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ようこそ! 産業医の奥深き世界へ【実践!産業医のしごと】

ビジネスパーソンの健康を支える存在、それが産業医です。普段の診察室とは一線を画し、企業の現場で働く産業医にフォーカスした連載がスタートします。すでに産業医としてご活躍の方、これから産業医を目指す方へ向けて、「産業医の奥深き世界」や魅力的な産業医の働き方について、実際に現場で遭遇するエピソードを交えながらお伝えします。また、産業医の基本や実務として求められるスキルだけではなく、なかなか聞けない産業医の本音や気になる報酬の裏側にも迫ります。本連載では、読むことで産業医の理解を深められる内容を、楽しく真面目にお届けします!この連載では、以下の5つのカテゴリーに大きく分けて情報を発信していきます。1. 基本編/産業医のなり方、仕事の獲得法、面接のコツ…産業医を始めるためには、押さえておかなければならない「基本」があります。基本編では、臨床医との違いや産業医としてのスタンスについて、また初回の企業訪問をどう乗り切ればよいのかなどについて解説します。さらに「1社目の壁」といわれる、初めての産業医契約を獲得するためのノウハウや、企業が産業医に何を期待しているのか、採用面接での受け答えのコツなども解説します。2. 「企業・人事との付き合い方」編/トラブル回避法、心構え・スタンス…臨床医は患者と医師というシンプルな関係ですが、産業医は従業員やその上司、人事担当者など、複数のステークホルダーと関わることになります。独立性や中立性が重要だとされる産業医ですが、実際に産業医を始めてみると、どのようなスタンスで企業や人事との距離を保つべきか悩まれる方も多いでしょう。近年は、産業医が裁判で訴えられるような例もあり、関わり方を間違えると、会社や従業員のトラブルに巻き込まれかねません。このカテゴリーでは、産業医としての心構えやスタンスについて解説します。また、産業医の役割とは何か、企業が産業医に何を求めているのかなど、産業医に期待されることを整理します。3. 実務編/メンタルヘルス不調者への対応、健康診断の分析、職場巡視…企業にとって産業医は、予防活動を通じて組織の健康リスクを低減してくれる頼もしい存在です。しかし、その業務は複雑で、メンタルヘルス不調者への対応から健康診断の分析、職場巡視や安全衛生委員会の出席、就業上の措置から健康経営のアドバイスまで、多岐にわたります。また有害業務のある職場では、普段の医療とはかけ離れたことでも産業医の意見が求められる場合があります。産業医としてコミットできる時間が限られる中で結果を残すためには、各テーマに対して押さえておかなければならないポイントがあります。実務に即した面からの要点を解説していきますので、産業医としての活動を始めるにあたって、ぜひ読んでいただきたいカテゴリーです。4. 事例編/よくあるケースに対応する思考法、スキルアップ術…産業医としてよく遭遇する「困った事例」をテーマに、実際の事例解決のプロセスを論じていきます。産業医に求められる大事なスキルの1つに、「職場の課題を解決へつなげられる力」があります。たとえば、メンタルヘルス不調に関する事例では、対応だけでなく、職場における健康問題への具体的な提案や、効果的な健康プログラムの立案・実施の検討なども、産業医としての活動の中で必要となる場面が必ずあるでしょう。産業医として取り組むべき課題の解決に向けた思考法も含めて、産業医としてのスキルアップに役立つ内容を掘り下げてお届けします。5. 特別編/法人の設立法、専属と嘱託、気になる報酬…産業医と臨床医は、働き方が大きく違います。たとえば、臨床医のアルバイトは給与として支払われますが、産業医ではマイクロ法人を設立し、顧客と契約することも一般的です。産業医として法人を設立する方法や契約書の作成方法などは、教科書を探しても知ることがない情報でしょう。ほかにも、専属産業医と嘱託産業医の違いは何なのか、産業医の報酬相場はどの程度なのかなど、産業医の研修会などでもなかなか知り得ない話もお届けしたいと思います。また、産業医は医局のような指導体制がないことから、キャリアパスのつくり方や困ったことを聞けるネットワークづくりも重要です。この特別編の中では、教科書を探しても書かれていない、しかし産業医として活動するうえで知っておくと得する情報をお届けします。産業医は企業の成長と社員の健康に欠かせない存在です。具体的に知られていない産業医の仕事を知れば、あなたもその仲間入りをしたくなるはず! この連載が、皆さまの産業医としてのスキルアップに少しでも役立てば幸いです。魅力的で実践的な内容をお届けするために、全力で取り組んでいきます。次回にまたお会いしましょう。

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HER3-DXd、EGFR-TKIおよび化療耐性のEGFR陽性NSCLCに良好な抗腫瘍活性(HERTHENA-Lung01)/WCLC2023

 抗HER3抗体薬物複合体patritumab deruxtecan(HER3-DXd)のEGFR-TKI、プラチナ化学療法耐性のEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する有効性が発表された。 EGFR‐TKIはEGFR変異のある進行期NSCLCの標準治療であるが、最終的に耐性が発現する。EGFR‐TKI耐性後はプラチナベースの化学療法が用いられるが、その効果は限定的である。 HER3を標的とした抗体薬物複合体(ADC)であるHER3-DXdは、第I相結果でEGFR‐TKIに対する多様な耐性機構を持つEGFR変異陽性NSCLCにおいて、管理可能な安全性と抗腫瘍活性が示されている。 世界肺学会(WCLC2023)では、EGFR‐TKI療法およびプラチナ化学療法後のEGFR変異陽性NSCLC患者に対する、HER3-DXdの第II相HERTHENA-Lung01試験の結果を、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのHelena A. Yu氏が発表した。対象:既治療の進行期EGFR変異陽性NSCLC患者(無症状の脳転移患者も含む)介入:HER3-DXd固定用量(5.6mg/kg)3週ごと(226例)、HER3-DXd用量漸増3週ごと(51例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による確定奏効率(confirmed ORR)[副次評価項目]BICRによる奏効期間(DOR)今回の発表は、固定用量群の有効性と安全性である。 主な結果は以下のとおり。・有効性追跡期間中央値は18.9ヵ月、安全性解析対象集団の治療期間中央値は5.5ヵ月であった。・ベースラインで、脳転移例32%、肝転移例33%が含まれた。・前治療歴(ライン数)は2ラインが26%、2ライン超が73%であった。・confirmed ORRは、全症例で29.8%、第3世代EGFR-TKI耐性例で29.2%、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ73.8%と72.7%であった。・DOR中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに6.4ヵ月であった。・PFS中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに5.5ヵ月であった。・OS中央値は、全症例、第3世代EGFR-TKI耐性例ともに11.9ヵ月であった。・頭蓋内confirmed ORRは33.3%、DCRは76.7%であった。・治療下で発現した有害事象(TEAE)の発現は全Gradeで99.6%(治療中断7.1%、減量21.3%)、Grade3以上は64.9%であった。頻度の高いTEAEは悪心(66%)、血小板減少(44%)、食欲不振(42%)などであった。・治療関連ILDの発現は5.3%であった。 Yu氏らは、HER3-DXdはEGFR‐TKIおよびプラチナベース化学療法で進行したEGFR変異NSCLC患者にとって有望な治療法であると結論付けた。

