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LGBTQ患者の診療、困った経験は?/医師1,000人アンケート

 わが国にはLGBTQの人は3~10%程度いるとされている。「患者のほとんどが高齢者のためLGBTQは関係ない」と思われるかもしれないが、高齢者にもLGBTQの人は存在し、日常接している患者さんの中にも少なからずLGBTQ患者がいると考えられる。CareNet.comでは、会員医師1,029人を対象に、LGBTQ患者の診療経験に関するアンケートを実施した。その結果、多くの医師が今後の対応の必要性を認識しているものの、現状では診療体制が不十分であることが多く、今後の診療に影響が生じかねないケースもあったことが明らかになった(2023年12月25日実施)。過去にLGBTQ患者を診療した経験がある医師は43.9% Q1では、過去にLGBTQ患者を診療した経験があるかどうかを聞いた(単一回答)。その結果、「ない」と回答した医師は44.2%で最も多く、「ある」が43.9%、「わからない」が11.9%であった。 通常の診療では目の前の患者さんがLGBTQ患者かどうか意識しないことが多いと考えられるため、「わからない」が最も多いのではないかと予想していたが、はっきりと「ない」と回答した医師が多いのは意外であった。LGBTQ患者とわかった理由は「自己申告」が最多 Q2では、上記Q1で「ある」と回答した場合、LGBTQ患者だとどうやってわかったかを聞いた(複数回答)。多いものから自己申告、雰囲気や外見からの推測、問診表、保険証に記載されている名前や性別、治療・投薬内容、他の人からの伝聞などであった。 フリーコメントでは、「やはり自己申告をしていただかないといかんともしがたい」「本当にLGBTQかどうか確かめる方法がないのが困る」「本人がカミングアウトしていないが、保険証の性別や外見などからLGBTQとわかった場合の対応が難しい」などの声が寄せられた。LGBTQ患者の診療で困った医師は少数 Q3では、LGBTQ患者の診療で困ったことはあるかどうかを聞いた(単一回答)。その結果「ある」が16.3%、「ない」が83.7%と大差が付いた。 フリーコメントでは、困ったこととして「男性と申告した患者の腹部CTの際、放射線科の読影で子宮を腫瘍と読影され精査を追加した」「使用しているホルモン剤の影響を判断できる情報がない」「紹介先がわからない」など、今後の診療に影響しうる内容も多かった。LGBTQ患者を診察する際の不安は「プライバシーの保護」 Q4ではLGBTQ患者を診察する際の不安や懸念について聞いた(複数回答)。最も多かったのは「プライバシーの保護」であった。次いで、使用するトイレや入院時の病棟の決め方、LGBTQ患者に特有の治療(ホルモン剤や性別適合手術後のケアなど)、患者とのコミュニケーション、パートナーによる手術の同意/看取りの立ち合い/病状説明/面会の可否、患者がカミングアウトした場合の受け止め方、などが続いた。 フリーコメントではトイレや更衣室、入院病棟に関するコメントが圧倒的に多く、「共通トイレがなく困った」「トイレ使用に関してクレームがきた。やはり化粧はしていても髭の生えた人が女性トイレに入れば問題になる」「外来はプライバシーが守られたらよいと思うが、入院となると大部屋は悩ましいなと思う」など、ほかの患者さんとの関係を危惧するコメントが多く寄せられた。 Q5ではフリーコメントとして、LGBTQ患者の診療で困った経験、行っている取り組み、あるとよいと思う制度や仕組み、聞きたいことなどを聞いた。診察や治療に関するご意見・あまり最初から身構えずに、カルテの性別を基本にとして対応しています。・もちろん時に特別なことも必要かもしれませんが、通常はほかの患者さんとまったく同様の手順と気持ちで普通に診察できるようになるべきだと思います。・直接関わりがない部分はあまりむやみに聴取しないほうがよいと思ってはいるが、逆に遠慮して正しい診断に至らない可能性もあり、そもそもLGBTQなのか、どこまで聞いてよいのかなどほかの診療でどうやっているのか聞きたい。・妊娠の有無は教えてほしい。・医療に関しては遺伝子での性別に限定してほしい。施設に関するご意見・トイレが最大の問題だと思います。・施設利用(とくにトイレの使用)における法的な解釈や社会共通のコンセンサスがほしい。・トイレなどの施設的な問題はすぐには改善できないことが不安。・大部屋に入院させるときの対応について、ほかの施設の経験を知りたい。・当院での診療対応はできないのが実際。院内ルール、法整備に関するご意見・公文書の性別が男女の2択になっている現状を変えてほしい。・病院としての指針を作っておいてほしいです。・どこまで配慮すべきなのか基準が知りたい。・パートナーの同意で医療行為を行ってよい法的補償。・法規制の隙間に入ることが多いので、社会的な保護と義務について対応できる窓口がほしい。その他のご意見・今のところ診察したことないですが、これからのことを考えると対策を早急に考えるべきですね。・専門性があるので、ある程度、専門医療機関での診療に統合したほうがよいと思います。・患者側への啓発をする医療団体があればよいと思う。・もっと病気を周知してほしいです。・周囲のスタッフ間で情報の共有が難しい。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。https://www.carenet.com/enquete/drsvoice/cg004543_index.html

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外科手技に着想を得たレシピ集公開/ゲティンゲ

 ゲティンゲは1月11日付のプレスリリースにて、外科手技に着想を得た「The Heart Surgeon's Cookbook―心臓血管外科医のレシピ集―」の公開を発表した。この料理本は心臓血管外科・胸部外科医のNirav Patel氏とニューヨークのミシュラン二つ星レストランAskaの創設オーナーFredrik Berselius氏のコラボレーションによるもので、本書を通じ、心臓血管外科医のスキルの高さに焦点を当て、心臓血管外科における人材育成の課題を啓発することを目的としている。 料理本に含まれる9つのレシピでは、外科医の手技やメンタルコントロールの向上効果を狙った手術室外で取り組める意外性と遊び心のある訓練法が提案されている。各レシピは、精緻な切開、狭い箇所への注入、縫合、解剖、反復など、繊細な手先の動きと集中力を試す内容となっている。

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口腔健康状態が誤嚥性肺炎の入院期間に影響/東京医科歯科大

