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再発/転移上咽頭がんの1次治療、toripalimab併用でPFS延長/JAMA

 再発または転移のある上咽頭がん(RM-NPC)の1次治療において、プログラム細胞死1(PD-1)を標的とするヒト化IgG4Kモノクローナル抗体であるtoripalimabと標準化学療法の併用は、標準化学療法単独と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の延長をもたらし、安全性プロファイルも管理可能であることが、中国・中山大学がんセンターのHai-Qiang Mai氏らが実施した「JUPITER-02試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年11月28日号に掲載された。アジアの国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 JUPITER-02試験は、中国本土、台湾、シンガポールのNPCの発生頻度が高い地域で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年11月~2019年10月に35の施設で患者を登録した(Shanghai Junshi BiosciencesとCoherus Biosciencesの助成を受けた)。 全身化学療法による治療歴のないRM-NPC患者289例を、toripalimab+標準化学療法(ゲムシタビン+シスプラチン)の投与を受ける群に146例(年齢中央値46歳[四分位範囲[IQR]:38~53]、男性85%)、プラセボ+標準化学療法の投与を受ける群に143例(51歳[43~57]、81%)を無作為に割り付けた。 試験薬の投与は3週ごとに最大6サイクル行い、引き続きtoripalimabまたはプラセボによる維持療法を、病勢進行、許容できない毒性、2年間の治療の終了のいずれかに至るまで施行した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFSとした。PFSが13.2ヵ月延長、奏効率、奏効期間も改善 PFS中央値は、プラセボ群が8.2ヵ月であったのに対し、toripalimab群は21.4ヵ月と13.2ヵ月の延長をもたらし、有意な差を認めた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.37~0.73、名目p<0.001)。1年PFS率は、toripalimab群59.0%、プラセボ群32.9%、2年PFS率は、それぞれ44.8%、25.4%だった。 追跡期間中央値36.0ヵ月の時点で、OS中央値は、プラセボ群が33.7ヵ月であったのに対し、toripalimab群は未到達であったが有意に優れた(HR:0.63、95%CI:0.45~0.89、両側p=0.008)。プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)の高発現および低発現のサブグループの双方において、toripalimab群で一貫して良好なOSに関する有効性が観察された。 奏効率(78.8% vs.67.1%、群間差:11.4%、95%CI:1.7~21.2、p=0.02)および奏効期間中央値(18.0ヵ月vs.6.0ヵ月、HR:0.49、95%CI:0.33~0.72、p<0.001)は、いずれもtoripalimab群で有意に優れた。完全奏効の割合はtoripalimab群がプラセボ群のほぼ2倍だった(26.7% vs.13.3%)。免疫関連有害事象はtoripalimab群で高頻度 全有害事象(100% vs.100%)、Grade3以上の有害事象(89.7% vs.90.2%)、致死的有害事象(3.4% vs.2.8%)、重篤な有害事象(43.8% vs.43.4%)の頻度は両群で同程度であった。一方、試験薬の投与中止の原因となった有害事象(11.6% vs.4.9%)、免疫関連有害事象(54.1% vs.21.7%)、Grade3以上の免疫関連有害事象(9.6% vs.1.4%)の頻度は、いずれもtoripalimab群で高かった。 最も頻度の高いGrade3以上の有害事象は、白血球減少(toripalimab群61.6% vs.プラセボ群58.7%)、好中球減少(58.9% vs.63.6%)、貧血(49.3% vs.40.6%)、血小板減少(33.6% vs.28.7%)であり、化学療法によって誘発された毒性が主であった。 著者は、「これらの知見は、この患者集団における新たな標準治療としてのtoripalimab+ゲムシタビン+シスプラチン療法を支持するものである」としている。また、「潜在性のエプスタイン・バールウイルス(EBV)感染はNPCの発症において重要で、本試験ではtoripalimab群でEBV DNAコピー数が検出不能な値まで減少した患者が有意に多く(p=0.004)、リバウンドを経験した患者は有意に少なかった(p=0.002)。さらに、EBV DNAコピー数のリバウンドは、病勢進行に中央値で1.9ヵ月先行していたことから、病勢進行の予測に活用できる可能性が示唆された」と指摘している。

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ソーシャルメディアの使用、健康に及ぼす影響とは/BMJ

 ソーシャルメディアの利用は、若年層において、好ましくない健康リスク行動と関連しており、なかでも健康リスク行動を表示する情報内容は、不健康な食生活やアルコール摂取と強く関連することが、英国・グラスゴー大学のAmrit Kaur Purba氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2023年11月29日号で報告された。10~19歳を対象としたメタ解析 研究グループは、年齢10~19歳の青少年におけるソーシャルメディアの利用と健康リスク行動との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(英国医学研究審議会[MRC]などの助成を受けた)。 1997年1月1日~2022年6月6日に医学関連データベースに登録された文献を検索した。健康リスク行動は、アルコール・薬物・タバコ・電子式ニコチン供給システム(いわゆる電子タバコ)の使用、不健康な食生活、不十分な身体活動、ギャンブル、反社会的行動、性的リスクのある行動、複数のリスク行動と定義した。 解析の対象とした論文は、ソーシャルメディア変数(利用時間[1日当たりの時間など]、使用頻度[日/週当たり、日常的に使用など]、健康リスク行動の内容を含む情報[例:Facebook上のアルコールの広告など]への曝露、その他のソーシャルメディア活動[オンラインプレゼンスの管理や方策など])および1つ以上の関連アウトカムを報告している研究とした。 126編の論文についてレビューし、73編をメタ解析に含めた。最終的に143万1,534人(平均年齢15.0歳)の青少年を解析の対象とした。使用頻度が高いと、多くの健康リスク行動と関連 メタ解析を含まない統合解析では、63.6%の研究がソーシャルメディアと不十分な身体活動には有益な関連を認めたと報告していたが、これを除いた場合、ほとんどの研究でソーシャルメディアと健康リスク行動には有害な関連があることが示された。 ソーシャルメディアの使用頻度が低い場合と比較して、高い場合に増加していた有害な健康リスク行動として、アルコール摂取(オッズ比[OR]:1.48、95%信頼区間[CI]:1.35~1.62、解析対象者数38万3,068人)、薬物使用(1.28、1.05~1.56、11万7,646人)、喫煙(1.85、1.49~2.30、42万4,326人)、性的リスク行動(1.77、1.48~2.12、4万7,280人)、反社会的行動(1.73、1.44~2.06、5万4,993人)、複数のリスク行動(1.75、1.30~2.35、4万3,571人)、ギャンブル(2.84、2.04~3.97、2万6,537人)が挙げられた。 ソーシャルメディア上で健康リスク行動を見せる情報内容への曝露がない場合と比較して、このような曝露がある場合にオッズが上昇していた有害な健康リスク行動として、電子式ニコチン供給システムの使用(OR:1.73、95%CI:1.34~2.23、解析対象者数72万1,322人)、不健康な食生活(2.48、2.08~2.97、9,892人)、アルコール摂取(2.43、1.25~4.71、1万4,731人)を認めた。利用者作成の情報、2時間以上の利用で、アルコール摂取が増加 アルコール摂取については、マーケティング担当者が作成したソーシャルメディアの情報内容(OR:2.12、95%CI:1.06~4.24)と比較して、利用者が作成した情報内容(3.21、2.37~4.33)に曝露した場合に、より強力な関連が確認された。 また、ソーシャルメディアの利用時間については、1日2時間未満の場合と比較して、2時間以上ではアルコール摂取のオッズが高かった(OR:2.12、95%CI:1.53~2.95、解析対象者数1万2,390人)。 GRADEによるエビデンスの確実性の解析では、不健康な食生活は「中」、アルコール摂取は「低」、その他のアウトカムは「非常に低」であった。 著者は、「今後は、因果関係を立証し、健康格差への影響を解明し、ソーシャルメディアのどの側面が最も有害かを明らかにするために、さらに質の高い研究を進める必要がある」とし、「本研究の知見は、主に横断研究に基づくもので、ソーシャルメディアの利用に関する自己報告による測定値を使用しており、未調整の多くの交絡因子による交絡が残存している可能性がある」と指摘している。

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第189回 診療報酬プラス改定に一筋の光明か、政府の相次ぐ不祥事発覚で