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豆乳の摂取と認知症リスク低下との関連が認められた

 これまでの研究において、ミルク(milk)の摂取は認知機能低下を予防可能であるかが調査されてきた。しかし、その結果は一貫していない。その理由として、これまで研究の多くは、ミルクそれぞれの役割を無視していることが重要なポイントであると考えられる。そこで、中国・中山大学のZhenhong Deng氏らは、各種ミルクの摂取と認知症リスクとの関連を調査した。その結果、豆乳(soy milk)の摂取と認知症(とくに非血管性認知症)リスク低下との関連が認められた。Clinical Nutrition誌2023年8月30日号の報告。豆乳摂取者はすべての原因による認知症リスクが低かった 英国バイオバンクのデータベースより、ベースライン時に認知機能低下が認められなかった参加者を対象に大規模コホート研究を実施した。ミルクの主な種類(全乳、無脂肪牛乳、豆乳、その他の牛乳、ミルク摂取なし)は、ベースライン時に自己報告により収集した。主要アウトカムはすべての原因による認知症とした。アルツハイマー病および血管性認知症を副次的アウトカムに含めた。 豆乳ほか各種ミルクの摂取と認知症リスクとの関連を調査した主な結果は以下のとおり。・参加者30万7,271人(平均年齢:56.3±8.1歳)のうち、フォローアップ期間中(中央値:12.3年)にすべての原因による認知症を発症した人は、3,789人(1.2%)であった。・潜在的な交絡因子で調整した後、ミルク摂取なしの人と比較し、豆乳摂取者のみにおいて、すべての原因による認知症リスクの有意な低下が認められた(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.54~0.90)。・豆乳の非摂取者(全乳、無脂肪牛乳、その他の牛乳)と比較した場合でも、豆乳摂取者は、すべての原因による認知症リスクが低かった(HR:0.76、95%CI:0.63~0.92)。なお、認知症の遺伝的リスクとの相互作用は認められなかった(p for interaction=0.15)・豆乳摂取者は、アルツハイマー病リスクが低かったが(HR:0.70、95%CI:0.51~0.94、p=0.02)、血管性認知症リスクとの有意な関連は認められなかった(HR:0.72、95%CI:0.47~1.12、p=0.14)。・豆乳の摂取量や頻度との関連性を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる。

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新型コロナBA.2.86「ピロラ」、きわめて高い免疫回避能/東大医科研

 2023年9月時点、新型コロナウイルスの変異株は、オミクロン株XBB系統のEG.5.1が世界的に優勢となっている。それと並行して、XBB系統とは異なり、BA.2の子孫株のBA.2.86(通称:ピロラ)が8月中旬に世界の複数の地域で検出され、9月下旬時点で、主に南アフリカにおいて拡大し、英国やヨーロッパでも広がりつつある。ピロラは、BA.2と比較して、スパイクタンパク質に30ヵ所以上の変異が認められる。世界保健機構(WHO)は、ピロラを「監視下の変異株(VUM)」に指定した。東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らの研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」は、ピロラの流行拡大のリスク、ワクチンやモノクローナル抗体薬の効果を検証し、その結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年9月18日号に掲載された。ピロラは最も中和抗体に対する抵抗性を高めた変異株の1つ 本研究では、デンマークにおける2023年9月4日までのウイルスゲノム疫学調査情報が用いられた。同国ではEG.5.1を含む複数のXBB亜型が共存し、ピロラも複数検出されている。本疫学データを基に、ヒト集団内におけるピロラの実効再生産数を推定した。実効再生産数は、特定の状況下において、1人の感染者が生み出す2次感染者数の平均で、本研究では変異株間の流行拡大能力の比較の指標として用いた。 未感染のワクチン接種者におけるウイルスの中和抗体回避能を評価するために、新型コロナワクチンを接種した人の血清(起源株対応1価ワクチン×3回/起源株対応1価ワクチン×4回/BA.1対応2価ワクチン追加接種/BA.4-5対応2価ワクチン追加接種)を用いて中和アッセイを行った。同じく、ブレークスルー感染者におけるウイルスの中和抗体回避能を評価するために、ワクチンを2回接種し2週間以上経過してXBBに感染した人の血清(XBBブレークスルー感染血清)を用いた。また、4種のモノクローナル抗体薬(ベブテロビマブ、ソトロビマブ、シルガビマブ、チキサゲビマブ)の効果を検証した。 ピロラの流行拡大のリスク、ワクチンやモノクローナル抗体薬の効果を検証した主な結果は以下のとおり。・ピロラの有効再生産数は、XBB.1.5よりも1.29倍高かった(95%ベイズ信頼区間[BCI]:1.17~1.47)。なお、利用可能なBA.2.86配列の数が少ないため、この推定にはかなりの不確実性があった。・ピロラの有効再生産数がEG.5.1の有効再生産数を上回る推定事後確率は0.901であり、今後ピロラが流行株の1つになる可能性が示された。・ピロラは、起源株、BA.1対応2価、BA.4-5対応2価のいずれのワクチン接種によって誘導される中和抗体に対してもきわめて強い抵抗性を示し、ワクチンの効果はほとんど認められなかった。抵抗性の強さはEG.5.1と同程度だった。・XBBブレークスルー感染血清を用いた中和アッセイでは、ピロラに対する50%中和力価は、EG.5.1に対するものよりも有意に(1.6倍)低かった。・ピロラの祖先株であるBA.2に対して中和活性が認められる4種類の抗体薬(ベブテロビマブ、ソトロビマブ、シルガビマブ、チキサゲビマブ)は、ピロラに対していずれも中和活性が認められなかった。 ピロラはこれまでの変異株の中で最も中和抗体に対する抵抗性を高めた変異株の1つであることが明らかになった。研究グループは本結果について、今後全世界に拡大していくことが懸念されており、さらに現状の抗体薬による感染防御の有効性も低いことが予想されるため、有効な感染対策を講じることが肝要だと述べている。

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緊急虫垂切除の穿孔・合併症リスク、8h vs.24h/Lancet

 虫垂炎の標準治療は虫垂切除術とされ、院内での待機時間が長くなるほど穿孔や合併症のリスクが高まると考えられている。フィンランド・ヘルシンキ大学のKaroliina Jalava氏らは「PERFECT試験」において、急性単純性虫垂炎が疑われる患者では、8時間以内の虫垂切除術と比較して24時間以内の虫垂切除術は、虫垂穿孔のリスクが高くなく、術後の合併症の発生率も増加しないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月14日号に掲載された。フィンランドとノルウェーの非劣性試験 PERFECT試験は、フィンランドの2つの病院とノルウェーの1つの病院で実施された非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年5月~2022年12月に参加者の適格性の評価を行った(Finnish Medical Foundationなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性虫垂炎と診断され、緊急虫垂切除術が予定されている患者であった。複雑性虫垂炎を除外するために、症状が3日以上持続している患者では画像診断が推奨された。 被験者を、8時間以内または24時間以内に虫垂切除術を施行する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、手術中に診断された穿孔性虫垂炎(米国外傷外科学会[AAST]のグレード3~5)とし、intention to treat解析を行った。非劣性マージンは5%であった。 1,803例を解析に含めた。8時間以内群に907例(年齢中央値35歳[四分位範囲[IQR]:28~46]、男性57%)、24時間以内群に896例(35歳[28~47]、53%)を割り付けた。手術部位感染の頻度も同程度 無作為化から手術開始までの時間中央値は、8時間以内群が6時間(IQR:3~10)、24時間以内群が14時間(8~20)(群間差8時間)で、入院期間も8時間以内群で8時間短かった。24時間以内群の24%が8時間以内に手術を受けた。待機時間中に、8時間以内群の51%、24時間以内群の48%が抗菌薬の投与を受けた。 穿孔性虫垂炎は、8時間以内群の8%(77/907例)、24時間以内群の9%(81/896例)で発生し(絶対群間リスク差:0.6%、95%信頼区間[CI]:-2.1~3.2、p=0.68、リスク比:1.065、95%CI :0.790~1.435)、24時間以内群の8時間以内群に対する非劣性が示された。 30日以内の合併症の発生率(8時間以内群7%[66/907例]vs.24時間以内群6%[56/896例]、群間差:-1.0%、95%CI:-3.3~1.3、p=0.39)には有意な差はなく、手術部位感染(3%[24例]vs.2%[22例]、-0.2%、-1.6~1.3、p=0.80)の頻度も両群で同程度だった。手術部位感染による経皮的ドレナージまたは再手術は、それぞれ1%(6例)、1%(8例)で要した。追跡期間中に死亡例はなかった。 著者は、「これらの知見により、虫垂切除術のスケジューリングが容易になる可能性がある。また、たとえば、虫垂切除術を夜間から日中に延期することで、他の緊急手術のための医療資源の確保につながるだろう」としている。