 誤嚥性肺炎などでは、転帰に患者の口腔健康状態が関係することがよく知られている。それでは、その影響がさらにどのように作用するのであろうか。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の山口 浩平氏らの研究グループは、誤嚥性肺炎高齢患者の入院時口腔健康状態が院内転帰に及ぼす影響を前向きコホート研究で実施し、結果を報告した。口腔健康状態の悪い患者の入院期間は長くなる可能性があるというものだった。European Geriatric Medicine誌オンライン版2024年1月12日号の報告。誤嚥性肺炎では口腔内の健康状態も重要 高齢の誤嚥性肺炎患者で、入院時の口腔衛生状態が入院中の転帰に及ぼす影響と、入院中に口腔衛生状態がどのように変化するかを調査した。 対象は、誤嚥性肺炎と診断され急性期病院に入院した65歳以上の患者であった。患者の基本的健康情報、入院期間(LOS)、口腔健康評価ツール(OHAT)、機能的口腔摂取尺度(FOIS)、肺炎重症度指数および臨床的虚弱度尺度スコアを記録した。患者をOHATスコアの中央値に基づいて2群に分け、群間変化を時間関数として解析し、LOS、退院時のFOISスコア、入院時のOHATスコアの関係を重回帰分析にて検討した。 主な結果は以下のとおり。・89例(52例が男性、平均年齢84.8±7.9歳)のうち75例が退院した。・口腔衛生状態はOHATによる初回評価後3週間にわたり毎週測定され、スコアの中央値は7点で、有意な群間差が認められた。・OHATスコアは両群とも入院期間を通じて改善した。・入院時のOHATスコアは、LOSと独立して関連していた(B=5.51、p=0.009)。 山口氏は「入院時の口腔衛生状態の不良は入院期間の延長と関連していた。高OHAT群と低OHAT群の両方でOHATスコアの改善が認められた。口腔健康状態は、誤嚥性肺炎の発症予防および治療において重要」と結論付けている。

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ATTR心アミロイドーシス、acoramidisが予後を改善/NEJM

 トランスサイレチン型(ATTR)心アミロイドーシス患者において、acoramidisの投与により、全死因死亡、心血管関連入院および心機能と身体機能の要素を含む4段階の階層的主要アウトカムがプラセボより有意に改善し、有害事象は両群で類似していた。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJulian D. Gillmore氏らが、第III相無作為化二重盲検比較試験「Efficacy and Safety of AG10 in Subjects with Transthyretin Amyloid Cardiomyopathy:ATTRibute-CM試験」の結果を報告した。ATTR心アミロイドーシスは、単量体がミスフォールドされたトランスサイレチン(TTR)の心臓への蓄積が特徴である。acoramidisは四量体TTRの解離を阻害する高親和性TTR安定化薬で、ex vivoでは異なる投与間隔の全体で90%以上の安定化をもたらし、第II相試験で有効性が確認されていた。NEJM誌2024年1月11日号掲載の報告。4つのアウトカムを階層的に解析しacoramidisとプラセボを比較 研究グループは、ATTR心アミロイドーシスと確定され臨床的心不全を有する18歳以上90歳未満の患者を、acoramidis群(acoramidis hydrochloride 800mgを1日2回投与)またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、30ヵ月間投与した。 主要有効性解析対象集団は、推定糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m2以上の患者。4段階の階層的主要アウトカムは、全死因死亡、心血管関連入院、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)値のベースラインからの変化量、6分間歩行距離のベースラインからの変化量とし、Finkelstein-Schoenfeld法を用いて階層的に解析を行い、各層内のすべての患者をペアワイズ法により比較した。重要な副次アウトカムは、全死因死亡、6分間歩行距離、カンザスシティ心筋症質問票の全体サマリーのスコア、血清TTR値とした。acoramidis群で、全死亡、心血管関連入院、NT-proBNP、6分間歩行距離が有意に改善 2019年4月~2020年10月に、計632例が無作為化され(acoramidis群421例、プラセボ群211例)、主要有効性解析対象集団は611例(それぞれ409例、202例)であった。 主要アウトカムは、4段階の階層的解析においてacoramidis群がプラセボ群よりも有意に良好であることが示された(p<0.001、Finkelstein-Schoenfeld検定)。ペアワイズ比較の63.7%がacoramidisを支持、35.9%がプラセボを支持し、win比は1.8(95%信頼区間[CI]:1.4~2.2)であった。 全死因死亡と心血管関連入院を合わせると、勝ち負けの半分以上(全ペアワイズ比較の58.0%)が勝率に寄与し、4つの項目のうちNT-proBNPのペアワイズ比較でwin/loss比が最も高かった(23.3% vs.7.0%)。 すべての有害事象の発現率はacoramidis群98.1%、プラセボ群97.6%で類似しており、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ54.6%および64.9%であった。

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公平な再入院を達成している病院の特徴は?/JAMA

 公平性は医療の質の本質的な領域である。米国・コロンビア大学のKatherine A. Nash氏らは、米国のメディケア・メディケイドの運営主体Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS)が開発した臨床アウトカムの公平性を評価する2つのDisparity Methodsを用いた研究を行い、公平な再入院を達成している病院は少数派であり、公平な再入院が行われていない病院とは明らかに異なる特徴が認められることを明らかにした。具体的には、公平な再入院が行われている病院では黒人患者の数が少なかったという。著者は、「従来型のアウトカム評価では、黒人患者の受け入れが少ない病院に報酬を与える可能性があり、病院レベルでの不公平さが構造的人種差別の役割を強化する可能性がある」とし、「公平な再入院を実現するには、リスクのある患者の病院間の分布に、ばらつきがあることを考慮しなければならない」と述べ、不公平を助長しない慎重な政策設計の必要性を提言している。JAMA誌2024年1月9日号掲載の報告。CMS Disparity Methodsを使用し再入院の公平性を保険および人種に関して評価 研究グループは2018年7月~2019年6月に、メディケアデータを用いて、CMS Hospital-Wide Readmission指標が適格な米国の病院を対象に横断研究を実施した。 まず、CMS Disparity Methodsを用い、公平な再入院を実施している病院を特定した。CMS Disparity Methodsは、格差リスクのある集団のアウトカムを病院間で比較する全病院法と、病院の患者集団内でのケアの格差を比較する単一病院内法の2つの方法で病院を評価するもの。本研究では保険(メディケイドとメディケアの二重適格受給者vs.非二重適格受給者)、ならびに人種(黒人vs.白人)に関する再入院率を比較し、それぞれの方法で閾値を満たした病院を公平な再入院を実施している病院とした。 次に、公平な再入院を実施している病院と実施していない病院について、病院の特徴ならびに病院の実績に関する3つの外部指標である質、コスト、価値を比較した。Hospital Care Compareの評価が4または5を「質が高い」、受給者1人当たりのCMSメディケア支出スコアが全病院中下位5分の1である場合を「低コスト」、高品質と低コストの両方の基準を満たした場合に「高価値」と定義した。公平な再入院が実施されている施設は黒人患者の割合が低い CMS Disparity Methodsの評価対象病院4,638施設のうち、保険に関するDisparity Methodsの対象(十分な数の二重適格受給者を診療している)は3,414施設(74%)、人種に関するDisparity Methodsの対象(十分な数の黒人患者を診療している)は1,962施設(42%)であった。 公平な再入院を実施している病院に分類されたのは、3,414施設中592施設(17%)、および1,962施設中596施設(30%)であった。 保険または人種に関して公平な再入院を実施している病院は、公平でない病院と比較し、黒人患者の割合が低く(保険別:中央値1.9%[四分位範囲[IQR]:0.2~8.8]vs.3.3%[0.7~10.8]、p<0.01、人種別:7.6%[3.2~16.6]vs.9.3%[4.0~19.0]、p=0.01)、そのほか複数の領域で差がみられた(非教育施設の割合が高く、都会の病院が多く、病床数が0~99床の割合が高い、いずれもp<0.01)。 また、低コストの病院は、二重適格受給者に対して公平な再入院を提供する可能性が高く(オッズ比[OR]:1.57、95%信頼区間[CI]:1.38~1.77)、質が高い病院は黒人に対して公平な再入院を提供する可能性が高かった(OR:1.14、95%CI:1.03~1.26)。

