6505.
山開き直後の富士山で遭難死が相次ぐこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。7月10日に山開きした富士山で遭難死が相次いでいます。各紙報道によれば、7月14日までに4人の死亡が確認されています。疲労死、滑落死など死因はさまざまですが、日頃登山をしない人は3,000メートル級の山を少し舐めているような気がします。体力が若者ほどなく、高度順応力が低下している中高年の遭難はこれからも増えそうです。山では100メートル標高が上がるごとに0.6度気温が下がります。仮に標高0メートルの海岸部の気温が30度だとすると、3,776メートルの富士山山頂付近の気温は7~8度です。天候が悪く風も強ければ、体感気温は0度近くになるでしょう。もはや冬山です。そう考えると、ご来光を目的に気温が下がる夜や深夜に登ること自体が大きなリスクです。そもそも3,000メートルを超える北アルプスなどでは、深夜に登る人はほぼいません。これから富士山を目指そうという方は、天気が良い日に昼間の日帰り登山をお勧めします。山梨県側からの吉田ルートは登山規制が始まったとはいえ激混みなので、静岡県側からの富士宮ルートが最短でいいかもしれません。大体の所要時間は頂上往復で9時間前後。朝イチに登山口を出発すれば、夕方前には下山が可能です。医療メディアに「研修医は悪くない」といった論調の記事や、組織体制の不備を指摘する記事さて、今回は前回に引き続き、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(以下、名古屋第二日赤)が先月公表した、研修医がからんだ医療事故を取り上げます。腹痛などを訴えて名古屋第二日赤に来院した男子高校生(当時16)について、SMA症候群を研修医が急性胃腸炎と“誤診”して治療が遅れるとともに、高度脱水への対応も不十分で心停止に至り死亡した事件について、前回は同病院が公開した公表用資料1)を基に経緯を概説しました。そして、病院の記者会見直後、全国紙などで「研修医が誤診」といった見出しの報道が行われたことを巡り、日経メディカルなど一部医療メディアにおいて「研修医は悪くない」といった論調の記事や、病院の組織体制の不備を指摘する記事が掲載され、医療界で少なからぬ反発が起きていると書きました。そうした反発や批判は概ね納得できるものです。公表が事故から1年後であったことや、遺族コメントを病院が代読するという異常さなどからも、事故直後から遺族と名古屋第二日赤とのあいだで厳しいやりとりがあったと想像されます。名古屋第二日赤という一病院で起きた事故ではありますが、日本赤十字社本社自体の医療事故に対する鈍感さ、隠蔽体質、事なかれ主義もその背景にありそうです。マスコミに対して公表された資料の“おそまつさ”からも、それを感じます。「公表用資料」の中の事案の検証結果が時系列で、“誤診”が冒頭に私は、「公表用資料」の中の事案の検証結果(いわゆる「どの段階でミスがあったのか」のまとめ)が時系列になっている点がまず気になりました。具体的には、次の5つが問題点として挙げられています(資料の詳細な記述は割愛)。1)CT画像の評価が不十分で、急性胃拡張に対する減圧治療ができていなかった。2)脱水症の評価が不十分で、治療の開始に遅れが生じていた。3)救急外来において研修医が診療する場面での報告・相談体制に不備があった。4)職員間において患者さんの情報を正確に共有できていなかった。5)患者さんの容態変化時に、院内で定められた緊急体制が活用されなかった。1)で研修医の「CT画像の評価が不十分」と書き、さらに「上級医に相談するべき画像所見でしたが相談していませんでした」と続きます。これでは、その後に過誤のその他の原因が記述されたとしても「評価が不十分」、すなわち「誤診」が一番の原因だ、と読む側(マスコミなど)が解釈してしまう危険があります。こうした事故報告書では、往々にして発生したことを時系列に書きますが、「検証結果」も時系列に記述してしまっては、患者が死に至った真の原因が明確にならず、覆われてしまいます。加えて、資料全般に渡って「臨床上のミス」と「組織体制上の問題点」が同列に記述されている点も気になりました。「研修医が上級医に相談する体制になっていなかった」ことや、「入院後のスタッフ間の情報共有の不備」などは、明らかに病院の組織体制上の問題であり、今回の事故の最大の原因とも考えられます。しかし、検証結果ではそうした問題点が、「誤診」や「鎮痛剤倍量投与」「心電図モニター未装着」といった「臨床上のミス」と同列に記述されています。その結果、臨床上のミスの根本原因とも考えられる組織体制上の問題点への切り込みが弱く、責任の所在も曖昧になっています。「かもしれません」という文章でお茶を濁し、「体制や組織風土が根本的な問題だった」と断言もせずその曖昧さは、「事案の検証結果」の後に記された「当院の問題として表出したこと」の以下の記述からもうかがえます。――当院は高度急性期病院として、どのような病気にも24時間365日絶え間なく応えることを使命としており、業務の繁忙や切迫感が常態化している背景があります。そのような業務環境のなかで、疾患の重症度、緊急性を優先して患者さんを診てしまう傾向があったのかもしれません。忙しさを理由に、患者さんに対しての職員の思いやりや丁寧さが欠けていたのかもしれません。今回の事例には、病院全体の体制や組織風土が根本的な問題ではないかと考えています。――事故から1年以上経っているにもかかわらず、「かもしれません」という文章でお茶を濁し、「病院全体の体制や組織風土が根本的な問題だった」と断言できていないのです。患者が死亡に至った原因を真剣に検証したのかどうか、疑問に感じます。「『なぜこの事例で記者会見を開いたのか』と正直、疑問を持ちました」と医療訴訟専門弁護士そんな風に考えていたら、「研修医は悪くない」という論陣を張った日経メディカルに興味深い記事が掲載されていました。