久々に“亡霊”が息を吹き返した。12月4日、日本医師会(日医)大講堂で開催された国民医療推進協議会主催の『国民医療を守るための総決起大会』のニュースが専門紙(誌)を賑わしている。もっとも医療関係者の中でも“国民医療推進協議会って何?”と思う人もいるかもしれない。国民医療推進協議会とは2004年 10 月、「国民の健康の増進と福祉の向上を図るため、医療・介護・保健および福祉行政の拡充強化をめざし、積極的に諸活動を推進すること」を目的に、日本医師会が各医療関係者団体等に呼びかけて発足させた組織だ。現在、医師関連団体のみならず、いわゆるコ・メディカル団体や患者団体まで含め42団体が参加している。同協議会会長は日医会長が兼任し、現時点は日医の松本 吉郎氏が兼務している。前述の目的を記したカギカッコ内はお堅いことを書いているが、端的に言えば、同協議会は日医+αの“世論”を結集する、ある種の圧力団体と言っても過言ではない。どうしてこの団体が組織されたのか? それは設立時期を見ると、人によっては「ああそういうことか」と思うかもしれない。当時の首相は変人とあだ名された小泉 純一郎氏である。小泉氏の掲げた「聖域なき構造改革」というと、郵政三事業民営化を思い浮かべる人が多いだろうが、彼がそれと並んで切り込んだのが医療である。診療報酬本体の改定率が史上初のマイナスになったのは小泉政権期の2002年。2004年9月の第2次小泉改造内閣発足時の所信表明演説では、日医がもっとも嫌悪する政策の1つ「混合診療解禁」を盛り込み、事実上の首相の政策決定機関とも言える経済財政諮問会議でも小泉氏自身が「年内に解禁の方向で結論を」と発言したほどだ。この直前には現在の規制改革推進会議の前身・規制改革会議の中間報告でもこの方針は盛り込まれたが、これも小泉氏の強い要望だったとされる。この混合診療解禁を阻止するために当時の日医会長の植松 治雄氏(故人)が発足させたのが同協議会である。実際、この時は同協議会の力で600万人分の反対署名を集め、その結果、混合診療解禁は見送られた。しかし、この時の“遺恨”は2006年の診療報酬改定時の本体マイナス1.36%という史上最大の下げ幅で返された格好となった。さて、同協議会はそれ以降も存続し、秋の総会と年末年始の総決起大会が開催されているが、半ば形骸化している。その意味では専門紙で取り上げられる同協議会の総決起大会の記事の文量や本数が多くなったのは久しぶりとも言える。日医にとって、それだけ今回の改定への危機感が強いということなのだろう。先日、立ち話をしたある国会議員も「今回の財務省は驚くほど固い」と漏らすほどだ。この点は2018年の同時改定の際にギリギリまで本体マイナス改定を狙いながら、当時の首相である安倍 晋三氏、財務相だった麻生 太郎氏、日医会長の横倉 義武氏の鉄のトライアングルにひっくり返された財務省の遺恨も影響しているだろう。では最終的にどう決着するのか? 本当にこればかりは予想がつかない。この世界に身を置いて約30年になるが「診療報酬改定 一寸先は闇」という印象は今もまったく変わらない。この時期の診療報酬改定を巡る動きを、落ち物パズルゲーム「テトリス」に例えると、決まった種類のブロックが高速度で落ちてくる時にも似ている。だが、診療報酬改定議論とテトリスが異なるのは、前者では時にまったく見たこともない形のブロックが突如目にも止まらぬ速さで落ちてきて、政治決断という名のゲームオーバーになることである。その意味では、ひとえに首相の岸田 文雄氏の胸の内次第ということになる。岸田氏は自民党内の母体が旧大蔵・財務官僚出身者が多い宏池会であること、義弟が元財務省理財局長の可部 哲生氏であることなどから財務省寄りと言われがち。しかし、財源未定のまま「こども未来戦略方針」をぶち上げた点では、相当な財務官僚泣かせとも言える。そして仮にこの財務省の立場に立った場合、ここにきて彼らが考える診療報酬本体マイナス改定に向けてプラス要素とマイナス要素が入り乱れる格好になっている。プラス要素とは突如降って湧いた「2025年度から3人以上の子どもがいる多子世帯で大学授業料などを無償化」との方針である。財務省からすれば、まさに見たこともないブロックが頭上に落ちてきた格好で悩ましいことではあるが、スタートが2025年度とはいえ、さらなる財源を確保しなければならなくなる以上、社会保障費適正化の大義名分にはなる。逆にマイナス要素とは何か? これは昨今ニュースを賑わしている自民党の政治献金パーティー売上の裏金問題と岸田氏が自民党政調会長時代に旧統一教会系団体幹部と面会していた事実の発覚である。すでに11月時点の内閣支持率が30%以下という危険水域に入っている中で、この2件の発覚はダメージが大きい。となると、自民党の有力支持団体である日医の意向を無視しきれなくなる。いずれにせよ、ここに来て診療報酬改定の行方は、より混迷を深めたと言えるかもしれない。

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映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 1

今回のキーワード読字の障害(ディスレクシア)書字の障害算数の障害知的障害発達性言語障害ADHD合理的配慮障害者権利条約話すことは普通にできるのに、読むのがとても苦手なお子さんはいませんか? 読めても書くのがとても苦手なお子さんはいませんか? 計算するのがとても苦手なお子さんはいませんか? このような場合、学校や医療の現場では、学習障害と呼ばれています。これは、発達障害の1つです。今回は、この学習障害をテーマに、ラブコメ映画「イン・ハー・シューズ」を取り上げます。この映画を通して、学習障害の特徴を整理し、その起源に迫ります。それを踏まえて、その本質的な対策を考えてみましょう。学習障害の特徴は?主人公のマギーは、誰もが羨むルックスとスタイルを持ち、人当たりが良い魅力的なキャラクターです。それなのに、あるハンディキャップによって、仕事は長続きしません。まず、彼女のハンディキャップを主に3つ挙げ、学習障害の特徴を整理してみましょう。(1)読むのが苦手マギーがテレビ局のアナウンサーのオーディションに挑むシーン。目の前のプロンプターに流れて表示される文章を読み上げるよう指示されますが、彼女は読むのが遅く、読み間違えも連発していました。1つ目の問題は、読むのが苦手であることです。これは、読字の障害(ディスレクシア)と呼ばれます。流暢に読めず、読み間違いが目立ち、読解力がないなどの特徴があります。(2)書くのが苦手マギーがケンカ別れをしてしまった姉のローズに手紙を書こうとするシーン。宛名だけは書きますが、その先はずっと白紙のままです。そして、書きかけと思われる紙がいくつもくしゃくしゃに丸められて、バッグの中に入れられていました。2つ目は、書くのが苦手であることです。これは、書字の障害と呼ばれます。マギーのように、読むのが苦手であるということは、必然的に書くのも苦手になります。書き間違いが多く、文章構成力がないなどの特徴があります。なお、読むことやこの後の計算することとは違い、書くことについては、速さについての診断基準はありません。一方、読むのが苦手ではなくても、書くのだけ苦手な場合もあります。この場合は、書字の障害のみと診断されます。(3)計算が苦手マギーがアルバイトでジーンズ屋のレジ係をしていた時の回想シーン。彼女は、レジのスキャナーが反応しないことで戸惑うなか、15%引きのクーポン券を差し出した女性客から、「クーポンは15%割引。合計金額から引くだけ。42ドルの15%、すぐに自分で計算できないの!?」と怒鳴られます。そして、その女性の後ろには長い列ができていたのでした。3つ目は、計算が苦手であることです。これは、算数の障害と呼ばれています。スムーズに計算ができず、計算間違いが目立ち、数学的推理力がないため、日常生活で算数の応用ができないなどの特徴があります。このように、マギーは大人になるまで読み書きや計算ができないというハンディキャップによって、自信(自己効力感)をなくしていました。姉から学校に戻って勉強し直すよう勧められても、「バカの学校(学習障害向けの学校)には戻りたくない」とも言っていました。生活するお金がないなか、男をたらし込んでおごらせたり、ケチな盗みを繰り返して、その日暮らしの生活をし、自尊心(自己肯定感)も低くなってしまっているのでした。他の発達障害との関係は?学習障害の特徴は、読むのが苦手、書くのが苦手、計算が苦手であることがわかりました。それでは、他の発達障害との関係はどうなるのでしょうか? ここから、主に3つの発達障害を挙げて、鑑別診断をしてみましょう。(1)知的障害マギーは、ずっと音信不通だと思っていた祖母を頼って訪ねます。そして、祖母の勧めから、近くの老人ホームで食事を運ぶ仕事に就きます。彼女は、読み書きや計算を必要としない仕事なら続けることができています。買物や交通機関の利用など日常生活は普通に送れています。1つ目は、学習障害は知的障害(トータルIQ 75以下)を除外することです。知的障害であれば、書き言葉だけでなく、話し言葉の理解や生活の自立が難しくなってきます。つまり、知的障害であった場合は、学習障害とは診断しません。(2)発達性言語障害マギーは老人ホームで、目の見えない老人から詩の本を読んでくれと何度も頼まれます。実はその老人は元教授で、マギーが学習障害であることを見抜いたのでした。マギーは渋々教授に詩を読みます。詰まりながらも、勧められたとおりゆっくり読みきったあと、教授から詩の意味を聞かれます。すると、彼女は詩の描写にある隠れた意味を言い当てたのでした。マギーは、教授から「Aプラスだ。君は頭がいい」と褒められます。このシーンから、マギーは読み書きがうまくできないものの、抽象的な言葉を使いこなせることがわかります。つまり、彼女の言語理解IQ(言語能力)は少なくとも正常範囲(85以上)、Aプラスと評価された点では110以上であることが推定できます。2つ目は、学習障害は発達性言語障害(言語理解IQ 75以下)と区別することです。もともと発達性言語障害があれば、そもそも話し言葉の理解でさえ難しくなってきます。つまり、その後に学習障害を併発する可能性がとても高くなります。一方、マギーのように、もともと発達性言語障害がない学習障害の場合は、話し言葉の能力を生かすことができます。なお、文部科学省の定義では、発達性言語障害は学習障害に含まれています。国際的な診断基準(ICD-11)や米国精神医学会の診断基準(DSM-5)とは違うことに注意する必要があります。(3)ADHDマギーは、老人ホームの仕事に就く前に、トリマーの見習いをします。しかし、段取りを覚えきれず、動物が動き回るなどのちょっとしたアクシデントですぐにパニックになっていました。3つ目は、学習障害はADHDの合併が最も多いことです。学習障害もADHDも、ワーキングメモリーのIQが低くなることが共通しています。ワーキングメモリーとは、同時に複数の違う記憶を保持するマルチタスクのことです。老人ホームで食事を運ぶだけの仕事なら、マルチタスクではなく自分のペースでできるため、マギーには合っていることがわかります。次のページへ >>

