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新型コロナ、住民への注意喚起のタイミングの目安を発表/厚労省

 厚生労働省は8月9日の事務連絡にて、感染拡大する新型コロナウイルス感染症の早期対応のため、各都道府県に向けて住民等に注意喚起を行う際の検討の参考となるタイミングの目安を発表した1)。 なお、本目安は、新型コロナ流行時において医療への負荷が主たる課題となることから、感染拡大が継続したとしても医療提供体制を確保するために設定されたものであり、感染症サーベイランスにおける感染症の流行の程度に関する注意報・警報レベルとは考え方が異なる。また、本目安は暫定的に設定されたもので、今後の流行状況等を踏まえ、変更される可能性もあるという。 今回設定された住民への注意喚起等の目安は以下のとおり。1 住民への注意喚起等として考えられる内容(1)住民への注意喚起 都道府県において、住民に対し、医療に負荷がかかっている状況とあわせて、以下の注意喚起を行うことが考えられる。1. 発熱等の体調不良時、発症後5日間、症状軽快後24時間経過するまで外出を控えること2. 手洗いや換気などの基本的な感染対策の強化3. マスク着用推奨場面(医療機関や高齢者施設等の訪問時)でのマスク着用の徹底4. 軽症時や検査、診断書発行等のための救急受診を控えること5. 軽症の場合の自宅療養(食料、医薬品、検査キット等の準備)(2)医療提供体制等の強化 「今夏の新型コロナウイルス感染症等の感染拡大に備えた保健・医療提供体制の確認等について」(令和5年7月14日付事務連絡)で示されたとおり2)、感染拡大が継続したとしても医療提供体制を確保するため、以下の事項が徹底されるよう、各都道府県において、改めて病院長会議等を通じた医療関係者等との協議、入院先決定における助言等の必要な支援を行うことが考えられる。 1. 医療機関間の入院先の決定にあたり、重症者等を優先すること2. 地域における医療機関の役割に応じた受け入れを行うこと(重症者を受け入れる急性期病院、状態改善後の転院先として軽症者を受け入れる回復期病院等)3. 新型コロナ以外の疾患により入院している患者が新型コロナに感染した場合に、転院させず、継続的に診療を行うこと4. 円滑な入院調整を行うためのG-MIS等の活用5. 自宅等における療養体制を確保すること(薬局、訪問看護事業所、ケアマネジャー等との連携、酸素濃縮装置の確保等)6. 高齢者施設等における療養体制を確保すること2 都道府県による住民への注意喚起等の目安について 各都道府県において、1に示した住民への注意喚起や医療提供体制の強化(医療機関等への呼びかけ)を行う場合に、その参考となりうる目安を以下のとおり示すこととする。下記の目安も参考にして、過去の流行及びこれに伴う医療への負荷も含めて総合的に勘案し、必要に応じて基準を設定する(※)など、地域の実情に応じた対応をお願いしたい。(※)既に独自の基準等を設定して対応している都道府県に対して、変更を求めるものではない。また本目安は暫定的であり、今後変更される可能性がある。(1)目安の設定の考え方 これまでの考え方3,4)や直近の沖縄県における感染拡大の状況等を踏まえ、感染者数のピークの2週間前、在院者数及び確保病床使用率のピークの3週間前の数値を参考に目安を設定。(2)考えられる目安・外来の状況:「外来逼迫あり」割合(※)が25%を超えるとき・定点あたり報告数:直近のオミクロン株による感染拡大時の「外来逼迫あり」割合(※)のピーク時から2週間前の「定点当たり報告数」を超えるとき注 なお、足下の医療提供体制の状況も踏まえ、直近のピーク時を参照するのではなく、別途、個別に設定することも考えられる。(※)「外来逼迫あり」割合とは、医療機関等情報支援システム(G-MIS)の週次調査において、診療枠の関係で、当日中の来院を断っているかどうかを目安に、逼迫が生じていたかについて、該当ありと回答した医療機関の割合を指す。・在院者数:これまでのオミクロン株による感染拡大ピーク時の当該数の1/2を超えるとき(過去の感染拡大ピーク時と比較して軽症者の割合が高い場合は除くなど、入院患者の重症度等に応じて判断)。※欠勤している医療従事者数5)、救急搬送困難事案件数の増加傾向も参考とする。・確保病床使用率:50%を超えるとき(確保病床外の在院者数も留意すること。また、過去の感染拡大ピーク時と比較して軽症者の割合が高い場合は除くなど、入院患者の重症度等に応じて判断)。※(2)で記載した目安については、すべての目安を活用して各都道府県において基準の設定を求めるものではなく、これらを参考にして、総合的に勘案した上で必要に応じて基準を設定し、注意喚起などに活用することを想定している。※厚生労働省においても、各都道府県と密接に連携するとともに、感染拡大や医療提供体制の状況を踏まえて、必要に応じてリエゾン派遣等の支援を行うこととしている。■参考文献・参考サイト1)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する住民への注意喚起等の目安について(令和5年8月9日)2)厚生労働省:今夏の新型コロナウイルス感染症等の感染拡大に備えた保健・医療提供体制の確認等について(令和5年7月14日)3)BA.5強化宣言(令和4年7月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)4)今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合に想定される対応(令和4年11月新型コロナウイルス感染症対策分科会)5)重点医療機関における新型コロナウイルス感染症に関連して休んでいる看護職員数

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるミリキズマブの有用性(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療に関しては、従来、軽症から中等症に対する第一選択薬としては5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が用いられ、効果不十分な場合にはステロイド経口剤や免疫調整薬の併用が一般的であったが、最近、生物学的製剤や低分子化合物の出現により、ステロイド依存性ないしは不応性を含む難治性のUC患者に対する薬物治療が大きく変化している。すなわち、抗TNFα抗体薬、インターロイキン(IL)阻害薬、インテグリン阻害薬、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など、新規の薬剤が次々と出現して難治性のUCが次第に少なくなってきている。しかしながら、UC症例の中にはこれらの新規薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者も少なくないため、さらに新たな作用機序を有する治療薬の開発が求められているのが現状である。 今回、新たなIL阻害薬であるミリキズマブに関して、既存治療で効果不十分な中等症から重症のUC患者を対象とした寛解導入試験と引き続き施行された寛解維持試験の結果、ミリキズマブの有効性と安全性が示された研究結果が2023年6月のNEJM誌に掲載された。 ミリキズマブの特徴として、本剤がターゲットとするIL-23-p19は、本邦ですでに承認されているIL-12/23-p40モノクローナル抗体であるウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)と同じIL-12ファミリーに属する炎症性サイトカインであるが、IL-23のp19サブユニットに対してのみ特異的に結合して大腸粘膜の炎症を抑えることから、感染症や悪性腫瘍の発生リスクを軽減する可能性が期待される。 なお、ミリキズマブは2023年3月に本邦で薬事承認を取得して、5月に薬価収載されている(商品名:オンボー)。今回、NEJM誌に掲載された国際共同治験の成績が発表される前に薬事承認されていることは驚きであるが、今後は国際共同治験の結果がトップジャーナルに掲載される前に保険適用の承認を取得する薬剤が増加する可能性があるのかもしれない。 一方、難治性のUCに対する薬物療法に対して臨床現場からの要望としては、「既存治療で効果不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入・寛解維持に対する有用性と安全性」により保険適用が承認されている新規薬剤それぞれの具体的な使用方法に関するエビデンスが期待されている。