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医療安全講習会「護身術/危機管理」【Dr. 中島の 新・徒然草】(512)

五百十二の段 医療安全講習会「護身術/危機管理」1月といえば徐々に日が長くなる一方、寒さがますます厳しくなる時期です。私は毎朝のように車のフロントガラスの凍結に苦しめられていますが、全国的にみれば大阪はまだマシなほうなんでしょうね。さて、先日の大阪医療センターでの医療安全講習会は「護身術/危機管理」というものでした。なんと、私がときどき見ているYouTubeチャンネル「ガチタマTV」の田村 忠嗣氏(元 警察機動戦術部隊RATS)と長田 賢治氏(元 陸上自衛隊特殊作戦群)のお2人が講師でした。任意研修でありながら、有名なユーチューバーを生で見れるチャンスということで、大勢の職員が集まりました。さて、講習会での講師からのメッセージはたった1つ。「危ない奴がいたらとにかく逃げろ、隠れろ、戦うな!」あらゆる格闘技に通じているお2人ですが、知らないオッサンが道で誰かに殴られていても介入しないそうです。「相手が何人いてどんな凶器を持っているかわからないですから」というのがその理由。確かに刃物を持っている相手に素手で立ち向かうのは無謀というものです。素知らぬ顔で警察に通報するのが一番得策なのでしょう。が、時にはどうしても戦わざるを得ない状況になることもありえます。そんな場合にはどうしたら良いのか。数えきれないほどいろいろな手段が紹介されていましたが、これは実用的だと記憶に残っているのが2つありました。1つはフラッシュライトです。普段は通常のライトとして使えるのですが、ボタンの押し方によっては強力な光が点滅して一時的に相手の視力を奪うことができるというもの。そもそも単なるライトなので、ポケットに入れていても診察室の机の上に置いてあっても、何の違和感もありません。もう1つはベルト。単なる衣服の一部ですが、うまく使うと強力な武器になるそうです。講習会ではムチのように振ってキックミットを打つところが実演されましたが、恐ろしい音がしました。まともに食らうと骨が折れることもあるのだとか。危ないですね。ということで、誰がどういう経緯で招いたのか、ユーチューバーを囲んでの医療安全講習会。思いがけず盛況の1時間半でした。最後に1句新春や ライトとベルトで 盛り上がり

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「GLP-1受容体作動薬ダイエット」に興味を持った患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第43回

■外来NGワード「あなたには使えません」(保険適用について説明せず)「この薬を使えば、痩せますよ!」(食事と運動療法について説明せず)■解説最近、「GLP-1ダイエット」という言葉が注目を集めています。SNSでは、単品ダイエット、脂肪燃焼スープ、食事時間制限、レモンコーヒーなどとともに、「GLP-1ダイエット」というワードが頻繁に検索されています。GLP-1受容体作動薬は、血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン抑制や胃内容物排出遅延を介して血糖改善作用を発揮するだけでなく、食欲抑制を通じて減量効果も期待されます。肥満症を対象とした「セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)」の適応は、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病を有し、かつ食事療法や運動療法が不十分な場合、かつBMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある、またはBMIが35以上の患者に限定されています。ところが、「GLP-1ダイエット」では、「初診からオンラインで診察可能、自宅で手軽に実施でき、食事制限や運動不要で、太りにくい体質になる」などといった宣伝文句が並んでいます。一部には自己調整可能な投与量を強調するものも見受けられます。そのうえ、自由診療であるので価格が高額である一方で、副作用については詳細な説明が不足しています。その結果、副作用が発生した場合には、保険診療の医療機関を受診する必要が生じます。そして、自由診療においてGLP-1受容体作動薬が処方されることで、本来必要な糖尿病患者への供給が追いつかないとの指摘もあります。また、自由診療で処方された患者は、適切なライフスタイルの改善方法について充分な説明がなされていないため、薬を中止した際のリバウンドを心配しています。こうした「GLP-1ダイエット」の問題点について適切に理解し、説明することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者この間、SNSを検索していたら、「GLP-1ダイエット」というのがでてきたのですが、どうですか?(糖尿病がない肥満者)医師最近、美容の世界や個人輸入している人もいるそうですね。患者痩せるんですか?医師正しく使えばね。ただし、自己流は禁物です。患者副作用はありますか?医師もちろん。薬ですから、副作用はありますよ。吐き気や嘔吐、胃腸障害など…。あと、専門家の指導のもとで薬の量を調整しないと、低血糖などで救急搬送された例もあるそうですよ。患者えっ、それ怖いですね。医師それに、薬を止めたら、体重がリバウンドするかもしれませんからね。患者確かに、ただ単に薬を飲むだけじゃ、痩せないということですね。医師そうです。こういった肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。そうすることがリバウンド予防になります。患者食事と運動はどんなことに気を付けたらいいですか?(興味深々)■医師へのお勧めの言葉「ただ、薬を飲むだけでは痩せることはできませんし、止めたらリバウンドは必至です。肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。その方が、最小限の薬になって副作用も少ないですし、薬を止めた際にもリバウンド予防につながります」 1)Ansari H UI H, et al. Endocr Pract. 2023:23;758-759.Endocr Pract. 2023 Nov 27.[Epub ahead of print]2)日本肥満学会、肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント3)最適使用推進ガイドラインセマグルチド(遺伝子組換え)

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睡眠で認知症予防、良質な睡眠を誘う音楽とは?【外来で役立つ!認知症Topics】第13回