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映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 2

読み書きや計算の能力はいつ生まれたの?学習障害は、知能(IQ)に問題がないのに、読むこと(読字)・書くこと(書字)・計算すること(算数)における学習のどれかまたはすべてに困難がある状態であることがわかりました。それでは、これらの能力はいつ生まれたのでしょうか? ここから、その起源に迫ってみましょう。約20万年前に、現在の私たち人類(ホモサピエンス)が誕生し、言葉を話すようになりました。約8万年前に、人類は石片に格子模様を刻むようになりました。約5万年前に、洞窟の中で壁画を描くようになりました。これが、描く起源です。この詳細については、関連記事1をご覧ください。約2万年前には、獲物の数を数え、その数を動物の骨に縦線として刻むようになりました。これが、数字の起源です。約5千5百年前には、粘土板に当時の数字と動物の絵の形を模式化した絵文字を一緒に刻むようになりました。これが、文字の起源です。こうして、家畜などの数の情報管理が可能になり、より大きな集団(都市)を維持することができるようになりました。その後に、絵文字はどんどん簡素化されていき、アルファベットのような一字で音だけを表す文字(表音文字)と漢字のように一字で意味を表す文字(表語文字)が生まれました。そして、聖書や般若経などのように、話し言葉が文字に変換されるようになりました。これが、読み書きの起源です。7世紀には、インドで0の概念が発見され、物の売買において、数えるだけでなく計算もできるようになりました。これが、計算の起源です。18世紀後半の産業革命以降、読み書きや計算は、職業的により多くの人に必要とされるようになり、学校が増えるととともに広がっていきました。同時に、このころから、読み書きや計算がもともとできない人があぶりだされてしまったのでした。これが、学習障害の起源というわけです。なんで学習障害になるの?約20万年の私たち現世人類(ホモサピエンス)の歴史のなかで、多くの人が読み書きや計算をするようになったのは、たかだか200年ちょっとであり、ごくごく最近のことであることがわかります。読み書き計算をすべての人ができるようになるには、進化の歴史としては短すぎます。つまり、読み書きや計算の能力は、これまで人類が進化の歴史で獲得した別の能力を流用し、文字の音韻化(デコーディング)、音韻の文字化(インコーディング)、数操作(ナンバースキル)の神経ネットワークを、まさに学習によって構築しているわけです。だからこそ、これらの神経ネットワークがもともとうまくつながらない人が一定数いるのです。実際の画像研究では、学習障害の原因は脳の特定の部位の機能障害があることが指摘されています1)。たとえば、子供はよく左右反転した文字(鏡文字)を書きますが、これを書かないようになっていくのは、顔認識をする脳の部位(ビジュアル・ワード・フォームエリア)の発達と関係があることが指摘されています2)。つまり、文字の形を認識するのは、人の顔を認識する脳の部位を流用していることがわかります。また、読むことを繰り返すことで、文字認識の自動化が促進され、文字・文章を速く読むことができるようになります。一方で、そのために、「ヘリプコター」と書いてあっても、「ヘリコプター」と読んでしまい、誤字脱字に気付きにくくもなります2)。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「イン・ハー・シューズ」【なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?(学習障害)】Part 3

学習障害にどうする?学習障害の原因は、脳の機能の障害であり、学習環境ではないことがわかりました。これを踏まえて、学習障害の本質的な対策を大きく3つの時期にわけてみましょう。(1)小学校マギーは、実際に学習障害者向けの特別な学校に行っていました。小学校では、読み書き計算への特別なトレーニングをすることです。日本では、米国のような特別な学校はありませんが、たとえば、週1回2時間の特別支援教室を利用することができます。また、学習障害専門の医療機関で指導を受けることもできます。小学校は、読み書き計算の敏感期であることが考えられるため、この対策を優先的に行うことが必要です。(2)中学校・高校マギーは、自信も自尊心も低くなり、軽はずみな行動(逸脱行動)を繰り返していました。これは、学習障害による二次障害です。しかし、おばあちゃんや教授のサポーティブなかかわりによって、マギーは自信と自尊心を取り戻し、真面目に働くようになりました。中学校・高校では、このような二次障害の予防のために、もはや特別なトレーニングをするのではなく、読み書き計算へのサポートツールを使うことです。たとえば、読字の障害なら読み聞かせの音読機能のアプリを使う、書字の障害ならパソコンを持ち込む、計算の障害なら計算機を使うことです。また、字の書き順が間違っていても、形がほぼ合っていて読めるなら問題なしとすることです。このように、学習の形にこだわらないようにする必要があります。これは、学習条件を合理的に配慮する取り組みで、障害者差別解消法の一環の合理的配慮として推進されています。そもそも小学校で特別なトレーニングをしても限界があるなら、これ以上トレーニングを続けるメリットがなくなります。むしろ「どうせ自分はできないしだめだ」という二次障害のリスクを高めます。そうではなくて、「自分にもできることはあるし、大丈夫だ」という心を育むことがまず必要です。この点では、場合によっては、小学校高学年からこの取り組みを検討することが必要です。(3)成人後マギーは、やがて自分の美的センスを生かして、高齢者向けの服のコーディネートのビジネスを始めます。受付は、おばあちゃんが代わりにやっていました。成人後は、読み書き計算をなるべくしなくて済む仕事を選ぶことです。たとえば、専門職よりも一般職です。事務職よりも営業職です。デスクワークよりもフィールドワークです。ほとんどの能力(機能)の敏感期が20歳までであることを踏まえると、読み書き計算も20歳までであることが推定されます。成人してからの学習の効果があまり期待できないことから、やはり自分に合った、自分にできる仕事を見つけることが必要です。なお、敏感期の詳細については、関連記事2をご覧ください。「イン・ハー・シューズ」とは?マギーの姉は、弁護士という最も読み書き計算を駆使する職に就いていましたが、地味で容姿に自信がありませんでした。姉は、そんなマギーとは真逆なキャラクターですが、唯一同じなのが足のサイズなのでした。2人は反発し合いながらも、最後は仲直りします。そして、マギーは姉の結婚式で詩をゆっくり読み上げます。その中で「私の心を重ねて」(I carry your heart with me.)という言い回しが繰り返されます。「イン・ハー・シューズ」とは、「彼女の立場だったら(彼女の靴を履いたら)」という意味で、まさに「私の心を重ねて(わかり合えれば)」という言い回しに重なります。これは、この2人だけのことではなく、まさに社会としても学習障害を理解し、サポートすることであることをこの映画はほのめかしているように思われます。現代の社会は、ICT(情報通信技術)によって、学習障害へのサポートツールがますます充実してきています。そんななか、「自分だけずるい」「特別扱いだ」という周りのクラスメートの目も気になってきます。これは、「教育の平等」というこれまでの価値観によるものです。そして、個人の学習という内容を優先するか、それとも教育の平等という形式を優先するかという教育理念のぶつかり合いでもあります。この時、何が一番大事なのかを考えることが必要になってきます。それは、なんのために学んでいるのかということです。それは、たとえ障害があってもその子その子が成長するためです。足並みを揃えるためではないです。優劣をつけるためでもないです。この考え方は、先ほど紹介した合理的配慮(障害者差別解消法)が根拠としている障害者権利条約に通じており、グローバルスタンダードになっています。今回の「イン・ハー・シューズ」を通して、まさにその子その子の身になってみたら、持っている能力に寄り添う学びのあり方が必要であることをより理解できるのではないでしょうか?1)医療スタッフのためのLD診療・支援入門 P20:玉井浩(監)、診断と治療社、20222)ヒューマニエンス 40億年のたくらみ「“文字” ヒトを虜にした諸刃の剣」:NHKオンデマンド、2022<< 前のページへ■関連記事ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 1