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見事に落選【Dr. 中島の 新・徒然草】(489)

四百八十九の段 見事に落選先日のこと。よんどころない用事があって土曜日に大阪市内に行きました。午後8時頃でしたが、道路は人、人、人。そして駐車違反の車が一杯。加えて自転車やバイクが縦横無尽に行き交っています。「なんだ、なんだ」と思っていたら、目の前に大きな花火が!なんと淀川花火大会の日だったのです。どおりで人が多いはずでした。その数日後には茨木辯天花火大会があって夏真っ盛り!と思っていたら、8月8日はもう立秋です。月日の経つのは早いですね。話は変わってケアネットのことです。私はよく「中島先生、ケアネット読んでいますよ」と声を掛けられます。多くの人が読んでくれていると思うとありがたい限りです。中には「ベストセラー作家を目指したらどうですか?」と言う人もいます。もちろん、本が売れて優雅な印税生活を送ることができたら最高です。でも現実には、ベストセラーどころか作家になるのすら道は遠い。というのも、第30回電撃小説大賞に自分の書いたものを応募していたのですが、見事に落選したのです。今回の長編小説部門には3,329作品の応募があり、1次選考、2次選考、3次選考、そして最終候補を経て大賞や金賞が選ばれるわけですが、私の応募作は1次選考にすら引っ掛からず。なんじゃそりゃ!長編小説の応募規定は12万~18万字でした。文庫本1冊がだいたい10万字になるので、結構頑張って書いてはみたのですが。1次選考を通過しないようでは、大賞を取るなんていうのは夢のまた夢。ということで、再び修行することにしました。で、今になって「小説の書き方」などというものをYouTubeで聴いております。講師曰く。新人賞応募者は原理原則にのっとって書くこと。変則技が許されるのは売れっ子になってから。原理原則とは、物語の冒頭で主人公の年齢性別と名前をはっきりさせること。年齢も性別もわからなければ、コンテストの下読みを苦しめるだけ。なるほど、なるほど。そんなことも知らずに、勢いで書いて応募してしまいました。次はもう少し考えて書きたいと思います。また、来年の第31回電撃小説大賞のホームページには、応募者向けに「編集部によるワンポイントアドバイス」というのがありました。おもしろいストーリーを作るには?引き込まれる設定を作るには?魅力的なキャラクターを作るには?オリジナリティを出すには?文章力をアップさせるには?と具体的なヒントが示されています。やはりこういうのもよく読んで、対策を立てるべきでした。受験勉強と一緒ですね。ということで、引き続きコンテスト応募を続けたいと思います。最後に1句力作が 花火のごとく 空に散る

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「第28回日本緩和医療学会学術大会」が開催されました【非専門医のための緩和ケアTips】第57回

第57回 「第28回日本緩和医療学会学術大会」が開催されましたずいぶん暑くなってきました。6月30日(金)~7月1日(土)に、「第28回日本緩和医療学会学術大会」(緩和ケア学会)が神戸市で開催されました。発表だけでなく、緩和ケアを支える多くの方の学びの機会となるように、私の友人たちは、さまざまな発信をしています。今回は初夏の風物詩となっている緩和ケア学会の内容をご紹介します。今日の質問先日開催された緩和ケア学会に参加し、ほかの学会と違うユニークな雰囲気を感じました。緩和ケアの勉強も兼ねて、今後も参加しようと思います。地方会などもあるのでしょうか?今年の緩和ケア学会は私も現地参加し、いくつかのセッションに登壇させていただきました。今回の参加者は2日間で延べ8,000人を超えたということで、なかなか大きな学会です。質問のとおり緩和ケア学会は、ほかの学会と異なるユニークな雰囲気があります。私が思う特徴を少しご紹介させてください。看護師をはじめ、医師以外の参加者が多い緩和ケアの実践は多職種での連携が大切です。それを象徴するように学会にも医師だけでなく多くの職種が参加しています。とくに看護師の参加が多く、職種を超えてディスカッションできるのが刺激的です。人文学、社会学的なセッションが多い緩和ケアは人生の最終段階に関連した諸問題を考える領域であり、医学以外にも人間や社会のありようにも目を向ける必要があります。そうした観点から、医学以外のテーマ・演者のセッションも多数企画されています。YouTubeなどの豊富な発信日本緩和医療学会ではYouTubeの公式チャンネル1)があり、学会前には大会長や登壇者を招き、学会の見どころや企画に込めた思いを聞くなど、さまざまな動画を発信しています。配信時にリアルタイムで視聴すれば演者の先生に質問もできます。学会の情報だけでなく、緩和ケアの知識習得に役立つ多様な動画を配信しているので、ぜひチャンネル登録をしてください。ほかにもいろいろな特徴があるのですが、とくに印象的なポイントをご紹介しました。そして、「でも、学術大会って1年後ですよね」と思った方にも朗報です。日本緩和医療学会では各地域で支部会が開催されています。支部会の規模は小さいですが、その地域で緩和ケアを実践されている方が一堂に集まりますので、ネットワーキングには非常に有効です。支部学術大会はこちらのサイトから確認できます。ぜひ、皆さんの地域の支部学術大会をチェックしてみてください。今回のTips今回のTips次の日本緩和医療学会学術大会は2024年6月14日~15日に神戸市で開催予定! それまでに各地方で開催される支部会に参加してみましょう!1)日本緩和医療学会YouTubeチャンネル

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映画「スプリット」(続編)【なんで記憶喪失になっても一般常識は忘れないの?なんで多重人格になっても人格が入り交じることはないの?(記憶機能)】Part 1

今回のキーワード記憶喪失(解離性健忘)多重人格(解離性同一症)意味記憶エピソード記憶認知症PTSD皆さんは、3歳までの記憶がない理由を考えたことはありませんか? 記憶喪失(解離性健忘)の人が自分の名前や生い立ちを全部忘れているのに、一般常識は覚えているのを不思議に思ったことはありませんか? そして、多重人格(解離性同一症)の人のそれぞれの人格は入れ代わるだけで、なぜ入り交じることがないのかを考えたことはありませんか?記憶喪失や多重人格などの解離性障害の特徴や起源については、以前の記事で掘り下げましたが、実はこれらの謎は残っていました。今回は、前回の記事の文法(統語機能)の起源をヒントに、再び映画「スプリット」を通して、記憶機能に関するこれらの3つの謎を解き明かします。なんで3歳までの記憶がないの?前回の記事から、進化心理学的に考えれば、人類は約700万年前以降に単文(意味記憶)をつくり、約20万年前以降に文脈(エピソード記憶)をつくったことがわかりました。発達心理学的にも、幼児は1歳以降で単語を覚え(意味記憶)、4歳以降でお話をすること(エピソード記憶)がわかりました。つまり、系統発生的にも個体発生的にも、意味記憶がエピソード記憶のベースになっていることがわかります。また、この2つの記憶機能が進化した時代の違いと発達する時期の違いから、意味記憶とエピソード記憶は、「記憶」として括られていますが、実はまったく別々の能力(機能)であることがわかります。以上より、3歳までの記憶がない訳は、エピソード記憶の発達が始まるのが4歳以降だからです。逆に言えば、3歳までは意味記憶を発達させるために脳がコストをかけているということです。3歳までは、ちょうど夢を見ているのと同じように、バラバラな記憶の断片がランダムに出てくることはあっても、時系列で連続的なつながり(ストーリー)としてその後に長く記憶できないのです。ちょうど、夢で見た内容を朝起きてしばらくすると思い出せなくなる状況にも似ています。エピソード記憶が未発達だからこそ、幼児は何度も同じ本の読み聞かせをねだるのです。エピソード記憶は、ひとかたまりのストーリーになっています。だからこそ、その後に誰かに会ったり何かを見たりする状況(刺激)によって、これまでの似たような経験の記憶(関連するエピソード記憶)として、芋づる式(連想的)に次々と思い出すことができるのです。しかも、それらのエピソードの時間的な前後関係も正しく並べ替えることができるのです。この点で、エピソード記憶の本質は、「時系列の連想記憶」であることがわかります。次のページへ >>