認知症予防の睡眠で注目される「グリンパティック系」多くの病気の予防因子として共通するのが、運動、栄養、休養である。認知症の場合は、これに知的刺激や社会交流が加わる。具体的な予防法に注目すると、運動なら有酸素運動やデュアルタスク、栄養なら地中海食など具体的な目玉項目がある。しかし休養ではそれがなかった印象がある。「そもそも休養とは何か?」も難しいのだが、これは睡眠のことと考えていいだろう。とはいえ、「認知症予防の睡眠とは?」となるとこれというものはなく、いまひとつであった。そこに現れたのが、「グリンパティック系」である。筆者が学生の頃には、代謝過程の老廃物の処分を担うリンパ系器官が脳にはないと教わった。確かに脳には解剖学的にリンパ系はないが、実は同じ役割を担うものがあると判明した。それがグリンパティック系である1)。これは血管周囲の星状膠細胞により形成されたトンネル様構造で、中枢神経系の廃棄物を脳脊髄液と共に除去する系である。アルツハイマー病等の変性疾患に関連する異常蓄積蛋白もこの系で除去される。そして除去は睡眠中に行われることがわかったことが重要だ。だから睡眠不足は悪者蛋白の除去効率を下げることになる。さて疫学的に睡眠時間と認知症発症の関係は注目され、7時間睡眠が最も発症に防御的だとした大規模メタアナリシスも報告されている。ところが、日本人は世界的にみて最も睡眠時間が短く、平均6時間程度とされる。このこともあってか、近年アルツハイマー病予防に関連して、グリンパティック系を軸にした睡眠に注目が集まりつつある。睡眠関連障害と認知症の関係ところで睡眠障害は不眠ばかりでない。たとえばレム睡眠行動障害、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群(RLS)などいくつもの病気がある。こうしたさまざまな睡眠関連障害と認知症発症の関係もまた研究され、すでにメタアナリシスもある2)。そしてこれらの睡眠関連障害の多くが認知症発症に関係することが示されている。認知機能低下に関連する要因として代表的なものが、レム睡眠行動障害(リスク比[RR]=1.90、95%信頼区間[CI]=1.23~2.91、I2=0%)、睡眠時無呼吸症候群(RR=1.29、95%CI=1.12~1.48、I2=40%)、ベッドで長時間過ごすこと(RR=1.15、95%CI=1.02~1.30、I2=22%)である。なおレストレスレッグス症候群とは無関係であった。逆に認知症に防御的と思われるものもある。習慣的昼寝(high trend:RR=0.46、95%CI=0.21~1.01、I2=45%)については、有意に効果的な傾向が報告されている。良質な睡眠を誘う音楽さて認知症者における睡眠障害はありふれたものである。たとえば、睡眠の不連続性(中途覚醒)、日中の眠気、睡眠効率の悪さ(寝ている時間/ベッドにいる時間)がアルツハイマー病でみられやすい睡眠障害だとされる。そして症状の進行とともに睡眠・覚醒リズムが乱れ、昼夜逆転パターンに至る例が多い。それだけに睡眠の質を良くするという課題は、認知症当事者と家族、また医療者、ケアスタッフにとっても大切である。普通いわれるのは、就床に先立つ運動や入浴、寝室温度をいくらか低めに設定、適切な明るさの設定などである。これまであまり知られていないが、音楽によるスムーズな入眠への効果も検討されており、効果的だとしたメタアナリシスもある。ところが、「どのような音楽をどのように聴いたら、スムーズな入眠効果が生まれるのか?」はほとんど検討されておらず、エビデンスが乏しい3)。しかし経験論的には以下がポイントだとされる。耳に心地よい音楽歌詞のない音楽自然の音のヒーリングミュージック長調の音楽である。音楽の内容は、クラシックや歌謡曲などではない。チルアウト系、アンビエント・ミュージックなどが代表だが、波の音、雨音など自然で単調なものがいい人もいる。筆者の場合、炭がぱちぱちと燃える音を聴いていると自然に眠りに落ちやすい。さて就床してから睡眠への移行における自律神経の活動ぶりは、スムーズな入眠にとっておそらく生理学的な鍵だろう。ところが確立された所見は、意外なほど少ない。ただ副交感神経の働きが優位になることが重要なのは確かなようだ。睡眠と自律神経という観点から考えたとき、音楽的な規則性と不規則性の調和を意味する「1/fのゆらぎ」の音楽が注目され、これが心地よさを生み出すといわれる。そしてこの種の音楽が副交感神経活動を優位にするとの報告もある。マインドフルネス瞑想も認知症者の睡眠の質を向上させる一方で、現代社会で、ストレスを軽減する方法として、マインドフルネスなど自律神経に注目したものが有名である。つまり副交感神経の働きを高め、交感神経の働きを低下させることで、心身の安定を得ることが基本になる。マインドフルネスのみならず、ヨガ、瞑想、また座禅にも同様の効果があるとされる。これらに共通するのは、ペースド・ブリージング(paced breathing)と呼ばれる「1分間あたり10回以下」のゆったりとした呼吸方法である。この呼吸法によって、横隔膜に至る迷走神経が刺激を受けて、副交感神経の働きが高まるとされる。知的に正常の人はもとより、軽度認知障害や認知症の人でも、この方法は有効だとの報告がある。睡眠に関しては、マインドフルネス瞑想で睡眠の質が向上すると報告したメタアナリシスもある。こうした知見から、呼吸法、副交感神経という観点から、認知症者の不眠改善につながる音楽を追求するのも、これからの治療法になるかと思われる。参考1)Lohela TJ, et al. The glymphatic system: implications for drugs for central nervous system diseases. Nat Rev Drug Discov. 2022;21:763-779.2)Xu W, et al. Sleep problems and risk of all-cause cognitive decline or dementia: an updated systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91:236-244.3)Jespersen KV, et al. Music for insomnia in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD010459.

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第80回 外来で増えた「私も抗MDA5抗体ですか?」

Unaplashより使用八代 亜紀さんが、抗MDA5抗体陽性の間質性肺炎増悪のため逝去されました。東日本大震災のときに被災地に行って歌っていたのが印象的でした。彼女が亡くなってからというもの、膠原病関連間質性肺疾患で通院している患者さんから「私も八代 亜紀さんのように肺炎が急速に悪化しないでしょうか?」「私も抗MDA5抗体陽性でしょうか?」という質問が増えました。確かに心配になりますよね。ただ、現在通院している人が実は抗MDA5抗体陽性でした、ということは今の日本の診療ではほとんどないと思います。たぶん。抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎は通称、CADM(Clinically amyopathic dermatomyositis:筋症状のない皮膚筋炎)と呼ばれていますが、その他の膠原病と比較して重症の間質性肺炎を起こしやすい特徴があります。この抗体が陽性になった場合、「スイッチが入る」と表現する医師が多いです。同抗体が測定されないと診断しようがないのは事実ですが、皮膚筋炎をみたときにはチェックしておきたいですし、手の潰瘍やGottron徴候・逆Gottron徴候があるのに抗核抗体が陰性ならば疑う必要があります1)。そして、この疾患を診療していくうえで、とにかく重要なのはフェリチンと考えられます。抗MDA5抗体陽性例では、フェリチン高値(≧500ng/mL)は死亡リスクが高くなり、高いほど予後不良になっていきます2)。「同じ病気」で死去したとされるのが美空 ひばりさんです。Wikipediaによると、最後の1年では「脚の激痛と息苦しさで、歌う時はほとんど動かないままの歌唱であった。この頃すでに、ひばりの直接的な死因となった『間質性肺炎』の症状が出始めていたとされており、立っているだけでも限界であったひばりは、歌を歌い終わるたびに椅子に腰掛け、息を整えていたという。」と記載されています。当時は抗MDA5抗体なんて知る由もなかった時代ですし、膠原病関連間質性肺疾患でさえ存在があまり知られていなかったと思われます。ただ、彼女は肝硬変やCOPDも合併していましたし、亡くなる数年前から症状が出ていることから、「同じ病気」とは断定できないと思っております。参考文献・参考サイト1)Chen F, et al. Anti-MDA5 antibody is associated with A/SIP and decreased T cells in peripheral blood and predicts poor prognosis of ILD in Chinese patients with dermatomyositis. Rheumatology international. 2012;32:3909-3915.2)Goto T, et al. Clinical manifestation and prognostic factor in anti-melanoma differentiation-associated gene 5 antibody-associated interstitial lung disease as a complication of dermatomyositis. Rheumatology. 2010 Sep;49(9):1713-1719.