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小児低悪性度神経膠腫の1次治療、ダブラフェニブ+トラメチニブが有効か/NEJM

 BRAF V600変異陽性の小児低悪性度神経膠腫患者の1次治療において、標準化学療法と比較してダブラフェニブ(BRAF V600変異を標的とする選択的阻害薬)とトラメチニブ(MEK1/2阻害薬)の併用は、奏効割合と無増悪生存期間(PFS)が有意に優れ、安全性プロファイルも良好であることが、カナダ・トロント大学のEric Bouffet氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年9月21日号で報告された。20ヵ国の無作為化第II相試験 本研究は、日本を含む20ヵ国58施設で実施された非盲検無作為化第II相試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に参加者の無作為化を行った(Novartisの助成を受けた)。 対象は、年齢1~17歳で、BRAF V600変異陽性の低悪性度神経膠腫と診断され、Response Assessment in Neuro-Oncology(RANO)の判定基準を用いた中央判定で測定可能病変を確認した未治療の患者であった。 これらの患者を、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法または標準化学療法(カルボプラチン+ビンクリスチン)を施行する群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、RANO判定基準による全奏効(完全奏効+部分奏効)であった。 110例を登録し、ダブラフェニブ+トラメチニブ群に73例(年齢中央値10歳[範囲:1~17]、男児40%)、化学療法群に37例(8歳[1~17]、41%)を割り付けた。早期のBRAF V600変異の分子検査が重要 追跡期間中央値18.9ヵ月の時点で、全奏効が得られた患者の割合は、化学療法群が11%(4/37例、完全奏効1例)であったのに対し、ダブラフェニブ+トラメチニブ群は47%(34/73例、完全奏効2例)と有意に優れた(リスク比:4.31、95%信頼区間[CI]:1.70~11.20、p<0.001)。 臨床的有用率(完全奏効+部分奏効+24週以上持続する安定)は、化学療法群の46%(17/37例)に比べ、ダブラフェニブ+トラメチニブ群は86%(63/73例)であり、有意に良好だった(リスク比:1.88、95%CI:1.30~2.70、p<0.001)。また、奏効期間中央値は、ダブラフェニブ+トラメチニブ群が20.3ヵ月(95%CI:12.0~評価不能[NE])、化学療法群はNE(6.6~NE)であった。 PFS中央値も、ダブラフェニブ+トラメチニブ群で有意に延長した(20.1ヵ月vs.7.4ヵ月、ハザード比[HR]:0.31、95%CI:0.17~0.55、p<0.001)。1年無増悪生存率は、ダブラフェニブ+トラメチニブ群が67%(95%CI:53~77)、化学療法群は26%(95%CI:10~46)だった。 Grade3以上の有害事象の発生率は、ダブラフェニブ+トラメチニブ群で低かった(47% vs.94%)。化学療法群に比べダブラフェニブ+トラメチニブ群で頻度の高かった有害事象として、発熱(68% vs.18%)、頭痛(47% vs.27%)がみられた。また、用量調節または投与中断の原因となった有害事象の頻度は両群で同程度だった(79% vs.79%)。 著者は、「全体として、これらの知見は、小児の低悪性度神経膠腫におけるBRAF V600 変異の有無を判定するための早期の分子検査の価値を示すものである」としている。

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第179回 レカネマブで治療可能な患者数、独自試算してみると…

ついに9月25日、アルツハイマー病(以下、AD)を適応症とする抗アミロイドβ抗体薬のレカネマブ(商品名:レケンビ)が承認された。ADを適応症とする薬剤が承認されたのは2011年以来、12年ぶりのことだ。ただ、何度かこちらで書いているように、この薬をどのように使っていくかは大きな課題である。すでに9月27日に開催された中央社会保険医療協議会では、この薬剤を巡る薬価算定の方針に関する議論が始まり、やや緊迫感が漂う情勢だ。一足先に承認されたアメリカでの年間薬剤費は約390万円(9月28日時点の為替レートによる)。ADは患者数だけで見れば、生活習慣病並みの非常に巨大な規模。一体、どれだけの患者が投与対象になるのだろう? ここで極めてざっくりとした数字を考えてみたいと思う。まず、ご存じのように、レカネマブは軽度認知障害(以下、MCI)、軽度ADといった早期のADが対象である。現・九州大学医学研究院 衛生・公衆衛生学分野教授の二宮 利治氏らが2014年に行った「厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によれば、各年齢層の認知症有病率が 2012 年以降も一定であると仮定した場合、ADの患者数は、2025年に466 万人と推計されている。もちろんこれには軽度から高度までのすべての重症度を含む。同研究の推計によると、2025年時点で軽度認知症が占める割合は全体の41%。これを機械的にADにも当てはめると、その患者数は191万人となる。認知症患者の受診率は約7割と言われているので、これまた機械的に当てはめると、軽度AD患者のうち134万人が受診していることになる。もっとも軽度の場合は「歳のせい」で片付けて受診していないケースもまだあると考えられ、実際の受診者はこれよりも少なくなるだろう。とりわけ独居の場合はこの傾向が強いと考えられる。ここでさらに軽度ADの独居高齢者は、症状に気付きにくく、ほぼ受診はしないという仮定を置く。2019年の国民生活基礎調査によると、高齢者世帯の独居率が49.5%であり、これを加味すると、軽度ADの受診者は67万人になる。では、このうちの一体どれだけの人がレカネマブの処方を望むだろうか? 日本での薬価決定はこれからだが、アメリカの薬価をベースに考えるならば、3割負担ならば月間約10万円、70~75歳の2割負担ならば約7万円、75歳以上の1割負担ならば約3万円。もっとも隔週で通院し、高額な薬剤費を払うという前提では、患者自身や家族も相当程度コストパフォーマンスを意識するだろう。まず、実際に処方を検討するのは70歳前後が中心と考えるのが妥当な線ではないだろうか。そこで、レカネマブの処方を検討する層の月当たりの自己負担額を2割7万円と仮定する。総務省統計局によると、高齢者の家計に占める平均の保健・医療支出割合は約6%。裏を返せば、医療などにかけるお金が6%程度に収まるならば、高齢者では家計がなんとか回せるとも言える。そうなると単純に月収100万円程度、すなわち年収1,200万円以上はないと、レカネマブには手が届かない。もっとも軽度AD患者で年収1,200万円も稼げる人はそうそういないはずだ。おそらくは最後に預貯金を崩す、子供が費用を肩代わりするとするのが現実ではないだろうか? 厚生労働省の国民生活基礎調査では、年収1,200万円以上の世帯は約7%であり、これを前述の67万人に適用すると4万7,000人にまで絞り込まれる。もっともこの数字は経済性の観点のみで、患者と家族にとって、思っている以上に負担が大きい「隔週通院」というファクターは織り込んでいない。さらにこの薬剤の場合、厚生労働省による「最適使用推進ガイドライン」が作成されることはほぼ必定。同ガイドラインでは、定性的な表現ながらも必ず施設基準が設定される。今回のレカネマブの場合、陽電子放出断層撮影(PET)とアミロイド関連画像異常(ARIA)をチェックするMRIの撮影と読影に熟達した施設であることが求められると予想する。そこで日本核医学会のPET 撮像施設認証を受けている施設を参照すると、28都道府県の70施設弱しかない。これらを総合した私なりのきわめて粗い試算をすれば、軽度AD患者(MCIは除く)のうち、直近でレカネマブの処方を受けられる候補対象は1~2万人程度。現実はどうなるか、2~3年後に答え合わせをしてみようと思う。