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映画「スプリット」(続編)【なんで記憶喪失になっても一般常識は忘れないの?なんで多重人格になっても人格が入り交じることはないの?(記憶機能)】Part2

なんで記憶喪失になっても一般常識は忘れないの?この映画の主人公のケビンには、23の人格が1つの体に宿り、それぞれが別々の名前を名乗っているというキャラ設定でした。そして、基本的にお互いの人格の記憶にはアクセスできません。この点で、彼は1つの人格からしたら記憶喪失になっているとも解釈できます。つまり、多重人格とは、それぞれの人格の記憶喪失であるとも言い換えられます。記憶喪失(解離性健忘)では、自分の名前や生い立ち(エピソード記憶)をまったく思い出せないのに、一般常識(意味記憶)は覚えています。その訳は、エピソード記憶は、意味記憶に比べて進化の歴史が浅い(発達の時期が遅い)ため、脆く失われやすいからと説明することができます。これは、約10万年前に進化した認知能力(概念化)が、約300万年前に進化した非認知能力(社会脳)よりも脆く失われやすいことと似ています。なお、ある能力について進化の歴史が長い(発達の時期が早い)ほど身につきやすい理由については、嗜癖性の起源として、関連記事1をご覧ください。情報化された現代でこそ、記憶喪失になると大騒ぎになります。しかし、よくよく考えると、20万年前よりも以前の原始の時代では、そもそもエピソード記憶の能力自体がはっきりあるわけではなく、その瞬間をその日暮らしで反射的に生きていました。これも、まさに夢を見ている時と同じです。私たちは、夢を見ているその瞬間に昔のことを思い出したり、先々のことを計画することはまずありません。この点で、近代(産業革命)の合理主義の価値観が浸透するまでは、記憶喪失が起こったとしても、何も困らないどころか、記憶喪失のきっかけとなった重度ストレスを含んだすべてのエピソード記憶をいったん忘れることで、もう一度周りとうまくやっていくことができます。これは、記憶喪失の適応戦略であると考えることができます。なお、記憶喪失の「記憶」は、エピソード記憶に限定されたものであり、失うのではなく思い出せないだけなので、厳密な表記は「エピソード記憶再生障害」とした方が誤解を招かないでしょう。また、このエピソード記憶の脆さから、認知症では、出来事の記憶(エピソード記憶)を忘れやすく、一般常識(意味記憶)は忘れにくいことを説明することができます。つまり、認知症は、出来事を思い出すことがもうできなくなった記憶喪失、つまり不可逆的な「エピソード記憶再生障害」と言えそうです。実際に、認知症の人に年齢を聞くと、認知症が進んでいる人ほどより若い年齢を答えます(若返り現象)。その訳は、脳は持っている記憶に基づいて現実世界という意識をつくり出しているからです。もはや若い頃の記憶しか残っていなければ、若い頃の自分の「現実世界」しか認識できないわけです。私たちも、昼寝して起きた時に「あれ、今いつだっけ?」と思ったり、旅行や出張などで自分のいつもの部屋ではない場所で朝起きた時に「あれ、ここどこだっけ?」とぼんやり思うことがあります。これは、一過性の見当識障害ですが、その後に周りを見ることですぐにそれ以前の記憶が蘇ってきて、それを頼りに自分の状況を認識できるので、困ることはありません。ただ、記憶に依存している点では、これは一時的な記憶喪失、つまり一過性の「エピソード記憶再生障害」とも言えそうです。逆に、「エピソード記憶の過剰再生」は、PTSDのフラッシュバックです。なお、フラッシュバックは、もともと哺乳類が危険を回避するために進化させた記憶能力ですが、意味記憶やエピソード記憶などの記憶機能の原型とも言えるでしょう。また、これらの記憶の学習は夢を見ている時(レム睡眠時)に行われます。夢は記憶の学習の副産物にすぎないと同時に、その起源は哺乳類が生まれた約3億年前に遡ります。この点で、先ほど触れたように、夢は起きてしばらくすると思い出せなくなったり、夢を見ている瞬間は昔のことを思い出したり、先々のことを計画したりすることはないわけです。なお、夢の詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「スプリット」(続編)【なんで記憶喪失になっても一般常識は忘れないの?なんで多重人格になっても人格が入り交じることはないの?(記憶機能)】Part3

なんで多重人格になっても人格が入り交じることはないの?映画の中では、ケビンの中にある複数の人格がお互いを認識し合ってケンカしているように描かれていました。さすがに、これはこの映画の演出であり、実際の臨床ではお目にかかりません。ちなみに、複数の人格が頭の中でケンカし合うような症状は、多重人格とはまったく別の病態になります。それは、統合失調症の二重心という病態です。多重人格(解離性同一症)では、人格が交代することはあっても、共存することはないです。その訳は、それぞれの人格がいるように見えるのはそれまでのエピソード記憶がバラバラのままであるだけでつながらない(連想できない)からと説明することができます。とくに幼少期の虐待などの重度のストレスによって、記憶喪失(解離性健忘)が繰り返されると、その複数のエピソード記憶が脳内のネットワークとして潜在(ローカルスリープ)することになります。この詳細については、関連記事3をご覧ください。そして、その眠っていたエピソード記憶はその後、関連する状況(刺激)によって蘇らず、ランダムに代わる代わるに蘇ってくるようになります。この点で、多重人格の表記は、厳密には「エピソード記憶交代再生」とした方が誤解を招かないでしょう。つまり、多重人格の本質は、実は「人格」そのものではなく、エピソード記憶が交代的に再生することです。逆に、エピソード記憶がつながってすべて再生できるようになれば、これは、1つのつながったエピソード記憶(人格)として自分を認識できるようになったと捉えることができます。この点で、それぞれの人格が共存するようになったとは捉えることができません。実は、私たちは、思い出せる限りの一つひとつのエピソード記憶をつなぎ合わせて人生と呼び、1つの人格として社会生活を送っています。これも、個人主義を重んじる近代(産業革命)以降の考え方です。それまでは多重人格が起こったとしても、先ほどの記憶喪失と同じように、その出てきた「人格」(エピソード記憶)で周りに合わせていただけでしょう。その時代や文化によっては、「シャーマン」や「憑き物」として社会に溶け込んでいたでしょう。つまり、多重人格も1つの適応戦略であったと考えることができます。そもそも、人格が1つであるというのは、その考え方が現代社会にフィットしているだけで、私たちの思い込みかもしれないです。そもそも、私たちの心(脳)が原始の時代に形作られたと考えると、人格は1つである必要がないからです。なお、エピソード記憶の起源が約20万年前であることから、エピソード記憶に関連した障害である記憶喪失や多重人格の起源も、同じく約20万年前であると推定することができます。<< 前のページへ■関連記事そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 1パプリカ【夢と精神症状の違いは?】スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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英語プレゼン、数字の基本的な口語表現のコツ(5)乗数・累乗の表現【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第21回

