年齢および性別の影響を受けるかは、よくわかっていない。慶應義塾大学の文 鐘玉氏らは、年齢、性別の影響を考慮し、軽度認知障害(MCI)と歩行速度との関連について調査を行った。Psychogeriatrics誌オンライン版2023年8月2日号の報告。 本横断研究には、2016~18年に65歳以上の日本人高齢者8,233人が登録された。性別、年齢により層別化した後、対象者の歩行速度を5分位に分類し、それぞれのMCI有病率の差を算出した。歩行速度別のMCI有病率、年齢および性別の影響を評価するため、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・多変数調整モデル2ロジスティック回帰分析では、歩行速度が最も遅い群と最も早い群との比較におけるMCIのオッズ比は、女性で2.02(95%信頼区間[CI]:1.47~2.76)、男性で1.75(同:1.29~2.38)であった。・層別分析では、歩行速度とMCIの関連性において、男性では年齢依存的な増加が認められたが、女性ではいずれの年齢層でも同様であった。 著者らは、その結果を踏まえて「歩行速度の低下とMCI有病率の増加との関連が確認され、この関連は性別や年齢により異なる可能性がある。したがって、年齢および性別を考慮した歩行速度の評価は、MCIのスクリーニングツールとして機能する可能性が示唆された」と述べている。

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日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第241回

日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知Unsplashより使用2022年に米国精神医学会が発行した『DSM-5-TR』に「Hikikomori」が掲載されました。日本語の「ひきこもり」が国際的に認知されつつあるということを意味しています1)。私は一介の呼吸器内科医なので、これを知らず、結構衝撃的でした。さて、九州大学病院における「ひきこもり」に関する研究を紹介したいと思います。Kyuragi S, et al.High-sensitivity C-reactive protein and bilirubin as possible biomarkers for hikikomori in depression: A case-control study.Psychiatry Clin Neurosci. 2023 Aug;77(8):458-460.九州大学における気分障害ひきこもり外来、および関連精神科医療機関を通じて行われたパイロット研究です。被験者は、現在大うつ病エピソードを有する患者121例で、ひきこもり群である「6ヵ月以上」「ほとんど自宅で過ごす」患者45例、非ひきこもり群である「週に4日以上外出する」患者76例で構成されています。血中バイオマーカーとして、過去に精神症状と関連が示されている血清FDP、フィブリノゲン、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、ビリルビン、尿酸、高感度CRPを測定しました。結果、高感度CRP値はひきこもり群で有意に高く、ビリルビン値は有意に低いことが示されました。ただし、高感度CRPの平均(±標準偏差)は、非ひきこもり群2.4±0.5μg/mL、ひきこもり群2.6±0.6μg/mLと、一見それほどの差はないように思われます(統計学的には有意差あり、p<0.05)。とはいえ、高感度CRPは、複数の研究グループによって、自殺企図のバイオマーカーである可能性が示唆されています2,3)。とくに直近で自殺企図を持っている人においてCRPが高くなるとされており、厳密な機序は不明ですが、何らかの炎症性機序が作用している可能性が考えられています。1)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, 2022.2)Courtet P, et al. Increased CRP levels may be a trait marker of suicidal attempt. Eur Neuropsychopharmacol. 2015 Oct;25(10):1824-1831.3)Loas G, et al. Relationships between anhedonia, alexithymia, impulsivity, suicidal ideation, recent suicide attempt, C-reactive protein and serum lipid levels among 122 inpatients with mood or anxious disorders. Psychiatry Res. 2016 Dec 30;246:296-302.

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第176回 大阪府薬剤師会が狭間氏の薬局改革に賛同?その一部始終を公開