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化学眼外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第9回

今回は化学眼外傷についてです。洗顔料や洗剤、化粧品などの化学物質が目に入ったという経験は誰でも一度はあると思います。私も皿洗い中に洗剤が目に入って痛い思いをしたことがあります。私の場合は目を洗えば症状が消失しましたが、化学物質の種類や経過によっては失明の恐れがあることが知られているため、ちょっとした受傷でも恐怖を覚える患者さんは少なくありません。救急外来に化学眼外傷の患者さんが来るのはたいてい夜です。日中であれば眼科を受診するため、眼科以外の開業医の先生が診察する機会はまれかもしれません。しかし、万が一来院したときのために初療を知っておくことは重要です。今回は、化学眼外傷患者が受診した際にどのような対応が必要かを解説します。<症例>30歳、男性主訴目に殺虫剤が入った受診2時間ほど前、家に虫が入ったため殺虫剤を使用した。目を離したすきに子供が殺虫剤を使用し、それが患者の顔面にかかった。その後、目がひりひりするため電話で問い合わせをしてから受診。既往歴、アレルギー歴、内服薬、バイタル:特記事項なし両目に結膜充血ありこれは、私が近くに眼科がないとある南方の島の病院で働いていたときの症例です。眼科を受診するためには、船+車で3~4時間程度かかります。「眼科に電話で相談する」が最も適切な回答だとは思いますが今回はそれはナシにして…。眼表面の異物に対して非専門医ができる治療は「洗浄」です。とにかく洗います。上記の症例では電話で問い合わせがあったため、私は「まず10分間水道水で洗ってから来て」と伝えました。化学眼外傷の初療で重要なことは「なるべく早く洗浄して、化学物質を洗い流す」です1)。診療ストラテジー(1)視力評価視力は眼のバイタルサインと呼ばれるほど重要ですので、視力を必ず確認しましょう。視力検査のランドルト環があればよいのですが、なければ「いつもと見え方が違いますか?」と質問し、視力障害がないかを判断しましょう。(2)化学物質の評価次に、何が目に入ったか聞いてpHを調べてみましょう。目に入った成分のpHを調べる最も優れた方法はインターネットで検索することです。多くの患者は眼に入ったものが何かわかっていますので、「商品名、SDS※」もしくは「商品名、pH」と検索すれば大抵の商品のpHはわかります。※SDS:Safety Data Sheet(安全データシート)目に入ったものがわからない、もしくは商品名を調べてもわからない場合は、pH試験紙で眼表面のpHを調べて、正常範囲を逸脱しているかどうかを確認します。人間の眼のpHは大体6.5~7.0、高くて8.0で日内変動があります2,3)。これより大きく外れた場合は緊急性が高いです。眼表面のpHの測定をするには、尿試験紙のpHの部位を当ててもよいですし、pH測定用の試験紙でも構いません。pH試験紙のpHごとの色アルカリだとどす黒くなり、酸性だと明るい赤になります。試しに家にあったハイター(pH12)を試験紙に付けてみたところこんな色でした。ハイターをpH試験紙につけてみたちなみにこの患者さんの目に入った殺虫剤を検索したところ「pH 該当しない」となっていました。そのため眼表面のpHを測定したところ、pH7.0と正常範囲内でした(後日、「該当しないとはどういう意味?」と経済産業省に問い合わせたところ、「本当は掲載しなければならないそうで対応します」と返事をいただきました)。(3)pHで組織障害を推測成分が強酸(pH<4)もしくは強アルカリ(pH>10)の場合は可及的速やかに眼球の洗浄が必要となります。とくに強アルカリの場合、「水酸化イオンと陽イオンに解離し、細胞膜の脂肪酸を鹸化しながら、眼球の上皮、間質、内皮を破壊する」という事象が生じます。わかりにくいのですが、端的に言うと「傷が深い」です。この患者さんは眼表面のpHが正常範囲内なので組織障害は低いと考えました。(4)鎮痛、洗浄治療は洗浄です。とにかく洗うことが重要です。しかし、結膜や角膜に障害が強い場合は、痛みで目が開けられなかったり、水をかけられなかったりすることがあります。その場合は、オキシブプロカイン点眼薬を投与して除痛します。除痛ができたら洗浄を開始します。多くの文献では最低2Lの水道水もしくは生理食塩水での洗浄を推奨しています4,5)。瞼の裏などに洗い残しがあることがあるため、必ず上眼瞼、下眼瞼を順番に反転させて眼球を動かしながら奥まで洗浄しましょう。強酸や強アルカリの成分の場合、化学物質が洗い流されていることを確認することが重要です。洗浄後に再度pH試験紙を使用し、正常pHである6.5~8.0になっていることを確認できれば洗い流せたと判断します。強アルカリはなかなか落ちませんので注意が必要です。ハイターを触ったことがある方は、あのネトネトした感じが洗っても洗っても落ちないという経験があると思います。私は実際にアルカリ眼症の洗浄をしたことがありますが、10Lの生理食塩水で洗ってもまだpH試験紙がどす黒い色をしていました。結局眼科に相談し、さらに10Lを追加して洗いましたが、やはりどす黒く、再度眼科と相談して引き継ぎました。なお、本症例の疼痛は違和感程度であったため、鎮痛薬は使用せず2Lの水道水で洗浄して終了としました。(5)洗浄後洗浄後の対応ですが、私は強酸や強アルカリ成分による外傷、視力障害がある場合は必ず緊急で眼科に相談するようにしています。pHが逸脱していなくても、オキシブプロカイン点眼を使わなければいけないほど疼痛が強い場合は眼表面に強い障害を起こしている可能性が高いので、抗菌薬入りの点眼薬と内服の鎮痛薬を処方して後日眼科に相談しています。オキシブプロカイン点眼薬でなく、内服の鎮痛薬を処方する理由は、オキシブプロカイン点眼薬の連続使用により創傷治癒遅延が生じる可能性があるという報告があるためです。しかし、創傷治癒遅延が起こったと記載しているのは症例報告のみで、近年の複数のメタアナリシスでは有害事象の増加は認めなかったという報告もあり、今後のプラクティスは変化するかもしれません6)。オキシブプロカイン点眼薬の効果はとても良好なので、点眼して痛みがなくなったら「治った」と思い、その後眼科に行かずに悪化したという事例を聞いたことがあるので、もしオキシブプロカイン点眼薬を処方するときは必ず眼科に受診するように念押ししましょう。軽い疼痛や無症状であれば、2Lの水道水で洗浄して帰宅、何かしらの症状が生じるようなら眼科を受診するように指示します。本症例は洗浄後に症状が消失したのでとくに処方はなく、目の見えにくさや目の強い痛みが出た場合は眼科を受診するよう指示しました。化学眼外傷は非専門医にはとっつきにくいですが、なるべく早く洗浄することが重要です。万が一対処が求められたときの参考になれば幸いです。●成分がわからずpH試験紙もない場合眼に入ったものが何かわからず、pH試験紙もない場合はどうしましょう? 何があってもまずは洗浄です。先述したとおり2Lの水道水または生理食塩水で洗浄し、その後は症状に合わせて方針を決めます。軽い痛みで物もしっかり見えていれば洗浄で終了。強い痛みもしくは視力障害があれば、角膜に障害があると考えて眼科に紹介します。●オキシブプロカイン点眼薬がない場合鎮痛用の点眼薬がない施設もあるかもしれません。代替薬として比較的多くの病院にあるのがリドカイン製剤(スプレー、ゼリー、局所注射用)だと思いますが、眼球に滴下し使用することは推奨されていません。これは完全に私の見解ですが、疼痛が強いということは眼表面に強い障害が起きており、洗浄が必要な状態です。リドカイン製剤しかない場合であっても、リスク・ベネフィットを考えてその場にあるリドカインを使用して洗浄しても許容されるのではないかと考えます。●眼洗浄の裏技大量の生理食塩水などで洗い続けるのは大変ですし、洗浄のためにずっとそばにいなければなりません。そのため、ある程度洗浄したところで私は点滴の先を切り取って眼瞼の内側に当てて自然滴下で洗浄します。点滴を用いた目の洗浄1)Gelston CD. Am Fam Physician. 2013;88:515-519.2)佐々木 克哉. 日本眼科學会雜誌. 1995;99:676-682.3)Abelson MB, et al. Archives of Ophthalmology. 1981;99:301.4)Rodrigues Z. Emergency Nurse. 2009;17:26-29.5)Solim MAN, et al. Ther Adv Ophthalmol. 2021;13:25158414211030429.6)St.Louis WUSoMi. Topical Anesthetics for Corneal Abrasions.

