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10項目の要点確認で災害高血圧を防ぐ/日本高血圧学会

 日本高血圧学会(理事長:野出 孝一氏[佐賀大学医学部内科学講座 主任教授])は、今般の能登半島地震の発生を受け、避難所での災害関連死を予防する観点から「被災地における高血圧疾患予防」をテーマに、緊急メディアセミナーを開催した。 セミナーでは、10項目の「寒冷被災地における血圧管理と高血圧合併症予防の要点」を示し、震災の避難所で医療者も一般の人も確認できる高血圧予防指標の紹介と震災地での初動活動について報告が行われた。なお、10項目の要点は、同学会のホームページで公開され、ダウンロードして使用することができる。140mmHg超の血圧ではまわりの医療者へ相談を 苅尾 七臣氏(自治医科大学内科学講座循環器内科学部門 教授)は、今回の10項目の要点の制作についてその背景を語った。 過去の大規模災害を振り返ると災害被災周辺地域では、災害高血圧が発生し、心血管疾患、脳卒中、大動脈解離などの循環器疾患が増加、命を落とす方も多かった。また、今回の能登半島地震のように冬季でしかも寒冷地域のようなところでは、血圧コントロールも難しく、さらなる循環器疾患の増加も懸念されている(とくに心血管死亡は血圧が10/20mmHg上昇するごとに2倍ずつ増えるとされ、90/140mmHgがリスクの目安となる)。 こうした事態から高血圧の特徴と循環器リスク低減のために要点が制作された。ただ、災害時の血圧管理に関する十分なエビデンスはなく、過去の災害から得られた知見などをもとにレトロスペクティブなエビデンスに基づき本要点は作成されているので、この点を注意していただき、診療での目安として現地で役立ていただきたいと期待を寄せた。【寒冷被災地における血圧管理と高血圧合併症予防の要点】(抜粋)※できているものにチェックし、1つでも多くのチェックが付くようにする。〔A 生活環境の整備〕1.寒さ対策:保温性の高い衣服を着用し、体を冷やさない。理想の室温は18℃以上2.睡眠:できるだけ横になる、6時間以上の睡眠を心掛ける〔B 生活習慣の維持〕3.生活リズム:できる限り起床・就寝時刻を決め、生活のリズムを作る4.運動:身体を動かす。1日に20分以上の歩行でも大丈夫5.食事:なるべく塩分の摂り過ぎに注意し、野菜、果物、乳製品などカリウムの多い食事を心がける(医師からカリウム制限を受けている腎臓病の方は指示通りに)6.体重の維持:体重計があれば測って、増減を確認7.感染症予防:できる限りマスク着用、手洗いが大切8.血栓の予防:こまめに水分を摂り、1時間に1回は足を動かす〔C 治療の継続〕9.薬の継続:普段飲んでいる薬は、いつも通り飲み続ける10.血圧管理:血圧を測定し140mmHg以上なら医師、看護師、保健師に相談(とくに160mmHg以上は、できるだけ早い時期に医師に相談) また、苅尾氏はさらに詳しく災害高血圧について説明。「災害地域に生じる高血圧(≥90/140mmHg)」と定義し、被災直後から発生、生活環境と生活習慣が回復・安定するまで持続し、とくに循環器疾患のリスクが高い早朝高血圧は寒冷の影響を受けやすいと詳しく解説した。 特徴として以下の項目がある。・災害後の血圧上昇は一過性で1ヵ月以降低下するが、高齢者、慢性腎臓病、肥満者などの患者では遷延すること・災害時の血圧140mmHg未満を目標とし、血圧レベルは2週間毎に再評価すること(なお、災害時は白衣効果が増大することから避難所などに自動血圧計の設置が望ましい)・患者の服薬状況が不明な場合、安全性と効果の高い長時間作用型カルシウム拮抗薬が適切であること そのほか、過去の震災などの知見から脳血管疾患の発症について、外部仮設トイレ、早朝(とくに午前5時~午前11時)、70歳以上の高齢者はリスクが高くなることを指摘し、これからの数ヵ月、循環器疾患リスクを可能な限り減らしてもらいたいと述べ、説明を終えた。 勝谷 友宏氏(勝谷医院 院長)は、同学会の実地医家部会ネットワークを活用した被災地支援について、血圧計と減塩食について、メーカーなどと協議を行い、現地に手配する準備を行っていることを報告した。 宮川 政昭氏(宮川内科小児科医院 院長)は、日本医師会と連携した被災地支援について説明した。医師会は対策本部を七尾市に置き、日本医師会災害医療チーム(JMAT)の支援を行っている。今回の震災は、過去の震災と違い、現場への派遣に困難を来たし、支援に遅れが生じている。そのため、今までは災害医療派遣チーム(DMAT)からJMATに引き継がれることが多かったが、現在は両チームが並列して活動している。JMATの派遣も約900名となり、今後も能登北部への支援に現地の医師と連携して診療支援を行っていくと展望を語った。

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進行慢性疾患の高齢入院患者、緩和ケア相談は有益か?/JAMA

 進行した慢性疾患を有する高齢患者の入院時に、緩和ケア相談がデフォルトでオーダーされていても在院日数を短縮しなかったが、緩和ケア提供の増加や迅速化ならびに終末期ケアの一部のプロセスは改善した。米国・ペンシルベニア大学のKatherine R. Courtright氏らによる、プラグマティックなステップウェッジクラスター無作為化試験の結果が報告された。入院患者への緩和ケア提供の増加が優先課題となっているが、その有効性に関する大規模で実験的なエビデンスは不足していた。JAMA誌2024年1月16日号掲載の報告。入院当日(デフォルト設定)vs.医師選択実施で在院日数を評価 研究グループは、2016年3月21日~2018年11月14日に、米国の非営利医療システム「アセンション(Ascension)」の地域病院で緩和ケアプログラムが確立されている11施設において、65歳以上の進行した慢性閉塞性肺疾患患者(過去1年以内に2回以上の入院歴または長期酸素療法患者)、腎不全患者(長期透析患者)または認知症患者(胃瘻・空腸瘻栄養、または過去1年以内に2回以上の入院歴)を入院時に登録し、無作為に決定された順で介入または通常ケアを行った。 介入群では最初の入院日(full hospital day)の午後3時に緩和ケア相談がデフォルトでオーダーされ(医師がキャンセルすることは可能)、通常ケア群では医師がいつでも緩和ケア相談をオーダーすることができた。 主要アウトカムは在院日数、副次アウトカムは緩和ケア相談受診率、蘇生処置拒否指示、ホスピスへの退院、院内死亡率等とした。アウトカムデータの収集終了は2019年1月31日。在院日数に差はないが、緩和ケア相談受診率は44% vs.17% 合計3万4,239例が登録され、このうち入院期間が72時間以上であった2万4,065例(女性1万3,338例[55.4%]、平均年齢77.9歳)を主要解析対象集団とした(介入群1万313例vs.通常ケア群1万3,752例)。 介入群では通常ケア群と比較して、緩和ケア相談を受けた患者の割合が高く(43.9% vs.16.6%、補正後オッズ比[aOR]:5.17、95%信頼区間[CI]:4.59~5.81)、緩和ケア相談までの時間が26.7%短かったが(入院後の平均[±SD]日数:3.4±2.6日vs.4.6±4.8日、p<0.001)、在院日数は両群で差がなかった(4.9日vs.5.0日、在院日数中央値の変化量[%]の差:-0.53%[95%CI:-3.51~2.53])。 また、介入群は通常ケア群と比較して、退院時の蘇生処置拒否指示(aOR:1.40[95%CI:1.21~1.63])およびホスピスへの退院(1.30、1.07~1.57)の割合が高かったが、院内死亡率は同程度であった(4.7% vs.4.2%、aOR:0.86[95%CI:0.68~1.08])。

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統合失調症の遺伝的リスクが摂食障害の臨床症状に及ぼす影響