以前の本連載で触れた調剤業務の一部外部委託の実証事業に関して9月6日、大きく進展した。同日の定例会見で大阪府知事の吉村 洋文氏が、大阪府と大阪市、「薬局DX推進コンソーシアム」(代表:狭間 研至氏)と共同で国家戦略特区制度に基づく調剤業務の一部外部委託事業の提案を行ったと表明。同日、ほぼ同時並行で定例会見を行っていた大阪府薬剤師会もその場で同コンソーシアムにオブザーバーとして参加することを表明した。これで“役者”は揃ったことになる。改めて、今回の調剤業務の一部外部委託というものが何かについて解説しておきたい。まず、薬局では患者が処方箋を持参すると、それに基づき薬剤師による調剤、鑑査を経て、患者に服薬指導を行う。これが在宅業務になると、「患者宅への薬の配送」という業務も加わる。昨今では薬機法改正により、薬剤師は服薬後のフォローアップも義務化された。この辺りは近年、厚生労働省(以下、厚労省)が薬剤師業務に関して何かにつけて使う「モノからヒトへ」「対物業務から対人業務」へという流れを受けた政策である。もっともこれは言葉で言うのは簡単だが、現実はなかなか難儀だ。毎日、大量の処方箋を応需する保険薬局の現場では、どうしても処方薬の取り揃えなどモノに関わる必須の業務に忙殺される時間は多い。たとえば調剤室を完全機械化すれば、モノに関わる時間を減らすことができる。実際、そうした取り組みを行っている薬局は一部にはある。しかし、その投資金額は膨大になるため、中小薬局にとっては「絵に描いた餅」だ。そこで出てきた構想が調剤業務の一部外部業務委託である。要は処方箋を受け付ける薬局とその調剤業務を委託する薬局が別に存在し、薬は処方箋を受け付けた薬局経由か、調剤業務を委託された薬局経由で患者に届けられる仕組み。処方箋を受け付ける薬局では調剤業務の負荷が軽減されるため、その分だけ患者への服薬指導や多職種との連携などの対人業務に時間を割くことができるというスキームである。このように説明すると、「処方箋を持ってきた患者は薬もないまま窓口で服薬指導を受けるだけなのか?」「調剤業務を委託された先からの配送時間分だけ、患者が窓口で待たされるだけではないか?」との指摘もあるだろう。だが、そもそもこの構想は、主に昨今増加している薬剤師による在宅服薬指導を念頭に置いたものだ。この場合、前述のような指摘はほぼ問題なくなる。また、調剤報酬は処方箋を受け付けた薬局が受け取る形になり、調剤業務を委託される薬局は委託元からの業務委託料が収入となる。もちろんこのスキームは現行法ではNGである。当初この構想は、前述のコンソーシアム代表を務める狭間氏が経営するファルメディコの運営薬局内での分業のような形で、狭間氏が内閣府の国家戦略特区制度を利用した事業として提案された。ちなみに冒頭から「一部」とただし書きをつけているが、この提案では調剤業務のうち高齢者向けなどを中心に行われる複数の内服薬の一包化のみを対象としている。一包化は服用者側にとっては簡便な分だけ、薬局側がその作業に一定の時間を取られるからだ。特区への提案事業は、内閣府から所管省庁に検討要請が行われるが、これに対して厚労省は実施が同一の三次医療圏内であることに加え、委託先、委託元への監視指導が必要になることから特区措置の創設段階から事業参加薬局が所在する地方公共団体、つまり都道府県や市区町村の参加が前提と回答した。狭間氏自身は薬局・薬剤師業界では著名人だが、大阪府、兵庫県で複数の薬局を経営し、自身が代表取締役を務めるファルメディコは、はっきり言えば自治体からは無名に近い。そのファルメディコがこの条件をクリアするのは、当初はかなり困難と思われた。より端的に言えば、この特区事業に対して厚労省はゼロ回答、そうした意図があるかどうかは別にして「罷り成らぬ」と宣言したに等しい。本来ならばここで万事休すなのだが、狭間氏側は国内調剤チェーンのトップ3社など合計21社を正会員とした前述のコンソーシアムを形成。そこに大阪府、大阪市が乗っかる形で、瞬く間にこのハードルをクリアしてしまった。地方公共団体の参加という最も困難なハードルをクリアできたのは、たぶん大阪府、大阪市の「特殊事情」があったと思われる。それはこうした規制緩和的なものに最も頑強に抵抗するのは、多くの場合、政府与党の中核にいる自由民主党とその支持団体の関係者である。ところが大阪府、大阪市はご存じのように規制緩和を主要政策に掲げる政党である日本維新の会の牙城。大阪府政、大阪市政の与党が自民党ならば、おそらくこうした特区申請の要請があった場合には内々に大阪府薬剤師会に打診が行き、そこで「ノー」と言われれば終わりだ。あるいはこうした要請が行われた段階で、府庁、市役所の役人が忖度して事前にふるい落としてしまうことさえある。結局、大阪府、大阪市、コンソーシアムが組んでしまったことで、地元の大阪府薬剤師会(以下、府薬)は、事実上包囲網を敷かれた形となった。ちなみに府薬は、この提案が表面化してから、表向きに見える限りでは反対の急先鋒だった。しかし、当の狭間氏のほうは自身が率いる日本在宅薬学会の会見で「府薬の席は用意している」とラブコールを送り続けていた。そして結局、今回、府薬は参加することになったのだが、その会見での説明は何とも隔靴掻痒なものだった。6日、府薬の会館で行われた定例会見に赴いたが、私は定例会見での定例参加メンバーではないこともあり、府薬会長で元日本薬剤師会副会長だった乾 英夫氏自身が「なんか見かけない人いるね」と言いながら近づいてきて名刺交換することになり、挙句の果てに会見冒頭で並居る府薬役員や他社の記者の前で自己紹介をさせられる羽目になった。さてその会見、配布された資料には「保険調剤業務の一部外部委託について(国家戦略特区関係)」との記載があったが、会見では乾氏が「これは最後に私が説明します」と意味深な言い方をし、後回しにされた。会見開始から約40分、ついに乾氏がこの話題を切り出した。その内容は「(特区提案事業について)今でも非常に違和感がある」「解決し難い課題を改善するのが特区制度。調剤業務に大きな課題があるとの認識はない」「本当に患者さんにメリットになるかが一番疑問」と、従来の府薬あるいは日本薬剤師会のスタンスを並べ始めた。ところが、この後には「暫定版ガイドラインが公表され、今後は厚労省も実証事業を行う」「ただし、コンソーシアムが厚労省の実証事業よりも先行的に実施することになる」「特区事業は厚労省も管理すると思われ、患者さんの安全・安心を守る立場から関与したい」といきなり急旋回で“舵”を切った。まるで厳冬の札幌に向かっていた航空機が、いつの間にか赤道を超え、真夏の南半球の空港に着陸したかのような展開だ。府薬側の説明によると、コンソーシアムには安全性検討委員会、有効性検討委員会、経済性検討委員会の3委員会があるが、この各委員長と狭間氏との定期的なミーティングが開催されており、そこに出席してこの事業に関する意見を表明するという参加形態だ。簡単に言ってしまえば、オブザーバー参加ということだ。参加人数は最低1名だが、それ以上の場合もありうる。会長である乾氏自身の参加や正式会員参加の可能性は否定した。参加開始時期も現時点では未定という具合だ。しかしながら府薬としては調剤の一部外部業務委託に反対という姿勢は堅持するという何ともわかりにくいもの。会見に出席した役員からは、「コンソーシアムは賛同者の集まりで、中から聞こえるのは良いことが中心。批判的に検討できるか否かは中に入らないとわからない。まったく情報が入ってこない状況で見ていても、府薬としては『わからない』としかコメントできない」との説明もあった。今回の玉虫色の決定については、府薬理事会での承認も経ているが、その内部も割れていると伝わっている。実際、周辺取材をすると、断固反対という役員もいれば、この提案が表面化した直後からコンソーシアム関係者に内々の賛同を伝えた役員、外では反対と唱えながらコンソーシアム関係者には「実は賛成」と伝えた役員もいるなど、完全に同床異夢の状態である。乾氏自身は「反対だが、単に現状を確保したい『抵抗勢力』と捉えられるのも良くない」との認識を示すとともに、ほかの都道府県薬剤師会や府薬内から出てくるであろう「手のひら返し」批判については、「そこは丁寧に説明して理解していただくしかない」と語った。今回の展開は個人的にはある意味、日露戦争の終盤で日本の勝利を決定づけた日本海海戦で日本海軍が取った、敢えて敵の砲撃が近づく距離で方向転換して進路を塞いだ「敵前大回頭」も彷彿とさせる。もっとも、今回の件に関して、府薬とコンソーシアム側がこれを契機にドンパチを繰り広げる可能性はほぼないだろう。とはいえ、今回の府薬の舵取りが吉と出るか凶と出るかはまだわからない。願わくは互いにうまく伴走してほしいと個人的には思っている。

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がん患者におけるせん妄の診断と評価【非専門医のための緩和ケアTips】第59回