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世界中で大ヒット 実写版『ONE PIECE』【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第29回

私はドイツ語勉強のために、VPNに契約してドイツのNetflix番組を(たまに)視聴しております。VPNとはつまり仮想プライベートネットワークのことで、えーと、まあ、詳しいことはわからないです。とにかく、VPNに契約をしておくと、それを経由することで海外特有のサイトへ繋ぐことができます。具体的に言いますと、日本に居ると日本のNetflixしか視聴できないのですが、VPNを経由することでドイツのNetflixに接続することができるわけです。先日、Netflixで漫画『ONE PIECE』(著者:尾田 栄一郎/集英社、以下「ONE PIECE」)の実写版の配信が開始されましたが、配信したまさにその瞬間にドイツにおける視聴数ランキングで、ONE PIECEがNo.1になっていました。口コミで広まったなんてスピードではなく、明らかに「みんな待っていた」タイミングだったと思います。アニメ大好きロニーとの出会い日本のマンガ・アニメはドイツでも高い人気を誇っており、中でも『ドラゴンボール』(著者:鳥山 明/集英社)、『NARUTO -ナルト-』(著者:岸本 斉史/集英社)、『ONE PIECE』は、どんな田舎の本屋でも、必ず売っているくらいには有名です。ドイツで仲良しだったロニーです。ロニーとの出会いは、ドイツの中でもかなり田舎であるグライフスバルトで、道を歩いているときにいきなり声をかけられて、友達になりました。日本のアニメが大好きで、日本人の友人が欲しかったそうです。ロニーは、腕にONE PIECEのキャラクターのタトゥーを入れています。クオリティの低さにびっくりしました。「最初は自分で書いたの?」と思いました。しかし、もう彫っちゃった以上、後戻りできないことをディスるのはルール違反だろうと思い、「おー! すごくカッコいいね!」と嘘をついてしまいました。ちなみに彼の左腕には歪んだ顔のナルトと、腰にはひん曲がったかめはめ波を出す孫悟空が彫られていました。ロニー…なんて取り返しがつかないことをしちゃったんだ…。まあ、ダイエットして腰回りの肉が取れれば、かめはめ波くらいは真っ直ぐに直るかもしれないけど…。本人が気に入ってる以上、私が何かコメントするのは無粋だと思い、今もなお、タトゥーに対するコメントは差し控えさせてもらっています。そこにタトゥー入れるのか!久々にロニーにメールで「ONE PIECEがネトフリでトップだったね~」と送ってみたところ、「嬉しいからルフィのタトゥーを顔に作ろうと思っています」と日本語の返事が来ました。たぶん、彼の日本語はまだ十分ではなく、「きっと内容を間違えちゃったのだろう」と考えることにしました。「…ロニー、マジで顔だけはやめとけよ…」彫るなら、せめてもうちょっとクオリティの高いタトゥーにしろよ…。次に会うとき、ロニーの顔が今のままであることを祈ります。

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9月29日 世界心臓デー【今日は何の日?】

【9月29日 世界心臓デー】〔由来〕全世界で毎年1,750万人が心臓血管病を原因に亡くなっていることに鑑み、世界心臓連合が2000年より「世界ハートの日」を9月最終日曜日と定め、地球規模の心臓血管病予防キャンペーンを展開。その後、2011年から9月29日を「世界ハートの日」と制定し、この日を中心にフォーラムやイベントを各地で開催している。関連コンテンツ心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】知っておきたい循環器科で使うSGLT2阻害薬【診療よろず相談TV】心不全の入院後30日死亡率、国の経済レベルで3~5倍/JAMA冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会死亡・CVリスクを低下させる食事法は?40試験のメタ解析/BMJ

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労働者の不眠症に対し認知行動療法は有効か?~メタ解析

 不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は、第1選択の治療として推奨されているが、労働者の不眠症に対する有効性は、よくわかっていない。東京医科大学の高野 裕太氏らは、労働者の不眠症状のマネジメントにおけるCBT-Iの有効性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Sleep Medicine Reviews誌2023年10月号の報告。 3つの電子データベース(PubMed、PsycINFO、Embase)より文献検索を行った。 主な結果は以下のとおり。・21件の研究をメタ解析に含めた。・全体としてCBT-Iは、対照群と比較し、不眠症状の有意な改善が認められた。 ●不眠症重症度(g=-0.91) ●入眠潜時不眠症重症度(g=-0.62) ●中途覚醒不眠症重症度(g=-0.60) ●早朝覚醒不眠症重症度(g=-0.58) ●睡眠効率不眠症重症度(g=0.71)・対照群と比較し、総睡眠時間の改善は認められなかった。・CBT-Iは、対照群と比較し、うつ症状(g=-0.37)、不安症状(g=-0.35)、疲労(g=-0.47)の有意な軽減が認められた。 著者らは、「私たちの研究結果は、CBT-Iは、Webベースおよび対面のいずれにおいても日中労働者の不眠症状のマネジメントに効果的な介入であることが示唆しているが、臨床的に意味のある改善が認められたのは対面でのCBT-Iのみであることに注意することが重要である。なお、交代勤務の労働者に対するCBT-Iの有効性は、判断できなかった」としている。

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小細胞肺がん、アテゾリズマブ+化学療法の5年生存率(IMpower133/IMbrella A)

 進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)に対するアテゾリズマブ+化学療法の1次治療による5年生存率は12%であると示された。 世界肺学会(WCLC2023)で、米国・ジョージタウン大学のStephen V. Liu氏らが発表した、第III相IMpower133試験と第IV相IMbrella A試験の統合解析で明らかになった。小細胞肺がんに対する免疫治療の長期生存データが示されたのは初めて。 既報では、化学療法単独治療によるES-SCLCの5年全生存(OS)率は約2%、OS中央値は約12ヵ月である1)。 IMbrella A試験は、オープンラベル非無作為化多施設長期観察試験。対象は、IMpower133試験におけるアテリズマブ+化学療法(カルボプラチン+エトポシド)群の中で、アテゾリズマブ継続または生存追跡が行われていた患者18例。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は60.5歳、65歳未満が77.8%であった。・アテゾリズマブ+化学療法群の観察期間中央値は59.4ヵ月であった。・IMpower133試験におけるOS中央値は、アテゾリズマブ+化学療法群12.3ヵ月、化学療法群10.3ヵ月であった。・IMbrella A試験におけるアテゾリズマブ+化学療法群の3年OS率は16%、5年OS率は12%であった。・IMbrella A試験でみられた重篤な有害事象は3例で下痢、肺炎、気胸であった。注目すべき有害事象(AE of special interest)として、Grade2の甲状腺機能低下症が1例発現している。 発表者は、アテゾリズマブ+化学療法のES-SCLCに対する5年の持続的な生存ベネフィットが示された、と述べている。

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カボザンチニブ+アテゾリズマブ、去勢抵抗性前立腺がんのPFSを有意に改善/武田