 統合失調症と摂食障害との関連についての報告は増加しており、統合失調症の家族歴が神経性やせ症患者の臨床アウトカムに及ぼす影響が示唆されている。摂食障害患者における統合失調症の遺伝的要因の影響を調査するため、スウェーデン・カロリンスカ研究所のRuyue Zhang氏らは、統合失調症の多遺伝子リスクスコア(PRS)と摂食障害患者の臨床症状(全体的な健康状態および摂食障害関連症状を含む)との関連を評価した。Translational Psychiatry誌2023年11月29日号の報告。 研究には、スウェーデン国立患者レジストリに登録されている1973年以降に生まれた神経性やせ症(Anorexia Nervosa Genetics Initiative[ANGI])患者3,573例、および過食症(Binge Eating Genetics Initiative[BEGIN])患者696例を含む摂食障害の遺伝子関連研究2件のデータを用いた。統合失調症のPRSと摂食障害の臨床的特徴、精神医学的併存疾患、身体的および精神的健康への影響を検討した。 主な結果は以下のとおり。・ANGI患者では、複数の検査値で補正した後、統合失調症のPRSの高さとうつ病リスク(ハザード比[HR]:1.07、95%信頼区間[CI]:1.02~1.13)および物質使用障害リスク(HR:1.14、95%CI:1.03~1.25)の高さとの間に、統計学的に有意な関連が認められた。・また、統合失調症のPRSの高さは、臨床障害評価スコアの低下と関連が認められた(-0.56、95%CI:-1.04~-0.08、p<0.05)。・BEGIN患者では、統合失調症のPRSの高さは、初回摂食障害症状の発現年齢の低さ(-0.35歳、95%CI:-0.64~-0.06)、摂食障害症状スコアの高さ(0.16、95%CI:0.04~0.29)、うつ病リスクの高さ(HR:1.18、95%CI:1.04~1.34)、物質使用障害リスクの高さ(HR:1.36、95%CI:1.07~1.73)と有意な関連が認められた。・神経性やせ症のみおよび摂食障害患者のサブグループにおいて、弱い同様のパターンが認められた。 著者らは「本結果は、精神医学的併存疾患の観点から、神経性やせ症および摂食障害患者における統合失調症のPRSの影響は類似しており、摂食障害関連の臨床的特徴の観点では、異なることを示唆している」とし「統合失調症のPRSが神経性やせ症や摂食障害に及ぼす影響の違いについては、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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新型コロナ、ワクチン接種不足で重症化リスク増/Lancet

 英国において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種が推奨回数に満たないワクチン接種不足者が、2022年6月時点の同国4地域別調査で32.8~49.8%に上り、ワクチン接種不足が重症COVID-19のリスク増加と関連していたことが、英国・エディンバラ大学のSteven Kerr氏らHDR UK COALESCE Consortiumが実施したコホート研究のメタ解析の結果で示された。ワクチン接種不足は完全接種と比較して、COVID-19による入院や死亡といった重症アウトカムのリスク増大と関連している可能性がある。研究グループは、ワクチン接種不足の要因を特定し、ワクチン接種不足者の重症COVID-19のリスクを調査する検討を行った。Lancet誌オンライン版2024年1月15日号掲載の報告。英国のほぼ全国民をカバーする医療データセットを用いて解析 研究グループは、イングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの4地域におけるTrusted Research Environment(TRE)の医療データセットを用いてコホート研究を行った。このデータデットには、ほぼ全国民をカバーする匿名化された電子健康記録のデータが含まれている。 5歳以上を対象に2022年6月1日時点のワクチン接種不足の補正後オッズ比を推定するとともに、同日~9月30日の4ヵ月間における重症COVID-19の発生について、ワクチン接種不足との関連を解析した。ワクチン接種は、英国の予防接種に関する共同委員会(Joint Committee on Vaccination and Immunisation:JCVI)による年齢層別の推奨接種回数を満たしている場合を完全接種、満たしていない場合を接種不足と定義した。 重症COVID-19とワクチン接種不足との関連は、4地域の各TREで解析を行った後、逆分散加重固定効果メタ解析を用いて統合した。完全接種なら、重症COVID-19の2割弱(7,180/4万393件)は回避できた可能性 2022年6月1日時点のワクチン接種不足者は、イングランドで5,896万7,360人中2,698万5,570人(45.8%)、北アイルランドで188万5,670人中93万8,420人(49.8%)、スコットランドで499万2,498人中170万9,786人(34.2%)、ウェールズで235万8,740人中77万3,850人(32.8%)であった。4地域全体の接種不足者は3,040万7,626人(44.4%)であった。 5~74歳の集団において、若年、社会経済的貧困度が高い、非白人、合併症の数が少ないといった人ほど、ワクチン接種不足の可能性が高かった。 重症COVID-19の発生は、全体で4万393件であった。このうちワクチン接種不足者での発生は1万4,156件であった。ワクチン接種不足は、すべての年齢群、すべての地域で、とくに75歳以上において重症COVID-19のリスク増大と関連していた。 2022年6月1日時点で、すべての人がワクチンを完全接種していたと仮定して分析したところ、追跡期間4ヵ月時点で、5~15歳210件(95%信頼区間[CI]:94~326)、16~74歳1,544件(1,399~1,689)、75歳以上5,426件(5,340~5,512)、合計7,180件の重症COVID-19を減少したと推定された。 75歳以上におけるCOVID-19重症化の補正後ハザード比は、推奨回数より1回少ない場合で2.70(95%CI:2.61~2.78)、2回少ない場合で3.13(2.93~3.34)、3回少ない場合で3.61(3.13~4.17)、4回少ない場合で3.08(2.89~3.29)であった。

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進行大腸がんでの免疫療法、治療中止後もその効果は持続か

 免疫チェックポイント阻害薬による治療を中止した進行大腸がん患者の多くは、治療中止から2年後でもがんが進行していないことが、新たな研究で確認された。本研究論文の上席著者である米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの消化器腫瘍内科のVan Karlyle Morris氏は、「ほとんどの患者のがんが治療中止後も進行しなかったという事実は、医師から治療の中止を提案された患者を安堵させるはずだ」と話している。 免疫チェックポイント阻害薬は、多くの大腸がん患者に新たな希望をもたらしている。通常、この治療薬により腫瘍が収縮するか安定化した場合には、医師は患者に治療の中止を提案する。当然のことながら、患者は、効果が現れている上に副作用も少ない治療を中止することに不安を抱く。Morris氏は、「ステージ4の大腸がん患者が、治療を中止した場合の再発リスクを心配するのは当然だ。この研究に着手した当初、われわれはそのリスクがどの程度のものなのかを知らなかった」と米国がん学会のニュースリリースで述べている。 この研究では、DNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)の転移性大腸がんまたは進行大腸がんと診断され、2014年から2022年の間に免疫療法を受けて奏効が確認された患者64人(免疫療法開始時の年齢中央値64歳)の医療データが後ろ向きに評価された。これらの患者は、治療開始時にがんの切除は不可能と判断され、キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)やオプジーボ(一般名ニボルマブ)などのヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体単剤での、あるいはヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体との併用による免疫療法を受け、治療効果(48人)または副作用(16人)を理由に免疫療法を中止していた。免疫療法を受けた期間の中央値は17.6カ月(範囲1.3〜51.9カ月)だった。 その結果、治療中止から中央値22.6カ月(範囲0.3〜71.7カ月)後でも88%(56/64人)の患者でがんは進行していないことが確認された。全患者での無増悪生存期間の中央値は53.9カ月であり、治療中止から1、2、3年後の無増悪生存率は、同順で98%、91%、84%と推定された。この結果は、免疫療法の中止理由にかかわりなく同様であった。8人の患者で認められた再発/進行は肺転移とのみ有意な関連を示し、共存変異や原発巣の位置、免疫療法との関連は有意ではなかった。再発/進行が認められた8人中7人で免疫療法が再開され、治療完了時には全員で奏効または病勢の安定が認められたという。最終的に2人が死亡したが、うち1人の死因はがんとは無関係だった。 Morris氏は、「BRAF遺伝子変異を持つ患者の治療を中止するのは気が進まないという話をがん専門医からよく聞くが、この研究では、変異の有無とがん再発の可能性との間に関連性は認められなかった」と述べている。 ただし、研究グループは、本研究が単施設で実施された小規模な後ろ向き研究である点を強調している。本研究は米国国立がん研究所(NCI)から資金提供を受けて実施された。