第59回 がん患者におけるせん妄の診断と評価緩和ケアを実践するうえで、非常に多いのが「せん妄」の患者さんです。とくに終末期には、回復困難なせん妄のケースに対応することがあります。今回はそうした場合の対応について考えてみましょう。今日の質問終末期が近いと思われる患者さんの訪問診療を担当しています。意識障害が悪化し、何度も起き上がろうとしたり、つじつまの合わない話をしたりするため、家族も「どうしてこんなことに…」とつらそうです。こうした場合、何に気を付けてケアすればよいでしょうか?緩和ケアを実践していると、せん妄って本当に多い症状なんですよね。それだけ身体状況が悪化した方が多い分野だともいえます。緩和ケア領域において、せん妄は「精神症状」として扱うことが多いですが、身体疾患を契機として発症するものでもあり、緩和ケアに関わる以上は「精神科の先生にお任せ」ではなく、ある程度の対応スキルを持つ必要があります。とはいえ、せん妄は診断するのが難しい症状です。今回のケースのように「つじつまの合わない言動」や「興奮」といった思考障害があれば気付きやすいでしょう。一方、「睡眠覚醒のリズム障害」などは気付きにくい例で、元々寝たきりの高齢の方が日中ボーッとしていても、なかなかせん妄だとは思い至らないでしょう。このように、医療者や家族からみた患者さんの状況の多様さが、せん妄の診断を難しくしている要因の1つです。一般に「終末期」とされる、死が近い状況で発生するせん妄は、原因疾患の改善が見込めず、予後も限定されることが予想されます。こうした「終末期せん妄」と呼ばれる状態には明確な定義があるわけでなく、医療者間でも曖昧な概念のままに議論されていることがよくあります。実際の診療では、「予後が週単位から日単位となった状況で生じているせん妄」であれば、「終末期せん妄」とみなされることが多いでしょう。「終末期せん妄」と診断したら、関係する医療スタッフ、とくに看護師と共有することが重要です。そして、ご家族にも終末期せん妄と、予後が限られる可能性が高いことを共有しましょう。本人の症状緩和やご家族に対する支援体制などについて、お看取りが近いと判断したこのタイミングでしっかりと見直すことが重要です。今回のTips今回のTips不可逆的な病態が基礎にあるせん妄は、終末期せん妄として対応しましょう。

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摂食障害に対する精神薬理学的介入~メタ解析

 神経性やせ症(AN)、神経性過食症(BN)、過食性障害(BED)といった、主な摂食障害の精神薬理学に関連する体重変化および感情の精神病理学的アウトカムを評価するため、イタリア・University of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、摂食障害ごとに薬剤の有効性が異なることが確認された。著者は、今後、体重以外のさまざまな精神病理学的および心臓代謝系のアウトカムを記録する研究、とくに確立された心理療法の介入を検証する研究が求められる、としている。Journal of Affective Disorders誌2023年10月1日号の報告。 対象は、検証済みの基準で診断された摂食障害に対するあらゆる精神薬理学的介入を文書化し、体重および精神病理学的変化を報告したRCT。キーワードを「神経性やせ症」「神経性過食症」「過食性障害」「抗うつ薬」「抗精神病薬」「気分安定薬」とし、2022年8月31日までに公表された研究をPubMed、Scopus、ClinicalTrials.govより検索した。言語制限は設けなかった。 主な結果は以下のとおり。・特定された5,122件のうち、203件の全文レビューを行った。・質的統合を行った62件(AN:22件、BN:23件、BED:17件)のうち、22件(AN:9件、BN:10件、BED:3件)をメタ解析に含めた。・ANにおけるBMIの増加について、オランザピンはプラセボよりも良好であったが(Hedges'g=0.283、95%CI=0.051~0.515、I2=0%、p=0.017)、fluoxetineでは効果が確認されなかった(Hedges'g=0.351、95%CI=-0.248~0.95、I2=63.37%、p=0.251)。・BNに対するfluoxetineの使用では、体重の有意な変化は認められず(Hedges'g=0.147、95%CI=-0.157~0.451、I2=0%、p=0.343)、過食(Hedges'g=0.203、95%CI=0.007~0.399、I2=0%、p=0.042)やパージングエピソード(Hedges'g=0.328、95%CI=-0.061~0.717、I2=58.97%、p=0.099)の減少が認められた。・BEDに対するリスデキサンフェタミンの使用では、体重(Hedges'g=0.259、95%CI=0.071~0.449、I2=0%、p=0.007)および過食(Hedges'g=0.571、95%CI=0.282~0.860、I2=53.84%、p<0.001)の減少が認められた。 著者は本研究の限界について、サンプル数の少なさ、短期間であること、信頼できる操作的定義の欠如が、本解析に含まれたスポンサードRCTへ影響を及ぼした可能性があると述べている。

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医師によるコロナのデマ情報、どう拡散された?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中、ソーシャルメディア(SNS)上で、ワクチン、治療法、マスクなどに関する誤った医療情報が広く拡散されたことが社会問題となった。このような誤情報の拡散には、一部の医師も関わっていたことが知られている。COVID-19の誤情報について、情報の種類や、利用されたオンラインプラットフォーム、誤情報を発信した医師の特徴を明らかにするために、米国・マサチューセッツ大学のSahana Sule氏らの研究チームが調査を行った。JAMA Network Open誌2023年8月15日号に掲載の報告。 本調査では、2021年1月1日~2022年5月1日の期間に米国在住の医師によって拡散されたCOVID-19の誤情報を特定するため、SNS(Twitter、Facebook、Instagram、Parler、YouTube)およびニュースソース(The New York Times、National Public Radio)の構造化検索を行った。誤情報を発信した医師の免許取得州と専門分野を特定し、フォロワー数やメッセージの質的内容分析を行い、記述統計を用いて定量化した。COVID-19の誤情報は、評価期間中の米国疾病予防管理センター(CDC)のガイダンスに裏付けされていない、またはそれに反する主張、CDCがカバーしていないトピックに関しては既存の科学的エビデンスに反する主張と定義した。 主な結果は以下のとおり。・評価期間中にCOVID-19の誤情報を伝えたことが確認された米国の医師は52人だった。うち50人は米国29州において医師免許を取得したことがあり、ほか2人は研究者だった。医師免許は1州以上で有効44人、無効3人、一時停止/取り消し4人、一部の州で停止/取り消し1人。専門は28分野にわたり、プライマリケアが最も多かった(18人、36%)。・16人(30.7%)が、America's Frontline Doctors※のような、誤った医療情報のプロパガンダを過去に行ったことがある団体に所属していた。・20人(38.5%)が5つ以上の異なるSNSに誤情報を投稿し、40人(76.9%)が5つ以上のオンラインプラットフォーム(ニュースなど)に登場した。最も利用されたSNSはTwitterで、37人(71.2%)が投稿していた。フォロワー数の中央値は6万7,400人(四分位範囲[IQR]:1万2,900~20万4,000人)。・誤情報は次の4カテゴリーに分類された:(1)ワクチンは安全ではない/効果がない、(2)マスクやソーシャルディスタンスはCOVID-19の感染リスクを減少させない、(3)臨床試験を終えていない/FDAの承認を受けていない薬剤を有効と主張する(イベルメクチン、ヒドロキシクロロキンなど)、(4)その他(国内外の政府や製薬企業に関連する陰謀論など)。・40人(76.9%)の医師は、4カテゴリーのうち1カテゴリー以上投稿していた。・カテゴリー別で投稿が多い順に、ワクチンに関する誤情報(42人、80.8%)、その他の誤情報(28人、53.8%)、薬剤に関する誤情報(27人、51.9%)。 本結果は、パンデミック中にさまざまな専門分野や地域の医師が誤情報の拡散という“インフォデミック”に加担したことを示唆している。研究チームが確認した限り、本研究はSNS上での医師によるCOVID-19誤情報の拡散に関する初めての研究だという。フェイクニュースを拡散することは、近年、医学の内外で利益を生む産業となっているという。医師による誤った情報の拡散に関連する潜在的な有害性の程度、これらの行動の動機、説明責任を向上するための法的・専門的手段を評価するために、さらなる研究が必要だと指摘している。※America's Frontline Doctorsは、遠隔医療サービスを実施し、主にCOVID-19に対するヒドロキシクロロキンとイベルメクチンを全国の患者に処方するために、1回の診察につき90ドルを請求し、少なくとも1,500万ドルの利益を得ている。このような団体は、パンデミックの公衆衛生上の危機、政治的分裂、社会的孤立という状況の中で、より声高に発言し、目立つようになっていた。