英語プレゼン、数字の基本的な口語表現のコツ(5)乗数・累乗の表現今回は、使う頻度はやや低くはなりますが、重要な数字表現として「累乗」を紹介します。日常会話で使うことは滅多にないですが、学会発表などではしばしば耳にすることがあるので、ぜひこの機会に覚えてしまいましょう。1)“WBC 5 × 103/μL (= 5 × 109/L)”はどう読む?たとえば、「白血球数」を記載する際には「5×103/μL」もしくは、「5×109/L」の単位を使用することが一般的です。この数字はどのように読めばよいのでしょうか?「乗数」(multiplication)の記号である“×”は“times”と読みます。例外的に、四角形の縦横の辺の長さを表すときなどには、“2 × 2”と表記して、“two by two”と読みます。“103”のような累乗の表示は、exponential (or power) expressionと呼び、右上の小さい数字は指数(exponent)と呼びます。これを読むときは、“ten to the third (power)”となります。この表現は、数学的な意味(103=10×10×10)を考えて、「10という数字が3番目まで掛け算されている」と考えるとわかりやすいでしょう。同様に、109は“ten to the ninth (power)”(=10×10×10×10×10×10×10×10×10)と読みます。どちらの場合も、“five thousand (5,000)”、“five billion (5,000,000,000)”と読むことも可能です。2)“m”、“m2”、“m3”はどう読む?これらは長さ、面積、容積の単位ですが、医学系の発表でも目にする表現です。個人的によく使う場面は、「体表面積」(body surface area)です。発表スライドに“BSA 1.2 m2”と記載したものを、“body surface area is 1.2 square meters”と読み上げます。この応用として、薬剤投与量における“10 mg/m2”は“ten milligram per square meters”となります。また“BMI 20 kg/m2”は、“body mass index is twenty kilogram per square meter-s”となります。講師紹介

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8月10日 手(ハンド)の日【今日は何の日?】

【8月10日 手(ハンド)の日】〔由来〕手の英語読み「ハンド」から「ハ(8)ンド(10)」の語呂合わせから、健康な手を持っていることへの感謝、手の不自由な人々に対する社会的な関心、手の怪我・病気・しびれなどの改善に従事している手外科の存在の啓発に日本手外科学会が制定。関連コンテンツ釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】トリガーポイント注射の査定【斬らレセプト】関節腔内注射の査定【斬らレセプト】リウマチ体操の紹介【患者説明用スライド】1型2型ともに糖尿病はばね指のリスクと関連

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聞き流しOK!ASCO2023肺がんトピックスまとめ【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第2回

第2回:聞き流しOK!ASCO2023肺がんトピックスまとめパーソナリティ日本鋼管病院 呼吸器内科 部長 田中 希宇人 氏ゲスト聖マリアンナ医科大学 呼吸器内科 古屋 直樹 氏関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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第57回 9月以降の「秋開始接種」の概要は?

XBB.1.5対応1価ワクチンが登場ソコストより使用医療従事者では最多で新型コロナワクチンを6回接種している方がいると思います。私も2023年6月に6回目接種を終えています。現在「令和5年春開始接種」が終盤になっていますが、新型コロナワクチンの接種率がかなり下がってきた印象です。1年以上経過すると、さすがに重症化リスクも上がってくるようなので、前回からの接種期間が空いている人は接種してもよいのではないかと思いますが。65歳以上の高齢者および5歳以上の基礎疾患を有する人やその他重症化リスクが高いと医師が認める方の場合は、基本的に接種が推奨されます。これ以外の健康な人は、予防接種法による接種勧奨・努力義務のいずれの適用もありません。「看護学生がワクチン接種していないと実習に参加できない」問題がわりとSNSで炎上していますが、デリケートな問題ですよね…(遠い目)。さて、9月20日以降使用されるXBB.1.5対応1価ワクチンは、マウスを用いた非臨床試験において、XBB.1.5に対して現行2価ワクチンよりも高い中和抗体価を誘導することが報告されています。XBB.1.5対応1価ワクチンの契約は、モデルナ社とファイザー社を合わせて2,500万回分がすでに済んでいます。数が少し少な目な気がしますが、第一三共の「ダイチロナ」がXBB.1.5対応1価ワクチンとして早期に参入してくるのかどうかは不明です。従来株でのダイチロナ承認となっていますが、変異ウイルス用のものを次々に出してくるのではないかと期待しています。「秋開始接種」の概要9月20日から始まる「秋開始接種」の概要は図のとおりになります。春開始接種では基礎疾患のない12~64歳は接種対象外だったのですが、今回再び対象になっています。とはいえ、「もう接種はいいや」と思っている人がかなり多いので、ヘタするとインフルエンザワクチンよりも打たれないという未来が待っているかもしれません。画像を拡大する図.新型コロナワクチン接種スケジュール(筆者作成)8月7日からオミクロン株対応2価ワクチンが初回接種可能にところで、あまり報道すらされていませんが、8月7日からオミクロン株対応2価ワクチンを初回接種できるようになりました。現状流通するのは5歳以上になります。生後6ヵ月~4歳に対するオミクロン株対応2価ワクチンも書面上は接種可能ですが、いずれXBB.1.5対応1価ワクチンを接種することになるため、こちらについては流通させない方針のようです。現在流行しているのはXBB系統ですが、従来型ワクチンと比べるとオミクロン株対応2価ワクチンでは、約7割の死亡予防効果が確認されています1)。そのため、「系統が違うから効かないのでは」と懸念しなくてもよいと思います。参考文献・参考サイト1)Lin DY, et al. Durability of Bivalent Boosters against Omicron Subvariants. N Engl J Med. 2023;388:1818-1820.