 武田薬品工業は、既治療の転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対し、カボザンチニブ(商品名:カボメティクス)とアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)の併用療法を評価する第III相CONTACT-02試験において、同併用療法が主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示したと発表した。 CONTACT-02試験は、1種類の新規ホルモン療法による1回の前治療歴があるmCRPCを対象に、カボザンチニブとアテゾリズマブの併用投与を、2剤目の新規ホルモン療法(アビラテロン+プレドニゾンまたはエンザルタミド)と比較検討する国際共同臨床第III相ランダム化非盲検比較対照試験。主要評価項目はPFSおよびOSである。同試験の併用レジメンによる新たな安全性への懸念は特定されていない。

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緊急避妊薬レボノルゲストレル、ピロキシカム併用が有効/Lancet

 経口緊急避妊薬レボノルゲストレルはピロキシカムとの併用により妊娠阻止率が高まることが、中国・香港大学のRaymond Hang Wun Li氏らが実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、明らかとなった。緊急避妊の標準薬であるレボノルゲストレルは排卵後に服用しても効果がない。シクロオキシナーゼ(COX)阻害薬は、排卵、受精、卵管機能、胚着床などの生殖過程を促進するプロスタグランジンの産生に関与する主要な酵素であるCOXを阻害することから、経口緊急避妊薬との併用により相乗的に作用し、排卵および排卵後の過程の両方を調節する効果を向上させる可能性が示唆されていた。著者は、「レボノルゲストレルによる緊急避妊が選択される場合には、ピロキシカムの併用を臨床的に考慮してもよいだろう」とまとめている。Lancet誌2023年9月9日号掲載の報告。レボノルゲストレル+ピロキシカムまたはプラセボ併用を比較 研究グループは香港家族計画協会を訪れ、無防備な性交の72時間以内に緊急避妊を要した18歳以上の健康な女性を、レボノルゲストレル1.5mg+ピロキシカム40mg群(ピロキシカム併用群)またはレボノルゲストレル1.5mg+プラセボ群(プラセボ群)のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付けた。割り付けは10人単位のブロックランダム化法で行われ、すべての試験薬は不透明な封筒に入れ封をされており、参加した女性や医師などは全員盲検化された。 参加者には試験薬を試験担当看護師の目の前で1回服用してもらい、次の月経予定日の1~2週後に追跡調査を行った。それまでに正常な月経がなかった場合は、妊娠検査が行われた。 有効性の主要アウトカムは妊娠阻止率で、確立されたモデルに基づく推定予測妊娠数から観察された妊娠数を引いたものを推定予測妊娠数で除して算出した。ピロキシカム併用で妊娠阻止率が約1.5倍に 2018年8月20日~2020年8月30日に、860例(各群430例)が登録され、このうち試験薬が投与され追跡調査を完遂した836例(各群418例)が解析対象となった。 ピロキシカム併用群では418例中1例(0.2%)、プラセボ群では418例中7例(1.7%)で妊娠を認めた(オッズ比:0.20、95%信頼区間:0.02~0.91、p=0.036)。推定予測妊娠数はピロキシカム併用群19.0、プラセボ群19.1で、妊娠阻止率はそれぞれ94.7%、63.4%とピロキシカム併用群が有意に高かった(p<0.0001)。 次の月経開始日が予定日の±7日以上であった女性の割合は、ピロキシカム併用群25%、プラセボ群23%で差はなく、有害事象のプロファイルも両群で類似しており、発現率に有意差は認められなかった。

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フルチカゾン、コロナ軽~中等度の症状回復に効果なし/NEJM

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者をフルチカゾンフランカルボン酸エステル吸入薬で14日間治療しても、プラセボと比較して回復までの期間は短縮しないことが、無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV-6試験」の結果で示された。米国・ミネソタ大学のDavid R. Boulware氏らが報告した。軽症~中等症のCOVID-19外来患者において、症状消失までの期間短縮あるいは入院または死亡回避への吸入グルココルチコイドの有効性は不明であった。NEJM誌2023年9月21日号掲載の報告。持続的回復までの期間をフルチカゾンフランカルボン酸エステルvs.プラセボで評価 ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines)-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた分散型臨床試験で、2021年6月11日に参加者の募集を開始し現在も継続中である。 研究グループは、2021年8月6日~2022年2月9日に米国の91施設において、登録前10日以内に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確認され、7日以内にCOVID-19の症状を2つ以上認めた30歳以上の外来患者を登録し、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群(1日1回200μg 14日間吸入)またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、持続的回復までの期間とし、3日連続で症状がない場合の3日目と定義された。副次アウトカムは、28日目までの入院または死亡、28日目までの入院・救急外来(urgent care)受診・救急診療部(emergency department)受診・死亡の複合などであった。持続的回復までの期間に有意差なし 登録患者1,407例がフルチカゾンフランカルボン酸エステル群(715例)とプラセボ群(692例)に無作為化され、それぞれ656例および621例が解析対象集団となった。平均(±SD)年齢は47±12歳、39%が50歳以上で、女性63%、ワクチン2回以上接種65%、症状発現から試験薬投与までの期間の中央値は5日(四分位範囲[IQR]:4~7)であった。 持続的回復までの期間に、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群とプラセボ群の有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.01、95%信用区間[CrI]:0.91~1.12、有効性[HRが>1と定義]の事後確率0.56)。 入院・救急外来受診・救急診療部受診・死亡の複合イベントは、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群で24例(3.7%)、プラセボ群で13例(2.1%)に認められた(HR:1.9、95%CrI:0.8~3.5)。各群で3例入院したが、死亡例はなかった。 有害事象の発現率は、フルチカゾンフランカルボン酸エステル群2.0%(13/640例)、プラセボ群2.5%(16/605例)であり、両群とも低率であった。

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動かないと認知症になる?―人類史の視点から(解説:岡村毅氏)