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各固形がんにおけるHER2低発現の割合は/Ann Oncol

 新たに定義されたカテゴリーであるHER2低発現(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+)は、多くの固形がんで認められることが明らかになった。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのBurak Uzunparmak氏らによるAnnals of Oncology誌オンライン版2023年8月22日号掲載の報告より。 本研究では、進行または転移を有する固形がん患者4,701例を対象に、IHC法によるHER2発現状態を評価した。また乳房と胃/食道の原発および転移腫瘍のペアサンプルにおいて、IHC法およびISH法によるHER2発現状態を評価した。 主な結果は以下のとおり。・HER2発現(IHC 1~3+)は全体の半数(49.8%)で認められ、HER2低発現は多くのがん種で認められた:乳がん47.1%、胃/食道がん34.6%、唾液腺がん50.0%、肺がん46.9%、子宮内膜がん46.5%、尿路上皮がん46%、胆嚢がん45.5%。・乳がん629例、胃/食道がん25例における原発腫瘍と転移腫瘍のペアサンプルが評価された。・乳がん原発腫瘍でHER2陰性(IHC 0)の34.6%およびHER2低発現の38.1%が、転移腫瘍におけるHER2ステータスの不一致を示した。原発腫瘍でHER2陽性(IHC 3+および/またはISH+)の84.1%は転移腫瘍のHER2ステータスに変化がなかった。・サンプル数が少ないものの、胃/食道がん原発腫瘍でHER2陰性の95.2%は転移腫瘍のHER2ステータスに変化がなかった。・非乳がんおよび非胃/食道がんにおいて、HER2 IHC検査を受けた1,553例のNGSデータが解析され、ERBB2遺伝子増幅は117例(7.5%)で確認された。・ERBB2遺伝子増幅のない1,436例のうち、512例(35.7%)がIHC法でいずれかのレベルのHER2発現を示した。 著者らは、HER2低発現が腫瘍の種類を問わず頻繁に認められることが明らかになったとし、HER2低発現固形がん患者の多くがHER2標的治療から利益を得られる可能性があると結論付けた。

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LBBB+正常房室伝導の心不全、adaptive CRT vs.従来型CRT/Lancet

 左脚ブロックと正常房室伝導を有する心不全患者において、従来の心臓再同期療法(CRT)と比較し、左心室のみを刺激して自己の正常な右脚伝導と融合させる連続自動最適化(左心室同期刺激)のCRT(adaptive CRT)は、全死因死亡または非代償性心不全への治療介入の発生率を有意に低下させなかった。米国・クリーブランドクリニックのBruce L. Wilkoff氏らが、アジア、オーストラリア、欧州、北米の27ヵ国の227施設で実施された国際共同前向き単盲検無作為化試験「AdaptResponse試験」の結果を報告した。左脚ブロックと正常房室伝導を有する心不全患者において、adaptive CRTは従来の両室CRTより良好な結果をもたらす可能性があり行われた試験であったが、結果について著者は、「死亡率および心不全増悪はいずれのCRTでも低かったことから、本試験の患者集団は先行研究の患者集団よりCRTに対する反応が高いことが示唆される」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年8月24日号掲載の報告。全死因死亡または非代償性心不全に対する治療介入の複合アウトカムを評価 研究グループは、左室駆出率35%以下、至適薬物療法にもかかわらずNYHA心機能分類II~IVの心不全症状を有し、左脚ブロックでQRS時間が男性140ms以上、女性130ms以上、ベースラインのPR間隔が200ms以下、登録時に洞調律の成人患者を、adaptive CRT(左室単独同期刺激を与えるアルゴリズム)群、または従来の両室CRT群に、コンピュータによるブロック法を用いて1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 すべての患者は、CRTデバイスのプログラミングを受けたが、割り付けについては盲検化され、施設スタッフは盲検化されなかった。 主要アウトカムは、全死因死亡および非代償性心不全に対する治療介入の複合で、intention-to-treat集団で評価した。有害事象についてもintention-to-treat集団で収集、報告された。Adaptive CRTと従来型CRTで有意差なし 2014年8月5日~2019年1月31日の期間に、患者3,797例が登録され、このうち3,617例(95.3%)が無作為に割り付けられた(adaptive CRT群1,810例、従来型CRT群1,807例)。本試験は、2022年6月23日の第3回中間解析の結果が、事前に設定された無益性の境界を越えたため早期中止となった。 3,617例の患者背景は、平均(±SD)年齢64.9±11.0歳、女性1.568例(43.4%)、男性2,049例(56.6%)、追跡期間中央値は59.0ヵ月(四分位範囲[IQR]:45~72)であった。 主要アウトカムのイベントは、adaptive CRT群で1,810例中430例(Kaplan-Meier法による60ヵ月時点の発生率23.5%、95%信頼区間[CI]:21.3~25.5)、従来型CRT群で1,807例中470例(25.7%、23.5~27.8)に認められ、両群間に有意な差はなかった(ハザード比[HR]:0.89、95%CI:0.78~1.01、p=0.077)。 システム関連有害事象は、adaptive CRT群で1,810例中452例(25.0%)、従来型CRT群で1,807例中440例(24.3%)報告された。

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心原性ショックを伴う急性心筋梗塞、VA-ECMOの有用性は?/NEJM