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第195回 どうなる?医薬品供給、国内GE大手の相次ぐ海外撤退の行方

国内ジェネリック医薬品(GE)企業最大手・沢井製薬の持株会社・サワイグループホールディングス(サワイグループHD)の発表を見て、やっぱりその結末になったかと思った。こう書くと、沢井製薬九州工場での長期安定性試験での不正のことと思う人が多いかもしれない。しかし、私が抱いた感慨はそのことではない。1月17日にサワイグループHDの米国事業の持株会社サワイ・アメリカHDとその傘下の孫会社であるサワイ・アメリカLLC、2017年に買収した米・GE企業アップシャー・スミス・ラボラトリーズの保有株式を台湾のボラ・ファーマシューティカルズHDに売却すると発表したことに関してだ。早い話がアメリカGE市場からの全面撤退である。ちなみに沢井製薬の九州工場での不正については、昨年12月22日に厚生労働省から総括製造販売責任者(総責)の変更命令、大阪府・福岡県からは業務改善命令が下された。長きにわたり試験不正をやっていたのに、業務停止にならなかったことにすっきりしない人、逆に医薬品供給の観点からホッとした人、さまざまな反応があると思う。業務停止処分については、「医薬品医療機器等法に基づく業務停止命令等取扱規則」が存在し、10項目の判断基準が定められている。今回の件は組織的関与がないと判断されたこと、不正に基づく重大な健康被害が想定されないことなどが、業務停止処分に踏み込まなかった最大の理由だろう。さて、前述の米国事業の撤退は、アメリカ市場での競争激化により差別化のためには追加投資が避けられない状況にあるうえに、日本市場の需要拡大と不正事件対応も含めた品質問題の課題に立ち向かうために国内への経営資源の優先投資が避けられない事情を考慮した結果とのことである。簡単に言えば、アメリカでの市場競争に敗れたのである。しかし、これを単純に沢井の経営問題と考えるのは、個人的には適切ではないと考えている。かつて沢井と肩を並べた日本有数のGE企業であった日医工の前例があるからだ。日医工は2020年末から相次いだGE企業の一連の不祥事に名を連ね、2021年3月に32日間の業務停止処分を受けた。この影響と2017年に買収した米・GE子会社セージェント・ファーマシューティカルズの競争環境悪化による多額の損失が加わり、私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)適用に追い込まれた。日医工、沢井の相次ぐアメリカ市場撤退は、結局、日本のGE企業がアメリカでは競争力がないという厳しい現実を示している。では、どんな競争力が欠けているのか? 端的に言うと価格競争力である。この点については過去の本連載で触れたような事情がある。GE企業の経営安定とそれに伴う品質と安定供給の確保を考えた場合、“海外でも競争力を持つGE企業の育成”という長期的な視点が個人的には不可欠と考えている。もっとも現下の情勢では国内の不安定な供給体制の改善が焦眉の問題である。実際、今も議論が続けられている厚労省医政局の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」の第1回会合でも「海外展開については、まずは、国内の安定供給について業界で担保できるようになってからでよいのではないか」「海外展開について、必ずしも成功していない企業があるため、少し話が拡がり過ぎる印象。原価高騰の流れの中で人件費を抑えるという観点では避けて通れないため、原価の観点から検討するのがよいのではないか」との意見が出て、国内GE企業の海外展開に関する議論は後回しにされている。しかし、製薬企業のみならず多くの産業でDX進展などをベースに業界環境が急変し、「日本の安定供給を解決した後に…」というのは、やや悠長過ぎるのではないだろうか?

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医療者へのワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第6回

はじめここでは特定のワクチンではなく、医療機関で働く医療者に対して接種が推奨されるワクチンを一括して扱う。本稿の対象は、医療機関で働き患者と対面での接触がある職員(医師、看護師、各種技師、受付事務員など)に加え、医療現場で実習を行う医療系学生(医学生、看護学生など)である。以降は、まとめて「医療職員」と記載する。医療職員は、常にさまざまな病原体にさらされている。伝染性疾患の患者は、そうと知らずに治療を求めて病院を訪れるし、易感染性状態にある免疫弱者も同じ空間に密集しうる。これら両者に対応する医療職員も、また、常に病原微生物に曝露されている。したがって、医療職員が感染すると、自身が感染症患者になるだけでなく、無関係な来院者や入院患者へ2次感染を起こす原因にもなりうる。これを回避するためにワクチンがある(ワクチンで予防できる)感染症(VPD)については最大限に対策する必要がある。以上の観点から、対象となるのは以下のVPDとなる。1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD2.接触感染または針刺しが原因となるVPD3.一部の医療従事者で必要となるVPD4.曝露後対応を要するVPDワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD1)麻疹、風疹、ムンプス、水痘(1)いずれも代表的なVPDで、飛沫やエアロゾルによる強烈な感染力がある。ムンプス以外は定期接種に指定されているが、海外からの持ち込みなどもあり根絶には程遠い状況にある。(2)近年は医学部などの卒前教育課程でワクチン接種が推奨される医療系学生も増えてきたが、記録の確認は確実に行っておく必要がある。医療資格を持たない事務系職員も忘れずに対応する必要がある。2)季節性インフルエンザ(1)インフルエンザウイルスによる流行性感冒。A型とB型があり、それぞれ流行の度に表面抗原も微妙に異なる。(2)わが国では晩秋から春にかけて流行することが多いが、沖縄を含む熱帯地方では年間を通じて循環している。海外との往来や温暖化により、流行時期は増えている。(3)感染既往やワクチン接種による免疫は発症を予防するほど十分でないため、ワクチンを接種しても罹患するなど個人レベルでは恩恵を実感しにくいが、集団としてはワクチン接種率が高いほど疾病負荷が減るため有益性がある。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)2019年末から世界的パンデミックを起こしたコロナウイルス。2023年現在はオミクロン株派生型が主流で、軽症にとどまることが多いもののエアロゾル感染を起こすため強い感染力がある。4)百日咳(1)飛沫により感染する細菌感染症。成人が感染すると乾性咳が長く続き、新生児が感染すると致死的な経過を取ることがある。以上から、新生児と接触がある成人に免疫付与するコクーニング(cocooning)による新生児感染予防が推奨されている。2.接触感染または針刺しが原因となるVPD1)B型肝炎(1)ヒトのあらゆる体液(汗を除く)から感染するウイルス性疾患で、15年以上の経過で肝硬変や続発する肝がんの原因となる。(2)世界保健機関(WHO)が1992年からuniversal vaccinationキャンペーンを展開して感染抑制が進んだ地域も多い中、わが国は定期接種化が2016年と世界的には後発であり、高齢者の陽性キャリアはいまだ多い。3.一部の医療者のみ考慮の対象となるVPD1)破傷風(1)土中の芽胞菌である破傷風菌が損傷皮膚に感染して起こす疾患で、発症後の死亡率は30%と高い。肉眼で確認できない微細な損傷でも感染が成立する。(2)屋外で転倒する可能性を考えれば全住民に免疫付与が望まれるが、医療機関での業務として考えた場合、土壌に触れる業務がある職員(清掃職員、園芸療法に関わる者など)で接種完遂が求められる。2)髄膜炎菌(1)飛沫感染によって細菌性髄膜炎を起こす。集団生活や人の密集状態で、時に集団発生することが知られている。(2)救急外来や病理検査室のように、曝露を受ける可能性が高い部署では職員に対して接種を勧める。4.曝露後対応を要するVPD(曝露後緊急接種に用いる)1)MR、水痘(1)麻疹と水痘への曝露があった場合、すみやかに追加接種(72時間以内だが早いほど良い)することで、免疫がなくても高い発症阻止効果が期待できる。(2)風疹とムンプスでは曝露後接種の有効性は示されていないが、曝露の時点でワクチン接種歴が明らかでなければ将来利益も考慮して接種を推奨する。2)HBV(B型肝炎ウイルス)(1)接種未完了者がHBV陽性体液に曝露された場合、免疫グロブリンに加えてHBVワクチン1シリーズ(3回)接種を開始することで感染を予防できる可能性がある。3)破傷風(1)屋外での外傷により発症リスクが懸念される場合、追加接種を行う。医療職員が未接種である可能性は低いが、その場合は免疫グロブリン投与も必要となる。ワクチンの概要(効果、副反応、生または不活化、定期または任意・接種方法)1)MR、ムンプス、水痘(1)上記いずれも生ワクチンであり、MRと水痘は現在国の定期接種となっているが、1回接種だった時代もあり、接種回数が不足している可能性がある。2)季節性インフルエンザ(1)4価の不活化ワクチン(A型2価+B型2価)が最も一般的。成人はシーズン前に1回接種。(2)上記の通り、個々人の発症や重症化を予防する効果は高くないが、集団発生の確率を減らすことで疾病負荷を軽減するために接種が推奨される。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)パンデミック対策として各種ワクチンが緊急開発・供給された中、初めて実臨床使用されたmRNAワクチンが、現時点までもっとも安全かつ有効なワクチンである。(2)2023年現在、野生株とオミクロン株の2価ワクチンが流通している。(3)伝統的なワクチンに比べて発熱や疼痛などが強い傾向はあるものの、重篤な副反応はとくに多いとはいえず、安全性は他のワクチンと大差はない。4)百日咳、破傷風(1)3種または4種混合として定期接種化されている不活化ワクチン。(2)免疫能を維持するために10年ごとの追加接種が望ましいとされているが、追加分は定期接種に設定されていないため、可能なら医療機関で職員の接種時期を把握しておき、接種を知らせたい。接種のスケジュールや接種時の工夫いずれのワクチンについても、接種歴を確実に記録し、必要な追加接種が遅れずに実施できるように努める。1)MR、ムンプス、水痘(1)「生後1年以降に2回の接種」が完遂の条件。間隔が長くても問題ない。(2)上記を満たさない・記録が確認できない場合は、不足分を接種する。(3)2回接種が必要な場合、1ヵ月以上時間を空ける。(4)混合ワクチンにより3回以上の接種となる成分があっても問題ない。(5)接種前後での抗体検査は必要ない。2)百日咳、破傷風(1)小児期の基礎免疫が完遂している場合、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(商品名:トリビック)を1回接種する。(2)小児期の基礎免疫が不明なら、基礎免疫として0、1、2ヵ月で3回接種する。(3)破傷風の単独ワクチンを接種していても、百日咳の免疫付与が必要ならトリビックを接種して良い。3)季節性インフルエンザ(1)一般的な4価の不活化ワクチンは、流行前に1回接種する。(2)添付文書上は皮下注とされているが、効果や副作用の観点からは筋注が望ましいため、実臨床では「深い皮下注」を心がけると良い。4)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)院内感染対策の一環として、医療職員は都度すみやかに接種を行うことが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫など)業務上の必要性から職員へ接種を勧める観点から、以下の点に留意したい。職種により事前の説明を調整する接種費用は医療機関が負担する接種記録は人事記録として保管する妊娠や治療などが接種不可の理由になることから、ワクチン接種情報はプライバシー保護の対象として対応する。たとえば、「集団一斉接種をしない」、「接種対象者名簿を公開しない」など。年次健康診断や新人オリエンテーションと一緒に接種するなど、業務への影響を最小限に抑える工夫をする曝露後接種の取り扱いは、あらかじめ院内感染予防マニュアルに手順を明記しておく。そうすることで、発生報告からワクチン接種まで迅速に処理され接種時期を逃さない。参考となるサイト環境感染学会医療者のためのワクチンガイドライン 第2版/第3版こどもとおとなのワクチンサイト講師紹介