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1日3.4分の高強度の身体活動で、がんリスク17%減

 高強度の身体活動(Vigorous Physical Activity:VPA)は、がん予防のために推奨される身体活動(Physical Activity:PA)を達成するための効率のよい方法であるが、多くの人にとって継続のハードルが高い。「日常生活中の高強度の断続的な身体活動(Vigorous Intermittent Lifestyle Physical Activity:VILPA)」を継続することで、がん発症のリスクを大幅に低下させる可能性があることが、新たな研究で明らかになった。オーストラリア・シドニー大学のEmmanuel Stamatakis氏らによる本研究の結果は、JAMA Oncology誌オンライン版2023年7月27日号に掲載された。 オーストラリア、シドニー大学の研究者らは、英国バイオバンクで「普段運動をしていない」と申告した人を対象にウェアラブルデバイスのデータを収集し、その後6~7年間の健康記録を調べた。参加者は2021年10月30日(死亡および入院)、2021年6月30日(がん登録)まで追跡された。 主要アウトカムは、全がんおよびPA関連がん(低いPAと関連する13のがん部位の複合アウトカム)の発生率だった。ハザード比および95%信頼区間(CI)は、年齢、性別、教育レベル、喫煙、アルコール摂取、睡眠時間、果物および野菜の摂取、両親のがん既往等で調整して推定した。 VILPAの例としては、負荷が高い家事、スーパーでの買い物袋の持ち運び、早足のウォーキング、身体を動かすゲームなどがある。このような活動は一度に行うのではなく、数分ごとに行うことが特徴だ。 主な結果は以下のとおり。・登録された2万2,398例は、平均年齢62.0(SD:7.6)歳、男性1万122例(45.2%)だった。平均追跡期間6.7(SD:1.2)年に2,356例のがんイベントが発生し、うち1,084例がPA関連がんであった。・1日のVILPA持続時間中央値が1分まで(1日当たり4.5分)の場合、VILPAを行わない場合と比較して、全がんのHRは0.80(95%CI:0.69~0.92)、PA関連がんのHRは0.69(95%CI:0.55~0.86)であった。・全がん発生率との関連が認められたVILPAの最小量は1日当たり3.4分(HR:0.83、95%CI:0.73~0.93)、PA関連がんは1日当たり3.7分(HR:0.72、95%CI:0.59~0.88)であった。 最低3.4分のVILPAを毎日行うことで、行わない場合と比較して、全がん発生率の17%減少、1日4.5分で肺がん、腎臓がん、膀胱がん、胃がんなど、PAがんの発生率の31%減少につながることが示された。著者らは「運動ができない集団や意欲のない集団にとって、断続的な短い身体活動の継続が、がん予防の有望な介入になる可能性がある」としている。

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日本における統合失調症、うつ病患者に対する向精神薬処方実態

 日本の精神疾患の治療では、メインとなる治療薬(たとえば、統合失調症に対する抗精神病薬、うつ病に対する抗うつ薬)に加えて向精神薬の多剤併用が一般的に行われている。北海道大学の橋本 直樹氏らは、施設間での差異を減少させながら、日本における向精神薬の処方を国際基準と一致させることを目的に、精神疾患患者の入院時および退院時の処方実態の比較を行った。BMC Psychiatry誌2023年6月28日号の報告。 2016~20年の入院時および退院時における処方箋データを収集した。データに基づき患者を次の4群に分類した。A群(入院時および退院時:主薬単剤療法)、B群(入院時:主薬単剤療法、退院時:多剤併用療法)、C群(入院時および退院時:多剤併用療法)、D群(入院時:多剤併用療法、退院時:主薬単剤療法)。向精神薬の投与量および数を4群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症、うつ病のいずれにおいても、入院時に主薬単剤療法を行っていた患者は、退院時に主薬単剤療法を行っている可能性が高く、その逆も同様であった。・統合失調症では、A群よりもB群において、多剤併用が行われることが多かった。・処方がまったく変更されなかった患者は、10%以上であった。 結果を踏まえて著者らは、「ガイドラインに準拠した治療を確実に行うためには、多剤併用療法を減らしていくことが重要となる」とし、日本全国の270以上の精神科医療施設が参加する「EGUIDEプロジェクト(精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究)」の講義後、主薬による単剤療法率が上昇することが期待される、とまとめている。

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わが国の平均寿命、コロナの影響などで男女とも低下/厚生労働省

 厚生労働省は、7月28日に令和4年の簡易生命表の概況を発表した。これによると男性の平均寿命は81.05歳、女性の平均寿命は87.09歳となり、前年と比較し男性は0.42年、女は0.4年下回ったほか、平均寿命の男女差は6.03年で前年より0.07年縮小した。 平均寿命の前年との差を死因別に分解すると、男性は悪性新生物(腫瘍)などの死亡率の変化が平均寿命を延ばす方向に働いていたが、男女とも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、心疾患(高血圧性を除く)、老衰などの死亡率の変化が平均寿命を縮める方向に働いていた。 死因別死亡確率(主要死因)について、65歳では男女とも悪性新生物(腫瘍)の死亡確率が低く、心疾患、老衰の死亡確率が高くなっており、75歳および90歳ではさらにこの傾向が強くなっていた。前年と比較すると、悪性新生物(腫瘍)、心疾患、脳血管疾患および肺炎の死亡確率は、65歳、75歳および90歳のすべての年齢で男女とも低下していた。老衰の死亡確率は、男性はすべての年齢で上昇、女性は65歳および75歳で低下、90歳で上昇していた。平均寿命の男女差は年々縮小【平均寿命の年次推移】( )内は男女差令和2年 男性81.56歳 女性87.71歳(6.15年)令和3年 男性81.47歳 女性87.57歳(6.10年)令和4年 男性81.05歳 女性87.09歳(6.03年)【平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数】・平均寿命の延長に寄与した死因 男性:悪性新生物[腫瘍](0.06年)、肺炎(0.01年) 女性:肺炎(0.01年)・平均寿命の短縮に寄与した死因 男性:COVID-19(0.12年)、心疾患(0.07年)、老衰(0.05年) 女性:COVID-19(0.13年)、老衰(0.10年)、心疾患(0.06年)【死因別死亡確率(主要死因)上位3つ】・65歳 男性:悪性新生物[腫瘍](26.16%)、心疾患(14.31%)、老衰(8.31%) 女性:老衰(19.79%)、悪性新生物[腫瘍](17.72%)、心疾患(16.32%)・75歳 男性:悪性新生物[腫瘍](24.49%)、心疾患(14.50%)、老衰(9.73%) 女性:老衰(21.18%)、心疾患(16.76%)、悪性新生物[腫瘍](15.50%)・90歳 男性:老衰(17.91%)、心疾患(15.94%)、悪性新生物[腫瘍](14.43%) 女性:老衰(29.51%)、心疾患(17.61%)、悪性新生物[腫瘍](9.02%)【平均寿命の国際比較】※入手可能な資料より算出 日本 男性81.05歳 女性87.09歳 男性の最高:スイス(81.6歳)/男性の最低:コンゴ民主共和国(56.5歳)  女性の最高:日本(87.09歳)/女性の最低:コンゴ民主共和国(59.7歳)

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尿路上皮がんへのペムブロリズマブ、日本における市販後調査データ