 心原性ショックを伴う急性心筋梗塞で早期血行再建を行う患者において、体外式生命維持装置(ECLS)とも呼ばれる静脈動脈-体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を用いた治療は、薬物治療のみと比較し30日全死因死亡リスクを低下せず、むしろ中等度または重度の出血や治療を要する虚血性末梢血管疾患のリスクを高めることが示された。ドイツ・ライプチヒ大学のHolger Thiele氏らが、ドイツとスロベニアで行われた医師主導の多施設共同無作為化非盲検試験「ECLS-SHOCK試験」の結果を報告した。死亡に対するECLSの有効性に関するエビデンスはないにもかかわらず、梗塞関連心原性ショックの治療におけるECLSの使用が増加していた。NEJM誌オンライン版2023年8月26日号掲載の報告。主要アウトカムは30日全死因死亡 研究グループは、心原性ショックを伴う急性心筋梗塞で、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス術(CABG)による早期の血行再建が予定されている18~80歳の患者を、ECLS+通常の薬物治療群(ECLS群)または通常の薬物治療のみの群(対照群)に、1対1の割合に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、30日全死因死亡、安全性評価項目は中等度または重度の出血(BARC出血基準のタイプ3~5)、脳卒中、外科的治療またはカテーテル治療を要する虚血性末梢血管疾患などで、intention-to-treat解析にて評価した。30日全死因死亡率はECLS群47.8% vs.対照群49.0%で有意差なし 2019年6月~2022年11月に、877例がスクリーニングを受け、420例が無作為に割り付けられた。このうち同意が得られなかった3例を除く417例(ECLS群209例、対照群208例)が解析対象となった。 30日全死因死亡は、ECLS群で209例中100例(47.8%)、対照群で208例中102例(49.0%)に認められ、相対リスクは0.98(95%信頼区間[CI]:0.80~1.19、p=0.81)で有意差は認められなかった。事前に規定したサブグループ解析および事後解析でも、同様の結果であった。 その他の副次アウトカムである機械的換気期間中央値は、ECLS群7日(四分位範囲[IQR]:4~12)、対照群5日(3~9)であった(群間差中央値:1日、95%CI:0~2)。 安全性については、中等度または重度の出血の発現率はECLS群23.4%、対照群9.6%(相対リスク:2.44、95%CI:1.50~3.95)、外科的治療またはカテーテル治療を要する虚血性末梢血管疾患はそれぞれ11.0%および3.8%(2.86、1.31~6.25)であった。

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第一三共のコロナワクチン、XBB.1.5対応を一変承認申請、2価は第III相で主要評価項目達成

 第一三共は9月6日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する同社が開発中の2価(起源株/オミクロン株BA.4-5)mRNAワクチン「DS-5670」について、追加免疫を対象とした国内での第III相臨床試験で、主要評価項目を達成したことを発表した。また、翌7日付のプレスリリースにて、DS-5670の12歳以上の追加免疫に対するオミクロン株XBB.1.5系統対応の1価mRNAワクチンについて、日本における製造販売承認事項一部変更承認申請を行ったことも発表した。DS-5670については、「SARS-CoV-2による感染症の予防」の適応で、追加免疫を対象に起源株1価ワクチンとして2023年8月に製造販売承認を取得している。 DS-5670の2価ワクチンの第III相試験では、12歳以上の新型コロナワクチン初回免疫および追加免疫完了者を対象として、追加免疫の免疫原性および安全性が検討された。主要評価項目は、治験薬投与4週間後の血中抗SARS-CoV-2(オミクロン株BA.5)中和活性の幾何平均抗体価および免疫応答率だ。DS-5670の2価ワクチンは、国内承認済みのオミクロン株対応2価ワクチンを接種した対照群と比較して高い値を示し、統計学的に非劣性であることが検証された。安全性では臨床上の懸念は認められなかった。本試験の結果の詳細は、今後、学会や論文などを通じて公表される予定。 同社は9月7日に、DS-5670のXBB.1.5対応ワクチンの一変承認申請を行った。2023年9月開始の特例臨時接種に使用されるオミクロン株XBB.1系統を含有する1価ワクチンの年内供給開始を目指すとしている。DS-5670の研究開発は、日本医療研究開発機構(AMED)の「ワクチン開発推進事業」および厚生労働省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業」の支援を受けて実施されている。

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Guardant360 CDx、HER2変異陽性NSCLCにおけるT‐DXdのコンパニオン診断として承認/ガーダントヘルスジャパン

 ガーダントヘルスジャパンは、がん化学療法後に増悪したHER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ、以下 T-DXd)の適応判定補助を目的としたコンパニオン診断として、リキッドバイオプシー「Guardant360 CDx がん遺伝子パネル」(Guardant360 CDx)に対する製造販売承認事項一部変更承認を2023年8月28日付で厚生労働省から取得した。 HER2遺伝子変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)の70%を占める、非扁平上皮NSCLCの2〜4%に認められる。 Guardant360 CDxのT-DXdに対するコンパニオン診断の適応は、2022年8月に米国食品医薬品局によって承認されており、日本においても同様に承認されたもの。 Guardant360 CDxはコンパニオン診断薬として、ペムブロリズマブの適応となるMSI-High陽性固形がん患者、ニボルマブの適応となるMSI-High陽性直腸・結腸がん患者、ソトラシブの適応となるKRAS G12C陽性非小細胞肺がん患者にも承認されている。

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『響~小説家になる方法~』が面白い!【Dr. 中島の 新・徒然草】(493)

四百九十三の段 『響~小説家になる方法~』が面白い!ついに9月になったわけですが、まだまだ暑いですね。ある外来患者さんの説では、日本は四季ではなく二季になってしまったとのこと。一応、春と秋はあるんだけど、それぞれ1ヵ月くらいだそうです。彼によると、秋は10月だけ。11月から3月までが冬。春は4月だけで、5月からは夏に突入し、この暑さは9月まで続くのだとか。妙に納得させられる春夏秋冬ですね。さて、これまでも、この欄では私が読んで面白かった漫画を紹介してきました。ちょっと触れただけのものから、熱く語ったものまで。とくに力の入ってしまったものとしては『ゴルゴ13』『約束のネバーランド』『僕の妻は感情がない』などでしょうか。で、今回はさらに力を入れて、新たな漫画を語りたいと思います。それは柳本 光晴氏による『響~小説家になる方法~』全13巻です。単行本は2015年から2019年まで発行され、累計200万部以上が売れ、映画化もされたというヒット作ですが、私は知りませんでした。この漫画、簡単に言えば、女子高生が小説家になるというストーリー。主人公は鮎喰 響(あぐい ひびき)という15歳の女の子です。子供の頃から本が好きで、大量に読んでいるうちに自分でも書き始めました。そして書いた小説を新人賞に送ったら、あれよあれよと大成功するという話です。ただし、単なるサクセスストーリーではありません。まず響という主人公が無茶苦茶なキャラクターで、決して自分の信念を曲げません。だから行き詰っている先輩作家の作品に対しても容赦なく「つまらない」と言います。ただ、それは相手を貶すために言うのではなく、単に本心を言っているに過ぎません。第3巻から引用してみましょう。「あなたは昔、天才だったでしょ。…(略)…芥川をとった5作目までは。6作目以降はただ同じ話の繰り返しだった。デジャブしか感じない文章。何一つ面白くなかった。小説家の仕事はただ日本語を並べることじゃないわよね。人の心を動かすのがあなたの仕事でしょう」周囲がハラハラするほどの直球です。で、言われたほうが怒り出すのかと思ったら、そうでもありませんでした。「お前の言う通り、オレに才能があったのはもう昔だ。今でも覚えてる。『花枯れ国朽ち』で芥川をとった時のやり遂げたって感覚。あの時からオレにはもう、世の中に対して言いたいことが特にないんだよ」そして響の書いた小説についてこう述べます。「若い才能を目の当たりにすると、嫌でも現実が見えちまう…面白かった。世界を感動させるのは、お前に任せるよ」この漫画の面白いところは、いろいろあると思います。主人公の天才ぶり、次に何をしでかすのかわからない破天荒ぶり、文壇や出版社など知らない世界を覗き見ること。でも私が最も魅かれたのは、小説を書くことに対する響の姿勢です。彼女は、賞を取ったとか売れたとかにはまったく興味がありません。自分の書いたものに対して目の前にいる読者がどんな感想を持ったのか、単にそれだけが大切なのです。だから、読んだうえで面白くなかったという感想は甘んじて受け入れますが、読まずに何か言われるのには我慢することができません。おそらく、響は作者の柳本 光晴氏の分身なのでしょう。われわれ医師も、症例数とかメディアの評価とかよりも、1人1人の患者さんからどのような評価を受けるか、それを大切にすべきなのかもしれません。興味を持った先生方がおられたら、ぜひこの漫画を読んでみてください。最後に1句秋暑し 漫画に教わる 生き方を