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つらい咳症状への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第68回

第68回 つらい咳症状への対応肺がんや呼吸器疾患などの代表的な症状である咳。ご本人のつらさはもちろん、周りで見ているのもつらい症状です。緩和するために、どういったことができるのでしょうか?今日の質問外来の肺がん終末期患者さん、咳が最もつらい症状のようです。咳込み始めるとなかなか止まらず、眠れないときもあるそうです。一般的な咳止め薬は処方しているのですが、ほかにできることはないでしょうか?緩和ケアの専門家として、もう少し症状の和らぐ薬ができてほしいと思う症状の1つが咳です。私も時々、上気道炎などの後に咳が長引くことがありますが、本当につらいものです。日中の咳は、仕事にまったく集中できなくなってしまいますし、夜間に咳がでると眠れないですよね。慢性の呼吸器疾患や肺がんのような病態による咳の苦しさは、想像もしたくないです。また、咳の難しい点が、ご質問のように咳止め薬を処方しても症状の改善が乏しいところです。細菌性肺炎のような感染症や、心不全のような病態であれば、それぞれに合わせた治療が基本となります。一方、進行した肺がんのように治療が難しい場合は、対症療法としての薬物療法やケアが中心になります。薬物療法は、デキストロメトルファンのような鎮咳薬を用いますが、効果が十分でない場合は、悪性腫瘍が原因であればオピオイドを用いる場合も多いです。コデイン、モルヒネを中心に使っていることが多いと思います。オピオイドの適切な投与量は確立していないものの、呼吸困難に準じて投与するエキスパートが多いでしょう。薬以外の対処としては、呼吸リハビリテーションが1つの選択肢です。気道を刺激しないように呼吸をゆっくり行う練習や、咳き込んだ後の息を整える練習などが効果を発揮する場合があります。そのほか、乾性咳嗽はアメやハチミツなどの甘いものを摂取したり、吸入などで喉などが乾燥しないようにしたりします。「何かをしたらすぐ改善した」というケースはあまりないのですが、いろいろな対処法を知っておくことは重要です。患者や家族にとって、医療者が悩みながら一緒に対処を考えてくれた、ということも大切なのだと思います。私も悩みながら対応しています。難しい症状である咳、皆さんはどのようにされているでしょうか?今回のTips今回のTips咳は難しい症状の1つ。薬が効きにくいので、薬以外の対応も工夫しながら取り組みましょう。

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小児双極性障害患者の診断ミスに関するシステマティックレビュー

 双極性障害は、複雑な症状を呈する精神疾患の1つである。カナダ・Brock UniversityのTabeer Afzal氏らは、DSM-IVおよびDSM-V基準を用いた小児双極性障害の診断ミスに関するエビデンスを要約し、未治療の双極性障害患者の生命アウトカムに及ぼす影響を検討した。さらに、小児双極性障害の診断精度向上につながる可能性のある推奨事項の概要および要約も試みた。Research on Child and Adolescent Psychopathology誌オンライン版2023年12月18日号の報告。 2023年3月21日までに公表された文献を、Scholars Portal Journal、PsychINFO、MEDLINEデータベースより検索した。レビュー対象基準に従い、18歳未満の小児サンプルを用い、1995~2022年に出版された文献に限定した。除外基準は、自己申告による診断を伴うサンプルを含む文献とした。 主な結果は以下のとおり。・本レビューには、15件の文献を含めた。・研究結果は、ナラティブサマリーを用いて合成した。・小児双極性障害は、注意欠如多動症(ADHD)、統合失調症、うつ病と診断されることが最も多かった。・診断ミスは、不適切な治療計画や適切な治療の遅れにつながる可能性があり、社会的、職業的、経済的な課題により、小児双極性障害患者のQOLに悪影響を及ぼす可能性が示唆された。