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産業医としての「1社目の壁」の越え方【実践!産業医のしごと】

資格を得て産業医を始めようと思ったときに、1社目の企業を見つけられずに悩むことがあります。産業医が企業と契約するには大きく3つのルートがあり、今回はそれぞれのメリットとデメリットについて説明します。さらに、この記事では、企業が産業医との面接時に何を重視しているかについても記載します。産業医の仕事の集め方1)紹介会社産業医の仕事の見つけ方の第一の方法は、紹介会社を利用することです。おそらく、初めて産業医を始めようとする方が一番多く利用する窓口でしょう。紹介会社を使うメリットは、紹介案件が多く、最初の1社目を獲得しやすいことです。デメリットは、紹介会社が仲介することによって、数割のマージンを毎月引かれることです。実際、産業医が受け取る報酬は、企業が紹介会社に支払う金額と乖離しています。また都心部では、産業医の需要と供給のバランスでは供給のほうが多いこと、産業医の求人を見ると以前に比べて報酬が下落する傾向が見られます。2)医師会産業医の仕事の見つけ方の2つ目は、医師会を利用する方法です。都心では紹介される案件は減っていますが、地方では依然として紹介案件も多いようです。メリットとしては、報酬単価が高いことが多く、地域のネットワークが強い医師会ならではの案件があります。デメリットは、紹介を受けるには医師会の会員であることが必須となり、基本は登録制なので紹介までに時間がかかることもあります。3)独自開拓3つ目の方法は、独力で仕事を集める方法です。メリットとしては、企業と直接契約できるため、交渉力があれば契約単価は高くなります。また、自らのネットワークから紹介をもらうことは、信頼の裏付けでもあります。企業としても、わざわざ紹介会社を利用せずに契約することは、産業医への期待値が高いことの表れです。デメリットとしては、仕事を集められるようになるには、時間と労力が必要です。たとえば、ホームページを作成してPRしたり、労働衛生機関との関係を密にしたり、社員が50名を超えそうな企業を調べてDMを送るなどの営業活動をしたりする、積極的な産業医もいます。しかし、一般的には知人などのネットワークのつながりから紹介を受けることが多くなるでしょう。紹介元は、同じ産業医というケースもありますが、人事・保健師・弁護士・社労士など、医師以外の業種からの紹介というケースも多くあります。たとえば、メンタルヘルスの研修会や人事向けの勉強会などの多職種の集まる場に参加し、ほかの参加者と親交を深めることで、思いがけず仕事の紹介を受ける機会を得ることもあります。産業医の採用時に企業が重視するものは「産業医の求人に応募しているけれども、なかなか1社目が決まらない…」という方もいると思います。産業医の採用で企業が重視するものは何なのでしょうか。以前、数社の紹介会社のエージェントの方とご一緒する機会があり、企業が産業医の採用で何を重視しているのかをヒアリングしてみました。各社で共通していたのは、1)人柄(面接時の印象)、2)専門性、3)産業医経験でした。なかでも、面接時の印象を重視する企業が圧倒的に多いようです。医師としては「えっ、そこなの?」という思いになりますが、企業として、医療という異分野で働く人を会社に招き入れることには、心配や懸念があるのでしょう。ましてや「お医者さんは扱いにくそう」と考えるのは世間の相場でもあります。面接では、「産業医は担当者とうまくやりとりしてくれるか」「一緒に会社の悩みを考えてくれるか」「気軽に相談できそうか」など、企業との関係性を長期にわたって築ける人物かを重視します。臨床での立派なキャリアがあっても、企業にとってはあまり関係ない(そもそもよくわからないことも多い)と考えてよさそうです。これから採用面接を受けようとする場合、面接での印象の良さはもちろんのこと、企業の産業保健の課題を共に考えて伴走する意欲のある医師像をPRするのも一手と思います。上手にPRできれば、未経験であっても経験者に引けを取ることなく面接に臨めるでしょう。産業医を始めるに当たっては、まずは1社目の壁を越えることが必要です。今回は、企業募集の探し方や採用で重視されることを中心に記載しました。せっかく苦労して取得した資格ですので眠らせてしまうことがないよう、うまく1社目の壁を乗り越えて、一緒に産業医ライフを楽しみましょう。

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日本の大学病院の外来における睡眠薬の処方傾向

 日本では、不眠症治療のための1日当たりの睡眠薬の投与量が年々増加しており、睡眠薬治療への過度な依存が大きな問題となっている。久留米大学の加藤 隆郎氏らは、自院において、1年間で3種類以上の睡眠薬を減量・中止するために必要な要因の検討を試みた。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年11月9日号の報告。 次の2つの調査が実施された。調査1では、2013年1月~2019年3月に一般外来および精神科外来を受診したすべての患者の診療データをレトロスペクティブに調査し、3種類以上の睡眠薬の処方頻度を評価した。調査2では、2013年4月~2019年3月に精神科外来を複数回受診し、3種類以上の睡眠薬を処方されたすべての患者の診療データをレトロスペクティブに調査し、その後1年間の睡眠薬と向精神薬の処方変化を評価した。 主な結果は以下のとおり。・3種類以上の睡眠薬が処方された頻度は、精神科では、他科と比較し、6~9倍高かった。・最も使用されていた睡眠薬は、フルニトラゼパムとブロチゾラムであり、薬剤中止率は、ゾルピデムに次いで2番目に低かった。・中止率の最も高かった薬剤は、エスゾピクロン、ゾピクロン、スボレキサントであった。・減量の成功要因は、年齢(オッズ比[OR]:0.97、p<0.0037)、トラゾドンの追加(OR:12.86、p<0.0194)、精神科経験年数であった。 著者らは「本研究で特定された睡眠薬の減薬に関する患者の特徴、および成功要因は、睡眠薬多剤併用の問題解決に役立つ可能性がある」としている。

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オミクロン株感染で脳が変化、認知機能に影響か

 新型コロナウイルスのオミクロン株による感染後急性期の脳への影響はわかっていない。今回、中国・Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのYanyao Du氏らが、オミクロン株感染後の男性患者における臨床症状、灰白質と皮質下核の変化を調べたところ、急性期に左楔前部と右後頭外側部の灰白質厚と、頭蓋内総容積に対する右海馬容積の割合が大幅に減少していたことがわかった。また、灰白質厚と皮質下核容積損傷が不安や認知機能と有意に関連することが示された。JAMA Network Open誌2023年11月30日号に掲載。コロナの脳への影響で右海馬容積の割合が有意に減少していた 著者らは、2022年8月28日~9月18日に健康診断でMRI検査を受けた男性207人のうち、98人の完全な画像データと精神神経学的データを収集し、オミクロン株感染前後の灰白質と皮質下核の変化を調べた。オミクロン株感染者については、感染急性期に精神神経学的データ、臨床症状、MRIデータを収集し、3ヵ月後に臨床症状を再度調査した。灰白質指標と皮質下核の容積を解析し、灰白質厚の変化と精神神経学的データとの関連を相関分析で評価した。 新型コロナウイルスのオミクロン株による感染後急性期の脳への影響を調べた主な結果は以下のとおり。・ベースラインの完全データを収集できた98人のうち、オミクロン株に感染した61人(平均年齢:43.1歳)の急性期のデータを登録し、17人(平均年齢:43.5歳)は3ヵ月後の臨床症状も調査した。・新型コロナウイルスのオミクロン株感染前と比較して、感染後急性期の調査では、Beck Anxiety Inventoryスコアが有意に増加し、depression distressスコアが有意に減少していた。・感染後急性期の主な症状は発熱、頭痛、疲労、筋肉痛、咳、呼吸困難で、3ヵ月後の調査参加者においては発熱、筋肉痛、咳が有意に改善していた。・感染後急性期に、左楔前部および右後頭外側部の灰白質厚、頭蓋内総容積に対する右海馬容積の割合が有意に減少していた。・発熱患者では、非発熱患者より右下頭頂部の溝の深さが減少していた。・感染後の期間において、左楔前部の厚さがBeck Anxiety Inventoryスコアと負の相関を示し、頭蓋内総容積に対する右海馬容積の割合がWord Fluency Testスコアと正の相関を示した。 著者らは、これらの結果について「オミクロン株感染の感情的および認知的メカニズムに関する新たな洞察を提供し、神経系の変化との関連を実証し、神経学的後遺症の早期発見と介入のための画像基盤を検証するもの」としている。