 いわゆる「座位行動」の研究である。座位行動とは、座ることに代表されるエネルギー消費量が1.5メッツ以下の行動を指すもので、実際には座っているとは限らない。デスクに座ってコンピュータで作業をする、ソファでだらだらテレビを見る、床に寝転がって本を読む、などはすべて該当する。 厚生労働省によると、健康によいとされる3メッツ以上の中高強度身体活動は、1日の起きている時間のうち、わずか3~8%程度だという。一方で座位行動は起きている時間のうちの6割近くを占めるという(引用)。 これまでも自記式調査票を使った調査で、座位行動と総死亡、肥満、心血管系疾患、認知症、QOLなどとの関連が報告されていた。近年は活動量計が普及し、動かない時間を実際に測定できるようになってきた。本研究はその集大成的なものである。 本論文によると座位行動が多くなると認知症発症リスクが高くなる。ただし後述のように、かなり弱いエビデンスだと個人的には思う。なお、認知症になる前には座位行動が多いはずだという批判に対して、4年間の間隔を置いたランドマーク解析も行っている。また座位行動が多くとも激しい運動をしている人は健康なのではないかという批判に対して、強い運動も投入した多変量解析もしている。 気になるのは座位行動が少ないと、やはり認知症発症が多くなっていることだ。非常に重要な部分だと思うが、これについては特段の言及はされていないのは残念である。 この論文を人類史の立場から見てみよう。ヒトは直立二足歩行したことで進化したといわれている。手が使える、遠くまで見える、移動効率がよい、大きな脳を支えられる、といった明らかなメリットがある。一方で腰痛、難産、誤嚥などは二足歩行のデメリットだ。さらに複雑なことに、難産だからより早産になり、そうなると母子関係が緊密になり、家族や社会といったシステムが出来上がった、などといわれる。 そして科学が発展し、四足歩行→直立二足歩行→座位、となり今に至る、とも考えられる。そうなると座位行動研究は必然ではあるが、座位はダメとかそういった単純なものではない。 私がこれを読んで思ったのは、医者が外来をしている時間はどうなのだろうということだ。私は精神科医なので、精神科の外来を例に話をしよう。 精神科の外来は、あまり動かない。患者さんが変わるたびに体の方向のみが60度ずつ変わり続けるだけで1ミリも動かない医師もいることだろう。 一方で、頭の中はというと、激しく活動をしている。患者さんが入ってきた瞬間に、服装や整容を観察し、歩き方、表情などもチェックする。最初の数秒で診療のモードを決定する。診察に没入しつつ、診察をする自分と診察をされる患者さんを俯瞰する視点も維持する。診断や投薬といった知的作業をしつつ、情動面のケア、たとえば共感もしばしば行う。一方で無防備に共感してはならない場合もある(たとえば境界性パーソナリティー障害の一部など)。わざと興味のない様子で話を聞くことが多いが、ずっとそうだと診察にならないので、適切なタイミングと態度で「興味がないわけではない」というシグナルも発する。日本ではとてもたくさんの患者さんを診ないと赤字になってしまうので、患者さんが延々と話したら診察にならないし、他の患者さんも待たされて怒り出すだろう。なので、短い時間(3分診療)であっても患者さんが「自分の意思で言いたいことを全部話せた」と思えるような診察を、医師の側がうまくプロデュースする必要があり、緩急が重要だ。 治療の失敗は、自殺につながることもあるから、真剣勝負である。他の医師はどうなのか知らないが、精神科の外来はものすごくエネルギーを消費する。私などは、外来中は超覚醒状態である。もちろん外には一切出さず(むしろ能天気な表出を演出する)、終わったらどっと疲れる。しかし、これは上記研究の枠では「座位行動」であろう。 囲碁や将棋をしている時間もおそらく「座位行動」であろう。しかし頭の中は激しく活動していることだろう。 あるいは脳外科の先生がマイクロサージャリーをしている時間も「座位行動」であろう。3時間座っているが、たぶんエネルギーを大量に消費している。脳内の血管の立体構造を考えまくるだろうから、とても脳によさそうである。 というわけで、なかなか面白い論文だが、座位行動自体の内容まで踏み込んでいないことには注意しなければならない。簡易型脳波計などで覚醒状態を共変量に入れることができたら面白そうだがデバイスの開発が大変そうだ。 というわけで座位行動研究は、一見つまらないと思われがちなのだが、人類史の視点から見るととても面白い。そしてまだまだ発展途上である。最後に、もちろん一日中寝転がってポテチを食べながらテレビを見ていたら認知症を含むほとんどの疾患のリスクは上がりそうなので、基本的に座ってばかりだとよくないことは確実だ、と書いておこう。

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ガラの悪い人たち【Dr. 中島の 新・徒然草】(496)

四百九十六の段 ガラの悪い人たちついに秋がやって来ました!秋分の朝、目が覚めて窓の外から入ってきたのは冷たい空気。あれだけ「暑い、暑い」と言っていたのに、むしろ肌寒いくらいです。勉強も仕事も全力で頑張ろうと思う気持ちのいい季節になりましたね。とはいえ、外来では相変わらず患者さんのピント外れの質問に振り回される毎日です。患者「先生、この前、赤切符をもらってしまったんですけど、ホンマに出頭せなアカンのでしょうか?」知りませんよ、そんなこと。それ、脳外科外来で聞くことですか?仕方がないので適当に答えておきます。中島「赤切符というのは犯罪行為ですよ」患者「へっ?」中島「私も赤切符をもらったことがありますけどね」患者「先生もあるんでっか!」ありますよ。夜間に8時間以上の駐車、いわゆる青空駐車で取り締まられてしまいました。中島「大阪だと三国にある検察庁交通分室という所に呼ばれるわけです」ずいぶん昔の話ですが、秋晴れの日に仕事を休んで交通分室とやらに出頭しました。何十人ものガラの悪い人たちが大きな部屋に詰め込まれている様は壮観そのもの。お互いに知り合いなのか、世間話をしている人たちもチラホラ。後で知ったのですが、赤切符というのは酒気帯び運転や無免許運転など、かなり悪質な違反です。交通分室で机を挟んで私に向かい合った担当者は、事実関係の確認の後に「道路は駐車場と違いますよ」と一言だけ。違反者が事実関係を争わない場合、略式起訴だか略式裁判だかで決められた罰金を支払って終わりです。でもね、私はもう懲り懲りだと思いました。というのも、そこに集められていた人たち。この世の悪人を一通り揃えましたという感じでした。「こんな連中と同じ場所に放り込まれたのか、俺は!」と思ったら情けなくて、「もう二度と違反はするまい」と誓ったものです。ちょっとGoogleで調べてみると、いわゆる「クチコミ」のところには星の数の平均が1.5個で酷い書かれようでした。でも、悪人どもにボロクソに言われるということは、むしろ交通分室は頑張っていると考えていいのかもしれません。自分の人生の中で検察庁交通分室に匹敵するほどガラの悪い場所をもう一つ思い出しました。大阪法務局池田出張所です。ここも行ったのは大昔ですが、『ナニワ金融道』の登場人物みたいな人たちが一堂に会してワイワイガヤガヤとやっていました。中には立ったまま札束の受け渡しをしている人たちもいて、「何じゃこりゃ!」と驚いたものです。私のイメージする法務局というのは、市民に法を説く役割を持ったお役所です。でも、そこに来ていたのは「法は守るものではなく、利用するものだ」という考えの人たちのようでした。ちなみに池田出張所のGoogle「クチコミ」では星の数の平均は3.8個で、なぜか高評価です。果たして、この星の数はどう解釈したらいいんですかね。ともあれ、私の知らない世界がまだまだ沢山あるということは間違いないようです。いろいろと驚かされたところで1句秋晴れの 池田で学ぶ 世の広さ