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地中海食のCVD予防、睡眠不足だと効果が低減

 地中海食は心血管疾患(CVD)の1次予防および2次予防に有効であることが報告されている。しかし、地中海食を遵守していても、睡眠時間が不足していた場合はCVDの予防効果が低減することを、ギリシャ・Harokopio大学のEvangelia Damigou氏らが明らかにした。Nutrients誌2023年12月20日号掲載の報告。 研究グループは、ギリシャの前向きコホート研究であるATTICA研究(2002~22年、3,042人)のデータを用いた。解析には、CVDの既往がなく、睡眠習慣のデータがある成人313人が含まれた。食習慣は食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価し、地中海食の遵守は11種類の食品群による地中海食スコア(範囲:1~55、値が高いほど遵守率が高い)を用いて評価した。睡眠習慣は、7時間未満を不十分な睡眠時間、7時間以上を十分な睡眠時間とした(昼寝は除く)。 主な結果は以下のとおり。・20年間の追跡調査中、全体の31.6%にCVDイベントが発生した。地中海食の遵守率が高い群では19.9%、遵守率が低い群では44.1%であった。・多変量調整モデルにおいて、地中海食の遵守は、睡眠時間が十分な群ではCVDリスクが有意に低減して予防効果を示した(地中海食スコアの1/55増加当たりのハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.65~0.98)。しかし、睡眠時間が不十分な群では有意ではなかった(HR:0.95、95%CI:0.82~1.09)。・地中海食の遵守率が高く、かつ十分な睡眠時間の群は、地中海食の遵守率が低く、かつ不十分な睡眠時間の群と比べて、20年間のCVDリスクが有意に70%低減した。 -遵守率低/不十分な睡眠群―基準 -遵守率低/十分な睡眠群―HR:1.31(95%CI:0.58~2.96) -遵守率高/不十分な睡眠群―HR:0.90(95%CI:0.39~2.06) -遵守率高/十分な睡眠群―HR:0.30(95%CI:0.11~0.80) これらの結果より、研究グループは「地中海食とCVDリスクとの関係において、睡眠時間が調節因子であることが判明した。心血管のより良い健康状態を獲得・維持するためには、ほかの生活習慣よりも睡眠が重要視されるべきである」とまとめた。

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市中肺炎、β-ラクタム系薬へのクラリスロマイシン上乗せの意義は?

 市中肺炎に対するβ-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用の有効性が報告されているが、これらは観察研究やメタ解析によるものであった。そこで、ギリシャ・National and Kapodistrian University of AthensのEvangelos J. Giamarellos-Bourboulis氏らは、無作為化比較試験により、β-ラクタム系抗菌薬へのクラリスロマイシン上乗せの効果を検討した。その結果、クラリスロマイシン上乗せにより、近年導入された評価基準である早期臨床反応が有意に改善した。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2024年1月3日号で報告された。 本研究の対象は、18歳以上の市中肺炎患者278例であった。主な適格基準は、敗血症の評価に用いられるSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア2点以上、プロカルシトニン値0.25ng/mL以上などであった。対象患者を標準治療薬(第3世代セファロスポリン静注またはβ-ラクタム系薬+β-ラクタマーゼ阻害薬静注)で治療を行うプラセボ群、標準治療薬にクラリスロマイシン(500mgを1日2回)を併用するクラリスロマイシン群に1対1に無作為に割り付け、7日間投与した。主要評価項目は、早期臨床反応※であった。※:治療開始から72時間後において、以下の(1)と(2)を両方満たすこと。(1)呼吸器症状の重症度スコアが50%以上低下(2)SOFAスコアが30%以上低下またはプロカルシトニン値が良好(ベースラインから80%以上低下または0.25ng/mg未満) 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の解析には、プラセボ群133例、クラリスロマイシン群134例が組み入れられた。・主要評価項目の早期臨床反応を達成した患者の割合は、プラセボ群が38%であったのに対し、クラリスロマイシン群は68%であり、クラリスロマイシン群が有意に改善した(群間差:29.6%、オッズ比[OR]:3.40、95%信頼区間[CI]:2.06~5.63)。・新たな敗血症はプラセボ群24%、クラリスロマイシン群13%に認められ、クラリスロマイシン群で有意に少なかった(ハザード比:0.52、95%CI:0.29~0.93、p=0.026)。・重篤な有害事象はプラセボ群53%、クラリスロマイシン群43%に発現した(群間差:9.4%、OR:1.46、95%CI:0.89~2.35)。重篤な有害事象は、いずれも治療薬との関連は認められなかった。

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米国の乳がん死亡率の低下、治療の変化との関連は?/JAMA

 米国の乳がん死亡率は、乳がんのスクリーニングと治療の改善によって、1975年から2019年までに58%低下したことが、米国・スタンフォード大学のJennifer L. Caswell-Jin氏らによるシミュレーションモデル研究で示された。シミュレーションでは、StageI~IIIの乳がんの治療が、47%の低下に寄与していることが示された一方で、転移のある乳がんについては、治療の寄与は29%、スクリーニングの寄与は25%であった。米国における乳がん死亡率は、1975年から2019年の間に減少したことが報告されていたが、転移のある乳がん治療の変化と乳がん死亡率低下との関連はわかっていなかった。JAMA誌2024年1月16日号掲載の報告。CISNETの4つのモデルで乳がん死亡率をシミュレーション 研究グループは、本研究のためにCancer Intervention and Surveillance Modeling Network (CISNET)が開発した4つのモデルを用い、マンモグラフィーによるスクリーニングと治療(StageI~IIIの乳がん治療、転移のある乳がん治療)の普及および効果に関する観察研究ならびに臨床試験のデータを集約し、1975~2019年の米国における30~79歳の女性の乳がん死亡率を、全体およびエストロゲン受容体(ER)およびERBB2(HER2)状態別にシミュレーションした。 主要アウトカムは、乳がんの年齢調整死亡率で、スクリーニング、StageI~IIIの治療および転移のある乳がん治療の介入がない場合と比較した。また、乳がんの転移再発後の生存期間中央値についてもモデルで推定した。1975年から2019年に乳がん死亡率は58%低下、転移治療の寄与は29% 米国における乳がんの年齢調整死亡率は、1975年が女性10万人当たり48、2019年は同27であった。 スクリーニング、StageI~IIIの乳がん治療および転移のある乳がん治療の3つすべての介入を反映したモデルでは、1975年に比べて2019年の乳がん死亡率は58%低下(モデル範囲:55~61)した。この低下について、転移のある乳がん治療の介入だけを反映したモデルでは29%(モデル範囲:19~33)、StageI~IIIの乳がん治療のみだけの場合は47%(35~60)、マンモグラフィー検査のみだけの場合は25%(21~33)の低下であった。 シミュレーションに基づくと、転移再発後の生存の最も大きな変化は2000年から2019年の間に起きており、生存期間中央値は1.9年(モデル範囲:1.0~2.7)から3.2年(2.0~4.9)に延長していた。また、ER陽性/ERBB2陽性乳がんの生存期間中央値は2.5年(2.0~3.4)延長していた一方で、ER陰性/ERBB2陰性乳がんの生存期間中央値の延長は0.5年(0.3~0.8)であった。 なお著者は、モデルの精度は実施された仮定に依存していること、モデルにはスクリーニングや治療の普及と有効性における年齢、人種、民族などによる潜在的な格差や、治療費やアウトカムとの関連性は組み込まれていないことなどを研究の限界として挙げている。

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性腺機能低下症のテストステロン補充、骨折リスクを増大/NEJM

 性腺機能低下症の中年以上の男性において、テストステロン補充療法はプラセボと比較し臨床的骨折の発生率を低下させることはなく、むしろ同発生率は数値的には増加していた。米国・ペンシルベニア大学のPeter J. Snyder氏らが、テストステロン補充療法の心血管安全性を評価した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TRAVERSE試験」のサブ試験の結果を報告した。性腺機能低下症の男性におけるテストステロン補充療法は、骨密度や骨質を改善することが報告されているが、骨折リスクを減少させるかどうかの判断には十分な症例数と期間による試験が必要であることから、TRAVERSE試験のサブ試験として検討が行われていた。NEJM誌2024年1月18日号掲載の報告。TRAVERSE試験のサブ試験で臨床的骨折リスクを評価 TRAVERSE試験の対象は、心血管疾患を有するかそのリスクが高い45~80歳の男性で、性腺機能低下症の症状を1つ以上有し、早朝空腹時に48時間以上の間隔で2回採取した血漿中のテストステロン濃度が300ng/dL(10.4nmol/L)未満の患者を適格とした。 研究グループは、適格患者を1.62%テストステロンゲル群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回塗布してもらい、受診(対面または電話)のたびに前回の受診以降骨折したかどうかを質問し、骨折があった場合は医療記録を入手した。 主要アウトカムは、初回の臨床的骨折(画像診断または手術記録で確認された臨床的な脊椎または非脊椎骨折で、胸骨、手足の指骨、顔面骨、頭蓋骨の骨折は除く)で、ITT集団を対象に層別Cox比例ハザードモデルを用いたtime-to-even解析を行い評価した。臨床的骨折の発生は、テストステロン群3.50% vs.プラセボ群2.46% 2018年5月23日~2022年2月1日に被験者の登録が行われ、最大解析対象集団に5,204例が組み込まれた(テストステロン群2,601例、プラセボ群2,603例)。 追跡期間中央値3.19年(四分位範囲:1.96~3.53)において、テストステロン群では91例(3.50%)、プラセボ群では64例(2.46%)に臨床的骨折が認められた(ハザード比:1.43、95%信頼区間:1.04~1.97)。 他の骨折エンドポイント(骨粗鬆症治療薬非服用者における臨床的骨折、除外した骨折を含むすべての臨床的骨折、主要骨粗鬆症性骨折など)についても、テストステロン群で発生率が高かった。