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ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン、流行中の各変異株に有効

 2023年9月に欧米諸国や日本で承認となったファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応新型コロナワクチン(BNT162b2 XBB.1.5)の効果を検証するため、ドイツ・Hannover Medical SchoolのMetodi V Stankov氏らの研究チームは、ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン30μgを接種した医療従事者53人について、接種から8~10日後の免疫応答を解析した。その結果、すべてのファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン接種者において抗スパイクIgG抗体が大幅に増加し、現在流行しているSARS-CoV-2の各系統に対する強力な中和反応が誘発されたことが示された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年11月20日号掲載の報告。ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後に変異株の中和反応率が増加 本調査では、対象者の65人の医療従事者のうち、2023年9月にファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応ワクチンを接種した53人について免疫応答をモニタリングし、接種から8~10日後を解析した。65人中43人(66%)が過去に4回以上のワクチン接種を受けており、19人(29%)がBA.4/5対応2価ワクチンの接種を受けていた。53人(82%)がSARS-CoV-2感染を経験していた。擬似ウイルス中和試験にて、SARS-CoV-2の8系統(起源株、B.1、BA.5、XBB.1.5、XBB.1.16、EG.5.1、XBB.2.3、BA.2.86)に対する中和反応を解析した。 ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチンの効果を検証した主な結果は以下のとおり。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチンの接種により、起源株へのIgG抗体は2~9倍、オミクロン株BA.1へのIgG抗体は3~6倍に有意に増加した(p<0.001)。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後、受容体結合ドメインに結合するメモリーB細胞の総割合は、有意に増加した(平均頻度0.88%、p<0.0001)。全体として42.3%の増加がみられ、うち90.4%は交差反応性メモリーB細胞の増加によるものであった。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種前の中和反応率は、B.1で100%、BA.5で91%、XBB.1.5で55%、EG.5.1で43%、BA.2.86で77%であった。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後、B.1の中和反応率は100%のままだったが、そのほかすべての変異株で中和反応率が増加した。とくに、XBB.1.5で44倍、XBB.1.16で32倍、EG.5.1で34倍、XBB.2.3で48倍、BA.2.86で17倍の増加を示した。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種前、IFN-γ陽性CD4T細胞およびCD8T細胞のスパイクタンパクに反応する頻度は比較的低かったが、接種後は、起源株およびXBB.1.5に対するIFN-γ陽性CD4T細胞の頻度が有意に増加した(p=0.026、p<0.0001)。XBB.1.5に反応するCD8T細胞でも有意な増加が認められた(p=0.0225)。TNF-αの有意な増加は認められなかった。・中和活性がワクチン接種後から次第に低下し、ウイルスが免疫逃避する可能性がある一方で、T細胞媒介の免疫反応はより持続的で強固だと考えられる。

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コロナ・インフル同時迅速検査キットを発売/Meiji Seika・ロート

 Meiji Seika ファルマは12月5日付のプレスリリースにて、ロート製薬が10月13日に製造販売承認を取得した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)・インフルエンザウイルス抗原迅速検査キット「チェックMR-COV19+Flu」を発売したことを発表した。 本検査キットはイムノクロマト法によるもので、特別な測定機器を必要とせず、鼻咽頭ぬぐい液および鼻腔ぬぐい液中のSARS-CoV-2抗原、A型インフルエンザウイルス抗原およびB型インフルエンザウイルス抗原を同時検出することができる。1つのキットで15分(陽性の場合は3~15分)と、迅速かつ簡便に検査を行うことができ、診断時間の短縮と負担軽減につなげる。本製品の測定原理は金コロイドクロマト免疫測定法。有効期限は24ヵ月で、1パッケージに10テスト分を包装。 Meiji Seika ファルマは、ロート製薬と締結した販売提携契約に基づき、本製品の国内での流通、販売、プロモーションを行う。

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ACS疑い例の高感度心筋トロポニン測定、5年時の心筋梗塞/死亡を抑制/BMJ

 急性冠症候群(ACS)が疑われる患者において、高感度心筋トロポニン検査の導入は、高感度検査によって再分類された患者の5年後の心筋梗塞または死亡のリスク低下と関連しており、転帰の改善は非虚血性心筋損傷患者で最も大きく、心筋梗塞の同定を超えた幅広い有益性が示唆された。英国・エディンバラ大学のKuan Ken Lee氏らが、ステップウェッジ・クラスター無作為化比較試験「High-Sensitivity Troponin in the Evaluation of patients with suspected Acute Coronary Syndrome trial:High-STEACS試験」の長期追跡解析の結果を報告した。心筋トロポニンの高感度検査の導入によって従来の検査より多くの心筋損傷および心筋梗塞の患者が同定されているが、これにより転帰が改善されたかどうかはわかっていなかった。BMJ誌2023年11月27日号掲載の報告。高感度検査の導入前後で5年時の心筋梗塞/全死亡リスクを評価 研究グループは、2013年6月~2016年3月に英国・スコットランドの2次および3次医療センター10施設において、救急診療部を受診したACS疑いの連続症例4万8,282例を登録し、心筋トロポニンI値を標準検査および高感度検査の両方で測定した。 本試験では、施設を、男女別の99パーセンタイル診断閾値(女性:>16ng/L、男性:>34ng/L)を用いた高感度検査の早期導入群(5施設)と後期導入群(5施設)に無作為に割り付け、最初の少なくとも6ヵ月間は両群とも高感度検査の結果は盲検化し標準検査に基づき治療を行った。その後、早期導入群では高感度検査に基づき治療を行い、後期導入群ではさらに6ヵ月間は標準検査に基づき治療を行った後に高感度検査に基づき治療を行った。両群とも高感度検査を導入後は標準検査の結果は盲検化した。 主要アウトカムは、5年時の心筋梗塞または全死亡で、Cox比例ハザード回帰モデルを用い、全患者および高感度検査で再分類された患者において高感度検査導入前後の転帰を比較した。高感度検査で再分類された患者では5年時の心筋梗塞/全死亡が減少 4万8,282例中1万360例は標準検査または高感度検査で心筋トロポニンI濃度が99パーセンタイルを超え、このうち標準検査で同定されず高感度検査で同定された1,771例(17.1%)が再分類された。 高感度検査による治療の導入前vs.導入後の主要アウトカムの5年イベント発生率は、全患者においてそれぞれ29.4%(5,588/1万8,978例)vs.25.9%(7,591/2万9,304例)(補正後ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.93~1.01)、高感度検査で再分類された患者においてそれぞれ63.0%(456/720例)vs.53.9%(567/1,051例)であった(補正後HR:0.82、95%CI:0.72~0.94)。 高感度検査導入後、非虚血性心筋損傷患者ではその後の心筋梗塞または死亡の減少が観察されたが(補正後HR:0.83、95%CI:0.75~0.91)、1型心筋梗塞患者(0.92、0.83~1.01)および2型心筋梗塞患者(0.98、0.84~1.14)では観察されなかった。

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抗ヒスタミン薬が無効の慢性特発性蕁麻疹、ligelizumabの効果は?/Lancet