 ペムブロリズマブはプラチナ製剤不応性の進行尿路上皮がん患者に対する2次治療として、本邦では2017年に保険承認されている。承認の根拠となった国際共同治験KEYNOTE-045試験では日本人の参加者数に限りがあったことから、日本人への有用性のデータが待たれていた。今回、筑波大学附属病院 腎泌尿器外科・西山 博之氏らによる全国規模の全例市販後調査(PMS)の結果が、BMC Cancer誌2023年6月20日号に掲載された。 この多施設共同観察的市販後調査は、ペムブロリズマブ投与開始(200mgを3週間ごと)から1年間の観察期間で実施され、データは症例報告書(3ヵ月および1年)から収集された。安全性の評価には、治療に関連した有害事象(TRAE)およびとくに注目すべき有害事象(AEOSI)が含まれた。有効性の評価には、腫瘍反応、客観的奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・2017年12月25日~2018年4月20日に455施設から計1,320例が登録され、うち1,293例が安全性について、1,136例が有効性についての評価を受けた。年齢中央値は71歳(SD:35~92歳)、大半が男性(75.3%)、PS 0~1(87.2%)であった。・12ヵ月時点で、TRAEの発生率は53.8%(n=696)、AEOSIの発生率は25.0%(n=323)だった。・Grade5のTRAEは83例(6.4%)に発生し、うち47例(3.6%)は病勢進行によるものだった。Grade5のAEOSIは1.4%(n=18)で発生した。・全Gradeで最も頻度の高いAEOSIは、内分泌疾患(10.4%、n=134)、間質性肺疾患(ILD)(7.2%、n=93)、肝機能障害(4.9%、n=64)であった。多変量解析後、ILD発症リスクは、ベースライン時にILDの併存疾患のある患者では約7倍(オッズ比[OR]:6.60)、65歳以上(OR:2.24)と喫煙歴のある患者(OR:1.79)では約2倍高いことが示された。・ペムブロリズマブのORRは26.1%、DCRは50.7%だった。Bellmuntリスクスコアが0の患者のORRは46.4%で、Bellmuntリスクスコアが増加するにつれて減少した。 著者らは、「PS≧2の患者の割合は12.8%とKEYNOTE-045試験より高く、治療歴の多い患者(前治療歴2レジメン以上)の割合も同様に高かった。しかし、安全性プロファイルとAEOSI発生率はKEYNOTE-045試験で報告されたものと同等であり、切除不能な尿路上皮がんの日本人患者におけるペムブロリズマブの安全性と有効性が、実臨床において確認された」と結論付けている。

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スポーツで心臓突然死が起こりやすいのはサッカー

 心臓の病=高齢者のイメージが強いが、心臓突然死に限って言えば若年者も他人ごとではない。心臓突然死では年間約6~8万人が亡くなっており、その発生件数は年齢とともに増加する。ところが、スポーツ関連の突然死の場合は若年層に多く、18歳以下の突然死の約4割はスポーツ関連であるという。ではどんなスポーツで発生しやすいのだろうか。そしてその予防対策や心掛けておくべきことはなんだろうか-。今回、8月10日健康ハートの日を前に行われた第4回健康ハート・シンポジウムにおいて、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の医学委員を務める林 英守氏(順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学 准教授)が『サッカー×ハート ~今、私たちにできることは?~』と題し、発症リスクの高いスポーツ、試合前の体調管理方法について解説した。心臓突然死の多いスポーツ種目は運動強度が高いサッカー 前述にも示したとおり、18歳以下の突然死には運動が大きくかかわっている。0~18歳でも年齢が上がるほど発生率は高くなるが、「これは部活動での運動強度の変化に伴い、運動中の突然死の発生が増加するため」と林氏はコメント。とくに心臓突然死の発症が高いスポーツとしてサッカーを示した1)。これは運動強度の高さが原因にほかならず、体操や陸上、水泳など上位に連なるスポーツと発生率を比較してもその差は歴然としている。 しかし、同氏は「心臓に異常がない突然死はまれ。若年者の突然死の原因疾患には先天性の肥大型心筋症や拡張型心筋症、冠動脈奇形、遺伝性不整脈疾患などが背景にある」とコメントし、実際の若年スポーツ選手の原因疾患を列挙した。有病割合が高かった疾患として「冠動脈異常(有病割合は1:100)、大動脈二尖弁(1:100)、肥大型心筋症(1:500)、wolff-Parkinson-White症候群(1:750)」2)などがある。一方で、試合前に見つけることができない心臓突然死リスク因子として心臓震盪を挙げた。これはボールや手足が胸壁に強く当たるような競技者間の接触が多いスポーツで発生しやすく、「硬式野球や空手、フットサル、ソフトボール、ホッケーなどで発生しやすい。実は心臓震盪による突然死は冠動脈異常や肥大型心筋症に続いて多い」と警鐘を鳴らした。ここで同氏は「心臓震盪は心室細動が発生して死に至るが、すぐに自動体外式除細動器(AED)を利用すれば救命率は上がる」とAEDの有用性を強調した。スポーツ関連の心臓突然死がきっかけでAEDが普及 AEDは今でこそ街中やマンションなどに設置され、アミューズメントパークの地図にも設置場所が記載されるまでに普及している。しかし、ここに至るには2002年に高円宮憲仁親王がスカッシュの練習中に心室細動による心不全で薨去されたことなどが問題提起され、その結果として、2004年に一般人によるAEDの使用が認められるようになったのである。それから時を経て2011年、今度はサッカーの元日本代表選手であった松田 直樹選手がチームの練習中に倒れ、帰らぬ人になった。このような衝撃的なニュースが世間を震わせ、AEDの設置のみならず、使い方講習会などの普及にもつながっていった。世界に目を向けると、2021年に海外サッカーのクリスティアン・エリクセン選手が試合中に倒れたが、AEDにより救命され、今では皮下植込み型除細動器(S-ICD)を入れて試合復帰できるまでに至っている。 このように練習中のみならず試合本番中にも心臓突然死は生じる可能性があることから、「日本サッカー協会は心血管疾患を考慮したメディカルチェックのプロトコールを作成し、選手のみならず審判にも報告を課して競技スポーツへの参加可否を判断している」と同氏は説明。実際にイタリアでは競技前のメディカルチェックを導入したところ、25年間でアスリートの突然死が90%減少したことも報告3)されている。現在、国内で使用しているプロトコールでは自覚症状、経過、家族歴、身体所見など心血管疾患のメディカルチェックに必要な14項目を実施し、そのほかに血液検査・採尿検査・レントゲン・心電図(毎年)、心臓超音波検査(5年ごと)を行っている。「陽性所見があれば、スポーツドクターが確認し、追加診察や検査(心臓CTなど)が実施・判断される」と説明した。10代のスポーツは心臓突然死だけなく熱中症にも注意 最後に同氏は「スポーツ現場における心臓突然死をゼロに、そのためには救命の3要件[1:倒れる瞬間を目撃、2:そばに救助者、3:そばにAED]が揃えば救える可能性が高くなる」と述べ、「10代は心臓突然死もさることながら、夏場の高温多湿の環境下では、熱中症にも注意しなければならない。重篤な熱中症では意識障害を引き起こし、死に至るケースもあるため、暑さ指数(WBGT)を目安に運動強度を調整し、場合によっては中止を決定するように心掛けてほしい」と締めくくった。 このほか、AED関連の講演では、三田村 秀雄氏(公益財団法人 日本AED財団 理事長)が市民とAEDのつながりについて講演し、スマートフォンアプリ『救命サポーター team ASUKA』や中学生がAEDで先生を救った実例などを紹介した。――― 8月10日が810(ハート)と読めることから、1985年にこの日を「健康ハートの日」とすることを日本心臓財団が提唱した。2020年に日本心臓財団は設立50周年を迎え、それを記念して健康ハート・シンポジウムがスタート。第4回を迎える今回は、新たに日本AED財団を迎え、循環器病予防啓発の新たなキックオフとして4団体合同(日本心臓財団、日本循環器協会、日本循環器学会、日本AED財団)で開催された。