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熱傷の処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第12回

第12回 熱傷の処置《解説》今回は、熱傷の処置について解説します。熱傷の病態は、熱による皮膚の損傷とそれに続いて生じる炎症反応です。広範囲であれば全身性の炎症反応による多臓器障害を引き起こします。外来で処置できるものか、形成外科や皮膚科への紹介が必要なものか、さらに入院が必要なものか判断するのが重要です。ここでは主に外来で診ることができる範囲の熱傷について紹介します。熱傷深度と熱傷面積について判断できるようになりましょう!<熱傷の深度について>熱傷の深度の見極めにはUSA分類を用いるのが一般的です(図1)。深度によって局所の治療方法が変わります。主に症状や肉眼所見で推定しますが、精度の高い検査としてレーザードプラ血流計測法やビデオマイクロスコープが用いられたり、補助的な診断法として針刺法や抜毛法が用いられたりすることがあります。一般外来で診ることができるのは浅逹性II度熱傷までと考え、それ以上の深度の熱傷は形成外科や皮膚科へ紹介しましょう。図1画像を拡大するI度熱傷(EB)組織障害が表皮に留まり真皮に及ばないもの。局所の発赤、熱感、疼痛が主症状。→治療はステロイド軟膏(ワセリンのみ、創傷被覆材)による2~3日の経過で改善する。II度熱傷:真皮まで及ぶものを2つに分類浅逹性(SDB)-組織損傷が真皮の浅層に留まるもの。水疱形成がみられる。真皮深層の血流が保たれており、水疱基底部の真皮色調がピンク色や赤色を呈する(水疱は無理に破かないで!)。-真皮内の知覚神経受容体が刺激されるため極めて疼痛が強い。-毛根、汗腺、脂腺などの皮膚付属器が多数温存される。→治療は保存的治療(軟膏治療、創傷被覆材)で2週間以内にほとんど瘢痕を残さず上皮化する。深達性(DDB)-組織損傷が真皮の深層に至るもの。真皮の血行が障害されるため、水疱基底部は白色を呈する。-知覚神経受容体も損傷されるため、知覚は減退し疼痛も少ない。-皮膚付属器は温存されないことが多い。→上皮化までに3週間以上かかる。治療後に肥厚性瘢痕を形成する。→生命予後に影響を与える広範囲熱傷や機能障害が懸念される手や顔には手術を選択する。III度熱傷(DB)熱による損傷が皮膚全層に及ぶ。創面皮膚は乾燥、灰白色〜黄褐色を呈する。知覚は消失する。→上皮化は生じないため、極小範囲以外では壊死組織の切除と植皮(手術療法)が必要となる。<熱傷面積(%TBSA;%total body surface area)について>手掌法、9の法則(小児は5の法則)、Lund and Browderの法則があります(図2、3)。外来で簡易的にできるのは手掌法と9の法則(5の法則)でしょう。図2画像を拡大する図3画像を拡大する15%を超える場合の受け入れは皮膚科や形成外科など、熱傷の全身管理が可能な施設に依頼します。と言っても15%は外来で診ることができるギリギリの範囲です。実際は数%でも十分広範囲なので、近くに形成外科や皮膚科がある場合は早めに相談しましょう!熱傷深度、熱傷面積は受傷時の診断は経過によって変化していくことが多いため、毎回再度診断します。感染兆候、深度や面積の進行がある場合は、外科的なデブリードマンが必要になることもあるため、形成外科や皮膚科に紹介しましょう。<重症度について(予後指数)>どの施設で加療を行うかの基準としてBIやArtsの重症度判定があります。搬送医療機関の選定や治療方法の選択に必要です。BI:III度熱傷の体表に占める割合とII度熱傷の体表に占める割合を1/2にした数値との和で、目安として体表の15%以上がII度以上の熱傷を被ったら補液を伴う入院管理が必要。Artsの重症度判定:重症熱傷(熱傷センターなど熱傷専門施設のある総合病院に入院)-30%以上のII度熱傷-10%以上もしくは顔面、手足などの特殊部位のIII度熱傷-気道熱傷、広範囲軟部損傷、骨折などの合併症を伴う電撃傷中等度熱傷(形成外科のある一般総合病院に入院)-15~30%のII度熱傷-10%以下のIII度熱傷(顔、手足を除く)軽症熱傷(形成外科を有する外来治療施設を受診)-15%以下のII度熱傷-2%以下のIII度熱傷そのほか、皮膚科や形成外科に紹介すべき熱傷気道熱傷がある場合:気管内挿管と呼吸管理が必要なため、場合によっては救急や耳鼻科、皮膚科、形成外科のある総合病院へ紹介。体幹四肢の減張切開が必要:形成外科など専門医へ紹介。深度や面積を評価しデブリードマンが必要または感染の疑いがある:形成外科、皮膚科へ紹介。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.2)医療情報科学研究所編. 病気が見えるvol.14皮膚科第1版. メディックメディア;2020.3)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 1