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臨床実地問題の典型症例は本文ごと覚える【国試のトリセツ】第24回

§4 演習の工夫臨床実地問題の典型症例は本文ごと覚えるQuestion〈106I48〉3歳の男児。右腕が動かないことを心配した母親に伴われて来院した。母親がつないでいる児の右手を急に引っ張り上げた直後から、児は右上肢を下垂したまま動かさなくなったという。右手指の自動運動は可能である。歩行に異常を認めない。障害されている部位として最も考えられるのはどれか。(a)頸椎(b)鎖骨(c)肩関節(d)肘関節(e)手関節

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朝食摂取とうつ病との関係

 うつ病は、食生活、社会的因子、生活習慣といった多くの要因と関連しており、重大かつ患者数が多い、世界的な公衆衛生上の問題である。中国・吉林大学のFengdan Wang氏らは、朝食の摂取、食事性炎症指数(DII)とうつ病との関連を評価し、朝食の摂取がうつ病に及ぼす影響に対しDIIがどのように関与しているかを調査した。Journal of Affective Disorders誌2024年3月号の報告。 対象は、2007~18年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万1,865人。朝食の摂取、DII、うつ病との関連の分析には、二項ロジスティック回帰分析と媒介効果分析を用いた。食事による炎症は、DIIに従い炎症誘発性食と抗炎症性食に分類した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は47.24±0.28歳であった。・2回の回想法で、2回とも朝食摂取を報告した参加者(A群)は77.6%、1回でのみ朝食摂取を報告した参加者(B群)は16.3%、朝食摂取を報告しなかった参加者(C群)は6.1%であった。・炎症誘発性食、朝食抜きは、うつ病のリスク因子であった。・共変量で調整した後、B群はA群と比較し、うつ病のオッズ比が高かった(オッズ比:1.54、95%信頼区間:1.20~1.98)。・心血管疾患(CVD)および糖尿病でない参加者を対象とした層別化および感度分析においても、これらの関連は強固であった。・DIIは朝食摂取とうつ病との関連を仲介しており、B群の26.15%、C群の26.67%において認められた。 著者らは、研究の限界として、因果関係を明らかにしているわけではなく、データが限られているため薬物使用に関する交絡因子を考慮していない点を挙げたうえで、「朝食を抜くとDIIが上昇し、うつ病リスクが高まる可能性がある」とし、「本結果は、うつ病リスクの軽減には定期的な朝食、抗炎症性食の摂取が重要であることを裏付けるものである」とまとめている。

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新型コロナJN.1が世界の主流株に、高い伝播力と免疫回避能/東大医科研

 2023年12月時点で、オミクロン株BA.2.86の子孫株であるオミクロン株JN.1が世界各地で流行を拡大し、JN.1は世界保健機関(WHO)により「注目すべき変異株(VOI)」に分類されている。東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らによる研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」の研究で、JN.1は、これまで主流の1つだったXBB系統のEG.5.1より高い伝播力(実効再生産数)を有し、自然感染やワクチン接種により誘導される中和抗体に対しても高い回避能を有していることが認められた1)。本結果は、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年1月3日号に掲載された。 2023年11月時点で、BA.2.86の子孫株であるJN.1(別名:BA.2.86.1.1)の感染が世界中で急速に拡大している。JN.1はBA.2.86と比較して、スパイクタンパク質の455番目のアミノ酸がロイシン(L)からセリン(S)に置換された変異(S:L455S変異)を有しており、JN.1の持つS:L455S変異が流行の拡大に重要であると考えられている。なお、11月30日~12月31日のデータによると、世界で検出された変異株のうちJN.1が占める割合は32.85%となり、世界の主流株になっている2)。 本研究ではJN.1の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるJN.1の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・フランス、英国、スペインのゲノム監視データを基にした調査において、JN.1の実効再生産数は、それまで主流だったEG.5.1やHK.3よりも高いことが確認された。・JN.1は親株のBA.2.86と比較して、S:L455S変異という1つのアミノ酸の違いしかないにもかかわらず、BA.2.86より高い感染価を示した。・XBB系統XBB.1.5およびEG.5.1のブレークスルー感染によって誘導される中和抗体の中和活性について検証したところ、JN.1はいずれの中和抗体に対しても、BA.2.86よりも3.8倍高い中和抵抗性を示した。・JN.1は、EG.5.1の子孫株であるHK.3に比べ、XBB.1.5ブレークスルー感染による中和抗体に対して2.6倍(p=0.0016)、EG.5.1ブレークスルー感染による中和抗体に対して3.1倍高い(p<0.0001)中和抵抗性を示した。・XBB.1.5対応1価ワクチンにより誘導される中和抗体に対して、JN.1は、XBB系統非感染の場合ではBA.2.86よりも3.6倍高い(p=0.016)、XBB系統感染の場合ではBA.2.86よりも4.5倍高い(p=0.0020)中和抵抗性を示した。

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HR+HER2-進行乳がん、パルボシクリブ+タモキシフェンが治療選択肢に/ファイザー

 ファイザーは1月15日付のプレスリリースにて、パルボシクリブの添付文書が改訂されたことを発表した。ホルモン受容体(HR)陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)の進行または転移乳がん患者へのパルボシクリブとタモキシフェン併用投与の有効性と安全性を検討した第III相試験(PATHWAY試験)の結果に基づくもので、これにより、パルボシクリブとタモキシフェンとの併用が新たな治療選択肢となる。 パルボシクリブはこれまで、レトロゾールまたはフルベストラントとの併用投与の成績に基づいて承認されており、タモキシフェンとの併用における有効性や安全性は確立されていなかった。またアジア地域では欧米に比べ、全乳がんのうち閉経前乳がんの占める割合が多く、治療選択肢が十分でない状況があった。 PATHWAY試験は、HR+/HER2-の閉経前・閉経後の進行または転移乳がん患者を対象に、パルボシクリブとタモキシフェンの併用投与と、プラセボとタモキシフェンの併用投与を比較した国際多施設共同無作為化二重盲検試験で、国立がん研究センター中央病院が主導した医師主導治験。日本(12施設)、韓国(6施設)、台湾(3施設)、シンガポール(2施設)の4ヵ国が参加した。 本試験において、パルボシクリブとタモキシフェンの併用投与は、プラセボとタモキシフェンの併用投与と比較し、統計学的に有意かつ臨床的に意味のある無増悪生存期間(PFS)の延長を示し、試験の主要目的を達成した。