 ヒスタミンH1受容体拮抗薬(H1AH)による治療で、効果不十分な成人および青年期(12歳以上)の慢性特発性蕁麻疹(CSU)患者において、ligelizumabはプラセボに対する優越性を示したが、オマリズマブに対しては示さなかった。ドイツ・Urticaria Center of Reference and Excellence(UCARE)のMarcus Maurer氏らが、ligelizumabの有効性と安全性を評価した2つの第III相無作為化二重盲検比較試験「PEARL-1試験」および「PEARL-2試験」の結果を報告した。CSU患者の多くが、現在使用可能な治療ではその症状を完全に管理することができない。ligelizumabは、第IIb相用量設定試験ではH1AHで効果不十分なCSU患者において、蕁麻疹症状を改善することが報告されていた。Lancet誌オンライン版2023年11月23日号掲載の報告。2つの第III相試験で、ligelizumab 72mg、120mg、オマリズマブ300mgまたはプラセボに割り付け PEARL-1試験およびPEARL-2試験は、同一デザインの無作為化二重盲検実薬およびプラセボ対照並行群間比較試験で、46ヵ国347施設において実施された。 研究グループは、H1AHで効果不十分な中等度から重度の成人および青年期(12歳以上)のCSU患者を、ligelizumab 72mg、ligelizumab 120mg、オマリズマブ300mg、またはプラセボ群に3対3対3対1の割合で無作為に割り付け、4週間ごとに52週間投与した。プラセボ群では、24週目からligelizumab 120mgに切り替えた。 主要アウトカムは、12週時の週間蕁麻疹活動性スコア(UAS7)のベースラインからの変化量(CFB)で、試験薬を1回以上投与された成人患者を有効性解析対象集団として、無作為化された投与群に従って解析した。安全性は、試験薬を1回以上投与された青年期を含むすべての患者を安全性解析対象集団として、実際に投与された試験薬について評価した。ligelizumabの優越性、対プラセボでは示すも、対オマリズマブでは示されず 2018年10月17日~2021年10月26日に、2試験で合計2,057例が無作為に割り付けられた(ligelizumab 72mg群614例、ligelizumab 120mg群616例、オマリズマブ群618例、プラセボ群209例)。患者背景は、1,480例(72%)が女性、577例(28%)が男性で、両試験のベースラインでの平均UAS7は29.37~31.10であった。 12週時のUAS7のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)のプラセボ群との差は、PEARL-1試験およびPEARL-2試験において、それぞれligelizumab 72mg群が-8.0(95%信頼区間[CI]:-10.6~-5.4)、-10.0(-12.6~-7.4)、ligelizumab120mg群が-8.0(-10.5~-5.4)、-11.1(-13.7~-8.5)であり、両試験においてligelizumab 72mg群および120mg群のプラセボ群に対する優越性が示された。 一方、12週時のUAS7のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)のオマリズマブ群との差は、PEARL-1試験およびPEARL-2試験において、それぞれligelizumab 72mg群で0.7(95%CI:-1.2~2.5)、0.4(-1.4~2.2)、ligelizumab 120mg群で0.7(-1.1~2.5)、-0.7(-2.5~1.1)であり、ligelizumab 72mg群および120mg群のオマリズマブ群に対する優越性は示されなかった。 ligelizumab、オマリズマブのいずれも、新たな安全性シグナルは認められなかった。

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早期TN乳がん術後化療にアテゾ追加、iDFSを改善せず中止(ALEXANDRA/IMpassion030)/SABCS2023

 StageII/IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の術後補助療法として、標準的なアントラサイクリンおよびタキサンベースの化学療法にアテゾリズマブを追加した第III相ALEXANDRA/ IMpassion030試験の中間解析の結果、アテゾリズマブを上乗せしても無浸潤疾患生存期間(iDFS)を改善せず、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は増加したことを、ベルギー・Institut Jules BordetのMichail Ignatiadis氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で発表した。・対象:中央病理学検査で手術可能と判断されて手術を受けたStageII/IIIの早期TNBC患者 2,199例・試験群:対照群の化学療法に加え、アテゾリズマブ840mgを2週ごと、10サイクル→アテゾリズマブ1,200mgを3週間ごと、計1年間(アテゾリズマブ群:1,101例)・対照群:パクリタキセル80mg/m2を週1回、12サイクル→アントラサイクリン(エピルビシン90mg/m2またはドキソルビシン60mg/m2)+シクロホスファミド600mg/m2を2週間ごと、4サイクル(化学療法群:1,098例)・評価項目:[主要評価項目]ITT集団におけるiDFS[副次評価項目]PD-L1陽性およびリンパ節陽性のサブグループにおけるiDFS、全生存期間(OS)、安全性など・層別化因子:手術の種類(乳房温存術/乳房切除術)、リンパ節転移(0/1~3/≧4)、PD-L1発現(IC 0/≧1%) 予定症例数は2,300例であったが、2022年11月14日に独立データ監視委員会(IDMC)の勧告に基づき、試験は一時中止された。2023年2月、IDMCが有効性と無益性の早期中間解析を行うため、計画されていたiDFSイベントの解析対象数が下方修正された。無益性の境界のハザード比(HR)は1に設定された。2023年3月15日のIDMC勧告で主要評価項目が無益性の境界を越えたため、試験は中止となった。今回発表されたデータは2023年2月17日のデータカットオフ日に基づくもの。 主な結果は以下のとおり。・2018年8月~2022年11月に2,199例が登録され、両群に1:1に無作為に割り付けられた。アテゾリズマブ群および化学療法群の年齢中央値は53歳/53歳、StageIIは84.9%/85.6%、リンパ節転移陽性は47.6%/47.8%、PD-L1陽性は71.3%/71.2%、乳房切除術施行は52.4%/52.4%で、両群でバランスがとれていた。・追跡期間中央値25ヵ月(範囲:0~53)の時点で、239/2,199例(10.9%)のiDFSイベントが観察された。アテゾリズマブ群では127/1,101例(11.5%)、化学療法群では112/1,098例(10.2%)に発生し、HRは1.12(95%信頼区間[CI]:0.87~1.45、p=0.37)で、事前に規定された無益性の境界を越えた。・PD-L1陽性のサブグループ(1,567例)では、iDFSイベントはアテゾリズマブ群77/785例(9.8%)、化学療法群73/782例(9.3%)に発生し、HRは1.03(95%CI:0.75~1.42)であった。・OSイベントが発生したのは、アテゾリズマブ群61例(5.5%)、化学療法群49例(4.5%)で、HRは1.20(95%CI:0.82~1.75)であった。・Grade3以上のTRAEは、アテゾリズマブ群587例(53.7%)、化学療法群472例(43.5%)に発現し、死亡は2例(0.2%)および1例(<0.1%)であった。何らかの薬剤の中止に至ったのは185例(16.9%)および60例(5.5%)であった。安全性プロファイルとは既知のものと一致していた。 これらの結果より、Ignatiadis氏は「ITT集団におけるiDFSのHRは、事前に規定された無益性の境界を越えるとともに有害事象も増え、早期TNBC患者に対する術後補助化学療法へのアテゾリズマブ追加は支持されないものとなった。試験データは2023年11月17日のカットオフまで更新され、結果を公表する予定である」とまとめた。

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デバイスによる無症候の心房細動にもDOACは有効?(解説:後藤信哉氏)

 症候性の心房細動にて脳卒中リスクの高い症例では、PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療よりもDOACの1つであるアピキサバンが安全、かつ有効であることがARISTOTLE試験により証明された。ICDなどを入れ込まれた症例では無症候の心房細動も検出できる。無症候のdevice detected AFに対する標準治療は確立されていない。本研究は無症候のdevice detected AFを対象として、アピキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果をアスピリンと比較した無作為二重盲検ランダム化比較試験の結果である。 対象例のCHA2DS2-VAScスコアは3.9±1.1と高い。観察期間は3.5±1.8年と長い。アピキサバン群の脳卒中・全身塞栓症発症率は、アスピリン群にて年率1.24%、アピキサバン群にて0.78%であった。対象症例の脳卒中・全身塞栓症の発症リスクは決して高くはないが、本研究は4,012例を対象とした無作為化二重盲検比較試験としてエビデンスレベルは高い。 アピキサバン群では年率1.71%に重篤な出血合併症が起こり、アスピリン群の0.94%よりも高かった。本研究は科学的な仮説検証研究としての価値は大きいが、年率1%程度の脳卒中・全身塞栓症と重篤な出血合併症発症リスクの選択になるので臨床的価値は大きくない。 同様のdevice detected AFを対象としたエドキサバンとプラセボのランダム化比較試験NOAH-AFNET 6では、DOACエドキサバンの効果は中立とされている(Kirchhof P, et al. N Engl J Med. 2023;389:1167-1179.)。イベントリスク年率1%前後にて抗血栓効果と出血合併症のバランスをとるのは、きわめて難しい。NOAH-AFNET 6 and ARTESiAの2つの試験のメタ解析もCirculationに出版されている(McIntyre WF, et al. Circulation. 2023 Nov 12.[Epub ahead of print])。device detected AFに対する抗凝固療法は、必ずしも大きくない血栓リスクを減少させるが、血栓イベントリスク減少効果と同程度に重篤な出血イベントリスクを増加させる薬剤の使用の有無の判定という難しい臨床判断である。