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スパイロメトリー正常の喫煙者、症状有無で呼吸器機能の経過に違いは?/JAMA

 症候性のタバコ曝露あり・スパイロメトリー正常(tobacco exposure and preserved spirometry:TEPS)者は、無症候性TEPS者と比べて、FEV1低下速度や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)発生率に有意差はみられないことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のWilliam McKleroy氏らによる多施設共同長期観察試験「SPIROMICS II試験」で示された。一方で、症候性TEPS者は追跡期間中央値5.8年の間に、呼吸器症状が増悪した被験者が有意に多かったという。喫煙者はスパイロメトリー正常でも呼吸器症状を有することがあるが、これらの人々は通常、COPD治験では除外され、エビデンスベースの治療が欠落している。研究グループは、無症候性TEPSと症候性TEPSの自然経過を明らかにする検討を行った。JAMA誌2023年8月1日号掲載の報告。FEV1低下速度、COPD発症率、呼吸器増悪の頻度などを比較 SPIROMICS II試験はSPIROMICS I試験の拡張版で、COPDの有無を問わず40~80歳の喫煙者(20pack-years超)と、その対照群としてタバコ曝露や気流制限のない人を対象とした。被験者はSPIROMICS I・II試験に2010年11月10日~2015年7月31日に登録され、2021年7月31日まで追跡を受けた。 SPIROMICS I試験の被験者は3~4年間、毎年の受診時に、スパイロメトリー、6分間歩行テスト、呼吸器症状の評価、胸部CTを受けた。SPIROMICS II試験の参加者は、SPIROMICS I試験登録後5~7年に、追加で1回の対面受診を受けた。呼吸器症状はCOPDアセスメントテスト(スコア範囲:0~40、高スコアほど重度)で評価した。 症候性TEPS患者は、スパイロメトリー正常(気管支拡張後のFEV1と努力肺活量の比が>0.70)で、COPDアセスメントテストのスコアは10以上だった。無症候性TEPS患者は、スパイロメトリー正常でCOPDアセスメントテストのスコアは10未満だった。呼吸器症状とその増悪に関する自己報告は、4ヵ月ごとに電話で評価した。 主要アウトカムは、症候性TEPS患者の、無症候性TEPSと比較したFEV1の加速度的低下だった。副次アウトカムは、スパイロメトリーで定義したCOPDの発症、呼吸器症状、呼吸器増悪の頻度、CTに基づく気道壁肥厚や肺気腫の進行などだった。COPD累積発生率、両群ともに32~33%と同等 被験者数は1,397例で、うち226例が症候性TEPS(平均年齢60.1[SD 9.8]歳、女性59%)、269例が無症候性TEPS(63.1[9.1]歳、50%)だった。 追跡期間中央値5.76年時点で、症候性TEPS群のFEV1低下は-31.3mL/年、無症候性TEPS群は-38.8 mL/年だった(群間差:-7.5 mL/年、95%信頼区間[CI]:-16.6~1.6mL/年)。 COPD累積発生率は、症候性TEPS群33.0%、無症候性TEPS群31.6%だった(ハザード比[HR]:1.05、95%CI:0.76~1.46)。症候性TEPS群は無症候性TEPS群に比べ、呼吸器症状増悪の頻度は有意に高率だった(それぞれ、0.23件/人・年、0.08件/人・年、率比:2.38、95%CI:1.71~3.31、p<0.001)。

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バイアスドリガンドorforglipronは2型糖尿病・肥満症治療のgame changerになり得るか?(解説:住谷哲氏)

 GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病患者に対する血糖降下作用、体重減少作用および臓器保護作用が明らかにされている。さらに肥満症治療薬としてセマグルチド(ウゴービ)が製造承認されて現在薬価収載待ちの状況である。GLP-1受容体作動薬は有用な薬剤であるが注射薬のバリアはなかなか手ごわく、必要な患者に導入できないことが少なくない。そこで登場したのが経口セマグルチド(リベルサス)であったが、早朝空腹時に120mL以下の水で服用してその後30分は飲食不可、となっているので注射薬ほどではないが服薬アドヒアランスを維持するのが難しい。orforglipronは1日1回服用の非ペプチド性GLP-1受容体作動薬であり、本試験は糖尿病を合併しない肥満患者に対するorforglipronの体重減少作用を主要評価項目とした第II相臨床試験である。orforglipronの2型糖尿病患者に対する血糖降下作用を主要評価項目とした第II相臨床試験の結果は、ほぼ同時にLancetに掲載された1)。両試験の結果をみると、orforglipronの体重減少作用および血糖降下作用はきわめて有効であった。 本論文をみたときに経口セマグルチドと同様の薬剤かと思っていたが、筆者の勉強不足であった。医薬品は大きく分けると低分子医薬品(分子量<500)、高分子医薬品(分子量>10,000~15,000)と、その中間の中分子医薬品とになる。orforglipronは、もともと中外製薬で中分子医薬品として創薬されたOWL833(分子量883)が、2018年にEli Lillyに導出されて臨床開発が継続されてきた歴史がある。中分子医薬品は、タンパク質間相互作用(protein-protein interaction)を修飾することによる細胞内シグナル伝達調節作用が期待されており、世界中の製薬企業が開発に注力している。 GLP-1受容体はG蛋白質共役受容体(G-protein coupled receptor:GPCR)に分類される(ちなみにGIPおよびグルカゴン受容体もGPCRに分類される)。GLP-1はGLP-1受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達するが、そのシグナルにはGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン(arrestin)依存的シグナルとがある。前者はcAMPなどのセカンドメッセンジャーを介して細胞内Ca濃度を上昇させることでGLP-1作用を発揮する。後者は従来GLP-1受容体の脱感作を誘導すると考えられてきたが、近年その他の多様な細胞内シグナル伝達を担っていることが明らかになりつつある。orforglipronはGLP-1受容体に結合してGタンパク質依存的シグナルのみを活性化しβアレスチン依存的シグナルを活性化しないことが報告されている2)。このようにGPCRを介したGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン依存的シグナルとを選択的に活性化させる分子をバイアスドリガンド(biased ligand)という3)。つまりorforglipronは、これまでのGLP-1受容体作動薬とは異なるまったく新しい作用機序を有する薬剤であり、2型糖尿病・肥満症治療における画期的な新薬となる可能性がある。 すでにEli Lillyは第III相臨床開発プログラムであるACHIEVE(対象は2型糖尿病)およびATTAIN(対象は肥満症)を開始することを発表しており、数年後には2型糖尿病・肥満症治療に新たな展開が期待される。

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心不全患者と漢方薬の意外な親和性【心不全診療Up to Date】第11回