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色々襲来!【Dr. 中島の 新・徒然草】(513)

五百十三の段 色々襲来!寒くなりました。ニュースでは今季1番の寒波とか、10年に1度の寒波だとか報道されています。今朝起きてカーテンを開けたら窓ガラス越しの冷気にやられて、慌ててカーテンを閉めました。さて、襲来しているのは寒波だけではありません。第10波と正式に呼ばれているのか否かは知りませんが、新型コロナも増えつつあります。ERでも外来でも、ちょっとでも疑いのありそうな患者さんを検査すると軒並みコロナ陽性!受診時には平熱でも「実は2~3日前に38度台の熱が……」と切り出されたら、即座に発熱外来に行って検査をしてもらっています。しばらくすると検査科から電話がかかってきて「○○さん、コロナ陽性でした」という結果が知らされるわけです。もう1つコロナを肌で感じるのは入院患者数の多さ。いつもは会議等で「先生方、もう少し入院患者数を増やしていただいて……」などと事務方から言われているのですが、今は満床が続いてしまって、新たな患者さんが入院する余地がありません。満床の原因として、近隣医療機関で軒並みコロナクラスターが発生して新入院を停止しているからではないか、という説があります。真偽不明の単なる憶測に過ぎませんが……ではデータ的に、コロナはどうなっているのでしょうか。2023年5月8日以降にコロナが第5類になってから、すっかり報道が減ってしまい、数値的に実態を把握することが難しくなっています。調べた範囲内では、厚生労働省からのプレスリリース「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について」が、数字だけでなくグラフも表示されていてわかりやすいものでした。この中で「新型コロナウイルス感染症入院患者数の推移」というグラフを見ると、第8波のピークが2023年1月2日~8日の週で、その後に3月末から4月初め頃に底を打っていたものの、再び増えて、2023年8月21~27日の週にピークとなっています。これを第9波とすると、その後は減って11月半ばに底を打ってから再び増加し、現在も恐ろしい勢いで増加中です。全体を俯瞰すると、大体1年間に2回、冬と夏にピークがありそうに見えます。画像を拡大する図. 厚生労働省:2024年1月19日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について 資料よりいずれウチの病院でもクラスターが発生したり、大勢の職員が罹患したりして大変なことになるかもしれません。コロナの報道がされなくなるとともに、世間ではマスクをしていない人たちばかりになってしまいましたが、やはりマスクと手洗いは欠かせませんね。読者の皆さんも、くれぐれもお気を付けください。最後に1句辰年に 寒波とコロナ 襲来す

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止まらない咳、でもどの検査にも異常がない!?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第16回

止まらない咳、でもどの検査にも異常がない!?講師獨協医科大学医学部 小児科学 助教 高柳 文貴 氏獨協医科大学医学部 小児科学 教授 吉原 重美 氏【今回の症例】14歳女子。長引く咳嗽を主訴に受診した。咳嗽は昼間に多く、夜間の睡眠中は咳嗽を認めない。胸部、副鼻腔レントゲン検査は異常なし。血液検査ではWBC、CRP、IgEの上昇は認めない。FeNO測定は10ppb。スパイログラム(呼吸機能検査)で肺活量、一秒率の低下は認めなかった。今までに、吸入ステロイド薬(ICS)の定期吸入、ロイコトリエン受容体拮抗薬、抗ヒスタミン薬の定期内服などを行ったが効果はなし。同居の祖母との折り合いが悪いとの訴えあり。