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鎮咳薬不足、増えた手間や処方優先患者は?/医師1,000人アンケート

 後発医薬品メーカーの不祥事などで医薬品供給不安が続いているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行が鎮咳薬不足に追い打ちをかけている。昨年9月には厚生労働省が異例とも言える「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」1)の通知を出し、処方医にも協力を仰いだことは記憶に新しい。あれから3ヵ月が経ち、医師の業務負担や処方動向に変化はあったのだろうか。今回、処方控えを余儀なくされていることで生じる業務負担や処方を優先する患者の選び方などを可視化すべく、『鎮咳薬の供給不足における処方状況』について、会員医師1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)にアンケート調査を行った。最も入手困難な薬剤、昨夏から変わらず まず、鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の在庫逼迫状況の理解について、勤務先の病床数を問わず全体の95%の医師が現況を認識していた。なお、処方逼迫について知らないと答えた割合が高かったのは200床以上の施設に勤務する医師(8%)であった。 次に入手困難な医薬品について、昨年8~9月に日本医師会がアンケート調査を行っており、それによると、院内処方において入手困難な医薬品名2,096品目の上位抜粋30品目のうち9品目が鎮咳薬/鎮咳・去痰薬であった2)。これを踏まえ、本アンケートでは鎮咳薬/鎮咳・去痰薬に絞り、実際に処方制限している医薬品について質問した。その結果、最も処方制限している医薬品には、やはりデキストロメトルファン(商品名:メジコン)が挙がり、続いて、チペピジンヒベンズ酸塩(同:アスベリン)、ジメモルファンリン酸塩(同:アストミンほか)などが挙げられた。この結果は1~19床を除く施設で同様の結果であった。処方が優先される患者、ガイドラインの推奨とマッチ? 鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の処方が必要な患者について、2019年に改訂・発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019』によると、“可能な限り見極めた原因疾患や病態に応じた特異的治療(末梢に作用する鎮咳薬や喀痰調整薬など)が大切”とし、中枢性鎮咳薬(麻薬性:コデインリン酸塩水和物ほか、非麻薬性:デキストロメトルファン、チペピジンヒベンズ酸塩ほか)の処方にはいくつか問題点があることを注意喚起しながらも、“患者の消耗やQOL低下をもたらす病的な咳の制御は重要であり、進行肺がんなど基礎疾患の有効な治療がない状況では非特異的治療は必要であるが3)、少なくとも外来レベルでは初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例に留めることが望ましい”と記している。よって、「高齢者」「疾患リスクの高い患者」への適切な処方が望まれるものの、不足している中枢性鎮咳薬を処方する患者の見極めが非常に重要だ。以下には、参考までにガイドラインのステートメントを示す。<ガイドラインでの咳嗽治療薬におけるステートメント>◆FAQ*1:咳嗽治療薬の分類と基本事項は 咳嗽治療薬は中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)と末梢性鎮咳薬に分類される。疾患特異的な治療薬はすべて末梢性に作用する。可能な限り原因疾患を見極め、原因に応じた特異的治療を行うことが大切である。中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。*frequently asked question◆FAQ2:咳嗽治療の現状は さまざまなエビデンスが年々増加しているものの、咳が主要評価項目でなかったり評価方法に問題がある研究が多い。多種多様の治療薬選択における標準化はいまだ十分ではなく、臨床現場での有用性を念頭に本ガイドラインの改訂に至った。 では、処方の実際はどうか。本アンケート結果によると、20床未満の場合、2023年7月以前では「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「咳があるすべての患者」「処方を希望する患者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方が多く、希望患者への処方が高リスク患者へのそれよりも上回っていた。しかし、12月時点では、「喘息などを有する高リスク患者」「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「処方を希望する患者」「咳があるすべての患者」と処方を優先する順番が変わり、希望患者への処方を制限する動きがみられた。一方、20床以上においては2023年7月以前では「高齢者」「咳が3週間以上続く患者」「処方を希望する患者」の順で多かったが、12月時点では、「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方患者が多かった。このことからも、高齢者よりも咳が3週間以上続く患者(遷延性咳嗽~慢性咳嗽)に処方される傾向にあることが明らかになった。鎮咳薬不足による手間、1位は疑義照会対応 供給不足による業務負担や処方変化については、疑義照会件数の増加(20床未満:48%、20床以上:54%)、長期処方の制限(同:43%、同:40%)、患者説明・クレーム対応の増加(同29%、同17%)の順で医師の手間が増えたことが明らかになり、実践していることとして「患者に処方できない旨を説明」が最多、次いで「長期処方を控える」「処方すべき患者の優先順位を設けた」などの対応を行っていることがわかった。また、アンケートには「無駄な薬を出さなくて済むので、処方箋が一枚で収まるようになった(60代、内科)」など、このような状況を好機に捉える声もいくつか寄せられた。アンケートの詳細は以下にて公開中『鎮咳薬の供給不足における処方状況』<アンケート概要>目的:製造販売業者からの限定出荷が生じているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ等の感染症拡大に伴い、鎮咳薬などの在庫不足がさらに懸念されることから、医師の認識について調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)調査日:2023年12月15日方法:インターネット

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米国透析施設の新たな支払いモデル、人種・経済格差の影響は?/JAMA

 米国のメディケア・メディケイドの運営主体Centers for Medicare & Medicaid Services (CMS)は2021年1月1日、米国内の透析施設の30%をランダムに選択し、在宅透析の利用、腎移植待機リストへの登録や移植の受領に基づき経済的インセンティブ(賞与もしくは罰金)を与える支払い方法「末期腎不全治療選択(ETC)モデル」を導入した。背景には、人種や社会経済的状況により、在宅透析導入や移植受領などに格差がみられたことがある。先行研究で、同モデル導入による在宅透析利用の増加の報告(全成人透析導入患者において)や変化なしという報告(66歳以上の従来メディケア受給者において)があるが、腎不全治療の公平性に対する影響については検討されていなかった。今回、米国・ブラウン大学のKalli G. Koukounas氏らは、透析施設を透析導入患者の社会的リスクで層別化し、ETCモデル導入初年度のパフォーマンススコアと罰金を評価した。JAMA誌2024年1月9日号掲載の報告。全米2,191の透析施設の複合社会的リスクスコアとパフォーマンスの関連を検証 研究グループは、2021年1月1月~12月31日にETCモデルに参加した米国内透析施設2,191ヵ所を対象に横断的研究を行った。 透析導入患者の集団特性について、非ヒスパニック系黒人、ヒスパニック系、極度の貧困地域に居住、透析開始時に無保険またはメディケイド受給者の構成割合を調査。そのうえで、複合社会的リスクスコアとして、各項目患者の割合について最高五分位に該当する項目数が0、1、2以上かで各施設を分類し、在宅透析の利用、腎移植待機リストへの登録、移植の受領、モデルのパフォーマンススコア、罰金との関連を評価した。社会的リスク高い施設、パフォーマンスや賞与率は低く、罰金率は高い傾向 透析導入患者12万5,984例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:54~74、女性41.8%、黒人28.6%、ヒスパニック11.7%)のデータを用いて解析した。 試験対象2,191ヵ所のうち、複合社会的リスクスコアが0の透析施設が1,071ヵ所(48.9%)、同スコア2以上が491ヵ所(22.4%)だった。 ETCモデルを導入した初年度に、複合社会的リスクスコアが0だった透析施設と比較して、2以上だった透析施設の平均パフォーマンススコアは有意に低く(3.4 vs. 3.6、p=0.002)、在宅透析の実施率も有意に低かった(14.1% vs.16.0%、p<0.001)。 これらの透析施設は罰金を課された割合が有意に高く(18.5% vs.11.5%、p<0.001)、最高率5%の支払い額の削減を受けた割合も有意に高かった(2.4% vs.0.7%、p=0.003)一方で、最高率4%の賞与を受けた割合は有意に低かった(0% vs.2.7%、p<0.001)。 すべてのその他の透析施設と比較して、無保険者やメディケイド受給者の割合が最高五分位に該当する透析施設は、罰金を課される割合が有意に高く(17.4% vs.12.9%、p=0.01)、同様に黒人患者の割合が最高五分位に該当する透析施設も罰金を課される割合が有意に高率だった(18.5% vs.12.6%、p=0.001)。