7月2日付の「インタビュー 医療事故公表のあり方を考えるマスコミの目線が“研修医誤診”に向いてしまった原因は」というタイトルの記事です。同記事は医療機関側の弁護士として医療訴訟に携わってきた仁邦法律事務所所長の桑原博道氏にインタビューしたものですが、なんと桑原氏はその中で「最初に、メディアの報道と公開されている調査報告書を読んだとき、『なぜこの事例で記者会見を開いたのか』と正直、疑問を持ちました」と話しているのです。桑原氏は「過誤があると思われる事例でも、あるいは、医療事故調査・支援センターに報告されるような事例でも、多くの場合、記者会見は開かれていません。私の経験でも、記者会見を開くのはデメリットがそれなりにあることから、『それでも会見が必要だ』と感じる事案はほとんどない印象です」と語るとともに、「記者会見は、病院が世間に発したいメッセージとして、目的や信念を持って行うべきものであり、一般論として言えば、ご家族などから求められたから行うというものではありません。また、医療事故調査制度の対象事案だから行うというものでもありません」と、名古屋第二日赤の記者会見について、病院側に行うに足る明確な目的があったのかどうかに疑問を呈しています。さらに、先述した「公表用資料」の中の事案の検証結果の記載の順番について桑原氏も問題があったと指摘しています。加えて、「研修医は上級医に相談すべきだった」といった個人の責任を追及するような記述についても問題があるとしています。同記事2)は、医療事故が起きたときの記者会見開催の是非や、事故報告書の記載の仕方などについてわかりやすくまとめられており、医療関係者には参考になるでしょう。京都第一赤十字病院の度重なる過誤で明らかとなった日赤の隠蔽体質前回、「日本赤十字社が、医療事故や医療過誤に対して鈍感であり、隠蔽体質も有していることは、この連載の『第199回 脳神経外科の度重なる医療過誤を黙殺してきた京都第一赤十字病院、背後にまたまたあの医大の影(前編)』、『第200回 同(後編)』で詳しく書きました」と記しましたが、この点を簡単におさらいしておきます。京都市は今年1月、患者に対する手術の説明や診療記録の取り扱いが不適切だったとして京都第一赤十字病院に対し、改善を求める行政指導を行いました。不適切とされた事例はいずれも同病院の脳神経外科で確認されたものでした。2020年に行われた脳腫瘍の手術では、その後、予定外の再手術となった理由について、患者や家族に説明した記録が見つかりませんでした。さらに同年、手術後に死亡した別の患者の死亡診断書には「手術なし」と、事実と異なる記載をしていました。また、2021年には、研修医の医療処置を受けた患者が死亡していますが、遺族には処置を施した説明をしていませんでした。こうした事例の中には、病院の医療安全管理委員会に適切に報告されず、事後の検証も十分行われていなかったケースもありました。以上の3件のほか、2019~21年に手術後などに9人が死亡し、ほかにも3人の患者で不適切な対応があったとの情報が2023年、公益通報によって市に寄せられていました。実はこの公益通報が行われる3年も前に、脳神経外科で事故が多発していることを、当時、同病院に勤務していた医師が日本赤十字社本社に伝えていました。「月刊Hanada」(飛鳥新社)の2023年11月号の記事、「京都府立医大の深い闇 正常脳を誤って摘出 第一日赤脳外科部長が謝罪」によれば、「A医師と部下である第一脳神経外科副部長(注:事故が頻発していたのは第二脳神経外科)のB医師は11月19日、連名で日赤本社の医療事故担当の医療事業推進本部長宛てに嘆願書を提出。医療事故防止措置と医師の再教育の必要性、関係者の処分を求めた。すると11月11日、日赤本社の部長は電話でこう告げたという。『(中略)日赤本社で医療事故調査委員会を立ち上げるので待ってほしい』。ところが、本社は結局、調査委員会を立ち上げず、事故の当事者である第一日赤に丸投げし、第一日赤内部に院内事故調査委員会を立ち上げて処理するように命じた」。その結果、一連の事故は表沙汰にならず、死亡した患者遺族にも真実は伝えられず、事故を起こした医師たちに処分も下されず、3年後の公益通報まで日赤本社、第一日赤は事故を隠蔽し続けることになったわけです。多発する傘下の病院の医療事故に対して日赤本社は何かアクションを起こしたのか?日本赤十字社の各病院は、地域の基幹病院であり、地元の大学医学部の主要なジッツ(関連病院)となっています。各病院で起こった医療事故への対応が個々の病院に任されること自体はとくに不自然ではありません。ただ、病院自体が隠蔽しようしている事案について、現場からの通報を無視し、対応をその病院に丸投げする、というのは異常としか言いようがありません。事故を起こされた患者や家族は二の次に、日赤という組織や病院、あるいは医師を派遣する大学医局をまず守ろう、という姿勢は決して許されるものではないでしょう。今回の名古屋第二日赤の事故と、京都第一日赤の事故との間にはとくに関連性は見出だせません。しかし、昨年5月に名古屋第二日赤の事故が起こり、今年の6月17日に記者会見が開かれるまでのあいだに、京都市による京都第一日赤への立ち入り検査、行政指導が行われています。次々と明らかになる傘下の病院の医療事故に対して、日本赤十字社本社は組織として何かアクションを起こしたのでしょうか。少なくとも記者会見や公表用資料の内容からはまったく感じ取れません。日本赤十字社の闇は深そうです。参考1)SMA症候群を適切に治療できなかったことにより死亡に至らせた事例について/日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院2)マスコミの目線が“研修医誤診”に向いてしまった原因は/日経メディカル