今回のキーワード敏感期(臨界期)発音(発声)語彙(象徴)文法(統語)ダブルリミテッドバイリンガル(セミリンガル)生活言語能力(BICS)学習言語能力(CALP)言語理解IQ(VCI)「セサミストリート」と言えば、世界各国で放送されている幼児向けの英語の教育番組でしたね。シンボルキャラクターであるビッグバードをはじめ、たくさんのキャラクターが登場して、英語での日常会話のやり取りを見せてくれます。このような幼児向けの教育番組を語学教材として自分の子供に積極的に見せたり、幼いうちから英語教室に通わせるなど、なるべく英語に触れる環境にしていれば、子供がバイリンガルになるのではないかと私たちはつい期待してしまいます。実際は、どうなのでしょうか?実は、子供をバイリンガルにさせようとすると、ある「落とし穴」に落ちてしまう恐れがあります。それはいったい何でしょうか? 今回は、「セサミストリート」をヒントに、言語能力の本質に迫り、その答えである言語障害を説明します。なんで中学校からでは遅すぎるの?私たち親世代(1990年生まれ以前)のほとんどは、英語教育を中学校から受けました。そして、英語の読み書きについてはある程度できるものの、聞く・話すについては大変な苦労をしてきました。なぜなのでしょうか?そのヒントは、言葉の学習の敏感期です。敏感期とは、ある能力を発達させるための刺激に敏感な時期です。その時期を過ぎると、刺激に敏感ではなくなるため、その能力の発達が難しくなります。臨界期とも呼ばれますが、臨界期はある時を境に反応が急に落ちていくニュアンスが強いのに対して、敏感期はある時から反応が徐々に落ちていくニュアンスがあります。ただ、ほぼ同じ意味として使われることもあります。この記事では、敏感期を使用します。言葉の学習には、発音、語彙、文法の大きく3つがあります。これは、発声、象徴、統語という3つの言葉の機能に重なります。この言葉の3要素の詳細については、関連記事1をご覧ください。ここで、スペイン在住の中国系移民のスペイン語の習得状況の調査研究1)をご紹介します。この研究によると、3歳以降に移住した中国系移民は発音がスペイン人とは違ってきます。8歳以降に移住した場合はスペイン人ほど言い回しがうまくなくなり、12歳以降では文法の間違いも出てきて流暢ではなくなる結果となりました。つまり、それぞれの敏感期は、発音3歳まで、語彙8歳まで、文法12歳までということがわかります。これは、私たちが英語の学習を中学校(12歳)から始めたことで、読み書きは何とかできるものの、LとRなどの英語の発音の聞き分けや言い分け、英会話の聞き取りや話すことがなかなかスムーズにできないことを説明できます。つまり、英語教育が中学校からでは遅すぎる原因は、流暢に話す敏感期を過ぎてしまっているからです。なお、それぞれの敏感期が始まる時期については、発音は耳が聞こえるようになる生後まもなく、語彙は初語が出てくる1歳、文法は複文が出てくる4歳としました。発音の敏感期が3歳で終わることを考えると、3、4歳ごろは、脳の注力が語彙をメインとしつつ、発音から文法へと移行している時期と考えることができて、納得がいきます。また、語彙の敏感期が8歳で終わることを考えると、このころに基礎的な語彙(生活言語)から読み書きを通した抽象的な語彙(学習言語)へと脳の機能が移行すると考えることができます。ちなみに、この敏感期の段階的な移行は、音感の獲得のそれぞれの臨界期(敏感期)にも重なります。この詳細については、関連記事2をご覧ください。次のページへ >>

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海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 2

なんで幼児期からでは早すぎるの?先ほどの臨界期の違いの研究から、遅くとも3歳から英語教育を始めればバイリンガルになるのでしょうか? 残念ながら、なかなかそうはならないようです。なぜでしょうか?そのヒントは、言葉の学習の許容量です。そもそも敏感期に違いがある原因は、脳がその限られた資源(許容量)の中で、発音→語彙→文法という順番で効率的にエネルギーを注ぐためであるからと考えられています。つまり、言葉の学習において、脳にはもともと許容限度があるからこそ、敏感期が存在すると言い換えられます。敏感期が脳の発達の時期によって時間的に役割分担をしていると考えれば、脳の部位によって空間的に役割分担をしているのが側性化・局在化です。これらは、脳活動の効率化という点では同じです。脳の側性化・局在化にちなんで、敏感期は「脳の時限化」と名付けることができるでしょう。ちなみに、逆に発音の敏感期が3歳を超えてしばらく続いてしまう幼児は、一見発音の聞き分けの能力がまだ残っていて外国語の発音の学習にはメリットがあるように思われますが、その分その後の語彙や文法の学習が遅れることがわかっています1)。この許容量を踏まえて、ここから英語教育が幼児期からでは早すぎる理由を、限定的にやる場合と本格的にやる場合に分けて、それぞれ説明しましょう。(1)英語教育が限定的な場合これは、最初に触れたように、幼児期から「セサミストリート」のような語学番組を毎日見せて、英語教室に週に何回か通わせることです。これが限定的である理由は、私たちの子供のほとんどは、両親とも日本人で日本に住み、日本語の幼保育園に通っているからです。この状況は、日常的には日本語だけが飛び交っており、自然に英語が耳に入ってくることはほとんどありません。この場合、英語の刺激は、日本語に比べて、せいぜい1、2割でしょう。すると、どうなるでしょうか?簡単に言うと、英語の刺激が母語の日本語に負けてしまいます。私たちの脳は、できるだけサボって楽をするように最適化されています。英語教材や英語教室などで英語の発音を一時的に覚えてはいても、日常的に使う必要に迫られることはなく、困らないので、記憶の学習があまり進まないのです。実際に、日本の大学生への調査研究1)において、週4時間以下の英語の学習を幼少期(3歳)から小学校までに開始したグループと、中学校(12歳)から開始したグループの発音の聞き分けテストでは、わずかな違いしかないことが判明しています。つまり、幼少期の英語教育が限定的な場合、発音を聞き分けられる効果も限定的になることがわかります。言葉の学習を胃の栄養吸収に例えるなら、幼少期の消化酵素の量(言語能力)には限界があるため、メインディッシュ(日本語)の吸収に専念して、添え物(英語)まで吸収が回らなくなってしまうというわけです。時間とお金と労力かけたわりに効果があまり期待できないことから、限定的な英語教育はやるにしても、英語に興味を持たせたり親子で楽しむためと割り切った方が良いことがわかります。(2)英語教育が本格的な場合これは、「セサミストリート」を毎日見せるだけでなく、親が子供と英語でも会話して、幼児期からインターナショナルプレスクールに通わせることです。もはや英語圏に住んでいるのと同じ状況です。この場合、英語の刺激は、日本語と同等になるでしょう。すると、どうなるでしょうか? 2つの可能性があります。1つは、期待通り、バイリンガルになります。まさに、帰国子女の人たちが日本語も英語も流暢に話す憧れのイメージです。ただし、実はこれはもともとその子の言語能力が高い場合に限られます。先ほどの胃の栄養吸収に例えるなら、メインディッシュが2つ(日本語と英語の両方)でも、消化酵素の量が多い(もともとの言語能力が高い)ため、2つとも消化吸収できてしまうことです。もう1つは、不本意ながら、ダブルリミテッドバイリンガルになります。ダブルリミテッドとは、二重に制限されているという意味です。両言語とも、日常生活で使う具体的で実用的な言葉(生活言語)は使いこなせるのですが、抽象的で概念的な言葉(学習言語)は使いこなせなくなります。つまり、生活言語能力(BICS)は習得しているのですが、学習言語能力(CALP)は習得していない状態です。そのため、読解力や作文力が低く、ものごとの仕組みやルールをよく理解できず、将来的に言葉を使いこなす仕事に就くことが難しくなります。以前は、母語も第2言語も中途半端(セミ)な状態から、セミリンガルと呼ばれていました。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 3