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ROS1融合遺伝子陽性NSCLC、repotrectinibが有望/NEJM

 ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、repotrectinibはROS1チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の治療歴を問わず、持続的な臨床活性を示したことが、米国・スローンケターリング記念がんセンターのAlexander Drilon氏らが行った第I/II相試験(「TRIDENT-1試験」)で示された。有害事象は主にグレードが低く、長期の投与に適するものであった。ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの治療に承認されている初期世代のROS1 TKIは、抗腫瘍活性を有するが、耐性が生じ、頭蓋内活性が最適とはいえない。repotrectinibは、前臨床試験においてROS1 G2032Rなどの耐性変異を含むROS1融合遺伝子陽性がんに対する活性が示された次世代のROS1 TKIであり、研究グループは承認申請のため本検討を行った。NEJM誌2024年1月11日号掲載の報告。奏効率、奏効期間、無増悪生存期間などを評価 研究グループは、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを含む進行固形がん患者を対象に、repotrectinibの有効性と安全性を評価する第I/II相試験を行った。 第II相試験の有効性の主要評価項目は奏効率だった。有効性の解析は、第I相および第II相試験の被験者を対象に行った。第II相試験の副次評価項目は、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、および安全性であった。ROS1 TKI未治療患者のDOR中央値は34.1ヵ月 第I相試験の結果に基づき、第II相試験でのrepotrectinibの推奨用量は、160mg/日を14日間投与後、160mgを1日2回とされた。 ROS1 TKI未治療のROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者において、奏効が認められたのは71例中56例(79%、95%信頼区間[CI]:68~88)であり、DOR中央値は34.1ヵ月(95%CI:25.6~推定不能)、PFS中央値は35.7ヵ月(27.4~推定不能)だった。 1種類のROS1 TKIによる治療歴があり、化学療法歴のないROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者において、奏効が認められたのは56例中21例(38%、95%CI:25~52)であり、DOR中央値は14.8ヵ月(95%CI:7.6~推定不能)、PFS中央値は9.0ヵ月(6.8~19.6)だった。 ROS1 G2032R変異陽性の患者において、奏効が認められたのは17例中10例(59%、95%CI:33~82)だった。 第II相試験用量の投与を受けた426例のうち、頻度が高かった治療関連有害事象は、めまい(58%)、味覚障害(50%)、錯感覚(30%)であった。治療関連有害事象のためrepotrectinibを中止したのは3%だった。

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インスリン療法を行っている妊娠中の糖尿病に、メトホルミンを追加することの意義は?(解説:小川大輔氏)

 妊娠前から2型糖尿病と診断されている方でも、妊娠後に糖尿病と診断された方でも、妊娠中の糖尿病の管理は食事療法とインスリン療法が基本となる。日本では妊婦に対するメトホルミンの投与は禁忌とされているが、海外では使用が可能となっている。糖尿病合併妊娠あるいは妊娠糖尿病患者を対象に、インスリン療法に加えてメトホルミンを追加した際の新生児期の有害事象に対する効果を検討した結果がJAMA誌に発表された1)。 米国17ヵ所の医療機関で、妊娠前に2型糖尿病と診断されている、または妊娠23週以前に妊娠糖尿病と診断されたインスリン治療中の被検者831症例を対象に、メトホルミン1,000mgを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは周産期死亡、早産、新生児低血糖、在胎不当過大児あるいは在胎不当過少児、光線療法を必要とする高ビリルビン血症といった新生児複合有害事象であった。 多く認められた有害事象は早産、新生児低血糖、在胎不当過大児であり、主要アウトカムの発生率はメトホルミン群71%、プラセボ群74%と有意差はなかった。副次アウトカムも両群間で有意差を認めなかった。ただ、新生児複合有害事象の1つである、在胎不当過大児についてはメトホルミン群で有意にイベントが少なかった。著者らはこの効果について、さらなる検討が必要であると考察している。 今回の試験で、妊娠糖尿病あるいは2型糖尿病の妊婦に対し、メトホルミン追加投与による新生児有害アウトカムの抑制効果は示されなかった。インスリンを用いて厳格に血糖を管理すれば新生児の有害事象は減るので、その状況でメトホルミンを上乗せしてもさらなる効果は期待できないのかもしれない。しかし、インスリン療法にメトホルミンを追加することにより、新生児低血糖、在胎不当過大児、妊娠高血圧などのリスクが低下し、また早産や在胎不当過少児、周産期死亡などの有害事象は増加しないというメタ解析の報告もある2)。妊娠糖尿病でも肥満合併例やインスリン抵抗性の強い妊婦を対象として、インスリン療法にメトホルミンを併用する試験が行われることを期待したい。

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第195回 ALS患者嘱託殺人、主犯とされる医師の裁判員裁判始まる、被告は「願いをかなえるためにやった」と証言