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1日8,000歩!【Dr. 中島の 新・徒然草】(506)

五百六の段 1日8,000歩!急に寒くなりましたね。外をウォーキングしよう、と思っても寒過ぎて歩けたものではありません。それだけでなく、夜は暗いし危ないし。イヤホンでYouTubeなんか聴きながら歩いていると、後ろから自転車が来るのに気付かなかったりします。雨なんか降っていたら、わざわざ傘をさしてまで歩く人はいないでしょう。ところが何と、画期的な方法を思い付きました。家の中を歩くのです。「家の中を歩くって、中島先生。どんな豪邸に住んでいるんですか?」と言われそうですが、普通のマンションですよ、ウチは。ただ、リビングと台所と自分の部屋を1周すると、ちょうど100歩くらいになるわけです。同じ方向に歩くと目が回るので、右回りと左回りを足して100歩というわけですけどね。で、目標を1日8,000歩とかにしておき、帰宅した時に5,000歩程度だと、後の3,000歩分を歩きます。家の中を歩くメリットは沢山あります。いつでも開始でき、いつでも終了できる着替える必要なく、そのまま歩くことが可能後ろから急に自転車が来ることもない寒くないし暑くない雨が降っても平気イヤホンでYouTubeを聴きながらでもOK「家の中を3,000歩も歩けるのか?」と思う方もおられることと思います。が、やってみたらわかりますが、案外、簡単に歩けます。だいたい1,000歩で10分ほどかかるので、3,000歩なら30分。これを2分割して20分+休憩+10分くらいにすればあっさり達成できます。デメリットがあるとすれば、歩いているところを家人に目撃されることくらいでしょうか。女房にはすっかり「ヘンな人」と思われているようですが、そのくらい思われてこそ物事は成就するってもんです。あと、YouTubeで英語ニュースを聴くとか医学系のお勉強チャンネルを聴くとかすれば、歩いている時間も無駄になりません。まさしく一石二鳥ですね。もちろん歩きながら静かに1日を振り返ってみるのも良いかと思います。患者さんには「運動しましょう、歩きましょう」と言いながら、自らはまったく実行できていない先生方。自宅ウォーキングは運動不足対策に効果絶大!よかったらお試しください。最後に1句真冬でも 室内歩けば 健康だ

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自動音声読み上げ、文字起こし機能を活用する【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第28回

自動音声読み上げ、文字起こし機能を活用する1)「音読さん」で読み原稿を読んでもらう2)シャドーイングで練習する3)「Otter AI」で自動文字起こしをする国際学会の発表では、英語の読み原稿を用意する方が多いと思います。しかし、原稿を作っても、スムーズに正しい発音で原稿を読むのは難しい、と感じるかもしれません。そういうときにぜひ活用したいのが、「音読さん」というウェブサイトです。これは、文字やテキストを機械音声で読み上げてくれるソフトウェアです。機械音声というと、ロボットの不自然な声を想像する方が多いと思いますが、この「音読さん」の話し方はかなり自然で、正しい発音、自然な発音で文章を音読してくれるので実用的です。使い方ですが、まずホームページにアクセスします。読み上げたい英文を入力し、英語を選択します〈図1〉。〈図1〉画像を拡大するこの時、アメリカ英語以外にもイギリス、オーストラリア、インド英語など、好みのアクセントやなまりを選択できるのも便利な点で、声の質、高低、速度も好みのものに設定できます。自分の声質や読むスピードに合わせて選ぶとよいでしょう。読み上げボタンをクリックすると、文章を読み上げてくれて、さらに音声のダウンロードもできます〈図2〉。〈図2〉画像を拡大する発表用の英語原稿を作成した後に「音読さん」に読み上げをお願いすれば、単語のアクセントやイントネーションを簡単に確認することができます。また、読み上げられた音声の後に続いて読む、シャドーイングのトレーニングにもよいかもしれません。このサイトは無料でも一部利用可能ですが、学会発表の原稿に使用するほどの文章量になると有料会員登録(月額980~2,980円、2023年11月現在)が必要になります。必要な時期に応じて期間限定で利用するのもよいかもしれません。英語のリスニングが難しいという方にお勧めしたいのが、「Otter AI」というツールです。これはレクチャーや会議の音声を自動で文字に書き起こしてくれるサービスで、スマホアプリやウェブサイトで利用可能です。無料会員登録を行ったうえで、たとえば〈図3〉のようにYouTubeの動画を再生し録音ボタンを押すと、自動で文字起こしをしてくれます。〈図3〉画像を拡大する専門用語はうまく文字起こしされない場合もありますが、それでも精度は非常に高い印象です。国際学会で演者が話している内容を聞き取れないときに、アプリを起動して文字起こしするようにすれば、とくにリスニングが苦手な方は重宝するでしょう。また、録音ボタンを押して自分でスマホやパソコンに向かって話すことで、自分の発音が正しく認識されるかどうかを確認できるため、スピーキングの練習にもなります〈図4〉。〈図4〉画像を拡大する講師紹介

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婦人科悪性腫瘍手術―トラブルシューティングとその予防法―

手術の達人たちが長年の経験でたどり着いた最適解「産婦人科の実際」72巻12号(2023年11月臨時増刊号)今回の臨時増刊号では、婦人科手術のエキスパートの先生方に、術中・術後合併症の予防法や、術中に発生したトラブルへの対処方法をわかりやすく解説いただきました。手術の達人たちが長年の経験をもとに術中偶発症や術後合併症の要因を検証し、試行錯誤してたどり着いた対策法は、現時点での「最適解」です。その「最適解」を身につけ、患者さんにとっても術者にとっても安心で安全な手術を行うことを目指す、婦人科医必携の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    婦人科悪性腫瘍手術―トラブルシューティングとその予防法―定価9,350円(税込)判型B5判頁数252頁発行2023年11月企画田畑 務、岡本 愛光電子版でご購入の場合はこちら

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第74回 鼻咽頭スワブの「折損」、学会から啓発

日本小児科学会からのInjury Alert(傷害速報)Unsplashより使用日本小児科学会から定期的に更新される「Injury Alert(傷害速報)」で、気になる症例がありました1)。あるクリニックの午前外来に、発熱で受診した1歳2ヵ月の男児がいました。新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス…いろいろな病原微生物を疑う必要があります。となると、当然ながら鼻咽頭スワブによる検査が必要になるわけですが、多くの場合、母親が抱っこし、看護師が頭を固定した状態で、医師がすばやくスワブを鼻腔に挿入することになります。今回の症例では、患児が暴れることはなかったそうですが、綿棒が途中で折れ、引き抜いたときには先っぽが鼻腔に残ってしまったそうです。すぐに高次医療機関の耳鼻咽喉科へ紹介されました。折れた綿棒の先は中鼻道にあり、外来での摘出を試みたものの、摘出困難な状況でした。そのため、全身麻酔のもと、直視鏡で異物をカメラ越しに確認し、ニシハタ氏鋭匙鉗子によって摘出されました。とくに合併症なく、翌日退院となっています。綿棒の安全性と脆弱性はトレードオフ鼻咽頭スワブの先にある綿棒は、安全性と脆弱性がトレードオフの関係になっています。つまり、安全を重視するのであれば綿棒の脆弱性が増し、簡単に折れないようにカチコチにすれば安全性に懸念が生じるということです。そのため、グニャリと曲がってしまうと、力を入れる方向によっては折れ曲がってしまうことがあるわけです。成人でも同様の報告があり、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」で過去に紹介しています。その症例は、協力が得られにくい基礎疾患がある患者だったため、「すみやかに拭い検査を実施しなければならない」という小児例と類似した状況でした。鼻腔にスワブを挿入する場合、上咽頭に到達させるため、迷入を避けるために口蓋と平行に鼻腔底に沿わせて挿入する必要がありますが、もしこれが頭側に迷入した場合、先端が折れて鼻腔異物になるリスクがあります。こういった鼻腔異物を回避するための策として、以下の4点がInjury Alertで啓発されています。(1)不測の動きに備えて児の頭部をしっかり固定する(2)綿棒の挿入は必ず鼻腔底に沿わせる(3)綿棒の挿入に少しでも抵抗がある時は反対側の鼻腔で行う(4)後咽頭に達する最低限の長さで綿棒を把持する参考文献・参考サイト1)日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. Injury Alert(傷害速報). No. 133 新型コロナウイルス抗原検査キットによる鼻腔異物

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