なんでダブルリミテッドバイリンガルになるの?それでは、なぜダブルリミテッドバイリンガルになるのでしょうか? 現時点で、ダブルリミテッドバイリンガルに関する個別のケースは、国際結婚で生まれた子供でよく見かけますが、大規模な調査研究は見当たりません。ただ、語学力を含む言語能力の本質を捉えると、やはりその原因は、もともとその子の言語能力が高くない場合です。この言語能力を、知能検査(WPPSI-IIIやWISC-V)における言語理解IQ(VCI)から、2つの場合に分けて考えてみましょう。(1)言語能力がとても低い場合1つ目は、言語能力がとても低い場合です。この目安は、言語理解IQが85以下です。このような子供は、統計上約15%います。彼らのほとんどが日本語だけの学習でも問題を抱えています。この状況で、英語の学習を掛け持ちすると、ほぼ確実にダブルリミテッドバイリンガルになるのは容易に想像できるでしょう。先ほどの胃の栄養吸収に例えるなら、消化酵素の量が少ない(もともとの言語能力が低い)ため、メインディッシュが1つ(日本語だけ)でも消化不良を起こしているのに、メインディッシュが2つ(日本語と英語の両方)になることで、2つともますます吸収できなくなってしまうというわけです。なお、もともと全般的な知的能力は保たれている(トータルIQ[FSIQ]は低くない)のに、母語の語彙が少なく文法がおかしい(言語理解IQが極端に低い)場合は、言語障害(言語症)と診断します。また、もともと母語の滑舌が悪い(発音がうまくできない)場合は、語音障害(語音症)と診断します。そして、これらには言語療法のトレーニングが行われます。このように、言語能力には個人差があることも受け止める必要があります。(2)言語能力が高くはない場合2つ目は、言語能力が高くはない場合です。この目安は、言語理解IQが85~100です。このような子供は、統計上約35%います。彼らは、一見、日本語の学習に問題はなさそうです。しかし、言語能力としては平均以下ですので、余力があるとは言えません。この状況で、英語の学習を掛け持ちすると、単純に発音・語彙・文法が2倍になるわけですから、生活言語能力を習得する時期が遅れます。その分、学習言語能力が始まる時期が遅れ、十分な学習言語が習得できなくなる恐れがあることも想像できるでしょう。さらにこの状況は、ダブルリミテッドバイリンガルだけでなく、学習障害も引き起こすリスクがあります。これは、発音の敏感期が遅れて終わる子供はその分、その後の語彙の学習が遅れるという、先ほど紹介した現象に通じます。ちなみに、この言葉の学習の量(生活言語能力)と質(学習言語能力)のトレードオフの関係は、絶対音感を身に付けると相対音感が損なわれるという音感のトレードオフにも通じます。この詳細については、関連記事2をご覧ください。先ほどの胃の栄養吸収に例えるなら、消化酵素の量が多くない(もともとの言語能力が高くない)ため、メインディッシュが1つ(日本語だけ)でようやく消化しているのに、メインディッシュが2つ(日本語と英語の両方)になることで、2つとも吸収できなくなってしまうというわけです。私たちは、「子供は語学の天才である」などと根拠のない語学ビジネスの宣伝に振り回されず、この事実をもっと深刻に受け止める必要があります。もちろん、子供のためによかれと思ってという親心や憧れはよくわかります。また、国際結婚で生まれた子供の言語環境がどうしても多言語になってしまう状況は致し方ないです。しかし、子供のもともとの言語能力を見極められない幼少期から、モノリンガルの日本人の両親が日本国内で英語教育をあえて本格的にやろうとするのは、時間とお金と労力がかかるばかりでなく、子供をダブルリミテッドバイリンガルという言語障害にさせてしまう危うさもあるというわけです。これが、子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」なのです。1)英語学習は早いほど良いのかP71、P34、P140:バトラー後藤裕子、岩波新書、2015<< 前のページへ■関連記事NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(後編)【言葉は噂をするために生まれたの!?(統語機能)】NHK「おかあさんといっしょ」(後編)【絶対音感よりも○○!?才能よりも○○!?(幼児教育)】Part 1

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第61回 カンピロバクター流しそうめん

流しそうめんで食中毒Unsplashより使用石川県津幡町の山中にある飲食店「大滝観光流しそうめん」で、合計93人が食中毒になるという異例のニュースが話題になりました。原因菌はカンピロバクターです。カンピロバクターは低温に強く、冷蔵庫内でも長期間生存が可能です。十分に加熱調理しないと食中毒が起こりえるため、一時期流行した「低温調理」は、食中毒リスクを顔面で受け止める行為になります。さて、流しそうめんでなぜカンピロバクターの食中毒になるのか。そうめんに何か練り込まれていたのか、つゆが汚染されていたのか。いや、はたまた流れてくる水そのものか。今回は、流していた水が原因とされています。通常、上から流す水というのは水質検査後のきれいな水を使うべきですが、アウトドアで流しそうめんイベントを開催する場合、清流をそのまま使ってしまうことがあるそうです。清流と書くと、めちゃきれいな水じゃん、と思ってしまいますが、そうでもないようです。川の水は汚い?アウトドアが趣味の医師に、この件について聞いてみると、「沢の水は飲まないほうがいいっす」と断言していました。「動物の糞から出た微生物が存在する、『うんこ水』ですよ」とのことでした。そこまで言うか。私はインドアな人間なので、このリスクは比較的低いのですが、もしキャンプなどで沢の水を飲む場合、浄水器を使用、あるいは加熱処理をして水を浄化するといったひと手間が、カンピロバクターなどの食中毒のリスクを下げます。そのほか、井戸水、貯水槽水、湧き水にも食中毒のリスクがあります。今回提供された流しそうめんでは、流している水の源泉がかなり汚染されていたようです。年1回の水質検査が台風で行えず、そのまま流しそうめんの営業シーズンに突入してしまったとのこと。もちろん鶏肉にも注意教科書的な鶏肉にも、もちろん注意が必要です。農場の出荷段階では、生きた鶏のうち30%がカンピロバクターに汚染されているそうです。私たちは普段の食事において、平均して5回に1回、鶏肉を食べています。通常調理の場合、カンピロバクター感染率は家庭で0.2%程度ですが、生食や鶏レバーとなると、それが約2%となり、リスクは約10倍です。目の前の患者さんにどのような病態が起こっているのか、症状や検査データなどから筋道を立てることを「臨床推論」と言いますが、それよりもマクロな視点で流しそうめん食中毒の原因を探す「臨床推理」は、名探偵のようで興味深いですね。『ドクター・ハウス』を思い出しました。

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