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神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症〔HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid)は、大脳白質を病変の主座とする神経変性疾患である。ALSP(adult-onset leukoencephalopathy with spheroid and pigmented glia)やCSF1R関連脳症(CSF1R-related leukoencephalopathy)と呼ばれることもある。本稿では、HDLS/ALSPと表記する。常染色体顕性(優性)遺伝形式をとるが、約半数は家族歴を欠く孤発である。脳生検もしくは剖検による神経病理学的検査により、HDLSは従来診断されていたが、2012年にHDLS/ALSPの原因遺伝子が同定されて以降は、遺伝学的検査により確定診断が可能になっている。■ 疫学HDLS/ALSPは世界各地から報告されているが、日本人を含めたアジア人からの報告が多い。HDLS/ALSPの正確な有病率は不明である。特定疾患受給者証の保持者は、2015年13人、2016年25人、2017年35人、2018年43人、2019年54人、2020年65人と年々増加傾向にある。HDLS/ALSPの有病率が増加している可能性は否定できないが、診断基準の策定など疾患についての認知度が高まり、確定診断に至る症例が増えたことが、患者数増加の要因だと思われる。しかしながら、確定診断にまで至らないHDLS/ALSP患者が依然として少なからず存在すると推察される。■ 病因HDLS/ALSPは colony stimulating factor-1 receptor(CSF1R)の遺伝子変異を原因とする。既報のCSF1R遺伝子変異の多くは、チロシンキナーゼ領域に位置している。ミスセンス変異、スプライスサイト変異、微小欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異、部分欠失など、さまざまなCSF1R遺伝子変異が報告されている。ナンセンス変異、フレームシフト変異例では、片側アレルのCSF1Rが発現しないハプロ不全が病態となる。中枢神経においてCSF1Rはミクログリアに強く発現しており、HDLS/ALSPの病態にミクログリアの機能不全が関与していることが想定されている。そのためHDLS/ALSPは一次性ミクログリア病と呼ばれる。■ 症状発症年齢は平均45歳(18~78歳に分布)であり、40~50歳台の発症が多い。発症前の社会生活は支障がないことが多い。初発症状は認知機能障害が最も多いが、うつ、性格変化や歩行障害、失語と思われる言語障害で発症するなど多彩である(図1)。主症状である認知機能障害は、前頭葉機能を反映した意思発動性の低下、注意障害、無関心、遂行機能障害などの性格変化や行動異常を特徴とする。動作緩慢や姿勢反射障害を主体とするパーキンソン症状、錐体路徴候などの運動徴候も頻度が高い。けいれん発作は約半数の症例で認める。図1 HDLS/ALSPで認められる初発症状画像を拡大する■ 予後進行性の経過をとり、発症後の進行は比較的速い。発症後5年以内に臥床状態となることが多い。発症から死亡までの年数は平均6年(2~29年に分布)、死亡時年齢は平均52 歳(36~84歳に分布)である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)脳MRI検査により大脳白質病変を認めることが、診断の契機となることが多い。頭部MRI所見は、初期には散在性の大脳白質病変を呈することがあるが、病勢の進行に伴い対称性、融合性、びまん性となる。白質病変は前頭葉・頭頂葉優位で、脳室周囲の深部白質に目立つ(図2A、B)。病初期から脳梁の菲薄化と信号異常を認めることが多く、矢状断面・FLAIRの撮像が有用である(図2C)。ただし、脳梁の変化はHDLS/ALSP以外の大脳白質変性症でも認めることがある。内包などの投射線維に信号異常を呈することもある。拡散強調画像で白質病変の一部に、持続する高信号病変を呈する例がある(図2D)。ガドリニウム造影効果は認めない。CT撮像により、側脳室前角近傍や頭頂葉皮質下白質に石灰化病変を認めることがある(図2E)。この所見は“stepping stone appearance”と呼ばれ(図2F)、HDLS/ALSPに特異性が高い。石灰化は微小なものが多いため、1mm厚など薄いスライスCT撮像が推奨される。HDLS/ALSPの診断基準としてKonno基準が国内外で広く用いられている。Konno基準に基づき、厚生労働省「成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班」において策定された診断基準が難病情報ホームページに掲載されている(表)。図2 HDLS/ALSPの特徴的な画像所見画像を拡大する両側性の大脳白質病変を認める(A、B:FLAIR画像)。脳梁は菲薄化している(C:FLAIR画像)。拡散強調画像で高信号領域を認める(D)。CTでは微小石灰化を認める(E、F)。表 HDLS/ALSPの診断基準主要項目1.60歳以下の発症(大脳白質病変もしくは2の臨床症状)2.下記のうち2つ以上の臨床症候a.進行性認知機能障害または性格変化・行動異常b.錐体路徴候c.パーキンソン症状d.けいれん発作3.常染色体顕性(優性)遺伝形式4.頭部MRIあるいはCTで以下の所見を認めるa.両側性の大脳白質病変b.脳梁の菲薄化5.血管性認知症、多発性硬化症、白質ジストロフィー(ADL、MNDなど)など他疾患を除外できる支持項目1.臨床徴候やfrontal assessment battery(FAB)検査などで前頭葉機能障害を示唆する所見を認める2.進行が速く、発症後5年以内に臥床状態になることが多い3.頭部CTで大脳白質に点状の石灰化病変を認める除外項目1.10歳未満の発症2.高度な末梢神経障害3.2回以上のstroke-like episode(脳血管障害様エピソード)。ただし、けいれん発作は除く。診断カテゴリーDefinite主要項目2、3、4aを満たし、CSF1R変異またはASLPに特徴的な神経病理学的所見を認めるProbable主要項目5項目をすべてを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていないPossible主要項目2a、3および4aを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていない鑑別診断としては、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性(優性)脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarct and leukoencephalopathy:CADASIL)など多彩な疾患が挙げられる。HDLS/ALSPと診断された症例で、病初期に多発性硬化症が疑われ、ステロイド治療を受けた例が複数報告されている。HDLS/ALSPはステロイド治療に効果を示さないため、大脳白質病変と運動症状を呈する若年女性を診察した場合には、HDLS/ALSPを鑑別する必要がある。HDLS/ALSPのための診断フローチャートを図3に示した。臨床的な鑑別診断は必ずしも容易ではなく、遺伝学的検査により確定診断を行う。2022年4月にCSF1R遺伝学的検査が保険収載され、かずさ遺伝子検査室に検査委託が可能である。図3 HDLS/ALSP診断のフローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)系統的な治療法は確立していない。HDLS/ALSPの経過中に出現する症状に応じた対症療法が行われる。痙性に対しては抗痙縮薬、パーキンソニズムに対して抗パーキンソン薬の使用を考慮する。症候性てんかんには抗てんかん薬を単剤で開始し、発作が抑制されなければ、作用機序が異なる抗てんかん薬を併用する。4 今後の展望HDLS/ALSPに対する造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)が海外で行われている。現在までに15例のHDLS/ALSP患者がHSCTを受けている。HSCTを受けた約4割の症例で臨床的効果を認めている。ドナー由来の細胞がHDLS/ALSP患者脳に到達し、衰弱したミクログリアの機能を補完している可能性が考えられる。ミクログリア機能を回復される治験としてアゴニスト効果を有する抗TREM2抗体薬を用いた治験が海外で行われている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)かずさ遺伝子検査室(本症の遺伝学的検査を受託している)患者会情報Sister’s Hope Foundation(米国のHDLS/ALSPの患者会の英語ホームページ)(米国の患者とその家族および支援者の会/ホームページは英語)1)Konno T, et al. Neurology. 2018;91:1092-1104. 2)下畑享良 編著. 脳神経内科診断ハンドブック. 中外医学社;2021.3)池内 健ほか. 日本薬理学雑誌. 2021;156:225-229.4)池内 健ほか. 実験医学. 2019;37:118-122.5)池内 健. CLINICAL NEUROSCIENCE. 2017;35:1354-1355.公開履歴初回2023年9月28日

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NHK「やさしい日本語」【英語が話せないのは日本語が難しいから???実は「語学障害」だったの!?(文化結合症候群)】Part 1