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)レポート

レポーター紹介新年早々暗いニュースが続いた2024年であるが、毎年恒例のSan Antonio Breast Cancer Symposiumレポートをお送りする。2023年12月5日から12月9日まで5日間にわたり、SABCS2023がハイブリッド形式で実施された。COVID - 19が5類となりさまざまな制約がなくなったこともあってか、日本からも多くの乳がん専門医が参加していた。私も現地で参加、発表させていただいた。学会外での会議や勉強会なども以前と同様実施されていた。以前との違いは、会議なども基本はハイブリッドで行われるようになったことであろうか。集合形式は活発なディスカッションができるものの、どうしても都合がつかない場合もある。ハイブリッド形式が会議を最大限に充実させる形式なのかもしれない。SABCS2023では日常臨床にインパクトを与える、あるいは今後の治療開発において重要な試験がいくつも発表された。多くの演題の中から、転移乳がんに対する演題を4つ紹介する。MONARCH3試験MONARCH3試験は、閉経後ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)転移乳がんの1次治療におけるアロマターゼ阻害薬へのアベマシクリブの有効性を評価した試験である。アベマシクリブの上乗せは無増悪生存期間(PFS)を統計学的有意に延長し、すでに実臨床では1次治療でも積極的に使用されている。今回は待望の全生存期間(OS)の結果が公表された。ITT集団におけるOS中央値は、アベマシクリブ群で66.8ヵ月、プラセボ群で53.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.804、95%信頼区間[CI]:0.637~1.015、p=0.0664)であり、p値は有意水準である0.034を上回り統計学的有意差は証明されなかった。内臓転移を有するサブグループにおけるOS中央値は、アベマシクリブ群で63.7ヵ月、プラセボ群で48.8ヵ月(HR:0.758、95%CI:0.558~1.030、p=0.0757)であり、こちらも統計学的有意差は示されなかった。数値としてアベマシクリブ群でOSが有効である期待は残されるものの、有意差がつかなかったということはかなり大きな衝撃であった。なお、後治療としてパルボシクリブを実施した患者はアベマシクリブ群で8%、プラセボ群で25%であり、この差がOSにどの程度インパクトを与えたかは今後の詳細な解析に期待したい。この結果により、世界的に広く用いられているパルボシクリブ、アベマシクリブ、ribociclibのうち、1次治療におけるOSがポジティブなのはribociclibだけとなった。すなわち、日本で処方可能なパルボシクリブ、アベマシクリブはいずれもOSにおけるベネフィットを示せなかったことになる。ただ、だからといってCDK4/6阻害薬をより後ろの治療で用いるべきものになるかというと、そうではない。alpelisib、capivasertibなどSERDとの併用で用いられる別の機序の分子標的薬、あるいはPADA-1試験のような、1次治療、2次治療でCDK4/6阻害薬をbeyondで用いる戦略など、2次治療にCDK4/6阻害薬を“とっておく”と実施できなくなる治療/治療戦略が多数開発されている。現在行われている試験の多くもCDK4/6阻害薬を原則として1次治療で用いることが前提となっており、HR+HER2-転移乳がんの治療シークエンスを考えるうえで、1次治療におけるCDK4/6阻害薬の併用は変わらずスタンダードであると言えよう。INAVO120試験INAVO120試験はPIK3CA変異のあるHR+HER2-転移乳がんの2次治療において、フルベストラント+パルボシクリブによる治療にPI3K阻害薬であるinavolisibを併用することの有効性を評価した第III相試験である。本試験でPIK3CA変異はctDNAの中央判定もしくは各施設における組織/ctDNAの評価によって定義されていた。主要評価項目はPFSが設定された。325例がinavolisib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。両群間のバランスはよく、95%以上の症例で内臓転移を有した。主要評価項目のPFSはinavolisib群15.0ヵ月、プラセボ群7.3ヵ月(HR:0.43、95%CI:0.32~0.59、p<0.0001)とinavolisib群で有意に長かった。OSはHR:0.64、95%CI:0.43~0.97、p=0.0338とinavolisib群で良好な傾向を認めたが、中間解析に割り当てられた有意水準は超えなかった。G3以上の有害事象としては血小板減少(14.3% vs.4.3%)、口内炎(5.6% vs.0%)、貧血(6.2% vs.1.9%)、高血糖(5.6% vs.0%)、下痢(3.6% vs.16.0%)とinavolisib群で血液毒性、非血液毒性のいずれも増加した。 HR+HER2-乳がんの治療を考えるうえで、3剤併用療法が良いのか、2剤までの併用をシークエンスで使用していくのか、なかなか悩ましいところであるが、OSを延長する可能性が示されたことは大きなインパクトであった。これまでに実施された、あるいは現在進行中の2次治療以降の併用試験などの結果も踏まえた治療シークエンスの議論が必要であろう。また、残念ながら本剤は現在のところ国内では開発されていない。HER2CLIMB-02試験HER2CLIMB-02試験は、すでにHER2陽性(HER2+)転移乳がんの3次治療においてトラスツズマブ+カペシタビンとの併用の有効性が示されているtucatinibの、T-DM1との併用の有効性を検証した第III相試験である。トラスツズマブならびにタキサンによる治療歴のあるHER2+転移乳がん460例が、tucatinib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。主要評価項目はPFSであった。転移乳がんに対する前治療歴が1ラインの症例が64%、ペルツズマブの投与歴のある症例が約90%であった。主要評価項目のPFSはtucatinib群で9.5ヵ月、プラセボ群では7.4ヵ月(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.0163)とtucatinib群で有意に長かった。奏効割合は42.0% vs.36.1%とtucatinib群で良い傾向を認めた。tucatinibは脳転移に対する有効性が示されているが(HER2CLIMB試験)、本試験の脳転移を有する症例に対するPFSは7.8ヵ月vs.5.7ヵ月(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)とtucatinib群で良好な可能性が示された。OSはHR:1.23とtucatinib群で良い可能性は示されなかった。G3以上の有害事象の中で重要なものはAST増加(16.5% vs. 2.6%)、ALT増加(16.5% vs.2.6%)、倦怠感(6.1% vs.3.0%)、下痢(4.8% vs.0.9%)、悪心(3.5% vs.2.1%)などであった。tucatinibはT-DM1との併用における有効性を示したわけであるが、今後この試験結果を基にT-DM1+tucatinibがよりアップフロントに用いられるかというと疑問が残る。T-DXdの2次治療における有効性を証明したDESTINY Breast-03試験では、T-DXdのPFS中央値は28.8ヵ月である。試験間の比較で治療の優劣は付けられないが、かといってT-DXdよりもT-DM1+tucatinibを優先するのは難しい。今後はT-DXdによる治療歴のある患者に対するT-DM1+tucatinibのデータを創出することが必要であろう。JCOG1607試験JCOG1607 HERB TEA試験は、JCOGで行われた高齢者HER2+転移乳がん1次治療における、T-DM1のペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル(HPD)療法への非劣性を検証した第III相試験である。不肖下村が、今回から新設されたRapid Fire Mini Oral Sessionで(なんとメイン会場で)発表させていただいた。本試験は、65歳以上の高齢者HER2+転移乳がんを対象に、OSを主要評価項目として実施された。250例の予定登録数で行われたが、148例が登録された時点で実施された1回目の中間解析で、OSハザード比の点推定値が非劣性マージンの1.35を超えたため無効中止となった。患者背景は両群間でバランスが取れており、年齢の中央値は71歳ならびに72歳、75歳以上が約35%を占めた。PS 0が75%、HR+が約半数、初発StageIVが65%、脳転移を有する症例はまれであり、内臓転移は65%に認められた。主要評価項目のOSは両群ともに中央値に到達しなかったが、HR:1.263、95%CI:0.677~2.357、p=0.95322とT-DM1のHPD療法に対する非劣性は示されなかった。PFSはHPD療法で15.6ヵ月、T-DM1で11.3ヵ月(HR:0.358、 95%CI:0.907~2.033、p=0.1236)とHPDで良い傾向を認めた。有害事象はG3以上がHPD療法で多く(56.8% vs.34.7%)、HPD療法では白血球減少(26.0% vs.0%)、好中球減少(30.1% vs. 0%)、倦怠感(21.6% vs.5.6%)、下痢(12.2% vs.0%)、食欲低下(10.8% vs.8.3%)が多く、T-DM1療法では血小板減少(0% vs.16.7%)、AST増加(0% vs.15.3%)、ALT増加(2.7% vs.16.7%)が多かった。本試験は高齢者に対するless toxicな治療の開発を期待して開始したが、高齢者においてもpivotal studyで示された標準治療を実施すべきという結論となった。一方、高齢者は年齢のみで定義される均一な集団ではなく、ASCOガイドラインなどで示されているように、高齢者機能評価などを適切に実施したうえで治療方針を決めていくことが重要である。今後より詳細な結果を発表していきたい。

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第81回 三重県でついに救急車有料化を導入!

photoACより使用三重県で救急搬送された後に「入院に至らなかった患者」に関して、1人当たり選定療養費7,700円を支払うことが決定されました。「選定療養費」は、本来、紹介状を持たずに外来受診する患者さんなどから、初診料・診察料等とは別に負担してもらう特別料金のことです。これをいわば救急車利用料として支払うよう制度化してしまうわけです。三重県松阪市で、2024年6月から本格稼働とのことです。この理由は、「軽症例の搬送が多いこと」に尽きます。三重県に限ったことではなく、「移動手段がないため」という理由で救急車を要請した患者さんがたまに搬送されてきますが、さすがにそれはやり過ぎちゃいますか、ということです。ひどい事例では、「寒くて公共交通機関の移動が大変だった」という理由で救急車を要請した事例を目の当たりにしたことがあります。市民から反対意見が出ると思われますが、三重県松阪市ではしっかりとデータを出していて、平日の昼間に救急搬送された患者のうち入院した患者さんが入院に至ったのは50.6%、休日・夜間ではたった37.1%であったと説明しています。ところで、知り合いのアメリカ人医師に聞いたところ、そもそもアメリカでは救急搬送に20万円くらいかかるのが普通だそうです。基本料金は約8~10万円で、救急救命士が同乗している場合は、料金が2倍くらいになり、搬送距離や酸素投与の有無によって、さらに値段が上がっていきます。そう考えると、選定療養費だけで済むとしても、そもそも日本の救急医療は恵まれ過ぎなのかもしれません。日本全体では、消防庁の「令和4年版 救急救助の現況」によると、全体の44.8%が軽症者とされています(図)1)。搬送者の61.9%は高齢者で、この割合は年々増加傾向にあります。画像を拡大する図. 傷病程度別の搬送人員構成比(参考資料1より引用)ちなみに、救急車有料化についてアンケートをしている団体がいくつかありますが、生命保険会社の調査では賛成がだいたい4割、反対が6割といったところです。これが医療従事者を対象にすると、(条件付きも含めて)賛成8割、反対2割という逆転現象がみられます。松阪市の事案を踏まえて、全国的に広がりをみせると思われますが、有料化に踏み切る自治体が増えてくると予想されます。参考文献・参考サイト1)総務庁消防庁 令和4年版 救急救助の現況

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第3章 実臨床の観点からの医師国家試験【国試のトリセツ】Introduction