能登半島地震、被災者の地元外に開設された1.5次・2次避難所への移動が本格化こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。能登半島地震から2週間が経過し、被災者の地元外に開設された1.5次や2次避難所への移動が本格化してきました。集落の住民が丸ごと地元外の市や町の公民館等に避難するケースも出てきました。道路が寸断し、電気水道などのライフラインの復旧が遅々として進まず、救助、支援もスムーズにいかない中、災害関連死も増えつつあります。地元外への避難はやむを得ない選択だと思います。一度の地震で、これだけ孤立と、支援遅れが起きたケースはこれまであまりなかったのではないでしょうか。陸からの交通網が限られる半島部で、なおかつ過疎地が点在しているという能登半島の特徴が、効率的な支援の妨げになっているようです。地元外の市町で避難所を設け、被災者を受け入れたところでは、医療・介護の需要が突然高まることにもなります。被災地だけではなく、そうした市町に対する医療・介護支援のあり方もこれからは大きな課題となりそうです。嘱託殺人罪の適用は死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反するとして弁護側は無罪主張さて、今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者を依頼を受けて殺害した、などとして、嘱託殺人などの罪に問われた医師の大久保 愉一(よしかず)被告(45)の裁判員裁判が1月11日から京都地裁(川上 宏裁判長)で始まったので、それについて書いてみたいと思います。逮捕から実に約3年半、共犯とされた元医師の判決が昨年末に出てからの“本丸”の裁判開始です。安楽死や自殺幇助に対して裁判所が従来とは違った解釈を出すかが注目されます。朝日新聞等の報道によれば、犯行を主導したとされる大久保被告は、11日の初公判で起訴内容を認めつつ「(女性患者の)願いをかなえるために行った」と述べたとのことです。弁護側は大久保被告が殺害しなければ、「女性は『望まない生』を強いられ続けたことになる」と指摘、被告に嘱託殺人罪を適用することは死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反する、として無罪を主張しました。日本において積極的安楽死の罪の根拠となっているのは1990年代の事件の判例大久保被告は知人の元医師、山本 直樹被告(46)と共謀し、2019年11月、京都市内のALSの女性患者(当時51)のマンションを訪れて、女性の依頼で胃ろうに薬物(バルビツール酸系薬剤が検出)を注入し、急性薬物中毒で殺害したとして起訴されました。また、2011年3月には、長野県内の病院に長期入院していた山本被告の父(当時77)を都内のアパートに連れ出して殺害したとする罪にも問われており、両事件がまとめて審理されることになります。ALSの女性患者の嘱託殺人については、本連載でも何度か取り上げてきました。事件発覚当初の2020年8月には、「第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)」、「第18回 同(後編)」で、日本における積極的安楽死の罪の根拠となっている1991年に起きた「東海大学安楽死事件」と 1998年に起きた「川崎協同病院事件」について振り返り、ある有識者の「(この事件は)安楽死議論の対象にもならない」というコメントを紹介しつつ、「果たして本当にそうでしょうか。少なくとも、医療関係者も目を逸らしてきた、積極的安楽死についての議論を再開するきっかけにはなると思うのですが、どうでしょう」と問い掛けました。そして、「今回の事件は、積極的安楽死の“定義”と照らし合わせながら裁かれていくことになるでしょう。(中略)。しかし、この(東海大学安楽死事件の)横浜地裁の判決が出たのは1995年、今から25年も前です。インフォームド・コンセントが医療法に『説明と同意』を行う義務として明記されたのが1997年ですから、それより前の医学会や社会の常識をベースとした判例が未だに積極的安楽死を考える際の基準となっていることに違和感を覚えます」と書きました。検察側は被告が医療行為に見せかけて障害者らを殺害することに強い関心を持っていたと指摘各紙報道等によれば、1月11日の初公判で、検察側は冒頭陳述において大久保被告が医療行為に見せかけて障害者らを殺害することに強い関心を持っていた、と指摘。そのための「マニュアル」を執筆し、医療知識を悪用して犯行に及んだとしました。検察側はこの「マニュアル」の一部を示して、「証拠が残らない」「人を殺してもバレないシチュエーションがある」などと記されていた、として有罪の根拠となるとしました。さらに、女性は死期が迫った状態ではなかったと指摘、大久保被告が女性の病状を詳しく把握せずに殺害、130万円の報酬も受け取っており、「正当な行為に当たるはずはなく、刑事責任が問える」と訴えたとのことです。山本被告の父を山本被告らと共謀して殺害したとされる殺人罪については、大久保被告は「やっておりません」と起訴内容を否認したとのことです。元医師については既に嘱託殺人罪で懲役2年6ヵ月の判決共犯とされる元医師・山本被告については、既にALSの女性患者の嘱託殺人については2023年12月19日に京都地裁で懲役2年6ヵ月(求刑懲役6年)の判決が、父親に対する殺人罪については2023年2月7日に京都地裁で懲役13年(求刑懲役20年)の判決が出ています。ただし、いずれも判決を不服として大阪高裁に控訴しています。各紙報道等によれば、昨年12月の嘱託殺人の判決で川上裁判長は「(山本被告は)従属的な立場だったとはいえ、犯行を遂行するために重要な役割を担った」と述べ、「医師の立場を利用し、ALS患者等から安楽死の依頼を受け、対価を得た上で、いわばビジネスとして犯行に及んだと認められる。被害者にとって他に手段がなかったとはいえ、被告らはろくに診察もせず、親族らに秘密裏に殺害しており、強い非難に値する。執行猶予が多い嘱託殺人罪の量刑傾向を踏まえても実刑は免れない」として、懲役2年6ヵ月の判決を下しています。ちなみに、嘱託殺人罪は刑法206条に規定されており、被害者本人の真意に基づく依頼を受けて殺人を実行した場合に適用されます。法定刑は6ヵ月以上7年以下の懲役または禁錮とされており、殺人罪よりも軽くなっています。なお、山本被告は、医師資格取得にあたって、かつて厚労省医政局医事課に試験専門官として勤務していた大久保被告から不正取得の方法を伝授されたとされており、逮捕後に医師免許を取り消されています(「第149回 医師免許はそんなに簡単に不正取得できるのか?ALS嘱託殺人で発覚した厚生労働省の“謎ルート”」参照)。被害者側の「安楽死させてほしい」という意思に対する被告側の行為を今回の裁判がどう判断するか大久保被告の公判は2月1日まで10回行われて結審し、3月5日に判決が言い渡される予定です。なお、11月11日に続く12日には第2回公判が開かれており、この席には検察側の証人として山本被告が出廷、大久保被告について「証拠を残さず殺人できる方法を蓄積し、共有することで、自分の理想とする世の中が実現すればいいと考える人だった」などと述べ、医療行為に紛れて高齢者などを殺害することに興味を抱いていたと証言したとのことです。大久保被告の行った行為が、純粋にビジネスだったのか、安楽死に対する興味にかられてのものだったのか、あるいは漫画「ブラック・ジャック」に登場するドクター・キリコの思想に憧れてのものだったか、その真の動機は公判の過程で少しは明らかになるでしょう。しかし、それとはまた別に、被害者側の「安楽死させてほしい」という意思に対する被告側の行為について、今回の裁判はどのような判断を下すでしょうか。昨年12月の山本被告の判決で川上裁判長は、「犯行は女性の死にたいという真摯な嘱託に基づいており、自殺幇助に近い側面もある」とし、苦痛なく死亡したとみられる点について「量刑上相当に酌むべき事情」としました。海外の一部の国(ドイツ、カナダなど)では、2010年以降、重篤な患者に対する自殺幇助について各国の憲法で認める判断が下されています。嘱託殺人罪の適用を「死を望む女性患者の自己決定権を保障する憲法13条に違反する」とする弁護側の主張が、どこまで通るのかが裁判のポイントになりそうです。

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