第11回 心不全患者と漢方薬の意外な親和性Key Points西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦い意外とある! 今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンスその1 西洋薬のみでは困ることが多い心不全周辺症状との戦いわが国における心不全患者数は増加の一途を辿っており、とくに高齢心不全患者の増加が著しいことは言わずもがなであろう。そして、その多くが、高血圧や心房細動、貧血、鉄欠乏といった併存症を複数有することも明らかとなっている。つまり、高齢心不全診療はMultimorbidity(多疾患併存)時代に突入しており、単に心臓だけを診ていてもうまくいかないことが少なくない1)。日本心不全学会ガイドライン委員会による『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』では、「生命予後延長を目的とした薬物治療より生活の質(QOL)の改善を優先するべき場合が少なくない」とされており、高齢心不全ではとくに「QOLをいかに改善できるか」も重要なテーマとなっている。では、その高齢心不全患者において、QOLを低下させている原因は何であろうか。もちろん心不全による息切れなどの症状もあるが、それ以外にも、筋力低下、食思不振、倦怠感、不安、便秘など実に多くの心不全周辺症状もQOLを低下させる大きな原因となっている。しかしながら、これらの症状に対して、いわゆる“西洋薬”のみでは対処に困ることも少なくない。そこで、覚えておいて損がないのが、漢方薬である。漢方薬と聞くと、『the職人技』というようなイメージをお持ちの方もおられると思うが、実は先人の知恵が集結した未来に残すべき気軽に処方できる漢方薬も意外と多く、ここではわかりやすく簡略化した概念を少しだけ説明する。漢方の概念は単純な三大法則から成り立っており、人間の身体活動を行うものを気、血、水(津液)、精とし、これらが体内のさまざまな部分にあり、そしてそれが体内を巡ることで、生理活動を行うと考えられている。それぞれが何を意味するかについては図1をご覧いただきたい。(図1)画像を拡大するでは、どのように病気が起こり、どのようにそれを治療すると先人が考えたか、それを単純にまとめたものが図2である。(図2)画像を拡大するこのように、気・血・水のバランスが崩れると病気になると考えられ、心不全患者に多いとされているのが、気虚、血虚、瘀血、水毒(水滞)であり、その定義を簡単な現代用語で図3にまとめた。(図3)画像を拡大するそう、この図を見ると、心不全患者には、浮腫を起こす水毒だけでなく、倦怠感を引き起こす気虚、便秘を引き起こす瘀血など、心不全周辺症状にいかに対処するかについて、漢方の世界では昔からおのずと考えられていたのではないかと個人的には思うわけである。では、具体的に今日から役立つ漢方処方には何があるか、説明していきたい。その2 意外とある!今日からの心不全診療に活かせる漢方薬とそのエビデンス今日からの心不全診療に活かせる漢方薬、それをまとめたものが、図4である2)。(図4)画像を拡大するまずは即効性のある処方から説明していこう。漢方といえばすぐには効かないという印象があるかもしれないが、実は即効性のある処方も多くある。たとえば、高齢者の便秘に対してよく用いられる麻子仁丸がそれに当たる。また効果のある患者(レスポンダー)の割合も多く、高齢のATTR心アミロイドーシス患者の難治性便秘に対して有効で即効性があったという報告もある3)。なお、心不全患者でもよく経験するこむら返りに対して芍薬甘草湯が有名であるが、この処方には甘草が多く含まれており、定期内服には向かず、繰り返す場合は、効果の面からも疎経活血湯がお薦めである(眠前1~2包)4)。また、心不全患者のサルコペニア、身体的フレイルに対しては、牛車腎気丸、人参養栄湯が有効な場面があり、たとえば人参養栄湯については、高齢者に対する握力や骨格筋への良い影響があったという報告もある5)。心不全患者の食思不振、倦怠感に対しては、グレリン(食欲亢進ホルモン)の分泌抑制阻害作用が報告されている六君子湯6)、補中益気湯、人参養栄湯が、そして不安、抑うつ、不眠などの精神的フレイルに対しては、帰脾湯、加味帰脾湯がまず選択されることが多い。これらの処方における基礎研究なども実は数多くあり、詳細は参考文献2を参照にされたい。そして、心不全患者で最も多い症状がうっ血であり、それに対しても漢方薬が意外と役立つことがある。うっ血改善のためにはループ利尿薬をまず用いるが、慢性的に使用することで、RAAS系や交感神経系の亢進を来し、腎機能障害、電解質異常、脱水などの副作用もよく経験する。そんな利尿薬のデメリットを補完するものとして漢方薬の可能性が最近注目されている。うっ血改善目的によく使用する漢方は図4の通りであるが、今回は研究面でもデータの多い五苓散を取り上げる。五苓散の歴史は古く、約1,800年前に成立した漢方の古典にも記載されている薬剤で、水の偏りを正す水分バランス調整薬として経験的に使用されてきた。五苓散のユニークな特徴としては、全身が浮腫傾向にあるときは尿量を増加させるが、脱水状態では尿量に影響を与えないとされているため7)、心不全入院だけでなく、高齢心不全患者でときどき経験する脱水による入院、腎機能障害などが軽減できる可能性が示唆され、その結果として医療費の軽減効果も期待される。五苓散は、脳外科領域で慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術による血腫除去後の血腫再発予防を目的として、経験的に使用されることも多い。そのDPCデータベースを用いた研究において入院医療費を比較した結果、五苓散投与群のほうが非投与群と比較して有意に低かったという報告がある8)。五苓散の心不全患者への実臨床での有用性についても、症例報告、ケースシリーズ、症例対照研究などによる報告がいくつかある2)。これらの結果から、心不全患者において五苓散が有用な症例が存在することは経験的にわかっているが、西洋薬のように大規模RCTで検証されたことはなく、そもそも漢方エキス製剤の有用性を検証した大規模RCTは過去に一度も実施されていない。そこへ一石を投じる試験、GOREISAN-HF trialが現在わが国で進行中であり、最後に紹介したい。この試験は、うっ血性心不全患者を対象とし、従来治療に五苓散を追加する新たなうっ血戦略の効果を検証する大規模RCTである9)。目標症例数は2,000例以上で、現在全国71施設にて進行中であり、この研究から多くの知見が得られるものと期待される。循環器領域は、あらゆる領域の中でとくにエビデンスが豊富で、根拠に基づいた診療を実践している領域である。今後は、最新の人工知能技術なども駆使しながら、さらに研究が進み、西洋医学、東洋医学のいいとこ取りをして、患者さんのQOLがより向上することを切に願う。1)Forman DE, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:2149-2161.2)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.3)Imamura T, et al. J Cardiol Cases. 2022;25:34-36.4)土倉 潤一郎ほか. 再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日本東洋医学雑誌. 2017;68:40-46.5)Sakisaka N, et al. Front Nutr. 2018;5:73.6)Takeda H, et al. Gastroenterology. 2008;134:2004-2013.7)Ohnishi N, et al. Journal of Traditional Medicines. 2000;17:131-136.8)Yasunaga H, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:817616.9)Yaku H, et al. Am Heart J. 2023;260:18-25.参考1)Kracie:漢方セラピー2)TSUMURA MEDICAL SITE 「心不全と栄養~体に優しく、バランスを整える~」

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