今回のキーワードモノリンガル言語能力の予備能生活言語能力(BICS)学習言語能力(CALP)語学障害言語の距離モノリテラルモノカルチュラル言語の淘汰圧NHKワールドジャパンのコンテンツの1つに「やさしい日本語」という日本語の学習のための講座があります。日本語のやりとりの動画から、ひらがな・カタカナ・漢字の表記や例文がわかりやすく書かれています。「やさしい」というタイトルとは裏腹に、日本語自体は世界で最も難しい言語の1つとして、日本語を学ぼうとする外国の人たちを悩ませています。一方で、英語は比較的に簡単な言語です。しかし、日本人で英語を流暢に話せる人は決して多くはありません。日本人は、難しい日本語を話せるわけなので、英語を話すのだって難しくはないはずなのにです。それどころか、実は、世界的にはバイリンガルが多数派で、日本人のように1つの言語しか話さないモノリンガルは少数派なのです1)。なぜ日本人はなかなかバイリンガルになれないのでしょうか? 逆に、どうやってバイリンガルになっているのでしょうか? そもそも歴史上、バイリンガルはいつ生まれたのでしょうか?今回は、進化心理学の視点で、バイリンガルの起源とそのメカニズムに迫ります。そこから、日本語そのものにフォーカスして、実は日本人は難しい日本語を話すからこそ英語を話せなくなっている原因を解き明かします。そして、日本人がもともと外国語の習得に困難がある状態を「語学障害」と名付け、日本人ならではの国民病(文化結合症候群)として捉え直します。そもそもバイリンガルはいつ生まれたの?前回、言葉の学習の敏感期(グラフ1)の観点から、英語教育は中学校からでは遅すぎて、幼児期では早すぎることがわかりました。この詳細については、関連記事1をご覧ください。グラフ1が示すように、言葉の学習の敏感期に外国語を学習すれば、私たちは当たり前のようにバイリンガルになれるとして話を進めてきました。しかし、実は日本人は必ずしもそうではないようです。この訳を探るために、ここからまず、進化心理学の視点で、バイリンガルの起源に迫ってみましょう。人類が言葉を話すようになったのは、ホモ・サピエンス(現生人類)が東アフリカで生まれた約20万年前と考えられています。この詳細については、関連記事2をご覧ください。当時に生まれたホモ・サピエンスが1種類であるのと同じように、最初に発せられた言語も1種類だったでしょう。その後に、彼らはアフリカ内で拡散していき、約7.5万年前にはアフリカを出て、世界中に拡散していきました。そして、その地域や時代によって発音、語彙、文法が徐々に変化していき、人種と同じように、言語もどんどん枝分かれしていきました。このように、言語が多様化したことから、当時の部族社会では、他の部族と交流することは基本的になく、話す言葉はその部族の言葉に限られていたことが推測できます。つまり、そもそも私たちは、1つの言語しか話さないモノリンガルであることがわかります。約1万数千年前に、農耕牧畜による定住革命によって、食料の貯蔵が可能になりました。そして、約1万年前頃には、その富から、さまざまな人たちが交流する文明社会が生まれていきました。すると、必然的に、言語が違う人とも話をする必要に迫られます。これが、バイリンガルを含むマルチリンガルの起源です。約20万年間の言葉の進化の歴史のうち、そのほとんどがモノリンガルであるに対して、バイリンガル(マルチリンガル)が生まれたのはたかだか1万年前です。私たちが当たり前のようにバイリンガルになるためには、進化の歳月があまりにも短すぎます。つまり、私たちの脳は、もともとモノリンガル仕様であることがわかります。これは、前回でも説明した、言葉の学習には許容量があることを説明することができます。次のページへ >>

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NHK「やさしい日本語」【英語が話せないのは日本語が難しいから???実は「語学障害」だったの!?(文化結合症候群)】Part 2

じゃあどうやってバイリンガルになっているの?私たちの脳は、もともとモノリンガル仕様であることがわかりました。それなのに、そもそもどうやってバイリンガルになっているのでしょうか? 実は、ある脳の機能を流用していることが考えられます。ここから、その機能を2つ説明しましょう。(1)言語能力の予備能1つ目は、言語能力の予備能です。予備能とは、とくに臓器における予備の能力を指します。たとえば、肺や腎臓は2つあり、片肺や片腎になっても生きてはいけるようにできています。よって、日常的には50%程度しか使っていないことになります。原始の時代には、猛獣に追いかけられたり獲物を仕留めたりして激しい運動をすることが日常的であったため、もっと使っていたでしょう。そのための予備が現代人にも50%あると言えます。肝臓については、実際には30~40%しか使っていないと言われており、60、70%の予備があることがわかります。おそらく、原始の時代は、当然ながら冷蔵庫はなく、常に食中毒のリスクがあるため、それでも解毒して生存するために肝臓は進化したのでしょう。臓器と同じように、言語能力(脳)もある程度の予備能があることが想定されます。その理由として、音声言語が使われるようになったのは約20万年前で、機能としては新しくて予備能がなさそうですが、サイン言語はチンパンジーも使っており、機能としては実はかなり古いからです。さらに人類は歌によるサイン言語も使っていたことを想定すると、日常的に歌わなくなった私たちはその分の予備能があると考えることができます。なお、歌によるサイン言語の起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。この予備能を流用して、外国語の学習を可能にしているのです。ただし、この言語の予備能は、体の臓器ほどはなさそうです。実際に、スペイン語を母語としてスウェーデン語を第2言語とするスウェーデン在住10年以上のバイリンガルの調査1)で、8歳までに学習を開始した24人(性別や学歴などの要因の統制後)について、バイリンガルテスト10項目のうち満点だったのは平均6.3項目でした。単純に考えると、スペイン語の理解度を10(母語なのですべて満点と想定)としてスウェーデン語を6.3とすれば、言語の予備能は6.3÷(10+6.3)=約40%であると推定できます。また、この24人のうち、10項目とも満点という完全なバイリンガルはわずか3人であり、逆に2項目しか満点がとれなかった人が2人いることから、言語の予備能は、臓器と同じようにかなりの個人差があることが推定できます。前回、言語能力を消化酵素にたとえたように、母語だけでなく外国語も含んで2言語、3言語とどんどん消化吸収できる人もいれば、母語でだけお腹いっぱいという人もいるというわけです。(2)学習言語能力2つ目は、学習言語能力(CALP)です。前回にも登場しましたが、これは、読み書きを通した抽象的で応用的な語彙力です。一方、具体的で基礎的な語彙力は生活言語能力(BICS)と呼ばれています。先ほどの予備能においての言語能力は、厳密には、この生活言語能力を指しています。生活言語能力が言葉を丸ごと捉えて感覚的(暗示的)に理解する機能であるのに対して、学習言語能力は、言葉を細かく分けて認知的(明示的)に理解するための機能と言い換えられます。つまり、言語の量と質の違いです。8歳以降に発達していくこの学習言語能力によって、国語の読解力(読字)や作文(書字)、より複雑な計算(算数)が可能になるのです。そして、この学習言語能力は英語の学習にも流用することができます。たとえば、アルファベットの文字を使って視覚的に覚えること、類似性や語源から語彙を類推して増やすこと、基本構文のパターンを覚えることなどです。ただし、この学習言語能力は読み書きとの相性(互換性)は良いですが、聞く話すとの相性は良くないです。たとえば、丸ごと英語を理解するのではなく、日本語にいちいち翻訳して理解しようとするので、会話にはなかなかついていけなくなります。また、この学習言語能力による学習は、生活言語能力と違って忘れやすいです。使い続けないと、使えなくなってしまいます。ちょうど、試験勉強で覚えたことが、日常生活や仕事で使うことがなければ、すっかり忘れてしまうのと同じです。私たち親世代(1990年生まれ以前)のほとんどが中学校(12歳)から英語教育を受け始めました。すでに生活言語能力の敏感期を過ぎているために、仕方なくこの学習言語能力だけを使って何とか英語を学習したわけですが、大人になって使うことがなければ、悲しいことに英語の読み書きさえ、ほとんどできなくなってしまうというわけです。なお、生活言語能力は12歳までに敏感期が終わり、忘れにくいので脆弱性がないのに対して、学習言語能力は8歳以降に敏感期が始まり、忘れやすいので脆弱性があるという違いがあります。この点で、生活言語能力は意味記憶、学習言語能力はエピソード記憶とそれぞれ重なります。生活言語とは、まさに日常生活で生きていくための意味記憶そのものです。一方、学習言語能力は、その意味記憶をもとに、一連のストーリーをつなぎ合わせるエピソード記憶を使って、その経験(学習)からものごとの仕組みやルールをつなぎ合わせて体系化することであると言えます。意味記憶とエピソード記憶の詳細については、関連記事4をご覧ください。ちなみに、生活言語能力は、人類が部族社会をつくり始めた約300万年からサイン言語によって急速に進化し、約20万年前から音声言語によって現在の形になったと考えられます。一方、学習言語能力は人類が貝の首飾りを信頼の証とするようになった約10万年前から、認知能力として発達していったと考えられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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