Introduction医師国家試験は、医師法第9条に基づき、「臨床上必要な医学および公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識および技能」が出題の対象となっており、これまでも卒前教育や医療を取り巻く状況および医療の進歩に合わせて改善・検討が繰り返し行われてきました。その結果、近年では「初期臨床研修において指導医の下で従事するのに必要な知識および技能を問う水準」「診療科に関わらずに総合的な鑑別診断や治療方針の選択に関する能力を問う内容」が重視されるようになりました。厚生労働省主導の医師国家試験改善検討部会の報告書によれば、「出題傾向として『臨床実地問題』に、より重点をおくこととする」と明記されています。従来の試験対策であった過去問ベースの学習方法が今後も根幹を貫くことには変わりはないでしょうが、それだけで十分と言えるかどうかについては疑念が残ります。今後は、これまでと同様、過去問演習が必須であることに加え、病院実習で見学・体感できるような臨床医の思考プロセスや医療現場の実際が重要視されるようになりつつあります。本章では、医師国家試験を実臨床の観点から眺めたときに、どのような考え方や背景知識が試験を解く上で有用になるかを考察します。(a)臨床医はどのような思考過程で意思決定をしているのか、(b)医療の現場は実際にはどのようなものかというように、臨床医の思考過程と実臨床のリアリティに関して医師国家試験を解く上で有用となりそうなものをpick upしています。§1 アセスメント医療現場に出ると「アセスメント」という言葉が飛び交うようになります。まず、臨床医の思考過程を考える上で、その基本となる「アセスメント」について、そもそも論から見直すことからはじめます(#25 アセスメントとは情報に意味を与えること)。アセスメントの定義を「情報に意味を与えること」とするならば、適切にアセスメントが成し遂げられるためには背景知識と情報の取捨選択が必要不可欠となります(#26 背景知識が評価基準を決める/#27 情報の取捨選択のセンスを身に付ける)。提示された症例情報に対して意味を与えるためには、そのために必要な背景知識が必須であるとも言い換えられます。ここでいう背景知識とは、解剖学・生理学・病態生理学・薬理学などに基づいた教科書的な医学知識や、医学的知見の集積であるevidenceを指します(#28 解剖と病態を想像する/#29 EBMを問題から汲み取る)。適切にアセスメントができるようになると、陰性所見にも注目できるようになり、さらに情報の解釈能力に奥行きをもたらします(#30 陰性所見に注目する)。拾い上げた患者情報と自分の中の知識ないしevidenceとを関連させる過程がアセスメントだと換言できます。したがって、適切にアセスメントが行われるには、症例情報の収集能力(病歴聴取、身体診察、検査所見)と知識(教科書的な知識、evidence)の両方の存在が必要条件となるのです。医学生が教科書的な知識を集積するのも、病院実習で病歴聴取や身体診察のトレーニングを行うのも、対象となる患者を適切に評価することを目的としているのです。アセスメントが重要だと指導医から繰り返し言われるのは何故でしょうか。その謎解きの結論が§1の中に隠されています。§2 診断推論患者を「よく」するためには、現時点で解決すべきproblemや課題を考えることからはじめます。そして、どのように問題を解決するかという計画を立案して、実行、効果判定を行うのが通常です。臨床医は、対象の問題が何であるかを明確にするために「診断」を下します。診断をすれば標準的な治療が定まるので、まずは診断をしようとするのが臨床医の一般的な思考の流れとなるのです。そこで§2の#31~38では具体的な診断推論を体系的に取り上げます(#31 診断のエントリーはパターン認識で捉える/#32 snap diagnosisでは以降の情報を確認目的に利用する/#33 似たような疾患はグループ化して拾い上げる/#34 症候論から鑑別疾患を挙げる/#35 semantic qualifierで鑑別リストを単純化させる/#36 緊急度はRed Flag Signで伝える/#37 二項対比で鑑別する/#38 診断を下すには定義が必要となる)。§3 decision making診断の次は治療です。実臨床では、あらゆる瞬間に意思決定を迫られますが、何を優先するのかを常に考えることが重要になります。仮に、治療法が複数あった場合には、どのように選択していくのかを決める基準が必要です(#39 優先度を考えてdecision makingを組み立てる)。さらに、日進月歩の勢いで医学知識が更新され続けるので、evidenceを絶えずupdateし続けることが問題解決能力の向上に繋がります(#40 知見のupdateを絶えず重ね続ける)。また、診断と治療だけでは患者を「よく」する条件として不十分です。すなわち、治療の効果判定を行い「治療が奏効した」と判断できてはじめて、一連の診療が機能し、患者が「よく」なるのです。効果判定で治療が効いていない場合には、自分の思考過程のどこに誤りがあるかを振り返らなければなりません(#41 治療効果判定の指標を設計する)。このように医師に求められる能力の1つに、意思決定〈decision making〉があります。その決断力を言語化して考察するのが§3のテーマとなっています。2018年現在の学部教育では「医師がどのような過程で意思決定を行っているのか」を体系的に学ぶ機会には恵まれにくいので、本書が何らかのヒントを提示できたら幸いです。§4 実臨床リアリティ第3章の§1、§2、§3は、臨床医の思考過程を要素ごとに分解して言語化をするという内容で、他方§4は臨床医を取り巻く環境、現実に照準を当てます。医師国家試験と実臨床の現場との間には大きな乖離が生じることがあります(#42 実臨床と資格試験との乖離を知る)。最も大きな違いは、医師国家試験はあらかじめ症例情報が提示されているのに対し、実臨床では自分で情報を拾い上げていかなければならない、という点です(#43 closed questionで疾患特異的な情報を引き出す)。他には、現場での時間感覚(#44 時間感覚をイメージする)、地域性が反映される疾患頻度(#45 疫学的な頻度を意識する)、そして診療が行われる場面設定の重要性(#46 置かれている状況を的確に把握する)をテーマにして、医療現場のtime、place、occasionについて見つめ直します。資格試験が合否を判定する目的を有している以上、客観的な唯一解を用意しなければなりません。しかし、実臨床には正解がなく、常に仮説と検証を繰り返しながら診療を進めていく不確実なものだという結論で第3章を締めくくっています(#47 臨床には正解がない)。医療現場の臨場感という切り口で、医師国家試験を解説するのが§4の共通項です。臨床実地問題の本文に含まれるニュアンス、行間を読むという点で極めて重要な考え方・視点が含まれていますので、想像力を働かせながら読み進めていきましょう。

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過去1年に転倒、骨折リスクがより高いのは男性?女性?

 転倒するとその後の骨折リスクが上昇することはよく知られている。今回、オーストラリア・Australian Catholic UniversityのLiesbeth Vandenput氏らが、日本のコホートを含む46の前向きコホートにおけるデータの国際的なメタ解析で、転倒歴とその後の骨折リスクとの関連、性別、年齢、追跡期間、骨密度との関連について評価した。その結果、男女とも骨密度にかかわらず、過去1年間の転倒歴が骨折リスクを上昇させ、また女性より男性のほうがリスクが高まることが示唆された。Osteoporosis International誌オンライン版2024年1月17日号に掲載。 本研究は、46の前向きコホートから得られた90万6,359人の男女(女性が66.9%)を対象とした。転倒歴は、43コホートでは過去1年間の転倒と定義され、残りの3コホートでは質問構成が異なっていた。転倒歴と骨折(すべての臨床的骨折、骨粗鬆症性骨折、主要骨粗鬆症性骨折、大腿骨近位部骨折)リスクとの関連は、各コホートで性別ごとにポアソン回帰モデルの拡張を用いて検討し、次いで重み付けベータ係数のランダム効果メタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・過去1年間の転倒は21.4%で報告された。910万2,207人年の追跡期間中に8万7,352件の臨床的骨折が発生し、うち1万9,509件は大腿骨近位部骨折であった。・転倒歴は、女性(ハザード比[HR]:1.42、95%信頼区間[CI]:1.33~1.51)と男性(HR:1.53、95%CI:1.41~1.67)のいずれにおいても、すべての臨床的骨折のリスク増加と有意に関連していた。骨粗鬆症性骨折、主要骨粗鬆症性骨折、大腿骨近位部骨折についてもHRは同程度であった。・転倒歴と骨折リスクとの関連は男女で有意に異なり、男性のほうが女性より予測値が高かった。たとえば、骨粗鬆症性骨折のHRは、男性が1.53(95%CI:1.27~1.84)、女性が1.32(95%CI:1.20~1.45)だった(交互作用のp=0.013)。・骨折リスクにおける転倒と骨密度との交互作用は認められなかった。・男女とも転倒歴が増えるごとに主要骨粗鬆症性骨折のリスクが増加した。

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